宇宙人「あっ、すいません。これじゃ伝わりませんよね」

男「まあ、伝わりませんね」

宇宙人「いただきますってするとき、手を合わせるじゃないですか」

男「はい」

宇宙人「そのあとに男さん、割り箸を割ったじゃないですか」

男「はい」

宇宙人「そのときこう、クルクルって、割り箸回さないんですか？」

男「ま、回す？」

宇宙人「ですから、右の掌と左の掌の間に、割った割り箸を持って、右と左の手を前後に動かすんですけど」

宇宙人「うーん、短く簡単に伝えるにはなんて言ったらいいのかなぁ」

男「……えっと、割り箸を両手でこする？　ですかね」

宇宙人「あっ！　それです！　その言葉です！　ありがとう！」

宇宙人「いやぁ、ボクもまだまだ勉強不足ですねぇ」

宇宙人「こするって、漢字ではどう書くんですか？」

宇宙人「ちょっとボクのメモ帳にペンで書いてくださいよ」

男「あっ、はい」

「擦る」

宇宙人「ははぁ……なるほど、こう書くんですね。わかりました」

「擦る」

宇宙人「うん、よし、覚えた。便利ですよね、ペンと紙。持ち歩くのにあまりかさばらない」

男「はぁ。そうですか」

男（意外とかさばる気がするけどなぁ……？）

宇宙人「いやはや、すいませんです。私のせいで、話がだいぶ逸れちゃいましたね」

宇宙人「閑話休題」

男「あっ、はい」

男（話し言葉で閑話休題なんて使う人、そうそういないことも教えたほうがいいんだろうか）

男（まあ、いいや）

宇宙人「男さん、食べる前に箸をいつも擦らないんですよね？　何か理由でも？」

男「こすらない理由というか、それが普通だと思いますよ？」

男（うん。少なくとも教えるなら、特定の人を、男にさん付けして呼んだりはしないことが先だな）

宇宙人「えっ！　そうなんですか？　私昨日、ここに来て一人でご飯食べてたら、お箸擦ってる人見ましたけど」

男「え？　本当？」

宇宙人「本当です。でも、男さんは擦らないんですよね？」

男「こすりませんよ。こすってる人、周囲ではちょっと記憶に無いです。見たことないと思う」

宇宙人「そんなにですか。いただきますのときに手を合わせる人よりも、少ない？」

男「まあ、少ないんじゃないでしょうか？」

男「私みたいに朝昼晩、いただきますをするとき手を合わせてる人、どれくらいいるのか知りませんけど」

宇宙人「それよりも、少ない……。じゃあ、ボクが見たその人って変な人だったのかな？」

男「い、いやぁ……。どうだろ？　そういう習慣が日本のどこかにはあるのかも」

宇宙人「ボクは、雨を祈る祈祷師的動作が、食前の作法として受け継がれたのかなって推測してたんです」

宇宙人「いただきますと手を合わせて、恵みをもたらしてくれた自然や人に感謝する」

宇宙人「そういうのと等しい由来を持つ風習なのかなって」

男「あー、そうなんですかねぇ……？」

男（しかし、こするって言葉知らなかったりするのに、どうしてこう流暢に色々日本語出てくるんだ）

宇宙人「男さんは、無宗教ですよね？」

男「そうですけど」

宇宙人「何か特定の宗教に属しているような方との交流はありますか？」

男「いいえ、ないです。おそらく家族も友人もみな無宗教なはず」

宇宙人「では、何かしらの宗教に属している方、だったのかもしれませんねぇ」

男「うーん……」



男「そこまで気になるなら、じゃあ、調べます？」

宇宙人「調べる？」

男「お箸をこするのがその人特有の特別な行為じゃなかったら、スマホで検索すれば情報出ると思うんで」

宇宙人「え！」

宇宙人「だ、だめですよっ！」ｸﾜｯ!

男「ど、どうして？」ﾋﾞｸｯ

宇宙人「ボクは現在研修の一環として、地球の一地域における風習に直に触れて学べ、という指令を受けています」

宇宙人「地球で現地民との交流以外で情報を得ることは禁止されているのです」

男「私がス○ホで勝手に情報を得て、それをあなたに教えることも禁止されてるんですか？」


男　宇宙人「「………………」」


宇宙人「ちょ、ちょっと規則を調べます」

宇宙人「あっ、でもきっと長く時間が……」

男「時間がかかる？　じゃあ家に来ません？　私、本読んで待ってるんで」

男「お箸グルグルの謎が終わったら、ゲームしましょうよ。我が家、相変わらずプ○ステ2しかないですが」

宇宙人「いいんですか？」

男「もちろん、晩御飯も出しますよ」

宇宙人「本当？　いやぁ、悪いなぁー」ﾆｺﾆｺ






店主（現在他に客いないにせよ、あのお客二人、食べ終わったんなら早く帰ってくれないかな……）

『男　自宅』

宇宙人「確認しましたが、それは大丈夫みたいです。抜け穴ですね」

男「そうですか、それはよかった」

男（本当に調べるの長かったな……）

男「じゃあ調べますね」


スマホ【割り箸　こする】


男「うーん、なになに？　……あー、そういう感じか」

宇宙人「どんな感じでしたか？」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

男（ゲーム始めるの速いな）

男「昔はそういう人結構いたみたいです」

宇宙人「昔？　……あぁ、ボクが見たのは、確かにお年寄りの方でした」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

宇宙人「それで、理由は？」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

男「あっ、うん。ささくれをとるためだって」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

宇宙人「…………ささくれって、なんですか？」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

男「ささくれ？　ぁー……。なんかこう指の皮がちょいちょいっとめくれるのあるじゃない」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

宇宙人「はあ」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

男「それがささくれ」

宇宙人「ささくれ」

男「けれど私、割り箸のささくれって気にしたことないんですよね」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

宇宙人「気にならないもんなんですか」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

男「うーん、割り箸製造の技術が上がって、昔と比べ全体的な品質が上がってるのかも」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

宇宙人「あー、なるほど」

宇宙人「まあこれで、今日の分の報告は無事できることになったんで、後はゲームに集中できますね」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

男「そうですか」ﾋﾟｺﾋﾟｺ

男（これでいいのか。いくらなんでも緩くないか？　宇宙）

男（……つうかそもそも、前から一緒にモ○鉄してるのに、なんでスマホに限ってさっき慌てたんだろ？）

男（駅の情報とかはいいのか。……いや、よく考えたら普通に本も貸してたわ）

宇宙人「今日の晩御飯なんですか？」

男「ん？　メインはマーボー豆腐ですけど。他は冷蔵庫の中見て適当に」

宇宙人「マーボー？　辛さ控えめにお願いしますね」

男「はいはい」

男（……）

男（まあいいや）

『宇宙人　母星』


【報告　日本には割り箸のささくれを取るため、割った後の割り箸をこする人たちがいた】

【だが、その割合は現代の日本社会において減少傾向にあると言える。　報告終わり】


宇宙人2「…………なあ、オレさ、コイツさっさと呼び戻して、他のヤツ送ったほうが絶対良いと思うんだ」

宇宙人3「ええ、ワタシも正直同感よ」


終わり