男「ボクはなんでも知っている」(26)

ある日、一人の男がこう豪語した。

男「ボクはなんでも知っている!」

男「ボクに答えられないことなど、何一つとして存在しない!」

男「さぁ、どんな質問でも答えてみせよう!」

このうわさは瞬く間に広まった。

「どんな質問にも答えるらしいぜ」

「本当かしら?」

「そんなことできるわけがない」

「だけどダメ元で質問してみるのも面白いかもな」

「面白いか、それ?」

ある青年がこんな質問をした。

青年「俺は最近、読書に凝ってるんだけど……」

青年「面白い小説を教えてもらえないか?」

男「面白い小説、ね……」

男「…………」

男「冬目漱石の『暴ちゃん』はいかがだろう?」

男「他にもドストエフキライーの『蜜と唾』などもオススメだ」

男は即座にいくつかのタイトルを挙げてみせた。

あるオタクがこんな質問をした。

オタク「RPG『ファイナルクエスト』のラスボスに手こずってるんだぁ~」

オタク「いい攻略法はないかなぁ~?」

男「ファイナルクエストのラスボス、ね……」

男「…………」

男「一見、弱点がないように見えるが、奴はスネが弱点だ」

男「スネを集中攻撃すれば苦もなく倒せるだろう」

男は完璧な攻略法を答えてみせた。

ある若い女性がこんな質問をした。

女「最近、ちょっと太ってきちゃって……」

女「ダイエットしたいんだけど、なにかいい方法ない?」

男「痩せる方法、ね……」

男「…………」

男「手軽にできるエクササイズを教えてあげよう」

男はすぐさまダイエットの方法を答えてみせた。

ある学生がこんな質問をした。

学生「たっ、助けて下さい!」

学生「課題で、この異国語を訳さないといけないんですが、全然分からなくて……」

男「異国語の翻訳、ね……」

男「…………」

男「多少ぎこちないが、どうにかなりそうだ」

男は学生が持ち込んできた文章を翻訳してみせた。

ある探偵がこんな質問をした。

探偵「今、ある事件を追っているんだが……」

探偵「かつて起こった『五億円事件』が手がかりになりそうなんだ」

探偵「『五億円事件』の概要をおさらいしたいんだが、可能だろうか?」

男「五億円事件の概要、ね……」

男「…………」

男「10年前に起きた、現金強奪事件だな」

男は事件の詳細を説明してみせた。

ある主婦がこんな質問をした。

主婦「最近、主人にいつも同じ献立ばかりだなっていわれちゃって……」

主婦「なにか手軽に作れて、美味しい料理はないかしら?」

男「手軽な料理、ね……」

男「…………」

男「オリーブオイルを使った簡単な料理を紹介しよう」

男はおいしい料理の作り方を紹介してみせた。

ある老人がこんな質問をした。

老人「ちょっと道を尋ねたいんじゃが……」

老人「ここから市民会館に行くにはどうすればいいんじゃ?」

男「市民会館への道のり、ね……」

男「…………」

男「まずここから二つ目の交差点を右に曲がる……」

男「すると、左に郵便局に見えるから……」

男は分かりやすく道案内してみせた。

あるカップルがこんな質問をした。

スーツ「ぼくたち今度結婚するんだけど……」

OL「どこかいい式場ってあるかしら?」

男「結婚式場、ね……」

男「…………」

男「あなたたちの予算や好みもあるだろうから、いくつか候補と条件を挙げていこう」

男は候補となる式場を紹介してみせた。

男はたちまち有名になった。

「あいつ、すげーよ!」

「本当にどんな質問にも答えてくれるもんな!」

「何度も助けられちゃったわ」

「あの膨大な知識は、いったいどこから出てくるんだ?」

「きっとものすごく勉強したんだろうなぁ……」

男(みんな驚いているようだな)

男(といっても、ボクは猛勉強したわけでも物知りなわけでもない)

男(では、なぜボクがさまざまな質問に回答できるかというと)

男(ボクはある神と契約を果たしたからさ!)

男(その神の名は──)



男(グーグル神!)

男(ボクの頭の中にいるグーグル神に知りたいことを尋ねれば)

男(即座に答えが返ってくるのさ!)

男(グーグル神は全知全能! 分からないことなんてない!)

男(最新のニュースだって、歴史だって、雑学だって、なんでもござれだ!)

男(つまり、その神を宿しているボクもまた、全知全能なんだ!)

男(ボクはなんでも知っている!)

男(ボクに分からないことなんてない!)

男「ハーッハッハッハッハ!」

少女「お兄さん」

男「ハッ……」

男「コホン……ボクに聞きたいことがあるのかい?」

少女「うん!」

男「いいだろう、どんな質問にだって答えてあげよう!」

少女はこんな質問をした。

少女「あのね……あたしのお母さん、今度誕生日なの」

男「へぇ、それはおめでとう」

少女「だからお母さんが一番好きなものをプレゼントしてあげたいの」

少女「だからお母さんが一番好きなものを教えて欲しいの」

男「キミのお母さんが一番好きなもの、ね……」

男「…………」

男「?」

男(お、おかしい!)

男(答えが返ってこないぞ!)

男(いったいどういうことだ!? グーグル神、なぜ答えてくれないんだ!?)

男(前、歴史上の偉人について尋ねたら、すぐ答えをくれたじゃないか!)

男(ダメだ……いくら念じても返ってこない!)

少女「?」

男(世間一般の中年女性の好み、ならまだ答えられるが……それじゃダメだ)

男(分からない……この子の母親の好きなものが分からない!)

少女「どうしたの、お兄さん?」

男「あう……えぇと……」

男「こういうことは……自分で考えたり、することが大切だと思うよ……うん」

少女「!」ハッ

少女「そうだよね! お兄さんに答えを聞いたら意味ないもんね!」

少女「すぐ答えを見つけようとせず、自分でも考えなきゃダメだよね!」

男「う、うん……」

男(そうか……ボクはグーグル神の力を得て全知全能になった気でいたが)

男(グーグル神とて万能じゃないんだ……)

男(グーグル神にだって分からないことはあるし)

男(答えが出てきたとしてもそれを生かすか殺すかはあくまでその人次第……)

男(グーグル神はあくまで人々を手助けする存在に過ぎないんだ……)

男(ボクは……とんだ思い上がりをしていたようだ……)

少女「お兄さん、大切なことを教えてくれてありがとう!」

少女「お兄さんがどんな質問にも答えてくれるってのは本当だったのね!」

男「…………」

男「……いや」

男「教えてもらったのは、むしろボクの方だ」

男「どうもありがとう」





END

おしまい

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年09月02日 (土) 12:59:36   ID: UxkXTyRF

泣いた

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom