薬師「これが最後のひと雫」騎士「それを頂こうか」(32)


騎士「世界にいくつもない万能の霊薬、金ならいくらでも出す」ドサッ

薬師「……」ゴクリ

騎士「あ、ようやく反応したな?」

薬師「気のせいだ」

騎士「仕方ない……」ドサッドサッ

薬師「…………」グビビッ

騎士「どうだ、気は変わらないか?」

薬師「……」

騎士「……」ドサササッ

薬師「売った!」

騎士「買った!」


翌日

騎士「頼もう!」 バターン


騎士「いねえ! 」バターン

閉店しました

騎士「あのオヤジ!」

騎士「ご丁寧に説明書が付いてると思えば、その辺の市販薬じゃねーかー!」

騎士「くそ、いつの間にすり替えやがった」

騎士「いや……これはもしかして、遊ばれているのか?」

騎士「……」

騎士「……ふっふっふ、地の果てまでも追いかけてやるぞ!」


峠の茶屋

薬師「ぶぇくしっ!」

店主「旦那、風邪かい?」

薬師「うわはは、誰かが噂でもしとるんかのう」

店主「最近はタチの悪い病も流行ってるらしいからな、旦那も気を付けてくれや」

薬師「わはは!それはまさに医者の不養生というやつだな、なに心配無用!大将、団子をもう一本くれたまえ」

店主「はいよ!」

チチチ……チュンチュン

薬師「はあ、茶が美味い」

薬師「こんな日はいいことがありそうじゃ」


ミシィッ

薬師「む?何の音だ?」

騎士「……みーつーけーたーぞー!」ミシッミシッミシッ

薬師「むむ!何奴!」

騎士「この顔を忘れたとは言わせねえぞ!」

薬師「そのようなフルフェイス、覚えてられるか!まずは面を取れぃ!」

店主「……はいよー、団子お待ちどうー……って!お客さん何してるんだ!困るよ柱をへし折っちゃあ!」

騎士「すまん、ついイラッとして八つ当たりした」

騎士「これでどうにか頼む」トサッ

店主「え?そうかい?しょうがねえなー、今回だけだよ!」

騎士「助かる」


騎士「さて、オヤジ……」

薬師「こんなところまで追いかけてきて、何用だ?」

騎士「何用だ、じゃねえ!とんだ偽もん掴ませやがって!」

薬師「偽物?はて……」

騎士「とぼけんな!あげく、そのままとんずらまで……!」

薬師「とんずらとは心外な、ちゃんと書き残して置いたろう」

薬師「それに貴様に渡したのは正真正銘、本物の最高級滋養薬だ、偽物など」

騎士「な、なに……?」


騎士「い、いや!本物の万能の霊薬はどうした!」

薬師「……だからそれは……、ん?」

騎士「……」

薬師「貴様、もしや昨日の儂の話、さっぱり聞いておらんかったな?」

騎士「話?昨日は……長旅の末、ようやくオヤジの店を見つけて……、安心したらなんだか眠くなって……」

薬師「……」

騎士「……もっかい頼む」

薬師「団子と茶のおかわりが欲しいのう」


店主「まいどありー!」


薬師「儂の持つ、万能の霊薬である世界樹の雫は、わけあって譲ることができん」

薬師「だが、この世に万能の霊薬と呼ばれる代物はほかに心当たりがある」

薬師「そのうちのひとつが、竜の涙、と呼ばれるものだ」

騎士「竜の涙……」

薬師「わざわざ儂を訊ねて来た心意気に応えて、それを代わりに用立ててやろうと思ったのだがな」

薬師「竜の巣はちと遠い、待っておれと言ったはずだが」

騎士「お、俺も連れて行ってくれないか!」

騎士「じっとしてられないんだ、頼む……」

薬師「……よかろう、人手は多い方がよいでな」



……………………

…………

……

<竜の巣>

薬師「この洞穴の奥にいるのが、この大陸最後の竜だ」

騎士「それがこいつか……」

騎士「ここに来るまでの親父との一月の旅……それもようやく終わる!」

薬師「そんなに嫌だったか」

騎士「たりめえだ!夜な夜な妙な薬を盛りやがって!」


騎士「最後に確認するが、その竜の涙、本当に万能の霊薬なのか?」

薬師「ああ、確かだぞ」

薬師「あれはまだ私が若かった頃……」

薬師「竜の涙は、なんか、凄い、らしい、と人づてにな」

騎士「ほほう……」

薬師「それを聞いた私はさっそくサラマンダーの唾液を集め、今際の爺さんに飲ませてみたら火を吹いた」

薬師「それが」

騎士「……」

薬師「長く険しい壮絶な薬師人生のはじまりの一歩だったのだ……」


騎士「突っ込む気力も失せてきた」

薬師「それはいけない!さすればこの薬師秘伝の妙薬を……」

薬師「笑い転げて踊り出すことうけあい」

騎士「んなもん、いるかー!!!」

薬師「元気になるぞ」

騎士「この期に及んでまだ言うか!」


ズズズ……

騎士「はっ」

薬師「大声は感心せんな、状況を考えろ」

騎士「どの口がどの口が……!」

薬師「……」

騎士「……」

薬師「……鎮まったか」


薬師「まあ待て、この話にはちゃんと続きがあるのだ」

騎士「ほお」

薬師「その爺さん、その後どうなったと思う?」

騎士「仮にも人民を守る騎士に言わせんな」

薬師「……今年で御歳100と8つになる」

騎士「生きてんのかよ!」

薬師「当たり前だ、ピンピンしているぞ」

薬師「どうだ、私の凄さが少しは伝わったかな?」


騎士「頭痛がしてきた」

薬師「それはいけない!さすればこの秘伝の丸薬を……」

薬師「何もかも忘れて楽になることうけあい」

騎士「劇薬じゃねーか!」

薬師「気持ち良くなるぞ!」

騎士「それでも医者か!」

薬師「まごうことなく!」


ズズズ、ズズズ……


騎士「おい、なんか音が大きくなってないか?」

薬師「確かに……まさか」

グアアァァァルルルウウゥゥゥ!!!

騎士「マズい!目を覚ましやがった!」

騎士「体を起こしただけでこの風圧か……!」

騎士「失敗だ!ここは逃げるぞ!」

騎士「って、いねえ!」

騎士「あっ!あのオヤジ、竜の方へ……!」


グルル……

薬師「……」カッ

グルル……

薬師「……」カカッ

グアアァァァルルルウウゥゥゥ!!!

ブォン!!!

ガシッ!!! 

ズサー

騎士「っっっあぶっねえええ!!!」

騎士「なに避けないで仁王立ちしてんだ!」

薬師「駄目か!私の眼力も効かず、無念!」

騎士「突っ込まねえからな!逃げるぞ!」


グアアァァァルルルウウゥゥゥウルウ!


薬師「待て!どこへ向かうつもりだ!」

薬師「その先は崖が!」

騎士「下は大河だ、なんとかなる!」

騎士「ちゃんと口閉じてろよ!舌噛むぞ!」

騎士「いっくぜえええ!」

ダァン!

騎士「………おおおおお…………!」

薬師「………わははは、これは愉快愉快………!」


ザッパーン………


<滝壺>

騎士「……ぶはあっ!」

騎士「はっ、はっ、はっ……」

騎士「なんとか助かったか、滝から落ちてさすがに駄目かと思ったが」

騎士「薬師のオヤジは……」

騎士「…………」

騎士「さようならオヤジ、思えば旅もそれなりに楽しかった……」


騎士「あの辺りの岸辺が拓けてそうだ」スイー……

騎士「よい、しょっと……」

ザバッ

薬師「遅かったな騎士よ!」

薬師「はっは!茶を淹れてあるのでいかがかな?」


騎士「ど、どこからそのティーセットを……」

騎士「こ、この人外魔境め…… 」ヘナヘナ

薬師「はっは!」


??「そいつが騎士かぇ」

薬師「その通りだ」

??「ひぇ、ひぇ、その装備でよく川底に沈まなかったのう」

騎士「……な」

騎士「オヤジに続いてババアまで!」

??「誰がババアじゃたわけー! 」スコーン

騎士「いってえ!」

騎士「薬師!なんだこのちみっこい婆さんは!」

薬師「この近くに住む魔女の婆さんだ」


薬師「ほら、お前もこの茶を飲んで一息つくといい」

騎士「ああ、すまない……」

ピタッ

薬師「どうした?」

騎士「……あぶねえ!またこのパターンだよ!」

騎士「今度はなんの薬を盛りやがった!」

薬師「ちっ」

騎士「やっぱりか!この不良オヤジが!」

薬師「なに、ただの惚れ薬よ」


薬師「お前はもう少し淑女に対する礼儀を知るべきかと思ってな」

魔女「淑女とは儂のことかぇ?」

薬師「当然ですな!」

魔女「この歳になって、嬉しいことじゃて」

薬師「はっはっは!」

騎士「ドッと疲れが……」

薬師「む、それはいかんな」

薬師「この薬草を噛んでおけ、滾るぞ」

騎士「……」

薬師「心配するな、ただの薬草だ」


<魔女の庵>

騎士「ほー、婆さんは王宮に仕えてたのか」ガジガジ

魔女「ひぇ、ひぇ、もう半世紀ほど前じゃがのう」

薬師「はっは!お元気ですな!」

魔女「お前さんたちは何をしにこんな辺境へ?」

騎士「……竜の涙さ、そいつが欲しい」

魔女「ひぇ!御伽話じゃの、それを持ってなんとする」


騎士「それがあれば……ある人を助けることができる、旅の目的はそれだ」

魔女「ますますヨタ話じゃな、じゃが面白い、これからどうする」

薬師「ひとまず他の材料を探します、竜の涙と合わせて薬として調合するのです」

薬師「ただしこれまた入手が困難なものばかりですが」

魔女「目録はあるんか?」

薬師「ええ、これここに」

魔女「ほう、どれ見せてくれるか」


魔女「……ここにあるうちの殆どは儂が用だて出来るな、残りは自分達で探せ」

騎士「本当か!それは有難い……!」

薬師「しかし何故そこまでしてくださるのか?」

魔女「なに、珍しい客人だからな、ほんの気まぐれじゃて」


騎士「残る材料は、マンドラゴラ、ルビーワイン、ユニコーンの蹄……か」

魔女「目星くらいはつけられるぞ」

騎士「助かる」

魔女「マンドラゴラは渓谷の村で魔法使いという男が栽培している」

魔女「こやつは儂の知り合いじゃて、事情を話せば分けてくれるじゃろ」

魔女「ルビーワインは戦士の村の秘蔵酒じゃな、これは祭の時のみ振舞われる」

魔女「確かいまの村長は若い男だった筈じゃ、この村の連中は儀礼を尊ぶ、なかなか難しいかもしれんな」

魔女「ユニコーンは深き森に生息しておる、付近には確か教会があった筈じゃて」

魔女「こやつも面倒でな、穢れなき乙女の前にしか姿を現さん」

騎士「穢れなき乙女……」

薬師「はっは!」

魔女「ひぇっ、ひぇっ」

騎士「……道は限りなく険しい!」

ひとまずここまでになります、また宜しくお願いします。

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