にこ「夢を諦めたスクールアイドル」 (1000)

音ノ木坂学院

夢を諦めた少女たちは現実の中で過去を想う

UTX学院

夢を志す少女たちは成長の声を奏でる

正史とは異なる運命が出会いを変えていく

「九人揃ってμ's」

この言葉が現実にならない、じぶたれな邪道物語開幕――





かなり鈍い亀さん更新になると思うので、基本的に更新時の最初以外はsage進行でいきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1409602583

※プロローグの時系列はバラバラです。


◆プロローグ・にこ ~夢を諦めたスクールアイドル~◆

――音ノ木坂学院 アイドル研究部 部室

にこ「たった一ヶ月で二人になっちゃったわね」

あんじゅ「そうだね」

にこ「原因はなんだと思う?」

あんじゅ「間違いなく、私達とあの子達の熱意の差だよね」

にこ「そうよねー。初めからガチ過ぎたのがいけなかったわ」

あんじゅ「でも、きっと徐々に厳しくする方法でも続かなかったと思うよ」

にこ「そうかもね」

あんじゅ「本気でスクールアイドルやりたいなら少なくともここは選ばないでしょ?」

にこ「スクールアイドルが世間に浸透して尚、一度も結成されたことのない音ノ木坂学院だものね」

あんじゅ「それに、近くにはUTX学院があるから」

にこ「……そうね」

あんじゅ「熱意だけじゃ環境の差は埋まらないし」

にこ「入学金に百万とかありえないわ」

あんじゅ「そうだね~」

にこ「チャンスがあればUTXに入りたい? 特待生とかさ」

あんじゅ「今の私には場違いって感じかな。それに、私はここ好きだよ」

にこ「物好きねぇ」

あんじゅ「それに、ああいう所だと顔見知りも居るだろうから。色々言われるだろうし」

にこ「家の事は関係ないじゃない!」

あんじゅ「そう思わない人の方が多いから」

にこ「つくづく現実ってのはムカつくわね」

あんじゅ「スクールアイドルがそんな顔しちゃダメよ。名前通り笑顔にしてないと」

にこ「そうだけど。泣きたくなる時だってあるじゃない」

あんじゅ「泣いたって現実は変わらないんだもの。だったら笑顔で過ごす方が素敵でしょ?」

にこ「あんじゅのそういうとこはアイドル向けだわ」

あんじゅ「私はスクールアイドルだもの♪」

にこ「ふふっ。ねぇ、今日は練習ヤメてカラオケに行かない?」

あんじゅ「練習はきちんとしないと駄目って言いたいけど、今日ばかりはいっか」

にこ「二人っきりのスクールアイドル記念に涙を吹き飛ばしましょう」

あんじゅ「強がっても心にきてるものね。歌って笑顔になろう」

にこ「汚いし部屋の壁が薄いけど安いからムーサイにしましょう」

あんじゅ「そうしよう。演歌でも歌っちゃおうかな~♪」

にこ「演歌はやめなさいよ。その見た目なのに演歌じゃ半笑いしか出来ないわ」

あんじゅ「じゃあどんな歌が似合ってる?」

にこ「やっぱりラブソングよ。男を惑わす色っぽい歌詞とか。にこの次に似合ってるわ!」

あんじゅ「にこは童謡が似合ってるよ」

にこ「あんたねぇ!」

あんじゅ「ふふふっ♪」

にこ「このプリティーにこちゃんに童謡なんて似合う筈ないでしょ!」

あんじゅ「森のパンダさんなんて似合うんじゃない?」

にこ「似合わないって言ってるじゃない!!」

あんじゅ「恥ずかしいなら私も一緒にデュエットしてあげるから」

にこ「どうせデュエットするなら『硝子の花園』にしましょうよ」

あんじゅ「名曲だけどにこの声には似合ってないよ」

にこ「森のパンダさんの方が似合ってないでしょ!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「まったく! 唯一残ったメンバーがこんな性格なんて、常に胃痛に悩まされそうね」

あんじゅ「楽しみね」

にこ「全然楽しみじゃないわよ!」

あんじゅ「にこはからかい甲斐があってアイドル向けだわ」

にこ「そんな褒められ方嬉しくない!」

あんじゅ「褒めてないもの。からかってるだけ♪」

にこ「ぐぬぬ!」

あんじゅ「ふふっ」

にこ「カラオケ行く前に怒りで涙もさよならよ」

あんじゅ「ねぇ、一つだけ真面目なこと訊いてもいい?」

にこ「3サイズは教えないわよ」

あんじゅ「どうでもいいことじゃなくて、面目なことって言ったでしょ?」

にこ「にこの3サイズがどうでもいいことってどういう意味よ!」

あんじゅ「……」

にこ「わ、悪かったわよ。で、なに?」

あんじゅ「どうしてアイドルを目指す訳じゃないのに最高のスクールアイドルを目指すの?」

にこ「……ま、あんたとは三年間の付き合いになりそうだし、言ってもいいかな」

あんじゅ「聞かせて聞かせてっ」

にこ「私も小学生の途中までは本気でアイドルになりたいって思ってたのよ」

にこ「小学五年生の時ね、一年間だけ週二でレッスン受けてたの。入会金なしの月謝は二千円という超お得だった!」

にこ「でも凄いきちんと教えてくれて、色んなことが初めてでドキドキしたわ」

にこ「そんな中で一人の少女と出会ったの。ああいう子がアイドルになるんだって本能的に惹き付けられた」

にこ「最初は全然やる気なかったんだけど、途中からやる気出してくれて。最後のレッスンが終わってから約束したの」

にこ「スクールアイドルになってまた会おうってね」

あんじゅ「にこが認めるくらい凄い子だったの?」

にこ「ええ、本当に凄い魅力の子。だから今年のラブライブは特に注目してるの。あの子が出るんじゃないかって」

あんじゅ「なんて名前?」

にこ「夜空に輝くお星様。キラ星って言うの」

あんじゅ「きらぼし? 変わった名前ね」

にこ「名前通り一等星の輝きを持ってた。私じゃ三等星。ううん、きっと肉眼では見えない四等星ね」

あんじゅ「にこ」

あんじゅ(四等星も環境と視力によっては見えるらしいけど、今回だけは黙っておいてあげよう)

にこ「でも、スクールアイドルは私一人の魅力じゃない。皆で合わさった魅力で勝負だから」

あんじゅ「最高のメンバーを集めようね」

にこ「ええ、キラ星と再会する約束を果たす為に!」

あんじゅ「や~ん! にこにー部長の職権乱用っ♪」

にこ「うっさい!」

あんじゅ「桃太郎だってお供の動物にキビ団子くれたよね~。にこ太郎ちゃんは何をくれるのかな?」

にこ「にこ太郎って何よ……。今晩は奮発してチーズハンバーグにするから、招待してあげるわ」

あんじゅ「料理上手のお隣さんって便利だわ」

にこ「人をコック扱いしてるんじゃないわよ」

あんじゅ「そんな膨れないでよ。将来いいお嫁さんになるって褒め言葉と同じ意味なんだから」

にこ「明らかに違った意味だったでしょうが!」

あんじゅ「あんじゅ忘れちゃったにこ~」

にこ「私の真似するんじゃないわよ!」

あんじゅ「元気も出たみたいだし、カラオケ行きましょう」

にこ「……いつか弄んでやるから覚悟しなさい」

あんじゅ「にこってばプレイボーイみたいな台詞言っても似合ってないよ」

にこ「あんたは本当に口が達者よね」

あんじゅ「にこがからかい易いだけだよ。部長というよりマスコットになる予感☆」

にこ「そんな訳ないでしょ! この圧倒的部長力のにこに皆が敬うに決まってるでしょ!」

あんじゅ「敬うなんて難しい言葉知ってたんだ。ごめんね、にこのこともっとお馬鹿さんかと思ってた」

にこ「もう怒ったニコ! カラオケの点数勝負よ!」

あんじゅ「勝負を申し出た時点で敗北確定なのに。めげないわねぇ」

にこ「例え五回連続負けていようとも、これから九十五回勝ち続けるかもしれないでしょ!」

あんじゅ「だが、にこのやる気とは裏腹に現実は非常だった」

にこ「変なナレーション入れてんじゃないわよ。負けた方が今日使うチーズ買うのよ、いいわね!」

あんじゅ「ご馳走様」

にこ「ふんっ! その余裕もにこの点数が出るまでよ。見てなさい!」

◆プロローグ・ことり&穂乃果 ~夢へ羽ばたく翼~◆

――某中学校 生徒指導室

ことり「私がUTX学院の特待生?」

先生「ええ、そうよ。これはとても栄誉あることです」

ことり「どうして私なんでしょうか?」

先生「学生デザインコンクールがあったでしょ? あれで南さんのことを知ったということです」

ことり「私のデザインが? でも、UTXって普通科と芸能科しかないんじゃ?」

先生「来年度から被服科も始めるということで、有能な人材を特待生として招く試みでしょうね」

ことり「……」

先生「将来のことを考えれば今までの志望校である音ノ木坂より断然良い筈です」

ことり「でも、私一人なんですよね?」

先生「それは当然です」

ことり「そう、ですよね」

先生「……? あ、高坂さんと園田さんとのことですか」

ことり「今までずっと一緒だったので」

先生「友情も確かに大事です。特に学生の間の友情は生涯の友となりえます」

ことり「はい」

先生「ですが、あなた達の場合はそんな心配はないでしょう」

ことり「……」

先生「UTX学院は直ぐ近くの秋葉原です。会おうと思えば放課後でも直ぐに会えますし」

ことり「はい」

先生「友情を優先する余り将来を蔑ろにしてはいけませんよ」

ことり「……はい」

先生「先方の都合もあり、今週中に返事をということなのでじっくり考えてみて下さい」

ことり「分かりました」

先生「ここだけの話ですけど、先生は尊敬する先輩が音ノ木坂に入学したので後を追うように入学しました」

ことり「え?」

先生「教師という立場では確実にUTX学院の方がいいとは思いますけどね。答えを出すのは南さん自身です」

ことり「はい」

先生「ただし、答えを出せないままで今週を終えるのだけはしないでくださいね」

ことり「皆に相談してから、じっくり考えます」

先生「ええ、それがいいと思います。これを機会にもう少し自分の事を考えられるようになって下さい」

ことり「がんばります。それでは失礼します」

――教室

穂乃果「あ、先生のお話終わった?」

ことり「穂乃果ちゃん。わざわざ待っててくれたの?」

穂乃果「今日はなんだかことりちゃんと帰りたくて」

ことり「嬉しいなぁ」

穂乃果「ということで一緒に帰ろう!」

ことり「うん。あ、海未ちゃんは?」

穂乃果「剣道部の子が来て指導して欲しいって連れて行かれちゃった」

ことり「流石海未ちゃんだね。後輩の子にモテる」

穂乃果「剣道やってる時の海未ちゃんってカッコ良いからね」

ことり「そうだね。海未ちゃんには剣道。穂乃果ちゃんには人を惹き付ける魅力」

穂乃果「へ?」

ことり「ううん。なんでもないよ」

穂乃果「なんでもあるよ。いつもより笑顔が二割減になってる!」

ことり「……分かっちゃう?」

穂乃果「当然だよ。ことりちゃんのことだもん」

ことり「穂乃果ちゃん。相談に乗って貰ってもいいかな?」

穂乃果「私でよければドンとこいだよっ」

ことり「あのね、今日先生に呼ばれた理由なんだけど」

穂乃果「うん、ことりちゃんが呼ばれるなんて驚いたよ。何だったの?」

ことり「……高校は特待生としてUTXに入らないかってお誘いだったの」

穂乃果「――え?」

ことり「来年度から被服科が開始されるらしいんだ」

穂乃果「UTXって?」

ことり「穂乃果ちゃんは知らない? 秋葉原にある四年前に出来た高層ビルみたいな綺麗な学校なんだけど」

穂乃果「秋葉って行かないから初めて知った。でも、だってことりちゃんは音ノ木坂」

ことり「うん。今までは音ノ木坂しか考えてなかった」

穂乃果「そうだよね。だって私達三人一緒にって。それにことりちゃんのお母さんの学校だし」

ことり「国立だからお母さんの学校って訳じゃないけど」

穂乃果「でも理事長やってて」

ことり「うん、急な話だけど今週中に決めて欲しいって言われちゃった」

穂乃果「そう、なんだ」

ことり「穂乃果ちゃん、ことりは」

先生『これを機会にもう少し自分の事を考えられるようになって下さい』

ことり(全部を穂乃果ちゃんに頼っちゃ駄目、なんだよね)

ことり「ことりは少し考えてみようと思うの。将来デザイナーの仕事に就きたいし」

穂乃果「そっか。うん、そうだよね。大事な問題だもんね」

ことり「こないだのコンクールで入選したのがね、今回の特待生の話に繋がってるみたい」

穂乃果「あの時の絵が切っ掛けなんだ」

ことり「うん」

穂乃果「……穂乃果はことりちゃんと一緒に音ノ木坂に通いたいな」

ことり「穂乃果ちゃん」

穂乃果「今までみたいに穂乃果とことりちゃんと海未ちゃんの三人で」

ことり「……」

穂乃果「将来は別々の道を歩くのは分かってる。でも、それって高校卒業した後の話だって思ってた」

穂乃果「ことりちゃんが隣に居てくれないと寂しいよ」

穂乃果「でも、ことりちゃんの夢を考えると我がまま、言えないよね」

ことり「……まだ、決めた訳じゃないから」

穂乃果「うん。決まったら教えてね?」

ことり「真っ先に穂乃果ちゃんに報告するね」

穂乃果「ありがとう。それじゃあ、今日は帰ろうか」

ことり「うん」

◆プロローグ・絵里 ~諦めた悲しみ果て~◆

――絵里の部屋

亜里沙『私日本について調べたんだよ!』

絵里「亜里沙は日本のことになると勉強熱心ね」

亜里沙『うん! それでね、今日本ではスクールアイドルっていうのが流行ってるんだって』

絵里「スクールアイドル?」

亜里沙『そう、なんだかとてもキラキラしてるの』

絵里「よく分からないんだけど」

亜里沙『つまりね、今のお姉ちゃんの年頃の子が可愛い服を着て踊って歌うの!』

絵里「……アイドルの真似事?」

亜里沙『その言い方亜里沙嫌い。高校生がアイドルするでいいじゃない』

絵里「よく分からないけど、それがどうかしたの?」

亜里沙『うん、スクールアイドルって学校の代表としてライブするんだって』

絵里「学校の代表、ねぇ」

亜里沙『お姉ちゃんは生徒会っていう学校の代表になってるんでしょ?』

絵里「ええ、入学して直ぐに自分から入ったわ。お婆様も昔は生徒会に所属していたと聞いてたから」

亜里沙『だったらスクールアイドルもしなきゃダメだよ!』

絵里「だったらって、全然話が繋がってないわよ」

亜里沙『え、どうして? 学校の代表なら同じスクールアイドルもするのが当然じゃないの?』

絵里「そもそもスクールアイドルっていうのが音ノ木坂にはないと思うわ」

亜里沙『そんな筈ないよ。私、スクールアイドルを知ってから音ノ木坂のスクールアイドルを調べたもの』

絵里「音ノ木坂にアイドルの真似事してる子達が居たの?」

亜里沙『だからその言い方やめてって』

絵里「ごめんごめん。でも、そんな子達聞いた覚えもないんだけど」

亜里沙『でもきちんと毎日日記を載せてるよ』

絵里「日記? ああ、ブログのことね」

亜里沙『そう。でも、アイドルのことより料理のことが多いんだけど』

絵里「料理?」

亜里沙『カレーは飲み物って書いてあったわ』

絵里「どんな天然さんが書いたブログよ!」

亜里沙『時々写真も載ってるの。でも、半分くらい料理の写真』

絵里「……頭痛くなってきた。それだと音ノ木坂が馬鹿の集まりに思われるじゃない」

亜里沙『そんなことないよ。亜里沙、とってもファンになっちゃったもの』

絵里「明日学校で調べてみないと」

亜里沙『それだったら是非会って、亜里沙が応援してること伝えてね、お姉ちゃん♪』

絵里「ええ、もし会うことがあったら伝えると思うわ」

亜里沙『亜里沙も早く日本に行って本物のスクールアイドルみたいなぁ』

絵里「幻想抱き過ぎると実物見て幻滅するわよ」

亜里沙『ぶー。お姉ちゃんはどうしてそんな酷いこというの』

絵里「だって普通の高校生の踊りなんて、どうせ素人の遊びでしょ?」

亜里沙『それは……お姉ちゃんにとってはそうかもしれないけど』

絵里「だったら大したことないわよ」

亜里沙『でも、一生懸命頑張ってるんだよ?』

絵里「人の趣味をとやかく言うのは気が引けるけど、遊びよ」

亜里沙『なんでそんなこと言うの!? お姉ちゃんは踊るの辞めちゃった癖に!!』

絵里「――」

亜里沙『あ、ごめん。亜里沙ついカッとなって。お姉ちゃんに酷いこと言っちゃった』

絵里「ううん、バレエを辞めたのは本当のことだもの」

亜里沙『亜里沙……お姉ちゃんの踊る姿が好きだった。誰よりも輝いてた』

絵里「それも幻想よ。私は常に誰かの下だったもの」

亜里沙『それでも亜里沙にとっては一番だったもん』

絵里「ありがとう。その言葉だけでバレエを頑張ってた意味があったわ」

亜里沙『もう踊らないの?』

絵里「踊らないわ。自分の限界まで頑張ったもの」

亜里沙『スクールアイドルになればお姉ちゃんが思ってた限界の上まで行けるかもだよ?』

絵里「それは絶対にありえないことよ」

亜里沙『……亜里沙にはお姉ちゃんが今も踊りたがってるように感じる』

絵里「今日の亜里沙は疲れてるみたいね。長電話になっちゃったからそろそろ切るわ」

亜里沙『いつかお姉ちゃんと一緒に踊りたいな』

絵里「それじゃあ、こっちはもう真夜中だから切るわね。お休みなさい」

亜里沙『おやすみなさい。……亜里沙、日本に行ったら――』

絵里(何故か亜里沙の言葉を最後まで聞くのが怖くて電話を切っちゃったわ)

絵里「……今も私が踊りたがってる、か。そんな筈ない」

絵里「私のダンスはあの日、トウシューズを捨てたことで終わったの」

絵里「踊りたくなんてないんだから。……嘘なんかじゃ、ないわ」

◆プロローグ・希 ~託される野望(ユメ)~◆

――UTX学院 生徒会室

会長「強引に誘っちゃって悪かったわね」

希「それはいいんですけど、それよりも……」

会長「まだ気にしてたの?」

希「ウチが生徒会に入らなければ次期会長はあの人だった筈だし」

会長「あの子はね、優秀なんだけど少しUTX贔屓過ぎるのよ」

希「母校を誇るのはいいことだと思いますけど」

会長「度が過ぎるの。一番上の立場には少し毒になるのよ」

希「でもウチはまだ一年生やし」

会長「学年は関係ない。社会に出ればそんなの当たり前なんだから、気にするだけ無駄よ」

希「だけど生徒会から追放したのはやり過ぎじゃ?」

会長「残っていたら絶対に逆恨みするもの。追放したのが私なら恨みは私に向けられるし、東條さんは安心して」

希(物凄く優秀なんだけど、少し天然入ってる)

会長「だけど本当に優秀ね。今まで生徒会とかやってたこと本当にないの?」

希「ええ、色々転校ばかりでそういうのをしたことはないです」

会長「だったらUTXは東條さんにとって特別な学校になるわね」

希「特別?」

会長「会長なんて責任ある立場をするとね、その学校が好きになるの。正確には学院かしらね」

希「学校に対してそういう気持ちになるっていうのが、実感湧かないですけど」

会長「なってみて、会長が板についてきたら実感出来るわよ」

希「あと二週間で引継ぎですか」

会長「ええ。それ以降も困ったらなんでも聞いてくれて構わないから」

希「頼りにさせてもらいます」

会長「でも残念だったわ」

希「何がですか?」

会長「私ね、UTXが出来る前は音ノ木坂に入ろうと思ってたのよ」

希「お隣さんでしたっけ?」

会長「ええ、歴史のある学院なの。あそこと一緒に何かをしたかった」

希「何かって具体的になんです?」

会長「学園祭とか音楽祭とか楽しいこと一緒にね。でも、残念ながらタイムオーバー」

希「姉妹校であるならまだしも、関係ない学院同士では厳しいと思います」

会長「それでも東條さんならやれそうだって期待してるの。勿論、私が卒業した後になっちゃうだろうけどね」

希「いやいや、会長になるだけで精一杯やし」

会長「会長職と一緒に私の夢も受け継いでね。これが貴女を生徒会に引き込んだ一番の理由なの」

希「なぁっ!?」

会長「くすっ。他の人には内緒よ?」

希「会長さんには敵わんなぁ」

会長「伊達に東條さんよりも二歳も年上じゃありません」

希「会長だけでも厄介なのに、それ以上に厄介な夢まで……。随分と楽しいことになりそう」

◆プロローグ・真姫 ~私のやりたいこと~◆

――西木野邸

ママ「UTX?」

真姫「そう。私はママの母校よりそこがいいの」

ママ「音ノ木坂もいい学校なのに」

真姫「UTXは芸能科もあるから音楽に力を入れてる」

ママ「真姫ちゃんはやっぱり音楽が好きなのね」

真姫「大学は女子医大にきちんと入るから、高校の間は好きにさせて」

ママ「ええ、分かったわ。パパには私の方から伝えておくから」

真姫「ごめんね。音ノ木坂は生徒数も減ってるし、私のやりたい音楽をあそこじゃ出来ないと思うの」

ママ「ううん、いいのよ。真姫ちゃんの自分の意思が大事だもの」

真姫「ピアノも歌も高校の間に全部満足させたいから」

ママ「ふふっ。ピアノを習い始めたばかりはやりたくないって駄々こねたのが懐かしいわ」

真姫「ヴェェェェ!」

ママ「あの時は昔の自分を見た気がしたわ。私もピアノが嫌で投げ出したのよ」

真姫「え、ママが? 初耳なんだけど」

ママ「自分からそんな情けないこと言いたくないもの」

真姫「もう、ママったら」

ママ「高校でね、ピアノが上手な子が居てね。その姿に憧れを抱いて、手のひら返したように練習したわ」

真姫「へぇ~」

ママ「学校が違っても、真姫ちゃんに良い出会いがあることを期待するわ」

真姫「……出会いなんてなくても、私は音楽さえ出来れば」

ママ「一人の音楽は限界があるのよ。それをりっちゃんは教えてくれたわ」

真姫「そのりっちゃんってどんな人だったの?」

ママ「そうね、とても変わった髪型をしてたわ」

真姫「変わった髪型?」

ママ「ええ。右脳の上の部分を……説明が難しいけどぐるぐるって」

真姫「右脳の上って意味わかんない!」

ママ「空を自由に飛ぶ鳥のように、だけど慈愛に満ちた素敵な人だったわ」

真姫「ふぅん」

ママ「ママの昔話はおしまい。きちんとお勉強するのよ?」

真姫「誰に言ってるの? この真姫ちゃんが勉強を疎かにする筈ないでしょ」

真姫「高校がどこであろうと、一番という完璧さで入学するんだから!」

◆プロローグ・花陽&凛 ~それぞれの春~◆

――家路

凛「冬は寒いから嫌いだよ」

花陽「まだ正確には秋が終わってないんだけどね」

凛「こんなに寒かったら冬と同じにゃー!」

花陽「くすっ。本格的に寒くなったら雪が降るかも」

凛「勘弁して欲しいよ~」

花陽「冬が明けたら卒業だね」

凛「……うん」

花陽「ごめんね、凛ちゃん」

凛「ううん、かよちんが昔からアイドルに憧れてるのは知ってるもん」

花陽「でも、ごめんなさい」

凛「そりゃあ、最初はかよちんと同じ高校に行けないって怒ったけど、でもかよちんの夢の為だから」

花陽「私じゃ、その……無理だと思うの。でも、憧れを捨て切れなくて」

凛「かよちんは可愛いもん。絶対にUTXでもスクールアイドルになれるよ」

花陽「そんな簡単にはいかないけど、でも少しでも近くでA-RISEを近くで感じたい」

凛「A-RISEというか南ことりでしょ?」

花陽「そ、そんなっ! でっでもそうかも。ことりさんすっごい優しそうで、歌が上手くて」

花陽「それだけじゃなくて、A-RISEの衣装をデザインしてるのもことりさんで。すごく憧れて」

凛「声の可愛さが少し似てる気がするにゃ。でも、凛はかよちんの方が好きだよ」

花陽「ありがとう、凛ちゃん。それにことりさんだけじゃなくて、ツバサさんも英玲奈さんもカッコ良くて」

花陽「間違いなく現在のスクールアイドルの頂点。ううん、過去最高と謳われているくらい!」

凛「本当にかよちんはアイドルのことになると夢中になるよね」

花陽「あ、ごめん」

凛「謝る必要ないよっ。逆にかよちんが羨ましい。凛にはこれっていう夢はないから」

花陽「好きなことを見つければ見つかるよ! 凛ちゃん走るの得意だからオリンピック選手とか」

凛「確かに走るのは好きだけど、オリンピックは見ないし」

花陽「音ノ木坂に入ったら陸上部に入らないの?」

凛「そうだね。かよちん居ないし、陸上部にでも入って汗流そうかな」

花陽「花陽は走ってる凛ちゃん大好きだよ」

凛「えっへへ。ありがとう!」

花陽「そういえば、凛ちゃん知ってる? 音ノ木坂にもSMILEってけっこう人気のスクールアイドルが居るんだよ」

凛「スマイル?」

花陽「そう。なんかね、あそこに凛ちゃんが加われば更に人気が出る気がするの」

凛「凛がスクールアイドルとか、ありえないよ」

花陽「そんなことないよ。凛ちゃんは私より断然可愛いし」

凛「凛は可愛くなんてないよ」

花陽「……可愛いよ」

凛「うぅ~、それにしてもやっぱり寒いにゃー。お母さん早くおこた出してくれないかなぁ」

花陽「まだ少し早いよ」

凛「おこたでヌクヌクしながらみかん食べてごろごろするの」

花陽「ふふふ。凛ちゃんは動くのも好きだけど、そういうのも好きだよね」

凛「そこにラーメンがあれば極楽だもん!」

花陽「凛ちゃんらしい。あ、それじゃあここでお別れだね」

凛「うん、また明日ね」

花陽「うん、また明日。ばいばい、凛ちゃん」

凛「ばいば~い!」

凛「……」

凛(寒いのは嫌だけど、今年の冬は明けて欲しくない)

凛(かよちんと別々の高校なんて、そんな春は来ないで欲しい)

凛「……寒いよ、かよちん」

◆ラストプロローグ・ことり&穂乃果&海未 ~夢へ飛翔する翼~◆

海未「そうですか、ことりがUTXからスカウトされたのですね」

穂乃果「うん」

海未「よく止めるのを我慢しましたね」

穂乃果「だって、ことりちゃんが装飾系の仕事に就きたいっていうのはかなり前からだし」

海未「そうですね。幼馴染としては応援してあげたい。でも、寂しい」

穂乃果「ずっとことりちゃんは隣に居てくれたから、とっても寂しいよ」

海未「正直な話、私も穂乃果と同じで高校まではずっと一緒なんだと思ってました」

穂乃果「そうだよね。三人一緒に音ノ木坂にって、誰かが言い出す前から決まってることだと思ってた」

海未「私たちの母が巣立った学校ですからね」

穂乃果「うちはお婆ちゃんも」

海未「でも、やはりここは喜ぶべきことです」

穂乃果「うん」

海未「だって、私たちの幼馴染が認められたのですから」

穂乃果「うん」

海未「自慢出来ることです」

穂乃果「うん」

海未「……でも、ことりがUTXに入学するのは寂しいです」

穂乃果「うん、寂しい」

海未「堂々巡りというか、結局は寂しいという気持ちに繋がってしまいますね」

穂乃果「だって寂しいんだもん」

海未「ことりはどんな選択をするでしょうか」

穂乃果「音ノ木坂を取るに決まってるよ」

海未「そうですね。だって、ことりですからね」

穂乃果「うん、ことりちゃんだもん」

海未「だったら私たちが、いいえ。穂乃果がすることは一つということになります」

穂乃果「……はぁ~。寂しいね」

海未「でも、それがことりの為になるのなら」

穂乃果「うん、分かってるよ。海未ちゃんのお陰で勇気出せそう」

――約束の日

海未「それでことりはどうすることにしたんですか?」

ことり「うん。やっぱり元々入るつもりだった音ノ木坂にすることにしたの。心配かけてごめんね」

穂乃果「ことりちゃん、何を言ってるの?」

ことり「え?」

穂乃果「どうして自分から夢を捨てるようなこと言うの?」

ことり「だって、ことりは一人だと何も出来ないから」

穂乃果「何も出来ない? そうかもね。自分で自分の夢を捨てるようなこと選択するんじゃ何も出来ないよ」

海未「穂乃果の言う通りですよ。何もないという前提がおかしいですが、夢を捨てるのは愚者の行いです」

ことり「ど、どうして二人してそんなこと言うの? 三人で同じ高校に通えるんだよ?」

穂乃果「ことりちゃんが自分の夢に不利になることしてまで一緒の高校に通いたくなんてない!」

穂乃果「私の知ってることりちゃんは一見大人しそうに見えて意外と負けず嫌いで、けっこう癇癪持ちだった」

穂乃果「成長して穂乃果より先に大人っぽくなったと思ってたけど、全然違ったね。昔より子供だよ!」

ことり「そんなっ」

穂乃果「ことりちゃんの夢はね、穂乃果と海未ちゃんの自慢なんだよ。だって、ことりちゃんだけが自由だから」

海未「私と穂乃果は家を継ぐことが義務付けられてます。ですが、ことりは夢を追うことが出来る」

穂乃果「それなのに、ことりちゃんはその夢を……私たちの自慢の夢の翼をもぎ取っちゃうの!?」

ことり「……ほのかちゃん、うみちゃん」

穂乃果「海未ちゃんの言った通り、ことりちゃんが何も持ってないっていうのがそもそもおかしいんだよ」

穂乃果「穂乃果がどれくらいことりちゃんの持つ魅力に羨ましいなって思ったか知ってる?」

海未「私もことりに嫉妬することが多々ありますよ。いつもお淑やかで優しくて、お菓子作りが上手い」

穂乃果「一緒に居られなくて寂しいって気持ちはすっごい大きい。我がまま言って止めたいくらいにね」

穂乃果「でも、夢は大空を飛ぶ鳥のように人間がどうこうしちゃいけない物なんだよ」

穂乃果「だから、ことりちゃん自身も夢を捨てるなんて選択をしちゃいけないの」

海未「仮に捨てようとしても三人分ですから、呪いのように捨てることが不可能です」

ことり「……」

穂乃果「UTXって調べて、実際に見にも行ったけど本当に凄かった」

海未「正直どこの企業のビルかと思ったくらいです」

穂乃果「あんな凄い学校から声が掛かるなんてことりちゃんは凄い。本当に私たちの自慢だよ」

海未「ことりが何かUTXで活躍する度に、私たちは音ノ木坂で皆に自慢して周ります。私の幼馴染は凄いんだって」

穂乃果「それでね、いつか大人になってことりちゃんが有名なデザイナーになったら穂むらの制服作って貰うんだ♪」

海未「いいですね。穂むらを継いだ穂乃果がことりのデザインした制服で接客する。夢のようです」

穂乃果「そんな夢みたいな将来を現実にする為に、ことりちゃんは今何をするべきか分かる?」

海未「ちなみにこれに不正解した場合、私たちはことりの幼馴染を辞めます」

ことり「……酷いよ、そんなことされたらことり泣いちゃうよ?」

穂乃果「そうだよ! それに幼馴染を辞めるって意味が分からないよ、海未ちゃん」

海未「ちょっと待ってください! 穂乃果、あなたはどっちの味方なんですか!?」

ことり「くすっ」

穂乃果「穂乃果はことりちゃんの味方だよっ!」

海未「土壇場で裏切るとか最低ですよ、穂乃果!」

穂乃果「ことりちゃん。ふぁいとだよ!」

ことり「穂乃果ちゃん、海未ちゃん。ありがとう。先生の所に行ってきます」

穂乃果「行ってらっしゃい! ここで待ってるからね~」

海未「慌ててこけないでくださいね!」

穂乃果「……」

海未「よく耐えましたね。穂乃果は十分大人になってますよ」

穂乃果「うみ、ちゃん」

海未「もう大丈夫です。我慢しないでいいですから」

穂乃果「うっぐ、ゔみちゃ゙んっ!」

海未「穂乃果はことりを夢へ導いたんです。とても偉かったですよ」

穂乃果「うんっ、うんっ。ひっぐ、うっうぅ」

海未「私たちは幸せ者ですね。幼馴染が夢へ飛翔する瞬間を目の当たりに出来たのですから」

穂乃果「ゔんっ、ぅゔっ、さびじぃよぉ」

海未「……あんまり泣かないでください。私まで、泣いて……しまうでは、ないですか」

――職員室

先生「そうですか、よく決断しましたね。正直断るかと思ってました」

ことり「本当はそのつもりでした。でも、叱られちゃいました」

先生「高坂さんと園田さんですね」

ことり「はい。叱った後に頑張れって応援してくれました」

先生「とても素晴らしい友人ですね」

ことり「はいっ! 私の自慢の幼馴染ですから」

先生「高校は義務教育と違い自分の意思で学ぶことが重要です」

先生「もし、何か辛い事があったら今の気持ちを思い出して頑張ってください。そして、友人に相談して下さい」

ことり「大丈夫です。一人で悩んだら今回みたいにダメな選択しちゃって気づきましたから」

先生「とても素晴らしいことを学びましたね」

ことり「全部穂乃果ちゃんと海未ちゃんのお陰です」

先生「南さんは今回のことを自分の言葉でまとめるとどういう風に感じましたか?」

ことり「私は今まで何もないと思ってました。穂乃果ちゃんと海未ちゃんとは違うんだって」

ことり「でも、私だからこそ二人の分まで頑張れることがあるって教えられました。胸を張れる物を持ってるって」

ことり「他の誰かに何を言われても、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが応援してくれる物があるんだって」

ことり「だから、一人になっちゃうけど怖くないです。寂しいけど、寂しくないです」

先生「人生の経験はテストと違って点数をつけられません。例え今の言葉がテストの正解だとしても、同じですけどね」

先生「南さんは今日という日を境に、もっともっと自分の魅力を見つけてあげてください」

先生「そうすれば高坂さんと園田さんも南さんのことを今以上に誇れる筈です」

先生「それでは、詳しい話は来週にしましょう。今日はもういいですよ」

ことり「はいっ! ありがとうございました!」

先生「気をつけて帰ってくださいね。浮かれてる時が一番危ないですから」

ことり「えへへっ。気をつけます。先生、さようなら」

先生「はい、さようなら」

先生「……ふふっ」

先生「高坂先輩。貴女の娘さんは貴女と同じ、他の人への影響力が強いようですね」

にこ「今回はこれで終了にこ!」

あんじゅ「μ'sの九人中四人がUTXに入学ってありなの?」

にこ「音ノ木坂に入学してるあんたが言っても説得力ないわよ」

あんじゅ「うふふ」

にこ「スレタイは私になってるけど、音ノ木坂とUTXで色んな視点に切り替わるから主人公というには微妙ね」

あんじゅ「といってもプロットがほぼ白紙だからねー。どうなることかしら」

にこ「正直、感動とか百合とかないと思うからここで閉じるのは正解よ」

あんじゅ「取りあえず本編は私たちが一年生の頃から始まる筈、かな?」

にこ「ということで、心広い人はじぶたれな邪道物語本編で会いましょう!」

―― 一年目 五月末 矢澤家 にこあん

あんじゅ「さぁ! 本日もやってきました。にことあんじゅのお料理タイム♪」

にこ「あんた後ろでそうやって茶々入れてくるだけでしょうが」

あんじゅ「こうして料理するにこを後ろから見守ることで、料理に愛情というスパイスを入れてるんだよ」

にこ「そんなウザいスパイス要らないわよ。というか、愛情なら私がたっぷり入れてるわ!」

あんじゅ「つまり私の身体にはにこの愛が巡ってるわけね。にっこにっこにー♪」

にこ「人の真似ばっかりするんじゃないわよ。全然似せる気ないのがよりムカつくわ」

あんじゅ「スクールアイドルなんだから笑顔じゃないと駄目よ」

にこ「あんたの所為でしょうが! 毎朝毎晩人の家に食べに来て」

あんじゅ「だってお弁当って高いんだよ? 私料理出来ないし」

にこ「まぁ、少し多めに材料費貰ってるからいいけど」

あんじゅ「ウィンウィンな関係だね。今日は何を作ってくれるのかな?」

にこ「豆腐ステーキともやしとわかめのサラダね。ご飯は炊きたてになる予定の白いご飯」

あんじゅ「おぉ~! ステーキなんて久しぶり」

にこ「あんたが思ってるステーキとは別物よ」

あんじゅ「お豆腐でも十分十分。ステーキ食べるつもりで食べればステーキになるのよ」

にこ「見た目は蝶々みたいなくせに、あんた肉食よね」

あんじゅ「肉食系スクールアイドル。好きになったら食べちゃうわよっ」

にこ「下品に思われるからヤメなさい」

あんじゅ「うっふん♪」

にこ「頭の後ろで両手を組んでのセクシーポーズとか要らないから」

あんじゅ「後ろを振り返らずに言い当てるなんて、実はエスパー?」

にこ「あんじゅのしそうなことなんて短い付き合いでも丸分かりよ」

あんじゅ「今にこが口元緩めて得意げな顔してるのが私も丸分かり」

にこ「……。料理に集中するから黙ってなさい」

あんじゅ「はーい。じゃあ、今回も食材と作り方をメモメモ」

――25分後...

にこ「今日はこころの好きな豆腐ステーキよ」

こころ「わぁーいにこ!」

ここあ「ここあも好きにこ!」

あんじゅ「あんじゅも大好きにこ!」

にこ「同級生なのに最近あんじゅが妹に見えてくるわ」

あんじゅ「にこの妹なら大歓迎だよ」

ここあ「あんちゃんもお姉ちゃん?」

こころ「あんじゅちゃんもにこにーの妹!」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんとお揃いだねっ」

こころあん「えへへ♪」

にこ「……はぁ~。冷める前に食べ始めるわよ」

あんじゅ「ふっふっふ~。食べる前にシャッターチャンス!」

パシャッ!

あんじゅ「この美味しい料理は今日のSMILEブログに載せておくね」

にこ「ちょっと、あんたが書くブログは料理のことばかりじゃない」

あんじゅ「だってこんなに美味しそうなんだもん。それに実際に美味しいし、ねー」

ここあ「ねー」

こころ「ぜったいにおいしいニコ♪」

にこ「私達はスクールアイドルであって、お料理研じゃないのよ?」

あんじゅ「隠し味付きレシピ搭載。たまに写真付き。普通のブログよりお得だよ」

にこ「進む方向が激しく間違ってるわ」

あんじゅ「冷めちゃうからいただきましょう。それじゃあ、いっただきまーす!」

こころあ「いただきますー!」

にこ「いただきます」

あんじゅ「メンバーの事もあるし、私たちがラブライブを目指すのは三年生の時でいいでしょ」

にこ「ま、それが現実的よね。一日でも早くキラ星と再会したいけど」

あんじゅ「急がば回れだよ。遠回りしてる間は美味しくて安いお料理を沢山世に広めよう」

こころ「にこにー。おとうふのステーキおいしいよ!」

にこ「ありがとうにこ♪」

ここあ「おいしいにこ! ここあ明日はカレーがいい!」

にこ「カレーね。分かったわ、明日からカレーの日にするわね」

こころあ「やった~!」

あんじゅ「家庭料理の定番と噂のカレー! 遂に私もカレーライスデビュー」

にこ「あんた、カレー食べたことないの?」

あんじゅ「お店のしか食べたことないの。正確にはカレーライスじゃなくて、ナンで食べるカリー」

にこ「日本人ならカレーはお米で食べなさい」

あんじゅ「明日がくるの楽しみだなぁ。これは明日も私がブログ書くしかないね!」

にこ「なんで燃えてんのよ。変なこと書かないでよ? 一応音ノ木坂の看板背負ってるんだから」

こころ「にこにー」

にこ「どうしたの?」

こころ「ステーキのお代わりあるの?」

ここあ「こころずるーい! ここあも食べたいにこっ!」

あんじゅ「私も私も!」

にこ「あんじゅはまだ半分以上残ってるでしょ。こんなこともあろうかとママの分とは別に一つ作ってあるにこ!」

あんじゅ「だったら皆で分けて四分の一にしま――」
にこ「――だからこころとここあで半分にして食べるのよ。どっちが大きいとかで喧嘩しちゃダメだからね?」

こころあ「はぁーい!」

あんじゅ「う~るる~」

にこ「あんた完全に大人気ないわよ。……仕方ないわねぇ。ほら、一口分あげるから我慢なさい」

あんじゅ「にこにーって時々子供じゃなくて女神に見えるから不思議!」

にこ「あぁん? 喧嘩売ってんの!?」

あんじゅ「にこにーお姉ちゃん大好きにこ!」

にこ「やれやれ。少しは料理覚えなさいよね。一人暮らししたら困るわよ」

あんじゅ「そうだよね。明日から頑張る!」

にこ「それ、ダメな人間の言い訳だから」

――六月初頭 UTX のんたん

ツバサ「ねぇ、そこの貴女」

希「ウチのこと?」

ツバサ「そう、貴女。スクールアイドルに興味ない?」

希「そういう質問は芸能科の人間にすべきやと思うけど」

ツバサ「常識に捕らわれてると輝かしい宝石を見逃す場合があるからね」

希「残念だけど、質問の答えはない、だよ」

ツバサ「貴女なら絶対に凄いスクールアイドルになれるって、私が保証するけど」

希「期待の星。綺羅ツバサさんにそう言われるのは栄光だけど。ウチは生徒会で一杯一杯だから」

会長「そうそう。いくらキラちゃんでも引き抜きNGよ」

ツバサ「生徒会長」

会長「東條さんには私の跡を継いでもらうんだから。一年生初の生徒会長東條希登場ってね!」

ツバサ「」

希「」

会長「ちょっと! つまんないとか面白くないとか反応あってもいいでしょ!」

ツバサ「くすっ。恥ずかしくなるなら言わなきゃいいのに」

希「そこが会長の魅力やし」

会長「変な部分を魅力にしないで。というか、なんでまたキラちゃんがスカウトなんてしてるの?」

ツバサ「私と英玲奈に釣り合う人材を探してるの」

会長「それだけ聞くと自信過剰っぽいけど、実力相応の発言なのよね」

希「そんなに凄いんですか?」

会長「ええ。スクールアイドルは学校の代表1グループしかなれないの。その座を彼女は入学早々もぎ取ったのよ」

ツバサ「最高のスクールアイドルを目指してるから。スクールアイドルにならないとお話にならないでしょ?」

希(笑顔で大胆なこと言うなぁ)

会長「才能だけじゃなくて、努力もしてるキラちゃんだからこそ許される発言ね」

ツバサ「そういう発言は良くないわ。皆努力してるもの。ただ、私には夢があるから」

会長「夢ってアイドルになるってこと?」

ツバサ「もっと大切な物だね。だから今は最高のメンバーを集めてる途中なの」

会長「私の夢も掛かってるから、東條さんは絶対に上げられないわ。他をあたってね」

ツバサ「生徒会長になるとしても、スクールアイドルに興味出たら是非私に声を掛けてね?」

希「そんなことはないと思うけど」

ツバサ「何かのイベントで一度だけでもいいからさ。ライブの快感を覚えたら抜け出せないから」

会長「勧誘禁止って言ったでしょ。こっちは来年から出来る被服科の準備とかで忙しいのよ」

ツバサ「そういえば被服科が出来るんだよね。じゃあ、来年からは衣装もそっちで作ってもらえるのかな?」

会長「どうかしらね。取り敢えずコンクール入選者上位には特待生で招くことを検討してるところみたい」

ツバサ「ふぅん、そっか。何にしろ楽しみ」

会長「それじゃあ、私たちはもう行くわね。色々と引き継ぐことも多くて時間がいくらあっても足りないから」

ツバサ「ええ、お邪魔したわね。良かったら今度ライブ観に来てね。初ライブが今月半ばにあるから」

希「うん、時間があったら」

会長「UTXに入ったからにはライブを観てみるのも確かにいいかもしれないわね」

――同日 夜 のんたんのおへや

希「会長……か。本当に不思議な人やね」

希(小さい頃から転校続きで覚えた処世術と占いによる壁)

希(だからあんな風にウチに踏み込んでくる人というのが初めてで、必要とされてるのも初めての経験)

希(覚えることは本当に沢山あるし、生徒数も今までの学校とは比べられないくらい多い)

希(それでもなんとしても会長の跡を継いで一年生だけど会長になりたい)

希(自分の意思で人の上の立場になりたいなんて思うことがあるなんて、想像もつかんかったなぁ)

希(当然不安はあるし、失敗したらって思うと怖くなる)

希(でも、あの人がくれる信頼が今のウチに勇気をくれている。新しい一歩を踏み出せる)

希「一人やないっていうのは、こんなにも心が温かくなるんやね。ウチ、知らなかった」

希「……ふふっ。今日はいい夢見られそう。おやすみなさい」

――六月 第一日曜日 にこあん

あんじゅ「で、これがにこの言ってた用事ってことなの?」

にこ「だから付いてくるんじゃないって言ったでしょ?」

あんじゅ「別に文句言ってるんじゃないよ。これってお掃除だよね」

にこ「そうよ。日曜日の毎週行われてるんだけど、私は隔週で参加してるの」

あんじゅ「お隣の町の下町商店街のお掃除するのはどうして?」

にこ「この商店街には昔からお世話になってるのよ。サービスしてくれるしね」

あんじゅ「いつもここまで足は込んでるんだ。あれ? でも、こないだ帰りにスーパーで買ってたよね」

にこ「時間がない時だけは地元のスーパーで済ませるの。時間消費を抑える分だけ割高になるんだけどね」

あんじゅ「なるほどねぇ。にこって本当に主婦の鑑だよ」

にこ「まだにこは十五歳よ。口より手を動かしなさい」

あんじゅ「はぁい、にこままー」

にこ「誰がママよ! だから手を動かしなさいよ。全く、あんたは顔に似合わず子供っぽいんだから」

あんじゅ「人は見た目じゃないっていうお手本な二人だねっ♪」

にこ「そうね。……って、どうしてにこまで含まれてるのよ!?」

あんじゅ「うふふ」

にこ「ぐぬぬ! 多少身長がにこより高くて、少しだけ胸があるからって」

あんじゅ「少し? うん、そうね」

にこ「そのサンタを信じる子供を微笑ましく見つめる視線止めなさいよ!」

あんじゅ「にこは小さいから魅力的なのよ。微笑ましくて可愛いと何れ人気が出るわ」

にこ「何れって、その前に私の身長が伸びるわよ!」

あんじゅ「ほら、いつまでも口を動かしてないで手を動かす」

にこ「あんたの所為でしょうが!」

あんじゅ「本当ににこはからかい甲斐があるわね」

にこ「あんたは私のストレス製造機にでもなるつもり?」

あんじゅ「や~ん! そんな睨まないでよぉ。お茶目しただけじゃない」

にこ「あんた将来絶対に悪女になるわ。このにこにーが断言してあげる」

あんじゅ「にこにー部長。あくじょってなぁに?」

にこ「あんたの事って辞書に載ってるわよ」

あんじゅ「つまりにこを弄る女の通称ね」

にこ「なんでよ!?」

――60分後...

おばちゃん「にこちゃんにお友達の子もわざわざありがとうね」

にこ「いいのよ。ここの商店街にはいつも助けられてるんだから。それでね、この子は優木あんじゅっていうの」

あんじゅ「よろしくお願いします」

おばちゃん「偉い別嬪さんだね。にこちゃんの学校の先輩かい?」

にこ「同級生! どっからどう見てもにこと同い年にしか見えないでしょ!」

おばちゃん「おやおや。これはたまげた。随分と発育がいいんだね」

あんじゅ「はい。にこと違って」

にこ「直ぐに追いついて、追い抜いてやるんだから!」

おばちゃん「何にしろ若い子が参加してくれると助かるよ。男共がやる気出してくれるからねぇ」

おじさん「なぁに言ってるんだよ、かあちゃん。俺は昔からかあちゃん一筋だってばよ」

おばちゃん「あんたみたいな男を相手してやる器の大きい女が、この私しかいなかっただけでしょうに」

おじさん「それを言っちゃおしまいよ!」

周りの人達「あはははっ」

おばちゃん「はい、これ差し入れのスポーツドリンク」

にこ「ありがとうにこ!」

あんじゅ「ありがとうございます」

おばちゃん「そうだそうだ。にこちゃんにお願いしたいことがあったのよ」

にこ「何かしら?」

おばちゃん「聞いた話によるとにこちゃんってアイドルやってるんだって?」

にこ「ええ、そうよ。このあんじゅと二人でスクールアイドルやってるにこっ♪」

おばちゃん「来月の頭に公園でバザーやるんだけど、歌を披露して貰いたいのよ。なんていうんだっけ、あれよ」

にこ「ライブ?」

おばちゃん「そうそう、それよ。ライブっていうのやって欲しいの」

にこ「にこ達でいいの? まだブログでしか活動してないんだけど」

おばちゃん「いいのいいの。少しでも若い子が関心持ってくれれば御の字だから」

あんじゅ「つまり今回の客層収穫よりも、次回のバザーに参加してくれる人を目的とするってことですね?」

おばちゃん「賢いねぇ。その通り! なるべく若い子が集まってくれた方が活気も出るからね」

にこ「なるほどね。いいわよ、その依頼承るわ」

おばちゃん「本当かい? 助かるよ。お礼はきちんと用意するから」

にこ「いいのよ、お礼なんて。みんなが笑顔でいてくれればにこはそれだけで幸せラブニコ♪」

あんじゅ「私達も練習の場を与えて貰えるわけですから」

おばちゃん「そうかい? じゃあ、今度買い物に来た時にサービスするくらいはさせておくれよ」

にこ「ありがとう。詳しい日程教えてもらえる?」

おばちゃん「来月の第一日曜日の朝十時に始まるから、ライブは十一時くらいだね。場所は元小学校のあった」

にこ「丁度一ヶ月後ね。場所も分かったわ。スクールアイドルSMILE初ライブよ!」

あんじゅ「沢山練習しなきゃね」

にこ「ええ、それに衣装を用意しないといけないわね」

あんじゅ「そういえば衣装どうするの?」

にこ「任せなさい。にこの能力は家事だけに留まらないってことを教えてあげる!」

――某中学校 ことほのうみ

先生「ということで学生デザインコンクールが開催されます」

先生「詳しいことは廊下もしくは、後ろの掲示板にプリントを張っておきますので確認して下さい」

先生「それでは今日のHRは終わりです。明日もみんな揃ってるいると嬉しいです。さようなら」


ことり「デザインコンクール」

穂乃果「こっとりちゃ~ん! 一緒に帰ろう」

海未「穂乃果は放課後になると元気が増しますね」

穂乃果「だって漸く長い学校生活から開放されたんだよ。元気にもなるよ」

海未「まったく、もう少し学業に身を入れて下さい。ほら、ことりからも何か言ってあげてください」

ことり「……えっ?」

海未「どうかしたのですか?」

ことり「ごめんね。ちょっとボーっとしてたよ」

穂乃果「もしかして、最後に先生が言ってたなんとかコンクールに興味があるの?」

海未「学生デザインコンクールですね。確かに、ことりには興味深いコンクールですね」

ことり「将来のことを考えるとこういうコンクールで入選経験とかしたら自信つくかなぁって」

穂乃果「いいね! そんな頑張ることりちゃんを穂乃果は応援するよっ」

海未「夢の為に努力する。青春とはかくあるべき、という感じですね」

ことり「ことりはただ自分が好きなことをしたいだけだから」

穂乃果「自分の好きなことが将来の仕事になれば最高じゃない」

海未「そうですね。あ、私はそろそろ部活の時間なのでこれで失礼しますね」

穂乃果「海未ちゃんも最後の大会に向けてファイトだよ!」

ことり「怪我しないように気をつけてね。海未ちゃん、頑張ってね」

海未「ありがとうございます。二人の応援があれば頑張れます。それでは、失礼します」

穂乃果「海未ちゃんは剣道も強いし、他のことも出来て凄いよねぇ」

ことり「そうだね。恥ずかしがり屋さんだけどね」

穂乃果「あははっ。初めて会った時も泣きそうになるくらい恥ずかしがってたもんね」

ことり「懐かしい♪」

穂乃果「じゃあ、今日はもう帰ろうか」

ことり「うん!」

――同日 夜 ことりの部屋 ことりダイアリー

私の幼馴染は二人ともすごいです。穂乃果ちゃんは誰をも惹きつける魅力があります。

いつも色んな人に囲まれていて、何かあったら解決出来ることりのヒーロー!

海未ちゃんは家のこともあって、剣道・弓道・舞踊に勉強まで出来るすごい女の子です。

中学生になってからは、後輩の女の子にとっても人気の王子様、

そんな二人に囲まれている私ですが、私だけ何も出来ません。

でも、一つだけ持っているものがあります。それが将来の夢です。

装飾系の職業に就きたいとうのが夢です。可愛い服をデザインするのが大好き!

この夢は穂乃果ちゃんには秘密ですが、この夢の始まりも穂乃果ちゃんがくれたものなんです。

幼稚園に入学して、人見知りが少しあったことりはお外で遊ぶより教室の中でお絵かきしている子でした。

その頃の夢がお姫様になることで、だからお絵かきの内容も可愛いドレスを着たお姫様。

そんな私の絵を覗き見て「かわいい~♪」と笑顔をくれたのが穂乃果ちゃん。

最初はビックリしたけど、次第に穂乃果ちゃんに触発されて、お外でも遊ぶようになりました。

勿論、お絵かきも大好きで、雨の日や家ではよくお絵かきです。

それから何年も経った、小学五年生の時の八月三日。

穂乃果ちゃんの十一歳のお誕生日。

この日、私の夢が生まれました。

穂乃果ちゃんがご両親から誕生日プレゼントに普段は着ないようなフリルのワンピースを貰ったんです。

令嬢のようなお姫様とは違うけど、わんぱくな可愛いお姫様。

自分で可愛い服を着るのも好きだったけど、自分で描いた服を誰かに着せたい。

そして、その服をあの日の穂乃果ちゃんみたいな笑顔にさせたいっ!

だからかな、いつも新しい服を考える時のモデルは穂乃果ちゃんのことが多いです。

穂乃果ちゃんに言ったらきっと、自分には似合わないって恥ずかしがるかも♪

先生が言っていた学生デザインコンクールの為に描く絵も穂乃果ちゃんをイメージした服にしようと思います。

今回は穂乃果ちゃんにモデルになってもらうつもりです。

モデルといっても人物画は漫画みたいな感じなので、本格的なものじゃないけど。

お願いしたら穂乃果ちゃんはどんな反応するのかな?

楽しみで今日はなかなか寝付けないかも♪

――清掃回より二日後 放課後 にこあん

あんじゅ「目的地ってここであってるの?」

にこ「ええ、あってるわ」

あんじゅ「ここって、時代を感じさせる呉服屋だけど」

にこ「そうよ。いいから私に黙って付いてきなさい。ごめんくださーい!」

あんじゅ「本当に入るの!?」

にこ「お婆ちゃ~ん! 元気な孫がやってきたにこ~」

お婆ちゃん「おやおや。今日も元気そうで何よりだねぇ」

にこ「お婆ちゃんも元気そうで何よりだわ。今日はちょっとお願いがあってきたの」

お婆ちゃん「何でも言うてみ」

にこ「あ、その前に紹介するね。私と同級生で、お隣さんに住んでるあんじゅって言うの」

あんじゅ「いつもお孫さんにはお世話になってます。優木あんじゅと申します」

お婆ちゃん「こちらこそ、にこちゃんが友達連れてきたのなんて初めてだよぉ」

にこ「ちょっと! どうでもいいことは言わないで」

あんじゅ「……にこ」

にこ「その同情の眼差し止めなさいよね! 別に友達が居なかった訳じゃないわよ、家に呼んだりしなかったから」

あんじゅ「ここなら誰でも呼べるんじゃない?」

にこ「は? ああ、本物の孫とお婆ちゃんじゃないのよ。小学生の頃からの付き合いなの」

お婆ちゃん「そうさね。にこちゃんがこんな位の頃に知り合ったんだよ」

あんじゅ「にこの事小さいと思ってたけど、手のひらサイズから成長したんだったら、十分大きいわね」

にこ「お婆ちゃん! にこはそんな小さくなかったわよ!」

お婆ちゃん「そうかいそうかい。わたしの勘違いだったねぇ。ふぇっふぇっふぇっ」

にこ「も~。それでね、あんじゅと一緒に可愛い服を着て歌うことになったの」

お婆ちゃん「そうなのかい。にこちゃんは歌が余り上手じゃない子だったけどねぇ」

あんじゅ「ぷふっ」

にこ「アイドルは歌の上手さよりも笑顔にさせられるかなの! 歌が上手いなら歌手になれっていうのよ」

あんじゅ「うふふふっ。そうね、にこにーの言う通りね」

にこ「笑いながら言ってんじゃないわよ!」

お婆ちゃん「ほんに、にこちゃんは元気そうでわたしは嬉しいよ」

にこ「にこは疲れるわよ。それでね、何か要らない生地とかあったら欲しいなって」

お婆ちゃん「こんなこともあろうかとね、色々な生地を残しておいたんだよ」

にこ「さっすがにこのお婆ちゃんニコ♪」

お婆ちゃん「売り物じゃないから質の方が余りいいとは言えないけど、それでもいいかえ?」

にこ「十分よ! お婆ちゃんに習った裁縫裁きで質なんて感じさせない服に仕立ててみせるわ」

お婆ちゃん「だったら少し待ってておくれ。用意するからね」

にこ「ありがとう! 今日は代わりににこが特性の夕飯ご馳走するにこ」

お婆ちゃん「残念だけど、今日は用事があって出掛けなくちゃならなくてね。また今度にしてくれるかい?」

にこ「じゃあ、次の機会にとびっきりのご飯にするわ」

お婆ちゃん「そりゃ楽しみだぁ」

あんじゅ「にこって行動範囲が恐ろしく広いのね」

にこ「さっきもちょっと触れたけど、家を知られたくないから学校の友達とは学校の中だけの関係が多かったからね」

にこ「必然的に妹達と一緒に遊ぶか、ママが家に居る時はこっちの方で探索したりしてたから」

あんじゅ「それでさっき言ってた裁縫って?」

にこ「お婆ちゃんに習って覚えたのよ。ミシン使うより手縫いの方が得意なくらいにはバッチリよ」

あんじゅ「でも洋服と和服とじゃ全然作り方とか違うでしょ?」

にこ「私のお婆ちゃんは洋服の作り方を教えてくれたの」

あんじゅ「呉服屋なのに?」

にこ「後から知ったんだけど、私に教える為にわざわざ一から調べて練習してくれてたのよ」

あんじゅ「へぇ~」

にこ「清掃に参加しない週はこっちで朝食作って、お婆ちゃんのお手伝いするようにしてるの」

あんじゅ「キラ星ちゃんといい、にこって意外と良い出会いがあるのね」

にこ「意外って言うんじゃないわよ!」

あんじゅ「私との出会いもいつか誰かに良い出会いだったって語られる日がくるのかな?」

にこ「……胃が痛い出会いだったと語る日がくるわね、絶対に」

あんじゅ「何よそれ~!」

お婆ちゃん「お待たせしたねぇ」

にこ「待ってたにこ!」

あんじゅ「訂正するにこ!」

――音ノ木坂 生徒会室 絵里

会長「絢瀬さんが入学早々に生徒会に入ってくれて助かったわ」

絵里「随分と人数少ないですね」

会長「学生数の減少が原因ね。やる気なくなっちゃうみたい」

絵里「生徒会をするのは在校生の為だけではないと思いますけど」

会長「そうなんだけどね。残念なことにそうは思わないみたい。注目度が低いから入る意味ないってね」

絵里「嘆かわしいですね」

会長「ええ、それに今の時代は伝統よりも目新しさだから」

絵里「UTXですか?」

会長「あ、学校批判じゃないのよ? 寧ろあそこの生徒会長は凄くいい人で、尊敬してるくらいだから」

絵里「そうなんですか」

会長「何の因果か向こうの学園祭ってこっちと同じ日なのよ」

会長「だから学園祭が近くなると交流を持つ為に、連絡会っていうのがUTXで行われる」

絵里「そういうのもあるんですね」

会長「向こうの会長さんはうちと一緒にイベントをって熱望してくれたんだけどね」

絵里「実現しなかった?」

会長「規模がちょっと違い過ぎて。私が無理を通せば出来たけど、うちの子達を惨めな思いさせたくないから」

絵里「UTXはスケールが色々と凄いですからね」

会長「それから一つアドバイス。連絡会に連れていく役員は極力少ない方がいいわ」

絵里「どうしてですか?」

会長「あっちの設備を知るとね、やる気なくなっちゃうのよ。一人なんて向こうに転入しちゃったし」

絵里「……なるほど」

会長「だからごめんね。一年生なのに会長を引き継ぐことになっちゃいそうで」

絵里「それは構いません。生徒会長という柄じゃないですが、学校の為であれば」

会長「いや、絢瀬さん程生徒会長が似合いそうな人も居ないと思うけど」

絵里「そんなことありませんよ」

会長「なんにしろ、生徒数がこのまま減り続けたら困るわね」

絵里「私がなんとしてでも守ってみせます」

会長「音ノ木坂を好きみたいだけど理由があるの?」

絵里「私の敬愛するお婆様が昔通っていたんです」

会長「なるほどね。卒業していった人達の為にも、廃校にはなって欲しくないわね」

絵里「ええ、そんな未来は要りません」

会長「といっても、一生徒会が入学生を増やすなんて芸当出来ないのが現実なんだけど」

絵里「……そう、ですね」

絵里(それでも、私がなんとかしないと。もう諦めることはしたくないから)

◆ファーストライブ ~笑顔の魔法~◆

にこ「一曲目は《笑顔の魔法》です。この曲は元々作詞してあったものを、ある出来事で改良を加えて出来ました」

あんじゅ「笑顔にさせてくれるのは魔法なんだって教えられたんです」

にこ「だからこの曲を聞いて笑顔になってくれると、にこは嬉しいにこ!」

あんじゅ「あんじゅも嬉しいにこ!」

にこ「今は二人ですが、メンバーが五人だった頃を思い出して作りました」

あんじゅ「それでは聞いてください」



にこ「君の笑顔が 元気をくれる」

あんじゅ「私にとっての 奇跡の魔法」


にこ『さぁ、まずは採寸ね。……私は自分で作るからあんたのだけね』

あんじゅ『どうして不機嫌そうなの?』

にこ『分かってて訊いてるでしょ? 嫌味ね、嫌味よね!』

あんじゅ『えぇ~あんじゅ全然何のことだか分からな~い☆』

にこ『そのなんちゃってピュアキャラはウザくて仕方ないわ』

あんじゅ『ぴゅあぴゅあ♪』

にこ『バストから計測するわ』

あんじゅ『はーい』


にこ「溢れ出た涙の 熱さも忘れて」

あんじゅ「潤んだ視界で 君を追いかけた」


にこ『えっと……85センチっと。85!?』

あんじゅ『なにか問題あった?』

にこ『あ、あんじゅ。あんたって実は留年してるってことないの?』

あんじゅ『正真正銘にこと同い年だよ』

にこ『何かの間違えよ。今85って、高三になる頃にはいくつになってるのよ』

あんじゅ『大きくなり過ぎると肩凝るっていうし、これ以上は別に要らないんだけどなぁ』

にこ『ぐぬぬ!』


にこ「決して特別じゃない そんな君の笑顔」

あんじゅ「でも私にとって 奇跡の魔法だよ」

にこ『ウエストは……57!?』

あんじゅ『身体測定の時は56だったんだけど、にこの料理の所為で増えちゃった』

にこ『その身長と胸で57って(にこと同じウエストなんて反則でしょ!)』

あんじゅ『これからはもっと胴回りに注意するわ。おへそ出す衣装とかもあるだろうし』

にこ『そ、そうね。その意識は大切よ』

あんじゅ『せっかくにこが可愛い衣装作ってくれるんだから、最高の自分で着たいし』

にこ『あんじゅ』

あんじゅ『裁縫も料理も掃除も……にこは私が出来ないこと何でも出来て凄いわ』

にこ『いや、掃除くらい出来るようになりなさいよ。あと、食器も洗えないのは人として駄目ね』

あんじゅ『ここはいい話だねーって流れになるんじゃないの?』

にこ『現実はそんなに甘くなーい!』


にこ「私の歌で 笑顔にさせる」

あんじゅ「僕にとっての 素敵な魔法」


にこ『……全部計測したらストレス溜まったわ』

あんじゅ『そんな理不尽なこと言われても困るよ』

にこ『無駄に足長いわね。ケッ』

あんじゅ『アイドルがそんな仕草しないの』

にこ『これは無理に衣装を同じにするとかしない方がいいわね。バランスが崩れる』

あんじゅ『お揃いじゃないの?』

にこ『もっとメンバーが要れば同じでもいいけど、今は別の仕様にするわ』

にこ『にこはフリル多めで、あんじゅの場合少しシックな感じの方が女性客にも受けると思うのよ』

あんじゅ『色々と考えてるのね』

にこ『当然でしょ。リーダーなんだから』

あんじゅ『流石にこにーリーダー(笑)』

にこ『その変な笑いやめなさいよ!』

あんじゅ『冗談冗談。にこ以外にリーダーはいないよ。だって、私たち二人しかいないんだもの』

にこ『そこは綺麗に落としなさいよね!』

にこ「悔しさの中で 君の歌声が」

あんじゅ「優しさを届けて 笑顔にしてくれた」


あんじゅ『うぇ~ん! 助けてにこに~作曲が上手くいかないよぉ』

にこ『弱音早っ! 昨日自信満々に「このにこが書いた作詞ノートがあれば楽勝だよ」って言ってた癖に』

あんじゅ『現実はそんなに甘くなかったー』

にこ『挫折するにもまだ遠い道のりでしょうが。二曲作るのよ?』

あんじゅ『目安半月で二曲作曲とか素人には無理!』

にこ『こっちは衣装デザインして、それを仕上げなきゃいけないのよ。無理は承知でしょうが』

あんじゅ『う~るる~』

にこ『こうして無駄話してる間にもバザーの日は近づいてくるのよ』

あんじゅ『現実ってどうしていつも厳しいのかしらね』

にこ『遠い目して逃避しようとしてるんじゃないわ。一度でも逃げれば逃げ癖つくわよ』

あんじゅ『どうすれば曲って思いつくんだろう?』

にこ『知らないわよ』

あんじゅ『作詞の時はどんな時に思いつき易かった? 何曲も書き溜めてあるけど』

にこ『寝起きや寝る前が多かったわね。書き留められないと忘れちゃうのよ』

にこ『閃きの神様って意地悪なんだと思うわ。(トントン)あれ、誰か来たわね』

あんじゅ『入部希望者とか?』

にこ『それは絶対にないでしょ』


あんじゅ「僕にとっては特別な 君の綺麗な歌声」

にこ「負けそうな時も 笑顔にさせる魔法」


あんじゅ『あ、れ? 何か忘れ物でもあった?』

元部員『あのね、ブログ見てるよ。今度ファーストライブやるんでしょ?』

にこ『ええ。と言ってもバザー会場での客寄せ目的だけどね』

元部員『それでもやっぱり二人は凄いなって。辞めちゃったけど、応援してるから。これ差し入れ』

あんじゅ『お饅頭?』

にこ『お饅頭ね』

元部員『疲れた時は甘い物欲しくなるでしょ? 穂むらのお饅頭ってすっごい美味しいんだよ』

あんじゅ『へぇ~』

にこ『わざわざ差し入れなんてしなくても良かったのに。……ありがとう、嬉しいわ』

元部員『辞めた皆でお金出し合って買ったの。だから、一つだけお願いがあるんだ』

にこ『ん、何よ?』

元部員『スクールアイドルの祭典。ラブライブで是非優勝して欲しいって』

にこ『ちょっとスケールでか過ぎるわよ』

あんじゅ『まだライブすらしたことないのに』

元部員『でも、二人の情熱なら出来るって皆でよく話してるんだ』

にこ『情熱で現実はどうにかならないわよ』

にこ「私が見つけた笑顔の魔法」

あんじゅ「笑顔をくれる君の魔法」

にこあん「明日もずっと 未来もずっと 笑顔にな~れ 素敵な奇跡の魔法があるよ」


元部員『どうにかしてくれそうだから言ってるんだよ』

あんじゅ『どうにか、ね』

元部員『それでさ、いつか私たちに悔しがらせて。でも、それ以上に誇らせて』

にこ『悔しいは分かるけど、誇るって?』

元部員『いつか子供に言いたいの。ママは昔ラブライブで優勝したグループに少しの間だけ居たんだよって』

元部員『諦めないで真っ直ぐに進めば結果は出るっていうお手本として、二人のことを誇りたいの』

あんじゅ『ふふっ。どれだけ未来の話よ』

にこ『まずは彼氏見つけろって話ね』

元部員『いや~共学じゃないと彼氏見つけるのも大変で』

にこ『そんなのを言い訳にしてる時点で当分無理ね。あははっ』

あんじゅ『でも、ありがとう。初めての作曲で詰まってたけど、今なら笑顔にさせる良い曲作れそう』

元部員『皆で応援しに行くからね。頑張って!』

にこ『ありがとう。それから、ごめんね。皆が居たお陰で部が出来たのに、辞めさせちゃう結果になって』

元部員『こっちの方こそ諦めちゃってごめん。重荷にならないくらいには私たちの分まで頑張って!』

あんじゅ『優勝はちょっと難しいかもしれないけど、ラブライブには絶対に出てみせる』

にこ『そうね。今年、来年は難しいと思う。だから三年目のラブライブに期待してなさい』

元部員『だったら三年目のラブライブのチケットは絶対に取らないとね』

にこ『最高のライブを見せてやるわ』

元部員『それじゃあ、何かあったら言ってね。力になれることなら惜しみなく手を貸すから』

あんじゅ『ありがとうにこ! 喜びのにっこっこにー♪』

にこ『だから私の真似するんじゃないわよ。しかも、良い話をぶち壊すタイミングでなんでするのよ!!』


にこ「それでは《笑顔の魔法》に続いて、二曲目は《最高の始まり》です」

あんじゅ「こうして見にきてくれている人達のお陰で、私達はスタートを切れます」

にこ「最高からもっともっと最高になる為に全力で歌うにこ!」

あんじゅ「いつかラブライブに出ることになるからよろしくね!」

にこあん「それでは聞いてください」

あんじゅ「今回はここで終了にこっ♪」

にこ「だからにこの真似してるんじゃないわよ!」

あんじゅ「うふふ。怒る前にこれからの展開の説明しないと」

にこ「UTX側が本格的に活動始めるのは核となる存在(ことり)が入学してからになったわ」

あんじゅ「夢とエリート街道という重圧から開放されてる私たちは、商店街アイドル目指してのんびりしていきます」

にこ「目指してるつもりはないんだけどね。キラ星と再会する為に新メンバーを見つけるわ!」

あんじゅ「BiBiってくる子をメンバーに入れようね」

にこ「まぁ、何か感じる子が居たら《勧誘だけ》してみましょう」

あんじゅ「リーダーなのにやる気ないなぁ」

にこ「にこあん完全独自路線を歩むこのじぶたれな邪道物語。許されるなら次回また会いましょう」



あんじゅ「あ、そうだ。ここからちょっと完全なメタ発言。安価作品じゃないけど安価出してもいいかな?」

にこ「あんた、何言い出すのよ。せっかく人が綺麗に締めたのに」

あんじゅ「園田海未ちゃん。彼女だけ出会う方法すら決まらなくて」

にこ「プロットなしここに極まれりね」

あんじゅ「それじゃあいくね! 園田海未ちゃんは……」


1.心は誰よりも乙女ですからね、当然スクールアイドルになります!

2.「穂乃果の力になりたいですが、ことりの応援もしたい」平等を選んで仲間にならないが、よき相談者になる。

3.寧ろ穂乃果より先にスクールアイドルになって「みんなのハート打ち抜くぞー!」

4.「恥ずかしいからアイドルはなしです!」仲間にはなりません。でも、作詞はしてくれるよ!

5.(海未ちゃんへの想いを叫ぶ!!)


あんじゅ「安価下でお願いします」

にこ「これでレス付かなかったら悲惨ね」

あんじゅ「その場合は……初めての安価出しで初めてのエターナル」

にこ「ほむぅ」

穂乃果「ちょっとにこちゃん! 穂乃果の鳴き声真似しないでよ!」

にこ「あんたの出番は次回(予定)よ!」

あんじゅ「グダグダな展開でも許せる、私の性格がこんなでも許せる、そんな心優しい人は次回もお付き合いください」

乙っす
3で

>>11辺りで感じたけど以前もにこ主人公のパラレルもの書いてた人?

設定が全くと言っていいほど別物だからどういうストーリーで展開するのか先が読めないのが楽しい


前回にこで書いてた人だよな?
すっごく読みごたえがあって楽しい

>>44さん
ご協力ありがとうございます。

>>49さん >>51さん
佐藤財閥婦人に聞き覚えがあるなら正解です。

安価で楽してごめんね。佐藤君の時みたいに自由にやろうかなと思ってたんだけど、今回からは真面目モード。

◆青春の始まり◆

―― 一年目 七月初頭 音ノ木坂 放課後 部室 にこあん

あんじゅ「新メンバーを探して学内をプラプラしてたら一人見つけたよ」

にこ「暇人ねぇ」

あんじゅ「えぇ!? グループの為を思って探し回ってたのに酷い!」

にこ「安易な子を誘っても、元メンバー達みたいに気遣わせちゃうだけでしょう」

あんじゅ「甘い、甘いわにこにー!」

にこ「何がよ?」

あんじゅ「そのこの素性はサーチ済み」

にこ「スクールアイドルとしての資質があるっていうの?」

あんじゅ「うん。見た目の華やかさだけじゃなくて、ロシアのバレエコンクールで上位入賞してたらしいよ」

にこ「ロシア?」

あんじゅ「クォーターなんだって。つまりね、四分の一がロシア人の血入ってるの」

にこ「クォーターくらい説明なくても分かるわよ」

あんじゅ「にこってばあったまいい~♪」

にこ「馬鹿にするんじゃないわよ!」

あんじゅ「それでも一位になったことがないらしくて、バレエは辞めちゃったみたい」

にこ「挫折経験者にスクールアイドルにならないかって誘うのは嫌味と思われるんじゃない?」

あんじゅ「そうかな? もし踊りたいって少しでも思ってるなら転機になると思うんだけど」

にこ「……繊細な問題ね」

あんじゅ「まずは行動してみない? 駄目なら駄目でアプローチを変えてみるとか」

にこ「絶対に誘うのは確定してるわけ?」

あんじゅ「あんな素敵な子は他にいないよ~。あ、見た目関係なしに《性格なら》にこが一番だよ」

にこ「なんで露骨に性格ならを強調するのよ!」

あんじゅ「だってにこってば見た目は子供……こほんっ、チャイルドだし」

にこ「英語で言い直しても意味同じでしょうが!」

あんじゅ「で、冗談は置いておいて。ネックなのはそこだけじゃないの」

にこ「十三階段のアパートにでも住んでるとか?」

あんじゅ「なぁにそれ?」

にこ「なんでもないわよ。で、更なる問題は何よ?」

あんじゅ「次期生徒会長みたい」

にこ「スクールアイドルと生徒会長を兼任するスーパーアイドル聞いたことないんだけど」

あんじゅ「だよねー。やっぱり厳しいかな?」

にこ「もしメンバーに入れるのならば、私たちも生徒会の仕事を手伝うくらいはしないと駄目ね」

あんじゅ「作詞はまだストックがあるからいいとして、作曲と衣装作り。それから生徒会のお仕事かぁ」

にこ「得より損の方が大きいんじゃない?」

あんじゅ「でもあの子は女性人気が絶対に出るって」

にこ「あんじゅは結局男性人気の方があったものね。女性人気獲得出来るなら嬉しい限りだけど……難しいわねぇ」

あんじゅ「早めに誘うだけ誘ってみようよ。じゃないと夏休みのお祭りでライブ一緒に出来なくなっちゃうし」

にこ「んー、でもなぁ」

あんじゅ「どうしてそんな勧誘に積極的じゃないの?」

にこ「性格はともかくとして、あんたみたいな優良物件そうそうないでしょ」

あんじゅ「え、あれ? 珍しい。にこが私を褒めるなんて。今日は流星群かな?」

にこ「その無駄口がなければも追加しておくわ」

あんじゅ「星降らすアイドル。宇宙ナンバー1アイドルプリティ(笑)にこにー♪」

にこ「宇宙なんて要らないわよ。私の目標はあくまでラブライブでキラ星と再会することなんだから」

あんじゅ「ちょっと嫉妬しちゃうな~。そこまでにこを魅了するキラ星ちゃん」

にこ「あんたも会ってみれば分かるわよ。あの子なら本当に宇宙ナンバー1アイドルにだってなれるわ」

あんじゅ「会う為にも誘わないと駄目って話に戻る訳だね」

にこ「まぁ、そこまで言う程の人材なら会うべきなんでしょうね」

あんじゅ「そうしようよ。今はもう生徒会室に居ると思うし」

にこ「え、生徒会室に勧誘しに行くの? 現生徒会長に睨まれるんじゃないの?」

あんじゅ「大丈夫でしょ。感じ良い人だし」

にこ「『勧誘? 認められないわぁ!』とか言って、邪魔してきた挙句にこの部を潰そうとしてくるとか」

あんじゅ「ないない。どこのドラマに出てくる意地悪生徒会長よ」

にこ「もしくは人数低下を理由に部費を剥奪されるとか」

あんじゅ「にこって意外と臆病なところあるよね?」

にこ「職員室と生徒指導室と生徒会室って近づき難いイメージあるじゃない?」

あんじゅ「別にないけど」

にこ「仮面優等生め!」

あんじゅ「テスト勉強みてあげてるあんじゅにそんなこと言うにこ~?」

にこ「ぐぬぬ!」

あんじゅ「悪いことを言ったら何て言うにこ?」

にこ「わ、悪かったわよ」

あんじゅ「にこって本当に素直じゃない癖に素直よねぇ」

にこ「矛盾してる! ……こうしてても胃が痛くなるだけだわ。女は度胸。乗り込んでみるとするにこ!」

あんじゅ「そうこなくっちゃ。期待してるわよ、にこにー」

にこ「任せなさい!」

あんじゅ「その子の名前を教えるね。絢瀬絵里さん。私達の同級生」

にこ「絢瀬ね。了解よ!」

――生徒会室

会長「それで、用事というのは何かしら?」

にこ「えっと……その、あのぉ」

あんじゅ(にこの背中がいつも以上に小さく見える)

会長「二人はアイドル研よね? 何か不備があったかしら。気軽に申し付けていいのよ」

にこ「あの、ですね。……あ、絢瀬さんにお話が」

絵里「私?」

にこ「うん」

絵里「何かしら?」

あんじゅ(にこ頑張って!)

にこ「あ、う」

絵里「緊張してるの? 同級生なんだし、生徒会役員とはいえ普通に話してくれていいのよ」

にこ「も、もう一度」

絵里「え?」

にこ「もう一度踊ってみようと思わない? 私たちスクールアイドルやってるんだけど」

あんじゅ(あっ、絢瀬さんの表情が凍りついた)

にこ「バレエのことはよく分からないけど、ライブで踊って皆を笑顔に――」
絵里「――言いたいことはそれだけ、かしら?」

あんじゅ(声がさっきまでの優しい感じから鋭い刃みたいになっちゃった!)

にこ「え、と」

絵里「スクールアイドルって言ったわね。ある子に聞いてから貴方達のブログを読んだことがあるわ」

にこ「それはありがとう」

絵里「ああいうこと書いてると音ノ木坂が馬鹿の集まりに思われるから、もうちょっと配慮した内容にしなさい」

にこ「」

絵里「一番いいのは解散ね。どうせ踊るなら学校の看板背負わずに好きに踊ってなさい」

会長「絢瀬さん言い過ぎよ。私は毎日ブログ見てるけど、面白いと思うわ」

絵里「カレーは飲み物とか馬鹿な事を書いてるんですよ?」

会長「実際に飲めそうなくらい美味しそうな画像だったじゃない」

絵里「真に受けてカレーは飲み物だと思う子だって勘違いする子だって出てくるかもしれませんし」

会長「そんな天然な子居る筈ないわよ」

絵里(亜里沙ごめん。フォロー出来ないエリチカを許して)

会長「もうすぐ夏休みで、生徒会の仕事も少なくなるわけだし。体験入部みたいにしても良いと思うわよ」

にこ「本当ですか!?」

絵里「私の意志関係なしに決めないでください!」

あんじゅ(何やら面白い成り行きになってきた、かな?)

会長「生徒会に入ってくれたことは本当に嬉しいのよ。でもね、どこか無理してる印象受けるのよ」

絵里「私は無理なんてしてません」

会長「このまま生徒会だけを続けてたら絢瀬さんの心が苦しめる結果になりそう」

絵里「勝手な判断で決め付けないでください」

会長「よし、決めた。体験入部しなさい。今月一杯だけでいいから」

絵里「そんな!?」

会長「断るのなら、私の不出来な妹を生徒会に引きずり込んで生徒会長にしてやるわ」

絵里「滅茶苦茶です!」

にこ(どうしよう、話がよく分からないにこ)

あんじゅ(あ、にこが混乱してる。面白い☆)

会長「今の絢瀬さんは中途半端なのよ。心の整理が出来てない人間に人の上に立つ立場を任せる事は出来ないわ」

絵里「……」

会長「新体操部の話題の時に、何度か踊りって単語が出たけど、その度に絢瀬さんの顔は強張ってたわ」

絵里「そんな、こと」

会長「さっきもそうだったしね。自分が望む事と現在が乖離してるんだと思うわ」

会長「騙されたと思ってスクールアイドルやってみなさい。心が満たされた貴女なら生徒会長を引き継げるわ」

絵里「今月だけ《我慢》すればいいんですね?」

会長「その言い方は真面目にやってる二人に失礼よ」

絵里「ですが、私にとってスクールアイドルなんて」

会長「お黙りなさい。文句言うならやり終えてから」

絵里「分かりました」

会長「今日これから来月まで生徒会に入ることを禁じます」

会長「そういうことだから、絢瀬さんのことをよろしくね。ちょっと不器用なところがあるけど根は良い子だから」

にこ「お、お任せください!」

――部室

絵里「貴女達の所為で変なことになっちゃったじゃない」

にこ「私の所為っていうより、生徒会長の所為でしょ!」

絵里「どうして私がアイドルの真似事しないといけないのよ」

にこ「真似事って言うんじゃないわよ! どれだけの子が今も努力してると思ってるの!!」

あんじゅ「二人ともヒートアップしないで。落ち着いて」

絵里「そうね。ここで文句を言っても仕方ないしね。練習しましょう。どこで練習してるの?」

あんじゅ「空き教室を使ってるよ」

絵里「……来年度からは空き教室に全部鍵を掛けることにしましょう」

にこ「この悪性女!」

絵里「何か言ったかしら?」

にこ「何でもないわよ!」

絵里「そう。子供が煩いわね」

にこ「今何か言った!?」

絵里「別に」

あんじゅ(思ってた以上に険悪な関係。今月一杯まで持つかなぁ?)

にこ「あんた体操着にでも着替えて着なさい」

絵里「言われなくてもそうするわよ」

にこ「……あんじゅには悪いけど、あいつは駄目ね」

あんじゅ「今はただ気が立ってるだけだよ」

にこ「絶対にあんたより性格悪いわよ?」

あんじゅ「え~駄目な基準そこなの?」

にこ「当然でしょ! あんなのメンバーに入れたら、にこは胃潰瘍になっちゃうわよ」

あんじゅ「胃潰瘍でもめげずに頑張るスクールアイドル!」

にこ「そんなキャッチフレーズ要らないわよ」

あんじゅ「サラリーマンのファンが増大するかも」

にこ「スクールアイドルファンの年齢層はもっと若いから」

あんじゅ「残念。でも、見た目と声は素敵でしょ?」

にこ「インパクトはあるし、声も面も綺麗だとは思う。でも、アイドルはそれ以上の魅力がないと駄目」

あんじゅ「絢瀬さんにはないと?」

にこ「曇って見えるのよ。キラ星が輝く星なら、あいつは雨雲って感じ」

あんじゅ「だったら太陽のにこにーが照らして青空に変えればいいじゃない」

にこ「現実は甘くないのよ。会長さんには悪いけど、今日一日でクリーニングオフね」

あんじゅ「ぷふっ。流石にこにー部長。横文字も完璧だねっ♪」

にこ「何よ、その変な笑顔」

あんじゅ「なんでもな~い」

にこ「ともかく、今日一日我慢して練習しましょう」

あんじゅ「あれだけの逸材は他にいないよ? 唯でさえ音ノ木坂は生徒数少ないんだし」

にこ「新入生がいるから焦る必要ないわ」

あんじゅ「とかなんとか言って、スタイル良い二人に囲まれたら立場がないからなんじゃないの~?」

にこ「なっ!」

あんじゅ「歌ってる最中は気にならなくても、MCの時は身長差やスタイルの差は目立つし」

にこ「待ちなさいよ! そんな小さいことをにこが気にすると思ってるの!?」

あんじゅ「大いに」

にこ「勘違いするんじゃないわよ。絢瀬が曇り空なら、にこにーの笑顔の魔法で青空に変えてやるわよ!」

あんじゅ「それ私が言った台詞ほとんどそのままだよ」

にこ「うっさい!」

あんじゅ「単純なにこにーが私は大好きだよ」

にこ「そういうのは思ってても口に出すんじゃないわよ」

あんじゅ「ムスッとしないの。本心だからさー」

にこ「尚悪いわ!」

絵里「貴女達声が煩いわよ。廊下まで聞こえてる」

にこ「ふんっ! 初日だからって手加減してもらえると思わないでよ」

絵里「有意義な放課後を潰されるんですから、さずまともな練習メニューなんでしょうね」

あんじゅ(少し前までの生活を思い出させる人間関係だなぁ)

――空き教室 練習中

絵里「それで部長とか言ってたの!? あのね、柔軟は全てに通じてる大事なことなのよ」

絵里「ほら、お腹が地面に着くくらいに出来ないで何がスクールアイドルよ」

絵里「踊るってことを一番馬鹿にしてるのは矢澤さん、貴女自身じゃない!」

絵里「お風呂の後にきちんと柔軟しなさい。一日も欠かすんじゃないわよ」

絵里「次はバランス。踊ることに重要な一つよ。って、これも全然駄目じゃない」

絵里「人を無神経に誘う暇があったら、自分たちの練習メニューのズボラさを見直しなさい」

絵里「体力だって全然付いてないじゃない。矢澤さんは他の人より小柄なんだから、余計に体力が必要なのよ!」

絵里「今のもう1セット。弱音吐く余裕があるなら、一回でも多く腕立てしなさい」

絵里「皆を笑顔にとか言ってたわよね。そんな中途半端な動きで人を笑顔に出来ると思ってるの?」

絵里「基礎練習っていうのはね、凄く地味だけど決して裏切らないの」

絵里「最終的には体格や生まれ持ったセンスが物を言うけど、それも努力という下地があってこそなのよ」

絵里「三分休憩したらもう一度通して練習していくわよ」

絵里「……ふぅ。今日はこれくらいでいいわ。明日から毎日、テスト期間中もやるからね」

絵里「一つでも赤点取ったら私は生徒会長に生徒会に戻してもらうように言うから」

絵里「それじゃあね」

にこ「」

あんじゅ「大丈夫?」

にこ「――悔しい」

あんじゅ「にこ」

にこ「あんじゅだけじゃない、皆で考えた練習メニュー扱き下ろして」

にこ「でも、あいつの言ってる事って全部が正しくて」

にこ「努力してるつもりで、どこかに甘えがあって。それなのに人前でライブして」

にこ「スクールアイドルだってアイドルだもの。全力を出し切れる状態じゃないと失礼にあたるわ」

にこ「……だから、悔しい。甘えてた自分が悔しい」

あんじゅ「現実っていつも厳しい。でも、笑顔で乗り越えていきましょう」

あんじゅ「どうすれば良いのか現実の迷子になってた私にくれたにこの言葉」

あんじゅ「確かに今までは駄目だったのかもしれないよ。でも、私にとってにこは最高のアイドル!」

あんじゅ「だからそんな泣きそうな顔してて欲しくない。泣くなら顔が見えないように、私の胸で泣きなよ」

にこ「ばっかじゃないの! あんたみたいな無駄な脂肪の塊ににこが――ぬぐぅ!」

あんじゅ「無理しないでいいから。ここにはにこと私しかいないんだから、ね?」

にこ「っ、くやしいくやしいくやしい! うっぐ、でもね、明日が楽しみ」

あんじゅ「うん」

にこ「ひっぐ、うぅっ、これは涙じゃなぐっで、明日への希望だから」

あんじゅ「そうだね」

にこ「あんじゅうっ、一緒に、ぐすっ、がん、ばろうね」

あんじゅ「うん」

にこ「あと、ありがとう」

あんじゅ「うん!」

――UTX ツバエレ

ツバサ「うぅん、やはり二人だとパフォーマンスの幅が狭いね」

英玲奈「せめて三人居ればいいパフォーマンスになる」

ツバサ「目をつけてる子は生徒会長のお気に入り」

英玲奈「あの人は人望も厚く、有能だ。引き抜くのは無理と言える」

ツバサ「芸能科では見つからなかったし、今年は二人でどうにかやっていくしかないかな」

英玲奈「来年の新入生に期待しよう」

ツバサ「……ねぇ、そろそろ砕けた喋り方でもいいんだけど」

英玲奈「私は普通に話している」

ツバサ「そ、そう?」

英玲奈「何か問題が?」

ツバサ「いや、何でもない」

英玲奈「来年で思い出した、被服科が出来るらしい」

ツバサ「知ってる。衣装ももうちょっと華やかになるのかな?」

英玲奈「どうだろう。才能ある子が入学すればそうなるだろう」

ツバサ「といっても、私たちはフリルとか付いたようなアイドル向けではないけど」

英玲奈「くすっ。ツバサなら似合いそう」

ツバサ「何よそれ。私の身長が低いからって言いたいの?」

英玲奈「曲解だ」

ツバサ「今は確かに身長差があるけど、その内追いついてやるわ」

英玲奈「大きくなったツバサというのが想像出来ないが」

ツバサ「……うちのお母さんって、身長低いんだよね。顔がお母さん似だから期待出来ないかも」

英玲奈「その方がいいだろう」

ツバサ「何よそれ」

英玲奈「小さいがリーダーとしての器は大きい。そのギャップがファンをより魅了する」

ツバサ「意外と口が上手いわよね。男に生まれてたら刺されてた気がする」

英玲奈「それは怖いな」

ツバサ「英玲奈はどんな子が入って欲しい?」

英玲奈「そうだな。キャラの被らない可愛い系だろうか」

ツバサ「やっぱりそうだよね。そういう路線の需要もやっぱり大きいし」

英玲奈「ただ、そう上手くそんな人材が見つかるかは難しいだろう」

ツバサ「私って意外と運命説を信じるタイプだから。きっと大丈夫だって信じてる」

英玲奈「別に意外とは感じないが」

ツバサ「にこにーと再会するには最高のメンバーで挑まないとね」

英玲奈「またにこにーの話か。その話になるとツバサの顔が活き活きする」

ツバサ「私がこうしてアイドル好きになって、スクールアイドルになったのはにこにーのお陰だから」

英玲奈「連絡先も本名も知らないのだろう?」

ツバサ「芸名をイメージした、スクールネームで呼び合ってたからね。私はその頃のあだ名のキラ星」

英玲奈「ダサい」

ツバサ「小学生の時なんてそんなものでしょ。英玲奈はなんてあだ名だったの?」

英玲奈「レーナと呼ばれていた」

ツバサ「外国人みたいだけど、あだ名としてはカッコ良いわね」

英玲奈「うん。ツバサも呼びたければレーナと呼んでくれても構わない」

ツバサ「いや、遠慮しておくけどさ」

英玲奈「そうか」

ツバサ「話戻すけど、ラブライブで勝ち上がれば必然的に再会出来る。私はそう信じてる」

英玲奈「まるで恋する乙女だな」

ツバサ「そうだね。相手が女の子じゃなければ恋してたかもね」

英玲奈「お熱いことだな」

ツバサ「さってと、休憩もそろそろ終わりにして、振り付けの見直ししましょうか」

英玲奈「うん。週末のライブも近いしな」

ツバサ「ファンの前で歌う快感。病み付きになりそう」

英玲奈「私は既に病み付きだ」

――七月二十一日 帰路 にこあん

にこ「今日も疲れたぁ~」

あんじゅ「でもかなり動きが良くなったよね」

にこ「そうね。体力の方は短期じゃそこまで差はついてないけど」

あんじゅ「毎日続けてればきちんと実るって今回分かったし、焦る必要はないでしょ」

にこ「ええ、着実にラブライブに近づいてるって感じで楽しいわ」

あんじゅ「そうそう。にこにはその笑顔が似合ってる」

にこ「ふっふーん!」

あんじゅ「ドヤ顔はNGで」

にこ「なんでよ!?」

あんじゅ「暑苦しいから」

にこ「暑いのは季節の所為でしょ。夏真っ盛りだもの」

あんじゅ「夏の中心って位だものね」

にこ「……夏休みの宿題の始まりでもあるけど」

あんじゅ「テストは無事乗り越えたんだし、後は絵里ちゃん陥落させるだけだよ」

にこ「絢瀬を陥落って無理よ。踊ることだけでも実力差があるもの」

あんじゅ「でも歌も振り付けも覚えてるんだし、来月の夏祭りに一緒にライブしたいじゃない」

にこ「踊るのも嫌々ですってオーラ出してる女とライブしたくないわよ」

あんじゅ「普通ならそろそろ和解の兆候が出てるんじゃないの?」

にこ「普通って何かの物語じゃないんだから、現実がそんなご都合主義に運ぶ訳ないでしょ」

あんじゅ「にこにーの星を降らせる魔法で」

にこ「そんな魔法はないっての!」

あんじゅ「頼りにならない部長にこぉ」

にこ「私を咎めながら私の真似するんじゃないわよ」

あんじゅ「でもどうするの? もう直ぐ絵里ちゃんのレンタル期間終了だよ」

にこ「31日までの付き合いってことでいいでしょ」

あんじゅ「にこにーってば冷たい!」

にこ「当人の問題だもの。私たちが何かしたって滑稽に映るだけよ」

あんじゅ「釈然としないなー」

にこ「そんなことより、あんたブログのことだけど食べ物の話ばかり書き過ぎよ!」

あんじゅ「全てはにこの料理が美味しい所為だよっ♪」

――アリチカ

亜里沙「でも、お姉ちゃんもきちんと踊ってるんでしょ?」

絵里『踊るっていっても、軽く付き合ってるだけよ』

亜里沙「お姉ちゃんは変わっちゃったの?」

絵里『え?』

亜里沙「バレエやってた頃のお姉ちゃんは、もっと楽しそうに話してくれたよ」

絵里『あのね、何度も言ってるけど嫌々付き合わされてるだけなのよ』

亜里沙「本当に?」

絵里『本当よ』

亜里沙「踊るのが楽しくないの?」

絵里『……全然、楽しくないわ』

亜里沙「今お姉ちゃんが一番やりたいことって何なの?」

絵里『普通に生徒会の仕事をする平穏よ』

亜里沙「亜里沙はSMILE好きだよ。踊りもお姉ちゃんに比べれば全然かもしれないけど、凄く温かくなるの」

亜里沙「落ち込むことがあっても、好きなことを好きなようにしてるSMILEの日記を見るとね、元気を貰えるの」

亜里沙「他のスクールアイドルの人達の日記とは全然違う、正しいとは言えないやり方かもしれない」

亜里沙「でもね、亜里沙は好きなことを胸を張って楽しんでやってるっていう姿勢が大好きなの」

亜里沙「間違ってても良いんだって。自分が楽しめなくちゃ他の人を楽しめさせるなんて出来ないって言ってるみたい」

亜里沙「実際に間違えてるのかもしれないけど、でも亜里沙は今のお姉ちゃんよりもSMILEの方が好き!」

絵里『あ、りさ?』

亜里沙「今のお姉ちゃんは毎日が楽しいの?」

絵里『何を言ってるのよ。今は生徒会の仕事が出来ないから退屈だけど』

亜里沙「違うよ! そういうことじゃない。昔のお姉ちゃんはどんなことだって楽しんでやってた!」

亜里沙「自分が苦手なことも、バレエの練習だっていつもキラキラ輝いてた。私の憧れだった」

亜里沙「でもね、今のお姉ちゃんは無理してる気がするの。自分が楽しむことに怯えてるみたい」

絵里『そんな訳ないでしょう。亜里沙、嫌なことでもあったの?』

亜里沙「お姉ちゃん。鏡ある?」

絵里『あるけど』

亜里沙「じゃあ鏡の前で笑ってみて」

絵里『なんで急にそんなことを』

亜里沙「いいから笑ってみせて」

絵里『ほら、笑ってみせたわよ』

亜里沙「本当に笑ってる? バレエをやってた頃みたいに笑えてる? 自分に胸を張って言える?」

絵里『』

――日本 エリーチカ

絵里(亜里沙の言葉に不覚にも答えることが出来なかった)

絵里(確かに鏡の中の私は笑顔を作っている。でも、それはあの頃のような純粋なものではないから)

絵里(でも、それは仕方のないことだって何度も言い聞かせてきた)

絵里(諦めずに何度も挑戦して、お婆様に慰められて。それでも一位に選ばれることがなかった)

絵里(そして、あの日……。私はトウシューズを捨てた)

絵里(お婆様は何も言わなかった。ただ、言葉なく私を抱きしめてくれた)

絵里(亜里沙の言いたいことはあの日に戻ってトウシューズを捨てずに、挑戦を続けろというようなものじゃない)

絵里(時の流れが戻ることがない以上、叶わことのない現実)

絵里(だから、心の底から笑えなくても……いつかきっと、綺麗な思い出に変えられる)

亜里沙『いつかきっとって言うのが、今なんじゃないのかな?』

絵里「っ!? 私、声に出してた?」

亜里沙『お姉ちゃんの考えそうなことくらい分かるよ。何年お姉ちゃんの妹をやってると思ってるの?』

絵里「……亜里沙」

亜里沙『内緒にしてたんだけどね、お姉ちゃんが捨てた靴。こっそり私が回収しておいたの』

絵里「――え」

亜里沙『この靴があればいつかお姉ちゃんはまた踊ってくれるかなって考えて』

絵里「馬鹿ね。あの頃よりも足が大きくなっちゃったから、履けないわよ」

亜里沙『でも、この靴がお姉ちゃんにとって大切なものには代わりないんでしょ?』

絵里「それはそうだけど。……嘘でしょ?」

亜里沙『本当だよ』

ピンポーン...

絵里「あ、ごめん。亜里沙ちょっとお客さん来たみたいだから一旦切るわ。直ぐに掛け直すから」

亜里沙『その必要はないけど、早く出てあげて』

絵里「え?」

――亜里沙

亜里沙「来たっちゃ!」

絵里「」

亜里沙「あれ? 会長さん。言われた通りに言ったのにお姉ちゃんが反応してくれないよ?」

会長「相当驚いてるみたいだっちゃ」

絵里「なっ、なんで亜里沙が日本に居るの!?」

亜里沙「お姉ちゃんの忘れ物を届けに。実物見ないと信じてくれないでしょう?」

会長「理事長にお願いして、貴女の敬愛するお婆様と電話させて貰ってね。亜里沙ちゃんともその縁で知り合ったの」

絵里「ど、どうして?」

会長「次期生徒会長が暗い顔してたら集まる生徒も集まらなくなるでしょ?」

亜里沙「そうだよ、お姉ちゃん! 今のお姉ちゃんは全然輝いてない」

会長「スクールアイドル活動と一緒に亜里沙ちゃんと思い出の靴を届ければ吹っ切れるかなってね」

絵里「会長。貴女って人は!」

会長「後輩思いでしょ?」

絵里「お節介にも程があります!!」

亜里沙「お姉ちゃんがいつまでも引きずってるのが悪いんだよ」

会長「そうだそうだー」

絵里「う……だって。私にとっては凄く重い後悔なのよ」

亜里沙「こないだ日本に行ったら返す物があるって言おうとしたらお姉ちゃん電話着ちゃったんだもん」

亜里沙「でもね、こうして長い間私の元にあったけど、お姉ちゃんの元に返す日がきたよ」

亜里沙「それからお姉ちゃん知ってる? 今日本ではスクールアイドルっていうのが流行ってるんだって」

絵里「あの日の再現のつもり? しょうがないわね。……スクールアイドル?」

亜里沙「今のお姉ちゃんの年頃の子が可愛い服を着て踊って歌って凄くキラキラしてるの」

亜里沙「お姉ちゃんがスクールアイドルになればバレエの時に感じた限界の上まで行けるって亜里沙は信じてる」

亜里沙「この靴はお姉ちゃんに返すよ」

絵里「……」

亜里沙「今のお姉ちゃんはあの頃みたいに、輝いてる笑顔浮かべてるよ」

会長「私は絢瀬さんならスクールアイドルと生徒会長の二束わらじでもやれるって思うよ」

絵里「はぁ~。とにかく二人とも上がって。ドッと疲れちゃったわ」

亜里沙「は~い♪」

会長「じゃあお邪魔させてもらうわね」

絵里「……おかえりなさい。私の大切な思い出」

――七月二十二日 にこあん

にこ「今日は私の誕生日なのよ? どうしてこんな所で迷子にならなきゃいけないのよ!」

あんじゅ「私に怒ったってしょうがないでしょ」

にこ「あんたが自信満々に道案内したんでしょうが!」

あんじゅ「私の人生迷い道」

にこ「誤魔化しても許さないわよ。あんたと居ると天竺に向かってた筈なのに、おかしの家に辿り着いてそうね」

あんじゅ「おかしの家って見たことない虫が沢山湧いてそうだよね」

にこ「ぎゃーっ! 変な想像させるんじゃないわよ」

あんじゅ「本当は怖いお菓子の家」

にこ「夏だからって怖い話に嵌ってるんじゃないにこ!」

あんじゅ「今まで夏の風物詩に会談があるなんて知らなかったんだもん。超楽しいわ」

にこ「それにしても、絢瀬の家はどこにあんのよ。ていうか、自分で呼び出したなら学校とかに向かいに来なさいよね」

あんじゅ「にこが自分で断ったんでしょ」

にこ「だって絢瀬のやつ迷う前提で迎えに行くわってムカつくじゃない!」

あんじゅ「十六歳になっても心が小さなにこにー部長(笑)」

にこ「だからその変な笑いやめなさいって言ってるでしょ」

あんじゅ「大事な話があるって何だろうね」

にこ「私の誕生日を祝わせてもらってもいいですかっていう話じゃないの」

あんじゅ「にこの誕生日知ってるのなんて、ご家族以外で知ってるの私とお婆ちゃんくらいなんじゃ……」

にこ「ブログで載せてるんだから、にこのファンだって知ってるわよ!」

あんじゅ「あ、個人情報保護の為ににこの誕生日は▲に変えておいたよ~」

にこ「何してんのよ!」

あんじゅ「うそうそ」

にこ「誕生日プレゼントに誰か胃薬くれないかしら」

あんじゅ「若いうちから薬に頼ってちゃ駄目だよ?」

にこ「あんたの所為でしょうが!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「冗談はともかく、そろそろ着いてもいいんじゃないかしら」

あんじゅ「進む方向があってればね。というか、電話して迎えに来てもらった方が早いじゃん」

にこ「嫌よ。『ほら、私の言った通り迷ってたんじゃない。迷子のスクールアイドル知りませんか?』とか言いそう」

あんじゅ「にこの中の絵里ちゃん像が醜く歪んでいるのは十分わかった」

にこ「今日はチーズハンバーグ作るから買い物にも行きたいし」

あんじゅ「こんな朝一に行く必要ないでしょう」

にこ「心の問題なの」

あんじゅ「あんじゅは~カレーも食べたいにこ~」

にこ「あんた本当にカレーが好きよね」

あんじゅ「だってにこのカレーって飲めるくらいに美味しいんだもん」

にこ「褒められてるのに素直に喜べないのは何故かしら」

あんじゅ「でも、久々の普通のボリュームのお肉もいいよね! 肉食系アイドルの本領発揮!」

にこ「先に言っておくけど、ハンバーグのお代わりないからね」

あんじゅ「う~るる~」

にこ「そんな悲しい顔してもありません」

あんじゅ「命令されたらにこの足でも舐めるよ!」

にこ「あ、あんた普通に引くからそこまでプライド捨てるんじゃないわよ」

絵里「二人とも遅かったわね。待ってたわ!」

にこ「漸く着いたわね」

あんじゅ「そんなことよりチーズハンバーグ」

にこ「目的地に着いたのに嬉しくないのは何故かしらね」

――絢瀬家 リビング

亜里沙「おぉ~! 本物のSMILEだー♪」

にこ「私より小柄ね」

あんじゅ「そんなところで心満たされるにこの小さな心に私は号泣」

にこ「うっさい!」

絵里「まずは紹介させてね、この子は私の妹。今は中学一年生。昨日ロシアから日本に着いたばかりなの」

亜里沙「お姉ちゃんの忘れ物を届けにきました! 絢瀬亜里沙です!」

にこ「姉と違って元気よくて小柄で小さくて可愛いにこ!」

あんじゅ「やだ、本当に涙が零れそう」

にこ「アイドルが変な涙流すんじゃないわよ」

亜里沙「後でサイン貰ってもいいですか?」

にこ「いいわよ。このプリティにこにーのスペシャルサインを進呈してあげるわ」

あんじゅ「意味が重複してるわよ」

にこあり「ちょーふく?」

あんじゅ「な、何でもないわ」

にこ「ま、いいわ。それで大切な用ってのは何? まさか妹紹介するのが大切な話だったら唯じゃおかないわよ」

絵里「そんなんじゃないわ。本当に大切な話。わざわざ来てくれてありがとう」

にこ「な、なによ。いやに素直ね。別人みたいなオーラ出してるし」

あんじゅ「言葉悪いけど、憑き物が落ちたみたいだよね」

絵里「そうね。自分で言うのもなんだけど、長い悪夢から覚めた感じしてるわ」

にこ「えっと、それで話ってのは結局何なの?」

絵里「私は次期生徒会長になる。これは間違いないわ」

にこ「そんなこと百も承知なんだけど。もしかして宣誓布告? 私が生徒会長になったらアイドル研を潰すとかの」

絵里「ううん、寧ろその逆。今までが今までの態度で信じてもらえないかもしれない」

絵里「でも、言わせて欲しいの。私はバレエをやってて諦めたけどね、やっぱり踊るのって大好きなの」

絵里「歌いながら踊るのはバレエよりも心が弾む自分が居た。でもね、素直になれずに押し殺してた」

絵里「そんな日々も昨日まで。どうか貴女達二人と一緒に私もスクールアイドルをやらせて下さい。お願いします!」

にこ「なにこれ。ドッキリ?」

あんじゅ「……にこ。空気読みなさい」

にこ「マジなのね」

亜里沙「マジって何ですか?」

にこ「本気って意味よ。……このにこにー部長は心が広いから一緒にやりたいっていう仲間の想いを無碍にはしないわ」

にこ「何が切っ掛けで変わったのかとかどうでもいい。本気でスクールアイドルやりたいっていうならやりましょう!」

にこ「正直、音ノ木坂の在校生にはあんたしか候補がいないのも現実なのよ」

あんじゅ「にこも素直じゃないんだから」

にこ「そのニヤニヤ笑いやめなさいよ!」

絵里「ありがとう。矢澤さん、優木さん」

あんじゅ「私からの提案。メンバーになるんだから、お互いに名前で呼び合いましょう」

にこ「それもいいかもね。今日からあんたのこと絵里って呼ぶわ」

あんじゅ「私は元々絵里ちゃんって呼ばせてもらってるから、後は絵里ちゃんからの呼び方だけだねぇ」

絵里「にこ。あんじゅ。……って呼んでいいのかしら?」

にこ「いいわよ。もし、にこにーって呼びたいのならそれでもいいわ」

絵里「なんか呼び捨てに呼ぶのって気恥ずかしいわね」

にこ「って、スルー!?」

亜里沙「あのあの! 私もお二人のことお名前で呼んでもいいですか?」

あんじゅ「勿論いいよ」

にこ「いいわよ。あんた小柄だから特別ににこにーって呼んでもいいわ」

亜里沙「ありがとうございます。にこさんにあんじゅさん」

にこ「あんたもスルーするんかい!」

絵里「楽しくなりそうね」

あんじゅ「あ、そうだ。来月に夏祭りでライブするから。絵里のファーストライブになるわ」

亜里沙「夏祭り!? あの、あれですよね。小さいお魚をこうやってすくいあげたり、たこやき? を食べたりする!」

絵里「一人だと絶対に迷子になるし危険だから、会長にお世話をお願いしなきゃね」

にこ「何言ってるのよ。ライブが終わったら私たちも当然楽しむわよ!」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんも一緒にお祭りだねっ♪」

絵里「こころちゃんとここあちゃん?」

あんじゅ「にこの妹で、にこを小さくしたそっくりな双子ちゃん。すっごい可愛いの」

亜里沙「にこさんの小さい双子ちゃん……ハラショー」

にこ「はらしょ?」

あんじゅ「確かロシア語で称賛する時の言葉だよね」

絵里「にこの妹。ちょっと会ってみたいわね」

にこ「性格もにこに似て天使なのよ!」

あんじゅ「訂正するね。にこと違って性格も天使なんだよ」

にこ「ど~して訂正されなきゃならないのよ! 納得いかないニコ!!」


つづく! ねくすときゃらくたー ほのか&うみ?

――某中学校 十一月一日 ことほのうみ

海未「一生の不覚です。私はスクールアイドルをすることを決めました」

ことほの「えぇっ! 海未ちゃんがスクールアイドル!?」

穂乃果「って、思わず驚いてみたけどスクールアイドルって何?」

ことり「はぅん。えっと、スクールアイドルっていうのはね、学校を代表したアイドルのことだよ」

穂乃果「あの恥ずかしがり屋さんの海未ちゃんがアイドル?」

ことり「本当に意外だよね」

海未「ですから、一生の不覚なんです」

ことり「……あれ? そういえばスクールアイドルって高校生限定だよね」

海未「ええ、正式にスクールアイドルになるのは音ノ木坂に入学してからとなります」

穂乃果「海未ちゃんがアイドルしてる姿っていうのが想像付かないけどなぁ」

ことり「私はすっごい想像出来ちゃう!」

海未「想像出来なくていいです。想像しないでください! 恥ずかしさで死にます。思い出しても死ねます」

ことり「それで一体何があったの? 最近ずっと早く帰ってたのが理由なんだよね」

穂乃果「穂乃果もすっごい気になる」

海未「元々の理由は穂乃果、貴女の所為です」

穂乃果「私の所為?」

海未「そうです」

ことり「話が全然見えてこないよ」

海未「話たくないという心情を察して下さい」

穂乃果「私の所為なんて言われたら絶対に話して貰わないと気が済まないよ!」

ことり「私たちは何でも話せるくらい大切な友達だよね?」

海未「仕方ありませんね。出会いはさっきも言った通り、あの日穂乃果に声をかけらたのが原因でした」

海未「穂乃果も覚えてるでしょう。始まりは先月の第一日曜日」

◆にこにークエストⅢ~蒼の大和撫子とじぶたれな部長~◆

―― 一年目 九月三十日(ラブライブ予選終了日) 音ノ木坂 放課後 部室

にこ「もう秋なのよね」

あんじゅ「夏は色々あって楽しかったね!」

にこ「色々あったようでアッという間に終わってた気もするわ」

あんじゅ「絵里ちゃんがメンバーになってから、練習が濃厚になったから特にそう感じるのかも」

にこ「やる気を出した絵里は恐ろしい悪魔に化けたわね。練習妖怪エリーチカ!」

あんじゅ「絵里ちゃんに聞かれたら怒られるよ」

絵里「ええ、怒られるわね」

にこ「ひっ! え、絵里」

あんじゅ「流石にこ。お約束の展開を逃さない♪」

絵里「妖怪だったら人間であるにこに容赦しなくてもいいわよね?」

にこ「ちっ、違うわ。あんたは妖怪なんかじゃないわ。女神属性エリーチカ科!」

絵里「宥めるにしても頭の良さそうな意見出してよね」

あんじゅ「にこにーに知力ある回答を求めるのは酷だよ」

絵里「それもそうね」

にこ「なんで納得すんのよ!」

絵里「ふふっ。ま、今日は本格的な引き継ぎがあるから残念ながら練習に参加出来ないのよ」

あんじゅ「生徒会の入れ替えが来週だもんね」

にこ「正式な生徒会長になって手が足りない時は手伝うから言いなさいよ」

絵里「もしもの時はお願いするわね。といっても、大きな行事である学園祭が終わったばかりだし暫くは大丈夫よ」

あんじゅ「無理は絶対駄目だからね?」

絵里「ありがとう。支えてくれる人が居るっていうのは心の支えになるわ」

にこ「仕方ないから、今度の土曜日に栄養あるご飯でも作りに行ってあげるにこ」

絵里「それは素直に嬉しいわね。食材は先に買っておくから、必要な物を事前にメールしておいて」

あんじゅ「お肉! お肉たっぷりのカレーにしよう!」

にこ「あんじゅ。あんた、人の話聞いてた? 野菜たっぷりならまだしも、肉たっぷりじゃ栄養が足りないわ」

あんじゅ「サラダを別に用意すれば良いよね?」

絵里「私はカレーでいいわよ。数日持つし、あんじゅの言う通りサラダと一緒ならいいでしょ」

にこ「絵里がいいならそれでいいけど」

あんじゅ「うふふ♪ 早く土曜日にならないかな~」

絵里「あんじゅは完全ににこに胃袋掴まれてるわね。それじゃあ、今日はこれで失礼するわね」

あんじゅ「生徒会の仕事を頑張ってね!」

にこ「あの会長にもよろしく言っておいて」

絵里「ええ、伝えておくわ」

あんじゅ「……さ、今日はどうしようか?」

にこ「最近休みがなかったし、今日は休みにしましょうか」

あんじゅ「順位が圏外だから私は気にしてなかったけど、今日の十八時が予選終了だっけ?」

にこ「そうよ。ラブライブ予選締め切り」

あんじゅ「にこも思ってたより全然気にしてなくない?」

にこ「前にも言ったけど今年のラブライブは特に注目してるわよ」

にこ「ただ、去年までは毎日携帯で順位の入れ替わりとか見てたけど今年は全く見てないの」

にこ「数年振りに見るキラ星の姿はラブライブ本選で歌う動画で見たいからね」

あんじゅ「でも同い年なんでしょ。一年生からラブライブに出るのは難しいんじゃないの?」

にこ「絶対に出るわ。流石に優勝するとか断言しないけど、出るのは確信してる」

あんじゅ「もし本当に出てくる程ならメンバー増やさないと難しいかもね」

にこ「考えないようにしてきたけど、来年の新入生が駄目だと厳しくなるわ」

あんじゅ「元後輩とかで交友関係のある中学生とかいないの? あっ」

にこ「何よ、その失言しちゃったみたいな顔!」

あんじゅ「にこを慕う後輩なんて居る訳ないもんね」

にこ「普通後輩とそんな親しくしたりしないものなのよ」

あんじゅ「もし親しい後輩が居れば良い作戦があったんだけどな~」

にこ「いい作戦?」

あんじゅ「うん。源氏物語ならぬにこ氏物語!」

にこ「果てしなく語呂が悪いわね」

あんじゅ「じゃあ、横文字にしてにこにークエスト!」

にこ「元ネタの源氏物語がどっかいってるんだけど……。で、どういう作戦だったの?」

あんじゅ「源氏の名前が出てもビビッとこない辺りがにこっぽくて安心したよ♪」

にこ「よく分からないけど、ムカつくこと言われてるのは理解出来るわ!」

あんじゅ「うふふ。で、作戦だったんだけど、スクールアイドルとラブライブのルールを合わせるとこうだよね」

あんじゅ「高校生であること。同じ学校の生徒であること。各校に1グループのみが出場可能」

にこ「うん。間違ってないわ。今更だけどね」

あんじゅ「逆に言えばそれ以外のことは何も禁じられてないの」

にこ「どういうこと?」

あんじゅ「つまりね、来年同じ学校になる子と同じ舞台で歌ってはいけないとかそういうことは一切ないの」

にこ「はあ? スクールアイドルじゃないんだから駄目でしょ」

あんじゅ「スクールアイドルとして、ならね。でも、普通に歌うことは禁じられてはいない」

にこ「……つまり?」

あんじゅ「正解言った後なのに訊かないと意味が理解出来ない。そんな安定のにこで安心したにこ~」

にこ「うっさいわね!」

あんじゅ「今日でラブライブの予選は締め切りなんだし、明日からは来年の予選が始まるまでは自由なの」

にこ「ふぅん」

あんじゅ「時期メンバーを鍛え上げちゃ駄目なんて言われていないのよ」

にこ「ルール上の抜け道ってやつね」

あんじゅ「そう。人これを邪道って呼ぶんだろうけどね」

にこ「いいじゃない。夢に近道はなくても、目的を叶えることには抜け道があっても」

あんじゅ「にこってば越後屋みたいな顔してる」

にこ「イチゴ屋?」

あんじゅ「ううん、なんでもな~い」

にこ「どこかに来年音ノ木坂に通うつもりの有望な子居ないかしらねぇ」

あんじゅ「ドラマとかなら知らず内に出会ってたとかあるんだけどね」

にこ「いい作戦なんだけど、それ故に相手がいないのが歯がゆいわ!」

あんじゅ「現実もたまには優しい顔を見せてくれてもいいって思うんだけど」

にこ「そうよね。たまにはサービスしろって話よ!」

――同日 帰路 ほのうみ

海未「くしゅんっ!」

穂乃果「風邪かな?」

海未「ただのくしゃみと言いたいですが、何だか寒気が走りました」

穂乃果「最近まで暑かったけど、一気に秋っぽくなったからねー」

海未「体調管理には気を配ってるんですが、もし風邪なら私もまだ未熟ということですね」

穂乃果「そういうところは昔から真面目だよねぇ」

海未「風邪は基本的に自分の甘さによって病むものですから」

穂乃果「むむっ、二年に一度は風邪をひく穂乃果には痛い言葉だよ」

海未「穂乃果の場合は穂むらの娘なんですから、もっと丁寧に手洗いうがいをしなければいけません」

穂乃果「お母さんみたいなこと言わないで」

海未「そういう面では雪穂の方がしっかりしてるではないですか」

穂乃果「でも必ずしも正しいことが正解とは限らないじゃない?」

海未「正しいから正解なんです」

穂乃果「ほむぅ」

海未「……その気の抜けた鳴き声はやめた方がいいですと何度も言ってるじゃないですか」

穂乃果「はーい。少し早いけど海未ちゃんは音ノ木入ってもまた剣道部に入るの?」

海未「いえ、音ノ木坂には弓道部があるみたいですから。私はそちらに入るつもりです」

穂乃果「そっか、剣道ならお家の道場でも出来るもんね」

海未「弓道は剣道以上に己との勝負ですからね。ことりを見習って私ももっとしっかりしなければいけません」

穂乃果「えぇ! 今以上に海未ちゃんがしっかりしたら穂乃果どうにかなっちゃうよ」

海未「どうしてですか?」

穂乃果「穂乃果の行動一つに点数付けて採点とかし始めそう」

海未「……穂乃果が私のことをどう思っているのか理解しました」

穂乃果「海未ちゃん外でそういう顔はしないで。私が悪かったから!」

海未「いいんです。どうせ私なんて口うるさくて厳しいだけの存在なんです」

穂乃果「そんなことないってば。海未ちゃんがいなかったら私もことりちゃんももっと駄目な子だったよ」

穂乃果「厳しいのは嫌だけど、でもそこに優しさがあるから嬉しいんだよ」

海未「そうですか! では明日から穂乃果が待ち合わせに五回遅刻する度に罰を与えましょう」

穂乃果「やぶ蛇だった!?」

海未「弓道部で朝練が始まったら穂乃果は一人で通うことになるんですよ? 今から気持ちを引き締めてもらわないと」

穂乃果「ことりちゃ~ん助けてー」

海未「夢に向かって本格的にデザインの勉強をしてることりに逃げないでください」

穂乃果「とほほ」

――十月 第一日曜日 穂むら 穂乃果

穂乃果「どうして日曜日なのにこんな早くに起きなくちゃいけないの?」

ママ「昨日も言ったでしょ? 今日は私が地域清掃に出れないから代わりに出て欲しいって」

穂乃果「雪穂でいいじゃんか~」

ママ「穂乃果。あんた最近本当に弛んでるわよ」

穂乃果「だって~。ことりちゃんはデザインの勉強で忙しいし、海未ちゃんは海未ちゃんで部活にまだ顔出してるし」

ママ「昔は二人を引っ張ってたのに、どうしてこんな腑抜けちゃったのかしらねぇ」

穂乃果「腑抜けてないよ! 今はやりたいことがないだけ」

ママ「そういうのは世間で言い訳って言うのよ。私の娘とは思えないわ」

穂乃果「も~うるさいなぁ」

ママ「あんたと大差ない年の子達が手伝いに来てくれてるっていうのに、嘆かわしい」

穂乃果「人は人。穂乃果は穂乃果」

ママ「やる気ないのはいいけど、勉強くらいはまともにやりなさいよ」

穂乃果「やってるよ。宿題だって忘れたりしないし」

ママ「今までことりちゃんって助けが居たけど、音ノ木坂に入ったらそれも出来ないんだからね」

穂乃果「……。何度も何度もことりちゃんが音ノ木坂に行かないって事を意識させなくてもいいじゃんか!」

ママ「しっかりしてるならこんなこと言わないわよ。というか、こんなこと言いたくないわよ」

ママ「でも、今の穂乃果は現実を認めてるようで認めてないでしょ。その癖して不貞腐れてやる気がないし」

ママ「こんな調子だと音ノ木坂に入った後に現実に押しつぶされるわよ?」

穂乃果「そんなことないよ。あるわけないじゃん!」

ママ「あんたはお姉ちゃんなんだから、もう少し大人になんなさい」

穂乃果「穂乃果は大人だよ。海未ちゃんだってそれを認めてくれたもん」

ママ「それってどうせあんたが今みたいになる前の話でしょ?」

穂乃果「……」

ママ「来年の誕生日を迎えたら穂乃果も結婚出来る年齢になるのよ」

ママ「大人になるっていうことがどういうことか、今からしっかり考えてみなさい」

ママ「今までが恵まれ過ぎていて、自分で考えるって事が疎かになってたのかもね」

穂乃果「難しいことばっかり言わないでよー」

ママ「難しくてもお母さんが言った言葉をきちんと忘れないで覚えておきなさいよ」

ママ「ま、それはともかくとして今日の清掃はよろしくね。商店街に九時集合だから」

穂乃果「はぁい。行けばいいんでしょ、行けば」

――清掃中 にこあん

あんじゅ「最近綺麗になっていく喜びっていうのに目覚め始めたわ」

にこ「あぁん? あんたの部屋の掃除を誰がやってあげてると思ってんのよ!」

あんじゅ「にこにー部長です」

にこ「料理はまだ出来ないけど、掃除くらいならうちのおチビちゃんだって出来るわよ」

あんじゅ「ほら……あの、ねぇ?」

にこ「ま、きちんとこっちの清掃に参加してるのは偉いけどね」

あんじゅ「おぉ! にこが褒めてくれた♪」

にこ「良いことすればいくらでも褒めてあげるわよ。掃除に洗濯に料理」

あんじゅ「えへへ」

にこ「笑って誤魔化せると思うんじゃないわよ」

あんじゅ「だってだって~。にこがやってくれるし?」

にこ「仕方ないからやってんでしょ。ていうか、何が悲しくてあんたの下着まで畳まないといけないのよ!」

あんじゅ「にこは良いお嫁さんになれる証拠だね☆」

にこ「今軽く殺意というものが芽生えたわ。もう少し溜まるとバールのような物に手が伸びるわね」

あんじゅ「にこの家にバールなんてないよね?」

にこ「物の例えよ。バール買うなら胃薬買うわよ」

あんじゅ「胃薬買うなんて無駄遣いだよ。あんじゅの笑顔は胃にも優しいにこ!」

にこ「あんたはどれだけにこの胃を荒らしたいのよ!」

あんじゅ「今気づいたんだけど、私とにこってお互いの胃を握り合ってる仲だよねっ」

にこ「は?」

あんじゅ「私は料理で胃袋を。にこは私のお茶目で胃を。素敵だね」

にこ「黄色い救急車を呼びたくなったわ」

あんじゅ「何それ?」

にこ「何でもないわよ。ほら、次の所行くわよ」

あんじゅ「は~い!」

――70分後

あんじゅ「作詞ストックがなくなっちゃったよね。どうしようか?」

にこ「思い浮かべようと思っても、限界があるのよねぇ」

あんじゅ「こういうのってセンスと閃きだからどうしようもないね」

にこ「あんじゅなら作詞も出来るんじゃない? あの作戦だって良い感じだったし」

あんじゅ「悪巧みと作詞じゃ全然別方向だよ」

にこ「そうよねー」

あんじゅ「でも、どうしてもっていうのなら『カレーは飲み物』っていう名曲を!」

にこ「ごめん、普通に人選ミスだったわ」

あんじゅ「にこにーのカレーは魔法のジュース♪」

にこ「そんな電波ソング歌ったら、今のファンが全員離れていくわよ!」

あんじゅ「でもさ、よく考えれば必ずしもメンバーが作詞しなくちゃいけないってルールもないんだよね」

にこ「そう言われるとそうね」

あんじゅ「誰か作詞出来るような友――ごめん、禁句だったよね」

にこ「全然禁句じゃないわよ!」

あんじゅ「じゃあさ、にこの友達の名前挙げてみてよ」

にこ「……そそそんなことより! 今は作詞問題が問題でしょ?」

あんじゅ(ま、私も人のこと言えないんだけどね)

にこ「絵里なら交友関係広そうだし、作詞出来るやつも居るかもしれないわね」

あんじゅ「そうだね。絵里ちゃんの知人に期待だね」

にこ「なんか、仲間に頼ることを覚えると弱くなっちゃいそうで怖いわ」

あんじゅ「分かる分かる。今の私はもうにこなしじゃ生きてる自信ないもん」

にこ「もっと怖いものがあったわ。あんたって来年の夏頃になったら私の家に住んでそうよね」

あんじゅ「やだぁ~もしかしてプロポーズ?」

にこ「わざと曲解してニヤニヤ顔浮かべんのヤメなさいよ!」

あんじゅ「勉強の成果で難しい言葉が使えるようになってきて、あんじゅ嬉しいにこ!」

にこ「……あんたに対して怒ること自体が不毛に感じてきたにこぉ」

あんじゅ「長年のパートナーっていう感じになってきたね♪」

にこ「にこの繊細な胃が持たないわよ」

あんじゅ「にこってば照れ屋さんなんだから~」

にこ「……もう、それでいいにこ」

おばちゃん「相変わらず二人は仲良しさんだねぇ」

あんじゅ「いつでも仲良しさんです!」

にこ「はいはい、仲良し仲良し」

おばちゃん「二人がライブをやってくれてるお陰で、最近は若い子が手伝ってくれるようになってね」

にこ「にこ達のお陰かどうかは別として、最近何人か居るわよね。良いことだわ」

おばちゃん「アイドルっていうのの良さはもういい年だから分かんないけど、二人の良さは理解してるよ」

あんじゅ「ありがとうございます」

にこ「ありがとうニコ!」

おばちゃん「二人のその笑顔が随分とこの商店街を照らしてくれてるよ」

にこ「そんなこと言っても、にこの笑顔はこれ以上輝かないわ♪」

あんじゅ「とか言いながら頬を緩めてだらしない笑顔に変わるにこにーであった」

にこ「変なナレーションするんじゃないわよ!」

おばちゃん「あっはっは。はい、緑茶」

あんじゅ「ありがとうございます。あれ、でも三本ありますけど?」

おばちゃん「あっちに穂乃果ちゃんが居るから、渡してあげてくれる」

にこ「穂乃果ちゃん?」

おばちゃん「お饅頭屋の穂むらの長女だよ。なんだか元気がないみたいだから、二人の元気を分けてあげておくれ」

あんじゅ「おばちゃんはいつも優しいにこ!」

おばちゃん「ただの性分。人によっては大きなお節介ってやつだよ」

にこ「そんなことないわよ。おばちゃんはアイドルとは違うけど、でもアイドルみたいな存在だし」

あんじゅ「そうだね。にことは質が違うけど、太陽みたいな存在です」

おばちゃん「若い子にそんなこと言われるとおばちゃん照れちゃうよ。あはははっ」

おばちゃん「おっと、他の子にも配らなきゃいけないから。私まで元気分けてもらっちゃって悪かったわね」

にこ「元気ならいくらでもあげるわ! なんたって私達はスクールアイドルなんだから」

あんじゅ「グループ名の通り笑顔にさせてみせます」

にこ「さて、ほむらちゃんに届けてあげましょう」

あんじゅ「穂むらの長女の穂乃果ちゃんでしょ? というか、お婆ちゃんの為にって穂むらで買い物もしたじゃない」

にこ「あぁっ! あのお饅頭屋のことね。あの子達の差し入れでも貰ったわよね」

あんじゅ「ライブが近くなると宣伝とか手伝ってくれるし、結果出して自慢話になるくらいにはしたいよね」

にこ「ええ。キラ星との約束とは別に、恩返しの為にもラブライブ出場を果たしたいわ」

あんじゅ「さ、穂乃果ちゃんに渡してあげよう!」

にこ「あの子でいいのよね」

あんじゅ「他に居ないし。明らかに落ち込んでるオーラ放ってるよね」

にこ「出会った時のあんたよりはマシだけど。思えばあの時、声を掛けなければ胃に優しい生活が待ってたんじゃない」

あんじゅ「声を掛けることが運命だったってことだね☆」

にこ「はいはい。お~い、穂むらの子。差し入れの緑茶よ」

穂乃果「え?」

にこ「その辺もうゴミも雑草もないみたいだし、少し休憩しなさい」

あんじゅ「綺麗になってることに気づかないくらいだもん。きちんと休まないとねぇ」

穂乃果「そう、ですね。ありがとうございます」

にこ(落ち込んでる半分。不貞腐れてるのが半分ってことかしら)

あんじゅ「私はあんじゅ。こっちの小さい子がにこ。二人とも高校一年生なんだけど、穂乃果ちゃんは?」

穂乃果「私は中学三年です」

にこ「受験生なのに清掃に無理やり参加されたの?」

穂乃果「受験生? ああ、そうですね。でも、私の進学希望の学校って音ノ木坂だから勉強は必要ないですね」

あんじゅ(音ノ木坂!? これって運命の予感かも)

にこ(この子自身はアイドル向けじゃないみたいだけど、音ノ木坂進学予定の子とのパイプ役になるかもしれないわ)

にこ「へぇ~偶然ね。私たちも音ノ木坂に通ってるのよ」

穂乃果「そうなんですか」

あんじゅ「音ノ木坂はいいところだよ。私は大好き」

にこ「生徒の自由にやらせてくれる場面が多いからね。あなたの他にも音ノ木坂受けようとして子って居るの?」

穂乃果「はい。私の友達も何人か志望してます」

にこ(にこにこチャーンス!)

あんじゅ(分かり易いくらいににこの目が輝いてる。目に星を宿すスターアイドル☆)

にこ「受験する子でアイドル好きなことかいるとかないかしら?」

穂乃果「アイドル? 特にそういう話は聞いたことないですけど」

にこ「じゃあ、運動神経が良い子とか居る?」

穂乃果「剣道は県大会レベル。弓道も舞踊も出来る私の自慢の友達が居ますよ」

にこ(有力情報ゲットにこ! これは運命ってやつかしら。にこの高性能カワイコレーダーが反応してるわ!)

にこ(キラ星との再会。元メンバーの子達との約束。……流れがきたかもしれない!)

にこ「すっごい子が居るのね。にこ剣道とかやれないからすっごい羨ましいにこ」

あんじゅ「ちなみに私は薙刀と合気道なら習ってたよ」

にこ「あんたの話はどうでもいいのよ!」

あんじゅ「う~るる~」

穂乃果「ゴクゴクッ……はぁ~。海未ちゃんは本当に凄いですよ」

にこ「へぇ~。うみちゃんって言うの」

にこ(ここの地元の中学名と剣道県大会出場者で調べればヒットするわね)

穂乃果「あっ。噂をすれば海未ちゃんだ。お~い! 海未ちゃ~ん!」

海未「おや、穂乃果ではないですか。地域清掃とは関心ですね」

穂乃果「そうでしょ? 本来なら寝てる時間から清掃開始だったんだから」

にこ(キテるキテる! いい感じだわ。私とあんじゅと絵里。その誰とも被らないキャラクター性!)

にこ(黒というより蒼と呼べる美しい長い髪。飾りっ気がなくても人を惹きつける魅力)

にこ(丁寧な口調から感じるかしこさ。そして、何よりも最大の理由。それはそのにこと大差なさそうなおっぱい!)

にこ(制服越しでも感じることのないサイズは同じ71か72。絶対に引き入れなきゃ駄目だって運命が囁いてる!)

にこ(でも、ここで先走ったらいけないわ。敵を知り、もっと知れば百戦危なくないっていうものね)

海未「ええ、私は部活に顔を出して来た帰りです。引退した身ですから長いするのはよくありませんからね」

穂乃果「でも後輩の子達は海未ちゃんに来て欲しいって望んでるんでしょ?」

海未「そうですが、いつまでも私に頼っていては成長の妨げになりますから。もう顔を出すのは止めようと思ってます」

穂乃果「残念がるだろうね。後輩の子にモテモテなのに」

海未「やっ、やめてください! 恥ずかしいではないですか」

にこ(これは中学生からの支援が増加しそうね。スクールアイドルのファン層の多くが中高生)

にこ(絵里との上層効果でよりSMILEの人気が加速するわ。羞恥心が強そうみたいだけど、そこは慣れでどうにかなる)

海未「いつまでも邪魔してはいけませんね」

穂乃果「え~。もう行っちゃうの?」

海未「そんな顔をしないでください。そうだ、午後になったらどこかに遊びに行きましょう」

穂乃果「本当!?」

海未「最近は最後の大会があって遊んだり出来ませんでしたからね。ことりを誘えないのが残念ですけど」

穂乃果「……そうだね。でも、約束だよ?」

海未「ええ。では、清掃の方頑張って下さい。そちらの方たちもお疲れ様です。失礼しますね」

あんじゅ「ね、にこの目から見てどうだった?」

にこ「ある種のパーフェクトガールね」

あんじゅ「そうだよね。あの子を上手く誘導出来ればこないだの作戦が使えるよ」

にこ「頭の固い部分のある絵里が生徒会長になったばかりで、なんだかんだ忙しい今がチャンスね」

あんじゅ「というか、ルールの穴を突いた邪道なやり方だからねぇ」

にこ「小悪魔上等よ。穂乃果の雰囲気が軽くなった今、口も軽くなってると思うし、聞き出せること全部聞き出すわよ」

あんじゅ「了解!」

――三日後 夜 にこあん

にこ「やっぱり最大の壁は家柄かしらね」

あんじゅ「日舞の家元の娘がスクールアイドル。ご両親の許可とか世間体とかありそうだものね」

にこ「でも、あの子自身さえ納得させれば勝手に本人がやってくれそうな気がするわ」

あんじゅ「根が本当にしっかりしてそうな子だもんね」

にこ「逆に一度でも勧誘に失敗すれば二度目はない気もするわ」

あんじゅ「そうだね。絶対に揺らいだりしないイメージする」

にこ「かといって正攻法でも揺らがない予感がするし」

あんじゅ「完全に邪道なやり方で絡め取るしかないかな~」

にこ「これを気に私とあんじゅが小悪魔系目指すのもありね。清楚系は絵里と海未でいいし」

あんじゅ「悪魔耳に尻尾の衣装とか?」

にこ「……いや、それはあざと過ぎて引くわ」

あんじゅ「一人称が名前で語尾ににこも十分あざといってあんじゅは思うにこ!」

にこ「あんたの方が使ってる気がするんだけど!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「真面目に考えましょう。正義感溢れる大和撫子を陥落させる作戦」

あんじゅ(正義感……剣道の実力者……恥ずかしがり屋……人に厳しく自分に更に厳しい……絡め手)

にこ「良いアイディアって作詞同様考え付こうとして考え付かないものよねぇ」

あんじゅ「しっ! 静かにして」

にこ「……にこぉ」

あんじゅ(にこの口の悪さ……アイドルに必要とされる物……正道と邪道……にこの性格……勝負の結果)

にこ「……」

あんじゅ「圧倒的閃き!」

にこ「え? アッと驚く閃き?」

あんじゅ「まぁ、それでも意味は通じるんだけど。いい作戦を考え付いたよ」

にこ「おぉ! これで上手くいったら奮発して牛肉を使った贅沢なカレーを作ってあげる」

あんじゅ「約束だよ? それでね、にこにはマフィアのボスのポジションをやってもらうことにしたの」

にこ「小悪魔すら吹っ飛ばしてマフィアのボスねぇ。別にいいけど」

あんじゅ「これ以上ないくらいの嵌り役になるわよ」

にこ「ふぅん。で、あんたは何ポジションなの?」

あんじゅ「私はね、ボスの《情婦》ポジションだね」

にこ「じょうふ?」

あんじゅ「つまりは一番信頼する部下みたいなことだよ。うふふふ」

にこ「なるほどね。部下が他に居ないのが寂しいけど、具体的な作戦は?」

あんじゅ「うん。これからにこには正義や正道や正しさについて勉強してもらうわ」

にこ「えー、めんどくさいにこぉ」

あんじゅ「悪魔や邪道や悪いことについてもしっかりと勉強してもらうから」

にこ「それって本当に今回の勧誘に関係あるの? あんたの趣味じゃないでしょうね」

あんじゅ「あの子の性格と考え方を知って、自分のやり方を相手に説明出来るようにする必要があるの」

にこ「説得とかあんたがすればいいじゃない。適材適所でしょ」

あんじゅ「情婦しかいないボスが楽しちゃ駄目だよ。にこがやらないと絡め取ること出来ないんだから」

にこ「仕方ないわねぇ。にこがやらなきゃ勧誘出来ないのなら仕方ないわ!」

あんじゅ「本当に単純でにこ大好き!」

にこ「だからその単純って言うの止めなさいよ!」

あんじゅ「え~単純なんて言ってないよ。そんなことより勉強開始します。辞書借りるね」

にこ「うげ……。辞書まで使うくらい本格的な勉強なのね」

あんじゅ(本当はここまで必要ないんだけど、にこには正しさを憎んでもらわないといけないからね♪)

――二日後(金曜日)給食 ことほのうみ

海未「今日は朝から嫌な寒気がします」

ことり「大丈夫?」

穂乃果「部活に顔を出さなくなってから気が緩んでるんじゃない?」

海未「穂乃果だけには言われたくありません」

穂乃果「私は体調管理はしっかりしてるも~ん」

ことり「穂乃果ちゃんは昔から人一倍体が丈夫だもんね」

海未「その癖、一度ひくと長引くから心配でたまりません。お願いですから受験日近くには気を付けてくださいね」

穂乃果「来年の話をしたら鬼が笑うよ」

海未「笑われるのは穂乃果の小テストの結果です! なんですかアレは!?」

ことり「穂乃果ちゃんの数学が苦手なのは算数の頃からだし」

海未「甘やかしてはいけません。というか、お店で会計する立場になるのですから数字だけは強くないと駄目でしょう」

穂乃果「あぅ!」

海未「それから、海外からの観光が多い秋葉原がお隣なんです。英語も勉強した方がいいですね」

穂乃果「英語はまだ……なんとかなる、かな?」

ことり「でも本場の英語って聞き取り難いよね」

海未「ことりの言う通りです。授業の英語なんて子供の遊びみたいなものです」

穂乃果「最近一段と海未ちゃんが厳しいよぉ」

ことり「もう少し優しくしてあげないと、穂乃果ちゃんが潰れちゃうよ?」

穂乃果「そうだよ。ワレモノ注意くらいに繊細に扱ってくれないと困るよ」

海未「取り扱い注意の穂乃果が何を言ってるんですか。ふふっ」

穂乃果「ひっど~い。あははっ」

ことり「うんっ。二人ともやっぱり笑顔が一番っ」

海未「ですが、放課後に居残りさせられない程度には頑張って貰わないと困りますよ」

穂乃果「は~い」

ことり「ごめんね、穂乃果ちゃん。ことりが勉強見てあげられればいいんだけど」

穂乃果「大丈夫だよ。最終手段として怖いけど海未ちゃんに教えてもらうから」

海未「他力本願の上に失礼ですよ。しかし、大変ですね。入学前から色々な課題があるとは」

ことり「大変なのは確かだけど、すっごくやり甲斐があるの。楽しんでやってるよ」

海未「毎月提出義務まであるんですよね?」

ことり「うん。上手く出来た時の達成感が今月合わせて六回も楽しめるんだー」

海未「随分と前向きな姿勢ですね。とても誇らしいです」

穂乃果「本当に。今のことりちゃんは空も飛べちゃいそう!」

ことり「実際に飛べないけど、気分的にはお空の上だよぉ」

海未(穂乃果もことりの様にやる気を出してくれると嬉しいのですが、まだ難しいですかね)

――同日 放課後 にこあん

にこ「作戦の日がきたわね。打倒正義の剣道娘ってところね」

あんじゅ「蒼の大和撫子の方がミステリアスな感じがして良いと思うなぁ」

にこ「いや、なんでもいいけど」

あんじゅ「小悪魔マフィアボスにこにー VS 蒼の大和撫子園田海未」

にこ「あんた、最近漫画に嵌り過ぎよ」

あんじゅ「男の子向けの漫画はドキドキが多くて面白いんだよ」

にこ「そんなことはどうでもいいわ。取り敢えずは勝ことが必須条件だから気合入れないと」

あんじゅ「甘いわよ、にこ! 負ける可能性がある勝負をする時点で既に負けてるの」

にこ「なるほど。つまり今回の勝負はにこが絶対に勝つと信じてるのね。さすが私のじょうふね!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「信用に応えるのがリーダーの役目だし。安心しなさい」

あんじゅ「うん。にこなら上手く踊ってくれるって信じてるからね」

にこ「は? 今回はダンスはしないわよ」

あんじゅ「うふふふふ♪」

にこ「いつも以上に笑ってばかりで気持ち悪いわねぇ」

あんじゅ「これだと情婦というより死神だね」

にこ「はぁ? 意味不明なこと言ってるんじゃないわ。ほら、目標が来たわよ」

あんじゅ「イッツショータイム♪」

にこ「締まらないわねぇ……。さ、いくわよ!」

にこ「こんにちは。園田海未さん」

海未「こんにちは。ああ、こないだ穂乃果と一緒に清掃をしてた方ですよね?」

あんじゅ「記憶力良いね。そうだよ」

にこ「私達は音ノ木坂一年。矢澤にこ」

あんじゅ「優木あんじゅです」

海未「ご丁寧にどうも。穂乃果に用でしたら居残りの為にまだ時間が掛かると思います」

にこ「いいえ、穂乃果に用があるんじゃないの。あなたに用事があって待ってたのよ」

海未「私に、ですか?」

あんじゅ「お時間大丈夫?」

海未「それは大丈夫ですが、何の用でしょう」

にこ「あなたって剣道が県大会レベルらしいわね。質の高い東京の地区予選で優勝する実力者」

海未「努力の賜物ですので、そこは否定しません」

あんじゅ(いい反応いい傾向☆)

海未「それが何か?」

にこ「剣道の強さに自信があるってことね。先に確認しておくけど、志望校は音ノ木坂なのよね?」

海未「ええ、そうです。穂乃果に聞いたんですね」

にこ「そうよ。あなたのことを嬉しそうに話してくれたわ」

海未「今回のことと何か関係が?」

にこ「私と勝負して欲しいのよ。勝ったら私のお願いを聞いて欲しいの」

海未「初対面に近い相手に何を言い出すんですか」

にこ「県大会出場者だけど勝つ自信がないと?」

海未「いいでしょう。その言葉、後悔に変えてさしあげます!」

にこ「勝負のルールは私が決めてもいいかしら?」

海未「どうぞ。三本勝負だろうと、一本勝負だろうと、好きに決めてかまいません」

にこ「言質取ったにこ!」

あんじゅ「うふふっ」

――あんじゅの策略

海未「どうして勝負の舞台が道場ではなくカラオケ屋なんですか!?」

にこ「あんじゅ。私が剣道で勝負するなんて一言でも言ったかしら?」

あんじゅ「海未ちゃんの剣道を褒めてたけど、決して一度たりとも剣道で勝負するとは言ってなかったよ」

にこ「それでもって勝負のルールは私が決めていいって言ってたわよね?」

あんじゅ「好きに決めていいって言ってたよ」

海未「貴女達は詐欺師ですか!」

にこ「自分で認めたことを相手の所為にして逃げるのなら責めはしないわよ」

海未「こんな卑怯な手をする相手に背を向けたりはしません」

にこ「だったら真っ向から私達に勝ってみなさい」

海未「言われるまでもないですね」

あんじゅ「お互い精一杯頑張ろう♪」

にこ「声出しの関係もあるし、三曲は練習にしましょう。もっと練習が必要なら伸ばすけど」

海未「いえ、練習は三曲で構いません」

あんじゅ「だったら先に一曲目を歌ってくれる?」

海未「分かりました」

あんじゅ(よし! 一番危険な《この瞬間》を流すことが出来た。後はにこの点数次第……なんちゃって☆)

にこ「にこは何を歌おうかしらね~」

海未「本来は人前で歌うというのは得意ではありませんが、仕方ありません」


一曲目 海未83点 にこ77点

二曲目 海未81点 にこ77点

三曲目 海未85点 にこ75点


海未「……」

にこ「何よその目は!」

海未「いえ、ふざけているのかと思いまして」

にこ「ふざけてなんてないわよ! 本番であんたよりいい点数を叩き出せばいいんでしょ」

海未「でしたらその本気とやらを先に歌って見せていただいてもいいですか?」

にこ「良いわよ。本当はこの歌は出したくないけど……勝つ為には仕方ない!」

♪~

海未「この懐かしい音楽、童謡ですか?」

あんじゅ「にこの十八番。森のパンダさん」

にこ「森を歩いていると~白とく~ろのパンダさん」

海未「……十八番というには、上手いとは思えないのですが」

あんじゅ「知らないの? 女の子は可愛ければ良いんだよ!」

海未「はぁ~。なんで私はこんな所に居るのでしょうか」

にこ「花の輪ありがと~ありがとうの歌をあげます」

本番 にこ81点 海未86点


にこ「……にこぉ」

海未「では、もう帰ってもいいですよね。時間の無駄でした」

にこ「待ちなさい! 私に一度勝っただけに過ぎないわ」

海未「何を子供みたいな良い訳してるんですか」

にこ「あんたは私にルールを一任した。私はこの本番一曲で終わりとは明言してないわ」

にこ「これはルールを明言する前に練習曲を探し始めてたあんたの落ち度よ?」

海未「本当に詐欺みたいなことしますね。少しは正しいやり方をしたらどうですか?」

にこ「正しさって言うのは基準であって、人に押し付けるものじゃないわ」

海未「押し付けている訳ではりません。そもそも、正しさは普通の人が持つ義務です」

にこ「そんな義務知らないわよ。ていうか、それを押し付けってのよ! あんたは正義の味方か!」

海未「子供みたいな言い訳を平気でする人間になんて言われても構いません」

にこ「私は目的を達成する為には邪道を突き進む。正道なんてラブニコアタックでぶち壊すにこ!」

海未「じぶたれな性格ですね」

にこ「じぶ? ……解説役!」

あんじゅ「ごめん、私も分かんない」

にこ「と、ともかく! 勝負は終わってないわ」

海未「仕方ありません。私のミスであるのも確かです。今度はきちんとルールを明確してもらいますよ」

海未「それとも、私が負けるまで続けるのが貴女のやり方ですか?」

にこ「見くびるんじゃないわよ。次の一曲で点数が高かった奴の勝ち。簡単なルールでしょ?」

海未「なるほど。貴女は本当に正しさと正反対に位置する人間みたいですね」

海未「今のルールでは的確ではない表現が混ざってます。高かった奴の勝ちではアンフェアです」

海未「私は一人なのに対して、貴女は少なくともそこの優木さんも含むことが出来ますからね」

にこ「ちっ。じゃあ、次の一曲で点数の高かった園田海未か矢澤にこの勝ちでいいでしょ?」

海未「追加のルールを禁ずる。そちらが負けた場合素直に解散することもルールに加えて下さい」

にこ「分かったわよ。それでいいわ」

海未「それからマイクへの細工や、歌ってる最中の妨害も禁止です」

にこ「あんた私のことどんな目で見てんのよ!」

海未「じぶたれた者を見る目ですね」

にこ「意味が分かんないけど、ムカつくわね!」

海未「負けた後に勉強することをお勧めします。特に、正しさについて」

にこ「こちとら嫌になるくらい勉強したわよ。正しさだけじゃ世界が回らないってこともね!」

海未「それは弱い人間の言葉でしょう。強くなることを諦めた人間の言葉に意味なんてありません」

にこ「ふぅん。正義の味方は常に言ってる事に意味が生まれるんだ。凄いわね」

海未「貴女みたいな人に言っても馬の耳に念仏です。最後の勝負を始めましょう」

あんじゅ(残念だけど結果なんて関係なく、海未ちゃんも既に私の糸に操られてるお人形さんにこ♪)

にこ「勝負する前に言うことがあったわ。私達はね、音ノ木坂でスクールアイドルをやってるの」

にこ「私が勝ったらあんたをスクールアイドルとして鍛えあげるから覚悟しなさい」

海未「面白い冗談ですね。貴女みたいな人がアイドルなんて」

にこ「本当のことよ。じゃあ、今度こそ本気で歌うわよ。アイドルの本領発揮!」

最終対決結果 にこ90点 海未85点


にこ「正義が勝つとは限らないニコ!」

海未「ぐっ……。悪に屈する日がくるなんて」

あんじゅ「ぷふっ。うふふふっ! あぁ~もう限界! あはははっ!」

にこ「にこがせっかく勝ったのに変な笑いで空気を壊さないでよ!」

あんじゅ「だって二人して真面目に正義とか邪道とか正しさとか義務とか熱く語ってたんだもん」

あんじゅ「だけど場所はカラオケ屋。内容はカラオケの点数勝負。場違い感半端なかったよ~!」

にこ「よりによってあんたがソレを言うんじゃないわよ!」

海未「あぁっ! 私はなんて恥ずかしい事を口走っていたのでしょうか!」

あんじゅ「海未ちゃん。正しさも間違えも、一人一人違うからこそ人間はこうして喧嘩したり、仲良く出来るんだよ」

あんじゅ「みんなが同じ正義感や義務感を持ってたらいざこざなんて起こりはしない」

あんじゅ「でもそんな平和じゃ笑顔も生まれない。にこはそれを海未ちゃんに教える為に仕組んだの」

あんじゅ「にこのやり方は褒められたものじゃない。でもね、それが多くの笑顔を生む為に悪魔の仮面を被ったの」

海未「多くの笑顔……ですか?」

あんじゅ「スクールアイドルになるってことは、見に来てくれた人たちを笑顔にさせることが出来るの」

海未「でも、今回のこととは絶対に関係ないではないですか」

あんじゅ「穂乃果ちゃんから聞いた話をまとめた結果、恥ずかしがり屋な海未ちゃんがアイドルをやる確立はほぼゼロ」

あんじゅ「親しくなってから誘ったとしても確立があるのかどうかも分からない」

あんじゅ「私の言ってること間違ってる?」

海未「間違ってないです。私がアイドルをやるなんてありえません」

あんじゅ「そうでしょう? でも、海未ちゃんにはアイドルの素質がある」

あんじゅ「そこでにこは考えたのが、自分が悪役になってでも仲間に引き入れるって」

あんじゅ「お互いが感情的にぶつかり合えば、それだけ仲も深まるってね。にこの駄目なところ言える?」

海未「アイドルなのに口が悪い。性格も最低。歌がそんなに上手くないですね。常識が少しズレてる気がします」

あんじゅ「海未ちゃんって親しい相手以外にそんなキツイ言葉って使わないタイプじゃない?」

海未「え、それは……確かにそうですけど」

あんじゅ「良くも悪くもにこの作戦に乗せられて仲が深まった。違うかな?」

海未「違う、とは言えませんね。そもそも演技とは微塵も思えなかったですから」

にこ(それはそうよ! にこは本気だったんだから!)

あんじゅ「海未ちゃんにはアイドルの素質がある。でも、恥ずかしがり屋という不安要素もある」

あんじゅ「もしかしたらアイドルには向いてないのかもしれない。でもね、そんなのは実はどうでもいいことなの」

海未「え?」

あんじゅ「海未ちゃんにとってさっきまでのにこはアイドルには到底向いてないように感じたでしょ?」

海未「はい」

あんじゅ「でも、そこそこ人気のあるスクールアイドルなんだよ」

あんじゅ「つまりね、アイドルに向いてるかどうかなんてことは自分達で決めるものじゃないの」

あんじゅ「やってみて、それを見てくれる人たちが居て初めて決まるものなの」

あんじゅ「極端な話になるけど、誰か一人でも応援してくる人が居るならアイドルに向いてるんだよ」

あんじゅ「だからさ、一度だけスクールアイドル見習いとしてライブを一緒に体験してみない?」

あんじゅ「もし見に来てくれたお客さんが海未ちゃんのことをアイドルに向いてないと思ったのなら辞めればいい」

あんじゅ「でも、誰か一人でも海未ちゃんの姿を見て笑顔になったのなら……」

あんじゅ「その時は、恥ずかしさなんかに負けないで臆病な自信を握り締めて続けて欲しいの」

あんじゅ「私達の本当の仲間になって欲しい。これがにこと私の邪道な我がまま。どうかな?」

海未「…………一度、本当に一度だけですよ?」

あんじゅ「うん! 練習を一緒にして、一度ライブを経験する。その後は海未ちゃんの意思に任せる」

海未「分かりました。部活も完全に引退した身です。運動代わりに参加させていただきます」

あんじゅ「じゃあ連絡先交換しよう!」

――同日 夜 にこあん

にこ「結局のところにこは噛ませ犬だったってことじゃない!!」

あんじゅ「にこが知らないから教えてあげるね」

にこ「何をよ!」

あんじゅ「マフィアのボスを裏から操る黒幕が大体の場合は情婦なんだよ」

にこ「一番の部下って話どこいったのよ!」

あんじゅ「部下じゃなくて男と女の関係なんだけどねぇ」

にこ「部下ですらないんかい!」

あんじゅ「や~ん! にこにーってば怒りすぎで怖いにこ~」

にこ「私が無駄に勉強させられた正しさとか邪道とかなんだったのよ!」

あんじゅ「嫌なことを勉強させられてストレス溜まったでしょ?」

あんじゅ「その発散相手が海未ちゃんであるからこそいい具合に海未ちゃんも応戦したのよ」

あんじゅ「穂乃果ちゃんから聞いた性格だと、よっぽどの理不尽な相手じゃないとあんなこと言わないだろうし」

にこ「ぐぬぬ! 納得いかない!」

あんじゅ「良いじゃない。にこのあれは全部作戦に従っただけって思ってくれたんだから」

あんじゅ「ということで牛肉を使ったカレーを明日は作ってくれるよね?」

にこ「あんたが一番邪道じゃない! この腹黒女!」

あんじゅ「確かににこの方が肌白いけど、私のお腹だって白いわよ」

にこ「捲って見せてるんじゃないわよ。……あぁ~、なんか何もやる気が起きない」

あんじゅ「駄目だよ。明日の二時間目の国語で宿題出てたでしょ。プリントやったの?」

にこ「今日は私にとって最悪の一日よぉ~」

あんじゅ「私は大変面白い一日でした☆」

にこ「あんた責任持って絵里に説明しておきなさいよ」

あんじゅ「そういうのはリーダーのお仕事だと思うな~」

にこ「バール買いに行かなきゃ!」

あんじゅ「変な使命感出す前に宿題するにこ!」

にこ「あんじゅも宿題も大嫌いにこ~!」

――十月三十一日 商店街ハロウィン特設会場 海未ファーストライブ

海未「こんなスカートが短いなんて聞いてません!」

にこ「自分の確認不足を人に押し付けるのは正しくないんじゃないの?」

海未「あんじゅ! にこの性格の悪さは地だったではありませんか」

あんじゅ「こう見えてにこも良いところがいっぱいあるんだよ」

にこ「待ちなさいよ! あんたの方がにこの少なくとも十倍は性格悪いでしょ」

にこ「それに今から衣装を作り直すなんて出来ないんだから、それで出るしかないのよ。リーダー命令!」

絵里「この後ライブだっていうのに、緊張感もチームワークの欠片もないわね」

海未「そもそもリーダーは絵里の方が向いているではありませんか」

絵里「そんなことないわよ。こう見えても、にこはリーダーに向いてるのよ」

海未「どこがですか! 無理やりに作詞させるような悪魔じゃないですか! 恥ずかしくて死にそうです」

にこ「ポエマーが何恥ずかしがってるのよ。一人で楽しむより、みんなを笑顔にする魔法になった方がいいでしょうに」

海未「私の作詞した内容がみんなを笑顔にする魔法。……いやぁ~! やっぱりアイドルはなしです!」

あんじゅ「一度ライブをするって約束でしょ」

絵里「海未の恥ずかしがりなのは何かトラウマとかあるの?」

海未「いえ、これは生まれつき性分です」

あんじゅ「三つ子の魂百までって諺あるよね?」

海未「はい」

あんじゅ「あれって嘘だよ。人は良くも悪くも変われるの。海未ちゃんが変われないのは自分でそう思い込んでるから」

あんじゅ「自分は恥ずかしがり屋なんだって、何度も何度も思うことで心がそうあり続けちゃってるの」

絵里「そうね。少し強引な話だけど、あんじゅの言ってることは正しいと思うわ」

絵里「今思えば私も思い込んでたんだと思う。バレエやってた頃に自分じゃ一位にはなれないんだって」

絵里「結局は誰よりも自分に影響を与えるのは自分の思い込みなのよ」

海未「だからと言ってどうしようもないではりませんか」

にこ「グダグダ言ってないでこの瞬間から変わればいいのよ」

あんじゅ「暴論ここに極まれだねっ」

にこ「あんたは見られることに意識し過ぎなのよ。今日は自分が上手くやれることだけを考えてなさい」

海未「ですが、それでは見に来てくれた人に――」
にこ「――シャラップ! あんたは《まだ》スクールアイドル候補生に過ぎないの」

にこ「ファンを満足させるのは私達本物のスクールアイドルに任せない」

絵里「その通りね。海未の些細なミスなんてこのかしこいかわいいエリーチカに集中してて気づかせないわ」

あんじゅ「もしもの時は私達が責任を持って海未ちゃんを隠すようにするから」

にこ「大体ね、あんたは唯一の年下なんだから少しは甘えなさいよ」

あんじゅ「流石にこにー部長。誕生日だけは誰よりも早いだけあるね」

にこ「真面目な時に茶々入れるんじゃないわよ」

海未「……では、お言葉通り甘えさせて頂きますね」

海未(人に甘えるなんて、いつ以来のことでしょうか)

絵里「私は妹が居るからお姉ちゃん役は板についてるわよ」

にこ「私も妹が居るし、同い年の妹モドキまで居るわ」

あんじゅ「にこにーお姉ちゃん大好きにこ~」

海未「ふふっ。正直、恥ずかしさで一杯なのは変わりませんが、練習してきたという一握りの自信を持って頑張ります」

にこ「最初の一歩なんてそんなもので十分よ」

絵里「でも踏み出すことさえ出来れば、歩みを止めない限りどこへでも行けるわ」

あんじゅ「SMILEの新しい冒険の始まりだね。私達のライブはこれからだぁ!」

――その晩 海未の部屋 海未ダイアリー

昔も形こそ違えど、似たようなことがあったことを思い出しました。

あれは私が他の道場との交流戦で初めて試合に出ることになった日。

今回のように羞恥心との戦いではなく、緊張との戦いでした。

子供ながら勝手に自分の家の看板を背負ったつもりになって、体が震えました。

頭も真っ白になって、試合をするには全く向かない状態。

そんな私を救ってくれたのが大切な友人である穂乃果とことりの二人。

場違いの手作りな旗を持って現れて、場の空気も読まずに声援をくれました。

勿論、二人は道場の外へ出されてしまったのですけど。

私の震えは止まりいつも以上の力を出すことが出来ました。

相手は二歳も年上だったので結果は負けましたけどね。

全ての試合が終わった後に普段は厳しい父が優しく頭を撫でてくれたのを覚えています。

その後、母に抱きしめられました。

温もりの中で初めて自分の意思で強くなりたいと願った。

その想いは穂乃果とことりがくれた私の大切な宝物。

こうして振り返ると、私は初めてを迎える局面では誰かに支えられないと一人で立てない弱い存在のようです。

それを教えたのがあの型破りで邪道を良しとする先輩と言うのが納得いきませんが。

正反対だからこそ、気づかせてもらえたのかもしれません……。

今日のライブ、いっぱいいっぱいでしたが、最後の方で余裕が出た時、小学生くらいの女の子と目が通いました。

時間にして二秒あるかないか。でも、そんな短い時間の中で少女の笑顔が脳に焼きつきました。

一人でも応援してくれたのなら、一人でも笑顔にさせることが出来たのならアイドル。

詐欺師の言葉を信じるような心境ではありますが、これを運命と信じたい。

だから、音ノ木坂に入学したらスクールアイドル一本で頑張ろうと決めました。

今はまだ小さく頼りない自信ですが、強大な羞恥心と戦い勝てる日を夢見て。

遠い未来、今日の選択が正しくなかったと思うかもしれない。

だけど、今この瞬間を生きる私はこの選択が正しいと信じています。

こんな風に思うことが既にSMILEの空気に毒されている証拠でしょうか。

この出会いが私の一生の不覚と笑える未来が一番の理想なのかもしれません。

目を瞑るとライブのことが思い出されて眠れませんが、そろそろ無理にでも眠ることにします。

にこ。あんじゅ。絵里。私の大切な仲間。

――某中学校 十一月一日 ことほのうみ

ことり「教えてくれれば無理してでも応援しに行ったのに」

穂乃果「そうだよ、海未ちゃん。どうして教えてくれなかったの?」

海未「唯でさえ恥ずかしいのに、二人が応援にきていたらステージに立てないところです」

ことり「でも、続けるってことはまたライブをするんだよね?」

穂乃果「アイドルには興味ないけど、応援に行くからね!」

海未「絶対に嫌です。二人には情報規制を張るように言っておきます」

ことほの「そんな~」

海未「……二人には自信あるライブを見て欲しいんです。だからそれまで待ってはくれませんか?」

穂乃果「海未ちゃん」

ことり「勿論だよ!」

穂乃果「いつ頃になりそうなの? 今度のバレンタイン辺り?」

海未「そんな早くは無理です! 私が高校三年生になった冬くらいでしょうか」

穂乃果「そんなの待ってられないよ!」

ことり「せめて来年の春までにして欲しいなぁ」

海未「やっぱり一生の不覚です! 私がスクールアイドルを目指すなんて、これは悪夢に違いありません!」

ことり「現実逃避しないで。なでなで~」

穂乃果「いつもの海未ちゃんの自信はどこいっちゃったの!?」

海未「本当は私は弱い女なんです!」


つづく! ネクストストーリー 一年目エピソード集(一年目ラスト)

◆縁日にて◆

――八月 夏祭り 絵里ファーストライブ後

亜里沙「お姉ちゃんとってもキラキラしてた! 綺麗だったよ」

絵里「ありがとう。バレエとは違うけど、こんな近くで見てくれる人が喜んで貰えるっていうのは癖になりそう」

にこ「癖になっていいのよ。私たちはスクールアイドルなんだから」

こころ「にこにーすごいドキドキ!」

ここあ「にこにーとってもキラキラ!」

にこ「二人の元気な声がにこにーの耳に届いてたにこ~」

あんじゅ「ねぇねぇ! 二人とも。私は私は?」

ここあ「あんちゃんもすっごいキラキラ!」

こころ「あんじゅちゃんもとてもドキドキ!」

あんじゅ「ありがとう! とっても嬉しいにこ♪」

会長「三人とも素晴らしかったわ」

にこ「私の妹たちの面倒をみてもらって助かりました」

絵里「にこ同様、日本に慣れてない亜里沙の面倒を見て頂いて本当にありがとうございました」

会長「気にしなくていいわよ。三人ともとっても良い子だったもの。うちの妹とは大違いだわ」

こころ「かき氷買ってもらったの! レモン!」

ここあ「イチゴ!」

亜里沙「お姉ちゃん、私もブルーハワイを買ってもらったよ」

にこ「お礼はきちんと言えたのかな?」

こころあ「ちゃんと言えたよ!」

にこ「よしよ~し。……会長さん。ごめんなさい、後で清算させて下さい」

絵里「にこと同じく後で清算お願いします。本当に申し訳ありません」

会長「私が好きだからさせてもらったんだから、二人とも無粋なこと言わないで」

絵里「そうはいきません。生徒会に入ってからも、こないだの件でもお世話になりっぱなしなんですよ」

会長「後輩のお世話をするのが先輩の役目よ。そういうのが好きだから生徒会長なんてやってるの」

にこ「だったら今度お弁当作ってくるので、それくらいは受け取って下さい」

あんじゅ「ブログでは伝わらない味に感動してくださいね!」

会長「それは楽しみね。喜んでその申し出を受け入れさせていただくわ」

絵里「でしたら私もお弁当を作ってきます」

会長「絢瀬さんは次期生徒会長として生徒数を増やす結果を出してくれればいいから」

絵里「にこと違って難易度が高すぎます!」

亜里沙「よく分からないけど、お姉ちゃんファイト!」

会長「こんな可愛い妹に応援されたら、お姉ちゃんとしては無理も可能になるでしょう?」

絵里「……ここまで計算してたってことはないですよね?」

会長「神様じゃないんだからそんな先まで読めないわよ」

にこ「会長さんのあの含みのある笑顔。あんたが時々浮かべる笑顔に似てるわね」

あんじゅ「えぇ~。にこってば私のことをどれだけ有能だと思ってくれてるの? 照れちゃうよぉ」

にこ「良いように受け取るんじゃないわよ」

こころ「にこにーお祭り!」

ここあ「ここあもっと回りたい!」

にこ「そうね。皆で回ろうね」

あんじゅ「疲れて眠くなっちゃっても私とにこで負ぶって帰るから全力で楽しもう!」

ここあ「楽しむ!」

こころ「えへへ♪」

会長「そうね。いつまでもこうしてたら勿体無いわ。お祭りの時間は平時以上に有限だもの」

絵里「そうですね。亜里沙も帰国が近いんだから遠慮なく楽しみなさい」

亜里沙「うん! 私ね、あの白いの食べたいなって思ってたの」

絵里「綿飴のことね。じゃあ、みんな逸れないようにきちんと手を繋いで行動してね」

会長「念の為にもし逸れちゃったらこの場所に集合しましょう」

にこ「二人とも分かったにこ? 一人になっちゃったら絶対にここに来るにこよ?」

こころあ「はぁーい!」

あんじゅ「本当に二人はかわいいなぁ。にこの妹は三人とも可愛い♪」

にこ「今さり気に自分を含めたわよね。あんたは可愛くないの」

こころ「あんじゅちゃんはかわいいよ!」

ここあ「あんちゃんかわいいよ!」

あんじゅ「うふふっ。ほら、私の可愛い妹達はにこにーより私を支持してくれたわ」

にこ「ぐぬぬ!」

絵里「ほら、馬鹿やってないで行くわよ」

亜里沙「お姉ちゃん。亜里沙は可愛い?」

絵里「亜里沙まで何を言ってるのよ。……誰よりも可愛いわ」

会長「本当に絢瀬さんはシスコンね」

亜里沙「しすこ?」

絵里「何でもないわ! 会長も変なこと言わないでください!」

会長「はいはい、ごめんなさい」

亜里沙「亜里沙ね、今日のこと帰ったら皆に聞かせるの!」

絵里「変なことまで伝えないでよ?」

会長「変なところや駄目なところも伝えられた方がいいわ。それが家族ってやつだもの」

絵里「良い事言って締めた顔しないでください。……でも、そうかもしれませんね」

絵里「逃げ出したことに対して、普通なら触れない部分にも真っ直ぐ口を出してくれる」

絵里「そんな家族が居たから私は立ち直ることが出来た。あと、お節介過ぎる誰かさんの所為ですが」

亜里沙「バレエしてた頃のお姉ちゃんより亜里沙は今のお姉ちゃんの方が大好き! だってね、本当にキラキラしてた」

亜里沙「亜里沙も日本に住む時にはお姉ちゃん達みたいにスクールアイドルやりたいって思ったの!」

絵里「私達とは入れ替わりになるから一緒にライブすることが出来ないのが残念ね」

にこ「何言ってるのよ。ここで歌わせてもらう時なら別にかまわないでしょ」

にこ「だってここは正規のメンバーじゃないとかそういうの気にしない、心の広い人たちに囲まれてる場所なんだから」

あんじゅ「そうそう。むしろ一緒に踊ってくれる子募集とかしても面白いかも☆」

ここあ「ここあおどるー!」

こころ「こころもおどりたい!」

あんじゅ「だったら一曲だけでも家で練習してみようか」

にこ「それはそれで面白そうね。でも、練習は大変よ?」

こころ「がんばるー」

ここあ「にこにーとあんちゃんと一緒だからへいきだよ」

絵里「あなた達は……本当に型破りね」

亜里沙「でも亜里沙も一緒にライブやりたい。それでね、お姉ちゃんと一緒に最高の笑顔浮かべたいの」

会長「ふふっ。これはもう未来の一つが確定しちゃったわね」

絵里「はぁ~。今日が私にとっての最後の息抜きになりそう」

会長「でも、悪い気分じゃないでしょう?」

絵里「残念なことに私の胸は最高にわくわくしてます。あの二人に毒されちゃったみたい」 (完)

◆矢澤にこの最良の一日◆

――十月第一土曜日(海未と出逢う前日)お昼 練習帰り

にこ「あんじゅ~。どうして秋なのにこんなに暑いのよぉ」

あんじゅ「今朝のニュースで異常気象だって言ってたでしょ?」

にこ「あんたがのん気にニュース見てる間、にこは朝ごはんの用意してるのよ!」

あんじゅ「えへへ。でね、今日は真夏日と同じくらい暑くなるんだって言ってたよ」

にこ「せっかく過ごし易い涼しさになってきてたのに」

あんじゅ「明日からはまた普通の気温に戻るみたいだよ」

にこ「風邪ひかないようい注意しないといけないわね。あんたもお腹出して寝るんじゃないわよ」

あんじゅ「そんなことしないよ~」

にこ「あー……にしても、暑いわねぇ。もはや熱いレベルよ。お風呂かっての」

あんじゅ「にこにー喉渇いたぁ」

にこ「あんた今幾ら持ってる?」

あんじゅ「えっとね、百円」

にこ「どうしてあと四十円持ってないのよぉ」

あんじゅ「そういうにこは?」

にこ「にこも百円なのよ」

あんじゅ「どうして後四十円も必要なの? 二人合わせれば一本買えるよ?」

にこ「さて問題よ。この暑さの中で水分を補給したら一気飲みする確立は何%位でしょうか?」

あんじゅ「120%くらいかな?」

にこ「つまり、一人しか助からないってことよ。悲しいわね、これが人間ってやつなのよ」

あんじゅ「別に私はにこが全部飲んでもいいけど」

にこ「そうやって偽善者ぶって好感度をあげようなんて卑怯よ!」

あんじゅ「いや、普段お世話になってるし」

にこ「ここはジャンケン勝負といきましょう。買った方が百円を差し出す。どう?」

あんじゅ「にこって自滅フラグ立てるの好きだよね。にこがいいならそれでいいけど。にこはいつも優しい」

にこ「どうして既に勝ったつもりでいるのよ!」

あんじゅ「だってにこが勝負事で勝ってる姿見たことないし」

にこ「にこは昔先出しのにこにーとして名を馳せたくらいジャンケンでは有名だったんだからね」

あんじゅ「ジャンケンで先出ししたら負けるの確定じゃない」

にこ「うっ」

あんじゅ「にこは小さ――幼い頃から変わってないんだねぇ」

にこ「ちょっと! なんで小さいって言いかけてから幼いに表現を変えたのよ!?」

あんじゅ「うふふ。別に深い意味なんてないよ?」

にこ「大有りでしょうが! まるで今のにこも小さいみたいじゃない」

あんじゅ「にこの心は広いよね。いつも私に勝ちを譲ってくれるんだもん」

にこ「ぐぬぬ! 絶対に負かしてやるんだから」

あんじゅ「じゃあ、いくよ? 一回勝負。当然ながら勝った方が百円貰えるルールだよ」

にこ「当然ね。じゃんけん!」

にこあん「ぽん!」

あんじゅ「――」

にこ「――」

あんじゅ「ま、負けた?」

にこ「にこの……にこの勝ち?」

あんじゅ「え、どうして? もしかしてにこじゃないとか?」

にこ「どう見てもにこよ!」

あんじゅ「だよね。……え、夢?」

にこ「現実よ! まったく、失礼なやつね。これがにこの実力ってやつよ!」

あんじゅ「ありえないけど、事実だもんね。私が負けて、にこが勝ち」

にこ「どんだけ信じがたい出来事だったのよ」

あんじゅ「もしかしたら今日はにこの人生で最良の一日なのかも」

にこ「大げさ過ぎるわ。どんだけ私が不幸だと思ってるの」

あんじゅ「二百円であれ買ってみたら?」

にこ「スピードくじ? あんなの当たる訳ないでしょ。募金するのと同じよ」

あんじゅ「いいからいいから。今日のにこはやれるにこにーだと思うの」

にこ「はぁ?」

あんじゅ「騙されたと思ってさー」

にこ「どんだけ私一人に水分補給させたくないのよ。あんじゅは器が小さいわねぇ」

あんじゅ「小さくてもいいから。騙されてみてよ」

にこ「しょうがない。ほら、百円よこしなさい。仕方ないから買ってやるわよ」

あんじゅ「さっすがあんじゅのにこーにこ!」

にこ「はいはい。……すいません、スピードくじ一口下さい」

店員「はい、一口二百円です。……はい、どうぞ。当たりますように」

あんじゅ「ありがとうございまーす! ささ、にこにー。隠し持っている私の一円玉でお削り下さい」

にこ「なんで一円隠し持つ必要があんのよ」

あんじゅ「一つの縁が長続きしますようにっていうおまじない。だから返してね」

にこ「いや、返すけど。普通ご縁がありますようにって、五円持つんじゃない?」

あんじゅ「いいのいいの。人は人。私達は私達」

にこ「もうそれでいいわ。じゃあ、削るわよ」

あんじゅ「うん! 私はあっち向いてるね」

にこ「好きにしなさい。どうせハズレなんだからガッカリするんじゃないわよ」

あんじゅ「現実はいつも厳しい。でも、奇跡はあるって知ってる」

にこ「スピードくじで使う奇跡があるなら、私はもっと他のことに使うわ」

あんじゅ「それよりまだー?」

にこ「最後の一つ空けるから待ってなさい。最後がハズレってのが定番だからね」

にこ「……って、嘘。いっいっいっ!」

あんじゅ「やっぱり当たった!?」

にこ「一万円が当たったわ! 一万円も当たった!」

あんじゅ「やっぱり今日はにこの人生で最大の最良な一日なのよ!」

にこ「本当ね。こんな奇跡が起こる日がくるなんて……人生って分からないわね」

店員(一等の二百万円が当たったならまだしも、一万円でよくそこまで喜べるわねぇ)

あんじゅ「にこ! この一万円を全部使って倍倍チャンス!」

にこ「する訳ないでしょ。すいませーん。当たったんで、現金に換えて下さい」

店員「少々お待ち下さい。……はい、どうぞ。一万円です。おめでとうございます」

にこ「ありがとうございます!」

あんじゅ「一枚で当たったんだよ? せめて十枚買えばもっと夢が広がるにこ!」

にこ「私はこの一万円という現実で十分なの。夢を追いかけるのはしないのよ」

あんじゅ「う~るる~」

にこ「前から気になってたけどその変な悲しみを表現した鳴き方やめなさいよ。馬鹿に思われるわよ」

あんじゅ「お気に入りだから駄目ー」

にこ「あんたのセンスって基準が分からないわよね」

あんじゅ「にこは私のお姉ちゃんなんだから理解してくれないと困るわ。駄目姉にこ!」

にこ「今にこお姉ちゃんは大変気分がいいから聞き流してあげるにこ」

あんじゅ「それでその一万円はどうするの?」

にこ「あぶく銭ってやつだからね、パーっと使うわ。持ってると本当に可能性を信じて宝くじ買っちゃいそうだし」

あんじゅ「夢を追いかけるのはいいことだと思うのに」

にこ「私の夢は小学五年の時に消えたの。それ以外の夢なんて持つ気はないわ」

あんじゅ「にこ程夢って言葉が似合いそうな人間なんて居ないと思うのに」

にこ「なぁに。何か買って欲しいものでもあるの?」

あんじゅ「これは私の本心だよ」

にこ「夢が似合う人間ってのがどんなものか、ラブライブ本戦でキラ星が出てれば理解出来るわ」

あんじゅ「……」

にこ「それより、買い物に行くわよ! あの子達に美味しい物買ってあげましょう」

あんじゅ「うん」

――八百屋

にこ「おじさ~ん。ちょっと旬には早いけどイチゴって置いてある?」

おじさん「うちには置いてないものなんてないさ。夏イチゴだってきちんとあるぜ」

あんじゅ「イチゴ買うの?」

にこ「前にここあが食べたがってたのよ。こういう機会じゃないと買えないからね」

あんじゅ「にこってば本当に素敵なお姉ちゃんだよね」

にこ「姉として当然のことをしてるだけよ。ということで、イチゴ2パック」

おじさん「それは……にこちゃんが買うってことかい?」

にこ「他に誰が買うのよ。異常気象のこの暑さでボケたの? おじさんまだ四十代でしょ?」

おじさん「四十歳になったばかりだから代は抜いて欲しいな。それはともかくな、にこちゃん」

にこ「何よ?」

おじさん「あのな、俺はしがない八百屋の親父だけどよぉ、相談に乗っても学がないから解決できないかもしんねぇよ」

おじさん「でも、困ってたら手を貸すし、俺のへそくりくらいなら金だって貸せる。そりゃ、大した金額じゃねぇけど」

おじさん「だから悪いことに手を出すなんてことはしないでくれよ。にこちゃんはこの商店街のアイドルなんだからよ」

あんじゅ「ぷふっ!」

にこ「ちょっと! なんで私がイチゴ買うだけで変な勘ぐりされてんのよ!」

あんじゅ「うふふふ♪」

にこ「あんじゅ! 笑ってないでこの馬鹿親父に説明してあげなさい!」

あんじゅ「うふふっ。あのですね、さっきスピードくじ一口購入したら一万円が当たったんですよ」

おじさん「あぁ……。なんだ、そうだったのかい。おじさん驚いちまったよ。ごめんよ」

おじさん「しかし、あんじゅちゃんは顔が良いだけじゃなくて、幸福の女神様にも愛されてるんだねぇ」

にこ「当てたのは私よ!」

おじさん「あのにこちゃんが一万円も当てた!? ちょっと、みっちゃん! 店に出てきてくれ!!」

おばちゃん「何よ騒がしい。ご近所迷惑よ」

おじさん「そんなことはどうでもいいんだ。あのにこちゃんがくじで一万円も当てたってさ!」

おばちゃん「そんなめでたいことがにこちゃんにだって!?」

にこ「どうして私が当てただけで大ごとにされてるのよ!」

―― 一時間後 矢澤家

にこ「何故か行く先行く先で逆にサービスされちゃったわ」

あんじゅ「普段どれくらいにこが運がないのか皆知ってるからね」

にこ「失礼極まりない話ね。でも、ありがたいわ」

あんじゅ「お肉は焼肉かな? それともカレーかな?」

にこ「本当にあんたはカレーが好きね。でも、今回はタレまで貰っちゃったから焼肉にしましょう」

あんじゅ「イチゴ買っただけでコンデンスミルクと野菜までサービスされちゃったもんね」

にこ「まだお金余ってるし、元メンバーの子達に差し入れで貰ったお饅頭買いに行きましょう」

あんじゅ「穂むらだったよね。やった! あれ美味しかったから楽しみ」

にこ「私たちの分じゃないわよ。日頃お世話になってるお婆ちゃんにお土産に買っていくの」

あんじゅ「なるほど。衣装に使った生地も悪いみたいに言ってたけど、十分良質だったもんね」

にこ「お婆ちゃんはそういう人なのよ。だからこうして返せる時に返さないと」

あんじゅ「長生きしたらあんな風なお婆ちゃんになりたいなぁ」

にこ「そうね。ああいう風なお婆ちゃんになれたら、幸せでしょうね」

あんじゅ「縁側で一緒に若い頃の話とかしたいね」

にこ「嫌よ。あんたと一緒にそんな長い間共に生きたらにこの胃が半分くらい減ってるもの」

あんじゅ「にこってばひど~い!」

にこ「あははっ。冗談よ。今は精一杯に青春を謳歌しましょう」

あんじゅ「そうだね!」

にこ「さ、早くお土産買ってお婆ちゃんのところに行きましょう」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんのご飯はいいの?」

にこ「あの二人は友達の誕生日パーティーに参加してるからお昼は要らないの」

あんじゅ「誕生日パーティーかぁ」

にこ「そういえばあんじゅの誕生日っていつよ? 私より後だってことは言ってたけど正確な日付聞いてないし」

あんじゅ「私の誕生日? ……にこと出逢った日にしておいて」

にこ「しておいてって何よ」

あんじゅ「私はあの日二度目の誕生日を迎えた。それでいいでしょ?」

にこ「……好きにしなさい。じゃあ、三月に誕生日会開いてやるわよ。特性カレー作ってお祝いしてやるにこっ」

あんじゅ「え、特性カレー? やっぱり私の誕生日は来月の――」
にこ「――さぁ! そんなことはどうでもいいから早く行くわよ!」

あんじゅ「にこの意地悪~!」

この時の私は、お婆ちゃんからお土産に人生初の松茸を貰うことになるとは知る由もなかったにこ。 (完)

◆伝統と新しい風◆

――十月 海未との勝負の翌日 放課後 音ノ木坂学院前

海未「正気ですか!?」

にこ「木を隠すには森の中っていうでしょ?」

絵里「予備の制服を貸して欲しいっていうから何かと思ったら……。敢えて間違ってるけど使うわ。頭痛が痛い」

あんじゅ「普通の頭痛以上にダメージ受けてるって皮肉言われちゃったよ」

にこ「バレはしないわよ。いくら生徒数が減ってるとはいえ、たった一人を見抜く先生なんて居ないわ」

海未「他で練習すればいいではないですか。どうして音ノ木坂に私が侵入して練習しなくてはいけないんですか」

にこ「海未の為でしょうが。恥ずかしがり屋のあんたが公園で練習して平気でいられる?」

海未「そんなの無理です!」

あんじゅ「見られること意識とか別として、まずは形になれば自信も付くだろうしね」

絵里「……生徒会長になったばかりだっていうのに、これがバレたらいきなり信頼なくしそうね」

にこ「その時は私の作戦だってきちんと先生に言うから大丈夫よ」

あんじゅ「泥を被るのは私達邪道シスターズにお任せだよっ」

にこ「何よそのダサいネーミング」

海未「正直嫌な予感しかしないのですが」

絵里「私もよ。なんせにこが居る時点でジョーカーを引いてるようなものだもの」

あんじゅ「どんな些細なお約束事でも引き寄せるのがにこの特性だからね」

にこ「どういう扱いよ!」

あんじゅ「でも、だからこそ私達共通点がまるでないようなメンバーが集まったって言えるよね?」

絵里「分かってるわ。無謀だけど、部長に従うことにしましょう」

海未「この中に常識人はいないんですか?」

にこ「悲しいけどね、この世界って常識だけじゃ回らないのよ」

海未「演技じゃなくてあれは本音だったってことじゃないですか!」

あんじゅ「まぁまぁ。昔のことは忘れて。心機一転で頑張ろう!」

海未「私はここを受験するんですよ? バレて受験不可になったらどうするんですか」

絵里「大丈夫。生徒会長として断言するわ。貴女のことは守るって」

にこ「その生徒会長を守るにこが一番偉いって訳ね」

あんじゅ「きゃー! 自分で言っちゃう駄目なところが大好きー!」

にこ「駄目って言うんじゃないわよ!」

絵里「まぁ、不安でしょうがないけど時間効率を考えるとここで練習出来る方が正直ありがたいわ」

海未「はぁ~。分かりました。一度ライブをすると承諾してしまった身です。従いましょう」

にこ「そんな残念な顔してるんじゃないわよ。仮にもスクールアイドルなんだから」

海未「仮の前に不本意が付きますけどね」

にこ「それから、学校内で私たちを先輩と呼ばれると困るから好きなように呼びなさい」

あんじゅ「にこがそんな些細なところに気づくなんて普通に驚き」

にこ「その位思い付いて当然でしょうが」

海未「分かりました。では、好きに呼ばせてもらいます」

絵里「じゃあこっそりと入りましょう」

――下駄箱

あんじゅ「やっぱり抜けてるところがあってこそにこだと思うよ♪」

絵里「少し見直したんだけど、にこらしいわ」

海未「やれやれ。本当にこの人が部長で良いのですか?」

にこ「上履き忘れたくらいで酷い言い様ね。しょうがじゃないでしょ、うっかりしてたんだから」

絵里「普通の学校案内ならスリッパでもいいけど、練習となると上履きがないとどうしようもないわよ」

あんじゅ「少しサイズが大きくていいのなら私の体育館履き貸すけど」

絵里「サイズが違うと怪我に繋がるから余りお勧め出来ないわのよね。今日は練習見学という形にしましょうか」

にこ「そうね。練習見ながら作詞してなさい」

海未「――待ってください! 今何かサラッと変なことを言いませんでしたか?」

にこ「にこは変なことなんて言わないわよ」

海未「その発言自体が既に変なのですが、作詞とか言いませんでしたか?」

あんじゅ「穂乃果ちゃんから聞いてるよ。ポエムが趣味なんでしょ?」

海未「なっなななっ!?」

絵里「クールかと思いきや、意外とオーバーアクションで動揺するのね」

にこ「うちは作詞担当が居ないのよ。だから海未に任せるわ。好きな様に書いて頂戴」

あんじゅ「作曲はピアノを習ってた私がするから安心してね」

海未「私に作詞なんて出来ません! そもそも、去年のポエムブームですらもはや忘れたい歴史なのに」

にこ「一人で楽しむポエムより、皆を笑顔にする魔法にする方が健全ニコ!」

海未「やめてください! 私を辱めて楽しいというのですか!」

絵里「そこまで嫌なら無理にとは言わないから」

にこ「そんな甘いこと言ってたら海未の為にならないわ。私はあんたなら出来ると思ってるから頼んでるのよ」

海未「それっぽい事言って誤魔化されませんよ。大体貴女は私のポエムを聞いたことすらないではないですか」

あんじゅ「いくつか穂乃果ちゃんが教えてくれたよ☆」

海未「ほ~の~か~!!」

先生「何を騒いでいるの、あなた達?」

絵里「申し訳ありません。ちょっと話が弾んでしまいまして」

絵里(よりによって学年主任の先生じゃない。百人近くの一年生を全員覚えてるなんてことはないと思うけど)

先生「あら? その子は……見たことない顔だけど、学年と名前を教えてくれるかしら」

絵里(もしかして全員覚えてるの!?)

あんじゅ(嗚呼……流石にこ。お約束磁石の称号をあげるにこぉ。しょうがない、私が誤魔化そう)

海未(どうすればいいのですか?)

にこ(願わくば保護者呼び出しか廃部になりませんように。よし、やってやるわ!)

にこ「にっこにっ――」
あんじゅ「――この子は生徒会の新しい試みの為に来てくれた中学生なんです」

先生「生徒会の新しい試み、ですか?」

あんじゅ「そうなんです。UTXが出来てからの音ノ木坂の生徒数の激減はグラフにしなくても明らかです」

あんじゅ「このままでは廃校なんて最悪の事態になるかもしれない。母校がないなんて思いをして欲しくない」

あんじゅ「その思いから独自の試みを実行し、まとめた物を先生方に資料として提出する予定でいます」

先生「それは構いませんが、許可なく他校の、しかも中学生を敷地に入れるのは問題があります」

あんじゅ「申し訳ありません。私が急かして強行させてしました。彼女にも無理強いをして申し訳なく思ってます」

あんじゅ「ですが先生。新しい試みが上手くいけば少しは生徒数が増加するかもしれないんです」

あんじゅ「私は初めて学校という場所を愛しく感じました。絶対になくなって欲しくないんです」

あんじゅ「それは伝統に逆らう行為になるかもしれません。先生方にとっては不快に感じるかもしれません」

あんじゅ「それでも私の我がままで生徒会長の絵里さんと中学生のこの子にも迷惑をかけてしまいました」

あんじゅ「でも、大好きな音ノ木坂に新しい風を与えたいんです」

先生「言いたいことは分かりました。ですが、それならまずは筋を通して行動するのがルールですよ」

あんじゅ「それだと駄目だと思いました。時間が掛かってしまうんです。来年度の入学生も増やしたい」

あんじゅ「だからこうして強行させてしまいました」

先生「貴女がやろうとしてたことはどういうことなんですか?」

あんじゅ「それは……」

あんじゅ(勢いに任せて適当に言っちゃったけど、肝心なところが思い付かない)

にこ「体験入部に似たようなシステムです。言わば体験音ノ木坂学院という感じです」

にこ「人って噂に流され易いじゃないですか。音ノ木は古いし生徒数も減っているから止めた方がいい」

にこ「こんな噂を聞いた子は本物を知らずに頭の中で想像した駄目な音ノ木坂が本物になってしまいます」

にこ「そういう子が増えることで生徒数は減ってしまいます。だから入試より先にこの学校のことを知って欲しい」

にこ「生徒数は確かに少ないかもしれないけど、部活にも一生懸命に励んでいます。本物を見て、体験して欲しい」

にこ「本物の音ノ木坂を見て、そこに居る優しい先輩たちに触れ合って受けるかどうか考えて欲しいんです」

絵里「体験に来た子と責任ある立場の人間が許可書を書き、問題があった場合は責任者が取る」

絵里「今回の場合は生徒会長である私が責任者ということになります」

絵里「部活を体験したいという子も居るので、先生達だけでなく部活をする生徒にも話を通す必要があります」

絵里「試しということでアイドル研究部である、スクールアイドルの体験をして貰おうということになったんです」

絵里「理事長に直接この話をして、駄目ならばこのままこの子を帰そうという流れでした」

にこ「アイドル研究部の部長は私なので、今回の責任者という立場は私が相応しいと思います」

絵里(にこは黙ってて)

にこ(絵里こそ黙ってなさいよ。責任は私が持つって言ったでしょ)

海未「皆が庇ってくれていますが、本当は私が無理を押して練習に参加させて欲しいと言ったからなんです」

にこえり(海未まで何を言い出すのよ!)

海未「私は来年この音ノ木坂を受けます。スクールアイドルになろうと思ってて、だから居ても立ってもいられなくて」

海未「先輩たちの好意に甘えてしまって、我がままを言ってしまったんです」

海未「ですから注意は私にお願いします」

先生「少々ここで待っていてください」

あんじゅ「いざとなるとにこは本当に頼りになるね!」

絵里「そんなことを言ってる場合じゃないわよ」

にこ「綺麗にまとめようとしてたのに、絵里とおまけに海未まで邪魔してきたんでしょ!」

海未「私も承諾してしまった以上責任があります。一人だけ高みの見物なんて許せません」

あんじゅ「でもどうしよう。かなり適当なこと言っちゃったけど」

絵里「いい案だと思ったわよ。即興だとは思えないくらいに」

にこ「悪知恵ならあんじゅに並ぶものはいないからね」

あんじゅ「うふふ」

海未「どうなってしまうんでしょうね」

にこ「上履きを持ってこなかったことが逆に使えるわ。私が強制した証拠になるもの」

絵里「一人で罪を被ろうとするんじゃないわ。だったら制服を貸した私が主犯の証拠になるわ」

あんじゅ「ここまで来たら皆で仲良く怒られるのがいいと思うな~」

海未「そうですね。連帯責任というか、このままでは埒が明きませんから」

先生「お待たせしました。中学生の貴女、取り敢えず今日はこのプリントに名前を書いて下さい」

海未「はい、分かりました」

海未(これは普通に生徒以外が入る時に書くプリントですね)

先生「急ぐのであれば明後日の放課後が会議があるので、それまでにプリントに纏めて提出してください」

先生「勿論、理事長の許可が下りればの話ですが」

絵里「ありがとうございます」

にこ「先生の鑑にこ!」

あんじゅ「流石私の大好きな音ノ木坂の先生です」

海未「はい、書けました」

先生「それから今日は上履きを用意していないようなので、スリッパを持ってきました」

先生「終わったら教師用の出入り口の方に返却する箱がありますので、そこに返して下さい」

先生「新しい風……。私の母校でもあるここが存続するには、必要なものなのかもしれませんね」

先生「それでは、私はこれで失礼しますね」

絵里「ありがとうございました!」

海未「……はぁ。寿命が三日は縮みました」

にこ「気を抜くのはこれからよ。ヘッドハンティングしないとなんだから」

あんじゅ「にこにーは本当に可愛いなぁ~♪」

にこ「そのニヤニヤした笑い方ヤメなさいよ!」

絵里「もう少し英語も勉強した方がいいわね」

海未「ああ、そういう意味ですか。寧ろその間違い方の方が難しいと思います」

にこ「よく分かんないけど、理事長を倒せば道は開けるわけよね」

あんじゅ「理事長は厳しい人なのかな?」

絵里「私も数える程しか会話したことないけど、厳しいという感じではないわ」

海未(こんな形でことりのお母さんに会うことになるなんて。なんとも言えない気まずさがあります)

にこ「さぁ! 鬼退治に出掛けるわよ」

あんじゅ「といことは! 今日の晩御飯は御褒美にチーズハンバーグなのかな? お肉お肉♪」

にこ「……いや、そういう訳じゃないけど」

あんじゅ「チーズハンバーグくれないなら鬼退治に付いて行かないにこ!」

にこ「ストライキ起こしてるんじゃないわよ。元々はあんたの提案でしょ!」

あんじゅ「邪道を行く私に常識なんて知らないも~ん」

海未「何やら仲間割れを始めたのですが……しかも子供のような低レベルな」

絵里「あの二人は姉妹みたいなものだから。そんな可哀想な顔をしないであげて」

絵里「ほ~ら! 二人とも未来の後輩の前なのよ。今日は私もお邪魔するから、食材は提供するわ」

あんじゅ「絵里ちゃんってば女神かも。女神属性エリーチカ科!」

絵里「それは本気でヤメて」

にこ「まったく。そんなことでやる気を出したりなくしたり。面倒な妹だこと」

あんじゅ「にこの料理とお肉が悪いニコ!」

海未「……やれやれ」

にこ「とにかく理事長退治に行くわよ!」

――理事長室

理事長「構いませんよ。面白い試みだと思いますし。きちんと細かいことを決めたのを明日提出して貰えるなら」

絵里(明日……。まぁ、明後日が会議なら理事長という立場から先に資料に目を通すのが当然だものね)

絵里「ええ、明日中に資料を纏めて提出させて頂きます」

にこ(ねぇ、あんじゅ。拍子抜けするくらいあっさりと許可がおりたわね?)

あんじゅ(ちょっと裏がありそうで怖くなるね)

にこ(それともにこの圧倒的部長力に押されたのかしら)

あんじゅ(うふふ。にこにーぶちょーすっご~い)

にこ(何よ、その反応。まるで見当違いみたいに思われるじゃない)

理事長「スクールアイドルといい、今回の件といい。なんだか今年度の新入生は中々に新鮮ですね」

絵里「学校には迷惑をかけないように心がけています」

理事長「それにしても、海未ちゃんがスクールアイドルに興味があるなんて驚きだわ」

海未「いえ、それは……色々と深い事情がありまして」

絵里「理事長は園田さんと面識があるんですか?」

理事長「ええ、と言っても今回の件で了承したのは当然ながら関係ありません」

理事長「海未さんは私の娘の友達なんです。小さい頃からお世話になってます」

海未「いえ、寧ろ私の方こそことりにはお世話になってます」

理事長「UTXに入学を決めたのは穂乃果ちゃんと海未ちゃんのお陰なんでしょう?」

海未「ほとんど穂乃果一人の功績です」

理事長「常に二人に支えられてきたあの子が一人でどこまで頑張れるのか、親としては少し不安ですけど」

海未「ことりは心がとても強いです。多分、私たちの中で一番。だから私は不安はありません」

にこ(何かにこがかなり空気な気がするんだけど)

あんじゅ(大丈夫だよ。にこが空気ならほとんどの人類が死滅しちゃうから)

にこ(私は細菌兵器かっての)

あんじゅ(もしくは、語尾がにこになっちゃう病になるにこ~)

絵里(二人とも場の空気を少しは読むにこ)

にこ(あんたまで使うんじゃないわよ)

理事長「そうだったらいいのだけど。友達が出来るかも心配ですし」

海未「穂乃果みたいな自由人に付き合ってきたのです、どんな人間とでも仲良くなれます」

理事長「そうかしら。あ、ごめんなさいね。つい気が緩んでしまいました」

絵里「いいえ。それではまた明日こちらに伺わせいただきます」

――部室

絵里「今日は練習どころじゃなくなっちゃったわね」

あんじゅ「ごめんね。私の所為で」

にこ「あんじゅの所為じゃないわ。寧ろ、お陰で合法的に海未を音ノ木坂に招くことが可能になるかもしれないのよ」

海未「私としては今月限りなので、こんな大事になったのが申し訳ないくらいですが」

絵里「今月限りになるかは置いておいて。でも、面白い試みであるのは確かね」

にこ「そうね。もしこれで生徒数が増えればスクールアイドルにスカウト出来る子も増えるかもしれないし」

あんじゅ「打算なしにこの学校にはいつまでも残って欲しい」

にこ「別に廃校が決まった訳でもないんだから、深く考えすぎたら駄目よ」

あんじゅ「うん、そうだね」

海未「とにかく、今は書類の製作の為に先程先生に挙げた点を纏める作業に移りましょう」

絵里「頼もしいわね。入学したら是非生徒会に入らない?」

海未「弓道部に入る予定ですし、家の事もあるので生徒会には入らないと思います」

にこ「入らないと思うのは弓道部も同じでしょ」

海未「何を言ってるのですか?」

にこ「だって海未が入るのはこのアイドル研究部になるんだから」

海未「では箇条書きで纏めていきましょう」

にこ「後輩の癖にスルーするんじゃないわよ!」

あんじゅ「まぁまぁ。そのスルーされる率の高さこそがにこの魅力なんだから」

にこ「そんな魅力熨斗付けて返却してやるにこ!」

絵里「二人とも遊んでないで真面目にやりなさい」

にこ「私は至って真面目よ。あんじゅがいつもふざけてるだけ」

あんじゅ「だってにこってば面白いんだもん」

にこ「理由になってないっての!」

海未「やはりここに居る時点で、詐欺にあった気がしてなりませんね」

絵里「でも、気づけばあの二人に毒されてると思うわ。私もそうだったし」

海未「ありえません。私がスクールアイドルを続けるなんて」

にこ「海未! この作業はあんじゅが代わるから、作詞やって!」

海未「だから私は作詞なんてやらないと言ってるではないですか!」

にこ「臆病な自信の意地ってやつを見せてみなさいよ」

海未「……はぁ~、分かりました。どうせ承諾するまでしつこくされるよりはマシです」

あんじゅ「そうそう。人間諦めも肝心だよ。諦めてからじゃないと見えない景色もあるしね」

絵里(もう完全に毒されてるわね。これは、きちんと先生を説得出来る内容に仕上げないと)

この案件は理事長の承諾と、あの時見つかった学年主任の後押しにより承認されることとなった。 (完)

◆画面越しの再会◆

――十月十二日 ラブライブ本戦一回戦

にこ「UTXのスクールアイドル。A-RISEか」

あんじゅ「どうかしたの?」

にこ「……見つけた。私の一等星」

あんじゅ「え?」

にこ「この子がキラ星よ」

あんじゅ「この子がにこの約束の相手」

海未「一体何のことですか?」

絵里「にこが小学生の時にあるレッスンを受けた時に再会を約束した子なんだって」

にこ「あの時感じた私の直感に間違いはなかったわね」

絵里「確かに……。にこが褒めちぎるだけあるわね。動きだけでなく、絶対的なカリスマ性」

海未「そこまで凄いでしょうか?」

海未(カリスマ性で言うならば身内贔屓かもしれませんが、穂乃果の方が凄いと思います)

にこ「現時点のスクールアイドルで個人なら間違いなくキラ星がトップだと確信してる」

絵里「ハッキリと断言するのね」

にこ「これを見てそう思わないやつはセンスがない証拠よ」

海未「私はスクールアイドルには疎いので分かりかねますが」

あんじゅ「私はにこの方がすごいアイドルだと思うけどな~」

にこ「あんじゅにセンスを求めてないから安心しなさい」

絵里「この子が個人でどれだけ魅力的でも、スクールアイドルはグループの魅力が勝負の決め手でしょ?」

にこ「そうね。A-RISEにあんじゅか絵里クラスのメンバーが一人以上居れば……優勝は確定してたわ」

あんじゅ「じゃあ二人組の今は難しいってこと?」

にこ「個人的には優勝して欲しいけど、そこまで甘くはない。でも、一年でUTXの代表なんて凄いわ」

絵里「遠慮ない位にベタ褒めね」

あんじゅ「私のこともたまには手放しで褒めてくれてもいいにこ!」

にこ「……この組み合わせだと決勝まではいけそうね。問題は誰が勝ちあがってくるかよね」

あんじゅ「にこにスルーされたぁ!」

絵里「初めて見る真剣なにこね。夢を諦めて尚、目標に向けて走る……か」

海未「少しはまともな部分もあるのですね」

あんじゅ「スクールアイドルに向ける気持ちは誰よりも真面目なんだよ」

絵里「そうね。たまに暴走する一面もあるけど、多分それは誰かさんの影響あってだと思うし」

あんじゅ「うふふ」

海未「このラブライブという大会は高校生の野球で例えるなら甲子園みたいなものですよね?」

絵里「そうよ。年に一度開催されてるの。基本的に予選は夏。本戦は秋」

あんじゅ「ただ、去年は夏に本戦があったみたいだから、必ずって訳じゃないみたい」

海未「その大会で再会とは随分と難しい条件ですね」

あんじゅ「でも、にこがリーダーのSMILEなら奇跡だって起こせるよ」

絵里「そうね。私がまた踊ってるくらいだもの。お礼に約束を成就させてあげるわ」

海未「こうやって関わった以上、止めた後も応援はしましょう」

あんじゅ「なんて事を言っていたのに、しっかりと正規のメンバーに加わる園田海未ちゃんでした」

海未「なんですかその不吉なナレーション! 私はスクールアイドルなんかにはなりません!」

にこ「あんた達うるさいわねぇ。人が数年振りにキラ星を見たっていうのに」

あんじゅ「あんじゅの顔を見て笑顔になるにこ!」

にこ「あんたの顔は毎日見てるからどうでもいいわよ。それにしても、まだまだ大きな差があるわね」

絵里「みたいね。もう少し練習メニューの方改善してみるわ。濃厚な短期な練習とかの方が効果あるかもだし」

海未「乗りかかったというよりは無理やり乗せられた船ですが、落ち着く呼吸等の仕方を教えます」

にこ「いいわね、こうやって皆で知恵を合わせて成長していくってのも」

あんじゅ「設備やレッスンの差は愛と努力で埋め合わせだね♪」

にこ「人をおちょくってばかりだけど、たまには良い事を言うわね。その通りニコ!」

海未「努力を継続出来る人間の心は正しさを覚えると父も言ってました」

絵里「じゃあ、今日のこの後の練習はなしにして、メニューの見直しをしましょう」

にこ「あんじゅは出来れば作曲の方の仕上げもお願い出来る?」

あんじゅ「任せて! 海未ちゃんが一気に書き上げてくれたように、私も一気に作曲するよ」

絵里「口では何だかんだ言いながら仕上げてくれる。これってなんて言うんだったっけ、ツンデレ?」

海未「誰がツンデレですか! 唯単に時間を掛けるのが恥ずかしかったからです」

にこ「当日ではお菓子とかも配るみたいだから、ステージ終わったら直ぐに衣装脱ごうとかしないでよ」

海未「そんな話聞いてないのですが!?」

にこ「にこだって昨日聞いたばかりだもの。商店街の催しなんだから貢献しないとね」

あんじゅ「トリックオアトリートだね」

絵里「亜里沙が居たら仮装に興味持ってた気がするわ」

海未「何故私はあの日あんじゅの言葉に了承してしまったのですか」

にこ「あんた後悔ばっかりしてると暗いって言われるわよ。明るく笑えって言ってるじゃない」

海未「あははははは!」

あんじゅ「ひぃっ! 顔が全然笑ってないのに笑ってる!」

絵里「は、ハラショー」

にこ「そんな笑い方するんじゃないわよ!」

海未「笑えと言ったのはにこじゃないですか」

にこ「楽しそうに笑えって言ったの。声だけ笑ってたら不気味よ」

海未「やはり私にはスクールアイドルが向いてないようですね!」

にこ「絵里に練習メニューを任せるわ。にこは海未にプリティな笑い方をマスターさせるから」

絵里「さっきの一体感台無しね」

あんじゅ「うふふっ。でも、これが私達らしいかなって思う」

絵里「仕方ないわね。お客さんを満足させる為にも、にこの約束の為にも、最高のメニューを考えるわ」

あんじゅ「じゃあ私も最高の曲を作るね!」

にこ「さぁ、鏡の前で笑顔を浮かべて可愛いポーズよ!」

海未「うぅ~拷問です。何故私がこんな目に……理不尽です」

にこ「泣き言は一昨日聞いてあげるから、今は笑顔で決め台詞よ、はい!」

海未「みんなのハート打ち抜くぞー! バーン♪」

にこ「いい感じね! ファンを釘付けにする必殺技、はい!」

海未「ラブアローシュート!」

にこ「次は可愛く見えるポーズよ!」

この日の出来事を海未は黒歴史という引き出しにしまうが、皆に散々ネタにされてしまうのは少し未来の話。 (完)

◆商店街にて立ち話◆

――十一月十一日 にこあん

おばちゃん「にこちゃんとあんじゅちゃんの日記のお陰で、うちの娘が料理を教えてくれって言い出してね」

にこ「うちの子達よりちょっと年上の小学四年生だっけ?」

おばちゃん「そうなのよ。遊ぶのに精一杯って感じで、家のことなんて言われないと手伝ってくれなかった子なのにね」

にこ「へぇ~。まぁ、最近うちには言われてもやれないでかい妹が居るからそれよりはマシだけど」

あんじゅ「にこってばひど~い!」

おばちゃん「あははっ。本当に二人は姉妹みたいだねぇ」

にこ「それどころか、うちのママも完全に娘扱いよ」

あんじゅ「矢澤家にはお世話になってま~す☆」

おばちゃん「家族ってのは増えるもんで良いんだよ。年を取るとそれが逆になっていくから、喜ぶべきことさね」

にこ「駄目な妹だけどね」

あんじゅ「うふふ。でも、話は戻るけどさー、私達のブログを見てくれて料理をするようになったって聞いてさ」

あんじゅ「にこには怒られちゃうかもだけど、ライブで見に来てくれた人達を笑顔にすることより嬉しいって感じた」

あんじゅ「小さなことかもしれないけど、誰か一人に影響を与えることが出来たって思うと胸が一杯になるの」

あんじゅ「こういう風に感じる幸せもあるんだって、初めて知った」

にこ「怒る理由がないわ。感性も幸せの形も一人一人違っていいの」

にこ「だからこそ私たちはそれぞれが違う輝きを表現出来る。あんじゅが海未に言ってたやつの別バージョンね」

にこ「そんな私たちだからこそ一人ではなく、一つのグループになれるのよ」

あんじゅ「にこ」

にこ「私はあんじゅとは違う考えだけど、あんじゅがアイドルとしての在り方をきちんと持っている」

にこ「それは自分のことの様に誇らしく思うわ」

あんじゅ「えへへ♪」

おばちゃん「うんうん、二人とも青春してるんだねぇ」

にこ「スクールアイドルは青春のシンボルにこ!」

あんじゅ「今が人生で一番輝いてるにこ!」

おばちゃん「そうかいそうかい。でも、さっきあんじゅちゃんが誰か一人に影響をって言ってたけど違うんだよ」

あんじゅ「どういう事ですか?」

おばちゃん「この辺の子には影響受けてる子がけっこう居るみたいよ」

にこ「本当なの?」

おばちゃん「ええ、本当だとも。志望校を音ノ木坂にすることにしたって子も何人も耳にしたしね」

にこ「でも、私たち自分で言うのもなんだけど、まだそんな人気なグループじゃないわよ?」

あんじゅ「部活なら地区予選三回戦にどうにか進めたレベルだと思うし」

おばちゃん「そういうのは子供達にとって関係ないんじゃないのかね」

おばちゃん「自分が憧れたり好きになったりするのに、他人の人気や評価なんて関係ないだろう?」

にこ「そう、かもね」

おばちゃん「にこちゃんやあんじゅちゃん達のライブを見て好きになった。だから同じ高校に入りたい」

おばちゃん「分かり易くて十分じゃないか。人生なんて突き詰めれば単純な方が良いってことに気づくもんさ」

あんじゅ「にこを見てるとそういうの分かる気がします」

にこ「どういう意味よ!」

おばちゃん「アイドルだから周りの目は気にしなきゃなんないのかもしれないけど、気にしすぎは駄目だよ」

おばちゃん「いつでも胸張ってさ、面倒な現実を跳ね返すくらいの自信持ってないとね」

あんじゅ「大丈夫ですよ。にこは自信《だけ》は大きいですから」

にこ「今すっごいだけって部分を強調したわよね!」

おばちゃん「二人のそういう普段の姿を見かける子達だからこそ、舞台の上の輝きがより増すのかもしれないねぇ」

にこ「そんな理由で人気を得るアイドル聞いたことないわ」

あんじゅ「ありのままの自分で頑張る系アイドル!」

にこ「ありのまま過ぎるわよ!」

おばちゃん「あらやだ。もうこんな時間。おばちゃんの話につき合わせてごめんね」

おばちゃん「年を取ってくると話が長くなる上に、若い子と話すと若返ったような気がしちゃってねぇ」

あんじゅ「いえいえ。凄い良い話をありがとうございます。仲間に是非聞かせます」

にこ「直ぐに自信が揺らぐ困ったちゃんなルーキーに耳にタコが出来るくらい言い聞かせるわ」

おばちゃん「そう言ってくれると気が楽になるよ。これ、美味しいから皆で仲良く食べてね」

にこ「いいのよ、おばちゃん。立ち話に付き合ったくらいでお菓子なんて」

おばちゃん「いいからいいから。商店街が活気付いてるお礼と思って受け取っておくれよ」

にこ「……分かった。今回だけだからね。じゃないと次回からおばちゃんと迂闊に話せなくなるわ」

おばちゃん「本当ににこちゃんは良い子だねぇ。それじゃあ、長々とごめんね」

あんじゅ「勇気付けられる話をしてもらった上に、お菓子まで貰っちゃったね」

にこ「貰っちゃった物は仕方ない。バームクーヘンみたいだけど、ここで一つ問題があるわ」

あんじゅ「にこがバームクーヘン嫌いとか?」

にこ「大好きよ。皆って言ってたけど、あれは矢澤ファミリーなのか、メンバーなのか」

あんじゅ「うふふ。それは矢澤ファミリーでいいんじゃないかな?」

にこ「そうよね? 絵里と海未にはお土産話だけで十分よね!」

にこあん「なんせ私たちは小悪魔だから!」 (完)

区切りがいいので今回だけ次回予告 ※予告と異なる場合があるんだって!


人々に元気を与え続けてきた少女

「はぁ~。最近退屈だなー」

けれど、今はその笑顔に陰りが見える

「穂乃果はずっと元気がないままね」

「ことりちゃんがUTXに入学しちゃったからね。園田さんもスクールアイドルで忙しいみたいだし」

「意外と繊細だったのね」

それはまるで、寒い冬に凍えるツバメのように

「あの子がそれで潰れちゃうなら、この先も乗り越えていけないもの。仕方ないわ」

「お母さん酷いよ!」

街の貧しい人達に金箔を与え、みすぼらしい姿になった王子のように

「穂乃果ちゃんが? でも……ごめんね。ことり、ライブが近いからずっと練習しなくちゃ駄目なの」

だけど、童話のような結末は存在しない

少女に元気を与えられ続けた人々は、それぞれの方法で少女に元気を返していく

「ここは部長の本領発揮といきましょうか。あんじゅ、あんたには苦労かけるけど良いかしら?」

「勿論♪ にこにーの妹は健気に頑張るっ」

「どうして私だけ仲間外れにするのよ。私にも何かやらせなさいよ」


【二年目 音ノ木坂プロローグ~幸福なお姫様~】


「私が穂乃果の王子になります。それでは駄目ですか?」

「……海未ちゃん。穂乃果の答えはね」

◆音ノ木坂クエスト ~Ver.暗躍のにこ~◆

――二年目 五月 お昼 音ノ木坂 部室の隣室

にこ「今、地獄の時間は終わったにこぉ」

あんじゅ「にこ! にこっ! ……もう手遅れだわ。窓の外の青空にはにこの笑顔が浮かんでるよ」

にこ「勝手に死なせるんじゃ、ないわよっ」

絵里「はいはい、ふざけないの。にこもきちんと練習終わりなんだからストレッチしなさい」

海未「濃厚な練習でしたね。流石に私でも疲れました」

絵里「底上げの為に基礎を繰り返し練習したからね。体の疲れ以上に精神的な疲労が強いと思うわ」

あんじゅ「ほらにこ。いつまでも死体ごっこしてないの」

にこ「ただ疲れて倒れてるだけでしょ」

海未「リーダーなのに真っ先にダウンするとは嘆かわしい」

絵里「これからは精神的にも鍛えていかないとね。一日三十分でいいからイメトレをするように心がけて」

あんじゅ「イメトレってライブで歌ってる時をイメージすればいいのかな?」

絵里「そうね。出来ればライブ前のお客さんの前に出るまでの緊張感ある場面からにしてね」

海未「それは厳しいイメトレになりそうですね」

にこ「このにこにーは不要なトレーニングだけど仕方ないわね」

絵里「にこに一番必要なトレーニングよ」

海未「にこは何かと直ぐに吠えますからね。それでは喉がガラガラになってしまいます」

あんじゅ「お淑やかなにこはにこっぽくないけどね」

にこ「言いたい放題言ってるんじゃないわよ」

絵里「じゃあ、そんな矢澤さんには今後の予定を発表してもらいましょう」

あんじゅ「わーぱちぱちぱち」

にこ「今後の予定は今週の半ばに部活紹介でライブがあるわ。この時に新曲の発表とするからそれまで日々練習ね」

にこ「そのライブを撮影して、編集後にネットにUP予定。新しい衣装は製作中だからもう少し待っておいて」

にこ「でも部活紹介なんだけど、新入生でにこのレーダーに反応を示すような子が居なかったのが痛いわね」

あんじゅ「私も探してみたんだけど、もう一歩って子なら三人居たんだけど」

絵里「こればかりはしょうがないわよ。寧ろ三クラスを維持出来るくらい新入生が居ただけありがたいわ」

にこ「逆に言うなら来年は更に期待薄になりそうってことよね」

海未(何故でしょう。ここで穂乃果の名前が出ないのが心がざわっとしますね)

にこ「まぁ、無理に人数増やす必要もないんだけど。でも、今のままだと二十位は近くて遠いわね」

あんじゅ「でも50位だよ? 固定ファンが多くなるといわれるゾーンまできたじゃない」

にこ「スクールアイドルファンにとっては30位以内じゃないとそこそこ人気程度に言われるわ」

海未「私の作詞が良くないんじゃないですか?」

絵里「何言ってるの、海未。あなたの作詞は胸を張るに相応しい出来栄えよ」

あんじゅ「そうそう。デーンって胸を張ろう」

にこ「あんたら二人が言うと嫌味にしか聞こえないんだけど」

海未「悔しいですがにこと同意見です」

絵里「海未なら直ぐに大きくなるわよ」

あんじゅ「そうそう。海未ちゃんなら可能性十分にあるよ」

海未「そうだと良いのですが……。母も姉も大きくないので不安です」

にこ「というかなんでにこに触れないのよ!」

絵里「だって、プロフィールに74とか書いてるけど、73の海未より明らかに小さいじゃない」

あんじゅ「それは言わないお約束だよ。にこの胸は本当に小さくて……ぐすっ」

にこ「あんた達はにこを日に一度はからかわないと死ぬ生き物なの!?」

あんじゅ「可愛さ余って更に可愛いってやつだよ~」

絵里「にこの纏う雰囲気がついついそうさせるのよね」

海未「最近あんじゅと絵里の気持ちが少なからず分かってきました」

にこ「あんたまで分かるんじゃないわ! たくっ。人選ミスったのかしら」

絵里「楽しんで踊れるんだから最高の人選じゃない。亜里沙も秋になるのが楽しみってはしゃいでたわ」

海未「亜里沙というのは絵里の妹さんですよね。ロシアに住んでいるという」

絵里「ええ。本来はこっちの学校に合わせて来年の春に引っ越してくる予定だったんだけどね」

絵里「少しでも早く日本に来たいってことで、今年の秋にこっちに引っ越す予定になったの」

あんじゅ「思いのほか早く皆で踊れるかもね」

にこ「練習や募集もするのを考えると、クリスマスなんかいいかもしれないわね」

海未「話が見えないのですが、募集とはなんですか?」

絵里「亜里沙やにこの妹さん達二人を含めたメンバー+募集した子達全員でライブしようって話があってね」

海未「滅茶苦茶じゃないですか!」

絵里「普通ならありえないことを平気でするのがこの二人だから」

あんじゅ「邪道こそが私達の生き方にこ!」

にこ「そういうこと。楽しいことは皆で共用して笑顔の輪を広げるのもありでしょ?」

海未「そうですね。結果が皆の楽しい思い出となるなら、型破りな意見にも同意します」

絵里「こういうのが続くと完全に自分の正しさを見失いそうで少し怖いけどね」

海未「ふふっ。確かに、そうかもしれません。ですが、それも悪くないような気がしてきました」

絵里「今日はまだ早いけど練習最終日だしストレッチをしたら解散にしましょうか

にこ「たまには話が分かるじゃない! 流石生徒会長ね」

あんじゅ「にこ、帰ったら何して遊ぼうか?」

にこ「……少しは私に休ませるって考えはないの?」

絵里「あ、そうだ。明日がゴールデンウィーク最終日だし、にこの家に泊まりに行ってもいいかしら?」

にこ「はぁ? どうしてよ」

絵里「私ね、お泊り会って一度でいいからやってみたかったのよ」

あんじゅ「いいね! じゃあ私もにこのお家に泊まる♪」

にこ「あんたの場合ほとんど私の家で暮らしてるみたいなもんだから今更だけど、まぁいっか」

にこ「正し私の部屋は狭いからね。二つの布団で三人寝ることになるわよ」

絵里「2.5人分でしょ? だったら平気よ。そこまで狭くはならないわ」

あんじゅ「そうだね」

にこ「ぐぬぬ……もう一々突っ込んでられないわ」

あんじゅ「海未ちゃんもどうかな?」

にこ「寝る場所がないわよ!」

海未「楽しそうですが、私は今日は穂乃果の家に泊まるので辞退させてもらいます」

絵里「二つの布団で四人で眠るのも楽しそうだったけど、約束があるなら仕方ないわね」

にこ「というか、考えたら絵里の家に行けば狭くないんじゃないの?」

絵里「駄目よ。そうしたらこころちゃんとここあちゃんと遊べないじゃない」

にこ「……あ、そう」

あんじゅ「あの二人は本当に可愛いもんね。絵里ちゃんの気持ち激しく分かるよ!」

絵里「勿論泊まらせてもらうんだから、食材は提供するわ。でも、料理はにこが作ってね。その方が美味しいし」

にこ「楽してるんじゃないわよ。絵里の料理だって十分美味しいじゃない」

あんじゅ「そうだよ。二人の料理が食べたいな☆」

にこ「料理も出来ないあんたは黙ってなさい」

海未「わ、私はチャーハンなら作れますよ」

にこ「誰もそんなこと聞いてないわ。海未の場合は多芸だから料理の一つくらい苦手があった方が可愛いわよ」

あんじゅ「私も多芸だよ! 薙刀に合気道にピアノに水泳に作曲。短距離走ににこをからかうことでしょ」

にこ「作曲以降はどうでもいいわよ。それにあんじゅと違って海未は掃除洗濯洗い物は出来るでしょ」

海未「それは当然です」

あんじゅ「布団干しは出来るもん」

にこ「それが出来るようになったのも最近でしょ!」

絵里「くすっ。本当に見た目とギャップのある姉妹よね」

にこ「こんな厄介な妹になるって知ってたら拾わなかったわ!」

海未「あんじゅはにこに拾われたのですか?」

あんじゅ「わぉ~ん♪」

にこ「あざといニコ!」

絵里「一人暮らしはどうあっても寂しい気持ちになることがあるから、拾われて正解ね」

にこ「でも最初の内はにこに一人暮らしだってこと嘘吐いてたのよ」

あんじゅ「心配かけないようにの配慮だよ」

にこ「部屋の中入るようになってから発覚したの。掃除もろくに出来ない癖に気遣うなってのよね」

絵里「可愛い配慮じゃないの」

海未「寧ろ私はあんじゅが一人暮らしであることを半ば忘れてました。絵里も一人暮らしでしたね」

絵里「ええ、最初はすごく寂しくて。とりあえずTVと電気は付けっぱなしにしてたわ」

にこ「随分と可愛らしいじゃない。どこぞの愚昧なんて夜中に電話で起こしてくるわよ」

あんじゅ「だって夜中に起きると怖いんだもん」

にこ「挙句パジャマのまま家に来て、そのまま泊まっていく図太さ」

あんじゅ「丑三つ時、二人で寝れば怖くない!」

にこ「最終的には朝食作る私より遅く起きてTVを見てる暴挙よ!」

あんじゅ「えへへ」

海未「……意外とにこは苦労人なのですね。ちょっと偏見がありました」

絵里「でも姉っていうのはね、そうやって頼られたりすると嬉しいものなのよ」

絵里「私もロシアに居た頃は夜中にトイレに行きたいって亜里沙に起こされたわ」

絵里「トイレまでの全ての電気を付けながら恐る恐る進む夜中の恐怖は今でも新鮮に思い出されるわね」

にこ「さっきからの話を纏めると、絵里って暗いのとか駄目なの?」

絵里「そんなことないわよっ! 本当に、本当よ!」

海未(可愛いですね。こんな必死そうな絵里を初めてみました)

あんじゅ(うふふ。これはいつか役に立ちそうな情報かも)

にこ(それはそうよね。高二になっても暗いのが怖いとかある訳ないもの)

絵里「何だかんだ手間が掛かる程、不思議と愛着が沸くものよねぇ」

にこ「こんな妹に愛着なんて要らないわ」

あんじゅ「にこってば照れちゃっても~!」

にこ「照れてないわよ!」

絵里「さ、締めのストレッチしましょう。三人ともよく頑張ってくれたわ」

にこ「キラ星と再会するまでは石に齧り付いてでも頑張るわ」

海未「これで綺羅ツバサが覚えていなかったら悲劇ですね」

えりあん「……あっ」

にこ「その意味深な反応止めなさいよ。まるで可能性があるみたいに思われるでしょ!」

海未「小学六年生となると五年以上前の話ですよね。多感な時期ですから忘れていてもおかしくないかと」

絵里「海未、それは流石にそれは冗談にならないわよ」

あんじゅ「大丈夫だよ。にこには私達が居るからね!」

にこ「慰めないでよ。キラ星がにこのことを忘れてる訳ないでしょ。……ないわよ」

海未「ですが、よく考えれば自分がスクールアイドルを志す切っ掛けになったのでしたら普通は覚えていますね」

にこ「落としてから掬い上げるとかあんたはジゴロか! 余計な心配させてるんじゃないわよ」

絵里「不安ならUTXに行けばいいのに」

あんじゅ「そう言えばそうだよ! にこが勝手にラブライブでって言い出してただけじゃない」

あんじゅ「本当の約束はスクールアイドルになってまた会おうって話だったんでしょ?」

にこ「四等星には四等星の輝きってものがあるの。それをラブライブ出場を果たして魅せ付けたいの」

海未「おや? にこも星を見るのが好きなのですか?」

にこ「そうね、星を見るのは好きよ。特に絶対に手が届かない一等星がね」

絵里「さ、お喋りはここまで。今度こそストレッチ開始!」

――同日 夜 穂乃果の部屋 ほのうみ

穂乃果「いやぁ~こうして海未ちゃんと沢山お話出来るの久しぶりで楽しいな」

海未「スクールアイドルの練習ばかりでしたから。作詞の仕上げもありましたし」

穂乃果「去年も十分驚いたけど、本当に活動してる話を聞いて二度ビックリだよ」

海未「恥ずかしくはありますが、でも今まで感じたことのない達成感があるんです」

穂乃果「達成感かぁ……。それってことりちゃんも感じてるのかな?」

海未「どうでしょう。ことりが加わってのA-RISEのライブはまだ先ですからね」

穂乃果「海未ちゃんの時とは違う意味で驚いたよ。まさかことりちゃんまでスクールアイドルやるなんて」

海未「寝耳に水というのが相応しいくらいの驚きでした」

穂乃果「夢の為にUTXに入って、そこでスクールアイドルの練習までしなくちゃいけない」

穂乃果「そうなると全くことりちゃんと遊べなくなったのにも納得だよね。何か怒らせちゃったと思ってたけど」

海未「情報規制を引くように言われてた訳ですからね。仕方ないですよ」

穂乃果「学校でことりちゃんのお母さんに会ったから話聞いたらね、帰りも遅いんだって」

海未「音ノ木坂と違ってUTXはスクールアイドルへの力の入れ方が段違いですから」

穂乃果「そうだよねー。初めて見に行った時驚いちゃったもん」

海未「普段はあそこでライブを行うようです。チケットは普通より安いそうですが、残念ながら完売でした」

穂乃果「海未ちゃんもかー。私も行った時は完売だったよ」

海未「ことりの初舞台を見えないのは残念ですが、仕方ありません」

穂乃果「なんだかさ、海未ちゃんもことりちゃんも凄いなー」

海未「穂乃果もやることがないのでしたら一緒にスクールアイドルをやりませんか?」

穂乃果「ううん、私はアイドルの良さって分からないから」

海未「人を惹きつける魅力でいうなら私とことりの中では穂乃果が一番なのですが」

穂乃果「それはずっと一緒に居たからそう思うだけだよ」

海未「そうは思いませんが、でも穂乃果がやりたいと思えない事を強制しても仕方ありませんね」

穂乃果「そうそう!」

海未「最も、勉強は別ですが」

穂乃果「うぅっ……分かってます」

海未「遅刻と宿題だけは気をつけてくださいね。ことりが居ないんですから」

穂乃果「分かってるてばー。きちんとしてるでしょ?」

海未「……四月時点で二回も遅刻してる人間が言える言葉ではありません」

穂乃果「だってだって! お母さんが起こしてくれないんだもん!」

海未「人の所為にするのは穂乃果の直すべき欠点ですよ。それに高校生なんですから一人で起きられて当然です」

穂乃果「穂乃果が朝弱いの知ってるでしょ?」

海未「直そうとしないからです。私の部の先輩なんて朝早く起きて妹達の朝ごはんまで準備してるんですよ?」

海未「おまけに自分と同い年の妹のお弁当まで作って。穂乃果にも見習って欲しいくらいです」

穂乃果「私はそういうの向いてないから無理だよ~」

海未「そんなだと次にことりに会った時に呆れられてしまいますよ」

穂乃果「ことりちゃんはそんな子じゃないもん」

海未「こんな事を言いたくないですが、ことりは今仲間と一緒に日々厳しい練習に励んでいるんです」

海未「それ以外でも学校でも新しい交流関係を築いています。余り堕落してるとことりに愛想尽かれますよ」

穂乃果「ことりちゃんはどんなに友達が出来ても穂乃果のこと大事にしてくれるよ!」

海未「自分で言っててそれは同意しますが、それってことりにただ甘えてるだけではないですか」

穂乃果「それでもいいじゃん」

海未「よくありません。ことりの為に背中を押した穂乃果はどこに行ってしまったんですか」

穂乃果「も~お母さんみたいなこと言わないでよ」

海未「穂乃果のことが心配だから言ってるんです」

穂乃果「海未ちゃんは穂乃果のこと嫌いなの?」

海未「嫌いだったならこんなこと言いませんよ。穂乃果のことが大切だからです」

穂乃果「……」

海未「そんな拗ねた顔しないでください」

穂乃果「だって~」

海未「もう直ぐ部活紹介があります。気に入った部に入ってみるのも一つの切っ掛けになるのではないですか?」

穂乃果「部活ねぇ」

海未「穂乃果はやる気を出せば誰よりも頑張る子ですからね」

穂乃果「う~ん、別にこれって言う部はないんだけどなー」

海未「見てやってみたいと思ったのがあればやってみればいいんです」

穂乃果「そうだね、最近やることないし。部屋に居ても暇だし」

海未「やることないのならお店を手伝うべきだと思いますが」

穂乃果「たまに手伝ってるよ」

海未「それは自主的にではなく、穂乃果のお母さんに言われてですよね?」

穂乃果「そうだけど。手伝ってるってことには変わりないでしょ?」

海未「やれやれ。困った子ですね」

穂乃果「そんなことよりもさ、雪穂も呼んでトランプでもやろうよ」

海未「トランプですか? 私は余り好きではないのですが……」

穂乃果「それは海未ちゃんが顔に出るからだよ。暇そうならお母さんも呼んで七並べとか大富豪なら平気でしょ?」

海未「そうですね。久々に穂乃果をギャフンと言わせてみせましょう」

穂乃果「あははっ。海未ちゃんには負けないよー! じゃあ、声掛けてくるからちょっと待っててね!」

海未(ことりの偉大さを感じます。どうすれば穂乃果はやる気を出してくれるのでしょうか?)

海未(正論をぶつけるだけの私のやり方じゃ駄目みたいです)

海未「……この世界は常識だけじゃ回らない、か」

海未(あの邪道を是とする二人なら、どういう手段で穂乃果にやる気を出させるんでしょうね)

海未「こんなこと考えてしまうとは、完全に毒されてしまいました」

――五月八日(火曜日) 放課後 一年生の教室

穂乃果「はぁ~。最近退屈だなー」

ヒデコ「穂乃果はずっと元気がないままね」

ミカ「ことりちゃんがUTXに入学しちゃったからね。園田さんもスクールアイドルで忙しいみたいだし」

フミコ「意外と繊細だったのね」

穂乃果「本人前にして意外とか失礼でしょ」

ヒデコ「進学してからどんどん元気がなくなってくよね」

ミカ「以前飼ってたハムスターを思い出すなぁ」

フミコ「不吉なこと言っちゃ駄目だよ」

穂乃果「私は元気だよ。それよりも何か面白いことないかな?」

ヒデコ「じゃあゴールデンウィークみたいに遊びに行く?」

ミカ「いいねいいね! 行こうよ! 私はボーリングしたい気分」

フミコ「久しぶりだし盛り上がりそうだね」

ヒデコ「ということで穂乃果的には面白いことに当てはまる?」

穂乃果「ごめん、面白そうだけど遊び過ぎて金欠だよ」

ミカ「えぇ!? だって今月まだ始まって八日目なんだよ?」

穂乃果「昨日海未ちゃんとゲーセン行ったんだけど、クレーンゲームで熱くなっちゃって」

ヒデコ「穂乃果って無駄に熱くなるタイプだからね」

フミコ「あと百円が止まらなくなるもんね」

ミカ「それで、取れたの?」

穂乃果「ううん。結局取れずに海未ちゃんに強制ストップさせられちゃったよ。とほほ……」

ミカ「だったら少しはお小遣い残ってるんじゃ?」

穂乃果「その後、ハンバーガー屋さんで自棄食いしちゃってね」

ヒデコ「無計画こそが生き様って感じだよね」

フミコ「じゃあ仕方ないね」

ミカ「そうだ! お金ないのならアルバイトしてみたら?」

穂乃果「バイトかぁ……。そんな暇あるなら穂むらを手伝いなさいってお母さんが言うだろうしなぁ」

ミカ「それもそっか」

ヒデコ「お饅頭屋の娘も大変ね」

穂乃果「よくお饅頭屋って言われるけど、穂むらは和菓子屋だよ」

ヒデコ「ごめんごめん。お饅頭が有名だからついね」

フミコ「うちのお母さんも穂むらのお饅頭大好きだし」

ミカ「私の家も両親揃って大好きだよ」

穂乃果「どうもありがとう。それじゃあ、私は帰るね。ばいばい」

ミカ「バイバイ」

ヒデコ「……結局駄目ね。音ノ木坂に入学してから穂乃果と散々遊び倒したけど、根本的な部分が折れてる」

フミコ「そうだね。それほど穂乃果にとってはことりちゃんが大きい存在だったんだよね」

ミカ「でもUTX行きを後押ししたのが穂乃果なんでしょ?」

フミコ「その点では正しいことをしたんだろうけど、それで穂乃果が報われないんじゃ可哀想だよ」

ミカ「ことりちゃんなら解決出来るんじゃないかな?」

ヒデコ「でも、あの子は今が一番忙しい時期でしょ。ファーストライブ目前なんだし」

フミコ「そうだよね。でも、一度連絡取るだけ取ってみようよ」

ミカ「そうだよ! じゃないとこのままじゃ穂乃果の元気が完全になくなっちゃう」

ヒデコ「分かった。今日の夜にでも電話してみる。ただ……」

フミコ「ただ?」

ヒデコ「ううん、複雑に考えても仕方ない。当たって砕けたらその後はまた違う事を提案すればいいだけだし」

――穂むら 雪穂

穂乃果「いらっしゃいませ。って、なんだ雪穂か。ちゃんと裏口から入ってきなさいよね」

雪穂「それよりお客さんに対しての挨拶が暗すぎるよ!」

穂乃果「え~そんなことないよ」

雪穂「無理に笑顔浮かべてるってバレバレだし、なんか痛々しいよ」

穂乃果「失礼なこと言わないでよね。無理なんてしてないし」

雪穂「いやいやいや。顔に大きく無理って書いてあるから!」

穂乃果「もう、うるさいなぁ。家に上がるならちゃっちゃっと上がりなさいよ」

雪穂「……ただいま」

穂乃果「おかえり~」

雪穂(あの元気の塊だったお姉ちゃんが日に日に落ち込んでくのをみるのは心苦しい)

雪穂(昔から私が落ち込んでると無理やりでも元気を与えてきたのに、私にはそれも出来ないのかな)

雪穂「何かあるんだったらさ、私に相談してよ」

穂乃果「別に何もないよ。あ、今日のおやつも鯛焼きだよ」

雪穂「……そう」

雪穂(どうすればいいんだろう。私じゃ何も思いつかない)

雪穂「そうだ。海未さん達のライブ近いんでしょ? 部活紹介でするらしいけど」

穂乃果「そうらしいね。見れるのは音ノ木坂の生徒だけだけど、後でネットにあげるって言ってたよ」

雪穂「へーそうなんだ。お姉ちゃんも海未さんと一緒にスクールアイドルやればいいのに」

穂乃果「何度も言わせないでよね。私はアイドルに興味ないんだってば」

雪穂「アイドルになくても、あんなに可愛い衣装着れるんだよ? 中には改造ドレスみたいなのもあったし」

穂乃果「ことりちゃんが描くドレスを見るのは楽しいけど、自分で着たいなんて思わないし」

雪穂「昔はお姉ちゃんシンデレラが好きで、お姫様になりたいって言ってたじゃん」

穂乃果「大昔の話でしょ。邪魔だから早く奥に引っ込みなさいよねー」

雪穂「……」

――夜 ヒデコ

ヒデコ「流石にこのままだと問題あるかなって」

ことり『そう、なんだ。あの穂乃果ちゃんが……』

ヒデコ「特待生だから結果が全てだし、人気スクールアイドルの一員になったから忙しいと思う」

ヒデコ「だけど何とか時間取ったり出来ないかな?」

ことり『ごめんね。ことり、ライブが近いからずっと練習しなくちゃ駄目なの』

ヒデコ「無理言ってるってのは分かってるよ。でもさ、今のままだと穂乃果が笑わなくなるんじゃないかって心配で」

ことり『穂乃果ちゃんの為だとしても私は今を捨てる訳にはいかないの』

ヒデコ「どうして?」

ことり『今の私は穂乃果ちゃんと海未ちゃんの分まで輝かないといけいないの』

ことり『それだけじゃない。批判する声が多いけど、それでも期待してくれるファンの為にも頑張らないといけない』

ことり『ツバサちゃんがそう教えてくれたんだ。それに、始めた頃から優しくしてくれる英玲奈ちゃんにも応えたい』

ことり『ファーストライブが終わるまでは少しの時間を削るのも難しくて、穂乃果ちゃんに会いたいけど』

ヒデコ「そっか……。そうだよね」

ことり『未来の穂乃果ちゃんと海未ちゃんに怒られないように頑張るの』

ヒデコ「今までのことりちゃんに穂乃果の真っ直ぐさが混じったみたい」

ことり『穂乃果ちゃんはことりの目標だから。そう言ってもらえるとすっごく嬉しい!』

ヒデコ「甘えちゃってたね。穂乃果のことはこっちで上手くなんとかしてみるから」

ことり『うん。みんなに愛される穂乃果ちゃんなら、絶対に大丈夫だって信じてる』

ヒデコ「そうだね。穂乃果を元気にしてみせる」

ことり『海未ちゃんはやっぱり忙しいの? ブログだと半分は料理の記事でちょっと分からなくて』

ヒデコ「部活紹介でライブするからこれからが佳境みたい」

ことり『そうなんだ。だから余計に穂乃果ちゃんが元気ないんだね』

ヒデコ「うん」

ことり『元気になってくれるか分からないけど、微力ながら出来ることはやってみるから』

ヒデコ「ありがとう」

ことり『こちらこそ、穂乃果ちゃんを心配してくれてありがとう』

ヒデコ「それとなく海未ちゃんにも相談してみるよ。それじゃあ、おやすみ」

ことり『おやすみなさい』

――九日(水曜日) 部室前 海未

海未(自分でも馬鹿げているとは思います。正気の沙汰とは思えない)

海未(穂乃果を除いて頼りになる存在と言えばまずはことりでしょう)

海未(次点で言うなら厳しくはありますが、やはり頼りになるのは両親ですね)

海未(更に次となると生徒会長である絵里ですね)

海未(……これだとあれですね。一番頼りにならない存在を挙げましょう)

海未(初対面ではただ普通の子でしたが、きちんと対面したあの日、ぶっちぎりで矢澤にこの名が刻まれました)

海未(なのに、どうして私は今の悩みをにこに相談しようとしているのでしょうか)

海未(穂乃果が元気がないと相談されて、よりによってにこに……毒されているというレベルじゃないですね)

海未(でも、やはり見てみたいのかもしれない。邪道な手段で私とことりの太陽が輝く姿を)

海未(受け入れがたい方法ですが、私の世界観を揺るがす程の理不尽)

海未(いえ、あれは結局あんじゅの手だったようですが、にこならなんかやってくれそうな気がします)

海未(最初はリーダーは絶対に絵里が良いと思ってたのに、時間とは恐ろしいものです)

海未(悪魔に魂を売ってでも救いたい者の気持ち。……それなのに思わず口元が緩んでしまいますね)

海未(取りあえずは部室に入ってにこと二人きりになるのが先決ですね)

海未「こんにちは」

にこ「あれ、連絡いってない? 今日は練習開始が少し遅れるのよ」

海未「すいません。立て込んでてメールを確認するのを忘れていました」

にこ「意外と抜けてるわね。今日は絵里が運動部の有志を集めて柔軟の大切さを教えるから一時間遅れるのよ」

にこ「生徒会とは関係ない仕事なんだけど、少しでも怪我のリスクがなくなるならってね」

海未「あんじゅが居ないようですが?」

にこ「あの子は最近本を読む喜びに目覚めたみたいでね。今は図書室で本を漁ってると思う」

にこ「その前は熱血学園物ドラマでその前は男の子向け漫画。飽き易いのか、熱し易いのか」

海未「そうですか。丁度いいタイミングです。ふふっ、余程穂乃果は運命に好かれているようですね」

にこ「はぁ?」

海未「いえ、なんでもないんです。にこに相談に乗って欲しいことがあるのですが」

にこ「ふっふーん! あんたもいよいよにこの圧倒的部長力を理解出来るようになってきたみたいね」

海未「あんじゅが居れば相談一つでそんな得意げになるにこの心の狭さに私は号泣ってところですね」

にこ「くっ! かなりリアルに思い浮かぶからやめなさいよ!」

海未「……真面目な相談事です」

にこ「茶化して悪かったわよ。でも、そんな真面目なことなら絵里の方が頼りになると思うけど」

海未「ええ、心の底からそう思います。でも、私はにこに相談したいんです」

にこ「馬鹿妹の入れ知恵?」

海未「あんじゅは関係ありませんよ」

にこ「……分かった。それで、どんな相談事よ」

海未「私の大切な友人の穂乃果の元気とやる気を取り戻したいんです」

にこ「いや、待って。そんなこと私に言われてもどう答えろってのよ」

海未「やる気が全くなかった私を無理やりスクールアイドルにしたのはにこではありませんか」

にこ「結局は全部あんじゅの手の平でしたってオチがついたでしょ」

海未「それでも、私をあそこまで不快にさせたにこの可能性を私は信じたい」

にこ「あんたは私をおちょくってんのか!」

海未「いいえ、本気です」

にこ「あんじゅに相談した方がいいでしょ」

海未「真っ直ぐな穂乃果には同じく真っ直ぐなにこじゃないと駄目だと思うんです」

にこ「真っ直ぐって言ったって、私はあんじゅ曰く邪道を突っ走ってるわよ」

海未「だからこそない筈の道に、ガラスの道を作って未来に繋げてくれると期待してるんです」

にこ「大体悪いんだけど、私は穂乃果って子と余り接触したことないから何も分からないんだけど」

海未「穂乃果の情報でしたらことりと並ぶくらい私が持っています」

にこ「そんな胸張って言われても……。海未が穂乃果を大切に想ってる気持ちは伝わるけどさ」

にこ「私が何かするのは滑稽っていうか、場違いな気がするのよね」

海未「お願いします。あなたにとって綺羅ツバサが一等星なら、穂乃果は私にとっての一等星」

海未「本来の穂乃果以上に輝く存在なんて居ない。私は絶対な自信を持って言い切れます」

海未「ですから、その輝きを取り戻す為に手を貸してください。私に出来ることなら何でもします」

にこ「…………。うん、あんたの熱意は十分伝わった」

にこ「でもね、受ける受けないは別にして一つ言うことがあるわ」

海未「何でしょうか?」

にこ「以前も言ったでしょ。あんたは年下なんだから少しは甘えろってね」

にこ「そもそも仲間でしょうが。それなのに何でもするとか対価上げてるんじゃないわよ」

にこ「それってつまりはにこが対価がないと何もしないケチな奴だって思ってる証拠じゃない」

にこ「部長にしてリーダーであるにこにーに甘えてみなさいよ」

海未「にこお願いです。私の一等星を輝かせる為に力を貸してください」

にこ「断る!」

海未「どうしてこのタイミングで断るんですか! あなたは私をおちょくってるんですか!!」

にこ「冗談よ。全力で手を貸してやろうじゃない。自慢じゃないけどね、にこの人望は厚いのよ」

海未「……ああ、今の一言で私の胸には不安しか残りません。選択を完全に間違えたようですね」

にこ「なんでよ!」

海未「ふふっ、冗談ですよ。頼りにさせてもらいます」

にこ「取り敢えず情報ね。穂乃果の情報が大量に必要だわ。何をやるにしてもね」

海未「どんな情報が必要なんですか?」

にこ「海未にとって穂乃果はお姫様ってことでいいのかしら。それで海未が王子様」

海未「そうですね。A-RISE入りが発表されたことりもまたお姫様です」

海未「ですが私とことりを引っ張って無茶ばかりさせて来たのが穂乃果です。泣くような目に何度も遭いました」

海未「それでも、不思議ですね。いつも結果的には笑顔が生まれるんです。遠い記憶になった今でも同じです」

にこ(私にはちょっと暗い感じの子にしか思えないんだけどねぇ)

にこ(でも、海未がここまで言うからにはこれを機に新メンバーとして迎え入れてみるのもありかもしれないわね)

にこ「三人の好きだった絵本って覚えてる?」

海未「そんな情報も必要なんですか?」

にこ「最近あんじゅが絵本も借りてきたりするから、懐かしくてついつい読んじゃうのよ」

海未「全く関係ないのですね。穂乃果はシンデレラ、ことりは眠り姫。私は幸福な王子が好きでした」

にこ「海未らしいチョイスだわ。王子様にお姫様……幸福な王子」

にこ「南ことりとの関係性は幼馴染でいいのかしら?」

海未「そうですね。穂乃果とことりが先に出会って、その後私が二人と友達になりました」

にこ「他に詳しく教えてくれる」

海未「元々私達三人は音ノ木坂に入学するつもりでした。ですが、UTXで被服科がその運命を変えました」

海未「ことりが特待生としてのスカウトがきたんです。穂乃果は止めたかったし、ことりも行く気がなかった」

海未「でも、私と穂乃果は持てない夢をことりだけが持つことが出来る。だからこそ夢の為にとUTXへ」

海未「穂乃果がかなり無理して、それでもことりの背中を押せた結果なんです。ことりは課題があって忙しくなった」

海未「去年のクリスマスイブを契機に、全く遊べない状態になったんです」

にこ「もしかしてスクールアイドルの勧誘?」

海未「ええ、オフレコだったらしく私達も発表されてから知ったのですが、綺羅ツバサに勧誘されたと」

にこ「流石キラ星ね。私達と同じこと考えて実行してたなんて」

海未「私もスクールアイドルを始めていたこともあって、事実上三人はバラバラのような状態になりました」

海未「穂乃果なら新しいことを見つけて元気にやるかと思ってたのですが、どうも気が抜けてしまったようで」

にこ「私が出会った時に既に陰りありだったものね」

海未「はい。でも、私と会ってる時はきちんと元気な姿を見せてくれてたのですが、今日友人に相談されました」

海未「昼休みに隠れて穂乃果を観察したら腑抜けてました」

にこ「聞けば聞くほど面倒そうな子ねぇ。元気になる魔法でもあれば掛けてあげるんだけど」

海未「本来の穂乃果の使える魔法です」

にこ(魔法……幼馴染……お姫様と王子……部活紹介……ことりは理事長の娘)

にこ(私のお婆ちゃん……商店街……ミュージカル……UTXと音ノ木坂の距離……衣装と新曲)

にこ「綱渡りになりそうね」

海未「え?」

にこ「ううん。海未が王子なら部活紹介の部隊で新曲を歌った後に穂乃果を勧誘すればいいわ」

海未「個人的に勧誘して断られています」

にこ「それは普通の海未としてでしょ? お姫様をお城に招待する王子のように勧誘してみなさいよ」

海未「恥ずかしいではないですか!」

にこ「相手の為にどれだけ泥を被れるのかってのは、分かり易い愛情表現の一つでしょ」

海未「……ですが」

にこ「お膳立てはきちんとしてあげるわ。今日はもういいわ。部長権限で練習は中止!」

にこ「取り敢えず海未は穂乃果のことノートに纏めて明日私に渡して」

海未「ですがもうすぐライブなのに練習を中止するのは――」
にこ「――いいから! 甘えたんだから最後までにこに甘えきりなさい」

海未「分かりました。では、家に帰って纏めてきます」

にこ「あ、そうだ。一つお願いしてもいいかしら?」

海未「何でしょうか?」

にこ「綺麗な小封筒持ってたら明日一緒に持ってきて」

海未「それくらいなら持ってますから明日持ってきますね。それでは、よろしくお願いします」

にこ「ええ、任せて。邪道を味あわせてあげる」

――部室 えりにこあん

にこ「ということでね、海未に相談されて今日は部活を中止にしたって訳」

絵里「あの海未がにこに相談するなんてねぇ」

あんじゅ「にこにーぶちょーの貫禄が出てきた証拠だねっ」

にこ「そのニヤニヤ顔で言われるとムカつくわ!」

絵里「何かいい案あるの?」

にこ「ええ! ここは部長の本領発揮といきましょうか。あんじゅ、あんたには苦労かけるけど良いかしら?」

あんじゅ「勿論♪ にこにーの妹は健気に頑張るっ」

にこ「……あんたが健気だった記憶がないのが不安ね」

あんじゅ「なんでよ~」

絵里「私は私は?」

にこ「絵里は特にないわ」

絵里「どうして私だけ仲間外れにするのよ。私にも何かやらせなさいよ」

にこ「これからやることは逆ドッキリに近いわ。すぐに顔に出そうな絵里じゃ駄目よ」

絵里「生徒会長を馬鹿にしてるの? きちんとポーカーフェイスくらい出来るわよ」

にこ「生徒会長なら……でも、駄目よ。もしもの時は絵里が危ない」

絵里「やれることあるなら危険でもするわ。こういう時に頼って貰えないと何の仲間よ!」

にこ「でも、最悪停学になるかもしんないわ。生徒会長がそんなことになったら信用なくすでしょ?」

絵里「それくらい良いわよ。私だって夢を諦めた人間なのよ? それくらい何ともないわ」

あんじゅ「ダークエリー参上だね★」

絵里「あんじゅはネーミングセンスが残念ね」

にこ「本当に危ない橋。ある意味で理事長に喧嘩売るような行為よ?」

絵里「ここで仲間に任せて私は安全な所に居る。そんなことをしたら亜里沙に叱られちゃうわ」

あんじゅ「うふふ。絵里ちゃんはシスコンだよね」

絵里「妹が可愛くない姉なんて存在しないわよ」

あんじゅ「だよね! にこも妹三人が可愛くて仕方ないもんね!」

にこ「そこが二人なら即答してたけどね。それで絵里、本当にいいのね?」

絵里「ええ!」

にこ「学校抜け出してもらうのよ? しかも、UTXで生徒会権限を利用することになるわ」

絵里「使える物は使わなきゃ。それが邪道シスターズのやり方なんでしょ?」

あんじゅ「その通りにこ!」

にこ「その覚悟があるならいいわ。で、あんじゅの方なんだけど、作詞が出来次第作曲よろしく」

あんじゅ「それって部活紹介がある十四日までにってこと?」

にこ「ええ。今回は本気で色々とヤバイわ。というか、これからお婆ちゃんのところに行かなきゃ」

あんじゅ「お婆ちゃんのところに?」

にこ「甘えるのは孫の特権! 今回は後輩の為に使える絆を全部使うわ!」

絵里「私は何をすればいい?」

にこ「絵里は家に来て夕ご飯作って!」

絵里「え、それだけでいいの?」

にこ「私にとっては重要な役目よ。あんじゅは元部員の子の絵が上手い子に会ってポスター依頼お願い」

あんじゅ「ポスター依頼を今から!?」

にこ「見に来る人数が少ないと誤魔化せないかもしれないから」

あんじゅ「よく分からないけど分かったよ!」


にこ「穂乃果本人やその友人に話をするのは明日ね。絵里はこころとここあが家に居るから開けて貰ってね」

にこ「食材はあるけど、作りたいのがあったら予算大奮発の500円以内でよろしく!」

絵里「それくらい私に出させて。今日のところは栄養ある食事作って待ってるから」

にこ「あんじゅとお母さんの分もだから六人分だからちょっと大変かもしれないけど、よろしく」

あんじゅ「じゃあ、私は早速残ってるかどうか確認してポスター依頼出してくるね」

にこ「ええ、悪いわね。絵は漫画みたいなのでもいいから。お願いね、頼りにしてるわ」

あんじゅ「あんじゅにお任せだよ!」

絵里「裏方だけど、私も邪道なやり方に心躍るわ。どんな仕掛けを持ってくるのか」

にこ「正直あんじゅと違って一つでも足りなければ詰むような稚拙なプランだけどね」

にこ「逆に上手くいくことがあれば、それは穂乃果がスクールアイドルするのは運命ってことだと思うわ」

絵里「素直に自分の功績だって誇りなさいよ。意外と謙虚なんだから」

にこ「うっさい! それじゃあ、私はお婆ちゃんの家に行くから部室の鍵よろしくね!」

絵里「車には気をつけてね」

にこ「にこは子供じゃないっての!」

――商店街 お婆ちゃんの店(呉服屋) にこ

にこ「ということなの。誰かミュージカルの衣装に詳しい人って居るかな?」

お婆ちゃん「ミュージカルの衣装……。そうさね、確か佐藤さんの長女がミュージカルの衣装を担当してたかねぇ」

にこ「本当!? 一生のお願い! その人と連絡取って欲しいの。大急ぎで」

お婆ちゃん「お婆ちゃんに任せなさい。しかし、にこちゃんの一生は何回あるんだろうね。ふぇっふぇっふぇっ」

にこ「昔は一生の意味を知らなかったのよ~」

お婆ちゃん「でも、嬉しいよ。こうして我がまま言って貰えることが」

にこ「迷惑じゃない?」

お婆ちゃん「迷惑なんかじゃないさ。もう明日があるかも分からないからね、必要とされることが嬉しいのさ」

にこ「何不吉なこと言ってるにこ! お婆ちゃんには百歳までは生きてもらうからね!」

お婆ちゃん「そこまで生きられるかねぇ」

にこ「お婆ちゃんなら絶対に大丈夫。にこの祝福があるんだから」

お婆ちゃん「それなら二百歳まで生きられそうだよ」

にこ「でしょ? それににこはおばあちゃん孝行する日がくるのを楽しみにしてるんだから」

お婆ちゃん「今でも十分孝行してもらってるよ。じゃあ、ちょっと待っててね。電話掛けてみるから」

にこ「本当にありがとう!」

――ハンバーガーショップ あんじゅ

あんじゅ「いつも手伝ってもらってるのに急にこんなことお願いしてごめんね」

元部員「いいのいいの。でも、私みたいに漫画絵で本当にいいの?」

あんじゅ「十分可愛い絵だし、これでポスター風に作ってくれれば本当に助かる」

元部員「OK! 部活紹介は一年生主体だけど、二年生や三年生も見にくるかもね」

あんじゅ「そうかな?」

元部員「少なくともうちのクラスにファンは多いよ。それに、恩もあるからね」

あんじゅ「恩?」

元部員「ほら、生徒会長が立案した音ノ木坂体験。あれのお陰でやる気を出した部も多いんだよ」

あんじゅ「あれは私達の強引な誤魔化しから生まれた偶然の産物だけどね」

元部員「良い結果に繋がったんだからいいじゃない」

あんじゅ「そうだね」

元部員「運動部なんてもしかしたら一団でSMILEを応援しに行くかも」

あんじゅ「ふふっ。それなら楽しみかも」

元部員「今回は学院内だし、音響とかの操作は私達で協力するよ」

あんじゅ「本当にごめんね! 私もにこも凄い感謝してるんだよ」

元部員「うん、知ってる。ファーストライブの一曲目……あれは泣きそうになっちゃったもん」

あんじゅ「笑顔の魔法だね」

元部員「最高だった。だから私達もあんじゅちゃんとにこちゃんが笑顔を作るお手伝いをしたい」

あんじゅ「ありがとう!」

――商店街 にこ

にこ「手先の器用な人が必要になるかもしれないの。そうしたら少しでいいから手伝って欲しいの」

おじさん「任せな! 頭は悪いが手先の器用さは昔から有名なんだぜ」

おばちゃん「頭の悪い方がもっと有名だったから頼りになるか分からないけどね」

おじさん「みっちゃん、そりゃないぜ」

にこ「期待してます! 今日は買い物じゃないのに時間取らせて申し訳ないです」

おじさん「そんな畏まらないでくれよ。お世話になってお世話する。それがここじゃ当たり前のことだろ?」

にこ「ありがとうにこ!」


おばちゃん「そういうことなら任せなさい。昔から針仕事は得意なんだから」

にこ「ありがとう! 実際に出来るかどうか分からないんだけど、出来たらお願いね」

おばちゃん「ああ、おばちゃんに期待してな」

にこ「期待してるにこ!」


お姉さん「確かに私は演劇サークルに入ってるけど、でもそんな衣装本当に出来ると思ってるの?」

にこ「無理だと思う?」

お姉さん「その発想が既に馬鹿か天才よ。で、今回は間違いなく前者だと思う」

にこ「……にこぉ」

お姉さん「でも私は天才より馬鹿の方が好き。だから無理でも手伝うわ」

にこ「いやいや、無理なら手伝って貰うことがなくなるでしょ!」

お姉さん「へぇ~。じゃあ、穂乃果ちゃんの慎重や足のサイズ。3サイズはどうするの?」

にこ「海未なら知ってるでしょ」

お姉さん「そっか……。いや、でもあの海未ちゃんが3サイズとか書かないと思うけど」

にこ「それもそうね。それにわざわざ聞くと気づかれるかもしれないし。手伝って!」

お姉さん「内田書店次期店長に任せなさいな」

にこ「台本というか、流れのことについてなんだけど、甘い部分があったら直して欲しいのよ。あのね……」

お姉さん「……ふんふん。相当無謀な流れだけど、逆に上手く行けば新メンバー加入のインパクト大ね」

にこ「でしょ? 固定とは別のカメラは誰かに撮影してもらって、編集すれば良い感じでしょ?」

お姉さん「新田電気店のお姉ちゃんは私に弱みがあるから、暗視でも綺麗に写るカメラ借りてあげる」

にこ「本当? ありがとう。すっごい助かるわ。でも、弱みって……」

お姉さん「いいのいいの。弱みも人徳の内ってね。使えるものは使ってこその作家よ」

にこ「……内田のお姉さんの物語は読みたくないわね。うちの大きな妹が好きそうな話っぽいし」

お姉さん「人を上手く誘導して操る。書いてる途中の出来事すら物語の一味にされている」

お姉さん「くふふっ。性根が腐ってるからこそ描ける物語もある」

にこ「頼る相手を果てしなく間違えたような気がしてならないけど、カメラよろしくね!」

――夕刻 矢澤家

にこ「良い子にしてたにこ?」

ここあ「ここあはいい子ー!」

こころ「いい子にしてたよ!」

あんじゅ「いつも良い子にこ!」

絵里「三人とも良い子だったわよ。あんじゅに絵本読んでもらってたみたいで」

にこ「てか、絵里は今のやりとりで一人返事が多いことに突っ込みなさいよ」

あんじゅ「うふふ。今日はロシア料理なんだって」

にこ「こころとここあが食べれるかしら?」

絵里「味見してもらったけど、平気みたい。もし駄目そうなら他の作るから言ってね?」

こころあ「だいじょぶー」

あんじゅ「味見とっても美味しかったもんねー」

こころあ「ねー」

こころあん「えへへ♪」

にこ「こっちの用意は明日話し合い次第でどうにかなるかって感じみたい」

絵里「にこが何を企んでるのかまるで見えてこないんだけど」

にこ「上手くいってからのお楽しみ。成功率は約十三万分の一ってところね」

あんじゅ「流石迷将にこ! 万に一つの可能性を遥かに超えてるね」

にこ「しょうがないでしょ。これくらいのことやらないと駄目な気がしたのよ」

絵里「無謀邪道も上手くいけば思い出の華に変わるわ。だったら綺麗に咲かせてみせましょう」

――深夜 園田邸 海未

海未「午前二時。もうこんな時間ですか」

海未(一つでも多くの物を書き込もうと思うと多くなって大変ですね)

海未(それに、やはり穂乃果のこと書くとことりのことまで書いてしまいますし)

海未(いつの間にか三人の思い出の日記のようになってしまいました)

海未(五十頁ですか。基準がないので多いのか少ないのか分かりませんね)

海未(本当に役に立つのかどうか不安ですが、これで大丈夫だと信じましょう)

海未「……ふぁあ」

海未(明日の朝練もありますし、小封筒を一ページ目に挟んで今日は寝ましょう)

海未「おやすみなさい、穂乃果。ことり」

――十日(木曜日) 部室 にこ

海未「おはようございます」

にこ「おはよう。今日から追い込みだからね。気を抜くんじゃないわよ」

海未「心得ていますよ。それより、用意してくるように言われていた物です」

にこ「ああ、ありがとう。どれどれ……」

にこ「あんた何ページ書いてるのよ!」

海未「ページ指定はなかったので五十頁程ですが」

にこ「にこには時間が足りないっていうのに、良くもまぁこんなに……いや、悪くはないんだけどね」

海未「それよりあんじゅはどうしました?」

にこ「本の返却ボックスに入れに行ったわ。こんな時間でも返却だけは出来るって便利ね」

海未「最近はレンタルショップ感覚の子が多いから、仕方なく設置したって図書部の先生が嘆いてるのを耳にしました」

にこ「なるほどね。でも、使う生徒がいるってことは、少なくともルールは守る気がある訳よね」

にこ「って、現実逃避してる場合じゃなかった! 情報と封筒ありがとう」

海未「いえ、他にも何かあるなら何でも言ってください」

にこ「大丈夫よ。先輩たちを信じてリラックスした心で歌えるようになることだけ考えてなさい」

にこ「あ、そうだ。一つだけ訊くことがあったわ。穂乃果のクラスメイトで仲が良いのって名前なんて言うの?」

――理事長室 お昼

理事長「それで今日はどうかしたのかしら?」

にこ「ええ、理事長に一つお願いがありまして」

理事長「お願い?」

にこ「お願いというか、欲しいというか」

理事長「よく分からないのだけど、それって何をかしら?」

にこ「理事長って顔も声も綺麗で身長も高いしプロポーションも素晴らしいじゃないですか」

理事長「そんなことありませんよ」

にこ「そんなことあります。アイドル研の目標の一つなんですよ」

理事長「そうやって大人をからかうものではありません」

にこ「からかってないんです。だからサインが欲しいなって」

理事長「サイン、ですか?」

にこ「はい!」

理事長「サインなんて生まれてこの方書いたことなんてないのですが」

にこ「うちのルーキーの海未もスクールアイドルなのにまだサインがなくて」

にこ「作るように言うんですけど、これがなかなか。だからフルネームを書いて貰ってる状態なんですよ」

理事長「ふふっ。海未ちゃん――園田さんらしいですね」

にこ「ええ。それで理事長の綺麗な字だけでもフルネームならありがたいなって」

理事長「それくらいでしたら構いませんよ」

にこ「ありがとうございますにこ! それで、サイン色紙用意しようと思ったら今月ピンチで」

にこ「だから申し訳ないんですけど、家にあった一番上等の紙がこれだったんですけど、これでも良いですか?」

理事長「小封筒ですか」

にこ「まさかチラシの裏やノートに書いて貰う訳にはいかなくて」

理事長「分かりました。ここに書けばいいんですね」

にこ「はいっ! サインなので綺麗な字でお願いしますっ」

理事長「分かりました。……よし、これで良いでしょうか?」

にこ「完璧です。ありがとうございます。ではこれで失礼しますね」

理事長「あ、矢澤さん」

にこ「はっ、はいなんでにこ!?」

理事長「……いえ、なんでもありません」

にこ「そうですか。それでは失礼しますニコ!」

理事長「何を考えているのか。子供達を信じるのも理事長の務めですね」

―― 一年生の教室 にこ

にこ「これは絶対に秘密だからね。誰かに喋ったらおしまいになるんだから」

ミカ「分かってます。でも私の友達のヒデコとフミコには良いんですよね?」

にこ「ええ。そっちには情報を流して何かあったら連携を取って」

ミカ「了解しました」

にこ「それからさ、魔法使いが着るようなローブとか杖や最悪魔法のステッキ持ってない?」

ミカ「魔法のステッキなら押入れの中にあるかもですけど、ローブの方はちょっと」

にこ「演劇部頼ろうとしたらうちに演劇部がなくってね」

ミカ「生徒数が多ければ多い程有利になる部活って、ここだと廃れちゃいますもんね」

にこ「そうなのよ。だけど、わざわざ用意するのはちょっと時間的にキツくて」

ミカ「なるほど。これは私とフミコの方で作ってみます。誰が着るんですか」

にこ「うちに居る大きい妹よ。身長は158でまだ伸びそうな気配があるわ」

ミカ「お互いに背の話題は禁句ですね」

にこ「……そうね。あんたも苦労してそうね」

ミカ「こればかりはどうにも出来ないですから」

にこ「まぁ、その話はまた今度時間がある時にしましょう。放課後直ぐに穂乃果と話たいんだけど」

ミカ「どこに誘い出せばいいですか?」

にこ「海未の目には触れたくないから、時間ロスするけど屋上ね。一年の教室から近いし」

ミカ「帰りのSHRが終わり次第屋上に向かわせますね」

にこ「お願いね」

ミカ「いいえ。こちらこそ穂乃果の為に骨を折ってくださって感謝してます」

にこ「骨折り損のくたびれ儲けにならないことを祈ってて」

――放課後 屋上 にこ

にこ「久しぶりね。高坂穂乃果さん」

穂乃果「お久しぶりです、にこ先輩。いつも海未ちゃんから聞いてます」

にこ「あなたに一つ聞きたいことがあったの」

穂乃果「私にですか?」

にこ「海未はあなたのことをお姫様で誰よりも輝いてる存在って言ってたわ」

穂乃果「海未ちゃんが」

にこ「私の目にはそうは映らないんだけど、その辺はもう信じるしかないからいいわ」

にこ「あなたにとって海未はどんな存在? 王子様ぽい?」

穂乃果「そうですね、海未ちゃんは頼りになる王子様。強くて綺麗でしっかりしてて。でもちょっと厳しくて」

にこ「ふぅん。……でも、正直私の目からはあの子は王子って柄じゃないのよね」

にこ「可愛いポーズとか好きで、可愛い台詞とか恥ずかしい歌詞とか考えついちゃうような子だし」

にこ「アイドル向けのお姫様って感じ。守らなきゃいけないお姫様が二人居たから王子をやってたんだと思う」

穂乃果「守らなきゃいけないお姫様」

にこ「それが嫌々だったなんて言わないわ。恥ずかしがり屋を考慮すれば必然的にそうなって当然」

にこ「でも、いつまでも守られるお姫様やってる様な奴の王子にはさせたくないのよね、私は」

にこ「手っ取り早く言うとね、海未は私たちの魔法で王子なんか似合わないくらいのお姫様にしてやるわ」

にこ「それでもあなたが困ってるとしれば王子になって助けに行くでしょうね。今もそうよ」

穂乃果「何を言ってるのか、ちょっと意味が……」

にこ「あ、ごめん。ちょっとミュージカル脳になってたわ」

にこ「つまり……なんだっけ? そうそう、あなたはいつまで海未に王子であることを望み続けるわけ?」

穂乃果「私は別に望んでなんていないし」

にこ「落ち込んでいれば海未が構ってくれる。練習さえなければ遊んで貰える。そう思ってないと断言出来る?」

穂乃果「……」

にこ「もう一人の大切な幼馴染の背中を押したのは正直偉いと思う。誇れることよ」

にこ「でもその後、あなたはずっと元気がなく落ち込んでいってるだけでしょ?」

にこ「現実ってのはいつも厳しいの。それでも笑顔を浮かべた奴だけが僅かの幸せを掴めるのよ」

にこ「あなたは笑顔も浮かべられないような癖に、人に守ってもらって幸せになりたいって嘆いてるだけ」

にこ「高坂穂乃果! あんたの好きだったシンデレラを思い出しなさい。不幸でも笑顔を浮かべてた子でしょうが」

穂乃果「シンデレラ」

にこ「あの子はね、どんなに辛い現実でも健気に頑張って、だからこそ魔法使いも手を貸した」

にこ「あんたみたいに私は落ち込んでます。私は不幸ですオーラを発して腐ってなかったわ」

穂乃果「でも、シンデレラは物語の登場人物だし」

にこ「私の大きい妹は魔法使いなのよ。あんたが心入れ替えるのならとびっきりの魔法を掛けてあげられる」

穂乃果「とびっきりの魔法?」

にこ「守られるだけで海未に王子を押し付ける側、つまりお姫様から王子様に変われる魔法」

穂乃果「言ってることがさっきから可笑しいんだけど」

にこ「本当のことなんだからしょうがないでしょうが!」

にこ「ただね、考えてみて。幼馴染のことりはあのUTXのスクールアイドルの座を射止めて努力している」

にこ「確か明日が初ライブよね。多くのアンチに囲まれてる状態で歌わなきゃいけない。相当の恐怖でしょうね」

にこ「それでも歌うことから逃げる道を選ばない。その心は既に守られるだけのお姫様じゃないわ」

にこ「海未もステージに上がる直前は緊張は抜けないながらも、人前で歌う時にそのことを感じさせない」

にこ「二人に相応しい覚悟をみせなさいよ。それとも、いつまでも甘えてるだけの存在が良いの?」

穂乃果「」

にこ「いきなりほとんど関係ない私に言われても頭も心も付いてこないでしょうね」

にこ「ただ四日後。つまりは部活紹介の日に私はあんたに決断を迫る」

にこ「王子になる覚悟があったら、心の剣を持って、右手を大きく上に突き上げなさい」

にこ「そうしたら私の大きい妹があんたに魔法を掛けてあげる。そうすれば運命は変わるわ」

にこ「ま、あんたのクラスの子に頼んであるからさ。当日はその子たちの指示に従いなさい」

穂乃果「意味が全く分からないよ」

にこ「現段階では混乱させるだけのことを言ったわ。でも、大いに悩みなさい」

にこ「現実に傷ついて傷ついて傷つけられ続けて、人は成長すんのよ」

にこ「でも、だからこそ生きてるって実感出来るの。あんたも一人で立って生きてみなさい」

にこ「そうすれば人の絆のありがたみを知ることが出来るわ」

穂乃果「訳が分からないよ」

――商店街 お婆ちゃんの店 にこあん

あんじゅ「聞いてたけど、私も全然意味が分からなかったよ」

にこ「穂乃果の話? だって適当にそれっぽいこと言っただけだもの」

あんじゅ「えぇ~」

にこ「取り敢えず悩ませることが第一目的だから。突如親しくない先輩にあんなこと言われたら悩むでしょ」

あんじゅ「その前に当惑しちゃうよ」

にこ「何でも良いわ。魔法を掛けられるようになって貰えないと困るけど」

あんじゅ「私が魔法使いするの?」

にこ「ローブとステッキは穂乃果の友達が用意してくれるわ。周りから愛されてるわね」

あんじゅ「いやいや。にこの方が愛されてるじゃない。こんなことで人が集まるなんて」

にこ「商店街の人はファミリーだもの!」

おばちゃん「流石にこちゃん。良いことを言うねぇ」

お姉さん「しかし、これは本当に完成するのかしら?」

佐藤「かなり難しいですし、完成しても実際に成功出来るか現段階では不明です」

にこ「でもミュージカルで衣装作ってる方に来てもらえて嬉しいです!」

佐藤「私の母が懇意にしてる呉服屋の店主に言われたらね。それ以上に話を聞いてみて面白いと思ったし」

あんじゅ「意外とチャレンジャー!」

佐藤「不思議なことを再現したいなんて奇特なこと考えなきゃ、ミュージカルの衣装なんて関わらないわよ」

にこ「無駄に言い切ったわね」

あんじゅ「信念を持つってことは素敵だね」

佐藤「分担して成功しそうなものを着てもらう。ありえないことですけどね」

にこ「でも、成功すれば素敵ですよね?」

佐藤「最高ね。王子って言えばカボチャパンツだって私は思ってるし。いいわよね、男のあの格好」

にこ「いえ、着るのは女の子なんですけど」

佐藤「萌えだわ」

あんじゅ「……信念が腐ってる場合はちょっと痛い人だよねぇ」

にこ「何はともあれ、場所提供までしてもらっちゃって、お婆ちゃんごめんね」

お婆ちゃん「良いんだよ。寧ろね、こんな風に人が集まるのが懐かしくて嬉しいくらいだよ」

にこ「懐かしい?」

お婆ちゃん「昔は特にこれという用事がなくても、人はこうやって集まったもんさね」

おじさん「そういや、昔は親父がよく俺まで連れ出して。飲み会の場だから退屈もしたっけなー」

おばちゃん「あったあった。誰かが他の子供連れてきてる時ならいいけど、一人だと早く帰りたくてね」

お婆ちゃん「結局子供は先に寝ちゃって、酔っ払った親に背負われて帰ったもんさね」

あんじゅ「うふふっ。なんだか楽しそう」

にこ「簡単に目に浮かぶ光景ね」

お婆ちゃん「針仕事だってね、祭りみたいな物がある時はこうやって集まってやったんだよ」

おばちゃん「今よりずっと生地が大事にされていた時代だからね」

おじさん「解れのあるハッピでもよ、すっごい嬉しいもんだったぜ」

お姉さん「これもある意味では祭りよね。一人の少女の為にって、まるでドラマみたい」

あんじゅ「成功したら後にドラマ化、そして劇場化確定だね!」

お姉さん「いいわね。じゃあ、ドラマ化の前にうちの劇団でミュージカル風にアレンジして公開しましょう」

にこ「夢を語るのはもう少し形になってからにしなさいよね」

絵里「夜食の方できましたよ。おにぎりですけど、種類は豊富なので手を休めて食べてください」

にこ「あんたも生徒会の仕事とか宿題とかあるだろうに、悪いわね」

絵里「何しようとしてるのかまだ分からないけど、楽しんでるわ。私は途中までロシアで暮らしてたから」

絵里「今本当の日本の暮らしっていうのを体験してるみたいで幸せよ」

にこ「見た目と違って安上がりな女ね」

あんじゅ「そんなこと言いながらにこってば口元緩んでる~♪」

にこ「うっさいわね! 月曜日の朝までに完成させなきゃいけないのよ。無駄口叩いてる場合じゃないわ!」


次回【音ノ木坂クエスト ~Ver.幸福なお姫様~】につづく! 近日公開予定。

前回の訂正:フミコは呼び方『穂乃果ちゃん』でした。キラ星との出会いは小学五年生です。あと、トリップのミス。

◆音ノ木坂クエスト ~Ver.幸福なお姫様~◆

――五月十一日(金曜日) 帰宅後 居間 雪穂

穂乃果「……はぁ~。守られるだけのお姫様とか、昨日は意味分からないこと言われたなぁ」

穂乃果(にこ先輩は一体何を言いたかったんだろう?)

穂乃果(海未ちゃんが無理して王子様をやってた……かぁ。そうだったのかな?)

穂乃果「あぁ~もう。訳わかんないよぉ」

雪穂「ただいま~」

穂乃果「おかえり」

雪穂「お姉ちゃん日に日に元気なくなっていってない?」

穂乃果「何それ?」

雪穂「本当に自覚ないの?」

穂乃果「自覚ないも何も、別に元気がないわけじゃないし。二日前にも似たようなこと言ってなかった?」

雪穂「言いたくなるくらいにお姉ちゃんが元気ないんでしょ」

穂乃果「もう、雪穂うるさい。私部屋に行くから」

雪穂「まだ話は終わってないよ!」

穂乃果「私には雪穂の無駄話に付き合ってる暇はないの」

雪穂「……お姉ちゃん」

――穂むら カウンター内

雪穂「ねぇ、お母さん。今ちょっといいかな?」

ママ「今は特にお客さん居ないからいいけど。何か食べる?」

雪穂「ここで食べるのお母さんの悪い癖だよ」

ママ「だって、奥で食べててお客さんが来たら困るじゃない」

雪穂「店主がカウンターで商品食べてる方が反応に困るよ!」

ママ「別にいいじゃない。大体は古くからの常連のお客さんなんだから」

雪穂「一見さんにも気を配ってよ」

ママ「雪穂はうるさいわねぇ」

雪穂「お姉ちゃんみたいに私が悪いみたいに言わないでよ」

ママ「ふぅん。ということは、話って言うのは穂乃果のことなのね」

雪穂「……うん」

ママ「もう少し考える力を養ってくれれば、あんな風に腑抜けたりはしなかったんだけどね」

雪穂「あんなお姉ちゃん今まで見たことないよ」

ママ「今まではことりちゃんと海未ちゃんがいつでもあの子の傍に居てくれたから」

雪穂「そうだよね」

ママ「でも、正直私としてはありがたかったわ。これが高校卒業してからだったら大変なことになってたもの」

ママ「穂むらを継ぐ前にこういう経験を与えてくれたことに感謝ね」

雪穂「お母さん酷いよ!」

ママ「酷いも何も、本当のことでしょ? あんな状態じゃお店を手伝わせることだって出来ないもの」

雪穂「っ! お母さんはお姉ちゃんとお店どっちが大事なの!?」

ママ「それって比べるような事じゃないでしょ」

雪穂「そうだよ、比べることじゃないよ! だからこそお姉ちゃんをどうにかするべきでしょ」

ママ「当人が何もする気がないのに手を貸したら、またいつか同じことの繰り返しになるわ」

雪穂「繰り返しになったっていいじゃんか。その時もまたお姉ちゃんなら誰かが手を貸してくれるよ」

ママ「それで誰も手を貸してくれなければ潰れちゃうってことでしょ」

雪穂「誰も手を貸さないなんてことありえない。だって、お姉ちゃんなんだよ?」

ママ「それは勝手な推測。未来なんて誰にも分からないのよ」

雪穂「分かることだってあるよ。だってそれがお姉ちゃんの魅力だもん!」

ママ「はぁ~。あんたのお姉ちゃんっ子もいい年なんだから直しなさい」

雪穂「家族を大事に思う気持ちに年は関係ないよ」

ママ「あのね、雪穂。大切にすることと甘やかすことは別物なの」

雪穂「……」

ママ「女の子にとって十六歳から責任ある行動を心がけないといけないのよ」

雪穂「だからって、お姉ちゃんに何もしないのはおかしいじゃんか」

ママ「何もするなって言ってないわ。甘やかすなって言ってるの」

雪穂「もういいよ。お母さんにもう頼らないから!」

ママ「やれやれ、短気は損気よ。どんな時でも冷静になれるようになって漸く大人の仲間入り」

雪穂「大切な家族に対して冷たくするくらいなら、私はずっと子供でいいよ」

ママ「言った直ぐ後に冷静さを失う。……本当に私の子なのかしら」

ママ「まぁいいわ。これ上げるから《友達》と一緒に見てきて、少しは頭を冷静にしてきなさい」

雪穂「何かしんないけどそんな物要らないよ! お母さんのことなんてもう知らない!」

ママ「そんな物って失礼ね。今日これから開催されるUTXのスクールアイドルのライブチケットなのに」

雪穂「――」

ママ「要らないっていうのなら、これはゴミ箱入りになっちゃうわね」

雪穂「どっ、どうしてそんなプレミアムチケットをお母さんが持ってるの!?」

雪穂「ことりさんがメンバー入りして初めてのライブということで、一分で即完売したって話しだし」

雪穂「今回はことりさんに対するアンチが余りにも多かったから特別なイベントが開催されるからより価値があるって」

ママ「特別なイベント?」

雪穂「ツバサさんがファンに対して、今回のライブでことりさんがA-RISEに相応しいかどうか決めてもらうって」

雪穂「見に来たファンの半数以上が相応しくないと判断した場合、ことりさんはA-RISEから脱退するんだって」

ママ「それってことりちゃんが必要とされてないってこと?」

雪穂「ううん、その逆。A-RISEのサイトでも二人の個人のブログでも絶対の自信があるって書いてあった」

ママ「つまり、これはお披露目+ことりちゃんへの認識を一気に変えるライブになるのね」

雪穂「そうだよ。そんなことも知らないお母さんがどうして……?」

―――
――

(前日夜 穂むら)

ことり「こんばんは」

ママ「あら、ことりちゃん。卒業式以来だけど、なんだか久しぶりなような気がするわね」

ことり「お久しぶりです」

ママ「来てくれたのにごめんね。穂乃果は今お風呂入ってるのよ」

ことり「それなら丁度良かったです。時間がないし、今は心を強く保たないといけないから」

ママ「何かあるの?」

ことり「はい、色々とちょっと」

ママ「まぁいいわ。穂乃果に用事じゃないとなると、普通にお買い物かしら?」

ことり「いえ、これを穂乃果ちゃんを連れてきてくれるような人に渡して下さい」

ママ「これは?」

ことり「明日、私が参加するA-RISEの初ライブなんです。そのチケット二人分入ってます」

ママ「海未ちゃんに渡せばいいのかしら?」

ことり「海未ちゃんは自分のライブが近いって話を聞いたので、他の人がいいんです」

ママ「となると……雪穂でいいのかしら?」

ことり「はい。雪穂ちゃんなら、アイドルに興味ない穂乃果ちゃんでも連れてきて貰えますね」

ママ「普通にことりちゃんが出るなら行くと思うけど」

ことり「……そう思いたいですけど、自信がなくて」

ママ「穂乃果のことりちゃんと海未ちゃんへの大好きは家族以上よ。そこは自信持っていいわ」

ことり「はいっ!」

ママ「それで、これって一枚幾らなの?」

ことり「招待券扱いなのでお金は掛かってません」

ママ「普通に買うと幾らするの。アイドルのライブとか私も縁がなくってね」

ことり「一枚二千円です。普通のアイドルと違ってスクールアイドルなんで安いんです」

ママ「じゃあ、これ。二人分だから四千円ね」

ことり「ですから、これはお金掛かってないですからっ!」

ママ「受け取って頂戴。母親なのにあの子に対して何も出来なかったから。せめてこれくらいさせて、ね?」

ことり「でも……」

ママ「お願い。母親としてカッコ付けさせて」

ことり「……はい、分かりました。あの、まだお店の営業時間は大丈夫ですか?」

ママ「本当に穂乃果の友達っていうのが勿体ないくらいに良い子ね」

ことり「海未ちゃんには負けますけど、ことりも穂むらのお饅頭好きですから」

ママ「分かった。でも、上限は二千円までよ。それ以上の買い物はNGですからね」

ことり「では二千円で買えるだけお饅頭下さい」

ママ「それじゃあ、サービスしておくわね。明日のライブ頑張って」

ことり「ありがとうございます」

ママ「ことりちゃんは随分と強くなったのね」

ことり「私の強さの半分は穂乃果ちゃんと海未ちゃんがくれたんです。だから、もっともっと強くなりたいです♪」

ママ「そう思える気持ちがあるなら、直ぐに本物の強さに変わるわ」

―――
――

ママ「そんなことは今は関係ないでしょ。要るのか要らないのか」

雪穂「要る、要ります!」

ママ「でもな~お母さんのことなんてもう知らないとか言っちゃう娘だしねぇ」

雪穂「ごめんごめん! 謝るから、お母さん大好き!」

ママ「くすっ。そういうところを見ると穂乃果そっくりよね」

雪穂「なんだろう、お姉ちゃんのことは好きだけどそう言われるのは釈然としない」

ママ「ほら、これ見てあのお馬鹿にことりちゃんの強さを与えて貰ってきなさい」

雪穂「お姉ちゃんの馬鹿は否定出来ないなぁ」

ママ「無駄口叩いてないで、行ってきなさい」

雪穂「はぁい! お母さん、ありがとうね!」

ママ「調子が良いところもそっくりね。まったく、面倒な姉妹になったことだこと」

――放課後 二年生の教室 にこ

にこ「悪いわね。呼び出しちゃって」

ミカ「いえ、一年生の方が今日は早く終わったので」

にこ「時間がないし端的に言うけど、南ことりの家を知ってる?」

ミカ「知ってますよ。中学の頃とか普通に遊んでましたし」

にこ「よし! 一つ頼まれ事してくれない? 無駄足になる可能性が高いんだけど」

ミカ「なんでしょうか?」

にこ「海未に似合うドレスのデザインをことりが持ってたら、悪いんだけど今日中に入手して欲しいの」

ミカ「海未ちゃんに似合う……ですか? 穂乃果だったら持ってると思いますけど、海未ちゃんとなると」

にこ「ことりって子に会ったことはないけどね、幼馴染の可能性ってやつを私は信じたいの」

ミカ「幼馴染の可能性?」

にこ「なかったら普通に考えるからいいわ。もし、会ったら……海未への最高のサプライズになるでしょ?」

ミカ「そうですね。きっと恥ずかしがって文句言うでしょうけど」

にこ「で、悪いんだけど手に入れられたら最速で渡して欲しいの。他にもやらなきゃいけないこと沢山で」

ミカ「分かりました。にこ先輩の頑張りに応えたいですから」

にこ「ありがとう。海未もあなたもいい子ばかりね」

――UTX劇場内 穂乃果

穂乃果「ねぇ、雪穂。どうして皆してあんな風にことりちゃんの悪口を言うの?」

雪穂「お姉ちゃん知らないの!?」

穂乃果「うん」

雪穂「スクールアイドルの甲子園って言われてるラブライブは知ってる?」

穂乃果「ううん、何それ」

雪穂「海未さんだけじゃなくて、ことりさんもスクールアイドルになったって言うのに……」

雪穂「簡単に言えば高校野球の甲子園みたいな全国ナンバー1のグループを決める大会があるの」

穂乃果「へぇ~」

雪穂「ことりさんが入ったグループは去年のその大会で二位という大きな結果を残したんだよ」

雪穂「結果的に二位だったけどね、その後の勢いは優勝したグループの比じゃない」

穂乃果「つまり今一番波に乗ってるグループにことりちゃんが入ったってことだよね」

雪穂「凄い栄光なことだけど、元々のファンの人にとってはことりさんのことが好ましくないみたい」

雪穂「もっとも、ことりさんのことを見て応援してくれる人も居るんだけどね。それ以上に……ね」

穂乃果「酷い! ことりちゃん程可愛い子なんて他に居ないのに!」

雪穂「そんなこと私に言われたって困るよ!」

穂乃果「ことりちゃんもことりちゃんだよ。なんでそんな事言えるような人達の前で歌うの?」

雪穂「応援してくれる人の為なんじゃないかな? 勿論、自分の為でもあるんだろうけど」

穂乃果「でも、応援してくれる人の方が少ないんでしょ? おかしいよ!」

雪穂「他の誰でもない、ことりさんだよ?」

雪穂「例えばさ、全世界が敵になってもお姉ちゃんと海未ちゃんが応援してくれれば立ち向かえる人だよ、絶対に」

穂乃果「……ことりちゃん、だもんね」

雪穂「それに一度引き受けたことを無責任に放り出すような人じゃないでしょ?」

穂乃果「勿論だよ。ことりちゃんは実は海未ちゃんと同じくらい責任感が強い子なんだから!」

雪穂「だからこんな状態でも逃げ出したりなんてしない。夢も掴んで、今の幸せも手放さない。凄い人だよ」

穂乃果「……うん、だってことりちゃんは穂乃果の自慢。穂乃果の理想の女性像だもん」

雪穂「そろそろ始まる時間だよ。今日の衣装のデザインしたのって、全部ことりさんなんだって」

雪穂「普通に授業もあって、スクールアイドルの練習もありながら、衣装のデザインまで手がける」

雪穂「時間がいくらあっても足りないよね。それでも、ことりさんは頑張ってるんだよ」

穂乃果「ことりちゃん」

――夕方 お婆ちゃんのお店 にこあんえり

絵里「せめて後一週間あれば余裕なのに!」

あんじゅ「現実っていつもこんなだよね」

にこ「五十ページも書いてきた海未の所為よ。時間がないのにこんな量を書きやがってからに!」

絵里「作詞の方は出来そう?」

にこ「ええ。今日中に作詞を終えて、あんじゅに作曲をお願いするからね」

あんじゅ「任せて!」

にこ「穂乃果の友達がドレスのデザインを入手できれば、夜には海未のドレスを作り始めるわ」

にこ「作詞が終わって、届くまではあの衣装が完成するかどうかね」

絵里「それだとにこの休む暇がないじゃない。大丈夫なの?」

にこ「大丈夫よ。てか、ここで無理出来ないなら部長なんてやってられないわ」

あんじゅ「流石私の自慢のにこにーお姉ちゃん」

にこ「それに、いい具合にお母さんが早く帰ってこれる上に連休でご飯の準備しなくていいからラッキーね」

お婆ちゃん「今日の夕ご飯は私に任せなね。栄養たっぷりのご馳走用意するから」

にこ「ありがとう、お婆ちゃん。本当にありがとう」

あんじゅ「ありがとうございます♪」

絵里「私までお邪魔しちゃって申し訳ありません」

お婆ちゃん「にこちゃんの周りに笑顔が咲く。こういう光景を見るとね、すごく嬉しいんだよ」

お婆ちゃん「それから、二人も遠慮せずに甘えてくれていいんだよ」

にこ「地獄の月曜日までを乗り越えたらお婆ちゃん孝行にお店のことでも何でも手伝うにこ~」

あんじゅ「私もいっぱいお手伝いするにこ~」

絵里「その時は私も微力ながら手を貸します」

お婆ちゃん「そうかいそうかい。じゃあ、その時もまたみんなでご飯食べようね」

佐藤「こんにちは。もう、こんばんはかしら?」

にこ「佐藤のお姉さん。今日もわざわざありがとうございます!」

佐藤「早速だけど、昨日まで思い違いしてたんだけど、今回のこれはミュージカルではないのよ」

にこ「そうですけど」

佐藤「動きがない状態でいいのなら可能性が出てきたわ。両サイドの人間が紐を引っ張っておくのよ」

あんじゅ「そうするとどうなるんですか?」

佐藤「これによってかぼちゃパンツの魔法が完成する筈よ。実際にやれるかどうか時間もないし厳しいけど」

絵里「可能性が見えたのならやるだけです」

佐藤「舞台にも上がらない子がドレスってのが浮いてるけど、その辺はそっちはどうするつもりかしら?」

にこ「そこなんだけどね、途方もない苦肉の策を考えてるんだけど現実的じゃないかなって」

あんじゅ「何々? 私が手伝えることがあるなら言って」

絵里「漸く全貌が明らかになったんだもの。全部吐き出しちゃいなさいよ」

にこ「本当に現時的じゃないのよ? 仮装パーティーみたいな状態での来場を予定すれば二つの意味で誤魔化せる」

あんじゅ「そっか、他校の制服も仮装の一つってことだね」

絵里「でも部活紹介一つにそんな手間掛けてまで見に来てくれる人居るかしら?」

にこ「そうよね。しかも、開催が三日後だものね」

あんじゅ「……ううん、大丈夫かもしれない」

にこ「え?」

あんじゅ「聞いた話だと音ノ木坂体験が良い感じに働いて運動部からは好感度高いんだって」

あんじゅ「運動部ってほら、元々ユニフォームとかあるし、そういうノリ良いと思うんだよ」

絵里「一理あるわね」

お姉さん「ふむふむ、面白い話してるじゃない」

にこ「内田のお姉さん。今日もありがとう」

お姉さん「ていうか、そんな面白い案があるなら言ってよ。私を何サークルだと思ってるの?」

にこ「演劇サークルじゃなかったらここに呼んでないわ」

お姉さん「そう、演劇サークル。そして、私はみんなの弱みを握っている悪徳作家!」

あんじゅ「おぉっ! 凄い邪道なことをまるで正しいみたいに言っててカッコ良い~!」

佐藤「今のはチームに一人居るだけで崩壊するような発言ですよ」

絵里「……にこ、あなたきちんとあんじゅの育成するのよ。こんな風にしちゃ駄目だからね?」

にこ「どうして私に言うのよ。でも、気を付けるわ」

お姉さん「衣装なら私のサークルから貸し出すわよ。毒を盛るには酔わせてからってね」

にこ「意味が分かんないわよ!」

お姉さん「他校の制服を着てる子が隣に居たら注目されるでしょ。そんなんじゃ致命傷に至らない」

にこ「……やるからには徹底的にってことね。やってみましょうか!」

あんじゅ「じゃあ、ポスターに追加で仮装の案内を書いてもらうように電話でお願いするね!」

絵里「じゃあ私はSMILEのブログで校内行事のことだけど書いておくわ」

にこ「上手くいけば今回のプロモの一環として音ノ木坂の仮装してる子達は映るって宣伝もね」

絵里「なるほどね。ミーハーな子も来てくれそうね」

あんじゅ「観客だけなら海未ちゃんもドレス着せられるなんて思わないだろうしね」

にこ「ただ、全ての鍵を握るのは穂乃果よ。あの衣装が完成しても、あの子が決断してくれなければ無意味」

絵里「信じましょう。穂乃果のことは分からないけど、海未がにこに相談するくらいの子なんだもの」

お姉さん「海未ちゃんも穂乃果ちゃんも幸せ者ね。いい先輩達に囲まれて。私にもそんな先輩欲しかったわ」

佐藤「無駄になったとしても、完成させることに意義があります」

お姉さん「でも、穂乃果ちゃんを目立たなくさせる必要があるから、マイク持たせるのは駄目よね」

佐藤「それなら私がピンマイクを用意します」

にこ「申し訳ないですけど、よろしくお願いします。では、行動開始!」

――夜 穂むら 厨房 穂乃果

穂乃果「ねぇ、お父さん。今ちょっと話を聞いてもらってもいいかな?」

穂乃果「あ、ううん。そのまま作業しながらでいいの。ただちょっと聞いて欲しくて」

穂乃果「相談事って言えるのか分からないんだけど……」

穂乃果「今日ね、ことりちゃんがスクールアイドルとして初めてのライブがあったんだー」

穂乃果「最初はね、ことりちゃんのこと悪く言う人達ばっかりで嫌な気分にされたんだよ」

穂乃果「でもね、ことりちゃんが一曲目を歌っただけで世界が変わったみたいに他の人達の反応が変わったの」

穂乃果「昔から歌う姿は可愛かったけど、今日のことりちゃんは可愛いだけじゃなくて、凄く綺麗だった」

穂乃果「穂乃果にはことりちゃんが輝いて見えた。まるで羽が生えた天使みたいだったんだよ」

穂乃果「胸がドキドキして、大きな元気をもらったの!」

穂乃果「うん、昔お父さんが泣いてる穂乃果の為にチョコを入れたお饅頭作ってくれたよね?」

穂乃果「あの時のお饅頭の味を思い出したよ。ふふふっ、今考えると随分お父さんらしくないことしたよねー」

穂乃果「あははっ。……うん、スクールアイドルって凄いんだってことりちゃんに教えられた」

穂乃果「海未ちゃんが始めた時は凄く不思議に思ったんだけど、今日その疑問が解けたよ」

穂乃果「それでね、ついこないだ学校の先輩にこんなこと言われたの」

穂乃果「ことりちゃんは既に守られてるだけのお姫様じゃないんだって」

穂乃果「本当にそうだった。その後こう言われたの。穂乃果はいつまでも甘えてるだけの存在が良いのかって」

穂乃果「その時は意味が分からなかったんだけど、今ならその言葉の重みを知ったの」

穂乃果「……」

穂乃果「うん、お父さんの言う通りだよね。穂乃果はことりちゃんと海未ちゃんに守られてた」

穂乃果「いつも傍に居てくれたから気づかなかったけど、ずっと心地いい優しさに甘えてたんだね」

穂乃果「今まで考えなしで行動出来たのも、二人が居てくれるから出来たことだったみたい」

穂乃果「一人になった途端、雪穂にすら心配されるくらい弱くなって、お母さんにもお説教されるし」

穂乃果「自慢のお父さんとお母さんの娘なのにみっともないよね」

穂乃果「今一人なんだって思うと怖くなるけど、今よりも強くなりたい」

穂乃果「……え? 穂乃果は一人じゃない?」

穂乃果「あははっ、そっか。そうだよね、今だってお父さんに話を聞いてもらってるんだもんね」

穂乃果「だったらもういいや。甘えかもしれない、一人で立ってないのかもしれない」

穂乃果「それでも穂乃果は穂乃果なりに頑張ってみようと思う。勇気を出してみようと思うの!」

穂乃果「ことりちゃんみたいにキラキラ輝いてみたいから!」

穂乃果「うん、お父さんありがとう。私元気出た! お饅頭一つ貰ってもいいかな?」

穂乃果「ありがとう。これを食べ終わったらお母さんにも雪穂にも心配させたこと謝るね」

穂乃果「それから、お父さん大好き!」

――十二日(土曜日)昼 あんじゅ電話中

元部員『ビックリしたよ。ポスター出来たからコピーして掲示板に張りに来たらさ』

元部員『運動部の人達が集まって手伝ってくれたんだよ。アッと言う間に終わっちゃった』

あんじゅ「こないだ言ってたことって本当だったんだ」

元部員『そんなことで嘘言わないよ。恩に感じてるんだよ』

あんじゅ「でも、これで失敗出来なくなっちゃう恐怖もあるよ」

元部員『大丈夫だよ。あんじゅちゃんとにこちゃんだもん。普通じゃ無理なこと平気でやれるよ』

あんじゅ「私達ってそういうイメージ付いてるんだ」

元部員『うん! どこまでも高みに上り詰めて欲しい』

あんじゅ「出来る限り頑張るよ。それから、お疲れ様でした」

元部員『ううん、他にもあれば手伝うよ』

あんじゅ「後はもう当日だけだから。音響と照明のお手伝いよろしくね」

元部員『任せてって、私の担当じゃないけどね』

あんじゅ「お礼は全部終わった後ににこと一緒に言いに行くから」

元部員『笑顔を楽しみにしてるね。それじゃあ、楽しみにしてるから』

あんじゅ「ありがとう。ばいばい……よし! にこっ! ポスターは全部完了だよっ」

――矢澤家 にこあん

にこ「作詞の方はこれで良いと思うけど、見てくれる?」

あんじゅ「うん! ……海未ちゃんみたいな歌詞だね」

にこ「海未たちのこと書いてるんだから当然でしょ」

あんじゅ「後は大急ぎで作曲か~」

にこ「大急ぎも大急ぎ。にこにー特急くらい急いで頂戴」

あんじゅ「すごい遅そう」

にこ「なんですって!?」

あんじゅ「うそうそ。期限はどれくらいが好ましいの?」

にこ「無理は承知で頼むわ。穂乃果の練習時間与えたいから今日の夜までには作って」

あんじゅ「にこあん特急並みに急がないとだね」

にこ「勝手に合体するんじゃないわよ。それで、出来そう?」

あんじゅ「私を誰だと思ってるの? にこの妹なんだよ。普通は無理でも可能にしちゃうんだから♪」

にこ「悪いわね。本当に、頼りにしてるわ」

あんじゅ「えへへ」

にこ「ゴールが見えそうでまだ遠いけど、これが完成すれば大分近づくわ」

あんじゅ「ライブ前なのにライブの練習が全然出来てないけどね」

にこ「朝から昼前まで濃厚な練習したんだし、ライブの方は大丈夫」

あんじゅ「でも、本番のライブの時は体力的にかなりピンチな気がするんだけど」

にこ「海未のドレスに穂乃果の方もまだだからね。寝不足なのはしょうがないじゃない」

あんじゅ「一睡も出来ないかもねっ」

にこ「どうしてあんたは嬉しそうなのよ」

あんじゅ「うふふ。人生で一番充実した忙しさを体験してるから、嬉しくて嬉しくて仕方ないの」

にこ「私は忙しいのはごめんよ。のんびりとしたいわ」

あんじゅ「のんびりは老後までお預けにしておこうよ!」

にこ「やれやれ。ともかく作曲の方よろしくね。私はこれからドレス仕立てにお婆ちゃんの所に行くから」

あんじゅ「了解。完成したらそっちで合流するね」

にこ「分かったわ。あ、今回は作曲だけじゃなくて、歌入りの曲をRで焼いておいて」

あんじゅ「面倒をさり気無くステップアップされたけど、分かった!」

――夜 穂むら にこ

雪穂「いらっしゃいませー」

にこ「……あなた、小柄ね」

雪穂「は?」

にこ「何でもないわ。あなたはここのアルバイトかしら?」

雪穂「いえ、家のお手伝いですけど」

にこ「ということは穂乃果の妹の雪穂ね」

雪穂「そうですけど、どちら様……あっ! 音ノ木坂のスクールアイドルのにこさん!」

にこ「そうよ。SMILEのリーダー矢澤にこ。穂乃果は居るかしら?」

雪穂「お姉ちゃんなら部屋に居ますけど」

にこ「悪いんだけど呼んで来てもらえる?」

雪穂「分かりました。もしお客さん来たら待っててもらうように言って下さい」

にこ「ええ、任せて」

――穂乃果の部屋

にこ「部屋まで上げてもらわなくてもよかったのに」

穂乃果「わざわざ来てくれた先輩に立ち話というのも悪いですから。これ、食べてください」

にこ「ありがとう。ここのお饅頭好きなのよ」

穂乃果「それで用というのは?」

にこ「その前に一言。あんた、随分といい顔するようになったわね」

穂乃果「はい、昨日色々あったんで」

にこ「ふぅん。ま、細かいことは気にしないわ。明後日の部活紹介の話覚えてる?」

穂乃果「はい。……えっと、あれですよね。右手を高く突き上げるやつ」

にこ「全然覚えてないじゃないの」

穂乃果「だ、だって突然あんな風に言われたら覚えてる訳ないじゃないですか」

にこ「やれやれ。もう一度だけ言うわ。海未はお姫様の方が向いていると私は思ってる」

にこ「だから、あんたが王子になって海未をお姫様にする勇気があるなら、心の剣を持って右手を上に突き上げて」

穂乃果「そうでしたそうでした」

にこ「……本当に大丈夫なのかしら。大いに不安だわ」

穂乃果「私はやる時はやりますから!」

にこ「そうらしいわね。ま、王子になるならお姫様をエスコートする必要が生まれるわ」

穂乃果「エスコート?」

にこ「ミュージカルなら二人で歌いながらって感じだけど、生憎と完全なミュージカルじゃないからね」

にこ「この曲を練習して、歌えるようにはしておきなさい。時間もないから大変だろうけど」

穂乃果「これは?」

にこ「あんたの為に生まれた曲よ。魔法が掛かったら海未に歌ってあげなさい」

穂乃果「魔法が掛かったら歌う……?」

にこ「その時になったら自然と分かるわよ。私には時間もないし、そろそろお饅頭食べて失礼するわ」

穂乃果「お饅頭はきちんと食べて行くんだ」

にこ「好きだって言ったでしょ。これってあんたのパパが作ってるの?」

穂乃果「そうだよ」

にこ「……美味しいわけね。あんまりさ、パパやママに心配させないようにしなさいよ」

穂乃果「え? う、うん」

にこ「本当に、美味しいわね」

――十三日(日曜日)穂むら 穂乃果

穂乃果「ふんふんふ~ん♪」

雪穂「お姉ちゃん。何聴いてるの?」

穂乃果「あ、雪穂。これ聴いてみてよ。はい、片耳貸して」

雪穂「もう、自分で付けられるよ」

穂乃果「最高の曲なんだよ」

雪穂「…………なにこれ? お姉ちゃん達三人のことを曲にしてるみたい」

穂乃果「うん、これは私の学校の先輩達が私の為に作ってくれた曲なんだ」

雪穂「幸せ者だね」

穂乃果「いや~本当だねぇ。なんせこんな可愛い妹まで居るんだから!」

雪穂「ちょっ!」

穂乃果「雪穂ってば可愛いなぁ~。すりすりすり~♪」

雪穂「も~っ! 酔っ払いみたいに絡まないでよ」

穂乃果「心配してくれてたのに、酷い扱いしてごめんね」

雪穂「……お姉ちゃん」

穂乃果「私は雪穂のお姉ちゃんなのに、全然お姉ちゃんらしくないね」

雪穂「お姉ちゃんは覚えてる? 私が皆よりも補助輪外すのが遅くてさ、皆にハブられちゃった時あったよね」

穂乃果「子供って残酷だよね。自分たちも少し前まで補助輪使ってたのに」

雪穂「ふふっ。だから私も補助輪外してもらったけど、当然練習しないと乗れるわけなくて」

穂乃果「誰もが通る道だよね」

雪穂「その通る道で『もうユキは大人になっても自転車乗れなくてもいい!』って癇癪起こしたよね」

穂乃果「あはは、そう言えばあの頃は自分のことユキって言ってたね。懐かしい」

雪穂「そこは重要じゃないよ!」

穂乃果「あの日のことは覚えてるよ。お母さんに怒られたもん」

雪穂「そうそう、泣き止むまで待ってくれて。それから自転車に乗れることがどれだけ凄いか教えてくれて」

雪穂「結局夕方も終わるまで練習してた。乗れるようになってからお母さんが探しに来て、すっごい怒られたよね」

穂乃果「あの時のお母さんには角が生えてたね」

雪穂「でも、その後に抱きしめて自転車に乗れるようになっておめでとうって言ってくれたの嬉しかった」

穂乃果「私は怒られただけだったけど」

雪穂「お礼言いたかったけど、達成感と泣いた疲れとお母さんの温もりのコンボで眠っちゃったんだもん」

雪穂「だから誓ったんだ。お姉ちゃんにいつかあの時の恩を返すんだって」

穂乃果「妹なんだから恩とか大げさ過ぎだって」

雪穂「じゃあ、言葉を変えるね。あの日私にとってお姉ちゃんは憧れになった」

雪穂「だから誰にでも自信を張って自慢出来るお姉ちゃんで居て欲しい。だから力になりたい」

穂乃果「も~からかうのはヤメてよね」

雪穂「からかってないよ。本当の気持ち」

穂乃果「だったらしょうがない。雪穂の為にも誇れるお姉ちゃんにならないとね」

雪穂「うん!」

穂乃果「今の私に何が出来るか分からないけど、頑張ってみようと思う」


穂乃果「私は何かを頑張りたいのーッ!」


雪穂「ちょっと! なんで窓開けて叫んでるの!?」

穂乃果「いやぁ~叫びたくなっちゃって」

ママ「穂乃果! 高坂家が馬鹿に思われるから叫んだりするんじゃないわよ。馬鹿なのは穂乃果一人なのに」

穂乃果「お母さん酷いよぉ」

雪穂「くすくすっ。本当にお姉ちゃんは仕方ないな~」

――夜 お婆ちゃんのお店

にこ「ドレスはやたら面倒だったけど、海未の分はこれで完了!」

あんじゅ「ひとまずお疲れ様」

にこ「仕掛けの方がきちんと完成しないことには、お疲れも何もないけどね」

絵里「でも、着実に完成には近づいてるんだし、後は明日までに完成するかだけよ」

お婆ちゃん「にこちゃんにお友達だよ。ミカちゃんって子が渡す物があるって」

にこ「おちびちゃんが?」

あんじゅ「自分より少しでも小さい子に対して過剰反応しちゃうにこに私は号泣」

にこ「うっさいわよ! この一年ほとんど同じ物食べてるのに、なんであんたばかり伸びるのよ」

絵里「今はそんなくだらないことより、ミカさんに顔出すのが先決でしょ」

にこ「そうだったわ。馬鹿妹に構ってる場合じゃないわ」

あんじゅ「酷いにこ~」

にこ「……お待たせしたわね」

ミカ「いえいえ、お忙しい中すいません」

にこ「それで、どうしたの?」

ミカ「頼まれてた魔法使いの服が出来ましたので、実際に着て貰おうと思いまして」

にこ「服? 私が頼んだのローブなんだけど」

ミカ「ドレスと並ぶとローブだけじゃ手抜きに映るかなって、市販の服を改造して作ってみました」

にこ「とにかくうちの妹に着せてみるわ。ステッキの方は見つかった?」

ミカ「ヒデコがクラスの有志集めて本格的な樫の杖みたいに見える物を製作中です。明日までには完成させます」

にこ「手間もお金も掛からせて申し訳ないわね」

にこ「ただでさえ、南ことりから海未のドレスデザインまで受け取って、届けてもらったりしたのに」

ミカ「私も皆も好きでやってることですから。漫画で出てくる文化祭みたいで楽しいです」

にこ「音ノ木坂の文化祭は規模が小さいから、本物より今の方が大変かもね」

あんじゅ「にこにー! どうかなどうかな?」

にこ「かなりメルヘンチックだけど、あんじゅにはピッタリね」

絵里「本当。現代版魔法使い(フリル多め)って感じ」

にこ「マント風にしてある後ろのヒラヒラも可愛いし、これならお姫様海未にも見劣りしないわね」

あんじゅ「ふっふーん♪」

絵里「妹は良いところも悪いところも似るわね。今の得意げな顔はにこそっくりだわ」

にこ「つまり良いところってことね」

絵里「勿論悪いところよ」

にこ「なんでよ!?」

ミカ「あはは……」

あんじゅ「ミカちゃんありがとうね!」

ミカ「私だけじゃなくてフミコと一緒だったので」

あんじゅ「フミコちゃんにもお礼言っておいてね」

にこ「とにかく、これで懸念すべきは仕掛け付きドレスのみね」

ミカ「私もお手伝いしましょうか?」

絵里「高校生になったばかりの子を遅くまで束縛したら生徒会長失格になっちゃうわ。気持ちだけで十分よ」

にこ「そうそう。あなたには明日穂乃果に完成したドレスを着せるっていう大役が待ってるんだから」

あんじゅ「この可愛い衣装、本当にありがとう!」

絵里「既に遅い時間だし、送っていくわ。親御さんへの挨拶も必要だろうし」

ミカ「大丈夫です。お母さんにもきちんと説明してあるし、家もそんなに離れてないので」

絵里「そういう油断が危険を誘い込むのよ。送るついでにデザート買ってくるわ。何が食べたい?」

にこ「エクレアが食べたいにこ!」

あんじゅ「じゃあ私はシュークリームにこ!」

絵里「分かった。その二つは確実に、後は適当に買ってくるわ。さ、行きましょう」

ミカ「わざわざすいません」

絵里「どちらにしろ買出しに行くつもりだったんだから気にしないで」

ミカ「それでは、これで失礼します。がんばってくださいね! 期待してます」

にこ「期待には応えないとね」

あんじゅ「うん! 頑張らないと。ねばーぎぶあっぷ」

にこ「でも、あんた別に必要ないのよね。帰って寝たら?」

あんじゅ「にこってば酷いよ! 疲れたにこの目の保養になるでしょ? うっふん♪」

にこ「あいたたた……今のは目にキタわ」

あんじゅ「どうしてよ!」

にこ「ま、居ないよりは居た方がマシね。放っておくと心配でしょうがないし」

あんじゅ「あんじゅってばにこにーに愛されてるにこ~」

にこ「だけど傍において置くと胃にダメージが……。なんて面倒な妹なのかしら」

あんじゅ「えへへ」

――十四日(運命の日)朝方 お婆ちゃんのお店

おじさん「これで決まりだ!」

佐藤「……当日になりましたが、無事に完成しましたね。いえ、無事かどうかぶっつけ本番ですが」

お姉さん「ん~っ! 一回きりだから試せないのが心配だけど、現状で一番上手く出来たから大丈夫でしょう」

おばちゃん「いやはや。この年になると徹夜は堪えるけど、こんな達成感は久々だよ」

あんじゅ「すーはー……くーはー……」

にこ「皆が頑張ってくれてるのに、何もしてないうちの馬鹿が寝ててごめんね」

絵里「ふぁ……はあ~ぁ。でも、あれだけ衣装の出来にはしゃいでたら眠くもなるわよ」

にこ「まるで子供じゃない! ライブがなかったら顔に落書きしてるレベルよ」

お姉さん「とか言いながら、布団と枕あるのに膝枕してあげてる辺りがツンデレだよねぇ」

にこ「邪魔だって言うのに、ここで寝始めたこいつが悪いの」

おじさん「それだけにこちゃんのこと慕ってるってことじゃないか。うちのみっちゃんもそんな頃があったけなー」

おばさん「完成したんだからそのまま寝かせておやりよ。こんな幸せそうな顔して寝てるんだから」

絵里「本当に幸せそう。……でも、にこも寝ずにライブって訳にもいかないだろうし。もう少ししたら布団に――」
にこ「――いいわよ、起きるか時間までこのままで。今回は色々無理させたからね。ご褒美くらいあげないと」

お姉さん「こういう幸せな雰囲気から絶望に突き落とすシナリオ書くとネットで荒れて愉快なのよねー」

佐藤「……あ、あなたのような脚本家と同じサークルの人に同情します」

お婆ちゃん「朝食には少し早いけど、朝ごはん作ったから皆お食べね」

おじさん「いやぁ、悪いね。丁度腹の虫が鳴こうとしてたところだよ」

おばさん「そうね。食べてから寝るのは太る原因だけど、今日くらいわね」

佐藤「私も頂きます。午後から自分の所の衣装作りあるから、少しでも栄養取らないと」

お姉さん「喜んでいただきます! 今日は三限目から授業入ってるし」

絵里「にこは動けないから私が食べさせてあげるわ」

にこ「いや、腕は空いてるから持ってきてくれれば大丈夫よ」

絵里「いいからいいから。邪道シスターズ長女のエリーチカお姉ちゃんに甘えなさい★」

にこ「長女は私よ!」

絵里「大きい声出したらあんじゅが起きちゃうでしょ。困った妹にこ~」

にこ「ぐぬぬ……。もう、好きにしなさい」

絵里「ふふっ。じゃあ、好きにさせてもらうわ♪」

――南ことり誘拐指令!

絵里「こちらエリーチカ。今UTX前に着いたわ」

にこ『え、もう着いたの? あんたどれだけ足が早いのよ』

絵里「時間短縮にタクシー使ったに決まってるでしょ」

にこ『なっ! た、タクシーですって? この距離をわざわざタクシー!? あんたはお嬢様か!』

絵里「一秒でも稼げた方が確実でしょ? ということで、今から邪道シスターズ長女として誘拐してくるわ」

にこ『もう一度だけ訊くわ。生徒会長としての信頼を裏切り、理事長へ喧嘩を売る行為よ。本当にいいの?』

絵里「言ったでしょ。邪道シスターズの長女として誘拐するって」

にこ『分かった。こっちもライブの準備とかあるから。上手くいく事を祈ってるわ。……絵里お姉ちゃん』

絵里「了解にこっ!」

絵里(にこにはああ言ったけど、足が少し震えちゃうわ)

絵里(それもそうよね。トウシューズを捨てた以外は基本的に私って良い子だったし)

絵里(立場的に悪い事をするのを止める側の人間になってたものね)

絵里(それなのに……こんな悪巧みに自分から率先して首を突っ込むなんてね)

絵里(お婆様はなんて言うかしら? 不思議ね。何故か怒られるよりも、頭を撫でられる気がするわ)

絵里(では、作戦開始と行きましょうか!)

――エリーチカVS嵐山(UTX受付嬢)

絵里(流石UTX。普通の会社みたいにこうして受付があって、受付嬢も美人とはね)

絵里「あの、すいません。少々よろしいでしょうか?」

嵐山「はい、えっと他校の生徒さんが何か?」

絵里「私は音ノ木坂学院で生徒会長をしている絢瀬絵里と申します。こちらが生徒手帳です。ご確認下さい」

嵐山「どれどれ……はい、ご本人様確認出来ました。それで、その生徒会長さんが何の御用でしょうか?」

絵里「ええ、今回は生徒会長としてというより理事長の個人的な用件の為にお邪魔しました」

嵐山「音ノ木坂の理事長と言うと、確かこの学校の特待生でスクールアイドルの南さんのお母さん」

絵里「そうです。これを娘であることりさんに大至急渡して欲しいと頼まれまして」

嵐山「この《封筒》ですね。はぁ~流石理事長ともなると達筆なのね」

絵里「私もいつかはこれくらい綺麗な字が書けるようになりたいです。それで、ことりさんを呼んで頂けますか?」

嵐山「かしこまりました。丁度今は休み時間なので、ここに呼び出してもらいます」

絵里「ええ、お願いします」

絵里(よし! これで後は穂乃果さんとことりさんの絆次第ね)

――五分後...

ことり「お待たせしました。お母さんから預かり物が届いてるって聞いて来たんですが」

嵐山「これです。こちらの音ノ木坂の生徒会長さんが直々に届けてくれました」

絵里「初めまして、絢瀬絵里です」

ことり「こちらこそ初めまして。南ことりと申します。今回はわざわざすいませんでした」

ことり「でもお母さんってば何だろう? 用件ならメールで入れてくれればいいのに」

ことり(手紙?)

『南ことりちゃんへ 穂乃果ちゃんの元気を取り戻す為に協力して欲しいの。

  今から学校を抜け出して、そのお姉さんと一緒に音ノ木坂に来て下さい。
  あなたが来てくれれば、穂乃果ちゃんは今日初ライブ(?)を披露してくれる筈です
  どうか私を信じて!                       矢澤あんじゅ』

ことり「これって……」

絵里「無理強いは出来ないわ。どうするかの判断は貴女に一任する」

ことり「……穂乃果ちゃん」

ことり「すいません。嵐山さん。私どうしても行かなきゃいけなくて、だから先生に連絡して欲しいんです」

嵐山「早退するには許可が必要ですので、私の一存では」

希「せやったら、ウチが責任を持って南ことりちゃんの早退手続き書いておくよ。正確には副会長が」

ことり「会長さん! それから副会長さんも、どうしてここに?」

副会長「また東條さんは勝手なことばかり! どうして私がそんなことをしなくちゃいけないの!」

副会長「そもそも、会長になれないのなら生徒会に戻されること自体、私はまだ納得してないというのに!」

希「とか言いながらもウチの助けになってくれるツンデレさん」

副会長「手を貸さないと貴女が煩いからでしょ! 話は見えないけど、生徒会の方で早退許可を出しておくわ」

希「早く行ってあげて。あ、それからさっきの質問の答えだけど、カードがそうするように言ったからや」

ことり「ありがとうございます! 会長さんに副会長さん!」

希「ことりちゃんをよろしくね、音ノ木坂の生徒会長さん」

絵里「正式な挨拶と今回のお礼は今度会った時にでも」

希「その時はここの学食で甘いものでも食べながらしよっか」

副会長「他校の生徒を私用で招くのは余りよろしいことではないわよ。あなた立場的に生徒の鏡でしょ!」

希「安くて美味しいなら利用してこそだし。そうカリカリしないで」

ことり「本当にありがとうございます! それでは、私行きます!」

絵里「それでは、失礼します!」

希「いってらっしゃ~い」

副会長「……で、私には説明してくれるんでしょうね?」

希「そんな睨まれてもカードの導き以外言いようがないって」

副会長「本当に東條さんは私を生徒会から追放した前会長より数段性質が悪いわね!」

希「最高の褒め言葉だね」

副会長「一ミクロンも褒めてないわよ」

希「この出来事が切っ掛けで前会長さんの夢が叶う、そんな予感がしたんだよ」

副会長「前会長の夢?」

希「ま、その話は追々教えてあげる。今はことりちゃんの早退手続きを休み時間が終わるまでに提出してね」

副会長「後二分切ってるから無理よ」

希「有能な副会長さんなら可能なのだ!」

副会長「なんでこんなのが会長してて私が副会長なのよ。やっぱり納得がいかない!」

希「これも素敵な運命やん」

副会長「呪われた運命よ」

希「副会長にやる気をあげる。希パワー注入~♪ は~い、プシュッ!」

副会長「ぎゃーっ!」

――音ノ木坂へ移動中 ことえり

ことり「あの、手紙に書いてあった穂乃果ちゃんの初ライブっていったい」

絵里「詳しくは話せないけど、今日は部活紹介でSMILEがライブをするのは知ってる?」

ことり「はい、中学時代の友達に話を聞きました。これって海未ちゃんのドレスのデザインと関係あるんですか?」

絵里「ええ、あなたのお陰で海未の衣装は完成したわ。ありがとう」

ことり「いえ、私は昔描いたデザインを渡しただけですから。お礼なんて」

絵里「読んだ通りの良い子なのね、あなたって」

ことり「読んだ?」

絵里「ううん、こっちの事。それより質問の方に答えるわ」

絵里「穂乃果ちゃんが勇気を出して立ち上がってくれるなら、魔法を掛けてファーストライブにするつもりなの」

ことり「……魔法?」

絵里「実際に隣で見る訳だから驚くわよ」

ことり「驚く?」

絵里「とにかく穂乃果ちゃんの為に協力してくれてありがとう」

ことり「でもどうしてSMILEのメンバーが穂乃果ちゃんの為に動いてるんですか?」

絵里「正確にはもっと大勢が動いたんだけどね。元々は海未の相談事から始まったのよ」

ことり「海未ちゃんから」

絵里「色々と分からないこと多いだろうけど、とにかく楽しんで頂戴!」

ことり「はぁ……分かりました」

絵里「あと、今回は仮装が条件だから。面倒だけど一度音ノ木坂の制服に着替えてから、ドレスに着替えてもらうわ」

ことり「ドレス?」

絵里「貴女に目立たれると作戦失敗する恐れがあるから」

ことり「ドレスなんて着てたら目立つんじゃないですか?」

絵里「言ったでしょ、仮装パーティーだって。制服姿の方が逆に目立つの」

ことり「音ノ木坂っていつもこんな事をしてるんですか?」

絵里「まさか。こんなこと仕出かす邪道は音ノ木坂の歴史で私達が初めてでしょうね」

――裏方 にこあん

あんじゅ「絵里ちゃんよりメールあり。ことりちゃんの誘拐に成功だって」

にこ「一つ目の危ない橋は渡り切ったってことね。理事長のサインを悪用したからバレたら大目玉よ」

あんじゅ「怒られる時は一緒だからね!」

にこ「なんであんたはそんなに無駄に元気なのよ。てか、一人あれだけ寝れば……ふぁ、元気よね」

あんじゅ「にこの膝枕最高だったよ♪」

にこ「こっちは足が痺れて遅刻寸前だったわよ」

あんじゅ「私が肩を貸してなかったら完全に遅刻だったね」

にこ「あんたに膝貸してなかったら、睡眠取れた上に遅刻を掛けた朝一ダッシュせずにすんだわよ」

あんじゅ「そんなことより、穂乃果ちゃんのドレスにきちんとピンマイク付けておいた?」

にこ「そんなことってねぇ……。大丈夫よ、きちんと付けてからミカに渡したから」

あんじゅ「もう直ぐ大変だったけど楽しかった時間が終わっちゃうんだね」

にこ「なによ、寂しいの?」

あんじゅ「うん。年齢も職業も関係なく集まってこうしてひとつのことに頑張るのってとっても楽しかった」

にこ「私とあんじゅが居ればまた嫌でも変な出来事が待ってるでしょ。寂しがる暇もないわよ、きっと」

あんじゅ「えへへ。そうかも!」

にこ「それにお礼参りもしないといけないからね。後始末の方が大変よ」

あんじゅ「そうだね。一緒にありがとう言いに行こうね☆」

あんじゅ「出来ればあの魔法使いの衣装譲ってもらえないかな?」

にこ「あんたのサイズに合わせてるんだから、言えば譲ってくれるでしょ」

あんじゅ「貰えたらにこにーの家で魔法使いごっこが出来るね」

にこ「いや、そんなことしてどうするのよ」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんを笑顔に出来るニコ!」

にこ「確かにね。なんにせよ、アレが成功するかどうかで名シーンか喜劇になるかね」

あんじゅ「失敗しても喜劇になるなんて最高じゃない。どっちでも人を笑顔に出来るんでしょ?」

にこ「あんたも強くなったわね。その通りにこ!」

あんじゅ「広がれ、笑顔の輪にこ!」

元部員「凄いよ凄いよ! 全生徒集まってるんじゃないの? ってくらい人が集まってるの」

にこ「内田のお姉さんが搬入した時に多すぎって突っ込んだけど、結果オーライだった訳ね」

あんじゅ「もしかしてこれを見越して……!?」

にこ「ないわよ。あの人は何も考えずに持ってきただけよ」

元部員「会場からの撮影は任せて。穂乃果ちゃんに魔法が掛かるシーンをバッチリ映しておくから」

にこ「本当にありがとうね。あなた達には頭上がらないわよ」

元部員「ううん、だからそんな気にしないでってば」

あんじゅ「気にするよ」

元部員「もし運命が違えば私達が逆恨みしてた、なんて可能性があったかもしれないもの」

にこ「どんだけ良い子なのよ。それって逆を言えば私が逆恨みする可能性もあったかもでしょ?」

元部員「それはないよねー」

あんじゅ「ないねー」

にこ「にこはそんな綺麗な人間じゃないわよ」

元部員「キラキラ輝いてるから、こうして力を貸すんだよ」

にこ「私にはあなた達の方が優しさに満ちて輝いて見えるわ」

あんじゅ「うふふ。私こういう空気大好き♪」

にこ「あんたは常にマイペースね。ライブ前でも緊張しないのはいいけど」

元部員「っと、そうだそうだ。ライブ前だったね」

にこ「今回は曲数少ないけど、楽しんでいって」

あんじゅ「衣装コーナーの奥にある箱にペルソナが入ってるよ。良かったら付けてみてね」

元部員「カメラ撮る時に邪魔になるから仮面はいいや。それじゃあ、またね!」

――講堂 穂乃果

穂乃果「こんなヒラヒラした服着たの小学生以来だよ」

フミコ「穂乃果ちゃんとっても可愛い」

穂乃果「そ、そうかな? なんだか恥ずかしいけど」

ヒデコ「なんで私までこんな格好を……」

穂乃果「おぉ~! ヒデコってば胸を強調した服が似合うんだね」

フミコ「良いなぁ」

ヒデコ「胸を見るのやめてよ!」

穂乃果「いや、そんな強調した服着ておいてそんなこと言われても」

ヒデコ「遅かったからサイズ的にこれしか残ってなかったのよ。というか、何この人数」

フミコ「後でサイン貰っておこう」

穂乃果「海未ちゃんは絶対に恥ずかしがって書いてくれなさそう」

ヒデコ「確かにね」

穂乃果「そう言えばミカは見に来てないの?」

ヒデコ「ミカは今サプライズゲストの着替えを手伝ってた」

穂乃果「サプライズゲスト?」

フミコ「絶対に穂乃果ちゃんが驚くよ」

――五分後...

穂乃果「ことりちゃん!?」

ことり「久しぶりだね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「ど、どうしてことりちゃんがここに?」

ことり「穂乃果ちゃんのファーストライブになるって聞いたから来ちゃった」

フミコ「驚いたでしょ?」

ミカ「先生に見つからないかヒヤヒヤしちゃったよ」

ヒデコ「でも、穂乃果のその顔を見れて私は大満足」

穂乃果「……ことりちゃんは忙しいんじゃないの?」

ことり「うん。でも、今日の分の遅れは明日から一時間早く登校して、一時間遅く下校すれば取り戻せるから」

ことり「ファーストライブ前だったらそんな余裕もなかったけどね」

穂乃果「ライブ見たよ。凄いキラキラしてて、胸がドキドキした。ことりちゃんが天使に見えたんだよ!」

ことり「えへへ。ありがとう」

ミカ(以前の穂乃果に戻ったみたい。これも先輩たちのお陰だね)

ヒデコ(苦労したけど、先輩たちの苦労に比べれば可愛いものだったんだろうなー)

フミコ(後はこの仕掛けが上手くいくかどうかなんだね。緊張するなぁ)

――裏方 海未

海未「どういうことですか!? 今回の衣装は王子風という話だったじゃないですか!」

にこ「にこそんなこと言ったっけ?」

あんじゅ「あんじゅは聞いてないよ」

絵里「エリーチカも知らないわね」

海未「よりによってなんでこんなお姫様みたいなドレスなんですか! 踊りにくいではないですか」

にこ「海の向こうではフラメンコっていう踊りもあるのよ」

絵里「衣装を言い訳にするなんて海未らしくないわ」

海未「私はこんな衣装着てライブなんて出来ません!」

あんじゅ「そうなると穂乃果ちゃんの勧誘はなしってことになるね~」

海未「ぐっ……絵里だけはこの邪道二人とは別だと信じてました」

絵里「毒も慣れれば癖になるのよ」

にこ「時間がないんだし、駄々こねてる場合じゃないわよ。人に覚悟を見せるには、自分も覚悟しないとね」

海未「一度ならず二度も悪に屈した気分です」

あんじゅ「その内海未ちゃんも邪道が癖になるよ」

海未「なりません!」

絵里「もう直ぐ時間だし、早く着替えて」

海未「次に聞いていた衣装と違った場合は着替えませんからね!」

にこ「はいはい、分かった分かった」

――ライブ終了!

にこ「今回は三曲だけだったけど、SMILEとしてのライブはここで終わりにこ!」

あんじゅ「でも今回はスペシャルな新曲があるんだよ」

絵里「今回限りの海未のソロ曲を発表します。今日来てくれた生徒達は最高に特したわね!」

海未「ちょっ、ちょっと絵里! ハードルを上げないでください」

にこ「こんな風に恥ずかしがり屋な海未だけど、どうしても伝えたいことがあるんだって」

あんじゅ「たった一人に伝える為に書かれた歌詞」

絵里「ある意味これってラブレターよね」

キャーーー!

海未「ちっ、違います! 何を考えてるんですかっ!」

にこ「それでは私達はお邪魔だから裏に下がらせてもらうわね。見に来てくれてありがとうにこ!」

あんじゅ「こんなにも大勢の人が見に来てくれて幸せだったにこ!」

絵里「海未のことも応援してあげてね。それじゃあ、ありがとう!」

海未「うぅ……三人がからかう所為で歌い辛いではありませんか」

海未ちゃんファイトだよ!

海未ちゃん頑張ってー!

海未「え、あ……」

海未「すいません。それではこれは私の大切な一人の友人に捧げる歌です」

海未「聴いてください」

『君の笑顔を守りたい』

海未「いつも元気をくれる笑顔の君に 最近出会えないんだ」

海未「もしも笑顔を遮る雲があるなら 僕が斬ってみせるよ」

海未「太陽にも負けない元気が 僕の笑顔をくれる」

海未「ずっと傍にいてくれた ありがとうの感謝伝えるよ」

海未「君を傷つけるすべてから 守りたい守り続けたい」

海未「元気な笑顔をください」

ことり(ふふっ。本当に穂乃果ちゃんへのラブレターみたい)

穂乃果(海未ちゃん。とっても可愛い。本当にお姫様みたいに輝いてる!)

あんじゅ「にこにー。変なところないかな? 大丈夫?」

にこ「大丈夫よ。段取りの方は頭に入ってる?」

あんじゅ「大丈夫。まずは海未ちゃんの歌が終わったら、海未ちゃんが穂乃果ちゃんを勧誘するんだよね」

にこ「穂乃果にライトを当ててね。で、穂乃果が右手を上に突き上げたらあんじゅの出番」

にこ「ステージのライトを消してあんじゅにライトが当たるようにするからね。緊張しないでよ」

あんじゅ「大丈夫だよ! それで好きに魔法唱えていいんだよね?」

にこ「ええ、魔法使い役であるあんたの特権よ。それで唱えたら一瞬穂乃果のライトを消す」

にこ「魔法が掛かったらあんたは舞台袖に隠れて」

あんじゅ「了解♪」

にこ「もう直ぐね。杖を忘れるんじゃないわよ」


海未「君を傷つけるすべてから 守りたい守り続けたい」

海未「元気な笑顔をください」

海未「君の笑顔を 守らせて欲しい」

パチパチパチ!

海未「ありがとうございます。ありがとうついでにここでメンバーの勧誘させていただきます!」

海未「穂乃果! 私があなたの王子となって貴女の笑顔を守ります」

海未「だからどうか、私と一緒にスクールアイドルになってください」

海未「今日は本当は王子の格好の筈だったので決まりませんが、どうか私のお姫様」

海未「私の願いを聞き届けてください! 答えをこの場で下さい!」

ことり(海未ちゃんお姫様なのにカッコ良い! ミカちゃん?)

ミカ(ことりちゃん、ちょっとだけごめんね。穂乃果のドレスの紐を引かなきゃいけないから)

ミカ(少しの間、膝の上に腕を置かせてね)

ことり(いいけど、私が引こうか?)

ミカ(タイミングがあるからごめんね)

ことり(ううん、いいよ)

穂乃果「……海未ちゃん。穂乃果の答えはね」

にこ(よし! 穂乃果が手を上げたわ!)

海未「え、ライトが消えた!?」

あんじゅ「にこにーにこにー笑顔の魔法♪ 魔法使いあんじゅ参上♪」

海未「――は?」

あんじゅ「今日は一人の女の子の願いを叶える為に魔法の国からやってきました」

あんじゅ「海未ちゃんはどう見ても今はお姫様の格好だったよね~」

あんじゅ「お姫様が王子を語ってもダメだよ。真の王子様は魔法使いが魔法を掛けてなれるものなの」

海未「待ってください! こんな話、私は聞いてませんよ!」

あんじゅ「今からあの子に魔法を掛けるから皆注目! そして、お姫様は静かに……」

あんじゅ「にこにーにこにー愛されにこにー」

あんじゅ「あの子をお姫様から王子様にするにこにー! にこにーフラッシュ☆」

にこ(激しくダサい!)

絵里(あんじゅのネーミングセンスだけは絶望的ね)

海未「――」

「え? 嘘……。一瞬ライト消えただけであの子が王子様に変身してる!?」

「だって、さっきまでドレスだったよね?」

「かぼちゃパンツ風の王子様だ。メルヘンだよ!」

ことり「凄い……こんな仕掛けって出来るんだ」

ミカ「かぼちゃパンツにするには両側から引っ張ってないとダメっていう欠点があるんだけどね」

ことり「でも、上は完全に変わったよ」

ミカ「元々ミュージカルのシンデレラであった仕掛けなの。だから上だけは最初から大丈夫だったんだよ」

ミカ「でも下は一回限りのギャンブルだったんだって。使い捨てだから試すことも出来なくて」

ミカ「完成したのも今朝だって」

ことり「凄い……本当に凄い。それしか言葉が出ない」

穂乃果「守られるお姫様は魔法を掛けられる前まで!」

穂乃果「穂乃果は今日から海未ちゃんも、そしてことりちゃんも守れるくらい強い王子になってみせる!」

穂乃果「ううん、なってみせるじゃ駄目だね。王子になるったらなる!」

穂乃果「大切で凄くすっごく強い二人を守れる王子になって、現実なんてぶち壊しちゃう!」

穂乃果「それでもって! 今日から音ノ木坂スクールアイドルSMILEに入らせてもらいます!」

海未「……ほのか」

ことり「ほのかちゃん♪」

穂乃果「こんな凄い仕掛けまで用意して、色々と準備することもあったと思います」

穂乃果「その中で私の為に一曲作ってくれた先輩たちに大きな大きな感謝を!」

穂乃果「私を元気付けようと頑張ってくれた友人たちに大きな大きな感謝を!」

穂乃果「そして……私の大好きでとっても尊敬している幼馴染二人に大きな大きな愛を!」

穂乃果「高坂穂乃果歌わせてもらいます。聴いてください」

『思い出はいつも笑顔』

穂乃果「沢山の季節の中を 歩いてきたよね」

穂乃果「鬼ごっこ 隠れんぼ 追いかけっこ」

穂乃果「君と出逢った 公園 今も覚えてるよ」

穂乃果「大きな木に登って 泣いたりもしたけど」

穂乃果「そこから見た景色 忘れたくない思い出」


ことり(ふふっ。懐かしいなぁ)

海未(あのノートは穂乃果を勧誘する為じゃなくて、この歌を作る為だったんですね!)

にこ(ふぁ~あ。流石に眠くなってきたわ)

あんじゅ(お疲れ様。後はもう海未ちゃん次第だから、眠っても大丈夫だよ)

にこ(ここのどこで寝ろってのよ。机があるならまだしも)

あんじゅ(泣いたあの日みたいに私の胸を枕にしていいから)

にこ(息苦しくて眠れ――うぐぅ、もういいわ。寝る……)

あんじゅ(本当にお疲れ様。にこお姉ちゃんカッコ良かったよ)

にこ(とうぜんでしょ……にこは、おねえちゃ)

絵里(出るに出られない状態になっちゃったわね)

穂乃果「沢山の幸せの中を 歩いてきたよね」

穂乃果「お正月 誕生日 クリスマス」

穂乃果「君と笑った 過去を ずっと覚えてるよ」

穂乃果「お泊り会のおねしょ 慰めてくれたね」

穂乃果「優しさ全部覚えてる 忘れられない思い出」


海未(自分の醜聞まで歌うとは……そうですか、お姫様は終わりなんですね)

海未(私としては守られる側より守る側の方が得意なのですが)

海未(いえ、本当は違うのかもしれません)

海未(甘えてみて分かりました。私はやっぱり弱い人間で、守られる側なのかもしれません)

海未(今までは鍍金で強がってましたが、それも終わりかもしれません)

海未(だけど、穂乃果が王子というのは……似合うのか似合わないのか)

海未(だけど、カッコ良いですよ。私達の王子様)

ことり(海未ちゃんのお家でお泊りした時にお漏らししちゃったんだよね)

ことり(家柄もあって、あの頃から既に海未ちゃんはしっかりしてた)

ことり(泣いてる穂乃果ちゃんをことりが慰めてる間に、お漏らしした布団を片付けてたもんね)

ことり(そういうことの積み重ねで、いつしか海未ちゃんに守られることに依存してた)

ことり(穂乃果ちゃんに手を引かれ、海未ちゃんに守られて。今回UTXに入学する時もそうだった)

ことり(私も穂乃果ちゃんみたいにいつか王子様になりたい!)

ことり(三人順番に王子様とお姫様になるなんて他の人達じゃ出来ないもんね)

ことり(今日からもっともっと強くなれるように頑張る!)

穂乃果「三人で歩んだ景色 忘れないよ思い出」

穂乃果「いつまでも 笑顔のままでいようね」

穂乃果「今目の前の光景 忘れたくない思い出」

穂乃果「ありがとうございました!」

パチパチパチパチパチ!

あんじゅ「にこ。無事に終わったみたいだよ」

にこ「んぅ……いが……いがぁ……」

あんじゅ「うふふ。ほっぺたぷにぷに~」

にこ「ふぁ、ん……きょうはかれーにこ、すーすー」

あんじゅ「本当だったら嬉しいにこ」

理事長「さて、あちらの二人に訊くのは無粋みたいなので、絢瀬さんにお聞きしてもよろしいかしら?」

絵里「何でしょうか?」

理事長「どうして私の娘がここに居るのかについて」

理事長「先週矢澤さんが私の元へ来たことと勿論関係ない、なんて言いませんよね?」

絵里「」

理事長「スクールアイドル全員を集めてお話とお説教をしなければいけませんね」

絵里「出来れば私だけの処分でお願いします。私は生徒会長ですから」

理事長「悪いことをした者に貴賎は関係ありません」

絵里「……申し訳ありませんでした。でも、本当に全ては私の責任なんです!」

理事長「同じ事を繰り返し言わせるのは賢くない人間のすることです」

絵里「はい」

理事長「どんな無茶をしたか知りませんが、寝た子を起こしてお説教するのは一人の母親としては失格になります」

理事長「ですから、お説教するのは今夜にしましょう。場所は――」

――南家 夜 にこあん

こころ「おすしー!」

ここあ「にこにー。ここあエビ食べたいにこ!」

こころ「こころはタマゴ食べたいにこ!」

にこ「今取ってあげるにこ~」

あんじゅ「イクラ美味しいにこ!」

にこ「あんたもお姉ちゃんなら自分の食べる前に妹の分を取りなさいよね」

あんじゅ「うぅ~ごめんね。こころちゃん、ここあちゃん」

こころ「おすしおいしいもんね」

ここあ「おいしいからしかたないの」

あんじゅ「食べたい物があったら私にも言ってね。バンバン取るからね!」

にこ「で、起きたら理事長の家に居てお寿司食べ始めてる私にそろそろ説明してくれない?」

あんじゅ「話せば長くなりそうで短いんだけどね、理事長にお説教されると言って集められたの」

にこ「なのにどうしてうちのおちびちゃん達まで居るのよ」

あんじゅ「お説教は口実で、こうしてお寿司ご馳走してくれるっていうから、私が連れてきたの」

にこ「あんたって凄い逞しいわね。私より逞しいわ」

ここあ「あんちゃん。ここあもイクラ食べたい!」

あんじゅ「今取ってあげるからね~。はい、どうぞ」

ここあ「ありがとう!」

こころ「にこにー。こころはハンバーグがいい」

にこ「回転寿司と違ってハンバーグはないにこ。他は何がいいにこ?」

こころ「じゃあね、じゃあね。おいしいのがいいにこ!」

にこ「じゃあ、大トロいっちゃいましょうか」

こころ「おっきいの? これくらい?」

にこ「名前だけよ。別に大きい訳じゃないにこよ」

絵里「エリーチカお姉ちゃんもお邪魔してもいいかしら?」

にこ「あんたいつまでお姉ちゃんネタ使ってるのよ」

絵里「え? これからずっとそのつもりだけど。私だけ仲間外れとか寂しいじゃない」

あんじゅ「家族は増える方が良いっておばちゃんも言ってたよね」

にこ「確かに言ってたけど、別に仲間外れでもないでしょ。海未は妹じゃないんだし」

絵里「二年生組では仲間外れじゃない」

にこ「亜里沙って妹が居るんだから、妹欲しがらなくてもいいでしょうに」

絵里「したことは怒られることなんだけど、今回すっごく楽しかったのよ」

あんじゅ「おぉ~。絵里ちゃんも本格的な邪道の一歩を踏み始めたんだね」

にこ「生徒会長がそれじゃダメよ」

絵里「生徒会長としての権限を利用するのは今回限り。それならいいでしょ?」

にこ「やれやれ。絵里がそんな馬鹿だとは思わなかったわ。好きにしなさい」

絵里「ええ、好きにするわ。ということでエリーチカお姉ちゃんが好きな物取ってあげるにこ!」

あんじゅ「……なんていうか、私達というよりもこころちゃんとここあちゃんが本命のような気が」

にこ「どうでもいいわ。それより、食べることに専念出来そうだし、食べちゃいましょう」

――ことのほのうみ

穂乃果「ウニ、ウニだよ!」

海未「一本足せば私ですね」

ことり「くすっ。じゃあ三人でウミちゃんを食べようか」

海未「ことり、恥ずかしいですから本当に一本足さないでください!」

穂乃果「ウミちゃん美味しい~♪」

海未「穂乃果までやめてください!」

ことり「ふふっ。楽しいなぁ♪ こうして三人でご飯食べるの去年のクリスマス以来だよね」

穂乃果「うん。だから穂乃果も今すっごい幸せ!」

海未「当然ながら私もです。いきなり穂乃果の衣装が王子になった時はどうなることかと思いましたが」

ことり「凄かったよね。商店街の人達やミュージカルの劇団で衣装担当してる人にも手伝ってもらったんだって」

海未「私の相談事一つでここまで大掛かりなことを仕出かすとは。これでは怖くて甘えられません」

穂乃果「大丈夫だよ、海未ちゃん。穂乃果には簡単に甘えてくれていいから。勿論ことりちゃんもね!」

ことり「わぁ~い! UTXで何か困ったことがあったら穂乃果ちゃんに相談するね」

海未「元気になった途端これですか。まったく、現金なものです」

穂乃果「元気こそが穂乃果の取り柄だもん。笑顔の大事さを今回のことで思い知らされたから」

穂乃果「今回のことで多くの人に迷惑をかけちゃった」

海未「その分、スクールアイドルとしてより多くの人を笑顔にさせていけばいいのです」

ことり「ステージの上で歌うとね、すっごく癖になっちゃうよ。まだ一回だけなのに凄かった♪」

海未「癖になるかどうかは別として、別世界が開けるのは確かですね」

穂乃果「でも、先輩達は穂乃果のこと本当に認めてくれてるのかな?」

穂乃果「演出上仕方なくスクールアイドル入りをOKしてくれたんじゃないかな?」

海未「王子になって守ると言ったそばからなんですか。もっと強気になってくれないと困ります」

穂乃果「だって~。凄い迷惑掛けちゃったんだもん。特ににこ先輩には……」

ことり「ほのかちゃん」

海未「では私が訊いてあげます。にこっ! 穂乃果のSMILE加入をどう思ってますか?」

にこ「正直最初は絶対にスクールアイドルに向いてないって思ってたわ」

にこ「逆に海未は絶対にスクールアイドルにしたいって思った。これが本音ね」

にこ「でも、出会った時の穂乃果が今みたいに笑ってたら、私は迷わず穂乃果を勧誘してた」

にこ「海未がキラ星よりカリスマ性があるとか言ってたのも強ち間違いじゃないかもね」

にこ「ま、私は残念ながらキラ星推しだから穂乃果の方が若干下だと思ってるけど」

ことり「キラ星?」

海未「綺羅ツバサのことですよ。小学生の時に縁があったとかで」

ことり「あぁっ! 英玲奈ちゃんから聞きました。ツバサちゃんがよく口にする子が居るって」

ことり「その子の名前が……にこにー」

にこ「キラ星がにこを覚えててくれた……あんじゅ! 絵里! にこの信じる想いは勝ったのよ~!」

海未「相当嬉しかったみたいですね」

穂乃果「もぐもぐ……つまり、どういうこと?」

ことり「つまりね、にこさんと私のグループのツバサちゃんは縁があるってことみたい」

海未「再会を約束しているようです。出来ればラブライブの舞台で」

穂乃果「へぇ~。なんか漫画みたいな展開だね」

海未「簡単に流さないでください。それを実現させる為ににこ達がどれほど努力していることか」

ことり「スクールアイドルは本当に大変なんだよ」

穂乃果「そっか。でも、穂乃果も頑張る!」

海未「朝練もあるので、仕方ありません。私が毎日起こしに行きます」

穂乃果「ダメだよ。お姫様を起こすのは王子の役目だもん。私が海未ちゃんを起こしに行くよ!」

海未「……初日から遅刻しそうですね」

ことり「そんな、酷いよ。せめて二日は持つよね?」

穂乃果「二人とも酷いよ~!」

――穂乃果ダイアリー

今日から日記を書こうと思います。訳は今日という日から変わりたいから。

沢山の人に迷惑をかけて、沢山の人に心配されて、守られるお姫様な穂乃果はおしまい。

これからはことりちゃんも海未ちゃんも守れる強い王子様穂乃果になります!

といって、直ぐになれるとは思ってません。

最初の一歩は早起きして海未ちゃんを迎えに行くことです。

簡単なところから始めていけば、いつか本当の王子様みたいになれるって信じてる!

今日のことを忘れない内に書いておきます。いや、忘れられないと思うけど。

ことりちゃんが音ノ木坂に来てくれたことがまず驚きました。

次は魔法を掛けられて服装がドレスから物語の王子様みたいになった時も本当に驚いたよ。

でも、海未ちゃんの方が驚いてたから、先に冷静になれちゃった。

スクールアイドルになってまずは、今回色々してくれた先輩達に恩返しをしたいです。

ラブライブっていう大会に出れるように、頑張りたいと思います。

日記を書きながら思わず『思い出はいつも笑顔』ながら今日の日記は終わろうと思います。

一日目から長いと絶対続かないのが穂乃果の性格だから!

今日みたいな幸せの日が、これからもずっと巡ってきますように。


つづく! ネクストストーリー【UTXプロローグ~始まりの歌、秋葉に響け~】

◆新生A-RISE~始まりの歌、秋葉に響け~ 前編◆

―― 一年目十二月二十四日 UTX学院 ことり

先生「今回の課題も実によく出来ていますね」

ことり「ありがとうございます」

先生「南さんを推薦した立場としては、誇らしいですよ」

ことり「そんなっ。私なんてまだまだこれからですし」

先生「ええ、それは分かっています。ですが、デザインとはセンスがあるかどうかは大事ですから」

先生「現時点その輝きが見えている時点で将来に期待が出来ます」

ことり「ありがとうございます」

先生「次は来年となりますね。お正月は羽を伸ばして、来年からまた課題を仕上げて下さい」

ことり「分かりました」

先生「今日はこれで大丈夫ですよ。良きクリスマスを」

ことり「はいっ、ありがとうございます。それでは失礼します」

ことり(はぁ~。何度か来てるのにUTXは緊張するなぁ)

ことり(当然高校だからというのもあるけど、設備もしっかりしてて、後者も隅々まで綺麗で場違いな感じがする)

英玲奈「そこの貴女。少し時間いいだろうか?」

ことり「え、私……ですか?」

英玲奈「ああ。どうだろう?」

ことり「大丈夫ですけど」

英玲奈「そんな緊張することはない。ただ少し気になったからこうして声を掛けている」

ことり「……はい」

ことり(なんだか独特の喋り方。海未ちゃんをより特化させた感じかなぁ)

ことり(見た目綺麗系なのは同じだけど、髪の長さも海未ちゃんより長いし)

英玲奈「その制服は中学生で間違いないかな」

ことり「はい。来年度からこちらの被服科でお世話になります」

英玲奈「特待生か。だとしても欲しい」

ことり「え?」

英玲奈「当たり前の質問をするが、スクールアイドルは知っている?」

ことり「ええ、当然知ってます」

英玲奈「私はこのUTXのスクールアイドルをしている。A-RISEの統堂英玲奈という」

ことり「えっと、私は南ことりと申します」

英玲奈「擁護したくなる魅力とでもいうべきか、女の私ですらそう思ってしまう見た目」

英玲奈「それ以上にその見た目を倍増させるその声色」

ことり「……」

英玲奈「一緒にスクールアイドルをやってくれないだろうか?」

ことり「え、えぇっ!? ことりがですか?」

英玲奈「最低でも新入生を一人迎え入れたいと思っていた。時期は少し早いが大丈夫だろう」

ことり「突然そんなこと言われても困ります」

英玲奈「興味はない?」

ことり「……いえ、興味がないと言えば嘘になります。友達もスクールアイドルの練習をしてるので」

英玲奈「だったら一度練習を見て欲しい。被服科であるなら、衣装のデザインもお願いするかもしれない」

ことり「アイドル衣装を?」

英玲奈「ああ。製作までさせる時間はないが、自分でデザインした衣装でお客さんの前でライブを披露する」

英玲奈「目を閉じて少し考えて欲しい。輝くステージに立つ自分の姿を」

英玲奈「病み付きになる程の強烈な刺激。自分達の歌とパフォーマンスで魅了し、笑顔に変える瞬間を」

ことり「……」

英玲奈「普通のアイドルと違ってスクールアイドルは誰にでもなろうと思えばなれるかもしれない」

英玲奈「だが、ここUTX学院ではそれは通用しない。本当に一握りの可能性を秘めた人間だけが代表になれる」

英玲奈「無論、その可能性を開花させなければステージに立つ未来は訪れない。努力なくして道はない」

ことり「でも、私は運動とか得意って訳でもないですし、体力も普通より少ないと思うから」

英玲奈「そんな物は努力で補える。今求めているのは確固たる決意だけ」

ことり「」

英玲奈「とはいえ、今ここでそれを決断させる程愚かではない。とにかく見学して欲しい」

ことり「で、でも」

英玲奈「無理強いはしない。特待生である以上その責任から逃れることは出来ない」

英玲奈「中途半端な意志では挫折しか得る物はないだろう。だからこそ、自らの意志で決意して欲しい」

ことり「分かりました。見学だけなら」

英玲奈「ありがとう、ことり。ではこれから大丈夫だろうか?」

ことり「ごめんなさい。今日はこの後友達と約束しているんです」

英玲奈「そうか、今日はクリスマス・イヴか。では明日の十三時はどうだろう」

ことり「それでしたら大丈夫です」

英玲奈「では明日十三時に受け付け前で待っている。連絡先を交換しても?」

ことり「あ、はい」

英玲奈「……よし、南ことり。登録完了した。何かあれば私に連絡して欲しい」

ことり「分かりました」

英玲奈「念の為に動き易い服と着替えを用意をお願いする」

ことり「はい、分かりました。タオルも必要ですか?」

英玲奈「タオルや飲み物は学院の方で用意される。勿論、シャワーだけでなくお風呂もある」

英玲奈「サウナ派でもきちんと完備してあるので心配はない」

ことり「お風呂にサウナまで……。ここって高校ですよね?」

英玲奈「芸能科に力を入れている証拠だ。これくらいで驚くことはない」

ことり「十分に驚きますけど」

英玲奈「合宿用に宿泊施設もあるし、スポーツジムのような設備も充実している」

英玲奈「劇場があるので夜中であろうと歌もダンスの練習も可能だ」

ことり(そ、想像してたよりもずっと凄い学校みたい。パンフレット見直した方がいいかも)

英玲奈「施設の見学は時間が出来れば私が案内しよう。とにかく明日、ツバサと会ってからだ」

ことり「ツバサ?」

英玲奈「A-RISEのリーダー。ことりよりも小柄だが、そのカリスマ性はどこに居ても輝いて見える」

英玲奈「歌唱力と動きのキレも素晴らしいが、小柄でありながら醸し出す色気」

ことり「色気?」

英玲奈「その意見は男性ファンの意見なので、女の私にとっては愛らしいとしか思えないが」

ことり(英玲奈さんは見た目と違って意外と天然さんなところもあるのかも)

英玲奈「現在のスクールアイドルの中で、個人であれば間違いなくナンバー1の存在」

ことり「そんなに凄い人なんですか」

英玲奈「身内だから厳しい採点をして尚、一番だと言い切れるくらいには凄いかな」

ことり(私と海未ちゃんにとっての穂乃果ちゃんってことだよね)

英玲奈「グループとしても全国二位だから、誇張表現でないことは保障する」

ことり「全国二位、ですか」

英玲奈「スクールアイドルにはラブライブという全国大会がある。今年は残念ながら二位だった」

ことり「二位でも十分すぎると思います。というか、そんなグループに私が入るなんて流石に無理です」

英玲奈「結論は見学してから。臆病さは大切だけど、ただの逃げ腰じゃ世界は輝かない」

英玲奈「勇気ある選択をするからこそ、未来は輝く。ことりもまた、同じ道を歩むと期待している」

英玲奈「随分と引き止めて悪かった。どうやら、少し浮かれていたようだ」

ことり「浮かれていた?」

英玲奈「ああ。ツバサと話していた理想の新メンバーに出逢えたことが嬉しくて」

ことり「ぅうっ。そんなに持ち上げられても困ります」

英玲奈「サンタも神も信じたことはないが、今日という日の出逢いは誰かからのプレゼントなのかもしれない」

英玲奈「そろそろ行かないとツバサに怒られてしまう。では、ことり。また明日」

ことり「は、はい。練習がんばってください」

英玲奈「ありがとう」

ことり「……はぁ~」

ことり(突然のことで頭が半分くらい回ってなかったけど、大変な事になっちゃった!)

ことり(海未ちゃんがスクールアイドルを始めてなかったら、絶対に断ってたと思う)

ことり(何だかんだ言いながらも楽しそうな海未ちゃんを見て、私も少し興味が湧いてたの)

ことり(可愛い衣装をデザインして作るのも好きだけど、可愛い服を着るのも大好きだからっ)

ことり(だけど、全国二位と聞いて興味は凍結し、恐怖にも似た感情が生まれる)

ことり(穂乃果ちゃんなら臆せず興味を持つかもしれないけど、私には無理)

ことり(それに私は二人の分まで夢を叶えなきゃいけないから。寄り道をしてる場合じゃないよね?)

――南家 夜 ことほのうみ

海未「ほら、穂乃果。口元をそんな汚す食べ方ははしたないですよ」

穂乃果「だってチキンだよ、チキン! それにクリスマスなんだよっ」

海未「全く理由になってません」

穂乃果「ことりちゃんは穂乃果の味方だよね?」

ことり「えっ? ごめんね、ちょっと考え事してて話を聞いてなかった」

海未「UTX関係でしょうか?」

ことり「うん。今日課題出しに行った時にちょっと」

穂乃果「課題以外にも何かあったの? 私で力になれることがあれば何でもするよ!」

海未(最近ちょっとだけ穂乃果の元気がないように見えましたが、考え過ぎだったようですね)

ことり「ありがとう。でも、大丈夫だよ。自分で何とかしてみる」

海未「穂乃果もことりを見習ってもっとしっかりしてください」

穂乃果「海未ちゃ~ん。今日はクリスマスイヴなんだから少しは楽しもうよ」

海未「そういう台詞は普段しっかりしてる人が言うから意味が生まれるんです」

海未「普段からお祭り騒ぎの穂乃果ではだらける口実にしか聞こえません」

穂乃果「ことりちゃ~ん。海未ちゃんがいじめる~」

ことり「穂乃果ちゃんは来年から頑張る子だよね?」

穂乃果「そうそう! 今年だらけた分、来年は二倍頑張るから」

海未「ことりは将来絶対に子育てに失敗するタイプですね」

穂乃果「そんなことないよ。ことりちゃん程お母さんにした子居ないもん」

ことり「はぅん。今の年齢でお母さんはちょっと嬉しくないかなぁ」

穂乃果「料理も美味しいし、よし! 今日からことりちゃんのお家の子になろう」

海未「その台詞はダイエット以上に聞き飽きましたよ」

穂乃果「そうだ、ダイエットするんだった。来年から頑張るっ」

ことり「あ、はは……」

海未「やれやれ。録音しておいて、来年の今頃に聞かせてあげましょうか?」

穂乃果「それだとまるで穂乃果が成長しないみたいに聞こえるじゃない」

海未「成長していないではないですか。いい機会ですから来年の毎月の目標を立ててください」

海未「目標が達成出来ない場合は、我が家に泊り込みで鍛え直します!」

穂乃果「ひぃぃっ! 海未ちゃんのやる気スイッチが入っちゃったよ」

ことり「海未ちゃんに着て欲しい衣装用意したんだ。ミニスカサンタさんをイメージした衣装なんだけど」

海未「なっ! なななんですかその衣装は。聞いただけで恥ずかしそうではないですか」

穂乃果(おぉ~♪ ことりちゃんの言霊。海未ちゃんにこうかはばつぐんだ!)

ことり「お部屋は暖かいからお腹冷えないし大丈夫だよ」

海未「そんなの無理ですっ」

ことり「穂乃果ちゃんはトナカイ。おへそ出しの可愛いやつ」

穂乃果「えぇっ!? 穂乃果まで着替えるの。だったらことりちゃんは?」

ことり「ことりはサンタさんを待つ子供役だからこのままで」

海未「卑怯ですよ! でしたら私も子供役をします。絶対に着ませんからね」

穂乃果「公平にジャンケンにしようよ。そしたら海未ちゃんはおへそ出しのトナカイになるかも……ぬふふ♪」

ことり「それでもいいかも」

海未「そんなことよりまずは冷める前に食べなきゃ駄目ですよ!」

穂乃果「海未ちゃんってば自分に都合が悪くなると誤魔化すんだ~。穂乃果にはいっつも厳しいのに~」

海未「ぐっ。それとこれとは別です」

ことり「あ~ぁ。海未ちゃんの為に作ったのになぁ。サンタさんな海未ちゃん見たかったなー」

海未「二人して私を苛めて楽しいのですか?」

ことほの「すっごく楽しい☆」

海未「」

―― 一方その頃 矢澤家

にこ「にこにーサンタさんよ!」

こころ「にこにーサンタさん!」

ここあ「わぁーい! にこにーサンタさん!」

にこ「いつも良い子な二人にはプレゼントがあるにこ」

あんじゅ「トナカイの着替え待たずに出て行くの酷いよ~」

にこ「そんなとろくちゃ世界は目指せないわ」

あんじゅ「着ぐるみ着るの初めてなんだから時間掛かるのしょうがないでしょ」

ここあ「あんちゃんトナカイー!」

あんじゅ「よしよし。にこにーと違ってここあちゃんは良い子にこっ」

こころ「あんじゅちゃんすごーい!」

あんじゅ「こころちゃんも良い子にこ~」

絵里「イヴ当日にトナカイの着ぐるみ貸してくれるなんて、にこの人望の結果よね」

にこ「何よ、絵里ってば今日は妙に素直じゃない」

絵里「誘って貰えなかったら一人寂しいイヴを過ごすことになってたからね。少しはよいしょしておかないと」

にこ「よいしょなんかい! まぁ、いいわ。さ、こころからまずプレゼントにこ♪」

こころ「やったー。ありがとう、にこにーサンタさん。何かな何かな?」

にこ「開けてからのお楽しみにこ。次はここあにこ!」

ここあ「やたーっ! にこにーサンタさんありがとう!」

あんじゅ「次は三人目の妹である私にプレゼントだよね」

にこ「はぁ? あんたにプレゼントなんてあるわけないでしょ」

あんじゅ「う~るる~トナカイシベリアに帰る!」

絵里「サンタが居るのってグリーンランドかフィンランドじゃなかった? 少なくともロシアには居ないわよ」

あんじゅ「絵里ちゃんまでいじめる~るるる~」

にこ「もはや悲しみじゃなくて歌になってるわよ。煩いだろうからあんたの分まで用意したわよ」

あんじゅ「さっすがにこにーお姉ちゃん! 大好きニコ!」

にこ「本当に現金な子ね。ほら、受け取んなさい」

あんじゅ「ありがとー♪」

絵里「本当に用意してたのね。てっきり『にこの笑顔にこ!』とか言うのかと思ってたけど」

にこ「失礼なやつね。家族の中で一番長い時間過ごす相手だから、いじけられると面倒なのよ」

絵里「ああ、なるほどね。来年は私も二人と同じクラスになれると良いけど」

あんじゅ「先生達も学校存続にはSMILEが必要だって思って、一緒のクラスにしてくれるよ」

にこ「再就職先探すよりはクラス替えで三人一緒にする方が楽だし、そうなるでしょ」

絵里「ふふっ随分と自信家の姉妹ね。そっくりだわ」

こころ「うさぎさんのぬいぐるみー!」

ここあ「ここあはキツネさんのぬいぐるみ!」

にこ「にこにーサンタとトナカイからのプレゼントだから大事にするにこよ?」

こころあ「うん!」

絵里「そんな良い子な二人に私からもプレゼントよ。すっごく美味しいチョコレート」

こころ「チョコレート!」

ここあ「食べてもいいの?」

にこ「今日はケーキもあるんだから明日以降にしなさい。それから、まずはお礼でしょ?」

こころあ「ありがとう!」

にこ「気を遣わせて悪かったわね」

絵里「亜里沙の小さい頃思い出して嬉しいのよ。だから気にしないで」

あんじゅ「にこ~早く戻ろう。トナカイの手じゃプレゼント開けられない」

にこ「はいはい。着替えてくるから、料理の方運んでてもらっていい?」

絵里「了解よ。にこの料理は美味しいから食べるのが楽しみだわ」

あんじゅ「絵里ちゃんの意見に同意! おにくおにく~♪」

にこ「こころとここあも汚れるといけないから、ぬいぐるみは部屋に置いてきなさい」

こころあ「はぁーい」

――十二月二十五日 UTX学院 ことり

ことり「すいません、お待たせしました」

英玲奈「こちらが十五分前行動をしていただけ。ツバサの元へ案内する。一緒に行こう」

ことり「は、はい」

英玲奈「昨日もそうだったが、緊張する必要はない」

ことり「でも、やっぱり緊張してしまいます」

英玲奈「やはりここに居る間は自分ももうUTXの生徒なんだと思ってもらえればいい」

ことり「難しいです」

英玲奈「私もツバサもことりより一つ年上なだけで、特別ということはない」

ことり(中学生と高校生だと妙に大きな壁があるように感じるんだけど、分かってないみたい)

英玲奈「家はここから近いのかな?」

ことり「お隣の淡路町です」

英玲奈「それは良かった。もしもの時はタクシーで直ぐに行き来できる」

ことり「えっと?」

英玲奈「スクールアイドルになったらの話。遅くなった場合はタクシーで帰るといい」

英玲奈「タクシーチケットの方を学院側から配布されるので心配することはない」

ことり(そっちの心配より、既にスクールアイドルになった前提の話をしてる事が心配なんだけど)

英玲奈「泊まりになりそうな時もまた学院から連絡を入れるので安心して欲しい」

ことり「はい」

英玲奈「着替え等も新品が用意されているが、自分の物じゃないと嫌だという時はロッカーに置いておくといい」

ことり「……私、いつも使ってる枕じゃないと中々眠れなくて」

英玲奈「女の子らしくて可愛いと思う」

ことり「ありがとうございます?」

英玲奈「雑誌の取材等は慣れるまでは私とツバサが答えよう」

英玲奈「ただ、一番最初だけは質問が多くなるだろうから、そこだけは頑張って欲しい」

ことり(うぅ……どうしよう)

英玲奈「女子校であることを配慮して、記者もカメラマンも女性が来る。そこまで緊張することはない」

ことり(英玲奈さんってすっごいマイペースだよぉ)

英玲奈「他に何か気になる点はあるだろうか?」

ことり「スクールアイドルってどんなことをするんですか?」

英玲奈「一に練習、二に練習、三四も練習、五に本番。そんなところかな」

ことり「練習三昧なんですね」

英玲奈「見に来てくれるお客さんを満足させるのがスクールアイドルの在り方だと私は思っている」

ことり「つまりはファンの為ってことですね」

英玲奈「そうでもあるし、或いはそうでもない。私達の場合はスクールアイドルであるけど、プロ意識を必要とされる」

英玲奈「本物のアイドルではない私達のライブにお金を払って見に来てくれる」

英玲奈「だからこそ、満足させられなければ私達の存在意義は失われる。故に、より高みを目指せる」

ことり「……」

英玲奈「劇場を持っているUTXだからの自論だし、ことりがどう考えるのかは別だ」

ことり「……やっぱり私には絶対に向いてないと思います」

英玲奈「もしそうだとしたら、私のセンスがなかったと言うことになる。そして、私は自分のセンスを信じている」

英玲奈「それからこれも個人の意見だが、悪い事を語る際に《絶対》という言葉は使わない方がいい」

ことり「え?」

英玲奈「絶対という言葉は不安を確定させる為にあるんじゃない」

ことり「……素敵な考えですね」

英玲奈「だから絶対はこういう風に使う。南ことりは絶対にスクールアイドルになって沢山のファンを魅了する」

ことり「英玲奈さん」

英玲奈「昨日も言ったけど、取り敢えず練習を見てから決めて欲しい」

ことり「はい、すいません」

英玲奈「謝ることはない。ことりの時間を貰っているのは私の我がままに過ぎない」

英玲奈「お詫びとして先にこれをプレゼントしておこう」

ことり「これは……ライブのチケット?」

英玲奈「スクールアイドルになるかどうかは分からない。だけど一度でいいからライブを見て欲しい」

英玲奈「これも私の我がままになってしまうかな?」

ことり「くすっ。三日後ですね、楽しませてもらいます」

英玲奈「やっと笑ってくれた。素敵な笑顔だ」

ことり「あ、ありがとうございます」

英玲奈「私が男だったら惚れていてもおかしくないな」

ことり(海未ちゃんが恥ずかしいこと言える性格だったら、沢山の後輩の子が泣いてたかも)

英玲奈「ツバサの前でもその笑顔でいればA-RISE入りはスムーズに終わる」

ことり「はぅん」

ことり(英玲奈さんの中では、もう完全に私がA-RISE入りすることが確定してるよぉ)

英玲奈「私と違ってツバサは親しみ易いから、緊張することもないだろう」

ことり「英玲奈さんが居てくれれば多分大丈夫です」

英玲奈「ふふふ。私に気を遣う必要はないよ」

ことり「そういうつもりで言った訳じゃなくて本心ですよ」

英玲奈「ことりは良い子だな。さ、あの扉の向こうにツバサが待っている。心の準備は大丈夫かな?」

ことり「はいっ!」

――UTX劇場

ツバサ「初めまして、南ことりさん」

ことり「こ、こんちには。初めまして」

ツバサ「英玲奈には話しに聞いてるだろうけど、自己紹介させてもらうわね」

ツバサ「私はA-RISEのリーダーをしてる綺羅ツバサっていうの。これからよろしくね」

ことり「あの、今日は見学だけでスクールアイドルになるかどうかは決めてないんですけど」

ツバサ「そういえばそうだった、ごめんね。でも、一緒にやってくれると私は嬉しいな」

英玲奈「私の想定通り、ツバサのお眼鏡に掛かったようだ」

ことり「今会ったばかりですよ?」

ツバサ「スクールアイドルなんて一目で何かを感じないと可能性を感じられないわ」

英玲奈「秘めた強さとでもいえばいいのだろうか、そういう物を持っている者は輝いて見えるものだ」

ことり(穂乃果ちゃんなら納得出来るんだけど、ことりは……)

ツバサ「魅力に見合った自信がないって感じかしら。でも、それはライブを経験していけば蓄積されるものだし」

英玲奈「私もそう思っている。ただ、昨日も言った通りことりは被服科の特待生だ。私達より練習が少なくなる」

ツバサ「ただ、それでも十分お釣りがくる人材よね。芸能科で入ってくる生徒の中でこの子以上の逸材は居ないと思うわ」

ことり「そんなことはないです」

ツバサ「くすっ。謙遜は美徳だけど、スクールアイドルには無用な物よ」

英玲奈「ことりには謙遜する位のままの方がファンに受けそうだけど」

ツバサ「それもそうね。気が早いけスクールアイドルになってくれる前提で話すわね」

ツバサ「入学までは非公式ということで完全オフレコにしてもらうわ。ただ、お母さんは音ノ木坂の理事長よね?」

ことり「はい、そうです」

ツバサ「立場ある人なら吹聴したりはしないでしょうから、お母さんには話をしてね。必要なら私達も挨拶に行くから」

ツバサ「約四ヶ月で一人前のスクールアイドルになってもらって、初ライブはゴールデンウィーク明けてからね」

ツバサ「メンバー入りの発表は入学したその日に行われるから、取材も同じ日にお願いするわ」

ツバサ「課題以外の時間は全て学校とスクールアイドルの練習に費やすと思ってね」

ことり(え、この流れって既に逃げ道を塞がれてるんじゃ)

ツバサ「何か質問あるかしら?」

ことり「スクールアイドルになるかどうかは、私が答えを出していいんですよね?」

ツバサ「ええ、勿論よ。私には夢があるの。だから最高のメンバーが欲しい。でも、強制はしない」

ツバサ「アイドルっていうのは楽しめなければダメなの。歌が上手いとか、踊りが上手いは二の次よ」

ツバサ「お眼鏡に掛かっていればというのが前提だけど、ね?」

ことり「……」

ツバサ「取り敢えず練習を見て、少し練習に参加して貰えれば今日のところは満足よ」

ことり「運動とか体育でするくらいで体力の方が本当に少なくて」

英玲奈「ことりには謙遜する位のままの方がファンに受けそうだけど」

ツバサ「それもそうね。気が早いけスクールアイドルになってくれる前提で話すわね」

ツバサ「入学までは非公式ということで完全オフレコにしてもらうわ。ただ、お母さんは音ノ木坂の理事長よね?」

ことり「はい、そうです」

ツバサ「立場ある人なら吹聴したりはしないでしょうから、お母さんには話をしてね。必要なら私達も挨拶に行くから」

ツバサ「約四ヶ月で一人前のスクールアイドルになってもらって、初ライブはゴールデンウィーク明けてからね」

ツバサ「メンバー入りの発表は入学したその日に行われるから、取材も同じ日にお願いするわ」

ツバサ「課題以外の時間は全て学校とスクールアイドルの練習に費やすと思ってね」

ことり(え、この流れって既に逃げ道を塞がれてるんじゃ)

ツバサ「何か質問あるかしら?」

ことり「スクールアイドルになるかどうかは、私が答えを出していいんですよね?」

ツバサ「ええ、勿論よ。私には夢があるの。だから最高のメンバーが欲しい。でも、強制はしない」

ツバサ「アイドルっていうのは楽しめなければダメなの。歌が上手いとか、踊りが上手いは二の次よ」

ツバサ「お眼鏡に掛かっていればというのが前提だけど、ね?」

ことり「……」

ツバサ「取り敢えず練習を見て、少し練習に参加して貰えれば今日のところは満足よ」

ことり「運動とか体育でするくらいで体力の方が本当に少なくて」

ツバサ「大丈夫、それも聞いてるわ。今日するのは基礎の基礎だから。正しい声の出し方とかね」

ツバサ「そうだ、歌いながら踊った経験ってある?」

ことり「多分ないと思います」

ツバサ「やってみると分かるんだけどね、すっごい疲れるわ。それでも笑顔を浮かべないといけない」

ツバサ「体力と心に余裕が出来ないと難しい。それを約四ヶ月で形にしろっていうのはかなりハードだと思う」

ツバサ「だから……なると決めたら容赦はしないからね」

ことり「――」

英玲奈「いきなり怖がらせるような事を言うな」

ツバサ「だって、せっかくメンバーになってくれたのに辞められたらショックでしょ?」

英玲奈「もう少し包み隠す言い方をしないと、メンバーにすらならない」

ツバサ「和ませる為にも私の秘密を少しだけ。ここだけの話だけどね、私って最初はこういうのするのが嫌だったの」

ツバサ「お母さんに無理やり月二のレッスンを受けさせられてね、すっごい不貞腐れてた」

ツバサ「今はこうして好きになって自分からもっともっと輝きたいって思ってる」

ツバサ「南さんと違って元々バスケットボールが好きだったから体力の方はあったんだけどね」

ツバサ「同じレッスン生の友達に感化されて、やる気を出すまでに半年も掛かったんだ」

ツバサ「最初から覚悟を決めてから始めればあんな情けない姿を見られなくて済んだのにって後悔の念もある」

ツバサ「自分が出来なかったことを人に求めるのは駄目なことだけど、私は南さんに覚悟を求めてる」

ことり「……」

ツバサ「初ライブを前にした時に体が緊張で震えても、時間が来たときにはいつも通りに歌えるメンタルの強さ」

ツバサ「何かをミスった時にそれすらも上手くパフォーマンスに組み込む機転の良さ」

ツバサ「歌やダンスで魅了出来るレベルを求められるのは当然。学校側からのプレッシャーもそれなりにある」

ツバサ「今の南さんでは絶対になれない。だからこそ、強くなる為にどんな時も揺るがない確固たる覚悟を求めているの」

ことり(ど、どうしよう。そんな話を聞いてるだけで自分が場違いのような気がして体が震え始めちゃった)

英玲奈「緊張はこうして……抱き締めることで落ち着く。失敗は誰かがフォローする」

英玲奈「あくまでツバサの言葉は一人の場合を前提に話しているだけだ。大丈夫、怖くはない」

ツバサ「ラブライブでの優勝が学校側からの要望だから、生半可の気持ちじゃ通じないのは確かでしょ?」

英玲奈「今日のツバサはいつもと違って本当に厳しいな」

ツバサ「無意識にそうなってしまうくらい、南ことりの可能性を求めているのかしらね」

英玲奈「普段のツバサはこんなに怖くないから怯えることはない。もしツバサが何か言ってきたら私が守ろう」

ツバサ「フォローした後に否定するようなこと言わないで。怖がらせてごめんね」

ことり「いえ……。私の方こそごめんなさい。あと、英玲奈さん。もう離してもらって大丈夫です」

英玲奈「そうか」

ツバサ「英玲奈はこう見えて年離れた妹が居るから年下を甘やかすのが好きなのよ」

ツバサ「今みたいに子供扱いするようなスキンシップすることもあるから、嫌だったら私に言ってね」

ことり「私の一番の友達がスキンシップ好きで慣れてますから」

ツバサ「こう言ってくれてるけど出会ったばかりの仲なんだし、自粛しなきゃ駄目よ?」

英玲奈「善処しよう」

ツバサ「という訳だから、まずは私達がどういうグループなのかを見せないとね」

英玲奈「音響は?」

ツバサ「クラスの子が手伝ってくれるから大丈夫。曲順はこないだのライブと同じ」

英玲奈「了解した」

ツバサ「南さんにはまだこの制服は新鮮だと思うから、制服のままさせてもらうわね」

ことり「今からライブをするんですか?」

ツバサ「実際に目にしてもらった方が早いでしょ? それに、映像と違って生の方が心の奥に響くからね」

英玲奈「サプライズの歓迎会とでも思って欲しい」

ツバサ「さ、立ったままだと練習が大変になるわよ。座ってみてて」

ことり「は、はい」

ことり(ライブの初めては海未ちゃんかと思ってたけど、A-RISEになるなんて)

ことり(しかも、観客はたった一人。ことりの為だけのライブ)

ことり(完全に詰んじゃってるよね。……でも、私がスクールアイドルになれるのかな?)

ことり(いけないいけない。悩むのはライブが終わってからで大丈夫だよね)

ツバサ「それじゃあ、一曲目いくよ――」

――夕方 練習後 シャワー室

ツバサ「本来は休日とはいえこんな早い時間に終わるなんてないけどね」

ことり「…………そ、うです、か」

英玲奈「使ってなかった筋肉を酷使したんだ、シャワーを浴びた後はマッサージを受けると良い」

ツバサ「UTXは芸能科があるからマッサージ師も常に待機してるから。あ、女性だから気軽に頼めるから平気よ」

ことり「……はい」

英玲奈「体力面はともかく、発生はまぁまぁ良かった。歌は……言葉に出来ない程すごかった」

ツバサ「んふふっ♪ 南さんの歌は脳が蕩けるような可愛い歌だったわね。強力な武器になるわ」

英玲奈「その表現が的確だ。脳が蕩けるかと思った」

ことり「はぅん」

ツバサ「照れることはないわ。最高の魅力よ。A-RISEになかった可憐さは新しいファンも呼び寄せるわ」

英玲奈「ことりが入ってくれればラブライブで《絶対》に優勝出来る」

ことり「……あの、ここまでしてもらってとても嬉しかったです」

ことり「でも、一日だけで良いんです。スクールアイドルを始めるのかどうか、考えてみてもいいですか?」

ツバサ「勿論よ。今日実際に目で見て、体験してみた訳だしね。じっくりと考えてみて」

ツバサ「私達は明日も練習に来てるから。受付に話を通しておくわ」

英玲奈「もし、直接言い難い返答ならば私に電話でもメールでも良い。自分で答えを出して欲しい」

ツバサ「本音を言えば強引にも誘いたいくらい魅力的だけどね。そんなことしたら怒られちゃうから」

ことり「学校にですか?」

ツバサ「ううん、私の太陽に。きっと『アイドルっていうのは強引にさせるものなんかじゃないにこ!』って言われるわ」

ことり「太陽?」

ツバサ「あっと、ごめんね。今のはなしで。恥ずかしい話だから秘密☆」

英玲奈「ツバサにはラブライブで優勝するよりも、本物のアイドルになるよりも叶えたい夢があるんだ」

ツバサ「ちょっと英玲奈。それは秘密だって言ってるでしょ!」

英玲奈「私は恥じる必要はない話だと思うけどな」

ツバサ「私は恥ずかしいのよ。でも、いつか話すかもしれないわ。さ、早く着替えてマッサージ受けましょう」

ことり「マッサージは痛かったりするんですか?」

ツバサ「……足ツボは絶対に頼まない方が身の為よ。本気で泣くわ」

英玲奈「好奇心猫を殺すというが、アレは正にそれに通じるものがあった」

ことり「心に刻みました」

――夜 南家 ことり

ことり「ねぇ、お母さん。少し時間大丈夫かな?」

ママ「ええ、大丈夫よ。何か悩み事?」

ことり「うん。あのね、スクールアイドル知ってるよね?」

ママ「勿論よ。音ノ木坂にも初めてのスクールアイドルが結成されたからね」

ママ「何よりも海未ちゃんが参加しているし。あの子達のお陰で少し面白いことになってるのよ」

ことり「面白いこと?」

ママ「時期が早い内から学校見学も部活に参加してみることも許可する流れになってね」

ママ「お陰で部活面の方が活性化したらしくて。入学者も減る一方だって予想も覆そうなのよ」

ことり「へぇ~」

ママ「その流れの渦中に居たのが海未ちゃんだったの。初めは少し驚いちゃったわ」

ことり「海未ちゃんそんな話してくれないから知らなかった」

ママ「海未ちゃんとしては余り知られたくないのかもしれないわね。ごめんね、話の腰を折っちゃったわね」

ことり「ううん、えっとね……その、スクールアイドルなんだけど」

ママ「どうかしたの?」

ことり「UTXのスクールアイドルの人に一緒にやらないかって誘われちゃって。どうしたらいいのかなって」

ママ「A-RISEだったかしら?」

ことり「うん。良く知ってるね」

ママ「理事長ともなると近辺の学校の事は色々知っておく必要があるからね」

ママ「でもA-RISEといえば全国大会で二位に入った有名なグループでしょう?」

ことり「うん。なのにことりなんかを誘ってくれて……」

ママ「ことりはどうしたいの?」

ことり「私は……分かんなくて。だからお母さんにどうすれば良いのか欲しくて」

ママ「そういう大事な答えは自分自身で出さないと相手にも失礼になるわ」

ことり「……」

ママ「お母さんが言えるのはことりがやりたいならやってみるのも良いと思うくらい」

ママ「こんな時、穂乃果ちゃんならきっと迷わずにその場で即答しちゃうかもしれないわね」

ことり「うん、きっとそうだと思う」

ママ「海未ちゃんなら逆に恥ずかしがって穂乃果ちゃんとは逆に即答で断るでしょうね」

ことり「そうかも」

ママ「ことりはきっと悩みに悩んで答えを出す。そういう子よね」

ことり「……うん」

ママ「だったら沢山悩んでみなさい。大事な事で悩むのは心を成長させるのに必要なことだから」

ママ「でもね、答えは絶対に出さないと駄目よ? 答えを出せないのは相手に対して一番失礼なことだから」

ことり「うん」

ママ「穂乃果ちゃんの元気な声を聞けば心が軽くなって、良い答えが出るんじゃないかしら?」

ことり「でも、そうするといつまでも穂乃果ちゃんに頼っちゃうことになるし」

ママ「ふふっ。少しは大人に近づいたかしら。今までは穂乃果ちゃんに頼りすぎてた面もあったわね」

ママ「本当に困った時に頼れなくなったら本末転倒。その辺の匙加減を覚えられるともっと大人に近づくわ」

ことり「まだ大人は遠いかも」

ママ「焦る必要はないわ。ゆっくり大人になることもまた必要なことだから」

ことり「結局どうすればいいんだろう」

ママ「今日帰りが遅かったのは練習に参加してきたからなの?」

ことり「海未ちゃんみたいに普段から運動してないから凄く大変だったぁ」

ママ「普通の勉強に被服科としてのデザインに作品作り。そこにスクールアイドルの練習。身体は持つ?」

ことり「……正直自信がないよ。私は夢を叶える為にUTXに入ったんだし、それだけに集中した方がいいのかな~」

ママ「スクールアイドルになることの魅力はあるの?」

ことり「デザイン次第だけどね、曲と合えばことりがデザインした衣装で踊ることになるんだって!」

ママ「デザインするのも作るのもだけど、可愛い服を着るのも大好きだものね」

ことり「うん! キラキラしたステージの上で私の衣装で! そう考えるとドキドキしちゃう♪」

ことり「それにね、A-RISEの先輩達二人もすごく良い人みたいで。だから力になれるならなりたいって思うの」

ことり「だけど、体力もないし足を引っ張っちゃうんじゃないかって心配の方が強いかな」

ママ「問題はそれだけじゃないわよね。高校になったら新しい環境も始まるし、心的な負担も増えるし」

ママ「スクールアイドルの活動が忙しすぎて友達が出来なければ高校生活も寂しいしね」

ことり「あっ……そうだね」

ママ「常に思考を広く持つことが大切よ。特に悩み事は小さく小さくなっちゃうから」

ことり「気をつけるね。うぅ~どうすればいいんだろう」

ママ「青春は高校を卒業しても出来るけど、スクールアイドルは高校生しかなれない」

ママ「苦労をした分だけ夢は輝く。夢を言い訳にして楽をしたら、夢を叶えた後に夢は見えなくなるわ」

ことり「もう、お母さんはどっちを選ばせたいの?」

ママ「言ったでしょ? 悩みに悩んで自分の答えを出して欲しいのよ」

ことり「いじわる~」

ママ「うふふっ。可愛い娘の成長の為なら意地悪にもなるわ」

ことり「……明日までじっくり悩んでみる」

ママ「寝不足はお肌の敵だから、早めに寝て。スッキリした頭で悩んでから答えを出すのも一つの手よ」

ことり「うん。これって神様が推薦で楽した分の帳尻合わせなのかなぁ?」

ママ「面白い考えね。でも、見返りは受験の比ではないと思うわ。ことりの答え、楽しみにしているわ」

ことり「おやすみなさい。あと、ありがとうね」

ママ「いいのよ。おやすみなさい」

――ことりダイアリーⅡ

考えが上手くまとまらないので日記を書いています。

何かをしていないと弱いことりは穂乃果ちゃんの声を聞いて楽をしてしまいそうだから。

今回のことは穂乃果ちゃんにも海未ちゃんにも頼らずに自分で答えを見つけなきゃいけない。

お母さんの話を聞いて、何故かそう確信しました。

ずっと守られてきた私が変わるチャンスなのかもしれない。

それに、二人が居ない寂しさを紛らわすことも出来るかもって少し思っちゃいます。

これだと失礼になるかもしれないと思ったけど、別れ際のツバサさんの言葉を思い出してそうでもないのかなと。

「スクールアイドルを志す切っ掛けは単純でも身勝手でもいいのよ。自分がしたいと思う理由になればね」

正に身勝手極まりない理由だと思う。

でも、始まってしまえばもう逃げることは出来なくなる。

だったらその枷は自分のやる気になる物が適任だと思う。

この答えが間違ってるのどうか、今の私には分かりません。

でも、スクールアイドルを始めて良かったと今日の日記を読み返して笑っていられると良いな。

穂乃果ちゃんと海未ちゃんと遊べる時間はなくなっちゃうけど、未来の自分達の為に。

強い自分になれることを信じて、やってみようと思います。

穂乃果ちゃんの言葉を借りて未来の自分へエールを送っちゃいます。

「ファイトだよ!」

もし辛いことがあったら何度も心で唱えて頑張ろうと思います。

―― 一月一日 朝 矢澤家

ママ「さぁ我が愛娘達。一年に一度のお楽しみの日よ。《四人》とも並びなさい」

ここあ「ここあ一番!」

こころ「あっ、ここあずるい。こころ二番!」

あんじゅ「あんじゅ三番!」

にこ「……いや、今更もうツッコミ入れないけどね。娘が四人な部分に」

ママ「それじゃあここあから。好き嫌いしてお姉ちゃんを困らせちゃ駄目よ?」

ここあ「うん!」

ママ「良い返事ね。それじゃあ、お年玉よ。大事に使うのよ?」

ここあ「はぁーい! ママありがとにこ!」

ママ「次はこころ。最近は洗い物を手伝ったりするようになったんだって? しっかり者ね」

こころ「えへへ! しっかりものー」

ママ「こころも無駄遣いしないように使うのよ?」

こころ「うん! ありがとうにこ!」

ママ「次はあんじゅちゃんね。こころとここあの面倒見てもらってありがとうね」

あんじゅ「私自身はにこに面倒見てもらってますから」

にこ「その通りよ」

ママ「ああ見えてお姉ちゃんは寂しがり屋だから、あんじゅちゃんが居てくれて一番嬉しがってるのよ」

にこ「さも本当のことのように捏造しないでよ!」

あんじゅ「にこにーお姉ちゃんってば寂しがり屋だけじゃなくて照れ屋にこ~」

にこ「いつも言ってるでしょ。照れてないっての!」

ママ「はいはい、お正月から姉妹喧嘩しないの。二人も無駄遣いしないようにね」

あんじゅ「ありがとうございます」

にこ「私はいいわよ。もう高校生なんだから」

ママ「高校卒業するまでは貰わなきゃ駄目よ。お正月にお年玉あげるのは親の特権なんだから」

にこ「……ありがとう」

ママ「お姉ちゃんには何から何まで押し付けて悪いと思ってるわ」

にこ「いいのよ。私は好きでやってるんだから。あんじゅの世話以外」

あんじゅ「酷いよ~」

にこ「あんた部屋に帰ったと思ったら、布団が冷たいとか言って戻ってくるんじゃないわよ」

あんじゅ「だってにこの体温高いから温かいんだもん」

にこ「あんたの体温が低いのよ。手も冷たいし」

こころ「おてて冷たいと心があったかいの!」

ここあ「あんちゃん心あったかいにこ~」

あんじゅ「えへへ! 二人共ありがとう」

にこ「あ、そうだママ。朝ごはんなんだけど、友達呼んじゃ駄目?」

ママ「いいわよ。でも、元旦の朝からって迷惑にならない?」

にこ「一人暮らしなのよ。食べ終わってたら終わってたで初詣行けばいいし」

ママ「ああ、友達って絵里ちゃんのことね。お姉ちゃんに友達が居てくれてママ嬉しいわ」

あんじゅ「大丈夫だよ、にこ。いつでも私が居るから」

にこ「ちょっとママ! あんじゅが本気になるからそういう大げさな言い方やめてよ」

こころ「二千円~。ここあはなに買う?」

ここあ「きのこの山! こころは?」

こころ「じゃあこころはたけのこの里!」

あんじゅ「うふふ。こんなのんびりとした幸せなお正月初めて♪」

――朝 神田明神 のんたん

副会長「生徒会の仕事があるにも関わらず、わざわざ込むと分かっている初詣に来る神経が私には理解出来ないわ」

希「とかいいながらきちんと付き合ってくれるところが副会長の良いところやんね」

副会長「東條さんが口うるさいからよ」

希「日本人としては初詣しておきたいし」

副会長「それを言うなら日本には八百万も神様が居るんだから、神社まで来る必要もないでしょうに」

希「気が引き締まるし」

副会長「私は生徒会室の方が余程気が引き締まるわよ。大体ね、お正月って浮かれるのは中学生までよ」

希「あ、巫女さんだ」

副会長「って、人の話くらい聞きなさいよね。お正月の神社に巫女が居るくらい当たり前でしょ」

希「ウチ巫女さんに何か惹かれるものがあるんだよね」

副会長「だったら学園祭で巫女にでもなれば? 私は止めないわよ」

希「それもいいかも。でも、そうなったら副会長も巫女さんだね」

副会長「私はそんな変な趣味ないから制服のままに決まってるでしょ」

希「一人だと恥ずかしいし」

副会長「その恥じらいがあるなら最初から巫女なんてなりたいと思うことを恥じなさい」

希「提案したのは副会長じゃない」

副会長「冗談のつもりで言ったのよ。大体、私達が仕切る初めての学園祭になるのよ? そんな余裕ないと思うわ」

希「だったらするとしても三年目やね」

副会長「代々語り継がれる汚名を背負うことになるわよ」

希「副会長の好きなUTXの歴史に名を刻むチャンスじゃない」

副会長「私は正当な評価で名を残したいの。色物思考をなんとかしなさい」

希「およ? 金髪さんが居る」

副会長「秋葉なんだから外国人なんて普段から見慣れてるでしょ」

希「そうだけど、あんな美人さんの金髪さんは初めて見るし」

副会長「どこよ?」

希「ほら、あそこ」

絵里「おトイレとか行きたくなったら我慢しないで言ってね?」

こころ「だいじょうぶだよ」

ここあ「ここあもだいじょうぶ! あ、にこにー。いい匂いがするー」

にこ「おせち料理を食べたばかりなのにまだ食べたいの?」

ここあ「たこ焼きはべつにこ!」

こころ「こころも食べたいにこ!」

あんじゅ「じゃあお参りしたらあんじゅお姉ちゃんが買ってあげるにこ~」

にこ「あんまり甘やかすんじゃないわよ」

絵里「お正月なんだし良いじゃないの。他に欲しいのがあったら私が買ってあげるからね」

副会長「んーっと、そうそう思い出したわ。あれは音ノ木の生徒会長だった筈ね」

希「あの人が音ノ木坂の生徒会長」

副会長「有能だからと違って多分生徒数がすくないからだと思うけど、同じ一年よ」

副会長「歴史しかない貧乏校で生徒会会長するなんて神経を疑うわ」

希「それ以上他校の文句を言うならわしわしするよ~?」

副会長「ひっ! な、何よ本当のことでしょ?」

希「そういうところがあるから前会長に生徒会から追い出されたんやん?」

副会長「UTXが優れているのも音ノ木が廃れてるのも事実じゃない」

希「事実であれば口にしても許される訳じゃないよ」

副会長「分かったよ。それから、確かあの生徒会長と一緒に居るのって確かスクールアイドルやってたわ」

希「生徒会長自らがスクールアイドル?」

副会長「学校の方針なのか知らないけどね。客寄せパン――悪かったから、胸に当ててる手をどけてくれる?」

希「でも輝いて見えるし、スクールアイドルやってるのも納得出来る」

副会長「東條さんが言うと皮肉に聞こえるけどね。日本人なのにあっちよりスタイル良さそうだし」

希「副会長からお年玉発言貰った~。今年は良い事ありそうやね」

副会長「私は事実しか口にしないわよ」

希「ふふっ。しょうがない、お参り終わったら好きな屋台の出し物を一つ買ってあげよう」

副会長「要らないわよ。子供じゃないんだから。そんな物食べてる暇があったら学院に早く戻るわ」

希「相変わらず仕事一筋だね」

副会長「うちのスクールアイドルがあれだけ頑張っていたらその努力に報いてあげなきゃ嘘でしょ?」

希「ウチな、副会長のそういう真っ直ぐなところは好きだよ」

副会長「だったらたまには私の言うこと聞いて欲しいわね。独自路線ばかりで付いていくのが大変すぎよ」

希「そんな風に憎まれ口叩くところも好きだけどね」

――お昼 UTX ことり

ことり「はぁはぁ……はぁ~」

ツバサ「休憩には少し早いわよ。もう少し頑張って」

ことり「すいません」

英玲奈「謝ることはない。まだ若干緊張が抜けていない所為で体力の減りが早いだけ」

ツバサ「練習なんだからって気を抜いてもらっては困るけど、緊張されるのも困りものね」

ことり「二人の動きが洗練された動きを見ると無意識に緊張しちゃって」

ツバサ「初めの内は別メニューの方が効果的なのかしら?」

英玲奈「そうとも言えないだろう。ことりの性格を考慮すると一人にするとオーバーペースになる」

英玲奈「このまま続けている方が後々の為になるし、慣れて緊張が抜けなければライブで一緒に歌えない」

ツバサ「それもそうね。……早めにお昼にしましょう。その代わり食後は少し長く練習するからね」

ことり「は、はい」

ツバサ「それで一週間。一日はライブがあって軽めだったけど、実際のところどう思ってる?」

ことり「やっぱりやるんじゃなかったって、後悔してる」

ツバサ「んふふ。その素直なところ好きよ。でも、後悔をバネにしないとね」

英玲奈「後悔なんてものは結果を出せばなくなる曖昧なものだ」

ことり「でも、全然付いていけてないし」

ツバサ「そんなこと気にしてたの? 私達は芸能科で一年近く多く経験してるのよ」

ツバサ「これで差が全然なかったら自暴自棄になっちゃうわ」

英玲奈「初ライブは五月半ば。焦ることはない」

ことり「だけど、やっぱり後悔と焦る気持ちが半々で……」

英玲奈「今のことりは花が早く咲いて欲しいと願って水をあげ過ぎるようなもの」

英玲奈「花は繊細で、当然ながら過剰に水を与えれば枯れてしまう」

ツバサ「そういうこと。やる気は十分にあるんだし、焦らないでいいわ」

ことり「でも……私もA-RISEの一員になる訳だから」

ツバサ「まぁ、普通に考えるとプレッシャーよね。全国二位のグループに入るなんて」

ツバサ「でもね、それはあくまで過去のこと。今の私達には関係がないわ」

英玲奈「二人だったA-RISEはもうない。新生A-RISEは私とツバサとことり。三人で結果を出して初めて今の評価に繋がる」

ツバサ「だから緊張する必要もないし、無駄に焦ることもない。メリハリは大切だけど」

英玲奈「どうしても私達と比べてしまうというのなら、正しい比べるべき相手を用意すればいい」

ことり「正しい比べるべき相手?」

英玲奈「居るだろう? 昨日の自分という常に傍に居てくれる存在が」

英玲奈「昨日の自分より毎日優れる自分を目指していけば、最高の自分という未来が待っている」

英玲奈「目を瞑って昨日を思い出すと良い。今日の自分は昨日より駄目なのか優れているのか」

ことり「……昨日よりはマシになってる、かな」

ツバサ「そこは自信持っていいわ。ことりさんは昨日より動きが良くなってる。それは私が保証するわ」

英玲奈「昨日の自分に負けた時、その時は本気で焦れば良い。だから今はその必要はない」

ことり「英玲奈さん、ツバサさん。ありがとうございます! 弱音吐かずにもっと頑張ってみますっ」

ツバサ「ただ最初に言ったけど、家での勝手なトレーニングは禁止だからね?」

英玲奈「身体を休めるのもまたトレーニングの一環だ」

ことり「はい、分かってます」

ツバサ「じゃあ汗を流しちゃいましょう。シャワー浴びる前にしっかりと汗を拭き取るのを忘れないでね」

英玲奈「汗を掻いたままシャワーを浴びると心臓に負担が掛かると言われている」

ツバサ「眉唾かどうか分からないけど、万が一がある可能性があるなら配慮する。その姿勢が大切だから」

ことり「はい!」

――三月 某中学卒業式後...

海未「こうして三人で迎える卒業式は最後になりましたね」

穂乃果「……そうだね」

ことり「だけど、いつでも三人一緒って想いは変わらないから」

海未「ことりは最近強くなりましたね。穂乃果もことりを見習わなければいけませんよ」

穂乃果「分かってるよー」

海未「挨拶とかは平気ですか? 卒業したら先生に会いに行くというのはけっこうハードルが高くなりますから」

穂乃果「分かる分かる。会いたいなーって思っても、会いに行けなかったりするもんね」

海未「穂乃果は目立つからいいですよ? 私なんて会いに行って覚えていなかったらと思うと……」

ことり「だ、大丈夫だよ。海未ちゃんのお家は凄く有名だし」

海未「つまり家が有名でなければ存在を忘れられて当然ということですね!」

穂乃果「海未ちゃんの痛いスイッチが入っちゃった!」

海未「いいんです。どうせ私は多芸と言われる割に存在感が薄いんです」

ことり「剣道であれだけ強かったんだから、母校以外の先生だって覚えてるレベルだと思うよ?」

穂乃果「そうそう。打倒園田を掲げてた先生も多いんじゃないかな」

海未「そうでしょうか?」

ことり「うん!」

穂乃果「なんなら今度一緒に小学校に挨拶しに行ってみる?」

海未「……いえ、やっぱりいいです。気持ち軽くなったのでもう十分です」

穂乃果「海未ちゃんはいつも自信満々なのに、時々すっごい臆病になるよね」

ことり「そこが海未ちゃんのとっても可愛いところだけどね♪」

海未「か、可愛くなんて」

穂乃果「後輩の子からは慕われてるし」

ことり「音ノ木坂に入学したらスクールアイドルになるんだし、ラブレターとか貰っちゃったりしてぇ」

穂乃果「ラブレター!? それって、やっぱり同じ学校の子ってことかな?」

海未「ど、どうして女の子からのラブレターを私にくるのですか。おかしいではありませんか!」

穂乃果「絶対に貰いそうだよね」

ことり「それをきちんと玉手箱みたいな箱に大事にしまってくれそう」

海未「そんな箱持っていませんよ!」

穂乃果「あははっ。じゃあ、これから三人でカラオケでも行こうか。何か歌いたい気分!」

ことり「あ、ごめんね。今日もこれからUTX行かないといけなくて」

穂乃果「あ……そうなんだ」

海未「クリスマス以来ずっとですね。特待生というのはそこまでする必要があるのですね」

ことり「う、う~ん。ちょっと色々あって」

穂乃果「でも今日は卒業式なんだよ? UTXの人だって分かってくれるよ」

海未「穂乃果。我がままはいけませんよ」

穂乃果「だって」

ことり「ごめんね、穂乃果ちゃん。ことりも三人で遊びたいんだけど……今は無理だから」

穂乃果「……じゃあ、春休みの間は?」

ことり「少なくても五月半ばまでは無理、かな」

穂乃果「……」

ことり「……」

海未(穂乃果。ことりのUTX入学を勧めたのは私達なんですよ? 笑顔で応援するのが礼儀というものです)

穂乃果(……分かってるよ)

穂乃果「じゃあ、五月過ぎたら遊ぼうよ。ことりちゃんと一緒に遊びに行くプランとか沢山考えるから」

ことり「うん! その日のことを考えて今を頑張るね!」

ことり「あ、ごめんね。そろそろ行かないとだから」

海未「月並みで申し訳ありませんが、頑張って下さい」

穂乃果「ことりちゃん! ファイトだよ!」

ことり「はいっ!」

穂乃果「……ことりちゃん、行っちゃったね」

海未「忙しいみたいですが、それでも充実した表情を浮かべていますね」

穂乃果「穂乃果と海未ちゃんと遊ぶより楽しいってことなのかな」

海未「そんな訳ないじゃないですか。そういうのとは少し違うと思いますよ」

海未「どちらかというと新しいことを見つけて一直線で頑張る穂乃果に近いと私は思ってます」

穂乃果「私に近い?」

海未「大変なことを大変と感じないくらいに毎日が充実してる。そんな感じがします」

穂乃果「夢の為に頑張ってるんだね」

海未「夢の為だけではないと思います。強く在ろうとしているように見受けられます」

海未「今のことりなら、例え夢を叶えられなくても、それに変わる大切な物を掴めるような気がします」

穂乃果「そっか。ことりちゃんは凄いんだね」

海未「私達もことりの幼馴染として恥じない自分で在りたいものですね」

穂乃果「……うん」

海未「さて、今日は練習は休みなので二人ですがどこかに遊びに行きますか?」

穂乃果「うん! ことりちゃん居ないし、カラオケよりも久しぶりにボウリングしよっか」

海未「ほぉ。ボウリングですか」

穂乃果「いつもことりちゃんの一人勝ちだし。練習して驚かせちゃおうよ」

海未「いいですね。ですが、最初はガーターレーンなしで練習しませんか? そうでないとスコアが酷いことになります」

穂乃果「そ、そうだね。私と海未ちゃんだけだと凄いことになっちゃうもんね」

海未「ええ、恥じるべきではありません。有る物は有効活用する心が必要です」

穂乃果「よ~し! 今日の目標はガーターレーンなしでやった時はスコア60を目指そう」

海未「はい! 大きな目標ですが……やってやれないことはないと信じたいです」

穂乃果「うん。ことりちゃんの出す、スコア100前後を目指す第一歩だよ!」

ことえれに慣れるまで更新速度が落ちる可能性があります。
救済処置としてショート集(時系列は一年目)置いておきます。

◆はたらく会長さま!◆(のんたん)十一月頃

副会長「ねぇ、東條さん」

希「ん、なぁに?」

副会長「私に何か言うべきことがあるんじゃないの?」

希「こっちの件もよろしくね」

副会長「仕事を振れって言ってるんじゃないわよ。ったく……じゃなくて、これはやるけど」

希「副会長さんは有能やんね」

副会長「あなたに褒められるとムカつくわよ、本来は私がその座に就いてた筈なのに」

希「まぁまぁ。副会長は他校に対して見下す発言するのがあるから駄目なんよ?」

副会長「だってここはUTX学院なのよ? 他の学校なんて古いだけじゃない」

希「自由の国に生まれてれば成功してたかもしれないなぁ」

副会長「なんで東條さんは私のこと引き戻したのよ」

希「なんかほっとけなかったんだよ。それに爆弾は自分で抱いてたいし」

副会長「人を爆弾扱いするんじゃないわ。そもそも、あなたの方が十分厄介者じゃない。はい、終わったわ」

希「ウチは前会長さんのプッシュで会長になっちゃっただけだし?」

副会長「その顔が腹立たしいわね! はい、こっちもおしまい」

希「副会長は上に立つには少し冷静さが足りないかな。はい、これとこれもお願いね」

副会長「あなた以外になら冷静になれるわよ。A-RISEのウィークデイライブの整列は今回は誰でしたっけ?」

希「桜川さんと大橋さんだったかな。……うん、合ってた」

副会長「ラブライブは惜しくも二位だったけど、来年は是非とも優勝して欲しいわね。入学生が増えるわ」

希「副会長は将来はここの先生でも目指してるの?」

副会長「え、そんなことないわよ。私の夢は通訳だもの。はい、これも終了」

希「だったら入学生の数は気にしなくてもいいんじゃない」

副会長「後に語られたいじゃない。UTXはあの生徒会が居た時により増え始めたとかね」

希「年代は語られても生徒会までは語られないんやないの?」

副会長「やるからには万全を尽くし、完璧な結果を求める。人間としては当然のことでしょ?」

希「……根は良い子だよね」

副会長「はい? 何か言ったかしら?」

希「ううん。なんもー」

副会長「ま、性格はともかく東條さんの有能さは認めるけどね。ええ、性格はともかく」

希「二度も言われると嫌味みたいやん」

副会長「嫌味よ! はい、おしまい。まったく、分かっててそういう返しをするから素直に認められないのよ」

希「ふふっ。ウチは副会長のこと十全に信頼してるし認めてるよ~」

副会長「あぁ~もう! 嫌味にしか聞こえないわよ!」

希「くすくすっ。さ、もう少しで今日の分は終わるし頑張ろう」

役員(会長も副会長も凄過ぎ。あんなに会話してて私達の倍以上の速度で仕事をしてるなんて……本当に凄い)

◆姉妹電話◆(絢瀬姉妹)

絵里「そっちは元気でやってる?」

亜里沙『うん、元気でやってるよ。毎日ブログ楽しみにしてる』

絵里「きちんとブログと言えるようになったのね」

亜里沙『もぅ、お姉ちゃんのいじわる。にこさんにしっかりと教え込まれたもの』

絵里「相変わらず半分が料理ネタばかりだけどね。あんじゅはネタ被り気にしないから」

亜里沙『ファンもそういう部分も楽しんでるよ。それにコメントも違う訳だし』

絵里「実際ににこの料理は美味しいけどね。食べる度に癖になるのよね」

亜里沙『いいな~。亜里沙もまたにこさんの料理を食べたいなー』

絵里「次にまた日本に来た時にお願いすればいいわよ。にこは年下には優しいからね」

亜里沙『お姉ちゃんと同じタイプだよね。だから好き!』

絵里「亜里沙が甘え上手っていうのもあるんだろうけど」

亜里沙『そんなことないよ。最近はしっかりしてきたってお婆ちゃまも褒めてくれたもの』

絵里「お婆様も亜里沙には甘いからね」

亜里沙『パパもママも日本に行ってから随分変わったって褒めてくれたわ』

絵里「くすっ。みんな亜里沙に甘いからね」

亜里沙『もぉ~ホントにお姉ちゃんのいじわる~♪』

絵里「何だかいつもより声が弾んでるわよ。何か良い事あった証拠ね?」

亜里沙『ハラショー! さすがお姉ちゃん』

絵里「正解みたいね。で、何があったの?」

亜里沙『来年の十月にそっちに引っ越しても良いって認めて貰えたの』

絵里「え、予定では早くても再来年って話だったじゃない」

亜里沙『日本から帰ってからずっと説得したてたの。漸く許可貰えたわ』

絵里「……本当に亜里沙には甘いんだから」

亜里沙『お姉ちゃんダメ?』

絵里「スクールアイドルの練習もあるし、生徒会もあるから夕ご飯一人で食べることになるかもしれないわよ?」

亜里沙『寂しいけど大丈夫。疲れて帰ってきたお姉ちゃんに食べてもらえるように、今から料理も沢山練習するから』

絵里「亜里沙が料理? ……それは色んな意味で心配ね」

亜里沙『日本に住むようになったらにこさんにも是非料理を教えてもらいたい』

絵里「その台詞をにこが聞いたら『うちの大きい妹とは別だわ』って言いながら泣いて喜ぶでしょうね」

亜里沙『あんじゅさんはにこさんに甘えるのが大好きだから。にこさんも頼られて嬉しそうだったわ』

絵里「そうね。本当の姉妹みたいよね」

亜里沙『日本に行ったら皆でまた百均に行きたいな~』

絵里「観光でスクールアイドルショップの次に百均に連れて行くとは思ってなかったわ」

亜里沙『でも亜里沙すっごい楽しかったよ!』

絵里「ええ、それは知ってるけど、でも何だか納得いかないっていうかね。複雑なのよ」

亜里沙『笑顔になれるかどうかが重要ってにこさんが言ってた』

絵里「そうね。姉としてはなんだか負けた気がするけど、笑う門には福来るよね」

亜里沙『笑うかど?』

絵里「門っていうのは家や家族のことでね、笑顔のある家族には良い事がやってくるって意味なの」

亜里沙『へぇ~。なんだかカッコ良い♪』

絵里「亜里沙も日本に住むなら諺とかも覚えてた方が良いわよ。親しみ易さが増すから」

亜里沙『お婆ちゃまにしっかりと教えてもらうわ』

絵里「歌や踊りの練習もしておけば商店街のイベントで一緒に踊れるわよ」

亜里沙『それが一番楽しみ! お姉ちゃんと早く踊りたいな』

絵里「私も楽しみよ。亜里沙のお陰でこうしてまた踊れてるんだから」

亜里沙『会長さんもだよ』

絵里「分かってるわ。会長の卒業までに何か恩を返そうと思ってるの」

亜里沙『素敵!』

絵里「何をすればいいのかまだ決まってなくて。亜里沙も一緒に考えてくれる?」

亜里沙『勿論。喜んでもらえるのを考えないと』

◆学園祭準備期間にて...◆(えりにこあん)

にこ「どうして学園祭の講堂使用がくじ引きなのよ!」

絵里「伝統の始まりを作ったお茶目な人に文句言ってよ」

あんじゅ「私はくじ引きって発想良いと思うな~」

にこ「私だって当たればそう言ってやるわ。でも、こういう流れって嫌なオチしかつかない気がするのよ」

絵里「にこが居る時点でお察しって感じよね」

あんじゅ「にこにー部長だもんね」

にこ「だからこそ、私は言いたいの。あんじゅか絵里が引く方がいいんじゃないかってね」

絵里「部長がそんな他力本願でどうするのよ」

あんじゅ「そうそう。にこが落ち込むのを慰めるの私好きだよっ」

絵里「笑顔で言う台詞じゃないわね」

にこ「というか、姉のピンチなんだからあんじゅ助けなさいよ」

あんじゅ「だから私は失敗したにこお姉ちゃんを慰める役目があるから」

にこ「結果の後じゃなくて、その結果をどうにかする役目を背負いなさいよね」

絵里「上に立つ立場であることを選んだのなら、こういう場で責務を果たさないのは駄目よ」

にこ「そうよね、逃げちゃダメよね」

あんじゅ「……にこ。大丈夫、お約束だから誰もダメージ受けないから」

絵里「ええ、そうよ。ここで当たりを引けたらそれはにこではないわ」

にこ「美人短命という言葉があるように、」

役員「あの、そろそろ引いて貰ってもよろしいですか?」

にこ「あ、すいません。今引きます」

あんじゅ「にこにー頑張って!」

にこ「えいっ! ……あ゙ぁ゙~っ」

絵里「ハズレ引いてるにこを見て安堵してる自分が居るわ」

あんじゅ「それでもショックを受けるにこは可愛いな~」

絵里「ふふっ。否定出来ないわね。馬鹿な子ほど可愛いっていうし」

にこ「せめてどっちでもいいけど慰めなさいよね!」

絵里「そういえばあのガラガラの正式名称ってなんだったかしら?」

あんじゅ「あれに名前ってあるんだ」

にこ「……にこぉ~」

あんじゅ「うふふ♪ でもやっぱりこの鳴き声で落ち込むにこが一番可愛いニコ!」

絵里「悪女の素質抜群ね」

◆バザー参加◆(SMILE)

海未「あの、どうしてライブが終わったのに私達がバザーに参加してるんでしょうか?」

絵里「お婆様に電話でバザー会場でもライブをしていることを伝えたら、ロシアから色々送られてきたのよ」

あんじゅ「地域交流を深めることに理解あるお婆様なんだって」

にこ「しかも、売ったお金を衣装代にしていいって話よ。正直助かるわ」

海未「なるほど。だから見たことない物や変わったマトリョーシカがあるんですね」

にこ「でも、こんな変なマトリョーシカ買う奴なんて居ないんじゃない?」

あんじゅ「ユニークで良いと思うよ。私は歴代の大統領じゃなくて矢澤家マトリョーシカなら欲しかったけど」

にこ「そうよね。こんなの要らないわよね」

絵里「そういうのは心の中で思っても、ロシアの血を引いてる私の前で言うことではないでしょ?」

にこ「だったらあんたはこれ欲しいの?」

絵里「……。全部売れればいいわね」

海未「絵里もロシアの方に失礼な反応ですよ。もし売れなかったら私が買いましょう」

絵里「え゙!? 海未ってそういう趣味があるの?」

海未「ですからその反応はおかしいですから。うちの母が好きそうなんですよ」

にこ「海未の母親と言われると厳しそうな人を連想するけど違うの?」

海未「確かに厳しい方ですが、少し天然が入ってる部分があるので」

絵里「早く完売したら海未のご両親に挨拶しなくちゃいけないわね」

にこ「そうね。中学生を高校生が連れ回していたら親御さんが心配するものね」

海未「正直、最初は音ノ木入学後に弓道部にも剣道部にも入らないと言った時は渋い顔をしていました」

海未「しかし、こうして地域の催し物や商店街のイベントに参加することが大きな好印象を与えたようです」

海未「だからわざわざ挨拶する程ではないですよ」

にこ「これを言ってるのが海未じゃなければ、暗に来るなって言われてるって思うわよね」

あんじゅ「そうだね。ということで、頑張って完売させて海未ちゃんのお家に行こう!」

絵里「そうね。張り切って売りましょう」

海未「あれ? これは何ですか?」

にこ「メンバーの写真よ! 購入得点としてその場でサインするっていう最高の思い出もプレゼントにこっ」

あんじゅ「えぇ~? スクールアイドル本人がそんなことしたらイメージダウンじゃない?」

絵里「でも背に腹は括れないのも事実なのよね。生徒数が少ないから予算も少ないし」

海未「というかいつこんな写真を撮ったんですか!?」

にこ「元部員の子に隠し撮りを頼んでおいたのよ。一枚百円よ!」

あんじゅ「写真一枚+サインでおうどん三玉分かぁ……。高いね」

絵里(基準がそういう部分で考えるのね。今日は食材を私が買って、矢澤家でご馳走になりましょう)

海未(見た目だけなら十分お嬢様系なのに……。大変なのですね)

あんじゅ「あ、あれ? 絵里ちゃんと海未ちゃんの目が心なしか生暖かい気がするんだけど」

にこ「それはそうよ! あんた料理しないんだから、背伸びしてるように思われて当然よ」

絵里(そこじゃないわよ!)

海未(そこじゃありません!)

あんじゅ「う~るる~」

にこ「まっ、気を取り直してバザー開始いっくわよ~!」

あんじゅ「うん! 頑張ろうね☆」

中学生のお財布でも出せる1コインの値段は好評で、用意した分の写真は全て完売した。

大統領マトリョーシカも含めたロシア土産も全て完売し、記念(?)として再びステージで歌うことになった。

しかし、この日のブログはブレることのないあんじゅによる料理の事だけ。

にこ「あんた普通ライブやった日はその感想書きなさいよ! 買ってくれたファンにも失礼でしょ!」

あんじゅ「だってだって! カレー丼なんて初めてだったんだもん! すっごい美味しかったぁ~♪」

にこ「喜んでもらえるのは嬉しいけど、それよりまずはファンを大事にしなさいよ」

あんじゅ「でもコメントは大好評だったよ?」

にこ「……そりゃ、ライブやったのにカレー丼の記事載せられたら、褒める以外のコメントは出来ないでしょ」

あんじゅ「来年の学園祭はにこのカレー屋さんにしよう!」

◆最高のカレー◆(にこあん)

にこ「たまには外で食べるカレーも乙なものでしょう?」

あんじゅ「そうだね。にこのカレーが最高である確認する為にも時には必要なことだよね」

にこ「……チェーン店とはいえ、そんな断言するのは失礼よ」

あんじゅ「大丈夫大丈夫。えっとね、私は普通の中辛にしよっと」

にこ「私も同じでいいわ。というか、あんた中辛大丈夫なのね」

あんじゅ「激辛は舌が痛くなるから無理だけどねぇ」

にこ「私が家で作るのはおちびちゃん達に合わせて甘口でしょ?」

にこ「それをあんなに美味しいって言うんだもの、てっきり甘口派かと思ってたわ」

あんじゅ「にこのカレーは愛情という魔法が掛かってるからね♪」

にこ「何なら中辛も作ってあげるわよ? 私も元々中辛の方が好きだし。少し手間が増えるし、お鍋が必要になるけど」

あんじゅ「ううん、にこのカレーは甘口のままでいいよ。というか、そのままだから最高なの」

にこ「どうしてよ?」

あんじゅ「にこのカレーは家族皆で同じ味を食べるから最高に美味しいんだよっ」

にこ「……あんた、恥ずかしいことを平気で言うわね。こっちが恥ずかしくなるわ」

あんじゅ「だって本当のことだもん。だから今のままが良いの」

にこ「あっそ。私は楽出来るからいいけど」

あんじゅ「あぁ~にこってば照れてる。とびっきり可愛いにこ~♪」

にこ「うっさいわよ!」

あんじゅ「うふふ。普段お世話になってるお礼ににこにーの分、半額出してあげるね☆」

にこ「中途半端過ぎるわ!」

おしまい★

ネクストストーリー【新生A-RISE~始まりの歌、秋葉に響け~ 後編】につづく!

◆新生A-RISE~始まりの歌、秋葉に響け~ 後編◆

――二年目 四月六日 小泉家 りんぱな

花陽「あっ、ちょっとごめんね。もう直ぐA-RISEの重大発表があるらしいの……」

凛「かよちんは本当にアイドルが好きだよね」

花陽「う、うん。だってあんな風に素敵な存在なんて他にはないから」

凛「それで、重大発表って?」

花陽「今日の十六時からA-RISEの公式サイトから生放送があるんだって」

凛「ふぅん」

花陽「何だろう! もしかして本格的なアイドルデビューしちゃったりとか?」

花陽「ううん、夏休みに全国ツアーしちゃうのかも! それとも新曲発表かなっ?」

花陽「それとも生中継でライブしちゃったりとか! はぁ~ん! ドキドキが止まらないっ!」

凛「アイドルのことになると暴走するのがかよちんの癖だねぇ」

花陽「等身大サイズの抱き枕発売とかだったらどうしよう!? アイドルグッズで既にお年玉は使い果たしちゃったし」

花陽「どうして中学生は働いちゃ駄目なんだろう!」

凛「いつになくかよちんがヒートアップしてるにゃー」

花陽「あっ! 動画が始まった!!」

ツバサ『みなさーん! 今日は私達A-RISEの為に見てくれてありがとうね』

英玲奈『ありがとう』

ツバサ『お知らせの通り重大発表があるの』

ツバサ『去年はラブライブ二位に甘んじたけど、今年は優勝することを宣言するわ』

ツバサ『自信過剰? ううん、絶対なる自信がなければこんなこと言えないよ』

ツバサ『あんまりファンの人を焦らすのも問題かな?』

ツバサ『じゃあ、そろそろ本題に入ろうか』

ツバサ『本日よりA-RISEに新メンバーが加わります』

花陽「新メンバー!?」

凛「び、ビックリした」

ツバサ『ライブのお披露目は来月の半ばからなんだけどね。先に挨拶しておこうと思って』

ツバサ『じゃあ、心の準備はいいかな?』

花陽「……ごくっ」

ツバサ『A-RISEの三人目! 南ことり!』

ことり『は、初めまして。ご紹介頂きました南ことりです』

英玲奈『緊張することはない』

ことり『は、はいっ』

ツバサ『なんとことりは今年度からスタートした被服科の特待生!』

ツバサ『三人でする初ライブの衣装もことりがデザインしたものになるのよ』

ツバサ『人前に出るというのにまだ慣れてないけど、未完だからこそ一番可能性を秘めてる』

ツバサ『ラブライブの予選が始まる頃にはA-RISEで一番人気だったりしてね』

英玲奈『ふふっ。リーダーの座が危ういな』

ツバサ『そうね。誰よりも早くことりの歌声を聴きたい人は来週発売予定のチケットを購入してね』

英玲奈『A-RISEの新しい伝説の始まり。観に来ないと後悔することになる』

ツバサ『伝説は言いすぎだけどね。ほら、ことりも見てくれている人に一言』

ことり『自分に出来る精一杯を表現できるように頑張ります』

ツバサ『二人で行うライブは今月までだから、記念にそっちも是非足を運んでね』

ツバサ『それじゃあ、いつも応援ありがとう! A-RISEからのお知らせでした』

花陽「……みなみことり」

凛「かよちん?」

花陽「A-RISEの構成は可愛い面もあるけど、鋭いダンスのキレのツバサさん。女性ファンを虜にしてきた英玲奈さん」

花陽「今回のことりさんは完全に可愛い路線。これは上手く調和することが出来れば……とんでもないことになるよ!」

花陽「何よりも特徴的だったあの声! もし歌う時もあの声のままだとしたら恐ろしい!」

花陽「脳が蕩けちゃう可能性がるかも。ディープなアイドルファンならことりさんのこの恐ろしさに気付く筈!」

凛「かよちんの歌声の方が脳が蕩けると凛は思うなー」

花陽「はっ!? こうしちゃいられない! 掲示板を確認しなきゃ! きっともういくつもスレッドが立ってる!」

花陽「――放送はついさっきなのにことりさんアンチスレがこんなにいっぱい」

花陽「A-RISEのファンなのにどうしてこんな風に感じるんだろう。UTXの方針を知らないのかな?」

凛「UTXの方針?」

花陽「スクールアイドルの勧誘、又は加入はスクールアイドルに一任する。それがUTXの方針なの」

凛「つまり?」

花陽「つまりね、ことりさんの加入はスカウトなのか面接なのかそこは分からないけど」

花陽「確実に言えるのがツバサさんと英玲奈さんの二人が認めたからメンバーに加わったってことなの」

凛「んー?」

花陽「学校の介入で勝手にメンバー入りするような事がないから、実力があるってことだよ」

凛「なるほど!」

花陽「好きな人が認めた相手なのに、まだほとんど何も分かってない状態なのに……」

花陽「どうしてこういう意味のない悪意を書き込むのかな?」

花陽「同じスクールアイドル好きな筈なのに。A-RISEが好きな筈なのに」

花陽「こんな書き込みみても不快にはなっても、誰も笑顔になんてさせられないのに」

花陽「アイドルと正反対の位置になるのに……どうしてなんだろう」

凛「……かよちん。あっ、でもほら。【新生A-RISE・南ことりを応援するスレッド】ってあるよ」

花陽「でも、アンチスレは現時点だけで8個以上」

凛「そんなの関係ないよ! そんな毒しか吐けない奴の数なんて0と一緒だよ!」

凛「凛はかよちんみたいに本気で好きだからこそ応援する。そんな人の発言にしか価値が宿らないと思う」

花陽「凛ちゃん……そう、だよね。ありがとう凛ちゃん」

凛「といっても、凛はアイドルのこと良く分からないんだけどね☆」

花陽「くすっ。凛ちゃんは元気をくれるし笑顔にさせてくれる。そんな凛ちゃんの魅力こそがアイドルと同じなんだよ」

凛「恥ずかしいよぉ」

花陽「凛ちゃんはもっと自信を付ければ花陽よりアイドルに近づけるのに」

凛「……凛がアイドルなんて絶対にないよ。それより南ことりの応援スレを見ようよ」

花陽(そんなことないのに)

花陽「あっ、やっぱりあの声が一番話題に上がってる。皆分かってるんだっ」

凛(そのかよちんの笑顔こそが凛に笑顔と元気をくれてるんだよ)

花陽「私も書き込まなきゃ!」

凛「かよちんが使命感に燃えてるにゃー」

花陽「そうだ! 凛ちゃんにお願いがあるの!」

凛「お願いなんて珍しいね。いいよ、何かな?」

花陽「来週の土曜日。三人になって初めてのA-RISEのライブチケットが販売するの」

花陽「そのチケット取るの手伝って欲しいんだよ。お金は私が出すから二枚取れたら一緒に行こう!」

凛「うん、分かったよ」

花陽「ありがとう、凛ちゃん!」

――同時刻 音ノ木坂 部室 SMILE

にこ「南にもことりにも聞き覚えあるわね」

あん「南は理事長と同じ苗字だよ」

絵里「そういえば、理事長の娘さんがことりって名前じゃなかった?」

にこ「そう言えばそうだった気がするわ。海未、あんたの友達だっけ?」

海未「……」

絵里「海未?」

海未「あっ、すいません。余りにも驚いてしまいまして。それで、何でしょうか?」

にこ「このことりってあんたの友達? 同い年?」

海未「はい。私の大切な友達です。年齢も同じですよ」

あんじゅ「その様子だと話は聞いてなかったのかな?」

海未「ええ、去年のクリスマスから一度も遊ぶ機会がなくなって不思議に思っていたのですが。納得がいきました」

にこ「ふふふふふっ♪」

あんじゅ「どうしたのにこにー? ちょっと不気味だよ」

絵里「かなり不気味よ。笑う要素なんてどこにもなかったじゃないの」

にこ「これが笑わずにいられる? 海未と同い年ってことは南ことりは今日UTXに入学した訳よね?」

海未「はい、そうです」

にこ「つまりA-RISEも私たちと同じことを考えて実行していたってことよ」

あんじゅ「それが嬉しいの?」

にこ「これを嬉しくないなんて言ったらいつ嬉しいって言葉を使えばいいのよ?」

あんじゅ「私に褒められた時だね」

絵里「テストで赤点回避した時かしら」

海未「正しい行いをして報われた時でしょうか」

にこ「そんなの全部ゴミ箱に捨てるレベルよ!」

あんじゅ「それを捨てるなんてとんでもない!」

絵里「赤点回避しないと先生たちの心象を悪くしちゃうでしょ」

海未「少しは世の為になることをしてください」

にこ「ウダウダと煩いわね。私のハッピータイムを邪魔するんじゃないわよ」

あんじゅ「にこの倖時間は後の絶望フラグにしか見えないにこぉ」

にこ「いつもいつも不吉なこと言うんじゃないわよ。海未も正式なメンバーになったんだからこれから良い事尽くめよ」

海未「……とてつもなく嫌なことが起こる予感がするのですが」

絵里「私は生徒会長なんだから、変なことしないでよ?」

にこ「私の実績考えてもう少し部長を信頼しなさいよ。今までも変なことはしてないでしょ」

海未「中学生の私をスクールアイドルに加入させたではないですか。邪道な絡め手で」

絵里「しかも校内で練習させる為に新しい規則まで作っちゃうし」

にこ「ほら、こんな時こそ妹の出番でしょ。姉を庇いなさいよ」

あんじゅ「地域清掃したり、イベントで歌うことで集客を増やしたり、何よりカレーが美味しい!」

にこ「いや、最後のはおかしいでしょ。でも、きちんとやることはやってるのよ」

海未「そうだからこそ性質が悪いんですよね」

絵里「邪道だけど完全に悪に染まらない。義賊みたいよね」

にこ「にこが盗むのはファンのハートだけにこっ♪」

あんじゅ「出待ちは一番にこが少ないけどね」

絵里「海未なんて正式なメンバーじゃないにも関わらず、出待ち多かったものね」

海未「絵里が一番多いではないですか!」

あんじゅ「絵里ちゃんは高校生がメイン。海未ちゃんは中学生がメインって感じだよね」

絵里「あんじゅの場合男性ファンがメインだから出待ちが出来ないからね」

にこ「私はろうにゃくにゃんにょに人気だからねぇ。出待ちが少ないのも圧倒的アイドル力の所為だしぃ~?」

海未「老若男女です。言えないのなら背伸びしない方が賢いですといつも言ってるでしょう」

にこ「くっ」

あんじゅ「にこの場合は商店街の人達とか小学生に人気だから、出待ちする層じゃないのは確かだよね」

絵里「何だかんだで愛されてるからね」

にこ「ふっふーん!」

あんじゅ「にこにーぶちょーかぁわいい~♪」

にこ「頭撫でるんじゃないわよ!」

海未「それにしても、ことりがスクールアイドルですか」

絵里「歌や踊りが得意な子なの?」

海未「いえ、運動能力はそれ程ではありません。ただ、歌がすごいです」

絵里「すごい? 上手いってことかしら?」

海未「そうですね、上手いは上手いのですが……。西洋でいう人魚的存在です」

絵里「歌声で船を惑わして沈めるんだっけ?」

海未「ええ。ことりの場合は魅了して脳を溶かすようなレベルの歌声です。幼馴染耐久でもすごい威力ですよ」

にこ「こらっ! いつまで撫でるつもりよ」

あんじゅ「にこにこ~♪」

にこ「日本語喋りなさいよ!」

あんじゅ「2525~♪」

にこ「更に日本語から遠くなったわよ!」

海未「ラブライブで再会するには決定打が欠けている気がします」

絵里「そうかもしれないけど、にこならなんとかしてくれそうに思うわ」

海未「随分と信用してるのですね」

絵里「そうね。あの二人みたいな妹が居たらダンスを諦めてなかっただろうなって思うくらいにね」

海未「私には年の離れた姉が――もう結婚して家を出ています――居ますがあの二人が姉というのは遠慮したいです」

絵里「くすっ。そのうち海未も毒されて姉と呼び始めるかもしれないわよ?」

絵里「手始めに私のことをエリーチカお姉ちゃんと呼んでみてもいいわ!」

海未「お断りします」

絵里「……」

――放送直後 UTX A-RISE

ことり「まだ胸がドキドキしてる」

ツバサ「最初はそんなものよ。でも、声に固さがなかったからことりさんは十分上手くやれてたわ」

英玲奈「第一歩としては満点だろう。ファンの反応はライブで決まる。次のライブでも満点を目指そう」

ことり「うん。……でも、もう来月なんだよね」

ツバサ「注射と同じよ。一度経験すれば怖くないでしょ?」

ことり「私注射大嫌いで」

英玲奈「私の妹も注射の度に泣くから気持ちは分かる」

ツバサ「それなら注射と違って一度やれば平気になれるから安心よ」

英玲奈「そうだな。一度経験すれば世界が少し違って見える、というと少々大げさかな」

ツバサ「そうでもないかも。ステージに立つ者も魅了する何かがあるからアイドルは永久不滅なのよ」

ツバサ「一ヶ月以上あるんだから、それまで自信になる下地を作り上げればいいのよ」

ことり「……うん」

ツバサ「自分の期待を裏切るのは怠惰。だから頑張っていることりが期待に裏切られることはないわ」

ことり「ありがとう、ツバサさん」

ツバサ「私の場合さん付けだとさが二つ続くから言い難いでしょ? ちゃん付けでも呼び捨てでもいいのに」

英玲奈「後者は私も同じ意見だ。完全なメンバーになったのだから」

ことり「ごめんね。敬語はともかく、まだ名前をちゃん付けで呼ぶのは勇気が出なくて」

ツバサ「だったらことりが素直にここが自分の居場所なんだと自信を持てた時、ちゃん付けで呼んで欲しいな」

英玲奈「ツバサ、名案だ。名前が呼びにくいならレーナと呼んでくれてもいい」

ことり「それは遠慮しておくね」

英玲奈「……」

――四月十二日 UTX 昼休み 廊下の隅 ことり

ツインテ「何の実績もない癖にA-RISE入りとかさー。普通辞退するよね?」

リボン「うんうん。身の程を知れって感じ? クスクス」

ことり「……」

ツインテ「大体さ、A-RISEはカッコ良い系で揃ってた訳よ」

リボン「貴女の居場所はないの。普通分かるよ」

ことり「……そう思われても、私はA-RISEの一員です」

ツインテ「この学校だけじゃなくてもさ、あんたのことをA-RISEの一員なんて認めてるやつなんて居ないよ」

リボン「もしかして検索したことないんじゃない? スクールアイドル専用大型掲示板で自分の名前検索してみなよ」

ツインテ「そこに現実が待ってるからさ」

リボン「ぷっ。確かに現実だね。無知は罪っていうけど、本当だよね」

ツインテ「私があんたの立場だったら絶対に平然としてられないわ」

リボン「私だって直ぐに辞退してるっていうか、そもそもA-RISE入りなんておこがましい真似出来ないよ」

ツインテ「てか、芸能科ですらない癖にでしゃばんなっていうの」

リボン「貴女って被服科の特待生なんでしょう。A-RISEを売名行為に使う気?」

ツインテ「今すぐに英玲奈さんとツバサさんに謝って来なさいよ」

リボン「そうそう。それでA-RISEから抜けなさいよね」

ことり「……っ」

副会長「ふぅん。私には謝るのはあなた達二人の方だと思うのだけど、違うかしら?」

ツインテ「ふっ、副会長!?」

リボン「あの、そのっ!」

副会長「重要性がないから名前までは覚えてないけど、二人とも芸能科で統堂さんに強く憧れてたわよね」

副会長「このことを彼女が知ったらどう思うのか……私よりあなた達の方が想像に容易いと思うのだけど?」

副会長「そして、彼女の中で二人の顔を知らないけど名前だけは認識されて、軽蔑されることになるわね」

リボン「ひぃっ!」

ツイテン「待ってください! それだけはっ!」

副会長「この学院の方針は才能有る者を贔屓し、より伸ばしていくこと。足を引っ張るのは正しくないわね」

副会長「それも理解出来ないような人間の言葉なんて聞く耳持たないわ」

副会長「あなた達が暢気に羽を伸ばしていたお正月。その時点で南さんはA-RISEとして練習をしていた」

副会長「貶める発言をするには相手より多くの努力をして結果を出した者だけが許される特権なのよ?」

副会長「ま、他校の生徒を貶める発言なら許せるけど、UTX学院のせい――ぎゃっ!」

希「他校の生徒でも貶めるような発言は許せないって言わなきゃいけないよね? おっ、少し大きくなったかな?」

副会長「ぐぁっ、東條さんっ! 胸を揉むのやめなさいっ!」

希「学校の方針にケチつけるつもりはないけど、皆が楽しめる学校を作るのがウチの目標の一つ」

希「間違っても他校の生徒も含めて傷つけるような生徒が居ないのが望ましい」

副会長「説教しながら揉むなっての!! ……はぁはぁ、これが東條さんの一番最低な部分よね」

希「ツンデレさんの言葉だから変換すると『最大の魅力』って褒め言葉かな?」

副会長「胸揉んでくることを褒めるような変態いないわよ。ったく、それよりもそこの二人の件が先でしょうが」

希「おっと、そうだった。何か悩みや嫌なことがあったら生徒会に来て、生徒を拒む戸なんてないのだ!」

ツインテ「……」

リボン「……」

ことり「……」

副会長「たまに出るその変な語尾直しなさい。痛い生徒会長と思われたらUTXの品位が下がるわ」

希「場を和ませようとしただけやん」

副会長「とにかく、そこの二人は今から生徒会に来てもらうわ。罰を与えないとね」

希「今回は二人の代わりに副会長がわしわしを受けたから帳消しでいいじゃない」

副会長「貴女が勝手に揉んだだけでしょ!」

希「ということで二人とも。次同じ事をしたら……わしわしMAXするからね?」

ツインテ「すいませんでした!」

リボン「申し訳ありません!」

希「それから、今日のような行いをしたら罰せられると一人三十人に伝えないと同じくわしわしMAXだから」

ツインテ「分かりました! 絶対に直ぐに伝えてみせます」

リボン「同じくです!」

希「それならもう行っていいよ」

ツインテ「失礼しました!」

リボン「失礼します!」

副会長「……ふんっ。甘いわね」

希「厳しすぎたら余計に見えない所で鬱憤解消するかもしれないからね。で、あの子達は何をしたん?」

副会長「呆れた。何も知らないで首を突っ込んで、そのまま開放したの?」

希「最初から居たら副会長が変なこと言い出す前に止めてるし」

副会長「本当に有能なのかそうじゃないのか東條さんは理解の範疇を超えるわ」

副会長「それで、何があったのかだけど。簡単に言えば醜い嫉妬よ。その子があの二人に言いように言われてたの」

副会長「まったく。努力も出来ない人間はどうして口だけはああも動くのかしら」

副会長「優れた人間に泥を塗って、自分の方が優れているとか思い込むんじゃないでしょうね」

副会長「本当に優れた人間っていうのは、実力ある相手を素直に認められるものよ」

副会長「それを理解も出来ずに居る時点で自分の殻も破れてない半人前だって言うのに……」

希「まぁまぁ。つまり南ことりちゃんの活躍が羨ましかったってこと?」

副会長「ええ。確かに芸能科の誰かならまだしも、被服科の特待生にその座を奪われたら嫉妬する気持ちも解るけど」

副会長「でも、ただ言いがかりを付けるのは違うわ。彼女達にはプライドって物がないのかしらね」

ことり「あの、助けて頂いてありがとうございました」

副会長「今回のことは有名税とでも思って諦めて。次があったら報告してね。生徒会が厳しい罰を与えるから」

希「女の子だけあって伝達速度は早いだろうから大丈夫だと思うけど」

副会長「人を呪わば穴二つ。自分の行いや発言に責任を持てないのが許されるのは小学生までよ」

副会長「未来の受験は知力より人間性が重点されるようになるんじゃないかしらね」

希「そうピリピリしないで。ことりちゃんの努力を知らないんだし、しょうがないよ」

副会長「人の努力を自分の目の前でしてくれないと気付けないなんていうのは問題外よ」

副会長「先入観や自分の色眼鏡を外して相手を見極めろなんて言うのが難しいのかしら?」

希「そうだね。もう少し人に揉まれて経験積まないと難しいかもね」

副会長「東條さんが言うと物凄く嫌な意味に聞こえるけど、その通りね」

希「この先オーディションを受けて不合格。そんな挫折を繰り返して、成長していけばいいんよ」

副会長「今のままだと三回くらい挫折したら完全に諦めそう。で、周りが悪い、私は悪くないって言い出しそうよ」

副会長「やっぱりもっと規律を増やすべきよ。見えない所でこういう事件が重なったら大問題だし」

希「規律よりもウチは生徒達の心を尊重し、今のままでもきちんと出来るって信じたい」

副会長「その理想で風紀が悪くなったら、私が引導渡して次の生徒会長なってあげるわ」

希「ふふ。さすが爆弾やね。そうならないように気をつけるよ」

希「っと、長々と束縛しちゃってごめんね」

副会長「私は貴女に期待してるわ。今年はラブライブ優勝してくれるってね」

希「ウチも勿論ことりちゃんには期待してるよ。両立は厳しいだろうけど、頑張ってね」

ことり「ありがとうございます」

副会長「お昼食べる前に昼休みが終わっちゃいそうね。それじゃあ、失礼するわ」

希「早く食べちゃわないとね。ほな~」

ことり「ありがとうございました」

ことり「……」

ことり「……」

ことり「……ほのかちゃん」

ことり(ファイトだよ! 私を守ってくれる魔法。穂乃果ちゃん、海未ちゃん。二人の夢の分までがんばるからね)

――四月十三日 UTX A-RISE

英玲奈「どうかしたのか? 元気がないみたいだが」

ことり「昨日ね、ネットでスクールアイドルの専用掲示板を見たの」

ツバサ「あ~あ。見ちゃったのね」

ことり「ツバサさんは知ってたんだ」

ツバサ「見てるスレッドがあるからね。立ってるスレッド名は目に入っちゃうし」

ことり「……私、ファンの人には必要とされてないみたい」

ツバサ「批判が多いからってそんな風に思う必要はないわ」

ことり「多いなんてものじゃないの! すっごくすっごく沢山あって」

英玲奈「ことり。とにかく落ち着いて」

ツバサ「若干だけど目の充血してるのはそれが理由だった、と。ことりさんは純粋ね」

ツバサ「そもそも、どうして書き込んでいるのがA-RISEのファンだと思えるの?」

ことり「だって、ファンの人じゃなかったらわざわざ批判なんて……」

ツバサ「その考えが既に純粋なのよ。世の中には何も知らなくても批判する人間は多いのよ」

ツバサ「何か話題になってるから真似して書き込んでおこうみたいにね」

ツバサ「ま、確かにA-RISEのファンが半数くらいは居る可能性を否定は出来ないのも事実だけど」

ツバサ「ただ、こう考えれば批判もまたライブを彩るカラーに変わるのよ」

ことり「……?」

ツバサ「本物のファンで批判している人達が、新生A-RISEのライブを観に来て一気に意見を変えるんだってね」

ツバサ「こんなに価値を生むライブもそうそう体験出来るものではないわ」

ツバサ「経験者が語ってるんだから説得力はあるつもりだけど。どうかしら?」

ことり「経験者?」

英玲奈「去年私達がUTXのスクールアイドルになった時は、とてつもなく多い批判があった」

ツバサ「元々三年生だったスクールアイドルのメンバーを抑えて私達がなった訳だから当然だけどね」

英玲奈「誤解を生むかもしれないから補足しておく」

英玲奈「生徒達の前でライブを行い、どちらのグループが代表に相応しいのか勝負をしようと言ってきたのは先輩達」

ツバサ「負けた後に自分を応援してくれた生徒達に、これからはこの子達を応援してあげてって言ってくれた」

英玲奈「私達が先輩達の立場だったらショックでそんな言葉を掛けられなかっただろう」

ツバサ「だから私達はそんな批判を変える為に努力に努力を重ねた。先輩たちの分もね」

英玲奈「その時のリーダーは今大学で演劇サークルに入って活躍している」

ツバサ「あくまでこれは私達の話だけどね。ことりさんは自分が応援してくれてるスレッドは見たの?」

ことり「……いえ、見てないです」

ツバサ「アイドルなんだから応援してくれる人の意見をきちんと目を通さなきゃ駄目よ」

ツバサ「一体感があってね、すごいことりさんの事を評価してるのよ。くすくすっ」

ツバサ「容姿以上にそのユニークな髪型と声がよく話題になるんだけどね」

ことり「髪型と声?」

ツバサ「その髪型は私も初めてみたし。声に気付くのは流石よね。ことりさんの最大の魅力だもの」

英玲奈「ことりの声はその優しさと純粋さがあってこそだ」

ツバサ「その通り。それを理解してくれようとしている。そんな人たちの声を聞いてあげて」

ツバサ「私達のことを細かいところまで見ていてくれる人が本当のファン」

ツバサ「多くの悪意に対して傷つくよりも、一つの善意によって笑顔になれる人間になって」

ツバサ「スクールアイドル足るものそれくらいのメンタルを持ってないと駄目なのよ」

ことり「一つの善意で笑顔に」

ツバサ「そうだ、良い事考えた。言葉だけで納得出来ないでしょうからこんなのはどう?」

ツバサ「次のライブの終わり。ファンの半数以上がことりさんをA-RISEに必要としないと言うなら除名する」

英玲奈「ツバサっ!!」

ツバサ「英玲奈。私は《絶対》にことりさんがA-RISEに必要だと思ってる」

ツバサ「何よりもファンの人達が受け入れる逸材だと受け入れ、応援すると信じてる」

英玲奈「……」

ツバサ「勿論ことりさんが嫌ならしない。でも、これで目に見えてライブ後の自分に自信が付いていくと思うけど」

ことり「……一日だけ考えてみてもかな?」

ツバサ「ええ、スカウトの時と同じくらい重要なことだもの。しっかりと考えてみて」

ツバサ「こういう問題を自分の中で答えを出すことでメンタルが強くなるからね」

ことり(ツバサさんはお母さんと少し似た考えの持ち主かも)

英玲奈「ことり。明日は幸いなことに土曜日で学院は休みだ。良かったら私の家に泊まりにこないか?」

ことり「え?」

英玲奈「一人で悩むよりは誰かが傍に居た方が心落ち着くだろう」

ツバサ「ふふっ。本当に英玲奈はことりさんがお気に入りね」

英玲奈「大切なメンバーだ。意地悪をするツバサとは違う」

ツバサ「意地悪じゃないんだけど、まぁいいや」

英玲奈「ということだ、どうだろう?」

ことり「じゃあ今日はお世話になります」

英玲奈「良かった。妹がことりに会いたがっていたし」

ことり「妹さんが?」

英玲奈「ことりの話をしていたら会ってもほとんど見てもいないのにファンになっている」

ツバサ「素敵なファンじゃない。大切にしないとね」

ことり「くすっ。そうだね」

英玲奈「その笑顔を浮かべたまま、一歩いっぽと歩み続ければ良い」

英玲奈「そうすればことりのファンが自然と増えていく。恐れることは何もない」

英玲奈「A-RISEに南ことりは《絶対》に必要だと言われる。それだけだ」

ことり「うん!」

ツバサ「さ、時間を浪費すればするだけ帰りが遅くなるからそろそろ練習始めるわよ!」

――就眠前 英玲奈の部屋 ことえれ

英玲奈「妹の美伊奈がはしゃいで申し訳なかった」

ことり「あんなに子供に懐かれたの初めてだから嬉しかったよ」

英玲奈「そうか。ことりはお母さんが似合いそうだ」

ことり(うぅっ。私そんなに母親タイプなのかな? まだ高校生になったばかりなのに)

英玲奈「まだまだ先の話だけど、美伊奈が高校生になったらスクールアイドルをやるそうだ」

ことり「可愛い系の衣装とか似合いそう♪」

英玲奈「そうだな。……薄々はそういう事を言い始めるだろうとは思ってたが」

ことり「何か問題があったの?」

英玲奈「ことりがお風呂に入ってる時にこう言ったんだ」

英玲奈「『ことりおねえちゃんみたいなスクールアイドルになる!』ってね」

ことり「わ、私?」

英玲奈「可愛い物好きだから、その理想系がことりだったということだろう」

英玲奈「小さいことかもしれない、成長する間に変わってしまうかもしれない」

英玲奈「それでもことりは美伊奈の憧れになった。目標とすべき存在になった」

ことり「……」

英玲奈「ことりとっては迷惑な話かもしれない」

英玲奈「それでも、私はいつまでも美伊奈の心に残る最高のスクールアイドルになって欲しいと思っている」

英玲奈「普段はそんなに気に掛けていなかったが、あれでも一応私の妹だ。笑顔で居て欲しい」

ことり「英玲奈さん」

英玲奈「ツバサの提案を受け入れるも受け入れないのもことりの自由だ」

英玲奈「見方を変えれば失礼極まりない提案であるしな」

ことり「英玲奈さんは受けた方が良いと思ってるよね?」

英玲奈「結果が決まっているなら自信に繋がる方を選ぶ方が良い。私はそういう考えしか出来ないからな」

ことり「どうしてそこまで信じてくれるの?」

英玲奈「そういうのを聞くのは野暮だ。だけど、今回だけは特別に答えよう」

英玲奈「ことりの練習メニューだけど限界ギリギリまで絞り込む為に組んだ本当にハードなものだった」

英玲奈「だけどことりは一日も欠かすことなく今日まで来た」

英玲奈「そんな相手に対してリスペクト出来ないメンバー等居ない。だから全幅の信頼を寄せているんだ」

ことり「……でも、まだまだ二人に並ぶには遠いって自覚出来るし」

英玲奈「絶対的な経験の差は埋まり難い。何よりもまだことりはライブを経験していない」

英玲奈「以前にも言った通り、比べるのは昨日の自分だけで良い。ことりは日々成長している」

英玲奈「その成長速度は完成に近づいている私達とは比べ物にならない速さだ」

ことり「私って駄目だね。直ぐに不安になってぶれちゃう」

英玲奈「それは心が敏感な証拠だ。感受性が強いというのは魅力の一つ」

ことり「英玲奈さんは素敵な言葉で包み込んでくれるね。すごく優しい」

ことり「ことりは一人っ子だからお姉ちゃんは居ないけど、もし居たら英玲奈さんみたいだったのかなぁ」

英玲奈「どうだろう。美伊奈に好かれる自信はないからな」

ことり「うふふっ。大丈夫だよ! 英玲奈さんみたいなお姉ちゃんを嫌う筈ないもの」

英玲奈「そういう部分での自信はまるでない」

ことり「くすくすっ」

英玲奈「さ、そろそろ寝よう。寝不足ではきちんとした考えも出ないだろう」

ことり「もう大丈夫。答えは出たよ」

英玲奈「そうか」

ことり「聞かないの?」

英玲奈「ことりの声に張りが出ていた。つまり答えてるようなものだ」

ことり「バレバレかぁ」

英玲奈「素直なのは良い事だ。何を考えているのか分からないと言われるよりな」

ことり「もしかして英玲奈さんのこと? 誰かにそんなこと言われたの?」

英玲奈「ああ。当時は相当にショックだった。自分では皆と同じつもりだったから」

英玲奈「少し塞ぎこんだけど、そんな時私に元気を与えてくれたのがTVで歌うアイドルだった」

英玲奈「私が中学になる直前に引退してしまったけど。今でも何かある毎に曲を聴いている」

英玲奈「マザコンではないが、もう一人の母とでも言える存在かもしれない」

英玲奈「傷ついた時はこの曲を。嬉しい時はこの曲を。悲しい時はこの曲を。笑顔になりたい時にはこの曲を」

英玲奈「去年のラブライブで二位だった夜もあの人の曲を聴いていた」

ことり「明日起きたら私も聴かせてもらってもいいかな?」

英玲奈「ああ、といってもことりも知ってるかもしれないけど」

ことり「ううん、多分知らないと思う。私本当にアイドルとか興味がなかったから」

英玲奈「だったら是非聴いて欲しい。すごく素敵な曲だから」

ことり「明日が楽しみで眠れないかも」

英玲奈「それは駄目だ。明日も一日中練習があるんだ、きちんと眠る必要がある」

ことり「うん、分かってる」

英玲奈「では今度こそ寝よう。変な話をして悪かった」

ことり「凄くすっごく嬉しかった。ありがとう」

英玲奈「……うん」

ことり「おやすみなさい、英玲奈さん」

英玲奈「ああ、おやすみ。ことり」

――翌日 UTX A-RISE

ことり「ツバサさん、おはようございます」

英玲奈「ツバサ、おはよう」

ツバサ「二人共おはよう」

ことり「昨日の件なんですけど」

ツバサ「いいわよ。その顔を見れば言わずとも分かるわ」

ことり「そんなに私顔に出てる?」

ツバサ「顔よりも声が弾んでるもの。じゃあ、初ライブの日付なんだけど正式に決まったわ」

ことり「いつになったの?」

ツバサ「半ばを予定してたけど少し早めて五月十一日の金曜日」

英玲奈「ことりの晴れ舞台は金曜日か。お客さんの変化が実に楽しみだ」

ツバサ「そうね。今日にでもサイトにことりの企画を告知してもらえるように連絡しておかないとね」

ことり「お願いしますっ」

ツバサ「ふふっ。昨日より断然綺麗な笑顔ね。ファンに光を与えて笑顔の花を咲かせてみせましょう」

英玲奈「ラブライブ優勝宣言をした新生A-RISEの実力を魅せつけよう」

ことり「はいっ!」

ツバサ「やる気も十分になったみたいだけど、怪我にだけは気をつけてね?」

ことり「そうですね。怪我をしたら全てが水の泡だもんね」

英玲奈「プロでなくとも怪我をしないことが大切。注意力散漫にならないように気を付けよう」

ツバサ「気合が空回りしないようにする為にも、柔軟の時間を少し増やしましょう」

英玲奈「そうだな。少なくとも初ライブが終わるまではそうする方が良い」

ことり「ごめんなさい」

ツバサ「ことりさんの所為じゃないわよ。私達も今まで以上に気合入ってるから」

英玲奈「最高のライブになるのが決まっているから。気合が入るのは仕方ない」

ことり「そんなに持ち上げられると困るんだけど……」

ツバサ「身内からのプレッシャーくらいには勝てないと、本番が辛いわよ。今日から慣らしていきましょう」

ツバサ「ということで、念入りに柔軟してから練習を始めるわよ!」

英玲奈「ああ」

ことり「うん!」

――四月十三日 小泉家 りんぱな

花陽「ついに運命の日だよ! 新生A-RISEの初ライブを観れるかどうかの運命の分岐点!」

凛「今日のかよちんはフルスロットルだね」

花陽「当然だよ。後少しでチケット予約開始なんだもん。タイミングと運の良さが全てを決めるの!」

凛「アイドルには興味ないけど、かよちんとライブっていうのを体験するのは楽しみかも」

花陽「ライブってCDと違ってね、パフォーマンスやダンスしながら歌うから普段聞いてる歌い方と全然違うの!」

花陽「魅力や迫力もそうなんだけど、一体感を感じるんだ。皆の感覚が一つになるんだ~♪」

花陽「応援の振りを覚えるの楽しいし。MCもその日しか聞けないコメントが聞けるから素敵だし」

凛「かよちん。そろそろ開始時間だよ」

花陽「はっ! ありがとう凛ちゃん。花陽もう少しで一生後悔するところだった」

凛「凛とかよちんは持ちつ持たれつだもん。気にしないで!」

花陽「うん。……後三十秒。発信ボタンを押す準備しておいてね」

凛「大丈夫だよ。番号確認も三十回したでしょ?」

花陽「そ、そうだね。ちょっと不安になってきちゃった……取れなかったらどうしよう」

凛「肝心なところでいつものかよちんに戻っちゃったにゃー。もう時間になるよ。しっかり押してね!」

花陽「う、うんっ!」

――UTX 休憩中 A-RISE

ツバサ「良い感じになってきたわね。ゴールデンウィークに合宿して仕上げる感じにすれば完璧ね」

ことり「合宿って学校でですよね?」

ツバサ「うん。その時は噂のマイ枕を持参してね」

ことり「はいっ」

ツバサ「勿論合宿中も被服科の課題をする時間も組み込むから安心して」

英玲奈「そいえばことりは被服科か。忘れていた」

ツバサ「今更だけど負担掛けてるわよね。ことりさんの性格的に普通の勉強だってしてるんでしょ?」

ことり「はい。お母さんも特待生を怠ける言い訳にするのは駄目って言ってるから」

ツバサ「流石は歴史ある学校の理事長ね」

英玲奈「学校で習う勉強の大半は社会に出ても必要ないと言う者がいるが、それは間違いだと思う」

英玲奈「勉強を怠らない者は何事にも身を入れることが出来る存在になる。勉強とはそういう姿勢を作る」

ツバサ「英玲奈は小難しく考えるわね。私は勉強もライブも楽しんだ者勝ちだと思うわ」

ことり「そういう考えも素敵かも」

英玲奈「学ぶ時にきちんと学べる人は、いざという時に機転を利かせられる人間になる」

ことり「ことりは機転とか利かせられないから、そういう人になれればいいなぁ」

英玲奈「ことりなら何れそういう人間になれる」

ことり「ありがとう!」

ツバサ「それで話を戻すけど、普通の勉強に被服科の勉強。それにA-RISEの練習。大丈夫?」

ことり「くすっ。A-RISE入りする時にその覚悟を決めさせたのはツバサさんだよ」

ツバサ「覚悟と負担はやっぱり別物だもの。心配になるわ」

ことり「全く平気だよって言うのは嘘になっちゃうかもしれないけど、充実した疲れで毎日が楽しい」

ツバサ「そう。もう少ししたら普通に休みの日も入れるから、友達と遊ぶなりして気分転換してね」

英玲奈「よかったらまた今度私の家に泊まりに来て欲しい。美伊奈がまたことりおねえちゃんに会いたいと煩くて」

ことり「はいっ。美伊奈ちゃんにもまた泊まりに行くねって伝えておいてください」

英玲奈「了解した」

ツバサ「さってと、そろそろ練習再開しましょうか。……もう、チケットは完売したかしらね」

ことり「完売って、まだ予約開始から五分も経ってないよ?」

英玲奈「今回は二分で完売していてもおかしくはない。大方がことりを悪く言っていたお客さんだろうが」

ツバサ「ことりさんには悪いけど、そういうファンが多い方が今回は面白くなるわね」

ことり「ツバサさん酷い」

ツバサ「今回のライブの主役の座をことり個人に譲るんだもの。楽しむ側に回らせて♪」

英玲奈「では私も楽しむ側に回るとしよう」

ことり「じゃあ、二人も含めてとびっきり楽しませるからね。ファイトだよ!」

――五月十一日(初ライブ)客入り前 UTX A-RISE

ことり「今日がついに来ちゃったよぉ」

ツバサ「そんなに緊張していたらラストまで持たないわ」

ことり「分かってるんだけど、心がそわそわして体が無意識に震えて」

英玲奈「昨夜は眠れた?」

ことり「全然。最後に時計見たのが四時過ぎで、起きたの五時半」

ツバサ「正味一時間半ね」

ことり「ううん。時計何度も見てたら余計に眠れなくなると思って、目を閉じてけっこう羊を数えてたから」

ツバサ「三十分眠れたかどうかも怪しいのかしら?」

ことり「……はい」

ツバサ「本番までまだ時間あるし少しでも横になった方がいいわね」

ことり「今横になったら余計に疲れる気がする」

ツバサ「それでも横になるべきよ。舞台で倒れるなんてことは絶対にしてはならないことだから」

ツバサ「ファンに心配をかけることはアイドル失格よ。そうならない様に今出来るのは横になって目を瞑ってること」

ツバサ「体もそうだけど目もいつも以上に酷使されてるからね。後で目薬用意しておくから使ってね」

ことり「本当にすいません」

英玲奈「ことりにとっては初めてのこと。仕方がない」

ツバサ「そうね。スクールアイドルを目指してきた私達と違うんだもの」

ツバサ「寧ろこうなることを前提に手を打てなかった私の失態でもあるし」

ツバサ「もっときちんと配慮しておくべきだったわ。謝るのは私の方よ。ごめんね」

ことり「そんなっ! 私が勝手に緊張して眠れなかっただけなのに」

ツバサ「緊張を解す為にも昨夜は学院で三人一緒に眠るべきだったわ」

英玲奈「昨日の最終リハが順調に行き過ぎて気が回らなかった。すまない」

ことり「どうして英玲奈さんまで謝るんですか!」

ツバサ「私達は先輩だからね。こういう時に責任が生まれるのよ」

英玲奈「去年は自分と同じ環境の人間が居てくれたからそこまで緊張しなかった」

英玲奈「だが、ことりは一人。完全に配慮不足」

ツバサ「とにかく今は横になって目を瞑っていて。掛ける物を直ぐに用意するから!」

英玲奈「お気に入りの枕代わりにならないだろうが、私の膝を枕にするといい」

ことり「でもっ」

英玲奈「今の私はことりの姉だ。遠慮される方が困る」

ことり「英玲奈さん」

英玲奈「それに今日は大切な幼馴染が見に来るのだろう? 情けない姿なんて見せたら心配させてしまう」

ことり「じゃあ、膝枕お願いします」

英玲奈「ああ。あの枕と違って寝心地は悪いだろうけど」

ことり「……そんなことない。ことりのお気に入りの枕みたいに安心する」

英玲奈「お世辞はいいぞ」

ことり「お世辞じゃないよ。今日のライブは美伊奈ちゃんも見に来るの?」

英玲奈「ことりのファンだから。きちんと見にくる」

ことり「じゃあ《絶対》に成功させなきゃ。少しだけ眠れそう」

英玲奈「眠れるなら眠るといい。五分でも眠れるなら大違いだ」

ことり「最高のライブで魅せようね」

英玲奈「ああ」

――秋葉 にこあん

にこ「お隣もいいけど、秋葉もいいわよね! スクールアイドルショップがあるというのが良いわ」

あんじゅ「といってもまだ三件しかないけどね」

にこ「贅沢なのよ? 地方じゃスクールアイドルショップなんて存在しないんだから」

にこ「注目度は高いけど、本物のアイドルと違って入れ替わりが激しいからね」

あんじゅ「そっか。高校生限定だから三年だもんね」

にこ「そうよ。といっても、本物のアイドルだって三年で引退するような人も居るけど」

にこ「中にはデビューから二年だけの活躍で伝説となったアイドルも居るわ」

あんじゅ「伝説に時間は要らないってことだねぇ」

にこ「恋は一瞬って言葉もあるし、人の心を掴むのに時間は関係ないのよ」

あんじゅ「恋をしたことがないにこにーが恋って単語を使うと違和感あるにこ~」

にこ「煩いわね! スクールアイドルが恋なんてしたらブログが炎上するわ」

あんじゅ「アイドルじゃなくても絶対ににこは恋なんて出来なさそうだけど」

にこ「にこ程の魅力的な女の子だと男の方から――」
あんじゅ「――あ、桃花ちゃんだ。お~い!」

にこ「って、人に話を振っておいて、勝手に他の方に興味示してんじゃないわよ!」

桃花「あっ、あんじゅおねーちゃんににこおねーちゃん!」

にこ「秋葉に一人でなんてどうしたの? おばちゃんは一緒じゃないの?」

桃花「お母さんはお家にいるよ。今日は友達とA-RISEのウィークデイライブに行くんだよ」

あんじゅ「A-RISEのファンだったの?」

桃花「ううん、私は勿論SMILEのファンだよ! でも、友達が一人だと怖いからって」

にこ「でも良く取れたわね。今日のライブはチケットが二分経たずに完売して新記録だったらしいのに」

桃花「私の友達はA-RISEのねっきょう的なファンだから」

あんじゅ(小学四年生が熱狂的ファンとか言ってて可愛い~♪)

にこ「桃花ちゃんもライブを楽しむといいわ。今日のA-RISEはスクールアイドルの伝説。その一つになると思うから」

桃花「伝説!? なんかすごいね」

にこ「新生A-RISEの初ライブだもの。それに、スクールアイドル史上初のラブライブ優勝を宣言したんだから」

桃花「にこおねーちゃんはチケット取れなかったの?」

にこ「取ろうともしてないわ。私がA-RISEのライブを直接見るのは、ラブライブの舞台で対戦する時だから」

にこ「私の分まで楽しんできてね」

桃花「うん! あ、そろそろ時間だから私は行くね。にこおねーちゃん、あんじゅおねーちゃんまたねっ!」

あんじゅ「ばいば~い!」

あんじゅ「ああは言ったけど本当は観に行きたかったんじゃないの?」

にこ「誰よりも観に行きたくて、誰よりも観に行きたくない。矛盾してるわね」

あんじゅ「二律背反だね。気晴らしにカラオケでも行こうよ。久しぶりににこの森のパンダさん聴きたい☆」

にこ「しょうがないわねぇ~。海未を負かせたにこにーの美声を聞かせてあげるわ!」

あんじゅ「にこのその単純なところが変わらず大好きニコ!」

にこ「あぁん? 今何か言った?」

あんじゅ「なんでもな~い♪」

にこ「ムーサイに行くわよ!」

あんじゅ「うん!」

――ライブ開始前 UTX劇場内 りんぱな

凛「ライブってこんな嫌な言葉ばっかり口にする場なの?」

凛「凛はてっきりかよちんみたいに好きを一杯口にする場かと思ってたのに」

凛「かよちん聞いてる?」

花陽「凛ちゃん、雑音は聞き流せばいいんだよ。花陽に聞こえてくるのはね、ことりちゃんに期待するファンの声だけ」

花陽「それに新生A-RISEならこんな空気一曲で吹き飛ばしてくれるって信じてるし」

凛「最近かよちん何だか少し強くなった気がするにゃー」

花陽「そ、そうかな? ことりさんの応援スレの人達のコメント見てたらね、もっと頑張ろうって思えたんだ」

凛「どんなコメントがあるの?」

花陽「もしことりさんの立場に自分が置かれていたらって言うのが多いかな?」

花陽「後はね、まるでドラマの主人公が逆境から輝くアイドルになるシンデレラストーリーみたいだねって」

凛「確かにそれはあるかも。これだけ多く批判されてたら」

花陽「批判する材料もほとんどない状態で否定するのは批判じゃないよ。だから雑音なの」

凛「なるほどー」

花陽「……ねぇ、凛ちゃん」

凛「なぁに?」

花陽「もし私が今のことりさんより酷い状態になっても……凛ちゃんは私を応援してくれる?」

凛「もっちろんだよ! 凛は一人でもかよちんを応援するにゃ!」

花陽「そっか。一人でも凛ちゃんが応援してくれるなら何よりも心強いなぁ」

花陽(……でも、もし。私が音ノ木坂じゃなくて、UTXを受験したいって言っても応援してくれるのかな?)

花陽(最近そんなこと考えちゃう。気が早いよね、まだファーストライブも観ていないのに)

――ライブ開始!

ことり「秋葉に響け! 私の歌! 新生A-RISEの産声! いくよ~っ!」

ことり「新曲『初めましてを届けたい』聞いてください」


ことり『えぇっ!? 最初の挨拶なしでいきなり新曲から入るの?』

ツバサ『今回はその方が良いと思うの。インパクトが大切だからね』

英玲奈『ではあの掛け声をツバサが言ったらいきなり新曲披露でいいのだろうか?』

ツバサ『あれもことりに言ってもらうことにしたから。今回は完全にことりが主役だからね』

ことり『でも、初めの掛け声はリーダーがするものだよね?』

ツバサ『常識に縛られてちゃアイドル界が廃れちゃうよ。私達は自由にやっていこう』

ことり『でも、そんな……』

英玲奈『順当に行けば私達の卒業後、グループを纏めるリーダーはことりになる』

英玲奈『少し早い予行練習くらいに考えておけばいい』

ことり『もっと気が重くなること言わないでよぉ』

ツバサ『それだけの元気が戻ったのなら安心ね。今度私も頼もうかしら、英玲奈の膝枕』

ことり『確かにぐっすり眠れたけど……って、そうじゃなくて』

英玲奈『元気も出て緊張も抜けている。なら、やれることは全部やってみた方が良い』

ツバサ『まだ自信がないっていうのなら、私と英玲奈が自信を分けてあげるから』

ことり『……うん。やってみる。少ないかもしれないけど、応援してくれるファンの為に』

ことり『そして、困っているのに手を貸せない大切な、私の一番の友達の元気になる為に』

ツバサ『真っ直ぐな想いは人を魅了する。ことりの歌で全員の脳を蕩けさせちゃって』

英玲奈『ことりの魅力を思う存分魅せ付けると良い。遠慮は要らない』

ことり『はいっ!』

ツバサ『じゃあ、そろそろいくよ。新生A-RISEスタート!』

ツバサ「今日はライブにきてくれてありがとう! サイトにはライブ終了時に訊くって書いてたけどもう訊いちゃうね」

ツバサ「A-RISEに南ことりが必要だと思うファンは大きな声でことりの名前を叫んでね!」

ツバサ「せぇ~のっ!」

ことり(その瞬間の声は自分の名前を呼ばれたと思えないくらいの大きな声だった)

ことり(それでも自分の名前を皆が叫んでくれたと理解出来たのは、一番私を呼んでくれる声が聞こえたから)

ことり(私の大好きな穂乃果ちゃんの声が確かに聞こえたから)

ことり(ごめんね、穂乃果ちゃん。大変だって聞いたのに力になれなくて)

ことり(それなのに穂乃果ちゃんはことりがスクールアイドルをすることに応援してくれるんだね)

ことり(スクールアイドルをしてなければ直ぐに穂乃果ちゃんの元へ駆け寄りたかった)

ことり(でも、応援してくれる人達の為にも、気を緩めることが出来なくて……)

ことり(穂乃果ちゃん。勝手なこと思っちゃうけど、私達のライブを観て元気になって!)

ことり(ファイトだよ! この穂乃果ちゃんの言葉がずっと私を支えてくれてるんだよ)

ことり(だからことりが言うね。穂乃果ちゃん、ファイトだよ!)

ツバサ「私がラブライブ優勝を宣言出来た理由を理解してくれて嬉しいよ♪」

英玲奈「みんな、ありがとう。ことりをスカウトしたのは私だから自分が認められる以上に嬉しい」

ツバサ「さ、ことりも応援してくれるファンに一言」

ことり「ファイトだよ!」

ツバサ「元気なコメントありがとう。じゃあ、続けて二曲目いくよ!」

――ライブ終了後... A-RISE

ことり「ごめんね」

ツバサ「やりきたった後に熱が出るなんてね」

英玲奈「張り詰めていた緊張と疲労が一気に出たのかもしれない。寝不足も多少は関係しているだろう」

ツバサ「ステージ衣装を着替えさせたらそのまま病院に行くからね」

ことり「うん」

英玲奈「この時間だと西木野総合病院かな」

ツバサ「自分で着替えられる? 私が着替えさせた方がいい?」

ことり「大丈夫……かな? 迷惑かけちゃって本当にごめんね」

ツバサ「やっぱり練習メニューがハード過ぎたんだわ。全て私の責任。ご両親にも謝らないと」

英玲奈「ツバサだけじゃない、私の責任でもある。一緒に謝ろう」

ことり「ううん、違うよ。ツバサちゃんも英玲奈ちゃんも悪くないよ」

ことり「今日のステージで私少し強くなれた。夢の為にももっと強くなりたいってそう思えた」

ことり「だから感謝してるんだ。謝るなんてされたら、申し訳なくてスクールアイドル続けられなくなっちゃう」

英玲奈「ことり、今私達のことを」

ことり「直ぐに呼べるようにって、二人の前以外ではちゃん付けして呼んで練習してたんだぁ」

ことり「英玲奈ちゃん。ツバサちゃん。ありがとう」

ツバサ「仕方ないから今回だけは謝るのはやめておくわ。でも、次があったら絶対に謝りに行くからね?」

ことり「こんな失態二度はしないよ」

英玲奈「ふふふ。そう信じたいもの。では私はタクシーの手配と病院の方に連絡を入れておこう」

ツバサ「タオルと水を用意するわ。その間ことりは着替えておいて。一人じゃ無理そうなら無理しないでね」

ことり「うん、ありがとう」

ことり(この後、私は土日ともに家で安静を余儀なくされ、穂乃果ちゃんに会うことは出来なかった)

――五月十四日 夜 南家(お寿司中) ことほのうみ

穂乃果「へぇ~。あのライブの後にそんなことになってたんだ」

ことり「念のために家から出るなって言われちゃって。土曜日のお昼には熱も下がってたんだけどね」

海未「大事な一人娘ですからね。多少過保護にしてしまうのは仕方ありませんよ」

海未「穂乃果もことりの様に無理して倒れたりしないでくださいね?」

穂乃果「ウミちゃん美味しい~♪」

海未「もうそのネタはいいですから! 誤魔化さないでください!」

ことり「王子様だからって無理したら絶対に駄目だよ?」

穂乃果「うん。でも、穂乃果は皆より頑張らないと駄目な立場だし」

海未「頑張るのと無理をするのはまるで別物です。勝手なトレーニングは禁止ですからね?」

穂乃果「海未ちゃんってば穂乃果のこと全然信用してないよ~」

ことり「でも、私もツバサちゃんに何度も勝手なトレーニングは禁止だって言われるよ」

海未「無理な鍛錬で体を壊したり、怪我をしては本末転倒ですからね」

穂乃果「だけど海未ちゃんは家で色々してるじゃんかー」

海未「私の場合は昔からの習慣で体が慣れていますから。付け焼き刃とは違います」

海未「その辺は絵里からも厳しく言われるでしょう。今はあんなににこにこしてますが練習では鬼になりますからね」

穂乃果「穂乃果には優しいお姉さんって感じにしか見えないけど」

ことり「にこさんの妹さんすっごい可愛い! 後で抱っこさせてもらえないかなぁ」

海未「ええ、本当に可愛いですよね。それはともかく、A-RISEには後で正式な謝罪をしなければいけませんね」

ことり「さっきメールで今回の件は成長の糧となったろうから気にしないでって言われたわよ」

海未「……A-RISEの先輩二人は本当にことりのことを大切にしてくれいてるんですね」

穂乃果「ことりちゃんは可愛いからね。優しくしたくなる気持ちは分かるよね!」

海未「それもありますが性格が良いからでしょう。ことりならばいつお嫁に出しても大丈夫です」

ことり「お嫁になんていかないよ~」

海未「そうですね。ことりに釣り合うような稀有な男性は存在するかも怪しいですから」

穂乃果「いざとなれば穂乃果と一緒に穂むらで働きながら装飾系の仕事すればいいし」

海未「自分が楽する為にことりを穂むらで働かせないでください。まったく穂乃果は……」

ことり「ふふふ♪ でもそれはそれで面白そうっ」

海未「あ、それはそうとことり! 初ライブにどうして私を誘ってくれなかったのですか」

穂乃果「その台詞を海未ちゃんが使うのはどうかと思うよ」

ことり「そうだね。海未ちゃんはライブがあってもオフレコで教えてくれなかったから」

海未「そ、そうですが……私の場合は恥ずかしかったからで」

穂乃果「自分が出来ないことを人に要求するのは駄目な子だよー」

海未「うぅっ。穂乃果に正論を言われるとは屈辱です!」

ことり「今度ライブのチケットを貰えたら海未ちゃんにあげるから、元気出して」

穂乃果「そうだ! ことりちゃん、ファーストライブが終わったから今までみたいに遊べないってことはないんだよね?」

ことり「うん。これからは放課後や休日も練習が空く日があるから」

穂乃果「だったらその時はボウリング行こうよ。海未ちゃんと二人で特訓したんだから!」

ことり「本当? 楽しみっ♪」

海未(何故穂乃果は自信満々に誘えるのですか。前回二人で行った時のスコアを忘れたのですか)

海未(ですが、三人で遊びに行けるのであれば勝負の結果は多めにみましょう)

ことり「じゃあ最下位の人が罰ゲームっていうのはどうかな?」

海未「なしです! 罰ゲームがあるのならボウリングはなしです!!」

――五月某日 UTX 廊下 ことり

ことり「……あっ」

ツインテ「ん? なんだあんたか」

ことり「こ、こんにちは」

ツインテ「ファーストライブ観たわよ。全然駄目ね」

ことり「……」

ツインテ「左ステップ踏むときに半分くらいだけど、一瞬足元を見てたわ」

ことり「え?」

ツインテ「A-RISEのメンバーだって豪語するなら常にお客さんを見なさいよね」

ことり「は、はい」

ツインテ「あとあんたのMCは全然何も考えてきてないのがまる分かり。少しくらい考えてきなさいよ」

ことり「……はい」

ツインテ「歌の方ももっとボイトレしておきなさい」

ことり「分かりました」

ツインテ「直すところを直して少しはマシになることね」

ことり「すごいよく見ててくれたんですね」

ツインテ「はぁ?」

ことり「きちんと見てくれてる人がちゃんとしたファンだってツバサさんが言ってました」

ツインテ「何を勘違いしてんのよ。私はあんたの粗が捜ししただけ。アンチよアンチ」

ことり「お名前なんて言うんですか? よかったら私とお友達になってください」

ツインテ「私の話を聞きなさいよ。ていうか、あんたの友達なんて真っ平ごめん!」

ことり「被服科は特待生ってだけで距離開いちゃってて、しかもA-RISE入りしたから特待生同士でも距離があって」

ことり「だから友達が欲しかったんです!」

ツインテ「あんたのそんな事情誰も聞いちゃいないわよ!」

ことり「それで先輩のお名前はなんですか?」

ツインテ「ああっ、もう煩いわね!」

ことり「あ、きちんとした自己紹介してなかったですね。私は南ことり。新生A-RISEのメンバーです♪」

※絵理誕生日記念。一年目ですが絵里が邪道シスターズ長女なので若干パラレル世界。誕生日を忘れてたので量少なめ。

◆長女エリーチカお姉ちゃん◆

こころ「エリちゃんおたんじょうびー! おめでとう♪」

ここあ「エリーちゃんおたんじょうびっ! おめでとー♪」

あんじゅ「エリーお姉ちゃん誕生日おめでとう☆」

にこ「お婆ちゃんに手伝ってもらってもらっただけあって、最高の衣装ね!」

絵里「皆ありがとう。でも、にこ。なんで誕生日なのに巫女なのよ?」

にこ「未来の絵里が巫女をしている夢を見たのよ。だから是非誕生日は巫女装束にしようと思ってね」

ここあ「はらたっまー」

こころ「きよたっまー」

あんじゅ「二人とも物知りだね。こころちゃんとここあちゃんならミニスカ巫女服とか似合いそう」

こころあ「えへへ!」

絵里「そんな理由で……いや、凄く良く出来てるから文句はないんだけど」

にこ「巫女っぽいポーズしなさいよ。亜里沙に写メール送ってあげるから」

絵里「巫女っぽいポーズってどんなのよ?」

あんじゅ「こんな感じじゃない?」

絵里「なるほどね。箒を持ってる感じね。確かに巫女と言えば境内の掃除してるイメージが強いわね」

絵里「こころちゃんとここあちゃんも一緒に撮りましょう」

こころ「うん!」

ここあ「いっしょにとるー!」

にこ「さぁ、こころとここあも可愛いポーズ撮ってね」

あんじゅ「にっこにっこにー♪」

にこ「あんたも入るの? 納まるかしら……まぁ、いいわ。いくわよ、はいっ! にこにー☆」

ピロリロリン♪

にこ「うん、あんじゅが目を瞑ってたけど綺麗に撮れたわ」

あんじゅ「えぇっ!? もう一枚撮ってよ~」

にこ「こういう自然な写真の方がホーム的な雰囲気を感じて見る側は喜んでくれるもんよ」

絵里「撮り直してあげましょうよ。次は私がしゃがんでこころちゃんとここあちゃんを抱きしめてるから」

ここあ「きゃっ! ここあつかまっちゃった!」

こころ「えへへ! こころもエリちゃんにたいほされたにこっ」

絵里「うふふ♪ 天使な二人はエリーチカお姉ちゃんの妹にこ~♪」

あんじゅ「じゃあ私はみんなを後ろから抱きしめる感じで」

にこ「今度は目を瞑るんじゃないわよ。いくわよ、はいっ! にこにー☆」

ピロリロリン♪

にこ「うん、今度は完璧ね。付属文は早く日本に越してくるニコ! でいいわね。送信っと」

絵里「じゃあ、さっそくだけどケーキ食べましょうか」

こころあ「ケーキ!」

にこ「……誕生日なのに、自分で買ってくるとか少し罪悪感を覚えるわね」

あんじゅ「しかも二種類も買ってくるなんてね」

にこ「料理は私が作ったけど、食材提供は絵里だしね」

絵里「いいじゃないの。亜里沙が居ないのは残念だけど、妹四人に囲まれる幸せを味わえてるんだから」

絵里「そんな瑣末なこと気にしないでよ」

にこ「というか、なんで二種類も買ってきたの? サイズ大きくすればいいじゃない」

絵里「一種類だとメッセージの板チョコが一枚で、割ったサイズの違いで喧嘩になっちゃうかもでしょ?」

絵里「最初から二枚あれば一枚ずつあれば仲良く食べれるもんねー」

こころあ「ねー♪」

あんじゅ「物凄いシスコン。にこも負けてられないよ。私にもっともっと優しくしなきゃ!」

にこ「あんたに優しくしたら私は宇宙ナンバー1メイドにでもなっちゃうわよ」

あんじゅ「にこの場合はメイド服より何気に執事服の方が似合うかも。髪の毛首の後ろで一本に結んで」

絵里「ぷっ! 確かに似合うかもね」

にこ「噴き出してから肯定すんじゃないわよ!」

こころ「にこにーひつじさんになるの?」

ここあ「ひつじさんカワイイ! でも、キツネさんの方がもっとすきー!」

こころ「こころはうさぎさんがいい!」

絵里「ふふふっ。確かににこには兎とか狐の方が似合ってるわね」

あんじゅ「着ぐるみでどこかの幼稚園を訪問とかいいかもっ」

にこ「本格的にスクールアイドルなのか見失われるから止しなさい」

絵里「私は子供大好きだから幼稚園でも小学校でも機会があればやりたいけど」

にこ「本気で止めなさいってば。どこで何のフラグが立つか分からないのよ?」

にこ「今は海未のSMILE入りするフラグだけで十分よ」

絵里「あの性格だと半々って感じね。実際にライブを経験してみてどう答えを出すのか」

あんじゅ「私は海未ちゃんはもう大丈夫だと思ってるけど。真面目な子って刺激にけっこう素直だから」

ここあ「ケーキまだぁ?」

こころ「ここあ。話のとちゅうでわりこんだらめっ! だよ」

ここあ「でもケーキ食べたいニコ!」

絵里「くすっ。ごめんね、じゃあケーキ運んでくるからね」

あんじゅ「いいよいいよ。お誕生日なんだし座ってて。私が運んで、にこが切り分けるから」

にこ「あんたに二つ運ばせると大惨事になりかねないからね、私も一つ運ぶわ」

あんじゅ「んふふ♪ にこにーお姉ちゃんってば優しいにこ~」

にこ「ケーキが心配なのよ。食べ物をお腹に入れば同じとか言う人間と違って、私は見た目から味わいたいの」

あんじゅ「ツンとした台詞を吐きながら、その瞳は妹を優しくみつめるにこであった」

にこ「その変なナレーション止めなさいっていつも言ってるでしょうが!」

あんじゅ「いやん。個性の没収は法律で禁止されてるもん」

にこ「そんな法律ない!」

―――
――

こころ「おいしかった~」

ここあ「おなかの中がケーキでたくさん☆」

あんじゅ「上品な味わいだったね。でも、チョコケーキの方も子供でも食べられるようになってて美味しかったよ」

にこ「私はいつものケーキの方が美味しく感じたけどね」

あんじゅ「いつもの憎まれ口だね」

にこ「え、本気で言ってるんだけど……」

絵里「庶民舌っていうやつね。噂には聞いたことがあるわ!」

にこあん「庶民舌?」

絵里「ええ、例えば一つ五円のプリンよりも、三つで百円のプリンの方が美味しいと感じてしまうのが庶民舌よ」

あんじゅ「……にこ。大丈夫だからね。大人になったら美味しいもの食べて舌を肥やそうね」

にこ「庶民なんだから庶民舌でいいじゃない。節約上等だわ」

絵里「逞しいわね。ささ、こころちゃんとここあちゃんはエリーチカお姉ちゃんの両脇に座りましょうね」

こころ「エリちゃんにぎゅーっ!」

ここあ「エリーちゃんにもぎゅっ!」

絵里「ハラショー!」

あんじゅ「エリーお姉ちゃん昇天しそうなくらい幸せそう」

絵里「地上の楽園というやつね。妹が五人も居るなんて、私程幸せなお姉ちゃんはいないわ」

にこ「そんな事を断言する痛い奴がそもそも居ないわよ」

あんじゅ「まぁまぁ。そうだ、せっかくの誕生日なんだし。普段とは毛色の違う話でもしようよ」

にこ「普段とは毛色の違う話ねぇ」

絵里「いいわね。今ならどんな話もOKよ。……でも、変な話はなしだからね?」

にこ「大丈夫よ。おちびちゃんたちが居るからソフトな話にするわ。と言ってもどんな話にするのよ、あんじゅ」

あんじゅ「捏造絵里物語なんてどうかな? 絵里ちゃんを主人公にしたお話を語るの」

絵里「いいわね。童話とかの主人公を私に変えるとかそんな感じ? シンデレラとか似合うかしら」

にこ「絵里がシンデレラしたら舞踏会じゃなくて武道会にでも参加しそうよね。ガラスの剣とか持って」

あんじゅ「寧ろそんなシンデレラと戦う方じゃないかな? ほら、最初は鋼鉄生徒会役員エリーちゃんだったし」

にこ「……そうね。そう言えばそうだったわね」

絵里「どうしてそんな怖い声出すのよ。まだ親しくなる前の話じゃない」

にこ「決めたわ! 泊まりに来た時に発覚したけど、絵里ってば暗いのが苦手よね」

あんじゅ「そうだね。豆電球点けてないとヤダって駄々こねてたもんね」

絵里「駄々はこねてないけど……。で、それが何よ?」

にこ「有名な都市伝説二つを混ぜ込んだ捏造絵里物語(微ホラー)を聞かせてあげる」

あんじゅ「にこってば邪道シスターズって顔してるよ★」

絵里「まっ、待ちなさいよ。一人暮らししてる私に怖い話聞かせるなんて、そんなの法律が許さないわ!」

にこ「そんな法律ないわ。って、あんじゅと似たようなこと言うんじゃないわよ。馬鹿に思われるわよ?」

あんじゅ「お馬鹿なにこに馬鹿って言われた~」

こころ「あんじゅちゃんは頭いいよ」

ここあ「ドリルのもんだい、やり方をおしえてくれるの!」

絵里「ふふふっ。にこへのフォローがないわね。さ、これに懲りたら怖い話なんてしないことね」

にこ「タイトルは『開けないで』よ」

絵里「ちょっと! こころちゃんとここあちゃんも居るのよ?」

にこ「ママが怖い話好きだからそっち系には耐久性があるから平気よ」

絵里「あんじゅだって一人暮らしだから怖い話とか嫌よね、ね?」

あんじゅ「夏に怖い話すっごい沢山読んだよ。都市伝説からの発展話くらいなんともないかな」

にこ「天はにこに味方するのよ! さぁ、恐怖なさい。あの日の涙の恨みを晴らすにこ~!」

【開けないで...】

「これはまだ私が暗いのが平気だった頃の話よ。じゃあ、話すわね」

その時の感覚は目が覚めたというよりも、自分がふと気づいたら部屋に居た。

そんな感じに近かったわ。

何故か水の印象が頭に染み込んでいて、それできっとトイレに行きたくて目が覚めたと思ったのよ。

部屋の明かりを付けてベッドから降りたわ。

寝起きということもあって曖昧な感覚のまま、廊下に出たの。

私の部屋は二階で、トイレは二階にも付いてるから直ぐに行ける距離ね。

その少しの距離で音が聞こえてきたのよ。

トイレに入る前に立ち止まってその音の正体を探ったわ。

…………ポタッ…………ポタッ

それは蛇口から漏れる水音。

私って少し神経質な部分があるから、そうならないように必ず強めに締めるのよ。

だからそんな音が聞こえてくることに疑問を感じた。

ううん、その前に気付いてしまったの。

目の前の洗面所から聞こえる水音ならまだ知らず、一階から聞こえてくるなんておかしい。

そもそも、私は絶対に強く締めてたから水なんて出る筈がない。

トイレに行くのも忘れて私は階段を下りたわ。

……ポタッ……ポタッ

心なしか水音の間隔が短くなった気がする。

一人暮らしに慣れてきたけど、恐怖心がない訳じゃないわ。

しかもこんな真夜中となれば、普段眠ってる分の恐怖心だって目を覚ます。

一度立ち止まってみて気がついてしまったのよ。

二階から一階に下りてきたのに、聞こえてくる水音の大きさがまるで変わってないことに。

ポタッ……ポタポタ……

まるで私を招くように水音は速度だけ増している。

部屋に戻って無理やりにでも眠るか、財布を持ってどこかで朝まで過ごすか。

普段浮かぶ筈の考えは一切思い浮かばなかったわ。

私の足は無意識に音のする方へ向かっていくの。

脱衣所に繋がる戸を開けて、消した筈のお風呂場の明かりが点いてるのに気づいたわ。

ポタッポタポタ……ポタポタッ……ジャー

曇り戸には当然だけど誰の影も映っていないのに、捻ったように水が流れ始めた音が響く。

脱衣所の蛇口は一滴も流れ落ちていない。

お風呂場の中で《なにか》が居る。

喉を鳴らし、カチカチと音を立てそうになる歯を力を入れて食いしばった。

私の中に存在する感情は恐怖ともう一つ。

この戸を開けなければという焦りにも似た義務感。

戸に手を伸ばそうとした時、誰も居ないお風呂場から声がしたの。

「お願いだから開けないで、死んじゃうから」

今度こそ限界だった。

口の中では歯がガチガチと音を立て、足はバレエコンクール前でも経験したことがないくらい震えている。

逃げたい……逃げたい……それは駄目!

視界が涙でぼやけ、顔はもう体液塗れ。

腕は鳥肌が立ち、手のひらは汗で汚れている。

それでも逃げ出せない。

私は両手を添えて戸を押したの。

「絶対に開けないで! お願いだから、死んじゃうから!」

普段なら何の抵抗もなく開く戸が、内側から押さえつけているように開かない。

実際に《なにか》が押さえつけているのだろう。

完全に恐慌に陥った私は、体当たりするように戸を押したわ。

「やめてっ! 開けないでっ、開けないで!」

鬼気迫る声が耳に届くが、私は力の入らない足に活を入れて押し切る。

「開けるなっ! 開けるな開けるな開けるな開けるな開けるな開けるな開けるな!」

ソレは完全に呪詛。

声は女の子のものから低音になったり高音になったり人の声ではなくなっていた。

私は狂ったように叫びながら、戸を押し開けるの。

「開けるな!」

その声が最後。

私は戸を開くことに成功した――。

――気付いたらね、バスタブの中に居たの。

生徒会の仕事とスクールアイドルの活動の二束草鞋で相当疲れてたんだと思うわ。

少し熱めだった湯はぬるま湯に変わり、顔が半分湯の中に沈んでて慌てて体を起こした。

もし、目覚めることなく眠っていたら完全に溺死していた。

先程の悪夢でお風呂場の戸を開けていなかったら……。

関係ないと言い切れず、恐怖で全身の毛穴が開いたわ。

それから逃げるようにお風呂場を出て、お風呂場の電気を消したの。

その時、微かに耳に届いたのよ。

「あ~あ。開けなければ死んでたのになぁ。次は絶対に逃がさないから」

私は髪も乾かさずに大慌てでパジャマに着替えて、部屋に戻ると財布と携帯を持って外に出たわ。

夜中の三時だけど構わず友人に電話を掛けた。

コンビニから深夜もやっているタクシーを呼んで、起きてくれた友人の家に泊めてもらったの。

次の日、私は学校を休んで神社でお払いを頼みに行ったわ。

それ以降、あの声を聞くことはなかったけど、電気を消して眠るのが怖くて出来なくなった。

これは私が実際に体験した本当の話よ。

あんじゅ「えー。全然怖くない。もっと怖い都市伝説からの改変かと思って期待してたのに」

こころ「こわくなかった」

ここあ「ここあはちょっとだけこわかったにこ」

こころ「ここあってばこわがりにこ!」

ここあ「こわがりじゃないもん!」

にこ「二人とも喧嘩しないの。誕生日をもっと前に知ってればきちんとした怖い話を用意したんだけどね」

あんじゅ「というか、会長さんが教えてくれなかったら私達知らないままだったもん」

にこ「来年は絶対に泣かせてやるわ!」

あんじゅ「じゃあ私はにこのした怖い話を改変して、滑る話に変えてあげるね」

にこ「誰得よ!」

あんじゅ「うふふ♪」

ここあ「エリーちゃん?」

絵里「はっ! わ、私暫くここに泊まるから。異論は認められないわ!」

にこ「は?」

こころ「エリちゃんおとまりー?」

ここあ「わぁーい! ここあエリーちゃんとねるの♪」

こころ「こころもいっしょにねるニコ♪」

あんじゅ「エリーお姉ちゃんってば、今のにこの話が怖かったの?」

絵里「怖いわよ、怖いに決まってるでしょ! 一人暮らしで一番怖いのは夜のお風呂なんだからね」

絵里「今の話聞いたら怖くて入れなくなっちゃうじゃない」

絵里「かといって朝からお風呂まで入ってる時間なんてないし、今の季節だと湯冷めして風邪ひきそうでしょ?」

にこ「いや、そこまで怖がられると苛めてるみたいで罪悪感沸くんだけど」

にこ「これは有名な車で走ってたら女の人を跳ねちゃって、急ブレーキ踏んだら崖から落ちる寸前」

にこ「助けてくれたんだと思ってたら、耳元で『死ねばよかったのに』って言われるやつと」

にこ「四人で遊びに行って、帰りの車が事故に遭って、自分の彼氏だけが死んだって聞かされて」

にこ「でも死んだ筈の彼氏がドアを叩いて開けてくれっていうやつを合わせたのよ。そんな怖い話じゃないでしょ?」

絵里「なっ、なんで死んだ彼氏がドアを叩くのよ! 開けちゃ駄目よ!」

あんじゅ「実は死んだと話してる友人二人が死んでて、彼氏は生きてたってオチなんだよ」

あんじゅ「彼氏を信じて開けようとしたら、友人二人の姿が悪魔に変わって主人公が開けようとするのを邪魔するの」

あんじゅ「どうにか開けると……主人公は病院のベッドで目を覚ますんだよ。腕には悪魔に捕まれた痣が残ってるんだ」

絵里「ひぃぃっ!」

こころ「だいじょうぶだよ! おばけはいい子のところにはこないの!」

ここあ「エリーちゃんいい子だからだいじょぶー」

にこ「一番下の妹達に慰められてたら世話ないわね」

あんじゅ「弱点があるお姉ちゃんの方が可愛いっていうのはにこにーが証明済みだよ」

にこ「胃が痛くなる妹も要らないってのはあんたで証明済みよ」

あんじゅ「じゃあ、私が胃にも優しいというところを見せてあげる。エリーちゃん聞いてね」

あんじゅ「さっきのにこの怖い話を滑る話に改変したので恐怖心を紛らわしてあげるにこっ!」

【開けないで...Ver.ツンデ霊】

途中までにこが話してくれたのと同じだから省略するね。

「あ、開けるんじゃないわよ。死んじゃうんだからね!」

私は不思議とこの言葉に逆らわなきゃって思ったのよ。

これはにこを弄りたくなる時の感覚に似て「ひゃうっ! にこ、わき腹突っつかないでよ~。言い直すから!」

これは亜里沙が私にお願い事をしてきた時みたいに、逆らう事が出来ない感覚と似ているわ。

自分の体が勝手に動いて戸に手を当てて押していたの。

何の抵抗もなく戸は開いたわ。

そして、気付けば私の顔は冷め始めていたお湯の中に半分漬かってたの。

慌てて体を起こして酸素を肺に送って生きてる現実を噛み締めた。

もし、あのまま戸を開けてなかったら……。

そう考えるとゾッとしたわ。

それからあの阻止しようとしていた声の主がこのお風呂場に居るんじゃないかと考えに辿り着いた。

私は逃げるようにお風呂から上がり、脱衣所に逃げたわ。

戸を閉めてお風呂場の電気を消した。

その時に耳元で声が聞こえたの。

「あのまま死んでれば私の友達にしてあげたのに! べ、別に生きてて嬉しいとか思ってないんだからね!」

ツンツンした声を聞いて、私の恐怖心が一気に溶けていくのを感じたわ。

この子が私の命を救ってくれたのだと本能的に悟ったの。

翌日、玩具屋でお風呂で浮かせる有名なアヒルの玩具を買ったわ。

常にお湯を張ってる訳じゃないから、洗面器に水を入れて浮かべておいてあげようってね。

たまに、一階で歯磨きをしているとお風呂場の中から小さな物音がするのよ。

きっとあの子がアヒルの玩具で遊んでいるんだと思うの。

後日、お風呂から出た後に再びあの声が聞こえた。

「アヒルさんだけじゃなくて、船も欲しいとか思ってないんだから!」

少し我がままな妹が一人増えたみたいで、私はくすっと笑っちゃった。

翌日の学校帰り、私が何処に寄り道したか……それは内緒よ。

あんじゅ「もう何も怖くないよ」

にこ「お風呂の玩具でアヒルと船って家にあるやつじゃない」

こころ「アヒルさんはこころの!」

ここあ「ふねはここあの!」

絵里「私の家のお風呂に幽霊なんていいいいないわ! エリチカ矢澤家の長女になる!」

あんじゅ「これは邪道シスターズ改め、矢澤シスターズに改名だね★」

にこ「やれやれ。面倒臭い長女だこと」

おしまい☆


次のお話……梅雨か一気に飛ばして秋か冬の物語につづく!

◆しすたーくえすと~こころとここあの小冒険~◆

――こころとここあの夢 森の中

こころ「ここどこ?」

ここあ「森のなかー!」

こころ「にこにー? ママー? あんじゅちゃん?」

ここあ「だれもいないにこぉ」

こころ「どうしよう、ここあ」

ここあ「わかんないにこ」

魔法使い「可愛いお二人さん。私がすべきことを教えましょう☆」

こころ「あんじゃちゃん!」

ここあ「あんちゃんがいたー!」

魔法使い「ち、違うよ! 私は今は魔法使いなの」

ここあ「ちがうの?」

魔法使い「そう。二人のお姉ちゃんのあんじゅちゃんは別人です」

こころ「そっかー」

ここあ「ざんねんにこ~」

魔法使い「代わりににこにーとあんじゅちゃんの居場所を教えてあげるにこ!」

こころあ「ほんと!?」

魔法使い「この道を真っ直ぐ行けば会えるよ。でもね、二人が通るのを邪魔する相手が居るんだ~」

こころ「じゃまはめっ!」

魔法使い「そうだね。でも、二人の勇気があればどいてくれるよ。さぁ、頑張ってお姉ちゃん達の元へ辿り着いてね」

ここあ「きえちゃった?」

こころ「まほうニコ!」

ここあ「まほうなのっ♪」

二人は魔法使いの言う通りに森の中を歩きます。

怖くないようにお互いに手を繋いで仲良しにこにこ姉妹。

部分的に歌詞を間違えながらも、SMILEのお歌を歌いながら進んでいくと……。

「きゅーっ!」

恐怖の鳴き声と共に姿を現したのは――密林の大狸!

大きくもないし、普通に可愛いたぬきの着ぐるみを着た穂乃果です。

ここあ「たぬきさん!」

こころ「森のなかにたぬきさんがいるにこ!」

穂乃果「きゅーっ! 私はこの森に住む狸。ぽんぽこぽのかだよ。ぽこりんこっ!」

ここあ「きゅ~♪」

こころ「ぽこりんこ~♪」

穂乃果「あはは。このずっと先に二人のお姉ちゃん達が待ってるよ。でも、先に進むには問題に答えなきゃダメなんだ」

こころ「もんだい?」

ここあ「クイズのことかな?」

穂乃果「うん。ちょっとしたクイズだね。三問正解したらこの先へ進めるからね。ファイトだよっ!」

こころ「うん!」

ここあ「がんばるにこ!」

穂乃果「じゃあ第一問。私達スクールアイドルSMILEのリーダーは誰でしょうか?」

こころあ「にこにーっ!」

穂乃果「正解☆」

穂乃果「じゃあ、続いての問題。穂乃果ちゃんは何を売っているお店の娘でしょうか」

穂乃果「①パン ②お饅頭 ③イチゴ ④チョコレート」

ここあ「いちご食べたい!」

こころ「ここあ。きちんと考えるにこ!」

ここあ「ごめんね。えっとね、なんだったっけ?」

こころ「あまいのだった気がするの」

ここあ「チョコレート?」

こころ「んーっと……あっ! おまんじゅう!!」

穂乃果「二連続で正解☆」

穂乃果「そうです。お饅頭を売ってる和菓子屋さんの娘です」

ここあ「おまんじゅう!」

こころ「あんこあまくておいしいにこ!」

穂乃果「さぁ! 次は簡単にはいかないきゅーっ!」

穂乃果「では三問目いくよ~。恐竜はどこにいるでしょうか?」

穂乃果「①ずっとずっと昔 ②ずーっと未来 ③夜の森の中 ④宇宙の向こう側」

こころ「きょうりゅうさんどこー?」

ここあ「きょうりゅうさんはね、おっきいの!」

穂乃果「そうだよ。恐竜さんは大きくて可愛いんだよ。くぇ~」

ここあ「でもほんもののきょうりゅうさんみたことないにこ」

こころ「こころも! だから③じゃないかも」

ここあ「③は違うの!」

穂乃果「じゃあ後は三つだね」

こころ「うちゅうってお星さまがあるところ?」

穂乃果「うん、そうだよ。お星様もお月様も太陽もあるところが宇宙なんだよ」

ここあ「うちゅうかー。お月さまにはうさぎさんがぴょんぴょん♪」

こころ「じゃあきょうりゅうさんもいるのかなぁ?」

ここあ「でもここあうさぎさんしかきいたことないにこ」

こころ「じゃあ④もちがうにこ!」

穂乃果「後は二つの内のどっちかだね。さぁ、どっちかな?」

こころ「どっちかな?」

ここあ「たぬきさんどっちー?」

穂乃果「それを教えたらクイズにならないよ。もう少し頑張ってみよう」

ここあ「そっか~」

こころ「きょうりゅうさんはどこにいるの?」

ここあ「きょうりゅうさんはむかし? みらい?」

こころ「どっちだろう?」

ここあ「みらいだときょうりゅうさんいるってわからないよね」

こころ「そうかも。じゃあ、むかしかな?」

ここあ「ずっとずっとむかしー!」

こころ「きょうりゅうさんはむかしにいるの!」

穂乃果「凄いすごいっ! 二人共三連続正解だよ。そんな二人にはお饅頭をプレゼント☆」

こころ「ありがとー!」

ここあ「おいしそうにこ! ありがとなの!」

穂乃果「ううん。二人が頑張ったからだよ。この先にはこわ~い森の魔女が住んでるから」

穂乃果「気をつけて先を進んでね。それじゃあ、ばいばい。ぽんぽこりん♪」

こころあ「ばいばーい!」

こころ「このさきにまじょさんいるんだって」

ここあ「おかしのおうちがあるのかな?」

こころ「見てみたいニコ!」

ここあ「ここあも見たいにこ!」

二人はお饅頭を食べてから再び手を繋いで歩き出します。

密林の大狸に出会った影響か、動物の鳴き声を奏でながら進みます。

「やはりあやつでは行く手を阻む壁役にもなれませんでしたか」

「尤も、穂乃果はSMILEで一番の新人。何故メンバーになれたかも不思議なくらいです」

黒いローブを着た女性が道の真ん中で二人が来るのを待っていました。

完全に痛い独り言を呟くのは――森の魔女!

海未「この先を行きたくば私の出す問題に正解してみせなさい」

ここあ「おかしのおうちはどこー?」

海未「え、おかしのお家ですか?」

こころ「まじょさんのおうちおかしじゃないの?」

海未「いえ、違います」

ここあ「ざんねんにこぉ」

こころ「見てみたかったにこぉ」

海未「な、何やら物凄い罪悪感が……」

海未「いえいえ! 森の魔女うみみ様ともあろうものが問題を出す前に負けていては狸以下です!」

海未「森の魔女・別名蒼の神話の二つ名を持つ私は挫けません!」

海未「ではお二人さん、いきますよ!」

意気揚々とクイズを出した海未でしたが、大狸さんより簡単な問題であっさりと負けてしまいました。

海未「私の番は省略ですか? あはは、良いんです。私はそういう損な役回りをするのが似合ってますから」

海未「しかし、これでは私の方が口だけで一番弱い敵みたいではないですか」

穂乃果「実際に海未ちゃんの方が直ぐに問題解かれちゃったじゃない」

海未「うっ……穂乃果。居たのですか」

穂乃果「ぽんぽこりん♪」

海未「きゅ~っ」

こころ「おかしのおうちざんねんだったね」

ここあ「いってみたかったにこ」

こころ「いつかいくにこ!」

ここあ「うん♪」

二人は笑顔で森の先へ歩いていきます。

お菓子の家に行ってみたら何がしたいかを語り合います。

ここあ「たべちゃダメなのかな?」

こころ「たべちゃったらおうちなくなっちゃうよ」

ここあ「こまっちゃうね!」

「私の天使ちゃん捕まえたわ!」

突然現れた金髪の蒼い目をした白いドレスを着た女の子――お姫様・エリーチカ!

ここあ「エリーちゃん!」

こころ「エリちゃんはっけんにこ!」

絵里「二人共よくここまでこられたにこ。とっても偉いわ」

こころあ「えへへ!」

絵里「ここが最後の問題よ。私の問題に答えられたらにことあんじゅが待ってるの」

こころ「そうなんだー」

絵里「そうなの。何か先に質問とかある?」

こころ「エリちゃんはどうしておひめさまみたいなの?」

ここあ「かわいいにこっ!」

絵里「シスター王国のお姫様だからよ。他に何かあるかしら?」

こころ「ううん、だいじょうぶー」

ここあ「ここあもへいきー」

絵里「ふっふっふ。では問題に移るわね。ジャジャン☆」

絵里「第一問。私の実の妹の名前はなんでしょう?」

こころ「アリサちゃん!」

ここあ「アリサちゃんげんきかなぁ?」

絵里「元気よ。あと百回も眠ったら日本に住むようになるわ」

こころ「たのしみ!」

ここあ「おにんぎょうさんあそびするやくそくなのー♪」

絵里「その時はエリーチカお姉ちゃんも一緒に遊びましょうね」

こころあ「うんっ♪」

絵里「ふふっ。では第二問。チャチャチャン☆」

絵里「私達六人姉妹の一番上のお姉ちゃんは誰でしょうか?」

ここあ「にこにー!」

こころ「まって、ここあ。エリちゃんがいるよ」

ここあ「そっか。エリーちゃんとにこにーどっちがお姉ちゃん?」

こころ「たんじょびはにこにーがさき!」

ここあ「でもあんじゅちゃんがエリーちゃんのほうが上っていってたかも?」

絵里「こころちゃんとここあちゃんは本当に可愛いわねぇ」

ここあ「そういえばいっかいだけにこにーがエリーちゃんをお姉ちゃんってよんでたの聞いたよ!」

こころ「だったらエリちゃんがお姉ちゃんにこ!」

ここあ「エリーお姉ちゃんにこ!」

絵里「二問目も大正解よ。私は一番のお姉ちゃんだから一番甘えていいんだからね☆」

ここあ「えへへ~甘えるにこぉ」

こころ「もぎゅっとするにこ♪」

絵里「このまま森の中で幸せに暮らしたいけど、最後の問題をいくわ。ジャジャジャーン★」

絵里「こころちゃんとここあちゃんはエリーチカお姉ちゃんのことをどう思ってますか?」

こころあ「だいすきー!」

絵里「ハラショー! 私もこころちゃんとここあちゃんのこと大好きにこ!」

暫く二人とじゃれ合った後、絵里は二人を見送りました。

海未「絵里……意外と言わせたがりなんですね」

穂乃果「問題というよりただの質問だったね」

絵里「海未に穂乃果。……何のことだか分からないわ」

海未「誤魔化されませんよ」

穂乃果「明らかにぽんぽこぽのかが一番活躍してたよね」

海未「……否定出来ません」

絵里「こころちゃんとここあちゃんが可愛いから何でもいいわ!」

海未「ダメなことを言ってるのに、随分と清々しい顔をしてますね」

穂乃果「絵里ちゃんは海未ちゃんと違って自分に正直だもんね」

海未「なんですかそれは?」

穂乃果「あんなに嫌がってたのに、実際にやったら『穂乃果はSMILEで一番の新人』とか成りきってたよね」

海未「なっ! あ、あれはっ」

絵里「海未ってばそんな恥ずかしいことを言ってたの? ……ふふ、意外とお茶目さんなのね」

海未「そのシスターズを見るような優しい目で私を見ないでください!」

穂乃果「ぽんぽこりん♪」

こころとここあは仲良くお喋りをしながら森を抜けました。

広がっていたのは青空とお花畑。

そして、にこにーとあんじゅの二人。

こころ「にこにー! あんじゅちゃーん!」

ここあ「にこにーにあんちゃーん!」

あんじゅ「二人共きちんとここまでこれて偉いにこ~♪」

にこ「おかえり! 今日はチーズハンバーグにこっ」

こころあ「わぁーい♪」

あんじゅ「今回の二人の小冒険はこれでおしまいです」

にこ「なんで唐突にナレーション口調なのよ」

あんじゅ「だって、そろそろ二人が目を覚ます時間だから」

にこ「ああ、そういうことね」

こころ「こころおきてるよ?」

ここあ「ここあもきちんとおきてるの」

にこ「ここは夢の世界よ。朝らしいから起きないとね」

あんじゅ「こころちゃんここあちゃん。朝だよ~起きて~♪」

――矢澤家の朝食

ここあ「ゆめでね、こころといっしょに森のなかをあるいたの!」

こころ「きちんとさいごはにこにーとあんじゅちゃんに会えたんだよ!」

にこ「二人共同じような夢を見たのね」

あんじゅ「双子の奇跡かな? 今度私もにこと一緒の夢みよっと」

にこ「見える訳ないじゃないの。それで、楽しい夢だったの?」

こころ「うん! たぬきさんにあったんだよ」

ここあ「まじょさんにもあったの。あとねあとね、おひめさまエリーちゃんにも会えたの!」

あんじゅ「狸? 魔女? なんだか面白そう。にこと見る夢はどんなのが出てくるのかな?」

にこ「見る前提で話を進めるんじゃないわよ。あんたと同じ夢見たら絶対に胃が痛くなるに決まってるわ」

ここあ「にこにー。きょうのごはんはチーズハンバーグがいいにこ!」

こころ「チーズハンバーグがたべたいニコ!」

あんじゅ「お肉お肉~♪ 今日は金曜日だし、きっとエリーお姉ちゃんも泊まりに来るね」

にこ「絵里も週一で泊まりにくるのも恒例行事化してきたわね。よし、奮発してチーズハンバーグにしてあげるにこ!」

にことあんじゅが同じ夢を共有する未来があるのかどうか……それは誰にも分からない。

>>398 訂正入れ忘れてました。一つ五百円のプリンです。

◆アンチ先輩◆

初めて会った時は正直怖い思いをしたけれど、今では不思議と面白い先輩という位置づけになっています。

この人が私のファンになってくれるまで頑張ろうと、変な対抗心もあります。

ことり「先輩、こんにちは」

先輩「……また来たの、南」

ことり「また来ました!」

先輩「わざわざ二年の教室に押しかけるとかどんだけ友達居ないのよ」

憎まれ口を叩くツインテール……ではなく、ツーサイドアップの先輩は心底嫌そうな顔を浮かべます。

でも本気で嫌ではないらしく、追い返されたりはしません。

ことり「だから言ったじゃないですか。クラスに友達が居ないんです」

先輩「英玲奈さんとかツバサさんとかと一緒に食べれば……いや、待ちなさい。それはそれでムカつくわ」

ことり「ということで、一緒に食べに行きましょう」

先輩「だからね、私はお弁当なの。分かる? 学食行く必要ないの。日本語理解できる?」

ことり「はいっ! でも私お弁当作る時間ないので、学食に行かなきゃいけません。だから先輩も一緒に来てください」

先輩「全く分かってないわよね。学食まで移動するだけで時間無駄な掛かるっていつも言ってるでしょ」

先輩「綺麗だし広いけど、UTX唯一の弱点は移動に掛かる時間が多いこと」

ことり「芸能科なんですから、歩くこともまた健康の一つとして考えましょうよ」

先輩「お昼終わったら次はハードなレッスンが待ってるから動きたくないの」

ことり「準備運動にも匹敵しません。だから私と学食へ行きましょう」

先輩「……南。あんたさー、初めて会った時は生まれたての雛みたいだった癖に強気よね」

ことり「アンチ先輩をファンにするのが私の今の目標の一つだから」

先輩「人をアンチ先輩とか変な別称つけてるんじゃないわ」

ことり「ことりのファンになってくれれば、ファン先輩って呼ばせてもらいます♪」

先輩「南は私をからかってる訳? 喧嘩売ってるなら買うわよ」

ことり「では喧嘩は学食で売ります」

先輩「……はぁ~。分かった。行けば良いんでしょ行けば」

何だかんだ良いながら食べかけていたお弁当を片付けて、一緒に学食に行ってくれます。

ちなみに、ため息吐いた後に軽くそばかすを撫でるのがアンチ先輩の癖。

――学食

学食はメニュー制ではなく、バイキング方式なので好きに取って食べられるのが魅力的。
でも、これは生徒の事を思ってのことではないとアンチ先輩が教えてくれました。
栄養面を自分で考えて摂取するという自立性と、食べ過ぎたりしないように制御する姿勢を作るためなのだそうです。

先輩「距離があっても縮めればいいじゃん。わざわざ私のところまでこなくてもさー」

ことり「迷惑ですか?」

先輩「超迷惑!」

ことり「それよりも今週のライブまた観にきてくれるんですよね?」

先輩「そんなことで流すとか、メンタル面が成長したわね。スクールアイドルとしては良い傾向だけど」

先輩「ライブは見に行くわよ。当然でしょ? 私は英玲奈さんに憧れているんだから」

ことり「+南ことりのアドバイザーですよねっ」

先輩「南の粗が目に付いて集中出来ないだけよ!」

ことり「先輩の忌憚のない言葉はとてもありがたいです。今度クッキー焼いてきますね」

先輩「クッキーなんて焼いてる暇があったら練習しなさいよ」

ことり「勝手なトレーニングは禁止されてますから。あ、イメトレとかは別ですけど」

先輩「ふんっ」

ことり「でも、どうして直す箇所が多い私がファンに受け入れられたんだろう。最近そんな疑問が浮かぶんです」

先輩「メンタル強くなった割にはそういう細かいことを一々気にするのね」

先輩「そういう若干目につくつたなさが回を重ねる毎に直っていくのもまた一つの応援要素なんでしょ」

先輩「多くの人にとって欠点に映る筈の箇所が、あんたの魅力ってやつのせいでそう映らなくなっている」

先輩「努力型のカリスマ性とでも言うのかしらね……。南の発する庇護欲がそう感じさせるんだと思うわ」

先輩「欠点を魅力にする。最高の武器の一つじゃない。だからって甘えは許されないけどね」

ことり「努力します」

先輩「そう。努力があるからこそ魅力になる。怠惰になれば徐々にファンは消えるわ」

先輩「これはわざわざ言う必要がないことだけどね。努力だけは認めるし」

ことり「ありがとうございます♪」

先輩「その嬉しそうな笑顔が無性に腹立つわ」

ことり「今日の放課後なんですけど、A-RISEの練習前に少し見てもらってもいいですか?」

先輩「……強制的に見させるのに疑問符で訊いてくるんじゃないわ」

ことり「だって先輩のアドバイス分かり易いですから。成長に絶対必要なんです」

先輩「廊下であんたに因縁つけたことを本気で後悔してる」

ことり「運命の出会いですね」

先輩「運命なんて信じちゃいないけどさー」

先輩「ま、南のお陰で英玲奈さんと会える口実が生まれることもまた事実だし。しょうがないわね」

ことり「アンチ先輩は本当に後輩思いで素敵ですっ」

先輩「いい加減その呼び方止めろっての」

英玲奈ちゃんやツバサちゃんとは違う距離でアドバイスくれる先輩。

お陰で今日も昨日の自分より一歩も二歩も前を歩く事が出来そうです。

最高の私になれる為にも、もっともっと頑張りますっ♪

◆SMILE炎上◆

それは思い返すのも嫌になる出来事だったわ。

スクールアイドルに限らず、やってはいけないブログの炎上。

幸いにも評価を落とすというよりは、一時的なネタになっただけなのでまだいいけれど。

勿論、原因となったのは私の愚妹。
その出来事の産声を今でも覚えている――

あんじゅ「心を広くするための手段の一つとして本を読むことだと思うの」

にこ「あんたはいつも唐突ね」

海未「言っていることは正しいと思いますよ。私は武道の方を推しますが」

絵里「自然を愛でるのもまた一つよね。私は花を見るの好きだし」

穂乃果「みんな真面目だねぇ」

海未「穂乃果は王子を目指すのならもう少ししっかりしてください」

穂乃果「心の広さと強さは別物でしょ~?」

にこ「心が広いからこそ許容出来る範囲が増えるんだから、関係あるんだし別物じゃないでしょ」

あんじゅ「珍しくにこ的には知的よりな発言♪」

にこ「どうしてこれくらいで知的とか言われるのよ!」

絵里「と、こんな風に直ぐに言い返すのは心が狭い証拠になるわね」

あんじゅ「流石エリーお姉ちゃん。ナイスアタック」

絵里「あんじゅもナイスパスだったわ」

にこ「ぐぬぬ!」

海未「ふふっ。二年生組である三人は息ピッタリですね」

穂乃果「一つだけ気になってたんだけど、見た目的にも性格的にもあんじゅちゃんの方がにこちゃんの姉じゃないの?」

にこ「穂乃果はあんじゅのだらしなさを知らないからそんな戯言が言えるのよ」

あんじゅ「その通りだよね★」

にこ「あんたはあんたで少しは反省して進歩しなさいよ」

あんじゅ「進歩してるよ。布団叩きをマスターしたもん」

にこ「そんな事を誇ってる時点でおかしいのよ!」

海未「そういう点は本当ににこに同情します。私にもだらしない穂乃果という幼馴染がいますので」

穂乃果「えぇ~!? そこで穂乃果の名前出されても困るよ。だって、家事くらい出来るもの」

海未「出来てもしないのと出来ないの。ある意味で前者の方が性質が悪い場合もあるのですよ?」

絵里「確かにそうね。穂乃果も一人暮らしを経験してみたらどうかしら?」

にこ「完全にうちに入り浸ってるけど、一応あんじゅも一人暮らしよ」

絵里「そういえばそうだったわね。完全に矢澤あんじゅでカウントしてたわ」

あんじゅ「うふふ♪」

海未「そうだ、穂乃果もあんじゅを真似て私の家に入り浸ってもらって構いませんよ?」

穂乃果「海未ちゃんのお家は居心地いいけど、入り浸ったら絶対に海未ちゃんと同じメニューとかさせられそうだし」

海未「そうですね。母も父も穂乃果のことを気に入ってますから、今からでも遅くないと厳しく鍛えてくれるでしょう」

穂乃果「全力で遠慮しておくよ!」

にこ「あんたも一度海未の家に泊まって鍛えられてきたら?」

あんじゅ「駄目ー。私はにこにーお姉ちゃんと一緒にいないと寂しくて死んじゃう妹だから」

にこ「うさぎみたいなやつね」

海未「兎が一匹では死んでしまうというのは俗説ですけどね」

にこあん「そうなの!?」

海未「もっとも一匹で居るよりは、複数で居た方が舐め合うことで衛生管理出来るそうです」

海未「だから一匹だと早めに亡くなってしまう確立が高い為にそういう話が出来たのだと思います」

絵里「海未は雑学の面でも優秀なのね」

海未「いえ、たまたま知っていただけですので」

あんじゅ「ということは! あんじゅはぁ~兎よりか弱い存在ってことにこ~♪」

にこ「かつてあんた程にこの胃を傷つけたヤツはいないわよ。か弱いの意味を調べ直しなさい」

あんじゅ「か弱い。矢澤あんじゅの名称。又は非常に弱々しいさま。基本的に妹はか弱い」

絵里「そうね、妹は姉が守らないといけないくらいにか弱い存在だわ!」

にこ「……絵里、あんたは妹が関わると急に頭悪い発言をするようになるわね」

絵里「あら、にこってば無粋ね。好きな人の為に泥を被ることが出来るのは素敵なことなのよ?」

穂乃果「言ってることは正直どうかと思うけど、でもそれ以上になんだかカッコ良い!」

海未「どこがですか」

あんじゅ「流石エリーお姉ちゃん。にこにーに爪の垢を飲ませてあげたいよ!」

にこ「面倒だからあんたも乗るんじゃないわよ。いつまでも脱線してないで、何か言いたかったんじゃなかったの?」

あんじゅ「あっ、そうだった。あのね、ブログで色々とお勧めを書いていこうと思うの。どうかな?」

穂乃果「お勧めって何のお勧めなの?」

あんじゅ「最初は本が良いなって思ってて。テーマをそれぞれ決めて書いていくの」

にこ「ふぅん。良いんじゃない? 好きな人と同じ好きを共有できるのって嬉しいものね」

穂乃果「そうだね! 海未ちゃんやことりちゃんと一緒に食べるパフェとか一人で食べるより美味しいし」

海未「素敵な試みだと思います。私も賛成です」

絵里「じゃあ、今日のブログから始めましょうか。丁度あんじゅが担当だしね」

にこ「ただこういうのってずっと続けると無理やり感が出てくるから」

にこ「最初にお勧めする物がなくなったら終了って書いておきなさいよ?」

あんじゅ「了解!」

ここまでは美談と言える展開だったかもしれないわ。

別名『悲劇の前の和やかさ』とでも題してこのシーンを名画として後世に残したいくらいだわ。

この二日後、ブログは炎上した……。

にこ「ちょっとあんじゅ! あんた何を勧めたのよ!」

あんじゅ「本ブームの時に一番衝撃的な展開だった本を勧めてみたんだけど……ねぇ?」

にこ「……ねぇ? じゃないわよ! ……ねぇ? じゃないわよ!」

あんじゅ「うふふ。にこってば二回も繰り返してるよ」

にこ「そんな細かいことはいいのよ。ブログが炎上しちゃってるじゃない!」

あんじゅ「そうなるとは薄々分かってたんだけど。いざそうなると驚きだね★」

にこ「ふざけんじゃないわよ! 一体何を勧めたの? その内容を説明しなさい!」

あんじゅ「説明するから落ち着いて。えっとね『人形屋敷の殺人』っていうミステリ本だよ」

あんじゅ「普段本を読まないにこでも屋敷シリーズと言えば聞いたことあるんじゃない?」

にこ「ないわよ」

あんじゅ「……あっ。そう、だよね。にこにそんな話をする友達って居なかったもんね」

にこ「だから友達くらい居たっての!」

あんじゅ「強がるにこに私の心は闇模様」

にこ「どんな闇模様ってどんな模様よ」

あんじゅ「誰も教えてくれる人が居なかったにこに私が説明してあげるね」

あんじゅ「屋敷シリーズっていうのは普通のミステリと違って、色々と邪道な内容の物語なの」

あんじゅ「普通のミステリ好きなら怒りそうな内容を平気で使ってくるんだよ。私はそこが良いんだけど」

にこ「つまり奇をてらった作品ってことね。で、その人形屋敷はどんなのだったの?」

あんじゅ「うん、ある男の人が殺人事件が起こった事を主人公に電話で話すところから始まるの」

あんじゅ「でね、殺人犯に怯えながら早く来て欲しいってお願いするの」

あんじゅ「……で、色々あって犯人はその男の人でね。主人公に電話してたっていうのは妄想だったの」

にこ「は?」

あんじゅ「だから、全部その男の人の妄想で、でも殺人だけは本当に起こしてたって話なの」

あんじゅ「読み終わった後の置いてけぼりにされた感が半端なくて、この思いを誰かと共有したいって思ったから」

あんじゅ「今回こういう気持ちを皆で共有出来て私は嬉しい♪」

にこ「」

あんじゅ「あの物語を読んだお陰で、もう大概の物語が許せるって思えるようになったよ」

にこ「あんたばっかじゃないの! そういうのはせめて身内で共有するから許されるのよ!」

にこ「そんなトンデモ展開の本を勧められて、わざわざ購入して読んだ人の気持ち考えなさいよ!!」

にこ「そりゃブログだって炎上するわよ。寧ろしない方がおかしいじゃない!」

あんじゅ「でも言うでしょ? 赤信号、皆で渡れば怖くない……あ、車がっ」

にこ「なんで最後に不吉な言葉が追加されてるのよ。あんたはスクールアイドルとしての自覚がないの!?」

あんじゅ「最初から来年ラブライブに出場することを目標としてるんだから、今年は話題作り」

あんじゅ「注目を浴びてから新曲や新しい試みで更に注目とファンを増やす。それが邪道シスターズのやり方だよっ」

にこ「……はぁ~。あんじゅはブレないわねぇ」

あんじゅ「うふふ♪」

にこ「炎上が収まってからファンが減ってたら、あんたにカレーはもう作らないからね」

あんじゅ「大丈夫だよ!」

にこ「自信満々ね。何かまだ策があるってこと?」

あんじゅ「にこのカレー食べたいから土下座でも何でもして許してもらうから!」

にこ「…………あ、そう」

あんじゅ「寧ろ今から土下座PVを製作しなきゃ!」

にこ「いや、逆効果だから止めなさいよ。嘘だから、カレー作ってあげるから」

私達の心配を他所に、ファンはSMILEらしいと大らかな心でネタとして受け入れてくれた。

だが、被害に遭ったのはファンだけではなかった。

基本的に真面目系メンバーである二人もまた今回の被害者。

絵里と海未の制裁により、あんじゅは暫く普段とは違う意味で甘えん坊になったわ。

あんじゅ「にこだけが私の味方だよぉ」

にこ「いつもの変な鳴き声使う余裕もないのね」

あんじゅ「夢の中まで絵里ちゃんと海未ちゃんが追いかけてくるの」

にこ「仕方ないわねぇ……眠れるまで子守歌を歌ってあげるわよ」

あんじゅ「うん、ありがと。にこおねーちゃん」

にこ「やれやれ。今のあんじゅはここあより甘えん坊ね。安心しなさい」

にこ「にこにーの魅力的な歌で素敵な夢世界にいざってあげるわ」

あんじゅ「んふふ。誘うだよ」

にこ「ふっふーん! 今回は本当にわざとよ。誘拐の後にうって書いていざなうよね?」

あんじゅ「うふふふふ。にこにー大好き☆」

希『夢を叶えるスクールアイドル』

成長するに連れ、見えなくなってしまったウチの世界
そう言ったら大げさだけど、他の人には見えてなかった不思議な存在達
今でもきっとそこに存在して、ここに居るよと鳴いているのかもしれへんな

音ノ木坂学院に入学したてで理事長から廃校の知らせを聞かされたそんなある日
ウチの前に一人……いや、一神様って方がもしかしたら正しいのかもしれない
目を閉じたまま、佇む花のような不思議な香りをする少女の神様が現れた

「素敵な夢を見たくない?」

透き通っていながらも温かみの感じる声色
いや、口は一切動いてないから声色というのも違うのかもしれんね

「幸せな夢を叶える、そんな存在になってみない?」

神様っぽいその存在の言葉にウチはただ沈黙する
不思議な存在と会話するのは初めてではない
天狗とも話したことがあるし、会話と言えないかもしれないけど小龍とも話したことがある

ウチが言葉を出せないのは、胸に広がる初めての感覚に戸惑っていたから
少し自慢の大きな胸が弾むかのように何かの予感を感じていた
今までとは違う何かが始まることに期待するかのように

「これは一つの可能性。この先、起こりえる未来」

視界が移り、卒業式の後であろう光景が目の前に広がった
進学予定の音ノ木坂学院の制服を着た、今よりももっと大きい胸をした自分がそこに居た
あの時の卒業式とは違う、一人輪に入れない異端な存在ではなく、周りに人が居る
中でも自分と同じ色のリボンをした少女が二人

一人は魅力的な金髪さんで、胸も現在のウチよりも大きくて背も高い
少女漫画で主人公の少女が憧れる先輩みたいな感じやね
もう一人は対照的に背が小さくて、眼鏡を掛けたツンっとした女の子
秀才っぽい雰囲気も微かにするけど、小悪魔的な匂いの方が強い

音ノ木坂はリボンの色で学年を表すので、この二人も一緒に卒業ってことやんね
他の子は青いリボンが三つと赤いリボンが三つ
ということは廃校は撤回、もしくは延長して後輩が出来た証

九人が少し寂しそうに、でもそれ以上にとても幸せそうに何かを話して笑い合う
友達が出来てもあくまで一歩外側の存在であってウチが、輪の中で笑ってる
心のどこかでありえないと思って諦めていた光景がそこに在った

気が付けば元の場所に戻っていて、神様の姿もそこにはなかった
人はこういうのを厳格とか白昼夢って呼ぶんやろうけど、ウチは違う
神様がくれたプレゼントなんだって思うんよ

希「叶え、幸せな夢――!」

大好きな父を失い、その悲しみの余り夢を失った矢澤にこ
家族の前でしか笑うことができなくなり、学校では人付き合いから逃げるように勉強に力を入れる
学力の上昇と引き換えに、視力を落として中学二年から眼鏡を掛けるようになった

絢瀬絵里はバレエのコンクールの最中に足を怪我し、その怪我が治るも精神的なダメージにより踊ることが出来なくなる
踊れなくなったことで、負い目を感じるようになり、中学三年からは一人日本へ引っ越した
憂いを帯びた表情から大人びて映り、思春期の中学生には近寄りがたい存在となり、友人は出来ずに中学を卒業した

そんな二人は運命に導かれるように音ノ木坂学院に入学を果たす
直後に知らされる廃校問題

二人にとっては些細な問題であり、自分達には関係がなかった
しかし、一人の少女の介入によって運命は動き出す

希「ウチの占いによると、三人が力を合わせれば廃校はひとまずなんとかなりそうなんよ」
希「で、一つの提案としてスクールアイドルっていうのをやってみぃひん?」

悲しみに捕らわれたにこ
踊ることに恐怖する絵里
臆することもなく、二人をあの幸せな夢の結末へ誘おうとする希

にこ「……私はそういうの興味ありませんから」
絵里「私も踊りとかそういうの駄目なの。ごめんなさいね」

言葉以上に拒絶を示すその闇を宿す瞳
でも、希は希望を照らす月であり、太陽であり、光にもなれる存在

希「夢は諦めたらおしまいなんよ? だからウチは必ず皆が幸せになれる夢を叶えてみせる!」

数えきれないくらいあるであろう未来の可能性
だけど希が目指すのはたった一つのゴール
それだけを信じて奮闘する

廃校を覆し、訪れるであろう残り六人の後輩達との出会いを信じて
笑顔で一緒に卒業できる最高の明日を青春の思い出とする為に!

次回作は↑な感じの物語が書きたいなー。眼鏡秀才にこにー現る!
時間の都合上今回はおまけだけ。本編(梅雨の話)は後日更新すると思います。

◆梅雨入り◆

――二年目 六月 音ノ木坂 理事長室 にこあん

にこ「取材、ですか?」

理事長「そうです。秋色さんぽって御存知かしら?」

にこ「いいえ。あんじゅは知ってる?」

あんじゅ「ううん、知らないよ」

理事長「そうですか。愛読者の多く居る、この周辺にスポットをあてた無料のタウン誌なのですが」

にこ「無知ですみません」

理事長「いえ、学生だと手に取ったりしないのかもしれません」

あんじゅ「というか存在すら知りませんでした」

にこ「秋葉に住んでいるとはいえ、寄る場所とか決まってるからね」

理事長「SMILEにとっては当然ですが、学校にとっても良い宣伝になります」

にこ「悪い面もない。これで金銭が関わってたら裏があることを疑う美味しい話ですね」

あんじゅ「ただより怖いものはないって言うけどね」

にこ「今回は関係ないでしょ。それよりどうしてSMILEにそんな話が掛かったんでしょうか?」

にこ「自分で言うのもなんですが、ラブライブ完全圏内の上位グループにはまだ届いていないのですが」

理事長「下町商店街や地域活動の活性化に一役買っている存在として注目されているようですよ」

理事長「実際に学校へ感謝の電話等も入ったりしてます。生徒会長である絢瀬さんに話を聞いてませんか?」

にこ「聞いてません」

あんじゅ「なるほど。そういうのにこの耳に入れるとドヤ顔して調子に乗るから黙ってたんだねぇ」

にこ「実に腹立たしいわね。後で絵里を問い詰めなくちゃ」

理事長「ふふふ。相変わらず仲が良いようですね」

あんじゅ「はいっ。SMILEの半分は姉妹ですから」

にこ「人にドヤ顔とか言っておきながら、あんたが今ドヤ顔してるんじゃないわよ」

あんじゅ「うふふ♪」

理事長「それで如何かしら?」

にこ「いい話ですけど、なんだかスクールアイドルというより地域復興団体へのインタビューみたいですね」

あんじゅ「いいんじゃないかな? 普通と違うことこそが邪道シスターズの生き様だし」

にこ「ま、確かにね。生き様は言い過ぎだけど」

あんじゅ「それに今回の話は悪名じゃなくて名誉での宣伝になるしね」

にこ「そうね。SMILEとしてはこの話を喜んで受けたいと思います」

理事長「では取材の日時等はこちらで話し合いをする形でいいかしら?」

にこ「はい、その辺の段取りは面倒かもしれませんが学院側に一任します。あの、一つだけ質問いいですか?」

理事長「何かしら?」

にこ「生徒会長である絵里に話を通せば早かったんじゃないですか?」

理事長「絢瀬さんがこういう判断は全てリーダーにお願いしますと言われてね」

にこ「なるほどね」

あんじゅ「一応にこがリーダーだもんねっ」

にこ「一応じゃないわよ。満場一致でリーダーでしょうが!」

あんじゅ「高確率で絵里ちゃんが選択される気がする~。だけど私は勿論にこにーに投票するからね★」

にこ「人を不安にさせておきながら、自分は見方アピールするんじゃないわよ。あざといっての」

あんじゅ「最近にこがちょっとだけ鋭くなってきて寂しいにこぉ」

理事長「ふふっ。先ほど言ってましたが、二人は本当に姉妹のようですね」

あんじゅ「うふふ。よく言われます」

にこ「このでっかい妹だけでなく、最近は姉まで無駄に増えましたけど」

あんじゅ「そんなこと言うと生徒会室でエリーお姉ちゃんがくしゃみするよ」

にこ「どうでもいいわよ。理事長には前回の件といいその後のお寿司といい、本当に頭が下がります」

理事長「学生の内は大人に迷惑かけるのは当然のことよ。ただ理由もなく甘えるのは駄目ですけど」

あんじゅ「妹が姉に甘えるのは良いですよね?」

にこ「あんたは何を訊いてるのよ!」

理事長「二人は同い年ですし有りだと思いますよ。私も学生時代に友人に凄く甘えられましたから」

あんじゅ「やっぱり甘えられると嬉しいものなんですか?」

理事長「そうですね。信頼の証みたいなものですから」

あんじゅ「よしっ! これからはもっと甘えるね!」

にこ「待ちなさいよ。あんたの甘えるは普通の人と違って、私の胃にダメージを与えるから却下よ!」

あんじゅ「まぁまぁ☆ 今回は少し変わった感じにするから」

にこ「いや、意味分かんないわよ」

理事長「青春ですね」

――同日 放課後 SMILE部室

にこ「ということで、後日私達SMILEに取材が来るわ!」

穂乃果「おぉ~! なんだかわくわくしちゃうね。うちも時々雑誌の取材がきたりするけど」

あんじゅ「穂乃果ちゃんのお家のお饅頭美味しいもんね」

海未「ええ、穂むらの饅頭は絶品です」

穂乃果「まぁ、お父さんは答えないからお母さんが取材を受けるだけなんだけど」

絵里「有能な方は黙することの価値を知っているのよ。それに、お喋りが過ぎると色々ボロを出すからね」

にこ「なんで私を見るのよ」

絵里「深い意味なんてないにこ~」

にこ「明らかに他意がありますって語尾じゃないの!」

あんじゅ「そうやって反応してたら本当に他意があるみたいに思われちゃうよ? ドンと構えるにこ~♪」

絵里「何か思うところがあるのかと思われちゃうわよ」

にこ「ぐぬぬぬ! なんて胃に悪い姉妹なのかしら」

穂乃果「にこちゃんは愛されてるねぇ」

海未「かなり歪んだ愛ですけど……。ところで取材の話なのですが、全員が受けるのですか?」

にこ「当然でしょ。音ノ木坂学院スクールアイドルSMILEはこの五人なんだから」

海未「……そう、ですか」

穂乃果「あはは。海未ちゃんは恥ずかしがり屋さんだから取材受けたくないんだね」

海未「正直受けたくありません」

穂乃果「だいじょーぶ大丈夫。何かあっても穂乃果が海未ちゃんをフォローしてあげるから」

海未「そういう時の穂乃果の信頼度は溺れてる時の藁以下だと思うのですが……」

穂乃果「海未ちゃん酷いよ~」

海未「日頃の行いの所為です」

絵里「くすっ。穂乃果はだらしないところが目に付くものね」

にこ「愚昧より断然マシだと思うわ」

あんじゅ「じゃあ穂乃果ちゃん。私とだらしない対決でもしようか!」

穂乃果「負けないよ!」

絵里「その勝負は勝ったらダメでしょ」

穂乃果「おっと、そうだった」

にこ「勝負する前にあんじゅの負けだからする意味ないわよ。取材の件は理事長から絵里に伝えてもらうからよろしくね」

絵里「ええ、任されたわ」

あんじゅ「取材楽しみだね。どんな事を聞かれるんだろう」

海未「とても不安です」

にこ「そんな不安になることないわよ。アイドル雑誌の取材って訳じゃないんだから。簡単な質問だけでしょ」

穂乃果「それでもドキドキするよね!」

あんじゅ「楽しみだよねっ」

海未「二人のお気楽振りが今は羨ましいくらいです」

絵里「もっと人気が出れば本物の取材とかもくるかもしれないわよ?」

海未「……人気、出なくていいです」

にこ「ラブライブに出場するのが目的な以上人気を蔑ろにする発言はダメよ。もっと自信持ちなさい」

絵里「海未は人に自慢出来るくらいの能力があるんだし。後は気の持ちようよ」

にこ「SMILEは海未が居なければ新曲が作れないわ。いつも言ってるけど少しは自信持ちなさい」

海未「スクールアイドルを始めてから少しは自信が付いたつもりなのですが」

にこ(ラブライブ出場の鍵になるのは意外と海未の自信をどうやって付けさせるかに掛かってるかもね)

穂乃果「でも私としては海未ちゃんは自信がないくらいがいいかなー。じゃないと怖いことになりそう」

あんじゅ「怖いこと?」

穂乃果「自信の付いた海未ちゃんって穂乃果にとっては最終兵器みたいな感じになりそうだから」

あんじゅ「んー?」

にこ「つまりは今以上に穂乃果に対して厳しくなる可能性が高くて恐ろしいってことね」

絵里「海未の想いに応えた王子と同一人物とは思えないわ。穂乃果はもう少ししっかりしないとね」

あんじゅ「目標とする王子様になるにはもっと頑張らないとダメだよ」

にこ「あんたが言うとどんな良い言葉でも雲のように流れていくにこ!」

あんじゅ「流れる雲は誰にも掴めない。でもあなたのハートを捕らえて離さない。矢澤あんじゅでーす♪」

にこ「何よそれ。なかなか良いじゃない」

あんじゅ「ふっふーんっ!」

穂乃果「海未ちゃんもMCの時の台詞とか考えないとだね」

絵里「その場の空気によってアドリブで言えるともっと良いんだけどね」

海未「私には性格的に厳しいです」

絵里「そろそろ慣れてもいいと思うんだけど、生まれ持った物をどうにかするのは難しいわね」

絵里(でもね、海未。人は切っ掛けがあれば変われるのよ。私のようにそれを貴女にも経験して欲しい)

にこ「少しインタビューを受ける練習をしましょうか。皆始めてのことだからきっと緊張すると思うし」

あんじゅ「賛成! お姉ちゃん達のインタビューは私に任せて★」

にこ「あんたに任せたら関係ない質問で完全下校時間オーバーよ。私の時は絵里に任せて、他は基本私がするわ」

あんじゅ「にこにー横暴。私やりたいこれ要望。でも健気な妹は我慢するのそれ辛抱!」

にこ「なんで唐突に似非ラップなのよ」

あんじゅ「言葉遊び大好きだからラップ面白いなって。にこをからかう一興になるかと思うんだけど」

にこ「却下よ! ラップアイドルなんて流行らないわ」

あんじゅ「……にこぉ」

――部室 穂乃果覚醒!

にこ「……う~ん」

穂乃果「にこちゃんは何を悩んでるの?」

にこ「次の衣装のデザインが思いつかなくてね。作詞よりは思いつくんだけど、枯れた感じがするわ」

にこ「あんたの幼馴染のことりみたいにデザインに向いてればね。私は作る方が得意だから」

穂乃果「にこちゃんって器用だよね。最初はほとんど全部担当してたんでしょ?」

にこ「全部って訳でもないけど、出来る人がやらないと形にならないでしょ?」

穂乃果「それはそうだけど」

にこ「適材適所っていうよりも、やりたいって思う人が皆を引っ張らないとね。見返りは目に見えない物だからね」

にこ「その見えない物をどう受け取るのか。今後どう活かしていくのか。穂乃果も少しは考えてみなさい」

穂乃果「うーん、言ってることは分かるような分からないような」

にこ「きっと穂乃果はまだ燻ってるのよ。何か切っ掛けがあれば今よりずっと上を目指せると思う」

穂乃果「にこちゃんにとってのキラ星ちゃんみたいな?」

にこ「そうね。ま、最近だと愚昧とシスコン姉もそうだけど。スクールアイドルになったからには上を目指して欲しい」

にこ「例え今この時に結果が出なくても構わない。いつか辛い時に支えになってくれればそれでいいの」

にこ「アイドルって言うのは希望なの。落ち込んだ時に笑顔をくれる。安心させてくれる。ドキドキする」

にこ「それってつまりは生きるってことだと思うのよ。だから希望なの。絶望すらも吹き飛ばす笑顔と同じ魔法よ」

穂乃果「得る物は見えないけど、でも暇を持て余してた日々より今は断然楽しいよ!」

にこ「そう言ってくれれば誘った甲斐もあるってもんよ」

穂乃果「私もね、今より頑張りたいなって思うんだ。だけど、どうしてかやる気が加速してくれないの」

穂乃果「ことりちゃんと海未ちゃんを守れる王子様になりたいんだけどなー」

にこ(やる気の問題。でも、穂乃果は元々元気系で一直線に進むタイプなのよね)

にこ(スクールアイドルっていう新しいスタートを切ったら突き進むかと思ったんだけど何が原因なのかしら?)

にこ(海未の時を思い出してみましょうか。穂乃果と違って無理やりに引き込んだのにやる気は十分)

にこ(海未にあって穂乃果にないもの。……あっ、盲点ね。あんじゅか絵里が居たら呆れられてもしょうがないわ)

にこ(SMILEで唯一穂乃果だけが役割を持ってない。だからエンジンが掛かりきらないのね)

にこ(親族の集まりに何も知らない一人が紛れ込んでたら、そりゃ社交的でも普段通りには盛り上がれないわよ)

にこ(といっても穂乃果に任せられる担当ってないのよね。いや、待って今正に私が直面してる問題があるじゃない)

にこ「穂乃果。あなたこれ描いてみない?」

穂乃果「えぇっ!? ことりちゃんのはずっと見てきたけど、描いたりはしてなかったんだよ?」

にこ「絵はそこまで上手くなくても平気だから、衣装デザインチャレンジしてみなさいよ」

穂乃果「うーん……ま、いっか。二人じゃ練習にならないもんね」

にこ「一応三人居るけどね。絵里は生徒会、海未は家の用事。そこのお馬鹿は完全に熟睡中」

あんじゅ「すー……すはー」

穂乃果「昨日寝たの遅かったの?」

にこ「携帯小説に嵌ったとかで、朝方まで読んでたみたいよ。朝起こすのが大変だったんだから」

穂乃果「あははっ。あんじゅちゃんは何にでも興味を示すんだね」

にこ「いいことではあるけどね。知識がない人間はある人間の発想には届かないから」

穂乃果「にこちゃんが言うとなんか色々な意味で説得力が増すね!」

にこ「どういう意味ニコ!」

穂乃果「てへへ♪」

にこ「あんじゅみたいに笑って誤魔化すんじゃないわよ。とにかく描いてみなさい」

穂乃果「えー。それって冗談じゃなくて本気で言ってるの?」

にこ「寧ろSMILEのメンバーは優秀な者の集いだからね。これくらいして貰わないと困るわ」

あんじゅ「んふふ~にこにーは何故リーダーになれたのか不思議なくらいだから……すぴー」

にこ「なんてムカつく夢みてるのよ!」

穂乃果「まぁまぁ。夢の中でもお姉ちゃん思いってことだよ」

にこ「夢の中のにこくらい心穏やかにさせてあげたいのよ」

穂乃果「とかいいながら優しい顔してるよ。本当ににこちゃんって生粋のお姉ちゃんだよね」

にこ「ダメな妹の所為で最近そういうの言われ慣れたわ。無駄口叩いてないでチャレンジしてみなさい」

穂乃果「はぁい。でもいざデザインって言われてもどんな風に描いていけばいいのか分からないんだけど」

にこ「表側と裏側だけ描いてくれれば側面とかは私がどうにかするから」

穂乃果「うーん」

にこ「どうすれば分からないなら、ことりがデザインしてる時を思い出せば良いんじゃない?」

穂乃果「あっ、そっか! ことりちゃんを思い出せば……むむっ。なんとかやれそうな気がしてきた!!」

にこ「頑張ってみなさい」

―――
――

あんじゅ「夢で良かった~。にこが不治の病に掛かって、崖の上にある闇医師の診療所で依頼するんだけど」

にこ「あーもういいから。あんたの夢の話なんてどうでもいいっての」

あんじゅ「四千万円だって言われて、どうしようもなくて。どんどんにこが衰弱していって」

あんじゅ「言葉もにこにこ~ってしか喋れなくなって。それはそれで可愛くて」

にこ「衰弱してる人間に可愛いとか何を失礼なこと抜かしてるのよ」

あんじゅ「とにかく良かった~。にこはツンとした言葉を吐いてるからこそにこだしね。ツンデレにこにー♪」

にこ「ツンデレとかいつの時代の流行よ? それに私はツンじゃないわ。私ほど素直な女の子も居ないでしょ」

あんじゅ「素直だったら『にこはぁ~あんじゅが大好きにこ~』とか言ってる筈だよ?」

にこ「あんたの中で私はどんなキャラなのよ」

あんじゅ「タイトル風にするなら【素直になれない系女子~私、ツンデレじゃありませんから~】だよっ」

にこ「訊くんじゃなかったと心底後悔する瞬間をありがとう」

あんじゅ「お礼を言われる程のことじゃないよ♪」

にこ「本当にそうね!」

穂乃果「出来たー! 衣装デザインなんて初めてだけど、なんとかなったと思う。見てみて!」

にこ「ご苦労様。どれどれ……へぇ~。可愛い衣装ね。アイドルに興味なかった子とは思えないわ」

穂乃果「アイドルを意識したというよりは、ことりちゃんが好きそうな衣装を意識したんだ」

あんじゅ「あっ、可愛い。にこのデザインとはまた違って新鮮かも☆」

にこ「ちょっとこの辺とか作るのは大変だけど、可愛い衣装の為の苦労は惜しまないわ」

にこ「次の衣装はこれで決まりね」

穂乃果「本当にそれでいいの?」

にこ「海未のこと言えないわね。もっと自信持ちなさい。これは胸を張っていいレベルの出来よ」

あんじゅ「絵心は正直こころちゃんの方が上手だけど」

にこ「私にさえ分かればそれでいいんだからこれくらいでいいのよ。変に上手く描こうとして時間掛かったら本末転倒よ」

にこ「ということで、本日よりSMILEの衣装デザインを穂乃果に一任することにするわ。よろしくね」

穂乃果「私がSMILEの衣装デザイン担当?」

にこ「一年生だからって甘えさせないわよ? 海未だって作詞担当してるんだから」

あんじゅ「ちなみに私はにこのメンタルケアを担当してるんだよ」

にこ「嘘吐いてるんじゃないわよ。あんたの担当は作曲でしょうが」

あんじゅ「これでメンバー全員がそれぞれの役目を持ってるんだね」

にこ「そういうこと。で、穂乃果返事は?」

穂乃果「うん! 私やるよ。ことりちゃんからデザインのアドバイスとか聞いて可愛い衣装描いてみせる♪」

にこ(いい笑顔。これで穂乃果のやる気は心配なさそうね)

にこ「可愛くなかったら遠慮なく却下するから覚悟なさい」

穂乃果「望むところだよっ。にこちゃんが唸るくらいのことりちゃんブランド式穂乃果を魅せてあげる」

あんじゅ「にこにー部長は通常時は敗北しかしないから、穂乃果ちゃんにとっては安心安全な勝負だね★」

穂乃果「そうだね☆」

にこ「納得するんじゃないわよ!」

――UTX学院 学食 ことり

先輩「で、今日は何よ?」

ことり「えっ?」

先輩「なんか嬉しそうだけど何かあった?」

ことり「流石アンチ先輩。隠し事は出来ないですね」

先輩「隠すつもりならその満面の笑みをどうにかしなさいよ。誰だって気付くわよ」

ことり「私の一番の友達が音ノ木坂でスクールアイドルやってるんです」

先輩「オトノキにスクールアイドルなんてあったのね」

ことり「知りませんか? SMILEっていうグループなんですけど」

先輩「A-RISE至上主義の私は余り他のスクールアイドルに詳しくないのよ」

ことり「知ってますか? 私もA-RISEのメンバーなんですよ」

先輩「私をからかってるの? 特待生ぼっちさん」

ことり「はぅん。でも誰でも友達は一人から増えていくと思うんです。アンチ先輩は大事な一人目ですから」

先輩「ま、友達ではないけど南の努力は私にとって刺激になるから必要ね」

ことり「先月より評価が上昇してますね。これは来年になったらことりの大ファンになってます!」

先輩「来年も南がA-RISEに残ってる保障はないけど」

ことり「うふふっ。先輩は一日に何回憎まれ口を吐かないといけない病気なんですかぁ?」

先輩「ふんっ。言うようになったわね。その調子でもう少しインタビューの応え方を勉強しなさい」

先輩「あれじゃ『私はいい子です』っていうのをアピールしてるみたいで応援する気が減るわ」

先輩「南の場合その声があってこそ言葉に魔が宿るんだから。インタビュー受けするような物を学びなさい」

ことり「でも正しいやり方みたいなコメントを勉強するのってちょっと違う気がするんです」

先輩「違うって何が?」

ことり「例え応援する気が減ったとしても、私は自分の言葉をファンの人に伝えたいんです」

ことり「自分で考えて拙くてもいいから、ありのままの言葉を届けたいんです」

先輩「ふーん。テンプレよりも自分の言葉、か。ネットに浸ってる子達には頭悪いと思われる選択かもね」

先輩「でも、南はそれで良いのかもしれない。個性を大事にしてこそのアイドルだし、あんたらしい」

ことり「ありがとうございます」

先輩「でも南ってそういうちぐはぐっていうか、弱々しい反面強力な面も兼ね備えてるわよね」

ことり「私の幼馴染二人の影響だと思います」

先輩「人の良い面を吸収して成長する。もしかしたらあんたの一番の武器はそこなのかも」

ことり「そうでしょうか?」

先輩「自分より優れた人間に嫉妬するんじゃなくて、逆にその魅力を取り入れる。最高じゃない」

先輩「諦めない限りいつまでも最高を目指せる。天性のアイドル体質なのかもね」

ことり「ありがとうございますっ」

先輩「私は直ぐに嫉妬しちゃうから本当に羨ましいわ」

ことり「でも先輩は嫉妬しても何だかんだ優しいじゃないですか」

先輩「優しいって人間は人に絡んだりはしないって」

ことり「私に友達を作る切っ掛けを与えてくれたんだって、今はそう思ってます」

先輩「……で、話戻すけどオトノキでスクールアイドルやってる子がなんだって?」

ことり「そうでした。穂乃果ちゃんって言うんですけど、穂乃果ちゃんが衣装デザイン担当になったそうなんです」

先輩「え、オトノキって衣装デザインとか自分でやってるの?」

ことり「A-RISEの衣装は私がデザインしてるんですけど」

先輩「そういえばそうね」

ことり「普通の学校だと衣装も曲も振り付けも全部自分達で用意するみたいです」

先輩「へー。で、なんで衣装デザインになったら嬉しいわけ?」

ことり「ふふふ♪ 自分の好きな事を好きな人が共有してくれるのって最高じゃないですか」

先輩「今までで一番嬉しそうだったわ」

ことり「一番力にならなきゃいけなかった時に力になれなかった分、今回は力になれるのも嬉しい要素の一つなんです」

先輩「なんだかよく分かんないけど、浮かれてこけたりするんじゃないわよ」

ことり「はぁい!」

――取材終了後 部室 SMILE

あんじゅ「取材の話がきた時はてっきりにこのドジフラグかと思ったけど、何もなく終わっちゃったね」

にこ「なんて失礼なこと考えてたのよ」

絵里「私もいざ取材になったら一番緊張して噛み噛みになるのかと思ったけどね」

にこ「あんた等はどんだけ失礼なのよ」

穂乃果「海未ちゃんも思ってたより平気だったね」

海未「あれくらいでしたら問題ありません。私も成長している証拠ですね」

にこ「海未の力じゃなくて緊張させないプロの力だけどね。取材慣れてるだけはあるわ」

海未「」

穂乃果「次は普通のスクールアイドル雑誌に取材されてみたいね」

あんじゅ「もしそうなったら皆でにこにーポーズだね☆」

海未「絶対に嫌です!」

絵里「にこの全てを否定されたわね」

にこ「なんであのポーズが私の全てになってるのよ。バカなこと言ってないで練習始めるわよ」

穂乃果「よぉ~し! 今日も頑張ろう!」

あんじゅ「最近の穂乃果ちゃんはやる気十分だね」

海未「昔からスイッチが入るとこんな風になるんです。これこそが穂乃果という感じですね」

にこ「やる気がある分には問題ないわ。それよりも問題なのは入梅して雨ばかりのこの天気よ」

あんじゅ「お洗濯が外に干せないもんね」

にこ「せめて自分で干すようになってから言いなさい。あんたが出来るの布団だけでしょ」

あんじゅ「うん、布団だけ。でも布団はマスターしたからね。履歴書に掛けるよ!」

海未「書けませんよ」

あんじゅ「残念にこぉ」

にこ「あんじゅ、あんたは本当に脱線女王ね。こっちの話が終わるまで黙ってなさい」

にこ「で、最近雨ばかりの所為で体力作りが心もとないと思うのよ。外を走る訳にもいかないし」

絵里「足元が滑り易くなってるから、これで強行して怪我したら正に本末転倒よね」

海未「そうですね。それに風邪を患う可能性も高いですし」

穂乃果「やる気があれば風邪もひかないし、こけたりもしないよ。くるくるくるくる~♪」

にこ「根性論は却下よ。海未と絵里の意見が正しいわ。ということで、今日は階段ダッシュをするわ!」

海未「階段ダッシュ……ですか?」

にこ「ええ、そうよ。空き教室の多いあっちの階段なら人も居ないし迷惑にもならないでしょ」

絵里「生徒会長としては事前に許可を――」
にこ「――貰ってるわよ。ほら、これが条件よ」

穂乃果「さっすがにこちゃん! 部長さんだけあるね。仕事が速いよ」

海未「よく許可なんて下りましたね」

絵里「これを許可と言うのはかなり強引ね。あんじゅの策かしら?」

あんじゅ「……」

にこ「もう喋ってもいいわよ」

あんじゅ「復活! エリーちゃん、その通りだよ」

海未「どういうことですか?」

絵里「先生にはこの階段を掃除をするから人を近づけないように配慮するってことにしてるわ」

にこ「階段付近に空き教室から椅子を運んで清掃中の札を貼っておくの。これで貸切の即席練習場の出来上がりよ」

あんじゅ「勿論きちんと掃除はするから先生にとっては嘘も真実なんだよ」

穂乃果「邪道シスターズかっこいい~」

海未「やれやれ。相変わらず手段を選ばない人達ですね」

絵里「今更でしょ? もう許可が下りてるのだからしなきゃ損だわ。用意して今日の練習を始めましょう」

穂乃果「よ~しっ! 久しぶりに思いっきり体動かすよっ」

にこ「湿気でかなり蒸し暑いから汗が大量に出ると思うのよ。だから、適度に休憩代わりの掃除を入れるからね」

にこ「足元踏み外したりして怪我をしたらいけないからね」

あんじゅ「それに今日の練習は中距離というよりフルマラソンのようなイメージで走ってね」

にこ「持久力をつけることがライブには必要不可欠だからね」

あんじゅ「水分補給もいつもより多めに入れていくからね。脱水症状を甘くみないようにしないとダメだよ」

穂乃果「うん!」

海未「邪道ですがやるからには真っ直ぐ。本当に性質が悪いです」

絵里「ふふっ。でも次はどんな裏の手で誤魔化すのか楽しみだわ」

海未「自分にとって常識の外からの一手ですからね。ただ、今回は正直助かりました」

絵里「どういうこと?」

海未「穂乃果は本当に一直線に進むので、こうやって練習出来ないと雨の中でも勝手に走ってたと思います」

海未「それで風邪を引いてしまい、二歩進んでから三歩下がるようなことをしていたかと」

絵里「穂乃果ってそこまでする無茶をしちゃう子なの?」

海未「ええ。常識に捕らわれてくれないという意味では、完全に邪道よりですので」

絵里「二人には私から気を配るように伝えておくわね。SMILEは一人掛けても駄目だから」

海未「お願いします。でも、不思議ですね」

絵里「何がかしら?」

海未「いけないことをするって言うのが少しドキドキして楽しいと感じてしまう自分が居るんです」

絵里「癖になってきてる証拠よ。何だかんだ言って、海未の邪道シスターズ入りも近そうね」

海未「ですからそれはありえません」

絵里「……にこぉ」



遅れました。恐らく今月が終わるまではかなり不定期で量も少なめかと思います。取り敢えず今回で物語は折り返し!

二年目秋の物語につづく! ついにプロローグ以来出番のなかったあの子の出番!?

訂正 >>472 「先生には~」はにこの台詞です。

◆最終回風のにこと最後の一年◆

――二年目九月 放課後 教室

にこ「……もう秋ね」

あんじゅ「何だか色々イベントがあって、あっと言う間に夏が終わっちゃったねぇ」

にこ「そうね。沢山のことがあって、色々と成長出来た。あんじゅには色々と感謝してるわ」

にこ「もしあんじゅと出会ってなかったら、あの時に誰も残ってくれなくて一人でいじけて、きっと腐ってたと思う」

にこ「こうして今もスクールアイドルで居られるのもあんじゅのお陰よ。ありがとう」

あんじゅ「ど、どうしたの? 普段ならとっても嬉しいんだけど、何だか心が不安でそわそわしちゃうんだけど」

にこ「私の素直な気持ちよ」

あんじゅ「秋の所為なの? センチメンタルな季節がにこをおかしくさせちゃってるの?」

にこ「掛け替えのない今という瞬間をこうして楽しめる。大人になって振り返ったら笑顔になれる」

にこ「最高の宝物よ。いつか子どもが出来たとしても自慢出来るくらい素敵な時間をありがとう」

あんじゅ「本当にどうしたの? 最終回みたいだよ。もしかして第一部完という名の打ち切り!?」

にこ「何の話よ?」

あんじゅ「それはこっちの話だよ! にこってば今正気なの?」

にこ「相変わらず失礼な奴ね。人に尋ねる言葉として相応しくない単語が混じってるじゃない」

あんじゅ「だってこの後きっと『にこは走り出しちゃったのよ。この神田明神の男坂を!』とか言って終わりそう」

にこ「はぁ?」

あんじゅ「それか交通事故にあって意識が戻らなくなるようなフラグなのかな?」

にこ「人が素直になってるんだから、あんたも素直になって受け取りなさいよね」

あんじゅ「受け取り拒否! それなら『あんじゅ大好きにこ!』って言われた方が断然嬉しい」

にこ「しょうがないわね~。あんじゅ大好きにこっ!」

あんじゅ「えぇっ!? 何これ! 前に言ってた夢をシンクロしようってフラグが今立ってるの? ザ・夢オチ!?」

にこ「あんたが言われたら嬉しいとか言った癖に全然嬉しそうじゃないじゃない」

あんじゅ「絶対に夢だよ。起きたらこころちゃんとここあちゃんに話してあげよっと☆」

にこ「夢な訳ないでしょうが。これから全てが始まっていくんだからしっかりしなさいよ」

あんじゅ「寧ろしっかりするのはにこなんだってば。本気で動揺を隠せないよ~」

にこ「普段は素直になれとか言う癖にやっかいな性格だわ」

あんじゅ「にこの素直な発言は会場の外まで吹き飛ばされちゃうくらいのパンチ力があるって分かったよ」

あんじゅ「だから余り素直にならない方がにこはにこらしいなって思うよ」

にこ「複雑過ぎるわ!」

あんじゅ「はぁ~……とっても怖かった。胸がドキドキを越えてバクバクしちゃってたもん」

にこ「はいはい。それは悪るうございましたね」

あんじゅ「お詫びに夕食はお肉がいいにこ~♪」

にこ「そうね。今日はあんじゅの好きなカレーにでもしましょうか」

あんじゅ「キュンキュン♪ 訂正するね。素直なにこにーはとってもいいと思いますっ!」

にこ「カレーが絡むと素直な発言も喜んで受け取るわけね」

あんじゅ「決めた! にこは将来カレー屋さんを経営しようよ。私看板娘するから」

にこ「人の将来をあんたの思いつきで決めようとするんじゃないニコ!」

あんじゅ「食後の運動を兼ねて絵里ちゃんのダンス教室を隣に配置すれば完璧だね」

にこ「絵里まで巻き込んで完璧からより遠ざかってるじゃない」

あんじゅ「邪道シスターズは永遠に!」

にこ「その台詞こそ最終回じゃない。今年のラブライブも終わったからこれからは気を引き締めなさいよ」

あんじゅ「A-RISEの見事な優勝だったね」

にこ「ええ、賛美の言葉は世の中に沢山あるけど、本物を見た時に搾り出せる言葉はたった一つのシンプルな言葉」

あんじゅ「知的キャラにチェンジしようとしても無駄にこ!」

にこ「茶化すんじゃないわよ。来年のラブライブで私達の高校生活の全てが問われるわ」

あんじゅ「高校生活の全ては言い過ぎだよ。スクールアイドルで得た全てが正しいかな」

にこ「……色々なことがあった。悲しいことも、悔しいことも」

あんじゅ「嬉しいこともあったし、忘れられないくらいドキドキした徹夜もあったよね」

にこ「スクールアイドルをしなきゃ得られなかった思い出。その全てが今の私を与えてくれた」

にこ「だから誰よりも輝きたい。ラブライブという最高の舞台で。結果よりも成果を魅せたい」

あんじゅ「うん」

にこ「私自身が一等星を目指す必要はない。私達はグループなんだから。仲間が居るんだから」

にこ「四等星だって構わない。肉眼で見えなくったって心の目で輝きを魅せてやるわ!」

あんじゅ「ずっと訂正入れたいなって思ってたんだけど、環境と視力で四等星も見えるんだよ?」

にこ「……」

あんじゅ「うふふ」

にこ「さ、練習行きましょうか」

あんじゅ「あ~にこってばいきなり通常モードに戻ったにこ~」

にこ「うっさいわね!」

あんじゅ「にっこにっこにー♪」

にこ「なんてムカつく妹なのかしら。もう少しその口を減らしなさいよね。寧ろ黙ってなさい」

あんじゅ「女の子を静かにさせる唯一の方法って知ってる?」

にこ「知らないわよ」

あんじゅ「キスだよキス。だからにこってばエッチなことを言ってるんだよ」

にこ「その発想するあんじゅがエッチなんでしょ!」

あんじゅ「にこってば大きな声でエッチなんて単語使うのはスクールアイドル失格にこ~」

にこ「ぐぬぬ! なんて卑劣な性格なのかしら」

あんじゅ「にこが元気出たみたいだから卑劣大歓迎★」

にこ「……はぁ~やれやれ。別に元気がなかった訳じゃないわよ」

あんじゅ「にこの魅力は今この瞬間を楽しむことだよ。気負うと空回りするんだから、気楽に行こうよ」

にこ「能天気おバカな愚昧に言われたくない台詞ね」

あんじゅ「エリーちゃんに教わるよりあんじゅの方がマシにこ~って泣きついてきた夏休みの宿題消化中のにこにー」

にこ「うっ! 嫌なこと思い出させるんじゃないわよ」

あんじゅ「ああいうところはこころちゃんとここあちゃんに通じる可愛さがあるよね」

にこ「そんなことで可愛いって言われて喜ぶバカは居ないわよ!」

あんじゅ「来年の夏休みも宿題手伝ってあげるからね」

にこ「あんたの手なんて借りなくても来年は一人で乗り切ってみせるわ。見てなさい!」

あんじゅ「にこってばソレは完全にフラグだよ。間違いなく八月三十一日に泣いちゃうフラグだよ」

にこ「泣かないわよ!」

あんじゅ「にこにこ~って言いながら一生懸命あたふたするにこ。涙で問題が読めないにこぉ」

あんじゅ「あんじゅに手伝ってもらってればこんなことには……にこっにこ~にこにこぉ。にっこにこ?」

にこ「もはや最後は日本語になってないじゃない」

あんじゅ「大丈夫だよ、にこ。私は言葉を失くしたにこでも面倒みてあげるからね」

にこ「意味わかんないっての!」

あんじゅ「つまりにこはあんじゅがお世話してあげないと駄目な子にこ♪」

にこ「あんたの面倒みてるの私でしょうが!」

あんじゅ「持ちつ持たれつ。姉妹って良いね☆」

にこ「持たれかかってるだけで何を抜かしてるのよ! こころだって最近は料理を手伝ってくれるのに」

あんじゅ「ほら、私は作曲担当だからね。安易に指を怪我してピアノ弾けなくなると困るし」

あんじゅ「にこの美味しい料理をブログに挙げる使命があるし!」

にこ「……言い訳させたら勝てる気がしないわ」

あんじゅ「うふふ。ほら、早く部室行こうよ。みんながにこにー部長の登場を待ちわびてるよ」

にこ「この遣る瀬無さは練習にぶつけるしかないわね。よーし、今日も練習頑張るわよ!」

あんじゅ「うん! 目指せラブライブ出場! こうして私達のスクールアイドルロードは始まっていく……。第一部完!」

にこ「面倒だから突っ込まないからね?」

あんじゅ「でもこうして反応してくれるにこ大好き♪」

にこ「はいはい。私も大好き大好き」

あんじゅ「う~るる~。雑な返しに妹涙」

にこ「ふふっ。さ、今日も頑張るにこよ!」

◆読書の秋◆

あんじゅ「秋と言えば読書だよね!」

にこ「読書限定って訳じゃないけど、何をするにも適した季節よね」

海未「そうですね。秋を機会に書道をして集中力を高めるのはどうでしょうか?」

あんじゅ「書道? いいね。私も中学生に上がるまでは習ってたよ」

穂乃果「えぇ~。書道は書き直しが出来ないから私は好きじゃないなー」

海未「だからこそ集中出来るのではないですか。やり直せるという考えは甘えを生みますからね」

にこ「だったら海未は暫く書道から離れた方がいいわね」

海未「どういうことですか?」

にこ「海未はもう少し甘えた方がいいからね。学園祭が終われば絵里がそろそろ本気出すんじゃない?」

あんじゅ「絵里ちゃんは隠れ熱血だからね。攻略難易度MAXな海未ちゃんに燃え上がりそう」

穂乃果「海未ちゃんを攻略!?」

海未「何ですかそれは……」

あんじゅ「攻略されると見事にエリーお姉ちゃんの妹ハーレム入り」

海未「ありえません!」

にこ「私は攻略されてないけどね」

穂乃果「でも、にこちゃんも絵里ちゃんのことお姉ちゃん扱いしてるよね?」

にこ「空気の読めるにこは絵里の自尊心を満足させてあげてるのよ」

穂乃果「あははっ。面白い冗談だね♪」

にこ「何で冗談扱いなのよ!」

あんじゅ「素直じゃないにこが攻略されてる時点で、海未ちゃんも赤信号だよ」

にこ「攻略されてないって言ってるでしょ」

海未「私はにこと違って単純ではありませんから」

にこ「誰が単純よ。っていうか、あんたたちリーダーに対して最近態度がぞんざい過ぎよ!」

あんじゅ「まぁまぁ。にこにー部長はマスコット(笑)だからね」

にこ「その笑に悪意しか感じないわ。これは一度にこの素晴らしさを――」
あんじゅ「――私には海未ちゃんが絵里ちゃんをエリーと呼ぶ未来が見えるよ!」

海未「エリーって、そもそも絵里に流れてるのはアメリカ人の血ではなくロシア人なんですよね?」

穂乃果「にこちゃん。どんまい、だよ!」

にこ「穂乃果、あなたって良い子ね。SMILEの唯一の良心になるかもしれないわ」

海未「エリーって呼び方はロシア人らしくないのではないですか?」

あんじゅ「そうなの?」

海未「感覚的な問題なのかもしれませんが」

あんじゅ「それだとロシア人らしい名前ってどんなの?」

海未「エリーナでしょうか?」

あんじゅ「エリーナか~。なんか絵里ちゃんっぽくないね」

海未「……話を戻しましょうか。にこがマスコット扱いの件ですが」

にこ「よりによってそこに戻すんじゃないにこ! 戻すのなら読書の秋でしょ!」

あんじゅ「そうだったね。読書の秋だしブログでお気に入りの本をお薦めするのなんてどうかな?」

にこ「却下よ!!」

海未「炎上したことを忘れたのですか?」

穂乃果「あれはあれで忘れられないって意味では良い思い出だよね」

あんじゅ「だよね。昔から言うもんね。喉元過ぎればにっこにっこにー♪」

にこ「そんなこと言ったこともないわ」

穂乃果「喉元過ぎればうっみうっみうー♪」

海未「なっ、なんですかそれは! やめてください、まるで私が言ったみたいで恥ずかしいですから!」

あんじゅ「私のネタが穂乃果ちゃんに美味しく頂かれちゃったにこぉ」

にこ「海未の今の気持ちは痛いほど分かるわ。でも、アイドルとしてうっみうっみうーはありかも」

海未「うみうみうーなんてなしです! 絶対になしです!」

穂乃果「凛々しい海未ちゃんが可愛いこと言うのはギャップがあって受けると思うんだけどなー」

あんじゅ「エリーちゃんと一緒だったら更に威力が増すかも」

にこ「次の新曲で曲間で何か可愛いポーズをやれる様にして欲しいわね」

穂乃果「じゃあ今度の曲はうみちゃんと絵里ちゃんのWセンターだねっ」

あんじゅ「曲名はクールビューティーかな?」

にこ「それはないわ。もっと捻りなさいよ。……ブルーを入れたいところね」

穂乃果「ブルーライト音ノ木なんてどうかな?」

海未「全部却下です!」

にこ「ま、新曲の話は絵里も交えて後にしましょうか。今の海未には冷却期間も必要だろうし」

あんじゅ「そうだね。でも、心のメモ帳にしっかり保存」

海未「絶対に忘れてください!」

にこ「それはフリ……なんでもないにこ」

あんじゅ「それでね、脱線しちゃったけど話し戻すね。お薦めの本を――」
にこ「――だから却下って言ってるでしょうが、この愚昧!」

あんじゅ「今回は本気なのっ! にこのカレーに賭けて誓うから」

穂乃果「賭けるのがカレーって」

海未「物凄く締まらないですね。せめて神に誓うくらいしないと」

にこ「それは命を賭けると同意ってことよね? 本気で作らないからね」

あんじゅ「うん!」

穂乃果「えぇっ!? 海未ちゃん、にこちゃんのカレーってそれほど凄いものなの?」

海未「いえ、分かりません。確かに絵里も美味しいと絶賛してましたが……そこまでとは思いませんでした」

穂乃果「そんなに美味しいなら、海未ちゃん食べた瞬間、目や口から光線出しちゃいそうだよね」

海未「私にそんな機能はありません」

穂乃果「あるのは稀にする変顔だけかー」

海未「そんなこともしません!」

穂乃果(無自覚だったなんて、驚きの事実!)

にこ「……どうやら本気みたいね。分かったわ。やってみなさい。正し、お勧めの本は一人一冊まで」

にこ「人に薦める程の本がある人だけ。取り敢えず私と穂乃果はパスってことで」

海未「懸命な判断です」

穂乃果「穂乃果は本読むよ!」

海未「少女漫画だけではないですか。男性ファンも居るんですよ? そういう購入し辛いのは駄目です」

にこ「あの炎上あってからの再び本を薦める意味。きちんとあるんでしょうね?」

あんじゅ「私を誰だと思ってるの? 邪道シスターズの策略家矢澤あんじゅだよ!」

にこ「……今の言葉で物凄く不安になったけど、あんたを信じるわ。期待を裏切るんじゃないわよ?」

あんじゅ「あんじゅにお任せだよ★」

――二日後...

にこ「凄い反響ね。前回が嘘のようだわ」

絵里「『騙されたと思って読んでみたら感動した』『同じ作者とは思えない』『良かった!』」

海未「『最高でした』『あんじゅちゃん信じてた!』『屋敷の理由が素敵でした』」

穂乃果「本当に絶賛ばかりだね。今度はどんなお話薦めたの?」

あんじゅ「ふっふーん! 前回の薦めた屋敷シリーズの次回作である『時計屋敷の殺人』だよ」

あんじゅ「今のところだけど屋敷シリーズで一番綺麗な物語でね、作者の良心なんじゃないかなって思ってるの」

海未「よく同じ作者の、しかも同シリーズを薦められましたね。読んだファンも凄いですが……」

絵里「あんじゅのことを信じて裏切られたファンが、今度は良い意味で裏切ったってことね」

にこ「期待せずに読んだだろうから感動もより増したってことね。最初からここまで狙ってたの?」

あんじゅ「私を誰だと思ってるの?」

にこ「はいはい、私の邪道な妹矢澤あんじゅよ。邪道なことさせたら天下一ね」

あんじゅ「うふふふふ♪」

海未「……薦めようとしてた本があるのですが、この絶賛の後で挙げるのは無理ですね」

穂乃果「今回はあんじゅちゃんの一人勝ちだね」

絵里「あんじゅは私の自慢の妹ですもの。これくらいやれる子なのよ」

あんじゅ「にこもエリーお姉ちゃんみたいに絶賛してくれてもいいんだよ?」

にこ「しょうがないわねぇ。今日はカレーにしてあげるわ」

あんじゅ「にこにーお姉ちゃん最高☆」

◆生徒会長同士 in UTX学食◆

絵里「お互いに生徒会長という立場ですから、来て頂いたお客さんを満足出来る学園祭にしたいですね」

希「同い年で同じ立場なんだし、いい加減敬語やめへん?」

絵里「そうね。今は生徒会長という以前に生徒同士という交流だし」

希「これで気兼ねなく本音で喋れる」

絵里「それで今日はどういう用件なのかしら?」

希「学園祭のことで提案があってね」

絵里「学園祭? 流石に今月末に行われるから今からだと流石に時間が間に合わないわよ」

希「今年のじゃない。来年の話なんだけど」

絵里「来年の?」

希「共同でイベントとかやりたいんよ。日付が被れば一日目をUTXで、二日目を音ノ木坂でって出来るやん?」

絵里「気持ちは分からないでもないけど、うちとUTXじゃ規模が違い過ぎるのよね」

絵里「劣等感を感じるっていうと言葉が過ぎる気がするけど、やる気を削られるのは確かだと思うの」

絵里「情けない事を言うわ。これは生徒会長としての立場からの意見なんだけど、リスクに対する見返りがないわ」

希「尤もな意見だと思う」

絵里「だからその提案を受け入れることは出来ない。学校側の総意というならば理事長の判断に委ねることになるけど」

希「学校の総意じゃなくて、これはウチの恩人が遺した夢」

希「こちらも簡単に諦める訳にはいかない。A-RISEがそちらでライブをするとなれば十分な見返りがあると思うけど」

絵里「A-RISEのライブをうちで!?」

希「今回のA-RISEのライブチケットは三分で売り切れだったし、場所が違っても同じ結果を出すと確信してる」

希「UTXが音ノ木坂と交流があることを示せばそれだけで音ノ木坂に注目も集まる筈だし」

希「学院の名前を宣伝するにはこれ以上ないチャンスやと思うけど」

絵里「それだと逆にこちらが切るカードがないわ。取引は対等でなければ成立しない。施しというなら遠慮なく断るわよ」

希「ふふっ。カッコ良いね。ウチの右腕の副会長に通じる強さを感じる」

希「施しなんかじゃないよ。これはただのウチの我がままなんよ」

絵里「さっき言ってた恩人の人が関係している個人的なことだって言い張るわけ?」

希「事実その通り。だから今日のことは副会長に内緒にしてるの」

絵里「……どちらにしろ、私にとっては施しにしか思えない」

希「意外と頑固だね」

絵里「ええ、そうかも。私の妹達ならその提案を更に上手く調理するんだろうけどね」

絵里「私の安易な行動が後の音ノ木坂学院の生徒会に悪影響を与えるかもしれないから」

絵里「施しに思われるような事実は残せないの」

希「なるほど。でも、ウチもこればかりは譲れない」

絵里「私も妥協出来ないわ」

希「……」

絵里「……」

希「それなら何かで勝負して決めるっていうのは?」

絵里「とぼけてる訳ではないし、忘れてるってことはないわよね」

希「んー?」

絵里「私は貴女に一つ借りがある筈よ。その借りを返すように要求すればスムーズに事を運べるじゃない」

希「春のことりちゃん誘拐をアシストした時のこと言ってるん?」

絵里「ええ。あの時、貴女が来てくれなかったら計画が破綻してた恐れがあるから」

希「あれはこっちにもことりちゃんの成長というメリットあったし、そういうのを引き合いに出すのはフェアじゃないよ」

希「対等な関係じゃないと一緒に学園祭を行う意味がないしね」

絵里「……今回は私の負け、ね。そこまで言われたら拒むことなんて出来ないわ」

絵里「生徒会長としてでなく個人として東條生徒会長の意見、音ノ木坂に持って帰って返答を用意させてもらうわ」

希「では絢瀬生徒会長の吉報を待たせてもらおうかな」

絵里「音ノ木坂の理事長は話の分かる人だから、期待を裏切らないことを約束するわね」

希「これは借りを返してもらった訳じゃないんだよね?」

絵里「ええ、そうなるけど……もしかしてまだ要求があるの?」

希「ウチは欲張りなんよ。どうせなら音ノ木坂のスクールアイドルSMILEもこちらでライブをしてもらいたい」

絵里「UTXでSMILEがライブ」

希「そうや。後々まで語り継がれるくらいの学園祭にする。ウチの母校を最高に輝かせる。それが今のウチの夢!」

絵里(これは……少し問題ね。来年のラブライブがいつ行われるかによって変わってくるわ)

絵里(SMILEとA-RISEが一緒の舞台に立つということはにこの再会も意味することになるし)

絵里(ラブライブの開催が学園祭より前ならいいけど、後になったら……断るしかなくなるわね)

絵里「ライブの方は妹の事情があって、来年にならないと約束出来ないわ」

希「妹さんの事情?」

絵里「そう。あの子が居なかったら私は今も冷たい闇の中に居たかもしれない」

絵里「弱い姉と違って諦めても尚、上を向くことの出来る自慢の妹。からかうとすっごく面白いのよ」

希「是非ともその妹さんとも会ってみたいなー」

絵里「私も会わせてあげたいわね。色んな出会いが更にあの子達を成長させるでしょうし」

希「意外とシスコンだったんだね」

絵里「ええ、可愛い妹達に囲まれてるからね。必然的に溺愛しちゃうのよ」

希「一人っ子のウチには分からん感情かな」

絵里「そんなことないわよ。家族っていうのは増えるものなのよ?」

希「色々と意味深な台詞やね。もしかして婚約者的な彼氏とか居るん?」

絵里「彼氏? どこから出てきたのか分からないけど、彼氏なんて居ないけど?」

希「そうなん?」

絵里「ええ」

希(家族が増えるって結婚を意味してるのかと思ったけど、ウチの深読みし過ぎただけやったね)

絵里(どうして家族が増えることに彼氏が出てくるのかしら? 不思議な思考回路の持ち主ね)

絵里「とにかく、返事は学園祭の準備が始まる前には出来ると思うけど、時間が掛かることだけは先に言っておくわ」

希「了解。さて、学校関係の話は置いておいて、ただ交流を深める会話でもしよっか」

絵里「そうね。同い年で生徒会長やってるもの同士、息抜きは大切だものね」

希「じゃあ、最初は占いなんてどう? ウチ占い得意なんよ」

絵里「占い? 面白そうね。普段は信じないタイプなんだけど、記念にやってもらおうかしら。お願いね」

◆ことほのうみの午後◆

穂乃果「ことりちゃん。こんな感じかな?」

ことり「うん。穂乃果ちゃんって才能あるのかも。すっごい上手だよ」

海未「ことりは穂乃果に対してフィクターが掛かり過ぎです。私にはまだまだ未熟にしか見えません」

穂乃果「海未ちゃんが虐めるよー」

海未「虐めてません。事実を述べただけです」

ことり「絵の上手さがデザインを左右するって訳じゃないんだよ?」

穂乃果「そうだよ! にこちゃんだって同じようなこと言って穂乃果に一任してくれたんだから」

海未「それって暗に穂乃果は絵が下手であることを認めていますよね?」

穂乃果「そう言えばそうだよね! どうなの、ことりちゃん!?」

ことり「はぅん」

海未「ふふふっ」

穂乃果「も~笑い事じゃないよ。むぅ~」

海未「そんな風に頬を含まらせる辺りは昔のまま成長を感じさせませんね」

ことり「それこそが穂乃果ちゃんの魅力だから」

海未「そうですね。普通なら成長と共に捨ててしまう幼さを魅力として備え続ける。それこそが穂乃果です」

穂乃果「全然褒められた気がしないってば」

ことり「海未ちゃんは穂乃果ちゃんに対してはわざと素直に言わないことが多いから」

穂乃果「つまり、本当は心の底から穂乃果のことを絶賛してるんだね!」

海未「してません。そう思われたいのなら、もう少し他の人にも通じるような絵を描いてみせてください」

穂乃果「そんなこと言われたって、こないだから絵の勉強を始めたんだからしょうがないでしょ」

海未「こないだって梅雨の話ではないですか」

穂乃果「デザインは衣装を作るにこちゃんにだけ伝われば良いじゃない」

ことり「そうかも。私達の目的は頭の中に浮かんだ形を絵に残すことだからね」

穂乃果「だよね、そうだよね! ほら、海未ちゃんってば無駄に力を入れすぎなんだよ」

海未「穂乃果はある意味で力を入れるべき箇所と手を抜く箇所。それを察するのが上手な気がします」

ことり「それはあるかも。だからこそ、力を入れるところでは全力で行えるんだよねっ」

穂乃果「えっへん!」

海未「ただ手を抜きすぎるのも問題です。というかですね、学問に手を抜くべきではありません!」

穂乃果「ひぃっ!」

海未「こないだの数学の小テスト何点だったか覚えてますか? 十五点ですよ、十五点!」

ことり「三十点満点とか?」

海未「五十点満点です!」

穂乃果「だっ、だって。只でさえ算数の頃から苦手だったんだよ? 高校に入ってから余計に難しくなるし」

海未「どちらかと言えば穂乃果は理系の方が得意なのに、どうしてそんなに数学に弱いのか」

穂乃果「穂乃果だって好きで苦手な訳じゃないよ」

ことり「穂乃果ちゃんはやれば出来る子だもん。これからに期待だよ♪」

穂乃果「そうだよね。穂乃果はやれば出来る子」

海未「それは出来るのにやらないという最低な人間とも取れるのですが?」

穂乃果「海未ちゃんの意地悪~」

ことり「ふふっ。海未ちゃんは声高らかに穂乃果ちゃんのことを自慢したいから頑張って欲しいんだよ」

海未「ことりっ! 何を適当なことを言ってるのですか!?」

ことり「ことりは素直にならない海未ちゃんの本音を代弁してあげたんだよ?」

海未「それはことりの本音ではないですか!」

ことり「うん! 勿論私の本音でもあるよ」

穂乃果「よ~しっ! 勉強面も二人の自慢の王子様になるべく頑張るよ!」

ことり「穂乃果ちゃんカッコ良い~♪」

海未「その威勢がどれ程続くことか……。では、今から穂乃果の勉強会ということにしましょうか」

穂乃果「え゙ぇ……」

ことり「そうだね。苦手科目って自分一人だと息詰まって進まなくなっちゃうもんね」

穂乃果「ほ、ほのかは……その、一人でも頑張れるよ?」

海未「目を泳がせながら言っても説得力がありません。さ、教科書を出してください」

穂乃果「教科書? そ、そうだ! 学校に置いてきちゃって」

海未「そうだなんて前置きを言ってる時点で嘘ですね」

ことり「穂乃果ちゃんは素直だから」

穂乃果「う~るる~」

海未「あんじゅの泣き声を真似ても駄目です」

穂乃果「ほむぅ」

ことり「穂乃果ちゃんかわいいっ♪」

海未「アイドルと違って勉強に可愛さは必要ありません」

穂乃果「学園祭に必要な衣装なんだよ!?」

海未「今回の和風カレー屋の衣装はにこのお婆様が製作してくれるという話なのですが?」

穂乃果「ら、ライブの為に……」

海未「にこの話を聞いてましたか? 今年の学園祭はライブをしないと言われたではないですか」

ことり「えっ、学園祭なのにライブやらないの?」

海未「ええ、宣伝するには他にないくらいのイベントですが学園の為に裏方に回るそうです」

ことり「学園の為に裏方ってどういうこと?」

穂乃果「スクールアイドルだけが注目されて生徒数を維持出来たとしたら問題なんだって」

ことり「えっと?」

海未「来年後輩が入ってくる保障はありません。音ノ木坂を延命させるだけでは意味がない、ということです」

穂乃果「他の部活の出し物とか手伝って、音ノ木坂の魅力を一つひとつ理解して欲しいんだって」

海未「生徒会長の絵里ではなくにこが言い出したことに感動しました。最初はじぶたれ者かと思いましたが」

海未「今日も後輩の私達には創作の為の休日として、自分達は生徒会を手伝っているそうです」

ことり「色々とすごい先輩達なんだね」

穂乃果「凄くなかったら海未ちゃんを引き入れることなんて出来ないよ。あと、王子様に変身ライブとかね」

ことり「ふふっ。あれは一生の思い出になったよね」

海未「そうですね。高校生活であのインパクトを超える日がくるとは思えないくらいです」

穂乃果「何言ってるの海未ちゃん。まだ一年生の半分が過ぎたくらいなんだよ? いっぱい楽しいことが待ってるよ☆」

海未「個性的なメンバーが揃っていますから若干心配ではありますが。少しだけ、楽しみでもあります」

ことり「いつか一緒にライブ出来たらいいなぁ」

海未「出来ますよ。うちのリーダーは邪道ですから。型破りということではスクールアイドル一で間違いないかと」

穂乃果「邪道シスターズに常識は通用しないからね」

ことり「それなら楽しみ。その時の衣装は穂乃果ちゃんと海未ちゃんの三人でデザインしてみたいな♪」

海未「どうしてそこに私の名前まで挙げるのですか? 正直ファッションは私の門外漢です」

ことり「女の子なんだからそんなこと言っちゃ駄目だよぉ」

穂乃果「お姫様になるんだからフリフリプリティー衣装とか提案出来る様に今からファッションの勉強をしよう!」

海未「そうやって誤魔化そうとしても駄目ですよ。穂乃果の勉強が何より優先です!」

穂乃果「うっ……誤魔化せなかった」

ことり「穂乃果ちゃんは数学を、海未ちゃんはファッションを、ことりは二人の先生をするよ」

海未「そんなっ」

穂乃果「やりたくないよー」

ことり「SMILEの先輩達は今も頑張ってるんだよね? だったら穂乃果ちゃんと海未ちゃんも頑張ろうよ」

海未「それを言われたらやるしかありませんね」

穂乃果「そうだね。お互い苦手ジャンルだけど結果出して見返そう!」

海未「誰を見返すつもりですか」

穂乃果「……」

ことり「昨日までの自分を、じゃないかな?」

穂乃果「そうだよ! さっすがことりちゃん。良い事言うね」

ことり「ありがとう」

海未「日進月歩ですね。昨日の私に笑われないように精進しましょう」

穂乃果「うん! ふぁいとだよ!」

◆私の先輩◆

(先輩の夢)

ことり「アンチ先輩のクラスは学園祭で何をやるんですか?」

先輩「いい加減アンチ抜きなさいよ。これだけ言われ続けるとまるで私が粘着アンチみたいでしょ?」

先輩「私はあんな精神疾患じゃないし。寧ろ粘着で言えば南でしょう。学年違うのに毎日毎日」

ことり「私には先輩をファンにする義務がありますから」

先輩「勝手に思い込むことを義務とかいう辺りが本気で粘着アンチっぽくて怖いんだけど」

ことり「……でも、粘着されるって栄光なことだと思うんですよ」

ことり「だってそれってある意味で愛されてるも同じじゃないですか」

先輩「はぁ? 何言ってるのよ。南はファーストライブ前にあれだけアンチスレが立ってたじゃないの」

ことり「でも今は分かったんです。あれもまた愛情表現の一つだったんだって」

ことり「だってほら、こうして先輩も私と仲良しになってくれたじゃないですか」

ことり「粘着するっていうことは相手を強く意識しているって意味ですから。素晴らしいことです」

先輩「」

ことり「相手に粘着することこそが生きているというアピールになるし、相手も自分を意識してくれる」

ことり「普通にしてたら私の生を知りもしない人が自分を刻み込んでくれる。これ以上の正義ってないじゃないですか!」

ことり「感動よりも悲劇の方がより大きな衝撃を与えるんです、だから傷つけた方が自分を刻み込める」

先輩「な、何言ってるの? 相当疲れてるんじゃないの? 英玲奈さんに言って早退した方がいいわ」

ことり「意味が分かりません。どうして先輩は正義を理解出来ないんですか?」

ことり「どうして同意してくれないんですか? 先輩ってもしかして頭がおかしいんですか?」

先輩「どう考えても南の方が狂ってるわよ!」

ことり「私は正義です。私の発言こそ意味をなすんです。他の人の言葉に価値はありません」

ことり「私の言葉こそが絶対なんです。だから私の発言だけ聞いていればいいんです!」

――休日 秋葉 メイド喫茶

先輩「っていう恐ろしい夢を見た」

ことり「先輩の中の私の印象が伺えて悲しくなるんですけど」

先輩「別に今は南のこと悪く思ってないし、思ってたらわざわざ休日に足を運ばないわ」

ことり「練習が早く終わったので日頃の感謝を込めて誘った甲斐がありました」

先輩「場所が普通の喫茶店だったら素直にその感謝を受け取るところだったんだけどね」

ことり「だってここのメイド服可愛いじゃないですか。こういう衣装も大好きなんですよ」

先輩「全国一位のスクールアイドルがメイド喫茶とか……どうなのかしらね」

ことり「良いじゃないですか。私は元々被服科の特待生なんですから。これも勉強の内ですよ」

先輩「物は言い様ってことね。ま、ケーキは普通より若干美味しいから許すけど」

ことり「それで先輩。さっきの夢の話なんですけど、きっと私のファンになる兆候だと思うんです」

先輩「どいうこと?」

ことり「アンチ先輩からファン先輩にチェンジする時がくるんです!」

先輩「……ポジティブね」

ことり「ポジティブじゃないとアイドルなんてやってられませんよ」

ことり「自分のアンチスレを覗くとそれはもう精神をガリガリ削られちゃいます」

先輩「見なきゃいいでしょ」

ことり「怖い話って夏じゃなくてもふと読みたくなることってありませんか?」

先輩「季節外れだからこそ読みたくなる時あるわよね。逆に夏場は特番とかやるから読もうとはしないけど」

ことり「それと同じです。ふと気になって覗いてダメージ受けるんです」

ことり「直せない領域の話題を見るとどうしようもないですし……」

先輩「怪談と違ってダメージを受ける前提なんだから、やっぱり見ない方がいいでしょ」

ことり「好奇心って抑えきれない感情の一つだと思います」

先輩「良い顔して言うことじゃないんじゃない?」

ことり「一番の友達の影響ですから!」

先輩「ま、何を誇るのかは個人の自由だけど」

ことり「それで先輩のクラスは学園祭で何をするんですか?」

先輩「私のとこはアイスクリーム屋だって。秋でも需要はあるって押し切られて」

ことり「でも確かに需要はあるんじゃないですか。コンビニのおでんって夏場が一番売り上げが良いらしいですし」

先輩「どうだかねー。余ったら自分達で処分するのが目的だと思うけど。腹でも下せばいいのよ」

ことり「それはそれで学園祭として思い出に残るから良いんじゃないですか?」

先輩「本人にとって忘れたくなる思いでかもしれないけど。南は?」

ことり「私のクラスは自作した衣装の展示ですっ」

先輩「被服科だから当然か。販売とかしないの?」

ことり「二日目の四時以降に希望者が居れば販売するみたいです。私はライブがあるから見れないですけど」

先輩「A-RISEのライブはUTXのメインイベントだからね。仕方ないでしょ」

ことり「これできっとまたクラスメートとの溝が深まりそうです」

先輩「歌ってる時の南なら溝なんて飛んで関係ないって笑いそうだけど」

ことり「ライブ中は頼りになる先輩二人が居るから」

先輩「いつまでも甘えてられないわよ。卒業ってゴールがあるんだから」

ことり「……それが一番不安です。英玲奈ちゃんもツバサちゃんも先輩も居なくなっちゃう」

ことり「そうしたら私はファンの前できちんと歌えるのかなって」

先輩「卒業までの約一年半で強くなれば良いだけの話でしょ。新しいメンバーだって増えるんだろうし」

ことり「新しいメンバー? そっか、考えもしなかった」

先輩「そして、南が三年になる時はリーダーとして引っ張って行くことになるでしょうね」

先輩「ラブライブ連覇したであろうUTX代表のスクールアイドル」

先輩「三年連続優勝を経験した初めてのスクールアイドルとして名を刻むか否かは努力次第ね」

ことり「……はぅん。大きなプレッシャーを与えないでください」

先輩「プレッシャーの中で輝けるのがトップアイドルの宿命よ」

ことり「そうなれるように努力します。先輩はどうしてスクールアイドルになろうと思ったんですか?」

先輩「何よ唐突に」

ことり「先輩って口とは裏腹にアイドルに対する思いは真摯じゃないですか」

先輩「時々私に対して喧嘩売ってるわよね?」

ことり「本当のことを言ったまでです」

先輩「……ま、南ならいっか。努力してるし、A-RISEになくてはならない存在だし」

先輩「単純な話なんだけどね、私ってほらそばかすがあるでしょ?」

ことり「はい」

先輩「これの所為で小学の高学年から中学生にかけてからかわれたりしたのよ」

先輩「まぁ、その頃の男子の言葉なんて価値なんてないものだけどね」

先輩「当時の私としては大きなダメージでね、悔しくて悔しくてしょうがなかった」

ことり「その所為で先輩は歪んだ性格に」

先輩「これは自前よ!」

ことり「そ、その性格の所為でそういう事を言われてたんじゃないですか?」

先輩「それもあると思うけど、真相は今となっては分からないからね」

先輩「続けるわ。それで見返しやりたいって思って、それには一番簡単なのがスクールアイドルかなって」

先輩「我ながら甘くみてたわ。スクールアイドルなら一番設備が良いUTXに入れば良い」

先輩「そこでスクールアイドルになればそれで絶対に見返せる!」

先輩「今思うと相当ストレスで冷静な判断が出来てなかったのよ」

先輩「芸能科に入ったけど、私じゃスクールアイドルにはなれなかった」

先輩「なのに、南は入学して直ぐに私がなりたかったスクールアイドルになってさ、完全な逆恨み」

先輩「せめて中学の冬休みから猛練習してたって知ってればあんな風に突っかかったりしなかったんだけど」

ことり「前にも言ったじゃないですか。お陰で先輩とこうして友達になれたんですって」

ことり「自分の欠点をズバズバ言ってくれる人って初めてで、お陰でずっと早くスクールアイドルとして形になってます」

先輩「アイドルっていうのは私みたいなのじゃなくて、南みたいのがお似合いだからね」

先輩「性格も悪いし、そばかすもあるし、ね」

ことり「性格はともかく、そばかすは気にすることないです!」

先輩「性格も否定しなさいよ」

ことり「性格は個性じゃないですか。私は先輩のその性格好きですよ」

先輩「ありがと。……そばかすってさー、今はレーザー治療で治せるのよ」

ことり「え、そうなんですか?」

先輩「治してみたいと思ったし、それを両親に言ったこともある。詳しく調べてくれたわ」

先輩「だけど、私は結局その治療を受けることをしなかった。何故だか分かる?」

ことり「いいえ」

先輩「自分じゃなくなる気がして。あくまでありのままの自分で勝負したいって思ったの」

先輩「そうじゃなきゃ、まるで過去の自分から逃げたみたいで一生後悔する」

先輩「もし治せばA-RISEに入れた過去があったとする。そうだとしたら凄い悩んだと思う」

先輩「でも結局私は今を選んだと思う。結果は出せなくても自分のまま生きる今を」

ことり「先輩はカッコ良いです。私の自慢のアンチ先輩ですっ」

先輩「いつまでもアンチ言うんじゃないわよ」

ことり「だったら素直な自分になってことりのファンになってください♪」

先輩「だったらもっと人を魅了するアイドルになりなさい」

ことり「はいっ! ……先輩は、将来はアイドルになりたいって思ってますか?」

先輩「どう、かしらね。今はそういうの考えてない」

ことり「もしアイドルになるのでしたら、是非衣装は私に依頼してください。素敵な衣装を作ってみせます」

先輩「ま、その時はお願いするわ」

ことり「じゃあ、未来のアイドルが生まれることを祈って。乾杯しましょう。何を飲みますか?」

先輩「乾杯ねぇ。って、ここジュースが滅茶苦茶高いじゃない! 何よこのぼったくり料金!」

ことり「メイド喫茶ですから。料金割高です」

先輩「これだけあったらもっと美味しいケーキ食べに行けたじゃない!」

ことり「良い話聞けたので今日は私が奢ります」

先輩「年下にお金出させる訳にはいかないわ。私が奢るわよ」

ことり「だったらこの特製パフェ頼んでもいいですか?」

先輩「三千五百円ってアルバム買ってもお釣りがくる値段のパフェとかありえないわ」

ことり「一度頼んでみたかったんです。すいませ~ん!」

先輩「……ま、いっか。この話したの初めてだし。記念に、ね」

◆切っ掛け・真姫ダイアリー part1◆

夏休み前に出した進路は音ノ木坂学院。

これは担任を大きく驚かせるに十分な内容だった。

ママの母校というのが理由であり、私としては別段行きたい学校なんてなかったからそれでも良かった。

昔と比べると大分生徒数が減っているそうで、色んな面で頼りない。

でも、学ぶ意思があればどこであっても関係ないわ。

大学受験の時に不利になる可能性もあるけど、完璧な真姫ちゃんにとってそんなの些細なこと。

……そう思ってた。

でも、私を変える出来事が起こった。

家族以外に大きな影響を与えられたのは初めてで、どう表現したらいいのか分からなくて日記に書くのが今になったわ。

ことの始まりは夏の照りつける季節。

今の私と違って、まだ友達が居なかった時の話。

私に目標を与えてくれた出会いをくれたのは、今私の唯一無二の友達であるまこちゃん。

尾崎まこ――私のクラスメートであり、友達になる前から私のことを『真姫ちゃん』と呼んでいた子。

話す切っ掛けになったのはプールの時間。

勿論、人付き合いに関心のなかった私から話掛けたなんてことはない。

まこちゃん……うん、本人に対してそんな風に呼んだことはないけど、日記の中くらいこれで呼ばせて欲しい。

夏休みが始まるということもあり、私も気分が晴れていた。

着替えが面倒で泳ぐのがそんなに好きじゃない(カナヅチじゃないわよ!)プールが最後っていうこともあった。

授業は半分だけで、残りは自由時間と体育教師のサービスでクラスは沸いた。

私は当然プールサイドに上がって影になってる場所を見つけて腰を掛けた。

風は熱風で水の中の方が涼しいけれど、二十分くらいの時間だからとぼけっとしてようと思ってた。

そんな私の横に腰掛、声を掛けてきたのがまこちゃんだった。

第一声は志望校についての話題だった。

私みたいに優秀な子がどうして音ノ木坂を希望するのか疑問に思ったみたい。

私を総合病院の一人娘という特別な目でみないまこちゃんは今の学校では少し浮いていた。

浮いていたと言っても実際にクラスで浮いてるのは私の方で、まこちゃんは誰とでも仲良く出来る子だ。

親に言われて他の私立の女子高に通うことになったらしく、音ノ木坂に通うと言った私を羨ましがった。

少し天然入ってるなと感じたけど、天真爛漫という言葉が似合うとてもいい子。

それが切っ掛けになって、夏休み入るまで何度となく話し掛けられて、初めて友達同士で連絡先を交換した。

恥ずかしい話、何度も意味もなく携帯電話のアドレス帳を見ては笑っていた。

今思い出しても恥ずかしい。

何だかんだ言っても私は友達が欲しかったんだって、気付いた。

でも、名前を呼んでくれる彼女に対して先ほども書いたけど名前を呼べる素直な私はまだ居ない。

そして、私にとって大きな問題となるメールが入った。

夏休みの中盤だったとある日の午前。

私の住んでいる所とまこちゃんの済んでいる所の丁度中間くらいの場所で集まってどこか遊びに行かないかという誘い。

それだけだったら時間に都合を付けて二つ返事とはいかなくても、了承の意を返せたと思う。

だけど、一つの単語が私の指を固めた。

自転車で集合して、色々回ろうという旨の部分。

何度読んでも自動車ではなく(これは年齢的に当然だけど)自転車である。

せっかく誘ってくれたけど、私はまこちゃんに対して断りのメールを送った。

理由は簡単、私が自転車に乗ることが出来なかったから。

って、これを読んでるのは私なんだから分かるわよね。

その夜、悔しさに少しだけ泣いた。

小学校三年生の頃、自転車を買ってもらったのに、練習するのが恥ずかしくて結局倉庫入り。

もし、あの時羞恥心に負けずに練習して乗れるようになっていれば私はまこちゃんと遊びに行けた。

ううん、本当はそれだけが理由で泣いた訳じゃない。

素直に自転車に乗れないことを話して、電車に乗って駅で合流して遊ばないかと言えば良かったのに……。

でも、私のプライドが邪魔をして素直になることが出来なかった。

この所為で学校でも友達が出来ないというのに、まこちゃんを見習って素直になれれば良いのに。

次の日、私は倉庫に入って自転車を探した。

一台の自転車を見つけた。

前籠付きの普通の買い物用自転車。

スポーツ店でヘルメットとサポーターとグローブを購入した。

怪我は出来るだけしたくないし、指は絶対に怪我をしたくないから。

勿論、薬局にも寄って怪我をした時の為に色々購入した。

準備は万端!

この日から悔しさをバネに、私の自転車練習が始まった。

これが私の運命を大きく変えることになるとは、この時の私は思いもしなかった。

なんて、小説でありきたりな文を引用して、今日の日記はここで止めておこう。

小説と違って、自分のことなので結末を知ってるからドキドキはしないんだけどね。

◆おまけ・ぱなよちゃん頑張る!◆

学生で一番の長期休みである夏休み。

時刻は現在多分五時半くらい。

外は既に明るく、暑さを感じさせないこの時間帯は走るに申し分のない環境。

花陽「……はぁはぁ」

凛「夏の朝の空気はすっごくきもちいいにゃー!」

呼吸をするのが精一杯で走る私と違い、凛は元気に溢れていた。

私と凛ちゃんが走り始めてまだ一週間。

体育以外で自主的に運動することがなかった私にとって、体力のなさを自覚するに十分の時間だった。

お米が好きなにとって、次の季節は体重が増量する危機もある。

体力を付けて、体重を減らすだけでは駄目。

誘惑に打ち勝つくらいの心の強さも鍛えなきゃ!

使命感に燃える中、もう一つの問題を自覚する。

子どもの頃からの夢を叶える為にUTX学院を志望することを大切な幼馴染である凛に告げること。

臆病な自分が顔を出し、伝えなくちゃいけないという勇気を握り潰す。

今日が駄目だからまた明日。

その日その日を誤魔化して、いつまでも逃げられないと分かっているのに今日もまた逃げる。

現在スクールアイドルの全国二位であるA-RISE。

私がUTXに入ったところで何かが大きく変わることなんてないと思う。

これが漫画だったらシンデレラガールのようにA-RISEのメンバーになるんだろうけど……。

現実がそんなに甘くないことくらい分かる。

私がスクールアイドルになれるのなら、一緒に付き合ってくれている凛ちゃんこそがスクールアイドルになれる。

運動神経は中学校じゃトップクラスで、見た目もとっても可愛い。

幼い頃から猫が好きな影響で語尾に『にゃ』がつくのがチャームポイント。

それに比べて私は何もない。

ただただ幼い頃からアイドルに憧れて、アイドルになりたいとそう思ってただけ。

でも、南ことりさんを見てから、加入したファーストライブを見てから決めた。

自分の夢の為に努力して、結果がどうあれ未来の自分が頑張ったねって笑ってくれるように。

今更遅いかもしれないけど、それでも努力した今だけはずっと残る。

自信が持てない今の私が、未来の自分を支える自信の源になれるように。

願わくば憧れのことりさんに一歩でも近づけることを信じて。

凛「かよちん、体勢が少し崩れてる。それだと無駄に体力使っちゃうよ!」

花陽「……う、うん」

凛「苦しい時こそ姿勢を正して前を向こう♪」

花陽「うん!」

笑顔を向けてくれる大切な凛ちゃんのように眩しい存在になりたい。

自信を持って声を出せるように、俯かないで前を向こう。

苦しい時こそ姿勢を正して前を向く。

凛ちゃんの励ましの言葉をしっかりと胸に刻んで、筋肉痛で痛む足に鞭を打つ。

どうかこの夏休みが終わるまでに凛ちゃんに伝えられている自分でありますように……。



まこちゃんは真姫ちゃんのSid。アンチ先輩は漫画版1話に登場してます。
これからゴールまで季節を飛ばせないので2スレ目にいく可能性濃厚かもしれません。

ネクストストーリー……ハッピーハロウィン! 更に深まる秋の物語につづく! あの子も帰国!

※エリチカはマンション暮らしだと発覚しましたが、この世界では二階建てのお家に住んでます。

◆四女の帰還◆

――ロシア 以前姉に教えられた諺という存在を忘れてるアリチカ...

亜里沙「明日から日本! お姉ちゃん達と一緒に頑張る」

お婆様「私は日本で大切な人と出逢い、大切なことを学んだのよ」

亜里沙「大切な人ってお爺ちゃま?」

お婆様「ええ、でもあの人だけじゃなかった。数多くの人達と出逢ったの」

亜里沙「亜里沙も日本で色んな人と仲良く出来るかな?」

お婆様「それはアリーチカ次第よ」

亜里沙「お婆ちゃまは大丈夫とは言ってはくれないの?」

お婆様「そこはこれからの行動次第ですもの。甘えちゃ駄目よ」

亜里沙「はぁーい」

お婆様「エリーチカの言うことをよく聞いくのよ?」

亜里沙「うん! 亜里沙ね、亜里沙ね、音ノ木坂の生徒になったらスクールアイドルになるの!」

お婆様「ふふふ。何度も聞いて耳に蛸が出来ているよ」

亜里沙「耳にタコが!?」

お婆様「そういう諺が日本にはあるんだよ。本当はもう一年日本についてしっかり教えたかったのだけど」

亜里沙「亜里沙が我がまま言ったから……ごめんなさい」

お婆様「いいんだよ。可愛い子には旅をさせろと言うからね」

亜里沙「もしかして、今のもことわざなの?」

お婆様「そうだよ」

亜里沙「面白い! 亜里沙、いっぱいことわざも勉強してくるね」

お婆様「電話を受けるのが楽しみだわね」

亜里沙「ことわざだけじゃなくて、日本について学んだことたっくさん伝えるから」

お婆様「楽しみにしているわ」

亜里沙「えっへへ」

お婆様「良い機会だし、少し聞いてくれるかしら?」

亜里沙「何でも話して。お婆ちゃまの話大好きだから!」

お婆様「ありがとう。私はね、エリーチカのように賢い人間ではなかったわ」

亜里沙「そんなことない! お婆ちゃまはお姉ちゃんと同じくらいかしこいもの」

お婆様「そんなことあるのよ。私は本当の意味で時間の大切さを知ったのは人生も折り返しを越えてから」

お婆様「……あの人と逢えなくなる日々が始まってから」

亜里沙「おばあちゃま」

お婆様「エリーチカは違ったわ。アリーチカのお陰でもあるけど、今という時間を堪能している」

お婆様「大切な人を失わなくても気付くことが出来て、限りある時間を後悔のないように過ごしているわ」

亜里沙「……」

お婆様「アリーチカも日本で多くの人達と出逢って、様々な経験をして、そのことに気付いて欲しい」

お婆様「本当に大切な物っていうのは厄介な物でね、人に言われただけでは本当の理解は得られないの」

お婆様「辛いこともあるでしょう、苦しいことだってあるでしょう。時には泣くことだってあるかもしれないわ」

お婆様「それでも、その経験がアリーチカの中で意味を成すものになることを信じているわ」

亜里沙「お婆ちゃま」

お婆様「多くを知り、多くを経験することで自分の世界は大きく大きく広がるの」

お婆様「辛いことを知っている分だけ笑顔は深みを増すのよ」

亜里沙「深み?」

お婆様「素敵な笑顔になるってこと」

亜里沙「亜里沙も素敵な笑顔を浮かべられるスクールアイドルになるわ!」

お婆様「そうなる為にはしっかりと自分を支えてあげられる心を持つことね」

亜里沙「心で支えられるの?」

お婆様「ええ、そうよ。心は体に収まりきれない程大きくなりえる物だから」

お婆様「目には見えないけれど、しっかりと成長しているのよ?」

亜里沙「ハラショー!」

お婆様「ふふふ。さぁ、明日は朝早いのだから、もうお休み」

亜里沙「今日はお婆ちゃまと一緒に寝てもいい?」

お婆様「勿論よ。特別に子守唄を聞かせてあげましょうね」

亜里沙「うん!」

――日本 絢瀬家 SMILE

絵里「雪穂さんまで来てもらって申し訳ないわね」

雪穂「いいえー。絵里さんの妹……いや、実の妹さんは同い年なんですよね?」

絵里「ええ。生まれは日本なんだけどずっとロシアで暮らして来たの」

絵里「日本語はお婆様のお陰できちんと喋れるんだけど、知識の方がとても不安で……」

絵里「だから同い年でしっかりしてる雪穂さんと友達になって貰えたら心強いと思って」

あんじゅ「亜里沙ちゃんってとっても良い子なんだよ」

にこ「絵里と違って天然入ってるけど、優しくて良い子よ」

雪穂「友達になるのが楽しみです!」

海未「にこが素直に良い子なんて言うなんて、それ程素晴らしい子なんですか?」

絵里「ええ、とっても良い子よ」

穂乃果「よく考えたら絵里ちゃんの妹だもんね。良い子に決まってる」

にこ「海未の失礼な発言はスルーするとしても、穂乃果の言葉には納得出来ないわ」

穂乃果「え、なんで?」

にこ「あんたはやる気スイッチ入らないと全然堕落モードだったのに、雪穂ちゃんはしっかり者じゃない」

海未「そうですね。穂乃果という存在が雪穂にとっての反面教師という役目を果たしたということです」

海未「にこや絵里を見習って下さい。妹の前では二人共実にしっかりしているのですから」

穂乃果「ひぃんっ!」

あんじゅ「初めは海未ちゃんの中で底辺だったにこの評価が今は随分と上がったね」

絵里「それだけのことをにこはしてきたってことよね」

海未「素直に尊敬に値する人物ですし、何気に苦労人ですからね」

にこ「一番苦労を背負ってくるのがここに居るからね」

あんじゅ「若い頃の苦労は買ってでもしろって言うよね? だからにこにーの為に運んで来るんだよ★」

にこ「あんた事売り飛ばしてやりたいわよ」

海未「と、口ではこんなことを言いながらも、にこはあんじゅの世話をし続けているんです。姉の鏡ですね」

雪穂「うちのお姉ちゃんと変わって欲しいかも」

穂乃果「雪穂ってば酷いよー。自転車乗る練習付き合ってあげたでしょ~」

雪穂「その借りはSMILE加入の際に返したでしょ」

絵里「ふふふっ。海未とことりさんだけじゃなくて、雪穂さんも守れる存在にならないといけないわね」

穂乃果「努力するよー」

海未「語尾をだらしなく延ばして宣言しても説得力の欠片もありません!」

穂乃果「今はデザインの練習で精一杯なんだもん」

にこ「猪突猛進な一直線な性格っぽいし、一度に複数やらせるより、一つを極めさせた方が良いんじゃない?」

海未「しかし!」

あんじゅ「海未ちゃんが穂乃果ちゃんに期待するのは敬愛の証なのは分かるけどね」

雪穂「素直にお姉ちゃんがだらしなさ過ぎるという可能性もあるかと思います」

絵里「それはないわ。海未の性格からして敬愛という感情がなければ嫌われてまで正そうとはしないでしょう」

穂乃果「そう言われると悪い気がしなくいね」

雪穂「結局はお姉ちゃんがきちんとしてれば言う必要ないことだよね?」

にこ「雪穂ちゃんは容赦ないのね」

あんじゅ「それもまた愛情の一つだと思うよ」

雪穂「愛情なんかじゃありません!」

絵里「羞恥の余り言葉を無くした海未と同じくらい顔が赤くなっているわよ?」

雪穂「もっもう! からかわないでくださいよ」

絵里「ついついウチの次女を扱うみたいにしちゃったわ。ごめんなさいね」

にこ「謝り方がおかしいでしょうが!」

あんじゅ「愛され次女にこにー♪」

にこ「ぐぬぬ!」

雪穂「くすっ。お姉ちゃんに聞いてましたが、皆さん本当に仲が良いんですね」

海未「にこがリーダーなんですけどね、弄られるのが定番となっています」

にこ「お笑い軍団じゃないんだから弄られ役とか要らないっての!」

あんじゅ「にこはぁ~SMILEの弄られ系アイドルにこ♪ 矢澤にこにこって覚えてにっこにっこにー♪」

にこ「そんなキャッチフレーズ嫌過ぎるわ! しかも物凄くダサいじゃない」

絵里「そのダサさが妙ににこっぽくて私は良いと思うわ」

穂乃果「そうだね。不思議な安心感みたいなのがあるっていうか、もっとダサくてもいいかなって思うよ」

にこ「あんたら一度はリーダーに敬意を表してみなさーい!!」

――絢瀬家前 チカ姉妹

亜里沙「お姉ちゃん! 亜里沙帰って来たんだね!」

絵里「一体何度その言葉を使う気?」

亜里沙「だってだって嬉しいんだもの!」

絵里「時差とそのテンションの問題で今日も眠るのが早そうね」

亜里沙「今日はずっと起きてるの。だってみんなが遊びに来るのでしょう?」

絵里「ええ、遊びに来ているわね」

亜里沙「だったらおもてなししなきゃ!」

絵里「難しい言葉を知ってるのね」

亜里沙「きちんと亜里沙だって日本のことを勉強してきたんだから」

絵里(胸を張るのは可愛いんだけど、色々と心配だから雪穂さんと同じクラスになれればいいわね)

絵里「さ、家に入りましょう」

亜里沙「うん!」

絵里「ただいまー」

亜里沙「?」

こころあ「アリサちゃんおかえりにこ!」

にこ「お帰りなさい。長旅ご苦労様ね」

あんじゅ「お帰り~無事に日本に辿り着いて安心したよ」

亜里沙「お、お姉ちゃんどうしてもうみんなが居るの!?」」

絵里「私は遊びに《来る》から《来ている》って途中からきちんと言い換えてたわよ」

あんじゅ「うふふ」

ここあ「おにんぎょうさんあそびするニコ!」

こころ「やくそくしたにこ~!」

亜里沙「うん! お土産にロシアのお人形も送ったから、今度遊ぶ時にはそのお人形をプレゼントするね」

こころあ「えへへっ。ありがとう!」

にこ「はいはい、お人形遊びはまた今度にこよ。亜里沙は帰ってきたばかりなんだから焦らないの」

あんじゅ「これからはずっと日本に居るんだからいつでも遊べるから大丈夫だよ」

こころ「そっかー」

ここあ「じゃあ、あしたあそぶの!」

絵里「だったら今日は泊まっていくといいわ。それなら明日は朝から遊べるにこ♪」

こころ「こころおとまりするにこ!」

ここあ「ここあもおとまりするにこ!」

絵里「四人で一緒にお風呂入りましょうね」

こころあ「うん!」

あんじゅ「絵里ちゃんの電光石火が決まったね」

にこ「明日は日曜日だから良いんじゃない? たまにはにこにー離れも必要だわ」

絵里「何を言ってるのよ。にことあんじゅは強制的に泊めるに決まってるじゃない」

絵里「今日は久々に姉妹六人が全員揃ったのよ? 離れたら意味がないわ!」

あんじゅ「絵里ちゃんが燃えてるね」

にこ「やれやれ。うちの長女はこういうことになると穂乃果みたいに猪突猛進ね」

あんじゅ「自分に素直っていうのはとっても良いことだよ。人生輝いてるって感じで」

にこ「ま、そうかもね」

あんじゅ「ということで今日はにこと一緒にお風呂入ろうっと♪」

にこ「……脈絡が全く関係ないけど、たまにはにこの背中を洗わせてあげるにこ!」

あんじゅ「真っ赤になるくらい洗うね★」

にこ「怖いわよ!」

絵里「それでね、亜里沙に紹介したい子が居るのよ」

亜里沙「もしかしてSMILEの海未さんと穂乃果さん!?」

こころ「それだけじゃないんだよ」

ここあ「もうひとりいるの!」

亜里沙「もう一人?」

絵里「同い年の子では日本で初めての友達になるかもしれないわね。亜里沙が通う中学校の子なのよ」

亜里沙「楽しみ!」

絵里「じゃあ、リビングに行きましょう」

亜里沙「うん!」

ここあ「ここああんないするー」

こころ「じゃあ、こころさきにいっておしらせするー」

にこ「たまにはこんな休日も悪くないわね」

あんじゅ「幸せだよね。時間って平等なのに一緒に過ごす人が居るだけで掛け替えのない価値が生まれる」

あんじゅ「私、すっごく幸せ。生まれてきたことを毎日感謝しちゃうくらいに幸せ」

にこ「あんじゅ」

あんじゅ「うふふ。さ、私達もみんなに続こう!」

にこ「ええ。眠るまでずっと幸せな一日にしましょう」

あんじゅ「うん!」

――その晩 雪穂の部屋 雪穂ダイアリー

久々に日記を書きます。前回書いたのがお姉ちゃんがSMILEに入る頃なので、けっこう空いちゃいました。

どうして日記って毎日書こうと思う割りに次の日から書かなくなっちゃうんだろう?

多分だけど、日記を書こうとして書くことがないというのがまるでその日を全否定する行為に思えるから、なのかな?

毎日の積み重ねがあるからこそ、今日という私が居る。

なんて、小難しいことを書いてテンションを落とそうとしてる私が居ます。

今日はなんとロシア育ちのクォーターの亜里沙と友達になりました。

SMILEの絵里さんの妹で、絵里さんと違ってすっごく小柄で守ってあげたくなる雰囲気なの。

海未さんは「穂乃果と似た雰囲気ですね」とかズレたことを言ってた。

お姉ちゃんを守りたいなんて奇特なことを言うのはお姉ちゃんの幼馴染である海未さんとことりさんだけだと思う。

亜里沙は老若男女関係なく誰もが守りたいって思うくらいな子なんだよ。

だけど、にこさんとあんじゅさんの話によると絵里さんを加入させる為に去年、単身日本に来たんだって。

中学二年生でたった一人姉の為にロシアから日本へ。

……その話を聞いた時、一人の妹として凄いなって尊敬出来た。

だって、私だったら流石に無理だと思うし。

北海道とか沖縄くらいならなんとかなっても、海外に一人で行くなんて怖くて仕方ないから。

そうそう、亜里沙は音ノ木坂を目指してるんだって。

私の家はお婆ちゃんもお母さんもお姉ちゃんも皆音ノ木坂だから、必然的に私も音ノ木坂に入るつもり。

別にお姉ちゃんが居るから音ノ木坂に入るつもりじゃないからね?って、誰に言い訳してるんだろう。

スクールアイドルになりたいって可愛いのに綺麗と表現したくなる笑顔で私に告げた。

その時、絵里さんに今度商店街のハロウィンイベントでライブをするから一緒に踊らないかって誘われちゃった。

小さい子が参加するのから、大人まで自由に参加出来るんだって。

楽しそうだから参加してみようかなって思ってます。

ダンスなんて学校の行事でするものしか経験がないけど、お姉ちゃんが出来るなら私だって出来る筈!

それでは、今日はこの辺で終わります。

亜里沙が編入するクラス。どうか私と同じクラスになりますように!

◆学園祭ライブ練習中◆

ツバサ「ラブライブ優勝で少しは調子に乗っちゃったりするかなって心配してたんだけど、そんなことなかったわね」

英玲奈「ツバサは無駄に考えを巡らせる。私は最初から心配等していなかった」

ツバサ「更に高みを目指そうと動きに磨きが掛かるなんてね」

英玲奈「現状に満足していたら来年はことりにリーダーの座を奪われかねない」

ツバサ「んふっ♪ それは望むところね」

ことり「あの、そういうことは本人が居る所で話すべきことじゃないんじゃ?」

ツバサ「ことりさんは発破掛ける方が伸びるでしょう?」

英玲奈「プレッシャーを自分の前にある壁を越える波にする。ことりの強さの一つ」

ことり「二人して買いかぶり過ぎ。私は日陰でのんびりするタイプだから」

ツバサ「あら、それってA-RISEが日陰的存在だって言いたいのかしら?」

ことり「違うよ! ツバサさんと英玲奈さんは私にとっては太陽だから」

英玲奈「月と称されることはよくあるが、太陽と言われたことは一度もないな」

ツバサ「私はあるけど、本物の太陽に並ぶ逸材を知っている。だから私は星の方がいいわ」

ツバサ「それに、ファンの人達がくれるサイリュームも夜空を遍く星のようで、一体感が生まれるわ」

英玲奈「それにしては随分と光が強いようだが?」

ツバサ「星の持つ明るさと距離によって輝きが違うんだからいいじゃない」

ことり「素直に太陽でいいと思うけど」

ツバサ「どうやら練習メニューをもっとハードにして良いみたいね」

ことり「ぴぃっ!」

英玲奈「それは大人気ない。が、完成度をより上げるにはそれもありだ」

ことり「なしだよ! だって、今回の学園祭で新曲連続で公開するんだよ? 覚えるのだけでも精一杯です」

ツバサ「しっかりと付いてきてるんだからもっと自信持ちなさい」

英玲奈「ことりの存在は芸能科の生徒には大変刺激的らしい。弱音を吐いている暇はない」

ツバサ「それもそうよね。被服科の特待生が芸能科を差し押さえてメンバーに居るんだもの」

英玲奈「何かあれば私達に言ってくれ」

ことり「大丈夫」

ツバサ「それもそうね。私と英玲奈二人では成し得なかったラブライブ優勝を見事果たせたのだから」

ツバサ「これで絡むようなお門違いの思考をした子はここには居ないわよね」

英玲奈「UTXは一貫した実力主義。そういう考えをしている者が居れば自然と辞めているだろう」

ことり(そう言えばアンチ先輩と一緒に居たリボンの先輩ってあれ以降見てないなぁ)

英玲奈「実力と上を目指す強い想い。そして何より信念がなければステージには上がれない」

ことり「あの、私は?」

ツバサ「私もそれに同意するわ。でも、もっと多くの機会があればって思うの」

英玲奈「多くの機会とは?」

ことり(私は全部揃ってなんてないんだけど……)

ツバサ「ことりさんだって運命が交わらなければ発見することが出来なかった訳でしょ?」

ツバサ「生徒数に関係なくスクールアイドルになれるのは極僅か。だけど、それだけが道じゃないと思うの」

ツバサ「スクールアイドルを経由せずともアイドルや芸能人になる人は当然居る。その為のチャンスをもっとあげたい」

英玲奈「劇場をもっと有効活用させたいということだろうか?」

ツバサ「ええ、こういうのは生徒会が考えることだと思うんだけどね。ことりさんはどう思う?」

ことり「私、ですか?」

ツバサ「ええ。どう思うか、率直な意見を聞きたいの」

ことり「私もツバサさんと同じ意見。強い信念を持って芸能科で私以上に努力してきた人達が居ます」

ことり「自分という存在を光り輝かせる為に本当に努力して、努力して、努力して……」

ことり「上手く言葉が纏まらないけど、今よりも多くの機会があって当然かなって思うの」

ツバサ「そうよね。私達が在校してる時点で変われるなんて思ってないけど、変えていけたら最高よね」

英玲奈「こういう発想を口に出来ることがツバサのカリスマ性だろうな。そして、それに同意出来たことりも」

ことり「私はそんなんじゃないよ!」

ツバサ「んふふっ♪ さ、そろそろ練習再開しましょうか。完璧なライブにしないとね」

英玲奈「ああ。来てくれたお客さん全てを満足させる出来栄えにしよう」

ことり「そうだね!」

ツバサ「特にことりは二日目に音ノ木坂に遊びに行きたいって余裕発言をするくらいだものね」

英玲奈「それ程自信があるということだろう」

ことり「穂乃果ちゃん達がカレー屋さんするから是非って誘ってくれたから」

英玲奈「完璧にこなせていれば何も問題はない」

ツバサ「去年の私達にはない心のゆとり。からかうつもりじゃないけど、本当に大きな器よね」

ことり「そんなことないよ!」

英玲奈「デザイナーとしてかアイドルか。将来どちらでその名を馳せることになるのか。それが今から楽しみだ」

ツバサ「面白いわね。英玲奈、賭けでもする?」

英玲奈「やめておこう。どうせ同じ方に賭けることになる」

ことり「それってどっちなんですか!?」

英玲奈「ふふ。秘密だ」

ことり「ツバサさんはどっちに賭けようって思ったの?」

ツバサ「英玲奈が秘密にするんなら、当然私も秘密♪」

ことり「二人してからかわないでよぉ~」

英玲奈「いや、両方を叶えるということもありえるか」

ことり「ありえないから!」

ツバサ「自分で自分の可能性を潰しては駄目よ。夢は大きく持てばそれだけ自分を成長させてくれる」

ツバサ「夢ほど素敵なものなんてこの世界には多くないのだから」

ことり「……夢」

ことり(卒業しちゃう前にアンチ先輩と一緒の舞台で歌えたら良いな。これが私の今の夢の一つです)

◆切っ掛け・真姫ダイアリー part2◆

今日ママに音ノ木坂ではなくUTXに入学したいと思っていることを伝えた。

本当の意味では初めて言った我が侭かもしれない。

だからだろうけど、今だ胸のドキドキがしている。

ママにはあんな強気の言葉を返したけど、これまでこんなにも不安になったことはない。

学力面で自信はあるけど、メンタル面は強くはないんだってことを今回の件で改めて知らされた。

UTXに入れば私も南ことりの様に強くなれるのかしら?


日記を読み返したら、物語風に締めて続きを書いていない。

その後に日記を書いてたのがママにUTXを受験することを報告した日。

受験が忙しかったからって我ながらあんまりだと思う。

無事にUTXに入学も決まったことだし、これからは毎日とはいかなくても数日毎に書いていきたい。

記念日でもあるし、物語風に書いてた日記の続きを書いておこうと思う。

自転車の練習は何度も転んで何度も諦めそうになった。

その度にまこちゃんへの返事を思い出し、小学生の時とは違って強い意思で立ち向かう。

なんて、過ぎた今だから書けることで、実際はサポーターとか付けててても痛くて嫌になった。

それでも夏休みが明けてから、今度は私から誘うという目標がより力を与えてくれる。

目撃者の数を極力減らしたいから、自転車の練習の為に明朝に行っていた。

お陰で練習後の勉強は午後になるまで余り頭に入ってこなかった。

悔しさと痛みが溢れていたから……。

頭脳は自分で言うのもなんだけど、とても優秀だ。

大学は女子医大に入り、将来的にはお医者さんとなってパパの跡を継ぐのだから優秀でないと話にならないんだけど。

運動神経の方は余りよろしくはない。

元看護婦のママから病院は体力勝負ということで、筋トレをするように言われてる。

だから体力面には少しだけ自信あり!

……うん、そんな風に言える程じゃない。

元々が普通の子よりも体力が低かったから、今だって普通に届くかどうかくらいだもの。

結局、私は小学三年生の頃から成長していなかった。

再び自転車に乗ることを諦めたの。

だって、何度も何度も練習したって上手く乗れないんだもの!

諦めてから夏休みが明けるまで、逃げるようにピアノを弾いた。

得意な曲でも度々失敗することもあり、今思うと相当参ってたんだと思う。

特にまこちゃんからメールが来る度に返事をする指が震えた。

罪悪感とまた逃げ出したことに泣きたくなったし、堪えられずに泣いて以降はずっと泣くことになった。

夏休みが明け、無駄に小麦肌になった生徒も居る中、まこちゃんは白い肌のまま。

それを見て何故か私はほっとした。

帰りのHRが終わり、まこちゃんが変わらない笑顔のまま私に声を掛けてきた。

だけど、私はそっけない返事をするだけで目を逸らすことしか出来なくかったわ。

すっごい臆病でこれほど自分を嫌いになることがあるなんて思いもしなかった!!

私だったらそんな相手に声を掛け続けるなんて絶対に無理!

それなのに、まこちゃんは気にしないみたいに、度々声を掛けてくれた。

元々毎日話す間柄という訳でもなかったから毎日ではなかったけど、気に掛けているのは感じていた。

十月も半ばに近くなって、漸くもう一度だけチャレンジしようと臆病な自分と向かい合った。

睡眠不足になるくらい追い詰められてたから、他に選択がなかっただけでもあるんだけど。

そのお陰というのも変な話だけど、無駄に緊張していた力が抜けて「えっ?」と声を漏らすくらい簡単に乗れた。

ごめん、少し美化したわ。

ふらふらとしてたけど、今までと違ってきちんと乗れた。

補助輪付きの自転車に乗ったことがない私にとって、人生初の自転車を運転出来た。

あの時の喜びは寝不足だったことを忘れるくらいのインパクトがあった。

一度止まってから再びこぎ始めた。

先ほどと同じふらふらとはしてたけど、きちんと乗れたの。

でも、寝不足だった所為で正常な判断というものが出来てなかったのね。

ま、これもお陰というには迷惑を掻けちゃったんだけど、お陰で私の目標が出来たから許して欲しい。

私は南ことりと出逢うことになる。

この時は知らなかったんだけど、UTX学院の学園祭二日目。

私は嬉しさの余り、まこちゃんから電話だから今日はここまでにしておくわ。

◆花陽と凛の生きる道◆

凛「かよちんすっごい! これなら音ノ木坂に入ったら陸上部でもやっていけるよ!」

花陽「凛ちゃんってば大げさだよ」

凛「本当だってば」

真っ直ぐな笑顔が眩しくて、太陽を直下した時のように思わず目を瞑ってしまった。

今日は夏休み最終日。

私も凛ちゃんも夏休みの宿題は計画的にやっておいたのでもう既に終わってる。

ううん、UTXに進学することを伝えるっていう最大の宿題がまだ残ってる。

話さなきゃ話さなきゃと思えば思うほど、言葉が出なくなっちゃう。

こういう意気地のないところが昔からまるで成長していない。

アイドルだったらこういう時こそ自ら前に出て、ハッキリと自分の想いを告げるんだろうなぁ。

『ファイトだよ!』

ことりさんがファーストライブでくれた言葉。

臆病な私にはとっても勇気を与えてくれる優しくて元気になる魔法。

凛「かよちんはやる気さえ出せば誰にも負けないにゃ♪」

花陽「は、花陽は……全然だよ」

凛「凛はかよちんが自信を持てば無敵だって思ってるよ。アイドルでだってナンバー1になれるよ!」

本気で言ってくれるのが分かって、だからこそ泣いちゃいそうになる。

涙をグッと堪えて覚悟を決める。

今日という日に言えなければ、きっと私はUTXへの入学を諦めると思う。

お母さんとお父さんにも、先生にも絶対に言い出せない。

真っ先に凛ちゃんに伝えたいと思ったのは私だもの。

何度も繰り返すことりさんの魔法。

そして、凛ちゃんがくれた今までの魔法の数々。

一人では何も出来ない私が初めて一歩を踏み出す勇気を下さい。

花陽「凛ちゃん。あのね、その……大切な話があるの」

凛「なになに? 凛と一緒に陸上部に入る決意しちゃった? そうだったら嬉しいな」

花陽「――ごめんなさい!」

凛「え、何が?」

花陽「花陽は音ノ木坂学院にはいけません」

凛「どっどういうこと!? もしかしてかよちんのお父さんがリストラされちゃったとか!」

花陽「ううん、違うよ。そうじゃないの」

思わず俯いてしまう。

『苦しい時こそ姿勢を正して前を向こう』

凛ちゃんの一番の魔法が臆病な私を打ち砕く。

姿勢を正して前を向いた時、今まで感じたことのないくらいの恐怖から涙が零れた。

凛「なんで泣いてるの? どうして音ノ木坂にいけないの? 凛、バカだからきちんと説明してくれないと分からないよ」

花陽「あのね、私UTX学院に進学したいの」

酷い涙声できちんと伝わったかも分からない。

それでも言い終わった時に足がおかしいくらいにガクガクと震えた。

凛ちゃんに伝えられたという気持ちより、伝えてしまったという心境。

凛「UTX?」

花陽「私やっぱりアイドルになりたい。なれなくても、せめて努力はしたいの」

凛「」

花陽「凛ちゃんは花陽のこと応援してくれる?」

凛「――」

凛「もっ、もちろんだにゃー! かよちんの夢を誰よりも応援してきたのは凛だもん!」

今の凛ちゃんがどんな表情をしていたのか、視界が涙で歪んでいた私には分からない。

それでも、声も普段通りだというのに凛ちゃんが泣いているのが分かった。

なのに凛ちゃんは私を応援してくれると言ってくれた。

私は凛ちゃんのこの応援に応えられる存在になりたい。

スクールアイドルになりたい。

凛「かよちんは世界で一番素敵な女の子だもん。絶対にアイドルになれるよ」

凛「例え高校が別々になっても家は近くなんだし、これからも変わらないよ」

花陽「そうだよね」

凛「うん」

蝉にも負けないくらい長い間、私は泣き続けた。

凛ちゃんはそんな私の頭をずっとなで続けてくれた。

だから余計に、涙は止まらなかった。

私、絶対にスクールアイドルになるからね。

◆笑顔が調味料なカレー屋さん・開店前◆

あんじゅ「幸せ届けるキュートなお店。にこの笑顔が調味料なカレー屋さん開店だよ♪」

にこ「まだ開店してないわよ」

海未「今日のあんじゅはとてもテンションが高いですね」

穂乃果「笑顔がいつもの五割増しで輝いてるよね」

絵里「それほどにこのカレーが好きで、多くの人に食べてもらいたいんでしょ。可愛い妹じゃない」

あんじゅ「にこの一番の得意料理だしねっ!」

にこ「私の一番得意なのはチーズハンバーグなんだけど」

あんじゅ「真実は人の数だけ存在するんだよ★」

穂乃果「おぉ~子供探偵を真っ向から否定したね」

海未「唯一無二なのは真実ではなく真理ですから」

絵里「こうしてお店を出せるのは海未と穂乃果が入部してくれたお陰ね」

海未「初めの内はにことあんじゅを恨んだりもしましたけど」

穂乃果「私は皆に感謝してるよ! ことりちゃんに絵を見てもらってるから、来年には美術が得意科目になってるかも!」

海未「穂乃果のその心意気だけは買います」

あんじゅ「一日寝かせたカレーに予算の殆どを費やしたお米!」

あんじゅ「今回使用するお米は都内の小中学校の給食で一番採用されてるお米なんだよ」

にこ「お米をもっと安くして、良いお肉使いたかったんだけど」

あんじゅ「家庭の味を再現してるんだからいつものカレーじゃないと駄目だよ!」

あんじゅ「ブログで魅せたあのカレーがここにはある! って、ファンの子が大勢やってくるんだから」

海未「本当にあんじゅのテンションが凄いですね。やる気モードの穂乃果にも劣らない感じです」

穂乃果「いくら穂乃果だってあんなにテンション高くなったりはしないよー」

海未「自覚がないところが穂乃果の恐ろしいところです」

絵里「ふふっ。自分に素直になれるのは魅力の一つでしょ?」

海未「甘やかし過ぎです」

絵里「そんなことないわよ。ねー」

穂乃果「ねー♪」

あんじゅ「SMILE全員が大正浪漫溢れる和風衣装!」

絵里「そういえば、どうして衣装が大正時代なのかしら?」

海未「確かカレーライスの原型が出来上がったのが大正時代だった筈です」

穂乃果「海未ちゃんって本当に物知りだよね」

海未「たまたま知っていただけですよ」

あんじゅ「最後の一杯を注文した方にはにこにー団扇をプレゼント!」

にこ「もう秋なんだけど……というか、恥ずかしいから身内でそういう品を作らないで」

あんじゅ「スクールアイドルがそんな些細なことで照れてちゃ駄目駄目だよ」

穂乃果「あぁ~穂乃果もブービー賞として、最後から二番目のお客さんに海未ちゃんうちわ用意すればよかったー」

海未「そんな物を作っていたら二度と口を利かないところです!!」

海未(にっこにっこにーってあんじゅが使うのがそもそもおかしな話です)

海未(あんじゅなんですからあんあんあー……っ!?)

穂乃果「どうかしたの? 海未ちゃん顔が赤いよ?」

海未「何でもっないです!」

にこ「本当に学園祭でカレー屋をすることになるなんてねぇ」

あんじゅ「頑張ってフラグ立ててたからね。言霊のある国に生まれてあんじゅ幸せにこ~♪」

絵里「なるほどね。じゃあ、私も言霊を使おうかしら。海未と穂乃果も妹入りしますように」

にこ「あんたはどれだけ妹ハーレム広げたいのよ!」

絵里「ハーレムなんて俗な言い方しないでよ。人類皆姉妹っていうでしょ?」

にこ「言わないわよ。こんなのが生徒会長とかやってる時点で音ノ木坂に未来はなさそうね」

穂乃果「不吉なこと言っちゃダメだよー。絵里ちゃんの跡は海未ちゃんが引き継ぐから安泰だよ」

海未「勝手なことを言わないでください」

あんじゅ「でも、海未ちゃんってSMILEで一番のしっかり者だもんね。生徒会長が似合うと思うよ」

絵里「えっ、私が一番じゃないの?」

にこ「自分の発言を顧みなさいよね」

絵里「にこぉ」

にこ「そのにこの真似やめなさいよ!」

あんじゅ「にこにこ~♪」

にこ「あんたもわざと便乗するんじゃないわよ! というか、私そんなこと言ったことないでしょ」

穂乃果「うみうみ~♪」

海未「穂乃果っ!」

あんじゅ「良い感じにリラックス出来たことだし説明していくね」

海未「お願いします」

あんじゅ「最初のお鍋は一日寝かしたカレー! 二日目は一日目より美味しい!」

にこ「説明になってないわよ」

あんじゅ「ブログでも宣伝したように、先着順になるけど、なくなるまでは一日寝かしたカレーが出ます!」

穂乃果「十時って中途半端な時間からいきなりカレー食べにくる人って居るのかな?」

絵里「ファンの数人は来てくれるんじゃないかしら。本格的に込むのは十一時半過ぎだと思うわ」

あんじゅ「二人とも甘いよ! そんな考えじゃニコ屋の店員は務まらないニコ!」

海未「名前が変わってるのですが」

あんじゅ「長い名前よりニコ屋の方が言い易いでしょ?」

にこ「人の名前使うなら私に許可取りなさいよ」

あんじゅ「それでね」

にこ「ってスルー!?」

絵里「この流れも随分と懐かしい気がするわね」

穂乃果「穂乃果は初めて見た」

あんじゅ「朝一から多分多くの人が朝食を抜いて来店すると思うの。ここに来るまでの出店でお腹を刺激されながら」

絵里「生徒数の少なさからそんなに多くの出店が出せる訳じゃないけど」

あんじゅ「直ぐにお出し出来るように今から微熱で温めておかないとね!」

海未「鍋を温める時に微熱という単語を使う人間を初めて見ました」

穂乃果「普段から料理してなくても普通は使わないよね」

にこ「テンション上がり過ぎて正常に回ってないのよ。あんじゅがミスしないように気を配ってね」

海未「分かりました」

絵里「レジ係は絶対に任せちゃ駄目ね」

にこ「ええ、レジ係は絵里と海未の二人に任せるわ」

あんじゅ「そしてこっちの鍋が今朝作ったカレーです!」

にこ「全員その場に居たんだから知ってるわよ。あんた、少し仮眠取ったらどう?」

あんじゅ「カレーを前にして眠るなんてありえないよ!」

にこ「訳が分からないわよ」

絵里「混乱してるから私が引き継ぐわね。基本的に休憩時間は有志の手伝いの人が来てくれた時になるわ」

絵里「とはいえ、ファンの人がわざわざ足を運んでくれる訳だから私達が揃ってる方が良いと思うの」

絵里「だから休憩は食事休憩程度の短い時間帯で乗り越えてもらうことになるわ」

海未「元々そのつもりです。というか、お客さんが空いた時に食べれば移動すらしなくて済みますし」

穂乃果「そうだね! 手軽に食べられるようにって、今日は穂むら特製お饅頭をお父さんが沢山容易してくれたんだよ」

にこ「後でお礼にいかなきゃいけないわね」

あんじゅ「私が言おうと思ってたことエリーちゃんが言っちゃった」

にこ「よしよし。あんたはとにかく失敗しないで今日を乗り越えることだけ心配してなさい」

あんじゅ「にこっ!」

にこ「にこにこっ!」

絵里「何だかんだ言ってにこも少しテンション高いわね」

海未「というか、昨夜あんじゅが煩くて全然寝かせて貰えなかったらしいですよ」

穂乃果「あーあんじゅちゃんのテンションは寝不足からもきてるんだねぇ」

絵里「あんじゅとにこファンには悪いけど、三時くらいにどこかで仮眠取らせて貰った方がいいかもしれないわね」

にこ「にこは大丈夫よ。体力には自信があるんだから」

絵里「最後に加入した穂乃果より体力ないでしょうが。妹は素直にお姉ちゃんの言うことに従いなさい」

にこ「本当に辛くなったら言うから、強制的な撤退はなしにして。ファンの為に頑張れないなんて寂しいもの」

絵里「……きちんと自己報告するのよ?」

にこ「SMILEとファンに誓うわ」

絵里「ならいいわ。だけど、遠慮せずに言ってね?」

にこ「大丈夫よ。一番心配なのはにこよりあんじゅでしょ」

あんじゅ「私はにこと違って本当に体力あるから大丈夫だよ♪」

海未「確かに普段は体力はあるのですが、そのハイテンションではどれくらい持つのか不安でしかありません」

穂乃果「でもこういう不安がある方がイメージしてた学園祭って感じがして私は楽しみだなー」

絵里「不謹慎だけど私も若干楽しいわ。去年はクラスの出し物とライブだけだったからそういうドキドキってなかったし」

海未「気持ちは分からなくはないですが……」

にこ「今日は一日楽しんだもの勝ちよ。来てくれるファンや普通のお客さんも楽しませれば最高の一日ね」

あんじゅ「なんせ夢にまでみたカレー屋さんだもん! 将来の予行練習だねっ」

穂乃果「将来? にこちゃんとあんじゅちゃんはカレー屋さんになるの?」

にこ「なるか! あんじゅが勝手に言ってるだけよ」

あんじゅ「フラグは立てておけば運命が勝手に回収してくれるんだよ」

海未「あんじゅに押し切られてカレー屋を切り盛りしているにこが想像に容易いですね」

穂乃果「じゃあそのカレーを使ったカレー饅頭を穂むらで売って宣伝するね」

絵里「ふふっ。何だか楽しそうね。私はどうやって関わり合おうかしら?」

海未「私は関わらないので何でも良いと思います」

絵里「じゃあ、日舞とカレー屋を繋ぐ何かになりましょう」

海未「そんなものありません!」

あんじゅ「あったら素敵かも。SMILEの絆は未来もずっと潰えずに繋がっていくんだ♪」

にこ「はいはい。で、十一時くらいにはうちのおちびちゃん達と亜里沙と雪穂ちゃんが来るのよね」

にこ「面倒みてもらった上に、二人を学園祭に連れてきてもらえるなんて本当に感謝してるわ」

絵里「どちらかと言うと亜里沙も連れてきてもらう側だから、雪穂さんに感謝するという意見は同じよ」

穂乃果「雪穂は小さい子の面倒みたりするの昔から得意だからねー。特別に感謝する必要もないよ」

海未「それに責任感も強いですし、店を手伝うこともあるので気配りも上手です」

にこ「ママが仕事になった時は二人を連れてこれなくなると思ってたから、本当に感謝してるわ」

穂乃果「だから良いってば。寧ろこころちゃんとここあちゃんと遊べて喜んでると思うよ。勿論亜里沙ちゃんもね」

絵里「亜里沙が同じクラスになれたお陰で学校面でも心配が減ったし、縁は巡るものね」

穂乃果「本来だったら普通の先輩後輩な関係で終わるだけだったかも知れないもんね」

海未「縁とは本当に分からないものです。それで思い出しました。にこ、休日振り替えはカラオケに行きましょう」

にこ「カラオケ? 別にいいけど、海未から誘ってくるなんて珍しいじゃない」

海未「約一年前の借りを返しておこうかと思いまして」

あんじゅ「そっか。海未ちゃんと出会ってもう一年になるんだね」

にこ「にこの森のパンダさんに勝てると思ってるにこ?」

海未「あの時はカラオケに慣れてませんでしたし、冷静さを欠いてましたからね」

絵里「面白そうね。どうせなら皆で採点勝負しましょうよ。負けた人に罰ゲームありで」

穂乃果「面白そうだから賛成!」

あんじゅ「罰ゲームありなら絶対に負けないよ」

にこ「海未が良いなら私はそれでも構わないわ」

海未「私の辞書に敵前逃亡という文字はありません。受けて立ちます。正し、詳しいルールは私と絵里で決めます」

あんじゅ「ルール決めるの私得意だよ?」

海未「あんじゅが関わったら抜け穴だらけになりますから却下です!」

あんじゅ「残念★」

にこ「副賞として優勝者には次回の新曲でセンターっていうのはどうかしら?」

穂乃果「更に燃えてくるね!」

海未「そういう心理戦を仕掛けてくるからにこも信用がおけないんです。センターなんて恥ずかしい!」

絵里(海未を勝たせるのも面白いかもとか思っちゃったわ)

あんじゅ(ルールに抜け道あれば面白いんだけどな~)

穂乃果「一曲で決めるより複数の曲の合計の方がより盛り上がると思うんだけど、どうかな?」

にこ「駆け引きがより複雑化して面白そうね」

海未「そうですね。その方が地力の差が出ますから明確な決着が迎えられそうです」

あんじゅ「それだけでも面白いけど、特別枠みたいのがあればもっと面白くなるかも」

絵里「特別枠?」

あんじゅ「一人一曲ランダムで決まったジャンルの歌を歌うみたいな感じだね」

にこ「運の要素も兼ね備える必要がある、と言う訳ね」

海未「にこの運気のなさは異常ですから、にこが良いのなら私は構いませんよ」

にこ「誰が異常よ! にこはスピードくじ一枚買って一万円も当たったことがあるんだからね!」

あんじゅ「懐かしいね。あれも一年前の秋だったよね。思い出した、海未ちゃんと出逢う前日だよ」

海未「一生分の運をそこで使っていなければ良いのですが……」

穂乃果「にこちゃんならありえるかも」

絵里「否定出来ないわ」

にこ「どういうことよっ!」

絵里「カラオケ大会の詳しいルールは今日を乗り越えてからにしましょう。最終確認しましょう」

あんじゅ「そうだね。食券のチェックにお釣り。きちんと再確認しよう。ニコ屋に不備という言葉はなしだよ!」

穂乃果「ニコ屋に不備なし!」

にこ「……もうニコ屋でいいわよ」

※これは読み飛ばしてもなんの問題もありません。

◆くだらなくも壮絶な闘い ~Ver.邪道ポーカー~◆

――高坂家 SMILE+ことり

事の発端すら忘れてしまうくらい、白熱したポーカー対決。

顔に出易い海未の笑顔に対し、自信満々に挑んで自爆するにこのお陰とも言える。

しかし、そんなにこも持ち点が減り、無謀な特攻も出来ない状態。

天井ありだけど、その天井まで張る点数がないのでは勝負にならない。

にこ「仕方ないわね。今回は降りるわ」

悔しさを露わにするも、見事にブタである手札ではどうしようもない。

それに続くように、穂乃果とことりも降りる。

その一番の理由が今日一番の笑顔を浮かべる幼馴染。

海未「絵里とあんじゅは降りなくても良いんですか?」

カードゲームでここまで白熱した経験のない海未にとって、今日は一生の記念日になるくらい幸福な日。

穂乃果「いや~ことりちゃんが来てくれたから大盛り上がりだよ」

ことり「え~そんなことないよぉ」

にこ「そんなこともあるわ。あなたが居なければ殺伐としてた可能性が高いもの」

穂乃果「そうだね。あの三人ってば本気度120%って感じだもんねぇ」

ことり「た、確かに。凄い熱気だよね」

あんじゅ「知っている? こういう局面で最初に余裕を見せた者は淘汰されるんだよ」

絵里「その意見には同感ね。恥を掻く前に降りるのはどうかしら?」

海未「愚問ですね。最高の運気に包まれている私に、降りる等という愚かしい選択はありません!」

絵里「その余裕はアイスブルーと呼ばれた女王には通じはしないわ」

海未「女王等、蒼の神話の前では埋もれるべき存在です」

あんじゅ「にこにーの最愛の妹である矢澤あんじゅの前では全てが弱者★」

にこ「……白熱はいいけど、あの意味不明なテンションは何なのかしらね」

ことり「聞いたことがあるよ」

穂乃果「知っているの? ことりちゃん!」

ことり「うん。中二病という若い子が主に掛かる心の病気なんだって」

にこ「どんな病状なの?」

ことり「アニメや漫画のキャラクターになりきっちゃうみたいな感じかなぁ?」

穂乃果「正に今の三人がその通りって感じだねっ」

にこ「SMILEの恥だわ」

リーダーの思いを知らず、三人のテンションは極限に達していた。

海未「では私からオープンさせて頂きましょう。降れ付しなさい! 4カード!」

今回ジョーカーは一枚制限である為、海未の4カードによりポーカー最強の手である5カードが潰える。

圧倒的なまでの海未のドヤ顔。

それでも尚、絵里とあんじゅの笑顔は崩れない。

海未(手札をオープンするまでその仮初の笑顔を維持できたことを褒め称えましょう)

海未(ですが、勝負は勝負。この勝負は私の勝ちです)

絵里「さっきあんじゅが言ったでしょ? 余裕を見せた者が淘汰されるって」

絵里が見せた笑顔は仮初ではなく、蒼の神話を打ち崩す現在最強の手札。

海未「そ……そ、そんなっ!」

あんじゅ「強運。ううん、もはや剛運と呼ぶべきだね」

絵里「女王の前には神の軌跡なんて意味を成さないの。チェックメイト」

海未「私の最強の手が……破れるなんて」

ポタポタっと、海未の瞳から悔しさの余り涙が溢れ落ちる。

にこ「ポーカー如きで泣いてるわよ」

ことり「中二病とは魂のあり方。その状態で負けるということは自分を全否定されるのと同じなんです」

穂乃果「あんなに悔しそうな海未ちゃん初めてみたかも」

絵里「さ、次の勝負に移りましょう」

絵里が当然のように言った言葉。

本来であれば当然のこと。

あんじゅ「エリーお姉ちゃん。勝負はまだ終わってないよ?」

ロイヤルストレートフラッシュが二人被る事など本来ならありえない。

しかし、相手は邪道シスターズの参謀・矢澤あんじゅ。

絵里(もしかしてカードを仕組んだ? でも、ジョーカーを海未が掴んでる時点でもはや勝ちなんてない)

絵里(何にしろ、山札の中にジョーカーが眠っていない今の状態では意味がないわ)

絵里「強がりもそこまでいけば一つの特技ね。妹と言えど勝負の世界に情はなし」

絵里「だけど、今ならその手札を公開せずに負けということにしてあげるわ」

あんじゅ「知ってる? 漫画でこういう展開になった時は後手に回った方が有利なんだよ」

絵里「これは現実よ。海未のように涙を流したくないのなら退きなさい」

あんじゅ「勝てる勝負をふいにする意味がないにこ!」

絵里「本気で言ってるの? 女王の前に道はないのよ」

あんじゅ「道がなくても通るのが邪道シスターズの在り方だよ?」

バチバチと見えない火花を散らす長女と三女。

穂乃果「勝ちの目ってもうないよね?」

ことり「その筈だけど……でも、虚勢であんな強気には普通なれないんじゃないかな?」

にこ「いくらあんじゅとは言え状況が悪いわ。絵里の手がストレートフラッシュだったなら話は変わったけど」

ことり「そうですよね。それならまだ勝ちの目があったのに……」

穂乃果「でもでもっ逆に楽しみだよね!」

空いた右手で髪を弄りながら不敵な微笑みを浮かべるあんじゅ。

段々と未知なる恐怖に心を蝕まれ始める絵里。

場の空気により、悔しさから流れていた涙が止まった海未。


――決着の時が来た


あんじゅ「最強のフルハウス★」

あんじゅの手札は自分で言った通りフルハウス。

普段は強めの手であるが、そこそこの頻度で出現する存在であり4カードよりも格下。

当然、ロイヤルストレートフラッシュに及びもしない。

絵里「なんだ、ただのフルハウスじゃない。てっきりジョーカーだけの5カードでもするのかと思ったわ」

未知の恐怖から解放された絵里は、そんな風な軽口を叩く。

あんじゅ以外の誰もが今回の勝負はアイスブルーである女王絵里が勝ったと思った。

だが、未だにあんじゅの余裕の微笑みは崩れない。

あんじゅ「エリーお姉ちゃん。きちんと私の手札を見て」

絵里「何よ、何度見たってフルハウスじゃない。私の勝ちよ」

あんじゅ「言ったよね? 最強のフルハウスだって」

絵里「……なっ! これは!?」

海未「まさかっ!?」

絵里と海未が同時にあんじゅの企みに気付いた。

あんじゅ「漸く分かったみたいだね。私の勝ちだよ、エリーお姉ちゃん♪」

絵里「そうね、私の負けだわ。SMILEで行うポーカーではその手に勝る手はないわね」

海未「その様ですね。迂闊でした」

にこ「どんな手よ!?」

フルハウスに勝る手でありながら負けを認めた二人に驚き、にこがあんじゅの手を見た。

22255の普通のフルハウス。

あんじゅ「敢えてもう一度だけ言うわ。25252(最強)のフルハウス★」

にこ「くだらなすぎるわよ! この一戦の降りてから今までの時間返しなさいよ!」

穂乃果「なるほど! にこにこにー! だから最強なんだね」

絵里「これを機に私達がするポーカーは邪道ポーカーと名付けましょう」

海未「次は負けませんよ。邪道ポーカー掛かって来いです!」

穂乃果「穂乃果も最強のフルハウス作ってみせるよ!」

にこ「あんた達とはもう二度とポーカーなんてしないわよ!!」

ことり「……SMILEって色々と凄いなぁ」

こうして、無駄に白熱したポーカー対決は勝者有耶無耶で神経衰弱に移った。

終わる頃にはこうした何でもない一日もいいものだなって思うのでした。

にこ「私はそんなこと思ってないニコ!」

あんじゅ「にこってば相変わらずツンデレにこ~♪」


色々と中途半端で申し訳ないですが次回送り+今度こそハロウィン!

短いけどこっそりと再開します。

――にこの夢

あんじゅ「にこさん!」

にこ「んぅ……あ、あんじゅさん。いきなり抱き締められたら、恥ずかしいにこぉ」

あんじゅ「うふふ。ごめんなさい。だって、にこさんってとっても可愛いんですもの」

にこ「っ!」

あんじゅ「元気そうで何よりだわ。最近はA-RISEの練習が忙しいから逢えなくて寂しかった」

にこ「にこも寂しかった。でも、これは恥ずかしいってば!」

あんじゅ「いいじゃない。抱き締めて増える物はあっても減るものはないわ」

にこ「にこの精神力が減ってるニコ!」

あんじゅ「減る以上に回復してるから大丈夫よ」

にこ「回復してない回復してない!」

あんじゅ「大丈夫よ。私のにこさん分は大幅に回復してるから」

にこ「にこの分が回復してないんだってば!」

あんじゅ「うっふふ。もう、にこさんってば照れ屋さんなんだから。久々の抱擁くらい堂々として欲しいわ」

にこ「……うぅ。これが人目がまったくないならにこだってここまで恥ずかしくないわ」

あんじゅ「女の子は他の人に祝福して欲しいって思う我が侭な生き物なのよ」

にこ「にこも女の子よ!」

あんじゅ「でも私の中でにこさんはもう完全に王子様だから」

にこ「なんて理不尽!」

あんじゅ「それで、音ノ木坂のスクールアイドルの調子はどうかしら?」

にこ「ええ、こっちは順調よ。メンバーも増えて今は……うん、何人かしら。でも順調」

あんじゅ「くすっ。メンバーの数くらい把握しておかなきゃ駄目でしょ? リーダーなんだから」

にこ「そうね。ド忘れじゃ済まされない失態だわ」

あんじゅ「他のメンバーに代わりにあんじゅがおしおきにこ~♪」

にこ「にこっ!? まっ、また抱き締めるのなしよ!」

あんじゅ「だってにこさんってば柔らかくてずっと抱き締めたくなるんですもの」

にこ「いやっ、せめてあっちの人の居ない所で――」
あんじゅ「――さっきも言ったでしょ? 沢山の人に祝福されたいからダ~メ」

にこ「うぅ……にこぉ~」

あんじゅ「にこさん。今日も記念すべき一日にしましょう」

にこ「き、記念すべき一日?」

あんじゅ「だって今日は――」

ゆさゆさ……ゆさゆさ……

あんじゅ「今日は楽しい学園祭にこっ♪ ほら、にこってば早く起きて起きてっ!」

にこ「ギャーッ! ラブにこビンタっ!」

ペシーン!

――学園祭一日目 朝 矢澤家

あんじゅ「にこってば酷いよぉ~。起こしてあげたのにぶった~」

にこ「だから何度も謝ってるじゃない。寝ぼけてたのよ。恐ろしい悪夢を見てたのよ!」

ここあ「あんちゃんかわいそうにこ。にこにーぶっちゃめっ!」

こころ「あんじゅちゃんよしよし。いたいのいたいの飛んでけ~!」

あんじゅ「にこと違ってここあちゃんとこころちゃんは天使だよ~」

にこ「今日は学園祭当日で忙しくなるんだから機嫌直しなさいってば」

あんじゅ「う~るる~」

にこ「明日の為に作ってあるカレー夜に食べさせあげるから」

あんじゅ「最近のにこは何でもカレーさえ与えておけば誤魔化せるとか思ってるニコ!」

にこ(だってその通りなんだもの)

あんじゅ「私が心が広いからそれで許してあげてるだけで、別にカレーが美味しいからじゃないんだから!」

あんじゅ「だから今回もほっぺがジンジン痛いけど許してあげる」

にこ「結局カレーに負けてるだけじゃない」

あんじゅ「私が優しいからだもん。ねー」

こころあ「ねー♪」

にこ「ま、今回は完全に私が悪いから後でカレーとは別にお詫びでもしてあげるわよ」

あんじゅ「約束だよ!」

にこ「はいはい。でも、本当に赤くなってるわね。出る前に少しだけ化粧しましょう」

こころ「おけしょう! こころもしたいー」

にこ「こころはお化粧なんてしなくても十分可愛いから必要ないわよ」

こころ「ママはおけしょうしなくてもきれーだよ?」

にこ「大人は化粧と美容ケアは必需なのよ。こころが高校を卒業してから覚えるくらいで十分よ」

にこ(何よりも化粧品って量が少ない癖に馬鹿みたいに高いの多いからね)

あんじゅ「にこも今日は化粧してみたら? 学園祭の間くらいは許されるんじゃない?」

にこ「その言葉を絵里に電話で言う勇気があるならしてもいいわよ」

あんじゅ「……にこにーお姉ちゃんはそのままが可愛いにこ♪」

ここあ「あんちゃん! ここあはかわいい?」

あんじゅ「とっても可愛いよ。誘拐したいくらい!」

にこ「誘拐って物騒ね。……しかも誘拐先がどうせここだから誘拐が成立しないわよ」

あんじゅ「それもそっか。つまりこころちゃんとここあちゃんは気をつけなきゃダメだよ」

こころ「きをつけてるよ!」

ここあ「うん。しらないひとにはついていかないにこ!」

あんじゅ「偉い偉い。今日は亜里沙ちゃんと一緒に来るから安心だけど、迷子にならないようにね?」

こころ「ずっとおててつないでるからだいじょうぶニコ♪」

ここあ「あんしんにこ~♪」

にこ「とはいえ、絵里と違ってまだ日本に慣れてない部分が多いから亜里沙だけだと少し不安なのよね」

あんじゅ「にこってばダメだよ。家族を信じることもまた信頼の証なんだから。四女の亜里沙ちゃんを信じてよ」

にこ「長女の妹は私達の妹って理論は暴論極まりないけど、音ノ木坂は風紀面も良いし安心かしらね」

あんじゅ「商店街の人達も来てくれるみたいだから色んな意味で安心だよ」

にこ「明日はお婆ちゃんもわざわざ足を運んでくれるみたいだし、気合も一入ね」

にこ「そうだ、お小遣い渡してなかったわね。私とあんじゅだけじゃなくてSMILEのみんなからよ」

にこ「三千円ずつあるからなくさないようにしなさい。後、絵里と穂乃果と海未に会ったらお礼言うのよ?」

こころ「うん! にこにーとあんじゅちゃんありがとう☆」

ここあ「こんなにたくさん。ありがとうにこ~♪」

あんじゅ「学園祭だからお祭りよりは安いけど、無駄遣いし過ぎないようにね」

こころあ「はぁい!」

にこ「三人分のお弁当を作ってあるから、中庭ででも食べて。そうすれば節約にもなるしね」

あんじゅ「規模はUTXと違って小さいけど、楽しんで行ってね」

ここあ「ここあはあしたもたのしみー」

こころ「にこにーのカレーやさん!」

にこ「明日は雪穂ちゃんも居てくれるから心配無用ね」

あんじゅ「今日はUTXでA-RISEのライブ観に行くんだよね。チケットが取れたからって」

にこ「本当は穂乃果と海未の為に取ったみたいだけど、学園祭があるからって友達と行かせることにしたみたいよ」

あんじゅ「妹は常にお姉ちゃんのこと思ってるんだね。勿論私も!」

にこ「あ~はいはい」

あんじゅ「反応がおざなり~。そういえばさ、にこは今日どんな夢みたの?」

にこ「ドタバタで半分以上忘れたんだけど、あんたがUTXの制服着てて、しかもA-RISEのメンバーとか」

あんじゅ「私がA-RISE? 似合わないよ」

にこ「そんでもって…………なんかとても理不尽な間柄だった気がするんだけど、忘れちゃったわ」

あんじゅ「何それ! あんじゅってば打たれ損にこぉ」

にこ「しょうがないでしょ。それよりもほら、化粧するんだから早く食べちゃいなさい。もう直ぐ出る時間よ!」

あんじゅ「はぁい! 今日は皆にとって思い出に残る一日にしようね☆」

にこ「当然よ!」

――音ノ木坂学院 部室

にこ「今日の作戦を最終確認するわ。まずは絵里!」

絵里「私は一年生の出し物を中心に回っていくわ」

にこ「生徒会長という立場だから安心感もあるし、年下大好きの絵里には適任よね」

絵里「別に年下が好きな訳じゃないわ。失礼な妹ね」

海未「そう思われても仕方ないのではありませんか? 現に私も姉と呼ばないかと誘われましたし」

絵里「妹と年下は関係ないじゃない。にこもあんじゅも同い年なのよ?」

穂乃果「よくわかんないけど、絵里ちゃんがちょっと変わり者だってことは分かったよ」

絵里「」

あんじゅ「うわぁ。穂乃果ちゃんの言葉はエリーお姉ちゃんのハートを一撃粉砕レベルで傷つけたね」

にこ「忙しいから次は海未!」

海未「私は室内系の運動部の方を重点に回ります」

にこ「海未はしっかりとしているから安心して任せられるわ」

海未「その信頼には応えてみせますよ」

にこ「次は穂乃果ね」

穂乃果「はいはーい! 私は外の運動部を回る予定だよ。外には屋台も出るし。クレープは要チェックだね♪」

にこ「……海未、悪いけどなるべく外の方も気にしておいて」

海未「ええ、最初からそのつもりですから安心してください」

あんじゅ「海未ちゃんと穂乃果ちゃんは支え支えられての素敵な関係だね。私とにこみたい」

にこ「ええ、間違いなくあんたが穂乃果で私が海未のポジションね。自覚あるならもう少ししっかりしなさいよねぇ」

あんじゅ「とか言って~。私が何でもこなすようになったら『少しはにこに頼りなさいよね』とか言うんだよねっ★」

にこ「手が掛からないのならそのまま放逐するわ」

あんじゅ「にこってば酷い。あ、酷いと言えばにこってば今朝起こしてあげたのに私のことぶったんだよー」

絵里「DV!? 妹に手をあげるなんて姉失格よ!!」

穂乃果「おぉ~。絵里ちゃんの目に炎が浮かんでる」

にこ「それは私が悪かったって謝ったでしょ。時間がないんだからぶり返さないの」

絵里「にこは今という時間と自分が犯した罪のどちらが重要だと思ってるの!?」

海未「そうですね、手をあげるというのは親しくても余程のことがない限りしてはいけない行為です」

あんじゅ「あ、ごめんね。そんな大層な問題じゃないんだよ。にこが寝ぼけてただけだから」

にこ「寝ぼけてたっていうか、悪夢から目覚めたらそこに悪夢の続きがあったみたいに誤解して手が出ちゃったのよ」

絵里「そういうことなら今回だけは許すけど、妹は大切にしないと駄目だからね?」

穂乃果(……今日の夜にでも雪穂には絵里ちゃんと余り話さないように念入りに注意しておかなきゃ)

海未(どうやら穂乃果がまた変なことを考えてますね。どうせ雪穂への口止めとかその辺でしょう。やれやれ)

にこ「あんじゅは美術部周辺でいいのよね?」

あんじゅ「うん! ポスター製作でお世話になってる分は客引きで恩返しするよ。ステキナバショヨ。クルヨロシ」

にこ「何で片言なのよ。怪しすぎるわ! っと、本当に時間がないわね。私は主に三年生のクラスを回っていくわ」

にこ「今日の私たちは《特別派遣隊SMILE》よ。音ノ木坂の学園祭を大いに盛り上げて受験希望者を大量ゲットにこ!」

あんじゅ「あ、そう言えば学院なのに学園祭なんだよね。学院祭って呼ばれないのは言い難いからかな?」

海未「言われてみればそうですね」

にこ「そんなのは明日の学園祭が終わった後にブログなり知恵袋なりで質問しておきなさい」

絵里「今は私達が日々お世話になっている学院への恩返しすることと楽しませることを考えていきましょう」

絵里「勿論、自分が楽しめなければいけないわ。最高に楽しんで足を運んでくれた方々にも笑顔になってもらいましょう」

あんじゅ「さっすがエリーちゃん。最後はビシッと決めるね」

海未「気が引き締まりました。足元をしっかりと踏みしめて事故の起きないように注意を怠らないようにしましょう」

穂乃果「もしゴミが落ちてたら足を滑らせないように即拾うよ!」

海未「私が言いたかったのは少し違う意味なのですが……ふふ。穂乃果らしくてそれはそれで良いですね」

にこ(せっかく昨日決め台詞を考えたのに絵里に良いとこ全部奪われたわ。今日の運勢は大凶なのかしら)

絵里「持ち場はあくまで目安よ。何かあった時は連絡を密に取り合って早期解決!」

絵里「さ、にこ最後はビシッと決めて!」

にこ「――」

にこ(どうして考えてたこと全部被った後に振ってくるのよ! と、とにかく何か言わなきゃ……)

にこ「しゅつど~!」

あんじゅ「にこにー。どんまい★」

絵里「ま、にこらしいわね」

海未「やれやれ。にこはムラが多いですね」

穂乃果「声が裏返ってて可愛かったよ」

にこ「あぁ~もうっ! 可愛げの欠片もないやつらね! 学園祭一日目を始めるわよ!!」

――美術部 あんじゅ

元部員「客引きだけだって話だったのに急にこんなことお願いしちゃってごめんね」

あんじゅ「ううん。ポスターやら宣伝やらでお世話になってるからね。モデルくらい快く引き受けるよ」

元部員「いや~しかしスクールアイドル人気って凄いね。こんなに集まるなんて」

あんじゅ「SMILEは地元特化型アイドルだからそう感じるだけだよ。でも、念のための作戦が成功したね」

元部員「本当なら絵を描いて渡すとかの方がいいんだけど、人数的にちょっと無理だしね」

元部員「それを補うその場で出るこのカメラを用意するように言われた時はレトロ過ぎてちょっとって思ったけど」

あんじゅ「時代に関係なく、使える物は全て使う。それが邪道シスターズ♪」

元部員「あははっ。何そのダサいネーミング」

あんじゅ「私とにこと絵里ちゃんの三人で形勢されてる秘密組織。ただ、にこは一度も呼んだことないんだけど」

元部員「相変わらず独創的で羨ましいわ。私も絵にそういう個性が取り入れられればって思う」

あんじゅ「漫画的な絵は私好きだよ。ファンの人からも可愛いって意見多くもらうし」

元部員「アニ研だったら素直に喜ぶんだけどね。風景画専門だから嬉しいは嬉しいけどね」

あんじゅ「言葉とは裏腹に満面の笑みになってるー」

元部員「やっぱり絵のことで褒められるのは嬉しいのよ」

あんじゅ「自分が好きなことで人に認めて貰えるのって最高だもんね」

元部員「うん。スクールアイドルもそうだったら良かったんだけど……」

あんじゅ「そんな顔しないでよ。元祖SMILE一日限りの復活がもうすぐ待ってるんだから」

元部員「これだけ有名になった二人と踊るって拷問だけどね」

あんじゅ「皆が二つ返事でOKしてくれたのすっごい嬉しかったよ。にこにーなんて家で思い出して泣いてたもん」

あんじゅ「去年のハロウィンパーも記念すべき日だったけど、今年はそれ以上にこ~って」

元部員「にこ部長様はメンタル強い割りに泣き脆いところあるもんね」

あんじゅ「そこが可愛いんだよ。私の自慢のお姉ちゃんだから!」

元部員「そこでドヤ顔なのが信頼の証だね。さ、そろそろお客さんも待ってるし、記念撮影再開してもいいかな?」

あんじゅ「うん。売り上げ貢献して、部費に加算して来年度以降の入部の子が快適に過ごせるようにしないとね」

元部員「音ノ木坂貢献の数々は学院にSMILEの名を深く刻みそうだね」

あんじゅ「ラブライブの歴史にだって刻んでみせるよ。最高の私達を多くの人に見て欲しいから」

元部員「そうなれるように応援してるからね」

あんじゅ「その前に今日という日を全力で過ごそう!」

―― 一年生の教室 絵里

一年生「絵里先輩が来てくれると思いませんでしたっ。感動です!」

絵里「え、ええ」

絵里(困ったわね。廊下で会ったり、クラスを覗くだけでこうやって騒がれると邪魔しにきたのと同じになるわ)

一年生「学園祭でライブをしないのは残念ですけど、ハロウィンライブすっごい楽しみにしてます!」

絵里「ありがとう」

一年生「バザーでもライブしてくれるからバザーが開かれるのも楽しみなんですよ!」

にこ「SMILEのファンでいてくれるの嬉しいけど、今日の主役はお客様だってことを忘れちゃ駄目にこ~」

一年生「あ、そうでした。興奮しちゃってすいませんでした! 業務に戻ります」

絵里「ううん、にこの言うとおりだからこれからは気をつけてね。……にこ、助かったわ」

にこ「念の為に様子見に来てよかったわ。一年生に注意し辛いようなら三年生の見回りと変えましょうか?」

絵里「ううん。にこのお陰でさり気無い注意の仕方分かったからもう大丈夫」

絵里「それに、出し物自体そこまで多くないし大丈夫。邪道シスターズ長女だもの。しっかりと名誉挽回させて」

にこ「そういう発言しなければ海未よりも頼りに出来るんだけどねぇ」

にこ「……でも、それこそがもはや私達の長女って感じだし。頼りにしてるわよ」

絵里「ええ、エリーチカお姉ちゃんを信じなさい」

にこ「はいはい。この階は完全に任せたわ。頑張ってね、絵里お姉ちゃん」

絵里「ハラショー! 気合いを入れて頑張るわ」

――グランド 穂乃果

穂乃果「もぐもぐ……いや~クレープが上手い!」

海未「何をしてるのですか?」

穂乃果「あ、海未ちゃん。このクレープ本当に美味しいよ。一口食べる?」

海未「要りません。お昼にも早いこの時間に暢気にクレープを食べるなんて何を考えてるんですか!」

穂乃果「足を運んでくれたお客さんの気持ちになる為には味わうことが必要だよ」

穂乃果「お父さんだって朝一に作ったお饅頭はまず食べて確認することが必要だって言ってるもん」

海未「おじさんの職人としての言葉を穂乃果の言い訳に引用しないでください」

穂乃果「よく考えてよ海未ちゃん。明日はずっとカレー屋さんで働くことになるんだよ?」

海未「そうですが、それが何か?」

穂乃果「高校初めての学園祭を楽しむには今日しかないんだよ!」

海未「……何の為ににこが一日目にライブをしなかったと思ってるんですか。きちんと話を聞いてたんですか?」

海未「誰よりもラブライブに出たいという気持ちが強く、人気を上げるチャンスである学園祭」

海未「それをふいにしてでも、SMILEだけで人気を集めるのではなく音ノ木坂全体が盛り上がるようにと……」

海未「それなのにその想いを踏みにじるような行為、自分が恥ずかしくないのですか?」

穂乃果「……うぅ。そう言われると悪いことしたなーって思います」

海未「穂乃果が昔からこういうお祭り事が大好きなのは知っています。それを我慢しろというのが酷なのも分かります」

海未「ですが、どうかきちんとにこの想いを胸に刻んでください。穂乃果もSMILEのメンバーなのですから」

穂乃果「うん、ごめんなさい。じゃあ、半分残ってて勿体ないけどクレープは捨てるね」

海未「いえ、その必要はありません。クレープを渡してください」

穂乃果「え、うん。はい、海未ちゃん」

海未「いただきます。もぐもぐ……確かに美味しいですね」

穂乃果「――え?」

海未「ん……ごっくん。こうして私もクレープを食べた以上穂乃果と同罪です。罪は二人で背負いましょう」

穂乃果「海未ちゃんっ♪」

海未「学園祭二日目が終わったら二人でにこに謝りますよ」

穂乃果「うん!」

海未「謝るというのに嬉しそうな顔をしないでください」

穂乃果「えへへ! 昔から海未ちゃんは優しくて大好き!」

海未「まったく。穂乃果は都合がいいんですから。では、私は校内に戻りますので、きちんと見回りお願いします」

穂乃果「今度こそ真面目にするよ。ありがとう、海未ちゃん」

海未「どういたしまして。今日はこれませんが、ことりもライブ頑張ってます。頑張りましょう」

穂乃果「うん♪」

―― 一階廊下 にこ

ここあ「にこにー!」

こころ「みつけたにこー!」

にこ「おっと、廊下を走ったら危ないにこよ。二人共きちんとこれて偉かったわね、よしよし」

亜里沙「にこさん、こんにちは」

にこ「今日はこの子達のお守りをお願いしちゃってごめんね。大変じゃない?」

亜里沙「二人共きちんと言うこと聞いてくれるから、全然大変じゃないです」

ここあ「ここあいい子だもん」

こころ「こころもしっかりものだもん」

亜里沙「わざわざ私の分のお弁当まで用意してくれたみたいでありがとうございます」

にこ「大した物じゃなくて申し訳ないけどね。もし苦手なものとか入ってたら残すなりこの子達に食べさせて」

亜里沙「日本のご飯は何でも美味しいから大丈夫です!」

こころ「にこにーのごはんはとってもおいしいニコ!」

ここあ「きょうははんばーぐもはいってるにこ♪」

亜里沙「お姉ちゃんからもにこさんのご飯は特に美味しいって聞いてますし、ブログの記事からも期待してます」

にこ「絵里の言葉はともかく、ブログの方はうちの愚昧が大げさに書いてるだけだから変な期待しないで」

亜里沙「ぐまいって何ですか?」

にこ「ダメな妹って意味よ」

こころ「……こころだめないもうと?」

ここあ「……にこにーにきらわれたにこぉ」

亜里沙「……あ、私もにこさんの妹でもあるし、何かおかしなことしちゃったかな」

にこ「違うわよ! 三人はとっても可愛い妹よ! 愚昧はあんじゅの別の呼び方よ」

こころ「あんじゅちゃんもいい子にこ!」

ここあ「いつもあそんでくれるにこ~♪」

にこ「そうね、あんじゅも二人にとってはいいお姉ちゃんな
のよね」

亜里沙「くすっ。お姉ちゃんが言ってた通りです」

にこ「何が?」

亜里沙「にこさんは口ではあんじゅさんを悪く言うけど、誰よりも信頼してるって。今の笑顔で確信しました」

にこ「絵里がそんなことを? ……べ、別にあんじゅのことなんて信頼してないわよ」

亜里沙「それも知ってます! ツンデレってやつですよね!!」

にこ「全然違うニコ!」

ここあ「あんちゃんもにこにーはツンデレってよくいってるよ」

にこ「ぐぬぬ!」

こころ「あんじゅちゃんはどこー?」

にこ「あんじゅは多分美術部に居ると思うわ。あっちの廊下を進んで、突き当たりに美術室があるから」

にこ「絵里は三階に居ると思うし、あんじゅに顔見せしたら甘えに行ってあげなさい。凄く喜ぶから」

こころあ「うん!」

亜里沙「じゃあお姉ちゃんに会った後に、お弁当の方美味しくいただかせてもらいます」

にこ「ええ、楽しんでいってね。中庭が肌寒いようなら休憩用の教室もあるから、場所は絵里にでも案内させて」

亜里沙「今日は天気もいいので中庭で食べようねって話し合いで決めたので」

こころ「えんそくみたいでたのしみー♪」

ここあ「おそとでごはんー!」

亜里沙「私野外でご飯食べるの初めてなので楽しみです」

にこ「あ、そっか。ロシアは恐ろしく寒い所だものね。普段と違うからより美味しくなる魔法が掛かるわよ」

亜里沙「ハラショー! とっても楽しみです」

にこ「あと、亜里沙も私の妹なんだから敬語なんて使わなくていいわよ」

亜里沙「うん! ありがとう、にこお姉ちゃん♪」


ネクストストーリー……学園祭+真姫切っ掛け編の完結

◆この中に二人、――がいる!◆

――学園祭以前 二年生の教室

先生「では、今回は最後に前回の授業でやった小テストを返します。解説等は次の授業で行います」

先生「それと、不思議なことですがこのクラスには二人、同じ名前を持つ子が居るみたいです」

にこ「椎名先生ってば何言ってるのかしら。まだ若いのに可哀想ね」

あんじゅ「にこってば失礼だよ。先生って確か今年までは四捨五入すれば三十歳なんだから」

にこ「なんだ、意外と若くはないのね」

あんじゅ「流石に失礼過ぎるよ~」

にこ「ま、でも年齢を気にしすぎる人の方が一気に劣化するからね。内部から劣化する方がマシなのかしら?」

あんじゅ「椎名先生に聞こえちゃうよ」

にこ「大丈夫大丈夫。やましい気持ちがなければ例え聞こえたって構わないもの」

あんじゅ「にこってば時々無駄に自信過剰だよね」

にこ「ふっふーん!」

あんじゅ「しかも無意味な場面でのドヤ顔。流石にこにー」

にこ「にこくらいになればどんな時にカメラを回されても大丈夫なのよ」

あんじゅ「うんうん。そうだよね」

にこ「なんで痛い子を優しく見守るモードになってんのよ!」

あんじゅ「にこお姉ちゃんはすごいなー」

にこ「目が完全に笑ってるわよっ」

先生「――さて、残るは問題の名前が同じ二人ですね」

にこ(やれやれ、予想通りにことあんじゅのテストが返ってこないわね。小テストとはいえ真面目にやんなさいよね~)

にこ(あんじゅってばどんだけ私が好きなのよ。全く、懐かれるのも苦労するわ)

あんじゅ(よく分からないけど、にこが何かのフラグを立てた音が聞こえたにこ♪)

先生「本来なら高校生にもなって自分の名前を間違えるなんてミスは零点にするところです」

先生「今回は学園祭が近いので多めに見ておきます。では名前を呼ばせてもらいますね」

先生「まずは優木あんじゅさん」

にこ「――」

先生「二人目は矢澤あんじゅさん」

にこ「えぇっ! 先生っ! 矢澤にこと矢澤あんじゅじゃないんですか?」

先生「どうすればそうなるんですか。いえ、今回のあんじゅさんが二人になる意味も分かりませんけどね」

あんじゅ「うふふ。にこってば名前を改名しちゃうくらいあんじゅのことが好きなんだねぇ☆」

にこ「ちっがうわよ! そもそもあんたが矢澤あんじゅ矢澤あんじゅ言うからつい間違えたのよ!」

あんじゅ「椎名先生。にこはこのように私のことが大好き過ぎて間違えちゃったんで許してあげて欲しいにこ~♪」

にこ「人生最大の失態にこ~!」

あんじゅ「学園祭に向かってラストスパートに良い励みになるね!」

にこ「私のテンションは駄々下がりよ~!」

――隣のクラス

絵里(授業中なのに隣からあの子達の賑やかな声が聞こえてくるわね。なんで姉妹揃って漫才してるのかしら?)

絵里「……」

絵里「なんでやねん」

先生「はい? 今、誰か何か言いましたか?」

絵里「気のせいではないでしょうか? 誰も何も言ってません」

女子(今さっき絢瀬さんからありえない単語が聞こえた気がするけど……気の所為よね)

絵里(来年はにことあんじゅと同じクラスになれるといいんだけど) チャンチャン★

――学園祭一日目 UTX学院 のんたん

副会長「来場者数も去年より多いみたいだし、順風満帆ね」

希「今日は随分とご機嫌だね」

副会長「それはそうよ。生徒会は常日頃から仕事をしているけど、その結果が目に見える形で出るのはこういう時だけ」

副会長「だから私だって素直に喜ぶわ。これだけ盛り上がる学園祭は全国で他にないわ」

希「ちなみに副会長は他の学校の学園祭に行ったことあるの?」

副会長「あるわけないじゃない。そんな暇があるなら勉強でもしてるわ」

希「そういうところが副会長の憎めない可愛さやんね」

副会長「何よそれ。くだらないこと言ってないで迷子の子とか怪しい人とか見落とさないでよ」

希「分かってるって。でも、本当に来客数が多いね」

副会長「A-RISEのライブ会場入り一時間前くらいになれば更に増えるでしょうね」

副会長「過去最大になるかもね。ラブライブ優勝の効果は絶大ね」

希「確かにそうだね。音ノ木坂は大丈夫かな?」

副会長「くすっ。珍しく嫌味が利いてるじゃない」

希「嫌味やないよ。一週間ズレてれば来客数も大きく変わった筈だし」

副会長「私見としてだけど、そこまで変わらないんじゃない? あそこ生徒数が少ないから出し物も少ないんでしょ」

希「人数が少ないからって内容が悪いって考えるのは早計だよ」

副会長「オトノキは敷地が広くてもそれに見合う生徒数が居なければ逆に閑散として映るでしょうね」

副会長「私なら学園祭に拘らずに何かの催しと合併させて持て成す人数をどうにか増やして乗り切るわね」

副会長「というか、そういう努力をするのが有能な生徒会の役目でしょ」

希「自信過剰だけど発想は優秀だよね。ただ、逆に言えばそれは生徒を信じていないとも思われる手段」

副会長「学校あっての生徒なのだから、まず考えるべきは学校の繁栄でしょう?」

希「それは正しいのかもしれないけど、でもそれだけが正しさとは限らないよ」

副会長「前会長のあの人みたいなこと言うのね。少し不愉快だわ」

希「不愉快で思い出したんだけど、去年の今は生徒会から外されてたよね。副会長は何をしてたん?」

副会長「……家に居たわ」

希「サボってたの?」

副会長「熱出して寝込んでたのよ。性質が悪くて一週間も苦しんだわ」

希「ということは当日に催す側になったことはないんだね」

副会長「それが何よ?」

希「音ノ木坂の生徒会長は明日の二日目に出し物に参加するそうだよ。カレー屋さんだって」

副会長「そんな情報に何の意味があるのよ」

希「副会長も一度くらいは体験してみたらどうかなって」

副会長「私は生徒会の仕事があるのよ。……もしかして、私を生徒会から追い出すっていう遠回りの宣言かしら?」

希「副会長みたいな有能な人間を手放せる程、ウチは万能じゃないよ」

副会長「……ならいいのよ。取り敢えず出し物に出るのは興味ないわね」

希「ふぅん。そうなるとUTXの副会長は音ノ木坂の会長より経験値が低いってことになるね」

副会長「今聞き捨てならないこと言ったわね」

希「気にすることはないんよ。別に学園祭の出し物を提供する側になったことがないから劣ってるって訳でもないし」

希「ただ、学園祭の裏で準備しながら当日に出す側として参加出来るのは生徒会の準備が完璧ってことだと思うんだよ」

希「そうでなければ明日も今日と同じように、何かあったときの場合に見回りに徹してた筈だし」

副会長「つまり何、こう言いたいの? 私達UTXの生徒会はオトノキの生徒会に劣っていると!」

副会長「それは違うわよ。ただ私は万全を期す為に敢えて見回りをしているだけよ。参加しようと思えば参加出来ていたわ」

希「後出しジャンケンと一緒で今からなら何とでも言えるし」

副会長「私があんな小さい学院の生徒会長なんかに劣ってないって来年証明してやるわ!」

希(会長も副会長の性格を熟知してれば追放なんてしなくてもやっていけたんになぁ)

希(副会長の最大の魅力はここやね。分かり易いくらいに素直。簡単に乗ってくれること)

希「せやったらウチと来年一緒に何か催し物でも出よっか。生徒会長と副会長二人で出るのは信頼の証やんな」

副会長「いいわよ。あなたと一緒っていうのは正直嫌な予感するけど、でもそれで証明されるなら望むところよ」

希「それじゃあ、後からやっぱり劣ってるのを認めるから参加しないなんて取り消しはなしだからね」

副会長「口が裂けてもそんなこと言わないわ」

希「ふふふ」

希(ちょっと強引だったけど、これで夢を叶える第一歩は完了。次はA-RISE。そして、難関である音ノ木坂の攻略)

希(絵里会長は合同学園祭を検討してくれると言ってくれたけど、それを待つだけじゃ実現は難しいと思う)

希(もう一押し出来るスピリチュアルな何かを期待したいところやね。今は焦らずにいよう)

副会長「この辺も問題なさそうね。本部に連絡入れたら次の場所へ移動しましょう」

希「そうだね。そうそう、知ってると思うけど向こうの会長はスクールアイドルもやってるんだよ」

副会長「そんな暇があるのは素直に羨ましいわね。行事がなければすることないくらいなのかしら」

希「どんな学校であれ、楽を出来る生徒会なんてないよ。特に音ノ木坂は生徒会の人数も少ない」

希「それでも余裕を作れるのは効率を極め、ない筈の時間を捻出している結果だよ」

希「生徒会の人数は比べ物にならないくらい多いけど、運動したりする時間は……ウチ等じゃ無理だね」

副会長「……運動、ねぇ」

希「無理なことを勧めても時間の無駄やったね。ごめんごめん」

副会長「私は東條さんと違って運動に割く時間くらい作れるわ」

希「だったらウチと一緒に運動していこうか。先に根をあげた方が負け」

副会長「勝負する理由がないんだけど?」

希「副会長が勝ったらその時点でウチは生徒会長を降りるよ」

副会長「……そんな餌じゃパンチが弱いわ。その座はもっときちんとして手に入れるものだからね」

副会長「賭けるなら表参道にあるお気に入りのカフェで奢りくらいでしょ」

希「副会長は変なところでフェアだよね」

副会長「学校行事で意見が分かれて、それで東條さんの意見を押し通して失敗したのなら私が会長の座を遠慮なく奪うわ」

希「そうなる前に満期を迎えて、時期生徒会長になる後輩の子に座を譲ってみせるよ」

副会長「その日が訪れる前日まで私は目を光らせるからね。油断しないことよ」

希「んふふ。その前に是非とも副会長にはお気に入りカフェでウチに奢る屈辱を味わってもらいたいなー」

副会長「それは絶対にありえないわね」

希「二人して根をあげずで終わりじゃつまらないし、来年の学園祭までに根をあげなかった場合もウチの負けでいいよ」

副会長「へぇ……。じゃあ先に言っておくわ、御馳走さま。さ、無駄話はここまでよ」

希「うん、次に行こうか」

――音ノ木坂学院 三年生の階 廊下

少女「うぇーん! ママいないのぉ!」

三年生「弱ったわね。ね、お姉ちゃんにお名前教えてくれるかな? そうすれば一緒にママを――」
少女「――ママーーッ!」

三年生「お願いだから泣き止んで。おかし、そうだおかしを買ってあげるから」

少女「ママがいないー!」

三年生「一体どうすればいいのよぉ」

にこ「迷子ですか?」

三年生「あ、SMILEのにこちゃん。そうなのよー。でも、この子名前も教えてくれないし、泣き止まないしでお手上げよ」

にこ「私に任せて下さい」

三年生「助けてくれたら私のブログでSMILE絶賛するわ」

にこ「青く晴れた日に~森の中で出会ったパンダさ~ん♪」

少女「ママぁ……ひっぐ、えぐっ」

三年生「この懐かしい歌って、童謡の森のパンダさん?」

三年生(SMILEで一番歌が下手って話だったけど、凄い上手い)

にこ「元気な笑顔で~お礼の歌贈ります~♪」

少女「……パンダさん」

にこ「あなたも私と一緒に歌いましょう。二番から、ね?」

少女「うん!」

にこ・少女「大きな切り株の上~一緒に踊りましょう♪」

三年生「あっと言う間に泣いてた女の子が歌っちゃうなんて……最上級生の面子丸潰れね」

三年生「だけど良かった。泣いた烏はもう笑顔だもの。後はこの子の逸れたお母さんが直ぐに見つけるだけね」

にこ「あなたは歌が上手ね。私の名前はにこにこにーのにこちゃん。お名前教えてくれるかな?」

少女「あーちゃんはあいなっていうの」

にこ「あいなちゃんね。苗字は分かるかな?」

少女「とくい」

にこ「とくい? なんか妙にしっくりくる苗字ね。じゃなかった、とくいあいなちゃんね」

にこ「じゃあ、ママの居る所までお姉ちゃんが連れて行ってあげるから、逸れないようにおてて繋ごうね」

少女「うんっ! えへへ~にこちゃんのおててママよりちっちゃい!」

にこ「にこちゃんはこれからもっと大きくなるのよ。あーちゃんと一緒でね」

少女「あーちゃんね、ママみたいにおっきくなったら、パパとケッコンするんだよ」

にこ「そっか~。……パパに優しくしてあげてね」

少女「あーちゃんはいいこだからやさしいねって、パパいつもほめてくれるの。えへ~♪」

にこ「本当にいい子ね。よしよし♪」

にこ「先輩、悪いんですがとくいさんを放送で分かり易い中庭に今から一緒に向かう旨を伝えてもらっていいですか?」

三年生「うん、それくらいは是非私にさせて。その子の笑顔守ってあげて」

にこ「お約束します。じゃあ、あーちゃんのお歌を一緒に歌いながら歩きましょうか」

少女「あーちゃんのおうた?」

にこ「あーちゃんは今~ママと離れてるけど~笑顔で会いに行く~にこにこにーの笑顔で~ママに会いに行く~♪」

少女「きゃあっ! あーちゃんのおうたなの!」

にこ「ふふ。さ、一緒に歌いながらママの所に行くにこ!」

少女「うん☆」

にこ・少女「あーちゃんはいま~ママとはなれてるけど~♪」

モブ子「何あれ、可愛い~。背景にお花畑が見える」

モブ美「あの二人、年の差が十は離れている筈なのにそれを感じさせないのが凄いわね」

モブ江「お二人共。和んでませんであーちゃんのお母さんらしき人を探すのが先決でしょう」

にこ「ママにあいにいく~♪」

――中庭 にこ

ママ「あーちゃん!!」

少女「あっ、ママ~! まいごになっちゃだめ~」

ママ「ごめんね。あーちゃんの手を離してることに気付かなくて」

少女「にこちゃんがいっしょにおうたうたってくれたんだよ!」

ママ「ありがとうございました。それから御迷惑を掛けて申し訳ありませんでした!」

にこ「好奇心旺盛の年頃ですから、気をつけてくださいね」

少女「ママきをつけるの~」

ママ「ごめんなさい。あーちゃんも本当にごめんね。昔の友達とお話に夢中になっちゃって駄目なママね」

にこ「もしかして卒業生ですか?」

ママ「ええ、卒業したのは八年も前ですけど。この子も大きくなったので母校を見せてあげようかと思いまして」

少女「ママがまいごになっちゃったけど、がっこうたのしいよ♪」

にこ「うふふ。そっか、それなら良かったわ。あ、これグラウンドの陸上部がやっいてるたこ焼きの屋台のチケットです」

にこ「良かったらあーちゃんと仲良く食べてください」

ママ「そんなっ! ご迷惑掛けたのに更に物を貰うなんて」

少女「たこやきたべた~い♪ でも、あーちゃんたこさんはいらないの」

にこ「くすっ。中のたこさんは食べないの?」

少女「うん! だからママにあげるんだっ」

にこ「ママが受け取ってくれないからあーちゃんにあげるね。たこ焼きの屋台で出せばくれるからね」

少女「にこちゃんありがとー! ママーたこやきたべるの!」

ママ「うん、たこ焼き食べようね。本当にありがとうございます」

にこ「お礼を言われることじゃありません。あーちゃんが素直に育ってるのは両親が素敵な人だって証拠ですから」

にこ「それじゃあ、お姉ちゃんはそろそろ行くにこ。あーちゃんはママと楽しんでいってね。ばいばい」

少女「うん♪ にこちゃん、ありがとうね。ばいばーい!」

ママ「本当にありがとうございました! 母校にこんな素敵な生徒が居てとても嬉しいです」

にこ(……うちのおっきい迷子も、あの子くらい素直なだけなら可愛いんだけどねー)

にこ「くしゅん!」

にこ「……絶対に今のは愚昧に噂されて出たくしゃみね」

――UTX学院 劇場 A-RISE

ツバサ「ラブライブ優勝したあの日より完璧な出来ね」

英玲奈「自分で言うと自信過剰に思われるかもしれないが、今ラブライブの決勝だとしても絶対に優勝出来る」

ことり「でも、私少し怪しかった箇所があったから、本番はちょっと不安かも」

英玲奈「その辺は大丈夫だろう。ことりは練習の時に発揮出来ない分まで本番で引き出せるからな」

ツバサ「そうね。本番が完璧なライブになったなら、明日はSMILEが出すカレー屋さんに行って来ていいわ」

ツバサ「逆に、一つでも駄目な点があるんなら……今夜は帰れず、明日も当然練習になるから覚悟なさいね」

ことり「リターンに対してリスクが大きすぎるんですけど」

ツバサ「そうかしら? SMILEのカレー屋よ。正直、私も行きたいくらいだもの。テイクアウトはないのかしら?」

英玲奈「食中毒の問題が発生する恐れがある為、テイクアウトはないだろう」

ことり「ツバサちゃんも一緒に行けばいいんじゃない?」

ツバサ「それが出来ないから言ってるの。そうね、いい機会だからことりさんに聞かせてあげる……」

ことり(にこさんとの過去を直接ツバサちゃんが聞かせてくれた。ことりのこと本当に認めてくれたみたいで嬉しい)

ツバサ「だからにこにーに会うのは次のラブライブの本戦。それ以外であってはならないの」

英玲奈「ツバサはこう見えてもロマンチストな面がある」

ツバサ「そんなんじゃないわ」

ことり「ツバサちゃん照れてる。可愛い~♪」

英玲奈「ああ、可愛いな」

ツバサ「どうやら二人共かなり余裕があるみたいね。明日は今日とはまるで違う振り付けにでもしましょうか?」

ことり「ぴぃっ! ごめんなさい」

英玲奈「流石に今からでは厳しい」

ツバサ「だったら無駄口利かずに新曲の練習だけもう一度していくわよ」

ことり「はいっ」

英玲奈「分かった」

ツバサ「ミュージックスタート!」

――音ノ木坂学院 美術準備室 妹達

あんじゅ「くしゅっ!」

ここあ「あんちゃんかぜー?」

あんじゅ「ううん、にこに噂されただけだと思う」

こころ「にこにーはあんじゅちゃんだいすきだからうわさもおおいにこ!」

あんじゅ「そうそう。にこにーは私のこと大好きだから。こないだなんてテストの答案に矢澤あんじゅって書いてたんだよ」

亜里沙「噂とくしゃみに何の関係があるんだろう?」

ここあ「えっとね、ひとにうわさされるとくしゃみがでるんだよ」

亜里沙「ハラショー!」

あんじゅ「まぁ、日本に昔から伝わる迷信だから本当は関係ないけどね」

亜里沙「そうなんだ。亜里沙、ビックリしちゃった」

あんじゅ「亜里沙ちゃんは素直で可愛いね。エリーちゃんが妹大好きになるのもしょうがないね」

亜里沙「そう言われるとなんか照れますね」

こころあ「にこにーもいもうとだいすき?」

あんじゅ「当然だよ! にこにーお姉ちゃんはここに居る四人の妹が大好きニコ☆」

ここあ「えへへ!」

こころ「にこにーはいつもやさしくてだいすきー!」

亜里沙「亜里沙も入ってるの?」

あんじゅ「うん。にこは懐に入れた時から妹を大切にしてくれるよ。だから絵里ちゃんに対するみたいに甘えていいんだよ」

亜里沙「なんだか照れちゃいますね。SMILEにお姉ちゃんが二人も居るだなんて」

あんじゅ「待って待って。ここに居るのは言わばシスターズだけど、私も一応この中ではお姉ちゃんだから」

あんじゅ「だから亜里沙ちゃんのお姉ちゃんはSMILEに三人も居るんだよ。グループの半数以上!」

亜里沙「亜里沙感激! 早く日本にきて良かった!」

ここあ「ここあもアリーちゃんとはやくあえてうれしい!」

こころ「こころもアリサちゃんとあえてうれしいの!」

亜里沙「ここあちゃん、こころちゃん。ありがとう……亜里沙本当に嬉しい!」

あんじゅ(姉妹って本当にいいなー。家族がこんなに温かいものだなんて、にこに拾われなかったら知らないままだった)

亜里沙「勿論あんじゅお姉ちゃんとも逢えて嬉しい!」

あんじゅ「うふふ。気分がいいからこのまま休憩が終わる前に三人と一緒に出し物でもしてこよう」

あんじゅ「皆いい子だからあんじゅお姉ちゃんが遊ばせてあげるにこ~♪」

ここあ「あんちゃんとあそぶにこ!」

こころ「がくえんさいたのしいにこ!」

亜里沙「亜里沙こんなに楽しいの初めてかも」

あんじゅ「亜里沙ちゃん。その台詞はエリーお姉ちゃんの前では言わない方がいいかも」

あんじゅ「きっと今までお姉ちゃんと過ごしたロシアでの時間は楽しくなかったの? とか泣き出しちゃうから」

亜里沙「はぁーい」

あんじゅ「あとあんじゅお姉ちゃんだと長いだろうから、普通にあんじゅちゃんでもいいからね」

亜里沙「うん! あんじゅちゃん」

――UTX学院 りんぱな

凛「二日間しか開催しないのが勿体無いくらい凄いニャー!」

花陽「本当に凄いよね。生徒数が年々増えてるのも納得の盛り上がり……ちょっと人が多すぎて怖いけど」

凛「人が多いくらいで気後れしてちゃダメだよー。アイドルを目指すなら人の多さに気分を上げていかないと!」

花陽「う、うん。そうなんだけどUTXっていうのもあるし」

凛「それに来年からはかよちんが通う学校なんだし、変な気後れもなしだよ」

花陽「まだ決まった訳じゃないというか、願書もまだ出してないよ」

凛「大丈夫だいじょーぶ! 凛と違ってかよちんは成績優秀だから平気だよ」

花陽「……成績よりも、初めての面接が緊張して何も言えないかもしれないから」

凛「先生が言ってたけど、面接の練習を学校でもしていくって言ってたし、凛も練習手伝うから」

花陽「うぅ~何度やってもきっとあがっちゃうよ」

凛「凛がいつも言ってるでしょ? かよちんはもっと自信を持つべきだって」

花陽「うん。凛ちゃんが毎朝公園で発生練習手伝ってくれるから授業で指されても聞こえる声は出せるようになったし」

花陽「今の調子で受験本番までに面接でも緊張しないように、声が出るようになれればいいなって思ってるんだけど……」

凛「思うだけじゃなくて、そうなれるように頑張ろう!」

花陽「うんっ!」

凛(……でもね、かよちん。少しだけ、本当に少しだけかよちんが失敗すればいいなって思っちゃうんだよ)

凛(凛悪い子だよね。そうすれば一緒に音ノ木坂に通えるって考えちゃうんだ)

凛(ごめんね、本当にごめんね。……だって、やっぱり一緒に居たいんだよ)

花陽「凛、ちゃん?」

凛「あっ、次はどこに行こうか?」

花陽「花陽は凛ちゃんが行きたいなって思う所でいいよ」

凛「うーん、じゃあ、今度は五階の縁日に行こうか」

花陽「UTXの規模だと本物の縁日と遜色ない物になりそうだよね。ちょっと楽しみだなー」

凛「亀すくいとかあるかな? 凛は金魚より亀が得意ニャー!」

花陽「くすっ。そうだよね、いつも一回で三体くらい取っちゃうもんね。あれ、亀さんは三匹かな?」

凛「どっちでもいいよ! さ、逸れないように手を繋いで縁日にいっくよ~!」

花陽「うん! 学園祭のライブチケット取れなかった分、この悔しさを楽しさに変えちゃおう!」

花陽「あぁ゙~! でもやっぱり観たかったよ~。新曲連続披露するって話だったし、是非とも生で聞きたかった」

花陽「お母さんに携帯電話借りて、家の電話と自分の携帯電話の三つでチケット予約開始時間から頑張ったのに……」

花陽「どうして花陽の電話は繋がらなかったのぉぉぉ!」

凛「アイドルのことになると暴走するかよちんも凛は好きだにゃー。でも、注目の的になってる」

凛「か~よちん! ここだと目立つから、全てを忘れる為に縁日で遊ぼう」

花陽「ハッ! はなよってば……恥ずかしい。だ、誰かたすけてー!」

凛「あははっ。かよちんってば助けを求めたらもっと注目集めるにゃ~」

花陽「ひぅっ!」

凛「くすくすっ。取り敢えず、あっちに休憩コーナーがあるみたいだから一旦そこで休もう?」

花陽「う、うん。本当にごめんね」

凛「気にすることなんてないよ。凛とかよちんの仲なんだから!」

――音ノ木坂学院 一年生の階 廊下 絵里

亜里沙「お姉ちゃん! 遊びに来たよー」

こころ「エリちゃんだー!」

ここあ「エリーちゃんにこ♪」

絵里「三人とも無事に辿り着けたのね。ちょっとだけ心配してたのよ?」

亜里沙「もーお姉ちゃんは大げさだよ」

こころ「がっこうまでまよわずこれたんだよ」

絵里「そっか、もっと大切な妹達を信じるべきだったわね。学園祭はちゃんと楽しんでる?」

ここあ「きてからね、にこにーとあんちゃんにあってきたの!」

こころ「いろいろあってたのしいにこ♪」

亜里沙「あんじゅちゃんに射的とヨーヨー釣りさせてもらったよ」

絵里「……ふふふ。なんだか、去年の夏休みのライブが終わった後を思い出す台詞ね」

亜里沙「会長さんは元気なの?」

絵里「ええ、元気そうよ。ただ京都の大学だから学園祭に遊びに来ることは出来ないみたいだけど」

ここあ「とうきょう?」

こころ「ここあとうきょうじゃなくてきょうとだよ。きょうとはとおくにあるんだよ」

亜里沙「亜里沙も知ってる! 京都って鹿もいるんだよね!」

ここあ「シカちゃんかわいいーでもキツネさんのほうがもっとかわいい♪」

こころ「こころはうさぎさんのほうがすきにこ♪」

絵里「ふふっ。鹿がいるのは京都じゃなくて奈良よ」

亜里沙「奈良と京都は違うの?」

絵里「奈良県とも繋がってるけどね。大仏があって鹿がいるのが奈良。古都のイメージが色濃く残るのが京都ね」

亜里沙「琴って日本の楽器だったっけ? お婆ちゃまに聞いたことがあるわ」

絵里「古い都って書いて古都よ。地理の勉強は帰ってからにしましょう。こころちゃんとここあちゃんが退屈しちゃうから」

亜里沙「あっごめんね!」

こころ「だいじょぶー」

ここあ「おべんきょうはたいせつってママがよくいってるにこ」

絵里「でもにこって勉強は残念ながら得意じゃないのよね。主にあんじゅが面倒みてるからどうにかなってるけど」

ここあ「にこにーはべんきょうがすべてじゃないっていってるよ」

こころ「ママとにこにーどっちがただしいんだろうねー?」

ここあ「ねー」

亜里沙「お姉ちゃんどっちが正解なの?」

絵里「難しいわね。基本的にお母さんの言い分が正しいんだけど、にこの言うことも間違ってないのよ」

亜里沙「正反対みたいだけど両方あってるの?」

ここあ「ふしぎにこ~」

こころ「どうして?」

絵里「今はまだ難しいかもしれないけど、一つの言葉が正しいって訳じゃないの」

絵里「いくつもの可能性があったりするから面白いのよ。邪道が正解である場合だってあるしね」

絵里「小難しい話はおしまい。お姉ちゃんがケーキ奢ってあげるわ。行きましょう」

こころ「やったぁ! エリちゃんありがとー♪」

ここあ「エリーちゃんだいすきにこ☆」

亜里沙「お姉ちゃん、ありがとう!」

絵里「学園祭を思う存分楽しみましょう」

――UTX学院 A-RISEライブ後 ことり

ツバサ「文句なしの出来栄えだったわ。答えを焦らすまでもなく完璧だった」

英玲奈「やはりことりは本番に強い。練習での危なっかしい部分等微塵も感じさせなかった」

ことり「でも、デビューの時より緊張してたから、気付いたら終わってたって感じだったけど」

ツバサ「頭が真っ白でも最高の結果が残せたっていうのは、骨の髄までみっちり染み込んでる証拠よ」

英玲奈「練習してきた全てがことりの力になっているという証明でもある」

英玲奈「どれだけ苦しくても根をあげないことりだからこそ、私達は最高のライブをすることが出来る」

ツバサ「そうね。これは本気で来年はファンの間で南ことりリーダー説が流れちゃうかもね」

ことり「そんな説は流れないよ!」

英玲奈「なんなら私がブログで『南ことり下克上宣言』とでも載せれば面白いかもしれない」

ことり「ひっ! そんな嘘載せないで」

ツバサ「あら、それは素敵な提案ね。私も同じ記事にすれば完全な信頼度を誇ることになるわ」

ことり「本当にそれはやめてっ!」

ツバサ「んふっ♪ 冗談よ。でも、ことりさんが怠けることがあれば容赦なく下克上宣言しちゃうわ」

英玲奈「ことりが天狗になったり胡坐を掻くようなことが想像出来ないが、もしもの時はそうしよう」

ことり「これからも毎日気が抜けません」

ツバサ「でも、この後の打ち上げは存分に気を抜いて楽しみましょう」

ことり「うん!」

英玲奈「明日、音ノ木坂に行くのはツバサの許可が出たが遅刻は厳禁だ」

ことり「遅刻なんてしないよぉ」

ツバサ「ふふ。遅刻したら明日の打ち上げはことりさんの奢りで焼肉でも食べにいきましょう」

英玲奈「それはいい。ことり、二分の遅刻ならたまにはいい」

ことり「冗談なのに二分って数字がとっても現実的で笑えない」

ツバサ「それを現実にしない為にも、今回は十五分前行動を心がけないと駄目よ?」

ことり「うん。念の為にも音ノ木坂から走ってくるつもり」

英玲奈「明日に限りタクシーより走った方が早いか。ただ、走りすぎて疲れたという言い訳はなしだ」

ツバサ「ダンスのキレが悪かったら打ち上げの前に反省会が待ってるからね」

ことり「それは素直に嫌だなぁ」

ツバサ「んふふっ♪ 全てはことりさん次第だもの。今日より完璧にこなせば褒め言葉しか出てこないわ」

英玲奈「その時はのぼせるくらいに褒めよう」

ことり「はぅん! それはそれで嫌かも」

――にこの部屋 同じ布団にて... にこあん

にこ「ねぇ、いい加減寝かせてよ。すっごい眠いんだけど」

あんじゅ「にこが自分でぶったお詫びするって言ったんだよ?」

にこ「だからこうしてあんたが寝付くまで話に付き合ってるでしょ。でも限界よ。今何時だと思ってんのよ~」

あんじゅ「夜中の三時半だね」

にこ「夜中も夜中、真夜中よ。明日は二日目で今日より出るの早いんだからね」

あんじゅ「でも眠れないんだもん」

にこ「カレーがなくなるまで営業するから、ほとんど休憩なしになるんだから寝なさいよ」

あんじゅ「こんなに楽しみで眠れないの初めて。本当ににこのカレー屋さんが学園祭で出来るんだよ? 楽しみ過ぎ☆」

にこ「あんじゅにカレーを食べさせてしまった過去のにこを恨んでやりたいわ。割とマジで」

あんじゅ「にこのカレーを私が食べるのは素敵なディスティニーだったんだよ」

にこ「この際、不敵なディスでいいわよ」

あんじゅ「返しが雑で悲しいにこ~」

にこ「眠くて頭が回らないのよ」

あんじゅ「愛情があれば眠くても妹に対して満足良く返しが出来るよ!」

にこ「愛情を求めるなら私の体を気遣って寝かせなさいよねぇ……ふわぁ」

あんじゅ「苦しみは姉妹で分かち合うものなんだよ」

にこ「それは苦しめてる原因が自分達にない場合に使える言葉よ。元凶が言っても白々しいだけにこ」

あんじゅ「白々しいって白がいっぱいで雪みたいだよね。冬も近いし何か冬っぽい曲作ろうか」

にこ「んー、例えばー?」

あんじゅ「人肌恋しくなるから……失恋ソングとか★」

にこ「ちょっと! なんでスクールアイドルが失恋ソングなんて歌わなきゃいけないのよ!」

あんじゅ「あ、にこの元気が戻った」

にこ「変なこと言うから眠気が少し飛んじゃったじゃない」

あんじゅ「それは良かったにこ♪」

にこ「よくないわよ。失恋ソングも却下」

あんじゅ「人がやらないことをするのが私達邪道シスターズでしょ?」

にこ「ライブをするのはSMILEよ」

あんじゅ「でもにこにー真剣に考えてみてよ。私達はアイドルだから恋愛しないけど、普通の子は恋がメインなんだよ?」

あんじゅ「恋をするってことは成就と失恋は表裏一体。例え成就しても好きな相手から別れを告げられるかもしれない」

あんじゅ「スクールアイドルのファン層は基本が女子中高生。SMILEはちょっと特殊だから新曲で女子高生も獲得しよう」

にこ「……ふむ。一理どころか千里くらいありそうね」

あんじゅ(ど、どうしよう。今のってにこ流の冗談なのかな? それとも眠いから間違えただけ?)

あんじゅ(うん、今回だけはスルーしてあげよう)

にこ「明日の打ち上げの席で海未に話てみましょう。でも、恋愛ソング以上に難しそうね」

あんじゅ「そうだね。リアルな繊細さを表現した詩にしないと逆に反感買っちゃいそうだもんね」

にこ「絵里が見た目通りの恋愛経験豊富なら失恋のことも聞けるけど……」

あんじゅ「こういう時こそ大人の意見を取り入れるべきじゃないかな? 商店街の人とかママとか」

にこ「うーん、肉親のそんな生々しい話は流石に聞きたかないわ。商店街の人達に聞くのがベスト」

にこ「失恋という感情は今も昔もそう変わらない筈だしね」

あんじゅ「うふふ。にこが失恋してるところを想像すると笑えるにこ♪」

にこ「勝手に何失礼な想像して、しかも笑ってるのよ!」

あんじゅ「にこにこぉ~にこっにこ……にこぉ」

にこ「だからどんな泣き方してんのよ私は!」

あんじゅ「驚く時も『にこにこっ!?』だと可愛いかも」

にこ「いくらにこだってそんな変な驚き方しないわ」

あんじゅ「えぇ~その方が断然可愛いって」

にこ「可愛いの前にただの変態じゃない。アイドルじゃなくて芸人になっちゃうわ」

あんじゅ「滑り芸人にこにー現る!」

にこ「現れないわよ。SMILEのリーダー舐めんじゃないわ!」

あんじゅ「にこを舐めたら甘い味しそう。ぺろぺろ」

にこ「そっちの舐めるじゃないから変な擬音入れるんじゃないわよ」

あんじゅ「今思ったけどぺペロンチーノとぺろぺろちゅっちゅは似てる!」

にこ「あっ本当だ……って、全然似てないニコ!」

にこ「ていうか、六時前に集合だから最低五時十五分には起床なのよ。もう四時じゃない。いい加減寝るわよ」

あんじゅ「まだ眠くないの」

にこ「にこが眠りたくなるように話をしてあげる。猿夢って言ってね」

あんじゅ「それって逆に眠りたくなくなる話だよ!」

にこ「もう本当に眠気が限界なのよ」

あんじゅ「もう少しお話しよ~よっ」

にこ「抱きついてくるんじゃないわよ。冬と違ってまだ暑苦しいのよ」

あんじゅ「にこの体温は温かいから眠気を誘うにこ~」

にこ「暑いけどそのままでいいわ。だから寝なさいよ」

あんじゅ「……うん」

にこ「そういえば猿夢で思い出したんだけど、怖い夢って現実と夢の区別が付かない状態だからこそよね」

にこ「もし、そのまま夢が現実になったらある意味死ぬのと同じくらいの恐怖よね」

にこ「今までの自分の全否定っていうかさ、記憶を全て持ってるのに記憶喪失みたいな状態になるんだもの」

にこ「今朝の夢がなんか凄い夢だった気がするからそう思うのかもね。……もうほとんど覚えてないけどさ」

にこ「ねぇ、聞いてるの?」

あんじゅ「すー……はー」

にこ「って、もう寝てるし。……はぁ、馬鹿らしい。私も寝るわ。おやすみ、我がままな妹」

◆文化祭二日目・ニコ屋開店!◆

穂乃果「すっごいよ! 開店までまだ十分はあるのにもう十人以上が並んでる!」

絵里「思った以上にSMILE効果……ううん、私が入る前から続けてきたあんじゅのブログ効果が出たみたいね」

あんじゅ「えっへん!」

にこ「無駄にハードル上げて私の腕をディスられるのは勘弁だけどね。甘口だから大人向けじゃない問題もあるし」

あんじゅ「大丈夫だよ。にこのカレーを悪く言う人類なんて存在しないから」

海未「スケールが大きすぎますが、初めから甘口であることは告知済みですから大丈夫ですよ」

絵里「そうね。そういうのでクレームつける人が居たら、最初から会話が成立出来ない可哀想な人だけよ」

にこ「ネットではよく居るけどね。現実では遭遇したくないわ」

穂乃果「クレームのお客さんの対応なら私に任せて。お母さん直伝の対応があるから」

あんじゅ「おぉ~。流石老舗のお饅頭屋さんの娘だね」

穂乃果「だからお饅頭屋じゃなくて和菓子屋だよ。ちなみにね、子供の頃の夢はお花屋さんだよ!」

海未「懐かしいですね。その割には小学二年生の時に家で育てて観察日記を付ける朝顔を枯らしてましたよね」

穂乃果「あれは違うんだよ! 雪穂がジュース掛けたのが悪いんだよ。悪気がない分、怒れなかったけど」

にこ「本当に小さい子って自分の好きな物が栄養になるって勘違いしちゃうもんね」

絵里「可愛い姉妹エピソードね。亜里沙は意外とそういうのないのよね」

海未(覚えてないような出来事を姉さんも覚えていて、誰かにこうして聞かせていたりするのでしょうか?)

海未(そう考えると小さい頃の自分のしたことというのは、防ぎようのない恥ずかしい過去ですよね)

にこ「小さい頃の夢ねぇ。絵里と海未はなんとなく分かるだけど、あんじゅだけは思いつかないわね」

あんじゅ「私?」

海未「そうですね。あんじゅだけは正直予想もつきません」

穂乃果「穂乃果は分かるよ。可愛いお嫁さん!」

にこ「あんじゅがそんな単純な訳ないでしょ。マフィアのボスを裏から操る娼婦よ!」

絵里「どうしてそんな黒いのが子供の夢なのよ」

あんじゅ「懐かしい! にこってばまだあの時のこと根に持ってたの?」

にこ「海未と出会って一年って話の時にふと思い出しただけよ。根に持ってた訳じゃないわ」

穂乃果「なになに。何があったの? もしかして、にこちゃんは昔マフィアに所属してたとか?」

にこ「んなわけないでしょ! マフィアなら海外に住んでた絵里の方が似合ってるわよ」

絵里「マフィアグループ・邪道シスターズ。全てを纏め上げるドン・エリーチカ」

海未「グループ名の所為で激しくマフィアのイメージが崩壊してしまいます」

あんじゅ「邪道シスターズの頭脳。百$から大組織を運営出来るようになるまでの資金を増やした切れ者・アンジュリカ」

穂乃果「なんかカッコ良いよ、あんじゅちゃん! ううん、アンジュリカちゃん!」

海未「……」

あんじゅ「ほら、次は次女のにこの番だよ」

絵里「さぁ、バシッと決めてやりなさい!」

にこ「あんじゅのことを言えないくらい絵里もテンション高いじゃないの……やれやれ」

にこ「立ち上げメンバーでありながら、今でも荒れる表舞台に立って組織を先導し続ける実力者・ニコフィラ」

穂乃果「なんだか変わってる名前だけど、外国で咲いてる花の名前みたいで素敵だよ、ニコフィラちゃん!」

海未「――」

にこ「ふっふーん!」

絵里「さすがね、にこ。こういう振りは完璧にこなせるところがアイドルよね」

あんじゅ「うんうん。それでこそ私達のにこにー♪」

にこ「当然でしょ。寝不足だろうとにこは失敗しない女なのよ」

穂乃果「昨日は思いっきり失敗してたけどね」

絵里「さ、気合も入ったことだし、少し早いけどお客さんを入れて水だけでも先に出しておきましょうか」

海未「――待って下さい!」

にこ「ど、どうしたのよ。何か不備でもあった?」

あんじゅ「ニコ屋に不備はありません!」

にこ「いや、その謳い文句はあんたが勝手に唱え始めただけでしょ。で、何があったの?」

海未「……和を大事にするのが日本の心。今日くらいは私も仕方ないので和に加わろうと思います」

絵里「どういうことかしら?」

海未「規律を正し、不正を罰する。邪道の中にも正義あり。人情持って我が道進む邪道シスターズの良心・ウミンディーネ」

絵里「ついに海未も私達邪道シスターズの仲間入りってことね!」

あんじゅ「組織力がグンと増したね」

穂乃果「ウミンディーネ! なんだか水を司る精霊みたい。海未ちゃんに似合ってるよ!」

海未「ふふふ。今日だけですよ、今日だけ」

にこ(すっごい満たされた笑顔してるんだけど……。海未ってこういう悪ノリが実は誰よりも好きなんじゃないかしら?)

にこ(もし海未がカラオケ大会で優勝した場合は、何か明るい戦隊物みたいな歌を作詞してあげようかしら)

にこ(何ですかこの曲は! 恥ずかしいです! センターというだけで恥ずかしいのに、どうしてこんな曲なんですか!)

にこ(とか言いながら実際にライブ本番になるとノリノリになりそうだしね。念の為に作詞頑張ってみましょう)

穂乃果「穂乃果も邪道シスターズの仲間になりたい!」

絵里「それは嬉しいんだけど、穂乃果って邪道とは正反対の位置にいるのよね」

あんじゅ「悪を滅ぼす天真爛漫ってイメージだよね」

穂乃果「え~! 皆一緒なのにずるいよ~。にこちゃん! リーダーなんだから穂乃果のも考えて!」

にこ「なんで私なのよ。穂乃果って名前も外国人向けじゃないから無理よ」

あんじゅ「名前からして駄目だなんてこれは運命だよ」

絵里「対立する役っていうのも重要な役目よ。怪盗と警察みたいな関係も素敵なのよ?」

あんじゅ「そうだね。犯人が存在しないと探偵小説も成り立たないからね」

穂乃果「ウミンディーネちゃ~ん! 穂乃果も仲間に入れてよ~」

海未「大切な幼馴染である穂乃果を邪道シスターズのメンバーにすることは私には出来かねます」

穂乃果「意地悪~!」

にこ「さ、そろそろ開店時間よ。お昼は入りきらないことがもしかしたらあるかもしれないから、その時はあんじゅ」

あんじゅ「うん、接客しながら外の様子もきちんとするよ」

絵里「外の看板に書いてあるけど、会計前にきちんと十分で回してくれるようにお願いしてね」

海未「穂乃果はうっかりして説明を忘れないでくださいね」

穂乃果「ふーんだ!」

海未「子供でないのですからいじけないでください」

絵里「にことあんじゅが『邪道シスターズVS太陽の使者穂乃果』のお話を作ってくれるわよ」

にこ「何勝手な約束してんのよ、こういう時こそ長女がどうにかすべきでしょ! 頼りにならない長女なんて要らないわ」

絵里「お姉ちゃんっていうのは可愛い妹の成長を期待して試練を与えるものなのよ」

あんじゅ「愛の鞭上等だよ! 期待してね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「うん! それなら私も邪道シスターズじゃなくても我慢できるよ。期待してるね♪」

海未「……仕方ないのでその時も私は邪道シスターズのメンバーということで許可を出しましょう」

にこ「誰もそんな許可取ろうとすら思ってないけど」

海未「仕方ないないですからね! 和の心は必要です!」

絵里「絶対に出番が欲しいのね。海未が素直になる日はもう目の前ね」

にこ「もうなんでもいいわ。……脇道に逸れ過ぎよ、ニコ屋開店するにこ!」

※今年最後の更新なので本編と関係ないIFストーリー。読み飛ばしても問題ありません。

◆正しいお正月の過ごし方◆

参加者・SMILE&ことり&こころありゆき

穂乃果「コタツと羽根布団は人類が開発した最高の宝物だよねぇ」

海未「いくらお正月とはいえだらしがないですよ。コタツの表面は顔を載せる物ではありません」

穂乃果「今日くらいはいいじゃない。ことりちゃんと海未ちゃんも一緒にダラダラしちゃおうよ~」

ことり「そうだね。今日くらいはいいかなぁ」

海未「ちょっとことり!」

にこ「穂乃果の言う通りよ。今日くらいはいいじゃないの」

あんじゅ「お正月最高~ヌクヌクしててにこみたいにあったかいにこ~」

こころ「みかんおいしいよ。にこにーとあんちゃんにもむいてあげるにこ♪」

あんじゅ「ありがとう、こころちゃんは天使にこ~」

ここあ「こころずるい!」

絵里「私も蜜柑食べたいわ。誰か剥いてくれないかしら?」

亜里沙「お姉ちゃん、私が剥いてあげるね」

絵里「……あ、ありがとう」

絵里(そうじゃないのよ、今のはここあちゃんへのアシストだったの)

雪穂「ね、ここあちゃん。私はいつもお姉ちゃんに蜜柑を剥いてもらってたから上手に剥けないんだー」

雪穂「だからよかったら私の分を剥いてくれないかな?」

ここあ「うん! いいよ、ここあきちんとむけるからユッキーはすこしまっててね!」

雪穂「うん、ありがとう。待ってるね」

穂乃果「えー雪穂ってば蜜柑も剥けな――もごご」

海未「穂乃果、貴女は馬鹿なんですか!? もう少し考えてから口を開いてください」

穂乃果「え、え? どうして穂乃果怒られてるの?」

ことり「穂乃果ちゃんの分の蜜柑をことりが剥いてあげるから、余り気にしないで」

海未「そうやってことりが甘やかせるのも悪いのですよ」

にこ「あんた達は親子かっての。穂乃果が空気を読めないのなんて最初からでしょ」

絵里「その発言を迷わずにこが使うことがそもそも……」

あんじゅ「待って、エリーお姉ちゃん。にこは敢えて空気の読めないことがどういうことか教えてるんだよ!」

にこ「うっさい姉妹ね。正月くらい人をダシにするんじゃないわよ」

ここあ「はい、むけたよ!」

雪穂「わ~ありがとうね。お姉ちゃんよりずっと綺麗に剥けてるよ。食べるのが勿体無いくらい」

ここあ「えへへ!」

こころ「こころもむけたよ。はい、こっちはにこにーのぶん。こっちはあんじゅちゃんのぶん」

あんじゅ「ありがとう。はむ……自分で剥くよりこころちゃんが剥いてくれた方が美味しく感じるにこ☆」

にこ「こころ、ありがとう。私達は一つで十分だから、自分の分を食べなさい」

こころ「うん!」

亜里沙「お姉ちゃん美味しい?」

絵里「ええ、美味しいわ。ほら、亜里沙も一緒に食べましょう」

亜里沙「うん。日本は寒くないけど、こたつは素敵っ」

雪穂「寒くないかな? 私としては十分寒いけど」

海未「仕方ありません。ロシアと比べたら真冬の北海道でも比べられないくらいですからね」

ことり「はい、海未ちゃんの分もどうぞ」

海未「ありがとうございます。穂乃果ではないですが体から力が抜けてしまいますね」

絵里「お正月くらいは力を抜かないと、いざという時に失敗しちゃうかもしれないわよ?」

ことり「あ、英玲奈ちゃんも似たようなこと言ってたよ」

穂乃果「海未ちゃんは力を抜くことと、穂乃果に優しくする回数を増やすのが今年の目標だね」

雪穂「お姉ちゃんに厳しくする回数を増やして、こんなこと言えなくなるようにしちゃってください」

海未「雪穂に頼まれては仕方ないですね」

穂乃果「ことりちゃ~ん!」

ことり「海未ちゃんも雪穂ちゃんももう少し優しくしてあげようよ」

にこ「中学までと違ってアイ活とデザインしてる訳だしね。余り厳しくするのは可哀想よ」

穂乃果「にこちゃんって時々天使に見える!」

こころあ「にこにーてんし!」

穂乃果「よし! 次の衣装はにこちゃんだけ羽を生やそう!」

にこ「恩を仇で返すんじゃないわよ!」

絵里「その場合黒い羽がいいわよね。白い羽を海未に付けたら面白そうね」

穂乃果「ぷっ!」

ことり「っ!」

海未「どうしてそこで私が出てくるんですか! 二人して噴出さないでください!」

亜里沙「羽を生やしても普通に踊れるのかな?」

あんじゅ「見た目だけじゃなくて、実用面でも問題あるかもね。でも、バザーとかの会場でするライブならありかも?」

にこ「ないわよ!」
海未「なしです!」

雪穂「でも、冬だからこそ羽が生えた衣装って見栄えるかもね。冗談とかじゃなくて」

ここあ「てんしにこにーみてみたいにこ!」

こころ「こころもはねのはえたおようふくきてみたいにこ☆」

ここあ「あっ、ここあもここあも!」

亜里沙「SMILEの皆さんの羽を生やした壮大なステージ。亜里沙、見たいです!」

絵里「……い、妹達が見たいと言うならやるしかないわね」

穂乃果「ことりちゃん。因果応報って言葉の意味を今知った気がするよ」

ことり「どちらかというと口は災いの元だと思うけど」

海未「嫌ですよ。本気で嫌ですからね。私はそんなステージ衣装になるなら辞退しますから!」

雪穂「嫌なことから逃げる為に和を乱すのは海未さんらしくないんじゃないですか?」

亜里沙「全員揃ったステージが見たいです!」

こころ「みんなてんしなの!」

ここあ「はねがはえてかわいいー」

海未「……ぐ、穂乃果。冬休みの残りは毎日勉強漬けですからね」

穂乃果「」

ことり「穂乃果ちゃん、ファイトだよ!」

にこ「これって私達も大きなダメージな上に、作るのが無駄に難しそうね」

あんじゅ「でもほら、こういう時こそ腐ってるお姉さんなら作り方とか知ってる友達居る気がする」

にこ「内田のお姉さんなら……確かに」

絵里「でも羽生えた衣装で踊ったら恥ずかしくて生徒会長なんてやってられないわよ」

あんじゅ「でもバレエならそういう衣装でもありな気がするんだけど」

絵里「バレエはミュージカルとは別物なのよ?」

雪穂「大変そうですけど、私も期待してます。皆さんのおもしろ――こほん。素敵な衣装」

にこ「雪穂ちゃんはスクールアイドルになるなら、グループに必要な小悪魔になりそうね」

絵里「邪道シスターズに欲しい人材だけど、生まれてくるのが一年遅かったわね」

あんじゅ「そうだね。……来年のお正月を越えたら卒業なのよね」

絵里「そうね。にことあんじゅに出会えなければこんな温かいお正月は過ごせなかった。本当に感謝してるわ」

あんじゅ「エリーちゃんが感謝してるのと同じくらい私達も感謝してるんだよ」

にこ「そうそう。だからいつまでも他人行儀なこと言ってるんじゃないわよ。私達は姉妹でしょうが」

絵里「ふふっ。そうね、二人共今年もよろしくね」

にこ「こちらこそ、よろしく。今年も頑張りましょう」

あんじゅ「お姉ちゃん達、よろしくね!」

穂乃果「これだけ多いんだし何かゲームやろうよ、ゲーム!」

ことり「でもこれだけ多いとやれるゲームとかないんじゃないかな?」

海未「双六にしても駒が足りませんし」

雪穂「二つに分けてもちょっと多いですよね」

こころ「トランプがいいにこ♪」

ここあ「トランプやりたいー!」

絵里「チーム戦かグループ戦にすればトランプでも十分楽しめるわね」

にこ「トランプ二つ混ぜて何か出来れば一緒に楽しめるんじゃない?」

あんじゅ「――それだよっ! 流石にこ! 新しいゲームを考えたよ。ルールはね、」

こうして、賑やかなお正月は時間を忘れて過ぎていく……。 チャンチャン★


次回……次こそは終わろう、学園祭!

百合症候群も落ち着いたので今まで通りの更新間隔を目指します。来年の完結までお付き合い下さい。

◆ニコ屋来店ありがとうにこっ!◆

――10:13

にこ「お婆ちゃんいらっしゃいませ! 御来店ありがとうにこっ!」

あんじゅ「お婆ちゃんいらっしゃいにこ♪」

お婆ちゃん「二人共今日も元気だねぇ」

にこ「見てみて! お婆ちゃんの作ってくれたこの衣装。似合ってる?」

あんじゅ「にこってば世界一似合ってるよ!」

にこ「ありがとう♪ って、あんたに聞いてないわよ! でも、あんじゅだって似合ってるわよ。流石私の妹ね!」

あんじゅ「うふふ」

「くすくすっ」

「SMILEって漫才も出来るのね」

海未「何か要らない誤解が生まれてるんですが」

絵里「今日くらいはいいじゃない。等身大の女子高生なんだって、今以上に深い親しみが出ると思うし」

穂乃果「あんじゅちゃんはいつものことだけど、にこちゃんがあんな子供みたいにはしゃぐのって珍しいよね」

絵里「それほどお婆様に対しての信頼がある証拠よ。この中では当然ながら一番にこと過ごした時間が長いから」

海未「相手が私の家もお世話になっている呉服屋の店主というのが驚きでした」

穂乃果「このニコ屋の制服とっても素敵だもんね」

絵里「着れるなら二十歳の成人式もこの衣装で出たいくらい」

海未「少し浮いてしまいますが、私もその気持ちは分かります」

にこ「お婆ちゃん、こっちこっち。この特等席に座ってて。直ぐにカレー持って来るから」

あんじゅ「ちなみにニコ屋は全席特等席だけどね!」

にこ「気分の問題よ! この失礼な愚昧の発言は忘れて」

お婆ちゃん「ふぇっふぇっふぇ。この年で孫が増えるっていうのも、嬉しいものだね」

あんじゅ「じゃあ、もう一人の孫も呼ばないとね。エリーお姉ちゃん! にこの代わりにカレー持ってきて」

絵里「あら、私ももう孫の仲間入りでいいのかしら? ちょっと、待っててね。直ぐにお持ちするわ」

海未「絵里、とても嬉しそうですね」

穂乃果「絵里ちゃんって家族愛がとっても深いよね。外国人って感じがするよ」

海未「四分の一がロシア人の血が流れているだけで、立派な日本人なのですが」

穂乃果「こういうのは血の濃さよりも気持ちの問題でしょ?」

海未「馬鹿なことを言ってないで、外のお客さんの整列とどれくらい待ちそうか報せてきて下さい」

穂乃果「……うぅ~」

海未「ふふっ。ことりが来店したら構ってくれますから、それまで頑張ってください」

穂乃果「はぁ~い♪」

「すいません。お水いただけますか?」

海未「只今お持ちしますので少々お待ち下さい」

絵里「お待たせしました。特製ラブにこカレーです」

にこ「何その名前!?」

あんじゅ「甘口だから誰でも食べれる優しいにこの愛情たっぷりカレー!」

お婆ちゃん「そうさね。にこちゃんの料理は愛情が入ってるから、自分で作るより美味しいんだよ」

にこ「恥ずかしいこと言わないでよ。それに料理の腕はまだまだ修行しないとお婆ちゃんには追いつかないニコ!」

あんじゅ「今よりにこのカレーが美味しくなったら私のほっぺた落ちちゃうよ」

絵里「え゙っ!?」

お婆ちゃん「昔の人は美味しい物を食べるとほっぺたが落ちるって表現してたんだよ」

絵里「そうなんですか。……あんじゅなら何でもありかと思っちゃった」

あんじゅ「絵里ちゃんってば酷いよ~」

にこ「普段の行いが悪いんでしょうが。布団だけじゃなくて、洗濯物任せられるようになりなさいよ」

あんじゅ「だから何でも出来るようになるとにこが寂しがるから遅々とした成長なんだよ」

絵里「意外と的を射てる異見よね」

お婆ちゃん「にこちゃんは面倒見るのが好きな子だからねぇ」

にこ「それは好きな人だけよ。つまりお婆ちゃんの面倒は見たいけど、あんじゅは普通にただ面倒なの」

お婆ちゃん「そうかいそうかい。でも、家族以外にこんなに面倒見るのはあんじゅちゃんが初めてだけど」

にこ「こんな面倒で常識外れが居なかっただけにこ!」

お婆ちゃん「そういうことにしておこうかね」

あんじゅ「うんうん。今日だけは訂正せずにおいてあげましょう♪」

にこ「なにそれ!? まるでにこの本心は違うみたいに聞こえるじゃない」

絵里「こうしてにこのツンデレ説が広まっていくのね」

にこ「馬鹿長女! あんたもしれっとした顔して『その時、歴史は動いたんです』みたいに解説してるんじゃないわ」

「くすくすっ」

「SMILEって本当にブログ通りのアットホームなグループなのね」

海未(きちんとしている私もその一味として確認されてしまうのですね。恥ずかしいです)

お婆ちゃん「あんじゅちゃんと出会ってから本当にいい顔をするようになって、わたしは安心だよ」

にこ「だーかーらっ! あんじゅは関係――」
あんじゅ「――その時、にこの頭では二人の運命の出会いを思い出して言葉を途切れたのでした」

にこ「途切れたんじゃなくて、あんたが遮ってるんでしょ!」

絵里「二人の出会いって曖昧にしか語らないけど、実際はどんなだったの?」

にこ「ダンボールに入ってたあんじゅを拾ったのが始まりね」

あんじゅ「うふふ」

絵里「何よ、姉妹なんだから教えてくれたっていいじゃない」

にこ「いつまでも騒いでたらお客さんに失礼よ。お婆ちゃんはカレーを堪能してね」

あんじゅ「学園祭も楽しんで行ってくれると嬉しいな」

絵里「絶対にいつか教えなさいよ。……皆さん、お食事中にお騒がせしました」

海未(これで誰一人不満が漏れずに笑顔が生まれる。それがにこ達の魅力。穂乃果に似ていますね)

海未(だからこそ、私もこのSMILEの空気が好きなんでしょう。困ったことです)

――10:45

雪穂「お姉ちゃん。遊びにきたよー」

穂乃果「あっ、雪穂。みんなもいらっしゃい」

亜里沙「こんにちは。学園祭って楽しいです」

こころ「えへへ~。あいにきたにこ♪」

ここあ「あそびにきたの!」

絵里「いらっしゃい。亜里沙、こころちゃん、ここあちゃん、雪穂さん」

あんじゅ「妹が関わる時のエリーちゃんの反応速度の速さに普通に驚いちゃう」

海未「音もなく瞬時に入り口に向かってましたね。父の動きに近いものがありました」

あんじゅ「短距離走には自信があるけど、今の速さには勝てない」

海未「室内の移動速度と短距離走では別物ですから。そういえば今思い出したんですが」

海未「あんじゅは薙刀を嗜んでいたんですよね。今度うちの道場で少し手合わせしてみませんか?」

あんじゅ「え、海未ちゃんも薙刀出来るの?」

海未「齧った程度ですので指南をお願いしたいのと、剣道と薙刀で試合等してみたいですね」

あんじゅ「少しブランクあるけど面白そうかも。にこを賭けて勝負だね!」

海未「いえ、にこは要りませんし賭けません」

あんじゅ「じゃあにこにーは私の物だね★」

ここあ「にこにーはここあのものー」

こころ「こころのものだよ!」

あんじゅ「いらっしゃい。ここあちゃんにこころちゃん」

こころ「あんじゅちゃんもうみちゃんもかわいい☆」

ここあ「とってもにあってるにこ♪」

あんじゅ「ありがとう。二人は今日も可愛いにこ~」

海未「そうですね。とても元気で可愛いです」

こころあ「えへへ~」

にこ「亜里沙と雪穂ちゃん、家に寄って二人を連れてきてくれてありがとうね」

亜里沙「ううん、全然気にしないで!」

雪穂「一緒にこれて私は嬉しいし。昨日は一緒にこれなかったですから」

にこ「ありがとう。昨日のA-RISEのライブはどうだった?」

雪穂「ことりさんが加入したあのライブ以来だったんですけど、私の知ってることりさんとは別人のようでした」

にこ「キラ星――リーダーのツバサはどうだった?」

雪穂「そうですね、英玲奈さんもことりさんも素晴らしいの一言でしたが、一際輝いていたのがツバサさんですね」

雪穂「背は決して高い訳ではないのに、歌も踊りもカリスマ性も凄かったです」

亜里沙「亜里沙はSMILEの方がすっごいと思うけどなー」

雪穂「うん、SMILEも好きだけどね」

にこ「亜里沙も一度A-RISEのライブを体験してみればレベルの違いを感じるわ。お世辞にもSMILEが勝ってる部分がないから」

亜里沙「そんなことない!」

にこ「そう言ってくれると嬉しいんだどね、本当にまだまだなのよ」

亜里沙「でも!」

絵里「でも、だからこそSMILEはまだまだ伸びる可能性が高いのよ。A-RISEに勝る部分は潜在意識の高さね」

海未「そうですね。にこは憧れの気持ちが強いので評価が高すぎますが、私は初めから諦める努力はしません」

穂乃果「ラブライブの本戦に進んで、一番輝いて一位になっちゃうかもしれないもんね」

にこ「ラブライブってのはそんな簡単じゃないわ」

あんじゅ「メンバー二人になってから今の順位まで上がるのだって簡単じゃなかったでしょ?」

あんじゅ「邪道な手は使えないけど、優勝が出来ないって決まってないよ」

こころ「こころがおうえんしてるにこ!」

ここあ「えへへ~みんながんばってるからだいじょーぶにこ!」

亜里沙「私もお姉ちゃん入る前から応援してきたんだよ。だから優勝して欲しい!」

雪穂「優勝してくれれば音ノ木坂に入学した時に同級生も増えるだろうし、期待してます」

にこ「……そうね。応援には応えないとスクールアイドル失格ね。来年のラブライブに向けて頑張るわよ!」

パチパチパチ!

「SMILE応援してるよー!」

「がんばってねー」

「私、SMILEが好きだから再来年はオトノキを受験するんだよ!」

にこ「……っ」

絵里「ふふっ。涙なんて浮かべてる場合じゃないわよ。今日は今日でこれから忙しくなるんだから」

あんじゅ「にこにーは時々脆くなるから放っておけないにこ!」

にこ「目の届かない所に置いておくと何仕出かすか分かんないあんたに言われたくないニコ!」

――11:30

ミカ「穂乃果、手伝いにきたよ」

ヒデコ「大繁盛してるみたいだねー」

穂乃果「あれ? ミカだけじゃなくてヒデコも来てくれたんだ。クラスの方は大丈夫なの?」

ミカ「SMILEのメンバーには昨日大いに助けられたからって、うちのクラスにも他から助っ人きてくれて」

ヒデコ「だから次も複数の人がこっちに手伝いにこれると思うよ」

穂乃果「いや~助かる助かる。ありがとうね」

ミカ「お礼なんていいからいいから。誰と変わればいいの?」

穂乃果「えっとね……にこちゃ~ん! 助っ人が二人来てくれたんだけど、誰から休憩に入ればいいの?」

にこ「海未と穂乃果から――」
絵里「――にことあんじゅが先よ。リーダーから休んでくれないと休み難いのよ」

あんじゅ「じゃあ、先に休憩入るね。にこ、カレー頂戴♪」

にこ「切り替え早っ!」

海未「ファンの人がくることを考えて、折りたたみ椅子を使って前で食べてください」

にこ「この為に用意してたのね」

あんじゅ「ほら、にこってば早く早く!」

にこ「はいはい。じゃあ、先に休憩させてもらうわ」

穂乃果「ミカは呼び込み兼外のお客さんの列整理をお願いね。ヒデコはカレーの方をお願い」

ヒデコ「ご飯の量とカレーの配分は?」

絵里「丁度いいわ。にこ、見せてあげて」

にこ「ええ、目測だけど余り差が出るようだと不平等になるから気をつけて」

ヒデコ「はい。普段家でも手伝ったりしてるんで大丈夫だと思います」

にこ「……よっと。これくらいね。配分的にはご飯6のカレー4」

ヒデコ「分かりました」

あんじゅ「にこにー! 私はカレー6のご飯4ねっ♪」

にこ「わざわざ言われなくったって分かってるわよ。……はい、人目があるんだからゆっくり食べるのよ」

あんじゅ「うん!」

にこ「口を汚したまま食べるんじゃないわよ?」

あんじゅ「……うん!」

にこ「水もきちんと飲みながら上品に食べなさい」

絵里「はいはい。人前だからってお姉ちゃんぶらないの。にこの分持ってきたから、仲良く二人で食べてなさい」

にこ「誰もお姉ちゃんぶってないわよ」

あんじゅ「お姉ちゃんだからそっちはいいんだけど、にこは人目を気にしすぎだよ」

にこ「あんじゅもスクールアイドルなんだから少しは人目を意識しなさいよ!」

あんじゅ「気取ったりするのはSMILE流じゃないでしょ? あくまでも等身大の私を見せるべきだよ」

にこ「他の時なら上品さが出たりもするけど、カレーとなるとおちびちゃん達と変わらない食べ方するじゃない」

あんじゅ「ニコ屋のカレーが商品化された暁には、CMは絶対に私がするからね! これは誰にも譲らない!」

にこ「子供みたいなこと言うんじゃないわよ」

あんじゅ「だってまだ子供だからねっ」

にこ「そんなことで目を輝かせるんじゃないわ。いただきます」

あんじゅ「いただきまーす♪」

――五分後...

穂乃果「ウミンディーネちゃ~ん」

海未「その変な呼び方は忘れて下さい!」

穂乃果「お腹が減って力が出ないよぉ」

海未「知りません。というか、にことあんじゅが休憩入りしたばかりじゃないですか」

穂乃果「あんじゅちゃんの美味しそうな食べっぷりはもはやテロだよ!」

海未「大げさなことを言わないでください」

絵里「いえ、あながち大げさでもないわ。アレはCMのスカウトがあってもおかしくないわ」

海未「視界の端にすら入れなければどうということはありません」

穂乃果「ということは、視界に入れると海未ちゃんでもお腹が減るってことだよね?」

絵里「大和撫子の海未のお腹すら刺激するあんじゅの食べっぷり。流石あんじゅね」

海未「変なことで私の名前を出さないで下さい」

穂乃果「あのウミンディーネすらも魅了する、ニコ屋のカレー! あんじゅ感激♪」

穂乃果「ミカ~お腹が空いて力が出ないよぉ」

ミカ「私に言われてもマッチョな虎じゃないからどうしようもないって」

穂乃果「……ほむぅ」

絵里「マッチョな」
海未「虎?」

にこ「明日は片付けで明後日は休み。頭を切り替える意味でも練習は休みにしましょうか」

あんじゅ「じゃあさ、皆でゲームでもしようよ」

にこ「ゲーム? カラオケ大会じゃなくて?」

あんじゅ「皆でゲームして遊んで絆を深めるの」

にこ「時としてゲームは友情すら壊すらしいけどね。何のゲームするの? 邪道ポーカーはなしよ」

あんじゅ「う~ん……信頼ゲームなんてどうかな?」

にこ「信頼ゲーム?」

あんじゅ「仲間の思考を読んで、更に裏を掻いたりする必要も出てきて面白いと思うよ。ルールはね、」

にこ「待ちなさい。あんたの口から《信頼》なんて単語が出てくる時点で嫌な予感しかしないわ」

あんじゅ「どうして? 私ってば自分で言うのもなんだけど、自分以上ににこのことを信頼してるよ★」

にこ「その発言自体が胡散臭いわ。隙あればあんたの手の平の上で踊らされてる恐れがあるもの」

あんじゅ「それは必要に駆られての話だよ。普段のあんじゅは~にこのプリティな妹にこ~」

にこ「そもそも、あんたが考えたゲームに乗った時点で恐ろしい結果しか待ってなさそうだから却下よ!」

あんじゅ「う~るる~」

にこ「普通にゲーセンでも行けばいいじゃない。たまには無駄遣いしないとね」

あんじゅ「自分達で作ったりするからより面白いと思うんだけどなー」

にこ「気持ちは分からないでもないけど、あんたがあの手この手でルールの抜け道を突いてきそうだからねぇ」

あんじゅ「ゲームで勝つのは運否天賦じゃないんだよ。ルールを熟知して、その穴を見つけた者が必然的に勝つからね」

にこ「そういう邪道なしでやるから盛り上がるんじゃない」

あんじゅ「ざわざわ系女子だって人気出ると思うんだけど」

にこ「意味分かんないわよ。ほら、口周り汚れてるわよ……よしっと」

あんじゅ「えへへ。ありがとうにこ♪」

にこ「あんたは本当に悪い意味でギャップだらけよね」

あんじゅ「にこの妹だからね!」

にこ「なんでそこを強調すんのよ! まるでにこが駄目な子に思われちゃうでしょ!」

あんじゅ「……もう少し勉強頑張ろうね」

にこ「うっぐ! そ、それは反則よ。社会で必要な勉強なんて小学生までじゃない。今習ってるのを使わないし」

あんじゅ「自分に興味ないことでもしっかりと覚えられる人間こそ社会が求める人材だよ」

あんじゅ「忍耐力が強い人間じゃないと直ぐに辞めちゃうんじゃないかって思って採用を見送られるかもしれないし」

あんじゅ「それに、勉強は簡単に言えば脳の容量の差は確かにあるけど、要領こそが一番必要になるからね」

あんじゅ「そんな言い訳をするなら、にこはもうカレー屋を経営するしかないよ!」

にこ「なんであんたはちょっと良い事言われた気がした直ぐ後に、自分でぶち壊す発言すんのよ!」

あんじゅ「今回はふざけるつもりじゃなかったんだけど、欲望は止められなかったにこぉ」

にこ「どんだけ私のカレー好きなのよ!」

あんじゅ「地球サイズくらいかも。好きって凄いよね。目には見えないし形もない。でも大きさは計り知れない」

にこ「そんな地球サイズの好きは滅んでしまえばいいニコ!」

あんじゅ「にこパンチでも私のカレー愛は壊せないにこ!」

にこ「そんな必殺技ないわよ。やるならラブにこビンタ――あっ」

あんじゅ「」

にこ「ごめんってば! もうしないわよ。ラブにこビンタはもう永久封印するわ!」

あんじゅ「……うん」

にこ「そんな怯えた顔するんじゃないわよ。明日はあんじゅの好きな物を作ってあげるから」

あんじゅ「じゃあ、カレーがいい!!」

にこ「どんだけ好きなのよ」

あんじゅ「あ、そうだ! カレー屋さん特集でカレーとハンバーグと目玉焼きっていう組み合わせもあったんだよ」

にこ「分かったよ。だからこれ以降の上乗せはないからね」

あんじゅ「うん!」

にこ「現金な妹ね」

あんじゅ「そうだ、にこパンチで思ったんだけどさ」

にこ「んー?」

あんじゅ「にこにお髭が三本生えると猫になるんだね」

にこ「髭が三本でねこ?」

あんじゅ「NIKOのIにお髭三本生えてEになってNEKOになるんだよ」

にこ「あ、確かに。これはもしや猫キャラをやれっていう天の声!?」

あんじゅ「でも間違いなく猫が天敵の一つのうさぎだよね。天気がいいから草をはむはむするにこ~」

あんじゅ「この草美味しいからあんじゅにも教えてあげるにこよ! でも食べ終わったらどんな草か忘れちゃったにこ!?」

絵里「ぷっ」

にこ「そこっ! 何笑ってるのよ」

絵里「今のはちょっと反則よ。頭の中で再現されちゃったもの。兎というよりうさにこって新しい生物だけど」

あんじゅ「うさにこいいね!」

にこ「よくないわよ!」

穂乃果「次の衣装は決まりだね。にこちゃんはうさにこっと……忘れないようにしないと」

にこ「忘れなさい!」

海未「正直、うさにこを忘れろという方が難しいと思いますよ」

にこ「……にこぉ」

あんじゅ「にこにこっ♪」

――13:25 (海未と穂乃果休憩中)

にこ「まさか商店街の人達だけじゃなくて、わざわざ佐藤のお姉さんまで来てくれるなんて」

絵里「あの人を見るとあの貫徹した夜を思い出すわね」

あんじゅ「あの日は眠かったけど、わくわくしたね」

にこ「あんたは眠気に負けて思いっきり寝てたじゃない」

絵里「膝で眠るあんじゅを布団に移そうかと思ったら『このままでいいわ。妹が頑張ったご褒美にこ』とか言ってたわね」

にこ「捏造されてる!? そんな甘い言葉は使ってなかったわよ」

絵里「似たようなこと言ってたじゃない」

あんじゅ「初耳だよ。にこってば眠ってても優しいなんて姉の鏡だね」

にこ「別にそんなんじゃないわ。頑張った子にはきちんとご褒美あげるのが私のやり方なだけ」

あんじゅ「えー、でも毎日ご褒美ないよ?」

にこ「あんたのどこが毎日頑張ってるのよ! もう少し色々と頑張んなさいよ」

あんじゅ「頑張ってるよ。明後日何をしようかなって、プランだっていくつも考えてるし」

にこ「そういうのを頑張ってるとは言わないの。自分が楽しみたいからじゃないの」

絵里「明後日の振り替え休日に何かするの?」

にこ「適当に遊ぶってしかまだ考えてないけどね。絵里も空いてるなら遊ばない?」

絵里「今のをお姉ちゃんに直して甘えるようにもう一度」

にこ「明後日のお休みに絵里お姉ちゃんと遊びたいにこ~♪ って、何でわざわざそんな誘い方しなきゃいけないのよ!」

絵里「妹の誘いを断る姉なんて存在しないわ!」

あんじゅ「海未ちゃんと穂乃果ちゃんはどうかな?」

穂乃果「ん? カレー美味しいよ。お母さんのより美味しいかも!」

海未「穂乃果の家のカレーも私は好きですよ。和風のカレーは食べる機会が少ないですから」

あんじゅ「にこ!」

にこ「分かったわよ。今度和風のカレーを作ってあげるわよ」

あんじゅ「にこ大好き!」

にこ「あんたの好き程軽い好きもそうそう存在しないわね」

海未「にこのこのカレーも本当に美味しいです。刺激物が余り得意ではないので甘口なのも嬉しいですし」

海未「穂乃果と違って普段から甘口しか食べれない訳ではありませんが」

穂乃果「海未ちゃんは炭酸が苦手だもんね。って、なんでそこで穂乃果のことを出すの!?」

海未「いえ、別に他意はありません」

穂乃果「絶対にあるよね!」

あんじゅ「まぁまぁ、穂乃果ちゃん落ち着いて。海未ちゃんって炭酸苦手なの?」

海未「まったく飲めない訳でもありませんが、好んで飲みたいとは思えません。体に良いこともありませんし」

絵里「こころちゃんとここあちゃんは好きそうよね」

にこ「たまにしか飲ませないけどね。クリームソーダが子供だし好きみたい」

あんじゅ「私も好きだよ。飲み物の上にアイスっていう発想が素敵だよね」

絵里「あんじゅの感性は独特ね。で、話を戻すんだけど海未と穂乃果は明後日の休みは何か予定入ってる?」

穂乃果「特に決まってないかな。でも家にいると絶対にお店を手伝わせられるから避難する予定だよ」

海未「ということですので、午前中から穂乃果が家に来るみたいです」

穂乃果「寧ろ前日から逃げてた方が確実かも!」

海未「私はそれでもいいですよ」

絵里「二人も姉妹みたいな関係よね」

海未「私の家と穂乃果の家は本当に近いですから。穂乃果の家出コースは必然的に私の家になってました」

穂乃果「明るい時間帯だとことりちゃんのお家に行ったりもしたけどね」

にこ「高坂家って思ってたより複雑な関係でもあるの?」

海未「いえ、本当に些細なことで家出するのが穂乃果だったんですよ。あんこ飽きたから家出したとか」

絵里「ふふっ。穂乃果らしいわね」

にこ「心配して損した」

あんじゅ「にこってば優しい~♪」

穂乃果「ありがとうね、にこちゃん。最近は家出なんてしてないよ」

海未「そうですね。というより、私とことりがスクールアイドルをしてて家出する隙がなかっただけでしょうが」

穂乃果「そんなことないよ~。ということで、明後日は海未ちゃんと遊ぶよ。UTXも振り替え休日は明後日になるのかな?」

穂乃果「もし同じでA-RISEの練習もなければことりちゃんも一緒かも!」

絵里「じゃあ、よかったら私達邪道シスターズも合流して遊ばない?」

にこ「さらっとその単語を使わないで欲しいんだけど」

あんじゅ「邪道シスターズ!」

にこ「使うなっての!」

穂乃果「あははっ。ことりちゃんがどうなるか分からないけど、一緒に遊ぼう。いいよね、海未ちゃん?」

海未「ええ、断る理由はありません。何をする予定なんですか?」

絵里「誰も案がない場合は明日の片づけしながら考えましょう。特に何かしなくても喋るだけでもいいし」

海未「そうですね。……私は別にトランプでも構いませんよ?」

穂乃果「穂乃果とことりちゃん相手だとほぼ負けるから、にこちゃんが居ると嬉しいんだよね」

あんじゅ「にこってば人気だねっ」

にこ「複雑すぎて全然嬉しくないわ!」

――14:30 (絵里休憩中)

ことり「穂乃果ちゃーん! 海未ちゃん! 遊びに来たよ」

穂乃果「ことりちゃん! いらっしゃ~い!!」

ことり「きゃっ!」

海未「食事してるのですから突然抱きついて埃をたててはいけません」

穂乃果「ごめんごめん。本当に来てくれたのが嬉しくて。四時からライブなんでしょ?」

ことり「うん。でもメールでも報せたけど、昨日のライブが良かったからツバサちゃんの許可が出たんだよ」

海未「流石私達の誇りですね」

穂乃果「うんうん。ことりちゃんならデザイナー兼アイドルも出来ちゃいそう」

ことり「ことりはそんな器用じゃないから」

「あれってA-RISEの南ことり!?」

「そういえば聞いたことがあるわ。ことりとSMILEの海未と穂乃果は幼馴染だって」

「私、ことりのファンでもあるからチケット取れたのが昨日だけである意味得したかも♪」

にこ「ことり効果で穏やかになってた流れがまた盛り返すかもしれないわね」

あんじゅ「ちょっと疲れたから穏やかなままで終わりでもよかったのに~」

にこ「確かに体が重いわね。それもこれもあんじゅの所為だけど」

あんじゅ「私とにこは一進一退だからしょうがないよ」

にこ「それを言うなら一心同体でしょ。相当疲れてるみたいね」

あんじゅ「にこの口から一心同体なんて言われる日がくるなんて嬉しいにこっ♪」

にこ「この私が言わせられたっていうの!?」

あんじゅ「よしっ! にこのお陰で元気が戻ったよ」

にこ「ぐぬぬ! 何故か負けた気分がするわ」

穂乃果「ささ、こっちへどうぞ。特等席だよ!」

海未「にこと同じこと言わないでください。全席特等席なんですから」

ことり「ふふふ。あ、穂乃果ちゃん。ちょっとその制服触ってもいい?」

穂乃果「いいよー」

ことり「ありがとう。……生地自体は普通なんだ。でも、全然そう思えないくらい綺麗な仕上がり」

ことり「縫い目もミシンじゃ出せない細かさ。ここなんて芸術品みたい。これってにこさんが作ったの?」

穂乃果「ううん。にこちゃんのお婆ちゃんだよ」

海未「私の両親が贔屓にしてる呉服屋の店主です」

ことり「へぇ~すごいなぁ。やっぱりプロの人はレベルが桁違い」

海未「ですがことりはデザインの方がメインですから」

ことり「でも、自分でデザインしたからには自分で作ってこそっていうプロの人もけっこう居るんだよ?」

穂乃果「ことりちゃんはそういう譲らない頑固さが昔からあるよね。穂乃果は好きだけど」

海未「そうですね。ことりの強さの根本の一つかもしれません」

ことり「そういわれると恥ずかしいなぁ」

海未「恥ずかしがることではありません。胸を張って誇るべきですといつも言ってるではないですか」

穂乃果「そうそう。自信がついたことりちゃんは誰よりも輝くと思うよ。でも、今の王子様は穂乃果だからね!」

ことり「はい!」

海未「といっても、王子らしいことはまだ何もしてませんが」

穂乃果「うっ! ……だ、だってまだ何もイベントがないっていうか、何をどうすればいいのか分からないし」

ことり「穂乃果ちゃんは手を取って引っ張ってくれればそれだけで王子様だよ♪」

穂乃果「なら簡単だね」

海未「どうでしょうか? SMILEの中だと個性が強すぎて穂乃果すら最先端を走れてないイメージですし」

穂乃果「はぅん」

海未「ことりの真似をしても駄目です」

ことり「えぇっ! 私そんな風に言うかな?」

海未「自覚なかったのですか?」

穂乃果「凹む時はけっこうこんな風に鳴くよ。ことりちゃん可愛い♪」

ことり「そうなんだー。じゃあ、海未ちゃんも何か鳴いたりしないのかな?」

海未「なっ! どうしてそこで私が出てくるんですか?」

ことり「だってほら、穂乃果ちゃんも可愛い鳴き声持ってるし」

穂乃果(穂乃果の鳴き声は少女漫画のほむほむちゃんの真似なんだけど、内緒にしておこう)

絵里「にこー、エリーチカお姉ちゃんお水が欲しいわ」

にこ「面倒な長女ね。一人で休憩が寂しいからって変な指名するんじゃないわよ」

絵里「来年になったら一人か三人メンバーを増やしましょう。二人組で余ると可哀想だもの」

にこ「今更何言ってるのよ。でも、メンバーを増やすのは賛成。潜在能力を秘めた子がいいわね」

にこ「春からラブライブ予選が始まる頃までに化ければ順位上昇に繋がる筈だから」

絵里「新入生がどれくらい入ってくれるかが問題ね。入学してくれる子が多ければ可能性も上がるし」

にこ「そうね。こればかりはどれだけ音ノ木坂が魅力的に映るかに掛かってるから」

絵里「今年も音ノ木坂体験を実行するみたいだから、去年よりも期待出来るかもしれない」

にこ「……取らぬ狸は無に等しい。過度な期待はよしておきましょう。もしもの時が辛いもの」

絵里「それもそうね。例え願書出す子が多くても、入学する生徒数とイコールで結べるわけでもないしね」

にこ「海未みたいに粉掛けられる子がいればいいけど、そんな偶然は二度はないわ」

絵里「ふふっ、それはそうよ。寧ろそんな偶然を無理やり運命にしたことこそが邪道だもの」

絵里「生徒会が忙しくなければ私も是非参加したかった」

にこ「物好きねぇ」

穂乃果「それにしても今やことりちゃんのスレッド凄いよね。三日経たずに1スレッド消化されてるし」

ことり「それは今学園祭の時期だからだよ」

海未「いえ、その前から大体そのペースでしたよ。過剰な内容が書き込まれていることもあるので余り開きませんが」

穂乃果「あぁ~まぁ、ね。ことりちゃん可愛いからしょうがないよ」

ことり「あ、はは……」

穂乃果「ことりちゃんは自分のスレって読んだりするの?」

ことり「ううん。こないだまでアンチスレは時々読んじゃったりしたんだけどね」

ことり「昨日のライブの後に私が尊敬する先輩がね、もうそういうの見ない方がいいってアドバイスくれたの」

ことり「もし読みたい衝動が出たなら、私が南に駄目だしメール出してあげるって」

海未「……そんな人のどこを尊敬出来るのですか」

穂乃果「海未ちゃんより口が悪いよ!」

海未「ほ~の~か~!」

穂乃果「ひぃっ!」

ことり「くすっ。口は少し悪いかもしれないし、性格もちょっと歪んでるかもしれないけど」

ことり「でも、私にとっては尊敬してる先輩なんだぁ」

海未「ことりは穂乃果といい、その先輩といい、変な人に惹かれるのですね」

穂乃果「海未ちゃんだって変わってるのに」

海未「穂乃果、何か言いましたか?」

穂乃果「何にも言ってないよ!」

ことり「ふふふ。勿論誰よりもことりが尊敬してるのは穂乃果ちゃんと海未ちゃんだよっ♪」

――15:25

海未「ことりは時間に間に合うでしょうか?」

穂乃果「ついつい盛り上がっちゃって時間を忘れちゃったねぇ」

海未「不覚でした。お客さんの対応もにこ達に任せきりでしたし」

にこ「別にいいのよ。普通に会話してるだけでも十分アイドルの素顔っぽくて良かったもの」

絵里「そうね。ライブやPVでは決して見れない素顔だものね」

あんじゅ「ありのまま過ぎるくらいが丁度いいんだよ!」

にこ「そうね。もうお客さんも少なくなってくるだろうし、今から気取ったって意味ないわ」

海未「……そうですね。しかし、ここでは無意識に甘えている自分が居るのを痛感します」

絵里「頼りになる姉が三人も居るからね」

海未「いえ、姉ではなく先輩の間違いです」

絵里「海未のガードは柔らかくなったと思っても固いわね」

穂乃果「海未ちゃんは元々人見知りだったから」

あんじゅ「でも確実にその距離を詰めて行ってるよね。でも、海未ちゃんがお姉ちゃんと呼ぶ未来は想像できないなー」

穂乃果「そうだね、妹扱いを受け入れてもお姉ちゃんとは呼ばないと思うよ」

海未「妹扱いも受け入れませんよ」

あんじゅ「にこはたまにエリーちゃんをお姉ちゃんって呼ぶよね。にこにー部長はチョロイ★」

にこ「誰がよ! 愚昧にチョロイとか言われたくないわ」

絵里「あんじゅが居なければ絶対に使わなかった気がするけど」

あんじゅ「つまりにこの弱点は妹である矢澤あんじゅ。証明終了――」

穂乃果「おぉ! 何かキリッとしててカッコ良い♪」

にこ「胃が痛むという意味では間違いなく弱点にこぉ」

あんじゅ「にこの意地悪~!」

にこ「本当のことでしょ!」

海未「ふむ。ですがにこが胃薬を服用しているところを見たことはありませんね」

絵里「なんちゃって胃痛だからね」

穂乃果「あれだよね、胸キュン! あれがにこちゃん胸がないから胃で感じちゃうから痛むって表現なんだよね」

あんじゅ「斬新だね! その発想は今までなかったよ。胃キュン★」

にこ「誰が胸がないのよ。しつれいね!」

海未「そうです。今のは失礼です!」

絵里「あっ」
海未「なんですか今の漏れた小さな『あっ』て言葉は!」

にこ(やっぱり海未も胸の大きさがコンプレックスなのね。私より背があるから同じくらい目立つだろうし)

海未「あたかも私もにこ動揺に胸でなくて胃が疼くみたいな反応! 断じてそんなことはありません!!」

海未「穂乃果っ証明してください!」

穂乃果「えぇっ! どうやって証明するの!」

海未「取り敢えず私の胸を疼かせてみてください!」

穂乃果「えぇぇっ!?」

あんじゅ(いつも巻き込む側の穂乃果ちゃんが見事に逆に巻き込まれてる。これは記念すべき大火傷させなきゃ!)

あんじゅ「ほら、穂乃果ちゃん。大きな声で『生まれる前から愛してる』って想いを込めて告白してっ、早くするニコ!」

穂乃果「えっ、あ、うん? 海未ちゃん! 生まれる前から愛してる!」

花陽「~~~~っ!?」

凛「カレー屋さんじゃなくて舞台劇だったのかにゃ?」

海未「――」

にこ「ニコ屋はカレー屋さんにこ♪ いらっしゃいませ。当店は看板に出てたとおり甘口専用ですがよろしいですか?」

凛「うん! 甘口でもかよちんが是非食べたいって。何でもアライフの南ことりが――」

にこ「――A-RISEにこ!」
花陽「――A-RISEだよ!」

凛「そうそう、A-RISEにゃ。南ことりも食べに来てたんだよね?」

にこ「ええ、そうよ。うちのメンバーの二人が幼馴染だからね」

花陽「そ、そうなんですか」

凛「凛もかよちんとは幼馴染なんだよ」

にこ「そうなの。それでは、こちらに座って待ってて。直ぐにお持ちします」

絵里「……にこって、意外と肝が据わってるっていうか、切り替えが早いわね」

あんじゅ「そうだね。でも、今は海未ちゃんの硬直反応が」

海未「」

穂乃果「海未ちゃん?」

海未「次の深呼吸は愛してるをフレームを入れましょう」

あんじゅ「微妙ににこっぽい言い間違いになってるよ」

絵里「これが胃キュンの影響……。はっ、つまりにこが普段変な間違えするのは常に胃キュン状態だから?」

あんじゅ「その新説は面白いかも☆」

穂乃果「次の新曲は愛してるのフレーズ、だよね?」

海未「そう言いましたが何か?」

穂乃果「あ、うん」

あんじゅ「海未ちゃんのリアクションは微妙だね。場の空気で勝手に乗ってくる方が面白い」

海未「何失礼なことを言っているのですか? それよりも接待をしないといけません」

絵里「え、接待?」

あんじゅ「恥ずかしがり屋の海未ちゃんには穂乃果ちゃんの愛してるだけでもかなり脳を揺さ振ってるみたいだね」

あんじゅ「元に戻ったようで全然戻ってないね。勝負の前にこれをすれば……うふふ」

凛「なんだかよくわからないけど、凛はA-RISEよりこっちのグループの方が雰囲気好きだなー」

花陽「すごく身近に感じられるよね。年離れた妹さんが居るからカレーが甘口限定なところが花陽はすごく好き」

凛「なるほど。だから甘口限定なんだ。かよちんはスクールアイドルになると詳しいね」

花陽「アイドルが好きなだけだから。SMILEは一気に上がってきたグループじゃなくて、じわじわ順位を上げてるんだよ」

凛「へ~」

花陽「でも、ことりさんと幼馴染っていうのは初耳だった。もっとSMILEの情報を集めなきゃ!」

凛「燃えてるかよちんも凛は好きだニャ~」

海未「カレーの残り具合から考えても、そろそろラストスパークしないといけませんね」

あんじゅ「……寒いギャグを連発されてるみたいでこれは勝負に勝つためでも使わない方がいいかも」

絵里「胃キュン恐るべしね」

にこ「変なの見せちゃったし、職員室で渡せばクッキー貰えるチケット。良かったらどうぞにこ」

凛「ありがとう!」

花陽「あの、ありがとうございます。それで……そのぉ」

にこ「何かしら?」

花陽「ことりさんと幼馴染なのは海未さんと穂乃果さんですか? 学年も同じですし」

にこ「ええ、そうよ。幼馴染っていうのが羨ましくなるくらい仲がいいわ。お二人さんみたいにね」

花陽「ありがとうございます」

凛「凛とかよちんは大の仲良しだからね! 誰にも負けないよ」

にこ「羨ましいわ。でもま、変な姉妹が最近増えたから人生ってのは分からないけど」

あんじゅ(にこぉ♪)

――16:30

穂乃果「ありがとうございましたーっ!」

海未「あんなに量があったのに見事に完売ですね」

絵里「SMILEの知名度と地域密着。そして、ずっと続けてきたあんじゅのブログと何よりもにこの腕前の成果ね」

にこ「……ふわぁ」

あんじゅ「はぁ~」

絵里「二人ともお疲れ様。学園祭終了まで一時間あるし、終了式が始まる十八時の少し前に起こすから休んできたら?」

にこ「……ん、でもあらいものあるし」

海未「洗い物くらい私達でやりますよ。あんじゅと違ってきちんと出来ますから」

穂乃果「そうだよ。寝不足で怪我でもしたら大変だもん」

絵里「余りお姉ちゃんに甘えてくれないんだから、こういう時くらい素直に甘えなさい」

にこ「うん」

あんじゅ「にこ~」

にこ「あんじゅ」

あんじゅ「ねむるにこぉ」

にこ「んー」

海未「床に座って眠るのはお腹を冷やす……っと、もう眠ってしまいましたか」

絵里「以前もそうだったけど、あんじゅはにこを胸に抱き寄せて眠るのね」

穂乃果「少しでも快適に眠って欲しいって証拠だね」

海未「そうですね。あんじゅや絵里なら枕代わりにもなりますからね」

絵里「ど、どうしてそこで声が低くなるのかしら?」

海未「別に、普通ですが?」

穂乃果「遊んでないで二人が起きる前に洗い物しちゃおうよ。お鍋は重いから二人で持たないとね」

絵里「一応安全の為にも一人はここの片付けにしましょう」

海未「では私と穂乃果で洗い物をしてきましょう。まだ穂乃果は元気が余ってますから」

穂乃果「うん! 元気が取り得だからね」

絵里「それじゃあお願いしようかしら。何かあったらメールなり電話なりして」

海未「分かりました。それでは、穂乃果そっちを持ってください」

穂乃果「うん……っしょ。じゃあ、行ってくるね」

海未「お客さんがまだ居るので、人が少ないコースを通りましょう」

穂乃果「了解っ。いってきま~す」

絵里「いってらっしゃい」

にこ「……すはー」

あんじゅ「……すー……すー」

絵里「ふふっ。二人共寝顔はそっくりなくらいに天使ね」

絵里「最高の学園祭ももうすぐ終わり。二人に出会えたお陰で人生で誇れる思い出が作れた」

絵里「そうだ。今日みたいな記念日は皆で活動日誌をつけるのもいいわね。二人が起きたら提案してみましょう」

絵里「とにかく感謝してるわ。これからもよろしくね、私の可愛い妹たち」

◆切っ掛け・真姫ダイアリー part3◆

続き書いておかないと忘れちゃうかもしれないから早速書くわ。

って、この真姫ちゃんが忘れるなんてありえないけどね!

そう、私はついにふらふらだけど自転車に乗ることに成功した。

今は凄く後悔してるんだけど、その時は達成感の所為で冷静じゃなかったのよ。

だから乗れるようになっただけで自転車をマスターしたとか思っちゃったわけね。

今はもう本当に自転車マスターしたわよ。

でも、逆に言えば勘違いのお陰で私は新しい目標を手に入れたとも言えるわ。

南ことりにとっては不幸な出来事だっただろうけどね。

マスターしたと思ったら川原なんて走ってるのが勿体無くなった。

小さい子だって普通に街中を走ったりしてるじゃない?

だから私も街中を自転車で走りたくなったの。

思い立ったらって、私らしくもなく行動的になった理由はやはりまこちゃんの誘いへの後悔。

それはだって一年でも早くマスターしてれば普通に遊びに行けただものね。

その後悔は今も残ってるけど話を進めましょう。

練習に熱が入りすぎてたのと、私って行事に疎いからUTX学院の学園祭二日目って知らなかったのよ。

駅前を通って、街中を走ってたの。

人が多かったのに皆が避けてくれたから普通に走れてるって思ったんだけど、怖くて大げさに避けてたのよね。

今思うと顔から火が出そうだわ。

でもね、避けようがない場合もあるわよね。

曲がり角でこっちはスピードを下げれずに進んで、向こうも走ってたから。

相手が南ことりでなかったら大怪我させていたかもしれないと思うとゾッとするわ。

って、いい加減面倒だからことりって書くわ。

ぶつかりそうな瞬間、ことりが体を逸らしてくれたお陰で直接的な接触は避けられた。

当然無理な体勢で避けた所為でことりは倒れて、私も急ブレーキに体制を崩して倒れたわ。

でも、ヘルメットやサポーターのお陰で怪我はなかった。

直ぐにことりに駆け寄って痛みを覚えてたから足を見たのよ。

無理な体勢で足に力を入れたから捻ったように腫れていた。

救急車は大げさとはいえ、タクシーを呼んでパパの病院に連れて行こうとした。

「これから大事な用事があるの。だから、病院にはいけない」

「何を言ってるのよ!」

あれ程大きな声で人に何かを言ったのは初めて。

なんとしてでも病院に連れて行こうと思ったんだけどね、頑固過ぎて私が根負けした。

自転車を止めて、ことりに肩を貸してUTXまで連れて行ったの。

その最中に何度も謝ったけど、自分の方が悪いと言って受け入れてくれなくて、どれだけの頑固者なのよ!

それどころか「私の方が走ってたから」って謝ってくるんだもの。

ある意味罪悪感を責められてるみたいで胸が痛んだわ。

自分のことよりこけた私の心配してくるし、ことりの人の良さを心身ともに痛いくらい伝わってきた。

UTX前に行くとお祭り騒ぎで驚いた。

「名前、教えなさいよ」

「私は南ことり。あなたは?」

「真姫。西木野真姫」

別れる時に自己紹介っていうのもなんだか妙な気持ちだけどね。

でも、私は相手の名前を知りたかったし、自分の苗字を教えたかった。

「西木野病院の娘。私が原因だから用事ってのを終わったら絶対に西木野病院に着なさい」

「私が連絡入れておくし、治療費とかは全部こっちで持つから絶対よ!」

「そんなっ!」

何か言ってたけど、全部聞き流してそこで別れた。

病院の娘っていうのは本当は誰かに言うのは好きじゃなかったんだけど、今回ばかりは感謝した。

でもね……病院にも連絡を入れて、私も自転車で病院に行って来るのを待ってたのよ。

なのにことりのやつってばこなかったの!

この真姫ちゃんが夜まで待ってたのに来なかったのよ!

これは私への挑戦だと受け取ったわ。

それで、家に帰ってからUTX学院のホームページを見たらそこで再会したわ。

UTX学院の注目のスクールアイドルA-RISE。

そのメンバーの一人が南ことり。

勿論、こんな一方的な再会なんかじゃ許さないわ。

だから、この時決めたの。

学院の内容も芸能科があるから、普通科でも音楽関係の授業にも力入れてるみたいだし。

私がお医者さんになるのは決まってるとしても、その前にことりに借りを返さないと気が済まない!

悔しさから生まれた新しい目標。

翌日からも自転車の練習をよりしたわ。

だからマスター出来た。

これが私がUTX学院を目指すことになる切っ掛け。

といっても、絶対に未来の私もこの日のことを忘れるとは思えないんだけど。

念には念を入れるというより、ことりと再会する日を日記にも刻んでおきたかったのが本当のところ。

次はまこちゃんと友達になれたことでも書きましょう。

未来の私はもう再会してるのかしら?

楽しみだわ!

◆反省◆

ツバサ「で、私と英玲奈に言うべき言葉は分かる?」

ことり「ごめんなさい」

英玲奈「正解とは言えないな」

ツバサ「はぁ~。ファーストライブの時の言葉を間違えたのかしらね」

英玲奈「ライブ中に倒れさえしなければ無理を押してもいい。あれはそういう意味ではない」

ツバサ「無理を押してライブに出て踊れない体になったらどうするの!」

ことり「ごめんなさい」

ツバサ「ことりさんの体はもう一人の者じゃないの。最悪歩けなくなったら将来どうするつもりなの」

ことり「大げさだよ」

英玲奈「大げさではない。こんな腫れた状態でライブをしていたら、そうなってもおかしくなかった」

ツバサ「今回は運が良かったけど、次はないわよ? 今度こんな無理したらメンバーから外すわ」

ことり「そんなぁ!」

英玲奈「その反応はまた無理をする可能性があるということだろうか?」

ことり「ちっ、違うけど……でも」

ツバサ「こういう言い方したくないけど、ことりさんはあくまで芸能科じゃないの。被服科の特待生」

ツバサ「優先すべきはそっちなのよ。私達の我がままでA-RISEに入ってもらっただけで」

英玲奈「妹と同じように思っているが、だからこそA-RISE入りさせるんじゃなかったと少し後悔している」

ことり「……」

英玲奈「頼むから私に完全な後悔をさせないで欲しい」

ことり「本当にごめんなさい」

ツバサ「ことりさんにとって私と英玲奈はメンバーとして信頼もされてないってことよね」

ことり「違う! 違います!」

ツバサ「だってそうでしょ?」

ことり「本当に違います」

ツバサ「だったらどうして言わなかったの?」

ことり「……言ったらライブを中止にすると思って」

ツバサ「当然でしょ。スクールアイドルはファンが大切よ。だからこそ、よりメンバーが大切なの」

ことり「……」

ツバサ「もう、お願いだから本当に無茶しないでね?」

ことり「ごめんなさい」

ツバサ「ううん、私の方こそ強く言いすぎたわ。ごめんなさい」

英玲奈「それ程ことりはA-RISEになくてはならないメンバーということだ」

ことり「うん、ありがとう。今度からきちんと話すね」

ツバサ「そうして頂戴。よし、後は先生が来るのを待つだけね。早く病院に連れていきたいわ」

英玲奈「通ってる病院とかあるか?」

ことり「ううん」

ツバサ「だったらこういう怪我は南條病院ね」

英玲奈「今月はウィークデイライブがないのだから、安静にすること」

ことり「はぁい」

ツバサ「ことりさんは見た目とは裏腹に爆弾みたいで心臓に悪いわ」

英玲奈「刺激があるという意味では面白い」

ことり「爆弾じゃないよぉ」

ツバサ「そうなってくれることを祈るわ。あ、先生が来たみたいね」

ことり(西木野真姫ちゃんには悪いけど、真姫ちゃんの所為じゃないから西木野病院じゃない方がいいと思うから)

ことり(もしまたどこかで会うことがあったら、その時は謝ろう)


ネクストストーリー……ハッピーハロウィン+a

大変遅くなりました。新年初更新ということでお年玉(?)企画!
《直下1、2》で出たキャラクターメインで秋か冬の小話を書こうと思います。

一人の場合なら出てきたキャラ(リボン先輩でもおじさん等)誰でもOK。
二人~三人選択なら不自然にならない『にこあん』『ことほのうみ』『A-RISE』『邪道シスターズ』みたいな感じで。
複数の場合は『のみ』を入れるとそのメンバーだけしか出てこない小話になります。
小話の希望があれば秋~冬に相応しい単語を入れておくとその話になるかも……?

※例
◆単キャラ◆
かしこい・かわいい・かっこいいツバサ! = ツバサがメインのお話。

◆複数キャラ◆
にこあん = にこあんメインのお話。
邪道シスターズのみ = えりにこあんしか出てこないお話。

◆+単語◆
○にこあんで《雪合戦》 = にことあんじゅメインで雪合戦!○

にこ「私のチームは絵里と穂乃果ね。機動力抜群だし、これは貰ったわ」
絵里「単純な遊びである雪合戦だとあんじゅの策も入りようがないものね」
穂乃果「雪合戦なんて懐かしいなー。海未ちゃんは強敵かも」

あんじゅ「にこチームに負けないよ。我に策あり、故に勝利あり!」
亜里沙「ロシアで雪合戦なんてなかったから楽しみ!」
海未「雪合戦にまで邪道なんて要りません。今回は亜里沙を楽しませるのを目的にしましょう」

◎にこあんのみで《雪合戦》 = にことあんじゅ二人だけの仁義なき戦い!◎

あんじゅ「にこを倒せって胸の傷が痛むニコ!」
にこ「敗者の言葉なんて聞く耳を持たないわ。雪だるまの糧になるにこ!」
あんじゅ「に~こ~!」
にこ「あんじゅ~!」
あんじゅ「……にこの名前って可愛いからに~こ~って叫ぶと鳴いてるみたいで迫力なくすよね」
にこ「ふっふーん! 世界一可愛い名前だから仕方ないわ」
あんじゅ「うふふ、隙あり!」
にこ「にこっ!?」

安価↓1、2(キャラ名のない場合は安価下で拾うのもありだし、この企画はなかったことにしてもOK!)

――ハロウィン当日 イベント待機室

あんじゅ「に~こ。恐怖を感じないとあの世に連れていくわよ?」

にこ「うわっ! な、何よその顔!?」

あんじゅ「この火傷跡は生前の残り。クリスマスの夜、とある男に油を掛けられ火を放たれて亡くなったの」

あんじゅ「ハロウィンに相応しい亡霊。紅蓮女」

にこ「何かの漫画?」

あんじゅ「小説だよ。にこみたいな女性主人公が恐人という名の亡霊から望霊に生まれ変わる最高の物語!」

にこ「にこみたいな? どんな素敵な主人公なのよ」

あんじゅ「人間の友達が居なくて、小学生の教師なんだけど生徒を殴って失業しちゃうくらい素敵な女性だよ」

にこ「どこが素敵よ! どうして私みたいなのよ!」

あんじゅ「にこって私が放っておくと学校だと一人になってそうだし?」

にこ「私の人脈舐めるんじゃないわ!」

あんじゅ「ぺろぺろ♪」

にこ「擬音で舐めてるんじゃないニコ!」

あんじゅ「にこにこにー♪」

にこ「ぐぬぬ!」

あんじゅ「ちなみにフェレットが相棒なんだよ。ね、コタロー?」

にこ「誰が小太郎よ! てか、そんなメイクしてたら子供が怯えるでしょ」

あんじゅ「最近の子はこれくらいじゃ怯えないよ。でも、恐人としては驚かせた方がいいのかな?」

にこ「くだらないことばっかしてるんじゃないわ。そもそも、誰がそんなメイクしたのよ」

あんじゅ「佐藤のお姉さんのお友達。わざわざメイク道具持ってきてくれたんだよ」

にこ「才能の無駄遣いって感じね。いや、大学生だから練習出来る機会があるのは喜ぶべきなのかしら?」

あんじゅ「そうそう。だからウィンウィンな関係なんだよ☆」

にこ「ハロウィンって亡霊とかありなんだっけ?」

あんじゅ「ハロウィンのカボチャで有名なジャック・オ・ランタンも幽霊だよ」

にこ「あのカボチャにそんなカッコいい名前があったのね」

あんじゅ「確か悪戯小僧だった所為で、天国にも地獄にも行けずにカボチャのランタンを持って今も狭間を彷徨ってるんだよ」

にこ「意外とディープな話ね」

あんじゅ「ハロウィンの日は皆に混じって現世に現れてるかもしれないって話なんだー」

にこ「織姫と彦星のぼっちヴァージョンね」

あんじゅ「にこは安心してね。地獄に行きそうでも、私が天国まで連れてってあげるから★」

にこ「死後まであんたに取り憑かれたくないわ」

あんじゅ「それじゃあツンデレにお答えして来世も一緒にいようね!」

にこ「せめて今度は胃に強い子に産んでってママにお願いするわよ」

あんじゅ「うふふ」

にこ「今思い出したけど、あんじゅはハロウィンに相応しい魔女コスがあったじゃないの。どうして着ないの?」

あんじゅ「アイドルだもん。同じ衣装を二度着るのは抵抗あるの」

にこ「抵抗って、あれは音ノ木坂のイベントだからほとんど身内にしか見せてないでしょうが」

あんじゅ「そういう手抜きな考えをしていくと堕落アイドルになっちゃうよ?」

にこ「あんたに堕落の烙印を押されたら私は日本を出ていくわ!」

あんじゅ「どこに行こうか? ニュージーランドとかいいかも」

にこ「……どんだけシスコンよ」

あんじゅ「エリーちゃんと並ぶくらいかも」

にこ「重症ね」

あんじゅ「シスコンは一生付き合っていく病気だからね。にこは素直に諦めようよ。諦め系アイドルNIKO」

にこ「なんでもアイドル付ければいいってもんじゃないわ!」

穂乃果「二人はいつも漫才してるよね」

にこ「よかった。穂乃果はオーソドックスの魔女スタイルね」

あんじゅ「黒い三角帽子と同じく黒いマント。穂乃果ちゃん可愛いよ」

穂乃果「えへへ! でも、これって去年から採用した穂むらのハロウィンスタイルなんだよね」

にこ「ハロウィンスタイル?」

穂乃果「ハロウィンは西洋の文化だけど、使える行事は使わないとね。だから和菓子だけどハロウィン風の作ってるんだ」

にこ「そうなの? だったら穂乃果だけでも最後の出番だけにすればよかったかしら」

あんじゅ「ローテーション組んでお手伝いにいけばよかったかな?」

穂乃果「ううん、大丈夫だよ。ライブがあるのは事前に知らせてたから、今日は臨時のバイトを雇ってあるから」

あんじゅ「ねぇねぇ、あんじゅお饅頭が食べたいにこ~」

にこ「そうね。帰りに買って帰りましょうか。こんな機会じゃないと余り買えないしね」

穂乃果「二人共大丈夫だよ。穂むらの経営は常に黒字営業だし、時には箱詰めとかも手伝うくらいなんだから」

にこ「挨拶するついでの買い物だから変な勘繰りするんじゃないわ」

あんじゅ「そうだよ。メインは挨拶だから!」

穂乃果「嘘だよ~。だってあんじゅちゃんがさっき自分でお饅頭食べたいって言ってたもん」

あんじゅ「その前の《ねぇねぇ》の部分に姉妹だと通じる挨拶するって意味を込めてたの」

にこ「ああ、うんの呼吸ってやつね」

あんじゅ(今あが一つ多かった気がするけど、今回は見逃してあげようかな)

穂乃果「だったらたっぷりサービスするよ。こころちゃんとここあちゃんにも食べて欲しいから」

にこ「いいわよ。そういうのは常連さんにしてあげなさい」

あんじゅ「にこってばお姉さんみたい!」

にこ「ふっふーん! お姉さんだもの」

穂乃果「お母さんが常連さんとお世話になってる人にはサービスの心を忘れるなって言われてるから遠慮しないで」

あんじゅ「穂乃果ちゃんってばお店の娘さんみたい」

穂乃果「お店の娘さんだからね!」

にこ「じゃあ、今回だけは甘えるわ。次からはそういうのいいからね?」

穂乃果「にこちゃんが頼りにならない先輩になれたらサービスしないよ」

あんじゅ「じゃあ次もサービスされちゃうね」

穂乃果「うんうん。だから遠慮せずに一杯きてね」

にこ「そんなこと言われたら遠慮するにこよ」

穂乃果「じゃあさ、海未ちゃんみたいにたまにお店手伝ってよ。そうすれば遠慮しなくていいでしょ?」

にこ「そうね。このお馬鹿にも人生経験積ませるのには持って来いでこっちからお願いしたいわ」

あんじゅ「ニコ屋で経験積んだからバッチリだけど楽しそうだからしてみたい!」

穂乃果「本当? 冗談のつもりだったんだけど、本当に手伝ってもらえると普通に助かるよ」

にこ「任せなさい。それからさ、今度からはきちんと忙しい時期は先に言いなさいよ。練習軽くしてお店を手伝うから」

穂乃果「うん、ありがとう!」

あんじゅ「……ねぇねぇ」

にこ「何よ?」

あんじゅ「穂乃果ちゃんに優しくしたから次はあんじゅに優しくするにこ~」

にこ「ちょっと! そのメイクのまま顔を近づけるんじゃないわよ」

あんじゅ「私、綺麗?」

にこ「それって口裂け女でしょ?」

あんじゅ「紅蓮女と口裂け女はきっても切れない関係なんだよ」

穂乃果「ぐれんおんな?」

にこ「愚昧の今のメイクのキャラクターだって。穂乃果ってば肝が据わってるわね、この顔怖くないの?」

穂乃果「うーん……海未ちゃんの寝ている時に無理やり起こした時の方がよっぽど怖いから」

海未「誰が怖いですか?」

穂乃果「うわぁぁっ!」

あんじゅ「あっ、貞子だ!」

にこ「ハロウィンって仮装もありだったわね。でも、なんか違う気がする」

絵里「向こうだと吸血鬼とか狼男とか魔女がメインだものね」

穂乃果「ビックリした。海未ちゃんって人を驚かせる才能があるよね」

海未「全く嬉しくありません!」

あんじゅ「ぐぬぬ! 恐人としてのプライドが傷ついたにこぉ」

にこ「海未がそんなコスプレするなんて珍しいわね」

絵里「私との勝負に負けた罰ゲームなのよ」

あんじゅ「何で勝負したの?」

絵里「邪道ポーカー。今度はあんじゅにリベンジするわ」

あんじゅ「受けて立つよ!」

穂乃果「海未ちゃんはカードゲーム弱いんだから、賭け事で戦っちゃ絶対に駄目だよ」

あんじゅ「それは確かに言えるかも。前の時も顔に出てたし」

絵里「ポーカーフェイスを出来るようになればいい勝負が出来るようになるわ」

海未「」

にこ「そんなこと言うんじゃないわよ。前にやった時は負けて泣くくらい情熱があったんだもの、挑戦したくなるのは仕方ないわ」

にこ「結果としてこうしてコスプレさせられたのかもしれない。でも、私は海未のその心意気を買うわ」

にこ「チャレンジせずに諦めるのが一番愚かしいことだものね。この思い出だって挑戦しなければ生まれなかった」

にこ「後悔と一緒の思い出は色あせずにずっと残る。恥ずかしさを伴ったとしても、いつか笑い話に出来るわ」

海未「にこっ!」

にこ「っ!?」

海未「感動しました! 私の気持ちを汲んでくれるのはにこだけです!」

にこ「く、くるしっ」

あんじゅ「にこが貞子に呪われてる。井戸に道連れにされちゃう」

穂乃果「さすがに井戸は見かけないけどね」

絵里「実物の井戸を是非一度は見てみたいわ」

海未「私は初めてにこを姉と呼ぶ決意をしました。にこ姉さん!」

にこ「そんなこと私は望んでないから! 取り敢えず、力を緩めなさいよ」

絵里「……そんな、どうして私より先ににこを姉と認めるの」

穂乃果「絵里ちゃんが変なところでショック受けて膝着いてるねぇ」

あんじゅ「今回はしょうがないよ。にこって落ち込んだ時のお姉ちゃんオーラは最強だから」

穂乃果「あの海未ちゃんがあんな風になるくらいだもんね。でも、理由が間が抜けてるけど」

あんじゅ「人にとって些細なことでも、本人にとっては重大なことって往々にしてあるものだから」

絵里「あの時負けていればよかったのかしら」

穂乃果「海未ちゃんは顔に出るけど、勘は鋭いから。わざと負けたりしたら怒ると思う」

絵里「……そう、そうよね」

海未「こんなにも小さいのに、にこの心は青空のように広いのですね!」

にこ「なんでもいいから、ちからぬいて」

海未「思い返せばにこは元々あんじゅの手の平で踊らされていただけで、邪道というには随分と可愛らしかったです」

海未「それなのに私は去年の今日を迎えるまで意地になって……自分が情けないです!」

あんじゅ「穂乃果ちゃん。本当に海未ちゃんって勘がいいの?」

穂乃果「たまーに抜けてる部分が海未ちゃんの魅力なんだよ。そういうところをことりちゃんとからかうと可愛い反応するんだー」

あんじゅ「分かる! にこは逆に真面目な部分をからかうと可愛い反応して『にこにこっ!』って言うの」

穂乃果「あははっ」

絵里「……勝てば官軍なんて言ったの誰よ」

海未「思えばにこは穂乃果を立ち直らせてくれただけじゃなく、私に本来ならありえない経験も積ませてくれて――」

にこ「」

海未「――日舞の時に万が一にも緊張することがない精神を鍛えさせてくれた。青春時代の財産になります」

あんじゅ「あっ、そろそろ救出しないと本当にあっちの世界に連れて行かれちゃう」

穂乃果「あっ、本当だ。海未ちゃん! 落ち着いてよ」

海未「なんですか穂乃果? 今私はにこに感動を伝えているところなんです」

穂乃果「そのにこちゃんが大変なことになってるから!」

――十分後...

にこ「エライ目に遭ったわ」

海未「申し訳ありません」

穂乃果「いやぁ~面白いものを見れたよ」

あんじゅ「にこ姉さん!」

海未「……うぅ。忘れてください」

絵里「どうして私じゃないのかしら?」

穂乃果「海未ちゃんのカード弱さを緩和できるのはにこちゃんだけだからじゃないかな?」

にこ「ちょっと! それって私がカードゲーム弱いみたいに聞こえるじゃない」

あんじゅ「ここぞという勝負場以外だとにこはカードゲーム以外でも弱いよね」

にこ「失礼ね!」

穂乃果「でも逆に言えば普段は負けてるからこそ、応援したくなる気持ちも生まれるんだよね」

あんじゅ「完璧な強さを絵里ちゃんとするなら、雑草根性で勝ち上がる泥まみれヒロインがにこだよね」

穂乃果「だからこそ、本当に落ち込んだりした時に頼ろうと思ったらにこちゃんを頼っちゃうかも」

絵里「……私、長女なのに」

海未「実際、私もにこを頼りましたからね。カリスマとは違いますが、根っこの部分で信を置ける存在です」

にこ「褒められてんのか貶されてんのか分かんないわ」

海未「褒めているのですよ。こうして皆がにこに集まるのはにこの魅力なのですから」

絵里「海未、私にはどんな魅力が――」
穂乃果「――やめて絵里ちゃん! その質問は傷口を広げかねないよ」

海未「それに今回は特別ゲストまで来ますし」

にこ「特別ゲスト? 何よそれ、私聞いてないんだけど」

あんじゅ「にこには秘密で進めたからね。というか、ゲストからの要望なんだけど」

にこ「ハァ?」

海未「後で分かりますよ。それより、にこと絵里は仮装しないのですか?」

にこ「白い布でも被ってお化けにでもなるわ」

あんじゅ「こんなこともあろうかと、ミカちゃん達に協力してもらって魔女コスを用意しておいたよ!」

にこ「相変わらずの他力本願っぷりね」

海未「あんじゅはにこの魅力をいい意味で吸収し、自分の魅力にしている証拠です」

あんじゅ「ふっふーん! あん姉さんって呼んでもいいんだよ♪」

海未「安売り出来る性格ではないので、今回はにこだけにしておきます」

あんじゅ「……エリーお姉ちゃんじゃないけど、なんか悔しい」

にこ「望む所に来ずに望んでない所に来るって人生っていうのは難しいものね」

絵里「持つ者の余裕ってやつ!?」

穂乃果「いつになく絵里ちゃんが熱い。本当に妹関係になるとキャラが変わるね」

絵里「海未、よく考えましょう。にこが姉ならにこの姉である私は必然的に姉になるわ!」

海未「それが通用するのは戸籍上関係がある場合だけです。この関係は心のあり方が重要になりますからね」

絵里「言い返せないわ」

にこ「というか、普通に考えて自分の一周年記念に駄々捏ねるやつを姉とは認めたくないでしょ?」

あんじゅ「今日は珍しく正論が多いね」

にこ「海未の記念すべき日だもの。あんな手で入らせた罪悪感があるのよ」

あんじゅ「今日のにこは《キレイなにこ》なんだね」

海未「ふふふ。今ではにこのお眼鏡に掛かったことを誇りに思えています。だから気にしないで下さい」

にこ「でも当時中学生の海未を高校生二人があんな手を使ったのがね」

海未「柄にないことを言いますが……運命、だったんだと思います。だからにこは邪道を突き進んで下さい」

海未「私じゃ出来ない、想像もつかない道を一緒に歩みたいんです。私達は同じメンバーですから」

にこ「……海未」

海未「私が血の繋がりがないのに姉と認めた唯一の人物です。自信を持ってください」

あんじゅ「今回の切っ掛けもしょうもないけど、いい話に聞こえる不思議」

絵里「私はにこの噛ませ犬ね」

あんじゅ「私はエリーちゃんをお姉ちゃんと思ってるよ☆」

絵里「あんじゅはいい子ね」

穂乃果「よく考えると私だけ誰の妹でもないんだよねー」

海未「何を甘えたことを言ってるのですか。穂乃果は私とことりの王子様なのでしょう?」

穂乃果「えぇっ!? 王子様って誰かを姉にしちゃいけないの?」

海未「当然です。ですから絵里、穂乃果に何かをしたら許しませんからね」

絵里「どうして私の好感度が明らかに下り坂に入ってるの?」

にこ「そりゃ、有利な勝負挑んで勝ってればね。しかも、貞子のコスって救いがないわ」

あんじゅ「私と同じ紅蓮女だったら救いがあったのにね!」

にこ「同じよ! 知名度的に圧倒的貞子の勝ちだし」

あんじゅ「A-RISEとμ'sのような感じかな?」

にこ「上手い返しするじゃない」

海未「でしたら気持ちでまず勝てると思わなければいけませんね。紅蓮女というのは分かりませんが」

絵里「そうね。ラブライブを目指す以上A-RISEに勝つ気概でいないと。紅蓮女は知らないけど」

穂乃果「そうだね! ことりちゃんが居るからって遠慮はしないで頑張ろう! ぐれんさんは知らないけど」

あんじゅ「う~るる~。いい事言ったのに酷い仕打ちにあんじゅ涙」

にこ「よしよし。にこが今度読んであげるから泣き止みなさい」

あんじゅ「にこにー大好き! 流石私の自慢のお姉ちゃん!」

にこ「さて、漫才はこれくらいにするわ。これからの予定をきちんと確認しましょう」

絵里「ええ、そうね。まずは最初は小学生中学年までの小さい子組と一緒に踊るわ」

にこ「今回は正式なライブではないから、もし小さい子が転んだりしたら近くに居るメンバーが助けてあげてね」

穂乃果「了解だよ!」

海未「任せて下さい」

にこ「あくまでハロウィンを楽しみながらライブを体験するのが目的だからね!」

絵里「商店街の活性化祈願も忘れちゃ駄目よ?」

あんじゅ「勿論! 今度商店街ソングでも作って恩返ししたいね」

海未「面白い発想ですね。スーパーで流れている感じの曲にすればいいのでしょうか?」

穂乃果「教育番組の『ママと一緒に』のような童謡系の曲でもいいかもね」

にこ「とってもいい案だわ。もしかすると商店街のどこかの店で日々使ってくれるかもしれないし」

にこ「ママと一緒に買い物に来る子が増えれば必然的に将来もここに通ってくれるかもしれないからね」

絵里「大人になってもSMILEの曲を使ってるお店があったら最高の宝物ね」

海未「少し恥ずかしくもありますが」

穂乃果「でも最高かも。うちも和菓子屋じゃなくて洋菓子屋なら店内に流しても違和感ないんだろうけどなー」

にこ「メンバーの家のお店でSMILEの曲を使うのは普通にゴリ押しになるから、そうだったとしても止めるわ」

あんじゅ「でも人気が出ればゴリ押しじゃなくて流行になるから良いと思うけど」

にこ「まぁ、確かに。昔もTV番組から発生したアイドルグループが何枚売れたらデビューっていうのがあったわね」

にこ「かなりの枚数を身内が買ってデビューして今もそのグループは代を変えて残ってるわ」

穂乃果「つまりこれは和菓子屋でも使えるような和風っぽい曲にすれば穂むらでも流せるってことだね」

海未「家が家ですから、私も和風の曲というのは興味がありましたから作ってみましょう」

にこ「う~ん、まぁ……海未が乗り気なら止めないけど。あんじゅは作曲出来そう?」

あんじゅ「うーん、少し難しいかもだけど。でも、私はけっこう万能だから任せて!」

にこ「果てしなく不安でしかないけど、試作って形で進めてみましょう」

あんじゅ「どうして海未ちゃんの時と反応が違うの!?」

にこ「胸に手を当てて答えを探してみなさい」

あんじゅ「分かった。……ペタペタ。71!」

にこ「誰がにこの胸に手を当てろって言ったのよ! しっ、しかもにこは74だし!」

穂乃果「えっ? だって海未ちゃんが今74だよね?」

海未「そうですね。でも、最近少しまた大きくなった気もするので75かもしれませんが」

絵里「……にこ。そんなところで無駄に背伸びしなくてもいいのよ」

にこ「その同情した目で私を見るんじゃないわよ! アイドルしかり、グラドルしかり3サイズの改変は当たり前なの!」

あんじゅ「大丈夫だよ。ママはスタイルいいし、にこだって…………こころちゃんとこころちゃんは大丈夫だよ★」

にこ「私の将来はこのままって言いたいわけ!?」

絵里「可愛いからいいじゃない。なんか三十歳でも四十歳でもいつまでも若々しくあれそうで羨ましいわ」

穂乃果「そうだね。穂乃果はお母さんみたいに将来はお腹が弛まないように気をつけなきゃ。よし、ダイエットだ!」

海未「ほぅ。本気で言っているのなら私が特別メニューを組んであげますよ?」

穂乃果「ひぃっ! 自分一人で頑張れないダイエットなんて意味がないよ。肝心なのは己の欲に勝てるかどうかだから」

穂乃果「ここで海未ちゃんの手を借りて痩せても、将来太った時に頑張れないからね」

海未「カッコいいこと言って逃げてますが、将来も一緒にいるんですから大丈夫ですよ」

穂乃果「……幼馴染って時に足かせになるよね」

絵里「贅沢なこと言わないの。私なんてロシアに長く居たからこの地に幼馴染なんて居ないんだから」

あんじゅ「私も当然居ないよ。にこにはその質問しないでね? 傷口が開くから」

にこ「なんでぼっちキャラを印象付けたいのよ!」

あんじゅ「バザーでちっちゃくライブしたのが懐かしいね」

にこ「無駄に回想シーン入れて私が居るよアピールしようとするんじゃないニコ!」

あんじゅ「大事なのは過去以上に現在。そして、未来にこっ♪」

絵里「本当にこの二人の出逢いが知りたいわ」

海未「そうですね。拾ったとだけしか言わず、語ろうとしませんからね」

穂乃果「もしかしてこの後、ラブライブ出場前に何かトラブルが遭って、そこで初めて語られるんじゃない?」

海未「なんですか、そのドラマみたいな展開は……」

絵里「そうなるとあんじゅかにこが突然アイドルを辞めるとか言い出すのかしらね?」

海未「不吉過ぎます。古来より言霊という物があって、言うと実現してしまう可能性があるのですよ」

穂乃果「現代訳だとフラグだね!」

絵里「にこがいつも立ててるやつね。それでもめげずに失敗フラグを立てるにこは本当に可愛い妹だわ」

海未「最近では皆を和ませる為にわざとしている気すらします」

穂乃果「もしそうだったら昼アンコウだね」

海未「それを言うなら昼行灯ですよ。もしそうだったらそれこそドラマの主人公です」

穂乃果「芸人が主人公のドラマって視聴率取れるのかな?」

にこ「ちょっと! 何でにこが芸人なのよ!」

あんじゅ「これ以上ないくらいしっくりくるよね」

絵里「有名大学出身の芸人だって多いし、元スクールアイドルの芸人がいてもいいと思うけど」

海未「ライブで笑顔と元気を与えるのも、芸で笑顔と元気を与えるのも根本は同じではないですか」

にこ「家元の娘がその台詞を言うとお母さんが泣くわよ」

穂乃果「大丈夫だよ。海未ちゃんのお母さんはね、少し天然入ってるから」

海未「穂乃果に言われるのもなんですが、その通りです。しかも穂乃果には甘いですし」

海未「ですが、そんな母だからこそスクールアイドルをすることも認めてもらえたのですが」

絵里「本当に運命を感じちゃうわね。来年度はどんな子が入ってくれるのかしら?」

穂乃果「元気な子がいいな♪」

海未「常識を持っている子であれば他に言うことはありません」

あんじゅ「にこの胸にダメージがない子がいいかも」

にこ「胸は関係ないでしょ!」

絵里「つまり、入ってくれさえすれば大歓迎ってことね」

にこ「綺麗に纏めてるけどね、実際に新入生が入ってくれるかどうかは分からないんだから」

にこ「もし入ってこなくても落ち込むんじゃないわよ。そうなったら……ラブライブ出場も少し危なくなる」

にこ「その時は何か手を考えるけど、覚悟はしておいてね」

あんじゅ「そうだ、私新しいゲームを考えたんだ☆」

にこ「なんでいつもいつも人が真面目になるとその空気をぶち壊すのよ、あんたは!」

あんじゅ「これなら海未ちゃんでも絵里ちゃんと対等に戦えるかもしれないカードゲーム」

にこ「って、スルー!?」

海未「それで、そのゲームとはどんな内容なのですか?」

穂乃果「あははっ。にこちゃんにはそういう顔の方が似合ってるよ。心配するより笑顔でいよう」

絵里「そうね。今回はあんじゅの気遣いに甘えておきましょう」

穂乃果「海未ちゃんは気遣いじゃなくて、本気でそのゲームを知りたがってるみたいだけど」

にこ「海未の中では『義姉<カードゲーム』なのね。仕方ない気もするけど」

穂乃果「ファイトだよ!」

絵里「私も気になるわね」

あんじゅ「既存のゲームでEカードってあるんだけど、そっちだと戦略が難しすぎて海未ちゃんには向かない」

あんじゅ「あ、勿論戦略が下手って意味じゃないよ。顔に出ちゃうからね」

海未「フォローありがとうございます。でも、そんなに私は顔に出ているのでしょうか?」

穂乃果「小さい頃からずっとだよ!」

あんじゅ「でも特訓すればなんとかなるよ。水を被ると女の子になる主人公だってなんとかなったもん」

海未「はぁ?」

あんじゅ「運否天賦だけだとゲームとして面白みが少ない。でも運の要素が入り込まないと海未ちゃんが不利」

あんじゅ「なら勘と運と駆け引きを掛け備えたゲームにしてあげればいいんだよ」

あんじゅ「名付けてQカード」

にこ「一気に地雷臭がしたわね」

絵里「つまり内容を知らないけど、Eカードっていうののパクリってことかしら?」

穂乃果「でも海未ちゃんは目を輝かせてるよ」

海未「Qカード! 正に女である私達がするに相応しいゲームですね!」

あんじゅ「そうでしょ?」

あんじゅ(QじゃなくてもAでもJでもKでも何でも良かったんだけどね)

あんじゅ「J・Q・Kの三枚をそれぞれ用意して、相手のカードを切って裏にしたまま三枚並べるの」

あんじゅ「そして、お互いに相手の三枚の内一枚を選んで自分だけが見ることが出来るの」

あんじゅ「ここは勘と運を試される第一の門。ここでQを引き当てれば有利になるからね」

あんじゅ「第二の門は言葉の駆け引き。相手に一枚引かせて、自分も引くんだけど、Qを引いたら負け」

あんじゅ「お互いにQもしくはハズレで引き分け。如何にして見たカードの情報を頼りに相手を言葉で惑わすか」

あんじゅ「勿論一回勝負だと運の要素が強すぎるから十戦はすることが前提だけどね」

あんじゅ「ずっと相手に有利になる助言をして、最後に刺すのもありだし、逆に相手が勝手に自爆するかもしれない」

あんじゅ「第三の門は己との勝負。深遠を覗くような恐怖が待つ状態の中で、自分を信じ続けられるかどうか」

あんじゅ「信じたところで其れが正解という保障はない。暗い夜の海を泳ぐような死地を漂い続ける」

あんじゅ「沖に上がれるのか、海の藻屑になるのか……それとも、相手が持つ木の板を奪って自分だけが助かるのか」

あんじゅ「相手が見たカードを絶対に信じないっていうのも手だけど、そうなると確立が常に1/3から1/2に変わる」

あんじゅ「どう戦い、どう惑わせるか。Qカード又の名を魔女の海!」

海未「魔女の海!!」

にこ「明らかに今考えましたって別名ね」

穂乃果「でも海未ちゃんすっかり騙されてるよ」

絵里「中二病だったっけ? それを刺激されたのね」

あんじゅ「でも、やっぱり顔に出ると不利だから少し特訓が必要だけどね。上手くいけば表情すらも武器に変わるから」

海未「あん姉さん! 貴女は最高です!」

絵里「えぇっ! どうして私以外が姉と呼ばれてるの!?」

穂乃果「これは仕方ないかなぁ。即興とはいえ海未ちゃんの為に考えたみたいだし」

にこ「絵里は逆方向に暴走してるのが原因ね。小学生の男の子が好きな子をいじめるみたいな状態だもの」

穂乃果「もしくは、餌を食べたいからってわんわん吼えて逆に餌をあげ難い状態にしてるって感じかな?」

絵里「耳に痛いから例えるのやめてっ」

あんじゅ「慣れれば五枚に増やして二枚見るとかにしてもいいしね。三枚が一番早くて分かり易いからお奨めだよ」

海未「そうですね。欲せば先は闇とも言いますし、自分を冷静に判断し三枚がベストでしょう」

にこ「で、これってさっきのフラグなのかしらね?」

穂乃果「海未ちゃんはリベンジ出来ればそれだけで最高の勝利を味わえるし、絵里ちゃんが勝てば姉と呼ばせられるみたいな?」

絵里「それは良いわね。姉より優れた妹なんて居ないという証明を出来るわ」

穂乃果「……」

にこ「そうね。ということだから、穂乃果も雪穂ちゃんに負けないように頑張りなさいよ」

穂乃果「雪穂ってああ見えて勉強も出来るんだよねー」

にこ「いや、見た目どおりだけど。眼鏡とか似合いそうだし」

絵里「でも穂乃果。にこを見て分かるとおり、世の中勉強以外が出来ればなんとかなる場合もあるから」

絵里「成績だけで上下を決めるのも愚かよ。だけど、それを言い訳にして勉強しないのは確実に愚者だけどね」

にこ「ちょっと! だからどうしてそういうことの時に私の名前を上げるのよ!」

絵里「にこはマスコット部長だから。それにからかわないと消えちゃいそうで怖いのよ」

にこ「どんな存在なのよ!?」

穂乃果「にこちゃんはいくつくらい赤点があるの?」

にこ「流石に赤はないわよ。あんじゅと絵里がいるからね」

絵里「当然よ。私と同級生でありながら赤点を取らせるなんて、生徒会長として許せないわ」

穂乃果「へ、へー」

にこ「その反応からして穂乃果は赤点があるのね?」

穂乃果「……えっと、数学だけ」

絵里「今日のライブが終わったら勉強をみてあげる」

穂乃果「えぇー! いいよいいよ。ライブの後って疲れてるし、勉強とか明日からでいいし」

絵里「明日が必ずくると思うから時間の使い方を間違うの。汝死を思えって偉大な名言を実感しなさい」

穂乃果「意味わかんないし!」

絵里「商人の家系なのにどうして数学が苦手で平気でいられるの?」

にこ「歴史の授業以外であきんどって使ってる人を初めてみたわ」

海未「穂乃果の勉強の話ですか? いいでしょう。冬休みに入ってからと思ってましたが、きっちりと教え込みましょう」

穂乃果「鬼が増えた! あんじゅちゃん助けて!」

あんじゅ「穂乃果ちゃんの為になることだからね。私はにこの勉強みるから穂乃果ちゃんも頑張って」

穂乃果「そんな~。海未ちゃん一人でも辛いのに、絵里ちゃんまでなんて」

絵里「大丈夫。私は海未より雨と鞭を使い分けるのは得意よ」

にこ(その鞭で思い切りにこの心を抉ったけどね)

あんじゅ(鞭で打った後に生き残ってる保障がないけどね)

にこ「あんじゅが妹でよかったわ。あんたは勉強面では優秀だものね」

あんじゅ「だから勉強面以外でも優秀だってば。そうだ、海未ちゃん。ダイエットじゃないけど朝練一緒にしてもいい?」

海未「朝練ですか? 私の朝は早いですよ」

あんじゅ「にこは私のことを怠け者みたいに勘違いしてるからね、見直させるの」

海未「……手遅れ、ではないですか?」

あんじゅ「手遅れじゃないよ! そうだよね、にこ?」

にこ「にこの心は広いからね。頑張れる子はきちんと評価するわよ」

海未「そうですか。では一緒に鍛練に励みましょう。三日坊主とかはやめて下さいね」

あんじゅ「私を誰だと思ってるの? 邪道シスターズの矢澤あんじゅだよ!」

海未「その名を使うということは覚悟があるということですね。分かりました」

にこ「あんたに合わせて早くご飯とか作らないわよ」

あんじゅ「体を動かしてから食べるから大丈夫」

穂乃果「あんじゅちゃんってにこちゃんの妹だけあって意外とMなんだね」

絵里「それくらい頑張ってにこに認めて欲しいって妹心よ。とびっきり可愛いじゃない」

海未「頑張るからにはにこに認められるという曖昧な目標でだけでなく、明確な目標もあった方がいいです」

あんじゅ「明確な目標……にこは何がいいと思う?」

にこ「短距離は速いからね。短距離ナンバー1とかいいんじゃない。目標は常に大きくが重要よ」

あんじゅ「そうだね! じゃあ、陸上部にすら勝てるような速くなるよ」

絵里「うちの陸上部はそこまでレベルは高くないけど、だからって一般の子が敵うレベルでもないわよ」

海未「日々鍛練を重ねているわけですからね。ですが、目標を高くするのはにこのいうとおり重要なことです」

穂乃果「整頓されたグランドでタイム計るわけじゃないんだから絵里ちゃんは真面目に考え過ぎだよ」

絵里「それもそうね。思い違いをしてたわ」

あんじゅ「あ、何か今フラグが立った気がする」

にこ「なんであんたと陸上部が争うなんて変なフラグが存在するのよ」

海未「私はにことあんじゅが他校に乗り込んでゲリラライブしても驚きませんよ」

穂乃果「そうだね。何をやっても違和感も感じないと思う」

絵里「ゲリラライブは流石にやったら最悪退学だけど、路上ライブとかしてみるのもいいかもね」

にこ「路上ライブ! そうね、そういえば路上ライブを経験してなかったわ」

あんじゅ「何だか楽しそう☆」

海未「……同じ目線で歌うというのは恥ずかしくて嫌なのですが」

穂乃果「苦手を一つ克服すれば、己の理想に一歩近づいた証拠ですよ、海未!」

海未「それは私の真似のつもりですか? そうですね、人に言って自分は出来ないのでは言葉の価値が下がります」

にこ「人前で歌い始めて一年経つんだから、ライブ始まるまでは恥ずかしくても、いざ曲が流れれば気にならなくなるわよ」

絵里「その緊張感や恥ずかしさもまた癖になるから厄介なのよ。後は結果を気にせず楽しめるかどうか」

穂乃果「みんなして良い事言うね! よーし、なんだか燃えてきたー!」

にこ「客観的に見れば貞子と紅蓮女と魔女が居るから滑稽でしかないけど」

穂乃果「酷いよー。というか、そろそろにこちゃんと絵里ちゃんもお化粧くらいしようよ」

絵里「今からとか時間がないからいいわよ」

あんじゅ「にこは白粉塗って、赤い線を頬や瞼の上に引いてお面の白狐みたいにすると可愛いかも」

にこ「あれって日本のだからハロウィンに似合わないと思うけど」

あんじゅ「狼男の友達の白狐子ちゃんって設定にしたから大丈夫!」

にこ「あんたの頭の中で設定変更されても世界には何の影響も出ないわ!」

海未「でしたら絵里は狼女ですね。狼の耳と尻尾と手を付けてください」

絵里「ひぃっ! 髪を倒して近づいてこないで。海未と分かってても改めてみると凄く怖いから」

海未「しょうもんばっかりしてると、お化けが出ますよ?」

にこ「しょうもん?」

あんじゅ「確か水遊びみたいな意味だったかな。でも、貞子ちゃんって初期は裸だったって話だよ」

穂乃果「え、風邪ひいちゃうんじゃない?」

にこ「死んでるのに風邪もなにもないでしょう。しかも、裸ってあんまりね」

あんじゅ「シリーズによって設定が変わるけど、衣装は白いのが定番になってるね」

にこ「そりゃ、裸じゃ映像として放送出来ないでしょ」

あんじゅ「ううん、SPドラマとして放送されたみたいだよ。裸の理由こそが殺された意味として明かされたとか」

穂乃果「へぇ~」

にこ「目に見える物を後の伏線にする。マジシャンみたいな手ね」

あんじゅ「私もいつかしてみたいな。にこを出汁にして♪」

にこ「絶対に嫌よ!」

絵里「ちょっと、三人で和んでないで海未を止めて。本当に心臓に悪いから」

海未「……貞子から助かる方法は一つだけです」

絵里「私貞子ってキャラしかしらないから助かる方法とか知らないから!」

にこ「あぁ、怖いの苦手な絵里が貞子をチョイスしたのが不思議だったけど、観てないのね」

あんじゅ「基本的に面白いのにね」

穂乃果「私は映画の一つしか観たことないけど」

絵里「どうやったら助かるのよ!?」

あんじゅ「ビデオをダビングして他の人に渡さなきゃいけないんだけど……今更ビデオデッキなんて持ってる?」

絵里「ビデオっていつの時代よ!」

にこ「缶ジュースが110円で買えた時代ね」

穂乃果「あっ、来年はにこちゃんに是非して欲しいコスプレを思いついた!」

あんじゅ「なになに?」

穂乃果「地獄少女っていう少女漫画の主人公なんだけど」

あんじゅ「知ってる知ってる。『いっぺん死んでみる?』ってやつだよね」

穂乃果「そうそう。長い黒髪だし、小柄だし、白い肌だし……これ以上ないマッチした組み合わせだよ!」

にこ「ふぅん。漫画のキャラのコスプレね。ま、ファンサービスの一環としてならいいかもね」

あんじゅ「バリバリの和服だからお婆ちゃんにお願いしよう!」

にこ「あんたお婆ちゃんに甘えすぎよ!」

絵里「なんなの! 今日は私の厄日なの?」

海未「自業自得ですよ」

絵里「うぅ~!」

あんじゅ「海未ちゃんそろそろ許してあげて。Qカードでエリーちゃんに勝ってその時何かコスプレさせればいいんだよ」

海未「ふむっ。ですが、私はそういうのに詳しくないので何を着せればいいのか分からないのですが」

あんじゅ「金髪を生かしたキャラだね。漫画って色んな髪の色してるけど外国人キャラの多くが金髪だから」

あんじゅ「探せば色んなのがあるからじっくり考えよう。口癖も真似させれば雪辱して屈辱も晴らせて万々歳でしょ?」

海未「そうですね。ですが、狼女にはなってもらいますよ?」

絵里「……それはいいけど、そんなの用意してないでしょ?」

穂乃果「ううん、内田のお姉さんが色々そういうの用意してたの見たよ」

絵里「余計なことを!」

にこ「腐ってるけど、家族で仮装できるようにって提案だから余計なことじゃないわよ」

絵里「この年で狼女。亜里沙とこころちゃんとここあちゃんが来るのに」

あんじゅ「亜里沙ちゃんの反応は分からないけど、こころちゃんとここあちゃんなら絶対喜ぶよ。エリーちゃん可愛いって」

にこ「間違いないわね。亜里沙だって普段とは違う絵里を見れれば喜ぶに決まってるわ」

絵里「……そうかしら?」

穂乃果「絵里ちゃんは素材がいいんだから、変になることなんてありえないよ」

絵里「だったら狼女も悪くないわね」

穂乃果「勿論海未ちゃんもすっごく似合ってるよ!」

海未「全然嬉しくありません!!」

ネクストストーリー……ハロウィンライプ+お年玉×2

※訂正 >>733 『μ's ⇒ SMILE』指摘ありがとうございます。

――ハロウィン当日 イベント会場

こころ「にこにー!」

ここあ「あんちゃんー!」

亜里沙「お姉ちゃ~ん!」

海未「ふふっ。なんだか微笑ましい光景です」

穂乃果「本来ならそこに雪穂が居たんだけどね」

海未「ことりなら分かりますが、クールな雪穂は走りよってはこないでしょう」

穂乃果「……穂乃果って、妹の育て方間違えたのかなぁ」

海未「そもそも雪穂に影響与えるよりも私やことりへの影響の方が強いですから仕方ない気もします」

穂乃果「雪穂が年子なら四人で遊んでたかもしれないのにね」

海未「今からでもお姉ちゃんっぽくなるという意見を出さない辺りが穂乃果らしいですね」

穂乃果「えへへ!」

海未「笑って誤魔化さないでください。頼りになるのかならないのか、分からない王子ですね」

ここあ「あんちゃんおかおだいじょうぶ? いたくない?」

あんじゅ「これはお化粧だから大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね。よしよし♪」

ここあ「よかったにこっ♪」

亜里沙「お姉ちゃん可愛い! どうして犬さんの耳つけてるの? あっ、尻尾まで!」

絵里「自業自得というか、人を呪えば穴二つというか、因果応報というか……戒めよ」

亜里沙「難しくて亜里沙分からない」

絵里「つまりは自分の行いの所為でこんな恥ずかしい格好をしているの」

亜里沙「全然恥ずかしくなんかないよ! とっても似合ってる!」

絵里「に、似合ってると言われるのも微妙だけど。今日ばかりは喜んでおこうかしらね」

海未「亜里沙、こんにちは。これは犬ではなく狼ですよ」

亜里沙「海未さんこんにちは。そっか、狼さんなんだ」

絵里「そうよ。亜里沙が悪い子になったら食べちゃうわ」

亜里沙「きゃっ! お姉ちゃんこわ~い♪」

こころ「にこにーはそのままなの?」

にこ「う~ん、そうね。後で簡単に着替えすると思うわ。魔法使いかしらね」

こころ「まほうつかい! こころもまほうつかいたい☆」

にこ「本当の魔法は夢の中でしか使えないから、今日の夢でみんなで魔法でも使うにこよ」

こころ「えへへーたのしみ!」

ここあ「ここあもまほうつかえる?」

あんじゅ「使えるよー。でもそうなると前衛が居なくなっちゃうよね。妹だから私は勇者になるよ」

にこ「妹だから勇者って理論が分からないけど、別にいいんじゃない」

あんじゅ「絵里ちゃんが熊で、穂乃果ちゃんが狸。それで海未ちゃんはお姫様だから妖精だね」

にこ「なんで絵里が熊? 穂乃果の狸はいつかのこの子達の夢からって分かるけど」

あんじゅ「姉妹の冒険と言えばっていう物語を当てはめるとどうしても絵里ちゃんが損をしちゃうの」

ここあ「でもくまさんもかわいいにこ!」

こころ「くまさんかわいいの♪」

にこ「有名な人形があるくらい可愛いけど、損をするのが自分にしない辺りが勇者ねぇ」

あんじゅ「にこにーお姉ちゃん(魔法使い)と一緒なら魔王だって退治しちゃうにこ★」

こころ「まおう?」

ここあ「まおうはこわいひとだよね?」

あんじゅ「最近だと『魔王=恐怖の対象』というのも崩壊して可愛かったり可哀想だったりするけどね」

絵里「つまり今の魔王はにこみたいな存在ってことね」

あんじゅ「そうかも。残念な魔王も居るし」

にこ「ちょっと! それだとにこが残念みたいに聞こえるでしょ!」

海未「そうですね。どちらかというと最近残念度が増してるのは絵里ですよね」

絵里「うっ!」

亜里沙「お姉ちゃん、海未さんに何をしたの!?」

穂乃果「海未ちゃんのジョークって重いから、SMILE内に亀裂が走ってるみたいに思われちゃうよ!」

絵里「大丈夫よ。私は長女だからね、メンタルは常に誰よりも強くないとね」

海未「私の姉になるにはQゲームで私を降してからですけどね。無論、負けませんが」

絵里「ふふふ。絶対に勝って私の妹にしてみせるわ」

亜里沙「なんだかお姉ちゃんとっても楽しそう」

にこ「絵里があんな自信満々にしてるとフラグが立ってそうに見えちゃうのよね」

あんじゅ「あぁ~確かに。でもエリーちゃんが勝ってくれた方がシスターズの完成するんだよね」

にこ「穂乃果だけ海未にストップされているから難を逃れたけどね」

あんじゅ「それだとシスターズが悪いみたいじゃない。姉妹は最高の絆だもんねー」

こころあ「うん!」

にこ「とりあえずおちびちゃん達に振って同意を得るのは卑怯よ」

亜里沙「亜里沙も姉妹は最高だと思う! 勿論お姉ちゃんだけじゃなくて、みなさんも含めて!」

海未「ええ、亜里沙は遅れてきた私達の誇らしい妹です」

あんじゅ「一緒にスクールアイドルとして活動が出来ない分、今日最高のライブをしようね」

亜里沙「はい! SMILEのファン暦は長いからその想いも込めてライブするの!」

にこ「そういえば絵里のSMILE入りを推したのは亜里沙と前会長だもんね」

絵里「その時はまだスクールアイドルの存在自体私は知らなかったのよね。亜里沙に聞いて初めて知って……」

亜里沙「お姉ちゃんってば最初は『アイドルの真似事』なんて酷いこと言ってたんだよ!」

絵里「根に持ってたの? あれはまだ色々と余裕がなかったからしょうがないじゃない」

海未「絵里がそんな風に言っていたなんて初耳ですね」

あんじゅ「エリーお姉ちゃんは海未ちゃんより強敵だったくらいだしね。邪道な手なんて使える余裕がない頃だったし」

にこ「ま、二人で我武者羅に頑張ってたからね。私達も余裕が今みたいになかったわ」

穂乃果「その頃の二人に会ってみたかったかも」

にこ「それを言うならこっちも同じよ。最初から今の元気な穂乃果ならあんな大掛かりな手を打たずにスカウト出来たのに」

海未「一筋縄ではいかないのが穂乃果が作る運命なんですよ。だから人を惹きつけるんです」

穂乃果「いや~そんなに言われると照れるなぁ」

海未「調子に乗って失敗することも含めての運命なので、調子に乗せないようにしてくださいね」

穂乃果「」

絵里「見事に上げてから落としたわね。亜里沙も調子に乗ると失敗し易いから気をつけるのよ?」

亜里沙「大丈夫だよ、お姉ちゃん。日本にきてから勉強することが多くて、そんな暇ないんだから」

こころ「ここあもすぐにちょーしのるからきをつけるにこ!」

ここあ「そんなことないもん! こころのいじわる!」

こころ「ほんとうのこといっただけだよ!」

にこ「は~いはい。二人共今日は喧嘩してるとこわ~いお化けに連れて行かれちゃうわよ」

あんじゅ「でも二人共ホラー系には耐久力あるから、貞子海未ちゃん見ても無反応だし」

亜里沙「海未さんのそれって貞子さんだったんですか? 亜里沙、観たことある!」

海未「ほぅ。亜里沙は絵里と違ってホラーは苦手ではないのですね」

亜里沙「だって人が作ったものだもの。心霊写真とかの方がとっても怖いわ」

穂乃果「今の発言は絵里ちゃんみたい。でも、絵里ちゃんはホラーは苦手だけどね」

絵里「な、なによ、いいじゃない。暗い所やホラーが苦手だって」

あんじゅ「そういえば絵里の暗所嫌いになった理由とかあったりするのかな。亜里沙ちゃん知ってる?」

亜里沙「ううん、残念だけど知らないわ。お姉ちゃんは理由も教えてくれないの」

海未「身内にすら弱さを見せられないのは臆病者ですよ」

絵里「……海未が恐ろしく冷たい。私には井戸の底へ引きずり込む貞子に見えるわ」

穂乃果「絵里ちゃん以外にもそう見えてるよ。でも、海未ちゃんが本気で怒ったときはこんなものじゃないし」

あんじゅ「にこ、怖いもの見たさに怒らしたりたら駄目だよ。絶対に駄目だからね。絶対だよ!」

にこ「そんな振りされたって絶対に怒らせないわよ」

あんじゅ「にこの意気地なしにこぉ」

にこ「あんたはSMILEを仲良くさせたいのか、それともギスギスさせたいのかどっちよ!」

あんじゅ「雨降って地固まるって言葉もあるじゃない? ここあちゃんもこころちゃんもたまには雨降って欲しいよね?」

ここあ「うん! ここあはあめすきだよ」

こころ「こころもかささすのすきー」

あんじゅ「今日のライブで綺麗に踊れたら私とにこが二人に可愛い傘買ってあげるね」

こころあ「うれしいにこっ♪」

こころ「こころはしましまがいいの!」

ここあ「ここあはみずたまがいい!」

あんじゅ「うんうん。一緒に買いに行こうねー♪」

こころあ「ねー♪」

にこ「勝手に約束してるんじゃないわよ。ま、たまにはそれくらいいいけど」

海未(ふむ。では私は後でお菓子でもプレゼントすることにしましょう)

にこ「にしても、去年とは比べ物にならないくらいに人が集まったわねぇ」

あんじゅ「そうだね。参加型ライブだからっていうのもあると思うけど、SMILEの人気が上がったのが一番の理由だよ」

絵里「今日を境に改めてラブライブに向けて全力を出していきましょう」

海未「ええ、必ず想いをみんなに伝えて想いを叶えましょう」

穂乃果「目指せ二十位以上だね!」

にこ「……ラブライブ出場。スクールアイドルとしての集大成」

にこ(絶対に届いてみせる。キラ星と私の差は縮まらなくても、A-RISEとSMILEの差は絶対に……!)

にこ「さ、今はハロウィンイベントに集中するわよ。まずは小さい子は私とあんじゅの出番からね」

あんじゅ「うん! ここあちゃん、こころちゃん。がんばろうね♪」

ここあ「がんばるの!」

こころ「えへへ。がんばるー」

にこ「じゃあ、そろそろ開始の挨拶といきましょう!」

――開催挨拶

にこ「今日は商店街のハロウィンイベント+SMILEのライブにこんなにも多くの人が集まってくれてありがとうにこ!」

にこ「去年参加者は知ってるかもしれないけど、ライブ終了後はお菓子配りもあるから悪戯せずに待っててね」

にこ「今回は特別企画としてSMILEのライブに多くの人が参加してくれます。日が近づくに連れて練習時間も増えた」

にこ「でも、みんな最後まで諦めることなく練習に参加してくれて、今日を迎えられました!」

にこ「ファンの人も知らない初期メンバーで贈る今日だけの特別ステージもあるから色んな意味で楽しんでね」

にこ「それじゃあ、メンバーから各自挨拶してもらうわ。さ、あんじゅから横に挨拶していって」

あんじゅ「にっこにっこにー♪ にこにーの妹矢澤あんじゅです!」

あんじゅ「去年は四人だったけど、今年は五人+多くの方の参加でとっても楽しみにこ☆」

あんじゅ「今日はミスも歌詞間違えも全部含めて正解だと思って広い心で楽しんでね! はい、エリーちゃん」

絵里「みなさんこんにちは! 元気な挨拶ありがとう。SMILE皆のお姉さん《矢澤絵里》です」

にこ「ちょっと! あんたまで矢澤って名乗ってるんじゃないわよ」

あんじゅ「今度はテストの時に矢澤絵里って書いて先生にからかわれちゃうもんね」

絵里「ふふっ。SMILEのブログを見てくれている人には分かるエピソードだけど、以前にこは――」
にこ「――ちょっと! そんな話を今する必要ないでしょうが!」

あんじゅ「知らない人が疎外感を覚えちゃうでしょ? にこは大人しくしてようねー」

にこ「離しなさいよ、この愚昧!」

絵里「にこは以前小テストの時に」

海未(今までで一番観客数が多い気がします。どうしましょう、頭が真っ白になってきました)

穂乃果(海未ちゃん。大丈夫だよ、何か失敗したら穂乃果がもっと大きな失敗して誤魔化してあげるから)

海未(そこは失敗した瞬間にフォローして失敗を失敗と悟られないようにしてください)

穂乃果(そんなの勿体無いよ。にこちゃんを見て学んだことだけどね、失敗は経験値をより多く貰えるんだよ)

穂乃果(失敗を失敗として処理しないと、自分の中での感覚がぼやけちゃうの)

海未(……失敗が自分の中でぼやける、ですか)

穂乃果(そう。だからね、失敗は失敗のまま処理して自分の中で味わうの。恥ずかしさも後悔も全部自分の持ち味に)

海未(流石穂乃果ですね。冒険の数は失敗の数を地で行くだけあります)

穂乃果(そんなには失敗してないよ~)

海未(ふふふ。冗談ですよ、穂乃果はなんだかんだ王子なのですね。頼りになります)

穂乃果(まぁね。いつでも頼りにしてくれていいんだよ)

絵里「海未! 次の挨拶は海未だって言ってるでしょ!」

海未「えっ、あっ、すいません!」

絵里「緊張してるの?」

海未「いえ、大丈夫です」

海未(うぅ……穂乃果の所為で要らない失敗経験を積んでしまいました。穂乃果は笑ってますし)

海未「みなさんこんにちは、園田――いえ、今日だけはこう言いましょう。矢澤海未です」

海未「丁度一年前、この日に私は非公式ながらSMILEのメンバーとして初のライブを経験させて頂きました」

海未「元々人前で何かをするというのが苦手な私を応援し、こうしてスクールアイドルを続けられるのは皆さんのお陰です」

海未「リーダーであるにこの目標はSMILEがラブライブに出場することです。正確にはもう少しあるのですが」

海未「私からの我がままです。今日が楽しめたのならこれからもSMILEの応援をよろしくお願いします!」

穂乃果「海未ちゃんってば固いんだから~。ではSMILE最後のメンバーである高坂穂乃果です!」

穂乃果「今日はハロウィンということで実家の穂むらでは今も家族が一生懸命一丸となって頑張っていると思います」

穂乃果「看板娘兼跡取り娘でありながらスクールアイドルやらせてもらってるので、穂むらの宣伝をさせてもらいます」

穂乃果「応援でお腹空いちゃった人は是非老舗の和菓子屋穂むらでお買い求めください!」

穂乃果「そして、SMILEとみんなで行うライブを楽しんでいってもらえたら最高です。私が一番楽しんじゃうかも!」

穂乃果「特別ゲストもいるのでお楽しみにしててください」

にこ(そういえばゲストっていうのが誰なのか聞いてなかったわね。ま、いっか)

にこ「それじゃあ、最初は幼稚園生から小学二年生までの子と一緒に踊るので、失敗は目を瞑って応援してください」

にこ「それでは、長くなりましたがこれより商店街が贈るハロウィンイベントを開催するにこ♪」

――子供ライブ 参加者:にこあん

にこ「みんなの衣装はお母さん、中には器用なお父さんに有志の方々が作ってくださいました」

にこ「忙しい合間を縫って、今日という日の為だけに準備していただきありがとうございました」

にこ「それじゃあみんな、一斉にありがとうございましたってお礼言おうね。恥ずかしくて言えない悪い子はいないかな?」

「いないよー!」

「きちんと、言えるの!」

こころ「いいこだからいえるにこ☆」

ここあ「ここあおれいいつもいえるいいこー♪」

あんじゅ「うふふ。あんじゅもいい子にこ★」

にこ「あんたには言ってないわよ。むしろ、感謝してるなら日頃からきちんとしなさいよね」

あんじゅ「きちんとお礼言ってるよ?」

にこ「お礼言うだけじゃなくて、子供じゃないんだから結果に繋がる行いっていうかね」

あんじゅ「さぁ、みんなでせーので言おうね」

にこ「って、舞台上でスルーするなニコ!」

あんじゅ「うっふふ~♪ じゃあいくっよー!」

にこ「せ~の!」

『あ り が と う ご ざ い ま し た!!』

「どういたしましてー」

「家でもいつもお礼言えるようになってねー」

「作ってよかった。とっても似合ってる!」

絵里「凄いわね。小学生低学年までなのに、にこが全然浮いてないわ!」

海未「それは言い過ぎです。確かに最近は身長を含めたスタイルが昔よりも欧米に近いものになってきたのは確かですが」

海未「いう程にこは身長は低いという訳ではありませんよ」

穂乃果「私とそんなに変わらないもんね」

絵里「身長だけじゃないわ。あの幼いオーラよ! 亜里沙も雪穂ちゃんに比べれば幼いオーラ出てるでしょ?」

絵里「妹補正抜きでもにこはそのオーラが人より大きいのよ。もっと幼いキャラ演じればピカ一だと思うけど」

亜里沙「亜里沙、変なオーラなんて出てないよー」

海未(亜里沙には悪いですがなんか納得してしまいました)

穂乃果「絵里ちゃんは亜里沙ちゃんもにこちゃんも可愛いって言いたいんだよね」

絵里「そのとおり! 守ってあげたくなるのよね」

亜里沙「そうなんだっ♪」

穂乃果「海未ちゃんも普段はこんな感じだけど、時々すっごい可愛い面を見せるんだよ」

海未「ほっ、穂乃果?」

穂乃果「人前ではきっと見せてくれない部分だから優越感を覚えるけど、でも人前で見せられたらもっと人気出るんだ」

穂乃果「幼馴染とアイドルとしては悩みどころだねぇ」

海未「そんな面なんてありません! ありえません! 穂乃果の妄想をあたかも真実みたいに語らないでください!」

亜里沙「海未さんのお顔赤くなってて可愛いわ!」

絵里「クスクス。お姫様だけにとっても可愛い面を秘めてるのは確かに分かるわ」

穂乃果「でも、海未ちゃんの可愛さもあの純粋な光景には負けちゃうけどね」

海未「あの姿に比較されては、誰も勝てませんよ」

亜里沙「みんな精一杯でとっても可愛い。それに歌も上手ね。ハラショー!」

穂乃果「本当に上手だよね。ハバジョー!」

海未「それを言うならハラショーです」

絵里「特に可愛いのは身内贔屓だけどこころちゃんとここあちゃんね。本当ににこにそっくり」

亜里沙「髪型も同じだもんね。亜里沙も今日はお姉ちゃんと同じ髪型にすればよかったわ」

穂乃果「むしろ、髪型だけじゃなくて同じ狼耳尻尾にすれば完璧だったかも」

絵里「姉妹揃っては恥ずかしいわ」

亜里沙「来年! 来年は一緒にするわ!」

海未「これは亜里沙が本物のスクールアイドルになる頃には固定ファンが多く出来そうですね」

穂乃果「海未ちゃんの時より時期も早いし、期待の新入生となりそうだね」

亜里沙「うん! 音ノ木坂で海未さんと穂乃果さんとスクールアイドルになるの夢見てるの」

絵里「入学してからずっとスクールアイドル。なんだかとっても羨ましいわ」

亜里沙「……お姉ちゃん」

絵里「でも、だからこそ今がとっても愛しいの。あのトウシューズも価値がより深まったのよ」

穂乃果「こういう時の絵里ちゃんってすごい大人びて見えるよね」

海未「そうですね。姉押しの時とは別人です」

穂乃果「あははっ。でも個性あってこその人間だもん。だから好きになれるんだよ」

海未「穂乃果らしくないことを言っても、大人っぽくは見えませんよ」

穂乃果「それは残念だなー」

海未「焦らずに私達のペースで大人になりましょう」

穂乃果「うん!」

絵里「こころちゃーん! ここあちゃーん! とっても可愛いわよ~! ハラショー♪」

――小学中高生 参加者:ほのうみえり

絵里「今日までの練習の成果を出すだけよ。失敗しても気にしないで。それも大切な思い出だから」

絵里「勿論、失敗しないで決めて見せた方が素敵だけどね」

海未「プレッシャーを解きたいのか、発破を掛けたいのかどちらかにしてください」

穂乃果「とにかくみんな、ファイトだよ!」

絵里「来年は見てる子がこのステージで歌ってるのかもしれないから、応援してくれる子もしっかり見ててね」

海未(冷静になると来年のこのステージで歌えるのかどうかも決まってませんが……いえ、SMILEなら勢いで決めそうですね)

穂乃果「とにかく笑顔で応援してくれる子をもっと笑顔にするべく、元気に歌って踊ろう♪」

絵里「じゃあ、曲の合図は海未お願い」

海未「はい。みなさん心の準備はいいですか? それでは、ミュージックスタート!」

にこ「一応SMILEとしてのライブで私とあんじゅがこうして見る側になる日がくるなんてね」

あんじゅ「うん、なんだか感慨深いね」

にこ「よく考えればSMILEの始まりも五人だし、新入生が誰も入らなくても頑張るにこよ」

あんじゅ「そうだね。入らなければSMILEは五人のままが運命。入ってくれれば出逢う運命だったってことで」

にこ「運命だらけで胡散臭いわね」

あんじゅ「でも、何か考えないと駄目だよね。固定ファンを増やす為には常識を壊して注目を集めないと」

にこ「そうね。だけど、考えてみてもファンを増やせるような奇策は既に使われ尽くしてる気もするのよ」

あんじゅ「そうだよねぇ。劇に見立てた曲をしたのもあったみたいだしね」

にこ「どんな邪道な手も確かな実力があれば受け入れられて評価されるから」

あんじゅ「ワープ出来るような超能力があればライブ中ににこと場所を入れ替わったりするのにね」

にこ「劇団か手品師からスカウトがくるか、何処かの組織にさらわれるわよ」

あんじゅ「捕まってもワープで逃げるにこ!」

にこ「想像すると非常に面倒ね。逆転の発想で新入部員勧誘で奇抜な手を打つのもありね」

あんじゅ「なるほど。そっちの方が色々出来そうかも」

にこ「だからって邪道な手はなしよ。アイドル好きな子が好ましいわ。思わず暴走しちゃうくらいの個性があれば尚良し!」

あんじゅ「そんな熱い想いを持ってる子はお隣に行っちゃうんじゃない?」

にこ「確かにUTXに流れるわね。でも、音ノ木坂に入ってくれる子がアイドルに情熱がないとは限らないわ」

あんじゅ「敢えて逆境のSMILEに入って天下を取って伝説を残したいって野望娘がいるかもしれないし★」

にこ「間違いなくそんな変な子はいないし、居ても入れたくないわね」

あんじゅ「えー。拒める立場じゃないでしょ。誰でもウェルカムだよ」

にこ「節操ないわね。でも、設備が充実してるわけでもないんだし、SMILE入りを目的に音ノ木坂に入る子は居ないと思う」

にこ「一人でもいいから今回のライブを見て『よし! 音ノ木坂に入ろう!』なんて子が増えればいいんだけど」

あんじゅ「でも、日曜日の清掃も若い子けっこう多くなったから生徒数も増えると思う」

にこ「そんな甘く考えないの。若い子全員が現在の中学三年生って訳でもないんだから」

あんじゅ「三クラスから増えればSMILE効果を信じたくなるね♪」

にこ「その時は心が広い理事長と学校の為に日々頑張ってる長女のお陰よ。私達全員を含めるのは失礼よ」

あんじゅ「にこって本人が居ない所ではリスペクトしてることを隠さないよね。隠れデレ☆」

にこ「何よその変なの。本人に言うと威厳なしの顔で変なこと言い出すからよ」

あんじゅ「にこに褒められると嬉しくなっちゃうんだよ。にこって時々しかデレてくれないから」

にこ「にこはそんなに安い女じゃないからね」

あんじゅ「そんな風にプライド高いキャラを演じてるけど、実際は繊細で自分に厳しいから。だから褒められると嬉しいんだよ」

にこ「……」

あんじゅ「うふふ♪」

にこ「まったく。口が達者な妹だこと」

あんじゅ「良い事ばかり言ってるとなんだか事故死とかで突然シリアス展開が待ってそうだよね」

あんじゅ「綺麗な声してたでしょ。もう、喋ってくれないんだよ……にこぉ」

にこ「なんで私が死んでるのよ!」

あんじゅ「にこの想いを胸に、ラブライブでまさかの優勝!」

にこ「しかもリーダー不在でA-RISEに勝つとかないわ!」

あんじゅ「じゃあにこが居てくれればA-RISEに勝てるのかな?」

にこ「……足のつま先と言わず、その手までは掴めるくらいには届きたいけど」

あんじゅ「そんな弱気じゃ勝てるものも勝てないよ!」

にこ「分かってはいるんだけど、やっぱり私にとってキラ星は誰よりも遠くて憧れのアイドルなのよ」

にこ「小学生までの私の夢を代わりに叶えてくれるのが綺羅ツバサだからね」

あんじゅ「……最近ね、私考えてることがあるの」

にこ「ん、何よ?」

あんじゅ「スクールアイドルをやってる間に、私がにこに夢を与えてみせるって」

にこ「何それ。そんなこと考えてる暇があるなら、自分の夢をみつけなさいよ」

あんじゅ「自分のことよりまずはにこのことにこ♪」

にこ「夢を持てる程の強さをまだ私は持てない。あんじゅは姉のそんな部分を真似るんじゃないわよ」

あんじゅ「にこは弱いからこそ誰よりも強くなれる。そう信じてるし、一緒に成長してみせる」

にこ「あんたにはシリアスは似合わないわよ。変なこと言って空気を壊す方でしょ」

あんじゅ「あんな素敵なライブ観てたらたまには素直になっちゃうよ」

にこ「参加してくれるあの子達が高校生になる頃、きちんと音ノ木坂は存在してるかしら」

あんじゅ「ラブライブで優勝なんてしちゃったらありえるんじゃないかな?」

にこ「SMILEの目標をラブライブ出場じゃなくて優勝にしろって言いたいの?」

あんじゅ「目標は常に大きい方がいいんでしょ?」

にこ「うぐっ」

あんじゅ「さ、次は私とにこと穂乃果ちゃんで中学生その1グループだよ」

にこ「このモヤモヤを吹き飛ばすライブにするわ!」

あんじゅ「うふふ。にこの輝きに負けないくらい輝いてみせるよ♪」

――中学生グループ1 参加者:ほのにこあん

にこ「にこの歌を聴くにこ~!」

あんじゅ「みんなー未来のスクールアイドルとしてハイテンションでライブをしよう♪」

穂乃果「是非とも私達の母校となる音ノ木坂学院でスクールアイドルになってくれたら嬉しいな」

にこ「それじゃあいくわよ! ミュージックステート!」

ほのあん「ステート?」

「ステートってなんですか?」

「最先端の言い方かな?」

にこ「ま、間違えたのよ。って、曲始まってるし! ほら、いくわよ!!」

絵里「ふふっ。中学生じゃなくてにこが間違えてどうするのよ」

海未「にこらしいですね。他の人ならリーダー失格ですが、にこだと不思議と安心します」

絵里「そういう魅力のアイドルが居てもいいわよね」

海未「ですがにこは将来アイドルになることは考えていないんですよね?」

絵里「ええ、綺羅ツバサさんとの出会いでね」

海未「それほどの相手とことりが同じグループで活躍しているというのが信じられません」

絵里「でも実際に会ってみて分かったけど、画面越し以上の迫力があったわ」

海未「そうですね。ですが私はにこの方がアイドルとしては長く愛されると思います」

絵里「本当に毒されたわね」

海未「最低評価から始まったので誰よりも加速度的に評価が深まったのかもしれません」

絵里「あら、だったら私も最初は変な先輩で居れば良かったわ」

海未「勘弁してください。高校生三人の中で活動するのは色々と緊張だってあったんですよ」

絵里「全然そんな風に感じなかったけど。ライブ直前は別としてね」

海未「そういうのを表に出さないくらいには鍛えてきましたから」

絵里「海未って家元を継ぐ為に修行も積んでいるんでしょ? 大会とか無い訳だし結果が見えてこなくて嫌になったりしない?」

海未「……一度だけ、自分では上手くいったと思ったのに母に色んなところを注意された時がありました」

海未「初めてであり、唯一家出をしました。まぁ、行き先は穂乃果の家なのでバレバレだったんですが」

絵里「へぇ~。意外ね」

海未「中学に上がる少し前の話ですから。まだまだ未熟だったんです」

絵里「でも偉いわ。私ならそれよりもっと前に逃げ出そうとした筈だもの」

海未「心の中で逃避するだけなら数え切れないくらいですよ。穂むらの娘として穂乃果と雪穂と暮らしてることを何度夢見たか」

海未「それでも私は園田家の娘として生まれたからには、きちんと家を継いでみせます」

絵里「普通は長女が継ぐものだけど、どうして海未の家は違うの?」

海未「……絶対的な才能というものが姉には足りなくて」

絵里「そうなの?」

海未「ええ、私が幼い頃はそれでも期待されたのですが、流石に無理だと判断したようです」

絵里「なるほどね。努力しても才能の限界までいけばその先にはいけないものね。私は才能の限界まで頑張れなかったけど」

海未「ですが今の絵里なら笑顔で才能の限界まで努力を重ねられると思います」

絵里「嬉しいこと言ってくれるじゃない。なんならエリーお姉ちゃんと呼んでも――」
海未「――お断りします!」

海未「私はそんなに安くないんです」

絵里「……ほむぅ」

海未「穂乃果の鳴き声を真似しても可愛くありません」

絵里「バッサリいかれると本気で泣きたくなるわ」

海未「泣くならライブの後にしてください」

絵里「……にこぉ」

海未(その鳴き方は少し可愛いですね)

――中学生グループ2 参加者:うみえり

凛「人がいっぱい」

凛(かよちんは受験勉強で暇を持て余して知らず内にこんな所まできたけど、とっても人が多い)

凛(若い子だけじゃなくて、お母さんくらいの人も一杯いるにゃ)

凛(何があるんだろう?)

凛「歌?」

凛(かよちんが好きそうな歌だけど、ここって商店街だよね)

凛(とにかく人ごみの中に突入してみよう!)

ざわ・・・ざわ・・・

凛「ひょいっ、ひょい!」

凛(人ごみの間を抜けるのは昔から凛の得意技! 人ごみの中にあったのは小さなステージ)

凛(デパートの屋上にあるやつみたい。そこで歌っている大勢の少女達が居るね)

絵里「いやぁ、流石年の差が少ないだけあっていつスクールアイドルになってもおかしくないくらい上手かったわね」

海未「そうですね。お世辞抜きで去年の私より上手だったと思います」

凛(言葉から察するにスクールアイドルと中学生。あっ、あの二人は最近どこかで見たことある気がする)

凛(……どこだったかな? そうだ、カレー屋だ。音ノ木坂の文化祭で行ったカレー屋の店員)

凛(そういえばスクールアイドルだったんだっけ。かよちんが好きなアライズよりはいい雰囲気だったけど)

凛(でも、スクールアイドルなんか嫌い!)

凛(スクールアイドルがなければかよちんがUTXにいくことなんてなかった)

凛(凛と一緒に音ノ木坂に通って、何か一緒の部に入って楽しい三年間になる筈だったのに)

凛(スクールアイドルなんてなくなればいいのに……)

凛(さっさと家に帰ろう。こんな不愉快な場所に居たくない)

――初期SMILE

にこ「これが私達SMILEの原点のメンバー」

あんじゅ「訳あってにこと私以外はメンバーから脱退しちゃったけど、常に私達を支えてくれています」

にこ「ポスターもそうだし、音響やライトもやってくれるし、常に私達を応援してくれる最高のメンバー!」

あんじゅ「この三人が居てくれなかったら今のSMILEも当然ありませんでした。温かい拍手をお願いします」

元部員「ちょっと恥ずかしいからそれ以上持ち上げるのやめてって。ほら、二人してカチカチになってるし」

にこ「本当に感謝してるのよ。SMILEのファースト曲である今から歌う《笑顔の魔法》も三人の為に作ったものにこ!」

あんじゅ「スクールアイドルは引退してもいつまでもスクールアイドルにこよ☆」

元部員「はぁ~……やっぱりやめておけばよかったわ」

にこ「カチカチでも歌いだしたら練習を思い出してしっかり動き出すし、声だって出るわ」

あんじゅ「そうそう。だから容赦せずに始めるよ~ミュージックステート♪」

にこ「それヤメなさいよ!!」

海未「なんだか不思議です。私達の居る場所は最初はあのメンバーで構成されていたのですね」

絵里「そうね。二代目とでも言うべきかしら、私達が卒業しても三代目四代目とSMILEが続いていけば面白いわ」

穂乃果「絵里ちゃん卒業しちゃうの?」

絵里「当然でしょ。私もにこもあんじゅも先に卒業しちゃうわ」

穂乃果「先輩が卒業するのを嫌だって思うの穂乃果初めて」

海未「まだ一年あるんですから。今から寂しがっていては心が疲れてしまいますよ」

絵里「卒業するまではたっぷりと甘えてくれて構わないし、色んな思い出を作りましょう」

穂乃果「うん」

海未「今はこの初代SMILEを見ながら、心を落ち着かせてください」

穂乃果「うん、ごめんね」

絵里「秋はセンチメンタルになる季節だもの。仕方ないわ」

海未(……ですが穂乃果の言うとおり。私も初めて先輩の卒業を意識して寂しさを感じてしまいます)

海未「……そんな日が訪れなければいいのに」

――イベント待機室 にこあん

にこ「ところで特別ゲストって結局誰なの?」

あんじゅ「そろそろ言っても大丈夫かな」

キャー! キャーッ!

あんじゅ「流石だね。SMILEのお膝元でも大歓声」

にこ「物凄い歓声じゃない。誰を引っ張ってきたのよ?」

あんじゅ「いつまでも引っ張ってもなんだしね。特別ゲストの正体はA-RISE」

にこ「A-RISE!? どうしてA-RISEが承諾したのよ。だってA-RISEはこういうイベント参加したことがないでしょ!」

あんじゅ「うん、ほらSMILEにはことりちゃんの幼馴染が居るから」

にこ「ことりだけなら分かるわ。でもA-RISEとして参加するなんてありえないでしょ!」

あんじゅ「直接交渉に出たのは絵里ちゃんと海未ちゃんの二人なんだけど条件を出して承諾したんだって」

にこ「てか、どんな度胸あればスクールアイドルの頂点を誘えるのよ!」

あんじゅ「にこそんなに大声出してたら声を壊しちゃうよ」

にこ「これが大声を上げずにいられないわよ!」

あんじゅ「とにかく条件を聞いてくれれば納得すると思うよ」

にこ「どんな条件出されたって納得なんて出来ないわ」

―――
――


絵里「ということで交渉にきました」

ツバサ「んふっ。オトノキの生徒会長って噂には聞いてたけど凄いのね」

英玲奈「行動力と言うべきか無謀と批判されるべきことなのか。難しいところだ」

ツバサ「どこかの誰かさんに似てるわね」

ことり「どうしてそこで私を見るの?」

英玲奈「十中八九今回の提案を手引きしたのはことりだろう」

ツバサ「間違いないわね。はぁ~大人しい顔してやることは本当にデンジャラスね」

海未(不思議です。あのことりがUTXでは穂乃果のような認識を受けているなんて)

ツバサ「独断で勝手に無茶されるよりはこうして仲介役となってくれる方がいいけどね」

ことり「はぁい」

絵里「ことりさんを最初に誘ったのは本当にSMILEですから、余りことりさんを攻めないでください」

ツバサ「ええ、分かってるわ。ただ、この子はこないだ無茶したばかりだから少し辛めに言わないと駄目なの」

海未「文化祭のライブ中に怪我をしたと言ってましたが、あれはもしかして」

英玲奈「大切な幼馴染にそう言ってたのか? 本当はライブに向かう途中に怪我をして、そのままライブを行ったんだ」

海未「ことり、なんでそんな無茶をするのですか! そういうのは穂乃果がすることで、止める役はことりだったではないですか」

ことり「穂乃果ちゃんの影響が遺伝子レベルでことりの中に生きてるみたいで」

絵里「ハラショー」

海未「関心してる場合ではありません。UTXへ入るように背中を押したのは間違いだったのかもしれません」

ツバサ「それは間違いじゃないわ。後輩が出来れば落ち着きも出るでしょう。来年は無茶をしないことを期待してるわ」

ことり「耳に痛いです」

英玲奈「ことり弄りもその辺にして話を戻そう。A-RISEにSMILEのお庭である商店街でライブに参加して欲しいと」

ツバサ「そうね、本来ならどんな誘いであっても断るのだけど……。SMILEだけは特別」

ツバサ「正し、こちらからいくつか条件を出させて貰うわ」

海未「条件、ですか」

絵里「飲める条件であれば受け入れます」

ツバサ「一つ目はA-RISEがライブ中はそちらのリーダーが会場内に居ないこと」

絵里「にこが居ないことが条件?」

ツバサ「ええ、可能かしら?」

絵里「分かったわ。イベントの時に控え室を用意するから、そこに見張りを付けて閉じ込めておくわ」

ツバサ「では二つ目ね。次のラブライブでA-RISEと当たるまで何がなんでも勝ち進むこと」

絵里「――」

海未(これはにこだけでなく、綺羅ツバサもにこを意識しているということですか)

絵里「矢澤にこの代わりに承諾しましょう。SMILEの目標ですから」

ツバサ「けっこう。三つ目は英玲奈何かある?」

英玲奈「私からは特にないな」

ツバサ「そう。だったらいくつかって言ったけど、この二つだけで充分よ」

絵里「ありがとうございます。この条件はA-RISEがライブをしてる最中に明かすことにします」

ツバサ「条件を満たせなかった場合、一生恨むからね。何があっても叶えて」


―――
――

にこ「……それがキラ星の条件、ね。勝手にそんな重大な決め事してるんじゃないわよ」

あんじゅ「もうA-RISEは歌ってるからね、条件を満たさないと恨まれちゃうよ」

にこ「お節介も行き過ぎると嫌われるってわかんないのかしら、うちの馬鹿長女」

あんじゅ「これくらいじゃ嫌われないって分かってるから出来るんだよ。大事なにこの為に」

にこ「生意気言うじゃない、問題児のくせに」

あんじゅ「にこに似てるからね」

にこ「本気で目指すしかないじゃない。A-RISE打倒って無茶な目標を」

あんじゅ「それでこそ私のお姉ちゃん!」

にこ「あんたもこれから海未と一緒に鍛練して体鍛えるんでしょ?」

あんじゅ「そうだよ。やると言ったからには全力でね♪」

にこ「健康美な体でファンをもっと増やしなさい。にこもこの体型を生かしたファンサービスをするわ」

あんじゅ「……にこはそのままでいいと思うよ。変にキャラ作りすると絶対に裏目に出るから」

にこ「なんですって!?」

あんじゅ「だって本当のことだもん」

にこ「ぐぬぬ!」

あんじゅ「にこは等身大のままで居てよ。私達が絶対にラブライブに連れてってあげるから」

あんじゅ「そこからはにこの手腕で勝ち抜いていこうよ」

にこ「本当に生意気なんだから。あんじゅ、ありがとう」

あんじゅ「どういたしまして!」

◆ネクストストーリー◆
お年玉1(絵里対海未)
お年玉2(のんたん+X)
冬の小話集

※このお話は読み飛ばしてもそれなりに大丈夫です。

◆お年玉1 くだらなくも壮絶な闘い ~Ver.Qカード~◆

――プロローグ ルールは>>741 >>742

海未「絵里は一人ですが私は二人。今では痛い程理解しているのではないですか?」

悔しいけれど認めなければならない事実。

だけどそれを形にして表に出すことは出来ない。

少しでも悟られてしまえば、そのまま闇の中に引きずり込まれてしまいそうだったから。

ロシアですら感じたことのないこのプレッシャー。

あんじゅが考えたゲームとはいえ、カードゲームである以上海未に負けるとは考えていなかった。

だが、あんじゅはこのゲームを考案した際にもう一言告げていた。

海未を特訓すると。

SMILEの大きな妹であり、本気を出すと誰でも手玉に取れそうなくらいの策士でもある。

そんなあんじゅが特訓しただけでこんなにも変わると言うの?

海未「短所は磨いて武器にして、相手の慢心を穿つ刃とする。これがあんじゅの教え。そして――」

本番二戦目にして開示された、絵里の敗北の知らせである結果を指差す。

海未「――これが現実です。もはや絵里、貴女では私には勝てません。クイーンに相応しいのはこの私!」

手の平で弄ばれる不快感と共に感じたのは、圧倒的なまでの実力差。

見える、大群を率いるウミンディーネの姿が。

私の軍は寄せ集め。

数も実力も統率力も段違い。

今の海未は完全にQカードの持つQの意味。

クイーンに相応しい。

練習を言い出したこと自体が既に海未にとっては本番への布石であり、私にとっては本当に練習でしかなかった。

そう、もはやそこで海未のリアルの方が私よりも深かった。

これはもう……勝てない。

負けて当然なのかもしれない。

海未「実力差を知り、早々にサレンダーすることは懸命な判断ですよ。寧ろ、無駄に足掻くのは正直醜いです」

海未にカードゲームで負けるなんて思っていなかった。

運の要素もあるけど、駆け引きの面も取り込まれているからより磐石な勝利を描いていた。

でも、実際はこれ。

ブルーリベリオンと名付けるに相応しい海未の反逆の革命……!

海未「さぁ、降参と一言だけでいいのですよ。そうすればこの戦いから逃れられる」

泥土の中に垂らされた一本の雲の糸。

降参をすれば楽になれるという甘い誘惑。

絵里「  」

プライドを捨ててその言葉を口にしようとした時、声が拒絶するように出てこなかった。

そう、私は邪道シスターズの長女。

トウシューズを捨てて逃げ出した頃とは違う。

出逢った絆の多さが私を強くした。

もう二度と逃げ出さない。

逃げ出した方がもしかしたら傷は浅く済むかも知れない。

でも、構わない。

絵里「私は逃げ出さない。勝負はまだ始まったばかりよ」

海未「絵里がそんなにじぶたれな判断をするとは思いませんでした」

女王の威光を身に纏い、言葉という剣を首元に当てられる。

それでも私の答えは変わらない。

絵里「慢心は人に足元を掬われる。それを教えてもらった代わりに、それをそのまま教え返してあげるわ」

追い詰められた時こそ不敵に笑う。

私の小さな妹にこのスタイルを真似るように、笑ってみせる。

海未「良いでしょう。クイーンの名に相応しいのはどちらか、勝負の結果で教えてさしあげます」

その自信を引き剥がして、女王からお姫様に戻してあげるわ。

穂乃果「……はぁ~。お茶が美味い」

海未の王子様の前だしね!

――音ノ木坂学院 部室

戦いの火蓋が切られたのは、本当に偶然だった。

海未「おや、にことあんじゅはまだですか」

穂乃果「私と海未ちゃんが最後かと思ってた」

絵里「確か六時間目が担任の先生の授業だったから、長引いてるのかもしれないわね」

穂乃果「あぁ~あれは酷いよね。担任の先生だからってSHRをずらして授業時間長くするなんて!」

海未「熱心なのか計画性がないのかで評価が分かれますね」

絵里「二人の担任の先生は前者ね。三年生を担当すると卒業式の日は終わった後、保健室に篭るって話よ」

穂乃果「保健室に?」

絵里「ええ、泣いて泣いて涙が止まらなくなっちゃんだって話よ。有名な話みたい」

海未「教師になるべくしてなったということですね。志すモノがあり、それを叶えた。尊敬出来る人物ですね」

穂乃果「海未ちゃんが先生だったら卒業式に出ずに保健室で泣いてそうだよね」

海未「なんですかそれは!」

穂乃果「それで卒業していく生徒達に引き摺られて式に借り出されるの」

絵里「ふふふっ。面白いわね」

海未「私はそんな泣き脆くありません」

穂乃果「でも、一度涙が出ると溢れて止まらなくタイプじゃない」

海未「それは、そうですが……」

絵里「イメージ的には体育の先生よりも数学か科学って感じね」

穂乃果「フレームが横に細い眼鏡とか似合いそうだよね。科学の先生だったら絶対に白衣着てそう」

海未「変な想像しないでください。いくら日本人とはいえ、形から入るのも限度があります。伊達眼鏡も白衣もなしです!」

和気藹々とした空気の中で、殺伐とした勝負の火蓋が切って落とされるなんてこの時は誰も想像していなかった。

にこ「遅くなったわね! でも、今日はどうしても欠かせない戦いが開催されるの!」

絵里「何よそれ?」

にこ「秋葉の某ビルで特大セールが行われるのよ! 人数合わせの戦力としてあんじゅを連れて行くわ」

あんじゅ「といことでごめんね。今日はにことお買い物してくるにこ!」

にこ「これを逃したら私はアイドル以前に人間失格なのよ!」

穂乃果「そんなに意気込むことなんだ」

海未「普段から家事を任されているにこにしてみれば正しい判断だと思います」

絵里「そうね。なんなら私達も助っ人として参加してもいいわよ」

にこ「甘いわ! 数が多ければ結果がより良い方向に動くと思うのはセールという戦場を知らない素人発言よ!」

にこ「誰が何を得るとか最初に決めると逆に縛られて身動きが取れなくなるのよ。しかも結果が伴ってなかったら悲劇だし」

にこ「それにね、人数が居ると思うと自分の中で気が緩んじゃうのよ。戦場で油断なんて敗北フラグよ」

にこ「だから気持ちはありがたいけどあんじゅだけで充分。戦力として数えてないも当然だから油断も死角もないわ!」

あんじゅ「にこはこんな時もツンデレ♪」

にこ「事実よ!」

絵里「分かったわ。じゃあ、今日は私達もお休みにするから、気兼ねなくセールに行って」

にこ「悪いわね。今度何か美味しい物を御馳走するわ」

穂乃果「にこちゃんのお料理美味しいから楽しみ」

海未「寒くなってきましたし、食材を持ち合わせて鍋というのもいいですね」

あんじゅ「エリーちゃんか海未ちゃんのどちらかは鍋奉行な気がする」

絵里「鍋奉行?」

穂乃果「ところがどっこい、鍋奉行はなんとことりちゃんだったりするんだよね」

海未「ことりは鍋になると人が変わりますからね。仕切るというより、奉仕するという言葉の方が似合いますけど」

穂乃果「自分は食べずに穂乃果と海未ちゃんに食べさせるから。雛になった気分になるよね。ちゅんちゅん♪」

海未「ふふっ」

にこ「和んでるところ悪いけど、時間がないから私達は行くわ。じゃあ、また明日ね!」

あんじゅ「海未ちゃん、今日が特訓の成果を見せるには良いタイミングかも。それじゃあ、ばいばい☆」

この去り際のあんじゅの言葉こそが、戦いの火蓋を切る切っ掛けだった。

穂乃果「海未ちゃん、特訓ってなに?」

海未「以前絵里とカードゲームで勝負すると言ったではないですか。顔に出なくする為の特訓を日々していたのです」

絵里「Qカードで勝負することは覚えていたけど、本当に特訓してたのね。海未は根が真面目ね」

海未「負けたままで終わるのは武道家として許せないんです」

穂乃果「流石海未ちゃん。努力家だもんね」

海未「後々に残したままでは時間がなくなるなんてこともあるかもしれません。今日これから勝負しましょう」

絵里「いいわよ。負ける気はないし、これで海未も私の妹になる訳だしね」

海未「余裕ですね」

絵里「二人で邪道ポーカーを忘れたとは言わせないわよ」

海未「あの時は完全敗北でした。ですが、今回はあの時とは別人だと最初に宣言しておきましょう」

絵里「随分と自信満々なのね」

海未「絵里は一人ですが私は二人ですから」

穂乃果「海未ちゃんいつから分身の術を覚えたの? もしかして園田家は忍者の家系だったとか!?」

海未「違います! 絵里は後でこの言葉を嫌という程知ることになるでしょう」

絵里「よく分からないけど、条件に変更なしでいいのよね?」

海未「ええ、私がもし絵里に負けるようなことがあれば姉として尊敬し、妹という立場を受け入れます」

海未「ですが、絵里が負ければ言うことを一つ聞いてもらいます。よろしいですね?」

絵里「ええ、それでいいわ」

海未「穂乃果は見届け人として勝負の行方を見届けて下さい」

穂乃果「こんなこともあろうかとほむまん持って来てるから熱いお茶でも飲みながら観戦するよ」

海未「それで構いません。よろしくお願いします」

絵里「でも、肝心のトランプを用意してなかったわね」

海未「大丈夫です。常に新品のトランプを鞄に用意してありますから。封は絵里が切ってください」

絵里「あんじゅの特訓っていうから細工してあるカードでも用意してるのかと思ったわ」

海未「今は勝つ為に全ての手を打つあんじゅの邪道を私は否定しません。ですが、私はあくまでそういう邪道はしません」

絵里「してもいいのに。そうすればいい勝負になると思うのに」

海未「私は何度もあんじゅとQカードをしましたが、絵里は誰かとしたことはあるのですか?」

絵里「ないわ。でも、必要ないでしょ?」

海未「……それではフェアとは言えませんね。五回練習をしてから本番の十番勝負と行きましょう」

言葉巧みに《邪道は使わない》と暗示し、練習も《フェアである》と思い込ませる海未の一の策。

絵里は完全に油断していたし、海未の正々堂々を目指す心を汲んで普通に練習を受け入れた。

練習の時に海未は三分の一であるQを三度引き当て、その時に以前のように顔全体に出したりはしなかった。

だけど、カードを捲りQを引き当てた時は左右に視線を泳がせる。

練習なのでその時に海未の言葉を無視して捲ったカードを示し、Qであることを確認して三度負けた。

一秒にも満たない癖だけど練習で得られた情報としては値千金。

それが毒とも知らずに絵里は内心でほくそ笑んだ。

本番が始まった一戦目。

ここでも天は海未に味方した。

絵里が引いたのはハズレ。

しかし、海未が引き当てたのもハズレ。

Qを引いた訳ではないのに練習で見せた癖、視線を左右に泳がせる其れを披露した。

絵里は一戦目ということもあって、

絵里「私が引いたカードはハズレよ。安心して選ぶといいわ」

等と余裕の発言をしていた。

海未は絵里の性格から嘘ではないと判断して、疑うことなくそのハズレのカードを示した。

絵里は海未が捲ったカードでない二枚はどちらも安全であるので、気軽に左のカードを選んだ。

もし、ここで逆のカードを選んでいれば海未の恐怖を知るのはもっと遅かったかもしれない。

だけど、勝負には魔が宿る。

これもまたあんじゅの生み出したカードゲームだからだったのかもしれない。

絵里は自分が選んだカードを開示した時、背筋が凍った。

絵里「ど、どうして?」

海未「絵里が選択したのはQですね。私はハズレなので一戦目は絵里の負けです」

絵里「それは分かるわ。でも、どうしてよ!?」

絶対の自信があった公式が間違っていたこともあり、絶対な自信にヒビが入った瞬間。

その隙を見逃さない。

海未「どうしても何も結果ですから。ほら、Qカードが全部という訳でありませんよ」

絵里が選んだカード以外を捲ればJとK。

寧ろ絵里としては三枚Qだった方が精神的に救われていた。

邪道な手を使わずに自分が騙された?

あの練習が既に……嘘だったってこと?

動揺している絵里を回復させない為に直ぐに二回戦に移る。

絵里が選んだのはまたハズレ。

海未が選んだカードは今度はQ。

だけど、海未は練習の時に使った視線を泳がす癖をまた披露した。

絵里は自分の考えを貫くことが出来ずに先ほどの結果を追い求めてしまう。

あの癖は自分を嵌める為であり、逆手に取ればその癖が出れば安全なカードなんだと。

いつの間にか自分の考えと海未に植え付けられた思考が入れ替わっている。

そのことに絵里はまるで気付いていない。

海未「私が捲ったのはQですから選ばない方がいいですよ」

その言葉は《また自分を嵌める為の嘘》だと決め付ける。

悪魔に魅入られたように、安全である保証もないのに海未が捲ったQのカードを示していた。

絵里「私が捲ったカードはハズレよ」

自分を嵌めた相手の言葉を信じる筈がないと再び正解を告げる絵里。

だけど海未は絵里を信用している。

海未「ハズレであれば安全ですね。ではこのカードを選ばせてもらいます」

呆気なく自分の策を水の泡にされる。

そして開示の時。

一回戦と同じ結果が待ち受けていた。

絵里「な、なんで? どうしてどっちを選んでも私はQを選んでいるの?」

海未「あんじゅの策が私の中で生きているからです。既に絵里は絡め取られているのですよ」

不敵に笑うと海未は言葉を続ける。

海未「絵里は一人ですが私は二人。今では痛い程理解しているのではないですか?」

プロローグに繋がるやり取りが行われる。

絵里の二戦二敗。

残り八戦で少なくとも三勝を得なくてはいけないし、残りの五戦を最低でも引き分けにしなくてはいけない。

ペースを完全に掴まれ、精神的にも大きな開きがある。

根性論でなんとか凌げる物ではない。

それでも、逃げ出さないと決めた以上は絵里は勝てると思い込み、自分を奮い立たせる。

一人で立てないのなら、あんじゅが時々する「にっこにっこにー」を使ってみた。

絵里「にっこにっこにー」

海未「激しく似合いませんね」

穂乃果「絵里ちゃんはクール系だから正直似合わないと思う」

絵里「いいのよ。お陰で元気が沸いてきたわ。これって効果あるのね」

簡単に使ったけれど、あんじゅにとってこの行為がどれ程の意味を持つものなのかを語られることになる。

そして、軽々しく使ったことを若干反省するのだけど、それはまだ先の冬の話。

絵里「三戦目にいきましょう」

海未「いいでしょう。しかし、あんじゅに託された策はまだあと二つあります」

其れは絵里にとって恐怖以外のなんでもない。

だけど、微笑んで「邪道シスターズの長女は最強なのよ」と言ってのける。

勿論本心ではなく、ただの強がり。

でも、口にしていればいつか本当に強くなれるかもしれない。

諦めずに挑み続けていればいつかきっと……。

いつかは今日ではなく、訪れるかもしれない可能性。

この後、絵里は一勝も出来ない大敗を味わった。

――エピローグ

海未「勝負は私の勝ちでしたが、最後までゲームを続けたその精神力には感服しました」

絵里「邪道シスターズは諦めることの愚かさを知ってるからね。だから足掻くのが得意なのよ」

海未「結果は伴いませんでしたけど」

絵里「どんなことでも最後まで諦めずにやりきる。そうすればその後、別のことで今回のことがいかせるかもしれない」

絵里「諦めていたら生まれなかった可能性を生むことが出来る。だから負けても結果がマイナスだとは決め付けないわ」

海未「負け惜しみに聞こえますが?」

絵里「どう取られても構わない。生かすもただの負け惜しみだったことになるのもこれからの自分次第だから」

海未「一つだけ聞いてもいいですか?」

絵里「何かしら?」

海未「圧倒的な不利で罰ゲームが掛かっているのにも関わらず、最後まで正解を答え続けたのは何故です?」

絵里「真っ直ぐに生きてきた海未に嘘を吐いて勝ったとするわ。その時に貴女が素直に私のことを姉と慕える?」

絵里「答えはきっとノー。だったら負けても自分の信念を貫いた方がカッコいいでしょ?」

海未「……邪道シスターズを名乗るのに不正を好まず、ですか」

絵里「今回はあくまで自分の為だったから、そうする必要がなかったっていうのもあるけど」

海未「やれやれ。私に近いようでいて、それでもやはり私よりもずっと高みに居るということですね」

海未「罰ゲームを決めました。絵里、今日から私の姉になってください。拒否を認めません」

絵里「海未!」

海未「メンタル面で問題のある私にとって、強靭な精神を持つ絵里は目標とすべき人物でもあります」

絵里「強靭な精神なんかじゃないわ。私もまた一人で戦っていた訳じゃない」

絵里「この場に居ない他の妹達の力を借りてどうにか戦い抜けただけ。信念を貫けたのもそのお陰よ」

海未「それも絵里の強さなんです。誰かの為に強く在ろうとする。そんなところが好きです」

絵里「ふふっ。敗北したのにハッピーエンドを迎えた気分。勝利よりも価値のある敗北を実感したわ」

海未「今度は私自身が考えた策で、お互いにQの名に相応しい戦いをしましょう」

絵里「ええ、今度は純粋にゲームとして楽しむ為に信念を置いて戦うと誓うわ」

穂乃果「いやぁ~善き青春って感じだねぇ。ずずずっ」

海未「おや、穂乃果まだ居たのですか?」

穂乃果「酷いよ!」

海未「くすっ、冗談です」

絵里と海未のくだらなくも壮絶な死闘は、姉妹の絆を生むという結果で幕を下ろした……。

◆お年玉2 のんちゃんと一緒◆

――UTX学院 屋上 のんたん

副会長「どうして会議の途中に休憩なんて挟む必要があるのよ」

希「副会長の悪いところは自分基準に考え過ぎるところだね。もっと人のことを観察しないと」

副会長「どういう意味?」

希「常に上を目指す姿勢は好ましい。でも、上に立つ立場であるなら下に居る子の限界を見極めないと」

副会長「限界?」

希「副会長のペースで進めたら追いつけない子達が出てくるんよ」

副会長「……」

希「ウチら生徒会役員は他の子より社会に出る前にそういう経験が積めるんだし、学んで直すべきとこは直していかないと」

副会長「優秀過ぎる人間は異端とされてきた偉大な先人達の気持ちが分からなくもないわ」

希「ここにはウチと生徒会長の二人しか居ない憎まれ口叩かなくてもいいのに」

副会長「別に本当のことよ」

希「自分を貫く個性も大事ではあるけどね」

副会長「だったら良いじゃない。それに私のペースに合わせられるくらいに皆が成長すれば作業効率も格段に上がるし」

希「段階を踏んで成長を促していくのが会長と副会長の仕事の一つ。それが出来てないのは自分達の仕事が疎かな証拠」

副会長「相変わらず東條さんは雲みたいに掴みどころがないというか、無駄に口が立つわね」

希「関西人やからね」

副会長「関西出身だったの? その割には独特な口調だけど」

希「冗談だって。ウチの出身は秘密だよ」

副会長「隠すようなことじゃないでしょ」

希「秘密がある方が女性は輝くんよ」

副会長「女性というより魔女ってイメージだけど。中世に生まれずに良かったわね」

希「オカルト好きにとってそういう負の歴史は――っと、あれは?」

副会長「どうかした?」

希「魔女って指摘されたこともあって嘘だと思われることを告白するけど、ウチな昔は神様とか見えてたんよ」

希「神様だけやなくて龍みたいなものや言葉に出来ない不思議な物。そんな世界を見て育ってきた」

希「その所為か知らんけど、カードで未来が見えることも間々あってな。その未来に導かれるように今ここに居る」

希「だけど、ウチが会長になった頃にほとんど未来が見えなくなった。今まで見えてた物が見えなくなるのは恐ろしい」

希「でも、だからこそ色んな目には映らない不思議が仰山詰まってるねんな。毎日が楽しい」

副会長「ふぅん。ま、東條さんなら霞を食べて生きてるとか言われても違和感ないけど」

希「ふふふ。流石に霞はこの辺にないから食べられないよ」

副会長「もしあったら食べられるみたいな可能性残すのやめなさいよ」

希「霞を食べて生活すれば、ウエイトを今より絞って正にボンキュッボンなのだ!」

副会長「はいはい」

希「未来は見えなくなったけど、人を見た時に感じるものがあって。だから会議よりそっちを優先することにするわ」

副会長「は?」

希「気になる子が居るみたいだから、休憩明けの会議は副会長に一任するから」

副会長「職務放棄なんて私の目の色が黒いうちにはさせないわよ!」

希「委員長の目の色って薄い茶色だから黒くない」

副会長「そういう問題じゃないわよ! どうして東條さんはやたらと破天荒なのよ!」

希「スピリチュアルを感じて育てばそうなるんだよ」

副会長「そんな厄介な物は滅べばいいわ」

希「世界は様々な不思議に包まれているから発展するんだよ。それじゃあ、後はよろしくね。ほな~」

副会長「あっ、ちょっとこら! 本気で職務放棄する気!?」

希「副会長にはただの職務放棄に見えるかもしれない。でも、巡り巡って今日の出来事が後の学院の為になるかもしれない」

副会長「絶対にならないわよ!」

希「可能性を閉ざすのは簡単だけど、広げるのは行動しないと始まらない。だからウチはいくんや!」

副会長「可能性の前に職務を全うしなさいよ」

希「それはそれ、これはこれ。今しか出来ないことがあるのなら、そっちを優先しないとね」

副会長「会長なんだから職務以上に優先させることなんてないわよ!」

希「それ以上が見えて来たらウチは副会長に会長の席を譲る覚悟を固めるよ」

副会長「思ってもないこと言ってるんじゃないわよ」

希「思ってるって。ほな~」

副会長「あぁ~もうっ! 東條さんは本当に無茶苦茶なんだから!」

――UTX学院前 ぱなよ

花陽(もし受験に受かったらここに通うことになるんだ。A-RISEのライブや大型モニターを観に何度も足を運んで来た)

花陽(でも、イベント毎じゃなくて毎日あの素敵な白い制服を着て通う……想像出来ないよぉ)

花陽(そうなった時に頼りになる凛ちゃんは居ない)

花陽(だから強くならなきゃ。毎日その事実を噛み締めて祈るように念じているけど強くなれる日がくるのかな?)

花陽(ううん、ダメだよ花陽。強くなれると信じることで結果がついてくるんだから)

花陽(プラシーボ効果も極めれば凛ちゃんみたいな自信に繋がる……筈)

花陽(自信満々の自分がやっぱり想像できない。うぅ~こんなんじゃアイドルなんて夢のまた夢だよ)

花陽(スクールアイドルだって……ことりさんみたいになれたらいいのに)

花陽(ここに来る度に思い出しちゃう。多くの心無い雰囲気のまま始まったあのライブ)

花陽(何もない荒野に天使の歌声でお花畑に変えるような奇跡の光景)

花陽(人前で歌うどころか、大きな声で喋ることも出来ない今じゃスクールアイドルなんて絶対に無理、だよね)

花陽(だけど諦めたくない。ずっと抱いてきた夢を叶えてみせたい)

花陽(他のアイドルを目指す子より多くの努力が必要になると思う。それでも頑張りたい)

花陽(芸能科じゃなくて一般だけど、ことりさんだって被服科だし)

花陽(って! 才能あることりさんと私を比べること自体おこがましいよね。ごめんなさい、ことりさん)

花陽(そもそも花陽がここに受かることがありえないような気がするし……そうなったら凛ちゃんと一緒に高校に通える)

花陽(気が付けばいつもその結末へと逃げてしまう。凛ちゃんに頼ってばかりいたら強くなれない)

希「中学生の制服は地味なのが多いのに、どうして高校になるとお洒落に変わるんやろうね?」

花陽「義務教育でない以上、一定数の入学希望者を得る必要性があるからじゃないでしょうか?」

希「ふむ。制服で学校を選んだりするものなのかな?」

花陽「女の子であれば可愛い制服を着て学校に通いたいと思ってしまうと思い――って、えぇぇ!?」

希「どうかした?」

花陽「かっ、かかかかか」

希「きくけこ?」

花陽「ちっ、ちがいます!」

希「んふふ。面白い子やね。元気があってよろしい」

花陽「あの……UTX学院の会長さんですよね?」

希「あれ、ウチのこと知ってるの?」

花陽「当然です。UTXの会長さんと副会長さんは何故スクールアイドルを目指さなかったのかという話は有名ですし」

希「そんな話があるとは、なんか恥ずかしいなぁ」

花陽「その、私は決して怪しい者ではありませんので」

希「うん? ああ、別に怪しんでやってきたという訳じゃないよ。ただ少し気になって」

花陽「……よかった」

希「ウチは高校からこっちに引っ越してきたから制服で判断出来ないんだけど、あなたは中学生?」

花陽「はい。中学三年生です」

希「ということは、うちを受験するから今日はその下見ってところかいな?」

花陽「下見っていうか、その……」

希「うん」

花陽「大切な幼馴染の子と私の我が侭で違う学校になるかもしれなくて」

花陽「……そのことを考えると勉強に集中出来なくなっちゃいまして」

希「うん」

花陽「えっと……その、だから」

花陽「こうして息抜きっていうか」

花陽「ここにくれば頑張れるかなって」

希「実際に目標が目の前にあると頑張れるものね」

花陽「は、はい」

希「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

花陽(温かい笑顔。さっきから花陽がきちんと言葉に出すまで待っててくれるし、凄く素敵な人だなぁ)

花陽(凛ちゃんとは違う形の優しさ。二年後同い年の立場になっても、私にはこんな大人っぽい性格にはなれない)

花陽(どうやったらこんなにも素敵な人物になれるんだろう?)

希「ウチの両親は転勤族だったから幼馴染ってとっても羨ましい」

花陽「そうなんですか」

希「うん。時には一人ぼっちだったから、本が友達ってこともあったくらいだしね」

花陽(こんなに明るく優しい人でも一人だった時があるなんて)

花陽(ど、どうしよう。なんだか不安になってきちゃった)

希「あ、ごめんごめん。不安にさせるつもりで言った訳じゃなかったんだけど。あの頃はウチって所謂不思議ちゃんだったから」

花陽「不思議ちゃんってなんですか?」

希「う~ん、所謂オカルトを信じてるヘンコツって感じかな」

花陽「オカルトですか」

花陽(ヘンコツってなんだろう?)

希「それに口調が他の子と違ってたっていうのもコンプレックスとは違うけど、何か別物というのが嫌でさ」

希「だから授業中には一言も喋らない無口になったりもしたから。ウチに一人ぼっちになる原因があったから」

希「幼馴染の子と別々になってでもここを目指す理由って訊いてもいい?」

花陽「……はい」

花陽「私、小さい頃からアイドルが好きで」

花陽「それで、今年の春のA-RISEの南ことりさんが参入して初めてのライブ」

花陽「会場内が同じスクールアイドルの、A-RISEのファンなのに嫌な雰囲気に満ち溢れてて」

花陽「それをたった一曲で浄化するように、荒野をお花畑にするような賛美歌のようなあのライブ」

花陽「今まで見てきた本物のアイドルよりもずっと心に響いて、憧れて、少しでも近くで見たくて」

花陽「……弱い自分が少しでも強さに近づけるようになれればって、守られているばかりの自分を変えたくて」

花陽「もっと自信を付けたくて、今の自分を変えたくて」

花陽「ことりさんのようにはなれないかもしれないけど、もしUTXに入学できたら」

花陽「様々な経験を積んで、卒業する頃には凛ちゃんの隣を自信を持って歩けるようになりたいんです」

花陽「今はまだ背中に隠れてたり、手を引いてもらってる状態だから」

希「そういう考えが出来て行動を起こす勇気が未来を作るんだよ。これは親しい人にしか内緒のことなんだけど耳貸して」

花陽「はい」

希「少しだけやけど人の未来が見えることがあるんよ。あなたには輝かしい未来が待ってる」

希「来年度ここの生徒になって、翌年、翌々年には後輩を引っ張る素敵な存在になってるよ」

花陽「えぇっ!? わ、私がそんなっ!」

希「似非占い師っぽい台詞だけど、ウチの言葉を信じて努力を続けるか否かはあなた次第」

花陽「……私次第」

希「ウチの名前は《希望》の一文字目一つで希って書くんだよ。だから人の希望になれる存在で在りたい」

希「もしあなたがウチの言葉を信じて努力を続けてくれたら、そういう存在に一歩近づける」

希「初めての受験って緊張するし、面接なんて特にテンパっちゃうかもしれない」

希「その時は今日のことを思い出してくれたらそれ以上嬉しいことはないよ」

花陽「……会長さん」

希「この学校は頑張ってる子には優しく、人の足を引っ張ろうとするような子は自主的に辞めていく」

希「つまりは優しさに満ち溢れてるウチの自慢の母校や! ちょっとこわ~い副会長も居るけどね」

副会長「東條さん、誰が怖いですって?」

希「副会長。まだ会議中じゃないの?」

副会長「東條さんが居ないとやっぱり場が締まらないのよ。いつまでも油売ってないで戻るわよ」

希「はいはい。ほな、ウチはそろそろ戻らないとだから。後輩になった時に名前、教えてね」

花陽「あ、はい」

希「素直な優しさを持つ子の強さはね、他の子よりも強さが表に出るのがちょっと遅いんだよ」

希「だから焦る必要なんてない。きちんとあなたの中で根付いているから」

希「ウチは努力している子に頑張れなんて言わない。だからもっともっと頑張ろうなんて思ったら絶対にダメ」

希「無理をし過ぎると……このこわ~い副会長さんみたいにピリピリしたツンデレさんになっちゃうからね」

副会長「話はよく見えないけど、人をダシにするんじゃないわ。ほら、役員が待ってるんだから!」

希「それじゃあ、またね」

花陽「はい」

花陽(……花陽の中で根付いている)

花陽「あ、お礼言うの忘れてた」

花陽(これじゃあ失礼な子になっちゃう。だから、来年の春になったら自己紹介ついでにお礼を言わなきゃ)

花陽(それから、同じ学校の後輩としてお世話になりますって伝えなきゃ)

花陽(その為にも……私のペースで努力していこう。人は人、花陽は花陽。ゆっくりでいいんだ)

花陽(でも、確実に一歩を二歩目を歩んでいこう)

花陽(今は遠い存在でも、歩みを止めなければいつか横に並べる。焦りそうになったら今日のことを思い出そう)

花陽(希望をくれた優しい会長さんの言葉と共に……)

次々回予告!

寒い冬を越え、物語は最後の年を迎える。

残る季節は後三つ。

その一つ目である春の物語。

音ノ木坂学院とUTX学院それぞれに訪れる出会い。

まずは音ノ木坂学院から。

にこ「今年は新入生加入はなしみたいね」

絵里「新入生の人数が増えてクラスも三クラスから四クラスになったから期待してたんだけどね」

あんじゅ「廊下とかで応援してますとか言ってくれるからそれだけでも頑張れるよね♪」

三年生組は想定していた事態にのんびりとする中、穂乃果が動いた。

穂乃果「見つけたよ! アイドルが似合いそうな子!」

海未「私から見ると若干暗めな子なので、アイドルが似合いそうかと訊かれたら首を傾げてしまう感じですが」

穂乃果「もう! 海未ちゃんってば酷いよ。穂乃果だってSMILEに加入する前は暗かったんだから」

絶対にスカウトしてみせると意気込む穂乃果に対し、相手はアイドル嫌い。

新入生の加入はあるのか否かは運命次第。

にこ「私達ももう三年生だし、人前でする邪道はこれを最後にしましょう」

あんじゅ「邪道シスターズ最後の聖戦だね★」

絵里「陸上部との話合いは私が設けるから、二人は好きにやりなさい」

にこ「じゃあ、好きにするにこ! 作戦はこうよ」

あんじゅ「えぇ~! それって海未ちゃんの時の二番煎じじゃない。手抜き反対にこ!」

にこ「私はあの子がアイドル嫌いじゃなくなって、笑顔になればそれだけでいいのよ。カッコはつけないわ」

邪道シスターズが暗躍する最後の戦い。

其れは勧誘ではなく、一人の少女を笑顔にする為の物語。


ネクストストーリー……冬の小話集!

冬の出来事集 ※時系列はバラバラです。

◆あんじゅと絵里◆

絵里「そういえばこないだあんじゅのアレをやってみたけど、元気が沸いてくるわね」

あんじゅ「なんのこと?」

絵里「にっこにっこにーっていうポーズよ」

あんじゅ「あれは元気の出る魔法だから」

絵里「くすっ。ええ、実際に元気が沸くし魔法かもね」

あんじゅ「ううん、かもじゃなくて魔法なの。元々はね、にこが大切な人の為に作った魔法なんだ」

絵里「そうなの? まぁ、確かに言われてみればにこに相応しい語呂よね。あんじゅしか使わないから気付かなかった」

あんじゅ「にこが私に貸してくれたから。だからにこはこの魔法を今は使えない状態なの」

絵里「どういうこと?」

あんじゅ「いい機会だし、エリーお姉ちゃんには少しだけ話しちゃおうかな」

絵里「にこにとって大切な話みたいだけど、勝手に話してもいいの?」

あんじゅ「うん。にこには私が話してもいいって思えば話してもいいって言われてるから」

絵里「だったら是非聞かせて欲しいわね」

あんじゅ「にこは本当に小さい頃からアイドルを目指してたんだって。ツバサちゃんに出逢うまで、だけどね」

絵里「一曲とはいえ実際に目の前で見て私も感じ取ったわ。綺羅ツバサの溢れ出る魅力」

あんじゅ「ハロウィンの時?」

絵里「そうよ。あんじゅはにこと一緒だったから見てないのよね」

あんじゅ「にこと違ってA-RISEもツバサちゃんも私は興味がないから」

絵里「バッサリね」

あんじゅ「でも、にこがもう一度やり直す為には何がなんでもラブライブでツバサちゃんと再会させてあげる」

絵里「一年生の海未と穂乃果には悪いけど、私達二年生にとっての目標は其れだからね」

あんじゅ「うん」

絵里「それで話は戻るけど幼い頃のにこが関わってくるの?」

あんじゅ「アイドル好きなにこの為に簡単な歌なんだけどね、お父さんが生前ににこの歌を作ってくれたんだって」

あんじゅ「にこにーにこにーにこにこにー♪」

あんじゅ「それだけなのに、不思議と笑顔になっちゃうようなそんな素敵な歌」

絵里「素敵なお父様だったのね」

あんじゅ「にこもママも大好きな人だから当然だよ!」

絵里「どうしてあんじゅが胸を張るのよ」

あんじゅ「そのお父さんが病気で倒れて、辛い闘病生活の中で笑顔になって欲しいと思って改変したのがあの魔法」

絵里「にこにこにーに弾みを付けたのね」

あんじゅ「単純かもしれないけど、これほど奥の深い愛情詰まった言葉もないよね」

絵里「……そうね」

あんじゅ「お父さんが亡くなる前日に、にこのアイドルの姿を見たかったって言ったんだって」

あんじゅ「その翌年、アイドルを目指す第一歩として一年間だけという約束で始めたレッスン」

あんじゅ「皮肉にもそれがにこにとっての夢を奪う出遭いを生んだの」

絵里「ヤンデレだっけ? あれっぽい言い方やめてよ。不安になるじゃない」

あんじゅ「うふふ★」

絵里「本当に不安になるからそこは否定して」

あんじゅ「そんな大切な想い入れのある魔法をね、初対面の私に貸してくれたんだ」

あんじゅ「捨て子っていうと比喩にしかならないから正確には迷子だね。そんな状態の私ににこは魔法と笑顔をくれた」

あんじゅ「きっと、あの出逢いはにこのお父さんがくれたんだって今なら思える。私の命の恩人」

絵里「命って」

あんじゅ「少しだけ大げさだけど、それくらい大切な出逢いだったの」

絵里「私の見立てだとあんじゅは何でもこなせそうな気がするけど」

あんじゅ「何でも出来るから誰にも頼らずに生きられるかというのは違うよ」

絵里「……」

あんじゅ「にこが居てくれないと私は駄目な子だから」

絵里「あんじゅとにこはなんともアンバランスね。それで、そろそろ出逢いの話なんかも教えてくれたりしないの?」

あんじゅ「にことの出逢いは……」

海未「遅れて申し訳ありません」

穂乃果「遅れてごめんね。いや~放課後に食べるパンは格別な物があって」

海未「どうして中庭で暢気に食べてるんですか! 見つけるのに苦労したではありませんか!」

あんじゅ「また、別の機会があったらその時に、だね」

絵里「その機会が巡ってこない気がするんだけど」

あんじゅ「うふふ♪」

絵里「だから否定してってば」

穂乃果「あれ、にこちゃんまだだよ。急いで来て損しちゃったね」

あんじゅ「にこは日直という奴隷業に勤しんでるよ」

海未「ほら見なさい。穂乃果のように自分の都合でただ遅れているわけではありません」

穂乃果「もーしわけありません」

海未「説得力がありません!」

あんじゅ「絵里ちゃんや海未ちゃんや穂乃果ちゃん。他の子との出逢いも私にとっては掛け替えのない宝物だよ」

絵里「それは私もよ。大切な妹達と仲間だもの」

あんじゅ「ずっとここで高校生として過ごしていたいな。みんなと一緒に……ずっと、ずっと」 (完)

◆ことりとアンチ先輩と課題と◆

先輩「どうして私が南の課題を手伝わないといけないのよ」

ことり「とか言いつつきちんと手伝ってくれるのが先輩の鑑ですねっ」

先輩「何かある毎にそう言ってる時点で確信犯よね」

ことり「A-RISEの問題児ですから」

先輩「英玲奈さんも性格までは見抜けなかったのね。最近は特に垢抜けてきた気がするし」

ことり「この環境も慣れましたから」

先輩「親しい仲にも礼儀はあり」

ことり「あ、先輩が珍しくデレ発言」

先輩「訂正。親しくないから礼節を重んじなさい」

ことり「可愛い後輩のお手伝いできるなんて先輩冥利に尽きるじゃないですか」

先輩「そういうのは可愛気のある後輩が言って効果が出るのよ。南の場合はあざと過ぎて腹が立つわ」

ことり「あはは」

先輩「ま、そういうのは置いておくとしても、課題をこなしながら練習はやっぱり大変そうね」

ことり「好きなことは徹夜しても苦にならないタイプなので」

先輩「将来の寿命を削るような行為を自慢するのは愚者の弁よ。そういう行為は恥じて黙しなさい」

ことり「はぁい」

先輩「でも、夢の為に今を頑張るのが苦にならないことは誇ってもいいわね」

ことり「おぉ! またデレた。今日は何か良い事でもあったんですか?」

先輩「別に。こんな些細なことでも学院の思い出に残るのだろうと考えたら苦にはならないからね」

ことり「そういうのは一年早い台詞です。まるでもう卒業するみたいじゃないですか」

先輩「光陰矢の如し。特にこれからの一年なんてアッと言うまよ」

ことり「だったら先輩も本格的に卒業後の進路を考えないとですね」

先輩「そうね。というか、もう明確に出してないといけないんだけどね。考えが纏まらないわ」

先輩「アイドルじゃなくても劇団関係でもいいかなと思うし、普通に大学に進学してそこで夢を見つけるのもいいし」

先輩「選択肢が多いと逆に何も選べなくなりそうで怖いわね。吹っ切れれば一番なんだけど」

ことり「弱ってる今がチャンスとみて提案があるんですけど」

先輩「かなり嫌な予感するんだけど」

ことり「嫌なことじゃないです。私の夢です」

先輩「装飾系の仕事につくんでしょ? 作るのかデザインにするのか両方かは知らないけど」

先輩「それともアイドルを本格的に目指して、ブランド力を付けてから会社を立ち上げるってプラン?」

ことり「最後のはなんだか本格的ですね。でも、違います」

先輩「新しい夢でも見つけたの?」

ことり「そうですね。ここに入学して出来た夢であり、ここに居る間しか叶えられない素敵な夢です」

先輩「スクールアイドルとしてラブライブ三連覇とか?」

ことり「そんな大事じゃないです。……あのですね、先輩と一緒のステージでライブをしたいんです」

先輩「嫌味?」

ことり「違います。本心です」

先輩「残念だけどそれは無理ね。今の私じゃ南の引き立て約にもなれないわ」

ことり「そんなことないです!」

先輩「あるわよ。南はもう私が駄目出し出来る部分がなくなるくらい完璧になっちゃったもの」

ことり「前にも言いましたが、メンバーより厳しい目で指摘し続けてくれた先輩が居たからA-RISEの名に恥じない私になれた」

ことり「先輩が居なかったら今でもアンチの方はもっともっと居たかもしれません」

ことり「だから心を鬼にして明日から先輩にことりが駄目出しを出します!」

先輩「……は?」

ことり「文化祭が一番いいステージになれると思うんです。だから何か出し物にエントリーしてライブをしましょう!」

先輩「勝手に決めないで。来年の文化祭って時期的に一番大切になるのよ、三年生には」

ことり「ことりがもう決めたので拒否は認めません」

先輩「何よそれ!」

ことり「メンバー以外未だに先輩しか友達が居ないんです。だったら一生の思い出作りたいじゃないですか」

先輩「……あなたね、A-RISEの南ことりと比較される私の身にもなってみなさいよ」

ことり「先輩が自分に誇れればそれでいいじゃないですか。練習時間はたっぷりあるんです」

ことり「ライブまでに先輩が自信を持って望めるようにしてみせます。それが先輩の生き方なんですよね? えっへん♪」

先輩「はぁ~。本当に厄介な子に絡んだものだわ」

ことり「あ、そうだ。初対面で先輩と一緒に声を掛けてきたリボンの先輩は元気なんですか?」

先輩「とっくに他校に転校したわよ。人の足を引っ張るだけの子にはここは辛い場所に変わるの」

ことり「……」

先輩「ま、私も人のことは余り言えたもんじゃないけどさ」

ことり「そんなことありません。何度でも言い続けますが、アンチ先輩は私の自慢の先輩です」

ことり「それは先輩が卒業しちゃってからも、私がここを卒業してからも変わらない気持ちです」

先輩「……今更取り繕ったって私の中の南の評価は上がったりはしないわよ」

ことり「ふふっ。それは残念です」

先輩「仕方ないから文化祭で一緒にってのは承諾してあげる。最高の思い出作りましょう」

ことり「はいっ!」 (完)

◆私の姉は小さいですが心は広いです。◆

海未「あの、突然そんなことを言われても困るのですが」

剣道部員「分かってるわ。でも、中学時代の成績を聞いては是非とも指導をお願いしたくて」

弓道部員「高坂さんの話によると家に弓道場もあって、腕前もまた素晴らしいって聞いてます」

海未「私も鍛練している身ですから、人に指南出来る程の器ではありません」

剣道部員「大会ではいつも一回戦敗退だったけど、私達は真剣にやってきた。後輩達には勝つ喜びを教えてあげたいの」

剣道部員「せめて顧問じゃなくてもこの学校に剣道に精通している先生が居ればよかったけどね」

弓道部員「私達は大会以前に腕前が全然駄目で。少しでもいいんです、上手く出来るようになる練習の仕方を教えて欲しくて」

海未「御存知かわかりませんが、私はスクールアイドルをやっているんです。練習に時間を割かれて教える時間はありません」

あんじゅ「そこで私は言ったんだよ。弱いにこ虐めはやめなさいって」

にこ「なんで弱い者虐めみたいなフレーズで私が弱くされてんのよ!」

海未(このくだらない会話。天の助けとは正にこのこと)

海未「にこ! あんじゅ! ちょっと助けてください」

にこ「あら、海未どうかしたの?」

あんじゅ「海未ちゃんが助けを求めるなんて珍しいね」

海未「実は――」

にこ「――なるほどね。教えてあげればいいじゃない」

海未「なっ!?」

剣道部員「おぉ!」

弓道部員「やたぁっ!」

あんじゅ「裏切られた。姉とまで慕っているのに……どうしてこんな時に邪道な反応をするのですか」

あんじゅ「恨めしい気持ちを抱きながら、射抜くように海未はにこを睨みつける」

海未「変なナレーションしないでください。というか、にこは何も考えていないのですか!?」

海未「教えに行くとなるとその分、スクールアイドルとしての活動時間を削られるということになるのですよ?」

海未「さぁ、これで事態が飲み込めましたね? アイドル研究部の部長として一言どうぞ」

にこ「だから教えてあげればいいじゃない」

海未「」

あんじゅ「あまりのショックに固まっちゃったよ」

にこ「海未はダンスも歌も運動神経も抜群だしね。練習時間が短縮されればより高い集中力で補えるでしょう」

にこ「それに、音ノ木坂の仲間が助けを求めてるのなら手を差し出すのは当然のことでしょ?」

にこ「海未が教えることによって剣道部か弓道部が大会で上位入賞とかすれば音ノ木坂の株が上がるわ」

にこ「生徒数が増えて、その時に先輩から後輩へ海未の教えが伝わっていったら最高じゃない」

あんじゅ「もう直ぐ三年生になるだけあって、貫禄がついてきたね。ランドセルが違和感なくなってきたにこ★」

にこ「誰が小学三年生よ!」

剣道部員「部長はこう言ってるけどどうかしら?」

弓道部員「お願いします!」

海未「謙遜ではなく、本当に私は修行中の身です。それに、名選手が名コーチになるとは限らないという言葉もあります」

海未「名選手ですらそうなのですから、私が教えたところで結果に繋がるとは限りませんし保証も出来ません」

海未「それでも良いというのであれば、その真剣な想いに応えたいと思います。それが私の姉の意見のようですから」

剣道部員「よしっ! 本当にありがとう」

弓道部員「ありがとうございます! とっても感激です!」

あんじゅ「皆が羽なのににこだけランドセルっていう衣装はどうかな?」

にこ「あんたはどんだけ私のことを笑い者にしたいのよっ」

あんじゅ「にこにーはどんな時でも可愛い(笑)」

にこ「完全に嘲りじゃないの」

あんじゅ「そんなことないよ。ランドセルが似合うと思うのは私の本心だから!」

にこ「失礼過ぎるわ!」

あんじゅ「でも一番は園児服だよね。だぁだぁ♪」

にこ「ぐぬぬ!」

海未「人の道を指しておきながら、くだらない言い合いをしないでくださいよ。まったく、困った姉達ですね」 (完)

◆生徒会長VS副会長◆

希「そっか、本当にありがとう」

絵里『私にお礼を言うようなことじゃないわ。私はそちらの提案を理事長に繋いだだけだもの』

希「それが一番重要な仕事だから。これで次の文化祭で生徒会長としての責務を全う出来る」

絵里『逆に私とっては脅威だけどね。本当に、敵に塩を送った気分よ』

希「まぁまぁ。そんなツレないこと言わんといてや」

絵里『追々詳しく決めていくにしても、設備や生徒数の違いでそっちで出来ることも、こっちだと出来ないこともあるし』

希「交流が第一の目的だし、貸せる人では貸すし、設備だって運べる物は提供できる」

絵里『自信満々だけどまだ正式な許可は下りてないんでしょう?』

希「学院側への許可はまず通せる。それくらいの実績は踏んできた」

絵里『凄い自信ね。正直羨ましいわ』

希「仮初の自信も言霊に乗せていれば自然とした自信になるからね」

絵里『ただ強く想うよりも口に出していた方がいいと。確かにそうかもね。それじゃあ、詳しい話は追々にしましょう』

希「うん、本当にありがとう。絢瀬会長は優秀やんな」

絵里『東條会長に言われたくないってば。時間があればまたケーキでも一緒に食べましょう』

希「是非お願いしたいね。それじゃあ、おやすみ」

絵里『ええ、おやすみなさい』

希「……ふぅ。これで夢への問題は一つだけ」

――翌日 放課後...

副会長「それで、大切な話って何よ?」

希「副会長に許して欲しいことがあってね」

副会長「珍しいわね。何かの書類で粗相でもした?」

希「そうじゃなくてね」

副会長「何よ、子供じゃないんだからハッキリと言いなさいよ。これからやらないといけないことも多いんだから」

希「うん」

副会長「というか、東條さんがそこまで言い淀むっていうのが恐怖でしかないわ」

希「あんな、ウチ等の最後の学園祭は音ノ木坂学院と合同で実行したいんよ」

副会長「……へぇ」

希「内々の話になるけど、向こうの理事長からの許可は出てる。後は生徒会と上に許可を取るだけ」

希(生徒会っていうか副会長だけが問題なんだけど)

副会長「一体どこからそんな面倒事をしようとする発想が出てくるのかしら?」

希「前会長が託した野望。その舞台を成功させたいっていうのが今の私の夢でもある」

副会長「良いんじゃない?」

希「本当に!?」

副会長「ええ、良いわよ。私は生徒会を抜けるから好きにすれば良いわ」

希「――え?」

副会長「本当は東條さんを追い出して私が生徒会長になるのが最善なんだけど、私じゃ駄目なのは流石に分かったわ」

副会長「私が会長になっても前任である東條さんと比べられる。スムーズに行く仕事もその齟齬が機能を悪くする」

副会長「だったら排除すべきは東條さんではなく、私にすればいい。簡単でしょ?」

希「どうして副会長が辞めるなんて話になるん?」

副会長「あの人のプランっていうのがムカつくのが一つ。格下の学院と行動を共にするっていうのが我慢できないのが一つ」

副会長「それから、只でさえ忙しくなる学園祭を無駄により忙しさを増して役員の時間を奪うのも納得出来ないわ」

副会長「自分の個人的な感情を生徒会長という立場を利用して行動させる。そんな会長の下にはつけないわ」

副会長「今までのなら許容範囲だったけど、今回は完全にボーダーラインを突破してるわ」

希「待って。そう言いたい気持ちは分かる。でも、副会長が居ないとこの学園祭は実行出来ない」

希「あくまで今の生徒会の戦力あってこそ叶えられる夢」

副会長「他力本願でしか叶えられない夢なんて捨てなさい。オトノキなんかと共にしないのなら残ってあげるわ」

副会長「次の学園祭が最後の仕事になるわけだからね。なるべくなら最後まで実行したいし」

希「これがウチの我が侭だってことは分かってる。それでも、初めての母校と言えるこの学院に証を残したい」

副会長「私には一切関係ないわ」

希「どうしても副会長にお願いしたいの」

副会長「これだけ生徒数居るんだから、帰宅部の優秀な生徒だって居るでしょ。そういう子をスカウトすればいいわ」

希「それじゃあ駄目なんだよ。信頼出来る副会長だからこそ、この大仕事を任せられる」

希「それに、他にないくらいに優秀なのは誰よりもウチが知ってるし」

副会長「そういう発言は嫌味だって何度も言ってるでしょ」

希「本心だって同じ数だけ言ってるやん?」

副会長「……メリットがないことに動くのは私のポリシーに反するのよ」

希「つまりメリットさえあれば生徒会を辞めずにこの話に賛同してくれると?」

副会長「デメリットよりも上回るメリットであれば、考えてもいいわ」

希「だったら掛け替えのない大きなメリットが一つあるよ」

副会長「へぇ。悩むことなく答えられる物があるとは驚きだわ」

希「だって簡単なことやし。卒業しても変わらないウチとの友情が約束されるってね」

副会長「」

希「ついでにUTX学院始まって以来の他校と合同の大きなイベント。次にイベントを起こす生徒会が今回の資料を読んで勉強するし」

希「副会長が以前言ってたこの学院の歴史に残るって意味でも叶うんじゃない?」

副会長「……呆れた。そんな台詞を自信満々に言える人間が実在して、しかも目の前に居ることが」

希「副会長が辞めたら友情が途切れちゃうじゃない」

副会長「貴女みたいな奇特な人と仕事の繋がりなしで関係していたくないもの」

希「副会長はいつも酷いな~」

副会長「…………しょうがないわね。東條さんとの友情はともかく、確かに生徒会の中では名を残すかもしれないわね」

副会長「仕方ないから残ってあげる。ただ、オトノキとの話し合いは貴女がやってね。私は嫌よ」

希「副会長のそういう部分は直りそうもないね」

副会長「これが私って個性だもの。貴女がその変な喋り方を止めるなら、考えなくもないわ」

希「それは無理やね」

副会長「だったら諦めなさい」

希「しゃあないな。でも、ありがとう。お陰で母校を胸を張って卒業できる」

副会長「その台詞は一年早いわよ。全てが初めてなんだから、するなら今から上に話を出して、早急に許可出しなさい」

副会長「まずは大まかな資料を作らないとね。来年度のことで忙しいってのに、厄介な生徒会長に生徒会に戻されたものだわ」

希「忙しいからこそ、それを乗り越えた時の達成感は格別なのだ!」

副会長「その語尾聞いてるこっちが恥ずかしいからやめて。ま、達成感を味わう為にも一切の妥協を許さないからね」

希「それは望むところ! 最高の夢舞台にしよう♪」 (完)

◆真姫ちゃんダイアリー◆

「卒業するまでずっと名前で呼んでくれないかと心配してた」

これは私の《友達》のまこちゃんが言った台詞。

短い冬休み、何度も何度も今度は自分から誘おうと思っていながら、結局勇気が出せなかった。

でも、冬休み明けにA-RISEのライブに一度だけ、たまたま偶然チケットが手に入ったから足を運んであげたの!

発売時間に携帯電話と家の電話を同時に鳴らして、頑張ってチケットを購入したとか絶対にないんだから!

ともかく本当に偶然手に入れちゃったからには行かなきゃ勿体無いというか、失礼でしょ?

だから観に行ってあげたのよ。

私の言葉を聞かなかった南ことりが居るA-RISEのライブを。

なんというか、自分がそこに居ることに大きな違和感を覚えて仕方なかったわね。

どちらかというとピアノの発表会でステージの上で演奏する側だったから、こうして見る側になるのが変な感じだったのよ。

でも、そんな余裕があったのはライブが始まる前のざわざわとした間だけ。

いざ演奏が始まってからは別空間。

ライブっていうのはただ煩いってイメージがあったんだけど、その場でしか味わえない空気があった。

ピアノの演奏会を静とするなら、こちらは動。

同じ土俵ではないのに、心を揺らすという意味では本質は同じなのかもとか少し思っちゃった。

きっと集団催眠みたいなものだと思うわ。

そんなことより、南ことりよ!

ライブ中に私と目が合った筈なのに無視したの、信じられる!?

あの時のこと謝ってあげようと思ってたのに、何よなの態度。

ムカつくけど、しょうがないからUTXに入学したら直接謝ってあげるわ。

というか、一体なんなのよあの声!

ライブの後、脳に異常がないか本気でパパにCTスキャンを頼もうと思ったくらいよ。

勉強も手に付かなかったし、お風呂の中で危うく眠っちゃいそうになったし。

でも、その次の日。

土曜日だったんだけど不思議と押せなかったまこちゃんへの通話ボタンを軽く押せた。

それで私は自分から「明日時間ある? あるんだったら自転車で遊びに行かない? どうかな、まこちゃん」ってね。

別に緊張で声が震えてて返事の前にまこちゃんに笑われたとかそんなことないってば!

あの脳が蕩けそうなくらいの南ことりの歌声のお陰だとしたら、謝るついでにお礼を言おう。

お陰で友達が一人出来ましたってね。

今日はこれくらいにしておきましょう。

明日もまこちゃんと遊ぶから少し楽しだわ。 (完)

◆ライバル◆

英玲奈「ツバサがアイドル雑誌を読んでいるなんて初めてみた」

ツバサ「そうかしら?」

英玲奈「少なくとも私は初めてみる」

ツバサ「そうね、言われてみればそうかもしれないわ。中学時代は普通に買って読んでたけど」

英玲奈「何か気になるものでも載っていた?」

ツバサ「ええ、SMILEがいよいよ雑誌に載ったのよ。思わず三冊も買っちゃって、今日もまたこうして追加で買っちゃったわ」

英玲奈「どれだけにこにーのファンなんだ」

ツバサ「サブリミナルというよりは刷り込みに近いわね。私のアイドル活動の始まりだから」

英玲奈「身長はほぼ同じ。それ以外は贔屓目なしでもツバサの方が全てを上回っているように思えるけど」

ツバサ「甘いわ、英玲奈にしては大甘ね。でも仕方ないのかもしれないわ」

ツバサ「にこにーの最大の魅力はその優しさと笑顔。本物に会えば嫌でも感じることになると思う」

英玲奈「だが、今のレベルでは次のラブライブの予選通過も微妙に思える」

ツバサ「絶対に大丈夫。太陽は雲に覆われても、その上にはずっとあり続ける。永遠不変な物だから」

英玲奈「意味が分からない」

ツバサ「つまり無駄に心配するだけ損ってこと。きっと近くに居ればあの子の魅力に惹かれていた筈よ」

ツバサ「でも、私はにこにーと違う学校でよかったって思ってる。ライバルは他校で居るからこそ全力で戦える」

ツバサ「同じグループだと客観的にしか競えないからね」

英玲奈「お熱いな。ただ、何も背景のない零からここまで築き上げるその実力は純粋に評価出来る」

ツバサ「そうでしょう? 私と絶対に被らない学校という意味で音ノ木坂学院を選んだと私は思っているわ」

英玲奈「ツバサと将来対峙する為に茨の道を進んだ、か。本当なら見た目と違って随分と逞しい」

ツバサ「見た目とのギャップならうちにも随分と腕白な子が居るじゃない」

英玲奈「初めて会った頃はまさかこんな行動力があるとは思わなかった。我慢強いし」

ツバサ「逆に言えば私と英玲奈が卒業しても、あの子が居れば間違いなくトップを走れるわ」

英玲奈「ああ、ことりも来年一年で落ち着きも覚えるだろう。そうなると三年目は絶対的リーダーになる」

ツバサ「残念な点があるとすれば、ことりさんはプロのアイドルを目指さないかもしれないことね」

英玲奈「それは仕方がない。装飾科の特待生をスカウトしてきたのだから」

ツバサ「来年はどうなのかしらね。話題になるような子とかSMILEに入ってくれればいいんだけど」

英玲奈「ライバルの心配より自分のグループの心配もして欲しいところだ」

ツバサ「何か心配事ってあった?」

英玲奈「来年度のメンバー。加入はあるのかないのか」

ツバサ「私は今の三人で充分だと思うけど、ことりさんのことを考えると新入生から見繕うべきかもね」

英玲奈「万が一の為にことりのブレーキ役になれるような信の強さを持っていると良いが」

ツバサ「ただ、ことりさんの加入の時もあるからね。メンタル面のケアは加入する前に色々しないとね」

英玲奈「同じ鉄は踏まない」

ツバサ「ことりさんの時は中学生の時からスカウトしたからしょうがなかったけど」

英玲奈「懐かしいな」

ツバサ「そうね。高校生活も半分を過ぎて、次の一年でおしまい。アッと言う間なんてありきたりな言葉がしっくりきちゃう」

英玲奈「成しえてきたことの多さが時間の経過を教える」

ツバサ「最後のラブライブは約束を果たし、有終の美を飾りましょう」

英玲奈「私達の終わりは来年の卒業前までだろう」

ツバサ「気分的な問題よ。目標を終えた後、スクールアイドルをどういう形で、どういう気持ちで続けるのか」

ツバサ「そういうのが私達への課題かもね」

英玲奈「寂しい話題だな」

ツバサ「そうね。でも、私にとってはA-RISEとしての折を抜けて色々と自由にやってみたいわ」

英玲奈「自由に?」

ツバサ「手っ取り早くリーダーの座をことりさんに譲って、A-RISEのツバサとしてSMILEと交流を深めるとか」

英玲奈「名前の通り自由に羽ばたき過ぎる」

ツバサ「いいじゃない。にこにー以外のライバルとの交流とかもしてみたいし」

英玲奈「全てをライバルと思うのがスクールアイドルとしての正しさだと私は思う」

ツバサ「それが正しい道かもしれない。でも、にこにー流はそういうの関係なしに笑顔の輪を広げたがるの」

ツバサ「自分にとって相手がライバルになるとしても、その笑顔で掬い取るんだと思うわ」

ツバサ「本質という意味でにこにーを超えるアイドルなんて、私の中で存在しない」

英玲奈「そこまでいくと妄信の域に思える。信仰していると、いざ対決となった時に声が出なくなったり体が動かなくなったりする」

ツバサ「大丈夫よ。私はそういう状況にこそ燃え上がるタイプだから」

英玲奈「なんとも厄介なタイプだ」

ツバサ「さて、そろそろ帰りましょうか。レンタル屋さん寄って行かなきゃ」

英玲奈「珍しい。何か借りるのか?」

ツバサ「んふっ。書籍も売ってるから、もう一冊買っておこうと思って♪」

英玲奈「……本当に大丈夫か不安になる」

ツバサ「ライバルはライバル。ファンはファン。英玲奈も記念に一冊買ってみたら?」

英玲奈「そこで薦めてくる辺りが……」

ツバサ「次のラブライブの開催はいつになるかしらね? 夏より秋の方がSMILEの人気が上昇してるだろうし、秋がいいわね」

英玲奈「頼むからA-RISEの加入するだろう新入生を育てる期間が欲しいと思って欲しい」

ツバサ「その辺は英玲奈が居るし、ことりさんだって居るんだから心配する必要性ないでしょ?」

英玲奈「信頼されている証拠か。しょうがない、私も一冊買おう」

ツバサ「流石英玲奈ね。ただ、一冊しか売ってなかったら私が買うからね」

英玲奈「」

ツバサ「んふふ♪」 (完)

◆届いた手紙◆

それはある春の訪れを感じさせるにはまだ肌寒さの残る三月初頭。

にことあんじゅはSMILEの活動は休みということで早く帰宅した。

こころとここあの「おかえりなさい」の後に続く言葉で始まった……。

ここあ「にこにーにおてがみきてたにこ!」

こころ「かわったおてがみだったよ」

あんじゅ「ついににこに不幸の手紙が!?」

にこ「ついにって何よ! まるでいつかは来ると分かってたみたいな反応してるんじゃないわよ」

あんじゅ「にこって薄幸だから」

ここあ「はっこ?」

こころ「かっこう♪ かっこう♪」

あんじゅ「ちょっと運が悪いって意味だよ。道端で転んじゃったり、テストで名前間違えちゃったり」

にこ「そのことをネタにすんじゃないニコ!」

あんじゅ「矢澤あんじゅでーす♪」

にこ「ぐっ……それはそうと、変わった手紙ってどれかしら?」

こころ「まってて、すぐにもってくるー」

あんじゅ「これで本当に不幸の手紙だったら笑えないね」

にこ「笑いしか出なくなるわよ」

ここあ「えがおはいちばんたいせいなんだよ」

にこ「そうね。ここあもこころと喧嘩したりしても、直ぐに二人して笑顔になれるものね。えらいえらい♪」

ここあ「えへへー♪」

あんじゅ「にこも不幸の手紙にもめげずにいい子いい子★」

にこ「がるるる!」

あんじゅ「ひゃぁっ! にこが野生のにこに戻っちゃった。通称クロニコ。鳴き声はにぅっ!」

にこ「がるるるって威嚇してるでしょうが!」

ここあ「にぅっ♪」

あんじゅ「ここあちゃん可愛い♪ 白ココアちゃんだね」

こころ「にこにーもってきたよ☆」

にこ「ありがとう、こころ。流石お姉ちゃんね。いい子いい子♪」

こころ「うふふ♪」

にこ「でもその笑い方はこのお馬鹿に影響されてるわね。将来が怖いから笑うときは『えへへ』がいいにこよ?」

あんじゅ「にこってば嫉妬しちゃってかぁわいい~♪」

にこ「嫉妬じゃなくて事実よ、事実。って、そんなことよりこれって」

あんじゅ「エアメール。確かに普通の手紙と違うけど、にこって海外にまで繋がりがあるの?」

にこ「ないわよ。これってアレかしら? 海外の宝くじがあたった詐欺」

あんじゅ「そういう詐欺もあったらしいね。でも社名じゃなくて、個人名では普通こないよ。虎太郎だって」

にこ「こたろう? どっかで聞き覚えがあるわ」

あんじゅ「それってハロウィンの時じゃない?」

にこ「あぁ、なんちゃら女のペットの名前だったっけ」

あんじゅ「お馬鹿だけど優秀なフェレットだよ。好きだった男性教師から名前貰ってるんだけど、漢字は違うね」

にこ「ま、悪戯なのか間違いなのか不幸の手紙なのかは中身を読めば分かるわね」

あんじゅ「もしかしてこれって……」

にこ「何か心当たりがあるの?」

あんじゅ「あくまでもしかしてなんだけどね、これってSMILEの動画を見た海外のこの人の目に留まった」

あんじゅ「多分偶然だったんだと思うよ。でもね、目を離せなくなるくらいににこの作った衣装に心惹かれたの」

あんじゅ「この人は海外でも有名なデザイナーでね、直ぐににこのことを調べさせてこっちで本格的に勉強しないかって」

にこ「はぁ?」

あんじゅ「留学するとなると、奇しくもラブライブの予選の終了前になっちゃうの。どちらを選ぶかにこは悩むの」

あんじゅ「仲間に相談したくても、ラブライブの予選が近いこともあって中々タイミングが掴めないまま日々が流れる」

にこ「いや、あんたが知るんだからその前提はおかしいでしょ」

あんじゅ「必ず二十位以内に入ろうと団結するメンバーを前に、もはや言い出せず断ろうと決めた」

あんじゅ「だけど、絵里ちゃんの耳にふとした拍子でにこの留学の誘いの件を知った」

にこ「だから、ふとした拍子も何も情報源はあんたが居るでしょってば」

あんじゅ「絵里ちゃんはメンバー全員を一人ひとり話し合い、にこの背中を押す為にラブライブ予選からSMILEの名前が消える」

あんじゅ「部長である自分に内緒でこんなことをした絵里に激昂するにこだけど、絵里ちゃんの熱い想いに留学を決意した」

にこ「いつまで続くのよこれ」

あんじゅ「みんなへの感謝の気持ちを返す為に頑張ることを決意し、留学当日は一人で空港へ」

あんじゅ「搭乗手続きを終え、ベンチに座りながらにこは今までのアイドル活動の日々に浸る」

あんじゅ「余りにも楽しい思い出に笑顔になると同時に、本当に自分の夢は装飾系関係の仕事に就くことでいいのか迷う」

あんじゅ「にこの本当にやりたいこと、それは……」

あんじゅ「卒業するまでみんなと一緒にスクールアイドルをしたい。それが今の私の夢にこ!」

あんじゅ「その言葉を待っていたわ! と、絵里ちゃん率いるSMILEのメンバーが集結。これには意地っ張りのにこも号泣」

あんじゅ「ラブライブにはもう出られない。でも、今この想いを沢山の人に伝えたい」

あんじゅ「邪道な私達に常識は通用しないとスクールアイドル初空港でライブを敢行!」

あんじゅ「それを偶然映していた一般の方が後日ネットにUPしたことで大きな話題になる」

あんじゅ「理事長にはお叱りを受けたけど、でもその話題性が音ノ木坂学院アイドル研究部SMILEを一躍有名にする」

あんじゅ「そして、ラブライブの本戦に特別枠ということで出場が決定。代わりにA-RISEはシード権を得る」

あんじゅ「ツバサちゃんとの約束を果たすためには決勝まで進むしかない。でも、仲間を失う恐怖に比べたらそんなの怖くない!」

あんじゅ「私達の青春の集大成というべき曲を作りながら本戦を勝ち抜く。対戦したスクールアイドルと絆を重ねながら」

あんじゅ「ついに約束を果たすべくA-RISEとの決勝戦に望む。勝つのは王者のA-RISEか、それとも大番狂わせのSMILEか」

あんじゅ「っていう激動ラブライブフラグじゃないかな?」

にこ「なっっっっっっがいわよ!」

あんじゅ「日々の特訓の所為かだね。肺活量が凄いよ」

にこ「こんなので褒められても全然嬉しくないわ! そもそも私が海外になんて行くわけないでしょう」

にこ「あんただけじゃなくて、可愛い妹達が居るんだから。まぁ、長女も居るし」

あんじゅ「にこにーお姉ちゃんはエリーお姉ちゃんに負けずのシスコンにこ♪」

にこ「うっさい!」

――その日の夜...

にこ「お詫びをしたいって書いてあったんだけど、ママこの人が誰だか知ってる?」

ママ「虎太郎さん? とっても懐かしい名前だわ」

にこ「ママの知り合いなの?」

ママ「ええ、私ともだけどパパの大親友の人よ。一度だけ赤ちゃんの頃にお姉ちゃんのことも抱っこしてもらったのよ」

ママ「覚えてないわよね。生後半年くらいだし」

あんじゅ「覚えてたら怖い話レベルだね」

にこ「そうね。それでなんでその人がママじゃなくて私に手紙出したのかしら?」

ママ「手紙読ませてもらえる? スクールアイドルをしていることを知り、パパへのお詫びをお姉ちゃんに返したい」

ママ「……そっか。そういうことね」

にこ「どういうこと?」

ママ「海外で企業を成功させるまで帰らないってパパと約束してたのよ。それでパパは家族を幸せにしてみせるって」

ママ「約束というか男同士の賭けって感じかしら。幼馴染じゃないけど本当にお互いを理解し合っててね」

ママ「お姉ちゃんとあんじゅちゃんみたいな関係だったのよ」

あんじゅ「私とにこ。相当仲が良かったんだ」

にこ「なんか悪いイメージになっちゃったじゃない」

あんじゅ「ツンデレツンデレ~♪」

ママ「パパも普段素直な人だったのに、時々妙に素直じゃなくなる時があったから。その辺はパパの血を継いでるのかしらね」

ママ「虎太郎さんはパパが亡くなったのを知ったのが一年以上過ぎてからだったらしく、その頃に手紙が来たの」

ママ「パパとした約束だからまだ日本の地を踏むわけにはいかないって。でも、知るのが遅れたことを深く詫びていたわ」

ママ「知っていれば約束を反故にしてでも葬儀に来てくれていたでしょうね。例えそれで自分の未来を捨てる結果になっても」

ママ「その時の手紙に書いてあったわ。いつかこのお詫びをパパの約束を叶えることで許してもらうつもりだって」

にこ「……」

あんじゅ「……」

ママ「日本に帰ってくる旨も書いてあるし、自分に納得出来る成功を収めてパパに自慢出来るようになったってことね」

ママ「間違いなく悪い話にはならないから、果報は寝て待ってればいいわ」

にこ「うん」

ママ「本当に懐かしいわ」

にこ「……あんじゅ」

あんじゅ「ん?」

にこ「今度は何々フラグとか言わないの?」

あんじゅ「流石に空気読むよ」

にこ「愚昧が空気呼んでどうするのよ。それでも私の妹なわけ?」

あんじゅ「だったらそうだなー……プロアイドルデビューフラグとみた!」

にこ「それはそれでありえないフラグね」

あんじゅ「一足飛んでハリウッドデビューにこ♪」

にこ「自慢じゃないけど私はグラマーが不得意よ!」

あんじゅ「……ママはグラマーなのにね」

にこ「そっちじゃないわよ!」

あんじゅ「じゃあ変化球狙って歌手デビュー……は、ごめん」

にこ「謝るのが一番失礼でしょうが! そうだ、以前言ってたカラオケ大会するわよ。私の実力魅せてやるわ」

あんじゅ「森のパンダさんしか十八番ないけどね」

にこ「決めポーズと得意な曲は一つでいいのよ」

あんじゅ「強がるにこは可愛い★」

にこ「強がりじゃないわよ!」

これはラブライブの仕様が変わってからも、予選が始まると必ず語り継がれる伝説の始まり。

夢を諦めて尚、人を笑顔にしたいと願う矢澤にこの奇跡。

将来、絆を結んだスクールアイドル達と同窓会を開く度に皆でその日のことを懐かしむことになる。

それはまだ少しだけ先のお話。 (完)


ネクストストーリー
◆にこにークエスト Ver.邪道シスターズ ~音ノ木坂より笑顔に~◆

――某中学校 ぱなよ

「も~! 小泉さんってば意地悪なんだから~」

「本当に。もっと早く本気出して、その美声を披露してくれてれば校内音楽会でもソロパート入れて金賞目指せたのに」

「凛ちゃんがかよちんの歌は誰よりも上手いって言い張ってた理由分かったわ」

花陽「そ、そんな。私なんて全然だよ」

「謙遜なしなし。でも、今まで全然声出してなかったのに、何か切っ掛けとかあったの?」

「出してなかったって言うか、自信がなくて声が出てなかったって感じだけど」

花陽「私、A-RISEのことりさんに憧れてて」

「あぁ~! ちょっと声の質が似てるかも。脳が蕩ける感じの歌声が」

「蕩けるって……失礼なようで、なんか嵌ってるけど」

「言い得て妙だわ」

花陽「自信は今は小さいけど。どんどん大きくして頑張ろうって」

「そういえば小泉さんってUTX行くんだよね?」

「もしかして将来のA-RISEのメンバーの座を狙ってるとか!?」

「うーん、でも小泉さんって一般でしょ? 現実的に芸能科じゃないと厳しいんじゃないかしら?」

「でもことりって芸能科じゃなくて新しく出来た被服科からのスカウトでUTX入りしたんでしょ? ありえるありえる」

花陽「そそそんな! それに、眼鏡を掛けたままのスクールアイドルってその絶対数が少ないし」

「だったら高校デビューって訳じゃないけど、入学してからでもいいけどコンタクトにしてみたらどうかしら?」

「そうすればお眼鏡に掛かってスカウトされちゃうかも。お眼鏡は外してるけど」

「寒っ!」

「極寒のロシアの冷たさってこれくらいなのかしら」

「うっるさいわね! ちょっと口から出ちゃっただけでしょ! 放送事故!」

花陽「くすっ」

「そう、この笑顔を見る為に敢えて泥を被ったのよ」

「はいはい。あんたは偉い偉い」

「人を言い訳に上手く使える最低の人材だわ」

「ここは三人が褒めた後に一気に落とすのが定石でしょ! いきなり二人目で落としてるんじゃない!」

凛「か~よちん! 凛のお掃除終わったニャー。お待たせ~」

花陽「あ、凛ちゃん。お疲れ様」

「凛ちゃんってば今まで小泉さんの歌声独り占めしてて幸せ者だったわね」

「幼馴染特権ってやつね」

「もし小泉さんがスクールアイドルになれば凛ちゃんもオトノキで鼻が高いわね」

凛「スクールアイドルなんて……」

「えっ?」

凛「ううん! なんでもないよ。それより、もう直ぐ卒業だしみんなで遊びに行かない?」

「いいね。思い出は沢山作って、高校生活で頑張る気力にしないとね」

「懐かしむのはいつでも出来るけど、思い出を作るのは今しか出来ないし」

「私も当然参加するわ」

花陽「あ、ごめんね。私ちょっとトレーニングが」

凛「トレーニング?」

花陽「今日から一ヶ月だけなんだけど、ボイストレーニングをすることになって」

「なになになに! 本気でスクールアイドル目指す系!?」

「漲ってきたーとか言っちゃう場面?」

「あなたたちがはしゃいでどうするのよ」

凛「なにそれ、凛訊いてないよ?」

花陽「ごめんね。言うの忘れてて」

花陽(本当は言おうと思ってたのに、なんだか言い出せなかっただけなんだけど。ごめんね、凛ちゃん)

凛(左手の薬指と親指をすり合わせてる。かよちんが隠し事する時にたまにみせる癖だ)

凛「……そっか、それなら仕方ないね」

花陽「このレッスンはお母さんが見つけてきて、私なんてまだまだ全然なのに」

凛「かよちんならレッスンの先生を超越しちゃうよ!」

「むしろばよえ~ん喰らった時みたいになっちゃうね」

「言い得て妙ね」

「ばよえん?」

「脳みそを溶かす恐ろしい魔法よ」

「怖っ! でも、小泉さんの歌声は正にそれ!」

「せめて誰にも分かるように人魚にしなさいよ!」

凛「そっか。これからだから、春休みの間もかよちんは忙しいんだ」

花陽「う、うん。春休みは沢山遊びたかったんだけど」

凛「アイドルはかよちんの小さい頃からの夢だもん。しょうがないよ」

花陽「うん、ありがとう」

凛「…………しょうが、ないよ」

◆春、出逢いの季節 ~音ノ木坂~◆

――三年目 春 部室

絵里「新入生は今日も来ず、かしらね」

海未「そうですね。やはりラブライブ開催の時期が悪かったようですね」

絵里「去年は秋だったのにね」

海未「一つ季節が違うだけで大きなチャンスを逃した気がしてなりません」

絵里「今年だけ違うって訳じゃないんだし、それを愚痴っても仕方ないわ」

海未「それはそうなのですが」

絵里「夏休み前半に予選終了。後半に本戦だから気持ちは分かるけど」

海未「秋だったら夏休みにたっぷり練習出来るので入ってみようという意欲も湧きますけど」

絵里「これは如何に新入生を短時間で鍛え上げられるかの勝負よね」

海未「もしくは、新入生なしで勝負に臨むのか」

あんじゅ「そのピンチをにこはリモコンツインテールで切り抜けたんだよ」

にこ「私は半妖怪かっての!」

穂乃果「下駄じゃなくて自分の一部をざっくりと飛ばしてる時点で半妖怪以上に妖怪だよねぇ」

あんじゅ「名付けて妖怪《和毛娘》だね!」

穂乃果「にこげ?」

あんじゅ「平和の和に髪の毛の毛と書いてにこげって読むんだよ♪」

にこ「漢字はともかく、にこげ娘って響きが既に最低なんだけど」

穂乃果「でもにこちゃん髪の毛飛ばすし、和毛も止むないんじゃない?」

あんじゅ「で、意味なんだけど柔らかな毛や産毛って意味だよ」

にこ「意味を知って更に最悪が加速したニコ!」

海未「……」

絵里「……」

海未「にこはこの状況にまるで焦りがないみたいですね。危機意識が欠落しているのではないでしょうか」

海未「普段からあんじゅに色々されている所為で、麻痺していると考えると納得がいきます」

絵里「流石にそれは邪推よ。そもそもね、私達三年生組はラブライブの開催時期が発表される前に想定していたの」

絵里「考えてもみなさい。東京にはUTXだけでなく、有名校が多くあるスクールアイドル激戦区なのよ?」

絵里「設備の揃ってない上に、言葉悪いけど一発屋的なグループに所属する為だけに音ノ木坂を受験する方が奇特よ」

海未「ですが! 努力と根性があれば環境や背景なんて関係ないというのを証明しているではないですか」

絵里「証明が現在の順位である二十五位だって言いたいの?」

海未「ただの一発屋だったらこんなにも着々と順位を上げられる筈ないじゃないですか」

絵里「でも、結局年明けてから二十五位のまま足踏み状態のまま。これを超えて残留し続けるグループにこそ惹かれるんじゃないかしら?」

海未「そう、ですね」

絵里「だから入部希望者なしでもしょうがないわ」

海未「そこです! 確かに他に魅力ある学校も多いでしょう。ですが、だからって新入生が来ないと諦めるのは軽率です!」

絵里「熱くならないの。海未はもう少しクールにならないと、いつか足元を掬われるわよ?」

海未「足元を掬われたからこそ、私と穂乃果がここに居るのではないですか」

絵里「以前は大吉でも、次は大凶が出るかもしれないじゃない。直せる弱点は直した方が賢明よ」

海未「……精進します」

絵里「その堅実さは文句なく海未の魅力よ」

にこ「嫌な知識を植えつけられたにこぉ」

穂乃果「でもにこげちゃん、似合ってるよ!」

にこ「和毛言うんじゃないわ! それに全然似合ってなんかないわ。寧ろ真逆よ、真逆!」

あんじゅ「真逆……? あっ、確かに」

にこ「どうして今目線をスカートに移したのよ!」

あんじゅ「確かに真逆だったね。和毛娘なんて居なかった」

にこ「ぐぬぬぬぬ!」

穂乃果「どういうこと?」

あんじゅ「にこのプライバシー保護の為、黙秘するにこ★」

にこ「もういいわ。そろそろ屋上に行って練習しましょう。喋ってても胃にダメージが蓄積されるだけだわ」

穂乃果「でもほらっ、今から新入生の子が尋ねてくるかもだし」

にこ「待つのは昨日で最後って言ったでしょ。海未と穂乃果がどうしてもっていうから特別に待ったんだからもう充分でしょ」

絵里「にこの言うとおりね。どうやって予選を突破するのか、練習しながら考えた方が効率的よ」

あんじゅ「これから何をするにしても、自分達の実力が未熟なら結果は実らないからね」

穂乃果「うぅ~……海未ちゃ~ん」

海未「ここは素直ににこ達の意見を受け入れましょう」

穂乃果「そんなぁ~」

海未「明日からは昼休みや練習前の時間を有効的に使って、新入生をスカウトしに行きましょう」

穂乃果「そっか、そうだね。自分から動けば良かったんだ!」

海未「もしかしたら隠れアイドル好きな子が居るかもしれません」

穂乃果「よ~しっ! そうと決まったら早く練習しよう。やる気出てきたー! 海未ちゃん、いくよ~!」

海未「ちょっと、穂乃果! 待ってください。まだ着替えが――」

にこ「やれやれ。穂乃果は元気ねぇ」

あんじゅ「それが穂乃果ちゃんの最大の魅力だから」

絵里「穂乃果の気持ちも分かるけどね。期待させたくないからああ言ったけど」

絵里「新入生の人数が増えてクラスも三クラスから四クラスになったから私も期待してたのよ?」

あんじゅ「廊下とかで応援してますとか言ってくれるから、それだけで私は充分だけどね♪」

にこ「それに、絵里の考え方は間違ってるのよ。行動せずに未来を期待するのは愚か者のやり方」

にこ「まずは駄目でも可能性を信じて動いてみる。それこそが今のSMILEになれた理由だし」

絵里「……そうだったわね。にこにお説教されるなんて、私も随分と焼きが回ったわね」

にこ「なんなら長女ポジションをにこにしてもいいのよ?」

あんじゅ「にこに説教されるなんて私ならショックでにこんじゃう」

にこ「何を煮込むのよ」

あんじゅ「勿論にこをだよ」

にこ「猟奇的回答!?」

あんじゅ「お風呂で産毛すら生えてないにこ娘を煮込みます」

にこ「にこげネタとそれに関する言葉を禁止するにこ!!」

絵里「ふふっ。あんじゅのにこへの愛情はもはや芸術的ね」

あんじゅ「やったよ、にこげお姉ちゃん♪ 絵里ちゃんに称賛されたよ」

にこ「って! 私の発言をスルーするんじゃないわよっ」

穂乃果「もう、三人共遅いよ~。三年生がやる気出さないでどうするの?」

絵里「ああ、ごめんなさい。でも、着替えずに屋上へ行っても意味ないでしょう」

海未「まったくその通りです!」

穂乃果「えへへっ。だからこうして着替えに戻って来たんじゃない」

あんじゅ「にこもやる気スイッチ入ったみたいだし、今日は本番のつもりで練習しよう☆」

にこ「私のやる気スイッチを怒りスイッチと間違ってるんじゃないの!?」

あんじゅ「にこの場合そのスイッチが一体化してるから大丈夫」

にこ「全然大丈夫じゃないわよ!」

あんじゅ「あ、そういえば紅蓮女の想い人は小太郎さんじゃなくて小五郎さんだったね」

にこ「そんなことどうでもいいわ!!」

――凛の部屋

凛「そうだったんだ」

花陽『うん、そうなの。だから私も頑張ってみようって思って』

凛「かよちんが本気になれば誰にも負けないよ」

花陽『そんなことないよ。私以上なんてこっちじゃ全員くらいだし』

凛「かよちんの駄目なところは自分を過小評価するところだってば」

花陽『ううん、今回のは過小評価じゃなくて本当のことだよ。特に見学させてもらった芸能科の人達は凄かった』

凛「潜在能力ならかよちんは宇宙ナンバー1アイドルになれるくらいにゃ!」

花陽『規模が大きすぎるよ』

凛「凛にとってはそれくらいだもん」

花陽『ありがとう。でもね、正直一人だったら今の時点で諦めてたと思う』

花陽『でも応援してくれる会長さんが居て、ことりさんが居て、新しく出来た友達も居る』

凛「……」

花陽『だから頑張れると思う。一所懸命頑張って、あのステージの上でライブをしたいの』

花陽『ううん、ライブをしたいんじゃない。ライブを絶対するの。そう約束したんだ』

凛「そう、なんだ」

花陽『凛ちゃんは部活とかしないの?』

凛「凛は特に入ろうとは思ってないよ」

凛(でもね、一人で早く帰って来ても余計に時間を持て余して退屈になる。寂しくなる)

凛(いつもは何もなくてもかよちんが一緒に居てくれたのに。それが今はない)

凛(凛にとってこんな時間が三年間も続くなんて、そんなの嫌だよ!)

花陽『同じ目標を志していれば直ぐにとっても仲良しになれるから、楽しいよ』

花陽『って、花陽と違って凛ちゃんなら常に友達に囲まれてるよね』

凛「そうだね」

花陽『音ノ木坂はどうかな? SMILEとか練習してるところとか見かけたりするの?』

凛「普通だよ。SMILEは見た覚えがないけど、屋上で練習してるとか聞いたよ」

凛(聞きたくもないのにクラスメートが喋ってたのが耳に入っちゃっただけだけど)

花陽『屋上!? そうなんだ。それでも二十五位なんて底力がある証拠だね』

凛(せっかくのかよちんとの電話なのに。スクールアイドルなんかの話したくない)

花陽『あ、ごめんね。キャッチが入っちゃった。もう遅いし、また今度電話するね』

凛「うん、お休み。かよちん」

花陽『凛ちゃん、お休みなさい』

凛「……遅いって、まだ十時なのに」

凛(以前は普通に十一時くらいまで電話することも多かったのに。それに、それに……)

凛(凛とはお休みなのに掛かってきた相手とは電話するんだ)

凛(以前のかよちんだったら「キャッチ入っちゃったから、終わったら掛け直すね」って言ってくれたのに)

凛「かよちんが遠い」

凛(全部スクールアイドルの所為。なんでそんなのが流行ってるんだろう)

凛(こんなつまらない現実大嫌い!)

凛「さびしいよ、かよちん」

――三日後(金曜日) 放課後 部室

絵里「先輩方が卒業した今となっては、もっと多くの交流を持っていれば良かったって思うわ」

にこ「体育系にはかなりお世話になったものね」

あんじゅ「逆にこの頃は文化部にも貢献してるよね。海未ちゃんのポエムに穂乃果ちゃんのデッサン教室」

絵里「にこの洋服の作り方講座にあんじゅのにこ観察記録」

にこ「最後のだけ大いに納得いかないわよ! アレは既ににこではなく、にこという名前の謎生物じゃない!」

あんじゅ「でもみんなに受けてるよ?」

にこ「受ければなんでもありとか思ってる時点でおかしいのよ!」

絵里「邪道シスターズの次女の言葉とは思えないわね」

あんじゅ「本当だよ。校内新聞の人気が上がって感謝されてるくらいなんだから」

にこ「……私ってSMILEのあり方を間違えたのかしら」

絵里「ふふっ。いいじゃない。学校全体と交流を持とうとするにこには好感が持てるもの」

あんじゅ「海未ちゃんの指導のお陰もあって、剣道部は夏の大会に向けて好感触だって」

絵里「弓道部も漸く形になってきたみたいだし。私達が卒業してから結果に繋がっていくかもしれないわね」

にこ「そっか……。見送る立場から、見送られる立場になるのね」

絵里「早いものね。にことあんじゅが生徒会室に来た時からグッと青春が加速したからより早く感じるのかもしれないわ」

あんじゅ「懐かしいね。あの頃のエリーちゃんは正に氷の女王って感じだったよね」

にこ「本当にね!」

あんじゅ「貴女達に関わってる暇はありません。無駄な口を利いてないでお帰りなさい。ハウス!」

絵里「言ってない言ってない! そんなことまでは言ってないわ!」

あんじゅ「言ってたにこ★」

にこ「そう言われると言われた気もするわね」

絵里「捏造じゃない。こうして冤罪って生まれるのね」

にこ「冗談よ。でも、会長が機転を利かせてくれなかったら間違いなく絵里を勧誘することは無理だったでしょうね」

あんじゅ「そうだね、ロシアに居るお婆様と亜里沙ちゃんを巻き込むのは流石に私達じゃ出来なかったもんね」

にこ「存在を知らなかったし」

絵里「そういう意味でも学校ってずるいシステムよね。恩だけ残して返せずに卒業して行っちゃうんだから」

にこ「情けは人の為ならず。だからこそ恩を後輩に売りつけて私達も卒業していけばいいのよ」

あんじゅ「でも、にこは留年かもって担任の先生が」

にこ「んな訳ないでしょ!」

絵里「あんじゅの気持ち分かるわ。貫禄ついてきたにこをどうしてもボケさせたいから弄るって気持ち」

にこ「そんな気持ち分かってるんじゃないわよ。あんた、生徒会長で長女でしょうが」

あんじゅ「隙あればボケて空回る。それこそがにこと私達が共通していた概念だった筈。忘れたにこ?」

にこ「そんな概念最初からないわよ!」

絵里「余すことなくボケ倒す。正ににこという妹はそんなキャラだった筈よ」

にこ「あんた達の脳内のにこはどんな可哀想な物体なのよ!」

あんじゅ「日向ぼっこしてたら夜になってて、でも温かいからこのまま眠るにこ~♪」

絵里「お腹空いたから目が覚めちゃった。でも、太陽がぽかぽかだから光合成で充分にこ♪」

にこ「光合成!? もはや植物関係になってる!」

あんじゅ「よし、次のにこ観察日記はそれにしよう☆」

にこ「せめて生物でありなさいよっ」

絵里「にこ。植物だって生きているのよ。友達なんだから」

にこ「あんた自分が花の写真とか好きだからって、にこを植物にするんじゃないわ」

絵里「私はにこの頭に花が咲いてても違和感を覚えない自信があるわ」

あんじゅ「あっ、私も」

にこ「どういう扱いよ!?」

海未「すいません、遅れました」

穂乃果「みんなっ、見つけたよ!」

あんじゅ「もしかしてにこ切草?」

穂乃果「そんなどうでもいいもんじゃないよっ」

絵里「にこ、残念だったわね」

にこ「なんで生易しい目を向けられてるのよ。残念に思う部分がまるでないわ」

あんじゅ「それで見つけたって?」

穂乃果「見つけたよ! アイドルが似合いそうな子!」

海未「私から見ると若干暗めな子なので、アイドルが似合いそうかと訊かれたら首を傾げてしまう感じですが」

穂乃果「もう! 海未ちゃんってば酷いよ。穂乃果だってSMILEに加入する前は暗かったんだから」

にこ「話を統合すると、他に候補が居なかったから一人無理やり見つけたってところかしら?」

あんじゅ「にこが解析とかしたら沖縄に雪が降っちゃうよ。沖縄楽しかったね」

絵里「私は自由行動の時しか一緒になれなかったけど」

にこ「今年は絵里も一緒のクラスなんだから文句言うんじゃないわよ」

絵里「でも修学旅行はもうないのよ?」

あんじゅ「ラブライブが終わったら、みんなで一生懸命バイトして卒業旅行とか」

にこ「メイド喫茶辺りならバイトとはいえお給料多いだろうし」

穂乃果「三人共! そんな遥か遠い未来の計画なんて今にはなんの価値もないよ!」

海未「そうです。それに……卒業なんて話題を春の今から口にして欲しくありません」

絵里「ごめんごめん」

にこ「悪かったわ」

あんじゅ「それで、暗い子を見つけたって言ってたっけ?」

穂乃果「暗い子だけど、絶対に笑えば可愛いと思うんだ」

海未「穂乃果の想像に過ぎませんが」

穂乃果「海未ちゃんはどっちの味方なの!?」

海未「今回は状況的に限りなく即戦力になる人材を求められています。なので敵ですね」

穂乃果「そんなぁ~」

海未「穂乃果の気持ちも分かります。ですが、全員を見てきた中で何人かはもはや部活に入っていました」

海未「ですからもうスカウトは今日で終わりにしましょう。諦めも肝心ですよ」

穂乃果「嫌だよ! そもそもSMILEって諦めないからこそ結成したんでしょ?」

穂乃果「ツバサさんとの約束を守ることを諦めなかったから、スクールアイドルのない音ノ木坂でスクールアイドルが生まれた」

穂乃果「結果的に二人になっちゃったみたいだけど、それでもスクールアイドルを辞めなかった」

穂乃果「生徒会長の絵里ちゃんに断られても、それでも諦めずに行動をして仲間にした!」

穂乃果「スカウトできる人材が居ないと分かると、中学生だった海未ちゃんに目をつけて強引にスカウト」

穂乃果「暗かった穂乃果を見捨てずに、あんな大掛かりな手段で勧誘してくれた」

穂乃果「どれも全部諦めてたら叶わなかった奇跡だよ! 最初から諦めるなんてそんなのSMILE流じゃないよ!」

海未「……穂乃果」

にこ「あぁ゙~なんか色々と耳に痛いわねぇ」

絵里「何だかんだ三年生って立場もあって臆病になってたのかもね」

あんじゅ「なんというか主役って感じの迫力を感じたね。にこにー部長大ピンチ★」

にこ「ピンチじゃないわよ。逆に嬉しいくらい。こういうとこはもう立派な王子様じゃない」

海未「そうですね、昔からこういう大事な部分では穂乃果は本当に強く、正しい道を指してくれます」

海未「それでこそ私とことりの王子足る魅力です」

穂乃果「えへへ!」

にこ「んじゃま、その穂乃果が目を付けた子をまずは見に行くとしましょうか」

絵里「そうね。まずは自分の目で見て確認しないとね」

あんじゅ「うん! 海未ちゃんに出会った時みたいに感じるものがあるかもしれないし」

海未「そこで私の名前を出されると照れます」

にこ「照れてる暇なんかないわよ。さぁ、穂乃果! その子の元へ案内するにこ!」

穂乃果「あ、ごめん。さっき見かけた時にはもう靴に履き替えてたからもう校内に居ないよ」

絵里「穂乃果。そういう大切なことは先に述べるべきよ」

あんじゅ「この行き場のない気持ちはにこを弄って解消しよう!」

にこ「何を抜かしてるのよ、この愚妹!」

あんじゅ「愚妹と愚昧って似てるよね」

海未「まぁ、確かに女と日の違いですからね」

にこ「訳わかんないこと言ってないで、そうだ丁度いいわ! 持ち越してたカラオケ大会を今日こそするわ」

海未「いいですね。絵里への借りは返しましたが、結局にこへの借りはまだ返してませんからね」

穂乃果「カラオケ大会もいいけど、月曜日にはきちんと見に行こうね」

絵里「放課後だとこっちの授業が終わる前に向こうが帰ってしまうかもしれないし、見に行くなら昼休みの方がいいかもね」

あんじゅ「じゃあ、月曜日は部室で皆でご飯食べてからってことで。で、ただ普通のカラオケ大会だとつまらないよね?」

にこ「嫌な予感がするから却下!」

海未「奇遇ですね、私も嫌な予感しかしません」

あんじゅ「十八番曲一個で得点高ければ勝利なんて、スクールアイドルのセンターはソレだけで決められるものじゃない」

にこ「聞いてもないのに勝手に解説始めたわよ。あんたの妹でしょ、どうにかしなさいよ」

絵里「私が策士状態のあんじゅを止められる訳ないでしょ。海未、貴女の姉でしょ。頑張って」

海未「そんな、邪道モードのあんじゅに打ち勝てる筈ありません。穂乃果、私の王子様ではないですか。お願いします」

穂乃果「えぇっ!? なにそれ、穂乃果だってダークオーラ出してるあんじゅちゃんを止められる訳ないよ」

あんじゅ「それでね、ポイント表を作って合計が高かった人が新曲のセンター!」

◆続・生徒会長VS副会長◆

――UTX学院 生徒会室

副会長「何よこれ! 東條さんの差し金!?」

希「そんな訳ないじゃない。全校生徒の意思だし」

副会長「こうなることを前提に合同学園祭を提案してたの?」

希「このアンケートを取ったのはついこないだってこと忘れたとは言わせないよ」

副会長「私、生徒会を辞めるわ!」

希「また引き止めて欲しいの構ってちゃん発動かいな? ツンツンなのに甘えん坊やんな」

副会長「そんな訳ないに決まってるでしょ!」

希「生徒会に誰よりも拘りがあって、ウチという親友を捨てる覚悟が副会長にあったとは思えないけど」

副会長「誰と誰がいつ親友になったのよ?」

希「親友って日々の何気ない積み重ねで気付いたらそうなってるもんなんだって、ウチは初めて知った」

副会長「私はまだ知らないままよ」

希「じゃあ、あの時ウチが引きとめてなければ本当に辞めてたん?」

副会長「ええ、そうよ」

希「じゃあ副会長の言葉を全部鵜呑みにするとこうなる訳だね」

希「親友ですらないただの同級生の言葉に、あの自我が強いことに定評のある副会長が自分の行動を曲げて従ったと?」

希「UTX学院の副会長ともあろうお人が?」

副会長「くっ」

希「何かあって無責任に辞められるくらいなら、最初から生徒会に戻ってはくれなかったのとは違う?」

副会長「ふんっ。好きに解釈すればいいじゃない」

希「くすくすっ。副会長は本当に素直じゃないんだから」

副会長「……話を戻すわ。何よこの合同学園祭でして欲しい催し物の第二位!」

希「第一位がA-RISEのライブだから事実上繰上げ一位だね」

『オトノキの生徒会長みたいに生徒会長と副会長にライブをして欲しい』

副会長「うちの子達はふざけてるの? 脱ゆとりに反旗を翻すゆとりなの!?」

希「心にゆとりがあるのは豊かな証拠だよ。ゆとりがなくてせかせかしてる人間よりマシだし」

副会長「全然マシなんかじゃないわよ! 只でさえ合同の所為でどこまで配慮すべきかで忙しさが何倍も上がってるのに」

副会長「これ以上忙しさを跳ね上げられたらパンクするわ」

希「いやいや。望まれてライブはパンクじゃないよ」

副会長「煩いわね、そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ。生徒会が暇してるとでも思ってるのかしら、ふざけんじゃないわ!」

希「副会長がキレたなー。ツンツンが倍々!」

副会長「茶化す暇があるならどうにかしなさいよ。会長でしょ!」

希「生徒の意見を実現に向けて行動するのが生徒会だし」

副会長「無理難題でどうでもいいような案件を押し付けられて実行することが生徒会なら、私は辞めるわ!」

希「これくらい実行出来ずに辞めたら、学園祭の度に逃げ出した臆病な副会長の話として名を残すね」

副会長「この私が悪名を残すですって!? ありえないわ!」

希「だったらこれからはライブの練習もしないとね」

副会長「理不尽過ぎるわ」

希「副会長はカラオケ上手だし、心配することないやん?」

副会長「そういう問題じゃないでしょ。それに、カラオケはあくまで身内でするから歌えるの」

副会長「大勢の前で歌うことに喜びを覚える性格なら、初めからスクールアイドルを目指して芸能科に入ってるわよ」

希「ウチは……副会長と合同学園祭でライブをする。その為にここに入学したんだと思う」

副会長「そんな安い言葉で私が動くとでも思ってるの?」

希「ううん、そういうんじゃないよ。カードの知らせでも、スピリチュアルでもなく、今強い運命を感じてる」

希「その日の為に柄にもない生徒会へのスカウトを受け入れて、こうして頑張ってきたんだと思う」

希「生徒会長としての最後を飾るのがライブでいいじゃない。ここはUTX学院だもの」

副会長「片付けまでが生徒会の役目よ」

希「人前でするって最後をって意味」

副会長「学園祭終了の挨拶があるでしょ」

希「細かいことは言いっこなし。目を閉じて耳を澄ませてみて」

希「……ほら、少しだけ遠い未来。学園祭の喧騒、青春の歌声が聴こえてくる。ウチと副会長のデュエット曲が」

副会長「……はぁ~。結局最後までこうして東條さんに振り回される役目なのね」

副会長「これが運命だとしたら、私はその運命を押し退けるわ」

希「無理や。親友と繋がってる運命は一人じゃ決して退かせないって知らなかった?」

副会長「何よ、勝手なことばかり言って」

希「これから秋まで本格的に忙しくなるし、信頼関係をより強めて乗り越えていこう」

副会長「はぁ~」

希「溜め息ばかり吐いてないで、ほらウチのこと名前で呼んで。そしたらウチも副会長のこと呼ぶから」

副会長「何よ、勝手なことばかり言って」

希「さっきの発言の繰り返しで誤魔化そうなんて甘い」

副会長「……」

希「……」

副会長「……」

希「……」

副会長「…………希」

希「はいな、副会長♪」

副会長「なっ! どうして貴女は私を名前で呼ばないのよ!」

希「ウチは副会長を呼ぶとしか言ってないし」

副会長「謀ったわね!」

希「謀ったなんて単語、言われたの生まれて初めてや」

副会長「やっぱりこのアンケートも希が裏で何かしていたんじゃないの?」

希「そんなことないってば。それより今日は早く終わらせてデュエット曲の練習の為にカラオケ寄って行こう」

副会長「練習に託けただけの、ただのカラオケになるだけでしょ」

希「憎まれ口の前に返事は?」

副会長「ま、付き合ってやるわ。運命を退かすのは私一人じゃ無理みたいだからね」

希「運命共同体ってやつやんね♪」 (完)

――月曜日 昼休み 部室

穂乃果「スカウトしたてみたらスクールアイドルなんて嫌いって断られちゃった」

海未「穂乃果! トイレに行くから先に行っててと嘘吐いて、何をフライングしてしかも失敗してるのですか!」

にこ「ま、穂乃果らしいっちゃらしいけど」

絵里「でもスクールアイドルが嫌いって言うのは厳しいわね」

あんじゅ「恥ずかしいから嫌っていう海未ちゃんとは違うもんね」

穂乃果「だってだって、まずは勧誘するところからがスタートラインだし」

海未「その前にまずは皆で見てからって決めていたでしょう。なんで決められたことも守れないのですか!」

穂乃果「海未ちゃんってば鬼みたいだよぉ」

海未「誰が鬼です! 穂乃果が悪いのでしょうが!」

絵里「新学年に上がって浮かれてるってこともあるでしょうし、許してあげましょう」

海未「甘やかすと碌な大人になりません!」

にこ「あんじゅ。あんたは耳に痛いんじゃないの?」

あんじゅ「え、何が?」

にこ「甘えん坊の自覚がないの?」

あんじゅ「私がにこに甘えるのは自然の原理だよ★」

にこ「なんて厚かましい愚妹なのかしら」

あんじゅ「うふふ」

絵里「取り敢えず、本格的に勧誘するかどうか決める為にも本人を見てみましょう」

海未「穂乃果。今日の練習が終わったら……分かってますね?」

穂乃果「ナ、ナンノコトデスカァ? ヨキニハカラエミナノシュー」

海未「何の真似か知りませんが、舐めた真似をするということはそれ相応の覚悟を決めている証拠ですね」

穂乃果「ひぃっ! 全然違うよっ!」

海未「知っていますか? 最近の王子はお姫様にお尻を叩かれるらしいですよ」

穂乃果「どこの界隈の話!?」

絵里「さて、それじゃあ見に行きましょう」

にこ「そうね」

あんじゅ「余り目立たないようにこっそりとね」

――十分後...

にこ「想像以上に暗かったわね。穂乃果以上だったわ」

あんじゅ「そうだね。元気がないっていうか、気力が尽きてる感じかな?」

絵里「個人的な意見になるけど、スクールアイドルには向いてないかもしれないわね」

にこ「こういうのは運命ってことなのかもね」

あんじゅ「そうだね」

穂乃果「そんなことないよ! 運命だっていうのなら、あの子が音ノ木坂に入学したことが運命だよ」

海未「こういう時の穂乃果の直感は頼りになります。昔から最終的には後悔したことがないです」

にこ「でもねぇ……情報がないことには打つ手がないわよ」

にこ「海未の時でも最低限の情報があったからあんじゅが策を練れたし、穂乃果の時は嫌ってくらい情報が溢れてたし」

にこ「今の時点で何かやってみても単に余計に嫌われるだけだと思うわ。あんじゅはどう思う?」

あんじゅ「私もにこと同意権。策を打つには何よりも情報が必要になるから」

穂乃果「にこちゃんとあんじゅちゃんならなんとか出来るよ~」

にこ「頼られるのは悪い気はしないけど、無理なものは無理よ」

海未「穂乃果。だから貴女はまだまだ未熟なのですよ」

穂乃果「海未ちゃん?」

海未「にことあんじゅの言葉は裏を返せば情報があればなんとでも出来るということです」

穂乃果「そっか! そうだよね、情報を集めればそれだけで可能性は無限に広がるんだね♪」

にこ「……揚げ足取るなんて海未らしくないじゃない」

海未「邪道な姉に影響されたんです」

絵里「そうだ、漸く思い出せた。あの子を見てからずっとどこかで見覚えがあったのよ」

絵里「ニコ屋に来てくれた子達よ。確かあの子と一緒に来た子がアイドル好きだった筈」

にこ「ああ、そういえば幼馴染だった子でA-RISEのことりのファンだった眼鏡の子ね」

あんじゅ「普段の記憶力は低いのに、アイドル好きという繋がりがあると面白いくらい記憶力が強くなるんだね」

にこ「当然でしょ。ただ、あの子を音ノ木坂で見た覚えはないわね」

絵里「いくら幼馴染でも高校も一緒とは限らないっていうのは海未と穂乃果とことりさんが証明してるわ」

海未「そうですね」

穂乃果「もしかしたらそのことで暗くなってるのかもしれないよ?」

絵里「ありえるかもしれないわ。アイドル好きな幼馴染が居るのにも関わらず、スクールアイドルが嫌い」

絵里「ニコ屋に来た時はそんな素振りは見せてなかったわよね」

にこ「幼馴染の前だから嫌を隠してたってこともあるけどね」

絵里「そんな可能性を言ってたら何も始まらないわ」

にこ「始まるも何も、憶測で勝手に答えを固めようとするのは危険よ」

あんじゅ「穂乃果ちゃんの熱でなんだか焦ってる気持ちは分かるけど、確実な情報以外に踊らされちゃ駄目だよ」

絵里「……そうね。焦ってたみたい」

海未「穂乃果のことを未熟と言いながら、私も未熟者ですね」

にこ「探究心を満たすことで真実に近づいたって勘違いしちゃうのは仕方ないわ」

あんじゅ「とにかく今は情報だね。これは若い穂乃果ちゃんと海未ちゃんに任せよう♪」

にこ「そうね。海未の時と違って、私達は二年間一緒に過ごすことは出来ないから」

にこ「勧誘するってことは責任を取らないといけないわ。私たちが卒業してスクールアイドルを続けるのかどうか」

にこ「続ける気がないのなら、スカウトしようとするのを止めなさい」

あんじゅ「逆に言えば私たちが卒業してもスクールアイドルを続ける意思があるなら情報を集めて」

あんじゅ「そうしたら私たち邪道シスターズがなんとかしてあげるから。ね、エリーお姉ちゃん」

絵里「なんか三年生になってから二人して急に成長した感じがするわね」

にこ「長女の座を奪われたくなければ、絵里も成長することね」

絵里「直ぐに成長してあげるわよ」

にこ「ということで、海未と穂乃果は二人でよく話し合ってみなさい。どんな結果になっても私達は構わないから」

海未「穂乃果」

穂乃果「うん」

海未「話し合うまでもありません。私も穂乃果も三年生になってもスクールアイドルを続けます」

穂乃果「こんなに楽しいこと覚えたら止めるなんて選択肢はないよ」

海未「そういうことですので、明日から情報を集めようと思います」

穂乃果「だから期待してるからね、邪道シスターズの活躍!」

あんじゅ「邪道シスターズにお任せだよ☆」

――同日 夜 お風呂 にこあん

あんじゅ「和毛の生えてないにこも~いつか宇宙へ旅立つ~小さな背丈気にして泣く♪」

にこ「にこげネタは禁止だって言ったニコ! それに背丈気にして泣いたりしないわよ! 変な歌を口ずさむんじゃないわ」

あんじゅ「はぁい♪」

にこ「まったくもう」

あんじゅ「ね、にことしてはあの子をSMILEに入れることを本当はどう思ってるの?」

にこ「新メンバー加入は確かに一つの話題性を生むけど、ね」

あんじゅ「乗り気じゃない?」

にこ「最後まで面倒見れるなら躊躇しないけど、今回はそれが出来ないからねぇ」

あんじゅ「三年生になった途端、遠かった筈の卒業が近くなっちゃったからね」

にこ「でもま、アイドル好きとしてはスクールアイドルを嫌いってままにしておくのは癪に障るわね」

あんじゅ「にこは素直じゃないなー。なんだかんだ言っても、ああいう子を放っておけないんでしょ?」

にこ「あんたは何か勘違いしてるんじゃないの? 私はそんな博愛主義じゃないわ」

あんじゅ「じゃあ、救わないの?」

にこ「……邪道シスターズがなんとかするって言った手前、何もしない訳にはいかないじゃない」

にこ「勝手に積もらせてなさい」

あんじゅ「不満ゲージがマックスまで溜まると夜明け前の一番暗くなった時、毎晩必ず金縛りにあうからね」

にこ「怖っ!」

あんじゅ「それが嫌ならもっともっと愛情を注ぐべきだよ★」

にこ「いつから悪霊みたいな能力者になったのよ」

あんじゅ「これから成るんだよ」

にこ「それも怖いわよ。しょうがないわねー。ほら、頭洗ってあげるからお風呂から出なさい」

あんじゅ「うん! やっぱり私はにこに頭を洗ってもらうのが一番幸せ~♪」

にこ「なんて現金な妹かしら」

あんじゅ「うふふ。とにかく、今年も色々ありそうだけど頑張ろうね」

にこ「ええ、将来のことも本気で考えないとだしね。あんじゅはきちんと考えてる?」

あんじゅ「勿論。にこの行く未来にあんじゅあり」

にこ「あっそ。……ま、もう何も言わないわ」

あんじゅ「うん♪」


ネクストストーリー 春・音ノ木坂編後半
◆にこにークエスト Ver.邪道シスターズ ~音ノ木坂より笑顔にさせて~◆

>>909 の前にこれが入ります。

あんじゅ「ほら、素直じゃない。でも、穂乃果ちゃんより暗かったしなんとかなるのかなー」

にこ「あんたより充分マシよ。だったらなんとかなるんじゃないの?」

あんじゅ「にこってばお気楽~」

にこ「人を笑顔にさせるのは気楽なくらいが丁度いいのよ」

あんじゅ「それもそっか」

にこ「どう動くかは海未と穂乃果の情報量次第」

あんじゅ「あんまり期待は出来ないよね」

にこ「そうね。だから、最悪は私……もしくは、SMILEを恨んでもらう。そんな結果になるでしょうね」

あんじゅ「素直じゃない上に不器用」

にこ「冴えたやり方を思いつける頭がないのよ。しょうがないでしょ」

あんじゅ「でも私はそんな不器用なにこが大好きだよ」

にこ「はいはい。私もあんたのことが大好きよ」

あんじゅ「おーざーなーりー」

にこ「あんたの場合は直ぐに調子乗るからこれくらいで充分にこよ」

あんじゅ「愛情の裏返しの反応ばかりじゃ、妹は不満が積もるにこよ!」

900越えたので本編とは関係ないのを記念投下!

◆夢を諦めたスクールアイドル ~Ver.アナザー~◆

にこが入学した春。音ノ木坂学院にて運命は始まる。

にこ「私と一緒にスクールアイドルをやりませんか? アイドル研究同好会です!」

ツバサ「まさか私と同じ志を持つ人が居るなんて想像していなかったわ」

にこ「同じ志?」

ツバサ「私は綺羅ツバサ。同好会に入るわ。貴女のお名前は?」

にこ「矢澤にこよ、よろしく」

二人から始めるスクールアイドル活動。

ただし、勧誘に成功した唯一の相手は思っていたのとは違っていた。

そう、志が!

にこ「ツバサ。あんたなら絶対にUTXでもスクールアイドルになれた逸材よ」

ツバサ「どうして私があんなつまらない所でスクールアイドルをしなくちゃいけないのよ」

にこ「つまらない所って……あんたね」

ツバサ「だってあそこでラブライブを優勝したって面白くないじゃない。だからこそ、音ノ木坂学院を選んだ」

ツバサ「スクールアイドルが流行って尚、一度として結成されたことのない都内で唯一の学校」

ツバサ「って、にこも同じ考えでここに入学したんだからわざわ言わせないで」

にこ「にこは全然違うわよ!」

ツバサ「照れっこなしよ。設備も悪い、生徒数も少ない。圧倒的なまでのこの逆境」

ツバサ「ここから王女を喰らう大番狂わせを起こせたら、正に私達の実力が立証されるわ」

ツバサ「そのままの勢いでプロになって、今度はオリコンでの一位を目指す」

ツバサ「にこ、私達の夢を絶対に叶えましょう!」

小学五年生の時、優木あんじゅに出逢ってアイドルになる夢を諦めた。

そんな過去を語る暇も与えて貰えず、勘違いを加速させる相方に付き合わされる。

ツバサ「二人だと色々と限界があるわ。というか、私とにこだとロリータ路線のファンくらいしか獲得が難しい」

にこ「嫌な現実ね」

ツバサ「引き抜きをするしかないわね」

にこ「引き抜き?」

ツバサ「東條希と絢瀬絵里を引き抜くの」

にこ「絢瀬ってあの新入生代表挨拶で『私が生徒会長になって音ノ木坂学院を変える』宣言した変人金髪よね?」

ツバサ「ええ、そうよ。ああいう男性ファンだけでなく、女性ファンを取り込める人材はグループに必要ね」

にこ「それは分かるけど、もう一人のなんたらかんたらってのは?」

ツバサ「ついこないだ敵情視察にUTXに行った時に見掛けてね、思わず声を掛けた子よ」

にこ「相変わらず無駄に行動派ね。で、肝心な部分を念の為に訊くけど……その子はUTXの生徒とか言わないわよね?」

ツバサ「UTXの生徒よ。勧誘に成功したら彼女にはオトノキに編入してもらうわ」

にこ「あんたばっかじゃないの!? 誰が好き好んで天と地の差程もある学院に好き好んで編入するのよ!」

にこ「大体ね、あの金髪を生徒会から引き抜くって件も無謀もいいところだし」

ツバサ「無謀だからこそ、突破した時に大きな喜びと経験値を得られるんじゃない」

ツバサ「にこは面倒な性格よね。心は私と同じ乗り気なくせに、わざと私に考えを言わせて自分はやる気ないアピールするんだもの」

にこ「私はそんな無謀なことを一切やる気なんてないわよ!」

ツバサ「はいはい。さ、まずは……時間が掛かる東條さんからスカウトしてみましょう」

ツバサ「何かいいスカウトの方法とか条件とか考えないとね」

無謀なこともお構いなしに突き進むツバサに連れられ、にこは次第に不可能を可能にする喜びを覚えていく……。

ツバサ「ラブライブに出れるまでに思ってたより時間が掛かっちゃったわね」

にこ「二年半。濃厚な夢物語みたいな日々だったわね」

ツバサ「何を寝ぼけたこと言ってるの? ラブライブは私達の夢の通過点にしか過ぎない」

ツバサ「これを乗り越えられなきゃプロになってから通用なんてしないわよ」

にこ「分かってるわよ。絶対に私たちの夢を叶えるにこよ!」

ツバサ「ええ!」

夢を諦めた筈の少女は、大きな翼に乗せられて、置き去りにした夢の元へ今舞い戻る。

そして、今度は夢を現実にするべく輝きの中へ飛び込んでいく。

あんじゅ「にこ、久しぶりね」

にこ「会いたかったわ、あんじゅ」

あんじゅ「まさかオトノキから上がってくるなんてね。完全に想定外」

にこ「常識に捕らわれない自由な発想こそが、アイドルの本分だもの」

あんじゅ「うふふ。だけど私達に勝てるかしら?」

にこ「当然勝つに決まってるでしょ。私達はアイドルになる夢を叶える為に、このステージに上がるんだから」

そして、ラブライブ決勝が始まる……。


これはこれでありだったかも。この場合穂乃果はUTX行き間違いなし!

◆にこにークエスト Ver.邪道シスターズ ~音ノ木坂より笑顔にさせて~◆

――プロローグ

「貴女が星空さんだよね」

凛「そうですけど」

「私は三年で陸上部で部長やってるんだけどね、貴女の噂聞いたたよ。すごく運動神経良くて足が速いってね」

凛「だとしたら何ですか?」

部長「その質問はないでしょ。陸上部の部長が噂を聞きつけて訪ねてきたのなら答えはほぼ一つ!」

凛「……」

部長「ノリが悪い子ね。仕方ないから用件も言ってあげよう。貴女、陸上部に入らない?」

凛「どうして凛が……」

部長「噂されるくらい速いからじゃないの。実際にどれだけ運動神経がいいかによっては短距離だけじゃ勿体無い」

部長「是非とも音ノ木坂から陸上界の記録に名を残しましょう!」

凛「凛は……陸上部」

部長「今直ぐ無理に返事を聞かせてなんて言わないからさ」

部長「明日の放課後にまた来るから。その時に返事を聞かせてよ。走るのは嫌いじゃないんでしょ?」

凛「走るのは好きだけど」

部長「何かを吹っ切るのにスポーツは最適だよ。練習の最中は頭が真っ白になるし、記録を更新する喜びは負の感情を忘れさせる」

部長「無駄に一人で過ごすとゴチャゴチャした思考を生むからね。健全な精神を養うにはスポーツが一番!」

凛「……うん」

部長「じゃあ、時間取らせてもらって悪かったね。また明日!」

凛「……」

――夜 凛の部屋

凛「陸上部」

凛(中学生の時はかよちんと一緒の美術部に入ってたけど、本当は陸上部に入りたい思ってた)

凛(音ノ木坂に入学したら、今度はかよちんを引っ張って陸上部に入部するつもりだった)

凛(あの日、かよちんに告げられるその日まで)

凛(凛はどうすべきなんだろう? かよちんに相談したいけど、でも……)

凛「友達」

凛(UTXで出来た新しい友達という単語が頭から離れない)

凛(まるでかよちんが遠くの世界に連れて行かれちゃったみたい)

凛(ボタン一つで通じる筈なのに、今はそれが酷く恐ろしい)

凛(どうしてこうなっちゃったんだろう)

凛(かよちんとの距離はずっと変わらないと思ってたのに)

凛「……」

凛(あの部長さんの言ってた通り、運動してればこんなにモヤモヤとしないかな)

凛(中学と違って高校の部活は好きな時に辞められるし、やってみようかな?)

凛(でも、そんなつもりで始めるのもなんか嫌だな)

凛(逃げる為に好きな運動をするのはやっぱり嫌かも)

凛「もぅ~! どうすればいいのっ!」

凛(凛一人じゃ何が正解なのか全然分からないよ。助けて、助けてよ……かよちん)

――翌日 放課後

部長「待たせちゃったかな?」

凛「いえ」

部長「それはよかったわ。で、まず最初に紹介しておくわ。この子は次期部長のシカコことシカちゃん」

シカコ「どうも。シカちゃんとかシカコ先輩とか言ったらぶん殴ります」

部長「勧誘したけど、私はこの夏で引退の身だからね。実際に面倒見るのはこの子になるから」

凛「まだ凛は入部するとは言ってません」

部長「あ、そうだった。ごめんごめん。でも、実際に練習観に来て、ちょっと参加してくれればやる気出る筈だし」

シカコ「こういう強引な手は私は好まないんですけど」

部長「こんな風に年上相手でも言いたいことズケズケ言う子だから少し怖く感じる時もあるかもだけど、大丈夫だから」

部長「根っこの部分は……きっと大丈夫だから!」

シカコ「本人を前に大分失礼なことを言ってます。謝罪を求めます」

部長「ガムみたいなもので、噛めば噛むほど味が出てくるから」

シカコ「それを言うならスルメです。ガムだと噛めば噛むほど味がなくなっていきます。それより謝罪を求めます」

部長「そうそうスルメスルメ。女子高生とスルメって関連ないから出てこなかったわ」

凛(この次期部長さんは怖そうで嫌かも)

シカコ「謝罪はもういいです。それより、しなやかな筋肉ですね。伸びが良さそうです」

シカコ「正直な話、時間の無駄だと思ってましたが、これは思わぬ拾い物かもしれません」

シカコ「青空さんでしたっけ?」

凛「星空です」

シカコ「失礼しました。星空さん、鍛えれば私の跡を継ぐ逸材になれます」

シカコ「前日にスカウトしたとかで部長が不快な思いをさせたかもしれませんが、それは一切忘れてください」

シカコ「この人はいつ消えてもいい存在なので、今日初めて陸上部にスカウトされたと思ってください」

凛「……はぁ」

部長「シカちゃんはいつも失礼ね」

シカコ「まずは練習を見学して、実際に参加してみてから入部するかどうかを考えてみてくれればいいわ」

凛「えっと、」

にこ「その勧誘ちょっと待ったぁ!」

部長「にこちゃんにあんじゅちゃんじゃん。やっほー」

あんじゅ「うふふ。ごきげんよう」

にこ「和やかに淑女的な挨拶交わしてる場合じゃないでしょ。その勧誘はなしよ!」

シカコ「何ですか?」

にこ「その子はアイドル研究部がSMILEの新規メンバーとしてスカウトさせてもらうわ!」

シカコ「後から出しゃばって来て勝手なことを言わないで下さい。いくら先輩でもやっていいことと悪いことがあります」

あんじゅ「にこを見て先輩と分かるなんて、目利きだね」

にこ「なんで誰でも分かるところを褒めてんのよ!」

シカコ「見た目では正直後輩にしか思えませんが、この学校でSMILEのメンバーを知らない人は恐らく居ないでしょう」

部長「そりゃそうよね。SMILEの活動は広いし、シカちゃんがオトノキに入学した理由だって音ノ木坂体験が理由だったし」

部長「つまりはシカちゃんがここに居るのはSMILEのお陰ってことね」

シカコ「その点については感謝します。ですが、それはそれこれはこれです」

にこ「海未を合法的に学校に入れる為の即興が回り回って面白いことになってるわね」

あんじゅ「あれがあったからこそ、こうして運動部からの信頼は絶大な物になったからね」

シカコ「その信頼に泥を塗るようなことをするのは若輩者ながら止めていただきたいです。軽蔑の対象になります」

にこ「有能な子をスカウトしない方が失礼に当たるわ。その方が軽蔑の対象よ!」

シカコ「それも一理ありますね」

あんじゅ「納得しちゃうんだ!」

部長「独自路線を突き進むタイプだから。そういうところに慣れると面白くて思わず可愛がっちゃうんだよね」

シカコ「一理ありますが、勧誘出来る星空さんは一人。となれば先着順が妥当でしょう。つまりは陸上部に権利があります」

にこ「運命は先着順を超越するのよ。寧ろ、その辺を飛び越えてこそ運命にこ♪」

シカコ「運命は自己記録を更新する瞬間に訪れる。それ以外にはありえない」

にこ「面白い考えね。スポ根は嫌いじゃないわ」

あんじゅ「にこじゃやっぱり役者が足りてないね。交渉は私がするよ」

シカコ「私、にこ先輩は好きですが、貴女と生徒会長は嫌いです」

あんじゅ「にこを好きなんてやっぱり目利きがある!」

にこ「自分のこと嫌いって言われてるんだから、まずはそこにショックを受けなさいよ」

あんじゅ「え、だって理由がなんとなく分かったし」

シカコ「何故そこで私の胸元を見つめるのですか? いくら先輩とはいえぶん殴りますよ」

あんじゅ「とまぁ、背はあるのににこクラス。なら私やエリーちゃんが嫌いでも必然かなって」

にこ「ぐぬぬ! 何故か私も悔しい」

部長「陸上ではない方がありがたいんだってば」

シカコ「ありがたく思えば恨むことはないということはありません。人間とは強欲な生き物」

あんじゅ「強欲な生き物だからこそ、先着順なんて守らなくてもいいでしょ?」

シカコ「最低限の礼儀は必要。星空さんはどう?」

凛「凛はスクールアイドルには絶対にならない」

シカコ「と、言ってますけど?」

あんじゅ「私の妹にはスクールアイドルになることを嫌っていた恥ずかしがり屋さんが居たよ」

あんじゅ「でも、今では私達が卒業してもスクールアイドルを続けてくれるって言ってくれた」

あんじゅ「今は嫌悪感があっても、未来ではどうなってるのかなんて分からないんだよ」

シカコ「強引過ぎます」

部長「まぁまぁ。シカちゃんの気持ちも分かるけど、少しは落ち着こうよ」

シカコ「部長は黙っててください。これは陸上部とSMILEの問題です」

部長「いやいや、私が陸上部の代表だから」

シカコ「……そういえば《まだ》そうでしたね」

にこ「あんたってば部長なのに舐められてるわねぇ」

部長「にこちゃんにだけは言われたくないってば」

にこ「どういう意味よ!?」

あんじゅ「もう面倒だから勝負しない?」

シカコ「勝負?」

あんじゅ「うん。陸上部で貴女何を専攻してるの?」

シカコ「短距離走ですが」

あんじゅ「だったら丁度いいや。私と短距離走で勝負しよう」

シカコ「はい?」

あんじゅ「だから勝負。正直ね、部活紹介のライブは盛況だったけど、一人も獲得出来なかったから」

あんじゅ「スクールアイドルSMILEの実力をアピールするにはいいかなって。陸上部に陸上競技で勝っちゃうとかね」

シカコ「――」

あんじゅ「最高のデモンストレーションになるでしょ?」

シカコ「ふふふふ。面白いですね。その男を喜ばせるしか使い方がない無駄肉に思考能力を奪われてるんじゃないですか?」

あんじゅ「――」

シカコ「それから陸上を舐めすぎです。同じ土俵に立とうと考えるその思考が既に終わってます」

あんじゅ「男性を喜ばせる為に使うなんて一生ありえない」

あんじゅ「私のは泣いてるにこを慰める為、眠そうなにこの枕に使う為。だから大きいの!」

にこ「――」

部長「ねぇねぇ、にこちゃん。とっても複雑な顔してるところ悪いけど、あの噂って本当のことなの?」

にこ「あの噂?」

部長「にこちゃんとあんじゅちゃんが百合な関係ってやつ」

にこ「そんな噂まであるの? ……なんか色々とトドメを刺されたにこぉ」

あんじゅ「もう怒った! 手加減せずに本気で貴女の土俵で完全勝利してあげる」

シカコ「返り討ちにしてSMILEの優木あんじゅの哀れっぷりを見てた人達に見せ付けてあげます」

あんじゅ「それはこっちの台詞!」

シカコ「その自信がどこからくるのか知りませんが、貴女が勝つことなんてありえません!」

絵里「校内で喧嘩って聞いて来てみれば……あんじゅ、貴女が当事者?」

あんじゅ「あ、絵里ちゃん」

絵里「あ、絵里ちゃん。じゃないわよ。スクールアイドルが校内で喧嘩とかしちゃ駄目でしょ」

絵里「にこも傍に居ながら何やってたのよ」

にこ「……にこぉ」

部長「色々とあったみたいだから許してあげて」

絵里「は?」

部長「なんでもないよ。とにかく喧嘩って訳じゃなくて勝負する流れになったみたい」

絵里「勝負?」

あんじゅ「邪道シスターズの出番だよ。陸上部に赤っ恥かかせてあげるニコ!」

シカコ「当然の結果を目の辺りにしてなんて言い訳を始めるのか今から楽しみです」

絵里「結局どういうことなのよ」

あんじゅ「絵里ちゃん! 生徒会主催の元、邪道シスターズVS陸上部の開催を承諾して!」

シカコ「邪道シスターズというのが分かりませんが、とにかく私と優木さんが短距離で戦えるなら何でも構いません」

部長「プライドを賭けた負けられない戦いがそこにある!」

絵里「もういいわ。これ以上騒ぎになると先生が来る恐れがあるから、関係者は生徒会に来て」

あんじゅ「じゃあ、詳しい話は生徒会で!」

シカコ「ええ、何なら二秒ハンデあげてもいいですよ?」

あんじゅ「負けた時の言い訳? そんなもの要らないよ」

シカコ「寝惚けた言葉ばかり。本当に胸に思考力を奪われてるんじゃないですか?」

部長「さ、当事者の一人である星空さんも一緒に行こっか」

凛「どうして凛まで」

部長「この流れで行かないと他の生徒から質問攻めされちゃうよ?」

凛「……うぅ」

部長「ね、だから行こう」

凛「うん」

部長「にこちゃんもいつまでも混乱してないで行こう」

にこ「……姉の威厳って何かしら?」

部長「あーその反応だとさっきの泣いてるとか眠たいとかの話は実話なんだ。超気になる!」

凛「……もう、訳がわからないにゃ」

――生徒会室

絵里「話の流れは分かったけど、一体どうしたらこんな風になるのか一々考えるのは無駄ね」

あんじゅ「思考の放棄は脳の老化を加速させるよ」

絵里「貴女達の常識を行動を推測する方が心に負担が掛かるわ」

あんじゅ「エリーお姉ちゃんってばひど~い」

シカコ「漫談はけっこうです。それで、生徒会としてはどうでしょうか?」

絵里「今日のことが変に噂されるのを防ぐという意味では、これからと明日のお昼に放送を入れましょう」

絵里「そのまま明日の放課後に異例の陸上対決としましょう」

あんじゅ「陸上というか短距離走だけどね」

シカコ「いいのですか? 売名行為としては陸上部のみ得をしますが」

絵里「あんじゅがやる気ってことは止めても無駄だからね。なんとかなるんじゃないかしら」

シカコ「陸上競技でなんとかなるなんて曖昧なモノが入り込む余地なんてありません。訂正してください」

絵里「そういうつもりじゃなかったの、ごめんなさい。ただ、この子達は貴女の常識の範囲外で行動してくるかもしれない」

絵里「そういう意味では色々と注意しないと足元を掬われるわよ?」

シカコ「つまり不正をしてくる可能性がある、と」

あんじゅ「後輩相手にそんなことをする必要がないよ。正々堂々の完全実力で勝てるから」

シカコ「今吐いた唾は舐めとっても完全には戻せませんよ?」

あんじゅ「そんな汚い真似しないから安心して」

部長「凄いピリピリしてるね」

凛「こんな所に居たくないのに」

にこ「ホントに悪いわね。明日まで付き合ってくれれば、きっと変わるから」

凛「変わる?」

にこ「なんでもないわ。ただ、ここは音ノ木坂学院。暗い顔は似合わない場所なのよ」

凛「やっぱり意味が分からないにゃ」

絵里「では、生徒会が承認します。ただ、勝負後のいざこざはなしよ。スポーツマンシップに乗っ取った心を持ってね」

シカコ「当然です」

あんじゅ「勿論だよ」

にこ「……後はピエロとボブキャットの結果次第ね」

凛「?」

――夜 凛の部屋

凛(なんだか面倒なことに巻き込まれちゃった)

凛(スクールアイドルになんかなる気はないけど、陸上部はどうしよう)

凛(やってみたいなって気持ちは確かに生まれてる)

凛(でも、どうしても踏ん切りがつかない)

凛「かよちん」

凛(夜九時。今なら大丈夫だよね? 昨日は押せなかったけど……えいっ!)

花陽『もしもし、凛ちゃん?』

凛「かよちん。今いいかな?」

花陽『勿論大丈夫だよ。何かあったのかな』

凛「ううん、こっちは何にもないにゃ」

花陽『そうなの?』

凛「うん。何にも起こらなくて拍子抜けしてるくらいにゃ」

花陽『そうなんだ』

凛「そうにゃ」

花陽『凛ちゃん、悩み事とかある?』

凛「そんなものないにゃー」

花陽『ね、凛ちゃん。あのね、時々だけど隠し事する時に凛ちゃんってほぼ全部語尾ににゃが付く時があるんだよ』

凛「えっ?」

花陽『今の凛ちゃんがそう。だからきっと花陽に何か話したいことがあるんじゃないかな?』

凛「……よく分かったね」

花陽『凛ちゃんのことなら大体分かるよ。だって、花陽の大切な幼馴染だもの』

凛「かよちん! あのね、なんだか分からないんだけど――」

花陽『――そうなんだ。でも、どうしてSMILEと陸上部の人達が短距離走で勝負なのぉ?』

凛「その場に居た凛も全然意味が分からなかった」

花陽『だよね。スクールアイドルの記事でもこんなこと読んだことないからどうすればいいんだろう』

凛「こんなことが過去にあったらそれはそれでスクールアイドルの在り方を疑うよ!」

花陽『フォローできない』

凛「本当にわけわかんないニャ!」

花陽『でも、流石凛ちゃんは凄いなぁ。スクールアイドルと陸上部の二つから激しい勧誘されてるんだもん』

凛「でも、凛は……」

花陽『入部するかどうか悩んでるんだね。だったら、凛ちゃんの興味がある方に仮入部って形で参加させてもらえば?』

凛「仮入部」

花陽『勝負の行方次第で勝った方に勝手に入れられる訳でもないだろうし』

凛「そうなったら最悪だよ! そもそも、この勝負本当に意味がないよ」

花陽『う、うん。正直言って私も意味があるように思えない』

凛「かよちんもそう思うなら絶対に意味がないよ!」

花陽『でも、聞いた話によるとことりさんの幼馴染の穂乃果さんがSMILEに入った時にも一騒動あったんだって』

花陽『だからSMILE的に何かの意図があるのかもしれない』

凛「そんなの偶然に決まってるよ。すっごい子供っぽかったもん」

花陽『そうなのかな?』

凛「かよちんだって今日の現場に居たら分かったよ」

花陽『でも、カレー屋さんの時はとっても良い感じだったよ』

凛「あれは他からもお客さんが来るから仮面を被ってただけだよ!」

花陽『私はそんなことないと思うけど』

凛「かよちんはアイドル好きだから変なファクターが掛かってたんだよ」

花陽『ひ、否定は出来ないけど』

凛「どうして凛がよく分からない対決を見届けないといけないんだろう」

花陽『きっと必要になることなんだよ』

凛「えっ?」

花陽『凛ちゃんを縛る鎖を壊してくれるって、そんな予感がする』

凛「かよちんまでどうして意味分からないこと言い出すの」

花陽『まだ分からなくてもいいんだよ。何ヶ月か経ってから今日の事をふと思い出した時に、この意味が分かると思うから』

凛「……」

花陽『花陽のことを信じてくれるなら、仮入部の件を本気で考えてみて。それを頭に置いて明日を迎えて』

凛「かよちん」

花陽『そしてね、明日が凛ちゃんにとっての記念日になればいいなって思うの。そうなれば私も今以上に頑張れるから』

凛「……よく、分からないよ」

花陽『うん、混乱させてばかりでごめんね。とにかく、先入観に捕らわれずに明日を迎えて』

凛「分かったよ、かよちん。話聞いてくれてありがとうね」

花陽『ううん。きちんとした相談にならなくてごめんね』

凛「そんなことないよ! 明日、取り合えずかよちんの言葉を考えながら見届けることにするよ」

花陽『うん』

凛「それじゃあ、なんだか疲れちゃったからからもう寝るね。おやすみ、かよちん」

――花陽の部屋

花陽「うん、凛ちゃん。おやすみなさい」

花陽(SMILEにはことりさんが自慢する二人の幼馴染が居る)

花陽(それだけじゃない。ことりさん自身が感謝しているっていう人達も居る)

花陽(そんな人達が意味もなく凛ちゃんを巻き込んで陸上部と勝負なんてするかな?)

花陽(勝手な希望かもしれない。でも、あの人達なら凛ちゃんを縛るあの日の鎖を壊してくれるって予感がする)

花陽(花陽が弱かった所為であの時、凛ちゃんを庇うことが出来なかった)

花陽(そして、その鎖を解いてあげる力も臆病な花陽にはなかった)

花陽(他力本願になっちゃう上に厚かましいけど、出来るなら可愛い衣装を着てステージに立つ凛ちゃんがみたい)

花陽「でも、今花陽がすべき事はただ想像することじゃない」

花陽(十時過ぎ……。ことりさんはまだ練習してるかな? でも、メールじゃなくて電話で直接お願いしたいから)

花陽(うぅ~。でも、ことりさんに電話するなんて緊張するなぁ。あぁ、指が震える。あっ、押しちゃった!)

ことり『もしもし、ことりです。花陽ちゃんから電話なんて初めてだね』

花陽「はっはい! そのぉ、今お電話大丈夫でしょうか?」

ことり『うん、大丈夫だよ。丁度練習が終わって着替え終わったところだから』

花陽「よかった」

ことり『何かあったのかな?』

花陽「はい。すごく自分勝手な用件なんですけど、どうしてもことりさんに頼るしかなくて」

ことり『私は何をすればいいのかな?』

花陽「ことりさんの幼馴染の穂乃果さんか海未さんにお願いして、音ノ木坂の生徒会長の絢瀬さんと連絡取りたいんです」

ことり『絵里さんと?』

花陽「はい、どうしても譲れない我が侭を伝えたくて」

ことり『うん、ちょっと待っててね。穂乃果ちゃんに連絡してみるから』

ことり『あ、もし大丈夫のようなら花陽ちゃんの連絡先を絵里さんに教えても平気?』

花陽「はい、お願いします」

プロローグ・終了

――SMILE 部室

にこ「意外と情報が集まったのね」

海未「ええ、星空さんと同じ中学校出身の子が何人か居ましたので。皆さん非常に協力的で助かりました」

穂乃果「SMILEのファンだって言ってくれたんだよ♪」

あんじゅ「ただ問題はこの中で使える情報が幾つあるかが重要だよね」

にこ「そうね。一番良いのはあの眼鏡の子から直接話を聞きたいところだけど、それが出来ない以上は仕方ないわ」

あんじゅ「そうだね、これで頑張って策を練ってみよっか」

にこ「ま、何にしろ言えることが一つあるわ」

にこ「私達ももう三年生だし、人前でする邪道はこれを最後にしましょう」

あんじゅ「邪道シスターズ最後の聖戦だね★」

にこ「何と聖戦って、私達は何と戦うつもりよ。ともかく、邪道な話は私たち三年のみで話を進めることにするわ」

絵里「いいえ、話はにことあんじゅの二人で進めて。どんなことをするにしても、生徒会は援護するから。二人は好きにやりなさい」

にこ「どうして話し合いに参加しないのよ?」

絵里「その方が二人の邪道を客観的に楽しめるでしょう?」

あんじゅ「エリーちゃん。邪道シスターズの長女としてその発言はどうなのかなーって」

絵里「いいじゃない。長女っていうのは妹達を見守り、最後に責任を取る立場って昔から決まってるのよ」

にこ「そんな話聞いたことないわよ」

穂乃果「あっ、聞いたことがあるかも」

海未「本当ですか?」

穂乃果「うん。普段は楽をしてるんだけど、最後にビシッと決めてくれるのが長女なんだっけな?」

絵里「そうそう、そんな感じよ」

海未「その与太話は置いておいて、絵里の気持ちは分かります。何を仕出かすかわからない二人の邪道を楽しみたい」

穂乃果「穂乃果もよく分かるよ。一度は当事者にされた訳だからね。一生の思い出だよ☆」

にこ「策を練る前から勝手に期待されても困るわよ。今回のは単純、だけど意味の生まれる邪道になるだけだと思うし」

海未「穂乃果の時のように大掛かりにされては逆に心配してしまいますから、大人しいくらいが丁度いいです」

絵里「そうね。大掛かりなら私も参加したいし、その場合は声を掛けてね」

穂乃果「もっちろん! その時は穂乃果と海未ちゃんにもね!」

にこ「あんじゅ。今夜はこの資料を頼りに作戦会議をするわ」

あんじゅ「うん! 了解だよ☆」

――夜 にこの部屋

にこ「はぁ~。この情報の中で使えそうな物がほぼないわ」

あんじゅ「海未ちゃんと穂乃果ちゃんの努力を一刀両断だね」

にこ「ここで嘘吐いても仕方ないでしょうが」

あんじゅ「それはそうだけど」

にこ「あんじゅは何か思いついた?」

あんじゅ「ううん。この情報からあの子を救うって言うのは正直難しいかな」

にこ「でしょうね。だからやっぱり……今回はSMILEを憎んで笑顔を取り戻してもらいましょう」

あんじゅ「何するの?」

にこ「つまりね――」

あんじゅ「――それって海未ちゃんの時の二番煎じじゃない。手抜き反対にこ!」

にこ「使える物はなんでも使う。リサイクルの精神は大切なのよ」

あんじゅ「でも、海未ちゃんの時と違って相手の土台に立って勝てるなんて保証もないし」

にこ「そこよね。情報もパズルのピースも全然足りないからリサイクルしようとしても破綻してるわね」

あんじゅ「何かいい案とかフラグとかあればいいのにね」

にこ「そんな物があるなら……あるなら」

あんじゅ「何か思いついた?」

にこ「あった、あったわよ! あんたがいつだか立てたフラグが!」

あんじゅ「何か立てたっけ?」

にこ「陸上部よ、陸上部。陸上部と対決するとかいうフラグ! あれを有効活用しましょう」

あんじゅ「つまり陸上部に協力してもらうってこと?」

にこ「ええ、これなら……そうね、にこが泥土の中に飛び込めば大体なんとかなるでしょう」

あんじゅ「でも、それだとにこの人気が」

にこ「そんなもんであの子を笑顔に出来るなら喜んで人気を落とすわよ。それがスクールアイドルって生き方よ」

にこ「あの子をニコ屋に来てた時のような柔らかい雰囲気と笑顔を取り戻すにこよ!」

あんじゅ「にこがそう望むなら、私はにこの手足となって動くよ」

にこ「ありがとう。じゃあ、明日私が陸上部の部長に話をつけてくるわ」

あんじゅ「エリーちゃんには情報どうするの?」

にこ「当日に指令をメールで出して、生徒会として騒ぐになってるから様子を見に来たとか言わせればいいわ」

あんじゅ「ほとんど情報なしなんだね」

にこ「その方が客観的に楽しめるでしょ。それに、かしこい長女なら空気を読んで話を合わせてくれるでしょ」

あんじゅ「ついでにアドリブの楽しさを教えてあげようってことだね」

にこ「ま、そういうこと。ただ楽をさせるなんてこと許す訳ないじゃない」

あんじゅ「うふふ。流石私のにこにー♪」

――翌日 昼休み 三年の教室

部長「珍しいね。何かのイベントで人手が欲しいのかな?」

にこ「そっちが言ってる意味とは違うけど、回答的にはイエスね」

部長「どゆこと?」

にこ「SMILEのイベントというよりは有望な新入生一人を入部させる為のイベントを開催するの」

部長「へぇ~。SMILEのメンバーが増えるってことかー」

にこ「入部するのはアイドル研究部じゃなくて陸上部の方よ」

部長「陸上部に? 音ノ木坂体験のお陰で部員に困ってはないんだけど」

にこ「その入部させようって子が黄金の足を持ってるって言ったらどう?」

部長「黄金だと足が重くて鈍足に聞こえるけどね」

にこ「そういうツッコミはなしにこ!」

部長「こりゃ失敬! でも、そうなると私よりも次期部長のシカちゃんに話を通した方がいいかも」

にこ「いや、それは駄目なの。色々あってね、イベントを起こす際に本気でいがみ合って貰った方がいいのよ」

部長「ふむふむ。つまり陸上部内では私だけが知ってればいいってことか」

にこ「そうよ。ただ、イベント当日に練習時間を少し奪うことになると思うの。後、一年生三人程貸して欲しいわ」

部長「それくらいお安い御用だけど、一年生は何をするの?」

にこ「憎たらしいピエロとダンスしてもらうのよ。今回の件は全てが終わった後も絶対に他言無用だからね!」

――イベント当日(金曜日) 放課後 グラウンド

海未「生徒会の放送効果とSMILEのネームバリューのお陰で思っていた以上に見物人が居ますね」

穂乃果「それはそうだよ! だって他の学校じゃ絶対にありえないよ。スクールアイドルと陸上部が戦うところなんて!」

絵里「ありえても困るわよ。それすらもあの子達にとっての注目させるという意味合いがあるんだろうから」

海未「しかし、舞台は整いましたがこれからどうやって勧誘に繋げられるのかサッパリ分からないのですが」

穂乃果「そうだね。これだとまるでSMILEにスカウトするんじゃなくて、陸上部を薦めてるみたい」

絵里「私にもそうとしか思えないけど、何か手段があるんじゃないの?」

海未「にことあんじゅでなければ絶対にないと断言してしまう局面ですね」

穂乃果「そもそも、陸上部次期部長の得意分野で戦うっていうのが敗北フラグに思えるんだけど」

海未「単純には言い切れません。それくらいあんじゅは速いです」

絵里「でも、流れ的にあの次女があんじゅだけに任せると思えないわ」

海未「そうですね。にこには確かに瞬発力がありますが、正直陸上部に勝てる程の足は持っていないかと」

穂乃果「何か秘密兵器の靴とかあるとか?」

絵里「流石にそんな物を用意はしないでしょう。スタートに何か仕込んであるとか」

海未「待ってください。陸上部に邪道な手を打ったら、せっかく今まで築いた好感度が下がります」

海未「只でさえ今回のことで迷惑をかけているんです。そんな手は打たないと思います」

絵里「となると、にこが勝つビジョンがまるで見えてこない」

穂乃果「勝つことに意味はないのかな?」

海未「そうなるとあんじゅの戦う意味すらなくなるというか、最初から戦う意味というものが欠落しているように思えます」

絵里「う~ん、考えれば考えるだけ無駄な気がしてきたわ」

海未「思考の放棄は個人的に好ましくありませんが、相手が相手だけにそれが正解な気がします」

穂乃果「どんなスカウトするのか楽しみだね」

あんじゅ「きっと穂乃果ちゃん辺りが、どんなスカウトするのか楽しみとか言ってそうだね」

にこ「期待にはまるで添えないけどね。打てる手はもう打った。後は運命を動かす力が……邪道シスターズにあるかないか」

あんじゅ「おぉ! にこが初めて邪道シスターズの名前を使った。本当に最終回って感じだね!」

にこ「最終回っていうか、最後の聖戦なんだから使うくらいのサービスはするわ」

あんじゅ「それじゃあ、三女はにこにーお姉ちゃんに絶対にバトンを繋がないといけないね」

にこ「そうね。私達が打てる手ではあんじゅの結果が全てに繋がるといえるからね」

あんじゅ「大丈夫だよ。にこと勝利の女神は私に優しいから」

にこ「なにそれ。新しいバッドエンドフラグ?」

あんじゅ「全然違うニコ!」

にこ「ふふっ。冗談よ、冗談」

あんじゅ「にこにはまた私の手の……」

にこ「何か言った?」

あんじゅ「ううん、にこは私が守るって言ったんだよ」

にこ「生意気言ってるんじゃないわ。今回のあんたは勝負の行方だけ心配しておきなさい」

あんじゅ「うふふ」

部長「さっすがSMILEの人気効果だね」

シカコ「それは認めますが、その人気がアダとなる場合が今日です」

あんじゅ「大勢の前で恥を掻く前の威勢のいい鳴き声」

部長「シカって何て鳴くんだっけ?」

シカコ「私はシカじゃありません」

部長「でもバンビだとダサいし、略してバンちゃんだとカッコ悪いし」

シカコ「シカなら許せるその感性が理解不能です」

あんじゅ「鹿如きなら兎の私が脱兎の如く出し抜いてあげる」

シカコ「シカじゃないって言ってます」

にこ「そもそも、あんたが兎っていうのが納得行かないわよ。精一杯可愛くしてもボブキャットが関の山よ」

あんじゅ「いいね、ボブキャット。鹿も捕食するらしいからね」

シカコ「ですから私は……いえ、だったらシカに逆に捕食されるボブキャットとして卒業までその汚名を被るといいです」

シカコ「準備運動をしたら始めましょう」

にこ「おっと、勝負はまずは私からよ。今回は特別に一年生達にスクールアイドルの洗礼を受けさせてあげる」

にこ「まずはそこの一年生! にこにーの可憐なる実力を魅せ付けてあげるにこ☆」

「え、私ですか?」

にこ「こんな風に戦えることを他の子に自慢することね!」

「あの、勝負って何を?」

にこ「短距離ね。百メートル走で勝負してあげる」

「わ、私って専攻が高飛びなんですけど」

にこ「うっるさいわね! このにこにーが勝負してあげるって言ってるの。この意味分かってんの?」

にこ「つまり、あんたは黙って私と勝負すりゃいいのよ。そして、将来それを自慢すりゃいいのよ」

「えっ」

にこ「さ、準備運動しなさい。あと、他の一年も念のために準備運動しておくこと。記念に遊んであげるかもしれないからね」

穂乃果「なんだろう、あのにこちゃんの言動」

絵里「何かの作戦……なのかしら。あれじゃあ、普段のにこを禄に知らない一年生の反感を買うわよ」

穂乃果「小悪魔ほどにこちゃんに似合わない存在はないのにねー」

絵里「実妹のこころちゃんとここあちゃん同様、にこも天使だからね」

海未「ええ、にこは邪道を良しとしますが心根は優しい人です。そして、私はあんな風なにこを見たことがあります」

海未「私の時と同様に自分を餌にするのでしょう。あんじゅの策でしょうか」

絵里「でも、シカコちゃんだっけ? あの子を挑発するならまだしも、一年生相手じゃ意味ないんじゃない?」

海未「そう、ですね。私の時と似ていながらも違います。けど、本音でないことだけは確かです」

穂乃果「それくらいなら穂乃果にだって分かるよ」

絵里「身内をからかうのは好きでも、基本的に悪く言わない子だものね」

海未「そうですね。悪く言うのは本当に親しい相手だけ。三年生同士の絆が羨ましいです」

絵里「ふっふーん♪」

穂乃果「あははっ。にこちゃんの真似だね」

「えっと……私は、」

部長「いいんじゃん、勝負すれば。こんな態度取られて黙ってるなんて、陸上部自体が格下って思われちゃうし」

部長「スクールアイドルだからって何でも許されるとか思われたら気分悪いからね」

にこ「何でも許されるわよ。だって、音ノ木坂で一番貢献してるのは間違いなくこの矢澤にこだもの」

部長「事実関係はともかく、あの天狗になった鼻をへし折る意味でもやっちゃって、茜ちゃん。必殺チョップよ!」

「は、はぁ……私、チョップで人は殺せませんけど」

部長「そこは冗談だからスルーしてよ。あっちも普段から短距離走やってる訳じゃないし、筋肉の付き方が違うから楽勝だよ」

部長「中学から陸上部で鍛えた実力を披露しちゃいなさい」

「分かりました。正直やりたくないですけど、スポーツを舐めてるような言動は少しムカッとしたので」

にこ「スポ根の人間は直ぐにスポーツを舐めてるって言うわね。にこが普段舐めるのはスポーツじゃなくてスイーツだっての」

にこ「即興の割には上手いこと言えたにこっ☆」

海未「完全に駄々滑った発言なのに、自ら悦に入りました」

絵里「なんていうか、素のにこが出たわね」

穂乃果「普段ならあの後すぐにあんじゅちゃんのからかいが出る場面だけどねぇ」

海未「なんだか嫌な予感がしますが大丈夫でしょうか?」

絵里「既に賽は投げられた。私達は見届けることしか出来ないわ……。そう言えば賽って何のことだったかしら?」

穂乃果「時々絵里ちゃんって年下と思うような可愛い言動あるよね」

海未「そこが絵里の魅力です」

絵里「え、いや、答えは……?」

――にこVS一年生ダイジェスト

にこ「ま、軽く揉んでやるわ! スポーツ根性より華麗ならステーズで輝く私の方が優れているとね!」

「ステーズ?」

にこ「……」

「ステーズって――」
にこ「うっさいわね! 通はステージのことをステーズって言うのよ!」

「そ、そうなんですか」

にこ「そ、そうよ」

海未「……久々の所為かもはや憎むに憎めない可愛いキャラですね」

絵里「でも、一年生にとっては憎むべき存在になりつつあるみたいね」

穂乃果「う、うん。ちらほらと見に来てる人が噂してるね」

一年生「にこちゃん先輩ってもっと可愛い人かと思ってて幻滅しました」

三年生「そう評価するのは早計よ。矢澤にこってスクールアイドルはそんな評価は不似合いなんだから」

一年生「だけど、あんな傲慢な態度。正直陸上部が可哀想です」

三年生「きっと何か意味があるのよ」

一年生「どうして先輩がそんな風に思うのか理解出来ません」

三年生「大きいことも、小さいことも色々としてきたのがあの子がリーダーを務めるSMILEだから」

海未「二年・三年生からの評価は磐石ですね」

穂乃果「おぉっ! 海未ちゃんが自分のことじゃないのにドヤ顔なんて珍しい」

絵里「ふふっ。さ、勝負が始まるみたいね」

一人目終了...

シカコ「哀れとしか言いようがないんですが」

部長「これぞにこちゃんって結果だったね」

にこ「ふぅ……ま、一人目だからね。ちょっと手を抜いたのよ」

「そ、そうですか」

にこ「良かったわね。将来自慢出来るわよ。手を抜いてくれたとはいえこのにこにーに勝ったんだから」

シカコ「何故短距離走で三秒も差を付けられてあんなことを言えるのか理解出来ません」

にこ「三秒くらいでいい気になるから所詮短距離走なのよ。私はもっと広い世界で輝きたいわ」

シカコ「ふむ、陸上に限らずタイムを計る競技ではドンドン狭い世界を競うんですが……広い世界の例えは?」

にこ「えっ、例え?」

シカコ「はい」

にこ「…………今度はもうちょっと本気でやってあげる。さ、そこのあんた掛かって来なさい!」

シカコ「完全に誤魔化しましたね。無駄な言い訳しない潔さは好きですね」

部長「本ッ当にシカちゃんの感性は独特だよね」

「先輩に挑まれた勝負ですからしますけど」

部長「やる気出して頑張ってね。中学では水泳部だったらしいけど、アスリート魂は同じだってところ魅せ付けて!」

「はい、頑張ります」

にこ「あ、水泳が得意なの? 水着用意してたらプールで勝負をつけてあげてもよかったんだけどね」

にこ「でも良かったわね。これで負けた時の言い訳が出来るわ。さっきの子より力入れるから」

「……はぁ」

にこ「更にやる気ないアピール? それくらいしないとね。負ける勝負なんだから」

二人目終了...

穂乃果「何か自分のことじゃないのに胸が痛くなってきちゃったよ」

海未「これなら自分のことの方がマシです」

絵里「あの子ってば何を考えてあんなことをしてるのかしら?」

海未「ええ、反感を買うのが目的ならば勝負を挑むまでないと思うのですが」

穂乃果「なんでもいいけど、もう早くあんじゅちゃんの勝負が始まって欲しいよ」

「なんかダサいね」

「私にこにーのファンだったんだけど、正直もういいやって感じ」

「だから言ったじゃん。海未さんの方が素敵だって」

「今日から絵里さんファンになる」

にこ「さぁ! 次で最後でいいわ。疲れるしね、遊びはここまで。本気で挑んであげる」

にこ「言わば今までは両手を使わずに戦ってたようなものよ。今度は両手も使ってアイドル力は五十三万!」

シカコ「一般的なスクールアイドルのアイドル力の平均はどれくらいなのでしょうか?」

にこ「えっ?」

シカコ「今のままだと五十三万がどれ程のものか判断が付きませんので」

にこ「……えっとね、A-RISEの綺羅ツバサは百万アイドル力を軽く突破してるわ」

シカコ「ここで自分を最強にしない辺り、好感が持てます」

にこ「あっ。ち、違うわよ! A-RISEが凄いだけで、後は有象無象よ。矢澤にこの前に敵はないわ」

穂乃果「この瞬間だけが痛む心を癒してくれるねぇ」

海未「ですが、普段なら突っ込むところで無言のままのあんじゅが不自然というか、不気味です」

絵里「あんじゅだけじゃなくて、目的の星空さんも無言よ」

海未「無理もありません。見たくないのにここに来て、更に見たくない勝負を見せられてるんですから」

絵里「あの子達の邪道を信じてるけど、本当にこれってどうにかなるの?」

海未「ありえない話ですが、リバーシで残り一マス以外は白の状態で、黒を置いた瞬間に全部が黒に変わる」

海未「そんな光景を望んでいたのですが。今回は違うようですね」

絵里「もう無事に終わってくれればそれでいいわ」

穂乃果「あぁ~……三人目は接戦だったけど、ギリギリで負けちゃったよ」

海未「にこ。貴女は何を考えているのですか?」

ダイジェスト終了...

にこ「くしゅんっ! 誰か私のことを噂してるわね。有名人は辛いわ。それはともかく、今年の陸上部は駄目ね」

にこ「にこを120%本気にさせてくれるようなツワモノが居なかったわ」

部長「それはまた辛辣な意見だね」

シカコ「そもそもまだ五月です。鍛えるのはこれからですし、専攻が短距離なのは最初の子だけですから」

にこ「そんなことはいいわ。結局のところね、異種対決の場合はメインの勝負で勝てばいいのよ」

にこ「さ、そろそろ今回のメインを飾りましょうか。私の自慢の妹・矢澤あんじゅ対陸上部次期部長!」

シカコ「退屈な勝負になるかと思いましたが、にこ先輩のお陰で退屈しませんでした」

にこ「ふっふーん! でしょ? そう思って陸上部の希望なき一年生衆を遊んであげたのよ」

シカコ「優木さん、覚悟はよろしいですか?」

あんじゅ「優木ではなく、今の私は邪道シスターズ三女。矢澤あんじゅよ。お見知りおきを」

シカコ「にこ先輩と間際らしいので、今だけはあんじゅさんとお呼びしましょう」

部長「そういえばなんでさん付けなの? にこちゃんは先輩って呼んでるのに」

シカコ「私は尊敬していない人間を先輩と呼びたくないので」

部長「……部長という役職が取れた後になんて呼ばれるのか、ちょっと怖いわね」

シカコ「自虐ネタはお腹いっぱいなのでもういいです。始めましょうか」

あんじゅ「うん。にこにバトンを繋ぐ為にも……。運命も私の手の平の上で回す」

――あんじゅVSシカコ(陸上部次期部長)

シカコ「ここに立った以上、もう言葉は不要です」

あんじゅ「うん」

絵里「二人が並んだ瞬間から空気が変わったわね」

海未「本格的な大会いう程ではありませんが、対抗試合そのものに近いですね」

穂乃果「にこちゃんがあんな風だったから、あんじゅちゃんが勝てるのかどうか心配になってきちゃったよ」

絵里「そうね。どこかに細工でも仕込んでるのなら心配もしなくていいんだけど、こんなことなら全部聞いておけばよかった」

海未「にこではないですが胃が痛いです」

絵里「私もよ。これならあの事を隠さずににことあんじゅに伝えておけばよかった」

海未「あの事とはなんですか?」

絵里「えっとね――」
穂乃果「――始まったよ!」

部長「二人共最高のスタートを切った。若干あんじゅちゃんが優勢だね。こんなこと言いたくないけど才能ってやつかな」

海未「私の姉も毎朝鍛練しています。才能というより、短時間で如何にして体を動かすのかを理解さていっただけです」

部長「そういうのを出来るから才能があるっていうんだよね。センスって言い換えてもいいけど」

穂乃果「やった! あんじゅちゃんの勝ち!」

絵里「才能がなくっても、今回の勝負であんじゅが負けることはなかったわよ」

部長「どうして?」

絵里「あの子が誰よりも慕うにこが勝利を望んだから」

部長「理屈じゃないってことか。そういうの好きだよ。というか、あんじゅちゃん陸上部に欲しいなー」

絵里「私の自慢の妹は誰もあげないわ」

部長「そりゃ残念。さってと、シカちゃんを慰めに行こうっと」

穂乃果「いやぁ~あんじゅちゃんもあの子も本当に速かったね」

海未「そうですね。鍛練の時以上に力を発揮していました。邪道シスターズの絆ですね」

穂乃果「陸上部の油断を誘う為ににこちゃんは一年生に負けたのかな?」

海未「いいえ、それは違うでしょう。油断なんてものはありませんでした」

穂乃果「これだと凛ちゃんをスカウトなんて出来ないと思うけど」

海未「……そうですね」

あんじゅ「ふぅ。本当に勝ててよかった」

シカコ「本気で走ったのに負けました」

あんじゅ「ほんの僅差だったけどね」

シカコ「僅差でも負けは負けです」

にこ「二人共お疲れ様。素晴らしい勝負だったわ。本当のメインの引き立て役としては別格だったわ」

あんじゅ「うふふ。にこにきちんとバトンを渡せたよ」

シカコ「本当のメインですか?」

にこ「完全に傍観者になってる当事者の星空凛!」

凛「何ですか?」

にこ「これはあんたの勧誘劇なのに当事者がただつまらなそうに見てるだけじゃ意味がないでしょ!」

にこ「だから本当の勧誘をこれから行うわ。私が勝ったらスクールアイドル嫌いだかなんだか知らないけど、うちに入ってもらうわ!」

凛「どうして凛が……」

にこ「当事者だからよ。あんたが負けたら次期部長が私の自慢の妹に負けた陸上部にでも入るといいわ」

にこ「その代わり、私が勝ったら絶対にあんたをうちに引き込むわ」

凛「そうなったら幽霊部員になるだけ」

にこ「そんなことを部長のこの私が許す訳ないでしょ! 毎日放課後に部室に引っ張って行くわ!」

にこ「短距離だとアッと言う間だしね、今度は八百メートル走で勝負にこよ!」

凛「……えー」


海未「完全にやる気なしですね」

絵里「そうね。あ、ごめん電話だわ――もしもし、あっもう直ぐ着くのね。うん、なんだか状況が分からないことになったの」

絵里「何故かにこと星空さんが八百メートル走で勝負することになったんだけど、星空さん全くやる気がなくて」

絵里「ええ、なんとか引き伸ばしてみるわ。それじゃあ、また」

海未「どなたですか?」

絵里「ごめん、話しは後で。にこ!」

にこ「ということで勝負開始よ! って、何よ人が良い気持ちで決めたってのに」

絵里「もっと何か言うことないの?」

にこ「もはや語る舌も持たないわ。結果を見せるのみよ」

絵里「何かあるでしょ? ほら、星空さんも」

凛「とっととやって早く終わらせたいにゃ」

絵里「そんなこと言わないで!」

にこ「……何があるのか知らないけど、絵里」

絵里「何よ」

にこ「運命って言うのは待ってくれないの。勝負を始めるわ」

絵里「もうっ! 何かあるって分かるのなら勝負を遅らせなさいよ」

にこ「スクールアイドルっていうのはね、こういう時に魅せられてこそなのよ」

絵里「……はぁ。もう何も言わないわ」

あんじゅ「にこ。最後まで頑張って踊ってね」

にこ「ええ、ピエロ魂魅せつけてやるわ」

――にこVS凛

穂乃果「スタートしたけど、やる気ないとはいえ声援が凛ちゃんに集まってるね」

海未「でも声援を送ってるのが一年生だけです。二三年生は見守っている感じですね」

海未「それで、先ほどの電話は誰からだったのですか?」

絵里「予想はついてるんでしょ?」

海未「念のためです」

穂乃果「にこちゃんがんばれー!」

絵里「文化祭の時に来てくれた眼鏡の子よ」

海未「どういう経由で?」

絵里「ことりさん経由で穂乃果に連絡いって、そこから私に繋がって直接連絡したの」

海未「どうして穂乃果はこういう大事なことを私に言わないのですか」

絵里「私が口止めしておいたのよ。にことあんじゅにとってのサプライズにしようと思ってたの」

絵里「今は本当に後悔してる。というか、にこはどうしてこういう時に頑固なのかしら」

海未「こういう時に甘えないからこそ、にこはあの強さを手に入れたのでしょう」

海未「あんなに小さい背中なのに、私にはずっと大きく感じます」

絵里「姉としては沢山甘えて欲しいんだけど」

海未「今回は星空凛の勧誘が目的ではなかったのですね」

絵里「あの子を笑顔にさせるのが目的みたい。情報を集めてもらったのに悪いわね」

海未「絵里が謝ることではありません。にことあんじゅに謝られても困ります」

海未「それに、元々にこの本質は人を笑顔にさせることですからね」

絵里「どんなアイドルすらも叶えられないことをにこならやれると思う」

海未「私もそう思います。にこがアイドルになれば……きっと今より多くの人が笑顔になれるでしょう」

絵里「素敵な未来ね」

海未「にこがアイドルになる夢を諦めたというのなら、私たちで取り戻してあげたいです」

絵里「過去に置き去りにした夢をもう一度、ね。ラブライブ優勝よりも骨が折れそうね」

海未「ええ、だから夢を取り戻すついでに優勝しましょう」

絵里「ふふふっ。大きく出たわね」

海未「今日のにこを見て改めて思いました。夢を奪った綺羅ツバサの居るA-RISEに勝ちたいと」

絵里「でもA-RISEにはことりさんも居るのよ?」

海未「ことりと本気で戦うことなんてありえませんでした。ですが、それを経験出来るのは今という運命だけ」

海未「だったら骨の髄まで楽しむまでです。ことりもああ見えて根っこの部分は負けず嫌いな部分がありますから」

絵里「本当に私の妹達は自慢の言葉しか出せないわ」

海未「それは妹を姉に置き換えて私も言いたいです」

海未「何をするのか分からなくても責任を取ると言い張り、実際に生徒会主催で行った今回の邪道」

海未「にこが望む結果を見事に出してみせたあんじゅ。そして、自ら泥を被りながらも今も相手の笑顔を望むにこ」

海未「邪道シスターズは最高です。運命だって動かせますよ。心配はもう要りません」

絵里「そうね、心配するだけ無駄な気がしてきたわ」

穂乃果「もう! 二人共真面目に応援しなよ。にこちゃんもう半分走ってるっていうのに」

穂乃果「凛ちゃんが全然やる気ないからまだにこちゃんの半分。これは勝負決まったね」








花陽「花陽に全力の凛ちゃんを魅せて!!」






絵里「さっきのがあんじゅの言うところのフラグだったのかしら?」

海未「間に合いましたね。これで何が変わるか分かりませんが」

凛「かよちん?」

花陽「花陽は常に本気で真っ直ぐな凛ちゃんを応援したい! だから頑張って!」

凛「……うん! 凛頑張るよ、かよちんと自分の為に!」

穂乃果「すごい急加速したよ!」

絵里「にことの差は圧倒的。でも、あの速さなら……追いつけるかもしれない」

海未「この場合どちらを応援すべきなのでしょうか?」

絵里「えっと、そうね。あんじゅはどう思う?」

あんじゅ「私はにこを応援するよ。だって、自慢のお姉ちゃんだもの。でも、」

絵里「そうよね、迷うことなくここはにこを応援しましょう」

海未「にこー! 頑張ってください!」

穂乃果「にこちゃんがんばってー!」

絵里「邪道シスターズに敗北は要らないわ! 頑張りなさい!」

あんじゅ「……でも、ピエロが最後まで成功することはない」

部長「黄金の足を持つとかにこちゃん言ってたけど、半端ない加速力」

シカコ「これは次期部長の座が危うくなります」

部長「その割りに嬉しそうな顔してるじゃん」

シカコ「ライバルが居るということは最高の喜びですから」

部長「……悪かったね。私じゃ力不足で」

シカコ「いいえ、私が音ノ木坂体験でここに入りたいと願ったのは部長が居たからです」

シカコ「そのお陰でこうしてライバルと巡り合えたというのなら、私とって嬉しき運命です」

部長「なによ、私を泣かせようって魂胆?」

シカコ「部長の涙なんて私には何の価値もありません」

部長「相変わらず酷いわー」

シカコ「泣くのは卒業まで取っておいてください。そうしたら、価値が生まれて貰い泣きしますから」

部長「……星空さんに劣等感を抱かないようにね」

シカコ「私は歪んだ心を保てる程の人間性を持ってません。偏屈ですから」

部長「あはっ☆ 自覚あるなら直せってば」

真姫「花陽、勝負は?」

花陽「あっ、真姫ちゃん。もう直ぐ決着」

真姫「髪の短い子が凛よね。このままだと微妙そうね」

花陽「それでも凛ちゃんは勝つよ。だって、凛ちゃんより速い子なんて居ないから」

真姫「自信満々ね」

花陽「うん。だって本当のことだから」

真姫「羨ましいわ」

花陽「ありがとうね、真姫ちゃん。真姫ちゃんがタクシーで待っててくれなかったら間に合わなかった」

真姫「私の分まで生徒会長にオトノキの敷地に入る許可を申請を頼んでおきながら、抜けてるわよね」

花陽「ごめんね」

真姫「謝る暇があるなら自慢の幼馴染を応援してあげなさい」

花陽「うん! 凛ちゃんラストスパート頑張ってー!!」

真姫「やっぱり声音がいいわよね。これが常に出せるようになれば花陽は完全に化ける」

穂乃果「あっ!」

絵里「にこが転んだ」

海未「短距離とはいえ三回走った後で足にきてたのが原因でしょうか?」

あんじゅ「最後の最後で逆転されてにこの負け、だね」

穂乃果「にこちゃん大丈夫かな? 私行って来るね!」

海未「あっ、私も行きます!」

絵里「あんじゅがついてながら、どうしてこんな邪道を許したの?」

あんじゅ「何のこと?」

絵里「とぼけないで。あの転び方は膝を擦り剥かないように配慮してた。わざと転んだんでしょ?」

あんじゅ「よく分かったね」

絵里「つまり全部にこの考え通りの結果だった。最初からにこは星空さんに勝つ気はなかった」

あんじゅ「場合によってはもう一パターンあったけど、運命が動いたからね」

絵里「運命って花陽さんのことよね。来てなかったらどうしていたの?」

あんじゅ「ここで勝った後に凛ちゃんのアキレス腱というか絶対にやる気になる言葉を投げかけるつもりだったんだと思う」

あんじゅ「あの花陽ちゃんっていうの? あの子を悪く言えば何があってもやる気は出る」

あんじゅ「そのやる気のままもう一度勝負して、一年生と違って本気を出して大差で負ける」

あんじゅ「そうすれば今と同じような空気になるから」

絵里「どういうこと?」

あんじゅ「凛ちゃん自身は当然ながらスクールアイドルになる気はなくなる。その反面で陸上部への執着が湧く」

あんじゅ「陸上部の一年生の間ではアンチにこの気持ちが強くなってるから一体感が生まれて馴染むのは早くなるでしょ?」

あんじゅ「笑顔になる近道を用意したんだよ。もし陸上部に入る気がそこまで強くなかったとしても」

あんじゅ「この場の空気がそれを許さない。流れ的に仮入部でも入るでしょ。そうなれば結果は同じ」

あんじゅ「陸上部が宿り木になって笑顔は取り戻せる。これがにこの邪道だった筈」

あんじゅ「私に全部説明してくれた訳じゃないけどね」

絵里「それを知っていてどうして止めなかったの!?」

あんじゅ「私はにこの邪道を止めることなんて出来ない。だって、妹だもの」

凛「かよちん! どうしてここに?」

花陽「えへへ。音ノ木坂の生徒会長さんにお願いして凛ちゃんが生まれ変わるの応援しにきちゃった」

凛「生まれ変わるって大げさだよ。ただ、勝つべきして勝っただけだもん」

花陽「ううん、そんなことないよ。だってすっごい素敵な笑顔浮かべてるもの」

花陽「花陽の我が侭の所為でその笑顔が去年の夏の終わりから見えなくなっちゃって、でも漸くまた再会出来た」

凛「……かよちん」

花陽「改めて一緒にここへ通えなくてごめんね、凛ちゃん」

凛「かよちんが謝るような……ううん、本当だよ! その所為で凛すっごい寂しい思いしてるんだから!」

凛「何をするにしても気分が乗らなくて、全部つまらなくて、家に帰ってから時間がいっぱい余って」

凛「どうしようかって思ってたんだよ!」

花陽「うん、ごめん」

凛「でも、今日で吹っ切れたにゃ! 星空凛は明日から陸上部に入部します!」

部長「うん、陸上部は星空さんを大歓迎するよ。じゃあ後で職員室で入部の手続きしようね」

凛「はい!」

真姫「で、いつ私のことを紹介してくれるのかしら?」

花陽「あっ、真姫ちゃん。ごめんね」

真姫「別に謝ることじゃないけど」

花陽「凛ちゃん。こちらは真姫ちゃん。私のUTXで出来たお友達なの」

真姫「西木野真姫よ。貴女とは今日初めて逢った気がしないわ」

凛「え?」

真姫「耳にタコが出来るくらいに花陽が貴女のことを語るかもしれないわね」

花陽「まっ、真姫ちゃん!」

真姫「だからその……凛って呼んでもいいかしら?」

凛「うん! その代わりUTXでのかよちんのことをいっぱい聞かせて欲しいにゃ!」

真姫「ええ、沢山聞かせてあげる」

花陽「二人がお友達になって花陽感激っ」

にこ「ふふっ。これで邪道シスターズの聖戦はおしまいよ」

海未「何を格好つけてるのですか!」

穂乃果「そうだよ! 一年生に反感買ってまでこんなことの為に情報をにこちゃんのばかぁ!」

海未「穂乃果、言葉絡まってますよ。ですが心情は穂乃果と同じです」

にこ「SMILEの人気が少し低下することは謝るわ」

穂乃果「そこじゃないよ!」

海未「にこのことは尊敬しています。姉と慕う程に強く尊敬してるんです。だからもうこんなことは止めてください」

にこ「大丈夫よ。最後の聖戦だって言ってるじゃない。次はきっとないわ」

穂乃果「きっとじゃ駄目だよ!」

絵里「そうよ、今回のことは充分に反省してもらうからね。この後反省会するから」

にこ「……絵里。まず先にお礼を言わせて、あんたが運命を導いてくれたから最悪には至らなかったわ」

にこ「ありがとう、絵里お姉ちゃん」

絵里「もうっ! 怒るに起これなくなるから先にそんなこと言うんじゃないわよ」

あんじゅ「まぁまぁ。にこは最後の最後まで踊ってくれて疲れてるんだから、もうこれでよしにしようよ」

海未「一番納得いかないのはあんじゅです! どうして止めなかったのですか!」

あんじゅ「流石姉妹だけあって絵里ちゃんと同じこと言うんだね」

海未「茶化さないでください!」

あんじゅ「同じ言葉で返すのも芸がないから言葉を変えようかな」

あんじゅ「にこにはにこの邪道が、私には私の邪道がある。そういうことだよ」

海未「意味が分かりません」

あんじゅ「それは海未ちゃんが今頭に血が上ってるからだよ。さ、今日はにこにマッサージしてあげるね」

にこ「それは助かるわ。あんたマッサージは上手いからね。時々、寝ちゃって重くて目が覚めたらあんたが背中に乗ってるけど」

あんじゅ「だって疲れちゃうんだもん」

にこ「お陰で解れた筋肉も疲労追加で意味がなくなるけどね」

あんじゅ「それこそがにこを更に強くするんだよ」

穂乃果「あんじゅちゃんがマッサージなら、穂乃果はほむまん持って行くね!」

にこ「持って行くって、私の家に来るってこと?」

穂乃果「心配だから今日はにこちゃんの家にお泊り! 明日土曜日だし、いいよね?」

にこ「別にいいけど唐突ね」

海未「では私は疲労によく効く塗り薬を持参しましょう」

にこ「海未まで来る訳!?」

海未「いけませんか?」

にこ「いけなきゃないけど、一つの布団に穂乃果と一緒に寝てもらうことになるわよ」

海未「構いませんよ。暑いわけではないですからね」

穂乃果「お泊り会楽しみ☆」

絵里「だったら私は亜里沙を連れて行くわ」

にこ「いやいやいや! 待ちなさいよ。更に二人追加とか、あんたの家と違ってうちは狭いのよ」

あんじゅ「私の部屋を使う?」

にこ「あんたは矢澤あんじゅでしょ。あんたの部屋は私の部屋よ。隣の部屋はあんたの部屋じゃないわ」

あんじゅ「うん」

にこ「とはいえ、流石に寝るスペースが確保出来ないわ。最悪台所で一人寝るしか」

穂乃果「待って、にこちゃん。つまり寝なければいいんだよ!」

海未「稀に貫徹もありですね」

あんじゅ「トランプ大会しよっか」

絵里「新しいゲームを皆で考えるのも面白いわね」

あんじゅ「うふふ。抜け道を作ってみせるよ★」

にこ「問題の根本的解決になってないわよ! トンチじゃないんだから」

あんじゅ「大丈夫だよ。にこが眠ったら私が抱っこしててあげるから」

にこ「なんにも大丈夫じゃないっての! もういいわ。邪道シスターズのやるべきことは終わったから撤収しましょう」

あんじゅ「うん!」

絵里「ええ!」

にこ「……いい笑顔ね。ああいう笑顔こそスクールアイドル向きなんだけどね」

あんじゅ「勿体無かったかな?」

にこ「しょうがないわ。それからあの釣り目の子」

あんじゅ「あの赤い髪の子がどうかした?」

にこ「ううん、なんでもないわ」

あんじゅ「言い掛けて止めるのはバッドエンドフラグだからきちんと言うにこ!」

にこ「ただ、あの子はキラ星と似た雰囲気を感じるってだけ。今年か来年か知らないけど、きっとスクールアイドルになるわ」

海未「つまり、私たちの代のA-RISEのメンバーとなるということですね」

穂乃果「ライバルだね!」

絵里「きっと花陽ちゃんもスクールアイドルになると思うわ。応援の時の声がとても綺麗だったし」

にこ「そうね。もしかしたら今のA-RISEすら超越したA-RISEが誕生する、なんてこともあるかもね」

――エピローグ

にこ「な、何よこれぇぇぇっ!?」

『道化を演じ、一人の少女を陸上部に推したスクールアイドル・矢澤にこの軌跡』

あんじゅ「何って校内新聞だよ」

にこ「そういうこと言ってんじゃないの! 内容よ内容。なんで私の記事が書かれてんの!?」

海未「情報提供者の欄に名前が書いてありますよ。矢澤あんじゅ・陸上部部長・星空凛」

絵里「これで一年生からの不信も拭えるわね」

にこ「そういう問題じゃないわよ! 私の口止めよりあんじゅの言に惑わされたって言うの!」

あんじゅ「違うよ、にこ。あの日、にこが部長さんに話をしに行く前、海未ちゃんとの鍛練の後に学校まで来たの」

あんじゅ「そこで朝練する部長さんにこれからにこがイベントを起こすから、それが終わったら新聞部長の部長さんと話をして欲しいと」

あんじゅ「それを記事にすることを先生立会いの下で承認してもらったの」

穂乃果「おぉ! にこちゃんの行動を読み切ったからこその手回しだね」

あんじゅ「うん。それから絵里ちゃんと買い出しに行く時に花陽ちゃん経由で凛ちゃんとお話させてもらって協力を願い出たの」

にこ「よく断られなかったわね」

あんじゅ「穂乃果ちゃんと同様、元々元気な子だったから。根が真っ直ぐでにこの演技も薄々分かってたみたい」

あんじゅ「お陰で元気も取り戻せて、目標も出来たからって日曜日に集まってこの新聞を作ってんだよ」

にこ「珍しく休日に単独行動をしてたと思ってたら、あんたはなんで余計なことばかりすんのよ!」

にこ「って! あの時『にこにはまた私の手の』で言葉区切って訂正したけど手の平で踊ってもらうって言おうとしたのね!?」

あんじゅ「希望の船に乗っても生き抜けるくらいの推理力だね★」

にこ「がるるるる!」

あんじゅ「にこが怖いにこ~♪」

絵里「だからあの邪道を止めなかったのね」

海未「これがあんじゅの邪道。……正に邪道シスターズの参謀ですね。ある意味にこより性質が悪い」

穂乃果「笑顔を生んでハッピーエンド! これこそSMILEのあり方だと思う」

海未「ですね。一時はどうなることかと思いましたが」

絵里「本当よ。海未と穂乃果が最初に望んだ結果には繋がらなかったけどね」

海未「今は温かさで胸が一杯ですから。これはこれで良かったんだと思います」

穂乃果「一緒にライブをしてみたかったけど、陸上部を頑張るならそれを応援したい」

穂乃果「いつか陸上部の大会で応援歌ならぬ応援ライブするよ!」

絵里「新入生が入らなくても続けてくれる気なのね」

海未「当然です」

穂乃果「当然だよ!」

あんじゅ「にこは常に私の手の平でいいんだよ。守ってあげるから」

にこ「いつ握りつぶされるのか心配で怖すぎるわ!」

あんじゅ「ぷちゅん!」

にこ「何の音よ!」

こんこん……

あんじゅ「あ、新聞部長の部長さんかも。こんな素敵な記事を書かせてくれたことを直接お礼を言いたいって言ってたから」

にこ「私にとっては不本意の塊だけどね!」

絵里「一年生以外はにこの痛い小悪魔っぷりを温かく見守ってたんだから、回答編くらい設けて当然でしょう」

にこ「にこの名演技を舐めるんじゃないわよ!」

あんじゅ「あれ? 凛ちゃん。どうしたの?」

凛「にこ部長にお話があってきました!」

海未「吊るし上げでしょうか?」

にこ「お話って言ってるじゃない! 怖いこと言うんじゃないわよ」

穂乃果「あははっ。こういうにこちゃんこそが平常運転で安心するよ」

にこ「あぁ……あんじゅと絵里に海未と穂乃果まで毒されてるわ」

にこ「それはともかく、罵詈雑言ならメンバーが居ない所で受け取るわ」

凛「全然違います。これを私に来ました」

絵里「果たし状?」

にこ「だからどうして変な方向に持って――入部、届け?」

凛「はいっ!」

にこ「でも、だってあなたは陸上部に入部したじゃない」

凛「陸上を頑張りながらスクールアイドルも頑張る。半年以上やる気なかった分を取り戻すニャ!」

あんじゅ「……これは完全に想定外」

凛「それに、かよちんがUTXで必ずスクールアイドルになるって凛に約束してくれたの」

凛「だから、凛も同じスクールアイドルになってかよちんの前に立ちたい」

凛「スクールアイドルは正直嫌いだけど、SMILEは別。凛にとって切っ掛けを与えてくれたから!」

凛「どうか凛をアイドル研究部に、音ノ木坂学院のスクールアイドルSMILEに入れてください!!」

あんじゅ「にこ、どうするの?」

絵里「こういうのは部長の独断で決めるべきよね」

海未「そうですね。にこに一任しましょう」

穂乃果「ふぁいとだよ!」

にこ「揃いも揃ってみんなしていい笑顔して。分かったわよ、認めればいいんでしょ、新聞の記事もこの子の入部も!」

にこ「二束わらじだからって手加減しないからね。陸上の練習試合や大会の翌日だって、こっちのスケジュール次第では練習させるからね!」

凛「凛は体力には絶大な自信があります!」

にこ「あんな暗い顔をしてたら退部だからね!」

凛「もうあんな風には絶対にならないよ!」

にこ「SMILEに入るなら、メンバーに対しての敬語も先輩呼びも禁止!」

凛「うん♪」

にこ「憎まれる筈の相手をこうして歓迎するのは妙な気分だけど、SMILEへようこう!」


ネクストストーリー
◆春・UTX編◆ この物語最大の難所。誰かたすけてー!

最初で最後の1000記念だからやりたいことをやる! 

◆外伝・時を駆けぬスクールアイドル◆

あんじゅ「明晰夢、かな?」

夢の中なのに妙に実感があって、本当に夢の中なのか怪しく思える。

あんじゅ「……神田明神?」

自分が居るのは神田明神。

男坂と呼ばれる長めの坂の下。

海未との朝練の際に使わせてもらったりもする場所。

でも、夢に見るほど印象的かと言われると「そうでもない」と否定したくなる場所。

あんじゅ「にこ~!」

呼んでみても音のない世界に声が吸い込まれるだけ。

何度となく目覚めろと念じてみても、本体は目を覚ましてくれない。

あんじゅ「……」

にこと出逢う少し前。

一人ぼっちの絶望感が込み上げてきて、思わず足が震える。

ただの夢だと思い込ませても、一度湧き上がった恐怖は簡単には拭えない。

そんな時、

『ここでお百度をすると出逢ったあの日に戻れるわよ。記憶を引き継いで、ね』

にこに似て異なる何かの囁き声。

音のないこの世界には妙に響いた。

マンションの部屋の前。

戻れない現実に身動きが取れなくなって、ただ膝を抱えて居たあの日。

私に気が付いて驚いた声を上げた後、優しく声を掛けてくれた……。

あんじゅ「あの日に……戻れる?」

もう一度にこと楽しい日々をやり直せる。

夢の中なのに夢と忘れ、気が付けば誰かに操られるようにお百度を始めていた。

一度……


五度……


十度……


十五度……


二十度……


二十五度……。

夢の中と思えない、本当の現実としか感じられない疲労感。

気が焦ってペース配分を間違え、足がパンパンになったので二十五回目の途中で下に戻る前に境内で休む。

「お疲れ様」

あんじゅ「っ!」

夢であって夢でない。

でも、誰も居ない世界だと思い込んでいたあんじゅにとって、先ほどとは違う人の声に驚きを隠せなかった。

「あ、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ」

あんじゅ「……いえ、宮司さん?」

「うーん、まぁそういうことでいいかな。それよりも、お百度をするつもりかな?」

あんじゅ「だってすれば大好きな人とまた長い間、以前よりもっと楽しい時間を過ごせるから」

最初の半信半疑ではなく、何かに憑り付かれたようにお百度をすれば過去に戻れると妄信している。

「そっか。それは自分の為だけに?」

あんじゅ「いいえ、出逢ってからずっと守られてきた。今も大事に守られてる」

あんじゅ「でも、時を戻れば今度は私がにこを守ってあげられる。大切にしてあげられる」

「自分の為でもあるけど、にこにーの為でもある、と」

あんじゅ「そう!」

「そっか。現在までの流れを把握しているから守りきれると?」

あんじゅ「絶対に守ってみせる」

怪しい宮司を睨むあんじゅ。

「果たしてそれがにこにーの為になるのかな? 傷つくのは誰だって嫌だよ。でも、だからこそ強くもなれる」

「ソレを経験する前では知らなかった価値観や経験を得られる。守られているだけじゃ決して見えてこない世界を知れる」

「そして何より、知識があれば絶対に守れるというのは傲慢であり、不足の事態に動いた時に自分の行いに絶望する」

「そこで気付くことになるんだ。元居た世界が如何に幸せであり、奇跡の産物であったのか」

あんじゅ「奇跡の産物?」

「誰に指示された訳でなく、自分達で見つけて、出逢って、輝こうとする青春の日々」

「やり直すことの出来ない時間だからこそ、その一瞬を笑顔で在ろうと出来る」

「今この瞬間を楽しめるのはね、戻ることがないと知っているから。逆に一度でも戻れたらもう一度戻りたいと願う」

「何度も何度も繰り返し戻りたいと。例えそれが叶っても永遠に前に進めなく」

「そんなことよりもさ、今この瞬間を楽しめば後から結果が付いてくるんだから、笑顔で突き進むだけでいい」

「心躍る場所が掛け替えのない場所なんだから」

あんじゅ「そうですね。守られてきたけど、だからこそ私はにこの妹になれた」

あんじゅ「もし戻って守る立場になってたら、今の関係は絶対にありえなくなって、きっと戻りたいと願ってた」

あんじゅ「掛け替えのない今という時間はたった一度きり。だから最高に楽しくて……幸せで」

「だったらお帰り。夢から覚める呪文がある。それは毎朝好きな人に伝えたいと思う言葉」

――矢澤家

あんじゅ「おはよう、にこ!」

にこ「盛大に昼間で寝てた癖に何がおはようよ」

あんじゅ「にこってば寝起きからツンツンしちゃって可愛い~♪」

にこ「寝起きなのはあんただけよ。こころとここあなんて午前中からお弁当持って友達とお出掛けだってのに」

あんじゅ「あんじゅはにこの妹だから~♪」

にこ「今更言われなくてもそんなこと分かってるわよ。だからもう少ししっかりしろって言ってんの!」

あんじゅ「そうそう、聞いて! 今日ね、変な夢みたの」

にこ「人の話を聞くのはあんたが先でしょうが……。はぁ~、それでどんな夢を見たって?」

あんじゅ「んっとね――」

にこ「――随分と臭いこと言う宮司ね。私だったらそんな奴の言葉に従わないけど」

あんじゅ「従わなかったなら永遠に覚めない夢の世界に連れて行かれてた気がする」

あんじゅ「それこそ、何度も何度も繰り返し時を遡行して、一生前に進めない終わっている世界に」

にこ「いつこの世界はSFが日常化したのよ」

あんじゅ「なんでもいいや! 今この瞬間が最高に幸せなんだって再認識出来たから☆」

にこ「その前にお払いにでも行った方がいいんじゃないの? その宮司はきっと悪霊よ」

あんじゅ「んー、ストーカーだったんじゃないかな?」

にこ「夢にまで出てくる程にあんたを追い詰めるストーカーが居たの!?」

あんじゅ「違う違う。物語の案内人って意味のストーカーだよ」

にこ「間際らしいわね。どちらにしろ、そんな臭い台詞を吐く奴に限って、一度の挫折で引きこもりになったりすんのよ」

あんじゅ「臭い台詞と関係ないよ」

にこ「なんか今日は私が変な夢を見る気がするわ」

あんじゅ「これは何かのフラグかな?」

にこ「だとしたら嫌なフラグね」

あんじゅ「神田明神行ってみる?」

にこ「嫌よ。夢の中で会ったって宮司が実在したらリアルナイトメアじゃない」

あんじゅ「あ~にこってば怖がりにこ~♪」

にこ「怖がってないわよ。あんたのことを心配してあげてるんでしょ!」

あんじゅ「ぐふふ♪」

にこ「変な笑いするんじゃないわよ、この愚妹!」

翌日、にこは長い不思議な夢を見た。

そして、目が覚めると寝惚けながらもノートに一つの曲を書き上げた。

それはSMILEによるカラオケ大会で優勝した絵里のセンター曲となる。

曲名は『歌姫より...』

たどたどしい歌詞なのに何故か心に響く、アイドルらしくないそんな歌。

この曲を披露して以降、絵里がSMILEの女神と称されることになるのだけど、それはまだ先のお話。 (完)

策士ポジションの先輩ということもあり、特別出演。

何で宮司の格好なのか、誰得なのかはともかくとして、次スレへ!


にこ「夢を諦めたスクールアイドル」 完結編
にこ「夢を諦めたスクールアイドル」 完結編 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425203370/)


1000ちゃんの中の人が早く良くなりますように!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月17日 (金) 16:04:34   ID: CpGdMPHo

期待

2 :  SS好きの774さん   2014年11月27日 (木) 00:25:57   ID: _orwIiG4

設定は違えどキャラが生きていて本当脳内再生余裕過ぎる!
特にことりとアライズのやりとりが素晴らしい!
この後も期待してます!

3 :  SS好きの774さん   2014年12月28日 (日) 04:23:11   ID: Gkvd1vdP

設定が面白い!
IFということで、この世界を映画化してもいいくらいw

4 :  SS好きの774さん   2015年01月02日 (金) 13:19:43   ID: 8_UZSRNg

これがあるから頑張れる

5 :  SS好きの774さん   2015年01月18日 (日) 21:24:31   ID: Et3v9uqi

にこあんが好きすぎる!
期待しかない

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