サーナイト『お嬢様の初デート相手が見知らぬ男だなんて!』(28)


 とある屋敷


サーナイト『いったいどういうことですか!?』

女「うう……サーナイト、私の頭に思念飛ばすのやめなさいよ……怒ってるのは充分わかったから……」

サーナイト『そもそもお嬢様がデートとは何事ですか!--いえ、お嬢様もお年頃、そういう事に興味を持つことは理解します。ですが!』

サーナイト『相手はどこのポニータの骨かもわからない男!私は許しませんよ!』

女「……怒らないでよサーナイト。私だって明日が怖いの。……デート、とか、したことないし……私なんかで相手が務まるのかしら……」

サーナイト『明日!?まさかデートは明日というんですか!?』

女「ええ。明日よ」

サーナイト『……私には……例えお嬢様に嫌われようとも、お嬢様を一日部屋に閉じ込める覚悟があります』

女「閉じ込め……!?駄目!それは駄目なの!……ちゃんと話すから、お願いサーナイト!あなたも一緒じゃなきゃデートに行けないんだから!」

サーナイト『ど、同伴だと……!?』






 魔法少女×ラブコメ×元ネタ侵略者




サーナイト『--事情は把握しました』

サーナイト『お嬢様の通う図書館、その司書さんが犯人ですね』

女「犯人だなんて……人聞きの悪い言い方しないでよ」

女「私が……司書さんに成り代わってデートするだけじゃない」

サーナイト『だけ、じゃないです。なんなんですかその司書さんは!』

サーナイト『ネットで知り合った相手と初めて会うのに、お嬢様に行けだなんておかしすぎます』

女「……確かに、司書さんが相手の方に年齢を偽って言ったのはいけない事だと思うわ。……でも、それは女性にはよくある事だとお父様が」

サーナイト(あの親父殿はなんてことを言いやがるのでしょうか)チッ

女「サーナイト?今なんて?私に何も伝えなかったけど……何か言ったわよね」

サーナイト『お気になさらず』ニコッ

サーナイト『それで、年齢を偽り年下の男と会うことになった司書さんは、土壇場で会うのが怖くなり』

サーナイト『お嬢様に代役を頼んだと』

女「彼女には市街地で一人迷子になった私を助けてくれた恩があるわ。今度は私が彼女を助けなきゃ」


サーナイト『そのような恩、あの時お嬢様が私を供に連れ出してくれなかったからそうなったのであって……』

女「サーナイト……」

サーナイト『…………』ハァ

サーナイト『……お嬢様は、可憐な外見にも関わらず、とても頑固です』

サーナイト『きっと、私が何を言ってもお嬢様の意志は変わらないのでしょう』

女「……一緒にデートに行ってくれる?サーナイト」

サーナイト『……行きます。絶対ついて行きます。私の同伴が条件なのもまたおかしいな話と思いますが、お嬢様を一人でデートなんぞに赴かせるよりは何百倍もマシです』

女「良かった……!ありがとうサーナイト!」

サーナイト『それに……』

サーナイト『何時敵が襲ってくるかもわかりません。お嬢様の秘密を知られるわけにもいきません』

サーナイト『私が全力でフォローさせて頂きます!』グッ





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 翌日 朝
 待ち合わせの時間まで残り一時間
 とある遊園地前


女「……ねぇサーナイト。私の格好変じゃない?浮いてない?」

サーナイト『自信を持って大丈夫だと、とても可愛らしいと申し上げます。私と屋敷の皆さんの目に狂いはありません。そしてこの質問は本日五度目ですよ』

女「だ、だって……道行く人が見てる気が……」

サーナイト『元より市街に出れば見られていたでしょう。見られるのはお嬢様の顔立ちがお綺麗だからです……』

女「うう……」

サーナイト『お嬢様、昨日の意気はどうしたのです。あんなに張り切っていたではありませんか』

サーナイト『今日だって、指定の時間から一時間も前に到着してしまうし』

女「遅れたら大変じゃない……それに、私が上手くやらないと司書さんのイメージが悪くなるって考えたら……緊張しちゃって……心を落ち着ける準備が欲しくて」

女「男の人とデートなんて初めてだし……沢山勉強したつもりだけど上手くいくかどうか、」

サーナイト『……沢山、勉強?お嬢様、いったい何を--』



チャラ男A「君、可愛いねー」

チャラ男B「一人?遊園地の前で何してるの?俺達と一緒に遊ばないー?」


女「え……?あ、いや、私……人と待ち合わせをしていて」

サーナイト『まさかこの方々ではないでしょうね』コソッ

女「いいえ。その男の人はポケモンと一緒に来るとの事なので……この方々のどちらかがポケモンには見えないし……」


チャラ男B「ポケモンと話してるの?仲良いんだー、んじゃ俺達とも仲良くしてもらいたいなー」

チャラ男A「サーナイトならアリ。俺イケるわ」

チャラ男B「ちょ、変態かよお前」ゲラゲラ


サーナイト『お嬢様、この方々をぶっ飛ばしてもよろしいでしょうか』

女「待って、駄目よ……!とにかく、」


女「ごめんなさい。私人と待ち合わせをしていまして、あなた方にお付き合いすることは出来ません」


チャラ男A「そんなのすっぽかしちゃえよ!いこいこ!!」グイッ


女「あ……やめて下さい!」
サーナイト『!!』


チャラ男B「大丈夫大丈夫その待ち合わせ相手?って奴には俺達から謝っといてやるよ。--連絡先しらないけど」ゲラゲラ

チャラ男A「こんな上物滅多にいねぇよなー」ゲラゲラ グイグイッ


女「お願いします!手を離して下さい!」

サーナイト『下劣な輩め……!お嬢様に汚らしい手で触れるなど許せません!!吹き飛--』

女「駄目サーナイト!」


男「すみません」


チャラ男A「あーん?野郎が何のようだよ」ニヤニヤ
チャラ男B「なになに?俺達野郎には厳しいよ?邪魔すると痛い目みちゃうよー」ニヤニヤ


男「その子達俺の連れです。離してもらえませんか?」


女「え……」
サーナイト『…………』



チャラ男B「なに?お連れさん?じゃあこの子借りてくわー」ニヤニヤ
チャラ男A「しつこいと殴るぞこら」ニヤニヤ


男「離して下さい。それに、遊園地の前で問題起こすのはイメージダウンに繋がりますし、遊園地の警備員さん達が黙ってないと思いますが」


チャラ男B「警備員がいちいち気にしてるわけないだろ」ニヤニヤ
チャラ男A「もういいや殴って黙らせるわ」

トントン

チャラ男A「ああ!?誰だ俺の肩叩いてやがるのは!」クルッ

警備員のワンリキー「」キッ
警備員のゴーリキー「」ムキッ
警備員のカイリキー「」○ッキ


チャラ男AB「」




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 遊園地前


女「--あの方達、どこへ引きずられて行くのでしょうか」

男「……知らない方がいいと思う。俺も踏み込みたくないと思う領域だから」

サーナイト『同感です』

女「!!」ハッ
女「あ、あの、すみません!私助けて頂いたのにお礼を言うのを忘れて!」

女「助けて頂きありがとうございました」ペコッ
サーナイト『私からも礼を言わせて頂きます。有り難う御座いました』

男「いや、俺は何もしてないようなもんで……え、今、声……?もしかしてサーナイト、さん?」

サーナイト『はい』

女「サーナイトは触れた相手に自分の言葉を伝える事が出来るんです。……私には触れなくても出来るみたいですけど」

男「はは、凄いな。羨ましいよ」

男「……でも、さ、せっかくお礼言ってもらった所悪いんだけど。警備員を呼んだのは俺じゃないんだ」

 ヒラリ

ウルガモス『よう男。間に合ったみたいだな、良かった良かった』


男「ありがとな、ウルガモス。おかげで助かった」

ウルガモス『おう。あのカイリキーに声かけるのは結構勇気いったぜ。なんてな』

女「このポケモンは……」
サーナイト『確か……ウルガモス。たいようポケモンと分類されているポケモンかと』

男「紹介するよ。俺の相棒。ウルガモスっていうんだ」

ウルガモス『悪かったな、俺達がもっと早く気付けてりゃ変な奴らに絡まれないですんだのに』

女「で、ではウルガモス、さん!助けて頂きありがとうございました!」ペコッ

ウルガモス『え!?あ、おう、……わざわざ礼言われるとかなんか気恥ずかしいな』

サーナイト『私からも礼を言わせて頂きます。ありがとうございました』

ウルガモス『おう。どういたしまして。……なぁ、俺も、ああいう人間はぶっ飛ばしてもいいと思うぜ』コソッ

サーナイト『おや、気が合いますね。私今も少しぐらい痛い目を見せておけばと思っています』

ウルガモス『ある意味タイミング悪くてごめんな。でも……実際痛い目にはあうだろ。それで許してくれよ』クスッ

女「サーナイト、もしかして悪い事を話しているの?顔つきが黒い」


サーナイト『いえ、そんなことは』

女「ウルガモスさんに変な事言っちゃ駄目なんだから」

サーナイト『考えすぎですよ、お嬢様』クスッ

ウルガモス『え、お前あの子と話せるのか?』

サーナイト『はい。私は少々特殊でして』

ウルガモス『いいな、羨ましいよ』
 モフッ
男「驚くよな、ウルガモス。俺も羨ましくてさ」

サーナイト『……ふふっ、あなた方も大体は通じてるじゃないですか』

女(もふもふ撫でててる……羨ましい)




男「あー、そうだ。立ち話もなんだし、ちょっと早いけど遊園地入ろうか?」

女「あっ……あの、そうしたいのは山々ですが、私達、待ち合わせをしている相手がいまして……その方を待たなきゃ、いけないんです……!」

男「……え?」
ウルガモス『……へ?』



ウルガモス『あの野郎……!男に変な頼みしてくる上に俺達の事すら伝えてなかったのかよ!』

サーナイト『…………』


女「本当に……ごめんなさい……」

男「あー、もしかして、聞いてない?俺達のこと」

女「……え?」

男「俺達も待ち合わせでさ。相手はサーナイトを連れた女の子、約束の時間は一時間近く先だけど」

男「多分、君達の待ち合わせの相手は俺達だと思う。……待たせたみたいだ、ごめん」

女(私より年上……けれど、若い、男の人。待ち合わせの時間がまだ先の事も知ってた、ポケモン--ウルガモスさんが一緒、条件に合うから、)

女「じゃああなたが私のデートのお相手ですね!」

男「……うん。そう」

ウルガモス『男ですらギリギリ犯罪を疑う年の差。あの野郎何考えてんだよ』ボソッ

サーナイト(……ああ、そういうことか)


女「では、その……まずは自己紹介から。私は女と言います。こちらはサーナイト」

サーナイト『お嬢様のお付きをしています、本日はどうぞよろしくお願いします』ペコッ

女「本日はよろしくお願いします!」ペコッ

男「俺は男、こっちは……さっきも言ったけど、ウルガモス」

男「こちらこそ、よろしく」ペコッ

ウルガモス『礼儀正しい子だな。よろしくな!』ペコッ


女「確かに少し早いですが、これより……デート開始、です……が……男、さん」

男「なに?」

女「お手を、お借りしてもよろしいでしょうか」

男「うん、いいよ」スッ

女「では!」ギュ

男「!」

ウルガモス『おー、積極的な子だなー。初っ端から手ぇ繋ぐか』

女「デートとは、男女が手を繋ぐ事から始まる、そう聞き及んでおります。お嫌でしょうか……!」フルフル

男「……嫌じゃないよ。じゃ、行こうか。デート開始だ」ギュ

女「はいっ!」ニコッ


ウルガモス『……オトされるなよー、男ー』

サーナイト『ウルガモスさん』

ウルガモス『何?』

サーナイト『もしかしたら、私達は同じなのかもしれません』

ウルガモス『同じ?何が?』

サーナイト『成り代わり。代理のデート』

ウルガモス『!!』

サーナイト『……その反応を見る限り、ですね。これの件はお嬢様には伏せさせて頂きますので』

ウルガモス『いいのか?……なんかこれってお互い騙してるみたいでさ……』

サーナイト『いいんです。このままで。……あの方なら無害そうですし、』

サーナイト『お嬢様にも、年相応の楽しみを味わってもらいたいですから……』





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 遊園地内


女「わぁ……!すごい……!!」

男「遊園地、あまり来たことなかったり?」

女「す、すみません!お恥ずかしながら……初めて、でして……おのぼりさんのように口を開けてしまいました」

男「気にしないでいいよ。俺も慣れる程来ないしね、遊園地」

男「にしても……そっか、初めてか。……そうだ、今日はせっかくのデートだし、女ちゃんの乗りたい物、行きたい所、全部に付き合うよ」

女「!!そんな……!悪いです、デートはお互いの意見を尊重し……!!」

男「俺の意見は『君が乗りたい物』なんだからさ、充分尊重してるよ」クスッ

女「……っ、本当に、本当に……いいんですか……?」フルフル

男「いいよ。--ほら、女ちゃん。まず初めに何に乗りたい?」

女「で、では……!」フルフル

女「あれを……希望します……!」

男「あれ?あれって……、」


 キャー ギャー


男「!!?」


サーナイト『ジェットコースターですね』

ウルガモス『ジェットコースターだな』


女「駄目、ですか……?」

男「だ、駄目じゃない。大丈夫。そ、その……行こうか」

女「はい!」ニコッ


 パタパタ
ウルガモス『男っ!男っ!ど、ん、まいっ!』ニヤニヤ

男「ウルガモス……あとで覚えてろよ」ボソッ





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 ジェットコースター前


係員「お連れのポケモンですか?--はい、お乗りになれますよ」

ウルガモス「」

女「良かったわねサーナイト!私達、一緒に乗れるみたい!」

サーナイト『そうですね。嬉しいです』


男「…………」ガシッ

ウルガモス『いやいやいや!俺は無理だから!普通に考えて無理だから!サーナイトはわかるよ人型だろ!?俺は蛾じゃんもろ蛾じゃん!だからな!離して!離してくれよ男っ!』バタバタ

係員「こちらは……うーん、」

ウルガモス『ほら無理そう!ごめんな男俺はジェットコースター乗れないみたいだ!マジごめんな!頑張って来いよ!?』

係員「重さをお訊きしても?」

男「50kg無いです」

係員「では大丈夫ですね」

ウルガモス『--へ?』

係員「ではこちらへどうぞー」


女「良かった……!皆で乗れるんですね!」

サーナイト『そうですね』チラッ

男「さぁ……行こうか……ウルガモス……」

ウルガモス『うそ……だろ!そんな事があってたまるかよおお!!誰だポケモンも乗れるようなジェットコースター開発した奴!余計な事してえええ』バタバタ

男「ふははは、往生際は悪いぞー、道連れだ道連れー」


女「……サーナイト、ウルガモスさん、もしかしてジェットコースターが嫌なのでは」

サーナイト『いえ、楽しみすぎて仕方がないと言っています』ニコニコ

ウルガモス『サーナイトお前ぇええ!!』



ジェットコースター:発進!



女「あははっ!風が気持ちいいーっ!」
サーナイト『ふふっ、スリルがあって楽しいですね!』

ウルガモス『うわあああああああああ!!ぎゃああああああああ!!死ぬ!死んじゃううううう!!』ブルブルガクブル
男「」ブルブル

ここまで。寝る。
ぷひぷひ支援ありがとう。また始めてみる

 

 数分後
 ジェットコースター前


男「…………」
ウルガモス「…………」

女「楽しかったですね!男さん!ウルガモスさん!」

男「……そう、だね……」
ウルガモス「…………ぷひ…」


女「……男さんもウルガモスさんも……顔色が悪いような」

男「……大丈夫。気のせいだよ」

ウルガモス『……ああ、そうだ。気のせい気のせい……』

サーナイト『お嬢様、紛れもないご本人達が大丈夫と仰っているのです。大丈夫に決まってますよ』

ウルガモス『お前良い性格してるよな……』

サーナイト『お褒めの言葉ありがとうございます』

ウルガモス『……褒めたつもりじゃねぇよ……』


男「……女ちゃん、次は何に乗る?」

女「また私が決めてもいいんですか!?」

男「全部付き合うって、俺言ったじゃないか……」

女「ありがとうございます!!では……次はあれに乗りたいです」

男「あれ……って、」


 キャー ギャー


男「」
ウルガモス「」

サーナイト『ジェットコースターですね。さっきのとは違うタイプの』

女「先程の激しい風と一瞬の浮遊感が忘れられなくて……その、また同じような物で申し訳ないのですが」

男「…………」

男「ウルガモス」

ウルガモス『……何?』

男「覚悟を決めよう。この子はそういう子だ」


ウルガモス『……は、ははは……そんな覚悟決めたくない……』






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 遊園地内
 昼


男「……次の、乗ったら、お昼にしようか……」

ウルガモス「……ぷ、ひ……」

女「はい!では、最後はあれに!!」


 キャー ギャー バチャーン


男「」
ウルガモス「」

サーナイト『また高い場所からの急降下ですか、最後は水に落ちるというのが先程までの物とは違いますね』

サーナイト『流石お嬢様。とてもわくわくする選択です』

男「…………、」

ウルガモス『ねぇ、知ってる?俺炎タイプなんだ。分類上虫と炎の複合タイプ』

サーナイト『存じております』

ウルガモス『悪いけど、無理だわ。水落ちはさ』

サーナイト『--今まさに水落ちしようとするあちらをご覧になれば、ご安心出来るかと』

 ワー キャー

女「サーナイト!見て!!最前列のヒトカゲが手を振ってる!!すっごく楽しそうよ!」

 サブーン

ウルガモス『尻尾の炎が消えると……死んじゃうんだろ……!?』


男「……ウルガモス」

ウルガモス『なんだよ……!!』

男「合羽、配布してるんだってさ……」

ウルガモス『合羽着てる奴ら沢山見たしわかってたよ……!』



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 遊園地内 ベンチ
 昼 


男「はい、これ。女ちゃんの分。……あと、こっちがサーナイトさんの」

女「ありがとうございます」

サーナイト『有り難う御座います』

 手渡された包みは、思った以上に暖かかった。
 包みの隙間から立ち登る湯気に混ざる匂いが食欲をそそる。
 だが、すぐに包みを開ける事はしない--彼がまだ、隣に座っていないから。

男「隣、座るね」

女「はい」

 宣言通り隣に腰を下ろした彼は、浅く息を吐いた。
 その手には同じ包み紙。--だが、漂う香りは少しだけ違う。

女「味付け」


 苦手なはずのアトラクションも全て付き合ってくれた。だからわかる。
 彼はわかってて自分に従ったのだと。
 食べられない物が混ざるこれを、自分に合わせてお昼ご飯に選んでくれたのだと。

女「………くぅ……」

 後悔した、彼の優しさに付け込んだ自分に。
 後悔している。のに--目の前のこれは、どうしてこんなに美味しそうに思えてしまうのだろう。


女「おのれ……ホットドック……!!」グググッ


男「あまり強く握ると中身が出ちゃうよ、って、」

女「きゃあ!ケチャップが」

男「あちゃー、言うのが遅かったか」


サーナイト『はしたないですよ、お嬢様』

ウルガモス『どんまいどんまい。とりあえずこれ、美味いぜ』モグモグ

サーナイト『おや、本当だ。なかなかのお味で』モグモグ

サーナイト『お嬢様も変な意地張らず早めにお食べになった方が良いですよ。せっかく作りたてなのですから』

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