のっぺら嬢(のっぺらじょう)「こんな顔ですが…」(225)


ザザアァァアアァァァ…

男(ひー、すっげー雨!)

男(会社に置き傘しててよかったわ)

?「ひっく…どうしよう…」

男「ん?」

?「たす…っく、けて…ぐす…」

男(!!傘もささないで、女の人がうずくまってる!?)

女「誰か…ひっく」

男(しかも、泣いてる!)
男「ど、どうしたんですかっ!?」

女「!あのっ…」クルッ

男「!??」

男「っか!!!!!!!!!」ゾッ


男「かかか顔が無いっ!!??」

女?「あのっ、わ、私は俗に言うのっぺらぼうなんですけどっ…!」

男「あ、ああ…あ…」ガクガク

のっぺら嬢「こ、こんな顔ですいませんっ」ペコペコ

男「ああああ…」アトズサリ

のっぺら嬢「お願い!逃げないでっ!」

のっぺら嬢「この子を…、仔猫ちゃんを助けて下さいっ!!」

仔猫「…」グッターリ

男「あぇ?」

のっぺら嬢「ここ何日かは元気だったんですけど…!」

のっぺら嬢「この雨で冷えて、具合が悪くなったみたいでっ!」

のっぺら嬢「さっきからぐったりして、声もあげないんです!」


男「あーっと…」

のっぺら嬢「どうしようぅっ…えぐっ、このままじゃ…この子…あああっ」

のっぺら嬢「お願いしますっお願いしますっ!」ペコペコ

男「えっと…」ゴクリ

男「…あんた、俺を襲ったりしないか?」

のっぺら嬢「ひくっ、え?」

男「バケモノ、なんだろ?人を食ったり襲ったりしないのかって…」

のっぺら嬢「はい!ひっく、しません!ちょっと驚かしたりしますけど、危害は加えません!信じてください!」


男「…うん、そうか。わかった」


のっぺら嬢「えっ!?」

男「近くに動物病院がある」

男「確かまだ開いてるはずだから、行ってみる」

のっぺら嬢「本当ですかっ!?」

のっぺら嬢「ありがとうございます!ありがとうございます!」ペコペコ

男「仔猫をこっちに」

のっぺら嬢「お願い、します」

男「よっと…」スッ

仔猫「…」グッタリ

男「はい、傘」

のっぺら嬢「え?」


男「この子を抱いてたらさせないし、急ぐから邪魔になるし」

男「君もずぶ濡れじゃないか」スッ

のっぺら嬢「あ」

男「じゃ、行ってくる」ダダッ

のっぺら嬢「あ、あのっ…」



のっぺら嬢(私を見て、逃げなかった…)

のっぺら嬢(それに傘まで…)


ザザアァァァァ…



――
―――


男「では、よろしくお願いします。ありがとうございました」

ウイーン

男「へっぷし」

男(さむ…。一雨ごとに寒くなるな)ブルッ

のっぺら嬢「あの…」

男「どわあぁあぁっっ!」ビクビクビク!

のっぺら嬢「ああっ!ごめんなさいごめんなさい!」

のっぺら嬢「顔が無くて、驚かせてごめんなさい!」ペコペコペコペコ!

男「あの、ああ、いや…」ドキドキ

のっぺら嬢「ごめんなさい…」ウツムキ

のっぺら嬢「あの、これ傘…」スッ

男「ああ、うん」


のっぺら嬢「…ありがとうございました」ウツムキ

のっぺら嬢「それで…あの…仔猫ちゃんは…?」ウツムキ

男「あ、ああ。少し衰弱してたのと、風邪をこじらせたみたいで様子見で入院」

男「命に別状は無いって」

男「先生もここが自宅だから、たまに様子を看てくれるってさ」

のっぺら嬢「よかった…」

男「健康診断とかもして、何もなければ明日には退院できるみたいだ」

のっぺら嬢「はぁあぁあぁ…よかったよぅ…ぐすっ」ポロリ

男「あの…顔、上げなよ」

のっぺら嬢「ひくっ、え?えっ!?」


のっぺら嬢「でも、私のっぺらぼうで気持ち悪いですから…ずず」

男「さっきはすまなかった…」

のっぺら嬢「はい?」

男「バケモノとか言っちゃって、ごめん」

のっぺら嬢「え?あ、と、妖怪ですから、事実そうなんですけど…」

男「仔猫の心配する優しい人…、っていいのかわかんないけど」

男「とにかく、優しいのに」

のっぺら嬢「あなたこそ、私なんかのお願いを聞いてくれて」

のっぺら嬢「傘まで貸してくれて」ウツムキ

男「だから、顔上げなって」

のっぺら嬢「えっと…」

のっぺら嬢「…で、では////」ソッ




男「ふーん…」ジーッ

のっぺら嬢「あの…そんなに見つめられると…////」ドキドキ

男「あ、ごめん」

男(ちゃんと赤くなるのか…)

男「口はあるんだな」

のっぺら嬢「はい」

のっぺら嬢「目と鼻はありません」

男「…どうやってモノを視てるんだ?」

のっぺら嬢「えーっと、なんか普通に見えるんですけど…」

のっぺら嬢「どうやって見てるんですかね?」

男「なんじゃそら」


のっぺら嬢「まあ、バケモノ…ですから…」

男「そう言うなって、へっ…」

男「へっぷしん!」

のっぺら嬢「大丈夫ですか?」

男「ううっ、寒い」ズルル

のっぺら嬢「めっきり秋も深まりましたからね」

男「早めに帰るよ」

のっぺら嬢「そうして下さい」



のっぺら嬢「あの…」

男「ん?」

レスありがとうございます

まだ最後まで書き溜めていないので、多少ゆっくりのペースになるかと思いますが、最後までおつきあい頂けると幸いです


のっぺら嬢「また仔猫ちゃんの様子、見に来てくれるんですか?」

男「もちろん。明日また来るよ」

男「家もけっこう近くだからな」

のっぺら嬢「そうなんですか」

のっぺら嬢「ではあの、それで…えと…」モジモジ

男「どうした?」

のっぺら嬢「わ…私にも…仔猫ちゃんの様子、教えてくれませんか?」

のっぺら嬢「あまり明るい時間帯だと、私はこんなのなんで」

のっぺら嬢「今ぐらいの時間になっちゃうんですけど…」

男「優しいなぁ、君は」

のっぺら嬢「はぇっ!?////」


男「じゃあ、明日のこれぐらいの時間に、ここらへんで待ち合わせする?」

のっぺら嬢「いいんですかっ!?」

男「いいも何も、心配だろ?仔猫の事」

のっぺら嬢「なっ、何から何までありがとうございます!」ペコペコペコペコ

男「…ははっ」

のっぺら嬢「な、何かおかしいですか?」

男「いや、ふふふ、なんかちょっとカワイイなって」

のっぺら嬢「なっ、妖怪相手に何を言うんですか!////」

男「仔猫の為に一生懸命になって」

男「おまけに礼儀正しい律儀な妖怪って」


男「全然怖くないや、はははっ」

のっぺら嬢「ううー////」カァァァ

男「名前、まだ聞いてなかったな」

のっぺら嬢「はい?」

男「お互いの名前、まだ言ってなかったよな」

男「俺は男」

のっぺら嬢「あっ、あ、あの、わたた、わたしはっわたたた、私のなまなな名前は」

男「おいおい、落ち着けってば」

のっぺら嬢「すいません!すいません!」ペコペコ

のっぺら嬢「普通の人間の方に、名前を聞かれたのなんて初めてで…」

のっぺら嬢「私は…のっぺらぼうののっぺら嬢です」ペコリ


男「よろしく、のっぺら嬢さん」スッ

のっぺら嬢「は、はい…」スッ

アクシュアクシュ

男「猫が繋げた縁ってことで、な」

のっぺら嬢「…はい」

男「ふぇ…」

男「ふぇでっくしっ」

のっぺら嬢「わっ!さっきからクシャミばっかりですよ!」

男「うん…」ズルル


のっぺら嬢「早く帰って下さいって言いながら、長話してすいません」ペコペコペコペコ

男「いや、大丈夫」

のっぺら嬢「仔猫ちゃんの事と言い、傘と言い」

のっぺら嬢「今日は本当にありがとうございました!」

のっぺら嬢「明日もお世話になりますがよろしくお願いします」ペコリ

のっぺら嬢「では!」

タッタッタッ…

男「あっ…」

男(行っちゃった…)

男(今さらだが…、夢じゃないんだよな)

ザァァァ…

男(あ)

男(少し小降りにはなったけど)

男(あの子、雨大丈夫かな?)


男「ふぃっくしっ!」

男「んああっ」ブルルッ

男(ホントに寒くなったな)

男(早く帰ろう)

男「へっくしんっ!」



―――
――


―翌日―

のっぺら嬢(男さん、来てくれるのかな…)ドキドキ

のっぺら嬢(それにしても…初めてだな、あんなに人と喋ったの…)

のっぺら嬢(私みたいな妖怪を気味悪がらずに優しくしてくれて…)

のっぺら嬢(素敵だな…男さん…////)ドキドキ



のっぺら嬢(はっ!?////)

のっぺら嬢(ダメだダメだ!)

のっぺら嬢(私は妖怪なんだから、そんな気持ち持っちゃダメだ)

のっぺら嬢(妖怪…なんだから…)

のっぺら嬢(…)



ウイーン

男「ありがとう…ございました」

のっぺら嬢(あ!)

のっぺら嬢(もう様子を見に来てくれたんだ!)タタッ

のっぺら嬢「男さんっ!」

のっぺら嬢「…あ!」

のっぺら嬢(しまった!また驚かせちゃう!)

男「うん?ああ…のっぺら嬢さん…」

のっぺら嬢(あれ?驚かない?)

のっぺら嬢「その、あの…仔猫ちゃんはどうでしたか?」


男「…ああ、うん…」

のっぺら嬢(え…暗い返事?)
のっぺら嬢「な、何か良くなかったんですか?」

男「いや、仔猫は…元気になった…みたいだ」

のっぺら嬢「そうですか…」ホッ

男「入院は…もう一日することにした」

のっぺら嬢「え?どうしてですか?」

男「うん…」

フラリ…

男「あ…」ガク

のっぺら嬢「男さん!!?」ガシッ


のっぺら嬢「んぎぃー!!…お、重い…!」

男「ご、ごめん…」

男「ちょっとカゼを引いたみたいで…」

のっぺら嬢「男さん昨日っ…、クシャミたくさんしてました!」

ヒタ

のっぺら嬢「熱い…今日一日こんな調子だったんですか!?」

男「いや、朝はクシャミだけだったんだけど」

男「一人暮らしで昼間は仕事だから、終わってから、仔猫を迎える準備しようとか思ってて」

男「そしたら、仕事の帰りからフラフラしだして…」

男「ちゃんと…休んだつもりだったんだけどな…」


のっぺら嬢「体調が良くないなら、無理しなくてもよかったのにっ…!」

のっぺら嬢「私のせいでっ…ごめんなさいっごめんなさいっ!」ペコペコペコペコ

男「のっぺら嬢さんのせいじゃないから、気にしないで」

男「仕事がここんとこ忙しかったから…疲れが出たんだろな」フラフラ

のっぺら嬢「でも…」

男「明日にはちゃんと治して、仔猫を迎えに来るから…」

フラリ…

のっぺら嬢「あっ、またっ!?」ガシッ

のっぺら嬢「んぎぃー!!…お、重い…!」

男「また…ごめん…」


のっぺら嬢「ふう」

のっぺら嬢「…家、近くだって言ってましたよね?」

男「あ、ああ…そうだけど」

のっぺら嬢「心配なので、ついていきます」

のっぺら嬢「よっと」グイッ

男「ちょ、ちょっ!大丈夫!?」

のっぺら嬢「大丈夫!一人暮らしだと、家族に私の姿を見られる心配はありませんので!」

男「そうじゃなくて!」

のっぺら嬢「はい?」

男「重いだろ?」


のっぺら嬢「まあ…。ですけど、肩を貸さないといつコケるかわかりませんからね」

のっぺら嬢「何より、色々助けてもらったのに、放っておくわけにはいきません!」

のっぺら嬢「放っておいて、ヘタにケガをされるよりはいいですよ」

男「のっぺら嬢さん…結構言うねぇ」

のっぺら嬢「はっ!?」

のっぺら嬢「ごめんなさいごめんなさい!余計な事を!」ペコペコペコペコ


男「ホントに…ははは…優しいなぁ、のっぺら嬢さんは」

のっぺら嬢「えひゃい!?////」

男「こっちこそ、ごめん…。肩、借りるわ」

のっぺら嬢「…はいっ!」

のっぺら嬢「行きましょうか。ゆっくりでいいですから、ね」ニッコリ



―――
――




ガチャ

のっぺら嬢「お邪魔しまーす」

男「はは…」

のっぺら嬢「なんですか、また笑って」ムー


男「妖怪が礼儀正しいって、やっぱりおかしいや」

のっぺら嬢「妖怪だって色々ですよ?」

のっぺら嬢「中には…人を襲ったりする妖怪もいれば」

のっぺら嬢「幸福をもたらす者だっています」

男「へぇ」


のっぺら嬢「生い立ちだって」

のっぺら嬢「生まれながら生粋の妖怪の者」

のっぺら嬢「命を全うした後、妖怪に転生した者」

のっぺら嬢「なりたくなかったのになってしまった者…あ」

のっぺらぼう娘「…あれ?」



男「どうかした?」

のっぺら嬢「いえ…」

のっぺら嬢(なんだろ、今の感覚…)

男「あ、ベッドは…こっち」

のっぺら嬢「あ、はい。んしょ」



のっぺら嬢「よいーしょ」

ギシッ

男「ふぅ…」


のっぺら嬢「薬とかありますか?」

男「タンスの上の薬箱に」

のっぺら嬢「はい」



のっぺら嬢「よいしょ」

のっぺら嬢「水、持ってきますから」トタトタ

のっぺら嬢「コップ適当にお借りしますね」

キュ、ジャーーー、キュキュ

のっぺら嬢「はい、お水です」



男「ああ、ありがとう」

ゴクゴク、ゴクリ

男「ふぅ…」

男「ふぇ、ふぇっくしん」ズルル

のっぺら嬢「今日もずいぶん冷えそうですからね」

のっぺら嬢「さ、横になってください」

ポフ

のっぺら嬢「ちゃんとお布団かけましょうね」


男「うん」

のっぺら嬢「あの…」

男「うん?」

のっぺら嬢「ここまで来て何ですけど、本当に…迷惑じゃないですか?」

男「いや、全然。すごく助かった」

男「ありがとう」

のっぺら嬢「で、でしたら…」



のっぺら嬢「あの…」

男「ん?」

のっぺら嬢「本当にご迷惑でなければ…このまま看病っ、させて下さい!」

男「…」

男「…はい?」

のっぺら嬢「私のお願いをたくさん聞いてくれた、せめてものお礼です!」

男「いやでも…」

のっぺら嬢「…あ」

のっぺら嬢「やっぱり…私なんか、気持ち、悪いです…よね?」シュン

男「えっ!?」


のっぺら嬢「すいません、独り善がりで」ペコペコ

のっぺら嬢「今のは無かった事にして下さい」

のっぺら嬢「ゆっくり休ん… 男「そんなことないよっ!」

のっぺら嬢「え」

男「妖怪だからとか、気持ち悪いとかそんなことない」

男「それより、のっぺら嬢さんはいいのかって?」

のっぺら嬢「え?どういう事…ですか?」

男「俺の事を心配して看病するって言ってくれたのはわかる」

のっぺら嬢「…そう、です。はい」


男「嬉しいよ、すごく」ニコ

のっぺら嬢「ひぇい////」ポッ

男「でも…」

のっぺら嬢「はい?」

男「一人暮らしの男の家に…妖怪とは言え、一応…女、だろ?」

のっぺら嬢「はあ、まあ」

男「だから、いいのかな…って」

のっぺら嬢「…」

のっぺら嬢「ふっ、ふふふっ…」

男「な、なに?」


のっぺら嬢「はははっ、見た目はほとんど人間の女性でも、妖怪ですよ?」

のっぺら嬢「目も鼻もないのに…ふふっ」

のっぺら嬢「そんな私に気遣いしてくれるなんて」

のっぺら嬢「やっぱり男さん、優しいですね」ニッコリ

男(あ…なんか口元が笑ってる)

男「そうかな////」

のっぺら嬢「そうですよーぅ!」

のっぺら嬢「礼儀正しい妖怪と、妖怪を怖がらない人間」

のっぺら嬢「ふふ、ホントに、おかしいですね」


男「はははっ…だな」

のっぺら嬢「ま、さしずめ『のっぺらぼうの恩返し』ってところですよ」

男「昔ばなしみたいだ」

のっぺら嬢「ですから、男さんさえ迷惑でなければ、看病させて下さい」

男「うん、じゃあ…お願いします」ペコ

のっぺら嬢「ふふ、はいっ!」


のっぺら嬢「あ、体温計りましょうね」

スピョ

のっぺら嬢「おでこ、結構熱いですね」

男「寒気と頭痛がする…」


のっぺら嬢「…本当にごめんなさい。無理させてしまって」


男「いいよ。気にしなくて」

のっぺら嬢「…気にしてしまいますよ」

男「…ごめんな」

のっぺら嬢「ああいややややっ!?」

のっぺら嬢「そんな、いやっ、あの、男さんが謝ることじゃなくて」

のっぺら嬢「仔猫ちゃんの病院代だって、安くはないんでしょう?」

男「そんなに高額じゃないさ」

のっぺら嬢「でも、見ず知らずの…しかも顔が無いのっぺらぼうにですよ?」

のっぺら嬢「こんなに良く…してくれるなんて」


のっぺら嬢「今まで、普通の人間の方とここまで接したことが無くてですね」

のっぺら嬢「どうしてここまでしてくれたんだろうって思いましてですね…」

のっぺら嬢「不思議に、思いました」

男「そか」


ピピピピ…

のっぺら嬢「あ」

スピョ

のっぺら嬢「9度2分」

のっぺら嬢「結構出てますね」

男「平気なつもりだったんだけどな」

のっぺら嬢「タオル…」キョロキョロ


のっぺら嬢「あ、このタオル使っていいですか?」

男「うん」

のっぺら嬢「濡らしてきますね」トタトタ

キュ


ヒタ

のっぺら嬢「どうですか?気持ちいいですか?」

男「うん。ひんやりする」

のっぺら嬢「安心して寝て下さいね」

男「うん」

男「一人で寝込むより気が紛れて、楽になる」


のっぺら嬢「寝てる間に捕って食ったりしませんから」

男「怖いこと言うなよ」

のっぺら嬢「ふふっ。すいません」

男「薬、効いてきたかな…ふぁああ…」

のっぺら嬢「きっと仔猫ちゃん、男さんが迎えにくるの、待ってますよ」

のっぺら嬢「だから、ちゃんと治しましょうね」

男「ああ」



男「誰かがそばにいるって、やっぱりいいな…」

のっぺら嬢「ちょちょっと!妖怪相手に何安らいじゃってるんですか!?」


男「…変かな」

のっぺら嬢「ホントに不思議な人、ですね」

男「…うん…」

男「…」

男「…」

男「すーすー」

のっぺら嬢「あ、寝ちゃった」

のっぺら嬢「よっぽど、無理してたんですね」

男「すーぴょー、すーぴゅー」

のっぺら嬢「…ゆっくり休んでください」


―――
――


――
―――


男「…」ゴソ

男「…ん」パチ

男「…んあ」ゴロン

チラ

のっぺら嬢「すーすー」

男「どわあああっ!!」ビクビク!

のっぺら嬢「わあっ!?」ガバッ

のっぺら嬢「あ、えっ、な、なに?」


男&のっぺら嬢「あ」

男&のっぺら嬢「看病…」


男「されたんだった」
のっぺら嬢「したんだった」



男「あっと…おはよう」

のっぺら嬢「お、おはようございます」



男「ごめん、大声出して」

のっぺら嬢「い、いえっ」アセアセ

のっぺら嬢「私もタオルを取り替えたりしてる間に、枕元で寝ちゃったみたいで」

のっぺら嬢「そりゃ目覚めてのっぺらぼうが目の前にいたら、ビックリしますよね」

男「…そんなにまで看病してくれたのか」

のっぺら嬢「恩返しですから」ニコッ

男「ありがとう」

のっぺら嬢「いえ、そんなっ////」



のっぺら嬢「た、たた体調はどうですか?」

男「あ、うん」

男「体は少しだるいけど、熱は下がったっぽいな」

男「頭も痛くない」

のっぺら嬢「とりあえず回復したみたいでよかったです」

男「のっぺら嬢さんのおかげだな」

のっぺら嬢「そ、そんな…」



男「あ、部屋もちょっと片付いてる」


のっぺら嬢「男さんが寝てる間に少しだけ」

のっぺら嬢「…ご迷惑でしたか?」

男「いや、そんな事ないよ」

男「男の一人暮らしだとどうしても散らかってしま…」ハッ

のっぺら嬢「どうしました?」

男「…雑誌も…」キョロキョロ

男「片付いてる…な」

のっぺら嬢「散らばってましたので////」

男「…なぜ顔が赤い」

のっぺら嬢「えーとー、そのー、なんというかーですねー////」

男「…いろいろ見ちゃった?」ダラダラ

のっぺら嬢「若い男性なら…致し方…ないですよね!////」


男「あ、おお…」

のっぺら嬢「まあ、妖怪と言えど、色恋の知識もありますから////」

男「ああ…ごめん////」

のっぺら嬢「あわわっ、大丈夫ですよ!謝らないで下さい!」

男「…うん////」

のっぺら嬢「胸の大きい女性が魅力的なのは私も重々承知してますから!」

男「ああっ!もうっ!人の性癖をハッキリと言うなよ!////」

のっぺら嬢「あわわわ!ごめんなさいごめんなさい!」ペコペコペコペコペコペコ!

―――
――



のっぺら嬢「ど、どうでしたか?」


男「うんっ、おいしかった!」

のっぺら嬢「よかったです」

のっぺら嬢「病み上がりですからね。卵がゆでしっかり栄養を摂れるようにしました」

のっぺら嬢「生姜湯も風邪に効きますからね」

男「料理、結構できんの?」

のっぺら嬢「ええ、それなりには」

のっぺら嬢「…あれ」

男「どした?」

のっぺら嬢「なんで料理できるんだっけ?」

男「そりゃ誰かに教わったとか」


のっぺら嬢「…誰かに?」

のっぺら嬢「誰に?」

のっぺら嬢「あれ?あれ!?」

のっぺら嬢「いつ?誰に?いつ?わからない」

のっぺら嬢「…わからない?」

のっぺら嬢「なんでわからないの?」

男「お、おい大丈夫か?」

のっぺら嬢「あれ…?あ…う…」

男「の、のっぺら嬢さん?」

のっぺら嬢「…うう」ポロポロ

男「おい、大丈夫か!?」ガシッ

のっぺら嬢「はっ!?」


のっぺら嬢「あ、あの、すいません。急に変なことになっちゃって」

男「いや、いいんだけど…ホントに大丈夫?」

のっぺら嬢「ぐす、はい…」

のっぺら嬢「すいません、大丈夫ですから気にしないで下さい」

男「うん…」

のっぺら嬢「と、ところで仔猫ちゃんは…」

男「うん、迎えにいけるよ。のっぺら嬢さんの看病のおかげで、すっかり体調もよくなったし!」

男「仔猫も寂しいと思うからさ、早めに行ってこようと思う」

のっぺら嬢「はいっ!」ニコニコ

男「のっぺら嬢さんは、どうする?」


のっぺら嬢「あー、朝っぱらからホイホイ外をうろつくワケにはいきませんからね」

男「だよなぁ」

男「じゃあ、留守番…頼むよ」

のっぺら嬢「へぃ?」

男「気になるだろ?仔猫のこと」

のっぺら嬢「それはそうですけど…」

男「よし。なら早速迎えに行ってくるわ」

のっぺら嬢「いいんですか?」

男「え?なにが?」


のっぺら嬢「何がって…私が留守番、いいんですか?」

男「ああ、そゆこと」

男「うん、俺は平気だよ」

のっぺら嬢「でも」

男「のっぺら嬢さんはちゃんと俺の看病をしてくれた」

男「それだけで十分だよ」

のっぺら嬢「男さん…」

男「じゃあ行ってくるかな」

のっぺら嬢「男さん」

男「ん?」

のっぺら嬢「少しお聞きしたいことがあるんです」

男「なに?」


のっぺら嬢「どうしてそんなに…私なんかに…良くしてくれるんですか?」

男「ああ、その事か。えらく気にするんだな」

のっぺら嬢「…すいません」

男「謝ることじゃないよ」


男「うん、大したことじゃないと思うんだけど」

のっぺら嬢「はい」

男「もう1年になるか…、俺、猫を飼ってたんだ」

のっぺら嬢「そうなんですか」

男「俺が生まれた時にうちに来た猫で、長生きしたんだよ」


男「生まれてから、ずっと一緒にいたんだ」


男「俺がここで一人暮らしするようになってからは」

男「実家に俺がいないせいか一日中、にゃーにゃー鳴いて」

男「母さんが言うには、『あんたを探してるみたいだった』だって」

のっぺら嬢「ふふ、ずいぶん仲が良かったんですね」

男「うん」

男「それで、ここの大家さんに相談して、引き取ることができたんだ」



男「朝起きたら、『にゃー』」

男「行ってきます、『にゃー』」

男「帰ってきたら、『にゃー』」


男「おかげで全然寂しくなかったな…」



男「でも、猫とかってさ、人間より早く逝っちゃうだろ?」

のっぺら嬢「…ですね」

男「まあ、いつか来るってわかってたんだけど」

男「ある日、普通に朝起きて、『にゃー』」

男「行ってきますで、『にゃー』」

男「いつもと変わらない朝だったんだよ」




男「でもその日は帰ってきた時、いつもあるはずの『にゃー』がなかったんだ」



男「自分の寝床でうずくまって…」

男「呼吸も荒かった」

男「慌ててかけよったらさ」

男「少しだけ目を開けて、ギリギリ聞こえるくらいの鳴き声で」

男「『にゃー』って言ってくれたんだ」

男「それが…最期だった」


のっぺら嬢「…」

男「まるで俺の帰りを待ってたみたいだった」


男「それから、ペットの葬儀屋に供養してもらって」

男「色々片付けて…」

男「普段の生活に戻った…つもりだったんだけど」

男「あん時の寂しさったら…なかったなぁ…」

男「起きても、家を出ても、帰ってきても」

男「静かだった」


男「わかってたんだけど、実際そうなるとキツいもんがあったな…」

のっぺら嬢「…」

男「まあ、ちょっと猫に依存した男の話、情けなかったかな」


のっぺら嬢「…そ」

のっぺら嬢「ぞぉんなごど!うっぐ、あびば、えぐっひぐっ、ありまぜんよぉおおぉ~!」ポロポロポロポロ~!

男「!!?」ビクビクビク!

のっぺら嬢「あぐっ、男ざんのやざじざっ、よくつだわりまじだよぉおおぉぉ~!」ポロポロポロポロ~!

男「わっ、ちょっとちょっと!」

のっぺら嬢「うぇええやああああっ!」

男「ああっ、もう!落ち着いて!」アーターフーター




――


のっぺら嬢「ずぴ。すびばぜん、取り乱しまじだ」

男「ちょっとびっくりした」

のっぺら嬢「ずずっ、猫ちゃんに…くすん、思い入れがあったんですね」

男「ちなみにこれがその子の写真」スッ



のっぺら嬢「!」

のっぺら嬢「仔猫ちゃんと模様が一緒?」

男「そ、灰縞の、俗に言うサバトラ柄ってやつか」

のっぺら嬢「だから…」

男「そ、余計にほっとけなかった」


男「それにのっぺら嬢さんの必死さが伝わったからな」

男「あれだけ猫のために必死になれる…人?、なんだから悪いワケないだろう?」


のっぺら嬢「男さん…」

男「前置きが長くなったけど、気にかけたり、留守を任せる理由はそれ」

男「納得してくれた?」

のっぺら嬢「はいっ!」ニコッ


男(…たぶん、ちゃんと顔があると、笑ったら可愛いんだろうな)

男(そんな感じの笑顔だ)



男「よしっ、じゃあ行ってきます」

のっぺら嬢「はい!」

男「色々買い物してから病院に行くから、少しだけ待っててくれな」スクッ

のっぺら嬢「はい!いってらっしゃい!」

男「…いいな、やっぱり」

のっぺら嬢「え」

男「誰かが送り出してくれるってさ」ニコッ

のっぺら嬢「あ…////」ドキン

男「行ってきます」ガチャン



――
―――

男「た、ただいま…」

のっぺら嬢「おかえりなさー…って!?」

男「いたた…」

のっぺら嬢「どうしたんですか!?顔中、傷だらけじゃないですか!」

男「コイツ」スッ

箱「ふぎゃーにぎゃー!」ガサゴソ!

男「連れて帰ろうとしたら、めっちゃ暴れやがって…」

のっぺら嬢「あっれー?おとなしい子なんですけどねー?」

のっぺら嬢「仔猫ちゃーん?私だよー?元気になってよかったねー」


箱「…」

箱「うにゃーん」カタカタ

男「お!おとなしくなった!」

のっぺら嬢「出してあげていいですか?」

男「ああ」

パカ

ピョイ~ン

仔猫「にゃーん」

のっぺら嬢「あはっ!ホントに元気になったね!」ダキッ

仔猫「なーう」ゴロゴロ

男「…なんだこの変わり様は…」


のっぺら嬢「きっと大丈夫ですよ」

男「そうか?」ソー

仔猫「ふしゃー!」ザワッ

男「わわっ!無理じゃないか!?」

のっぺら嬢「男さんこそっ、猫に慣れてるんじゃないんですか!?」

男「あー、そうなんだけど、その子、オスだろ?」

のっぺら嬢「あ、そうですね。ついてます」チン

男(ついてるって…)

男「もしかしら、同性同士で相性が悪いのかも…」

のっぺら嬢「そんなのもあるんですか…」


男「前の猫はメスだったから」ソー

仔猫「ふしゃー!」

のっぺら嬢「あわっわっ!ダメだよ!」

のっぺら嬢「男さんはアナタを助けてくれた大事な人だよ?」

のっぺら嬢「傷つけちゃダーメ!」ハナチョン

仔猫「うにぃ」

のっぺら嬢「ふふ。イイコだねぇ」

男(おお…和むわ~)

男「しかし、俺に飼えるかな…」

のっぺら嬢「え!?飼うんですか?」

男「え、いや、一度保護したら最期まで面倒見ないと…」

男「それがマナーってか、責任だからな」


のっぺら嬢「そうですか…」

のっぺら嬢「じゃあ、時々…会いに来ていいですか?」

男「ああ、うん」

のっぺら嬢「もちろん、昼間に無闇にお邪魔したりしません」

のっぺら嬢「ですから…」

男「そんなに気にしなくていいよ」

男「いつでもおいで」

のっぺら嬢「男さん…」

男「どっちにしろ平日は仕事で昼間いないからさ」

男「夜なら都合いいだろ?」


のっぺら嬢「はいっ!」ニッコー!

男(顔が無いのが関係無いくらい、感情が溢れ出とる)

男「ははっ」

のっぺら嬢「?どうしたんですか?」

男「いや、なんでもない」

男「さ、仔猫の過ごしやすいように、少しだけ模様替えをしますか!」

のっぺら嬢「お手伝いしますっ!」ケーレイ!

男「うん、頼みます」


―――
――




――

仔猫「にゃ」ヨジヨジ

男「キャットタワー!」

のっぺら嬢「男さん…これ、結構したんじゃ…」

男「大したことなかったよ」

男「ただ、次に猫がうちに来ることがあったら、絶対欲しかったんだ」

のっぺら嬢「お、男さんの趣味ですか!?」

男「…うん////」ポリポリ

仔猫「にゃにゃ」ヨジヨジ

のっぺら嬢「がんばって登ってますね~」ニコニコ

男「あー…ただ…」


仔猫「んにぃ~…」ヨジ~…

仔猫「にゃん!」スタ!

のっぺら嬢「おおー!頂上まで行きましたね!」

仔猫「…」

仔猫「…」キョロ

仔猫「…」キョロキョロ

仔猫「にゃーにゃーにゃー!」

のっぺら嬢「あれ?どうしたの?仔猫ちゃん?」


男「仔猫あるある」




男「登るは容易、下り無理」




のっぺら嬢「…降りられないんですね」

男「仕方ないなぁ」ニヨニヨ

のっぺら嬢(男さんの顔のゆるみ方がスゴい!)

のっぺら嬢(でも…)

仔猫「ふかーっ!!」ザワワッ

男「ああっ!またしても!」

のっぺら嬢(やっぱり…)


のっぺら嬢「私が降ろしましょうか?」

男「いや。これから家族の一員になるんだ」

男「いつまでもわだかまりを残すワケにはいかないよ」

のっぺら嬢「そうですね」

のっぺら嬢「がんばって!男さん!」

仔猫「おぁー…」ザワ

男「大丈夫だから、な?」ソー

仔猫「にゃいん!」ピョン

男「あ」


ガッガリッ

男「アーーーっ!」

ピョイ~ン

仔猫「にゃん」スタッ!

のっぺら嬢「お、男さん…」

男「バンソウコウ…持ってきてくれる?」タラー

のっぺら嬢「ああっ!男さんの顔に新たなキズがっ!!」

――

多くのレス、並びに読んで頂きありがとうございます

書き溜めた分に追い付いてしまいましたので、以降、投下のペースが遅くなるかもしれません

できるだけスムーズに投下できる様努めますので、引き続きよろしくお願いいたします



――

男「うん、模様替えはこんなもんかな」

のっぺら嬢「よかったねぇ」

仔猫「にゃん!」

男「トイレもちゃんと一人でできてたし、平日の留守番も大丈夫そうだ」

のっぺら嬢「お利口さんだねぇ」ナデナデ

仔猫「なぁ~」ゴロゴロ

男「じゃあ次で最後だ」

のっぺら嬢「?まだ何か?」

男「仔猫に名前をつけないと」

のっぺら嬢「ああ!」ポン

男「コイツだっていつかは立派なオス猫になるんだ」

男「いつまでも仔猫、じゃな」

のっぺら嬢「ですね」



のっぺら嬢「そういえば、男さんが飼ってた猫ちゃんの名前は何だったんですか?」

男「トラ」

のっぺら嬢「え?」

男「サバトラ柄だったから、トラ」

のっぺら嬢「お、女の子だったって言ってましたよね?」

男「ああ…オヤジがつけた」ガックリ

のっぺら嬢「男さんのお父さん…」ガックリ

のっぺら嬢「あ、でもでも!今度は男の子ですから、いいんじゃないですか?」

男「いいのか?」

のっぺら嬢「強そうでいいじゃないですか」


のっぺら嬢「ねートラ」

トラ「うにゃん!」

男「トラー」

トラ「ふしゃーっ!」カーッ

男「なんでだよっ!?」

のっぺら嬢「わっわっ、いい子だから仲良くしようね~」

トラ「うにぃ」

のっぺら嬢「ふふっ。あ、もう外、真っ暗ですね」

男「ホント秋も深まってきたな。日が暮れるのも早い」

のっぺら嬢「じゃ、私はそろそろ…」

男「あ、うん」


のっぺら嬢「本当にいろいろありがとうございました」ペコリ

男「いや、お互い様だよ」

男「看病してくれて助かった」

のっぺら嬢「いえ////」

男「それに、傍にいてくれて…安心もできた」

のっぺら嬢「また、そんなことを…////」カァッ

男「本当に、普通の人間と思うくらい自然に仲良くなっちゃったな」

のっぺら嬢「そうですね」

男「だから、また気兼ねなくウチにおいでよ」

のっぺら嬢「あ、ありがとうございます!」ニコッ

男「コイツ…トラも楽しみにしてるだろうしな」

のっぺら嬢「はい!」


のっぺら嬢「ではお邪魔しました」ペコリ

男「うん、またな」

のっぺら嬢「はいっ!」



バタン

男「…さて」

チラ

トラ「!」

トラ「ふかーっ!!」


男「ああっもうっ!」


―――
――



―数日後―

のっぺら嬢「ねこじゃらしだよ~」ミョンミョンミョンミョン

男「…」

トラ「にー」ジリ…

男「…」

のっぺら嬢「ほりゃっ!」ミョン!

男「…」

トラ「にゃ!」ピョン

男「はあ…」

のっぺら嬢「あ、うるさかった、ですか?」

男「え!?いや、違うよ」

のっぺら嬢「でも、ため息…」


男「いや、もうね…ため息のひとつやふたつ、出ますよ」

ソー

トラ「ふしゃーっ!」

男「な?」

のっぺら嬢「私の時は、すんなりなついてくれたんですが…」

男「そのくせ、キャットタワーに登っては降りられなくて」

男「降ろそうとしたら、引っ掻かれる…」

のっぺら嬢「すいません、ご迷惑おかけして…」シュン


男「のっぺら嬢さんが謝ることじゃないよ」

男「どうしても、平日の昼間はほったらかしになっちゃうからなぁ…」

男「まだまだコミュニケーションが足りないのかも」

のっぺら嬢「昼間は男さんがいなくて寂しいねぇ」

のっぺら嬢「でもね、男さんはトラの為に一生懸命お仕事がんばってるんだからね?」

トラ「にー」

男「寂しい、か」


のっぺら嬢「え、あ、男さんを責めたワケじゃないんですよ?」

男「うん、わかってる」

男「ただ…先代のトラも、ホントは寂しかったのかなって」

のっぺら嬢「男さんを慕ってくれてたんでしょう?」

のっぺら嬢「男さんの気持ちは伝わってるハズです!」

のっぺら嬢「きっと前のトラちゃんも幸せだったと思いますよ!」

男「うん…ありがとう」

のっぺら嬢「いえ…////」



男「あのさ」

のっぺら嬢「はい」


男「前から気になってたんだけど」

男「のっぺら嬢さん達妖怪は、普段どんな風に寝起きしてるんだ?」

のっぺら嬢「はい?」

のっぺら嬢「そうですねぇ…基本、廃屋とか倉庫とか神社のお社やお寺…」

のっぺら嬢「あ、たまにビルとビルの間の暗がりとか…」

のっぺら嬢「そんな感じですね」

男「ほぼ野宿か…」

男(その割に服や体は綺麗だ)

男(魔力とか妖力とかそんな類いのものかもしれないな)

のっぺら嬢「どうかしたんですか?」キョトン




男「…うん」

男「余計なお世話かもしれないけどさ…」




男「行くアテが無いなら、ここに住まない?」




のっぺら嬢「…」

のっぺら嬢「…」

のっぺら嬢「…はい?」

男「トラと一緒にここにいないかって…」






のっぺら嬢「え…」

のっぺら嬢「ええええぇえぇぇぇっっっ!!??」




男「ちょっ、声が大きい!」

のっぺら嬢「そりゃ大声も出ちゃいますよ!」

のっぺら嬢「正気ですかっ!?」

男「うん、まあ」

のっぺら嬢「なんでっ、そんな事…!」

男「うーん…ほぼコイツ」チョイチョイ


トラ「?」

男「お前だよ、トラ」

トラ「ふしゃー!!!」ザワワッ

のっぺら嬢「あ、ダメだよっ」

のっぺら嬢「トラ、ですか?」


男「のっぺら嬢さんにはなついてるし」

男「効果があるかわからないけど」

男「トラと俺の仲を取り持ってほしいんだ」

男「相変わらずこんな感じだし…」ソー

トラ「おぁぁぁ…」ザワ


男「どうかな?」

のっぺら嬢「でも…」


男「もちろん無理にとは言わない」

男「よくわかんないけど、妖怪の掟とかあるかもしれないし」

男「ましてや、のっぺら嬢さんはのっぺらぼうである以外、見た目はもちろん内面も人間の女性と変わらない」

男「もちろんいかがわしい事なんてするつもりはないけど」

男「人間と、しかも男と一緒にって…抵抗あるかもしれない」


男「でもトラもさ、いつまでも俺を警戒してばっかりじゃ疲れるだろうし」

男「だから、のっぺら嬢さんさえ良ければ、だけど」



のっぺら嬢「…本気…ですか?」

男「うん」

のっぺら嬢「…あ」

のっぺら嬢(『うーん…ほぼコイツ』)


のっぺら嬢「『ほぼ』トラの為、なんですよね?」

男「あ?うん」

のっぺら嬢「その『ほぼ』以外の『少し』の理由、聞いてもいいですか?」

男「ああ、その…////」

のっぺら嬢「?」

男「…」



男「看病、してもらって…安心できた…」

のっぺら嬢「え!?」

男「トラを迎えに行くとき、送り出してくれたのが…心地よかった…」

のっぺら嬢「ぷ…」

のっぺら嬢「ふふっふふふっ」

男「な、なんだよ…////」

のっぺら嬢「ふふっ、私なんかにどれだけ安心感抱いちゃってるんですか」クスクス

男「へーん、あいにく他に安心感を求める相手がいないもんでね」ツーン


のっぺら嬢「だからって、あははっ、妖怪の私にっ、ふふっ」



男「うるせぃ」

のっぺら嬢「ふふふ、トラの事もありますし、私にできる事があれば協力します」

のっぺら嬢「でも、本当に良いんですか?」

男「ああ」

のっぺら嬢「大食らいってワケではありませんが、普通並みに食べますよ?」

のっぺら嬢「出費、かさみますよ?」

男「それぐらいなんとかなるだろ」

のっぺら嬢「部屋、狭くなっちゃいますよ?」

男「狭くなって困ることは…無いな」


のっぺら嬢「ふぅ…ホントにもう…」クスクス

のっぺら嬢「じゃあ…」


のっぺら嬢「トラー?早く男さんと仲良くなろうねー?」

トラ「うにぃ」

男「決まりだな」

のっぺら嬢「ホント、不思議な人ですね」

男「猫に限らず動物になつかれる人に、悪い人はいない」

男「俺の持論だ」


のっぺら嬢「私、のっぺらぼうですよ」


男「そこ屁理屈言わない」



男「よろしく、のっぺら嬢さん」

のっぺら嬢「はい、お世話になります」

のっぺら嬢「あ」

男「ん?」

のっぺら嬢「ひとついいですか?」

男「なに?」

のっぺら嬢「私を呼ぶとき、さん付け…しなくていいですよ」

のっぺら嬢「ヘタにさん付けされると、気を使わせてるみたいで…」

のっぺら嬢「ダメですかね?」

男「わかった」

男「でも呼び捨てもアレだから…」


男「アダ名で…」






男「のぺちゃん」




のっぺら嬢「…」ポカーン

男「あら?変かな?」

のっぺら嬢「いえ、私…アダ名なんて今までつけられたことがなかったので…」


男「のぺちゃん」

のっぺら嬢「あぅ」

男「のぺちゃん」

のっぺら嬢「…はい////」ポ


男&のっぺら嬢「…」

男&のっぺら嬢「…あはははっ!」


のっぺら嬢「うふふ、お世話になります。よろしくお願いいたしますね」ペコリ

男「硬ぇ」

のっぺら嬢「そ、そですかね?」


男「ま、のぺちゃんらしいや」




男「ほい、改めて握手」スッ

のっぺら嬢「あ、はいっ」スッ

アクシュアクシュ

男「よろしく」

のっぺら嬢「はいっ!」



男「じゃ早速、模様替え第2弾!」

のっぺら嬢「え、え?もう夜ですよ!?」

男「のぺちゃんが少しでも居心地がいいようにしないとな」

男「それに明日は休みだ!」

のっぺら嬢「ホントに男さんは…」

男「ん?」

のっぺら嬢「いえ!なんでもありませーん!」

男「んじゃ、早速!」

のっぺら嬢「はい!」

―――
――


―翌朝―

チュンチュン

男「…」ボー

のっぺら嬢「…」ボー



のっぺら嬢「緊張して寝れませんでした…」ボー

男「同じく…」ボー

男「平常時に一緒に寝るとなると、こうも緊張してしまうとは…」ボー

のっぺら嬢「すいません。せっかく、ベッドを貸して頂いたのに…」ボー

男「緊張したのはお互い様だ。仕方ないよ。しかし…」


トラ「すぴー」グー

男「くそっ、うらやましい」



のっぺら嬢「あっ」

男「ん?」

のっぺら嬢「お、おはよう…ございます」

男「お、おはよう」

男「なんか新鮮だ…!」キューン

のっぺら嬢「そ、そうですね…普通に朝の挨拶は初めてですね////」

のっぺら嬢「前は看病の時に、大声あげながら起きましたからねぇ」

男「はははっ、そうだったな」



トラ「うにぃい~」ノビー

のっぺら嬢「あ、トラもおはよう」

のっぺら嬢「これから朝も会えるね!」ニコッ
トラ「なうなぅ」スーリスリ

男(はあぁあぁぁ…このツーショットはマジ和むわ)ホコホコ


のっぺら嬢「あ、台所お借りしていいですか?」

男「いいけど…なんで?」

のっぺら嬢「なんでって…」

のっぺら嬢「朝ごはん作るんですけど…」

男「ああ、じゃあ頼むよ」

のっぺら嬢「はい!まかせて下さい!」トッテトテー



男「…」

男「…あれ?」


のっぺら嬢「ふんふ~ん♪ふふぅ~♪」カチャカチャ

男「おわぁっ!」

のっぺら嬢「わあっ!?な、なんですかっ!?」


男「ご、ごめんっ!なんか食事の用意してもらうのが当たり前、みたいな返事しちゃって!」

のっぺら嬢「ああ、そんなこと」

のっぺら嬢「いいんですよ」


のっぺら嬢「なぜかはわかりませんが、私、料理するのが好きみたいなんですよ」

男「でも…」

のっぺら嬢「それに居候の身ですからね。これぐらいはしないと」

男「うーん…」

のっぺら嬢「ささ、男性はどんと構えて!」

のっぺら嬢「トラの相手をしていてくださーい!」

男(それって邪魔者扱いされてるみたい…)

男「うん、じゃ、お願いするよ」

のっぺら嬢「はいっ!」

男「のぺちゃんみたいないい娘に会えて良かったな、トラ」

トラ「すぴー」グーグー

男「おいっ!?」



 



――



男&のっぺら嬢「ごちそうさま」

トラ「に」ペロペロ

男「お、トラもごちそうさまだな」

のっぺら嬢「みたいですね」

男「いやー、朝に手作りのお吸い物を飲むなんてどれくらいぶりだろ」

のっぺら嬢「お味噌汁にしたかったんですけどね」

のっぺら嬢「お味噌がなかったもので」

男「のぺちゃんが料理好きなら、食材…調理器具も揃えないとな」


男「欲しい物があったら、じゃんじゃん言ってくれよ?」

男「買ってくるから」

のっぺら嬢「そんな…、出費がかさむのにワガママは言えませんよ…」

男「ワガママなんてとんでもない!」

のっぺら嬢「そ、そうですか?」

男「うまいご飯が食べれるなら、なんてことないよ!」

男「一人の時は、料理なんてほとんどしなかったし」

男「手作りの料理って、ホントいいものなんだよな」



男「一人暮らしして、今更ながら改めて気づいたよ」


のっぺら嬢「男さん…」



男「片付けは俺がするよ」

のっぺら嬢「いえ!」ピシャッ

のっぺら嬢「今日は休日です」

男「そうだけど」

のっぺら嬢「男さんは普段のお仕事の疲れを癒してください」カチャ

男「ああっ、食器ぐらいは自分で持っていくのに!」

のっぺら嬢「いいんです!」カチャカチャ

のっぺら嬢「居候である以上、主には少しでも居心地良くしててもらわなければ!」カチャ

男「うーむ」

のっぺら嬢「それに…やっぱりお世話になるばかりじゃ、申し訳ないですから」スタスタ





男「…のぺちゃんみたいな、彼女とか奥さん」


男「いたらいいよなぁ」



ガチャンパリンガチャーーン

パリン

男「のぉわあぁっ!?」


のっぺら嬢「ななな、はにゃなな!」プルプル

男「大丈夫かっ!?」

のっぺら嬢「ななナにを言ってルんデスカ!?////」ドッキドキドッキドキ

男「ちょっ、そんな事より!ケガはっ!?」

のっぺら嬢「ひゃいっ!?だだ大丈夫…みたいです」ドッキドキ

男「よかった…」ホッ



男「あーあー、ずいぶん派手に割っちゃったな」

のっぺら嬢「お、男さんが変な事言うからですよ!」プンスカプンスカ!

男「う…ごめん…」

男「ここまで動揺するとは…」

のっぺら嬢「ホントに!何度も言いますけど、妖怪相手に何を言ってるんですか!」

のっぺら嬢「からかうのもいい加減にして下さいっ!」プンスカ!

男「からかうつもりは無かったんだけど」

のっぺら嬢「むー」ムー


のっぺら嬢「でも、割ってしまったのは…すいません」

男「まあ、ケガが無くてよかった」

男「どうせ朝からいろいろ買い出しに行くつもりだったからさ、ついでに買ってくるよ」

のっぺら嬢「お願いします」

男「ケガしないうちに片付けちゃおう」

のっぺら嬢「あ、はい」





ガチャガチャン

男「居候とはいえ、家族が増えた事には変わりないから」

男「心機一転、食器も新しくするのもいいかもな」


のっぺら嬢「家族…ですか」

男「よっ」ガチャガチャ

のっぺら嬢「…」ジー

男「よっと」ポイ

のっぺら嬢「…」ジー


男「?どうかした?」

のっぺら嬢「あっ////いえ…////」プイッ

のっぺら嬢「あ、えと、そそ掃除機、要りますねっ。取ってきます」

男「ベッドの足元に置いてあるよ」

のっぺら嬢「はーい」




―――
――




男「じゃあ、留守番頼むな」

のっぺら嬢「はい、いってらっしゃい」

のっぺら嬢「ほらトラも」ダッコ

トラ「にゃぁ」

のっぺら嬢「えらいねぇ、お利口だねぇ」ギュー

男「文字通り、猫をかぶってやがる…」

のっぺら嬢「私の前では、これが普通のトラなんですけどねー」

男「早くなついてくんないかなぁ…」

のっぺら嬢「きっとすぐですよ」



男「じゃ、鍵は閉めて行くから」

男「誰かが訪ねて来ても、出なくていいからな。居留守を使うように」

のっぺら嬢「はい」

男「あと大したもんはないけど、家の中の物、自由に使ってかまわないから」

のっぺら嬢「ありがとうございます」

男「昼には戻るようにするから」

のっぺら嬢「はい、気をつけてくださいね」

男「うん。いってきます」


バタン

ガチャン



 


のっぺら嬢「…」

のっぺら嬢「ねえ、トラ」

トラ「に」

のっぺら嬢「男さんて、すごく優しくていい人だね」

のっぺら嬢「私達の為に一生懸命で」

のっぺら嬢「トラも私も、家族だって思ってくれてるんだね」



のっぺら嬢「本当は…このままこの関係が…」




のっぺら嬢「…」

のっぺら嬢「でも、ダメだよね」

のっぺら嬢「私は妖怪で」

のっぺら嬢「男さんは人間」



のっぺら嬢「本来ならこんなに近くにいちゃダメなんだよね」


ズキン…


のっぺら嬢「…」

トラ「にぃにぃ」ペロペロ

のっぺら嬢「ふふ、ありがとう」


ギュー

のっぺら嬢「男さんはね、本当にいい人だから」

のっぺら嬢「きっとあなたを幸せにしてくれるよ」

のっぺら嬢「だから早く、男さんに気を許してね?」

トラ「にい!」

のっぺら嬢「はーい、イイコイイコ」ナデナデ

のっぺら嬢「少しねこじゃらしで遊んで、そのあと掃除しようね」ミョン

トラ「にゃあぁぁ」キラキラ


のっぺら嬢「ほりゃほりゃほりゃほりゃ!」ミョンミョンミョンミョン!


トラ「にゃあああっ!」トッテテートッテテテー!



 



――


男「ただいまー」

のっぺら嬢「お帰りなさい」ニコ

男「お、おう////」

のっぺら嬢「ずいぶん大荷物ですね」

男「どっこいせ」

男「トラのオモチャとかも買ったし」

男「食器だろ」

男「あと調理器具諸々…」ゴソゴソ

のっぺら嬢「わっ、こんなにたくさん!」

男「これでもっと楽しく料理できるんじゃないかな」

のっぺら嬢「ありがとうございます!」ニッコー!



のっぺら嬢「それから、その大きな荷物は?」

男「あともう一組布団をな」

のっぺら嬢「私がベッドを使うからですね」

のっぺら嬢「…別に床の上でもいいんですけど」

のっぺら嬢「今までずっとそんな感じでしたから」

男「だからって、女の人を硬い床で寝かせるワケにいかないだろう」

のっぺら嬢「ふふっ、男さんらしいですね」

のっぺら嬢「あ、お昼、用意しますから少し待っててくださいね」

男「うん!」ニヨニヨ

のっぺら嬢「なんですか?ニヤニヤして」


男「これからこんな感じに毎日が迎えられるんだなって…」

男「誰かが自分の帰りを待っててくれるって、ホント癒されるよ」ニコ

のっぺら嬢「あ////」

…ズキン

のっぺら嬢「…そう、ですね」

のっぺら嬢「ささ、早く手洗いうがい済まして待っててください」

男「はいよー」



――



―それから数日経った夕食時―



男「なあ、のぺちゃん」

のっぺら嬢「なんですか?」

男「一緒に暮らしだしてから、ずっと家にこもりっきりだけど」

男「退屈じゃないか?」

のっぺら嬢「そんなことないですよ」

のっぺら嬢「トラもいますし」

のっぺら嬢「最近のマイブームは、ネットの海にダイブして、未知なるレシピを発掘することです!」フンス

男「確かにスゴいね」


男「料理スキルは尋常じゃないくらい上がってるし、掃除も俺一人の時とは比べもんにならないくらい片付いてるし」

のっぺら嬢「掃除のウラワザもたくさん検索してますからね!」


男「…うん」

のっぺら嬢「どうしたんですか?」

男「今まで避けてたかもしれないけど」

のっぺら嬢「はい」

男「昼間、外に出てみたくない?」

男「ってか、外に出てみない?」





のっぺら嬢「はい?」



のっぺら嬢「むっ、無理ですよ!」

男「なんでさ」

のっぺら嬢「なんでって、私はのっぺらぼうですよ!?」

のっぺら嬢「昼間に出歩いたら、町中パニックになりますよ!」

のっぺら嬢「本来なら、都市伝説やもしくは眉唾物の怪談の存在なんですよ!?」

男「…うん」

のっぺら嬢「ですから無理ですよ…」シュン

男「でも俺からしたら、すごく家庭的な女の人にしか思えないんだよ」

男「だから楽しめる事は楽しんでほしいんだ」

のっぺら嬢「気持ちはありがたいですけど…」


男「…実際どうよ?」

のっぺら嬢「…」

のっぺら嬢「やはり外に出るのは…怖いです」

のっぺら嬢「ただ、ネットのいろんな情報を見て…憧れが出てきたのは事実、です」

男「なるほどなるほど」

男「ふっふっふっ…」

のっぺら嬢「な、何なんですか…?」



男「ちょっとイイモノ、買ってきました!」


のっぺら嬢「?」


――


―翌日・繁華街―

ガヤガヤ

ワイワイ

のっぺら嬢「あ、あの、男さん…」ギュ

男「そんなに怖がらなくても大丈夫」

のっぺら嬢「うう…」

男「結構自然だな。その付け鼻」

男「パーティーグッズだったからちょっと心配だったんだけど」

男「切ったりしたら思いの外、自然な感じになったな」

のっぺら嬢「でも、でも、バレたら…」ギュギュー

男「ファンデーションで巧く肌感が出てるし」

男「サングラスもファッションでかけてる人も多いから、晩秋のこの時期でも不自然じゃないよ」

のっぺら嬢「でも…でも…」ビクビク


男「初めてだから、仕方ないよな」

ギュ

のっぺら嬢(あっ、手、握り返してくれたっ…!!!////)ドッキドキーン!

男「安心できるか?」

のっぺら嬢「…はい////」

のっぺら嬢(安心もしましたけど、それ以上に胸の鼓動ががスゴいことに!)ドッキドキドッキドキ!



男「ごめんな」

のっぺら嬢「え?え!?ちょっと!なんで謝るんですかっ!?」

男「半ば強引に外に連れ出して…」

のっぺら嬢「いえ。すごく嬉しかったです。私に気を使ってくれて」


男「まあ…こもりっきりじゃアレだしな」

男「服もいくつか買っておいてよかった」

男「俺が適当に選んだけど、どう?」

のっぺら嬢「か、かわいいと思います。気に入りました」


男「なら、良かった」

のっぺら嬢「でも、買いに行くの…恥ずかしかったんじゃないですか?」

のっぺら嬢「この服やファンデーション…」

のっぺら嬢「当然、女の人が行くお店に行ったんでしょう?」

男「…まあな」

男「でも、お店の人に『彼女へのプレゼント』って言ったら…」


のっぺら嬢「かっかっかっカッカッ彼女っっ!?////」ポポーッ!

男「ごめんっ!その場の出任せっていうか口実っていうか…」

のっぺら嬢「いえ…////」ポーッ!

男「まあ、いろいろアドバイスしてくれて」

男「それなりに良いもの買えたと思うよ」

のっぺら嬢「ありがとうございます」ニコ


男「うん」

男「で?何かしたいこととかある?」

男「緊張してそれどころじゃないか?」

のっぺら嬢「い、いえっ」

のっぺら嬢「こう…ちょっとだけ男さんにくっついていれば、少しだけ安心できます」ギュギュギュー


男「そ、そか」
男(ちょっとくっつくどころじゃありませんよ!!)


のっぺら嬢「あの…」

男「ん?」

のっぺら嬢「クレープを食べてみたい、です」

男「またベタなものを…」

のっぺら嬢「い、いいじゃないですかっ!!」クワッ

のっぺら嬢「ネットで見て美味しそうだなって」


のっぺら嬢「白いクリームがいっぱいでですね…」

のっぺら嬢「イチゴ、バナナ、リンゴ…」

のっぺら嬢「あ、あと軽食っぽいのもありましたね!」

のっぺら嬢「ポテトサラダとか、チーズ、ツナ、ハム…」ジュルリ

男「ぷぷぷ…」

のっぺら嬢「はぁっ!す、すいませんっ!」ジュルリ

のっぺら嬢「ちょっとトリップしてました////」


男「はははっ!どんだけ食べたいんだよっ!」

のっぺら嬢「し、仕方ないでしょう!?」

のっぺら嬢「クレープには食欲を異常に刺激する魔力があります!」

のっぺら嬢「恐るべしクレープ!」

男「なんじゃそら」クスクス

男「じゃ、行こうか」

男「少し歩くけどおいしいクレープ屋があるから、そこで食べよう」

のっぺら嬢「はいっ!」




 




――

のっぺら嬢「…すいません」

男「いいんだけどさ」

のっぺら嬢「す、すいませんっ!すいませんっ!」ペコペコペコペコ!

のっぺら嬢「クレープ4つも食べてすいませんっ!」ペコペコペコペコ!

男「店の人、びっくりしてたな」

のっぺら嬢「うう…」シュン

男「ははっ、そう落ちこまない!」

ポン

男「のぺちゃんが楽しめたなら、何よりだよ」

のっぺら嬢「はい」



男「…また、一緒に出かけような」

のっぺら嬢「いいんですか?」

男「俺で良ければ喜んで」

のっぺら嬢「ふふ、こんなこと頼めるのは男さんしかいません」

男「そうだな」



男「そろそろ帰ろうか」

のっぺら嬢「そうですね。トラもお留守番、頑張ってますしね」


のっぺら嬢「楽しい時間は…あっという間、ですね」

男「それだけ楽しんでくれたなら、連れ出した甲斐もあるってもんだ」

男「てか、俺もけっこう楽しんだんだけどな////」

のっぺら嬢「お互い様ってことですかね」

男「だな。俺はのぺちゃんと一緒だったから余計にな」

男「またのぺちゃんと来たいと思ったよ」

のっぺら嬢「…」ズキン…




のっぺら嬢「はい」


―――
――


―別の日―


のっぺら嬢「うぅぐ…ひっぐ…」

のっぺら嬢「あ゛あ゛ぅっあぁぁああ」ポロポロ

のっぺら嬢「あぁぁああっ」ポロポロポロポロ

のっぺら嬢「はぅっぐ…えぐっ…」

男「あんまり泣くと鼻が取れるぞ?」

のっぺら嬢「だっでぇえ…」

男「確かにいい映画だったけどさ…」

のっぺら嬢「まざが…ひっぐ…」



のっぺら嬢「ヒロインのアレがアレで、まさか親友がアレでアレだったなんてぇ…」

のっぺら嬢「おまけに親友の恋人まで…」


のっぺら嬢「切な過ぎますよぉぉうぅ」



男「ほれハンカチ」



のっぺら嬢「ずびばぜん…」

のっぺら嬢「ぐしっ…」



のっぺら嬢「映画って、ホントにいいものですね」



男「映画館で観ると特にな」

男「まあ、のぺちゃんがここまで号泣するとは思わなかったけど」

のっぺら嬢「あ、あんまり言わないでくださいよぅ…////」

男「ははっ、悪い悪い」

男「まだまだ話題作はあるから」




男「また、見に来よう」



のっぺら嬢「…はい」

ズキン…

 


―また別の日―


のっぺら嬢「はわ~、ジンベエザメおっきいですねぇ」

のっぺら嬢「やっぱり生で見ると違いますね!」

男「そりゃパソコンの画面とは迫力も存在感も違うさ」

のっぺら嬢「イワシの群れも綺麗です」

のっぺら嬢「えーっと、次は…」

男「あっ」


男「急がないとイルカショー始まるぞ!」

のっぺら嬢「わ、もうそんな時間ですかっ!?」

男「ショーが終わってから、またゆっくり廻ろう」

男「はい」


スッ

のっぺら嬢「え?」

男「え、って…手だよ手」

のっぺら嬢「…はい////」スッ




キュ

男「はぐれるといろいろ面倒だろ?」

のっぺら嬢「ですね」

男「俺となら、昼間の世界を満喫できるだろ?」ニシシ

のっぺら嬢「…」

のっぺら嬢「はい」ニコ…

ズキン…ズキン…




―――
――





――
―――

テレビ「今夜は例年よりぐっと気温が下がり、地域によっては雪がちらつくかもしれません」

テレビ「一転、明日明後日の週末は全国的に晴れ。傘の心配はありません」

テレビ「お日様が出て、日中はポカポカ陽気。絶好の行楽日和となるでしょう」

テレビ「以上、週末のお天気でした」

テレビ「続いては…」




男「ふんふ~ん♪」

男「のぺちゃん、明日はどこに行きたい?」

のっぺら嬢「…」


男「せっかく晴れなんだし、外でぶらぶらしようか?」

のっぺら嬢「…」

男「それとも…」

のっぺら嬢「男さん」

男「お?行きたいとこ決まった?」

のっぺら嬢「違います」

男「あれ…ふ、雰囲気…いつもと違うんじゃないか?」

男「…何かあった?」

のっぺら嬢「…」

男「あ、もしかしてここ最近、出かけっぱなしだから、たまには家でゆっくりしたいとか?」




のっぺら嬢「トラ…男さんになついてくれましたね」

男「あ、ああ。今も俺の膝の上で丸くなってるよ」

トラ「にゃあ」

のっぺら嬢「ひっかかれる事も無くなりましたね」

男「たまにあるよ」

男「トラの機嫌が悪い時とかはな」


のっぺら嬢「でも、もう困るほど手を焼く事は無くなりましたね」

男「そうだな。トラも大きくなって、身のこなしや風貌もすっかり『猫』って感じだな」


のっぺら嬢「あんなに小さかったトラも大きくなりましたね…」

男「…どうしたんだよ?さっきから」

男「ほらっ!明日は休みだからさ?どこに行くか決めようよ、な?」



のっぺら嬢「…」フルフル



のっぺら嬢「もう…あなたとはどこにも行きません」

男「は」

男「え?」



のっぺら嬢「もう…」



 








のっぺら嬢「もうあなたとは一緒に居られません」







 



男「ちょっ…え?何言って…?」

男「え?え?妖怪界隈でなんかマズイことになった?」

のっぺら嬢「…」フルフル


のっぺら嬢「違います。私の…意思です」



男「…意味がわからん」

男「俺…なんか悪い事した?」

男「思い当たる節はないんだけど…」



のっぺら嬢「いえ、男さんは悪くありません」


のっぺら嬢「元々、男さんとトラの仲を良くするお手伝いだけの約束でした」

男「確かに仲良くはなったけど」ナデナデ

トラ「にゃーにゃー」

男「それがのぺちゃんがここに居ちゃダメな理由にはならないだろ!?」

のっぺら嬢「いいえ…」

のっぺら嬢「男さんにはいくら感謝しても足りないくらい…良くして頂きました」




男「あ、ああ、そりゃどうも////」ポリポリ



男「…じゃなくて!」


男「だったらなんで俺といられないなんて…!」




のっぺら嬢「…」

のっぺら嬢「…私です」

男「はい?」

のっぺら嬢「…悪いのは私ですっ!」

のっぺら嬢「あなたが…優しいから…その優しさに甘えて、あなたを頼ってしまいました…!」

男「俺はそれで構わないよ!」


のっぺら嬢「私は…のっぺらぼうで妖怪です」


男「何を今更…そんなのわかってるよ?」



のっぺら嬢「ううっ、く…」

ポロポロ…

のっぺら嬢「ひぐっ、わかっていたのにっ…!」ポロポロ

のっぺら嬢「望んでは…うぅっ…いけなかったのにっ…!!」

ポロポロ


男「の、のぺちゃん…?」


のっぺら嬢「えぐっ、でも…全部私が…私が悪いんです!」

のっぺら嬢「あなたの優しさは…一生忘れません」

ガタッ

のっぺら嬢「さようなら」ダダッ

男「おいっ!?ちょっと待っ…」

男「くそっ!いきなり何なんだよっ!」ガバッ


トラ「う゛に゛ゃっ!?」ボテン

男「ああっ!ごめんっトラっ!」

トラ「うにぃ」

男「お前の大切な人を追うから、今はごめんな」

ダダッ

トラ「にぃ」


――

ダダダダッ…

ガシッ!

男「うおらぁっ!捕まえたぁっ!」

のっぺら嬢「離してっ!離してください!」グイグイッ

男「離すもんかっ!」グッ

男「いきなり自分が悪いとか言い出してワケわかんないしっ…」

男「こっちが納得できないまま、俺の前から去ろうとするなんて」

男「見過ごせるワケないだろ!?」

のっぺら嬢「ですから!男さんの問題ではないんです!」

のっぺら嬢「全部私が…悪いんですっ!」

男「だからっ!それがわかんないんだって!」


のっぺら嬢「私は…私はっ」

のっぺら嬢「あなたの優しさに触れて」



のっぺら嬢「あなたに惹かれてしまった」



のっぺら嬢「あなたと居るのが心地よくて」


のっぺら嬢「あなたと共に居たいと願ってしまった…!」



男「のぺちゃん…」



のっぺら嬢「だから」

のっぺら嬢「これ以上一緒に居たら」



のっぺら嬢「私のせいで…本当にあなたを縛りつけてしまいます!」



のっぺら嬢「私は…妖怪なのにっ…!」

のっぺら嬢「男さんは人間なのにっ…!」


のっぺら嬢「妖怪の私は」

のっぺら嬢「ケガもなければ、病気もありません」

のっぺら嬢「寿命も…人間のそれとは比べものならない、永遠に近いような長さです」



のっぺら嬢「どれだけあなたが好きでも」



のっぺら嬢「所詮は…妖怪」

のっぺら嬢「生きる世界も、時間も違うんです」

のっぺら嬢「だから…」





男「だから?」

のっぺら嬢「だから…」

男「だから…何なんだよっ!」

のっぺら嬢「えっ?」


男「初めてのぺちゃんに会った時は、そりゃびっくりしたさ!」

男「でもっ!」

男「その時、トラの事で必死になってたのはのぺちゃんだ!」

男「紛れもないのぺちゃんの優しさだろ!?」

男「俺が仕事でへこんだり、疲れて帰った時」

男「いつも癒してくれたのはのぺちゃんだ!」


のっぺら嬢「お、男さん…」


男「のぺちゃんが俺を縛りつける?」

男「それが俺の前から去る理由?」





男「だったらっ…!」





男「俺が望んで、縛られてやる!」





のっぺら嬢「えっ!?」




 


のっぺら嬢「あ、あの!?」

のっぺら嬢「え?えっ!?」


男「惹かれてたのが、のぺちゃんだけだと思うなよ?」

のっぺら嬢「ひょっ!?」



男「確かに、延々とコソコソしなきゃならなくなるかもしれない」

男「確かに、普通の恋愛なら苦労しないことも苦労するかもしれない」



男「なら、俺がその苦労ごと、全部縛られてやるっ!!」

ガバッギュギュー

 


のっぺら嬢「きゃうっ」


のっぺら嬢「い、いやっ…離して…ください」

男「抵抗が弱々しいな」

のっぺら嬢「うっ…////」

男「そりゃ顔が無いなんて恋人なんて普通の恋愛じゃないよな」

のっぺら嬢「…全くです」

男「家族に紹介…できないな」

のっぺら嬢「わかっててどうして…」



男「そんなこと以上に、のぺちゃんの内側に惹かれたんだよ」ギュ

のっぺら嬢「そんなことって…」


男「のぺちゃんの為ならなんてことないさ」


のっぺら嬢「でも私は…うぅっ…」ポロ

のっぺら嬢「私のために…私の、せいで男さんが苦労するのは、ひぐっ」ポロポロ

のっぺら嬢「見たく、あ、ありません…」ポロポロ

男「だからって、俺から離れるなんて嫌だな」


のっぺら嬢「ぐすっ…怖いんです」

のっぺら嬢「私のせいで男さんが不幸になると思うと…」

男「なんで不幸になる前提なんだ?」

のっぺら嬢「だって…」



男「苦労は必ずしも不幸じゃないんじゃないかな?」

男「その中でも、幸せに感じれることなんていくらでもある」

男「必ず、な」


のっぺら嬢「ぐすん」

のっぺら嬢「断言、しちゃうんですね」

男「ああ」


のっぺら嬢「敵いませんね、男さんには。ふふふ」


今日は心なしかいつもより誤字多いな

いい場面のはずなのに“のぺ”ちゃんのせいで笑ってしまう
のんちゃんとかじゃダメだったのだろうか


男「やっと笑った」

男「今日一日なんかピリピリしてたからな」

男「こういうことだったのか…」

のっぺら嬢「よく見てくれてるんですね」


男「好きだからな。のぺちゃんの事が」

のっぺら嬢「男さん…////」




のっぺら嬢「一つだけ…約束してください」

男「ん?」


のっぺら嬢「今は…好きだと言ってくれています」

のっぺら嬢「でも、私と一緒に居るのが辛くなったなら」

のっぺら嬢「すぐに言ってくだ… 男「言うもんか!」

男「のぺちゃんが俺の事を嫌いにならない限り、そんなこと言うもんかっ!」

のっぺら嬢「…」ポカーン

のっぺら嬢「ふぅ、あーあ…」

のっぺら嬢「もう、諦めます。ふふふっ」

のっぺら嬢「諦めて男さんに甘えます」

のっぺら嬢「…いいんですよね?」



男「任せろ!」フン!




のっぺら嬢「じゃあ…ですね////」


男「ん?どした?」



のっぺら嬢「キス」

男「にぇぃ!?」

のっぺら嬢「キスしてください////」

男「い、いきなりそんなっ…!」

のっぺら嬢「試すみたいで申し訳ありませんが」


 


のっぺら嬢「私に自信を」



のっぺら嬢「男さんを愛してもいいという自信を



のっぺら嬢「私にください」


男「お、おう////」ゴク



のっぺら嬢「私は…いつでも大丈夫です」

男「ああ…」スッ

のっぺら嬢「…」プルプル…


男(震えてる…)

男(…のぺちゃんはずっと葛藤していたんだ)

男(俺が少しでも安心させてやれるなら…!!)スス…



チュ

男「…」

男「…どうっすか?////」

のっぺら嬢「…大好きです、男さん////」

ドクン…

男「俺もだ////」

のっぺら嬢「えへへ////」ドクン…


ドクン

のっぺら「?」ドクン

のっぺら嬢「!?」ドクン!

のっぺら嬢「あ…う…!!!」ドクン!

男「?」

のっぺら嬢「ううっ…」ドクンドクン!

男「ど、どうした!?大丈夫か!?」



のっぺら嬢「あ、あ、あ…」ドクンドクンドクン!





のっぺら嬢「呪いが…」



のっぺら嬢「解けるっ!!!」




ピッカアアアアァァァァァァァァァァ!!!

男「なわっ!!?」





 


男「…」

男「…のぺちゃん?」


のっぺら嬢「はい」


男「なんだ…今の光は…」





のっぺら嬢「誰かに愛されること」



のっぺら嬢「それが解呪の条件でした」


男「え?何、言って…」チラリ



美女「…」


男「?」

美女「…」

男「??」

美女「…」

男(…すっげー美人さんが目の前、のぺちゃんがいた場所にいます)

美女「…」



男(おお…綺麗な、はっきりとした大きな瞳(め)…。吸い込まれそうだ…)

美女「…」

男(鼻もすらっと適度に高く整った形…)

美女「…」

男(口も…、いや、口は何度も見た)

男(笑うとそれだけで感情が見てとれるほど存在感のあるその口は…)

男「まさか」

男「のぺちゃん!?」



のっぺら嬢「…はい」

のっぺら嬢「たった今、呪いは解かれ」

のっぺら嬢「私は本来の姿…いや、顔を取り戻しました」


男「本来の顔を…って」

男「えーと…」

男「マジか…」

のっぺら嬢「もう、どれくらいのっぺらぼうであったかわからないほど」

のっぺら嬢「長い時間が流れました」




男「その…、呪いって…誰かにかけられたのか?」



のっぺら嬢「はい」

のっぺら嬢「当時、とても仲が良かった友達がいました」

のっぺら嬢「明るくて活発で、何かと物事の中心になるような…」

のっぺら嬢「そんな人でした」




のっぺら嬢「ただ、いつからか私は恨まれていたようです」


のっぺら嬢「彼女は私に呪いをかけました」


のっぺら嬢「顔が無くなる呪い」

のっぺら嬢「解く方法は、のっぺらぼうの姿のままで誰かに愛されること」

のっぺら嬢「ただ、同情で愛されない為にそれまでの記憶も封印されます」

のっぺら嬢「もちろん、解呪の方法も…」


男(そうか、だから料理の話の時、あんなに苦しんだのか…)


のっぺら嬢「見た目に惑わされず、純粋に心だけで愛されること」

のっぺら嬢「そんな呪いでした」




男「ひどい目に遭わされたんだな…」


のっぺら嬢「いえ」フルフル

のっぺら嬢「記憶が戻った今も、私は彼女を恨んではいません」

のっぺら嬢「正直、裏切られた悲しみはありましたが、彼女は私に対して憧れを抱いてくれていたんです」


のっぺら嬢「私も彼女に対して、憧れや嫉妬を抱いたことがあります」



のっぺら嬢「彼女は…道を外れてしまっただけです…」


のっぺら嬢「それと、あとになって聞いたことですが」

のっぺら嬢「彼女は、私に呪いをかけたことを後悔し」

のっぺら嬢「死ぬまで自責の念に駆られて、苦しんだそうです」

のっぺら嬢「のっぺらぼうになった私にはよくわからない話でしたが…」

のっぺら嬢「今、わかりました」

のっぺら嬢「私はいろいろな物を失いましたが」

のっぺら嬢「彼女が本当は、優しい人なのだとわかっただけで、救われます」



男「…のぺちゃんらしいな」




のっぺら嬢「さて、男さん」


男「は、はいよっ!?」ビクッ


のっぺら嬢「こうして呪いが解けた今」

のっぺら嬢「私はのっぺらぼうではなくなりました」



男「う、うん…」

のっぺら嬢「ですが、のっぺらぼうであった時の記憶が無くなったワケではありません」





のっぺら嬢「こんな顔ですが…」





のっぺら嬢「改めて、私を受け入れてくれますか?」



 


男「…アホぅ」


のっぺら嬢「へっ!?」


男「まあ、確かに美人だ」

のっぺら嬢「ま////」ポッ


男「でも違うだろ?」


男「解呪の方法のとおり」



男「のぺちゃんの心に惹かれたんだ」



男「何も変わらないよな?」



のっぺら嬢「うく…」ポロ

のっぺら嬢「ひっく…はい!」ポロポロ

男「のぺちゃん…」

男「あ」

のっぺら嬢「ひっく、どうしたんですか?」

男「呪われる前の記憶が戻ったってことは、名前も…」

のっぺら嬢「いいんです」


のっぺら嬢「男さんを好きになったのはのっぺらぼうであった私ですから」





のっぺら嬢「私は男さんに愛されているのっぺら嬢、です!」ニコッ!




男「のぺちゃん!」

のっぺら嬢「男さん!」


ダキッ


のっぺら嬢「好きです。今までもこれからも」

男「ああ。俺もだ」

ギュウ…




ハラリ

のっぺら嬢「…雪、ですね」

ハラリハラリ

男「天気予報で降るかもって言ってたな」

ハラリハラリ

男「冷えそうだな…」

のっぺら嬢「…////」ギュ

男「ん?」

のっぺら嬢「わ、私は…男さんとこうして抱き合っていると」


のっぺら嬢「冷えるなんて、全く思いませんよ?////」



男「おぅ…照れるな////」

のっぺら嬢「ふふふ////」

のっぺら嬢「やっと自信が持てました」



のっぺら嬢「ずっと…一緒に居ましょうね、男さん////」


男「うん!もちろんだ!」



チュ


ハラリハラリ…



―――
――






テレビ「予報どおり、お昼を過ぎてから益々暖かくなってきました」

テレビ「見てくださーい!この緑地公園にも沢山の家族連れが訪れています」

テレビ「現在、緑地公園内でイベントが催されておりまして………」






男「…のぺちゃん」

のっぺら嬢「…はい。なんでしょう?」






 


男「風邪、大丈夫?」

のっぺら嬢「もう何年…いや、何十年…もっとかもしれません…」




のっぺら嬢「久しぶりの風邪…、つらいです」

男「まあ、ゆっくりしなよ」

のっぺら嬢「男さん…」






 


のっぺら嬢「男さんこそ、風邪…大丈夫ですか?」

男「体の節々が痛い…」

のっぺら嬢「あー…はあ…」





男&のっぺら嬢「へっくしゅん!」



 


男「うう…寒い」ブルッ

のっぺら嬢「トラぁ…あったかいねぇ」ヌクヌク

トラ「にゃん」

男「トラ、こっちにも来てくれよ」




トラ「…」チラ

トラ「…」プイッ




男「あ、ひでぇ」

のっぺら嬢「ふふふっ」クスクス


男「ああ…せっかくのぺちゃんの呪いも解けて、さあこれからって時に…」


男「二人同時に風邪を引くなんて…」




男「昨日、外に居すぎたかな…」

のっぺら嬢「ですね…」

男「のぺちゃん、抱きついたまま離してくんなかったんだもんなぁ」

のっぺら嬢「い、言わないでくださいよぅ////」カアァァ


男「そろそろって言ったら」


男「もう少し、このまま」

男「ってさ」

のっぺら嬢「はうぅ…////」カアァァッ



男「まあ、たまには家でゆっくりもいいかもしれないな」


のっぺら嬢「そうですね」

のっぺら嬢「これからはもっといろんなところに連れて行ってくださいね」



のっぺら嬢「…男…君////」


男「…え?」

のっぺら嬢「もう正式な恋人同士なんだし、いつまでも他人行儀じゃアレかなって…」

男「お、お…おお!なんか新鮮だ!」

男「もう一回!もう一回!!」


のっぺら嬢「ええ~…////」

のっぺら嬢「はずかしいよ…////」



男「わぁお!敬語じゃないのもこらまた新鮮だ!」

男「もう一回!ハイっもう一回!!ハイっ!」


のっぺら嬢「ふふ仕方ないなぁ」



のっぺら嬢「風邪が治ったら、またどこか出かけようね?男君っ!」


男「おうっ!」








のっぺら嬢「…ずっと一緒だよ、男君!」







おわり

気長にお待ち頂き最後まで読んで下さり、ありがとうございました

今まで書いたSSより長かったため、ややまとまりがなかったかもしれません

それでも少しでも楽しんで頂けたなら幸いです

また投下した際には、是非ともよろしくお願いいたします

改めてありがとうございました

>>183さん

誤字大変失礼しました

普段は最後まで書き溜めてから投下するのですが、書くと同時に投下は初めてでしたので焦った部分もあります

「のぺちゃん」については、ちょっとだけ笑えるようなアダ名にしたつもりだったのですが、後々ここまで真面目な場面に影響するとは思わなかったので

今後の参考にさせて頂きます

最後になりましたが、読んで頂き、ありがとうございました

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