女「誤解なんですよ」(89)

男「なにが」

女「誤解なんです誤解。たまたま偶然が重なってこうなってしまっただけなんです」

男「……で?」

女「だからその携帯をしまってください」

男「……泥棒だよな?」

女「……」

男「そうじゃないにしても人の家に勝手にあがりやがって、不法侵入だよ不法侵入」

女「たまたまなんです。たまたま鍵が開いてて、それでちょっと中を覗いただけです」

男「いや、思いっきり家の中物色してたじゃん」

女「そうですか?」

男「そうだよ、だから通報する」

女「まあまあ、落ち着いてくださいよ」

男「俺は落ち着いている。というかお前の落ち着き具合がむかつくんだけど」

女「携帯をしまって、ね?話し合いをしましょう」

男「話し合いもなにも通報すればおしまいだろ」

女「とりあえず状況を理解してからにしましょう?それからでも遅くないですって、お願いですから」

男「……とりあえずなんで俺の家に入り込んでいたのかしっかり話してもらおうか」

女「私は泥棒じゃないんですよ」

男「へー?」

女「信用してないですね」

男「当たり前じゃん。で、仮に泥棒じゃなかったらなんなんだ?」

女「……愛に翻弄された罪人、ですかね」

男「もしもし警察ですか?」プルルル

女「」プツ

男「おい、今どうやった」

女「ちゃんと話を聞いてください」

男「……愛?」

女「愛です」

男「……俺の家で物色してたことと愛がどう繋がるんだ?」

女「実は私はあなたのことが好きなのです」

男「へー?」

女「なんか反応が薄いですね」

男「適当なこと言ってごまかそうとしてるんだろ?」

女「なんなら今すぐレイプでもしましょうか?」

男「……まあ、お前が俺のことを好きだとしよう」

女「本当に好きなんですけど」

男「それがなんで不法侵入になる」

女「実は私、人一倍シャイで照れ屋でして」

男「見えない」

女「照れ屋なんです。それで恋心を伝えたくても恥ずかしくてできなくて」

男「うん」

女「なので家に侵入したんです」

男「ものっそい飛んだな」

女「そうですか?」

男「なんで告白も何もなしに侵入という選択をするのか」

女「これも乙女心ってやつなんですよ」

男「ないない」

男「つうかお前さっきレイプだとかなんとか言ってたじゃねえか。そっちの方が恥ずかしいだろ」

女「告白も兼ねてますから」

男「ええー……」

女「案ずるより産むがやすし。先人達の格言ですね」

男「初めて受けた告白がレイプしましょうか、とか死にたい」

女「死ぬくらいなら私といちゃいちゃしましょうよ」

男「……マジなの?」

女「マジです」

男「……」

女「だから通報は勘弁してくれませんか」

男「……あのさ」

女「なんですか?」

男「俺の部屋を物色してたじゃん」

女「はい」

男「……なにしてたの?」

女「……そんなこと言えません」

男「ねえ、なにしてたの?おい、おい!」

女「……怒りません?」

男「……場合による」

女「……好きな人が身につけてものとか、欲しくなるじゃないですか」

男「……まあ、わかる」

女「使っていたシャーペンが欲しい、タオルが欲しい……それはごく自然な考えだと思うんです」

男「……」

女「否定しないということはやっぱりあなたもそういうくちなんですよね?」

男「やっぱりってなんだよ」

女「なんというかあなたは放課後、好きな女の子の縦笛を吹いたりするタイプです」

男「……そ、そんなことするわけないじゃにゃいか!」

女「今のその顔を見てなおさら確信しました。とまあ、そんなわけであなたの部屋を物色してたんです」

男「そうかよ」

女「はい」

男「……何をとったんだ?」

女「えっ?」

男「いや、盗られたら困る物とかあるし、何を盗ったのか教えて欲しいんだが」

女「……」

男「なあ、何を盗ったんだ?」

女「……」

男「もしもし?」プルルル

女「ストップ。待ってください」

男「ならとっとと吐け」

女「……怒りませんか?」

男「見てからでないとなんとも言えないな」

女「……これです」

男「……俺の、トランクス」

女「……」

男「……こう言っちゃなんだけどさ」

女「はい」

男「俺のパンツなんか手に入れて嬉しいか?」

女「嬉しいです」

男「……あのさ」

女「なんですか」

男「俺のどこがいいわけ?普通にしてればあんたならモテるだろうに。俺と違って」

女「ピキーン」

男「……なんて?」

女「ピキーンと来たんです」

男「……」

女「あなたを初めて見た時、ピキーンと」

男「趣味悪っ」

女「仕方ないです。フォーリンラヴっちゃったんですから」

男「……信じられん」

女「信じてください」

男「つかあれだ」

女「なんですか」

男「百歩譲って!」

女「はい」

男「あんたが俺のことを好きだとする」

女「普通に信じて欲しいんですが」

男「なんかの奇跡でそうなったかもしれんが絶対何かの落ちがあるはずだ」

女「落ち、ですか」

男「絶対に何かあるに違いない!女っ気が全く無い童貞に美少女から告白される素敵イベントか起こるなんて都合が良すぎるんだよ!」

女「……」

男「何かあるんだろ、言ってみろよ?なんだ、ドッキリか?からかってるのか?それとも何か厄介事に巻き込もうとでもしてんのか?」

女「……普通に可愛い子に告白されたよやったー!でいいじゃないですか」

男「信じれるかこんなもん!こんなギャルゲみたいなことが俺の身に起こるなぞありえん!」

女「そんなに警戒しなくても……」

男「はん!さあ言ってみろ、なんだ?何が目的だ?金か、それとももっと別の何かか?」

女「……実はひとつだけあなたに言わなくてはいけないことがあります」

男「ほらな!やっぱりあった!予想通りだけど悔しいぜこんちくしょー!」

女「あ、でもそんな大げさなものじゃないですよ?」

男「そんなもん聞いてから俺が判断することだ。とりあえず話してくれ」

女「私の外見、どうですか?」

男「……なにが?」

女「パッと見てどう感じます?」

男「ショートカットのボーイッシュなクール系美少女」

女「……照れますね」

男「そんなことよりも早く話してくれ」

女「……私、自分のことを一言たりとも女性だと言ってませんよ?」

男「……や」

女「や?」

男「やっぱりそんなこったろうと思ったよドちくしょー!」

女「反応が大げさですね」

男「……男なのか」

女「心は乙女です。あと一部を除いた外見も」

男「……俺さあ」

女「はい」

男「女の子に好きって言われたことなくてさぁ……」

女「そうなんですか」

男「控えめに言っても最低な告白だったんだけど嬉しかったんだよ」

女「そんな風に思ってくれてると私も嬉しいです」

男「それなのにさぁ、これだよ。上げて落としやがった」

女「私が居ますから落ちこまないでください」

男「あんたのせいで落ち込んでるんだよ!」

女「あはは」

男「あはは、じゃねえ!それにもっと悲しいことは……!」

女「悲しいことは?」

男「好きって言われ慣れてなくて未だに胸がときめいていることだっ……!」

女「あー……」

男「心の中で有りなんじゃね?可愛いから男でもいいんじゃね?と囁いている自分が憎い!」

女「そのままその心の声を受け入れちゃいましょうよ。私、こう見えても尽くすタイプですよ?」

男「触るな!」

女「あ……」

男「……人に優しくされ慣れてないんだ」

女「……たっぷり優しくしてあげますよ?」

男「やめろ!誘惑するなあ!」

女「……やっぱり私が男なのが不満なんですか?」

男「そんなもん言うまでもなくね?」

女「ですよねー」

男「……でも正直男だったことに安心している」

女「!」

男「仮にもし何もなくてただ美少女が俺に告白してたのなら俺はその幸せに耐えきれなかっただろう」

女「……難儀な性格ですね」

男「うるさい。人には人に見合った幸せってもんがあるんだよ」

女「……後ろ向きというかなんというか」

男「ほっとけ、で話は変わるけど」

女「親御さん達への挨拶ですか?任せてください」

男「ちげーよ」

女「違うんですか」

男「あからさまにがっかりしてんじゃねえよ。つうかそんな流れまったくなかっただろ」

女「それじゃあ、なんですか?」

男「一応、告白の返事だけどさ」

女「okですか?yesですか?はいですか?」

男「いいえに決まってんだろ」

女「……そう、ですよね」

男「でもさ、個人的にはお前のこと嫌いじゃない」

女「つまり脈はまだあると?」

男「……どうだろうな」

女「即答しないということはそういうことですね。希望が持ててきました」

男「でさ、友達になってくれないか?お前となら退屈しなさそうだし」

女「いいんですか?」

男「ああ。見た目は可愛いし」

女(これはまだいけそうだな)

男「まあ、よろしく」

女「よろしくお願いします」

男「……よく考えたら俺、泥棒と友達になったんだよな」

女「泥棒ではなく愛の狩……」

男「もしも……」

女「なんでもないです」

男「自分でも思うけどお人好しすぎるな」

女「そういうところも好きです」

男「近い。離れろ」

女「……はい」

男「あ、ところでさパンツ返せよ」

女「……」

男「パンツ」

女「チッ」

休憩。需要とやる気がでればのんびりとまた書く

男「……」ピコピコ

女「……」

男「……」ピコピコ

女「……あの」

男「……なに?」ピコピコ

女「なんでゲームしてるんですか?」

男「なんでって?」ピコピコ

女「一旦やめてください」

男「……」ピコピコ

女「やめてください」

男「はい」

女「……」

男「……」

え、実は女の子でした的な展開がいいの?
男の娘だからいいんだっていう変態さん達は?

女「なんでゲームしてたんですか?」

男「いや、なんでと言われても……」

女「私、友達ですよね」

男「はい。数少ない友達です」

女「そうですよね。それなのにその友達を放置して一人でゲームって何事ですか」

男「……ああ、そういうことか」

女「そうです」

男「ゲーム持ってないのか。言ってくれれば貸すのに」

女「違います」

男「えっ」

男「……もしかして、ゲーム嫌い?」

女「いえ、嫌いじゃないですけど」

男「それじゃどれがいい?」

女「そうじゃないんです!友達が集まったら友達と一緒に遊ぶものでしょう?」

男「あ、ソロプレイは苦手なのか」

女「……この人は」

男「一緒に遊べる……対戦ができるゲームか。それじゃこれあたりかな?」

女「そうです。それでいいんです」

男「ぷよぷよはほとんどの人がやったことあるだろうしな」

女「そうですよ。放置プレイじゃなくそうやってわいわい遊ぶのが正しいんです」

男「そういうものなのか」

女「そういうものなんです。一人でゲームなんてダメダメです」

男「……こう、のんびりと同じ時間を過ごす的なのを想像してた」

女「まだ知り合って間もないのにそんなの求められても困ります」

男「わかった。じゃ、始めようか」

女「はい」

男「……」カカカコカカコ

女「えっと……これがこうなるから……」

男「……」カカカコカカコ

女「あっ、間違えた」

男「よし」

女「えっ」

ばよえーん、ばよえーん、ばよえーん……

男「勝った」

ずんっ!てれれれーん♪

女「……」

男「もっかいやろうか」

女「嫌です」

男「えっ」

女「嫌です」

男「いや、でも……」

女「もういいです」

男「そ、そっか。それじゃあどうする?」

女「……」

男「……」

女「……あなたに甘えたいです」

男「そういうのは無しで」

女「ケチですね」

男「いや、そういう関係でもないじゃん」

女「いいじゃないですかそんなこと。こんな可愛い子が甘えたいと言ってるんですよ?甘やかすのが男でしょう」

男「いろいろ突っ込みたいけど自分で可愛いとかいうか?」

女「実際可愛いでしょう?」

男「それでも普通、自分からは言わない」

女「なんなんですか」

男「なにが」

女「私の気持ち、知ってるんですよね」

男「うん、まあ」

女「私としてはただの友達の関係から甘!酸っぱ!な関係に一刻も早くなりたいんですよ」

男「照れ屋だとかいう設定はどこに行った」

女「お呼ばれされちゃうと無いとはわかってても期待しちゃうんです」

男「そんなこといわれても……」

女「こっちは準備okなのにそういうのが一切無いと落ち込むんです。わかりますか?」

男「でも、友達でいいって言ったじゃん」

女「そんなもの建て前に決まってるでしょう」

男「えー」

女「というわけでカモーン」

男「お断りします」

女「……なんなんですか」

男「いやだって今の状態、居心地いいし」

女「そこから一歩前へ進みましょうよ」

男「やだ」

女「こんなにもあなたのことを想っているのに……」

男「なんか重たい」

女「重たいってなんですか」

男「……だってさ」

女「はい」

男「初対面の時、何してたよ?」

女「愛のハンティング」

男「なんでも愛ってつければいいってもんじゃねえだろ。……不法侵入に窃盗してましたよね」

女「そんな風にいうと聞こえが悪いじゃないですか。やめてくださいよ」

男「いや、事実だから」

女「愛のハンティングなのに……」

男「それでお前は犯罪に手を染めてわけだ」

女「恋をするということはそこまで罪深いことなのでしょうか?」

男「いい加減殴るぞ」

女「暴力反対」

男「簡単に犯罪に手を染めるなよ」

女「我慢できなかったんですよ」

男「我慢できなかったんですよじゃねえだろ。そんな簡単に犯罪行為に手を染める人は怖くて信用できません」

女「あなたに対してだけですよ」

男「なおさら信用できません」

女「そんな……」

男「というわけでこのままの関係で」

女「……わかりました」

男「ん。納得してくれたなら嬉しい」

女「どうせ女っ気もないですし、あせる理由もありませんからね」

男「女っ気がなくて悪かったな」

女「褒めてるんですよ。……邪魔者なんていらないので」

男「……そういうところが重たそうなんだよ」

女「あ……」

男「それにクール系は結構な確立で重たいしな」

女「どこ情報ですか」

男「ゲーム」

女「……」

男「そんな眼で見るな」

女「……軽いよりはマシだと思いません?」

男「そうだな」

女「!」

男「お前以外ならな」

女「……扱いがひどくありませんか?」

男「そうか?」

寝る

男「というかさ、お前男だよな?」

女「なんですか急に」

男「いや、なんとなくそのまま信じちゃったけど、男に見えないもん」

女「そうですか」

男「……本当に男か?」

女「確かめてみます?」

男「いいのか?」

女「ベッドの上でならいいですよ」

男「……」

女「どうします?」

男「遠慮しとくわ」

女「それは残念です。というか普通に男ですから」

男「……産まれる性別間違えたんじゃないか?」

女「そうですね」

男「ならさ」

女「今度はなんですか」

男「俺のことは忘れて普通に女の子と付き合うのはどうだ?」

女「嫌です」

男「なんで?正直俺ほどのダメ男なかなかいないぞ?一緒に居てある程度わかってきただろうに」

女「ダメな人が好きなんですよ。ほうっておけなくて、ついつい保護したくなるんです」

男「……蓼食う虫も好きずきというけどさ、お前よっぽどだな」

女「褒めてます?」

男「褒めてねーよ。ダメな男が好きって斜め下すぎる嗜好だな」

女「好きなものは仕方ないですよ」

男「女の子はそういう対象じゃないのか?」

女「そういう眼で見れませんね」

男「ホモか」

女「ホモですね」

男「……おかしい」

女「なにがですか」

男「ホモとこんな密室にいるのに危機感が湧いてこない」

女「なんですか人を危ないものみたいに」

男「やっぱり見た目って大事なんだなぁ」

女「まあ、見た目で得をしてるのは事実ですけど」

男「ふうん」

女「でもこんななりですからね。いろいろありましたよ」

男「……そっか」

女「はい。聞きたいですか?」

男「……暗い話とかある?」

女「ありますけど」

男「遠慮しときます」

女「そうですか」

男「あんまりほじくり返したりするのは好きじゃないし」

女「まあ、面白い話でもないですしね」

コンコン

姉「やっほー、久しぶりー」

男「あ、姉ちゃん。どうしたの?」

姉「旦那が出張でさ、子供と一緒にこっちへ来たの」

男「へえ、そうなんだ」

女「どうも、こんにちは」

姉「あら、どうも。……ちょっとこっち来い」

男「なに姉ちゃん?」

姉「いいから。少し待っててくださいね」

女「はい、わかりました」

《居間》

姉「とうとうあんたにも春が来たのね。姉ちゃん嬉しいわ」

男「いや、あいつと俺そんなんじゃないし」

姉「選り好みできる立場?さっさとくっつきなさいよ」

男「……帰ってきてそうそうこれかよ」

姉「そりゃ今まで女っ気のおの字もなかった弟に女友達ができたとなれば黙っていられないでしょ」

男「あいつ、男だから」

姉「……ごめんもう一回言って」

男「あいつ、男だから」

姉「本当に?」

男「本当に」

姉「本当の本当に?」

男「本当の本当に」

姉「……女の子に相手にされなさすぎてそっちに目覚めた?」

男「んなわけあるか」

姪「ママー、お話終わったー?」

姉「あらよしよし、もう少し待っててね」

姪「あとおじさん久しぶりー」

男「おじさん……」

姉「……まあ、あれだわ」

男「なにが」

姉「期待を裏切らないわね、あんた」

男「うるさいよ」

《男の部屋》

男「ただいま」

女「お帰りなさい。何話してたんですか?」

男「んー?まあちょっとな」

女「なんですかそれ」

男「別に大したことじゃないよ。お前とくっつけって言われただけ」

女「!」ガタッ

男「お前が男だって言ったらすぐに前言撤回したけどな」

女「あらら。それにしてもお姉さん居たんですね」

男「まあな。ちょっと年が離れてるからだいぶ可愛がってもらったよ」

女「……へえ」

男「旦那さんが出張の間んこっちに居るんだってさ」

女「そうなんですか」

男「……お前さ、すぐに顔というか雰囲気に出るな」

女「……何がですか?」

男「別に」

女「……すみません、悪い癖ですよね」

男「うん」

女「……そこはそうでもないとか言うタイミングじゃないですか?」

男「なんで?」

女「……もういいです」

男「そういえばさ」

女「なんでしょう」

男「そっちはどうなんだ?兄弟とかいる?」

女「……妹が一人います」

男「へえ、可愛い?」

女「はい、私にそっくりですよ」

男「……」

女「なんですかその顔は」

男「いや、なんでもないから」

女「全く……。失礼しちゃいます」

男「それにしても妹かあ……」

女「どうかしましたか?」

男「いや、やっぱりお兄ちゃん起きて!とかって朝起こしに来てくれたり、うっかり着替えを見てしまってお兄ちゃんのエッチ!とかいうイベントってあるのかな?」

女「……」

男「なんという冷たい視線」

女「何を考えてるんですか」

男「いや、だって、ねえ?」

女「同意を求めないでください」

男「同じ男ならこの気持ちがわかるだろ」

女「わからないです」

男「ちぇっ、つまんねえ」

女「……あの」

男「ん?」

女「もし良かったらそういうのやってあげましょうかお兄ちゃん」

男「」

女「……固まらないでください。そういう反応だとすごく恥ずかしいんですが」

男「すっごく反応に困った」

女「すみませんでしたね、反応に困るようなことをして」

男「俺がお前に求めてるのはそういうじゃないんだよ」

女「はぁ」

男「俺は腹を割ってしゃべれるような親友が欲しいんだ」

女「そして友情がいつしか愛情に変わっていくんですね」

男「違うから」

女「というか急にそんなことを言われてもどうしたらいいのかわかりませんよ。具体的にはどんなことをして欲しいんですか?」

男「……んー」

女「……」

男「……猥談?」

女「なにを言ってるんですか?」

男「なんか仲がいい友達って笑いながら猥談をしているイメージがある」

女「……だいぶ偏ってませんか?」

男「そうかもしれんがそういうのは仲が良くないと話せないだろう?」

女「まあ、そうですけど」

男「というわけで猥談しようぜ!」

女「今からですか」

男「男同士、ごまかすのは無しの方向でいこう!」

女「……」

男「んーじゃあ、どういうタイプが好きか!」

女「ダメな人ですね」

男「……そういうのじゃなくて胸がおっきいとかさー」

女「それじゃあ、自分より背が高い方が好きですね」

男「へえ。それじゃあ今度は俺な!」

女「はいはい」

男「おっぱい!」

女「……」

男「でかいおっぱいが好きだ!デカすぎるなんてことはない!大きい方がいい!」

女「……そうなんですか」

男「おう!」

女「……」

男「今度はそっちの番だぞ?」

女「あ、えーとー……裸よりも服を着ている方がグッとくることがありますね」

男「ほう、例えば?」

女「学生服だとかの制服とかですかね」

男「なるほどー、いいね!」

女「ふんどしとかも好きですよ」

男「俺も好きだよ、ふんどし」

女「……」

男「……」

女「話がかみ合っているようでかみ合ってませんよね、これ」

男「そうだな、これは失敗だったかもしれん」

女「明らかに失敗ですよ」

男「……猥談は無理があったか」

女「というかセクハラですよね」

男「えっ?」

女「えっ」

男「なんで?」

女「……」

男「わかったわかった。わかったからその堅く握りしめた手をほどこう。暴力反対」

女「少し無神経です」

男「そうかな」

女「はい」

寝るノシ

男「……難しいなあ」

女「難しいですか」

男「うん、難しいよ。どうしたらいいのかわかんないし」

女「友達付き合いに正解なんかあるはずないでしょう」

男「……そうなんだけどさ、お前をどう扱ったらいいのかわかんないんだよ」

女「親友ポジションとして扱うじゃなかったんですか?」

男「……親友と呼べるような友達居なくてさ。具体的にどうしたらいいのかわからない」

女「……実際、親友と呼べる友達がいる人ってどれくらいいるんでしょうね」

男「さあな、でもそんなにはいないんじゃないかな?」

女「その根拠はなんですか」

男「なんとなくだよ。俺が今まで生きていてそんな人に会ったことがないから少ないと感じるんだろ」

女「……まあ私もそんな人いませんしね」

男「……そっか」

女「はい」

男「……親友がいるってどんな感じなんだろうな」

女「わかりかねますね」

男「はっきりと親友だと言える友達がいるってどんな感じなんだろうな」

女「友達と言うのにも悩んだりしますしね」

男「ああ、知り合いだけどそこまで親しくない人」

女「知り合いと友達と親友。区切りはどこからなんでしょうね」

男「……難しいなあ」

女「そうですね」

男「でも恋人だともっとわかりやすいような気がする」

女「そうですか?」

男「そうでもないのか?」

女「一度寝たくらいで彼氏面or彼女面するなよという言葉があるくらいですし」

男「……それってさ、本当に言う人いるのかな」

女「さあ?少なくとも私はいいませんけど」

男「理由聞いてもいい?」

女「そんなどうでもいい相手となんて嫌ですし」

男「へー」

女「あなたは違うんですか?」

男「……最初はショックかもしれんが後腐れなく童貞捨てられてラッキーだと考えると思う」

女「……」

男「男としちゃあとっとと捨てたいもんだけどそれで責任とらされたりするのはなーって」

女「最低ですね」

男「最低って……」

女「そんなこと言っておきながら女には貞淑であることを求めるんでしょう?」

男「うっ」

女「これだから男は……」

男「おい、お前も男だろ」

女「心は乙女だからいいんです」

男「なんという屁理屈」

女「あ」

男「どうかした?」

女「私は新品なので心配なさらないでくださいね」

男「その情報はいらんかった」

女「いえ、あなたは自分のことを散々童貞だと言っていたので私も教えないと不公平かな、と」

男「気をつかってくれてありがとうというべき?」

女「御自由に」

男「はあ……」

女「なんですか。急にため息をついて」

男「いや、このまま俺はずっと童貞のままなのかなーって」

女「……」チラッ、チラッ

男「アピールすんな」

女「今アピールしないでどうしろというですか」

男「お前は親友ポジだから。青狸ポジですから」

女「それじゃああなたはダメ眼鏡ですか」

男「そう言われるとなんか嫌だな」

女「でも青狸とは少しシンパシーを感じますね」

男「どして?」

女「絶対あの青狸はダメな人が好きですよ。この人は自分がいないとダメなんだって確信してるんです」

男「……実は眼鏡って青狸がいたからダメになったんじゃね?」

女「そうかもしれませんね。でもここぞという時はやれる子ですよ」

男「ここぞの時以外はダメダメじゃねーか」

女「ふふっ。困ったことがあったら言ってくださいね、助けてあげますから」

男「これ以上のダメ人間になりそうで怖い」

女「その時はその時です。ちゃんとダメにしてあげますよ」

男「なんという邪悪な青狸ポジ。本物の青狸助けて」

女「あなたのところには来ないんじゃないですか?」

男「なにを言う。自慢じゃないが俺も眼鏡並みのダメ人間だぞ」

女「眼鏡君は子孫がいたから青狸が来たんですよ?」

男「なんという事実」

女「でも、子孫が出来ないような人達こそ青狸に助けて欲しいんだと思いますけどね」

男「俺もそう思う」

女「フィクションですら私たちに厳しいんですね」

男「やめろ、悲しくなってくるから」

女「そんなあなたに朗報が」

男「一応聞いてみよう」

女「今なんとあなたの目の前にあなたと恋人になりたいと思っている人がいますよ」

男「ノーサンキュー」

女「つれないですね」

男「お前は友達だから。そういうのじゃないから」

女「ずっと友達のままですか」

男「俺の中では」

女「ずっと?」

男「ずっと」

女「それはずっとそばに居て欲しい。つまり遠まわしな告白ですね」

男「そういう意味は一切含まれておりません」

《数ヶ月後》

女「好きです」

男「俺も好きだよ、友達として」

女「前まであった照れがまったくありませんね」

男「いちいち照れてたらきりがないだろ」

女「ここ数ヶ月、アタックし続けているというのに全然手応えがないんですが」

男「もうそんなにもなるのか、あっという間だなぁ」

女「話をそらさないでください。というかもうそろそろ進展してもいいですよね」

男「別にいいじゃんこのままで」

女「……ぶっちゃけますともうそろそろ我慢の限界なんです」

男「何が」

女「目の前においしいものがあったとします。それをただずっと見せつけられるだけというのは拷問ですよね?」

男「それは拷問だな」

女「つまりはそういうことです」

男「……」

女「……」ジリッ

男「待て!」

女「もうだいぶ待ったんですが」

男「そういうのは良くない、考えなおそうそうしよう」

女「……」ジリッ

男「無言になるなよ!?」

女「……」ジリッ

男「わかった!」

女「何がですか」

男「友達がそこまで悩んでいるとは知らなかった。だけどそういうのは良くない」

女「それで?」

男「だから今度出かけよう。もちろんそれっぽく振る舞う。だから勘弁してください」

女「……デートですか?」

男「そう言うのにはひどく抵抗があるが……そんな感じだ」

女「嘘じゃないですよね?」

男「友達に嘘は言わん」

女「……」

男「ものすっごいにやけてるぞ」

女「……ここまで来るのに時間がかかりましたが、第一歩って感じですね」

男「これ以上はないけどな」

女「とりあえずはそれでいいです」

男「そのとりあえずって言葉がすっごく気になるんだが」

女「聞きたいですか?」

男「いいえ」

女「それじゃあいつ行きます?今度の休日に行きますか?」

男「うん、それでいいよ。どうせ暇だし」

女「それじゃあ映画館前に待ち合わせで」

男「わかった」

女「おめかしするので楽しみにしててくださいね」

男「……わかった」

《映画館前》

男「待ち合わせ時間よりも早めに来る。それが友達に対する礼儀というものだと俺は思う。親しき仲にも礼儀ありだ」

男「お、あいつも早いな」

男「おっす、お前も早かったな。それにしてもいつもより女の子女の子してる服着てるな」

女?「……あんた誰?」

男「へっ?」

女?「ナンパ?彼氏いるんでやめてくれませんか」

男「えっ、とうとう彼氏できたのかお前。いつの間に」

女?「……私はあなたと初対面なんですけど?」

男「……あれ?」

女?「……もしかして兄の知り合いですか?」

男「……ということは、あいつの妹か?本当にそっくりだ……」

女「どうも、お待たせしました」

男「あ」

女妹「……何してんのあんた?」

女「どうしてここに……!?」

女妹「……あんたさ、お母さんあれだけ泣かせといてまだ反省してなかったわけ!?」

女「う……あ……」

女妹「しかも格好から察するにこんな冴えない男とデートでもすんの!?」

男「おっと、さりげなくこちらに毒を吐いてきましたよ?」

女妹「最低……!なんであんたみたいな変態と血がつながってんのよ!」

女「……ごめんなさい」

女妹「ごめんなさい?そんなんで許してもらえるとでも……」

男「はいストップ」

女妹「なによ?」

男「人の注目が集まってきてる」

女妹「……」

男「話し合うのならもっと落ち着ける場所で……」

女妹「そんな必要なんてないわ」

男「……どうしてだ?」

女妹「そんな変態と関わりあいたくないもの」

女「……」

男「そうか」

女妹「……私は絶対あんたを許さないから」

コツコツコツコツ……

女「……」

男「……行ったぞ」

女「……」

男「……俺の家に行かないか?とりあえず落ち着こう」

女「……はい」

男「……」

女「……あの」

男「……どうした?」

女「……手を握らせてください。……お願いします」

男「……ああ」

《男の部屋》

男「……暖かいココア持ってきたぞ」

女「……ありがとうございます」

男「……」

女「……吐き出して、いいですか?泣き言言って、いいですか?」

男「そういうのも友達の役目だからな。ましてやお前は親友的な存在だ」

女「……さっきのはわかっているでしょうけど、私の妹です。そっくりだったでしょう?」

男「ああ」

女「……昔は仲も良かったんですけどね。私のせいであんな風になってしまったんです。本当はあんな子じゃないんです」

男「そうか」

女「……私、こういう風じゃないですか。女の子みたいな見た目で、女じゃなくて男が好きで、でも男」

女「そういうのってやっぱりあんまり受け入れてくれる人って居ないんですよね」

女「私の家族は平凡で普通の人たちで、そういうのを嫌う人たちでした」

女「……泣かれて、叩かれて、怒鳴られて。もうほとんど追い出される体で私は一人暮らしを始めたんです」

男「……」

女「そのせいで両親達もストレスが溜まって些細なきっかけでも怒鳴るようになりました。一番小さかった妹はそれをどう思ってたんでしょうね」

女「……私も親身になって支えてくれる人なんて居なくて……」

男「もういい」

女「……まだまだ吐き出したいことは山ほどありますよ?」

男「……吐き出すのよりも、楽にしてやる」

女「……えっ」

男「辛いんだろ?苦しいんだろ?なら俺が逃げ場所になってやる。苦しい思いなんてする必要はない」

女「……そんなのズルいですよ」

男「ズルくて何が悪い。辛いことから逃げて何が悪いんだ?」

女「そんなの無責任です」

男「無責任で結構。俺はな、今まで辛いことからは逃げてばっかりでここまできたダメ人間だ」

女「……」

男「他の奴ならお前とお前の家族が和解するように説得しただろう。だけど辛いことから逃げてばかりいた俺に解決方法なんてわからない」

男「わかるのは逃げる方法だけだ。だから俺がお前に言えるのも逃げる方法だけだ」

女「……」

男「……逃げるんだったらどこまでもつき合う。それが友達としてのけじめだ」

女「本当に、どこまでも付き合ってくれますか?」

男「ああ」

女「辛い時、頼ってもいいんですか?」

男「当然。お互いにもたれあいながら支えて行こう。人と言う字はお互いがもたれあっているから倒れないんだよ」

女「……なんですかそれ」

男「俺が今考えた格言だ」

女「……本当にダメな人ですね」

男「照れるだろ」

女「……私の直感は間違っていませんでしたね。あなたを好きなってよかったです」

男「はん。大はずれも大はずれだよ。楽な道を示してなんの解決もさせないんだからな」

女「私にとって一番必要だったのは逃げようと言ってくれるダメな人だったんでしょうね。自分がダメ男が好きな理由がわかりましたよ」

男「ダメ男で悪うござんしたね」

女「……ふふ」

男「……あんなに落ち込んでたのにもう笑いやがって」

女「あなたのおかげですよ」

男「あっそ」

女「あの……」

男「なんだ?」

女「これからもよろしくお願いしますね」

男「……ああ」

女「あと、もう言質はとりましたから。これからずっと一緒ですよ」

男「……し、親友ポジションだぞ?」

女「親友なら傷心中の私を抱きしめてくれますよね?」

男「……」

女「……ずっと一緒に逃げましょうね。逃がしませんから」

男「……はい」

おわり

これでおしまい。もっと男の娘ss増えろ!ノシ

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