魔法使い「世界一長い呪文?」(29)

ドォンッ!



魔法使い「ふうっ」

女剣士「わ~、すごい」パチパチ…

魔法使い「女剣士、来てたのかい」

女剣士「魔法の特訓? 絶好調じゃない!」

魔法使い「うん、今日は比較的調子がいいね」

女剣士「今のは爆破系の魔法?」

魔法使い「うん、中級魔法ってところかな」

女剣士「魔法ってすごいよね~」

女剣士「剣なんて、よほどいいところを斬らないと」

女剣士「敵を一撃で行動不能に追い込むなんてできないけど」

女剣士「魔法は一発で相手をやれちゃうもんね」

魔法使い「そんなことないって」

魔法使い「相手を一発で仕留められるような魔法は、当然呪文も長い」

魔法使い「詠唱してるスキに接近されてズバーッなんてのはよくある話だしさ」

魔法使い「それに高度な魔法ほど、すごく集中しなきゃならないしね」

魔法使い「それこそ、自分だけの世界に入るぐらいに」

女剣士「ふうん……」

女剣士「使いどころをまちがえると、命を失いかねないってことか」

女剣士「呪文って、たとえばどんなのがあるの?」

魔法使い「たとえば……」

魔法使い「炎よ! ──だけで済んじゃうようなものもあれば」

魔法使い「ちょっと長いのだと……」

魔法使い「巨大な竜巻よ、吹き乱れ、荒れ狂い、その身をもって、敵を切り裂け!」

魔法使い「──なんてのもあるね」

女剣士「へぇ~」

女剣士「それじゃ、世界一長い呪文っていうと、いったいどんなものなの?」

魔法使い「世界一長い呪文?」

女剣士「うん」

女剣士「もしよかったら、教えてくれない?」

魔法使い「まあ……いいけど」

女剣士「え、ホント?」

魔法使い「う~ん」

女剣士「あ、やっぱりダメ? 門外不出な感じ?」

魔法使い「そんなこともないけど」

女剣士「なら、いいじゃないのよ」

魔法使い「どうしようかな、迷うなぁ」

女剣士「いや、迷うとこ? なにも魔法を使えっていってるわけじゃないし」

魔法使い「だって、危ないんだもん」

女剣士「危ない? なにが? そんなに危険な魔法なの?」

魔法使い「お前の顔が」

女剣士「顔!?」

女剣士「顔ってどういうことよ! 失礼ね!」

魔法使い「いやいや」

女剣士「なんだ、冗談だったの……冗談ならいいけど」

魔法使い「全部だよ」

女剣士「?」

魔法使い「体も、心も、全部」

女剣士「な、なんですって!?」

女剣士「ちょっと待ちなさいよ!」

女剣士「いくらあなたでもいっていいことと悪いことが……」

魔法使い「すまんすまん」

女剣士「まぁ……謝るなら許してやるけど」

魔法使い「ちょろいな~」

女剣士「!?」

女剣士「ちょろいですって!?」

魔法使い「おいおい、そう怒るなよ」

女剣士「顔が危ないとか、ちょろいとかいわれて、怒らない人はいないわよ!」

魔法使い「たしかにな」

女剣士「た、たしかに……って」

魔法使い「ま、それはともかくさ、天気の話でもしよう」

女剣士「て、天気? なんで?」

魔法使い「これから何が降ると思う?」

女剣士「何がって……雨?」

魔法使い「惜しいな、キャンディだ」

女剣士「ハァ!?」

魔法使い「キャンディって甘いよな」

魔法使い「まるでお前みたいだ」

女剣士「へ……?」

女剣士「な、なにそれ……」

女剣士「甘いって……可愛いってこと? そういう意味なら嬉しいけど……」

魔法使い「勘違いするな」

女剣士「へ?」

魔法使い「お前を倒すのは、この俺だ」

女剣士「もう……意味分かんないわよ!」

女剣士「私、帰る!」クルッ

魔法使い「待て」

女剣士「なに!?」

魔法使い「なにか知りたいことがあったんじゃないのか?」

女剣士「…………!」

女剣士「そうよ! 世界一長い呪文をとっとと教えてよ!」

魔法使い「この世は有である」

魔法使い「であると同時に、この世は無である」

女剣士「!」

魔法使い「ゆえにこの世は有でもあり無でもある」

女剣士「あ、やっと始まったの?」

女剣士(正直、意味分からないけど……)

女剣士(なんかすごそうな呪文だわ……)ゴクッ

魔法使い「有と無、略すと有無」

女剣士「うん」

魔法使い「人にえらそうに返事をする時は、うむ、というのがよいでしょう」

魔法使い「アハハハハ!」

女剣士「…………」イラッ…

女剣士「なんなのよ、さっきから、もう! ふざけてるの!?」

女剣士「それとも魔法の撃ちすぎで頭どうかしちゃったんじゃないの!?」

魔法使い「──ってのが世界一長い呪文さ」

女剣士「へ?」

魔法使い「ただ言葉に出しても、君も面白くないだろうから」

魔法使い「本当に魔法を唱える時のように、精神を集中して唱えてみたよ」

女剣士「え、ちょっと待って、どういうこと?」

魔法使い「だから、今までボクが唱えてたのが世界一長い呪文だよ」

魔法使い「今紙に書いてあげる」カリカリ…

う~ん、そんなこともないけど、どうしようかな、迷うなぁ、だって、危ないんだもん、

お前の顔が、いやいや、全部だよ、体も、心も、全部、すまんすまん、ちょろいな~、

おいおいそう怒るなよ、たしかにな、ま、それはともかくさ、天気の話でもしよう、

これから何が降ると思う? 惜しいな、キャンディだ、キャンディって甘いよな、

まるでお前みたいだ、勘違いするな、お前を倒すのは、この俺だ、待て、

なにか知りたいことがあったんじゃないのか? この世は有である、であると同時に、

この世は無である、ゆえにこの世は有でもあり無でもある、有と無、略すと有無、

人にえらそうに返事をする時は、うむ、というのがよいでしょう、アハハハハハ



魔法使い「これが世界でもっとも長いといわれる呪文さ」

魔法使い「長いだけで、意味分かんないでしょ?」

女剣士「…………」

女剣士「ちなみに……この魔法って、どんな効果があるの?」

魔法使い「呪文が長いわりに大したものじゃないよ。実用性はないね」

魔法使い「なんでも相手を困惑させて煙に巻く効果があるらしいけど……」

女剣士「…………」

女剣士「うん……効果は抜群だったわ」







おわり

以上で終わりです!

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