魔王「旅に出る」 側近「…え?」(15)

側近「い、今なんと仰いましたか」

魔王「旅に出る、と言った」

側近「めめめ、滅相もない事を!魔王様が城から離れるなど聞いた事がありません!」

魔王「そうか…なら私がその常識を覆してやろうぞ」ハッハッハ

側近「な、何故です!何故旅に出ようなどと」

魔王「それに答えるには逆に問わなければならぬが?」

側近「な、何なりと」

魔王「勇者が故郷の村を発って、どれくらいになる」

側近「かれこれ、半年になるかと」

魔王「その勇者は今、どこにいる」

側近「消息不明に」

魔王「ならば、我が旅に出ようと」

側近「いやいやいや、意味が解りません」

魔王「ふむ、ならば…最近、我が垂れ流す障気に汚染された動植物が人間どもに牙を剥いている事は知っているだろう?」

側近「はい」

魔王「我が無意識とは言え、仕出かした事…故に我が駆逐してやろうと言うのだ」

側近「人間なぞ滅ぼされて然るべきでは?」

魔王「貴様!我が母を愚弄するか!侮蔑するか!!」

側近「ひぇっ…滅相もありませ…へ?魔王様の母君は人間でございますか!?」

魔王「そうだ、先代魔王…つまり父を惚れさせた勇気ある人間だ」

側近「知らぬ事とは言え、申し訳ありませんでした」

魔王「まぁ良い、我は母に博愛精神を授かったのでな…故に人間を愛してやろうと言うのだ」ハッハッハ

側近「流石は魔王様!…しかし、なら何故勇者が居ない今になって?」

魔王「解らぬか?勇者にとって、魔王は絶対悪でなければならない!故に我が人間を手助けするのは勇者に知られてはならぬ!」

側近「…わかりました!魔王様が留守の間、私が責任を持って城を護り抜きます!」

魔王「頼んだぞ!側近よ」

こうして我は城を出た

フゥーハハハ!
よもや勇者の足跡を辿るなぞ誰も思うまい!

魔王「まずは、勇者の故郷だな」

~エイユウノ村~

魔王「何ともストレートな名前だな」

?「おや?旅の人かい」

第一村人発見!

魔王「フゥーハハハ!そうだ!我は旅人!女よ、魔物で困った事はないか!」

勇者母「困った事ねぇ…あ!そうだ」

女に言われるがまま、近くにあるという迷いの森を駆逐してやろうぞ

~迷いの森~

ふむ、これは思いもよらぬ迷いの森

口数を制限するマホトムが森全体に掛かっている

更に出入り口付近には方向感覚を誤認させるメダパニか…

これは想像以上に厄介だな

しかし!我は魔王!これしきの妨害など片腹痛いわ!

魔王「フゥーハハハ!」

魔王は掌から凍てつく波動を放った!

魔王「フゥーハハハ!これでこの森を覆っていた呪文の効果は消えた!後は、再び呪文をかけようとする反応から犯人を叩きのせば良い!」

森から呪文の反応が完全に消えようとする時に森の最奥から新たな呪文の反応を感じた

魔王「最奥だな!よぉし!待っていろよ!犯人ン!」ダバダバダバ

~迷いの森、最奥~

魔王「フゥーハハハ!ここが最奥か!」

眼前にそびえ立つ巨木…大樹。それは世界樹に似て非なる存在だった

魔王「霊樹という奴だな。世界樹になれなかった物か」

大樹を護るかのように浮遊する小さい光の珠が我を取り囲む

魔王「ふん!こ奴らは森に住まう妖精か?」

なるほど、妖精が住む森なら人間を惑わせても可笑しくはない

魔王「しかし、悪なき人間に仇成す時点で魔物と変わらん!やるならマホトムでもメダパニでもない!」

ニフラム!

妖精もろとも大樹は森と共に姿を消していく

魔王「人間を近付けたくないのなら、初めから人間の居ない場所に行け」

迷いの森は消え去り、広大な草原が広がるのみであった

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