北沢志保「声優という生き方。アイドルという生き方」 (7)

 血が通うというのは、まさしくああいう感覚のことを言うのだろうか。
 それまでデータでしかなかった私に、文字通り魂が込められたその瞬間のことを、私は一生忘れないだろう。
 私にとって彼女、雨宮天との出会いは、それだけ大きな出来事だった。

 「私達がゲームになる?」

 765プロダクションにアイドルとして所属して半月がすぎたある日のこと。
 集められた私達アイドルは、そんな話を教えられた。
 765プロダクションミリオンライブシアター。月一で行われるライブイベントのために作られた劇場で、私を含む37人のアイドルはそのイベントに向けて日々レッスンを重ねている。
 そんな私達が、これからゲームになるという。
 ゲームといっても私達が出るわけではなく、私達をモデルにした新しいキャラがゲームに出演するというとのことだ。
 もちろんゲームには声もつき……つまり、私を私以外の誰か、別の人間が演じるということだ。
 演技を専攻する身として一度はあってみたい、その結論にたどり着くまで時間はかからなかった。

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 肩下まで伸びた黒髪は絹のように美しく、切れ長の瞳は芯の強さを感じさせる。
 目鼻立ちは整っており、正直に言うとそれほどの美貌はうらやましくもある。
 しかし、そんな彼女の第一印象は、頼りない人といった感じだった。
 私より背が低く小柄な彼女は、どことなく小動物チックで、落ち着きがなくなにかに怯えているといった感じだった。
 そんな彼女が、マイクの前に立った瞬間、別人のようになる。
 率直に言うと、彼女の演技を初めて見たとき、もっと彼女の演じる姿が見てしまいと思ってしまった。

 私の彼女の呼び方が、雨宮さんから天にかわるまでそう時間はかからなかった。
 声優という職業に就く彼女と、いずれ演技にかかわる仕事をしたいと思う私。
 ふと気づけば、私達は演技についてお互いの考えをぶつけ合う友達になっていた。
 彼女は20歳で私は16歳。
 それでも、私達の関係に問題が起きることはなかった。

 去年の夏のことだ。
 天が、初めて私の役を演じる声優としてファンのみんなの前に立った。
 今思い出してみたら拙いステージだけど、天が北沢志保を一生懸命に表現しようとしていたことは絶対に忘れない。

 それから数カ月後、雨宮天の劇場デビューが決まった。
 私達にとっても先輩に当たる765プロオールスターズ、彼女達をモデルにしたキャラクターが登場する映画に、彼女雨宮天も、私北沢志保役として参加することになった。

 脚本に目を通した彼女は、最初にこんなことを口にした。
 志保さんが誤解されるのが怖い、と。
 作中の私の役割は、半分以上悪役と言っていいものだ。私に否定的な意見が集まるのも無理がない。
 彼女は、それが怖いと言ったのだ。
 自分自身が否定されるのではなく、ほかならぬ私が否定されたくないといったのだ。
 バカだなあと思ったと同時、嬉しさも一緒にこみあげてきた。

 ふたを開けてみたら、時間がたつスピードというものはあまりにも早く。
 あっという間に映画公開、そして……天にとって、初めてとなる舞台挨拶がやってきた。
 その場で、彼女は涙を流しながらこう言った。
 北沢志保としてステージに立つのは怖い、と。
 私だってそれは同感だ。舞台に立ち注目を浴びるのには、いつだって恐怖が付きまとう。
 しかも彼女は、雨宮天としてではなく、まったくの他人として立つのだ。
 そこに恐怖を感じない人など、やはり居ないと思う。
 それから一週間後のライブで、彼女はこう言った。
 志保さんの力を借りるのではなく、志保さんと一緒にがんばります、と。
 嬉しかった反面、どこか彼女が遠くへ行ってしまう、そんな気がしていた。

 それから何カ月もしないうちに、彼女は立て続けにアニメ番組の出演が決まっていった。
 先行上映会やラジオ番組のパーソナリティなどを務めるうちに、彼女は瞬く間に成長していった。
 その成長を間近で見ることが出来たのは、最初に彼女が演じた役であるという私の特権だろう。
 そう、彼女の根元にはいつでも私が居るし、私の魂には彼女の声が宿っている。
 彼女がたとえハリウッドで女優デビューしようとも、この場所に帰ってくるのは明白なのだ。
 だから私は、彼女にこう言える。

 お誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう、と。

おわり!
天さんお誕生日おめでとう!トラハモ公録最高でした!
これからも天さんが北沢志保でいてくれますように!

ごめん志保年齢間違えた……14歳です……

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