あずさ「一生懸命頑張る貴方は好きだったから」 (20)

・アイマスSSです。
・地の文あります。
・書き溜めてあるのですぐ終わります。

では、よろしくお願いします。

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小鳥「………………む~~ん」

あずさ「…………」

営業、お仕事、送迎やらなんやらで、すっかり人が出払ってしまった事務所で、
緑の事務員がうんうん、いやさむんむん唸っていた。

小鳥「むむっ」

あずさ「……ふふ」

小鳥「む~~~~~…………ん?」

はっ、と思いつけば頭を垂れ、またはっ、と思いつけば唇を尖らせる。
それが液晶に向かっての表情なのだから、尚更可笑しく見えてしまう。


あずさ「難航してますね」

小鳥「あっ、あずささん。 もっ、もーホントですよー」

あずさ「さっきから、ずっとむ~~んって。 ふふふっ」

人差し指で眉間を下げ、彼女の真似をしてみせると、彼女は慌しく手を振り乱した。
皮肉ではなく、本当に歳を感じさせない、若々しい女性と思う。

小鳥「や、やめてくださいよ! だってこの企画書が……」

あずさ「頑張って、ね?」

小鳥「……………………ぁ」

先程までの喧しさとは一転、呆けたように小さく息を吐くと、
熱に浮かされたように私の顔をじっと見つめてくる。

あずさ「……? 小鳥さん?」

小鳥「っ!! あ、いや、その、えと、いーやっ、いくらあずささんの応援でも無理な物は無理です!!」

白昼夢から目を覚ましたように、頭を振ってインカムを正しながら、
取り乱した口調はそのままに、彼女は腕を組んだ。

あずさ「あら、本当ですか?」

小鳥「本当ですともっ!」

あずさ「私、小鳥さんの頑張る姿、好きなのに……」

小鳥「……………………」

そっぽを向いてしまった彼女の体がビタリと止まる。
あともう一押しかもしれない、良く聞こえるようにもう一度事細かく述べた。

あずさ「毎日毎日一生懸命な小鳥さんの働いてる姿が、私好きなんですよ?」

小鳥「………………ちっくそぉぉおぉう!! や、やってやりますよぉおぉ!!」

あずさ「あ、あらあら、まさかそんなに張り切るなんて……」

正直予想外の事が起きてしまった。 
何が彼女をそこまで奮い立たせるのか、私には解りもしなかった。


ただ、良い推進剤にはなったんじゃないか。
見る見るうちに彼女のキーボードを叩くスピードは上がっていく。

あずさ「すごい…………」

小鳥「あずささんにそんな事言われたら、いつもの100倍頑張らざるを得ないじゃないですかぁぁあぁ!!!」

あずさ「そ、そこまで無理しなくても……。 体を壊してしまいます!」

推進剤と言ってもやり過ぎだろう。
今にも彼女はそのまま液晶画面に突っ伏してしまいそうな程に、一心不乱に書類にかじりついている。

小鳥「じゃ、じゃああずささん」

あずさ「は、はい?」

小鳥「この書類終わらせたら、一緒に―」


・ ・ ・ ・ ・

ドン、パラパラパラパラ

ドンドン、パーン

あずさ「…………素敵」

ものの数十分程度で残していた書類を終わらせた彼女に連れられると、
そこはなんて事無い、事務所の上の上、屋上だった。

小鳥「今日、近くの川原でやるって聞いたんです」

丹田にまで響く爆発音。
その爆発は、暗い夜を少しだけ誤魔化す。

咲いては消える、咲いては辺りを騒がしく照らす。

あずさ「綺麗ですね、花火」

小鳥「はい、あずささんに見せたくって」


あずさ「…………私にですか?」

小鳥「………………はい」

最後の肯定は、花火の音に掻き消された。
花火の明かりに断続的に照らされる彼女の顔は、明らかに赤くなっていた。

あずさ「……………………」

小鳥「迷惑…………、でしたかね」

あずさ「……あっ、違うんです。 とっても嬉しくって……、でも……」

小鳥「…………でも?」

あずさ「なんで、私に見せたかったのかなぁ、って……」

それだけは聞いて欲しくなかった、と言ったような顔で、
彼女は花火からも、私からも目を離した。


小鳥「それは………………」

あずさ「………………それは?」

ドン、パラパラパラパラ

ドンドン、パーン

小鳥「………………じ」

あずさ「じ?」

小鳥「事務所にあずささんしか居なかったじゃないですかっ!? そう、ほらっ」

あずさ「あぁ、確かに…………」

小鳥「そうっ!! そう……、なんですよ……」

次第に彼女の視線は下へ下へと向いていく。
落下防止の手すりに額を乗せて、一度大きくため息を吐いた。


何故彼女が落ち込んだのか、私にはまるで解らない。
今の会話に落ち込む要因があったのだろうか。
私の質問したことがいけなかったのだろうか。

あずさ「…………小鳥、さん?」

いつしか打ち上げられる花火は止み、うっすらと白煙が立ち上るだけ。
次第にそれも空に霧散し、現実が静寂を牽引してくる。

小鳥「…………ダメだなぁ。 どうして、嘘吐いちゃうんだろ」

あずさ「嘘?」

小鳥「あぁっ、いえいえ、違うんです!! えぇ、はい!」

あずさ「……それも嘘、ですか?」

小鳥「……………………嫌なんですよぉ」

あずさ「……嫌?」

彼女が搾り出した返事は、とても弱々しいものだった。

小鳥「本当の事言ったら嫌われるんです……。 解ってるんですよそれくらい」


あずさ「そんな……」

小鳥「違うんです、あずささんを信用してないんじゃなくて……。 そのくらい、なんていうか」

そのくらい、本当の事は重苦しいものなのだろうか。
私への信頼よりも発言する事への恐怖が勝る程、その言葉は大仰なものなのだろうか。

あずさ「大丈夫ですよ、安心してください」

小鳥「でも…………」

あずさ「私言ったじゃないですか、小鳥さんの事が好きだって」

小鳥「あずささん……」

一生懸命健気に頑張る、そんな小鳥さんが好きだ。
そう、彼女はその言葉で事務所に居た時も奮起してくれたではないか。

あずさ「大丈夫です、もっと信頼してください。 ね?」

彼女の本当の言葉とは何か、そのヴェールは未だ取り払われていないが、
それがなんであろうとも、彼女の心を蝕むものであるならば、排除してあげたい。


小鳥「………………あずささんは言いましたよね」

あずさ「はい?」

小鳥「なんで、私に見せたかったのかなって」

あずさ「あぁ、はい。 他に誰も居なかったからって。 でも……」

小鳥「そう、嘘なんです。 本当は……、本当は……」

喉まで出掛かっているのに、どうしてもその言葉が出せないといった表情で口だけが動いている。
言えないのは、緊張なのか。 それとも自身がそれを言うのを押し殺しているのか。
私にはただただ、待つことしか出来ない。

小鳥「…………本当は、あずささんと一緒に見たくって……ッッ」

あずさ「………………はい?」

何を言い出すのかと思えば、とても普通の理由だった。
誰も居ないから私を誘った、ではなく単純に私だけを誘いたかった。 他に誰が居ようとも。
その理由におかしな所などあるだろうか。


小鳥「あ、あずささん好きって言ってましたよね私の事ッ!?」

あずさ「……え? あぁ、はい」

小鳥「だからその、勇気を出して誘って……。 凄い緊張したんですけど、OKしてくれて嬉しかったです!!」

違和感。
何か私と彼女の間に齟齬が発生しているような、そんな違和感。

小鳥「あずささんと花火見たかったっていうのは……、その……。 私……!!」

あずさ「え? あの…………」

小鳥「私! あずささんの事が好―」

あずさ「待って!!!!!!!」


のべつ幕無しに語る、立て板に水の彼女に制止を掛ける。

あずさ「待ってください……、少しだけで良いから……」

小鳥「ぇ……。 でも…………」

あずさ「お願い…………」

小鳥「………………はい」

なんとか冷静さを取り戻してくれる彼女に礼を言う余裕も無く、頭を抱える。

彼女は、私に対して特別な感情を抱いていた。 同性なのにも関わらず。
どこで、どのタイミングで私に対してそんな感情を抱いたのか、私には知る由も無い。

それに、今一番優先する事はその答えではない。


事務所での出来事を遡る。
私の言葉で彼女はやる気を取り戻した。

先程までの出来事を遡る。
彼女は私を、個人的な用で屋上に誘った。

それは全て、私を愛の対象として見ていての事だった。
私と彼女の間に発生していた齟齬は、これだったのか。

小鳥「えへへ……。 でも、嬉しいです。 あずささんも私の事が好きだったなんて」

あずさ「!!!」

小鳥「そんな、まさかと思ってたけど……」

違う、違うんだ。

あずさ「………………なさい」

小鳥「良かったぁ……。 あっ、もしかして私が運命の人だったり……」

あずさ「ごめんなさい」

小鳥「………………へ」


あずさ「私は、貴方の想いには答えられそうに…………」

言ってはならない言葉だろう。 これを言ってしまえば、きっとこれから765プロの雰囲気は壊れる。
けれど、曖昧なままで終わらせては、お互い本当の幸せを知らないままになってしまう。

小鳥「え……。 なんで、え? どうして、だって、あずささんさっき」

好きって言ったじゃないか。
そう言いたげな表情を浮かべる彼女を、私は直視できない。

あずさ「違う、違うんです。 私が好きなのは…………」

私が貴方を好きなのは。


あずさ「一生懸命頑張る貴方が好きなんです……。 一生懸命頑張る、貴方は好きだったんです…………」


無意識の内に涙が零れていた。
罪悪感からなるものなのか、この涙を免罪符にしようとする浅ましい考えが私の内にあるのか、
まったく解らなかった。 まったく解らなかった。


小鳥「…………なんですか、それ。 どういう事ですか、私はずっと頑張ってれば良いんですか……?」

あずさ「違う! そうじゃない、そうじゃ、ないんです……」

ゆっくりと崩れ落ちていく。
いつしか両手は私の顔を覆い、涙や鼻水で醜く汚れていた。

小鳥「………………フラれちゃった、んですね。 私」

あずさ「うぅっ…………ぐ!!」

小鳥「…………私、一生懸命頑張りますから。 だから、その私だけでも、変わらず好きでいてくれませんか?」

あずさ「うぅううぅう…………!! あぁぁ……!!」

小鳥「一生懸命頑張る私だけでも、貴方に好きで居てほしいんです。 お願いします」

そう言い残すと彼女は、屋上から離れていった。

私は、結局彼女を突き放した間、一度も彼女の顔を見れなかった。
どんな表情をしていたのだろうか。 酷く悲しんだだろうか、それとも私を恨んでいるだろうか。
私は受け入れなければならない。 けど今は―。

あずさ「うぅううぅううっくぅ…………!! あぁぁぁ……!!!」

花火のように咲いて散った彼女の心に対して、
枯れ果てるまで泣かせて欲しい。









おしまい

ここまで読んでくださってどうも有難う御座いました。

あずピヨってどうしても酒飲ませてしまうんで、飲ませない選択肢を選んだらこうなりました。

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