股間が光った話 (51)

股間が光るようになった僕の話です。

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暗闇が嫌いだとか怖いだとかいうのは結構な人に当てはまることだと思うんだ。
でも明るいのが嫌いっていうのは僕ぐらいのものだと思うんだよね。

いつも明るいのが嫌いっていうと根暗なやつだとかダンゴムシだとかそういうふうに受け取られてしまう。
でもそういうわけでもないんだよね。

根は明るい方だと自負しているし。

友達だっていなかったわけじゃない。
どこからが友達でどこからが他人か、なんてことを考えてしまうこともあるけれど

そんなことを語っている時間は、今の僕にはないんだよね。

それでやっと本題に入るわけ。どこから話したらいいかな。
――
やっぱり最初から話をすることにするよ。

始まりは僕が小学生の頃のこと、やっと僕のシモの皮が剥けたんだ、その時の話。

あのとき、僕は一歩大人に近づいたわけだったんだ。嬉しかったよ。
そこで初めて自分の亀さんとご対面した。
なんていうか、ルビーみたいに真っ赤に輝いている、そんな気がしたね。

でも身体が大きくなるほどにそれが気のせいじゃないってわかってきたんだ。

僕の亀頭は光っていたんだ。

すぐに近所のお医者さんに駆け込んださ。

僕はどうせ光るなら指先にしてほしい、なんて呑気に思っていたのを覚えている。
こんなものすぐに治るだろうと思っていたからね。

でもそんな期待はあっさり裏切られて、前例がないだのなんだのいわれてすぐに検査入院させられた。
当時は解剖されるんじゃないかと震えたものだったさ。

なんとか入院生活を乗り越えて、それではわかったのは

これは治療できない

たったそれだけだった。



これにはかなりイラッとしたね。それ以来僕は風邪をひいても医者には行ってない。
これからも行くことはないだろうね。

向こうから迎えを寄越してくれるなら行ってやってもいいけど。

それで無事とは言わずとも元気に退院することができた僕だけれども、その後も何事も無く平和に過ごしましためでたしめでたし、じゃあ終わらなかったんだ。

僕のサイリウムと付き合っていくにつれてわかったことがあった。

僕のソレは血が集まるにつれて明るさを増すらしくて、それがいきり立つ時なんかは、それは綺麗に輝いた。

夏の太陽みたいにね。

そのぐらい入院した時にわかるだろう、なんてことを君は思ったかもしれないけどそれは違う。
人生で初めて“入院”なんてことをすることになった僕の心境をすこしでも考えてくれればそれはわかると思う。勃起どころじゃなかったんだ。

そんなわけで思春期のころは大変だったよ。ちょっとしたことで光っちゃってね。
今では笑い事だけどさ。

あの頃の僕は、自分の股ぐらで輝いているそれが憎くてしょうがなかった。

でもそれを何とかするには切り落とすしかなくて、血液が集まるほどに輝くそれは僕の血が、心臓が止まるその瞬間まで光るのをやめないんだろう、そんなことがなんとなくわかっていたからどうしようもなかった。

僕にできた抵抗といえばパンツを5枚重ね着するくらいのものだった。
あまり効果はなかったけどね。

もし他に方法があったらぜひ教えて欲しかったけれど、僕には何もできなかったんだ。
ただ不可抗力で光るだけ。

だんだん学校にも行かなくなった。

自分の一物が光るせいで何もかもがうまくいかない、そんなふうに考えていた。
何もかもってのは言い過ぎで今となっては自分の過失も認めることができるけど、その時はそう思っていたんだ。

でもそんな僕にも趣味があったんだ。それは山にのぼること。
山は僕のことを受け入れてくれるし、体を動かしていると自然と股間の光も弱くなった。

光が弱くなるとなんだか嬉しかったね。
夜に登山をしているときなんかは蛍みたいだ、なんて愛らしく思う余裕もできた。

登山者特有の仲間意識ってやつでいくつかのグループと話をしたりもした。
みんな僕が一人できていることに驚いていたけどね。

僕の事情をなんとなく察してくれたのかは知らなかったけれど深くは突っ込んでこなかったのが、なんていうかすごく居心地よかったのをよく覚えているよ。

僕は中学校にも高校にも行かずに山に登っていてね、親にも愛想をつかされちゃった。
でも一応は息子だと思ってくれているのか生活にかかるお金だけは出してくれたけどね。
本当に感謝してる。恩返しはできそうもないけど。

居場所がなくなった僕はいっそう山に足を運んだ。

気づけば18になってた。

それでこれはつい最近のできごとなんだけどね。

僕の趣味が登山だってのはさっき話したとおりでさ、

今回は少し遠出して北の方の山に挑戦することにしたんだ。

結構な難所ってことで有名なところさ。

天気予報が外れてその日は雨がぱらついていた。

本当ならそこでやめにするべきだったんだろうけど、せっかく遠出してきたんだからっていう気持ちになっちゃったんだよね。

登山経験ならそれなりにあるから大丈夫なんていうのもあったと思う、まあ驕りだよね。

登山道の先にすでに登っている集団がみえたからためらうことなく登り始めたよ。
まあ失敗だったんだけどね。

後でわかったんだけどその集団っていうのが筋金入りの素人集団だったんだ。

近づいてみてまず目に飛び込んできたのがきれいな群青色に染まったジーパンだよね。
クロックスじゃなかったのがせめてもの救いかな。

僕はこの人達がこの山に登り慣れている集団で後ろについて行けばなんとかなるだろう、なんてことを勝手に考えていたんだ。
期待を裏切られた僕の顔の色も彼らのデニムのような色になっていただろうね。

僕はそれを見なかったことにしてすっと追い抜いた。

天気予報は晴れだったから大丈夫だろう、そう自分に言い聞かせて歩を進めたよ。
この期待も裏切られたんだけどね。

自分の股間が光るようになったこともそうだけど本当に僕は運がないと思う。

なんで僕なんだろうって何度も考えた。

たぶん前世の僕は独裁者か大量殺人をしでかした犯罪者だったんだろうね。
だから神様が僕に罰を与えたんだ。
人間に生まれ変わらせてくれただけでも感謝しないとね。

それでもとの話に戻るけど、
山を登るごとに雨脚は強まってきてほんの先を見るのさえかなわなくなってきたんだ。
かといって雨宿り出来そうな場所は見つからないし、山小屋だってずっと先だった。

だから休めるところが見つかるまで僕は登ることにしたんだよね。
ひたすらひたむきに、何度ぬかるむ地面に足を取られそうになったかわからないよ。

なんで僕はこんなことをしているんだろう、そんなことを考え始めた頃だった。

遠くから地鳴りが聞こえてきて山の上から何かがこっちに向かってくるのが見えた。
やばいと思った時には遅かった。

濁流が轟音を立てながら僕を飲み込んでそのまま下界に押し戻してくる。

これが鉄砲水かあ、なんて思っているうちに僕の意識は途絶えた。

それからどれだけの時間がたったのかはわからないけど、全身の痛みで目を覚ました僕の目に飛び込んできたのは満天の星空だった。

あんまり綺麗だったものだからみとれているととなりから話しかけられた。
何人かの声がする。

声の主たちと話をしてみると、どうやら彼らはあの時の素人集団のようで僕はそのジーパンたちに助けられたらしい。
そして今僕らがどこにいるかは誰もわからなくて、要するに遭難したみたいだった。

遭難したんだね、と僕が言うと一人が嬉しそうに
「そうなんです」
と返してくるから他のジーパンたちに叩かれていた。
僕も叩いておいた。

冗談じゃない。

携帯なんかは全部水にやられてしまって通信の手立てはなし、僕の自慢の装備たちが入ったパックはどこかに流されてしまっていたらしかった。

これにはまいったね。

恐怖は水位を増していって僕らの喉元まで手を伸ばしてきた。

人工的な光のない真っ暗な山の中でじっとしている怖さってのは、体験してみないとわからないかもしれないね。

いくら星空が綺麗だからってなんの気休めにもならないし、墨みたいな闇の中にうごめくなにかを見てしまうしてしまうんだ。

僕たちは暗闇に震えて身を寄せ合うことしかできなかったよ。
でも気がついたんだ。

今こそ僕の股間が役に立つときだってね。

僕のモノを見たジーパンたちもびっくりしていたよ。
「陰茎じゃなくて陽茎ですね」ってさっきの奴がいうから叩いておいた。

でも光が手に入って落ち着きを取り戻した僕らには不幸が続くみたいだ。
前世の僕達の行いは相当悪かったらしい。



僕達のいる場所は崖っぷちだったんだ。比喩なんかではなくてね。
切り立った崖の中腹から少しせり出した部分に僕達はいたようだった。

こんな狭いところにこの人数が引っかかるのは本当に奇跡としか言いようがなかったよ。
不幸中の幸いってやつ。

助けを待つしかないとわかった僕たちは明日からどうするかを少し話して休むことにした。

それまで下半身をあらわにしていた僕はパンツを2枚だけを履いた。
薄明かりが僕らに安らぎを与えてくれた。

そのまま日の出を待つことにしたんだ。

やがて日が昇って僕達はひたすら助けを待った。

周囲は日に照らされて明るくなっていくけれど、僕らの雰囲気は暗くなっていった。

それを良くするためにいろいろな話をした。

税理士になりたい、警察官になりたい、ウェブデザイナーになりたい、いろいろな夢が語られた。
ジーパンの一人が彼女と結婚したい、なんて言い出して囃し立てられていた。

僕は羨ましく思ったよ。
僕には、彼女も、こんなことを言い合える友達もいなかったからね。
それに夢だってなかった。

僕の番になって、この股間をなんとかしたい、なんて言ってお茶を濁した。

改めて、僕にはなにもないんだってことを思い知らされた気がしたね。

だんだん日が高くなってきて気温も上がってくる。
日差しを遮れるものなんてないし太陽は容赦なかった。

次第にみんな無口になってきてこのままじゃ誰も助からない、そんなことを考えた。
きっと誰かが助けに来てくれる、みんなでそんなことを口にして必死にこらえた。


でも結局その日は誰も来なかった。
夜も深まってきて、また完璧な闇が山を包んでいく。

あまりの疲労に僕の明かりも弱まってしまって、足元を照らすのが精一杯。
何も食べていないし何も飲んでいない。

僕らは限界だった。

誰か一人が発狂してしまえば全員がダメにしまう。
そんな状況だった。

でもそこに蜘蛛の糸がたらされたんだ。
遠くから遭難者を探す声が聞こえた。

きっとジーパンたちの家族が捜索届けを出してくれたんだろうね。

僕らは必死に叫んだ。

けれど水を一滴も飲まずにいた僕達の喉は潰れてしまっていたんだ。
叫んでも風のような音がするだけで、それらは真っ黒な森に吸い込まれていった。


僕らを呼ぶ声が遠く、小さくなっていく。
その時に僕は思いついたんだ。

僕が輝けばいいんだって。

それから僕は自分のものを必死にこすった。
疲れすぎて勃つわけはなかったけどそれでも必死に。

なんのとりえもない僕だから、
誰かの役に立ってみたかった。

こすってこすってこすって
カいてカいてカいて
ちぎれるんじゃないかってくらいに自分のモノをこすった。
手を止めてしまったらもう動かすことができなくなる、助からない、そんな気がしていたから。

それに答えてくれるかのように僕のちんこがほのかに輝きだしたんだ。
初めて自分のちんこと心が通じあったと思ったね。

光はすべてを照らして包み込んで、その眩しさにジーパンたちは目をそむけていた。


それでも僕らを探す声は遠くなっていった。

僕は更にちんこをこすった。
スパートをかけた。

今まで見たオカズを総動員して、風でスカートがめくれた女の子が下着をつけていなかったことを思い出して、ひたすら手を上下に動かした。

このまま僕は死んでしまってもいい。
でもどうか夢のある、将来のある彼らだけは助けてください。

本気で神様にそう祈った。

どうしても、なんとしても助けたい。

心の底からそう思った。

ちんこが輝きを増していく。ここの星空なんかよりずっと綺麗だった。
僕らを探す人たちにもそれは届いたようで、騒いでいるのが聞こえてくる。

ここでチャンスを逃してしまったらもう助からない。
そんなことが過った僕は上下運動を加速させる。

もっともっと早く、強く。

やがてそれも限界になり僕は射精した。

光は消え、山は再び残酷な闇に帰った。
僕らを照らすのは、まんまるな月ときらきらした星たちだけになった。


星がひとつ落ちるのを見た。

――続きを話してあげたいんだけどごめんね、そろそろ限界みたいだ。
――お迎えがきたみたい。

その日、山で行方不明になっていた若者、6名が発見され救助されたと報じられた。

一人は心肺停止で病院へ緊急搬送されたがまもなく死亡した。
他の若者たちは極度に疲弊しており脱水症状を起こしていたが順調に回復しているという。

おわり

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