男「何も変わらない」(10)
キーンコーンカーンコーン
間の抜けた電子鐘が響く。
毎日毎日よく飽きずになるもんだ。そりゃそうか。機械だもんな、疲れるはずがない。
男「ふぁ~あ」
だが人間様は違う。特に俺なんかは学生の性分を全うしただけでこれだ。身体が重い。
友「やっと終わったな。さて、部活部活」
間抜けそうな顔で俺を見るのは友。俺の間抜けな友人だ。もっとも、頭はいいんだがな。
男「頑張って叱られて来いよ。俺は応援してるぜ」
友「何をだよ」
友はそう笑みを浮かべるとそそくさ出掛けてしまった。まったく、もう少しゆとりを持った方がいいと思う。
友と同じく教室を忙しく抜けて行く生徒。まだ寝ている生徒。ゲームをしている生徒。
何も変わらない世界だ。変化もない。
俺はというと、風紀委員会などというまったくも合わない委員会に入っているものだから、放課後も放課後で仕事がある。まぁ、いつもの場所で寝てればいいか。
男「さてと」ガタッ
俺は席を立つとゆっくり例の場所へと足を運んで行った。
例の場所とは屋上の事だ。この屋上には大きな長方形の凹みがあり、寝るにはサイズも居心地もまぁまぁ良く、おまけに上から見下ろされない限りバレることもないのだ。授業もここでサボれることにはサボれるが、出席日数が大事なのでサボらない事にしている。まじめっ子だぜ俺は。
男「さて、空の風紀でも見守っていましょかね~」
俺は目に映る空におやすみをして、世界を閉じた。
...?
なんだここは?
こんな下水道みたいな場所は知らんぞ。ってこれは夢か。そうかそうか。
「いたぞ!!」
大きい声が響く。それが誰の物か分からないが、その声の元へと目をやる。
何だよ。なんで銃を持っているんだこのおっさんは?
するとおっさんは俺に銃を向け、発砲してきやがった。
俺は倒れた。弾丸に圧倒されたのか、ただ単にこけたのか、驚いたのか。数々の考えが流れ行く。だがそんな事はどうでもいい。
痛い。
イタイイタイイタイ。
嘘だろ?
夢の中だぞ?なんで痛いんだ?なんで呼吸がし辛いんだ?苦しいんだ?足が反応しないんだ?涙が出てくるんだ?
男「はぁはぁはっぐ...。!はぁはぁ。」
何でなんで何でなんでさメロさメロユメナラ冷めろさめろ!
無我夢中の中、突然俺の前に誰かが立った。誰なのかは検討が付かないが、スカートを履いている事だけは分かる。それよりも今は自分の事で精一杯だ。
?「死ね!」
激しい音が鼓膜を通った。
次に目に広がったのは、オレンジ一杯の空だった。
男「!?」
おかしい。
明らかにおかしい。
今のは夢だったのか?
夢だとしたら何故痛みがある。
痛みは消えたはずなのに未だに手が震え、足が震え立つことさえままならない。
思い出したくもない感触に浸っていると、ふと思い出した。そういや、風紀委員会の報告は...。
男「まずいな...」
今は6月。若干日が沈むのが遅くなっている時期だ。今は5時半ばではないだろうか。
仕方なく、まだ生まれたての子鹿のように震える足を引きづり報告しに行くのだった。
男「はぁ...」
全力で叱って下さったお陰で少し恐怖心が薄らいだ。夢というのは大抵、起きたあとはぼんやりと覚えているものだ。だが今見た夢の光景ははっきりと覚えている。今も、本当にここが現実なのかと疑うぐらいだ。
仕方が無いので、さっさと飯を喰おう。そうして早く寝てしまおう。
エロゲなんかやってられる精神じゃない。銃で撃たれた感触が残っているなんて考えたくもない。
風呂に入ったらなんかサッパリした。あとは寝るだけだ。今日はお休みだマイパソ。明日たっぷり世話してやるよ。
布団に潜り目を瞑る。
おかしい。
いつもなら目を瞑った所で、布団の感触はある。少なくとも寝るまではその感触を楽しんで寝ている。
なぜだ。なぜ、温もりを感じない。
目を開けるのが怖くなってきた。怖い。またあの世界にいると思うと怖い。
「ん?起きた?」
女の声だ。女の声が降ってきた。女というと、あの時のスカートか?
「あれ?どうしたの?起きなさい」
信じて目を開けて見ることにする。そぉーーと。薄めで。
巫女の服を来た狐面の女が底に立っていた。
男「...。」
狐面「ちょっと!何目を途中まで開けてしめんの!?私の姿がそこまで変だった!?」
あの巫女服はあのスカートじゃない。ということは、変なコスプレをした変態という事か。
怖い怖い。助けてくれ~。
狐面「起きなさい」
頬にぶたれる感触がした。と同時に身体がよろめき、何処かに落ちた。
男「いてぇな!何するんだ!」
全く、これ以上怪我したらどうするつもりだ!というか、また痛い。夢の世界の筈なのに。
狐面「それはここが夢の世界ではなく、もう一つの世界だからよ」
何言ってるんだこいつ。
男「もう一つの世界ってなんだよ」
もう一つの世界?寝た後に見るものが夢の世界じゃなきゃ何て言うんだよ。
狐面「だからここは人々の思いが作った現実とは違うもう一つの世界。よく見なさい。この校舎、貴方達の校舎に似ていないかしら?」
確かによく見ればウチの校舎とよく似てる。
狐面「でしょ?」
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