弟「家には姉と、妹と」(225)


妹「ん、ああ、ふぁ、おにぃ、ちゃっ!」

兄「い、妹、そろそろ……」パンパン

妹「いいよ、んっ、中に来て……!」キュゥッ

兄「く、あぁっ!」ドプッ


……

弟(……それと、隣室で妹を犯してる兄がいる)

弟(耳を澄ませば聞こえるんだけどな、音)

――弟の部屋――

かちゃり

姉「弟、くん。ちょっとお話しませんか」

弟「うん。勉強も一段落ついたところだったし」

弟(で、兄と妹が事を始めると、姉が俺の部屋に来る)

姉「いつも頑張ってますね。ええと、クラスの順位とかって出るんですか?」

弟「いや、最近は順位をつけないようにしてるらしいよ」

弟「教室で堂々と自慢してる奴らよりは、点数高いけどね」

姉「凄いじゃないですか。成績を見た時のお父さん、お母さんの顔もすごく嬉しそうでしたし」

弟「俺が親孝行できるのはそのくらいだよ。姉さんみたいにバイトとか出来ないし」


姉「まだ中学生なんですから、もっと自分のために時間を使ってもいいんじゃないですか?」

弟「うーん、そうだな――」

ギシギシ

弟(あ、二回戦始まった)

姉「……ッ! ほ、ほら、ゲームとかしましょうよゲームとか」

弟「……ああ、そうだね。それじゃあ、姉さんの部屋でいいかな」

姉「はい。テレビがあるのは私の部屋ですしね」

弟「この時間に居間でやるのも、母さんににらまれそうだし」

弟(全く、姉さんも面倒くさい)

弟(寂しいなら、他所で探してくればいいだろうに)

――翌日、学校、図書室――

キーンコーンカーンコーン……

弟(もうこんな時間か。学校も閉まるし、帰らなきゃな)がたっ

図書委員「やあ、そこの少年」

弟(……誰だこいつ。というか、見るからに年下の相手に少年呼ばわりされる筋合いは無いぞ)

弟「ああ、ごめん。図書室閉めるんだよな。もう帰るから」

図書委員「そうじゃない。ちょっと君に興味があってね」

弟「ごめん、俺ロリコンじゃないから」

図書委員「……その、去年まで小学生だったが、私も中学生なんだぞ」

図書委員「っと、違う。そうじゃない。興味があるって言うのはそういうことじゃあないんだ」

弟「じゃあ、何」

弟(早く帰りたいんだが)

図書委員「――君は、そう、私と同属なんじゃないかって気がしてね」


弟「……、は?」

図書委員「うん。同属」

弟「ひょっとして、痛い人?」

図書委員「悪いが、その病気が発症するのは来年だ」

図書委員「ともかく、君の眼の奥にあるものが、そんな気配を漂わせてるんだ」

弟「……へぇ」

図書委員「うむ。腐ったドブのような、濁りきった下衆な色をしている」

弟「初対面にそこまで言うのもどうかと思うんだけど」

図書委員「だから、『同属』だといったんだよ」にぃっ


弟「……ああ、お前も下衆だから、それも当然と」

図書委員「察しが良くて助かるよ」くっくっ

弟「で、だからどうしたんだ」

放送『下校時刻となりました。校内に残っている生徒は、速やかに――』

図書委員「よかったら、話を聞かせてくれないかな」

図書委員「大きな大きな、悩みを抱えているようでもあるしな」にたり

弟「……家、どっち方面だ?」

図書委員「いや、歩きながらより、腰をすえて話したい」

図書委員「私の家に案内するよ、優等生」

――図書委員の部屋――

図書委員「さて、遠慮なくくつろぐといい」

弟「あまり長居すると、親が心配するんだけど」

図書委員「その割には、ほいほいとついてきたじゃないか」

弟「……まあ、近所だし」

図書委員「ほう、近所なのか」

弟「ちっ、……そうだ、自然に案内されたからタイミング逃したけど、親は?」

図書委員「私はご都合主義者だからね。丁度善く今日は帰ってこないんだ」

図書委員「最も、毎日というわけではないから明日以降は学校で話を聞くことになるが」

弟「俺、勉強したいんだけど」

図書委員「図書室に来ても、勉強道具を広げて呆けているだけで」

図書委員「勉強なんて必要ないように見えたんだがね」にたぁ

弟「……分かったよ。話してやる」

弟「簡潔に言うと、家のきょうだいがおかしくて困ってる」


図書委員「おかしい、とは? まさか愉快痛快で腹筋が毎晩痛むとかそういうことではあるまいな」

弟「違うから安心しろ」

弟「……数ヶ月前からさ、兄貴の部屋から妹の喘ぎ声が聞こえてくるんだ」

図書委員「ほお、そりゃハードな」

弟「軽いなおい」

図書委員「いやいや、期待しているぞ。内心ワクワクが止まらなくてつくってあそびたくなる」

弟「……まあ、妹が異常に兄貴とべたべたしてるのは前から見てた」

弟「でも、実際にそんなことしてるなんて、思いもよらなかったから、ちょっと驚いた」


図書委員「まだ、終わりじゃないだろう?」

弟「ああ。妹が兄貴に甘えてると、姉さんが暗い顔をするんだよ」

弟「悲しいような、寂しいような、そんな顔」

図書委員「……ほう」

弟「数ヶ月前までは、姉さんもその中に混じろうとしてた」

弟「妹は不満そうな顔をしてたけど、三人で仲良くやってたさ」

図書委員「君は混じらないんだな」くっくっ

弟「あの空間には俺は邪魔だと思ってな」けっ

弟「で、ある日を境に、姉さんは兄貴を避けるようになったんだ」

図書委員「ある日、というのは――」

弟「初めて喘ぎ声が聞こえた夜の、翌日だったな」


図書委員「ほう、ほうほうほう」そわそわ

弟「ここからはただの推測なんだけど」

弟「妹と姉さんとで、兄貴を奪い合って、その結果としてそうなったんじゃないかな」

図書委員「つまり――」

弟「ああ。姉さんも兄貴に惚れてるんだろ」

弟「しかも、まだ未練たらたらと見た」

弟「それにも気づかず、兄貴は妹と快楽漬け」

弟「家族の誰にもばれてないと思ってやがる」


図書委員「成る程、随分どろどろした関係だな」

弟「その中に含まれてないのはありがたいんだが……」

弟「……ああ、話していたら腹が立ってきた」

図書委員「ぶち壊してやりたくないかい? その状態を」

弟「は?」

図書委員「君の兄が、何も知らずに快楽に浸る現状を」

図書委員「君の妹が、姉を蹴落として一人救われている現状を」

図書委員「君の姉が、蹴落とされて不幸の底にある現状を」

図書委員「何より――君が、そんな下らない色恋沙汰を観測しなければならないという現状を」

弟「――変えれるなら、変えてみたいさ。ぶち壊してやりたいさ」


図書委員「大丈夫。君なら出来るさ」

弟「何を根拠にそんな事を」

図書委員「何度も言っているだろう? 君は下衆だ。そして、人として異常だ」

図書委員「現状をぶち壊してしまえる可能性を、私はそこに見ているよ」

弟「……自信満々に言ってるけど、何か案でもあるのか?」

図書委員「まさか!」

図書委員「君の悩みだぞ。なんで私が手を貸さなければならないんだ」

弟「……くっ、くくく」


弟「ぷっ、あははははは。はっはっはっは!」

図書委員「うくくくく……」

弟「くっそ無責任だな。背中を押したら後は知らん顔を決め込もうってか」

図書委員「そんな事はないさ、面白そうだから話だけ聞かせてもらう」

弟「益々クズだな」くくく

弟「いいよ、やってやる」

弟「誰よりも、俺のために、俺にとって都合のいいように」

弟「兄貴を、妹を、姉さんを、壊してやるよ」

図書委員「期待しているよ、少年」にぃぃぃ

――翌週、学校――

キーンコーンカーンコーン……

妹友「妹、今日は急ぎ?」

妹「うん。ええと、家事とかやんなきゃだし。ごめんね」

妹友「そっか。まあいつもだから気にしないよ。またね」

妹「ばいばーい!」たたたたっ


妹(急いで帰って、家事を済ませて)

妹(お兄ちゃんをお迎えしなきゃ)ぱたぱた

妹(……って、あれは……)

弟「……」ガララッ

妹(今、入った部屋って、相談室だよね)ふむ

妹「……っと、急がなきゃ!」ばたばた

――図書室、司書室――

弟「と、今日はこんなもん」

図書委員「最初だから様子見、にしても、随分控えめだな」

弟「いや、これが最終的に、とどめに繋がる」

弟「フラグってやつだよ。上手く機能してくれれば、この嫌がらせで重要な役割を果たしてくれる」

図書委員「なるほど。傍観者として、黙って見ておく事にするよ」

図書委員「どう繋がるのか気になるが、ネタバレは嫌いなんでね」くっくっ

弟「あー、そんな傍観者さんには悪いんだが」

図書委員「?」

弟「土曜日、つまり明日、俺の家に遊びに来ないか?」

――土曜日、弟の家――

ピンポーン

弟「はい、どなたですか」

図書委員『本日は保険のご案内に参りました』

弟「あほう。そしていらっしゃい」がちゃ

図書委員「あ、おじゃましまーす」

姉「弟、どうしたんですか……!?」

弟「ああ、友達呼んだんだ。いいよね?」

姉「い、いいですけど」

図書委員「はじめまして。図書委員と申します」ぺこり

姉「あ、はい、ごゆっくり」

――弟の部屋――

図書委員「で、どうするんだ。喘ぎ声でも聞かせればいいのか」

弟「いや、普通にくつろいでいてくれればそれでいい」

弟「俺に『仲のいい異性がいる』っていうことを示しておきたいからね」

図書委員「……なんだ、一応モテますアピール?」

弟「誰がそんな虚しいことを」

図書委員「くっくっ。しかし、特にやることが無くて助かったよ」

図書委員「正直、お前の計画に手を貸す義理はないからな」

弟「やっぱり清清しいまでに無責任だよな、お前」くくっ

図書委員「そうとも。苦労して成果を得るより、楽して成果だけもらったほうがいいに決まってるじゃないか」


弟「将来苦労するぞ、それ」

図書委員「問題ないよ。玉の輿を狙うから」

弟「自称下衆が金持ちと結婚できると?」

図書委員「下衆だから金持ちと結婚しようとするのさ」

図書委員「それに、……このように、落ち着いた才女を演じることもできますので」

弟「さっきのあれか。ちょっと驚いた」

図書委員「驚くことはないさ。君だって、普段は人畜無害を装っているくせに――」

図書委員「今、人を叩き落すという下劣な計画を進めているではないか」にまぁ

弟「……、ああ、認めちゃったほうがはやいなこれ」けけけ

――数時間後――

図書委員「それでは弟君のお姉さん、突然お邪魔してすみませんでした」

姉「いえ、お気遣い無く」

弟「じゃあな、図書委員。また学校で」

図書委員「はい。また」ぺこり

図書委員「……ふむ」じぃっ

弟「……どうかしたか?」


図書委員「えいや」ぐいっ

弟「うぉっと!」よろっ

――ちゅっ

弟「――ん、ん!?」

図書委員「ぷは……ん」だきっ

図書委員「……サァービスだよ、少年」ぼそぼそ

姉「………」あんぐり

弟「あー……」

図書委員「じゃあ、またね」ぎいっ ばたん

――夜、弟の部屋――

姉「お、弟くん、今日のあの子は、その」

弟「何でもないよ……って言うつもりだったんだけどなあ」

弟「うん。その、……か、彼女」

弟(くそ、キャラじゃない。俺のキャラじゃないぞ……!)

弟(だが逆に考えろ。今姉さんと俺は『俺に彼女がいる』ということと『この意外な一面』という二つの秘密を共有している)

弟「その、今日の事は」

姉「……はい、内緒にしておきます」にこっ

弟(姉さんから俺に対する信頼度の上昇に貢献できる)

弟(アクシデントからメリットを抽出しようとして予定を変更すると問題が出るが、方向性は同じだ、問題ない)

――翌日、放課後、司書室――

弟「という訳で、予定外の行動は避けて欲しい」

図書委員「君の予定に付き合う義理は無いんでね、残念ながら」くくっ

弟「あー、そうだったな、うん」

図書委員「むしろ光栄に思うがいい。美少女の唇なんて、君ではめったに味わえないだろう」

弟「残念。割とモテるぞ」

図書委員「おや、では適当な女子をとっつかまえてやったほうが良かったんじゃあないか?」

弟「いや、勘違いされても面倒だからな」

図書委員「相手のためではなく自分のため、というのが実に君らしい」

弟「下衆、ってか」

図書委員「いかにも」くっくっ


弟「でもな、誰が何をしても結局本人のためだと思うぞ」

図書委員「ほう? ではボランティアはどうなんだ。名ばかりのものでなければ、奴らの行動は奴らの得にはならないと思うが」

弟「誰かを無償で助けたい、という自分の欲求を満たしているじゃないか」

図書委員「……ほお、初歩的ながら失念していたぞ」

弟「つまり、俺が自分のために行動しても――」

図書委員「たしかにその行動だけでは判断できないが、間違いなく君は下衆だ」

図書委員「それも、裁かれることも救われることもない、正真正銘のクズだよ」

弟「……ああ、知ったことじゃないさ、そんなの」


図書委員「おっと、すまないね」

図書委員「それで、次はどうするんだ?」

弟「……姉さんは今、悩みを抱えている」

弟「歪んではいるけど、まあ、本人にとっては恋愛関係の悩みだ」

弟「恋愛の悩みがあるとき、身近で仲の良い人の中に、恋人がいるやつがいたら――どうする?」

図書委員「――ふむ、分かった。それ以上は聞かないでおくよ」

図書委員「となると、向こうから言い出してくるまで特に動く予定はないのか?」

弟「んー、そうなんだよな。他の仕込みでも済ませておくか」

――翌週、弟の部屋――

弟(……まあ、仕込みって言っても優秀な成績を保つことくらいしかやること無いんだが)カリカリ

かちゃり

姉「お、弟くん、その、ちょっといいですか」

弟「ん? 何、姉さん」

姉「ちょっと、相談がありまして……」

ギシッギシッ

弟(あ、やってる)

姉「……っ、その、私の部屋で」

弟「うん。じゃあ行こうか」

弟(……さて、と)

――姉の部屋――

姉「その、弟くんは、恋人がいますよね」

弟「まあ、ええと、うん」

姉「……年下にするのも恥ずかしいものですが、ちょっと恋愛相談をしたくて」

弟「いいけど、俺でいいのか?」

姉「はい。よろしくおねがいします」ぺこり

弟(……思いつめた顔)

弟(弟に恋愛相談をするのも恥ずかしいと分かっていながらも、するしかない)

弟(――いやぁ、素直だから先読みしやすいなぁ)


姉「好きな人が、いました」

姉「ずっと遠くから見ているだけでも良かったのですが……」

姉「後に、ええと、友人もその人のことが好きだってことが分かりました」

弟(ああ、友人を妹に置き換えろってことね)

弟「へえ、ちょっと複雑だね」

姉「友人も、私が彼のことを慕っていると気づきました」

姉「そこで友人は、私にある勝負を持ちかけてきたんです」

弟「……勝ったほうが、先に告白するとか?」

姉「……はい」


姉「結果、負けました」

姉「い、友人は告白し、彼と付き合うことに成功しました」

姉「そして敗者である私は、彼に必要以上に接触することを禁じられました」

弟「また、残酷な」

姉「……はい」

姉「でも、それでも」

姉「諦められないんです」

姉「彼と、その、友人とが、仲睦まじくしているのを見ると、辛いんです。苦しいんです」

姉「……どうしたら、いいんでしょうか、私は」


弟「……うーむ」

弟(多分、姉さんがやりたいことは、既に姉さんの中で固まっている)

弟(なら、望まれている答えは)

弟「――その人、幸せそう?」

姉「……はい。友人と一緒に、幸せそうにしています」

弟「本当に?」

姉「……へ、え、っと」

弟「例えば、その姉さんの友達にべたべたされて、ちょっと疲れた顔してない?」

姉「あ……」

弟「例えば、わがままを言われて困ったような顔はしてない?」

姉「そ、そういえば……すこし」

弟(そりゃそうだ。毎日見てるし)

弟「なら、姉さんは諦めなくて正解なんだ」

弟「その人を、癒してあげられるのはその友達じゃない。姉さんなんだよ」

姉「……っ!」


姉「で、でもっ」

姉「私は、それだと、約束を」

弟「確かに、姉さんは友達との約束を破ってしまう」

弟「でも、その友達としても、自分のせいで好きな人が苦労するのは嫌なはずだ」

弟「自覚してないけれど、気づいてしまったとき、友達は絶望してしまう」

姉「あ……」

弟「だから、姉さんが好きな人のためにも、友達のためにも、姉さんは諦めなくていいんだよ」

弟(――背中を押せば、あとは勝手に走ってくれる)

――翌日、司書室――

弟「まあ、そんな感じで告白させた」

図書委員「誑かすのが上手いな。詐欺師になることをお勧めしよう」

弟「そりゃどうも」

図書委員「それで、結果はどうだったんだ?」

弟「今朝、出かける前にお礼を言われたよ。はにかみながら」

図書委員「……ほほう。君もまあ、失敗はするのだな」

弟「いや、上手く行き過ぎて怖いくらいなんだけど」

図書委員「……、おや?」

弟「何だ、どうかしたか」


図書委員「私が想像していたのと違う」

弟「はあ?」

図書委員「いや、その姉を玉砕させて、その傷心を癒し」

図書委員「そこでまず姉を手中に収めてから、妹を寝取りにかかるのかと」

弟「……ああ」

弟「まあ見てろよ。予想は裏切っても、期待には沿えるだろうさ」

図書委員「うむ、そちらのほうが傍観者としてはありがたい」くくっ

図書委員「予想通り期待通り、でも十分に面白いが、心には残らないからな」

――数週間後、弟の家、リビング――

弟「うーん……」かりかり

兄「あれ、珍しいな。リビングで勉強なんて」

弟「ああ、ちょっとどうしても解けない問題があってね」

弟「部屋でやってていらいらしてきたから、場所を変えて気分転換しようと」

兄「おお。とうとうお前にも解けない問題が出てきたか」けらけら

弟「いやこれまでにもあったからな、自力じゃ解けないの」

兄「どれどれ、この俺が見てやろう」

兄「……って、なんだこりゃ。標本調査?」

弟「兄貴、どうだろう」

兄「……いや、見たことない。これ本当に中学のか?」


弟「兄貴でもわかんないか……」

姉「どうかしましたか、兄、弟くん」

弟「おお、姉さん。ちょっと解けない問題があって」

兄「いやこれ俺もやったことないからお手上げなんだよ」

姉「ええと……って、これ数cじゃないですか」

兄「す、すうしー?」

姉「ああ、兄は文系でしたね」

姉「そういえば、指導要領が変わって、中学でも習うようになったんでしたっけ」


弟「姉さん、どうすればいいんだろこれ」

姉「任せてください。ええと、問題文は……」すっ

兄「さすが姉さん、頼りになる」

姉「……母集団が、……で、標本の数が……」ぶつぶつ

兄「あ、あれ」

姉「はい。ええと、標本はこれなので、これを分母において」

弟「……うん」

姉「次に標本のうち印がついていたのはこれなので、これを分子に置けば母集団での割合が出ます」

弟「そんなもんでいいの?」

姉「私がアルバイトをしていた塾ではそう教えていましたよ」

姉「多分、中学生向けに簡略化されているんでしょう。それに、無作為に抽出しているから問題ないはずです」

弟「そっか。……これからも分からないところあったら聞いていいかな」

姉「はい。喜んで教えますよ」にっこり



兄「……」

――翌日――

兄「姉さん、シュークリーム買ってきたけど食べない?」

姉「あ……ごめんなさい。今日はもう、甘いものは」

兄「もう、って?」

姉「ああ、さっき弟くんがハーゲンダッツをくれたんです」

姉「勉強を教えてくれたお礼だそうで」にこっ

兄「ああ、昨日のか」

姉「はい。それと、さっきも少し」

姉「でもさすが弟くんです。説明の途中で全部わかっちゃうんですよ」ふふっ

兄「……へぇ」

――数日後、姉の部屋――

姉「弟くん、しっかりお礼を言う機会が無かったので遅くなりましたが」

姉「その、恋愛相談の件、ありがとうございました」

弟「ああ、気にすることはないよ。思ったことを言っただけだし」

弟「それに、姉さんには勉強とかお世話になってるし」

弟(……まあ、難易度が高めの問題をときどき聞いているだけで)

弟(自分でも解けるんだけどな)

姉「それでは十分にお礼ができません。弟くん、おぼえが早いし」ぷー

弟「……いや、望ましいことじゃないかなそれ」


姉「とにかく、何かさせてください。気が治まりません」ずいっ

弟「いや、それはまた今度――」

コンコン

姉「っひゃ!」ばばっ

姉「な、何ですか?」

兄「姉さーん、ちょっといいかな」がちゃり

兄「……って、弟、いたのか」

弟(……いやあ、素敵なタイミング)

弟「お、おう。どうしたんだ?」

兄「何してたん?」

姉「それは、えー、その」


弟「ちょっと漫画の話してたんだよ。そう、ジョジョの」

姉「そ、そうですよ。ええ」

弟(次にお前は『漫画も出さずに?』と考える)

弟(答え合わせはできないけどな)

兄「……ああ、うん」

兄「姉さん、ちょっと部屋に来てくれないかな」

姉「え、ええ。はい」

弟(さて、次はと)

――弟の部屋――

弟「……」

弟(うーん、流石にセックスはしないか)

弟(まあ、なんにせよこれで兄貴は姉さんとの接触を増やすだろう)

弟(姉さんから接触することも、まあ今までよりは増えるだろうな。何かしら理由つけて)

弟(……次は妹と接触する、のは難しいか)

弟(流石に怪しまれるだろうし、無理はしない)

弟(まあ何もしなくても、妹が場に緊張感を与えてくれる)

――翌日、司書室――

図書委員「それで、実際どうだったんだ」

弟「ああ、兄貴が凄く分かりやすく姉さんとの接触を増やしたよ」

弟「今日の朝食は目玉焼きでさ、姉さんが醤油を取ろうとした」

弟「ちょっと遠くにあることに気づいて、姉さんが何か言う前に、兄貴が醤油をとってやったんだ」

図書委員「ふむ。しかしそれでは気が利いてるだけとも言えないか」

弟「いや、その後姉さんに渡すんじゃなく、代わりに醤油かけてた。適量」

図書委員「……おおう」

弟「『このくらい?』とか笑顔で確認取ってるんだぜ。姉さんも顔真っ赤にして頷いてさ」くくく

図書委員「なんか、実際に見たら私は引く」

弟「妹の顔のほうがおっかなかったけどな」

弟「辞書で『嫉妬』を引けば、参考画像として挿入されてそうな顔」

図書委員「くっくっく、これは作戦成功、ってことかな?」

弟「ああ、もちろん」


図書委員「しかしまあ、君の兄もそこそこ下衆だな」

図書委員「妹とラブラブだったんだろう? それで二股とは」

弟「……いや、兄貴はそういうやつじゃない」

弟「場の雰囲気に流されやすいんだよ。あと、人がいい」

図書委員「姉のためを思った結果、二股になったと?」

弟「そういうこと。偽善とかじゃなく、あの兄貴は本気でそれをやる」

弟「ただまあ、やはり鈍いというのは罪だな。妹への配慮を欠いていた」

図書委員「して、その罪を裁くのは君かい?」くくっ

弟「……いや、俺は神様気取りじゃないよ」

弟「ごく普通の下衆として、善良な市民へいやがらせをするだけだ」

――翌日、放課後、学校――

妹「……」

妹友「どうしたのー? 昨日からだけど、元気ないよ」

妹「え、ああ、ちょっと薬の効きが悪くてさ」

妹友「あー……変えるとたまにあるよね。大丈夫?」

妹「うん、とりあえず家に帰って休む」

妹友「おだいじにー」

妹「ありがとー……」


妹(……お兄ちゃんが、お姉ちゃんに優しい)

妹(でもお姉ちゃんから甘えてるわけじゃないと思うから、約束は破ってない、はず)

妹(いや、もしかして私の見てないところで)

妹「……うううう」がしがし

妹「って、あれ?」

弟「……」ガララッ

妹(また、相談室に)

妹(……何か、悩んでるのかな)

妹(弟にぃ、お姉ちゃんと仲よかったから、それかな)

――弟の部屋――

弟「……」カリカリ

弟(妹には十分目撃させた)

弟(俺に悩みがある、ということは分かっているはず。そして、妹もまた人がいい)

弟(ならば取る行動は――)

コンコン

弟「っと、開いてるよ」

ガチャ

妹「弟にぃ、ちょっといい?」


弟「おや妹、珍しいな。どうした?」

妹「えと、その」

妹「そう、ちょっと弟にぃとも遊びたくなってさ」

弟「うん。いいけど」

妹「やったっ。じゃあ何して遊ぼっか?」

弟「そうだな……」

弟(恐らく、接触のきっかけとして一緒に遊んで、その後悩みについて聞いてくる)

弟(ならば、会話の余裕があるものがいいな)

弟「じゃあトランプでもするか。こういうのも久々だろう?」

妹「そういえば懐かしいね。最近はゲームばっかりだし」

いや、彼女(妹)が居ながら、姉に寄ってくる男に
嫉妬して二股すんのは流されやすいとか関係なしにクズだろ
善良()


妹「……うーん」

弟「ノーチェンジで」

妹「え、マジで?」

弟「おう。どうする?」しれっ

妹「ぬぐぐ……さ、3枚チェンジ!」さっ

妹「……ワンペア」

弟「ワンペア。そっちが4で、こっちはqだから俺の勝ち」

妹「えっ!?」

妹「な、何で3枚変えなかったの?」

弟「ひっかけだよ。掛け金が無いから意味無いけど」

弟「こういうので勝ったほうが、楽しいだろう」にやり

妹「……ぎにゃー!」ごろん


妹「うがー、弟にぃポーカーフェイス上手すぎ」ぐでっ

弟「色々と要領がいいからな」

妹「言い返せないのがむかつくー」へらへら

弟(……おかしい)

弟(そろそろ本題に入っていい頃だ)

弟(なのにその兆候がない)

妹「あー、次何しよっか」

弟「トランプもいい加減やることなくなったし……花札とかあるか?」

弟(タイミングを計り損ねているのか)

妹「なんだっけそれ」

弟「ほら、サマーウォーズの」

妹「よろしくおねがいしまぁぁぁぁす!」

弟「じゃあ数学やるか」

妹「げっ」


妹「まさか本当にやることになるとは」

弟「どうせ宿題なんだし、早めにやっておいたほうがいいだろ」

妹「学校で授業始まる前にぱぱっとやるタイプなんだけどー」

弟「いつまでも友達に頼らないように」

妹「なっ、何でしってるの!?」

弟「これもひっかけ」

妹「うぐっ……むー」

弟(……妹は、勉強が嫌いだ)

弟(だからあえて勉強させることで、そこからの逃避のための話題を出させる)

弟(……つもりだが、どうだろう)

妹「でも弟にぃ、勉強教えるの上手だよね」

妹「先生より分かりやすいもん。数学が好きになれそう」にこっ

弟(な、馬鹿な)

弟(このまま勉強を進めていけば本題に入らない!)

弟(意図が掴めない。そして何より)

弟「お、おう。ありがと」

弟(情けないが……ちょっと嬉しく感じている俺が一番厄介だッ!)

弟(……いやそんな事はない。ふざけてる場合じゃない)

弟(まず妹が何故、俺に接近してきたかを考える必要がある)


妹「それで、弟にぃ、この例題って何やってるんだっけ」

弟「ああ、それは確かこっちのページの……」

弟(……まさか、兄貴が姉さんにつきっきりになったから)

弟(俺に接近して、兄貴を嫉妬させようってことか)

妹「おおー、公式見ても何やってるかさっぱりだったから理屈が分かるといいね」

弟「うん。丸暗記しようとするより論理的に理解したほうが覚えやすいし楽しい」

弟(ならば、これ以上構う必要は無い)

弟(その作戦に乗ってやるのも手だが、当初の予定とずれるんでね)

弟「じゃあ、俺は自分の宿題やるから」


妹「……っあ、待って」がしっ

弟「ん、どうした」

弟(とっとと部屋に戻って、今後の予定を立てたいんだが)

妹「あ、えっと」

妹「……言うタイミング、逃しちゃってたけど」

妹「弟にぃ、何かあったら私に言ってね」

弟(ここでかよ!)

弟(まあいい。暗い顔を作って、と)

弟「……何か、って何だよ」


妹「……ほら」

妹「ちょっと、寂しそうに見えたから」

弟「……は?」

弟(って、ええと)

弟(……俺の悩みを姉さんのことだと思ってやがる)

妹「私も、……うん、彼氏が全然構ってくれなくて、寂しいから」

妹「そういう時は、気を紛らわせる手伝いくらいはできるから」

弟(おいおいおい、相手によっては酷いビッチになるルートだぞ)

弟(浮気とかそういう意味合いは無いんだろうが、我が妹ながら不安になる)

弟「いや、大丈夫。問題ないよ」

弟「悩みが無いって言えば嘘になるけど、妹には関係ないことだから」にこっ

弟(つーか勘弁してくれ)

――翌日、司書室――

図書委員「っく、はははは!」ぱたぱた

弟「笑うなよ。結構混乱したんだから」

図書委員「いやはや、君にも弱点はあるんだな」くくっ

図書委員「今まですいすいと進んできたからこそ、突然のアクシデントに弱い」

弟「ああ。それを利点に変えれるほどの勇気はないさ」

弟「害を抑えることくらいならできる、つもりだが」

図書委員「十分にできていると思うがね」

図書委員「失敗したと分かったらすぐに諦める姿勢はいい」

弟「ありがと。とりあえず妹は振り切ったから、次は姉に聞き出させてみるよ」

図書委員「まるで人を支配しているかのような言い方だ」

弟「誘導してるだけだ、簡単だよ」

――弟の部屋――

コンコン

姉「あの、弟くん」かちゃり

弟「おお、姉さん。なんか部屋に来るのは久しぶりだね」

姉「ええ、まあ」てれてれ

姉「って、いや、そうではなくて。

姉「……その、単刀直入に言いますが、何か悩みがあるんですか?」

弟(……よし)

弟「悩みって、何でまた」

姉「今朝からずっと、暗い顔をしているように見えたので」

弟「……そうかな」

姉「はい。その、私もたくさん、弟くんにはお世話になっていますし」

姉「……話してください。それだけでも、楽になることもありますから」

弟「……いや、姉さんには関係ないことだから」

弟「白状すると、ちょっと言いづらいことだし」はは


姉「話しづらい、とは?」

弟「いろいろ察してくれると助かる」

姉「……むぅ、分かりました」

姉「でも弟、皆心配していますからね」

姉「だから、気が向いたときに誰とでもいいので相談してくださいね」

弟「ありがと。でも、なんとかするよ」

弟「ほら、成績優秀だし」へらっ

姉「……こういうことは物分りが悪いんですね」

姉「それでも心配だから、言っているのです」

弟「……うん。ごめんね。ありがとう」

――弟の部屋、姉が出た後――

弟「ふう、やれやれ」ぼすっ

弟「……っく、くく」

弟「――……! ……き!」

弟(ごめんね。ごめんね。ごっめんっなさーいねー!)

弟(心配してくれてありがとう。おかげでとってもいい流れです!)

弟(皆心配してるってことは、俺の演技は家族全員に通じた!)

弟(つまり本命、兄貴にヒット!)

弟(さらに姉さんから兄貴に、俺から悩みを聞きだすようにいう可能性も大きい)

弟(同性のきょうだいなら、って考えもあるからな!)





弟(――さあて、止めを刺す)

弟(結構はやめに決着をつけられそうだぞ、図書委員)にぃっ





――翌日、兄の部屋――

弟「で、話って何?」

兄「……ああ。やっぱりお前、最近元気ないなと思ってな」

弟「そうかな。身体の具合は悪くないはずだが」

兄「そうじゃなくて、ほら」

兄「……勉強の事とか、進路の事とか」

兄「何か悩みがあるんだろう」

弟(――来た)

弟(……が、笑うな。笑っちゃいけない。全力で悲痛な顔を作れ、俺)ぎりっ

弟「……誰の、せいだと」


兄「……え」

弟「誰のせいだと、思ってるんだ」ぎりぃっ

兄「……悪い。もしかしたら、俺が苦しめてしまっていたのか」

兄「頼む。俺の何が悪かったか教えてくれ」

弟「……来る日も来る日も、妹と」

兄「っ!?」

弟「ぎしぎし五月蝿いんだよ」

兄「聞こえて、たのか」

弟「当たり前だ。隣の部屋なんだから」


兄「すまない。……ええと、今後、回数は控える」

弟「そういう問題なわけが無いだろ、馬鹿が」

弟「……近親相姦とか、ふざけてるのか」

兄「っ、ふざけてなんか、ない」

弟「ああそうだろうな。兄貴はふざけてない。きっと真剣に妹と付き合ってるんだろう」

弟「二人とも真剣に愛し合ってるんであれば、俺も認めるさ」

兄「なら、何で」

弟「父さんと母さんには、どう説明するんだ」

兄「……っぐ」


弟「息子と娘が、肉体関係をもっていると」

弟「もし知ったら、ひどく衝撃をうけるだろ」

弟「……俺は、その時が来るのが怖くて怖くて、しかたないんだ」ふるふる

兄「あ、ぐ」

兄「――いや、説得してみせる」

兄「父さんも母さんも、話せば分かってくれる人だ」

兄「二人とも、頭ごなしに否定しないで、きちんと話を聞いてくれる人だ!」

弟「そうかよ。それが兄貴の妄想か」

兄「……そんな、ことは」

弟「そうだな。確かに父さんも母さんも物事をしっかり考えてから行動する人だ」

弟「理解されるかは兄貴次第だろうな」

兄「だ、だろ?」


兄「だから弟、お前は心配する必要なんて――」

弟「ふざけるなよ」

弟「じゃあ、家族以外にばれたらどうするんだ」

兄「……そんなもの、覚悟の上で――」

弟「兄貴はそれでいいかもしれないな」

弟「だが俺はどうなる。『妹に手を出した変態の弟』という烙印がつく」

兄「――ぁ」

弟「もちろん俺だけじゃない。父さんも母さんも、『変態の親』になる」

兄「そん、な」

弟「一度ばれれば、すぐ噂になる。尾ひれがついてもっと酷いことを言われる」

弟「兄貴が、妹が、姉さんが、俺が、父さんが、母さんが」

弟「もしかしたらじいちゃん、ばあちゃん、いとこにも、酷いことを言われるかもしれない」


兄「そんなこと、俺が!」だんっ

兄「……俺、が」

弟「……兄貴」

弟「頼む」

兄「う、あ」

弟「たのむから、せめて、もうやめてくれ」

弟「いつどこでだれにばれるか、わからないんだから」ぽろっ

弟「……これ以上、とうさんを、かあさんを、きけんなめにあわせないでくれ」ぼろぼろ

弟「あにきのことも、いもうとのこともかんがえると、こんなこというのもくるしいけど」ぐすっ

弟「せめて、仲のいいきょうだいにもどってくれ」

――翌日、司書室――

図書委員「え、終わり?」

弟「ああ。俺から何かアプローチするのはコレで終わり」

図書委員「もうちょっとやってくれると思ったんだが」ぷぅ

弟「柄じゃないだろう、それ」

図書委員「いやいや、女の仕事は媚びることだからな」

図書委員「それはそうと、本当におわりという訳はあるまい」

弟「ん? まあ、あとは見てるだけで終わると思うし」

弟「兄貴に関しては、これで終わりかな」

図書委員「――『兄貴に関しては』、ねぇ」にやり

弟「そうとも」にたり

――兄の部屋――

兄「……」

兄「…………はぁ」

がちゃり

妹「ただいま、お兄ちゃん」

兄「っあ、お、おかえり」

妹「……う、うん。どうしたの?」とことこ

兄「あ、ええと、その」

兄「……悪い。一人にして欲しい」


妹「……うん。でも、何かあったら相談してね」

妹「ほら、一応、彼女だし」にこっ

兄「―――っ、あ、ああ」

ばたん

兄(……今更)

兄(何を言えば、いいっていうんだ)

兄(あんなに一緒に、兄妹としてじゃなく恋人として暮らしたというのに)

兄(それを、無かったことになんて出来るはず無いじゃないか)

兄「……くそ」


兄(しかし弟の言うとおりでもある)

兄(このまま妹や姉さんとの関係を続けていれば、確実に誰かを不幸にしてしまう)

兄(……妹のため、姉さんのためと、言っておきながら)

兄「何なんだよ、俺は」

兄(結局一時的な幸せしか作れなかったじゃないか)

兄「……」

兄(誰が悪いのか)

兄(俺、だよな)

兄(妹だって、俺が最初の告白を断っていれば、少なくとも、今のようには)

――数日後、司書室――

図書委員「いやはや、あれから君はここに来てくれなかったが」

図書委員「また来てくれて嬉しいよ」くっくっ

弟「ああ。いざ放課後勉強しようとしても、何かやる気が起きなくてな」

弟「仕方なく、近況報告でも」

図書委員「それを待っていた。で、どうなんだ」

弟「兄貴は妹と姉さんとの接触を極端に避けるようになった」

弟「誰が見ても、不自然に思えるほどにな」けけけ

図書委員「ほう、やはり罪悪感を植えつけるのには成功ということか」

図書委員「これで君の兄も、姉も、妹も」

図書委員「お互いぎこちなく、欲を満たすことも罪を滅ぼすことも出来ず」

図書委員「心を重くしながら生きていく――、というだけで、満足する君ではないだろう?」にたり

弟「もちろん。この先、妹がいい感じに動いてくれるはずだ」


図書委員「くっく、その時はまた報告を頼むよ」

弟「ああ。やはりこういうのは、誰かに自慢したい」

図書委員「とても口外できる内容ではないがな」けたけた

弟「それを言うなよ」くくく

図書委員「……ふ、しかし、まあ」

図書委員「君との時間も、もう終わってしまうな」

弟「ん? ああ、受験も卒業も近いからな」

図書委員「君ならどんな高校にもいけるだろうが、どこを志望しているんだ?」

弟「家から一番近いところ」

図書委員「……あそこ、名前ばかりの進学校ではなかったか?」

弟「学校の雰囲気程度で、俺の点が下がるわけ無いだろう」

弟「それに、県外に行くともうあいつらが堕ちていく様子を眺められないし」

弟「それをお前に話すこともできない」

図書委員「……く、ふふ」

弟「何だよ」

図書委員「いや、やはり君もモテるんだな、と思ってな」

図書委員「ちょいと乙女心を刺激されたよ」

弟「何だ、案外ちょろいんだな」

図書委員「当然だ。これでも少女マンガは読む。最近のいじめはマンネリ化しつつあるが」

弟「読むところそこだけかい」

――姉の部屋――

妹「ねえ、お姉ちゃんさあ、約束したよね」

妹「お兄ちゃんにあんまり関わらないって、約束したよね」

姉「っ、それ、でも」

姉「耐えられなくて、我慢、出来なくて」

妹「いいよ、それくらいなら許すよ」

妹「お姉ちゃんがちょっかい出すくらいなら、私も恋人として寛大だし、許すよ」

妹「恋人がきょうだいと話しているのを見た位で嫉妬なんてしないよ」

妹「でも!」だんっ

姉「っ!」びくっ

妹「私からお兄ちゃんを奪うなんて、どういうこと!」


姉「……っ」

妹「だってお兄ちゃん、私のこと全然構ってくれなくて」

妹「それどころか、何か避けてるし」

妹「お姉ちゃんが独り占めしてる以外ないじゃん!」

姉「……そんな、こと」

姉(私だって、避けられてるのに)

姉「知りませんよ」

妹「はあ!?」

姉「それには私は関わってません。私から兄に何かを指示したわけでもありません」

姉「……妹、あなたに愛想を尽かせたのでは?」


妹「そ、んなわけないでしょ!?」がしっ

妹「お兄ちゃんは私の告白を受け入れてくれた。好きって言ってくれた!」

姉「それは、もう過去の話でしょう」

妹「……っ、この、!」ばしっ

姉「っ、今、兄がどう思っているかは分かりませんよ」

妹「うる、さいっ!」ばしっ

姉「……そんなことしてると、認めているようなものなのですが」

妹「うるさいって、言ってるでしょ!」ごっ

――弟の部屋――

弟(……暴れる音が)

弟(そこそこ派手にやってるなあ)

弟(勢い余って殺したりするのかな)

弟(……うーむ)

弟(それは避けたい)

弟(でも兄貴は役に立たん。どうせ自室で膝抱えてる)

弟(しかたねーなー)むくり

弟「もう十分だろーし、仲裁するか」

――翌日、司書室――

図書委員「で、止めたのか」

弟「おう。妹を適当に言いくるめた」

弟「同情したふりしながら一度部屋に戻るように説得したら直ぐだったぞ」

図書委員「しかし殴り合いだったんだろう? 怪我とかどうだったんだ」

弟「殴り合いっていうか、妹が一方的にやった感じ」

弟「姉さんの顔はちょっと鼻血が滲んでたり赤くなってたりしたけど、妹はなんともなかったし」

図書委員「ほう、姉として抑えたのか」

弟「さて、どうだか。それなりに頭いいからな、姉さんも」

――数週間後、兄の部屋――

兄(……成績が、落ちた)

兄(元からいいほうじゃなかったけど、平均の半分に行くか行かないかって)

ドンッ ドタンッ

兄(妹が荒れてる)

兄(それでも弟は、いつも以上にいい成績だ)

兄(全国模試一位でも、涼しい顔だ)

兄(……妹と姉さんを不幸にして、弟とは比べ物にならないほど駄目だな、俺)

兄「ちょっと、でかけよう」ふらり

――姉の部屋――

姉「……」

姉(最低、です)

姉(あの時、私が妹を叩き返さなかったのは)

姉(自分が被害者であるため)

姉(……周りを、味方につけるため)

姉(弟くんは、我慢できてすごいっていってくれましたが)

姉(ちゃんと叩き返したほうが、どれほどましだったでしょう)

姉(そもそも、最初に約束を破ったのは私ですし)

姉(被害者は、どちらかといえば妹のはずなのに)

姉「……兄」グスッ

姉(私、最低、です)

――妹の部屋――

妹「……ああ、もう!」ぼふっ

妹(お姉ちゃんの事が、嫌いなわけじゃないのに)

妹(本当は皆で仲良くしていきたいのに)

妹(……誰が、悪いんだろ)

妹(お兄ちゃんがかっこいいから?)

妹(お姉ちゃんが、お兄ちゃんの事が好きだから?)

妹(……私が、お兄ちゃんの事が好きだから?)

妹「わかんない、よぉ」

妹(成績も下がって、お母さんに叱られるし)

妹(もう、どうすれば)

――通学路、橋の上――

兄(――、あれ)

兄(気がついたら、こんなところに)

ザァァァァ……

兄「……はは」

兄(そういえば、小さいころ下の川で遊んだな)

兄(妹が溺れそうになってるのを、助けたこともあったっけ)

兄(姉さんが石で足を怪我したとき、おんぶして運ぼうとしてたっけ)

兄(……あれも、間違いだったのか?)

兄(……違うよな)

兄(妹や姉さんのことを大切にするのは、間違ったことじゃない)

兄(求められるがまま、異性として大切にしようとしたことが、間違いだったんだ)


兄「まだ、やりなおせる」

兄(そうだ、まだやり直せる)

兄(二人との関係をはっきりさせて、仲直りして)

兄(弟もいっしょに、また皆で笑い合えるようなきょうだいに戻ろう)

兄(あのころみたいに。この川で一緒に遊んでたときみたいに)

兄(川は……、暗くて見えないけど、たしかあの頃と変わらず、綺麗で浅い川だったはず)

兄(大丈夫。だから、もう一度やり直すために、俺が頑張らなきゃ)


―――どんっ

兄(――――)ぐらり

兄「―――、は?」

――弟の部屋――

ヴーッ ヴーッ

弟「……あれ」

弟(誰だ、こんな時間に電話なんて)ピッ

弟「はい、もしも――」

?『happy birthday! alles gute zum geburtstag! bon anniversaire!』

弟「……最初は分かったが、後は何だ、図書委員」

図書委員『気にするな、全部同じ意味だ』ブツッ 

弟「切れた。……何だったんだ」

弟「そもそも誕生日じゃねぇし、番号教えた記憶ないぞ」

――翌日、早朝、弟の部屋――

弟(……まだこんな時間かよ)

弟(居間の電話の音で目を覚ましたけど、こんな時間に迷惑な)

弟(……なんの電話だったんだ)

ガチャッ

姉「……おと、うと」はーっ はーっ

弟「おお、姉さん。朝からどうした」

姉「さっき、電話が、あって」はーっ はーっ

姉「いま、お母さんが、代わったんだけど」

弟「……どうしたの?」

姉「そ、の」

姉「兄が、……亡くなりました」

――数週間後、卒業式後――

弟(あの時、兄は通学路にある川で発見された)

弟(頭から突っ込んだらしく、頭蓋が砕け首も妙な方向に曲がっていた)

弟(発見したのは、日課のウォーキングをしていた近所のおっさん)

弟(思わぬところでトラウマを植えつけてしまってちょっと申し訳ない)

弟(発見されて直ぐに呼ばれた救急車で運ばれたけど、病院で死亡が確認される)

弟(で、持ち物から俺らの兄だと判明、と)

――図書委員の部屋――

弟「――で、暫く会わなかったけど、どうしたんだお前」

図書委員「いや、興奮が冷めるのを待っていたんだ」

図書委員「もう、楽しくて楽しくて、周りに言いふらしてしまいそうだったからな」けけっ

弟「……ええと、一応聞くけど、何を言いふらすと困るんだ?」

図書委員「ああ、騒ぐなよ。親に聞こえると困るからな」

図書委員「あの後、君の兄はストレスから逃避するため自殺したということになっていたが」

図書委員「――あれな、私が突き落とした」こそっ


弟「……へぇ」

図書委員「いや、橋の上から身を乗り出してたから」

図書委員「自殺でもする気なのかと思ってね。手伝ってやったんだ」

弟「兄貴の顔、知ってたのか?」

図書委員「いや、君の家をいつものように監視していたら顔のいい青年が出てきたのでね」

図書委員「君が整形していない限り、あれが君の兄なんだろうと思って追っかけてみた」

図書委員「人生最後の瞬間とはいえ、私のような美少女にストーキングされたんだ。幸せな最後だったろうよ」

弟「……つまり俺も殺すと?」

図書委員「いや、君には可能な限り幸せでいてもらう」

弟「何様だこのストーカー」


弟「それにしても……」

弟「殺す気までは、まだ無かったんだけどな」

図書委員「ほう、そうだったのか?」

弟「兄貴のことだ、どうせ自分を奮い立たせて問題解決に乗り出そうとするだろう」

弟「生まれ変わった気になってる馬鹿の行動を全て失敗に終わらせるのが楽しみだったんだが」

図書委員「ふむ、つまり――」

図書委員「私は、君から楽しみを奪い、無事君を不幸に出来たということだ」にたぁ

弟「あー……そうだな。お前もクズだったな」

弟「こりゃ参った。一本取られたよ」くっくっ


図書委員「これで君は、地元に進学した意味が無くなる」

図書委員「もう君のきょうだいは、最大限に絶望しているだろうからな」くくく

弟「成る程。だが、意味が無くなったわけではないぞ」

弟「別に東京に進学することが魅力的だったわけではないし、何よりここにいることにはまだ価値が残ってる」

――ちゅっ

図書委員「――、む、ぐぅっ!?」

弟「ぷは。うん。お前がいるからってのはどうだろう」

図書委員「……む、いつだったかのサービスの仕返しか」むすっ

弟「ああ。……何だ、からかうのは得意でも逆は苦手か?」

図書委員「……やかましい」


弟「冗談はともかくとして、姉さんも妹もまだ潰しようがあるからな」

図書委員「……ほ、ほう、まだ追撃しようというのか」

弟「ああ。溺れるものは藁をも掴むというだろう」

弟「救いを得ようと精一杯で、救いとならないものまで掴んでしまう」

弟「例えば、俺とか」にまり

図書委員「ふふ、成る程。報告を楽しみにしてるよ」

弟「ああ。それと、駄目押しのために恋人役は続けてくれ」

弟「幸福の度合いの比較対象が身近にいたほうがいいだろうし」

図書委員「……ああ、分かった」

図書委員「……そうだよなー、君はつんでれとかでは無いものなー」ぶつぶつ

弟(――いやぁ、楽しいなぁ)

――弟の部屋――

弟「……」ぺらっ

姉「……」じっ

弟(……兄貴の死後、姉さんはよく俺の部屋に来るようになった)

弟(会話するとしても日常会話程度だし、たぶん俺を監視してるつもりなんだろう)

弟(兄貴は知らない間にどこかに行って、知らないうちに帰らぬ人となったのだから)

弟(不安なのも、まあ分かる。心配してくれるのもありがたい)

弟(――が、残念ながら、例外なく潰れてもらう)がたっ


姉「あ、弟くん、どうかしましたか?」

弟「うん。妹に呼ばれててさ」

弟「二人で話がしたいんだって」

姉「……妹と、ですか」

弟(そう、妹も俺との接触を増やした)

弟(最も、姉さんとは違って自分本位で身勝手な理由だろうが――)

弟「大丈夫、どこかに行ったりしないから」

姉「……っ、そう、ですよね」にこっ

弟(――正直、姉さんの思いやりよりもありがたい)

――妹の部屋――

がちゃり

弟「よう、来たぞ」

妹「うん。待ってたよ、お兄ちゃん」

弟(……お兄ちゃん、ねぇ)

弟「それで、どうしたんだいきなり」

妹「えっと、その」

妹「ここ最近、やっぱり寂しくて」

妹「気を紛らわせる手伝いとか、してくれないかなって」

弟「なるほど……」

弟(確かに、この時間は日によっては部屋が五月蝿くなる時間だからな。主にベッドの上)


弟(で、結局相手をしてやることにして)

弟(勉強を見てやることにしたわけだが)

妹「……お兄ちゃんって、やっぱり所々お兄ちゃんと似てるよね」

弟(ちょっと意味分からん)

妹「声とか、歩き方とか、……匂いとか、呼吸音とか、温かさとか、優しさとか」

弟「声は遺伝的なものじゃないか? 他は一緒に暮らしてて影響されたのかもしれないけど」

妹「そういう、ものかな」

弟「そんなもんだよ。……お、正解。妹にしては良くやった」

妹「ありがと」

弟(普段ならここで噛み付いてきたが、やはり段々ずれて来ているようだな)


妹「ねえ。……ご褒美っていうと、あれだけど」

妹「ちょっと、いいかな」

弟「褒美も何も、勉強って自分のためのことだろうに」

妹「お願い。多分、大したことじゃないから」

弟「……まあ、いいけど」

妹「ごめん。ちょっと、甘えさせて」ぎゅっ

弟「……っ」

弟(……来た!)

弟(落ち着け。落ち着け。鼓動が早くなっては、この次に繋げなくなる)

……

妹「……」すー はー

弟「……」

妹「……っ、おにぃ、ちゃ」ぐすっ

弟「――あのさ」

弟「俺を兄貴の代わりにするの、やめてくれないかな」

弟「俺にも、兄貴にも失礼だろう」

妹「……っ、え」


妹「あ、と、ごめん」

弟「妹。妹にとって、兄貴って何だったんだ」

弟「換えのきくものだったのか」

妹「そんな、こと」

弟(……ところで、ドアは)

弟(うん。ほんの少し開けたままだ)

弟「じゃあ何だ。俺は兄貴の劣化コピーとでも思われてるのか」

弟「ふざけるなよ。兄貴と俺は全く違う。親が同じだけで、全く異なる個人だ」

弟「それでもいいって言うんなら、わざわざ近親からじゃなく、他人から兄貴っぽいやつを探せばよかったじゃないか」


妹「そんなんじゃ、ない」

弟「じゃあ何なんだ。俺を兄貴の代わりにしようとして、兄貴と同じ呼び方で呼んで」

弟「接触を増やして孤独を紛らわせようとして」

妹「ちがう、違う……!」

弟「それで満足できるんなら、最初から兄貴じゃなくてもよかったじゃないか」

妹「ちがう、ちがう、ちがう」

弟「適当にクラスメイト捕まえてこいよ」

弟「男子中学生なんて性欲の塊なんだから、すぐ紛らわせてくれるぞ」

妹「……ちがう、もん」ぼろっ

妹「ちがうもん、ちがうんだって、違うんだってば」ぼろぼろ

妹「ひ、ぐ、うぇ」


弟「何が違うのかも言えないくせによくもまあ」

弟「否定したいのは分かるぞ。ひっこみつかないだろうし」

妹「っぐ、うぅ」

弟「まあ、そもそも――」チラッ

弟「自分達がおかしいってことを、認めるのは辛いだろうからな」

ガタッ ドタン

弟(はい釣れてた)

妹「お、弟にぃ、きらい」

弟「うん。俺も、俺の事を兄貴のぱちもんとしか思ってない妹がだいっきらいだ」

――姉の部屋――

がちゃ ばたん

姉「……」はーっ はーっ

姉「ぅ、ぅぁ」

姉「わたし、は」

姉(私は弟くんが心配で見てただけで)

姉(兄の代わりだなんてそんなことちっとも考えてないのに)

姉(でも、弟くん、こっちを見てた)

姉(ちょっとだけ、だけど、こっちを見てから、ああ言った)

姉(誤解されてるだけですよね)

姉「ぁ、れ」

姉(もしかして私は、本当は弟くんを兄の代わりにしようとして)

姉(予備がなくなると困るから監視してた?)


姉(そんなことない、絶対にない。私はただ、弟くんが心配なだけで)

姉(……でも、何で私は、妹の部屋を覗いたんでしょう)

姉「ぅ、あぁ、あ」がたがた

姉「私は、わたしは、わたしは」

姉(どうして、弟くんをじっとみていたんでしょう)

姉(嫌、そんなこと。私は考えていない)

姉(……でも、それなら何故、こんなに動揺しているんでしょう)

姉「う、うぅぅ……」ぽろぽろ

――弟の部屋――

ばたん

弟「……く、くっくっく」

弟「あ、ふ、ふ」ぷるぷる

弟(ああああああああ。笑い堪えるの辛いわー)

弟(今思いっきり笑えば隣にも聞こえるからな。おっかない顔作って接したのが台無しになる)

弟(それにしても、姉さんも単純だ)

弟(わざと妹の部屋のドアの隙間開けておいたら、案の定そこから覗いてたみたいだ)

弟(見えなかったんで何となく視線を送っただけだけど、その後の物音からして直撃したと思っていい)

弟「……っ、っ!」びくっ びくっ

弟(ああやばい。今後の事を考えると愉しくて仕方ない)

弟(はやくコレを発散したい。発散したい……!)


弟「く、ふふふ」カチカチカチ ピッ

プルルルルル プルルルル ブッ

図書委員『……君じゃなきゃ切って着信拒否にしてたぞ。なんだこの時間に』

弟「明日会おう。お前の家でもいいしどっかにデートしてもいい」

図書委員『っ……、と』

図書委員『あれかな。成果が出たってことかな?』

弟「ああ。本当は今すぐ走ってお前のところに言って話してしまいたいが」

弟「深夜に出歩くとまだ姉がついてくる可能性もあるからな」

図書委員『興奮していてもへまをしないんだな。実に抜け目がない』

弟「ああ。それじゃあ明日、朝7時半に」

図書委員『うむ。――っておい早過ぎだろう女は準備に時間がかk』ブツッ

――翌朝、公園――

図書委員「ごめーん待ったー……?」ぼんやり

弟「凄く待った。一時間待った」

図書委員「時間通りに来たんだが」

弟「まあそれは割りとどうでもいいから話を聞け」

図書委員「また横暴な」

弟「終わったんだよ。無事エンディングを迎えられる」

図書委員「……へぇ」にまり

弟「機嫌が良くなったようで何より」くっくっ

図書委員「ああ。大したこと無い報告だったら絶縁しようかと思っていたよ」

図書委員「最も、君がそんなことをするわけがないのだが」

……

図書委員「ふむ。やはり私にはぬるいような気がしてしまうのだが」

弟「そこまで直接的なことはやってないからな」

弟「ただ、じわじわと蝕む。上手く効いていれば生涯にわたって効く毒だ」

図書委員「ほう?」

弟「仮に今後、妹や姉さんが誰かと恋をしても」

弟「その相手を兄の代わりとしてしまっているのではないかと不安になるだろう」

図書委員「それだけか?」

弟「それだけで十分なんだよ」

弟「相手を本当に愛していないかもしれない、というのは相手に失礼だからな」

弟「罪悪感で密接な関係を築くことに抵抗を覚えてしまう」

弟「仮にそれさえ乗り越えたとしても、その時は相手のほうを使う」

弟「兄を思い出させるような動作をさせるんだよ。姉さん、妹はこういうのが好きだとか言って」


図書委員「しかし始終楽しげに語ってはいたが……」

図書委員「結局、君の目的は何だったんだ?」

弟「……? 何の話だ」

図書委員「私としては、兄に取って代わって姉妹を篭絡させて性奴隷にするとか」

図書委員「あるいは姉、妹のどちらかと良好な関係を築くとか、そういうものかと思ってたんだが」

弟「おいおい、勘弁してくれ」

弟「近親相姦とか、気持ち悪いだろう」

図書委員「うーむ……では、気持ち悪いことをしている兄を排除することだったのか?」

弟「いや、俺関係ないからな。どうでもいい」

図書委員「では一体、何だというのだ?」


弟「え、いや」

弟「楽しいじゃん」

図書委員「……っく、はは」

図書委員「はははは、あっはっはっは!」

図書委員「つまり誰かを叩き潰すことそのものが君にとっての快楽で」

図書委員「相手は誰でも良かったのだな!」

弟「何を今更。じゃあ俺も聞くけど」

弟「お前は何故、兄貴を突き落としたんだ?」

図書委員「そっちのほうが楽しいかと思ってぇ!」

弟・図書委員「えひゃひゃひゃはひゃひゃ!」げらげら


図書委員「はー、はー、く、ふふ」ぷるぷる

弟「いやはや、実に楽しかった。ここ暫くの間」

弟「背中を押してくれてありがとう」

図書委員「ん? ああ、君の背中も押したんだったな、私は」くくっ

弟「兄貴の背中は押さないで欲しかったけどな」くくく

図書委員「さて、君はこれからどうするんだ?」

弟「ああ、中学までそこそこ成績良くて調子乗ってた奴らを叩きのめしておく」

図書委員「それだけでは満足できないだろう」

弟「まあそうだろうな。でも他にやることも無いし」

続き書きます。もう少ししか書く事ありませんが。


図書委員「ああ、そうだろうな」

図書委員「自分のきょうだいをここまで叩き落したんだ、あまり大きなことはできまい」

図書委員「もし他の誰かを貶めるようなことをして、それが君の姉や妹にばれれば」

図書委員「彼女らが君の企みに気づいてしまうかもしれない」

弟「……ああ」

弟「俺の娯楽のせいだと気づかれたら厄介だからな。兄に対する罪悪感が薄れてしまう」

図書委員「おやおや、実に困ったな」

図書委員「君は折角手に入れた娯楽を、手放さざるを得ないじゃあないか」にたぁ

弟「……へぇ、もしかして俺、お前にはめられた?」にいっ

図書委員「いや棚から牡丹餅だが」しれっ


図書委員「いやだってほら、私も楽しみだったからな。君の武勇伝を聞くのは」

図書委員「私は君ほど頭も回らないし、器用でもない」

図書委員「だから君の話を楽しむくらいしか方法が無かったんだよ」くっくっ

弟「まあ、そうだろうな」

弟「下衆っぷりでは五分だと思うけど」

図書委員「そうとも。私も君と同類だ。人の不幸を蜜とするクズだ」

弟(――ああ、そういう)

図書委員「というわけで、私から提案があるのだが――」

弟「次にお前は――」


図書委員・弟「――私と君と、役割を交代しないか」

図書委員「……っ!」

弟「と、言う」にやり

図書委員「……くっくっく、君には敵わないな」

弟「ああ。俺は構わないけどな」

弟「いいぜ、次はお前の番だ」

弟「お前が出来ないことは、俺が助言してやる」

図書委員「いやぁ、実に有難い。では、早速なのだが」

図書委員「私の両親を、離婚か自殺くらいまで追い込んでしまいたいんだ」

弟「へぇ、何でまた?」

図書委員「それはもちろん――」にっ



図書委員・弟「――すっごく、楽しそうだから」

終わり。

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