俺「あの、そちらの老人ホームに空きありませんか?」 (44)

俺「はい。そうですか・・・130人待ち・・・」
老人ホーム相談員「今はどこも満室ですわ」
俺「空きが出るのは、いつ頃になりますか?」
老人ホーム相談員「実質的に入所不可能ですわ。単身の生活保護者や、路上生活者が優先的に入所になりますんで」
俺「そうですか。失礼します」
ガチャ
俺「糞が。普通の納税者が後回しってどういうことだよ。死ねカス」
J( 'ー`)し「あー、あああーああー」
俺「あ、また独語始まった。母ちゃん。マジで静かにしろって。夜だぞ」
隣「うるせえんだよ!」ドン
俺「ほら、また隣が・・・母ちゃん、黙ってろって」
J( 'ー`)し「もごもご」

プルプルプル
俺「誰だよ。こんな時間に。はい。もしもし」
ケアマネ「あー、夜分遅くすみません。デイサービスの件ですけど」
俺「あ、はい。見つかりました?」
ケアマネ「それが、デイサービスもどこも一杯みたいで。最近も一件閉鎖したばかりで、その受入すらもまだの状態なんですよ」
俺「・・・」
ケアマネ「在宅の方を増やす、という形でいかがですか? ただ、在宅も現状どこもいっぱいで、限度額まで使うのは難しいようなんです」
俺「あの、じゃあ、それでいいです」
ケアマネ「はい。じゃあプランこちらまとめなおして送付しますね」
俺「よろしくお願いします」ガチャ

J( 'ー`)し「うううーあーうー」
俺「・・・」

俺「もしもし。求人見たんですけど、平日の午後だけというのは可能でしょうか?」
俺「はい。はい。いえ、親の介護がありまして、フルタイムは・・・・・・そうですか・・・。失礼しました」ガチャ
J( 'ー`)し「あーあーーあああ」
俺「・・・飯作るから。母ちゃんおとなしくしとけよ」
J( 'ー`)し「ああーあーあーー」
俺「母ちゃんが好きな親子丼作るからな」

俺「鶏肉、こんなもんでいいか・・・大きいか? もっと刻むか」
トントントン
俺「母ちゃん出来たぞ。はい口開けて」
J( 'ー`)し「うーうーもぐもぐもぐ」
俺「・・・」
J( 'ー`)し「くちゃくちゃくちゃくちゃ」
俺「・・・最近、噛むだけで飲み込まなくなってきたな」
J( 'ー`)し「くちゃくちゃくちゃ」
俺「・・・そろそろ飲み込めよ」


俺「結局食事だけで一時間かかった。俺も食べるか」
俺「・・・冷めて固くなってるし」 

俺「・・・なんか臭うな」
J( 'ー`)し「あうあうあー」
俺「・・・母ちゃん、じっとしてろよ。オムツ変えるからな」
J( 'ー`)し「うーうー」
俺「おい、動くなって。おい。あ、やっぱり出てる。うわ、凄い量」
J( 'ー`)し「うーうー」
俺「緩下剤入れすぎたか? でも二週間出てなかったしな。医者の指示通りだし」
J( 'ー`)し「うーうー」
俺「・・・オムツから溢れてズボンまでいってるし・・・」
J( 'ー`)し「うー!」
俺「あ、動くなって!あ!!!ベッドに落ちたじゃないか!!」
J( 'ー`)し「うーうー」
俺「ちょ、本当に止めろって。おい!!!」
ドン
J( 'ー`)し「うっ」
俺「あ、ごめん・・・母ちゃん・・・」

俺「母ちゃん、暫く座っててくれ。ベッド片付けるから・・・」
J( 'ー`)し「あうあうー」
俺「漂白しても取れるかな・・・新しいシーツ出すか。下のパットも買い換えないと」
J( 'ー`)し「あーあーあー」
俺「そろそろ訪問介護来るな。やっと休める・・・」
俺「寝よう・・・昨日、母ちゃんの独語きつすぎて寝れなかった・・・」
俺「zzz」

俺「もしもし。そちらの施設に空きありませんか?」
グループホーム相談員「あー、うちはないんですけどね、新しい施設ができるところですわ。住民説明会とかもありますんで、そっちで話してください」
俺「本当ですか! ありがとうございます!」
ガチャ
俺「ようやく仕事に戻れる・・・貯金もやばいし、何とかしないと・・・」
J( 'ー`)し「あーあーあー」

TV「介護保険料、引き上げ・・・介護求人倍率2.5倍を突破し、更に上昇・・・」
俺「まじかよ。俺と母ちゃんの分、介護保険料も馬鹿にならねえ・・・」
俺「そもそも40歳から強制徴収とか意味不明なんだよ・・・40手前なるまで聞いたこともなかったわ」
俺「早く再就職しないと・・・」
J( 'ー`)し「・・・あーあー」
俺「・・・ごめん、母ちゃん。俺が面倒看てると生活できないから・・・」

6ヶ月後

俺「え?キャンセル?」
施設長「誠に申し訳ありません。オープンに合わせてうちの系列から人を集めてたんですが、急遽、別のところで一斉に退職願いがありまして」
俺「じゃあ、どうなるんですか?」
施設長「すみません。延期、という形になります。うちも3つの事業所閉鎖したところで、オープンのめどもついてないんです」
俺「そんな無茶苦茶な!」
施設長「すみません、すみません」
俺「・・・」ガチャ

ピッピ
俺「もしもし。デイサービスの件ですけど、まだ空きはないんですか?」
デイ相談員「すみません。こちらも順番待ちがありまして・・・。今はどこも似たようなもんです」
俺「・・・」ガチャ

俺「糞が。介護保険料なんて払うだけで、使えねーじゃねーか!」

俺「貯金が・・・安いとこに引っ越すか? でも、母ちゃんの独語で夜もうるさいし、狭いところは確実に追い出されるだろ・・・」
俺「もう手段選んでいられねえ。生活保護の申請いくか・・・」
J( 'ー`)し「あーあー」
俺「最近、表情もなくなってきたな。言葉にも反応しないし、確実に落ちてる・・・」
俺「母ちゃん。待ってろよ。ずっと一緒にいるからな。市役所行ってくる」

福祉課職員「それで、生活保護を受けたいと?」
俺「はい。施設も空いてなくて、仕事ができない状態なんです」
福祉課職員「はあ。別に、どこもそんなもんでしょ。頼れる人に預けたらいいじゃないですか」
俺「え、でも、俺、一人っ子で、兄弟がいないし、親切づきあいもほとんどなくて・・・」
福祉課職員「友達とかいるでしょ?それに、付きっきりじゃないと死ぬわけじゃあるまいし。在宅サービスは受けてるんでしょ?」
俺「え、はい」
福祉課職員「ほら!じゃあ働けるじゃないですか。そんなことでいちいち生活保護なんて無理ですよ。辛いのは貴方だけじゃないんです」
俺「・・・」

俺「徹底的に切り詰めないと」
俺「控除見なおすか。病院へのタクシー代も上乗せできるんだな」
俺「タクシー使った方が安くなるか?」
俺「オムツ代の請求も・・・」

J( 'ー`)し「あうああー」

俺「・・・臭うな。オムツ変えるか」
俺「・・・げ。最近、薬変えたせいか、粘土みたいなウンコになってきたな」
俺「出てる途中だし・・・今変えてもすぐ変えるはめになる」
俺「掘るか。手袋してっと。母ちゃん、痛いけど我慢しろよ」ヌポ
J( 'ー`)し「うーうーうー!」
俺「かき出してっと・・・」
俺「よし。大体取れた」
俺「ズボン洗うか・・・」
俺「全くとれねえ・・・」バシャバシャ
俺「このまま洗濯機回すとやべえよな・・・」
俺「漬け置きしてもとれねえし、捨てるか?」
俺「いや、うちにそんな金の余裕ねえ」
俺「・・・」バシャバシャ

俺「金が・・・」
俺「魔法のカード・・・」
俺「使うしかねえ・・・選んでいられねえ・・・」
J( 'ー`)し「・・・」
俺「なあ、母ちゃん。久しぶりにうまいもん食うか。高い肉にしよう」
ウィーン
俺「せっかく良い肉でも、ミキサーで砕くともうなんか分かんねえな。ははは」
J( 'ー`)し「・・・」
俺「わかるか?焼肉だよ。ほら、口開けて」
J( 'ー`)し「・・・」
俺「最近、口も開かねえな」グイ。ネポッ
J( 'ー`)し「むしゃむしゃむしゃ」
俺「美味しいか? 焼肉、久しぶりだもんな」グイ
J( 'ー`)し「むしゃむしゃむしゃむしゃ」
俺「美味しすぎて呑み込むのもったいないか?」
J( 'ー`)し「むしゃむしゃむしゃ」

在宅サービス提供責任者「あのー、すいません」
俺「はい?」
在宅サービス提供責任者「非常に申し訳ありません。うちの事業所、欠員により、法令の定める人数を維持できなくなり、閉鎖することになりまして・・・」
俺「あ、そうですか。ありがとうございました」
在宅サービス提供責任者「え、あ、はい」
俺「お疲れ様です。じゃあ」
バタン

俺「ははは。母ちゃん。俺だけになっちゃったよ」
J( 'ー`)し「・・・」
俺「そうだよな。俺と母ちゃんの問題だもんな」
J( 'ー`)し「・・・」
TV「医療費負担引き上げ・・・社会保障費の財源確保の為、消費税18%を目標に・・・介護求人倍率3.0%を突破し、事実上の破綻へ・・・」
俺「ははは」

J( 'ー`)し「あーあーあー!」
俺「・・・今日は久しぶりに独語激しいな。眠れねえ・・・」
J( 'ー`)し「あーあー・・・・・・・・・・・」
俺「ん」
J( ゚O゚)し「うっ、あーぎゃあああああぐいfgりえgはぱがgっh」
俺「!!!」
俺「母ちゃん!? 痙攣? なんで! 癲癇なんて持ってないはずなのに」
J( ゚O゚)し「dsふぃうぇhgwhghrshgりghv」
俺「やべえ。救急車」
ピッピッピ
俺「・・・」
俺「いや・・・」
J( ゚O゚)し「dsふぃうぇhgwhghrshgりghv」
俺「・・・」
俺「この人は、なんなんだろう。これ、本当に俺の母ちゃんなのかな
J( ゚O゚)し「dsふぃうぇhgwhghrshgりghv」」
俺「・・・」

J( ゚O゚)し「dsふぃうぇhgwhghrshgりghv」
J( ゚O゚)し「dsふぃ・・・・・・・・・・・・・」
J( -_-)し「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺「・・・・・・・・・・・・」
俺「・・・・・・・・・・・・」
俺「・・・・・・・・・・・・」
ピッピッピ
俺「・・・もしもし。救急です。母が痙攣を起こしまして。いえ、既往歴は特に」
俺「はい。住所は・・・。はい。お願いします」
J( -_-)し「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺「・・・・・・・・・・・・」
俺「ああ、こうやって見ると、寝顔は変わらねえな」

医者「残念ですが・・・」
俺「そうですか」
医者「今後の手続きなどは済ませていますか?」
俺「いえ、何も」
医者「ではこちらの遺体安置所で預かる事になります。葬儀屋などが関わる場合でも、家族様のご同行が必要になります」
俺「はい。お手数おかけします」


俺「もしもし。一番安いのでお願いします。はい。いえ、親戚以外は誰も呼ばないです」
俺「はい。お願いします

叔父「大変だったな」
俺「・・・・」
叔母「悲しいでしょうけど、頑張ってね」
俺「・・・・」

俺「・・・就職活動・・・しないと・・・」



面接官「この四年半の空白は?」
俺「親の介護をしていまして・・・」
面接官「なるほど。大変でしたね。しかし、四年半の空白は、この業界では痛手です。技術的な・・・」
俺「・・・」

俺「だめだ・・・コンビニのバイト・・・これにしよう・・・」

年下店長「へえ。親の介護。大変だったね。んー、でも、もっと若くないとなー」
俺「・・・」

俺「魔法のカード・・・もう限度額だ・・・」
俺「生活保護・・・」フラッ

福祉課職員「あなた、親の介護が理由って以前に言ってませんでしたっけ?」
俺「・・・・・・・・・・」
福祉課職員「本当は働く気ないんじゃないんですか? 親の介護をもっともらしい理由にしてただけで」
俺「・・・・・・・・・・・」
福祉課職員「介護する前は働いていたんでしょう? じゃあ何で介護が終わった後も同じように働けないんですか?」
俺「・・・・・・・・・失礼します」


俺「あ」
俺「・・・マンションの、家賃、今月払ってなかったっけ」
俺「・・・・・・」
俺「この堤防・・・母ちゃんと子供の頃、よく来たな」フラ
俺「・・・」
俺「この川で、亀捕まえたりしたっけ」
俺「母ちゃん、ごめんな」ズズズ
俺「何やってたんだろうな」
俺「最後、本当ごめん、どうかしてた」
俺「俺も、後行くから・・・」ズズズ
俺「向こうで許してくれよ」ズズズ




TV「水死体が・・・自殺と見られ・・・」
TV「次のニュースです。介護保険の自己負担料引き上げを検討。政府はようやく現状の改善の為、抜本的な改革を・・・消費税25%を検討・・・介護求人倍率3.3へ・・・安楽死についてようやく本格的な議論が・・・」

終わり。さようなら

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