提督「艦娘との一年」 改 (344)


艦これss

若干のキャラ崩壊あり




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408281892



 3月 風と波に揺られ




提督「────ふわぁ……」

浜風「おはようございます、提督」

浜風「今日はいつもより遅い起床ですが、どうかされましたか?」

提督「ああ、おはよう浜風」

提督「起きるのが遅かったのはアレだ、ただの二度寝だ。特別何かあったわけじゃないから心配する必要はないぞ」

提督「……それにしても最近は布団が恋しくてな。頭では分かっていても体が布団から出ようとしてくれないから困る」

浜風「そう言えばもう春でしたね。春眠暁を覚えず、といったところでしょうか?」

浜風「本来は寝過ごすという意味が入るので、提督の場合では些かその意を外れますが」

提督「へぇー、そういう意味があったのか……」

提督「浜風は物知りだなー」

浜風「────っ!?」

浜風「て、提督っ……! きゅ、急に撫でるのは、そのっ……!」

提督「────っと、すまん。子供扱いは嫌だよな」

浜風「あっ…………」

提督「……ん? どうした浜風?」

浜風「……えっと、その」

浜風「…………何でもありません」

提督「……そうか? それならいいんだが……」

浜風「………………はぁ」

浜風(もったいないことしちゃったわ……)




提督「……ところで長波はどうした?」

浜風「長波さんですか? 彼女なら『もう少ししたら私も向かうから先に行ってて』と言っていましたが……」

提督「……来ないな」

浜風「そう、ですね……」

浜風「着替えに時間がかかっているのでしょうか?」

提督「……着替え? ちょっと待て」

提督「お互い準備は終わってたわけじゃないのか?」

浜風「はい。先に私が起きてしばらくしてから、先ほどの言葉を聞きました。その時点で長波さんは準備らしい準備は出来ていなかったと思います」

提督「……長波は、どんな状態でそれを言ってた?」

浜風「ええと、確か布団を被りながら────」

浜風「────あっ……」

提督「……なるほどな」

提督「どう考えてもアイツ────」







「寝てるよなぁ……」「寝てますよね……」







提督「────申し開きは?」

長波「えーと……」

浜風「提督、長波さんが二度寝してしまったのは、昨日遅くまで起きていたのが原因かと」

提督「ふーん……」

長波「ちょっ!? 浜風っ!?」

長波「それ先に言っちゃったら言い訳出来なくなっちゃうだろ!」

提督「言い訳で誤魔化そうとするなよ……」

提督「素直に謝れば許してやったっていうのに」

長波「本当にごめんなさい! 次からは気をつけるからさ!」

提督「切り替え早いな、おい」

提督「……まぁ許すけど」

長波「さっすが提督! そういうとこ大好きだよ!」




浜風「……よいのですか?」

提督「一回の遅刻くらい許すさ。俺だって鬼じゃないんだから」

浜風「ですが、その……」

長波「もー、浜風ってばしつこいぜ!」

長波「提督がいいって言ってるんだから今回はお咎め無しってことでいいだろ?」

浜風「………………」

提督「浜風は真面目だな。だが規則ってのは絶対じゃないぞ? 時には目を瞑るということも必要だ」

浜風「……はい」

長波「ふふーん♪」

提督「────ただ」

提督「俺は鬼じゃないが仏でもない」

提督「二度目で怒るからな、長波?」

長波「き、気を付けまーす……」

提督「よろしい」




提督「────さて、少々遅くなってしまったがそろそろいつもの仕事を始めようじゃないか」

提督「例年この時期になると深海悽艦の動きが活発化してくる」

提督「更にここ最近では新型も発見されていると来たもんだ」

提督「……だが俺達がやることはいつだって変わらない。背伸びをする必要もない」

提督「安全第一」

提督「浜風、長波。肝に銘じて業務に励んでくれ」

提督「──────以上!」







「「了解!」」





本日ここまで。

次回からいちゃいちゃします。
というかほとんどいちゃいちゃしかしません。

浜風・長波が嫌いな方はそっ閉じでお願いします。

それではまた。


長波だけ投下



 長波 桜ふぶき




長波「今年は桜咲くの早いなー……」

提督「確かにそうだが……俺はそれよりも驚いていることがある」

長波「へぇ、何に?」

提督「お前がちゃんと花見をしてるってことにだよ!」

提督「お前はどう考えても花より団子ってキャラだろうが!」

長波「あはは、提督ってばひっどいなー」

長波「私、花とか結構好きだぜ? 特に桜はさ、ほら、私の髪の色とおんなじだし」

提督「意外だよどう考えても……」

提督「────っと、長波?」

提督「頭に花びら乗ってるぞ」

長波「えっ、ホント? 取って取って」

提督「ああ、動くなよー」

長波「………………っ!?」

長波「ちょ、待って! 提督、くすぐったい!」

提督「────あっ!?」

提督「……おい、せっかく取ったのにお前が動いたせいで落としちまったじゃないか!」

長波「い、今のは提督が悪いだろっ!」

提督「あーもう……、落とした場所が悪いな」

提督「ここに引っかかったように見えたんだけど……同じ色のせいで分からん」

長波「……なぁ、まだ?」

提督「ちょっと待て、今探してるから」

提督「えーと…………」

提督「……………………長波」

長波「んー?」

提督「お前の髪、手触り良いな」

提督「もうちょっと触っててもいいか?」

長波「────なっ!?」

長波「そ、そんなことより早く取ってくれよな! さっきからくすぐったいんだよ!」

提督「はいはい……」

長波「………………うぅ」

長波(な、何だよ急に……!)

長波(そういう不意打ちやめろよな……!)

長波(……………………)

長波(…………毎日手入れしといて良かった)

長波(手伝ってくれた浜風に感謝だな)




それではまた。



はい、その通りです。
今までシリーズ毎に違うIDにしていたのですが、IDを忘れてしまったので一番最近で使ったIDを使用しています。

以下が過去作となります。

艦これ ショートショート
艦これ ショートショート 改
提督「艦娘との一年」
提督「戦いが終わり……」
提督「甘えん坊」


(ヤンデレ艦隊を僕はずっと待ってます)


>>21
こ、この次くらいには……。

設定は出来たんですけど、オムニバス形式にするかストーリー物にするかで悩んでいるんですよね。
予定ではオムニバスにすると肝が冷え、ストーリー物にすると胃がキリキリする感じになります。

まぁ初めてのヤンデレなので出来はお察しですが。


一つ投下します。





 浜風 貴方だけに




浜風「────敵影無し」

浜風「提督、戦闘が終了しました」

提督『お疲れ様。被害の程は?』

浜風「直撃は無かったので体にダメージはありません」

浜風「……ですが主砲の砲塔が余波で傷付いてしまいました。次の戦闘では保たない可能性が大いにあります」

浜風「どうしますか?」

提督『もちろん帰投だ。命あっての物種だしな』

提督『ただ奇襲にだけは気を付けてくれ』

浜風「…………申し訳ありません」

提督『なぁに、謝る必要なんて無い』

提督『……浜風が無事で良かったよ』

浜風「──────っ!」

浜風「す、速やかに帰路に着きますっ」

提督『おう』

提督『そんなに遠くないし、波止場で待ってるぞ』

浜風「………………っ!?」

提督『…………浜風? 聞こえてるか?』

浜風「き、聞こえてます……」

浜風「ですが……そ、それはその…………」

提督『何だ? 問題でもあるのか?』

浜風「え、ええと……」

浜風「今の私の姿を見せるのはちょっと……」

浜風「は、恥ずかしい、です……」

提督『……………………』

提督『…………あー……なるほど、な』

提督『すまん、忘れてくれ』

浜風「い、いえ、提督のお気遣いに感謝します」

浜風「そ、それに……」

浜風「提督になら、私は構いませんから……!」





──────────────────────

──────────────────────







提督「────長波、迎えに行ってやってくれ」

長波「……提督はへたれだなー」

提督「……うるさい」



それではまた。



投下します。




 風と波に揺られ




長波「ふふふーんふふーん♪」

提督「おい、長波。床で寝転ぶな」

提督「だらしないからちゃんとソファに座れ」

長波「えぇー? これくらい別にいいだろ?」

提督「………………」

長波「むぅ…………」

長波「……もー、そんな目で見ないでくれよな」

長波「はいよ、っと…………」

長波「ほら、ちゃんと座ったからこれでいいだろ?」

提督「……長波」

長波「んー、なに?」

提督「……何で俺の膝の上に座ってるんだ」




長波「あれ? もしかして私重い?」

提督「いや、軽いぞ。軽すぎて心配になるくらいだ」

提督「毎日三食ちゃんと食べてるか?」

長波「これでもちゃんと食べてるんだぜ?」

長波「でもなっかなか大きくならないんだよなぁー」

提督「────ちょっと待て。話がすり替わってる」

提督「流そうとしたってそうはさせないぞ」

長波「あ、ばれた?」

長波「まぁどくつもりもないけど、ねっ!」

提督「────ごふっ!?」

提督「お、おまっ、いきなり背中預けるなよ!」

長波「あははっ、ごめんごめん」

提督「はぁ……まったく……」




長波「…………なぁ提督」

提督「んー?」

長波「髪触ってもいいなんて一言も言ってないぜ?」

提督「そういえばそうだな」

提督「でも別にこれくらいいいだろ? 嫌なら膝からどけばいい」

長波「…………それはなぁ……」

長波「…………丁重に扱ってくれよ?」

提督「おう、まかせろ」

提督「実家で飼ってる犬に接する時みたいにもふもふしてやるから」

長波「……それって豪快に、って意味じゃないよな?」

提督「……そんなことはないさ」

長波「私は降りるぞ! は、離せっ!」





提督「そーれわしゃわしゃー」

長波「ちょ、まっ、やめっ!」

長波「なんかもう恥ずかしいんだけどっ!」

提督「だーしゃっしゃっしゃー」

提督「よーしよしよしよしよし」

長波「────そ、そこはマジでやめろってばっ!」
















浜風(こ、この雰囲気の部屋に入っていくのはちょっと…………)

浜風(…………二人が落ち着くまでここで待つしかないわね)



『おまっ、へ、変な声出すなよっ!』

『い、今のは提督のせいだろっ!』



浜風(……………………)

浜風(…………楽しそう)




投下終了。

大体ひと月3話くらいで行きます。
安価はしばらくしたら取ります。


それではまた。


どんどん増えてく後付け。
月毎に書き方を変えます。

久しぶりなので手探りですいません。


投下します。



 4月 波起き風吹きて




「────んっ……」


 ふわふわと暗闇の中を漂っていた意識がその形を取り戻し、私はゆっくりと瞼を上げる。

 ぼやける視界に意識を注ぐと徐々に靄は取り払われ、その隅に愛用している目覚まし時計が見えた。

 八時三十分。

 少しの静寂が訪れ、私はその意味を理解する。


(………………寝坊っ!)


 勢い良く布団をはねのけつつ、頭の中では必死の計算を開始する。

 朝礼まで残り十五分。
 朝食はもちろんカット。
 シャワーもカット。
 顔を洗ったら寝癖が無いかどうかだけをチェックして、急いで着替えに入る。
 匂いは……無いと思いたい。昨日の夜にお風呂に入ったから大丈夫なはず。
 念のため香水を多めに────


(………………?)


 そこまで考えて私はようやく気付く。

 視界に見えるのは目覚まし時計。
 時刻は八時三十二分。

 私の体は……未だに布団に包まれたままだった。



「────浜風? もしかして起きてる?」





「……長波、さん?」


 いつもの服装に身を包み、不思議そうにこちらを覗き込む長波。
 私がその名を呼ぶと、楽しそうに口の端を上げた。


「寝ぼけてんのか? まぁいいけどさ」

「ち、ちがっ……」


 視界がぐらりと揺れる。
 はっきりしていた思考にも、雑音が紛れ込み始める。

 ……間違いなく、体調が悪い。

 頭では分かっているのに体はさっぱり動いてくれず、長波に何か伝えることも出来ないまま、意に反し降ろされた瞼が私の視界を閉ざした。


「あー、眠いならもうちょい寝てていいぜ。どうせ今日は休みだしな」


 その言葉に私は一つだけ安心した。

 どうやら私は今日が休日だということにすら気付かないほど、混乱してしまっていたらしい。

 ……これで心置きなく眠れそう。




(…………あれ?)


 意識が落ちきるその寸前。
 私はとあることに気が付いた。

 今日が休日だというのなら、長波さんはどうして出撃用の服装だったのだろうか、と。






「────珍しいこともあるもんだなぁ」


 ……提督の、声がする。

 体が熱い。
 ただそれ以上に、私の右手は温もりを感じていた。


「長波から聞かされた時はエイプリルフールの冗談かと思ったぞ。信じて良かった」


 確かめるように右手に力を込める。

 感じる温もりが、少しだけ増したような気がした。


「おっ、起きたか? 無理はしなくていいから寝ておけ。風邪は寝て治すのが一番だ」


 果たして夢か現か。

 たとえそのどちらかだとしても、この温もりを手放したくはない。

 視界一杯に広がる暗闇に、声を投げかける。


「そ、そばに……居て、下さい……」

「もう少しだけ……お願いします……」


 意識は朦朧としていて、既に何を言ったのかすら思い出せない。
 意識はまた沈んでいって、返事があったのかすらも分からない。

 ……それでも。



「──────、────」



 右手に伝わる温もりが、私にすべてを教えてくれていた。


























「……浜風ー?」

「き、昨日のことは忘れて下さいっ!」



投下終了。

元々無い文章力が更に息をしていない……。
ご容赦を。


それではまた。


本格的ないちゃいちゃはもう少しお待ち下さい。
具体的には夏か冬まで。

投下します。



 長波 しばらくはこのまま




「なぁ提督、新しい奴ってまだ来ないのか?」

「……何だよ藪から棒に」


 ソファに座って雑誌を読んでいた長波が、ふと何かを思い出したかのように顔を上げてそう言い放つ。

 急な問いかけに一瞬誰に言っているのだろうかと考えてしまったが、現在この執務室には俺と長波しかいないという事実を思い出し、俺は書類仕事をこなしていた手を止めた。

 ……新しい艦娘、ねぇ。

 俺だって欲しいが、そうはいかない理由がある。


「それに関しては本部次第だな。だがこんな辺境に送るくらいなら前線に送る方が賢明な判断だ。可能性は無いと思っていい」

「うぇー……」


 ため息を吐き、テーブルに突っ伏する長波。
 そしてそのまま顔を横へと向ける。

 長波の目と俺の目が合った。


「じゃあ浜風は何で来れたのさ?」

「……コネ?」

「…………それさ、もう一回使えない?」


 ちょっと考えた後、にやりと笑ってそう提案してくる。
 もう使えないんだよ、と返すと、長波は明らかに不満そうにしていた。

 正確には少し違うのだが浜風を寄越してくれた同期の面目を保つためにも、俺はここで口を噤むことにした。




「まぁいっか。無いものねだりしても仕方ないしな」


 ソファの背もたれに寄りかかり、諦めにも似た言葉を吐く長波。
 切り替えが早いのはこいつの良いところでもある。

 ……少し反省して欲しいときは玉に瑕だが。


「でもしばらくはこのままかぁ……」


 ぽつり、と呟く長波。

 その裏に垣間見えた感情に負のモノは感じられなかったが、悪戯心がざわめいた俺は、少し意地悪な質問を投げかけることにした。


「長波は俺達と一緒に居るのは嫌なのか……。……残念だな」

「────あ、いや、そういうのじゃないって!」


 はっ、として否定する長波。
 俺が悲しそうな表情をすると『本当だってば!』と焦り始めた。

 身振り手振りでアピールする姿が何とも微笑ましい。


「ははっ、分かってるから怒るな怒るな」

「…………あー、もしかして一本取られた?」


 俺の雰囲気から演技であることを看破したのか、長波の表情が苦虫を噛み潰したかのようなものへと変わる。


「さて、お喋りはそろそろ終わりだ」


 そんな恨みのこもった視線を受け流しながら、俺は休めていた手を再び動かし始めるのだった。





「…………提督、三人ってキリが悪いよな?」

「……俺は要らないと申すか」

「あっ、そっちで取るの?」


 『そっち』って何だよ、『そっち』って。



投下終了。

それではまた。


投下します。



 浜風 長波 名前を呼んで





「────んーっ! たまにはこうやって全力出してみるのも良いもんだなぁ!」


 水面を滑るようにして移動していた長波が歓喜の声を挙げる。その表情はもちろん笑みに包まれており、普段のそれと比べてみても、はるかに気分が良さそうだった。

 通常、艦娘は全力で航行するという事は滅多に無く、それは出撃時であっても例外ではない。
 ただの移動でも節約という観点からエネルギーの効率が一番良いとされている七割程度を目安とするし、戦闘時の移動でも偏差砲撃の命中率を上げるためにむしろ速度を下げるのが一般的だからだ。

 それら一切の要素を無視して全力を出すとすれば、緊急時────撤退戦の時くらいのものだろう。

 そして今日のお仕事である整備が完了した新しい艤装の稼働チェックは、その滅多に無い全力を出せる機会の一つであった。


「行くぜ行くぜぇー!」


 叫びと共に海に二筋の線が続いていく。

 駆逐艦娘とはいえその力は凄まじく、生じる波はそれなりに大きな形を作っていた。




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「────長波さん、はしゃぎ過ぎです。今回の目的をお忘れですか?」

「えー? たまには良いだろ、たまにはさ」


 チェックを開始してから早一時間、流石に疲労が溜まってきたのか速度を緩め始めた長波に、機を窺っていた浜風が追い付く。

 浜風の声には少々怒気が含まれていたが、長波の方はといえばそんなのどこ吹く風とでも言わんばかりにあっけらかんとして笑っている。

 いつもなら仕方無いと思って流す浜風も、長波に合わせていたことで疲労が溜まっていたのか、その眉間に皺を寄せた。


「……長波さん」

「…………その、ごめん……」

「────あ、いえ、そういうわけでは……!」


 笑っていた長波が、浜風の様子を見て察したのか、頬を掻き頭を下げる。
 浜風は浜風で、自身がどんな表情をしていたのかに気付き、慌て始めたが、頭を下げる長波を前に何も言い出せない。

 両者の間に何とも言えない沈黙が生まれていた。


「え、ええと、私は別に長波さんの事が嫌いなわけではありません。むしろ長波さんのそういったポジティブな性格は好ましいと思っているくらいで……」


 一体私は何を口走っているのか?

 そんな疑問が浜風の頭の中に渦巻くが、混乱に拍車がかかるだけで何の益にもなりはしない。
 素直に謝る長波の姿というのは、浜風にとってそれだけの衝撃があったのである。

 最早勢いのみで、浜風はとにかく浮かんだ言葉を次から次へと言葉に変えていく。

 長波は俯いたままで何も言わなかった。


「──────ですからその──」

「────ぷっ、あはははははっ!」


 しばらく続いた浜風の言葉を突如遮り、長波の笑い声が海に響いた。




「浜風ってば焦り過ぎだって! 私そんなに気にしてないからさ!」

「……そうなんですか? いえ、それはそれで考え物ですけど……」


 ほっとしたのも束の間、取りようによっては反省していないとも取れる長波の言葉に、浜風が複雑な表情を見せる。

 しかし目の前にいる長波の笑顔を見た浜風は、ため息を一つ吐くとやんわりと笑った。

 淡い、という言葉がしっくりくるそんな笑顔。
 一度も見たことがなかったその表情に、長波は目を丸くした。


「でも嫌われたわけじゃないみたいで良かったわ」

「……もしかして、そっちが素?」

「……あっ」

「いいじゃんいいじゃん。そっちの方が絶対似合ってるって! 浜風はいろいろ気を遣い過ぎなんだよ」


 その言葉に、浜風は出かけた言葉を飲み込むしかなかった。

 そして長波の追撃が入る。


「それとさ、そろそろ『さん』付けやめようぜ?」


 「ほら、言ってみてくれよ」と、浜風を促す長波。

 期待を含ませて輝くその瞳に圧され、浜風は反論することもできない。


 やがて観念したのか、ゆっくりとその口を開いた。





「──────な、長波……」





「……もっかい!」

「……な、長波?」

「もういっちょ!」

「……長波」

「もう一声!」

「長波っ」

「もう────」

「も、もういいでしょうっ!」


 顔を恥ずかしさで真っ赤に染めた浜風が抗議の声を挙げる。

 その二、三言後、からかう長波を浜風が全力で追いかけるという、何とも楽しそうな光景がそこには広がっていた。




投下終了。

気付いたら艦娘同士でいちゃいちゃしてました。


それではまた。




投下します。




 5月 浜駆け波に攫われる




提督「会いてぇ……」

長波「提督、何回言えば気が済むんだよ……」

長波「朝からずっとため息吐いてばっかりだしさ、こっちまで気が滅入っちゃうよ」

浜風「長波の言う通りです」

浜風「どれだけ嘆いても会えないのですから、流石に諦めては?」

提督「……仕方ないだろ。必死で忘れてたのに、思い出させられたんだからさ……」

提督「くそっ……お袋め……! 何て物を送って来やがる……!」

提督「ぐぬぬっ……!」

浜風「……よほど可愛がっていたのね」

長波「いやいや、犬一匹に入れ込み過ぎだろ」

提督「長波、犬一匹とはいえうちのポチはそこらの犬共とは一味違うぞ! 見ろ、この可愛さを!」

長波「あー、はいはい。可愛い可愛い」

浜風「綺麗な毛並みですね……」

提督「これでもちょっと質は落ちてきてるんだよ。今度実家に帰ったらブラッシングしてやらないと……」

長波「……何か私達より扱い良くないか?」

提督「……ポチは可愛げがあるからな」

浜風「えっと、私何か提督の気に障ることでもしてしまったのでしょうか?」

提督「浜風は除く」

長波「おい」




長波「しっかし提督がこんなにも犬好きだなんて思わなかったぜ?」

提督「犬は良いぞー。可愛いしモフモフだし、何より主人に忠を尽くしてくれる」

提督「健気に俺の言うことを聞いてくれるのがこれまた可愛いんだよ」

長波「ふぅーん……」

長波「私だって結構言うこと聞いてると思うけどなぁ」

提督「いやいや、浜風ならともかくお前は違うだろ」

浜風「長波、私もちょっと擁護できないわ」

長波「あはは、二人してひどくないか?」

長波「そんなに言うなら試してみろよな。今なら何でも言うこと聞いてやるからさ」

提督「何でもって言われてもなぁ……」

浜風「選択肢が無数にあると逆に困りますね……」

長波「ほら、はやくはやく」

提督「うーん…………そうだ」

提督「長波、お手」

長波「何で犬扱いなんだよっ」

浜風「でもお手はするのね……」




長波「ん、提督? どうかしたのか?」

提督「……いや、今のに不覚にも癒されてな」

提督「何か長波ってポチに似てるんだよ。元気一杯なとことか特に」

長波「…………それって褒めてる?」

提督「あとメッチャ食うとこも」

長波「やっぱり馬鹿にしてるよな!」

浜風「ふ、ふふっ……」

長波「は、浜風も笑うなって!」

浜風「ごめんなさい、何だかとても楽しくて……」

提督「いやー、浜風が楽しそうで何よりだ」

長波「あぁ……何かもうどっと疲れたぞ………」




提督「はっはっは、からかって悪かったな」

提督「ほら、こっちこい」

長波「……今度は何するつもりだよ」

提督「なーに、言うこと聞いたらコレ、だろ?」

長波「────んっ……」

長波「…………髪崩れるから強くしないでくれよな」

提督「はいはい、分かったよ」

長波「…………ふふん♪」

浜風「…………むぅ」

浜風「……あの、提督」

提督「どうした、浜風?」

浜風「その……私にも何か、して欲しいことなどは無いでしょうか? 何でも大丈夫ですから」

提督「…………」

提督「浜風は可愛いなぁ!」

浜風「────きゃっ!?」

長波「あーっ!? ずるいぞそれ! 浜風は何もしてないじゃんか!」

提督「可愛いは正義だ!」

長波「私だって良い線行ってんだろー!」





浜風「…………ふふっ♪」




投下終了。

それではまた。


最近は雲龍も犬っぽいと思ってます。

時雨「わんっ」
夕立「ぽいっ♪」
比叡「ワンッ!」
日向「……わん」
雲龍「わふっ……」

あと一人で犬っこ艦隊出来そうですね。



朝潮「わ、わんっ」


見える……見えるぞ……!
提督の手に頬擦りをしてくる犬っこ艦隊の様子が!

興味が無い感じだけど尻尾はパタパタな朝潮!
静かにちょこんと提督の膝に乗ってくる時雨!
かまって欲しくて提督の背中に突撃する夕立!
いつも元気で耳がピコピコと動いている比叡!
基本無表情でも撫でられると淡く微笑む日向!
提督に寄り添い二人きりだと甘えてくる雲龍!


だがヤンデレが先だ!



今日は投下無いです。すみません。
3ヶ月毎に番外編(数レス程度)やるつもりですので今の月が終わったら安価取ります。

それではまた。



投下します。



 浜風 浜風の五月病




浜風「……………………」

提督「……………………」

浜風「……………………」

浜風「…………すぅ……すぅ……」

提督「…………」

提督「浜風ー、起きろー」

浜風「──────っ!?」

浜風「す、すみません提督っ!」

浜風「つい居眠りをしてしまいましたっ!」

提督「えーと、別に怒ってないからそんなにかしこまらなくていいぞ。それにしても浜風が仕事中に寝るなんて珍しいな」

提督「昨日は遅かったのか?」

浜風「い、いえ、そういうわけでは無いのですが……」

浜風「ここのところ妙に体が気怠いような気がして…………すみません。仕事中に言う言葉ではありませんでした」

提督「気にしなくていい。誰だってそうなるときくらいあるさ」

提督「……もしかしたら五月病というやつかもしれないな」

浜風「五月病、ですか?」




提督「ああ、見る限り浜風のはそんなにひどくないようだが、悪化したら困る。重度の五月病になった奴を見たことがあるんだが、それはそれはひどい様子だったぞ」

浜風「……どうすればよいでしょうか」

提督「気分転換が一番なんだろうけど……」

提督「浜風はしたいこととかはあるか?」

浜風「……えーと…………」

浜風「────ふわぁ」

提督「あっはっは、そうか、眠たいか」

浜風「い、今のはっ、そのっ…………うぅ……!」

提督「許可するから一時間くらい寝とけ。どちらにせよ眠気があるままじゃ仕事に支障が出るからな」

提督「そうだろ?」

浜風「……それもその通りですね」

浜風「すみません、提督。お言葉に甘えて一時間ほど仮眠を取らせて頂きます」

提督「布団は要るか?」

浜風「いえ、ソファで十分です」

提督「そうか、じゃあこれ使え」

浜風「……提督の上着?」

提督「五月とはいえまだ肌寒い。風邪をひかないようにと思ってなんだが……要らないか?」

浜風「────つ、使わせて頂きますっ」





















提督「………………」

提督「………………」

提督「…………浜風ー?」

提督「………………」

提督(……よし、ちゃんと寝てるな)

提督(浜風はいつも頑張り過ぎだからな。たまには息抜きも必要だろ)

提督(────さて、俺は仕事を頑張りますかっ!)





浜風(………………)

浜風(………………)

浜風(……提督の、匂いがする)

浜風(…………んっ……)

浜風(良い匂い…………)




投下終了。

それではまた。



投下します。




 長波 長波の五月病




長波「────何かダルい……」

長波「なぁ提督、お仕事休憩してもいいか?」

提督「……お前もか、長波」

長波「……へぇー、お前もってことはもしかして浜風もこんな感じだった? そんなとこ────」

長波「────あぁ、なるほど。そりゃあ私の前じゃそんな姿見せないよなぁ……」

提督「……何で俺を見るんだよ」

提督「しかも話は自己完結してるし。一体何のことなのかちゃんと教えろよ。気になるだろ?」

長波「あー、いいからいいから。提督は知らなくても問題ないって」

長波「はい、これでこの話は終わりなっ!」

長波「さーて、仕事仕事ー……」

提督「……むぅ」

提督(…………気になる)


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────────────────

──────────────




長波「……よしっ」

長波「提督、こっちの書類は終わったぜー」

提督「おう、お疲れ」

提督「こっちも終わったから今日の書類仕事はこれで終わりだな」

提督「先に休憩入ってていいぞ」

長波「……ん、提督は? 仕事は終わったんだろ?」

提督「ああ、でも本部から作戦要項が届いててな」

長波「うぇ……それってアレだろ? 私達も後で読まなきゃいけない奴だろ?」

提督「もちろんだ。喜べ、今回のはいつもの倍の量がある」

長波「…………」

長波「……何か余計ダルくなった」

長波「……提督、それって今読んでもいいのか?」

提督「それは構わない……と言いたいところだが生憎これは一つしかないんだ」

提督「後でコピーをとってやるからそれまで────」

長波「────それなら大丈夫」

長波「よっ、と……」

長波「さっ、一緒に読もうぜっ」

提督「……長波、頭が邪魔でよく見えないんだが」

長波「こうやって寄りかかれば提督も見えるだろ?」

提督「……はぁ」

提督「そのまま寝るなよ?」

長波「平気平気! 私を信頼しろよなっ」


























長波「…………くー……」

提督「……結局寝るのか」

提督「…………んー」

提督(黙ってれば結構綺麗な奴なんだよなー)

提督(いやまあ静かな長波ってのもそれはそれで何か嫌だけどさ)

提督「………………」

提督「……まったく、これじゃ俺も動けないな」

提督(しばらくはこのまま寝させてやるか)




長波「………へへっ……んにゅ……すぅ……」





投下終了。

次から6月なので番外編安価取ります。
このレス以降の30分間で、コンマが最高値の人と最低値の人の2人分です。

2名まで入れて構いません。

安価なかった場合は時雨と夕立書きます。

よろしくお願いします。



朧と鈴谷、了解です。

ほのぼのしたもので書きます。

それではまた。




リアルが忙しくて遅れました。

朧投下します。
番外編の提督はそれぞれ別でお願いします。



 冬朧




 コタツ



提督「コタツにはやっぱりみかんだよなぁ……」

朧「……提督、もう一つお願いしてもいい?」

提督「おー、もちろんいいぞ」

提督「………………よし、剥けた」

提督「ほら、あーん」

朧「────んっ」

提督「………………どうだ?」

朧「とても、美味しいです」

提督「そうかー、そりゃ良かった……」

提督「で、おかわりは?」

朧「……お願いします」

提督「了解」

提督「………………なぁ朧」

朧「はい、何ですか?」

提督「さっきからこうやって密着してるけど、足はコタツ背中は俺で流石に暑いだろ?」

朧「……いえ、大丈夫です」

提督「無理するなって。間ちょっと開けるぞー」

朧「あっ……」

朧「……別に、いいのに」

提督「ん、何か言ったか?」

朧「…………大丈夫、何でもないから」

提督「────っと……」

提督「全く……寄りかかったら離れた意味が無いじゃないか……」





 しもやけ



朧「────朧、ただいま戻りました」

提督「おかえり朧!」

提督「外は寒かっただろ? ああもうこんなに冷たくなって……」

朧「て、提督っ、一体何を…………!」

提督「いいからほら、両手出して!」

朧「は、はい……」

提督「うひゃー……冷たいなぁ……」

提督「こんなに寒い中よく頑張ってくれたな。偉いぞ朧」

朧「いえ、当然のことをしたまでですので」

朧「…………………………」

朧「…………提督の手、温かいです」

提督「そうか?」

提督「─────あっ、よく見たら頬にも霜焼けが出来てる。よほど寒かったんだな……」

朧「あっ、いえ、これはその……!」

朧「………………っ」

朧「……し、しもやけ、です」

提督「ちょっと待っててくれ、今新しいカイロ出すから!」

朧「…………あぅ」

朧(しもやけ、これはしもやけだから……!)





 クリスマス



提督「もうクリスマスかぁ……早いもんだなぁ……」

提督「朧は何か欲しいものとかあるか?」

朧「アタシ、は……」

朧「…………特にありません」

提督「そうか? 物とかじゃなくてもいいんだぞ?」

朧「アタシはその…………」

朧「……………………」

朧「……提督がいれば、それで…………」

提督「……そっか」

朧「……提督は?」

提督「俺か? 俺はなぁ……」

提督「………………うん」

提督「俺も朧がいればそれでいいや」

朧「…………ずるい」

提督「あはは、ごめんな」

朧「……提督のそういうとこ」

提督「……嫌いか?」

朧「………………」

朧「嫌いじゃ、ないです」

提督「………………」

朧「……こっち、見ないで下さい」

提督「……朧は可愛いなぁ」

朧「──────っ!?」

朧「は、恥ずかしいからやめてっ」



投下終了。

それではまた。



鈴谷も投下。




 夏鈴谷




 間宮アイス



鈴谷「間宮さんのアイス美味しー♪ 夏はやっぱりアイスに限るよねー」

鈴谷「……って、あれ? 提督は食べないの?」

提督「食べるに決まっているだろう。だが仕事が先だ」

鈴谷「いやいや、休憩時間くらいゆっくりしようって。アイスも溶けちゃうよ?」

提督「後数分でキリがいいところまで終わる。鈴谷は自分の分を楽しんでろ」

鈴谷「むぅー……」

鈴谷(……一緒に食べないと美味しさ半減じゃん?)

鈴谷「────提督、ちょっと借りるね」

提督「……おい、俺の分まで食う気か」

鈴谷「違うって! ……っと、よし!」

鈴谷「提督! はい、あーん♪」

提督「……………………」

鈴谷「あーん♪」

提督「────…………」

鈴谷「えー、無言でいっちゃう? そこは私に合わせて『あーん』って言って欲しかったかなー」

提督「期待に添えなくて悪かったな」

鈴谷「あはは、まぁいいけどね!」

鈴谷「…………で、どうする? もう一口いる?」

提督「……すでにスプーンで掬ってるくせに何を言うか」

提督「……好きにしろ」

鈴谷「りょーかい! 鈴谷の好きにしちゃうね!」

鈴谷「だからほら、提督────」

鈴谷「────あーん、ってして?」




 熱帯夜



提督「……確かに俺はエアコンの無駄使いをするなとは言った」

提督「だからといって俺の部屋で寝るという結論に至ったのはどういう訳だ?」

鈴谷「え? だって私の部屋と提督の部屋の合わせて二つのエアコン使うよりは一つにした方が節約になるじゃん?」

鈴谷「……あ、もしかして私が隣で寝てたら理性を抑える自信がないとか?」

鈴谷「きゃー、提督に襲われるぅー♪」

提督「明日も早いぞ、おやすみ」

鈴谷「……つれないなぁ」

鈴谷「……よいしょ、っと」

提督「……鈴谷」

鈴谷「んー、なにー?」

提督「何故抱き付く」

鈴谷「私抱き枕が無いと寝れない体質なんだよねー」

提督「初めて聞いたぞ。それにお前の部屋に抱き枕はなかったはずだが?」

鈴谷「今日からそんな体質になったの!」

鈴谷「もー、察してよ!」

提督「…………こんな男のどこが良いのか」

鈴谷「いーのいーの。提督はいつも通りにしてればいいから」

鈴谷「ふふふーん♪」

提督「…………せめて少し距離を開けろ。暑くて汗をかきそうだ」

鈴谷「……汗かいたなら一緒にシャワー浴びちゃう?」

提督「……もう寝ろ」

鈴谷「えへへー♪ おやすみー♪」




 夏の終わり


鈴谷「夏休みも今日で終わりかー……」

鈴谷「明日からまた出撃の日々だと思うと嫌になるなぁ……」

鈴谷「てゆーか夏休みが一週間って短すぎるよね!」

提督「敵は待ってくれないんだ。一週間でも長い方なんだから我慢しろ」

提督「それにこの一週間、お前の生活サイクルがいつもと変わらなかったというのは休みも何も関係ないということじゃないのか? それなら休みを欲しがる理由もないだろう?」

鈴谷「あるよ!」

鈴谷「夏休みの間は提督といつもより一緒にいれたし!」

提督「………………」

鈴谷「提督と一緒に夏らしいこと、もっとたくさんしたかったなぁ……」

提督「……無いものねだりをしても仕方がないだろう」

鈴谷「分かってるけどさぁ……諦め切れないじゃん?」

提督「……やりたいことはまだまだあったか?」

鈴谷「もっちろん!」

提督「そうか……、それならその分は来年の楽しみだな」

鈴谷「……提督?」

提督「…………来年はもう少し長く休みが取れるよう努力しよう」

鈴谷「──────っ!」

鈴谷「嘘じゃないよねっ、楽しみにしてるからね!」

提督「ああ、期待していろ」

鈴谷「……鈴谷、明日からもっと頑張るから!」

鈴谷「────だから提督、これからもよろしくね!」




投下終了。

それではまた。



投下します。




 6月 長波と初夏




 カリカリカリカリ、とペンが書類の上を走る音が響く執務室。椅子に座って机に向かい、黙々と仕事を片付けていく俺の目の前にはソファーで足を伸ばして横になっている、何ともだらけた姿をした長波がいた。

 時折「うぅー……」という声を挙げては寝返りを打つといった行為を、先程から何度も何度も繰り返しており、回数を追う毎にその頻度も増している。

 そんな長波と目が合う。
 普段の元気さはどこに行ったのやら。力無い瞳はその輝きすらも鈍って見えた。


「……何か最近暑くないか?」

「もう六月だからなぁ、それでもまだ今日は序の口の方だろ」

「……もうほんと嫌になるぞ」


 寝転んだ体勢のまま、長波がげんなりとした表情で深々とため息を吐く。そしてどこを見るでもなく視線をだらりと下の方へと落とした。

 しばしの沈黙が生まれる。


「────そうだ!」


 それを破ったのはもちろん長波だった。
 突然跳ね起きた長波が、先程とは打って変わって瞳を爛々と輝かせている。その表情にあるのはまるで『良いことを思い付いた』と言わんばかりの満面の笑み。


「扇風機出そうぜ、扇風機!」


 そんな長波の雰囲気とは裏腹に、この後に起こるであろう面倒事を想像した俺の心の中には、静かに暗雲が立ち込め始めていたのだった。



──────────────────────
──────────────────
──────────────
──────────


「────うぇっ……埃っぽい……」

「年末の大掃除以来だから大体半年ぶりくらいになるな……」


 鎮守府の外れにポツンと建てられた倉庫。
 ここは本来余剰資材を保管するために建てられたものなのだが、現状は正規の保管場所だけで間に合ってしまっているため、もっぱら家電製品置き場と化してしまっている。

 固い引き戸を開けると、むわりとした熱気とまとわりつくような埃が俺達二人を出迎えてくれた。


「けほっ、けほっ」

「大丈夫か?」

「へーきへーき! ちゃっちゃっと用事、済ませようぜ!」


 顰めっ面になった長波が軽く咳き込む。
 長居するのは体に良くないだろう。

 さっさと用事を済ませることにして、長波と共に奥へと歩を進めていく。
 一歩ごとに舞い上がる床の埃に、マスクくらいは付けるべきだったかと今更ながらに後悔した。


「どこらへんに置いたんだっけ?」

「それがさっぱりなんだよなぁ……。長波は心当たり無いか?」

「うーん……私も覚えてないぞ。浜風だったら覚えてそうだけど」


 長波の言葉にひどく納得する。
 仕事が丁寧で真面目な所のある浜風なら、片付ける時にそれぞれの物の場所を覚えておくなんて造作もないことだろう。

 惜しむらくはそれが実現することはないということだ。

 去年扇風機を片付けた頃、その頃にはまだ浜風は居なかったのだから。


「────ってことは来年からは楽できるな!」

「……ああ、そうだな」


 長波が嬉しそうに笑う。
 しんみりした俺の心に響く笑顔。

 気付けばつられて俺も笑っていた。









「……あれだよな?」

「間違いない、あの箱だ」

「……提督なら届くか?」

「ちょっと待ってろ………………指はかかるけど無理だな。もう少し高さがあれば……」

「……何で私を見るんだよ」

「肩車すれば届くかなー、って思って」

「────だ、駄目に決まってるだろっ!」

「えー、別によくないか? 今更そんなこと恥ずかしがるような間柄じゃないし……この前だって肩車したじゃないか」

「きょ、今日はその、む、蒸れてるし……、とにかくっ、駄目なものは駄目だって!」

「んー……長波が嫌なら仕方ないな。脚立がどっかにあるはずだし、そっちを探すか……」

「……………………はぁー……」

(た、助かったぁ…………)




投下終了。

それではまた。




投下します。




「────提督、失礼します」


 扉をノックし、足を踏み入れる。
 しかし私の予想に反して、執務室に人影は見当たらなかった。

 さて、どうしたものか。そう考えた私の視界に、先日から設置されている扇風機が映った。


(……羽が回ったまま。つまりすぐに戻ってくるということでしょうか?)


 探しに行って行き違いになれば手間になる。
 大人しくここで提督を待つことにしよう。

 そう結論付けた私は、提督へ渡すために持ってきた資料をテーブルに置き、扇風機の前へと移動した。


「…………涼しい」


 目を細め、顔一杯に風を浴びる。

 長波の話によればこの扇風機は提督と一緒に倉庫から引っ張り出してきたものらしい。
 その話を聞いた時、言ってくれれば私も手伝ったのに、と返したのだが、長波は顔を赤くするばかりだった。

「あー……うん、でも浜風にアレをさせるのはなぁ……。……お、思い出したらまた恥ずかしくなってきた……!」

 ゴニョゴニョとそんなことを口にしていたが、いったいどういう意味なのかは今でもよく分からない。

「し、湿ってはなかったはず……!」

 最後のこの言葉なんて、輪をかけて意味が分からなかった。


 ……まぁ良い仕事をしてくれたことには違いないのだ。あれこれ深く考える必要もないだろう。




(……提督はまだ来ませんね)


 上着の裾を捲り上げ、内部へと風を送り込む。

 初夏とはいえ最近はとても暑い。
 激しく運動していなくても、じっとりと汗はかいてしまう。


 ……腹部に感じる風がとても気持ちいい。

 人には恥ずかしくて言えない部分に感じていた汗の不快感も、この涼しい風によって吹き飛んでくれた。


(……でもこんな姿、誰にも見せられないわ)


 涼しくなって冷静になった頭で、自分の今の姿を客観的に想像する。
 せっかく冷めてきた体が、羞恥で火照っていくのが自分でも分かった。

 ……かといって止められないのが、扇風機の恐ろしいところなのかもしれない。

 瞬間的に茹だった思考は、気付けばそんな馬鹿なことを考え始めていた。


「………………」


 ちらり、と扉を見る。

 それが不安からくるものだったのか、それとも期待からくるものだったのか。

 その真相は、私にも分からなかった。
































「─────っと、浜風か。ごめんな、ちょっとトイレに行ってたんだ」

「そ、そうでしたかっ!」

「……顔が赤いぞ? 大丈夫か?」

「問題ありませんっ!」

「そ、そうか……体調が悪くなったら遠慮せずに言えよ?」





(ギリギリで気付けて良かった……!)




投下終了。

タイトル入れ忘れました。

浜風と初夏 です。


それではまた。



投下します。




 7月 笹に風吹く




浜風「提督、ただいま帰投し…………っ!?」

提督「おー、浜風。遠征お疲れ様」

提督「暑かっただろ? 飲み物、浜風の分も用意しといたから遠慮なくもらってくれ」

浜風「────あ、はい。ありがとうございます……」

浜風「……あの、その…………」

提督「ん、どうした…………って、どう考えても『これ』のことだよな?」

浜風「はい、執務室に巨大な笹竹があれば誰でも驚きます」

浜風「用途は何となく分かりますが……一体どこから?」

提督「実は知り合いにちょうど竹林持ってる奴が居てな。余るくらいあるからってことでもらったんだよ」

提督「例年と同じくらい切ったら欲しがる奴がそれほど居なくて置き場にも困ってたらしいし、まあ言わば在庫処分ってところだな」

浜風「そうですか……」

浜風「………………」

浜風「……太くて大きくて、逞しいわ」

提督「浜風、その台詞は今後一切禁止な」

浜風「────えっ!?」

浜風「ど、どうしてですかっ」

提督「うん、とにかく駄目だから」

提督「これ命令ね」

浜風「……わ、分かりました。提督がそう言うのでしたら……」

浜風(……何か問題があったのでしょうか?)

提督(竹をさすりながらのあの台詞はヤバい)



浜風「……ところで、すでに一つ短冊が有りますね」

浜風「長波のものですか?」

提督「もちろん」

提督「俺が竹を立てる前にやってきて、てっぺんに付けてったよ」

提督「願い事、見えるか?」

浜風「ええと……『浜風みたいに成長しますように』?」

浜風「……どういうことでしょうか?」

提督「そのままの意味だと思う」

提督(……あ、何だか勘違いしそうな予感が……)

浜風「………………」

浜風(……私は、私よりずっと、長波の方が凄いと思う)

浜風(だから対象にされる理由が分からない)

浜風(……精神的に、ということなら…………それはまぁ長波よりかは落ち着いている自信はあるけれど)

浜風(……そういった意味でしょうか?)

浜風(……………………)

浜風(無いものねだり、とはこのことね)

浜風(長波、私はむしろあなたの自由で明るい性格が羨ましいわ)

浜風「────提督」

浜風「私の短冊、かけていただけますか?」





『長波みたいになれますように』



長波「────嫌味かこんちくしょうっ!!」

提督(やっぱりこうなったかー)



投下終了。

それではまた。




 7月 たれ波




長波「暑いぞー…………」

提督「ああ、暑いな……」

長波「……提督がだらけてるのって珍しいな」

長波「何かあったのか? 相談なら乗るぞ?」

提督「いや、別にそういうのじゃないから大丈夫だ」

提督「俺だってたまにはこうやって気を抜いてもいいだろ?」

長波「ふーん……、っと」

提督「おい、扇風機止めるな。こっちにも向けろ」

長波「えー、だって首振ってるとあんまり風来ないだろ?」

提督「俺のこと考えてないよな、それ」

長波「じゃあ提督もこっち来いって」

長波「テーブル挟まなきゃ首振る必要もないんだしさ」

提督「……お前なぁ」

長波「……そう言いつつも来るんだな」

提督「悪いか?」




長波「それにしても今日はあんまり仕事無くて良かったぜ」

長波「こういう日ってホントやる気起きないしなー」

提督「あってもやらないくせにそんなことを言うのはこの口か? ん?」

長波「ひゃへろー」

提督「おぉ……」

提督(こいつほっぺ柔らかいなー)

長波「うぎゅー」

提督「ふむふむ」

長波「えぁー」

提督「ほうほう」

長波「へぁー」

提督「へぇー」

長波「────いつまでやるんだよっ!」

提督「すまんすまん、楽しくてつい」

提督「ごめんな、長波」

長波「な、撫でても騙されないかんなっ!」

長波「うぅー………!」

提督(ちょっと涙目で睨んでくる長波も可愛い)





提督「よーしよしよし」

長波「は、恥ずかしいから止めろってっ!!」




投下終了。

それではまた。




 8月 3人の夏祭り 1/3




 がやがやと賑わう人の群れが境内に建てられた屋台の列の間を、楽しそうに歩んでいる。

 綺麗な浴衣に身を包んだ女子高生らしき集団は、時折笑い声を交えながら和気藹々とした雰囲気を醸し出す。
 はしゃぎ、人と人の隙間をすいすいと駆けていく子供達は、屋台に視線を移してはその瞳を宝物を見たかのように輝かせる。
 道の隅を歩くのは皺が刻まれた互いの手をしっかりと握る、長い時間を共に過ごしたのであろう老夫婦。二人の歩みは他の人々よりもゆったりとしていて、そこだけがまるで別の空間であるかのように、周りから切り取られている。

 正に老若男女が入り乱れ、夏祭りは盛況を迎えていた。

 その境内の入口に、長波がいち早く辿り着く。


「おぉー! 今年もたくさん居るなぁ……!」

「……凄い人の数ですね」

「そういえば浜風は初めてだったな」


 その後を追って、俺と浜風も到着した。

 去年も来たことがあるため、楽しげな雰囲気に口の端をにやりと上げる長波。それに対して今回が初参加の浜風は、人の多さに驚き小さく口を開けている。

 二人のそんな反応を見た俺は、微笑みを隠せない。
 多少の距離はあったが、無理を押して参加しに来て良かったと胸を撫で下ろした。




「さ、行こうぜ! …………って、浜風? どうかしたか?」


 意気揚々と歩を踏み出そうとした長波が、視線を伏せる浜風に気付いてその歩みを止めた。

 その様子を見た俺は「浜風?」と名前を呼ぶ。
 呼ばれた浜風が顔を上げる。その瞳には迷いのようなものがちらついていた。


「……私達が鎮守府を離れても良かったのでしょうか?」

「浜風は心配性だなー。他の鎮守府の提督に頼んだんだから平気だって!」

「……でも、万が一ということもあるわ」

「……提督ー」


 「何か言ってやってくれよ」といった表情でこちらを見る長波。
 純粋に楽しんでもらいたいと思って連れてきた俺としては、憂いを持ったままで居て欲しくはない。

 丁度良い位置にあった浜風の頭に手を置き、優しく撫でる。
 浜風が一瞬びくりと震え、長波がその目を細めた。


「安心しろ浜風、俺がお願いしたのは信頼できる上官だ。もちろん俺達よりずっと強いから心配の『し』の字もいらないさ」

「ですが────」

「たとえ敵艦が二隻でも戦艦・空母を二隻ずつ含めた計六隻の艦隊で勝負を挑む超慎重派だぞ?」

「…………それなら大丈夫そうですね」

「……なぁ提督、私は逆に不安になったんだけど」

「……大丈夫だろ、多分。……うん」


 ようやく安心してくれた浜風と、頬をひくつかせる長波。

 代価としてうちの資源をある程度までなら好きに使って良いと言ったのだが、早まったかもしれない。
 今更になって『朝帰りでも全然構わんからな!』という言葉が恐ろしくなってきた。




「……心配しても仕方ないか」

「まっ、そうだな」

「……少し、楽しみです」


 ともあれどんな結果が待ち受けていようとも、ここで楽しまないと損することになるのは明らかだ。
 浜風ももう期待の色を隠さないでいるようだし、気持ちを切り替えるべきだろう。

 深呼吸を一回。

「さて、行くか」

 そう言おうとした矢先、俺の右手がぎゅっと掴まれた。


「はぐれちゃ困るだろ?」


 視線を向ければ、にかっと笑う長波がそこにいた。
 その頬は若干赤い。

 それも確かにそうか、と考える俺の左手にも、同じ感触が生まれる。


「…………駄目ですか?」


 上目遣いでこちらを見つめる浜風。
 その頬は熟れたトマトのように赤い。

 このお願いを断れるのはそれこそ悪魔くらいのものではないだろうか?



「ははっ、まるで両手に花だな」

「しっかりエスコートしてくれよなっ」

「よ、よろしくお願い致しますっ……」










 繋がった三つの影が、喧騒へと呑まれていく。

 祭りはまだ、始まったばかりだった。


投下終了。

8月が終わったらまた番外編安価取ります。


それではまた。



 8月 3人の夏祭り 1.5/3





「提督ー! 早く早く!」

「はいはい……。まったく……あいつの体力は底無しか?」

「いつも以上に元気ですね……ふふっ」


 駆け足で屋台に向かっていく長波の背中を視界に捉えつつ、浜風を隣にゆっくりと歩を進めていく。

 三人で人の群に飛び込み屋台の行列に差し掛かって早々、長波は繋いでいた手を離して自由気ままに行動し始めたのだが、そんな長波をよそに浜風は俺にぴったりとくっついて離れようとしない。

 そのため距離が近く、時折腕と腕とが当たってしまうのだが、その度に顔を見合わせては浜風がはにかんだ表情を見せてくれた。……あれ? 天使?


「何か気になる物でもあるか?」


 きょろきょろと辺りを忙しなく見回す浜風へと声をかける。

 浜風がこちらを向いた。




「はい、あまりみかけないような屋台がたくさんあったものですから……」

「あー、規模が大きくなると屋台側も色々と考えるからなー……。変わり種が多くなるのも仕方ないか」

「……『イタリアンスパボー』とは一体何でしょうか?」

「……何だろな?」


 お祭りの雰囲気でつい買ってしまいそうになるが、そういうものは大抵ロクなことにならない。

 俺は去年のお祭りでそう学んだのだ。
 二の轍を自ら踏むことはしない。


「……そうだな、余裕があったら買ってみるか」


 そう言い浜風の手を引く。

 そんな俺達の元へ、長波が息を切らして走ってきた。
 どうやらゆっくりし過ぎてしまったらしい。


「二人とも遅すぎるって! あまりに遅いから二人の分も先に買っちゃったぜ?」

「すまんすまん、いくらした?」

「いいよ別にこれくらい。はい、これ二人の分な」

「ありがとね、長波…………あれ?」

「ん? どうかしたか? 遠慮なく食べて良いぞ?」

「……長波、これは何だ?」

「ああ、これ? 珍しい名前だったからつい買っちゃったんだよね」







「『イタリアンスパボー』だってさ。変わってるよなー」




 ……ああ、そうだった。

 お前は二の轍を踏み抜くような奴だったもんな。






















「あ、意外と美味しいですね」

「……でもこれ作った方がローコス────」

「提督! お祭りにそういうの求めるのは無粋だって!」



投下終了。

それではまた。




 8月 3人の夏祭り 2/3




「──────よーしっ、腹も膨れたし次は何食べる?」

「長波、日本語がおかしくないか? …………ん?」

「提督、どうかしましたか?」

「ああ、別に大したことじゃないさ。長波、ちょっとこっち来い」

「ん、何だよ?」


 新しい獲物を求めて辺りを見回し始めた長波を呼び寄せる。訝しげに表情を歪めながらも目の前にやってきた長波と、膝を折って視線の高さを合わせた俺は、その浴衣へと手を伸ばした。


「────て、提督っ!?」


 驚きの声を挙げる長波。
 体を振って逃れようとするが、その行動は俺が肩をがっしりと掴んだことによって失敗に終わった。

 為すすべもなくなり固まる長波をよそに、俺は浴衣の乱れを直していく。

 世界一脱がせやすい服は浴衣。

 どこで聞いたか、そんな言葉がふと思い出された。
 こんなにも早く着崩れが起きたということは、この言葉もあながち間違ってはいないのかもしれない。もちろん長波が浴衣姿にも関わらず、いつもと同じようにはしゃいでいたからということもあるだろうけど。

 長波が、微妙にその身を捩らせる。


「動くなって。直せないだろ?」

「────提督のせいだろっ! てゆーか浴衣直すなら先にそう言えよな! 驚いたじゃないか!」

「あー、はいはい。次は先に声かけるから」

「絶対だからなっ!」


 人通りの多い中で子供扱いされるのが恥ずかしいのだろうか。長波の頬はうっすらと朱に染まっている。

 胸元のたるみを締め、帯を上げ、裾を直す。

 一、二分ほどの時間をかけて、俺は一通りの直しを終えた。


「────これでよし。……どうだ?」

「…………ありがと」


 出来上がりを確認しながら、膝を戻して立ち上がる。

 そっぽを向きつつもちゃんとお礼の言葉を述べてくるのが、長波らしいというかなんというか……。

 何だか微笑ましい気持ちになったので頭を撫でてやったのだが、長波はこちらを睨んでくるばかりだった。逃げようとしない辺り、長波も満更じゃないのかもしれないが。


「────さて、ごめんな浜風。待っただろ?」

「……いえ、大丈夫です」


 振り返り、待たせてしまっていた浜風に声をかける。
 浜風の姿を視界に入れた俺は、「……あれ?」と首を傾げた。




 「どうかしましたか?」と言い、俺と同じようにこてん、と小首を傾げる浜風。

 どうしたも何も、浴衣が乱れているじゃないか。


「浜風も着崩れ起こしてるな。ちょっとこっち来てくれ」

「……気付きませんでした。お願いします」


 再度しゃがみ込み、浜風の浴衣の着崩れを直していく。
 さっき見たときは綺麗なままだったと思うのだが…………見間違いだったのだろう。


「……浜風ー?」

「……な、何ですか、長波?」


 浜風の横に移動した長波が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら浜風を見る。どうしてかは分からないが、俺には浜風が焦っているように見えた。

 話題を逸らすかのように浜風が口を開く。


「あ、あの、提督……」

「何だ?」

「その、タオルもずれてるようなのですが……」

「──────ぶふっ!?」


 思わず吹き出した俺は間違っていないはず。
 というか端に寄っているとはいえ周りに人が大勢居る中でその発言は危ないとしか言いようがない。分かる人には分かるのだから。

 ……余談だがこのタオル、長波はしていない。する必要が無かったからだ。


「はいはい、私がやってやるよ」

「────な、長波?」

「……長波、そっちは頼んだ」


 良い顔をした長波が、手をわきわきとさせながら浜風へと近付いていく。
 悪い予感しかしないのだが、俺が直すわけにもいかないのだから仕方無い。

 ……せめて早く終わらせることが、俺に出来る精一杯のことだろう。
 そう考え、余計な思考を追い出して集中する。





「んー、こんな感じ?」

「んっ……! も、もうちょっと下に……」



 …………………………。





 俺が直す手を若干緩めたことに、他意は無い。

 無いったら無いのだ。




投下終了。

それではまた。



浴衣だと髪まとめることが多いけどこの子達はどうなんじゃろ


>>161
イメージでは浜風も長波もまとめてます。
長波は髪の色が二色なのでごちゃごちゃにならないようポニーテールを基本としていて、浜風はそんなに長くないのでサイドを後ろに持っていってます。

あくまでイメージですので、最終的には皆さんのご想像にお任せいたします。


それでは投下します。



 8月 3人の夏祭り 3/3




「────たーまやー」

「……長波、古い」

「むぅ、別に良いだろ? 昔からの定番だぜ?」

「…………かーぎやー」

「……………………」

「おい提督! 浜風には何も言わないのかよっ!」


 祭りが行われている神社の近くにある河川敷。
 なだらかな坂に腰を降ろした俺達三人は、対岸で打ち上げられる花火を見ては感嘆の声を漏らしていた。

 少し風が吹いているのが涼しくて心地良い。
 花火の煙も流してくれるから一石二鳥だ。


「何か砲声みたいだよな」

「……長波、それは言わないのが花よ」

(……俺もそう思った)


 そんなくだらないことを話しながら、三人揃って空を見上げて楽しい時を過ごす。
 長波が話題を振っては俺が突っ込み、その様子を見て浜風は楽しそうに微笑む。そんなサイクルが何時の間にか出来上がっていた。

 そんな中で、俺はふと気付いた。


「浜風」

「何ですか、提督?」


 呼びかけて、確信を得る。
 若干ではあるが、言葉から堅さが取れているのだ。
 声音もいつもより弾んでいて、耳に届く柔らかさがとても新鮮に感じられる。

 そのことを指摘してやると、浜風は途端に慌てだした。




「し、失礼しましたっ! 今すぐ戻しますのでっ!」

「いやいや、そのままでいいよ。というかむしろこっちの方が俺は嬉しい。今までのは何だか壁がある感じでちょっと息苦しかったしな」

「あー、分かる分かる。提督と話しているときは凄い丁寧だもんなー」

「わ、私は提督に敬意を払っていただけで、壁を作ろうとしていたわけでは……!」

「皆まで言うなって。提督だってそれくらい分かってただろ?」

「ああ」


 返事と共に浜風の頭を撫でてやる。
 本音を言えばそれが分かっていただけに少し寂しかったというのもあるのだが、そんな気持ちも吹き飛んでしまっていた。

 苦節約一年。
 待ちに待ってようやくこの時が訪れてくれたことが、とにかく嬉しかった。


「……浜風、これからもよろしく頼む」

「……こちらこそよろしくお願いしますね?」


 そう言って浜風が淡く微笑む。
 対して長波はその口を尖らせていた。


「私には何も無いのかよー」

「拗ねるなよ、長波もよろしくな」


 ポン、とその頭に手の平を置く。

 数秒の間長波は不満そうな顔をしていたのだが、やがて大きなため息を吐くと「しょーがないなー」という言葉と共に、にかっとその白い歯を見せた。



「長波、私もよろしくね」

「もっちろん! こっちこそよろしくなっ!」



 去年は二人、今年は三人。
 これからもきっと、もっともっと増えていくだろう。



(…………楽しみだな)



 まだ見ぬ仲間に思いを馳せた夏の終わり。

 夜空には一際大きな花火が咲いていた。



























「疲れて寝るのは長波だと思ったんだけどな」

「予想が外れて残念だったな。さ、車まで後少しだよ! 頑張れ頑張れっ」

「…………去年のお前はこのポジションだったくせに」

「あー、あー。聞こえないなぁ」

「まったく……。世話が焼ける奴らだよ」



投下終了。

半年終わったので番外編安価取ります。

このレス以降でコンマが一番高い方と一番低い方の2つのレスを採用します。
艦娘は1名ずつでお願いします。

あんまり人が居ないと思うので制限時間は明日の朝くらいまでにします。

みなさんよろしくお願いします。

それではまた。


一回書いた艦娘以外でということを言い忘れました……。
今回は私のミスなので枠を増やします。

よって
鈴谷 ビスマルク 168
の三名を書きます。

それではまた。



 秋ビスマルク




 芸術の秋



ビスマルク「提督、どう? 中々に上手でしょう?」

提督「おおっ! 絵上手いなビスマルク!」

提督「写真みたいにそっくりだ!」

ビスマルク「ふふん♪ 良いのよ? もっと褒めても」

ビスマルク「────で、貴方はどうなの?」

提督「ちょっ!? 馬鹿、見るなよ!」

ビスマルク「これね? 見るわよ」

提督「────ああっ!?」

ビスマルク「どれどれ………………あら?」

ビスマルク「何で海の絵なの?」

ビスマルク「意味が分からないわ」

提督「いや、意味が分からないって言われても……」

提督「『好きな物』ってお題だったんだから、別に良いだろ?」

ビスマルク「ええ、確かに貴方は『好きな者』って言ったわね。だとしたらこれは当てはまらないわよね?」

提督「え?」

ビスマルク「……?」

提督「……………………」

ビスマルク「……………………」

ビスマルク「っ!?」

提督「────あ、なるほど」

提督「ごめんな、ビスマルク。今から描き直すから」

ビスマルク「い、いいから今のことは全部忘れなさいっ!! 絶対よっ!!」




 紅葉



ビスマルク「綺麗ね……」

ビスマルク「色付く春も良いけれど、色褪せていく秋は儚くて素敵だわ」

ビスマルク「貴方もそう思わない?」

提督「それは確かに思うけど……」

ビスマルク「……歯切れが悪いわね」

ビスマルク「どうかした?」

提督「あー……さっきからずっと気になることがあってな……」

提督「……なぁビスマルク」

提督「お前何で俺の数歩後ろを付いてくるんだ?」

ビスマルク「あら、気付いたの?」

提督「いやいや、気付かない方がおかしいだろ。で、どうしたんだ?」

ビスマルク「昨日聞いたのよ。何でも良い女は男の三歩後ろをついて行くらしいわね」

ビスマルク「だからこうしてるわけよ、分かった?」

提督「…………あのな、ビスマルク」

提督「それ、正しくは『良い嫁は夫の三歩後ろをついて行く』だからな?」

ビスマルク「──────えっ」

提督「それを実践してるとなると、俺はお前の────」

ビスマルク「────っ、──────っ!!」

提督「痛っ!? 痛い、痛いって!」

提督「痛いから背中叩かないでっ!」




 居眠り


ビスマルク「…………提督?」

提督「………………」

ビスマルク「……寝てるわね」

ビスマルク「まったく……執務中に居眠りするなんて気が知れないわ」

ビスマルク「涼しさに気が緩んだのかしら?」

提督「………………」

ビスマルク「………………」

ビスマルク(かっこいい……ってほどじゃないけど、整った顔立ちよね……)

ビスマルク(……………………)

ビスマルク「……提督」

提督「………………」

ビスマルク「提督ー?」

提督「………………」

ビスマルク「アドミラル?」

提督「………………」

ビスマルク「………………」







ビスマルク「……あ、あなた?」











































提督「呼んだ?」

提督「────痛っ!? ちょっ、マジでグーは止めてっ!!」

ビスマルク「────────っ!!」


投下終了。

ビスマルク居ないのでキャラ崩壊が激しいですがご容赦を。

それではまた。



 春イムヤ




 春眠


イムヤ「司令官、おはよっ!」

提督「おはようスズヤ」

提督「今日はまた随分と早いな、何かあったか?」

イムヤ「イムヤよっ。それだと重巡になっちゃうじゃない!」

イムヤ「もうっ……いっつもそうやってからかうんだから……」

提督「ははっ、すまんすまん。イオナの反応が可愛くてつい」

イムヤ「……もう突っ込まないわよ?」

イムヤ「それと、別に私は早く来てないわ。いつも通りよ」

提督「そうか? と、なると……俺がいつもより遅かっただけか」

提督「普段時計見ないから分からなかったよ」

イムヤ「……司令官、時間はちゃんと確認しないと駄目よ」

イムヤ「実は上官とお会いする予定が入ってたなんてことになったら大変なんだから」

提督「いやいや、そんなことにはならないさ」

提督「何たってうちには優秀な秘書艦がいるんだからな!」

イムヤ「ほ、褒めても何も出ないわよっ!」

提督「いつもありがとな、イムヤ」

イムヤ「────っ!?」

イムヤ「………うぅー………ズルい、ズルいわ」




 桜


イムヤ「……綺麗な桜ね」

提督「そうだなー」

イムヤ「むぅ……反応がイマイチなのはどうしてなのかしら?」

提督「俺はほら、花より団子だからな。それに桜なんて何十回って見てるし」

イムヤ「まったくもう……つまらないわね……」

イムヤ「……はい、これ。あげるわ」

提督「……桜?」

イムヤ「司令官は桜の花言葉なんて知らないわよね」

イムヤ「『淡泊』って意味よ。お似合いでしょ?」

提督「……へぇー、なるほど。確かにそうだな」

提督「それじゃあ俺からもイムヤにあげようか」

イムヤ「ちょ、ちょっとっ!? どうして返すのよっ!?」

提督「ん? イムヤは桜の花言葉知ってるんだろ?」

提督「『優れた美人』」

提督「イムヤにぴったりじゃないか!」

イムヤ「────あぅっ……!?」

イムヤ「そ、そういうことっ、外で言わないでよねっ。恥ずかしいじゃないっ」

提督「二人きりの時は良いのか……」

イムヤ「そういう意味じゃないわよっ! ばかぁっ!」




 陽気に当てられて


提督「────なぁイムヤ」

イムヤ「イムヤよ! ……って、間違ってないわね」

イムヤ「どうかしたの?」

提督「大体の仕事は終わったし、天気も良いからお昼寝でもしないか?」

イムヤ「それは魅力的な提案だけど……」

イムヤ「何か企んでないわよね?」

提督「……別に何も?」

イムヤ「嘘ね、流石に分かるわよ」

提督「くそっ、バレたか!」

提督「こっそり寝顔をカメラに収めてやろうと思ったのに……!」

イムヤ「………………」

イムヤ「あ、あのね、司令官……」





イムヤ「それくらいのことなら、こそこそやらなくても先に言ってくれれば別に構わないわ」

イムヤ「……司令官だけよ?」













提督「────添い寝に変更でお願いしますっ!」

イムヤ「そ、それはその……恥ずかしいわ……」


投下終了。

それではまた。



 夏鈴谷 2




鈴谷「────視界良好ぉー。提督、そろそろ帰投してもいい?」

提督『駄目だ。見回り終了まであと三十分も残っている』

提督『もう少ししたら反転して同じルートを辿るように』

鈴谷「えぇー……、もう敵なんていないっしょ?」

鈴谷「鈴谷、かれこれ二時間は見回ってるんですけどー」

提督『そうか、あと三十分頑張れ』

鈴谷「むぅー……」

鈴谷(三十分かー……)

鈴谷(提督とのお喋りは楽しいから好きなんだけど、もう二時間も話したしこれ以上は話題が無いんだよねぇ……)

鈴谷「……どーしても駄目?」

提督『駄目だ』

鈴谷「そこを何とか!」

提督『駄目だ』

鈴谷「……あー、暑くて熱中症になっちゃいそうだなー」

提督『今日は夏の割に涼しいから大丈夫と言ったのはお前だろう? しかもつい三十分くらい前にだ』

鈴谷「むむむっ……!」

鈴谷「何か提督冷たくない? 最近の鈴谷の扱いが雑になってる気がするんですけど!」

提督『そんなことはない』

鈴谷「もー、そーゆう態度が雑なのっ」

鈴谷「………………」

鈴谷「………………」

鈴谷「……もしかして、私のこと嫌いになった?」

提督『……どうしてそうなる?』

鈴谷「だって……」

提督『……そんな悲しそうな声を出すな』

提督『俺は見回りのお前と通信するために、他の仕事を先に片付けておいたんだ』

提督『……嫌いな奴のためにそこまですると思うか?』

鈴谷「………………」

鈴谷「…………分かりにくい」

提督『何がだ?』

鈴谷「だからっ!」

鈴谷「もっとシンプルな言葉でってこと!」

提督『………………』





提督『────俺はお前が好きだ』

提督『嫌いになんてなれない』

提督『不安にさせたのなら謝ろう……すまなかった』





鈴谷「………………」

提督『…………鈴谷?』

鈴谷「…………帰ったら、間宮さんのアイス食べたい」

提督『用意しておこう。俺の分も食べて良いぞ』

鈴谷「それじゃ駄目じゃん? 違うアイス頼んで、一緒に食べよ?」

鈴谷「……その方が幸せだもん」

鈴谷「……ね?」

提督『……ああ、そうだな』

提督『待ってるよ、鈴谷』

鈴谷「えへへ♪」

鈴谷「待っててね、提督!」




































鈴谷「────間宮さんのバニラアイス美味しー♪」

鈴谷「提督のは何? チョコアイス?」

鈴谷「一口貰うねー」

鈴谷「………………苦い」

鈴谷「大人の味ってやつ? よく分かんないけどさ」

鈴谷「………………」

鈴谷「ねぇ提督? もう一口もらってもいい?」

鈴谷「あっ、違う違う。そうじゃなくて……」

鈴谷「……あーん、ってして欲しいなー……なんて……」

鈴谷「……いいの? そ、それじゃ────」







鈴谷「──────うん、ちょっと甘くなったかも」

鈴谷「…………次はもっと甘くなるよね?」






投下終了。

鈴谷は二度目なので一つです。

次回から本編に戻ります。


それではまた。



 9月 波風大きくなり




長波「────提督、いつもありがとなっ」

提督「……どうした藪から棒に」

提督「最近寒くなってきたし、風邪でもひいたのか?」

長波「私が感謝するのがそんなに珍しいかっ!」

提督「……浜風」

浜風「……長波。提督が正しいわ」

長波「は、浜風まで……!」

長波「…………流石にへこむぞ」

提督「それだけ日頃の行いがアレだってことだよ。……これを機に改めろ」

長波「ぐぬぬっ……!」

浜風「…………提督、その辺りで止めてあげてはいかがでしょうか?」

浜風「それで、長波もどうして急にそんなことを言ったの?」

長波「えっ?」

長波「だって今日は敬老の日だろ?」

提督「────よし!」

提督「長波、ちょっとこっち来ようか!」

長波「え、ちょっ、やめ────っ!?」

長波「────いひゃいいひゃいっ!?」

提督「俺を老人扱いしたのはこの口か? ん?」

長波「いひゃいはらほっへはひゃめろっへ!」

提督「ほっぺだけで済んでるんだからむしろ感謝しろ!」

浜風「……はぁ」

浜風「まったく……長波ったら……」

浜風「………………」

浜風(……でも、ちょっと楽しそう)


────────────────────

────────────────

────────────



長波「ほっぺがひりひりする……」

長波「……ひどい目に遭ったぜ」

提督「自業自得だ、自業自得」

長波「ふんっ!」

長波「本当に老人になった時は覚えてろよなっ!」

提督「……何年先のことを言ってるんだお前は」

浜風「提督が老人……」

浜風「その頃には私と長波もいい年ですね」

長波「んー、四十か五十ってとこか? まったく想像つかないよなー」

提督「……確かに」

提督「二十近くくらいなら割と簡単に想像できるんだけどな」

浜風「そうでしょうか? ……ちなみに私と長波はどんな感じになると思いますか?」

提督「そうだな……。まず長波は────」


────────────────────

長波『提督っ、久し振りだなっ!』

長波『……私? あぁ、まだまだ現役だぜ』

長波『いやいや、嘘じゃないって』

長波『あーもう……そうやってすぐにからかう……。変わってないなぁ……』

長波『……ん? そりゃ私も成長したし、あしらい方くらい分かるって』

長波『────そ、その話は今は関係ないだろっ!』

長波『マジでやめろってばっ!!』

────────────────────


提督「────性格はそんなに変わらないと思う」

長波「何だよそれー、つまんないなぁ……」

長波「ちなみに容姿は?」

提督「うーん……」

提督「髪の長さは今の感じくらいで、メッシュになってる気がする。背もそれなりに伸びてそうだな」

浜風「私のイメージだと軽巡ですね」

提督「分かる。重巡って感じじゃないよな」

長波「むぅ……」

提督「でもまぁ美人になるだろなー」

長波「────────っ!?」

長波「い、いきなり何言ってんのさっ!? びっくりするだろっ!?」

提督「────うおっ!?」

提督「急に大声出すなよっ、こっちがびっくりしたわっ!」

長波「びっくりしたのはこっちだってばっ!」

浜風「………………むぅ」




提督「まったく……急に何だってんだ……!」

長波「こっちのセリフだって……!」

浜風「……あ、あの、提督? よろしいでしょうか?」

提督「ん、どうした浜風?」

浜風「その……私はどうなると思いますか?」

提督「浜風か? 浜風はなー……」

長波「まず私と同じで軽巡だろ?」

提督「……愛宕」

長波「……重巡は確定かー」

浜風「どうしてそれで納得するんですかっ!?」

長波「いやいや、納得せざるを得ないから」

長波「あと浜風も結構背が伸びそうだよな」

提督「髪も長波と同じくらいまで長くなりそうだ」

長波「んー…………」

長波「……美女じゃん」

提督「美女だな」

浜風「──────っ!?」

浜風「ふ、二人ともっ、い、一体何を!?」

長波「多分今よりもずっと落ち着いてて、大人びてるよな」

提督「からかってもやんわりといなされそうだな」

長波「家事もそつなくこなしそう」

提督「駆逐艦娘の面倒見も良さそうだし……」

長波「……何かあっても優しく抱きしめて」

提督「そっと頭を撫でてくれる浜風……」

長波「……………………」

提督「……………………」







「「あれ? 天使?」」


浜風「は、恥ずかしいのでもう勘弁して下さい……!」






投下終了。

駆逐艦娘は成長したら絶対美人になると思います。
特に浜風と潮は。

それではまた。



 9月 秋の長い夜




長波「────ふふふーんふふーん♪」

長波「いやー、星を眺めながらの航行ってのも案外良いもんだなぁ……」

長波「この景色、提督にも見せてやりたいぜ」

提督『……長波』

提督『残念なことに俺は花より団子が好きなタイプだ』

長波「……相変わらず提督は……はぁ……」

提督『ほっとけ』

提督『……そんなことより長波、今どれくらいだ?』

長波「今? んーと、大体半分くらいだと思う」

長波「そうだな、あと三十分くらいでそっちに着くよ」

提督『三十分か……』

提督『それなら深海悽艦が出現する海域からはもう外れたって訳だな』

長波「ああ」

長波「とりあえず安全も確保できたわけだし、提督は先に上がっててもいいぞ?」

提督『……いや、万が一ということもあるだろ?』

長波「あははっ、無い無い!」

長波「どれだけ一緒にやってきたと思ってるんだ? 今までに一回も無かったんだから、今回だって無いに決まってるって」

提督『待て長波。それはフラグだ』

長波「そういえば今日の晩御飯は浜風が作ったやつだったよな? あいつ上手いくせにあんまり料理しないから楽しみだなぁ……」

提督『長波、それ以上はやめろ!』

長波「……なぁ、提督?」

提督『ど、どうした?』

長波「あの、さ…………」

長波「……やっぱいいや。帰ったら伝えるよ」

提督『頼む長波! 今伝えてくれ! フラグを建てすぎだ!』

長波「通信切るぞー」

提督『ちょ、まっ────────』

長波「……………………」

長波「…………ふ、ふふっ……」

長波「あんなに慌てちゃって……提督は面白いなぁ……」








長波「────長波、ただいま戻ったぜ!」

長波「……っていうかこの寒い中よく外で待ってたな」

提督「お、お前なぁ……」

提督「めちゃくちゃ心配したんだぞ……!」

長波「漫画とかの見すぎだって」

長波「浜風は何て言ってた?」

提督「…………『外に出るなら厚着をして下さいね』って」

提督「あいつ全然心配してないのな」

長波「それが普通だってば。私がからかってることくらい分かってただろ?」

提督「そりゃ分かってたけどさ……」

提督「……不安になったんだから仕方ないだろ」

長波「……提督は心配性だよな」

長波「まぁいいや。腹も減ったし早く帰ろうぜ」

提督「……そうだな」

提督「浜風も首を長くして待ってるしな」

長波「なんだよ、先に食べてても良か────っ!?」

提督「……長波? 急に固まって……どうかしたか?」

長波「…………あー……うん。いや、急に手握られたからびっくりしただけだぞ」

長波「驚くからさ、そういうことするなら先に言ってくれよな」

提督「ああ、次からは気を付けるよ」

長波「………………」

長波(絶対次の時忘れてるだろな……)

長波「……いつものことか」

提督「何か言ったかー?」

長波「いーや、何にも言ってないよ」








































長波「………………」

提督「………………」

長波「……提督の手、暖かいな」

提督「長波の手が冷たすぎるんだよ」

提督「……まっ、こんな寒い中ずっと居たらそうなるのも当然か」

長波「正直凄い寒かったぞ」

提督「やっぱりか。そろそろ衣替えしないとなー」

提督「………………」

提督「……なぁ、長波?」

長波「んー?」

提督「歩くの、いつもより遅くないか?」

長波「……遅くまで航行してたから疲れてるんだよ」

長波「だからさ、ゆっくり行こうぜ」

提督「お、おう……」

提督(……早く帰ろうって言ってた……よな?)



投下終了。

それではまた。



 10月 妖怪娘





長波・浜風「「────提督!」」



「「トリックオアトリート!」」



提督「……………………」

提督「…………えっ、何これ?」




長波「だーかーらー、トリックオアトリートって言ってるだろ?」

浜風「提督、もしかして今日が何の日なのか知らないのですか?」

提督「いや、知ってる。ハロウィンだろ?」

長波「何だよ、知ってるんじゃんか」

長波「その割には反応が良くないよなぁー」

浜風「どうしてでしょうか……?」

提督「……単純にいきなりで驚いてってのが一つ」

提督「それと何に仮装してるのか、そもそも仮装してるのかどうかすら分からなかったってのが一つだ」

提督「最初見た時なんか『着物着た二人』って印象しか無かったぞ」

提督「ハロウィンの仮装するならもっと分かりやすいのにするべきだったな」

浜風「……そんなに分かりにくいかしら?」

長波「準備する暇があんまり無かったしな。まっ、仕方無いだろ」




提督「……で、何の仮装なんだ?」

長波「えー? まだ分かってないのか?」

浜風「私はともかく長波のなら分かると思いますよ? ぜひ当ててみて下さい」

提督「……ふむ」

提督「見た感じ白の着物ってことしか分からない浜風と違って、長波には猫耳が付いているから候補が絞りやすいか……」

提督(……本場のハロウィンはミイラとか狼男とかヴァンパイアになったりするんだよな)

提督(口ぶりからして当てられる『何か』)

提督(ということはテーマがある)

提督(……ってなると)

提督「……長波。それ……日本?」

長波「うわー……、的確なとこ突いちゃう?」

提督「その反応で分かったよ」

提督「────『猫娘』だろ? 違うか?」

長波「正解っ! 流石だな!」

提督「よしっ!」

提督「……そして同じテーマだとすれば……浜風は『雪女』辺りか?」

浜風「はい、正解です」




提督「ふむふむ、なるほど……」

提督「仮装の精度はともかく、そういう目で見れば二人のチョイスは案外合ってるな」

浜風「そうですか?」

長波「へぇ……何で?」

提督「気まぐれで生意気なとこが猫っぽい。元気なところは犬っぽいけど」

長波「……馬鹿にしてないか?」

提督「してないしてない」

提督「つまり長波は可愛いってことだよ」

長波「いやいや、そんなので騙されたりしないぜ?」

提督「あーもう、拗ねるなって。悪かった」

長波「────んっ」

提督「よしよし……」

提督「……今は猫娘だし、喉の方が良いか?」

長波「…………提督の好きにすればいいんじゃないか」

提督「…………じゃあ遠慮なく」

長波「んんっ……!」

提督「どうだー?」

長波「………………っ」

長「…………ご、ごろごろごろ……」

提督「……そうか、気持ちいいかー」

提督「……長波は可愛いな。いつもそうしてればいいのに」

長波「きょ、今日だけだからなっ! 今日だけっ!」

浜風「…………」




提督「────っと」

提督「急に抱きついてきて、どうしたんだ浜風?」

浜風「…………雪女」

提督「え?」

浜風「今の私は、雪女です」

浜風「だからその……」

浜風「…………寒いので温めてもらおうかと」

提督「………………ぷっ」

提督「あっはっはっ! 雪女なのに寒がりなのか? しかも温めてもらうって…………あははっ」

浜風「………………っ!」

提督「────あーもう、浜風も面白いこと言うようになったなぁ……」

提督「よーし、それじゃお望み通り温めてやろう」

長波「むっ……」

浜風「っ!?」

浜風「……お、お願いしますっ」

提督「いくぞー?」

浜風「────んっ……!」

提督「…………あれ?」

提督「……何だか浜風の方が暖かいんだけど」

提督「熱でもあるのか?」

浜風「だ、大丈夫、ですっ」

浜風「ですから、その……もう少し強くしても……」

提督「そ、そうか?」

提督「えーと………………どうだ?」

浜風「────んっ……はぁぁ……」

浜風(も、もう少し強くても…………)





長波「……提督」

提督「あっ、すまん。よしよし……」

長波「……ふふん♪」



浜風「……あの、提督」

提督「おっと……。……どうだ?」

浜風「……ふふっ♪」
























提督(……これ、いつまで続ければいいんだ?)




 11月 冬前の一時




 コタツ


長波「あー……駄目になるぜ……」

長波「コタツってなんでこんなに居心地良いんだろな」

提督「そうだな……電源切ってても入りたくなる時があるからな……」

提督「……よし、出来た」

提督「ミカン剥けたぞ。体起こせ」

長波「はいよー」

長波「────おっ、白いとこも全部取ってくれたのか? ありがとな、提督」

提督「どういたしまして」

提督「……こういう細かい作業、昔から好きなんだよな」

提督「どんどん剥くからどんどん食っていいぞ」

長波「ははっ、提督ってプチプチとか好きそうだよな」

提督「なぜ知ってる」

長波「マジかよ。適当に言ったのに……っと」

長波「……んー! このミカン凄い甘いな! 美味いぞ!」

提督「知り合いから貰ったやつなんだが……そりゃ良かった」

長波「あれ? 提督はまだ食べて無かったのか?」

提督「たくさんあるからな。そんなに急いで食べる必要もないかと思ってさ」

長波「いやいや、これを食べないのは損ってやつだぜ?」

長波「とりあえず一個食べてみろって」

長波「ほら、あーん」

提督「そんなにか? それなら……」

提督「────んっ……」

提督「…………美味っ」

長波「だろっ!」

提督「こりゃ後でちゃんとお礼言っとかないとな……」

提督「………………あむっ」

長波「ちょっ!? それ私のために剥いてたやつだろ!?」

提督「……たくさんあるから自分で剥くといい」

長波「さっきと言ってることが全然違うぞ! ちゃんと寄越せよなっ!」

提督「痛っ!? 蹴ったな!? このっ!」

長波「────ひゃっ!?」

長波「ど、どどどどこ触ってんだ馬鹿っ!」

長波「このぉっ!」

提督「──────っ!?」

提督「……お、お前……蹴っちゃ駄目なとこがあるだろが……!」

長波「じ、自業自得だろっ!」







浜風「こんなに散らかして……反省してますか?」

「「すいませんでした……」」







 衣替え


浜風「……どうでしょうか?」

提督「ああ、問題なく似合ってるぞ」

提督「長波のは昨日見終わったし、冬服は去年の物で大丈夫そうだな」

浜風「そ、そうですね……」

提督「……何か問題があるのか?」

浜風「あっ、いえ、その……」

提督「あるなら遠慮せずに言ってくれ」

提督「それが元で戦闘に支障をきたされたら困るからな」

浜風「……ですが」

提督「浜風」

浜風「………………」

提督「………………」

浜風「………………その」

浜風「……………………キツイです」

提督「……キツイ?」

浜風「………………む」

浜風「む、胸が、その…………」

提督「……………………」

浜風「……………………」

提督「………………あー」

提督「……すまん。デリカシー無かったわ」

浜風「い、いえ、こちらこそすみません……」

提督「うん、そうだよな……。成長期だもんな……」

浜風「せ、成長期ですしね……」

提督「………………」

浜風「………………」







提督「……長波には言わないでやろうな」

浜風「……はい」





投下終了。

最後の安価取ります。

最後なので前回と同じ方法&コンマぞろ目のレスです。
すでに書いた艦娘以外でお願いします。

期限は明日の朝くらいまでです。

それではまた。



夕立 千歳

了解です。


それではまた。



 秋夕立




 秋夕立




 秋夕立




 秋夕立




提督「────食料よし、消耗品よし……」

提督「…………ふぅ。買い出しはこれで全部だな……」

提督「そっちはどうだ、夕立?」

夕立「えーとえーと……ちょっと待って欲しいっぽい!」

提督「あっはっはっ、別に急がなくてもいいぞ。ゆっくりでいいからな?」

夕立「お菓子もあるし……ジュースもあるし……」

夕立「……………………」

夕立「……大丈夫っぽい!」

提督「よし! それじゃそろそろ帰るか!」

夕立「夕立お腹減ったっぽい! 早く帰ってご飯食べよっ!」

夕立「ごっはん、ごっはん♪」

提督「夕立は気が早いなぁ……」

提督「…………っと、荷物は俺が持つよ」

夕立「えっ? 提督さん、いいの?」

提督「大人をなめるな。これくらい楽勝だ」

提督「ほら、こっち渡して」

夕立「えへへ……♪」

夕立「じゃあ提督さんにお願いするっぽい!」

提督「おう、任せとけ」




夕立「────あぅ……」

提督「最近風が強くなってきたなぁ……」

提督「夕立、大丈夫か? 寒くないか?」

夕立「うーん……大丈夫……?」

提督「……不安だな」

提督「手袋貸そうか? 暖かいぞ?」

夕立「むぅー……」

夕立「提督さんは両手に荷物持ってるから、手袋脱いだら寒いでしょ? だから脱がない方が良いと思う」

提督「でもなぁ……」

提督「夕立だってさっきからしきりに両手摺り合わせてるよな? 寒いんだろ?」

夕立「そ、それはその……」

夕立「……ぽい?」

提督「誤魔化すなよ、可愛いけど」

提督「俺と違ってお前が風邪ひいたりしたら大変だってことくらい、分かるだろ?」

夕立「ぽいぃ……」

夕立「……………………っ!」

夕立「良いこと思い付いたっぽい!」

夕立「提督さん、片方だけ貸してっ!」

提督「……片方?」

提督「別にいいけど……どうするつもりだ?」

夕立「ふふん♪ それはね────」












夕立「ふふふーんふふーん♪」

提督「夕立、重くないかー?」

夕立「まだまだ大丈夫っぽい! ……提督さんこそ平気?」

提督「夕立が半分持ってくれてるからな。全然平気だよ」

提督「……重くなったら言うんだぞ?」

夕立「ぽいっ!」

提督「それは返事なのか……?」

夕立「……えへへー♪」

夕立「提督さんの手、手袋よりも暖かいっぽい♪」

提督「んー? 夕立の手の方が暖かいと思うけどなぁ……」

提督「……そうだな、まるで熱でもあるみたいだ」

夕立「──────っ!?」

夕立「そ、そんなこと無いっぽい!」

夕立「提督さんの気のせいっぽい!」

提督「……そうか?」

提督「……ん? さらに暖かくなった気がするんだが……」

夕立「あうぅ……!」





夕立「…………提督さんのばかぁ」




投下終了。

最初の方で回線が重くて重複したみたいです。
気にしないで下さい。

私事が落ち着いてきたのでペース早めたいと思います。

それではまた。



 春夕立




提督「……………………」

夕立「そーっとそーっと……」

夕立「っと……」

夕立「────ふふん♪ 提督さん、あったかーい♪」

提督「────ん…………?」

提督「…………夕立か?」

夕立「あっ、提督さん起きちゃった?」

夕立「ちょっと失礼してるっぽい!」

提督「あー……うん」

提督「……なぁ、夕立。人の布団に勝手に入ってくるもんじゃないぞ?」

夕立「えー、提督さんは嫌?」

提督「……それはちょっと答えにくい」

夕立「あのね、夕立は好きっぽい!」

夕立「提督さんのそばに居るとね、こう……胸の所がじわーってあったかくなるの!」

夕立「それでね、なんだかよく分からないけどとっても嬉しくなっちゃうっぽい!」

夕立「……提督さんは、そういうの無い?」

提督「…………そうだな」

提督「俺は────」

夕立「ひゃっ?!」

提督「────こうやって夕立を抱きしめると、あったかいなぁって思うぞ」

提督「湯たんぽみたいでな」

夕立「……むぅー」

夕立「最後の一言は余計っぽい!」

提督「ははっ、悪い悪い」

提督「…………なぁ。髪、触ってもいいか?」

夕立「…………ぽいっ」

提督「なるほど、オーケーと。それじゃ遠慮なく……」

夕立「────んっ……」





夕立「…………えへへ♪」




投下終了。

次回は千歳。

それではまた。



 夏千歳




千歳「────提督、お疲れ様です」

千歳「仕事中に執務室からお出になられるなんて、珍しいですね。おかげで探し回る羽目になりましたよ?」

提督「ああ、千歳さん。千歳さんこそお疲れ様です」

提督「……どうやら迷惑をかけてしまったようですね……ごめんなさい」

千歳「うふふっ、冗談ですよ?」

千歳「ですからそう真に受けないでもらえると助かります」

千歳「……提督はどうして外に?」

提督「どうして、ですか……」

提督「……そうですね、理由という理由は無いんですが、強いて言うなら涼むためでしょうか?」

千歳「ああ……」

千歳「確かに最近は特に暑いですからね……」

提督「いよいよ夏も本番ということでしょうね」

提督「日の入りも遅くなっているようで困ります。五時を過ぎたのに明るいなんて……夜は一番好きな時間なのに……」

千歳「『夏は夜』とも言われますしね。夜が短いのが夏なのに、それが良いと感じた昔の人の感性は面白いですね」

提督「短いからこそ、でしょう。そもそも古来から──────」

千歳「……提督。悪い癖が出てますよ?」

提督「──────っとと……」

提督「……気を付けてはいるんですけど、千歳さんと一緒に居るとついつい昔の自分に戻ってしまいますね」

千歳「……相変わらず口が達者で」

千歳「褒め言葉として受け取っておきますね」

提督「手厳しいなぁ……」

千歳「うふふ……♪」

千歳(提督の言葉、嬉しく思いますが……)

千歳(古典について語っている時が一番楽しそうなんですもの)

千歳(その間は気持ちまで受け取るわけにはいかないわ)

千歳(私も一番になれるよう頑張りますから……ね?)

提督「────千歳さん、どうかしましたか?」

千歳「……ふふっ、何でもありませんよ?」

千歳「それよりも、そろそろ仕事に戻られてはいかがですか?」

千歳「思っていたよりも時間が経っていると思いますよ?」

提督「え…………?」

提督「………………確かに千歳さんの言う通りですね」

提督「それでは仕事に戻ります。……後でまた」

千歳「────はい」





千歳「晩御飯、腕によりをかけて作って待ってますから……」

千歳「……ね?」





投下終了。

それではまた。



皆さんこんばんは。
私事ですがビスマルクが来てくれました。
あまりにも嬉しいので番外編安価を追加します。

本編終了後にエピローグと蛇足を書くつもりだったのですが、エピローグの前に番外編を挟むことにしました。本編終了時に安価を取りますのでぜひご参加下さい。

それではまた。



  冬千歳




「…………あら?」


 ドアノブを回そうとすること数回。
 最初は何かの間違いだと思ったのだが、どうやら間違いではなかったらしい。

 時刻は午前九時。
 いつもならこの執務室の扉の鍵は既に開けられていて、扉の向こうには朝早くから書類の山とにらめっこをしている提督がいるはずなのだが、今日はそうではないらしい。


「寝坊かしら?」


 冬の冷気に当てられたドアノブから手を離す。白い吐息を吹きかけると、じんわりと熱が広がった。

 ……それにしても珍しいことが起こったものだ。

 前職では日本の歴史を研究する仕事に就いていた提督は、たまたま適性があったためこの職に就くことになったと聞いている。
 周囲に押される形であったため本人は乗り気ではなかったらしいが、根が真面目なのだろう。仕事で手を抜くというところは今まで見たことが無かった。

 そして仕事を休むことも滅多に無かったのだから、今回のこの状況が私にとってどれだけ驚くべきことなのかが分かるだろう。


(風邪……? いえ、そんな様子は見られなかったわね)


 寒さはあるが待てないほどではない。
 もうそろそろ来ると考えて、ここで待機してもいい。


(……部屋の方を訪ねましょうか)


 そういえば特に用事が無い限りはここから提督の部屋までは一本道だった。
 すれ違う可能性も低いだろうし、向かっても損は無いだろう。

 そう結論付けて、歩を進め始める。




「……もしかしたら寝顔を拝見できるかもしれないわね」


 それはあくまで可能性の話。
 だから私の歩みが速まったこととは、全くもって関係無いのである。無いのである。




 さて、唐突だが人には個性、いわゆるキャラクターというものがある。
 それは在り方であったり性格であったり特徴であったりと様々なのだが、形を 二つに分けることが可能だ。
 
『自分が望んだもの』

『自分に望まれたもの』

 この二つである。
 要は主観と客観のようなものなのだが、果たして私はどちらに当てはまるだろうか?

 自分で言うのもアレだけど、この鎮守府で私は『頼れるお姉さん』で通っている。
 生活面でそうあることが多かったが、改造を繰り返して軽空母になってからは戦闘面でもそういったことが起きるようになった。

 最初はきっと、自主的なものだったはずだ。
 千代田は手のかかる妹だったから、私がしっかりしなくてはという思いがあったのだ。

 そしてその私の様子を見た他の子達も私 を頼ってくるようになって、気付いた時には手遅れだった。

 頼られるのは嫌いではない。むしろ好きだと言っていい。
 でも『頼れるお姉さん』でいる私は、そのイメージを崩すわけにはいかない。
 必然的に多少の無茶をすることになるし、いろいろと嫌なモノが私に溜まっていってしまうのだ。

 ……だからといって現状ではどうすることも出来ないのが一番ネックなのだけれども。


 結局どうすることも出来ないのになぜこんなことを長々と語ったのか。

 要するに私はこう言いたいのだ。






 私だって失敗したり恥をかいたりします、と。






「すみません千歳さんっ! 廊下、寒かったですよね……。こんなに赤くなって……」

「あ、いえ、これはその……ち、違いますからっ……」



 執務室にだって鍵があるんです。個人の部屋にかかってないわけがありません。

 それを失念したまま、私はここまで豊かな想像を繰り広げてきたわけです。

 どうやって起こしてあげようか、だとか。
 体が冷えてしまったからこっそり潜り込んでしまおうか、だとか。

 そういうことを考えていたのです。お間抜けですね。

 人に知られない、あるいは気付いてもらえないことの方 が恥ずかしいこともあると言いますが、まさにその状態になってしまいました。

 変な汗が出ているのが分かってしまいます。ああもう、恥ずかしい……。





 自分のせいで、と謝る提督。
 恥ずかしさからしどろもどろになる私。

 そんな悪循環の泥沼と化した廊下での騒ぎは、冬の鎮守府によく響いたのでした。




投下終了。
次回から本編です。
クリスマス、正月、バレンタインと揃い踏みです。

それではまた。



 12月 聖夜に3人





『――――メリークリスマースッ!!』



 時刻は午後八時。
 静かに眠る海を正面に、鎮守府の一室――執務室に歓声が轟いた。

 気を遣うべき近所も、この鎮守府の周りには一切居ない。
 聖なる夜に俺達三人は楽しく騒ぐ気で一杯になっていた。

 長波がシャンパン――中身は炭酸飲料――を豪快に開け、用意していた料理を浜風が取り分ける。
 いつにもまして楽しそうな長波。浜風も心なしかテンションが高いように見えた。


「正確にはイブだけどな」

「提督、そういうこと言うなって。台無しだろ?」

「ああ、すまん。つい……」

「まったくもう……。ほら、コップ出せよな」


 差し出したコップに、シャンパンが注がれていく。
 スーパーで買った安物だが、雰囲気も相まって高級感が漂っている気がした。


「提督、どうぞ」

「ありがとう、浜風」

「今日はたくさん作りましたので、どんどん食べて下さい」

「私と浜風で協力したんだぜ。味わって食べてくれよ?」

「もちろんだ。腹一杯食べさせてもらうよ」


 目の前に置かれた皿の上には様々な料理が小分けにされている。
 二人の方も整うまで待つつもりだったのだが、期待の視線が向けられていることに気付いたので、二人より一足先にそれらを頂くことにした。

 食べやすいように一口大にカットされた唐揚げを口に運ぶ。
 美味い。そう感想を述べると、長波も浜風も嬉しそうに顔を綻ばせた。




「それにしてもホワイトクリスマスにならなかったのは残念だよなー」

「ここ最近は雪の降る日が多かったからもしかしてって思ってたけど……駄目だったみたいね」


 長波と浜風が残念そうな表情でそう呟く。
 対する俺は内心ホッとしていた。冬場の雪かきは俺の仕事だからだ。

 二人はこの寒い中でも海を駆けてくれているのだから、それくらいの仕事をすることに異論は無い。
 異論は無いのだが、しないに越したことはないのだ。聖夜に気を利かせてくれたお天道様に感謝である。


「思えば早い一年だったぞ」

「そうね、特に何事も起きない一年で良かったわ」

「そうだな……浜風の言う通り確かにこれといったことは起きなかったな。……平和ってのは素晴らしいよ、ホント」

「あー、浜風がうちに来るちょっと前まではいろいろとバタバタしてたもんな。私もあんまり思い出したくないぜ」


 懐かしき日々を思い出しながら、長波と二人でうんうんと頷き合う。
 本部の要請やら地元団体からの抗議やら、とにかく面倒なことが立て続けに起きた時期だったのだ。
 まあそうやって苦楽を共にしたおかげで長波とはすぐに打ち解けられたのだから、悪い ことばかりではなかったのだが。

 そんな俺達を見て、浜風がその小さな唇を尖らせる。


「随分と仲が良いんですね」

「おっ。浜風ってば妬いてる? 可愛い奴だなぁ!」

「……違います」

「浜風も俺の大事な仲間だ。気を悪くさせたなら謝るよ」

「……その言葉だけで十分です」

「ちょ、私の時と反応違い過ぎないか?」


 三人という少ない人数ながらも会話は途切れることが無く、楽しい時間は続いていく。
 気付けば時計の針は深夜を回っていた。




 深夜を過ぎてもなお、会話の熱が 冷めることは無い。
 むしろその熱が増しているのだから深夜テンションというのは恐ろしい。

 そしてその会話内容も、当初のものからかなりずれたものへと変貌を遂げてしまっている。


「提督はさー、真面目な時と普段の時とのギャップが良いよな。正直かなりどきっと来るぜ」

「それ、よく分かるわ。たまに子供っぽく愚痴を漏らすのも可愛くて良いわよね」

「ああ、分かる。言っても私達ってばまだまだ子供だし、そういうのって親近感あるから好きだぞ」


 きゃあきゃあと目の前で繰り広げられる楽しそうな会話。本人達はどう思ってるか知らないが、俺にしてみれば新手の拷問 でしかない。
 因みに恥ずかしくて赤面するという段階はとうに終えている。かれこれこのような会話は三十分以上も続いているのだ。いちいち気にしていたらキリが無い。

 最初は『最近の密かな楽しみ』という話題だったはずなのに、どうしてこうなったのか。


「……本人前にしてよく言えるな。恥ずかしくないのか?」

「んー、こういうときくらいしか言えないしな」

「最初はそうでしたが……一つ言ってしまえばあとは二つも三つも変わりませんから」


 こう言われてしまうと口を閉じるしかない。
 そんな俺の様子を見て、二人は笑った。




「 そういう提督だって、満更でも無いよな?」

「私達の気持ち、気付いてましたよね?」




 その言葉に息が詰まった。

 俺とてそんなに鈍い男ではない。話が拗れないよう気付いていないフリをしていたのに、こいつらはそれを見破っていたらしい。
 俺の方も薄々感付いているとは思っていたが、ここで明らかにしてくるとは想像していなかった。


「あのなぁ……誰のために言わなかったと思ってるんだ」

「そんな心配必要ないってば。そんなやわな関係じゃないだろ」

「少なくとも、悪いことにはならない自信があります」

「……寝て起きたら絶対後悔するぞ。間違いない」


 そんな俺の茶化すような一言に、二人は目もくれない。
 誤魔化すことは出来そうになかった。


「あ、だからって『そういうこと』するのは時と場合だからな? ちゃんと守るんだぞ」

「……その可能性を忘れてました。ええと……、よろしくお願いします?」

「安心しろ。捕まるのはごめんだからな」


 考えてみれば、予想外のことではあったがこれはこれで良いのだろう。
 二人と過ごした日々の積み重ねが、これから起こるであろう変化を、良いものであると確信させてくれる。

 ようやく俺も覚悟を決める。一息吐いて目を伏せると、自然と口角が上がった。

 そして開いた視界に、長波と浜風が飛び込んでくる。


「長波、浜風……改めてよろしくな」


 どちらともなく手を伸ばし、握手を交わす。
 長波は楽しそうにニヤリと笑い、浜風は嬉しそうにクスリと微笑んだ。





 やがて手と手は離れ、何事もなかったかのように会話が再開される。

 そうしてまた少しずつ、鎮守府に騒がしさが戻っていくのだった。
























「何か小腹空いてきたぞ」

「長波、まだ食う のか」

「それじゃ私、ケーキ持ってきますね」

「今からケーキ……。そりゃ無いとは思ってたけどさ」

「ケーキは別腹だから大丈夫だって!」

「……太るぞ」

「ぐぬっ!?」

「……持ってくるのやめましょうか?」

「……き、今日は特別な日だから食べるぜ!」

(ああ、太るなこれは……)



投下終了。

それではまた。



  1月 鎮守府のお正月



「――――相変わらず浜風の作る料理は美味いな」

「ありがとうございます。喜んで頂けているようで何よりです」

「浜風おかわりー、肉多めでっ」

「分かったわ、…………これでいい?」

「――――ネギばっかりじゃんか!」



正月。
 流石の深海棲艦も今日ばかりは空気を読んでくれたのか、今のところ出撃を要する気配は無く、俺達三人は穏やかな時間を過ごしている。

 コタツでぬくぬくと温まりながら、浜風特製の年越しそばを食べ、お正月特番をだらだらと楽しむ。
 束の間の休息というやつだが、至福の時には違いない。デザート代わりのミカンも用意して、まさに完璧であった。


「提督、ちょっとお肉くれよ」

「……仕方ない奴だな、ほら」


 小さく口を開けて待機している長波にお肉を差し出す。
 それにパクリと食いついた長波が、「……へへっ」と嬉しそうに笑った。

 少し前までの俺と長波なら恥ずかしさを覚えて躊躇うような行動なのだが、今はさらっとこなせるようになってしまっている。
 というのもあのクリスマス以降、長波と浜風の二人が妙に積極的になって、こういうことをするのが多くなったからだ。要するに慣れてしまったわけである。

 今では一緒の布団で寝たりすることもあるくらいなのだから、慣れというのは恐ろしい。
 余談だが寝相が悪いのは意外にも浜風の方であった。寝ぼけて抱き付いてくるのは本当に勘弁してほしい。心臓に悪すぎる。




「提督、長波を甘やかし過ぎでは?」

「なに、これくらいなら良いじゃないか。ほら、浜風もどうだ?」

「――――っ!? わ、私は……その……!」


 口ではそう言いながらも、浜風の体はしっかりと俺の方を向いている。
 その様子に俺は微笑みを隠すことが出来ない。何も言わずにお肉を差し出すと、やはり浜風も長波と同じ道を辿った。

 長波がにやりと笑う。


「……浜風ー?」

「こ、これでお相子ですからっ」


 途端に生き生きとし始める長波と、その手は食わんとばかりにそっぽを向く浜風。




 ……どうやら今年も騒がしい一年になりそうだ。


 二人のやりとりを眺めながら、そんなことを思う。
 そして結局この日は何事も起こらず、終始こんな形で緩い一日を過ごすのだった。




































「――――あ、そういえば提督。お年玉はあるんだよな?」

「…………その、実は私も気になってました……」

「さーて仕事仕事!」



短いですが投下終了。

リアルがたて込んでました。すみません。
エタりはしませんのでその点はご安心下さい。

1月はもう少し続きます。

それではまた。




 1月 朝長波




「……………………んっ……」


 瞼をこすり、ゆっくりと目を開く。見える視界をそのままに受け入れ、思考は止まってしまっている。
 そのまま数秒、もしかすると数分は固まっていたかもしれない。

 そうして時間をかけて鮮明になっていく感覚が、ようやっと私にその事実を突きつけた。


「さむっ…………!」


 膝を抱えて体を丸め、刺すような寒さに身を震わせる。

 タイマーを設定していたストーブの音が聞こえないということは、時刻はそれよりも前だということ。つまりいつもならまだまだ眠っているような時間。こんな時間に起きてしまったのは、この寒さのせいに違いない。

 こちらを向くように横になってすやすやと眠っている提督にも、布団がかかっている様子が無い。……察するに原因は一つ。


(浜風……!)


 こちらから見る術は無いが提督を挟んだ向こう側で寝ている浜風が、私達の布団を寝ぼけて剥ぎ取ったということだろう。
 同じ部屋で寝ていた頃からそうだったけど、浜風の寝相の悪さは相変わらずのようだ。


「……これくらいは許されるよな」


 今まで散々注意したが、ついぞ改善は見られなかった。
 注意して直るようなものでないのなら仕方ない。これに関してはもう半ば諦めている。

 ……でもこれくらいの役得はあっても良いはずだ。

 ごそごそと体を動かし、提督の腕を枕代わりにしてその胸元の空間に私の体をすっぽりと収める。
 そのまま額をこすりつけると、眠っていながらも分かってくれたのか、私の体を抱き締めるように腕を背中に回してくれた。
 背中に感じる提督の腕の暖かさに、自然と笑みがこぼれる。


「……へへっ♪」


 返事をするように、きゅっ、とこちらも抱き締め返す。

 感じていた寒さなんていつの間にか吹き飛んでしまい、今はとにかく暖かさが一杯だった。





「…………ん……長波……?」

「…………仕方ない奴だな」





投下終了。

それではまた。



 1月 朝浜風




(…………またやってしまったわ)


 目をこすりながら上体を起こし、目の前の光景を確認しながら寝ぼけた思考を覚ましていく。
 隅に置かれた時計を見れば、起きるにはまだまだ早い時間だ。

 そんなことを思いながら、状況を確認する。

 今まで寝相が悪い寝相が悪いと長波や提督に散々言われてきたけれど、今回のコレは特にひどい。
 寝る前は提督を挟んで川の字だったはずなのに、今の私は提督と長波を飛び越えて元々とは逆の位置に来てしまっているのだ。何をどうすればこうなるのか、さっぱり見当が付かない。それでいて二人から布団も剥ぎ取ってしまっているのだから、尚更タチが悪かった。

 先に起きて気付けたことが、不幸中の幸いだろう。


「…………むぅ」


 ともかく布団を戻してもう一度寝よう、と思ったその矢先、私は二人の様子にようやく気が付いた。

 長波が提督に抱えられるような形で、二人とも寝入っている。端から見ればまるで恋人同士が抱き合っているかのようだ。

 もしかすると私に布団を剥ぎ取られ、寒さから逃げるようにして無意識にこういう形になったのかもしれない。そうなると原因は私にあるのだが、それで納得出来るほど私は大人ではなかった。

 芽生えた嫉妬心を感じつつも、二人に布団をかける。
 そして長波の背中に寄り添うようにして、その布団の端に潜り込んだ。

 長波の背中に回された腕────提督の手が、私の目の前に来る。その手を私は両手で包み込んだ。


「…………ふふっ♪」


 灯火に手をかざしたかのようなほんのりとした暖かさに、思わず頬が緩む。
 そのまま私は両手を胸に抱き込んだ。

 熱が、胸に伝わる。


(……おやすみなさい)


 提督の手を介して、自身の鼓動がはっきりと感じ取れる。とくんとくん、というその音は、心なしか若干速い。

 そしてその規則的なリズムに身を任せながら、私は二度目の眠りへと落ちていくのだった。





「………………んっ……」

(…………この柔らかい感触は一体……?)




投下終了。

次回で本編は最後。サラッと終わります。

それではまた。



 2月 長波と浜風 エピローグ




「…………へへっ♪」

「…………ふふっ♪」

「……お前ら飽きないのか?」


 執務室。テーブルを挟んで向こう側のソファーに並んで座る二人は、先程からずっと『とある物』を眺めては嬉しそうな声を漏らしている。
 長波と浜風、それぞれの視線が向かう先。そこには銀の指輪がキラキラと輝いていた。


「ホワイトデーも期待して良いのか?」

「指輪以上の物…………楽しみです」

「あー…………それがホワイトデーの先渡しってことで頼む。流石に足が出るからな」


 俺の言葉に「しょうがないなぁ」と返す長波。その声はどこか楽しそうだ。
 「冗談ですよ?」と続く浜風の表情には、隠しきれない嬉しさが滲み出ていた。

 つい最近本部から届いた二人への贈り物────艦娘としての能力を向上させる指輪は、予想以上に好評のようである。

 その『表向きの理由』とは別に指輪を手渡した俺としては、二人に同時に贈ることを非難される覚悟もしていたのだが……どうやら杞憂だったらしい。

 二人の楽しげな様子に、俺もついつい笑みが零れた。


「ところで二人共、ずっと眺めてるけど……はめないのか?」

「提督……」


 長波の嬉しそうだった表情が、一転してしかめっ面に変わる。
 視線を隣の浜風に向けると、頬を赤くして目を逸らされた。


(えーと……ど、どうしてだ?)


 その反応の意味が分からず内心で焦り始める俺。
 それを察したのか、長波が深々とため息を吐いた。




「あのさ、こういうの貰うとしたら浜風と同時だろうなって感じはあったからそっちは許すけど……」

「……けど?」

「……さ、察して欲しいぜっ」


 頬を染め、そっぽを向く長波。
 結局どういうことなのか。首を傾げる俺に、浜風が助け舟を出してくれた。


「その、提督……? これは本来どう渡しますか?」

「────あっ」


 そこでようやく二人の意図に気が付いた。

 柄ではないが指輪を渡すということ自体、そうそうあることではないのだ。多少はそういったロマンチックなことをしてみるのも悪くないだろう。

 流石にデリカシーが足りなかった。

 謝罪の言葉を述べると、二人は仲良く頬を染めたまま、こくりと頷いた。


「……その、あ、後でな?」

「…………分かったぞ」

「────は、はいっ」


 そうしてしばしの静寂が生まれる。
 いつの間にか俺の顔も熱を帯びてしまっていた。




「────さ、さて、そろそろ俺も食べようかなっ」

「あ、ああっ! 自信作だから味わってくれよっ!」

「た、たくさん食べて下さいねっ!」


 何ともいえない空気を誤魔化すように声を大きくし、テーブルの上に置かれたまま空気と化していた本日のメインである二人の手作りチョコレートに視線を落とす。

 長波のスティック型チョコレート。
 浜風のフルーツ&チョコシロップ。

 どちらも手作りとは思えないくらいの完成度だ。仮に店にあっても驚かないだろう。

 そんな美味しそうなチョコ。さて、どちらから食べようか?

 そう思いながら手を伸ばそうとした矢先、二人が動いた。


「えっ……?」


 意を決した表情で、二人が行動する。


 短めのチョコスティックを手に取り、一瞬の逡巡の後にそれを口に咥える長波。

 指が汚れることも厭わず、半カットの苺にタップリとチョコシロップを付ける浜風。


 そうして二つのチョコが、俺の目の前へと差し出された。

 言葉は無い。
 長波は目を閉じ、浜風は俯いてしまっている。

 これでは二つ同時に食べることは不可能だ。
 …………どちらかを選ぶしかない。




(ぐおおっ……俺はどうすれば……!)


 そんな究極の二択を前に、俺はこっそりと額に手を当てるのだった。



本編終了。

残すは蛇足のみです。


宣言通り艦娘の安価を取ります。
番外編という形ではなく蛇足に登場する形となりますのでご注意下さい。

コンマの最大・最小の2名で取りますのでよろしくお願いします。

人も居ないでしょうし、期限は朝くらいまでです。


それではまた。


秋月・磯波
了解しました。

それではまた。




 蛇足 駆逐園




長波「────提督、ただいまー!」

浜風「提督、ただいま戻りました」

提督「おお、二人共お疲れ様」

提督「…………磯波と秋月はどうだった?」

長波「あー、磯波はなぁ…………。はっきり言って全体的に弱いぞ? 私も人のこと言えないけどさ」

提督「まぁ駆逐艦だからな。そこは仕方ないだろう」

提督「だから俺が聞きたいのは能力云々に関係しない部分についてだ。そこら辺は何か思うところは無かったのか?」

長波「……オドオドしてるっていうか、自分に自信持ってないっていうか……そんな感じはあったな」

提督「そうか……」

提督「……しばらくは磯波一人の出撃は無しだ。同行してまずは自信を付けさせてやってくれ」

提督「一人で出撃させる時期は長波に任せる。…………頼めるか?」

長波「ん、了解!」

提督「頼んだぞ」




提督「────それで、秋月は?」

浜風「はい、秋月は磯波とはむしろ逆ですね」

浜風「少々真面目が過ぎるところもありますが、そういった面では問題ありません」

浜風「そして対空能力が突出していました。…………敵軽空母の艦載機を全機落とした時は思わず目を疑ったものです」

提督「……それは凄いな」

浜風「ですが雷撃戦は不得手のようでした。殲滅能力には難有り、ということですね」

提督「むぅ……」

提督「そうそう旨い話が有るわけないってことか」

浜風「どういたしましょう?」

提督「…………秋月には長所を伸ばしてもらおう」

提督「対空装備を開発してみるから、それまでは磯波と同じく鍛えてやってくれ」

浜風「分かりました」

長波「んー、ってことはしばらくは四人で出撃か?」

提督「ああ、そうなる」

提督「今日はもう上がっていいけど、明日からはよろしく頼む」

提督「────それじゃあまた後でな」




────────────────────
────────────────
────────────




長波「────二人共お疲れー」

秋月「あっ、長波さんに浜風さん。お疲れ様ですっ!」

磯波「お、お疲れさまです……」

浜風「……どうやら二人共修理は終えているようですね。今日はもう休んでもいいらしいので、ゆっくりしていいですよ」

秋月「えっ、もうですか?」

磯波「……私、まだ頑張れますよ?」

長波「そうは言っても初出撃だしな。見えないところに疲労は溜まってるもんだぜ? いいから大人しく休んでおけって」

秋月「……分かりました。司令がそう仰っていたのなら」

磯波「……………………」

浜風「……磯波? どうかしましたか?」

磯波「あっ、いえ! そ、その……聞いていたこととあまりにも違いがあったので……驚いてました」

長波「……聞いていたこと?」

磯波「はい」

磯波「出撃は日に数回、修理だって多少のことではしてもらえないと聞いていました」

磯波「他にもいろいろ耳にしましたが……どれも良いものではなかったです」

秋月「秋月も磯波に同じです」

秋月「こういった鎮守府もあるんですね!」

長波「へぇ……ひどい鎮守府があったもんだなぁ」

浜風「……ここが特殊なだけでしょう」




長波「まっ、他はよく知らないけどうちではそういうことは無いから安心して良いぜ」

浜風「提督はそういうことはしない人ですからね」

秋月「……それ、何となく分かります」

秋月「言葉の端々にこちらを気遣ってくれている気持ちが表れてました」

磯波「……ここに来て間もないですけど、私も分かります」

磯波「提督は、優しい方なんですね」

長波「……むぅ」

長波「自分のことじゃないのにむず痒いな」

浜風「……でも悪い気はしませんね」

長波「それは確かにそうだけどさ……」

長波「…………秋月、磯波」

秋月「はい、何ですか?」

磯波「は、はい……?」

長波「……惚れんなよ?」


秋月「────だ、大丈夫です! お二人の想い人なんですから!」

磯波「────こ、これは、その! そういった感情では………!」


長波(分っかりやすいなぁ……)

浜風(これは時間の問題ね……)






 一人から二人、二人から四人。

 一層騒がしさを増した鎮守府には、今日も楽しそうな声が響くのだった。






これにて全投下終了です。

お付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました。


次回作はヤンデレ物になる予定です。
それではまたどこかで。


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月14日 (日) 22:36:28   ID: RLgIQh9W

長波かわいい!

2 :  SS好きの774さん   2014年10月20日 (月) 15:16:29   ID: 1v3Gqx6u

長波好きとしてはかなり満足してるけど、一つだけいいたいのは
長波だってそりゃあ浜風には負けるけど駆逐艦娘のなかじゃあトップクラスの立派なものをお持ちだぞ!

3 :  SS好きの774さん   2014年11月17日 (月) 22:49:04   ID: 7qr-Nvkp

長波可愛いよ長波

4 :  SS好きの774さん   2014年12月14日 (日) 22:35:18   ID: kknNj2sZ

クーデレ可愛い浜風

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