ことり「ことりは海未ちゃんの包帯になってあげる」 (147)

ラブライブSS

ちゅんちゅん

※やんやんっ♪

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海未「ことりに相談があるんですが……」

ことり「うん、海未ちゃんどうしたの?」

海未「実は……」

赤面した海未ちゃんから打ち明けられたのは、穂乃果ちゃんのことが好きだってことだった。

ことりは海未ちゃんのことがすっごく好きだけど、海未ちゃんの笑顔のほうがもっと好きだから……

当然応援しないといけません。

ことりのアドバイスで海未ちゃんが笑顔になったらことりはハッピーです。

ことり「うーん海未ちゃんは具体的にどうしたいのかな?」

まずは海未ちゃんの気持ちを知らなくっちゃなんにも出来ません。

海未「ええと……その……」

ことり「海未ちゃん~日が暮れちゃうよー?」

海未「付き合いたい……です……」

好きなら当然だよね、うんうんっ♪

海未「……ずっと、一緒にいたいです……」

独占欲もちょっぴりありそう。ちょっぴりじゃなかったらことりが困っちゃうかも。

ことり「……幼馴染のアドバンテージがあるんだから!」

ことり「頑張って! 海未ちゃん!」

押せば穂乃果ちゃんだって意識してくれるはず。

まずは意識させないとね!

海未ちゃんとは交差点で別れました。

海未ちゃんの相談する顔がとっても可愛いかったから役得かな?

海未ちゃんはとっても変な人です。

人の心のことはすぐ気づくのに、自分の事になったり関連することになると途端に鈍くなります。

きっと、自分にはこんな魅力はないって思っているんだろうなぁってことりは思います。

もっと好かれていることを自覚すればいいのになって。

そうすれば自信のある行動ができるのに。


……ホントに、鈍いなって思うよ。

でもでも、友達……ううん親友を応援するのは当然です。

笑顔が見たいっていうのは本音です。

恋愛のことって言われてもことりも経験ないから正直わかんないっ!

だから、海未ちゃんのお話をじっくり聞くのと、

背中を押してあげることくらいしか出来ないんです。

ファイトだよ、海未ちゃん!

まずは通学路!

いつもは穂乃果ちゃんが真ん中だけど、海未ちゃんを真ん中にして……

穂乃果ちゃんとゆっくり話せるようにします♪

ことりのことは気にしないでって言っておいたから大丈夫……のはずだったんだけど……

海未「……」

穂乃果「……」

ことり(はぁ……)

海未ちゃんがなかなか重苦しい雰囲気を出しています。

うぅ……会話が始まらないよぉ……

海未「ほ、穂乃果は最近生徒会長として頑張っていますね」

ことり(……海未ちゃんぎこちない……)

穂乃果「うんっ! 絵里ちゃんや希ちゃんにいろんなことを教えてもらったから!」

ことり「あ、最近一緒に帰らなかったのって……」

穂乃果「そ、そうだよー! いつまでも二人に迷惑ばっかりかけてられないからね!」

海未「穂乃果……私たちのことを……そんなに」

ことり「穂乃果ちゃん……」

穂乃果「えへへ、それに用事も色々あったからね~」ルンルン

海未「上機嫌ですね」ニコニコ

ことり(なんの用事だったのかな……)

穂乃果「ちょっと生徒会室に寄ってくねー!」ランラン

ことり「それじゃ、またあとで♪」

海未「張り切りすぎて遅れないで下さいね?」

穂乃果「大丈夫だよー絵里ちゃんもいるから!」

海未「それなら大丈夫ですね」


……大丈夫なのかなぁ。

授業10分前になって穂乃果ちゃんは帰ってきません。

仕方ないので、ことりが呼びに行きます。

ことり「海未ちゃん、ことりお花摘みに行ってくるね!」ヒソヒソ

海未「わかりました。早く帰ってきて下さいね」

タタッ

万が一、何かが起こっていたら困るので海未ちゃんには嘘をついておきます。

何もなければ一番いいからね。

生徒会室のドア越しに、なにやら声が聞こえてきます。

談笑なら本当に良かったと、心から思っちゃいました。

扉に耳を当てると、苦しそうな、でも嬉しそうな声が響いてきました。

こっそり音が鳴らないように開けると、

ことりでも倒れそうな光景に出くわしました。

「穂乃果……」

「絵里ちゃん……ぁっ」

抱き合ってキスをしてるだけ。そう言えればどれだけ楽だったのかな。

海未ちゃんの恋は想いを伝える前に、終わっちゃったんです。

もう一つ失敗をしちゃいました。放心状態になったのが……最大の失敗。

海未「ことり?」

ギィッ

身体がビクッとして、つい扉を押してしまったのです。

穂乃果「うぇええっ!?」

絵里「あっ……」

身体を重ねている二人。穂乃果ちゃんが馬乗りになってる。

わぁ、積極的。

なんて、ことりは耐性ある……はずだけど海未ちゃんは……

あれ?


振り返ると海未ちゃんは遠くに居ました。

ことり「待って! 海未ちゃん!」

当然、聞く耳なんて持っていません。

一目散にことりの視界から消えちゃった。

教室に戻ると、海未ちゃんは普通に座っていました。

普段と同じように、背筋をピンと伸ばしていて凛々しい海未ちゃんです。

ことり「ギリギリセーフで間に合ったかな?」

ちょっと舌を出して、海未ちゃんに話しかけます。

海未「ことり、遅いですよ」

にっこりと笑った海未ちゃんは、なんだかとても歪に見えました。

怖いよ、海未ちゃん。

穂乃果ちゃんも遅れて入ってきました。

衣服が微妙に乱れていて、ボタンも2.3個無くなってました。

上気した顔は……走ってきたことに……

これじゃあ海未ちゃんじゃなくても不純です。って言いたくなるよぉ。

当の海未ちゃんは……

海未「おはようございます、お楽しみでしたね」

……笑ってそのセリフは、ことりも初めての経験です。

穂乃果「あ、あはは……」

まんざらでもない穂乃果ちゃんはとても幸せそうでした。

昼休み、穂乃果ちゃんは絵里ちゃんとお昼のようです。

海未「ことり、保健室に連れて行ってください」

ことり「う、うん……」

有無を言わせない言葉の強さです。

保健委員の特権というか、理事長の娘というせいか……先生が居なくても鍵はあるのです。


海未ちゃんと二人っきり……

いつもならドキドキするはずなのに、今は危うさしか……

でも、いいよね。



海未ちゃんが笑顔になってくれるなら。

海未ちゃんは強いってよく言われるけど、そんなことなくって。

物理的には強いけど、精神的に脆いっていうか……

慣れてないのかなって。内なる痛みとかに。

海未「……ことり」

ことり「なぁに、海未ちゃん」

海未「私の恋は終わってしまったのですね」

ことり「……そうだね」

海未「……私は最低です。友人の幸せを素直に祝えないんですから」

声が震えてるのが伝わってきて……

海未「……無駄だったんですかね、この想いなんて」

強がってるのが分かっちゃって……

ことり「海未ちゃん……もう言わなくてもいいよ……」

抱きしめてしまいました。

こんなときなのに、海未ちゃんって華奢だなって、改めて感じました。

そこからは海未ちゃんは堰を切ったように、泣き出しました。

ことりにできることは全部しました。

頭を撫でてあげたり、肩を叩いてあげたり。

背中をポンポンしてあげたり、相槌を打ったり。


一番多いのは自責の念でした。

どうして祝福できないのか。

どうしてもっと早く行動しなかったのか。

全部自分のせいにしちゃうんです。



絵里ちゃんが悪い、穂乃果ちゃんが振り向いてくれない。

そんな風に人を責めたりしないのが凄いなって。

……ことりが守ってあげないと。

尊敬できる生き方だと思うよ。

でも、そんな風に生きていくだなんてとっても難しいんだよ。

だから守ってあげる。

海未ちゃんのことを誰よりも好きだから。

ことり「ねぇ、海未ちゃん」

海未「はい……」

ことり「ことりは海未ちゃんの包帯になってあげる」

海未「保健委員だからですか……?」

ことり「うん、そんな感じ♪」

海未「……ありがとうございます」


嘘、ついちゃった。

意味は一番近いところでぴったりとくっつけるから。

これは私の恋心から。


後、もう一つ。




報われない恋心はきっと捨てなくちゃいけないから。

とりあえずここまでです。お疲れ様です。

ことりが何をどうやっても穂乃果ちゃんに勝てないことはわかっていました。

それは日常の仕草を見ていればなんとなく察しちゃう。

海未ちゃんと穂乃果ちゃんはどこか深いところで繋がってるんです。

喧嘩もしたりしちゃうけど、それって仲がいいからなんだよね。


……ことりじゃどうやっても、ダメなんです。


でも、海未ちゃんのあんな姿を見てしまったら、助けない選択肢なんてありません。

今日の練習……海未ちゃんはぼろぼろでした。

取り繕った笑顔、覚束ない足取り……全部が上の空でした。


幸いにも、お昼休みに保健室に行っていたことを告げて、早々に離脱出来ました。

あの空間は海未ちゃんには辛すぎるよ……

海未「すみません……無様な姿を……」

ことり「ううん、気にしないで海未ちゃん」

海未「はい……」

多分、あの光景がフラッシュバックしてるんだと思います。

励ますようにちょっとだけ強く手を握っても、何の反応もないんです。


ことりじゃやっぱり力不足なんだね。


これから海未ちゃんはどんどん、崩れていきそうです。

何とかしないと、どうにかなっちゃいそうです。


……どんなことをしてでも守ってあげないと。

海未ちゃんを家に返した後、少し離れて電話をしました。

ことり「ねぇ、今大丈夫かな」

「海未ちゃん大丈夫だった?」

ことり「うん、大丈夫……話がしたいんだけどいい?」

「んー練習も終わったし大丈夫やよー」

ことり「公園で待ってるからね……希ちゃん」

希「うん……ええよ、後一時間くらいでそっちに着くよ」

ことり「うん、待ってるから」

ピッ


……仲間は多い方がいい。そうだよね。

小さいころの、思い出の詰まった公園。

皆で木登りをした大木や、誰が一番重いかを競ったシーソーもある。

海未ちゃんは鬼ごっこの時は必ず手加減してくれてたなぁ。

穂乃果ちゃんはブランコで一回転しそうになってたし。


一応手で埃を払って……ゆっくりと長椅子に腰掛ける。

希「んー待たせちゃった?」

ことり「ううん。今来たばっかりだったから」

希「それで、ウチだけ呼び出してどうしたん?」

わかってるくせに。……いやわかってないかもしれない。


ことり「一応確認だけど、絵里ちゃんの背中を押したのって希ちゃんだよね?」

希「……そやね」

そっか、奥手の絵里ちゃんが動いたのはやっぱり希ちゃんのアドバイスだった。


……聞けてよかった。

ことり「察しのいい希ちゃんならわかるだろうけど、海未ちゃんどうなってると思う?」

希「……傷ついてると思うよ」

ことり「そうだよね、わかってるはずだよね」

希「でも、絵里ちだって毎日悩んでたんよ」

希「だから、助けてあげた」

希「それが絵里ちの幸せならウチはなんも文句は……ないんよ」

……一歩どころじゃなく、もっと早ければなぁ。

ここから海未ちゃんは負けてたんだよね……


ことり「……どうして自分でなんとかしようとしなかったの?」

希「はは……ことりちゃんがそれを聞くん?」



希「ウチじゃ力不足なんよ。絵里ちの最高の笑顔は…………私じゃダメだった。それだけ」

…………


希「でも後悔はしてないよ、いつまでも絵里ちのこと……想ってるかもしれないし」

希「好きって気持ちは、捨てなきゃいけないものでもないから……ね」

そういう生き方も嫌いじゃない。

むしろ凄い尊敬できるよ、希ちゃん。

……でもそれって、親友が幸福だから言えることであって、

今のことりと海未ちゃんには全く適用されないんだよ。

ことり「希ちゃん」

希「……ん」

ことり「海未ちゃんが立ち直るのに協力して欲しいなって♪」

希「……絵里ちに害がなければ手伝うよ」

希「海未ちゃんが傷ついてるのは見たくはないからなぁ」

……無条件にうんって言ってくれれば、楽なんだけどそうも行かないよね。


ことり「わかった、ことりがもし困ってたら助けてもらうね」

ことり「今日はありがとっ♪」

ことり「やることやらないといけないから今日は帰るね」

明日は早い。早くならざるを得ない。


希「…………ことりちゃんだって自信を持てば……」ボソ

ことり「?」

希「なんでもないで。それじゃあねことりちゃん」

まずは心強い仲間を増やせた。

同時に、最大の敵かもしれないけど。

これからやろうとしてることは、バレたらきっと海未ちゃんに嫌われちゃうかも。

……でもいいや。海未ちゃんが笑ってくれるなら。


ことりのこと憎んだって、嫌ったって、もう見たくないって言われたって。

海未ちゃんを想う気持ちはずっと変わらないから。


あはは、バレないようにやらないと。きっと海未ちゃんも罪悪感、持っちゃうから。

……あ、忘れてた。希ちゃんに言っておかないと。


メール送信っと。



『明日の練習、ユニットごとに練習するって絵里ちゃんにお願いしておいてね』

長い一日がようやく終わりそう。

……海未ちゃんが無理するのをどうにかしないとなぁ。

言って聞くような性格ならいいんだけど……

言いくるめるしかないね。

そのための早起き。

穂乃果ちゃんと喧嘩した時って大体そういう行動に出ちゃうから……


幼馴染しかきっとわからない。だって隠すんだもん。

穂乃果ちゃんは絵里ちゃんと幸せだから……


ことりが何とかしないと……!

もう23時。寝ないとね。

深夜3時。身体がすっごく重たいけど気合で起こす。

んぁ……絶対間違ってるよぉ……

顔を冷水で洗った後、ようやく目が覚めた。

楽観的に考えちゃダメ。常に……最悪を考えないと……

希ちゃんも色々考えてはくれそうだけど、絵里ちゃんが一番だからね。

ことりの一番は海未ちゃん!


……書き置きして、制服に着替えて……学校に行かないと……


「行ってきます」

小さく呟いて学校に向かうのでした。

まぁ、案の定というか……校庭で元気に走ってる海未ちゃんが居ました。

その顔からは大粒の汗が見えます。

さて、今は何時でしょうか。3:45分です。


……一体いつから走ってるんだろうね。

こんな生活を続けていたら間違いなく壊れちゃいます。


……一回壊した方がいいのかな。そうすればことりだけを見てくれるかもしれません。

そういう海未ちゃんを介抱するのにも憧れがないとはいえません。

でもそれをやって、最悪の……もしが起こったら……

大好きな海未ちゃんがいなくなったら……その恐怖のほうが耐えられません。

だから、この考えは最終手段です。

ことり「海未ちゃん、おはよっ♪」

海未「はぁ……はぁ……ことり?」

体力のある海未ちゃんが息を切らしています。

海未「っ、こんな時間にどうしたんですか?」

ことり「海未ちゃん、それはことりのセリフだよ?」

ことり「ねぇ、いつからやってたの?」

じーっと瞳を見つめると逸らされました。

海未「……30分前に来たばかりです」

ことり「海未ちゃん、それ本当? ことりの目を見て……言って?」

海未「……3時間前です」


……ちょっと重症かも。

ことり「寝ましたか?」ズイッ

海未「……う、ことりちょっと怖いんですが……」

ことり「寝 ま し た か ?」

海未「……ことりの付き添いでなら寝ました……」

呆れました。完全に夜通しです。

海未ちゃんらしさが悪いところに出ちゃうのは……悪いなぁ。

ことり「ほら、保健室で寝るよ?」

海未「えっ、でもっ、学校には……」

ことり「守衛さんには話せばいいし、鍵は持ってるしほら!」グイッ

海未「あっ……」

抵抗する力も弱々しいです。ことり程度の力で引っ張れちゃうんだから。

海未「こっ、ことり! 職権濫用です!」

ことり「……今のことりは聞く耳を持ちません」

海未「いいじゃないですか……もういいんですよ……」

ことり「…………」

海未「はは、滑稽ですよね笑ってくださいことり」

海未「こんなことしても何の意味なんてないのに……」

海未「でも、寝るとあの光景が……」

ことり「……忘れたい?」

海未「出来るなら忘れたいです。でも無理ですよそんなこと」

ことり「まずは、寝よう?」

海未「はい……」

ことり「あ、汗ちゃんと拭いて着替えてね、制服持ってるしょ?」

海未「わ、わかりました……見ないでくださいね……」

するりと衣擦れの音がする。

振り向いて見たい欲望もあるけど我慢我慢。

ぷちっと外す音が聞こえて……

ぱさりとベッドに置かれるのがわかる。


……うぅ、見たい。

生殺しです神様ぁ……。

一瞬、ちらっとなら……!

海未「終わりました、ことり」

ことり「ぴぁああっ!?」

海未「どうしたんですか!?」

ことり「な、なんでもないから寝ようね!」

海未「は、はい……それではおやすみなさい」

ドキドキしたぁ……

もう、海未ちゃんはずるいよ!

ことりばっかりドキドキさせられて……!

…………ことりに海未ちゃんがドキドキしてくれることってあるのかな……


成り行きで手も握ったのに……あはは。

感じちゃう嫉妬はもう慣れちゃった。

どうにもならないもん、嫉妬は。


すーすーと寝息が聞こえてきた。

起こさないようにそっと指を絡めて、海未ちゃんの体温を感じる。

無防備な寝顔がとても愛しく感じるよ。




ね、海未ちゃん。ことりが傍にいる時だけでもいいからゆっくり寝てね。

そんな願いも虚しく、海未ちゃんがうなされ始めました。

……ことりがキスしたら、そんな悪夢見なくなるのかな……

ううん、そんなわけないよね。


ことりじゃダメだから……

穂乃果ちゃんに似てる……凛ちゃんがいいのかな。

希ちゃんも協力してくれるし、後は海未ちゃんが意識してくれれば……

凛ちゃんには海未ちゃんのために積極的にスキンシップをするように言えば……

自然に惹かれてくれれば、いいんだけど。

……花陽ちゃんの意思も確認しないと。

絵里ちゃんとのイチャイチャも見せなくてすむし……

ユニット作戦、決行だね♪

海未「ん……ほの……か…………」

ことり「……海未ちゃん、授業始まっちゃうから起きよっか」

海未「あ……ことり、すいません」

ことり「少しでもそう思うなら、しっかり寝てね?」

海未「面目ありません……」

しゅんとしてる海未ちゃん、とっても可愛い。

曇らせちゃいけない。この笑顔は。



昼休みに花陽ちゃんに会わないと……ね。

――――――昼休み――――――

幾分か、海未ちゃんの調子は戻ってたね。

……相変わらず穂乃果ちゃんのこと、ちらちら気にしてたけど。


その恋愛の情は、もう呪いになっちゃってる。

だから解いてあげないと。


ことり「花陽ちゃんいる?」

凛「かよちんーことりちゃん呼んでるよー!」

真姫「ん、花陽何かあったの?」

花陽「ことりちゃんどうしたの?」


ことり「Printempsの話でちょっと……一緒にご飯食べてくれる?」

花陽「……うん、わかったよ。凛ちゃん、真姫ちゃん行ってくるね」

凛「行ってらっしゃーい」

真姫「ふーん、BIBIでの会議もありそうね」

凛「……凛たちもあるかも!?」

ことり「……ねぇ、花陽ちゃん」

ことり「……真姫ちゃんの事好き?」

花陽「げほっげほっ」

ことり「だ、大丈夫!?」

花陽「す、すいません……いきなりどうしたのことりちゃん……!?」

ことり「最近、真姫ちゃんと仲がいいなって思って♪」

花陽「う……しっかり見られたぁ……」ショボン

真姫ちゃんと花陽ちゃんが付き合っていればいいんだけどなぁ。

ことり「付き合ったりしてる?」

花陽「あ、そういうのじゃなくって……」

ことり「やっぱり凛ちゃん……?」

花陽「……いや、その……友達以上で見たことがないっていうか……」

ちょっと意外だったかも。でもそれなら楽だね。

ことり「海未ちゃん最近、元気が無いのは知ってる?」

花陽「うん……私も心配で……」

ことり「スキンシップの得意な凛ちゃんの力を借りたくて……ね」

花陽「どうして私に?」

ことり「例えば、凛ちゃんと花陽ちゃんが付き合ってたら気まずくなっちゃうでしょ?」

花陽「優しいね、ことりちゃん」


ううん、もし好きって言ってても仕向けるつもりだったから……全然優しくないよ花陽ちゃん。


ことり「あはは、ありがとね花陽ちゃん」

花陽「……ことりちゃんは海未ちゃんのこと……」

ことり「好きだよ。ずっと」

花陽「なら……」

ことり「花陽ちゃんは……好きな人いる?」

花陽「い……いません……」モジモジ


嘘つくの……下手だなぁ、花陽ちゃん。

ことり「人を好きになるってとっても辛いよ」

花陽「楽しくはないの……?」

ことり「自分に好意が向けられてれば……ね」

花陽「ことりちゃん…………」

ことり「ん、ごめんね。ことりのことはどうでもいいの」

花陽「ダメだよ! 自分のことそんなふうに言っちゃ……!」

ことり「いいの。ことりはこれでいいの、花陽ちゃんありがと」

花陽「うん……」

ことり「大切な昼休みにこんなこと話して……ごめんね」

ことり「今度いくらでも埋め合わせするね花陽ちゃん♪」

花陽「……じゃあ今度町に一緒に行きたい……です」

ことり「わかった、楽しみにしてるからね」バタン



花陽「ことりちゃんのほうが大丈夫じゃないよ……」ボソリ

海未ちゃんを立ち直らせるために手は打った。

後はどう転ぶかだけ。

爆弾なんていくつでもある。

考えられるだけでも、大きいのがひとつ。

穂乃果ちゃんと絵里ちゃんが海未ちゃんの前でいちゃつくこと。

それを防ぐためにどうにかこうにか……

希ちゃんと花陽ちゃんを味方につけたし、大丈夫。


きっと凛ちゃんと……似合ってるよ。二人とも。

凛ちゃんでダメなら違う方法を考えていけばいい。


ことり「あ、あれ……?」

涙が止まらない。止めようとしても、どんどん溢れ出てくる。



胸の疼きが収まらない。内側から心だけを、抉られている感じ。


いずれ捨ててもらうのに。そのために一生懸命だなんて物好きだね私は……



本当に恋愛の気持ちなんて……呪いだね♪

一生かかってもこれは消えないよ。くすくす。

今日はここまでです。お疲れ様でした。

――――そう、大丈夫なんて言っても淡い夢でしかなかった。


どう転ぶか? もう急転直下だよ。

あれだけ頑張ったのに、ことりの作戦なんて無駄だった。


穂乃果「私……ぅ絵里ちゃんと付き合ってます!」

絵里「ほ、穂乃果が皆には伝えておいたほうがいいって……//」


放課後の練習時にしれっと告白してきました。

ひょっとしたら勘違い……なんて一縷の望みも消えてしまって……

ことりもちょっと動揺してます。希ちゃんは引きつった笑顔を浮かべています。

他の人は素直に祝福しています。



……海未ちゃんも。

驚くほど何もなかったのにびっくりして……

海未ちゃんが吹っ切れたのかな、なんて思ったりして。


ちょっとでも報われたかもしれない。

頑張りがほんの少しだけでも、心の支えになれたなら、それはそれで幸せだなって思っちゃって。


肝心の現実から目を逸らしちゃいました。


海未「ことり」

練習終わりに不意に話しかけられて、ちょっとどっきり。

海未「鍵、貸してくださいね」

何一つとして抑揚のない声にびっくり。


鍵を渡すと海未ちゃんは皆に一言、用事があると言って屋上からいなくなりました。

ことり「ことりも用事があるからー!」

希ちゃんに目配せをして、早々に海未ちゃんの後を追いました。

保健室で……何をするつもりなのか。


一人で泣いてるかもしれない。

傍に居て…………傍にいてあげて……



ことりには何が出来るんだろう?




――――ことりでいいのかな?

不幸中の幸い……って言っていいかわからないけど、

鍵が内側からかかってるなんてことはなくって……

本当に海未ちゃんには悪いけど覗き見をすることにしました。


あ――――


声にならない叫びが出ました。心のなかで反響しちゃってます。


髪型を鏡に向かって一生懸命変えていました。


後ろに髪を束ねて結っている。それがすごく似合っていて可愛い。


でも、悲しくなってきます。もう届かないのに。



ねぇ、海未ちゃん。絵里ちゃんのポニーテール真似しても、もう意味が無いんだよ…………

ことり「海未ちゃん!」

もう止められなくって、勢い良くドア開けて。


海未ちゃんに抱きつきました。


海未「あ…………」

その声から驚きと諦めと悲しみと……なんか色々なものがぐちゃぐちゃに混ざってた。


どうしようもなく辛いはずのに、海未ちゃんは笑ってことりの頭を撫でてくれます。


優しい指が、髪を梳いていって気持ちよくって顔を上げると、光のない瞳がことりを捉えていました。



海未ちゃん。海未ちゃんの目の前には誰が映ってるのかな。




……別にことりじゃなくてもいいよ。海未ちゃんさえ立ち直ってくれるなら。

数分経ってから、ようやく海未ちゃんはことりのことを認識してくれた。

海未「ことり……!? 見ていたの……ですか」


あはは、おかしいね♪

ことりはずーーっと近くに居たのに。

自分の存在の小ささを知っちゃって。


海未ちゃんの中に、ことりはいないことを理解しちゃって。


あーあ。とっても悲しいかな。


なんて思う心とは裏腹に。


鏡に写った顔は笑っていた。

海未「ことり……何がそんなに可笑しいのですか……?」

戸惑う顔がとても可愛くて。

真似をする仕草がとっても素敵で。

歪んでる笑顔が見たくなっちゃって。

泣いてる心を包み込みたくなっちゃって。


海未ちゃんが欲しくて。欲しくて。


ことり「海未ちゃん、それは絵里ちゃんの真似かな?」


くすくす♪ 次はどんな顔を見せてくれるのかなって。

海未「……っ」

苦虫を潰したような表情がたまらない。

あはは。どうせ、自分の存在がちっちゃくて目に入っても居ないなら……

何をしても……もういいかなって。

ずっと幼馴染だったのに、ことりのこと何も知らないのかな。

自分じゃダメだって納得させてきた。

それが本当のことだってことも知ってる。




それでもことりは……

もっともっと色々な海未ちゃんを知りたい。

ことりだけが知っている海未ちゃんが欲しい。


ことりだけを見てくれる海未ちゃんが……

ことり「ねぇ、海未ちゃん」

この気持ちがもう抑えきれなくて。


ことり「穂乃果ちゃんたちとおんなじこと……しよ?」

自分のワイシャツのボタンを外して……海未ちゃんの肩に手を当てて。


ことりは、海未ちゃんになら何をされたっていいんだよって。

ずっとずっと傍に居て離れないよって伝えたくて。


目を閉じて、そっと顔を近づけて。

海未ちゃんの温もりを唇で感じようとして――――




海未「やめてください。ことり」




拒絶された。

ことり「あ……ごめん……」

わかってた……はずなのに。

どうしてこんなことしちゃったの……


一番近いはずだったのに。一番そういうことが嫌だって知ってたのに。

海未ちゃんの気持ちをなんにも考えないで……

海未ちゃんなら許してくれるって思ってたの?



――――なんて思い上がり。


ことり自身の幸せを求めちゃって。

何が、海未ちゃんの幸せがことりの幸せ……なんて欺瞞を重ねて。

全身の熱が冷めていく。


胸のドキドキは嫌なものに変わって、

冷や汗しか出てこない。




そうだよ、ことりが全部悪いんだ……力不足なんだよ……

どうやったって……穂乃果ちゃんみたいにはなれないのにっ……!

そこから先のことは覚えていない。

あるのは後悔だけだった。


改めて心に刻みこんだよ。

ことりじゃ、ダメってことが。

認める度に心が痛くなるけど。

胸を掻き毟りたくなっちゃうけど。




……去り際の海未ちゃんの視線が忘れられないよ。

海未ちゃん、今日のこと憎んだって、恨んだっていいから。



ことりもこっそり色々するから……

海未ちゃんだけは幸せになってね。



ことりは……私は疲れちゃった。

でも頑張らないと…………ね。

今日はここまでです。お疲れ様でした。

眠れない。

心底悲しんだような視線が拭えない。

海未ちゃんはあの時、何を伝えたかったんだろう。


わかってるのは拒絶されたって事実だけ。

ことりはもう、海未ちゃんの笑顔見れないかも……


…………罰だよね。仕方ないよ。

大丈夫、ことりは明日にはいつも通り。



……いつも通りってなんだっけ。

好きだよ、海未ちゃん。

こんな簡単な想いを伝えられなくて。


大好きだよ、海未ちゃん。

挙句の果てには拒絶されちゃって。


愛してるよ、海未ちゃん。

消せない想いだけが残っちゃって。



喋らない人形に夜通し話しかけて。

好きですよ、ことり。

そんな幻聴まで聞こえちゃって。


大好きですよ、ことり。

そんな甘い言葉が聞きたくて。


愛しています。ことり。

叶うはずのない夢を微睡みの中で感じて。


悪夢のような朝が迎えに来ちゃった。

一人での登校は何時ぶりかわからない。

でも、いいやって思えるほど諦観してた。


海未ちゃんはことりのものじゃないから当然だよね。

あぁ、穂乃果ちゃんがいたから自然と一緒になってただけかも。

今の結果は仕方ないよね。


海未ちゃんにとって、ことりの価値なんてそんなものだもんね。


もう溢れるものなんてない。

ぐっしょり濡れたお人形さんはことりの代わりに泣いてくれたから。

教室内はとっても苦痛でしかない。

海未ちゃんはことりのことを見ないようにしてるし、

穂乃果ちゃんを見ても、

よくわからない表情を浮かべてすぐにどこか違う場所を見てる。



当の穂乃果ちゃんはとーっても幸せそうで、常ににこにこ。

好きな人と一緒だったら当たり前かもしれないね。



…………羨ましいな。


一瞬湧いた羨望の感情に蓋をして、すぐに無機質なものに取り替える。

ことりにとってそれは、もう必要な物じゃない。


昼休みには速やかにやらないといけないことがあるからね。

昼休み、脇目をふらないで一年生の教室に。

どうせ止められることもないし……ね。


教室の中を覗いて……あ、いたかな。



凛「あ、ことりちゃんだにゃー!」

真姫「花陽にまた用事?」

花陽「……ことりちゃん」

花陽ちゃんの顔が曇ったのが凄いわかっちゃった。ごめんね。


ことり「凛ちゃんにお話があるんだけど……いい?」

凛「皆で一緒じゃだめかな?」

ことり「うん、ちょっと二人でお話がしたいの」

花陽「凛ちゃん、行ってあげて?」

凛「うん、わかったー!」

ことり「ありがと、花陽ちゃん」


凛ちゃんの手を引いて屋上に。

ことり「凛ちゃん」

凛「な、なに?」

あれ、そんなにことり怖い顔してるのかな。少し怯えてるような……?

ことり「今日はユニットで練習するのは知ってる?」

凛「あーかよちんがそんなこと言ってたかも!」


ことり「ちょっとお願いがあってね……」

凛「凛でいいなら聞くよことりちゃん」

ことり「海未ちゃんといっぱい話して元気にさせてあげてね?」

凛「元気のない海未ちゃんは嫌だから、凛頑張るよー!」


やっぱり素直な子って可愛い。

ことり「可愛くなったね、凛ちゃん♪」

凛「そ、そんなことないにゃー!」ダダッ


あらら、逃げられちゃった。

……髪型サイドテールにしようとしたのに。

やることやったらすごく眠くなっちゃって……

保健室でゆっくり休もう。

授業なんて出てもつまらないし、

体調崩して迷惑かけるのも嫌だから。


……今日一回も声、聞いてないなぁ。


……

…………


……………………

今日はここまでで……おやすみなさい。

頑張った甲斐もあったかな。

海未ちゃんがだんだん元気になってきた感じがする。

ことりも海未ちゃんの笑顔を見れて嬉しい。


……海未ちゃんがことりに笑顔を向けてくれることはなくなっちゃったけど。

海未ちゃんの気持ちを考えなかったことりが悪いんだもん。


ことりと目が合うとすぐ逸らしたり。

気まずそうな表情になっちゃう。


最初は幸せな海未ちゃんが見れてよかったって思ってたけど。

やっぱり辛いね。辛いよ。


海未ちゃんの幸せにことりはいない。

ことりの幸せの中心には海未ちゃんがいるのに。


そういう現実を積み重ねていく度に、どんどん世界から色が消えていった。

二週間もすれば、しっかり立ち直ってた。

希ちゃんのフォローや、凛ちゃんのスキンシップがとっても良かったんだね。


海未ちゃんとまるっきり会話をしないなんてわけじゃない。

衣装の調子はどうですか。とか事務的な話は結構するんだよ。


……ちゃん


そんな下らない会話のはずなのに、

心が少しでも躍っちゃうことりは、おかしいかもしれないね。


……りちゃん


動揺するのを隠して、取り繕った笑顔をすることにも慣れちゃって。

本当の気持ちなんてどっか行っちゃった。


花陽「ことりちゃん!」

ことり「え、あ、花陽ちゃんどうしたの?」

花陽「ずっと呼んでたんだよ? 最近元気が無いけど……」

ことり「あはは、ことりは……」

大丈夫って本心から言えないからうなずくだけにしちゃった。

花陽「指、絆創膏いっぱいだけど……」

ことり「これ、衣装作りの時ちょっと裁縫針が……」

嘘はついてないよ。

花陽「無理しちゃだめだよ、ことりちゃん!」

いつもより強い口調で念を押される。花陽ちゃんにしては珍しい。


ことり「最近、夜に海未ちゃんと話したりしてるから元気だよ」

笑ったつもりの表情で微笑みを返したはず。

あぁ、海未ちゃんの笑い声が聞こえてくる。

夜、裁縫針を手にとって衣装を作り始める。

アイデアなんて浮かばなくって、どんどん深いところに行く気分。


色々なことを心のなかで反芻して、負の感情が思考を満たし始めてきた。


ねぇ、海未ちゃんと話したのはいつだっけ?

ねぇ、海未ちゃんは誰に笑顔を向けてるんだっけ?

ねぇ、海未ちゃんの一番近くに居るのはだぁれ?



ねぇ、海未ちゃん


ことりが居なくなっちゃっても、何も変わらないよね。


ちくりと針が刺さる。真っ赤な液体が、青色の人形に一滴落ちる。


大丈夫ですか! ことり!


そんな声を暗闇の中で聞いた。


世界で一番、癒やされる声。

あはは、大丈夫だよ海未ちゃん、海未ちゃんは心配症だなぁ。

心から笑える至福の一時が始まる。

海未ちゃんが確かにこの空間にいることを感じられる。

ことりだけのことを考えてくれて、ことりを一番に想ってくれている海未ちゃんがいる。


最初は夢だと思ってた。いや、今も夢かもしれない。

でも、指の傷は目が覚めても消えないし、温もりも感じてる。


……どうでもいいよね。些細な事だもん。


半分は自覚してて、でも信じたい自分が居て、あやふやな空間。

ことりにとってはとてもいい世界。


…………ずーっとここにいれたら……いいのに。


ずっとずっと、海未ちゃんと話せたらいいのに。

他愛もないことを話すことが楽しい。

どうでもいいことを話せることが嬉しい。

声を聞くだけで愛おしい。


だめだ、ことりはやっぱり海未ちゃんが大好きだって。

現実で拒絶されてるなら、せめて夢の中でもって。

弱い弱いことりの心が作り出した、こうでありたいっていう願望なのかなって。


ここには優しさに溢れていて、誰も傷つかない。

そもそも、海未ちゃんと二人きりだからそんな心配もないね。うふふ♪

海未ちゃんが立ち直る二週間の間、ことりはずっとこの世界に浸っていた。


喋ってくれない海未ちゃんを待ち続けるのがすっごく辛かったから。

後悔だけが積もっていって、自責の念が重くて……


どうしてあんなことしちゃったんだろうかって。

あはははははっ、この海未ちゃんがここにことりを呼ぶためだったのかなぁ。


寂しがり屋だなぁこの海未ちゃんは♪

そんな風に言うと決まってむすっとするのが可愛くって。


ことりが求めると海未ちゃんは温もりをいーっぱいくれる。

体が火照って、海未ちゃんが欲しくなる。

我慢しなくていいですよ。ってはにかんだ海未ちゃんがことりを抱きしめてくれる。


……もう、何もいらない。

海未ちゃんがいるなら、もういらない。

全部、無くなっちゃえ。

今日はここまでです。

ひどく、この世界にいるときは攻撃的になってる気がするね。

……この良い夢は絶対覚めちゃって、終わることのない現実っていう悪夢が始まっちゃう。

現実の海未ちゃんは冷たい。


ことりが悪いんだもん。


二週間って結構長いようで短いようで、時間の感覚もあやふやになって来て。

一刻も早くあの海未ちゃんに会いたくてたまらない。


えへへ、海未ちゃんに褒められるのが嬉しい。


――今は夢? 現実?


そんな簡単な事も忘れかけてるんだ。

にこ「ちょっと! ことり!」

そんな声で今に引き戻された。何の話だっけ……


にこ「あんた、衣装の方進んでないようだけど間に合うの?」

ことり「あ、うん……イメージがちょっと……」


嘘。何も考えてない。でもにこちゃんはとっても察しが良くって、ことりの指を見て、理解してくれたみたい。

にこ「ことり、根を詰めすぎないようにね?」

ことり「……ごめんね、にこちゃん」


にこちゃんは人一倍敏感だと思う。独りの時が長かったから……かな。


感心半分、懺悔半分。今のことりは衣装なんて作れない。

ユニット作戦は継続中で、海未ちゃんはすこぶる機嫌がいい。

ことりが話しかけなければっていう前提なのが悲しいけど。


遠くで見るだけで、仲睦まじいのが伝わってくる。

当のことりは衣装作りで、にこちゃんと花陽ちゃんと一緒にとんとんとん。

結果、絵里ちゃんと希ちゃんと穂乃果ちゃんが一緒に。


どんどん期日が近くなっていくから仕方ないね。

というより、ことりが進めてないからしびれをにこちゃんが切らしたみたい。


ありがと、にこちゃん。

練習が終わって、足早に家に帰ろうとすると呼び止められた。

花陽「あ、あの……一緒にどこかに行かない? ことりちゃん!」




そういえば、前に約束してたっけ。

「約束はしっかり守るものですよ、ことり」

そうだね、海未ちゃん。約束は守らないといけないよね。

「それでこそ、私のことりです」

私の、だなんて恥ずかしいよ海未ちゃん♪




ことり「うん、前からの約束だったね、いこっか♪」

花陽ちゃんはちょっと驚いてたけど、すぐに笑顔になって横に並んだ。

――――真姫ちゃんと凛ちゃんに後押しをされた。


勇気を出して、誘ってみた。


最近のことりちゃんはとっても痛々しく見えちゃった。

助けてあげたい。支えてあげたい。


微力かもしれないけど、こんな私でも支えになれるなら。

そして、その先のことも考えちゃう。




――――私にチャンスはありませんか。


――――貴女を想うことさえ許されませんか。

久々に海未ちゃん以外の人とゆっくり話しいる気がする。

ことりは海未ちゃんと夜通し話しっぱなしだったから、新鮮に感じちゃった。


この話も、海未ちゃんにしてあげよう。

海未ちゃん、なんていうのかな。


花陽ちゃんのこと可愛いって言ったら、ことりはふくれちゃうかも。


今は花陽ちゃんの話をいっぱい聞いて、海未ちゃんに話そう。


海未ちゃんの驚く顔、感心した顔が見れるかもっ♪

花陽「でね、今はこのアイドルグループが主流で……!」

ことり「μ’sより人気なのかなぁ?」

花陽「順位は私達より低いけど……今、人気急上昇中のピックアップアイドルだから!」



ことり「ふわふわ~マカロン美味しいなぁ~」ホワーン

花陽「甘くてほっぺたがとろけそう……」

ことり「花陽ちゃんは、お米と甘いものどっちが好き?」クスクス

花陽「うぅ……主食とデザートは別物だよぉ……」

ことり「いじわるな質問だったかな♪」



花陽「この服かわいい……」

ことり「花陽ちゃんなら似合うかも!」

花陽「えええっ!?」

ことり「ほら、早速試着してみようよ?」

花陽「ピャァァァッ」

誰かといる時間って思いの外進むのが早いんだね。

海未ちゃんと一緒の時だけだと思ってた。


花陽ちゃんの笑顔がキラキラしてる。

うん、可愛いよ。花陽ちゃん。


花陽「ことりちゃん……」

ことり「なぁに、花陽ちゃん」

花陽「海未ちゃんと最近……どうなの?」




ことり「昨日もずっと話してたよ」


花陽「海未ちゃんと……?」

ことり「うんっ」


花陽ちゃんの顔が酷く曇った。

――――――――――――

……ことりちゃんが思っているより、ユニット作戦は強力だった。

凛ちゃんから聞いてる。お泊りするくらい仲がいいんだって。


昨日も凛ちゃん達といるはずだから、絶対にそんなことはない。

ことりちゃんは……誰と話してるの……?


花陽「ねぇ、ことりちゃん……?」


だめ。これを聞いたらもう戻れない。


……ことりちゃんとせっかく仲良くなれたのに、崩れちゃうかもしれない。


……でも…………でも…………!



花陽「……それって、本当に海未ちゃん?」




ことりちゃんから笑顔が消えた。

冷たい視線が私を捉えて離さない。

それから、ぽつりぽつりと呟くようにことりちゃんが話し始めた。


現実の海未ちゃんは事務的な最低限の話しか、してくれない。

笑顔を向けてくれることがなくなったこと。


あれだけ……頑張ってたのに……ことりちゃんは。


海未ちゃんを怒らないでね、悪いのはことりだから。

そんな一言を告げて、懺悔のように言葉を流す。


とてもつらい。助けようとした一心が、報われないモノになっている。


そんなの……そんなのってないよ……!


やめさせようとして、ちょっとでもいいから包もうとして――――


ことり「花陽ちゃん、ことりのこと可哀想だから近づいてくれるの?」


瞳に目一杯の涙をためて、その言葉を投げかけられた。

違う――――

そう言いたいのに、即答できなかった。


少しだけでもそういう気持ちがなかったかというと嘘になる。


あはは、やっぱり花陽ちゃんは優しいねって頭を撫でられた。

冷えきった指先が、とっても気持ちいい。

こんな状況なのに顔が紅潮しちゃって、真っ直ぐ見つめられて。



大丈夫だよ、ことりには海未ちゃんがいるから。なんて言われて。




貴女に一生届かないことを教えられて、見えていたはずの闇を突き付けられて。


「ごめんなさい……」


気づけば私は謝っていた。

ことり「ううん、ありがとね花陽ちゃん」


違うの、違う……言いたいのはそうじゃなくって……!


ことり「海未ちゃんが待ってるから、もう行くね?」



矛盾に満ちた一言。さっきはアレだけ話してくれないって言ったのに。

見えてるものが違ってる。

きっと心が逃げちゃってるんだって。

そして、それを否定したら……



ことりちゃんは、ことりちゃんじゃ無くなっちゃうって確信が持てたよ。


……私じゃダメなら……もう一人しか居ないよ。



頼るしかない。海未ちゃんに。

とりあえずここまでで。

ことりちゃんの姿が見えなくなってからすぐに電話を取り出した。

『ねぇ、海未ちゃん。今ことりちゃんの家にいるの?』

『何を言っているんですか、花陽』


……やっぱり、違う。

『話したいことがあるから公園で待ってるよ』


『は、花っ』ガチャ


……待つだけ。それしか出来ない。

しばらくしてから海未ちゃんが来た。

海未「花陽! 一体どうしたんですか!」

花陽「海未ちゃん、最近ことりちゃんとどうなの?」

海未ちゃんが目を逸らす。……海未ちゃんのせいなんだね。


花陽「知ってる? ことりちゃん、もうだめかもしれないよ」

海未「な……どういうことですか!」


花陽「……海未ちゃんのことずっと好きだったことに気づいてあげられなかったの?」

海未「ことりが……私のことを…………?」


花陽「海未ちゃんって残酷だよ……」

責めるつもりはそんなになかったのについ言ってしまった。

だって、ことりちゃんが可哀想で……

海未「ことりは……私に…………!」

花陽「……ことりちゃんが海未ちゃんを立ち直らせようとしてたのは知ってる?」

海未「……はい」


花陽「ユニットも、凛ちゃんも希ちゃんも……皆ことりちゃんが言ってくれたんだよ?」

海未「…………」


花陽「答えて、ことりちゃんのお願いどうして聞いてあげなかったの……?」

海未「それ……は…………」


花陽「……行ってあげてよ。きっとことりちゃんが待ってるから」

海未「しかし……わかりました……」

花陽「……絶対連れ戻してね」

海未「はい……」


海未ちゃんの後ろ姿を見送った。


私に出来るのはここまで。



うぅっ……

涙が……止まらないよぉ…………

すいません寝てました。夜更新します。

そんなことは知らなかった。

そういえば嘘になる。


ことりが私のために尽力していたのはなんとなく知っていた。



でも、あえて触れなかった。

私は穂乃果のことが大好きで、それをことりに押し付けてしまうのが怖かった。


ことりのことは好きです。でも恋愛の情とは程遠い何かだ。


キスを迫られた時、ことりには自分をもっと大切にして欲しいと思いました。

私のために、そんな大切な行為をしてしまうのが許せなかった。


――――あれは間違いだったのでしょうか。

意地を張って、ことりに話しかけなかったりしたのは間違い……だったんでしょうね。


気恥ずかしさと気まずさが同居してしまって、何を話せばいいかわからなかったんです。


穂乃果がいたなら、こんなに気まずくならなかったんでしょうか……

説得聞いてくれるんでしょうか。


ことりのお母さんに家のドアを開けてもらい、階段を登りことりの部屋の前に辿り着いた。


コンコンと戸を叩く。

海未「ことり入りますよ」


その声に対して反応はない。


怒っているのでしょうかと思い、静かに扉を開いた。

部屋には電気はついていない。月明かりだけがことりを照らしている。


人形のようなものを抱いているのがわかり、電気をおもむろにつけてしまった。


海未「こ……とり…………?」


人形は指先から滴る血液で赤く染まっている。

よく見ると、ことりの綺麗な指先は見る影も無くなるほどにぼろぼろだ。

ぽつりと声が聞こえる。


海未ちゃん……海未ちゃん。。。うみちゃん


私の名前を呼んで、いた。


海未「ことり! しっかりしてください!」

これだけ近くにいて、身体を揺さぶったにも関わらず、眼の焦点が合っていない。


ことり「えへへぇ……海未ちゃん大好きだよぉ……」

張り付いたような笑顔が私に向けられた。

海未「ことり! ことり!」

必死に戻そうと叫んだ。

一瞬ことりの瞳に光が戻り、私を見てくれた。


ことり「あ……海未ちゃん……あはは、来てくれるわけないよね。夢かな……」

また、光が失われた。


ことり「今日は……どうやって愛してくれるの、海未ちゃん」


海未「何を言っているんですか、ことり!」


ことり「海未ちゃんが近くにいるってことは……夢なんだね、まだ……」

ことり「だって、現実の海未ちゃんはことりに冷たいから……あははっ♪」


ことりの指が私の頬を撫でる。

海未「……申し訳ないです。ことり……」

この言葉は届かない。ことりの心に届くことはない。


ことり「ねぇ、海未ちゃん……好きだよ……えへへ」

どうすれば……いい。

言葉が届かないなら、行動で示すしかない……


ことりは私を求めている。

なら、私はそれを受け入れればいいだけだ。

そうすれば、何の問題もない。




あぁ。これは親友を傷つけた――――罰だ。

そっと唇を落とす。

ことりは目を瞑って待っていてくれたようで、すんなりと受け入れてくれた。



ことり「今日の海未ちゃんは情熱的だねっ♪」

喜愛に満ちた声が耳に通る。

もう一度口づけを交わした。

ことりが壊れてしまうくらいに抱きしめた。


海未「ごめんなさい……ことり……」

ことりには懺悔の声は聞こえていない。

頬に伝う涙を舌で掬い取られた。


ことり「海未ちゃんに涙は似合わないよぉ?」

海未「そう……ですか」

ことり「昨日は何を話したんだっけ、一昨日は――――」


私の知らない園田海未とことりは話していたようです。

全ては私が招いてしまったんです。

なら、私のできることは……

数日後、私の隣にはことりがいる。

ことり「海未ちゃん、今日は学校だね♪」

海未「そうですね、良い天気ですから練習もできますね」


あの夜を過ぎてから、私たちの関係は大きく変わった。


ことり「ことりの左手は空いてますよぉ」

海未「はい、ことりは仕方ない子ですね」


指を絡めて手を繋いだ。


ことり「夜に急に家に押しかけたらだめだよぉ海未ちゃん」

海未「……っ。すいません」


昨日、私は自宅に居た。ことりはまだ現実と夢の区別がつかない状況だ。


ことり「ねぇ、海未ちゃん。ことりは海未ちゃんを愛してるよ♪」

海未「…………」

ことり「海未ちゃんは?」

海未「わ……」

もう割り切ったことだ。ことりが帰ってくるまで一緒に居なくてはいけない。

湧き上がる色々なものを消す。そう、ことりのことが大切だから。


海未「私も愛していますよ、ことり」


空虚な言葉が、静かに空間を満たした。


FIN

お疲れ様でした。期間が空いてしまって申し訳ないです。

それではまた次回どこかでお会いしましょう。それでは。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月21日 (木) 13:31:11   ID: 5Dqz0q-_

ことうみって元々どっちかが誰かのことが好きだったんだけど、最終的にはことうみになる作品が多いね

2 :  SS好きの774さん   2014年09月01日 (月) 10:13:56   ID: bhiilKwq

ワンパ

3 :  SS好きの774さん   2014年09月16日 (火) 01:29:45   ID: fpbeNbvu

もとに戻すためにほのえりが首突っ込んでさらに泥沼悪化みたいな続きがみたい

4 :  SS好きの774さん   2014年09月16日 (火) 01:52:32   ID: uZAVKsfu

海未「ことりのためなら私は…」

5 :  SS好きの774さん   2014年09月16日 (火) 11:44:43   ID: y4XmkG4q

またテンプレかと思ったが
救われないことうみ落ちで満足よ

6 :  SS好きの774さん   2014年09月16日 (火) 15:47:47   ID: YJoZEs5m

いいドロドロだった

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