P「ファイナルデスティネーション」 (65)

映画ファイナルデスティネーション シリーズとアイマスのクロスです
映画のパロディですので思い切りネタバレを含みます
また暴力的な表現等がふんだんに含まれますので苦手な方は注意してください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408198201

明日から765プロ全員で慰安旅行を兼ねた撮影。
パリのホテルに皆で泊まれるという太っ腹な企画なんです。

春香母「春香、今亜美ちゃんと真美ちゃんのパパから連絡があって明日三時半に拾いにくるって」
春香母「空港に行く車は五時に事務所を出るそうよ」
今日はその前日、ママと荷物を確認中です
春香父「パパのスーツケースはどんなだい?」
そう言われてケースに視線を移すと元から付いていたタグに手をかけていた
春香「ちょっとママ!やめてよ!」
春香「これってつまり前回のフライトが無事だった証なわけで・・・だから外さずに付けておきたいんだよね」
ママは少し呆れが顔でうなずくが、パパは気持ちを解ってくれたのか少し笑ってこちらを見ている
春香「なんていうか・・・お守りだよ」
春香母「もう、くだらない事言って!誰の受け売り?」
そう言いつつママは遠慮無しにタグを破く
春香父「生き証人ならここに」
春香「あはは・・・・」

春香父「で、17歳が親元を離れ友達とパリを満喫する慰安旅行・・・楽しんで来いよ春香、人生はこれからだぞ」
パパの口から出たそんな言葉にちょっと感動しつつ笑顔で答える
春香「もちろん!いっぱい楽しんでくるよ!」

「白線内は出入りの際の一時停車専用となっております、駐車はご遠慮ください」
「それは無理よ!私今空港に居るんだから!」

アナウンスや利用者達で少し騒がしい空港前で車から皆の荷物を下ろす

亜美「ひびきーんてつだってあげるよ→」
亜美が重そうなバッグを響ちゃんの肩にかける

響「ありがとう亜m・・・うぎゃーー!」
想像していた重さを遥かに超えるバッグのせいで響ちゃんはバランスを崩して尻餅をつく

響「うー・・・亜美!覚えてろよぉ!」

やはり旅行前だけあって皆いつもよりテンションが高い
かくいう私も楽しみで昨日はしっかり眠れなかったのだ、年少組である亜美真美がはしゃぐのも仕方ない

律子「こら亜美!馬鹿なことしてないで手伝いなさい!」

P「あっぴゃっぴゃーうんちゃらフラァンスゥ」

今回の旅行の為にフランス語を猛勉強したプロデュサーさんがドヤ顔で何か言っているがスルーだ。
正しいフランス語なのかも解らない上に正直、超恥ずかしい。周りの人の視線が痛いから関係者だと思われたくなかったりする。

千早「プロデューサー、今なんて言ったのかしら?」

真美「さぁ?全くわかんないよ!」

双海父「これ、亜美と分けなさい」
双海さんは真美の服の内ポケットにお金を入れる

亜美「真美ぃ二人の、だかんね!二人の!いいね!?」

双海父「亜美、はしゃぎすぎだ」


ー空港内ー

貴音「はぁ・・・」

貴音さんがベンチに腰掛けて新聞を読みつつため息をついていた
皆がうるさくしている中でもキャラがぶれない貴音さんはやはりどこか不思議な感じがする
私は窓の外の飛行機を見ていたが、自分でもよくわからない胸騒ぎがするのは何故だろう?
旅行は当然楽しみだし忘れ物もないし・・・

真美「はるるーん、トイレですよ!トイレ!」

そんな中、暢気な声で真美が話しかけてくる
私の台詞を勝手に改悪してるし・・・

春香「トイレくらい一人で行ってきなよ・・・子供じゃないんだしさ」

真美「チッチッチ・・・わかってないですなぁはるるるん」

真美「飛行機内のトイレは換気も全然出来ないような密室、でも機内食でなんか食べたら途中で催す可能性大だよ?」

真美「そんでトイレで用を足したあとに兄ちゃんに入られたらはるるんは嫌じゃないのかねぇ?」

うむ。真美にしては正論だ。私だって思春期の女の子、そういう事には敏感なお年頃なのである。
ここはおとなしく真美の意見に従ってトイレに寄ろう。

トイレ内では音楽が流れていた。
どこか聞き覚えのある歌なので誰の歌だか思い出そうとすると案外簡単に思い出せた

春香「あ・・・ジョン・デンバーの曲だ、飛行機事故でしんだ・・・・・」

思い出せた理由はこれか。空港なんだからそういうのには気を使ってほしい。飛行機が苦手な人だっているのだから・・・
そんな思いが通じたのだろうか、流れていた音楽は途絶えて代わりにアナウンスが流れる

「お待たせいたしました。180便、搭乗手続きを開始いたします。」
アナウンスから少し遅れて隣の個室から水の流れる音が聞こえる
私ももう出よう。それにしても音姫ってすごい発明だといつも思う
アナウンスは終わり、またジョン・デンバーの曲が流れ出す
一抹の不安を覚えつつも、トイレを後にすることにした

飛行機に乗り込む通路の途中、窓の外を見ると雷が鳴っていた。
今の私の不安な気持ちを表したような天気だ。
もう見るもの全てが不吉に感じてしまう、飛行機の禿げた塗装、機体と通路の間から見える車、どれも何かを暗示しているような気になってしまうのだ
機内には赤ちゃんの泣き声が響いていたが、これさえ不安に感じてしまうのだから自分でも不思議だ

伊織「あら、ついてるわね。赤ん坊のいる飛行機なら神様だって落とせないわ」

伊織の言葉で不安は多少和らいだ。
私が怖がっているのを感じての発言か偶然かは解らないが、伊織のこういうところが竜宮のリーダーに向いている理由の一つなのだろう。

皆が席に着き始めるが、誰がどこに座るかで多少もめているようだ
少しすると真が私の座る席に来た。私の隣に座りたいのだろうか?かわいいやつめ

真「ごめん春香、席交換してもらってもいいかな?雪歩と二人で並びたいんだけど・・・伊織に言っても代わってくれなくて」

どうやら私は変な勘違いをしていたようで、少し恥ずかしくなる
だが断る理由もないので快く代わってあげよう

春香「ん、いいよ」

真「ありがと春香、ほんといい人だねぇ」

雪歩「ありがとう春香ちゃん・・・ごめんね、わざわざ・・・」

春香「いいんだよーいいのいいの、お易い御用だよー」

想像していた理由と違ったので少しだけ卑屈になりつつ席を移動する
席についた振動で備え付けのテーブルが降りてきた
このままじゃ邪魔なので元に戻そうとするが固定用の金具が外れてしまって戻せない
仕方ないので乗務員の呼び出しボタンを押す

響「お、遅れてごめんなさい、自分の席あっちであってますよね?」

響ちゃんが乗務員に確認をとり、席につく
すると機内アナウンスが流れ始めた。おそらくもうすぐ飛ぶのだろう、仕方ないからテーブルの件は後だ
アナウンスではベルトの閉め方、非常口の場所などを説明していた
怖くて仕方が無いのでしっかりと確認しておく

乗務員も席に着き、いよいよ飛行機も移動を始める

怖くて不安でどうにかなりそうだ
遊園地のジェットコースターなんかは安全が確保されてるからいいけど飛行機は何があるかわからない
窓の外の小降りになった雨、機内照明の点滅、乗客の声、全部不快でしょうがない
それでも機体は加速し、窓の外の景色の流れも次第に早くなる
そして機体は傾き、無事に離陸した

P「アッピャーッシッミョーウッタフンダーピャァァッ」

プロデューサーが両手を上げて万歳する
すると事務所の皆や他の乗客達も万歳して喜ぶ、こういう事をしなさそうな律子さんでさえ笑顔で拍手している
そういう事が寧ろ私を不安にする
だが機体の揺れもなくなり、隣に座っている真美を顔を見合わせて笑う
これで安全だね、と

次の瞬間機体が大きく左右に揺れた
機内灯もチカチカと点滅を繰り返し、乗客も悲鳴を上げ始める
段々と悲鳴は大きくなり、事務所の皆を含めた乗客全員がパニックに陥る
そんな事も気にせず揺れ続ける機体、ついには非常用のマスクが垂れてきた

P「皆!はやくマスクをつけろ!!」

比較的冷静なプロデューサーが指示をだす

貴音「・・・っ!!んっ・・!!!!」

いつも冷静だった貴音さんは私の後ろの席でおびえている様だ
それも当然のこと、私なんてマスクを付けるのでさえ震えて手間取るくらいだ
マスクを付け終わた時、左側から何か大きい音がした
飛行機にとって重要な何かが破損した、そんな音
機体の左側ははがれ落ち、中の空気は全部外に流れ出す
座席ごと吹き飛ばされる乗客

小鳥「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ああぁぁぁっ!!!!!!」

律子「!!!!!!!!」

飛ばされそうになる小鳥さんを、律子さんが掴んで押さえる
しかし女性の腕力では引き戻すこと等無謀で、小鳥さんは外に投げ出され爆風に巻き込まれた

春香「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

もう声も出せない

また、どこかで爆発があったみたい

誰かの血が顔にかかっちゃった

でも関係ない

どうあがいたって逃げられない

熱い

爆風は私の体を焼いてくる

熱い

痛い

旅行・・・たのしみだったなぁ・・・・・・

真「・・・か!春香ってば!」

春香「!!!!!!!!」

気がつくと目の前には真が居た
どうやら私は夢を見ていたらしい。飛行機に対する不安から悪夢を見たのだろう

真「ごめん春香、席交換してもらってもいいかな?雪歩と二人で並びたいんだけど・・・伊織に言っても代わってくれなくて」

この台詞には聞き覚えがある。夢の中でも真が同じ事を言ってきた
だとしたら正夢というものなのだろうか、事故は本当におきるのだろうか
混乱した頭をフル回転させて確かめる術を考える
そうだ、金具、夢では移動した先の椅子に付いている金具が外れたのだ

春香「っ!」

急いで伊織の隣の席に向かう
真や春香は不振そうな顔をしているが今はそんな事どうでもいい

伊織「きゃあ!ちょ、ちょっと春香!」

伊織を飛び越えてあの席につく
夢通りならここで前の席に付いたテーブルの金具が外れるはずだ
考えるより先に手が伸び、簡単にその金具が外れた
疑惑が確信へと変わる
私がみたあの夢は正夢や予知夢と呼ばれるものだ

乗務員「どうかなさいました?」

P「春香、どうした?」

乗務員やプロデューサーさんがそんな声をかけてくる
おそらく事務所の皆や他の乗客も口にはしないだけで同じ事を思っているだろう

春香「どうした!?この飛行機爆発するんですよ!!!!」

私は伊織を乗り越えて通路へと出る

律子「ちょっと春香!!!いい加減にしなさい!!」

美希「さすがにシャレにならないの」

真美や美希は私に対して怒りを露にしていた

乗務員「冗談かおふざけのつもりでしたら・・・

春香「冗談じゃないんです!!!」

乗務員の言葉を遮って伝える
しかしこの場に居る誰一人として信じてくれない
私は見たのに、事務所の皆が死んで私も焼け死ぬ光景を

真美「ちょ、ちょっとはるるん落ち着いてよ」

真美は私を宥めようと声をかけてくる
だが今の私には逆効果だ、早く皆に伝えねばと必死に声を荒げる

律子「もうそこまでよ春香!降りなさい!!!」

乗務員「静かに出来ないなら降りていただきます」

ああ是非そうしていただきたい
そうすれば私だけはあの爆発からは逃れられる
しかし事務所の皆はどうなるか?あの光景の通りに苦しんで死ぬだろう

律子「いい、私が降ろします!」

律子さんが服を掴んでくる

しかし複数の乗務員に押さえられて私も律子さんも身動きがとれなくなる

美希「ちょ、ちょっと!律子を話すの!」

乗務員「降りてください!通路に居る人はみんな降りて!!」

響「ちょ、自分席に座りたいんだけど!ねぇ!そこ自分の席なんだってば!」

小鳥「あぁ・・・皆!そのまま落ち着いて待ってて!動かないでよ!」

私と律子さん、美希と響ちゃんと小鳥さんは乗務員と一緒に飛行機を降りる
しかしこのままでは皆死ぬ
なんとかしなくては

春香「皆早く降りてえ”ぇ”ぇえええええ!!!!」

アイドルの命は声というが全力を出して大声で叫ぶ

貴音「・・・っ!」

亜美「ちょっと真美、ひびきんの様子見てきてよ・・・・」

真美「わ、わかった!」

それに続いて飛行機からは貴音、真美が降りる

乗務員に引きずられて待合室まで出てきた

律子「・・・・!!・・・・・!!!!!」

相変わらず律子さんは大声で私に文句を言ってくる

美希「ねぇ!いい加減離すの!」

美希は警備員に対して大声を上げる

響「ねぇ自分関係ないって!チケット!ほらチケット!」

響ちゃんはよくわからないが飛行機を降りたようで安心だ
しかしまだ機内には残っている、はやく降ろさなくてはならない

警備員「これは命令だ、誰一人機内に戻すな」

小鳥「ま、待ってください!私、機内に残ってる子達の引率もしなきゃ行けないんです!」

警備員「こちらの立場も考えて頂きたいものですね」

小鳥「解ります、貴方の立場もよぉおおく解ります!でも大人が一人はついてないと・・・・

警備員と小鳥さんがそんなやり取りをしている
私も少し落ち着いてきたようだ
あれは夢、もしかしたら何かの勘違いだったのかもしれない
そんな考えを巡らせていると通路から貴音さんが出てきた

律子「んんっ!!」

警備員がそちらを見た一瞬の隙に律子さんは私に掴み掛かってこようとする

P「律子やめろ!」

真美「余計なちょっかい出さないでりっちゃん!」

それをプロデューサーと真美が静止する
律子さんは事務所の皆から少々怒りっぽいとは思われているがここまで怒りを露にするのは初めてかもしれない
それほどさっきの私は異様だったのだろうか

小鳥「ぷ、プロデューサー・・・」

警備員との話し合いが終わったらしい小鳥さんが涙目でプロデューサーさんを呼ぶ
話を聴く限りどうやら機内に戻れるのは一人だけらしい
それ以外は一つ遅い飛行機でパリに向かうようだ

P「あぁ・・・・それじゃあ、俺が残るよ」

小鳥「ええ嫌そんな駄目ですよ・・・だってプロデューサー、頑張ってフランス語勉強したじゃないですか・・・」

P「んん・・・」

プロデューサーが飛行機へと向かう

響「ねぇプロデューサー!自分トイレの鍵が開かなくて遅れただけで!喧嘩とは何も関係ないんだぞ!」

そんな響ちゃんを横目に乗務員はドアを閉める

響「うぅ・・・」

真美と小鳥さんが私に付きっきりで居てくれている
真美は空港内のレストランからおしぼりを貰ってきてくれたりと面倒見が良い
今日はやけに大人っぽいというか、頼りがいがあるのは姉としての自覚というような物が芽生えてきているのか
私の方が年上なのに、真美に汗を拭いてもらうと凄く落ち着く

美希「こんなのってないの・・・」

窓の外を見ていた美希が呟く
飛行機が移動を開始したらしい
あの夢は今でも鮮明に思い出せる
真の台詞、外れた金具、どれもが夢と一致しているんだ
偶然にしては出来すぎている
本当に、本当だとしたら今乗っている人はみんな死んでしまう
自分が助かった事で安心していたが事務所の内数人はまだ機内なのだ

小鳥「春香ちゃん?何があったのか話して貰える?」

信じてもらえないかもしれないが、まだ間に合うかもしれないんだ
正直に全て離そう

春香「み、見たんです・・・」

ああ声が震えている
落ち着かなきゃ信じて貰えないのに

春香「なんて言えば良いかよくわからないけど・・・滑走路について離陸する場面を見たんです」

春香「座席について窓から地面を見てて、そしたらいきなり大揺れしだして左の方が吹き飛んで、最後に全部爆発したんです・・・」

春香「それが、ほんと、すっごいリアルなんです、夢とは思えない位に・・・・」

真美「その言い方じゃ吹き飛ばされた経験あるっぽいよ?」

小鳥「それは只の夢にすぎないのよ・・・?」

やはり二人とも宥めるだけで信用はしてくれない
どちらにしろ飛行機はもう滑走路だ、今更手遅れではあるのだが

律子「嘘でしょう?飛行機からつまみ出されて撮影も送らせる羽目になったのは春香の夢のせいなの?」

また律子さんが突っかかってきた
怒っていたのは撮影に影響があるかららしい

律子「この飛行機爆発する!助けて!?亜美でもそんな事言わなかったのよ!?」

どうしてここまで嫌味を言う必要があるのだろう
律子さんはプロデューサーという立場、怒るのも解るが少し位私の心配もしてくれてもいいじゃないか

真美「ちょっとりっちゃん・・・!流石に言い過ぎじゃあないのかな!!」

小鳥「真美ちゃん、やめなさい」

無性に腹が立ってしまう

響「あぁーもう飛んじゃったよ」

春香「律子さんなんて・・・・」

ああ駄目だ

春香「律子さんなんて」

心にも思ってない事を言ってしまう

春香「飛行機にのってればよかったのに!!!!!」

言ってしまった
これから私たちの間に空いた溝はもう埋まらないだろう

響「嘘でしょ!!!!???」

響ちゃんの大きな叫び声

少し遅れて

窓ガラスが吹き飛んだ

私は理解するまでに時間はかからなかった

割れた原因は

飛行機が爆発した爆風だ

美希「きゃぁあ!」

貴音「!!!!」

私の見た夢は正夢だった
あの夢のとおりに事務所の数名

プロデューサー

あずささん

伊織

亜美

千早ちゃん

雪歩

やよい





飛行機の中で

炎に焼かれながら
死んだのだろう

今、ここにいる私たちだけ生き残ってるんだ

やかましいサイレンの音が鳴り響く
私たちの泣き声や叫び声をかき消すように
声が出ない
今、空で皆が死んだ
さっきまで楽しくしゃべっていた事務所の仲間が
「赤ちゃんが乗っている飛行機は神様も落とせない」
そんな伊織の声が脳裏をよぎる
神様なんていないんだね

律子「・・・・・・!」

律子さん、そんな睨まないでよ
私だって怖いんだ
もっと上手くやっていれば皆も救えたかもしれなかったのに

小鳥「ぁ・・・うぅあ・・・あ”う”ぅ・・・」

小鳥さんは嗚咽を上げながら私を睨む

なんで皆、私を見るの?
私は何も悪くないよね・・・?なんで・・・?


私たちは警備員につれられて小さな部屋に入った
人数分用意された椅子に座りつつ壁にかけられたふと時計を見る
響ちゃんと目が合った
事故から何時間経ったのだろう
ずっと、皆が気持ち悪いものを見るような目で睨んでくる
私だって辛いのに

春香「私のせいみたいに見ないで」

皆が私から目をそらしだす

春香「私がやったんじゃない」

皆もそれくらい解っているはずだ

小鳥「助かった人いるの」

とてもあの小鳥さんとは思えないような憎悪のこもった低い低い声
その言葉を聴いた真美もこちらを見る

春香「・・・わかるわけないでしょ」

春香「勘違いしないで、私は

貴音「霊能者じゃない」

言おうとしてた事を先に言われた
貴音さんなら私が見た夢の事何か知ってるのかもしれない
何と声をかけようか迷っているうちにドアの開く音が静寂を破り数人の男性が入ってくる
最初に入ってきた人は運輸安全委員会と名乗り、私たちの家族に迎えに来るよう電話してくれた事を伝えてくれた
「現段階で治療を受けたい人は居るか」などと質問し始めたが、小鳥さんがそれを遮って発言した

小鳥「ねぇ、どうなってるんです?助かった人っているの?」

男は苦虫をかみつぶした様な表情で爆発の原因も生存者もわかって居ないと言う
小鳥さんは大きなため息をついて貧乏揺すりを始める

そして今度は別の男性が自己紹介を始める
どうやらこっちは刑事らしい
「あなた方の気持ちはよぉく解りますが」と、全く心のこもっていない社交辞令
結局、全員事情聴取を受けることになった
やたらとこちらを睨んでくるのは気のせいではないらしい
私を疑っているようだ

刑事「こう言ったそうだね、この飛行機は爆発する と、なぜ解ったんだ」

絶対にこの質問をされるとは思っていたが答えようが無い。

春香「予感がしたんです・・・・不吉な予感が・・・・」

嘘はついていない

刑事「睡眠薬や鎮静剤を飲んだかね?あるいは幻覚剤や麻薬の使用経験は?」

こんな質問までされるとは腹がたつ
これまでの私の人生を否定されたような気分になる
どうせ言っても信じないならこんな無意味な事は最初からやらなければいいのに

春香「いいえ」

少しきつい口調で答える

春香「見えたんです、そうなるのが・・・見えたんです、飛行機が爆発するのが」

刑事「その予感と爆発直前に秋月さんに言った『お前も乗っていればよかった』という言葉は関係あるのか?」

出来る事ならその言葉は取り消したい
爆発があって、沢山の人が死んで改めて思った
少しでも、数人でも生きていてくれて良かったって

春香「・・・関係、ありません」

刑事「じゃあ何故そんな事を?」

春香「ほ、本当になると思ってなかったから・・・・」

刑事「本当になると思っていなかったのに、なんで飛行機から降りた」

ああ駄目だもう答えられない
これ以上話しても余計疑われるだけだ

真美「妹が、はr、天海さん見て来てって・・・」

真美「そう、私に言ったんです」

真美「だ、だから・・・亜美は、亜美はそのまま、中に残ってて・・・!」

真美「亜美に言われて、降りたんです・・・亜美に・・・・・」

小鳥「あ、あの人は、俺が残るって言ってたのに、私が!私が『駄目、貴方が乗って』って言ったんです」

小鳥「・・・・・・・・」

小鳥「私が彼を、私が彼を乗せたんです」

刑事「あぁ・・・君は降ろされた訳でもないのに、天海さんと特別仲のいい訳でもないのになぜ降りたんだね?」

貴音「春香が必死に叫んでいるのを聞き・・・・信じたから、でしょうか」

皆の事情聴取が終わり、元居た小部屋に戻る
私は落ち着かなくて立ち歩いていた
しばらくするとドアが開き、見慣れた顔が見える

春香母「あぁ!春香!!」

春香「ママ!」

ママの顔を見たら自然と涙がこぼれてきた

春香父「春香・・・」

ママとパパと私、三人で抱きしめ合う

生きている実感を噛み締めながら声を上げて泣く
私の両親に続き、他の皆の家族も入ってくる
今、双海さんと目が合った
亜美が死んだのはお前のせいだ、と言っているように感じる
私じゃない
私のせいじゃないのに

その後はもう解放された
各々、両親の車で家に帰る
貴音さんは両親とも遠くに住んでいて、外は雨も降っているから私の家の車で送る事になった
無言の車内、雨音がよく聴こえる
話そうにも話題が無いし、そもそも誰も話す気力は無いだろう

貴音「ありがとうございました。もうこの辺りで充分ですよ。」

お礼の言葉を述べ、貴音さんが下車する
窓の外など見ていなかったから気がつかなかったが随分と辺鄙な処に住んでいるらしい

貴音「春香、お気を確かに」

貴音さんが心配してそんな言葉をかけてくれた
雨の中家へと歩く貴音さんを見送りもせずに車は出た

私は家に着くと二階の自室へと向かった
一緒にパパもママも来てくれる
見慣れた部屋に戻り、楽しかった日常を思い出してまた泣いた
ママが優しく抱きしめて頭をなでてくれる
しばらくの間この暖かさを感じていても・・・バチはあたらないよね・・・

テレビの声で目が覚める
180便というワードが聴こえたから昨日の事故のニュースだろう
ニュースいわく飛行機に乗っていた乗客は全員死亡だそうだ
そんな言葉を声音一つ変えずに読み上げるキャスターに腹が立つ
765プロのアイドルが飛行機に乗っていたという事も報道されていた
海から機体を引き上げている様子が流れている
また涙が溢れ出す

薄暗い部屋が大きな音と共に一瞬光った
飛行機に乗り込む途中で窓から見たのと同じ、雷
その音が皆の笑顔を思い出させてまた胸を締め付けた

あの事故から一ヶ月ほどたった
今日は追悼式だ
小鳥さんは終止泣き続けている、あの事故以来一番精神的に参っているのは小鳥さんだ
今日、事務所の仲間と共に多くの命を奪った事故の記念碑が建てられた
そういえば久しぶりに皆が集まった気がする
記念碑に花を添えにいく途中で律子さんにささやくように言われた
「あの記念碑に私の名前がないからって、貴方に借りを作ったつもりなんてないから」

私だって貸しを作ったつもりなんてない
春香「わかってます、それくらい」

律子「でもあの子達には借りがあるの、あの子達の分まで生きてやるわ」

記念碑を指差して強い口調で言い放つ

春香「なら、お酒なんてやめたらどうですか?」

律子「っ!二度と私に指図しないで、私の人生よ口出ししないで!」

律子さんは事故以来お酒を飲んでいるらしい
辛いのは解るがほめられた事ではない
喧嘩になりそうな私と律子さんの間に美希が割り込む

美希「今日くらい喧嘩はやめるの」

律子「・・・そうね」

あれから美希と律子さんは随分と仲良くなったらしい
常にこの二人で行動しているような気がする
大人しくなった律子さんに代わって響ちゃんがこっちにくる

響「なぁ春香、自分先週大きめのオーディション受けたんだけど合格してるかな?」

私は占い師や予言者じゃない
何度言えばわかるんだ

春香「うるさい!」

響「そ、そうか・・・」

ついキツい口調になってしまったがあの子なら大丈夫だろう
響ちゃんを尻目に花を添えに前に進む
小鳥さんがちょうど終わったところだったので話しかけたが
「気味が悪くてたまらないわ、話しかけないで」
と言い残して席へと戻ってしまった
もう気味悪がられるのには慣れたが知人にそういった態度を取られると少し心に来るものがある

私が花を置き終わると真美がすぐ近くに居た

春香「真美」

真美「はるるん」

春香「誤解しないで聴いてほしいんだけど、その・・・真美と居られなくて・・・寂しい」

真美「うん・・・真美もおんなじだよ」

真美「でも、パパが・・・ほら、わだかまってるからさ・・・」

春香「うん・・・」

真美「あぁ・・・パパが普通に戻ったら、また二人で一緒にさ、ステージで歌って、踊ろう・・・ね」

春香「うん、いいね、絶対そうしよう」

私は真美の頭にポンと手を置く
真美は服の袖で涙を拭ってから笑顔で「またね」と言ってくれた

あしたから本編です
それぞれのシーンでの視点は神視点になります

ーー真美宅ーー

真美「今日は色々疲れたかな・・・」

双海真美はあの事故以来、妹を思い眠れぬ夜が続いている
今日の追悼式で妹の死を強く実感したのだろう

真美「そういえば髪の毛、お手入れしてなかったな」

彼女はアイドルであり、身体が資本なのだが、ここ最近髪の手入れを怠っていたので前髪が少々不自然に伸びてる
普段であれば仕事の時にメイクさんに切ってもらうだが、気分転換も兼ねて自分で切る事にした
洗面所に向かう途中でソファで居眠りしている父を見かけたが、彼女なりの優しさでそのままそっとしておいた

ユニットバスの洗面所で鏡の前に立ち、散髪用鋏と櫛を取る
櫛で前髪をすくった時、開いていた窓から風が入り込み、大きな音をたててドアが閉まる
それを不快に思ったのか彼女は窓を閉める
その場から戻る途中でトイレに寄るが、長年暮らし使ってきた便器は老朽化し、配水管が緩んでいたのである
彼女がそこに座った事によりさらにその隙間が開き、少量ずつではあるが水が漏れだした
それに気づかずに用を足した彼女は再び鏡の前に戻り散髪を始める

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