王「平和すぎてやることがない」(21)

王「魔王でもいたらなー」

大臣「何を言ってるんですか、魔王は何十年も前に先代が倒したでしょう」

王「はい、いや知ってるんだけどもね」

大臣「暇ならこの書類に判子押してください」

王「あ、はい、えっと、そうじゃなくて他に何か」

大臣「何かというと?」

王「いや、えっと、ほら、何かこう判子押すだけじゃなくて、こう政治的な何かとか、こう」

大臣「あ、そういうのは王がいても足手纏いなのでいいです」

王「わあお……」

王「仕事も終わってしまった、判子押すだけだけど」

王「暇だなあ……大臣は何をしてるんだろうか」

兵「あ、王様、どうかしました?」

王「おお、大臣を見なかったか?」

兵「大臣様なら将軍様や国の重鎮の方々と重要な会議をなさっておりますが」

王「えっ、なにそれ、わし知らされてないんだけど」

兵「大臣様いわく『王に言っても分からない話だろうから別にいい』とのことで」

王「わしどんだけ信用ないの」

王「あのな大臣、流石に王が国の現状をあんま知らんのはいかんと思うんだが……」

大臣「言って何か分かるんですか?王に?」 ハッ

王「鼻で笑うな、いやその、わしが知らんところで重要な事件とか起きてるかも分からんし……」

大臣「今のところは大して問題はありませんよ、北の国と国境で問題が起きている程度です」

王「ええっ、そ、それ大問題じゃないの!?」

大臣「問題といえば問題ですが」

王「あわわ、どうしよう、ええっと、よく分からんけど、ここはわしが謝った方が」

大臣「王様」

王「アレだ、こう贈り物とか何かして穏便に事を済ませるとかそんな」

大臣「だまらっしゃい!」 

王「あわわ」

大臣「問題ないと言ったでしょう、既に手は打ってあります」

王「え、あ、そうなの?」

大臣「はい、もう北の国とは話し合いの為の使者を送り、向こうの将軍と話をつけることになりました」

王「あ、じゃあその会談にわしが」

大臣「ふざけないで下さい、王がそんなのに出たら足元見られて戦争ふっかけられるのがオチです」

王「えっ、何でそんな会うだけで戦争とか」

大臣「とにかく、そういうのは私達が優秀な外交官を送っていますから大丈夫です」

大臣「王は余計なことせずにアホ面でボーっとそこの玉座に座っててください」

王「アホ面は余計だと思うなわし」

王「うーん、改めてやることがない」

王子「父上!どうかなされましたか!?」

王「あ、王子よ、いや、それが何というか暇でな」

王子「ははは、良いではありませんか、父上は王様なのですからドンと構えておれば良いのです!」

王「いや、しかし王様だからこそ何もせんでおるのはその」

王子「王は王であることにこそ意味があるのですよ、父上こそが国の象徴なのです」

王「そんなもんだろうか、ところで王子は今から何を?」

王子「は、実は将軍と共に近頃ここらを荒らしている大規模な盗賊団を懲らしめに」

王「ちょちょちょ」

王子「はい?」

王「わしそんなん聞いてない」

王子「でしょうね」

王「息子ーーーッ!!」

王「ええっと、そのだな、流石に息子の出撃ぐらいは知っておきたいというかその」

将軍「はあ、しかし王子はもう既に何回か我々と共に出撃しておりますよ?」

王「そうなの!!?」

将軍「ええ、しかも毎回敵の首級を挙げるご活躍ぶりで、流石は伝説の勇者様の孫といったところ」

王「え、いや、それも知らされてないっていうか、わしも一応その勇者の子なんだけど」

将軍「……」

王「え、何で黙るの将軍、ちょっとこう、ねえ、何か」

将軍「……世の中には覚醒遺伝というものがありますから」

王「将軍ーーー!!!!」

王「うぐぐ……こう馬鹿にされては黙っておれん!」

王「ということでこの作戦の指揮はわしが取ることにした!」

王子「えっ、父上……大丈夫なんですか?」

王「ふふん、わしとて少しぐらいは戦術を知っているさ!」

王「よいか?まず陽動部隊を先発させて挑発を繰り返しだな……」

王「敵が出てきたところを待ち構えて本隊で包囲殲滅・迎撃するのだ!これでどうだ!」

将軍「王……ここの地形で包囲殲滅などできると?」

王子「父上、盗賊団の根城の周辺は起伏の激しい山岳地帯ですよ、陽動のリスクが高過ぎます」

王「ええ……じゃ、じゃあほら、騎兵をこう寄せて……」

将軍「どうやってそこに馬を寄せるんですか、そもそも山に騎兵とか無理ですし」

王「ええっと……それじゃあ……」

将軍「王……」 ポン

王「将軍……」

将軍「帰れ」

王「敬語すら消えた」

王「はあ……いかんなあ……政治も軍事も分からんとか……」

王「王としてこんなんで良いのだろうか……」

王妃「まあまあ、それでも国はちゃんとしているのだから良いじゃないですか」

王「それはそうなんだが……何とも釈然とせんというか……」

王妃「実際のところ無能な人が下手に仕事しても邪魔なだけですもの」

王「あれ?無能って言った?この嫁さっき無能って言った?」

王妃「せっかくの有能な部下がいるのですから下手なことしないで任せればいいんですよ」

王「いや、部下が有能なのは良いんだが……はあ……」 スタスタ

王妃「あら、どちらへ?」

王「いや、城下を見回れば何かすることもあるかなあと……」

王妃「何かあっても余計なことはしないで大臣に報告してくださいね?」

王「ちくしょおおおお!!!嫁にまでーーーっっ!!!!」 ダッ

城下

王「ふっふっふ、平民に化け城下を視察……」

王「ここで何かしらの問題を見つけ解決すれば大臣もわしを見返」

商人「あーっ!王様だー!」

シスター「あらあら、おはようございます、王様」

王「わあお」

商人「折角だしウチの商品買ってってよ、金あるんでしょ王様」

王「いや割と小遣い制限されてるから……じゃなくて何で速攻バレてるのよ」

商人「えー、だって王様人気者だし、結構城下でも目撃されてるしー」

シスター「こないだ子供と遊んでるところを見たって神父様が言ってましたよ」

王(だって他にやることないんだもの)

王「というか人気者?そうなの?」

商人「あれ?王様知んないの?国内じゃ結構な人気だよ?」

シスター「ちょくちょく城下に降りて平民とも分け隔てなく接してくれるとか」

王「ああ、うむ、それは……バレてたのは恥ずかしいんだが……」

商人「あと商人から税徴収しないっつってスゴイ商売が楽になったよね」

王「えっ」

商人「そのおかげであっちこっちから商人が来るわ来るわ客も回るわでさ!本当イイよここ!」

シスター「それに王様は宗教の自由も認めてくださいましたからね、他の国じゃそうはいかないんですけど……」

商人「他にもさ、詳しく知らないけど農地の整理とか、街を清潔にして疫病広げないようにしたりとかしてんでしょ?」

シスター「最近ではスラムの方々への就職斡旋なんかも行っているとか……ふふ、本当に王様には頭が上がりませんわ」

王「 」

王「大臣ーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」 バーン

大臣「何ですか、仕事中なんですが」

王「わしが知らんうちに城下で人気者になったり革新的な政策したりしてた!!!」

大臣「そりゃそうでしょう、わざわざ王に知らせてませんから」

王「商人優遇しまくってるとか宗教の何かアレとか何アレどうなってんの!!?」

大臣「詳しいことは判子押させた書類に書いてあった筈なんですがね」

王「……だって、ああいうの長くて難しいから読んでないし」

大臣「でしょうね」

王「じゃなくて、わしが聞きたいのは何でわしがやったことになっとるのかっていう!!」

大臣「まさか王様が何もしてないとは言えないでしょうに」

王「いやまあそれはそうだけども」

大臣「仮に王ではなく私や他の臣下が全ての政策を行っていたと言って」

大臣「その結果、王ではなく私を持ち上げるような世論になりでもしたらどうするんです?」

王「うっ、いや、どうするっつったって」

大臣「私は王にはなりたくありませんし、そんなことで国がゴタゴタしたら隙を突いて周りの国に攻め込まれるでしょう」

大臣「故に、全ての政策は場合によりますが王の行ったこと、としているのです、私も将軍もね」

王「大臣……」

大臣「それに国のトップが無能などと周辺国に知られたら、これまた厄介ですから」

大臣「ですので周りの国には王のことは『勇猛無双かつ優れた頭脳を持ち熱い志を持ちながらも冷静な完璧超人』としてあります」

王「うおおおおおおおおおおおい!!!!!」

大臣「何です?」

王「い、いくらなんでも盛り過ぎではないのかね、わ、わしはそんな」

大臣「だまらっしゃい!」

王「ひい」

大臣「とにかく王は今まで通りに椅子に座ってボーっとしててください」

大臣「それに加えてたまに城下に降りて好感度上げてくれればそれでいいです」

王「えー……いやまあ別にいいけどもさ……」

大臣「決して無駄に仕事をしようとしないように、いいですね?」

王「そこまで念押しされても……し、しかし大臣、実際のとこ何も仕事しないのは暇で暇で」

大臣「ではこれを差し上げましょう」 スッ

王「……あの、大臣、これは」

大臣「雑巾とバケツとモップです」

王「いや、それは分かるんだが……これはつまり……」

大臣「掃除でもしててください」

王「……ちくしょおおおお!!やったらああああああ!!!!」

数年後

王「ふっふーん」

王子「父上、また今日も掃除ですか?」

王「う、うむ、私にできるのはこれくらいだからな」

王子「私は構いませんが、これでは王としての権威というものが……」

王「ううむ……そのことなんだがな……」

王子「はっ」

王「わしな、そろそろ引退しようと思うんだが」

王子「はっ?」

王「うん?」

王子「何を言っているんですか父上!まだまだ全然元気ではないですか!」

王「う、ううん、確かにそうなんだが……どうせわしがいても大して役には立たんし……」

王「それにアレだ、お前ももう16だし……ぶっちゃけわしよりお前のが優秀だし」

王子「……しかし民は王を慕っているのですよ、勿論この私もですが」

王「んー……しかし……だな……」

王子「……」

王「……ぶっちゃけ掃除が楽しくてだな」

王子「はい?」

王「実際のとこ、いっそ城下に降りて清掃作業員になろうかと思うんだが」

王子「衛兵ー!父上を王の間に!!」

衛兵「ハッ!!」 ザッ

王「な、なにをするきさまらー!」

大臣「はあ、王を辞めたいと?」

王「う、うん、まあ」

大臣「別に身体を壊したわけでも何でもなく王を辞めたいと」

王「あ、ええ……うん」

大臣「馬鹿じゃないですか?知ってましたけど」

王「相変わらず主君に対する態度とは思えないほど酷いね」

将軍「王よ、この国は王がいることで安定しておるのです、気軽に辞めるなどと言われては困る」

王「え、ええー、ごめん……でも王子のが優秀だし……」

将軍「王子様は優秀ですがまだ16です、今即位したら周辺国から甘く見られてしまいますよ」

王子「そうですよ父上、考え直してください」

王「うー……」

大臣「……ちなみに何で辞めようと思ったんです?」

王「清掃業者になりたいと思って」

大臣「馬鹿か」

王「王妃ー!みんながいじめるようー!」

王妃「よしよし」

王子「母上!父上を甘やかさないでください!」

王妃「心配しなくても大丈夫よ、この人はどうせ辞める度胸なんて持ってないもの」

王「嫁が一番キツいこと言った!!」

大臣「全く、辞めるなら辞めるで構いませんが、せめてあと4年は待っていただかないと」

将軍「ですな、せめて王子が成人するまでは王として勤めていただかねば」

王「でもわしの仕事はどうせ無いんだろう?」

大臣「掃除」

将軍「洗濯」

王妃「雑用」

王「わしは主婦か」

王「というわけで辞めさせてくれんのだ」

シスター「いやそれはそうだと思いますけど」

商人「今まであんな大活躍してた人が急に辞めるっつったら、そりゃねえ」

王「あ、ち、ちなみにこれは他言無用だぞ、スキャンダルになってしまう」

商人「そりゃ分かってるって、こんなん知られたら大変だもんね」

シスター「というか本当なら王様が平然と街をうろついてる時点でアレなんですけどね……」

大工「おっ、王様じゃねーか!いつもご苦労なこった!」

おばちゃん「あらあら王様、ごきげんよう」

王「あ、ああ、ごきげんよう」

農民「よー、王様でねえか!良かったらウチの野菜持ってけな!」

大工「馬鹿野郎!王様ともあろう方がテメェんちの野菜なんか食えるかっての!」

王「はっは、いや頂くよ、ありがとう」

「……」

旅人「もしもし、ひょっとしてあなたがこの国の……?」

王「ん、うむ、王だけど」

旅人「おお、ご高名な王によもやこんなところで出会えるとは!」

商人「毎日街をブラついてりゃ高確率で会えるけどね」

シスター「見かけない人ですけど、旅のお人ですか?」

旅人「ええ、この街の評判を聞いてやってきた次第で……あの、王様、お近付きの印に握手をしても」

王「うん?か、構わんが……」

旅人「ふふ、これは光栄……!」 グイッ

王「うおぅっ!」

旅人「ふふ、首は頂いたぞ東の国の王め!覚悟!」

ドスッ

旅人「う……が……」 バタッ

将軍「ふう」

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