前世の願いと今世の宿命(19)

オリジナルです


序章

―宿命とは過去の行いが現在のありようを決めてしまうもののことをいう―



21世紀を迎えて、幾年かの時が過ぎた、2003年3月
今日は合格発表の日
午前10時丁度に玄関前の設置された大きな掲示板に受験番号が張り出される
期待と不安を胸に抱いて、まだ雪がちらつく北海道の寒空の下、俺は道立龍鳳高校の校門の前に立っていた
多くの受験生が俺の横を通り抜けて行き、その中で俺だけがそこで止まり、苛立ちながら彼女を待っていた

俺「あいつ、遅いんだよ…もうすぐに10時になるだろうが」

俺がそう愚痴を溢している内に、後ろから俺の名前を呼ぶ声がした

女「翔ー!」

振り向くと懸命に走ってくる彼女がいた

俺「早く来いよ」
桜「ちょっと待ってよ!」

ようやく彼女は俺の下に着くと、息切れをしながら膝に手をついた
吐く息は白く、そしてすぐに大気中に消えて行く

俺「10時過ぎたぞ。桜」
桜「ごめんね。ちょっと寝過ごした」
俺「許さん」
桜「ごめんって」
俺「わかったから。もう受験番号貼りだされてるから行くぞ」
桜「うん」

桜は俺の小学校からの同級生で、中学1年から付き合い始めた
合格圏内行くか行かないかの俺は、桜を追うために必死で桜の指導のもと、
勉強に時間を費やし、とうとう今日と言う人生の節目を迎えた

俺の不安そうな顔を見た桜は手を握ってくれた

桜「大丈夫。翔は勉強頑張ったもん。絶対受かってる」
俺「おう。ありがとう」
桜「もーう。そんな自信なさそうな翔見たくない!」
俺「わかったよ!行くぞ!」

俺は桜の手を引いて、人混みを分けるようにして掲示板が見える場所に移動した
一度目を瞑り、深呼吸してから掲示板を見る

受験番号は0113

俺「0110、0111…0113…!やった…!!」
桜「え、翔番号あったの!?」
俺「あった!やった!」
桜「おめでとー!!あたしもあったよ!」

俺と桜はその場でハイタッチし、桜は俺の頭を撫でた

桜「よく頑張りました」
俺「やめろよ。こんなところで」
桜「照れちゃって可愛いー」

軽く桜の額を指で弾いた

桜「いたっ。もう。でも、本当に頑張ったね」
俺「桜の教え方がよかったんだよ」
桜「でしょ」
俺「自画自賛するな
桜「へへ」
俺「じゃあ、ファミレスでも行って二人で合格祝いでもしちゃおうか」
桜「うん!」

俺達はその場を後にし、まだ咲いていない桜並木の道を手を繋ぎながら歩いた
咲くことはまだないけれど、入学の頃には大きな芽をつけ
そして、それが咲くころには春風が吹き、花弁が舞い散るだろう

ファミレスに着くと、席について、なんとなくメニューに目を通す
桜はデザートの所ばかりに目が行っていた

俺「最初からデザートかよ」
桜「だって、まだ11時だよ?ご飯の時間じゃないよ?」
俺「確かにそうだけど、でも、来たからにはな」
桜「ならドリア頼むかな。それに加えて、苺パフェ!」
俺「お前、絶対デザート食いたいだけだろ?」
桜「しょうがないでしょ。甘いもの食べたいんだから」
俺「なら、俺はドリンクバーつけて、ハンバーグにしよ。デザートはいらないわ」
桜「じゃあ、注文するね」

店員を呼び、桜が注文する

そこでドリンクを入れるために、席を立ち、アイスコーヒーを注いだ

桜「翔は本当にコーヒー好きだよね。しかもブラック」
俺「しょうがないだろ。美味いんだから」
桜「ちょっと頂戴」

桜はコップを持って口に移すと、顔を渋くしてむせかえす
その様子が可愛くて、微笑ましかった

桜「よくこんなの飲めるね…。苦いよ…」

すぐ口に残っているコーヒーの苦みを和らげようと水を口にしていた

俺「甘党だな。本当に」
桜「女の子で甘いものが嫌いな人はあまりいないんだよ」

話している内に料理が運ばれてきて、料理を口にした
桜はドリアが食べ終わり、頼んだ苺パフェを食べ始めると顔が綻んでいた
黒い長い髪が邪魔で、それを耳にかける仕草は俺をドキッとさせる
その姿をずっと眺めていると、桜は顔をこっちに向けて、俺を見た

桜「何じろじろ見てるの?」
俺「いや、本当に美味そうに食べてるなって」
桜「あ、食べたくなったんでしょ?」
俺「いや」
桜「ふーん。でも、ちょっと食べてみてよ」

俺はガラス製の器と銀の長いスプーンを渡された
スプーンで苺ソースがかかったクリームを一口食べる
鼻から抜ける苺の香りが嗅覚を刺激した

桜「おいしい?」
俺「うーん、甘いかな。でも、苺ソースがうまい」
桜「でしょ?じゃあ、あたしに返して」

笑顔で俺の手元からパフェを奪い去る桜
それに笑みを浮かべてしまう俺
こんな些細な事でも互いに幸せを感じていた

高校受験も無事成功し、この先なんの躓きも無く、共に二人で歩んでいけると俺達は思っていた
でも、この時、遠い昔の人生と同じ人生を辿っていることにまだ気付かなかった
どうして俺達がは巡り合い、付き合うようになったのか
全てが宿命だと知った時、それに抗う

―出会い、そして告白―

俺は一人っ子で厳格な道議の父親の下、過干渉で厳しい家庭で育った
母親もいつしか父親に感化されたのか、口も出れば手も出るようになり、両親の暴力での躾は小さい頃からすでに行われていた
両親は父親が道議である故に世間体を第一に考え、自分の子どもが何も問題を起こさない様な良い子に育てたかったらしい
しかし、中学になると父親との喧嘩を口火として、親に対して反抗的になり、両親との関係に歪が生じ始める
進学校の龍鳳高校に合格した際にはすこし緩和されたものの、またすぐに関係は悪くなる
小学校から成績も素行も悪くなく、両親との関係が悪かっただけで、学校生活には、問題なかった
身長が高いことと、リーダー気質で、学級委員長や生徒会長を率先してやること以外これといって長所はない

桜は母子家庭で、俺と同じく一人っ子。母親が水商売をして生計を立てていた
才色兼備で、温厚な性格で優しさに溢れ、男の理想の女性像のような子だった

俺と桜との関係は小学校から始まり、中学ではクラスも一緒で、気兼ねなく話せる仲だった
なんの部活にも所属しなかった俺は毎日帰宅だけする毎日を送り、桜はバスケ部に入部していて、日々練習に励んでいた

そんな桜と俺がどのようにして付き合うようになったのか

それは中学1年の夏で一学期も終わりに迫った7月中旬
北海道も本格的な夏を迎え、日差しが強い日が続いていた
学校でも制服が夏服に変わり、皆が薄手の服装で登校するようになっていた

ある日の朝、いつも通りに登校し、教室に入って席に着く
なにげなく机の中に手をいれると、折りたたんである紙のようなものが入っていることに気がついた
それをそっと取り出し、皆に見られないようにして目を通した

『今日、放課後に、今は使っていないf組まで来てください。お願いします』

この一文だけが書かれているだけで、他には宛名もなにも無かった

ホームルームを終えた俺は指定された、今は利用されていないf組の教室に入り、机の上に腰を落とした
足をばたつかせ、手紙の差出人であろう人物を待っていた
しばらく過ぎて、まだ微かにざわついている廊下の中から軽い足音が近づいてくる
俺はただただ前にある黒板を眺めていた
すると、後方のドアが開く音がしたので振りかえると、そこには桜がいた
桜はすこし間をおいた後、俺の名を呼んだ

桜「翔」
俺「うん?どうした?」
桜「あの机に入ってた手紙読んで来てくれたんだよね?」
俺「そうだよ。あの手紙の差出人って桜?」

彼女はゆっくりと首を縦に振った
次第に彼女の頬が赤く染まっていく
外でも雑音が鳴る中、俺達二人だけの空間は静寂に包まれていた

俺「てか、ドア閉めてこっち来いよ」
桜「うん…」

桜はドアをしっかり閉めた後、俺の前の机に座り、俺の顔を見た
白い肌のせいか、先ほどよりもさらに頬が赤くなっているのがあからさまに分かった

桜「あのね、今日呼びだしたのは翔に言いたいことがあったから呼んだんだ」
俺「うん。そうだろうな。何もなしには誘わないからな。普通」
桜「今、翔は彼女とかいるんだっけ?」
俺「いないよ。別に特別カッコイイ訳でもないから」
桜「そんなことない!翔はカッコイイよ!」
俺「何大きい声出してるんだよ」
桜「あ、ごめん」

桜はスカートの裾を手で掴みながら、顔を少し伏せていた
極度の緊張をしているのだろう

桜「でも、翔は気付かないだけで、女の子は翔の頼れるところとか評価してるよ」
俺「え?そうなの?なんか照れますね。それ」
桜「軽く流さないの!」
俺「ごめん」
桜「でね…あたしが今日翔に伝えたかったことは…」

そう言いかけて、しばしの沈黙
俺も言葉を発することをせず、ただただ桜を見つめていた
この時すでに俺は桜に落ちていたのかも知れない
彼女を前にして俺の心臓の音が相手にも伝わってしまうのではないかと言うくらい高鳴っていた

そして、彼女の口が開かれ、沈黙が破られる

桜「あたしは翔の事が小学校の頃から好きだった。今も変わらずずっと好き。だから、付き合ってほしい」

俺の人生の中での初めての告白は桜からされた
予想外であったが、素直に彼女でよかったと思えた

俺「あの…」
桜「待って!今すぐ答えが欲しいわけじゃないの…。すこし慎重に考えてから答えを聞かせて…。じゃああたし部活の時間過ぎているからもう行くね!バイバイ!」

そう言い放つと、鞄を持って一目散に教室から出て行った
今の彼女の突然の告白の台詞と、先ほどの彼女の姿が脳裏に焼き付いてしまっているせいで俺はその場から動けずにいた

なんとなく窓際に移動し、また机の上に座る
窓から雲ひとつもない空を眺めながら、そこを自由に飛びまわる烏や雀を目で追っていた
そして、彼女の声が耳の中でひたすら響いていた

俺はしばらくしてから教室を後にした
もうその頃には廊下静まり、他の生徒も下校していた
その廊下を歩く俺の足音は、静けさを更に強調するように共鳴していた

家に帰り、制服のままベッドに倒れこむ
何も考えないでいると桜ばかりを無意識に考えるようになっていた
もう俺は気付いていたんだ
答えはあの時既に出ていた事に

ただ心では言おうと思っていたのだが、瞬時に言葉がでなかっただけだ
今思えば、俺も小学校から気にはしていた
桜のさっきの告白によって、俺の心はその時よりも彼女によってさらに揺り動かされていた
俺はベットの中で自分の気持ちをある程度整理したところで、机に向かい、鞄に入っていたルーズリーフを一枚取り出し、ペンを取った

翌日
俺はいつもより早めに出た
教室になるべく早くに到着するためだ
到着すると、すでに生徒玄関は開けられていて、外靴から上靴に履き替える際に、自分のクラスメイトの出席番号が書かれた下駄箱を確認し、胸を撫で下ろした
まだ、クラスには誰も来ておらず、俺が一番だったからだ
昨日帰ってから机に向かって書いた手紙を桜の机の中に、誰にも見られないようにする為一番に来る必要があった
俺は間違えないように教壇の机の上にある席順が書かれた紙見て確認してから、桜の机の中に手紙を入れた
ここでようやく緊張から解き放たれ、自分の椅子に寄り掛かり、安堵の息を吐いた

すこし時間が経つとぞろぞろと他のクラスメイトが登校してきた
皆、俺が一番に早くに登校しているのが珍しかったらしく、「なんで翔こんなに早く来ているの?珍しいね」と何人にも言われた
普段は一番か二番に遅いから、そう言われてしまうのも自分ながら頷けてしまう

ホームルームが始まる10分前に桜が登校していた
俺はなるべく意識しないようにしていたが、結局無理で目で追ってしまう
周りに悟られまいと、平然を装ってはいたものの、やはり手紙に気付いてくれるかが気になっていた
でも、前の席の男子や横の女子はこの時、俺が桜を見ていたのをなんとなく気付いていた様で、のちのち話題の種にされるのは避けられなかった

彼女が席に着くと、鞄を下ろし、周りの友達と話しこんでいた
まだ気付かない桜
俺はなんだかじれったくなってきて、体がむず痒くなるような苛立ちを覚えた

そのままホームルームが終わっても手紙に気付くことはなく、時は過ぎていった
一時間目の数学が始まり、なんとなく黒板に書かれた問題を解き終わったので、周りを見渡すと桜が机の下で何かを手にしている姿が見えた
視力が良い俺は、その手元にあるのが自分の手紙だと確認できた
その瞬間、何故か期待と不安が一気に押し寄せてきた
なにも表情を変えない桜
彼女は手元にある紙をまた丁寧に折りたたんで、筆箱の中に入れ、次に彼女は俺の方を見た
そして合う視線
向こうはすぐに逸らして、前をすぐに向いてしまったけれど、俺はそのまま固まった様に彼女を見つめていた

先生「おい、翔!」

その声で俺は前を向く

先生「お前はどこを向いているんだ。前を見ろよ、前を!」
俺「あ、すいません。ついついボケーっとしてました」
先生「たくっ。次横向いていたら夏休みの宿題は皆の倍な」
俺「それは勘弁してください」

それで教室はちょっとした笑いに包まれた

授業が終わると、桜が俺の方にやってきた
それを見ている周りの目線がかなり痛い

桜「ねえ、翔」
俺「どうした?桜」
桜「あの手紙…」
俺「俺しかいないだろ。放課後、昨日の場所で」
桜「うん…」

桜は顔を曇らせていた
きっとどのような答えが返ってくるのかが不安なのだろう
俺はその桜の気持ちを察した

俺「そんな顔するよ。泣くような答えではないから」
桜「え?」
俺「後は放課後。じゃあな」

俺はトイレに用も足す気もないのに、席を立った
そこに数人の男子が後を追ってくる

a「なあ、翔。すごい噂になっているぞ。桜との事」
b「昨日桜に告白されたのは事実なのか?」
c「もしそうならなんでお前なんだ!くそ!」

cは昔から桜が好きで、一度告白して玉砕した経験がある

俺「しらねぇよ。俺じゃなくて桜に聞いてくれ」

そいつらを払いのけ、トイレに向かった
空気を入れ替える為、窓を開けると、涼しい風が頬を撫でた
俺は壁に寄りかかり、深呼吸して、自分の感情を落ち着かせた
今日、俺は告白の答えを出すのだ
そして、それを彼女に告げた時がすべてが始まる予感がした

次のチャイムがなり、俺は走って教室へと戻った

時間が過ぎるのは早いもので、あっという間に放課後を向かえた
俺は早めにf組に向かい、他の生徒の注目をさけようとしたが、それは無理な話だった

また机に腰をかけて、彼女を待つ
告白されるために待たされるのと、答えを伝えるために待つのとは湧いてくる感情が違った
前者は特に告白されるかどうかは不確かだったので、変に気持ちが昂ることはなかったが、後者は待っている時間が長く感じられ、早く伝えたい衝動に駆られた。

時計を見ると15分は過ぎていた
俺はなんとなく遅いと思いながらも桜を待ち続けた
その5分後、教室のドアが開く
しかし、その後方では野次馬がかなり居た
まったくうるさいだけの雑音にしかこの時思えなかった

桜が来たので、俺は窓側に行き、手招きをする
なるべくドアから離れさせて、会話が聞こえないようにするためだ

俺「おう」
桜「翔、遅くなってごめん」

不安そうな顔で、俺とは目を合わせない

俺「ちゃんとこっち向きなよ」

桜がゆっくり顔を上げて、俺と目を合わせた

俺「答え言っていい?」
桜「うん…」

桜は今にも泣きそうな顔をして、手を下で祈るようにして握っていた

俺「いいよ」
桜「え?」
俺「昨日の答え。いいよって言ったの」
桜「いいよって事は付き合ってくれるの…?」
俺「そう。俺も小学校の時から気にはなっていたから」
桜「嘘…。本当に?」

彼女の潤んでいた目から数滴の雫が零れおちる
俺はそれを指で拭った

俺「何泣いてるんだよ」
桜「だって、嬉しいんだもん。しょうがないでしょ」

俺はその素直な桜を単純に可愛いな、愛おしいなと思えた
今まで触れられなかった彼女の一面に触れ、俺は桜をもっと知りたいと思えた

優しく頭を撫でると、彼女は笑ってくれた

俺「てか、俺でいいの?」
桜「え、なんで?」
俺「だって、これと言って良いとこないと思うけど…」
桜「あるよ!頼れるとことか、優しいとことか。それに背高いからかっこいいなって思ってたんだよ。小学校の時も学校纏める会長やってたでしょ。あれを見ていて、憧れたのかな」
俺「お前、面と向かってそんな恥ずかしいことは言うなよ」

俺は顔から火が出るくらい恥ずかしかった

桜「翔が聞くから、答えただけ」
俺「それもそうだけどさ…」
桜「じゃあ、あたしと付き合って下さい」
俺「はい」

この日から俺と桜は付き合うことになった

翌日から予想通り、俺達の噂で学校中は持ちきりとなるが、人の噂も七十五日で、二学期が始まってしまえば噂をする奴はほとんどいなくなった

こうして、喧嘩も多少しながらも順風満帆に関係は進んでいき、気付けば高校入学を目前に控えていた

―過去・完―

過去じゃない

―出会い、そして告白・完―

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