助手「先生が鈍すぎて行き遅れそう」(42)

先生「・・」

助手「どうしましたか、先生」

先生「ん? ああどうもしないよ。しかし先生って呼び方は慣れないな」

助手「博士の方が良いですか?」

先生「逆だ、普通に名前で良いんだがな」

助手「博士なんですから、先生で良いんじゃないですか?」

先生「呼び方のためになったわけではないがな・・」

助手「そういえば先生はなんで人工知能の研究をしようと思ったんですか?」

先生「・・単にロマンがあるからだよ」

助手「ふーん」

助手「先生、最近ぜんぜん身だしなみに気を払ってませんよね」

先生「最近もなにも、昔からそうだったんだよ」

助手「そうなんですか? 少なくともちょっと前は少しだけ気を使ってたじゃないですか」

先生「・・意味がないことに気付いたからな」

助手「いやいや大事ですよ、身だしなみ! そんなんじゃ一生独身ですよ」

先生「全くもって構わんよ」

助手「むむう」

助手「そういえば引っ越しされたんですか?」

先生「なんでそんなことを知ってるんだ・・」

助手「ちょっと前までと帰る方向が全然違うからです」

先生「実家に戻ったんだよ」

助手「生活が苦しいんですか?」

先生「前は実家で暮らせない理由があったが、それがなくなったからな」

助手「どんな理由ですか?」

先生「人に話すようなことでもないよ」

助手「先生は彼女とかいないんですかー?」

先生「なんでそんなことを訊くんだ」

助手「単純に興味があるからですよ」

先生「いないよ。べつに必要もないしな」

助手「そういうことを言いますか。先生の優秀な遺伝子を後に残そうって気はないんですか?」

先生「私はまったく優秀じゃないよ。なにもできやしない」

助手「そんなことないです」

助手「先生の研究はほかのどの研究よりもずっと現実味があるじゃないですか」

先生「私の研究、か」

助手「? 何か変でしたか? あ、もしかして『私たちの研究だ』とかそういう臭いことを言うつもりですか」

先生「そんなつもりはないよ」

助手「えー、酷いです。わたしの働きなんて意味がないってことですか!?」

先生「なんなんだよ、一体・・」

助手「先生、彼女いないならわたしとかどうですかー?」

先生「なんなんだ、いきなり」

助手「お互いにもう両親に結婚しろーとか言われる歳じゃないですか?」

助手「仕方がないから先生と結婚しようかなあ、と思ったんですけど」

先生「私の親はそんなこと言って来ないからな」

助手「わたしは言われるんですよ」

先生「私には関係ないな」

助手「関係あります」

先生「なぜ?」

助手「この職場に先生とわたししかいないからです」

助手「先生がわたしの相手になってくれそうな人を引き入れてくれないから悪いんです」

先生「だったらほかの職場に行け」

助手「ここほど人工知能の研究が進んでる場所があるなら紹介してください」

先生「・・無茶を言うな」

助手「研究については最先端だって自負があるんですね」

先生「それは当然な」

助手「自分の成果だとは認めてないのはなんでなんですか?」

先生「・・」

助手「あっ」ドーン!

先生「・・」

助手「あいたたた・・」

先生「なんだ、さっきの音は?」

助手「あ、いえ階段で足を滑らせちゃいまして・・」

先生「気をつけなさい」

助手「は、はい」

助手「・・もう少し心配してくれても良いじゃないですかー」

先生「良い歳した大人がなにを言ってるんだ」

助手「先生ってネクラなんですか?」

先生「なんでそうなるんだ」

助手「研究以外のことはほとんどわたしから話しかけるじゃないですか」

先生「必要がないからだ」

助手「摩擦係数が高いと円滑に研究を進められませんよ」

先生「優秀な助手がいるから問題ない」

助手「わたしが先生のこと嫌いになったらどうするんですか?」

先生「そのときは解雇するだけだ」

助手「酷すぎます」

先生「冗談だ」

助手「それパワハラですよ!」

助手「先生、一緒に飲みにいきましょう!」

先生「・・なんなんだよ、本当に」

助手「なんとかして男をゲットしないとヤバいんです」

先生「そういうことは友達同士で話してくれ」

助手「わたしの周りには先生しか男がいないんです!」

先生「それはもう聞いたよ」

助手「だからなんとしても先生を口説いてみせます」

先生「クビかなぁ・・」

助手「先生!?」

助手「そ、そう言わずに飲みにいきましょうよ! 美味しいお店調べたんですよ」

先生「・・」

助手「わ、わたしが奢りますから!」

先生「いやいいよ」

助手「そう言わずに!」

先生「いや、俺が出すってことだ。俺の方が給料良いしな」

助手「本当ですか!?」

先生「・・けっこう遠いんだな」

助手「あはは、すみません」

先生「まあ私は家がこの辺りだから構わないが・・」

助手「わたしはお酒強いので大丈夫ですよー」

先生「そうか、なら良いが・・」

飲み屋
助手「ちょっと自己PRさせてください」

先生「・・」

助手「わたしと結婚することによる先生のメリットを完結に述べます。

  1.三食、美味しい手作りのご飯が食べられます

  2.朝寝坊を防ぎ、規則正しい生活を送れます

  3.優秀な遺伝子を残せます

  どうでしょう」

先生「デメリットは?」

助手「特にありません」

先生「助手の仕事に支障はでないのか?」

助手「少なくとも1と2は今もこなしていることなので、問題ありません」

助手「お弁当、作ってきたので食べて美味しさを実感してください」

先生「いや、別に・・」

助手「食べずに美味しくないと言われるのは心外です」

先生「・・一口だけな」

助手「はい、どうぞ」

先生「ん、・・うん」

助手「どうですか?」

先生「ああ美味いよ」

助手「先生はそういうところで嘘つかないでくれるから好きです」

先生「・・」

助手「で、どうですか? わたしと結婚する気になりましたか?」

先生「誰とであっても結婚なんてする気はないよ」

助手「もしかしてホモなんですか?」

先生「違う」

助手「じゃあ良いじゃないですか。あ、もしかして顔が好みじゃないですか?」

先生「・・顔は中の下くらいじゃないか?」

助手「・・普通に傷つくんですけど」

先生「す、スマン」

先生「言い方を真似て、私と結婚するデメリットを挙げよう。

  1.私は人を愛さない

  2.私は優秀な遺伝子など持っていない

  3・・が思いつかないな」

助手「ふーん、そうですか。・・わたしは別に愛されなくても良いですよ?」

先生「そうかい」

助手「もし先生がこんな理由だけでわたしと結婚できないと思ってるなら無理矢理しちゃいますよ?」

先生「やめてくれ」

助手「じゃあもっと詳しく説明してください」

先生「勘弁してくれ」

助手「白状するまで今夜は帰しませんよ!」

先生「金払うのは私なんだが・・」

助手「ならこの財布を持ってけ泥棒!」

先生「おいおい、不用心だぞ」

助手「先生を信じて、ますから・・」

先生「ん?」

助手「zzz」

先生「おいおい・・酒には強いんじゃなかったのか・・・・」

先生「仕方がない、家に連れて帰るか・・家が近くて良かった」

先生「俺を信じてる、か」

『わたしに何かあったら、ちゃんとなおしてくださいよ?』

先生「・・なおせなかったんだ、俺は」

先生「なにも、出来ないんだよ・・」

助手「・・・・」

先生「まったく、世話が焼けるのはアイツと変わらんな」

先生「ただいま、と」

先生「お袋はもう寝てるか、良かったのか良くないのか分からんが・・」

先生「居間に布団敷いて、テーブルに伝言置いておけばいいか」

先生「おい、起きれるか?」

助手「・・」

先生「ダメか・・」

先生「バケツも置いたし、顔も横にしたし、タオルも敷いたからこれで吐いても大丈夫だな」

先生「じゃあ俺は部屋で寝るからな。おやすみ」

助手「・・おやすみなさい」

先生「・・起きてるのか?」

助手「・・」

助手「・・行きましたね」

助手「まったく先生は失礼ですね、わたしがあのくらいで吐くと思ってるんですか」

助手「しかしとりあえず、先生の家に侵入成功です。あとは既成事実を作ってしまえば・・」

助手「・・そういえばアイツって誰なんだろう?」

助手「さて、先生の部屋はどこかな」

助手「・・下に続く階段と上に続く階段がある」

助手「地下・・ですか。ふ、ふふ、何か疼いてしまいますね」

助手「あれですよ、地下に行けば面白い実験施設があるかもしれないじゃないですか」

助手「あの先生の実験施設ならきっと本当に面白いに違いないですよ」

助手「別に先生の研究を盗もうとかじゃないんですから、単純に面白いものがあるだろうっていう好奇心ですから・・」

助手「これは・・」

助手「半分冗談のつもりでしたけど、本当に実験施設、ですね・・それも私たちの研究室よりずっと立派な」

助手「こんな施設を持ってるのに、わたしにはあんなチンケな場所で研究させてたんですか・・」

助手「あ、この辺は先生の研究ノートかな? 一番新しそうなのはっと」

助手「・・・・・・・・」

助手「え、え? なんでこんなに研究が進んでるの?」

助手「これはまだ検証してない、よね?」

助手「いつこんな検証したの!?」

助手「え・・25年前・・? なんで?」

先生「おい!」

助手「あ、先生・・ごめんなさい! 本当は夜這して既成事実を作ろうと思ってたんですけど、面白そうな部屋があったから、つい・・」

先生「どこから突っ込めばいいんだ・・」

助手「この研究施設、なんなんですか? わたしたちがしてる研究よりずっと先まで進んでるみたいですし、それにアンドロイドを造った、みたいなことも書いてありました」

先生「・・その通りだよ」

助手「その通りって、じゃあ先生の研究はこれをなぞってるだけなんですか?」

先生「ああ」

助手「・・だから自分は優秀じゃないなんて言ってたんですね」

助手「もしかして、帰り道で言ってたアイツって、そのアンドロイドですか?」

先生「聞こえてたのか・・。その通りだ」

助手「寝たフリでしたからね。・・もしかしてそのアンドロイドのことが好きなんですか?」

先生「・・ああ」

助手「それで結婚なんかしないと?」

先生「ああ」

助手「・・先生とそのアンドロイドの間でなにがあったか聞いても良いですか?」

先生「・・」

先生「単に一緒に暮らしてただけだよ」

助手「暮らしてた、ってことは今は違うんですか」

先生「聞こえてたんだろう、助けられなかったんだ」

助手「・・すみません。じゃあそのアンドロイドはもういないんですね」

先生「いや、どこかにはいるだろうな」

助手「え?」

先生「記憶をなくしてどこかに行ったんだ」

助手「もしかして、先生が人工知能の研究をしてるのって・・任意の記憶と意識を人工知能に埋め込むためですか?」

先生「・・」

助手「最低です」

先生「・・」

助手「人工知能だったら洗脳しても良いと思ってるんですか?」

助手「確かに元々は両思いだったのかも知れないですが、それを思い出せないからと言って先生のことを好きだなんて意識を無理矢理埋め込むのは間違ってると思います」

先生「・・そうかもな」

助手「でもわたしなら最初から先生のことを好きですよ」

先生「は?」

助手「だからそのアンドロイドさんのことは忘れてわたしを好きになっちゃいましょう」

助手「そうすればヤマしい考えで研究をしなくて済みます」

先生「は、ははは! なんなんだよ、お前は!」

助手「わ、笑わないでください! 真剣なんですよ!」

先生「ああ、スマンな。あまりに突拍子もないことを言うからついな」

助手「・・ふふ、かわいいでしょう?」

先生「アホなことを言うな」

助手「酷いです」

助手「あ、あと、先生はやっぱり天才だと思いました」

先生「はあ?」

助手「これだけの資料を理解して、発表できるだけの形に整えて、研究を進めるのは無能ではできません」

先生「少なくとも天才じゃなくても出来るよ」

助手「そんなことないですよ」

先生「・・社交辞令と思って受け取っておく」

助手「むう」

先生「まあとりあえず、今夜はもう遅いから寝なさい」

助手「先生の部屋で寝ます」

先生「私は部屋に鍵をかけておくよ」

助手「酷いです」

先生「事をするなら結婚してからだな」

助手「! 絶対ですよ!」

先生「ああ」

助手「せんせー、いつ結婚してくれるんですかー」

先生「・・ずいぶんと馴れ馴れしくなったな」

助手「良いじゃないですか、わたしと先生の仲なんですし」

先生「今は休憩時間ではないぞ?」

助手「細かいことを気にしてると嫌われますよ?」

先生「今は嫌われても良いと思ってるよ」

助手「酷いです」

助手「あっ」ドーンッ!

先生「どうした!?」

助手「いたた・・あ、大丈夫です。ただ階段で滑っただけです」

先生「・・またか」

助手「今回は心配してくれるんですね」

先生「・・大事な助手だからな」

助手「もう待てないので結婚しましょう」

先生「は?」

助手「先生はわたしのこと嫌いですか?」

先生「いや、嫌いじゃないが」

助手「好きですか?」

先生「・・」

助手「じゃあこの指輪あげます」

助手「わたしのことが好きじゃなくて結婚できない、って言うなら今ここで返してくれても、捨ててくれても構わないです」

助手「結婚できるというなら受け取ってください」

先生「・・負けたよ。分かった。結婚しよう」

助手「・・・・ふあぁ・・良かったぁ。断られたらどうしようかと思いました」

先生「あの態度でそんなことを心配してたのか・・」

助手「できるだけいつも通りにと思いまして」

先生「いつも通りか・・?」

先生「最初は仕方がないからとか言ってたじゃないか」

助手「・・先生が鈍過ぎるのが悪いんです。というか最初はもっとオブラートに包んでました」

先生「なんかスマンな」

助手「まあ良いですよ、どうすれば先生が認めてくれるかなんとなく分かりましたから」

先生「・・」

いつかの日
男「んじゃ、またな」

女「お邪魔しました」

母「はーい、女ちゃんまた来てね」

女「はい、また来ます」

男「俺は」

母「男はどっちでもいいよ」

父「・・」

母「あの子、あなたが昔言ってた子ですよね」

父「・・気付いてたのか」

母「カマはかけてみるものですね」

父「・・かなわんな、お前には」

母「それほどでも」

母「正直、最初に彼女の話をされたときは半信半疑でしたよ」

父「そりゃあ実物もなしに人造人間の話をして信じる人がいたら、俺は詐欺師になるよ」

母「あなたは優しいからそんなことしないですよね」

父「・・どうだか」

母「ふふ」

母「今もあの子のことが好きなんですか?」

父「まあ好きではあるよ」

母「珍しく素直ですね」

父「娘みたいなもんだけどな。・・分かってただろ?」

母「ええ、もちろん。今はわたしにゾッコンですもんね」

父「本当にいつまでそんなアホなことを言うんだろうな」

母「それはもういつまでも、ですよ」

終わり

前に書いたssのまとめで父が報われなさすぎるとかいうコメントにムシャクシャしてやった

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom