新国王「隠密のスペシャリスト?」(16)

忍「いえ、私は一介の忍。あくまで隠密もスキルの一つであると」

新国王「僅か1日で魔王を始末したと報告にあるが?」

忍「任務ですので」

新国王「だがな、どうやらその魔王が生きておるというのだ」

忍「……私が任務に失敗したと?」

新国王「そうは言っておらん。復活した魔王は闇の加護に護られておるという」

新国王「致命傷を与えても、時が経てば再生するのだよ。勇者の証を持つ者にしか、魔王は滅ぼせぬ」

忍「……死なぬ相手を殺めることは忍といえど不可能」

新国王「いや、依頼は暗殺ではない。勇者の護衛だ」

忍「魔王の元まで勇者を届けよ、と?」

新国王「これは忍殿にしか頼めぬ。既知とは思うが、勇者の証を持つ者とは……我が愛娘なのだ……」

忍「新国王就任を後押ししたのが、娘御の存在でしたね」

新国王「前国王が急死して一月、私にはまだまだコネと呼べるものが少ない」

忍「では依頼とは、娘御の身の安全、魔王の殺害の二つで宜しいのですか?」

新国王「ああ。どうか……どうか娘を頼む」

忍「承知」

帝都入り口

勇者「貴方が共に旅して下さる……えと、忍さん……ですよね?」
忍「そうだ」

忍(予想通り箱入り娘のようだ)

勇者「よろしくお願いします!」ペコリ

忍「今後の予定をお聞かせ下さい」

勇者「ふぇっ!?えと……そうですね、仲間を集めたいと思います!」

忍(足手まといは一人でいい)

忍「いえ、集団は目立ちますので、私は少数精鋭で臨みたいと思います」

勇者「えっ?」

忍「忍は単独行動が基本ですから」

忍「まずは魔王城に向かいましょう」

勇者「はい!?」

忍「勇者殿が魔王討伐に出向いたと覚る前に、相手を早急に始末するのです」

勇者「レベル上げは?」

忍「論外です。相手方に準備の暇も与えないのが暗殺の基本」


忍「この世に生を受け、滅せぬ者がおりますまい」

道中

忍「私は一先ず偵察に出ます」

勇者「気をつけて下さいね!」

勇者(帝都を出て3日。まだ一度も敵と刃を交わしたことがない)

勇者「平和だなぁ」


忍(魔物の数が増えているな。我々の姿を見た魔物は生かしておけない)ザクッ ザシュ

忍「急がねば」


忍(あの女に一撃任せるとして、魔王城に気配を絶ったまま侵入するのは不可能。体に浮かぶ勇者の証とやらを剥ぐか?……いや、新国王が黙っていないな……)

忍「……今夜中に魔王を仕留める」

魔王城前

忍「勇者殿はこちらで待機を」

勇者「え?中に入らないのですか?」

忍「ええ。勇者殿には重要な任があります故」

魔王城

魔王「どうやら私を狙う輩がいるのです」

新側近「魔王様、どうかご自愛なさいませ」

新側近(魔王の死に人間の民は皆歓喜し、国王の死すら蜃気楼のように霞んでしまう)

魔王「どうしました?」

新側近「いえ、因果なものだと」

ヒューッ

新側近の喉元にくないが突き刺さる。

新側近「ぁ…………?……ひゅー……」

くないの柄に巻き付けたワイヤーを引き、忍が姿を現す。

引き抜かれたくないは、再び忍の手元に戻る。

緑の鮮血が壁を染め上げる。

魔王「…………」グサッ

忍の放つ二本のくないは魔王の胸に吸い込まれ、彼女の視界から消える。


忍「お命頂戴する!ご覚悟!」

魔王「…………」

最速の一撃で魔王の胸を切り裂く忍。

忍「お命(心臓)確かに頂戴した」

魔王「…………」

煙幕によって刺客の姿が消える。

魔王が目にしたのは、ワイヤーを伝い悠々と降下する忍の頭上だった。

魔王城前

忍「勇者殿、この塊をお斬り下さい」

勇者「えっ、これ……」

忍「御免!」

忍は勇者の手を掴み、魔王の心臓を叩き潰した。

眩い光と共に消滅する心臓。

忍「任務達成」

帝都

新国王「よくやってくれた。3日で魔王を始末するとは」

忍「私は何も。娘御が優秀でしたが故」

新国王「謙遜するな」

忍「報酬確かに」

新国王「姫が忍殿に会いたがっておったぞ」

忍「いえ、任務は果たしましたので、自分はこれで」

新国王「暇なときに遊びにくるがいい」

忍「忍に休暇は御座らん」

夜半

忍「ククッ。意外と簡単に大金が手に入ったな。次はあの姫様でも懐柔してみるか」

?「…………」サッ

忍「何奴!?ぐ……っ」

胸を抉る一本のくない。

?「騙る相手を見誤ったな?新米」

忍「……お…ま………え……」

?「お前が騙った魔王殺しの忍だよ」グサッ

偽の忍の亡骸を見下ろす忍。

忍「任務完了」

魔王城

魔王「不思議なものですね。姉を殺めた貴方に救われるなんて」

忍「あくまで仕事でのこと、謝罪はしません」

魔王「悲しくはありますが、貴方を恨んではいませんよ」

忍「今回の一件。魔王が生きてると周囲に吹聴したのはあの忍でしょう。失礼ながら、魔王を討つことは忍には容易い。そして報酬は大きい」

忍「私はただ、奴の噂に闇の加護という法螺話を付け足したまで」

魔王「……幻惑の術というのは恐ろしいものですね」

魔王「私そっくりの人形が本当に殺されたみたいでした」

忍「忍の十八番ですよ」

忍「これで貴女は自由だ。権威を失った弱小魔王を続けるなり、隠居するなり。人間たちにとって、貴女は既に死人なのだから」


魔王「感謝します。私の護衛という依頼、見事に果たして下さいました」

忍「任務ですから」

魔王「報酬の方は……」

忍「それは結構。前魔王に余分に頂いております」

忍「妹を頼む、と」

魔王「ぁ……ぁ」

泣き崩れる魔王。

忍「彼女は自分の命よりも、双子の妹を護る道を選んだのです」

忍「魔王という存在を消す、自らの死で」

忍「お喋りが過ぎましたね。私は本来無口ですので」

魔王「ありが……とう……」

魔王「また……会えますか?」

忍「再会があるとすれば、貴女の始末を命じられたときに」

魔王「……哀しい生き方ですね」

忍「達者で」

翌日 早朝

勇者が魔王を討伐――

忍(勇者って実在したんだな)

忍はコーヒーを片手に新聞をめくる。


忍「……らしくない」

忍の朝は早い

終わり

書いといてなんだけどこの忍は殺した奴のことなんて一々覚えてないと思うんだ

ハゲはハゲでもジェイソン・ステイサム化したようなこの変な蛇足感……すまぬ

おもしろかった


乙です

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