女神「超かっこいい剣ができました!」(25)

勇者「呼びましたか? 女神様」

女神「はい! ついにあなたの剣が完成したのです!」

女神「私が自ら部屋に閉じこもり……」

女神「莫大な時間を掛け……」

女神「一切の妥協なく出来上がったのがこれです!」

女神「武器としてはもちろん、芸術品としても世界一だと保証しますよ!」

女神「この剣を前にすれば魔王もたじろぐことでしょう!」

勇者「あ、あの……女神様……」

勇者「魔王はもう倒しましたが……」

女神「まず注目して欲しいのは剣の命である刀身!」

女神「刃面には法術塗装を施し、ある程度の刃こぼれは自動治癒!」

女神「軸はミスリルをベースに様々な金属を混ぜ込み強度も世界一!」

女神「それらが織りなす光の反射! ギラつく曲線美! 素晴らしい!」

女神「鍔は美の象徴である私を模しました!」

女神「あなたの手を刃から私が守るということです!」

女神「握る部分は竜の皮を天馬のたてがみで縫い付け!」

女神「剣の端、柄頭には私の力をこれでもかと込めた宝玉を取り付けました!」

女神「次に見て欲しいのは鞘です!」

女神「こちらはある程度重量を気にしなくていいので」

女神「貴金属をふんだんに使いました!」

女神「暗闇の中でも世界一美しい模様……つまり私が上品に光り輝きます!」

女神「これを持って歩くだけで圧倒的な威圧感と高貴なオーラが醸し出されることでしょう!」

女神「言っておきますが目立つことなど欠点ではありませんよ!」

女神「あなたは勇者、正面から正々堂々と」

女神「魔王を倒した!?!??!?!?!?!?!?!?!」

勇者「はい」

女神「そ、それは本当なのですか!?」

勇者「はい」

女神「それなら何故知らせが来ていないのです!?」

勇者「大変集中していて何度呼びかけても反応がなかったとお付きの方が」

女神「で、では本当に世界は平和になったと……?」

勇者「はい」

女神「私が剣作りをしている間に?」

勇者「はい」

女神「なんという……ことでしょう……」

女神「と、とにかく! これはめでたいことです!」

女神「よくやりました勇者よ!」

勇者「ありがとうございます」

女神「早速すべての国々に通達し!」

女神「終わることのない宴を始めましょう!」

勇者「あ、それももう終わりました」

女神「あわわ……」

女神「そ、それにしても」

女神「よく魔王を倒すことができましたね」

勇者「はい。何度かもうダメだと思いましたが……」

勇者「仲間たちと力を合わせ、ギリギリの勝利を手にすることができました」

女神「ちなみにその時の武器は何を?」

勇者「これと同じものです」

女神「……ごく普通の鉄の剣に見えますが」

勇者「街で買った量産品ですからね」

女神「こんな……こんな無骨な鉄の棒に……」

女神「私の剣の出番が……」

勇者「この剣にも利点はありますよ」

勇者「こういった市販のものは同じ規格で手に入るので」

勇者「折れて買い直しても使い勝手が変わらないのです」

勇者「と、いいますか……」

女神「なんですか?」

勇者「あ、いえ、これはちょっと……」

女神「あなたは名実ともに勇者なのです」

女神「多少無礼な発言であっても自重することはないのですよ」

勇者「では、女神様」

女神「はい。なんでしょう?」

勇者「過度な装飾を付けなければ魔王討伐に間に合ったのでは?」

女神「ふぃあっ!?」

勇者「例えば鞘ですが……留め具の一つ一つに模様が彫ってありますね」

女神「気づいてくれましたか!」

勇者「すごく時間がかかったのでは?」

女神「それはもちろん! 手作業ですから!」

勇者「あの……この剣を作った目的は……」

女神「……」

勇者「その……剣の機能だけが完成したものを受け取れていれば」

勇者「もっと安全に魔王を倒すことが……」

女神「やめてくだ、やめなさい!」

女神「それ以上言うなら、この剣はあげませんよ!」

勇者「……いや、別にいりませんけど」

女神「えぇ!?」

女神「そんな! 世界一の剣なのですよ!」

勇者「もう使う相手がいないので」

女神「持ち歩くのです!もしくは飾るのです! 美しいのですから!」

勇者「それならここに置いておけばよいのでは」

女神「確かに!それも考えました!」

女神「ですがそれではダメなのです」

勇者「はあ……」

女神「私は神です」

勇者「あ、はい」

女神「私の行動の一つ一つは神話として語り継がれていきます」

勇者「そうですね」

女神「それなのに! この剣をここにおいておいたら!」

女神「"有事の際に剣づくりに熱中してした"という神話になってしまいます!」

勇者「事実じゃないですか」

女神「だからこそ勇者よ!」

女神「あなたにこの剣を授けます!」

勇者「これを私が持っていても事実は変わりませんよ?」

女神「ところがどっこい! 神話を変えることはできるのです!」

勇者「は、はあ……」

女神「世界を救った勇者がこれをもって歩いていれば」

女神「それを見た人はどう思うでしょう!」

勇者「……」

女神「分かりませんか? では教えてあげましょう」

女神「……こほんっ」

女神『おお、勇者の剣のなんと神々しいことか!』

女神『あれで魔王を倒したに違いない! そして女神様美しい!』

女神「……と、思うに決まってます!」

勇者「えっと……女神様がそんなことをしていいのですか?」

女神「私は剣を勇者に与えるだけです」

女神「神話を作るのはあくまで第三者なのです」

女神「だから私が嘘をついたことにはなりません」

勇者「……」

女神「では行くのです! 勇者よ!」


こうして勇者は剣を見せびらかす旅を強いられた!

50日後

女神「それでどうなりましたか、勇者よ」

勇者「はい……この剣を鞘から抜くことは一生無くなりました……」

女神「!?」

女神「ど、どういうことですか!?」

勇者「思ったより重く受け止められていたんです」

勇者「魔王が倒れても、宴が終わっても、姿を現さない女神様」

勇者「そんな女神様が突然私を呼び出したことが」

女神「……」

勇者「なぜ姿を見せなかったのか、女神様の話はなんだったのか」

勇者「なぜ平和になったのに剣を新調したのか」

勇者「めちゃくちゃ聞かれました」

女神「あわわ……」

勇者「それで仕方なく……」

勇者「女神様は魔王の転生を防いでいたらしいとか」

勇者「悪しき思念を封印していたっぽいとか」

勇者「そう匂わせるように説明しました」

女神「おお! よくやりました勇者よ!」

女神「でも嘘はいけませんよ!」

勇者「正直に話したほうがよかったですか?」

女神「……いけませんよ!」

女神「そ、それでなぜ私の剣が使えなくなったのです!」

勇者「えっと……だから……」

勇者「封印したと思った人には……」

勇者「そういうふうに解釈されてしまいました」

女神「そ、そんな……」

女神「私の……私の剣が……」

女神「いわくつきになってしまったのですか!?」

勇者「すみません」

こうして世界は平和になり女神の威厳も守られた!

めでたしめでたし!

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