八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「ぼーなすとらっく!」 (1000)

俺ガイルとモバマスのクロスSSです。

モバマス勢がメインなので俺ガイル側の出番は少ないです。

ヒッキーのこれじゃない感はご容赦を。

ヒッキーと凛ちゃんが、大好きです!



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八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」
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八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「これで最後、だね」
八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「これで最後、だね」 - SSまとめ速報
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埋まるの早ぇ!

さぁ続きを更新だ!














漕ぐ、漕ぐ。



ペダルを全力で踏みつけ、自転車を走らせる。


もう、体力も限界に近い。
ゼェハァと、息が切れる。


けれど、そのスピードは緩めない。


ライブ会場まで、もうそう距離は無いはずだ。
このまま行けば、間に合、うッ……!?


ガクンと、力が空回りするのを感じた。


軽くコケそうになり、足を踏み外したのかと錯覚したが、そうではないらしい。

見れば、チェーンがまた外れていた。



親父ぃーー!?
やっつけ仕事かオイ!!



……まぁけど、



八幡「ありがとよ畜生ッ!!」



近くにあった駐輪場付近にチャリを乗り捨て、再び走り出す。
若干申し訳ないが、今は事態が事態だ。


ちゃんと後で回収しておく。材木座が!




限界が近い足で、走る。


くそっ、こんな事なら、普段からもっと運動しておくんだった。
そんなテンプレな後悔を胸に抱きつつ、それでも足は止めない。

とにかくひたすら、走れ。



八幡「…っ………く……!」



こうして走っている間にも、

思い出すのは、一人の女の子。



『ふーん、アンタが私のプロデューサー? ……まぁ、目が腐ってるとこ意外は悪くないかな…。私は渋谷凛。今日からよろしくね』


『隣で私のこと……見ててね』


『なんで私も連れてってくれなかったの!?』


『いやいや、その前に、プロデューサーの正式な担当アイドルは私だからね?』




八幡「っ……はぁ……ッ!」

走れ……





『ここまで来れたのは、プロデューサーのおかげ。…………ありがとう、プロデューサー』


『ホント、プロデューサーは腐った目の割に、よく見てるよね』


『い、一番、大切な人…………ふーん、そっか。そうなんだ……』




八幡「……っ……はぁ……はぁ……!」

走れ。




『ずっと……こんな日が続くといいね』


『じゃあ…………私、頑張るから』





八幡「くそっ…………っ…!!」


走れーー






『さよなら』






八幡「っ……ぐっ……あぁぁあああああああッ!!!」



走れッ!!!







ただただ、走り続ける。



恥も外聞も、何もかもを捨てて、ひたすら。

柄にも無いと思う。



けど、



そんな事、考えてる余裕も無かった。








ーーそして、見えてくる。



シンデレラプロダクション、アニバーサリーライブの会場が。

凛が、いる場所が。



八幡「はぁ…はぁ…………やっと、着いた…」



息を整えつつ、とりあえず時間を確認。
大丈夫だ。まだ雪ノ下が言っていた時間まで少しある。

何とか、間に合った。





八幡「つーか…はぁ……どこに、行けばいいんだ……?」



会場に入るのはいいが、真っ正面から行ったって警備員に止められる可能性がある。
雪ノ下たちが説明してくれているといいんだが……


……つーか、全力疾走のダメージが案外キツい。
ちょっと吐きそう。


フラフラとおぼつかない足取りで歩き、会場玄関をくぐる。
会場内に入れないとはいえ、辺りには人が多い。

ライブを見れなくとも、声を、一目でも、というファンで溢れていた。


正直ゴシップ記事で顔バレしているから、気付かれないかと不安だったが……バレる様子はない。
安心したけど、それはそれで複雑だな。

所詮は、俺への興味などその程度なのだろう。

凛が解放された今、そのプロデューサー等どうでもいいらしい。


とりあえず一番可能性の高い、関係者以外立ち入り禁止の所まで行ってみたが……

やはりというか、警備員に止められた。



八幡「いやだから、確認して貰えれば分かる筈なんです」

警備員「君ね、そんな言い訳こっちは飽きる程聞いてきたわけ。大体、君みたいな若い関係者見た事無いよ」



七面倒とばかりに言う警備員。
いや確かにその通りだから困る。ぐうの音も出ん。

いやはや、俺が困っていると、しかし女神は現れた。



未央「警備員さん、その人は大丈夫だよ☆」

卯月「ちゃーんと関係者ですから、安心してください♪」



島村と本田が、そこにいた。



八幡「お前ら……」

警備員「しまむーにちゃんみお……!? あ、これは失礼しました!」



思わず素に戻った警備員が、慌てて謝罪する。
つーか、お前もアイドルオタクかい……



卯月「やっと来たんですね。凛ちゃん、まだ控え室にいる筈ですから」

未央「ちゃちゃっと行ってきなよ。ここは私たちに任せてさ」



そう言って、二人は道を指し示す。

この先へ行けば、凛がいる。


……思えば、この二人は凛に次いで長い付き合いのアイドルになる。
もしかしたら、凛ではなくどちらかのプロデューサーとなっていたかもしれない。

二人は俺の事を、プロデューサーだと最初から言っていた。

なら、俺も、誠意を持って答える。



例え、今はプロデューサーじゃなくっても。





八幡「……ありがとな。卯月、未央」



本当に感謝の気持ちを込めて、言う。

そして俺の言葉に二人は驚き、やがて微笑む。



未央「全くもう。……言うのが遅いよ!」

卯月「今それを言うなんて……ずるいです」



悪いな。

素直じゃないのが、俺なんでね。


俺は苦笑し、歩き出す。


警備員が一瞬止めにかかるが、それも卯月と未央に制される。


後は、二人に任せよう。



後は、この先へ向かうだけだ。



















何処からか、歓声が聞こえてくる。



きっと、今頃ライブは最高潮になっているんだろう。

それに引き換え、裏側は静かなものだった。


廊下を歩く内に、会場の奥へと自然と進んでいく。
控え室付近は人が少なく、ほとんどのスタッフが出払っているようだ。


俺は、凛の姿を探して歩き続ける。



コツコツと、俺の足音が響く。



そして、



それと重なるように、扉の開く音が聞こえた。






八幡「……っ…」






その後ろ姿は、見間違えるはずがない。


やや茶色みがかった、長い黒髪。

蒼を基調とした、ゴシック衣装。



渋谷凛が、そこにいた。






まだ、凛は俺に気付いていない。

そのまま、ステージへと歩いていく。



どうした。声をかけろ。

躊躇ってんじゃねぇ。



何の為に、俺はここへ来た?












八幡「ーーーー凛ッ!!」


凛「ーーーーっ」



俺は叫び、そして彼女は、立ち止まった。



凛「…………何しに、来たの」





凛は、振り返らない。

俺に背中を向けたまま、問いかけてくる。



八幡「……お前に、ちゃんと話そうと思って来た」



俺は静かにそう告げる。
だが、凛はその言葉が気に入らなかったようだ。



凛「ーーッ!!」



バッと振り返り、一心に俺へと視線をぶつける。

その顔には哀しみと、それ以上に怒りが込められていた。



凛「今更! ……今更、何を話すって言うの?」



今にも泣き出しそうで。

溢れる思いを、堪えられないようで。


彼女は、言葉を俺へぶつける。



八幡「……すまん。お前からすれば、身勝手な事を言ってるのは分かってる」



だから俺は、それに答える。

自分の全てを以て。



八幡「けど……俺はどうしても、お前に伝えたい事がある。……だからここに来たんだ」


凛「伝えたい…こと……?」




呆然と呟く凛。

しかしやがて、僅かな希望を見つけたかのように、俺へ問う。




凛「もしかして……また、私のプロデューサーに…………?」


八幡「…………」




それはきっと、本当に望ましい未来なんだろう。

俺も、心からそうありたいと思う。



……でもそれは、お伽噺でしかない。






八幡「……いや」






だからーー












八幡「俺は、プロデューサーには戻らない」









凛に、ちゃんと伝えるんだ。





凛「ーーっ」



目を見開き、口をつぐむ凛。
希望を断たれ、もう何も受け入れられないように、立ちすくむ。


けど、そうじゃないんだ。


俺はプロデューサーとしてではなく、

比企谷八幡として、ここへ来た。




八幡「俺はもうプロデューサーじゃない。……けど、それでもお前に伝えたい事がある」

凛「……さっきからプロデューサーは何をっ…」

八幡「だから、プロデューサーじゃねぇって」



凛の言葉を、俺が断じる。

すると凛はあからさまにムッとなり、不機嫌さを隠そうとせずに言う。




凛「なら、八幡」

八幡「う…」

凛「八幡は、私に何を言いたいの?」



毅然とした態度でそう言う凛。



ここでまさかの名前呼び。

いや、確かにプロデューサーじゃないとは言ったが、さすがに予想外である。


何気に、名前で呼ばれたのは初めてであった。



八幡「ああーっとだな……」



我ながら情けない。
名前で呼ばれた程度で、ここまで動揺するとは。

気を取り直して、言葉を選ぶ。



八幡「……ここで少し、俺の友達の話をしていいか」

凛「…………」



凛は思いっきり怪訝な顔をするが、その後首肯する。
良かった、ここで断られたらどうしようかと思った。

俺は、ゆっくりと語り出す。



八幡「……その友達は、ぼっちでな」


凛「…………」


八幡「昔っから人付き合いが苦手で、忘れられ、いない者として扱われるのがざらだった」


凛「…………」



八幡「ずっとそうやって生きてきて、人を信じるのも嫌になって、人を好きになるのも……怖くなっていった」


凛「…………」


八幡「そんな時、出会うんだ。一人の真っ直ぐな女の子と」


凛「…………」


八幡「最初は、気まぐれか気の迷いか、その子を支えてやりたいと思った。どうせ裏切られても、また一つトラウマが増えるだけだからな」


凛「…………」


八幡「けど、いつしか気付くんだ。その子の存在が、自分の中で大きくなっていく事に」


凛「…………」


八幡「その女の子は、そいつにとっては初めて感じる程尊い人で、失いたくなくて、かけがえの無い存在になった」


凛「…………」


八幡「でも、その子の未来は、そいつ自身の手で摘み取られちまった」


凛「……っ、それは……!」


八幡「だから、最後まで聞けって」


凛「っ………」



八幡「……本当に、絶望する思いだったんだろうな。辛くて苦しくて、後悔が募るばっかりだった」

凛「…………」

八幡「だから、俺がどうなってでも、何もかもを捨ててでも、女の子を助けた」

凛「…………」

八幡「そこに後悔はない。プロデューサーとして、俺は責任を取った。それ事態は、俺は間違っているとは思わない」

凛「…………」

八幡「けど、気付いちまったんだ」

凛「………え…?」

八幡「プロデューサーとして答えを出した後…………どうしようもないくらい、俺自身が悔やんでる事に」



俺は、凛の目を真っ直ぐに見て、言う。



八幡「プロデューサーとして、俺は最後までプロデュースを貫いた。……だから、俺は俺として、比企谷八幡として、この気持ちを伝えたい」



凛は、彼女は本当に真っ直ぐで。


こんな俺を信じてくれて。


ずっと隣に立っていてやりたくて。


いつまでも支えてやりたくて。


だから、だからこそ俺は。






そんなお前がーー




























八幡「ーーーー好きです」















プロデューサーではなく。



ただの比企谷八幡として。






八幡「あなたのことが、好きです」






俺は、俺の気持ちを伝えた。








凛は、何も言わなかった。



ただ呆然と、立ったまま。



そして、何かに気づいたように。

何かと、向き合うように。

彼女は、きゅっと拳を握った。



俺は、その間もずっと、凛を見つめていた。



やがて、凛は顔を伏せる。

長い髪で、その表情は伺え知れない。

ぽたっと、雫が落ちた。



しかし、凛は直ぐさま目元を拭い、顔を上げる。

俺と同じように、真っ直ぐに俺の目を見つめ、告げる。












凛「ーーーーごめんなさい」









それは、いつかと同じ、哀しそうな笑顔だった。





凛「……私は、プロデューサーと約束したから。トップアイドルを目指すって」


八幡「…………」





凛「だから……今は無理、かな」





八幡「…………そうか」






凛は笑い、



そして俺も、思わず笑みが零れた。






……お前なら、そう言ってくれると思ってたよ。



だからこそ、俺は比企谷八幡としての気持ちを伝えられたし。



プロデューサーとして、最後までプロデュースできたんだ。








やがて、ステージへと繋がる会場入り口からコールが聞こえてくる。



凛を呼ぶ声。


恐らく、雪ノ下たちがギリギリまで時間を稼いでくれたんだろう。

もう、本番まで時間は無い。



八幡「……呼んでるな」

凛「うん……そろそろ行かなくちゃ」

八幡「大丈夫か? いきなりステージに直行で」



俺が笑いながら聞くと、凛もまた、笑って返す。



凛「当たり前だよ。誰に言ってるの?」

八幡「……そうだったな」



そうだ。

俺は知っている。



彼女の強さを。



その、美しさを。







凛「……歌、聴いてってね」

八幡「それこそ、当たり前だ」



何たって俺は、



凛の、ファン第一号だからな。






その一歩を、踏み出す。

凛はスタジオに向けて。

俺は反対へ。



お互いに振り向かず。






二人は、歩き出す。











 ×

× 

 ×

   ×

  ×



陽の満ちるこの部屋

そっとトキを待つよ


気づけば俯瞰で眺めてる箱
同じ目線は無く
いつしか心は白色不透明
雪に落ちた光も散る


雲からこぼれる冷たい雨
目を晴らすのは遠い春風だけ


アザレアを咲かせて
暖かい庭まで
連れ出して 連れ出して
なんて ね


幸せだけ描いたお伽噺なんてない
わかってる わかってる
それでも ね

そこへ行きたいの


胸に張りついたガラス 融けて流れる
光あふれる世界

もうすぐ


ひとりで守っていた小さなあの部屋は
少しだけ空いている場所があって
ずっと知らなかったんだ

ふたりでも いいんだって

わからずに待っていたあの日はもう



雪解けと一緒に春にかわっていくよ
透明な水になって

そうして ね


アザレアを咲かすよ
長い冬の後に
何度でも 何度でも

陽の満ちる



この部屋の中で









× × ×












アイドル。

それは人々の憧れであり、遠い存在。


しかし、それも全てではない。
写し出された光景が真実のみとは限らない。

本当に性格が良いのか。恋人がいるのではないか。裏では汚い真似をしているのではないか。
そんな誹謗中傷は当然の事だ。


……だが、俺は知っている。


彼女らは懸命で、美しく、真っ直ぐだった。

もちろん、俺が見たものも全てではない。
俺が知る意外の所にも、アイドルの存在はいる。

もしかしたら俺の周りが特別だっただけで、本当のアイドルとは、やはり俺の知るものと違うのかもしれない。


……だが、そんな事はどうだっていい。



少なくとも俺は知っているんだ。




彼女たちが、人々に希望を与え、輝きを見せる存在だと。

そう信じて、疑わない。


少女がその輝きに憧れを抱くのは当然で、

夢を与える彼女らは、遠いからこそ、その場所を目指す。


そんな彼女らの力になれた事は、きっと俺の財産となる。

ずっと誇りに持って、生きていける。


その出会いに後悔は無いし、あるとすれば、それは感謝のみ。



……だから、俺は今でも胸を張ってこう言える。












八幡「凛ちゃんマジ女神」





学校への道を、一人歩く。


今日は月曜日。アニバーサリーライブから、既に二日が経過していた。

ipodから流れる音楽を耳に、その足を進める。
何故チャリではないのか? それは至極簡単な事。


……引き上げるの忘れてた。


一応翌日に思い出して見には行ったのだが、当然ながらそこには何も無かった。
そりゃ、不法投棄もいいところだもんな。むしろ何故わざわざ確認しに行った俺……


なので、今日は歩いて学校へ向かう。

大分早い時間に出たので、遅刻する事は無いだろう。

早くチャリ買わないとな……
幸い、蓄えはある。



あの後、ライブは無事成功。
凛も、それまでの不調が嘘のように抜群のパフォーマンスを見せた。

俺は卯月や未央の計らいで、特別席で見させてもらった。
金も払ってないのに申し訳なかったが……まぁ、元プロデューサーの権限という事にして貰おう。

それよりも、アイドルたちへの説得の方が大変だったな。


けど、これは俺が決めた事だ。
最後まで、プロデューサーとしてやり切った。

なら、もう思い残す事もない。


……俺自身としても、もう踏ん切りはついたからな。





気持ちの良い風を頬に受けながら、俺はそのまま歩く。

たまには、こうして通学するのも悪くない。

音楽を聴きながらってのもまた…………あれ。



八幡「……うわ、電池切れかよ」



不意に音が止まったので確認してみると、画面には充電切れのマーク。
昨日、充電器に繋いでおくのを忘れていたらしい。



八幡「マジか。ついてねぇな…」



その時、ひと際強い風が吹き付けてくる。

今歩いていたのは丁度見晴らしの良い坂道で、時折、こうして強い風が吹いてくるのだ。
俺は思わず目を瞑り、風が通り過ぎるのを待った。


やがて風は吹き止み、俺は、ゆっくりと目を開ける。



八幡「ーーっ」



瞬間、俺は目を疑う。



数メートル離れた、少し俺よりも高い位置。



木漏れ日の中、彼女は、そこに立っていた。





八幡「…………凛」

凛「おはよ、プロデューサー」



長い髪をなびかせ。

いつもの制服に身を包み。


彼女は、渋谷凛は微笑んでいた。



凛「あっ……もうプロデューサーじゃないんだっけ」



凛は自分の台詞にハッとなると、少しだけ恥ずかしそうに言う。



凛「えっと……八幡。…………なんか、改めると恥ずかしいね。この前は平気だったのに」



いや、その様子は大変可愛らしいのだが…
そんな事はこの際どうだっていい。



八幡「いや、お前こんな所で何してんだよ」



俺は至極当然の疑問をぶつける。
しかし、それに凛は何て事のないように答えた。



凛「何って…………プロデュ、じゃなくて、八幡に会いに来たんだけど?」



首をかしげ、本当に不思議そうに言う。

いやだから、そうじゃなくて!



八幡「いや、あんな事あったら、普通もう会わないんじゃねーの?」

凛「え? なんで?」

八幡「なんでって、そりゃお前、あれだよ。………あれ、俺がおかしいの?」



なんか、凛がさも当然のように言うもんだから俺が間違っているような気がしてきた。

いやいやいや、そんな事はない。



凛「……なんか勘違いしてるようだから、ちゃんと言っとくね」



凛はジト目で俺を睨んだかと思うと、その後目を閉じる。

そして、ゆっくりと語り出した。



凛「私ね。プロデューサー……じゃなくて、八幡の自分を顧みない所が、嫌い」

八幡「うぐ……」

凛「捻くれ過ぎてるのもどうかと思うし、変なとこで頑固だし、正直引く」



え? なんなのこれ?
もしかして俺、現在進行形でトラウマ刻まれてる?

この間女の子に振られ、そして今日同じ子に罵倒される奴がそこにいた。




凛「ぶっちゃけ私服のセンスも微妙だし、妹思いもいいけど、過度なシスコンは気持ち悪いかな」

八幡「ぐ……」

凛「その上、女の子にも気が遣えない」



凛は、言葉を止めない。



凛「自分が泥を被って、それで勝手に満足して」

八幡「っ………」

凛「周りにどう思われても、自分をちゃんと持ってて」


八幡「…………」


凛「大切なものを、どんな事をしてでも護って……」



凛は、その瞳を俺へと向ける。



凛「誰よりも、優しくて」



どこまでも真っ直ぐで。






ただ、一心に。






























凛「ーーーー私は……そんなあなたが、大好きです」















彼女は、そう告げた。






俺は、言葉が出なかった。



ただただ、目を見開いて。

彼女の、微笑む顔を、見つめるのみ。



頭が理解するよりも早く。

胸の奥が、

熱くなっていくのを、感じる。



勝手に、涙腺が緩む。





八幡「……っ……お前、この前言ってた約束はどうなったんだよ…」



かろうじて、言葉を絞り出す。
だが、その声は情けない程にか細い。



凛「言ったでしょ? 『今は無理』って」



確かに、彼女は言っていた。

だけど、いやそれって……なんかずるくねぇ?



凛「だから、待っててほしいんだ。私がトップアイドルになるまで」



凛は、何て事の無いように言う。
それがどれだけ大変で、難しい道のりだと分かっていながら。

平然と、言ってのける。



凛「プロデューサーと、私はトップアイドルになるって約束した」

八幡「……ああ」

凛「だからそれが叶ったら……今度は、八幡との約束を叶えたい」



凛の顔を見れば、分かる。

こいつは、本気で言っているんだ。





八幡「……まだ、約束なんてしてねぇだろ」

凛「……ふーん。じゃあ、八幡は待っててくれないんだ」

八幡「いや、そうは言ってねぇけど……」

凛「じゃあ、約束ね♪」



そう言って、凛は珍しく無邪気に笑った。

照れたように、それでも、何処か嬉しそうに。



その笑顔を見ていたら、なんかどうでも良くなってしまうのだから、本当にずるい。



凛「……よく、人を好きになるのに理由はいらないって言うけど、私はそうは思わないな」



本当に思いついたように、凛は呟く。



凛「好きになる理由なんて、いくらでもあるよ。むしろ、あり過ぎて困るまであるかな」

八幡「……なんだそりゃ」

凛「プロデュ、……八幡は、違うの?」



そう訪ねられて、俺は思わず押し黙る。

人を好きになる理由、か。





八幡「…………」

凛「…?」

八幡「……知るか」

凛「あっ、ちょっと!」



俺は誤摩化すように早足で歩き、凛の横を通り過ぎる。
本当に、痛い所を突く奴だ。


……マジであり過ぎて困るんだから、何も言えねぇよ。くそっ。




その後、二人肩を並べて歩いていく。


だがもう少しで学校だ。生徒に見られる前に、離れた方が良い。

……けどそれでも、出来るだけはこうしていたい。


俺も、凛も。


その気持ちは、確かにお互いに感じ合っていた。



凛「プロデューサーは、ガラスの靴をくれた、って感じはしないかな」

八幡「なんの話だよ。つーか、プロデューサーじゃねぇ」




特に意味の無い会話をし。

たまに軽口を叩き合って。

お互い、笑い合う。





凛「なんだろ…………動き易い運動靴……というかむしろ、安全靴をくれた、とか?」


八幡「夢も希望もねーな」





今の俺と凛は、ただの人と人。

アイドルとプロデューサーでもない。

ましてや、友達でも、恋人同士でもない。





凛「……いや、プロデューサーはどっちかっていうと…」


八幡「今度はなんだ?」


凛「ガラスの靴はくれなかったけど…………裸足で、一緒に歩いてくれたって感じかな」


八幡「……なんか、ちょっと納得しちまったのが嫌だな」




元々は、プロデューサーとアイドル。



だが、今は俺はただの高校生で、彼女はアイドルのままで。

それでも、そうさせたのは俺自身。



後悔はしていない……が、どこかおかしい。






やはり、俺のアイドルプロデュースはまちがっている。






だからーー












凛「ねぇ、聞いてるプロデューサー?」



八幡「……だから、プロデューサーじゃねぇって」









俺たちの青春ラブコメを、始めよう。





















というわけで、これにて完結です!

本当に長い間お付き合い頂き、ありがとうございました!!

いやーこんな時間に皆どんだけ起きてるんだよって話ですよ。すっげぇ嬉しいけども!
今更ですけど、初SSでした。なので完結出来て本当に良かった。

ご希望も多いので、その内に番外編はいくつかやりたいなーと思います。
登場させたいなーと思っていたアイドルも結構いるので、折角なんでね。

時系列は、その時によって変えようかな?

ただ、今まで以上に更新はまちまちになると思っておいてください!

さっさと寝るぞ! 明日も早いんだから!

皆さん、数々の乙をありがとうございます!

これだけ読んでもらえて、面白いと言って貰えて、本当に嬉しいです。
たかがSSと言ってしまえばそれまでですけど、一年前に書く事を決めて良かったと心から思います。

そして片方の作品しか知らず、このSSを読んでもう片方に興味を持たれたなら、是非手に取ってみてください。
絶対に後悔しない事を約束します! 凛ちゃんはもっと可愛いし、ヒッキーはもっと捻くれてるよ!(褒め言葉)



とりあえずあれだ。……これで心置きなくワンフォーオールをプレイ出来る!!
更新も忘れないよ!






早く5時にならんかな……凛ちゃん楽しみ過ぎて寝れん!
もしかしたら明日あたり投下するかもしれないんで、よろしくです。

済まぬ、今夜は無理そうだ…
お詫びとして、待ってくれた方たちに番外編のメインキャラを決めてもらいましょう。

時系列は本編中。モバアイドル限定。
今回臨時プロデュースするアイドルは?

>>240

あ、ごめん忘れとった。一応本編未登場キャラでお願いします。
でも楓さんは元々番外編書くつもりだったんで安心してね。

って事で再安価
>>244

ライラ

って事で臨時プロデュースはライラさんで決定!

本編中にも安価は何度かしましたけど、何人かの中から一人書きたい子を選んでたんで、今回はダイレクトで挑戦。一度やってみたかった。
こちらはその内更新しますんで、気長にお待ちをー。

番外編キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

番外編キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

今夜久々に投下したいと思います。
と言っても1~2時くらいにはなりそうですが。

今回の時系列は本編後になります! プロデューサーをやめたヒッキーのその後ですね。

3時なっちゃったけど、そろそろ投下するよー







緩やかな風が、頬をなでる。


教室内にいるというのに、どうした事か。不思議に思って視線を漂わせてみれば、近くの窓が開けていた。
大方、近くで談笑している男子が開けたのだろう。別段寒いわけでもないので、それは構わない。

しかしこうして風を受けていると、自然と思い出してしまう。



一人の少女とした、一つの約束を。



自身の想いを告げ、振られて、そして約束をした。

あの時も、気持ちのいい風が吹いていたのを覚えている。


光陰矢のごとしとはよく言ったもので、あの時から既に一ヶ月近くが経過していた。
あの慌ただしくも充実していた日々が、今ではとても懐かしい。

まぁもっとも、あいつらからは今でも色々と相談事は受けるけどな。
ケータイひとつで簡単にやり取り出来るのだから、便利な時代である。


俺がこうして学校生活へと戻ってきてから、当初は少なからず騒がれたものだ。
なにせライブで醜態を晒したあのプロデューサーが、問題を起こして辞めて帰ってきたのだ。
そりゃ、ある事ない事言われるのは仕方の無い事。

最初の頃は結構大変だったな。
下駄箱にゴミ入れられるわ、教室の黒板に悪口書かれるわ、陰口囁かれるわ。

……最後のは前からだった気もするが。

だが、俺としてはそんな事はどうでもいいのだ。
そんな問題は些細な事でしかない。


何故か。それは、今の俺の状況を見ればすぐに分かる。



ホームルーム前の、やや騒がしい教室内。

先生が来るまでの間、僅かな自由な時間を満喫しようと談笑する生徒たち。

そしてその中で、一人ipodで音楽を聴く俺。



いつも通りの光景だ。

そう、いつも通りなのである。



最初こそ頻繁だった嫌がらせも、今ではナリを潜め、最近ではほとんど無い。
俺へ対する嘲笑や陰口は相変わらずだが、前に比べれば可愛いものだ。

結局は、俺の存在などその程度のもの。今では、元の生活へと元通りだ。


所詮は、体のいい話題対象でしかない。
時期を過ぎれば、それは流行遅れの時の人となるのみ。
一時期だけ流行るゆるキャラみたいなもんだ。なので是非とも船橋市のあいつには頑張ってほしいなっしー。非公式だけど。


そんなわけで、今の俺は相も変わらずぼっち。


いや、友達はいるので正確にはぼっちじゃないが、その友達もごく少数。
そいつらがその場にいなけりゃ、俺はまたぼっちにまい戻る。僕は本当に友達が少ない。いや本当に。

しかしそれも慣れたもの。元々一人で過ごしてきたのだ。友達という存在がいてくれるというだけで、俺にとっては充分過ぎる程に恵まれている。

だから、俺は今も早く来ないかなと教室の入り口へと視線を向ける。
まだ朝練やってんのかな。もう俺も一緒にやっちゃおうかな。


などと、俺が天使の事を考えていた時だった。


入り口へと向けていた視線は、一人の人物を捉える。
それは天使とは程遠く、俺は思わず顔をしかめる事になる。

そいつは教室に入るなりキョロキョロと辺りを見回し、俺の姿を見つけるや、嬉々として近づいてくる。


先程俺は元の生活に元通りと言ったが、しかしそれでも、変わった事がいくつかある。
それは友達が出来た事や、俺への陰口のレパートリー増えた意外にも。

その一つが、こいつである。



戸部「ヒキタニくんちぃーっす! な、な、昨日のMステ見た? マジニュージェネばないわー」

八幡「……」

戸部「あれ、もしかして見逃した感じ? っかー、マジで?」

八幡「……いや、見た」



何故こいつはこうも馴れ馴れしいのか。
もしかしてあれなの? 実はコイツも俺の友達だったりするの?

…………いや、ないな。

つーか、名前間違ってるし。



騒がしい教室での、何気ない風景。
だがそれは、俺にとってはいつもと違う光景で。

そしてそれが、俺の“いつもと同じ”になりつつある。



これは、






俺がプロデューサーを辞めて、一ヶ月程たったある日の出来事。















「比企谷八幡のその後」





















戸部がよく絡んでくるようになったのは、俺が学校へと戻ってから少ししての事だった。

だがそれは俺に対する嫌がらせのようなものではなく、今のような気さくなもの。
それも、もっぱらアイドル関係の事ばかり。


何故このような事態になったのか。


件の記事については、クラスどころか学校中に知れ渡っている。
俺の前科もあるし、信じる奴はやはり多い。

戸部も例に漏れずその中の一人だと思っていたし、そもそも奴は俺に対しそう評価は良くなかった筈だ。
文化祭の出来事の後、色々と面白可笑しく言われていたのを覚えている。


しかし意外な事に、戸部があの記事のことを信じてはいなかった。
戸部だけではない。学校の一部の連中。そして特にウチのクラス。その大半が、信じてはいないようだった。


それは何故か。


原因は、以前戸部に直接聞いてみた時はっきりした。




戸部「え? 隼人くんが違うって言ってたし、そうなんでしょ?」



戸部、なんと単純な奴か。
いや分かってたけどね。


どうも俺の信用が得られているのは、葉山のおかげらしい。
あいつが違うと言えば、それを信じる奴は多いのだろう。


そしてそう言ってくれるのは、葉山だけではない。


なんでも、由比ヶ浜も積極的にあの記事は嘘だと周りに言ってきかせているらしい。   
さすがに雪ノ下はそこまではしないらしいが、それでも、聞かれた際にはちゃんと説明しているとの事。

「聞かれたのだから、真実を伝えるのが当然でしょう」とは、雪ノ下談である。


そんなわけで、俺が戸部に話しかけられるという珍妙な事態になったわけだ。
まぁこいつの場合『アイドルの裏事情を知ってる奴』くらいにしか思っていないだろうがな。
元々話しかけられる事は何度かあったし。

つーか、こいつもアイドルとか好きなんだな。



戸部「やっぱ俺はちゃんみお推しだわー。あれで年下とかやばくね?」



襟足がばっさばっさとかきながら言う戸部。
確かにそこに関しては同意出来るが、別にお前の好みなど興味はない。更に言うとお前に興味がない。

しかしそんな俺の視線を察せなかったのか、戸部は神妙な顔つきで尚聞いてくる。これが本題だと言わんばかりに。




戸部「……で、ヒキタニくん。実際どうなん?」

八幡「どうって、なにがだ」

戸部「いやだからさー、ほら。本当は結構暗い子、みたいな? そうゆう所あったりする感じ?」



と言いつつ、俺の前の席へと座る。

いや座んのかよ。やめろよ、なんか普通の友達っぽいだろそれ。

しかし戸部の言いたい事は理解出来た。
要は未央が実は猫被ってるんじゃないかと、そう聞きたいのだろう。

まぁ、その気持ちは理解出来る。
確かにファンとしては気になるところだ。


なので、優しい俺は親切に教えてやる事にする。



八幡「本田か。あいつ実は引き込もりらしいぞ」

戸部「マジで!?」

八幡「ああ。働いたら負けっていつも言ってた」

戸部「っべー。マジか…………ってそれ杏ちゃんじゃね!?」



バレたか。

しかしあれだ、本当に良い反応するなこいつ。
内輪だけで芸人なれるっしょとか言われて勘違いするタイプ。



戸部「ヒキタニくん冗談キツいわー」

八幡「悪かった。安心しろ、テレビで見る通りが素の奴だよ」


これは本当にそう。
あいつらは、テレビで見たまんまの真っ直ぐなアイドルだ。

実際に見た俺が言うんだから間違いない。
まぁ、俺が言うからこそ信じない奴らもいるだろうがな。



戸部「マジかー。いや良い事聞いたわ。サンキューヒキタニくん」



椅子から立ち上がり、またなーと言って去っていく戸部。
葉山グループの所にでも行ったのだろう。

しかしあんだけ気軽に話しかけられると、思わず普通に良い奴だと思っちまうな。ウザいけど。
良くも悪くも、場のノリと空気で生きているだけはある。


そして戸部がいなくなった後、入れ替わるように平塚先生が教室へと入ってくる。

見れば、戸塚はいつの間にか席へとついていた。


マジかよ。戸塚と話せなかったじゃねぇか。やっぱ戸部嫌いだわ。



















昼休み。


終業のチャイムが鳴ると同時に、またも教室内は騒がしくなる。
生徒にとっては、一番待ち望んでいる時間帯。

今日も一日頑張るぞい! とホームルームを終えてから、あっという間に午前の授業が終わってしまった。
仕事に追われていた俺からすれば、なんとも楽な日々である。


教室内は弁当を準備する者、友人との談笑する者、中には部活の練習を始める者だっている。

そんな中俺がする事は一つ。


いつものベストプレイスへと向かい、一人飯。これに限る。
別に街で一番星が良く見える場所とか、侍の首塚とかは無い。



教室を出て、廊下を歩く。
その途中でも生徒たちから僅かに視線を感じるが、もう慣れたものだ。

学校に戻ってきてしばらくは、こんなもんじゃなかったしな。



そうして歩いていると、曲がり角にさしかかる。

しかしよく確認しなかったのが悪かった。丁度向こう側からも人が来ているのに気づかず、肩がぶつかってしまう。
そこまで大きな衝撃ではなかったが、俺は思わず持っていたパンを落としてしまった。



「あっ、すいません!」



そう言って、慌ててパンを拾ってくれる相手。
その生徒は、恐らくは一年生であろう女子生徒であった。


亜麻色のセミロングのふわっとした髪に、ちょっとだけ気崩した制服。

パンを手渡しながら自然と上目遣いになる大きめの瞳は、何とも可愛らしい。

一言で、美少女と言って差し支えなかった。



「すいません、わたしがよく見てなかったからー」

八幡「いや、俺も悪かった」



パンを受け取り、こちらも謝罪する。

……しかしあれだな。こいつ、なんか危険な香りがする。


はにかんだ笑顔。
胸元できゅっと握る手。

その挙動の一つが一つが、まるで計算されているよう。
まるで、あざとさが服を着て歩いてる、みたいな?

……さすがに考え過ぎか。


俺がそんな事を考えていると、その女子は俺の顔をジッと見る。

その視線は別に熱の籠ったものとかではなく、どちらかと言えば怪訝なものだ。
え、俺の顔に何かついてる?

とりあえず歯に青海苔とか付いてるんじゃないかと不安になり、さっさとその場を後にする事にする。



八幡「それじゃ」



言葉短に言い去り、横を通り過ぎる。


が、そのまま退散する事は叶わなかった。
原因は、俺の袖を掴むその手。


やっぱ、いちいちあざとい。



八幡「……なにか?」



俺が振り向き訪ねると、その女子は相も変わらず訝しげに問うてきた。



「あの……もしかして、比企谷先輩、ですか……?」



確かめるようなその台詞。
たしかに俺は比企谷八幡だが、何故こいつは俺の名前を知っている。俺に面識は……たしか、無い、はず。たぶん。

しかしそこで気づく。俺を知っているとしたら、それはあの件のせいに他ならない。



八幡「……そうだが、それがどうした?」

「やっぱり! わたし、一色いろはっていいますー」




いや、別に名前とかは訊いていないんだが。

しかし、その一色とやらはどこ吹く風。



一色「はー確かに結衣先輩たちに聞いた通り、目が腐ってますね~」



酷い言い草である。俺、お前と初対面よ?
しかしそこはひとまず置いておく。一色の言葉には気になる所があった。



八幡「お前、由比ヶ浜の知り合いなのか?」

一色「はい。生徒会選挙の時に色々とお世話になりまして」



生徒会選挙?
そういや、俺がプロデューサーやってる時にやってたらしいな。しかし、それが一体何の関係があるのだろう。

俺が疑問符を浮かべていると、そこで一色は頬を膨らませて不機嫌そうにする。だからあざといって。



一色「ていうか先輩、わたしの事知らないんですか? 一応生徒会長ですよ?」

八幡「……そういや、なんか見た事ある気もすんな」



朝礼かなんかで挨拶してたのを思い出す。
けど遠目だったし、よく見てなかったから覚えていなくても仕方ないだろう。



一色「生徒会選挙の時、奉仕部のお二人と……あと奈緒先輩に手伝ってもらいまして。その時に比企谷先輩の事を聞いたんです」




なるほどな。

確かに以前雪ノ下と会った時、面倒な依頼を受けていると聞いた事があった。それを何故か奈緒が手伝っているという事も。
それが一色の言う生徒会選挙の事だったわけだ。つーか、奈緒の奴はアイドル活動もあるのによく学校に顔出してたもんだな。俺にはそんな気力は無かったぞ。

詳しい経緯は知らないが、雪ノ下たちは雪ノ下たちで奮闘していたようだ。



八幡「まぁ、大体の事情は分かった。……で? 俺に何か用か?」



奉仕部と関係がある事も、俺の事をあいつらから聞いていたのも分かった。
が、俺を呼び止める理由が分からない。



一色「先輩って、プロデューサーは辞めちゃったんですよね?」

八幡「ああ」

一色「はーそうなんですかー……ふーん……」



いやだから、何が言いたいのん?
いまいち要領を得んな。

俺の怪訝な表情を察したのか、一色はにこやかに笑いつつ、少し恥ずかしそうにして言う。



一色「いや辞めちゃったなら仕方ないんですけどー。……もしまた戻る予定とかあるならー、アイドルのスカウトとかやってるのかなー、とか思ったり?」

八幡「…………」



……え?

それってつまり……そういう意味だよな?
まぁ、確かに可愛いのは認めるが……



八幡「……お前、アイドルになりたいのか?」

一色「えっ!? もしかして本当にプロデューサーに戻るんですか!?」


俺の問いに、目を丸くして驚く一色。



八幡「いや、もう完全に辞めたからそれは無いな」

一色「なーんだ」



あからさまにテンションを落として溜め息を吐く一色。

いや分かり易過ぎでしょあなた……



八幡「……まぁ、素質が無い事もないがな」

一色「え?」



呆けている一色を他所に、俺は観察する。



八幡「容姿は良いし、制服の気崩し具合を見てもセンスは悪くない。挙動や仕草も、どうすれば男ウケが良いかを心得ているのが分かる」



言動から世渡り上手なのも伺えるし、ある意味では雪ノ下や由比ヶ浜よりもアイドルには向いているかもしれない。

問題があるとすれば……



一色「え? なんですかそれ口説いてるんですかごめんさい気持ち悪いしわたし葉山先輩好きなんで無理です」

八幡「いや違うから……」



この性格だな。
つーか、お前葉山に気があるのかよ……



さっきまでの人当たりの良さはどこへやら。
思わずぞくぞくしそうな冷たい目線である。俺にそんな趣味は無い。


まぁ、そのゆるふわ清楚系ビッチな所もアイドル向きっちゃアイドル向きだ。
少なくとも、うちの事務所にはいなかったタイプと言える。

……いやなんだよ、うちの事務所って。


俺はもう、プロデューサーじゃないっての。



思わず、苦笑が漏れた。



一色「? どうしたんですか先輩。急に笑って気持ち悪いですよ?」

八幡「ほんとお前遠慮ねぇな。……もう用は済んだろ? じゃあな」

一色「あっ、ちょっと待ってくださいよー!」



俺はその場を後にして、歩き出す。
そして何故か、一色もついてくる。


こんな奴がこの学校の生徒会長とはな。

放課後になったら、奉仕部でどんな依頼だったか訊いてみるのも良いかもしれん。
少しだけ楽しみにしながら、歩を進める。



変に絡んでくる一色をあしらいつつ、俺はいつもの場所へと歩いていった。





短いですけど、今日はここまでになります。今回は前編で、次回が後編ですね。

あと、いろはすに関しては何となく一年生と書きましたけど、ヒッキーの予想だしぶっちゃけどっちとも言及はしません。
時系列を合わせようとすると色々と無理が生じるんで、細かい事は気にしない方向で!

あーでも、小町とみうさぎが一緒に入学してくるっていうのも面白そうだなぁ……

ごめんなさいね更新出来なくて。一応完結させられたから色々と緩みっぱでして……
内通者の件に関しては特に明記するつもりはありませんでしたね。そもそも存在しないとか、色々と解釈できる方向でいいかなと(特に考えてなかったとは言えない…)
あと、平塚先生が担任なのは1の願望です。特に担任ではないと言及もされてなかったと思いますしね。


それとこれは全然関係無いんですけど……本編のどのエピソードが面白かったか教えて貰えると嬉しいです。
ほら、これからの参考までにね? モチベも上がるし? やっぱちょっと気になったりするんですよ! 

387だけどこのままスレ流れるくらいなら皆からおkもらえるなら3次創作書き溜め開始してそのうち投げるかも
はよとか急かしで流れるよりはーってな程度で考え中

遅くなってすいません!
こんだけ放置しても待っててくれるなんて、ホントに嬉しくて申し訳ない…
明日、時間は約束出来ませんが更新しようと思います。絶対!

>>398
申し訳ありませんが、出来れば別のスレでお願いします。
でも3次書きたくなる程ってのは凄い嬉しい! 設定とかはもう使っちゃって構わないので、どんどん書いてください! 増えろ俺ガイル×アイマスSS!





……それと、凛ちゃんはもう運任せのキリ番狙いでいく事にしました。
なんなの……なんで皆そんな金あんの……どんだけ時間あんの……


ある日の風景



光「奈緒! メダルを!」

奈緒「よし……こいつを使え! 光!」 チャリーン

光「変身!」 キンッ キンッ キンッ



『ハンサム!』『優しい!』 『真面目!』

『ハ・ヤ・マ! ハヤマ! ハ・ヤ・マ!』



麗奈「ハヤマコンボね……ふんっ! なら、こっちはコレよ!」 ユキノ!

未央「おうともさ!」 ユイ!



『YUKINO/YUI!!』



光「なっ、あの二人が合体したら最強じゃないか!」

奈緒「くっ、今のコンボじゃ勝てないな……ならこれだ!」 チャリーン

光「これは……! なるほど! これなら勝てそうだ!」 キンッ キンッ キンッ



『卑怯!』『頑固!』『皮肉屋!』

『ヒキ~ガヤ~!』



麗奈「むむ、ありゃ厄介ね」

未央「面白くなってきたぁ!」



ーーー
ーー




ワーワー! キャーキャー!



凛「あれは何やってるの?」

ちひろ「暇だから仮面ライダーごっこですって」

八幡「おい。俺の扱いオイ」


遅くなりそうだったので、ちょっと思いつきの小ネタを。
もうちょっと待ってね~

短いけど更新するよー















時刻は既に6限目。


あの後、おかしな後輩をなんとか振り切った俺は昼飯にありつき(その際天使を眺めながらだったのは言うまでもない)、またいつも通りに昼休みを過ごした。

最も、途中戸塚と雑談をしたり、教室への道中材木座と嬉しくないエンカウントをしたり、教室に戻ってから由比ヶ浜に「たまには一緒にお昼食べようよ!」と怒られたり、今にして思えば、以前の俺ではありえない日々が“当たり前”になっているように思う。


果たしてこれが俺にとって良い傾向なのか、そうでないのか。俺には分からない。
お人好しのウチの顧問から言わせれば、もちろん前者だとハッキリ言うだろう。

俺はまだそこまで言い切る事は出来ない。


が。


それでも、悪い事ではないと、言う事は出来る。

きっと、彼女も同じ事を言うだろう。



そんな風に考えを巡らせていると、終業のチャイムが鳴る。

さっさと部室に向かおうかとも思ったが、そういえば今週は掃除当番だった。

めんどくさい事この上ないが、サボる訳にもいかない。
普段いない者として扱ってるくせに、こういう時だけいないと目くじら立てるんだから。ちゃんと残ってる俺マジ健気。

途中由比ヶ浜に先に行くよう促し、部活へ行く戸塚を見送ったり、そのまま教室から人がいなくなるのを待つ。


しかしこうして見ていると、なんで皆すぐに帰らんのかね。
さっさと帰路につくなり、部活に行きゃいいのによ。放課後のお喋りってそんなに楽しいのかねぇ。



八幡「…………」



いや、きっと楽しいんだろうな。
俺にも、俺でさえ経験がある。



仕事を終えてもすぐに帰ろうとせず、

ソファーでマッカン啜りながらダベったり、

同じゲームを持ち寄ってひと狩り行ったり、

帰路の途中にそのまま夕食を一緒したり。



今にして思えば、あれがそうなんだろう。
どこか奉仕部での日常にも似た、何気なくも尊い日々。

それを知ってしまった今の俺には、彼らの行動を否定する事は出来なかった。
だから、俺はこうして黙って待っていよう。


彼らの気が済むまで。




八幡「…………ん?」



ふと気がつくと、教室には俺以外誰もいなくなっていた。
いつの間にか皆帰ったのだろう。





“俺以外の掃除当番の奴ら”まで。





……まぁ、こんなもんですよねー。



しかしそこはそれ。

今更へこむような出来事ではない。


正直、こんな仕打ちは慣れっこである。
これまでにも当然何度か経験はしているし、一人での掃除の方が実は気が楽だ。役割分担もいらないからな。だって全部俺がやるからね!

それに加えて俺の社畜スキルはP時代の一年を経て更に磨きがかかっている。やべぇ、こりゃ専業主夫どころか、家政夫さんレベル待った無しだぜ! それ働いちゃってるよ!


と、くだらない事を考えながら一人掃除に勤しんだ。


机を端まで寄せ、箒がけ。
そしてまた机を逆側に寄せ、同じように箒がけ。

黒板に残った汚れを丁寧に消し、黒板消しを、あの……なんて言うか分からないが、ブォーン言う機械で奇麗にする。



八幡「……っし」



机も奇麗に配置し終わったし、残るはゴミ捨てだけだな。
雑巾がけや窓拭きなんてのは、長期の休み前くらいにしかやらない。学校なんて大体そんなもんだ。



しかし、途中廊下からちらほらと視線を感じたが、見事に総スルーだったな。


まぁ、そりゃ俺だって逆の立場ならシカトする。なので、これも当然の事。

ゴミ箱を抱え、教室を後にする。
目指すは外の、校舎裏にある焼却炉だ。


ちなみによく校舎裏は告白の舞台になったりするが、俺にとっては違う。
今回のような単なるゴミ捨て目的。もしくは、いつもと違う一人飯の場所でたまに行くくらいだな。

もし俺が校舎裏に呼び出されるなんて事があったら、着いた途端「ちょっとジャンプしてみろ」とか言われるに決まってる。いや、さすがに今時それは無いか。言うとしたら平塚先生。



八幡「……つーか、地味に焼却炉遠いな」



そんなに重くないとは言え、ゴミ箱をずっと抱えながら歩くというのも存外疲れる。

出来るだけ近道をしようと中庭を突っ切ってる途中、俺は腕の疲労に耐えかねて一度休憩を取る。まだ半分か……


腰を手を付き、思わず空を仰ぎ見る。
あー嫌になるくらい良い天気だなー



と、俺がそうしている時だった。









「そんな事してても、校舎なんて降ってこないぞ?」








不意にかけられる声。

軽口を叩くようなその言いぶりは、とても聞き慣れたもの。
振り返ってみれば、そこには予想通りの人物が立っていた。



奈緒「ましてや、魔女なんかが現れたりも、な」



総武高校の制服に身を包んだ、神谷奈緒がそこにいた。

……今日は、学校に来てたんだな。



八幡「……そりゃ残念」



肩をすくめるように、嘆息する俺。
本当に残念だ。俺の主夫力ならぬヒロイン力があれば、ぼっちクラフトワークスも夢じゃないと思ったんだがな。



奈緒「それ、焼却炉に?」

八幡「ん? ああ、まぁな」



俺の横に鎮座しているゴミ箱に視線を向け、訪ねてくる奈緒。
特に誤摩化す必要も無いので、相づちを打つ。

すると奈緒はこちらに歩み寄ってきたかと思うと、おもむろにゴミ箱の片側に手をかけた。
そのまま、俺の方をジッと見る。



奈緒「……ほら」

八幡「は?」

奈緒「だから、手伝ってやるよ。さっさとそっち持て」



そのむっとした言い草で、ようやく理解した俺は慌ててもう片方を持つ。
そしてゆっくりとした足取りで、俺たちは歩き出した。

……やっぱ、二人だと軽いな。



八幡「もしかして、どっかで見てたのか」

奈緒「……さっき、廊下をえっちらほっちら歩いてるのを見かけたんだよ。それより他の掃除当番の奴らは?」

八幡「さぁな。部活か自宅じゃねぇの」



奈緒の問いに、俺は何の気無しに答えた。

が、その瞬間俺の持つ側の比重が重くる。何かと思い奈緒の顔を見てみれば、見て分かるような不機嫌面。
あ、あれ。もしかして奈緒さん怒ってらっしゃる……?



奈緒「っんだそれ、今時中学生かっつーの……!」

八幡「お、おい。な…」

奈緒「お前もお前だ比企谷!」

八幡「は、はいっ」



びっくりしたー……思わず身をすくめてしまった。
まさか、俺にまで矛先向けられるとは思わなんだ。



奈緒「なんでそんな当然の事みたいに言うんだよ。怒っていいことだろ!?」

八幡「ってもなぁ。別に今に始まった事じゃ……あ」



しまった。また口を滑らした。
奈緒はと言うと、俺の失言を聴いて「い、一度や二度じゃねーのかよ…」と頬を引きつらせている。



……まったく。

なんで、お前がそんなに怒るのかね。




奈緒「……何笑ってんだよ」

八幡「いや、別に」

奈緒「ったく。そんな調子だから、今回みたいな奴らがつけあがるんだよ」

八幡「俺はいいよ。今のままで」



愚痴るように言う奈緒に、俺はそう言う。
その発言に「またサボられんぞバカ」と奈緒は言葉を零しながら、俺を見る。

それでも俺は、今のままでいい。



八幡「少なくとも、ゴミ箱の片側を持ってくれる奴はいるからな」



たぶん、それはこの素直になれない彼女の他にも、少なからずいる。
もちろん逆の立場なら、俺だってきっとそうする。

なら、俺はそれで充分だ。



奈緒「……バーカ」



ぷいっと顔を逸らす奈緒。
その表情は伺いしれない。呆れているのか。照れているのか。


もしくはーー





八幡「…………まだ、怒ってんのか」



思い出すのは、一ヶ月程前の出来事。
あの日俺は、自分自身に決着をつけた。が、それでもそれに納得しない者達もいた。

コイツも、例に漏れずその一人。



奈緒「……あたりめーだろ。一生許さねぇ」



顔を背けたまま、呟く。



「お前のことも……自分のことも」



そう小さく続けた言葉も、俺の耳には届いた。






八幡「……ハァ」



俺が言うのもなんだが、面倒くさい奴だ。

どんだけ義理堅いっつーんだよ、マジで。


あの日の事を、未だに負い目に感じている。
それは奈緒に限らず、あの日いた奴ら全員が。

あれは、誰もせいでもないってのに。


ホント、痛くなる程に、優しい奴だ。




八幡「なぁ、奈緒よ」

奈緒「ん」



呼びかけに応じるも、顔は背けたまんま。
どっちかと言うと拗ねているように見える。



八幡「俺は、もう自分を許した」



俺にこんな事を言う資格は無いのかもしれない。
けどそれでも、少しでも彼女の肩の荷を降ろしてやりたいから。



八幡「だから、お前も許してやってくんねーか。お前のことをよ」



積もった悲しみを、減らせるようにと。

俺は、言葉を紡ぐ。



奈緒「…………」



奈緒は背けていた顔を戻し、チラッと一瞬俺の顔を見て、目を伏せ、そして落ち着き無く視線を彷徨わせる。
なんつーか、奈緒らしさをまた見た気がした。



奈緒「……はぁ、分かったよ。あー……アタシも、自分の事を許してみようと…思う」



そして、いつもの勝ち気な笑顔で、俺に言う。



奈緒「けど、やっぱお前は許してやんねぇ。お前がプロデューサーじゃないなんて、アタシは認めねぇよ」



言葉とは裏腹に、その表情は溌剌していて、どこか元気を貰える笑顔だった。





八幡「……そうかよ」



思わず、俺も笑みを零すくらいには。


気づけば、もう目的地も近い。
ずっと教室から歩いてきたのに、最初よりも足取りが軽い。

どうやら、半分になったのは重さだけではないらしい。



奈緒「つーか、もう次は手伝わねぇからな。ゴミ捨てくらい自分で何とかしろよ」

八幡「安心しろ。実は焼却炉なんか使わなくても事足りんだ。手で覆えるくらいなら木に変えられるから」

奈緒「お前神候補に能力貰ってたの!? ……ってあれ中学生限定だろ!」

八幡「神器は五ツ星まで使える」

奈緒「しかも天界人!?」



他愛もない会話をしつつ、友達と歩く。

なんだかんだ、俺も“放課後を過ごす生徒”の一人になっちまったな。


……まぁ、なんだ。



やっぱりこういうのも、案外悪くない。





今夜はここまで! 短くて申し訳ない!
あと前回が前編で今回が後編だと言ったな。あれは嘘だ。たぶん次でこの話は終わり!


ある日の風景 奉仕部編



由比ヶ浜「うぅ~……ヒッキー、今頃何やってるのかなぁ」

雪ノ下「恐らく、プロデュース活動でしょうね」

由比ヶ浜「それは、そうだけど……そうじゃなくて!」

雪ノ下「なら、レッスンの付き添い。ライブの打ち合わせ。もしくは事務所で企画会議や事務仕事をやっている、というのはどうかしら」

由比ヶ浜「別に具体的に何やってるのかとか、そういう意味で訊いたんじゃないから!」

雪ノ下「なら、どういう意味で訊いたのかしら?」

由比ヶ浜「それは、えっと……」

雪ノ下「…………」

由比ヶ浜「うぅ……」

雪ノ下「……心配なのね、彼の事が」

由比ヶ浜「そう、なるのかな……?」

雪ノ下「大丈夫よ。彼は目も性根も根性も腐った人間だけれど…」

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのんが相変わらず容赦ない」

雪ノ下「……けれど、自分の信じたものにはどこまでも真っ直ぐな男よ。それが周りから蔑まれ、虐げられる道であっても、ね」

由比ヶ浜「……ふふっ」

雪ノ下「な、何を笑っているのかしら」

由比ヶ浜「ううん。ゆきのんって、ヒッキーがいない時はあんまり酷い事言わないなーって」

雪ノ下「そ、そうかしら。……気のせいだと思うけれど」





由比ヶ浜「あはは♪ ……あっ! そうだ!」

雪ノ下「どうしたの?」

由比ヶ浜「あたしたちも、アイドル目指そうよ! そうすればヒッキーと一緒にお仕事出来るし!」

雪ノ下「それはまた、安直な発想ね……」

由比ヶ浜「ねぇねぇ、どうかなゆきのん?」

雪ノ下「そうね……私はどちらかと言うと、比企谷くんのやってるようなプロデューサー業の方が興味はあるけれど……」

由比ヶ浜「? ゆきのん?」

雪ノ下「……やっぱり、私は遠慮しておくわ」

由比ヶ浜「えーっ! どうして?」

雪ノ下「私が奉仕部の部長である以上、ここを空けるわけにはいかないからよ。……未だついていない勝負も、忘れるわけにはいかないもの」

由比ヶ浜「勝負??」

雪ノ下「こちらの話よ」

由比ヶ浜「ふーん……?」

雪ノ下「けれどもちろん、由比ヶ浜さんがアイドルを目指すというのなら、私は応援するわ」

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのん……!」

雪ノ下「最近では、バカドルというのが流行っているのでしょう? 中々、言い得て妙な言葉ね」

由比ヶ浜「ゆきのんが辛辣だ!?」

雪ノ下「ふふ……冗談よ」

由比ヶ浜「もーうっ!」

雪ノ下「ふふふっ」

由比ヶ浜「……あはは。それじゃあ、あたしもやーめよっ」





雪ノ下「! やめるって、アイドルを目指す事を?」

由比ヶ浜「うん。よく考えたら、あたしはヒッキーと……ゆきのんと三人で一緒にいたいから」

雪ノ下「…………」

由比ヶ浜「だから、ゆきのんを一人にしたら意味ないじゃん? あたしも、ここでヒッキーを待つことにするよ」

雪ノ下「……そう」

由比ヶ浜「うんっ!」

雪ノ下「それなら、今日も活動を始めるとしましょうか」

由比ヶ浜「よーし! とりあえずはメールのチェックだね! 張り切っていこう!」

雪ノ下「まぁ、あなたがまともに解答した事は殆ど無いのだけれどね」

由比ヶ浜「ゆきのんってばもうっ! 一言余計だし!」



ウフフ……アハハ……



ーーー
ーー




材木座「ふむ……今日の所は原稿を読んで貰うのはやめておくとするか」

平塚「おや、どうしたんだね。扉の前に立っていたりして」

材木座「すまないが、今ばかりは彼女らの邪魔はせぬようお願い申す。今この部屋には、貴女の失ったもので溢れているのだ」

平塚「は?」

材木座「けぷこんけぷこん……主に、若さとか」

平塚「よーしちょっと着いて来ようか。生徒指導室はコチラだ」


本編の更新は無いよ。無いんだ……
でも小ネタはこんな風にたまーに投下するかも!

百合属性は無いんだけどなぁ……ガハマさんと雪ノ下さんの絡みは原作読んでても微笑ましくなっちゃう。


ある日の風景 その2



美嘉「あれ? それってもしかしてアタシたちが表紙やった雑誌?」

八幡「ん……まぁな」 パラパラ

美嘉「へー、ほー、ふーん?」

八幡「なんだよ、凛の真似か?」 パラパラ

美嘉「あはは、別にそんなつもりじゃないって。なに、サンプルでも貰ったの?」

八幡「いや、コンビニで売ってたから買ってきた」 パラパラ

美嘉「そ、そうなんだ。……で、どう?」

八幡「どう、とは?」 パラパラ

美嘉「もう、可愛く撮れてるかに決まってるじゃん? アタシも莉嘉も、今回はかなり良かったと思うんだけど★」

八幡「まぁ、良いんじゃねーの」 パラパラ

美嘉「だから、そんなテキトーな答えじゃなくてさ。正直な意見を聞かせてよ!」

八幡「…………」 パラ…

美嘉「?」

八幡「……少なくとも、俺が個人的にお金を出して衝動買いしたくなる程には、その…………可愛いと思う」

美嘉「…………」

八幡「…………」

美嘉「……ぶっちゃけちょっとキモイ」

八幡「俺の正直を返せ」






莉嘉「?? 二人とも顔赤くなってるけど、どうかしたの?」

ちひろ「なんででしょうねー。とりあえず壁殴り代行依頼しておきますね」


明日か明後日には更新出来たら良いなー(願望)

アニメ面白かったぁ!
凛ちゃんが可愛くて大満足! Pのキャラも個人的に凄く良いね!

………更新は、うん。もうちょっと待ってください…生存報告でした……

更新遅くて申し訳ない……けど、すいませんがスレを落とす気は無いです。
まだ書きたい話もありますし、まちまちの更新になるのも>>125で言ってますからね。

結局は自己満足ですけど、少なくとも今書いてる話が終わるまでは続けようと思います。ごめんなさい!

永らくお待たせしました。もうちょっとしたら更新します!

投下します!














あの後、焼却炉にて無事にゴミを処理し終えた俺たちは教室に戻り、その場で別れた。


掃除を終えたので俺は奉仕部の部室に、奈緒はシンデレラプロダクションへ。
学校へ来ていたのでてっきり休みだったのかと思ったが、この後しっかり仕事が入っているらしい。

どうやら、アイドル業の方は上手くやっているようだ。


……ただ、その割には少し元気が無かったようにも思える。

きっとその原因は、先程話した一ヶ月前の件だけではなく“あれ”が多分に効いているのだろう。
その証拠に、今日の会話中仕事関係の話は一言も喋らなかった。

落ち込んでいるのか、不甲斐なさを感じているのか、はたまた両方か。


正直に言ってしまえば、俺も一緒の気持ちだ。
本気で悔しいと思っているし、心の内のモヤモヤが晴れない。

彼女たちと同じように、俺も言葉に出来ない気持ちを抱えている。


……だが、そんな事は言えはしまい。


俺なんかよりもずっと、当人たちの方が悔しいに決まっているのだ。

悔しくて、辛くて、いてもたってもいられない。そう思っているはずだ。



彼女たちの方が、ずっと。












由比ヶ浜「ヒッキー……なんかちょっと元気無い?」


八幡「は?」



思わず、間抜けな声を出す。
考え事をしていたのもそうだが、予想していなかったその言葉に意表を突かれたのだろう。

見れば、由比ヶ浜は心配したような不安げな表情で俺を見つめている。



八幡「元気無いって……そう見えるか?」

由比ヶ浜「うん……気のせいかなーとは思ったんだけど、やっぱり、少しだけ……」



マジか。俺的には普段通り振る舞ってたと思ったんだがな。



雪ノ下「確かに、今日はいつにも増して気だるげな空気を纏っているような気もするわね。何かあったの?」



そこに雪ノ下も本から顔を上げ、会話に参加してくる。
いつにも増しては余計だ。どうせ纏うなら妖怪とか鬼纏いたい。



八幡「いや、何かと言われてもな…」

由比ヶ浜「あっ、もしかして昨日やってた結果発表?」

八幡「……」



……やっぱ、由比ヶ浜は見てるよなぁ。

図星。これ以上無いくらいの図星である。




正直あやふやに出来るならこのまま気のせいを通したかったが、バレてしまっては仕方がない。
まぁ、時間の問題でもあったからな。あんだけ大々的に取り上げれば、いつかは話題に上がるだろうとは思っていた。

今朝は省略したが、戸部もうるさかったし。



雪ノ下「なるほどね。昨日やっていた特別番組の結果発表。その結果がショックだったと、そう言うわけね」



納得したように呟く雪ノ下。
まさか雪ノ下も知っているとは少々驚きだったが、それだけ大きな話題だという事だろう。


昨日放送されたとある特別番組。
それは、足掛け一年やってきたあの企画の結果発表だ。



シンデレラプロダクション企画 『プロデュース大作戦』



それこそが俺がプロデューサーへとなれたきっかけであり、目的だった企画。
この企画の為に俺は凛をプロデュースし、そして様々なアイドルを臨時プロデュースしてきた。

結果的には、俺は最後までやり抜く事が出来なかったがな。


結局プロデューサーを辞めるという行為でしか、あいつの背中を押してやれなかった。
プロデューサーとしてそこに後悔は無い。

……だが、やはりあの投票結果は少し堪えるものがあった。



由比ヶ浜「……残念、だったね」

八幡「…………」




とても言いにくそうに、悲痛な面持ちで呟く由比ヶ浜。



そうだ。



結果的に言えばーー

















凛は、シンデレラガールにはなれなかった。

















結果は19位。



あのスキャンダルの騒動が起きる前であれば、考えられない数字だ。

元プロデューサーという贔屓目を抜きにしても、間違いなく凛は1位を狙える程の人気を得ていたと思う。


それが、トップ10にも入れないという結果。
やはりあの騒動が大分効いたのだろう。


……過ぎた事とは言え、どうしたって気分は沈む。

分かっていた事とはいえ、割り切れない思いはある。



正直、俺は落ち込んでいた。


当たり前だ。
凛をシンデレラガールにする為に、俺はプロデューサーとなったのだから。

それに臨時プロデュースした他のアイドルたちの事だってある。順位に納得出来ないのは、凛の事だけではない。



どうしたって、悔しいものは悔しいのだ。



俺が沈黙していると、他の二人も気まずくなったのか何も言わなくなる。

静寂が、部室の中を満たしていた。



ーーが、存外それも長くは続かなかった。









雪ノ下「……確かに結果は残念だったわね」






静かな部屋の中、雪ノ下が言葉を発する。
見れば、彼女は俺の事をじっと見つめていた。



雪ノ下「けれど、それでも私は素直に凄いと思うわ」

八幡「……?」

雪ノ下「だって、逆に言えば彼女は、あれだけの事があっても“19位”まで昇りつめる事が出来たんだもの」




そう言った雪ノ下の瞳は淀みなく、お世辞だとか、励ましだなんて気持ちは感じられない。
否。そんな言葉を、雪ノ下雪乃が言うわけがない。それは俺も良く知っている事だろ。


彼女は、本心から言っていた。



雪ノ下「私なんかよりも、あなたの方が分かっているでしょう。あのプロダクションで、“19位”という順位を勝ち取るのがいかに難しい事かをね」

由比ヶ浜「そうだよヒッキー! デレプロって言ったら、百……えっと…………ひゃくー……?」

雪ノ下「183名よ」

由比ヶ浜「そ、そう! 183人もアイドルがいるんだよ!? その中で19位だなんて凄いよ!」



雪ノ下に続き、由比ヶ浜までもが声を上げる。
恥じる事は無いと、その目が訴えかけてくる。



雪ノ下「もちろん、他の子たちもね。皆あなたが同情する程弱い子たちではないわ。そうでしょう?」


八幡「……雪ノ下」



きっと、今の俺はさぞ阿呆面に違いない。

雪ノ下も由比ヶ浜も、きっと俺を元気づける為に言っているわけではないのだ。
いや、そういった気持ちもあるのかもしれない。けど、本当に言いたい事はそうじゃない。


ただ19位という凛の結果を“悪い結果”だと、そう思ってほしくないんだ。


それは誇って良い結果だと、そう言いたいんだ。




183人ものアイドルの中で、凛は19位を勝ち取った。

それは、決して不甲斐ない結果なんかじゃない。



凛の、やってきた全てだ。



悪い結果だなんて、言えるわけがない。






八幡「……ああ。そうだな」



俺は思わず苦笑する。

全くもってその通りだ。
自分の情けなさが嫌になる。元プロデューサーでありながら、まさかこの二人に教えられるとは。

やっぱいつまでたっても、この二人には敵わない。



俺のその様子を見て、由比ヶ浜は安堵したように微笑む。

そして雪ノ下はーー












ーー雪ノ下は、何故か憤ったような顔をしていた。









雪ノ下「……大体、あの結果に納得出来ていないのは私も同じよ」



八幡「は?」



















雪ノ下「何故……なぜ前川さんが28位という順位なのかしらーー?」
















……え。













由比ヶ浜「ゆ、ゆきのん……?」



由比ヶ浜の呼びかけにも答えず、雪ノ下は拳を握りどこか遠くを睨みつけている。
心なしか、ぷるぷると震えているようにも見えた。

ゆ、雪ノ下さん……?




雪ノ下「本当におかしいわね。何故あれだけ可愛らしい子が28位なのかしら。歌唱力もあるし、前に出した写真集『みく猫ダイアリー ~31days~』も凄く素敵だったのに。投票券の為というのもあるけれど、3冊買うに充分過ぎる内容だったわ。しかもビジュアルだけじゃなく、幅広くジャンルを問わず仕事をしているし、何がいけないと言うのかしら。ええ、本当に。全くもって理解に苦しむわね」






何か溜まっていたものでもあったのか、喜々として語り始める雪ノ下。

若干、というか大分俺たちは引いていたが、雪ノ下に気づく様子はない。



……しかしまさか、雪ノ下が前川のファンだとはなー(白目)。

確かに出してた。写真集。
あの毎日違う猫と一緒に写真撮る日記形式のやつだろ。

猫好きもここまでくると、中々どうして何だか怖い。
だからやけにデレプロに詳しかったんだな……



由比ヶ浜「た、確か投票券って、関連グッズを一点買う毎に一枚貰えるんだったよね?」

八幡「ああ。あの様子じゃCDも買ってるだろうし、一体何票投票したのやら」



まぁ、元プロデューサーの立場から言わせてもらえばありがたい話だけどな。
こういうファンのおかげで、アイドルたちは成り立ってるんだし。前川も嬉しいだろ。……たぶん。



雪ノ下「しかも速報の時点では圏外……私が念を入れたから良かったものを、あのまま行っていたらどうなっていた事か……考えただけで恐ろしいわ」

八幡「おい。お前一体何した」



圏外から出るくらいに投票でもしたってのかお前……
一応31位以下が圏外となっているから、前川は速報から最低でも3人分順位を上げた事になる。いやまさか……冗談だろ。さすがに、うん。




由比ヶ浜「ま、まぁまぁゆきのん。落ち着いて、ね?」



さすがに見ていられなくなったのか、由比ヶ浜が雪ノ下を止めにかかる。
まぁ俺は面白いものが見れたから得した気分だがな。これ陽乃さんに教えたらどうなるんだろうか。



雪ノ下「……ごめんなさい、少し取り乱してしまったみたいで」



そして今頃になって羞恥心が湧いてきたのか、僅かに頬を紅潮させる雪ノ下。

気持ちは分かるぞ。俺も前に小町にやよいちゃんの魅力を聞かれた時、我を忘れるくらいに語ってしまったからな。
気づけば小町はおらず、普通にリビンゲでテレビ見てた。せめて聞けよ。泣くぞ。



由比ヶ浜「えへへ。でもゆきのん、みくちゃんが好きなんだ。猫繋がりってのは分かるけど、何か以外だなー」

雪ノ下「そ、そうかしら。……それじゃあ、由比ヶ浜さんは誰か応援しているアイドルはいるの?」



恥ずかしそうにしながらも、ふと興味が湧いたのか由比ヶ浜へと問う雪ノ下。



由比ヶ浜「え? あ、あたし? うーんそうだなぁ……やっぱり、城ヶ崎美嘉ちゃんかなー」

八幡「美嘉か。そういや、前に読モの時からファンだって言ってたな」

由比ヶ浜「うん。あっ、サインありがとね。宝物にするからっ!」



思い出したように、嬉しそうな笑顔を見せる由比ヶ浜。
こんだけ喜んでくれるなら、美嘉も嬉しいだろ。



……良かったー最後の最後で思い出して。

一ヶ月前のアニバーサリーライブで、何とかギリギリ頼む事が出来た。



まぁ、当人の美嘉は「こんなのいつでも書いてあげるよ★」とか言ってたけどな。
そんな簡単に会えるかっつーの。



雪ノ下「確か、由比ヶ浜さんも何点かグッズを買っていたわよね。城ヶ崎さんに全て投票を?」

由比ヶ浜「あー…うん。実は、そうでもないんだよね……」

八幡「? 他の奴にも投票したのか?」

由比ヶ浜「う、うん。とりあえず、8人に……」

八幡「8人!?」



思いのほか大人数に入れていた事に正直驚く。
何人かに投票する奴は確かにいるが、それでも精々2~3人がいいとこだからな。

しかし、なんでまた8人も……






…………。






八幡「……8人って、まさか」

雪ノ下「奇遇ね。私も今同じ考えに至ったわ」

由比ヶ浜「あ、あはは。やっぱり分かっちゃった?」



はぁ……なるほどな。

なんでそんな大人数かと思えば、そういう事か。
だが確かに、由比ヶ浜らしいっちゃ由比ヶ浜らしい。



由比ヶ浜「だって、せっかく仲良くなれたから、入れてあげたいし……」

雪ノ下「まさか、“会った事のあるアイドル全員”に入れるとはね。……でも、あなたらしいわ」

八幡「残りの一人は大方莉嘉だろうな」



凛に、卯月、未央、奈緒、加蓮、輝子、そして美嘉に莉嘉。

ある意味じゃ、とても分かり易い。



由比ヶ浜「最初は、美嘉ちゃんとしぶりんに入れようと思ったんだけど、そしたら卯月ちゃんが可哀想かなーって思って、でもそしたら今度は未央ちゃんがーってなって……そしたら、気づいたら結局全員に入れちゃった」



あはは、と苦笑いを浮かべる由比ヶ浜。
本当、どこまでも優しいこって。

思わず呆れてしまったが、しかし、由比ヶ浜らしいとどこか安心してしまった。
そしてそれは、雪ノ下も同じだろう。



雪ノ下「ふふ。色んな人に入れるのは良いけれど、あまりお金をつぎ込み過ぎない事ね」

由比ヶ浜「むー、それはゆきのんに言われたくないし!」



楽しそうに笑いあう二人。

しかしそんな中、俺はまた一人の少女を思い浮かべていた。



彼女は、この順位に果たして満足しているのだろうか。




悪い結果ではない。

胸を張っていい。



だがそれでも、ここがゴールじゃない。



ならば、きっと彼女はーー






雪ノ下「比企谷くん?」

八幡「っ!」



雪ノ下の声に、思わず身をすくめる。
いかんな。最近はどうも考え事に耽り過ぎだ。



雪ノ下「あなた、ちゃんと話を聞いていたのかしら」

八幡「悪い。ぼーっとしてた。……で、何の話だった?」

由比ヶ浜「だからー、ヒッキーは誰々に何票入れたの? やっぱりしぶりん?」



誰に、何票、投票したか。

その質問の答えを、雪ノ下と由比ヶ浜はじっと俺を見つめ、待っていた。






八幡「……俺はーー」


























夕暮れの帰り道。



日はとっぷりと落ち始め、辺りは既に薄暗くなっている。
遥か遠くに見えるオレンジ色の夕日をぼーっと眺めながら、俺は足をゆっくりと進めていく。


結局、あれから新しい自転車は買っていない。


その内その内と思いながら徒歩通学を続けていたら、歩いて通学するのも悪くないと思い始めてしまった。

少し早く家を出て、音楽でも聴きながらゆっくり歩いていく。
帰りは夕日でも見ながら、日が沈めば星でも見ながら。


こうしてのんびりと歩くのも、案外良いものだ。


まぁ、それはそれとしてチャリは買わないといけないがな。
休日とかやっぱあった方が便利だし。




八幡「小~さな始ま~りの、メッセ~ジ~♪」



何となし、特に近くに誰もいなかったので歌を口ずさむ。
デレプロの曲はみんな好きだが、メッセージが特にお気に入りだったりする。良い曲だ。



しかしそこで俺は、ふと思い出す。



大体俺が帰り道とかで歌を歌っていると、誰かしらと遭遇する事を。

しかし既にもう遅い。俺の嫌な予感は、見事当たることになる。



それもーー

















「あれ? 比企谷くんだー!」


八幡「ーーッ」






過去最大、面倒な邂逅で。








「ひゃっはろー! こんな所で会うなんて、偶然だねぇ」


八幡「……どうも」






本当に嬉しそうに、声を弾ませ、俺へと語りかける。

容姿も、挙動も、一つ一つが美しく、どこにも無駄な要素は無い。



どこまでも華麗で、どこまでも完成された彼女はーー






八幡「お久しぶりです……雪ノ下さん」


陽乃「ほーんと、久しぶりだね。比企谷くん」






どこまでも、嘘くさかった。














陽乃「今は、帰宅中?」

八幡「ええ、まぁ」



あくまで自然に、さも偶然通りがかったように振る舞う陽乃さん。
だが、そんな筈が無い。この人と“偶然”会うなんて、そんな事があるとは俺には思えない。

というか、あったとして信じたくはない。どれだけ不運なんだよ。


しかし陽乃さんそんな俺の気持ちを知ってか知らずか(いやたぶん分かってるんだろうな)、思案するように人差し指を顎に当てる。
そして名案! とばかりに笑顔になると、若干の上目遣いで俺に甘い声で語りかける。



陽乃「ねぇ、それなら今からお茶でもどう? 折角会えたんだし、お姉さん奢っちゃうよ?」



百点。百点満点だ。花丸をあげたくなる程に。

並の男なら絶対断らないだろう天使の誘い。
もう嫌になるくらいに男のツボを心得ているのが分かる。さすがは雪ノ下陽乃だ。



……だが、残念ながら俺は並の男ではない。

完璧なものを見せられれば、必ず疑ってかかる。陽乃さんのその挙動は、俺には悪魔の囁きにしか思えなかった。
本物の天使とは、やよいちゃん、もしくは戸塚の事を言うんだ。覚えておけ。いや覚えなくていいけど。

だから、陽乃のお誘いに対する俺の答えは決まっている。



八幡「結構です」



我ながら実に淀みない拒否。
答えるまで、1秒とかからなかった。



そしてそんな俺の返答に、陽乃さんは特に驚いた様子もなく。



陽乃「そうかー、そりゃ残念。でも、やっぱり比企谷くんはそうでなくちゃね」



微塵も残念そうじゃない笑顔で、ちっとも嬉しくない評価を頂いた。
元より、期待はしていなかったらしい。

つーか、外面完璧にするんならもうちょっと残念そうに装えよ……



陽乃「それじゃ、そこまで一緒に行こうよ。話しながらさ」

八幡「……まぁ、それくらいなら」



本当はそれすらも嫌だったが、ここで何を言ってもこの人は着いてくるだろう。
むしろ、これくらいで済んだと思えばいいかもしれない。

しかしこの人が徒歩とか、益々偶然会ったとは思えん。似合わな過ぎだろ。



陽乃「いやー、でも良かったよ。比企谷くんが変わらないみたいで。お姉さん安心しちゃった」



特に遅くもなく、早くもない足取りで歩いていく。
足が長いからか、陽乃さんの歩くペースは俺とさほど変わらない。



八幡「別に、安心するようなことじゃないと思いますけどね」

陽乃「そんな事ないよー、本当に心配してたんだから」





陽乃さんは、横にいる俺へと、その大きな瞳を向ける。




陽乃「まさか比企谷くんが……」




奇麗なその瞳は、しかしどこか仄暗い。

その奥に秘められた、何か。






陽乃「……アイドルのプロデューサーになる、なんてね」






俺はそれが、酷く怖かった。



八幡「……」

陽乃「何で教えてくれなかったかなー、そんなに面白そうなこと」

八幡「別に、わざわざ言う程の事じゃないですよ」



無邪気そうなその台詞に、感情の籠っていない声で返す。
これは本音だし、むしろ一番この人には言いたくなかった。

何か、面倒事が起きるに決まってる。



陽乃「まぁ、それでも入って一ヶ月くらいの時には知ってたんだけどね。あの会社には私の知り合いもいるし」

八幡「え……知り合い?」




陽乃さんのその発言に、思わず素に戻る。

デレプロに、陽乃さんの知り合いがいるだと?


ハッタリかとも思ったが、しかし恐らく陽乃さんはこういった事に嘘はつかない。
ということは、本当に……?



陽乃「その子のコネで、遊びに行きたかったんだけどねー。八幡ちゃま?」

八幡「ち、ちゃま?」



そしていきなりの不可解な呼び方に意表を突かれる。なんだ、そのキャラに合わない舌足らずな呼称は。

しかし陽乃さんは「ありゃ、知らないか。まぁあれだけ人数いればね」と勝手に一人で納得していた。
どうやら、その知り合いについて話す気は無いらしい。



陽乃「遊びに行こうと思えば行けたんだけど、止められちゃったからね。今回はやめといたの」



思い出すように、薄く笑いながら目線を上げる陽乃さん。
珍しく、その仕草にはいつもの嘘っぽさは感じなかった。



八幡「止められたって……」

陽乃「雪乃ちゃんだよ」

八幡「っ!」



雪ノ下が……?

思わず、目を見開く。
そんな話、あいつは何も言ってなかったのに……



陽乃「お願いだから彼とシンデレラプラダクションには関わらないで頂戴、って。怒る訳でもなく、頭を下げられちゃった。雪乃ちゃんったら、私がまるで悪さでもすると思ってるのかしらね」



……正直否定出来ない気もするが、今は言わずにおく。



陽乃「あんな顔して頼まれたら、さすがの私も断れないよ」

八幡「…………」

陽乃「……久しぶりだったな。雪乃ちゃんと、あんな風に何も損得考えずに約束したの」



それは、雪ノ下陽乃が見せた数少ない本心だったのかもしれない。
少しだけ寂しそうな、その笑顔。

たった一瞬だけのその表情を、俺は忘れる事は無いだろう。









陽乃「まぁ、最終的にはその約束も破っちゃったんだけどね♪」


八幡「おい」






そして一瞬が終わったかと思えば、陽乃さんは悪戯っぽく舌を出して最低な事を宣った。
いや、俺の感動を返して? つーかなに、何をしたの? 俺なんも知らないんだけど!?


俺の追求に「大丈夫だよ、色々ちょっかいかけたのは最近だから」と、のらりくらり躱す陽乃さん。
全然大丈夫な気がしないんですがそれは。



やはり、陽乃さんは陽乃さんであった。








それからしばし歩き、やがて岐路にさしかかる。
俺が自宅への道を行こうとすると、陽乃さんは反対の道へと足を伸ばし、振り返った。



陽乃「じゃあ、今日はここで。今度はちゃんとお茶に付き合ってね」



いつものどこか作り物っぽい笑顔。
俺は立ち止まり、少し考えた後こう言った。



八幡「……それなら、次は本気で誘ってくださいよ。行くかどうかはそっからです」



その言葉に陽乃さんは少し驚いた様子を見せ、その後意地悪く笑いながら言う。



陽乃「へー。それなら、前もってきちんとデートにお誘いしたら、君は来てくれるのかな?」

八幡「たぶん断ります」

陽乃「あはは、言うと思った」



まるで、予定調和のようなそのやりとり。
確認作業と言ってもいいかもしれない。


俺は陽乃さんが本気でものを言わないのを分かっているし。

陽乃さんは、俺が誘いに応じないのを分かっている。


信頼なんてものじゃない。
これは、もっと酷い何か。


そこで、ふと陽乃さんは呟いた。






陽乃「……比企谷くん。理性の怪物が愛を知ったら、どうなると思う?」

八幡「は?」




本当にいきなりのその問いに、俺は思わず間抜けな声を出す。

理性の怪物……?
一体何の話だ?



陽乃「……ううん。何でもない」



しかし困惑している俺に、陽乃さんは自分から話を打ち切る。
くるっと身を翻し、背を向け歩いていってしまった。






陽乃「それじゃ、またね比企谷くん。雪乃ちゃんをよろしくね♪」






最後に、いつもの明るい言葉を残して。






八幡「…………」



理性の怪物が、愛を知ったら。

その言葉にどんな意味があるのか、何を指すのか、それは俺には分からない。
だが、不思議と頭の中に残っていた。



八幡「……帰るか」



陽乃さんの背中を見届け、俺は自分の家へと向けて足を進め始める。
歩きながら思い返す、あの人との道中。


それにしてもあの人、妹好き過ぎだろマジで。
いや俺も妹大好きだけどね? もし万が一お茶でもする機会が来るのであれば、お互いの妹自慢に花を咲かせるのも良いかもしれん。
……まぁ、そんな機会が来るとも思えんがな。

一体全体、あの人は何しにやって来たのやら。




今日は何だかどっと疲れた。

朝から戸部のアイドル談義に付き合わされ、一色とかいうあざと生徒会長にも絡まれた。
そういや、奈緒にはゴミ捨て手伝ってもらったな。後でジュースでも奢ってやるか。
そんで放課後は、いつも通り奉仕部の部活。雪ノ下の意外な一面や、由比ヶ浜らしさを垣間見れた。



八幡「…………」



そこで思い出す、プロデュース大作戦の話題。

あいつは、今頃何をしてるのだろうか。



そう思ったら、俺はいつの間にか立ち止まっていた。
ポケットからケータイを取り出し、電話帳を開く。

ディスプレイに表示される、一つの名前。






八幡「……………………ぐっ…」






たっぷりと苦悶し、悩んだ末、俺は思い切って通話ボタンをタップした。



やべぇ、何かけてんだ俺。

よくよく考えると、仕事の用件以外で俺から電話をかけたのは初めてだった。


ケータイを耳に当て、プププ、という音の後コールが始まる。
もしかしたらまだ仕事中なのかとも思っていたが、案外、相手は早く出た。








凛『ーーもしもし? プr……八幡?』






一ヶ月前まではよく聞いたその声が、今じゃとても懐かしい。

……つーか、まだ呼び方慣れないのかよ。



八幡「ああ、俺だ。あー……すまん。今、忙しかったか?」



なんとか冷静を装ってはいるものの、内心はかなり焦っている。
いやだって、思いのほか早く出るんだもの。もうちょっと心の準備ってものをね?



凛『ううん、今は帰り道。もうそろそろ家に着くよ』

八幡「そうか、ならよかったよ」

凛『……どうかした?』



少し、暗めな声のトーン。

それは凛の元気が無いのか、それとも俺を気遣ってか。
俺には分からず、そして、何を言いたかったのかも分からなくなる。



八幡「あー、えっと、だな。…………げ、元気か?」



なんとも、情けない話の振りだった。
いや勿体ぶった末に出て来た言葉が「元気ですか?」って……猪木か俺は。





凛『あはは、何それ。まぁ元気かどうかで言えば……元気無い、かな』



電話越しでも分かるくらいの、空笑い。
元気が無いというその言葉、きっと本音なのだろう。




八幡「凛……」


凛『もちろん、分かってるよ。19位っていう順位が、今の私にとって充分過ぎる数字だってこと……でも、やっぱり私は、ここで終わるつもりはない』




次第に、凛の声が力強くなっていく。

熱を、帯びていく。






凛『約束したからね。私は、トップアイドルになる。だから、絶対にここで終わるわけにはいかないよ』






約束。

友達でも、恋人でも、プロデューサーでもない俺と交わした一つの約束。



その約束を守る為に、凛はただ頂きを目指す。




……本当に律儀というか何と言うか。
相変わらず、呆れるくらい真っ直ぐで安心したよ。





八幡「……そうか。けど、シンデレラガールにもなれないようじゃ先は長そうだな」




俺の軽口に、凛は「うっ……」と一転痛い所を疲れたように呻く。





凛『こ、今回はダメだったけど、第二回じゃ負けないから。……ううん、その次でもなれなくても、第三回もある。……絶対に、シンデレラガールになってみせるから』






だからーー


彼女は、凛は笑って言う。









凛『ーー待っててね。八幡』


八幡「……ああ」





今は隣じゃなくっても。
きっと、届かない距離じゃない。

この声も、それに乗せた、この気持ちも。



その後も雑談やら、最近の仕事やらの話をしながら歩く。
一応メールでの連絡は取り合っていたものの、電話をしたのはあれから初めてだったからな。


たまには、こういうのも悪くない。








凛『そう言えば、最近なんかウチの事務所から懲戒処分を受ける人がいるみたいだよ』

八幡「懲戒処分?」



なんだなんだ、穏やかじゃない話題だな。
一体何をやらかしたと言うのか。



凛『なんでも、プロダクションの情報を外部にリークしてたとかって。多分明日くらいにはニュースになると思う』

八幡「外部にリーク……それって」

凛『うん……たぶん、考えてる事で間違いないと思う』

八幡「…………まぁ、過ぎた話だ」



今更、どうこう出来る問題じゃない。
思う所が無いわけではないが、それでも、こうして終着出来ただけ良しとしよう。

むしろそれより気になるのは……



八幡「しかし何で今更発覚したんだ? もうあれから一ヶ月もたつってのに」

凛『それがなんか、提携してる別の会社から直々に調査が入ったみたい。詳しい事は私も知らないけど、そのおかげでリークが発覚したんだって』



凛のその言葉を聞き、俺は思わず立ち止まる。
思い出すのは、ついさっき交わした強化外骨格美女との会話。



……そうか。



そういう事、ね。




凛『? 八幡、どうかした?』

八幡「……いや、なんでもねぇよ」





俺は笑いを零すと、再び歩き始める。


こりゃ、本当にお茶する事になるかもな。
何か、礼でもしなきゃ顔向け出来そうにない。






八幡「つーか今更だけど、歩きながら電話してっと危ねぇぞ」


凛『それはそっちも、でしょ。いいじゃん、もう少しこうしていたいし』



電話から聞こえる声に耳を傾け、ふと、顔を上げる。
いつの間にか辺りは暗くなっており、見上げれば、星が瞬いていた。

まるで、いつか二人で見た景色のように。





凛『……また電話しなかったら、承知しないからね』


八幡「言っただろ。本当に暇な時は電話してやるよ……料金は、タダみたいだしな」


凛も、同じ景色を見ているのだろうか。





今は隣じゃない。

それでも、いつかきっと。






凛『うん……私も、待ってるから』





互いに違う道でも。

今はただ、歩き続けよう。






彼と彼女が、再び出逢うことを信じて。













というわけで、「比企谷八幡のその後」でした。大分長引かせてしまって申し訳ない!
次からは番外編をちょくちょくやっていく予定ですので、気長にお待ちください。

アニメ3話最高でした……!

すごい面白かった
アイマスやはり俺の青春ラブコメはまちがっているどちらも詳しくないけどこれ読んで興味もってしまった
主人公の八幡はどうしてやよい好きなのかな?

>>561
何となくヒッキーが好きだと言って一番違和感が無いと思ったからですかね。まぁ完全に私のイメージですが。

ちなみに一番尊敬しているのが春香、苦手なのが美希(嫌いなわけではない)、という脳内設定。


ある日の風景 その3



未央「ねぇねぇプロデューサー! ちょっといい?」

八幡「なした」

未央「今度、しぶりんのブロマイド発売されるんだよね? もしかして、もうサンプルとか貰ってるのかなーってさ」

八幡「……まぁ、無いこともないが」

未央「おう! やっぱり!」

八幡「それがどうしたんだ」

未央「いやね、どうにかそれをね、譲ってもらえないかな~なんて……」

八幡「無理」

未央「えー! なんで!?」

八幡「むしろ、何でお前が欲しがるんだよ。いつから凛のファンになったんだ」

未央「いやーある意味じゃ元々ファンみたいなものだけどさ。ほら、持ってたら何かと面白いことに使えるんじゃないかな~と」

八幡「諦めろ。もしくは発売まで待て」

未央「みんな手に入るようになってからじゃ遅いんだって!」

卯月「それなら、直接凛ちゃんに撮らせてもらったらどうでしょう?」

八幡「いたのか島村」

卯月「ガーンッ! さ、最初からいましたよ!? ね、未央ちゃん!」

未央「え? あ、うん。……じゃなくて、しぶりん恥ずかしがって撮らせてなんかくれないって!」





八幡「だろうな」

卯月「あぁ、そっか。凛ちゃん照れ屋さんですもんね……」

未央「うーむ…………ん? 写真? ……それなら!」

卯月「どうしたんですか? 急にケータイを取り出して」

未央「ふっふっふ……プロデューサー! これならどうだ!」 ババーンッ

八幡「っ! これは……!」

卯月「あ、可愛い。凛ちゃんの寝顔の写メですね」

未央「これと交換で、ブロマイドを私に譲ってくれいっ!」

八幡「…………」

未央「…………」

八幡「…………ブロマイドは」

未央「……ッ!」

八幡「……ブロマイドは、全3種類1セットだ。お前の手数はそれで全てか?」

未央「……フッ、今ならレッスン中のポニテしぶりんもお付けしよう」

八幡「乗った!」

未央「交渉成立!!」

卯月「い、いいのかなぁ……あはは」





 … 後日 …



未央「ねぇねぇしぶりん! 今度のテストちょっとヤバくってさ、勉強教えてくれない?」

凛「もう。また? そうろそ自分で出来るようにならないと…」

未央「まぁまぁ♪ このプロデューサーの寝顔写真あげるからさ!」

凛「ん…………いや、別に私は……」

未央「……このネクタイ緩めてる瞬間とか、中々良く撮れてると思わない?」

凛「…………」

未央「…………」

凛「……こ、今回だけだからね」

未央「やーりぃ♪」



卯月「(似た者同士だなぁ……)」





アニメで再確認するニュージェネの安定感。

一応本編完結したし、渋の方にも上げてみようかな。


ある日の風景 野郎共編



八幡「…………」

葉山「あれ、こんな所で何してるんだ?」

八幡「っ! 葉山……」

葉山「ここから何を見て……ああ、テニスコートか」

八幡「……なんだよ」

葉山「いや、別に何でもないよ」

八幡「嘘つけ。すげぇ納得したような顔しやがって」

葉山「気のせいだよ。別に戸塚を見てたんだなとか思ってない」

八幡「めっちゃ思ってんじゃねぇか」

葉山「……いつもここで昼食を?」

八幡「……悪いか」

葉山「……いや、悪くない」

八幡「なら別に……っておい。なに隣に座ってんだよ」

葉山「悪いか?」

八幡「悪い」

葉山「ハハ。言うと思った」

八幡「暇人め」

葉山「それはお互い様だよ」





八幡「…………」

葉山「…………」

八幡「…………」

葉山「……なぁ、比企谷」

八幡「……あん?」

葉山「最近、どうだ?」

八幡「お前は俺の親父か」

葉山「茶化すなよ。プロデューサーを辞めてから、元の生活には馴染んだか?」

八幡「……また、おかしな質問だな」

葉山「え?」

八幡「プロデューサーになる前から、元々周囲に馴染めてなかっただろ」

葉山「……また君は、そういう事を言う」

八幡「事実だ」

葉山「でも奉仕部は勿論のこと、戸塚や材木座くん、最近は戸部とも仲良いだろ?」

八幡「お前にはどんな風に見えてんだ。つーか、戸部がああなったのはお前のせいだろうが」

葉山「何のことか分からないな」

八幡「……さいですか」

葉山「じゃあ、訊き方を変えるよ。最近は何してるんだ?」

八幡「何って……そりゃ、あれだろ。…………奉仕部」

葉山「まぁそれも間違いではないな。じゃあプライベートでは普段何してるんだ?」

八幡「さっきからどうしたお前? 何、俺のこと好きなの?」

葉山「どちらかと言えば嫌いだよ」

八幡「お、おう…………はっきり言いやがるな」





葉山「それもお互い様さ。……ただの興味だよ。ハマっているものとか無いのか?」

八幡「ハマっているもの、ねぇ」

戸塚「あれ、二人でいるなんて珍しいね」

八幡「戸塚っ!」

葉山「(今日一の声量だな……)」

戸塚「何の話してたの?」

八幡「いや、大した話じゃ…」

葉山「最近何にハマってるかって話してたんだ」

戸塚「ハマってるもの? あはは、そう言えば前にもそんな話してたね」

葉山「そうなのかい?」

戸塚「うん。八幡の趣味を探そう、って」

八幡「その話はもういい。というか、原作7巻のぼーなすとらっく!を読むか特典ドラマCDを聴け」

戸塚「何の話?」

八幡「こっちの話だ」

葉山「でも、趣味を持つのは良いと思うよ。スポーツとか、身体を動かすと気持ちいいしね」

戸塚「そうだよ八幡。今度一緒にテニスしよ?」

八幡「うぐっ…………戸塚に誘われると断れん。むしろ是非とも行きたい」

戸塚「決まりだね♪」 パァァ

八幡「可愛い」

葉山「比企谷。声に出てるぞ」





戸塚「葉山くんもどう?」

葉山「いいね、俺も参加させて貰うよ。……ああ、でも」

戸塚「?」

葉山「そうしたら、3人だからダブルスは出来ないな。あと一人いれば…」

八幡「馬鹿、んなこと言ってっとあいt」

材木座「剣豪将軍んんんん、義輝! 参、上ッ!!」

八幡「遅かった……つーかホントに来やがった……」

材木座「けぷこんけぷこん! 我にかかれば雑作も無い。自分の話題には敏感なのだ」

八幡「女子のヒソヒソ話が全部自分の陰口に思えてしまうアレか」

材木座「うむ。少し違うが似たようなものよ」

戸塚「あ、あはは。それじゃあ今度の休み、皆でやろうね!」

材木座「クックック、我の108の絶技を見せてやろう……お蝶夫人は来ないよね?」

八幡「波動球でも打てんのかお前は……来ないよな?」

葉山「(誰の事か分かるのが嫌だな……)呼ばないから安心してくれ」

材木座「で、であれば結構……はーはっはっは!」

戸塚「楽しみだなぁ」

八幡「……まぁ、たまにはいいか」





材木座「しかし、何故テニスの話になったのだ?」

八幡「今更それ訊くのかよ」

葉山「比企谷の趣味を見つけようって話をしてたんだ」

材木座「お、おう……成る程な」

八幡「(こいつまだ葉山に慣れてねぇのか)」

材木座「しかし、何やらデジャヴを感じる話題よのう」

戸塚「懐かしいよね」

八幡「あまり思い出したくはないがな」

戸塚「そう言えば、八幡って昔ギターやってたって言ってたよね」

葉山「え、そうなのか?」

八幡「あれをやってた内に入れていいのかは微妙だがな」

葉山「なんだ、それならそうと言ってくれれば良かったものを」

八幡「いやお前に言ってどうすんだよ。つーか今はやってねぇ」

葉山「なら、また始めればいい」

八幡「は?」

葉山「文化祭までまだ日はある。今からでも簡単な曲なら間に合うんじゃないかな」

八幡「……何の話だ」

葉山「俺もギターやってるんだ」

八幡「知ってる」

葉山「一緒にどうだ?」

八幡「何を」

葉山「バンド」

八幡「…………冗談だろ?」

葉山「本気だよ」





八幡「無理。絶対無理。むーりぃー」

葉山「どうせなら、君たちも一緒にやらないか?」

八幡「聞けよ」

戸塚「ば、バンド? でも僕、楽器なんて弾いたこと無いし……」

葉山「大丈夫、最初は皆そうだよ。材木座くんはどうだい?」

材木座「ふむ……我の新たな才能を発揮させるのも一興か……ならば是非ともギターを…」

八幡「どう考えてもお前はドラムだろ」

材木座「ですよねー」

葉山「なら、戸塚はベースだな。俺がリードギターやるから、比企谷はリズムギターをやれば丁度良い」

八幡「何、俺あずにゃんポジ? いやそうじゃなくてだな…」

材木座「うむ。ムギちゃん枠はどうなるのだ」

八幡「そこでもない。……ギターなんて、本当にちょろっとやってただけだ。素人と大して変わらんぞ」

葉山「そんなにギターは嫌か?」

八幡「というか、楽器を演奏するのが無理ゲー過ぎる」

葉山「なら、もうパートは決まりだな」

八幡「は?」

葉山「比企谷はボーカルをやればいい」

八幡「………………………………………………What?」

葉山「無駄に発音良いな」

八幡「んなこたどうでもいい」

戸塚「(葉山くん、八幡と話す時だけちょっとだけ雰囲気違うな。こっちが素なのかな?)」





八幡「あのな葉山。ボーカルってお前あれだぞ? いっちゃん目立つパートだぞ? まだギターのがマシだっつの」

葉山「じゃあ、ボーカル兼ギターだな」 ニッコリ

八幡「いや何がじゃあなの? 人の話聞いてた?」

戸塚「(そして楽しそう……)」

材木座「(ほむぅ……ブラック葉山と言った所か。確かに何でも知っていそうではある)」

葉山「それじゃ、テニスやった後は楽器見に行こう。知り合いの店があって、そこなら大分安くして貰えるよ」

戸塚「大丈夫かな……でもちょっと楽しみかも」

材木座「ふむ、帰ったらDVDを見返すか。あ、けいおんのね?」

八幡「分かっとる。つーか、何でやる流れなの……」

戸塚「でも八幡、確か渋谷さんも楽器やってなかった?」

八幡「あぁ……企画で少しの間ベースやってたな。本人も結構乗り気で買おうか迷ってたよ」

戸塚「なら、一緒にセッション? 出来るかもしれないし、やってみるのも良いんじゃないかな」

八幡「ん…………うぅむ…」

葉山「(やるな戸塚……)」

八幡「…………」

葉山「…………」

戸塚「…………」

材木座「…………」

八幡「………………………はぁ、しょうがねぇな」

戸塚「っ!」





八幡「……とりあえず、楽器見るだけだからな」

戸塚「やった!」

葉山「そうこなくちゃな」

材木座「クックック、ならば我々のバンド名は……“タウゼント・ブラット”だッ!!」

八幡「いやまだやるとは言ってないっての。つーか無駄に格好良くてムカつく」

戸塚「どういう意味なの?」

葉山「ちょっと待ってくれ、今ケータイで翻訳を……あぁ、なるほどね」

八幡「最高の名前だな」

戸塚「八幡!?」

八幡「全く、蘭子も見習ってほしいものだ」

材木座「光速の手の平返し……それでこそお主だ! 八幡!」

葉山「ハ、ハハハ…」



キーン、コーン、カーン、コーン……



戸塚「あ、予鈴が!」

材木座「ぬぅ、次は移動授業ではないか! 急ぐぞ皆の衆!」

八幡「いやお前だけ違うクラスだろ」

葉山「まぁまぁ、俺たちも行こう」





材木座「くっ……あの遅れて教室に入るアウェー感だけは免れなければ……!」

戸塚「あ、材木座くん! 走ると危ないよ!」



八幡「…………」

葉山「? どうしたんだ比企谷。俺たちも早く行かないと」

八幡「…………俺は」

葉山「ん?」

八幡「俺はそんなに、見てられない状態だったか?」

葉山「…………」

八幡「お前に気を遣わせる程、燃え尽きてるつもりは無かったんだがな」

葉山「……そんなんじゃないよ」

八幡「…………」

葉山「これは俺がやりたいからやってるだけさ。たぶん、彼らもね」

八幡「……お人好しめ」

葉山「それこそそんなんじゃない。…………というか、理由なんていらないだろ」

八幡「あ?」

葉山「クラスメイトを遊びに誘って、何かおかしいか?」

八幡「…………いや」

葉山「なら、いいだろ」





八幡「……つーか、そこは友達を、とは言わないんだな」

葉山「言ってほしかったのか?」

八幡「ふざけろ」

葉山「くく……言うと思った」

八幡「……フッ」

材木座「ええい! 何をしている貴様ら! 早くしないと置いていくぞぅ!!」

戸塚「八幡! 葉山くん! 早く早く!!」

葉山「さ、早く行こう」

八幡「ああ………………礼は言わないからな」 ボソッ

葉山「? 今何か言ったか?」

八幡「なんでもねぇよ」



ーーー
ーー




海老名「…………」

三浦「? 海老名、こんなとこで何してんの? 授業始まんよ?」

海老名「………………ここが、エデンか」 ブハッ!

三浦「よく分かんないけど、とりあえず擬態しろし」


なんか書いてたら野郎共編が一番長くなってしまった。まぁでもずっと書きたいと思ってたから満足かな!
P.Kジュピターの人また書いてくれないかなぁ……


ある日の風景 その4



加蓮「はー、まさか事務所にケータイ忘れるなんてなー。まだ誰か居ると良いけど」 



カタカタ カタカタ



加蓮「? パソコンの音? ちひろさんでもいるのかな……」 そー…

八幡「…………」 カタカタ

加蓮「(あ、八幡さん。まだ会社にいたんだ)」

八幡「……ふー」 のびー

加蓮「(フフ、口ではあんなに働きたくないとか言ってるくせに、実は頑張り屋さんなんだから)」

八幡「……さて、もうちょいやってくか」

加蓮「(もう誰もいないのに……仕方ない、ここはアタシがお茶でも淹れて…)」 ドキドキ

八幡「…………」

加蓮「(……? どうしたんだろう。急に難しい顔して)」

八幡「…………」 キョロキョロ

加蓮「(って、今度は辺りを見渡し始めた)」

八幡「……ふー……っし」

加蓮「(一体何を……)」


八幡「フレッフレッ頑張れ!! さぁ行こう♪ フレッフレッ頑張れ!! 最高♪」


加蓮「ブフォっ!」


八幡「!?」



こうしてヒッキーの黒歴史は増えていく。



渋にも上げようと思ったけどめんどくさ過ぎて投げた。


ある日の風景 野郎共編 その2



八幡「(拝啓、渋谷凛様。私こと比企谷八幡は今、テニスをしております)」

戸塚「それじゃあ次は材木座くんからサーブだね」

材木座「う、うむ。いつになってもテニスのルールはよく分からぬな……サーブの交代あたりが特に」

葉山「大丈夫、すぐなれるさ。卓球とかバレーと違って、点を取った方にサーブ権が移るわけじゃないから…」

八幡「(それも何故か、異色ともとれるこの四人組。正直我ながら事態についていけません)」

材木座「フゥーハッハッハァ!! ゆくぞ! 我のターン!」

戸塚「ボールを上げる時は、なるべく真っ直ぐ上に投げると良いよ。そのまま投げた手でキャッチ出来るつもりでね」

葉山「おっ、さすがテニス部主将。それらしいこと言うじゃないか」

戸塚「しゅ、主将なんて、そんな大それたものじゃ……」 カァァ

材木座「うむ! ゆくぞっ!!」

八幡「(しかもこの後は昼飯を食べ、その後楽器を見に行くという予定まである。これじゃ普通にともぶげらっ!?」 パカーンっ

戸塚「は、八幡!?」

葉山「だ、大丈夫か比企谷?」 タッタッタ

八幡「あ、ああ。悪い、ボーッとしてた」

材木座「フッ、我の高速サーブに身動きも取れなんだか……情けないぞ、八幡!」

戸塚「材木座くん。フォルトだよ」

八幡「なぁ、あいつ殴っていいか?」

葉山「ま、まぁまぁ」





戸塚「でも八幡、試合中なんだからよそ見してたら危ないよ?」

八幡「うっ……いや、別によそ見してたわけじゃないんだが……すまん」

葉山「(戸塚が相手だと本当に聞き分けが良いな)」

八幡「……しかしテニスをするのはいいが、一つ聞いてもいいか?」

戸塚「どうしたの?」

八幡「何で俺がこいつとペアなんだ」

葉山「心から嫌そうに言うな君は……」 ←こいつ

戸塚「でも、たぶん一番今のペアがバランス良いと思うんだよね」

材木座「ふむ。持つ者と持たざる者のペアということか……」

八幡「一応訊くが、持たざる者ってのは誰と誰の事を言ってんだ?」

材木座「がっはっは! そりゃ我らの事に決まっておろう、八幡よ!」

八幡「はっはっは。否定できん」

葉山「そんな悲しい自己主張はやめてくれ……」

戸塚「た、単純に経験の差のことを言ったんだよ?」

八幡「大丈夫だ戸塚、分かってる。分かってるが、それでも何で俺とこいつがペア?」

葉山「そんなに嫌か。……まぁ、試合が終わったらペアを変えてみればいいさ」

戸塚「そうだね。ローテーションして、全員違うペアと組むまでやってみようよ」

材木座「くっくっく、では続きといくぞ! 精々次はボールに当たらんよう気をつけるのだな!」

八幡「はっ、言ってろ。俺には動かずともボールをさばく技……比企谷ゾーンがあるんだよ」

材木座「な、何ィ!? まさか、我のボールを全て引き寄せ……!?」

八幡「いや、俺が動く代わりにボールを打ち返してくれるんだ。葉山が」

葉山「よし、ペア変えようか」


投下してからであれだけど、番外編とはいえアイドル全然関係無いな……

あ、一応渋にも上げてみました。まだ最初だけですけど。
誤字脱字くらいしか修正してないんで、一回読んだ人は読み返さなくても特に問題無いです。


ある日の風景 その5



凛「いらっしゃいませー……って、小町?」

小町「こんにちは凛さん! 店番お疲れさまです!」

凛「あ、ありがと。まぁ仕事も今はあんまり無いし、休みの日くらいは手伝わないとね。……っていうか、店の場所言ったっけ?」

小町「そこはもちろんお兄ちゃんに。いや、お兄ちゃんにも教えては貰えなかったんですけど、東京に住んでるってのは聞いてましたから、渋谷って苗字とお花屋さんっていう情報で絞り出しました! ちょ~っと時間はかかっちゃいましたけどね♪」

凛「そ、そうだったんだ」

小町「ええ! ほぉーこんな花もー……」 キョロキョロ

凛「……今日は、私になにか用事でも?」

小町「いえいえ、私も今日は休みだったので挨拶がてらお花を見てみようかなと」 キョロキョロ

凛「ふーん……」 チラッ

小町「あ、残念ながらお兄ちゃんは一緒じゃないですよ?」

凛「ッ!? いや、私は別に…」

小町「良っいんですよ~、そんなに取り繕わなくたって♪」

凛「あ、あはは(ていうか、今の視線の動きだけで察したんだ。最近の中学生って怖い……)」

小町「折角だから、お母さんに何か買っていこうかな~」

凛「…………ねぇ」

小町「? 何ですか?」

凛「……プロデューサーって、さぁ」

小町「はい! お兄ちゃんが何ですか!?」 ズイッ

凛「い、いや、そんな大した話じゃ…」

小町「いいからいいから、お兄ちゃんがどうしたんですか?」

凛「う、うん…………私が担当アイドルで、良かったのかなって」

小町「え?」



凛「ほら、私よりも、卯月や未央みたいな明るい子の方がアイドルに向いてるだろうし……」

小町「……」

凛「奈緒や加蓮の方が、スタイルだって良いし」

小町「ああ、それは確かに」

凛「うぐっ……」

小町「あっ、いやいや、凛さんも充分スタイル良いですよ!?」

凛「……でも、やっぱり思っちゃうんだ。もしかしてプロデューサーも、もっと可愛げのある子の方が良かったと思ってるんじゃないかって」

小町「……なるほど」

凛「だから、家でそんなことを言ってないかなってさ。小町なら知ってると思って訊いてみたんだ」

小町「……」

凛「……やっぱり、何か言ってた?」

小町「いえ、全く」 くすっ♪

凛「え?」

小町「それどころか、ホントに似た者同士だなって、思ってた所です」

凛「似た者同士?」

小町「ええ。『俺なんかがアイツのプロデューサーで大丈夫なのか…』とか『凛も、ホントは違うプロデューサーと組みたかったんじゃ…』とか、いっつも言ってますよ」

凛「プロデューサーが……」

小町「だから、そんなのは心配ご無用です。むしろお互い気遣い過ぎて心配までありますよ」

凛「ぷっ……さすがにそれは言い過ぎかな」

小町「それくらい、二人とも息ピッタリってことです♪」

凛「……そっか」

小町「……また、いつでも遊びに来てくださいね。比企谷家はいつでも凛さんを歓迎しますよ」

凛「うん。……ウチにも、またいつでも遊びに来て」

小町「はい♪」






凛「……他には、何か言ってた?」

小町「そーですねー……やよいちゃんがテレビに映るといっつも興奮してますね」

凛「ふーん……そう」 メラッ

小町「(ふっふっふ、良い感じに燃えてるよお兄ちゃん!)」


本編でもっと凛と小町を絡ませてあげたかったなーとちょっと後悔。

俺ガイル2期のPV公開してましたね。楽しみだね!


ある日の風景 その6



八幡「……ん?」 テクテク

貴音「……おや」 スタスタ

八幡「奇遇だな。まさか局で会うとは……この間は世話んなった」

貴音「いえ、こちらこそ。真、素晴らしきステージでした」

八幡「お前にそう言って貰えるんなら、素直に喜んでよさそうだな」

貴音「ふふふ。……今日は、渋谷凛は一緒ではないのですか?」

八幡「ああ。生憎と別の現場でな」

みく「ちょっと待ってよヒッキー! 先に行くなんてヒドいにゃ……って、あれ?」

貴音「? はて、新しい担当あいどるですか?」

みく「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃんで貴音ちゃんがいるにゃ!?」

八幡「担当ではないな。臨時プロデュースっつう……まぁ代理みたいなもんだ」

貴音「なるほど。やはり所属あいどるが多いと、何かと大変なようですね」

八幡「そうでもねーよ…………いやそうなのか?」

みく「ねぇ! スルーしないで!? みくにもちゃんと説明して!?」

貴音「ふむ……では折角なので、この後お食事でもどうですか?」

みく「にゃっ!? 貴音ちゃんと食事!?」

八幡「お前さっきからちょっとうるさいぞ」

みく「だ、だってあの貴音ちゃんと食事だよ? 緊張してご飯が喉を通らないにゃ!」

八幡「よかったな」

貴音「そういえば、近くに回転寿司がありましたね」

八幡「よかったな」

みく「ホントに喉を通らないにゃ!? みく、お魚はNG!!」





八幡「どうせなら勝負すっか」 ←面白がってる

貴音「ほう。私に(食べ物で)勝負を挑むとは……面白いですね」 ←本気

みく「いやいやいや、みくの話聞いてる!? っていうか、お魚じゃなくても勝てる見込み無いにゃ!」

貴音「少しお待ちを。そろそろ響も収録終わりだったので、合流致しましょう」

八幡「なら俺も誰か……凛は今から合流無理そうだな。こういう時は黙っとくに限る。どうせならよく食えそうな奴を……そういや、この勝負に勝った時の見返りはどうする?」

貴音「そうですね……金銭面での賭け事はあまり良くはないですし…」

八幡「だな(真顔)」

貴音「……ならばもしも私が負けた時は、そちらの指定したお好きな曲を歌ってさしあげましょう」

八幡「マジか。フラワーガール歌ってくれ」

みく「ど、どんどん外堀が埋まっていくにゃ……みくの意思は?」

八幡「ばっかお前、あの四条が生で「いぇいっ!」って言うんだぞ? 「いぇいっ!」って。期待してるぞ前川」

みく「勝てないの分かってて言ってるよね!?」

八幡「そうだ、先にカラオケ予約しとくか。収録曲の多い良い店知ってるぞ」

貴音「ふふ。既に買った時の事を想定しているとは……余程自信があるのですね」

八幡「まぁな。あ、こっちが負けたらギャラ無しでどんな番組でもどんな企画でもゲスト引き受けるわ。前川が」

みく「もはやイジめの域!?」

貴音「……さて、響も収録が終わったようです。参りましょうか」

八幡「もしもし、三村か? 今から回転寿司行くんだがお前も…」

みく「…………ふ、ふふふ」

貴音「?」

みく「もう、ここまで来たら引き下がれないにゃ……いざ尋常に、みくと勝負にゃっ!!」

貴音「真、腕が…お腹が鳴りますね」

八幡「ただ腹減ってるだけだろ」



この後みくにゃんはサイドメニューやデザート系の皿で奮闘したものの、結局お姫ちんにも勝てませんでした。むしろかな子にも負けました。
でもカラオケには行ったので、なんだかんだ歌を聴けて楽しかったそうな。


負けたのにみくにゃんに765の番組ゲストの仕事を取りつけるヒッキーマジ有能! という話でした(違う)。

バレンタイン関係の番外編? そんなもんねーよ!

あ、ちなみに>>653はトラプリ編と城ヶ崎編の間のお話です。分かり辛くで申し訳ない。
基本的に番外編は時系列バランバランなのでご注意を。

今更かもしれんが小町は他人に八幡のことを言うときはお兄ちゃんじゃなくて兄と呼ぶよ

メダル競馬の的中賞金表!!

3/5(木)
的中回数5回!!!
78枚
97枚
256枚
113枚
59枚


3/13(金)
的中回数6回!!!
48枚
84枚
45枚
39枚
21枚
12枚

メダル競馬の的中賞金の合計枚数!!
2014/10/06
合計477枚!!!

2015/01/07
合計625枚!!!

2015/01/08
合計1966枚!!!

2015/01/09
合計90枚!!!

2015/01/10
合計165枚!!!

2015/01/25
合計123枚!!!

2015/01/28
合計1697枚!!!

2015/03/05
合計603枚!!!

2015/03/13
合計249枚!!!




ある日の風景 野郎共編 その3



材木座「ゆきぽ! ゆきぽに決まっておろう! あの天使の笑顔が分からんのか!」

八幡「あぁ? そりゃ確かに萩原も可愛いのは認める。だが天使の代名詞を使っていいのはやよいちゃん、もしくは戸塚だけだろうがッ! あぁん!?」

材木座「たわけがぁ! 人類皆ロリコンだと思ったら大間違いだぞ、八幡よッ!」 グワァッ

八幡「おい表出ろこら。俺がやよいちゃんに感じてるのは父性だって何回言や分かんだおらぁッ!」 ガァンッ

戸塚「ふ、二人とも落ち着いて!」

葉山「戸塚の言う通りだ。これ以上騒ぐとお店に迷惑だしね。……あと比企谷、さすがにキャラが変わり過ぎだ」

八幡「チッ……」 

材木座「ふぅむ……」

戸塚「ま、まさか765プロの話題になっただけでここまで白熱するなんてね…」

葉山「それだけ、譲れないものがあるってことさ」

材木座「……少々熱くなり過ぎたようだ。確かに、やよいっちの笑顔が素晴らしいのもまた事実」

八幡「……あぁ。萩原の純真な微笑みも確かに最高だ」

材木座「八幡……!」

八幡「材木座……!」

材木座「今度、我の家で一緒にライブDVD見よう!」

八幡「いやそれはさすがに気持ち悪い」

戸塚「良かった、いつもの二人だ」 ホッ

葉山「(これがいつも通りって戸塚も大分毒されてるな…)」

材木座「ふーむ……そういえば、二人の推しメンは誰なのだ?」

戸塚「え?」

葉山「俺たちのかい?」

八幡「他に誰がいんだよ」

葉山「うーん……推しメン、か。あまりアイドルに詳しくもないし、考えたこと無かったな」

戸塚「僕もかな。……あぁでも、我那覇響さんは知ってるよ。響チャレンジが好きで、いつも応援してるんだ」

葉山「そういう事なら、俺は如月さんかな。曲もダウンロードしたことあるから、ファンと言えばファンかもしれない」

材木座「……うむ。何と言うか…」

八幡「無難な答えだな」

葉山「俺たちに一体何を期待してるんだ…」

戸塚「あ、あはは。なんかゴメンね」

八幡「いや、いい(だが葉山のあの答え……明らかに“用意してました”感がハンパない。勘繰り過ぎか?)」




材木座「さて、一段落した所で食事に戻ろうか!」

戸塚「ちなみにお昼はマックにやってきてるよ」

葉山「学生だし、妥当な所だな」

八幡「説明乙。……俺としてはサイゼリアでも良かったがな」

材木座「ふぁれもふぁれも!」 もっきゅもっきゅ

八幡「食いながら喋るな。あとその擬音を使っていいのは女の子だけだ」

戸塚「それにしても、なんだかお客さん少ないね。休日のお昼時なのに、どうして…」

葉山「それ以上はよくない」

材木座「ごっくん! ……して、この後の予定はどうするのだ?」

戸塚「確か、葉山くんの知り合いの人のお店に行くんだよね?」

葉山「ああ。初心者向けのも置いてあるし、結構良い所だよ」

八幡「今更だが、本当に行くんだな…」

材木座「ここまで来ておいて何を言っておる。我など楽しみ過ぎて1期2期映画全て見返してしまったぞ!」

八幡「……テンション高いとこ悪いが、一番お前がお高いんだぞ?」

材木座「へ?」

葉山「……確かに、ドラムセットは高いね」

八幡「その店がどれだけ安くしてくれるかは知らんが、それでも一学生が変える値段ではないだろうな」

材木座「ふむ。ggrks(ググるカス)」 カチカチ

葉山「(そのスラングを自分に使う人を初めて見た)」

材木座「ふむふむ………………ファッ!?」 ガーン

八幡「まぁぶっちゃけ俺なら買えない事もないがな」

戸塚「あ、もしかしてプロデューサーをやってた時の貯金?」

八幡「使う機会も無かったしな。ほぼ残してあるよ」

材木座「八幡氏、肩は凝っておられるか?」 手もみ手もみ

葉山「そして分かりやすい……」

材木座「えーん、ハチえもーん! お金出してー!」

八幡「ただのクズじゃねぇか」

葉山「まぁまぁ。今から行くお店はレンタルもやってるから、とりあえずはそれでいいんじゃないかな」

材木座「あ、そうなの? ……ふむ。田井中スティックだけでも購入しておいて良かったようだな」

戸塚「…………こくん。田井中?」

八幡「いいんだ戸塚。お前は知らなくていい。あと、お前はもっきゅもっきゅ言っていいんだ。むしろ言ってくれ」

葉山「は、はは。まぁとりあえずの方針は決まったという事で…」

材木座「うむ。次はデレプロの中での推しメンでいくか」

戸塚「え?」


材木座「765プロの話題はもう終えた。ならばデレプロに移るのが定石だろう!」

八幡「誰が決めたんだそんなもん……」

戸塚「デレプロかぁ……あ。そういえばこの前テレビで見たんだけど、日野…茜……さん、だったかな? 彼女は凄く良い子だと思うよ」

八幡「……そのテレビってまさか」

葉山「やってたね。……『茜と修造の熱血スポーツ対決!!』、って番組」

材木座「うむ……我も見たが終始画面が紅蓮の如く熱かったな」

戸塚「テニスやラグビーだけじゃなくて、色んなスポーツで戦ってたのが面白かったよね。ああいう一生懸命な女の子は好きだなぁ」

八幡「(あの組み合わせは笑いを取りにいってるとしか思えなかったがな)」 

材木座「では次は我が…………正直、好みの子が多過ぎて選べん!!」

八幡「お前のことだから、緒方とか大沼あたりじゃねーの?」

材木座「クックック、さすがは八幡。心得ておる」

葉山「当たってるのか……」

八幡「あとはそうだな……アニメや漫画に理解がありそうな所で荒木さん、奈緒とかが妥当な所だろう」

材木座「お主、もしやレベル7のサイコメトラーか?」

八幡「残念ながらCV:戸松遥ではない。……そういや、蘭子はお前としてはどうなんだ?」

戸塚「蘭子って……確か神崎蘭子さんだよね」

葉山「あぁ、あの中二病アイドルの」

材木座「……ふむ。奴は我にとっても複雑な所なのだ。同士であり、好敵手でもあり、そして何よりも、前世から続く深淵の如き因縁が…」

八幡「次、葉山の番だな。お前は誰推しよ」

材木座「最後まで聞いて!」

葉山「はは、参ったな。さっきも言ったけど、俺はあまりアイドルに詳しくないし…」

八幡「その割には今まで出て来たアイドルの名前、全部知ってたようだが」

葉山「っ!」

八幡「……別に本当によく知らないんならいいがな。もしも俺たちが正直に話してるのにお前は誤摩化してるってんなら、それはフェアじゃないんじゃないか?」

葉山「…………」

八幡「(正直、こいつが誰を推しているのかは興味がある。あの誰とも付き合おうとしない葉山がファンになる程のアイドル。それは一体誰なのか…)」

葉山「…………」

戸塚「…………」

材木座「…………」 もぐもぐ

葉山「…………る…」

八幡「あ?」

葉山「…………結城……晴ちゃん……とか、良い子だと思うな」

八幡「…………」

材木座「…………」

戸塚「えっと……ごめん、僕分からないや」

八幡「……葉山」

葉山「…………」

八幡「人類皆ロリコンだと思ったら、大間違いだぜ?」 ぶふっ

葉山「殴るぞ」


材木座「ハーハッハッハーッ!! まさか、お主が結城晴を推すとはなぁ! 握手!」

葉山「……だから言いたくなかったんだ」

八幡「いや……っ……良いと思うぞ。けど、ちゃん付けって……くく…」

戸塚「は、八幡、笑い過ぎだよ?」

葉山「…………」 ←割と殺気の籠った目

八幡「んんっ! …………悪い、取り乱した。結城って事は、やっぱサッカー繋がりか?」

葉山「ああ。昔からよく見てるサッカー番組で、楽しそうにサッカーしてるのを見てね。一回だけの特別企画だったけど、それが凄く印象に残ってる」

戸塚「あ、それなら知ってるかも。その後ミニコーナーのレギュラーになったんだっけ?」

葉山「それだね。……正直、今まであまり恥ずかしくて言えなかったけど、陰ながら応援してるんだ」

材木座「ふむ……ファンの形は人それぞれ。アイドルの力になる事はあっても、迷惑になる事など無いものよ」

葉山「ありがとう、材木座くん」

材木座「べ、別にお主の為に言ったんじゃないんだからね!」

八幡「(……まさか容姿端麗才色兼備な葉山の推しが、ボーイッシュなオレッ娘とはな。しかしそれも俺と同じ父性から来る親心みたいなもんだろう。結局、恋愛対象としての好みは聞けずじまい、か…………けど)」

葉山「? どうしたんだ比企谷?」

八幡「いや。なんでもねぇよ」

葉山「?」

八幡「(コイツにもこんな一面があるんだな、と。意外な所を見て、少しだけ得した気分になったのは黙っておく)」

戸塚「じゃあ次は…」

八幡「そろそろ頃合いだな。店出るか」

材木座「なぬ?」

八幡「俺がゴミ捨てとくから、お前らは先に出て…」

葉山「それはちょっと卑怯なんじゃないか? 比企谷」 ガシッ

八幡「……何がだ?」

葉山「君の番がまだ終わっていない。……お互い正直に話さないのは、フェアじゃないんだろう?」 ニコッ

八幡「……俺は、やよいちゃん一筋だと最初っから言ってるだろ」

葉山「誤摩化すなよ。それは765プロの話。シンデレラプロダクションのアイドルの中だったら、君は誰を推すんだい?」

八幡「そんなの、お前……」

葉山「なんだい?」

八幡「…………言わなくたって、分かってんだろ」

葉山「さてね」 シラー

材木座「えー我分かんなーい。教えて教えてー」 ぶーぶー

戸塚「ぼ、僕も分からないかなーなんて……」 タハハ

八幡「と、戸塚まで…………材木座は後でしばく」

材木座「何故!?」 ガーン


葉山「ほら、どうなんだ比企谷?」

八幡「(くそっ……さっきの仕返しか葉山……!)」

戸塚「…………」

材木座「…………」

葉山「…………」

八幡「……………ん……」

葉山「ん?」


















八幡「……………………渋谷……凛……っ……!」 カァァ


















葉山「…………」 ニッコリ

材木座「…………」 ニヤニヤ

戸塚「ひゃー……」 ドキドキ

八幡「…………!」 ダッ

葉山「あっ、比企谷!?」

戸塚「ちょ、どこ行くの八幡!?」

材木座「ぬう!? もう店から出るのか!?」 もぐもぐ

葉山「比企谷、そっちは楽器屋と逆方向だぞ!?」

八幡「知るかッ!」

戸塚「待ってよはちまーん!」

材木座「え、ちょっ……我を置いてかないでー!」 もぐもぐ


とりあえずは本編を渋に上げ終えたので、こっちもぼちぼち再開。

次々回くらいまでは野郎回が続きます。

乙乙
ところで>>247はいつになったら……


ある日の風景 野郎共編 その4



八幡「……おお」

材木座「こ、ここが……!」

戸塚「うわー凄いね! いっぱい楽器があるよ八幡!」 パァァ

八幡「まぁ、楽器屋だからな(可愛い)」

材木座「うむ。これだけ種類があれば我に相応しい相棒も見つかるであろう(可愛い)」

葉山「この辺じゃ、一番品揃えが良いお店だからね(かわ……いかんいかん)」

八幡「しかしホントに何でもあるな。ヴァイオリンやチェロ、サックスなんかも置いてあんぞ…………東郷さんいそう」

戸塚「わぁ、真っ白いピアノもあるよ!」

材木座「よくは分からんが、バンドよりも吹奏楽などに使う楽器が多いのう……」

葉山「俺たちが見たい系統は二階の方にあるからね。行ってみよう」

八幡「二階まであんのかよ……しかし、これだけあると目移りして仕方ないな」

戸塚「うん。思わずキョロキョロしちゃうね」 キョロキョロ

材木座「な、なんか場違い感ハンパないなぁ……リア充空間に飲まれそう…」

八幡「おい素出まくってんぞ」

葉山「は、ハハハ。とりあえずは色々見て回ってみようか」



× × ×



戸塚「べ、ベースだけでも沢山種類があるんだね。よく分からないや」

葉山「最初は特に悩まなくてもいいんじゃないかな。気に入ったデザインとか、手頃な値段のモノで良いと思うよ」

戸塚「デザインかぁ……あ、これなんか凄い尖ってて戦えそう」

材木座「ふむ。なんとも中二心をくすぐられる」

八幡「(この二つ合体してるのはどうやって使うんだ……カイリキー専用?)」

戸塚「うーん……あ、これとか可愛いかも」

八幡「? これもベースなのか?」

葉山「ヴァイオリンベースだね。値段も丁度いいし、良いんじゃないか?」

戸塚「で、でも、僕にはちょっとオシャレ過ぎないかな……?」

八幡「そんな事ないぞ戸塚。試しに肩に掛けてみたらどうだ」

戸塚「え?」

材木座「うむ。もしくは上に放り投げて、差し出した腕にぶつからなかったら相応しいな」

八幡「どこの海賊狩りだ」

葉山「というか楽器が壊れるよ……ほら、ストラップを付けて」

戸塚「う、うん。……よいしょ、っと」

材木座「……おお! 様になってるではないか!」

八幡「いい! いいぞ戸塚っ!」

葉山「(比企谷のテンションがちょっと怖い)」

戸塚「そ、そう……かな?」 てれっ

葉山「でも実際良いと思うよ。ネックが細いから手が小さい人にも使いやすいし、女の子なんかにはピッタリだと思う」

戸塚「ぼ、僕女の子じゃないよ!?」

葉山「え? あ、いや、別にそういう意味で言ったんじゃなくて…」

八幡「葉山」 肩ぽんっ

葉山「ひ、比企谷……?」

八幡「残念ながら、戸塚は男なんだ。……本当に残念ながら、な」 遠い目

葉山「俺は君の事がたまに本当に怖くなるよ」



× × ×



材木座「ふむ……まさによりどりみどりと言った所だな」

八幡「正直ドラムセットって種類があるとは思わなかったんだが、見る限りそうでもないんだな」

葉山「もちろん。演奏するアーティストや曲によっても変わってくるからね」

材木座「ぬ? セットの内容は決まっているのではないのか?」

葉山「基本的にドラムセットはバスドラム、スネアドラム、フロアタム、トムトム、シンバル、ハイハットシンバルの6セットだね。皆が思い浮かべてる一般的なドラムセットはその認識で大丈夫だと思う」

戸塚「(トムトムってなんか可愛いな)」

葉山「ただ、それ以外にも組み合わせられる打楽器は何種類もあるね。バリエーションもツーバスとかツインペダルとか、テンポの早い演奏用のセットも…」

材木座「う、うぅむ……?」 ぷしゅー

八幡「ストップだ葉山。それ以上は材木座の頭がついていけん」

葉山「あ、あぁ悪い悪い」

材木座「つ、つまりどういうことなんだってばよ……」

葉山「とりあえずは最初に言った6セットで良いかな。それならレンタルの費用もそこまでかからないし」

八幡「となると、レンタル用はこっちか」

材木座「クックック……我は既に目星をつけたぞ」

戸塚「え? もう決まったの?」

材木座「これぞ運命と呼ぶ他ない…。眩い黄金色のその輝き……君に決めた!」 ビシィッ

八幡「一番安いのじゃねぇか」

葉山「まぁ、レンタルはそもそも種類が少ないからね」

戸塚「(ミニドラムセットなんてのもあるんだ。僕でもできるかな?)」

材木座「フゥーハッハッハ! よろしく頼むぞ、相棒!」

八幡「何度も別の奴と組まされる相棒ってのもどうなんだ」

葉山「ま、まぁ、右京さんみたいなモノだと思えば、ね」



× × ×



葉山「そういえばギター経験があるって事は、比企谷は既にギターを持ってるのか?」

八幡「あいつは顔も知らないどこかの誰かの下で、今も音を奏でてるだろうぜ。もしくはまだ店頭」

葉山「売ったんだな……」

八幡「まぁ、一応あることはあるがな。けどそれも親父のだ。ほとんど手入れもしてない」

葉山「なるほど。なら、やっぱり折角だし新しいのを買ってみたら良いんじゃないか? お金に余裕だってあるんだろ?」

八幡「いや、そりゃあるにはあるが……」

葉山「なら決まりだな」

八幡「(つーか、そもそもバンド自体まだやるとは言ってないんだがな。……けど)」

葉山「? 比企谷?」

八幡「……」 ちらっ

戸塚「弦もいっぱいあるなぁ……ラケットで言うガットみたいなものなのかな?」 キョロキョロ

八幡「……」 ちらっ

材木座「ふーむ。スティックは木製しか無いと思っていたが、他にもあるのだな。田井中スティックだけでは心もとないか…」 ジーッ

八幡「……はぁ」

葉山「どうかしたのか?」

八幡「いや。……揃いも揃って、楽しそうだなと思ってよ」

葉山「……くくっ」

八幡「あん? なんだよその笑いは」

葉山「いや……そう言う比企谷も、結構楽しそうにしてたなと思ってさ」

八幡「ッ! 俺が……?」

葉山「ああ。少なくとも、俺の目にはそう見えたよ」

八幡「……気のせいだろ」

葉山「さて、どうだろうね」

八幡「……チッ」

葉山「……俺も、今日は久しぶりに楽しいよ」

八幡「…………」

葉山「…………」

八幡「……どれがオススメなんだ」

葉山「え?」

八幡「ギター。どれがオススメなんだ? 正直多過ぎて分からねぇんだよ」

葉山「……ハハ」

八幡「なに笑ってんだ。ほら、早くしろよ」

葉山「あぁ、悪い。……時間はあるし、色々見て回ってみようか」

八幡「ああ」

葉山「そういえば、比企谷はエレキギターについてはどれくらいの知識があるんだ?」

八幡「レスポールとストラトの違いくらいは分かるな」

葉山「……ほとんど素人って事は分かった」


昔すこーしだけギターやってた時期があったけど、もし話の中で間違ってるとこあったらごめんなさい。

ある日の風景野郎共編も次回で終わり。
ごめん>>702 書きたいんだけど中々話が思い浮かばなくてね…


ある日の風景 野郎共編 その5



八幡「演奏してみたい曲?」

葉山「ああ。何か簡単な曲を一曲決めて、皆一緒に練習していくのが上達するのに一番手っ取り早いと思うからね」

戸塚「でも、コード? とか覚えるのが先じゃなくていいの?」

葉山「もちろんそれも平行して練習するさ。でもどうせなら、曲を練習する方が楽しいだろ?」

材木座「ふむ。ゲームに例えると、説明書を読んで遊び方を覚えるより実際にプレイしてみた方が楽しく覚えられる、ということか」

葉山「そういうこと。演りたい曲とかあるかい?」

八幡「いや……急にそう言われてもな」

戸塚「うーん……好きな曲、って言っても、何が簡単で何が難しいかも分からないからね」

材木座「ならば、ここはやはりアニソンであろう! のう八幡っ!」

八幡「俺に振るな」

葉山「確かにアニソンなら簡単な曲も多いかもね。ただ…」

戸塚「ただ?」

葉山「一応俺たちが演奏する曲だから、ボーカルがその曲を歌う事も考えないといけないな」

材木座「…………」 ちらっ

戸塚「…………」 ちらっ

葉山「…………」 ちらっ

八幡「……何故俺を見る」

葉山「頼むよリードボーカル」

八幡「いや無理無理無理無理」

材木座「ええい! 誰もが憧れるバンドの花形を譲ると言っておるのだぞ!? 大人しく歌えい!」

八幡「誰もそんなん頼んでねぇ。つーかそこまで言うならお前が歌えばいいだろ。C-C-Bさながら」

戸塚「しーしーびー?」

葉山「その例えは今の若い子には伝わらないと思うぞ……」

八幡「じゃあ戸塚で良いんじゃないか。野郎より可愛い子が歌った方が眼福もんだろ」

戸塚「僕も男だよ!?」

八幡「……とまぁ冗談は置いといて」

材木座「(明らか冗談では無かったでござる)」

葉山「(確かに端から見たら紅一点だな)」





八幡「冷静に考えりゃ、葉山がやるのが当然だろ」

葉山「……どうしてだい?」

八幡「お前はこん中で唯一経験者だ……まぁ俺も少しやっていたが、あれは経験と言っていい代物じゃないからこの際置いておく」

戸塚「置いとくんだ……」

八幡「そしてポジションはリードギター。ボーカルにはおあつらえ向きだ。それに加え歌も上手い」

葉山「俺の歌を聴いた事あるのか?」

八幡「Sakura addictionは割と好きだったぞ」

葉山「噛み殺すよ」

戸塚「ねぇ、二人は何を言って…」

材木座「それ以上いくない」

八幡「そんで何よりも一番重要な点が……ビジュアルだ」

戸塚「あー……」

在木材「ふむ。……そう言われては納得せざるを得んな」

葉山「そんなに言う程か?」

八幡「そんなに言う程だ。あの有名エアバンドだって、ドラムがボーカルよりもイケメンだからあんな白塗りになってんだぞ。……まぁそれだけが理由ではないだろうがな」

葉山「いや、俺が言ってるのはそっちじゃなくて」

八幡「あ?」

葉山「比企谷だって、自分で自分の顔は良い方だって言ってたじゃないか」

八幡「…………」

葉山「まぁ、俺が直接聞いたわけじゃないけどね。結衣から聞いたんだ」

八幡「(さすガハマさん。余計な事を。つーか完全に俺ナルシストみたいじゃねぇか! 確かに言ったけども!)」

戸塚「でも、僕も八幡がボーカルで良いと思うよ! 葉山くんも勿論カッコイイけど、八幡だって負けないくらいカッコイイよ!」

八幡「お、おお……」

材木座「ぬぅ……己の容姿を良いと言うような輩に対しこの言葉、ぐう聖や、ホンマもんのぐう聖がおるぞ!」

葉山「(自分の名前が出なかった事に関しては何も言わないんだね……)」

八幡「はぁ、今の一言で今日来て良かったと思えた。さ、帰るか」

葉山「いやちょっと待て」 ガシッ

八幡「チッ……(さすがに誤摩化せんか)」

葉山「じゃあ、とりあえずボーカルは保留にしておこう。出来るだけ簡単で歌い易そうな曲を選んで、練習しながら後で決めればいい」

八幡「結局はそうなるか……」

戸塚「なら、有名な曲の方が良いのかな?」

葉山「そうだね。皆で色々見ながら探してみよう」

材木座「うむ! 放課後ティータイムはどこの棚だーッ!?」 ダダダッ

八幡「あいつは自分が歌う可能性がある事を考慮しとらんのか……してないんだろうな」



× × ×



八幡「…………」 キョロキョロ



「ぬうー!? 何故全曲置いとらんのだ!? 差別か、アニソンに対する差別なのか!?」



八幡「……(もうちょい静かに探せんのか)」



「えーっと……タ行がここだから……あれ、アルファベットで探さないと無いのかな?」



八幡「(可愛い。バンドスコアを探すその姿からもう可愛い)」



「んー……やっぱこっちの曲の方がロックかなぁ。いや、でもこっちの曲も…」



八幡「ん?」 ピクッ



「あれ、無いや。あっちを探してみますかねー」



八幡「…………」 振り返り



棚「…………」 シーン



八幡「……気のせいか」



「材木座くん。何か良いのあった?」

「うむ……やはりなんだかんだ言って、一期の曲の方が我は好きだな」

「あ、僕も。ホッチキスが一番好きかなぁ」



八幡「(今、何だか見覚えのあるロックなヘッドホンが見えた気がしたが……まさか、な)……ん?」

棚「…………」 ア行

八幡「……この曲」



× × ×



葉山「うーん。やっぱり俺が演奏したことある曲の方が教え易いかな……」

棚「…………」 よりどりみどり

葉山「……いや。折角だし、一緒に知らない曲を練習した方が楽しいか」 スッ

「あっ……」 スッ

葉山「え? あ、すいません。お先にどうぞ…」

「いや、こちらこそ。そっちが先に……って、あれ。隼人か?」

葉山「はい? ……あ、夏樹さん?」

夏樹「おー久しぶりだな! まさかこんな所で会うなんてよ」

葉山「本当ですね、お久しぶりです。前に会ったのは去年のライブハウスでしたっけ?」

夏樹「ああ、あれは良いライブだった。懐かしいな」

葉山「あはは。夏樹さん凄いノってましたもんね」

夏樹「お前は相変わらずクールっつうか、大人びてんな。ホントに年下かよ」

葉山「褒め言葉として受け取っておきます。またこっちに来てるって事は、近い内にライブでもするんですか?」

夏樹「あーいや、ライブしに来たんじゃなくてな…」

葉山「?」

夏樹「色々あって、今はこっちに住んでんだアタシ」

葉山「そうなんですか?」

夏樹「ああ。……立ち話もなんだし、そこの休憩所にでも行くか。お互い積もる話もあるだろうしよ」

葉山「そうですね……って、すいません。俺今日は連れと来てるんでした」

夏樹「なんだ、そうなのか。もしかして女か? だったら悪いな」

葉山「いえ、そういうんじゃないですよ。新しくバンドを組む事になったんで、そのメンバーたちと一緒に来てるんです」

夏樹「っ! バンドを組むって、お前がか?」

葉山「ええ」

夏樹「そりゃまた、なんつーか珍しいな」

葉山「そうですか?」

夏樹「そうだろ。少なくともアタシはお前が助っ人以外でバンドに加わってるの、見た事無いよ」

葉山「……まぁ、心境の変化って奴かもしれないですね」





夏樹「へぇ、お前がそんな事言うなんてな。何にせよ、お前がボーカルやってギター弾いてるってだけでも興味を引くバンドだぜ」

葉山「いえ、俺はボーカルじゃありませんよ」

夏樹「は?」

葉山「別の奴です。そもそもバンド組む事になったのも、俺が彼を誘ったからですし」

夏樹「お前がバンドを組もうって誘ったのか?」

葉山「ええ。……あ、丁度良かった。彼ですよ、ウチのバンドのボーカル。……の予定ですけど」

夏樹「ん?」 チラッ



八幡「Uの所には無かったから、たぶんウ行だよな。ウ、ウ、ウー……?」 キョロキョロ

「うーんやっぱ激しい曲ほど難しいのかなー……一回なつきちに訊いてから……」 キョロキョロ



夏樹「あ、だりー」

葉山「え? ……あ、危なっ…!」



八幡「あ? って、おわっ」 どんっ

「へ? ってきゃあッ!」 どんっ



夏樹「あっちゃあ……」

葉山「だ、大丈夫か?」 タタタッ



「いてて……」

八幡「すいません、大…丈夫……?」

「いやいや、こちらこそ……ん?」

八幡「……多田?」

「あーっと……凛ちゃんの、プロデューサー?」



葉山「怪我は……って、アイドルの多田李衣菜?」

李衣菜「え? 誰? ……あ、なつきち」

夏樹「何やってんだ、だりー」

葉山「え……知り合い、ですか?」

八幡「(誰だ、この超ロックな姉ちゃん)」



戸塚「……あれ、どういう状況?」

材木座「ふむ……カツアゲ、か?」

戸塚「それは違うと思うな」



× × ×



葉山「夏樹さん、アイドルになったんですか!?」

夏樹「まぁ、なったっつーか、まだ駆け出しだけどな」

李衣菜「そういう意味では、私のが先輩だね」 へへん

夏樹「ほぉ? お願いだからギター教えてくれって頼んできたのは、どこの先輩さんだったかな?」

李衣菜「ちょっ、それは言わない約束じゃーん!」

夏樹「冗談だ。アイドルの事はまだよく分からねぇから、色々教えてもらって助かってるよ」

戸塚「ざ、材木座くん。本物のリーナちゃんだよ……!」 ヒソヒソ

材木座「う、うむ。本当にROCKと書いたTシャツを着ておるぞ……!」 ヒソヒソ

八幡「(そこなのか)」

葉山「なるほど。だからこっちに一人暮らししてるって言ってたんですね」

夏樹「ああ。地元でライブしてたら、終わった後に声かけられてな。元々アイドルには興味あったし、いっちょロックなアイドルでも目指してみようかなってね」

葉山「はは。夏樹さんらしいですね」

夏樹「事務所に入ったのはホント最近だから、まだ全然活動出来てないけどな」

八幡「(なるほど。だから俺が知らなかったわけだ)」

李衣菜「それよりも、私はプロデューサーがいた事にビックリしたよ。バンド組むって本当?」

八幡「……まぁ、成り行きでな。つーかもうプロデューサーじゃない」

夏樹「アタシは会うのは初めてだが、あんたの事は噂には聞いてたよ」

八幡「…………」

夏樹「悪徳記者に濡れ衣を着せられ、担当アイドルの為に謂れの無い全ての罪を背負い、自分一人辞めていった最高にロックな孤高の元プロデューサーってな」

八幡「いやちょっと待て」

李衣菜「……」 うんうん

八幡「いやうんうんじゃなく。え、なに。もしかしてお前か? お前がそんな逆に恥ずかしくなるような説明をしたのか?」

李衣菜「え、違った?」

八幡「違うだろ。……違うよね?」

葉山「俺に訊かれても……」

李衣菜「まぁ、私もプロデューサーとは殆ど話したこと無かったけどさ。事情を知ってる子たちから何があったかは聞いたよ」

八幡「…………」

李衣菜「それで、少なくとも私には、さっきなつきちが言った通りの印象に感じたかな」

八幡「……そんなカッコイイもんじゃねぇよ。あと、プロデューサーじゃねぇ」





李衣菜「あはは、そうだったね。ならそっちこそ私のことはリーナと…」

夏樹「んな事より、楽器は決まったのか? もうパートは決まってんだろ?」

李衣菜「なつきちー! んなことって何さー!」

葉山「一応俺がリードギター、そこの戸塚がベース、隣の材木座くんがドラム、そして比企谷がリズムギター兼ボーカルですね」

八幡「いや、だから俺はボーカルって柄じゃ…」

李衣菜「えっ! プロデューサーボーカルなの? 凄いじゃん! ギターでボーカルとか超ロック!」

八幡「お前はロックの意味をはき違えてないか? あとプロデューサーじゃない」

葉山「楽器はもう目星を付けてます。それで、さっきは練習用の曲を探してたんですよ」

夏樹「なるほどな。で、良い曲はあったのか?」

葉山「あー俺はまだあんまり見てなかったですね」

戸塚「僕も、何だかいまいちパッとしなくて……」

材木座「うむ。放課後ティータイム良いと思うんだけどなぁ……」 ←却下された

李衣菜「プロデューサーは?」

八幡「お前もしやわざと言ってんのか? ……俺も別に」

夏樹「あれ、でもバンスコ持ってんじゃねぇか」

八幡「いや、これは個人的に買っておこうかと思って…」

材木座「ぬぅん、水臭い。素直にこれ演りたい! と言えばいいものを」

八幡「(うぜぇ……)」

葉山「ちょっと見せてくれるかい? ……へぇ、アジカンか」

夏樹「お、良いんじゃねぇか? 確か簡単な曲もいくつかあったろ」

李衣菜「いいねぇアジカン! 私も好きだよ! 超ロックだし!」

戸塚「(なんか、ロックがゲシュタルト崩壊してきちゃった……)」

葉山「そういえば、あの時もアジカン歌ってたな」

八幡「お前覚えてたのかよ……」

葉山「確か、或る街だったよな?」

夏樹「或る街の群青か。あれは確か難しくなかったか?」

葉山「そうですね。初心者にはちょっと厳しいかと思います」

八幡「いや誰もやるとは言ってないんだが」





葉山「けど、比企谷の持ってたこの曲は結構簡単そうだね。これなら初心者には丁度いいんじゃないか?」

夏樹「どれ……おっ、確かに」

李衣菜「私も私も! …………見ても分かんないや」

夏樹「だりー……」

李衣菜「これから! これから覚えていくから!」

葉山「でも、なんでこの曲を選んだんだ?」

八幡「いや、別に深い意味はねぇよ……ただ」

葉山「?」

八幡「個人的に思い入れがあるってだけだ。……好きな曲を演ってみたいってだけじゃ、おかしいか?」

葉山「……いや」

夏樹「へへっ、分かるぜ。ギター始めた頃思い出すよ」

李衣菜「な、なつきちー。私も演りたい曲があるんだけど……?」

夏樹「分かってるよ。……そうだ。折角だし、今度一緒に練習するか?」

葉山「え?」

夏樹「アタシたちは仕事の合間見ての練習になるだろうけど、たまーにこのメンバーで集まってよ。セッションとかしてみようぜ」

李衣菜「いいね! どっちが早く上手くなれるか勝負って奴だねっ!」

戸塚「で、でも、良いのかな……?」

夏樹「遠慮すんな。みんなでやった方が楽しいだろ?」

材木座「クックック……久々に燃えてきおったわい。この血の滾りが運命を決めるッ!」

李衣菜「おお! なんかカッコイイ!」

材木座「え、あ、ありがとうございます」

葉山「まぁ、俺たちとしては嬉しい限りですけど…」

八幡「いや、俺がアイドルと会うのはマズいだろ」

夏樹「大丈夫じゃないか? アタシらが千葉の練習スタジオまで行けば、誰に見られる事も無いだろ」

李衣菜「それにスタジオで練習してるだけなんだから、見られたとしても文句言われる筋合いなんてないしね」

葉山「……だってさ」

八幡「……ハァ、ならいいけどよ」

夏樹「それに、あの葉山がバンドに誘った男ってのも気になるしな」

八幡「?」

夏樹「自分を差し置いてボーカルに推した男……俄然、興味が湧いてきたぜ」

八幡「お前、なんか言ったのか?」 ジトッ

葉山「さぁ、何の事かな」 目逸らし

李衣菜「へへっ、面白くなってきたぜぇー!」



× × ×



それから数日たったある日



夏樹「っし、義輝。出しといた課題はちゃんとこなしてたか?」

材木座「う、うむ。腕立て30回、腹筋30回、背筋30回、スクワット30回を毎日5セット……この世の地獄を見るようだった…危うく痩せる所だったぞ……」

夏樹「いやそこは遠慮せず痩せろよ」

八幡「(しかし意外な事に材木座がキチンとやってたのには驚いたな。昼休みに付き合わされる俺の身にもなれとは思ったが)」

材木座「最近は雑誌で作った簡易ドラムセットもボロボロになってきたからのう……自分の能力が恐ろしい」

八幡「ナチュラルに能力をちからと読むな」

夏樹「まぁ良い事じゃねーか。ちゃんと練習してるようで何よりだ」

葉山「ドラムは体力を沢山消費するし、基礎体力を上げとくに超したことはないからね」

戸塚「でも材木座くん、そのコート暑くないの?」

材木座「ぬぅ……!?」

八幡「(戸塚。そこに触れちゃいけない。それは材木座にとっての……なんだ、アーチャーの赤い外套みたいなもんなんだ。察してやれ)」

材木座「こ、これは我の……」

李衣菜「えーいいじゃん。ドラムって薄着のイメージあるから、逆にそれはそれでカッコよくない?」

八幡「えっ」

李衣菜「どうせなら、コートの下は黒いタンクトップとか良いんじゃない?」

材木座「……そして、シルバー系のアクセサリーを身につけたり、か?」

李衣菜「そーそー! 分かってるなー。あと、コートの首もとに無駄にファーとか着いちゃったり!」

材木座「うむ! あとは所々不自然に破けていたりな!」

李衣菜「カッコイイ! ロックだよロック!!」

戸塚「な、なんか盛り上がってるね」

葉山「ハハハ、まさかの意気投合だな」

八幡「やっぱにわか同士は引かれ合うのか」

夏樹「それ、当人たちには言ってやるなよ……」



× × ×



更に数日たった別のある日



戸塚「最近、指の皮が固くなってきた気がするなぁ……」

八幡「なに?」

戸塚「あ、ほら。弦を触ってたからか、左手の指が、ね?」

八幡「ほう」 スッ

戸塚「あっ……」

八幡「…………」 さわさわ

戸塚「は、はちまん?」

八幡「…………」 さわさわ

戸塚「ちょ、ちょっと八幡。くすぐったいんだけど……?」

八幡「……はっ。わ、悪い戸塚」

戸塚「い、いや。大丈夫だよ。少し恥ずかしかったけど…」 顔真っ赤

材木座「(ほむぅ……何故だ。とてもイケナイものを見ている気持ちになる)」

夏樹「ほーら何イチャイチャしてんだ。さっさと練習に戻んぞ」

李衣菜「プロデューサー! ほら、私の指の皮も固くなってきたよ、ほら!」

八幡「プロデューサーじゃない。つーか、そ、そんなに手を差し出すな。近い……!」

葉山「指の痛みはもう大丈夫かい?」

戸塚「うん。皮が剥けてたのも直ったし、大分良くなったよ」

夏樹「また痛くなったら言えよ? しっかり治してから練習しないとな」

戸塚「はい。ありがとうございます」

夏樹「別に敬語なんて使わなくていいよ。……まぁ、彩加みたいな可愛い女の子じゃ皮が固くなるのに抵抗あるかもしれねぇけど、これもベーシストの通る道だ」

戸塚「…………僕、男の子なんですけど……?」

夏樹・李衣菜「「えっ」」

八幡・葉山「「(正直この展開は読めてた)」」



× × ×



また更に数日たった別のある日



葉山「それじゃあ、もう一回セッションしてみようか」

戸塚「ふー……他の人に合わせるのって難しいね」

夏樹「義輝はちょっと走り過ぎだな。もう少し落ち着け」

材木座「う、うむ。まさかりっちゃんの気持ちがここまで分かる日が来ようとは……」

李衣菜「いいなー早く私もやりたいなぁ」

夏樹「だりーは次な。八幡は準備良いか?」

八幡「うっす」

夏樹「それじゃあ…………あ、そうだ」

八幡「?」

夏樹「八幡、次ちょっと歌ってみろよ」

八幡「……は?」

李衣菜「おっ、いいねーいいねー!」

葉山「そういえば、まだ声入れながらってのはやってなかったな」

八幡「いや、急に何を…」

材木座「遂にか……この時を待っておったぞ八幡っ!」 ニヤリ

八幡「(てめぇ、面白がってんな……!)」

戸塚「八幡、がんばって!」

八幡「と、戸塚……」

夏樹「さ、お前の心の準備が出来たらいつでも始めるぜ?」

葉山「…………」

戸塚「…………」

材木座「…………」

李衣菜「…………」 わくわく

夏樹「…………」

八幡「………………ハァ、分かったよ」

李衣菜「おお!」

八幡「う、上手く歌えなくても笑うなよ」

夏樹「へっ、最初は誰だってそうさ。その為の練習だ」

李衣菜「うんうん!」

八幡「……ふう」


カンッ カンッ カンッ



八幡「ーーっーー♪」



ーーーーー

ーーー

















八幡「は? バックバンド?」



思わず、呆れるような声が出た。

目の前にいる少女。相も変わらず首にヘッドホンをかけ、今日はROCKと背中に大きく書かれたパーカーを着ている、この美少女と言って差し支えない女の子。
彼女は期待に目を輝かせ、俺の事を真っ直ぐに見つめていた。



李衣菜「そう! 今度やるライブで、プロデューサーたちには私となつきちのバックバンドをやって貰いたいんだよね!」



場所はいつもの某スタジオ。千葉にあるこの場所にも、今ではすっかり通い慣れていた。
そして珍しく早めに来たと思ったらこれだ。スタジオに入るなり、満面の笑顔の多田に頼まれてしまった。

いや、バックバンドってお前……



八幡「無理だろ。普通に考えて」

李衣菜「えー! なんで!?」





まるで予想外だったと言わんばかりの多田の反応。
むしろ、何故引き受けてくれると思ったのか。


と、そこで助け舟とばかりに近寄ってくる一人の陰。
こちらも同じく先に来ていた木村先輩だ。



夏樹「まぁ話でも聞いてくれ八幡。何も武道館ライブのバックバンドやってくれって頼んでるわけじゃねぇんだからよ」

八幡「? 非公式のライブって事っすか?」



今の台詞の感じだと、お金を取るようなちゃんとしたライブではないのかと思い至る。……いや、それにしたって厳しいですけどね? 始めてまだたかだか数ヶ月ですよ?



夏樹「非公式、ってわけじゃないんけどな。なんつーんだ、学園ライブ? って言えばいいのか」

八幡「学園ライブ?」

夏樹「ま、要は学校の体育館使ってライブしようって事だ」

李衣菜「いやー良いよね! まさに青春って感じで!」



本当に楽しそうにそう言う多田。
いやいや、簡単そうに言うけどライブはライブだぞ? 黙ってプロに任せた方が得策だと思うんだが。



夏樹「お前の言いたい事は分かる。けど、予定じゃ四曲の内一曲を任せようって話になってるからさ。今から一曲集中して練習すれば充分間に合うだろ。他の曲はプロがちゃんとやるし」



一曲、か。

確かにそれなら割となんとかる気もする。
だけど、なぁ。さすがにいきなりは……


俺が未だに悩み唸っていると、木村先輩は念を押すように更に言ってくる。



夏樹「それに、自分の学校の生徒がバックバンドをやってるってだけで絶対盛り上がるだろ?」

八幡「まぁ、確かに葉山が演奏してるだけで女性人気は間違い無し……って、え?」



思わず、一瞬思考が固まる。
今、この人は何と言った?



八幡「“自分の学校の生徒”……? って、まさかライブする学校って……!」

葉山「総武高校だよ。もう学校には話を通してあるから、近々告知されと思う」



は、葉山ぁぁぁああああ!?

何してくれてんだお前はぁ!?


スタジオを扉を開け、図ったように会話に参加してきた葉山を睨みつける。



葉山「そう怖い顔をするなよ。良いじゃないか。ホーム戦だと思えば」

八幡「馬鹿かお前は。俺にとっちゃホーム線=アウェー線だっつうの」

夏樹「そんな悲しい事を威張るなよ……」



いやいやいや、マジでキツいだろ。
え、ホントに? ホントに俺があの学校でライブすんの? ギター弾くの?

俺は受け入れ難い現実に、ただただ呆然と立ち尽くす。

一瞬だけ、幼き日の嫌な思い出が頭を過った。



李衣菜「大丈夫だよプロデューサー。私たちがついてるから!」



肩をポンと叩き、何の気無しに言ってのける多田。
それに続き、木村先輩までも逆側の肩へと手を乗せる。



夏樹「だりーの言う通りだな。気楽に、そんで楽しんでこーぜ」



……本当に、簡単に言ってくれる。
自分たちだって、緊張してるはずなのにな。


多田はCDデビューもしているし、それなりに場数を踏んでいるだろうが、それでも学園でのライブは初めてだろう。

木村先輩だってライブ自体は経験豊富でも、アイドルとしてのステージは初のはず。今までと勝手が違うのは明白だ。


それでも、こんだけ勇気を持って、楽しみにしていられる。
それはやっぱ……



この二人が、アイドルだからなんだろうな。



八幡「………………ハァ、練習するか」



諦めたように、我ながら情けない返事とも言えない返事を返す。
だがそれだけで、多田は笑顔になり、木村先輩は首肯し、葉山は満足げに目を閉じた。



夏樹「さ、他の二人が来次第、新しい曲の練習に取りかかるぜ!」

李衣菜「おう! 演奏する曲は私のデビュー曲……『Twilight Sky』だー!」



かくして、俺の恐らくは最初で最後のライブが始まる。

数ヶ月前までは、ライブへと送り出す側だった俺。その俺が、今度は何故かライブをする側へとなってしまった。
もちろん主役はアイドルの二人だ。だがそれでも、緊張しないわけがない。


一体、何がどうなってこうなってしまったのか。
今となっては、それは俺にも分からない。


だが、これだけは言える。






多田よ。俺はもうプロデューサーじゃない。


というわけで、野郎共のある日の風景は終わり……次回、野郎共の一回きりの学園ライブ!
彼らの青春の一ページ、もう少しだけお付き合いくださいませ。

Twilight Sky 凄い好き。

理由(ワケ)あってアイドル!
比企谷 八幡(元プロデューサー) のデビュー! というわけか。属性はインテリだな。

久々の投下予告。今夜更新します!
ただ日付は変わるもんと思ってください。いつも通りですね。

デレマスの13話……超良かったね! みんな可愛いくてこっちまで緊張しまくりで気付いたらずっと手握って見てた。7月が待ち切れん!

すいません俺ガイルの1話見てました。
いやー良かったね! 絵が凄い奇麗! ちょっとテンポ早い気もしたけど、アニメならあれくらいなのかな。

更新はもちっと待ってくれい……

ごめんマジで明け方になりそうだ。

よっしゃ出来た! もう完全に朝だけど更新するよ!














“子供の心にトラウマを刻むのに、大事件はいらないものだ”


これは昔読んだ、ある物語での一節。
当時の俺は中学生くらいだったと思うが、読んだ時、酷く共感したのを覚えている。

今でこそ俺の黒歴史は大なり小なりいくつもあるが、それでも小さな頃は大したものはそれほど無かった。あって精々、子供ながらのありがちな悪戯やからかい。今にして思えば、取るに足らない戯事だっとすら思える。

だが、それも“今思えば”という意味でしかない。

当時の俺は心底嫌だと思っていたし、それが原因で本気で落ち込んだりもした。
小さな事でも、些細な事でも、子供にとっては充分なトラウマになり得る。


大事件なんか無くたって、ふとした事が心に傷をつける事があるんだ。


まぁ、そんな事が高校生になるまで多少あって……多少って言葉で片付けていいのか微妙だが……俺は現在へと至る。

小さな事から大きな事まで、様々な経験を経て、俺は今の人格へと形成されていった。
それが良い事なのか悪い事なのか、正直判別はつかない。だが、あれらが無ければ今の俺が無いというのもまた事実。

恐らく褒められた人間には成長できていないんだろうが……まぁ、そんな事はどうでもいい。他人にどう言われようと、俺くらいは俺を認めてやらんとな。


……それに、こんな俺を慕ってくれる奇特な奴らもいる。これだから世の中わからんものだ。


きっと、良い事も悪い事もあって、人ってのは形を成していくんだと思う。
高校生の分際で何を、と思われるかもしれんが、そう思うくらいには色んな事があり過ぎた。

良い事も、悪い事も。



そういえば、前に凛が俺の昔話をした事があったな。
確か奈緒と加蓮のライブ前の緊張を和らげる為に言ったんだったか。当時緊張で舞台に上がれなかった小さい頃の小町を勇気づける為に、俺も一緒に歌って踊ってあげたあの事件。

あれは酷い暴露事件だった。いや元凶は小町だけどね!

凛はさも美談のように話していたが、実は実際はそうじゃない。
確かにあれは小町の為にやった事ではあったが……それと同時に、自分自身に踏ん切りを付ける為でもあった。


それと言うもの、実は俺自身も似たような経験がかつてあったから。


小町がもっと幼い、俺も記憶があやふやな歳の頃。
俺も学芸会か何かで舞台に立つ事があった。合唱だったとは思うんだが、その中で、一人一人ソロで歌うパートがあったんだ。

本番前、クラスメイトが緊張するねーだの、しっかり歌えよーだのと、お互い言い合っていたのを何となく覚えている。


俺が、一人で緊張を抑えようとしていたのも。


そして本番で、俺は見事やらかした。

頭が真っ白になり、覚えていた歌詞も完全に飛び、一言も声を発せなかった。
まぁ元々短いフレーズだったし、次の順番の奴が何事も無く歌ったので特に大きな問題にはならなかったがな。他にも辿々しい奴が何人かいたし。

だがそれでも、俺の心へ傷を付けるのには充分だった。


緊張で手が震え、目が泳ぎ、観客の奇異の目が耐えられない。

頭では何も考えられず、口を開けたまま、一言も声が出ない。

しまいには目を伏せて、ただただ歯を食いしばる事しか出来なかった。


終わった後だって慰められる事は無く、クラスメイトは何やってんだという責め立てるような視線を送ってくるだけ。担任の先生もちゃんと歌わなきゃダメだろとしか言わなかった。

ぼっちの舞台なんて、結局はそんなもんだ。


ちなみに両親はパートを知らなかったので「ごめん、八幡のソロパート見逃しちゃったみたい! どこで歌ってた!?」と申し訳なさそうに言っていた。……申し訳ないのはこっちなのに、見栄を張って「歌ってたよ」としか言えなかったけどな。そんな自分が酷く情けなかった。


そしてそれからしばらくして、凛が話していた小町の件が起きたんだ。
あの時のような気持ちを小町にさせてはいけないと、俺はお兄ちゃんパワーを発揮させたわけなんだが……

それと同時に、きっと自分自身が乗り越えたかったんだと思う。


過去の、自分を。


まぁ結果的にもっと大惨事になったような気もするが、それでも踏ん切りをつける事はできた。
だから、これはもう過ぎたこと。



……過ぎたことな筈なんだがな。






八幡「今になって思い出してんだから、乗り越えられてないんだろうな……」

一色「先輩なに一人で話してるんですか? 気持ち悪いですよ?」

八幡「……ほっとけ」






昼休み。


いつもの場所でいつもの昼飯。戸塚の練習風景を見ながら(今日はいない)のぼっちタイム。
至高のその時間に、何故かこいつはそこにいた。


一色いろは。

現総武高の生徒会長にして、小悪魔系女子高生である。



一色「先輩、今日もここでお昼ご飯ですか」

八幡「それがどうかしたか」

一色「一人で、ですか」

八幡「……それがどうかしたか」



思わずワントーン低くなる俺の声。
それに対し、一色は「うわー……」という可哀想な子を見る表情で俺を見る。隠す気ゼロだよこの子!

この間初めてこいつに会った時、この場所までそのまま来たのは失敗だったな。どうも昼休みは俺はここへ来る事を覚えられてしまったらしい。
それからたまーにここへ来てはどうでもいい話(主に葉山絡み)をし、俺のSAN値を削ってくる。なんともはた迷惑な奴だ。



一色「ていうか、先輩こんな所で普通にご飯食べてていいんですか?」

八幡「なんでだ」

一色「だって、今日ってライブの本番ですよね? バックバンドの人も何か打ち合わせとかあるんじゃないかなーと」



一色が何とも無しに言った台詞。その言葉に、思わず眉を寄せてしまう。

ライブ。そう、ライブだ。
今日はシンデレラプロダクションのアイドル、多田李衣菜と木村夏樹による、総武高校の学園ライブ。

そして、俺はそのライブでの一曲とはいえバックバンドのギターをやる事になっていた。本当にどうしてこうなった。



八幡「まぁ、無い事も無い。実際これ食ったら打ち合わせに向かうしな」



ローテンションを隠そうともせず、俺は焼きそばパンを齧る。

いやホント楽しみとかそんな気持ちが微塵も湧かないんだからヤバイ。緊張と不安でパンが逆流してきそう。やっぱアイドルって凄いんだな、とかそんな感想しか湧いてこなかった。

そして一色はと言うと、俺のそんなテンションよりも台詞が気になったご様子。



一色「え。打ち合わせって事はあれですか。葉山先輩も来るんですかそれ」

八幡「そりゃな」



バックバンドのもう一人のギターは葉山。ならばあいつが打ち合わせに来るのは当然と言える。

質問に返すと、一色は腕を組み、人差し指を顎に添えて思考のポーズを取る。
考える時まで可愛さアピールを忘れないその殊勝な心がけ、大変素晴らしいと思います。だが、あざとい。

そして一色は思考を終えたのか、思わず花丸をあげたくなるほどの眩しい笑顔でこう言った。



一色「先輩。生徒会長として、わたしもその打ち合わせに同行します!」



どっちかって言うと欲まみれの笑顔のようだった。



八幡「いや曲の打ち合わせだから、お前が来ても何も話すこと無いと思うんだが…」

一色「いえいえ。やっぱり生徒会長ですし、演奏者さん達の様子も見ないと!」

八幡「お前が見たいのは葉山だろ……」



確かに総武高のイベントではあるし、実際生徒会には開催に当たって色々と仕事を手伝って貰った。会場の設営しかり、校内への広報しかりな。

ただだからと言って曲の演奏自体には何も関与しちゃいない。来た所で、めんどくさい事にしかならないから遠慮してもらいたいんだが……



と、俺がどう一色を説得しようかと考えていた時だった。
視界の隅に、一人の影を捉える。あの特徴的な太眉とお団子は……



奈緒「おーっす。こんな所にいたのか比企谷」

八幡「奈緒か。なした」

奈緒「いや、きっと緊張してるんだろうなーと思ってよ。からかいに来た」



そう言って快活に笑う奈緒。
また何とも意地の悪い直球な理由だな。……けど、こいつの事だ。



八幡「そうか。悪いな心配かけて」

奈緒「べ、別にそういうつもりで来たわけじゃねーよ! 勘違いすんな!」



みるみる顔を真っ赤にする奈緒。
本当に分かり易い奴だ。やっぱツンデレはこうでなくてはな。



奈緒「ったく……あれ、いろはもいたのか」

一色「お久しぶりです奈緒先輩。その節はどうも」



笑顔でぺこりとお辞儀する一色。そういや、こいつらも面識あったんだったな。生徒会選挙絡みで。
結局その件に関してはあまり話を聞いていないので、経緯はよく知らんが。



奈緒「お前らも知り合いだったんだな。何話してたんだ?」

一色「あー何かこれから打ち合わせがあるらしいので、私も同行しなきゃーって話してたんです」



さも当然とばかりに一色がそう言うので、奈緒はなるほどなーと納得してしまう。
いやいや、打ち合わせはあくまでバンドの話よ? 一色さんは関係ないよ?



奈緒「思い出すなー。アタシらの時も大変だったよな」

八幡「まぁ、大変だったのはライブ以前の問題だったけどな」

奈緒「お前が言うかそれ?」



呆れるように笑い、奈緒は肩をポンっと叩きながら言う。



奈緒「ま、アタシらも応援してるから頑張れよ。ファイトだタンゼント・ブラット」

八幡「それ恥ずかしいからやめろ……」



つーか何でお前がそれ知ってんだ。あれか。材木座の野郎から聞いたのか。余計な事を。
俺が思わず眉を寄せていると、そこで一色がキョトンとしている顔が視界に入る。



一色「あれ? そういえば奈緒先輩は打ち合わせに行かないんですか?」



不思議そうにしながら、疑問をそのまま口にする一色。ま、まずい……!



奈緒「え? なんでアタシが打ち合わせに参加する必要があるんだ?」

一色「は? だって奈緒先輩も…」

八幡「よし。打ち合わせ行くか一色」



相変わらず先輩に態度の悪い一色の前に出るように、その先の言葉を遮る。
危ねぇ……もう少し遅かったら言われる所だった。



一色「え! わたしも行って良いんですか!」

八幡「ああ。構わん。だから早く行くぞ」



こうなれば仕方が無い。あれが奈緒にバレるくらいなら、まだ一色が打ち合わせに来る方がマシだからな。

そして俺と一色がさっさとその場を後にしようとすると、当然奈緒が抗議をあげてくる。



奈緒「いや、ちょっと待て。今いろは何か言って…」

八幡「奈緒」

奈緒「な、なんだよ」



俺の真剣な呼びかけに、思わず押し黙る奈緒。
ふむ。ここはあの作戦でいこう。



八幡「問題だ。『μ's』名義の曲は全部で何曲あるでしょう」

奈緒「は? μ's名義の曲?」

八幡「ああ」



突然の出題。奈緒は怪訝な顔をしながらも考え始める。



奈緒「そんなのシングルの数を数えれば……あぁでもカップリングもあるのか。待てよ、ぼらららはラブライブ名義だったから数えないとして、友情ノーチェンジも……あ! つーかDVDの特典曲もあるじゃねーか! それも数えて、えーっと……比企谷、シングルとアルバムは分けて考えればいいのか? ……って、あれ。どこいった? 比企谷? 比企谷ーっ!?」








× × ×






八幡「なんとか撒けたな……」



その名も『いきなり問題を出してはぐらかす作戦』。主に小町や由比ヶ浜のようなアホの子にしか使えん作戦だが、奈緒にも効いたようで何よりだ。あいつは趣味関連の話題には弱いな。

そこで、前を歩く一色が不思議そうに訊いてくる。無論内容は先程の事。



一色「先輩、なんで急に逃げたんですかー?」

八幡「いや、あのままじゃ奈緒にバレる所だったから、思わずな」

一色「? バレる?」



全然分からんという様子で首を傾げる一色。
まぁ、ここまで来たらこいつには言っても問題無いか。



八幡「あいつ、今日自分も歌う事を知らないんだよ」

一色「はぁ……って、えぇッ!?」



思わず、ぎょっとした表情で勢いよく振り返る一色。



一色「いやだって、総武高のライブだから奈緒先輩にサプライズゲストで歌って貰おうってこの間企画会議で言ってたじゃないですか」

八幡「ああ。サプライズだな。本人にも」

一色「えー……そういう意味ですか」



告知では多田と木村先輩による学園ライブとだけ銘打っているが、やはりここは総武高校。なので、奈緒にはサプライズで出てもらう事にしたのだ。本人にも内緒でな。

少し可愛そうだとは思ったが、まぁ企画したのは俺じゃないし、なんだ、その……頑張って! としか言えん。



八幡「とりあえずバレなくて助かった。奈緒には悪いがな」

一色「アイドルって大変なんですね……」



なんとも他人事のような一言であった。心底同意できるけどな。

……あぁ、ライブの事を考えたらまた腹が痛くなってきた。もうばっくれようかしら。















あれから打ち合わせを経て、午後の授業をこなし、胃を痛めながらもライブまでの時間を俺は過ごした。


今日は奉仕部の部室へも向かわず、体育館へと直行する。まぁ、最近は練習の為に顔を出さない事も多かったがな。しかしあいつらも見に来るんだろうか……見に来るんだろうな。

俺たちがバックバンドをやる事は周知していないが、それでもあの二人はデレプロのファンだ。恐らく見に来るのは間違いない。やっべぇな。超恥ずかしい。


だが、俺のそんな不安も関係無しに事態は急転した。
元来、こういったイベント毎にトラブルは付き物だ。そういう意味では、まだ軽いものだとも言える。


その報せが届いたのは、ライブの開演開始まで30分を切った時だった。






八幡「多田と木村先輩が遅れてる……?」



舞台袖で準備をしていたその時。
一色からのその連絡に、思わず目を見開く。



いろは「はい。なんでも前の仕事が長引いてしまったらしくて……」

葉山「どれくらい遅れるんだ?」

いろは「1時間くらいは見てほしいそうです」



1時間……。

つまり、30分近くは開演出来ないって事か。



戸塚「良かった。そんなに遅くはならないんだね」

材木座「ふむ。それならば事情を話して、少し待ってもらって……」

八幡「いや。それはあまり良い手ではないな」

材木座「ぬぅ? 何故だ」



意味が分からんとばかりに首を傾げる材木座。お前がそれやっても何も可愛くないぞ。



八幡「イメージに影響するからだ。仕方が無い事態だったとしても、待たされる事に変わりは無いからな。不満も出るし、少なからず帰る奴も現れる」



こう言っちゃ悪いが、多田はともかく木村先輩はまだ駆け出しのアイドルだ。初っぱなから遅刻というのは出来れば避けたい。



八幡「出来れば遅れてるってのは告げない方が良い。なんかテキトーに場を繋いで、30分持ちこたえた方が…」

葉山「でも、何をすればいいんだ?」

八幡「…………一色」

一色「ええ!? わたしですか!?」



秘技・他力本願の術。
いや、俺も言った手前何も思いつかないんだよね。マジどうすっか。



いろは「あ、奈緒先輩に歌って貰ったらどうですか?」

八幡「だがそれだとサプライズが……」

いろは「そんなこと言ってる場合じゃないですって!」



確かに一色の言う通りだな……。奈緒も、事情を話せば恐らく強力してくれる。サプライズ出来ないのは痛いが、遅らせるよりは良いか。

だが、そこで葉山が神妙な顔つきで言ってくる。



葉山「いや、それだと曲を演奏できない。バックバンドの人たちも夏樹さん達と一緒に来る手筈だったから、神谷さんの曲を演奏できる人がいないんだ」

戸塚「そっか。僕たちはTwilight Skyしか出来ないもんね……」



落ち込むように言う戸塚。
そういやそうだったな。まさかアカペラで歌ってもらうわけにもいかねーし。

ならトーク? ……無理だ。未央や卯月とかならともかく、奈緒にトークで30分ももたせろとか流石に酷過ぎる。


他に何か無いか? ここにあるのは、事前に運び込まれた楽器と機材……



……楽器は、あるんだよな。




















一色「あ、でしたら先輩たちが演奏すれば良いんじゃないですかー?」












…………。








八幡「…………」



いや、何その手があったかみたいな顔してんのお前ら?



葉山「なるほどな……確かに楽器はあるし、前座って事にすれば違和感も無い」

八幡「いや待て。ちょっと待て」



本当に待ってほしい。さっきから嫌な予感が止まらないんだ。気を抜くと足が震えてきそう。



八幡「そうだ雪ノ下たちに頼もう。文化祭で演奏してたし、あいつらに頼めば…」

葉山「けど今回は陽乃さんがいない。ドラムを代わりに叩ける人を探そうにもあてが無いしね」

材木座「うむ。我は連取した曲意外は知らんしな」



そ、そうだった。
畜生! なんでこういう時に限っていないんだあの人! 必要ない時だけ来やがって!



八幡「い、いやしかしだな。それ言ったらTwilight Skyは誰が歌うんだ。奈緒も歌えるか分からんぞ?」

葉山「大丈夫。俺たちが演奏するのはそっちじゃない」

八幡「…………」

葉山「あるだろ? もう一曲練習してた曲が」



ありました。確かにありましたねー。あったあった。
いやでも、それってつまり、うん。そういう事だよね。

葉山は、真剣な眼差しで俺に言う。






葉山「歌うんだ。比企谷」


八幡「無理無理無理無理無理無理」




いやー無理だろ! ほんっきで無理だろ!? え、馬鹿なの? 死ぬの? 俺が。



戸塚「だ、大丈夫かな。最近はTwilight Skyの練習ばっかりだったから、ちゃんと弾けるか心配だよ」

材木座「う、うむ。本番前に何回か練習を…」

八幡「いや何やる気になってんだそこ」

いろは「とりあえず最初10分くらいは司会に引っ張ってもらってー、後は曲の演奏とトークでどうにかなりそうですかね」

葉山「ああ。少し尺があまりそうだけど、そこは機材の入れ替えとかで誤摩化せば何とかなるか」

八幡「聞いてくれ。頼むから……」



なぜか着々と話が進んでしまっている。
これはもう、決まりなのか? 俺が、歌うってのか? 



また、あの記憶が頭を過る。



胸を締め付けるような痛みが一瞬やってきて、それから遅れてカタカタと震えてきた。

……なんだ。やっぱ全然乗り越えられてねぇな。



葉山「比企谷?」

八幡「っ!」

葉山「大丈夫か?」



心配そうに覗き込んでくる葉山。
いやお前が歌えって言うからこんなんなってるんですがそれは。




八幡「……大丈夫じゃねぇよ」



大丈夫じゃないに決まってる。
全然大丈夫なんかじゃないが、それでも覚悟を決めないとならないようだ。


多田と木村先輩。


普段の仕事もあるのに、彼女らは俺らの練習に付き合ってくれた。
そして、今回のこのライブを楽しみにしていた。その様子は、俺たちが一番近くで目にしていたんだ。

なら、そのライブを台無しにしちゃいけない。していい筈がない。
そもそも遅れてると告げてはいけないと言ったのは俺なんだ。なら、最後まで責任を持とう。


その言葉に、責任を。



八幡「……一色」

いろは「っ! なんですか?」

八幡「ギリギリまで生徒を会場に入れるな。出来るだけ合わせたいからな」



俺の言葉に一色はぽかんとし、葉山たちは微笑んでいた。
正直、怖くて緊張してどうにかなりそうだが、やるしかない。


凛は、あいつらは、もっと大きな舞台で頑張っていたんだ。

比べるのもおこがましいだろう。けど、俺だって近くで彼女たちを見て来た。



だからーー!


















ざわざわと、幕の向こう側から声が聞こえてくる。


結局あれから数回しか合わせる事は出来なかった。それほど失敗はしなかったが、それでも本番前の練習としては心もとない。

周りを見れば、薄暗い中他のメンバーがスタンバっている。



材木座は冷や汗を流し。

戸塚はそわそわしている。

そしてあの葉山でさえも、どこか不安げだ。



……きっとこいつの事だから、俺らの心配をしてるんだろうな。
その様子に、少しだけ気分が楽になる。


他の奴がテンパっていると、自分は逆に落ち着いてくるというアレみたいなもんか。



幕の向こう側で、一色の声が少しだけ聞こえた。
それに呼応するように、観客の歓声も大きくなる。


どうやら、前座で他のバンドが演奏するのも良い演出と受け取って貰えたらしい。

そりゃ、同じ高校の生徒がやるとなれば多少は盛り上がるか。



やっぱ葉山がボーカルのが良かったんじゃね? 絶対がっかりされるだろ、俺。

あと、どれくらいだ? 合図はまだか?

いや、出来るだけ引っ張ってもらった方が良いのか。ああでも、早く終わってほしい。


ダメだ、思考が、まとまらない。


やっぱりあいつらは、アイドルは、凄いんだなって。

そんな感想しか、出て来ない。



と、そこで舞台袖からライトが光った。
合図だ。間もなく幕が上がる。

それに習って、心臓が跳ね上がる。



周りを見る。

材木座と、戸塚と、葉山と、頷き合った。



幕が、上がる。















八幡「ーーーーっ」






思わず、息を飲んだ。





人でいっぱいの会場。



見慣れた筈の体育館が、今は全然違って見える。

薄暗いながらも、観客の姿が目に映る。



ざわざわと、声が聞こえてくる。






 「あれ、葉山くん?」

           「いないと思ったら演奏する側だったんだねー」

    「ドラムの太った人だれ?」

                       「ベースの子可愛いー。何年生?」

        「葉山くんの歌とか絶対上手いじゃん」

                    「あれ、でもマイクはあるけど真ん中じゃなくね?」

  「コーラスって事でしょ」

                「え、じゃあ真ん中のあいつが……?」

  「ボーカル?」

                「どっかで見たことない?」

     「あいつって噂の……」






言葉が、止まらない。



耳にはしっかりと届いてくる。

けど、意味を理解する余裕が無かった。






八幡「…………っ……」





葉山「(比企谷、挨拶を!)」



葉山が、小声で何か言っている。

だが、俺には何も聞こえない。



戸塚「(は、八幡……?)」

葉山「(……っ、材木座くん! カウントを!)」

材木座「(う、うむ)」



カンッ、カンッ、カンッ



遠くで、スティックを叩く音が聞こえた。

そうだ、歌わなきゃ。俺が最初に歌い出さなきゃ、演奏が……






八幡「……あ……っ…」






声が、出ない。



歌詞が出て来ない。息も上手く出来ない。



何も、考えられない。





葉山「(比企谷……!)」






                   「あれ、曲始まんないよ?」

    「ボーカルの様子変じゃね?」

                         「カンカンって叩いたのにね」

「なんか他のメンバーが慌ててるっぽい?」

        「機材トラブルか?」

               「でも歌ってる様子も無いし」

  「なんか具合悪そう」

                    「どうしたどうした。怖じ気づいたか?」






ざわざわと、また喧噪が大きくなった。



ダメだ、落ち着け。とにかく、落ち着くんだ。

けど、身体が言う事をきいてくれない。



手が震え、目が泳ぐ。

口を開けたまま、声が出ない。



耳に入ってくる音が、やけに五月蝿い。





「大丈夫かあいつ?」



頼むから、静かにしてくれ。



「早くやれよー」



騒ぐな。考えられない。



「もう見てらんねーな」



目線が、どんどんと下がって行く。

観客の奇異の目に、耐えられない。



「帰るか」



俺の足が、目に入った。

もう、顔を上げられない。



もう、何もーー















『また、下向いてる』












八幡「ーーっ」


























凛『プロデューサー、また下向いてるよ』


















音が、やんだ。











凛『そんなに下ばっかり見てたら危ないよ?』


八幡『なに言ってんだ。俺は自分の足下を見る事で自分の立ち位置を把握できる、地に足が着いた人間なんだよ』


凛『またそうやって屁理屈言って……』






いつかの、何気ない風景。

それが何故か、ふと頭の中へと蘇ってきた。






凛『もう……ちゃんと上も見ないとダメだよ?』


八幡『安心しろ。俺だってちゃんと歩く時は顔上げてる』


凛『いやそういう事じゃなくてさ……』


八幡『?』


凛『……下ばっかり見てたら、大切なものを見落としちゃうって事』


八幡『そりゃまた大袈裟だな』


凛『大袈裟なんかじゃないよ。見上げてみれば……』






顔を、上げる。


自分の足下から、観客へ。


真っ直ぐと。











凛『いつもと違う景色が、見えてくるから』





















加蓮「八幡さぁーーーーーん!! めっがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええっ!!!!」















八幡「ーーっ!!」






観客の奥の奥の、一番後ろの方。


そこに、確かに見えた。


確かに、聞こえた。





奈緒「ちょっ、こら加蓮! そんな大きな声出したらバレるだろうが!?」

未央「あ。プロデューサーこっちに気付いたみたいだよ。おーい!」

卯月「み、未央ちゃん! ダメですよ!」

雪ノ下「それに彼は今プロデューサーじゃないわね」

輝子「ふひっ……がんばれ八幡」

由比ヶ浜「ていうか皆、もっと静かに! ほ、ほら、周りの人見てるよ~!」



八幡「あいつら……」



騒がしく、周りの目を引く一団。
変装しているつもりなのだろうが、発言から既に台無しだった。



ふと、気付く。

いつの間にか、震えは止まっていた。



八幡「……確かに、見落としてたみてぇだな」

葉山「比企谷……?」



心配そうに、声をかけてくる葉山。
材木座も戸塚も、同じような様子だった。


振り返らず、俺は言う。



八幡「悪い。待たせた」



その言葉に、葉山は一瞬驚き、そして微笑む。



葉山「……いいさ」

戸塚「うん。頑張ろうね!」

材木座「うむ……では、ゆくぞっ!!」



鼓動が、高鳴っていく。



カウントが、始まった。






カンッ カンッ カンッ






八幡『ーー軋んだその心、それアンダースタンド」






由比ヶ浜「あ……」






八幡『歪んだ日の君を 捨てないでよ』






ーー♪ ーー♪






雪ノ下「………」





八幡『嘆き合って迎える朝焼けで 消えゆくその想いを

   ふとしたことで知る無力さで ほつれるその想いを』






未央「おー……!」






八幡『濁った目の先の明かり消えぬ街角 宿ったその心、絶やさないでよ』






奈緒「ふふ、八幡さんらしい」






八幡『響かない君の先の見えぬ明日も願うよ きっといつか…』






輝子「フヒ……」






八幡『軋んだその心、それアンダースタンド

   歪んだ日の君を 捨てないでよ』






奈緒「……良い曲だな」






ーー♪ ーー♪






八幡『光らない心、それでも待つ明日の

   掴んだその手だけ話さないでよ』






卯月「~~♪」






八幡『響かない時を駆け抜けてく間も願うよ きっといつか…』






ーー♪ ーー♪






八幡『不安で泣いた君も、それアンダースタンド

   刺さったそのトゲが 抜けなくても』






「…………」






八幡『塞いで泣いた日々も、それアンダースタンド

   歪んだ日の君を 捨てないでよ』






ーー♪ ーー♪






ーーー

ーー




















八幡「……………………疲れた」



椅子へ腰掛け、何とか絞り出た言葉はそれだけだった。

いやホント、マジで疲れた……



葉山「良かったじゃないか。無事に成功してさ」



場所はステージの舞台袖。

缶コーヒーをこちらへと差し出し、そう笑う葉山。
マッカンとは、こいつも多少は俺を分かってきたようだ。



八幡「……まぁ、な」



自分で言うのもなんだが、確かに観客の反応を見るに成功ではあったようだ。
あれは歓声だったんだよな? 極度の緊張で罵声がそう聞こえたとかじゃないよね?



葉山「でも夏樹さんたちも早めに着いてくれて助かったよ。あのままじゃアンコール! とかってのもあり得たしな」

八幡「無いとは思うが、もしそうなってたらと考えると恐ろしいな」




あの後多田と木村先輩は無事到着。ライブはもちろん大成功。やっぱ多田は場慣れしてるし、木村先輩もライブ経験があるからだろう、見事なパフォーマンスを見せてくれた。

つーか、あの人ら俺たちの演奏聴いてたらしいぜ? なんなんそれ? 完全に俺ピエロですやん!
……まぁ、早めに着いてくれたおかげでトークとやらをせずに済んだのは本気で助かったけどな。



八幡「あと10分ばかし早かったらな。俺らが演らずにすんだものを……」

葉山「くくっ」

八幡「あん? なんだよその笑いは」



何、俺が慌てふためいてのは面白かったとか、そういう笑いなの? 泣くぞ?



葉山「いや、そう言う割には、良い笑顔だったなと思ってさ」

八幡「……だから、気のせいだろ」



確かに、演奏を終えた時に心地いい達成感は感じた。


観客の歓声が聞こえてきて、心臓が高鳴るのが自分で分かって。

とにかく、言いようの無い感情が胸にいっぱいになった。


戸塚が涙ぐむくらい喜んでて、材木座は相変わらず汗だくでハイテンションで。

葉山は、見た事ないくらい満面の笑みで。



……思わず、ハイタッチしてしまった。何故だ。



葉山「比企谷?」

八幡「……なんでもねぇ」



いや今思い出しても恥ずかしい……なんで俺あんなテンション上がってたんだろう。やよいちゃんならともかく、葉山とハイタッチとか。海老名さんしか得しねぇよ!



八幡「そういや、戸塚とついでに材木座はどこ行ったんだ?」

葉山「そろそろ後片付けだからね。先に行ってるよ」



ああ、そうか。そういやそれもあったな。
いやーめんどくさいな。正直疲れ果ててやる気なんて微塵も無いが……まぁ、最後までやるのが筋だろうな。



八幡「そうか。んじゃさっさと終わらせっか」



コーヒーを飲み干し、よっこらせっと椅子から立ち上がる。
ステージへ向かおうと歩き出すが、そこで葉山が動こうとしないのに気付く。

なした? と視線だけ向けると、葉山は少しだけ暗い表情をしていた。



八幡「……行かねーのか。片付け」

葉山「いや、行くよ。ただその前に一ついいか?」



葉山の言葉に、俺は無言で首肯する。



葉山「……バンド、続ける気はあるかい?」

八幡「っ!」



葉山のその問い掛け。
正直、少し驚いた。本当は後で自分から切り出すつもりだったからな。

まさか、先に言われるとは。



八幡「……そうだな」



だから、俺の答えはもう用意されている。



葉山「……」

八幡「悪い。やめるわ、バンド」



その言葉に、葉山は特に驚いた様子も無かった。



葉山「……理由を聞いてもいいかい?」

八幡「別に、大した理由じゃない。ただ…」

葉山「ただ?」



あの時、演奏を終えた時の風景。

いつもの日常じゃ、絶対に見られない光景。

観客の歓声が心地よくて、言いようの無い達成感に襲われて。

アイドルたちが見ているのは、こんな景色だったんだと気付いた。



そしてそれと同時にーー









あいつがこの景色を見ている時、俺はもう隣にいないんだという事に、気付いた。








八幡「……やりたい事が、出来たんだ」



無駄かもしれない。でも、もう何もせずにいることなんて出来ない。
もう、この気持ちは止められなかった。



葉山「……そうか」



葉山は、それ以上訊こうとはしなかった。
何をしたいのかも、どんな事なのかも。

ただ……



葉山「よかったよ」

八幡「あ?」

葉山「君にも、“夢中になれる何か”が見つかって」



それだけ言って、葉山は笑った。

……こいつも、大概あざといな。



葉山「でも、たまには息抜きに演るのも良いと思うよ。材木座くんも戸塚も、誘えばきっと喜ぶ」

八幡「ああ」

葉山「それじゃ、俺たちも片付けに…」

八幡「葉山」



ステージへ向かおうとした葉山へ呼びかける。

これから俺は、血迷った事を言う。それだけ先に言っておく。
きっとこれが最初で最後で、もう言う事は無いだろう。

それでも、言っとかないと後悔しそうな気がしたから。






八幡「ありがとな」






表情は変えず、目線はそっぽを向いたまま。
だがそれでも、葉山が驚いているのは分かった。

その後に、微笑んだのも。






葉山「……どういたしまして」






それだけ交わして、俺たちはステージへと向かった。



たぶん、俺のライブもこれが最初で最後。
こんな青春の一幕みたいな事をやるなんて、昔の俺じゃ考えられなかったな。

しかし、今回ばかりは良しとしよう。



真っ白な嘘というものがある。真っ赤な嘘が人を騙す為のものなら、真っ白な嘘は人を救う優しい嘘。

そして、必要悪というものもある。その悪があるからこそ、世は成り立つ。


だからきっと、嘘であり悪であるとしたこの青春も。



……案外良いものだ。そう、少しだけ思えた。















 … 後日 …



奈緒「いやー昨日は大変だった。……まさかあんな事になるとは」

加蓮「あはは。こっちは見てる側だったから、面白かったけどね」

奈緒「他人事だからってお前…………って、凛」

凛「おはよ二人とも。何の話?」

加蓮「あ、うん。昨日見に行ったライブの、ね」

凛「ああ、そういえば昨日だったね」

奈緒「(こ、これはマズイな。何とか話を逸らさないと……)」

加蓮「(凛、頑なに八幡さんと直接会おうとしないよね。まぁそれは八幡さんもだけど)」

奈緒「(二人とも変な所で頑固だもんなぁ。ライブくらい行けば良かったのによ)」

凛「? どうかした?」

加蓮「い、いや? 別に何も…」

李衣菜「おっはよー! いやー昨日は楽しかったなー。前座とはいえ、プロデューサーたちの演奏も凄かったし!」

奈緒・加蓮「「(く、空気読めなさそうな奴きたー!?)」」

凛「おはよ李衣菜。昨日のライブの話?」

李衣菜「あ、凛ちゃん。いやー凄かったんだよ昨日!」

奈緒「あ、ちょっ…」





李衣菜「歌上手いし、超ロックだった! いやーさすがは凛ちゃんのプロデューサーだね!」



凛「っ!」



加蓮「り、凛……?」

凛「……ふふ」

李衣菜「あれだったらミュージシャンとしてもやっていけるんじゃないかなぁ。あ、さすがに言い過ぎ? ……って、どうかした?」

凛「いや、なんでもないよ」

李衣菜「?」

凛「私のプロデューサーだもん。当然だね」 ニコニコ

奈緒・加蓮「「っ!」」

李衣菜「いいなー。アタシもロックなプロデューサー欲しいや」

凛「あぁでも、今はプロデューサーじゃないから。元プロデューサーね」



わいわい



奈緒「……なんか」

加蓮「惚気られただけだったね……」






おわり


つーわけで、野郎共のうぃーうぃるろっくゆーでした。ごめんね一夜明けちゃったよ!


アンダースタンドとは予想外だった
サビの裏声担当は戸塚だな!マジ天使


良かったぞ。けど今回は珍しく誤字やミスが多かったね


奈緒「ふふ、八幡さんらしい」


誰だおまえ

>>828 
すいません、とにかく早くしなきゃと思ってほとんど見返してませんでした……正しくは加蓮っす。

あと>>821さんが言ってる通り、ヒッキーたちが演奏したのはASIAN KUNG-FU GENERATIONのアンダースタンドという曲です。
凄い良い曲なんで、良かったら聴いてみてね(ダイマ)

それと更新は無いんですが、少しばかり報告を。
残りスレを見ても分かるように、たぶん書き切れません。なんで、その内次スレ立てます。


高垣楓の湯煙事件簿

ライラさんをプロデュース

渋谷凛のその後


の三つは最低でも書こうと思うんで、蛇足だとは思いますが何とぞお願いします。
もう自己満足以外の何物でもないけど、ここまできたらもうね。最後までね。


ある日の風景 その7



八幡「…………」 スタスタ

輝子「…………」 イソイソ

八幡「ん……?」 ピタッ

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(あの力なく揺れるアホ毛……輝子か?)」

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(何やら机で作業をしているようだが……)」

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(珍しいな。机の下でキノコ育成するならともかく、机に向かって何かしているとは)」

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(……何してんだろうな)」

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(…………気になるな)」 そー…

輝子「……っ!」 びくっ

八幡「うおっ」 サッ

輝子「は、八幡……?」

八幡「(ば、バレた…)あ、あーいや、別に覗こうとしてたわけじゃないぞ。ただ、ちょっと、なんだ。魔が差したっつーか、まこちんの曲なら自転車が好きっつーか……」 アタフタ

輝子「フヒ……別に、いい」

八幡「そ、そうか」

輝子「これ、作ってただけだから……」 スッ

八幡「ん。……お守り、か?」

輝子「うん……中に、縁起の良いキノコが入ってる…フフ……」

八幡「お、おう(実に輝子らしいな)」

輝子「……こ、これ。八幡と凛ちゃん、に」 2つ

八幡「っ! 俺と凛に……?」

輝子「うん……さ、最近、二人とも忙しそう」

八幡「…………」





輝子「健康運と、仕事運が良くなるように……二人にあげる…フヒヒ……」

八幡「……そうか。んじゃ、ありがたく受け取っておくわ」

輝子「フフ……それを私だと思って、大事にするといい……」

八幡「なんかその言い方怖いからやめろ…」

輝子「…………」

八幡「……? 輝子?」

輝子「……最近、あまり会えない、からな」

八幡「ッ!」

輝子「い、忙しいのが良い事なのは分かってる……でも…」

八幡「…………」

輝子「…………」

八幡「……輝子」

輝子「……っ」 ぴくっ

八幡「あー……この後、時間あるか?」

輝子「……?」

八幡「凛も呼んで……そうだな、飯でも行くか」

輝子「っ!」

八幡「たぶん、まだ仕事終わりまでかかると思うが……どうだ?」

輝子「……フヒヒ」

八幡「…………」

輝子「……もちろん、行く…フフ……」

八幡「……そうか」

輝子「こ、小梅ちゃんと、幸子ちゃんも、呼んでいい……?」

八幡「おう。呼んどけ呼んどけ、いくらでも奢ったる」

輝子「フヒッ……さすが八幡。太っ腹」

八幡「そうでもある。ちひろさんも誘ってみるか」

輝子「賑やかに、なりそう……」

八幡「ああ」

輝子「……八幡」

八幡「何だ?」

輝子「……ありがとう」

八幡「……ああ」



ーーー
ーー




八幡「やっぱ仕事終わりは食い放題に限るな」

凛「分かってた。誘われた時点でこうなるって分かってたよ!」

輝子「フヒ……やっぱり、みんなで食べるのが一番おいしいな……」


寮のシーンで輝子がちょっと出た時すごい嬉しかったなぁ。可愛かった。
セカンドシーズンでは出番がもっとあると期待。

シオミー4代目シンデレラガールおめでとうー! そして凛ちゃんも総合9位クール部門3位おめでとうー!
いやーユニットCDが楽しみですなぁ。

……それだけです。更新は無いです、はい。すいません…


ある日の風景 比企谷家編



八幡「たでーまー」

小町「あ、お兄ちゃんおかえりー」 グデー

八幡「……どうかしたのか。そんな屍みたくなって」

小町「いやー集中力が中々続かなくってねー。……もう今日は色々限界」

八幡「ほーん、受験勉強中だったか。お疲れさん」

小町「いえいえ。ところでお兄ちゃんはいずこへ?」

八幡「それ使い方間違ってんぞ。ちょっとTSUTAYAにな」

小町「ツタヤ? なに、ラブライブのTカードでも作ってきたの?」

八幡「違う。いやそれも後々作るつもりだが……今回はこれだよ」 つDVD

小町「DVD?」

八幡「今日からレンタル開始だったからな。すぐに借りてきた」

小町「今日から……うーん分かんないなぁ。一体何を……っ!」

八幡「フッ」 にやり

小町「こ、これは……!」

八幡「そう、映画『眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY』だ!!」

小町「買いなよ! お兄ちゃん!!」

八幡「言うな。今月厳しいんだ……」

小町「世知辛いね……」

八幡「まぁこればっかりは仕方がない。なんもかんも真骨頂クウガの出来が良過ぎるのが悪い」

小町「自業自得だったね……」

八幡「とりあえず俺は今から視聴開始するが、小町はどうする」

小町「……お兄ちゃん、受験生にそれ訊く?」

八幡「…………」

小町「たしかポップコーンとコーラがあったから持ってくるね!」

八幡「知ってた」



 ー 視聴開始 ー



テレビ「ねぇ、知ってる? 桜の木の下には、女の子が眠ってるんだってーー。」



小町「奇麗な映像だねー」 もくもく

八幡「劇場にも見に行ったが、やっぱ何度見てもワクワクするな」 むしゃむしゃ

小町「始まり方が良いんだよね」 もくもく

八幡「しかし冷静に考えるとかなり怖いよな、この語り」 むしゃむしゃ

小町「確かに。春香さんが言ってるからそう感じないのかな」 もくもく

八幡「良いキャラしてるよな」 むしゃむしゃ

小町「キャラって言わないでよ。あれは素でしょ……たぶん」

八幡「別に批判してるわけじゃない。というかむしろ、765の中では俺はかなり好感を持ってる方だ」

小町「およ、そうなの?」

八幡「なんというか……自分の良い所、アピールポイントを理解してる、って言えばいいのか。あれが演技してるにしろ素なのにしろ、アイドルをあそこまで体現してる所は素直に凄いと思ってる」

小町「ふーん? よく分かんないや」

八幡「まぁ、これは星井にも言えることだがな」

小町「あー確かにミキミキは自分の可愛いところ分かってそうだね。ていうか実際カワイイし」

八幡「俺の場合あそこまで行くと逆に苦手だ」

小町「あはは、それお兄ちゃんが女の子に耐性無いだけじゃない?」

八幡「最近妹の言葉の端にトゲを感じる」

小町「別に前からでしょ」

八幡「それもそうだ」



テレビ「私たちの中から、アイドルが選ばれるかも知れないんだって!」



小町「ハム蔵が透明だよお兄ちゃん」

八幡「CGだろ。普通に考えて」

小町「最近の技術は凄いね」

八幡「けど確かに動きそっくりだし、もしかしたらモーションキャプチャーでも使ってんのかもな」

小町「もーしょん……? って、なに?」

八幡「G4Uでアッキーが協力してくれたやつだ」

小町「もっと分かんないよ」

八幡「お、あずささんが色っぽい」

小町「あのカーテンに二人で隠れるの、私でもやられたらドキドキするよ」

八幡「親父の気持ちが少し分かるな」

小町「あれ? お父さんってあずささんのファンなんだっけ?」

八幡「……そうか、お前はあの事件の時出かけてたからな。知らないのも無理はない」

小町「えっ。なにその不穏な語り口」

八幡「あれは俺と親父が竜宮小町のライブをテレビで見ていた時だった……」

小町「なんか始まった……」

八幡「その時リビングにおふくろがいなかったから、油断していたんだろうな。親父はふと呟いた」

小町「何を」

八幡「『あ~あずささんと結婚してーなー』、と」

小町「うわぁ……」

八幡「そしてその時、丁度背後に母がいたのを俺は端から見ていた、と」

小町「うわぁ…………」

八幡「これが世に言う『比企谷家あずささん罪な女事件』だ。完全に俺の中だけだけど」

小町「前にお父さんのご飯だけ一週間パンの耳だったのはそのせいだったんだね……」

八幡「まぁメシが出るだけ慈悲を感じるがな」

小町「そういえば、お母さんは誰かのファンとか言ってたっけ?」

八幡「……まこりん」

小町「……分かりやすいなー比企谷家」


テレビ「うぅぅぅ……うぅーーッ!!」



八幡「やよいちゃん、やよいちゃんっ!!」

小町「お兄ちゃんうるさい」

八幡「これが黙っていられるか。ってかよやいちゃん、完全にあれキメt」

小町「あー真さんカッコイイなー。雪歩さんも奇麗だし」

八幡「散髪シーンの告白は正直ビビったぞ。遂にか!? って。カップリングも狙いまくりだよな」

小町「そこがまた良いんじゃん。貴音さんが悪役ってのもまたね」

八幡「確かに。双海姉妹は最初思わず吹き出したが」

小町「あれは笑っても仕方ないね」

八幡「ってか、いおりんキャラまんま過ぎね?」

小町「そこはホラ、そーゆー需要を大事にしてるんじゃない?」

八幡「それを言われたら何も言い返せんな。涙目最高だったし」

小町「あと、今回は律子さんも出てたから嬉しかったね」

八幡「普段は竜宮のプロデューサーやってるもんな。たまにはこういう風に出てほしいもんだ」

小町「ん。この曲……挿入歌は新曲だったよね」

八幡「普通にカッコ良くて驚いた思い出」

小町「それで主題歌が題名にもなった眠り姫、ね。エンディングで流れた時は泣きそうになっちゃった……」

八幡「おい、エンディング前にそういうこと言うな。ホントに泣いちゃうだろ」

小町「ていうかお兄ちゃん普通に映画館で泣いてたよね」



テレビ「ハルカ、私、アイドルになるわーー!」



八幡「…………」

小町「…………」

八幡「……良いな、やっぱ」

小町「うん。……この間さ、ネットでメイキング映像見たんだ」

八幡「マジか。俺まだ見てねぇぞ」

小町「公式ホームページで見れるよ。それでね、その中で千早さんが言ってたんだ」

八幡「………」

小町「『最近は、色んなお仕事が楽しいんです』、って」

八幡「……へぇ、あの如月千早がねぇ」

小町「すっごい良い笑顔で言うもんだから、なんかこっちまで嬉しくなっちゃった」

八幡「前までは、歌にしか興味ありません! って感じだったのにな」

小町「うん。……でもきっと、良いことだよね」

八幡「……だな」



 ー 視聴終了 ー



八幡「良い映画だった。掛け値なしに」

小町「お兄ちゃんほら、ティッシュ」

八幡「すまんな」

小町「こちらこそ。小町も良い息抜きになったよ」

八幡「そら良かった」

小町「お父さんとお母さんもそろそろ帰ってくるだろうし、小町はご飯の準備するね」

八幡「そんじゃ、俺は風呂でも沸かしますかね」 ピッ テレビ切り替え

小町「おや珍しい。どしたの?」

八幡「なに、良いもん見た後だからな。気分が良いだけだ」

小町「あはは、単純だなぁお兄ちゃんは」

八幡「うるせ。それより小町、飯にするならカレーを…」



テレビ「明日夜9時、シンデレラプロダクション特大企画を発表! お見逃し無く!」


765では一番春香さんが好きなので、正直本編書いてる時出したくて仕方なかったという。
でも一番良い所で出してあげたかったから、ずっと我慢してのあの最後でした。あのシーンだけはかなり初期から決めてたなぁ。

おっつん
これって本編開始前の話かな?

>>867 せやで。

八凛でなんか書くから誰かお題くれー

凛が八幡と遊んでるハナコに嫉妬で

>>868
そろそろ夏だし 夏関係のイベントとかは?

>>869
よしきた。

>>870
海編は考えてるから待っとってくれい。

よっしゃー更新するでー!

お前は後!

今回はpixivにも同時投下という初の試み。これで別人と疑われる事も無かろう。いや誰も疑ってないだろうけど。
小ネタのアイディアありがとうございましたーもしかすれば何個か拾うかも。


ある日の風景 その8



八幡「…………」



遂に、この時が来てしまったか。



凛「プロデューサー? どうかしたの?」

八幡「……いや、なんでもない」



呆然と立ちすくむ俺を不信に思ったのか、首を傾げる凛。
だが少しくらいは察してほしい。今、俺がどれだけ精神的に追い込まれているのかを。



凛「じゃあ、この辺で少し待っててくれる? 私はお父さんとお母さんに先に説明してくるから」

八幡「お、おお」



そう言ってさっさと店、もとい家の中へと入っていく凛。
俺に比べ、その様子は何とも余裕綽々と見える。なんか俺だけ意識してるみたいで嫌だ。つーか事前に話しておいてくれよ、更に緊張してきただろ。



八幡「……はぁ、憂鬱だ」



そう、今俺は担当アイドル渋谷凛の実家へと赴いている。

やはりプロデューサーとして親御さんに挨拶するのは当然とも言えるし、本来であればもっと早くに来なければいけなかったのだが……正直、とてつもなく気が進まなかった。

だって自分の娘がアイドルをやってるってだけで心配が尽きないだろうに、その担当プロデューサーが俺だぜ? こんなん紹介されたら不安が加速すること間違い無しだろ。俺だって俺で不安です。


八幡「…………」 そわそわ



意図せずして視線が彷徨う。身体が勝手に忙しなく動く。

ダメだ、考えれば考えるほど気持ちが沈んでくるな……
どうするよ、もし凛の父親が漫画に出てきそうなテンプレ頑固親父とかだったら。「お前みたいなガキに娘は任せられん!」みたいな。「お前なんかに娘はやらん!」みたいな。

……いや、それじゃまるで結婚の挨拶に来たみたいだろ。


違う違うそうじゃない。俺はあくまでプロデューサーとして、担当アイドルのご両親に挨拶に来ただけであって、他意は無い。他意は無いんだ。だから落ち着け俺の心拍数。



八幡「……花でも見て落ち着くか」



凛には店の中で待っていてくれと頼まれたし、特にする事も無いからな。気持ちを落ち着けるには丁度いい。

辺りを眺めてみれば、色とりどりの花が陳列してあった。見覚えのあるものもあれば、見た事が無いようなものも。俺は花にはそんな詳しくはないが、見事なもんだな。つーか、花屋自体そんな入った事が無いからそう見えるのかもしれんが。



八幡「…………」 きょろきょろ



歩きながら色んな花を見てみる。

しかし実家が花屋を経営しているのは知っていたが、よくよく考えてみれば凄い乙女チックだよな。将来の夢はお花屋さん、というか既にお花屋さん。それもあの凛が言ってたらと妄想するだけで色々捗る。



八幡「……まぁ、今じゃもっと女の子の憧れの的になれたがな」



お花屋さんよりも更に狭き門である、アイドルという存在。そんな誰もが一度は夢見る存在に、凛はなることが出来た。

そう考えると、凛は誰よりも女の子してるとも言える。


……それだけに、本当に親御さんは可愛がってんだろうなぁ。


八幡「やべぇな……一発殴られるくらいは覚悟しといた方がいいか」



だ、大丈夫だ。普段平塚先生のおかげで少なからず耐性は出来ているはず。もしもの時は応戦もやぶさかではない。俺にはサブカルで培った脳内格闘知識があるからな。脳内梁山泊に脳内勇次郎がついてるし、夜叉の構えから左手回して8時の方角で……



八幡「ん?」



ふと、視線を感じる。

最初は凛が戻ってきたのかと思ったが、見渡してみても姿は見えない。それどころか人の影も無い。
はて、ただの気のせいかしらと、そう思った時だった。



八幡「……お前か」



わんっ、という比較的小さな呼びかけに振り向いてみれば、その正体はすぐに分かった。

凛が入っていった家の方から、たったかと駆け寄ってくる一匹の犬。
パッと見はヨークシャーテリアかと思ったが、それにしては少し身体が長いな。ミックスか? しかし、小型犬ならではのこのトコトコ歩く感じはなんとも可愛らしい。



八幡「もしかしなくても、お前がハナコか?」



寄って来たワンコの頭を撫でながら訊いてみると、また一回わんっ、と小さく吠えた。当たりみたいだな。まぁ他に飼ってるとも聞かなかったし。



八幡「…………」 なでなで



撫でる毎に、くぅーんと気持ち良さそうに身をよじるハナコ。
ふむ。こう素直で従順な所を見せられると何とも愛らしく見えてくるな。全然敵対心を感じない。猫を飼っている俺でも、やはり犬は可愛いもんだ。あ、でもウサギ派になったんだっけ俺。



八幡「しかし、やけに懐いてくれるな。初対面だろ俺ら」


すり寄るように身体をくっつけて来るハナコに、悪い気はしないながらも不思議に思う。
そういや由比ヶ浜から一時期預かってたあの犬、なんつったっけな。なんかお菓子みたいな名前の犬。鳩サブレみたいな名前の……もう答え言ってんな。サブレだサブレ。あいつもやけに俺に懐いていた。

まぁ、あいつの場合は助けてやった恩があるからかもしれんがな。犬がそんな事を考えてるかはともかく、覚えてはいたのかもしれない。となると、なんでコイツはこんな懐いてんだ。不思議だ。



八幡「猫飼ってる奴は匂いが付いてるって言うし、その匂いに反応してんのかね」



それなら逆に嫌がりそうな気もするが、仲良くやってる犬と猫もたまにテレビで見るしな。そのパターンもありえる。



八幡「おーおーそんな尻尾振っちまって」 なでなで



フリフリと、可愛らしく尻尾が動き回る。
うちのカマクラもこんだけ素直ならな。



八幡「…………」 なでなで



ふと、考える。

初対面の俺にこんだけ懐くって事は、凛ともさぞ仲が良いのだろう。
話を聞く分じゃあいつも中々に可愛がってるみたいだし、仲睦まじい絵が想像出来る。

……ただ、それだけに。



八幡「……悪いな。ご主人様を連れ回して」


自然と、声が小さくなってしまった。

別に俺がアイツを独占しようとしてるわけじゃない。仕事上、凛の人気が上がれば上がる程忙しく、時間が取れなくなってしまう。それは凛も了承しているし、仕方の無いことだ。

だが、それがハナコに分かるとも限らない。
コイツからすれば、最近は凛の帰りが遅く、中々遊んで貰えないと不満を感じているかもしれない。
そう考えれば、その原因の一端である俺はハナコにとって、少なからず憎らしい存在と思われてるかもしれない。

それを知らずにこうして懐いてくれるのか。はたまた、知った上で俺に懐いてくれてるのか。それは俺には分からない。だから、一言謝っておく事にした。意味を成さなかったとしても、それでも、言っておいた方が良い気がしたから。



八幡「ま、アイツのことだ。どうせどんなに忙しくても遊んでやってんだろうな」



苦笑しつつ俺が一人呟くと、ハナコはまた一度小さく鳴いた。



八幡「なんだ、やっぱそうなのか」



抱え上げるようにして、自分と同じ目線まで抱き寄せる。
ちょっとダックスぽいな。



八幡「ってこら、やめんか」



ぺろぺろと顔を舐めてきたので、思わず引き離す。
だがそれでもじゃれて来ようとするハナコを見て、自然と笑みが零れてしまった。

なんなんだろうね。やっぱあれか、俺は犬にモテる体質なのか。そう考えれば色々と納得がいく。これはもう人より犬と添い遂げた方が幸せになれるんじゃね? いや待て、犬属性の女の子とかいればそれもう完璧じゃ……



凛「……プロデューサー?」

八幡「っ!?」


いきなりの呼びかけに、思わずビクッと身体が反応する。いつの間にか凛が戻ってきていた。
びっくりしたー……全然気付かんかった。



凛「ハナコ、随分プロデューサーに懐いてるね」

八幡「あ、ああ。本当にな」



台詞自体は普通なのだが、どこか凛の表情が暗い。いや暗いというよりは、しかめっ面と言えばいいのか。何となく不機嫌な気がする。ま、まさか親御さんの反応が芳しくなかったとか、そういう事なのだろうか。

俺が嫌な想像をしていると、凛は俺に近づき、抱えていたハナコを奪い去ってしまう。いやこの表現はおかしいな。どちらかと言えば奪っていたのは俺の方だ。



凛「ハナコ、プロデューサーにあんまり失礼な事しちゃダメだよ。一応お客さんなんだから」



凛の言葉に、心なし項垂れた様子でくぅーんと泣くハナコ。ていうか、別に一応ってつけなくていいんじゃないですかね……



凛「プロデューサーも」

八幡「え」



まさか自分にも矛先が向かって来るとは思わなかったので、少し驚く。



凛「ハナコにちょっとデレデレし過ぎじゃない? 変な物とかあげないでよ?」

八幡「いやそんな事しねぇよ……」



そりゃ確かに可愛いなとは思ってたけども。そんな施しを与えるような事を俺はしない。むしろ俺が養われたい。

しっかし、なんでそんな不機嫌なんかね。もしかしてあまりにハナコが俺に懐くもんだから、飼い主としてちょっとやきもち妬いちゃってんのか? それなら少し納得。


凛「……あんな顔、私と話してたってしないのに」 ボソッ

八幡「あ?」

凛「なんでもない!」



ぷいっとそっぽを向く凛。
いやはや、これだから最近の女の子はよく分からん。やっぱ犬か。犬なのか。



凛「……別に、プロデューサーが謝る必要なんて無いよ」



と、そこでまた凛が小さく呟く。
しかしその声は俺の耳までハッキリと聞こえた。謝らなくていいって……



八幡「……お前、聞いてたのか」

凛「…………」



こくんと、小さく首肯する凛。 

ま、マジか。犬に話しかけてるのを見られるとか、恥ずかしいってレベルじゃねぇぞ。しかも会話の内容も内容なので、羞恥心がマッハである。フルスロットル!



凛「……確かに最近は忙しくなってきて、あまり散歩も行けてないよ」

八幡「…………」

凛「お店の手伝いも出来なくなってきたし、迷惑をかける事もあるかもしれない」

八幡「いや、それは…」



思わず声をかけようと、凛を見る。
だが、その言葉は途中で消えてしまった。凛の顔を見たら、口から出る事は無かった。

凛が、笑っていたから。



凛「でも、私は決めたから。もう覚悟は出来てるよ」



どこまでも真っ直ぐに、どこまでも強く。
その様子を見れば、俺の心配なんて必要ないのが分かってしまった。俺の不安や緊張なんて、とても小さく見えるくらいに。

そして凛は抱えていたハナコに向き合い、小さく微笑む。



凛「だからこれは、私が言わなきゃダメなんだよね」

八幡「…………」

凛「ごめんハナコ、あまり構ってあげられなくなっちゃうけど……待っててくれる?」



少しだけ哀しそうに笑って言う凛に、ハナコは小さく吠える。

まるで、愚問だとばかりに。



凛「……ありがとう」



凛は目を閉じ、ハナコのおでこと自分のおでこをくっつける。その様子を見ているだけで、なんつーか……ごちそうさまです。



凛「あ、こらっ。くすぐったいよ…」



ぺろぺろと今度は凛を舐め始めるハナコ。
お、おお……これはヤバイな。とても微笑ましい光景な筈なのにとてもいけない気持ちになってくる。気付けば自然と手が動いていた。

パシャっとな。


凛「っ! ちょ、ちょっとプロデューサー! なんで撮ってるの!?」

八幡「え? あ、いや、ほら。えーっと、こ、これも仕事のなんたらかんたらみたいな…」

凛「言い訳すら出来てない!?」



いやーだってこれは撮るでしょ。誰でも撮るでしょ。雪ノ下とか相手だったら即ゴミを見るような目で社会的抹殺されそうだけど、凛が相手なら渋々許してくれそうだし。渋谷だけに。

さっきまでとても良い話な雰囲気だったのに、それもどこかへ行ってしまった。俺のせいか。



凛「もう、プロデューサーったら……」



呆れたように笑う凛。
そうやって仕方なさそうに笑って許してくれる所、ちょっと小町に似てるな。



凛「……ちょっと勝手なのかな」

八幡「? 何がだ?」

凛「さっきみたいにさ、ハナコはこう言ってくれてるって、勝手に良い方に解釈しちゃうのが」



困った風に笑う凛を見て、なんだそんな事かと溜め息が出る。

そんなもん、ペットの飼い主なら誰もがやってる事だろ。自分の良い方に解釈しちまうのは当然だ。なんせ相手は言葉を発しない。

……でもよ。



八幡「良いんじゃねーか? 別に、悪いことじゃないだろ」

凛「え?」

八幡「もし後ろめたいと感じるなら、見方を変えてみればいい。ハナコはこう言ってると“決めつける”んじゃなく、きっとこう言ってくれてるって、“信じる”んだよ」


ただの言葉遊びだ。結局は良い方に考えようとしてる事に変わりは無い。
けど、それでも気持ちに折り合いをつける事は出来る。少しだけ、ハナコの気持ちを尊重する事が出来る。

たとえ言葉が通じなくたって、心が通じ合っていると、そう思えるから。



凛「“決めつける”んじゃなくて、“信じる”、か」



俺の言葉を反芻し、やがて凛は笑いを零す。



凛「ふふ……プロデューサーって、捻くれてるけどたまに良いこと言うよね」

八幡「捻くれてるもたまにも余計だ」



まったく、素直に褒めることは出来んのか。お前らがそんなん言うからどんどん捻くれていくんですよ? まぁお前が真っ直ぐな分、相方の俺が捻くれてる方が丁度いいかもな。



凛「……ハナコと、プロデューサーも。これからもよろしくね」

八幡「犬と一緒ってのもどうかと思うが……まぁ、こちらこそ、な」



たぶん、これから凛はもっと売れて、有名になって、忙しくなってくんだろう。
それこそ、休みも中々取れず、プライベートの時間が減っていくくらい。

なら、俺は俺に出来る事をやって、少しでも彼女の力になって、負担を減らしてやろう。


彼女が可愛い可愛い愛犬と、散歩に行けるくらい。



八幡「……そういや、親御さんはどうだったんだ?」



ふと、思い出す。
そういえば今日は凛のご両親に挨拶に来たんだった。何も愛犬と戯れる為に来たわけじゃない。

しかし俺の言葉を聞いても、凛は何も答えない。というより、俺の言葉を聞いて固まっているようだった。



八幡「凛……?」



一体何事かと思って顔を覗き込んで見てみると、凛の顔は青ざめていて、そしてその後瞬く間に赤くなっていく。え、なに、どういうこと?



俺が不信がっていると、凛はぷるぷると腕を上げ店の奥側へと指を指す。
俺は猛烈に嫌な予感を感じながら、追ってその方向へと顔を向ける。あー……









八幡「…………………………どもっす」 ぺこ






恐らくは凛の両親が、そこにいた。









アイエエエエ! リョウシン!? リョウシンナンデ!?

いやいやいつから!? いつからそこにいたのん!?
というか、凛の反応を見るに最初からいたのを今思い出しましたよね!



八幡「り、凛さん。何故早く言ってくれなかった……」 顔真っ赤

凛「だ、だって、プロデューサーがハナコと話してたから、そのこと聞いてたら、忘れちゃって……ぷ、プロデューサーのせいだよ!」 顔真っ赤

八幡「いやいやいやその理屈はおかしい。俺は悪くない。世界が悪い」 顔真っ赤



その後言い争う俺たちを、何故か凛のご両親が宥めるという珍妙な展開になってしまった。
しかし何故か二人とも微笑ましいものを見るかのような視線で、俺と凛は終始顔の熱が治まらなかったのは言うまでもない。いやニヤニヤし過ぎでしょあなたたち……




かくして、俺の担当アイドルお宅訪問は気恥ずかしさMAXで幕を閉じた。
あの後もお茶を淹れて貰ったり、少し話をしたりしたのだが、ただただ俺(と凛)が慌てふためいていただけなので割愛する。誰も自分の恥ずかしい経験を語りたくはないだろう。

でも、殴られたりしなかったのは助かったな。親父さん怖い人じゃなくて良かった……
まぁでも、よく考えてみれば当然か。あの凛を育ててきた両親だ。

良い人たちでない、はずがない。



帰り際、凛とハナコが見送ってくれた。
本当はご両親も付き添いたかったそうだが、凛が全力で止めていた。正直助かったな。



凛「それじゃ、また明日事務所でね」

八幡「おう。また明日」

凛「ほら、ハナコも」



抱えていたハナコを、少しだけ俺の方へと寄せる凛。
俺は特に迷いもせずその頭を撫でた。

気持ち良さそうにするハナコを見て、自然と頬が緩む。



八幡「んじゃ、またな」



名残惜しそうなハナコにそう言って、俺は歩き出した。
やがて少し離れた所で、誰に言うのでもなく、小さな凛の声が聞こえてくる。



「……ハナコは良いよね」



その言葉の意味はよく分からなかったが、俺は気にせず歩みは止めない。

返事は、きっとハナコがしてくれる事だろう。






おわり


というわけで、しまむーのお母さんアニメに出て来たし、セカンドシーズンは凛ちゃんのママンも出るんですよね? というお話でした。

>>869
ごめん、もしかしたら思ってたのと違う感じかもしれん。

あとすっごい今更ですが、>>675の方ありがとうございました。大変参考になります。渋の方は修正しといたよ!

たぶん次は楓さんの話をやるかなー
期待せずお待ちください。

メダル競馬の的中賞金表!!

3/5(木)
的中回数5回!!!
78枚
97枚
256枚
113枚
59枚


3/13(金)
的中回数6回!!!
48枚
84枚
45枚
39枚
21枚
12枚


4/18(土)
的中回数4回!!!
147枚
48枚
46枚
40枚

テスト

あ、大丈夫そうね。突然だけどゲリラ投下します。







人は誰しもが、自分の物語の主人公。



そんなフレーズを最初に聞いたのは、俺がいくつの頃だっただろうか。
あまり良くは覚えていないが、それでも当時の俺が否定的だった事は何となく覚えている。だってそうだろう?


友達もいない、遊びにも誘われない、女子と話すこともない。


そんな俺は、俺の物語の主人公だと言えるのだろうか? もし言えたとしても、それは何とつまらなく、退屈な物語だろう。そんな物語ならば、俺は主人公でなくとも構わない。

そう思って、酷く辟易したものだ。


だが、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、最近の俺は少しばかり普通の人とは異なった人生を歩んでいる。

女の子の夢を叶えるお手伝い、とでも言えば素晴らしいお仕事に聞こえるが、実際は営業と企画とマネジメントが主なプロデュース業。


かつてぼっちだった俺は、いまやアイドルのプロデューサーへとなっていた。

……いや、友達少ないし今でもぼっちの時はぼっちなんだけどね。


いったいどんな運命の悪戯でこうなったのか。正直、本でも出したいと思ってるのは本音である。ぶっちゃけその辺の奴より面白いのを書く自身はある。

ぼっちからプロデューサーへ、そんなまるでジェットコースターのような人生を歩んでいる俺だが、こういった仕事をしているとまた面白いものが見えてくる。





それは、アイドル達の物語だ。



まさしくシンデレラストーリーと呼べるようなものもあれば、ちょっとほろ苦いビターなお話、お涙頂戴な青春グラフィティや、ほのぼのとした心温まるエピソードまで。

個性豊かなアイドル達がいる、このシンデレラプロダクションだからこそ味わえる様々な物語を目にして来た。それは臨時プロデュースしてきたアイドルたちや、その他の子たちからも。

そんな彼女らを見ていると、なるほど。確かに誰しもが自分の物語を生きていた。人生という自分自身の物語の主人公だと、確かに感じた。


そしてきっとプロデューサーである俺は、そんな彼女らを支えてやるのが役目なのだろう。

彼女たちがちゃんと歩んでいけるように。しっかりと夢を叶えられるように。


俺は、彼女たちの物語の狂言回しになれればいい。


きっと、それが俺の物語の主人公としての役割だから。



さて、ここで本題に入るが、これはある一人の女性が主人公の物語だ。

普段俺がプロデュースしている彼女ではなく、俺よりも年上の、大人な彼女の物語。
今回の俺は、あくまで語り部としての出演だ。だから、後は彼女に任せよう。



この小さな物語の主人公ーー高垣楓に。













八幡「ドラマの収録、ですか?」



思わず怪訝な表情になりながら、俺は目の前の事務員へと問いかける。
事務員ーー千川ちひろさんはコーヒーを一口啜った後、笑顔で首肯した。



ちひろ「ええ。長期滞在ロケの付き添い…それが今回の臨時プロデュースの内容です。ね、楓さん♪」



可愛らしく同意を求めるちひろさんの目線を辿ってみれば、そこには俺の隣へと座っている一人の女性。思わず魅入ってしまいそうなそのオッドアイの双眸が、俺へと向けられる。



楓「はい。よろしくお願いしますね」



ニコリと、微笑むという表現が妙に合う笑顔。

25歳児の称号を欲しいままにするデレプロ所属の現役アイドル、高垣楓さんである。



八幡「……うっす」



小さく返事をし、すぐに視線を外す。

いや、どうでもいいけど何で隣に座ってんですかね。そこ凛の特等席じゃなかったの? まぁそもそもアイドルの席でもないんだけどさ。もっと言えば俺が座ってる席も俺のじゃなかったりする。





場所はご存知シンデレラプロダクション事務スペース。

もはや定位置と化したその居場所には、担当アイドルである渋谷凛はおらず、代わりに楓さんが座っていた。別に担当が代わったとか、そういう事ではない。

チラリと視線を彷徨わせてみれば、視界の隅の方に凛の姿を捉えた。ついでにやけに黒い中二少女も。



凛「えーっと、このバッジのブランドっていうのはどれが良いとかあるの?」 ピコピコ

蘭子「ええ。それぞれに込められた魂の呼び声の赴くまま、世界の境界を越えーー!」

凛「?? 境、界……?」

蘭子「あ、え、えっとね……トレンドが変化したりするから、服とかと統一して装備して…」



なんかソファに座ってスマホを弄くりながら遊んでいた。お前ら仲良さそうね……
とりあえずそんな担当アイドルは放っておいて、お仕事の話に戻ることにする。社畜もすっかり板についてきた。



八幡「別に付き添うのは良いんすけど、これ、俺が行く必要あるんすか?」



口にするのは当然の疑問。

渡された資料を見るに、今回のドラマは全キャストデレプロアイドルによる特別サスペンスドラマ。他にもウチのアイドルが出る以上、事務所から何人かのスタッフが同行するのは明白だ。なら、今更俺が付き添う必要が特に感じられない。どちらかと言えばマネージャーとかの仕事だろ。……まぁマネージャー業も結構こなしてるから一概に関係無いとは言えんが。



ちひろ「確かに、最初は特に臨時プロデュースの必要性は無かったんですよね。ただ、ここでちょっと朗報がありまして…」

八幡「朗報?」



何故だろう、この人の朗報ほど信用ならないと思うのは。いやこれまでもオーディションとかテレビ出演とか良いニュースはあったんだけどね。何でだろうなー……人柄?

そんな俺の心配も他所に、ちひろさんは取り出した資料を嬉しそうに俺へと突きつけた。





ちひろ「じゃーん♪ なんと、凛ちゃんのゲスト出演が決定したんです!」


八幡「……は?」






思わず、間の抜けた声を出してしまう。

凛の、ドラマへのゲスト出演……?



ちひろ「いやー元々は別の子が出る手筈だったんですけどね? ちょっとスケジュールの都合で出れない事になっちゃいまして。そこで代役の白羽の矢が立ったのが…」

楓「凛ちゃんだった、という事です」



ちひろさんの台詞を繋ぐように、楓さんが覗き込むように俺へと言ってくる。
思わず、ぽかんとした顔のまま目が合ってしまった。



ちひろ「誰が良いかーって話になった時、楓さんが推してくれたんですよ? あ、これ台本です」

八幡「そ、そうなんですか」



資料と台本を受け取り、しげしげと見てみる。


『デレプロ企画特別ドラマ! 安斎都の湯煙事件簿♨』


と、表紙にデカデカと書いてあった。お前が主役かい。



ちひろ「温泉旅館でのサスペンスもの! 端役って言ったら聞こえは悪いですけど、ちゃんと台詞もありますし、良いお話を貰えて良かったですね♪」



嬉しそうに言ってくれるちひろさん。
確かに、ドラマ出演のオファーなんてそうそう貰えるものではない。それが自社企画の番組であったとしてもだ。凛はあまり演技派ってわけでもないから、こういった仕事を貰えるだけで貴重と言える。





八幡「……ちひろさん…と、あと楓さん。その、ありがとうございます」



小さく頭を下げ、きちんと礼をしておく。
これは素直に感謝しないとダメだな。まさかのドラマデビューとか、本当にありがたい。



ちひろ「良いんですよ、私は何もしてませんし。お礼なら楓さんに」

楓「私も大した事はしていませんよ。推しただけで……役を貰えたのは、凛ちゃんの実力です」



っく、さすがはデレプロきっての大人2人組だ……対応が大人過ぎる! いや一人は事務員なんだけどね。

そしてウチの担当アイドルはと言うと……



凛「このJPオブザモンキーっていうの、カッコイイね。なんかどこかのアイドルみたいだけど」 ピコピコ

蘭子「クックック、我はラパン・アンジェリークをオススメする」



まだ遊んでいた。いや、まさか本人も出るとは思ってないだろうから良いんだけどね。

とりあえず、こっちに招集する事にする。


ほらほら早く。ゼタ遅ぇ!






× × ×






とりあえず、呼んできた担当アイドルに事の顛末を説明する。



凛「あ、ありがとうございます!」



事情を聞くや否や、慌てて頭を下げる凛。
まぁ滅多に無い仕事を貰えたようなもんだし、そりゃそうなるわな。ちなみに居合わせた蘭子はちょっとだけ羨ましそうな目で見ていた。



凛「ドラマの撮影なんて初めてだけど……大丈夫かな」

楓「そんなに重く考えなくてもいいんじゃないかしら。私も初めてだし、きっとなんとかなるわ」



不安げな凛に対し、とても涼やかな表情でそう言ってのける楓さん。

しかし台本を見るに、楓さんは中々重要な登場人物だと思うんだが……よくそんな飄々としていられるな。何と言うか、肝っ玉が据わっている。



楓「ふふふっ……温泉で嗜む熱燗、楽しみね」

八幡「…………」



単に能天気なだけなのかもしれない。
いや、これが大人の余裕なのか? どちらかといえば子供っぽい気もするが。





ちひろ「まぁそういうわけで、凛ちゃんがドラマ出演するのであれば当然比企谷くんも同行します。ならどうせだから一緒に共演者の楓さんも担当してもらおうと、そういう話になったんです」

楓「主な内容はマネージメントくらいですけど、お願いできますか?」



楓さんはまたも覗き込むような形で俺にお願いをしてくる。
いや、そんな目で見られたら断れませんやん…卑怯ですやん……まぁ、別に断る理由も無いのだが。むしろ引き受けないとバチが当たるだろう。



八幡「……凛の推薦の恩もありますし、慎んでお受けしますよ」

楓「っ! ……そうですか……ありがとう、比企谷くん」



ニコッと、今日一番の笑顔を見せてくれる楓さん。
やばい、やばいよ! 破壊力抜群! 俺の心にシャイニングソードブレイカー! 余談だが俺はマッハジャスティスが一番好きだ。ホントに余談だな。

そんな俺の戯事は放っておいて、収録が決まったのならば色々と準備をしないといけないな。



八幡「それじゃ、早速スケジュールの方を調整しますか」

ちひろ「そうですね。凛ちゃんも今じゃ人気アイドルの一人ですし、なるべく他のお仕事に支障が無いようにしませんと」



全くちひろさんの言う通り。

以前に比べ、とにかく今は仕事が増えた。ぶっちゃけこんなにもスケジュール調整が大変だとは思わなかったのが正直な所。

数ある仕事の中から優先的なものをピックアップして、被らないように調整し、凛の負担も考えつつレッスンの時間も組み込んでいく。
そして更にそこに会わせなきゃいけないのが俺のスケジュールだ。出来るだけ凛の仕事には同行し、レッスン等の空いた時間に中々取れない仕事先への営業、挨拶周り。会社に戻れば、事務整理に新しいスケジュールの調整もある。





他にも細かな作業を挙げたらキリがないが……まぁ、最近の俺と凛はこんな感じである。これでも一般Pという事もあって正プロデューサーよりは仕事が少ないらしいのだから本当に恐ろしい。つーか765プロとか二人体制でやってるらしいけど、化け物でもいるの? いやマジで。



八幡「とりあえず、凛はロケまでに台本のチェックしとけよ」

凛「ん、了解」



いささか緊張している様子ではあるが、頷きを返す凛。
そしてそこで、まさかのもう一人から声をかけられる。



楓「比企谷くん、私は?」

八幡「……はい?」



首を傾げ、さも当然にように訪ねてくる楓さん。

ん? 私は、って……今の会話の流れから考えると、私はロケまでに何をしておけばいいですかって、そう俺に訊いたのか?



八幡「えー……っと……」

楓「…………」

八幡「……か、楓さんも、台本のチェックをしていて貰えれば……はい、助かり……ます」



とりあえず凛と同じ事を言ってみた。というか他に特に思いつかなかった。
しかし楓さんはそれで充分だったのか「はい。頑張りますね」と、嬉しそうに言っていた。

……え。もしかして、これはあれなのか。ロケが終わるまでずっとこんな感じで、楓さんも凛みたくプロデュースしていかなきゃならんのか。いや、確かに楓さんもドラマ初出演って言ってたけどさ。





凛「これ、ロケまでに稽古とかあるのかな」

楓「どうかしら……今度、出演者で打ち合わせがあるとは言っていたけど」



ドラマについて話し込んでいる凛と楓さん。

そうだ、二人はドラマに関しては素人。そしてもちろん俺も。収録が難航するのは想像に難くない。そしてそのアフターケア、サポートは当然俺になる……二人分な。



八幡「…………」



……なんか今更ながら、結構大変な仕事のような気がしてきた。


と、そこで不意に袖をクイクイと引かれる。
見れば、今まで空気を決め込んでいた蘭子がそこにいた。心なししょぼくれている。



蘭子「わ、我が下僕よ。狂乱の宴、堕天の導きを受けし我も召還せしめよ!」



僅かに頬を紅潮させ、辿々しく頼んでくる蘭子。

いや、そうは言われてもな……もうキャスティングは決まっちまってるっぽいし、急遽出演はさすがに難しいだろ。台本をパラパラと捲り、キャスト陣の欄を見ながら言ってやる。



八幡「あー……まぁ、出たい気持ちは分かるが、今回は諦めるんだな」

蘭子「なっ!? パンドラの箱を目の前にして、その欲望を押し殺せと言うのか!?」

八幡「別に今回じゃなくったって、チャンスはまた来るだろ……たぶん」



実際、蘭子はある意味じゃ演技派だからな。今回は旅館でやるサスペンス物だが、次やるドラマがファンタジーとかSFとか、そういうジャンルだったら抜擢される可能性は高い。





蘭子「うぅ……業火の如き煉獄の泉……我も行きたかった……」

八幡「いやそっちかよ」



項垂れる蘭子から、物哀しい本音が漏れていた。
あ、なに? 温泉が目当てだったん? あーそっかそっか。気の毒に思ってた俺の気持ちを返して!


やれやれと、思わず呆れながら溜め息を吐く。
まぁこいつも中学生だからな。そういうのに浮かれるのも無理はなーーいーー?






八幡「……っ!」






ふと、ある名前が目に留まった。

流し見する程度の気持ちだったキャスト陣の中。その中に、一人見知った名前。



八幡「…………」

蘭子「……? プロデューサー?」



あー……マジか。この人も出演すんのかよ。

正直、してやられた気分。
いや、向こうは多分狙ったわけではないんだろうけど、それでもは俺がなるべく会わないよう気をつけていたのにな。まさか、こんな形で出くわす羽目になろうとは。


なんというか、ツイていない。



蘭子「どうした? 魔眼を持ちし眷属との邂逅か?」

八幡「いや。知り合いっつーか、な。……なんて言ったらいいんだろうな」



上手く表現出来ないが、知り合いで片付けていいかは微妙な所だ。というか、俺としては知り合いで済ませたい。





八幡「……なんとか鉢合わせないように、ってのはさすがに無理か」



本当に気が進まないが、諦めるしかなさそうだ。
これも仕事。私情を挟むのも野暮だしな。……なんかもう普通のリーマンじゃねぇか俺。



かくして、不安と嫌な予感をビンビンに感じさせつつも、凛と楓さんのドラマ出演が決まった。

どうせまた一波乱も二波乱もあるのだろうが……まぁ、これがプロデューサーという仕事なのだから仕方が無い。


場所は人里離れた、実際にある温泉旅館。繰り広げられるは本格サスペンス。

デレプロ企画によるデレプロアイドルのみのスペシャルドラマ。

凛は、楓さんは、果たして上手く収録できるのだろうか!



……正直、不安だ。












蘭子「暗黒物質を秘めし、純白の宝玉!」

八幡「わぁーったよ。ちゃんと土産に温泉饅頭買っとくから」

凛「…………」



なんか凛が「ナニコイツライミワカンナイ」みたいな戦慄の表情で俺と蘭子を見ていた。

一体なんだと言うのか。あー俺も温泉楽しみだなー。








   * 登場人物紹介 *



    高垣楓  主人公

    渋谷凛  助手

    比企谷八幡  狂言回し



    ???

    ???

    ???

    ???

    ???



    安斎都  探偵


    

ちゅーわけで、ちょっと短いですが楓さん編の導入でした! いつも待たせてごめんなさいね。
それと最初に言っておく。本格ミステリを期待してるなら諦めろ。きっと想像の斜め下だ。

あ、あと三日程遅れたけど楓さん誕生日おめでとう! 一緒にお酒飲もう!

戯言感あるな。
八幡、戯言遣い出来そうだし。

たまにはこんな時間に更新を。短いけど投下するよー









凛のドラマ出演、そして楓さんの臨時プロデュースが決まった日から数日。

具体的なロケ日も決まり、俺たちデレプロ奉仕部ご一行(と言ってもちひろさんはお留守番)は早速収録現場である温泉旅館へと向かっていた。

なんでも人里離れた場所にある古き良き旅館らしく、山道を通る為バスでの移動が必要らしい。なので俺は現在進行形でガックンガックン揺れながら座席へと座っている。ちなみに一番後ろの端である。やっぱ何にしろ隅というのは落ち着くものだ。

……もっと言えば、隣に人がいない方が落ち着くのだが。



凛「やっぱり結構かかるものなんだね。この揺れだし、ちょっと酔いそう……」



ダウナー気味な様子で、時計を確認しながら隣でそう言う凛。
いや、つーかさ……



八幡「そんなら、前の席に座ったらどうだ。空いてんぞ」



見れば、前の方の席には誰も座っていない。
というかむしろ、このバスには俺たちしか乗っていなかった。その俺たちというのも…



凛「そ、それは…」

楓「そんな言い方はダメよ比企谷くん。あっち行けと言っているみたいだから」





メッと嗜めるように言うのは、更に凛の隣に座る楓さん。

そう。俺、凛、楓さん。その3人しかこのバスには乗っていない。いくら小型とは言え余裕あり過ぎだ。戸部の頭並にスッカスカである。



凛「……ていうか、逆になんでプロデューサーはこんな後ろに座ってるの?」



俺の言い方が癪に触ったのか、ジトッとした目で見てくる凛。
いや、別にそんな大した理由も無いが……ってか理由いる? 席の位置とか何となくでいいだろ。



八幡「まぁ、あえて言うなら落ち着くからだな」

凛「隅っこが落ち着くって……」

八幡「なんだその微妙な顔は」

凛「なんか卑屈っぽい」



失礼! 今この子結構失礼なこと言ったよ! 全国の隅っこ好きに謝れ! 輝子とかね!



八幡「バカ言うな。オセロで考えてみろ、隅を取ったら勝負は俄然有利になる。つまり隅さえ取れば人生勝ったも同然だと言えるだろ」

凛「いや言えないよ」



ですよねー。
さすが凛。もう俺に対し遠慮というものが無い。



楓「隅を取って、すみません……なんて。ふふっ」

八幡「…………」

凛「…………」



そして楓さんには何も言えないようだった。
いや俺だって何も言えませんけどね。どう反応すんのが正解なんだあれ……





そしてなんやかんや話している内に、目的地の旅館へと到着する。
周りがうっそうとした森のため着くまで外観は見えなかったが……中々立派なもんだな。

バスから降りて最初に見たときは、思わず感嘆の息が漏れた。

雑木林に囲まれた建物は、いかにもな旅館を思わせる和風な装い。昼間だと言うのに木に遮られた周辺一体は、どこか仄暗い。
見た目は若干古びた様子ではあるが、それも趣きがあると思えば風情があるように見えてくるから不思議だ。

そしてさっきから聞こえてくるこの水の音は……滝か? もしかしたら、近場に渓流でもあるのかもしれない。


なんというか……THE・旅館という感じだ。サスペンスの舞台には持ってこいである。船越さんはどこかしら?



凛「へぇ……凄いね」

楓「確か撮影の間、私たちの貸し切りになるのよね? 費用は大丈夫なのかしら……」



感心したようにする二人。楓さんは心配する所が少しばかし庶民的だ。まぁ、最近ノリに乗ってるデレプロなら大丈夫だろう。たぶん。



八幡「節約の鬼であるちひろさんの事ですし、心配は要らないんじゃないっすかね。……そんじゃ、行きますか」



荷物を担ぎ、二人を連れて宿へ入っていく。
これ、知らない人から見たら俺が美女二人をはべらせてるように……うん、見えないね。ちょっと調子に乗りました。



館内へと入ると、少しだけひんやりとして空気に包まれる。
あーなんかこの独特の香りが実に旅館っぽい。なんだろう、おばあちゃん家の匂いをもう少し高級感漂わせましたみたいな。伝わるかこの表現。

しかし人気が無いな。勝手に上がるわけにもいかないし、呼びかけたりした方が良いのだろうか。


と、俺が迷っていると不意に足音が聞こえてくる。これはもしかしなくても……



「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」





廊下の奥からやって来たのは、着物を着た妙齢の女性。
たぶん女将さんって奴なのだろう。こういう時最初に出てくる人は大概そうだって相場が決まってる(偏見)。



八幡「お世話になっております。シンデレラプロダクションの比企谷です」



一礼した後、淀みない動作で名刺を渡す。



八幡「撮影の為これから慌ただしくなるとは思いますが、よろしくお願いします」

女将「いえいえ。こちらこそよろしくお願いしますね」

八幡「はい。それでこっちが所属アイドルの高垣楓と渋谷凛です」



俺が視線で促すと、二人は少し前に出て礼をする。



楓「よろしくお願いします」

凛「よ、よろしくお願いします」



楓さんは慣れている風だったが、凛は少し緊張した様子。
それを受け、女将さんは小さく微笑む。



女将「私達も撮影が上手くいくよう、出来る限りご強力致します。古びた宿ではありますが、ゆっくりしていってくださいね」

八幡「はい。ありがとうございます」



その後受付まで案内され、部屋の鍵を貰い簡単な館内の説明を聞く。
てっきり和室しか無いと思っていたでの、洋室もあるのには驚いた。そして何より、まさかのゲームコーナー。この館内の雰囲気を見るに、実にレトロな予感をさせる。

やべぇな、ちょっと楽しみになっちまったぞ。なんかこういう所のゲームコーナーってめっちゃワクワクするよな。風呂入った後に誰もいない時間を見計らって行ってみよう。

っと、楽しみにするのはいいが、仕事もきちんとしなければ。確認しとかないといけない事は訊いておく。





八幡「あの、今日来たプロダクションの者の中じゃ、もしかして私たちが最後ですか?」

女将「そうですね。今日来られる予定の方たちはお客様で全員です。他の方たちは既に到着されてますよ」

八幡「……そうですか。ありがとうございます」



つーことは、あの人ももう来てるんだな。部屋で大人しくしていてくれればいいが……
その後いくつか質問し、礼を言ってその場を後にする。

そして受付から少し離れた所で待っていた二人の方へ向かうと、ふと凛と目が合う。目が合う瞬間である。



凛「プロデューサー、もうすっかり営業スタイルが板についちゃってるね」



何とも今更な事を、感心したように言う凛。



八幡「別に、こんくらい普通だろ。さすがに半年以上もやってりゃ慣れる」



まぁ、凛に言われて内心ちょっと焦った所もあるんだがな。確かにちょっと最近会社の空気に毒されてきてるよな俺。専業主夫を目指していた頃が懐かしい。いや、諦めてませんよ? まだなる気まんまんなんですよ?

と、俺が自らの夢を再確認していると、今度は楓さんと目が合う。



楓「比企谷くん、急に呼び捨てにするから少し驚いちゃった……ふふふ」

八幡「なっ……!?」



心なし頬を赤らめて言う楓さんに、思わず変な声が出る。
ま、まさかそこに突っ込んでくるとは。いや事実は事実だがさすがに予想外だった。



八幡「あ、あれはですね。プロデューサーである以上アイドルを紹介する時は必然的にそうなると言うか、フルネームで言っただけだし、別に呼び捨てたとかそう言うつもりでもなくてですね…」

楓「いいの……分かってるから、比企谷くん」





我ながら情けないくらい狼狽しながら言い訳していると、楓さんは皆まで言うなと、諭すように言ってくる。

そうか、分かってくれたか。



八幡「楓さん……」

楓「楓って呼んでくれても、私は気にしないから」

八幡「違う。そうじゃない」



いや呼べるわけないでしょ普通に考えて。そんな展開が来るとしたらもう俺がお婿さんにでも貰われない限りあり得ない。というかむしろ貰ってもくれても構わないんだが?

とまぁ冗談はその辺にして、とりあえず移動しよう。じゃないとさっきから刺さってくる凛のジト目にそろそろ痛みを感じ始めそうだからね!



とりあえずは各々の部屋を目指し、荷物を置きに行く事にする。


さっき女将さんに聞いた通りだと、一階に受付、大広間、大浴場と広めの和室があるそうだ。そんで二階と三階に和室と洋室の部屋があって、各階に一つずつ談話室があるとか。

談話室ってあれか? なんかちょっと薄暗くてソファとか自販機とか置いてある不思議空間だよな。中学の頃、修学旅行でリア充が夜そこで話してるの見てジュース買えなかった記憶がある。しかも全部の階で。外のコンビニまで行ったかんね俺。

そんな俺の与太話は置いといて、俺たちの部屋は三階にあるからさっさと行く事にする。ちなみに部屋は一部例外を覗いて皆個室である。



廊下を歩き階段を探していると、開けた空間を見つける。たぶんここが大広間だな。

やや広い休憩所のような場所で、いくつかのソファやテーブル、調度品等が置いてある。端の方には小さなお土産屋もあり、奥の方はたぶん大浴場だな。大広間って言うよりエントランスホールみたいなもんだろう。


そしてそんな広間の中心辺り、二人程誰かが座っているのを素早く発見する。ってあれは……!






「ん? おー楓ちゃーん!」








こちらに気付いたのか、手をブンブンと振って声を上げる一人の女性。


うわぁ……もう少し後になるかと思ったらもう出くわしちまった。自分の運の悪さが嫌になる。つーかなんか酔ってません? もしかしてもう飲んでるのか。

呼びかけられた楓さんは当然向こうへと歩いていき、凛もそれに着いていく。そうなれば、俺だけ無視を決め込むのはさすがに出来ない。……仕方ねぇか。



楓「お疲れさまです。早苗さん」

早苗「お疲れさまっ。それより聞いた? ここお酒飲み放題なんですって! いやー良い所貸し切りにしてくれたわ♪」



完っ全にへべれけであった。いや、今日は撮影無いから別に良いんすけどね。

茶髪のおさげ、童顔で低身長なのにやたら自己主張の強いスタイル、そしてその壊滅的な私服センス(やけにバブリー)。豪快にグラスをあおるその姿は、俺を引かせるのには充分だった。


片桐早苗。


この人こそ、俺が出来れば会いたくなかった御人である。

ちなみに、元婦警。



早苗「後で部屋に持ち込んで、一緒に飲みましょ!」

楓「良いですね。是非ご一緒します」



酔っぱらいに対し、実に大人な対応……ではなく、本当に飲みたいと思ってんだろうな。それぐらいは分かるようになってきました。



楓「それであなたが凛ちゃんね。会うのは初めてだけど、これからよろしく♪」

凛「よ、よろしくお願いします……?」



凛の反応が何となくあやふやだが、たぶん接し方を図りかねてるんだろうな。正直見た目は未成年と言っても違和感が無い。しかし片手にはビールジョッキ。更に楓さんをちゃん付け。そのおかげで結構な年上と判断できる。

そして、彼女の視線は遂に俺へと向けられる。やばい。怖い。





早苗「ん~?」

八幡「…………」

早苗「…………」

八幡「…………」

早苗「……キミ、前にどこかで会ったことある?」



覚えてなかったァーーーー!!

な、なんか俺が自意識過剰だったみたいで少々複雑な所もあるが、これは僥倖と言っていいだろう! そうかー覚えてなかったかー、良かった良かった。



八幡「き、気のせいじゃないですかね」

早苗「そっか気のせいかぁ」

八幡「ええ。気のせいですよ」

早苗「そっかー。あはははは」



HAHAHA、と快活に笑う彼女。


ーーが、笑顔だったのはそこまでだった。

素早くジョッキを楓さんに手渡したかと思うと、彼女は瞬時に俺の背後を取る。その酔っぱらいとは思えないスピードに、俺は完全に油断していたため反応できない。そして左足を絡めとるように俺の左足へと回し、右腕の下から自身の左腕を潜り込ませ、最後に首へと巻き付ける。こ、これはーー!



凛「こ、コブラツイスト!?」

楓「身長差を物ともしない流れるような技さばき……見事です」 グビッ

凛「飲んでる!?」



いやお二人さん解説してないで助け痛だだだだだだだだだだッ!!?



早苗「なーんて、忘れてるわけないでしょーが! 今このまま流そうとしたわね!?」

八幡「す、すんません……! ってかもうギブギブギブギブ……!」 グググッ





やっぱ忘れてなかったー! 一瞬でも期待した俺が馬鹿だった……
つーかさっきからその、柔らかい部位が当たってるんですけど痛みのせいで全然嬉しくない!

俺が必死にタップしていると、ようやく拘束が解かれる。し、死ぬかと思った。割りとマジで。



早苗「ふぅ……まさか、キミがプロデューサーになってるとはね。とりあえず、あたしに何か言うべき事があるんじゃない?」

八幡「……ちょっと太りました?」

早苗「うるさい口は塞ぐよ、物理的に」



ニッコリと良い笑顔で握りこぶしを作るその姿に、思わず身を竦ませる。どうやらあまりふざけるのは良くないらしい。いや当たり前なんだけどさ。



八幡「ハァ……お久しぶりです。早苗さん」

早苗「その盛大な溜め息がちょっと気になるけど……久しぶり、比企谷くん」



今度こそ、早苗さんは屈託の無い笑顔でそう言った。

ホント、嫌になるくらい懐かしい笑顔だ。



楓「お知り合い……なんですか?」



首を傾げ、そう訪ねてくる楓さん。ちなみに手に持ったジョッキは何故かビール満タン。いつの間におかわりしたんだ。



八幡「いや、知り合いっつーか……」

早苗「まぁまぁとりあえ座りましょ。色々込み入った話もあるわけだし♪



言い淀む俺に対し、早苗さんはまず座るように促す。手には新たなビールジョッキ。だからいつの間に持って来たんですかね。








「…お疲れさまです」

八幡「うおっ」 ビクッ



びっくりした……

ソファに座ろうとしたら既に先客がいた。そういやもう一人いたんだったな。存在感が希薄だからなのか、完全に忘れていた。



凛「あ、文香ももう来てたんだ。お疲れ様」

文香「はい、早苗さんと…お話していました」



長い黒髪に隠れた目元、そのか細い声は小さい割に不思議と耳に残る。


鷺沢文香。


同じくデレプロに所属するアイドルの一人だ。
なんというか、薄幸の少女って感じでとてもグッときますね。

しかしその手にハードカバー本を持っているあたり、静かに読書しようといていた所を早苗さんに絡まれたのでは? と思わなくもない。頼まれたら断り辛そうだもんなこの人。



文香「…いつかの、事務所での撮影以来…ですね。比企谷さん」

八幡「そう、っすね……」



確か、あの時も安斎と一緒の撮影だったな。何か不思議な縁でもあるのだろうか。
……つーか、こう言っちゃうとあれだが、鷺沢さんってちょっと話し辛いんだよな。お互い積極的に喋ろうとしないからかどうにも会話が続かん。趣味的な意味ではとても話が合いそうなのに。



楓「文香ちゃんはお酒飲む?」

文香「いえ…まだ、未成年なので…」

楓「そう、残念ね……」



ショボーンと、心無しかしょぼくれる楓さん。確か鷺沢さん19歳だったもんな。
この人くらい俺も気にせず話しかけられたら良いんだがなぁ。……あ、だからぼっちなのか!(名推理)





早苗「えーっと、それで何の話だったかしら?」

楓「早苗さんと比企谷くんの馴れ初めですよ」

早苗「あーそうそう!」



その言い方は誤解を招くからやめて頂きたい。
が、そんな俺の気持ちは知らずに早苗さんは懐かしむように話し出す。



早苗「もう3年くらい前かしらねー。あの時はまだキミ中学生だったわよね?」

八幡「早苗さんが今の楓さんと同じ年齢の頃ですね」

早苗「歳の話をするたぁー良い度胸ね? ん?」



いやあなたが始めた話題でしょうが……って痛い痛い痛い。肩を掴む手が強い!
女性に年齢の話をしてはいけない。これ基本。



早苗「その時はあたし千葉の駐在さんやってたんだけど、平日の真っ昼間から出歩いてるちょっと変な学生を見つけたの。まぁこの子なんだけど」

八幡「俺は変な人に捕まったなと思いましたよ。補導だけに」

楓「ぶふっ……!」



俺の発言に、楓さんは吹き出したかと思うと口を抑えぷるぷると震え始める。え? 今のそんな面白かった?
もしかしたらお酒が入って、笑いの沸点が下がってるのかもしれない。……元々こんな気もするけど。



早苗「それで話聞いてみたら案の定学校サボってたみたいでね。理由を聞いたら、その時なんて答えたと思う?」

文香「……なんと…言ったんですか?」

早苗「『ぼっちだから』って言ったのよ。あたし思わず爆笑しちゃった」





ゲラゲラと、当時を思い出すかのように笑う早苗さん。いやいやいや、何も笑えないんですが。

俺の非難めいた視線を感じたのか、早苗さんはごめんごめんと俺の肩を叩く。



早苗「いや、別に友達がいないのを笑ったんじゃないのよ? ただ、そういうのを取り繕わずにケロッと言っちゃうのが凄いなと思ったのよ。あの時は衝撃だったわ」

凛「なんか絵が想像つく……」

八幡「どういう意味だそりゃ」



けど、それを言うなら俺だってあの時は変な人に会ったと思ったぞ。

サボっていた俺を最初こそ注意したものの、話している内にどんどんフランクになっていって、律儀に俺の話を聞くし、頭ごなしに叱ったりしないし、なんなら何故か俺が早苗さんの身の上話を聞かされたりもして……こんなお巡りさんもいるんだなと、不思議に思ったもんだ。



凛「でもちょっと意外だな」

八幡「何がだ」

凛「いや、プロデューサーって学校サボったりとか、そういう事はしないと思ってたからさ」



凛がそう言うと、早苗さんは「ほほう」と少し驚いた様子を見せる。



早苗「なるほどねー。さすがは担当アイドルとプロデューサーって感じだわ。確かに比企谷くんはあの時…」

八幡「いいっすよ、そんな面白くもない話は」



話し始めようとした早苗さんを止めにかかる。自分の過去の話をされた所で気恥ずかしいだけだしな。



八幡「それよか、俺は早苗さんがアイドルになっていた事の方が驚きですよ。入ったの最近ですよね?」

早苗「そうねぇ、三ヶ月くらい前だったかしら。なんか今のプロデューサーくんにスカウトされちゃってね。楽しそうだったし、こんな道も良いかなって」





そう言う早苗さんは、笑顔ではあったがどこか哀愁を感じさせた。
もしかして、警官だった頃に少し心残りがあるのだろうか。



早苗「この歳でアイドルってやっぱりキツいのかしら……いや、まだ大丈夫…よね」



どうやら違うようだった。



早苗「というか、比企谷くんあたしがデレプロに入ったの知ってたのね?」

八幡「……」 ぎくっ

早苗「知ってたんなら会いに来なさいよ! なに? あたしの事避けてたわけ?」



避けてました。そらもー避けてました。いや昔の知り合いとか出来れば会いたくのが普通じゃないの? 俺がおかしいの?

しかし、新しい所属アイドルのリストの中に早苗さんの名前見つけた時は度肝を抜かれたもんだ。だって昔お世話になったお巡りさんがアイドルになってるんだよ? 驚くってレベルじゃない。出来るだけ会わないよう会わないよう気をつけていたが、まぁ、いつかはこうなるとも思っていた。



八幡「あん時はお世話になりました」

早苗「何その今更な挨拶。……まぁいいわ。こうして会えただけでも何かの縁でしょ♪」



俺の首へ腕を回し、上機嫌にビールをあおる早苗さん。
いや、だから色々と当たってるんですが……!

身を捩って、なんとか拘束を抜けようとする。


この人は昔からこうだな。こっちが嫌がる素振りをしても、全く気にせずに絡んでくる。
当時の俺はこの人のそんな所が本当に嫌いで……同時に、羨ましいと、少しだけ思っていた。



ちなみに初めて会ってから一年くらいで早苗さんは異動になり、千葉を去っていった。後に俺の中でこの一年間を『ぼっちと駐在さんの365日戦争』と名付けられる事になる。だってこの人、街で会う度に絡んでくるんだもんよ。





八幡「それで、他の人たちはもう部屋に行ったんですか?」



とりあえず、いつまでもこの話を引っ張りたくはないので話題をすり替える事にする。



文香「そう…ですね。先程までは一緒にいたのですが……恐らく」



思い出すかのように言う鷺沢さん。
夕食の時に一度集まるとは思うが、一応挨拶に行った方が良いだろうな。同じ所属事務所とは言え共演者になるわけだし。

と、そこでふと思い出す。



八幡「そう言えば、さっきちひろさんから他のプロデューサーの方たちが今日は来れない、って電話があったんですけど……あと、安斎も」

早苗「あ、そうそう。なんか仕事の都合でね」

文香「…私は、元々専属のプロデューサーはいませんし……」



やっぱそうなんか……
いや、受付で確認した時点で分かっちゃいたんですがね。一応確認せずにはいられなかった。だって確か今日来られるプロデューサーって俺だけじゃなかったか? 大丈夫なのかこの事務所……



楓「大丈夫よ比企谷くん。明日になればスタッフの方達と一緒に来るだろうし、今日は撮影も無いから」

八幡「まぁ、そう言ったらそうなんですが……」



確かに今日は撮影は無いし、だからこの大人二人組は楽しそうに昼間から酒を飲んでるわけで……俺の仕事なんて、精々点呼と取るのと明日の確認作業だけだ。 

しかし今回は初のドラマ収録。アイドル数人にプロデューサーは俺一人。緊張するのも仕方が無かろう。



早苗「お固く考え過ぎなのよキミは。ってか今日現場入りしたのってキャスト陣だけでしょ? 比企谷くんハーレムじゃない! やーん襲われるー♪」

八幡「…………」

早苗「……なんかごめん」



逆に謝られても困る。なんかこっちが申し訳なくなってくるし……






八幡「……とりあえず、一端荷物置きに行くか。挨拶もしておきてぇし」

凛「そうだね。ゆっくりするのはその後って事で」



こういう時、凛のまともさは大変ありがたい。
名残惜しそうにグラスを見つめる楓さんも連れ、広間を後にする。



早苗「終わったらちゃんと戻って来なさいよー!」

文香「…………」 ぺこ



去り際に嫌なお誘いを受けてしまったが、すっぽかしたら後が怖いんだろうな。
何より、動けずにいる鷺沢さんが不憫であった。

……つーか、楓さんを連れて夜中に押し掛けて来たりしないよな。なんかマジであり得そうで怖くなってきた。



近くに階段を見つけたので、荷物を担ぎ直して登りにかかる。ここ、エレベーターとか無いのかしら……

途中窓があったので覗いてみれば、まだ昼間だとのに薄暗い景色であった。恐らく、周りを森に囲まれている事を除いても。



凛「なんか、天気悪いね」

楓「確か予報では雨だったかしら。酷くならないと良いけれど」



二人の会話を耳にしつつ、何となく外の景色から視線を外せない。


何か、嫌な予感がするな。

それが訪れたことの無い地に足を踏み入れた緊張からなのか。それとも、未だ始まっていない新たな仕事への焦燥なのか。俺には分からない。

しかし、分かっている事もある。



俺の嫌な予感は、大体当たる。



何の根拠も無いが、ぼっち暦の長い俺だからこそ感じ取れるものもある。……なんかちょっと蘭子に毒されてないか俺。

まぁ、何も無ければそれに越した事はない。



形容し辛い気持ちを振り払うかのように、俺は踵を返して歩き出した。








   * 登場人物紹介 *



    高垣楓  主人公

    渋谷凛  助手

    比企谷八幡  狂言回し



    片桐早苗  元警官

    鷺沢文香  文学部学生

    ???

    ???

    ???



    安斎都  探偵


そして次回に続く! 今回の早苗さんエピソードは前にスレのどこかで頂いたアイディアを使わせてもらいました。あの時の方ありがとうございます。

>>940 盛大にパロってます。やっぱりクビキリサイクルが一番名作だと思うのよね。

八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「きっと、これからも」
八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「きっと、これからも」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434879314/)

次スレ立てましたー。もうタイトルだけじゃ順番が分からんな。申し訳ない、文字制限がね……

本編完結したのに次スレとか、相変わらず亀更新ですけどよろしくお願いします。
こっちは埋めてくれりゃんせ。

落ちてるのに今気がついた……すいません、本当にごめんなさい……
確かにマナー違反でした。出来るだけ早急に書いてから立てようと思います。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月11日 (月) 03:01:53   ID: mV_58BUR

続き キタァァァァァァ

2 :  SS好きの774さん   2014年08月15日 (金) 21:30:56   ID: nrVQKkRl

完結おめでとうございます!

3 :  SS好きの774さん   2014年08月21日 (木) 15:58:48   ID: GgQTaVwk

面白かった。

4 :  SS好きの774さん   2014年09月02日 (火) 19:19:00   ID: _iHTXBAu

すごいいい作品だった。
お疲れ様でした!

5 :  SS好きの774さん   2014年09月08日 (月) 12:26:17   ID: D2EHkjbc

後日談に番外編楽しみすぎる

6 :  SS好きの774さん   2014年09月18日 (木) 06:15:49   ID: ueIOaeYn

泣ける

7 :  SS好きの774さん   2014年12月18日 (木) 09:45:04   ID: cCnKszC5

最高でした

8 :  SS好きの774さん   2014年12月21日 (日) 01:17:58   ID: Tws0ZCwx

続きアザっす

9 :  SS好きの774さん   2015年01月14日 (水) 11:43:40   ID: slsaB6GZ

生存確認

10 :  SS好きの774さん   2015年01月28日 (水) 02:00:20   ID: T8MjTIcC

プロローグもこれで終わりかな?おつおつ
残りは番外編だけか、残念だけど楽しみにしてる

11 :  SS好きの774さん   2015年01月29日 (木) 22:35:37   ID: D8i248uz

しぶりんと八幡のその後の
その後も、見たいんです。
どうかよろしく

12 :  SS好きの774さん   2015年02月02日 (月) 00:12:20   ID: K59lWH-j

この番外編に
続きが欲しい

13 :  SS好きの774さん   2015年02月08日 (日) 17:05:15   ID: ZR8JHGe5

軽く泣きました
ありがとうございます

14 :  SS好きの774さん   2015年03月14日 (土) 23:02:00   ID: lmHaPXD8

番外編待ってます!!

15 :  SS好きの774さん   2015年03月19日 (木) 20:32:25   ID: 9P5G7fV0

いいねー青春だねー

16 :  SS好きの774さん   2015年03月21日 (土) 00:44:12   ID: 88nu_Jw-

本編もそうだけど番外編もいいわー

17 :  SS好きの774さん   2015年04月02日 (木) 22:32:39   ID: nCOj5v4z

本当にいい作品やわこれ

18 :  SS好きの774さん   2015年04月07日 (火) 21:55:50   ID: WfTzxL9q

しぶりん出してー

19 :  SS好きの774さん   2015年04月22日 (水) 22:37:23   ID: -lSKqHfW

久々にこのシリーズ見たいなぁと思ってたら、まさかの続きがあるとは⁉︎
嬉しすぎる!

20 :  SS好きの774さん   2015年05月17日 (日) 02:15:24   ID: oerLfBFq

たまらんな!!!

21 :  SS好きの774さん   2015年06月17日 (水) 23:55:00   ID: pX1pDspZ

続き来たーーー!!!!!!!!!!!!
待ってました!!!!!!!!!!!!

22 :  SS好きの774さん   2015年11月19日 (木) 00:32:44   ID: x9u1GbuJ

まさに神SS
全俺が泣いた
アンダースタンドを持ってくるとはいいセンスしてる
個人的には君の街までが好きだが

23 :  SS好きの774さん   2015年12月18日 (金) 17:30:17   ID: XbVWDDSh

好きなんだけど、このss好きなんだけどこれエリチルートねぇの?このssのエリチのなんというか、放っておくと手折れてしまいそうな感じがどうにもやるせなくて・・・。

24 :  SS好きの774さん   2016年11月17日 (木) 01:29:08   ID: Z-NWRZIK

凄い良い作品でした!!
アイマスもガイルも好きな作品なのでとても感動しました…ありがとう!!

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