「研究施設から逃げ出した超能力者と戦う」【最初だけ安価】(20)


「緊急事態が発生した」

私がソファに腰を下ろしたのを確認すると、彼は前置きも無しにそう言った。

「『ψ(サイ)』関連ですか」

私の質問に、彼は弱々しく頷く。

皺一つ無いスーツ、ピンと整ったネクタイ、磨きあげられた革靴――
それらとは対照的に、彼の顔はくたびれきっていた。

普段は知的な印象を与えるグレーの頭髪も、今は老いを強調している。

彼が再び口を開いた。

「脱走だよ」

生気の抜けた声だったが、その言葉は私を打ち倒さんばかりの衝撃を与えた。

脱走? ψが?

耳を疑った。

過剰すぎる、とまで言われた厳重な管理システムを潜り抜けたというのか。

「馬鹿な」

目の前にいるのがψ研究計画の最高責任者だということも忘れて、思わず口走った。


しかし、彼は私の失言を咎める気も無いらしく話を続る。

「脱走したψは五名、いずれも『第二』に収容されていた」

――国立生化学第二研究所、通称『第二』。

生化学研究を隠れ蓑として、ψの軍事的運用の実現を目指す施設だ。

比較的危険度の高いψが多く収容されている。

「……まさか、『クラスA』が脱走した訳じゃないでしょうね」

恐る恐る尋ねる。

「そのまさかだ」

彼は悲痛な面持ちで、絞り出すように言った。

「脱走した五名のψは、全て『クラスA』だ」

それを聞いて身体中の筋肉が強張る。
空調は効いている筈なのに、汗が噴き出す。


確かに、五体のψの脱走は大問題である。

それでも、危険度の低い『ランクC』辺りが脱走しただけならば。
私の部隊が国中を駆けずり回って捕獲すればそれで済む。

『第二』の管理責任者は山のように始末書を書く羽目になるだろうが、それだけだ。

だが、『Aクラス』が脱走したとなれば話は違う。

訂正:『ランクC』→『Cクラス』


捕獲されたψは、その危険性によって四つのクラスに区分される。

有用性が極めて低く、社会に対していかなる利害ももたらし得ないと判断された『Dクラス』。

超知覚――いわゆる透視や未来予知、読心など――のような、物理的な作用を及ぼさない『Cクラス』。

サイコキネシスのように、物理的に作用する能力を持った『Bクラス』。

そして――


「『Aクラス』――『その能力が行使されたとき、甚大な被害を発生させる可能性がある超能力者』……」

私は呻いた。

「そうだ、その『Aクラス』が五人だ」

いずれも極めて危険な能力だと彼は言う。

「しかし、何故そのような重要な情報を直接私に?」

私はψの捕獲などを担当する実動部隊の隊長であり、要するに一介の『兵士』に過ぎない。

「最高責任者が私のような末端に、頭越しで情報を与えるなど……」

「謙遜はよしたまえ、君が何と呼ばれているのかくらいは知っているよ」

『不死身の男』、『静かな猟犬』、『ミッション:インポッシブル』……
彼は聞いていて面映ゆくなるような言葉をつらつらと並べ立てた。

私はそんな風に呼ばれていたのか。


「『非ψの天才』というのもあったな……ここの職員は言葉のセンスがいい」

愉快そうに笑みを浮かべて彼は言う。
出会ってから初めて見せた笑顔だ。

だがその笑顔もすぐに引っ込み、代わりに真剣な眼差しが私を貫く。

「君の部隊ならば、脱走した『Aクラス』の確保ができると私は信じている」


脱走の事実が伝わっているのは、ごく一部の幹部のみだという。

「『第二』の施設を一時的に封鎖し、そこの職員には厳重な箝口令を敷いた」

『Aクラス』の脱走の情報は、外部は元より、内部にも洩らしてはいけないと彼は考えたようだ。

賢明な判断であろう。
国民、いや、世界にψやこの研究施設の存在が知られれば非常に厄介なことになる。

「機密保持のために、直接私の部隊を指揮下に置きたいということですか」

彼は頷いた。

「この任務において君の部隊は、必要とするあらゆる支援を受けることができる」

「……対象は『生け捕り』ですか」

「そうしてもらいたい」

小さく唸る。

『Aクラス』のψの捕獲は、ただでさえ困難な任務である。
しかも、今回の場合、対象のψは自分が狙われていることを認識しているはずだ。

警戒しているψを相手にした任務は困難を極める。


思案の末、口を開く。

「申し訳ありませんが、対象の生存は確約しかねます」

それを聞いた彼は、微動だにせずこちらを見つめている。

――沈黙。

彼は何も言わない。
ただ、その鋭い視線をこちらに向けるだけだ。

無言の圧力を感じたが、ここは退くわけにはいかない。

自分の命だけではない、国家の存亡にも関わる問題である。
確実にψを無力化する必要があり、それには催涙ガスやゴム弾よりも実弾が適しているのだ。

私は負けじと彼の眼を睨みつけ――



彼の瞳の中に、『悲哀』の色を見た。


.


何を悲しんでいるのか。

何を哀れんでいるのか。

私にはわからなかった。

ただ、私がψを射殺したならば、それは彼にとって最大の悲劇であるということだけは『わかった』。



「……いえ、可能な限りは善処しましょう」



私の言葉に、彼は深く頷いた。

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脱走したψの能力を五人分

以下のレスから先着で五名の書いた能力を採用します

・同一IDは早い方だけ採用
・あまりに流れにそぐわないレスには超解釈を発動する可能性あり

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記憶操作

自分の目を見た人間は一瞬で、意図的にその人の記憶を、消去、上書き、変更等が出来る

自分の目さえ見ていれば一度に何十人も記憶操作可能

テレビ通信等では不可能で、直接見なければ発動しない

サングラス等をかけていたら不可能、眼鏡は可

>>16までで締め切ります

被ってる能力については差別化の為にちょっといじる可能性があります
ご了承ください

次の投下までちょっと間が開くと思います

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