穂乃果「クレイジーサイコホノカ」 (71)

台風の日いかがお過ごしでしょうか
多少やんやんなお話をします

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♪すまいりぃんおぉなやみばいばぁいいすまいりぃん♪


「いつまでグズグズしてるんですか!早く逃げますよ!」

「で、でも!えりちが……!」

倒れた絵里の傍に座り込み、動こうとしない希の腕を掴むと強引に引っ張り廊下へと飛び出しました。

最初に大きな悲鳴を上げて逃げ出した凛と花陽に続くように、他のメンバーも皆既にこの部屋から居なくなりました。

まだ理解が追い付きませんが、このままでは非常に不味いということはわかります。

自分の本能が逃げろと警告しています。


私の、私達の大好きな高坂穂乃果から。

♪すまいりぃんおぉなやみばいばぁいいすまいりぃん♪

不思議な調子の歌声を背に、荒くなる呼吸にも構わず震える足に鞭を打ち、私達は必死に廊下を走ります。

どこか隠れられるところを探さないと……

他の皆もまだそう遠くまでは逃げていないはずです……

人影を探しながら走っていると、案の定前方の部屋から小さく顔を出し、廊下の様子を窺う真姫の姿が確認できました。

考える間もなくその部屋に2人で飛び込みむと、すぐに背後で扉が閉じ、鍵の閉まる音が聞こえました。

「無事だったみたいね……」

「ええ、ありがとうございます真姫。希も大丈夫ですか?」

真姫の吐き捨てる様な口調にはあえて反応せず、連れてきた希に声を掛けてみたものの、

扉の前にへたり込み息を荒げているだけでした。

座り込んだまま自分の二の腕を弱弱しく撫でる希を見て、かなり強い力で掴んでいたことを悟ると

恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになります。

部屋を見渡すと、同じように苦しそうに息を吐くことりとにこの姿がありました。

「ねえ海未ちゃん、これからどうすればいいのかな……」

「はあ?どうするって決まってるでしょ!助けを呼ぶのよ!」

泣きそうな声で私に問いかけることりに対し、にこが強い口調で応えます。

「うるさいわね、今から呼ぶわよ!でも、こんな孤島まで船が来るには時間がかかるの!」

「今はもう暗くて天気も悪いから船は出せないし、早くても明日の朝になるわ」

「それに……いったい何て説明する気なの?」

真姫の問いに、思わず顔を伏せてしまいました。

冷静に考えなくとも、誰でもわかることです。

私達がどれだけ罪深いことをしてしまったのか……



「ええーっ!夜なのにまだ練習があるの?」

夕食の片づけを終えた後、まだやることがあると告げると、案の定穂乃果はふくれっ面になりました。

そんな穂乃果も可愛いです。

「そうですよ穂乃果、そのための合宿なのですから」

「ごめんなさいね、でも気落ちしないで、穂乃果にとっても楽しい練習のはずだから」

「うぅ……楽しい練習って何なの?海未ちゃんも絵里ちゃんも穂乃果を騙そうとしてない?」

「まあまあ、練習って言っても遊びみたいなものやし」

「メンバー皆でもっと穂乃果ちゃんと仲良くなろうと思って、ことり達で考えたんだよ!」

意外と鋭い穂乃果の返答に少しうろたえていると、希とことりがすかさず助け舟を出してくれました。

どうやら穂乃果には気付かれていないようで、胸を撫で下ろしました。

あまり警戒されてしまうと台無しですから。

私も絵里も、この2人には頭があがりませんね。

「それじゃあ真姫、部屋へ案内してくれるかしら」

「ええ、皆着いて来て」

真姫に連れられて館の2階へと向かいます。

今回の合宿で使わせて頂いている別荘は、真姫の言葉通りのかなり古い洋館で、

扉や窓の造りから調度品まで古風なものとなっており、階段を歩くと木の軋む音が響きました。

防音性は良くないのでしょうが、気にすることはありません。

現在この別荘のある島には私達しか居ないのですから。

「わぁ!凄く綺麗な部屋だね!見て見てあのベッド!お姫様みたい!」

「ちょっと穂乃果、はしゃぎすぎですよ」

穂乃果に返事をしつつさりげなく後ろを窺うと、丁度最後に入ってきた花陽が部屋の鍵を静かに閉めるところでした。

面白いくらい順調にことが進んでいますね。

「それじゃあ、早速だけど練習を始めるわよ」

絵里の号令に従い、皆で穂乃果を抱えるとベッドまで丁重に運びます。

「えっなになに?みんなどうしたの?」

うろたえる穂乃果は相手にせず、体は押さえつけたまま、

運んだ時以上に優しく細かな手付きで穂乃果の服を脱がしていきます。

「本当になに!?何で脱がすの!?ちょっとやめてよみんな!」

「大丈夫ですよ、最初は私がしてあげますから心配しないでください」

「たっぷり楽しみましょうね、穂乃果」

まだまだ宵の口、夜は始まったばかりです。


「ああ穂乃果、私は幸せです……あなたも幸せですよね?」

初めは穂乃果も大声を上げて激しく抵抗してましたが、全員で押さえつけ代わる代わる凌辱していくと

次第にその声も小さく弱弱しくなっていき、終にはそれも止めてしまいました。

初めはこんな方法しか採れず申し訳ないと思っていたのですが、そんな穂乃果の姿を見て、

ああ、やっぱり穂乃果は私達を受け入れてくれたんだ……と胸がじんとしたものです。

「やっと私の番ね、待たせちゃってごめんなさいね?穂乃果……」

最後に順番の回ってきた絵里の舌が穂乃果の口腔をゆっくりと蹂躙している頃にはもう

穂乃果は浅く呼吸するほかはぴくりとも動かず、完全に為されるがままの状態でした。

私も他の皆も緊張を解いて思い思いに談笑したり、絵里のテクニックを見物してやろうなどといった

下衆な気持ちでベッドに転がる2人を眺めたりしていました。

私も例の如く下世話な見世物を楽しんでいましたところ、どうも絵里の様子がおかしいことに気がつきました。

初めは静かに響いていた、穂乃果の可愛らしい唇から歯茎、舌を舐めまわすぴちゃぴちゃという不快な音や

絵里の荒い呼吸が聞こえないのです。

当の絵里はというと、穂乃果に覆いかぶさるような姿勢のまま微動だにしません。

絵里、どうしたのですか、と声を掛けようとした矢先、絵里がふらついたかと思うと、ベッドから床へ転げ落ちました。

絵里の体が床にぶつかる鈍い音に紛れて、ぺちゃっという濡れた音が聞こえてきました。

驚く私達の目が吸い寄せられたのは、絵里と穂乃果の顔に塗りつけられた不自然なまでに鮮やかな赤色。

「え、絵里ち……?」

心配そうな希の問いかけにも答えません。

目を見開いた絵里が金魚のように口をぱくぱくさせると、それにあわせてごぽごぽと溢れ出す血が

綺麗な絨毯を黒々と染めていきます。

絵里に釘付けになっていた目をふと上に向けると、そこには一糸まとわぬ姿の穂乃果が

ふらふらと小さく揺れながら立っていました。

穂乃果はその真っ赤な口から絵里の舌を吐き捨てると、虚ろな目のまま口だけで笑顔を作りました。

凛と花陽が悲鳴を上げて部屋から飛び出して行きます。


そして聞こえてくる歌声――



♪ぱぁーっとああさのまぁぶしいさがぁー♪

「ひぃっ、き、来たよ……!」

「だ、大丈夫よことり!ドアにはちゃんと鍵をかけただから、そうでしょ真姫!」

「ええ、大丈夫のはずよ。確かに古い建物だけど、女の子の力で破れるほどヤワじゃないわ!」

♪いっぱいねてさぁよなあらだぁーもやぁもおやなきぃのぉー♪

いつの間にか歌声がドアの向こう側で止まっていました。

一瞬の静寂の後、ドアノブががちゃがちゃと動かされドアも何度も叩かれています。

♪とりあえずえがぁおがじぶんらあしいさあ♪


そしてその激しい殴打とは対照的に一本調子の歌声。

「ねえ真姫ちゃん!大丈夫なんだよね!?本当に大丈夫なんだよね!?」

「ちょっと!静かにしててよことり!」

「落ちついて下さいことり!穂乃果の声が遠ざかって行きます」

「本当ね、諦めたのかしら?でも念のため扉からは離れていなさいよ、希」

にこの忠告にも応えず、希は扉に背を預けたままじっと宙を見ています。

「ねえちょっと希!聞いてるの?」

「……」

「……えりちを助けに行かんと」

「はぁ……もう勝手にしなさい」

にこが呆れてため息を吐くのと同時に、先ほどとは異なる音が扉から聞こえてきました。

扉の内側からくすんだ灰色の板が生え、希の後頭部へと続いています。

♪こころからでえぇきいるとぉおもえばいいんだよお♪

これはいったい何でしょうか?

♪てをつなごうねえげんきをぉわぁけえてぇああげるう♪

私達が事態を呑み込めず茫然としている間に、件の鉄板は何度も扉の内外を往復し、

終には希の頭部を色鮮やかな石榴に変えると、その上に扉をばたんと倒しました。


♪しあわあぁせをぉぉつかあむたぁめのおぉこつしってるよおお♪

少し中断します
今日中には完結させるつもりです

♪あいわあなはっぴいぃ♪

「ひぃっ!ちょっと穂乃果!やめっ……!」

私達が我に返った時には、無表情の穂乃果がにこの頭上に明るい朱色の斧を振り上げていました。

♪しあわあぁせにいなろうよいつもすまいりぃん♪

「穂乃果!駄目です!」

「穂乃果ちゃんやめて!」

にこの頭がくす玉のように左右に分かれ、体はゆっくりと倒れていきます。

♪いっぱいすまいりん♪

「穂乃果ちゃん!もう一度言うよ、やめて!」

「穂乃果ちゃんはこんな酷いことする人じゃないよね!?」

いつになく毅然とした態度のことりと、それをじっと見る穂乃果の姿に淡い希望が芽生えてきます。

「穂乃果、貴女に酷いことをしてしまったのは謝罪します。ここから帰れば罪も償います!」

「ですから、もう貴女も罪を犯すのはやめてください!」

「海未ちゃんの言う通り、ことりも償います!」

私達を見ているのかいないのかわからないまま動かない穂乃果

――そして――

♪さあだからあぁきみもおぉかいほうしなくっちゃあぁ♪

左肩から胸にかけて、斧の刺さったことりが膝から崩れ落ちました。

♪そのぱわぁぱわぁおんまいにっちぃわらぁおおぅ♪

私と真姫は言葉も交わさず、ことりの体から斧を抜こうと難儀している穂乃果を背に走りだしました。


♪すまいりぃんしぃあわせうぇるかぁむすまいりぃん♪



「何なのよこれ!意味わかんない!」

「何なのって!聞きたいのはこっちの方です!何故穂乃果が斧なんて持ってるんですか!?」

「消火設備よ!古い建物だから、延焼防止や脱出のために斧を置いてたの!」


真姫の話を聞いてますます穂乃果のことがわからなくなりました。

一見狂っているように見えますが、閉ざされた扉と私達に対して斧を使いました。

あの状態で冷静に道具を使うだけの思考力を持ち合わせているのでしょうか……

最悪の予想に悪寒が走ります。


「……っ!どうして!」

いえ、『どうして』なんて考えても仕方ありません。

まずは穂乃果から逃げ切ることが先決です。

階段を下り、穂乃果の襲撃に備え玄関付近の部屋に隠れると、2人してやっと息をつくことができました。

「はぁ、はぁ……大丈夫ですか、真姫?」

「……大丈夫なわけないでしょ」

「……そうですね、すみません」

「別にいいわ、私の方こそごめんなさい。それより今後のことを考えましょう」

そうですね、下らない言い合いをしている場合ではありません。

真姫が未だ冷静なようで少し安心しました。

「はい、ところでこの部屋は大丈夫なんでしょうか?」

「ええ、出入り口が2つあるからどちらかが破られても反対側から逃げればいいわ」

この極限状態でも頭の回る真姫は流石に頼もしいですね。

「それなら一安心です。ですがずっとここに居てもいずれ見つかってしまうでしょう」

「この島から脱出する方法はありませんか?」

真姫はうーんと唸ると、気乗りしないような口調であるにはあるけど……と言葉を濁しました。

しかし、たとえ危険な方法でもやらないよりはマシです。

「真姫、どんなことでも構いません。教えてください」

「釣りに使う小さなモーターボートがあるのよ。でもあれで方角もわからない夜の海に出るのは危険だわ」

なるほど、舟があるのですね。わずかに希望が見えてきました。

「それなら逃げられそうですね。ボートはどこですか?」

「……浜辺近くの倉庫にあるけど、本当に使うつもり?」

「大丈夫です、私に考えがあります。穂乃果に見つからないよう、倉庫に向かいましょう」

私の言葉を聞いて、真姫は一瞬驚いたような顔をしましたが、すぐに心底悲しそうな顔になって応えました。

「管理人室に倉庫の鍵を取りに行かなくちゃいけないわ」

できるだけ音を立てないよう細心の注意を払って扉の鍵を開け外の様子を窺ったところ、

どうやら人の気配は無さそうです。

「今なら行けそうですね、行きますよ真姫」

「もう……これで何かあったら承知しないわよ」

こんな時でも憎まれ口を叩く真姫にこみあげる何故か湧き出る笑いをかみ殺しながら、慎重に、忍び足で管理人室へと向かいます。

「ねえ、もし穂乃果と出会っちゃたらどうするの?」

「その時はまた逃げます。そうするしかないでしょう」

「呆れた、考えがあるとか言って結局大事なところがノープランじゃない」

幸いにも広い建物ですから、穂乃果には遭遇せずに辿り着くことができました。

周囲を注意深く窺いましたが、穂乃果の気配はありません。

ですが、慎重に行動しすぎるということはないでしょう。

扉に耳を付け、部屋の中の音を探ります。

「よし、中からは物音も歌声も聞こえませんね。入りましょう」

無言で真姫が頷いたのを確認しゆっくり扉を開くと、中に佇む小さな人影が目に飛び込んできました。

まさか、既に中に潜んでいたのですか!?

「きゃあああああああぁぁぁぁ!!」

「誰か助けてええええええぇぇぇぇ!!」

ひしと抱き合って大声で泣く2人。

凛に花陽……良かった、無事だったのですね……

「ち、ちょっと……凛!花陽!落ちついて!」

「大丈夫です2人とも!私です!海未と真姫です、穂乃果は居ません!」

「大声出さないで!穂乃果に見つかっちゃうでしょ!」

いえ、もう既に気付かれているでしょう。

私は真姫に鍵を取って来るよう頼むと、泣きじゃくる2人に向かいました。

さて、すぐに落ちついてくれれば良いのですが……

「り、凛ね!凛ね!かよちんと一緒に!こ、ここに隠れてたの!ご、ごめんね!逃げちゃってごめんね!」

「海未ちゃん!み、み、みんなは?絵里ちゃんはどうなったの!?」

「ねえ!怖いよ海未ちゃん!穂乃果ちゃんはどうしちゃったの!?」

「海未ちゃあん、ねえみんなは?みんなは大丈夫なの!?」

「大丈夫!大丈夫ですから落ちついて下さい!話は後です。真姫が鍵を持ってきたらすぐに逃げますよ」

♪ずうーっとゆめはかぁなうんだとぉいいきかせてぇきたぁ♪

「ほ、穂乃果が来ます!真姫!」

「鍵はもう取ってきたわ!すぐ行く!」

「よし!それではまっすぐ浜辺へ向かいますよ!」

「ね、ねぇ!海未ちゃん!」

花陽が駆けだそうとする私の手を掴み引き止めました。

「何ですか花陽!話は後だと言ったはずです!」

「ひぃっ!ご、ごめんなさい……でも……」

「でも、何ですか?」

「ほ、穂乃果ちゃんを、助けてあげられないかなぁ……?」

なんということでしょうか。

ああ、そうでした……花陽はいつだって誰よりも優しい子でしたね。

こんなにも心優しい花陽にすら、私は犯罪の片棒を担がせてしまったのですね……

ごめんなさい花陽……貴女は間違っていません……

こんなときでも他人を、自分を殺そうとしている相手を思いやれるなんて……

貴女のその清い心に敬意を表します。

でも、今はそれが命取りになるかもしれません。

花陽は今の穂乃果の状態を知らないようですし、ここは強引にでも納得してもらわないと……

「では聞かせて下さい花陽、どうするつもりなのですか?」

♪ちょぉっとずつでかぁまわあないぃとにぃかあくぅねすぅすもおう♪


歌声が近付いてきています。急がないと……

「答えなさい!助ける方法があるのですか?」

「……っ!そ、それは!」

「無理でしょう?穂乃果は今、斧を持って私達を殺そうと襲いかかってきています。そのまま返り討ちにされるのが落ちです」

「私だって助けられるものなら助けたいです。しかしどうにもできません」

「わかってください花陽」

「……うん」

良かった、せめて今生きている3人だけでも守らないと……

「では急いで浜辺へ向かいますよ!穂乃果は重い斧を持ってますから、走ってる私達には追いつけないはずです!」



「倉庫というのはここですね!」

先程にも増して酷い雨と風の中、私達はなんとか浜辺まで辿り着きました。

「そうよ!すぐ鍵を開けるから、ボートを運び出すのを手伝って!」

「うぅ~、凄い風だにゃあ……」

「ボ、ボートになんか乗って大丈夫なの?」

「泣きごとも後です!急いで!穂乃果が来ます!真姫、燃料も忘れないでください!」

「わかってるわよ!」

しきりに後方を振り返りながらもタンクに燃料を入れ、海へ舟を運びます。

4人がかりで押し、波に浮かべると3人を先に乗せ、しばらく沖へ押し出すと私も大急ぎで乗りこみました。

「それではエンジンをかけて下さい真姫!」

「今やってるわよ!黙ってて!」

素人の目からも真姫は悪戦苦闘しているように見えます。

とても大丈夫そうには思えませんが……

「真姫ちゃん運転できるの?」

「で、できるわよ!パパが運転してるところを見せてもらったことあるから!」

なんだか不安になってきました……

そして聞こえてくる歌声……

♪こころからぁすうきぃだとおぉつたえていいんだねぇ♪

「まずいです、穂乃果が迫ってきています!」

♪うでをくもうねえゆうきをぉばいぃにいすうぅるよお♪

「真姫!急いで!」

「だからわかってるってば!」

♪よろこおぉびのおぉよかんがむうねでぇおどりぃだすよお♪

「真姫ちゃん!早く早く!」

「ちょっと待って……よし、エンジンがかかったわ!」

穂乃果がもう眼前に迫ったところで、舟が動き出しました。

「まっすぐ、浜から離れて下さい!急いで!」

「少し進んだら、また帰ることのできる距離で止まって下さい!さすがに穂乃果もここまで泳いでくることはできないはずです!」

「海未の言ってた考えってこれのことだったのね……」

真姫が少し落ちついたように息を吐きました。

「ええ、斧を持ったままでは泳げませんし、仮に泳いできても舟の上から4人がかりなら無力化できるでしょう」

「へえぇ……海未ちゃんはすごいにゃあ……」

しかし、安心したのも束の間、風は強さを増し大きく波がうねります。

「ど、ど、どうしよう!転覆しちゃうよぉ!助けてぇ!!」

「できるだけ姿勢を低くして!舟の縁に掴まって下さい!」

それでも猶激しく揺れる舟に、皆も段々限界が近づいてきました……

「うぅ……もうだめぇ……」

「かよちん!」

花陽が手を離してしまい海へと投げ出され、凛もそれを追うように落ちてしまいました。

「ああ!凛!花陽!!」

そしてうろたえた真姫まで……

私もいつまでそうしていたかはわかりませんが、とうとう波に呑まれてしまいました――



「うぅ……」

頭が痛いです……何が起きたのでしたっけ……?

ああ、そうです舟で海へ出たものの、全員投げ出されてしまって……

そうです!真姫は?凛、花陽は?

辺りを見回すと、それほど浜から離れていなかったのが幸いしたのでしょうか、3人とも浜辺に漂着していました。

「真姫!凛!花陽!大丈夫ですか!起きていたら返事をして下さい!」

返事はありません……

そんな、まさか……いえ、自分の状態を考えてもそれほど長い時間流されていたわけではないでしょう。

ちゃんと処置をすれば助かるはずです!

3人を助けないと……


♪よろこおぉびをぉにがあさないでぇきゃっちぃんぐ♪


ああ、一番重要なことを忘れていましたね……

顔を上げると、相変わらず一糸纏わぬ姿で斧を片手に歌う穂乃果の姿がありました。

雨に濡れながらも無表情で歌う穂乃果の姿は不気味ではありましたが、

同時に大きな憂いを帯びているようにも見え、私の目にはそれがとても美しく映りました。

ああ穂乃果、やっぱり貴女は素敵です……


いえ、こんなことを考えている場合ではありません!逃げないと!

逃げないと……?

殺されてしまう……?

ですがまだ私は殺されていません。

ということは、やはり……

♪いっぱいきゃっちぃんぐ♪

「穂乃果……」

♪そうもっとおぉきみもをおぉたのしくならあなぁきゃあぁ♪

「穂乃果、貴女は狂ってる振りをしているだけで、まだ正気なんですよね?」

♪そうもっとぉ♪

「勝手な話だとは思いますが、貴女にお願いがあります」

♪らぶぱわあぱわあおんすてきぃにうたぁおおう♪

「真姫と凛、花陽……あの3人を助けてあげてくれませんか?」


――歌声が止みました。

こんなことになってしまってから、初めて穂乃果と目が合いました。

いつもの、私達を引っ張って行ってくれる、強い意志を秘めた美しい瞳……


「聞いて下さい穂乃果、私達は、いえ私は貴女に許されないことをしました」

「真姫を言いくるめ、ことりや絵里を唆し、穂乃果を強姦しようと企てたのは私です」

「許されようとは思っていません。他の皆と同じように殺される覚悟はあります」

「ですが、あの3人だけは許して頂けないでしょうか」

「いくら先輩禁止とは言っても、やはり最下級生です。先輩達の悪巧みに誘われ、毅然と断ることなどできるでしょうか」

「私は、あの3人を共犯にして内部告発を防ぐため、無理やり強姦に参加させました」

「穂乃果にとってはそんなのどちらも変わらないと思うでしょう」

「そう思われても仕方のない、犯して初めて罪の重大さに気付いた愚か者の戯言です」

「ですが、貴女が今も私の知っている穂乃果なら、どうかあの3人だけは許してあげて下さい」

「お願いします。この通りです」

醜く地べたに這いつくばり、額を砂に擦り付けた必死の嘆願。

これが自己満足だということはわかっています……

結局私も口では綺麗なことを言って、罪の意識を軽くしたいだけ……

お笑い草ですね、いつも穂乃果に偉そうなことを言っていた私がこのざまです。

あわせる顔もありません、穂乃果に裁かれるのならそれも本望……

ああ、体が震えてきました、やっぱり死ぬのは怖いです……


「海未ちゃん……」

「穂乃果!?」


「……ごめんね」

慌てて顔を上げた私の額に鈍い衝撃が走りました。

ああ、頭が重いです……重くて、熱い……

皆、ごめんなさい……

謝らなければいけないことがたくさんあります……

穂乃果……ごめんなさい……

あなたの体と心を汚し、人殺しの業まで背負わせてしまって……

ことり、絵里、希、にこ……ごめんなさい……

私の所為でとてつもなく痛い、苦しい思いをさせてしまって……

私も今から貴女達のところへ行きます……

真姫、凛、花陽、ごめんなさい……

こんなことに巻き込んでしまって……

私を怨んでもかまいませんから、貴女達はどうか生きて下さい……

3人とも無事でしょうか……?

いえ……きっと穂乃果が助けてくれるはずです……

だって私の頭に斧を振り下ろす瞬間に聞こえてきた穂乃果の声は

私の、私達の大好きな慈愛に満ちた高坂穂乃果の声でしたから……

明日には助けが来るでしょう……


♪すまいりぃんおぉなやみばいばぁいいすまいりぃん♪


おわり


海未ちゃん以外にも体を弄ばれたことに対する怒りで海未ちゃん以外をデストロイしてたっておちなら最高だった

元ネタは平山夢明のクレイジーハニーです

>>56
完全な海未ちゃんの一人称視点なんだから好きなように考えればいいよ

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