彦星「織姫が恋しい」従者「始まったか...」(88)

夏彦「織女に会いたい会いたい会いたい会いたい~!!!」バタバタ

従者「七夕から一ヶ月...そろそろだと思っていましたが」

夏彦「織女ぉぉぉ!!!俺だ~!結婚してくれぇぇぇえ!!」

従者「あー、あー。やかましい!」

従者「毎年こうだ!会ってから一ヶ月ぐらいは幸せそうに静かにしてるのに...」

従者「その後から織姫様に会いたいと騒ぎ出す!そして仕事もサボりだす!」

夏彦「ねぇねぇ、ちょっとだけ。ちょっとだけ会いにいこうよ?」

従者「行きません!」

従者「それじゃ私は街に出かけますから...」

夏彦「え~?じゃ俺も」イソイソ

従者「だ・め・です!!いいですか!私が帰るまでにこの仕事は片しておくこと!!」ドサッ

夏彦「うぇ~!気分じゃねぇ~!」

従者「しっかり仕事しないと来年織姫さまに会えませんよ!」

夏彦「織女ぉ~...今すぐ会いたいよ織女ぉ...」メソメソ

従者「まったく...いいですね?日が暮れるまでには帰りますからね?」バタン

夏彦「織女ぉ...」

   天の川

船頭「...お?船かい?」

従者「はい。街の方までお願いします」

船頭「あいよ!乗んな!」クイッ

  ギーコ   ギーコ

従者「...この天の川」パシャッ

従者「我々には普通の川だ...しかし」

従者「お二人がこの川の水を少しでも浴びれば、皮膚はただれ耐え難い苦痛に襲われると...」

従者「...天帝様もお厳しいことです」

   街

従者「えー...あら?」

  ペラッ  ペラッ

従者「あららら...うーん...?」ペラッペラッ

従者「........ここどこだろう」ポソリ

  ..................

従者「..............えっ?迷った?」

従者「いやいやいやいや!まさか!彦星様じゃあるまいし!!」ペラッペラッ

  どうかなさいましたか?

従者「えっ?」クルッ

従者「かたじけない...」

女中「いえいえ。困ったときはお互い様ですよ」

従者「全く、地図がありながら迷うとは...我ながら情けない」

女中「この路地は入り組んでいますから。現地の者でも迷うんですよ」

従者「いやしかし本当に助かりました。あのままだと帰るのが真夜中になっていたところです」

女中「あなたはどちらからお越しで?」

従者「川を渡って先の農場です。」

女中「....彦星様の?」

従者「....ええ。」

女中「.........」

従者「.........」

  ....................

女中「......あ、このお店ですね」

従者「え?あ、あぁはい」

   漢方薬局

従者「わざわざありがとうございました。」

女中「いえ、実は私もこの店へ用事で...」

従者「え?あ、あぁそうだったんですか。奇遇ですね」

女中「全くですね。さぁ、中へ」


薬師「いらっしゃい....お、女中様。」

女中「御機嫌よう。いつものお願い」

薬師「へい。少々お待ちを」パタパタ

従者「この店にはよくいらっしゃるので?」

女中「ええ。仕える姫がなかなか体の弱い方で...」

従者「...そうですか。あの...ところでひとつ...」

女中「...なんでしょう」

従者「あなたはどちらにお勤めに...」

薬師「女中様。こちらです」ヒョコッ

女中「え?あ、ええ。ありがとう」

従者「......」

薬師「そちらのお客様は何をお求めで?」

従者「あぁ、鼻の病に効くものを...」

薬師「こちらで全てよろしいでしょうか」

従者「あぁ、問題ない。ありがとう」

薬師「またお越しください」

従者「ふぅ...」パサッ

女中「........あっ」

従者「........あっ」

女中「.....あの」

従者「.....いかがされました」

女中「もしこの後、お時間ありましたら...」

   茶屋

従者「いただきます」

女中「........」ズズッ

従者「(.......ずっと気になっていたことだが)」ズズッ

従者「(この方、私は見覚えがある....前にどこで会ったのか...)」

女中「........」

従者「(...もしや七夕の日、織姫様の付き人として見た方では?)」

女中「...ご出身はどちらで?」

従者「え?あ、あぁ...」

従者「(だとしたら色々ややこしい話になりそうだ)」

  ...............

女中「やっぱりそうですか!?」

従者「も、もしやあなたも!?」

女中「えぇそうなんです!何度言っても聞いてくださらなくて!!」

従者「話の分かる方だ!部下に話したところで分かる者はいないのですよ?」

女中「こちらでも同じですとも!あぁ、こんなことに共感して下さるのはあなたが初めてです...」

従者「私もです...いや、しかし全く」

「「わがままな主人を持つと苦労しますね」」

  .....................

従者「なるほど...興味深いやり方です。私も試させていただこう」

女中「お役に立てれば幸いです....あっ」

従者「どうかなさいましたか?」

女中「私ったらすっかり長話に...もう日が」

従者「あっ...あぁっ!しまった!」

女中「もうお時間...」

従者「えぇ、申し訳ありませんが急ぎ帰らねばならぬようです」ガタッ

女中「あぁ、付きあわせてしまって本当にごめんなさい」

従者「いえ、話の合う方で非常に楽しい時間でした。本当にありがとうございました」バタバタ

従者「それでは!」バッ

女中「あの...もし良ければですが」

従者「はっはい?」

女中「川の方までお急ぎならば、私の乗る馬車でお連れしましょうか?」

従者「...えぇ?馬車?」

従者「いやそこまでお世話になるわけには...」

女中「いえ遠慮なさらず。遅くなってしまったのも私のせいですし」

従者「.....かたじけない。本当に時間が無いもので、甘えさせていただきます」

  ガラガラガラガラ....

従者「お世話になりました」バタン

女中「どうかお気になさらず。それと...船ですね?」

従者「え?」

女中「そこの船頭!」

船頭「.....へい?女中様ですかぁ」

女中「このお方を対岸まで。『超特急』です」

船頭「へい、承り...」ギシッ

従者「あの...」ギシッ

船頭「お兄さん...飛ばすよ?」

従者「え?」

船頭「俺の逆漕ぎは.....速いぜぇぇぇぇええ!!?」ギギギギギッ

従者「えっ...うわ!?」グイン

女中「お気をつけて~」ヒラヒラ

従者「あっ....ありがとうございました!本当にー!」ババババババババババ

女中「.....」

従者「このお礼はー!またの機会にー!」

女中「.....え?」ピクッ

女中「...........」ガラガラガラ

女中「....またの機会に?」ウーム

女中「また会えるのか......?...というか」

女中「やっぱりあの人...七夕の日に見た彦星様の従者では?」

女中「向こうも分かっていたのだろうか...私が織姫様に仕える者だと」

女中「結局はっきり聞けないまま終わってしまった。.....しかし」

女中「.....いい人だったな...」ガラガラガラ

女中「ただいま戻りましたよ~」ガラッ

織女「遅かったわね。もう夕飯の支度は他の子に頼んでしまったわよ」

女中「.........」ジーッ

織女「........あっ」

女中「やはり仕事...終わっていませんね」

織女「いや違うのよこれは....その、機織機がね?」

女中「......」ゴゴゴゴゴ

織女「あの....ほら。ネズミに食い荒らされて...」

女中「機織機をかじるネズミがいますか!?またサボりましたね!!」ドカーン

織女「ごめんなさいー!」ヒー

女中「あぁ、七夕からの一月は真面目にやってきたのに...始まりましたか」

  織姫様、夕飯でございます

織女「おぉ、来たわ...これよこれ」ジュルッ

   『コラーゲン鍋』

女中「...あの、昨日もこれでしたよね?いや一昨日も、その前も...」

織女「お肌にいいのよ?」ハフハフ

織女「また来年夏彦に会う時までに...バッチリ仕上げておかなくっちゃね」ズルズル

女中「...と言って最初はやる気を見せるものの」

女中「秋ごろに飽き、冬には肥え。絞るのに春から夏まで四苦八苦....毎年のことですね」

織女「今年こそ、そうはならないわ」モグモグ

   翌年 七月七日 天の川

従者「(ついに七夕。彦星様も待ちに待った日だ...晴れて良かった)」

鵲「それじゃあ、橋をかけるわよん」ガション

  グオオオオオオオオオオオン.....

夏彦「」ワクワク

従者「...」

夏彦「ね、行っていい?もう行っていいか?」

従者「ダメです。橋が完成するまで...」

夏彦「いやもう行けるって!行ける行ける~っ!」ダッ

従者「だぁーっもう!子供ですか!!」ガシッ

従者「もう少しなんですからお待ちくださいってば!!」

夏彦「.........」ザッザッザッ

織女「.........」ヒュオオオオ

夏彦「........織女。」ザッ

織女「夏彦...」クルッ

夏彦「一年ぶりだね....この日を夢にまで見たよ」

織女「えぇ...私も。ずっと待っていました」

夏彦「君は変わらず美しい。想像していたものよりもはるかに....ずっと」

織女「嬉しいわ...あぁ、夏彦...」

従者「...........」

従者「(相変わらずものすごい格好つけ加減)」

従者「(しかしあの幸せそうな様子...二人を会わせた甲斐もあったというものです)」

従者「(あとは私は邪魔にならぬよう...この橋の入り口で待ちましょう)」

従者「.........」ヒュオオオオ

従者「...............ん?」

従者「.......あれは...」

女中「...........」ヒュオオオ

   対岸

女中「.............」

従者「」チラッ

女中「(こっち見た....!)」

女中「(あの後ついに再会の機会はなく....まさか一年経ってしまったけれど)」

女中「(やはりだ...この距離でも分かる。あそこの彦星様の従者は、あの時街で会ったあの方だ...)」

女中「(そうだったのか...そうか。そういうことか...)」

夏彦「」スタスタ

織女「女中。街へ行きますよ」スタスタ

女中「は、はい」タッタッ

  ヒシッ

織女「夏彦...」ギュゥゥッ

夏彦「織女...今日は本当に...素晴らしい一日だった」ギュッ

夏彦「君といられた時間が...そして今この瞬間も。本当に幸せだ」

織女「しかし...もう終わりなのですね」ツツーッ

夏彦「.....泣かないで」

夏彦「また一年後会えるさ。その日を楽しみにして...」

夏彦「毎日君のことを想うよ。夢に見るから...」ニコッ

織女「えぇ....私も..そうします」ニコッ

従者「」ザッ

夏彦「従者が来た...もう行かければ」

織女「....えぇ」

夏彦「いつでも...どこにいても。君を世界で一番愛している」クルッ

夏彦「どうか来年また会えるように...それまで元気でいて」ザッザッ

織女「...........夏彦っ!」ダッ

織女「」ガシッ

夏彦「.......」ギュッ

織女「24時...七月七日が終わるまでの間」

織女「あと少しだけでいいのです...どうかこのまま...」

従者「........」ヒュオオオオ

女中「.........」

女中「(お二人の別れも大事だけれども...)」

女中「(すごく個人的な話。今目の前にいる従者さんに挨拶しておきたい...)」

従者「.....」

女中「..............」

従者「..............」

女中「(.....いやそもそも、私のことなど忘れてしまっているのでは)」

従者「..........女中さん」

女中「......はい?」ドキッ

   『月が綺麗ですね』

従者「..........」

従者「『月が綺麗ですね』」

従者「..........」ウーム

従者「なんで私はあの時あんなことを?」

従者「もっと他に言うことあったのでは...?」

従者「結局その一言で別れてしまったし...変な人だと思われたのではないだろうか」

従者「......はっ!というかそもそも私のことは覚えていたのか!?」

従者「どうしたのだ....自分で自分が分からない...」ムムムム

夏彦「...........♪」ハッピー

従者「あーあ....なんだこの気持ちは?」モンモン

従者「女中さんと再会してからだ...わけがわからない。調子が狂っている...」

夏彦「おい従者...お前塩忘れたろ」ムグムグ

従者「えっ?」

従者「あっ、あぁ!そういえば!!...しまった、すみません...」

夏彦「ったく、お前らしくも無い...なんかあったのか」

従者「あー、いえ....どうという程でも無いんですが」

夏彦「え、ほんとになんかあったの」

従者「はい....実は...」

従者「......という感じで...」

夏彦「ほほう...そんなことが」

従者「私はどうしてしまったんでしょう...?」

夏彦「お前そりゃあれだろ....ほら。誰の目にも明らかっていうか。なぁ?」ニヤニヤ

従者「...え?」キョトン

夏彦「いやいや。分かってんだろ?」

従者「.......どういうことでしょう」

夏彦「....お前マジで言ってんの...?」

   『恋』

夏彦「な?」ピラッ

従者「わざわざ一筆したためていただかなくとも...」

夏彦「それにしても驚きだな~。まさに仕事人間だったお前が...」

従者「そうですか...私が恋をしていると」

夏彦「おう。まぁこれに関しては俺の方が先輩だからな。なんなら力になるぜ?」

従者「助かります。」

従者「それで諦めるにはどうすればよいのでしょうか」

夏彦「............え~?なんでそうなるの~?」

夏彦「俺はお前の恋の成就を応援するって言ったんだよ?」

従者「それには及びません。私には恋愛にかまける暇などありませんので」

夏彦「そりゃお前、随分悲しいこと言うじゃないの?恋っていいもんだよ?」

従者「私は従者。主人たるあなたこそ私の生きるただ一つの意味です」

夏彦「お前すげーな...」

従者「女性に惚れてしまうとは不覚をとりました。早急に解決すべき問題です」

夏彦「よくない...お前、よくないよそういうの...」

従者「そもそも相手は織姫様の家の女中。親しくするのは好ましくありません」

従者「あなたと織姫様は普段...面会はもちろん、文通どころか人を遣ることすら禁じられているでしょう?」

従者「私が向こうの者と会えば、天帝様に怪しまれても文句は言えません。」

夏彦「そっか...身分が邪魔をする恋か。」

従者「えぇ。諦めざるをえませんよね」

夏彦「燃えるね」

従者「なんでそうなりますかね」

夏彦「元はと言えば俺だって織女とは身分違いだったんだぜ?」

夏彦「こっちは貧乏牛飼い、向こうは天女。お前らよりよっぽど無理のある恋だったね」

従者「何故諦めなかったんです?」

夏彦「...情熱があったからだ。これは無くそうとして無くせるものではなかったんだよ」

従者「はぁ...そんなものですか」

夏彦「織女の気持ちを掴むまでは険しい道のりだったが、今思えば全て幸せだったよ」

夏彦「本当、恋ってのはいいものだよ...」

従者「...とにかく私はそんなものにうつつを抜かすわけにはいかぬのです」

夏彦「言ったろ?情熱は消そうとしても消えない。お前もすぐに分かるよ...」

従者「もう恋など忘れました。心配は要りません!」

夏彦「嘘だね!お前これ砂糖と塩間違えたろ!」ブーッ


従者「今度こそ忘れました。何も問題は起きませんよ!」

夏彦「ほぉ~う...ならなんでスープに卵が殻ごと入ってるんだ...?」


従者「今日という今日は...」

夏彦「もういいよ!なんかもうご飯が青い色してんじゃねーか!!」

夏彦「ったく、予想以上に重症だな...俺の手には負えん」

夏彦「...紙だ!紙と筆をここへ!」

夏彦「...............」シュッシュッ

従者「...何を?」

夏彦「従者...明日1日お前に暇をやる。街へでも行って遊んでこい」シュッ

従者「はっ...え!?」

夏彦「ただし一度は天の川に寄れ。紹介状をやるから鵲様に会ってくるんだ」

従者「そんないきなり......この家の回転にも支障が出ます!」

夏彦「いる方が迷惑だというのだ!役立たずめ!」コトン

夏彦「少し頭を冷やしてこい!」シュビッ


   天の川

従者「...............この家か」ザッ

従者「(天の川を管理する鵲様...)」コンコン

  どちらさま?

従者「(毎年七夕に橋をかけて下さる鵲様は、色恋沙汰に通じると言われる)」

  パタパタパタ...

従者「(そしてそのお姿は...)」

  ガチャッ

鵲「よく来たわね~♪どうぞお入りになって?」ニコニコ

従者「(どギツいオカマ...)」ペコリ

鵲「ふん...ふん...」ペラッ

鵲「なるほど...大まかな事情は把握したわ。恋煩いね?」

従者「えぇ......そのようです」

鵲「その年まで恋とかしたこと無かったの?」

従者「はい。常に真面目・勤勉を心掛け、努めてきたつもりです」

鵲「それ誇れることなのかアタシには疑問だけど......」

鵲「お相手はどんな人なの?」

従者「素晴らしい方です。」

鵲「そういうのでなく。具体的にね?」

従者「仕事に関して完璧な方なのですよ...超人的な能力を持ちながら、努力も惜しまない」

従者「それでいて深い慈しみの心も兼ね備える。誰に対しても優しいのです」

従者「街の者にもその名は知れていて、誰に聞いてもよい評判.....」

鵲「あー...はい、はい。よく分かりました」

鵲「(ここまでベタボレだとは...遅い初恋のせいかしら)」

鵲「(....それとも彦星達の尋常ならぬ愛を間近で見てきたからなのか...)」

鵲「あなたは器用な人だけど、全く初の経験に戸惑っているようね」

鵲「気持ちのやりようが分からないんだわ。だから天然ボケちっくになってしまっているのよ」

従者「わ、私が天然ボケ!?聞き捨てなりませんよ!」

鵲「大丈夫、安心して。私がどうすればいいか教えてあげる」

従者「そ...それは是非とも。お願い致します」

鵲「まず自分の恋する気持ちに向き合わねばならないわ。受け流してはダメ」

鵲「『好き』という気持ちを、言葉でなく心で理解しなさい。大事なのは...」

鵲「...その感情の対象が自分と同じ人間であることを知ること。今日一日、よく確認しておきなさい」

   『帰りにも寄って頂戴。言うことあるから』

従者「しかし、休日ですか...とりあえず街に来てみましたが」

従者「........何をすればいいんだろう」ポツーン

従者「彦星様のもとに来てから...ほとんど毎日働いてましたからね...久しぶりすぎる暇ですよ」トボトボ

従者「...........」トボトボ

従者「.....」チラッ

   『茶屋』

従者「........」キョロキョロ

従者「そんなバッタリ会えたりはしませんよね...」

従者「思えば去年、初めてお会いした時から...」テクテク

従者「何度か街には来ていました。しかし会える機会は無く...」テクテク

従者「再会への期待は段々と薄れていったんですよね...しかし」テクテク

従者「七夕の日...あれが最後の希望でした」ザッ

従者「自覚はしていませんでしたが...私も、今年の七月七日を楽しみにしていたんですね」ヒュオオオオ

   『織姫宮』

従者「そしてここへ足を向けてしまったのも...再開を望む証だと...」

従者「.....」ガサガサッ

従者「(何か起きたならともかく...今、私が堂々と入ることはできません)」ガサッ

従者「(普通はそこで諦めるところなのでしょうが...あろうことか私は...)」チラッ

従者「(宮殿に忍び込み...柴垣に隠れ建物を覗いている...)」

  お待ちください 準備はまだです

従者「!?」ビクッ

  ならば向こうで待つわよ

従者「こ....これは...この声は...」ドッキドッキ

  それでは準備する者達の邪魔だというのです

従者「女中さんだ....女中さんと、そして織姫様の声だ...」

  そう言う...私...備...

従者「....行ってしまった」ドキドキ

従者「声しか聞けなかったが...あれは紛れも無く女中さんだった...」

鵲「どうも。久々の休日は楽しかった?」

従者「はい...お休みをいただいた甲斐がありました」

従者「(結局あの後待っても女中さんは表れなかった...今日一日はそれで尽きてしまいましたが)」

鵲「それは良かった。それで....何か気持ちに変化はあった?この一日で?」

従者「...はい。あったと思います」

鵲「どう思ってるの。恋心について」

従者「......私は...」

従者「....やはりおかしくなってしまったようです」

従者「私は...何ということをしてしまったんでしょう」

鵲「言いたくないことは言わずともよろしくてよ。」

従者「自分の性質から考えても、ありえないような行動を起こしているのです」

鵲「.....『恋は盲目』と言うわ」

鵲「自らの愛のため、常識を外れたようなこともしてしまう。体が動いてしまう」

鵲「それが情熱に身を委ねるということよ」

従者「困ります。私は...私は、そんな...情けない...」

鵲「情けないことでは無い。恋をする人は皆そうなるわ」

鵲「これはどうにもならないもの。否定せず、受け入れなさい」

従者「そんな....そんな......」モヤモヤ

鵲「それともうひとつ。」

従者「は、はい?」

鵲「最近、他の人から同じような相談を受けてね」

従者「はぁ...」

鵲「その人も慣れない恋に戸惑っていたわ。さらに立場的に会うこともままならない人が相手だと...」

従者「......?」

鵲「しかし気づいた時には完全に惚れてしまっていたと。」

鵲「会ったのは精々二回程度、しかしその二回で自分を理解してくれた、見てくれた殿方に惹かれたと...」

従者「....鵲様、それは」

鵲「ここまでよ。他人の相談をあまり明かすわけにはいかないもの」

鵲「ただし、私は意味の無い話はしないわ」

従者「鵲様...」

  ガチャッ

鵲「また悩むこと、迷うこともあるでしょう。そういう時はまた相談に来て頂戴」

従者「ご親切痛み入ります。私もこの難題、きっと解決するよう努めます」

鵲「あなたなら出来るわ、目いっぱい頑張ってね。」

従者「それでは...」

鵲「従者。恋とは辛いことも多いわ」

従者「は...はいっ」ドキッ

鵲「それでも素晴らしいものよ。諦めてはならないわ」

従者「心に刻みます」ペコリ

鵲「それじゃ...帰り道気をつけてね。」

  バタン

鵲「迷わないことを願っとくわ...」

  ガチャッ

従者「従者、只今帰りました」

夏彦「お帰り。どうだったよ、休暇は?」

従者「大変意義あるものでした。いただけたこと感謝致します」

夏彦「そか、よかったよかった.......それで」

従者「仕事に戻れるのか...ですね?」

夏彦「あぁ....だがその様子だと大丈夫そうだな」

従者「やはり私は女中さんに惚れてしまったようです」

従者「今まではそれを認めることが出来ず...ある種の格好付けでしたね、迷っていたんです」

従者「しかし今はもう迷いはありません。自分の気持ちに正直に向き合えます」

夏彦「鵲様に助けられたか?」

従者「えぇ。」

従者「女中さんが好きです」

夏彦「あぁ、知ってる」

従者「本当に好きなんです」

夏彦「分かってるって」

従者「そんな軽いものでは無いのです!!分かりますか!?」

夏彦「分かるっつってんだろ!!俺を誰だと思ってるんだ!?」

夏彦「しかしまぁ...そう言いたくなる気持ちも分からないでもないぜ。俺にもそういう時期はあったからな」

従者「そ、そうなのですか...あの...」

夏彦「ん?」

従者「...辛くはなかったですか?」

夏彦「いんやぁ、かなり辛かったね。」

夏彦「感情が溢れて、はち切れそうだった。」

従者「そ、そうです....そんな感じです」

夏彦「今だけだよ。じきに慣れる」

従者「慣れる、ですか...」

夏彦「その気持ちを上手く扱えるようになるってことだ。行動へ向けられるようにな...」

夏彦「今は耐えるしかないかな...」


   寝室

従者「.......」バタン

従者「」バフッ

従者「」スキダーーー!

従者「ふぅ」

従者「......鵲様のあの言葉」

   『同じような相談を受けてね』

従者「やはりあれは...女中さんの話なのだろうか」

従者「....というのは都合が良すぎるか?いやでも...しかし...」

従者「......むむむ..」

従者「.....もしも...もしもの話だ...」

従者「女中さんが...私を好いて下さっているなら...」

従者「いる...なら.....」

従者「......」ニヘラ

従者「うひひひ...」キュッキュッ

夏彦「......」

従者「うひひえへえへ...」キュッキュッ

夏彦「...気持ち悪く笑いながら鏡を磨くなよ。ちょっと怖いぞ」

従者「いやぁそれは失礼...」エヘエヘ

夏彦「何がそんなに面白いんだ?」

従者「昨夜ははいい夢を見ましたよ。」

夏彦「女中の夢か」

従者「何故それがっ!?」ガーン

夏彦「おーい天然ボケ治ってないぞ~?」

   八月

従者「ふふふ....」パンッパンッ

夏彦「織女に会いたいよぉ...」ゴロゴロ

従者「はいはい、分かりましたからとりこんだ洗濯物を散らかすのはやめてくださいね~」ニコニコ

夏彦「なんと優しい肌触り...織女の心に触れているようだぁぁ」ゴロンゴロン

従者「全く、上手いことをおっしゃる」ケラケラ

夏彦「上機嫌だな。そこでひとつ従者、街に連れてってくれよぉ~」

従者「それはなりません」キリッ

従者「あなたは川に近づくだけでも危ないのだと。分かってます?」

夏彦「な、なんだよぅ...そんな怒らなくてもいいじゃんか」

従者「愛する人が出来たからといって、私は従者であることは忘れていませんよ。あなたを危険な目には遭わせない」

夏彦「お、おう...嬉しいお叱りだ」

従者「来年また会いたいでしょう?そのためにキッチリ仕事してくださいね」

夏彦「お前ほんと感じよくなったよなぁ...」

   九月

夏彦「なぁ....思うんだが」

従者「織姫様に会いたいんですか?分かります分かります」

夏彦「いやそうじゃなくて。俺は会いたくても会いたくても、今織女には会えないわけだ」

従者「ええ」

夏彦「でもお前はどうだ?女中に絶対会えない理由はないだろう」

従者「......えっと」

夏彦「同じ恋する男子としての疑問だよ。会いに行かないのか?」

従者「......会いに、ですか...」

従者「ですから立場的に会いづらく...」

夏彦「んなもん口実だろ。俺が女中に恋してたら無理矢理会いにいくぜ」

夏彦「別の理由があるんじゃないか?会おうとしないのは何故だ?」

従者「......あれから何度か覗きに行ったりはしているのですが」

夏彦「その行動力を何故会う方に向けない?」

従者「見てるだけで....満足だからですかね...」

従者「女中さんは...そう、私の女神です」

従者「心に思い浮かべるだけで幸せな気分になる。若々しいエネルギーが湧いてくる」

従者「そんな方なのです...」

夏彦「うぼぁ...そこまで言うかね」

従者「少々異常な見方だということは承知しています。しかし私の思いを言葉に表すとこうなのです」

夏彦「なんていうか...対等な存在じゃないって感じか」

従者「.......」

夏彦「どうした?」

従者「...それは考えたことがありませんでした」

夏彦「あのさ、女中が好きってのは、つまり『結婚したい』てことじゃないの?一生一緒にいたいっていう...」

従者「私が、女中さんと、結婚...」

従者「...........」

従者「」ボフッ

夏彦「おいどうした顔の赤さが尋常じゃないぞ」

従者「いえ....その、そういうことなんですが...」カァァァ

夏彦「あ?」

従者「あまり真剣に考えていなかったというか...そんなのは夢物語というか」

従者「今女中さんと会っても、緊張してまともに話せない気がします」

夏彦「ふぅん...それは分からんなぁ」

従者「先月までならこんな風には感じていなかったと思います...あれはある種の混乱状態だったというか」

夏彦「そう、人はそれを情熱と呼ぶ」

従者「は?」

夏彦「お前はそれを女中さんへのアプローチに向けなかったのがいけなかったんじゃないかな...変に冷静になっちゃった今なんだろう」

従者「彦星様はすぐに織姫様の目を惹こうとしたのですか?」

夏彦「おうよ。好きだと気づいたその日には行動してたな」

従者「なんというか...尊敬します」

   十月

鵲「その後どうなのよ」

従者「気持ちの変化はいくつもありました。今は女中さんのことを直視できません」

鵲「それはたとえ?」

従者「はい。思い浮かべるだけで赤くなってしまって」

鵲「重症ね...」

従者「鵲様の以前おっしゃったことの意味が、今なら分かる気がします」

鵲「『その感情の対象が自分と同じ人間であることを知ること』。まだ難しいようね」

従者「彦星様は今の私のような時期は知らないと...」

鵲「あー...あの子はちょっと...特殊な例だから。」

   十一月

従者「女中さんは神ではない。私と同じ人間だ」

従者「つまり女中さんが私を好いてくれることは、決して幻想ではない」

従者「七月に鵲様のおっしゃった『同じような相談』。あれはこのことを示すヒントだった」

従者「その相談をしてきたのは女中さんではないのかもしれない。しかし...」

従者「そこが問題なのではない。今好かれていなくとも、これから好かれることは可能なのだ」

従者「私は女中さんの恋人となりたい。そのためにすべきは努力なのだ!」

従者「....と自分に言い聞かせても」

従者「やっぱり不安だ...なんなんだこの妙な不安は...」モンモン

   十二月

夏彦「お前から恋バナを振られる日が来るとはな」

従者「ええ...」

夏彦「昔は俺の方から聞かせてはウザがられていたのにな」

従者「懐かしい話ですね」

夏彦「織女との出会いから...もうどれくらい経つだろうな」

   『腹が...減った...』

夏彦「俺は山で行き倒れ、割と真面目に死に掛けていた」

   『そこの牽牛、顔をお上げなさい』

夏彦「そこに天女が舞い降りた。つまり織女だ」

夏彦「織女は俺にちまきを恵み、村までの道を示してくれた」

夏彦「その時の感動といったらな。まさしく一目惚れする程だった」

   『お名前をお聞かせ下さい』

夏彦「しかし天女の態度は素っ気無かった。俺が回復したのを見るとさっさと消えてしまった」

従者「もうどうしようも無いではありませんか」

夏彦「その後天女が水浴びに来るという泉に行ったり、衣を盗んだり...」

従者「いやそれ...」

夏彦「牛が喋ったり、天に昇ってみたり、夜這いをかけたり色々した」

従者「色々で済ませますかね」

夏彦「迷惑がられたり嫌われたりぶったたかれたりしつつも俺はアタックを続け...」

夏彦「ついに織女の愛を手に入れた」

   『一途な牽牛よ。私はあなたの愛に応えましょう』

従者「やりましたね!」

夏彦「まだ話は終わっていない」

従者「は?」

夏彦「だから身分よ、身分。しがない牛飼いとの恋など、天帝様は認めて下さらなかった」

   『一途な牽牛よ。身の程を知り、愛を捨てるのだ』

夏彦「俺は悩んだ。どうすれば許していただけるか?」

従者「どうしたんですか...」

夏彦「すごく仕事を頑張った。」

従者「すごく...」

夏彦「織女の援助も受けてな。昼も夜も、とにかく仕事に打ち込んだ」

夏彦「牛舎の増築、家畜の世話、取引先の拡大...できる限りのことを続けた」

夏彦「そうして富を成し、地位を築くことで天帝様に認められようとしたわけだ」

従者「そんなことで本当にお許しをいただけたのですか?」

夏彦「そんなこと...ねぇ。あれは尋常なことでは無かったぞ?」

夏彦「俺の農場は繁栄を極めた。その地域の農畜の一切を担うほどになった」

夏彦「それでも頑張り続けた結果、俺は死んだ」

夏彦「そこまでして、ようやく天帝様に認められたんだ」

従者「なんという...それはそれは、お疲れ様で御座います」

夏彦「おうよ。そして天帝様にここで農場を任せられ、織女とも交際を許され...」

夏彦「俺は幸せの絶頂だった。もう何もかもが上手くいくと感じた」

従者「そして調子に乗りすぎ、仕事をサボり...」

   『腑抜けたか、愚か者め』

夏彦「まぁ...うん。ちょっと怒られて呪いかけられたり...な」

従者「壮絶な話ですね」

夏彦「これが俺の愛だよ」

夏彦「参考になったかよ」

従者「はい...そこまで出来る自信はありませんが」

夏彦「ここまでやる必要は無いだろ?お前の障害なんざちっぽけなもんだ」

従者「そうですね。簡単な話です」

夏彦「ほぉ。どうする気だ」

従者「次の七夕の日。私は女中さんに告白します」

   翌年 六月

従者「いよいよもうすぐですね」シュリシュリシュリ...

夏彦「おう...」ゲホッ

従者「七夕の日までには、その風邪治してくださいよ?」サクッサクッ

夏彦「当たり前よ...死んでも治すわ」

従者「はい、リンゴが剥けましたよ。どうぞ」コトン

夏彦「もし織女にうつしでもしたらと...気が気じゃないわ」シャクッ

従者「それ食べたらまた寝ててくださいね?」

夏彦「従者~、相手して」

従者「寝ててくださいと言うのに...」

夏彦「ずっと寝てて、もう眠気なんぞ欠片も残ってないんだよ」

従者「はいはい...いっそ話してる方が大人しいですからね」

夏彦「お前あれでしょ...コクるんでしょ?七夕で」

従者「ええ」

夏彦「なんでここまで待ったわけ?すぐ会えば良かったじゃん」

従者「それだとロマンチックに欠けるじゃありませんか」

従者「七夕の日に再会する、運命の相手だと思うのですよ」

夏彦「...うん?」

従者「これから先、七夕には新たな意味が加わるでしょうね。そう思いませんか?」

夏彦「あー...ごめん、ちょっと頭回らないのかな...よく分からない」

従者「女中さんもきっと応えて下さいます。いや好かれる私になってみせます」

夏彦「お前も今年ずっと仕事頑張ってたろ...きっと上手くいくよ」

従者「ありがとうございます。あぁ、七夕が楽しみです」

   七月

従者「いよいよですねー。身だしなみはしっかり決めねばなりませんね」シャーッシャーッ

   『櫛』

夏彦「そうだな...ちょっと面倒くさいけどな」

従者「ちょっと、頭動かさないでください。刺さりますよ」

夏彦「あだっ!」ブスッ

従者「言わんこっちゃない...」シャッシャッ

 彦星様、文使いが参りました

夏彦「ん...あぁ、入れ」

夏彦「織女の所から...?」カサッ

従者「何かありましたかね。七夕に支障が出なければよいですが」

夏彦「....」

従者「....」シャッシャッ

夏彦「....櫛はもういい。急ぎ馬の用意だ」ガタッ

従者「え........彦星様...?」

夏彦「早くしろ!」カサッ

    『織姫 危篤』

   バカラッバカラッバカラッバカラッ....

夏彦「...」バカラッバカラッ

従者「間もなく天の川です!」バカラッバカラッ

夏彦「.....鵲様...どうか..どうか....っ」バカラッバカラッ

従者「まだ七月七日ではありませんが緊急なのです!鵲様、橋を...」

  バァァァァァァァァァァ『橋』

従者「あ...あれはっ!既に橋が...かかっている!」バカラッバカラッ

夏彦「このまま行くぞ!」バカラッバガラッ

従者「鵲様!感謝致します!」バガラッバガッ

  バガラッバガラッ...           バガラッバガラッ...

鵲「二人の愛のために作り上げたこの橋...」

鵲「装飾に華やかを極めたこれを、まさか馬で走り抜けられる日が来るとはね...私の橋が壊れるわけは無いけれども」

鵲「非常の事態なのよ。天帝がうるさいようなら私が黙らせるわ」

鵲「だからどうか....どうか間に合って頂戴...」

夏彦「.........」

女中「.........」

夏彦「.....バカな」

夏彦「バカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなっ!!」

従者「お気を確かに...」

夏彦「ーーーーーーーーーーーっ!!!!」

夏彦「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

夏彦「」グラッ

従者「...っ!」ガシッ

夏彦「うそ.....うそ...うそうそ...」ブツブツ

従者「『すでに』でしたから...」

女中「...なんということでしょうね」

従者「悲しすぎます。世界一に愛し合っていた二人です、御悲嘆察するに余りあります」

女中「その後の御様子はいかがに...?」

従者「不安定な様子で、私が支えねばならぬと...常に目を離さぬようにしていたつもりでした」

従者「....なのに、です...全くいつの間に...彦星様が...」

従者「自ら...天の川に...」

女中「っ!!」

従者「いえ、彦星様は無事です...事前に察知された天帝様に呪いはとかれていましたので...」

従者「体は無事でも心は死んでしまったようです...何を言っても反応なさいません」

女中「...そうですか」

従者「私は...従者失格ですね」

女中「.....」

女中「...それは私の方なのです」

従者「...?」

女中「織姫様に仕える者としてあるまじき失態です」

女中「私は.........私は...」

女中「.........織姫様は私のせいで死んだようなものなのです」

女中「織姫様は体が弱いのです...すぐに体調を崩してしまうのです」

女中「私はそれを知っていたのです...傍に仕える者として注意しなければならない...」

女中「.............だというのに」

従者「.....考えすぎです」

女中「違います」

女中「気づくべきことを見逃したのです。流行り病です...いつもならすぐに対処できたはずなのです」

従者「....いつもなら..?」

女中「...私は...」

女中「......あなたが好きでした」

従者「」ドクンッ

女中「去年の七夕の際、おっしゃいましたね」

従者「...『月が綺麗ですね』」

女中「あれは...愛の言葉ですよね?遠まわしに、相手にささやく...」

従者「...そうなりますね」

女中「あ....あなたが私を...この女中を好いて下さっていると...考え...」

女中「私は...夢見心地で...ふわふわと気持ちが良くて...」サーッ

女中「仕事が...私は...あろうことか....わ、私...は...」ガタガタ

従者「......女中さん、私は」

従者「私は今日この日、あなたに愛を告白しようと決意していました。七夕を待っていました」

女中「」ドキン

従者「あなたを愛していました。私を見て欲しいと思いました」

従者「私も愛する人とともに生きていきたいと...あなたが欲しかったのです」

女中「...私も」

従者「しかし」

従者「...恋は盲目、ですか。こうして会うまで私は、あなたの事すらまともに見えていなかったようで」

従者「私はただ...頭の中に作った理想の像を相手に恋をしていたに過ぎなかったようです」

女中「っ...」ズキン

従者「これからお互い忙しくなりますね」

女中「...ええ」

従者「あの二人の真似事、恋愛ごっこをするような余裕は出来ませんね」

女中「...始まっても...いないのに...」

従者「もう会うこともそうそう無いでしょう」

女中「.....」

従者「分かりますよね?これが恋のもたらす結末です。方や病に死に、方や心を失い。」

従者「もうこりごりなんですよ」

女中「..........ええ」

従者「それでは...お元気で」

女中「あ...あなた...も...」

従者「さようなら」ペコッ

女中「........」

女中「....さよ...な...」

女中「............」

女中「」グスン

          完

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