ベルトルト「こんな化物屋敷にいられるか!僕は帰るぞ!」(65)


ホラー?注意

訓練兵舎のすぐ脇には、旧訓練兵舎がある。
旧訓練所は、数十年前は王政府の人間が別荘に使っていたとかで、つくりは丈夫だ。
だから、今でも訓練兵舎が使えないときは、訓練兵はそちらを一時的に利用したりする。
しかし、ここは死者が多い訓練所の兵舎だ。
今でも未練のある訓練兵たちの幽霊がでてきて、侵入者を追い出そうとするのだという。



ギイイイ……

キース「では、翌朝までこの扉は外部より施錠される。開錠は朝6時の予定だ。
    ……わかっていると思うが、兵士の自覚を持って一晩過ごすように」

全員「「ハッ」」

バタン 
ガチャン

ジャン「……なんだよ、兵士の自覚を持って、って……。1年目だからって、俺達がお泊まり会ではしゃぐようなガキだと思ってんのか? あの教官」

マルコ「まあまあ……。教官の目のないところで夜を明かすのって、考えたら初めてなんだしさ。
    教官も心配しているんだよ」

アルミン「そうだね。昨日のような地震が、今日も来るとも限らないし」

エレン「え。地震ってそんなしょっちゅう来るものなのかよ、アルミン」

アルミン「この地域では滅多にないことだからね。一度くると、しばらく続くっていうのが定説だよ」

エレン「へえ……。こっちの旧兵舎まで地震で壊れる、なんてのは勘弁してほしいな」

アルミン「そうだね。一週間だっけ。僕らの7人部屋の天井の修復にかかる時間。

     環境が変わると体調に影響がでそうだから、正直早く帰りたいな……王政府の建物だなんて。
     だいたいこれだけ費用のかかりそうな建物がほぼ無使用で兵舎に流用されているって時点で、
     王政府は無計画なように思える」

ライナー「そういうなよ、アルミン。旧兵舎に泊まれる機会なんてきっとこれっきりだぜ」

コニー「そういや……でるらしいな」

エレン「幽霊だよな」

ジャン「そういや、もへったくれもあるかよコニー。昨日、先輩が散々脅してきやがったじゃねーか……。
    事故死した訓練兵のお化けがでても、ションベン漏らして戻ってくんなよって。馬鹿にしてるぜ」

アルミン「そう言うってことは……。かつて、先輩はお化けを見てションベン漏らして戻ってきたってことかな……」

ジャン「ぶはっ。それだ。くくく、自分の経験があるから、そういう発想になるっつーことだよ」

ライナー「とにかく……、各自、荷物を個室に置いてこよう。それで寝たいヤツは寝ればいいし、
     まだ起きていたければ、またこの広間に集まればいい。解散にしようぜ」

コニー「そうだなー。ふあー、言われてみれば眠くなってきた……」

マルコ「明日も訓練は通常通り行われるからね。早く休んだほうがいいかもね」

ベルトルト「そうだね……」

エレン「しっかし暑いな。俺、窓を開けて回っとくよ」

アルミン「僕も行く。この建物の構造、よく知っておきたいし」

ライナー「悪いな、任せたぜ」

マルコ「じゃあ、ひとまず解散だね。みんなお疲れ様」

・・

一番西の個室

ジャン(へー。さすが、王政府が使ってたってだけあって、個室は広いな。
    ……考えたら、一人で寝るのも久しぶりだな。これだけは得したって言えるな)

ジャン「予習もしたし、寝るか」

ジャン(しかし……なんか、異様な雰囲気だよな。重苦しいっつーか。
    ……べ、別に、びびってなんかねーけどな……)ボフッ

・・

ジャン「……。朝か。腹減ったな、広間へ行こう」

広間

マルコ「やあ、おはようジャン。先に食べてるよ」

アルミン「ジャンおはよう。君の分は今から準備するから、ちょっと待ってね」カチャ

ジャン「ああ、悪いな……。……? それ、肉!?」

コニー「へへ、驚いたろ、ジャン。教官が持たせてくれたんだ」

ジャン「確かにすげえ……けど……それ、なんか生っぽくないか? そういう燻製なのか……?」

コニー「こういうのがうめーんだよ、ジャン」

アルミン「ジャン、おまたせ。君のはちょっと部位が違うよ」カチャ

ジャン「ああ。……!?」ガタッ

ライナー「どうしたんだ?」

ジャン(こ、これ、心臓そのものじゃねーか? 血が滴ってるじゃねえか、これを食うのかよ……!?)

アルミン「? ジャン、どうかした?」グチュ、ピチャ

マルコ「うまいよ」バリバリ

ガブッ ピチャッ グチュッ モグモグ バリバリ

ジャン「う、うえ……、俺は……」

ベルトルト「え。食べないのか?」ゴリゴリ

ジャン「あ、ああ」

ザワ

マルコ「ほ、本当に? ジャン、どこか悪いの?」グチャ

エレン「せっかく教官が持たせてくれたのに……。食べろよジャン、教官に悪いぞ」ガシ グイッ

ジャン「む、無理矢理食わそうとすんなって……血生臭え!」(なんか、人間の死体の臭いみたいな……)

アルミン「……ジャン、教官に恨みあるからって、そういう態度は感じ悪いよ」

ベルトルト「そういえば、ジャン、なんか……」ガタ ガシ

ライナー「そうだな……」ガタ ガシ

ジャン「な、なんだよ」

ベルトルト「おいしそうだよね?」

・・

ジャン「!!」ガバ

ミーン ミーン ミーン

ジャン「……夢か。……喉渇いたな」

・・

廊下

ガラッ

エレン「廊下で開けれる窓って、これくらいか。ちょっとは涼しくなるかな? ……アルミン、なに見てんだ?」

アルミン「見てくれ、エレン」

エレン「?」

アルミン「この天井部分、大分塗装が剥がれてしまっているんだけど」

エレン「ああ。随分古いらしいからな」

アルミン「露出された塗装の内側……。つまり骨組み部分。なんだかおかしくないか?」

エレン「おかしい? ……白い、大きな柱みたいなものが見えるな」

アルミン「骨みたいに見えないか?」

エレン「ああ……言われてみれば。もしかして、動物の骨でも使ってるとか?」

アルミン「過去の建築技術かな。だとしたらかなり大きな動物だよね……」

エレン「そうだな……。おまえでもわからないのかよ?」

アルミン「今まで読んだ本で、ここまで大きな生き物のことは……、!」フッ

エレン「! ……ランプが消えたな。油切れか?」

アルミン「十分入っていたはずだけど」

エレン「広間に戻ろうぜ。……?」

アルミン「エレン?」

エレン「なんか、風の音みたいなのが聞こえないか? ヒューヒュー鳴ってる……」

アルミン「……? 言われてみれば、確かに」

エレン「向こうの方から聞こえる……。なんか、女の声みたいに聞こえるんだ」

アルミン「そうだね、そうとも聞こえ……ちょっとエレン、どこに行くんだ」ガシ

エレン「誰か女の人がいるのかもしれねーだろ。確かめてくる」

アルミン「よ、よせよ。いるわけないだろ。ここは僕らが入るまで施錠されてたんだぞ?」

エレン「まあそうだけどよ……」

アルミン「風の音だよ……エレン。戻ろう」

エレン「……カエレって言ってる」

アルミン「……。そう、とも聞こえるけれど……。なんにせよ、行って得することなんかないよ」

エレン「……」

アルミン「塗装が剥がれていることを考えると、この建物の強度も怪しいんだ、エレン。
     あまり見て回るのは危険なように思える」


エレン「……」

アルミン「エレン?」

エレン「……え? あ、ああ。そうだな。帰ろう、アルミン」

・・

広間西側の個室

マルコ(王政府の人間の別荘か……。ここで、王政府の人間が寝ていたんだな。
    まあ、王でないんだから、緊張しても仕方がないけれど)ボフ

マルコ(旧式の建築技術……。すごく興味深いな。見て回りたい……。まあ、明日だな。
    夜のうちに出歩くのは、よくないだろう。もう寝てる人もいるだろうしね)スク

パチン

マルコ(ランプも消したし窓も閉めた。寝よう)スタスタ ボフッ ……スー

・・

マルコ(……、喉乾いたな)パチ

マルコ(あれ? ああ……。旧兵舎か、ここは)パチパチ

サアア…… 

マルコ(水飲みに行こう。? あれ……窓閉めなかったけ。木の枝が揺れる音がする)ムク

サアアア……

マルコ(まあ人は目を閉じると聴覚が敏感になるっていうからな……風が心地よさそうだ……後で窓を開けよう)スタスタ

マルコ「えっと、ランプは……」

パチン 

パッ

マルコ「……。……!!?」ガバッ

蛾の大群『………』サアアアア……

マルコ「む、虫ッ!?」(壁一面にびっしり……なんだこれっ……、……が、蛾の大群……!?)

蛾の大群『……』サアアアア…… カサカサカサ…… キチキチキチキチ……!

マルコ「!」

バタバタバタッバサバサバサバサバサバサッ!!

マルコ「う、うわあ!」(一斉に飛び立って、こっちに……!! ……ら、ランプか!)ポイッ

ガチャンッ 

バサバサバサバサバサバサバサ バタバタバタバタ パタパタパタ

マルコ「うぐ……っ」(目が開けられない……、く、口も……。とにかく、ま、窓!)フラフラ

ガチャ!

バサバサッ……バタバタバタバタバタッ

マルコ「……!!」シャガム

……パタパタパタ……

シーン

マルコ(ほとんど一斉に、出て行った……)ムク

マルコ「な、なんなんだ……、う、……服、鱗粉だらけ……っ」ドクドク

・・

広間東側の個室

コンコン

ライナー「はい?」

ベルトルト「ライナー、いいか?」ガチャ

ライナー「ああ。どうした」

ベルトルト「僕の個室、なんか物音がするんだけど。君、聞こえない?」

ライナー「物音? どんな音だ」

ベルトルト「なんていうか……ガタガタガタって、物が揺れるような音。窓なんかは閉めてるんだけど」

ライナー「小さい地震でも起きてるのかもしれないな……。お前の部屋は、扉の立て付けでも悪いんだろう。
     こっちは聞こえないぜ」

ベルトルト「そうか。わかった」

ライナー「……。まあ、こっちの部屋にいたいならいろよ」

ベルトルト「ごめん……」

ライナー「もう13歳のくせに、相変わらずお化けとか怖いのか、おまえ……。……?」

ガタガタガタッ

ベルトルト「! この音だ、ライナー」

ライナー「ああ、確かに聞こえるな。俺は初めて聞いたが……。おまえ、なんかとりつかれたんじゃないか?」

ベルトルト「や、やめろよ」

ガタ、 ガタガタ、 ガタガタ、 ガタ

ライナー「……。床は揺れてない。が、家具だけはどれも揺れている。妙だな」

ベルトルト「ポルターガイストってやつか……?」

ライナー「どうやら幽霊騒ぎは案外先輩の脅しって訳でも……。……」

ガタ、 ガタガタガタ、

ベルトルト「ライナー?」

ライナー「揺れに規則性がないか?」

ベルトルト「規則性? ……言われてみれば。……信号?」

ライナー「ああ、故郷で習った信号によく似てる……。……なにか……」

ガタガタガタ ガタガタ

ベルトルト「……マ、ル、セ、ル……?」

・・

一番東の個室

ガタガタ

コニー「ん?」

コニー(押入れから、なにか音がするな。ねずみか?)ガチャ

シーン

コニー(なにもいねえな。中は空だけど、逃げちまったか?)ヒョコ

コニー「おーい……」キョロキョロ

バタン!!

コニー「!」(あ、あれ? 扉が勝手に閉まったぞ)グイ

コニー(ん……、なんだ? 立て付けでもおかしいのか? 開かねえ……)グイグイ

コニー「う~……!! ……はあ」(だめだ。ビクともしねえよ……)グイーッ

コニー「おーい。おーい、誰か……。……?」ドンドン、……ピタ

……ガタガタガタ

コニー(やっぱり、奥から音がする。壁の中に、何かいるのか?)

コニー「……。おーい、誰か聞こえ……っ、っ! んぐうっ!!」ガシッ!!

ガタンッ ドサッ

コニー(痛ッ、く、口が塞がれた!? 掌……!? イヤ、掌じゃねえ、なんか、でけえ蛇みたいな、!?)

コニー「んぐっ、うむむむ……!!」グイッ ガ゙シッ

コニー(う、腕や腰にも、なんだこれ……!)

コニー「……!」ズル、ズル、

コニー(な、なんだ……壁の中、巣にでも引きずり込む気か、……っ、コイツ!)ガリッ

ズル、ズル…… ピタ

コニー(! 緩んだ、今だ)

コニー「~~う、うわああああっ」グググ…… ブチッ! ドンッ ガチャッ

ゴロゴロゴロ ドンッ

コニー「いった! ……!?」ガバ

コニー(……出られた。拘束が緩んだスキに、戸にぶつかったら戸が開いたんだ。……)ドキドキ

コニー「……」クル

シーン

コニー「……なにもいねえ……」

・・

ガチャ

コニー「なあみんな、!」

マルコ「コニー。君もなにか……?」

コニー「あ、ああ。なんか、動物かなにかいるみたいなんだよ。とにかく妙で……。
    ……え、君もって、みんななにか見たのか?」

エレン「……俺とアルミンは、ちょっと変な声を聞いたってだけなんだけどさ」

マルコ「コニー。僕の部屋は急に虫が大量発生、ベルトルトとライナーの部屋では
    ポルターガイストのようなことが起きたらしいんだ」

アルミン「幽霊騒ぎは嘘じゃないようなんだよね……」

ライナー「まあ、実害はないし。危険があるとは思えないがな」

エレン「俺もそう思う。……幽霊だとしても、元は人間なんだぜ。
    こっちからなにかしなきゃ、そう悪さなんてしねーはずだ」

ベルトルト「今は2時。朝日が昇るまで……後3時間くらいか」

ライナー「朝日が昇っても、教官が開錠に来なきゃ意味がないぜ。後4時間か」

マルコ「しかし……、もしも訓練兵の幽霊たちの仕業なら、一体なんでこんなことを……?」

ジャン「さあな……、やっぱり、自分らの屋敷の侵入者とでも思ってんだろ。全く迷惑なヤツらだ」

ガチャン!!

アルミン「……、か、かけてた絵が落ちた。地震かな?」

コニー「ジャンの言葉に怒ったんじゃ……」

ジャン「な、なんだそれ、図星なんじゃねーかよ……!」

マルコ「……ここにいて大丈夫なんだろうか……。異常が幽霊のせいにせよなんにせよ、
    かなり老朽化しているようだし。危険じゃないかな?」

ライナー「まあ……おとなしくしておこう。朝までここで待てばいいだけの話だ」

ベルトルト「そうだね……」

コニー「幽霊……って言ったらさ」

アルミン「うん?」

コニー「幽霊って、誰かに乗り移ったりするんじゃねえか?」

ジャン「……。それで? ここにいる誰かに、幽霊が入っているとでもいいたいのか」

コニー「イヤ……ありえなくはないだろ?」

マルコ「幽霊が乗り移っていても、中身はただの訓練兵の幽霊だ! 怖い事なんてないよ」

ライナー「その通りだ。不安がっても仕方ないぞ……。考えてみろ、俺みたいないかにも
     デカイやつがとり憑かれて……男を襲う、なんてタマに見えるか? 
     まあ、可愛い女子相手になら、わからなくもないが」

アルミン「……え、襲いたいの? 可愛い子を?」

ライナー「イヤ、違う……俺が襲うんじゃなくて、幽霊がとり憑くんだ……。違うって言ってるだろ。
     オイ。距離をとるんじゃない」

マルコ「アルミン……コニー……、僕らの後ろにいるんだ……」

ジャン「ライナー……。可愛い子が好きなホモって噂は実は……っ」

ライナー「違うって言ってるだろ……! 仮に襲うならクリスタみたいな女子だ!」

アルミン「クリスタを襲いたいの……?」

ベルトルト「ライナー……なんでそう墓穴を……」

ガシャーン!!


マルコ「!」

コニー「戸棚が倒れてる……、ガラスが散乱してるぜ」

アルミン「……っあんな重いものまで倒れるって」

ライナー「片付けよう。近づくなよ」

エレン「俺も手伝うよ」

ジャン「……エレン、見てたら、お前はちっとも怖がってないみたいだな」

エレン「別に……。幽霊でも母さんに会えるならいいと思っちまうからかな」

ジャン「母さんね……。おまえみたいなヤツって一番取り憑かれそうだな」

ライナー「故人に会えるなら、というエレンの気持ちもわかるぜ。
     ……。実はさっきも、故郷の友人の幽霊がいたようなんだ」

ベルトルト「……」

マルコ「え!?」

エレン「……ほ、本当か、ライナー」

ライナー「とにかく、幽霊だからといって、怯える必要はないってことだ」

ジャン「そうだな……。なんだか、ここだとよく寝れそうだ。少し寝ていいか?」

マルコ「いいよ。明日も訓練だしな、寝た方がいいよ」

コニー「……。悪い、俺も……」

ライナー「……アルミン、そういえば。さっき建物を見て回っていたようだが、なにか発見はあったのか」

アルミン「そうなんだよ、ライナー。実は塗装の剥がれたところからまるで骨のような……」

ライナー「……骨だって?」

エレン「……なあベルトルト」

ベルトルト「え、何だい?」

エレン「さっき、友達の幽霊に会ったって言ってたけど、本当か?」

ベルトルト「ああ……本当だよ。……」

エレン「どういうふうに、姿を現したんだよ」

ベルトルト「うん。それは……」

マルコ(……4人とも起きてるみたいだし、水を持ってこよう)スク

調理室

マルコ(持ってきていた水桶は……、……? すきま風が……)

…………、……カエレ……カエレ……!

マルコ(風の音が、女の人の声みたいに聞こえる)

マルコ「……君は、ライナーやエレンが言うみたいに、悪い幽霊ではないのか?」

カエレ……カエレ……カエレ!

マルコ「うわっ!」ガチャンッ

マルコ(水桶がひっくりかえって……。拭かないと……)

……カエレ……カエレ……カエレ……

マルコ「君たちは何を守ってるんだ……?」

・・

マルコ「みんな、水だよ」

ライナー「マルコ。おまえ、やっぱり調理室だったのか……遅かったから心配したぜ」

マルコ「ああごめん。少し水をこぼしてしまって……。4人とも起きていたんだね」

アルミン「うん。この建物の構造について話していたんだ」

マルコ「構造……、その話、僕も聞いていいかな」

エレン「……そうなのか。そうやって会話を」

ベルトルト「うん……山奥に伝わる信号なんだ。……エレンはさ、」

エレン「ん?」

ベルトルト「本当に……お母さんと会いたいと思ってるんだね」

エレン「え? ……ああ、そりゃあな。……巨人全部駆逐して、化物のいない世界を早く見せてやりてえよ」

ベルトルト「そうか……その気持ちは、よくわかるよ」


マルコ「……。……、ごめん、僕も急に眠くなって……」

ライナー「気にするな、寝ろよマルコ。俺はまだアルミンと話がしたい」

アルミン「ああ。おやすみマルコ」

マルコ「ごめんね……。……」グーグー

・・

マルコ「……?」

アルミン「あ。マルコ、ごめん、起こした?」

マルコ「イヤ……、今、何時だい?」

ベルトルト「5時前かな」

アルミン「結局、夜通し、4人で話をしてしまって……」

マルコ「君たち、仲がいいよね。話すことが尽きないんだね」

アルミン「僕とベルトルトは、ずっと古代建築の議論をしていたんだけどね……」

ベルトルト「エレンとライナーは、すごいよ。色んな話題で、次々話をしている」

アルミン「本当に馬が合うんだと思うよ。……」

マルコ「……さみしいと思ったりするの?」

アルミン「え?」

マルコ「イヤ、ごめん。なんだかそう見えたから。僕は幼馴染っていないから、どういう気持ちなんだろうと思って……」

アルミン「寂しいとかはないよ。……なんていうか安心していたんだ。エレンは
     お母さんを亡くしてからずっと駆逐のことばかりで……ああいうふうに
     リラックスできるようになったんだと思うとさ」

マルコ「そうか。そうだよね、巨人に襲われたんだから……」

ベルトルト「……あ」

アルミン「うん、だからよかったよ。君たちとなら、」

ベルトルト「日が登る……」

アルミン「この先、2年もなんとかやっていけそうだと思って」

マルコ「そうだね、僕もそう思うよ。……? ベルトルト、どうかした」

ベルトルト「あ、イヤ。日が昇るなと思って……。つい、徹夜してしまった」

ライナー「こんな状況だ、どうせ誰か番をしていたんだ。それにまだ多少時間はあるぜ。
     日が昇ったなら、もう幽霊もでてこないだろう」

アルミン「そうだね。……ふああ、そう思ったら、なんだか……眠くなってきた」

ライナー「ああ、ここのソファで寝とけよ。エレンも、寝たほうがいいぜ」

エレン「ああ……、ありがとよライナー」

ベルトルト「あ、これ、毛布。使ってよ二人とも」

アルミン「ありがとう……、……」カクン、カクン

エレン「悪いな……ちょっと寝るぜ」フア

ライナー「ああ、気にせず寝とけよ」

マルコ「君たちも寝なよ。僕が起きておくから」

ベルトルト「寝たほうがいいんだろうけど……なんだか目が冴えちゃってさ」

ライナー「ああ、一晩くらい平気だ」

マルコ「本当かい? なんだかごめんね……君ら、本当にいい人だね」

ライナー・ベルトルト「……」

マルコ「?」

ライナー「そんなことはないぜ」

ベルトルト「ああ、そんなことないよ」

マルコ「そんなことあるって……。でも、今日もいい天気だ。朝日が射して……」キイ

グラッ

マルコ「えっ?」

グラグラグラグラ ガタガタガタガタガタ!!!

マルコ「じ、地震か!?……っ」

ライナー「マルコ! 危ない、テーブルの下に潜れ!!」グイッ

マルコ「うっ! ……あ、ああ。ありがとうライナー」ドサ

ガタガタガタ ギギギギギ……ボキボキボキッ!!!

ジャン「じ、地震か!?」

コニー「なんだ、……お、オイ、これ、建物崩れちまうんじゃ……っ」

ライナー「とにかく動くな。テーブルの下にいるんだ」

ジャン「イヤ、これはもう外に出たほうが……っ、! おい、エレン、アルミン!!」バッ

バリバリバリバリッ

ジャン「肉?」

グチャッ!!

・・


ザワザワザワ……

上官A「老朽化により……建物が全壊……。信じられないな、あれだけ丈夫とうたわれていた
   旧訓練兵舎が……」

上官B「ああ……訓練兵には、本当に悪いことをした。まだ1年目……12歳だったのに……」

上官A「生き残ったのは、2名だけか」

上官B「イヤ、二人行方不明だ。イエーガーとアルレルトか……。
    ……この巨大な建物のどこかにいるんだろう……。見つけるのに、何日かかるかわからないがな」

上官A「3名はほぼ即死だったようだな……。一人は、発見時辛うじて息があったらしいが」

上官B「ああ聞いたよ。かわいそうにな……。「肉が、骨が」と呻いていたそうだ。
    同期が死ぬ、凄惨な様を見たんだろう。

    ……ああ、すまないな。親しい同室の同期が死んで、辛いだろうに、こんな話を聞かせて。
    君たち、優秀だそうだし、どうか気に病まないようにしてくれ」

ライナー「……イエ」

ベルトルト「……彼らの意思を引き受けて生きます、俺たちは」

・・

3年後

カーカー

アニ「……」

ガチャ、ガチャ

ライナー「アニ。瓦礫の山の上にいたのか。……すげえ死臭だな……山にいくつ死体があるんだ」

アニ「ライナー。どうだった」

ライナー「問題ない。全員死んでた」

アニ「そう。……これで、本当に終わりだね」

ベルトルト「ああ、壁は全部壊した。壁内の悪魔は全滅だ。俺たちの任務も終わりだよ」

ライナー「ああ……おまえがいてくれて、本当に助かったぜ。マルセル」

・・

3年前、旧訓練兵舎 広間東側個室 

ベルトルト「……マ、ル、セ、ル……?」

ライナー「マルセル……確かに、そう言っているな」

ベルトルト「ここにマルセルがいるってことか……? なんで……」

ライナー「というよりは、ここだとマルセルが姿を表せられるってことじゃないか。
     幽霊が多いここは、いわゆる心霊スポットのような場所だ。

     ……なんとか、姿を表せられないのか」

ベルトルト「……山の神様が、幽霊を人に乗り移らせる方法を教えてくれたんだ。
      僕を入れ物にして、マルセルを生き返らそう」

ライナー「あのな……おまえ、それは完全におまえの身体をマルセルに渡すってことだぞ。
     おまえが「入れ物役」として育てられたのは、そのためじゃ……」

ベルトルト「でも、僕の巨人と、マルセルの精神があれば、きっと任務はうまく行くよ。
      ……大丈夫だ、マルセルが乗り移っても、僕の精神は消える訳じゃない」

ライナー「……。本当にいいのか」

ベルトルト「ああ。いいんだ。……やってみるよ」

・・

ベルトルト「ライナー、ベルトルト」

ライナー「マルセルなのか……本当に。それで、ベルトルトは……」

ベルトルト「ベルトルトは中にいる。俺にはベルトルトの声はちゃんと聞こえる、大丈夫だ。

      ……それで、俺がおまえらの前にこうして強く現れたのは。緊急事態だからだ」

ライナー「緊急事態?」

ベルトルト「どうやら、この建物は、壁をつくった要領で……。眠らされた先祖の巨人が
      骨組みに使われているようなんだよ」

ライナー「……!? な、なんだって」

ベルトルト「悪趣味だ。100年前の王政府が、なに考えてこんなもの作ったか知らないが……。

      実は、昨日の地震で塗装が剥げて、光を浴びた巨人は目を覚まそうとしているんだ」

ライナー「目を覚ますって……、それは……」

ベルトルト「ああ。非常にまずい。目覚めた知性巨人が人間を求めて散歩でも始めたら……。
      壁の秘密も、巨人の秘密もバレてしまう。

      壁教のヤツらも、この建物が壊れるのはノーマークみたいだな。まあ壁じゃないから当然だが……。

      だから、巨人が目覚めるのをなんとか阻止しないと、任務は失敗だ」

ライナー「塗装の修復をして、日光が当たらないようにすればいいのか?」

ベルトルト「もう修復でどうこうなるレベルじゃないんだ」

ライナー「ならどうする……」

ベルトルト「聞いてくれ。この建物の広間の部分。あそこは丁度、アバラを骨組みにしている。
      いわば位置的には腹の中なんだ。

      目を覚まして、完全な巨人の肉体が作られれば、あそこにいた人は自動的に胃の中に飲み込まれることになる。
      すると即消化ができるわけだから……。散歩を始める前に、うなじから
      でてこれる可能性が高い。

      うなじからでれば、残った巨人の身体は蒸発する。うなじにいた人は、適当に逃せばいいだろう」

ライナー「なるほど……。つまり、夜明けに広間に人を集めておけば、目覚めると同時に、
     そこにいる人間を食って元に戻れる。そうすれば、壁内のヤツらにバレる危険は少ないってことか」

ベルトルト「まあ、苦肉の策だがな……。やる価値はある」

ライナー「わかった。じゃあ、ここで寝ている壁内人類を食わせよう。それで解決だ、俺に任せてくれ」

ベルトルト「ああ。……そうだ。ここには、訓練兵の幽霊がいる」

ライナー「幽霊?」

ベルトルト「ああ。そいつらがいてくれたおかげで、俺の姿も安定して、こうして接触できたってわけだ。

      だが……訓練兵の幽霊は、俺と同じく、この建物の骨組みが巨人でできてて危険だってことを知っているんだ。
      だから、ここに人が入ってくると、脅かして追い出そうとする。

      今日も、おまえらといっしょに入ってきたヤツらを脅かすはずだ。そいつらのせいで逃がさないようにな」

ライナー「なるほど……そういうことだったのか。わかった、兄貴らしく、励ましたり和ませたりして、
     壁内人類をこの場から逃がさないようにするよ。必ず食わせる。安心してくれ、マルセル」

・・

ライナー「あのときの出来事がどう影響しているかはわからないが。
     おまえがいて、4人揃ってるってだけで、かなり任務がスムーズに進んだぜ」

アニ「……精神的支柱の存在は、大きかったかもね」

ベルトルト「はは、ベルトルトに感謝しないとな。……ああ、ベルトルトも喜んでるよ。
      『化物の住んでいるところにはいるのはつらいから、早く帰れてうれしい』ってな」

ライナー「そうか。……そうだな、これで帰れるんだな」

アニ「ああ、帰れるよ」

ズシン ズシン ズシン

巨人「オアーーーー」

ベルトルト「故郷の、山の神様のところへ行けるんだ」

アニ「……死ぬってことだけどね」

ベルトルト「そうだな。怖いのか?」

アニ「イヤ、不思議と怖くないよ」

ライナー「……」

巨人「アアアーーーー」

ライナー「でけえな……。不思議じゃないだろ。完璧な戦士の化物同士……4人でなら、なにも怖くないよ」


終わり

補足

アルミン「……アレ。暑い。窓を開けないと、うぶっ……?」

アルミン(なんだこれ。溺れてる? 暑い。これは夢? ア、暑いよ……おじいちゃ……)

エレン「ん、んぐッ……」ゴポッ

アルミン「!」

アルミン(エレン。君まで、ここに。……ここはどこなんだ? 熱くて、……身体を溶かすような液体に浸かってる……ッ、
     こんなの初めてだ!)

アルミン「エレン、エレン! 君、意識はあるか!?」

エレン「あ、アルミン……?」

アルミン「ああ、エレン……! なんとかここから出」

エレン「アルミッ……、だ……」ゴボッ

ジュウッ

アルミン「え、……エレン?」バシャバシャバシャ

アルミン(エレンが沈んだ。イヤ、溶けた? そんな馬鹿な。エレンが死んだとでも!?)バシャバシャ ガシ!!!

エレン「……」くたっ

アルミン「……、! 息をしてくれえっ、エレン! !」

バシャアッ

アルミン(なにか……落ちてきた。脚だ。誰の? ……つまり……誰かの脚だ、ここに落ちてきた。イヤ……)

アルミン「一部が、食べられたんだ?」

アルミン(薄暗い……、よく見えないが……。頭上に。小さな穴が見える。あそこから、この脚は落ちてきたんだ。! 脚の履いてる、ブーツの名前!)

アルミン「……マル、コ、ボット、……」

アルミン(……これはマルコの脚。……なら、マルコの脚が、この穴から落ちてきた。
     この穴の向こうで、マルコの脚はちぎられた。

     ……僕らは捕食されたのか? イヤもう……そんなことどうでもいいッ)

アルミン「エレン!」ガシッ!!

アルミン「ここは巨人の腹の中だ!! エレン! 目を覚ませッ!!
     お前はこんなとこで死んでいい人じゃないだろうがあッ!! あ」ボト

エレンの生首「……」

アルミン「エレン、エレ……、ミカサが……君を亡くしたらどうなると思う!? へ、返事をしろおおおおッ、
     君も僕も、巨人に消化されていい訳が、……、あ……」

・・


上官「……。よし。もう検証はいい、これは事故だったんだ。ブラウン、フーバー。何も気にせず兵舎に戻れ」

ライナー・ベルトルト「ハッ」

ザッ、ザッ、ザッ、……

上官「……、気の毒に。オイ、彼らには、成績を上乗せしておけよ」

ザッザッザッ

ライナー「エレンとアルミンは食われたみたいだな。知性巨人のために」

ベルトルト「ああ。気の毒だな。でもこれで成功だぜライナー。僕らの任務における危険因子は消えたのさ。後は845年を待つだけだ」

・・

2年後

イエーガーとアルレルトの死体は未だ行方不明だ。
アッカーマンは気を病んだが、同期をからめたカウンセリングの甲斐あり、首席を維持し卒業、今や憲兵だ。

上官「……845年の始まり。今日も壁内は平和だ」


終わり

レスありがとうございます
補足部分は衝動的に書き足して、今読むとかなり粗があるので、無視してください……

>>36から差し替え


ザワザワザワ……

上官A「老朽化により……建物が全壊……。信じられないな、あれだけ丈夫とうたわれていた
   旧訓練兵舎が……」

上官B「ああ……訓練兵には、本当に悪いことをした。まだ1年目……12歳だったのに……」

上官A「生き残ったのは、2名だけか」

上官B「イヤ、1人行方不明だ。イエーガーか……。
    ……この巨大な建物のどこかにいるんだろう……。見つけるのに、何日かかるかわからないがな」

上官A「4名はほぼ即死だったようだな……。一人は、発見時辛うじて息があったらしいが」

上官B「ああ聞いたよ。かわいそうにな……。「肉が、骨が」と呻いていたそうだ。
    同期が死ぬ、凄惨な様を見たんだろう。

    ……ああ、すまないな。親しい同室の同期が死んで、辛いだろうに、こんな話を聞かせて。
    君たち、優秀だそうだし、どうか気に病まないようにしてくれ」

ライナー「……イエ」

ベルトルト「……彼らの意思を引き受けて生きないと、俺たちは」

・・


3年後

カーカー

アニ「……」

ガチャ、ガチャ

ライナー「アニ。瓦礫の山の上にいたのか。……すげえ死臭だな……山にいくつ死体があるんだ」

アニ「ライナー。どうだった」

ライナー「問題ない。全員死んでた」

アニ「そう。……これで、本当に終わりだね」

ベルトルト「ああ、壁は全部壊した。壁内の悪魔は全滅だ。俺たちの任務も終わりだよ」

ライナー「ああ……おまえがいてくれて、本当に助かったぜ。マルセル」

・・

3年前、旧訓練兵舎 広間東側個室 

ベルトルト「……マ、ル、セ、ル……?」

ライナー「マルセル……確かに、そう言っているな」

ベルトルト「ここにマルセルがいるってことか……? なんで……」

ライナー「というよりは、ここだとマルセルが姿を表せられるってことじゃないか。
     幽霊が多いここは、いわゆる心霊スポットのような場所だ。

     ……なんとか、姿を表せられないのか」

ベルトルト「……山の神様が、幽霊を人に乗り移らせる方法を教えてくれたんだ。
      僕を入れ物にして、マルセルを生き返らそう」

ライナー「あのな……おまえ、それは完全におまえの身体をマルセルに渡すってことだぞ。
     おまえが「入れ物役」として育てられたのは、そのためじゃ……」

ベルトルト「でも、僕の巨人と、マルセルの精神があれば、きっと任務はうまく行くよ。
      ……大丈夫だ、マルセルが乗り移っても、僕の精神は消える訳じゃない」

ライナー「……。本当にいいのか」

ベルトルト「ああ。いいんだ。……やってみるよ」

・・

ベルトルト「ライナー、ベルトルト」

ライナー「マルセルなのか……本当に。それで、ベルトルトは……」

ベルトルト「ベルトルトは中にいる。俺にはベルトルトの声はちゃんと聞こえる、大丈夫だ。

      ……それで、俺がおまえらの前にこうして強く現れたのは。緊急事態だからだ」

ライナー「緊急事態?」

ベルトルト「どうやら、この建物は、壁をつくった要領で……。眠らされた先祖の巨人が
      骨組みに使われているようなんだよ」

ライナー「……!? な、なんだって」

ベルトルト「悪趣味だ。100年前の王政府が、なに考えてこんなもの作ったか知らないが……。

      実は、昨日の地震で塗装が剥げて、光を浴びた巨人は目を覚まそうとしているんだ」

ライナー「目を覚ますって……、それは……」

ベルトルト「ああ。非常にまずい。屋敷に使われているのは知性巨人だが……
      知性巨人を食ってない意識が混濁した状態の知性巨人だから、
      食人欲求のまま動き出す可能性がある。
      そうしたら、壁の秘密も、巨人の秘密もバレてしまう。

      壁教のヤツらも、この建物が壊れるのはノーマークみたいだな。まあ壁じゃないから当然だが……。

      だから、巨人が目覚めるのをなんとか阻止しないと、任務は失敗だ」

ライナー「塗装の修復をして、日光が当たらないようにすればいいのか?」

ベルトルト「もう修復でどうこうなるレベルじゃないんだ」

ライナー「ならどうする……」

ベルトルト「最悪……項を削ぐしかないな。うなじに直結する壁の部分は
      わかっている。すぐに殺せられる」

ライナー「……任務のためとは言え、同胞……ましてや先祖を殺すのか……」

ベルトルト「これは最終手段だ。極力避けるよ。

      というのも、骨格の巨大さからして、この屋敷に使われている巨人は故郷の王族である可能性が高いんだ」

ライナー「王族?」

ベルトルト「もしそうなら保護しなくてはならない。最も、俺達は戦士だから。
      任務に影響がでるならば、例え重要人物の可能性があっても、切り捨てるべきではあるが……」

ライナー「なにが言いたいんだ、マルセル」

ベルトルト「この屋敷の巨人が、意識をコントロールできるだけの練度があるか判断し、殺すか決めよう。
      もしある程度コントロールできるなら、迅速に側の森にでも逃げ込ませればいい。

      幸い、ここは街から遠いし、旧訓練所は訓練所から角の位置にある。
      一時的に森に身を潜ませておいて、夜にでも脱出させられるよう、誘導することは不可能ではないはずだ。
      壁外へさえ出れば、故郷にも帰れる」

ライナー「ああ……。だが、練度の判断ってのはどうするんだ」

ベルトルト「壁内人類を前にして、殺意を見せるか、食欲を見せるかを確かめる。

      うまそうに丸呑みにしたり、いっそ修復時に腹部に取り込みでもするなら、
      コントロール不能とみなして、殺すべきだ。

      だが、握りつぶすだとか、痛めつける行為が見られれば、コントロールできる可能性がある。
      誘導を試みよう。それでも、もし殺意のまま動き続けるなら、やはり殺す。任務が最優先だ」

ライナー「……なるほど。その実験に、今屋敷にいる壁内人類を使う訳か」

ベルトルト「ああ。意識が覚めた直後に反応を見ることができるからな。騒ぎは最小限に収められる」

ライナー「それでもかなり高リスクだが……、先祖の、まして王族の命がかかっているなら、
     やれるだけのことはやらないとな。……」

ベルトルト「どうした? やっぱり不安か」

ライナー「イヤ。俺達がかつて、知性巨人を食って意識を得たみたいに。
     誰か知性巨人を食わせられたらと思っただけだ」

ベルトルト「知性巨人だからって、俺たちが食われようってのか。無意味だぜ。
      知性巨人でも、敵勢力の知性巨人でないと、意識は得られないからな。
      悪魔みたいに耳のとんがった、悪魔の巨人でないと」

ライナー「ああ……考えただけだ。気にしないでくれ」

ベルトルト「確かに、敵勢力の知性巨人がこの場にいれば、すぐに意識を得て項からでてきてくれるのにな……。
      同じ訓練所に、知性巨人が揃うなんて、神様のいたずらでもなきゃありえないよ。

      まあとにかく。絶対に、壁内人類を逃さないようにしてくれ。それらがいなきゃ、
      実験はできない」

ライナー「ああ、了解だ」

ベルトルト「任せた。……そうだ。ここには、訓練兵の幽霊がいる」

ライナー「幽霊?」

ベルトルト「ああ。そいつらがいてくれたおかげで、俺の姿も安定して、こうして接触できたってわけだ。

      だが……訓練兵の幽霊は、俺と同じく、この建物の骨組みが巨人でできてて危険だってことを知っているんだ。
      だから、ここに人が入ってくると、脅かして追い出そうとする。

      今日も、おまえらといっしょに入ってきたヤツらを脅かすはずだ。そいつらのせいで逃がさないようにな」

ライナー「なるほど……そういうことだったのか。わかった、兄貴らしく、励ましたり和ませたりして、
     壁内人類をこの場から逃がさないようにするよ。
     最悪、項を削ぐにしても、ここで訓練されているからすぐに削げる。必ずうまくやるから、安心してくれ、マルセル」

・・

ライナー「あのときの出来事がどう影響しているかはわからないが。
     おまえがいて、4人揃ってるってだけで、かなり任務がスムーズに進んだぜ」

アニ「……精神的支柱の存在は、大きかったかもね」

ベルトルト「はは、ベルトルトに感謝しないとな。……ああ、ベルトルトも喜んでるよ。
      『化物の住んでいるところにはいるのはつらいから、早く帰れてうれしい』ってな」

ライナー「そうか。……そうだな、これで帰れるんだな」

アニ「ああ、帰れるよ」

ズシン ズシン ズシン

巨人「オアーーーー」

ベルトルト「故郷の、山の神様のところへ行けるんだ」

アニ「……死ぬってことだけどね」

ベルトルト「そうだな。怖いのか?」

アニ「イヤ、不思議と怖くないよ」

ライナー「……」

巨人「アアアーーーー」

ライナー「でけえな……。不思議じゃないだろ。完璧な戦士の化物同士……俺たちでなら、なにも怖くないよ」


終わり

大きな設定を間違えていたのがどうしても気になったので、訂正しました

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