怜「プロ」健夜「の」照「世界」 (129)



 20XX年 リオデジャネイロ。



『決まったー!東風フリースタイルの金メダルは、ロシアのアナスタシアだああああ!!!』


「うふふっ、楽しかったよスコヤさん」ニコッ

「なんで!……なんでそんな風に笑えるの!」

「だって、本当に楽しかったんだ……だって……」

 そんな!どうして!だって、貴女は……!


………………

…………

……


 パチッ。

「…………夢か」

 たまに見る、何年も前のあの頃の夢。

 自分には何でも出来る、全てが無敵で楽しかった
 そんな馬鹿な考えを持っていた頃の、とてもとても苦い夢……。

「すこやー!今日は仕事なんでしょー!そろそろ起きなさーい!」

「もー!分かってるってばー!起きてるもん!」

「まったくもー!そういう風に言われると逆に起きる気がなくなっちゃうのにー」プンプン

「はぁ~……麻雀か……」



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 健夜―SUKOYA―

 この物語は、全世界的な流行を見せた麻雀
 その中でも、特異な世界観と戦いを見せてくれた”女子プロ”に焦点を当てた物語である。


前置き。

1の文章はよく気持ち悪いと言われるので、合わないなと思ったら見切った方が良いかも。

色々な人の視点が出てきますが、メインの主人公は健夜。

オリジナル要素あり。

この世界のプロリーグは、プロ野球型のリーグ戦とは別に
将棋の様にA級B級等の順位戦があります。

話しが中々進まない

出番が好きなキャラに偏ってる

宮守女子ファン&ホラー要素注意

シノハユは一巻しか読んでません。

他、随時。

原作から5年が過ぎ、6年目に入ろうとしているところ


―――――――――――――――――――――――――――



 都内、某大学。

「ねえねえ、もう卒業後どうするか決めたの?」

「あははっ、実は……まだ……」

「ええっ!私達、もう最終学年なんだよ!?……まあ、咲ちゃんなら選びたい放題だろうけどさ」

「……あははっ」

 こういう時、私は曖昧に笑う。
 この何も生み出さない笑顔をする度に、自分はあの麻雀部に入る前の私から何の成長もしていないのではないかと不安になる。

 高校卒業の時、多くのプロチームが誘ってくれて、麻雀の強い大学からも推薦を貰ったけど、私はそれら全てを断って、尊敬する教授の居るこの大学の文学部へと一般入試で入った。

 その事に後悔は無い。
 教授の講義は想像以上に面白くて有意義だった。

 しかし、こういう風に進路の事を考える時、私は一人の親友の事を思い出す。
 私なんかより、ずっと頭が良くて、私も他の皆も、きっと進学するんだと思っていた、私の親友。

 そう、―――原村和の事を。



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―――――――――――――――――――――――――――



 埼玉県、大宮。

「みんな~、おつかれさま~♪」
「「おつかれさまー!」」

 ふぅ~、二年目になったけど、まだまだ慣れないですねぇ。
 私は、凝った首筋を凝りほぐしながら、楽屋へと戻って行った。

 ガチャッ。

 早く着替えて、次の順位戦の相手を研究しなくては―――!

「キャアアアアアッ!」

 ムニッムニッ。

「う~ん、中々の成長だね、これならお姉さんを越えるのももうすぐだぞ☆」

 こ、この声は!
 ……いや、こんな事をする人なんてたった一人しか居ません!

「は、はやりさん、止めて下さい!」

「もー、そんな風に怖い顔で怒ったりするのは、牌のお姉さん失格だぞ☆」

 そう、こんな事をするのはたった一人。
 私の先代。初代牌のお姉さんこと、瑞原はやり先輩だ。

「ほら~、スマイルスマイル♪」

 そう、私が今二代目牌のお姉さんをしているのも、父との約束を破り大学に進学せずに高校を卒業してすぐにプロへと進んだのも、全てはこの人との出会いからだった。

「そうそう、そういえば~」

 ―――!?
 特別低いわけでもないのに、この人の地の声を聞くと何時もゾクリとする。
 そう、この人が地の声を出すのは、決まって何かを私に課す時だからかもしれない。

「公式順位戦、次のオリンピックの選考素材になる事に、正式に決定したちゃったぞ☆」

 この人は……。
 まだB級の真ん中付近をウロウロしている、やっと新人を抜け出したばかりの私に。

「うふふっ、オリンピックなんて気にしない人も居るだろうけど、多くの選手は血眼になって争うだろうね……うふふっ、本当に楽しみだね和ちゃん☆」

 本気で取りに行けと、血眼になって争う上位選手たちの渦に飛び込めと言っているのだろう。
 そうそれは、A級上位に居る瑞原はやり、彼女自身とも争えと言っているのだ。

「本当に楽しみ……」

 あれ?

「これで、小鍛治さんが戻って来てくれれば言う事はないのにな……」

 彼女は、今まで聞いた事の無い声色で、寂しそうに言った……。



―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――



「小鍛治選手、今回も順位戦は見送りと言う事で?」

「はい、申し訳ありません」

 チームの事務員さんに、私は今年も申し訳無い思いで頭を下げる。

「いえ、仕事ですからお気になさらずに」
 ニッコリと笑う。まさに成熟した大人の笑顔だ。

 どちらにしろ、チームとしては私にもっとランキングに関る仕事をして欲しいだろうに、何も言わずに好きな様にさせてくれるのも、私がこのチームに居る理由の一つだ。
 簡単に纏めると、居心地が良いって事なのかな。

「 で す が 」
「ひゃ、ひゃい!」
「これからも随時、確認させて頂きますのでよろしくお願いしますね」
「は……はい」

 ……意外と押しが強いんだよね。
 この押しで、以前も苦手な解説やラジオをやらされたっけなぁ。
 まあ、こーこちゃんと一緒で楽しかったからいいけど。



 ああ、私は何時になったらあの時の事を克服出来るのだろうか……。



―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――



 数年前、清澄高校。


「ねえ、見てみたいと思わない☆」
 それが全てだった。

 考えれば、色々と理由は出てくるだろうが。
 皆に真面目と思われている私、原村和が、有名ではあるが、とてつもなく怪しい、この人物。
 はやりんことプロ雀士、瑞原はやりに付いて行ったのは、やはり興味故の事だった。



 都内、麻雀協会ビル。

「どうかな~☆」

「……」
 言葉も出ませんでした。

 瑞原さんに誘われて見せて頂いたのは、プロ達の公式戦――鉄火場。
 いや、そんな言葉では言い表せない、熱く冷たく様々な情念が渦巻いた、ナニかでした。

「まあ、今回は昇級間近でお尻に火が付いちゃった人達だから、高校生には少し刺激が強かったかな☆」

「……ッ!」タンッ

 私は何を知った気になっていたのでしょうか。

 インターミドルで優勝し、そして高校では個人戦は逃がしたものの、団体戦では二回も優勝する事が出来ました。
 一年生の時、勝つ事は出来ませんでしたが最強と言われるチームとも戦い、その後も強敵を相手に戦って来ました。

 だから、私は目を瞑っていたのかもしれません。……いや、ハッキリと目を剃らしていたのでしょう。

 実は、私なんかは、全然大した事が無いって事を……です。

 いえ、厳しく自己批評したとしても、私の雀力は全国レベル、かなり上位に位置していると思います。実際の戦績も中々のものです。

 しかし、本物には勝てないだろう事は、薄々気が付いていました。

 毎日の部活では咲さんに勝てる事は珍しくありません。
 しかし、昔衣さんと咲さんが戦った時ののような、インターハイで強敵と戦った時の咲さん……つまり、本気になった咲さん、そして咲さんのお姉さんをはじめとした、一部の”本物”達には勝てないだろうと感じているのです。


 もちろん最初からそう思っていたわけではありません。
 高校三年の間に、絶対に追いつける、絶対に隣に並べる、……そう思っていたのに。
 もう既に私は三年になり、最後のインターハイも終わったというのに、追いつく事は出来なかったのです。

 咲さん、衣さん、そして最強のインターハイチャンプ宮永照。
 彼女達や、それに類する数名が特別だと言ってしまえばそれでおしまいかもしれません。
 けれど、何でもない振りをして、知らん顔で気にしていない振りをして、そのくせ、私は心の奥で、畏れ、怒り、……諦めに侵食されていたのかもしれません。

 その事をこの人、瑞原さんには見抜かれて居たのでしょう。
 だから、此処に連れて来られたのだと思います。

「うふふっ、何時もはファンやTVの前でにこやかに微笑んでいる選手達が、こんなにも必死に形相を隠しもせずに争いあう。別にランクが落ちたって死ぬわけじゃない、結局は自分の実力どおりの勝敗にしかならないのにそれでも必死に勝ちを奪おうとする」

 何故この人は、必死にあがく人達を、こんな目で見れるのか。

「とっても愛おしいわ、ねえそう思わない?」

 何故足掻きもがく人たちを、こんなにも温かく見守るように見れるのだろう?

 この人も『別』なのだろうか……。
 私は……一生、"ソレ"を眺める側で終わってしまうのだろうか?

 私は、この人達ほど勝つ事に執着した事があるのだろうか?

 此処に居る人達の殆どが強い。
 けれど、高校卒業後たった二年でA級雀士になった宮永照ほど『特別』な選手は殆ど居ないだろう。
 それでも諦めていない。
 貪欲に勝つ事を望み、歯を食い縛りながら身を切るように牌を搾り出している。

「ねえ、和ちゃん」

「……はい」

「A級はもっと」

 私には進むべき道がある。
 部活をする事は、一年の時のインターハイ準優勝で許してもらえた。
 しかしそれは、部活で成績を落とさない事が前提だ。
 その前提は、当然良い大学に進学する為のものだ。それは約束をするまでも無い私と父の共通認識だ。

「A級はもっと、面白いぞ☆」

 ああ、私は……私はもう、父を裏切ってでも先に進みたい。
 そう思ってしまっている。
 私のような凡人は、全てを掛けて、そして身を投げ出さなくてはいけない。

 そう、あの人の横に並び立つ為には……。

「よろしく、お願いします」
 私は、深々と瑞原さんに頭を下げた。
「うふふ、おっけ~☆」

 そして、あの人に並び立つだけじゃなく、勝つ為に。



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―――――――――――――――――――――――――――



「……」

 はらはらと、季節外れの遅れ雪が降り、そして地面に落ちては儚く消えて行った。

「怜、――怜ってば」

「……ん?」

「怜、ご飯出来たで」

「……あ、竜華。……そうか、もうそんな時間なんやな」

 白い、元から白かった怜の肌は更に白くなり、まるで雪の様だ。

「順位戦が始るからって、あんまり無理はせん方がええで」

「うん、分かってるって竜華」

 そう、ウチも分かってる。
 口ではこう言っているものの、怜のはご飯を少し食べたら、また牌譜を並べて研究を続けるのだろう事を。

「今日は銀杏の炊き込みご飯なんかー、美味しそうやねー」
「怜は小食なのに好き嫌い激しいやん、作る方は気を使うんやでー」
「はは、メンゴメンゴ」

 怜はもそもそと、お茶碗に半分ほど盛った炊き込みご飯と、同じ様に半分だけ入ったお吸い物を、ウチに分からんように、苦しい顔を隠してお腹へと詰め込む。

「ごちそうさま」
「うん、ごちそうさま」

 ウチが後片付けをしてる間に、また怜は牌譜に夢中になり。
 まるで残り少ない時間を削り取る様に、麻雀へとのめり込んで行く。



 私はずっと、怜は私と同じ大学に進学して、何時までも一緒に居てくれるのだと思ってた。
 しかし現実では、ウチは大学に進学し、怜はプロへと進む事になった。

 当然この事は怜と何回も話しをした。
 ウチも麻雀打ちだから気持ちは分かる、せやけど離れるのは寂しいし心配だという事、プロになるのは大学に行ってからでも遅くないんやないか?……と。

 私は何も分かって居なかったのだろう。
 怜は笑いながら「大丈夫やから」「気を付けるから」と、私を宥め、そして態度は柔らかいものの、確固として自分の意見は覆さへんかった。

 もう、あの頃には、自分の身体の事を分かっていたのだろう。
 自分の本当に欲しい物を獲るには、アレもコレもと寄り道するには圧倒的に時間が足りない事を……知っていたのかもしれない。

 その後、プロになった怜は、一度、対局中に倒れ。心配になったウチは無理矢理にマネージャーの真似事の様な事をしだした。
 しまいには、親に頭を下げ大学を休学し怜の部屋に転がり込み、一緒に住む事を承諾させた。

 それに対して、怜の所属するチームの運営さんは、ウチが勝手に始めた事なので給料は要らないと言ったんやけど、やるのならばちゃんと仕事としてやって欲しい。そして仕事ならば、胸を張って給料を受け取れる仕事をやって欲しいと、言ってくれた。

 うちはそれを聞いて顔が真っ赤になった。
 自己満足で、怜だけやなく、全ての人に迷惑を掛けようとしていた事を自覚したからです。

 まあ、そこで凹んでも誰も得せーへんから、落ち込むのは一瞬だけで終わらせたけどな。

 はぁ……。
 全てがそんな風に、けせらせらで済ませられたらええんやけど。
 もちろん、そんなわけにはいかへん。

 あの、最後のインターハイから5年。
 怜は並み居る強敵を押し退けて、A級雀士になった。とてもとても凄い事やと思う。
 それでも、しかしそれでも未だA級の中位、いや下手したら下位にカウントされるかもしれへん順位や。

 それは、あの圧倒的強さで、誰も寄せ付けなかった宮永照でさえ、A級1位になれずに居る事が証明なのかもしれへん。

 でもだからこそ、怜は挑んでるだろうと思う。
 すぐに手に入る物なら、そんな物は端から望まないで、ウチと楽しいキャンパスライフを送っていた。そのはずやから。
 あの頂点は、プロの世界のチャンピオンという意味は、怜にはどんな風に映っているのだろう?
 それだけは、怜の事が何でも分かってると自負してるウチでも、分からない事の一つや……。



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「「ありがとうございました」」
「……ありがとうございました」

 ハァ……、今日も勝ちきれんかったなぁ。

 ウチがプロになってもう5年。もうすぐ6年目に入る。

 大阪の家と、こっちにあるチームで借りてるマンションを往復しての生活も慣れたもんや。
 まあアレもコレも、家の事なんかを全てやってくれるオカンと絹のおかげやな。

「洋榎ちゃん、お久しぶり~♪」フリフリ

「あ、咏の姉さん、お疲れ様です」

「やだなー、そんなに畏まらんでもイイんだぜ?まあ、知らんけど」

 流石や……バリバリ大阪人のウチでも、このマイペースさには、とてもやないけど勝てへん。

「あの、咏さんはなんで、此処に?」
 今日のこの会場は、B級だけが集まる大会だ。
 グランドマスターに最も近いと言われている、この化け物が来る様な所やない。

「あー今日は審判の仕事組まれてねー、資格持ってると色々やらされて面倒だぜー」

「それはそれは、ホンマにお疲れさんでしたわ」

「まあ、見るだけならこの階級が一番楽しめていいだけどね。知らんけど」

 ううっ、グサッと来たで……ホンマ。
 やっぱりこの人にとっては、ウチらの戦いなんて楽しめる程度でしかないんやろな……。

 ハァ……チャンピオンは別格としても、同じ大阪出身の円城寺怜や江口セーラの二人ともウチを追い抜いて先に進んでもうた……。

 チャンピオンと同じ様にけったいな能力を使う円城寺はともかく、セーラはウチと似た様な実力で対して変らんはずなのに、あっちはA級でバリバリ活躍して、ウチはB級に留まったまま……。
 何が違うんやろか?プロに入ったばかりの頃はウチの方が成績が良かったちゅーのに。

「うっふふふっ、まあ悩むが良いさ若人よ♪」

 ぐうっ!?心を読んだわけやないやろけど、この人は何でも分かった様に言い切りおるからな。
 何と言うか話してるとプレッシャー掛かるんよね……。

 ハァ……、こういう時は恭子に会いに行くか、漫で遊んで気晴らしでもしたいわ。



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「なあ、ホントに行くのかい?」

「うん、どうしても彼女に会わなきゃならないからね」

「俺の立場では行くなとは言えても、実際に止める事は出来ないからな……」

「うん、ゴメンね。…………ありがとう」



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「「かんぱーい!」」

「いやー、ホンマに漫も恭子もお久しぶりさんさんやなー」

「そうやね。主将が忙しいのは当然だけど、漫ちゃんも大学を卒業して就職しちゃったし。前みたいに気軽に会えなくなったもんね」

「あはは~、就職って言っても親戚の家の饅頭屋さんを手伝っているだけなんですけどね」

「それでも漫ちゃんは、正社員なんだからええやん」

「せやせや、そないな事言うたら恭子なんて大学出たのにアルバイトやで~」

「臨時職員って言って下さい!教員は免許取っても就職はホンマ狭き門なんですからね!」

「まーまー、そんな本気で怒らんくてもええやん……あ、そう言えば宮守のあの小さい子も教員になったんやったっけ?」

「宮守の小さい子って……主将と対戦した人ですよね?」

「せやせや、恭子は免許取ってから会った事あるとか言わんかった?」

「鹿倉胡桃さんですね、あの人も私と同じ様に熊倉さんに影響を受けて教員を目指したって言ってましたね」

「うちらの世代は、恭子みたいに善野監督に影響を受けて教員免許を取るの多かったもんなー。せやから、熊倉さんみたいな有名人に影響受けて進路を決める人居ても違和感は無いわなー」

「けどなー」

「あん、何かしたんか?」

「いや、教師を目指すんなら鹿倉さんより臼沢さんの方が目指しそうやなーって思って」

「ああそれって、あの片眼鏡の人ですよね末原先輩」

「そうそう、あの子の方が昔の熊倉さんの真似して片眼鏡掛けてたし、性格も落ち着いてて真面目そうだから熊倉さんの後を継ぐなら、それっぽいかなーって思ってね」

「せやなー、……うん?その子は今何してん?」

「えーとですね主将」

「いやいや、今まで突っ込まんかったけど、恭子も漫も卒業して何年も経つんやからその主将はやめてんか?ホンマにマジで」

「「えー!」」



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 かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀と滑った 後ろの正面だあれ?





 ガラッ。

「あー塞だー♪」
 豊音があどけない笑顔を私に向けてくれる。

「豊音、また来たよ」
 私は手慣れたもので、勝手に戸口近くの柱に雪で濡れた外套を掛け、土間から囲炉裏のある居間へと上がった。

「うふふっ、塞が来てくれてちょーうれしいよー♪」
「やれやれ、豊音は大げさだな」

 それはそうだろう。
 たった一人で、こんな所に住んで。ろくに外にも出られないで過すのだ、まともな人間なら数ヶ月と耐えられないだろう。

 しかし、悲しい事に、この生活は豊音にとって日常だ。
 私達と出会う前、トシさんに連れ出される前の日常だったのだ。

 村の人達は約束通り、高校を卒業するまでは豊音を村から出し、私達と一緒に過させてくれた。
 そして約束通り、高校を卒業した後は、豊音はまたこの村に戻る事になった。
 誰が悪いのでもない、どうしようもない事だ。

 そして、私は自ら望んで熊倉先生の裏の顔を引き継いで、この役目へと志願した。

「あ~あ、塞みたいに、他の皆ともいっぱい会えたらいいのにな~」

 ズキンと、胸が痛む。

「しょうがないよ、エイスリンは母国に帰っちゃったし、胡桃や白望も遠くの県に就職しちゃったから、簡単には会えないしね」
 ああ、もう私はこんなにも簡単に嘘を付けるようになってしまった。

「うんそうだね。わがまま言っちゃ駄目だもんね」

 この、何も望まないで生きる事が当たり前の姿が、とても悲しい。

 けれど、豊音はこの村の、このお堂の中でしか生きていく事は出来ない。
 この日増しに強くなっていく力を、私には抑える事は不可能だろうから。

 周りの人に災いをもたらしてでも、どれだけ他人を犠牲にしても、貴女だけを幸せにしたい。そう言い切ることの出来ない、薄情な親友をどうか許してください……。





 囲め囲め 篭の中のX■%は いついつ出やる? 夜明けの番人 吊ると亀が喋った 私の正面 だ ぁ れ ?



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「……くぅー……ぐぅううう……」

「漫ちゃん、寝ちゃいましたね」

「せやな……」

「…………」

「なあ、恭子」

「……なぁに?」

「アンタ、もう未練は無いんか?」

「…………無いわ」

「……ちょっとタイムラグあったやん」

「うーん、本気で未練無いってば。私に戦いを仕事にするのは無理だって分かったしね」

「そうか~?インハイでも大学選手権でも、ええ成績やったやん」

「だから……かな」

「ん?」

「アレと……彼女とやり合って、そして紙一重の、殆ど運だけど勝てて……それで満足しちゃったのかもしれないわね」

「あー、あの清澄のアレか……まあ、分からんでもないわ。プロにも強豪大にも行かん聞いた時は、逃げ出したんかこのボケ!って思ったけど、腕は落ちるどころか、流石あのチャンプの妹……ってもんやったからなあ」

「まあとにかく、私には合わなかったって事よ、毎日毎日勝敗に血道を歩き続けるなんてね……」

「恭子は真面目やなー、もっと気楽にプレイしてる人もおるで?……そーそー、初代牌のお姉さんのはやりんなんて、何時でも余裕綽々の顔でプレイしてるってもんや」

「そう……かな?」

「ん?」

「いや、なんでもないわ。とにかく、私は普通に仕事をして、たまに打つくらいが丁度良いのよ」

「……まあ、無理には誘わんけどな」

「(はやりん、瑞原はやりさんか……。ああいう何時も笑顔の人って、逆に本心が分からなくて何を考えているのか分からないんよね)」

「あー、宅飲み最高やでー」

「(梅酒でコレだけ酔えるのも、一種の才能よね)」

「あー、そう言えば」

「ん?」

「恭子もやけど、辻垣内さんももったいなかったやんな……」

「それこそ、どうしようもない事やで」

「……せやな」



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「「お疲れ様でした!」」

「うふふっ、おっつ~☆」



 ガタンッゴトンッガタンッゴタンッ、電車に乗ってマンションに帰る。
 牌のお姉さんを引退して、たった三年しか経っていないけど、それでももう以前の様に人に群がられる事は無くなり、電車で普通に帰宅する事が出来るようになった。
 嬉しくも、少し寂しい所だ。



「たっだいま~」
 帰宅の挨拶をしても、誰も帰さない。
 まあ当然か、私は此処に一人暮らししてるんだし。

「よーし、明日の仕事はお昼からだし、今日は三本くらい飲んじゃおうかな♪」

 ガサゴソガサゴソ……プシュッ。
「……クウウッ!帰ってすぐ冷蔵庫を開けて飲むビールは最高ね!」

 私の名前は瑞原はやり、数年前まで牌のお姉さんというお仕事をしていたのだけれど、今はもう後輩に仕事を押しつ……譲り、いくらかの公式戦と後輩の指導をするだけの毎日。
 たまに解説とかTVの仕事は請けるけど、それでも最盛期に比べれば十分の一程度のものだ。

「……ハァ」

 嫌だなー、こういう時は色々と考えてしまう。

 この世界に入って、十【禁則事項】年。
 ひょんな事から牌のお姉さんなって、そして色んな事があったけど……けど。

 私は、何かを残せたのかしら?
 私は、何かをやり遂げる事が出来たのかしら……?

「……ゴッキュゴッキュゴッキュ!」

「プハー!コンビニキムチは、この大根ときゅうりの入ったやつが美味しいのよね」ゴリゴリポリポリ

 あー、今日は料理しなくてもイイかー。
 キムチにチーカマで良いかな。あっ、そう言えばラーメン用に買っておいて使うの忘れた味玉あったっけ、これだけあれば十分よね。
 ちゃんと胃も満たせば、変な酔い方もしないだろうし。

「ゴッキュゴッキュゴッキュ!」

 言いたくは無いけど、年を取ると、酔いが残るのよねえ……肝臓も老化してるのかしら?
「……ふぅ……そろそろかしらね」
 私は独りごちた。


 子供の頃から麻雀を続けて、もう【禁則事項】年。
 大沼プロの様な妖怪も居るけど、たいていの勝負事には勝負出来る年齢と言うものがある。
 その中では麻雀は比較的息が長く出来るけど、……けど。
 私は数年前に、限界を感じてしまった。

 だからまだ、自分が"現役"である間に仕事の後継者を探して育て上げた。

 もちろんこれは今までお世話になったお仕事関係やチームの為って事もあるけど、それ以外は全部自分の為。

「……私は何かを残したい」

 もちろん私の事を愛してくれているファンや、今までの麻雀打ちとしての道程は意味の無いものだったとは思わない。
 けれど、……やっぱり私は欲張りなのだ。
 私だけの、何かが欲しい。心から満足出来る"何か"が欲しいのだ。

「プシュッ!……ゴクッゴクッゴクッ!」

 ……結局。

「結局、あの人は戻ってこないのね」

 ふぅ、寂しくないとは言わない。

 けれど、何時までも待っては居られない。

 ……昨年は、仕事も後輩の育成も最低限にしてもらい、十分自分を鍛えなおす事が出来た。

 だから、勝負を掛ける。
 私は開き直って、私の全てを掛けて勝負に勝ってみせる。

 小鍛治さん……本気の貴女と勝負出来ないのは、本当に残念だけどね……。



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 麻雀のプロ世界では、もう既に各チームのオープン戦が終り。

 そしてオリンピック選考会を兼ねた、公式順位戦も開始されて一週間が経ち、全てが進み出した、……その頃。



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「フフッ、季節外れの雪、なごりゆきってやつなんだじぇ!流石私、風情が分かる女だじぇー!」

「ハーイ、エクスキューズミー」

「……うん?誰だ……じぇえええ!ががが外人!?ハ、ハイ?ナニカヨウカダジェ?」

「うふふっ、ゴメンなさい。大丈夫よ、ワタシは日本語分かるから」

「え?うん?え、ハイ。……ふぅ、ビックリしてしまったじぇ」

「ネエ、ちょっと聞きたい事があるのだけどチョットいいかしら?」
「おう、この優希ちゃんに分かる事ならまかせるんだじぇ!」

「うふふ、ありがとう♪それで、この住所に行きたいダケド」
「ああ、それなら知ってるじぇ、この道をこーいってこの交差点を右に曲がればすぐに……」アレヤコレヤ



「アリガトウ、助かったわ」
「へへっ///」

「では、本当にアリガトウね」

 うーん、朝から良い事をしてしまったじぇ。
 流石は私!さて、朝の掃除が終わったら、朝ご飯を作って……あれ?

 テクテクテク。
 あのお姉さん、杖を付いてる。……もしかして目が、見えない?

 話ししてる時は、とても自然で全然分からなかったじぇ。



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今回は此処まで
見てくれた皆様ありがとうございます。

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 ピンポーン。

 うん?お客さんかな?

 ピンポーン。

「おかーさーん!お客さんだよー!」


 ピンポーン。

 あれ?お母さん、どっかに出掛けてるのかな?
 あ~あ、オフだからお昼まではお布団のなかでゴロゴロしようと思ってたのになー。

 ピンポーン。

「はいは~い!」

 ガチャッ。
 あ、相手を確認しないで開けちゃった!……まあ、田舎だからいいか。

「どうも、おまたせ……シマシ……タ?」

「ハーイ、お久しぶりネ、スコヤ♪」



 ……え?アナタは……。

「な、なんで!?」
「飛行機で」

「ち、違っ!どうして!?」
「会いたかったから」
「あいた?」

「そう……アナタに会いたかったからね、ねえ……スコヤ♪」

「……アナスタシア」

「ホントウに久しぶりだね……そう、あのオリンピック以来だもんネ」

「……」

 そう、あの時以来の出会い。

 無知な私が、自分が最強だと思っていた頃の、勝つと言う事を、勝負と言うものを理解していなかった頃の最後の相手。

 私が絶対に勝てないと思い知らされた、その最初で最後の相手。

「中に入る?ねえ……アナスタシア」

「♪」



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オリキャラは、彼女一人だけの予定です。

園城寺……辞書登録してたので油断してました。
スイマセン><。

はやりんが知性派とか、はやりんがお姉さんになった動機とか、最近知りました。
このSSは随分前に書いて、最近再開したものなので、大目に見ていただけると助かりますww

皆様コメント有難う御座います
とても良い燃料になります!

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「うううっ、……あっつーい!」
 どうしてこんなに熱いのよ!このままじゃ茹で上がってウォッカをカッ食らっている村の男達より赤くなっちゃうわ!

「まあまあアナスタシア。試合会場はちゃんと冷房が効いてるらしいから、もうちょっとだけ我慢しようよ」

「むうううっ」



 なんだかなー。
 最初は外国に行けるって事でテンションが高かったんだけど、試合が終わるまでは何処にも行けないと分かって、高かったテンションもかなり下がっちゃった。
 周りの皆には、国の代表なんだからとか、お前は何も分かってないとか、色々言われまくりだ。
 そりゃ私だって大勢の人達の代表として出る事は分かってるし、緊張や責任感は重く伸し掛かってる。

 けどさ。
 今までロシアの麻雀オリンピック選手選考は、経験を重視してベテランを手戦力として決定していた。
 でもだからって、ロシア初の最年少選手とか、ベテラン選手を押し退けて出た責任とか、勝負とは全然関係無い事をベラベラベラベラ言われたら、ちょっとヤル気が無くなると思わない?
 その上、初海外って事で無理にテンションを上げていたのに、それもロクに楽しめないって事になったら、何で気分を盛り上げろって言うのよ、もう!



「ほらアナスタシア、シャキッとしなさい着いたわよ。着替えたらすぐにセレモニー会場に行くんだからね」

「ハイハイ」

 まったく、この人ってば年上だからって保護者のつもりなのかしら?
 確かに私はロシア人にしては背が低いけど、もう15歳だってのに。

 キキィイッ。

「あら、他の国の選手も来た様ね」


 ――――――ッ!?


 私には霊感なんて無い。
 何事もやってみなきゃわからないと何時も言っているパパの意見には、全面的に賛成している。

 だけど……。

「―――ッ!?」
「どうしたのアナスタシア?」
「…………」

 何故だろう?
 とても平凡で印象に残らない顔立ち、そして年が若く見えるアジア人だという事を考慮しても、私よりも年下だろう姿形。
 誰もが彼女に注目などしないだろう。

 けれど、何故か私だけには分かった。

「ふふっ」
「アナスタシア?」
「ねえニーヤ、この大会、楽しめそうに思えてきたわ」
「うん?……まあ、ヤル気が出たのなら何よりだわ」



―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――



「まさか、アナタが私より三つも年上だったなんて思いもしなかったケドネ」

「……ぐぬぬっ」

 このロシアっ子には、居酒屋に入る度に身分証を提示しなければならない者の苦しみなど分かるまい!分かるまいに!

「ふぅ、飲み物入れてくるけど、コーヒーで良い?」
「アッ、ジャパニーズグリーンティーでお願いするネ!」
「……了解」

 くぅう、動く度に胸部がたゆんたゆんしている。
 はやりちゃんで慣れていたはずなのに、本場物のロケット型は新鮮な脅威を与えてくれる。
 ……とっくに諦めはついたはずなのに……うぅううっ。

 えーと、お茶はこの戸棚だったかな。
 何時もペットボトルばかり飲んでるから、分からないんだよね。
 うん、普段からやっていればお茶くらいテキパキ淹れられるはずなんだからね。
 ……ううっ、本当だよ!

 おっと、こーこちゃんから貰ったお土産の栗羊羹があったんだった。
 よぉーし、とっておきだけどコレ出しちゃおう!

 バッサバッサ。コポコポォオオッ。

 うっ、ちょっと濃いみたいだけど、……まあ羊羹が甘いから丁度良いよね?

「おまたせー」
「アリガトネ」

「……」
 アナスタシアは、明暗程度しか分からないだろう視力なのに、迷わずに湯飲みを取りお茶を飲んだ。

「これが本場のグリーンティなのネ。感動だわ♪」

 ……ゴメン、お茶っ葉入れ過ぎてます。

「フム、マロンと固いムースの組み合わせネ……甘くて美味しいデスネ」
「うん、私の好きな和菓子なんだよ」



「……」

「……」

「ネエ、私が何で来たのか分かるよネ?」

「……」

 私は、彼女が……いや、彼女達が理解出来ない。

「私は待ったよ……けど、アナタはアレからずっと出て来てくれはシナカッタ」
 見ている。見えないはずの眼で私をしっかりと見ている。

「……私は」

「急かすつもりは無かったんだけどサ……そうもいかなくなってネ」

「えっ?」

「もう……時間が無いんだヨ」

「それって、まさか?」

「イヤ、違うヨ。アナタに会う前から体が、内臓が弱くてね。生まれてすぐに、大人になるまで生きていられないって言われてたんダ。
 だからまあ、親や私にしたら思ったより長生きしたって感じなんだヨネ」

 なんで、なんでそんな風に笑えるの?

「私は後悔していないよ。体が弱かったから好きな事をだけをさせてもらって、そしてアナタに会って、そして戦う事が出来た」

 分からない。ダラダラと全てを引き延ばすように生きている私には、理解出来ない。

「けど、私は我がままなんだよネ。もう一度、……もう一度、アレを味わいたいんだ」
 アナスタシアは、理性を持ったまま狂気に溢れた目でじっと私を見つめる。

 麻雀は、所詮は遊戯じゃないの?ソコまでする必要なんてあるの!?
 私は叫び出したい気持ちに駆られるが、私の中の何かが、それを妨げる。

「……ふふっ、せっかくジャパンに来たってのに、本当に言いたい事はコレだけなんだよネ」

 初めて会った時の彼女は、薄い金髪の髪を軽やかに揺らした、キラキラした瞳の美しい……、躍動感のある美しさと可愛さの同居した女の子だった。

 それが今は、美しさは残ったものの、目は微かな明りしか捕らえられず、綺麗な金髪も、全てを失ったような白髪となってしまった。

「ゴメンね、急に来て」

 しかも、その事をまったく後悔していないと、言い切った。

「……ねえ」
 私は、最後に一つだけ聞きたくなった。

「ナニかな、スコヤ?」

「何で今すぐに戦おうとか、言わないの?」

「ふふっ、だから言ったでしょ、私は欲張りダッテ」

 あの時からずっと、……ずっと世界一位を守り、私を待ち続けた彼女は美しく笑った。

「"私と戦いたいと思っているスコヤ"と、私は戦いたいのだから」



 何故……。

 何故、私なのだろうか?



―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――



「すみれー!」ブンブンブン

「こ、こらっ!そんな大声で呼ぶんじゃない!」
 まったくもう、恥ずかしいじゃないか。

「さっ、早く行こう!」グイグイ

「少し落ち着け!」

「早く、行かないと限定100名様プリン、売り切れるかもしれない!」

「まだ午前中だぞ?ネットの情報でも、売り切れるのはお昼以降って言ってたし大丈夫だろ」

「でも、でもっ」

 クッ……相変わらずだな。そんな顔をされては断れないじゃないか。

「分かった、分かったから」
 まあ、元々行く予定の場所だったんだ。一番最初にしても問題は無いだろう。

「♪」ニコー





「それにしても」

「?」

 限定のゴージャスプリンを抱え込むようにパクついていた親友は、やっと顔を上げた。

「照は今年も順調みたいだな。今の所無敗記録を更新中じゃないか」

「……今年はまだ、凄い人には当っていない」
 照が眉を八の字にしかめて、言った。

「やれやれ、流石はインターハイ三連覇チャンピオンだ。トッププロのベスト10に入っても、まだ不満があるようだ」

「むうっ!」

「いや、ゴメンゴメン、久しぶりに会ったらちょっとからかいたくなってしまってな」
 私も、久しぶりに照に会って、浮かれていたのかもしれない。

「菫の方こそ凄い」

 うっ!

「原村さんと一緒に何度もTVに出てるし、この前出した歌も、とってもカッコ良かった!」フンスッ!

「……あ、ありがとう」

 ううっ、照は本気で褒めてくれているのは分かるのだが、何と言うか昔からの知り合いにアイドル活動を褒められるのは、
 何と言うかむず痒いような……なんか「うぐうっ!」ってなってしまう。

 それもこれも。



『ほら、この衣装可愛いでしょ?あれれーすっごーい!もの凄く似合ってるよー☆』

『歌も上手いねー、皆に聞かせてあげなきゃ損だよー><』

 アレコレと言いくるめられて、そして何時の間にか『ハートビーツ大宮』に所属する事になって、そして清澄の原村と一緒に二代目牌のお姉さんをする事になり……。



「のどりん♪スミレン♪二人揃って、二代目:牌のお姉さんW!」(<ゝω・)

「ブッ!!?!!!!」
 ゴホッ、グホッ!?そ、それは!?

「うちのチームでも二人は大人気なんだ!」

 は、恥ずかし過ぎる!決め台詞を本人の前でやってはいけない!
 これは今すぐに法律で取り締まるべきだ!べきなんだ!!!

「けど、チーム戦の方は大変みたい」

「まあな、イキナリはやりさんがハートビーツ大宮のレギュラーを辞めて、そして個人戦に集中する事にしたからな。まあ、本人は前々から決めていたみたいだけど、回りは何も聞かされていなかったから、大混乱だよ」

 あの人には何時も何時も引っ掻き回される。

「けど、殆ど若手だけになったのに、まだ突き放されていない位置で踏みとどまってる。……凄い」

「まあ経験は足りていないけど、けっこう良いメンバーがそろっていると思ってるよ」

 長年はやりさんの相方を務めていた、大将の○△さん。そして安定感のある副将の和、プロとなり急成長し、勝っていても負けていても心を乱さない中堅の新免那岐、そして次鋒の私、そして先鋒は大学リーグを荒し回った期待の新人百鬼藍子。

 チーム虎姫とは違うが、今のチームもとても大事な事は確かだ。

 チーム虎姫……、同じくプロになった照とは休み以外でも仕事場でたまに会う事はある。
 けど、他の皆とは、余り会わなくなってしまった。
 寂しいけど、それぞれに頑張ってるって事だからな。

「こないだ尭深に会った」

「ほう、尭深にか。私達の中ではアイツが一番忙しいんじゃないのか?よく会えたな」

 尭深は、趣味の和趣味が講じて、和風喫茶店を始めたらこれが大当たり、今では全国に十数店舗も店を持っている経営者だもんな。

 ……頼んだら、札束風呂とかやらせてくれるのだろうか?
 …………ハッ!イカンイカン><

「仕事の依頼だった」

「仕事?」

「うん、和風喫茶"ハーベストタイム"のCMだって」

「ほほう、照、お前は知名度もあるし、お互いに良い話なんじゃないのか。いや、CMだと短い時間とはいえ演技が必要になるのか……」
 記者相手の時の、外面でなんとかなるのか?

「私はただ食べてるだけで良いって、尭深が言ってた」

「ふむふむ、流石は元チームメイト、悩む必要は無かったな」

「けど、CMとか怖い、よく分からないから一度断った」

「はあ?CMだぞ、CM!私達だって中々取れない仕事だぞ!……って一度?」

「うん、菫と尭深が一緒ならやるって言った」

「は?」

「大丈夫、菫はちゃんと牌のお姉さんの格好で出れるようにお願いしておいた」b

「はあああっ!?」

 ちょ、ちょっと待てえええええ!
 同級生の真ん前であの格好をして、はやりん言語で喋れって言うのか!?
 あれはカメラの前だから、スイッチを入れられるから出来る事なんだぞ!
 知り合いの前でするとか、何の罰ゲームだよおぉおおおおお!!!

「菫、頼りにしている」

「お、……おう」



―――――――――――――――――――――――――――


●ハートビーツ大宮・所属選手

 瑞原はやり

 原村和

 弘世菫

 はやりんの相方を務めていたベテラン選手

 他・未定。

―――――――――――――――――――――――――――


「……」

「こんにちは、日曜日早朝5時に釣り番組のレギュラーを持っている、麻雀が打てる釣り人亦野誠子です」

「亦野さん、いきなり喋りだして、どうしたんですか?」

「いや、何となく忘れ去られている気がしてね」

「?」

「――ッ!」

「キタッ!フィイイイイイイッシュッ!!!」

 ビタン!ビタン!ビタン!

「凄いっすよ亦野さん!こんな大きなサワラ初めて見ましたよ!」

「ふふっ、腕ですよ腕」

 サワラか、……そう言えば淡は白身魚のムニエルが好きだったな。
 食べさせてやりたいが、しかしアイツは今、海外だからなー。



―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――



「……通らばリーチ!」

「……」

「何!?あれが通るのか!??」

「……(まだ張ってないのか?しかし切る牌や河を見る限り……)」

 悪いな、何を切られようと関係ないんや。

 ギュウウッ!
 そう、この牌や!

「……来たで」

「「!?」」

 ―――タンッ!!!

「タンヤオ三暗刻で三飜50符の6400点。……きっちり捲くりやで!」

『出たー!難波の豪腕江口セーラ!オーラス親だったトップをキッチリと打ち落とし、逆転勝利だー!』

『普通なら、二位確定の見逃しを二度もした事を叱る所なんですが……』
『ですが?』

『江口選手は、打ち筋も心構えも、全てが高得点を狙う為に特化してますからね。
それにプラス収支でも貪欲に1位を狙うスタイルは、個人的に嫌いじゃないんで文句は言いたくないですね』

『なるほど、常日頃から『最近の若い子は草食過ぎてつまらないわー』と言ってる○×プロらしいコメントですね』

『なッ!そ、それは!??!!???』///



―――――――――――――――――――――――――――

休憩、とりあえず此処までです。

↓自分用に作った早見表。

すこやん 27
瑞原はやり 28
藤田靖子 25
三尋木咏 24
戒能良子 20
大沼秋一郎 72

原作   27 28 25 24 20 72
一年後 28 29 26 25 21 73
二年後 29 30 27 26 22 74
三年後 30 31 28 27 23 75
四年後 31 32 29 28 24 76
五年後 32 33 30 29 25 77
六年後 33 34 31 30 26 78


原作 咲一年 照三年 まこ二年生

一年後 照プロ一年生 咲二年生 まこ三年生 久大学一年生

二年後 照プロ二年生 咲三年生 まこ大学デビュー 久大学二年生

三年後 照プロ三年生 咲大学生 まこ大学二年生 久大学三年生

四年後 照プロ四年生 咲大学二年生 まこ大学三年生 久大学四年生

五年後 照プロ五年生 咲大学三年生 まこ大学四年生 久就職一年目?

六年後 照プロ六年生 咲大学四年生 まこルーフトップ正社員 久就職二年目?


咲は麻雀を続けて 試合にはでてるけどプロじゃない。こういう設定ですよね??

>>44
咲ちゃんは大学リーグで戦ってました
末原さんと因縁の再戦をしたりしなかったり。

咲さんがプロになるかどうかは……後で書く予定です。

―――――――――――――――――――――――――――



『愛宕洋榎選手、A卓三番席にお入り下さい。愛宕洋榎選手、A卓三番席にお入り下さい』

 ガタンッ。
(今度こそ!負けるわけにはいかへん!)





 五年前、怪物宮永照を初めとした当時の高校三年生のウチらは、それぞれの道に進んだ。
 大きく分ければ、大学進学、就職、そして―――プロ入りや。

 まあ自慢するわけや無いけど、ウチの様な実力も実績もあるもんは大学の推薦なんかも多け貰ったりもしたもんよ。

 それで大学に進む人達も多く居た。

 まあウチは早く自分の実力を試したくて、速攻プロ入りしたんやけどな。

 当時、宮永照を頂点として、多くの実力者がおった。
 周りからは、黄金期とか、オカルト第二次勃発期とか、色々言われとったな。

 まあプロ入りした有名な所で言うと、当然トップバッターウチやな。
 運良く希望していた関西のチームに、ドラフト二位で取ってもらって入団したんや。

 一位じゃないのかって?……そんなん聞かんでもわかるやろ?全チーム、アイツを指名しよったわ。

 まあ、ウチが監督やったとしてもチャンプを指名するけどな。特に希望のチームは無かったみたいやし。


 で、まあ言わんでも分かるやろけどインハイチャンプ、宮永照もプロ入りや。

 あの作った様な営業スマイルで記者会見してたわ。


 そしてウチが気にしていたプレイヤーの一人、千里山の江口セーラも大学に行かずにプロ入りやった。

 そうそう、同じ千里山の円城寺がプロに入ったんは少し意外やったな。
 見た感じ、お嬢ぽかったから、てっきり進学組みやと思ってたわ。

 まあ、他にも新道寺の白水哩や、広島の佐々野いちごなんかもドラフトで名前出とったな。

 どのチームにも呼ばれんかった、個人で仕事を請ける野良プロなんかも居るけど、まあこれは数が多過ぎるし、一般参加OKの大会くらいでしか会わんからどうでもええかな。

 まあ、そこらへんはどうでもええ事や。

 とにかくウチと、そして多くの新人がプロ入りしたんや。




 その後はとても順調やった。
 最初の一年なんて、あの宮永照より成績が良かったくらいやからな!
 ……まあ、二年目には抜かれよったけども。

 まあ、なんやかんやで3年目までは順調やった。
 あのバケモンを抜かせば、新人では頭一つ抜け出た感じやったしな。

 せやけど、そのまま順風ってわけにはいかんかったんや……。

 1年目は所属したチームの中でどうにか代打や、市民団体、そして地方回りの仕事を貰えた。
 そして二年目にはチームの推薦もあって、国が運営している公式大会にも出るようになった。もちろん一番の目標やった、公式リーグ戦にも出れるようになったんや。

 ウチとチャンプはストレートで昇級、C級1位の宮永は入れ替え戦無しでB級へ、そしてC級3位やったウチは、入れ替え戦でB級降格候補者達との勝負に勝ち、B級へと入ったんや。



※入れ替え戦。
例:C級一位は自動的に昇級。B級最下位は自動的に降級。
C級2~5位、B級ワースト2~5位は入れ替え戦を行い、一定の勝利を得れば昇級or残留となる。




 そん時、ウチと同じ位の実力やって噂されていた江口セーラは、まだ公式リーグに来てなかったな。

 同じ大阪出身で、ライバルとか色々噂される事が多かったから、望まんでも情報が入ってきよったんやけど、スランプになったとか言われとったな。

 まあ、何にせよ、プロとしては順風満帆やったわけや。

 それに曇りが出始めたんは、次の年やからかな……。

 その年も、年間を通して中々の成績やった。

 しかし、研究され始めたのか、自力のあるベテランにはギリギリの所で負ける事が多くなってきたんや。
 まあそれでも勝率は高いから、あんまり気にしてなかったけどな、流石プロ、手ごたえが出てきた!ってな。

 そしてB級でも入れ替え戦のメンバー、5位以内に入る事が出来た。

 しかし入れ替え戦でウチは勝てんかった!
 A級の降級候補者の死に物狂いの抵抗を突破できず、B級に残留となったんや。

 いくら相手がA級の雀士とはいえ、勝てないわけやなかったんや。
 現にウチより成績の悪かったB級五位なんかが、見事入れ替え戦に勝利してA級入りしたりしたからな。

 そして、それらと入れ替わりに新しくC級から駆け上がってきたプロ達が入って来た。
 その昇級者の中に居たのは、ウチより遅れていたはずの江口セーラが居た。

 まあ、此処まで言えばっちゅーか、女子プロの現状を知っている人なら分かってる事やけど、その次の年も、ウチは昇級出来ず、そして後から来た江口はA級へと駆け上がり追い抜かれたっちゅーわけや。
 ははっ、リアル水戸黄門オープニングやな。

 まあ、侮ってるつもりはなかってんけど、せやけど学生時代から競い合ってて、そして一旦は上になったと思った相手に追いつかれて、そして追い越されるんはかなりキツイもんがあったなあ。

 あん時は、恭子や由子相手にクダ巻いて、迷惑掛けたりしたなあ……正直、スマンかったわ。

 まあ、全ては過去の事や、やるで!今日こそはやるで!!!



―――――――――――――――――――――――――――


阿知賀は全員プロになりそうだし、全員プロにならなそうでもある

―――――――――――――――――――――――――――



「お疲れ様ー」
「……おつかれさんさんころりー」

「主……洋榎、テンション低いなら、わざわざボケんでもええんやで?」

「すまんなー恭子、何時も何時も呼び出したりして」
「お父っつぁん、それは言わない約束やで」
「恭子ー!……って誰がオトンやねん!」
「こりゃまた失礼しましたー!」



「……ハァ」
「なんか重症みたいやな、今日そないに負けたんですか?」

「1位一つに、2位三つや……」

「はあ?全然成績良いですやん!」

「なんかなー、勝ちきれない感じなんやなー。もうちょっとやと思うんやけど」

「まあ、そういう時もありますよ」

「ハァ……同じ位やと思ってた江口は、A級でもバリバリやってるっちゅーのにのにウチと来たら、B級でも勝ち切れんで……」

「まあ、あの人は何か……違いますからねぇ」

「はあ?何が違うっちゅーねん」

「う~ん、なんて言うんかな?……麻雀だけを見てるって言うか」

「ハァ、恭子。あんなー」

「はい?」

「カッコええ言い方したからって、頭が良くなるわけやないんやで?」

「ちょっ!主将!そんなんちゃいますからっ!!!」

「またまたー、なんかちょい俯いて雰囲気だしてたや~ん!」

「ちょっ!イジられるんは漫ちゃんの役目なのにぃいいいいっ!」





 ハァ、……やっと主将も寝たか。

 ……まあ、実際の所、主将と江口セーラにそれほど大きな差は無いと思う。いや、技術だけなら勝ってるかもしれへん。

 しかしそれは、腕だけを見た場合だ。

 今みたいに、江口セーラがとか、宮永照が……って言ってる間は、上に行けへんやろな。

 プロになって、以前出来てた事が出来てない気がする。

 なんて言えばいいやろか?

 う~ん、清澄の部長が、うちの主将と戦った時の状態が近いんかな?

 けど、上がって自分を見失ってるっちゅーのとも、また違うしなあ……。



―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――



「やった!プロ麻雀カードですこやんに次ぐ最強レア!宮永照キラキラカードが出た!出ましたよー!」

 ふぉおおおおっ!

「こ、これは今すぐに津山さんに連絡せねば!!!」



―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――



「コホッ、コホッ」

「善野さん!無理しちゃイカンですよ!」

「いや……コホッ、……だ、大丈夫や」

「全然大丈夫や無いじゃないですか!」

「いや、ホンマに大丈夫や……それより、その話しは本当なんか?」

「はい。事務局の人から聞いたばかりですから、まだ公表はされていませんけど確実な情報です」

「そうか……ついに、彼女が……」



「……うふふっ」



―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――



 とーりゃんせ、とーりゃんせー
 こーこは、どぉーこの細道じゃー
 天神さまの細道じゃー

 ちーいっと通してくりゃさんせ
 御用のないもの とおしゃせぬ

 この子の七つの お祝いにー
 お札を納めに まーいりますー

 行きはよいよい 帰りはこわい

 こわいながらも

 通りゃんせー 通りゃんせー        あはははっ♪





「ねえ塞 、やっぱり私達は豊音に会っちゃいけないの?」
 胡桃が、悲しそうに聞いてくる。
 この受け答えも、何回繰り返しただろうか?

「豊音、昔から豊音は子供っぽかったんだけど、ここ最近は特に子供みたいになっちゃって、記憶の順番も曖昧になってるようなんだ」

「……」

「今までの○○様の文献を見ると、結構危ない状態らしいんだ、だから……」

「……ゴメンね、我侭言って。一番大変なのは、塞なのに」

「ううん、そんな事ないよ」

 心苦しいのは私の方だ。
 私がこの道を望んだのは、私の能力が丁度良いからだけじゃなく私の意志だからだし。
 何よりも、皆と、宮守の全員と会えているのは私だけだから。

「それに、私に何かあったら豊音の事は、胡桃と白望にお願いする事になるし」

「そんな!何か、なんて!そんな事言わないでよ!」

「……うん、そうだね」





 とーりゃんせ、とーりゃんせー
 個々は、どぉーこの細道じゃー
 ■神様の環(わ)が道じゃー

 血ぃーで通してくりゃさんせ
 御用の無いモノ 通しゃせぬ

 この子の七つの お呪いにー
 お札で鎮めに 参ります

 行きはよいよい 帰りは怖い

 怖いながらも 行かねばならぬ

 通りゃんせー 通りゃんせー

 逝くだけならば 遠慮せずにー 通りゃんせー 通りゃんせー



―――――――――――――――――――――――――――

今日は此処まで
見てくださった皆様、ありがとうございます。

―――――――――――――――――――――――――――



 その小鍛治プロですが、今週末ついにA級上位、去年の総合成績3位である戒能良子プロと対戦する事になりました。

 おお、これは見物ですね!

 はい、現役最強候補の一角である戒能プロ、そして若くしてレジェンドになった小鍛治プロの対決、見逃せませんね。

 そう言えば戒能プロは、小鍛治プロが取った白鷺牌と同日程で行われたオーシャン牌の優勝者でしたね。

 ええ、そういう意味でも波に乗った二人の対決としての楽しみもありますね。


 そういう事で、過去最強のグランドマスターと現役最強候補の二人がどう戦うのか?勝敗はどちらに傾くのか?
 来週末は見逃せないぞ♪

 お時間となりました、麻雀LIVEは、私○■と。
 △▼でお送りしました~!



 ―この放送は龍門渕グループと、その他のスポンサーでお送りいたしました。―


 ピッ。



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―――――――――――――――――――――――――――


「ふぅ……」
 ……やっとだ。

「なるほど、こう打ってるのか……何を考えてこうなるんだ?相変わらず、わっかんねーなぁ~」
 暗い部屋に、TVの明りだけが私を照らす。

 麻雀協会の知り合いに頼んで分けてもらった、小鍛治プロの復帰戦ビデオの全てのコピー。

 私は、昨日から繰り返し、全ての局をずっと繰り返し見ている。

 昔誰かが言っていた、『努力した人が皆成功するわけではないが、成功した人は皆努力をしている』と。

 当たり前の事だ。

 対戦する相手は、手に入る全ての牌譜を読み、司会の仕事ならば、出場選手の打ち筋や経歴を調べる。

 当たり前の事だ、わざわざ他人に言う事ではな無い。

 そして今やっているコレは……努力ですらない。

 だって、こんなにも―――楽しいのだから。

 ずっと望んでいた。あの人が戻ってくるのを。
 ずっと諦めていた。どうせあの人は戻ってこないのだと。

 あの、惰性で打っている小鍛治健夜ではない。
 本気で勝ちに来ている、最強の小鍛治健夜と戦えるのだ。

「あはははははっ!」

 楽しい!楽しすぎてわけわっかんね~!


―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――


「うふふっ☆」

 震える。
 今の私を見たら、顔面が蒼白で身体は瘧(おこり)に掛かった様に震え、見知らぬ人でも心配するだろう。

 だが、これくらいで済んで良かった。

 何せ、あの小鍛治健夜が戻ってきた事を実感したのだから。

 カチッ。ウィィイイン。

 巻き戻ったね。もう一度、あの時の―――オリンピック時代の、すこやんのビデオを観てみようっと。
 ……VHS、捨てないで良かった。



 今の現役で、私ほどすこやんと対戦した選手は居ないだろうと思う。
 今残って居るプロで、私ほどすこやんに肉薄した選手は居ないと思う。

 未だ引退していないプロで、私ほどあのバケモノに届かないと絶望している選手も居ない事は、誰に聞かずとも確信している。



「やっぱり……」

 白鷺牌のDVDと昔のすこやんのビデオを見比べて確信した。

「やっぱりすこやんは……衰えている」

 圧倒的、……勝つどころか誰一人として並び立てない圧倒的存在なのは変わらない。……変わるはずが無い!

 だけど、圧倒的であろうとも、それでも全盛期に比べれば、最前線から遠のいていた彼女は、やはり衰えている。

 他人には分からない、微かな差だとしても、それは疵(キズ)に他ならない。



「……ふふっ☆」

 身体が震える。
 これは武者震いだと、強がる事も出来るだろうけど。
 これが、恐怖故の震えだという事は、誰よりも私が知り過ぎていた。

 負けて!負けて!負けて!
 それでも他の人には勝てたから、対戦する数は増えて……そして負けて。

 ファンの人には悪いけど、アイドル活動を逃げ場に現実逃避していた時期も確かにあった。

 そして、すこやんが前線から引いて、つくばに引き篭もった時、誰よりも一番安堵したのはこの私だろう。
 もう、あのバケモノと対戦しなくても良いのだと。
 始める前から負ける勝負に挑まなくても良いのだと……!



 しかも今の気持ちも嘘ではない。
 あの小鍛治健夜が、自分から動き、そして勝ちに来ている。

 震えが止まらないほど怖いのに……なのに、嬉しいのだ。
 これほど彼女を待ち望んでいたなんて、私自身知らなかった。
 歓喜で悶える、この、無駄に大きい胸の鼓動でやっと気が付いた始末だ。



 麻雀以外のお仕事は、後輩に押し付けた。
 あの二人なら、すぐに私を超えてくれるだろう。

 ハートビーツ大宮のメンバー達も、控えを含めて鍛えた。
 私を見ると恐怖で硬直する子も出来ちゃったけど、長い麻雀人生の中では良い思いでになるだろう。

 もう後顧の憂いは無い。



「……もうすぐ、……もうすぐだ」


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 ゴメンね、シノハユは一巻しか読んでないので、はやりんの最新設定は反映されてません><


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『さあやってきました『麻雀:アナライズ』のお時間です!』

『今日の司会はふくよかではないアナウンサー、福与恒子と!』
『こんにちは、千里山高校麻雀部の監督をしている愛宕雅枝です。よろしくお願いします』

『今日の麻雀アナラズでは、A級公式戦、戒能良子プロと小鍛治健夜プロ、他二名の対戦を生中継です。愛宕監督は、この二人の事は?』

『はい、小鍛治さんは、私がプロを引退する前に一度対戦した事がありますし、戒能プロはプロになってからずっとランキング上位に居る選手ですから、何時も良く観ています』

『なるほど、二人とも良く知ってらっしゃると』

『よくと言うほどではありませんが、二人とも研究させて頂いた事はあります』

『そんな元プロである愛宕監督にズバリお聞きします』

『……』

『戒能プロとすこやん、どちらが勝つと思いますか?』

『そうですね、モブAさんやモブBさんも悪くはありませんが、やはり戒能さんと小鍛治さんの二人の実力が抜きん出てますからね』

『そうでしょう!そうでしょう!』

『私個人の感覚では、やはりグランドマスターの方が自力は上だと思います』

『やった~!すこやん、褒められているよ~♪』

『……なので』

『なので?』

『小鍛治選手が、どれだけ全盛期の力を取り戻しているか?これが勝敗の岐路になるかと思います』

『なるほど!流石元プロ、説得力のある内容です!』

『恐縮です』

 あの時の……私を引退を決意した、あの強さ……もう一度見せてみーや!


―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――


「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「皆さん、そしてミス小鍛治、ナイストゥーミチューです」
「あ、よ、よろしくお願いします」

『それでは今より、公式戦―A級、午前の部を始めます。出場選手は、速やかに出場卓に移動して下さい。繰り返します、今より、公式戦―A級、午前の部を始めます。出場選手は、速やかに出場卓に移動して下さい。』

 当たり前ですが、プレイヤーの殆どは放送前に、席にシットしています。
 この時間帯に慌てるのは、相当のソコツモノか、ビックマンでしょう。

「ご、ごめん、トイレ行って来る。すぐに戻るから!」

 ……OH!



 少し拍子抜けです。

 グランドマスター小鍛治とは、何度か会った事はあります。

 しかし、少し抜けた所のある小鍛治からは、まったくと言っていい程、強者が共通して持っているオーラの様なものを感じ取る事は出来ませんでした。

 ですから今日。
 勝負の場でなら、皆が恐れているグランドマスターの強さが実感出来るかと思ったのですが……。
 やはり、勝負が始らないと見せてくれないのでしょうか?

「……スゥハァ……スゥハァ」

 私の一族は、巫女の家系。しかも、本家筋は悪神を抑える為に特化した巫女です。

 私の家も分家ですが、それの余枝としてフリークスパワーを伝えています。

「……フゥ……ハァ……フゥ」

 悪神の中には、当然、死を司る神も居ます。
 それに”類する技”、それを御するのが私の家のシークレットスキルです。

「フゥ……」

 問題無し、オールグリーンです。

「お待たせー。よし、始めようか」

 一週間前から肉を絶ち、毎朝禊をし、体調、精神面共にパーフェクトです。

「はい、……そうですね」



「「よろしくお願いします」」



 戦いは始った。



―――――――――――――――――――――――――――

短いですが、今日は此処までです。
読んで下さった方、ありがとうございます。

9月のシノハユ二巻が待ち遠しいです。

僕は壊滅的に英語出来ないので、台詞はかなり適当ですww

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