幼女「あなたの口の中にいれてちょうだい!」大蛇「ハァ!?」(45)

ある日森の中、ヘビさんに出会った。



大蛇「ん……人間の子供か」ニョロ…

幼女「きゃああああっ!」

大蛇「ふん、安心しな……オレは人間は食わねえ。まして子供はな」

大蛇「お嬢ちゃん、とっとと逃げな」

幼女「やったぁ!」

大蛇「へ?」

幼女「ねえ、あなたの口の中にいれてちょうだい!」

大蛇「ハァ!?」

幼女「いいから、はやく!」バッ

大蛇「おいっ! ムリヤリ口の中に入るな──」モゴモゴ…

タタタッ……

黒服A「あのガキ、どこいきやがった!」

黒服B「こっちの方に逃げたはずだが……」

大蛇「…………」ニョロッ…

黒服A「うわぁっ!?」

黒服B「コブラじゃん!」

黒服A&B「にっ、逃げろぉ~!」

タタタッ……

大蛇(コブラ? オレはどちらかというと、アナコンダに近い種族なんだが……)

大蛇(ああ、オレがお嬢ちゃんを丸呑みにして腹が膨れてるから、コブラに見えたのか)

大蛇「おい、お嬢ちゃん!」

大蛇「お前を追ってたっぽい奴らは逃げたぞ! 早く中から出て──」

幼女『すぅ……すぅ……』

大蛇「って、オレの中で寝てるんじゃねえ! 起きろ!」

幼女『んぁ……?』

大蛇「オレが消化液の分泌を抑えてやってはいるが、消化されちまうぞ!」

大蛇「おええっ……」

ドサッ……

幼女「いたっ!」

幼女「あ~あ、グショグショになっちゃった」グショグショ…

幼女「おまけに、ちょっとヒリヒリするし」グショグショ…

大蛇「ったく、オレが人間を食うヘビだったらあのままお陀仏だ!」

幼女「だ~って、ヘビさんの中、きもちよかったんだもん……」

大蛇「なに考えてんだ……」

幼女「ところで、なんで人間はたべないの?」

大蛇「人間だけじゃねえ、オレは子供は食わないって決めてんだ」

大蛇「捕食者なりの美学ってやつだな」フッ…

幼女「ふーん、でも大人をたべて、もしその大人に子どもがいたら」

幼女「たぶん、生きていけないよね」

大蛇「うっ……!」

幼女「それに、子どもが大人になったら、けっきょくたべるんでしょ?」

大蛇「まぁ……な」

幼女「そもそも、大人と子どものきょうかいせんってなに?」

幼女「ねんれい? 大きさ? 一人ぐらししてるかどうか?」

幼女「これをたべるまえにいちいちきくわけ? んなわけないよね?」

幼女「きくとしても、ウソつかれたらどうするの?」

大蛇「いや……その……」

幼女「なんだか穴だらけの“びがく”ねえ」

大蛇「うっ、うるさい! 美学ってのはそういうもんなんだよ!」

大蛇「まぁいいや、オレは帰るぜ」ニョロ…

幼女「まって!」

大蛇「?」

幼女「じつはあたしのパパとママ……わるいやつにつかまってるの」

大蛇(悪い奴……さっきの黒服どもか)

幼女「たすけるのを、手つだってほしいの!」

大蛇「やなこった! めんどくせえ!」

幼女「……マングース」ボソッ

大蛇「!」ギクッ

幼女「ヘビさん、あなたはもともとこの森のボスだったみたいだけど」

幼女「さいきんやってきた、おっきいマングースにボスのざをおわれたみたいね?」

大蛇「な、なんでそれを……」

幼女「あたしのじょうほうもうをなめないでよね」

幼女「もし、あたしに力をかしてくれるっていうんなら」

幼女「マングースへの“ひっしょうほう”をおしえてあげてもいいよ?」

大蛇(マジかよ……!)

幼女「ギブアンドテイクよ、さあどうする?」

大蛇「……教えてくれ」

幼女「くれ?」

大蛇「教えて……ください」

幼女「オッケ! けーやく成立!」

大蛇「ぐ……!」

幼女「ほら、ハイタッチしよ! 手出して!」

大蛇「…………」

幼女「ノリがわるい!」

大蛇「手ェないんだよ、オレは!」

大蛇「ところで、必勝法っていうのは?」

幼女「えぇっとね……」ゴニョゴニョ…

大蛇「……なんだそりゃ!? そんなんで勝てるのか!?」

幼女「うん、ぜったいかてる!」

幼女「ってわけでレッツゴー!」

大蛇「……いつかはリベンジしないといけなかったし、やってみるか!」

森のほら穴──

大蛇「お、マングースがいやがる」ニョロ…

幼女「はなうたなんかして、くつろいでるわね」



マングース「ふんふ~ん……」



大蛇「くっそぉ~、あのほら穴は元々オレの巣だったってのに……」

幼女「とられたら、とりかえすのよ! さ、いくのよ!」

大蛇「分かったよ!」ニョロッ…

大蛇「久しぶりだな……マングース」ニョロ…

マングース「おや? だれかと思ったら、ヘビじゃないか」

マングース「性懲りもなく、また私にコテンパンにされにきたのか?」

大蛇「実はな……今日はお前に伝えたいことがあって、やってきた」

マングース「ほう?」

大蛇(えぇ~っと、ここでお嬢ちゃんにいわれたとおりのセリフをいえばいいんだよな)

大蛇「オレは……お前が好きだ」

マングース「!」

マングース「えっ! えっ! ──ええっ!?」

大蛇(おお、本当に動揺してやがる! 今が攻撃するチャンスか!?)

マングース「じ、実は……」

大蛇「?」

マングース「実は……私もお前のことが好きだったんだ」

マングース「だけど、照れ臭くて……つい攻撃してしまったの」

大蛇「……へ?」

マングース「いっぱい子供を産ませてね」ポッ…

大蛇(え、こいつメスだったのかよ!?)

大蛇「あのさ……マングース」

大蛇「オレたち、種族が全然ちがうじゃん? やっぱり、くっつかない方が──」

マングース「大丈夫、ライオンとトラだってライガーやタイゴンを産むしさ」

大蛇「いや、ライオンとトラと、ヘビとマングースじゃ距離がちがいすぎ……」

幼女「おめでとう、二人とも!」パチパチ…

マングース「ありがとう!」

大蛇「えっ、ちょっと──」

幼女(マングースはツンデレだった! あたしのじょうほうどおりね!)

大蛇「まぁいいや……結婚しよう」

マングース「はい……一生ついていきます」

幼女「もうすっかりデレデレね」

大蛇(急にしおらしくなるなよ……。なんかオレもまんざらでもなくなってきた)

大蛇「だが、オレはこれからこのお嬢ちゃんを手伝わなきゃならんから」

大蛇「すぐ出かけなくちゃならん」

大蛇「お前はこの巣で待っていてくれ」

マングース「では子作りはそれから、ということでよろしいですね?」

大蛇「ああ」

大蛇(子作りって、どうやってやればいいんだろ……想像もつかねえ)

マングース「ところで、もし子供ができたら……名前はどうします?」

大蛇「う~ん……」

幼女「んじゃ、あたしが名づけてあげる!」

幼女「こういうのはパパとママから名前をもらうのがいちばん!」

大蛇「たしかにな」

幼女「マングースの“マン”とアナコンダの“コ”をくみ合わせて──」

大蛇「やめろッ!」

ここで一度切ります

森を出た幼女と大蛇──

大蛇「さてと、それじゃ約束通りお嬢ちゃんの両親を救いに行くか」ニョロ…

大蛇「だが、さっきの黒服はなんなんだ? 悪い奴、らしいけど」

幼女「じつは……あいつらは“はんざいそしき”のメンバーなの」

大蛇「犯罪組織……。これまたストレートに悪い奴らだな」

大蛇「つまりお嬢ちゃんや父さん母さんは、その組織の被害者だってことか」

幼女「ううん、あたしたちはメンバーだったの」

大蛇「……は?」

幼女「あたしたちおやこが、そしきのじょーほーぶをしきってたの」

大蛇「情報部……だからオレやマングースのことも知ってたのか」

幼女「うんっ! ウチのそしき、めずらしいどうぶつのハントもやってたし」

大蛇「オレやマングースも、いずれターゲットにされてたかもってことか」

幼女「だけど、くにのえらい人から、“しほーとりひき”をもちかけられて」

幼女「むざい+お金とひきかえに、そしきのひみつをもち出すことにしたの!」

幼女「そのとちゅうで、パパとママはつかまっちゃったのよ」

大蛇「なんか……どっちもどっち、な気もしてきたな……」

大蛇「だがよ、お嬢ちゃんの両親は大丈夫なのか?」

幼女「うんっ! だってそしきのひみつデータを入れたUSBメモリは」

幼女「あたしがもってるんだもん」

大蛇「お嬢ちゃんを確保するまでは、生かしておく公算が高い、か……」

大蛇「ちなみにどこにあるんだ? そのUSBメモリは」

幼女「あたしのおなかん中」ポンポンッ

大蛇「……まるでヘビだな」

アジト前──

大蛇「あれが組織のアジトか……」

幼女「うん」

大蛇(規模はさほどじゃないから、オレだけでもなんとかなりそうだ)

大蛇「んじゃ、お嬢ちゃんはオレの中に入ってろ」

大蛇「両親のところまで、一気にいくぜ!」

幼女「りょーかいっ!」バッ

大蛇「うえっ」ングング…

幼女『ヘビさんの中、きもちいい……』

大蛇「今度は寝ないで、ちゃんと案内してくれよ!」

大蛇「シャァァァァァッ!」ニョロニョロ…



黒服A「げっ、さっきのコブラだ!」

黒服B「俺たちを追って、ここまでやってきたんだ!」

黒服A&B「逃げろぉぉぉぉぉっ!」タタタッ



大蛇「よぉし、中に入るぞ!」

幼女『うん!』

アジト内──

大蛇「シャァァァァァッ!」ニョロニョロ…



黒服C「げぇっ、でかいコブラだ!」

黒服D「ひいいいいっ!」

黒服E「くそぉぉぉぉっ!」パンッ パンッ

大蛇「無駄無駄、オレのウロコに銃なんて効かねーよ!」キンッ キンッ

幼女『かっくい~!』

黒服C&D&E「逃げろぉぉぉぉぉっ!」スタタタッ

ボスの部屋──

ボス「組織の秘密を売り渡そうとするたぁ、とんでもねえ奴らだ……」

ボス「さあ、データを持っている娘はどこにいやがる!?」

父「わ、分かりませんっ!」

ボス「分かりませんじゃねえだろ!」

母「お許しを……」

ボス「許すわけねえだろうが!」

ボス「たっぷり拷問にかけてやるから覚悟しやがれ!」ギロッ

父&母「ひいい……」

ボゴォンッ!

ボス「な、なんだ!?」

父&母「ひいいいっ!」

大蛇「ここがボスの部屋か」

ボス「だれだてめぇは!?」

大蛇「オレか? オレはコブラだ!」ニョロッ…

ボス「ヒューッ!」

大蛇(あそこにいる二人が、お嬢ちゃんの両親だな! さっさと連れて──)

ボス「こいつらを助けようってのか!? させるか!」ドゥンッ ドゥンッ

大蛇「ぐおっ!?」ビシッ ビシッ

大蛇「オレのウロコに傷をつけるとは……!」

ボス「クックック、俺の銃は大口径な上に特別製でね」

ボス「これでクマを仕留めたこともあるくらいだ!」

大蛇(まずいな……! あの銃で撃たれたら、腹にいるお嬢ちゃんもあぶねえ!)

幼女『ヘビさん、だいじょーぶ!?』

大蛇「大丈夫じゃねえな……」ヨロッ…

大蛇(だが、約束は約束……! 必ずボスを倒して、両親を救う!)

大蛇(腹にいるお嬢ちゃんを銃に晒さないためには……オレが頭から突っ込まねえと!)

大蛇「シャァァァァァッ!」グワッ

ボス「……バカめ!」チャッ

ドゥンッ!

大蛇「ぐはぁっ!」

大蛇(モロに口を撃ち抜かれた……!)ヨロッ…

幼女『ヘビさん!』

大蛇(くそう……! 今度こそ噛みついてやる!)

ボス「もう一度くるか!? 次はドタマを撃ち抜いてやる!」チャッ

幼女(ボスのピストルのうではほんもの……このままじゃまずい!)

幼女(だったら──)

幼女『外に出る!』モゾモゾ…

大蛇「うげっ!」オエッ…

大蛇「バッ、バカ! 今出たら、銃の餌食になっちまうぞ!」

幼女「だいじょーぶ!」モゾッ

幼女(ヘビさんの液で、ヒリヒリする……)グショッ…



ボス「こ、これは……!?」

ボス(幼女の上半身と、ヘビの下半身を持つ生物……)

ボス「まさか、あなたはギリシャ神話に伝わる伝説の怪物……ラミアー!?」

幼女「そーよ!」

幼女「さぁ、こうさんしなさい!」

ボス「ははーっ!」ガバッ

大蛇(そうか……オレの口から上半身だけ出したのはそういうわけだったのか!)

大蛇(伝説の怪物を見たら、そりゃどんな悪人だって降参しちゃうもんな!)

アジトを抜け出し──

大蛇「もうそろそろいいか。全身を吐き出すぜ」オエッ

幼女「いだっ!」ドチャッ…

幼女「ふう、もうすこしで溶けちゃうとこだった」ビショビショ…

幼女「でも……ヘビさんの中、とってもよかった……」

大蛇「オレはもうゴメンだ」

大蛇「アンタらも、オレから下りてくれ」

父「ヘビ君、どうもありがとう」スタッ

母「助かりましたわ」スタッ

大蛇「お嬢ちゃん、これからどうすんだ?」

幼女「そしきのデータをもって、“しほーとりひき”しにいくわ!」

大蛇「そっか、頑張れよ!」

幼女「ヘビさんは?」

大蛇「マングースが待ってるし、森でアイツと暮らすよ」

幼女「がんばって、子どもつくってね!」

大蛇「おいおい、よせよ」

幼女「子どものなまえは、マングースの“マン”とコブラの“コ”で……」

大蛇「よせッ!」

大蛇「ところで聞いておきたかったんだが、お嬢ちゃんの誕生日はいつだ?」

幼女「12がつみっか!」

大蛇(12月3日……)

大蛇(13星座だと、へびつかい座か……やっぱりな)

大蛇(オレとしたことが、いいように使われちまったぜ)フッ…

大蛇「お嬢ちゃんとはなんとなく、また会えそうな気がするな」

幼女「あたしも、そうおもう」

大蛇「それまで達者でな!」

幼女「うん!」

その後──

少女「こんにちは!」

大蛇「お、久しぶりだな! ちょっと背が伸びたんじゃねえか?」

少女「あたしだって、いつまでも子どもじゃないんだから!」

大蛇(まだ子供だろうが……)

大蛇「ああ、そうだ! オレたちにも子供が生まれたぜ! やればできるもんだな!」

マングース「ヤればできる、なんて……あなたったら……」ポッ…

赤子「おぎゃあ、おぎゃあ……!」

少女「わぁ、かわいい! ウロコのあるマングースだね!」

少女「少しふっくらしてるから、ちょっとツチノコっぽいかも!」

少女「この子の名まえは?」

大蛇「まだ決めてないんだ」

少女「だったら、マングースの“マン”とツチノコの“コ”で……」

大蛇「いい加減にしろッ!」





おわり

おしまい

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