僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」(1000)

僧侶「ゆ~しゃさま~」トテトテトテ

勇者「おー僧侶。 旅立つ準備は出来たか?」

僧侶「はい~。お弁当と~おやつと~後コンパスです!」クリクリ

勇者「惜しいっ! クルクル回る方なら100点だったんだがな~」
僧侶「残念です」シュン

勇者「だが……これはこれで武器として流用出来る。ナイスだ僧侶!」

僧侶「よかった~」ニコリ

勇者「俺達もとうとう魔王退治に行くんだな……」

僧侶「はい……。幼き頃からの誓いを果たす時が参りました、ゆーしゃさま!」

勇者「俺が勇者で、お前が僧侶! 二人で必ず魔王を討つ!!!」

僧侶姉「僧侶~あんた地図忘れてるわよ! それに教本も!」

僧侶「姉上、かたじけないです」

僧侶姉「全く……ほんとに大丈夫かしら」

勇者「安心してください姉上様! この勇者いる限り僧侶に傷一つつけさせやしませんよ(フリムキリッドヤァァァ」

僧侶姉「(頼りの勇者がこれって言うのも心配の一つなんだけどね……なんでこんな子に神託が降りたのやら)」タユン

勇者「(しかし僧侶の姉ちゃん胸でけぇ……! シスター服押し上げてる感じやっべぇぇぇぇ)」

僧侶「……ムムム。邪気が致します、勇者様。ここは危険です。早く参りましょう」

勇者「え、あっ、ちょっとまっ! 痛っ! 僧侶さん引きずってますよ!?」ズルズル

僧侶姉「ほんとに大丈夫かしら……」

勇者「ここが始まりの大草原かー」

僧侶「広いですねゆーしゃさま!」

勇者「だな! ここでレベルを上げつつ始まりの塔へ向かうわけだ!」

僧侶「わくわくしますねゆーしゃさま!」

勇者「おうよ!」

勇者「さて……この勇者の第一の生け贄になるモンスターは……っと」

スライム「」

僧侶「ゆーしゃさま! あそこにスライムが!」

勇者「……ノンノンノン」チッチッチ

勇者「俺の記念すべき第一号目の生け贄だぜ? 奴ごときが務まる筈がない……!」

僧侶「!!!」

僧侶「さすがゆーしゃさま!」

勇者「クククッ……まあな」

僧侶「ゆーしゃさま! カラスが!」

勇者「違う!」

僧侶「ゆーしゃさま! 角の生えたウサギがおります!」

勇者「小動物を殺る趣味はない……」

僧侶「(ゆーしゃさま優しい)」

そうしてしばらく探すこと数時間。

僧侶「ゆーしゃさま! 悪そうなおっさんがおります!」

悪そうなおっさん「……」

勇者「良くやったあああああ! 如何にも悪そうな奴だな。
こいつなら俺の初陣に相応しい……!」

おっさん「……」

勇者「さあっ! 来なっ!」

ゴスッッ!!!


勇者は死んでしまった。

僧侶「ゆー……しゃさま……?」

†勇者†「」

おっさん「うわ雑魚っ。なにこいつ。勇者とか冗談だろ」

僧侶「勇者様……何故私を置いて先に逝かれるのです……」

おっさん「いや次はお前の番だぞ」

僧侶「幼い頃からいつもこうして私を守ってくれて……いつも助けてくれて……私はいつもその影で震えていることしか出来ませんでした……けど」

おっさん「おーい、攻撃しちゃうよー?」

僧侶「もう、守られるだけの僧侶じゃありません! 私は勇者様を守るためだけにこの数年間を生きて来たのだから!」

僧侶「勇者様の亡骸には指一本触れさせませんっ!」

僧侶「さあ! かかって来なさい悪党め!
例え私達を倒せたとしても神は決して貴方を許さ」

おっさん「なにもうこいつうるさいわ」ガシュッ

僧侶は死んでしまった

おっさん「臭くなるから窓から捨てといてー」

ヒューン

∥∥∥∥∥∥∥∥
†勇者††僧侶†
ドスッ ドスッ


村人「あれは勇者様でねーが! 大変だあー勇者様が死んでおられるだよー
すぐに教会に連れていくだあよ」


────

僧侶姉「……」

†勇者††僧侶†

僧侶姉「はやっ」

僧侶姉「えっ、ていうかここいらで死ぬ要素のあるモンスター居たかな……」

僧侶姉「しかもレベル1だし……」

僧侶姉「まあいっか……おお勇者よ死んでしまうとは情けない以下省略ザオリク」

勇者「ふぁっ!?」

僧侶姉「蘇れ我が妹よザオリク」

僧侶「はっ!」

勇者「ここは……」

僧侶姉「始まりの村の教会」

勇者「……そうか」

勇者「負けちまったんだな……俺」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「俺は……俺はっ……!」

僧侶「勇者様……僧侶はここにおります」

勇者「僧侶……」

僧侶「勇者様……」

僧侶姉「さっさとレベル上げに行かんか」

勇者「はっ! そうだった! 俺としたことが一番大切なレベル上げを疎かにしていたぜ……!」

僧侶「レベルが上がればあんな奴ゆーしゃさまなら余裕ですっ」

勇者「アイシャルリターンと行くか!」

僧侶「はいっ!」

僧侶姉「(絶対意味わかってないだろこいつ)」タユン

勇者「むっ(しかし相変わらずけしからん乳だな僧侶の姉さんは……)」

僧侶「ムムムム...ゆーしゃさま、ここにも邪気が蔓延しております。さっ、早く参りましょう」

勇者「そ、僧侶っ! 足っ! 足引っ張るなって! 協会の固い椅子とかで頭ガンってしちゃうか」ガンッズサーー

僧侶姉「……この世界終わったかもしれないわね」

勇者「ヒャッハー! スライムはおるかぁー!」

スライム「ピィ」

僧侶「たくさんおりますゆーしゃさま!」

勇者「……狩りの時間だ」

僧侶「」ゴクリ

勇者「でぇやぁ!ズバシュゥッ」

バシュ

勇者の攻撃 スライムに2のダメージ

勇者「追撃だああああ僧侶ぉぉぉぉぉ」

僧侶「はいっ! ゆーしゃさま!」ぶんっ

僧侶の攻撃 スライムに2のダメージ

スライム「ピキィッ」

スライムの攻撃 勇者に3のダメージ

勇者「ぐほぉぉぉぉうううぅぅうううあああああばら持って逝かれたあああああっ」

僧侶「ゆーしゃさまあああっ」

勇者「来るなっ!」
僧侶「ゆーしゃさまっ!?」

勇者「覚えておけ僧侶……」

勇者「これが……戦いと言うものだ!!!」ドンッ!

僧侶「非情過ぎますゆーしゃさまっ」

勇者「それより早く奴に止めを!」

僧侶「はいっ!」
僧侶「ふぅりゃゅあ~っ!」ゴスッ

僧侶の攻撃 スライムに3のダメージ

スライムを倒した

勇者「いよっしゃああああああああでかしたぞ僧侶ぉぉぉぉ!!!」

僧侶「やりましたっ!」

勇者「あっはっはっはっは~!」
僧侶「ふっふっふっふっふ~!」

勇者「あっはっはっはっは~……」
僧侶「ふっふっふっ……」

──────

勇者「ふ~、すっかり日が暮れてしまったな」

僧侶「そうですねー」

勇者「今日はこれぐらいにして村に戻るか」
僧侶「はい」

勇者「僧侶……夕陽が綺麗だな……」

僧侶「はい……ゆーしゃさま」

勇者「明日も頑張ろうなっ!」

僧侶「はいっ!」

────

僧侶姉「で、なんでまだこの村にいるわけ」

勇者「いや~ついついレベル上げに夢中になりすぎまして~」テヘヘ
僧侶「まして~」テヘヘ

僧侶姉「まあいいわ。宿代もバカにならないだろうし。今日だけはウチに泊まって行きなさい」

勇者「ありがたき幸せ~」

僧侶姉「何言ってんのよ。あんたも自分家帰るのよ。近いんだから」

勇者「えっ」

僧侶姉「じゃあね」

勇者「嫌だぁっー! 帰ったら絶対親父にぶたれるぅぅぅぅぅ」

僧侶姉「」カチャッ

『聖母様ぁぁぁぁぁどうかお慈悲をォォォォォ』

僧侶姉「はよ帰らんか」

────

僧侶姉「どう調子は? 少しは慣れた?」

僧侶「はい。厳しいけれど……ゆーしゃさまと一緒なら乗り越えられます」

僧侶姉「……」

僧侶姉「あんまり勇者に頼らない方がいいわよ」

僧侶「……」

僧侶姉「いざと言う時は……」

僧侶「……わかっております」

僧侶姉「……代わろっか?」

僧侶「いえ、もう決めたこと。何があろうと私は勇者様と一緒に……魔王を討ちます」

僧侶姉「そっか……」

僧侶「姉上」

僧侶姉「ん?」

僧侶「今夜だけは……一緒に寝かせてください」

僧侶姉「ん。わかった」

────

勇者「……よし」

装備一式の確認をして、ベッドから腰を持ち上げる。
階段を降りて一階から外へ出ると、まだ朝靄が立ち込めていた。

これからの冒険を予感させる、この日が昇りかけた朝暗い感じが昔から好きだった。

村の入口には当たり前の様に立っている僧侶の姿があった。
約束をしていたわけでもないのにいつも彼女はこうして俺を待ってくれていた。

僧侶「あっ、ゆーしゃさま」

俺に気がつくとトテトテと近づいて隣に収まる。

勇者「おはよう僧侶。待ったか?」

僧侶「おはようございますゆーしゃさま。いえ、私もさっき来たばかりです」

勇者「昨日いっぱいレベル上げたからな! 今日こそ奴を倒して見せるぜ!」

僧侶「その粋ですゆーしゃさま。姉上から朝御飯を授かっておりますので食べましょう」

勇者「お、サンドイッチか。いいな! 行きながら食うか」

僧侶「はいっ」


心地よい風が吹き抜ける草原を並んで歩く。

勇者「うまうま。そういや親父がさ~……」

僧侶「ふふっ。相変わらずですねゆーしゃさまのお父様は」

他愛のない話をしながら朝食を頬張る。

こんな何でもない時間が今はとてもいとおしく思えた。

もう二度とあんな思いはさせないからな……僧侶。

────

勇者「いよいよか……」

僧侶「はい……」

勇者「俺が前衛、僧侶は回復やサポートをしつつ隙があれば攻撃してくれ!」

僧侶「わかりました!」

勇者「行くぞォォォォ」
僧侶「はいッッッ!!!」

悪いおっさん「あれ~また来たのかよ雑魚勇者。ちったぁ骨のある奴になったか?」

勇者「そんな悠長に喋っていいのか?」ブゥンッ!

ガギィィィンッ

おっさん「なっ、なにぃっ!?(この力はっ……!)」

勇者「この間合い、もらった!!!」

おっさん「しまった! 魔法か!(防御体制をッ)」

勇者「食らえ! ギラ!」

おっさん「くぅっ……(熱いのやだよぉぉぉ)」

勇者「……の構え」

おっさん「……ん?」

勇者「もらったァ!」ズシャッ

おっさん「ギャアアアアア」

おっさん「汚ねぇぞ!!!」

勇者「ふっ、敵の言葉を信じる方が悪い」

おっさん「ちっ。所詮はこんな小賢しい真似しか出来ないってわけか! もうお前らの実力はわかった。前みたいに返り討ちにしてやる!」

勇者「どうかな? 僧侶!!! 準備はいいか!?」

僧侶「…大気は敵を切り裂くであろう……はいっ! 行けますっ!」

勇者「よしっ! かましてやれ僧侶!!!」

おっさん「ぐぅっ(なんか凄そうな教本持ってブツブツ言ってたぞ……あっちの姉ちゃんは真面目っぽいしヤバい魔法が飛んできそうだな……)」

僧侶「くらいなさい! バギマ!!!」シュバッ

おっさん「ちぃぃっ(斧で防御だ!)」

僧侶「…………の構え」

おっさん「うえぇぇっ!!!???」

勇者「隙ありィ!」ザシュ

おっさん「グギャアアアア」

勇者「ナイスだ僧侶!」bグッ

僧侶「はいっ!」bグッ

おっさん「……てめぇら……もうキレたわ」

おっさん「お遊びはここまでだ。こっからは本気で殺しに行く」

勇者「……」ビリビリ
僧侶「……」ビリビリ

僧侶「凄い殺気です……ゆーしゃさま」

勇者「大丈夫だ、俺の後ろに隠れてろ」

僧侶「ゆーしゃさま……」

おっさん「いくぞ……」シュタッ

勇者「(速いっ!)」

ガギィィィンッ

おっさん「おらっ! どうした! 踊ってんじゃねぇぞ!」

キィンッギィンッカァンッ

勇者「くっ……このっ……!」

僧侶「ゆーしゃさまが……! 何とかしないと……(一瞬でも奴の気を逸らせれば……)」

僧侶「そうだっ!」

僧侶「むぅ~~~んっ」

おっさん「オラオラッ!」キィンッ
勇者「クッソォ!(このまま打ち合ったらこっちの剣が持たねぇっ!)」ギィンッ

僧侶「ゆーしゃさまっ! これを!」ゴロゴロ

勇者「!!!(僧侶の杖……? ……そうかっ!)」

おっさん「そろそろ終わりにしてやるよォ!」ブゥンッ!

勇者「うぉぉぉっ!」

ガギィィッ

おっさん「なっ!!!」

勇者の剣が大きく敵の斧を弾いたと同時に、その剣身が舞う。

おっさん「は、ハハッ! 一度弾いたぐらいで折れるとはな!」

勇者「だが折れたのは俺達じゃない、ただの剣だ」

おっさん「なにぃ?」

勇者は素早く床に転がっている僧侶の杖を蹴り上げる。

おっさん「そんな杖でどうにかなると思ってんのかァ!!!」ブゥンッ!

勇者「僧侶!!!」

僧侶「はいっ!」

僧侶「……バギ!」

真空刃が襲いかかる!

おっさん「ぐぅんっ……何故杖から僧侶の魔法が」

勇者「うちの僧侶は賢いからな、杖に魔力を込めてからの遠隔呪文もお手の物なんだよ!」

僧侶「えへへ///(誉められちゃったっ)」

おっさん「だがっ……まだだッ!」

勇者「いい加減にくたばれってんだよ!」サッ

おっさん「その構えはさっき見たわい! 出せもしないものを!」

勇者「そいつァどうかな!!!」

おっさん「うおおおおおっ!」

勇者「食らえええええええええええっ!!!!!!!!!!!!」

勇者「ギラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼あああああああああ」

おっさん「あづぅい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛…………が……はっ……」バタリ

勇者「はあ……はあ……はあ……」

僧侶「……ゆーしゃさま」

勇者「……やったかっ!?」

僧侶「ゆーしゃさま! それは言っちゃ駄目なやつですよっ」

勇者「そうだったか? まあ何はともあれ始まりの塔攻略だぜっ!!!」

僧侶「はいっ!」

おっさん「(覚えていろ勇者め……! この借りはいつか必ず返すからな!)」

せっかくなので屋上まで登ったようです。

勇者「ひゅぅ~たっけぇ~」

僧侶「高いですね~」

勇者「だな~。しかし攻略した後のダンジョンほどもの悲しいものはないな」

僧侶「そうですか? 私は無事に終われた~って思いますけど」

勇者「勇者だからかな。ここから見える景色ぜ~~んぶ救ってやりてぇっ! てなるのよ」

僧侶「ふふっ、ゆーしゃさまらしいです」

勇者「そういやさっきから一生懸命何書いてんだ?」

僧侶「日記です。いつもは寝る前に書くんですけど今日はこの景色も入れたくて」

勇者「ほ~、僧侶絵上手いな!」

僧侶「そうですか? ありがとうございますっ」

勇者「なになに~? 『ゆーしゃさまとこの前のリベンジに成功ですっ! ボスはとても強かったけどレベルが上がって強くなったゆーしゃさまはもっともっと強かったってことですねっ!
ゆーしゃさまと初めてクリアしたダンジョンの絵図
これからも二人で頑張りましょうね! ゆーしゃさま』」

僧侶「読まないでくださいぃ~っ! 恥ずかしいですから///」

勇者「なんでだよ。良く書けてるじゃん。よ~しじゃあ勇者直筆のありがた~い言葉を」カキカキ

僧侶「もうっ…ゆーしゃさまったら」

────

勇者「僧侶ー次の村まで後どれぐらいなんだ?」
僧侶「ん~…後10kmぐらいですかねー」

勇者「夕刻までには着けそうだな」
僧侶「ですねー」

ガサガサッ──

僧侶「っ! ゆーしゃさま! モンスターです!」

勇者「おうよ!」

カラス「グワァグワァ」

勇者「行くぜぇぇええっ」

勇者「……あ。そういや剣折れたんだった」

僧侶「ゆーしゃさま危ないっ!」

カラス「グワァッ!」

勇者「なんのっ! ホーワッチャァッ!!!」

カラスに16のダメージ。
モンスターを倒した。

僧侶「さすがですゆーしゃさま! 拳でモンスターを薙ぎ払うなんてっ」

勇者「意外といけるもんだな…武闘家に目覚めそうだぜェ」コブシプルプル

僧侶「……でも、やっぱりゆーしゃさまは剣を振るっている姿が一番カッコいいですよ」ニコリ

勇者「そ、そうか? まあ勇者と言えばやっぱり剣で戦うイメージだしな! 次の村にいい剣あるといいなー」

僧侶「そうですね♪」

勇者「なんか楽しそうだな僧侶」

僧侶「ゆーしゃさまの隣にいると毎日が楽しくてしょうがないですよー♪」

勇者「ハハッ、変なやつー」

僧侶「え~普通ですよ~」

────

短編 初夜

勇者「次の村についたぞ~」
僧侶「ついたぞぉー」

勇者「今日はもう遅いし宿屋に行くか」

僧侶「宿屋……ですか!」ドキドキ

勇者「ああ。野宿は色々危険だからな」

僧侶「そ、そうですね……」


勇者「うぃ~っす。部屋空いてる?」

宿屋の主人「これはこれは勇者様。よくぞおいでくださいました」

勇者「あ、わかる? やっぱり勇者ってわかっちゃう?」

主人「それはもう。その身に纏うオーラを見れば一目瞭然でございます(頭につけてる神託の証見りゃ誰でもわかるっつーの)」

勇者「やっぱオーラとか出ちゃってるか~」

主人「お部屋の方はどうなさいますか?」

僧侶「!!!」

勇者「え~と一部屋d」

僧侶「ゆ、ゆ、ゆ、ゆーしゃさまっ?! 確かに私達は共に冒険する身でございます……デ、デ、ですがまだその心の準備があのぅそのぅ……」

勇者「ん??? どうした僧侶」

僧侶「ぅぅん~んぅん~」

主人「一部屋でよろしいですか?」

勇者「えっ、ああ、は「わああああああああああああああ~」タッタッタッ

勇者「僧侶ーッ?!!」
 チラッ
壁∥僧「....シングル2つじゃ……ダメですか?」ジーィッ

勇者「いや……別にいいけどさ」

主人「シングル二つですね。かしこまりました(死ねばいいのに)」

短編 お金がない!

勇者「よ~し足りない物補充したりすっか~」

僧侶「はいですっ!」

勇者「何が足りてない?」

僧侶「え~と……まずは薬草ですかね。それとこの辺りは毒を持つ魔物が多いのでどくけしを多目に買っておいた方がいいかもしれません!」

勇者「薬草にどくけしね、おkおk」

────

商人「ラッシャイ」

勇者「薬草とどくけし10づつ頼むわ」

商人「ヘイッ」

勇者「他に何かあるか?」

僧侶「そうですね~……魔法のせいすいや麻痺を治すまんげつそうなんかもあれば良いかもしれません!」

勇者「じゃあそれも買っとくか」

勇者「他には?」
僧侶「アイテムはこのぐらいですかね」

勇者「了解。武器と防具見に行くか」
僧侶「は~い」

────

勇者「ん」

商人「ヤスイヨヤスイヨー」

勇者「お、雑貨屋か」

僧侶「わぁ」キラキラ

勇者「……ちょっと覗いてくか」

僧侶「はいっ」

商人「ヤスイヨヤスイヨー」

僧侶「これもかわいい~あれもかわいい~」キャッキャッ

勇者「(やっぱり女の子なんだよな……)」
勇者「(まだ色々遊びたいオシャレしたい年頃だろうに……ごめんな僧侶)」フゥ…

僧侶「ゆーしゃさまゆーしゃさまっ」

勇者「ん、どした?」

僧侶「この腕輪をつけると力が上がるそうですよっ! ゆーしゃさまに凄く似合いそうですしどうですか!?」

勇者「いや……俺はいいよ」

僧侶「そうですか……」シュン

勇者「それより僧侶が欲しいの言えよ! 買ってやるぞ」

僧侶「ほんとうですかっ」パァ

ひそひそ……ひそひそ……

勇者「ああ。勇者に二言はないぞ」

村人「」ひそひそ
村人「」チラッ

僧侶「……。やっぱりやめておきます。勇者様が買わないものを私がねだるなんてはしたないですから……」

勇者「そんなこと気にしなくていいんだよ」

僧侶「いえ、私達は人々を救うために旅をしているのを忘れてました。こんなわがままが許される立場じゃないんです」

勇者「なら俺も買えば買うんだな?」

僧侶「え、いや、あの…」

勇者「俺が買えって言ったら買うんだな?」

僧侶「そ、その……必要なら」

勇者「よし、じゃあ買うぞ! お揃いだお揃いのやつ買ってやる嫌がらせだハハハ」

僧侶「ゆ、ゆーしゃさまっ」

勇者「人目があるからって畏まることなんかねーんだよバカ」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「親父ぃ! これと似たようなのでかしこさ上がる奴ある?」

商人「アルヨーアルヨー」

僧侶「ゆーしゃさまには何でもお見通しなんですね……」

僧侶「はあ~…ほわぁ~…綺麗ですね~…」ウットリ

勇者「いつまでも見てんなよー。武具見に行くぞ」

僧侶「は、はい」

勇者「」
僧侶「(しかもゆーしゃさまとお揃い……嬉しいなっ)」ニコニコ

勇者「武器見ていいッスか?」

武器屋「おう! 好きなだけ見ていけや」

勇者「ほうほう……」ジィー

僧侶「(武器かぁ……お姉ちゃんにもらった杖があるからしばらく必要ないかなぁ)」

僧侶「(ゆーしゃさまに似合いそうな武器でも探してよう)」

僧侶「(ドラゴンキラー……カッコいいけど高そう)」

僧侶「(常闇の剣……これを持ったゆーしゃさまはきっとカッコいいだろうなー……でもお値段が……レンタルとかないのかな??)」

僧侶「ゆーしゃさま~いいの見つかりました?」

勇者「……」

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「……銅の剣さえ買えん……」

僧侶「え……?」

勇者「お金がない!」

僧侶「ええええっ! あっ……もしかしてさっき腕輪を買ったから……」

勇者「いや、あれは2つで100gの安物だから気にしなくていい(ほんとは二つで500gだったけど)」

僧侶「そ、そうですか……」

勇者「予算的に銅の剣ぐらいは買えると思ったんだが……まさか1000gもするとは」

武器屋「今銅の価値が上がっててな。銅製品は軒並み高いんだ」

勇者「ぐぬぬ……しかし鉄系は更に高いし……」

僧侶「……ゆーしゃさま! 今いくらぐらいありますか?」

勇者「500gぐらいかなぁ」

僧侶「ならこの杖を売ればきっと買えますよ! この杖は銅が多く使われてますから。どうですかおじさん?」

武器屋「うむ、確かにいい銅が使われているな。これなら1000gで買い取ろう」

僧侶「これで剣が買えますねゆーしゃさま!」

勇者「いや、駄目だ」

僧侶「どうしてですか!?」

勇者「姉さんからもらった大事なものだろ。それを売るなんてとんでもない、ってな」

僧侶「でも……」

勇者「なーに500gなんてちょっとモンスター倒しまくれば楽勝さ。レベル上げにもなるしな」

僧侶「でも……」

勇者「ほら、行くぞ」

僧侶「はい……(ごめんなさいゆーしゃさま、私が無駄遣いをさせてしまったばかりに……)」

僧侶「(なんとか挽回しないとっ)」

────

勇者「ふぅ……(一回の戦闘で平均10g……50回戦闘してようやくってとこか。今夜は野宿だな……)」

勇者「悪い僧侶。今日は野宿でいいか? 見張りは俺がやるから」

僧侶「いえ、交代でやりましょう」

勇者「悪いな」

僧侶「(ゆーしゃさま……私に気を遣いすぎです……。そんなに頼りにならないのかな……私)」

────

勇者「ふ~ちょっと休憩するか」

僧侶「はい」

勇者「さすがに素手だと疲れるなー」グゥゥ~

勇者「(腹減ったなーでも我慢我慢)」

僧侶「ゆーしゃさま、ご飯にしましょうか」

勇者「いや、俺のはいいよ。僧侶はこれでパンとか買って来いよ」

僧侶「もうっ! そう言うと思ってました」ササッ

勇者「ん? 鍋?」

僧侶「ちょっと借りておきました。山菜何かも集めておきましたから」

勇者「おおおでかした僧侶!」

僧侶「金銭の問題はこれからも出てくるでしょうし二人で解決して行きましょうゆーしゃさま」

勇者「……ん、わかった」

僧侶「では、今日も神に感謝していただきましょう」

勇者「ありがたやありがたや」モグモグ

僧侶「もうゆーしゃさまったら! いただきますもせずにー」

勇者「腹減ってたんだからしょうがッ……」

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「……」

僧侶「料理は姉上の手伝いしかしたことないのですが……その……上手に出来てるでしょうか?」

勇者「ンゴリョ……」ブクブク

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「ゴグゲジ……ハヤ……グ」

僧侶「もう一度お願いしますゆーしゃさま」

勇者「……」ガクッ

†勇者†「」チーン

勇者は死んだ

僧侶「ゆーしゃさま?」ユサユサ

†勇者†「」

僧侶「ゆー……しゃ…さま……?」

勇者は死んでいるようだ

僧侶「そんな……どうして」

僧侶「どうしていつも僧侶を置いて逝くのですっ」メソメソ

僧侶「原因は一体……」

僧侶「……」

僧侶「!」

僧侶「さっき戦ったモンスターが毒を持っていて拳から体に……!」

僧侶「勇者様の体調に気づけない僧侶など僧侶失格です……」


僧侶「かくなる上は私も毒を飲んで同じ苦しみを味わって死にますっ!」

僧侶「薬屋のおばさまから教えてもらったこの毒草を食べて!」モグモグ

僧侶「」モグモグ

僧侶「うぐっ……」モグモグ
僧侶「苦しい……勇者様もこんな思いをなされたのですね」モグモグ
僧侶「……」モグモグ

僧侶「……この毒草と鍋に入ってる草似てるような……あっ」

 チーン
†僧侶†


────

アサチュンアサチュン

木こり「ふぅ、今日も仕事がんばるべ」

†勇者††僧侶†

木こり「んごぉっ!? こりゃあ勇者様と僧侶様でねーが!」

†勇者††僧侶†

木こり「し、死んどっぺぇ!」

木こり「協会へ連れてくべ! あ、うちの協会の神父様旅行中だったんだったっぺ」
木こり「始まりの村に送り届けるっぺ」
木こり「ルーラすっぺルーラ」

始まりの村 協会────

†勇者††僧侶†

僧侶姉「……」

僧侶姉「どうしてあんたらはいっつも二人仲良く死んで帰って来るのかしらね」

僧侶姉「しかも外傷なしなんてどうやって死んだのよ全く」

僧侶姉「はあ……身内だからって安くしないわよ」

僧侶姉「勇者の御霊を戻したまえ~ザオリク」

勇者「ふぉぉお!?」

僧侶姉「我が妹よ~蘇れ~ザオリク~」

僧侶「ふぇっ」

僧侶姉「今度はどうしたのお二人さん」

勇者「僧侶ォォォォォ」

僧侶「ごめんなさいごめんなさいっ」

僧侶姉「先に事情、ね?」ニコリ

勇者「は、はい」

────

僧侶姉「なるほどねぇ、まあ旅をする中で金銭問題は避けられないわよね」

勇者「みんな魔王を倒して欲しいなら勇者にもっと優しく(全部ただに)すべきだと思うんだけどな」

僧侶「いけませんよゆーしゃさま。人々にも生活があるのです」

僧侶姉「そうよ。勇者だろうが何だろうがこっちだって生きてく為に商売やってんだから貰うものはキッチリ貰わないと」

僧侶姉「修行時代に溜まった借金だってまだあるんだからさっさと魔王倒してもらわないと困るのよね」

僧侶「修行時代?」

勇者「そ、その話はなしでお願いします」

僧侶姉「全くもう……はいこれ」

僧侶「これは?」

僧侶姉「二つ目の村に設定してあるルーラ石と食べられるもの食べられないもの大百科よ。料理は自分で何とかして覚えなさい」

僧侶「ありがとうございます姉上!」

僧侶姉「それとあんた達、ちゃんとお互いに言いたいこと言ってる?」

勇者「うっ」
僧侶「うぅっ」

僧侶姉「やっぱり図星か……。あのねぇ、これから長旅やって行こうって言うのにそんなんでどうすんのよ」

僧侶姉「久々に再会したからってお互い気遣ってちゃ魔王なんて倒せないわよ?」

勇者「……!」

勇者「僧侶……!」

僧侶「は、はい」

僧侶姉「(と焚き付けてみたものの……)」

勇者「」ドキドキ
僧侶「」ドキドキ

僧侶姉「(早くも告白フラグ来たかこれは)」

勇者「……、俺達は仲間だ。辛くなったり、苦しかったら正直に言ってくれ。我慢だけはするな」

僧侶「はい……」

僧侶「私からもいいですか?」

勇者「おう!」

僧侶「では……。ゆーしゃさまは私に気を遣いすぎです。気を遣ってくれるのは嬉しいですけど……私がこの旅に臨む覚悟を侮らないでください!」

勇者「……わかった」

僧侶「約束ですよ」

勇者「ああ!」

僧侶姉「(まあ……こんなもんか。まだ序盤だしさすがに)」

僧侶姉「(でも……あなた達が思っているような簡単な道じゃないわよ……魔王討伐は)」タユン

勇者「む、邪気がするな……」

僧侶「さすがゆーしゃさま! では早々に旅路に戻り……」

勇者「この辺りから邪気が……」ジーィッ
僧侶姉「……」

僧侶「……ゆーしゃさま」
勇者「どうした僧侶? え、なんだこの石。あ、待って、僧侶さんここ教会の中だからルーラ唱えたら天井にゴンッってなる」ゴンッ

僧侶姉「(駄目だこりゃ……)」

今日はここまでで

このお話は
短編何個か→長編
構成となっております
短編のお題は随時募集中です

短編 僧侶の日記

勇者「ぐが~すぴ~……」
僧侶「ふふ、ゆーしゃさまの寝顔かわいい」

僧侶「さ、日記書こっと」

━━━━━━━━━━
勇者暦○○○年 二の月
今日も色々なことがありました。
まずはお金を稼ぐ為に二人で村の人のお手伝いをすることにしました。
ゆーしゃさまは私達をお姉ちゃんのところに連れてきてくれた木こりさんと山に薪集めに。
私はモンスターが嫌がる毒草をくださったお婆様のところで店番です。
店番の最中にも色々お話や草木の種類などを教えてもらい凄く為になる時間でした!
ゆーしゃさまも「必殺技を会得したぜ……」腰プルプル
と言って嬉しそうにしてました!

そしてモンスターを倒して得たお金と合わせ1000g貯まり、ゆーしゃさまは無事銅の剣を買うことが出来ました!

今も大事そうにベッドの横に立て掛けています。よっぽど気に入ったんですね!
こういうことが何回もあるだろうからこれからはもう我が侭を言わず部屋も一部屋、お金は大事に!で行こうっ!

でもやっぱりゆーしゃさまと同じ部屋で寝るのはドキドキするな~ぁっ

━━━━━━━━━━

僧侶「これでよしっと」

勇者「んむ」

僧侶「あっ、ゆーしゃさま。起こしちゃいましたか?」

勇者「……ぉ~あんなとこにも薪が……」

僧侶「ふふ、夢の中まで拾うぐらい楽しかったんですね」ニコッ

僧侶「おやすみなさい。ゆーしゃさま」

長編 眠れない村

勇者「ふ~やっとついたな」
僧侶「遠かったです~」

勇者「とりあえず宿から取るか。夜になると混むからなー」
僧侶「ですね」


勇者「すいませーん」店主「」

勇者「ん? もしもーし」
店主「」

勇者「……おーい」
店主「」

勇者「……」
僧侶「ゆーしゃさま……これって」

勇者「ああ……」

勇者「死んでる!!!」
僧侶「えぇっ!?」

店主「いや生きてますよ……」

勇者「なんだ生きてたのか。なら早く部屋案内してくれよ」

店主「……他所の方でしたか、すみません。何せ三日も寝てないもので」ボソッ

店主「お部屋は全て空いているのでどこでも好きなとこをお使いください。お代も結構ですから」

僧侶「それって……?」

店主「もう店を閉めようかと思ってるんです。こんなものがあっては村のみんながムシャクシャするだけですから……」

僧侶「何かあったんですか?」

店主「いや……お客さん達は悪くないんです。寝ることなんて当たり前のことなんですから」

勇者「……僧侶、行くぞ」

僧侶「ゆーしゃさま? 話は聞かなくても?」

勇者「いいから」

僧侶「んー……」トボトボ

店主「……はあ」

────

僧侶「どうして話を聞かなかったんですか? ゆーしゃさま」

勇者「それには何個か理由がある」

僧侶「理由、ですか?」

勇者「まず一つは俺の頭につけてる神託の証を見て反応がなかったこと」

僧侶「ゆーしゃさま……いくら気づかれなかったからって」ジトー

勇者「ちがわいっ! まあそれもちょっとあるけど……まあ勇者ってのは万人御礼好かれてるわけじゃないんだよ」

僧侶「……そうでしたね」

勇者「中には反勇者国家もあるぐらいだしな。ここは記録がないから何とも言えないけど」

僧侶「反勇者国家と言うのを警戒して敢えて名乗り出なかった、と言うわけですね」

勇者「ああ。まあ反勇者国家なら神託の証を見た瞬間鬼の首を取ったかの様に責め立てて来るがな」

僧侶「……他の理由は何ですか?」

勇者「さっきの店主の目、見たか?」

僧侶「はい……、瞬きもせずにずっと目を開いてました」

勇者「……多分あれは魔物の呪いによるものだ」

僧侶「魔物っ……ですか」


勇者「僧侶はモンスターと魔物の違い知ってるか?」

僧侶「はい。知識を有して悪を成すものが魔物、本能で人を襲うのがモンスター……と習いました」

勇者「その通りだ」

勇者「つまり魔物は人形(ヒトガタ)足りうる、魔王に魂を売った人間もその中に入るからだ」

僧侶「すると……!」

勇者「この村の中に魔物がいる可能性もある」

僧侶「ゆーしゃさまっ! こうしては居られませんっ! 早く村の皆さんを魔物から解放しないと!」

勇者「落ち着け僧侶。そうやってことを大きくすれば村の中にいる魔物にも見つかる可能性が高い。
そうなれば危険に晒されるのは村人だ。
だから俺達はあくまでも外から来た旅の者を装いつつ魔物を見つけなきゃならない」

僧侶「ゆーしゃさま……だから名乗らなかったのですね」

勇者「そういうことだな」

僧侶「さすがですっ! ゆーしゃさま!」

僧侶「……さっきはちょっとゆーしゃさま冷たい……とか思ってました! ごめんなさい……」

勇者「いいさ。それよりも魔物だ。僧侶、実際に人の目を開いたままにする呪文ってあるのか?」

僧侶「ん~……と、目を覚まさせる魔法何かはありますけど効果も一時的な物ですし」

勇者「店主は三日も寝てないと言ってたな」

僧侶「三日間も目を開けっ放しなんて……」

勇者「ああ。恐らくさっきのは気絶してたんだろう。今の状態なら気絶ですら救いなのかもな」

僧侶「眠れないから気絶なんてぇぇ……悲しすぎますっ」

勇者「何にしても情報が足りない。怪しまれないように手分けして村人に話を聞いて回ろう」

僧侶「わかりました!」

勇者「何かあったらすぐ呼ぶんだぞ、いいな?」

僧侶「はいっ!」

勇者「じゃあ1時間後にまた部屋でな」

僧侶「はい!」

────

店主「お出かけですか?」

勇者「はい。ちょっと買い物に」

店主「何のもてなしも出来ずにすみません旅の方」

勇者「いえ、お構い無く。では」


店主「……」


────

────

僧侶「あの、すみません」

おばあさん「……」

僧侶「すみません」

おばあさん「……なにか?」

僧侶「あの……宿の方に村の方達が眠れない病にかかってしまったとお聞きして」

おばあさん「ッ!!! ほっときなっ! あんたら外者には関係ないことだろうッ!!!」くわっ

僧侶「あのっ、えっと……すみません」

僧侶「……ヒスの葉で作った目薬です。ヒスは目に良いので……良かったら使ってください」

おばあさん「……目薬がなきゃみんな目が渇いて死んでるんだから当然持ってるよ。……でも、ありがたくもらっとくよ」

────

勇者「どうだった?」

僧侶「皆さん気が立ってて目薬を渡すのが精一杯でした……ゆーしゃさまは?」

勇者「俺も似たようなもんさ。聞き出せたのは最近ベッド新調したばかりなのに寝れないとかの愚痴だけだな」

勇者「ま、そうだよな。宿に泊まってこれからグースカ寝る旅の奴見てイライラしない方がおかしい」

僧侶「じゃあ魔物は……」

勇者「……それだがな、実はもう目星はつけてあるんだ」

僧侶「本当ですかゆーしゃさまっ!?」

勇者「ああ。村人を見て唯一共通すること、それはみんな同じ目薬を持ってたことだ」

僧侶「確かに持ってました!」

勇者「多分日頃から差してたんだろうな。魔物はそれをすり替えた」

僧侶「じゃあ……!」

勇者「恐らく薬屋の店主が魔物と見て間違いない……!」

僧侶「では今すぐ乗り込んで退治を!」

勇者「待て待て。もう夜も遅い。闇に乗じて逃げられでもしたら厄介だからな。明日の朝に踏み込もう」

僧侶「っ……! はい……、明日には村の方達みんなゆっくり寝れますよね……ゆーしゃさま」

勇者「ああ。きっと大丈夫だ」

勇者「……きっとな」

━━━━━━━━━━

「…………」

────

勇者「ぐがぁ~すぴぃ~」
僧侶「すぅ……すぅ……」

「……ククク、バカな奴らだ」

「お前達も眠れない恐怖に怯えながら死んで行くがいいわ」

勇者「ぐが~ずぴぃ~」

「ふふ、最後の夢だ……精々楽しむんだな」

勇者「ぐが~……ギラ」ボワッ

「なにっ!!? ぐうぅっ!」

勇者「狸寝入りも楽じゃねぇな全く。いびきのかきかたなんざわからないっての」

「貴様……! 何故!?」

勇者「何故? そんなもん最初から全部わかってたからに決まってんだろ……なあ、宿屋の店主さんよ」

店主「……」

店主「貴様……いつから」

勇者「まず怪しいと思ったのは神託の証に反応しなかったことだ。こう言っちゃなんだが勇者が誕生した御触れってのは知らない人がいないってぐらい人から人に伝わる。それは神託の証も同じだ」

店主「神託の証……だと!? そんなもの……」

勇者「ところが神様は面白いことをしてだな……なぁ、今あんたの目には俺の頭にあるものが見えるか?」

店主「何を……はっ! まさか……!!!」

勇者「その通り。神託の証は魔物には見えない」

勇者「これつけて話を聞いたらみんな快く応じてくれたよ。三日前にみんなベッドを新調してるそうじゃないか。
しかもタダで……。
タダより安いものはない、そのベッドを媒介にして呪いを発動させたんだろう?」

店主「くっ……!」

店主「おのれ……! まさかもう勇者が来たとは……!」

店主「いや……これは寧ろチャンスか。魔王様の完全復活の前に勇者を倒したならその恩恵は計り知れない……!」

勇者「魂を魔王に売ったか……そうした者の結末も知らずに」

店主「何を言うか! この力、この魔力、どれをとっても素晴らしい……!」

店主「魔王サマに忠誠をチカッタカラこソコノ力が手ニ入ったノダ」グチャリ……グシャッ

勇者「ならばせめて人の体(てい)を成したまま逝け」シュタッ、ザンッ

店主「バ、バカ……な。心臓を……」

勇者「……」

店主「まさか……人を殺すとはな……」

勇者「お前はもう人じゃない」

店主「魔物になる前なら人だ……ろう」

勇者「……見た目はな」

店主「……人殺しの勇者め。呪われろ」

勇者「……」

店主「魔王様に栄光あれ、魔王様に永劫あれ!」

勇者「」グシャリッ

店主「ぐふっ……ゆうしゃ……に、のろい……あれ」サラサラサラ……

勇者「……勇者を舐めるなよ、魔物」

勇者「俺はこいつを守るためなら何だってやる。例え本当の人を殺すことになっても……」

僧侶「くぅ……くぅ……」

────

チュンチュン

トントン、トントン

僧侶「ん……」

勇者「ふぁ~……どうした?」

僧侶「お客様みたいですよゆーしゃさま」

勇者「そうりょ~出てくれ。俺はまだ眠いzzz」

僧侶「もう……ゆーしゃさまったら」


僧侶「はーい、どちらさまですか?」ガチャ

村人「あんた旅の人だよなっ!!? 昨日目薬配ってくれたっていう!」

僧侶「えっ、は、はい……そうですけど」

村人「その目薬俺にもくれないか!? 頼むよ! それ使った隣の婆さんが熟睡出来たって自慢しに来てよ!!!」

僧侶「え、えぇぇぇっ!?」

村人b「俺にもくれ! 金ならいくらでも払う!」
村人c「私も! お願いします!」

僧侶「わっ、ちょっ、そんないっぱいは」

勇者「よ~し、じゃあ今から村人全員で僧侶の目薬作製大会でもやりますかー」

村人「そらきた! 材料はなんだい!?」

僧侶「ひっ、ヒスの葉です!」

村人b「家の裏庭にビッシリ生えてら! 取ってくる!」

村人c「私は他の村のみんなに言ってくるわね!」

僧侶「一体何がどうなって……」

勇者「きっと僧侶の目薬が呪いを打ち消したんだな!」

こうして、村の皆さんと一緒に作った目薬により眠れない村は一転して眠りの村と化したのでした。

村の子供「くぅ~」

僧侶「ふふ、気持ち良さそう。きっと良い夢見てるんだね」

勇者「まだ真っ昼間ってのに村人全員爆睡なんてそう見られるもんじゃないな」

僧侶「そうですね……。ゆーしゃさま」

勇者「ん?」

僧侶「……今回のことは、その……」

勇者「いいじゃねーか。こうやって無事解決したんだからさ。終わりよければ全て良しってな」

僧侶「……そう、ですね」

僧侶「本当に良かった」ニコッ

勇者「さっ、起こす前に次の村に行こうぜ」

僧侶「はいっ!」


次の日、村人は全員見た同じ夢を口々に話したそうな。

それは旅をしている勇者と僧侶がこの村を救う夢だったことを、二人は知らない。

今日はここまでで

ネタはある程度ありますが詰まるとちょっと間を空ける日もあるかもです
思ってることを文字にすると量の多さにビックリしますね

短編ネタ募集中です

予想以上に面白くい

短編 旅の扉

勇者「この旅の扉を越えて行けば港町だな」

僧侶「いよいよこの大陸を離れるわけですね! ちょっと寂しいけど確実に前に進んでると思うとやっぱり喜ばしいです」

勇者「……なあ、僧侶」

僧侶「はい?」

勇者「旅の扉って誰が作ったんだろうな」

僧侶「……そう言えば誰が作ったんでしょう。聞いたことがないですね」

僧侶「初代勇者様の冒険譚には既に旅の扉のことは記されてますから、それ以前に出来たものなのは確かですけど」

勇者「作ったのは勇者でも神でもない……なら人なんだろうな」

僧侶「昔は戦争が絶えなかったそうですからその名残かもしれませんね」

勇者「戦争か……旅の扉の中には大陸すら一瞬にして飛び渡る物もあるらしいしな。確かに攻め入るにはいいかもしれない。逆に利用されそうでもあるが」

僧侶「旅の扉って何だかルーラに似てますよね」

勇者「確かに……ってことはルーラは旅の扉を模して作られた呪文なのかもしれないな」

僧侶「でも昔の呪術書にはルーラは古代の神々が移動の為に使ったものと記されていました」

勇者「となるとルーラを模して作ったのが旅の扉なのか……」

僧侶「でも初代勇者様の冒険譚には作り出したのは偉大な魔術師らしいが自分以外に使ってるのを見たことないと表記されてましたよ」

勇者「卵が先が、鶏が先か……か。謎は深まるばかりだな」

勇者「しかしまあその神々の移動手段も今やこの石ころ一つで出来るもんなぁ。ロマンがないと言うか何と言うか」

僧侶「ルーラ石のおかげで貧困の村が減りましたし、商業も著しく発展したんですから良いことじゃないですか。
それに貴重な物には変わりありませんからね!」

勇者「ま、そうなんだけどな」

勇者「うっし、時代も感じたことだし渡るとしますか」

僧侶「はいっ」


勇者「おーぅ……これが噂の旅の扉か。実物を見るのは初だな」

僧侶「何だか風車みたいですね!」

勇者「これに乗っかればいいのか?」オソルオソル

勇者「うおっ」
僧侶「きゃっ」

勇者「視界が歪むっ……」
僧侶「目が回りますゆーしゃさま!」

勇者「ぐにゃぐにゃしながら回転しつつ浮遊感がああああああ」
僧侶「うぐぅぅぅぅ」

勇者「そして重力に引かれるように落ちるううううううううう」
僧侶「」

ズォン……


勇者「……そ、僧侶……無事か?」
僧侶「きもちわるいです……ゆーしゃさま」

勇者「俺もだ……噂には聞いていたがここまでハードとはな……。どこか木陰で休もう」ノロノロ

僧侶「うぅ……歩くのもやっとです……」ノロノロ

勇者「後ちょっと……」

モンスター「ギュエェェェェ」

モンスターが現れた!

僧侶「ゆーしゃさまぁっ! モンスターが!」

勇者「クソォォォォォ何てタイミングの悪い!」

勇者「てかこいつら何匹いやがるんだァァァァァ」

僧侶「きっと焦点が合ってないからいっぱいに見えるんですよ!」

勇者「なるほど! よっしゃあ! ならとっとと片付けるぜ!」ヨロッ……ブンッ

テレレ ミス

勇者「やべぇどれが本物かわかんねぇ!」

モンスターのこうげき

勇者「ぐっふ……そこかァ!」スカッ

勇者「マヌーサかよォォォ」

僧侶「大丈夫ですかゆーしゃさま! ホイミ!」スカッ

僧侶「ゆーしゃさまにホイミが当たらないぃぃ~!」

────

 チーン   チーン
†勇者††僧侶†


「ん? あれは……」

────

「この者達の御霊を蘇らせたまえ……ハッ!ザオラル!ハッ!ザオラル!ハッ!ザオラル!ハッ!ザオラル!」
ゴクゴク……

「スゥ……ハァ……御霊を蘇らせたまえ! ハッ!ザオラル!ハッ!ザオラル!ハッ!」

勇者と僧侶はなんと生き返った!

勇者「ぷっはぁっ!」
僧侶「んんっ!」

勇者「すいません違うんです悪いのは旅の扉なんですだから怒らないでください姉上様ァァァァァ……あれ?」

僧侶「さっきの場所のままですね」

「やあ、お目覚めかい?」


勇者「あんたは……?」

「っとメモってなかった。これでザオラル212/1280……っと、今日は調子が良かったな」

僧侶「もしかして私達を助けてくださったのは……」

「ああ。僕だよ。何、金を取るつもりはない。辻ザオラルが趣味でね。旅をしては良くやるんだ」

僧侶「ありがとうございます! 僧侶様でしたか」

勇者「何か僧侶っぽくない格好だな」

「僧侶がみんなノッポ帽被ってると思わないことだね」

僧侶「(これ可愛いのになあ)」

「神託の勇者に、君も僧侶だったか。いいデザインの教服だね」

僧侶「あ、ありがとう」

勇者「何にしても助かったよ。この辺は人通りも少ないし下手したら死体ごとモンスターに食われてたぜ」

僧侶「本当にありがとうございました。何かお礼が出来れば良いのですが……」

「気にしないでくれ。本当に好きでやってるだけだからね」

僧侶「でも……」

「そこまで言うならそうだな……その腕輪を貰おうか」

僧侶「えっ……これ……ですか?」

「ああ。なかなかに造形が気に入ったよ」

僧侶「あの……これは……」

「あれ? さっきまでのお礼をしたいって気持ちは口だけだったのかい?」

僧侶「違います! けど……これだけは……駄目なんです」

勇者「構わねぇよ。命の恩人が欲しいって言ってるんだ。礼儀には礼儀で返さないとな」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「(また買ってやるから、気にすんな」

僧侶「……わかりました」スッ

「……駄目だな、それじゃあ駄目だ」

僧侶「えっ」

「本当に大切な物なら醜くてもいいから守り通さないと。どんどん手から溢れ落ちて行く」

僧侶「あなたは……」

「勇者、君もだ」

勇者「俺も……?」

「次へ次へと捕らわれると後ろを見なくなってしまう。たまには振り返ることも必要だよ」

勇者「一体あんた何者だ?」

「そうだな。旅僧侶と名乗っておこうか」

旅僧侶「では、僕は先を急ぐよ。良い旅を、勇者御一行」

僧侶「あのっ! やっぱり何かお礼を!」

旅僧侶「君も義理堅いね。じゃあそうだな……もし次に会った時、面白い話でもしてくれ」

勇者「それなら任せとけよ、既に何個もあるからな」

旅僧侶「ふふ、期待しとくよ。では」

勇者「変わった奴だったな……」

僧侶「はい……でも悪い人じゃないと思います。これを見てくださいゆーしゃさま」

勇者「小瓶…か?」

僧侶「はい。私達を生き返す為に使ってくれたんです」

勇者「本当……よくわからんやつだったな」

僧侶「そうですね(本当に大切なものは醜くても守り通さなければいけない……確かに、そうなのかもしれません)」

勇者「さ、俺達も行こうぜ。港は目前だ」

僧侶「はいっ」

短編 航海/僧侶音痴疑惑

僧侶「ゆ~しゃさま~海ですよ海ぃ~!」

勇者「深そうだな~おい!」

僧侶「あっ、カモメ! 可愛い~」

勇者「うおっ、さっきなんかデカいのいた! 魚影ヤバかった!」

僧侶「潮風が心地良いですー」

勇者「なんか跳ねた! なあ僧侶さっきそこででっかいのが跳ねたぞっ!」

僧侶「ゆーしゃさま……ムード台無しですっ……」

勇者「いや~海はやっぱいいな~ロマンがあるよなロマンが」

僧侶「もぅ。あ、そうだ。ゆーしゃさま海の歌は知ってますか?」

勇者「お~あれだろ? 海は広いな美味しいなとかいう海の幸に感謝する歌だ」

僧侶「違いますよっ! いいですか?」

僧侶「う~↓み~↑は~↑広い~↓なっ↑~大きい~←→なぁ~ぁ~↑→↓←っは」

勇者「えっ……(おい音痴ってレベルじゃないぞ)」

僧侶「つぅ~↓きぃ~↑が~→のぼるしぃ~↑日はしぃずぅむぅ~↑→↓↑→」

勇者「(最後の伸ばしはなんだろう……旅の扉でも表してるのか?)」

僧侶「どうでしたっ!? ゆーしゃさまっ」ニコニコッ

勇者「(はっ! 童心無垢な笑顔の僧侶さんがこちらを見てらっしゃる……!)」

勇者「(さて……どうしたもんか)」

勇者「(ここは僧侶の為を思って素直にうん下手くそだなと言ってあげるべきだろうか……!)」

シミュレーション──

勇者「うん下手くそだな。てっきりモンスターの鳴き声の真似かと思ったぞ」

僧侶「ゆーしゃさま酷いっ! ならばお望み通り死んで魂を腐らせモンスターとなって差し上げます!」ドボン

勇者「僧侶ォォォォォ!」

────

勇者「(駄目だ僧侶なら本当にやりかねん……ならやはり誉めて伸ばすか……!)」

シミュレーション──

勇者「僧侶は歌が上手だな~」
僧侶「本当ですか!? ふふふっ、ならゆーしゃさまお墨付きの歌声を披露してきますねっ!」

勇者「僧侶ォォォォォ!」

勇者「(これも駄目となると……後は)」

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「……うっみはーんっ広いなっ大ひぃなぁはっ~」

勇者「月はっ~のぼる~しぃぃ~いいい~日は沈むぅぅぅうううんはっはああああんっ」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「プッ、ゆーしゃさまって音痴なんですね!」

勇者「(さらば、俺の美声達)」

僧侶「ふふふっ」

勇者「(まあ、これぐらいの気遣いぐらいさせてくれよな)」

僧侶「じゃあちょっと甲板で歌って来ますね!」

勇者「はっはあああああああああんっ」

この後勇者は僧侶に歌の練習を付き合わされたのは言うまでもない。

昨日の分です
今日の分は今から書き溜めます

>>74のレスが
予想以上に面白くない
なのか
予想以上に面白い

なのか凄い気になって夜も眠れません

短編 勇者

僧侶「町が見えて来ましたよゆーしゃさま!」

勇者「あれがこの世界でもっとも大きな港町か。確かにデカいな」

ブッーブッブッー

勇者「ん、なんだこの音」

僧侶「汽笛ですよゆーしゃさま。蒸気の勢いで鳴らしているそうですよ」

勇者「へー蒸気か。さすが都会、技術が進んでるな」

ブーブッブー

ブッブー

勇者「しかしこんな何回も鳴らすもんなのか」

僧侶「ここは貿易も盛んですから。きっと航路の確認とかじゃないですかね」

勇者「なるほど……ん、何か人だかりが出来てるな」

僧侶「ほんとだ。なんでしょうね」

勇者「なんかの祭りか? 祭りなのか!?」

僧侶「ゆーしゃさまはほんとお祭り好きですね」

勇者「早く降りてみようぜ!」

僧侶「あっ、ちょっと待ってくださいゆーしゃさま!」

────

勇者「出店、出店はないのか! 踊り子は!? 練り歩いたりしてないか!?」キョロキョロ

僧侶「そんなキョロキョロしたらお上りさんだと思われちゃいますよゆーしゃさま」キョロキョロ

港民「……様だ」

港民「間違いない! 神託の証だ!!!」

勇者「ん?」

「「「勇者様がこの町に降臨なされたぞ!!!!」」」

勇者「……」
僧侶「……」

勇者「なんか勇者様が降臨なされたお祭りみたいだな」

僧侶「えぇっ!? 反応薄いですよゆーしゃさま!? ゆーしゃさまのことですよゆーしゃさま!」

勇者「え? じゃあこの人だかりは俺が船から降りてくるの待ってたってこと?」

僧侶「そうですよっ!」

勇者「そんなバカな……だって他の村じゃそんなもの一切なかったし……」

僧侶「でも勇者はその時代に一人しか選ばれないので確実にゆーしゃさまのことですよ!」

勇者「マジか(震え声)」

僧侶「マジです(断言)」

勇者「……マジかあああああああああ」

ワアアアアアアアア

「世界の光よ!!!!!」

「本当に勇者様だわ!!! 勇者様が来てくださいました!」

「生きてて良かった……!」

「長生きするもんだの……勇者を二人も見られる者はそうおらんじゃろうて」

「キャーッ! 勇者様ー! こっち向いてくださいませー!」

「お降りになるぞォォォォォ皆の者道を開けろォォォォォ」

勇者「……」
僧侶「……」

「……せ~の!」

ドンドンバフバフドンドンバフバフ
ジャカジャカジャン
ピーヒャララ~

僧侶「わぁ~すごぉいっ」


「「「勇者様! ようこそお越しくださいました!!!」」」

勇者「え、あっ、ども」

港民「勇者! 握手してくださっていいでしょうか!?」

勇者「あ、はい」

港民「ありがたや~!」

港民「勇者様。今月産まれたこの子に名前をつけては下さらないでしょうか?」

勇者「えっ、な、名前!? んー、ん~……女の子ですか?」

港民「はい」

勇者「今は三の月なので……三月(みつき)なんてどうでしょうか?」

港民「大変良い名前ですね! ありがとうございます! この子も喜びます!」

「勇者様ー!」

勇者「ははは...ども」

「キャー勇者様がお手を振ってくれたわ!」

僧侶「(ゆーしゃさま凄いな……さっきの汽笛もゆーしゃさまが来たのを知らせるものだったのかも)」

「勇者様!」
「勇者様ー!」

僧侶「……」

僧侶「(気づいたらゆーしゃさまとだいぶ離れちゃった……)」

僧侶「(……私は、あんなにも眩しいゆーしゃさまの隣に……居ていいのかな……)」

僧侶「(……姉上ならきっと絵になってたんだろうな……)」

僧侶「(ゆーしゃさま……ゆーしゃさま……)」

僧侶「(……遠くに、行っちゃやだ)」


僧侶「(私を……置いて行かないでください……)」

「あ~ちょっとごめんよ~」

僧侶「……」

「ちょっと通してくれないかー」

僧侶「ゆー……しゃ、さま」

勇者「なーに縮こまってんだよ。ほら、行くぞ」

僧侶「え……でも」

勇者「~ったく」

勇者「みんな聞いてくれー。こいつは俺と一緒に魔王討伐の旅をしている僧侶だ」

「おお! 僧侶様!」
「勇者様を頼みますぞ! 僧侶様!」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「毎度毎度……周りを気にしすぎなんだよお前は」

僧侶「でもっ……」

勇者「俺の祭りで俺の大事な仲間が隅っこ歩いてるのは俺が許さん」

僧侶「ふふ……なんですかそれ」

勇者「いいからいいから。町長が美味いもん食わしてくれるらしいし早く行こうぜ!」

僧侶「…はいっ」

僧侶「(ほんとにゆーしゃさまには何もかもお見通しで……。こんな時でもやっぱりゆーしゃさまはゆーしゃさまで……)」

僧侶「(あの頃と変わらない……だから私もこうして側にいられます)」

「僧侶様可愛い~」
「まだ幼いのに凄いわ~」
「勇者御一行万歳!」

僧侶「(……叶うなら、最後まで側に居させてください。ゆーしゃさま)」

「勇者に栄光あれ!」

「無敵の勇者様! 魔王討伐頼みましたぞ!」

勇者「……」

短編 僧侶の日記Ⅱ

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勇者暦○○○年 三の月
今日はお祭りがありました! それもゆーしゃさまのお祭りです!
この町では昔から勇者が通る度に行われているそうです。
勇者に縁が深い町だとこんなにも歓迎してくれるんだなぁ~ビックリしちゃった。

ゆーしゃさまはあっちこっちに引っ張りだこで大変そうだったけど凄い楽しそうでした。
さっきも酒場のおじさんがいい酒が入ったから町長のところで飲もうと連れ去られて行きました。

私も後1年早く産まれてたらな…。
何でお酒は十六になるまで飲んじゃ駄目なんだろう。

神に仕えるこの身で掟を破ることは叶わないので後一の年の辛抱ですっ。

今日はいっぱい歩き回って疲れちゃった。
ゆーしゃさまといると本当に毎日が楽しくて、自分の立場も忘れてはしゃいじゃう。
ゆーしゃさまは優しいからそんな私を許してくれる。でもそれに甘え過ぎないようにしなきゃ!
しっかりと境界線を見定めて行こうっ(決心!)

━━━━━━━━━━

僧侶「ふぅ。ゆーしゃさま今日は遅いのかな」

僧侶「ふぁ~……」

僧侶「ゆーしゃさまごめんなさい……僧侶は先に……ねま……くぅ……くぅ」

────
ガチャ
ソローリ、ソローリ

勇者「ふぅ……」
勇者「疲れたな……」

僧侶「んぅ……ゆーしゃさま……?」

勇者「起こしちまったか。悪い」

僧侶「いえ。おかえりなさい」ニコリ

勇者「」ドキッ

勇者「お、おう」

僧侶「楽しかったですか?」

勇者「まあ、な」

僧侶「?」

勇者「町長から嫌って程勇者無敵伝説を聞かされたよ」
僧侶「ふふ、町長さんは勇者を見たのは始めてと言ってらしたからきっと嬉しかったのでしょう」

勇者「そんな珍しいもんかね……」
僧侶「珍しいものですよ~」

僧侶「──だって」

僧侶「ゆーしゃさまは勇者なんですから!」

勇者「……」


勇者「……ああ、そうだな」

勇者「今日は疲れたからもう寝るよ。僧侶もゆっくり休めよ」

僧侶「はい。おやすみなさい、ゆーしゃさま」

━━━━━━━━━━

[夢を見た]

どうして、こんなことを言ってしまったのだろう。

[私が日記を書いている夢]

愚かな僧侶を許してください……勇者様。

[隣にゆーしゃさまは居なくて、私は一人で泣いている夢]

勇者様……ゆー……しゃ……さま。

[これは夢、だけど、何故かそうは思えなかった]

[でも、起きればきっと忘れているだろう]

[だってこれは、夢なのだから]

ありがとうございます
頑張ります

書き溜め進んだら夜中にも落とすかもです

短編 賢者、登場

勇者「よしっと、忘れ物ないか?」

僧侶「はい、準備万端ですゆーしゃさま」

勇者「じゃあ次の目的地に向かって出発!」
僧侶「おーっ」

勇者「この町ともお別れか~寂しくなるな」
僧侶「魔王を倒したらまた帰って来ましょう。そうしたら今度は本当にめでたいお祭りが出来ます」

勇者「そうだな。魔王を倒したともなればは一の月丸ごとお祭り騒ぎになってもおかしくないぜ……!」

僧侶「そんなに毎日お祭り騒ぎじゃ飽きちゃいますよぉ」クスッ

勇者「いや、祭りってのは何回やっても飽きないもんで…」

「っはぁ……はぁ……勇者様!」

勇者「ん?」

「良かったぁ~間に合って」タユンタユン

勇者「(で、デカい……! 僧侶の姉ちゃんクラスか……!?)」

僧侶「ムッ……」ジロー

勇者「ピュイ~♪」

僧侶「(ゆーしゃさま惚けるフリが下手で古くさい……そんなことより、まさか……あの教本は)」チラッ

「旅立たれたと聞いて急いで来た次第です。すみませんお見苦しい格好を……」

勇者「いやいや、それでご用件は?」

賢者「はい。私は賢者と申します。この度は是非とも魔王討伐にご協力したいと参った次第です」

勇者「ほー賢者か」
僧侶「けっ、けっ、けっ」

勇者「どうした僧侶、過呼吸か?」

僧侶「違いますぅー! じゃなくて賢者様ですよゆーしゃさま!」

勇者「らしいな」

僧侶「わぁー凄い! やっぱり賢者の教本だったんだ……あ、あの……ちょっと見せてもらっていいですか?」

賢者「チッ」

僧侶「?」

賢者「ごめんなさい、この教本は賢者だけにしか触れないし内容も賢者にしか見れないの」

僧侶「そうですか~……残念です」

勇者「さっきから何騒いでんだ?」

僧侶「ゆーしゃさまは勇者だから知らないかもですが賢者は人がなれる職の中で最も難易度の高い職なんです!
確かこの世界で賢者様は40人程しかいなかったはずです!」

勇者「(多いか少ないか微妙過ぎてわからん)」

賢者「それで……連れていってくださるのですか?」

勇者「ん~どうするかな。僧侶はどう思う?」

僧侶「……(はっ! もしこれで賢者様が仲間になったら私がお払い箱に……アワワ)」

僧侶「(でも魔王討伐の可能性はグッと高まるのは確か……! ここは私欲を捨て世界の為になることを選ぶ場面……!)」

僧侶「私は……」

僧侶「(どんなことになっても私が我慢すればいい……それにゆーしゃさまは戦闘だけで全てを判断するような人じゃない)」

僧侶「(大丈夫……)」

『我慢だけはするな』

僧侶「……嫌、です」

僧侶「(じゃない……です)」

賢者「えっ……」

勇者「……そうか」

賢者「確かに、私が仲間に加わればあなたの価値は薄まるでしょう。賢者とは魔法使いと僧侶を極めし者に贈られる称号ですから」

賢者「しかしだからと言って私欲で魔王を討てる可能性を減らすなんて……正直呆れました」

僧侶「っ……」

賢者「あなた、勇者様の何なのでしょう?」

僧侶「私は……」

賢者「勇者様が魔王を討つために全力でサポートする。それが私達の役目ではないのですか?」

僧侶「それは……」

賢者「それを踏まえた上でもう一度聞きます。私を仲間に」

勇者「嫌だ」

賢者「なっ」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「さっきから黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって。正論言えば偉いってもんじゃねーよ」

勇者「そもそもお前こそ俺の何なんだ? さっき会ったばかりの癖に今まで旅をしてきた仲間よりも仲間面してんじゃねぇよ」

賢者「っ……!」

勇者「それにどのみちあんたは仲間には出来ない」

賢者「……どうしてでしょう?」

勇者「魂が薄いんだよ。そんな魂じゃ一回死んだらもう戻れないぜ」

賢者「……」

勇者「ってわけだ。悪いな。行くぞ、僧侶」

僧侶「……はい」

賢者「……」

賢者「プランaは駄目…か。そう易々と殺らせてくれないってわけ」

賢者「簡単に籠絡出来ると思ったんだけどな~……意外と曲者だなあの勇者」

賢者「魂が薄い……か」

賢者「誰のせいでこうなったと思ってんだッッッ!!!」

賢者「ふぅ……ふぅ……」

賢者「まあいいや……あのガキは壊すのは簡単そうだし」

賢者「勇者はあのガキのこと気にかけてるみたいだし」

賢者「ふふ、ふへへ」

賢者「絶対に殺してやる……! 勇者……!」

────

────

勇者「……」
僧侶「……」

勇者「全く変な奴に絡まれたな。俺ああいうかたっくるしいの苦手だから断って清々したぜ」

勇者「いくら強かろうがあんなの抱えて毎日冒険してたんじゃ魔王を退治する前にこっちが参っちまうよな」

僧侶「ゆーしゃさま……私」

勇者「ん?」

僧侶「ゆーしゃさまの隣に居ても……いいのですか?」

勇者「……なんだよ急に」

僧侶「最近迷ってばかりなんです……。魔王を討つために最善を尽くしたいって気持ちと、ゆーしゃさまと一緒に居たいって気持ちがぶつかり合って……わからなくなるんです」

勇者「……わからなくなったら俺に聞けよ。そしたら毎回こう答えてやろう」スッ

僧侶「……あっ、帽子」

勇者「当たり前だろ、ってな」ニコッ

ゆーしゃさまに頭を撫でられるなんて……いつ振りだろう。
昔は良くこうやって撫でてくれたっけ。
ゆーしゃさまの手、あったかい……。

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「ん?」

僧侶「僧侶帽似合いませんね」プフッ

勇者「全くだなっ。僧侶にならなくて良かったぜ」

僧侶「わかりました。……ゆーしゃさまがそう言って下さるのなら、私はいつまでも側に居ます」

勇者「ああ。これからもよろしく頼むぜ、僧侶」

僧侶「(魔王を倒す決心とか……何もかも含めて……ゆーしゃさまと一緒に居たい)」

僧侶「(だって私は……ゆーしゃさまのこと、大好きだから)」

僧侶「(でも、この気持ちだけは我慢しなきゃいけない。魔王を倒すその日までは……)」

長編 冒険の果て

勇者「だいぶ歩いたな」

僧侶「そうですねー」

薄暗い中を二人は歩く。

勇者「町は……まだか」

月の光を頼りに僧侶が地図を照らし見る。

僧侶「地図通りだと……後半日ほどでしょうか」

勇者「この辺りのモンスターにはまだ慣れてないしな……夜間出歩くのは危険か」

勇者「仕方ない、ここらで夜営を……」

僧侶「あっ、ゆーしゃさま! 明かりが見えます!」

勇者「マジか!?」

僧侶「民家でしょうか? 泊めてもらえないか交渉してみましょう」

勇者「久しぶりに暖かい布団で眠れるぜ~」

そこは二人にとっては冒険の途中、
だが、あるものにとっては、冒険の果てであった。

──トントン

僧侶「すみません、どなたか居られますか?」

「おや? こんな夜遅くにどちら様かな?」

僧侶「旅の者でございます。もしよろしければこちらで一晩泊めて頂けないでしょうか?」

「おお、旅の方々でしたか。こんなボロ屋でいいのでしたら是非泊まっていってください」

僧侶「ほんとうですか!? ありがとうございますっ」

勇者「やったなおい!」

「今開けますので」

ガチャリ

「ようこそ、旅の方々」

僧侶「お世話になります」ペコリ

勇者「世話になります!」

「どうぞお上がりになってください」

勇者「ム……」

「今からちょうど晩御飯にしようと思っていた所です。良ければあなた達もどうですか?」

僧侶「何から何までありがとうございます。ささやかながらお手伝いをさせてください」

「これはどうも。では、こちらで野菜を切ってくれますかな?」

僧侶「はい、わかりました」

僧侶「じゃあゆーしゃさまは作ったものを並べてくださいね!」

勇者「……」

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「ん? ああ……」

勇者「(魔物か……? いや、それにしては邪気がない。なら……)」

────

僧侶「お料理上手ですね! もし良かったら今度教えてください!」

「いやいや、私のなんてただの受け売りなだけですよ。それでもよろしかったら教えて差し上げますが」

僧侶「是非お願いします!」

「その代わりと言ってはなんですが……旅の話をしてくれませんか?」

僧侶「旅の話ですか?」

「はい。ここにたまに来る旅の方々の話を聞くのが今の私の生き甲斐でして」

「無理にとは言いませんが」

僧侶「わかりました! 一泊一食の恩義、いいですよねゆーしゃさま?」

勇者「……。ああ、もちろん」

───

僧侶「それでゆーしゃさまったら魔王を倒した暁にはお祭りを一の月丸ごと開催する! なんて言っちゃうぐらいのお祭り好きで……」クスクス

「はっはっは、さすがは勇者様ですな。言うこともスケールが大きい」

「しかしまさか勇者様御一行だったとは、気付けず大したもてなしも出来ず申し訳ありません」

僧侶「いえ、こんな暖かな食事を頂けただけで十分です。ね? ゆーしゃさま」

勇者「……」

僧侶「ゆーしゃさま? さっきからずっと上の空ですけどどうかしましたか?」

勇者「……じいさん。あんた目が見えないのか?」

僧侶「ゆーしゃさま……? 一体何を……」

「……さすがは勇者様ですな」

僧侶「そんな……だってさっきも」

「家の中のものなら手に取るようにわかっているつもりでしたが、一体どこで?」

勇者「最初は違和感が無さすぎて魔物だと思ったよ。神託の証のことも聞かれなかったしな」

僧侶「失礼ですよゆーしゃさま!」

「いえいえ。魔物が町離れに民家を建てて人を装い、旅の者達を襲う、なんてことは良くある話ですからな。勇者様の疑いはごもっともです」

僧侶「ですが……」

勇者「でも僧侶と話してるの見てそれは違うってわかったよ」

「と、言いますと?」

勇者「魔物はあんなコロコロ笑わないからな」

「……あっはっはっは。違いありませんな!」

勇者「それに俺が声を出す前にじいさん『旅の方々』って言ってただろう? だからもしかしたら心眼の持ち主じゃないかって思って。
それならこの動きも納得行くからさ」

僧侶「心眼……、目が見えないからこそ他のものが見えて来ると言うあれですか?」

勇者「ああ」

「私のはそんな大それたものじゃありませんよ。ただ……叶うならもう一度、ある場所へ行くために日々心眼の真似事のようなことをしております」

勇者「ある場所?」

「……勇者様なら……もしかしたら」

勇者「?」

「勇者様、僧侶様、先程の話のお礼、と言っては何ですが。爺の昔話も聞いてくれませんかな?」

勇者「よしきた」
僧侶「是非」

「あれはもう50年も前になりますかな……」

「私は戦士で、今で言うトレジャーハンターみたいなことをやっておりました」

勇者「元戦士、通りでいい身のこなしだと」
僧侶「ゆーしゃさま静かにしてください!」
勇者「……はい」

「こんな私にも相棒が居て……それは毎日好き勝手をやっておりました」

――――――

戦士「ここが王家の墓か! お宝のいい匂いがするぜ~」

魔法使い「宝の匂い? 私にはカビ臭い臭いしかしないんだが。とうとう犬並みの嗅覚を得たか」

戦士「うるせぇ! 大体ダンジョンに入る前はこういうこと言うのがお約束なんだよ」

魔法使い「墓荒しがお約束を守るなんて変な話だな」

戦士「全くお前はいつもそうやって腰を折るよなぁ」

魔法使い「変な形式に毎回拘る戦士が悪い」

戦士「ヘイヘイ、悪ぅございやした。いいからさっさと行くぞ」

魔法使い「ああ」

[√⊥∠∑∵∩⊿∪]

戦士「んン!? なんだこりゃ」

魔法使い「……旧王国文字だな」

魔法使い「王家の印をここに。さすれば全てを与えられん」

戦士「はあ~……。死んでからも威張り続けるなんてな。これだから王家ってやつは嫌いなんだよ」

戦士「死ねば誰だろうが一緒なんだよ。王も神も勇者も全員な」

魔法使い「ふふ、そういう価値観は私も好きだぞ、戦士」

戦士「うるせぇ。多分こいつぁ王族の末裔来たときのトラップ解除装置だろう。ってことはこの先トラップ盛りだくさんってこった。
気締めてけよ」

――――――

戦士「おっ! 宝があるじゃねぇか! 魔法使い!」

魔法使い「ん~~~、青だな。開けて大丈夫」

戦士「よっしゃ!」

戦士「うっひょ~こいつはいい鎧だな。売るより着けるか……迷うぜ」

魔法使い「着ける前にのろいチェックしときなよ。この間みたいに半べそかいて教会へ行くのに付き合う私の身にもなってくれ」

戦士「わ、わかってる、わかってるからその事は言うな!」

魔法使い「前から思ってたけど僧侶を雇えばいいじゃないか」

戦士「あ~~、あいつらは駄目だ。神がどうたらこうたらでこういうことはしないからな」

戦士「それに……」

魔法使い「それに?」

戦士「俺はお前と二人で冒険するのが楽しいんだよ! だから他の奴はいらねぇ! なんか文句あるか!?」

魔法使い「ふふ、はっはっは……」

戦士「んだよ」

魔法使い「プロポーズのつもりならもう少し場所を考慮して欲しかったな。まあ戦士らしいけどな」

戦士「うるせぇ/// そういうのよくわからねぇんだよ。許せ」

魔法使い「ああ。知ってる。だから私も安心してついて来られたんだ」

魔法使い「私も同じだよ、戦士。戦士と一緒にいるのが一番楽しい」

戦士「お、おぉ! そうか! 良かった良かった」

魔法使い「(ふふ、可愛らしいな)」

戦士「実はさ、今回の仕事が終わったらこの稼業から足洗おうと思ってたんだ」

魔法使い「ほほう、それはまた何で?」

戦士「最近モンスターもやたら強くなって来てやがるしよぉ……町で聞いた噂じゃ魔王の復活が近いらしいしよぉ……」

魔法使い「らしくないな」

戦士「わかってる……自分でもそう思ってる。だがよ……ずっとこんなことしてたらいつかお前を失っちまうんじゃないかって……不安なんだよ」

魔法使い「……」

戦士「それによ! こないだ出た武闘大会に王様が見に来てたらしくてよ。もし良ければ自国の兵士団の団長になってくれないか?って言われちまってよ」

戦士「稼ぎもいいしそれも悪くねぇかなって思ってんだ」

魔法使い「……王族は嫌いじゃなかったのか?」

戦士「偉そうな奴はだよ。そこの王様はなかなか見込みある奴でな。ちょっと考えも変わったってわけだ」

魔法使い「……そうか」

戦士「勿論魔法使いが良ければの話だけどな」

魔法使い「……そんなに私のことを思ってくれてたんだな、戦士は」

戦士「まあな」

魔法使い「私はただ毎日が楽しくて……戦士と一緒にこうして冒険するのが大好きで」

魔法使い「いつまでもこうやって居たい、って思ってしまっていた」

戦士「魔法使い……」

魔法使い「悪い……。今は答えられそうにない。ただ勘違いしないでくれ」

魔法使い「私も戦士のことは大好きだ。勿論男として。二人で安全に、静かに暮らせれたらどれだけ幸せだろう……そんな気持ちもある」

魔法使い「けど……。まだ戦士とこうしていたいって気持ちもあるんだ……危険だけど、毎日何か発見があって……新鮮で楽しい日々を失いたくないんだ」

戦士「……わかった」

戦士「まあ急に言われても困るわな」

魔法使い「すまない……」

戦士「謝るなよ。それにお前がそんなに俺と一緒に旅するのが楽しいと思ってるなんて思わなかったからよ……嬉しいんだ」

魔法使い「当たり前だろう? あんな田舎臭い町から私を連れ出してくれて……世界を見せてくれて……楽しいに決まってる」

戦士「ならもうしばらく冒険は続行だな。まだまだ見せたいものはあるんだ」

魔法使い「ふふっ、さっきまでの弱気はどこに行ったんだ?」

戦士「犬に食わせろだよあんなもん。俺が強くなってお前を守ればいい話だからな」

魔法使い「頼りにしてるよ、戦士」

――――――

戦士「ふ~頂いた頂いた~」

魔法使い「この先王族に世話になるかもしれないって言うのに大した盗人ぶりだな」

戦士「それとこれとは話が違うからな! それにこんなところで埃被って眠り続けても宝が可哀想なだけだろ」

戦士「価値あるもんは価値ある扱いされねぇとな」

魔法使い「確かにそうだな」

戦士「さてと、帰るとする……お、あんな所にも宝箱発見」タッタッタッ

魔法使い「全く……本当戦士にはこっちの方が似合ってるよ」トットット

戦士「こいつぁでけぇな! 宝箱自体かなり価値がありそうだ」

戦士「んじゃあ早速中身を……」

魔法使い「(さっきまで青ばかりだったし大丈夫だろうけど一応見ておく……紫だとっ!?)」

魔法使い「開けるな! 戦士!」

戦士「なっ」パカッ

戦士「しまっ……」

ガガガガ.....

戦士「何の音だ……?」

魔法使い「……」

魔法使い「!」

魔法使い「部屋の入口だ! 走れ戦士! 閉じ込められるぞ!」

戦士「クソッ! 俺としたことが!」

魔法使い「(駄目だっ……間に合わない!)」

ズゥン――

戦士「すまねぇ魔法使い……俺が無警戒なばっかりに……」

魔法使い「済んだことを言ってもしょうがない。それよりも手分けして出口を探そう」

戦士「あ、ああ!」

――――――

だが、その部屋には出口はなく、俺達はそこに閉じ込められる羽目になった。

戦士「うおおおおおっ!」

ガギィィンッ

戦士「ぬわっ」

魔法使い「無駄だよ。その扉はオリハルコンで出来てる。鉄の剣でどうにか出来る代物じゃない」

戦士「でもよぉ……!」

魔法使い「……!」

魔法使い「……」

魔法使い「それよりこっちに来てくれ戦士」

戦士「何か見つかったのか?」

[ёжкйшыфюя]

戦士「またわけわかんねぇ文字か」

魔法使い「……欲深き者に罰を与えん。欲深き者、汝の命を持ってそれを償うか、またはその代償に汝と共にする者の命を頂く」

戦士「……まさか」

魔法使い「良くあるダンジョントラップだよ。冒険するメンバーは大体前衛と後衛と決まってるからな」

魔法使い「だから恐らく……」

戦士「お、おいっ! そんなとこに腕入れて大丈夫なのかよ?」

魔法使い「大丈夫、心配するな。……はあっ!」

ゴゴゴゴ……

戦士「あっ、開いたぞ!!!」

魔法使い「やっぱりか」

魔法使い「これは魔力に反応するように出来てるみたいだな」

戦士「よぅしじゃあ俺が開けてる間に魔法使いは外に出てくれ!」

魔法使い「いつからお前は魔法戦士になったんだ?」

戦士「ぐっ……」

戦士「ならどうすりゃいいんだよ」

魔法使い「簡単だろう。私を置いて戦士が外に出ればいい」

戦士「そんなこと死んでもお断りだ」

魔法使い「このままじゃ両方死ぬことになるぞ?」

戦士「俺がここでお前に魔法を教えてもらい魔力を身につけて外に出す!」

魔法使い「ふふ、全く頑固だなお前は」

魔法使い「心配しなくても死ぬつもりはないよ。ちゃんと策はある」

戦士「本当か!?」

魔法使い「賢者の石、と云うものを聞いたことがあるか?」

戦士「確かどんな傷も忽ち癒えるって言うあれか?」

魔法使い「ああ。あれは常に魔力を帯びてると聞く。あれをここに置けばその魔力で感知を逃れられるだろう」

戦士「よしわかった! すぐに見つけて来てやるよ!」

魔法使い「お前ならきっとすぐ見つけられるさ。何たって私の戦士だからな」

戦士「ああ! 絶対助け出してやるからな……魔法使い!」

――――――

戦士「そうだ」

魔法使い「ん?」

戦士「これ……早いけど渡しとく」

魔法使い「……指輪?」

戦士「勿論ちゃんと自分で買ったもんだからな! 細工師にすげぇ大枚叩いたんだぞ!」

魔法使い「……ありがとう。嬉しい」

魔法使い「つけてくれないか?」

戦士「お、おぉ」スッ

魔法使い「……綺麗だな」

戦士「もし寂しくなったりしたらよ……それを見て思い出してくれ。俺のこと……。そしたら絶対すぐ帰って来るからさ!」

戦士「絶対に……お前を置いて行ったりしないから……」

魔法使い「良い大人が泣くんじゃない。そんなこと言わなくても信じてるよ」

戦士「魔法使いっ……」

魔法使い「でも、しばらく寂しくなるのは本当だから……その寂しさを消し飛ばせるぐらいのことを……して欲しい」

戦士「……目瞑れ」

魔法使い「うん……戦士……んっ」

魔法使い「(……今までありがとう、戦士。本当に……楽しかったよ)」

――――――

戦士「じゃあ行ってくる」

魔法使い「行ってらっしゃい」

魔法使い「まるで夫婦みたいだな」

戦士「う、うるせぇっ///」

戦士「町で事情話して誰か魔力使える奴に交代でやってくれないか言ってみる。金さえ積めばいい仕事になるだろうしやる奴もいるだろう」

魔法使い「ああ。頼んだよ。さすがに飲まず食わずはしんどいからな」

戦士「魔法使い」

魔法使い「ん?」

戦士「愛してるぞ」

魔法使い「照れるぜ」

戦士「言ってろ」

魔法使い「戦士」

戦士「ん?」

魔法使い「私も大好きだ」

戦士「ああ! 待ってろよ……!」

魔法使い「……うん、待ってる」

戦士「……クソッ!」タッタッタッ

魔法使い「……戦士」

────

「それが私と魔法使いの最後の冒険でした」

勇者「……」
僧侶「グスッ……ズズッ……」メソメソ

「町へ行き事情を話しても誰も来てはくれませんでした。当然です……下手をすれば自分が閉じ込められ、助けられるのを待つ側になるのですから」

「そして頼みの賢者の石は……二代目魔王との決戦時に紛失したままと聞き……私はただただ宛もなくさ迷いました」

「そして一日経ち……餓えているだろう彼女に食料を持って行った時……開かない扉の前で彼女の覚悟を悟りました」

「彼女は最初から賢者の石が手に入らないことも……他人が自分の代わりに犠牲になってくれるという甘い考えもしてなかったのです」

「ただ……、私を外に出す為に。私のせいで彼女は……!」

勇者「……」
僧侶「そんな別れ……悲しすぎます」

「すみません、取り乱して。……もう、終わったことです、お気になさらないでください」

僧侶「グスッ……でも」

僧侶「きっと……魔法使いさんはおじいさんのこと恨んでないと思います」

「……何故、そう思うのですか?」

僧侶「だって……私がそうなっても……きっと恨んだりしないから」

「……凄く気持ちが救われたような気がします。ありがとう、僧侶さん」

僧侶「私みたいなものが意見するのもおこがましいです……」

「いえ、この先冒険を続けるあなた達の言葉だからこそです」

「……冒険の果てを迎えた私の昔話も、あなた達によって生かされた気がします」

勇者「冒険の果て……か」

────

僧侶「グスッ……」
勇者「まだ泣いてんのか僧侶」

僧侶「だってぇ……あまりにも辛すぎるじゃないですか……」
勇者「まあな……。ただ冒険ってのはそういう命を落とす危険があるってことだ」

勇者「俺達だって他人事じゃない。現に何回も死んでる。運が良かったからこうしているけどな……」
僧侶「はい……わかってます」

僧侶「……もし、ゆーしゃさまならどうしますか?」

勇者「戦士の立場なら、か?」
僧侶「はい」

勇者「……少なくとも戦士みたいな優しい答えは選ばなかったかもしれない」

僧侶「優しい……?」

勇者「(魔力があるやつを脅して連れてくればいい。いや、じいさんもやったのかもしれないな……ただ、それも見越して魔法使いは扉を開けなかったのか)」

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「なんでもないよ。明日は朝から歩くんだ、寝とけよ」

僧侶「はい…」

勇者「(冒険の果てか……じいさんにとってそれが本当に今なんだろうか)」

今日はここまでで
後半は明日辺り卸します

────

勇者「色々世話になったなじいさん」
僧侶「お世話になりました」

「いえいえ。お二人の旅に神の加護があらんことを」

勇者「ところでじいさん」

「はい?」

勇者「王家の洞窟ってのはここから近いのか?」

「……。それを聞いてどうなさるおつもりかな?」

勇者「ただの気まぐれだよ」

「……悪いことは言いません。やめておきなさい。あそこには他にもいくつものトラップがあります。いくら勇者様でも危険には変わりありません」

勇者「……忠告ありがたくもらっとくよ」

────

勇者「こんな場所に家を構えてるぐらいだ。洞窟から近いと思ったがどうやら図星だったみたいだな」

僧侶「行くんですか、ゆーしゃさま」

勇者「ああ。どうしても気になるんだよ。魔法使いが最後に残した言葉が」

僧侶「最後に残した言葉……」

勇者「もしかしたら現実を突き付けることになるかもしれない。どれだけ思っていても……」

僧侶「……私は信じます。あの二人の愛が本当のものだったことを」

勇者「答えは何にせよ……それを知らなきゃあのじいさんの冒険に終わりは来ない気がするんだ(そして、俺達がもしそうなった時の参考にもなるかもしれない……なんて言ったら僧侶に怒られるだろうな)」

勇者「予想より近くにあったな……」

僧侶「これが……王家の洞窟」

勇者「じいさんが言ってたようにどこにトラップがあるかわからないからな! 気をつけて進」

僧侶「あっ! ゆーしゃさま! 宝箱がありますよ!」トットット

勇者「マジかあああっ」

僧侶「開けましょう開けましょう!」

勇者「剣来い!剣来い!」

僧侶「杖ですよきっと!」ギィィ

宝箱は空っぽだった

勇者「」
僧侶「」

勇者「……そ、そりゃあそうだよな……もう何人もここに出入りしてるだろうし」

僧侶「で、ですよね……」

勇者「それでもさ……宝箱って開けたくなるんだよな」

僧侶「わかります……。宝箱には夢が詰まってますから」

勇者「……。」
僧侶「……。」

勇者「次からは気をつけて進もう」
僧侶「はい……」

────

僧侶「ゆーしゃさま! また宝箱が!」
勇者「……慎重に開ければ開けてもいいんじゃないか……?」

僧侶「なるほど!」ソローリ

宝箱は空っぽだった

勇者「ぐぅっ……」
僧侶「酷すぎますっ」

勇者「もう開けん!」
僧侶「私も! 神に誓って開けませんっ!」

────

僧侶「ゆ、ゆーしゃさま……」
勇者「……駄目だぞっ」

僧侶「すごい綺麗な宝箱がこっちを見てますぅ……」
勇者「罠だ! 騙されるな!」

勇者「さっき神に誓ったのをもう忘れたのか!? お前の信仰はそんなもんかっ!?」
僧侶「……信仰より大切なものも世の中あるんですよゆーしゃさま」ニヤリ

勇者「そ、僧侶が黒いっ!」
僧侶「もしあの箱に賢者になる為の教本が入ってたらと思うと居ても立ってもいられません……!」

勇者「そんな簡単に手に入るもんなのかよ……」
僧侶「たぁっ!」

宝箱は空っぽだった

────

僧侶「もはや神さえも信じません……」

勇者「もう宝箱はスルーしようぜ。さすがにあれだけ開けて何もないんじゃこの先も一緒だろうし」

僧侶「はい……。でも、もし中身があって……それを売って美味しいご飯食べれたらと思うと開けずにはいられないのです」

勇者「開ける動機飯かよ!」

僧侶「ゆーしゃさまと、を付け忘れました!」

勇者「はいはい……」

勇者「ん、……! 僧侶伏せろっ」ガバッ

僧侶「きゃっ」

シュンッ
シュンッ

勇者「仕掛け矢か……。じいさんの言う通りだな。そこらかしこが罠だらけだ」

勇者「気をつけて進むぞ」

僧侶「はいっ」

────

勇者「ここか……」

僧侶「閉まってますね」

勇者「……」

僧侶「どうしたんですかゆーしゃさま?」

勇者「じいさんがどれだけ魔法使いを助けたかったのかがこれを見て一発でわかったよ」

僧侶「……凄いキズ」

勇者「オリハルコンをこれだけ削るのにどれだけの剣とどれだけの時間がいるか……」

僧侶「……おじいさん」ヒック

勇者「泣くな。俺達は泣くために来たんじゃないからな」

僧侶「……はいですっ」

僧侶「でもゆーしゃさま……魔法使いさんの最後の言葉をどうやって……?」

勇者「中に入れば遺言やら言霊やらが残ってるかもなんだがな」

僧侶「言霊再生なら私の出番ですねっ」

勇者「ただ……、じいさんが何十年経っても突破出来なかった扉だ。そう簡単に開くとは思えん」

僧侶「中からしか開かないとか……?」

勇者「可能性はあるな。この洞窟が造られた目的は十中八九自分の子孫に宝を残す為だろう。
だからあの入口にあった王家の印やらを嵌めない限り開くことがない、とも考えられる」

僧侶「……」

勇者「……僧侶、三日くれ。それで無理なら諦める。……頼む」

僧侶「ゆーしゃさま……」

────

勇者「まずは辺りの詮索だ」
僧侶「港町の町長さんからもらった松明が役に立ちますね」

勇者「ああ」

勇者「」コンコン
勇者「……」
僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「なるほど」
僧侶「?」

勇者「次だ」
────
勇者「更に奥があったんだな」

僧侶「そうみたいですね」

勇者「この辺りはモンスターも手強い、気を付けるぞ」
僧侶「はいっ」

[∮⊥∠∟∵∪∪∮∫]

勇者「これは……僧侶読めるか?」
僧侶「え~と……」

僧侶「その求めし欲望が自らの大切な者を殺すであろう」
勇者「あの部屋のことを指してんのか……はたまたこの先にあるものを指してるのか」

勇者「ん~……これといって怪しいところはないな」

僧侶「そうですねー。この辺りはおじいさんも調べてる筈ですし」

勇者「じいさんが50年かけて調べて無理なものを俺達がどうこうするって時点で無理なのか……」

僧侶「ゆーしゃさま……」

そのまま時は過ぎ、一日目は何事もなく終わった。

────

バチバチ

僧侶「こんなところで焚火なんかして大丈夫ですか?」

勇者「モンスターは基本的に火が怖いからな。それに強いのは奥のモンスターだけみたいだし、大丈夫だろう」

僧侶「何かわかりましたか?」

勇者「……一つだけな」

僧侶「!! 何がわかったんですかっ!?」

勇者「……」スッ

僧侶「ゆーしゃさま? 剣なんか構えてどうしたんですか?」

勇者「はああっ!!!」

ゴォガギィィンッ

僧侶「わゎっ」

勇者「この部屋一体は全部オリハルコンで出来ているらしい。壁を突き破れば行けるかと思ったんだけどな」

僧侶「びっくりさせないでくださいよもぅ!」

勇者「明日はもっと奥へ行こう。何かわかるかもしれない」

僧侶「でも危ないですよ……?」

勇者「何回か死ぬかもしれないな」

僧侶「そんなっ!」

僧侶「もうやめましょうゆーしゃさま……。こんなことしたって誰も救われません」

勇者「そうかもしれないな。魔法使いの最後の言葉だっていいものとは限らない」

僧侶「なら……」

勇者「それでも……待ってんだ。あのじいさんは」

勇者「50年もずっと……魔法使いの魂を」

僧侶「魂……」

勇者「俺達が死んでもなんで生き返るか知ってるか?」

僧侶「……当たり前です。僧侶になる時に一番最初に習うことですから」

僧侶「肉体が死んでも魂が現世と強く結び付きたいと思えば思うほど肉体を修復した時に魂は現世へ戻り、そして肉体に戻ります」

勇者「まあそんなところだな」

僧侶「……まさか勇者……魔法使いさんが蘇生すると」

勇者「さすがにそこまで俺もバカじゃない。50年も肉体から離れた魂が現世に帰るなんてことはまずあり得ない」

勇者「けど……その魂が残した言葉。言霊は一体どれだけの思いを秘めてんだろうなってさ」

僧侶「魂が肉体に戻れない時、最後に現世に残す言葉が言霊……ですよね」

勇者「ああ。待つじいさんと伝えたい魔法使い、それが出会って初めてあの二人の冒険は本当に終わりを迎えるんだと思う」

勇者「余計なことしやがってって怒られるかもだけどな」ニシシ

僧侶「そんなことないです……きっと。ゆーしゃさまの気持ち、伝わると思います(でも、無理はしないでくださいね。ゆーしゃさま)」

二日目は苛烈を極めた。

勇者「僧侶! 回復!」
僧侶「はいっ!」

奥へ行くほどモンスターが強く、

ガシャン

勇者「なっ……飛べ! 僧侶!」
僧侶「床が……!」

トラップも恐ろしい物へと変化していったからである。

まるで、ここには来るなと言わんばかりに。

勇者「はあ……はあ……はあ……」

僧侶「ゆーしゃさま……もうやめましょう。危険すぎます!」

勇者「……」

僧侶「ゆーしゃさまっ!」

勇者「……見ろ、僧侶。行き止まりだ」

僧侶「えっ」

勇者「どうやら一番奥に来たらしい」

そこには一つの石板だけあった。

[┏╋┻┫┳┣┗┛┓┏]

僧侶「今までとは違う文字ですね……」

勇者「驚いたな……こいつは神記号だ」

僧侶「神記号?」

勇者「昔の人が神様と会話するために使われた文字らしい。魔王が現れてこの世界が混沌に落ちた時に人々はこれで神と会話し、神託を授かった」

僧侶「そんなものがどうして……」

勇者「わからんが……これがもしかしたらヒントかもしれない。さすがのじいさんでも神記号を解読出来たとは思えないしな」

勇者「こいつで50年分稼げるとは思わないが……きっかけにはなるかもしれない」

勇者「神々が残したこの秘宝を託すのに相応しい者は……」

勇者「ちっ……掠れてて読めないな。もっと近くに…………これは!」

ガコッ

僧侶「っ! ゆーしゃさま!」

勇者「しまっ」

シュィッ  シュィッ

勇者「(左右からの仕掛け矢……これぐらいなら)」

シュィッ

勇者「(入口からもだとっ!)」

勇者「僧侶っ!!!」ガバッ

ザクッザクッ

勇者「ぐぅっ」

僧侶「ゆーしゃさま!!!」

勇者「(しかもただの矢じゃねぇ……! 神経性の毒か? 口が上手く聞けんっ…!)」

僧侶「私のせいで……。今治しますから!」

僧侶「キアリー!」

勇者「(……駄目か、かなり強い毒ってことか)」

僧侶「ゆーしゃさまっ!」

勇者「……(体力も…もう持たないな……クソッ。後は頼むぜ……僧侶)」ギュッ

僧侶「ゆーしゃさま……? 手がどうかして……」

勇者「……」

僧侶「な、ぞ、は、と、け、た! 凄いゆーしゃさま!」

僧侶「つ、ぎ、の、ま、ち、ま、で、な、ん、と、か、た、ど、り、つ、い、て、く、れ?」

僧侶「次の町って半日ぐらいかかるんですよ!?」

僧侶「す、ま、な、い」バタリ

僧侶「もう……。ゆーしゃさまったら」

────

僧侶「よいしょっと……何とか洞窟は脱出出来たけど」

僧侶「こんな時に蘇生魔法が使えたらな……」

僧侶「無い物ねだりしても仕方ない! とりあえず歩こう!」

僧侶「よいしょ……よいしょ……」

僧侶「勇者様ってやっぱり大きいな……」

僧侶「ふふ、思ったらいつも先に死んでしまうのは勇者様ですよね」

僧侶「今回は私のせいですけど……ごめんなさい勇者様」

僧侶「でも、死んでもこうやっていつも一緒ですよね、勇者様」

僧侶「これからも、きっとそうですよね」

僧侶「私達の冒険にも、果てはあるのでしょうか……」

────

僧侶「はぁっ……はぁっ……後ちょっとなのにっ」

ギャルルゥ
ガウウゥ

「ガルルゥワァッ!」

僧侶「ぐぅぁっ……」

僧侶「くっ……足が」

僧侶「ここまで……か。勇者様、ごめんなさい。情けない僧侶を許してください」

僧侶「もしかしたら、これが最後かもしれませんね」

僧侶「けど、悔いはありません。ここが私達の冒険の果てだとしても……」

僧侶「魔王を討てずに旅が終わるのだけは残念だけど……」

僧侶「大好きな勇者様と一緒に死ねるなら、私は……」

ガウウゥアアアッ
グルゥァッ

グチャッ
ベチャッ

…………

────

勇者「はっ!!!」
僧侶「ふぁっ!!!」

僧侶姉「久しぶりに来たわね~元気してた? ってさっきまで死んでた奴らに言う台詞でもないか」

勇者「僧侶の姉さん!? てかなんでここに!?」
僧侶「中央の町の近くでモンスター達にやられて……」

僧侶姉「勇者の毒がなかなかに厄介な代物だったのとあんた達の死体の破損状況が酷くて普通の神官が匙投げたから司祭の私のとこに来たのよ」

勇者「そうだったのか……すまねぇ僧侶。俺が迂闊だったばっかりに」

僧侶「私こそすみませんゆーしゃさま。無事に町まで運べなくて」

僧侶姉「って言うかあんたいつまでルーラ石持ってってんのよ! 二つ目の村に行くのにこっちはずっと徒歩らなきゃならかったのよ! 全くもう!」

勇者「ごめんなさい……なかなか返す機会がなくて」

僧侶姉「もうルーラぐらい覚えたでしょ? なら返してもらうわよ」

勇者「そういやいつの間にか覚えてたな」

僧侶「おめでとうございますゆーしゃさま!」

勇者「ああ! これでいつ死んでも大丈夫だな!」

僧侶姉「おいこら」タユン

勇者「(……やっぱり大きさもさることながら形がいいな僧侶の姉ちゃんは)」ウンウン

僧侶「(そんなに姉上の胸がいいんですかゆーしゃさまっ! 私だって旅立った頃よりかは大きく……はあ)」ストーン

中央の町────

勇者「やっぱりか……」

僧侶「どうでしたゆーしゃさま?」

勇者「ビンゴだ。やっぱりあそこは昔からかなり死人が出てるらしい」

勇者「しかも仲間を一人失った奴がここへ来て魔力があるやつを探して回るらしい」

僧侶「それって……」

勇者「じいさん達と同じだ。しかも50年も昔の話どころじゃない。つい昨日も来たんだと」

僧侶「昨日ですか?!」

勇者「ああ。俺達が死んでた時に入れ代わりで入ったんだろう。また一つ開けなきゃいけない理由が出来たな」

勇者「まあ……つまりあの扉は開くんだ。しかも思ったより簡単にな」

勇者「しかしそれは皮肉にも冒険の果てを迎えかけた奴には無理な方法で、だ」

王家の洞窟前────

勇者「あの石板にはこう書いてあった」

勇者「『神々が残したこの秘宝を託すのに相応しい者は……常に飽くなき探求心を求める者達なり』とな」

僧侶「……?」

勇者「つまり飽くなき探求心、多分冒険者を差しているんだろうな」

僧侶「でも……おじいさんだって冒険者だったんじゃ……」

勇者「それは魔法使いが閉じ込められるまでは、だ。それからはただ彼女を助けるためだけに動いただろう。冒険もクソもない、思えばそこが盲点だった」

勇者「あの扉は常に冒険を求める者にしか開けられない、つまり」

───

僧侶「また空っぽかー」

僧侶「でも本当にこんなことしてあの扉が開くのかな……」

僧侶「……一つでもいいから中身入ってないかな~♪」

────

僧侶「ゆーしゃさま!」
勇者「全部開けてきたか?」

僧侶「はいっ! そして全部中身は空っぽでした!」
勇者「それでいい。それでこそ冒険者だ!」

勇者「冒険者とそうでない者の違い……それは宝に対する探求心だ」

勇者「つまり、行くときはすんなり入れてしまうのは……」

僧侶「ゆーしゃさま! 扉がっ! 開いてますよ!」

勇者「そう、来る前に宝箱を全て開けているからだ。冒険者のみ開かれる扉なんだよ、こいつは」

僧侶「それで私達の時は開いてなかったんですね」

勇者「ああ。途中で開けるのをやめたからな」

僧侶「どうしてわかったんですか?」

勇者「あの石板もそうだが……奥へ行っておかしいと思ったんだ。入って間近に宝箱がある癖に奥には宝の気配さえないからな」

勇者「それに加えて何人もここへ入って被害に合ってるっていう証言、そしてそのもう一人が帰って来たことがないと言う矛盾」

勇者「その行動の差を照らし合わせた結果、だな」

僧侶「凄いですゆーしゃさま! ……そうですよね……仲間が閉じ込められてるのに暢気に宝箱開ける人なんていないですもん……」

勇者「この宝が与えられる者はそんな犠牲を払ってでも冒険するような狂った奴ってことだな。全く昔の奴らの考えることはわからんな」

お仕事なのでここまでで
書いててしまったと思う長さ
そろそろまとめに入らないと不味い予感

書けてはいるので暇見て落としますね

「あれっ……? もしかして出れちゃったりする……?」

勇者「ん、あれは」

「やったっ!!! マジ死ぬかと思った~……良かったぁ~」

「あのアホ戦士次に会ったらマジ殺す」

僧侶「何だかかなり怒ってらっしゃいますね……」

勇者「まあ当然だろうな。この開け方を知らない限り魔法が使える方はここで一生監禁だからな」

「あっ!!! もしかしてあんた達が開けてくれたりしてくれたの?」

勇者「まあそうなるな」

「マジありがとうっ! ん~ちゅっ」

勇者「ちょ、うわっ」

僧侶「ゆーしゃさまに何を!?!?!?」

「ん? ゆーしゃさま? あ、もしかして君勇者?」

勇者「まあそうだけど、とりあえずどいてくれ」

「ごめんごめんつい嬉しくってさ~。私は魔法使い! まっ、トレージャーハンター兼魔王討伐隊ってとこね」

僧侶「へ、へ~(ゆーしゃさまにキ、キ、キ、キスしおったぞこやつ許すまじ……! で、でも、ほっ、頬ならノーカンだよね……???)」

勇者「魔王討伐志願とは物好きも居るもんだな」

魔法使い「これでも中級魔法は全部マスターしてるよ!」

勇者「ほ~やるな」

僧侶「へ、へぇ~」

魔法使い「で、モノは相談なんだけどさ」

僧侶「(きたっ)」

魔法使い「私を仲間に」
ササッ僧侶「ゆーしゃさま! 早く中を調査しないと!」

勇者「そうだな。その為に来たんだから」

魔法使い「調査?」

勇者「ある冒険者の最後の言葉を聞きに来たんだ」

魔法使い「な~んだ言霊チェックか。そういう依頼なの?」

勇者「……いや、俺が好きでやってるだけだ」

魔法使い「ってことはお金も入らないのにこんなことしてるわけ? ひゃ~ビックリ」

勇者「今日俺達が来なかったらお前が言霊を残す羽目になってたけどな」

魔法使い「ちょっとマジにならないでよぉ! ごめんってば!」

────

勇者「開いちまったら案外普通の部屋だな……」
僧侶「でも感じます。報われなかった者達の魂の痕が」

魔法使い「ちょっとぉ~……マジで入っちゃうわけ? 突然閉まったりしたらどうすんのさぁ~」

勇者「その時はその時だ。それに表の仕掛けを考えても中央の宝箱を開けば閉まる仕組みと見て間違いない」

魔法使い「でもさぁ~……」

勇者「と言うかついてこいなんて言ってないだろ。早く仲間のとこに行って自分が無事なのを伝えてやれよ」

魔法使い「……きっと戻って来ないよ。あんなやつ」

勇者「……」

勇者「ま、好きにしろよ」トコトコトコ

魔法使い「ちょ、ちょっと待ってよぉ~!」

「…………勇者、見つけた」

勇者「僧侶、わかるか?」
僧侶「……、少し時間がかかりそうです。余りにも強い言霊ばかりで……」

勇者「そうか……。なら俺達は文字で残した方を探すとするか」

魔法使い「達って……私も入ってるわけ……?」
勇者「助けてやったんだ、それぐらいやってもらわないとな」

魔法使い「さっきと言ってること違うくないっ!?」

勇者「……かなり大量の本があるな」

魔法使い「魔法使いなら手書き詠唱なんかもするからね。紙とペンは大体みんな持ってるよ」

勇者「血文字の中から探し当てたりしなくて助かったぜ」

────

勇者「……」
魔法使い「……」

魔法使い「恨み、妬み、苦しみ、悲しみ、絶望、狂気……たまに愛情ありってとこかな。お目当ての人の遺言は見つかった?」

勇者「……いや、多分どれでもない」

魔法使い「なんでわかるの?」

勇者「こればっかりはなんとなく、って答えるしかないな」

魔法使い「人間死ぬ間際になれば人格なんて吹き飛ぶもんだよ。案外これとかじゃないかな?
魂ごと呪い殺してやるーってやつ」

勇者「僧侶ーどうだ?」

魔法使い「とうとう無視っ!?」

僧侶「……多分、これだと思うんですが」

勇者「見つけたか!」

僧侶「……、でも……余りにも……これは」

勇者「いいからいいから! 聞かせてくれよ」

僧侶「……」ゴニョゴニョ

勇者「……、……クク、はははっ……あっははっはっ!」

魔法使い「勇者君が壊れた!?」

僧侶「こんな言霊この中で一つだけですよ……、でもおじいさんから聞いた話と状況が一致しますし……」

勇者「……本当に彼女は冒険者だったんだな。最後の最後まで」

勇者「これでじいさんをここに連れてこさざるを得なくなったな」

魔法使い「なにさ~っ! そっちだけで盛り上がっちゃって!」

勇者「さ、帰ろうぜ。じいさんのところに!」
僧侶「はいっ!」

魔法使い「もうっ! 私にも教えてくれたっていいじゃん!」

勇者「心配しなくてもここを出たら教え」

ゴゴゴゴゴゴ.....

勇者「なんだ!?」
僧侶「ゆーしゃさま! 扉がっ」

勇者「嘘だろ!? 宝箱には指一本触れてないぞ!!?」

ゴゴゴゴ……ズゥン...

魔法使い「ま、まさか……」

僧侶「閉じ込められた……?!」

勇者「なんて顔してんだよ。開け方さえ知ってれば大した問題じゃないだろ。大方時限で閉まる造りだったかモンスターが宝箱を閉めたかしたんだろ」

勇者「ちょっくら開けに行ってくる」

魔法使い「わ、私は絶対中には残らないわよっ!」

僧侶「では、私が開ける役をしましょう」

勇者「任せたぜ」
僧侶「はい」ニコリ

魔法使い「(なによ……残ることにまるで躊躇いなしじゃない。勇者も勇者で言うまでもなく助けに来るぜ、って顔しちゃってさ!)」

魔法使い「(これが本当の仲間……なのかな。裏切ったり裏切られたりし続けた私にはわからないな……)」

魔法使い「(やっと……次こそは本当の仲間に巡り会えたと思ったのに……バカ戦士!)」

ゴゴゴゴゴゴ....

勇者「手分けして探そう。閉まってる宝箱があったら開けてくれ」
魔法使い「……うん」

勇者「……(何でこんなにも嫌な予感がするんだよ……)」

勇者「(頼む……何事もなく開いてくれよ)」

────

──しかし、勇者の願いとは裏腹に、事態は最悪の方向へと動いていた。

勇者「バカな……嘘だろおい」

勇者「確かにここにあったはずだ……宝箱が」

勇者「それが何で……ないんだ」

──宛もなく、他にあの扉を開く方法を模索するも……見つかる筈がなく。

奇しくも、勇者達は50年前の二人と同じ状況に立たされた。

勇者「……クソッ(もう手がない……後はじいさん達と同じく賢者の石を持って来るか他に魔力を使える奴を生け贄にするしか……)」チラッ

魔法使い「……」

勇者「(……最初から犠牲になるはずだったのはこいつだ。なら……)」

勇者「僧侶、聞こえるか?」
『ゆーしゃさま? どうしたんですか?』

勇者「話がある、一回ここを開けてくれないか?」

『……』

勇者「」ジロ
魔法使い「……」

勇者「(悪く思うなよ、お前と僧侶じゃ天秤で計るまでもない。博愛主義で勇者やってるつもりはないからな。俺はじいさんみたいに優しい選択は選ばない)」

『わかりました。けど、絶対に約束してください』

勇者「なんだ?」

『ここから出るときは三人全員で出ることが絶対条件です。誰一人残さないと、誓ってください』

勇者「……(見透かされてたか。……僧侶のやつ。)」

魔法使い「……(この子……)」

『でなければこのまま私が犠牲になります』

勇者「ったく……、わかったよ。約束する」

『それでこそゆーしゃさまですっ! 今開けますね!』

勇者「……悪かった。ちょっとでもお前を残して行こうって考えちまったよ」

魔法使い「ううん。当然だよ、そんなの。だって二人は仲間で、私は仲間じゃないんだもん」

勇者「……」

手短に僧侶に状況を話す。

僧侶「宝箱が……なんで」
勇者「さあな、それより今はどうやってここを出るかだ」

魔法使い「正直無理だと思う。私も君達が助けてくれるまでに色々試してみたけどどれもこれも駄目だったよ」

勇者「例えば?」

魔法使い「床を爆破系魔法で吹き飛ばして潜って行こうとしても床もオリハルコンだから無理だし」

勇者「となると天井もその可能性が高いな……」

勇者「俺があの扉が下がるのを押さえてる間に二人が抜けると言うのはどうだ?」

魔法使い「それもうちのバカ戦士がやったけど無理だったよ。腕力でどうにか出来るもんじゃないってさ。ミンチになっちゃったら蘇生も危ういしね~」

勇者「……となると、だ。走り抜けるしかないな」ニヤリ

僧侶「ゆーしゃさま何か思い付いたんですね!」

魔法使い「走り抜けるって……そんなに下がって来るのが遅いなら苦労しないって……まさか」

勇者「ああ。一か八かやるしかない」

────

勇者「しっかり捕まってろよ」

僧侶「はいっ」

魔法使い「激突したら三人仲良くこの中で言霊残す羽目になるわね……」

勇者「このまま何もしないよりはマシだろ。それに」

魔法使い「それに?」

勇者「冒険しなきゃ道は開かれねぇらしいしな!!!」

僧侶「行きます! ゆーしゃさま!っ!」

ゴゴゴゴゴゴ.....

勇者「行くぜええぇぇぇぇぇぇぇっ」

勇者「ルーラ!」シュィッ

ゴゴゴゴ……

勇者「(思ったより閉まるのが早いっ)」
魔法使い「ぶつかるっ!」
僧侶「(神様……!)」

勇者「沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」

体を反るようにして滑り込む。
三人は扉のギリギリ下をそのまま潜り抜けて行く。

魔法使い「やった! 抜けたよ!」
僧侶「さすがゆーしゃさま!」
勇者「……」

魔法使い「勇者君?」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「……ヤバい、止まらん」

「「えええええっ!?」」

「そっちじゃなくて左!」
「ゆーしゃさま右です!」

「「ぶつかるううううううううう」」

「「「うわああああああああ」」」

ドォォォォン……。


勇者「……へへ、へっへっへ」
僧侶「ふふ、あははっ」
魔法使い「あはははっ」

そうだ、これが……冒険なんだ。

泣いたり、笑ったり、痛かったり、気持ちよかったり。
嬉しかったり、楽しかったり、……苦しかったり、辛かったり……でも、

それでも前に進もうとするこの思いこそが……

勇者「あーーー冒険っていいなおい!」

僧侶「はいっ」ニコッ

「……魔法使い……?」ボトッ

魔法使い「えっ……?」

「お、おま……で、出れて……」

魔法使い「遅いわよ全く。て言うか何よその大量の食料……もしかして私に」

「魔法使いっ」ガバッ
魔法使い「ちょっ、戦士っ! あんたなにす」

戦士「良かった……ほんどに゛よ゛がったあ゛」
魔法使い「……何よ、そんな泣くほど心配されたら……(嬉しいじゃない……)」

勇者「こっちも一件落着だな」ニヤリ
僧侶「みたいですね」ニコッ

戦士「本当にありがとう! どれだけ言葉を尽くしても足りないぐらいだ」

勇者「気にしないでくれ、ついでだったから」

魔法使い「ついで扱いって酷くない勇者君!?」

戦士「勇者……だと?」

魔法使い「あ、しまった」

勇者「ん?」

魔法使い「いや、その、こいつさ……あっちの生まれの人間で」

勇者「……ああ、そういうこと」

勇者「行こうぜ僧侶。俺達にはまだやらなきゃいけないことがあるしな」

僧侶「ゆーしゃさま……」

戦士「勇者!!!」

勇者「なんだよ。憎まれ口なら他所で頼むぜ。反勇者国家生まれさん」

戦士「……いや、違う。お前が勇者だろうが何だろうがさっきの気持ちは変わらない!」

戦士「本当にありがとう」

勇者「……変なやつだな」

戦士「けどな! 魔王を倒すのは俺達だ! それだけは譲れねぇかんな!」
魔法使い「ちょっと! 私まで勝手に入れないでよ!」

勇者「ああ! どっちが先に倒すか競争と行こうぜ!」

戦士「おおよ!」

僧侶「ふふっ、ゆーしゃさま嬉しそう」

魔法使い「あれが男の友情ってやつ? って先行かないでよバカ戦士っ!」

勇者「……! ……さて、行くか。俺達も」

僧侶「はいっ!」

勇者「(……あんな場所にあの宝箱が……。偶然にしては出来すぎだな)」


「……ちっ、まあいいや。これぐらいで死んだらつまんないもんね、勇者。でも次こそは……」

短編 僧侶の日記Ⅲ

━━━━━━━━━━
勇者暦○○○年 四の月
この数日間、本当に色々考えさせられることばかりでした。
あるおじいさんとの出会いから始まり、そのおじいさんの冒険の果てを探し、他の冒険者の人達とも出会い、私達はこれからも冒険を続けて行く……。

人それぞれ生きてきた経緯が違うのは当たり前だけど……こうやって混じり合って、終わったり、繋がったり、していくのは何だか凄いことだなって思いました。

終わり、そう……おじいさんは言いました。

……で自分達の冒険は終わったのだと…。

魔法使いさん達と別れた後、私達はおじいさんの所に行きました。
ゆーしゃさまは全てを話した後、こう言いました。

『あんたの相棒の冒険は、まだ続いている』と。

それでおじいさんは決心したのか私達と一緒に洞窟へ来てくれました。
おじいさんはどうやって扉を開けたのかを聞くことはせず、ただ長年閉ざされていた扉が開いてるのを感じたのか、何とも言えない表情をしていました。

それでも、進みました。

そして……、

おじいさんは、

宝物を見つけました。

それは、ずっと、彼女が願っていたことでもありました。

────

「これは……」

「私が彼女に渡した指輪……」

勇者「」コクリ
僧侶「……」

僧侶「……お前の最後の宝物は私だったってことだ」

「!!!!?」

僧侶「探しに来い、一生かけて……私を見つけ出してみろ」

「まさか……魔法使いの……?」

『そして、もし……ここに辿り着いたら。もう一回、指輪を渡しに来てくれ』

『ずっと、待ってるから』

『新しい冒険の舞台でな(あの世でな)』

「ハハッ……あのバカは……本当に……冒険が大好きだったんだなあ……」

そうして、魔法使いさんの指輪を大事そうに握り締めた後、おじいさんはこう言った。

『ここでの自分達の冒険は終わりました』

と。

けど、そう言ったおじいさんの顔は、とても晴れやかでした。


この数日間


私達は……


何を得たわけでもなく

何かを変えたわけでもないけれど……


それでも

勇者「またな~~~じいさ~~~ん! 長生きしろよ~~~!!!」

僧侶「本当にお世話になりましたぁ~~!!!」


「またいつか冒険の話をしに来てくだされーーーー!!!」


たっくさん!たっくさん!冒険しましたっ!!!



冒険の果て  終わり


スレ1つ立てれるぐらい長いわとか思った人ほんとすいません

後長編は4~5予定してまずがこれより長くなることは多分ないと思うのでご了承ください

どうしでもおじいさんの50年が簡単に見えない用に細工するのに時間かかりすぎましたね
30年にしとくべきでした

次回も長編ですが明るいお話なのでお楽しみに

読んでくださってる方クソ長いのにありがとうございます
お疲れさまです

長編 偽装結婚式

「……もう、僕とは会わない方がいい」

「何故そんなことを言うの!? 私はあなたのことを……」

「祖国と……君の為だ」

「私のことを思うならてそんなこと言わないで……」

「君と僕が結ばれれば国が傾く! どうしようもないことなんだこれは……」

「一介の兵士が君と結ばれるなんて……やっぱり無理だったんだ」

「……ロミオ」

「ごめん、ジュリエット。君との約束……果たせそうにない」

「……本当に、どうしようもないのかしら」

「もう、神に祈ることしか……僕には出来ない」

────

僧侶「大きいですね~~~ゆーしゃさまっ」

勇者「この中央大陸の中で最も大きい城だからな!」

僧侶「町の皆さんも活気に満ち溢れてますっ」

勇者「港町からどんどん物や食料が入って来てからと言うもの人口も一気に増えたらしい。ルーラ石様々だな」

僧侶「ゆーしゃさまっ! この赤いキラキラした物は何でしょうか?」

勇者「林檎飴だ。林檎を水菓子で絡めたもので甘くて美味しいぞ」

僧侶「ではこっちのはなんでしょうか?」

勇者「綿菓子だな。これも甘くて美味しい」

僧侶「ゆーしゃさま詳しいですねっ!」

勇者「屋台菓子については大陸の中でも上位の詳しさだろうな!」

僧侶「では、私からも問題です。この銅像の人は誰でしょう?」

勇者「わからん!」

僧侶「もう~」

僧侶「大僧侶ルシエルを知らないなんて勉強不足過ぎますよゆーしゃさま!」

僧侶「大僧侶ルシエル様。三代目勇者様と冒険した方で今の僧侶職を確立した人です。この町の出身でもあるんですよ」

勇者「へ~」

僧侶「私もいつかルシエル様のように……」

勇者「おいちゃん林檎飴一つ!」

「毎度!」

僧侶「もうっ」

────

勇者「んじゃ謁見に行ってくる」

僧侶「はい。気をつけて」

勇者「にしてもめんどくさい義務だよな。城がある町に入る時は必ずその代表に挨拶しろ、なんてさ」

僧侶「仕方ないですよ。昔色々あったそうですし。勇者関連での利権の争いを無くすために勇者は全ての国に帰属するものと決められましたから。
中には帰属を断ってる人達もいますけど……」

勇者「まっ、俺には関係ないことだけどな~そんな昔のこと」

僧侶「でもちゃんと謁見はしなきゃ駄目ですよ」

勇者「わあってらぁ」

僧侶「じゃあまた後で、私も報告しに教会へ行ってきますね」

勇者「ああ。終わったらここで待ってるよ」

僧侶「はい、ゆーしゃさま」

城内────

「勇者様がおいでましたよ姫様。…いえ、もう女王様でしたね」

ジュリエット「メイドまでそんなことを言うのね」

メイド「すみません……姫様」

ジュリエット「いいのよ。女王か……私自身は何も変わってないと言うのに」

メイド「……」

ジュリエット「勇者様を待たせてはいけませんね。早く行きましょう」

メイド「……はい、姫様」

────

兵士「さ、勇者様、あちらです」

勇者「(ひえー広れー天井たけーなんだこれー)」

大臣「遠路遥々ようこそいらっしゃいました勇者様」

勇者「ども」

大臣「もうしばらくして女王様もいらっしゃるので」

勇者「あ、はい」

大臣「女王様も今は大変な時期でして……」

勇者「そうなんですか?(いや聞いてないし)」

大臣「先月この中央大陸城の国王様が亡くなられたのはご存知ですよね?」

勇者「そ、そうでしたね(全然知らねぇ…)」

大臣「それから妃様も後を追うように体調を悪くして……この国を守る為にも王女であったジュリエット様がご即位なされたのです」

勇者「へぇ(また話が長くなりそうだなおい)」

大臣「南大陸の王子との結婚式も来月に迫ってまして……女王様は寝る暇もない程に忙しく……」

勇者「(ああ、遅刻口上ね。なるほど)気にしないでください。そこまで急いでるわけではないので」

大臣「さすが勇者様、心がお広い」

勇者「(南大陸の王子と結婚、か。またキナ臭いな。魔王が居ようが居まいが国同士のやり取りはやっぱり一枚岩じゃないか)」

勇者「(ま、俺には関係ないことだけど)」

「ジュリエット女王様の御成りです」

ジュリエット「……(あれが、勇者)」

勇者「(あれが女王、か)」

ジュリエット「ようこそ我が国においでくださいました、勇者様」

勇者「僭越に賜り光栄です、女王様」

ジュリエット「この国はどうでしたか?(見たこともないのに良くも口が回る……自分でもビックリね)」

勇者「とても活気に溢れてて素晴らしいと思いました。また港町では大変歓迎されて……恥ずかしながらそこでやっと自分が勇者なんだな、なんて思いました」

「ハハハ」

メイド「勇者様ったら面白いですわね」

ジュリエット「(違う。あれはきっと本心だ。私にはわかる……多分彼は私と似ている)」

ジュリエット「(でも……彼はそれを受け止めて前に進んでいる。それなのに私は)」

ジュリエット「……あなたは凄いですね」

勇者「はい?」

ジュリエット「いえ、なんでもありません。今は色々立て込んでいて大したもてなしは出来ませんがゆっくりしていってください、勇者様」

勇者「存じております。お気遣いありがとうございます、女王様」

ジュリエット「……」

勇者「(ん……? 何か元気ないな。疲れてるのかな)」

ジュリエット「(私と似ているこの人なら……もしかしたら力になってくれるかもしれない)」

ジュリエット「(でも……勇者様を利用する様な真似なんて……やっぱり、出来ない)」

ジュリエット「(でも……このまま行けば間違いなく私は後悔する……それで本当にいいのだろうか……)」

ジュリエット「最後に一つだけ……聞かせてください勇者様」

勇者「はい?」

ジュリエット「……、あなたは何故、勇者になったのですか?」

どよどよ……

勇者「……」

ジュリエット「神託に選ばれたからですか?」

勇者「いえ、違います」

ジュリエット「なら……」

勇者「……選んだからです。俺自身が」

勇者「この道を」

ジュリエット「!!!」

勇者「まあ選ばれたってのも少しはありますけどね」ハハハ

ジュリエット「勇者様……」

ジュリエット「(この人なら……私達を救ってくれるかもしれない)」

ジュリエット「(勇者様……ごめんなさい。どんな罰も私が後でお受けします……だから、私達を……助けてください)」

ジュリエット「勇者様、私」

勇者「はい?」

ジュリエット「あなたのことを好きになってしまいました」

兵士「ふぁっ!?」
臣下「ぶふっ」
大臣「ぶっふぉ!?」
メイド「まあ、姫様ったら大胆」

勇者「……え?」

「「「ええええええええええっ!!!???」」」

「おい女王様は南大陸の王子と婚約してるのではなかったのか!?」

「確かそうだと聞いていたが……」

「暫定的な話だろあれは。女王様はまだ返事を出していない」

「ってことは……?」

「「「勇者様とのご結婚もあり得るってことだ!!!!!!!!!!」」」

勇者「……」ポカーン

「勇者様と女王様! 確かにお似合いですなぁ!」

「こいつは面白くなってきた!」

大臣「……バカ共め」ボソッ

勇者「……」チラッ

臣下「しかし勇者様には魔王退治と言う何よりも優先すべき事柄が御座います」

大臣「その通りです女王様。勇者様は急がれる身、婚約など……」

ジュリエット「ならば勇者様が魔王を討ち取り、無事帰って来るその日まで……私は待ちましょう。彼を」

「ヒューヒューッ! 良く言った姫様!」

「さすがだぜ女王様!」

「待て待て。まだ勇者様の返事を聞いてない内に盛り上がるのは早かろう」

「確かにな……」

「あんな絶世な美女に婚約を申し込まれて断る輩がいたらそいつはナニがついてねぇな!」

「おい御前だぞ!」

ジュリエット「勇者様……その、お返事は」

勇者「……あっ、その……えっと……」

勇者「頭の整理が追い付かないので……ちょっと考えさせてください」

ジュリエット「急な話ですもの、当然ですよね」

ジュリエット「もしよろしければこの後少しお話をしませんか?」

勇者「は、はあ……」

メイド「場所は私めがご用意致します。ささ、勇者様こちらへ」


記述師「勇者様が来たからって覗いて見たら……こいつはどえらいことになったな! こうはしてられない! 早く新聞を作らないと!
記述師の血が騒ぐぜ!」

臣下「……」
大臣「……」

────

僧侶「お久しぶりです司祭様」

司祭「あらやだ僧侶じゃない! 修道院以来ね、元気してた?」

僧侶「はい。今はここにいると聞いてご挨拶をしに来ました」

司祭「びっくりしたわよもぅっ! まさかあなたが本当に勇者のお付きになれるなんて!
パパ~ママ~ゆ~しゃさま~って泣いてたあの子が……立派になったものね」ホロリ

僧侶「そっ、それは言わないでくださいぃっ」

司祭「ふふっ、相変わらず可愛らしいわねアナタ。私が女じゃなかった即ゲッチュしてるわ!」

僧侶「……司祭様は男では……」

司祭「ああん?」

僧侶「いっ、いえ! なんでもありません!」

司祭「昔から言ってるわよね? 私は女だって……」

司祭「確かに外見は男かもしれない。身長もバカ高いし、声もドス低いわ」

司祭「けどね……心だけは乙女なのよ! そう、乙女なの!」

僧侶「なんで二回言うんですか」

司祭「私が神官になった理由はね……私みたいな心が乙女でぴゅあ~だけど見た目がボーイみたいな人達がいつか気軽に♂達と付き合える……そんなハートフルな世界を創る為なの!」

僧侶「それは修道院時代に嫌って程聞きましたよ……」

司祭「いつか大司教になって性別なんて取っ払う物凄いおふれを出してやるわ!!!」

僧侶「良くわからないけどがんばってくださいね……?」

僧侶「それよりここの司教様はいらっしゃらないのですか? 旅路の報告に来たのですが」

司祭「あ~あの人は旅好きでほとんど留守なのよ。だから報告は私が聞くわ」

僧侶「風変わりな司教様ですね~どんな人なんだろう」

司祭「で? 勇者様とは少しは進展あったの? んん? んんん???」

僧侶「な、な、なんの進展ですかっ!」

司祭「別に~私は別に旅の進展を聞いただけだけど~?」

僧侶「も、もうっ!」

司祭「ふふふ、ほんと可愛らしいわね~お姉さんそっくり」

僧侶「姉上をご存知なんですか?」

司祭「まっ、同期だしね。それに神官やってて彼女を知らない方が珍しいわ」

僧侶「……そう、ですよね」

司祭「100%死者蘇生魔法、ザオリクを産み出した若き天才僧侶……あの頃まだ15歳だったのにね」

僧侶「…凄いですよね姉上は。私と同じ歳にはもうそんな大魔法を作り上げてたんですから……それに比べて私は」

司祭「あなたも負けず劣らず有名じゃないの。なんたってあの勇者様のお付きだもの」

僧侶「……」

司祭「あなたにはあなたのいいところがいっぱいあるわ」

司祭「お姉さんに無いものも沢山持ってる。だからそんな顔しないの!」

僧侶「司祭様……」

司祭「ちょうどいい機会だわ。司祭様なんてかたっくるしい呼び方は今日限りでおしまいにしましょ!」

僧侶「ではなんて呼べば……?」

司祭「そうね……オカマ、なんてどう?」

僧侶「オ、カマ?」

司祭「男が、変わる、魔法。略してオ、カ、マよ!」

僧侶「……何だか良くわからないけどいい気がします!」

オカマ「でしょ? 夢チックな感じでしょ?」

───

オカマ「そう言えば報告だったわね。どう? 旅の調子は」

僧侶「順調です。ちょっと寄り道することもありますけど……きっとゆーしゃさまには必要なことですから」

オカマ「ふ~~~~ん?」

僧侶「な、なんですかっ?」

オカマ「勇者様のことちゃんとわかってあげてるんだな~って思ってさ」

僧侶「……きっと、それだけなら誰にも負けない自信があります」

オカマ「ふふふ。じゃあ黙示録にはおおよそ順調と書いておくわね」

僧侶「はい。お願いしま」

「おい聞いたか!? 女王様が勇者様に婚約を申し出たってよ!!!」

「おいマジかよ!? それじゃあ来月の南の王子との結婚式どうなるんだ!?」

「いくら王子っつったって勇者様に敵うわけあるめぇよ!」

「女は強い男に惹かれるのが道理」

「大僧侶ルシエル様に続き勇者様の銅像も建てねばなるめぇな!」

「しかし本当なのかい? 女王様が勇者様に婚約を申し出たって言うのはさ」

「さっき記述師のボウズが新聞?とやらを撒き散らしながら言ってたから間違いあるめぇ」

「ありがたやありがたや」

僧侶「」パクパク

オカマ「勇者様のことは誰よりも理解してる、のよね?」

僧侶「」パクパク

オカマ「……旅路は順調」

オカマ「でも恋には難ありって所かしら」ウフッ

僧侶「ゆーしゃさまが……婚約ううううぅぅぅぅぅ!?!?!?」

今日はここまでで

風邪ひいたりリアルにお祭りあったりでなかなか書けませんでした
すいません

長編は上中下みたいな感じで分けて落としてくかもです

────

メイド「姫様はお色直し中ですので、こちらでしばらくお待ちください」

勇者「は、はい」

メイド「では、私はお茶の準備をして参ります」ペコリ

勇者「あ、ども」

勇者「……しかしえらいことになったな」

勇者「女王様が俺に……告白……」

勇者「いやいや待て待て。さすがにおかしいだろ!」

勇者「出会って数分だぞ……? さすがに出来すぎ……」

勇者「でも女王様綺麗だったな……胸も……うん」

勇者「いやっ、違うんだ! 落ち着け僧侶!」

勇者「っていなかったな……うん」

『勇者様、お待たせしてすみません。どうぞ』

勇者「は、はひっ」

ガチャ──

勇者「失礼します……」

ジュリエット「散らかっててすみません。こちらに腰かけてくださいませ」

勇者「(塵一つないのに散らかっててとは……王宮ジョークか何かだろうか)」

ジュリエット「この度はこんな申し出をしてすみません……」

勇者「いえ……そんなことは」

ジュリエット「……勇者様には謝らなければなりません」

勇者「(……この流れは……)」

メイド「姫様、お茶が入りました」

ジュリエット「ありがとう。その前にお茶にしましょうか」

勇者「(考えろ……女王様があんな場で俺に告白してまでこの場に呼び出した理由を)」ズズズ

勇者「美味い……」

メイド「ふふっ、今日は勇者様と姫様の為により良い葉を用意致しました。気に入ってくださって何よりです」

ジュリエット「ありがとう、メイド。あなたには本当に迷惑かけてばかりね」

メイド「迷惑だなんてこれっぽっちも思ってませんよ、姫様」

勇者「(……やっぱり、思ってた通りか)」

勇者「(となると理由は……)」

勇者「(南の王子と結婚絡みのことか? ……これはまたとんだ当て馬にされたもんだな)」

ジュリエット「勇者様……その、」

勇者「女王様がここに俺を呼び出した理由は大体察しがついてます」

ジュリエット「!」

勇者「南の王子との結婚……それが女王様が望むものではない、と言うことですよね?」

ジュリエット「どうしてそれを!?」

メイド「さすが勇者様です!」

勇者「(うわあ~当たってた~浮かれて女王様に「俺のどこを好きになったんですか?」キリッ とか言わなくて良かったあ~はあ……さらば青春フォーエバー……)」

勇者「女王様のメイドさんに対する気の遣い方を見ればあの場で俺に告白する様な方ではないと思ったんです」

ジュリエット「それは……」

勇者「本当に俺とその……気があったのならメイドさんに手紙でも持たせてひっそりここに来させればいいわけですし」

メイド「バレバレですね姫様」

ジュリエット「……ええ」

勇者「つまり……あの場で婚約を破棄できる様な理由を立てたかったんですね?」

ジュリエット「はい……おっしゃる通りです」

ジュリエット「勇者様にはとんでもない無礼の数々……この身でよろしければ如何様にもしてくださって結構です」

勇者「……頭を上げてください女王様。そちらにも色々と事情があるのでしょう?」

ジュリエット「……」チラッ

メイド「他のメイドも全員下がらせました。この部屋には私達三人しかおりません、姫様」

勇者「?」

ジュリエット「……自国事情で申し訳ないのですが……今我が国、中央大陸は危機に瀕しております」

勇者「と言うと?」

ジュリエット「南大陸の王子との婚約のことは誰から聞きました?」

勇者「大臣が世間話程度にしてくれましたけど……」

ジュリエット「やはりですか……」

メイド「ちっ、あの狸爺が……!」

勇者「(え、こわっ。メイドさんこわっ)」

ジュリエット「この婚約を機に私達中央大陸国と南の大陸国で同盟を結ぼう、と言う話になってるそうです」

勇者「……」

ジュリエット「南の大陸のことはご存知でしょうか?」

勇者「少しなら。確かバリバリの軍事大国で……反勇者国家でもあるとか何とか」

ジュリエット「その通りです。表向きはただの同盟、だけで話は終わってますが……」

メイド「実は私が聞いちゃったんですよ! 大臣と臣下が同盟を組んだ暁には武器をバンバン輸入するって!」

勇者「それはまた……穏やかな話じゃないな」

ジュリエット「武器など輸入したところで使うことなどほとんどありません。この辺りはモンスターの気性も比較的穏やかですし」

勇者「となると……残りの使い道は軍事利用だけになりますね」

ジュリエット「はい……大臣は恐らく……この国に戦争をさせようとさせています」

勇者「……それはもう立派な国家反逆じゃないですか」

ジュリエット「そう……ですよね」

勇者「大臣と臣下を捕まえたり出来ないんですか?」

ジュリエット「無理、だと思います。確証がないのと……私にそんな実権はありませんから……」

ジュリエット「父が死に……母が寝込み……私は悲しみに暮れるしかありませんでした……」

ジュリエット「その時は国のことなどどうでも良かったのかもしれません……それを今頃になってどうにかしようなんて虫のいい話かもしれませんが……」

ジュリエット「けれど、この国を背負ってきた二人の娘として、このままこの国が戦争をするのをよしとは出来ません」

勇者「……しかし国の大臣ともあろう人がわざわざ転覆させるような真似をするでしょうか?」

メイド「勇者様、こうは言ってはなんですが……戦争もある観点から見ればそう悪いものでもないんですよ」

勇者「つまり?」

メイド「非常に儲かるのです。戦争は」

勇者「……」

メイド「港で船を見ましたか?」

勇者「ええ」

メイド「あれに使われている蒸気技術などは元々戦争で使うために南の大陸で産まれたそうです」

メイド「戦争で勝つために技術が産まれ、武器が産まれ、争う度にそれはどんどん進化して行きます。実際工業が一番盛んな国も南の大陸ですから」

勇者「……魔王がいるってのに何やってんだか……」

メイド「目に見えない魔王より目に見える利益を追う人間もいると言うことです」

メイド「恐らくこの南の大陸との同盟自体大臣の発想でしょう。昔から南の大陸の大使とひそひそやってましたから」

勇者「……それで、女王様はそれを食い止めたくて俺に相談した、ってことでいいんですか?」

ジュリエット「姫かジュリエットでいいですよ、勇者様」

ジュリエット「情けない話ですがそうなります……」

ジュリエット「来月の結婚式が終われば同盟は結ばれたも同然ですから。その前に何とかしたかったのです」

メイド「姫様は婚約を何回も断ってらっしゃったのに大臣がもう決定事項ですから、この国の先のことを考えてくださいませ女王様、って押し通したんですよ!
女の敵ですあんなハゲ!」

勇者「酷い言われようだな大臣……」

勇者「でも本当に俺なんかに話して良かったんですか? どこの馬の骨ともしれない輩ですよ?」

メイド「そういう謙虚な所が姫様のハートを射止めたのですよ!」

ジュリエット「メイド?」

メイド「冗談です」

ジュリエット「私、最初はちょっと勇者様と自分は似てるなって思ってたんです」

ジュリエット「生まれた時からその道は定められていて、それに従って生きて行く。私はそれが嫌で仕方なかった」

ジュリエット「でも……あなたは違った。その道を、私より何倍も険しい道を自分で選んだ、と言ったのを見て……凄いなって思いました」

勇者「……」

ジュリエット「私にはそんな強さも……決意もないかもしれない。けれど……このまま何もせず何もかも諦めたくないんです!」

ジュリエット「無理を承知でお願いします! 勇者様……私達に手を貸してはくれませんか?」

勇者「……多分、俺もジュリエット姫と一緒です」

ジュリエット「……?」

勇者「勇者って言われてもイマイチピンと来なくて……最近周りに言われ出してようやく自覚はし始めたんですが……ね」

勇者「勇者になったのだって……約束したからってだけで」

勇者「それでも……今までも、これからも。やって行くことは同じだと思います」

勇者「自分の己向くまま、行くと」

勇者「力になれるかはわかりませんが、協力させてください」

勇者「(きっと僧侶が居ても同じことを言ってたろうしな)」

ジュリエット「ありがとうございます……!」

メイド「良かったですね姫様!」

ジュリエット「ええ……」

メイド「……」

勇者「早速ですが……何か案はあるんですか?」

ジュリエット「……、謁見の間でも言った通り勇者様と婚約して魔王を討つまでの間に……」

勇者「それは色々問題があるかな。まず俺が魔王討伐から帰っても帰らなくても事態が解決しないってのはあっちに取っても都合がいいだろうし」

勇者「最悪ジュリエット姫を排除しにかかるかもしれない」

ジュリエット「そんな……」

メイド「あのゲスならやりかねませんね!」

メイド「ならあの大臣を勇者様が神の反逆者だー! 引っ捕らえろー! って言うのはどうでしょう?」

勇者「一国家の大臣に確証なくそんなことしたら逆に俺が反逆罪で捕まりますよ。勇者って言っても帰属してるから自国の兵みたいなものですよ」

メイド「勇者様も大変なんですね……」

ジュリエット「では……勇者様には何か策が?」

勇者「ん~~~……大臣が南の王子と繋がっていて戦争を起こさそうとしてる確証が欲しいわけですから……」

勇者「…………」ニヤッ

勇者「いっそのこと本当に結婚式を挙げるってのはどうです?」

ジュリエット「えっ?」
メイド「勇者様~? それを阻止するために私達は今こうしてるんですよ?」

勇者「違いますよ。俺とジュリエット姫の結婚式を挙げるんです」

ジュリエット「……は?」
メイド「……は?」

ジュリエット「あの、おっしゃってる意味が……」

勇者「大臣が焦って尻尾を出すように仕向けるにはこれが一番いいと思います。謁見の間での姫様の告白も外にいい感じで広まってるでしょうし」

勇者「このまま結婚式を挙げると言えばまず全力で止めて来るでしょう」

勇者「そこを抑える……!」

勇者「そう、これは偽装結婚式です」ニヤッ

中央大陸城、裏口────

メイド「全く勇者様には感服致しましたわ。まさかあんな大それた作戦を打ち出すなんて」

勇者「まあこれは結構な賭けですけどね。あっちより上手に立って動かないと、ただでさえこの城の中には大臣派も多いでしょうし」

勇者「結婚式と云う華々しい場で民衆に大臣達のやっていることを白日の元に晒さないと……俺達に勝ち目はないですよ」

メイド「……勇者様。一つよろしいでしょうか?」

勇者「?」

メイド「実はもう一つだけ解決して欲しいことがあるのです」

メイド「姫様は言われませんでしたが──」

────

勇者「……(さて、色々厄介なことになったな。まずは役者探しからか……ここが一番問題だな)」

勇者「(でもまあ面白くなりそうではあるな……クククッ)」

勇者「(祭り魂に火がつくぜ……!)」

僧侶「」じ~ぃっ

勇者「うわっとぉ! 僧侶さん居たんですかビックリしたなあもう」

僧侶「ゆーーーーしゃさま~~~?」

勇者「ひぃぃっ」

僧侶「私に言うことがあるんじゃありません?」

勇者「こ、これには深いわけがあってな……ここじゃまずいから後で宿で話すよ」

僧侶「ふぅぅ~~ん? まあ……私なんかどうせゆーしゃさまのただの付き人でしかないですけど~?」

僧侶「では先に宿の方に戻ってますから」プイッ

勇者「そ、僧侶ぉ~」

オカマ「あらぁん見事に嫌われちゃったわね勇者様」

勇者「ひぃっ! あ、あの……どちら様で?」

オカマ「僧侶が修道院にいた頃のシスターよ。今は訳あってオカマって名乗ってるわ! わけは聞かないでね!」

勇者「は、はあ」

オカマ「まあ~勇者様にも色々あるんでしょうし? 深く検索はしないけど~」グイッ

勇者「んぐぅっ!?」

オカマ「あの子泣かしたらこのキンタマ引き抜くからよォ? 覚悟しとけや」

勇者「こ、心得て起きます……」

今回はここまでで
次回からは偽装結婚式仕込み編です

仕事たまってて中々書けなくてすいません
なるべく早く書けるよう頑張ります

宿屋──

勇者「ってわけなんだよ……」

僧侶「……」

勇者「だからそういうのじゃなくてさ……」

僧侶「そうだったんですか……。私ったら早とちりしてすみません……」

僧侶「私はてっきりゆーしゃさまと女王様が結婚しちゃうんじゃないかって……ちょっと思っちゃいました」

勇者「」ギクゥッ

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「……あの、」

勇者「結婚……することはするんだけど、ね?」

僧侶「……」ムンズッ

ポイポイッ

勇者「無言で枕を投げないで僧侶さんっ」

僧侶「バカ!ゆーしゃさまのバカ!ニフラム!」

勇者「落ち着け僧侶っ! 話を聞けっ」

僧侶「偽装結婚式?」

勇者「そうだ。大臣達を釣るためにデカい餌を仕掛ける」

僧侶「でも……結婚式なんて人生に一回あるかないかのことを騙す為に使うなんて……女王様……」

勇者「さっきから怒ったり悲しんだり忙しないやつだな」

僧侶「乙女心をわからないゆーしゃさまにはわかりませんよね……」ボソッ

勇者「まあとにかくだ。この偽装を仕掛けるに当たって役者が必要なわけだ」

僧侶「と、言いますと?」

勇者「新郎新婦は決まってるとして後は神父と宣伝役と証拠を抑える役が数人……まあこの辺りも目星はついてる」

僧侶「では私は何をすればよいのでしょう?」

勇者「ん? ん~~~……(や、やばい何もない)」

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「と、とりあえずは神父の紹介かな?」

僧侶「任せてください! と言いたいところなんですけど……今司教様は出払っているそうなんです」

勇者「ん~参ったな。これぐらいの規模の式になると神父にもかなりの位が必要になるだろう。大臣達にも軽く見られないように司教クラスを立てたかったが……あのおっさんはどうなんだ?」

僧侶「あの方は司祭ですよ」

勇者「あれが司祭……大丈夫か僧侶職」

勇者「まあ最悪あのおっさんに頼むか」

僧侶「酷いですゆーしゃさま! ああ見えても立派な方なんですよ?」

勇者「僧侶も結構酷いぞそれ」

勇者「ともかく、明日から俺は式の為に動くことになるから……」

僧侶「なるから?」

勇者「その……あれだよ。……一緒にいると町中で……ほら、な?」

僧侶「?」

勇者「……結婚するのに他の女の子と一緒にいるってのも怪しまれるって言うか……信憑性が……さ」

僧侶「……そ、そうですね」

勇者「だからしばらく別行動になる……。ごめんな、僧侶。色々と」

僧侶「いえ、……気にしないで下さい。ゆーしゃさま」

僧侶「私はそういうゆーしゃさまらしいところが好きですから」

勇者「おっ、おぉう!」

僧侶「……本当に結婚しちゃ嫌ですからね?」

勇者「あ、あ、たっりまえだろ! 何いってんだよ! さっ! 早く寝るぞ!」バサァッ

僧侶「おやすみなさい、ゆーしゃさま」


勇者「(……ゆーしゃさまらしい……か。それは勇者としてか、俺としてか……一体どっちのことなんだろうな。最近ちょっとわからなくなってきた、自分でも)」

僧侶「(ゆーしゃさまは誰にでも優しい、私が特別だなんて思ったことはない……けど、やっぱり寂しいな、ゆーしゃさま)」

────

勇者達の挙げる結婚式までの日取りを決める為、勇者は姫の元へ来ていた。

ジュリエット「ようこそ、勇者様」

勇者「お会いしたかったです、ジュリエット」

「きゃあ~もう呼び捨てだなんて!」
「勇者様大胆ですわ~!」
「ジュリエット様のあの表情……恋してるって感じね~」
「私もあんな彼氏欲しいわ~」

メイド「はいはい。姫様と勇者様の邪魔しないの」

「「「は~い」」」バタン

勇者「ふぅ……」

ジュリエット「お疲れ様です勇者様。無理を言ってすみません」

勇者「いやいや、確かに効果的ですからね」

メイド「彼女達はお使いで城下町にしっちゅう降りるのでそこで噂話をペラペラペラペラ広げてくれますよ」

勇者「この町には口コミだけで何とかなりそうではありますね。問題は……」

ジュリエット「近隣の村や町の方達に足を運んでもらうには、ですね?」

勇者「はい。やっぱりこの中央大陸全土の問題なので出来るだけ近隣の人達にも足を運んでもらいたいですね」

メイド「それならいいものがありますよ」ピラッ

勇者「これは?」

メイド「新聞、と言うものらしく最近記述師と呼ばれる少年が始めたもので紙に色々あった出来事を書き連ねてるものです」

勇者「何々、勇者様、魔王の前に女王様と結婚!? 余裕の現れか!?」

ジュリエット「もう……こんなもの勝手に。すみません勇者様」

勇者「いやいや……良くできてますよこれ。南の大陸の王子とのことも書かれてるし……」

勇者「これを書いた人はどこに?」

メイド「城下町の東側にある小さな工房に住んでる筈です」

勇者「わかりました。じゃあちょっと交渉に言ってきます」

ジュリエット「彼に宣伝を?」

勇者「ええ。口コミより時間がかかりませんから。では、式は予定通り五の月初め、と言うことで」

ジュリエット「はい……」

メイド「……姫様」

────

勇者「ここか……」コンコン

記述師「ったくまたか? だから嘘八百書くのはごめんだって……あっ!」

勇者「君が新聞?作ってる記述師の人かな?」

記述師「勇者様直々に来店とは! いやはや鼻が高い! じゃないや、どうぞこちらに!」

勇者「あ、ああ」

記述師「いや~またあいつらかと思いまして。すみませんすみません」

勇者「あいつら?」

記述師「いえっ、なんでも。それより……結婚式の日取りは決まったので?」

勇者「ああ。五の月初めにしようかなって。さっき決まったんだ」

記述師「さっき! さっきですか!? つまりこの情報を知るのは勇者様と女王様とその側近と自分だけと!?」

勇者「ま、まあそうなるな(顔近いぞ)」

記述師「勇者様! どうかお願いがございます!」フカブカ~

勇者「お願い?」

記述師「はいっ! どうかそのことを新聞にさせて欲しいのです! 勇者様のサインありで新聞を出したいのです!」

勇者「なんだ。それならこっちからお願いしに来たところだよ」

記述師「なんとっ!!! 勇者様自らこの俺にお願いとは! 勿体無さ過ぎるので末代まで語らせていただきます!」

勇者「(何か色々めんどくさいやつだな)」

記述師「して、何枚ほど用意致しましょう? この町の皆に見てもらうぐらいなら1000もあれば十分だとは思いますが」

勇者「その三倍頼みたい」

記述師「さ、3000枚ですかっ!?」

勇者「ああ。この度の結婚式は中央大陸の未来を決めるもの。故に中央大陸に住む人々になるべく知れ渡り、そして足を運んで欲しい」

記述師「むぅ~しかし3000ですか。五の月初めまで後七の日ほど……三の日前までには終えて配らないと駄目だから……」

勇者「大丈夫、配る方は俺がやるよ」

記述師「そんな! 勇者様にそんなことさせられませんよ!」

勇者「いいからいいから。そういうの得意なんだ。それに港町の方にはだいぶ顔が効くから」

記述師「さすが勇者様! 書き下ろすだけなら何とか……。見出しの指定とかありますか?」

勇者「見出し?」

記述師「まあタイトルみたいなもんです。最初にインパクトある文をドカッと書いておき気にならせた後、小さい文字を読ませるわけです」

勇者「なるほど……考えたな」

記述師「紙も安くありませんからね。全部デカくも書けませんから工夫です」

勇者「ん~そうだな…じゃあジュリエット姫争奪戦!? 軍配は勇者の手に!?で頼むか」

記述師「争奪戦? もう賭けにもなりませんよ。勇者様と南のボンクラ王子とじゃ」

勇者「さて、どうかな」

記述師「?」

記述師「まあそのように致しましょう。では……ふっ」

勇者「おぉっ、筆が黒く光った!」

記述師「これはサイン、といって魔法使いの初歩中の初歩なのですが何もない空間に文字を書いたり出来る魔法です。書法魔法使いは詠唱の代わりにこれを使って呪文を唱えたりするそうです。
もっとも自分は全く才能がなくて魔法職試験も落第でしたけどね」

勇者「……この世界、魔法だけが全てじゃないさ」

記述師「ええ。俺もずっとそう思ってて、ある日ペンの代わりこれで紙に書いたら……」

勇者「これは……文字が下の紙に写ってるのか」

記述師「初めて見た時は驚きましたよ。鉛筆や筆じゃこうは行きませんから。これを見て思い付いたんです。情報や出来事をまとめた情報紙を大量に作ろうって」

勇者「凄いな……一回でどれぐらいの紙に写るんだ?」

記述師「僕の魔力じゃせいぜい一回10枚ってところです」

勇者「……ってことは」

記述師「ええ。1000枚なら100回、3000枚なら300回同じものを書きます」

勇者「すまん……やっぱり1000枚で」

記述師「駄目ですよ! 一回入った注文ですから! もうキャンセル不可です!」

勇者「しかし300回も書かせるのは……」

記述師「……自分は魔力はありません。ですが他の魔法使いより情報と、何よりこの職に命を賭けてます! だから譲れません……これだけは。
書く回数が多いからって諦めてたらすぐ他の魔法使いに仕事持ってかれちゃいますしね!」

勇者「……すまなかった。じゃあ予定通り3000枚、式の三日前以内に頼む」

記述師「了解です!」

勇者「しかし便利だなその魔法。簡単に使えるものなのか?」

記述師「教官の話じゃ癖の強い魔法らしく魔法が使えるからって全員が使えるわけじゃないそうです。魔法職につこうとする人間には傾向的に使える人が多いらしいですけどね」

勇者「そうか……。残念だ」

記述師「ふふふ、実はもうこの魔法と似たような物を作ってましてね。ゴシの実を擦り潰して積め、この固綿に染み込ませたものです」

勇者「なるほど……筆と墨がセットになった感じか」

記述師「その名もズバリ! マジック!」

勇者「マジック?」

記述師「北の大陸の言葉で、魔法って意味らしいですよ」

勇者「ははっ、確かに魔法だな。これは」

────

中央大陸教会────

僧侶「では、祈りましょう。我らが神に」

「ありがたや~ありがたや~」
「新しく入った僧侶様は可愛らしい人だのう」
「孫の嫁に是非来てほしいわぁ」

オカマ「さっ、今日のお祈りは済んだわよ。さっさと帰った帰った」

「うるさいのぅ。今日は念入りにお祈りをしとるんじゃ! 邪魔せんでくれぃ!」

オカマ「うるさいわねクソじじい。あんたはただあの子の尻眺めてるじゃないの」

「バ、バカなこと言うんじゃない!」

オカマ「ふぅ、全く……」チラッ

僧侶「……はあ」

オカマ「何かあったの? 急にここでしばらく手伝わせてくださいだなんて」

僧侶「いえ、なにも……。ただ必要なことなんです」

オカマ「……そ。まあ僧侶がいいならいいんだけどね。こっちも大助かりだし。でも無理はしちゃ駄目よ。あ、ここの部屋は好きに使っていいから」

僧侶「はい。ありがとうございます、司祭様」

オカマ「全く……」

僧侶「……あれ、まだ一人お祈りしてる人が居ますね」

オカマ「ああ彼? ここのところず~とよ。必ず祈りに来ては最後まで居てその後元気なく帰って行くのよね~。何回か私が話聞いてあげようとしたら逃げちゃって」

僧侶「……」

「……」

僧侶「どうかなされましたか?」

「あっ、すみません……。ご迷惑を」

僧侶「いえ。ここのところ毎日来られてると聞きましたので。私で良ければ相談に乗りますよ」

「……。ありがとうございます、神父様」

僧侶「いえ、私はただの僧侶でございます。わけあって今はここに置かせてもらっています」

「そうでしたか。僕はロミオ。ここの城で兵士をやってます」

僧侶「兵士様でしたか」

ロミオ「……僧侶様は恋を……したことはありますか?」

僧侶「こ、こ、こっ、鯉でございますか!? …少しは……その、はい」

ロミオ「私もつい最近まではしておりました……でも」

僧侶「……失恋、ですか?」

ロミオ「……長年寄り添い、ずっと結ばれると思っていました……子供の頃は」

僧侶「……」

ロミオ「ですが大きくなるにつれてお互いの身分の差が壁となり……今やどうしようもなくなったのです」

僧侶「……それで諦めたのですか?」

ロミオ「……はい。自分では彼女に不釣り合い過ぎる、と」

僧侶「それで毎日祈りに?」

ロミオ「はい、せめて彼女には幸せになって欲しいと……」

僧侶「……神は言っています。あなたは馬鹿者だと」

ロミオ「……は?」

僧侶「確かに神は雄大かつ偉大です。だからこそこの世界を創った神に私達は日々祈りを捧げ、この世界の在り方を愛せるのです」

僧侶「しかしあなたは自分の在り方を世界のせいにして、更に神にそれを押し付けようとしています」

僧侶「それではこの世界を創った神もお怒りになりましょう」

ロミオ「……ならばどうしろと!? 何もかも壊し破邪の道を進めと言うのですか!?
僕にはそんな……勇者様みたいな力は、ない」

僧侶「……」


オカマ「ほら、そろそろ給付に行くから閉めるわよ」

ロミオ「……すみません、長居してしまって。では」

僧侶「あのっ」

ロミオ「はい?」

僧侶「明日も来ますよね?」

ロミオ「……わかりません」

僧侶「もし来られたら、またお話をしましょう。私なんかと話して解決する問題じゃないとは思いますけど……」

ロミオ「……ありがとうございます。僧侶様」ペコリ


オカマ「何々? 勇者が構ってくれないからって乗り換えたの? やるわね~あんたも」

僧侶「そっ、そんなんじゃありませんよっ! ただ……ちょっと似てるなって、思ったんです。昔の私に……」

────

掘り下げようとすると長くなるチクショウ
すいません誤字には気を付けます

今日はお休みなので頑張ってストック貯めときます
朝から読んでくださってありがとう
もう300かーほんとは100で終わると思ってたのにどうしてこうなった

────

勇者「──みたいな格好した人見ませんでした?」

宿屋の店主「来てませんなぁ」

勇者「そうですか、ありがとうございます」

宿屋の店主「勇者様! 女王様との結婚式楽しみにしてますよ!」

勇者「はは、どうも」


勇者「いい加減この真面目っぽいキャラも疲れるな……まあ仕方ない、姫様の為だ」

勇者「……」

勇者「なあ、僧侶……」

勇者「あの時言った通りにやれてるかな……俺」

勇者「……いないんだったな」

勇者「はあ……もうちょっと探してみるか」

勇者「またトラップに引っかかってたりしてないだろうな」

────

魔法使い「はあ……」ぐぅ~
戦士「……」ぐぅ~

屋台の親父「安いよ安いよ~中央大陸特製林檎タルト!」

魔法使い「はわぁ……美味しそう」

親父「おっ、どうだいねぇちゃん? 1つ!」

魔法使い「一つ10g……」ぐぅ~

魔法使い「ちょっとだけなら……」

戦士「今夜野宿になるけどいいんだな?」

魔法使い「うっ……」

戦士「ほら、早く行くぞ」

魔法使い「元はと言えばあんたがバカみたいに食料買い込んでお金使ったのが悪いんでしょーが!」

戦士「おま、それはお前の為にだな……」

魔法使い「そんなことしなくても勇者君が助けてくれたもんね~だ!」

戦士「カッチーン。勇者勇者勇者勇者ってよォ! そんなに勇者が好きなら勇者と一緒に旅すりゃいいだろうが!」

魔法使い「なによ!」
戦士「なんだよ!?」

ガヤガヤ ガヤガヤ

「すいません、これ3つ」

親父「これはこれは勇者様! 何言ってんですけぇ勇者様から金なんか取れませんよ!」

勇者「いえ、町の人達にもそれぞれ生活がありますから」

親父「勇者様……! ではせめて、1つおまけしときます」

勇者「ありがとう」

魔法使い「あれ!? 勇者君?」

戦士「ちっ……」

勇者「話がある、ちょっとついてきてくれ」

────

魔法使い「こんな町の隅っこまで来て何の話?」

戦士「てかさっきのはなんだ? 急に勇者様にでも目覚めたのか?」

勇者「うるせぇなこっちも色々あるんだよ」

勇者「ま、とりあえず冷めないうちに食えよ」

魔法使い「え? いいのっ!?」

勇者「ああ。腹減ってんだろ?」

魔法使い「えっへへ、それじゃあ遠慮なく~♪」パクッ

魔法使い「ん~~おいし~い♪」

戦士「けっ」

勇者「ほら、お前も」

戦士「……何企んでんだ?」

勇者「別に食ったからってどうこうしようってわけじゃねぇから安心しろって」

戦士「……ふん」

勇者「で、見たところ路銀に困ってるみたいだな」

魔法使い「そうなのよ~戦士がお金使い込んじゃって」

戦士「だからあれはお前の為にだな……」

勇者「まあまあ。そんな二人にいい話を持って来たんだが……どうだ?」

戦士「いい話? まあこいつの礼に話だけは聞いてやるよ」

魔法使い「稼げるなら何だってやるよっ!」

勇者「話が早くて助かるぜ」

勇者「実はな──」

────

勇者「ってわけで二人には港町でそれを調べてもらいたい」

戦士「……なるほどな」

魔法使い「勇者君結婚しちゃうの!?」

戦士「いや話聞いてたのかお前は」

魔法使い「これ美味しくってあんまり聞いてなかった!」

戦士「はあ……」

戦士「しかし勇者、武器取引の話がガセだとしたら……その偽装結婚式は破綻するぜ?
下手すりゃただの国家反逆者だ」

勇者「確かにな。余りにも裏が取れなさすぎる。それでもこっちから動かなきゃ何もかも終わっちまう。
でも……あの人(メイド)は信じられるよ。俺が保証する」

戦士「そうか……ならいい」

勇者「やけにあっさり納得するんだな」

戦士「別に南の大陸育ちだからって理由なく勇者を毛嫌いするわけじゃねぇ。前の借りもあるしな」

戦士「それに他国に武器を売り付けるとこも珍しいわけじゃないからな。十二分にあり得る話だ」

戦士「そしてこの土地じゃ大砲や銃は確かに必要ない。あるとしたら戦争をするぐらいなもんだろう」

戦士「ただ武器そのものを悪と考えるのはやめることだな。南の大陸がずっとモンスターから街を守って来れたのも武器のおかげだ。
俺達の剣と同じ、使い方によってはみんなを守る力になる」

戦士「勇者に滅ぼされ、見放された後も、ずっと俺達はそうやって来た」

勇者「……肝に命じとくよ」

────

勇者「じゃあよろしく頼むよ」

魔法使い「ふっふ~ん任せときなさい!」

戦士「国絡みの問題だからな。安請け合いするつもりはない」

魔法使い「あれ? そう言えば僧侶ちゃんは?」

勇者「ん、ああ……。偽装がバレないようにちょっと……な」

魔法使い「ふ~ん……」

勇者「なんだよ?」

魔法使い「ううん。何でもない」

魔法使い「ただ、どっちが大切なのかなって……思っただけ。それじゃあねっ」

勇者「……」

勇者「どっちが大切……か」

────

宿屋────

勇者「僧侶ー今戻ったー。これお土産……」
━━━━━━━━━━
勇者様へ

邪魔にならないようしばらく教会の方へ身を置くことにしました。
何かあれば教会の方へお願いします。
ちゃんと食事を取ってくださいね。
頑張ってください、ゆーしゃさま。
━━━━━━━━━━

勇者「……そうだよな」

勇者「俺から言い出したことだ……当たり前だろう」

勇者「なのに何で……こんなに虚しいんだ」

勇者「……食って寝るか」

勇者「俺……僧侶のこと……どう思ってんのかな……」

────

「あのガキ頑なに我々の情報を新聞にするのを拒否しています。このままでは本当に勇者と女王様が結婚することに……」

「ふん、まあいいさ。他に手はいくらでもある。そうだろう?」

「……」

「こやつは?」

「何でも勇者に恨みがあるらしく我々に協力してくれるそうだ」

「なるほど……これは頼もしいですな。よろしく頼みますぞ」

「ふん……」トコトコトコ

「ちっ、偉そうに」

「あんな奴信用出来るのですか?」

「奴は所詮ただの足止め役に過ぎぬ。本当の我らの狙いは別にある」

「ほう……その事をあの方は?」

「知り得ぬことよ。この国を統べるのは我らなのだから」

「カカカ……」

「あなたも人が悪いですな」

「それにしても勇者もは面白いことを考えたものですな……偽装結婚式とは」

「国民を盾にしたつもりだろうが余りにも脆弱な策よ」

「せいぜい最後の花嫁姿を楽しみにするんだな……女王様。カカカ……!」

────

結婚式三日前──

結婚式の準備が進むにつれ、町中はお祭り騒ぎとなって行く。
いち早く話を聞き付けた行商人達が露店を開き、飾り付けがされ、人々が行き交い、今か今かとその時を待ち続けている。

その頃、勇者は結婚式をするに当たって覚えなければならない儀式を練習しにジュリエット女王の所へ訪れていた。

メイド「違います! ハイやり直し!」

勇者「トホホ……」

ジュリエット「勇者様頑張って」

勇者「はい……」

メイド「中央大陸が誇る偉大なる大僧侶、ルシエル様に!?」

勇者「お、終わりなき敬意をー」

メイド「中央大陸が第二十代国王様に!?」

勇者「お、終わりなき忠誠をー?」

メイド「はいそこで2歩下がる!」

勇者「は、はひっ」

メイド「そして膝まずいてー?!」

勇者「中央大陸ジュリエット女王様に、永遠なる愛を」キリッ

メイド「そこだけは覚えてるんですね勇者様……」

勇者「だってだって何かいっぱい手とか足とか動かすのがあってしかも細かくてわかんないんだよー!」

メイド「それでも覚えてもらわないと困ります。来賓の方達もたくさん来るんですから」

勇者「はぁい……」

ジュリエット「ふふふ」

ジュリエット「こうしてると昔を思い出しますね……」

勇者「昔?」

ジュリエット「……昔仲の良い子とメイドとで三人で良くこういう遊びをしたんです」

ジュリエット「……ずっと昔の話ですけどね」

勇者「へぇ」

メイド「姫様……」

ジュリエット「さ、続きをやりましょう。勇者様には後三日でこれを完璧に覚えてもらわないとですから」

メイド「そうですね! じゃあ今まで以上にスパルタで行きましょう!」

勇者「カンベンシテクダサイ……」

────

僧侶「では、祈りましょう……我らが神に」

爺「今日も僧侶ちゃんは可愛いのぅ~」

オカマ「とうとう隠すつもりもなくなったかじじい」

爺「うるさいのぅ! ちゃんと神様にも祈っとるわい! 僧侶ちゃんが幸せになるようにの!」

オカマ「はいはい」

ロミオ「……」

オカマ「ん、彼は…」

爺「騎士団長の倅がどうした?」

オカマ「彼を知ってるの?」

爺「わしが昔いた王国騎士団の団長の息子よ。てっきりわしは姫様と結婚するならあやつだと思っておったがな。昔から良く三人で遊んどった」

オカマ「へぇ~……」

爺「昔は剣技だけなら団長に負けず劣らずだったが団長が亡くなってからと言うもの何もかもに消極的になったそうじゃ。団長候補からも外れたと聞く」

オカマ「……」

爺「それでも姫様だけは守って行くと信じておったんだがの。南のバカ王子と結婚なんてのたまった時はあやつの代わりにわしが直接止めてやるつもりだったが……勇者様ならあやつも安心して任せられるじゃろうて」

オカマ「ふ~ん……彼も大変なのねぇ」

僧侶「……」
ロミオ「……」

オカマ「僧侶と何か話してるわね」
爺「外に出おった」

オカマ「新しい恋の予感ね」
爺「どれ、じゃあせっかくだしわしの武勇伝でも話そうかの」

オカマ「それは聞き飽きたわよじじい」
爺「お前さんには言われたくないのう」

────

僧侶「もう来てくれないかと思ってました」

ロミオ「……そのつもりでした。でも、どうしても……心が落ち着かなくて」

僧侶「どうしてです?」

ロミオ「……三日後、彼女が結婚するんです。……勇者様と」

僧侶「!!?」

僧侶「(もしかして前に言ってた人って女王様のこと……?)」

僧侶「(この人はあれが偽装だってことを知らない……それを私が教えればこの人の悩みは解決するだろう)」

僧侶「(けどそれは頑張っているゆーしゃさまへの裏切り……でも、目の前に悩んでいる人がいるのに知らない振りをする僧侶なんて……!)」

僧侶「……ロミオ様はこのままでいいんですか?」

ロミオ「……。南の王子と半ば政略結婚させられるって聞いた時は気が気じゃなかったですけど、勇者様なら……」

僧侶「……それはあなたの本当の気持ちですか?」

ロミオ「……。」

僧侶「先程心が落ち着かないとおっしゃってたじゃないですか。何で自分の気持ちを偽ろうとするのです」

ロミオ「……どうしようもないことだからさ。持って生まれた者の差、神が与えた天運の差……ってやつです」

僧侶「……どうしようもない、何て言葉は何もかもやった人が使う言葉だと思ってましたよ」

ロミオ「手厳しですね、僧侶様は」

僧侶「僧侶でいいですよ」

ロミオ「なら僕も、ロミオで」

僧侶「……」

僧侶「……私にも長年寄り添って来た相手がいます」

ロミオ「ほぅ」

僧侶「その人は昔ただの少年でした。冒険好きで……毎日私と二人で色々な場所に冒険しては遅くに帰って叱られて……そんなありきたりな」

ロミオ「……」

僧侶「ですがその人が十の歳の頃、両親が復活の兆しを見せる魔王軍討伐の任に辺り……二人とも還らぬ人となりました」

ロミオ「……僕の父親と同じですね」

僧侶「そして彼は私と誓いました……必ず魔王を二人で討つ、と」

ロミオ「……さぞ魔王を憎んだでしょうに」

僧侶「いえ、不思議にも彼にそんな感情はなかったそうです。ただ、守りたい人達がいるから戦った自分の親達は偉大だ、と。自分もそうなりたいと言ってました」

ロミオ「……立派ですね。僕とは大違いだ」

僧侶「それから彼は無我夢中で修行をしました」

僧侶「私も彼との約束を守るために必死に修行しました」

僧侶「そして彼が先に魔王討伐の任に任命されたと聞き、私は凄いな、と思いつつも、どこか諦めていました」

僧侶「修道院の中では良くも悪くも真ん中ぐらいで……とても魔王討伐に選ばれるような位置じゃありませんでしたから」

ロミオ「……それで、諦めたんですか?」

僧侶「……いえ」

僧侶「諦めそうになった時……彼が来たんです。修道院に」

────

僧侶『ゆーしゃさま……凄いな。本当に勇者になっちゃうなんて……私なんて』

僧侶『ゆーしゃさまはあの時約束覚えてるかな? ううん……きっと忘れてるよね。ずっとずっと前のことなんだもん……』

僧侶『なら……もう、諦めても……』

コンコン、コンコン

僧侶『ん? なんだろう』

ガチャ──

修道院の高い窓の下から見下ろすと、そこに一人の青年がいた。
何年振りに見たその姿だけど、面影はあった。
間違いなく、ゆーしゃさまだった。

勇者『よっ! 久しぶり!』

僧侶『ゆ、ゆーしゃさま?! どうして……』

勇者『僧侶の姉ちゃんから聞いたんだよ。ここだって』

僧侶『そう……ですか』

こちらに聞こえるように堂々と、夜明けなのに大きな声で喋るゆーしゃさまは眩しかった。
さっきまで諦めようとしていた私には尚更そう見えたのかもしれない。

僧侶『あの……ゆーしゃさま、私……』

勇者『待ってるからな! 僧侶!!!』

僧侶『!!!』

勇者『それだけ言いに来た。昔からの約束破るんじゃねーぞっ!』

オカマ『ゴルァ! どこのガキじゃ貴様ァ! 朝っぱらから大声出してんじゃねぇぞ!!!』

勇者『やべっ! じゃあな僧侶!』

僧侶『……』

僧侶『ふふ、ふふふっ』

勇者になって彼が果てしなく遠くに行ってしまったと勝手に思ってしまっていた。
自分にはそんな彼に釣り合う力はないと諦めてしまっていた。

けれど、彼はいつまでもそのままだった。
勘違いして、離れて行こうとしてたのは自分だった。

────

僧侶「それを見て私は諦めることをしばらくやめました。するとしてもやってからすることにしました」

ロミオ「やってから……?」

僧侶「人は神じゃありません。成れないもの、やれないことは多々ありましょう」

僧侶「ですがやってもいないことを諦めていては前に進めない。本当にどうしようもなくなります」

ロミオ「!!!」

僧侶「そして今、私は彼と旅をしています。魔王討伐の任を受けて」

ロミオ「……凄いな、僧侶さんは」

僧侶「そんなことないです。私も日々悩んでばかりですから(主にゆーしゃさまのことについてだけど)」

ロミオ「変わったのは自分……か」

ロミオ「確かにそうなのかもしれない。彼女が女王になって変わってしまったと……勝手に思い込んでました」

ロミオ「父が死に、どんなに磨かれた剣も常識を越えた強さの前には意味を成さないと諦めてしまっていたのかもしれない……」

ロミオ「……」

ゴォーン、ゴォーン

ロミオ「白昼の鐘が鳴ったことだし……訓練に行ってきます。話をしてくれてありがとうございます、僧侶さん」

僧侶「いえ、少しでも為になれば幸いです」
ロミオ「僕もあなたのように、まずはやってみることから始めます」

僧侶「はい。応援してます。頑張ってくださいねっ!」ニコッ

ロミオ「はい! では」


僧侶「……そう、ゆーしゃさまは変わらない。あの頃も今も……誰かの為に頑張ってる」

僧侶「だから私も頑張らないと!」

僧侶「……きっとゆーしゃさまはこのことを知らない。けど、話したところでどうにかなる問題じゃないのはわかってる」

僧侶「それでも……ゆーしゃさまなら全部解決しちゃうんじゃないかって……思ってしまう」

僧侶「ゆーしゃさま。どうかあの二人を、導いてあげてください」

────

勇者「出来たか!」

記述師「ええ。自分でも驚く程の出来ですよ!」

勇者「どれどれ……おぉ……いいな。南の王子のことや女王様のことも詳しく書かれてる」

記述師「でしょう?」

勇者「特にこの、この争奪戦に参戦するものは現れるのか!?ってのがいい」

記述師「いるわけないですけど、見出しが見出しですからね。一応入れときました」

勇者「これを見てどう動くか……」

記述師「?」

勇者「じゃあ早速配ってくるよ」

記述師「あっ、勇者様! ちょっと気になることが……」

勇者「?」

記述師「最近勇者様の他にも客が来まして……勇者様とは逆の内容の新聞を出せ出せと圧力をかけられました」

勇者「ほぅ……とうとう乗り出して来たか」

記述師「この結婚を良く思わない層もいるってことですかね」

勇者「まあ急に現れてかっさらおうってんじゃ面白くもない輩もいるだろうな」

記述師「勇者様なら大丈夫だとは思いますが……十分注意してください」

勇者「ああ。忠告ありがとう。君も気を付けてくれ」

記述師「はい」

勇者「(もっと大胆に潰して来ると思ったが……思ったより消極的だな大臣グループは)」

港町────

勇者「この度勇者と女王様が結婚することになりましたー! この中央大陸に住まう皆様にはこの国の行く末を見届け頂くため是非とも結婚式をご覧になってください」

「勇者様が結婚!?」

「そりゃめでたいな!」

「結婚しても魔王討伐はしてくださいよ~?」

勇者「当たり前ですよ!」

「魔王に浮気するなよー?」

勇者「ある意味浮気になっちゃうんですけどね!」

「「「ははは」」」


────

勇者「よ~し次は……あそこか。ちょっと走らなきゃな」

勇者「ルーラって便利だけど行ったことない所に行けないってのは不便なんだよな~って言ってても始まらないか」

勇者「ルーラ!」ビュォーン


「……メラミ」


勇者「なっ」

ルーラ航行中、下から飛んできた炎の塊にぶち当たる直前──

勇者「なろっ」

勇者はそれを体を捻り回避、するも体勢が崩れルーラが解ける。

勇者「うぉぉぉぉ」

地上数十mからの落下、さすがの勇者もこの高さは不味いと冷や汗をかく。

勇者「ベギラマ!」

咄嗟に唱えた呪文の反動の勢いで落ちるポイントを平野から木々にスイッチさせる。

勇者が木々に落ちるとガサガサっと枝木が折れる音がしながら最後に一際大きな落下音が鳴り、そこで静かになった。

勇者「ってぇ……まさかルーラ中を狙って来るとは。しかも狙いもドンピシャと来ればかなり腕が立つ奴とみた」

勇者「なるほどな……町人は傷つけず直接俺を殺りに来たか」

勇者「まあこっちの方が色々手間も省けてやりやすいってもんだ」

勇者「僧侶と離れてて良かったぜほんと……」


「さすがにやるわね。あの状況から避けただけじゃなく生還するとは」

「まあこんな人目ないところで呆気なく殺してもつまらない……勇者には苦しんで死んでももらわないと」

「じゃないとみんなの魂が浮かばれないもの……」

────

宿舎────

「ったくとんだ日に被ったもんだよな~団長戦」

「全くだよ。女王様の晴れ姿見たかったのにな~」

「まっ、早く済むさ。下馬評通りティボルトの一人勝ちだろうし」

「今やうちで彼に敵うやつなんていないもんなぁ」

「……昔はそうでもなかったんだがな」

「ああ、ロミオか」

「今じゃすっかり脱け殻だよな……」

「昔の気迫はどこへ行ったのやら……」

ガチャリ──

ロミオ「……」

「お、おぉロミオ! 今帰りか?」

ロミオ「ああ。団長を知らないか?」

「確か城の方へ行ったと思うが……」

ロミオ「そうか。ありがとう」

「まさかお前団長戦出るつもりか?」

ロミオ「ああ。そのつもりだ」

「やめとけやめとけ。恥かくだけだぞ」

ロミオ「……その時はその時さ。やってから後悔するよ」

「ロミオ……お前」

ロミオ「じゃあ。登録してくるよ」ガチャ

「……あいつ、本気だったな」

「ああ。やっぱり女王様の件があって自棄にやってんのかもな……」

「いや、そんな顔でもなかったと思うがな」

「こりゃ少しはこっちも面白くなりそうじゃないか」

「じゃあ、張り直しってことで。さぁっ張った張った~」

そして時は過ぎ、結婚式前日──

勇者「新聞も配ったし、飾り付けも終わったし、後は明日を待つばかりだな」

メイド「勇者様、まだ儀式の方が完璧ではない気がするのですが?」

勇者「そ、そこはぶっつけ本番でさ……? 本番に強いタイプだから俺」

メイド「全く……最初の頃とは随分印象が変わりましたこと」

勇者「かたっくるしいのは苦手なんだよ」

ジュリエット「ふふ、私はこちらの方が接しやすくて好きですわ」

メイド「でも明日はちゃんとしてくださいよ?」

勇者「へいへい」

ジュリエット「それにしても結局目立った動きはないままこの日を迎えましたね……」

勇者「まあ……な。不気味と言えば不気味だ」

ジュリエット「ええ。今日なんて大臣の息のかかった者達が飾り付けまで手伝ってくれる始末です。何だか疑ってるのが悪い気に……」

メイド「……姫様、それは私達を欺く為の罠です。騙されてはなりません」

ジュリエット「……そうね。まだ終わったわけではないもの。安心するのは早いわね」

勇者「……(この自信は一体どこから来るんだ……? もし何もかも思い過ごしなら……俺は本当に姫様と……)」

勇者「(いや、それはないだろう)」

勇者「(誰よりも姫様を思っているのは間違いなく彼女だ。でなければ俺にあんなことを頼むわけがない)」

勇者「(その自信の根拠はわからないが……あっちにとって俺は邪魔者なのは暗殺されかかって件でわかってんだ。無理に追及することはないか)」

ジュリエット「そう言えば勇者様、司教様はお帰りになられたのでしょうか?」

勇者「あ~、まだっぽいですね。帰って来たら連絡入れてもらうように言ってたんですが」

勇者「仕方ないのでオカ……じゃない司祭様に頼もうと思ってます。これからちょっと行って頼んできますよ」

ジュリエット「そうですか……。それでは仕方ありませんね」

メイド「あの方は面白いもの好きと聞いてたので偽装結婚式! なんて聞いたら飛んで戻って来そうですけどね」

勇者「さすがにバラしたら元も子もないからな」ククッ

勇者「じゃあちょっと言って来ます。明日まで何が起こるかわかりません。戸締まりはキッチリとお願いしますよ」

ジュリエット「はい」
メイド「わかっております」

勇者「では」シュタッ


ジュリエット「……」

メイド「やっぱり気になるのですか? 彼のこと」

ジュリエット「……もう諦めたつもりでした。けど、どうしても考えずにはいられないのです……ロミオのことを」

メイド「姫様……」

ジュリエット「メイド、私はどうするべきなのでしょうか? 勇者様に甘えて助けてもらって……それだけで本当に私自身が変わるのでしょうか?」

メイド「この先幾多の別れ道があろうと……それは姫様自身が決めなくてはなりません。それが、女王の勤めでもありますから」

ジュリエット「そう…よね」

メイド「一晩じっくり考えてください。この国をどうしたいのか、そして、自分がどう在りたいのかを」

ジュリエット「……ええ」

メイド「ではお休みなさいませ、姫様」

ジュリエット「ええ。おやすみなさい…」

メイド「……」


────

臣下「準備は?」

「全て完了致しました」

臣下「うむ」

大臣「……しかしここまでやる必要があるのだろうか……?」

臣下「何を言われます。国を乗っとらんとする暴君を阻止するのは国に、ひいては国王様に忠誠を誓った者の役目でありましょう」

大臣「……しかしあの大量の武器はなんだ? 私は攻めてくるかもしれないという南の大陸と和睦同盟を結んだはずであろう……? なのにあんなもの……一体どうしろと」

臣下「武器と言うものは使わずとも置いておくだけで効果があるものなのです。
なぁに和睦の為と思えば安い買い物でしょう」

大臣「……しかし」

臣下「大臣……下手にあちらの機嫌を損ねれば貿易、ひいては大陸関係にヒビが入るのですよ?
それをわかっておいでか?」

大臣「それは……」

臣下「南の大陸の船がうちの船を沈めにかかった時、何とか私が和睦をつけたのをもうお忘れか?
あの時の苦労を無駄にしないで頂きたい」

大臣「……わかっておる。……そう、国の為……仕方ないのだ、これは」



メイド「……」

教会────

勇者「ちぃーす」

僧侶「ゆ、ゆーしゃさま!?」

勇者「よっ、久しぶり、僧侶。おっさんいる?」

僧侶「え、ええ」

オカマ「なぁに? こんな時間に」ぬぅ

勇者「うわっ! 急に出てくるなよ! ただでさえデカくてこえぇってのに……」

オカマ「なんか言ったか? クソガキ」

勇者「ナンデモナイデス」

勇者「それより明日、神父役任せたぞ。おっさん」

オカマ「オカマだっつってんだろナニ引きちぎるぞ」

勇者「ひいぃぃぃぃっ」

オカマ「あ~ん間に合わなかったのね~彼。残念。ま、そういうことなら仕方ないわね」

勇者「じゃ、そういうことでよろしくぅ」シュタッ

オカマ「待ちなさいよアンタ」ガシッ

勇者「(バカなっ……肩を捕まれただけで全く動けないだと……!)」

オカマ「この子に何か言うことがあるんじゃない?」

勇者「えっ」
僧侶「えっ」

オカマ「あら、何もないの? 僧侶」

僧侶「そ、その……急にだから……あんまり考えてなくて……」ゴニョゴニョ

オカマ「そ。なら男の子の勇者から言ってもらいましょうか」

勇者「お、俺ぇ!?」

オカマ「タマついてんだろがはよせんか」

勇者「えぅっ」

勇者「あ、あのよ……」

僧侶「は、はい……」

勇者「明日、ちょっと結婚してくる」

僧侶「……はい」

オカマ「(こいつぶっ殺してやろうかしら)」

勇者「けど、すぐ終わらせて……また一緒に魔王討伐……頑張ろう、な」

僧侶「は、はいっ!」

オカマ「(ほんと良くわからないわねこの二人は……)」

勇者「そういや前にもこんなことあったな」

僧侶「ええ」

勇者「その時は隣にいたのがこんなおっさんじゃなくて麗しの僧侶の姉ちゃんだったけどな」

オカマ「だまらっしゃい」

僧侶「ふふっ」

「おやおや、なにやら随分と盛り上がってるね。面白い話かい?」

オカマ「あら、帰って来たのね」

「うん、旅先で何やら面白い話を聞いてね。北の大陸からルーラで帰って来たばかりさ」

勇者「どんだけ広まってんだよ……ってあんたは!」

旅僧侶「やぁ、勇者。また会ったね」

僧侶「あの節はお世話になりました」

オカマ「あんた達知り合いだったの」

旅僧侶「旅先で色々あってね。僧侶も久しぶり。しばらくここのこと色々やってくれてたんだって? お爺さんから聞いたよ。ありがとう」

僧侶「いえ。ってあれ? もしかして……」

オカマ「そうよ。ここの司教様がこの人」

僧侶「えぇーっ」

旅僧侶「めんどくさいから旅僧侶でいいよ。司教なんてやっててもつまらないしね」

勇者「適当すぎんだろおい」

勇者「まあ帰って来たならちょうどいい! 明日の結婚式の神父やってくれないか?」

旅僧侶「別にいいけど……普通のかたっくるしい結婚式の神父はやりたくないなぁ」

勇者「安心してくれ、普通じゃないから」

旅僧侶「おっと、中身を全部バラさないでくれよ? 楽しみが減る」

勇者「はいはい」

旅僧侶「あの時の借りをここまで大きくして返してくれるとは、辻ザオラルもやってみるもんだ」

オカマ「まだあんなバカなことやってんのね……ザオリク使いなさいよ使えるでしょうに」

旅僧侶「嫌だよ。絶対成功するなんて面白くないじゃないか」

オカマ「神様も泣いてるわよ」

旅僧侶「君がそれを言うかい」

勇者「さっそくだが色々打ち合わせを」

旅僧侶「よしきた」

勇者「」ゴニョゴニョ
旅僧侶「」ゴニョゴニョ

勇者「をこうする予定なんだが……」
旅僧侶「いや、そこはこうして……」

オカマ「何を楽しそうに話してるんだか」
僧侶「あの二人はちょっと似た者同士な気がします」


勇者「よし、決定だな」
旅僧侶「ああ。しかしまさかあれで全部ではないだろうね?」

勇者「当たり前だろ?」ニヤッ

旅僧侶「いい顔だ。明日は楽しくなりそうだな」

勇者「じゃ、夜も遅いし俺も帰るわ」

僧侶「あ、あのっ、ゆーしゃさま!」

勇者「ん?」

オカマ「さっ、色々明日も早いし私達も休みましょう」
旅僧侶「やだよ面白くなりそうじゃア、痛い、待ってそこ引っ張るところじゃないだろう」ズルズル

僧侶「あの……その」
勇者「ん?」

僧侶「(ロミオさんのことを伝えたい……けど、ゆーしゃさまにこれ以上負担になるようなことは……)」

勇者「……ん、任せとけ」

僧侶「え……」

勇者「勇者様に不可能はねーさ。安心しろよ」ニコッ

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「それに、両方から頼まれちゃ俺も断れないからな」

僧侶「両方?」

勇者「こっちの話さ。明日、なんやかんや頑張ろうぜ!」

僧侶「なんやかんやですか?」

勇者「ああ。俺にもどうなるかわからないからな!」

僧侶「なんですかそれ」フフッ

勇者「はははっ」

やっぱり、ゆーしゃさまはゆーしゃさまのままでした。
その背負っている影すら、私にはもう勇者様としてしか見えなくなっていたことに……気づくこともなく。

────

ジュリエット「……」

コン……コン……

ジュリエット「何の音かしら……窓から?」

ガチャリ──

城の高い窓から下を見下ろすジュリエット。月が彼女を照らし、輝かせる。

ロミオ「やあ、ジュリエット。久しぶり」

ジュリエット「ロミオ!? どうしてここに……」

それとは対照的に暗闇の中に佇むロミオ。木々の下にいる彼には月の光も届かない。

ロミオ「ただ、一つだけ聞きたいことがあってここに来たんだ」

ジュリエット「聞きたいこと? 何かしら……?」

ロミオ「スゥ……ハァ……」

ロミオ「ジュリエット! 君はどうしてジュリエットなんだい?」

ジュリエット「えっ……」

ロミオ「それは国の為かい? それとも両親の為かい?」

ジュリエット「私は……」

ロミオ「ジュリエット、僕は諦めてしまっていた。今いる僕達の場所と同じく、高く暗い壁の前に」

ジュリエット「ロミオ……」

ロミオ「でももうそんなことをするのはやめた! 何故なら僕は僕で生きることにしたから!」

ジュリエット「……!」

ジュリエット「なら、私も問いましょう」

ジュリエット「ああロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」

ロミオ「僕はただ君を幸せにする為に、この壁を乗り越えて見せる。何があっても」

ジュリエット「ロミオ……」

ロミオ「だから君も誓って欲しい。明日、僕は団長戦に出る」

ジュリエット「……」

ロミオ「それに優勝し、王国騎士団団長になった暁には……結婚してくれ、ジュリエット」

ジュリエット「……」

ジュリエット「でも……私は」

ロミオ「もう誰が相手だろうとこの気持ちは変わらない。例え勇者様と刃を交えることになっても……」

ジュリエット「!」

ロミオ「団長戦は王国湖で行われる……もし、君がまだ僕のことを好きでいてくれるなら……団長になる姿を、見届けて欲しい」

ジュリエット「……」

ロミオ「じゃあ、もう行くよ、ジュリエット」

ジュリエット「ロミオ……待って! ロミオ!」

月は一瞬だけ二人を照らした後、雲に遮られた。
まだ行方はわからないと言わんばかりに。

────

ロミオ「……」

勇者「……」

視線がぶつかる。両者何を思っているのかは見てとれない。

二人が通り過ぎる、その時──

勇者「……上がって来いよ、舞台に」ニッ

ロミオ「言われずとも」ニッ


──様々な思惑がある中、

一つの祭典が今……幕を開ける。

遠慮なく長くしてみました
次で偽装結婚式の話はおしまいです
そろそろ終盤ですかね
最近この勇者は遊んでばかりなのでそろそろ勇者らしいことしないとですね

長くても読んでくれる方ありがとうございます
遅くなってすみません

────

メイド『姫様は言われませんでしたが……あの人には昔から大切に思っている方がいます』

メイド『名はロミオ。ずっと姫様を支えて下さった人です』

メイド『しかし今回の南の王子とのことでロミオは国の為に身を引き、姫様は女王という立場から自由が効かなくなりました』

メイド『でも……二人はずっとお互いを思い合っているのです。ずっと二人の側にいたからわかるんです……』

メイド『だから……どうかお願いです勇者様。叶うことなら、あの二人の柵を取り除いてくださいませ』

メイド『これは姫様じゃなく、私個人の身勝手なお願い……代償はいくらでも払います。勇者様を利用しようとする不届き者と切り捨ててくれても構いません……だから……どうか』

────

勇者「(だから……俺は今回のことを全て信じた。姫様が言えなかったことを、姫様を思い、正直に俺に伝えてくれたあの思いに嘘などあるわけがない)」

勇者「(俺にどこまでやれるかわからないが……自分の力で誰かが幸せになれるなら……いや、救わなくちゃいけないんだ)」

勇者「(俺は……勇者だから)」

神託の証が暗闇の中で一瞬光るも、それはすぐに消える。
勇者もそれに気付いた様子はない。

勇者「(ロミオが本当に姫様を思っているのなら……必ず会いに行ってるはずだ)」

城門前で待ち続けると、やがて一人の青年が歩いてくる。
勇者もそれを見て、歩を進める──

メイドさんの伏線入れ忘れてたァァァ

眠いときに書いたらいかんですね

>>355>>356>>350>>351の間に入れといてくださいませ
いきなり勇者出てきて自分でもふぁっ?ってなりました
指摘どうもです!

遅くなりました

先に言います

長いです

──ゆーしゃさま

──ゆーしゃさまはどんな勇者になりたいですか?

…………

──ゆーしゃさまらしいです

──なら、私はそれを支えられる僧侶になります

……

──きっとなれますよ。ゆーしゃさまなら


──ゆーしゃさまらしい勇者に


────

勇者「……夢か」

勇者「ゆーしゃさまらしい……勇者、か」

勇者「……俺らしいって、何だろうな」

勇者「いや、今はやれることをやろう。考えるのはその後だ」

勇者「じゃあ始めるとしますか、偽装結婚式」

───

ガヤガヤ ガヤガヤ

メイド「その料理は三番テーブル、そっちはメインテーブルに並べて! 予定より来客が多くて料理が間に合わない?! とりあえず前菜並べて後から運ぶからさっさと作って!
全く厨房は何やってんの!」

勇者「お~忙しそうだな」

メイド「勇者様! もう遅いですよ! 早くこちらに! あっ、ここ任せたわね」

勇者「姫様は?」

メイド「もうとっくに着付けしてます!全くもう勇者様には新郎の自覚が……」ゴニョゴニョ

勇者「ごめんごめん。自分が言い出したことだけどまさかここまで大きな騒ぎになるとは思ってなくて」

メイド「中央大陸ほとんどの長、港町や山岳の町からたくさんの町民達が来てくれてますよ」

勇者「ありがたいな。偽装だと思うと少し良心が痛むけど」

メイド「姫様のためです。それに勇者様が心を痛めることはありません。全ては私がお願いしたことですから。
だから……もし、失敗しても」

勇者「成功させるさ。姫様の為にも、メイドの為にも、この中央大陸の為にも、な」

メイド「ありがとうございます……勇者様」

メイド「さ、ではこれに着替えてください」

勇者「わかっ、ちょ、自分で着れるからっ! 脱がさないでっ! ヤダッ」

────

旅僧侶「なかなか似合ってるじゃないか勇者」

勇者「うるせー」

勇者「で、会場の方に動きは?」

旅僧侶「特には。ただ知らない顔が何人かこっち(主催側)に混ざってるな。大臣の当て馬だろうね。いやぁ面白い」

勇者「思いっきり異常あるじゃねぇか! ったく暢気なもんだぜ」

メイド「勇者様も人のこと言えませんよ」

勇者「すいません……」

メイド「姫様の方も着付けが終りました。そろそろ入場なので行きましょうか」

勇者「ああ」

メイド「偽装と言えど結婚式、ちゃんとしてくださいね?勇者様」
勇者「信用ないなぁ」

──トントン

ジュリエット「どうぞ」

メイド「失礼します。姫様、そろそろお時間です」

ジュリエット「ええ」

勇者「おぉぅ……(美しいとはまさにこの事か)」

ジュリエット「変じゃありませんか? 」

勇者「とんでもない。きっと今日来てくださった方々はこの姫様の姿を見に来た人ばかりでしょう」

ジュリエット「あらお上手。ふふ、ありがとうございます勇者様」ニコ

メイド「もうこっちの勇者様が演技にしか見えなくなりましたよ」

メイド「じゃあ入場しますよ」

勇者「さて、行くとしますか」

ジュリエット「ええ」

────

メイド「中央大陸第二十代国王が娘、ジュリエット女王様の御成でございます」

ワーーーーーーワーーーーー

女王様ー!

ご結婚おめでとうございます!

お綺麗です女王様!

ジュリエット「ありがとう、みんな」

勇者様ー!

姫様を幸せにしてあげてねー!

勇者と姫様に神の加護を!

勇者「ははは……(やっぱり心が痛いな。でも……)」チラッ

ジュリエット「……」

勇者「(本当に苦しいのは姫様だろうな……。自分の立場と周りの環境に板挟みにされて……本当に居たい場所にさえいられなくなって)」

勇者「(今隣にいるはずなのは俺じゃなくて彼なのに)」

──私、最初はちょっと勇者と自分は似てるなって思ってたんです。

勇者「(確かに似てるな……。だからこそ俺は彼女を助けたかったのかもしれない。今の俺の迷いを断ち切る為にも)」

勇者「(もっとも、居たい場所に居れてる分俺の方が気楽ではあるけどな)」

勇者「(そういや僧侶はどこだろう。確か会場案内をするって言ってたけど……)」

勇者「(お、いた)」


僧侶「会場はこちらになります~、あっ、押さないでください。ゆっくり入場お願いしま~す」アクセク

勇者「(色々大変そうだな向こうも)」

城内から庭園に伸びた真っ赤な絨毯を二人が歩く。
その周りでは惜しみ無い拍手が残響を残さず鳴り響く。

この日の為に庭園に用意された特設の結婚式会場、中央には祭壇、その周りにはいくつもの机と椅子が並ぶ。

座っているのは主に他の町の人でこの町の住民のほとんどは近くで立ち見している。

席は招待状を持った各町村の町長、村長に優先席があり、それ以外の席は来場順だったが遥々この結婚式を見に遠くから来た町の人をこの町の人々は優先して座らせた。

その事をメイドから事前に聞いたジュリエットは、拍手で迎えてくれる町民達に深く頭を下げた。

中央大陸の結婚式にはいくつかのプログラムがあり、その最後、婚姻の儀が終わって初めてその二人は夫婦と認められる。

勇者「(いつ仕掛けて来るか……)」

勇者「(結婚式が終わる前にあいつらが武器輸入の証拠を掴んで来れれば俺達の勝ち、逆に掴めなければこのまま姫様と結婚……か)」

僧侶「(ゆーしゃさま……)」

遥か離れたところで不意に僧侶と目が合う。

勇者「(心配すんな、絶対何もかも成功させてみせるさ。俺は勇者だからな)」

勇者「(勇者に失敗や敗北は許されない……今までそうあって来たのだから)」

勇者「(ってわけで頼んだぜ……魔法使い、戦士)」

───

魔法使い「勇者カッコいい! 姫様も可愛いな~いいな~ドレス」

戦士「そろそろか、よし、行くぞ」

魔法使い「全く……ドレス着たいのか?と か聞くところでしょここは」ボソボソ

戦士「何か言ったか?」

魔法使い「ん~ン。なんでも。まっ、私らにはこっちのがお似合いだよね」

城門から遠ざかり町外れに駆けていく二人。すれ違う人はどんどん疎らになり、とうとう辺りには誰もいなくなる。

魔法使い「ふふっ」
戦士「なにニヤニヤしてんだ?」

魔法使い「こういうのっていいよね。なんか特別任務っぽくて!」
戦士「そうか?」

魔法使い「うん。私はみんなとは違う方向に進んでいたい。後ろを振り返って誰も居なくても……」

戦士「安心しろ、横には居てやる」

魔法使い「ふふ、ありがと。ンじゃ一仕事しますか! ルーラ!」ビュォーン

王国湖──

ロミオ「……(ジュリエット)」

ロミオ「(あんな押し付けをしてしまって……彼女は苦しんでいないだろうか。勇者様と天秤に掛けるような真似をしてしまって……)」

ロミオ「(それでも僕は諦めたくない……諦めるのは……全てをやり終えてからだ!)」

ティボルト「まさか君が出てくるとはな、ロミオ」

ロミオ「ティボルト……」

ティボルト「その剣、曇りをかけてないだろうな?」ニヤッ

ロミオ「ふふ、どうだろうね」ニヤリッ


ロミオ「(自分に出来ることをやろう……この思いが彼女に届くことを信じて!)」

旅僧侶「(全く面白いことを考えたものだよ勇者は)」

旅僧侶「(さて、プログラム通りに進めようか。プログラム通りに進むとは思わないけど、ま、その方が面白いか)」

旅僧侶「(勇者が最後にどうまとめてくるか……楽しみにしてるよ)」

────

メイド「(勇者様にはまだ内緒にしてることがある……、でもこれは姫様にも言ってないこと)」

メイド「(どうしても私の手で終わらせなきゃならない……、だって……)」

メイド「(城内に誰もいなくなった今なら……、チャンスはある)」

────

「(ククク、勇者め……絶対に殺して)」

「ほらボヤっとしない! どんどん料理運んで!」

「……は、はい!」

「(くっ、なんで私がこんなヒラヒラな格好を……!)」

「(全ては勇者を殺す為! つまり勇者のせい! 勇者め……!)」

「料理あがったよ!」

「はっ、はい!」

「(しかしこのメイド服ってやつはどうしてこんな動きにくいんだ!)」

────

「結婚式が始まったようです」

「あの方は?」

「間もなく到着するかと」

「ふふ、好き勝手もここまでだ、逆賊め」

大臣「……」

────

オカマ「何とか収まったみたいね~。このバカ広い庭園も役に立つもんね」

僧侶「ええ……」

オカマ「まだ心配してるの?」

僧侶「そういうわけじゃないです、けど……」

オカマ「わかる、わかるわよ。好きな人が違う人と結婚しようとしてるの見たら誰だって嫌よねぇ」

僧侶「す、好き、って、ちがますよぉ! 何を言うんですかオカマさん!」ポカポカッ

オカマ「本当わかりやすいわね~あんたは」

僧侶「本当に、そういうのじゃなくて。ただ……遠いなって、またちょっと思っただけです」

オカマ「そ……」

────

新郎、新婦に用意された特別席に腰を落ち着ける。

勇者「(まずは一段落、かな)」

メイド「集まってもらった人々に女王様から謝辞がございます」


ジュリエット「皆様、今日は私どもの為にこんなにも集まっていただき誠にありがとうございます──」

勇者「(こんな時でも迷った顔を一切見せない、か。強いな、姫様は)」

ジュリエット「(ロミオ……あなたの思いは嬉しかった、けれど勇者様とメイド……そしてこの中央大陸の民を裏切れない)」

ジュリエット「(両方は得られない。これが定められた私の道と言うのですか……? 神よ)」

────

メイド「続きまして、ご来場の皆様に我が城自慢のシェフによる料理を堪能していただきます」

お~こりゃ美味そうだ。

いい香りね~。

メイド「皆様分ございますのでご安心を。席がご用意出来ず、立ちながらの会食の方もいらっしゃるのは誠に心苦しいですが……その分料理は美味しいので!」

ははは! 気にするな!

立ち食いもおつなもんよ!

食えりゃなんでもいいさ!

違いねぇ!ハハハ!



メイド「(救われる……本当にこの町の人々には。きっとあの二人も同じ気持ちなんだろうな)」

「……どうぞ」

勇者「お~こりゃ美味そうだ」

「……」

勇者「ん? 何か俺の顔についてる?」

「いえ、(早く食え早く食えぇっ!)」

勇者「(さて、久しぶりに使いますか)」

勇者「(修行以来だな~これ使うの。勇者たるもの食べるものには常に毒があると思え、ってな)」

勇者「(インパス!(改良型))」

勇者「(会場は軒並み青……さすがに全員毒殺はないか。姫のもオーケー。俺のは……)」

勇者「(うわ全部赤だ。情けの欠片もねぇ……)」

勇者「うわぁ~手が滑った~」ガシャンッ

勇者「(さらば……ご馳走)」

「!!!」

勇者「すいません……緊張してて」

「いえ、すぐに替えをお持ち」

勇者「いや、今日は緊張しててお腹に何も入りそうにないから、構わないよ(食べないのも不自然かと思ってぶちまけたのにどんだけ食わしたいんだこいつぅぅぅ!)」

「……わかりました」

勇者「(ほっ)」

「失礼します(なら違う方法で殺します)」ペコリ

勇者「あれ? そういや君どこかで……」

「失礼します」

「(私がせっかく持って行った料理を食べないとはっ……!)」

「(何かちょっと腹が立つのは何でだろう)」

「(まあいい、次こそは殺す、勇者)」

メイド「食後にはシェフ自慢の中央大陸城をイメージしたケーキがございます。最初の入刀はそうですね……女王様と勇者様にやってもらいましょう」

夫婦初の共同作業ってか!

まだ夫婦じゃないだろ~?

はっはっ、それもそうか

「」ゴロゴロゴロ

ジュリエット「まあ大きなケーキ」

勇者「(またあいつか!)」

ジュリエット「では、勇者様」

勇者「え、ええ(不味いな……)」

「(果実に爆破魔法を蓄積した特別製ケーキだ。衝撃を少しでも与えれば発動する! さあ弾け飛べ勇者!)」

勇者「(させるかよォォォォ!!!)」

勇者「てやぁっ! とりゃっ! たぁっ!」

ジュリエット「わっ、あっ」

お~勇者様が姫様の手を携えたまま剣技を!

爺「剣技とケーキ(剣技)をかけましたな勇者様!」

オカマ「そう思ってるのはあんただけよじじい」

メイド「ケーキが綺麗にカットされていきます! お見事、勇者様!」

パチパチパチ

勇者「(そして爆弾果実入りは俺の皿にぃぃぃぃ確保! そして端に寄せる)」


勇者「(また食えない……)」

「(勇者め……! もう容赦しない!)」

勇者「(しかし果実に爆破魔法を仕込むなんて高等テクニック……相手はルーラの時の奴か)」

メイド「お色直し後はいよいよ婚姻の儀となります。皆様、暖かい拍手でお二人をお見送りください」

パチパチパチ

メイド「(チャンスはここしかない……)」

勇者「(さて、ここからが本番だな)」

港町 船着き場──

戦士「動きは?」

魔法使い「まだなーい」

戦士「ご苦労。これでも食えよ」

魔法使い「サンキュー」モグモグ

魔法使い「本当に来るのかなぁ」

戦士「ここ数日ここで何回か南の奴等とやり取りしてたんだ。間違いなく来るさ。それが一番勇者を正当に排除出来るやり方だからな」

魔法使い「でもその中に武器があったからって証拠になるのかな?」

戦士「ま、ならないな。モンスター用と言われたらそれまでだ」

魔法使い「じゃあなんでこんなことしてるのさ私達」

戦士「勇者にも色々考えがあるんだろ」

戦士「俺達が頼まれたのはそいつが乗って来た船に大量の武器があるか否か、だけだからな」

魔法使い「まあ楽だからいいんだけどね」

戦士「む、南の大陸の旗印……あの船か?」

魔法使い「やっとお出ましってわけ!」

戦士「あれは……この国の大臣か?」

魔法使い「何か話してるね。あ、誰か降りてきたよ。何かやってるね」

戦士「あれは……」

魔法使い「知ってるの?」

戦士「南の大陸、壁王の息子じゃないか」

魔法使い「誰それ?」

戦士「話せば長いが……南の大陸は武王、壁王、砂漠の王が三大勢力なんだよ」

魔法使い「へ~」

戦士「でも妙だな、壁王の息子は勉学の為に北の大陸に渡る途中で海難事故にあって行方不明になってると聞いていたが……」

魔法使い「そういうことにしといて裏でコソコソやってたとか?」

戦士「なるほど偽装か……あり得るな。南の大陸じゃ他の大陸に武力を持ち込むことを公には禁止されてる。だからやれることと言えば少量の武器密輸ぐらいだが……」

戦士「三大勢力の国の王子が圧力をかければ武器がなくとも他国は動かざるを得ない……こことの同盟がすんなり決まりかけたのもそういう一面があったからかもしれないな」

魔法使い「何か色々な思惑が絡んでそうだね~」

戦士「……行ったな」
魔法使い「結婚式会場に行ったのかな?」

戦士「だろうな。同盟すれば南の大陸の国でも同盟国として中央大陸国に帰属している邪魔な勇者を排除することが出来るわけだし。大方簡易的な調印式でもやってたんだろうな」

魔法使い「伝えなくて大丈夫なの?」

戦士「そこら辺は上手くやるだろう。あの勇者だぜ?」

魔法使い「へ~、随分買ってるじゃん勇者君のこと」

戦士「まあな。お前を助けてもらったのもある。それにあいつは勇者っぽくない勇者だからな」

魔法使い「ふふ、なにソレ」

戦士「さ、中を調べるぞ」

魔法使い「ほいきた!」

城内──

メイド「(お色直し中のこの時間が最後のチャンス……ここでアレを見つけられなければ……)」ゴソゴソ

メイド「(もうっどこにあるのよっ!)」

メイド「(残りは……あそこか)」


ギィ──

メイド「(久しぶりに来たな……ここ)」

メイド「(本ばっかり……。変わってないなぁ)」

メイド「(……確かこの辺りに、あったあった)」ガシャコン

メイド「(隠し扉を開ける本だけ目立ちすぎなのよ相変わらず)」

メイド「(ん……この箱は。あの時はなかったよね……。ナンバーロック式の施錠か……もしかしたら……)」

カチャ

メイド「……何でこの番号なのよ、お父様」

────

メイド「お待たせしました。それでは中央大陸王国、婚姻の儀へ移りたいと思います」

いよいよか!

待ってました!

女王様お綺麗です!

勇者様カッコいいー!

勇者「」ウズウズ

ジュリエット「勇者様、緊張なさらずに」

勇者「ん、ああ。そう見えました? それは失礼」

ジュリエット「?」

旅僧侶「では、これより二人の婚姻の儀を始める」

旅僧侶「中央大陸が産みし偉大なる僧侶ルシエルに」

勇者「」スッスタッ
ジュリエット「」スッスタッ

勇者・ジュリエット「終わりなき敬意を」

旅僧侶「中央大陸第二十代国王に」

勇者「」クルッ ピタッ
ジュリエット「」クルッ ピタッ

勇者・ジュリエット「終わりなき忠誠を」

勇者「」トコトコ、ササッ

勇者「中央大陸第二十代国王が娘、ジュリエット女王様に……永遠なる愛を」

メイド「(か、完璧だわ! さすが勇者様!)」

旅僧侶「ジュリエット女王、彼の愛を……受けとられますか?」

ジュリエット「(私は……)」

「(ドンピシャリ! ここだ! 遠距離型メラミ!)」

ズォッ……ゴァッ

「……メ、ガ、……ンテ」

ゴォォォォォォォッ──

なんだなんだ!?
地面が吹っ飛んだぞ!!?
勇者様の居た辺りだ!!!

ジュリエット「勇者様……!」

「(やったか!?)」

モクモク……

勇者「……」

「(なっ)」

勇者「この様に私の愛は何者にも砕けず、鉄の様に硬い」

「(アストロンだとぉぉぉぉっ! )」

なんだ演出か~

勇者様も凝ってらっしゃるわね~

「(せっかく頑張って爆弾岩まで捕まえて……一生懸命地面掘って仕掛けたのに……)」

「(勇者めぇぇぇぇ!)」

旅僧侶「……彼に答えを、ジュリエット女王」

ジュリエット「……私はっ!」

「茶番もそこまでにしてもらいたい」

ジュリエット「!?」

南の王子「全く、とんだ国賊も居たものだ」

まさか……!

南の王子だ!

乗り込んで来やがった!

南の王子「やれやれ……よもや同盟国の王子の婚約者を略奪するとは……これだから蛮族の勇者は」

ジュリエット「同盟国ですって!? まだ調印はされてないでしょう!?」

南の王子「つい先程大臣に調印してもらいましたよ。これで晴れて中央大陸国と我が国、南の大陸壁の国は同盟国となりました」

ジュリエット「何ですって……?」

メイド「(まさか同盟を姫様なしで済まして来るなんて……!)」

ジュリエット「私は認めた覚えはありません!」

南の王子「今更になって国の代表気取りですか……女王様」

ジュリエット「なっ」

メイド「女王様に向かって失礼な!」

南の王子「こちらの大臣や臣下の方々に聞きましたよ? 国王が亡くなって内政がガタガタになってもあなたはなにもせずただ部屋で塞ぎ込んでるだけだった……」

ジュリエット「っ……それは」

南の王子「王族ならそう生まれた責務を果たさなければならないのに……あなたは逃げた」

ジュリエット「そう生まれた……責務」

南の王子「逆にその責務を果たさないものは……国をまとめる資格もないと言うことです」

ジュリエット「……私は」ガクッ

メイド「姫様!」

南の王子「王が死に、混乱した国をまとめたのは誰です?」

それは……

南の王子「国王が独自に作った貿易ルート、関係、等々一遍に壊れたものを自ら出向き、頭を下げ、これからもよろしくお願いしますと頭を垂れたのは誰です?!」

……大臣だ。

大臣……だよな。

南の王子「その大臣が国の為に同盟国の調印をして悪いとおっしゃられるのかあなた方は!?」

…………。

南の王子「この国は今非常に危機を迎えている。雨がずっと降らないため作物が育たず、故に今大部分の食料は貿易で賄っている」

南の王子「しかし今その航路に巨大なモンスターが出てまともに食料が運べない。そうなるとこの先どうなるか?」

……。

南の王子「大臣や臣下はそのモンスターの討伐を我が国に依頼、その際に同盟を結ぶことになったと言うに……」

ジュリエット「……」

大臣「(上辺ごとだけをペラペラと……)」

南の王子「国は遊びではないのです、女王様」

ジュリエット「それは……!」

南の王子「ならば、決断すべきことは……わかっておられますね?」

勇者「ならばそのモンスター、私が退治して来ましょうか?」

南の王子「なに?」

勇者「ならば女王様の望まない嫌な同盟は組まずとも良いでしょう?」

臣下「おのれ王子に何て口の聞き方を!」

南の王子「まあまあ。勇者君、君にそんなことをしてもらう必要はないのだよ」

勇者「なに?」

南の王子「調印上とは言え私は同盟国の王子。そして君はこの国に帰属している勇者だ」

南の王子「勇者法で勇者がもし、帰属している国に仇なす者な場合……君は勇者を剥奪されることになるが……構わないかい?」

勇者「……そんなわけ」

南の王子「あるんだよ! 同盟国の王子の婚約者を強奪なんて普通打ち首ものだよ? そうならないだけマシに思ってくれ」

南の王子「そしてこの場合どっちが国の意見でどっちがわがままかぐらい……蛮族の君にもわかるだろう?」

ジュリエット「っ…」

南の王子「中央大陸の民もそうだ! 今正しいことを言っているのは我々か? 彼らか?」

それは……なあ?

……貿易が出来なくなるのは困る……な

南の王子「では、せっかくだしこのまま我々の婚姻の儀を始めようか。ジュリエット女王」

ジュリエット「(ごめんなさい……勇者様……ロミオ)」

臣下「ふん……奴め、結局仕留め損ないおって。南の王子に恥をかかしたわ」

「……(所詮こんなものか。勇者)」

勇者「……」

南の王子「勇者の身柄を拘束しろ。結婚式が終わるまで何を仕出かすかわからんからな。
ああ、この場面で勇者と呼ばれるのは不名誉か。今は国に仇なすただの国賊でしかないわけですし」

兵士「勇者様……すみません」

勇者「……」トボトボ

「(こんなものか……私が殺したがっていた、村のみんなの敵の末裔は)」

僧侶「(ゆーしゃさま……!)」

南の王子「女王を、国を守るのには色々な強さが必要なんだよ。勇者君」




「それだけには同意だな、クソガキ」

南の王子「なに!?」

旅僧侶「確かに国は綺麗事だけじゃ回らない。色々な強さが必要だ。国を守る思いの強さ、何者にも物怖じない強さ、そして……姫様を思う心の強さ」

南の王子「何者だ貴様は!?」

旅僧侶「ただの通りすがりの者さ」

ボワァン

勇者「ちょっと好奇心旺盛で祭り好きで、お節介な……な」

ジュリエット・メイド「勇者様っ!」
僧侶「」グッ
オカマ「」グッ

南の王子「勇者が二人……だと!?」

勇者「(クックック……モシャスで入れ替わるとは面白い、最高だよ勇者)」
────

勇者『一番効果的なのは同盟を組んでから俺を帰属した一兵士として追い出すやり方だが……これはこいつで何とかなる』ボワァン

旅僧侶『はっはっは! 確かに勇者が二人居ては法も何もないな』
────
兵士「ゆ、勇者様?」
勇者(旅僧侶)「俺が勇者だ!」キリッ

南の王子「猪口才な……!」

勇者「おっと俺は勇者でもなんでもない。勇者はそこにいる人だからな」

勇者(旅僧侶)「俺が勇者だ!」

勇者「頼みの勇者法か何かが使えなくて泣いちゃいそうか? クソガキ」

南の王子「ぐっ……」

勇者「国や親の後ろ楯がないと何も出来ないお前に姫様はやれんなぁ」ダキッ

ジュリエット「勇者様!?」

南の王子「ジュリエット女王!?」

勇者「姫様が欲しければ強さを示せ! 誰でもいい、その強さを見せれば姫様と結婚する権利をやろう!」

な、なんだってーーー!?

僧侶「むちゃくちゃ過ぎますよゆーしゃさま!」

オカマ「あらぁん、でも面白いじゃない。姫様を賭けて決闘だなんて……熱いわァ!」

南の王子「ぐっ……ぐぅっ」

臣下「ちぃっ! 構わん取り押さえろ!」

兵士「しかし……」

臣下「奴は自分でただの人だと言っているではないか! ならば遠慮はいらん!」

兵士「勇者様……すみません!」

兵士「奴は勇者ではない! 囲んで包囲しろ!」ジリッ…ジリッ…

ジュリエット「勇者様……一体どうするおつもりで?」

勇者「なぁにちょっと舞台に足りない奴がいたから上げてやり行くだけさ」

ジュリエット「それは……まさか!」

勇者「まっ、どうなるかはわからないが……ここまでくりゃ破れかぶれだ。飛ぶぞ、捕まれ」

ジュリエット「は、はいっ」グッ

勇者「姫様と結婚したいものはついてこい! 王国湖にて待つ」

勇者「ルーラ!」ビュォーンビュォーン

兵士「勇者が逃げたぞー! 追えー! 王国湖だ!」

臣下「絶対に逃がすな!」

大臣「(あれが……勇者か)」

僧侶「王国湖はこちらになりまーす。足元に気をつけてください」

「勇者……それでこそ勇者だ! 殺し甲斐がある! ハハッ! ハハハハッ!」

港町 船内──

船員「ぐっ」

魔法使い「ちょろいちょろい~」

戦士「この武器の量は……本気で戦争でも起こさせる気か壁の国は」

魔法使い「この武器は何かな~?」

船員「さ、さあ?」

魔法使い「ふ~ン……白切っちゃうんだぁ~? また地獄のマヌーサかけちゃぉっかな~?」

船員「ひ、ひぃっ! もうあれはやめてくださいっ!」

戦士「じゃあ吐け」

船員「それは……」

船長「吐いたら全員どうなるか、わかってんだろうな?」

船員「そ、それは……」

魔法使い「捕まってるのにまだ船長さん気分なんだね~」

船長「ふんっ。殺すなり何なりすればいい」

船員「そ、そんなぁ~!」

戦士「……(船長のこの落ち着き、覚悟はなんだ? こっちが何もして来ないと思っているのか……同盟を結んだから手出し出来ないと思っているのか)」

魔法使い「あのさぁ……」ボゥ……

魔法使い「あんま舐めない方がいいよ? トレージャーハンター」

手のひらで揺れる炎の塊を船長の近くまで運ぶ。

船長「ぐっ……あつ゛っ」

魔法使い「火傷で済めばいいねぇ~……ねぇ?」ニコニコ

ピカピカッ

戦士「ん、待て魔法使い」

魔法使い「何よ~せっかく殺すのも躊躇わない空気出まくりのいい演技決まってたのに!」

戦士「じゃなくてあの鏡。光ってるぞ」

魔法使い「あ、ほんとだ。胡散臭い骨董屋から買った真実を映し出す鏡です~とか言いながらただの鏡だった鏡が光ってる!」

戦士「騙されたのがよっぽど腹立ってたんだな……」

船長「グァッ……ソレを寄せるな!」

魔法使い・戦士「」

魔法使い「そう言われると?」
戦士「寄せたくなるよな?」

船長「アア……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ」

魔法使い「あ」
戦士「あ」

──

団長「両名、よくぞ勝ち上がってきた」

ティボルト「……」
ロミオ「……」

団長「団長をあの人の代わりに継いでもう数年になるのか……」

団長「こんなこと言うのはあれだが……俺は今でもあの人がこの騎士団の団長だと思っている」

ロミオ「団長……」

団長「これより行われる団長戦決勝により、あの人から今度こそ本当に団長の座が移る!」

団長「それはティボルトか、ロミオか! 両名王国騎士に恥じない戦いをしろ! 以上だ」

ティボルト「はい!」
ロミオ「はい!」

ティボルト「恨みっこなしだぜ、ロミオ」

ロミオ「勿論」

ティボルト「なら……遠慮なく行くぜっ!」

ロミオ「ぐぅっ」

ガキィンッ──

ティボルト「どうしたロミオ! こんなものか?!」

ロミオ「(疾くて重い……相変わらずいい剣だ、だが昔から調子に乗ると大振りになる癖が抜けてないぞ!ティボルト!)」

ロミオ「せぁっ!」

ティボルト「なにっ!?」

キィンッ──

ティボルト「ちぃ(大振りになったとこを狙われたか、危なねぇ)」

ロミオ「(あれで剣を離さないとは……さすがだな)」

ティボルト「(やるなロミオ……! さすがあの人の息子だぜ)」

ロミオ「(この団長戦では剣を離した方の負け……ならば!)」

ティボルト「(なに?! 剣を片手持ちに換えただと?)」

ティボルト「そんな握りで……! 舐めてるのかロミオ!」ジリッ……

ロミオ「……」ジリッ……

ティボルト「ならば望み通り振り払ってくれる!」ブォォッ

ロミオ「(来た! 薙ぎ払い! これを待っていた!)」クルッ

ティボルト「なっ……!(剣を体ごと一回転させて俺の一撃を避けただとっ……! 剣だけ狙いに行ったところを逆手に取られたか!)」

ロミオ「はあああああっ!」

回転した勢いと天高く振りかぶったロミオの剣の一撃が……。

ガキィンィィィィッ

ティボルトの剣を見事に叩き折った。

────

ティボルト「完敗だ、ロミオ」

ロミオ「ありがとう、ティボルト」

ティボルト「剣の訓練、続けてたんだな」

ロミオ「何故それを?」

ティボルト「刃を交えればわかるさ。お前の親父さんの下で、二人で訓練してた頃より……ずっとずっと磨かれていた」

ロミオ「……ティボルト」

ティボルト「団長おめでとう、ロミオ」

ロミオ「ああ。ありがとう! ティボルト」

団長「見事な剣技だったぞ、ロミオ」

ロミオ「はい……」

団長「どうした? 元気がないじゃないか。親父さんの跡を継げたんだぞ?」

ロミオ「嬉しいです……けど、この瞬間を見て欲しかった人は……」

ジュリエット「ロミオ……」

ロミオ「ジュリエット!?」

団長「女王様!? 何故こんなところに?」

ジュリエット「先程の戦い拝見させてもらいました。見事でしたわ、ロミオ」

ロミオ「ジュリエット……僕を選んでくれた」

勇者「それはまだちょっと早いな~ロミオ君」

ロミオ「なっ! 勇者様!? 何故ここに!?」

ジュリエット「ちょっと事情が色々ありすぎて……」

勇者「こっちはこっちでてんやわんやってわけだ」

ロミオ「は、はぁ」

ジュリエット「ともかく、団長おめでとう、ロミオ」

ロミオ「ありがとう、ジュリエット」

ヒューヒュー

お熱いな二人とも!

ティボルト「(昔から二人を見てきた騎士団のみんなはやはり勇者様よりロミオとジュリエット王女が一緒になってもらいたいと思っているんだろうな……)」

勇者「さて……そろそろか」

ロミオ「何がです?」

臣下「居たぞ! 勇者だ!」

次の会場はここか~。

わいわい、がやがや


爺「お~騎士団がおるわい。そう言えば今日は団長戦だったかの」

ロミオ「爺さん! これは一体?!」

爺「なんじゃ知らんのか? 今から勇者様に勝ったものが姫様と結婚する権利が与えられるとか何とか……ようするに決闘するみたいじゃな」

ロミオ「なっ……」

勇者「役者が揃ったな、始めるか」

勇者「さあ南の王子! 姫と結婚したいのなら俺にその強さを見せてみろ!」

南の王子「ぐぅ……」

臣下「(クソ……洗脳が切れ始めてるか)」

臣下「見ての通り王子は具合が優れない、よって王子の代わりの者を出す」

勇者「……おいおい。代わりじゃ意味ないだろうよ」

臣下「これも強さではないかな? そう、地位の強さだ」

勇者「けっ」

臣下「ちょうどここにはうち自慢の騎士達がいることだしな。誰か王子の代わりに」

ロミオ「僕が行きます」

ジュリエット「ロミオ?!」

臣下「ロミオだと? そんな名も知らぬやつを行かせるわけにはいかん! ティボルト、君が行きなさい」

ティボルト「お言葉ですが臣下、ロミオは私を下して団長になった男でございます」

臣下「ほぅ……(ぽっと出の雑魚じゃなかったか)」

ティボルト「(妙だな……ロミオの名を聞いてあんな態度を取るなんて。昔と言えど国内では知らぬものはいない程の腕だったのに)」

臣下「ではロミオ、君が行きなさい」

ロミオ「はい……」

ジュリエット「駄目よロミオ!」

ロミオ「ごめんジュリエット……僕は行かないといけない」

ロミオ「結婚する権利をくれてやる……だって? どんな理由があっても君を物のように扱う勇者を……僕は許せない」

ジュリエット「違うのロミオ……彼は!」

勇者「来たか、ロミオ!」

ロミオ「勇者……」

勇者「俺に強さを見せたものに姫様と結婚する権利が与えられる…」

ロミオ「そんなことはどうでもいい……何故君が彼女を幸せにしなかった?」

勇者「……本当にそれで良いと思ってるのか? あんたは」

ロミオ「何が言いたい?」

勇者「まあいいさ。俺はあの三人の為にこうしているまで……あんたに取ってはいい迷惑だったかもしれないがな」

ロミオ「勇者……君はもしかして」

勇者「ただし……簡単に負けるつもりも毛頭ないがな。勇者がすぐ負けたら格好悪いだろ」

ロミオ「ふ、ならば僕は僕として、君に挑戦する!」

ロミオ「君に勝ってジュリエットを幸せにしてみせる!」

ジュリエット「ロミオ……」

臣下「おい! 話が違うぞ! お前はあくまで王子の代わりで……」

勇者「ならばこうしよう。俺が勝てば姫様は南の王子と一緒になる、ロミオが勝てば姫様はロミオと一緒になる……どうだ臣下さん?」

臣下「そんなもの貴様がわざと負ければ……」

勇者「仮にも勇者の名を背負ったものがそこら辺のやつに負けてみろ、もうその者は勇者ではなくなる……違うかい?」

臣下「貴様が勇者ではなくなる……!」ゴクリ

臣下「いいだろう! 認めようじゃないか! 貴様が負ければ神託の証を湖に捨ててもらうからな!(どっちに転んでもこっちには得しかないしな……グフフ)」

勇者「ご自由に。さて、じゃあ南の大陸の為に頑張りますか(棒)」

ロミオ「……行くぞ、勇者!」

ん? ってことは勇者様が勝ったら……

女王様が南の王子と一緒になるってこと?

何か良くわからんがそれは嫌だな……

爺「行けぇロミオ! 騎士団魂見せてやれぃ!」

ロミオってあのロミオか!

やっぱり姫様にはロミオしかいないって思ってたんだよな!

ロミオ!頑張れ!

ロミオ!ロミオ!ロミオ!

オカマ「あんなこと言うからすっかり敵になっちゃったわね、彼」

僧侶「うぐっ……グスッ」

オカマ「何泣いてんのよ」

僧侶「会場、ううん……世界のみんながゆーしゃさまを敵視しても……私だけは絶対味方ですからぁ……」

オカマ「……何でこんな損な役回りしてまで彼はあの二人を……」

僧侶「それは……ゆーしゃさまが勇者だからです」

オカマ「意味わかんないわよ」

僧侶「守りたい人を守って、助けたい人を助ける。それがゆーしゃさまなんです……だから……ゆーしゃさまは……ずっと昔から彼は……勇者だったんです!」

勇者「ルールは?」

ロミオ「団長戦と同じ、剣を離したら負け、でどうだろう」

勇者「さっきみたいに折られても負けか?」

ロミオ「おとなしく負けを認めてくれれば、ね。離してないからとゴネる人もいるんだ」

勇者「はは、いい屁理屈だ」

勇者「そういや魔法はいいのか?」

ロミオ「好きに使いなよ。剣だけじゃ僕が勝つのは目に見えてるしね」

勇者「言うじゃないのロミオ君。なら……」

勇者はギラを唱えた

勇者「遠慮なく行くぜぇ!」

ロミオ「おおおおおっ」

ジュリエット「(ロミオ……勇者様っ)」

勇者が放ったギラをロミオは軽いサイドステップで避ける。

勇者「甘いな!」

ロミオ「くっ」

地面に着弾した瞬間にギラ系の魔法は燃え上がる。魔法に精通していないロミオは魔法の種類が把握しきれていなかった。

勇者「うおぉッ」

その隙に勇者が剣の腹を側面から叩きに行く、

ロミオ「させるか!」

刃を返し、ロミオはこれを受け止める。

ガキィンッという金属同士がぶつかる音が辺りを震えさせた。

勇者「そう簡単に折らせてくれないか」ギリッ……

ロミオ「当然。剣は騎士の証だからね」ギリリッ……

勇者「なら勇者の証はなんだろうな!」

ロミオ「それは君の方が良く知ってるんじゃないか……な!」ギィインッ

勇者「なっ」

ロミオが剣をねじ込み、勇者の剣を掬い上げる。

ロミオ「はあっ!」

そのままロミオは勇者の肩口に向かって袈裟斬り。

勇者「(おいおい直接攻撃ありかよ!)」

勇者は素早く剣を引き戻し体のガードに当てる、

ロミオ「もらった!」
勇者「しまっ──」

急いで体を守った為に不十分な体勢で剣を持つ腕も、姿勢もバラバラだ。

そこにロミオの剣撃が──

ガキイィィィンッ──

勝利を告げる役割の剣は……空中でクルクルと回りながら──

勇者「(負けちまったか……手を抜くまでもなく元々剣じゃ敵わないなこりゃ)」

ロミオ「(僕の勝ちだ……!)」

ジュリエット「(ありがとう……勇者様)」

南の王子「……」

ロミオ「(あれは南の王子……? ジュリエットに向かって何を)」

南の王子「メラミ」

ボォッ──

ジュリエット「え」

ロミオ「ジュリエット!!!」ガバッ

ズォォォォォ──

勇者「なっ……!(直接姫様を狙って来ただと!?)」

ジュリエット「ロミオ……ロミオ……!」

落ちた頃には、結末をがらりと変えていた。

勇者「僧侶!!!」

僧侶「はいっ! ベホイミ!」パァァ

ロミオ「ぐっ……ぐぅっ」

僧侶「ロミオさん……!(火傷が酷い……)」

勇者「どういうつもりだお前!!!」

南の王子「ククク、キヘヘヘへ……魔王様に歯向かうからこうなるんだ」

勇者「魔王……だと?」

臣下「(こいつ……!)き、きっと南の王子は疲れているんだ。今日はもう休ませる。結婚なりなんなり好きにすればいい」ソソクサ

勇者「待てよ! そんな適当な理由で見過ごすわけないだろ!」

臣下「ちっ……大臣! 何とかしろ!」

大臣「私は……」

臣下「南の大陸と戦争になってもいいのか!?」

戦争だって?

一体どういう……

大臣「私は……!」

メイド「いい加減にしてください、お父様」

勇者「お父様!?」

ジュリエット「大臣が……メイドの」

大臣「……メイド」

メイド「あなたが国を思ってあれこれしてるのは認めます。けれどそれが必ずしも国にとって良いことじゃないのです」

大臣「だが……」

メイド「これは武器密輸の調印書です。南の大陸は同盟の際に大量の武器をこの地に持って来ようとしています」

なんだって!?

戦争でもするつもりかやつらは!

これだから南の大陸何かと同盟を組みたくなかったんだ!

大臣「それは……!」

メイド「見つけて欲しかったんでしょう? じゃないとあんな番号をキーナンバー(私が生まれた年なんか)にしませんよ」

大臣「入ったのか……私の書斎に」

メイド「ええ」

大臣「二度と入ることはないと言っていた癖にな」

メイド「人は変わります。でも、変わっちゃいけないものもあると思うんです」

メイド「私はあの二人には……変わって欲しくないんです」

大臣「メイド……」

大臣「国王もそんなお方だった……国がいくら変わって行こうと……あの人だけは変わらない。だからこそ彼には人望があった……そして私には……それがなかった」

メイド「お父様……」

大臣「内政を抑えられず、王の代わりにもなれず……戦争を回避する為に南の大陸との同盟を選んだ。そしてその為に武器の密輸も……私が弱いばかりに」

メイド「ごめんなさい……何もかも押し付けたせいで」

大臣「構わんさ。これからは姫様やロミオ、そしてお前が何とかしてくれる。この国を……きっと元に戻してくれるだろう」

メイド「お父様……」

大臣「この国に武器を密輸させようとしたのは私だ。責任は全て私にある」

ジュリエット「大臣……」

大臣「すみません女王様、私の力が足りないばかりに……この国を間違った方向へ進ませてしまって」

ジュリエット「そんなことはありません。お父様のいなくなった後、頑張ってくれたのは紛れもなくあなたです」

大臣「勿体無いお言葉、ありがとうございます」

臣下「な、なんだこれは! 大臣!?」

大臣「これでどちらが国の意見か……わかったかな? 臣下。お前は首だ。無論、私もだがな」

臣下「なっ、なぁっ!」

臣下「戦争になっても構わんのか!? こっちには南の王子が……」

魔法使い「ヒュ~~スト~ンっと」

戦士「どうやら間に合ったらしいな」

勇者「おせぇよお前ら!」

魔法使い「なにさ~せっかく武器の密輸の証拠を抑えて来たのに」

勇者「それはもう大体型がついてるよ」

戦士「ほう、じゃあこいつはどうだ?」ドスッ

船長「グッ」

モ、モンスターだ!

ヒィィィィッ

勇者「……どういうことだ?」

魔法使い「この人が武器を密輸していた船の船長さんだったんだよねぇ~…… ねぇ?」

船長「は、はひ!」

臣下「(あのバカ……!)」

勇者「ってことは、」

戦士「ああ。魔物だよこいつは」

魔物……?

バカ! 魔王に忠誠を誓った人間の姿をしたモンスターだよ!

それって人間なのか?モンスターなのか?

元々は人間らしいが忠誠を誓うとモンスターの力を授けられるらしい……。

戦士「つまり今回の一件、全て裏からこいつらが仕組んでたってわけだ」

大臣「そんなバカな……」

勇者「こりゃ……たまげたな。でもどうやって炙り出したんだ? 神託の証もないのに」

魔法使い「これだよ! 古から伝わりし真実を映し出す鏡、ラーの鏡だよ!」

勇者「噂には聞いたことあるが……まさか実在してたとは」

魔法使い「ふふふ~お値段は100000gからとなっております」

戦士「たかっ! お前それ100gで骨董屋から買ったものムガッ」

勇者「ってことは……」

戦士「この中にも内通してる魔物がいる筈だな」

臣下「(不味い……だが鏡に近づかなければいいだけ。こっそり逃げ……)」

魔法使い「あっ、また光ってる」

戦士「近いな」

臣下「グギャアアアア」

勇者「やっぱりお前か!!!」

臣下「バレたら仕方ない。我は魔王様に仕えしものなり!!!」

戦士「妙だと思ったぜ。海難事故で行方不明になってた南の王子がひょっこり出てきたりするもんだからよ!」

大臣「まさか南の大陸が戦争を仕掛けて来るという情報も……!」

臣下「全てでたらめよ! 人間達を争わせる為のな!」

大臣「なんてことだ……それでは私は……」
メイド「いつから魔王に魂を売ったのよ! 昔はお父様と一緒に頑張ってくれてたのに……!」

臣下「いつから魂を売っただと? カカカ……そんなもの最初からに決まっておるだろう」

メイド「そんな……」

臣下「魔王様が復活するまでこの国を潰す機会を伺っておったのよ」

臣下「貿易中海賊に襲われた時、海賊船の中でこいつを見つけてな……それで今回のことを思いついたわけだ」

大臣「……あの南の大陸の船がこちらを攻撃して来たと言って逃げ帰って来た時か……!」

臣下「カカカ……海賊に襲われたのを南の大陸の船のせいにし、南の王子を操って戦争を仄めかせし、お前を信用させるのはわけなかったわ」

戦士「操る……だと」

臣下「おっと口が滑ったな、まあよい。こうなった以上ここにいるもの全員殺す他あるまい」ギロッ

ひいぃぃぃぃぃ

お助けぇぇぇぇぇ

バカッ! 押すなッ!

臣下「人間とは哀れよな。脆弱で怯えることしか出来ぬ弱い生き物よ。魔王様に忠誠を誓えば救われると言うのに」

勇者「しかし良く喋る魔物だなおい」ジャキンッ

臣下「勇者よ、貴様ロミオに負けたら勇者をやめるのではなかったのか?」

勇者「あれは途中でうやむやになったからな。それに……今の俺はただの通りすがりだ」

臣下「ふんっ……屁理屈を言いおるわ」

勇者「お前の計画は全部無駄に終わった。後はお前が消えればめでたしってわけだ」

臣下「計画などもはやどうでもよい。勇者、貴様さえ殺せばこの世界は魔王様のものとなるも同然だからな!」

臣下「神託に目覚めていない今なら貴様をやることなど造作もないわ!」

勇者「……(神託に目覚めるだと……? さっき負けたら神託の証を捨てるよう言って来たことに関係あるのか……?)」

戦士「ったく、最初からこいつらに踊らされてのかと思うと腹が立ってくるな」ジャキィッ

魔法使い「まあでもいいんじゃない? こいつを倒せば全て解決、わかりやす~い」スッ

戦士「全くだな、ってわけで加勢するぜ勇者」
魔法使い「報酬アップよろしくね~」

勇者「けっ、ちゃっかりしてんな」

僧侶「ゆーしゃさま!」

勇者「僧侶! ロミオの具合は?」

僧侶「もう大丈夫です!」

勇者「よくやった!」

勇者「んじゃまあとっとと片付けますか」

臣下「カカカ……そう簡単に行くかな?」

臣下「ムゥンッ……ハァァァァァ! 魔王様! 我に力を!!!」

グゥン……ボコッ、ブォッ、ギチョッ

魔法使い「うわぁ何かタコみたいになった!」

戦士「これが魔王に忠誠を誓った成れの果てか……!」

僧侶「皆さん! 離れていてください!」

勇者「今日の晩飯は屋台名物たこ焼きと行くか」

ティボルト「勇者様! 我々も力を貸しますよ!」

「「「おおおおお!!!」」」

臣下「フンッ、雑魚がワラワラと」ピシャッ クイッ

魔法使い「わっ、なっ、なに!?」

戦士「魔法使い!?」

魔法使い「体が勝手に……!」

臣下「カカカ……!」

魔法使い「この詠唱は……やば……! みんな離れて!!!」

戦士「!!! あんたら! 離れろ!!!」

「「「なにっ!?」」」

臣下「……ベギラマッ!」

ブォッ──

「ん……何も……ない?」

戦士「バカ野郎! それ以上前に来るな!」

ゴォアァァァァッ──

「な、なんだぁッ!? 地面から火柱が!!!」

グォォォォォォ───

勇者「ベギラマってレベルじゃないだろこれ……」

臣下「さて、これで雑魚は手出し出来まい。手駒も手に入れたことだし……さっさと片付けるとしよう」

魔法使い「何なのよこれ! んぐっ……動けないぃぃいいい!」

勇者「何で魔法を撃ったんだよ!?」

魔法使い「違うの! 体が勝手に動いて……!」

戦士「さっき奴が操るとか何とか言ってたのに関係あるのか……?」

勇者「それにしたって詠唱しなけりゃ呪文は出ないだろ」

戦士「……いや、そうとも限らない」

勇者「どういうことだ?」

戦士「書法魔法だ。サインを使って中空に詠唱すればいい」

勇者「つまり奴はサインや呪文が発動するトリガーまで操れるってことか?」

僧侶「それだと魔法使いさんの意識そのものを乗っ取らないと無理だと思います」

臣下「死ねぇ勇者! メラミ!」

魔法使い「ごめーん勇者君!」ブォォッ

勇者「ッとォォォ!!! こんのっ!」

臣下「ふんっ!」

魔法使い「わわっ」

勇者「ちぃぃっ! これじゃ迂闊に奴に攻撃したら魔法使いに当たっちまう! このままじゃ埒があかねぇぞ!」

僧侶「……つまり操っているのは体だけ、だとしたら」

僧侶「作戦があります! ゆーしゃさま! 少し時間を稼いでください!」

勇者「任せろ!」

僧侶「戦士さん、この杖を持っていてください」

戦士「どうするつもりだ?」

僧侶「私の考えが正しければ敵はまだこっちを一人は操れます。けれどそれは今出来ません」

戦士「詳しく説明してくれないか?」

僧侶「まず最初に操ったのが魔法使いさんだと言うことです。近くには戦士さんも居たのに敵は魔法使いさんを選んだ」

戦士「たまたまじゃないか? それにまだ操れるなら二人同時に操れば良かったじゃないか」

僧侶「はい。私もそう思いました。けれどしなかった……いや、出来なかったんです。魔法使いさんと戦士さんは同じ側、更に二人とも近くに居ましたから」

戦士「……続けてくれ」

僧侶「つまりあの操れる能力は人が持つマリオネットの様に片手、左右で一つづつじゃないと無理何じゃないかと思うんです。
二人同時に操らなかったのは見えない魔力の糸による絡まりを防ぐ為」

戦士「なるほど」

僧侶「次に魔法使いさんを狙った理由、これは簡単です。魔法が使えるから、です」

戦士「……つまりあの能力には行動範囲があるんだな?」

僧侶「恐らくは。敵はそれを知られたくないが為に遠距離からも攻撃出来る魔法使いさんを選んだ」

僧侶「そして本人の意思に関係なく魔法を撃ってる……と言うことは恐らく遠隔呪文。魔法使いさんを魔力を溜め込んだ杖に見立て、微力の魔力を魔力の糸から流しサインで書法詠唱、呪文発動により魔法使いさんから無理矢理魔力を引き出してる可能性が高いです」

戦士「これだから魔物は厄介だな。モンスターの癖に学が高いと来てる」

戦士「……俺はどうすればいい?」

僧侶「今から私がわざと捕まって囮になります。その隙にこの杖を……」

戦士「わかった」

僧侶「では行きますっ!」タタッ

勇者「うぉっと! 作戦終わったか! 僧侶! 俺の役割は!?」

僧侶「すいませんゆーしゃさま! 今までの囮が役割でした!」

勇者「うっそーん!」

僧侶「決して今回仲間外れにされた仕返し……とかじゃないですからっ」
勇者「(仕返しだったのか)」

僧侶「覚悟!」

臣下「どんな作戦を立てても無駄なことよ!」ググッ

魔法使い「もうっ!」

僧侶「ならこちら側から回り込んで……!」

臣下「(バカめ!)」ピシャッ クイッ

僧侶「あっ……」

臣下「カカカ……コレクションが増えたわ」

戦士「(かかったな!)」

僧侶「(魔力の糸で操ってるのなら魔法で切れるはず!)」

臣下「バカの一つ覚えだな!」ピシャッ

戦士「なっ……!(まだ操れたか!)」

僧侶「そんな……! まだ操れるなんて!」

臣下「残念だったなァ! この体になれば三人までは操れるんだよ!」

戦士「うぉぉぉ!!!」ブンッ

全身を操られるほんの少し前に戦士が僧侶の杖を空高く投げた。

僧侶「(戦士さん!さすがです!)」

僧侶「これで……終わりです!」

僧侶「バギマ!」

僧侶が杖に溜め込んでいた魔力を遠隔呪文で起動、杖から真空刃が舞い踊る。

臣下「ぐぬぅっ……小癪な!」

僧侶「これで動けるはずです! このまま一気に攻撃を……」ガクンッ

僧侶「(右足と左腕がまだ……動かない!)」

臣下「我が秘術、パペットを見破っているとはな。だが糸を全て切るまでには至らなかったようだな!」

戦士「クソッ」

魔法使い「体半分がまだ言うこと聞かないよぉ!」

臣下「惜しかったな小娘よ。だが、ここまでだ」

魔法使い「嘘……ちょっと……やめなさいよ!!!!!」

臣下「まずは貴様からだ、小娘」

魔法使い「動きなさいよ私の右手!!!!!」

臣下「イオラ」

僧侶「あ……」

ズゴォォォォォォ────

僧侶「……」

恐怖の余り目を瞑るも、魔法による衝撃波はいつになっても来なかった。

恐る恐る目を開けると……そこには──

勇者「大丈夫か?」

ゆーしゃさまが、居ました。

僧侶「ゆーしゃさま……。凄い怪我……! 私を庇って……」

勇者「すげぇ痛いが、それだけだ。気にすんな」

僧侶「……私を囮にして敵を倒せたのに……どうして……? ここには優秀な僧侶様達もいっぱいいるから例え死んでも」

勇者「お前より守りたいものなんて俺にはない。だから囮に何か出来ない。例え何があっても」

僧侶「ゆー……しゃさま」

臣下「ちぃ、糸が切れたせいで左手は動けたか! 直撃なら二人とも吹き飛ばせたものを!」

魔法使い「はぁ……はぁ……っぅ……」

戦士「左手で唱えたメラを右手にぶつけて軌道を変えるなんて無茶しやがって!」

魔法使い「勇者君の痛みに比べたら……全然だよこんなの!」

戦士「魔法使い! 俺の上を狙え!」

魔法使い「りょーかい! バギ!」

スパスパッ

戦士「よし! 動けるぞ!」

臣下「させるかァ!」クイッ

魔法使い「くぅっ」

戦士「クソッ! 僧侶! 魔法使いの糸を!」

僧侶「は、はいっ!」

臣下「させるか!!!」グイッ

僧侶「きゃっ」

戦士「ちぃぃっ(勇者も動けそうにねぇ……! どうする!?)」

臣下「死ねぇぇぇぇ!!!」

魔法使い「(させない……!)」

戦士「(魔法使いのやつまた自分の手にメラを当てる気か!?)やめろ! 今度こそ手が焼け焦げるぞ!」

魔法使い「あんたを殺すぐらいなら……こんな手ない方がいい!」

戦士「魔法使い……!」

臣下「イオラ!」

魔法使い「くっ……!」

「魔法使いさん! イオラは止めました! メラなしで!」

魔法使い「っ……」

魔法使い「ほんとだ……出ない。あなたは……?」

「勇者様のピンチってんで駆けつけたただの元魔法使い見習いですよ」

臣下「記述師とか言うガキか……!」

記述師「ガセ記事書けなんて脅しに屈する俺じゃないぜ元臣下さん? 今はタコ野郎か」

臣下「貴様何かに何が出来る! イオラ!」

臣下「……何故出ない!?」

記述師「無駄無駄。書法魔法ってのは少しでも違う意味の文が入れば呪文として完成しない。つまり俺がちょいちょいっと魔法使いさんのにサインで書き加えてやれば呪文は発動しないってわけさ」

記述師「詠唱呪文だけ覚えたって意味ないんだよ」

臣下「ぐぬぅぅぅ」

臣下「猪口才な……!」

戦士「後は魔法使いと僧侶の糸を切るだけだ! 勇者! 動けるか!?」

勇者「……後1分」

戦士「なら……! ウォォォ!」ザンッ

戦士「駄目だ感触がねぇ! クソッ……こういう時魔法戦士じゃない自分が憎いぜ」

魔法使い「戦士! 後ろ!」

南の王子「グッ……グゥゥ……メラ……ミ」
戦士「しまっ……」

シュボッ──

魔法使い「あっ、動けるようになったよ!」

僧侶「私もです!」

南の王子「」ガクリ

戦士「(最初から二人の糸を狙って撃ったのか……?)」

臣下「おのれぇ!(操る人数を増やしすぎたせいで奴の洗脳が解けたか……!?)」

勇者「よし……動けるぐらいには回復したか」

勇者「ありがとな、僧侶。遠隔呪文でずっと回復してくれて」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「僧侶、もうあいつは人間じゃない。魔王に魂を売った人間はその時点で魔物になる……だから、俺はあいつを殺す」

勇者「それが勇者としての俺の使命であり、守りたいものを守るためにやらなきゃいけないことなんだ」

僧侶「……はい。だから私も目を背けません」

勇者「よし、行くぞ。援護頼む」

僧侶「はいっ」

臣下「糸を切ったぐらいで調子に乗るなよ!!?? 勇者、次は貴様を駒にしてくれるわ!!!!」

勇者「へっ、やってみな!」

勇者「うおおおぉぉぉぉォォォォォォォオオオオ」ジャキィィィン

臣下「(全魔力を注ぎ込みありったけの糸で勇者を捕縛、復活出来ぬよう湖の奥深くに沈めてくれるわ!)」

臣下「くらぇぇぇええええええっ!」ブシュゥブシュゥブシュゥ

勇者「なにっ!?」

臣下「避けられるかこの数!!!」

勇者「ぐっ……! 体に巻き付いて……」

臣下「ハッハッハ! このまま湖に放り込んでくれる!」

勇者「──なんてな」

臣下「ぬぅ……?! 勇者が……霞んで」

魔法使い「バぁーカ……」

勇者「ナイス援護(マヌーサ)魔法使い!」

勇者「こいつで終わりだぁぁぁぁぁ!」

臣下「おのれ勇者ァァァァァァァ!!!!!」

僧侶「風よ……彼の者に疾風の加護を」

突然吹き荒れた風が勇者の背を押し、駆けを疾風(はやて)に変える。

勇者「神風一閃──」

サァァァ──

吹き抜ける風と共に、刃が臣下の体を引き裂いた!

臣下「グゴッ……ガハッ……覚えていろ……勇者……め」

臣下「魔王様の……完全復活は…もう……そこまで来て……いる…カカカ……!」サラサラ……

勇者「」チャキン

勇者「魔王……か」

勇者「来るならこい。こっちは10年前から待ってんだからな」

「おおおおおお勇者様が勝ったぞォォォ!」
「さすが勇者様だ!!!」

「他の三人もお見事!!!」

戦士「大丈夫か?」
魔法使い「ん~~魔力がなくて立てそうにないかも」

戦士「ったくしょうがねぇな」ドッコラセ

戦士「あの野郎一撃でキッチリ仕留めるとはな。やるじゃねぇか」

魔法使い「やっぱ勇者君は凄いね~」

戦士「……あぁ、だが先に魔王を倒すのは俺達だ」

魔法使い「あんたも頑固だね。ま、嫌いじゃないケドね、そゆとこ」


僧侶「ロミオさんが目を覚ましました!」

ロミオ「ジュリエット……」

ジュリエット「心配したのよロミオ……」

ロミオ「はは……ごめんよ」

ロミオ「でも、良かった。またこうして君と二人でここに来れて……」

ジュリエット「ロミオ……」

ロミオ「……最初は自分の弱さ、君の立場の高さに負けて何もかも諦めてしまっていた」

ロミオ「あんなに強かった父さんが死に……強くなることに虚しささえ覚えていた」

ティボルト「ロミオ……」

ロミオ「でも、ある人が教えてくれたんだ。強さとは力だけじゃない、そのひた向きな思いこそが強さになるのだと」

僧侶「……」

ジュリエット「私も同じです。お父様が亡くなった時……全てがどうでもよくなりました」

ジュリエット「国のことは大臣達に全て委ね、私は一人で塞ぎ込んで……貴方やメイドに甘えていました」

メイド「姫様……」

ジュリエット「そして言われるままに女王になり、結婚の話が舞い込み……引き留めて欲しいが故に貴方に相談して……」

ロミオ「……」

ジュリエット「何もかも自分で決められず、女王になったのも言われたから、ずっとこのままではいけないと思っていました……。そこに、彼が現れたのです」

ジュリエット「私の何倍もの苦労を背負う勇者に、彼は自分の意思で選んで成ったと言いました」

勇者「……」

ジュリエット「そんな彼に教えられ、助けられ……決心してここまで来ました」

ジュリエット「大臣、本当に苦労をかけました。私が不甲斐ないばかりに」

大臣「姫様……」

ジュリエット「そしてメイド……本当にありがとう。あなたには助けられてばかり」

メイド「私は、昔からお二人のことが大好きでしたから!」

ジュリエット「そして私達を支えて来てくれた町の皆の為にも……私はこの国を守る為にこの命を捧げる覚悟です」

女王様……

姫様……

勇者「国を守って行くためにも、隣で常に支えてくれる人が必要何じゃないか?」

ジュリエット「……そう、ですね」

勇者「そしてそれは俺じゃない……この中で姫様を思う気持ちが一番強い奴がその役を担うべきだ。俺はロミオと戦い、その思いの強さを見た!」

ロミオ「勇者……」

勇者と姫様は結婚しないってことか……?

あの剣技見たろ!? 国のこと考えたらやっぱり勇者様の方が……

剣技ならロミオだって負けてねぇ!

そうよそうよ! 城下町の人間は全員ロミオを推すね!

しかし事は中央大陸全土の問題……意見が別れるのも無理なかろうて

勇者「……」

勇者「聞け!!! 中央大陸の民よ!!!」

ざわざわ……

勇者「勇者とはなんだ!?」

勇者「神からこの証が与えられた者が勇者か!? 違うな! 少なくとも俺はそうは思っていない!!!」

ざわざわ……ざわざわ……

勇者「勇者とは……勇ある者、その全てが勇者だ!!!!!!!」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「姫様を命がけで守り通した彼もまた、この国にとって勇者じゃないのか!!!???」

勇者「勇者とは姿形じゃない!!!!! その心を持つ者こそが……勇者だ!!!!」

────

短編 僧侶の日記 Ⅳ

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勇者暦○○○年 六の月
この勇者暦、と言う年号は、初代勇者様が魔王から世界を救った時、その栄誉としてつけ始められたものらしいです。
勇者様に纏わる伝説はいくつもありますが、昨日……ゆーしゃさまもとうとうその伝説に名を刻みました!

勇者の証、と銘打たれた内容で発行された記述師さんの新聞にはこうありました。

勇者の証、それは、勇ある者の心だ

と。

ゆーしゃさまらしい言葉だと思いました。

ゆーしゃさまは勇者だから人を守っているわけでもなく、勇者だから魔王を倒しに行っているわけでもない……。
魔王を倒すために勇者にならなければならないから、勇者になった……のがゆーしゃさまなんだと思います!

なんかちょっとややこしいですかね。まあいいのです!

その言葉を聞いた中央大陸に住む皆さんも納得したようで、後日、ジュリエット女王様とロミオさんの結婚式が王国湖にて開かれます!

念を押しますが今度は本物ですよ!

そのせいか昨日は夜通しお祭り騒ぎで……ゆーしゃさまが立ち寄るとどこもお祭りになってしまうんじゃないかと思い始めて来ました。

今回は全て魔物の仕業とされ、大臣さんはまた大臣さんとしていられることになったそうです。
これからは国の為だけじゃなく、民の為に政治をすると言っていました。
民があってこその国ですもんね。がんばってほしいです。

そして南の王子さん。北の大陸へ向かう途中に海賊に捕まった所を元臣下さんに捕まったそうです。
魔物に操られていた被害者でしたが、女王様とロミオさん、中央大陸の皆さんに何度も何度も頭を下げていました。
結婚式会場の時とはまるで別人でちょっとビックリしました。

同盟は一度破棄されましたが今度は助け合いの為にいつかちゃんとした同盟を組みたいと言ってました。

南の大陸に来た時は是非寄って行って欲しいとゆーしゃさまにも言ってました。
南の王子さんは勇者学何かを学んでて、反勇者国家の考え方を何とかしたいと考えてるそうです。

いつかわかり合える日が来るといいな……。

戦士さんと魔法使いさんは女王様から恩賞をたっぷりもらったそうでニコニコしていました。

魔王は先に倒す! と、お酒の席で勇者と張り合ってたのを、私と魔法使いさんは笑いながら見ていました。
一緒の志を持つ仲間みたいで……何だか嬉しいな。

この数日間も色々あって……不安もあったけど。

ゆーしゃさまはそれを全部跳ね返して……何もかも上手く事を運んで……。

本当に凄いな……ゆーしゃさまは。

ジュリエット女王様を支えるのがロミオさんな様に……ゆーしゃさまを支えるのは私でありたいな……なんて///

べ、別に結婚したいとかそういうつもりじゃなくて……したくないわけでもなくてあああっもうねますっ!

━━━━━━━━━━

──ゆーしゃさま

──ゆーしゃさまはどんな勇者になりたいですか?

「俺は俺らしい勇者になりたいな。今のこの気持ちと何も変わらない勇者に」

──ゆーしゃさまらしいです

──なら、私はそれを支えられる僧侶になります

「しかしなれるかな……俺らしい勇者に」

──きっとなれますよ。ゆーしゃさまなら


──ゆーしゃさまらしい勇者に


────

勇者「……夢、か」

勇者「……なれるさ、お前が側に居てくれれば」

勇者「俺らしい勇者って奴に」

────

勇者「おはよう、僧侶」

僧侶「おはようございますゆーしゃさま」

勇者「行くか」

僧侶「はいっ」


僧侶「でも本当にいいんですか? 二人の結婚式に出なくても」

勇者「ん、ああ。もうこの町に俺は必要ないからな」

勇者「今日の主役はあくまであの二人だ、余計な奴はいらんさ」

僧侶「ゆーしゃさま……そんな言い方駄目ですよ!」

勇者「ははっ、何で僧侶が怒るんだよ」

僧侶「だって……この国を救ったのはゆーしゃさまなのに……いらないだなんて言うから」

勇者「あんま恩着せがましいのは好きじゃないからな」

僧侶「ゆーしゃさまがそういうなら……いいですけど」

勇者「讃えられたい、感謝されたいから助けたわけじゃないしな。俺がそうしたいからそうしただけだよ」

勇者「だからもう、後は必要ないさ。祭りもやってくれたしな!」ニヤッ

僧侶「そう……ですね!」

勇者「それにあいつが言ってた魔王の完全復活が近いってのも気になるしな……」

僧侶「いよいよ……でしょうか」

勇者「急がないとな……魔王との決戦の地に」

僧侶「はい!」

勇者「っと、そういや俺達に手紙があるぞ。こっちの二枚は俺、こっちの二枚は僧侶にらしい」

僧侶「誰からだろう」

オカマから僧侶へ──

恋の冒険はまだまだ始まったばかりよ!

勇者を愛の魔法で虜にしちゃいなさい──

勇者「誰からだ?」

僧侶「あ、これはっ、だ、誰からでしょうね! ははは……」

僧侶「(もうっ……オカマさんったら! こっちは誰だろう?)」

親愛なる僧侶さんへ

ジュリエットから勇者様のことを聞きました。お二人には本当に感謝を尽くしきれません。
これから先、また色々な障害があるでしょうがあなたに教えてもらったことを忘れず、二人で乗り越え行きたいと思っています。

あなた達二人にもし困難が立ちふさがった時、あなた達に救われた者達がいると言うことを思い出してください。

二人の旅に祝福があらんことを

ロミオより

僧侶「ロミオさん……」

勇者「こっちは~っと」

勇者様へ

何から何まで助けられちゃいましたね。
本当に何てお礼していいのかわかりません。
他人の為にここまで自分をかけられる人を私は初めて見ました。

おとぎ話に出てくる勇者様と比べても装飾ない程に、あなたは勇者様だと私は思います!

国を……そして、あの二人を救ってくださって……ほんとっっっっうにありがとうございましたっ!

旅の無事を願っています。

メイドより


勇者「俺もいつかおとぎ話になんのかね~なんて」

僧侶「なりますよ、きっと」

勇者「最後のはジュリエット女王からか」

勇者様へ

この度は本当にご迷惑をおかけしました。そして、ありがとうございました。

最後まで勇者様に頼りっきりで情けない自分ですが、これからはロミオやメイド、大臣達と共にこの国を守って行きたいと思います。

またこの町に訪れた時は是非顔を見せにいらしてください。
歓迎します、我らが英雄……勇者様。

お二人の旅路に神のご加護があらんことを。

ジュリエットより

勇者「そんなことないさ。姫様も十分頑張ってた……この国を任せられるぐらいに」

────

旅僧侶「勇者達は居ないか……フフ、あいつらしいな」

オカマ「彼らには彼らの役目があるしね」

旅僧侶「そうだな……。今度会う時もまた面白い厄介事を持ち帰ってくれるといいな」

オカマ「あんた……ほんと好きねぇ」

旅僧侶「クックック」

オカマ「好きついでにそろそろ私の気持ちにも気づいたらどうかしら?」

旅僧侶「な、なんのことかな?」

オカマ「またそうやってシラケるぅ」

旅僧侶「さ、婚姻の儀式に取りかかるぞ」

オカマ「はいはい」

────

旅僧侶「では、これより二人の婚姻の儀を始める」

旅僧侶「中央大陸が産みし偉大なる僧侶ルシエルに」

ロミオ「」スッスタッ
ジュリエット「」スッスタッ

ロミオ・ジュリエット「終わりなき敬意を」

旅僧侶「中央大陸第二十代国王に」

ロミオ「」クルッ ピタッ
ジュリエット「」クルッピタッ

ロミオ・ジュリエット「終わりなき忠誠を」

旅僧侶「……中央大陸の英雄、勇者に」

ロミオ「!」
ジュリエット「!」


ロミオ「終わりなき感謝を」
ジュリエット「終わりなき感謝を」

────

モンスターが現れた!
勇者「僧侶ォォォォ! 魔法だァァァァァ!」
僧侶「はいっ!!!」

ズバシュゥンッ!

モンスターを倒した

勇者「久しぶりのアレやるか!」
僧侶「モンスター落とし物チェックですね!」

勇者「たまにいいもん持ってんだよな……へへっ」クンクンワサワサ
僧侶「ですね……ふへへ」クンクンワサワサ


変わって行くもの、変わらなくてはいけないものは確かにあるけれど、

勇者「なかった!」
僧侶「ですね!」

勇者「じゃああのオカマで競争だ!」
僧侶「丘までじゃないんですかゆーしゃさま!?」
勇者「どっちでもいいさ! よーいどん!」シュタタタッ
僧侶「待ってくださいゆーしゃさまぁ!」

変わらないからこそ良いものもあると、私は信じている。

偽装結婚式 完

偽装結婚式編はこれで終わりとなります
読んでくださった人はありがとうございました!

ちょっと補足
武器がいっぱいあったのは海賊船から奪ったやつです
書き加えるの忘れてました

この話だけで200も……しかしやっと終わりが見えてきた……

1ヶ月近くも放置して申し訳ないです
年末は忙しいから嫌ですねほんと……

ではまた

短編 合体技!

勇者「そういや湖で戦った時の最後のアレ、なんて魔法なんだ?」

僧侶「加護魔法のことですか?」

勇者「加護魔法?」

僧侶「あれは自分の得意な系統、私なら風、癒しですね。その加護を他の人に付与出来る魔法ですよ!」

勇者「ほうほう」

僧侶「例えばあの風の加護なら移動が早くなり、癒しの加護ならしばらくの間なら体力が徐々に回復したりする効果があります!」

勇者「ピオリムやホイミ何かとはまた違うのか?」

僧侶「う~ん、似てるようで非なるもの、でしょうか」

僧侶「ピオリムは素早さ、詳しく言えば体の動く速度を上げる魔法ですよね?」

勇者「そうだな」

僧侶「風の加護は疾風を呼んで駆ける速度を上げたり船向きの調整をしたり、他にも大気を操ったりも少しなら出来ますね。簡単に言うと外側から伝わる補助魔法、みたいな感じでしょうか」

勇者「なるほどな。あの時やけに足が早く感じたのはそれのおかげだったんだな~」

僧侶「はい。加護魔法はとっても便利なんですよ。メラやギラ、バギなんかだと魔力を使う量が固定されてますが加護魔法は自分で魔力を使う量を調整出来ますから」

勇者「……つまり全魔力を込めることも……ゴクリ」

僧侶「魔力を一気に込めすぎると量によっては暴走したりするらしいですからやめておいた方が……」

勇者「そういやそんなことも習ったな~。でも一撃必殺技、とか、奥の手! とか、合体技! には男なら一度は憧れるぜー」

僧侶「合体技…」

勇者「そういや昔二人で良く考えたりしてたよな~」

僧侶「覚えてたんですね」

勇者「忘れるかよ。勇者デラックスアルティメット魔王クラッシャーデストロイ!とか変な横文字ばっかり並べてさ」

僧侶「ふふ、それで私の名前がないってゆーしゃさまに怒った記憶があります」

勇者「あったあった。でも結局名前決まらなかったんだよな~アレ」

僧侶「しばらくして私は修道院、ゆーしゃさまはお城での勇者の修行がありましたから…」

勇者「あれからもう10年か……」

僧侶「はい……」

勇者「よし! じゃあ今から合体技考えるか!」

僧侶「今から……ですか?」

勇者「おお! これからどんどん敵も強くなるだろう? そうなるとより俺達のコンビネーションを上げないと倒せない敵もいると思うんだ」

僧侶「そうですね! ゆーしゃさまがそう言うなら!」

勇者「よぅし! ならまずは……」カクカクシカジカ

僧侶「ふむふみ……(これ……合体技……なのかな?)」

グォォォォ

僧侶「ゆーしゃさま! モンスターです!」

勇者「よっしゃァッ! こいやッ!!!」

「ガルォゥッ!!!」ガジュッ

勇者「グホォァッ」

僧侶「ゆーしゃさま! 大丈夫ですか!?」

勇者「ククク……ハハッ、コヤツメ」

「ガゥ……?」

勇者「怖くない、怖くない」ヨシヨシ

「グルゥァッ!」ゴスッ

勇者「ブホヘッ……」

僧侶「ゆーしゃさま!!!」

勇者「大丈夫だ……。モンスターの心を開くためにはこれぐらいしないとな……フッ」

勇者「これぞ合体技……モンスターテイム!」

僧侶「(合体技……なのかな? 私は遠隔呪文でベホイミしかしてないけど)」

「グルルルルル」
勇者「さあ、これを食べなさい」

「グルゥ……?」
勇者「心配することはないさ。俺の昼飯の干し肉だ。毒なんて入ってないから安心して食べろよ」

「」クンクン ガブッ

勇者「おおぉぉぉ食った! 美味いか!?」

「ペッ」
勇者「おい」

「ガァァァァッ」

勇者「食べ物を粗末にする子はお仕置きです」

ザンッ──

「グゥゥ……」バタン

勇者「やはり人とモンスターが心を通わすなんて無理な話か。失敗だな」グゥ~…

僧侶「お昼は私のを半分こしましょうか……ゆーしゃさま」

勇者「おお! サンキューな!」
僧侶「(ゆーしゃさまテイム完了)」キュピーン

僧侶「もっとこう……必殺ぅ! ジャキィンッ! みたいなのがいいんじゃないでしょうか!」

勇者「ニュアンスは分かるが……具体的にどんな感じだ?」

僧侶「ふふっ、任せてください──」

────

モンスターが現れた!

勇者「来たぞ!!!」

僧侶「では行きます! ゆーしゃさま!」

勇者「おお! 俺はどうしたらいい!?」

僧侶「そのまま敵に向かって一直線に駆けてください!」

勇者「了解!」スタタタッ

僧侶「風よ……彼の者に大空の加護を!」

勇者「うぉぉっ!?」

勇者「体が空を登って行く……!」

勇者「まるで見えない階段を上がってるみたいだ!」

僧侶「ンンンン……(やっぱり大気固定はかなり集中力がいる……ゆーしゃさまが踏み出す足の下に魔力で固めた……言わば雲のような階段を出す!)」

勇者「……僧侶さん」

僧侶「ンンンン~ッ(集中……! 集中~ッ!)」

勇者「待って僧侶これ高すぎだよ。足場が下がらないから降りられないし助けて」

僧侶「さあ! ゆーしゃさま! 今です!」スッ

勇者「ちょ、」ヒュー

勇者「えぇいこうなったら破れかぶれだ!」

勇者「受けろ……天空大撃──」


ズドォォォォン──

とある町──

勇者「いや~久しぶりに死んだな」カタポキッ

僧侶「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」ペコペコッ

勇者「いや、いい技だった。改良すれば実用性もありそうだ」

僧侶「私がもう少し色々な魔法を使えたら良かったんですが……」

勇者「な~にまたお互い新しい技や魔法を覚えたら試して行けばいいさ」

勇者「いつか二人で作った合体技で魔王を討つ日が来るかもな」ニシシ

僧侶「はいっ」

僧侶「(もっといっぱいいっぱい魔法の勉強していつか凄い合体技を作ろう!)」

僧侶「(私頑張りますからねっ! ゆーしゃさま!)」

短編 呪いの装備

勇者「罠はなし、っと。開けるぞ」

僧侶「」ワクワク

勇者「お、ローブか。良かったな僧侶」

僧侶「わぁ~っ可愛いぃっ! あ、あの……装備してみてもいいですか?」

勇者「お、おぉ。あっち向いてるわ」ササッ

僧侶「はーい。(ふふふ~これほんと可愛い~ゆーしゃさま誉めてくれるかな? ふふっ)」シュル……シュルリ

僧侶「これでよし、ゆーしゃさま~もういいで」

ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥンドゥン♪

僧侶は呪われてしまった!

勇者「お~似合ってんじゃ」

僧侶「」ギュッ

勇者「ねぇ……か?」ドキドキ

勇者「ど、どうした? 石ころにでもつまずいたか?」

僧侶「ち、違うんです……その……装備が……ちょっと(ロクにチェックもせずに着ちゃうなんて僧侶失格だよぉ……ゆーしゃさま怒らないかな……?)」

勇者「……キツいのか?」

僧侶「ちがっ! ていうかゆーーーしゃさま? そんなに私は太って見えますか?」ムスー

勇者「いやそうじゃないって! 他に思いつく点が……あーなるほど」

僧侶「聖職者失格です……めんぼくないです……」

勇者「脱がすぞ」

僧侶「え?」

勇者「呪いを解除出来るかもしれん」

僧侶「ちょ、ちょ、ちょとまってください!!! こんな洞窟の中でだなんて……そ、その……心の準備、身を清める時間を……」ゴニョゴニョ

勇者「」グッ

僧侶「ほ、ほんとに脱がすつもりですか!!?」

勇者「装備者じゃ呪いが働いて脱がせられないんだ。なら俺がやるしかない」

僧侶「~っ! ならせめて……! 目を瞑ってくださぃ……」カァァ

勇者「相分かった」

勇者「……行くぞ」

僧侶「はい……」ドキドキッッッ

勇者「ふんっっっ」

僧侶「んっ……。」

勇者「……ったは! 無理か! こりゃ教会で解いてもらった方がいいな」
僧侶「ハイ……(ちょっとだけ期待してしまった私を許してくださいませ神よ……)」

僧侶「あっ」フラッ

勇者「おっと。足元がおぼつかないな。どれ」ギュッ

僧侶「あ……」

勇者「これなら離れず歩けるだろ。幸い魔力にも余裕があるしな」

僧侶「はい……(ゆーしゃさまの手、あったかい)」

勇者「リレミト!」

/↑\

勇者「からのルー…」
僧侶「ゆーしゃさま」

勇者「ん? どうかしたか?」

僧侶「町まではそんな遠くありませんし……歩いて行きませんか?」

勇者「俺はいいけど僧侶は大丈夫か?」

僧侶「はい。それに、夕日が綺麗ですから。ルーラは勿体無いです(もうちょっとだけこうしていたい……)」

勇者「  」
僧侶「  」

僧侶「ゆーしゃさまとこうして手を繋ぎながら歩いたの……久しぶりな気がします」
勇者「だな。ガキの頃はしょっちゅう夕方になるまで冒険してはこうやって二人で村に帰ったもんだ」

僧侶「遅くなると良く姉上に怒られました」
勇者「俺も親父に怒られたっけな……」

僧侶「……ゆーしゃさまのお父様やお母様、ううん……きっと今まで魔王と戦って来た人達はみんなこういうものを守りたくて戦ったんだと思います」
勇者「……そうかもしれないな。当たり前にあるものがある世界」

勇者「俺達も……この当たり前を守るために戦ってるのかもな」
僧侶「当たり前にあるけれど……それは何よりも大切なものだと思います」

勇者「ああ……そうだな」
僧侶「はい」


勇者「僧侶」
僧侶「はい?」

勇者「俺から離れんなよ」ギュッ
僧侶「ゆーしゃさま……」

僧侶「はい、決して……離れません」

勇者「……ところで今何gある? 呪い解くのって結構高かったよな……?
勇者割引とかねーかな」

僧侶「あ、あはは……ごめんなさい(ムードがルーラしちゃった……はぁ。ゆーしゃさまのバカぁ……)」

短編 カジノ

勇者「だいぶ大陸の端まで来たなー」
僧侶「ですねー」

勇者「お、民宿がある。助かるぜ。暗くなってきたし今日はここで休むとするか」

僧侶「そうですね」

勇者「ウィ~ス、宿二人部屋1つ頼む」

店主「おっ、勇者様じゃないですか。女王様にフラれたと思ったらもう新しい子を捕まえてるんで?
いや~モテモテですな!」

勇者「僧侶は旅の仲間だよ。って誰がフラれただ誰が! 今だから明かすがあれは国家機密での作戦で……」

店主「ハイハイ。まあ遊んで行ってくださいよ。傷ついた心を癒すにはちょうどいい場所ですからね」

勇者「遊ぶ……? ちょうどいい?」

店主「ご存知ないんですか?」

勇者「??」

店主「てっきり知ってるもんかと思ってましたよ。まっ、そこの階段を降りて行けばわかりますよ」

勇者「気になるな。休む前にちょっと行ってみるか!」
僧侶「はいっ」

トコ、トコ、トコ、トコ

勇者「暗いな」
僧侶「長いですね」

トコ、トコ、トコ、トコ

勇者「お、明かりだ。出口か」

ピカァァァァッ

勇者「こ、ここは!!!」
僧侶「何だか賑やかですね~。お祭りか何かでしょうか?」

勇者「伝説のぱふぱふが出来る場所……」
僧侶「ぱふぱふ?」

勇者「じゃねぇカジノだ!!!」
僧侶「カジノ?」

勇者「カジノ知らないのか僧侶?」
僧侶「初耳です」

勇者「まあ聖職者には回ってこない情報かもな~」
僧侶「それよりゆーしゃさま。先程のぱふぱふなるものの方が気になって仕方がないのですが」

勇者「(胸のことになるとさすがに鋭いな……!)」
僧侶「ぱふぱふ……なんだか邪気が帯びた言葉ですね。ちょっと腹が立ちます」

勇者「そ、それよりせっかくだしちょっと遊ばないか?」
僧侶「ここでですか?」

勇者「ああ! カジノには色々なゲームがあるんだぞ!」
僧侶「わぁ! それは楽しそうですね!」

勇者「よし、じゃあ早速」
僧侶「?」

勇者「これ全部コインに変えてくれ」ケヘヘ
換金屋「毎度」ウヘヘ

勇者「コインもらってきたぞー」
僧侶「わぁ、タダでこんなにくれるのですね」

勇者「まあな! 俺勇者だしな!(僧侶には賭け事ってことは伏せとこう)」
僧侶「さすがゆーしゃさまです!」

勇者「さてさて何をするか」

僧侶「どんなものがあるんですか?」

勇者「俺も聞いたことしかないからな~。順番に回って見てみるか」

僧侶「はい」

闘技場──

僧侶「地下にこんな広い闘技場があるなんて……」
勇者「スゲー作りだよな」

僧侶「これは何をやってるんでしょうか……?」
勇者「あー……これはあれだな」

いけぇぇぇぇぇ!!! さまようよろい!!!

ぶっ殺せ一角兎!!!!!

てめぇに給料全部賭けてんだぞオオガラスゥゥゥゥ!!!
負けたら承知しねぇぞ!!!!!!

勇者「モンスターを戦わせて優劣を決めるゲーム……? みたいな感じか」
僧侶「戦わせて……」

僧侶「モンスターに情をかけるつもりはありません……けど、見ていて楽しいものでもないですね。他に行きましょう」

勇者「ああ……そうだな」

レース場──

勇者「お、これならいいんじゃないか?」

スライム「」ピョコピョコ
一角兎「」ピョンピョン

僧侶「モンスター達のレースでしょうか?」
勇者「ああ。1着になるモンスターを選ぶんだ」
僧侶「面白そうですね。ちょっとやってみましょうか」

勇者「え~と次の出走モンスターは……っと」

アニマルゾンビ 2.2
アルミラージ 4.5
キャタピラー 10.4
ぐんたいガニ 26.5

僧侶「あの横の数字は何ですか?」
勇者「あ~……あれはだな(倍率、なんて言ったらバレるしなんと言ったらいいか)」

勇者「……人気投票だ」
僧侶「人気投票ですか?」

勇者「そうだ。つまり一番人気があるのがぐんたいガニだな(真逆になったけどまあいいだろ)」

ぐんたいガニ「グワシャグワシャ」

僧侶「……なんであれが人気なんだろう」

勇者「見た目で判断しちゃいかんぞ! ああ見えて結構愛嬌あるかもだぞ?」

僧侶「うーん……(可愛いとも足が早いとも思えないけど……)」チラッ

ぐんたいガニ「ワシャシャ」チョッキンチョッキン

僧侶「……ふふふ。じゃあぐんたいガニに投票しますね」

勇者「おっ、ギャンブラーだな!」

僧侶「ギャンブラー?」

勇者「俺は無難にアニマルゾンビに5枚だな」チャリチャリ~ン

勇者「始まるぞ!」
僧侶「(頑張れぐんたいガニ!)」

ぐんたいガニ「ワシャシャ」

3.2.1──go!!!

「さあ各モンスター一斉に立ち上がりました。先頭はやはり駿足、アニマルゾンビ、そのやや後ろにアルミラージ、キャタピラーと並び、大きく遅れてぐんたいガニ」

僧侶「あっ……遅れてる!」

勇者「(まああんなカニ歩きじゃ勝てるわけないわなぁ)」

ぐんたいガニ「」カサカサカサ

「第三コーナーを回っても未だトップはアニマルゾンビ。アルミラージはやや遅れてきたか」

「さあ最後の直線だ。やはりアニマルゾンビ早い! これはもうトップ独走か!?」

勇者「もらったぜ!」

僧侶「いえ、まだです!」

ぐんたいガニ「」カサカサカサカサカサカサカサカサカサ

「おぉっと?! カーブを凄い速度で曲がって来たのはぐんたいガニだ! そのままどんどんスピードに乗る!」

勇者「なんてスピードだ……! ほんとにカニか!?」

僧侶「(頑張れぐんたん!)」

「アルミラージを抜かして二着に浮上! 眼前にアニマルゾンビが近づいてくる!」

アニマルゾンビ「ペッ」
ぐんたいガニ「ワシャ?!」

「おぉっとこれは毒霧だ! ぐんたいガニは驚いてしまったのかスピードが落ちた!
これは決まってしまったかー!?」

僧侶「ムゥ……!(よくもぐんたんを……! なら!)」

ぐんたいガニ「」グググッ

「おおっっっと!!! スピードがまたまた上がってきた! しかしこの加速はなんだ!? カニの限界を越えてるぜyou!!!」

僧侶「いけー!!!」

  │アニマルゾンビ
ぐ│んたいガニ

「これは番狂わせが起きた!!! ぐんたいガニ一着でゴーーーールイン!」

「いやぁ素晴らしい走りでしたね。これだからモンスターレースはやめられない!」

「二着にアニマルゾンビ、三着はアルミラージが入りました。尚キャタピラーは途中で木の葉をかじりに行ったため棄権となりました」

僧侶「ぐんたんが勝ちましたよゆーしゃさま!」
勇者「いや誰だよ」


それからも二人はスロットやトランプなどでいっぱい遊びました!

そして──

勇者「親父、全部換金な」キヘヘ
換金屋「やるねぇ若いの」グフフ

僧侶「ゆーしゃさま? 何をしてるんですか?」

勇者「んんん!? おおお! コインいっぱいになったから返してたんだ。借り物だからな」

僧侶「そうでしたか」

勇者「さて、そろそろ宿に戻るとするか」

僧侶「そうですね」

勇者「……、ちょっと野暮用思い出したから先に行っててくれないか?」

僧侶「わかりました」トコトコ

勇者「……行ったな」

勇者「さて、行くか……」

お姉さん「」

勇者「あの立ち方……、間違いない、あの人だ」

お姉さん「ん? ボーヤ、何か用?」

勇者「……、あっ、あの……、パフパフオネシャス……」

お姉さん「なに? 良く聞こえなかったわ」

勇者「くっ……! (ええいここまで来て下がれるか! 男のロマン! 叶える時!!!)」

勇者「ぱふぱふお願いします!!!」フカブカ
僧侶「」

お姉さん「お姉さん忙しいから、またねボーヤ」

勇者「……」
僧侶「……」

勇者「……」
僧侶「……」

勇者「ルーr」
僧侶「待て」

────

僧侶「ゆーしゃさま最低ですっ!!!」
勇者「違うんですよ僧侶さんこれには偽装結婚式並に深い事情がありまして……」

僧侶「姉上だけに止まらず……よもやこんなところでなんて」

勇者「違うんですよ僧侶さんその何というか勇者の伝統行事みたいな感じでして決してやましい気持ちは……」

僧侶「そんなにぱふぱふ……したいんですか?」
勇者「……是が非でも」

僧侶「なら……私がっ」
勇者「……」チラッ

勇者「フゥ……」遠い目

僧侶「」イラッ

────

僧侶「どうですかゆーしゃさま? 」

   ・・・・
僧侶「ぱふぱふは?」

勇者「僧侶さんこれはパカパカの間違いじゃ……」

僧侶「ほら、早く部屋まで急いでください」

勇者「……ハイ」


ぱふぱふ……ぱふぱふ……


俺のぱふぱふは……とても、痛かった。

久しぶりの短編

短編だとゆーしゃさまは基本遊びます

次はダーマでのお話

ではまた

中編 善意と悪意

僧侶「ここがダーマ神殿……」

勇者「でっけぇな~」

僧侶「僧侶や魔法使いさん……あっちには武闘家さんや戦士さん!」

僧侶「魔法剣士さん何かもいますよゆーしゃさま!」

勇者「さすが転職の聖地だな。ここのみんなが全員魔王退治に来てるのかと思うと正直俺なんかいらないんじゃないかって思えてくるぜ」

僧侶「いいえ! そんなことは絶対ありません!」

勇者「ほぅ、大した自信だな?」

僧侶「当たり前です! だってこの世界に勇者はゆーしゃさまだけなんですから!」

勇者「しかしなぁ……強さだけで言えば俺以上なんて巨万(ごまん)といるぜ?」

僧侶「ですが初代勇者様の冒険譚にはこうあります。『魔王を倒しうるのは、真の勇者のみ』と」

僧侶「他の勇者様達の冒険譚にも同じことが書かれてますし、きっと勇者にしか魔王は倒せない理由が何かあるんですよ!」

勇者「だとしたらこうやって戦ってくれてるみんなは……無駄ってことか?」

僧侶「それも違います。かつて初代勇者様は一人で魔王と戦いました。それは孤独で、絶望しかなかったと冒険譚にもありました」

僧侶「その記録を見た二代目勇者様達は弟妹を連れて戦い、三代目勇者様は仲間を集めて戦い……そうして行く内に勇者とは一人で戦うものではなくなったのです」

僧侶「勇者にしか倒せなくとも、戦うのは勇者だけではいけない、それが……この世界を救って来た勇者様達の言葉であり、今のこの現状が、世界の答えなんだと……私は思ってます」

勇者「世界の答えか、ありがたいな。しかしこの世代の勇者で良かったぜ。俺が初代勇者なら間違いなく挫折して世界が滅んでる」

僧侶「そんなことありませんよ。ゆーしゃさまだって立派な勇者です。私が保証しますから、胸を張ってください」

勇者「さて、僧侶」

僧侶「はい?」

勇者「ダーマ神殿と言えば?」

僧侶「転職……ですか?」

勇者「ああ。一応聞いておくがしないのか?」

僧侶「しません! 私は僧侶一筋ですから!」

勇者「別に僧侶じゃなくてもいいんだぞ?」

僧侶「……これが一番近いから、いいんです。それに約束したじゃないですか、ゆーしゃさまは勇者で、私が僧侶で……二人で魔王を倒そうって」

勇者「ま、そうだけどな。ならここには用事ないし一泊したら進むかー」

僧侶「でも……ちょっとだけなら」チラッ

勇者「ん?」

──転職体験コーナー

僧侶「これが魔法使いの衣装なんですね~」キョロキョロ

魔法使いの人「うむ、良く似合っている」

僧侶「僧侶帽もいいけどこのトンガリ帽子もいいなぁ~」

僧侶「どうですか? ゆーしゃさま?」モジモジ

勇者「可愛らしくていいと思うぞ」

僧侶「かっ、可愛らしいなんて……」カァァ

僧侶「(ゆーしゃさまに可愛らしいって言われた!!! んん~~~魔法使いになろうかな~っ! 迷うなぁ~っ)」クネクネッ

僧侶「ほ、他のも着てみていいでしょうか!?」

勇者「おぉ。好きなだけ着てみるといい(やっぱり何を言っても年頃女の子だな)」

僧侶「これはどうでしょうか!?」

勇者「戦士か、凛々しいな」

僧侶「凛々しい……」ムフフッ

──

僧侶「ではこれは!?」

勇者「盗賊か。カッコいいな」

僧侶「ふへへ~」

──

僧侶「これはどうでしょう!?」

勇者「武闘家か、強そうでいいな」

僧侶「ん~っ(誉められまくりで何だか嬉しい)」

勇者「(気晴らしにと思ったが……いつまで続くんだろう)」


全職の服を着て見せた後、結局僧侶服に戻った僧侶。

僧侶「やっぱりこの帽子が一番可愛いです」
勇者「それが一番似合ってるな。身長も大きく見えるし」ニヤニヤ
僧侶「普通ですよ! 勇者様がちょっと高いだけですよーだ!」

勇者「じゃあ宿とってくる」

僧侶「はい。じゃあちょっと買い物でもして来ますね」

勇者「ああ」


僧侶「さて、薬草とかせいすいの予備買っとこう」

────

暗い男「はあ……また僧侶試験駄目だった」

暗い男「向いてないんだろうな~けど今時盗賊とか仕事ねぇしな……戦士?武闘家?無理無理……魔法使い?適正ゼロ……商人?計算わかんねぇよ……」

暗い男「このままじゃ遊び人まっしぐらだわ……やべぇ……飯も食えねぇよこのままじゃ」

暗い男「はあ……僧侶になりゃ可愛い女の子コマして尚且つ高収入間違いねぇのにな~」

僧侶「これ一つくださいな」
「はいよ」

暗い男「(可愛いなぁ……僧侶か。あんな子と二人で旅できたらどんなに幸せか)」

暗い男「(ま……俺には一生縁のない話か……)」

暗い男「はあ……」

僧侶「……あの」

暗い男「えっ!?」

僧侶「どうかなさいました?」

暗い男「あのっ、えっ? 俺?」

僧侶「随分深い溜め息をついてらしたので。悩み事なら神に仕えるこの身、なんなりとお話ください」ニコッ

暗い男「(て、天使だ……! この人はきっと神様が俺に遣わしてくれた天使に違いない……!)」

──

僧侶「そうでしたか……適正試験に」

暗い男「もう5回は落ちたかな(ほんとは二回だけど)才能ないんだろうな……きっと」

僧侶「そんなことはないです! 諦めなければいつかきっと僧侶になれますよ!」

暗い男「いつかっていつだよ? あ?(ここで少し逆キレしといて……)」

僧侶「それは……その」

暗い男「僧侶のあんたには一生わからねぇさ……なれない気持ちなんてな。もういいからほっといてくれ(ここで孤独アピールと)」

僧侶「……私に何か出来ることはないでしょうか?」

暗い男「(僧侶落とし方マニュアル通りにしたらマジで食いついて来たよおい!)」

暗い男「……どうしてそこまで俺なんかに?」

僧侶「困っている人を見捨てるなんてこの道に反しますから!」

暗い男「(まだ居たんだな……こんな根っからの僧侶が。さて……どうしたもんか)」

暗い男「なら……教本を見せてくれないか? 持ってるんだろう?」

僧侶「持ってますが……」

暗い男「中身を見ようってわけじゃないさ。安心してくれ」

僧侶「でしたら」スッ

暗い男「(あのカバンの中か)」

暗い男「へ~それが僧侶の、結構ゴツいんだな」

僧侶「武器としても使えますよ!」

暗い男「ははは(聞いてないっての)」

暗い男「ありがとう。もういいよ」

僧侶「為になったのなら幸いです」

暗い男「なぁ、もしよかったら……俺と旅をしてくれないか?」

僧侶「え……」

暗い男「実際の僧侶と旅をすれば俺も色々わかると思うんだ! 頼む! 荷物持ちとか何でもするからさ!」

僧侶「それは……その……」

暗い男「他に旅している人がいるのか?」

僧侶「はい……」

暗い男「(ちっ……コブつきかよ。可愛い顔してしっかり野郎連れってわけか)」

暗い男「そうか……なら俺なんか仲間に入れてくれるわけないよな……ハハハ」

暗い男「遊び人になってモンスターの囮役にでもなるかな。色々ありがとな、僧侶さん」

僧侶「諦めるんですか? 僧侶になるのを……」

暗い男「ああ。家が貧乏で学舎に入れないから独学でやって来たが……ここまでみたいだ。金も稼がなきゃ飯も食えないしな。何の職にもついてないやつを雇うやつもいないし……」

僧侶「……」

暗い男「僧侶職の人と一緒に実戦経験を積めばもしかしたらって思ったけど……こんな奴と一緒に旅する奴らなんていないよな」

暗い男「(自暴自棄に見せれば見せるほど聖職者ってのは食いついてくるらしいからな……!)」

僧侶「(私は修道院から学んで僧侶になったから……適正試験でこんなにも苦しんでる人がいるなんて思わなかった)」

僧侶「(ここでこの人を見て見ぬ振りすれば……私はきっとこの先都合の良いものばかり選んで助けようとするだろう)」

僧侶「(それは僧侶として間違っている。僧侶とは神の教えのままに困る者に分け隔てなく救いの手を差し伸べる者……なら!)」

暗い男「じゃあね、世話になったよ。ありがとう僧侶さん」

僧侶「……待ってください」

暗い男「ん?」

僧侶「あなたがよろしかったら……私達と一緒に旅をしませんか?」

暗い男「ほ、本当にいいのか!?(マジかよ!!! やったぜおい!!!)」

僧侶「私と一緒に旅をしている人は心優しい方なのできっと良い返事がもらえるはずです」

暗い男「なら早速挨拶に行こう!(ふへへ僧侶ちゃんゲットかなこれは)」

暗い男「(勉強教えてもらうと称して部屋に行って……ベホイミ!ベホイミ!ってか!)」

暗い男「(くぅ~~~ツキが回ってきたあああ! さて、後問題は僧侶の連れがどんなやつかだな)」

暗い男「(なよっちぃやつなら助かるんだがな~頼むぜ神様よォ!)」

──

勇者「ほぅ、仲間になりたいと」

僧侶「そうなんです」

暗い男「(おいあれ勇者じゃねぇか嘘だろおいあり得ないだろ!!!)」

勇者「でもな~職についてない奴を連れ回すのもな」

僧侶「私達と旅をして色々学びたいそうです!」

暗い男「(魔王討伐組の最前線も最前線じゃねぇか……! 死ぬなんてごめんだぞ俺は! 女の子とイチャコラしつつ金もらって楽に生活したいんだよ!)」

勇者「あんた、魔王倒す気あるか?」

暗い男「ま、まあ……」

勇者「本当に?」

暗い男「(うっ……)」

暗い男「(勇者には嘘を見破る真実の眼が備わっていると言うが……まさかバレたか!?)」

勇者「まあ僧侶がいいんなら俺は何も言わないけどよ」

暗い男「(ほっ…)」

僧侶「本当ですか!? ゆーしゃさま!」

勇者「賢者の時はあんなに嫌々言ってたのによ~つまんねぇな~」イジイジボソボソ

僧侶「良かったですね! あ、何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

暗い男「じゃあ暗い男とでも呼んでください。よろしくお願いします、勇者さん、僧侶さん」

暗い男「(まあ勇者の仲間に入れたってのは満更じゃねぇな。デカい面出来そうだ)」

宿屋──

僧侶「ここには神の教え、第四十九項が入ります」

暗い男「なるほどなるほど(いつまでやるんだよこのクソつまんねぇ無駄な勉強……)」

勇者「……僧侶目指してる割には全然覚えてないんだなアンタ」

暗い男「は、はは……すいません(余計なお世話だ世界の生け贄野郎が)」

僧侶「神の教えはいっぱいありますからね、無理もないです」

暗い男「(さすが俺の僧侶ちゃんだぜ、わかってらっしゃる)」

勇者「ま、回復の一つでも使えるようになってくれよ」

暗い男「お任せを(先にザキ覚えたくなって来たわ……)」

翌日──

勇者「じゃあちょっとレベル上げを兼ねて外で訓練と行きますか」

僧侶「そうですね、実戦経験を積まないとわからないこともありますし」

暗い男「ははは……お手柔らかに(まあ後ろに隠れてりゃなんとかなるだろ)」

──

勇者「はあああっ!」ザシュッ

僧侶「ベホイミ!」

暗い男「(は~あ。早くおわんね~かな)」

僧侶「と、ここでつかさず回復するわけです」

暗い男「なるほどです!(メモってる振りしてりゃ誤魔化せるだろ)」カキカキ

勇者「……」

勇者「宿とってくるわ」

僧侶「はい。行ってらっしゃいゆーしゃさま」

僧侶「為になりましたか?」

暗い男「それはもう(とりあえず回復魔法覚えて後ろで回復するのが僧侶ってわけだな。これならやれそうだわ)」

「あっれ~? 暗い男じゃね?」
「ほんとだ、やっほ~」
「まだ無職か?お前」ニヤニヤ

暗い男「げっ(めんどくせぇ奴らに会った)」

僧侶「お知り合いですか?」

暗い男「昔ちょっと……ね」

「あんたも気を付けた方がいいよ~? こいつ危なくなったらすぐ逃げるから」

「そうそう」

暗い男「くっ…」

僧侶「人間恐怖を感じれば逃げたくなることもあります。それのどこがおかしいんでしょうか?」

暗い男「(僧侶……)」

「けっ、せっかく人が忠告してやったのによ」
「生意気なガキだねこいつ」
「まあ暗い男にはお似合いだろ。ガハハ」

勇者「どうした? 何かあったか?」

「あの証……まさか勇者」
「嘘……でしょ? あんたが勇者のパーティーに入れるわけ」

勇者「何だか良くわからないがこいつは俺達の仲間だ、何か文句あるのか?」

暗い男「(仲間……)」

「べ、別に……なあ?」
「ええ……」

暗い男「まっ、そういうわけだから。お前らも頑張れよ(そうだよ俺はもう勇者御一行なんだ! ハハッ!)」

──

暗い男「ぷはぁ~戦って稼いだ金で飲む酒はうめぇ!」

僧侶「ふふ、お疲れ様でした」

勇者「(戦ったのはほぼ俺だけど……まあいいか)」

暗い男「いや~スカっとしましたよ勇者様! 見ましたかあいつらの顔! これも二人のおかげですよ!」

勇者「まあ過去に何があったかは詮索しないさ。これから頑張ってくれたらそれで、な」

僧侶「そうですね」

暗い男「さすが勇者様! 懐が深い! ささっ! もう一杯どうぞ!」

勇者「あ、ああ」

僧侶「(二人とも上手くいってるみたいで良かった。僧侶として正しい道を取ったのは間違いじゃなかったんだ)」

暗い男「うぅ~ぃ」
勇者「飲み過ぎ何だよ全く」

僧侶「きっと慣れない戦闘で緊張してたのが解れたんですよ」

勇者「……なあ僧侶」

僧侶「はい?」

勇者「本当にこのまま三人で旅をするつもりか?」

僧侶「……」

勇者「言っちゃ何だが俺達は魔王を倒すために旅をしてるんだ。職探し手伝ってる場合じゃ……」

僧侶「わかってます……けど、ゆーしゃさまも色々な人を救って来たじゃないですか」

勇者「そりゃ……まあな」

僧侶「私も僧侶として誰かを救いたいんです! ……身勝手なのはわかっています! けど彼を置いて行けばこの先私は僧侶として……誰を助ければいいかわからなくなってしまいます……」

勇者「そこまで言うならもう何も言わないよ」

僧侶「……すみません、ゆーしゃさま。わがままを言って」

勇者「いいさ。俺も好き勝手やって迷惑かけて来たからな。たまにはこっち側に回らないと割に合わないだろ」

勇者「じゃ、俺達はこっちだから」

僧侶「おやすみなさい、ゆーしゃさま」

暗い男「(……このままじゃ切られるのも時間の問題だな。さて、どうしたもんか)」

暗い男「(ま、明日考えよ。ふぁ~あ)」

勇者「(……俺が我慢すりゃ何の問題もない。そう、あいつが決めたことだ、俺が我慢しなくてどうすんだ)」

翌日──

暗い男「ふぁ~。あれ? 勇者様いないな」

暗い男「」トントン

暗い男「ありゃ? 僧侶ちゃんもいないのか?」ガチャリ

僧侶「」

暗い男「ああ、居たんだ。返事がないから……勝手に入っちゃってごめんよ」

僧侶「」

暗い男「(ん? お祈り中か?)」

僧侶「……」

暗い男「(可愛いな……僧侶ちゃん)」ポケー

僧侶「……よし」

暗い男「おはよう」

僧侶「あ、おはようございます。すいません気づかなくて」

暗い男「随分熱心にお祈りしてたね。毎日やってるの?」

僧侶「はい。旅の無事を祈るのも僧侶の役目ですから」

暗い男「へ~偉いねぇ」

僧侶「暗い男さんもやることになるんですよ?」

暗い男「そ、そうだったね(そういやそんな話だったか。すっかり忘れてた)」

暗い男「そういや勇者様は? 朝起きたらいなかったんだけど」

僧侶「ゆーしゃさまは剣の鍛練に行ってますよ」

暗い男「へ~(さすが勇者だな~)」

僧侶「私も他の僧侶の方が良い薬を分けてくれるそうなのでちょっと行って来ますね」

暗い男「ああ。行ってらっしゃい」

キィ、ガチャン

暗い男「ふぁ~あ。暇だなしかし。ブラブラでもするかな」

暗い男「(おっ、可愛い子発見)」

暗い男「ね、君一人?」

「は、はあ」

暗い男「良かったら俺達のパーティー入らない? こう見えて俺勇者御一行なんだけど」

「勇者のパーティー?! 本当ですか!?」

暗い男「まあね~(これはやめられんな)」

「魔王を倒すために北の大陸から出てきたのですが……」

暗い男「うんうんわかるわかるよ」

「本当に勇者のパーティーに入れてもらえるのですか?」

暗い男「う~んどうかな。まあ僕が頼めば勇者も了解すると思うけど……」

「あなた凄いんですね……何の職なんですか?」

暗い男「(やべぇ、ここで無職なんて言えねぇな)」

暗い男「あ~……パラディンって知ってる?」

「嘘っ!? パラディンなんですか!? 職の中でも伝説級の職じゃないですか!」

暗い男「ま、勇者のパーティーって言ったらそれぐらいじゃなきゃ務まらないからね」

「通りで見たことない職服だと。ですよね……私みたいなひ弱な戦士じゃ……きっと入れてくれませんよね」

暗い男「そこら辺は俺が何とか勇者に口利きするさ。その前にちょっとした試験は受けてもらうけどね」

「試験ですか?」

暗い男「な~に簡単なものだよ(宿は反対側の使おう。クックック……)」

暗い男「じゃあ、ついてきて」

「はい」

「勇者のパーティーになった途端随分デカい面じゃないかあんた」

暗い男「なっ……女盗賊!? 何で……」

女盗賊「さっきチラッと見えたからさ。聞き耳立ててたら早速勇者の名前語って女コマシとはいいご身分じゃないか」

「この方は?」

暗い男「いや、その……(クソッ! アバズレが余計な時に出てきやがって!)」

盗賊「この事を勇者に言ったら……どうなるかねぇ?」

暗い男「そ、それだけは……! 何でもする! だから黙っていてくれ!」

女盗賊「何でも、ねぇ?」

ヤンデレ僧侶かと思ってた

「あの、さっきから何を」

女盗賊「あんたにはもう用事はないよ。さっさと行きな」

「はあ? 私は勇者様のパーティーに」

女盗賊「行けっつったんだ、聞こえないか?」スッ

「ひっ……わ、わかりました」タッタタタ

暗い男「チッ……(せっかく宿で楽しもうかと思ってたのによ。とんだ邪魔が入ったぜ)」

女盗賊「さっきの話の続きだけどさ、何でもやるってほんとかい?」

暗い男「魔王倒してこいみたいな無理な話以外はな」

女盗賊「そんな無理なことは言わないよ。それにこれはあんたにとっても有益な話だしね……フフフ──」

────

暗い男「……(クソッ、女盗賊の野郎)」

僧侶「ただいま戻りました」

暗い男「や、やぁ。お帰り」

勇者「ほれ、朝飯だ」

暗い男「ありがとう、勇者様」

暗い男「」モソモソ……

勇者「勇者でいいよ。……何かあったか?」

暗い男「いっ、いやっ、特に!」

勇者「そっか」パクモグ

僧侶「美味しいですねゆーしゃさま」

勇者「だな」

暗い男「……」

──

暗い男『なに!? 神託の証と僧侶の教本を取ってこいだァ!?』
女盗賊『しっ、声がデカいよあんたは』

女盗賊『神託の証なんて二つもないお宝だろ? 買い手は引く手あまたさ。それだけで城が建つぐらいにね』

暗い男『城……』ゴクリ

女盗賊『それに僧侶の教本があれば適正試験をパスしなくても僧侶になれる。そしたらまたあんたをうちらの仲間にしてあげるよ』

暗い男『僧侶に……俺が?』

女盗賊『金持ちになって世界中を旅しながら回るんだ。楽しいわよきっと。それに僧侶になれば女にも困らない』

暗い男『……』

女盗賊『それに私もあんたのこと……満更じゃないし、ね? もし盗ってきてくれたら……』チラッ

暗い男『!!!!!!』

────

暗い男「(俺に二人を裏切れってのか……!)」

勇者「おーい、聞いてるか?」

暗い男「えっ? な、なに?」

勇者「今日にはここを出ようと思ってるから。しっかり準備しとけよ」

暗い男「え!? きょ、今日ですか?!」

僧侶「何か都合が悪いのですか?」

暗い男「い、いや……まだここの奴らに別れの挨拶とかしてないからさ」

暗い男「もしかしたら死ぬかもって旅だし……」

僧侶「そう……ですよね」

勇者「……じゃあ今日一日待つよ。それまでに済ましといてくれ」

暗い男「……わかった」

────

暗い男「(このまま勇者のパーティーとして旅をするか……それとも)」

暗い男「(勇者のパーティーって言っても俺自身何もしてないからな……後々追い出される可能性がある)」

暗い男「(僧侶ちゃんと両思いになれれば頑張る気にもなるが……どうもあの二人は出来てるっぽいしな。ここから割って入るのも楽じゃなさそうだし……となりゃあ……)」

暗い男「(……やるしかねぇか。せめて僧侶ちゃんだけでも連れ出せればなぁ……愛の逃避行なんだが。彼女だって好きでこんな命がけの旅してるわけじゃない筈だし……)」

暗い男「(案外二人で平和に過ごそうって言えばいけるかも……よしっ!)」

────

暗い男「チッ……ないか」ガサゴソ

勇者「何やってんだ?」

暗い男「あ、ああ。ここにはしばらく戻って来ないだろうから……色々と整理をね」

勇者「ふ~ん、そっか」

暗い男「……勇者は僧侶のこと、どう思ってるんだ?」

勇者「なんだよ藪から棒に」

暗い男「俺は……彼女のこと、ずっと守って行けたらって思ってる(先手必勝!)」

勇者「……それは俺も同じだな」

暗い男「(チッ)好きってことか?」

勇者「……そういうのじゃない。……まあ小さい頃から一緒だったからな。妹みたいなもんだ」

暗い男「(お、これはこれは……そんな余裕ぶっこいちゃいますか勇者様は)」

暗い男「俺は女として、僧侶のことが好きだ。あの笑顔を守って行きたい……駄目か?」

勇者「……俺に聞いてどうすんだよ、それ。言うなら直接本人に聞け」

暗い男「まあ……な(あれ? これもしかしていけるか? いけちゃうのか?)」

勇者「ただ魔王を倒すまでは色々控えて欲しいけどな」

暗い男「そこのところはわかってるさ! 任せとけよ! じゃあちょっくら挨拶してくるわ」タタタッ

勇者「……ルーラ」ビュィ──

勇者「」ドゴォォォッ!!!!!!!!!!!!

勇者「(我慢だ、我慢しろ俺)」

暗い男「(勇者の了解ももらったし、こうなるともう僧侶ちゃんとの愛の逃避行まっしぐらなんだが!)」

暗い男「お、僧侶ちゃ~ん」

僧侶「暗い男さん。挨拶は済みましたか?」

暗い男「これから行くところさ!」

僧侶「そうでしたか。これからもっと厳しい戦いになるかもしれません……だから後悔がないようにしてください」

暗い男「……なぁ、僧侶ちゃん」

僧侶「はい?」

暗い男「やめないか? こんな危ない旅」

僧侶「え……」

暗い男「だって死んじゃうかもなんだぜ? そんな危ない旅に君みたいな子が行っちゃいけない……!」

暗い男「なんで君が勇者と一緒にこんな危ない真似してるのかわからないけどさ……ほっとけないんだ、君のこと」

僧侶「……」

暗い男「だからさ! 世界は勇者に任せて……二人でどこかで暮らさないか?」

暗い男「お金ならあるんだ! ちょっと当てがあってさ!」

暗い男「だから……」

僧侶「……僧侶になる話は……どうしたんですか?」

暗い男「……ずっと僕の隣で教えてくれないか? いつか必ず立派な僧侶になってみせる! だから……!」

僧侶「……ごめんなさい……それだけは、どうしても出来ません」

暗い男「どうして……?」

僧侶「……ゆーしゃさまを裏切ることは……例え僧侶の道に反することになっても……出来ません」

暗い男「……そうか、そうだよね。僕なんかより勇者を取るのは当たり前だよね……」

僧侶「なんでそんなこと言うの……?」

暗い男「!?(なんで泣くんだよ……わけわかんねぇ……そんなに死にたいのかよ?)」

暗い男「(勇者と魔王退治なんて命がいくらあっても足りないだろわかれよ……!)」

暗い男「ごめん……(なら、もうこうするしか、道はないじゃないか)」


勇者「……」ギリリリッ

────

勇者「あれ? 僧侶知らないか?」

暗い男「いや……」

勇者「そっか。じゃあちょっと探してくるわ」コト

暗い男「!!!」

ガチャン──

暗い男「神託の証置いていきやがった……! このチャンスを逃す手はないぜ! 神様ありがとう!」ン~チュッ

暗い男「さて、とっととズラかるか」

暗い男「あっ……あのかばんは」

ゴソゴソ──

暗い男「僧侶の教本……」

僧侶『諦めなければいつか必ず僧侶になれますよ』ニコッ

暗い男「俺は……俺は……!」

───

暗い男「へっ……へへへっ……誰があいつらなんかにやるかってんだ!」

暗い男「これを売り払って全部俺のものにしてやる! そして僧侶になってやり直すんだ!」

暗い男「くくくっ……第二の人生の幕開けには持って来いの月明かりだぜ」

ボォォォォッ

暗い男「なっ、なんだぁ!?」

勇者「よっ、まだ出発にはちょっと早いぜ?」

暗い男「ゆ、勇者?!何でここに!?」

勇者「神託の証なんざ別にいらねぇからそれだけなら見逃しても良かった、だがな……」

勇者「僧侶が頑張って得た証まで持ってくなら……話は別だ」

暗い男「ま、待て! 悪かった……! つい魔が差しただけなんだ! この通りだ! 許してくれ!」

勇者「あいつが自分の道を信じて取った行動だ……だから我慢もしたよ」シュイン

暗い男「ひ、ひぃぃっ」

勇者「でもお前みたいな善意を食い物にする奴に当たったことが残念で仕方ないよ」

暗い男「仮にも勇者だろ!? 勇者が人を殺して良いわけ……!」

勇者「今は勇者の証も何もない、ただのあいつの仲間だ。だから……」

勇者「あいつの思いを踏みにじったお前を、絶対に許さねぇ」

暗い男「や、やめっ……ろぉぉぉぉ!」

ザンッ────

────

僧侶「……」

勇者「何やってんだよこんなところで」

僧侶「……わからなくなったんです。どうすればいいのか」

勇者「……そうか」

僧侶「私の道は間違ってるんでしょうか……? ゆーしゃさま……」

勇者「僧侶、この世界にはな、色々な奴がいる」

勇者「僧侶の姉ちゃんや港の人達やじいさんに魔法使いに戦士、ロミオやジュリエットやオカマのおっさんや旅僧侶……みんないい人達だ」

僧侶「……はい」

勇者「でもその逆もいる。何でかわかるか?」

僧侶「どうしてでしょう……?」

勇者「楽だからだ。限りなく、悪い方が楽なんだ」

僧侶「……」

勇者「作物を育てるのは大変だが盗るのは一瞬だ。だからそういう奴も減らないのはこの世界の常だ」

僧侶「なら……私のやっていることは」

勇者「だからって作物を育てている人達はやめたりするか? そうなるとみんなが食べるものはどうなる?」

僧侶「それは……」

勇者「僧侶、お前の善意は言葉通り過ぎる」

僧侶「言葉通り……?」

勇者「人を思う心は良い、けれど物事良い面だけ見すぎだ。この世界には善意の分だけ悪意もある、それを忘れたらいけない」

僧侶「善意の分だけ……悪意が」

勇者「それをしっかり見極めて、どうするか決めるかは……お前次第だ」

僧侶「……やっぱり難しいです、ゆーしゃさま」

勇者「大丈夫さ、俺がついてる」

勇者「でも、俺がもし迷った時はそれを判断してお前が止めてくれなきゃ困るぜ?」

僧侶「ゆーしゃさまが良いと言ったことが例え悪でも……私は……ゆーしゃさまについて行きます」ギュッ

勇者「それじゃ困るってんだよ、バカ。」ギュッ

勇者「……なあ、僧侶」

僧侶「はい」

勇者「やっぱり二人じゃ駄目か?」

僧侶「……いえ、やっぱり……二人が良いです」

────

僧侶「暗い男さんに一言謝りたかったのですが……」

勇者「ま、彼もこれからは真面目に生きてくれるだろうさ」

────

ザンッ──

暗い男『ひ、ああ……』

勇者『ちょっとでもあいつに悪いと思ってるなら、これからは本当に僧侶目指して命がけで頑張るんだな』

勇者『本当に僧侶になれば、あいつも喜ぶだろう。人を悲しませるんじゃなくて、喜ばせる生き方の方が、苦しいけど……楽しいぜ』

暗い男『苦しい分……楽しい』

────

勇者「(善か悪か……どっちに進むかはあいつ次第だけどな)」

勇者「さて、行こうぜ僧侶」

僧侶「はい!」

僧侶「(良い面だけ見すぎたら駄目なんだ。こんなんじゃ魔物にだって付け入られる)」

僧侶「(自分でちゃんと良い悪いを決めなくちゃいけない……ただの善意は本当の意味でその人の為にならないんだ)」

僧侶「(なら、私は悪いものは悪いと言える僧侶になろう。)」

僧侶「(迷いは多い、けれど……)」

勇者「……」

僧侶「(ゆーしゃさまの隣を歩いていることだけは、絶対間違っていないと心から言えます)」

僧侶「(例え……どんなことがあっても)」

今回は善し悪しの話でした。

次から話がガラッと変わります
1000までには絶対終わらせる……終わらせたい……終わらせれたらいいな

>>536
確かに今思うとヤンデレ臭いタイトルですね
ご期待に添えず申し訳ないです

長らく空けてしまって申し訳ない
メモ保存してた携帯が逝ってしまってまた書き直したりしてました
書き直しだとモチベーションが下がって先伸ばしになってしまった……

やっと完成するので今日中に上げます
待ってくれてた方すみません
完結目指して頑張ります

短編 ?????

この世界は5つの大陸によって出来ている。
勇者達が最初にいた東の大陸、その隣に位置するのが5つの大陸の中でももっとも大きい中央大陸。
その北には魔法発祥の地である北の大陸、南には機械と戦争が盛んな南の大陸、そして……大きく離れて西側にある大陸、西の大陸……魔王が眠る場所である。
何百年に一度、この世界には必ずと言っていい程魔王が現れる。
そしてまた、時を同じくして勇者も現れる。

それはこの勇者暦が始まってからずっと続いてきたことだ。

誰もが現れた魔王に畏怖し、そして勇者に希望を抱く。

何百年と変わらない構図だったが、今回は少し違っていた。

魔王の方が先に現れたのである。
これに対して勇者はその時未だ不在、神託は降りなかった。

世界は阿鼻叫喚に包まれた。無敗の不敗の伝説の勇者が居たからこそ今まで魔王を退けられて来たがその勇者がいないとなると成すすべがない、神に見放されたのだ、と。

しかし中央大陸第二十代国王を初めとする英傑が世界から集い、中央大陸西側にて魔王軍と激突。
多大なる犠牲を払いつつも見事それを撃退。

そしてその勢いそのままに今の職制度を確立させた三人、三代目勇者と共に魔王と戦った僧侶ルシエル、魔導使いリノン、戦士アガータの子孫達が魔王城に乗り込み、封印することに成功する。
それが今より十年前にあった第一次魔王決戦。人類が初めて勇者なしで魔王と戦った戦いでもあった。
しかしいつ復活するかもしれない魔王に人々は恐れ続けた。

それから十年後、ある小さな村に住む、一人の青年に神託が降りた。

特別ではない、普通の青年。

それもその筈、勇者は神託により決まる為に血筋はないに等しい。

神託の証こそが神の啓示、神託の証が勇者の証。

そんな世界のことを知ってか知らずか、その青年はある者と約束をした。

──俺が勇者で! お前が僧侶! 二人で必ず魔王を討つ!

勇者であることの重みも、世界から勇者がどの様に見られているかも知らなかった彼が、交わした約束。

旅をするにつれてそれらが見えて来ても尚、それでも彼はそのままで居続けられるだろうか?

ここへ辿り着いた時、彼はどちらの勇者となっているのか。

私はそれをただ見守ることしか出来ない。

願わくば、彼が真の勇者であることを祈り、北の大地にて待つ。

長編 生け贄の村

勇者「ここが10年前に親父達が魔王軍と戦った場所か……」

僧侶「まだ傷跡が残ってますね……」

勇者「ありがとう、親父、母さん。そしてここで戦ってくれたみんなも……おかげでたくさんの人達が今もこうして無事に暮らしていられる」

僧侶「ありがとうございます」

勇者「次は俺達の番だ!」
僧侶「はいっ!」

勇者「しかし……ここからどう西の大陸に渡ればいいのか」

僧侶「西の大陸には船も出てませんし……更に魔王の城は山岳に囲まれてて近寄ることすら出来ないと聞いたことがあります」

勇者「ここに来れば何かわかるかもと思ったんだけどな~」

僧侶「三英雄がここから魔王の城へ光る何かに乗って向かった伝説ですか……」

勇者「そうそう。やっぱ直接聞くしかないのかね~。でもあれ以来三人共行方不明らしいし……はあ」

僧侶「きっと大丈夫ですよゆーしゃさま! 歴代勇者の冒険譚だと様々な方法で魔王の場所まで行っていますから!」

僧侶「きっと私達にも見つかりますよ!」

勇者「だといいけどな。さて、今日はもう暗いし休むか」

僧侶「はい」

ポツ……ポツポツポツ……

僧侶「雨が……」

勇者「この大陸に来て初めてだな。長い間続いていた干ばつもこれで終わりってわけか」

僧侶「恵みの雨ですね」

勇者「ああ。しかしこうなると野営は厳しいな……でもこんな所に町や村があるわけ」

僧侶「ゆーしゃさま、建物が見えます!」

勇者「でかした! ふ~これで濡れずに済みそうだ。行こうぜ僧侶!」

僧侶「はい」

僧侶「(どうしてだろう……この大陸にとっては嬉しい雨なはずなのに……どうしても不安が拭えない)」

僧侶「(どうか気のせいであってください……)」

静かに十字を切り、僧侶は勇者の後を追った。

小さな建物がいくつかに、中央奥には教会が建っている。
村と言うよりは集落の印象を受けた。

勇者「人の気配がないな」

僧侶「昔に建てられたものでしょうか」

勇者「まあ雨風は凌げるだろ。借りようぜ」

僧侶「はい」

ピチャ……ピチャ……

──ゴクリ

コクン──

勇者「ふぅ……」バサッ
「死ねぇぇぇ魔物め!!!!!」ビュンッ
勇者「おわッッ」サッ

「避けた!? 次こそは!!!」

僧侶「ゆーしゃさま!?」

「勇者……?」

「「覚悟!!!!」」

「待って二人とも! その人達は魔物じゃないわ!」

────

「弟と妹がすいません。まさか勇者様がこんなところに御出になるなんて思わなかったもので」

勇者「いや、こっちも誰かいるなんて思わなくて。勝手に入ってすいません」

弟「お前ほんとに勇者か!?」妹「勇者か!?」

勇者「ほら、この神託の証が目に入らぬか~なんてな」

弟「へっ、そんなもんちょっと腕の良い堀り師に作らせれば作れらい!」妹「作れらい!」

勇者「ハハハ、なかなか手厳しいな」

「こーら、勇者様になんてこと言うの」

弟「ふんっ」妹「ふんっ」

僧侶「(かわいいなぁ)」ニコニコ

娘「私は娘と言います。勇者様にお願いがあります」

娘「どうかこの村を魔物の手から救ってください」

勇者「……こうやってストレートにお願いされるのも悪くないな」ボソボソ

僧侶「もぅゆーしゃさまったら」

勇者「話を聞こうか」

娘「ありがとうございます!」

娘「ではまず父を紹介します。教会に居ますので行きましょう」

勇者「おっとそのままじゃ濡れますよ。これ(上着)を傘がわりにするといい」

娘「ありがとうございます、勇者様」

僧侶「(むぅ~)」プクー

勇者「僧侶はこれ使え」

僧侶「ゆーしゃさま!」

勇者「ふっ……」

弟「俺達にも貸せよ!勇者だろ!」妹「勇者だろ!」

勇者「仕方ねぇな……」

勇者はシャツ一枚になった!

勇者「うぅぅぅぶぁっくしょいっ」ぶるぶる

僧侶「大丈夫ですかゆーしゃさま?」

勇者「お、ぉぉ」

娘「ここです」

僧侶「立派な教会ですね」

娘「僧侶様にそう言ってもらえると父も喜びます」スッ

僧侶「(封印魔法……それもこれだけ高位なものを使える人が倒せない魔物って……)」

娘「……ムールテルラレットラーナ」ガチャリ

神父「!!!」

娘「お父さん、私です」

神父「何をしている!!! 今日は奴が言った雨の日だぞ!!! また気配遮断魔法を張らねば……」

勇者「(なるほど、だから気配がなかったのか)」

娘「聞いてお父さん。勇者様が来てくれたの!」

神父「なに? おぉ……それは確かに神託の証」

勇者「一体ここで何が起こってるんです?」

神父「……全ては十年前に遡ります」

神父「十年前、ここで魔王軍との戦いがあったのはご存知ですか?」

勇者「ええ」

神父「激しい戦いでした…」

神父「一つの小さな村が滅ぶ程に」

僧侶「それは……」

神父「はい。ここにはかつて村がありました。今よりはずっと大きな……」

神父「あの戦いでその村は中継基地として使われていましたが……魔物達の奇襲によって壊滅しました」

神父「あの戦いが終わった後、共に戦い、死んでいった仲間達や、私達に協力して命を落としてしまった村の人達を供養する為に私は妻と娘を連れて再びここを訪れました」

神父「皆がこの大陸を守ってくれたおかげで妻も娘も無事に生きられると……そして私はその償いに少しでもなればと思い、ここにまた村を作りました」

神父「元々この村に住んでいた人達も協力してくれて段々以前の村に戻って来た時……、今日のような嫌な雨の日にそれは起こりました」

────

村人「神父さん!!! 大変だ!!!」

神父「どうしました?」

村人「村の外れにバカデカイモンスターを見たってうちの奴が慌てて帰って来たんだ!!!」

神父「!!! わかりました、お前達はここに居るんだ、いいな?」

神父の妻「あなた……」
娘「お父さん……」

神父「大丈夫、退治してすぐ戻る」

────

神父「(この辺りか……)」

グォォォォ……グォォォォ……

神父「(近い……)」

グルォォォ……グォォォォ……

神父「(あれは……!)」

ヤマタノオロチ「グォォォォ……グルォォォ……」

神父「貴様……やはりまだ生きていたか!!!」

ヤマタノオロチ《オマエは……あノ時ノ人間か》

神父「あの時は仕留め損なったが……今度こそ仕留める!」

ヤマタノオロチ《驕るなよ人間風情が……》

神父「元は人の魔物が神を気取るか。手負いの貴様なら私一人でもやれる」

ヤマタノオロチ《ならばやってみるがいい!!!》

神父「うおおおおぉぉぉっ!!!!」

────

神父「っはぁ……はあ……(やはり強い……手負いですら私一人では殺しきれない)」

ヤマタノオロチ《……人間よ、一つ取引をしないか?》

神父「取引だと?」

ヤマタノオロチ《そうだ》

神父「そんなもの受ける道理はない!」

ヤマタノオロチ《さっきまでは前ト同じく他ニ仲間が居ると思っておったが……どうやら貴様一人だけらしいな》

神父「それがどうした! 今の貴様など私一人で……」

ヤマタノオロチ《無理ダナ。貴様一人では今の私にすら及ばん。前の戦いも【奴が】いたから破れたまでに過ぎん……ふん、まさかこの私が二度も破れるとはな。しかし三度目はない》

神父「(確かに……このままでは魔力が枯渇し何れは……)」

ヤマタノオロチ《そこでだ、人間。貴様にチャンスをヤロウ》

神父「なに?」

ヤマタノオロチ《我を見逃せ、人間よ。魔王様が封印された今、私がここで貴様と戦う理由は余りないノでな。出来るなら安全策を取りたいノだ》

神父「馬鹿げたことを、ここで貴様を見逃すことなど出来るわけがない!」

ヤマタノオロチ《ならば続けるか? もう勝負は見えているであろう?》

神父「いざとなればこの身を賭けてでも貴様を屠る」

ヤマタノオロチ《良いノか? 妻や娘を残して先に逝っても》

神父「貴様何故っ……!」

ヤマタノオロチ《ククク……我は耳が良くてな》

ヤマタノオロチ《貴様にとってノ勝ちは負けに等しい、ならばこれは貴様にとってもいい話だろうて。ただ見なかったことにすればいいだけなノだから》

神父「くっ……だが……貴様を放って置けばいつかこの村は滅びる。そうなれば妻や娘や村の住人達が危険に晒されることに変わりない!」

ヤマタノオロチ《ククク……ハハハ……》

神父「何がおかしい!?」

ヤマタノオロチ《我は数百年を生きる魔物ぞ、今更村一つ滅ぼして何になる?》

神父「なら……お前は何の為に魔物になった?」

ヤマタノオロチ《……神になる為ダ》

神父「神だと……?」

ヤマタノオロチ《ソウダ。我を崇め、崇拝し、讃えよ。人間より上ノ存在ニなること、即ち神になることが我ノ望み》

神父「バカげたことを……」

ヤマタノオロチ《数百年前、奴等とノ戦いまでは我は確かに神だった。崇められ讃えられ……それを奴等が奪ったノダ》

ヤマタノオロチ《もう一度我は神となる。故に貴様と相討ちなど出来ぬ相談よ》

神父「神になるとは言うが、具体的に人間に何をするつもりだ?」

ヤマタノオロチ《なに、我は寛大だ。昔と同じく我へノ生け贄を捧げることでその村の安全は末代まで保障しよう》

神父「生け贄だと……? ふざけるな!!!」

ヤマタノオロチ《年に人間一人程で村の安全が買えるノだゾ? これ程良い話はないと思うがな》

神父「村人一人とて貴様には殺させはせん!」

ヤマタノオロチ《交渉決裂か……愚かなり》

神父「(アレを使うしかない……許せ、妻、娘よ)」ジリッ……

──お父さん……

神父「くっ……(だが俺がここで死ねばこの先誰があの村を守る……?)」

神父「(村を守る為に死ぬ……聞こえはいいがあの二人にとっては一番愚かな決断を俺はしようとしている……それにまだ村とは呼べぬあの村を置いて死ねぬ!)」

神父「……見過ごせ、と言ったな」

ヤマタノオロチ《ム……》

神父「その傷だ、お前は俺が見過ごした後、幾ばくかの休息につく……違うか?」

ヤマタノオロチ《左様、奴につけられた傷は易々とは治らんのでな》

神父「どれぐらいだ?」

ヤマタノオロチ《フム……刻で云えば十年程か。あノ封印では魔王様が復活するノもそれぐらいだろうかラな、色々ト都合が良い》

神父「……ならば取引をしよう、魔物よ」

ヤマタノオロチ《ほう……どういう風ノ吹き回しだ?》

神父「私も命は惜しい。それにあの村を立て直すまでは死ねん」

ヤマタノオロチ《して、取引ノ内容は?》

神父「この先に祠がある。そこで貴様を十年休まそう。私の気配遮断魔法を使えば例えお前を目にしたとて気づかずに去るだろう」

ヤマタノオロチ《随分気前ノ良いことだな。神ノ下僕として我にも仕える気になったか?》

神父「抜かすな、取引だと言ったろう」

ヤマタノオロチ《しかしそれだけでは足りぬ。生け贄は用意してもらうぞ人間。上質なおなごが良いな》

神父「……いいだろう。十年後、貴様が目覚めた時……俺の娘を生け贄に捧げる」

ヤマタノオロチ《ほう……》

神父「あれは気丈な子だ。村の為なら喜んでその身を捧げるだろう。ただしそれでまた向こう十年は我慢してもらおう。この村の神になりたいならそれぐらいの器を見せろ」

ヤマタノオロチ《ククク……いいだろう。あノ娘は強く、美しくなるだろう……それを喰らえると思えば十年等》

神父「交渉成立だな」

ヤマタノオロチ《違えればこの村、滅ぶと思え、人間よ》

神父「フン……」

神父「(これで十年は時間が稼げる)」

神父「(十年後……傷が癒え、万全を期した奴を倒すのはあの二人と一緒でも無理かもしれん……だが、)」

神父「(もし、勇者が現れれば……奴を打倒しうるかもしれん)」

神父「(これは賭けだ……。もし失敗しても……最後の清算は必ず私がしよう)」

神父「(ここに眠る英霊達よ……こんなにも命に執着する醜い俺を恨んでくれ。だがこの十年……必ず無駄にはしないと約束しよう)」

ヤマタノオロチ《ではな、人間。魔王様が復活する時、必ず長い干ばつが続いた後に大粒の雨が降る》

ヤマタノオロチ《我もその時に目覚めよう。その日が約束ノ時だ》

神父「わかった。十年後、また合い見えよう」

────

神父「そうして私はこの村を作り……この日を待った」

僧侶「そんなことが……」

勇者「ヤマタノオロチ……伝説級の魔物だな」

僧侶「確か三代目勇者様に倒されたと言われてますが……」

神父「語り継がれる伝説には常に語弊がつきものさ。良いように良いように語り継がれる」

神父「それより……だ」

神父「勇者、そして僧侶。私に協力してはくれないか? 無論断ってもらっても構わない。これはこの村と私の問題だからな……」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「……俺の両親もこの大陸を守る為にここで戦いました」

神父「そうだったのか……」

勇者「親父は始まりの村を出るとき、俺にこう言いました」

勇者「お前の守りたいものを守れ、と」

神父「!!!」

神父「(まさか……勇者の父親は)」

勇者「俺の力でどれだけの人が守れるかはまだわからないけど……今は目の前にあるものを一つづつ守って行けたら、と思ってます」

勇者「一緒にヤマタノオロチを討ちましょう! 神父さん!」

娘「勇者様……ありがとうございます」ペコリッ

僧侶「微力ながら私も共に戦います」

神父「二人とも……ありがとう」

ポツポツポツ……──

勇者「何か作戦はあるんですか?」

神父「ああ。奴と契約を交わした十年前から準備はしてきた」

勇者「と言うと?」

神父「」コンコン

僧侶「?」

神父「この日の為に村全体を使って封印魔法陣を形成している。奴が雨の日を指定して来たのもそれを警戒してだろうが……魔法と言うものは日々進化しているものでな」ニヤッ

僧侶「地法陣(じほうじん)ではないんですか?」

神父「ほう、詳しいな僧侶」

勇者「地法陣?」

僧侶「地面に陣を掘ってそこに魔力を流し込むことで発動する魔法です。書法魔法と少し似ていますが媒体が違うので難易度は跳ね上がります。大地には魔力が通り難いですから」

僧侶「でもこの雨では地面に描いた陣は消えてるんじゃ……」

神父「言ったろう、魔法は日々進化してると」スッ

僧侶「それは?」

神父「見てなさい」

神父がいくつか手に持った光る石に魔力を込め、床に置く。

神父「はあっ!!!」

僧侶「!!!」

その石々に込めた魔力が共鳴し合い、そこに小さな陣を成した。

僧侶「その石は……」

神父「砂金だ。金は元々魔力伝導率が高いことで知られているが余りにも高価だ。そこでこの砂金だ。砂金は不純物が混ざっている為金のように値は高くない。そして普通の魔法では伝導率が悪いが地法陣では元々地にある物だから相性がいいんだ」

神父「こいつを掘った陣にばら蒔いて埋めてある。これで雨の日だろうが陣は発動するってわけだ」

僧侶「凄い……! 凄いですねゆーしゃさま!」

勇者「……すまん、何が凄いかさっぱりわからん」

僧侶「もぅっゆーしゃさまちゃんと聞いてました!?」

神父「ははっ。勇者はもっと魔法の勉強をせねばいかんな」

神父「さて、ではそろそろ本題に入ろうか」

勇者・僧侶「」コクリ

神父「この陣を発動させるには一定時間奴をここに留まらせる必要がある。その役を君達に任せたい」

勇者「なるほど……」

僧侶「伝説の魔物でも足止めぐらいなら……!」

勇者「しかし神父さん、そのヤマタノオロチ……別に倒してしまっても、構わんのだろう?」キリッ

神父「ふふ、頼もしい限りだな」

弟「あんまでしゃばってお父さんの邪魔すんなよ勇者!」妹「邪魔すんなよゆーしゃ!」

勇者「ンだとぉ~」

神父「こらこらお前達」

娘「では、お父さん」

神父「お前には少し怖い思いをさせてしまうかもしれない……すまないな」

妹「いえ、お母さんと約束したから……大丈夫」

勇者「(……約束、か)」

────

村の中央に位置する場所に小さな祭壇が用意された。
その中で娘は魔物が来るのを待つ、生け贄役として。

ザァァァァ──

娘「」ブルッ

震えるのは寒さのせいだけじゃない、どうしようもなく不安で仕方ない。

娘「お母さん……」

──お父さんは何もかも自分で背負っちゃう人だから

──私達が支えてあげましょうね

娘「うんっ……うんっ……私頑張るから!」

娘「だから心配しないでね……お母さん」

大丈夫、勇者様だっているんだ。

きっと上手く行く。

きっと──

────

勇者達はその祭壇近くの小屋で息を潜めていた。

勇者「なあ僧侶」

僧侶「はい?」

勇者「あの神父さん……どこかで見たことないか?」

僧侶「そう言われると……どこかで見たような気がします。私だけならどこかの教会で顔を見た可能性が高いですけどゆーしゃさまもだと……始まりの村で、でしょうか」

勇者「かもしれないな。ま、今はそれよりどう奴を足止めするか、だな」

僧侶「大丈夫です、ゆーしゃさまは強いですから!」

勇者「まあ三代目と力比べするにはいい相手だろうな」

ザァァァァ────

ズゥン────

ズゥン───

ズゥン──

勇者「来たぞ……」

僧侶「はい……」ゴクリ

ヤマタノオロチ《約束ノ時は来た。そなたが我ノ生け贄か?》

娘「(大きい……)」ガタガタ

ヤマタノオロチ《震えるでない、これは名誉なことなノだ。神ノ為ノ生け贄……それで死ねる程幸運なことはないぞ?》

娘「あ……あぁ……」ガクガク

ヤマタノオロチ《人間に神ノ素晴らしさを説いてもわからぬか……仕方ない。ではせめて、苦しまずに喰うてやろう》

「ベギラマッ!!!」

ブォッ!!!

ヤマタノオロチ《ム……》

勇者「おいおい直撃したよな?」

僧侶「雨の中では炎系の魔法は威力が下がるんですよゆーしゃさま」

勇者「そういやそうだったな」

ヤマタノオロチ《勇者……だと?》

勇者「待たせたな、ヤマタノオロチよ。お前が眠ってる間に出でてやったぜ!」

娘「勇者様! 何故来たのですか! 私のことは放って置いてと言ったはず……」

勇者「放っておけるかよ……君みたいな子を、さ」

僧侶「うぐっ(劇だってわかってるけどちょっと悔しい)」

神父『いいか、あくまで村の意向は生け贄に賛成している、ということにしてくれ。でないと私が出てこないのを奴が警戒するかもしれないからな』

娘「私のことは放って置いてください! お父さんもそれで納得してくれてます! 私一人が死ねば……村は救われるんです」

勇者「(上手いな、この場面でここまで演じられるとは、将来いい舞台役者になれるぜ)」

勇者「悪いが聞けないな! 俺は勇者だ、困ってるやつが居たら守らなくてはいられない性分でね!」ジャキィンッ

勇者「ヤマタノオロチよ、そういうことだ。この子を食べる前に俺と前菜を楽しんでもらおうか」

勇者「(ちょっとキザすぎたかな……)」

僧侶「(ゆーしゃさまカッコいい)」ポー

ヤマタノオロチ《……よかろう。どノ道貴様は片付けておかねばならんしな》

勇者「話が早くて助かるぜ」

僧侶「」シュビッ

ヤマタノオロチ《……》

勇者「……」ジリッ……

勇者「うおおおらぁっ!」

勇者は勢い良くヤマタノオロチの尾へと斬りかかった、が──

ギィィンッ

勇者「弾かれただと!!?」

ヤマタノオロチ《我ノ体は鋼にも等しい鱗から成る。そんな得物では傷一つつかん》ブォンッ!

お返しとばかりに八つある尾を束ね、勇者を薙ぎ打つ。

勇者「があっ……(防御しきれ)」

ズォォォォォォォ──

勇者は吹っ飛びながら木々をへし折り、やがて止まった後、勇者は──

勇者「……」

死んだ──

一撃のことだった。

僧侶「ゆーしゃ……さま?」

ヤマタノオロチ《ハハハ……フハハハッ! それは何の冗談だ勇者よ? よもや一撃で死ぬなど我も思いもせぬかったわ。すまんな勇者よ、完全復活したばかり故に手加減が出来なかったぞ》

ヤマタノオロチ《奴が見れば嘆き悲しむだろうな。勇者がここまで弱くなっていたとは》

僧侶「……ゆるさない」

娘「勇者様……」

ヤマタノオロチ《さて、頂くとしよう》

ビュォォォォ──

ヤマタノオロチ《ム……》

僧侶「勇者様、今は少しお休みになってください。後は私が引き受けます……この命に代えても」

ヤマタノオロチ《加護魔法か……少しは楽しめそうだな》


村人a「……」
村人b「……」
村人c「……」

────

夢を見た、これはきっと昔の夢だろう。

『このままでは奴等との全面戦争は避けられない……だから力を貸してくれないか?』

『それはルシエルの末裔としてか? それとも…』

『友としてだ。戦士アガータの末裔よ』

『そう言われたら行かねぇわけにはいかないな』

『おう…………。』

『なーにお父さん?』

『お前も男なら守りたいものを守れ。俺は母さんとお前と……ちゃん達を守れたら他は何もいらない』

『だからそれを守りに行ってくらぁ。強くなれ、……。お前ならいつか本当の勇者になれる』

『お別れだ、……。……ちゃんのことちゃんと守ってやるんだぞ』

────

僧侶「っはぁ……はあ……っく」

ヤマタノオロチ《どうした? 風ノ加護を使って逃げ回るノが精一杯か?》

僧侶「(私の魔法じゃどれもあいつに効かない……っ。とにかく今は時間を稼ぐ……!)」

風の加護魔法を使って高速でヤマタノオロチの攻撃をかわして来た僧侶だったが、

ヤマタノオロチ《そらっ》

僧侶「きゃうっ」

徐々にそれを捉えられていた。

ヤマタノオロチ《そろそろ終わりにしてやろう》

僧侶「(これ以上は後ろに下がれない……下がれば大蛇を陣の効果範囲外に出してしまう)」

ヤマタノオロチ《前菜にはちょうどいいサイズだ。喰ろうてやろうッ!》グワンッ

僧侶「(ゆーしゃさまっ)」クッ

勇者「おっとまだメインディッシュは早いぜお客さん」ガガガッ

ヤマタノオロチ《なにぃ!?》

僧侶「ゆーしゃさまっ」

ヤマタノオロチの口に刃の腹を突っ込み止めている。

勇者「口の中ならどうだぁ!? ベギラマ!!!」

ブォォッ──

ヤマタノオロチ《ゴフッ……》

勇者「効いたか!?」

ヤマタノオロチ《ムシャコラムシャコラ……ゴクン。ほう、これが前菜か? 悪くない》

勇者「ベギラマを……食いやがった!」

ヤマタノオロチ《我は千度をも越える火を吹く、これしきノ火など熱い内に入らぬわ》

勇者「ちっ。僧侶、お前は傷の手当てをしてろ。少しの間引き付ける!」

僧侶「はっ、はいっ!」

ヤマタノオロチ《こざかしいハエめがチョロチョロと》

勇者「でやぇぇやぁっ!」

ガキィッ

勇者「(ちぃ! やっぱこの剣じゃ無理かッ!)」

ヤマタノオロチ《小賢しい!》

また勇者目掛けて尾を大きく振るい立てる。

勇者「うおおっ」

剣を使って防御する勇者、鱗と鉄が摩擦し合い火花が躍り散る。

ヤマタノオロチ《ふんっ》

勢い勝るヤマタノオロチの尾が勇者を剣ごと薙ぎ払い、木の幹に叩きつけた。

勇者「ごはッッ……」

勇者「(今までの魔物とはレベルが……違いすぎる)」

ヤマタノオロチ「焦げろ勇者」ブォァッ

口に溜め込んだ火炎の息をそのまま勇者に浴びせかけた。

僧侶「ゆーしゃさまああああっ!!!」

勇者「……」プスプス…

石炭と化したように勇者は黒く焦げ、また、死んだ。

ヤマタノオロチ《フン……今度こそ仕留めたぞ、勇者め》

僧侶「おのれえええええええええええええ」

僧侶を中心に暴風雨が渦巻く。

ヤマタノオロチ《ほう、まだそんな力が残っていたか。面白い》

村人a「」村人b「」村人c「」
────
足りない

──何が足りない?

力が足りない

──何の力が?

純粋な力、全てを打ち倒す力が

俺には、足りない……

──なら、授けましょう、貴方に

────

ヤマタノオロチ《貴様では私を倒し得ない、なのに何故こうも立ち向かうノだ? 人間よ》

僧侶「はあ……はあっ……」

僧侶「(もう少しで……神父様の地法陣が完成する……それまで……私がこいつを止めるんだ!)」

僧侶「(いつだって助けられて来た……守られて来た……!)」

僧侶「(だから今度は私がゆーしゃさまを守る番! だって私は……!)」

僧侶「(ゆーしゃさまのたった一人の仲間(パーティー)だから!)」

ヤマタノオロチ《(妙だな。我を傷つけることが出来ない割には勝算がないというわけでもなさそうだ)》

ヤマタノオロチ《(アレを使うつもりか……? ならば少し様子を伺った方が良いか……さすがノ我とてアレを貰えばひとたまりもない)》ドス……ドス……

僧侶「!?(下がって行く……? なんで?!)」

僧侶「(これ以上下がられた村から出られる!!!)くっ……バギマ!!!」シュルンシュルンッ

グォォォグォォォ

ヤマタノオロチ《!(やはりか、遠ざけまいと風で道を潰して来た。ここは離れ遠くから確実に殺すことにしよう)》

僧侶「(駄目っ、私の魔法じゃ止まらない!!! どうしたら……)」


「僧侶!!! 風向きを!!!」

僧侶「!!!」

ヤマタノオロチ《なに!!!?》

僧侶「風よ……彼の者に暴風の猛々しさを!!!」

勇者「──暴風牙突」

暴風を身に纏った勇者の一突き──



ヤマタノオロチ《ククク……もしも貴様ノ剣がオリハルコンならば或いは我を貫けたかもしれんな》

ギギギ……

勇者「くそおおおッッッ!!!」

どんな勢いの一撃だろうがヤマタノオロチの厚い鱗の前で刃を止める。

ヤマタノオロチ《しかし驚いたぞ勇者。まさかあノ状態で生きておるとはな》

勇者「フフフ……」

ヤマタノオロチ《何が可笑しい?》

勇者「俺は勇者だぜ? 魔王を倒すために神より遣わされた者……それが【死ぬとでも】思ってるのか?」

ヤマタノオロチ《なに……?》

勇者「勇者とは魔王を倒すまでは死ぬことを許されない、そういう契約の名の元に神託受けている」

勇者「まさか知らなかったのか……? 数百年も生きて? クククッ……滑稽だなヤマタノオロチよ」

ヤマタノオロチ《……》

僧侶「(ハッタリだ……勇者だって魂と肉体は解離する、魂が肉体に戻らなければ死ぬ……でも、ならゆーしゃさまはどうやって……)」

勇者「そうだな。アンリミテッドリバイヴ(無限生命)とでも言っておこうか」

勇者「俺は目覚めたのさ、神託に!!! だから無駄な足掻きはやめろ」

ヤマタノオロチ《……そうか、なら》

ヤマタノオロチ《本当に無限か試すまで》ブゥゥッンッ

勇者「ガッッ……ア……」

僧侶「ゆーしゃさまッ!!!!!」

ヤマタノオロチ《死なぬとしても痛みはあるのだろう? ならばその痛みで命を壊してくれよう。いくら不死と言えど所詮は人間……脆弱なり》グチャッ……グチャリッ

勇者「ゴォァッ……グボォ……」

──それから、勇者は何度も死んだ。

殺されては、ヤマタノオロチが僧侶と戦っている隙に蘇り、殺されては……また蘇り、何度繰り返したかわからなくなるぐらいに、勇者は再生と死を繰り返した。

僧侶「ゆーしゃさま……」

僧侶の涙が雨の中でもハッキリとわかる程に流れ出す。
それでも目を凝らし、必死にヤマタノオロチと向き合い続ける。

そして──

勇者「……」

ヤマタノオロチ《どうした勇者。まだたかが20回ほどしか死んでおらんぞ? 無限には程遠い、ほれ、早く蘇って見せろ》

僧侶「あなたの相手は私ですっ!!!!」

村人abc「……」

教会内──

村人a「神父様!」

神父「おお、神の(以下省略 ザオリク!」パァァ

勇者「……ぷぁっ」

村人b「もはや流れ作業ですな!」

村人c「ご無事ですか勇者殿!?」

勇者「何回も何回もすまない……これも俺の力が足りないばかりに」

神父「無理を言ってるのは私の方だ……だがもうすぐで地法陣が完成する! あと少しだけ奴を引き付けてくれ!」

勇者「了解!」ダッ

神父「くっ……」

村人a「神父様!」

神父「さすがにザオリクを使いつつ陣に魔力を流し込むのは疲れるな……だが、頑張ってくれている二人の為にも早く地法陣を発動させねば!」

────

勇者「ゴバァッ」ズサァァァァァ

ヤマタノオロチ《(こいつ……本当に不死身なノか? 神め……厄介なモノを。それに死ぬ度にこちらの攻撃に対応しつつ攻撃して来ている……もし武器が鉄の剣でなければ相応の傷を負っていたところ)》

ヤマタノオロチ《……ふむ、さすがに飽きたな》

僧侶「!!!」

ヤマタノオロチ《》ゴアッ

あっという間のことだった。
ヤマタノオロチの一つの大蛇が、口を大きく開き、勇者を加え込み、咀嚼し、飲み込んだ。

僧侶「あ……ああ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

ヤマタノオロチ《こうすればいくら蘇生しようが我の胃の中の獄炎で殺し続けられる。無限であっても、もはや意味はない》

村人a「ゆ、勇者様が食われただあよ!」
村人b「これじゃ神父様のところへ担ぎ込めないべ……」
村人c「もう終わりだあ……」

娘「勇者様っ……お父さんっ……!」

神父「待たせた!!!!! 神父の名に置いて命ず、この大地に生きる悪しき魔物を封印せん!!!! 地法陣!!!!!」

雨に濡れた地面が黄金色に光る。
それは線となり、やがて村中をたどって陣を描く。

ヤマタノオロチ《貴様ァァァァ!!!》

神父「虚空の彼方に封印してくれる……ヤマタノオロチ!!!」

ヤマタノオロチ《神とノ誓いを破ったなァァァァ貴様ァァァァただではすまさんぞォォォォォォ》

神父「貴様はただの魔物だ!!! 神ではない!!!」

僧侶「待ってください神父様!!!!! あの中には勇者様が居るんです!!!!」

神父「なに!!!???」

村人a「勇者様があいつに食われちまっただーよ!」

神父「しかし……!!!」

ヤマタノオロチ《ハハハッ! そうだ! 勇者は我の腹の中にいるぞ!!! このまま我を封印すれば勇者も消える!!!!!》

神父「くっ……!!!」

僧侶「……神父様。地法陣を解いてください」

神父「だがしかし……それでは……」

僧侶「……私があいつを倒します。勇者様を助けた後、これを使ってでも」

神父「そのロザリオは……!」

神父「……すまない、自分の命欲しさに君にそんな覚悟を。だが安心したまえ、全ての清算は私がしよう」

神父「」チラッ

娘「」
弟妹「」

神父「(あれから十年……十分見守れた。お前は失ったが、子供達と暮らした日々、幸せだった。後はこの村の住民達が何とかしてくれるだろう……)」スッ

ヤマタノオロチ《そうだ!!! それで良い!!!》

神父「(妻、アガータの末裔、いや、我が友よ……今行くぞ)」

神父は懐の奥深くからロザリオを取り出した。

神父「まずは勇者を腹から出す、やれるな!?」
僧侶「はいっ!!!」

────

「ここは……」

──勇者よ

「あんた誰だよ」

──我はお前に神託を授けた者

「神様ってことか。で、神様が何の用だよ?」

──何故使わぬ?

「……」

──もうその力は授けたであろう?

「……怖いんだ」

──怖い?

「確かにこの神託の証には今にも爆発しそうな力が俺に流れ込んで来ようとしているのはわかる……けど、一度通したらもう戻れない、二度と俺じゃなくなる気がするんだ」

──勇者は勇者、変わることはない

「……俺は、あんたの言う勇者とはちょっと違う勇者目指してるんだと思う。何となくわかってたよ、あんたの思う勇者は」

「魔王を倒す力さえあれば後は何もいらない……それがあんたの思い描く勇者だろう?」

──それ以外に何がいる?

「それを探すために、俺達はこれまで旅をしてきたんだ」

──だが、このままでは何も出来ないまま死ぬぞ?

「……」

──何も守れず、魔王も倒せず、このままではお前は勇者として死ねない。

──ただの若者として終わり、そしてまた私は新たな勇者を他の者に託すだろう。魔王がいる限り。

「……何も、守れずに」

──勇者よ、守りたいものを守りたいのなら、受けとるがよい

──神の力、神託の力を

「俺は……」

──このまま死ねばあの僧侶も守れない、それでもよいのか?

「!」

──それでよい、今より本当の神託の儀を行う

生まれ変わるのだ、神の力によって、勇者よ

────

光が裂いた──

ヤマタノオロチ《グルォォォォォォオオオオオオオ》

神父「これは……!」

ヤマタノオロチの腹から天から降る光の如く溢れている。

やがて裂いた空間から肉を押し退けて勇者が現れた。

僧侶「ゆーしゃさまっ!!! ……!」

勇者の頭の神託の証が鈍色に鈍く光る。
それとは対照的に手には黄金に輝く剣が持たれていた。

神父「あれはまさか……勇者のみが持てると言われる伝説の剣……!」

歓喜に震える神父の声とは裏腹に、僧侶は今の勇者にえも言われぬ恐怖感を抱いていた。

ヤマタノオロチ《貴様ァァァァ何故生きているゥゥゥゥ!!!!》
勇者「……」

ヤマタノオロチ《答えぬか!!!!!》

口に火炎を宿す、

勇者「僧侶、フバーハ」

短く言い放たれた言葉、

僧侶「は、はいっ! フバーハ!!!」

気圧されながらも呪文を唱える。

包まれた大気がヤマタノオロチの火炎を和らげる。

勇者「……」

少し残った火が、雨の中でも勇者の服に火をつける。それを鬱陶しそうに払った勇者は、

僧侶「えっ……」

僧侶に今まで向けたことのないような冷たい目を向けた。まるで出来が悪いとでも言いたげな表情で。

ヤマタノオロチ《おのれええええええっ!!!!!!》

怒りに任せ突っ込んで来たヤマタノオロチを、まるで冷めた料理かのように興味なさげに見据える。

勇者「……」

光る剣を軽く一振り、それだけで今のヤマタノオロチに止めをさすのは十分だった。

ヤマタノオロチ《オノレ……勇者め……》

勇者「……」ニタァ

まるで自分の力を確かめるように勇者は強く拳を握りしめる。

神父「圧倒的じゃないか……! これが伝説の勇者……ッ!」

ヤマタノオロチ《オノレ……!》

神父は一体の大蛇が口を大きく開けて勇者を狙っていることに逸早く気づき走り出した!

ヤマタノオロチ《タダデハスマサン……キサマモミチズレダ……勇者!!!!!》ブォァッ

大蛇から吐かれたドス黒い炎が勇者に向かって飛翔する。

神父「勇者!!!!!」

呆然としている勇者を弾き飛ばし、神父は代わりにその炎を浴びてしまう。

神父「ぐぅおあああああああああああっ」

娘「お父さん!!!」
弟・妹「お父さあああん!!!」

ヤマタノオロチ《最後ノ最後マデ貴様ニ邪魔サレタカ……ダガ、魔王様ガ必ズシモ貴様ヲ殺ス、覚エテオケ、勇者……ヨ》サラサラサラ……

僧侶「神父様っ!!! 今解呪魔法を!!!」

神父「無駄だ…これは文字通り奴が命をかけて吐き出したもの…死ぬまで消えることはないだろう」

勇者「……」

娘「お父さん……」
弟・妹「うわあああああん死なないでお父さん!」

勇者「……! 俺は……!」

僧侶「……自分の力に酔いしれて気づきませんでしたか?」キッ

勇者「そ、僧侶……? 俺……」

僧侶「神父様は勇者様を庇って呪いを受けたのです……もう助からないでしょう。呪いは魂さえも喰い殺します」

勇者「あ……ああ……俺は……」

僧侶「勇者様を守ってくれたのです、さあ、最後の言葉を聞いてあげてください」

勇者「最後って……どうにかならないのか? まだ……! きっといつもみたいに……」

パシィィンッ──

勇者「な……」

僧侶「どうにもならないことだってあるんです……!」

初めてだった、僧侶に本気で叩かれたのも、僧侶のあんな顔も、

僧侶「勇者様、来てください」

あんなにも愛しかった、守りたかった僧侶が、怖くなる、憎くなる、

勇者「違うんだ……! 俺は……!」

僧侶「早く!」

勇者「っ!」

一喝され、ようやく勇者は焼け消える神父の隣へと来た。

神父「勇者……」

勇者「神父さん……俺……」

神父「よく、やってくれたね」

勇者「え……」

神父「これで村は救われる……本当にありがとう……勇者」ニコリ

勇者「でも……俺が神父さんを殺したようなもんです! 俺がしっかりしてれば……っ!」

神父「それは違う。君がもし来てくれなかったら最悪村は焼け野原と化していただろう。私は……臆病者だ」

神父「さっきも僧侶の覚悟を見てようやく決心するなんて……遅すぎたんだ」

僧侶「……」

神父「あの時もそうだった……私が死んでいれば……君のお母さんは死なずに……ゴホッ」

勇者「!!!」

娘「お父さんっ!!!」

神父「……勇者、魔導使いリノンに会え。彼女が魔王の城への行く道を知っている……!」

勇者「魔導使い…リノン」

神父「そして、君の父……戦士アガータの末裔は、生きている」

勇者「親父が……!?」

神父「二人とも……居場所はわからないが……必ず生きている」

僧侶「まさか……あなたは……ルシエル様の」

神父「……さあ、お前達。二人にお礼を言って」

娘「グスッ……はい。二人とも、ほら」
弟「ん゛ん゛」妹「わ゛か゛った゛」

娘・弟・妹「村を守ってくれてありがとう」

勇者「」グラッ

勇者「(俺は……なんて取り返しのつかないことを)」

神父「勇者……魔王を倒してくれ。そしてこの世界を……平和に」シュウゥゥゥ……

弟「うわああああああん」妹「あああああああああんお父さーん!!!!」

娘「……お父さん」

ザァァァァ──

僧侶「……」

大声で泣き叫ぶ二人、声を圧し殺して泣く娘、見送りの行いをした後、その三人を優しく抱きしめる僧侶。

その光景を見て、俺は初めて自分が失敗したんだと自覚した。

俺が失敗すれば、人は死ぬ。

そうならない為にもっと、強くならないといけないと思った……何よりも、強く。

勇者「僧侶……」

僧侶「はい」

勇者「南に渡ろう。このままじゃ俺は何一つ守れなくなる……」

激しく降る雨の中で、勇者ははっきりとわかるほど涙を溢した。

あけましておめでとうございます!
年明けてしまいました……
色々忙しかったり消えたりで遅くなってすいません
今回は外の世界の話と挫折の話でした

いよいよ終盤です!
暇潰しにでも読んでもらえたら光栄です

では、また

短編 僧侶の日記 Ⅴ

━━━━━━━━━━
勇者暦○○○年 七の月
初めて、ゆーしゃさまを叩いてしまった。
初めて、ゆーしゃさまと仲違いをしてしまった。
初めて、ゆーしゃさまの気持ちがわからなくなった。

ゆーしゃさまは村の為に何度も何度も生き死にを繰り返してまで頑張っていた……。
でも、大蛇のお腹から出たゆーしゃさまは……とても怖かった。
色々な勇者の冒険譚によると、光る剣を手にするとき勇者は本当の勇者へと覚醒する……とある。
それは魔王を倒す上ではとても喜ばしいことなのかもしれない。
でも、私にとっては……。

あれからゆーしゃさまとあまり会話をしていない。
神父様のことで私もゆーしゃさまも思うことがあるのだけれど、どうしたらいいのかわからない。
そんな雰囲気だった。
神殿でゆーしゃさまは言った。

『俺がもし迷った時はそれを判断してお前が止めてくれなきゃ困るぜ?』

ならやっぱりあの時のゆーしゃさまは間違っていると思った。
いつものゆーしゃさまならもっと周りに気を配っていたはずだ。

なら……神父様は身代わりになることもなくて……。

いつものゆーしゃさまなら……?

それは……勝手に私が押し付けてるだけじゃないの?

ゆーしゃさまは何でも出来て、凄くて、強くて、かっこ良くて……。
そんな理想をずっとゆーしゃさまに押し付けて来ただけじゃないの?

わからない、わからない。

ゆーしゃさまは勇者で、そうしなきゃいけないから?

勇者とは、なに?

勇者は、ゆーしゃさま。

じゃあ、ゆーしゃさまって……誰?

私は何で勇者様を、ゆーしゃさま、なんて呼んでいたんだろう。

わからない、けど、それでも、呼び続けなきゃいけない気がする。

私だけは、ゆーしゃさま、と……。

長編 壁の国

勇者「僧侶、僧侶」

僧侶「ん……。あっ、ゆーしゃさま」

勇者「もうついたぞ。早く降りる支度しろ」

僧侶「はい、すみません」

勇者「」スッ

僧侶「ゆーしゃさま……それ」

勇者「ここからは反勇者国家だからな……。こんなもんつけて歩いたらどうなるかわからん」

僧侶「そう……ですよね」

勇者は万人に受け入れられてるわけじゃない。
それはゆーしゃさまが勇者であることに関係なく歴史によって降りかかる事柄。

なら、勇者には……困難しか残ってないんじゃないかと……私は思った。

港──

勇者「宿をとってくる。僧侶は魔導使いリノンの情報を集めてくれ」

僧侶「は、はい」

魔導使いリノン様、三代目勇者様達と旅をし、今の魔法職を確立させた人。
ピオリムや、ボミオスと言った時間を操る魔法は彼女の魔法の派生だと言われている。
彼女は時を操る魔法を得意としていた。

しかし現代に至っても時を操る魔法使いは彼女以外例がない。

魔法を導きし者、魔導使いリノン。

そして噂ながらに囁かれる。

彼女に末裔は存在せず、不老不死で、数百年の時を生きているという伝説が。

──

結局リノン様の有益な情報は得られず、私は宿に戻った。

勇者「どうだった?」

僧侶「あの……駄目でした」

勇者「……。」

また、あの時のような顔をされると思った。
まるで興味のないものを見るような、蔑んだ……。

勇者「そっか。まあここにはレベル上げのついでに来たからな。
南の大陸のモンスターは手強いらしいから、気を引き締めないとな!」

そう言ってゆーしゃさまは軽く笑ってみせた。

僧侶「はい」

私はその笑顔を、素直に受け止められなくなって来ていた。

宿──

僧侶「ん……」

夜中にふと目が覚めた。南の昼は高い気温、夜は真冬のような寒さの気温変化に体が慣れなかったのかもしれない。

僧侶「ゆーしゃさま?」

ふと隣のベッドを見ると、ゆーしゃさまがいないことに気づく。
昼間に買っておいた夜間活動用の暖かいローブを身に纏い、杖を携え宿を出た。

────

ゆーしゃさまはすぐに見つかった。
港の外れの海岸で、モンスター相手に剣を振るっている。

勇者「オオオオオッ!!!」

吼える様に叫び、敵を薙ぎ払って行く。

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「はあ……っ……はぁ……」

僧侶「ホイミ」パァァ

勇者「! ……なんだ僧侶か」

僧侶「ホイミスライムかと思いました?」フフッ

勇者「なんだよソレ」ハハッ

僧侶「ゆーしゃさま……あんまり無理しないでくださいね?」

勇者「……そうも言ってられねぇさ。魔王の完全復活も近いだろうしな……」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「それに……もう二度と自分の力不足で誰かを失ったりしたくない……だから、もっと強くならないといけないんだ」

僧侶「……はい」

私はその言葉に、何も言ってあげることが出来なかった。
勇者という荷は私が思っていた以上に、重いことを……ようやく理解して来たからだろうか。

────

それからはひたすら戦いの日々が続いた。

勇者「僧侶! 回復頼む!」

僧侶「はいっ」


昼間は厳しい猛暑の中でモンスター達と戦い、

勇者「……」
僧侶「……」

夜は極寒の中次の町へ歩を向けた。

今までの旅の中で如何に自分が甘えていたのかを思い知らされた。
暖かな食事、暖かなベッド、暖かな人との交流……。

ゆーしゃさまは敢えてそれらを捨て、強くなろうとしている。
なら、私も耐えなければいけない。

ゆーしゃさまのパーティーとして、私も強くならないと。

三日後、ようやくこの南の大陸の首都の一つ、壁の国へ到着した。

町全体が鉄の壁に覆われており、東西南北にそれぞれ大きな門が備わっている。
昼間は門番の人が絶えず見張り、夜にはこの門が完全に閉まるらしい。
モンスターに対抗する為に考えられた要塞都市、そして勇者に見捨てられ、神の加護がなくなった地で生きる統べ。

僧侶「大きな門ですねー」

勇者「そうだな」

この頃ゆーしゃさまは空返事が増えた気がする。

何かを考えたり、何かを抑えたりしている気が
私が何度も声をかけても、ゆーしゃさまは大丈夫の一点張りだった。

港でもらった通行書を見せ、中に入った時だった。

──勇者は強いんだぞ! バカにするな!

小さな子供の声だった。
声のした方へ振り向くと小さな少年が三人の少年の前で声を荒げている。

悪ガキa「勇者なんてただの腰抜けだろ? 職を極めた奴らが一緒だから魔王だって倒せてるしな」

悪ガキb「そうそう。一人じゃ何もできない腰抜けさ」

悪ガキc「腰抜け勇者~よわっちぃ~勇者~」

少年「違う! 勇者は一人で何もかも背負ってて……凄いんだぞ!!!」

僧侶「(その通り!!! 南の大陸でも勇者のことをわかっている人もいるんだ)」

でも、ここは南の大陸。反勇者国家の真っ只中、きっとそれは理解されることはない。

それでもその少年は三人に向かって叫んだ。
勇者が背負っている重みを……。

それに腹が立ったのか三人の一人が少年の胸ぐらを掴んで叫び返す。

悪ガキc「ならなんでこの国を守らなかった!!! 何でこの国を滅ぼそうとした!?」

少年「それは……」

悪ガキc「勇者なんてもんは魔王と同じぐらいこの国にとっちゃ悪なんだよ!」ガスッ

少年「うぐっ」

悪ガキb「全くこいつも懲りないな~ほんと」

悪ガキa「こいつの為にもそろそろ本格的に指導してやらねーとな」

そして、三人によるリンチ紛いの暴力が始まった。
周りはそれをいつものことだと言わんばかりに見て見ぬフリをしている。

僧侶「ゆーしゃさま!」

勇者「……」

勇者は一瞬駆け出そうとしたが、グッと堪え、踵を返した。

勇者「子供の喧嘩だ。よそ者が出張る場面じゃない。行くぞ……僧侶」

僧侶「ゆーしゃさま!? どうして……」

勇者「ここで怪しまれることをして俺が勇者とバレたら……俺達二人ともどうなるかわからない」

僧侶「でも……!」

勇者「ここはそういう場所なんだ……諦めろ」

僧侶「諦めろだなんて……ゆーしゃさまの口から聞きたくありませんでしたっ!」タタタッ

勇者「僧侶……」

僧侶「やめなさい!」

悪ガキa「な、なんだよあんた!」

僧侶「私は神に仕えし者、暴力は見過ごせません」

悪ガキb「ちっ、教会の犬か。行こうぜ」

悪ガキc「次会った時も言ってたらもっとキツいお仕置きしてやるからな、覚えとけよ!」

僧侶「大丈夫だった?」

少年「……うるさいっ! 余計なお世話だ!」

そう言って僧侶の伸ばした手を払い、どこかへと駆けて行った。

勇者「ああいう年頃の子達は負けず嫌いだからな……俺もそうだった」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「先に宿行ってるから」

僧侶「……わかりました」

宿──

僧侶「確かに子供と子供のケンカで大袈裟に言っちゃったかもしれないけど……やっぱりゆーしゃさまに止めて欲しかったな」

僧侶「勇者は強いんだぞっ!って」

わかってる……ここが勇者を忌み嫌っていることも。
でも……ゆーしゃさまなら……と少し期待していたのも本当だ。

僧侶「諦めろ……か。世の中にはどうしようもないことだってある……それは私もわかってるつもりだけど……」

ゆーしゃさまからだけは、聞きたくない言葉だった。

そんなことを考えているうちに、私の意識は眠りに落ちた。

夜──

勇者「やっぱり外には出られないか。今日は訓練休みにするかな……ん?」

勇者「なんだこの穴……」

「……!……!」

「!!!」

勇者「微かに声がする……外に繋がってんのか?」

勇者「……まさか!」

勇者は穴の中に飛び込み、先を急いだ。

────

悪ガキc「昨日ようやく完成したんだよな~この穴。昼間は門番が張ってるから迂闊に外出歩けないしな」

悪ガキb「さて、勇者に憧れ勇者を目指している少年君」

悪ガキa「そんだけ言うならお前もモンスターぐらい倒せるよなあ?」

少年「……」

悪ガキc「まさか勇者は強いけど僕は弱いから守ってくださ~い、なんて言わないよな?」

少年「僕は……!」

悪ガキb「寒いんだから早くしろよ~。武器もちゃんと用意してやったんだからよ」

少年「(こんな棒切れでモンスターを倒せるわけない……)」

少年「(けどもし倒せたら……こいつらも勇者の強さをわかってくれるかもしれない)」

少年「」グッ

悪ガキa「こいつマジでやる気かよ。ま、死なない程度にな~死なれるとさすがに面倒だからよ」ククッ

悪ガキb「あそこの小さいウサギっぽいのならお前でも倒せるんじゃね?」ハハハッ

少年が小さなウサギのモンスターへ近づく。

少年「(大丈夫だ……気づかれてない。これなら……!)」ジリ……ジリ……

棒切れを構え、一気に降り下ろす──

勇者「やめろ!!!」

ガスッ──

少年「!!!」

降り下ろされた棒切れは見事ウサギのモンスターに直撃し、モンスターは瀕死の状態で這いつくばっている。

勇者「遅かったか……!」

「キュイ……キュイキュイ……」

少年「次で止めだ!」

少年がまた、棒切れを振り上げた時だった──

ドスッ──

少年「えっ」

少年の足に、何かが、突き刺さった、

「ギュイギュイ!!!」

少年「う、うわああああっ」

ウサギのモンスターだった。さっきのとは違い、体が一回り大きく、頭に角が生えた。

その角が、自分の足に突き刺さっている。

少年「ッッッ」

痛みと恐怖で声が出ない、

「ギュイギュイ」「ギュイギュイ」「ギュイギュイ」

辺りを見渡すと同じモンスターがどんどん集まって来ている。

悪ガキa「お、俺は知らねぇからな!」
悪ガキb「お、俺も!」
悪ガキc「おいこっちにも来るぞ!!! 早く逃げようぜ!」

少年を置いてそそくさと穴から逃げようとするのと入れ替わりで、大群に向って誰かが駆け出して行った。

勇者「シッ……!」

少年に突き刺さっているウサギの角を剣で切り落とす。
角を失ったウサギを蹴り上げると、勇者は咄嗟に少年から角を抜き、ホイミを唱えた。

勇者「立てるか?」

少年「えっ……う、うん」

勇者「こいつらはサンドラビット……別名サウザンドラビットなんて呼ばれててな、
仲間が一匹でもやられるとその仲間の声や血の臭いを嗅いで仲間を助けるためにやってくる……この辺りでも特別厄介なモンスターさ」

少年「ごめんなさい……そんなこと知らずに……僕……!」

勇者「過ぎたことは仕方ねぇ。問題はこれからどうするかだ」

「「「ギュイギュイ」」」

勇者「(もう既に数は50以上はいる……ここまで多いと剣だけじゃ守り切れないな。)」

勇者「(……仕方ないか)」

勇者「穴まで走るぞ、いいな?」

少年「はいっ」

ダッ──

二人が駆け出した同時にサンドラビットも弾丸の如く襲いかかる。
ジャンプしては頭についている鋭い角を突き出し二人を串刺しにしようとしてくるのを、勇者が剣で弾き返す。

少年はただひたすら穴を目指して走り抜けた。

しかし、穴の前ではあの三人が誰が一番最初に逃げるかで揉めていた。

悪ガキc「俺が掘ったんだから俺が最初に行く権利があるだろ!」
悪ガキa「そんなの関係ねぇ!」
悪ガキb「ここは公平にじゃんけんで決めるべきだろ!」

少年「なにやってんだよお前ら! 早く穴に逃げろ!」

悪ガキc「偉そうに! 元はと言えばお前が……」

勇者「ごちゃごちゃ言ってねぇでとっとと入れ! 死にたいのか!?」

勇者が恫喝すると三人は一斉に穴の中に飛び込んだ。

勇者「お前も早く!」

少年「あなたは!?」

ウサギ達はもう穴の目の前まで迫っていた。

勇者「ある程度片付けていかないとこいつらまで中に入れちまうからな」

少年「そんな……」

勇者「安心しろ、俺は強いからな」ニッ

そう笑うと、勇者は剣を地面に突き刺し、深く目を瞑る。

勇者「来れ、雷鳴」

そんな勇者をお構い無しに串刺しにしようと飛びかかるモンスター達。

少年「危ないっ!」

そう叫び、少年がこの先起こる惨状に目を瞑りかけた時だった──

勇者「ライデイン──」

闇夜を迸る紫雷が切り裂く。

少年「これって……もしかして」

雷によってモンスター達が一斉に焼け焦げた。

勇者「今のうちだ!!!」
少年「うんっ!」

二人は一斉に穴の中に飛び込んだ。

────

穴から出た後、勇者は三人を厳しく叱りつけ、少年には無謀と勇気の違いを説いて見せた。

勇者「ふぅ……全くとんだ目にあったぜ。この事は内緒にしてやるから、穴はキッチリ埋めとけよ」

悪ガキabc「はい……」

勇者「じゃあな」

少年「待って!!!」

勇者「……」

少年「もしかしてあなたは……本物の勇者なんじゃないですか!?」

悪ガキc「勇者……?」

勇者「……何言ってんだ。勇者がこんなところ彷徨いてるわけないだろ?」

少年「でも! さっきの魔法はライデインだよね!? 勇者にしか使えないはずの魔法じゃないか! だったら!」

勇者「……」

少年「待ってよ!!! 僕も連れて行ってくれないか!? 魔王を倒す旅をしてるんだろ!?
なら僕も……」

勇者「やめてくれ」

少年「……なんでだよ。いっぱい剣の訓練もするし何でもするからさっ! 頼むよ!」

勇者「……これ以上守りきれないんだ……ごめん」

そう言って、勇者は去って行った。

少年「なんだよ……本物の勇者が目の前に現れたのに……何も出来ないのかよ……クソッ!」ダッダッダッ

悪ガキc「あいつ……本当に勇者なのか?」

悪ガキb「勇者マニアのあいつが言ってんなら……本物じゃね?」

悪ガキc「なら……何でこの町にいるんだよ!
勇者何てもんが! クソッ!クソッ!」

悪ガキa「どうする……? 壁王様に伝えるか?」

悪ガキc「……それだけじゃ今の生ぬるい国と国との問題でいいとこ国外退去だ……
もっと他に効果的な……!」

悪ガキc「ククク……いいこと思い付いたぜ」

悪ガキb「なんだなんだ?」

悪ガキa「お前ほんと勇者嫌いだよな」

悪ガキc「この国に勇者を嫌いじゃないやつなんているかよ。あいつ以外な。
……何が勇者だ。俺達の子孫をこんな砂漠に追いやりやがって……!」

悪ガキc「へへへ……勇者退治だ」

明朝──

おばさん「門番さんおはようございますだ」
門番「おはよう。今日も暑くなりそうですな」
おばさん「それは毎日のことだあよ」

ピクッ──

おばさん「?」

門番「どうなされました?」
おばさん「さっきそこの地面が動いたような」

門番「地面?」

モコモコッ──

門番「!!?」

ブワッ──

「ギュイギュイ」

門番「こ、こいつは!!!」

門番「モンスターだああああああ!!!! サウザンドラビットが中に入って来たぞ!!!!」

ブゥゥゥゥゥウウウウウ───
ブゥゥゥゥゥゥウウウウ──

宿──

僧侶「ふぁっ! 何の音でしょうか!
あ、おはようございますゆーしゃさま」

勇者「おはよ。朝刻の鐘にしてはやけに音がうるさいな」

コンコン──

僧侶「? どちら様でしょうか?」

門番「失礼する。旅の方に少し訪ねたいことがあって来た」

勇者「……」

僧侶「はい? なんでしょう?」

門番「少しご同行願えますか?」

僧侶は良くわからずに、勇者は嫌な予感を抱えつつ、門番の後に続いた。

────

門番「この穴は、あなたが掘ったもので間違いありませんか?」

勇者「……」

僧侶「ゆーしゃさま?」

悪ガキc「間違いありませんよ門番さん。僕達三人で見たんです。
その人がこの穴を何かの魔法で掘って外に行くのを」

悪ガキab「そうそう」

勇者「(穴をちゃんと埋めずに浅く土を被せたな……)」ギリッ

門番「本当なんですか?」

僧侶「ゆーしゃさま……?」

門番「先程この穴からサンドラビットの群れが現れました。撃退し、穴を埋めたのでもう来ることはありませんが……」

門番「サンドラビットは仲間の血や臭いを便りにやって来ます。
あなたの衣服や持ち物を調べさせてもらって構いませんか?」

勇者「……ああ」

僧侶「ゆーしゃさま……」

門番「おい、調べろ」

門番b「はっ」

門番b「ありました!!! 確かにサンドラビットの血がついた服が……これはッッッ!」

門番「どうした?」

門番b「……これに、見覚えはありませんか?」

門番bの手に持たれているのは、黄金に輝く神託の証だった。

門番「それは……! まさか貴様……!」

勇者「ああ、勇者だ」

ざわざわ……ざわざわ……

勇者がまた厄災を運んできおった!

勇者め……よくもおめおめとこの地を踏めたな!

子供は見ちゃ行けません、呪われますよ!

僧侶「(なに……これ……まだゆーしゃさまがやったって決まったわけでもないのに)」

門番「この地では勇者は立ち入り禁止とされているのは知っているな?」

勇者「ああ」

門番「更にモンスターを呼び込んだ罪、来てもらおうか……処罰は王の判断に委ねる」

二人の門番に捕まれ、人混みをかき分け城へ向かう。

僧侶「待ってくだ」

少年「待ってくれ!!!!!」

悪ガキc「ちっ」

門番「なんだ?」

少年「その人は悪くないんだ! 悪いのはあいつらだ!!!」

悪ガキa「なにぃ?」
悪ガキb「言い掛かりはやめろよな!」

少年「あの穴はあいつらが僕にモンスターで度胸試しさせる為に掘ったものなんだ!」

少年「それをこの人が助けてくれた……だからその人は悪くない!
悪いのは僕とそいつらだ!!!」

悪ガキa「こいつ……!」
悪ガキc「ならそれを証明するやつはいるのか?」

少年「え……」

悪ガキb「そうだそうだ。誰がその穴を掘ったのが僕らだって証明するんだー?」

少年「それは……」

悪ガキc「僕達はそこの勇者穴を掘って外に出てるのを三人で見た、更に勇者にはモンスターの血の跡まである……
どうやっても言い逃れは出来ないと思うけど」

悪ガキc「どうせ大好きな勇者様を庇おうとしただけでしょう。いつものことですよ」ニヤリ

門番「確かに、こいつの勇者への心酔っぷりにはほとほと呆れていた。
が、罪人を庇うようならもはや子供と言っても容赦はしないぞ」

少年「罪人……?」

門番「勇者がこの国に入るだけでも問題だが、更に街の中にモンスターまで連れてくるとは」

門番「壁王の判断次第では処刑もあり得る」

少年「処刑……」

僧侶「そんな……」

僧侶「待ってください!!! まだゆーしゃさまがやったって決まったわけじゃ!」

門番「どけぃ! これ以上勇者を庇い立てするなら貴様も牢屋にぶちこむぞ!」

僧侶「どうぞご勝手に! こんな道理の通らないもの、神も私も許しません!!!」

勇者「僧侶っ!!!」

僧侶「ゆーしゃさま……?」

勇者「いいんだ。大丈夫だから、待っててくれ」

僧侶「でも……」

勇者「大丈夫だ。今まで俺が嘘ついたことあったか?」

僧侶「……わかりました。必ず……必ず無事に帰って来てください」

門番「ふんっ、行くぞ」

少年「僕のせいだ……僕のせいで勇者が……」

悪ガキc「ケケケ……勇者退治完了」

悪ガキa「俺達はレベルが1上がった! ってか」

悪ガキb「勇者経験値すくね~」ゲラゲラ

壁の城 謁見の間──

門番「壁王様! 勇者を連れて参りました!」

壁王「うむ、下がれ」

門番「はっ」

壁王「そなたが勇者か、思ったより若いな」

勇者「……」

壁王「お前のことは王子から聞いている。倅が世話になったな」

勇者「……」

壁王「だからと言って刑を温くするつもりはない。この国にはこの国の決まりがあるからな」

勇者「わかっているつもりです」

壁王「ならいい。とりあえず今日一日は牢屋で泊まって行くといい。刑は追って通達する。おい」

門番「はっ」

壁の城 地下牢──

門番c「さあ入れ! 妙な真似をすれば仲間もここにぶちこんでやるからな!」

勇者「僧侶に何かしてみろ……また国が滅ぶことになるぞ」

門番c「こいつッ!!!」ガスッ

勇者「ぐっ」

門番「やめろ。そこでおとなしくしていれば危害は加えん、約束しよう」

勇者「……それを聞いて安心したよ」

キィィィバタンッ──

勇者「……こうまで違うか……同じ人間で、違う勇者なのによ」

勇者「初めからわかってたことだろ……勇者ってやつの重みを。
いや……わかってたつもりだったのかもな」

────

キィィィ……

勇者「……」

「勇者さん、食事をお持ちしました」

勇者「あんたは……」

南の王子「中央大陸以来ですね。あの時は本当にお世話になりました。そして……その恩義に背く数々のご無礼……お許しください」

勇者「いいよ、飯持って来てくれたから許す」ニコ

──

勇者「うめぇうめぇ」

南の王子「食べながらでいいので聞いてください」

勇者「んぉ?」モグモグ

南の王子「勇者さんの刑が決まりました」

勇者「ムグ……処刑か?」

南の王子「まさか。そんなことをしたら中央大陸と全面戦争ですよ」

南の王子「しかし我々も国としての体面があります。よって無刑と言うわけにも行きません…」

南の王子「壁王から言い渡される三つの刑の内一つを選んで執行されます」

勇者「選んでいいのか」

南の王子「はい。ただし絶対に砂漠越えだけは選ばないでください」

勇者「……」

南の王子「他の二つも難易度は高いですが勇者さんなら大丈夫なはずです」

勇者「わかった」

南の王子「すみません……僕の力及ばずこんなことになってしまって」

勇者「疑わないんだな、南の王子は。俺がモンスターを呼び込んだってことを」

南の王子「当たり前じゃないですか。魔物に操られていた僕を殺さず助けてくれた人ですよ?」

南の王子「もしそれが本当だとしても何かしら理由があってそうしたんでしょう?」

勇者「……ありがとな。何かちょっと気が楽になったよ」

南の王子「勇者さん、僕はいつかこの地から勇者への偏見をなくしたいと思ってます」

勇者「そういや勇者のことについて勉強してるんだっけ?」

南の王子「はい。僕が勇者のことを知りたいと強く思ったのは二代目勇者の冒険譚を見た時でした」

南の王子「こっそり出掛けた時に港で買って以来……僕は二代目勇者に虜になったんです」

南の王子「二代目勇者は弟と妹を連れて旅をしていました」

南の王子「兄は剣に優れ、弟とは知恵に優れ、妹は魔法に優れていました」

南の王子「三人は協力し合ってモンスターや魔物と戦い、とうとう魔王を破ったのです」

勇者「でも……」

南の王子「はい。冒険譚の最後には二代目勇者はその後自分の力に溺れこの国を滅ぼした……とあります」

南の王子「だけど僕はどうしても納得行かずありとあらゆる書物を調べました」

南の王子「だってそうじゃないですか。その時二代目勇者は一人で街を滅ぼした、とされているんですよ?」

南の王子「なら残り二人の弟妹は何をしていたのか? と」

南の王子「そしてその綻びはやがて確信へと変わって行った」

南の王子「それは二代目勇者が残したとされる日記に記されていました」

南の王子「それによると二代目勇者は魔王を倒した後、全国の城に弟妹と三人で報告している最中……ちょうどこの南の大陸の城を訪れた時、起こりました」

勇者「……」

南の王子「勇者の力を戦争に利用せんが為に弟と妹が人質取られたんですよ……」

勇者「!!!」

南の王子「そして無理やり姫を勇者に宛がい、自国の利益の為に利用しようとした……」

南の王子「文字も古く掠れていたので読めたのはここまでですが……多分、二人の弟妹は自決をしたんじゃないかと思います。
兄の枷になりたくないが為に」

南の王子「それに激情した勇者は……南の大陸を滅ぼした。魔王を倒したその圧倒的な力を使い……」

勇者「……」

南の王子「さっき勇者さんは僧侶さんに何かすれば国を滅ぼすと言いました……二代目勇者もあれと同じ気持ちだったのかもしれません」

勇者「……だが理由はどうあれ一国を滅ぼす程命を奪ったことに変わりはない」

南の王子「はい…」

勇者「その咎を、俺も背負ってるんだよな」

勇者「なら、刑の一つや二つ受けないとな」

南の王子「勇者さん……」

勇者「今の勇者は俺だ。だから今まであった全てのことを今は俺が背負って行かなきゃいけない」

勇者「それが多分……勇者の役割だから」

南の王子「っ……いつか、必ず皆もわかってくれるはずです!
その為に僕も頑張りますから……勇者さんっ」

勇者「ああ、期待してるよ」ニコッ

──そして、翌日

中央広場にて勇者の刑が壁王より伝えられる。

広場には多くの人が集まり、今か今かとその時待っている。

僧侶「ゆーしゃさまっ!」ギュッ

勇者「大丈夫だって言っただろ」ナデナデ

僧侶「でも……でもっ」

勇者「それに、無罪放免ってわけでもないしな」

壁王「これより、勇者への刑を言い渡す」

壁王「本来街の中にモンスターを呼び込むなど処刑に値する」

処刑だ!!!!
そうだ処刑しろー!!!

僧侶「」キッ

壁王「しかし、先日、我の倅、王子が勇者に救われたのも事実」

南の王子「」コクリ

ガヤガヤ……ガヤガヤ……

壁王「よって、三つの刑の内一つを選んで執行することにする」

壁王「一つ、バジリスクの鱗を剥いで持って来ること」

バジリスクっていやあの触れるだけでも死ぬって言われてる猛毒持ちのモンスターか……!

壁王「一つ、この間の大雨で出来たであろう新しいオアシスをこのルーラ石に登録して持って来ること」

新しいオアシス探しか……砂漠中を歩き回ることになるな。

壁王「一つ、砂漠を越え、この密書を砂漠の王へ届けること」

砂漠越え……。
それってもう処刑に近いんじゃ……。

壁王「さあ、勇者よ。どれを選ぶのだ?」

勇者「……僧侶」

僧侶「はい?」

勇者「どんな苦しい道のりでも……俺について来てくれるか?」

僧侶「はい。いつまでも、どこまでも、お供致します、ゆーしゃさま」

勇者「壁王よ、答えは……」

勇者「全部だ」

壁王「な」
南の王子「なっ」

なっ─────

南の王子「バカなっ! あなた達は砂漠の厳しさを理解していない!!!
死にますよ!!? 本当に!!!」

勇者「それでも、全部やらなくちゃならない。勇者がこの地で犯した罪は、こんなもんじゃ到底拭えないけど……」

勇者「だからって俺は逃げたくない」

僧侶「ゆーしゃさま……」

…………。

壁王「……よかろう」
南の王子「陛下!!!」

壁王「勇者がやると言っているのだ。止めることない。
皆もそれで納得してもらえたかな?」

砂漠越えなら……まあ。

実質死刑みたいなもんだしな……。

壁王「では、決まりだ(面白い男だ。勇者よ、逃げ出して更に勇者の格を落とすなよ)」クククッ

勇者「行こうぜ、僧侶! 砂漠越えだ!」

僧侶「はいっ!」

悪ガキc「……(クソッ! みんな騙されやがって!
どうせインチキな魔法使って越えるに決まってる!)」

悪ガキc「さっさと出ていけ! 勇者め!」ポイッ

ガツッ──

勇者「……」ギロリ

悪ガキc「うっ」

勇者「……」スタスタ

悪ガキc「(なんだよ、ビビらせやがって!)」

悪ガキa「出ていけ出ていけ!」ポイッ

悪ガキb「福はうち~勇者~外~!」ポイッ

ガスッ─
ボコッ──
ベシッ──

それは段々エスカレートして行き、この街の住人皆が勇者に物を投げ始めた。

ガスッ─
ゴッ──

勇者「……」

それでも勇者はひたすら耐え、出口へ向かって歩を進める。

僧侶「ゆーしゃさま……血が出て」

ガッ──

僧侶「きゃっ」

勇者「ッッッッッ!!!!!」

勇者のお付きなんかしおって!
裏切り者が!!!

裏切り者ー!!!

何が神の使いだ! 俺達は救わないくせに!!!

それはとうとう勇者の仲間である僧侶にまで及んだ。

僧侶「うぅ」

僧侶は頭を抱え、守りながら歩を早めた。

勇者「」

殺せ

勇者「」

こいつらは神に背く愚か共達だ、魔物と変わらん。
殺せ──

勇者「」ググッ

神託の証が鈍く光る。

勇者「コロセ──」

勇者の手の平から、光る剣が伸び──

僧侶「大丈夫ですからっ! ゆーしゃさま、大丈夫……大丈夫だから!」ニコッ

勇者「そう……りょ……」

その顔を見て、落ち着きを取り戻す勇者。

僧侶「さっ、行きましょう! 砂漠へ」

勇者「……ああ」

────

少年「僕が……僕が勇者をこんな目に合わせたんだ……僕がッ!!!」

後悔に瞳が滲む、

少年「……え」

しかし、少年が見たものは

暴虐の輪の中を手を繋ぎながら、ゆっくりと歩いて行く二人の姿だった。

次は砂漠越えのお話

話が長くなるのはもはや仕様です

長編 砂漠越え

勇者「よし、大体揃ったな」

僧侶「はい」

二人とも日除けの帽子、日除けのローブ、そして水やテントと言った砂漠越えの装備に身を包んでいた。

勇者「いよいよか……」

僧侶「……」

あれ以来、ゆーしゃさまは片時も神託の証を外すことはなかった。
まるで戒めを背負うように……。

当然周りの反応は冷たかった。この水やテントを買うのにも何件も店を回り、通り過ぎる度に嫌味を吐かれた。

それでもゆーしゃさまはいつも通りだった。
だから、私もいつも通りにしよう。
ゆーしゃさまの重荷を少しでも減らせるように。

勇者「よし、行くか!」

僧侶「はいっ」

そうして踏みしめたこの第一歩が、これから始まる長い長い砂漠越えのスタートだった。

────

私達が砂漠でやらなきゃいけないことをまとめてみる。

①新しいオアシスの発見
②バジリスクの鱗の入手
③砂漠の王へ密書を届ける

ゆーしゃさまはまずオアシスの発見から済まそうと言っていた。
バジリスクは個体数が少なく、砂漠でも発見例が少ないモンスターな為、探すと言うより偶然出会う、が正しいかもしれない。

そしてその両方が終わってから砂漠を越える。
この南大陸砂漠は東西に5600km、南北に1700kmにもなる世界でも最大規模の砂漠だ。
南の大陸の人達ですら歩いて渡るなどあり得ないと言い切る程に過酷な道のり。

昼間は50度まで気温が上がり、夜はマイナスにまで気温が落ち込む。
今ではルーラ石の普及により、水くみや貿易何かも砂漠を越える必要がなくなりました。

なら、この砂漠を行き来出来るようにしたのは誰なのか。

それはゆーしゃさまの一つ前の勇者様、十代目勇者様でした。

十代目勇者様は勇者になる前は考古学者で、砂漠にある遺跡やお城を探索するのが好きだったそうです。
ルーラ石の記憶はそのついでに行われたのだとか。

そのおかげで壁の国や武の国から砂漠の国までラクダを使って荷を運ぶ必要もなくなり、今まではルーラ石で一っ飛びになりました。

彼は南の大陸に多大な利益をもたらしたとして、英雄と呼ばれていたが、勇者になった途端その称号は剥奪され、裏切り者扱いを受けたという。

それほどにこの地は勇者と相容れない場所なのだ。
それでも……ゆーしゃさまはそれを投げ出したりしなかった。

─一日目

昼間は日差しが強いため日陰で休み、夕方から夜にかけて移動をし、朝にオアシスを探すという計画を二人で考えた。

勇者「今日はこの辺で休むか」

僧侶「そうですね」

そう決めると二人でテキパキとテントを組み上げる。
一の月をかけて砂漠を越える計画を立てていたので食料もそれに合わせて持って来てはいるけどやはり十分な量とは言えない。
考えて食べて行かないとすぐになくなってしまうだろう。

でも、今日は大事な始まりの日。

勇者「お、スープか。うまそうだな」

僧侶「ふふ、もう少しで出来ますからね」

ちょっとぐらい贅沢をしてもバチは当たらないだろう。

───

勇者「僧侶、僧侶」ユサユサ

僧侶「んン……」

勇者「そろそろ行くぞ」

僧侶「あ、ふぁい」

ゆーしゃさまに起こされ外に出てみると、昼間との気温の違いに体が震え、一瞬で覚醒させられる。

テントを片付け、さて、歩こうかと顔を上げた時だった。

僧侶「わあ~」

空には満天の星空が広がっていた。
辺りに光はない為、星空が鮮明に見える。

勇者「綺麗だな」
僧侶「はい」

ゆーしゃさまと二人で眺める星空はとてもロマンチックで、私達に課せられている刑のことも忘れてしまいそうなぐらいだった。

────

それからも昼間は日差し避け、夕方に眠り、夜に移動し、朝にオアシスを探すということを繰り返した。

だが、なかなか見つからない。
あるのはどこも地図に記入されてる既存のオアシスだけだった。

でも、まだこの時は二人とも余裕はあった。
オアシスがいっぱいある、つまり命の源である水はいつでも手に入るという心の拠り所があったからだ。

しかし、三日目に差し掛かり、水をオアシスから補給しようとした時、その拠り所は一気に崩れ去ることとなった……。

三日目──

僧侶「うっ~つめた~い」

勇者「昼間でもオアシス付近は涼しいんだな~助かるぜ」

僧侶「水もいっぱい汲めたし、これでまたいっぱい歩けますねゆーしゃさま!」

勇者「ああ」

「おいお前ら!!!」

勇者「ん?」
僧侶「はい?」

「まさか勝手に水を取ったんじゃないだろうな?」

僧侶「えっ」

勇者「何か問題でもあるのか?」

「問題だぁ~? あるに決まってるだろ、この泥棒が!」

僧侶「泥棒なんて言い方……」

「砂漠じゃ水は金より価値があるんだよ。それを土地の主に断りもなく汲むとは。この盗人が!」

僧侶「で、でも! 他の皆さんも勝手に持って帰ってますよ! ほら!」

村人「」クミクミ

「あ、あれはちゃんとここの領主である私の許可を取っているから良いのだ!」

勇者「……ならその許可はどうやったらもらえるんだ?」

領主「んん~? 良く見たらお前勇者か?」

勇者「(最初から気づいてたくせに、白々しい)だったらなんだよ」

領主「噂は本当だったようだな。砂漠越えか……くっくっく、素人が」

勇者「で、許可はどうやったら貰えるんだ?」

領主「そうだな……1回目一杯詰めで5000gでいいだろう」

僧侶「5000っ……なんて払えるわけ!」

領主「ならその水を戻すんだな。ワシも鬼じゃない、飲んだ分は勘弁してやろう」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「……」

領主「さあ、どうする勇者?」

勇者「……見ての通り俺達の水入れはそんな大きくない。だからもう少し安く売ってくれないか?」

領主「安く売ってくれないか? ん? なんだその態度は。
こっちは売らなくともいいんだぞ?」

勇者「ッ~!」

僧侶「もういいですよゆーしゃさま! もっと心優しい方が持っているオアシスに行ってお願いしましょう!
こんな心の浅ましい人に頭を下げることなんてないです!」

領主「……お前達勇者一行はいつもそれだな」

僧侶「何がですか!」

領主「どこへ行っても自分達は優しくされて当たり前だ、優先されて当たり前だ、だから何をしてもいいと」

僧侶「そんなこと……」

領主「普通の人間ならまず最初に謝るべきだろう? 水を盗ってすみませんと。
貴様らがどんな暮らしをして来たかは知らんがここじゃ水は貴重品だ。
それを黙って盗って詫びもないとは……いやはや」

僧侶「~っ」

勇者「この人の言う通りだ、謝ろう、僧侶」

僧侶「……はい」

勇者・僧侶「水を黙って盗ってすみませんでした」

領主「ふん(くははっ、ほんとにやるとは)」

領主「(ワシは国が持ってるオアシスを管理しているだけなのだがな。通行書さえあれば好きに汲んで良いというのは黙っておくか)」

領主「ま、さっきも言ったがワシも鬼じゃない。ちゃんと謝ってくれるなら水を売ろうではないか」

勇者「本当かっ!?」

領主「目一杯で1000gでいいだろう」

僧侶「う(それでも十分高い……)」

領主「何か言ったか?」

僧侶「い、いえっ」

勇者「わかった、買おう」

領主「ひっひっひ、毎度あり(本当に払うとは……ほんとに何も知らんやつらだな。いいカモがいると他の領主にも触れて回ろう)」

僧侶「ゆーしゃさま……」

勇者「いっぱい詰めとけよ僧侶! 目一杯ってことは腹の中のタンクも含まれてるだろうしなっ」ニコッ

僧侶「ゆーしゃさま」ニコリ

僧侶「はいっ! 一杯貯めときます!」ゴクッゴクッ

勇者「」ゴクッゴクッ



僧侶「(ゆーしゃさまもわかってる……明らかに足元を見られたことぐらい)」

僧侶「(それでも下がれないんだ……私達は。やり遂げなきゃいけない……)」

僧侶「(水は買えて後2回……それまでに絶対私達だけのオアシスを見つけるんだ!)」

勇者「……(ごめんな、僧侶)」

──四日目

しかし、どこを探せどあるものは砂の丘だけだった。
モンスターとの戦いで体力は消費させられ、日に日に水は目減りして行く……。

そして六日目に差し掛かった時、ついにゆーしゃさまは決断した。

──

勇者「……昼間もオアシスを探そう」

僧侶「……」

そう言われた時、私は素直に頷けなかった。朝でも日が昇れば40度近くなるこの砂漠で、昼間に歩き回るなんてどうかしている。

勇者「朝だけじゃとても時間が足りない。大丈夫、きっと見つかるさ」

僧侶「はい……」

でも、ゆーしゃさまの為に頑張らないと。

────

ここは、地獄だろうか。

日照りで身は焼かれ、砂埃で呼吸はしにくく、砂の斜面で足を取られ体力が失われていく。
何回靴の中の砂を落としても、すぐにまたいっぱいになる。

勇者「……」

ゆーしゃさまは何も言わず、ただ淡々と砂の丘に登っては辺りを眺めての繰り返しをしている。

暑い……暑い……。

言葉には出さないように振る舞ってはいるがやはりこの暑さは異常だ。

早く夜にならないかな……なんて思いつつ、私もゆーしゃさまを見習って砂の丘からオアシスを探した。

六日目の晩、とうとう水がなくなった。
無理もない、今日は昼間に出歩いた為、二人ともいっぱい水を飲んでしまった。
ご飯に水分を使えないので、今日の晩御飯は乾パンだ。

ただでさえ渇いた喉に、ゴツゴツとした乾パンが通り余計に喉が渇いた。

最初は綺麗に見えたこの星空も、今では眺めるのも億劫でしかない。
この状態でまだ、一つも刑が終わってないという現状に目眩がする。

それほどに重い罪を与えられたのだ、ゆーしゃさまは。

どうして……全部なんて受けてしまったのだろう。

きっと、ゆーしゃさまも後悔している筈……。

そう思い、ゆーしゃさまの横顔を眺めていると。

勇者「ん? どうした? 寒くて寝られないか?」

僧侶「い、いえ……」

勇者「見張りは俺がやるから、ゆっくり寝ろよ」ニコリ

僧侶「はい……。ありがとうございます……ゆーしゃさま」

駄目だ駄目だ。
この旅が余りにも辛いから、その辛さをゆーしゃさまにぶつけようとしていた自分が憎い。

ゆーしゃさまは辛いとわかって、それでも背負う覚悟を決めてここに来たんだ。
私もあの時頷いたじゃないか。

いつまでも、どこまでも一緒にって。

だから辛くても頑張らなきゃ!

勇者「……」

七日目──

どの道砂漠は越えなければならないと言うことで、奥へ行きつつオアシスを探すことにした。

途中既存のオアシスに立ち寄り、水を分けてもらった。
もしかしたらいい人かもしれない、という希望は見事に裏切られて、神託の証を見た瞬間お金を請求された。

これで水を補充出来るのは残り一回。
いざとなればルーラを使って他の大陸に水を汲みに行くということも出来るはずだけど……。

ゆーしゃさまはそれをすることはないだろう。

その気持ちはここへ来て何となく私にもわかって来た。

他の大陸へ行けば勇者と言うだけで水も分けてくれるだろう。
それどころかご飯や寝床、お風呂だって事情を話せばただで貸してくれるかもしれない。
特に中央大陸王国には大きな貸しもあって行けば宴が模様されてもおかしくない程だ。

ゆーしゃさまはそういった環境の甘さを捨てるためにこの地に来たんだと思う。
肉体的にも、精神的にも強くなるために……。

すべては、魔王を倒すために。

そうだ、この旅も魔王を倒せば終わってしまうんだ……。
その後私達はどうなるのだろう……。

……そんなこと、考えちゃいけないのに。

十日目──

とうとう所持金も水も底をつく。
昼間歩く分水の消費量がどうしても増える、飲まなければ死んでしまうからだ。

かと言ってオアシスが見つかるかと言えばそうではない。

水もなく、お金もない。

これ以上の砂漠での旅は無理だと思った。

僧侶「一旦戻りましょう、ゆーしゃさま」

勇者「……」

僧侶「水もほとんどないのに明日の昼間も出歩くなんて無謀過ぎます!」

勇者「……帰って、どうするんだ?」

僧侶「どうするって……まず水を……」

勇者「ここで誰が分けてくれるんだよ……勇者なんかに」

僧侶「それは……」

勇者「戻ってもないなら行くしかねぇだろ」

とうとう、私も限界が来ていた。

僧侶「……ルーラで他の大陸からもらって来ればいいじゃないですか」

言ってしまった、わかっているのに。

勇者「……それは、出来ない」

僧侶「何でですか! このままじゃ死んじゃうかもなんですよ私達!
死ぬよりも勇者としての誇りが大事ですか!?」

勇者「ちがっ……いや、そうかもしれないな……俺は勇者として、ただこの地に負けたくないだけなのかもしれない……」

僧侶「勇者って……一体何なんですか!!!!!」

勇者「……」

僧侶「こんなにも苦労して……重荷を背負ってるんだから……少しぐらい甘えたっていいじゃないですか……」

歯痒い、どうしようもない、私じゃゆーしゃさまの気持ちはわかってあげられない。
だって私は、勇者じゃないから。

僧侶「こんな辛い思いをするぐらいなら……ゆーしゃさまは勇者にならなければ良かった」

勇者「!!!!!」

勇者「僧侶……」

僧侶「ごめんなさい……ちょっと休みますね」

勇者「ごめんな……僧侶、ごめん……」

十一日目──

水がなくなり次第町に戻るという条件に、朝からオアシス探しをした。

勇者「こっちの方は強いモンスターが出やすいからあんまり人が立ち入ってないと思うんだが……」

僧侶「はあ……はあ……」

その日は朝から暑く、まるで蜃気楼かのように景色が歪む。

そのせいか、おかしなものを見た。

遠くに緑が生い茂っている場所が見える。

勇者「あれは……! 地図にない!!!! 僧侶っ!!!!!」

僧侶「え……あ……あ……!」

ようやくことの重大さに気づき、私達は一目散にそこへ駆け出した。

勇者「あった!!! 水だ! オアシスだ!!!」

僧侶「み、ず……あはは……」

勇者「誰もいない! 大丈夫だ! 俺達のオアシスだぞ僧侶!!!」

僧侶「じゃあ……飲んでもいいんですよね?」

勇者「おお!!! 好きなだけ飲め飲め!!!」

僧侶「はいっ」ゴキュッゴキュッゴキュッゴキュッ

勇者「俺も!!!!」ゴキュッゴキュッゴキュッゴキュッゴキュッ

勇者僧侶「ぷっはぁっっっっ」

僧侶「やっと……やっと見つかったんですね。私達のオアシスが」ウルウル

勇者「ほんとよく頑張ったよ……お前は」ナデナデ

しかし、その喜びもつかの間だった、

「……あーいちゃついてるとこ悪いんだが、ここお前らのオアシスじゃないんだよな」

勇者「えっ」
僧侶「えっ」

声がした方へ振り向くと、ターバンで顔全体をぐるぐる巻きにした男?の人が立っていた。

「ここはこないだ俺が見つけてね、もうルーラ開きも済ませちまったんだ。悪いね」

僧侶「そんな……」

ルーラ開き、ルーラ石の転移先をここに指定すること。
魔力を使い大地とルーラ石に同じ刻印を刻むことで、転移場所を登録出来る。
その一連の流れをルーラ開きと言うらしい。
つまり、もうこのオアシスに通じるルーラ石を作ることは出来ないのだ。

僧侶「やっと……見つけたと思ったのに」

「そんな悲しい顔されてもよ。地図にも載せといたはずなんだがなー、ちょっといいか?」

勇者「あ、ああ」

「こりゃまた古い地図つかまされたな。ちなみにここと、ここと、ここにもあるんだがそれも登録済みだぞ」

勇者「そんな……」

「ん、てかお前らあれか! 噂の! 勇者か!」

勇者「……だったらなんだよ。もう金もないから水も買えねぇよ」

「聞いてる聞いてる。国が持ってるオアシスにバカ高い金払ってるカモ達がいるってよ」

僧侶「それってもしかして……」

「まあ、お前さん達のことだろうな」

勇者「あの野郎……」

「今は蒸気ポンプでいくらでも地下水を汲み上げられるからデカい町なんかはオアシスの水なんざ使わない。
わかりやすく言や水にさほど困ってないんだよ」

「一昔前ならわざわざここに水を汲みに来なきゃならなかったから多少は物入りだったが……1000gなんてバカな値段つけたら住んでる奴ら全員死んじまうだろ。
お前さん達ほんと何も知らないんだな」

勇者「足元見られたぐらいわかってる! だがそうしないと貰えないんだ……しょうがないだろ!」

「しょうがない、か」

僧侶「あの……ここがあなたのオアシスだと言うのはわかりました。
それで……その……勝手に水を飲んでしまって……すみません」

「いいよいいよそれぐらい」

勇者「そう言ってもらうと助かる。もう一文無しでな。色々聞けて助かった。
じゃあ俺達は新しく出来たオアシス探しがあるから」

僧侶「では。お水ありがとうございました」ペコリ

「……どこまで行ってもオアシスは見つからないと思うぜ」

勇者「なに?」

僧侶「どういう……?」

「あんたら騙されてんだよ、壁の王に」

勇者「騙されてる?」

「確かに、こないだの豪雨で小さいな池ぐらいは出来ているかもしれない。
だがそれはオアシスじゃない」

僧侶「…どういうことですか?」

「オアシスと認められる為には規定があるんだ。大きさやら深さやら、後は継続的にそこから水が得られるか、も入ってくる」

勇者「……つまりこないだの豪雨で溜まった水じゃ認められないってことか?」

「そうなるな。広さ、深さはどうにかなっても所詮雨を水源にした水溜まりだ。すぐに枯渇する」

僧侶「じゃあ私達は……この数日間一体何を……」クラッ

勇者「僧侶!」

僧侶「すみませんゆーしゃさま……ちょっと立ち眩みが」

「……(壁の王がこの事例で真に試しているのは勇者と砂漠の民との和解だ。
そうでなくてはこのオアシス探し、成し得ない)」

「(全く、相変わらず食えんな。私がここにいることも予想通りってことか)」

「(ま、ちょうどいい機会だ。計らせてもらうぜ、勇者の器とやらを)」

「そこで、だ」

勇者、僧侶「?」

「俺と一緒に作らないか? お前達だけのオアシスを」

勇者「オアシスを……」

僧侶「作る……?」

「そうだ。天然のオアシスもあるにはあるが基本人工的に作られた物の方が多い」

「ここは天然のオアシスだがな」

僧侶「でもこれほどまでの水……どこが水源になっているんですか?」

「良く聞いてくれた。ちょっと来てくれ」

手招きで二人をオアシスの縁まで来させると、水底を指差す。

勇者「なんだ? 砂がボコボコしてるぞ」

僧侶「……もしかして地下水が沸き上がっているんですか?」

「ご名答。これほど迄に地下水が沸き上がるのは珍しいけどな。
こないだの豪雨で砂が削り取られたんだろう」

「オアシスには三つの種類がある。
一つは町のように地下水を蒸気で汲み上げているもの。
二つ目はここみたいに天然で地下水が沸き上がってくるもの。
そして三つ目はどこかの河川、つまり水源を引っ張って来て作るやり方だ」

「お前達には三つ目でオアシスを作ってもらう」

勇者「水源を引っ張ってくる……か。ここから一番近い河川は?」

「ここから100kmは先のネイル川だがあそこ一帯は組合が独占してる。
新参が引こうもんなら何やられるかわかったもんじゃない」

僧侶「では……?」

「自分で言うのもなんだがここのオアシスは素晴らしい。広さ、深さ、沸き上がる地下水の量を見ても文句がない」

「多少水が他に流れようが楽々と規定はクリアするだろう」

僧侶「じゃあ……!」

「ああ、ここを水源にして姉妹オアシスを作る」

僧侶「ゆーしゃさまっ」
勇者「おおっ」

僧侶「この地にこんなにも私達に優しくしてくれる人がいるなんて……神のお導きに感謝です!」

勇者「ありがてぇ……ありがてぇ」

「まだ安心するには早いぜ?
オアシスを作るってのはそんな楽な話じゃないからな」

「そういやまだ名乗ってなかったな。俺は南の領主だ」

握手を求めてきた手を二人はガッチリと両手で握りしめる。

僧侶「ありがとうございます南の領主さん!」
勇者「そしてよろしくお願いします!」

こうして、三人によるオアシス作りが始まった。

────

強い陽射しが降り注ぐ中、僧侶と南の領主はオアシスから1kmほど先の場所に来ていた。

南の領主「よし、これぐらい広さと深さがあれば十分だろう」

南の領主「ここから俺がサインで掘る場所の目印をつける。僧侶はそれに従って掘って行ってくれ」

僧侶「はい!」

南の領主「じゃあ俺は勇者の方を見てくるから」

僧侶「わかりました!」

僧侶「よーしっ! やるぞーっ」ザックザックッ

サインの目印がついているところをスコップでひたすら堀抜く。
猛暑と重なってかなり厳しい肉体労働だが、終わりが見える分今までよりは随分気持ちは楽だった。

僧侶「がんばらなきゃっ」

吹き出る汗を拭うと、またスコップでひたすら堀抜く作業を続けた。

────

南の領主「勇者ーどうだ調子の方は?」

ブクブク──

ブクッ──

勇者「ぷはっ! 水の中で作業するのがこんなに疲れるとは思わなかったよ」

南の領主「だがさすが勇者だな。水中作業しつつ5分も潜れるやつはそういまい。
予想より大分早く開通しそうだ」

勇者「しかし外は暑いな……僧侶のやつこんな暑さの中で大丈夫かな」

南の領主「役割分担ってやつだ。なーに心配いらないさ。あの子はあのぐらいの歳の中でも特別しっかりしてるしな。
水もたらふく持たせてるし無理をして倒れることもないだろう」

勇者「そうだといいけどな」

南の領主「さ、早く掘った掘った。魔王討伐の任についてんだ、こんなところでゆっくりしてる場所でもないだろう」

勇者「だな。んじゃまた掘ってくるぜ!」ザッパァンッ

南の領主「掘る角度を間違えるなよー」

ブクブク──

南の領主「こんな素直でいい子達が魔王討伐の為に頑張ってるって言うのに、南の風土はいつになっても変わらないままか」

南の領主「それじゃいかんだろうに、なぁ、壁の王よ」

南の領主「さ、僧侶の手伝いでもしてこようかね」

一日目の作業が終わり、僧侶と南の領主がオアシスに戻ると、勇者もちょうど上がった所だった。

勇者「お~僧侶、おつかれ」

僧侶「あ、あのっ、ゆーしゃさまっ」

勇者「?」

急にそっぽを向いてしまった僧侶を、勇者が訝しげに見つめる。

南の領主「年頃の女の子の前にパンツ一丁で現れる奴があるか。さっさと着替えてこい」

勇者「おーすまんすまん」

僧侶「(ゆーしゃさまの体……凄い綺麗だった! 上腕二頭筋がこう……)」

その日から南の領主が使用している簡易的なバンガローに二人も泊めてもらうことになった。

────

僧侶「ゆーしゃさま、起きてますか?」

勇者「ああ、筋肉が軋んで眠れん」

僧侶「ふふ、今日はいっぱい頑張りましたもんね、お疲れさまでした」

勇者「それはお前もだろ」

少しの沈黙を置き、僧侶が語りかけるように話しだす。

僧侶「この地にもいい人はいるんですね」

勇者「ああ」

僧侶「私、ここが嫌いだったんです。頑張ってるゆーしゃさまを勇者だからって散々虐めて……ゆーしゃさまは二代目勇者じゃないのに」

勇者「仕方ないさ。それぐらいのことをしてるんだから」

勇者「俺も正直僧侶にルーラで他の土地に戻れって言われたときそうしようって思った。
精神的、肉体的に強くなるためにここに来たけど……予想してたのより遥かに追い込まれてたしな」

勇者「改めて弱かった、って思い知らされたよ」

僧侶「……違いますよ。弱いのはいつも私です……私が」

勇者「ただ南の領主に会って頼ることがいけないってことじゃない、それが弱いってことに繋がるわけでもないって思うようになったんだ」

僧侶「私も、そう思います。手と手を取り合うことで成し得ないことも成し得る。
そうやってみんなで協力すればきっと魔王だってすぐ倒せるようになります」

勇者「そうなればいいんだけどな。さ、明日も朝から穴堀だ。さっさと寝ようぜ」

僧侶「はい、おやすみなさい、ゆーしゃさま」

勇者「おやすみ僧侶。砂埃入って来ない幸せを噛み締めながら寝ようぜ」

僧侶「ふふっ」

どの地にもいい人もいれば悪い人もいる。
そこで諦めて背を向けてしまえばこの地と勇者は永遠分かり合えることはないだろう。

南の民は勇者を憎み、勇者は南の民を憎む。
その連鎖の中で誰かが向き合って行かねばそれは変わらない。
逆風は強い、でも、きっとゆーしゃさまなら変えられると思った。

それからは毎日穴を掘っては寝るを繰り返した。

十五日目──

南の領主「予定よりだいぶ早く掘り進めてるな」

勇者「今日も掘って掘って掘りまくるぜ!」
僧侶「ですね!」

二十日目──

僧侶「ゆーしゃさま~昼食を持って来ましたよ」

勇者「ぷはっ! お~一緒に食うか」

僧侶「(もうゆーしゃさまのこの姿(パンツ一丁)も見慣れて来たなぁ。
……でもやっぱり綺麗だなぁ)」

二十五日目──

僧侶「わっせほいせっ」

南の領主「(二人とも全く魔法を使う気配がないな。刑だと云うことを受け止めているのか……大したもんだ)」

そして砂漠に足を踏み入れてから三十日後

僧侶「よいしょ、よいしょ……」

僧侶「ん……?」

この蒸し風呂のような暑い空間の中で、不意に手にひんやりとした感触が宿る。

僧侶「水が……」

耳を済ませてみると、

ザクッザクッザクッザクッ

僧侶「もしかして!」

反対側からも壁を掘り進める音が聞こえる。間違いない、やっと、やっとっ……!

ドバァッ──

勇者が掘った穴と僧侶達が掘った穴が繋がり、トンネル内を水が凄い勢いで流れ出す。

勇者「ゴボゴボ(いよう僧侶!)」
僧侶「ゴボゴボ(やりましたねゆーしゃさま!)」

水流に乗って自分達のオアシスまで押し流される二人。
二人はオアシスから上がると、その縁から溜まって行く水をひたすら眺めた。

勇者「今度こそ……俺達のオアシスだよな」
僧侶「はい。私達のオアシスです」

────

二人で大地に刻印を施し、ルーラ開きを済ませる。
これによりこのオアシスの持ち主は正真正銘勇者と僧侶になった。

南の領主「よく頑張ったな二人とも!」

勇者「南の領主……本当にありがとう」

僧侶「あなたに出会わなければ成し得ないことでした……本当にありがとうございます!」

南の領主「よせよせ。それに俺も旨味がないってわけじゃないんでな」ニヤッ

勇者「と言うと?」

南の領主「勇者達はこれからも旅を続けるだろう?
そうなると当然ここの管理は出来なくなるよな?」

勇者「まあそうなるな」

南の領主「と言うわけで管理は俺に任せてくれないか?
保有するオアシスが多いほど報償金が出るんだよ」

勇者「なるほど、しっかりしてんな」

僧侶「喜んでお任せします」

南の領主「任された。もう行くのか? 次はバジリスクの鱗取りだったか」

勇者「ああ」
僧侶「はい」

南の領主「そうか。砂漠の国にはこの石垣を目印にずっと南に行けば辿り着ける。
バジリスクはその途中にある洞窟を探せば見つかるだろう。あいつらの毒は厄介だ、くれぐれも注意しろよ」

勇者「何から何まですまないな」

南の領主「(勇者は水中での作業により筋力、肺活量も爆発的に増加した。
僧侶は猛暑の中でも作業を続けていられる集中力が身に付いた)」

南の領主「(この経験はきっと先に生きるだろう。だがあの壁の王のことだ、他の二つもすんなりとは行かないだろう……バジリスクはともかく、砂漠越えは)」

南の領主「勇者、砂漠の王に渡す密書、ちょっと見せてくれないか?」

勇者「……いくら南の領主でもそれは出来ない」

南の領主「(意外としっかりしてるな)中身は見ない。外側だけちょっと見せてくれればいいんだ」

勇者「外側? それならいいけど」スッ

南の領主「……(やはりか。いや、真に驚くべきはまだ持っていたと言うところか)」

南の領主「勇者、この刻印は……」

南の領主「(ここでそれを言えば勇者はいざというときにもルーラを使えなくなる。それはこの砂漠では致命傷だろう。だが……)」

勇者「ここまで来たら最後まで使うつもりはないさ」

南の領主「気づいていたのか、ルーラ消印に」

勇者「なんとなくな」

南の領主「そうか、わかってるならいいんだ」

僧侶「?」

南の領主「(意外と、は余計だったか)」

────

僧侶「本当にお世話になりました。水や食料までこんなにたくさん」

南の領主「気にするな。こっちも報償金ガッポリだからな!」

勇者「じゃあ、またいつか!」

南の領主「おう、しっかりやれよ」

お互い見えなくなるまで別れを惜しみ、手を振りあった。

南の領主「あの二人に砂漠の加護があらんことを。砂漠の宮殿で待ってるぞ、勇者よ」

──

僧侶「本当にいい人に出会えて良かったですね」

勇者「ああ。この国に対する気持ちもだいぶ変わって来たよ」

勇者「(まさか壁の王は最初からその為に…なわけないか)」

────

二人はひたすら砂漠の国を目指して歩いた。
途中洞窟なども覗いて回ったが、やはりそう簡単にバジリスクは見つからない。
しかし、別に見つからなくとも二人の心にもはや陰りはなかった。
こうして歩いていればいつか砂漠の国には必ず着くし、バジリスクもその後でまた探しに行けばいいだけの話だからだ。
本当に、何を焦っていたんだろう。
焦る必要なんて何もない、お互いの一番大切に思っている人が側にいるのだから。

──

星空の下を二人で歩く。

僧侶「今日も星が綺麗ですよ、ゆーしゃさま」

勇者「だな」

僧侶「ゆーしゃさまはどの星が好きですか?」

勇者「星には全然詳しくないけど、あれかな」

勇者が強く光っている一つの星を指差す。

僧侶「リゲルですね。オリオン座の中でも最も輝きの強い星ですよ」

勇者「へ~詳しいんだな僧侶」

僧侶「修道院に入って間もない頃はいつも星を見て過ごしてましたから」

勇者「なるほどな。じゃあ僧侶はどの星が好きなんだ?」

僧侶「私はあれですね」

そう言うと、勇者の指した星の次に明るい星を指差した。

僧侶「ベテルギウス、オリオン座でリゲルの次に明るい星です」

勇者「ふふ」

僧侶「ゆーしゃさま?」

勇者「いや、何か僧侶っぽいなと」

僧侶「それを言うならゆーしゃさまもですよ」

勇者「そうかー?」

僧侶「……ゆーしゃさま、今夜も冷えます。その……」

勇者「ん?」

僧侶「もう少しお側に寄ってもいいでしょうか?」

勇者「おっ、おお……いいぞ」

僧侶「では」トトトッ、ピタッ

僧侶「えへへ」

勇者「」ドキドキ

勇者「(何をドキドキしてんだ俺は!)」

僧侶「……始まりを告げる声を聞く一人の青年」

僧侶「産まれた地を離れ彼らは旅に出る」

勇者「(始まりの村の民謡か、懐かしいな)麗しき神の使い 呪術で彼の者を癒す」

僧侶「」ニコッ

僧侶「猛々しい屈強な者 その剣で悪しきを絶つ」

勇者「叡智を持つ者が唱えし魔法の呪文 苦難や恐れを打ち払う」

僧侶「勇敢なる者の光が この世界に希望をもたらす」

勇者「塔を目指し」
僧侶「丘を目指し」
勇者「空を駆け」
僧侶「海を行き」
勇者「森を裂き」
僧侶「大地を走る」

勇者「仲間達と共に酒場で笑い合えば」

僧侶「拳を交え互いの道をぶつけ合う」

勇者「東の空に日は昇り」
僧侶「美しき夜は消えていく」

勇者「さあ また冒険が始まる」
僧侶「魔王を倒しその日まで」

勇者「……お前と一緒にここまでこれて良かった」
僧侶「私もです、ゆーしゃさま」

勇者「なあ、僧侶。魔王を倒したらお前はどうするんだ?」
僧侶「魔王倒したら……ですか。その時は……そうですね……」

勇者「その時は?」
僧侶「……もし、二人で無事に、魔王を倒せたら……」

僧侶「受け取って欲しい言葉があります、ゆーしゃさまに」

僧侶「その時まで、内緒です」

勇者「気になるな~」
僧侶「内緒ですっ」ンフフ

僧侶「だから、必ず二人で一緒に……」ボソッ

────

南の領主「エールジョッキで」

酒屋の主人「まーたこんなとこ来て。怒られますよ?」

南の領主「趣味なんだからいいだろ別に」

酒屋の主人「はいはい」ゴト

南の領主「ぷは~うめぇ。やっぱりここの安酒が俺には合ってる」

酒屋の主人「誉めてるのか貶してるのか」

南の領主「誉めてるさ」

酒屋の主人「で、今回はまたなんで?」

南の領主「……お前だから言うが、勇者とオアシスを作ってな」

酒屋の主人「……へぇ」

南の領主「なんだ? それだけか?」

酒屋の主人「他になんと?」

南の領主「勇者となんてけしからん! とかか? ハハハッ」

酒屋の主人「私ゃ別に勇者だからどうなんて思ったことはないもんでね」

酒屋の主人「客なら勇者だろうがなんだろうが酒を出す、それだけです」

南の領主「違いねぇ。……この大陸の人間が皆お前さんの様な商売人なら少しは変わったろうに」

酒屋の主人「それで今日はオアシスの登録に?」

南の領主「ああ。管理人も決まったからな。勇者から預かったオアシスだ、末代まで大切に管理しろと言っておいた」

酒屋の主人「……随分買ってますね、勇者のことを」

南の領主「……」ゴクッゴクッ

南の領主「ぷはっ! あいつは……あいつらは、この大陸を変えるかもしれん」

酒屋の主人「そこまでですかい?」

南の領主「無論今回のことを無事に終えたら、の話だが……」

南の領主「壁の王の倅も世話になったらしいしな。壁の王自身もあいつには期待しているだろう。
でなきゃあそこまで凝った仕掛けをつけたりするもんか」

南の領主「それに勇者がこの大陸と打ち解けるのは各国の王にとっちゃ願って止まないことだしな」

酒屋の主人「中央なんかとやりやすくなりますしな」

南の領主「……それに、あんな子供に魔王討伐なんて重荷を背負わせて、更に爪弾きにするなんてみみっちいこといい加減止めにゃならん」

南の領主「勇者だって元は正せばただの人間なんだからな……」

酒屋の主人「……そうですね」

南の領主「さって、飲むもんも飲んだし帰るとするかね」

酒屋の主人「壁王には会わないんで?」

南の領主「やだよめんどくさい。またあれこれ言われたらうるさいし」

酒屋の主人「ははは」

南の領主「じゃあ、また来るよ」

酒屋の主人「まいど。近々デカいの来るらしいから気をつけて」

南の領主「何の話だ?」

酒屋の主人「知らないんで? 砂嵐ですよ砂嵐」

南の領主「なっ……」

酒屋の主人「あなたが気づいてないなんて珍しいですね」

南の領主は急いで外に出て、あるものを確認する。

南の領主「クソッ……一番大事なことを言い忘れていた」

南の領主「(今から……いや、あれからもう十日以上経ってる……勇者達が今どこにいるかなんて)」

南の領主「勇者……僧侶……無理だけはするなよ」

────

僧侶「ゆーしゃさま~何か綺麗ですよ」

勇者「ん~? なんだありゃ。太陽が白い?」

僧侶「何だか月みたいですね」

勇者「まあおかげで昼間も苦なく進めそうだし、良かった良かった」

僧侶「そうですねっ!」

────

ブォォォォォォォォ

ブォォォォォォォォ

勇者「とか言ってたらこれだよ!」

僧侶「酷い砂嵐ですね……何とか洞窟に逃げ込めたから良かったですけど」

勇者「仕方ない。今晩はここで休むとしよう」
僧侶「そうですね」


カサッ……

勇者「僧侶、何かいる……」
僧侶「はいっ…」

カサッ……ガササッ……

勇者「(砂嵐で気づくのが遅れたか……クソッ、囲まれてやがる)」

勇者と僧侶が背中を合わせるようにして辺りに目を配ると、やがて音の主達が姿を現した。

グヒィッ……グァ……

魚の様な鱗をびっしりと付け、鋭い牙を剥き出しにし、バジリスクが勇者達ににじり寄って来る。

勇者「まさかこんなに見つかるとは、希少だって聞いてたんだがな
(ざっと20匹はいるな)」

僧侶「砂嵐が関係あるのかもしれません……」

勇者「とりあえず全部蹴散らしてから鱗をもらう。毒には気を付けろよ」

僧侶「はいっ…!」

ガァァァァ──

一気に飛びかかって来るバジリスク達、

勇者「うおおッ」

短く吼え、それを剣撃で薙ぎ払う。

キシャァッ

僧侶「バギマ!!!」

ガァァッ

僧侶「きゃっ」

勇者「うおおおおらっ」ブンッ

勇者「大丈夫か僧侶?!」

僧侶「すみませんゆーしゃさま!」

僧侶「(魔法が効かない……いや、風の魔法が効かないかも。
どちらにしても私には天敵……!)」

僧侶「(でも、後ろにいるゆーしゃさまの元には絶対に行かせない!!!)」

僧侶「ゆーしゃさま! こっちは大丈夫ですから! ゆーしゃさまは目の前の敵を!!!」

勇者「……大丈夫か?」

僧侶「私だって勇者のパーティーなんですから!
こういう時に安心して背中を預けられないようじゃ居る意味がありません!」

勇者「……わかった!!! 俺が倒すまで何とか持ちこたえろよ!!!」

僧侶「はいっ!!!」

勇者「うおおおおおっ」

僧侶「(力を貸して……お姉ちゃん)」ギュッ


──

僧侶「(倒さなくてもいい……!)」

キシャァッ

僧侶「たあっ」バシィッ

僧侶「(1匹1匹確実に叩き落とす!)」

グヒィッ……グェッグェッ……ゴルゥゥゥ

僧侶「風よ……!」ジリ……ジリ……

キシャァッ──
ガァァァァ──

僧侶「彼の者に疾風の加護を!!!」スッ

バジリスク達の噛みつきを自己を加速してかわす。
そして後ろからロッドによる強打、これをひたすら繰り返す。

勇者の方へ行かないようにヘイトを切らさず、尚且つ毒をもらわないように。

だが、一撃一撃が弱い僧侶の攻撃ではバジリスクを倒すまでは至らない。
しかし、バジリスク達は徐々に僧侶の動きに合わせ、同時に飛びかかるというコンビネーションをしばしば見せてくる。

そして、それは遂に届く──

ガァァッ──

僧侶「くぅっ……」

一匹のバジリスクが、僧侶の足に噛みついた。

一噛み、ただのモンスターならそれだけだが、ことバジリスクにおいては大きく意味が違う。

僧侶「あ……」

僧侶の肩がガクッと落ちる、

ガァァッ──
グァッ──

これを好機と見たのか、他のバジリスクも次々と僧侶の肉に己の牙を食い込ませて行く──

僧侶「ゴフッ……」

血が逆流したのか、口元から吐き出す。

毒によるものなのか、僧侶の体がみるみる変色して行く。

それでも──

僧侶「行かせ、ない」

勇者の方へ行こうとするバジリスクにしがみつく。

僧侶「もう少し……だけ、」

────

勇者「おらぁっ!」ブシャアッ

剣をバジリスクの口の上から突き込む。

勇者「大体片付いたか……」

勇者「僧侶! そっちは……」

そこで、勇者は見た、

何かがズルズルとこっちに向かって歩いて来る。

遅い、とても。

何かが進むのを、何かが邪魔しているような、

勇者「僧……侶……?」

その姿を見た瞬間、勇者の何かが弾け飛んだ。

こっち向かって進もうとするバジリスクを、バジリスクに噛みつかれた僧侶が必死に掴まって止めようとしている姿。

勇者「あ……うわああああああああああああああアアアアアッ!!!!!!!!」

怒号を撒き散らしながら、勇者の剣はバジリスク達を薙ぎ斬り伏した。

────

勇者「僧侶っ……僧侶……」

僧侶「ゆー…しゃさま……ごめんなさい……」

勇者「なんで……」

僧侶「風の魔法が……効かなくて……」

勇者「なんで先に言ってくれなかったんだ……」

勇者「(体が変色してきてる……)」

勇者「ちょっと脱がすぞ」

ローブを少しはだけさせると、肩口の傷を調べる。

勇者「(青く変色してる……やはり毒か)」

勇者「……神よ、この者に神の加護を」

僧侶「はあ……んっ……」

勇者「(俺みたいなレベルの低いキアリーじゃ解毒出来ないか。
……迷ってる場合じゃねぇ!)」

勇者「ちょっとだけ我慢してくれよ、今お前の姉さんに」

僧侶「ダメッ……ゆーしゃさま……!」

僧侶「ルーラを使ったら……密書が……」

勇者「そんなこと言ってる場合じゃ」

僧侶「お願いです……このまま、砂漠の国へ……」

勇者「……駄目だ」

僧侶「せっかくここまで来れたのに……私が弱いせいで……ゆーしゃさまにこれ以上迷惑かけたくないんです」

勇者「……それでも」

僧侶「お願いです……私を、勇者のパーティーに居させてください……」

勇者「……」

僧侶「大丈夫……、死んだって、また、生き返りますから」ニコッ

勇者「……わかった。でも、無理だって思ったらいつでも言えよ!
すぐ戻るからな!」

僧侶「はい」ニコリ

────

バジリスクの毒は、思った以上に凶悪だった。

僧侶「う……あ……ああああっ……」ビクッ

勇者「僧侶!!?」

僧侶「……」

勇者「僧侶……? 僧侶……おい、僧侶……?」

最初は毒によって僧侶が死んでしまった、と思った。
でも、逆に少しほっとした。もう苦しまずに済む、後は教会で生き返らせてもらえばいい、そう、思っていた。

荷物を纏め、僧侶を背負い、後はルーラを唱えるだけ。
確かにここまで来て戻るのは悔しい、だがそれ以上に僧侶をこのままにして置けないという気持ちが強かった。

だから、迷わずルーラを唱えようとした。

でも、

僧侶「ゆーしゃさま、駄目……です」

勇者「僧侶……?」

さっき脈をとった時は確かに止まっていた、なのに何故……?

────

どうしてもと言う僧侶の気持ちに圧され、砂漠の国を目指す内にバジリスクの毒がどう言うものかわかってきた。
言うなれば仮死毒、それにかかったものは生と死を繰り返す。
何度も何度も生き死にを繰り返す。

死ぬときは苦しみを経て、
生き返る時はまだ自分が生きているのだと実感させられ、

僧侶はこれを何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も繰り返した。

戻れば良かった。

僧侶「うぐ……あああああああっ」

勇者「僧侶……もう限界だ、戻ろう」

僧侶「だ、め、です……、戻ったら……、私は、もう……、ゆーしゃさまと一緒に……、居られなくなる、から」

勇者「そんなことは……」

僧侶「私自身が……、許せなくなるんです……、だから、お願いです……
私は気にせず、砂漠の国へ……」

こんな苦しそうな僧侶を連れて、なんて。

僧侶「げっほ……」

勇者「僧侶……」

その身にどれだけの苦痛と覚悟を背負っているのか。

────

僧侶「んぐっ……」

その内僧侶は俺に心配かけまいと、痛みを声に出すことを我慢し始めた。

そんなことしなくてもいい、痛いなら泣きわめいていいんだ……。
戻っていいんだ……。

強引に戻ればいいのに、俺はそれをしない。
僧侶の気持ちを尊重して? 違う。

今になっても勇者としての自分が大切なのだ。
そして怖いのだ、ここで全て投げ出して、南の大陸から逃げた勇者と蔑まれるのが。

俺は、僧侶より勇者での在り方を優先しているのか?

違う、違う、違う、違う、違うっ!

僧侶「……ゆーしゃさま」

勇者「違うだろ……! 勇者、お前が本当に守りたいものはなんだ!!!!?」

────

何故、僧侶がこんなにも苦しまなければいけない?

誰のせいだ?

何が悪い?

俺の、せいだ。

僧侶は俺と居るから、俺に合わせようとして苦しんでいる。

俺がいなければ、僧侶はもう、苦しまなくていい。

そして魔王がいなくなれば、世界も苦しまずに済む。

神託の証が、ドス黒く光る。

そうだ、魔王を……殺せばいい。

それで、ナニモカモ、終わりニ成る。

俺は、一つの決断を胸に……砂漠の国を、ひたすら目指した。

────

何日経ったかも覚えていない。
背中に抱いた僧侶は、もう声も挙げなくなっていた時、ようやくついた。

砂漠の国、

何の感動も感嘆もない。

俺達を見る目がまとわりついて気持ち悪かったが、少し睨むとどこかへと消えて行った。

俺は宿に僧侶を横たわらせると、すぐに王宮に向かった。

────

勇者「……」

大臣「あれが砂漠を越えてきた勇者か……何ともふてぶてしい面構えをしておる」

勇者「」ギロ

大臣「ひっ、お、王の御前でそのような!」

「よいよい、お前は下がっておれ」

「久しぶりだな、勇者」

勇者「あんたは……」

南の領主「無事砂漠を越えられて何よりだよ」

勇者「あんたが……砂漠の王だったんだな」

砂漠の王「如何にも。あの時は黙ってて悪かったな。言えば壁の王の意思をねじ曲げてしまうと思ってな、それじゃ刑にはならんだろう」

勇者「……密書を」

砂漠の王「ん、ああ。拝見しよう」

砂漠の王「……あやつ、本当に何を考えておるのやら」

大臣「白紙ですな」

勇者「白紙……だと」

砂漠の王「あくまで試したいのはその心だけか、あいつらしいな」

勇者「……ふざけるな」

勇者「お前達はどれだけ俺達を追い詰めれば気が済むんだ!?」

砂漠の国「落ち着け、勇者」

勇者「白紙だとは知らない書状を持たされて砂漠を越えさせてさぞ滑稽だったろうなァ!」

大臣「貴様!!! 王になんたる無礼を!!!」

兵士「」ザッ
兵士「」ザッ
兵士「」ザッ

砂漠の王「お前らも落ち着け。……勇者、何があった?」

勇者「……僧侶は、今も苦しんでいる。俺やお前らのくだらない意地の張り合いに付き合わされてな」

砂漠の王「まさかバジリスクに……」

砂漠の王「俺が直接見よう、行くぞ勇者」

大臣「なりませんぞ王よ! バジリスクの毒は触れたものですら犯される猛毒! そんなものを一国の王が!」

砂漠の王「これ以上この国を勇者に失望させるな」

大臣「しかし……」

砂漠の王「勇者、行こう。俺達が負うべき罪を果たしに」

勇者「……ああ」

────

僧侶「……」

砂漠の王「(酷いな……これほどまでにバジリスクの毒が入り込んでるともはや……)」

僧侶「くぅっ……」

砂漠の王「……勇者、これからすることに俺をどれだけ憎もうが構わない、だが……ここの民を恨むのだけはやめてくれ」

勇者「どういうことだ?」

砂漠の王「……ここまでバジリスクの毒が入り込んでるともう治療は出来ない」

勇者「そんな……」

砂漠の王「だが、治す方法はある。……だが」

勇者「僧侶が治るならなんだってやる! 言ってくれ!」

砂漠の王「……、一度、殺すことだ」

勇者「な……」

砂漠の王「毒のせいで仮死状態を繰り返さされてるのを一度殺すことで止める。
完全に一度死ねば毒は抜ける……」

勇者「そんな……、なんでだよ……、なんで僧侶がこんな辛い思いしなきゃならねぇんだよ!」

砂漠の王「それは、お前達が魔王を倒すために選ばれたからだ」

勇者「そんなこと……!」

砂漠の王「本当にわかっているのか? ならこの子とてその覚悟があってお前と旅をしているんじゃないのか?」

勇者「……」

砂漠の王「お前はこの子をどう見ている? ただの可愛い妹分か? それとも恋人気取りか?」

勇者「やめろ……」

砂漠の王「勇者の仲間として見ているなら、この結末も受け止めて前に進むべきじゃないのか!?」

勇者「やめろ!!!!!!」

砂漠の王「……、執行は俺がやろう。苦しまないように急所を」

勇者「……俺がやる」

砂漠の王「……いいんだな?」

勇者「俺が……、やらなきゃいけないんだ」

────

砂漠の国の中にある教会。
その祭壇の前に僧侶は静かに横たわっている。

勇者「ごめんな、僧侶……」

勇者「今までずっと無理させて……」

僧侶「……」

勇者「こんなにも世界は苦しいんだって……俺、何も知らなくてさ……約束だからって、お前が辛い思いしても仕方ないって」

勇者「二人で魔王を倒すまではどんなことがあっても一緒になんて……バカみたいだよな」

勇者「もう、いいんだ。辛い思いをしなくても。お前は姉さんと静かに暮らしてくれたら……それでいい」

勇者「きっと、魔王を倒して帰って来るから」

勇者「その時まで待っててくれよな。僧侶」

勇者「じゃあ、そろそろ行くから」

僧侶「……」

勇者「……うっ……うあ」

勇者の手にはナイフが握られていた。それを泣きながら振り上げる。

勇者「僧侶……」

勇者「約束を果たせなくて、ごめん」

静かに降り下ろされたそのナイフは、仮死状態に囚われていた僧侶を解放した。

──

砂漠の王「勇者が出てきてしばらくして毒が抜けたらザオリクだ! いいな!」

砂漠の神父「はっ!」

ギィィ──

砂漠の王「勇者……」

勇者「……どけ」

砂漠の王「……すまない、本当に」

勇者「どけ……どけよ」

砂漠の王「ただ、わかって欲しい。砂漠の民も過去に同じ思いを」

勇者「……過去なんて関係ねぇよ!!! 大切なもの一人守れねぇ勇者なんてクソくらいだ!!!!!」

砂漠の王「勇者……」

勇者「……俺はもう勇者じゃない。ただ、魔王を殺す者だ」

勇者「だからあんたらのクソみたいな因縁とも関係ない。もう二度と巻き込まないでくれ」

砂漠の王「……すまない」

勇者「……じゃあな。二度と顔を会わすこともないだろう」

砂漠の王「勇者!!! 償いの機会はもうないと言うのか!?
本当にこれで何もかも終わりにしてしまっていいのか……?」

勇者「……僧侶が目を覚ます前に、始まりの村に送ってやってくれ」

砂漠の王「始まりの村だな!? 承知した」

勇者「目を覚ましたのに誰もいないんじゃあいつが可哀想だからな……」

勇者「それが勇者としての最後の願いだ。じゃあな、砂漠の王よ。
魔王を倒した平和な世界を待ってろよ」

後ろ手に手を振ると、勇者は砂漠の国を去って行った。

砂漠の王「勇者……」

砂漠の王「また、必ず相間見えよう。お互い過去の楔を打ち払って……な」

────

世界の、勇者の重さを知った青年は、戦う意味を見失う。
それでも、守るべき人がいる世界の為に剣を振るい続ける。

例え約束を果たせずとも……。

その青年の思いを知らず、青年への思いを内に秘めた眠る少女は夢を見る。

遠い、遠い……過去の夢を。

目覚めた時、彼女は何を思うのか。

そして、月日は流れる──

これで砂漠編終わりになります
思ってることを文にするのがこんなに難しいとは
書けない書けないと伸ばし伸ばしにすると駄目ですね

まだ読んでくれてる人がいるかはわかりませんが完結は絶対させます
完結までもう少しなので頑張ります

短編 追憶

私のお父さんは行商人で、あちこちで物を売ったり買ったりしていたらしい。
らしい、と付くのは、私が産まれてすぐにモンスターに襲われて死んでしまったからだ。
だから、顔もほとんど覚えていない。

お母さんは元々体が弱く、お父さんが居なくなったことで更にその色は強くなり、私が5の歳を迎える頃にはいつも寝たきりだった。
お姉ちゃんはそんなお母さんを治す為に修道院で勉学に励みつつ、たまに帰って来ては私やお母さんの面倒を見てくれていた。

そんな時だった、初めてゆーしゃさまと出会ったのは。

その日はお母さんの為に体に良いとされるルリの実を集めてスープにしようと村外れの場所に来ていた。

『わぁ~ここにも、ここにもある。いっぱいとっておかあさんに美味しいスープを作ってあげよう』

『プュ』

『ん?』

夢中でルリの実を拾っていた私の目の前に、水色の何かが現れる。

『プュュ』

『わぁっかわいい~』

私は、知らなかった。

それがモンスターだと言うことを──

『迷子なのかな? ほ~ら、おいで~』

何も知らず好奇心で触ろうとした、

その時──

『そいつからはなれろ!!!!!』

『えっ』

『ピギィィィィ』

さっきとは裏腹に、威嚇するような唸り声をあげる水色の物体。

『どうして……』

わからなかった、私が何か怒らせるようなことをしたのか、そもそもこの生き物は何の動物なのか。

『あぶない!』

さっき声をかけて来た少年が、全力でこっちに駆けてくるのが見える。
何故そんなにもこの子を危険視しているのだろうか。

再び水色の物体の方に向き直ると、小さい水色の体を精一杯凹ませ、

『そいつはモンスターだ!!!』

『ピギィィィィ!!!』

その少年の声と同時に私に向かって飛びかかってきた。

『間に合えええぇぇェェェ』

少年は私の肩を掴み、明後日の方へ押しやると、水色の物体の体当たりをまともにくらってしまう。

『ぐぉぉ……でも、親父のげんこつに比べたらてんでいたくねぇ!』

そう言うと、腰にぶら下げていたこん棒のような物を手に持ち、

『うりゃあぁっっ』

水色の物体に向かって鋭く降り下ろした。

『ピギュッ』

息が漏れるような音と同時に水色の物体は潰れ、そのまま動かなくなった。

『はぁっ……はあ……やったか!?』

倒したのを確認するかの様に、何回か水色の物体をつつき、動かないと見るとほっと肩を落す。

『あ、あの』

『まったくこんなとこに一人できたらあぶないぞ?』

『ごめんなさい……』

彼の顔には見覚えがあった。お母さんが世話になっているおじさんとおばさんの息子で、この村一番の暴れん坊と有名でもあった。

でも、話すのはこれが初めてだった。

『それ、ルリの実か?』

『う、うん。おかあさんにいっぱいもってかえってあげるの』

『ふーむ』

少年は手を顎に置き、なにかを考えていると。

『よし、じゃあルリの実の護衛任務をしてあげよう!』

本当に楽しそうな顔で笑う人だな、と言うのがこの人の第一印象だった。

────

『くっ……本隊は全滅か! 残ってるのは後俺だけ……』

『あ、あの』

『心配するな! セブンナイツの俺がいるからにはその積み荷には指一本触らせない!』

そう言って辺りをキョロキョロと警戒しながら進んでいる。

『ふふ(おもしろい人)』

そんなやりとりをしている内に無事、村についた。

『いろいろありがとう』

『もう一人で村の外に出たらだめだぞ!』

『わかった』

『かあさん元気になるといいな』

『うんっ』

話してみてすぐにわかった。この人はとても優しくて、噂みたいな暴れ坊じゃないって。

それからも彼は度々私を村の探検に連れ出してくれた。

木を登って宿屋の二階に侵入し、二人で昼寝をしたり、道具屋の裏口から入り、寝ているおじいさんに代わって店主を勤めたり。
お城への抜け道を探したり、船着き場で一緒に魚釣りなんかもした。

毎日が凄く楽しくて、今日彼としたことをお母さんに話しては怒られたり、感心したりされた。
私が楽しそうに話すのを、お母さんも楽しそうに聞いてくれた。
その顔を見るだけで嬉しかった。

お母さんが元気になったら彼とお姉ちゃん、彼のお父さんやお母さんも連れて、ピクニックに行こう。

そんなことを、思っていた時だった。

お母さんが、死んだ。

元々治らない病気だったらしい。

お姉ちゃんは、間に合わなかったと何回も何回も叫びながら泣いていた。

私は、何故か涙が出なかった。

手厚く埋葬され、無事お母さんの肉体と魂は神の元へ行きましたと、神父様が言っていた。
それは、きっと良いことなのだろう。

お母さんは神様の元で、もう病気に苦しまずに暮らしていける。
もしかしたらそこにはお父さんもいるかもしれない。

それはお母さんにとって何よりの幸せだろう。

だから、寂しくない。
良いことなんだから、寂しくない。

『あれ……なんで』

気づかない内に作ってしまっていたルリの実入りのお粥。

いるわけもない、お母さんの部屋に運ぶ。

『  』

居ない、当然だ。

お母さんは死んでしまったのだから。

ガシャッンッ──

『あ……ああ……おかあ……さん』

『おかあさん……』

まだ仄かに母親の匂いが残るベッドに顔を埋めて嗚咽する。
もう二度とお母さんには会えない、もう二度と……。

やっと実感した。人が死ぬってことは、もう二度とその人には会えないってことなんだと。

『私……お別れの言葉も言えなかった』

『なら、言いに行こう。今ならまだ間に合う』

私の後ろに、ゆーしゃさまが立っていた。

『行くぞ!』

『待っ』

その言葉を言い終わる前に、私の手を取りどこかへ走る。

『どこにいくの?』

『着くまでのお楽しみだ!』

村の古井戸の前まで行くと、彼はいきなりその中に飛び込んだ。

『っと。お前も早くこいよー』

『む、むりだよこんな高いの!』

『ちゃんと受け止めてやっから』

『……』

怖くて仕方なかったけど、何故か勇気が出た。

『えいっ』ヒュー

『ほいナイスキャッチ。軽いな~お前』

一瞬お姫様を抱くような格好になってしまった為、私は焦って地面に降りた。

『こっからちょっと村の外に出るけど大丈夫、モンスターが出ても絶対俺が守るから』

『うん……』

暗闇の中、手を繋いだまま光を目指す。
しばらく歩くとぽっかりと月の光が差した様な場所が見えてくる。

『ここだここだ。登るぞ』

梯子を登ると風が吹き抜ける草原地帯に出た。

『こっから洞窟に入るけど居るのはコウモリぐらいだから』

『コウモリこわい……』

『そっか~、ん~、じゃあ目瞑ってな! 手引いてやっから。なぁにすぐ着く』

『うん、わかった』

暗闇の中、頼れるのは彼と繋いでいる手だけなのに、どうしてこんなにも安心出来るんだろう。

『もう目開けていいぞ』

そう言われ、瞳を開けると──

『すごい……』

一面に蓮華咲き乱れ、崖下には私達が住む村が広がっている。

『あんまり前行くと落っこちるから気を付けろよ』

『うん。でも……なんでここに連れてきてくれたの?』

『俺の行ける限りじゃここが一番高いからな! ほんとはあの塔がいいんだけど、今の俺じゃ行けないからさ』

『ここからならお前のかあちゃんにまだ聞こえるんじゃないかって思ってさ!』

私の為に、こんな危ない場所まで……。

でも、確かにここなら、お母さんに届くかもしれない。お別れの言葉。

『お母さん……! 私とお姉ちゃんは大丈夫だから!』

『だから……! お父さんと一緒に……神様の元で幸せになってね!!!』

『ばいばい……お母さん』

涙を流しながら叫んだ声は、風に乗ってきっとお母さんの元に届いたと思う。


これが、私とゆーしゃさまの最初の冒険だった。

そして、そのまま不運は続くように魔王が目覚め、戦争が始まり、ゆーしゃさまのお父さんとお母さんも戦場に行くことになった。

魔王は封印されたが、何年持つかもわからない膠着状態らしい。
そして、ゆーしゃさまのお父さんとお母さんは、帰って来なかった。

そして、誓いの日がやってくる──

『親父も母さんも行っちまったな』

『ゆーしゃさま……』

『……親父達は居ない勇者の代わりにみんなを守りに行ったんだよな』

『はい……』

『勇者が居れば一人でもみんなを守れるってことだよな』

『そうかもしれません……』

『なら、俺が勇者になる』

『そんな……! 本気ですか?』

『俺なんかが簡単になれるなんて思ってないけどさ……守りたいんだ。親父や母さんが守る世界を、村のみんなを……』

勇者と言えば伝説に残る程の力と叡智を兼ね備えている者だ。そう簡単に成れるわけがない、けど。

『……なら、私はゆーしゃさまのお供になりましょう』

それでも、ゆーしゃさまならきっと成れると思った。
勇者に、ゆーしゃさまらしい、勇者に。
そんなゆーしゃさまを私はずっと隣から支えたいと思った。

なのに──

『──僧侶が似合いそうだな』

『じゃあ僧侶にします!』

『んじゃ、ここに誓いを立てよう』

『誓い?』

『俺が勇者で、お前が僧侶、二人で必ず魔王を討つ!』

『魔王を……私達二人で』

『ああ! いずれ魔王も復活するって言われてるしな。誰かがやらなきゃいけないなら、俺達がやろう!』

『……はい! 必ず! ゆーしゃさまの横に並び立つ様な僧侶になって見せます!』

ゆーしゃさまと一緒なら、どこまででも行けると思った。

蓮華の咲く崖の上で交わした約束──

それは、何も知らない、弱い私の願いでしかなかった。

「約束を果たせなくて、ごめん」

どうしてですか……ゆーしゃさま

待って下さい……

ゆーしゃさま……!

私を置いて行かないで!!!

ゆーしゃさま!!!

ゆー……しゃさま……

────

僧侶「ゆーしゃさま!!!」ガバッ
僧侶「はあ……はあ……あれ、ここは?」

確かバジリスクの毒にやられて……そこから先は……あんまり思い出せない。

僧侶姉「やっと起きたのね」
僧侶「姉上……?」

僧侶姉「お腹減ったでしょ? シチュー作ったから一緒に食べましょ」
僧侶「あ、あの」
僧侶姉「おかえり、僧侶」

姉上は、そう笑顔で私を出迎えてくれた。

短編 僧侶と、勇者と

僧侶姉「美味しいでしょ? 今朝取れたミルクで作ったシチューなのよ」

僧侶「はい。とても美味しいです」

僧侶姉「僧侶とこうやってご飯食べるのも久しぶりね。八の月以来かしら」

僧侶「……姉上、あの」

僧侶姉「お姉ちゃん、でいいのよ。昔みたいに」

僧侶「でも……」

僧侶姉「身分が上だとか下だとか、関係ないじゃない。姉妹なんだから」

僧侶「……、それより姉上。私はなんで始まりの村に?」

僧侶姉「相変わらず頑固ね。砂漠の国の人がここに連れてきてくれたのよ。勇者の頼みだからってね」

僧侶「ゆーしゃさまの……」

僧侶「私、行かないと!」

僧侶姉「……どこに?」

僧侶「ゆーしゃさまのところに……」

──約束を果たせなくてごめん

僧侶「ゆーしゃさまは……私を……置いて行った……?」

段々蘇る記憶。

僧侶「そんな……! どうして……!」

私が、弱いからだ。

何も出来ず、ただゆーしゃさまの足を引っ張るだけだから。

僧侶「じゃあ……もう」

私は、ゆーしゃさまの隣には、居られない。

僧侶姉「全くすぐそうやって思い詰めるのも悪い癖よ」

僧侶「でもっ!」

僧侶姉「これからあなたがどうするべきか、ここでゆっくり考えなさい。ちゃんと答えが出るまでここに居ること、いい?」

僧侶「……はい」

僧侶姉「とりあえずお使いがてらみんなに顔見せに行きなさい。みんな心配してたから」

僧侶「はい……」

姉上から使いのメモをもらい、籠を持って家から出る。
本当は顔を合わせづらいけど、心配させたままじゃ村のみんなに悪い。

僧侶姉「全く……何もかも背負い込み過ぎなのよ、あんた達は」

────

久しぶりの生まれ故郷。昔のままどこも変わってない景色に安心する。

道具屋の爺さん「ずぅがぁ~ぴぃ~」

僧侶「あ、あの」

道具屋の爺さん「んごぉ~ぶひぃ~」

僧侶「もう、相変わらずだなぁ」

僧侶「そうだ!」

ガチャリ──

僧侶「お邪魔しますよー」

僧侶「もう、こんなところで寝てたら風邪引きますよお爺さん」

爺さん「ンゴ!? 悪ガキ共め家を道具屋ごっこに使うんじゃないとあれほど……」

爺さん「なんじゃ僧侶ちゃんか」

僧侶「これとこれ、くださいな。代金はここに置いとくので」

爺さん「お代なんかいらんいらん。好きなだけ持っていってくれ」

僧侶「そういうわけには行きません。置いときますからね」

爺さん「姉ちゃんに似て頑固じゃの~。それにしても見まちごうたわ。べっぴんさんになったの~」

僧侶「そんなことないですよ」

爺さん「勇者のやつが羨ましいわい。わしも後50年若ければ一緒に……どうかしたかの?」

僧侶「い、いえ」

爺さん「まあ久しぶりに帰ったんじゃ。ゆっくりして行けばええ」

僧侶「ありがとうございます」

────

宿屋の主人「おー僧侶ちゃん! 起きれるようになったんだな!」

僧侶「はい、おかげさまで」

宿屋の夫人「この人ったら僧侶ちゃんに新しいベッドを持って行く!って聞かなくてね~」

宿屋の主人「バカ野郎娘が寝込んでんだ何もしないやつがあるか!」

僧侶「娘……?」

宿屋の夫人「そうさね、僧侶ちゃん、それに勇者も。この村にとってはみんなの娘息子みたいなもんだからねぇ」

宿屋の主人「おうよ! またいつでも寝にこいよ! 何なら勇者と1つのベッドでだな……」

僧侶「えっ、あっ、それは……」

宿屋の夫人「バカ言ってないでさっさとシーツ干しなっ!」バシンッ

────

勇者の親父「僧侶ちゃん」

僧侶「叔父様!」

勇者の親父「目覚めたって聞いてな。どこも痛くないか?」

僧侶「はい。もうすっかり良くなりました」

勇者の親父「そうか……。勇者の奴は、一緒じゃないのか?」

僧侶「……はい」

勇者の親父「全くあいつは。どこまでも勝手に行くやつだな。
兄さんそっくりだよほんと。やっぱり兄さんの息子なだけあるな」

僧侶「……」

ゆーしゃさまは、戦争で両親を亡くした後、ゆーしゃさまのお父さんの弟である叔父様に引き取られました。

確かに本当の親子ではないけど、ゆーしゃさまはいつも叔父様のことを本当の親だと思っていると言っていました。

勇者の親父「大丈夫、必ずあいつは戻って来るさ。そういう奴だ」

僧侶「はい……」

叔父様の言う通り、ゆーしゃさまは、きっと一人でも魔王を倒し、ここへ戻って来るだろう。

でも、その時私はどんな顔をしてゆーしゃさまを迎えればいいだろう。

姉上はこれからのことをよく考えて答えを出せと言っていた。

でも、答えはもう決まっていた。

ゆーしゃさまは私にここに居て欲しいから連れていくようにお願いしたのだろう。
自分が魔王を倒すまで、ここで待っていてくれ、と。

だから、私がゆーしゃさまに出来ることはここで待つことぐらいなのだ。
隣に行けばまたゆーしゃさまに迷惑をかけてしまう。辛い思いをさせてしまう。

だから、

僧侶「ゆーしゃさま……」

空を見上げる。この空の下のどこかで、ゆーしゃさまは今も戦っているだろうか。

酒場──

魔法使い「ダーマの神官が」
戦士「おかしい?」

盗賊「ああ……。こないだ俺のギルドに入ろうとした奴がいてな」

盗賊「足も早いし手先も器用だから間違いなく盗賊職が言い渡されると思ったんだが……」

盗賊「実際言い渡されたのは魔法使いでな」

魔法使い「でもそれっておかしくない? 職って自分にもっとも合ったものが言い渡されるものじゃん」

戦士「魔法を習い、その適正があれば魔法使いに、力があり、剣技があるなら戦士に。
神官はそれを見定め職を言い渡す、筈だが」

盗賊「稀に内の才能を見いだされ、成ってから大成する奴もいると聞いていたからあいつもそうなのかと思っていたんだが……」

盗賊「実際はいつまでも魔法なんて使えず、職補正のせいで足も遅く手先も不器用になっちまって……」

魔法使い「今から魔法を習おうにも魔法使いの職を得た人間が魔法学校に入るなんて恥もいいところだしね……」

戦士「それでそいつはどうなったんだ?」

盗賊「昼間から飲んでは騒いでのやりたい放題さ。何でも遊び人になるんだと」

戦士「……確かに最近おかしな奴らばかり見かける。ひょろい戦士や武闘家、ムキムキな商人も居たな」

魔法使い「ダーマで何か起きてる……ってこと?」

盗賊「ダーマに限った話じゃない。このところ世界各地で変なんだよ」

戦士「変?」

盗賊「どこが?と言われると難しいんだが……何だかモンスターが地中を這ってる上を歩いているような、そんな違和感だ」

魔法使い「魔物の仕業かもしれない……ってこと?」

盗賊「ああ。そこであんたらに依頼するってわけだ。中央大陸の一件での活躍は聞いてるよ」

魔法使い「まっ、このラーの鏡さえあれば魔物なんてイチコロだからね~ふふっ~ん」

戦士「全く、最初はあんなにその鏡に恨み言言ってたのによ」

魔法使い「それはそれ、これはこれなの! それじゃ早速成功報酬の話を……」

盗賊「キッチリしてんな」

戦士「……魔物の活発化。魔王の復活が近いのと何か関係があるのか……」

ダーマ神殿──

魔法使い「静かだね」
戦士「……妙だな。普段なら昼間から賑わってる筈なんだが」

魔法使い「お休みとか?」

戦士「なわけあるか。行くぞ」

物陰に隠れながら人気のない神殿内を進む。

魔法使い「酒場の店主までいないね~」
戦士「こりゃいよいよキナ臭くなっ……魔法使い!右だ!」

「グギャアアアアア」

魔法使い「!」

バーカウンターの下に隠れていたモンスターが勢いよく飛び出してくる。
魔法使いとの距離はほぼなく、魔法を唱えるより先にモンスターの攻撃の方が早いだろう。

しかし──

魔法使い「てりゃっ」

躊躇いもなくモンスターの顔面に肘打ち、仰け反った所に

魔法使い「イオラ!」

唱えた爆破魔法は、バーカウンターごと消し飛ばす勢いでモンスターを屠った。

魔法使い「あんま舐めないでよね」

誰に言ったわけでもない言葉を吐いた後、マントを翻しながら踵を返した。

戦士「後から弁償だな……こりゃ」

魔法使い「しっかしモンスターまで居るとなるといよいよここで何か起こってると見て間違いないよね」

戦士「ああ。盗賊も言っていたがやはり神官が怪しい。宣告の間に行くぞ」

宣告の間──

戦士「しっ」

戦士「誰かいる……」

二人は柱の後ろに隠れると、微かに声がする方を凝視した。

「ほう、転職したいと」

「ああ。それで何になるのがいいのかと思って」

「このダーマの神官に任されよ。神から授かった眼力でお主の行く先を見定めてしんぜよう」

魔法使い「いけない! また変な職につかされちゃうよ!」

戦士「いや、待て。あれは……」

「ムムム……(中肉中背、こういうタイプは何をやらしても意外と上手くこなすからな。確実に駄目にさせるにはやはりこれか。ケケケ)」

「そなた、遊び人が良いぞ! 一度戦いから離れ、悟りを開く道をとってはどうか!?」

「へぇ、遊び人か……」

ザンッ────

「なっ──」

「悪いけど悠長に遊んでる場合じゃないんでな」

「き、貴様ァ……! 神官にこんなことをして……!」

「最近の魔物は演技も上手いんだな」

「なっ、何故!?」

「バーカ、勇者を転職させようとする神官がいるかよ」

ザクッ──

「が、がはっ……ゆ、勇者めぇぇぇぇぇおのれえええええぇぇぇぇぇぇ……」サラサラサラ……

勇者「……」

魔法使い「勇者君!? やっぱり勇者君だ!」

勇者「魔法使い……? なんでここに」

戦士「勇者」

勇者「戦士も一緒か。……相変わらず仲が良いな」

戦士「何故神官を斬った」

勇者「何故もクソもあるかよ。神託の証を見て転職を勧めてくる神官なんざ魔物以外あり得ないだろ」

戦士「確かにそうかもしれないな。だがもし目が見えない神官だったら、どうだ?」

勇者「なに?」

戦士「神官の中には心眼を持つものもいると聞く。それなら神託の証が見えなくても仕方ないだろう?」

勇者「……何が言いたいんだ?」

戦士「強引すぎじゃねぇかって言いたいんだよ! 相手はダーマの神官だぞ!?
間違えて殺してごめんなさいで済む相手じゃ」

魔法使い「まあまあ。魔物だったんだし結果オーライってことで、ねっ?」

戦士「ちっ。気に食わねぇ」

その後、捕まっていた他の神官や様々な職の人達を解放し、ダーマにまた活気が戻った。

わいわい、ガヤガヤ。

魔法使い「うんうんやっぱりダーマはこうじゃないとね!」

戦士「バーカウンターも弁償せずに済んだし良かったぜ」

勇者「……で、何の用だよ。ないならもう行くぞ」

魔法使い「まあまあそう言わずぐびっと!」

勇者「……」グビグビ

戦士「そういや僧侶はどうした? 見かけないが」

勇者「っ」

勇者「……お前らには関係ないだろ」

戦士「なっ…んだとぉ~?!」

魔法使い「はいはいお座りお座り」

戦士「けっ!」

魔法使い「勇者君はなんでダーマに?」

勇者「神官のこともあるが……ある人物を探しててな」

魔法使い「ある人物?」

勇者「魔導使いリノン……魔王の城へ行く唯一の手掛かりだ」

魔法使い「魔導使いリノン……」

勇者「知ってるのか?」

魔法使い「うん。まあね。北生まれじゃ知らない人はいないし」

勇者「どこにいるかわかるか!?」

魔法使い「う~ん……言い伝えみたいなものはあるけど……居たのを見た人はいないって聞くし」

勇者「何でもいい! 教えてくれ!」

魔法使い「……じゃあ教える代わりに、私達を勇者君の仲間に入れてよ」

勇者「なっ」
戦士「はあ?」

戦士「誰がこんな奴の仲間になるかってんだ!」

勇者「こっちだってこんな奴と仲間になるなんて願い下げだ!」

戦士「ンだとォ~?」
勇者「なんだよやんのかぁっ!?」

魔法使い「フフフ、ちょっと静かにしようね、二人とも」

勇者「は、はい」
戦士「静かにするから手に魔力溜めんのやめてください」

魔法使い「私は魔導使いリノンへの道を知っている。そして勇者君は僧侶ちゃんと別れて戦力的にも厳しい、となれば断る理由はないんじゃない?」

勇者「……俺の仲間は、あいつだけ……いや、」

勇者「わかった。ただし、リノンに会うまでだからな」

魔法使い「りょーかいりょーかい」
戦士「けっ! こっちだって好きでお前なんかと仲間になるかってんだ!」

魔法使い「それじゃ、しばらく仲間となる私達を祝って! 乾杯っ!」ゴッツン
勇者「……」
戦士「ちっ」

魔法使い「(僧侶ちゃんと何があったかは知らないけど……やっぱりこれはチャンスだと思うから。悪く思わないでね……)」

勇者「(俺の仲間は僧侶だけ……か。こういう勝手な俺の押し付けがあいつの負担になってたのに。
もっと早く気づいてやれてたら……)」

戦士「(前に会った時より神託の証の光が鈍くなったような気がするが……ま、気のせいか)」

こうして三人は魔導使いリノンを探し、魔法が産まれた地、北の大陸へ。

とりあえずここまでで
書くの遅くて申し訳ない

短編 決断の時

私が村に戻ってからしばらくが過ぎた。
村は相変わらず平和で、こうしていると魔王がいるなんて信じられないぐらいだ。

村の人達は私に優しくしてくれる。
旅をやめた理由も、一向にゆーしゃさまが私を迎えに来ないことも、多分全部わかってて敢えて聞いて来ないのだろう。

多分、これが幸せってことなんだと思う。
ありきたりな生活を、当たり前にいつまでもいつまでも暮らせることが。

きっとこれがゆーしゃさまが私に望んだこと。

それでも……。

僧侶「ゆーしゃさま……」

私は、ゆーしゃさまのことを忘れることなんて出来ない。

──でも、もうゆーしゃさまの元には戻れない。

僧侶「どうして……どうしてですかゆーしゃさま」

ゆーしゃさまと別れてから、ずっと空白なままの日記。

ページを振り返る度に思い出してしまう、ゆーしゃさまとの日々。

確かに、辛いことや、苦しいこともいっぱいあった。
けれど、ゆーしゃさまに助けられながら乗り越えて来た。

僧侶「そうだ……」

ゆーしゃさまは、たくさんたくさんの人を救い、私のことも支えてくれた、けれど……自分を支えてくれる人は……居なかった。

僧侶「なんでこんなこと……気づいてあげられなかったんだろう」

勇者と言われ。

何でもでき、いや、出来なくてはならないと思われ。

失敗すれば人が死に、その死をひたすら抱え込むしかなく。

過去にあったことをも背負わされ、自分を捨て、ただ、『勇者』として在り続けなければならない。

それが、どれほど辛かっただろうか。

僧侶「愚かな僧侶を許してください……ゆーしゃさま」

私が勇者を讃える度、自分が薄くなる。
彼と言う存在は、もう『勇者』としてしか残っていないのかもしれない。

それでもゆーしゃさまは戦っている。

たった一人で、勇者と言う名を背負って。

私にもっと……彼を支える強さがあれば。

彼を一人にしなくても済んだのに……!

僧侶「ごめんなさい……ゆーしゃさま、いつもいつも私が弱いばかりに……」

悔しくて涙が止まらない。気持ちは前に行きたいのに、それが出来ない自分が憎い。

そんな時だった──

僧侶姉「ほら、そんな泣いてばっかりじゃみんな心配しちゃうわよ?」

僧侶「姉上……?」

僧侶姉「答えを聞かせてもらう前に、ちょっと昔話をしようと思ってね」

僧侶「昔話?」

僧侶姉「ある少年のお話よ。見せたいものがあるの。ちょっと来なさい」

姉上について行くと家の裏手側にある一本の木の前で止まる。

僧侶姉「懐かしいわね……ほんと」

僧侶「何がです?」

僧侶姉「あんたには内緒にしろって言われてたからずっと隠してたけど、これ、見てみなさい」

僧侶「?」

姉上が木の側面を指差すので回り込んで見てみると、

僧侶「なんですか……これ?」

物凄い数の横線が木に刻まれている。

僧侶姉「これはね、あいつが勇者になる前に死んだ回数よ」

僧侶「え──」

それが本当だとしたら、その回数は100はくだらないだろう。

僧侶姉「156回。あいつが勇者になるまでそれだけ死んだの」

僧侶「そんな……」

僧侶姉「勇者になるって言うのはね、あなたが思っている何十倍も険しい道なのよ」

僧侶姉「特にあいつは魔法の才能があるわけでもなく、剣の腕が立つわけでもなかった」

僧侶姉「最初はバカにされてたわ。勇者なんか無理だって。私もそう思ってた……だけど」

僧侶姉「あいつは諦めなかった。毎日毎日王様に頭を下げて、勇者になれるように自分を訓練してくれって」

僧侶「そんなこと……全然知らなかった……」

僧侶姉「あいつも男の子だからね。カッコ悪いとこ見られなくなかったのよ……僧侶には特に、ね」

僧侶「ゆーしゃ……さま」

僧侶姉「余りの熱意と未だ勇者が居ないことを加味されて……城で組まれた勇者になる訓練は壮絶を極めた」

僧侶「……」

僧侶姉「私は運ばれて来た勇者を治す役目だったから良く覚えてる。傷だらけで、ボロボロで、まだ十の歳そこらの少年にこんなことを……って」

僧侶姉「でも、生き返らせるといつもあいつは笑ってたわ。惜しかった~とか、もうちょっと反応速度が~とか言ってさ」

僧侶姉「そしていつもここを出ていくとき、この木に印をつけていくの」

僧侶姉「この木に印をつけない日が来たら、それは俺が勇者になった時だ! なんて言ってさ」

僧侶姉「あいつは勇者になる為に凄く凄く頑張ったのよ」

僧侶「……はい」

僧侶姉「決して凄い奴なんかじゃない。最初から何でも出来るような奴でもない。それでも頑張って……勇者になったの。
全てはあなたとの約束と、この村の人達みんなを守るために。ただ……それだけの為に」

僧侶「はぃっ……」

僧侶は瞳いっぱいに涙を浮かべ、木の傷を撫でる様に触る。

いつも、私を突き動かしてくれるのは……ゆーしゃさまですね。

こうして離ればなれになっても、過去のゆーしゃさまに背中を押されちゃう。

そうだ、最初から強い人間なんていない。

ゆーしゃさまだって必死頑張って頑張って頑張っていっぱい頑張って今があるんだ!

私は自分で言ったじゃないか!
やる前から諦めない、やれることを全力でやってから決めるって!

私は全然強くなろうとしていない!

ただゆーしゃさまに甘えて、その優しさの側に居たいだけだ!!!

本当にゆーしゃさまを支えたいなら……!

僧侶姉「決めなさい、僧侶。あなたがこれからどうするのかを」

選択の時──

ゆーしゃさまは、私にここに残れと言っている。
直接言われなくてもわかる、だってこれまで一緒に旅して来たんだもの。

今までゆーしゃさまが言ったことに反抗したこともなかった。
ゆーしゃさまの考えることだもの、きっと全て正しいんだって、思ってたから。

でも、ごめんなさい、ゆーしゃさま。

これだけは、聞けません。

ゆーしゃさまを一人残して、私だけが幸せに暮らすなんて、やっぱり出来ません。

だから──

僧侶「……私は、ゆーしゃさまの元へ帰ります」

僧侶姉「僧侶……」

僧侶「でも、このままじゃまたゆーしゃさまの足を引っ張ってしまうだけだから……」

僧侶「強くなります!」

身も、心も、今のままじゃ駄目なんだ。
もっともっと強く……その為には、僧侶職だって捨ててもいい。

僧侶姉「そう……でも無理はしちゃ駄目よ。また辛くなったら帰って来なさい。今度は二人で、ね」

僧侶「はいっ!」

ゆーしゃさまに言いたいことは沢山ある。

けれど今は、何よりも強くなることが先だ。
だから、私はあの人に会わなければいけない。

────

僧侶姉「もう行くのね」

僧侶「はい。時間が余りないので」

僧侶姉「そう。気をつけて行ってらっしゃい」

僧侶「はい、……」

僧侶「この道を取ることで……もしかしたら……もう戻って来られないかもしれません。愚かな妹をお許しください」

僧侶姉「僧侶……」

僧侶「それでも、やっぱり私の幸せは、あの人の隣なんだと思うから」

僧侶「ずっと……側に居てあげたいんです! 勇者としての彼と、勇者でない彼の隣に」

僧侶姉「居てあげなさい。それが出来るのはきっとあなただけだから」

僧侶「はいっ」ニコッ

僧侶「行ってきますっ! お姉ちゃん!」
僧侶姉「行ってらっしゃい、私の可愛い妹」

僧侶姉「(私も勇者のこと、好きだった、なんて今更言ったら怒られちゃいそうね。フフフ。
でも……ちゃんと帰って来るのよ、僧侶……二人で、必ず)」

短編 賢者への道

中央大陸国──

僧侶「お久しぶりです」

オカマ「あらやだ僧侶じゃないどうしたの急に!?」

僧侶「探してる人がいて、司教様ならもしかして旅の途中で会ったりしてないかなと思いまして」

旅僧侶「辻ザオラルした人なら大体は覚えてるけどね。何か特徴は?」

僧侶「……賢者の人で、……その、胸がとても大きな人ですボソッ」

オカマ「お姉ちゃんはこ~~~んなにバインバインなのにどうしてかしらねぇ」

僧侶「何か言いましたか?」ニコ

オカマ「いえ何でもないです」

旅僧侶「……彼女か」
僧侶「知ってるんですか!?」

旅僧侶「良く覚えてるよ。かなり手間取ったからね彼女には」

僧侶「今いるところとかはわかりますか?」

旅僧侶「う~ん、通りすがっただけだからね。でももしかしたら今もあの辺りに住んでるのかもしれない」

僧侶「どこですか!?」

旅僧侶「西にもっとも近い村……今はもうないけどね」

僧侶「それって……!」

旅僧侶「そう。君達がヤマタノオロチを退治した村、あの近くの浜辺で彼女は倒れてた……いや、流されて来た……が正しいかもね」

僧侶「流されて?」

旅僧侶「ともかく、その辺りを探してみるといいんじゃないかな」

僧侶「そうしてみます。ありがとうございます司教様」

オカマ「あら、そう言えば勇者はいないの?」

僧侶「……勇者とは、今別々の道を進んでるんです」

旅僧侶「別々の道?」

僧侶「はい。今は離ればなれでも……魔王を倒す時には必ず……この道は一つになるはずですから」

旅僧侶「……ほう、それで賢者を」

オカマ「あのクソガキャァ……いっぺん殺さんと駄目みたいねぇ……」バキバキ

旅僧侶「椅子を壊すのはやめようか」

────

僧侶「お世話になりました!」ペコリッ

オカマ「勇者が来たらボコボコにしとくから心配しないでっ!」

僧侶「そっちの方が心配ですよ~」

旅僧侶「僧侶、賢者を目指すってことは僧侶を捨てるってことだよ?
それでもいいのか?」

僧侶「……」

オカマ「そうよ! 勇者と約束したんでしょう? あいつが勇者であんたが僧侶で……二人で魔王をって」

僧侶「……それは、私達が何も知らなかった時にした約束です」

僧侶「ゆーしゃさまも私も知らなすぎたんです……この世界のことを」

僧侶「世界を旅して、それがようやくわかって……お互いにそれじゃ駄目だって気付いた。だからゆーしゃさまも私を置いて行ったんだと思います」

僧侶「だから私も……もう、僧侶にこだわるより……彼を助けたいんです」

僧侶「何になってもいい、彼を守りたいんです……!」

旅僧侶「そうか。なら、もう何も言わないよ。色々世話になったね、ありがとう」

僧侶「こちらこそ、ありがとうございました」

オカマ「あなたなら、きっと賢者になれるわ! そして……賢者になっても……何になってもいいから。また二人でいらっしゃい。
あなた達二人が守った、この中央大陸へ」

僧侶「はいっ」


旅僧侶「行ったか……」
オカマ「かなり無理してるみたいだけど……大丈夫かしらね」

旅僧侶「どうだろうね。ただ……賢者への道は、そんな簡単な道ではないとだけ言っておこうか」

海沿いの廃墟──

賢者「ちっ、勇者め、何考えてやがる。砂漠に入ったからもう死んだと思ってたが生還した後二手に別れて何かやってるらしいし」

賢者「私の目標はあくまで勇者だから先に仕留めりゃいいんだが……変なやつが二人仲間に入ったらしいし」

賢者「さすがの私も三対一じゃ分が悪い。真っ向から行けないとあっちゃ僧侶の方を何とかするしかないがその僧侶は村で引きこもりときた……」

賢者「始まりの村はああ見えてガードは固いからな。よそ者の私がのこのこ行っても怪しまれるだけだ」

賢者「さてどうしたもんか……」シャクリ

賢者「このりんごみたいに手元に転がって来ないもんかねぇ」

「あの~すみません~」

賢者「ん?」

賢者「(なんだ……? この家はあのガキ共ぐらいしか知らないはずだが……)」

賢者「どちら様で?」

僧侶「村の人に聞いたのですが、賢者様はここにおられますか?」

賢者「(僧侶!? 何故ここに……!? まさか私が勇者を狙ってることがバレたか……?)」

賢者「(いや、あり得ない。そんな真似はしてないはず……なら、なんで……)」

賢者「(まあとにかく上っ面は良くしとかないと後々面倒だ)」

賢者「はい。私が賢者ですけど……」ガチャリ

僧侶「あっ、ほんとにいらっしゃった!」

賢者「(居たら悪いのかよアバズレが!)フフフ、とりあえず立ち話も何なので中へどうぞ」ニコッ

僧侶「お、お邪魔します」

賢者「何もないとこでごめんなさいね」

僧侶「いえっ お構い無く!」

賢者「それでまたどうしてここへ?(勇者はいねーのか勇者は)」

僧侶「ここには村の子達に聞いて。何でも色々良くして下さってるそうで」

賢者「……」

賢者「(そうだったな。お前らがあのヤマタノオロチを倒したんだっけ。そのおかげで村は救われた……)」

僧侶「賢者様?」

賢者「(私だって救いたかった! でも……私には出来ないことだった。だからこの事には素直にありがとうと言っておいた方がいいのか……。
いや待てだが勇者は敵だ! 殺す相手の仲間にありがとうなんて口が裂けても言えねぇだろ……!)」

僧侶「あの~…?」

賢者「こちらも聞き及んでおります。村を救った英雄だとか」

僧侶「そんなことは……」

賢者「(ちっ)私もあの村には日頃からお世話になって居たので……お二人には感謝しています(この事だけには、だからな!)」

賢者「それで……? 私にどんなご用があっていらっしゃったのでしょう?」

僧侶「……まずは謝らせてください。あの時あなたが仲間に入るのを……私が拒否したのを」

賢者「そんなこともありましたね(おかげで勇者悩殺作戦は大失敗だよチクショウが)」

僧侶「あの時は何も知らなかったから……ほんとに私が未熟でした。素直に賢者様について来てもらえば……あんなことには」

賢者「」ギリッ

賢者「それはあなたが選んで決めた道でしょう? その先に何があったからって過去を悔やむなんて愚か者がすることです!」

僧侶「その通りですね……」

賢者「私は……自分が進む道だけは後悔したくありません(そうだ……だから、私は勇者を)」

賢者「それで? わざわざ謝りに来たわけじゃないんでしょう?」

僧侶「……はい。お願いがあります」

僧侶「私を……賢者にしてください!!!」

賢者「……は?」

僧侶「えっ?」

賢者「は~……何を言うかと思ったら。もう限界だわ」

賢者「お前賢者舐めてんだろ? あ?」

僧侶「け、賢者様?!」

賢者「あのなぁ、賢者ってのはそうほいほい成れるもんじゃないわけ。魔法、僧侶を両方を極めて初めて賢者に成れる」

僧侶「はい、わかってますっ!」

賢者「い~やわかってない。二つを極めて尚且つ賢者という職を最初から始めないと駄目なんだぞ?
それを僧侶も極めていないあんたが賢者にしてくださいって?」

賢者「あはは、まずは魔法使いになるのをお勧めするよ」

僧侶「それじゃ遅いんです……!」

賢者「遅いって言われてもねぇ」

僧侶「ゆーしゃさまはもう魔王の城への道のりを見つけているかもしれません。
どうしてもゆーしゃさまが魔王を倒すまでに強くなりたいんですっ!」

賢者「(なるほどね、切られたか、こいつ)」

賢者「(なら尚更用がないな。こいつをダシに勇者を何とか出来ると思ったが……)」

僧侶「お願いしますっ! 私を……賢者に、いえ、賢者じゃなくても構いません! 強くしてくださいっ!」

賢者「(だがあの勇者が簡単にこいつを見捨てるか……?)」

賢者「(魔物との戦いで躊躇いもなく自分を盾にして守った僧侶を……)」

賢者「(そもそもこいつの意思で離れたとは考えにくい……なのに何故始まりの村何かにこいつは居た?)」

賢者「(オアシス……バジリスク……砂漠越え……そうか、なるほどねぇ。あの優しい勇者様が考えそうなことだわ)」

賢者「(これなら上質な餌に仕上げられるかもしれない。でもちょっとぐらいは虐めとかなきゃ港町での借りを返せないよな)」

賢者「なら、あなたの代わりに私が彼の元へ行けばいいんじゃなくて?」

僧侶「それは……」

賢者「それに勇者様は今、他に仲間がいるそうですよ? 魔法使いの方と戦士の方だそうで」

僧侶「……」

賢者「(落ち込んでる落ち込んでる)」

僧侶「でも、最後にいるのは私じゃなきゃ……駄目なんです」

賢者「何でです? 魔王を倒すなら有能な仲間が居れば居るほど……」

僧侶「私がゆーしゃさまを大好きだからですっ!!! 側に居たいんですっ!!! ずっと側に居て……守りたいから、彼を」

賢者「……ぷ、ははっ。あははっ」

僧侶「そんなにおかしいでしょうか……?」

賢者「いや、余りにもストレートに言うもんでちょっとな」

僧侶「むぅ」

賢者「(なるほど、素直バカ同士だったってわけか)」

賢者「(でも、その気持ちに一切偽りがなかった。羨ましいな。私もこっちに生まれてたら……そうなれてたのかもね。それでも……)」

賢者「いいだろう。強くしてやるよ、私が」

僧侶「本当ですかっ!?」

賢者「ただし、かなり裏技を使う。勇者達が魔王の城まで行くのに恐らく三の月ほどだろうから普通にやってちゃ間に合わないからね」

僧侶「裏技……?」

賢者「賢者の悟りを、直接あんたに見せる」

賢者「(今私が進んでいる道の否定だけはさせないよ。西の村のみんなの為にも、必ず勇者を殺す)」

今日はこの辺りで

次回はいよいよ勇者と僧侶が……なお話

内容的に1000越えちゃいそう
まさか2スレ目に行くとは思いもしなかった……。
でも後少しなので頑張ります
読んでくれてる方いつもありがとう

────

辺り一面が白い雪で覆われていて、私はその中に一人で立っていた。
ここには私以外、誰もいない。かつて私の友だった者達も……数百年も前に別れを告げた。

寒さもない、何も、感じない。
体の刻が、止まっているから。
私だけが時間から、世界から、切り離されている。

私は、何をしているのだろう。
人が流れて行くこの世界を何百年も眺めて……どうしたいのだろう。

「勇者…」

そっと呟けば、闇に呑まれそうなこの気持ちも晴れて行く。

私にとって、これほどの魔法は他にない。

そう、全ては勇者の為に──

風が強くなり、柔らかな雪が吹雪へと姿を変える。

寒さとは無縁の筈のこの体が震える。

「ついに目覚めるか、魔王よ…」

次は十年前とは違う。あの二人がいるのだから。

傍らにある斑模様の卵がビクりと震える。

「そうか……お前も早く勇者に会いたいんだね」

魔王が現れ、勇者が生まれ、それが繰り返されて来た勇者暦。
それをあの二人なら、終わらせてくれるかもしれない。

そしてそれは、勇者が望んだこと……。

ずっと昔に、私に託したこと。

私はその約束を果たす為だけに、ここまで来たのだから。

短編 それぞれの思い

あれから、三の月日が流れた。
僧侶には毎日の様に賢者の悟りを眺めさせた。
最初の内は精神が崩壊しかけたのか喚きながら本を投げ捨てようとしたことも何度かあったが、今ではまるで読書でもするかの様にページを見開いている。

それは端から見れば普通だが、私から見ればかなり異常な光景だ。
賢者の悟りとは、言わば世界の理。わかりやすく簡単に言えば、水は低きに流れる、ようなこの世の現象について、様々なことが明記されている。無論、人についてもだ。
人の醜さ、傲慢さ、愚かさ……。
自分の倫理、価値観等吹き飛ばす内容なのは私も知るところだ。

賢者と云うものは世界の全てを知っても尚、変転流動せず、ただ世界の己が儘に見据えなければならない。
それにより、得た知識を最大限に活かせるのだ。

しかし正直ここまでとは思わなかった。賢者とは、時があれば成ることが出来る職ではない。

剣を何千、何万と振るえば戦士になれるであろう。

魔法を習い、突き詰めて行けば魔法使いにも届くであろう。

だが、賢者は違う。
幾ら魔法と癒しの才があっても、なれぬ者はなれないのだ。

人の生を徒して届かぬ職は、勇者と賢者のみと言われている様に……そこには絶対的な何かがある。

或いは思いか、或いは魂か……。
私にはわからないが、こいつはその賢者の領域まで辿り着いているのは間違いない。

やっていることはただ本を読むだけで大袈裟な、と知らぬ者なら思うだろうが……私はそんなことは欠片も思わない。
賢者の悟りはそれほどに禁忌であり、賢者になった後ですら目を伏せる代物だ。

自分じゃないものが、頭の中をぐちゃぐちゃにしていく様な感覚に吐き気がする。
これに比べたらまだ剣を振るっている方が気は楽だろう。

それに昔から言われていることだ。
剣に至る道は体から。
魔法に至る道は精神からと。

そして今日、三の月をかけて読んだ賢者の悟りの最後の一ページを、僧侶は閉じた。

僧侶「……」パタン

賢者「ふぁ~……ん、全部読めたのか?」

僧侶「おはようございます賢者様」

僧侶「はい。読めたことは……読めたのですが」

賢者「ん?」

僧侶「私は……これで本当に強くなれたのでしょうか?」

賢者「何も汗水垂らして修行することだけが強さに繋がるわけでもねーよ。私ら(魔法を使う者)には私らなりのやり方がある」

僧侶「ですが……」

賢者「言っとくがそのを賢者の悟りを手にいれる為に人生賭けても無理だった奴らもいるんだからな」

僧侶「それについては本当に感謝してますっ!」

賢者「わかったならとっとと朝飯の支度して勇者のとこなり何なり行っちまえ。私が教えることはもうねーよ」

僧侶「すぐ支度しますね!」

賢者「……」

僧侶「~♪」ボォ

賢者「(昨日まで火を起こすのにマッチを使ってたのに、あれは火の加護か)」

僧侶「~♪」コポポ

賢者「(おいおい水の加護まで使えんのかよ化け物かあいつ。こりゃとんでもない掘り出し物かもな)」

賢者「(だが……僧侶が強ければ強いほど私にとっては都合がいい。あんたには恨みはないが悪く思うなよ)」

────

賢者の悟りを読んでからというもの不思議な気持ちだった。
頭の中にもう一つ世界が出来て、その世界から何でも調べられる図書館の様なものがあって。
わからないことはそこで何でも調べられる、多分……今の私にわからないことはほとんどないのだろう。

でも、これだけ知識を得ても、ゆーしゃさまの今の気持ちだけはわからない。
でも、それが自分が完璧ではないと思わせてくれて、なんだか心地いい。

でも……これで私は僧侶を捨てなければならないと思うと、胸が苦しくなる。
やっぱり、僧侶が良かった。
あの人が呼んでくれた僧侶が……。

────

僧侶「長い間お世話になりました!」

賢者「私も色々楽できたし、話し相手がいて退屈しのぎにはなったよ」ポリポリ

僧侶「本当の気持ちを隠すとき、鼻をかく癖治した方がいいですよ~」

賢者「うっせ! さっさと行け!」

賢者「まあ……ほんの少しだけ寂しくなるけどな」

僧侶「ふふふ。また遊びに来ますよ。村の子達とも約束しましたから。今度は三人で遊びに来てって」

賢者「三人……か」

僧侶「私、賢者様のこと誤解してました」

賢者「最初はどう思ってたんだよ?」

僧侶「……胸の大きさを利用してゆーしゃさまをたぶらかす雌狐かと」

賢者「おい」

僧侶「でも……本当は、みんなのことを助けたいって思ってて、やっぱり賢者様なんだなって」

賢者「止せよ。私はそんな柄じゃない。あの村のことだって色々分けてくれるから良くしてるだけだ。等価交換してるだけで優しさなんてもんはないよ」

僧侶「それでも、皆さん感謝してますよ。まだこの辺りはモンスターがいっぱい居ますから」

賢者「まあ感謝されて悪い気はしないけどな」

僧侶「それでもし……賢者様さえ良ければ、私達と一緒に来てくれませんか?」

賢者「……」

賢者「(一緒に行けば勇者を殺る機会が幾らでも作れる、少し計画は早まるが……)」

賢者「やめとくよ。お前が大好きな勇者様を取っちゃったら悪いからな」

僧侶「むぅ……でも確かにゆーしゃさまは胸が大きい人が」ブツブツ

賢者「(なんで、なんでこいつに情けをかける私! せめて少しだけでも大好きな勇者と居させてやりたいと思ってしまうのは何故なんだ……!)」

賢者「(違う、情に惑わされたわけじゃない。私が一緒に行って何かを警戒されるよりこの方がいい、それだけだ。私はこいつに特別何かを思ったわけじゃない)」

賢者「そういうわけだから一人で行ってこい、僧侶(それでも戸惑うのは、この三の月日は私にとっても無じゃなかったってことか)」

僧侶「……私、まだ僧侶なんでしょうか?」

賢者「あぁ?」

僧侶「だって……賢者の悟りを読んだから……」

賢者「バカか。本当に賢者になりたいなら自分の賢者の悟りを手に入れてからダーマなり何なり行かなきゃ成ったことにはならないだろ」

僧侶「じゃあ……」

賢者「お前は僧侶のままだよ。賢者の知識を得た僧侶なんて世界中探してもお前だけだろうけどな」

僧侶「まだ……僧侶で居られるんですね。約束……守れるんだ……良かったぁ……」

賢者「泣くんじゃねーよめんどくせー。……ほらこれで鼻ふけバカ」

僧侶「はりふぁとうごじゃいまふ」

賢者「さっさと行って二人で魔王なり何なり倒して来い」

僧侶「はいっ!」

賢者「……元気でな、僧侶」

僧侶「行ってきます! 師匠!」

お互い手を振り合い、別々の道を行く。

賢者「(バカ野郎め……次会う時はお前の一番憎い相手になるかもしれないのに……師匠なんて呼びやがって……)」

賢者「(本当にこいつらが魔王を倒せたら……いや、それだけは考えては駄目だ。それだけは……)」

賢者「(西の大陸のみんなを守るために、必ず勇者を殺す)」



僧侶「(ゆーしゃさま、今僧侶が参ります。今度はあなたを守るために)」

────

魔法使い「カウント5で行くよ」

戦士「了解」
勇者「…ああ」

魔法使い「...3...2...1...レミーラ!!!」

暗闇の洞窟内を、魔法使いが放った閃光魔法が照らし出す。

「グァ!?」

戦士「おせーよ!おらっ!」

勇者「シッ──」

モンスター達が光に目を奪われている間に二人はどんどん斬り伏せて行く。

「グォォォォアアア!!!」

ようやく目が慣れたのか二人に突撃してくるモンスター達に、

魔法使い「ざーんねん」

魔法使い「イオラ──」

今度は爆破による眩い光が辺りを包んだ。

────

魔法使い「さ~楽しい楽しいお宝ちゃんタイムだよ~」ワキワキ

戦士「ったく現金な奴だなほんと」

勇者「……」

戦士「どうかしたか?」

勇者「……」

戦士「勇者?」

魔法使い「アバカム!」パカッ

魔法使い「金銀ダイヤに装飾品、おぉっと書物なんかもある! これは高く売れそう!」

勇者「なぁ、いつまでこんなこと続けるんだ?」

戦士「なに?」
魔法使い「勇者君?」

勇者「悪い……先に帰ってる」


戦士「なんだよあいつ」
魔法使い「……」

酒場──

魔法使い「じゃあ今日も依頼達成&トレージャーハント成功お疲れさまっ!」ゴツンッ

戦士「おう」ゴツンッ

勇者「……」グビッ

魔法使い「コラ~ちゃんと乾杯するときはゴツンッとやらなきゃ!」

勇者「三の月だ」

魔法使い「んん?」

勇者「魔導使いリノンを探して三の月も経つのに一向に手掛かりがない」

戦士「まあ魔導使いリノンって言えば半分伝説みたいなもんだからな。情報と言うより言い伝えみたいなもんばっかりだし見つからないのもしょうがねぇだろ」

勇者「その代わりに宝探しってわけかよ」

戦士「あぁ?」

勇者「こんなこといつまでやっててもしょうがないだろって言ってんだよ!」

戦士「こんなことだと?! まあ伝説の勇者様にとってはトレージャーハンターなんざこんなこと、だろうがよ」

戦士「こっちはそれに誇り持ってんだ。てめぇが勇者だろうがなんだろうが俺らをバカにする資格なんてねぇぞ!!!」

勇者「俺が言いたいのはそういう意味じゃねぇよ!!! 」

戦士「やんのか!?」
勇者「オォ!?」

魔法使い「はいストップ」

戦士「今日ばかりはいくら魔法使いが言っても止まらねぇぞ!」
勇者「上等だ!」

魔法使い「酒場で騒ぐなって言ってるのがわからないのかな? 酒が不味くなるの」

フツフツフツ……

ガタガタガタ……

戦士「(ヤバい酒が沸騰してやがる……)」
勇者「(ここで広域魔法はさすがにヤバいです魔法使いさん)」

戦士「わぁったよ!」
勇者「けっ」

魔法使い「それでよし。勇者君が憤るのもわかるよ。確かにこの三の月でリノンは見つからなかった」

魔法使い「けど私達がやって来たことは決して無駄じゃないと思う」

魔法使い「依頼を受けてのモンスター退治、勇者の仕事は何も魔王を倒すことだけじゃないよね?」

勇者「それはそうだけどよ……」

勇者「だがこのままでも良いってわけじゃないだろ。最近益々モンスターも凶暴化している。元を断たないと……魔王を倒さないと草刈りと同じだ」

魔法使い「なら、会いに行こうか……リノンに」

勇者「居場所を知ってるのか!?」

魔法使い「さっき見つけた書物にね、こんな記述があったの」

魔法使い「『霊峰の頂きに魔法の祖が眠る』って。多分昔の人がたまたま見つけたのを記したんだと思う」

戦士「ってことはほんとに数百年生きてるってことか」

魔法使い「霊峰ゼギア……その頂上に、彼女はいる」

宿屋──

勇者「霊峰ゼギア……そこに魔導使いリノンが居る。ようやく……ようやくだ」

勇者「早く魔王を倒して……あいつの所に」

コンコン──

勇者「ん? 開いてるぞ」

魔法使い「やっほ」

勇者「なんだ魔法使いか。どうした? 眠れないのか?」

魔法使い「ん、ちょっとね。話したいことがあってさ」

勇者「話したいこと? 待ってくれ、今明かりを」

魔法使い「待って、このままでいい」

勇者「いいのか? 今日はあまり月も出てないし薄暗いけど」

魔法使い「大丈夫」

勇者「そっか」

勇者「まあ座れよ」

魔法使い「ん」ストン

勇者「んで話って?」

魔法使い「……勇者君はさ、強いよね」

勇者「なんだよ急に」

魔法使い「こうして一緒に戦ってるからわかるんだ。剣も魔法も……常人離れしてる」

勇者「剣なら戦士とどっこいで魔法なら魔法使いに負けてるだろ?」

魔法使い「そんなことないよ……私なんて未だに中級魔法しか使えないもん。あれから三の月も経つのに……全然強くなれない」

勇者「魔法使い?」

魔法使い「私ね……勇者君に謝らなきゃいけないことがあるの」

勇者「なんだよ改まって」

魔法使い「……怒らない?」

勇者「怒らない怒らない」

魔法使い「……嫌いにならない?」

勇者「ならないから早くしろ」

魔法使い「じゃあ話す」

魔法使い「私……ほんとはリノンの居場所、知ってたんだ。三の月前、勇者君と組んだあの日から」

勇者「……なんで今まで黙ってたんだ?」

魔法使い「……」

魔法使い「私ね……小さい頃から魔法が使えて、ゆくゆくは勇者のお付きに成れるんじゃないか、なんて言われてたの。神童ってやつかな……」

勇者「へぇ、凄いな」

魔法使い「魔法学校もトップで卒業して、これから世界の為にこの力を使って行くんだ……なんて思っていざ魔法使いになったら、そこからはダメダメでさ」

勇者「今だって十分凄いだろ」

魔法使い「ダメなんだよ……私は。呪文を覚えるのが……凄く遅いの」

勇者「呪文を覚えるのが…遅い?」

魔法使い「普通の魔法使いが10で覚える呪文を私は20でようやく習得できたり。中には覚えない呪文もあった」

魔法使い「魔力だけはあるんだけど……使える魔法が少ないんだ」

勇者「……でもどの魔法も他の奴が使うより威力がある」

魔法使い「うんっ! 覚えられる呪文が少い代わりに一つ一つの魔法を強くして行こうって思って」

魔法使い「固定魔力魔法に無理やり魔力注ぎ込んで威力上げてるんだ」

勇者「ならそれで十分だろ」

魔法使い「うん……でもそれじゃ勇者のお付きにはなれないって言われてさ。それから目標がなくなって……ぶらぶらしてるところにあいつと会ったの」

魔法使い「やることないなら手を組まないか? トレージャーハンターは男のロマンだぜ。とか言ってさ」

勇者「戦士らしいな」

魔法使い「でもね…勇者君と初めて会った時、やっぱり勇者のお付きになりたいなって……思ったの」

勇者「……」

魔法使い「でも勇者には僧侶ちゃんが居て、仲間はいらないって感じだったから」

魔法使い「でも中央大陸で四人で戦った時、楽しかったな……辛かったけど、なんていうか充実してた」

勇者「懐かしいな」

魔法使い「うん。それから二人と別れて……次に出会った時は側に僧侶ちゃんは居なくて、勇者君はとんでもなく強くなってて……ちょっとすれてて」

勇者「べ、別にすれてなんてねーよ!」

魔法使い「嘘。別れた理由はわからないけど落ち込んでるのは僧侶ちゃんがいないからなんでしょ?」

勇者「……さあな」

魔法使い「でもね……その時思ったの。僧侶ちゃんがいなかったら……もしかしたら私達を仲間に入れてくれるんじゃないかって」

勇者「なんだよ……それ」

魔法使い「勿論僧侶ちゃんが悪いとか勇者君が悪いとかじゃないよ。ただ……二人の間に入っていけなかったから……勇者君一人なら、って思ったの」

勇者「それで仲間になるのとリノンのことはどう関係してるんだ?」

魔法使い「今なら僧侶ちゃんの気持ちがわかる気がする。私達は勇者君より遥かに弱いから……だからその差を埋めようとこの三の月、いっぱいダンジョンを走破してきた」

魔法使い「それでも差は縮まらなかったけどね」

勇者「……」

魔法使い「このまま魔王と戦っても、多分私達は足手まといになるだけだろうけど……」

魔法使い「それでもっ……一緒に行かせてくれませんか!? 勇者様……!」

勇者「……死ぬってわかってる奴を連れていくわけには」

魔法使い「────」

勇者「魔法使い……?」

薄暗い部屋のベッドの上で、魔法使いは勇者をすがるように抱き締めた。

魔法使い「勇者は……私の生きる目標なの! だから……お願い……私を……」

勇者「……魔法使いは魔王を倒して、それからどうするんだ?」

魔法使い「え……。それは……」

勇者「戦士とは離ればなれになるのか?」

魔法使い「……わからない、けど……トレージャーハンターなんてずっとこのままやって行けることでもないと思うから」

勇者「そんなことないと思うぜ? 俺の知ってる爺さんの奥さんなんてあの世までトレージャーハンティングしてたからな!」

魔法使い「……」

勇者「魔法使いにも色々思うところはあるんだろう。魔王を倒して昔の友達を見返したいとか、魔法使いとして名を上げたいとかさ」

勇者「でもそれって今より大事なことか?」

魔法使い「今より……」

勇者「戦士と二人で宝探しして……たまに国の事件に首突っ込んだり色々依頼を解決したりして」

勇者「そっちの方が面白いだろ? 魔王を倒すなんかよりずーっとさ」

魔法使い「……じゃあ勇者君も一緒に」

勇者「それは出来ない。だって俺は勇者だからな。魔王を倒さないと」

魔法使い「……一人でも行くんだね……勇者君は」

勇者「ああ。それが俺が決めた道だからな」

魔法使い「強いなぁ……勇者君は」

勇者「そうでもないさ」

魔法使い「……隠し事ついでにもう一つ。私ね……始めて君を見たときから……ちょっと好きだったりしてました」

勇者「はっ!? へっ!? いやっ、そのぉ、そ、それはなんというか」

魔法使い「なんでリノンのことより反応が大げさなのかな?ん?」

勇者「それは……その……なんというか……ごめん」

魔法使い「……最初からわかって言ったから大丈夫だよ」

勇者「というか魔法使いには戦士がいるだろ!」

魔法使い「えー」

勇者「えーって!!?」

魔法使い「だってあいつ無骨だしー男臭いしー」

勇者「ひでぇ」

魔法使い「ケチで姑みたいに小うるさいけど……でも……まあ頼りにはなる、かな」

勇者「見てりゃわかるって。好きなんだろ? ん? おじさんに言ってみなさい」ニヤニヤ

魔法使い「それはこっちのセリフだよ」

勇者「うっ」

魔法使い「何があったかを話してくれなくてもいいよ……けどやっぱり勇者君の隣には僧侶ちゃんがいないとダメなんだよ」

勇者「……」

魔法使い「大胆で何でも出来ちゃう勇者君だからこそ。控えめで、だけど頑固でしっかりしてて……それでいて勇者君を一番思ってる僧侶ちゃんが、君には必要なんだ」

勇者「必要……か」

魔法使い「勇者君は僧侶ちゃんのことをどう思ってるの?」

勇者「んー……やっぱり可愛い妹、かな。小さい頃から一緒に遊んだりしてたし」

魔法使い「それだけ?」

勇者「何よりも守りたいって思ってる。それだけじゃ駄目か?」

魔法使い「ううん。十分だと思うよ。好きとか嫌いとかは、今はまだ持てない感情だもんね」

勇者「よくわかってらっしゃる」

魔法使い「でも、本当に守りたいならやっぱり一緒に居るべきだと思う。側に居て、自分の力だけで守ってあげられたら」

勇者「俺も最初はそう思ってたよ。けど、駄目だった」

魔法使い「そっか……」

勇者「……だから、今は始まりの村に」

魔法使い「じゃあきっと僧侶ちゃんは強くなって戻って来るね」

勇者「なんでわかるんだ?」

魔法使い「わかるよ。力がなくて歯がゆい思いした人なら。そしてそれが大切な人と別れるきっかけになったなら尚更、ね」

勇者「今更合わせる顔なんてないけどな……」

魔法使い「勇者君」

勇者「ん?」

魔法使い「もっと素直でいいんだよ。勇者だからって何もかも我慢する必要なんてないと思う」

勇者「……ほんと何でもお見通しだな。何かの魔法か?」

魔法使い「かもね」ニヒヒ

勇者「勇者になってから迷ってばっかりだよほんと」

魔法使い「当たり前だよ。私達と同じ人間なんだから」

勇者「……ありがとな。色々」

魔法使い「こちらこそ」

魔法使い「僧侶ちゃんが戻って来るなら明日の霊峰攻略が勇者君との最後の冒険かぁ」

勇者「戻って来るかはわからないけど、そうなるかな。今まで世話になった」

魔法使い「うん。ほんと……楽しかった」

魔法使い「(短い間だったけど……私の夢は果たせたよ。ありがとう勇者)」

魔法使い「(そして必ず二人で魔王を倒して帰って来てね……)」

霊峰ゼギア──

ゴォォォォォォォォ──

戦士「チックショウまたかよッ!!!」

勇者「魔法使い!!!」サッ
魔法使い「はぁ……っはぁ……っ」サッ

勇者「ベギラゴン!!!」
魔法使い「ベギラマ!!!」

まるで三人を拒むかのように降りかかる雪崩を火炎魔法で溶かし切る。
これでもう何度目かわからない程にそれは起こっていた。

魔法使い「くぅ……っ」

戦士「魔法使い!?」

力なくその場に倒れ込んでしまう魔法使い、それを心配して支えに行く戦士。

しかし、勇者はただ歩き続けた。

戦士「おい待てよ勇者!!! 魔法使いが」

魔法使い「ううん……いいの。ここまで……なんだね」

戦士「でもよ……!」

勇者「俺は先に行く。お前らはもう戻れ」

戦士「んだとォ!?」

魔法使い「ごめんね……勇者君。私じゃあなたを支えてあげられなくて」

勇者「……」

魔法使い「帰ろう、戦士」

戦士「……いいのか?」

魔法使い「あんただって相当連戦して足腰にガタ来てんでしょ」

戦士「ちっ……」ガクブル

戦士「おい勇者!」

勇者「なんだ」

戦士「どんだけ強かろうが仲間を見捨てるような奴はクズ野郎だ。それだけは覚えとけ」

勇者「……」

戦士「例えついて来たら死ぬとわかっていてもだ」

勇者「お前……」

戦士「言いたいことはそれだけだ。じゃあな……あばよ」

勇者「戦士!」

戦士「なんだ?」

勇者「今までありがとな」

戦士「けっ。倒せよ、魔王」

勇者「当たり前だ」


魔法使いの最後の魔法により霊峰を出る二人を見送った後、勇者は再び一人で歩き始めた。

勇者「……三の月ぶりか、一人は」

雪が強くなってきた。

『視界が悪いので注意して歩きましょうね、ゆーしゃさま』

『おい勇者! お前が一番前歩け! 風避けだ風避け。勇者なんだからそんぐらいしろ』

『良いこと思い付いた! 火炎魔法で体に火をつけたらちょうどよくなるんじゃないかな!?』

なんて、きっとあの三人が居ればこんなことを言うんだろうな。

寒さが、より一層強さを増した気がした。

霊峰ゼギア 頂上付近────

ロッククライミングさながらの垂直の崖を何とか食らいついて登って行く。

そこで、ふと気付いた。

勇者「なんだ……?」

頂上に行けば行くほど吹雪が和らいで行く気がする。

勇者「とにかく登るしかないか」

手足を岩盤に絡め、少しづつ頂上へ。

勇者「これは……」

ある一定の高さまで来てようやく気がついた。
吹雪が弱まっているわけじゃない、上から降って来る雪が、止まっているのだ。
いや、僅かには動いているがまるで重力を感じさせない。

勇者「確かリノンは時を操るとかなんとか……。ってことは間違いねぇ……上に魔導使いリノンがいる!」

登るペースを上げ、一気に頂上へと向かった。

霊峰ゼギア 頂上──

勇者「はあ……はあ……」

頂上は平坦な地形で、当然ながら辺り一面雪に包まれていた。
その中央にちょこんと誰かが座っている。

勇者「あんたが、魔導使いリノンか?」

リノン「遅かったね、勇者」

まるで待ち合わせでもしていたかのように、すくっと立ち上がって見せた。

勇者「魔王の城への行き方を知ってるんだろ? 教えてくれ。俺は行かなきゃならない」

リノン「知ってる。けどもうちょっと時間がかかる…」

勇者「なに?」

リノン「それに、今のあなたじゃ行っても魔王に殺されるだけ…」

勇者「そんなわけあるかよ! 俺は強くなった! 過去の勇者と比べても装飾ないぐらいに!
昔三代目が逃したヤマタノオロチだって倒したんだ!!!」

リノン「…確かに、あなたは他の勇者と比べても尚強い…。けど、今の魔王はその比じゃない…」

勇者「そんな……だって今までの勇者達は一度も敗北せずに世界を守って来たって……」

リノン「それはある意味では正解だけど、間違いでもある…」

勇者「どういう……」

リノン「魔王は、今まで一度も倒されたことはない…」

勇者「……は?」

リノン「人類は確かに敗北はしなかったけど、勝ちもして来なかった…」

勇者「なんだよ……それ」

リノン「私の時もそうだった。魔王の余りにも強大な力に封じ込めるのがやっとだった…」

勇者「……つまり魔王倒すのは無理ってことか?」

リノン「…今までは無理だった。でも、あなた達ならもしかしたら本当に魔王を…」

リノン「ぐぅっ……」

勇者「お、おいどうしたんだよ?」

リノン「……来る、魔王が」

勇者「魔王……が」

リノン「十年前と同じ……悪夢が降りる…」

勇者「まさか……魔王の選定か!?」

────

────

人は、脆弱なり──

村人「なんだ……?」

その余りにも弱く、脆き器を捨て、強くはなりたくないか?

村人「強く……?」

何者にも屈せず、自由に生きられる力を、お前にくれてやろう──

村人「自由に……ハハハ……そいつはいいや」

村人「自由に……自由ニ……ジユウニ……ケケッ……ケケケッ」

魔物「好きなものを好きなだけ手に入れて何が悪い!!!!!!
俺は自由に生きるぞ!!! 魔王様万歳!!!」

村人「ど、どうしたっぺ?」

魔物「キシャアアアッ!」

ザクッ────

────

ギャアアアアアアア──
ゴゥォゴゥォ──
ウゴァァァ──
クーキャキャ──

賢者「ついに地獄を始めやがったか……魔王め」

妹「賢者のお姉ちゃん……私怖いよ」

賢者「大丈夫だ。私もお姉ちゃんもついてる(この村には絶対魔物になるやつなんていない。モンスターを中に入れさえしなければ)」

弟「みんなは僕が守るんだ!」

賢者「よく言った」

娘「大丈夫。勇者様と僧侶さんがきっと魔王を倒してくれるから」

賢者「……」

賢者「(こいつらは勇者達が魔王を倒すと信じてる。私はそんな勇者を殺そうとしている……。なら私はなんでこいつらを守っているんだ?
勇者を殺せば訪れるであろう暗闇の世界がどうせこいつらを殺すのに……なんで)」

中央大陸城──

兵士「ご、ご報告しますっ!!!」

ティボルト「なんだ騒々しい」

兵士「町の至るところに人語を喋るモンスター……魔物が多数現れたとのこと!!!」

ティボルト「なんだと!!?」

ロミオ「!?」
ジュリエット「!?」

兵士「更に西の森からモンスター達の大軍勢がこの町に向かっているとの報告も……!」

ティボルト「陛下!!!」

ロミオ「すぐに騎士団に召集をかけろ! 僕も出る!」

ジュリエット「すぐに住民を城へ避難させてください。先導には私も行きます」

メイド「わかりました!」

大臣「十年前の再来……まさか魔王が復活したと言うのか」

北の大陸 魔法が生まれた国 ギルド──

魔法使い「もうっ! いつまでメソメソしてんのあんたは!」

戦士「けどよぅ……魔王倒すのは俺だとか行っときながらよ……結局足手まといにしかならないなんてよ……悔しくてしょうがねぇ」

魔法使い「勇者君には勇者君の、私達には私達のやれることがあるでしょうが」

戦士「例えば?」

魔法使い「それはー……そのー……」

「おい聞いたかよ!?」
「ああ、中央大陸だってな。ギルドの連中に軒並み依頼が来てるって話だ」

「こうはしてらんねぇ! 俺達も行こうぜ!」
「ああ……事がことだけに報酬度外視で優先しなければなるまい」

戦士「なんだ? やけに騒がしいな」
魔法使い「ねぇねぇ。中央大陸でなんかあったの?」

「お前達聞いてないのかよ。十年前の再来が今まさに中央大陸で起きてるらしい」

魔法使い「……やれること、あったみたいだね」
戦士「ああ……!」

────

僧侶「……大気が震えてる」

僧侶「……ついに魔王が動き出したんだ」

僧侶「ゆーしゃさま……」


僧侶「ううん。今は私に出来ることをやらないと」

僧侶「……鷹の目」

僧侶「村は……賢者さんが結界を張ってくれてるから大丈夫そう」

僧侶「……! このモンスターの数は……! 中央大陸城が危ない!」

────

リノン「これが今中央大陸で起こっていること…」

リノンが空間に様々な様子を映し出して行く。

勇者「なんて数だよ……これじゃ城はひとたまりもないぞ」

勇者「今からでも間に合う! 刺し違えてでも俺が魔王を……!
だから魔王の城へ行く方法を教えてくれっ!」

リノン「あなた一人じゃ倒せないと言っているのに…」

勇者「それでも行かなきゃならないんだ! 俺は勇者だから!」

リノン「……なら、あそこに刺さっている剣を抜いてみて。本当にあなたが勇者だと言うのなら、抜けるはず…」

勇者「何をバカなこと言ってんだ。勇者は俺しかいないんだから抜けないはず」グッ──

勇者「なっ──」

抜けない──

リノン「今のあなたは勇者だけど、勇者じゃない…」

勇者「謎なぞ言ってる場合か!」

リノン「それにこの子もまだ目覚めるのにもう少し時間がかかる…」

斑模様の卵「」プルプル

勇者「じゃあどうしろって言うんだ!?」

リノン「答えはもう、出てるはず…」

空間に映し出される、僧侶の姿。

勇者「あいつ……まさか中央大陸城に!?」

リノン「あなたが本当の勇者になるには、彼女の力が不可欠…」

リノン「会いに行ってあげて、彼女に…」

勇者「あ~~~もうっ!!! わかったよ!!! 何もかも上手くやってやらぁ!!!」

リノン「それでこそ勇者…」

勇者「今から詠唱に入る。終わったらバシルーラかなんかで城の真上に飛ばしてくれ!」

勇者「あの数はライデインじゃ足りない……となりゃとっておきで行くしかない」

リノン「わかった…」

リノン「勇者…」

勇者「なんだよっ!?」

リノン「……ううん、何でもない…」

勇者「今忙しいの見たらわかるだろっ! うふふ呼んでみただけ~ってやってる場合じゃ」ゴニョゴニョ

リノン「(もしかしたら覚えてくれてるかもしれないなんて思ったけど……そんなこと、あり得ないのに…)」

リノン「(でも、やっぱりちょっと似てる……彼に…)」

今回はここまでで
次回は第二次魔王決戦を経ていよいよ魔王城に!なお話

やっと終わりが見えてきた
長かった

────

ざわざわ……ざわざわ……

ティボルト「王国騎士団、全員揃いました!」

ロミオ「よし。みんな聞いてくれ! 皆知るとこではあるだろうが、今この城へ向けてモンスターの大群が押し寄せて来ている!!!」

ざわざわ……ざわざわ……

ロミオ「今まさに十年前の再来が起きようとしている!」

ざわざわ……

ロミオ「だが、我々のやることはあの時より変わってはいない!!!」

ロミオ「この大陸に住む者達を守る為に剣を取れ!!!」

騎士「でもよ……敵は5000近いと聞く……」

騎士「5000……我々の10倍ではないか」

騎士「十年前の様に世界各国から英雄が集まったわけでもないし……」

騎士「死にたくない……死にたくないっ」

ティボルト「(不味いな……余りの兵力差で士気が落ちている。これでは……)」

ロミオ「確かに、十年前の危機を救った三英雄はここにはいない! だが……我々には勇者から受け継いだ意志がある筈だ!!!」

騎士「勇者……」

ロミオ「あの言葉を思い出せ!!! 勇者とは、勇ある者全てが勇者だ!!!」

騎士「勇ある者全てが……」

騎士「勇者……」

ロミオ「勇者はこの国の為に命がけで戦った!!! 世界を守るために今もどこかで戦っているだろう!!!
そんな勇者を尻目に我々は自分が生まれた大陸すら守れず逃げ出すのか!!??」

騎士「そうだ……! 勇者は死をも恐れずこの国を救ってくれた!!!」

騎士「自分達の生まれた場所も守れず何が王国騎士か!!!」

騎士「奮い立て!!! 勇者と、そして十年前英傑達が守ったこの大陸を次は我らが守る番だ!!!」

ロミオ「中央大陸王国騎士団の剣(つるぎ)は何よりも重い!!! 皆の者!!! 行くぞ!!! 出陣だ!!!」

ティボルト「さすがですね。あれだけ下がっていた士気をよくぞここまで」

ロミオ「勇者のおかげだよ。本当に彼には助けてもらってばかりだ」

ティボルト「しかしこの戦力差……我々だけではとても」

ロミオ「わかっている。自爆覚悟で突っ込むなんて真似は僕もしたくない。ダーマを通じてギルド関係者には最優先でここの防衛に当たってもらうように頼んでる」

ロミオ「それまでの時間が稼げればいい」

ティボルト「しかし……それでもまだ」

ロミオ「ああ……足りないだろう」

ティボルト「やはり勇者に来てもらうしか」

ロミオ「彼に何もかも背負わせるのは本望じゃないが……状況が状況だ」

ロミオ「きっと彼のことだ。あの時みたいに颯爽と駆けつけてくれるさ」

ティボルト「だと良いのですが……」

ロミオ「さて、一番槍は僕がもらうとしようか」

ティボルト「なっ!!! 次期国王陛下がそんな無茶をなさらないでください!!!」

ロミオ「僕は団長としてここに居る。一番後ろから眺めている団長に誰がついて来るもんか」

ロミオ「父さんはいつも先頭だった」

ロミオ「だから僕もそう在りたい」

ティボルト「全く……変わってないなほんと」

ロミオ「変わらないさ! 僕は僕だからな!」

ティボルト「じゃあ……あの頃みたくどちらが多く仕留めるか競争と行くか?」

ロミオ「望むところ!!! ハッ!!!」

ティボルト「ハイヤッ!!!」

二人が馬を蹴り先頭を駆けると、士気は一気に上がりその後ろを勇ある者達も続いた。

ロミオ「(勇者、僧侶さん。僕達もこの大陸を守るために戦う。あなた達がそうしたように!)」

ロミオ「(そして父さん……僕に力を貸してください)」

ロミオ「(この大陸のみんなを守る力を!!!)」

城内──

兵士「住民避難、全て完了しました!!」

盗賊「入り込んでた魔物も粗方始末しといた」

ジュリエット「ご協力ありがとうございます」

オカマ「怪我人もいないみたいでよかったわ」

大臣「しかし問題はこれからですな。騎士団が出たと言っても数が違いすぎる。義勇兵の数もまだまだ足りていない状態です」

旅僧侶「どうやらこの様相、規模は違えど世界各地で起こっているようです。教会も全員を中央大陸に回すことは出来ないと」

ジュリエット「やはり本当に魔王が目覚めたのですね……」

旅僧侶「一応結界何かも張ってはみますが何分持つか……ぐらいですな」

オカマ「あんた……何かやけに楽しそうね?」

旅僧侶「いやいや……そんなことはないよ。未曾有の危機にひんしている状態を楽しむなんて……ねぇ?」

オカマ「(あ、絶対こいつ楽しんでるわ)」

大臣「敵が5000に対して騎士団が500、義勇兵200ではとても……」

ジュリエット「……」

「安心してくださいよ女王様。こいつだけで1000は片付けますから」

「じゃあ戦士は2000だね!」

ジュリエット「あなた達は……!」

戦士&魔法使い「依頼と聞いて駆けつけました!!!」

中央大陸大平原──

騎士「見えました!!! 奴らです!!!」

ロミオ「いいか!!! 敵は真っ直ぐ城へ向かって来ている!!!」

ロミオ「真っ直ぐ正面からぶつかっても押し込まれるだけだ! 左右別れて側面から奇襲をかける!!!」

「「「オオオオオーーーーー」」」

ロミオ「(所詮時間稼ぎにしかならないが……黙って行かせるよりはマシだ)」

ロミオ「(討ち漏らした敵はきっと義勇兵の皆が対処してくれるはず)」

ロミオ「左は僕が、右はティボルトが先行する!!! 各自、騎士団の誇りを見せよ!!!」

「「「オオオオオーーーー」」」

様々なモンスターが大群を成し、城へのルートを一直線に向かっている。

ロミオ「これだけ近づいても反応してこないとは……やはり魔王の支配力が強まっているのか」

ロミオ「予定通り側面から仕掛ける! 行くぞ!!!」

オオオオオオッッッ!!!

馬で並走しながら騎士達がモンスターに斬りつける。

ロミオ「せやっ!!!」

最初はそれすらも無視し、進むのを止めなかったモンスター群だがやがて少しづつ騎士達に反撃して来るようになった。

ロミオ「よし、一時離脱!!!」

ロミオが剣を外へ振るとそれを合図に騎士達が大群から離れる。

ティボルト「次は我々の出番だ!!! 左側へ押し込むぞ!!!」

逆側からティボルト隊がロミオ隊よりも激しく側面攻撃し、先頭群の進路を僅かに逸らす。

ロミオ「いいぞティボルト!(こちらで注意を引き、あちら側で追い込めば大群は自然と向きをずらして行く筈!)」

それを何度も繰り返し、城へのコースを避けようと四苦八苦している時だった──

ブォォォォォ──

ロミオ「日の光が……なんだ?」

まるで夜が訪れたかの様にロミオ達を影が覆う。

ロミオ「!!!」

ロミオ「そんな……」

中央大陸城 外壁──

見習い「魔法使い殿!!! ててててっ、敵がっ!!!」

魔法使い「焦らない焦らない……フフフ」

手に携えた黒い魔導書をパタりと閉じ、マントを翻しながら外壁の遥か下にいる相棒に声をかける。

魔法使い「敵~~いっぱい来たってさーーー!」

戦士「マジかー! こっちからじゃあんまり見えねぇけど!」

魔法使い「飛んでる奴らも来てるみたい!」

戦士「飛んでるのはこっちじゃどうしようもない。任せるわ」

魔法使い「任された」ニヤッ

魔法使い「さて、女王様のご期待に応えるとしましょうか」

少し前──

ジュリエット「あなた方には助けられてばかりですね」

戦士「これも仕事ですから」

魔法使い「それに私達は私達に出来ることをやるって、決めたんです」

ジュリエット「少しでも助力出来ればと思い……これをお二人に」

戦士「いい剣ですね」

ジュリエット「はじゃの剣、この中央大陸に5本とないものらしいです」

魔法使い「この魔導書は……!」

ジュリエット「宝物庫にずっと眠ってたものです。きっと魔法使いのお役に立つはずです」

魔法使い「これがあれば……もしかして」

ジュリエット「お二人には義勇軍の指揮をとって欲しいのですが……」

戦士「俺達が……ですか?」

ジュリエット「駄目でしょうか?」

魔法使い「……いえ、謹んでお受け致します」

戦士「いいのか?」

魔法使い「うん」

魔法使い「(そうだ。勇者のお付きにならなくったって……世界は守れるんだ)」

魔法使い「(だから守るよ、勇者君。私も、この世界を)」

戦士「じゃあ近接部隊は俺で遠距離部隊は魔法使い担当ってことで」

魔法使い「了解!」

魔法使い「死なないでね?」

戦士「そっちもな」

こいつと、一緒に。

────

魔法使い「射程内に入ったら各々が持つ一番の広域魔法で飛んでいる敵を殲滅、おっけーかな?」

「「「了解ッ!!!」」」

見習い「目標まで後3000m!!!」

魔法使い「さて、そろそろかな」

黒い魔導書から1ページを破り取ると、それを口に加えながら目を瞑る。

見習い「まだ敵はあんなところにいるんですよ!? 撃って当たる距離じゃ」

魔法使い「ふぉだいまほう(古代魔法)ってふぃっへる(知ってる)?」

見習い「は?」

魔法使い「今ある魔力使用量が決められた魔法ってふぉとふぉと(元々)はそれが決まってなかったんだひょ」

魔法使い「っぷぁ、魔力循環完了。で、これはその可限を無視した術式なの」

見習い「な、なるほど!」

魔法使い「まあその魔法その魔法で使えるのは一度きりなんだけどね。簡単に言えば使い捨てかな」

見習い「しかし幾ら古代魔法でも射程距離が」

魔法使い「当たるよ、このイオナズンなら」

魔法使い「下がってて。後何かに掴まってた方がいいかも」

見習い「は?」

魔法使いが加えていた紙切れを空に投げると、地面に一気に魔方陣が組み上がる。
まるで目測で狙いをつけているような鋭い目付きの後、

魔法使い「イオナズン」

言い放った──

眩い光が辺りを覆ったと思えば、その光はどんどん空を飛ぶモンスター軍へと収束して行く。

見習い「……な、何も起こらない?」

身を伏せていた見習い魔法使いが恐る恐る顔を上げると、

ゴォォォォォォ──

見習い「うわああああっ」

遅れてやって来た衝撃波に危うく外壁から落とされそうになるのを必死に堪えた。

魔法使い「これが上級魔法……」

飛ばされそうになる帽子と高揚感を抑えながら、そう呟いた。

魔法使い「あ、あれ」ガクッ

見習い「魔法使い殿!!?」

魔法使い「なんか力が入らない」

見習い「先程の魔法でかなり魔力を消費したんでしょう。少し休んでいてください!」

魔法使い「でもまだ敵が」

見習い「先程の攻撃で空中の敵は半分以上迎撃出来ましたゆえ、後は我々にお任せを!」

魔法使い「じゃあちょっとだけ休ませてもらおうかな……」

見習い「ハッ!!! よし、そろそろ我々の射程にも入る! 第二射用意!!!」

魔法使い「(大丈夫……勇者君だけじゃないよ)」

魔法使い「(みんなみんな……一緒に戦ってるよ。世界の為に)

地上 外壁前────

戦士「おぅおぅ派手にやりなさる」

盗賊「ったくお前の相棒はとんでもねぇな」

戦士「ああ。あいつはとんでもないやつさ。俺なんかと違ってな」

戦士「さて、ようやくこっちにも出番が回って来たみたいだな」

盗賊「さすがに500じゃ食い止めれんか」

戦士「それでも数はだいぶ減っている。モンスターを逸らすのには成功したみたいだな」

盗賊「んじゃまあ給金分は働かないとな」

戦士「ああ、違いねぇ」

戦士「ってわけでお前ら! 仕事だ!!!」

オオオオオオオオオオオーーーー!!!!

城へ向かって来るモンスターに対して、真正面からぶつかって行く義勇軍。

盗賊「シッ──」

突進してくる猪型のモンスターを風の様にかわしていく、

盗賊「風見盗り」

だけではなく、擦れ違い様に一閃、血を吹き出しながら猪型のモンスターが横たわる。

盗賊「風が当たれば右へ左へヒラヒラと、ってな」

戦士「うおおおおらああああああ火炎斬りぃ!!!」

木の形をしたモンスターが焼け焦げながら朽ちる。

戦士「どんどん来いや!!!」

地上では強者揃いの義勇軍がその場を圧倒していた。

また、空でも火、水、雷、氷、風といった様々な魔法が飛行型のモンスターを次々と撃ち落として行く

誰もが、人類の勝利を疑わなかった

人類は今まで不敗、魔王軍に負けたことなどただの一度もないのだから

だから、今回もまた、そうなるだろうと、誰もが思っていた

そう思うのも無理はない

人類は、勇者や、その仲間達によって

・・・・
ギリギリ守られていたことを

彼らは、知らなかったのだから

知らなかったが故に、予想出来なかった

魔王軍の真の恐ろしさを──

空間が割れる──

盗賊「な、なんだっ!?」

ドス黒い暗黒が広がり、その中から這い出るように何かが出てくる。

その数5つ──

「ケケケッ、やっとお呼びがかかったか!」

「グフッ! コロシマクレルゾッー!」

「全ては魔王様の為に」

「ゴォァ!」

「……」

戦士「(……こいつらはヤバい。身体中が全力で逃げろって言ってやがる……こんな魔物? モンスター? 見たこともねぇ)」

盗賊「けっ、今更5匹増えたところでよ!!!」

戦士「待て!!! 盗賊!!! そいつらはっ……!」

戦士は見た。
短剣を携え、疾風の如く駆け出した盗賊が、あっさりと、まるでハエでも叩き落とすかの如く……。

ボストロール「ン゛ン゛? ハエでもおっだが? 思わず叩き潰してしもうたわ! ガハハ!」

死んだ──

戦士「と、盗賊が……」

あんな一瞬で?
それより蘇生を……。
あれだけ原型がない状態で蘇生出来るのか……?

いや、それよりも……

こいつらは、なんだ?

ドラゴンゾンビ「ざっと200程か。舐められたものだな」

ボストロール「グフェッフェッ!」

骸骨剣士「ケケケッ、どいつも歯ごたえなさそうだ」

ゴーレム「ンゴォォォ」

ドラゴンゾンビ「落ち着けゴーレム。シャドー、先に土産を渡してやれ」

シャドー「嗚呼」

そういうと、影のようなモンスターの体から、二人の人間が出てたと思えば、ポトリと力なく地面に落ちた。

ロミオ「」
ティボルト「」

シャドー「ここへ来る前何やら挑んで来た輩が居たのでね。これは君達の仲間だろう?」

戦士「ロミオ……ティボルト……」

恐らく、彼らも死んでいる。
だがまだ蘇生は可能だろう。

ドラゴンゾンビ「我々は何も全てを抹殺することなどは考えていない。故に交渉の場を用意してやろう」

戦士「交渉だと?」

ドラゴンゾンビ「そうだ。人類が暮らす大地の全てを魔王様に明け渡し、作り上げた物は全て魔王様に捧げるのだ」

骸骨剣士「簡単に言えば家畜になれってこった!!! ヒャッハー!!!」

ボストロール「家畜だがら゛当然喰うげどな゛!」

シャドー「お前は其ばかりだな」

戦士「そんなもん呑めるわけ……!」

ドラゴンゾンビ「勘違いするなよ人間。お前達には家畜になるか、死ぬかしか選択肢はないのだから」

ドラゴンゾンビ「安心しろ。数は減らすが全員殺しはしない。そんなことしては元も子もないからな」

戦士「(どうする……この力量の差じゃいくら数が多くても……それに三人を見殺しには出来ない)」

戦士「(このまま放っておけば魂が体に戻らなくなる……それまでに何とか連れて行かねぇと)」

戦士「(今はこのバカな話に乗ったフリをして三人を助けてから……どうするんだ?)」

戦士「(誰が……こんな化け物を倒せるんだよ)」

戦士「(魔法使いのあの魔法なら……! いや、駄目だ……。あんな魔法連発出来るわけがない。それに今あいつをこの場に呼びたくない……!)」

戦士「(あいつだけは守る、命に変えても。あの洞窟で勇者に助けてもらってからそう決めたじゃねぇか! 何があっても自分の手だけで守るって!)」

戦士「(なら……やることは一つしかないよな?)」

足が、膝が、体が、震える。

これが恐怖。

今まで怖いと思ったことは何度もあったが、これが最後になるなんて思ったことは一度もなかった。

悪い、魔法使い。

約束、守れそうにない。

戦士「俺があいつらを食い止める……他の奴らはあの三人を司教様の所へ」

「何言ってんだ。大将一人で戦わせはしないぜ」
「この老兵、死ぬときは逸早くと決めております故。若い者は希望ある三人を連れてここは退くがよい!」

戦士「最高にカッコいいじゃねぇか、じいさんよォ!」

ドラゴンゾンビ「無駄なことを」
骸骨剣士「ケケケッ! 微塵切りにしてやらァ!」
ゴーレム「ゴァァァ!」
ボストロール「グヘへ、人間っておいじい゛の゛がな゛あ」
シャドー「所詮は脆弱な人間、か」

戦士「確かに人間はてめぇら魔物より弱いかもしれねぇ……けどなぁ!」

戦士「何かを、世界を、誰かを守ろうって気持ちはテメーらなんか足元にも及ばねぇぐらいつえぇんだよ!!!」

「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオ」」」

その真の恐ろしさを知っても尚、人は立ち向かった。

誰かを守る為に。

もしかするとその力が──

──城内

義勇兵「司教様!!!」

旅僧侶「む……」

義勇兵「お三方を……どうか……どうか!」

一同項垂れる様に懇願する。

ジュリエット「ロミオ……そんな……」フラッ

メイド「姫様!」

旅僧侶「二人はなんとかなるが……もう一人は」

義勇兵「必死にかき集めて来ましたが……これだけしか……」

旅僧侶「オカマ、手伝ってくれ」

オカマ「ええ」

旅僧侶「少し精神統一する。誰も隣の部屋には踏み入らないように」

義勇兵「どうかっ……我らが隊長の思いを……どうか……!」

騎士団「ぐぅっ……姫様、すみません」

ジュリエット「あなた達! 無事だったのですね」

騎士団「はい……モンスターを分断し、殲滅した後合流したまでは良かったのですが」

騎士団「そこで恐ろしく強い魔物に襲われ……団長と副団長は殿を買って出て……!」

騎士団「我々は負傷者を連れておめおめと逃げ帰った次第です……」

騎士団「クソッ……何が騎士団だっ……」

ジュリエット「よくぞ無事に帰って来てくれました」

騎士団「姫様……? しかしロミオ様が……」

ジュリエット「ロミオ団長の判断は正しかった」

ジュリエット「そのまま戦っていれば全滅し、このことを知ることもなく城は攻め落とされていたでしょう」

ジュリエット「それにロミオなら大丈夫……きっと……大丈夫ですから」

騎士団「姫様……」

大臣「その魔物が目前にまで迫っている……如何なさいますか姫様?」

ジュリエット「……」

義勇兵「奴らは人々が住む大地全てを明け渡せなどと言ってきております!」
義勇兵「そんなことが許されるものか! 徹底抗戦だ!」
義勇兵「そうだ! 外壁にいる遠距離部隊にも協力要請をすれば!」

騎士団「お前達は実際に戦ってないからそんなことが言えるのだろう……?」

義勇兵「なんだと!?」

騎士団「あの強さはもはや理解を越えていた……人で敵う相手ではない」

義勇兵「臆したか騎士ともあろう者が!」
義勇兵「腰抜けなど放っておけ! 我々だけでも奴らを!」

騎士団「腰抜けだと!? 我ら王国騎士団を侮辱するのは許さんぞ!」

義勇兵「なにを~? 腰抜けに腰抜けと言って何が悪い!」

ジュリエット「やめなさい!!!」

義勇兵「」ビクッ
騎士団「」ビクッ

ジュリエット「今は争っている場合ではないでしょう?」

ジュリエット「相手は交渉してきたのですね?」

義勇兵「は、はい」

大臣「しかし人が住む大陸全土など」

ジュリエット「確かにふざけてはいます。それに我々だけで決められる問題ではない」

ジュリエット「だからこの場は条件付き、中央大陸のみ魔王の領土にすることで手を打ちましょう」

メイド「姫様!?」

大臣「正気でございますか姫様!?」

ジュリエット「騎士団や義勇兵の方々が敵わない相手に徹底抗戦をしても死人が増えるだけです」

ジュリエット「本当の意味で死ねば何も残りません」

騎士団「しかし……大人しくそれに応じるかどうか」

ジュリエット「私が直接話し合いをします」

大臣「なりません姫様!!! それなら私めが!」

ジュリエット「いえ、相手もこの国の王とあれば少しは話を聞くはず」

大臣「しかし……」

メイド「なら私もご同行します、姫様」

大臣「お前まで何を!?」

メイド「姫様がご自身で、国を思って決めたんです。それを信じて従うのが家臣でしょう?」

ジュリエット「メイド……」

大臣「……全く、誰に似たのやら」

メイド「勇者様、かな!」

ジュリエット「我々は一時的に魔王軍の捕虜となるでしょう。しかし……きっと勇者が……救いの手を差し伸べてくれるはずです」

ジュリエット「(いつも頼ってばかりでごめんなさい……勇者様。……皆を救ってくれるあの希望の光をもう一度だけ……私達にください)」

メイド「(きっと勇者様は来てくれる……! だって勇者様だから!)」

ジュリエット「行きましょう。残られた義勇軍の方々が心配です」

メイド「僧侶職の方は何人かご同行をお願いします」

ジュリエット「これより魔物に話をつけに行きます」

────

力の差は歴然だった。
ボストロールが棍棒を振れば人が吹き飛び、
ゴーレムが地面を叩けば大地が揺れ、
骸骨剣士に斬りかかれば逆に細切れにされ、
シャドーが呟く魔法で人は死に絶え、
ドラゴンゾンビが吐き出す灼熱の業火で身を焼かれた。

200人近く居た義勇軍が、5匹の魔物に、手も足も出なかった……。

戦士「クソッ……クソォッ……!」

その現実を目の当たりにしながらも、動かない体を前へ押し出そうとする。

戦士「(ここを抜けられたら次は中の奴らが危ない……絶対に中には入れさせねぇぞ……)」

骸骨剣士「こいつまだやろうってのか? ハハッ! 雑魚のくせに諦めがわりぃやつだ!」

ドラゴンゾンビ「惨めだな。だが見込みはある。どうだ? 今すぐ魔王様へ忠誠を誓えば我らと同じ力が得られるぞ?」

戦士「けっ……そんなもん死んでもごめんだね」

ドラゴンゾンビ「わからんな。人間は虐げるか虐げられるかしない。力がなければ虐げられるしかないと言うのに」

戦士「てめぇが人間語るんじゃねぇよ……! 知らねぇだろ……人間やってる楽しさってやつを」

ドラゴンゾンビ「楽しみだと?」

戦士「広い世界を旅したり……誰も足の踏み入れたことがない所へ行ってみたり……!」

戦士「暑い日はうだうだやりながら……寒い日は共に寒がって、コートを貸してやった時のあいつの笑顔」

戦士「隣にいつも居て……一緒に笑ってくれる奴がいるだけで……人間ってのは最高におもしれぇもんなんだよ!!!!!」

ドラゴンゾンビ「……何を言うかと思えば。くだらん。仲間になる気がないのなら、死ね」

戦士「(すまねぇ……魔法使い。意地張っても死んだら元も子もないよな……でもよっ!)」

戦士「人間はな! テメーらなんかより何倍もつえぇよ!!!!!」

「その通りです」

戦士「!!!」

小さい体に不釣り合いの大きめの僧侶帽を被った女の子が、そこに居た。

僧侶「お久しぶりです、戦士さん」

戦士「僧侶……なのか?」

僧侶「はい」

戦士「何と言うか……」

僧侶「はい?」

戦士「見た目は変わってないけど何か変わったな」

僧侶「えぇっ!? 三の月振りなのに見た目は変わってないって……普通大人っぽくなった~とか言われるのを期待するじゃないですか!」

骸骨剣士「何をゴチャゴチャやってんだァ?」

戦士「気をつけろ僧侶!!! そいつらは……!!!」

僧侶「ニフラム」

骸骨剣士「ハ?」

迫って来る骸骨剣士に、少し触れ、唱えた魔法。
ニフラムとは本来低級のアンデットモンスターを消し去る魔法。故に骸骨剣士は自分に使われたことが不思議でならないと言った感じだった。

骸骨剣士「ケケケッ、お嬢ちゃん。そんな魔法がこの俺様にキ……ク……」

ジュワッ、そんな音がした。
気づけばそこに骸骨剣士の姿はなく、

僧侶「今大事なところなんです。邪魔しないでください」

戦士「なっ」

ドラゴンゾンビ「なにっ……」

余りの出来事に両陣営ただただ驚くしかなかった。

僧侶「……もうしばらくしたらジュリエット女王様が僧侶職の方達を連れてこちらに来ます。動ける方は倒れてる人達を連れて城の方へ」

戦士「お前は……」

僧侶「私がこの魔物達を止めます。大丈夫、もう……二度と、あの人を一人にしたくないから。私は強くなりました……(多分)」

戦士「何言ってんだ、お前一人残して行けるかよ」

戦士「俺だってまだやれるぜ……!」ガクガク

僧侶「戦士さん……」

僧侶「わかりました! 一緒に戦いましょう!」

僧侶「その前に、ベホマ」

戦士「ん、おおおおおなんじゃこりゃあああ体が!!!」

戦士「これなら行けるぜ! お前らは負傷者を連れて後退しろ!」

義勇兵「わ、わかりました」

ボストロール「ガッハッハ! あの骨消されおったぞ!」

ゴーレム「ゴォ?」

シャドー「(これはこれは、面白い)」

ドラゴンゾンビ「少しは楽しめそうだ」

僧侶「さっ、反撃開始ですよ!」

戦士「おうよ!」

少し間が置かれた後、僧侶と戦士が動き出した瞬間、火蓋は切って落とされた。

戦士「前衛は任せろ!」

僧侶「はいっ」

ボストロール「ざっぎ紙くずみてーにぶっとんでたおめ゛ぇに何がでぎる!?」

僧侶「…スカラ。スカラ。ヘナトス」

ギィィィンッ──

ボストロール「な゛あ゛っ?」

戦士「へぇ、じゃあお前は紙くずも吹き飛ばせない非力野郎ってことか?」

ボストロール「ぬあ゛に゛ぃ!?」

ドラゴンゾンビ「乗せられるな!(やはりあの娘が曲者か……ならば先に仕留めるまで)」

ドラゴンゾンビ「灼熱の息」

口から吐いた火炎が僧侶を直撃する──

ドラゴンゾンビ「(フン、やはり所詮は人間か)……なに?!」

僧侶「……フバーハ」

火炎の直撃を受けた筈の僧侶は、服に焦げ跡すらなくそこに佇んでいた。

ゴーレム「ゴォォォ!!!」

僧侶「くっ」

間髪入れずにゴーレムが僧侶を襲う。

僧侶「このっ」ガチンッ

僧侶「(固い……!)」

ゴーレム「ゴォァッ!」

僧侶「ならっ!!!」

ゴーレムの降り下ろす拳弾を避けつつ詠唱、

僧侶「ルカニ、ルカニ……バイギルト! やああっっ!!!」ゴォォォン

ゴーレム「ゴォォォォォォ」

僧侶の振るった杖がゴーレムの体の一部を軽々と吹き飛ばす。

ゴーレム「ゴ、ゴォ」

お腹の辺りからごっそりとなくなったゴーレムはその上半身を支えきれなくなり、一気に崩れて落ちた。

ドラゴンゾンビ「ゴーレムがこうもあっさりと……(こいつ、まさか)」

シャドー「……」

僧侶「!」

僧侶「させない! メラミ!!!」ブォォ

シャドー「ちぃっ」

戦士「オラオラッ! さっきまでの威勢の良さはどうしたよデブ野郎!?」

ボストロール「ぐぅぬ゛ぅおおおお」

ドラゴンゾンビ「やはり……こいつ、賢者か」

シャドー「……勇者の次に警戒すべき者か」

僧侶「いえ、私は僧侶。ゆーしゃさまの僧侶です!!!」

ドラゴンゾンビ「(少し手間がかかりそうだな。念のためだ……)」

シャドー「(……承知した)」

シャドーが影に溶け、消え去る。

僧侶「……」

ドラゴンゾンビ「改めてニ対ニと行こうじゃないか」

僧侶「」グッ

ドラゴンゾンビ「……行くぞ!!! 凍える吹雪!」

辺り一面を吹雪が襲う!

僧侶はそれをまたフバーハで防ぐ、だが。

ドラゴンゾンビ「同じことが二度も通じるか!!!」

吹雪で視界を奪った際に一気に接近、打突を繰り出す。

僧侶「!!? スカラッ……くぅっ」

一度だけしか防御を上げれなかったからか、ドラゴンゾンビの打突は僧侶を軽々と吹き飛ばした。

僧侶「ベホイミ!(まずい……そろそろ戦士さんのスカラとヘナトスの効果も切れる。また掛け直さないと)」

ドラゴンゾンビ「どこを見ている!!!」

僧侶「くっ」


ボストロール「ん゛ん゛? ずいぶん静かになったのう゛」

戦士「(ちぃっ……段々支えきれなくなって来やがった。僧侶が掛けてくれた補助が切れかかってんのか)」

戦士「(確かに僧侶はとんでもなく強くなって帰って来た……けどな、それにおんぶにだっこじゃカッコ悪いってなァ!)」

戦士「うおらああっ稲妻斬り!!」

ボストロール「ぐぅぬぅ……(こいつまだこんな体力が)」

ドラゴンゾンビ「どうした人間!? 思いの強さは俺達より強い、じゃなかったのか!?」

僧侶「っ……! あなたはまだ強く理性が残ってるのに! 何故魔物になんか!」

ドラゴンゾンビ「知れたこと。全ては力欲しさによ! この世界は力を持たない者には生きづらすぎるからな!」

僧侶「そんなことっ!」

ドラゴンゾンビ「それに何が悪い!? 力を得て弱い者を己がままに蹂躙する、最高ではないか!」

ドラゴンゾンビ「俺は自分の欲望のままに魔物になっただけのこと!」

僧侶「……あなたは悲しい人です」

ドラゴンゾンビ「何?」

僧侶「私達は様々な大陸で色々な人達を見てきたからわかります」

僧侶「東の始まりの村の人達はずっと私達に良くしてくれた。私の両親が亡くなっても、ゆーしゃさまの両親がいなくなっても、私達が勇者と僧侶の道を行くと決めた時も」

僧侶「私が弱くて……帰って来た時も……いつも、いつも優しく支えてくれた」

僧侶「中央大陸の皆さんもゆーしゃさまや私に良くしてくれた!」
僧侶「その優しさが弱さだと言うならあなたは悲しい人ですっ!」

ドラゴンゾンビ「それは勇者だからだ! 強き特別な者だからだ!」

僧侶「違うっ!」

僧侶「砂漠の人達は、勇者には冷たかった」

僧侶「ゆーしゃさまはただ勇者ってだけで忌み嫌われて……」

僧侶「それでも諦めずにわかり合う道を選んだ!」

僧侶「私が弱かったばかりにそれは失敗に終わってしまったけど……次は、必ず二人で成し遂げる!」

ドラゴンゾンビ「勇者だから、その付き人だから、自分達を害なすモンスターや魔物から守ってくれるから、自分にとって都合がいいからそうしているだけと何故気がつかない?」

僧侶「確かにそうかもしれません。でも、それでもいいんですっ!」

僧侶「それでも私達は世界を守ります! この世界には大好きな人がいっぱい居るからっ!」

ドラゴンゾンビ「ならばその世界を破壊しよう!!! 今ここで!!!」

僧侶「はあっ!!」

ドラゴンゾンビ「(ニフラムか!? 俺の体でもあれはまずい……!)」

僧侶が伸ばした手のひらを、咄嗟に払い落とす。

僧侶「(ニフラムを嫌がった……ならっ) イオラ!」

ドラゴンゾンビ「!?」

地面に向かって放たれた爆発魔法は盛大な音と共に土煙を巻き上げた。

ドラゴンゾンビ「(土煙に乗じて仕掛けるつもりか!? させん!!!)」

ドラゴンゾンビ「凍える吹雪!!!」

吹雪により土煙を一気に吹き飛ばし、視界を再び得る。

ドラゴンゾンビ「(どこだっ!?)」

辺りを見回しても僧侶の姿はない。

僧侶「終わりですっ! ニフラム!!!」

どこからかそんな声がした後、ドラゴンゾンビの体が天からの光に焼かれる。

ドラゴンゾンビ「グオオオオオ」

僧侶「(やはり完全に滅するにはニフラムだけじゃ……!)」

ドラゴンゾンビ「グゥ……何処ニ、居た」

硫酸を浴びたかのように溶け掛かった姿で必死に問いかける。

僧侶「レムオル、しばらくの間姿を消すことが出来る魔法です」

ドラゴンゾンビ「……フフ、これダかラ賢者とイうのハ厄介な者ダ」

────

戦士「うおおおっ」

ボストロール「やっど調子が出てきたわ゛い」

戦士「(ぐっ、これ以上は持たねぇ……)」

ボストロール「うがあ゛あ゛あ゛!」

戦士「(少しでもいい……奴に隙が出来れば……!)」

その声を、聞いたわけでもない。

ただ、届いた。

「メラミ!!!」

ボストロール「ンゴ!?」

上空から飛来する火弾がボストロールの顔面に直撃する。

魔法使い「こらー! 私が休んでる間に負けたら承知しないわよ!」

外壁からの一喝、それだけで戦士に力が戻った。

戦士「けっ! わかってらぁ!!!」

戦士「(相棒がくれたこのチャンスを活かせないようじゃ……!)」

ボストロール「グウゥ……おの゛れぇ! 次は貴様を喰ってやる゛ぅ!」

外壁にいる魔法使いに気をとられているのか、こちらへの注意が薄い。

戦士「オオオオオオッ!」

はじゃの剣を肩に担ぐ様に両手で持つ、

左足をこれでもかと踏み込み、それと同時に剣を振りかぶる様に。

余りの剣速、背負うようにして剣を振るため目標に当たるかは五分の技──

戦士「魔神斬り!!!」

だが、この時この瞬間だけは、必中だと、戦士は思った。

ボストロール「おのれ……おでが……人間なん゛がに゛……」

戦士「へっ……人間舐めんな」


ドラゴンゾンビ「ボストロールヲも退けたカ……」

僧侶「あなた達の負けです」

ドラゴンゾンビ「……ククク、それはどうかな?」

僧侶「!?」

次の瞬間、空が、割れる──

そこから様々なモンスターがどんどん降りて来ている。

僧侶「まさか……!」

ドラゴンゾンビ「西の大陸に住む魔物やモンスター達ダ……こレでこの大陸ハ終わりダ」

僧侶「(あの数に攻めて来られたら城は……! でも……きっと、来てくれる!!!)」

霊峰ゼギア 頂上──

勇者「詠唱完了……!」

リノン「急いだ方がいい。大変なことになってるから…」

勇者「みたいだな(僧侶……)」

勇者「じゃあ早速頼むぜ!!!」

リノン「わかった」

リノン「……勇者」

勇者「なんだ?」

リノン「行ってらっしゃい」ニコ

勇者「おっ、おぉ! 行ってくる!(何で照れてんだよ!)」

勇者「また、来るよ。今度は二人で」

リノン「うん…」

リノン「バシルーラ」

バシュッ──

リノン「行ってらっしゃい、勇者。あなたの光でこの世界を照らしてあげて」

外壁──

見習い「尚もモンスター増大!!! これではもう……!」

魔法使い「落ち着けって言ってるでしょ!」

魔法使い「(イオナズンはもう使えない……ならマヒャドかバギクロス……いや、全然足りない。どうしたら……)」

魔法使い「あぁんもうっ! 早く来なさいよ! 勇者君!!!」

──

戦士「ハハ……さすがにこれからあの数とやる体力は……ねぇな」

僧侶「信じましょう。私達の世界を、そしてその世界を守る、勇者を」

僧侶「(そして、ゆーしゃさま自身を、私は信じる!!!!!!)」

僧侶「ゆーしゃさまああああああああーーーーーー!!!!!!!!!!!」

城の上空で何かが光った。

勇者「ギガデイン」

勇者から発せられた金色の稲妻が、空を覆うモンスター達を消し去って行く。

ひび割れた空間さえも穿って、その穴をどんどん閉じて行く。

僧侶「ゆーしゃさま……」

私はその光を、綺麗だとも、暖かいとも、眩しいとも思った。

勇者の光。

ゆーしゃさまの光。

世界を守る光。

それらが合わさっているから、この光はこんなにも光眩いのだ。

でも、その光を産み出している人は……どこにでもいる普通の男の子で。
辛いことも、苦しいことも、私達と変わらず感じる人間なんだ。

だから、私はその支えになりたい。
一緒に歩いて、一緒に苦しんで、一緒に笑って……。

大好きなゆーしゃさまと一緒に、僧侶として、側に居たい。

誰かを思い、守りたいと思う気持ち。

もしかしたらそれが──

勇者を産み出したのかもしれない。

長編 勇者の光

まただいぶ空けてすいません。
残り少ないので次書く時は新しいスレを立てて書きますね。

なので次スレ立てるまでは残して置いて欲しいです!

他にも何か思い付いたの書き溜めたりしてるのでこれが終わったら書いてこうかなと思ってます。
次は短いのにしますほんとすいません。

読んでくれてる人ほんとありがとう
完結まで頑張ります!
次スレでもよろしくです

次こそ色々やった後いよいよ魔王城突入!

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