妹「じゃあ食うな」(129)

風を引いたときには味覚が狂ってしまう。

しかし、うまいものがまずくなることはあっても、まずいものがうまくなることはない。


まずいものはまずい。

「まずい」

「じゃあ食うな」

そういう訳にもいかない。

食べなければいけないからこそ、もうちょっと頑張ってほしいのだけれど。

「どんな具合にまずいんだよ」

「とんでもなくスパイシーだ」 

「香辛料入れてないけど」

「貴様何を入れた」

俺の知らないものが入っていることは確かだった。 

「なんだ、元気じゃん。心配して損したわ」

「嘘をつくな嘘を」

食べたら置いといて、と言って妹は部屋を出ていった。

ふと訪れる静寂に急に寂しさを覚える。

何かすることがないかと周りを見回すが、何もない。

よくある心細くなるパターンだ。

妹が食器をとりにくる様子もないし、もう寝てしまおうか。

そんなことを考えているうちに俺の意識は夢の世界へと旅立ってしまっていた。

熱はすっかり下がりきっていた。

あの料理のおかげだ、と妹は胸を張っている。

「今日からは俺が飯作るかんな!」

「あたし作る気ないし」

さいですか。

何はともあれ俺の胃袋は守られた。あいつの胃袋はどうだか知らんが。

「お前さぁ、向上心は無いわけ?」

「無くても困らん」

「未来の旦那が困るぞ」

「その時はその時」

「危機感というものがまるでないな」

「無くても困らん」

だめだ、どうあがいても奴は練習するとは言わないだろう。

これ以上言ったら怒るかもしれないし。



やっぱ言おう。

「お前はやればできるんだから」

「やらないとできないのかぁ、あたしは」

「何もしていなくても料理ができる、そんな天才に生まれたかったなぁ」

「やってもできない子がいるのになんて贅沢な」

「そういえば、今日友達くるけどいいか?」

「お好きにどうぞ」

そういえば、こいつが家に友達を連れてきたことがない。

こいつ友達いるのか、と不安になったので、聞いてみた。

「失礼な。いるわボケ」

「家に連れて来ないけど」

「兄ちゃんに会わせたくないんだよ」

うわぁ~ショック。俺は友達に会わせたくない、恥ずかしい兄だったのか。

「あっ、いやそういうのじゃないから、安心して」

俺、めっちゃホッとしてます。今。

眠たくて瞼が痛いから今日は終了

かなり遅くなりました。

テストがあったので・・・

もう見てる方いないかもしれませんが、一応完結させたいと思います。

さっき俺が言った言葉。たしか「はぐれるな」だったはず。

幼い頃、よく父に「自分の言葉に責任をもて」と言われた。だらしない俺は金魚すくいに負けてしまったのだ。

いや、待てよ。俺達は金魚すくいをしていたのだから、はぐれたのはあっちではないか。

まあ、今は合流するのが先だ。そんなことを考えている暇はない。

とは言うものの、

「・・・俺、携帯車の中だ・・・」

「・・・みぃーとぅー」

この神社はかなり広い。夏祭りの規模にも納得できるくらいのレベルだ。

それに加えてこの人混みだ。これをかき分けて駐車場までいかなければいけないかと思うと正直気が重くなる。

しかし、ここで何もしないわけにはいかない。

「俺、取ってくるわ。ここで待ってて」

そう言って覚悟を決めたのだが、なぜか袖を引っ張られる。

「・・・ねえ、久しぶりなんだからさ、もうちょっと二人きりの時間を大切にさせてよ」

意外な言葉だった。幼馴染が他人より自分を優先させるなんて滅多にない。雨が降らないといいのだけれど。

数少ない幼馴染のわがままだ。今日ぐらいは聞いてやろう。幸いあっちには友もいる。はぐれたのが妹一人であれば、こうはならなかった。

「ねえ兄、チョコバナナ買ってよ」

一緒にぶらぶら歩いていると、幼馴染が屋台を指さして言った。

これまた意外だ。十年以上の付き合いだが、幼馴染に何かをねだられたことなんて一度もない。

しかしよく見ると、指さしていた屋台のチョコバナナは一本50円。

祭りのチョコバナナにしては破格の安さだった。

数少ないわがままの中にも、なんだか「幼馴染らしさ」が感じられる。少し安心した。

「よし、買ってやる。何本だ」

「20本!」

「え」

「あはは、冗談冗談。桁が一つ多かったね」

2本ということは俺と幼馴染の分だろう。おごって、と言って俺の分も数に入れる。

こういった所も、やはり「幼馴染らしさ」といえるのではないだろうか。

買ったばかりなのにもうなくなりそうなチョコバナナを手に、俺と幼馴染は再び歩く。

夏の夜の生ぬるい風と、夏祭りの活気は実に風情がある。

しかし、幼馴染はあまりこれが得意ではないようだ。

「ねえ、ちょっと座ろっか。疲れちゃった」

幼馴染がベンチを指さす。

疲れているのは俺も同じだ。無言で肯定し、ベンチに腰掛ける。

時計を見ると、もう八時。確か八時四十五分から花火が始まる。それまでに妹と合流しなければ。

「ねえ兄、そっちの大学はどう?」

おもむろに幼馴染が言う。

「別にどうもこうもないかなぁ。なんか高校の延長みたいな感じ。幼馴染以外ほとんど面子も変わらないし」

「新しい友達もできたし。まあ、楽しくやってるよ」

「そっかぁ。いいね、なんか兄のその言い方だけで楽しいってことが伝わってくる」

その幼馴染の言葉からは、どこか寂しさのようなものが感じられた。

「あ、あともう一つ聞きたいことあったんだ」

「ん?何?」

「彼女できた?」

悲しいことを聞いてくれる。

「できてねぇよ」

一瞬嘘をついてやろうかという考えが浮かんだが、すぐにバレるであろうからやめておいた。

「お前はどうなんだよ」

「いるわけないでしょ。第一、私兄と友くん以外の男子とうまく話せないし」

「お前と友が付き合ってる可能性もあるだろう」

「ないない、だって友くんは女ちゃん一筋だし」

ここで驚愕の事実が判明。なぜ一番の友達である俺にはそれを言わないんだ。

あいつ、女のこと好きだったのか。くそっ。なんかすげぇ悔しい。

ここで沈黙が訪れる。

変な雰囲気。何かが起こる。そんな予感がした。

眠いので今日はもう寝ます。

また明日も書きます。

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