あずさ「二人暮らし」 (25)


あずさ「千早ちゃん、お皿取ってもらえるかしら?」

千早「あ、はい」

お料理の手伝いをしてくれている千早ちゃんに、お皿をお願いすると、すぐに取り出してくれました。
出してくれたお皿に盛り付けをします。

あずさ「うん、完成~」

千早「じゃあ、テーブルに持っていきますね」

あずさ「お願いね」

出来たばかりの料理を千早ちゃんがダイニングまで持って行ってくれました。
ダイニングキッチンなので目と鼻の先なんですけれど。


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お皿をテーブルに置いた千早ちゃんが、小さく失礼しますと言ってから冷蔵庫を開けて、中からお茶のボトルを出してコップに注いでくれています。
お茶の入ったコップを、私と千早ちゃんの席の前に置くと、椅子を引いてそこにちょこんと腰掛けました。
どこか所在なさ気です。

もっと寛いでくれていいのよ……?

調理器具を片付け終わったので、私も席に着きます。

あずさ「おまたせ~」

千早「いえ、大丈夫です」

やっぱりどこか緊張しているというか、そんな様子の千早ちゃん。


あずさ「さ、食べましょう」

千早「はい」

二人で両手を合わせます。

「「いただきます」」

食べ始めても、千早ちゃんはどこか遠慮をしているように見えました。

あずさ「まだ、慣れない?」

千早「え……?」


あずさ「何となく、そう感じたものだから……」

戸惑いを見せる千早ちゃん。

千早ちゃんがうちに来て、もう2ヶ月になります。

どうしてそうなったかというと、実は私も理由は良く知りません。
いいえ、聞きませんでした。





2ヶ月前――――――。

あずさ「はぁ、雨って嫌ね……あら?」

昼前から振り続ける雨に辟易としていた午後、突然インターフォンが鳴り響きました。

あずさ「はぁ~い」

ドアチェーンをかけたまま扉を開くと、雨に打たれて濡れネズミの千早ちゃんが、俯きながら大きなカバンを持って立っていました。

あずさ「ち、千早ちゃん!?」


慌てて扉を開こうとするも、チェーンをかけたままなので思い切り引っかかってしまいました。
一度閉めてチェーンを外した後、もう一度扉を開きます。

大きく扉を開くと、先程と同じく俯いたままの千早ちゃんが。

あずさ「まぁまぁ、ずぶ濡れじゃない……。さぁ、上がって」

とりあえず中へ入れてあげましょう、このままにしておく訳にはいきません。

恐らく、何かあったのでしょう。
そうでなければこんな状態になんてならないもの……。


少しだけ玄関で待ってもらって、お風呂の追い焚きスイッチを押した後タオルを手渡しました。

あずさ「さぁ、拭かないと風邪引いちゃうわ」

虚ろな眼でタオルを受け取った千早ちゃんはのそのそと髪を拭いています。

髪と服を拭き終わった頃追い焚きが終わったので千早ちゃんを脱衣所へ連れて行き、濡れた服を洗濯機へ。
千早ちゃんはお風呂へ。

びしょ濡れの大きなカバンにはお着替えが入っていると言っていたので、断りを入れて開けると、案の定中もびしょ濡れでした。
それらもまとめて洗濯機へ入れます。

このままだと着る服が無くなってしまうので、私の服を置いておきましょう。


あずさ「千早ちゃん、お洋服、全部濡れてたから私のだけど替えの服、ここに置いておくわね」

扉越しに声をかけると、か細い声でありがとうございますとだけ返事が。

脱衣所から出て、温かいお茶を淹れていたら千早ちゃんがお風呂から上がってきました。
リビングに座ってもらって、お茶をテーブルの上に置きます。

飲むように促すと、両手でカップを持った千早ちゃんがゆっくりと傾けました。

千早「あったかい……」

ぽつりとそう零した千早ちゃんの頬を、一筋の涙が伝っています。
そのまま俯いて、肩を震わせている千早ちゃん。

何があったのか聞くべきなんでしょうけど、きっとそれは今ではないと思い、結局私は切り出しませんでした。


その日はそのまま千早ちゃんを泊めて、翌日。
千早ちゃんから、暫く置いて欲しいと頼まれました。

あずさ「この事をご両親は……?」

私の問いかけに千早ちゃんは、ただ首を横に振っています。

本当なら、ご両親にお話をするべきなんでしょうけど、私はそのまま千早ちゃんと暮らすことにしました。
いつか、理由を話してくれることを条件に――――――。



それから月日が流れて早2ヶ月、初めの頃は何をするにも恐る恐るといった様子の千早ちゃんでしたが、最近では少しづつ慣れてきてはいるみたいです。
けれど、やっぱりまだどこかに壁を感じてしまいます。

千早「あずささんには、とても感謝しています。突然転がり込んできた私を、理由も聞かずに置いてくださっているのですから」

あずさ「いいのよ、気にしないで」

千早「でも、やっと決心が着きました」

顔を上げた千早ちゃんの目には、何か腹を括ったような、そんな気概を感じられました。


そうして千早ちゃんは、家を出た理由を私に話してくれました。
当たり前だけれど、社長は知っていると、話し始める前に付け加えていました。
私もそうだろうとは思っていましたけれど、千早ちゃんが自分の口から話してくれる時を待っていたんです。

千早「両親が離婚して、私をどっちが引き取るのか、両親はずっとそれを言い争っていました」

語られたのは、千早ちゃんの抱える重く苦しい思い出でした。

千早「できれば離婚なんてして欲しくなかった。けれど、弟が亡くなってから家族は壊れていって

   もう、修復もできなくて。家に帰っても聞こえてくるのはお互いがお互いを罵る言葉ばかり

   そして離婚してどちらが私を引き取るか……いいえ、どちらに押し付けるかをずっと……」


一番の味方であるはずのご両親が、自分に向ける忌避の目。
それがどんなに辛い事か、どんなに苦しい事か。
私には想像もつきません。

千早「結局父とも母とも反発して、私は持てるだけの荷物を抱えて家を飛び出しました」

宛もなく彷徨っていたら雨が降り出して、一番近くにあった私の家に逃げて来たそうです。

あずさ「そうだったの……」

どんな言葉をかけていいのか見つからず、ただ一言それだけしか言えませんでした。


千早「あずささんには随分とご迷惑をお掛けしてしまいました」

あずさ「迷惑だなんてそんな……。事務所へ行くのに迷わなくなったし、私は助かっていたわよ?」

暗くなり過ぎないよう、精一杯おどけてみました。

千早「ふふっ、お役に立てたなら良かったです」

微笑んでくれたので何とか場を和ませられたのかしら?


千早「でも、いつまでもあずささんに甘えているわけにもいきません。

   幸い仕事も増えてきたので、自分で部屋を借りようと思っています」

あずさ「もう、決めたのね?」

千早「はい」

頷く千早ちゃんには、確かな決意が込められているように思います。

あずさ「寂しくなるわね……」

思わず本音が零れてしまいました。


あずさ「……ごめんなさい。ちゃんと話してくれて、ありがとう」

辛い過去を打ち明けてくれた千早ちゃんを、優しく抱きしめます。

千早「あずささん……」

ずっとこらえていたのでしょう、腕の中で千早ちゃんが小さく震えています。
時々、しゃくりあげるような音も。

あずさ「また、いつでも遊びに来てね?」

千早「っ……はい……」


涙に濡れた声で、それでもしっかりと返事をしてくれました。」

引っ越しまで千早ちゃんから、今までのような壁を感じなくなりました。
きっと、全部話したことで胸のつかえが下りたのでしょう。

短い間だったけれど、千早ちゃんにとってここは安らげる場所だったのかしら?
そうだったら嬉しいです。

これからがきっと大変なのかもしれないけど、千早ちゃんならきっと大丈夫。
けど、どうしてもまた辛くなったらその時は、またここにきてちょうだいね。

いつでも歓迎するから。



おわり


終わりです。

短いですね。
千早とあずささんが一緒に暮らしていたらどんな感じになるだろうかと思い書きました。

少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。

>>19 もともと千早はあずささんと同居していた時期がある設定になってるよ

○如月千早

【コミュ】
・アマチュア時代、ロックと民謡で日本一になっている(無印「F・ミーティング」)
・童謡の地区大会で優勝経験あり(無印「F・ミーティング」)
・歌の為に民謡や義太夫を勉強している(無印「雑誌取材」)
・睨んだときの顔は、見た者が思わず恐怖で凍りつくほどに怖い(無印「写真撮影」)
・犬が好き(無印「ある日の風景4」)
・アイスクリームが好物(無印「夏の仕事」)
・毎日腹筋200回(2回に分けて100回ずつ)をこなしている。2では250回に増えている(無印「運動」、2「朝の会話」)
・食事の栄養バランスには気を使っており、Pのだらしない食生活を注意する一幕がある。2でもエンディングでPを空港で見送る際に栄養バランスに気をつけるよう注意している。しかしアニマスではコンビニ弁当や栄養剤で済ますキャラクターに変更されており、OFAでは「料理ができない」と明言された(無印「休日1」、無印メール「お弁当について」、2ED、OFA律子「ふれあい」)
・運動神経はわりと高い。テニス対決でもコツを掴んだ瞬間対戦相手のPをボコボコにした(SP「F・チャンス2」)
・勝負事にはよくコイントスを用いる(SP各チャンスコミュ)
・武田プロデューサーに何度も楽曲の制作を依頼しているがいつもはぐらかされている(DS涼ストーリー)
・名字で呼ばれるのが嫌い(2「初遭遇」)
・弟の死による精神的ショックから高音域の声が出にくくなっており、喉に負担がかかる無理をした歌い方をしている。そのために喉が常に炎症を起こしている(2「明かされた真実」)
・弟はツバメに転生して千早の事を見守っている(2ED)
・暴力的な映画は苦手(2「映画の話」)

【関連書籍】
・街でスカウトされたのが事務所入りの経緯(プラチナアルバム)
・太めのベルトを付けるのが趣味?(キャラクターマスター)
・学校の成績は高く、優秀な生徒が集まるクラスに所属している(キャラクターマスター)
・弟の優は千早の事を「千早」と呼び捨てにしており、ちょっぴり生意気な性格だった。ただしアニマスでは「おねえちゃん」と呼んでいる(キャラクターマスター)

【CD】
・千早が冗談を言う光景はレアであり、普段はPしか見ることができない。伊織と春香は千早が冗談を言う光景を見た時には思わず感動してしまった(MASTERPIECE 04)
・お笑い番組は見ない(Gratitude)
・一時期あずさと同居していた事がある(MASTER ARTIST 05)
・一人言では「雪歩」と呼び捨てにする事もある(MASTER LIVE 02)
・響の可愛さに悶えるあまり彼女に恥ずかしい言葉を言わせようとしたり、衣装を借りて着させようとしていた(MASTER SPECIAL 03)
・シンプルなダジャレでも吹き出してしまう反面、大多数が爆笑するタイプのギャグにはあまり反応しなかったりする(生っすかSPECIAL 05)

【その他】
・千早の髪が青いのはあくまで漫画的な表現であり、実際は黒髪という設定。またアーケード版の頃は青みがかなり抑えられている(無印、やすらぎの旋律、和風堂玩具店千早フィギュア)
・弟を交通事故で失っている所為か、車のブレーキ音が苦手になっている(無印メール「一番嫌いな音」)
・Pは千早の初恋の人に少し似ている(無印メール「気付いたんですが」)
・クロード・モネのファン(無印メール「美術と歌と」)
・「感動できるオススメの本はある?」と律子に聞かれた際、楽譜集を勧めるという少しずれた一面がある(無印メール「感動する本」)
・「貧乳を気にしている」という設定は二次創作発祥ではなく、開発初期からある設定(深見和佳子インタビュー、プラチナアルバム)
・実はかわいいぬいぐるみや小型の人形が好き(OFAメール「…好きです」)

>>24
ありがとうございます。
同棲していた事実は存じ上げております。
それがこんな感じだったらいいなと思い書き上げた次第でございます。

しかし当然ですがこんなに沢山の設定があるんですね……。
驚きました。

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