男「散歩をしよう」女「ばっちこい」(16)

女「男ー! 午前だよ! 起きよ起きよ!」

男「んー」

女「ねーねー! 私が来たんだよ? 晴れて恋人関係になれた彼女の私が来たんだから起きてよー!」

男「んーん」

女「ほうら! 起きて起きて!」

男「んん!」

女「んひっ?!」

男「……」

女「お、怒った? ごめんね。眠いんだよね。……また来るから帰るね」

男「……何時?」

女「午前」

男「午前何時?」

女「3時」

男「……おいで」

女「どこに?」

男「ここ。布団の中。はい」

女「……お邪魔します」

男「ん」

女「あ、布団の中あったかい」

男「ん、おやすみ」

女「うん」

男「……」

女「……」

男「…………ぐぅ」

女「ちっがーう! 寝ないの! 起きるの!」

男「んーん」

女「ほらほら! 午前だよ!」

男「あーっもう! 午前だからなんだよ! 今は夜中だよ!」

女「だからね、起きよ?」

男「午前3時に人を叩きおこしに来る人がいる?! 普通いますか?!」

女「だって眠れないんだもん」

男「だからって俺の睡眠時間を奪ってくれなくてもいいじゃん!」

女「しーっ、大声はご近所様に迷惑だよ」

男「女じゃなかったら手足ふん縛って窓から投げ捨ててるところだ」

女「けっこう元気になったみたいだけど目は覚めた?」

男「……覚めたよ」

女「じゃあじゃあ、暇潰ししよ?」

男「……」

女「男?」

男「暗記ゲーム?」

女「今回はちゃんとトランプを持ってきました。ほら」

男「頭を使う遊びは眠気誘うよ」

女「トランプ持ってきてませんでした。えい」

男「痛っ、投げないで」

女「暇潰しできなきゃ寝るんでしょ?」

男「暇だから寝ると思ってるの?」

女「男が寝たらつまんなくなる」

男「どうすればいい?」

女「体を動かそう」

男「んな阿呆なこ……」

女「ん?」

男「散歩をしよう」

女「ばっちこい」




女「んふー、夜風がぬくい」

男「まだ肌寒いと思う」

女「やっぱりもう夏なんだね」

男「俺の中じゃまだ春の折り返し地点にも達してないんだけど」

女「夜ってくらいね」

男「暗いだろうね。夜だし」

女「ねね」

男「なに?」

女「今は頭使っても眠くならないよね?」

男「ねらないね。きっと」

女「星座当てゲーム!」

男「ええー、全然知らないんだけど」

女「大丈夫大丈夫」

男「あの星座の名前は?」

女「いきなり?」

男「カウントは10からです。9、8」

女「早い早い。どれ?」

男「あそこの外灯の奥」

女「あれはねー、えっと……みずがめ座?」

男「みずがめ座って春の星座だったっけ?」

女「今は夏だよ」

男「まだ春だって」

女「では、みずがめ座の学名はなんでしょうか?」

男「学名?」

女「カウントは3からです」

男「短い?!」

女「3、2、1……」

男「ア、アクエリアス!」

女「正解。まあ、序の口ですもんね」

男「難易度はわりかし低いね」

女「ではでは、第2問」

男「お空に見向きもしないでクイズが進んだ」

女「南の三角座の学名は」

男「ちょっと待って」

女「なに?」

男「その名前すらも初耳なんだけど」

女「……」

男「……」

女「南十字座の学名は」

男「それも今知った」

女「……」

男「……」

女「南冠座の」

男「なんでマイナーどころだけを引っ張ってくるの? そして執拗に南で縛るのはなんで?」

女「だって当てられたら悔しいから」

男「変なところで意地を張ってもいいいけど、俺は帰って寝るぞ」

女「分かったよ。簡単な問題出せばいいんでしょーだ」

男「そこで不貞腐れる理由が分からない」

女「猟犬座の学名はなんでしょうか?」

男「猟犬座も聞いたことないけど、なんとなく答えられそう」

女「ほほう」

男「猟と犬だから……ハンティングドッグ?」

女「あー……惜しい」

男「まあ、単純な単語の組み合わせじゃ無理ですよね。正解は?」

女「正解はカナス・ベナティキでした」

男「なんだって?」

女「カナス・ベナティキ」

男「宝くじの当選番号を予測しろと言われたような気分だった。俺の答えはかすってもいなかったし」

女「ちなみにハンティングドッグは英名でした」

男「だから惜しいと」

女「第3問いく?」

男「付き合おう」

女「ありがとう」

男「難しかったら帰る」

女「男が気分良く成る為に難易度をぐぐぐっと下げます。嬉しいね」

男「前もって言われなければもっと嬉しかった」

女「ででん!」

男「ででん?」

女「ヘラクレス座があります」

男「どこに?」

女「えっと、あそこらへん?」

男「あそこらへんね」

女「学名はな」

男「ヘラクレス」

女「……」

男「ヘラクレス」

女「……正解」

男「睨むなよ」

女「つまんないの。深読みして引っかかればよかったのに」

男「横文字はそのまま使ってそうなイメージだから。カシオペアもカシオペアでしょ?」

女「そうだけど……つまんない」

男「はいはい。当ててごめんなさいね」

女「どこまで歩く?」

男「ゲームは終わり?」

女「2勝1敗で私の勝ち越し」

男「逆。勝ち越したのは俺の方」

女「公園まででいいよね。ベンチあるし座りたい」

男「座りながらしばらく喋ったら帰るよ」

女「うん。ふわぁー……」

男「もしかして眠くなってきた?」

女「あと30分は粘れる」

男「無理しなくていいから」

女「大丈夫。男がいるから頑張る」

男「そういえば、なんでこんな夜も遅くに俺のところに来たの?」

女「バニラアイス食べてたらなんか無性に会いたくなって」

男「バニラアイスで?」

女「きっと共通点が何かあったんだと思う。私には分からないけど」

男「俺にもさっぱり」

女「男ー、おんぶー」

男「とうとう眠気で歩行もままならなくなったのね」

女「お姫様おんぶ」

男「ごめん。抱っこしか知らない」

女「しゃがんで」

男「はいはい。どうぞ」

女「うえへへへ、男の背中」

男「お姫様おんぶだから女が独り占め状態だよ」

女「独占禁止法に抵触しちゃうから怒られちゃうね」

男「誰も欲しがらないから安心して堪能しな」

女「うん。……男」

男「ん?」

女「ベンチにお布団ある?」

男「たぶんきっとおそらく絶対ないな」

女「お布団……」

男「我儘」

女「だって……お姫様だもん……」

男「はいはい」

女「男」

男「ん?」

女「おやすみなさい」

男「おやすみ」



女「んんー! いい天気! 朝だよ! 男!」

男「んんー……」

女「朝だよ朝! 大事な大事な土曜日の午前が過ぎ去っちゃうよ!」

男「後5分」

女「しかし私はそれを許さない。あーさーだーよー!」

男「……何時?」

女「6時」

男「……」

女「寝癖凄いね」

男「起きないとダメ?」

女「お姫様が暇です」

男「また暇なのか」

女「余を楽しませるのじゃ」

男「じゃあさ」

女「うん」

男「散歩をしよう」

女「ばっちこい」

終わり
本命で出すつもりの小ネタを掌篇でがつがつ消費してる気がする

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom