ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」 (1000)


――童守小学校――


キーンコーン カーンコーン


美樹「だからさー、ホントなんだって」

美樹「北区に死の森ってあるでしょ?」

美樹「あそこの森の奥にね、古~~~い井戸があって……」

美樹「黄昏時にその井戸の中を覗いたものは……」


美樹「おぞましい怪物によって異界に引きずりこまれてしまーう! キャーこわ~い!」


郷子「あっそ、作り話にしてもありきたりで面白みがないわね」

美樹「ってホントなんだからー!」

広「で、その噂を確かめに見に行こーって話なのか?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406371088

美樹「その通り! 広珍しく察しがいいじゃない」

広「珍しくってなんだよ?」

郷子「でもあそこの森って確か私有地なんじゃなかった?」

郷子「勝手に入ったら怒られるでしょ」

広「ふーん。じゃ仕方ねーな」

美樹「え、何? もしかしてビビっちゃった?」

広「は? 違えよ」

美樹「そういやあそこって雑木林が広がってるし、案外珍しい虫とかいたりして」

美樹「カブトムシとかー、クワガタとかー、案外高く売れそうなのもいるかも~!」

広「……確かにいろいろいそうだ」

美樹「それにムシムシして暑いからさ、肝試しも兼ねて……なんてどう?」

広「そーだなー」

郷子「あんたバカねー、何カンタンに乗せられてるのよ」

ぬ~べ~「おーい、お前たち。何の話をしているんだ?」


郷子「あ、ぬ~べ~」

広「いやさ、森に虫捕りに行こうかって話」

美樹「そうそう!」


ぬ~べ~「そうなのか? だが今日はもう日も暮れるしな」

ぬ~べ~「虫取りは休みの日にでも行って……良い子はさっさと家に帰りなさい」


「「「はーい」」」


――死の森――


カァー カァー


広「う~ん、いねえなーカブトムシ」

広「美樹、そういやカブトムシって1本角だっけ、2本角だっけ?」

美樹「え、本気でカブトムシ捕るつもりで来たの?」

郷子「ちょっと、良い子は家に帰るんじゃなかったの?」

美樹「何言ってんの、私達悪い子でしょ?」

郷子「やめなさいよ……変なのに襲われるわよ」

広「しっかしこの森気味悪りいな……その辺にペットの墓がゴロゴロあるし」

美樹「案外人間も埋まってたりしてね」

郷子「だからそういうこと言うの止めなさいって」


広「……お、おい。あれ見ろよ」

郷子「……嘘、ホントにあった……古井戸……しかも結構大きいし」

広「横に腐った木の板が転がって……あ、これが井戸の蓋だったのか?」

広「ボロボロになって苔がびっしり生えてら……」

郷子「周りは雑草とか蔦とかに覆われて……凄い薄気味悪い」

美樹「これはこれは……お菊さんでも出てきそうな雰囲気ね」

美樹「じゃ、広。早速井戸の中を覗いてみて」

広「! おい、何でオレが覗くんだ」

美樹「何言ってんのよ、男でしょ。それとも何、ぷぷぷ……そんなに怖い?」

広「ッ!」

郷子「やめた方がいいって……今はぬ~べ~もいないし……もし何かあったら」

広「いーや、見る!」

広「こんなの全然怖かねーし!」

郷子「ちょっと広……」

広「ダイジョブだって。妖怪だろうが何だろうがもう慣れっこだっての!」

広「心配すんなよ郷子、何か出てきたらオレがぶっ飛ばしてやるから」

美樹「さっすがー、よっ男前!」

郷子「もー……ホント……」


広(どうせ何も出てこねーよ……いてもタヌキか野良猫くらいだろ)


美樹「じゃ、広が見終わったら次は私達ってことで」

郷子「……」


広「……ゴクリ」


美樹「……どう、何か見えた?」


広「いや、別に……普通の井戸だぞ。完全に涸れちまってるようだけど」

広「特に何――ってうわぁぁぁあああああああっ!!!」

美樹「!?」

郷子「どうしたの!?」


広「手だ! 手だ! 何か青白い手に掴まれたっ!!」

広「スゲー力で! 中に引っ張り込む気だ!!!」

郷子「もうホントバカなんだから!!」

郷子「美樹! あんたも広を引っ張るの手伝って! 私だけじゃ踏ん張りきれない!!」


美樹「えー、何その言い方。まるでこの美樹ちゃんが太ってるとでも言いたげね」


広「ますます引っ張る力が強くなってく!!」

郷子「いいから早く手伝え!!」

美樹「分かったわよ――て、何よぉ!? この馬鹿力っ!!」

ボワァァァァァァァァ


広「!? 何か手が這い出て来た先に! 何だありゃ!」

郷子「だから何なのよ!?」

広「分っかんねーけど!! 変な空間が広がってる!?」

美樹「ダメだわ、これ無理! 私スリムだからもう限界!!」

郷子「全員引っ張り込まれるー!!」


ダッ


ぬ~べ~「お前たちっ!」


「「「うわぁぁきゃぁぁああああああああっ!!!」」」


――??――


ドスンッ


美樹「痛たたた……って何処よぉ……ここ?」

郷子「い、井戸の中……じゃないわね」

郷子「何だか物凄く……広いみたいだし」

美樹「確かに、井戸の中に落っこちたんだったら……井戸の口が上に見えるはずだもんね」

郷子「……洞窟の中……みたいな」

美樹「出口は見えないけれど。あーあ、困ったことになったわー」

郷子「誰のせいだと思ってるのよ」

美樹「ノコノコついてくる方にも責任はあるんじゃないかしらー」

郷子「いい加減に――」


ぬ~べ~「美樹、郷子! 大丈夫か」

郷子「あっ、ぬ~べ~!」

美樹「どうしてここに?」

ぬ~べ~「……どうしたもこうしたもないだろ」

ぬ~べ~「お前たちのことだ。また危ない所に勝手に足を踏み入れたんじゃないかと思ってな」

ぬ~べ~「幸い克也達が、お前たち3人が北区の森の方に向かったのを見ていて」

ぬ~べ~「仕事を切り上げて急いで駆け付けたんだよ……」

美樹「さっすがぬ~べ~! 頼りになるわ」

美樹「ついでに克也もたまには役に立つじゃないの」

郷子「本人がいないからってそういう言い方は、……ううん本人の前でも変わらないか」

郷子「――あれ、そういえば広は?」


広「おーい! こっちだよこっち!!」

??「キシシシシシ」

美樹「あ、あそこ!! 上の方にぶら下がってる……桶? ……から広の顔が見えるわ」

美樹「もしかしてあれ、井戸水を汲むための桶?」

郷子「よく見て、桶の中に別の誰かもいるわよ!」



キスメ「お前たちが落とした死体はこれかい?」

広「オレは死体じゃねーよ!!」



郷子「広の奴、あいつに捕まったみたい!」

美樹「ぬ~べ~、あれって」

ぬ~べ~「釣瓶落としだな」

美樹「……それって確か、木の上から落ちてきて人間を襲うってやつ?」

郷子「でも見た感じ子どもじゃない? 私達と……そんなに変わりないくらい」

ぬ~べ~「ああ、見た目は子どもだが……妖怪であることは間違いなさそうだ」

美樹「ついでに郷子と同じくらいぺっちゃんこね、クワバラクワバラ」

郷子「ちょっと! 私と同じくらい何がどうなんだって……?」

キスメ「人間ひとり連れ去るつもりだったのにねぇ」

キスメ「ヤマメの友釣りみたいになっちゃった……いや、それはアユだったかな」

広「ごちゃごちゃ言ってないで放せよこんにゃろー!」

キスメ「ジタバタするなら首切っちゃうよ?」

広「ひっ」



美樹「ねぇ、あいつ手にカマ持ってるわよ!」

郷子「ぬ~べ~! 早く広を助けないとこのままじゃ……!」

ぬ~べ~「……」

ぬ~べ~「おい、広を……いや、その子を放してやってくれないか?」


キスメ「どうして?」

ぬ~べ~「広は、いやここにいる子どもたちは……俺の大事な生徒だからだ」


キスメ「せいと? ああ、じゃあ、お前はせんせぇ?」

キスメ「寺子屋で教えてるの?」



郷子「寺子屋って……」

美樹「例えがやたら古いわね~」

ぬ~べ~「とにかく、お前が広を連れ去ろうとしたのがただのいたずら目的だったとしたら」

ぬ~べ~「俺はこの子達を引き連れて、さっさとここから立ち去る。ここはお前の棲みかなんだろうしな」

ぬ~べ~「それ以上の干渉は一切しない。聞き入れてくれるか?」


広「……ゴクリ」

キスメ「……」

キスメ「大丈夫、私はこれを殺さない」


ぬ~べ~「!」

美樹「良かったじゃない、話が通じる相手みたいよ」

郷子「だったら、早く広を降ろしてあげて」


キスメ「子どもはねぇ」

キスメ「たんまりと太らせてから喰っちまうのさ」

キスメ「だから今は、殺さない」

広「そっか、それは助かった……て、助かってねぇええっ!?」


美樹「あちゃー、交渉決裂ね」

美樹「ぬ~べ~!!」

ぬ~べ~「そうか、それなら――仕方がないな」

ぬ~べ~「『南無大慈大悲球苦救難(なむだいじだいひきゅうぐきゅうなん)

広大霊感(こうだいれいかん)

白衣観世音(びゃくえかんぜおん)』

白衣観音に封ぜられし鬼よ

今こそ――その力を示せ」


キスメ「!」

キスメ「お、鬼ッ!?」


ブチィ……ッ……!!!


美樹「やった! あいつの入ってた桶に繋がってた縄か何かを切っちゃったわよ」

郷子「真っ逆さまに落ちていく!」


広「落ちるー!!」

美樹「オウ!?」

郷子「こっち来るなー!!」


ドスンッ

広「痛つつ……」

郷子「痛いのはこっちよ! ってドサクサに紛れてドコ触ってんの!!」

広「んだと!? これは不可抗力だろ!」

美樹「いーから早くどいてって」



キスメ「……ッ……」

キスメ「! 桶……私の桶は……どこ……?」

ぬ~べ~「お前が落とした桶は――これか?」


キスメ「……!」

ぬ~べ~「いいか、よく聞け」

ぬ~べ~「妖怪(おまえ)が単にいたずら目的だったら、ここまでしない」

ぬ~べ~「だが、お前が俺の生徒達に危害を加えるというのなら」

ぬ~べ~「俺は心を鬼にする」

ぬ~べ~「この左手に宿りし鬼の力を――躊躇なく使えるように」

ぬ~べ~「そうするために」

キスメ「……ひ……ひぃ」

ぬ~べ~「だから……これに懲りたらもう二度と」


ヒュルルルルルルルルル


広「!? 危ないぬ~べ~!」

美樹「何かがまた上から来るわ!」

郷子「何あれ、太い糸みたいな!!」

ぬ~べ~「!」

キスメ「!」


シュルン!


ぬ~べ~(俺への攻撃――じゃない。釣瓶落としを回収した?)

美樹「あっ、あれ見て!」

広「上にでっかい蜘蛛の巣が張ってあるぞ!」

郷子「さっきまでは何もなかったのに! いつの間に」

広「ってやめろよ! 電話線のアレ思い出したじゃねーか!」

郷子「って言わないでよ!? 私も思い出しちゃったじゃない!」


??「私は巣(いえ)を作るのが得意でねぇ。勿論、貴方たちが住めるような建物も一昼夜で作れちゃうよ」

広「……」

郷子「また女の子なの……」

美樹「今日やたら女妖怪出没してるけど、ぬ~べ~女難の相でも出てるんじゃないの?」

ぬ~べ~「やめてくれ……何だか背筋が寒くなるから」


キスメ「……ヤマメ」

ヤマメ「まったく何やってんだい、あんたは」

ヤマメ「外界(そと)の人間をこっちに引っ張り込んでくるのに飽き足らず……」

ヤマメ「どうやら随分と厄介なモノまで連れてきてしまったようね」


広「……ぬ~べ~の鬼の手のこと言ってんのか?」

郷子「案外美樹のこと言ってるんじゃない?(首が伸びるし)」

美樹「おんどりゃ! 誰が厄介者じゃ!」

ぬ~べ~「3人とも少し黙っていてくれないか」

ぬ~べ~「巣から逆さに吊り下がっているお前は十中八九――土蜘蛛のようだな」

ぬ~べ~「『土蜘蛛草紙』という絵巻物には、平安時代の武将源頼光とその郎党が土蜘蛛退治をした様が描かれている」

ぬ~べ~「土蜘蛛はこういったジメついた空間を好み、強靭な糸を張って営巣をするし、粘着質の糸は人を捕えるのにも使う」

ぬ~べ~「ただ、糸を口ではなく手から放つのはなかなかに珍しいが」


ヤマメ「ほほう……貴方はやたら妖怪に明るいようで」

ヤマメ「先生がどうとか言っていたけれど、民俗学者か何かなのかい?」


ぬ~べ~「いや、俺はただの小学校の教師だが」

ぬ~べ~「ひとつだけ普通の教師と違うのは、俺が霊能力を持っているということだ」

ぬ~べ~「日本では唯一の霊能力教師、といったところさ」


ヤマメ「……なるほど。通りでやたら察しがいいわけだ」

ヤマメ「そうなると、もしかして貴方は今自分達が置かれた状況も、ある程度理解できているの?」


ぬ~べ~「まあ――大体な」

広「?」

郷子「私達が置かれている状況って……どういう意味なの?」

美樹「ぬ~べ~、もったいぶらずにハッキリ言ってよ」

ぬ~べ~「要するにだ。どうやら俺達4人は“神隠し”に遭ってしまったらしい」

ぬ~べ~「さっきの釣瓶落としによってな」

広「神隠しだって?」


スルスルスルスル


ヤマメ「大方間違ってはいないかな」

ヤマメ「貴方達、有名な心霊スポットにでも行ったの?」

ヤマメ「スキマ以外の妖怪が外の人間を引きずり込むには……余程境界が薄くなっている結節点じゃないと」


郷子「って何か言いながら、降りて来たわよ!?」


ヤマメ「安心しなさいな。私はキスメ(あれ)ほど手が早い妖怪じゃないから」


美樹「って言ってるけど……」

広「大丈夫なのか、先生?」

ぬ~べ~「……、こいつは大丈夫だろ」

郷子「えーそんなあっさりと?」

ヤマメ「おやおや。ちゃんと話が通じる人間で、こちらしてもありがたいね」

ヤマメ「何しろ、鬼の手だなんて……こんな厄介モノを持っている相手に襲いかかるのは、腫れ物に触るようなもの」

ヤマメ「触らぬ神に祟りなし……いや触らぬ鬼だね」

ぬ~べ~「それはいいとしてだ」

ぬ~べ~「ここで面倒事を起こしたくないのなら、俺達をここから追い出す手引きをしてほしい」

ぬ~べ~「この異界に通じる“入口”が存在するということは、当然“出口”も存在するということだろ?」

ヤマメ「まあ、込み入った話は後でゆっくりしてあげるからさ」

ヤマメ「まずはキスメのやつに桶を返してあげてくれないかい?」


キスメ「……」


ヤマメ「これは滅法内気な妖怪でね。宿を取られるとヤドカリみたいに縮こまってしまうのさ」


ぬ~べ~「……。わかった、ほら」

キスメ「……ペコリ」


広「どこが内気なんだよ……オレ普通に襲われたんだぞ」

美樹「まーまー、過ぎたことはもういいじゃないの」

広「何だよ人ごとだと思って!」

美樹「だって人ごとだし」

郷子「はいはい、大人げないわよ……広」

広「何でオレが責められんだ!」

郷子「妖怪が出たらぶっ飛ばすって言ったのはどこの誰だった?」

広「……っ」

ぬ~べ~「キスメ……というのか、あの釣瓶落としの名前は。桶を取り返したらもう闇に紛れて行ってしまったが」

ヤマメ「ちなみに私はヤマメだよ。川魚じゃなくてさっき貴方が言った通りの土蜘蛛」

ヤマメ「好んでここに棲みついているかといったら、少し微妙なところもあるけどねぇ」

ぬ~べ~「……まぁとにかく、ヤマメくん。詳しい話を聞かせてもらえるか?」

ヤマメ「うーん、こんなところで立ち話ってのも難だし」

ヤマメ「いい機会だから、私が案内してあげても良いわ――この旧地獄をね」


広「へー……ってここ地獄なのかよぉ!?」

郷子「えっ、じゃあ閻魔大王とかがいるわけ!?」

ヤマメ「よく聞きなって、旧(ふる)い地獄さ――今ではもう本来の地獄としては機能していない」

美樹「ま、とにかくその旧地獄とやらを観光案内してくれるのね。面白そうじゃない!」

ぬ~べ~「美樹は適応力が高いなー」

ぬ~べ~(しかし、かつての地獄だと? 逆に言うならば……現在の地獄は……)



ヤマメ「付け加えるなら――蛇の道は蛇ってやつだ」

ヤマメ「貴方の話し相手は、私では不釣り合いだと思ってね」

ぬ~べ~「……!」

広「どういう意味だ?」

郷子「ヘビが出てくるから気をつけろってことでしょ?」

美樹「確かにいろんなモノが出てきそうよね。ハイスケールなお化け屋敷って感じ」


ヤマメ「とまあ、そういうことさ。どうだい、ついてくるかい?」

ヤマメ「別にイヤなら無理にとは言わないけど。私は勝手に闇にでも紛れるから」


ぬ~べ~(この妖怪の纏う妖気の感じからして、敵意はなさそうだが)

ぬ~べ~(万一、これが罠だとしたら……広達を危険にさらすことになる)

ぬ~べ~(だが、仮にこのままこの場に残ったとしても)

ぬ~べ~(食糧はおろか水さえも入手できるとは限らない……何しろ未知の環境だ)

ぬ~べ~(そして、この土蜘蛛が言う蛇の道は蛇という言葉の本意は)

ぬ~べ~「分かった――案内を頼もう」

ヤマメ「よし来た――それでは、楽しい楽しい地底の旅へ外来人4名様をご案内~」


広「地底って……ここ地下だったのかよ」

美樹「そりゃ地獄なら地下にあるでしょ」

広「でも本当に大丈夫なのか……ついて行って?」

郷子「ぬ~べ~がそう言うんだし……大丈夫なんじゃない?」

美樹「それにしても、今日のぬ~べ~ってやたらマジメな感じよね?」

郷子「うーん、そう言われると……いつものぬ~べ~っぽくないかも」

ぬ~べ~「あのなぁ、もう少し危機感を持て」

ぬ~べ~「それから……お前たちはいつもの俺にどんなイメージを持っているんだ……」

ヤマメ「いつもはどんな感じなの?」

広「んーと。普段はおっちょこちょいなスケベだけど、やる時はやるって感じかな」

ヤマメ「へー、やる時はやるねぇ。一体ナニをやるんだか」

ぬ~べ~「……広、言葉足らずだぞ」


美樹「さーて、地獄の底に埋もれたお宝探しの旅にしゅっぱーつ!」


――妖怪の山(茨華仙の屋敷)――


華扇「――何かな、この胸騒ぎ」

小町「お、不整脈かい? ようやくあたいが一仕事する時が来たか」


華扇「生憎そっちの方面でお世話になるつもりはないわ」

小町「そうかいそうかい。まあ、あんまりお仕事増やされちゃ……こちらとて身が持たない」

小町「今も邪仙が悪さをしないか監視するのに忙しくて……ああ、肩が凝るなあ」

華扇「監視って……うちに来てお菓子を食べてお茶を飲んで油を売っているだけでしょ?」

小町「うーん、あたいは菓子よりやっぱり旨い酒に美味い肴が一番かな?」

華扇「……貴女の食の好みを聞いているわけじゃないから」

華扇「第一私が邪仙って失礼ね……過去によこしまな行いをしたことも無ければ、これからするつもりもないというのに」

小町「あんたがそう思うんならそうなんだろうけどさ。あんたにとってはね」

小町「それで、さっきの胸の空騒ぎってやつは?」

華扇「――間欠泉の一件以来、地上に残留した怨霊が、わずかながら活発になっている様子」

華扇「もともとそれらは地底に蔓延(はびこ)っていた怨霊達……」


ヒョイ


野良怨霊「Oh…」


パァンッ


華扇「その怨霊達が妙に敏感になっているのが気になってね。地底に何らかの動きがあったのかな、と」

小町「それだけのことで? わざわざ地底に結びつけるなんてこじつけじゃないのさ」

小町「それより、あたいの目の前で平然と怨霊を握りつぶすのはさすがにやめなよ……」

華扇「これこそ、それだけのこと、で済ませてもいいんじゃないの?」

小町「やれやれ」

華扇「それよりも貴女、いい加減本業に戻りなさい」

華扇「三途の川の渡し船が欠航続きじゃ、さ迷える魂達も密になり身動きがとれなくなって彷徨うこともできなくなるでしょう?」

華扇「貴女の上司もさぞ気に掛けていることでしょうね」

華扇「まずは自分の職分に対する責任というものをもっと自覚して――」

小町「あーはいはい、もういいから! 説教は映姫様(ボス)だけで十分だよ」

小町「もともと、そろそろお暇するつもりだったのさ。けれど、貴女の監視もあくまで仕事の一環なんでね」

小町「それじゃ、また来るから。今度はこっちが他所へ連れて逝ってもいいんだよ?」

華扇「はいはい、いいからさっさとお行きなさい」


スゥ……


華扇「――さて、地底の方で妙な気配を感じるっていうのは本当なのね?」

ヒョコリ

管狐「コクリ」

華扇(前に霊夢に憑いて、解放した管狐――わざわざ私を頼ってここまでやってくるとは)

華扇(私達にはまだはっきりとは感じられない小さな“異変”を鋭敏に感じ取ったのかも知れない)

華扇「……少し探りを入れてみましょうか」


ザッ


竜「……」


華扇「鬼が出るか蛇が出るか、何も出てこないのか――あるいは」


――地底(旧都周辺)――


??「ったく、この世の掃き溜めってのはまさに此処のことだな」


正邪(けれども、さすがにこんなところまで追ってくる輩はいないだろ)

正邪(お尋ね者もラクじゃないな――ほとぼりが冷めるまでしばらく地底を流離っとくか)


??「お! 貴女はもしかして、お尋ね者の天邪鬼さんかな? 噂だけは耳にしているよ」


正邪「あァ? 誰だおま……、え……?」


勇儀「喜びな! お前の仲間の鬼だよ。と言っても、お前は正確には鬼に似て非なるモノか」

正邪(あ……モノホンだ……)


ガシッ

勇儀「丁度いい。酒盛りしようと思ったんだが今日はモリ(呑み仲間)があつまって無くてね」

勇儀「さっき正体不明の妖怪が珍しく地底に戻っていたから捕まえたが」

勇儀「二人酒ってのも興が足りない」

勇儀「折角だからお前も交えてやるよ。たまには気ごころの知れない者同士呑むのいいだろう」

正邪「あの……、申し訳ありませんがお断りさせてもらってもよろしいでしょうか」

勇儀「よし快諾だね! お前さんは天邪鬼らしく素直だな」

勇儀「鬼の酒盛りに誘われて物怖じしないとは、案外度胸があるじゃないか!」

正邪「……」


ズルズル……


正邪(捕まっちまった……ヤバいやつに……)


――死の森――


殺人犯「……おお、こんなところに古井戸があるじゃねーか」

殺人犯「この中に死体を入れちまえば、わざわざ穴掘って埋めることもねえ」


ドサッ


殺人犯「……よし、これでいい」

殺人犯(……念のために、ちゃんと底まで落ちたか確かめてみるか)


殺人犯(!? ない、嘘だろ……! 確かに下に落ちたはず!?)


ザッ


殺人犯「!? 上から……何か……」


「オマエガオトシタシタイハコレカイ?」「ぎゃぁぁぁぁああああああああああっ!!?」


ブシャァァッ


                      (第1話:地の底の釣瓶落としの巻・終)


――童守小学校――


キーンコーン カーンコーン


玉藻「何ですって? 鵺野先生と生徒3人が行方不明になっている……と?」

リツコ「そうなんです……昨日の放課後から連絡が取れなくなっていて」

リツコ「……念のために警察には通報したんですが」


克也「そうなんだよ!」 

克也「あいつらが北区の方に向かってるのを見かけてよ……そん時は気にも留めてなかったんだが」

まこと「その後、念のためにって先生が3人のあとを追って行ったのだ……」

克也「ぬ~べ~がついてったら大丈夫だろうと思って、オレらは日が暮れたら帰ったんだ」

まこと「でもみんな、夜になっても家に帰って来なかったらしくて……」

まこと「ぼくの家にも家族の人が心配して『遊びに来ていないか』って電話があって……」


玉藻「そして――そのまま、現状に至るというわけか」


ヒュゥォォォォ


ゆきめ「鵺野先生が……行方不明っ!?」

リツコ「……ええ」


克也「ああ、そうなんだよ……広達3人も」

まこと「きっと妖怪の仕業なのだ! 悪い妖怪に4人とも連れ去られてしまったのだ!!」


ゆきめ「そんな……」

玉藻(鵺野先生がついているならば、よもや大事はあるまいが……万一ということもあり得る、か)

玉藻「今日の健康診断は中止させてもらいます――いいですね、校長先生」


校長「う、うーん……」


リツコ「……あ、校長先生もいらっしゃったんですね」

ゆきめ「私も探しに行きます!」

ゆきめ「鵺野先生が苦戦するような敵だったら、少しでも戦力があったほうがいいでしょ?」

玉藻「……それはそちらの勝手だ。私が特段口を挟むことではありませんよ」

玉藻「私は私の目的に沿って行動するだけのこと。別に彼らを助けんがために向かうわけではない」

克也「オレも探しに行くッ! あいつらが行方不明じゃいてもたってもいられねぇ!!」

まこと「ぼくも行くのだ!」

玉藻「君たちはダメだ! ――更に生徒を危険に巻き込んでしまったら鵺野先生に顔向けできないからね」

克也「ッ! でもよ……」

ゆきめ「ふたりとも心配しないで。みんなは私達が必ず連れ戻してくる……だから、待っていて」

克也「……畜生、……わかったよ」

まこと「……絶対……なのだ。絶対みんなを連れ戻して……ほしいのら……」

克也「おい、泣くなよ……まこと」


玉藻(――何しろ鵺野先生は私にとって大事な研究対象だ。まだいなくなってもらっては困る)


リツコ「クラスの皆のことは私に任せて。……お願いね」

ゆきめ「――コクリ」

トリップつけた方がいいですよ


――博麗神社――


霊夢「はー、……相変わらず誰一人参拝客が来ないわね」

萃香「何を言ってんの? 私が今参拝してあげているじゃない?」

霊夢「あんたは参拝客に含まれてないわよ」

霊夢「昼間っから酒を浴びて、お酒臭いからさっさとどっか行って頂戴」

萃香「んー? まあ、言われなくてもそろそろ出かけるつもりだったんだ」

萃香「ちょっと興味深いモノを見つけてねぇ。ちらほら様子見にでも行こうかな」

萃香「それじゃあ――また今度」


サラサラサラ……


霊夢「……」

霊夢「さて、萃香はどっか行ったからいいとして……あんたはいつまでうちに居座るつもり?」

>>79 トリップって何ですか?

貧乏神「……いつまで?」

霊夢「さっさと帰るべき場所に帰ったら?」

貧乏神「オラァ現世でニンゲンに存在忘れ去られただ」

貧乏神「そしてこっち流されて……まったく日蔭者の棲みづらい世の中になってしもたわ」

霊夢「嘘おっしゃい。あんたが忘れ去られるって、外は共産主義に彩られて格差社会が解消されたの?」

霊夢「そんなハナシ、早苗からは聞いてないわ」

貧乏神「……」

霊夢「博麗神社は幻想郷と外の世界とを隔てる境界線上に存在する」

霊夢「――だからどちらの側にも存在しているといえるし、逆に存在していないともいえる」

霊夢「あんたはたまたま外界の博麗神社に潜り込んで、たまたま大結界を通過してこっち側に来てしまったってことじゃないの?」

霊夢「外界に今でも息づく妖怪や神霊の類は、こっちの常識にもそっちの常識にも馴染み得るもんね」

貧乏神「難しいことなぞ分からん。オラァ発想も貧困だでな」


霊夢(それとも、誰かさんが気まぐれでこっちに連れ込んだ? むしろそっちの方があり得るか)

霊夢「ま、理由はどうあれ私は気にしないけどね」

貧乏神「?」

霊夢「あんたが居ようが居まいが、たいして何も変わらないからよ」

霊夢「もっとも問題を起こすつもりがあるんだったら、容赦なく退治させてもらうけど」

霊夢「ただいるだけなら、問題ないってこと。もともとうちは妖怪神社なんて呼ばれてるし」

霊夢「何なら博麗神社に祀ってあげてもいいわ」

霊夢「この神社、もともと何の神様を祀っていたのか私も良く知らないし」


貧乏神「これまた……食えない巫女さんもおったもんぞ」

貧乏神「そんではいつまでも居座らせてもろうて。この神社の守り神になるがな……フェフェフェ」


霊夢「……え、さすがに今のは冗談よ」

霊夢「こっちだって、いくらなんでも貧乏神を祀ったりしたら商売上がったりだわ」


??「あら、こんなところにいたの?」


霊夢「え? そりゃ居るわよ、ここは私の神社なんだから」

霊夢「それより厄神がうちに何の用? 用が無いならとっとと山に帰ったら」


雛「はい、貧乏神さん。人間達の災厄を引き受けて、貴方に渡しに来たわよ」

貧乏神「おお、ありがたや、ありがたや。ここで使わしてもろう」

雛「そう。役に立てて良かったわ」


霊夢「はーいあんたたち――さっさと表に出なさいな」

トリップってのはなりすまし防止のためのやつ
確か名前欄に#いれて適当に文字打ち込めば良かったはず

――

雛「うう……ひどいじゃない……」

雛「私何もしてないのに……どうして襲われなきゃいけないの」

霊夢「何被害者ヅラしてんのよ。間接的にこっちに迷惑がかかることを自覚しなさいよね」

雛「服がボロボロに破けちゃったわ……どうしてくれるのよ?」

霊夢「いーじゃん、あんたお色気担当ってことで」

霊夢「その格好で帰りなさい」

雛「厄い……厄いわ……」


霊夢「さてと……貧乏神のやつはどこ行っちゃったのかしら」

霊夢「ま、吹っ飛ばしたから守矢神社にでも行ったのかもね」


ツンツン


貧乏神「なーに言っとるだ、まだまだ健在やがな」

貧乏神「代わりはいくらだでおるからの」

霊夢「……ったくしつこいわね」

トリップとは2ちゃんねる上で生まれた単語で、書き込みがその人特有のものと分かる仕組みである。
他の人が名前欄を利用して成りすますことができないようにする仕組み

表示方法は名前欄に"#"(#は半角)を入力し、続けて好きな文字列(パスワード)を入力する。

>>84>>86 わかりました

霊夢「この際はっきり言っておくわ。うちは賽銭箱の中身は少ないけれど」

霊夢「だからといって生活に苦労しているわけじゃないのよ?」

霊夢「ほら、そっちに守矢神社の分社だって建ってるし。間欠泉の(将来的な)権益だって握ってるし」

霊夢「どちらかというと裕福な方なんだから」

霊夢「あんたがそうそう付け込むスキは――」


パチパチパチパチ……ホカホカ……


霊夢「ん?」


穣子「もう少しでお芋が焼けるわね、お姉ちゃん」

静葉「そうね、いい感じにキツネ色になってきたね」


霊夢「……」

霊夢「ちょっと、そこの野良神ども」


穣子「な!? 人を捉まえていきなり野良神って何よ無礼者!」

静葉「そうよ。折角いい芋が収穫できたから、貴方にも食べさせてあげようかと思って」

静葉「わざわざここの境内までやってきて焼き芋をしているってのに」


霊夢「ごちゃごちゃ言わないでいいからこっちの質問に答えなさい」

霊夢「あんたたち、そこで何を焼いているの……?」


穣子「何って……見ての通りお芋を焼いているのよ?」


霊夢「そうじゃなくて……火種に何を使ったのかって聞いてるのよ?」

静葉「そりゃ、私が落とした落ち葉を敷いて……」

穣子「あ、でもいまいち火の勢いが良くなかったから、神社の中にあった紙束を加えたっけ」

静葉「そうそう、壺の中に入ってた紙束を全部……そう言えばあれ、一円札の束だったかも」


霊夢「……」


穣子「でも、お陰で火の勢いが強くなったもん、別にいいよね」

静葉「あら、そんなことを言ってたら芋がちょっと焦げちゃったわ」

穣子「でも、美味しそうに焼けたみたい!」

静葉「ほら、貧乏巫女も食べる?」


ゴゴゴゴゴ


霊夢「ええ、食べさせてもらうわ――黒コゲに焼き尽くしたあんたたちをね」


――人間の里――


??「油揚げください、いつものやつ」

豆腐屋「はいよ、いつもご贔屓にしてもらってるから1切れサービスしとくね」

藍「あ、これはどうも」


スタスタ


藍(ふふ……あの店のお揚げは絶品だからなぁ)

藍(さて、紫様は“限りなく近くて遠いところ”にバカンス中だから)

藍(しっかりと仕事をこなさないと)

藍(――もっとも、博麗大結界は協力だから余程のことが無い限りは弱まったりしないのよね)

藍(そうだ、ちょっとマヨヒガに寄って行こうか)

藍(お土産ってことで、橙に新しいマタタビを買ってあげよう!)


――死の森――


ギュォォォオオオオォォォォオオ……


玉藻「――どうやら、ここで間違いないらしい」

玉藻「この古井戸の前で、鵺野先生の気がプツリと途絶えている」

ゆきめ「……井戸の奥に、穴が開いてる! 穴の向こうに……あれは……?」

玉藻「強い妖気を感じますね――どうやら、4人はあの結界の向こう側に取り込まれてしまったらしい」

ゆきめ「でも、これほどの妖気を放っている場所……どうして今まで誰も気づかないで」

玉藻「おそらく、何らかの原因で異空間と人間界を隔てる結界に歪みが発生したんでしょう」

玉藻(それが意図的なものなのか……偶発的なものなのかは定かでないが)

玉藻「だから今まで存在すら気付かなかったものが、あたかも突然現れたかのように認識できるようになった」

ゆきめ「……この結界の向こう側には、一体何が」

玉藻「さあて。どうやら私が人間界に来る前にいた空間とはまったく別物の様子」

玉藻「しかも、これほどの妖気を放つ結界――仮に何者かが意図的に作りだしたものだとしたら」

玉藻「相当の実力を持つ妖怪の仕業に違いない。あの鵺野先生もあっさりと飲みこまれてしまったのだ」

ゆきめ「……」

玉藻「私はこの結界の向こう側へ侵入しますが、あなたはどうします?」

玉藻「結界の向こうに何が待ち構えているか見当もつかない。何かあってもすべて自己責任――」

ゆきめ「行くに決まってます!」

ゆきめ「鵺野先生達がひどい目にあっているかも知れないのに……放っておくことなんてできない!!」

玉藻「――そうですか」


玉藻(――まったく、何故かくも非合理的で無謀な行動に駆り立てられているのか)


ゆきめ(鵺野先生、みんな……! どうか無事で……!!)


シュルルルルルルルンッ



                    (第1.5話:博麗の巫女と貧乏神の巻・終)

【今後の予定(場合によっては変更あり)】



第2話「 旧都に佇む怪力乱神 の巻」(来週末までには更新)



第3話「 片腕の仙人と鬼の手を持つ男 の巻」(再来週末くらい)



最終話「 百鬼夜行――そして境界線の向こう側へ の巻」(8月中くらい)



※時間軸は指摘にあった通りぬ~べ~側は覇鬼と和解する以前の段階におけるパラレルワールドです

※毎回、何らかの形で鬼の手の出番がありますが……
 ガチガチなバトル展開は多くないかも知れないので、その点で期待外れになったらすみません

スキマ時間なのでちょっぴり更新

2話の予告編みたいな感じかもしれません


――地底――


コツ……コツ……


ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」

ヤマメ「貴方のその左手も相当厄介だろうよ……幻想郷の連中にとってもね」

ぬ~べ~「しかし、そのスペルカードシステムとやらはなかなか良くできていると思うぞ」

ヤマメ「いやいや、私が考えたわけじゃないんだけどね」

ぬ~べ~「おーい、お前たち――何が出てくるかわからないんだから、ちゃんと離れずについてこいよ」


広「分かってるよー!」

美樹「……て、あれ? そういえば美樹は……?」

――


シーン……


美樹「う~ん、なかなかピーンとくる反応が無いわね」

??「貴方、そこで何をしているの?」

美樹「何って、これはフーチってやつ」

美樹「ま、占いの一種みたいなので、これを使ってお宝の埋まっそうな場所を探してんの」

??「へぇー、それで何か見つかったの?」

美樹「うーん、まだ何にも」


美樹「……」

??「……」

美樹「え……あんた、誰……」

??「誰なのかしら。いいえ誰でもないわ――私はただの路傍の小石」

??「滅多に見つけてもらえない」

美樹「……い、いま……見えている……じゃない……」

??「貴方は私が見えるのね。だったら私と遊びましょ?」

美樹「あ、遊ぶって……何を? ゲーム? それともドッジボールとか……そういうの……?」


??「楽しい楽しい弾幕ごっこ――はじまりはじまりー!」

??「表象『弾幕パラノイア』」



ポワッ!



美樹「え」

美樹「……キャァァァアアアッ!!」

美樹「何これヤバイ! 死ぬ! まだあの世は見たくな~い!!」


ダッ!!


ぬ~べ~「美樹ッ!! そこを一歩も動くな!!」


??「今度は誰?」


シュパパパパパパパパパ!!


美樹「ぬ~べ~!!ナニコレ爆弾!? こっち来るー!!」

ぬ~べ~「南無ッ!!」


コォォォォォォ


美樹「これは!」

ぬ~べ~「お前の周りには防御結界を張った――しばらくは持ちこたえられるだろ」

ぬ~べ~(これが弾幕か! 敵の姿は見えないが――とにかくは向かってくるタマを鬼の手で斬る!!)


シュパァァァァァァァン!!!


??「! えぇ、腕一振りで弾幕を弾いちゃったの?」


ぬ~べ~「本体は――そこか! 闇に紛れし物怪よ、その正体を現せ!」


カッ!


こいし「!」


ぬ~べ~「お前か! 美樹に攻撃を仕掛けたやつは」

美樹「私は最初から見えてたけどね! ていうか、また女妖怪!?」

こいし「貴方にも私の姿が見えるの?」

こいし「……うふふ、やっぱり注目を浴びるのも悪くはない気分だわ」


こいし「それじゃ、次行くわよ――本能『イドの解放』」


シュンシュンシュンシュン!!


美樹「アンビリーバボー! ハート型の爆弾が一杯、ステキじゃないの」

ぬ~べ~「自分は安全圏にいるからって、悠長なことを……」


ぬ~べ~(落ち着いて避けていけば――何とか回避はできそうだが)

ぬ~べ~(ここは一気に片付けるか。うまく行くかは五分五分――無数の霊気が充満し、妖怪にとって非常に棲みよいこの環境)

ぬ~べ~(こいつの秘める力も、一段と発揮できるはずだ)


シュポンッ!!


ぬ~べ~「俺の可愛い管狐よ――飛び交う弾幕を吸い取ってしまえ!」


くだ狐「クウ――――ン!!」

ギュォォォォォォォォォォォン!!


こいし「!!」


くだ狐「……ごっくん♪」


ぬ~べ~(よし――どうやら上手く飲み下せたようだな)


こいし「すごーい! 貴方、変わった遊び方をするのね」

こいし「私もペット、持ってるわよ。前にお姉ちゃんに貰ったんだー」


ぬ~べ~「そうか、機会があれば――また見せてもらいたいものだな」


こいし「さあ、もっともっと遊びましょ!」


ぬ~べ~(どうやら、こいつは美樹を襲うつもりだったわけじゃないな)

ぬ~べ~(単純に、見つけてもらって喜んで、遊びのつもりで勝負を吹っ掛けただけ)

ぬ~べ~(頭よりも先に手が動く――無邪気な子どものようだ)

――

ヤマメ「はいはい、分かったよ」

美樹「ありがと、土蜘蛛さん……私を安全圏に引っ張りこんでくれて」

美樹(それにしても……管狐ってあんなビジュアルだったんだ……)

郷子「先生が結界を張ってたのに、何でヤマメさんの糸で美樹を回収できたの?」

ヤマメ「――どうも、私がその子を助けることを想定したうえで弾幕が止んだ間に結界の強さを弱めたらしい」

ヤマメ「意外なくらい信用されちゃったもんだ、私もアブナイ妖怪なんだけどさ」

ヤマメ「しかしなかなかデキるねぇ、貴方たちの先生さんは」

広「当然さ。先生はこういう方面だったらホント頼りになんだよ」


ヤマメ(さすがにアレが覚妖怪の“変種”だということまでは考え至っていないだろうけれど)

ヤマメ(その性質については、この短い交戦の中である程度見抜いている様子)

ヤマメ(わざわざ引き連れてきちゃったけど、傍から見ているだけでも結構面白いね――この人間達)

>>128の最後のセリフは郷子の発言でした。訂正

>>133>>134の間に以下のセリフ挿入

――

こいし「行くよー」

ぬ~べ~「よし、来い」

ぬ~べ~「お前が遊び疲れるまで――俺が相手になってやる」

ぬ~べ~「もし、先にこちらがバテてしまった場合には――後は頼むぞヤマメくん」

――



――人間の里(郊外)――


ザワザワ……


妖夢(おかしい……何かしら、このざわつきは)

妖夢(いくら博麗神社に続く獣道が近いとはいえ……普通じゃない)

妖夢(明らかに何か、変調が生じているわ)

妖夢(幽々子様からお買い物を仰せつかって人里まで来たけれど、これは霊夢に会って確かめた方が)


里人A「助けてくれぇぇええええッ!!」


妖夢「!」

ダダダダッ ドテッ


里人A「痛ッ!」

妖夢「! どうした――」

里人A「悪かった……もう二度と……道端に春画雑誌(エロ本)なんか捨てねえッ!!」

里人A「だから……命だけはぁッ! 許してくれッ!!」


ダダダダッ


妖夢「おい!! 一体何に追われて――」




??「罪人」

妖夢「誰?」


ギラリ


はたもんば「斬る」

はたもんば「罪人は、首を斬る!」




妖夢「――何者なの、貴方は」

                             (第2話につづく)


――地底――


コツ……コツ……


郷子「はぁー、もう足がクタクタだわ……」

広「そーか? じゃ、……背負ってやってもいいぞ」

郷子「な、何よ急に! 別にいいわよ、そんなに疲れてないから」

広「む……何だよ、折角ちょっと親切心でっていうか……」

郷子「いいのいいの! 余計なお世話」

広(んだよまったく……郷子を巻き添えにしちまったのはオレなんだから……ちっとは罪滅ぼしにって思ったのによぉ)

郷子(自分だっていくらサッカーで鍛えてるっていっても疲れてるでしょ……)

郷子(それに私が2人をちゃんと止めていたら……ぬ~べ~にも迷惑かからなかったし)



美樹「いやはや、アツアツ過ぎて妬けますね~あのお2人さ~ん」

ヤマメ「そうだねぇ、気をつけないと“橋”のたもとでまた危ない目に合うよ」

美樹「橋って?」

ヤマメ「ようは地上と地下を結ぶ縦穴のことさ――そこの門番として橋姫がいる」

美樹「ハシヒメ?」

ぬ~べ~「橋姫というのはだな、ハァハァ……簡単に言うと橋に宿った心霊をだな……ハアハア」

ぬ~べ~「橋を守る女神として……ゼーゼー……たてまつったもので……」

ぬ~べ~「“嫉妬に狂った女性”や……“愛する人を待ち続ける女性”の象徴でもあり……フー」

ぬ~べ~「そもそも橋ってのは……こちら側と向こう側を隔てる境界と言う意味で……」


美樹「やだ、ぬ~べ~。何ヤラシイこと考えながら説明してんの?」

美樹「しかも女神って……誰のことを想像してるのかしら~」


ぬ~べ~「お前なぁ……こっちはずいぶん体力消耗してるんだぞ……」


ヤマメ「結構な時間付き合わされたもんねぇ」

美樹「でもつまり、また女妖怪が出てくるってことで間違いないわけね」

美樹「……もしかして、このゲンソーキョーってとこ、実は女しかいないの?」

ヤマメ「男もいないことはないけれど……まあ、遭遇しやすさの問題かな」

ぬ~べ~「その点を深くは追及しないが……ここに棲む妖怪が“少女”の姿で現出する場合が多いのに理由はあるのか?」

ぬ~べ~「妖怪が本来持っている怖さ、ありのままの姿がすっかり裏側に隠されてしまっているような印象を受ける」

美樹「むー、良く分からん」

ヤマメ「ありのままねぇ」

ヤマメ「それじゃ、試しに私のありのままの姿ってやつを見せてやろうか?」

ヤマメ「この膨らんだ下腹にナニが隠されているのかわかるかい?」

美樹「え、ヒミツ道具とかを隠してんの? 見せて見せて~」

ぬ~べ~「違う違う……たぶん蟲の神秘を見ることになるから止めておけ」

ヤマメ「ま、今のは軽い冗談だよ」

ヤマメ「至極大雑把に言うならば、ここに棲む妖怪達はすっかり丸くなってしまってるから……かな」

ヤマメ「箱庭の中で妖怪や内側の人間その他が共生するためには、力のあるほうが丸くならないとしょうがないのさ」

ぬ~べ~「ふーむ……言わんとしていることは分かるぞ」

ぬ~べ~「“弾幕ごっこ”という決闘方法も、箱庭を壊さずに維持する上で有効と言えるものな」

美樹「いや、全然わかんないんだけど。だからなんで女の子ばっかになるの?」

ヤマメ「……」

ぬ~べ~「……」

ヤマメ「神も妖怪も幽霊も、つまるところは人間の心の作用によって生れて来るんだ」

ヤマメ「よく言う所の“偶像(アイドル)化”だね」

ヤマメ「現世の人間が思い描く妖怪達は、怖いものから少女(アイドル)に変化していったからなんじゃない?」

美樹「はーなるほど。要するにぬ~べ~や克也みたいなスケベ連中のせいでここの妖怪が女の子になっちゃったってことか」

美樹「おまけに、みんなペチャパイばっかで張り合い無いわね~!」

ぬ~べ~「妖怪のアイドル化……確かにそういう解釈も可能なのかもな」

ぬ~べ~「だが俺は断じて小児性愛者なんかじゃないぞ……」

ヤマメ「あれ、そうなの? 先生なのに?」




「きゃああああああああっ!!」「おいお前、郷子を放せ!!」

「貴方達に恨みはないけれど、襲う理由ならいくらでも拵えられるわ。見せつけられて妬ましいからよ」




ぬ~べ~「またなのかー……まったく」


ダッ!


美樹「私達に迷惑ばっかかけて、2人とも子どもよねー」

ヤマメ「貴方達、妖怪に付け込まれる才能があると思うよ」


ぬ~べ~(宇治の橋姫の伝承では“嫉妬の鬼”という側面も取り上げられている)

ぬ~べ~(ヤマメくんが言っていた“蛇の道も蛇”とは――もしや橋姫を指して言った言葉なのだろうか?)


――無縁塚――


ざわ・・ ざわ・・


てけてけ「足……いるか……」

屠自古「……イラネ」

てけてけ「足いるか?」

屠自古「……ヤルヨ」

てけてけ「……大根」

屠自古「……ア?」


小町「う~ん、自称仙人が怨霊の動きがどうこうっていってたから、一番そういう影響が顕著に出そうなところにやってきたけど」

小町「特に問題はないかな」

布都「うむ、何の問題も無かろうぞ」

布都「我が主も何やらイヤな予感がすると案じておられてな」

布都「とりあえず適当なところに行って、様子を見て、報告して安堵してもらおうと思っての」

布都「さてと、屠自古。もう私は帰る」


屠自古「……オウ。アバヨ!」

てけてけ「……」


ポンッ


てけてけ「っ……」

小町「冥土の土産に、お足なんかつけないでいいんだよ」

小町「ここの住人達は、(ほとんど)誰も貴女のことを怖がったりしないし、成仏するのを妨げたりもしない」

小町「外界の者達は、すっかり貴女のことを忘れてしまった――ま、形の上ではそういうことになるからね」

てけてけ「……もう、足を引っ張られることはないのか?」

小町「当然。もう誰も邪魔なんてできやしないさ」

小町「じゃ、逝こっか。輪廻転生――貴女の翻弄された魂を救済する、永い旅への船出だよ」

てけてけ「うん」

布都「霊ではなくあくどい妖怪でも現れたならば、一肌脱いでも良かったのだが」

布都「ふふ――昔の血が騒ぐというものよ」

屠自古「……」




屠自古「……ナニモノダ」

怪人A「……」


スゥー




布都「え、何じゃと?」

屠自古「……ヤレヤレ」

怪人A「……」


布都「んー、誰じゃ、おぬしは」

屠自古「……」


怪人A「……」


布都「何とか言ってくれんかのう?」

屠自古「……」


ヒソヒソ


布都「こやつ、何者じゃ? ――人間にも見えるし妖怪にも見えるし亡霊の類にも見えるし」

布都「私のカンで見抜けぬ相手など……初めてだぞ!」

屠自古「……ウソツケ」

怪人A「……」


ヒソヒソ


布都「どうする、とりあえず火でもつけて燃やすか?」

屠自古「……ナンデヤネン」

布都「あまり良からぬ雰囲気を醸し出しているのでな。こういった面妖な輩は早めに叩いた方が」

布都「いな、まずは道教の教えを説いてとりあえず改心させる契機を与えてから潰すか」

布都「宗教家たるもの、一応それらしい手続きを踏んでからの方が――」

屠自古「……オイミロ」


シーン


布都「――む、消えたか」

布都「まあ消えてしまっては仕方あるまい、帰るとしよう」

屠自古「……ホウコクスル?」

布都「ふむ」

布都「……この程度の瑣末なこと、わざわざ太子様のお耳に入れるまでも無かろう」

屠自古「……オイミロ」


ザッザッザッザッザッザッザッ


ミサキABCDEFG「「「「「「「……」」」」」」」


シャン…… シャン…… シャン…… シャン……


布都「……」

屠自古「……チョットヤバクネ」

布都「ほほう――修験者の一行か。無縁塚で鍛錬を積むとは見上げた心構え」


スタスタスタスタスタスタ……


布都「おう、貴方達はどちらへ向かうつもりじゃ?」

屠自古「……」

布都「ようし、我らも一行についてゆくぞ――何処に向かっているのか気になるのでな」

屠自古「……ソレデイイノ?」


――魔法の森――


ザワザワ……


蓮子(ここは……どこなのだろう)


蓮子(星や月が見えるような時間帯ではない)

蓮子(周囲は見渡す限りの原始林、加えて高温多湿――)

蓮子(ううん、原始林とは言い切れないか、原生林とみなすのが妥当ね)


蓮子「ごほっ……ごほ……」


蓮子(この気管から肺臓を蝕む異様な空気……毒性のあるガスが漂っている? あるいはまさか枯葉剤?)

蓮子(それとも、到るところに生えている茸の胞子がアレルゲンになって……?)

蓮子(この見るに堪えない無数の茸の群生……これは食用になるのかしら)

蓮子(うぐ、何だか視界がぼやけてきた……幻覚作用なんかじゃないよね?)

蓮子(……まるでマジックマッシュルームにでも手を出したような、奇妙な感覚)

蓮子(私はXXXX年7月Y日午前Z時00分00秒にメリーと会う約束をして)

蓮子(案の定遅れて、待ちくたびれていたメリーに声を掛けた――)




蓮子「ごめーん……待った、メリー?」


??「かえして・・・」


蓮子「え、……?」




メリーさん「わたしのお人形……手足が……ないの」

メリーさん「かえして……手足を……かえして……」




蓮子(違う……メリーじゃない)

蓮子(全身真っ白な服を着た女の子、手足の無い人形を抱えている)

蓮子(まるで辺り一面暗闇の底から響き渡るかのような……暗く淀んで、そして悲しみ愁いを帯びた声)

蓮子(とてもミステリアスな存在だけれども……同時にそれはとても怖い存在でもある)

蓮子(これは、メリーが見ている夢なのかも知れない――そして、私は今それを幻視している?)

蓮子(それはおかしい――だって今夜はまだ本物のメリーと落合ってないんだから)

蓮子(だとしたら、やはり夢――これは私の夢?)


メリーさん「わたしの……」


蓮子(この女の子と四肢をもがれた人形は、何かの暗示?)

蓮子(女の子と人形の関係――四肢をもがれた人形を弄ぶ女の子?)


メリーさん「わたしの手足……かえして……!」


ブチィっ!!!!


蓮子「あ――」

蓮子(切られた……違う、斬られた? ううん違う、これはもがれたって言うやつだ)

蓮子「いや、それも違う」

蓮子(もがれたと思っていたけれど……もがれていない。やはりこれは夢の中)

蓮子(とするならば、女の子と四肢をもがれた人形はやはりの暗示)

蓮子「私がもがれた人形ということは、その人形である私を弄ぶ女の子は――」


スゥ……


蓮子「女の子が消えた! え、何この手の平のうちの感触――」


人形「かえして」

蓮子「っ!」


ポトッ


蓮子(握っていた。握らされていた……いつの間にか。――私の手に)


人形「……すてたね」


キィィ


人形「……すてたね!」


キィィィィィ


人形「……すてたね!!」


キィィィィィィィィィ


蓮子「ぐ……」

蓮子(どうすればいい? どうすればこの悪しき夢から逃れられるの、ねぇ、メリー)

蓮子(私が人形を思わず手放した行為――それを彼女は『捨てた』と表現した。強い憎悪と憤怒の感情を伴って)

蓮子(まずは、この人形を拾い直して――よく調べてみることが先決なの?)


ヒョイ


蓮子「あ……」


??「……この人形には、霊魂がこもっているわ」

アリス「普通の人間は、生ける人形に触れてはいけない。だから貴女の手元にあるべきじゃない」

上海人形「シャンハーイ」


蓮子(――また別の操り人形? そして、この人は……)


人形「……かえ……して……」


ジタバタ


アリス「――ずっと、探していたのね。でも、見つからなかった。ううん、見つかるはずがなかった」

アリス「とても長い時間――あなたにとっては永遠に感じられるように永いときを費やして、ずっと探していたのね」

蓮子「貴女は?」

アリス「ついておいで、近くに私の邸(いえ)があるわ。もしかしたらあなたの力になれるかもしれない」




蓮子「え、私――の―――力、に―――――」

シュルルルルルルルン……シーン……




アリス「あ……ごめんね。人間(あなた)に言ったんじゃなくて」


アリス「――人形(あなた)にね、言ったのよ」

メリーさん「……」


アリス「あたたかい紅茶を淹れてあげる。ゆっくりと、人形(あなた)の気持ちを聞かせて頂戴」


                                        (つづく)


――人間の里(郊外)――


ジリ……


妖夢「何者だ――と聞いているでしょう」


はたもんば「許さん」


妖夢(……見たところ、刃物類の……付喪神?)

妖夢(けれど、この妖怪らしさをありありと残す姿――この幻想郷において存在する物怪とは相容れない凄みを持っている)

妖夢(この前起きた異変の鍵になった、打ち出の小槌の影響で突然変異が……?)

妖夢(でも、あの一件は終息したわけで、もう問題ないって霊夢も言ってたわ)

妖夢(だったら、どこからこんなヤツが沸いて……)

妖夢(――外から? 外界から流入してきたというの?)

妖夢(でも、道具自体は結界を無条件ですり抜けることができるのと違って)

妖夢(付喪神になったら容易にはすり抜けられないハズよね?)

妖夢「む!」


タッ……ヒョイ


はたもんば「許さんぞ」


妖夢「この雑誌を捨てたから斬るとか言って……」

妖夢(なになに……『白玉楼の淫美な庭師~禁断の剪定プレイ~』……?)


パラパラ


妖夢「……、……、……な!?」

妖夢「なんだこれはぁー!!!!」


スパーン!


妖夢「あの里人(ケダモノ)めぇ!! 許さん!!」

はたもんば「我ははたもんば、罪人は――」

妖夢「刀の錆にしてくれるわーっ!!!」


――アリス邸――


アリス「ふふ。どう、お口に合うかしら?」

メリーさん「……コクリ」

アリス「そう、良かったわ」

メリーさん「……」

アリス「早く本題に入って欲しいのね――」


上海人形「ソウチャーク」

人形「!」


アリス「右手、左手、それから右足――これらはあの人間(女の子)のいた場所の周りに隠されていた」

アリス「あの子の代わりに私の操り人形が回収して来たわ」

アリス「これらは元々貴女が持っていて、貴女が自分で隠したのね?」

メリーさん「……、……」

アリス「そして」


スッ


人形「あ・・・・」


アリス「――これが、人形(あなた)がずっと、本当に探し求めていたもの」

アリス「――貴女の世界から失われた貴女自身(あなたの心の拠り所)なのね」


メリーさん「左足・・・・・・私の・・・私の左足・・・!!」

人形「――」


……スゥ


アリス「四肢を取り戻した人形は消えた――貴女が貴女自身を取り戻したことで」

アリス「貴女が自らの遺志を仮託した人形は役割を終えて、貴女の中に戻っていった」

アリス「辛かったのね、苦しかったのね」


めぐみ「・・・・う・・・ひっく・・・・」


アリス「貴女にとっては本当に永い時間だったんだと思う――他の誰からも、貴女自身からも忘れ去られた人形の左足は」

アリス「いつしか私の手元に渡っていた――私が、たまたま人形遣いだったからかもしれないし、そうでもないかもしれない」

アリス「そしてこのもがれた人形の左足を、私はどうしても手放せなかったのよ」

アリス「理由は分からない――でも、いつかこの左足が、本来あるべき場所に帰ってゆく」

アリス「そんな予感がしていたから、ずっと捨てずにしまっておいた」

アリス「そして、今、無事あるべき場所に帰っていった――“お帰りなさい”」


めぐみ「ただいま・・・・」


アリス「さ、もう貴女は何にもこだわる必要はない。私の存在にこだわる必要もない――“お帰りなさい”」


めぐみ「・・・・さようなら。ありがとう」


スゥ


アリス(帰って行った――けれども、これであの子が成仏できたのかどうかは私には分からない)

アリス(強い怨恨や辛苦……それらの負の感情を伴って彼女と一心同体と化していた人形)

アリス(その人形と彼女をつなぐ“糸”を切り落としただけ――彼女の傀儡子としての側面を剥ぎ取り、普通の幽霊に戻したにすぎない)

アリス(それから先のことは、私にはどうしようもない)

アリス(私は死神でもなければ、幽霊(にんげん)の心に寄り添える人間でもないのだから)

アリス「……」

アリス(それにしても、外来人と外来霊が同じ頃合いに幻想入りして、同じ魔法の森で居合わせるなんて)

アリス(偶然にしては出来過ぎよね――おまけに測ったようなタイミングで人間はスキマ送り)

アリス「ったく、あいつが何か企んでるの?」

アリス「――でも、これ以外に目立った兆候はまだ見受けられないし、私があれこれ考えることでもないか」


アリス(――さてと、ティーカップを洗ってきましょう)


スタスタ


上海人形「……」

上海人形「……」


ピョンッ ピョンッ


上海人形「マリサーキヲツケテー」


――人間の里(郊外)――


妖夢「魔理沙ー!」

魔理沙「ん、何だ妖夢。また通り魔でもやってんのか?」

妖夢「またって何よ! それよりこの辺りで、顔が卑猥そうな里人を見なかった?」

魔理沙「見てないぜ。というか、どんな顔のやつだよそれ」


ギィィィィ


はたもんば「罪人は、何処だ!!」


魔理沙「わっ! 何だコイツは!」


妖夢「く、あの下劣者め! 私はあちらを探す――はたもんばはそちらを探して!」

はたもんば「よかろう」


ダッ――ストンッ


魔理沙「! 妖夢ー。お前買い物袋落としたぞ。中身も入って……」

魔理沙「ってもう行ったか――仕方ない、ありがたく頂戴するとしよう」




妖夢「て、ちょっと! 返しなさいよ泥棒!」


クルッ


はたもんば「盗人?」

魔理沙「ん? おい妖夢、あのゴッツイ奴が振り返って」


はたもんば「盗人は、首を斬る!!」


ギュィィィィン!!


妖夢「!? 危ない、魔理沙!!」


ガスッ!! ギギギギギギ……


はたもんば「斬る!!」

魔理沙「お、おいおい……いきなり襲ってくるとはよ!」

魔理沙「幻想郷のルールってモンをお前分かってんのか?」


ギギギギギギ……


妖夢(――ミニ八卦炉であの車輪状になった剣を受け止めたか)


はたもんば「……」

魔理沙「八卦炉(こいつ)にはいろんな能力が備わっていて――魔除けにも使えるんだ」

魔理沙「さーて――売られたケンカは掛け値なし、きっちり買い取るからな!」

魔理沙「恋符『マスター」


ピシピシピシッ……

魔理沙「んなっ!?」

はたもんば「罪人め、許さんッ!!」




妖夢「八卦炉にヒビがっ! 回避して魔理沙!!」


シュンッ!!


魔理沙「言われなくてもそうするぜ! クソッ、私の宝物によくもキズを……!」


はたもんば「許さんぞォ!!」


魔理沙(とりあえず空中に逃れたが――コイツ、まるで会話が成り立たないな)

魔理沙(妖怪らしさ丸出しってやつだ! スペカなんてハナから理解できてねーだろ!)

魔理沙(第一、私が罪人だと? 何言ってんだコイツ……私はただのシーフなんだぜ!)

魔理沙(――どうして私が首を斬られないといけないんだよ!!)

キラーン


妖夢「魔理沙、貴女の箒が! 早く下に降りた方がいい!」

魔理沙「なに、私の箒がどうしたって……痛ッ!」

妖夢「側面が――鋭利な刃物に変化しているわ!」


シュタッ


魔理沙「手が・・・! 手がー・・・!!」

妖夢「ちょっと大袈裟ね……」


はたもんば「罪人、逃してなるものか」


ジリジリ……


魔理沙「あんにゃろ、よくも……やりやがったなッ……! 降りた拍子に帽子も落としちま――」


ギラリ


魔理沙「って何だこりゃ、帽子のつばも刃先になってる!」

妖夢(――今のはたもんばの力、幻想郷流に言うなら“あらゆる物を刃物に変える程度の能力”ってところかしら)

妖夢(――変質者、魔理沙と、たとえ悪事を働いたと言えども問答無用で殺しにかかっている)

妖夢(このまま放置していたら、マズイわ)

妖夢(外界から連れてこられた人間と違って、人里の人間が妖怪に殺され続けたら――)


はたもんば「斬る」


魔理沙「ちっ……今度は油断しねぇぞ」

妖夢「――待って、魔理沙」

妖夢「もともと、はたもんばを魔理沙の前まで引き連れて来たのは私なんだから」


妖夢「私が、こいつの相手をするわ」


ジャリ……


はたもんば「……」

魔理沙「おい待て妖夢! それじゃ私の腹の虫が納ま――」


スゥー


魔理沙「! 誰だ」




??「――赤が好き? ――白が好き?」




魔理沙「は?」


怪人A「それとも――青が好き?」


魔理沙(何なんだよ今日は……ヘンな連中がやたらめったら現れやがって!)

妖夢「この魂魄妖夢、斬れぬものなどあんまり無い! ――尋常に勝負せよ」


はたもんば「我を邪魔立てするか!」


妖夢(――とはいえ、八卦炉にヒビを入れるとは尋常じゃないわ、あの切れ味)

妖夢(考えられる理由は、この妖怪が外界でも力を失っていないから?)

妖夢(本来なら外界で居場所を失い、力を発揮しづらくなった妖怪が流れ着く場である幻想郷)

妖夢(一方で、現世においても外界で力を発揮している外来妖怪なら……相対的な強さが上がるということ)

妖夢(――いや、それは憶測にすぎないし、今は考えていても仕方がない)

妖夢(――ともかくも、今やることは目の前にいる敵を斬ること!)


はたもんば「退け」

妖夢「食らえ! ――断霊剣『成仏得脱斬』」


ブォン!!

はたもんば「退けッ」


ギュルギュルギュルギュル!


妖夢「! 弾幕(剣捌き)を斬られたか――」

妖夢(両刀を交差させて舞い上がらせた剣閃の柱――それを意図もあっさりと)

妖夢(やはり、弾幕勝負ではケリをつけられないわ)

妖夢(かくなる上は、体術・妖術を駆使して――直接的な斬撃でこいつを仕留める!!)


はたもんば「退けッッ!」

妖夢(――楼観剣!)


キィ――――ン!!  ズザザザザザザザ!!


はたもんば「ぬぅ!」

妖夢「くッ!」

妖夢(タテに廻る車輪剣を楼観剣の腹で受け止めることができた!)

妖夢(相手の勢いに押されてここまで後退りしてしまったけど――魔理沙(ターゲット)から距離を置くことになり好都合ね)

妖夢(後は押し負けないこと!! 機を見計らって相手の急所を貫く!!)


ミシィ……!


妖夢(! 馬鹿な、一太刀で霊十匹を片せる楼観剣に……亀裂がッ!!)


はたもんば「退けッ!!!」


ギュォォォォォオオオオ!! ――パーンッ


妖夢「しまった! ――車輪剣の回転速度が急激に増して、勢いで楼観剣が弾かれ――」




ブシュァァァァ!!

妖/夢――シュルルン!

半霊「ホッ……」




はたもんば「!!」


ザッ


妖夢「――こっちよ」

妖夢「貴女の刃の餌食になる寸前に、半霊と入れ替わったわ」

妖夢「魂符『幽明の苦輪』で私の“みがわり”に仕立て上げて」


ヒュルルル ストンッ


妖夢「宙を舞った楼観剣も私の手元に戻った――少し歯毀れしたけれど、まだまだ十分使えるようね」



はたもんば「……」

妖夢(とはいえ、あの車輪剣に対抗するには――やはり家宝(白楼剣)を使うしかない)


はたもんば「……」


妖夢「私はまだまだ修行の足らぬ未熟者――けれども、お前を倒すためには」

妖夢(私ではあの妖刀(はたもんば)を斬ることなどできない――その迷いを断ち斬れ)

妖夢(これほどまでに罪人を裁き殺めんと執心するこの怪異――その混迷なる精神を断ち斬れ)


はたもんば「おおおッ!!」


ギュォォォォォォォォォォォ


妖夢「私の師である妖忌様に、無様な姿を曝け出すやも知れないという――心の弱さ」

妖夢「私の魂と魄の弱さを、断ち斬れぇ―――――――ッ!!!」




パリィィィィィィィン

妖夢「……、……った……」


フラリ


はたもんば「見事。我、あるべき場に……帰らん」


シュウウウウン……


妖夢「度し難い敵を、斬ることができました。お祖父様……幽々子……様」


ジャリ……


??「ほら、あんたの大事な買い物袋――ここに置いてくよ」

赤蛮奇「首がどうだこうだって、大騒ぎしてたから……気になって陰から様子を見てたの」

妖夢「zzzz……」

半霊「zz……」


赤蛮奇(あら、寝てる。今ので相当精神力を費やしたのか?)

赤蛮奇(そして、あのはたもんばとか言う付喪神……元の妖刀の姿に戻った途端、消えてしまった)

赤蛮奇(けれども、それは折れてはいなかった――物理的に斬られたわけじゃない)

赤蛮奇(じゃ、何を斬られてしまったんだ? 私にはよく分からないね)

赤蛮奇(そして消えた先は……たぶん、結界を超えて外の世界へ)

赤蛮奇(でもあれほど強い妖怪なら――普通は大結界に遮られて出入りなどできないはず)

赤蛮奇(何者かが結界に干渉して、異変でも引き起こしてるんじゃないでしょうね?)


赤蛮奇「まー私には関係ないけど」


里人A「助けてくれぇえええッ!! ――生首が空を、飛んでるゥっ!」


ダダダダダダッ


赤蛮奇(え、私のことばれた!? 上手く溶け込んで里に棲んでるってのに!)


ハゲ頭「ぱたぱた、ぱたぱた」


赤蛮奇(え、な……何アレ、は……)


――??――


メリー「おーい、蓮子。いい加減起きなさいよー」


蓮子「……うう~ん……うん……? はっ!」


蓮子(――夜空が見える。現在時刻午前2時22分22秒、……胡蝶の夢としては少し長かったかも知れない)

蓮子(それにしても、なぜあの女の子は私に対してあの人形を見せたんだろう)

蓮子(いや、私が見たかったのか? 私があの人形を見たかったから、あの女の子が私の夢に現れたのだろうか)

蓮子(でも、夢の現象学の知見からすると――あ、ううん、あれこれと思索を巡らすのは後にしよう)


ガタッ


蓮子「メリー! メリーなのね!! 良かった、メリーはちゃんといてくれたのね」

メリー「何言ってるの……今更? いつも貴女の隣にいるじゃない」

蓮子「ふふ……ほんのちょっぴり怖い夢を見ていてね。夢と現(うつつ)の境界が曖昧になっていたのよ」

蓮子「……もう少し時間があれば、理論的な解析も可能だったかもしれない」

メリー「ふぅん。――でも時差の引き算がパッとできない蓮子なんだから、そんなことがあってもいいんじゃない?」

蓮子「それとこれはまたベツモノなのよー」

メリー「まあ、それより――早速今夜の秘封倶楽部の活動を始めようじゃないの」

蓮子「そうね。……えーと、今日は何をする予定だったっけ?」

メリー「ほら、あの有名な怪談的都市伝説について調べようって言ってたでしょ。降霊術で呼び出しを試みようと」

蓮子「うん。あれ、それで何を呼びだそうとして――」


メリー「――私、メリーさん。今貴女の眼の前にいるの」


蓮子「きゃぁぁあああああっ!!!」

ギュ

メリー「あらら、何を怖がっているのよ――よしよし」


――地底――


美樹「嫉妬深い妖怪だったわね……ああイヤだわ、ああいう大人にはなりたくない」

郷子「あ、ありがとう広……私を助けようと、あの妖怪(ひと)に……その、立ち向かってくれて」

広「……最初に言ったろ。何かあったらオレが敵を吹っ飛ばすってよ」

美樹「でも、突っ込んでって吹っ飛ばされたのは広のほうでしょ――ぬ~べ~がすぐ駆け付けなかったら危なかったじゃないの」

広「……う、それは」

ヤマメ「にしてもよく、掠り傷程度で済んだもんだ」




ヤマメ「しかしその手、いろんなことができるねぇ。便利そうで少し羨ましいよ」

ぬ~べ~「いや……確かに色々と使いようはあるが……その代償も大きいからな」

ヤマメ「……、まあ、それはそうだろうね」

ぬ~べ~「……」

ぬ~べ~「――それで、この先にいるんだな」

ぬ~べ~「――俺、いや鬼(こいつ)に面通しさせてみたいって鬼(やつ)が」

ヤマメ「まぁね」

ヤマメ「でも、そんなに気張ることも無いと思うよ」

ヤマメ「おそらく、貴方が想像している鬼(それ)とは相当乖離していると思うから」

ぬ~べ~(確かに……これまでに見て来た幻想郷の妖怪のことを思えば、それはそうかも知れないが)

ぬ~べ~(俺が最も恐れているのは――)


チラリ


ぬ~べ~(その鬼を前にして、コイツが一体どういった反応を見せるのか)

ぬ~べ~(そこのところだ)

ぬ~べ~(それから――やはり餅は餅屋ということだな)

ぬ~べ~(もしその鬼が、コイツを封印する上で……代替できる方法を知っているとしたら)

ぬ~べ~(どうにかして……聞き出したい)

ぬ~べ~(あなたを助け出すためにです――先生)


グッ


ヤマメ(鬼の力を得た代償は、そんなに大きいものかい?)

ヤマメ(いや、それはそうか……何せ、鬼の力なんだから)

ヤマメ(でも、その鬼の力がなければ――いくら霊能力先生といえども、ここまで子どもらを守って来れたとは限らないんだろう?)

ヤマメ(皮肉な話だね)


――??――


??(博麗神社は倒壊しても、大結界はビクともしなかった


だが、本殿を炎上させることによって、大結界を弱め、局所的なねじれを発生させることに成功した


これで、一時的に境界を超越しやすくなった外界の魑魅魍魎が博麗神社に押し寄せることになった


う~ん、他所からも沸き出てるみたいだけどね



なぜならこの幻想郷(せかい)ほど、連中の力が発揮される場所はないだろうから本能的に引き寄せられちゃうんでしょうね


元来は幻と実体の境界であり、現在は博麗大結界として二重に外界を遮断する結界にあけた風穴――


単に外界で忘れらさられ、“勢力の弱まった妖怪”達だけではない――


未だに文明化の進んだ外界の闇(かたすみ)に潜み、畏怖の対象とされている“残忍な猛者達”も――



今、この瞬間に、結界という見えない壁を乗り越えて幻想郷に押し寄せてこよう!


ならば“幻想郷流の戦い方(おあそび)”の枠に囚われないホンモノの決闘をすることができる!


暇潰しにはもってこいのイベントよね!




――さあ来い、平和(タイクツ)な日常に水を差すナラズモノ達よ


                    私の隙(ヒマ)を――突き崩せ~っ!!)



   


                                    (第2話・旧都に佇む怪力乱神の巻<前編>・終)


――守矢神社――


フキフキフキ キュキュ


早苗「ふう、床の雑巾掛けはこれで終わりですね」

早苗「はあー、毎日のことですけれど……結構腰にくるんですよねー」

早苗「でも、境内をはじめ神社の隅々までピカピカにしておくことは、信仰獲得の上でもとても大事なことです」

早苗「神社の清潔さは、すなわち神聖な空気感そのもの――」

早苗「それは日常から離れた尊い価値あるものとして人々を惹きつけ、ひいては篤い信仰心を育みます」

早苗「潔癖症のひとはいても不潔好きなひとなんて普通はいないんですから!」

早苗「まずは日々の心がけが大事なんですよね」


早苗「さてと――使い終わった雑巾をしっかり洗って干しておきますか」

早苗「白うねりになったりしないように――あら?」

早苗「まだ、隅っこのほうに埃が残って」


ヒョイ


早苗「あれ……これは……、……生き物?」


フワフワ……


??「……」

――


パフパフ パフパフ


神奈子(よしよし、いつもより肌の潤いが増して艶やかになった気がする)

諏訪子「んー、神奈子。今日は随分とお化粧凝ってるね」

神奈子「ああ、人里に買い物に行ったときに新しい化粧品の試供品をもらってね」

神奈子「試してみてるんだ」

神奈子「やはり神というもの、身だしなみには細心の注意を払わないとね」

諏訪子「ああ、最近神奈子、肌荒れ気味だもんね。もともと小ジワも」

神奈子「ん、今何て?」

諏訪子「ううん、何でもないよ」

神奈子「――それより、諏訪子は気付いたか」

諏訪子「――そりゃ、まあ気付くよ」


諏訪子「博麗神社の脇に立てた守矢の分社に、何かあったようだね」

神奈子「ああ。ま、おそらく火の不始末でボヤでも起こしたんじゃないかと思うが」

諏訪子「うん、あの巫女ならありそうな話だね」

諏訪子「案外、後々私達が博麗神社を乗っ取る布石なんじゃないかって勘繰って潰したのかも」

神奈子「流石にそれはないだろう、分社と言ってもちんまりとした鳥小屋のようなものなんだから」


スタスタ


早苗「神奈子様ー、諏訪子様ー、ちょっとこれを見てくださいよー!」


――妖怪の山――


ザワザワ……


ゆきめ「いろんな妖気が入り乱れていますね……この山」


玉藻「確かに」


ゆきめ「それで、ここは一体どこなんでしょ?」

ゆきめ「実は童守町から遠く離れたどこかの山の中ということも――」


玉藻「それも可能性としてはなくはないと思いますが……」

玉藻「あなた、雪女なら山の神との関わりが深いのでしょう?」

玉藻「この地に何か心当たりはないんです?」


ゆきめ「う~~~ん……」

玉藻(――てっきり結界を張った張本人にすぐにでも御目見えできると思っていたが)

玉藻(そうも上手くはいかないらしい)

玉藻(だが、古井戸(パワースポット)で感じた妖気に近いものが……うっすらとこの周辺にも残っている)

玉藻(割とそう遠くない場所に、あの結界の生成に関与している者がいると見た)


ゆきめ(故郷の山でもないのに……微妙に懐かしい感じがするのよね、ここ)

ゆきめ(そして――この山の上には一体何が? 無性に気になる!)


玉藻「この際、二手に分かれて探すとしましょう――事は一刻を争う」


ゆきめ「ええ――でも、もし先に鵺野先生達を見つけたら、すぐに狐火か何かで知らせてくださいよ!」

ゆきめ「それか小さな手掛かりでも、とにかく何か見つけたらすぐにすっ飛んで行きますから!」


玉藻「……」


ゆきめ「絶対ですよ!!」


玉藻「……善処しましょう」


ダッ


――妖怪の山(マヨヒガ)――


ニャー ニャー


橙「おや、藍様もうお帰りになるので?」

藍「ああ、少し野暮用が出来たらしいからね」

藍「もし猫の手も借りたい状態になったら橙を呼ぶだろうから、その時は」

橙「はい、何なりとお申し付けください。マタタビも頂きましたから!」

藍「うん。それじゃ」




――

藍(やれやれ……これは霊夢がわざと大結界を弱めているのか?)

藍(誰よりも幻想郷を愛してやまない紫様が、こんなリスクの高い行為をなすとは思えないし)

藍(あるいはまた別の原因があって……)

藍(ともかく早めに状況を分析して対策を講じる必要があるな)

藍(油揚げ(これ)を味わうのは、一仕事終わらせてからになりそうね)


――妖怪の山(茨華仙の屋敷)――


華扇(う~ん)

華扇(なかなかあの子、戻って来ないわね)

華扇(まさかとは思うけど……危険な目に遭っていたりして……心配だわ)


華扇「やっぱり――私が直接向かった方がいいわね」

華扇(それに地底に行くこと自体は、満更でもないし)


華扇「あ、その前に――」

華扇(守矢神社に寄って行きますか――私が感じた不穏な予感のことを一応伝えに行きましょう)

華扇(地底と地上をつなぐ穴として一番ポピュラーなのは、ここ妖怪の山にあるものだしね)

華扇(天狗達には……まあいいか。もし事が起これば、彼らなら組織的かつ迅速な対応できるだろうし)


タッ


――人間の里(郊外)――


怪人A「……」


魔理沙(! ……刃物と化した箒と帽子のつばが、元に戻った)

魔理沙(ということは、妖夢のやつ……あのバケモノ刀を倒したのか?)

魔理沙(しっかし、ミニ八卦炉にキズをつけるたぁ……たいしたやつだ)

魔理沙(まあ、表面のコーティングが少し削られた程度で――これから使うのに支障はないだろ)

魔理沙(あとで香霖堂に行ってもう一度……ったく、迂闊だったな。でも、普通考えられねーよ……コイツにキズが)

魔理沙(……)


魔理沙「っと、後悔はあんまり先にも後にも立たないな――とりあえず今はお前だ」


怪人A「……」


魔理沙「何者なんだ? 人間か? それとも――」

魔理沙「はっきり言っていい感じがしないぜ、お前」

怪人A「赤? 白? 青?」

怪人A「 ど れ が 好 き ? 」




魔理沙(……こいつ、これしか言葉知らねえのか?)

魔理沙(おまけに何なんだこの薄気味悪さは――掴みどころがねぇ)

魔理沙(とりあえず、答えてみるか?)

魔理沙(好きな色って聞かれたら……魔術師的にはアレだが、3つの選択肢には挙がってない)

魔理沙(だったら――)


――人間の里(移動屋台)――


ジュー ジュー グツグツ


ミスティア「メッチャメチャ苦しい敵機(かべ)だって不意にぃ~なぜか~♪」

ミスティア「撃ち落とす勇気とパワ~湧いてくるのよ~♪ 微笑みの弾幕~♪」


小町「最近この店、人間の里に出しているの多くない?」


ミスティア「まあね、場所代だけでも高くつく時代だから、いろいろ考えて移動してるわ」


美鈴「そういえば前に博麗神社に屋台を出してましたよね」


ミスティア「ああ、それ話はこれ以上止めてくれない?」


小町「いやー、あれは不幸な事件だったね」

チラ

小町「あれ……?」

美鈴「どうかしましたか、小町さん?」

小町「さっきそこの傘立てに私のカマを立てておいたハズなんだけど……知らない?」

美鈴「……いえ、知りませんけど。そこにありませんし」


ミスティア「本当に持ってきてたの? 私にも心当たりはないよ」


小町「そりゃ、お仕事中だから持ってないわけないさ」

美鈴「またまたー、貴女サボっているだけでしょ?」


小町(……ヤバイな。さすがにあれを無くしたとなっちゃ……ヤバイわさ)

小町(早く見つけ出さないと……映姫様にカミナリ落とされちゃうよー!)


――人間の里(中心部)――


里人B「なんだ……ありゃッ!」

里人C「首が沢山飛んでるぞ!!」

里人D「落ち着け、皆の衆!!」




ハゲ頭達「パタパタ、パタパタ」




ビューン


妹紅「い、今の見た、慧音? あれって確か……」

慧音「飛頭蛮の群れ。中国発祥の妖怪だけれど、同じように首とかかわりの深いろくろ首に比べたら、知られていない方よ」

妹紅「全員、頭皮が薄いようだが……そういう種族なの?」

慧音「うーん、それは……」

赤蛮奇「ちょっと、あんなハゲ連中と一緒くたにしないでよ!!」

妹紅「え、貴女も……もしや飛頭蛮」

慧音「さっきのは貴女の仲間?」


赤蛮奇「違うわよ! あんなのと同視されたら迷惑だわ」

赤蛮奇「たぶん、外界に残っている僅かな生き残りが……今回の騒動に紛れて入って来たんじゃない?」


妹紅「今回の騒動って、どういうことよ?」


赤蛮奇「とにかく、おかしなことが起きてんの。あんたら、里の人間達を案じてるなら気をつけな」

赤蛮奇「話の通じない連中が攻めてくるかも知れないよ!」


タッ!


妹紅「お、おい!」

妹紅「――さっきの群れを追いかけて行ったのか。今のあいつの言葉――どう思う、慧音」

慧音「……、妖怪が人間の安全に関してわざわざ忠告してくるなんて……そうそうないことよね」

慧音「念のため、里周辺を見回りに行く」

慧音「里で妖怪退治を専門としている人達にもこのことを伝えて、警戒に当たってもらおう」

妹紅「そう。それじゃ――私も手伝うよ」




――


ザッザッザッザッザッザッザッ


ミサキA「……」

ミサキB「……」

ミサキC「……」

ミサキD「……」

ミサキE「……」

ミサキF「……」

ミサキG「……」


スタスタ


布都「再思の道を通り過ぎて、魔法の森を越えて、命蓮寺を素通りか……となるともうじき辿り着くのは」

屠自古「……ヒトザトカ」

布都「……さすがにマズイの。この連中、どうも亡霊っぽいし、人里に入ったら混乱を招く恐れが」

布都「とりあえず足止めをして、我らが太子様の道場にでも連れてゆくぞ」

布都(といってもこの連中、さきほどから声を掛けても全く反応を示さない)

布都「よし、少し強引にでも連中の動きを止めてやるとするか!!」


屠自古「ヤッテヤンヨ!」


バッ!!


ミサキFG「「!?」」

布都「よし、とりあえず最後尾の2人から錫丈を奪ってこちらに惹き付けたぞ!(※強盗)」


屠自古「オンリョウ『イルカノイカヅチ』(※殺人)」


ピシャ――――――――ン!!!!!

シュ―――――――――


ミサキABCDE「「「「「・・・・・・・」」」」」



ミサキFG「「・・・・・にっこり」」


シュウン


布都「! 今の一撃で……む! 2人は……もしや成仏したのか!?」

屠自古「……ヤッタナ」

布都「ふふ、まさか迷える亡霊の魂を救うことになるとは――増長するわけではないが、悪い気はせぬなぁ」


ミサキA「はぐれぇ!!」

ミサキB「はぐれはおらんかァ!!」

ミサキC「向こうじゃー!! 人間のニオイじゃー!!」

ミサキD「人間がおるぞー!!」

ミサキE「いま、迎えに参らんッ!!!」


ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ


布都「……」

屠自古「……」

??「ぎゃあああっ!!」

小傘「何なのよ今のは!? すんごい怖そうな奴らが人里に向かってったよ!? ああ……吃驚した」


布都「……」

屠自古「……」


小傘「ねぇ、貴女たち……アレほっといていいの? 何だか、でんじゃらすな様子だったけれど」


屠自古「……ヤバイネ、オウヨ!」

布都「うむ、これは少し見過ごせぬな、追うぞ!」

布都「ついでにここで出くわしたのも何かの縁よ、お主も来るのじゃ!!」


ガシッ


小傘「え? ちょっと待って、私暇じゃないからイヤ! 遊びって雰囲気じゃないしとにかくイヤ!」


ダダダダッ


小傘「嫌ぁぁあああぁぁ行きたくな――――――いっ!!」


                                   (つづく)


――守矢神社――


??「……」


早苗「これ、何なんでしょう」

早苗「さっき、お掃除中に見つけまして……最初は埃かなって思ったんですけど」

諏訪子「何だろうねこれ、植物の綿毛っぽく見えるけど、目ん玉がついてるし」

神奈子「目玉がついているんなら動物なんじゃないかい?」


??「……」


早苗「動物なのか植物なのか。とりあえず、今夜のおかずにでも」

諏訪子「ちょっと待って、私は味噌汁の具の方が合うと思う」

神奈子「いや待って、こいつもしかしたら小妖怪の一種かもしれないよ」


??「……」

早苗「妖怪? こんなフワフワしたのがですか?」

神奈子「ほら諏訪子――以前にこういう感じの生物の話題が巷で噂になっていたことがあったろう?」

諏訪子「あったっけ?」

神奈子「ちょっと、よく見せてくれ」

早苗「わかりました、どうぞ」


ジー


神奈子(これは……確か……)

神奈子「諏訪子、そこのおしろい入りのケースを取ってくれ」

諏訪子「これ? 厚化粧にさらに上塗りするの?」

神奈子「こうするんだよ」


サラサラサラサラ……


\ポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッ/

諏訪子「わわっ」

早苗「えっ急に数が増えちゃいました!? おしろいの粉を振りかけただけで!」

神奈子(やっぱりか、……これに反応して増殖した)

神奈子(――よし、ならば次は)

神奈子「――早苗、何か欲しい物でもないか?」

早苗「え、欲しい物?」

早苗「そうですねー、うーん……神社の参拝者さんですかね」

早苗「それからー、高級スイーツとか」


トントン


「あら、華扇さんじゃないですか。どうしてこちらに」「うーん、まあ参拝客ってことかな。ちょっと貴女たちに伝えたいことが」

「あ、これ訪問ついでにお土産ね」「わー! 美味しそうなお菓子ですね、これはどうも」



諏訪子「あら、ちょうどいいじゃない。動物に詳しいひとが来たから聞いてみれば――」

神奈子「いいや、もうその必要はないな」


\ポーンッ/


神奈子「一匹消えたか……間違いない」

諏訪子「え、何が間違いないって?」

ガタッ


諏訪子「あ、ちょっと何処行くの神奈子?」

神奈子「諏訪子も手伝ってくれ。上手く量産できれば――」

諏訪子「量産って、この小玉なやつを?」


神奈子(フフフ、囲いには紙垂(しで)を使うかな。この小妖怪、早苗とともに我々が上手く扱うことができれば……!)

神奈子(地道な産業革命を推進するよりももっと手っ取り早く、膨大な力を手に入れることができる)

神奈子(僥倖だ。こいつはまさに僥倖のタネ――)

神奈子(手軽な奇跡を起こすなら、わざわざ頼ることもないが――)

神奈子(大いなる奇跡を起こすには、多大な労力とそれ相応の代償を伴うからね)

神奈子(そして――代償が大きすぎるから、実現不可能なこともままある)


神奈子「貴方たちのチカラ――幸運をもたらす程度の能力――を活用させてもらうとしよう」

神奈子「――ケサランパサラン達よ」


\ケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサラン/


――霧の湖――


わかさぎ姫「へぇ、外の世界からはるばる幻想郷(こちら)に?」

速魚「いやー、それほどでも」

わかさぎ姫「でも、ここ淡水よ。貴女の肌に合う?」

速魚「あー、私、人間に変身して歩くこともできますし大丈夫ですよー」

わかさぎ姫「本当に? 凄いわね、今度コツを教えてくれない?」

速魚「いいですよー」

速魚「それにしても霧が濃いですねー、ここ。どうして?」

わかさぎ姫「……さあ、どうしてかしらねぇ」


ザッ


咲夜「あら、湖の周辺の掃除でもしようかと思ったら……見慣れぬ半漁人が二匹いるわね」

咲夜「外来魚かしら? 一応駆除したほうがいいか」

わかさぎ姫「って!? 貴女、私とは面識あるでしょ!」

速魚「こんにちは」


咲夜「丁度いいわ、今夜は魚料理にでもしましょうか――魚の血液ってカリウム分多そうよね」


わかさぎ姫「ちょっと、食べる前提で話をしないでよ!」

速魚「どうぞどうぞー、私を食べたら不老不死になりますよ」


咲夜「あら、そうなの。特段面白くもなんともない冗談ね」

咲夜「じゃ、私は忙しいから」


スタスタ


速魚「あれー、行っちゃいました」

わかさぎ姫「それで、貴女はこれからどうするの? 一緒に歌でも歌う?」

速魚「えーと、人を探してて。とりあえず一緒に歌いましょう」


「「おぼえていますかー♪ 眼と眼があったときー♪」」


――地底(旧都)――


くだ狐「スリスリ」


竜「~!!?」


ザッ!!


くだ狐「クーン(はぁと)」




ぬ~べ~「おいおい、驚いて逃げちゃったじゃないか……まだ子どもの竜のようだったな」

ヤマメ「うーん、そのペットよりもむしろ鬼の手を見て驚いていたような」

広「出逢っていきなりナンパするあたり、性格が飼い主にそっくりだよなー」

郷子「ほんとよねー」

ぬ~べ~「おいおい……俺は初対面の女性相手にそんなことは……」

美樹「でも、こんなところに竜なんていたのね。捕まえたら高く売れそうだったのに……惜しかったわー」

ぬ~べ~「お前なぁ! 神聖な生き物に対してそういう賤しいことを考えるな……罰が当たるぞ」

ヤマメ(竜なんて地底にいたかな?) 

ヤマメ(まあ、地底は広いし何がいても不思議じゃないからねぇ)


――

勇儀「くー! やっぱり酒はいいねぇ」

正邪「さあさあどうぞ、お注ぎいたします」

勇儀「おう、頼むよ」

ぬえ「……」

正邪「さ、さあ……そちらも」

ぬえ「ねえ、何でこんな小物妖怪がこの場にいるの?」

正邪(居たくているわけねーだろ。誰が好き好んでこんな連中に酌なんかするか!)

勇儀「何でって、そこらへんをほっつき歩いてたから捕まえたんだよ」

ぬえ「あらそう? つまり、地上を追われて地下へ逃げて来たってわけ」

正邪(違う! 逃げたんじゃない、あえて地底を逃げ道に選んだんだ!!)


ぬえ「確かこいつ、弾幕ごっこの域を超えてもいいから殺害しろって御触書が出てたよね」

ぬえ「あれ、まだ有効なのかしら?」

正邪「……」


勇儀「そんなことは別にいいだろう。ここは地底だ――ならず者だろうが天邪鬼だろうがとりあえずは受け入れてやる」

勇儀「もともと忌み嫌われて地上を追われた者達の最後の砦だったんだから、来る者は拒まない」

勇儀「――最近は、去る者を追わないことの方が多かったけれど」

勇儀「今日は無礼講よ。何にも気にせず、ほらお前も呑め」

正邪「……い、いえ私はがぼっ!?」

ぬえ「ほら呑め呑め。瓶を逆さに一気に呑み干せばいいのよ。酒はいくらでもあるから気にしなくていい」


正邪「んっ……んぐぐっ……っ……」


勇儀「ところで貴女は何しに地底に舞い戻ったんだい?」

勇儀「あのお寺、破門になっちゃったのかな?」

ぬえ「違うわ、私はその……在家信者だから。どこでどういう修行をするかは自分で考えているの」

勇儀「ふーん、でも酒を呑むのは飲酒戒(おんじゅかい)ってやつでダメじゃなかった?」

ぬえ「う、……確かに聖はお酒を完全に断っているわ。でも妖怪僧達はほとんど戒律を守ってないし」

ぬえ「だからちょっとした気晴らし……気分転換というか」


正邪「……むぐ! んーんー!」


勇儀「そうだねぇ。ま、妖怪に戒律を守れって縛りつけること自体そもそも無理があるんだ」

ぬえ「! それでも、聖の行いは間違っては――」

勇儀「ああ、ひとえに間違ってるとは思わないよ。この話はあんまり深入りするもんじゃないね」

勇儀「で、さっきの話に戻ろう――ここに何しに来たんだ?」

ぬえ「それは……その……、たまには自分が封じられた忌々しい場所を再び訪ることで、えーと」

勇儀「ああ、未だに他の門徒(やつら)と打ち解けられないのか。だから寂しくて昔馴染みな地底に――」

ぬえ「ち、違う!!」


正邪「……げぽっ、げほ」

ぬえ「打ち解けられないんじゃないのよ! 向こうが私を仲間外れにしてるんだ!!」


シュポンッ


ぬえ「ほらもっと呑め」


正邪「がぼっ!? んぐっ……んっ……!」


勇儀「そういや地上(うえ)と通じてて情報通な輩が言っていたけれど、なんでも貴女、外から古狸を寺に連れ込んだらしいね」

勇儀「老獪な妖怪に間を取り持ってもらえば、連中とも仲良くできるんじゃないの?」

ぬえ「……だって。私達は一足遅れて入門したのよ。それだけでも居心地悪いのに」

勇儀「でもほら、見越入道や舟幽霊とかは一緒に地底に封印されていた仲だろう?」

ぬえ「でも、別に仲良くなんかなかったわ。誰も私に話しかけてくれないのよ?」

正邪「う……げっぷ……」


カラーン


ぬえ「あの存在感が希薄な坊主なんざ……私をつっけんどんに“鵺さん”呼ばわりしてたんだぞ!」

ぬえ「どいつもこいつも……私をのけものにするな! ほらもっともっと呑め!」


正邪「う……うぐっ!!」


ぬえ(……あいつらは決してイヤな奴らではない。むしろ良い奴だと思ってる……だから尚更私は……)

勇儀「で、寂しいから地底の知己と久々に酒酌み交わそうってわけで来たのか?」

ぬえ「いいえ、別にそういうつもりじゃないわ」

勇儀「確かに、今残ってる面子でも……取り立てて貴女と仲いい輩はいないね」

ぬえ「どいつもこいつも……ほら、次の酒だ」


正邪「うぐー……うぅ……うぇっく……」

勇儀「そうだなー。あ、それじゃあいつ、土蜘蛛のやつを探して来ようか」

勇儀「あれは割に顔が広いものね、貴女も話しかけられたことくらいあるんじゃないの?」

ぬえ「……うん。でも知らんぷりしてたら話かけられなくなった」

勇儀「あらら。誰かに話しかけて欲しかったんじゃなかったの?」

ぬえ「だって……だって」


カラーン


正邪「ぷはっ……」


勇儀(生まれつきのアマノジャクはともかくとしても、こっちも結構に天邪鬼だねぇ)

ぬえ「ほら、また次の酒だよ――お前もどうせひとりぼっちなんだろ」

ぬえ「……、一緒に……」


正邪(うるさい! ほざけ! まっぴらごめんだ!! お前のような強い妖怪と一緒にするな!)


勇儀「よしよし、お前もいい感じに酒が回ってきたから」

勇儀「そんじゃ、ここいらでちょいと一発芸でも見せてくれよ」


正邪「え……」

ぬえ「……そうだな、何か見せてみて。お前、天邪鬼なんだからさ」

ぬえ「私達が吃驚して笑い転げるようなことをやってくれそうだ」


正邪「え……」


ぬえ「言っておくが、もしつまらなかったらお前はこの場で終わりだがな――覚悟しておけ」


正邪「……」


勇儀「はははは、お前さん顔が真っ青だよ! 全体的には赤いってのに」

勇儀「何でもいいから堂々とやってみなよ――別にちゃぶ台返しとか逆立ちとか、なーんでもいいから」


正邪(何でもいい? 嘘つけぇ!! つまらなかったら八つ裂きにするつもりだろ!!)


ぬえ「どうした、早く何かやってよ、興が覚めるじゃない」


正邪(くそぅ……この際、下剋上だなんて大きいことはいわない……!)

正邪(だから! この状況に、変化が欲しい!)

正邪(私が今望むもの……それはこの追い詰められた状況をひっくり返すほど程度の変化だ!) 

正邪(生まれ変わるほどじゃなくていいから……何か……!!)

――


ガラッ……


勇儀「おおー、何だい何だい。今日は風変わりな連中が続々現れるじゃないか」

ぬえ(……何だ、こいつらは。人間か?)

ぬえ(……いや、2人は人間のようだが、残り2人は……妖怪?)


邪正「!!」

邪正(やった! 誰だか知らんが客人だ――流れが変わったぞ!!)


広「真っ黒いパン……グハッ!?」

郷子「何ガン見してんのよバカァ!!」


美樹(少女……? 何なのよあのオーバーFカップはっ!?)

美樹(ま、まあまだ慌てることはないわ。私のナイスバディは発展途上……これからよこれから!)


ヤマメ「おやおや勇儀の姐さん、今日は随分とレアな面子と酒盛りしているねぇ」

ヤマメ「で、そこの天邪鬼はひっくり返したちゃぶ台の上で逆立ちして何してんの? 露出プレイ?」


ぬ~べ~「おおッ!!」

ぬ~べ~「何とお美しい!! こんなところであなたのような素敵な女性に巡り合えるなんて!!」

ぬ~べ~「どうです? これから僕と一緒に舟幽霊が炊いた怪火の見える海岸沿いのレストランでお食事でも!」

勇儀「ほう。鬼を相手にいきなりナンパかい? 舟幽霊のくだりは船の難破とかけているのかな?」


ヤマメ「舟幽霊はいるけど海岸沿いのレストランなんて存在しないよ――幻想郷に海はないからね」


広「良かった、これでようやくいつものぬ~べ~だな」

郷子「もー。リツコ先生やゆきめさんがいるのに、……まったく男ってこれだから……」

美樹「あー、疲れたわ……何かデッカイモノみちゃって余計にショックで疲れたわ」


美樹「にしてもここ滅茶苦茶お酒臭いわねー……何とかならないの?」

正邪「私のせいじゃない。ろくろ首も幻想入りしてたんだな。調子に乗って退治されたザコい飛頭蛮なら知っているが」

美樹「おなかペコペコなんだけど、そこの珍味っぽいのじゃなくてもっと普通の料理用意してくれない?」

ぬえ「お前……誰に向かってそんな軽口叩いてると思ってるのよ? 私のことが怖くない?」

美樹「ぜーんぜん」

ぬえ「……」


――人間の里――


ザワザワ……


里人甲「危険な妖怪が出るかもしれないって言うから、人里の見回りをしているが」

里人乙「ああ、これといった変化もないし……さっきの飛んでいたハゲ頭もどっかいっちまったもんな」

里人甲「ま、妖怪といってもせいぜいあの唐傘お化けが出てくるくらいだろ」

里人乙「宵闇の妖怪とかも、そんなに積極的に襲ってくるわけじゃないしな」

里人甲「あの毒を撒くヤツはやばいよな……」

里人乙「一応対抗策はある――ま、いずれにしろそんな大したことはないだろうよ」

里人甲「案外、人里全体で肝試し大会でもするってことじゃないか? 妖怪達のお遊びに付き合うって感じで」

里人乙「ああ、あるかもな意外と。あはははっ……はは……」

里人甲「? どうした」

里人乙「う、後ろ……!!」


ミサキABCDE「「「「「は~ぐ~れ~」」」」」

里人甲乙「「うわぁぁぁぁああああああああああああっ!!!!」」

ミサキA「迎えに参ったッ!!」


バッ

妹紅「させるか!!」


ブォォン!


ミサキA「ッ!」


ドサッ


ミサキBCDE「「「「  !!  」」」」


妹紅「どうやら、先程の忠告は間違いではなかったようだ」

妹紅(今は妖術を使って相手を足止めし、里人2人が逃げる隙を与えたけれど――)


ミサキA「はぐれはおらんかー!!」


妹紅(気休め程度か――こいつら、なかなかに厄介そうね)

妹紅(相手は5人、すべて……亡霊か?)

妹紅(もう里まで侵入を許してしまった以上――早急に叩くしかないけれど)

妹紅(周りには人家をはじめ多くの建物、そしてまだ状況を把握しておらず里を歩く人間達もいる)

妹紅(派手な戦い方は……やりづらい環境だわ)


                                    (つづく)

>>はい

ミサキの各個人があれこれと言葉を発している理由は主に以下のような感じ



・台本形式で進めているので、行動の推移が分かりやすいようにするために発言してもらっている。原作通りの発言だけでは、追跡する側の説明臭いセリフが多くなりすぎて、鼻につくかと思った。


・ミサキ対策においては各個人の生前の悪行(犯人以外が迎えられたときは死因?)が何であるかを解明する点が重要になると思われる。したがって各個人がどういう経緯で最期に至ったのかのかを推し量る上で、各々の性質・個性といえる部分が、少々露見する場面があってもいいのではないかと思った。


・原作で「ひき逃げされた2人のミサキ」が成仏する前に「ニヤリと笑って消えた」ことから、生前の記憶は残したまま彷徨い続けているらしい。よって、生前の人間の個性的な部分は微細ながらも残っていると思われ、多少は他の言葉を発しても問題ないかと思った。


勝手な解釈かと思いますが、どうかご了解いただけたら幸いです。


●なお、次回の更新は今夜になる見込みです。今日で第2話は終わりです。 


――旧都(酒場)――


勇儀「それじゃ、準備はいいかい?」

ぬ~べ~「ああ、準備オーケーさ」

ぬ~べ~(星熊勇儀――名前から察するに、元はあの星熊童子か)

ぬ~べ~(ということは、この幻想郷には他にも複数の鬼が存在するとみて相違ない……な)


ヤマメ「それでは――始めっ」


グギギギギギギ!!


勇儀「!」

ぬ~べ~「……ッ!」


ヒソヒソ


美樹「ねぇ、なんでぬ~べ~と鬼のヒトが腕相撲やってるの? ――あむっ、この得体の知れない料理結構イケるわ」

広「“腕試し”って言ってたな――要するに鬼の手の強さを肌で感じたいってことだろ」

郷子「でも勇儀さん、自分は右手に抱えた盃のお酒が零れた場合も負けでいいって条件付けたよね」

広「んな条件付けなくても、ぬ~べ~なら勝てるだろ。……ただの腕相撲なんだから」


ぬえ「それはどうかな。今のままだったら、たぶん勝てないよ」


美樹「ちょっと! ぬ~べ~の力を甘く見ちゃだめよ、ぬ~え~」


ぬえ「そのヘンな呼び方は止めろ――喰い殺すぞ」


美樹「ひぃ!」

広「う……やっぱこう、その……姿はこんな感じでも、妖怪らしい凄みって奴はちょくちょく見えるなー」


ぬえ「……」


郷子「ちょっと……あんたさっきからぬえちゃんに微妙に見とれてない?」

広「んだよ。いちいちうるせえなー、別にそーいうのじゃねぇよ! 郷子にゃ関係ねーだろ」

郷子「ええー! 関係ないですよーだ! 広がどんだけ鼻の下伸ばそうが私の知ったことじゃありませーん!」


ぬえ「はぁー……この私を“ちゃん”づけか……」

正邪「そう気を落とさずとも」

正邪「我々のような弱小妖怪は、鬼に逆らうことなど儘なりません。人を喰いたいという衝動は抑えがたいものでしょうが」

正邪「ここは星熊様の謂いの通りに大人しく――」

ぬえ「別に本気じゃないわよ。そもそも私は弱小じゃないし――こういう場だからね」

ググググググ


勇儀(ほう? ――この程度かい、鬼(あなた)の力は)

ぬ~べ~(! ――まずい、コイツまさか!)


グォォォォォォォ!!


勇儀「おぉ!」

ぬ~べ~「ぐぬぅ!!」


メキメキメキメキメキ!!


ヤマメ(これは!?)


広「や、やばいぞ!!」

郷子「ぬ~べ~の腕!!」

美樹「ちょっと、これ以上はダメっ!! 止めて……ぬ~べ~が!!」


正邪(鬼の手とやらが、暴走しつつある? 今は封印していると言っていたから――)

正邪(それを自力で解いて這い出ようと言うのか?)


ぬえ(ここから見ているだけでも感じる――かなりの強者だな、封じられた鬼は)

ぬえ(そのパワー、破壊力と言った面では幻想郷に陣取る鬼の力に勝るとも劣らないだろう)

ぬえ(それをこの人間が1人で封じ込めた? そんなことが、外界の人間に容易くできるものなのか?)

ぬえ(まあ、何にせよ――この場でそいつを解放するのは賢明な策とはいえないな)

ぬえ(たとえ、ここが地底と言えども――最低限のルールを守ってくれるような輩じゃなかったら)

ぬえ(地上をも巻き込んだ一大事件になってしまうぞ)

ぬえ(そこのところは、怪力乱神も心得ているとは思うけれどね)




\ピチューン/




ぬ~べ~「!!」

勇儀「――今回のところは、そちらに軍配が上がったな。盃から一滴垂れてしまったんでね」

シュ―――――


ぬ~べ~(――よ、よし完全に封印が解ける前に、寸止めしてもらえたか)

ぬ~べ~(鬼の手が落ち着きを取り戻してゆく……心配をかけて済みません、美奈子先生)


勇儀(触れた掌(てのひら)から、私の力を吸収して、それを糧に封印を解こうとしたのか?)

勇儀(完全体に戻ったら、一体どれほどの力を発揮してくれるのか――是非見てみたいし、闘ったら愉しめそうだ)

勇儀(――が)


ぬ~べ~「……」

ぬ~べ~「勇儀の姐さんよ――実は、こいつに関して」


勇儀「耳、貸しな」


ヒソヒソ


勇儀「大方、貴方の言いたいことは分かる」

ぬ~べ~「それならば、話は早い! 俺は――」

勇儀「だが、待て――今は酒宴の真っ最中だ。それに、そこで不安そうな目をしている子らの前で」

勇儀「あんまり重い話はしたくないんじゃないかねぇ?」

ぬ~べ~「……」

勇儀「だから、その話は後だ――今はゆっくり盃を交わすとしようじゃないか」

勇儀「鬼は嘘はつかない――後でちゃんと、お悩み相談に乗ってやるよ」

ぬ~べ~「……。ええ、そうですね」

広「おーいぬ~べ~! 何2人でヒソヒソ話してんだよ?」


ぬ~べ~「いやいや! 今度何処でデートしようかって内緒話をしていただけだ!!」


美樹「またそんなこと言って。鬼の手の方は……もう大丈夫なの? あーもう……ホント心配したんだから……」


ぬ~べ~「大丈夫、全然ヘーキだ! もう何の問題もない!」


美樹「……ならいいのよ。はーまったく、腕相撲ひとつでここまで大騒ぎさせちゃって……もー」



ヤマメ「ほら、貴方達でも口に入れられそうなものを持ってきたよ」

美樹「あ、どもー」

ヤマメ「私はちょくちょく地上(うえ)に行って、いろんなモノを手に入れてるからね」

美樹「手に入れるって、盗むってこと? それとも単に買い物? お金とかはどうしてんの?」

ヤマメ「んーそうだね。例えば病気になった人(原因は私だけどね)に施しをして、その礼に……とかかな」

美樹「ふーん。薬とか、そういうのに詳しいの?」

ヤマメ「まあ、私の特性上ね。詳しくなっても損はないから」


ヤマメ(だからこそ、いつでも貴方達に毒牙を向けることもできたんだよ?)

ヤマメ(だが、貴方達は幸運だ――それはひとえに、あの先生がついていたからさ)


ぬ~べ~「さ、お前達も一緒に飲もう! まさかここで本物の天邪鬼や鵺にまで会えるとは思ってなかったぞ!」

ぬえ「私もこんなところで半人半鬼に遭遇するとは思わなかった。しかも外界から来たとはね」

正邪「ふん。その手の力は測り知れんが、お前ニンゲンとしては軽薄でバカそうだな」

ぬ~べ~「お、何だ天邪鬼くん! そんなに俺のことを褒めてくれるのか? いやぁー先生嬉しいぞ!」


ナデナデ


正邪「キサマ気安く触れるな! 撫でるな! 馬鹿にするなぁ!!」



ヤマメ「ほら、貴方達も呑むかい?」

広「……そうだなー」

美樹「ま、一杯くらいは減るもんじゃないしね」

ぬ~べ~「コラコラコラ! 未成年はお酒はいけませーん!!」

郷子「えーと、ジュースとかは……ないですよね」

勇儀「そうだねー、御冷やで我慢してくれるかな?」


――守矢神社(参道)――


コツコツ


早苗「はあ、つまり異変の兆候ですか?」

華扇「うん、まだ憶測の段階なんだけれど――」


ビュゥゥゥ!!


竜「~~~~!」


華扇「! 無事に戻ってきたのね!」

早苗「あ、その子は以前に――」


華扇(何かに怯えている様子――そう、怖かったのね。早速、貴方が体験したことを私に聞かせて頂戴)


スッ


華扇「……」

竜「……」


早苗「……」


華扇「“鬼の手”を持っている人間!?」

華扇「ペットとしておぞましい怪物を使役し、土蜘蛛とろくろ首を仲間にして地底を闊歩?」

華扇「そして旧都で、反逆者(アマノジャク)と落合おうとしていたようなの?」

竜「――コクリ」


早苗「え? え? え?」



華扇(――こうしてはいられないわ、異変でも起こりそうな要素が揃いに揃っているじゃない)

華扇(それから、これは私がずっと探しているモノの手掛かりが得られるかもしれない!)


早苗「あのー、華扇さん。今の話っていったい」


華扇「――私は地底に向かうわ」

竜「コクッ!」

華扇「貴方達も気をつけて! ――霊夢達にも状況についての説明をお願い」


ヒュンッ!!!

早苗「はい、分かりましたよー……ってもう影も形もありませんね」

早苗「やっぱり華扇さん、テレポーターなんじゃ?」

早苗「あ、それよりもさっきの話」

早苗「“鬼の手”がどうのこうの……っていうのに、強く反応していたような」

早苗「うーん、“鬼の手”ですか――どこかで聞いたようなことがあるような、ないような」

早苗「それと華扇さんとの関係――」

早苗「あ、なるほど――やっぱりあの人の正体は仙人じゃなくて鬼だったってことで」

早苗「それで、以前から探していたという失くした腕こそ……その“鬼の手”のことだったんですね!」

早苗「納得しました」




ビュォォォォォォォォォォ




ゆきめ「なるほどね――“鬼の手”を奪うために、鵺野先生を異世界に引っ張り込んだってわけなのね!」




早苗「はい? どちら様ですか? 鵺って……あのUFOのことで?」

早苗「それにしても急に冷え込んで……もう日没も近いからかしら。って、もしかして貴女の仕業です?」

ゆきめ「教えて! 鵺野先生は今どこにいるの?」




早苗「どこって……たぶん命蓮寺にいるんじゃないんですかね?」




ゆきめ「えーと、そこって……何処にあるの?」




早苗「よければご案内いたしましょうか?」




ゆきめ「えーホントですかー! 助かります!」




早苗「でも、その前に――貴女、この山に棲んでいるひとじゃないっぽいですね」

早苗「というわけで、侵入者ってことですよね?」

早苗「侵入者に対しては、それ相応の対応をしなければ――妖怪退治も私の仕事のひとつなんですから」



ゆきめ「え……」



早苗「さあ、挨拶代わりに始めましょうか」

早苗「――弾幕勝負を!」


カッ!!


――旧都(酒場)――


広「zzz」

郷子「zzz」

美樹「zzz」


ヤマメ(おやまあ、皆疲れてもう眠ってしまったか。ここまで結構な道のりだったろうしね、人間の子どもにとっては)

ヤマメ(もう宵の口だもんねぇ――地上(うえ)では本物の月が穢れない姿を晒している頃合いか)



広「……ぐっ……父ちゃん……、悪い……」

郷子「……心配……かけてごめんなさい……いつもいつ……も」

美樹「うぎぎぎぎ……それは私が見つけた……か、え、して、……」


ヤマメ「……よく聞こえる寝言だねぇ」

ヤマメ(――今晩はここでゆっくり休みな、明日にはちゃんと、地上まで送ってやるよ)

ぬ~べ~「――というわけでだな、その天邪鬼な俺の生徒は」

ぬ~べ~「自分から積極的に輪の中に入って行ったんだ。今ではクラスの生徒達と仲良くやっている」


ぬえ「……」

正邪「霊能力がどうとか言いつつ、ただの人形で餓鬼をおちょくっただけだろうが」

正邪「しかもアマノジャクを利用して騙すとは、お前はとんだ反面教師だね」


ぬ~べ~「そうかそうか、そんなに俺を褒めてくれるのか。お前本当に可愛い奴だな~」


正邪「うるさい! 本物のアマノジャクを舐めやがって! 雑魚のクセに!!」

勇儀「何だって? 鬼の手持ちの人間がザコっていうなら、鬼の私もザコだといいたいのか?」

正邪「そんなことは言っていない……ません」


ぬ~べ~「その通りだそうですよ、勇儀姐さん」


勇儀「こりゃちょっと、ヤキ入れる必要があるねぇ」

正邪「違うから! ううん違わないから!」

勇儀「そういや、お前さんだって曲がりなりにも“鬼”だったか」

ぬ~べ~「いいか正邪、いくら自分に自信がないからと言って……そんなに卑屈にならなくてもいいんだぞ」


正邪「くぅ……馬鹿にしやがっ……ごふっ!?」


勇儀「苛々している時はやっぱり酒が一番だ!」

勇儀「お前が好きそうな“逆さ富士”だよ、ほら一息にグッといけ!」

正邪「んぐっ……んん!」

ぬ~べ~「ぬえの方はどうなんだ?」


ぬえ「……何のこと?」


ぬ~べ~「君は色々あって封じられていた地底を出、恩を仇で売るに近い行為をしながらも」

ぬ~べ~「快く自分を受け入れてくれた“人間”につき従い、地上の妖怪寺に入門した」

ぬ~べ~「――だが、今でもなかなか寺の妖怪たちと打ち解けられないでいる」

ぬ~べ~「と、ヤマメくんや姐さんがこっそり教えてくれたぞ……さっき」


ぬえ「余計な御世話だ」

ぬえ「第一、お前にどうこう言われる筋合いはない」

ぬえ「私は正体不明の妖怪なのに、どうしてお前は恐れない?」


ぬ~べ~「……」


ぬえ「いや、お前だけとは言わない……外界の人間の子どもにすら怖がられないなんて」

ぬえ「私は正体不明がウリなのに、正体(かお)が売れてしまったら……誰にも怖がってもらえない」

ぬえ「だから私は封じられてしまった。そして居場所を失ってしまった……それだけのこと」


ぬ~べ~「なるほど。お前はやはり単純な天邪鬼じゃなくよく考えている天邪鬼だな」

ぬ~べ~「――さすがはいにしえより恐れられし鵺だ」


ぬえ「……」


ぬ~べ~「お前のような由緒ある妖怪に対して、まるで生徒に対するように馴れ馴れしくして済まなかった」

ぬ~べ~「お前はさっき、俺が怖がっていないと言ったが……決してそんなことはない」

ぬ~べ~「もしお前が仮に子ども達に襲いかかってきたとしたら、俺は命を賭けてでも彼らを守るために闘うだろう」

ぬ~べ~「その時は、俺はお前を畏怖していたにだろう――鵺を相手に自信を持って勝てるとは言い切れない」

ぬ~べ~「たとえ、今は丸くなったとはいえ――正体不明という、枯尾花を幽霊と思わせるような力は健在なんだろう?」


ぬえ「……」


ぬ~べ~「鬼の手にできることにも限界がある。ましてや、これを扱おうとする俺自身は結局のところ生身の人間だ」


ぬえ「ならば、もし怖気づいたら逃げる?」


ぬ~べ~「逃げないさ、それでも闘う」

ぬ~べ~「子ども達を守るために、どんな時も決して逃げない。必ず守り切る」

ぬ~べ~「なぜなら俺は、あの子達の保護者(せんせい)だから――彼らの前でくらいは、最強じゃないとな」

ぬ~べ~「もっとも、逆に子ども達に助けられることだって……結構あるんだよなあー」


ぬえ「……お前は信念だけは強いらしい」

ぬえ「それはお前のエゴではあるが、エゴでも貫き通せば救われる者もいるだろう」

ぬえ「守りたいなら守れ――だが妖怪は弱い者ほど狙いやすいから容赦なく襲いかかる」

ぬえ「それは妖怪の持って生まれた性質――宿命のようなもの」

ぬえ「妖怪は決して力を失ってはいけないんだ――その存在意義を確保するためにもな」

ぬえ「お前はせいぜい、他人を救おうとして自分の足元を掬われることがないよう……気をつけるがいいよ」


ぬ~べ~「――ああ、気をつけよう」


ヤマメ(この先生さん、不思議なほどに妖怪を惹きつけるものを持ってるねぇ)

ヤマメ(それを言ったら――幻想郷にも、やたら妖怪を惹きつけてやまない人間はいるけれど)


――

ぬ~べ~「うっぷ……う、オエエエエエっ……」


勇儀「おいおい大丈夫か? こんなもんで潰れてちゃ、幻想郷で生きていけないよ」

ぬえ「別にこいつ、これから幻想郷で生きるわけじゃないだろう?」


ぬ~べ~「……ぐふっ……それは当然……俺には向こうにも……大切な……人達がたくさ」

ぬ~べ~「うおおおおぇぇ……」


正邪「ふふ……愚か者め……、我を侮辱した……罰が当たったのだ……うっ」

ぬえ「お前も無理をするな。潔く全部出せ、反吐を出すように逆流させるのよ」

ぬえ「そしてもう一度出したモノを呑みこめば、吐き気は治まる」

正邪「喋りかけ……ないで……うぅ……」

ヤマメ「出したモノを再び呑むといいのは船酔いの時じゃないの?」

ぬえ「あ、そうだったかも。船長が前に言ってたのを聞いたから」


――

勇儀「もう大丈夫なのかい? もう一杯水を飲む?」


ぬ~べ~「……ふぅ、いやー、だいぶ落ち着きました」


ヤマメ「さて、今日はそろそろお開きってことにするか」


ぬ~べ~「あ、そう言えば……3人は!? そこに転がってた筈だが……何処に」


ヤマメ「そこの休憩所で寝かせてある。心配しないでも、ちゃんと生きてるよ」

ヤマメ「姐さんの手前、手出しなんざできないさ」


ぬ~べ~「はは、そうか……良かった」


勇儀「子煩悩な先生だねぇ、本当に」


正邪「クソッ……こんな屈辱を受けたのは初めてだ! いや……初めてでもないかも」

正邪「でももう二度と地底になんか来るもんか!」

正邪「地上の馬鹿どもに追い回される方がマシだ! あばよ!!」

ぬえ「……そっちに行くよりこっちに行った方が近道になるよ?」

正邪「そっちに行くつもりなんかなかった! こっちに行くつもりだったからそっちに足先向けたんだ!」

ぬえ「じゃ、またね――私がこの小物を地上まで送って行くわ」

正邪「余計な御世話!」


タッ


勇儀「ひとりで寂しくなったらまた来なよ」

ヤマメ「地底はどんな厄介者でも来るモノ拒まず、去るモノ追わずだからね」

ぬ~べ~「……」


――

ぬ~べ~「ヤマメくんはこの地底のどの辺りに住んでいるんでしょう?」

勇儀「さぁね――土蜘蛛なんて何処にでも巣を張れるし、何処に住んでいてもおかしくはない」

勇儀「あの子らが起きる頃にまた来ると言っていた。そしたら地上へ上がる道を教えてもらいな」

ぬ~べ~「――ええ、本当に助かりましたよ。良い妖怪(ひと)達に遭えて」

勇儀「さて、ようやくふたりきりになれたところで、肝心の話をするとしようか?」

ぬ~べ~「そうですね」


ぬ~べ~「いやー、照れるなあ!」

ぬ~べ~「やっぱり最高のデートコースは怨霊の飛び交う無縁仏の埋もれた原っぱで、楽器の付喪神達が奏でる妖艶な旋律に耳を傾けながら」


バシャーン


勇儀「おいおいおい、まだ酔いが覚めてなかったか? 水掛けたから、そろそろ正気に戻りな」

ぬ~べ~「あ、あれー……」


勇儀「その左手に封じられた鬼について、だ」

ぬ~べ~「……!!」

勇儀「分かる範囲で、私の意見ってものを語ってやろう――勿論鬼に二言はないから安心しな」

勇儀「まず、そいつはこの幻想郷にいる鬼とは――無関係。もとから貴方のいた世界のどこかしらに潜んでいたらしい」

ぬ~べ~「……そうですか」

勇儀「今すぐ引っ張り出して手合わせ願いたいぐらいだね――なかなかの強者と見た」

ぬ~べ~「こいつを引っ張り出すことによって――封印を解くことによって」

勇儀「だが、引っ張り出すわけにはいかないね」

ぬ~べ~「……それはどうして」

勇儀「今はまだその時ではないということ――いずれ決着のつく時が来るさ」

勇儀「いつその時が来るかと言えば……私には分からん! 先のことを聞かれても、鬼は笑うしかないからね」

勇儀「そして貴方がその鬼を封じることによって抱えてしまった呪縛も……いずれ解ける」

勇儀「まだ今は、耐える時だ」

ぬ~べ~(……、驚いた。ここまで見抜けるものなのか。やはり鬼というものは……底が計り知れない)


勇儀「それに、無理矢理にでもそいつを引っ張り出してしまうと――たぶん本当の異変(めんどうごと)になっちまうね」

ぬ~べ~「……確かに、コイツは怖ろしい奴だった」

勇儀「手の平を重ねた時――そいつの声が幽かに聞こえたよ」

ぬ~べ~「!! コイツは一体、何て!?」


勇儀「『うがー』って言ってた。それだけ」

ぬ~べ~「……は、はあ。それだけ、ですか……」

勇儀「ま、とにもかくにも、これ以上刺激しない方がいい。仮にそいつが幻想郷にのさばることになると」

勇儀「――そうなると貴方はおろか、向こうで寝てる子らにも更なる危険が降りかかるだろう」

勇儀「そこまでして、自分の目的を達成しようとするほど――エゴな人間じゃないんだろう?」

勇儀「貴方はね」

ぬ~べ~「……」

勇儀「期待には添えなかったかも知れないけれど。こんなもんで、いいかなー?」

ぬ~べ~「……ええ、どうも。勇儀姐さん」


ぬ~べ~(幻想郷――最初はどうなることやらと思ったが)

ぬ~べ~(ここに暮らす妖怪達と人間との関係性の維持は、ここを一種の理想郷として成り立たせているんだな)

ぬ~べ~(もちろん、この箱庭を保ち続けるために――見えない所で犠牲が生じていることは間違いないだろうが)


――妖怪の山(上空)――


ビューン!!


文(厄介なことになってしまったわねぇ)

文(――博麗神社の炎上、大結界の弱化、……その一翼をまさか私が担ってしまうとは)

文(もっとも、他の約3名の方が明らかに過失割合が大きいけれどね)

文(博麗神社の方は霊夢さん達なら滞りなく修繕アンド水際での危機回避ができるでしょ)


文「――だったら、今の私の役割は妖怪の山に異変の余波が押し寄せていないかを確認すること」

文「そして、有事の際には外敵の侵略行為を鎮圧――」


??「クックックッ」

文「って言った端から余所者登場――何者ですか、貴方は」

文「いえ、その風貌を見るに大方察しはつきましたがね」


岩天狗「山の神さま最強の使い手――岩天狗」

岩天狗「よもや、このような異界に闖入することになるとは驚いたぞ」


文「山の神……おそらく、私が知っているそれとはてんで別物のようですね」

文「それから本当の猛者ならば、自分が強いなどと豪語しません――能ある鷹は爪を隠すもの」


岩天狗「……フン」


文「貴方も天狗なんだったら、山のタテ社会ってものを理解できるでしょう? 外界はそうでもないんです?」


岩天狗「大差はなかろう――山の掟は厳しいものだ」

岩天狗「いずれは山の神さまに命じられ、あの雪女と人間を始末するときも来るだろう」


文「その雪女の件はさっぱりですが、どうやら対話は可能なようで安心しました」

文「私は清く正しく美しいパパラッチ――鴉天狗の射命丸文」

文「この山は私をはじめ上司たる大天狗様、ひいては天魔様の管轄下にあります」

文「余所者の立ち入りは固く禁じているんです――事情を斟酌のうえ、速やかにお帰りいただけたらありがたいのですが」

岩天狗「ここは我らが山の神さまの統括とは異なる場――早々に立ち去ろう」

岩天狗「だが、その前に――同じ天狗を名乗る同士、一度手合わせしてやってもいい」

岩天狗「もっとも、鴉のか細い嘴が岩を打ち砕けるとは思えんが! ひーひひひっ!」

文「私は暇ではないのですが――そこまで挑発されると乗らなきゃ損な気がしますね」

文「貴方のその高慢ちきな長鼻を――へし折って差し上げますよ」


文「風神『天狗颪』」




ギュォォオオオオオオォォォォオオオ




岩天狗「不幸の風!」




バサッ――




文「おやおや、この程度の風撃、カマイタチの方が断然マシですね」

文「やるならやるでもう少し頑張ってもらわないと、私も手加減の匙加減に困りますから――」


文(ん、これは)

文(あやややや……何でしょう? 少し視界が……ぼやけて来たような)


――地底(地霊殿)――


ピョンっ


お燐「さとり様!」


さとり「……、あら、お燐――久しぶり」

さとり「どうしたの? 何か用?」


お燐「い、いやー……その……」


さとり「……、……、……、……そう」

さとり「でもそれ、わざわざ私に報告するほどのことなの?」

お燐「えー、そりゃだってさとり様……事は地上で起こっているとはいえ、地底も余波を食らってしまったら……」

お燐「万一、妖怪退治の請負人や賢者が下手を打った場合……幻想郷そのものが」

さとり「『最悪の場合、壊れてしまうかも知れない?』――大袈裟ねぇ」

さとり「それに、別に私は構わない」

さとり「私の居場所なんて幻想郷(ここ)に有って無きがごとし――幻想郷(ゆりかご)が失われたところで、何も変わらない」

お燐「あらら……そうですか。それじゃ、あたいはとりあえず行ってきますね」

さとり「『念のため、旧都の鬼達にも状況を伝えに行く』って? 別に、私は止めたりはしないわ」

さとり「お燐にも責任の一端があるのなら、後始末には参加してくれないと――」

お燐「さとり様にまで火の粉がかかってきたら、あたいはペットとして立つ瀬がありませんもの」

お燐「――それでは」


ニャー……タッ!


さとり(――度重なる不幸が重なって、博麗神社が炎上)

さとり(その事態に意図せずとも加担する結果となってしまったのがお燐を含む4名……ねぇ)

さとり(お燐のように、博麗神社に半分棲みついているような者を除くと、残るは……)

さとり(案外――その人物がその事態を引き起こした黒幕かもしれない)


パラッ


さとり「さてと――読みかけになっていた小説の続きでも読みましょうか」


――??――




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




??「――光だ


見えるはずのない天から光が見える


ヘェ、この暗澹たる地獄に一筋の光が差すなんて


出られるのか……ここから


何が待っている、あの光の先に




……


感じる


感じる……かすかに




覇鬼兄さんなんだね?

いるんだね……その光の向こう側に




待っていて――今、会いに行くよ

そして共に奏でようじゃないか――破壊と殺戮に彩られた、すてきな鎮魂歌(レクイエム)をね」




                          (第2話:旧都に佇む怪力乱神の巻・終)

次回




第2.5話「 里人たちを守れ――妖怪大戦争勃発! の巻」




――人間の里――


カァー……   カァー……  




ミサキABCDE「「「「「・・・・・・・」」」」」


ジリ


妹紅(黄昏時か――昔から逢魔時(おうまがとき)と言われ、昼と夜が移り変わり、魑魅魍魎に出会いやすい時間帯とされる)

妹紅(いわんや夜になれば、いよいよ妖怪が本領を発揮するわ)

妹紅(亡霊は幽霊と違って、その目的を成就するか、自分の肉体が供養されない限り成仏しないという)

妹紅(できれば、彼らの遺志を探って、供養してあげたいところだけれど)

妹紅(話が通じる連中ではないようだし――ここは退治するしかない!)



妹紅「まずは炎で五体の動きを封じる! 不死鳥フェニ――」


ザッ!!


屠自古「……イタゾ!」

布都「さっきの2人は雷を落としたら成仏しおった! 屠自古、もう一度じゃ!!」

小傘「ちょっと!? こんなところでぶっぱなったら――」




屠自古「ライシ『ガゴウジトルネード』」

バリバリバリバリバリバリッ!!!


妹紅「ちょっと!?」


ゴォォォォォオオオオォォォォ!!




「キャァァァァァ!!」

「おい、火事だぞ!!」

「やばい、木造家屋が多いので、火の回りが早くなっているゥ!!」




布都「……あー、囲い込むように放たれた炎に屠自古の弾幕が飛んできて」

布都「火の玉状になって軌道が拡散、里のあちこちに飛び火してしまったか。これは大変じゃな」

屠自古「……アーア」

小傘「あのヤバそうな5人組、今の混乱に乗じて里の中へ散って行ったけど」

小傘「これって……マズいんじゃ」


妹紅「何邪魔してくれたんだキサマらはァ!!」


布都「こうなったら、私の力で鎮火して見せようぞ!」

妹紅「やめて! この流れだと火に油を注ぐ未来しかみえないから!」

布都「むむ……そうか? よし、皆落ち着け! 誰にだって失敗はあるものよ!」

布都「今は、あの連中を追うのが先決じゃ! 人間に襲いかかる気満々だったからの!」

屠自古「……ソウダナ」

妹紅「……そうね。今は言い争っている場合じゃない」

妹紅「そこの唐傘お化けの貴女!」

小傘「は、はい! って私!?」

妹紅「今すぐ近隣の命蓮寺に行って、応援を頼んで頂戴! 人里が緊急事態だからって」

妹紅「私達だけでは火災の鎮火まで手が回らない。あの5人組、分かれて人里を闊歩したら――」

小傘「えー!? でも私もともと関係ないのに! しかもお寺の近くからここまで無理矢理」

妹紅「いいから早く行くのよ!!」


クワッ


小傘「ひぃ!! 分かりました、今すぐ行きます!!」


タッ!


――移動屋台――


ギャーギャー ワーワー


ミスティア「おやぁ……何だか、辺りが騒がしくなってきたね」

小町「喧嘩でもやってんのかな」

美鈴「それより小町さん、早くカマを探さないと、まずいんじゃないですか?」

小町「ふふ、まあ、果報は寝て待てっていうじゃない」

小町「慌てて探すよりも、ゆっくり待っていたら意外と身近なところから出てきたりするものさ」


バキグシャッ!!! 


怪人A「――」


ダダダダッ


魔理沙「もう逃がさねぇぜ!! ――彗星『ブレイジングスター』」


ちゅど~~~~~~~~~~~ん!!

シュ――――――――――


ミスティア「……」

小町「……」

美鈴「……」


魔理沙「クソッ! また避けやがったか!!」

魔理沙(自慢じゃないが、空を飛ぶ早さにゃ結構自信あんのによ! 狭い小路を上手く走り抜けて、あと一歩のところで被弾を回避)

魔理沙(あいつ、無駄に身体能力が高いぞ。おまけにどっかで見たようなカマを振り回して来る!)

魔理沙(追いかけっこをしてるうちに、人里のど真ん中まで来ちまった!)

魔理沙(これ以上、好き勝手させるわけにはいかねぇ!!)


ミスティア「ちょっとアンタ!! うちの店が全壊したんだけどどう責任取ってくれんだよ!!」


魔理沙「ん? 悪い! 今それどころじゃなくてよ――後にしてくれ!!」


ヒュン!!


ミスティア「く……くぅ……ッ……」

美鈴「不幸な出来事がまた起きてしまいましたね……」

小町「って、こりゃ尋常じゃないね――あたいらも様子を見に行こう」

美鈴「そういえば、さっきの仮面の妖しいひと。手に持ってたのは」

小町「ああ、間違いなくあたいのカマだ」

美鈴「そもそもアレって、ただの飾りじゃなかったんですか? その、死神的なアイテムってことで」

小町「そんなわけないだろう。あれは半人半霊の(楼観)剣や、不良天人の緋想の剣に負けずとも劣らない威力を持ってるんだ」

美鈴「ということは、もし悪い輩に悪用されたら……」

小町「ああ、ヤバイね。そんなことになったら、今度はあたいの首が本当に飛んじまうよ……」


ミスティア「グダグタ言ってないでとっとと行っちまいな!! 私は今ひとりで静かに鳴きたい気分なのよ……」


キィィィ……


――妖怪の山――


ザザザザザッ


玉藻「フフ、まさか九尾の狐様があの結界の生成に関与していたとはな!」


藍「様呼ばわりされる筋合いはない。私は貴方のことなどまったく知らないからね」


玉藻「確かに、私もあなたを知らない――だから、もう様付けはしないことにしよう」

玉藻「鵺野先生や生徒達の居場所について、早く教えてもらえませんかね?」


藍「知らないっていってるでしょう! 私は今とても忙しいのよ、邪魔しないでくれない?」


玉藻「いいえ、聞き出させてもらいます。この場で逃したら、もうあなたは二度と捉まらないと思うんでね!」


藍「狐のカンっていう意味かしら? その通り、この場を凌いだら敢えてこちらから出向くことはないでしょうね!」


藍「式神『四面楚歌チャーミング』」


ドシューンドシューンドシューンドシューンドシューンドシューンドシューン!!


玉藻(む! ――無数の弾丸か? いや、式神の類を変化(へんげ)させたものだ)

玉藻「はッ!!」


シュキラーン!!

藍「弾幕を強引に斬り裂くか。ここの住人ではないな――境界のゆらぎに乗じて迷い込んだはぐれ狐ということか?」


玉藻「私は迷いこんだわけではない。ちゃんと目的を持ってここに来た」

玉藻「そして、首刺又(これ)は武器としても使えますが、本来こう使うものなんですよ」


グニャ~……スゥ


藍「! 頭部から人間の骸骨が抜き出て――ということは、それを使って人間に化けていたのだな」

藍「そして、お前の真の姿が――それか!」


玉藻「ご名答! あなたは間違いなく強力な妖怪だ――私は人間としての姿ではなく、本来の妖狐として闘わせてもらおう!」


藍「ふふふ。ならば、私も今は“式神”としてではなく、ひとりの“九尾の狐”として闘わせてもらおうか」

藍「もっとも、気持ちとしての問題だけれどね」


玉藻「あなた自身が……式神だと? あなたのような伝説クラスの妖狐が何者かの手下に甘んじていると言うのか」

玉藻「解せない」


藍「甘んじているというわけではない、ひとりの妖狐であるよりも紫様(あのお方)につくほうがいい」

藍「それくらいに、私はあのお方に魅せられ、敬意を払っているというということよ」


玉藻「敬意、……だと」

藍「親愛――と言い換えても差し支えないかも知れないわね」

藍「貴方だって、そういう気持ちは分かるでしょう? ――詳しい事情は分からないけれど」

藍「貴方はヌエノとかいう者のことをとても気に掛けている。だから、ここまでして私に付き纏うわけだ」


玉藻「気に掛けていることと、親愛という言葉は、全く別物でしょう? 私はそういうつもりであなたに突っかかっているわけではない!」


藍「だったら、どういうつもりよ。私があなたと近い種族だから? ……ハッ、そうか!!」




藍「油揚げ(これ)を奪うのが目的なのね!!」

藍「確かに気持ちは分かる! ――私とて、これを前にしては周りが見えなくなってしまうことがあるからな!」




玉藻「……。ふふ、あなたは、たいそう挑発が御得意なようだ!!」


ダッ


玉藻「火輪尾の術・役小角!!」

藍「! 超人『飛翔・役小角』」


ドシュ――――――――ン!!

玉藻「むぉぉッ!!」


藍「そちらの力負けだ。妖狐の力を前面に押し出したところで、まだまだ青二才なのが見てとれる」


玉藻「……この程度で全力だと思ってもらっては困る。ここから本番ですよ」


藍「いいだろう。少しばかりおままごとに付き合ってもいい! ――私の油揚げ、奪えるものなら奪ってみよ!」


玉藻「生憎だが、私は油揚げそのものよりも――稲荷寿司の方を重宝しているのでね」


藍「む、そうか。米も一緒がいいのか」

藍「だったら後で、酒の選り好みに長けた巫女を紹介してもいいわよ!」

藍「旨い酒あるところに美味い米あり、いい寿司が味わえるぞ?」

玉藻「……、考えておきましょう」


カッ!!!


――妖怪の山(大蝦蟇の池・上空)――


ヒュォォォォォ!


ゆきめ(! すっかり暗くなった山の中腹あたりから火の手が!)

ゆきめ(ということは、もしかして鵺野先生が見つかったという知らせ!?)


ドシューンドシューンドシューンドシューンドシューン!!


ゆきめ「わわわ……!」


早苗「ちょっとちょっと! 逃げてばかりじゃなくて貴女も弾幕を使ってくださいよ」

早苗「いかに美しく弾の華を咲かせることができるか。そこが弾幕ごっこの醍醐味でしょ?」


ゆきめ「私知りませんよ、そんなの!」


早苗「まあ、仕方がないですね。そんなにやる気がないのなら、そろそろ打ち止めとしますか」

早苗「すっかり辺りは闇の中――あんまり夕食が遅くなっては私としても困りますんで」

早苗「これで、トドメにしましょう!(勿論、殺すとまでは言ってません)」


ゆきめ「くっ……!!」

ゆきめ(このままだと、鵺野先生と再会する前に、私は)

ゆきめ「そんなのイヤよ!! 私は鵺野先生と結ばれるまで――」

ゆきめ「こんなところで、斃れるわけにはいかない!!」




コォォォォォォォォォォォォ!!




早苗「!! 池の水面を一瞬で氷漬けにっ!?」

ゆきめ「弾幕ってやつ、よくわからないけど――こういう感じでいいんですか?」




パキパキパキパキパキパキ……ズドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!




早苗「水面の氷をつらら状に砕いてこちらに発射! 氷ミサイルですか!?」




ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ




早苗(危ない危ない……下手を打ったら貫かれるところでした!)

早苗「あれ、あの雪女(ひと)は、何処に――」

ゆきめ「おりゃあああッ!!」


ガキーンっ!!


早苗「ッ! 尖った氷を腕に纏わりつかせ、剣のように振りかざすとは!」

ゆきめ「たかが氷と思ってたんでしょうけど、いろんな使い方があるんだから!」

早苗「ていうか、今の闇討ち……ちょっと危ないじゃないですか。御祓い棒で受け止めなかったら私ケガしてましたよ」

ゆきめ「そっちが最初に仕掛けて来たんでしょ!!!」


シュルルルルルルッ!!


ゆきめ「わっ!?」

早苗「ひゃっ!?」

大蝦蟇「ジトー」


ゆきめ「何この大きなカエルは!? 捕まっちゃいましたよ!」

早苗「あ。そういえば、この池の水は神事に使われていて……池を冒涜した者は」

早苗「大蝦蟇(池の主)に懲らしめられて――」

早苗「え……どうして私まで?」


大蝦蟇「ペロペロペロ」


ゆきめ「いやぁ! 唾液で全身ベトベトにぃ!!」

早苗「これってやっぱアレですね!? 何故か服だけが溶けてしまうっていうアレなんですね~!!」




キャアアー!!




――妖怪の山(上空)――




ヒュォォォォォ




文(あ……霊夢さん、……死んじゃったんですか?)

文(仕方がありませんね……新しい博麗の巫女を早急に用意しないと)

文(巫女の代わりなんて……いくらでもいるんですから)

文(……いくらでもいる?)

文(それは……私の本心なのでしょうか?)

文(そういえば、霊夢さんが博麗の巫女になって以来……随分とあの神社に取材に行く機会が増えましたね)

文(私が今まで過ごしてきた時間に比べれば、……ほんの刹那に過ぎないここ数年なのに)

文(……霊夢さんの代わりになる人なんて……今後……果たして……)


岩天狗「この俺様の実力、見くびり過ぎたようだな」

岩天狗「いったいどんな幻覚に惑わされているのか、わしには分からんが」

岩天狗「こやつが抱いている何らかの不安な考え、それに取りつかれているな!」

岩天狗「“不安の風”と言いたいところを、“不幸の風”と言い間違えちゃったけど……まあいい」


文「――」


岩天狗「だが、幻術にかかりながらも宙に浮いたままでいられるとは……なかなか」

岩天狗「ま、待てよ……今なら、この女天狗に、その……触れたりとかできる……な」

岩天狗「生れてこの方800年、女にはとんと縁がなく……手さえ握ったことなどないこの岩天狗だが」

岩天狗「今なら……いけるぞ! よくよく見ればこいつ……まあまあ顔もいいし……」

岩天狗「手ぐらい……触っても……。い、いや……いっそ、他のところも――」


ヒューン!!


??「はたてちゃんキ―――ック!!!」


ドゴッ!!


岩天狗「グボォォッ!!?」

――妖怪の山(麓)――


ジー


にとり「……」

弥々子「何が見えるっぺ?」

にとり「何なんだろ……とりあえずあっちこっちで楽しそうに遊んでるっぽい光景かな?」

弥々子「見せて見せて!」

にとり「いいけど……この高性能望遠鏡、私が手塩にかけて作ったんだから傷とかつけないでよ?」

弥々子「分かってるっぺ!」


バキッ!


弥々子「ごめん、おら、力加減とか上手くなくてー」

にとり「わ、私の……自信作がぁ……!」


――人間の里――


ワーワー!! ギャーギャー!!


克也「やべーよ……何か周りのフンイキがやばいぜ」


克也「ごめん! 玉藻先生、ゆきめさん!!」

克也「やっぱオレ達……どうしても気になって……放課後、北区に行ったんだ」

克也「そしたら……森の中にスゲーヤバそうな井戸があってよ!」

克也「そこに近づいたら……オレ達……突然、中に吸い込まれちまったんだ!!」

克也「なあ、まこと――この田舎町は一体、どこなんだと思うか!?」


シ―――――――ン


克也「お、おい……まこと!! どこ行った!?」

まこと「ま、迷ってしまったのだ……」

まこと「克也くんは……どこに……」

まこと「それに……ここは一体……どこかの村のようだけれど」

まこと「何だか……」


ザッ


ミサキA「はぐれはおらぬか?」


まこと「ひ!!?」


バッ!!


??「危ない!」

ミサキA「!」


一輪「雲山、後方支援は任せて! ――拳符『天網サンドバッグ』」


グググググ……!


雲山「――」


オラオラオラオラオラオラオラオラ!! オラァーッ!!


ミサキA「~~~ッ!?」


ドガバキグシャ――――――ン!!




まこと「あ……ぁ……」

一輪「大丈夫かい、坊や」

まこと「あ、ありがとうなのだ……知らないお姉さん」


克也「まこと! そこにいたのか!!」

克也「って、お前……何自分だけキレーなお姉さんに抱き上げられてんだよーコノヤロー!」

ミサキA「――ムクリ」

克也「ん? うわああああッ!?」


まこと「か、克也くん……危ないのだ!」

一輪(思ったより復帰が早いわね)


チラリ


雲山「……」

一輪「ええ、そうよね。今夜は長い夜になりそうだ――やれやれ」
                                    (つづく)

天狗同士はともかく異種はちょっと…

そもそも九尾てのは善狐であれ、悪狐であれ1000年生きてれば自然となれる程度
そこから進化したのが天狐、その天狐も仙狐(善)と野狐(悪)に分かれる
仙狐が更に2000年生きる事で空狐となる、九尾=悪てのは白面金毛さんの風評被害だったりする

実力的に言えば、藍>年月の差>玉ちゃんだろうけど
400歳程度で九尾の尾貰う前の時点で茶吉尼権現天狐(ダキニテン、稲荷神社系だと最高クラスの稲荷)の称号を持ってるて事は
潜在能力としては玉ちゃん>藍となる


●ここまでに登場した主な人物の現在の居場所は以下の通り


<時間帯:夜>


【地底】

○旧都
→ぬ~べ~・広・郷子・美樹、勇儀、ヤマメ他

○旧都へ向け移動中
→華扇




【地上】

○妖怪の山
→上空…文、はたて、岩天狗
→守矢神社…神奈子、ケサランパサラン
→中腹…藍、玉藻
→大蝦蟇の池…早苗、ゆきめ


○人間の里
→中心部…魔理沙、怪人A
    …七人ミサキ(5人)、妹紅&慧音、布都&屠自古、一輪&雲山、克也&まこと
    …小町、美鈴


○博麗神社
→霊夢、貧乏神、その他



【幻想郷のどこか】
→萃香


●藍と玉藻の力関係に関しては>>382さんのコメントのようなスタンスをとっています




●ですが、>>381さんのように不快感を与えてしまった方もおられるようなので、

文献等にあたって調べた上で、場合によっては今後の2人のやり取りを割愛して対応しようと思います。

申し訳ございませんでした。




○今後一週間程度はお盆の行事等で時間が取れないので、続きの更新は8月16、17日くらいということで。

なるべく1週間おきにまとめて投下するつもりです。




○同時進行で分かりづらいとのことなので、次回は「妖怪の山側」と「人間の里側」にはっきり分けて話を進めます。




○と言った感じで、報告するだけで終わっては悪いと思うので、

没ネタ(今後、本編にかかわる予定のない登場人物及び内容)でも投下して一時しのぎをさせてもらおうと思います。


――??――


芳香「……」




バサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッ




青娥「あらあら、また地獄からの使者なのかしら? 大勢でおこしのようで」


??「いつまで!」

??「いつまで!!」

??「いつまで!!!」


ギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャー

青娥「ふふ、血気盛んねぇ。芳香、お相手してあげたら?」


芳香「……」

芳香「いーつーまーでー?」


青娥「……」




以津真天「いつまで!!!!」




青娥「いつまで、……を…………………って?」

青娥「お門違いもはなはだしいわ。こんなに可愛がってあげているというのに」




以津真天「いつまで、いつまで、いつまで!!!!!」




芳香「……」


青娥「うふふふふふふ」

青娥「強いて言うならば――いつまでも、よ」


ギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャー


――冥界――


幽々子「よしよし、ちゃんと仲直りできたわね」


ペコペコペコ


舞首X「……済まぬ」

舞首Y「……否、我が悪かった」

舞首Z「……否、我の方が」


赤蛮奇「まさか、最初の一匹以外は飛頭蛮じゃなくて、別の妖怪だったとは思わなかったよ」


幽々子「舞首っていうのはね、昔お祭りの日の夜にお酒に酔って喧嘩をし出した3人の武士がとうとう刀で斬り合って」

幽々子「すったもんだした挙げ句、斬り落ちた3人の首同士が海に落ちて怨霊となり永遠に争い続けたんですって」


赤蛮奇「ふーん。でも、幻想郷には海はないでしょう? どうして冥界に向かったのかしら」


幽々子「そりゃあ、決まっているじゃない。怨霊って、元を正せば三途の川を渡り損ねた幽霊なんだから」

幽々子「心の片隅では、何とかして彼岸に辿り着いて輪廻転生というレールの上に還りたかったのよ」

幽々子「でも、無理なことなのよね。怨霊は未来永劫幽霊のままの存在として宿命づけられている」

幽々子「だから――ここに連れて来てあげたの。妖夢をわざわざ人里まで迎えに行ったついでにね」


妖夢「zzz」

半霊「zzz」


赤蛮奇「……まだ寝てる。訳があったといえども道端で寝そべっちまうような従者じゃ、貴女も心配のタネがつきないでしょうね」

幽々子「妖夢の心配? 違うわよ、私の夕ご飯が遅くなるのが心配だったのよー」

赤蛮奇「あ、あらそう……」


\ユユコサマー、ゴハンオヨウイ、デキマシター/


幽々子「さて、そろそろうちの幽霊給仕たちが準備してくれたみたいね」

幽々子「貴女も上がっていきなさいな。妖夢が落とした買い物袋、拾ってきてくれたんだし。いいお酒もあるわ」

赤蛮奇「別にいいわ。私は首連中の様子が気になって、ついてきちゃっただけ」


舞首X「酒ッ!」

舞首Y「800年ぶりの酒じゃァ!」

舞首Z「呑まずにはおれんッ!」


赤蛮奇「こいつら……」

幽々子「ね、まだ気になるでしょ?」

幽々子「それにね――貴女がちゃんと見張っていてくれたおかげで、彼らが人間に取り憑くことなくここまで連れてこれた」

幽々子「怨霊の厄介なところは、人間達に取りついて、人間同士で怨み合い争い合い……そして殺し合いをさせること」

幽々子「それは、幻想郷が存続する上で……一番困ることなのよね」

赤蛮奇「……それくらい、私にも分かるよ」

幽々子「ま、そういうことで――折角だからゆっくりしていきなさいな」

幽々子「冥界に来ることなんて、そうそうないでしょう?」

赤蛮奇「……、……そうね。そこの三つ巴がまたいがみ合わないよう、今のところは監視するってことでね」




妖夢「……ふあああ、……ん? ここは――」


舞首「「「酒じゃー!」」」


妖夢「ひぃ、幽霊!! 幽霊は斬るッ!!」

赤蛮奇「そいつらは怨霊よ。そういやあんた、その剣で大量生産してるのよね?」

妖夢「ってここは、うちじゃないの! ……あれ、私は確か人里に行って……それで……」

赤蛮奇「まぁ、いろいろあって一件落着ってことよ」

妖夢「そうなの? って、貴女……誰だっけ?」

幽々子「妖夢ー、話は後でいいから、奥に行っていいお酒を運んで来てちょうだい」

妖夢「え、あ……はい! 承知しました!」


タッ


幽々子(あの一件以来、顕界と冥界を隔てる結界は薄くなり、行き来が容易になった)

幽々子(それは、ひとえに紫が結界を張り直そうとしないからだけれど)

幽々子(さすがに外界と幻想郷を隔てる結界をザルにしちゃったら、ちょっと危ないわよ?)

幽々子(――ねぇ、紫)



シ――――――――――――ン

                                 

                                   (没ネタ・以上)

>>396
ガチで服溶かしてエロやる予定だったらすまない不快感とかないから思う存分にやってくれ

>>404 ああ、すいません。玉藻と藍に関するコメントかと勘違いしていました
お色気シーンっぽいやつは少年誌レベルの範囲です


土曜日の更新が微妙なんで、今のうちに投下しておきます。今回が2.5話の中編で人間の里側の話

日曜日に後編で主に妖怪の山側の予定


――人間の里(上空・雲上の宝船)――


星「これはひどいね……人里のあちらこちらに火の手が上がっている」

ナズーリン「だがご主人様。考えようによっては、夜半でよかっただろう」

星「確かに火柱がはっきり目視できるから、ピンポイントで消火できそう。そこは不幸中の幸いだわ」

ナズーリン「さて、わざわざ宝船を出してもらったんです」

ナズーリン「雨乞いでもして、恵みの雨でも降らしてくれるかい――唐傘お化けの君」

小傘「え……いや……私、そういうのは」

ナズーリン「大丈夫、もともと君にはあまり期待していないから」

小傘「うう……」

ナズーリン(天候を容易に操れる者がいれば尚更良かったが、この場はいなくとも片を付けられるだろう)




スッ


村紗「溺符『シンカブルヴォーテックス』」




……サアアアアアアアアア




「おおー、恵みの雨! 皆の衆、もう一息よ、鎮火させるのじゃ!」

「あれは……宝船……?」

「もしや毘沙門天様が救いの手を……!」




パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!

小傘「この調子で行けば、火事の方はすんなり片付けられそうよね」

ナズーリン「確かに。だが、問題は人里に紛れて猛威をふるっているという凶悪妖怪なのだろう?」

星「ええ。鎮火が終わったら私達も加勢を――」

ナズーリン「それは止めた方がいい、ご主人様は例のごとく宝塔を失くしておられる」

星「う……そんなまるで私がいつも宝塔を失くしているような表現は……」

ナズーリン「そしていつものように私が探している中途でこの騒動だ」

ナズーリン「体術が苦手なご主人様が無理に動くのは賢明ではないでしょう?」

星「確かに……」

小傘「そうね。それにお寺の方だって心配よ。山彦が留守番をしてるって言っても、別のヤバい妖怪でも来たら……」

ナズーリン「君、案外お寺のことを気に掛けているんだね。ただ周りをふらついているだけかと思っていたが」

小傘「ま、まあ……」

星「よし――とにかくまずは消火が第一! 私達もここにある柄杓を使って」

ナズーリン「船長の手助けをするとしよう」

小傘「お、おー!」


村紗「ええっと、そちらの柄杓は……全部底が抜けているのですが」


――人間の里(路上)――


ザザザザッ


ミサキA「はぐれはおらぬか……!!」


克也「七人ミサキだってぇ!?」

一輪「そうよ。知らない?」

雲山「……」


克也「いや、うーん、どうだろ。元の世界(あっち)でも色んな妖怪に遭ってきたけどさ」

まこと「お姉さん! どうしてさっきのように攻撃しないのだ? このまま逃げてばかりじゃ――」


一輪「あいつが今貴方たち2人に狙いを定めているからよ」

一輪「このまま引きつけておいて、少しでも里の中心から離れようって算段」


克也「な、なるほど、それは名案! ってオレとまことがターゲット!?」


一輪「どうも、生身の人間――それも普通の人間しか狙ってこないみたいなのよね、この連中」

一輪「もともと亡霊だったり、妖怪だったり、人間でも不死身だったりする相手は都合が悪いらしいの」

一輪「確実に自分の仲間に加えられるという保証がないから、なのかも」


まこと「え? 仲間にって……。あ、あれ? それじゃ、もしかして、お姉さんって……」


一輪「私は妖怪よ、今となっては。こっちの雲山は入道ね」


まこと「!」

克也「マ、マジで!?」


雲山「……」

クワッ!


ミサキA「お迎えよッ!」

克也「うおっ!!」


スカッ


ミサキA「ッ!」



雲山「……」


ヒョイッ


克也「た、助かったぜ入道さん! 腕が伸びたり縮んだりいろいろ変形するんだな、雲みたいに! って雲なのか」

一輪「さーて、この辺りまで来たら、それほど周囲を気にせずに叩けるかな」

まこと「でも、どうやったらあいつを倒せるのだ……。こんなときにぬ~べ~先生がいたら……」

一輪「ちょっとちょっと~、私じゃ役不足ってことなの? その先生ってのに比べたら」

まこと「そ、そういうわけじゃ! お姉さんはぼくを助けてくれた強い妖怪(ひと)なのだ!」

まこと「ぼくらにも手伝えることがあったら何でも言って欲しいのだ!」

一輪「うん、ありがとうね。その気持ちだけで十分よ」


一輪「こっちは、おとりにでも使おうかな」

克也「え、何なんだこの扱いの差は……」


一輪(でも、あいつに決定打を与えるのは……なかなか難しそうなのよね)


――


布都「聖童女『大物忌正餐』」


ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

ミサキB「!!」

ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

ミサキB「ッ!!」

ドシューン!


布都「ふふ、流石にこの弾幕に囲まれては、容易に身動きはとれまい」

布都「そして、遁れようとしてもがけばもがくほど、被弾してダメージを蓄積してゆくぞ!」

屠自古「……ダガ」


小町「決定打は与えられていないようだね。考えようによっては、七人ミサキは“不死身”だからさ」


布都「そこを何とかするために足止めしとるんじゃろうが。お主、勝手に私の船に乗らんでくれるかのー?」


小町「いやー、やっぱり職業柄、小舟に乗ってると仕事モードになって士気が上がるからね」


屠自古「……ダッタラ」


小町「死神なんだから何とかしろと? ――幽霊相手ならもっと容易いんだがねぇ」

小町「おたくの聖人さんも手に負えなくて困るって地獄の皆が愚痴ってるよ」

小町「おまけにあたいのカマが盗まれちまって……今は自分で戦いづらいんだ。船賃は出すから相乗りさせてくれ」

屠自古「……ッタク」

布都「それ! ――聖少女『太陽神の贄』」


ズゥオオオオオオオオオオオオオオオオオ

ミサキB「ッ!!?」

ドシューンドシューンドシューンドシューンドシューンドシューンドシューン

>>418 訂正:聖少女→聖童女


――


美鈴「はァ!」


ガスッ!


ミサキC「ッ!」


ズザザザッ!


美鈴「――私は武術の心得がありますから、こういう本格的な闘り合いには向いているのかも知れませんね」

美鈴「貴方のからだから発せられる気を読めば、だいたいの動きは予測できますよ」

ミサキC「他所へ参らんッ!」


タッ


ミサキ?「こっちじゃ!」

ミサキC「!」



ミサキ?「ほう? 儂が仲間だといつから錯覚しておったのじゃ?」

ミサキC「?」


バッ


マミゾウ「お前さんもまだまだ若いのう~。変化『百鬼夜行の門』」


ォオオオオオオオオオオオオ!!

ミサキC「はぐっ!!?」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ

美鈴「うわあ……本格的な百鬼夜行ですね。ていうか、こんなとこに鳥居まで建てて大丈夫なんです?」

マミゾウ「なぁに。これも所詮は化かしよ。それよりもお前さんは……確か吸血鬼の館の門番だったと心得ているが」

美鈴「あーいや、成り行きで……。それにしてもあのミサキって亡霊ですが」

美鈴「圧倒的に強いってわけでもないんですけど、なかなかしぶといですね」

マミゾウ「あれは、七人組であっても7人だけというわけではないからのう」

美鈴「? それはどういう意味で」

マミゾウ「津々浦々あらゆる場にて、一定の数で括られて死んだ者達の亡霊の集団――」

マミゾウ「そやつらの集合体の一部が表象として幻想入りしているとみるのが妥当じゃろうな」

マミゾウ「ただし、自然な幻想入りではないな。儂も、ひとのこと言えんかも知れんが」

美鈴「うーん。要するに一筋縄ではいかない連中なんですね」


マミゾウ(――奴ら5人を一旦落ち着かせるには、里人か、なるべくなら外来人(よそもの)か、生贄を出すのがもっとも簡単じゃろうが)

マミゾウ(――坊主の手前、それは避けるほかあるまいて。あの寺子屋も有効な対処法を練っている最中というし)


バシィ!!


マミ達「ギブ……」


ミサキC「はぐれはおらぬか?」


美鈴「化けの皮がはがされちゃったみたいで……」

マミゾウ「手下たちで時間稼ぎも限界か。さてさて、足止めの続きじゃ」


――


妹紅「……ふうー」


ミサキD「……はぐれー」

ミサキE「……むかえー」


ムクリ


妹紅「まだ闘るか? 別に私は構わないよ――いくら闘おうとも、私は何も失わないからね」

妹紅「勿論、里人たちの命は、失うわけにはいかないけれど」


妹紅(――慧音は今、七人ミサキの詳しい実態と対応策について資料を収集中)

妹紅(里に散った残りの3人も、道士や命蓮寺の妖怪僧たちがていよく抑えているみたいね)

妹紅(夜が深まったうえに騒ぎが広がって、かえって外を出歩く人間はほとんどいなくなった)

妹紅(火事もことなきを得たようだし。さっきちらと目に入った、あの魔法使いと怪人物の動向は気になるところだけれど――)


――稗田家――


パラパラッ


慧音「ふむ……」

阿求「七人ミサキの跳梁跋扈とは、なかなか興味深い事態ですね。話が分かる相手だったら取材してみたいかも」

慧音「話の分かる相手だったら、苦労はしないわ。貴女も今、人里(きけんちたい)にいるのだから気をつけた方がいいよ」

阿求「気をつけろって言われても……私にはどうしようも。もし今うちに来たら、貴女が追い返してくれますよね?」

慧音「出来る限りはね。でも、今のところは妹紅達が食い止めているから大丈夫だと思うけれど」

阿求「さて、こちらが七人ミサキに関する詳しい記述になります」

阿求「幻想郷が外界から隔離される以前に編纂された部分にあたるから、妖怪の弱点や対処法といった点に重きが置かれているわ」




<七人ミサキとは――

土佐を始め山陽・南海道に伝わる集団亡霊で、風貌に応じて川ミサキ、山ミサキなどと呼称多数

災害や事故、特に海で溺死した人間の幽霊で、主に海や川などの水辺に現れるとされる

七人ミサキに運悪く出くわした人間は高熱に見舞われ、死んでしまうらしい

一人を取り殺すと七人ミサキ内の一人が成仏し、替わって取り殺された者が七人ミサキの一人となる

そのために七人ミサキの人数は常に七人組で、増減することはないといわれている

縦に列を成して移動するのが特徴で、先頭ほど年配者、後ろになるほど新参者のようだ


(中略)


対策は――

○日が暮れた後は外出しないこと。特に女・子どもは狙われやすいので注意

○外出したときは手の親指を隠すように拳を握っていると回避できるとかできないとか

○最悪の場合は、人柱を出して他所へ行ってしまうまでやり過ごそう。犠牲はつきものなのだ……


出典:ういきぺじあ

参考文献:『老圃奇談』『神威怪異奇談』『七人ミサキも●をする』等>




慧音「……ねぇ、これ本当に古い記述なの?」

阿求「細かいことは気にしないで」

阿求「対策ですが、7人のうち2人が雷にうたれて成仏した結果、残りの5人がはぐれ者を迎える為に動き出したんですよね」

慧音「複数の証言を総合したところ、そうらしいわ」

阿求「やはりここは、人柱を捧げて」

慧音「そうね。仕方がないから、貴女と鈴奈庵の娘にでも生贄になってもらいましょうか」

阿求「いやいや……まだ私、転生の準備はできていませんし」

阿求「それに“はぐれ者”っていうのは、ある集落共同体からはぐれた外部の者という意味にも取れます」

阿求「最悪の場合は、人里の外の人間、広義には幻想郷の外の人間――外来人――を」

慧音「……冗談に決まってるでしょ、私は人間を安易に犠牲にしようとは思わない。たとえ、余所者といってもね」


<この手の亡霊は自分が死んだという事実を受け入れることができず、いつまでも現世を彷徨い続けることが往々にしてある

自らの死にざまを再度経験することによって、ようやく現実を受け入れて自主的に成仏を遂げるのだろうか>



慧音(幻想郷における亡霊の認識に従えば、死体の供養や幽霊返りを経ずに彼らが成仏するとは考えられないのだけど)

慧音(現に2人はあっさり成仏したらしいし、他の5人についても執着を断ちきれば)

慧音(――要はいろんな死に方を試してみれば、無事成仏できるはず、か)

慧音(でも、こちらは手勢が多いことだし……姑息だけど今は人里の外に追いやる方が得策かな……?)

慧音(いずれにせよ、里人に被害が出る前に収拾しないとね)


慧音「ありがとう、参考になったわ――私は妹紅達と合流するから、貴女は兎も角、外出しないようにね」

阿求「どういたしまして。気をつけるわ、親指を隠してね」


――霧雨店(屋根の上)――


ガキィン!!!


怪人A「……!」


ギリギリギリ


魔理沙「……何の因果で、実家(ここ)の上で争わないといけねぇんだか、な」

魔理沙(やっぱり、この赤マントが持ってるカマはあのサボタージュ死神のものじゃねーか)

魔理沙(ってことは、こいつも死神の仲間? 何かそれっぽく見えないこともないが……違うな)

魔理沙(死神がこんなに死神っぽいオーラを出してちゃ、幻想郷には馴染めねーよ!)


ボキィッ!!


魔理沙「くっ!」


シュタッ


魔理沙「使い手が変わっても死神のカマだな、箒で受け止めるには無理があったか。折れちまったぜ……(もともとは普通の箒だったしな)」

魔理沙(箒なしでも飛べないことはないが……いつも使ってるから、どうも勝手が違うな)

魔理沙(――! あいつがいない!? 見失った? でもほんのさっきまで屋根の上に)

ヒュンッ


怪人A「……」

魔理沙(な、真上から!? ジャンプして一瞬私の視界から消え――)


ガスッ!!     ――カラーン


魔理沙「ごっ!!?」


ギギギギ……


怪人A「……」

魔理沙(土手っ腹に……風穴だぜ。穴は開いてないけど……結構……効くな)

魔理沙(殴られた拍子に八卦炉下に落としちまったし。キノコ爆弾投げるにせよ、他の魔法を使うにせよ)


メキィィ……


魔理沙(こう……首を絞めつけられてちゃ……身動きが……息が。片手でこの腕力っておかしいだろ……普通)

魔理沙(あーもう、こんなことなら……もうちょい体術とか護身術とかも身につけておけばよかった……)

魔理沙(今日の私……完全にやられ役じゃねーか……こんの野郎ッ)




怪人A「赤が好き――赤が好きと言った子は」


スッ


魔理沙(……ああ、赤って……そういうことか)

魔理沙(また血を見ることになるなあ……そのカマを振り下ろされたら)

魔理沙(いや……もう見てる余裕は……ないかも……知れない)

魔理沙(職業は魔法使いっって言っても――やっぱり私は人間なんだ)

魔理沙(実家の屋根の上で……か? まったく……)




怪人A「ニヤリ」




魔理沙(今、笑いやがった――仮面の下の表情(カオ)は変わんないけど、確かに歪んだ笑い声が聞こえてきた)

魔理沙(コイツ、心底人殺しを楽しんでる? ……殺人鬼かよ)

怪人A「――」


ブォン!!!


魔理沙(――南無三)




ドゴォォォ―――――!!!


怪人A「グァ!?」


ズザザザザザガシャーン!!




魔理沙「かはっ! ゲホゲホっ……」

魔理沙(何が起きた? あいつが……ぶっ飛ばされて)


ヒュゥゥゥゥ


魔理沙「! ……お前は」


??「やはり、力も方便となるべきときはあります」

小町「ほら! お前さんの八卦炉(おとしもの)だよ」


ヒュンッ パシッ!


魔理沙「!」

小町「やれやれ、随分手こずってるようじゃないか。まあ、こちとら大事なカマの盗人に今追いついところだけれど」


魔理沙「……お前なら、距離操って何とかできないのか?」


小町「うーん、ま、それは置いといて。相手は遊びじゃなくて本気で殺しにかかってる」

小町「負けず嫌いなあんたには不満かもしれないけれど、ここは助太刀させてもらうよ?」


魔理沙「1人で闘うより大勢でやるほうがいいに決まってる。こんなところで意地を張るほど私は馬鹿じゃない」

魔理沙「自分の血が流れるのも、他人の血が流れるのもまっぴらごめんだ」

魔理沙「こいつは得体が知れない怖さがあるけれど、野放しにはできない」

魔理沙「殺るしかない――ってことだろ、妖怪寺の住職さん」




聖白蓮「私は人妖平等を説いていますが――それはあくまで、弱く虐げられた妖怪が保護し、人間達に一定の譲歩を求めるもの」

聖白蓮「貴方のような、人にも妖怪にも害なす“化物”を相手にするに至っては、ガンガンいかせてもらいますよ」


ゴキィ、ゴキィ


聖白蓮「残念ながら、殲滅することでしか――貴方の仮面の下に隠された心は救済することができそうにないからね」


ユラリ


怪人A「……」


――人間の里(上空・雲上の宝船)――




響子「  以  上  で  ー  す  !  !  」





響子「  里  人  の  皆  さ  ん  、 気  を  つ  け  て ー  !  !  」





響子「  防  衛  隊  の  皆  さ  ん  は  、  健  闘  を  祈  り  ま  ー  す  !  !  」




慧音「……、これでさしあたっての対策について周知はできたわね」

小傘「2人が寺に戻った代わりに山彦が応援に来て役に立ったわね、良かったじゃない」

慧音「でもこの船、舵取りがいなくなっても大丈夫なの?」

響子「自動操行なのよ」


――人間の里(路上)――


まこと「こ、こ、こっちなのだー! こっちにまっすぐ来るのだー!」


ミサキA「ォォオオオ!!」


バッ!


一輪「今よ、伏せて」

まこと「はい!」


ミサキA「!」


スカッ


一輪&雲山「「オラアアア―――ッ!!」」


ドゴ――ッ!!


ミサキ「……ッ」

克也「へいへーい! こっちだぜ!!」

克也「迎えるってんなら迎えてみろよ!! 俺はこっちだ! 井戸のへりに突っ立ってんぞ!!」

ミサキ「……!」


クワッ


克也「来たーッ! 助けて、舟幽霊さん!!」


ゴポゴポゴポゴポ……バシャッ!!


ミサキA「!?」


ガシィ!


村紗「幻想卿には海もありませんし、私はもう悪戯はしても人を遭難させることはやめました」

村紗「ですが、もしもそれが逆に、貴方を救うことになるのかも知れないのならば――敢えて」




ドッポーン!!!    ……シ――――ン




まこと「……ごくり」

克也「ど、どうなんだろ。井戸の奥に引っ張り込まれて溺れた?……けど……成仏したんかな」

雲山「……」

一輪「どうだろうね。あれの外見は山ミサキってやつのようだったし、これが効いたかどうかは」

一輪「って雲山が言ってる」

一輪(でも、ミサキってのは“岬”と通じる。海に関連する伝承が多いし、『川ミサキが山に入ったら山ミサキになる』って説もあるという)

一輪(これが当たりだったら)

ヒョコリ


村紗「どうやら、無事に成仏されたみたいですよ。あの方は」


まこと「!!」

克也「マジでか!」


村紗「ようやく、長い呪縛から逃れられたようで」

一輪「……そう」


まこと「よかったのだ……怖かったけど、無事に成仏できて」

克也「つまり他の奴らも同じように引きずりこんだらいいってことなんじゃ?」


村紗「それは……どうでしょうかね。私には判りかねますが」

雲山「……」

一輪「いずれにせよ、こっちは片付いたから他の手助けに向かいましょ」

一輪(で、正直この子たちは足手まといなわけだけど)


克也「オレらだって、ちっとは役に立てたんだ! 広達に会えたら自慢しねーとな」

まこと「え、えーと……ぼくたちはおとりになっただけだし」

克也「ってなわけでお姉さま方! 先生を見つけるまではお供させてもらいますッ!!」


一輪「はぁー。あ、うん、分かったから」

村紗「まあ、宝船にご乗船いただくという手もありますから」

――人間の里(郊外)――




ミサキBCDE「「「「ゼー……ゼー……」」」」




屠自古「……フゥ」

布都「少々時間はかかったが、無事犠牲者を出すことなく、里のはずれまで追い返すことができたか」

妹紅「貴女達が最初に手を出さなかったら、もっと穏便に事を済ませられたでしょうけど、ね」

美鈴「確か5人が暴れ回ってたんですよね? 1人見当たらないようですが」

マミゾウ「坊主や僧侶も動いておるのじゃ。案外、上手く処理できたのやもしれんぞ」


マミゾウ「しっかし、あれだけ水際作戦を展開しておいて、最後はゴリ押しで押し出しとはのう」

布都「一刻も早く里人を危険から遠ざけるのが、我々の一番の目的」

布都「いろんな殺し方を試してみよ、とのお達しだが……やはりここは手っ取り早く」

美鈴「人里から追い出しちゃいましょう!」

屠自古「……サヨナラダ」


妹紅「――それも、姑(しばら)く里には出て来れないような、迷える場にね!」

??「神宝『サラマンダーシールド』」


ギュルルルルルルルルルルル!!


ミサキBCDE「「「「ッ!!!?」」」」



妹紅「な……貴女まで邪魔しにきたの!? もういい加減にしてよ!!」

輝夜「何を言っているの? 違うわよ、さっき宵闇を斬り裂くような大音声を聞いてね。永遠亭(うち)まで届いたのよ、アレ」

妹紅「え……」

輝夜「こやつらが人里を荒らす無法者なのでしょ? 燃えない衣の盾で捕まえたから、念のためにあんたの炎で囲んで二重に拘束したら?」

妹紅「――そうね」


ゴォォォォォォォォォォォォォ


輝夜「そろそろ、また喧嘩を売りに来るころかなと待っていたんだけれど。丁度いいわ」

輝夜「今はこやつらとも殺り合いましょ? 私達には、いくらでも費やせる時間があるのだから」

妹紅「そうね。勿論、ここじゃなくて――迷いの竹林の中で、殺り合うとしようかしら」


ミサキBCDE「「「「~~~~!」」」」


……ユラユラユラユラ

屠自古「……」

布都「……まるで竹林の奥に吸い込まれるかのように、行ってしまった。否、永遠に迎えられてしまったとでもいうべきや?」

マミゾウ「何じゃ、あの2人は。夫婦なのかの?」

美鈴「いやー、たぶんいろんな過去があって仲は悪いと思うんですが。実のところはどうなんでしょう、私には判りませんね」

布都「何はともあれ、これでひとまずは安心ということじゃな」

屠自古「……ソウダネ」


美鈴「あの4人は永遠にミサキのまま、いつまでも動かない時間の中に封じ込められるのかも」

マミゾウ「ふーむ、永久に救われぬ、ということかの? じゃが、それも亡霊になった者の末路のひとつよ」

屠自古「……」

布都「救える者は救えても、救えぬ者は最期まで救えぬ……か。認めたくはなくとも、限界は厳然としてそこにある」


布都「さーて、これで仕舞いよ!」

美鈴「普段の弾幕ごっこと違って、たまにはこういう鬼気迫る感じの闘いがあってもいいかも知れませんね」

マミゾウ「それはなんともいえぬが……普段は各々勝手気ままにやってる連中が、今回に限っては種族・宗派を問わず結束しておる」

屠自古「……ウム」

マミゾウ(こういう時に限っておらぬとは、ぬえよ……お前さんは本当に間が悪いな)

美鈴「あれだこれだと異変を起こしていても、幻想郷が本当に一大事となったら――皆困っちゃいますもの」

マミゾウ「そういう意味では、後のちのためにいい教訓になるやも知れんぞ」




               (第2.5話:里人たちを守れ――妖怪大戦争勃発!の巻<中編>・終)

次回に続きます

ミサキAのくだりは完全にオリ設定ですが、ここまで引っ張っておいて最後があっさりだと
流石に者足らないと思いまして


――妖怪の山(守矢神社)――


ケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサラン


神奈子「守矢神社を人間界から幻想の存在とし、幻想郷で信仰を集める事――それが幻想入りを強行した私の最大の目的」

神奈子「外界の人間は神を捨て、科学崇拝に魂を捧げてしまった現代に至っては」

神奈子「神への信仰心は失われてゆき、やがて……我々の存在自体が露と消えてしまうもの思われた」

神奈子「だからこそ、幻想入りという大きな賭けに出て、そして今日に至る」


ケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサラン


神奈子「エネルギーの技術革命……という手段も確かに長期的に見れば成算はあるが」

神奈子「やはり、河童の労働力を始め様々な者共を従え、上手く扱いながら進めるほかはない」

神奈子「妖怪の山に舞い降りて時も経ち、溶け込んだとはいえども。他の数多の勢力との兼ね合いもあり――なかなか大胆な動きはできない」


神奈子「だからこそ――このケサランパサラン達の力が生きてくるわけだ」


神奈子(我々の乾坤想像も早苗が生み出す奇跡にも、自ずと限界があるし――派手なことをやってしまうとまた異変を起こしたなと騒がれる)

神奈子(まったく、私達が(直接)異変を起こしたことなどないというのに――風評被害もいいところだが)

神奈子(兎にも角にも。我々が実現したいことを、誰からの干渉も受けることなく、恰も自然に達成させること)


神奈子「貴方たちになら、出来るであろう?」


ケサランパサラン達「……」


ポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッ


――妖怪の山(大蝦蟇の池)――


ドロドロ……


大蝦蟇「にやにや」




ゆきめ「こんのヘンタイガエルがー!」


コォォ


ゆきめ「舌先から尻尾の先っちょまで氷漬けにしてやる!」

早苗「ちょっと待って下さい! カエルにはもう尻尾はありませんよ」

ゆきめ「そんなことどーだっていいでしょ!?」

早苗「ええ、そうじゃなくてー! このガマガエルさんは言って見れば神の使いみたいなものなんです」

早苗「攻撃したら、一層バチがあたるというか~」

ゆきめ「だったらどーすりゃいいの! このままコイツに好き勝手にさせるの!?」

ゆきめ「絶対イヤよ私! ヴァージンは鵺野先生に捧げるまで守り通すんだからっ!」


ドロドロ……


早苗「あ、そうだ! いい手がありますよ」

早苗「ほら、池のほとりに祠が見えるでしょう?」

早苗「あそこに何かお供え物でもしたら、大蝦蟇さんも許してくれるんじゃないでしょうか」

ゆきめ「そうなの? それじゃ、何か早くお供え物でもしてよ!」

早苗「えー、でもいきなりではお供えできるものが――」

早苗「あ、いい考えがあります」

早苗「私達がお供え物になればいいんじゃないでしょうか!」

ゆきめ「なるほどーいい考え! 私達が犠牲になってこいつの怒りを鎮めれば――」

早苗「……」

ゆきめ「……」


大蝦蟇「ペロペロペロペロ」


ゆきめ「ってそれじゃ結局このままヤられちゃうじゃないのー!!」

早苗「誰かー助けに来て下さーい」


ヒョコリ


諏訪子「助けに来たよー」


――


大蝦蟇「ズルズルズル」

リグル「いやあああああああッ!!?」


ゴポゴポゴポゴポゴポ……




早苗「ふうー、助かりました。諏訪子様」

ゆきめ「あーもうまったく、一時はどうなることかと思ったわ……」

諏訪子「まったくもう、遊ぶのならこんな狭い池の上じゃなくて、せめてうちの湖の上でやっておきなさいよ」


早苗「でも、諏訪子様がちょうどお手頃な蟲(いけにえ)を連れていて良かったー」

早苗「カエルの好物はやはり蟲って相場で決まってますもんね」

ゆきめ「さっきのあれって、虫なの?」

諏訪子「蟲だよ。早苗の帰りが遅いし、神奈子はあの綿毛に夢中で奥に籠っちゃったしで」

諏訪子「夕涼みを兼ねて蛍狩をしてたわけ、もう真夜中だけどね」

諏訪子「で、こっちの低体温症っぽいのは誰? この山の妖怪ではなさそうだけれど」

早苗「ああ、この妖怪さんはうちの神社に襲来した雪女みたいで――ぬえさんの居場所が知りたいんでしたっけ」

ゆきめ「今度こそちゃんと話を聞いてよね。鵺野先生は今どこに……って!」

ゆきめ「何なの、その“ぬえさん”って呼び方はー!?」

ゆきめ「あんた鵺野先生とどーいう関係なのよ!?」

早苗「どーいうって、まあ……退治する側とされる側の関係かしら?」


アーダコーダ


諏訪子「あーうー……いろいろと誤解が生じているようだから冷静に話し合おう。ね」




パシャッ  ……ドサッ


リグル「ゆ、許さないよ……一生恨んでやる……綿吐を仕込んでやるよ! ……ううぅ」


――妖怪の山(中腹)――


玉藻「参りました――とでも言っておきましょうか? 今はね」

藍「ふ、そんな涼しい表情で言われてもな――だが、賢明な判断だろう」

藍「これ以上闘り合ったところで、あまり有益にはならないことははっきりしたからね。お互いに」

玉藻「ええ。あなたのように分別を弁えた賢明な妖怪が慕う大妖怪(そんざい)によって、この幻想郷(はこにわ)は維持されている。ということでしたね?」

藍「そうよ。紫様(あのおかた)にとって、幻想郷は手塩を掛けて育てた大切な子のようなもの」


藍「幻想郷を守るため、ならば――」

玉藻「手段を選ばないということですか」


玉藻「ですが、それは勿論この異界(せかい)に害をなすような者に対して、なのでしょう?」

藍「そうね。幻想郷では様々な種族が様々な理由を以て“異変”を引き起こす」

藍「だがそれらは大抵の場合、『存在を誇示するために』『気まぐれに』『興味本位で』起こした、という規模の大きなの遊びの側面が強い」

藍「が、時には笑いごとでは済まされないような異変も起きることがある」

藍「直近では、幻想郷におけるカーストをひっくり返し、下剋上を企てるという異変があったな」

玉藻「レジスタンス、ということです? それはなかなか、捨て置けない事態だったでしょうね」

藍「まあ、その一件は首謀者が小物だったこともあり――博麗の巫女(せんもんか)の妖怪退治であえなく幕を閉じたけれど」

玉藻(妖怪退治の専門家か。それが仮に人間だとしたら、この異界にも鵺野先生と同じ霊能力者が存在するのかも知れないな)


藍(紅霧の一件や春集めの一件も事態としては深刻だったが)

藍「最近特に一大事となったのは――天衣無縫な気紛れによって、幻想郷の博麗神社(かなめ)に要石(じらい)を埋め込まれたとき」

藍「あの時ばかりはあのお方も怒りを露わにし――異変の首謀者にこう言い放ったのよ」

藍「――『美しく残酷なこの大地から往(い)ね!』とね」

玉藻「……」


藍「その地雷は異変解決後、幻想郷の要になる地に刺され埋(うず)められた」

藍「もっとも、埋められているからこそ更なる災厄の発生が封じられているという側面もある」

玉藻「諸刃の剣ということです? 上手く扱うことができれば逆にこの世界を守る要にもなりうると」

藍「そう……も言いきれないかな」

藍(要石(あれ)を扱うことができる者が――他にもいたとしたら、話は別なのだが)

玉藻「……。ふふ、少し話が脱線しているをお見受けしますね」

玉藻「本来この世界に無関係な私に対して、この世界が孕む数多の問題を説き明かしても、あなたにメリットはないはず」

藍「はは、確かにそうだな。本題に入るとしよう」


藍「異変を起こすリスクを抱えた存在か否か――そういうで観点からみれば、貴方が行方を追っているという外来人らは排除の対象にならないわね」

藍「貴方の言が正しいのならば、だけれど」

玉藻「保証しますよ――鵺野鳴介という人間には鬼の手という危険極まりないモノが備わっているが」

玉藻「それはひとえに守りたい存在を守るために使うというのが、あの人のポリシーらしい」

玉藻「たとえ妖怪であろうとも、話の分かる相手や大切な生徒達に危害を加えようとしない相手には」

玉藻「決して、その力を行使したりしない」


藍「そうかい。で、貴方はそんなヌエノとやらに魅力を感じているわけだな」


玉藻「……言ったでしょう、あくまで研究の対象なのだと」

玉藻「誰かを守りたいがために命懸けで戦い、普段のさまからは信じられないほどの力を発揮する――その力を引き出す何か」

玉藻「力の源と考えられるもの――人間の愛――を解き明かすこと。それが人間界に留まる道を選んだ私の目的なんですよ」


藍「目的といいつつも、もうそれを理解しつつあるんじゃないの?」

藍「貴方、初めて見たときから思っていたけれど……半分人間臭いわよ。数百年も妖狐として生きながら、その人間に出逢った刹那から、貴方は変わりつつある」

藍「近い将来、貴方の妖狐としての生き方は影を潜め、代わって人間としての生き方が主になってくるかも知れないね」


玉藻「私は今、仮の姿としての“玉藻京介”であり真の姿としての“荼吉権現天狐”だ」

玉藻「これは将来に渡って、不変の事実ですよ」

藍「私は今、式神としての“八雲藍”であり、妖狐としての名は……もう忘れてしまったな」


藍「ひとは変わるものだ。それはひとに限らず、妖怪でも、神でも、鬼でさえも同じだろう」

藍「将来のことなど――」

玉藻「――分かりやしない、ということですね」

ヒュゥゥゥゥゥ


藍「さて、この幻想郷の各地には今まさに異変が生じている。勘のいい貴方ならば当然気がついているわね」

藍「私はこれ以上、のんびりしてはいられない――管理人(じょうし)が戻ってくるまでの間、出来る限りのことをしておかないと」

藍「そして、その中途で――貴方が探し求めている人物に巡り合うことは十分考えられる」


玉藻「だから自分のあとについてくればいいだろう、と? 生憎ですが、ここは遠慮しておきましょう」

藍「おや、断るの? 急いで探し出したいのなら――」

玉藻「ついて行った方がいいと仰せでしょうが、そこまで焦る必要はないと判断したからですよ」

玉藻「貴方の話を聞く限り、鵺野先生達が絶体絶命の危機、なんて状況に陥る可能性は低いと思われるのでね」

玉藻「それに、私は私のやり方で彼らの足取りを追尾することもできる」

玉藻「少々時間はかかるかも知れませんが。何せこの世界には、強い妖気を放つ者が多いようで」


藍「分かった。それでは、気をつけるようにね。くれぐれも、貴方や貴方の“仲間”が異変に首を突っ込んでしまわないように、という意味で」

玉藻「……。ええ、気をつけましょう。もっとも私は、対岸の火事にわざわざ干渉するような愚行はしない」

玉藻「むしろその混乱のお陰で、幻想郷を駆け巡りやすいかもしれないんでね」


藍「狡猾なやつよ――健闘を祈ろう。次に顔を合わせる頃には、異変も大方は片付いているだろうしね」

玉藻「あなたに狡猾と言われたくありませんが。事が済んだら、最東端の神社にて――でしたね」




「それでは」「アディオス」


シュタッ


――人間の里(上空・雲上の宝船)――


ボゥ……    ボゥ……


克也「うひょー……凄え眺めだな。人里が一望できる」


村紗「本来ならば夜は真っ暗闇で――明かりなど月の光くらいしかありませんが」

村紗「今回は船に鬼火を焚いていますから、まだ見える方でしょう?」


まこと「でも、人里もその周りも……あたり一面真っ暗なのだ」


慧音「怖いかな?」


まこと「う、うん……こんなに全然明かりがないと……」


慧音「でもね、妖怪達にとってはこの闇こそが最良の棲みかになるのよ」

慧音「人間達は日が暮れたら家に帰り、明かりを消して、静かに眠りに入る」

慧音「一方で妖怪たちは黄昏と同時に姿を現し、宵闇の中を活動し」


克也「そんで、丑三つ時……って言うんだっけ。幽霊とかが一番出やすいのは」

まこと「それからだんだん朝が近づくと、幽霊も妖怪も消えてしまうのだ」


慧音「あらあら、十歳やそこらで詳しいのね」


克也「そりゃそうっスよ! ぬ~べ~先生のお陰っていうか、せいでっていうか。こっち方面じゃいろんな目に遭ったし」

まこと「けーね先生も凄く物知りなのだ。もっともっといろんな話を聞かせて欲しいのだー」


慧音「ふふふ、そう言ってくれると先生も嬉しいね」

慧音「里が落ち着いたら、特別授業でもしてあげようか? ただし、宿題もちゃんと出してあげるよ?」


克也「えー!?」

まこと「宿題は勘弁なのだー!」


慧音「ダメダメ! 宿題をしない子には先生頭をごっつんこしちゃうぞ~!」


コツン


まこと「・・・・・・」

克也「!! 先生、オレもオレもー」


慧音「君はダーメ」


パシャン


村紗「水を掛けられる懲罰というのもありでしょう。あ、これは呪われた水ではありませんからご安心を」


克也「・・・・・・寒くはないんだ・・・けど、冷たさが身にしみるー」




小傘「まったく、人間は怖がらせるべきものなのに……」

響子「貴女は怖がらせようとしても、誰も怖がらないじゃない」

小傘「う……それはもういいでしょ。今の戦況を気にしなきゃ」

響子「あの七人ミサキ達は片が付いたらしいわね。って報告が来たわ」

響子「手伝ってくれた道士達は解散、他のお寺のメンバーは暫く人里に留まって警備に当たるって」

小傘「僧侶たちが見回ってるなら、また何か出てきても大丈夫そうね」

響子「それから、聖と他2名が謎の仮面とまだ闘ってる模様」

小傘「あの面霊気とは関係ないのよね? ……一体ナニモノなのよ」

まこと「あそこなのだ! 何人かが凄い速さで動いているようだけれど……」

克也「全然見えねーな。暗いのもあるし……これがヤムチャ視点ってやつか……」

村紗「赤いマントに帽子と仮面……あれも妖怪の類なのでしょうか?」

慧音「……」


慧音「あれが“怪人赤マント”だとすれば……比較的新しい都市伝説がルーツになるかな」

まこと「かいじんあかまんとー? 名前からして悪そうなのだー!」

克也「……うる星やつら?」

村紗「?」


慧音「赤マント青マントの話、知っている?」

まこと「うーんと……」

村紗「赤マント青マント……あれ、それって誰かのスペカにあったような気がしますが」

克也「誰かって?」

慧音「文字通り、誰かよ――あの怪人もまさしく正体不明」


慧音(となるとあれは、博麗大結界が成立して後に、外界に蔓延った存在――当時の世相や疑心暗鬼といった様々な事象が遠因となって生れた怪異)

慧音(いにしえから存在する七人ミサキも厄介だったけれど……こっちも一癖二癖ある相手ね)


――妖怪の山(上空)――




ビュォォォォォォ




岩天狗「痛つつ……何者だ?」


はやて「痛つつ……岩天狗ねぇ、名前負けはしていないようで。滅法硬いじゃないの」


文(……私は割り切らなければ……ならない)

文(将来のこと……それは……今私が考えるべきことじゃない)

文(……私が今考えるべきことは)

文(――今健在な霊夢さんに万一のことが無いように、生温かく見守って差し上げると言ったところですか)

文(――勿論、取材という建前は崩しませんがね!)




文「逆風『人間禁制の道』」


フォォォォォォォォォォォォォォォォォ


岩天狗「むぉ!?」

はたて「文!」

>>451 訂正 最初のセリフにて はやて→はたて

バサバサッ


文「やれやれ――ちょっとイヤな幻術(ゆめ)を見せられちゃいましたが」

文「かえって、自問自答する良い機会に恵まれた、と考えて感謝しておきましょう」

文「岩天狗さん」


岩天狗「お、おう……」


はたて「ちょっと文!」

文「おや、はたて? 貴方もいたんですか? 珍しいですね、外出だなんて」

はたて「何を暢気なことを言ってるのよ! そこの岩野郎、文にイタズラしようとしてたんだから!!」


岩天狗「な」


文「え、私に?」

はたて「そうよ!」


岩天狗「ち、ちがーう!!」

岩天狗「俺様は……ただ、そこの……女天狗の手を……握ってみたかっただけで」

岩天狗「どうせ元の山に帰ったら……もう……そんな機会はなかなか訪れないかも……って思ってだな……その」


文「……」

はたて「ウソおっしゃい。もっと変なことしようって気持ちが口から筒抜けだったわ!」

文「別にいいですよ? 手ぐらいなら握って差し上げましょう」


岩天狗「……!?」

はたて「あ、文!?」

文「それで納得して幻想郷(ここ)からお帰りいただけるんなら、こちらとしてもありがたいので。握手券なしで握手してあげますよ」


文(何しろ、まだまだ厄介な外来妖怪が沸き出てくる可能性が十分ありますからね)

文(もう深更ですが、鳥目にも人里が慌ただしくなっているのははっきり判りますし)

文(この天狗さんは言っても妖怪の山を侵略するといったような敵意はないのだから)

文(このまま穏便な形で――)


岩天狗「そ、それは……あ、じゃあ……どーも」


文「ついでにうちの新聞もお渡ししておきますんで後で読んでみてくださいな」


キュキュ……カキカキ


文「更にサービスということで、私のサイン入り勧誘チラシもお付けしますねー、はい書けました」


スッ


文「では、どうぞ~(記者スマイル)」

岩天狗「・・・・・・ゴクリ」


はたて「ダメ――――――――――――――――――ッ!!」

ドゴッ


岩天狗「ガハッ!!?」


文「ちょ、はたて!?」

はたて「ダメよ文! こんなヤツと握手するなんて、手が穢れるわよ」

はたて「だってコイツ、ドーテイなんだから」


岩天狗「ッ!!?」


はたて「800年も女の子の手さえ握ったコトがないなんて……キャハハハッ」

はたて「幸薄い人生じゃない? それも天狗だから長い長い時間だもんねー」




はたて「あんたなんか、大岩を削って女型の石像(ダッチワイフ)作って――ひとり寂しく自慰ってりゃいいのよ!」




岩天狗「ぁ……あ……ああああっ……!」

岩天狗「貴様らァ……許さんぞォ……!!」

岩天狗「この岩天狗様をここまで愚弄したことを……後悔させてくれる……!!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


はたて「……な、何よ。コイツ……。散々おちょくっちゃったケド……」

はたて「意外と……強そうな雰囲気ね」

文「貴女が彼の苦悶に満ちた心に火を付けたんですよ――残念ながら、もう交渉の余地はありませんね」




岩天狗「食らえ―――ッ!」

岩天狗「天狗必殺奥義――『天神風(あまつかぜ)』!!!」




――カッ




はたて「――」

文「――な」




ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルド―――――――――――――ン!!!




――魔法の森(玄武の沢)――


にとり(今、山側の上空で爆発的な閃光弾のようなのが炸裂したみたいだけれど……新手の弾幕使いの仕業?)

弥々子「うーむ」

にとり「ん、何?」

弥々子「おめえ、本当にびっくりするほど胸がねぇなあ」

にとり「喧嘩でも売ってるの……?」

にとり「余所者とは言え河童のよしみってことで今日は泊めてあげようかと思ったけど、やっぱ出て――」

弥々子「そんなら、一緒に表へ出るっぺ! 相撲で勝負だっぺ!」


グイ


にとり「ってちょっと!?」

にとり「まったく、あんた外界から来たんでしょ? 相撲のような前時代的なスポーツに興じるよりさ」

にとり「もっと、面白い話とかしてくれない? 私にとってね」

弥々子「面白い話?」

にとり「例えば、外界の優れた技術とか……お金になりそうな商売の新手法とか……」

にとり「それか、何かいいモノ持って来たりしてないの?」

にとり「向こうでは価値がなくていらないものとかー(ぐへへ、価値の分からない好事家相手に高値で売り捌いてやる!)」

弥々子「……そんなら、これをあげるっぺ。おらに親切にしてくれた感謝の気持ちだっぺ!」


スッ


にとり「これって……」

弥々子「おらの、大好物だ」

にとり「……」

にとり「うん、ありがと。私も好きだよ――キュウリはね」




           (第2.5話:里人たちを守れ――妖怪大戦争勃発!の巻<後編>・終)



【今後の予定(一部追補)】




第3話「 片腕の仙人と鬼の手を持つ男 の巻」(来週末ごろ)




第4話「 震える天空砕ける大地――有頂天の天人くずれと地獄から来た最凶の鬼 の巻」(8月中~9月上旬)




最終話「 百鬼夜行――そして境界線の向こう側へ の巻」(9月中)


エピローグ「 希望の面と絶望の仮面 / 夜回り先生ぬ~べ~と秘封倶楽部の異次元談話 」





――(予告編)――




○時系列的には《第4話》以降になりますが


前回提示した題名によって今後の展開が大体予想できると思いますので


ここで投下しておきます。



【丑三つ時】


――幻想郷(上空)――




グラグラグラグラ――――ッ!

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ!!

ビシャ―――――――――――――――――――――――ン!!!




??「緋想の剣よ、こやつらの気質を映し出せ。そして弾ける気力(エネルギー)となれ――天変地異を起こすのよ」

??「鬼に金棒だね――」

??「せーの、きゅっとしてー」








ドッカ――――――――――――――――――――――――――――――――ン!!!!








フラン「あはは。山の上もあっさり吹っ飛んじゃったわね」

絶鬼「次はどこにケンカを売るつもりだい? そろそろ人里とやらを無に帰したい気分だ」

天子「ダメダメ。もしやるとしたらそこはラスト――簡単に幻想郷が崩れ落ちちゃったら、つまんない」

天子「――よっと」


ヒョイ


要石「――……プカプカ……」


絶鬼「確かにまだまだ序の口だよね。本当の愉しみは最後に取っておくとしよう」


タッ


フラン「気持ちが良い。あの狭くて狭くて退屈で遊び飽きた部屋の中より、外で遊ぶ方が断然いいわね」

フラン「貴方たちが紅魔館(あのやかた)を粉砕してくれたおかげよ」

絶鬼「そうだね、断然気持ちいいよね――幻想郷(ここ)はぼくたちの遊び道具にぴったりだ」


天子「今度は解決する側に回ろうかと思ったけど。やっぱり黒幕(ヒール)役のほうが思う存分好き勝手やれていいわ」

天子「されど、地上はもうじき陥落する。早く、巫女たち倒しに来ないかなー?」

天子「こう待つのも退屈ね。来ないんなら――ホントにこのまま全て吹っ飛ばしちゃうよ?」


絶鬼「それで、この世界に終焉(フィナーレ)を与えたら、次はどうするの?」

絶鬼「今度は人間界を焦土に変えようか? きみたちの力をもってすれば、外に現界するのも容易いことだろう」

フラン「あーそれ面白そう! 外の世界も見てみたい」


天子「いやいや、外界はまだ早い。まずは――私を見下ろす目障りな月を陥落(お)とすとしよう」


絶鬼「月だって? あんなちっぽけなモノを潰したところで、暇潰しにもならないんじゃないかな?」

フラン「ううん、そんなことないわよ。月の民の連中って、地上の有象無象よりもっともっと強いんだって、本の虫から聞いたことがある」

絶鬼「ふぅん、そういうわけなら。案外面白そうだね」


天子「我ら天地人鬼の“四天王(カルテット)”の力――見せつけてくれようぞ」


絶鬼「ってことだよ。判った、兄さん?」


ゴソゴソ


??「……ん、何か言ったうが?」

絶鬼「あーうん……とりあえず、破壊し尽くそうって話さ」


天子「あらら、まだ人化が上手くできないの?」


フラン「下が丸出しー! 不格好で無粋だわ」


天子「それでなくても流石に4人で要石(これ)に乗ったら狭いんだから、もっと小さくなってよ」


覇鬼「うー……んなら、こうすればいいうが」

フラン「え?」


ヒョイ


フラン「わー。高い高ーい」

覇鬼「がはは! これでひとり分広くなったー」

絶鬼「あまり変わってないよ。それに、ここは既に十分高度があるよね、雲が掴めるくらいに」


天子「まったく、ふたりとも幼稚ですわねぇ」


ボンッ


覇鬼「……ふ、これでいい、か?」

フラン「低い低~い」

絶鬼「うん、それでカンペキだ。ここの連中は人型ばかりだから、多少の譲歩はしてやってもいいってものさ」


天子「でも、いざとなったら本気出しちゃっていいよ?」


フラン「あの巫女、この界隈じゃ最強ってことになってるもの。お遊びでの話だけどねぇ」

天子「――ここいらで、指令系統をはっきりさせておこうかな」


チラリ


絶鬼「――それもそうだ」


覇鬼・フラン「「??」」


天子「司令塔は私だ」

天子「この天下(せかい)のことは熟知しているし、何しろ“天地人”―全ては私の掌の中にある」

絶鬼「いいや、司令塔はぼくだ。世話の焼ける兄妹の間に挟まれたおかげで“子ども”の扱いには一日の長がある」

絶鬼「彼ら(ふたり)の能力を最大限に引き出せるかどうかは僕の腕にかかっているといってもいい」

天子「私だ」

絶鬼「ぼくだよ」

天子「何よ。薔薇なんかかざしてカッコつけてるだけの小鬼のクセに」

絶鬼「きみが帽子にくっつけているその桃、天界の桃だか何だか知らないけれど傍から見たら実に滑稽だ」


覇鬼「まーまー、落ち着くうが、絶鬼」

フラン「天子さんも、ケンカは良くないよ」


シャリ


フラン「でも、この桃なかなか美味しいわ」


パクパク


覇鬼「全身にチカラがあふれてくるような気がするうが」

え?覇鬼?……え?
じゃあぬ~べ~の鬼の手ってどうなってるんだ?

天子「何か勘違いしているんじゃないの? お前は所詮私によって利用されているだけなのよ?」

絶鬼「勘違いしているのはそっちだよ? きみの能力はつまるところぼくに利用されているだけだと気がつかないの?」

天子「ふんだ。まあいい、その点については爾後はっきりさせるとしよう」

絶鬼「そうだね。まずは地上を支配下においてから、上下関係というものを分からせてあげようじゃないか」


フラン「支配下ね――それをやってのけたらお姉様(アイツ)は一体どんな顔をするのかな」

覇鬼「良く分からんが腕が鳴る! 皆殺しだァ!!」




天子「さーて、小休止(ブレス)はこの辺で終わりにしようかしら」

絶鬼「交響曲第9番――境界の壁崩壊のシンフォニー――の始まりだ」

フラン「ウフフ・・・」

覇鬼「ウガウガ・・・」




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



《EXTRA BOSSES》


< 細胸の不良天人 >

比那名居 天子――TENSHI HINANAWI――


○大地を操る程度の能力(←要石)

○気質を見極める程度の能力(←緋想の剣)

○高い身体能力(←天界の桃)




< 最凶の鬼 >

絶鬼――ZEKKI――


○悪魔の旋律(戦慄)を奏でる程度の能力(仮)




<最狂の吸血鬼 >

フランドール・スカーレット――FLANDRE SCARLET――


○ありとあらゆるものを破壊する程度の能力




< 最強の鬼 >

覇鬼――BAKI――


○ありとあらゆるものを破壊し尽くす程度の能力(仮)




                              (予告編・終)

>>474 3話以降で話が進んでいきます。では来週また。

――博麗神社――


ヒュォォォォォォ


貧乏神「どうだあ? 全てを失った気分は」

霊夢「全て? 何言ってんのよ。たとえ、建物が焼失したところで、神社の肝心要は私自身なんだから」

霊夢「私が無事ならどうとだってやり直せるわよ」

貧乏神「……」


霊夢(と、言ってはみたものの――)



針妙丸「ふうー、焼け落ちた材木を片付けるだけでも一苦労だわ……」

天子「ねー、本当に私、篝火を持っているだけでいいの?」

天子「人出が足りないんでしょ? 私も建て直すのを手伝ってもいいわよ?」

針妙丸「そうよ霊夢さん。早く復興しないと大変なんでしょ? ここはいっそ手伝ってもらった方が……」


霊夢「絶対ダメよ、そこの不良には前科があるから」


霊夢(やっぱり、文が山に向かう時に河童連中にでも応援を頼むよう依頼を出しておくべきだった)

霊夢(あれから結構時間が経つけれど……文は戻って来ないし。山の方も異変の余波を受けているようね)

霊夢(一方で人里の方でも火事やら何やらで慌ただしくなっているみたいで……)

霊夢(地底の連中を呼んだりしたらかえって事態が混乱すると思って、黒猫にも地底に状況を伝えるだけでいいって言っちゃったし)

霊夢(もう、いつもなら魔理沙とか萃香とか、いろんな連中が入れ替わり立ち替わり屯しているってのに)

霊夢(今日に限っては、妖怪も含めて閑散とした状況)

霊夢(私がひとっ飛びで暇そうで使えそうなのを掻き集めるって手もあるけれど……ちょっとでも留守にしたらあいつが何を仕出かすか知れたもんじゃないし)


針妙丸「ええっと、この辺りが神社の真ん中かな」

天子「そうよ、この奥に要石が埋まっているのよ」

針妙丸「あれって確か、天人である貴女にしか扱えないのでしたっけ?」

天子「天人であることが要諦ではないの。とりあえず基本的に私の一族にしか扱えないってこと」

天子「綺麗に焼け跡と化したお陰で、引っ張り出しやすくなったわ」

針妙丸「え、でも……もしこれが地下から引き抜かれたら……」


霊夢「これまでに蓄積されていた大地の歪み(エネルギー)が一気に噴出して大地震が発生するわ」

霊夢「もし引き抜こうってんなら、冗談抜きで血祭りに上げるわよ?」


天子「うふふ、冗談よー」

針妙丸「そうよね、冗談よね」


貧乏神「フェフェフェ……」

霊夢(まさか、閑散としてるのも貧乏神のチカラに依るものってわけじゃないでしょうね?)

霊夢(たかだか貧乏神だと思って……ちょっとなめてたわ)

霊夢(『うちの神社に祀ってあげる』だなんて安易なことを口にするんじゃなかった。言霊って怖いわね)





(玉藻とゆきめが幻想入りした少し前の出来事。>>91以降の内容)




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――博麗神社――


霊夢(私の大切な壺預金が……ようやく一杯になるまで溜まったのにィっ!!)


穣子「ひ、ひどい……私達の服が……全部焼けちゃった」

静葉「神に向かってこんなことをするなんて……呪ってやる」

霊夢「八百万の神の一柱が呪うとか安易に口にするのもどうかと思うけれど」

霊夢「その辺の落ち葉でも纏って帰ったら? 蓑虫みたいに」

静葉「なるほど……その手があったわ」

霊夢(ってあんた葉っぱに色塗って物理的に落とすだけでしょうが)

穣子「え……私は落ち葉なんて操れない」

霊夢「じゃ、そのまま帰ってその辺の農民にでも食べられたら? 婉曲的な意味で」

穣子「この鬼! 悪魔! 貧乏巫女!!」

霊夢「やれやれ」

霊夢「でも燃えたのが紙幣だけで、建物(神社)にまで燃え広がらなくてよかったわ」

霊夢「何しろこれまでにも地震(人災)とかで二度倒壊して……そのたびに再建」

霊夢(……でもその時は、そんなに私の懐は痛まなかったけど)

霊夢(もし本殿が焼損でもしたら、ちょっと話が違ってくるのよね)

霊夢(――結界)

貧乏神「ふぉふぉふぉ」

霊夢「あんた――いい加減にしないともう本気で怒るわよ?」


ゴトンゴトン


お燐「霊夢のお姉さーん」


霊夢「……」


霊夢「何しに来たの、用件を言いなさい」

霊夢「事と次第によっては、あんたもお色気担当になってもらうけど……?」

お燐「お、お姉さん。どうしてそんなに怖い顔してるんだい……」

お燐「あたいは地底で熟成させた度数が高くて旨い地酒を運んできたのさ」

お燐「ついでに人里でウォッカや焼酎も買ってきたよ」

お燐「お姉さんにはよくお世話になってるからね。神饌にでも使ってくださいな」

霊夢「お世話って、あんたが勝手に地の底から上がってきてうちの周りでうろちょろしてるだけでしょ?」

霊夢「……でも折角だから頂いておくわ。たぶんすぐに宴会で使っちゃうだろうけれどね」

お燐「それじゃあ、倉庫の方にしまっておくよ」

霊夢「どーも、鍵は開いてるから」


霊夢「ほれ見なさいな。あんたが居ようが居まいが、うちにはいろいろと萃(あつ)まってくるのよ」

霊夢「だからお金が無くても生活には困っていない。本職はどちらかというと妖怪退治の方だしね」

貧乏神「……」


\ガシャーン パリーン ドボドボドボドボドボ/


――

霊夢「ちょっと、今の不穏な音は……って」


お燐「はは……ごめんごめん、ちょっとつまずいちゃって」

針妙丸「ごめんね、ちょっとつまずかせちゃったよ」


霊夢「何やってんのよ! お酒が全部こぼれて倉庫が水浸しじゃない!」

霊夢「あと小人はおとなしく虫かごにでも入ってなさい!」


\ヒュルルルルルルルル ズボッ ドサッ/


お燐「ぎゃん!?」

天子「やっほー。いやー、相も変わらず天界は退屈だから地上まで降りて来たわよ」

天子「うふふ、また異変でも起こしちゃおうかな? やっぱり神社を乗っ取っちゃおうかな」


霊夢「屋根に開いた穴の修理代……」


針妙丸「あのう、貴女……化け猫を踏んづけちゃってますよ」

天子「あら、私の下で何寝そべっているの?」

天子「でも天界に住む私が地底の猫を地上で踏みつけているなんて……滑稽な光景ね」

お燐「……天人のお姉さん、そこまで挑発されるとあたいも黙ってないよ?」

天子「ほう闘りますか? 一瞬で決着がつくでしょうけど」


ガラッ


文「霊夢さーん、毎度お馴染みの射命丸です。倉庫(ここ)にいるんですか? 何だかやたら騒々しいようで……」




お燐「妖怪――『火焔の車輪』」

天子「天気――『緋想天促』」




ビュオオオオオオオオオオオオオオ

ド―――――――――――――ン

ゴオオオオオオオオオオオオオ


――


お燐「あらら……もうじき神社が燃え尽きそうだね。隣にあった(守矢の)分社も含めて」

針妙丸「お酒が倉庫の一面にこぼれていたから、火の回りが早かったのかー……」

天子「――ふふふ、緋色の空は地異を起こす天の奇跡」

文「まだ状況は完全には飲み込めませんが……もしかして私の気質のせいとかにになるんです?」

文「なぜか風雨じゃなくて強風だけでしたけど……それに煽られて本殿が……。腑に落ちませんねぇ」

天子「え? 貴女が咄嗟に団扇で煽いで火を消そうとしたせいで、逆にかえって火の勢いが増したんでしょ?」

文「はい? 違いますよ、そもそもお燐さんがムダに火力出したりするから」

お燐「あたいが何だって? もともと境内中に落ち葉が敷き詰められていたから燃え広がりやすかったんだよ」

針妙丸「私が勝手に虫かごから出たばっかりに……でも、ふと気づいたら閉ざされた扉が開放されていたの!」

天子「だから出た? 今度からこの小人、ちゃんと首輪でも付けておいた方がいいんじゃないの」

針妙丸「ええっ!?」

文「確かに、ペットはちゃんとしつけないといけません」

針妙丸「私ペットじゃないよ!」

お燐「あれ、違ったの?」

文「それにしても――これは久々の特ダネ記事ですね」

文「タイトルは『博麗神社が焼失!全財産を失った巫女、涙ながらの心境告白』ってところで……少し捻りが足りないかな」


文「……でも霊夢さん。この状況、少々のっぴきならない事態なのでは――」


霊夢「ええ、ここまで来ると――ちょっと笑えないわね」

貧乏神「ニタニタ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――博麗神社――


霊夢(こうなってしまった以上は仕方がない。自力で何とかしないとね)

霊夢(結構ヤバい状況になっているってのに、珍しくあの子煩悩(ゆかり)は現れない)

霊夢(ここまで結界のあちらこちらに穴が開いてしまうと……私ひとりでは手に余る)

霊夢(侵入してきた妖怪どもをすべて相手にしていても手が回らないし)

霊夢(強引に外界へ転送するには、紫の力を借りないわけには……)


霊夢「――まあ、あいつがいようといまいと、私がやることははっきりとしている」

霊夢(この異変の引き金になった根本原因を断ちきること)

霊夢「博麗の巫女として、やるべきことをやるだけ――何しろ私にまで災禍が降りかかってるんだから、捨て置けないもの」


霊夢「そういうわけで、徹夜になりそうだけれど、しっかり働いてもらうわよ。あんたたちにも」


天子「任せなさいな。強そうな外来妖怪がここに現れたら私が相手をしてあげるわ!」

天子「異変を解決する側ってことでね。ちょっと物足りない気もするけれど、まあ手を打ってあげるとしましょう」

天子「その間に、そっちはそっちでやるべきことをやっておればよい」

霊夢(バカと天人も使いよう――こいつは性格に問題大アリだけれど、実力は確かだもの)

霊夢(でも、こいつはこんな風に見えて頭は切れるほうだから――安易に信用できないわ)


霊夢(それに比べたら、針妙丸の方は騙されやすいってところはあるけれど)

霊夢(素直な上に、小人ながら私に立ち向かってくるほどの勇気を兼ね備えている)

霊夢(いざというときは、むしろこっちの方が頼りになるかもね)

針妙丸「ええ、私も出来る限り頑張るけれど……ふたりで修復を施すのにはやっぱり時間が」

霊夢「そうね――だから、ここは応急処置に出ようと思う」


針妙丸「応急処置?」


霊夢(形だけの一夜城では、亡羊補牢になってしまうかも知れない。だったら)


キッ


貧乏神「怖い顔をするのう。けんど、オラはここの神社に祀られとるがな」

霊夢(こいつがうちにのさばっている限り、何をやっても同じことの繰り返し、事態がさらに悪化してしまう可能性だってある)


霊夢(貧乏神は神の端くれといえども、今でも外界で力を発揮しているのは事実――ならば)

霊夢(それに対抗できるような神の力を借りる)

霊夢(――神おろしといきますか)

針妙丸「ねぇ、一体どうするつもりなの……霊夢さん」


霊夢「そうね。本職らしい巫(かんなぎ)の仕事をやってのけるわ。今でいうならむしろ神主の仕事に属するものと言えるけれど」

霊夢「ま、修行はあんまり足りてないかも知れないけれどね。私はやればできるタイプだし」


霊夢(さて、本格的に異変解決に向けて動くとしますか)

霊夢(もともと誰の手を借りるつもりもないし、全部私だけで片付けるつもりではあるけれど)

霊夢(……今回ばかりは、猫の手でも何でも借りたい状況だわ。もうひと山もふた山もありそうだしね)


針妙丸「分かったわ。私も出来る限りのことをお手伝いするから!」


天子(むー、退屈……早く幻想郷の常識を覆すような型破りな輩が現れないかな)


ウズウズウズウズ


                                        (つづく)


――妖怪の山(地獄谷・地底世界への入り口付近)――


玉藻「あまりあせらず時間をかけてでも探し出す。そう予定変更をした途端に有力な情報が得られるとは」

玉藻「急がば回れとはこのことだ」

ぬえ「今日は変わった外来種によく出くわすな。お前は……妖怪狐の類か?」

玉藻「いかにも――そして、今の状況を説明するとかくかくしかじか……ということになります」

ぬえ「私はぬえだ、正真正銘のな」

ぬえ「そして、お前が探している霊能力教師と子ども3人はここの穴から先に続く深道を進み」

ぬえ「更に旧地獄街道を越えた向こう側のまち――旧都(旧地獄)――にいるわ」

玉藻「今度は旧い地獄ときたか――それで、彼らの安否は?」

ぬえ「かくかくしかじか」

玉藻「フフ、そうですか。ならば安心だ」


正邪「あんな人間のどこにお前を惹きつける魅力があるんだ?」

正邪「あの鬼の手の力に胡坐をかいているだけの愚鈍な人間風情にな」

正邪「『魅せる』という字は『未』だに『鬼』にならぬ者というふうに分解できる」

正邪「完全には鬼になり切れていない、過渡期にある人間だからこそ、その後々の変容に興味を惹かれているのか?」


玉藻「そしてこれが天邪鬼だと? 典型的なへそ曲がりのようで」

ぬえ「そうよね。こういう小物のながらも、つい最近異変を起こしたのよ」

玉藻「つい最近、小物……ああ、下剋上がどうという話のことか。確かにこの小物ぶりでは、たいしたことはできなくて当然」

ぬえ「良く知っているわね。でも天邪鬼というだけあって、幻想郷の秩序を崩そうとした純然たる反逆者なのよ」

玉藻「根っからの天邪鬼、妥協したくても妥協できないということですね。――それにしても、ここの住人は皆言葉遊びが趣味なんです?」

ぬえ「趣味というか……煽り文句だね」

正邪「ぐぬぬ……正面にいる私を無視するなよ」

正邪「好き勝手なことを言ってくれるな。私の辞書に妥協なんて言葉は存在しない!」

正邪「まだ、『打ち出の小槌』から得られた“鬼の魔力”にも残りがあるんだ!!」

正邪「もう一度異変を起こして、今度こそ……!!」


ぬえ「やめておきなさい」

ぬえ「残りわずかな魔力を振りかざしても、できることはタカが知れている」

ぬえ「だから“今”は、素直になって――博麗の巫女に許しを請うことだ」

ぬえ「本当に殺されてしまったら、もう二度と反逆する機会は失われてしまうのだから」

玉藻「……」


正邪「ぐ……五月蠅いな」

正邪「……今は? 次に異変を起こして事を成し遂げてしまえば――」


ぬえ「そうは問屋が卸さないわよ――幻想郷はひっくり返しても誰かさんの手の中にあるのだから」

ぬえ「また異変を起こすというのなら、その時は私も手伝ってあげてもいい――あくまでお遊びの範疇でね」

正邪「私は遊びがやりたいんじゃない。根っからの本気なんだ! 私の手足として利用できないようなヤツと誰が組むものか!!」


アッカンベー! ダッ


ぬえ「……やれやれ」

玉藻「詳しい事情は判らないが――種々雑多な魑魅魍魎を内包しながらも、この世界は上手く運営されてきたわけだ」

ぬえ「……お前は、おおよその事情を把握できているような顔をしている」

ぬえ「あのスキマ妖怪と面識があるのか」

玉藻「いいえ。でも、その大妖怪のことをよく理解しておられる方とは、話をしてね」

ぬえ「そう」


ザッ


早苗「あっ、ぬえさん発見!」

ゆきめ「えー、あれが鵺なの? ちんちくりん過ぎじゃない?」

諏訪子「うん、でもあれが鵺の正体だよ」


ぬえ「……」

早苗「良かったですね。ぬえさんなら、何か知っているかもしれない! 名前が被っているわけですし」

ゆきめ「そんな都合よくいくわけないでしょ」

玉藻「それが、案外都合よく事が運んでいる」

ゆきめ「って妖狐の! いつからそこにいたの?」

玉藻「さきほどからずっとね」


諏訪子「何、貴方も外来妖怪? 幻想郷にようこそ。うちの山の神社に参拝するなら案内してもいいよ?」

玉藻「いえ、それは又の機会ということで(山の神社というと、東縁の神社とは別のものなのか?)」

早苗「ということは、貴方も鵺野さんって人を探しに来たんですね」

玉藻「ええ、まあそういうことですよ――あなたがたとも、また後で話す機会があるかもしれませんね」

ぬえ「ともかくも――さっさとあの4人を迎えに行ってあげたらいいわ。行き違いになったら面倒でしょ?」


ゆきめ「!! まさか鵺野先生達の居場所が!?」


ぬえ「ええ、あっちに――」


ビューン!!!


諏訪子「早いね、元気な雪女だよ。早苗、一応案内してあげたら」

早苗「判りました! では、そちらの方も行きましょうか? ――外の妖怪さんなら、ゆきめさんと同じで話が通じやすそうです」

玉藻「外……と言っても、私はそう長く人間界にいたわけでは」

早苗「守矢神社って聞いたことがありますかー? 私達一同は、少し前に外から幻想郷にお引っ越してきたんですよ」

玉藻「……。神社ごと引っ越しした……ということで? これはまた込み入った話のようだ」

早苗「道中で説明してさしあげようかしら。では、ゆきめさんを追いかけましょう!」


タッ


諏訪子「行ってしまったか。私は先に帰ろうかな?」

諏訪子「でも山の麓まで下りて来たんだから、(間欠泉)地下センターの温泉にでも浸かって行こっか」

諏訪子「一緒に行く?」

ぬえ「……どうしてわざわざ……私を誘うのよ」

諏訪子「貴女も折角、山に来たんだから。たまには山の神の恩恵に浴してみたらどう?」


――地底(某所)――


ザッザッザッ


お燐「少し前に博麗神社の手前に沸き出した間欠泉――その穴には今でも怨霊がウヨウヨしているけれど」

お燐「あたいは怨霊の扱い関してはプロだからね、心配しないでいいよ」

お燐「もっとも、貴方ならば自力でも対処できるんじゃないかとは思うけれどね」


ぬ~べ~「ある程度はできるだろうが、ひとりひとりの心象を読み取って納得させた上で成仏させるとなると」


お燐「時間がかかるよね。だからこそ、私の働きがいがあるってものさ」

お燐「んまあ、そもそも外来人の先生さんが幻想郷(ここ)で起きている異変に干渉するのは……」


ぬ~べ~「筋違いだ――と言いたいだろうが、まったくの無縁というわけではないぞ」

ぬ~べ~「粗暴な外来妖怪が跳梁跋扈しているというのならば、俺の知識や経験が役に立つ場面もあるかも知れない」

ぬ~べ~「何より、子ども達の安全を守りつつ無事に元の世界に戻るには、この世界を維持する上で重要な結界を管理する――」

ぬ~べ~「――巫女さんとやらを守らないとな」


お燐「うーん、あのひとに限っては守られる必要なんてない気もするけれどね」

お燐「けれども、貴方のような戦力になりそうなひとを確保できて良かったよ」

お燐(霊夢のお姉さんには援助無用って言われたけれどね)

お燐(何となく、猫の手を貸すべきときなんじゃないかと思う。おまけに鬼の手にも加わってもらえるとはね)


ぬ~べ~(広達のことは勇儀さんに任せてきたが、あの鬼(ひと)になら大丈夫だ)

ぬ~べ~(3人が大人しく眠っている間にごたごたが終わってしまえばいいんだが――)


ガタガタガタガタ


ぬ~べ~「む? どうした」


シュポッ!!


くだ狐「クゥゥゥゥン!」


お燐「わっ! 何だいこの大きな動物は……いや、妖怪かな」


ぬ~べ~「こいつはくだ狐と言って――っておい待て!」


ビュゥゥゥン!!


お燐「あらら、逃げて行くよ。懐いてないの?」


ぬ~べ~「いや、そんなはずはない」

ぬ~べ~(何かに引き寄せられているのか? あいつが俺の命令を無視して勝手に動くとは――)


ダッ!!


お燐「あっ……ちょっと待ちなよ鬼の手のお兄さん!」


――


キョロキョロ


ぬ~べ~(お燐くんには悪いが、まずはあいつを連れ戻さなければ)

ぬ~べ~(しかし、何だこの妖気は? ――近くにいるはずだ。手強い……何者かが)




「クゥゥゥゥゥン(はあと)」




ぬ~べ~「! あっちか」


ダッ


ぬ~べ~「!」


ザッ


龍「……キッ」


ぬ~べ~(! あれはさっき見た龍の子供?)




華扇「この子はね、私の言うことは何でも聞いてくれるんです」

華扇「今回も危険を顧みずに、貴方の動きを偵察しにいってくれました」




ぬ~べ~「あなたは……」

スッ


華扇「なるほどね」

くだ狐「クーン!」


ぬ~べ~(俺のくだ狐をいとも容易く懐かせ……そして、思考に触れている? 俺が鬼の手を使ってそうするように)


華扇「管狐は術者となった人間に富をもたらすよう働くけれども」

華扇「飼育には良質な餌が必要で、しかも絶え間なく繁殖して餌の量は日に日に増えていき」

華扇「最終的には術者の富と気力を全て食いつぶして去っていく性質を持つ妖怪」

華扇「その管狐を、己の霊力のみによって育てて、ここまで強力なモノノケに変化させながら」

華扇「なお、自らの意のままに使役できる。貴方は相当の霊能力を持っている人間と言って差し支えないわ」


ぬ~べ~「あ……ああ、それはどーも」

ぬ~べ~「まあ、富(サイフの中身)はいつも食いつぶされてますけどね。生徒に奢らされたりとかして……ははは」

華扇「――そして、この子の思考のみによっては読み取れなかったのだけれど」

華扇「貴方はその力を利用して、この幻想郷で一体何をしようとしているのかしらね」




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




ぬ~べ~(うーむ、また美人さんに会えたんだからなるべく和やかムードでいけたらって思ったんだが)

ぬ~べ~(気難しいひとのようだ。いや、人では……ないな)

ぬ~べ~(彼女の放つ強い妖気、包帯に包まれた右腕、左腕に嵌められた鎖、牡丹の胸飾から伸びる花模様……あれはもしや)


ぬ~べ~「どうやら、穏便には済ませられないようで」


ぬ~べ~(幸いこの場には生徒達はいない。弾幕ごっこの場数も踏んでいるから、要領は得ている)


グッ


華扇「あまり粗暴なことはやりたくはないのだけれど。幻想郷の秩序を乱す恐れのあるモノを見過ごすわけにはいかないし」

華扇「――それだけでは、ないのよ」

華扇「貴方が本当に“鬼の手”を持っているとするならば」




ぬ~べ~「!」




華扇「そしてそれを、恰も自分の腕のごとく利用できるとするならば」

華扇「勝負するという形に持ち込めば――いち早く、拝見できるでしょうからね」

ぬ~べ~(鬼の手のことをよく理解している。いや、推定できている?)

ぬ~べ~(確かに龍やくだ狐の思考を読み取れるといえども……)

ぬ~べ~(これは、本格的に素通りさせてもらえそうな雰囲気では……ないな)


スッ


ぬ~べ~「南無大慈悲救苦救難広大霊感白衣観世音菩薩――」

ぬ~べ~「怛只他奄(とーじーとーおん)

伽羅伐多伽羅伐多(からはた からはた)

伽訶伐多羅伽伐多(かこはた らかはた)

羅伽伐多娑婆訶(らかはた そわか)

天羅神 地羅神(てんらじん ちらじん)

人離難 難離身(じんりなん なんりしん)

一切災殃化為塵(いっさいさいおうかいじん)

南無魔訶般若波羅蜜(なむまか はんにゃ はらみつ)」


ぬ~べ~「はッ!!」


ギュルルルルルルルッ!!!!!


華扇「今唱えたのは白衣観音経ね――経文の力で私の動きを封じ込めようという策のようだけど」

華扇「簡単にはいかないわ」

ビリバリバリ……バサァッ


ぬ~べ~「!?」

ぬ~べ~(経典が破れた――相手に触れるまでもなく?)

ぬ~べ~(そんなことはない。確かに触れられていた……彼女の右腕だけが瞬間移動することによって!)

ぬ~べ~(そもそも、あの右腕は“義手”か! ――それも実体を持っていない、普通の状態ではない)


ヒュン!


華扇「さて、次の手はもう考えておられますか?」


ぬ~べ~「!? 俺の手元にあった霊水晶が――」


ブワアアアアアッ!  ゴトッ! コロコロコロ……


華扇「――私の手元に渡ったあなたの霊水晶(こどうぐ)は、私の右腕に強い影響を与えました」

華扇「あの陰陽玉と同じくらい妖怪退治によく使われていたようね。迂闊には触らない方がよさそう」




ぬ~べ~「……確かにこの霊水晶は、様々な場面で使われ、俺がこれまで目の当たりにしてきた妖怪達の存在を記憶に留めるほどに至っている」

ぬ~べ~「あまり安易に触れることは推奨しない――だから俺の手元に戻そう」


ヒョイッ


ぬ~べ~(相手は既に消し飛んだ“義手”を再生している――しかも、妖気を包帯で包むといった形で、まるで霧のような変幻自在の右腕)

華扇「このまま霊能力を駆使してあらゆる術を講じようとも」

華扇「おそらく埒は開かないだろう。そう思い始めているでしょ?」

華扇「そろそろ見せてもらえませんか。貴方の“鬼の手”を」


ぬ~べ~(さっき経典を破ったときに使った“義手”の遠隔操作と)

ぬ~べ~(長い詠唱を以て威力を最大限に高めたにもかかわらず、あっさりと封印を破った右腕の力)

ぬ~べ~(霊水晶を奪う時に使った瞬間移動と思われる身体能力)

ぬ~べ~(そして、自己の体を損傷してもすぐさま再生する高い治癒力)


ぬ~べ~(これほど多彩な力を操る相手だ)

ぬ~べ~(欠損している片腕と、俺の鬼の手に執心してしまうその理由は)

ぬ~べ~(彼女の正体を暴く上で、大きな根拠になるな)


ぬ~べ~(そして、明らかに“弾幕ごっこ”の枠に入る戦いではない。――真剣な勝負)


ぬ~べ~「だったらお望み通り見せてやるしかないな」


スッ


ぬ~べ~「我が左手に封ぜられし鬼の力を!」

ダッ


華扇「!!」

華扇(あの手首から先の部分が、あの人の持つという鬼の手……!)

華扇(でも、あのグロテスクさを残した表皮……あれは私が失くしたそれとはちょっとかけ離れているかも)

華扇(第一、彼の鬼の手は――“左腕”に宿っているようだしね)




ガシィ!! グググググググ




ぬ~べ~「――何ッ!?」

華扇「ええっ!?」


グニュニュニュニュニュニュニュニュ


ぬ~べ~(お、俺の鬼の手(左腕)が……!!)

華扇(私の……義手(右腕)の中へ……!!)




((――……侵蝕していく……!!?))




ズォォォォォォォォォォォォォォォォォ




――地底(旧都の酒場)――


勇儀「――というわけでね。先生さんは地霊殿の飼い猫と一緒に地上に向かったよ」

勇儀「向かった方向? 地霊殿のある方面になるかな。間欠泉ができて穴が開いた原因は」

勇儀「あの建物の中庭の奥にある灼熱地獄跡で起きた異変がきっかけになったわけだし」

勇儀「でも、正確な穴の位置は良く分からないな。何せ私は地霊殿に出かけることなんてほとんどないのよね」

勇儀「少なくとも、穴の出口は博麗の巫女が棲む神社の近辺にあることは確かなんだが」


ヤマメ「丁寧な解説をしてくれて、ありがとうね姐さん」

ヤマメ「知らない間に地上で異変が起きつつあるとは……神社が焼け落ちたとなると、結構な一大事じゃないか」


広「話の内容はわかんねーけど……とにかく地霊殿っていう建物のある方に行けば」

美樹「ぬ~べ~がいるってわけね!」

郷子「――お願い、ヤマメさん、勇儀さん!」

広「ぬ~べ~先生の居る所まで案内してくれ!」

美樹「ぬ~べ~のことだもの! またその辺の女妖怪に手を出してトラブルを起こしてるかもしれないし心配だわ!」


ヤマメ「どうしてこの話を子どもらにまで伝えたんだい……」

勇儀「いやぁ、先生達が行ってしまってからそう間もなく起きて来てさ。先生が何処に行ったのか教えてくれって聞かれて」

ヤマメ「嘘はつけなかったってわけなのね」

勇儀「すまんすまん」

郷子「お願いします! その……ここの上のほうでは危ないことが起きているんでしょう?」

美樹「ぬ~べ~1人でそんなところに向かうなんて……。私達にだって、できることはあるんだから!」

広「そうだ! このまま安全なところで先生の帰りを待ってろだなんて……納得いかねえ!!」


ヤマメ「といってもねぇ……」

勇儀「仕方がないだろう、ヤマメ。お前さんが先導してやりな」

ヤマメ「ええ!?」


郷子「本当ですか!!」

広「っしゃあ! ありがとう勇儀姐さん!」

美樹「実は一緒に行った火車の猫娘ってのに誘惑されてないか気になってたのよ!」


ヤマメ「ちょっと……そんなことをしたら」


ヒソヒソ


勇儀「だって、地上の異変が地底にも波及してきたら、どこが危険も安全もないじゃない」

勇儀「案外、ここに残っている方がかえって危険かも知れないよ」

勇儀「妖怪の山側の風穴の方が、上から敵が攻めてきやすいだろう? 何せ通りやすいからね」

勇儀「逆に怨霊が残留している間欠泉の穴側は、敵としては侵入しづらいはずだ――妖怪にとっても怨霊は天敵だからね」

ヤマメ「……なるほど確かに言われてみれば」

勇儀「それに、場合によっては地霊殿の中に子どもらを避難させてもらえばいいじゃないか」

勇儀「火車も主には話を通していると言っていた。事情を説明すれば向こうも無碍には断らないだろう」

ヤマメ「それもそうだね。私は地霊殿にもちょくちょく顔を出しているし……何とかなりそうだ」


ヒソヒソ

郷子「あのー……」

広「何をヒソヒソ喋って……」

美樹「ん?」


ツンツン


こいし「ねぇねぇ、さっきのせんせーは何処に行ったの?」

美樹「って、あんたまだいたの!?」

こいし「今来たのよ? ほら、山の麓に核融合の研究施設(間欠泉地下センター)があるじゃない?」

美樹「かくゆーごー? ……って知ってるわけないでしょそんな場所」

こいし「そこからね、私のペットを連れてきたのよ――せんせーに見せてあげようと思って」

美樹「え……ペットって……まさかそこの?」




??「どうも、こいし様の専属ペットの者です。……あれ、私はさとり様のペットじゃなかったかしら」

郷子「だ、誰!?」

広「お、おい! 片腕がスゲー物騒だぞ!」


勇儀「おお、丁度いいじゃないか。そこのふたりがついて行ってくれたら尚更安全だろう」

ヤマメ「あー。うん、まあ……そうだね」

勇儀「私は旧都の市街に残って、パルスィと共に妖しい侵入者がないか見て回ることにしよう」

ヤマメ「お願いするよ」


美樹「んーと……要するにあんたたちもぬ~べ~探しに付き合ってくれるってこと?」

こいし「いいわよ。折角お空を連れて来たんだから見せて自慢しなきゃ」


お空「うにゅ? つまりこいし様、私はこの子達を」


こいし「んーと、そうね。守ってあげたらいいんだわ。みんな私の友達なんだもん」

郷子「……こいしちゃん」


お空「こいし様のお友達なのね。分かったわ、貴方達の安全は私が守るから」


広「あ、ああ。サンキュ――何だか……とても頼りになりそうだ」

スタスタ


ヤマメ「さあさあ、私に続いた続いた――地底旅行の旅も大詰め、忘れ去られた都の中央に屹立する地霊殿巡りに出発だよ!」

美樹「地霊殿って格がありそうな名前からして金銀財宝でも隠されていそうね! 何処にあるの?」

こいし「旧都の中心の方よ――おっきいからすぐに見えてくるわ」

郷子「ちょっと……美樹。私達はぬ~べ~を追うのよ? その建物に遊びに行くわけじゃないんだから」


広「その建物に、皆で住んでんの?」

お空「こいし様はいろんなところに行かれているし、私達もいつもいるわけじゃないわ」

お空「ほとんどの時間、さとり様――こいし様の姉様――がひとりで暮らしているのよ」

広「……ふーん」


――地底(旧地獄街道の手前)――


キスメ「ひいいい!」

キスメ「わ、悪かったよ! まさか4人も連れ込めるなんて思わなくて!」


ジリ……


ゆきめ「人数の問題じゃないわよ! この極悪釣瓶落とし!」

玉藻「井戸が異界に繋がる扉になっていたのもこれで合点がいきました――あなたは常習犯ということなんでしょう?」

玉藻「さて、どうしますか。こちらもこの妖怪のせいで随分と貴重な時間を割かれてしまったのでね」

早苗「ああ、構いませんよ。軽く制裁を加えちゃっても」


キスメ「ま、待ってよ……あんたは幻想郷の住人なんだから分かるでしょ?」

キスメ「人間は妖怪の食糧なんだよ? けれども、人里の人間は喰うことができない」

キスメ「共倒れになってしまうから。だから、迷い込んだ人間や、外から連れ込んだ人間を代用しているんじゃないの」




キスメ「そのことは――あのスキマ妖怪だって、認めていることじゃない!」




早苗「えっ、そうでしたっけ?」

玉藻「……」

ゆきめ「その気持ちは、少しはわかる。私だって、由緒正しい雪女(ようかい)なんだもの」

ゆきめ「けれどね――鵺野先生や、鵺野先生が大切に想う人達に手を出したっていうなら、話は別よ」

玉藻「そう。お前が私達の関知しないどこぞの見知らぬ人間を“神隠し”にしていたならば、こんなことにはなっていなかったに相違ない」

早苗「要するに、貴女は運が悪かったということ――これも運命ってことで諦めた方がいいですね」


キスメ「そ……、そんな……」


早苗「さてと、私も妖怪退治が仕事(シュミ)ですからここは加勢しちゃいましょ!」

ゆきめ「桶ごとカッチンコッチンにしてやるわ!」


キスメ「や、やめて……誰か……誰か助けてっ……」


玉藻「氷漬けにされた後で、私の焔(ほむら)で溶かして助けるから安心しなさい」

玉藻「――私は仮にも医者だからね」


――地底(旧都の手前・旧地獄街道の橋)――




ぎゃああああああああああああああああああああああああああッ




パルスィ「……、この声は確か」


パルスィ(また、新たな侵入者?)

パルスィ(最近は本当に往来が多いね)

パルスィ(今日なんてあの鵺に始まってお尋ね者の天邪鬼、ヤマメのやつが連れてきた得体の知れない外来人たち)

パルスィ(それから、姿は目視できなかったけれど、大きな生物に乗って奥に向かった何者か)

パルスィ(もしかしたら、ってあたりは付けられるけれど……余程慌ててたのか。何故?)


パルスィ「はー、まあいいわ。私は橋姫。地上と地下を結ぶ縦穴の守護者」

パルスィ「さっき鵺から聞いたところによると、今日は姐さん、私をお酒の席に誘ってくれなかったみたいじゃない……」

パルスィ「いつもはちゃんと誘ってくれるのに今日は……! 私より地上に行った鵺と呑むほうがいいってこと……?」


パルスィ「くぅぅ妬まし妬ましい……」


ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる


パルスィ「嫉妬心を糧とする封じられた恐怖の妖怪の力……次に橋を渡り来る者に思い知らせてやる!!」




                         (第3話:片腕の仙人と鬼の手を持つ男の巻<前編>・終)

パルシィが荒ぶってるな…
時系列的には輝針城の後になるのか

>>536

はい。弾幕アマノジャクが一通り済みながらも、未だに逃亡を続けていた正邪が今度は地底に逃げ込んだ段階、という設定で

話が始まっています。


――地底(旧地獄街道の橋)――




パルスィ「恨符『丑の刻参り』」


シュパパパパパパパパパパパパパパ




ゆきめ「氷符『スノーフェアリー』」


シュキラ―――――――――――――――ン


玉藻「狐火『弓削道鏡』」


ボォゥ ボォゥ ボォゥ ボォゥ ボォゥ


早苗「奇跡『ミラクルフルーツ』」


キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ


――


パルスィ「ぐ……やるじゃないの。でも3対1だなんて……」


早苗「おふたりとも、弾幕ごっこの真髄を会得するのが早いですね」

ゆきめ「だって、要は相手に避けられるような余裕を与えて、氷のつぶてを放てばいいんでしょ?」

玉藻「本来なら命を掛けて闘うところを、あえてゲーム化して擬似的に戦闘を再現する」

玉藻「よくできたシステムなんじゃないですか? この箱庭を維持するための方法としてね」

早苗「でしょう。ちなみに、弾幕ごっこは少女の遊びとして定着しているので、男性がやっているとちょっと……」

玉藻「ちょっと、何なんです?」

早苗「成人男性がおジャ魔女どれみのおんぷちゃんにうつつを抜かす程度にイタく見えますよ」

玉藻「意味不明だが……少々気恥かしくなってきた……」

パルスィ「うう……酒宴にも呼ばれなかった上に弾幕初心者に敗北を喫するなんて……」


早苗「妬ましい! けど感じちゃうんですね?」


パルスィ「あんたみたいな気軽な性格に生れなかった自分の生い立ちが妬ましい!」

パルスィ「ブツブツブツ……」


ゆきめ「うわー、嫉妬深い妖怪ねぇ。結婚してからもああいう悪霊にだけは取り憑かれないように鵺野先生を守らなきゃ」

玉藻「彼女は他人の嫉妬心を煽るよりも、自分の嫉妬心を増幅させて力に変えるのが得意のようですね」

早苗「どうしましょう? 次の宴会に誘っておきましょうか?」

ゆきめ「えー、こういうタイプってお酒飲んだら泣き上戸になっちゃうんじゃない? 第一、子どもなのにお酒なんて」

玉藻「この世界では、普通の人間のような見た目と年齢との相関はアテにならないようなのでね」

玉藻「年齢といえば、あなたがたは――」

早苗「そういう女性のプライバシーに関わる個人情報を安易に聞き出そうとしてはいけません!」

早苗「ね~、ゆきめさん」

ゆきめ「そうよそうよ。年寄りくさい古狐のくせに失礼しちゃうわ!」

玉藻「……」


玉藻「さて、不毛なお喋りは終わりだ」

玉藻「こちらが勝った場合の約束通り、この先の旧都――4人が滞在している場所――へ案内してくれますね?」

パルスィ「ブツブツ……わかっているわ」


――妖怪の山(上空)――




シュ――――――――――――――――――――――――――――




岩天狗「うわーはっはっはっ!!!」

岩天狗「口ほどにもないヤワな女天狗共め!!」

岩天狗「姿形も見えなくなったな――木っ端微塵に砕け散ったか!」


岩天狗「さーて……この後どうする?」

岩天狗「まだまだ儂の怒り……留まるところを知らんぞ!!」


チラリ


岩天狗「眼下の山の頂上に見える湖と……その畔に立つは神社か?」

岩天狗「そういえばあの女天狗、まるでこの山にも他の山神が存在するかのような口ぶりだったな」

岩天狗「あの程度の実力しかない天狗が守る山の神など、取るに足らず!」

岩天狗「いっそのこと……この山を手に入れて我らが山の神の統括下に組み込んではどうだろうか?」

岩天狗「よし、そうしよう!」


岩天狗「クク……まずはあの神社を破壊し、こちらの世界の山の神とやらに宣戦布告してくれるわ!」

岩天狗「すべては……儂の悲願の達成を阻んだ女天狗達(キサマラ)のせいよ! ――覚悟ッ」




サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラ




ガシリ!!


岩天狗「……え」

萃香「ほら、手を握ってやったぞ」

グニィ!!


岩天狗「……ぐあああッ!?(な、何だ……この腕力の強さはっ……!!)」

萃香「何だい。ようやく女の子に初めて手を握ってもらえたんだ。もっと喜びな」


ギロリ


岩天狗「ひっ……!(こいつは確かに……女の子……だが違う……)」

岩天狗(喜べない……手から冷や汗が……! 岩肌から流れる湧水のように……ぐああッ)

萃香「まあ、確かに天狗となら手ぐらい握ってやってもいいってものよ」


萃香「何せ、鬼と天狗は古来からの盟友だもんねぇ」

岩天狗「!!?」


岩天狗「お前は……ま……さか……」

萃香「去れ――今すぐこの山から立ち去れ」

萃香「さもなくば」




萃香「 な ぶ り こ ろ す ぞ 」

岩天狗「――」


スゥ――――――――


萃香「あれ、これくらいの脅し文句だけでお帰りか」

萃香「まったく、天狗の逃げ足が速いのはこっちも向こうも同じってわけだ」


萃香(鴉天狗も私が来たのを察知したか、逃げたっきり戻って来ないし。天狗の組織としてのメンツはどうしたのよ?)

萃香(でもまあ、ここに長居するつもりは毛頭ないし)


萃香(もうじき大きな山場が来る――それも断崖絶壁だ)

萃香(これはもしかすると、異変解決のために手を貸すことになるかもねぇ)


萃香(もう夜更け、日付も変わる。後片付けも含めたら明日は日中忙しくなりそうだから)


萃香「次の酒宴は、明日の晩あたりだね――今度のうたげは、大勢萃まってさぞにぎやかになるだろう」

萃香「良いわねぇ。にぎやかなのは大好きだ」




サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラ




――妖怪の山(山麓・間欠泉地下センターの温泉)――




カポーン




ぬえ「……」

諏訪子「……」

ぬえ「……ゆで蛙になったら困るんじゃないの?」

諏訪子「洩矢神はミシャグジと同視されているの。ミシャグジはどちらかというと蛇神なのよね」

ぬえ「でも貴女は蛇に睨まれた蛙でしょう?」

諏訪子「毒のある蛙はいくら蛇でも容易く飲み下せないんだよ。だから」

ぬえ「行きつく先は共存……ね」

バシャバシャ


文「まったく、私が葉団扇の扱いに長けていて、もともと風を操る能力を持っていたからこそ」

文「相手の攻撃による風圧を利用してジェット噴射のように後退し、致命傷を回避できたのよ?」


はたて「……」


文「着地地点は……まあ温泉にドボンということになっちゃたけれど」


はたて「うん、ごめんね文。――助けてくれて……その……ありがとう」


文「おや、今回はやけに素直ね?」


はたて「挑発も煽りも、お互いに限度ってものを認識しているならともかく」

はたて「ああいう、何を考えているか判らない相手を漫然と煽るのはリスクが大きかったってことね」


文「ええ。得体の知れない敵と対峙したときは、もっと真剣かつ的確に対応しなくてはいけない」


文(まあ、あの岩天狗さんは私達の盟友さんが押し返してくれたようですね)

文(本来あのかたに山に来られるのもよろしくないというのに……おまけに私達の侵入者(てき)を代わりに倒してもらったとなると)

文(職場放棄と言われても過言ではないなあ)


はたて「そうね。他にも外界の敵が現れるかも知れないし、夜通し警備を厳しくしましょう!」


文「ええ、そうね。今度はキッチリ職責を果たすわよ! 勿論、取材も兼ねてね!」


ザバッ!!    バサバサバサバサバサ

ぬえ「着の身着のままで入って出て、まさにカラスの行水ってところかしら」


諏訪子「そうね。けれども、あの天狗達の話を聞く限り、幻想郷は外から襲撃を受けているみたい」

諏訪子「さっきの雪女と妖怪狐……懇切丁寧に対応しちゃったけど……」


ぬえ「……あの2人は、幻想郷を故意に荒らしたりはしないと思うわ」


諏訪子「根拠はあるの?」


ぬえ「あの半人半鬼の仲間なら――きっとそんなことはしないだろうと思っただけよ」


カポーン


――霧の湖(廃洋館側)――




パチパチパチパチパチパチ





ルナサ「――♪」

メルラン「――♪」

リリカ「――♪」


わかさぎ姫&速魚「「 教えてよまだ知らないメロディ~♪ 」」

わかさぎ姫&速魚「「 ドキドキするような~♪ 」」




美鈴「さながら野外ライブって雰囲気ですね」

大妖精「そうですね」

チルノ「おや、どうしたんだい? そんなに浮かないツラをして」

ミスティア「……うちの店がぁ」

リグル「私の……大切な物……」


ルーミア「あんた、館での仕事は? ほら、門の前で寝る仕事しないでいいの?」

美鈴「いやいや、これはちょっとしたブレイクタイムですよ」

ルーミア「そーなのかー」

美鈴(人里の事件も大方静まりましたし……まさかうちが異変の余波を受けることなんてないでしょ!)


                                    (つづく)


――妖怪の山(山麓)――


文「ちょっと椛……今の山の状況は目も鼻も利く貴女ならよく理解できていたハズでしょう?」

文「なぜ、何もせずに傍観に徹して? 考えて行動ってものができないんですか?」


椛「いえ、大天狗様に指示を仰いだところ、今は事態を静観せよとのお達しでしたので」


文「だから私達が外敵と交戦していてもスルーしたと? 臨機応変の対応ってものがあるでしょう?」


椛「文様がたが、もっと穏便にことを済ませていれば、そもそもかつての支配者(おに)に介入されることもなかったはずでは?」


文「ぐ……」

はたて「ごめんなさいね……それは文のせいじゃなくて私の責任なのよ」

はたて「ともかく、今は言い争っている場合じゃないわ」

はたて「玄武の沢の河童や山童たち、八百万の神々にも状況を知らせて――山の妖怪皆での防衛作戦を展開しましょう」


椛「判りました、はたて様。もともと、白狼天狗側としてもそのつもりで臨戦態勢を整えています」

椛「――では」


タッ

文「……まったく、どうして椛は私に対してだけつっけんどんな態度をとるのよ?」

はたて「うーん、文に対する苦手意識があったりするんじゃない? それかツンデレとか」

文「むしろこっちが苦手意識を持っちゃうわよ」

はたて「それにしてもあの岩天狗、山の神の使いだとか言ってたんでしょ。ってことはもしかしたら山の神も――」

文「いいこと、はたて。そういうのは口に出さない方がいいわ」

文(流石に、万一外界で健在な神が降臨したりすれば……タダゴトでは済まされない)

文(特にその神が……邪神だったりしたら尚更ね)


タッ


文「あら、椛?」

はたて「状況を伝えに行ったんじゃ?」

椛「いえ、その前に」

椛「おふたりとも服が濡れっていらっしゃるので――」





はたて「わざわざ拭くものを持ってきてくれたのね」

文「……。……ありがとね、椛」


椛「ではまた――逐次報告に参ります」


シュタッ


――博麗神社――


ブーン ブーン


霊夢「qあwせdrftgyふじこlp;@:」

霊夢「あzsxdcfvgbhんjmk、l。;・:¥」


針妙丸(……霊夢さん、何やら呪文みたいなのを唱えながら御祓い棒を振り回してる)

針妙丸(でも大丈夫なのかな……)


天子「ねえ、ちょっと喉渇いたんだけどー?」

天子「何かないの?」

霊夢「うっさい! 詠唱のジャマをしないでよ」

貧乏神「おらも腹減っただなあ」

霊夢「お黙り! どうせ焼き味噌を出してもあんたは出て行くつもりないでしょ」

貧乏神「フェフェフェ」

天子「誰と話しているのー。私には見えないよー(棒)」

針妙丸「もしかして、早くも神のお告げが?」

霊夢「いや、別に……ひとりごとよ」


霊夢(神格が低いからか、今のところ私以外には貧乏神が認識されていないのよね)

霊夢(いや、判ってるやつは判ってると思うけれど)

霊夢(まったく……ある意味最弱ながら最強なんじゃないの……コイツ)

霊夢(おまけにあの厄神が溜め込んでいた災厄を引き受けて増長しているときた)

霊夢(あの厄神、溜めた厄を神々に渡しているって前に言ってたけれど)

霊夢(実際のところ、本当にこれまでどっかの神にどれだけ厄を提供していたのかは判らない)

霊夢(一体全体どれほどの厄が、今うちの神社に溜め込まれているのか……考えたらゾッとするわね)


霊夢「――とにかく、これ以上はジャマしないでよ。私は真剣に」


天子「……」

針妙丸「……」


霊夢「ん、二人ともどうし――はっ!」




ピシピシピシピシピシピシピシピシ




霊夢(神社の境内の一角……空中に裂け目が)

霊夢(方角的には……艮……って鬼門じゃないの!)

バキィ!!!!!!!!


絶鬼「フフ……ありがとう、感謝するよ」

絶鬼「君達が、このぼくを地獄の底から救い出してくれたんだね?」

絶鬼「ここが人間界なのか、はたまた別の異界なのかは知らないけれど。どうせ滅ぼしてしまうんだから同じことか」


絶鬼(入り込んでみて、改めて確信した――覇鬼兄さんは確かにここにいる)

絶鬼(しかも、そう遠くはない場所にいるとみて間違いないな)

絶鬼(ならば、まずはここで暴れ回って――兄さんに呼応してもらうとするか)




絶鬼「それじゃあ早速、殺戮の前奏曲(プレリュード)といこうかな――」








ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ








霊夢「あ、あんたは……」

針妙丸「す、す、すごく……おおきいよ……」


ガクガク




天子「あれ? 小人ちゃん震えているの?」

天子「確かに大きいけれど、図体だけの木偶の坊かも知れないよ?」

絶鬼「おや? 鬼を目の前にして、恐れを抱かない人間がいるとは」

絶鬼「いや、人間……なのか? 人間のようでもあるし、かけ離れているようでもあるね」




天子「細かいことは気にしないの。私は貴方のようなつわものが来るのをずっと待っていたんだから」

針妙丸「……え」


天子「わざわざ貧乏神を神社に祀るという愚行に出た博麗の巫女の所業に便乗し、見事に大結界に風穴を開けることに成功した!」

天子「――計画通りよ」


針妙丸「ちょっと……霊夢さん、まさかこの異変の黒幕は……」

霊夢「あんたが今思った通りでしょうね」


霊夢(やっぱコイツだったのね――文たちは兎も角、流石にあのタイミングでこいつまで降ってくるのは不自然だと思ったもの)

霊夢(それにしても……地獄って……まあ当然うちのじゃないわよね)

霊夢(外界にある地獄から這い出てきた……ホンモノの鬼……)

絶鬼「ようするに、そこの君のお陰で再び日の目を見ることが出来たというわけか」

絶鬼「――今は月が見えるだけだが」

絶鬼「感謝するよ――感謝の気持ちを示して、君を第一の犠牲者にしてあげよう」


天子「その前に、そのおどろおどろしい格好をどうにかしなさいな」


絶鬼「……何だって?」


天子「私達のような“か弱い少女達”を相手に、そんな図体で全力を出していいのかってこと」

天子「一閃で殲滅しちゃったら、断末魔も聞けないよ? それってつまらなくないの?」

天子「死よりも恐ろしい恐怖を与え戦慄させ、最後に圧倒的な力をもってゴミのように踏みにじる」

天子「そういうやり方の方が、面白いとは思わない? 貴方が血も涙もない鬼ならば」


絶鬼「……」

シュォォォォォォォォォォォォォォォォォ


霊夢・針妙丸「「!」」



絶鬼「確かにね。一捻りで潰すだけじゃあ殺し(アート)として美しくはない」

絶鬼「もっとも、人化を使ったところで――きみ達との実力差は変わらないだろうけれど」


天子「あらら、私結構な実力者よ? オーラで判らないの?」


絶鬼「オーラ? まったくと言っていいほど感じないね」


天子「そぉ? 心外ね」


絶鬼「予告しよう、指一本だ――ぼくのシャープな鬼の指で、きみのフラットな胸(しんぞう)を貫くとしよう」

絶鬼「いい断末魔をあげてくれよ」


天子「無駄無駄、私の胸は鉄壁だ――貫けるものなら貫いてみなさいよ」

天子「小鬼の、ぼく」


――人間の里(中心部)――


ジリジリ……


怪人A「ハァ……ハァ……」


魔理沙「追い込んだぜ。袋小路にな――そして上空には私がいる。さっきみたいにはいかないぜ」


怪人A「ッ!」


ギュン!!


聖白蓮「魔理沙(あなた)に目掛けてカマを放り投げてきましたよ。その至近距離ならすでに首が飛んでいたでしょう――が」


ギュワアアア


怪人A「!?」


パシィッ!!


魔理沙「ふっ、返してもらったぜ――小町(しにがみ)のカマをな。ほいよ」

小町「放られたカマとあんたの距離を少し遠ざけることで、受け止められるくらいの猶予を与えたのさ」

小町「ほら、三途の川を渡るときにかかる時間は人それぞれっていうだろう?」

小町「その川の長さを操る力を応用したってこと!」

怪人A「……!」


グギィッ!!


怪人A「!? ぎゃああッ!!」

聖白蓮「一瞬、呆気に取られましたね――その隙が貴方の命取りとなるでしょう」


バッ!!


聖白蓮「これが、人間を辞めた者の身体能力ですわ」

怪人A「~~~!!?」


ミシミシミシミシ


聖白蓮「今のままでは、貴方の心の奥底に溜まった澱を掬い取ることはできない。ならば」

聖白蓮「いっぺん死になさい――そして、貴方が本当の救いを享受したいと望むならば」

聖白蓮「その哀しい仮面を打ち捨てて――罪人たる己の姿を顧みなさい」

聖白蓮「貴方のような罪深い人間でさえ、幻想郷は受け皿となってくれるのです」

怪人A「……」


ミシミシミシミシ


――


一輪「さすがは聖の姐様! 私達には真似できないような力技(説法)をやってのけている!」

雲山「……」

マミゾウ「さて、あの怪人Xは坊主が背後から羽交い絞めにしており動けぬのう」

マミゾウ「誰が、トドメを刺すのじゃ?」

小町「あたいは大事なカマを取り返すことに成功したから、これ以上干渉するつもりはないよ」

小町「さ、引導を渡してやりな――あんたが自機(しゅじんこう)だ」


チラリ


魔理沙「……」

ヒュォォォォォォ


聖白蓮「私に構わず打ちなさい。なんて、言う必要はないわね」


ガッチリ


怪人A「……」




魔理沙「――ああ」

魔理沙「お前にとっちゃこの程度の攻撃は屁でもないって、私はよーく知っている!」




魔理沙「食らえッ! ――魔砲『ファイナルマスタースパーク』」




ギラッ




ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル


ど~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん




――人間の里(上空・雲上の宝船)――


まこと「うわぁー! 空の上に、綺麗な花火が上がって!」

村紗「いえ、あまり綺麗な花火でもなさそうですよ……。ふう、余波を受け流せてよかった」

小傘「あとで、聖水でお清めしたほうがよさそうだわ」

慧音「ふー、心配していたけれど……ようやく終わったみたい」

克也「つまり、敵は皆倒されたってことか!」

響子「 こ れ で 異 変 も 解 決 ね ー 」








――


マミゾウ「まったく、山彦ときたら……真夜中にあんまり大声を出しては近所迷惑よのう、若造よ」

雲山「……」

一輪「でも、ちゃんと危難が去ったことを里人たちに伝えるのも大事なことよ。って雲山が」

魔理沙「ヤツは……一体何者だったんだ?」

聖白蓮「少なくとも……人間を辞めていたのでしょう。私達と同じように」

魔理沙「いや、私はまだ人間やめてないぜ」


小町「まあ、いいじゃないかい。これでお仕事もあがりってことで、さ」

聖白蓮「まだ、予断を許さないとは思いますが……ちょっとイヤな予感が」

小町「でも、一段落はついたはずだよ。なあ、普通な方の魔法使いさんよ?」

魔理沙「ああ」


魔理沙「――勝ったぜ! 第3話完ッ!!」


――紅魔館(図書館)――


パラ……


パチェ「……」

赤い怪少女「……」


パラ……


パチェ「……」

赤い怪少女「……」


パタン……スタッ


パチェ「……あら、その本、もう読み終わったの」

赤い怪少女「……」


コクッ


パチェ「ここ紅魔館の大図書館にはね、古今東西に書かれたありとあらゆる書物が収蔵されているの」

パチェ「だから貴女が今後、探しているのに見つからなくて困っている本があったら、ここに来るといいわ」

パチェ「貴女も私と同じで、本を読むことが大好きなようだからね」


ニコリ


赤い怪少女「さよなら」


スゥ――――――――――

パチェ(さてと、次はこの本に目を通しましょう――何度か読んでいるけれど、興味深い内容なのよね)

小悪魔「パチュリー様! あの浮遊霊、やっと帰ってくれました?」

パチェ「ええ。でも、あの子は本好きなだけ、そんなに邪険にしなくても……」

小悪魔「だって……ず~っと俯いたまま本を読みっぱなしで根暗っぽいですし」

小悪魔「司書(わたし)から館内の配置を聞いていたときも、床を滑るように高速で移動してきて」

小悪魔「とにかく薄気味悪かったんですッ!!」

パチェ「……」

パチェ「うん、そう……」

パチェ「とりあえず、あの子は帰ってしまったから、こぁは本棚の整理をしていて頂戴」

小悪魔「はい、承知しました」


タタッ


パチェ(……小悪魔はよく頑張って仕事に勤しんでくれているけれど)

パチェ(もう少し、静かにして欲しいわ)


??「ちょっと、パチュリーさん」

パチェ「あら、ベベ。何か用?」

ベベルブブ「いやぁー、その……文通友達に送る手紙を書いたんだが……その」

ベベルブブ「こういう文章でいいかどうか……添削してもらえたら……」


パッ


小悪魔「え~、何て書いたの? なになに……『僕を召喚してくれて本当にあーだこーだ」

ベベルブブ「わー!? イヤ、ダメ、読むなああっ」

小悪魔「回りくどいことをしないで、もう契りを交わしちゃえばいいんじゃない?」

ベベルブブ「お、俺はその……じ、順序ってものを大事にするんだ……」


パチェ(騒々しい……)

パチェ(騒々しいと言えば、今日は魔理沙、いつものように本を永久に借りに来なかった)


パラリ


パチェ(まあ、その方が読書の邪魔をされないで済むからいいのだけれど)

パチェ(――『謎のフィラデルフィア実験』)


               (第3話:片腕の仙人と鬼の手を持つ男の巻<後編>・終)

●近未来に粉砕される運命にあるの紅魔館。その悲劇の少し前に起きていた静かな異変についての話です。


【ちなみに赤い怪少女とは】(以下WIKI引用)

○ぬ~べ~のアニメ版オリジナルキャラ(第32話「そして誰もいなくなる!図書室の赤い怪少女!!」で登場)

○赤いカーディガンがシンボル。小学生のころに交通事故で亡くなった本好きの女の子の浮遊霊で、普段はおとなしく無害。

○しかし、大好きだったおとぎ話の本の人魚姫のページを金田が破ってしまい、捨てられることになったため、途中からのストーリーを思い出そうと、

「人魚姫は、浜辺で見かけた男の子に恋をしました。その歌声は…」と呟きながら、その本を借りた児童たちを次々と本の中の異次元空間に閉じ込めた(この空間では鬼の手が使用できない)。

○その本が燃やされる寸前で、同じく本好きな法子(のろちゃん)が人魚姫のストーリーを思い出させたことで元のおとなしい霊に戻る。終盤までは目元が陰で隠れていたが、大人しくなった以後は笑顔を見せていた。




<次回>

第3.5話「 そして誰もいなくなるか?――七曜の魔女VS異次元の魔物 の巻」



第3.5話投下します。


ぶっちゃけベベルブブと紅魔組の絡みを書いてみたいと思っただけで、話の構成再現度が微妙

また本編の進行にあまり影響はないので読み飛ばしてもらってもいいです

(最後の4レスだけ目を通していただければ問題ないです)


――紅魔館(レミリアの寝室)――


パラパラ


レミリア「……」

咲夜「あら、何を読んでいらっしゃるんですか。お嬢様」

レミリア「美鈴から借りた漫画よ。普段は難しい魔道書ばかり読んでるパチェもね、目を通したんだって」

咲夜「へえ、あのパチュリー様も漫画を……」

レミリア「ほら、前にあの黒いのがスペカを研究して纏めた本があるでしょ?」


パラパラ


レミリア「あれの執筆に際して参考にした文献らしいのよ」

咲夜「……それで、面白いんですか?」

レミリア「結末が気に入らないわ」


ポイッ


咲夜「投げ捨てるだなんて、本を粗末にしてはパチュリー様に怒られますよ」

レミリア「捨ててはいない、軽く放っただけ。はぁー、退屈よねぇ……今日この頃」

レミリア「ちょっと異変でも起こそうかしら」

咲夜「またまた、心にもないことを」

咲夜「もうそろそろお休みになったらどう? 私も少しは休みたいので」

レミリア「何を言っているの? 闇夜こそが我々吸血鬼の本領を発揮する時間帯――」

咲夜「私は人間ですよ、一応は」

レミリア「うー、何かやりたーい!」

咲夜「では、外を徘徊でも? お供しますよ」

レミリア「――いいわ、面倒くさい。そういえば今日は美鈴(もんばん)、ちゃんと働いてた?」

レミリア「夕刻、日傘を差して門のあたりをふらついたときには見当たらなかったようだけれど」

咲夜「美鈴なら花畑の手入れをしてくるといってましたが、帰ってくるのが遅いですね。もう日付も変わったというのに」

咲夜「どこかで油でも売っているのかも」

レミリア「そうね、私もそう思うわ。でもこう平和だといてもいてもいなくても差し支えないわね」

レミリア「いっそ解雇しようかしら」

咲夜「解雇するならむしろ先に妖精メイド達でしょ? あんまり役に立たない上に、むしろ私の仕事が増えるんだから」

レミリア「いいじゃないの。そのぶん咲夜が先読みをして動けばいいだけのこと、時間を有効に使いなさい」

咲夜「はあ……。まあ、言われなくとも使ってはいますが」

レミリア「ともかく秩序だった日常に埋没してはいけない。たまには、こうスパッと寝首でもかかれてみたいものだわ」

咲夜「寝首をかかれたくらいでは、お嬢様は死なないじゃないですか」

レミリア「物のたとえよ。死を経験するくらいの未知の体験をしてみたいってこと」

レミリア「――ねえ咲夜、本気で次の異変を起こそうとは思わない?」

レミリア「パチェも交えて計画を練り上げましょう。最近の異変はあまりにも低次元な余興に失し過ぎだわ」

咲夜「――すでに具体的な構想が?」

レミリア「例えば、裏で糸を引いて妖怪大戦争が勃発させるとか。このまま妖怪全体の無気力化が広がってしまえば、強い外敵(月人とかね)と戦う力を失ってしまうわ」

レミリア「これはゆゆしき事態じゃないの?」

咲夜「確かにそれは歴史が証明しているのかもしれませんが……今になってどうこう言ってもしようがないのでは」

咲夜「それに起こすのならば、今度は妹様のことも最初から頭数に……」

レミリア「……いいのよ、フランのことは。今まで通りのほうが、あの子にとっては……」

咲夜「……」


咲夜「少し喉が渇きませんか?」

レミリア「……そうね。じゃ、紅茶でも入れて頂戴――珍しくないものでいいから」

咲夜「はい、ただいま――トリカブトの根をそのまま摩り下ろして隠し味にしておきますね」


ガチャリ


レミリア「根でも種を暴いたら、隠し味ですらないじゃないの。まったく」


――(図書館)――


パラパラパラ


パチェ(――『フィラデルフィア計画』)

パチェ(その内容は、アメリカ海軍のステルス実験――正式名称は『レインボープロジェクト』)

パチェ(いわゆる都市伝説のひとつである――)

パチェ(一九四三年一〇月二八日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアの海上にて、駆逐艦に船員を乗せて実行された当該実験――)

パチェ(当初の目的は、テスラコイルを使い船体をレーダーに対して不可視化する軍事利用目的であったが)


パチェ「その実験の結果――」


パチェ(おかしいわ……)

パチェ(……ここから先の頁が欠落しているのよね。破られた、燃やされた、いや……抉り取られた?)


ジー


パチェ(抉られてから……そう時間は経っていない。ほんの数刻前……いや、ほんの一瞬だけ……前に?)

パチェ(一体いつの間に……他の本を読むのに没頭していたとしても、目の前の本棚に並んでいたのよ)

パチェ(両隣を別の本に挟まれ、天地(上側と下側)と小口(背の裏側)は棚板に接する状態)

パチェ(この状態で一部のページだけを、音もなく手品もなく抉り取る方法となると……)

タッ


小悪魔「パチュリー様、これ、見てください!」

パチェ「あら、どうしたの?」

小悪魔「外のゴミ置き場に不用品を運んで行った帰りに……」

小悪魔「拾ったものなんですが……」


スッ


パチェ「!」

小悪魔「誰が……こんなイタズラをしたんでしょう?」

パチェ「これって……」

パチェ(今私の手元にある本の抉り取られた部分が……レミィのお気に入りのティーカップと融合している?)


――(レミリアの寝室)――


コンコン


レミリア「あら、咲夜。わざわざノック?」

レミリア「入っていいわよー。どうぞー」


シ――――――ン


レミリア「? どうしたの、早く入りなさいよ」


ズズズズズ……


レミリア(後ろに気配が?)

レミリア「何してるの、いないないばあ? ノックしておいてわざわざ能力なんて使わ――」


クルッ


ォオオオオオオオオオオオ


レミリア「な」


ズズズズズ……


レミリア「――ち、ちょっ――とあん――ただ――――――――れ」


……ズズズズズ

シ―――――――――――――――――――ン




ガラッ


咲夜「申し訳ありません、お嬢様。いつも使っていらっしゃるカップが見当たらないので今回は別のものを――」

咲夜「……あら。お嬢様、どちらに?」

咲夜(ああ、本当に夜のお散歩にでも行かれたのかしら)

咲夜(だったら、一言声を掛けてくれれば――あ、わざわざ付き添わなくてもいいっていう心遣いなのね)


トサッ


咲夜(ふう、今日もよく働いた。少しの間、ベッドの上で休ませてもらうわ)


スヤァ……


――(図書館)――


\コォォォォォォォォォォォォォォォォ/


ベベルブブ「おお! トイレから戻ってきたら、パチュリーさんが何やら本のページを壁に映してる!」

ベベルブブ「まるで魔法のようだ!」

パチェ「魔法使いだもの」

小悪魔「これはさっき見つけた、ティーカップとくっついちゃってる続きの頁にあたる部分ですか?」

パチェ「そうよ。無秩序に裁断・混同されたページを復元するよりも、こうやって投影した方が判りやすいでしょう?」

ベベルブブ「んーと、何なに?」

パチェ「要約すると、こうなるわ」




パチェ「――その実験の結果」

パチェ「駆逐艦はレーダーから消失するに飽き足らず」

パチェ「完全に『実体そのもの』を消失、数千キロメートルも離れているノーフォークに瞬間移動してしまった」

パチェ「それから数分後、奇妙な発光体に包まれた駆逐艦は再び元の場所へと瞬間移動していた」

パチェ「実験は無事に終了した。乗船した者のうち死者は十六名、そのうち半数は精神に異常を来した」

パチェ「実験の継続は断念され、『フィラデルフィア実験』の全内容は軍事機密として封印されることとなった――」




小悪魔「こぁー、瞬間移動……ですか」

ベベルブブ「こんな超常現象が起きるなんて……信じられんな」

パチェ「……」

パチェ「ねぇ、こぁ。この本にイタズラをした者は、一体どんな意図があったんだと思う?」

小悪魔「意図ですか……うーん、イタズラ目的ですかね?」

パチェ「う、うん、そうね。それはそうかも知れないわ」

小悪魔「さきほど消えた、あの本好きな幽霊の仕業では?」

ベベルブブ「幽霊ってのは……さっきまでいたあの赤いのか。話したことはないが」

パチェ「本好きな子なら本にこんなイタズラをしないでしょう?」

小悪魔「あ、まあ確かに」

小悪魔「ではまた、あの泥棒さんの仕業でしょうか?」

ベベルブブ「泥棒?」

パチェ「それは違うと思う」


パチェ(魔理沙(ドロボウねずみ)なら……こんな陰気臭い嫌がらせなんてしないわ。堂々と正面から不法侵入して本を持ち去るだけ)

パチェ(わざわざ、回りくどく手の込んだことをするなんて……)


パチェ「あ。そういえば、――このティーカップと本の融合体、外で拾ったと言ってたけれど」

パチェ「正確にはどこで見つけたの?」

小悪魔「えっと、何故か門の手前に……無造作に置かれていたというか」

小悪魔「ちなみに、門番さんはいらっしゃいませんでした」

ベベルブブ「門番?」

パチェ「この際それは気にしないことにしましょう」


小悪魔「って、ああ。そういえばベベさんは少し前にパチュリー様が戯れで描いた魔法陣から出現したのよね」

ベベルブブ「ああ、まあ……」

パチェ「だから詳しい内情は知らなくて当然ね。馴染んでたから気にせずに話を進めていたわ」

ベベルブブ「いやーお構いなく」

小悪魔「ベベさんも、何か気付いたことがあったら何でも言ってよ」

ベベルブブ「何でも――あっ、そういえばコレ」

小悪魔「コレ……ってその手に持っているのは?」

パチェ「見せて頂戴」


スッ


パチェ(これは、レミィの靴だわ。 ……あれ?)

パチェ「これ、裏返っている」

ベベルブブ「……?」

小悪魔「裏返って? え、それはどういう意味で?」

パチェ「よく見て。靴の内側と外側が――」

小悪魔「ああ! 確かに“裏返って”います……まるで、初めからそうであったかのように」

ベベルブブ「ほ、本当だ!」

小悪魔「こんなイタズラをするなんて、お館様はさぞお怒りになって……!」


小悪魔「何でこんなことをしたの!?」

ベベルブブ「お、俺!? 違う! ただ拾っただけだ、本当に!」


パチェ「レミィに、美鈴。まさか……ね」

小悪魔「……パチュリー様?」

パチェ「それで、ベベは何処でこの靴を見つけたの?」

ベベルブブ「えーと、トイレの場所が判らなくて迷って……そこの『地下牢行き』っていう階段の途中で……」

パチェ(――地下牢(最深部)へ続く階段への入り口は、同じく地下にある大図書館の内部にある)

パチェ(だから、レミィが地下牢に行ったとしたら、私か小悪魔、あるいはあの浮遊霊の子やベベの誰かひとりくらいは気づいたはずよ)

パチェ(いくらここが広いと言えども、彼女が現れたらあの気質で気がつくわ)

パチェ(それ以前に、レミィがあえて地下牢に足を運ぶなら……私に声を掛けるに違いない)


小悪魔「それで、一番奥の牢屋(へや)にいる妹様には会えたの?」

ベベルブブ「妹様? ……いや、階段があまりに長いし……何だか怖くなって引き返してきたんだが」

パチェ「ふたりとも、咲夜を呼んで来てくれない?」

パチェ「私は大図書館(ここ)で待っているから……なるべく急いでね」

小悪魔「わ、判りました!」

ベベルブブ「ラジャ! ……誰のことだろ」


タッ


パチェ(門の前で見つかったティーカップと本の頁との融合体、地下牢へ続く階段の中途で見つかったレミィの靴)

パチェ(咲夜なら、能力を使って出来ないことはないだろうけれど……そんなことをする理由が見当たらないわ)


パチェ(もしや)

パチェ(靴の内側と外側がひっくり返されたという現象――これが内側と外側の“境界”を操った所為だとすれば)


パチェ「……」


パチェ(けれども、あの大妖怪がこんな低次元なイタズラをするとは思えない)

パチェ(あ、でも第二次月面戦争での一件もあるし……全くないとは、言い切れないかな)


パチェ「少なくとも今、この紅魔館で――何らかの変調が生じていることは確か……よね?」




ズズズズズ……


――(レミリアの寝室)――


ギィィ


小悪魔「この時間帯なら、メイド長様はおそらくこの部屋にいるはず」

ベベルブブ「えーと、ここって……お館様とかいうのの部屋なんじゃあ?」

小悪魔「深く考えないで、お守のようなものなの。あら? どうしたの、早くベベさんも入ったら」

ベベルブブ「いや……だ、だって……女性の寝室に……勝手に」


グイ


小悪魔「いいから」

ベベルブブ「お、邪魔しますっ」


小悪魔「……ああっ!」

ベベルブブ「!?」


バァァァァァァン!!


小悪魔「壁の掛け時計にナイフが突き刺さっているわ!」

ベベルブブ「時計が壊れている! 止まっている時計の針が刺す時間は……ほんのついさっきだ」

ベベルブブ「! その掛け時計の下には……割れて中身の零れたカップがあるようだが」


チラリ


小悪魔「見て。このベッド……触れてみるとまだ温もりが残ってる」

ベベルブブ「え? だから?」

小悪魔「ついさっきまでここでメイド長様が横になっていたってこと」

ベベルブブ「おお! だが、でも、ここはもともとその人の部屋じゃないのになんで断言――」

小悪魔「ベッドのへこみ具合で分かるわよ!」

小悪魔(メイド長はいったいどこに? あのお方はおおよそ完璧瀟洒なお方)

小悪魔(無意味にこんなことをするはずはないよね……?)

小悪魔(でも、それでいてちょっぴり天然で抜けているところもあったり!)


ベベルブブ「カップは何かの拍子にテーブルから落ちたとして、あの壊された時計にはどーいう意味が」

小悪魔「メイド長様には時間を操る程度の能力があるの」

小悪魔「そのメイド長様が、敢えて自分で時計を破壊した? そしていなくなった……?」

ベベルブブ「時間を操る? そんなことできるのか!?」

小悪魔「ええ、まあ」

ベベルブブ「……」

ベベルブブ「……もしかして、そのひと。時間を操ったのにどうにもならずどこかに瞬間移動しちゃったとか?」

小悪魔「え?」

ベベルブブ「さっきの本の内容みたいに……で、あの壊れた掛け時計はダイイングメッセージみたいな……ってそんなことはないか! ははは」




\持ってかないでー!!!/




ベベルブブ「! 今の声は」

小悪魔「パチュリー様の……あ、しまった!」

小悪魔「パチュリー様は、魔力は膨大だけれど身体は人間よりも弱いのよ!」

小悪魔「貧血のせいで詠唱もままならないときもあるわ……もし、いきなり身に危険が及ぶようなことがあったら」


シュタッ!!


――(図書館)――


タッ


小悪魔「パチュリー様!」




シ―――――――――ン




ベベルブブ「! ここに……この帽子は」

小悪魔「……パチュリー様の……もの」

ベベルブブ「どこかに……行った? いや、持ってかれてしまったってこと? どこかにさらわれた?」


小悪魔(……ちゃんと考えて動けばよかった。よく分からないことが起きているってのに、パチュリー様をひとり残して)


小悪魔(えっと……最初に姿が見えなくなったのは……たぶん靴を裏返されたお館様?)

小悪魔(次に消えてしまったのは……メイド長様?)

小悪魔(そしてたった今……パチュリー様まで)


ベベルブブ「と、とにかくまだ近くにいるかも知れん! 探すんだ!」


クルッ タッ




小悪魔(また、誰かがいなくなってしまう? 妹様は? 門番さんは?)

小悪魔(もしかして……残っているのはもう……私とベベさんだけ!?)


ズズズズズ……

小悪魔「!? ひゃああ!」


ォオオオオオオオオ


小悪魔(空間に亀裂が!? 攻撃――ダメ間にあわない!)

小悪魔(引きずり込まれる!)


バッ


ベベルブブ「ふんぬぅ!!!!」


グォォォォォ!!


小悪魔「! ベベさん」


ベベルブブ「おおおお開けぇ!!」


グニィィィィィィ!!




魔物「ォオオオ!?」




小悪魔「わぁぁ何かが中に!!?」


グイ! ――ドサリッ


ベベルブブ「――痛つつ、大丈夫か」

小悪魔「どうも……」




魔物「――」


ズズズズズ……


小悪魔「――あ、裂け目が! 裂け目が閉じちゃうよ!」

ベベルブブ「ま、待ちやが――」




ヒュン! ――ガシッ


魔物「ォオオオ!?」

美鈴「あんたが、不法侵入者ね!!」

小悪魔・ベベルブブ「「!!」」


美鈴「招かれざる客は、速やかにお帰りください――ただし、お嬢様達を返してもらってから」


ドシューン!!

魔物「ァ”ア” ア” ア” ア”!!」




ギュォォオオオオオオオオォォォォォォン!!!!




――ドサッ! ――ドサッ!



ベベルブブ「ふがっ!?」

咲夜「あら、早くも無事に帰還できたようですね。お嬢様」

レミリア「えー!? もうちょっとあの異次元空間に漂ってた無数の者たちと意見交換したかったっていうのに」

咲夜「しかし、短い間でもよかったでしょ、お嬢様。いい余興になったじゃありませんか」

レミリア「そうね、多少はね――って誰あんた? 私の下で伸びてんじゃないわよ」

ベベルブブ「すみません……」

小悪魔「メイド長様! お館様!」

小悪魔「あれ、……パチュリー様は……?」


パチェ「こっちよ」

赤い怪少女「……」




ズズズ……シ―――――――――――――――――――――ン

パチェ(異空間への扉が閉じた。これで無事撃退できたのかは……判断のしようがないけれど)




小悪魔「え? あれ? パチュリー様もあの化物に引きずり込まれたんじゃ?」

パチェ「ええ、引きずり込まれそうになったわ。本まで持っていかれそうになったからつい大声で叫んじゃった」

ベベルブブ「あー、そっちの意味で『持っていかないで』だったのか……」


ヒョイ


パチェ「ほら、脱げちゃった帽子だって裏返ってはないでしょう?」

小悪魔「あ、そういえば……」




レミリア「ちょっと咲夜、何か悪魔の着ぐるみみたいなのがいるわよ?」

咲夜「悪魔ならお嬢様もおおよそ該当しますよ」




パチェ「でも、取り込まれそうになる一歩手前のところでね――この子が助けてくれたの」

パチェ「この子自身が作り出した本の中の異空間に私を招き入れるって形で」

赤い怪少女「……」

小悪魔「この浮遊霊さんが、パチュリー様を助けてくれたので?」

美鈴「そして、その本の中の異空間に私も呼びこまれたんですよ――廃洋館前の野外コンサート会場から、唐突に」

美鈴「で、その後再びお嬢様の寝室に放置された本の中から出してもらって――図書館(ここ)に駆け付けたってわけなんです」

ベベルブブ「何でそんなに都合よく事が運んで……? ってお前が門番とやらか!」


レミリア「咲夜ー、話についていけないわ」

咲夜「仕方ないでしょう、私たちは異空間にいたのだから」

スッ


レミリア「えっ」

赤い怪少女「これ」

咲夜「あら、これは」

レミリア「……私が寝室(へや)に放りだしていた」


パチェ「この子はどうもね、ある特定の本を読んだことがある人に限って、その本の中の異空間に取り込めるらしいの」

美鈴「だから、その本を読んだことのあったパチュリー様と、私が続けざまに取り込まれて、本の中で館の状況を確認し」

ベベルブブ「さっき言った通り再び中から出してもらい、あの化物を潰したってことか!」




赤い怪少女「……」


ヒョイ


レミリア「ふふ、変な所で繋がってしまうものなのね。本はちゃんと大事に扱うわ――たとえ漫画であってもね」

小悪魔「浮遊霊さん、……どうも、ご苦労さまです」


ペコリ


赤い怪少女「……」

パチェ「今度こそ、またね」


赤い怪少女「――」




ス――――――――




パチェ(『フィラデルフィア実験』の数項が、あの裂け目によって欠損してしまったことに怒って、また舞い戻って来てくれたのか)

パチェ(それとも……?)

パチェ(あ、そもそも最初の融合体は、犯人があの裂け目だとは断定できないわね。レミィや咲夜の場合と違って)




パチェ(結局のところ――あれは一体何だったのか。スキマ妖怪は唯一無二の存在だというのに……他の何者か……)

パチェ(同じような種族が……この世界のどこかに潜んでいたということ?)




小悪魔「メイド長様のダイイングメッセージ――ちょっぴりですが読み取ることができましたよ!」

咲夜「メッセージ? そんなもの残したっけ? ……転寝をして醒めたらもう異空間にいたから。それと死んでないわよ」

小悪魔「え、じゃあ……あの寝室の掛け時計に刺さったナイフは何処から飛んで……」

咲夜「掛け時計に……寝ぼけて投げちゃったのかな、後で片付けないと」

ベベルブブ「まあ、あれだ。みんな無事で良かったな」

美鈴「そうですねぇ、見知らぬデーモンさん。いえ、リアルバイキンマンさんですかね?」


パチェ「それにしてもね、本当によかったわ」

レミリア「何が?」

パチェ「美鈴があの化物にダメージを与えたところで……無事に貴女たちが還って来れるなんて確証はなかったというのに」


レミリア「これが運命ってものよ。紅魔館(わたしたち)はね――見えない糸で結ばれているの」

パチェ「……」


レミリア「その糸を手繰っていけば、自ずと貴女(パチェ)たちのもとに還れると思っていた」

レミリア「その糸の名前は――運命の紅い糸。私たちはそんな見えない絆(つながり)によって結ばれているってことなのよ。ね?」

パチェ「――ええ、そういうことなのかもね」


――(地下牢)――




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




フラン「もうこの遊び道具も飽きちゃった。いらない」


\BOMB/ 


フラン「……」

フラン「また聞こえるわ」

フラン「レミリアお姉様達の、楽しそうな笑い声」

フラン「でも、私はそこに加えてもらえないのよね。いつだって私は仲間外れ」


フラン「……」


フラン「霊夢さん……魔理沙さん……あのふたりと弾幕ごっこをした時」

フラン「あの時が、生れてこの方……一番楽しかったひとときかもしれない」

フラン「また、お姉様たち(あいつら)が異変を起こしてくれたら――」

フラン「ううん、それじゃ前と同じだわ。だったら、私が自分で異変を起こしたら――」

フラン「今度こそ、外に出られるかもしれない。空を自由に飛べるのかもしれない。ジュース以外の人間を、他にも見られるかも知れないの」

フラン「でも、でられない。あいつがだしてくれないからよ。あいつの本の虫(ともだち)がジャマをするからよ」

フラン「私はこれからも永遠に籠の鳥なのかしら?」


フラン「……誰か」

フラン「この牢獄(こうまかん)を壊して、私の知らない世界を見せて欲しい」


フラン「そして――いつまでも私と一緒に遊んでくれる、壊れない玩具(なかま)が欲しいな」


――霧の湖(廃洋館側)――


雷鼓「それっ!」


ドンドコドンドン ドンドコドンドン


ルナサ・メルラン・リリカ「「「――♪」」」




速魚&わかさぎ姫「「 あのね Q太郎はね~♪ 頭に毛が三本しかないんだよ~♪ 」」




大妖精「あれ、さっき誰か消えなかった?」

チルノ「ん? あんた誰だっけ」

八橋「わーお、やってるねぇ」

弁々「この程度の手ぬるい音楽じゃだめだ。私も混ぜてー」


グツグツグツ


ミスティア(門番はとうとう連れ戻されちゃったか、あの人間離れした人間(メイド)に)

ミスティア「ほらほらー、屋根はないけどおでん屋の開店だよー」


ルーミア「大将ー、人肉団子ひとつー」

影狼「公魚と人魚のつみれをくださいな」

リグル「あれほど落ち込んでいたのに……現金なものね」


ミスティア「店も道具も形あるものはいつかは壊れるものよ――でも、壊れたらまた直せばいいの」


ドンドコドンドン ドンドコドンドン


――妖怪の山(山麓・間欠泉地下センターの温泉)――




カポーン ビュゥ~~




つらら「岩天狗が触(や)られたと聞いてやってきたけど、……長閑な山の神もいたものだわ」

諏訪子「まあ、こっちもあんまり面倒な争いごとを起こしたくはないもの」

ぬえ「念のために聞いておくけど、お前はぬらりひょんの孫の知り合い?」

つらら「? 私はゆきめの幼馴染さ。まさか、ゆきめもこの山に来てたなんて……不思議な縁」

諏訪子「あの雪女に会いたいならこの先の地底にいるよ。エレベーターで下まで降りられるから」

つらら「――いいや、もう会わないよ。会わない方がいいんだ」

諏訪子「どうしてだよ。山の掟を破った裏切り者だから? おたくの山の神様は随分と頭がお固いのか」

つらら「……」

諏訪子「まあ、口には出せないだろうけど。外界を諦めた神(わたし)が口を挟むようなことでもないね」


コトリ


ぬえ「目で見たものを氷の彫刻で模写する程度の能力といったところか。よくできた氷の盥だわ」

つらら「あはは、そりゃどーも」

……ザバァァ


つらら「……じゃ、私は帰るね。それで神様は蛙ね」

諏訪子「あーうん」


コォォォォォォォ


諏訪氷「ゲコゲコ」

つらら「置き土産に氷の彫刻(フィギュア)を差し上げる――偶像崇拝にでも使って頂戴」

諏訪子「ちょっと馬鹿にされた気がするけどまあ許す。貴女まだいとけない子どものようだし」

つらら「ゆきめに一言伝えておいて。自分の運命は自分で切り開けって」


つつら「そして――せいぜい幸せになりなよ。ってね」


ぬえ「……」

諏訪子「判ったよ。ちゃんと、伝えておくわ」




ヒュォォォォォォォォォォォ ――スゥ  




      (第3.5話:そして誰もいなくなるか?――七曜の魔女VS異次元の魔物の巻・終)

4話は次の日曜で

ネタ使いすぎな気もしてきたんで今後は気をつけます

残りはほぼバトル展開、2話の始めの方で放置している伏線は上手く回収できそうなら間に4.5話を挟むかもしれませんが

上手くまとまらなかったら粉飾するかも知れません

乙!

余計なお世話だけどクロスは2つまでにした方がいいんじゃないかなと
ぶっちゃけ、3つ以上混ぜて成功した事例を今まで見たことないっす・・・

>>621 ネタですのでご心配なく。では再開

□□―主要な登場人物などの現在の居場所―□ □




<幻想郷における時間帯:未明(午前1時前後)>




【地底】


○旧都(妖怪の山側の縦穴に近いほう)
→玉藻・ゆきめ・早苗、勇儀・パルスィ




○地霊殿周辺(博麗神社の裏山にある、間欠泉噴出で沸いた穴側のほうへ移動中)
→ぬ~べ~&華扇(茨華仙)
→お燐
→広・郷子・美樹・ヤマメ・こいし・お空




○地霊殿
→さとり

【地上】


●博麗神社 (東縁の神社)
→霊夢・貧乏神・針妙丸、天子&絶鬼




●妖怪の山 (山と言えばだいたいこの山のこと)
→守矢神社…神奈子、ケサランパサラン
→(全域警戒中)…文ら天狗たち
→山麓の温泉…諏訪子・ぬえ
→玄武の沢…にとり、弥々子河童




●紅魔館(妖怪の山の麓、霧の湖の湖畔にある洋館)
→パチュリー・ベベルブブ、フランドールら




●廃洋館(霧の湖の湖畔、紅魔館からは離れた方角)
→早魚・わかさぎ姫・楽器の付喪神ら




●魔法の森(森と言えばだいたいこの森)
→アリス




●人間の里 (警戒継続中)
→魔理沙、小町、慧音・克也&まこと、聖ら命蓮寺組




●命蓮寺(待機中)
→星・ナズーリン




●迷いの竹林(どこかに永遠亭あり)
→紅妹・輝夜




【幻想郷のどこか】
→萃香
→藍・橙
→正邪

>>627 すいません変換ミスです。早魚→速魚

―――――――――

【童守町】
→リツコ先生他

―――――――――

<時間軸:??>



【人間界?のどこか】
→蓮子・メリー
→めぐみ(メリーさん)




【所在不明】
→異次元の魔物


――地底(某所)――


ソワソワ


龍「……っ」

くだ狐「クゥ……」


オロオロ


ドクンドクンドクン


ぬ~べ~「い、今抜き取りますから……!」

華扇「ま、待って! 今は、無理に動かさない方がいい……と思うわ」


ぬ~べ~(まずいぞ……俺の左腕とこのひとの無形の右腕が完全に繋がってしまった)

ぬ~べ~(お互い腕を共有している状態……)

ぬ~べ~(俺の意図しない鬼の手の暴走――その引き金はやはりこのひとが同じ……だからか)

ぬ~べ~(いや、それだけではないな。さっき勇儀さんと手合わせしたときの感覚に近いぞ)

ぬ~べ~(そうか)

ぬ~べ~(このひとの強い妖気を吸収して更に力を蓄え――俺と美奈子先生による二重封印から逃れようとしているのか)


華扇「もう一度確認しますよ――これは、人間(あなた)の意思によるものでは無いんですよね?」

ぬ~べ~「! それは勿論」

ぬ~べ~「口で言わなくとも、あなたにはもう分かったはず」

ぬ~べ~「あなたの……かつてもがれたであろう右腕の断面と鬼の手が接続しているんだ」


華扇「……!」


ぬ~べ~「その断面こそ、あなたにとっては急所であり、また最も気に掛けている……即ち敏感な部位であるはずだ」

ぬ~べ~「なぜなら、あなたの右腕は……伝承通りなら源頼光に仕えた“頼光四天王”の筆頭・渡辺綱(わたなべのつな)に」


華扇「言わないで」


ぬ~べ~「……」


華扇「私は茨華仙という号を名乗っています――説教臭いだなんて言われちゃう仙人です」


ぬ~べ~「仙人……」


華扇「誰しも知られたくないことのひとつやふたつ、あるものでしょう?」

華扇「つまり、隠(おん)にしておきたいことがね。もっとも、貴方には……腕を共有することになって筒抜けになってしまったのかしら?」


ぬ~べ~「……」


華扇「逆に……貴方が周りの人達にあまり知られたくないこともね」


ぬ~べ~「……そうですか」


華扇「でも、それだけではないみたい。貴方には、素養もあるようで。粗暴なことをしなくても……腰を据えて話をするべきだった」


ぬ~べ~「それは、まあいいでしょう。こうなってしまったからには仕方ない」

ぬ~べ~「素養って言われると聞こえはいいが……まあ心霊現象オタクみたいなもので」


華扇「民俗学を学んでおられたり?」


ぬ~べ~「……同じことを、土蜘蛛の少女からも言われましたよ。黒谷ヤマメって子からね」

華扇「土蜘蛛……」


ぬ~べ~「幻想郷に来て、最初に遇った“話の通じる妖怪”です。土蜘蛛というとあなたにも縁がありますね」


華扇「……さあね。私のことはとりあえず置いておいて、これからどうするか考えましょう」

華扇「貴方、お名前は?」


ぬ~べ~「鵺野鳴介――童守小学校5年3組の担任で、ごく普通の霊能力教師」

ぬ~べ~「あだ名は、ぬ~べ~だ!」


華扇「ぬ~べ~、ですか。変なあだ名」


ぬ~べ~「えー、そんなに変ですか? あ、もう一度言いますけどぬ~ぼ~ではないですよ」


華扇「ぬ~ぼ~?」


ぬ~べ~「あ、いえ……深くはつっこまないでください。あははは……」


華扇「はあ……」


ぬ~べ~「いやー、それにしても、幻想郷には美人で魅力的な方々が大勢いらっしゃっていいですね~」

ぬ~べ~「僕いっそ、このまま移住しちゃおうかなーなんて!」


華扇「……ふふ。ご冗談を、そんな気持ち更々ないんでしょう?」

ぬ~べ~「……まあ、残念ながら実際冗談になってしまう」

ぬ~べ~「だからこそ、僕になら隠しておきたいことでも何でも話してくれていいんですよ?」

ぬ~べ~「外界に帰ったら、再び幻想郷に来ることはないだろうから」

ぬ~べ~「あなたの秘密がこの世界で暴露されることはない。それならば、あなたが困ることはないはずだ」


華扇「……もしかして口説いてるんですか?」


ぬ~べ~「え? いやいやそんなつもりはないですよ! もし、誰にも秘密を話せなくて心にしこりがあるのならーなんて」

ぬ~べ~「すいません、とんだお節介を……」


華扇「――そうね、お節介だけれど」

華扇「もし時間が許すならば、後で盃を交わしながら古い昔話でも……しましょうか」


ぬ~べ~「……そうですか」


華扇(貴方が幻想郷を脅かすような存在ではないということは、腕を通して、そして貴方の人柄に接してよく分かりました)

華扇(『鬼神に横道なき物を』――この一節、ご存じでしょうね)


華扇(ちょっと私の主観が入り込んでいますが。貴方は信用してもいい人間……なのかも知れない)

ぬ~べ~(そうですか。それはありがたい。俺は、生徒たちや――)

ぬ~べ~(――これまでにお世話になった幻想郷の住人たちの安全を守ることにしか)

ぬ~べ~(この鬼の手を使わない。だからこそ)

華扇(これ以上、暴走したりしないように歯止めをかけないといけない……ということね?)

ドクンドクンドクンドクン


ぬ~べ~「……あ、あの、そのためにまずは、とりあえずこの態勢を何とかしないと」

華扇「あ、そうよね! もし誰かに見られたら……あらぬ勘違いをされて――」




ジ――――――――――――


お燐「……」




ぬ~べ~「お、お燐くん!? いつからそこにいたんだ」

華扇「貴女は地霊殿の……ってそれより、何よその目! 貴女何かを勘違いして――」




お燐「あらあら、お兄さん。急にペットを放して来た道を戻っていくからどうしたのかと思ったら」

お燐「逢い引きだったのか。まったく、これだから人間は節操がないねぇ……猫でさえ発情期は一定期間に限られるってのに」




ぬ~べ~「って違うぞ!!」

華扇「絵にかいたような勘違いをしないでくれないかしら!」




ザザザザッ!!


こいし「あー! せんせー見っけー!」

お燐「あら、こいし様。それにお空も……ん、他にもゾロゾロと……?」

美樹「きゃー! ヤダー!? ぬ~べ~が見知らぬ女を押し倒して馬乗りになってるわよ!!」

ぬ~べ~「お、お前ら……どうしてここに!? ってだから違う、勘違いをするんじゃない!」

華扇「私たちは今、安易に動きづらい事情があって……!」




お空「あのふたり、フュージョン(結合)しているみたいだわ(左腕と右腕が)」

龍「……ゴクリ」

くだ狐「……ゴクリ」

広「ま、マジで!? ちょっとどいてくれ~よく見えなゴフッ!?」

郷子「見るなぁー!!」

郷子「もうぬ~べ~サイッテイ! こんなところで! しかも初対面のひとなんでしょ!?」

ヤマメ「ヤるときゃヤると聞いてたけど……本当に手が早いんだねぇ」


美樹「いや、意外と女のほうが先に誘惑したのかも! ピンク系統の髪は淫乱って法則があるし!」

お燐「ああ確かに。普段人格者ぶっている輩ほど、実のところは欲求不満だったりとか」

こいし「大丈夫よふたりとも、私たちのことは気にせず続きをやっていていいわ。終わるまで待っているから」

ぬ~べ~「ああもういい……。誤解は後でとくから君たちは邪魔をせず――」


メキメキメキメキメキ!!!!


ぬ~べ~「!?」

華扇「ッ……いやぁぁ! ダメっ……やめて……!!」

ぬ~べ~「う、ぐおおお!!?」




ブチィィィィィ!! ドッ!!




お燐「にゃっ!?」

ぬ~べ~「く……ぅ……」


広「!? 先生が急にふっ飛ばされて――」

美樹「今度はたぶん火車っぽいネコミミ女に覆いかぶさって! もうハレンチにもほどが」

郷子「違うわ美樹! み、見て……ぬ~べ~の手首から先が……!!」

ヤマメ「無くなっている!? ちょっと待って、じゃ、あの鬼の手は一体どうなって!?」

グィィィィィィィィ!!


華扇「う、あああああっ!!!」




こいし「見て。あの鬼仙……両手とも左手になっているよ」

お空「そして右腕側の左手が膨張している? どういうことなの?」

広「ま、まずいぞアレ!! ぬ~べ~の鬼の手があっちの女の人のほうにくっついちまってる!!」

郷子「え、これって……何が起きて……」

ヤマメ「おそらく左手に封じ込められていた鬼が、何らかのきっかけによって先生の施した封印を弾き返して片腕仙人の右腕に取り憑き――」


ぬ~べ~「そう……更に茨華仙さんの妖力を貪って力を得、完全体としての姿に戻ろうとしているんだ……」

ぬ~べ~「このままだと大変なことに……!!」


ムニュ


お燐「お兄さん……どさくさに紛れて右手で私のどこをまさぐって?」

ぬ~べ~「ん、どうかしたか!? とにかく今は鬼(ヤツ)を」


ゴォォォォォ


ぬ~べ~「アチチチチーッ!?」

美樹「意識的なのか無意識的なのか判ったもんじゃないわね」

美樹「とか言ってる間にぃ~! もう完全体ってのが現れちゃったわよー!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

覇鬼「・・・・・・・・・・・・」


ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ




ドサッ


華扇「……はぁ……はぁ」

ヤマメ「……大丈夫かい?」

華扇(こ、これが……彼の左手に封ぜられていたという……鬼……)

ヤマメ(とうとう解き放たれてしまったのか……)

美樹(このピンクの人の頭のお団子……無性に気になるわね。どさくさに紛れてはぐっちゃおうか)




龍・くだ狐「「!!」」


ザッ


華扇「ま、待ちなさい! あなた達の力じゃ……!!」

覇鬼「・・・・・・」




バシッ   パァァァァァァン!!




ドサッ……ガクリ


龍・くだ狐「「――」」



広「ぬ~べ~のくだ狐と、さっきの見た龍じゃねぇかこっちは!」

郷子「二匹とも叩き落とされちゃった……あの鬼の腕一振りで……それほどの力を……」


こいし「あの鬼もせんせーのペットなの?」

美樹「ペットとかそんな生易しいもんじゃ……!」

ヤマメ「もうこの凄まじいオーラで分かるよ。この鬼……とてつもなく強い力を秘めている」

ぬ~べ~「あ、ああ……その通りだ……ヤマメくん」


ぬ~べ~(あいつの中には……まだ美奈子先生の魂が……、必死で力を抑えようとしているはずだ)

ぬ~べ~(まだだ! まだあいつは全開ではないはずだ!)

ぬ~べ~(早く……もう一度……俺の力を加えて……封印を……!)

覇鬼「・・・・・・」

覇鬼「ここはどこだうが?」




ズコ――――――――――――――――――――――――




こいし「? 皆どうしてひっくり返って……何かの遊び?」


ぬ~べ~「お、お前なぁー!」

華扇「ここが幻想郷だってことくらいは話の流れで理解できるでしょ普通はー!」

お燐「もしかしてこのおっきな鬼のお兄さん……」


お空「ちょっと――おバカさんなのね」


                                     
                                      (つづく)

公式(求聞口授)の守矢神社・命蓮寺・神霊廟のトップ+αで行われた鼎談によると、
お空の純粋さ(空虚さ)が異常なまでに高くて守矢二柱の想像より強力な分霊が行われたということ

もし地上(幻想郷)にお空が本格的に侵攻してきた場合、万全を期す為とはいえ二柱がかりで迎え撃つつもりだった旨の発言をしている以上、
それと作中の描写から、八咫烏(八咫神)の権能はかなり自由に行使出来るっぽい

覇鬼「お前たち・・・・・・人間?」

覇鬼「人間・・・・・・皆殺しだ」




こいし「安心して、私たちは妖怪よ。人間はそっちのせんせーと子ども3人だけだわ」

広「っておい!? それ答えるなよー!」

美樹「ちょっとぉ! あんた本当に私らの味方なんでしょうね!?」

お燐「まずいよ、こいつ思考力はともかく見た目通り凶暴だ! 早く何とかしなきゃ!」




お空「まかせてお燐――私がペタフレアで」


コォォォオオオオオオオオオオォォォオオオオオオオォォォォォォオオオオオオオォォォォ……




ぬ~べ~「む! 何だこの娘の纏う膨大なエネルギーは――ただの妖怪にしては」

ヤマメ「ただの妖怪ではないんだよね。こちらさん、いろいろあって八咫烏の神霊を心身に宿しているんだ」

ぬ~べ~「何だって!? 日本書記によればあの天照大神の神使とされる――」

華扇「暢気にそういう話をしている場合じゃ――」

郷子(あれ、このままだと……私たちまで巻き添えになってしまうんじゃ……)

覇鬼「ん?」

覇鬼「あの向こうに大きな建物(おもちゃ)がー」


ソワソワ




こいし「……」

こいし「お空、攻撃待った」




お空「――……え、こいし様……?」


シュゥゥゥー




こいし「……」


タッ


郷子「あ……こいしちゃん! ダメよ近づいたら……危ないわ!」

こいし「ねぇねぇ、鬼さん。あの地霊殿(たてもの)はね。私のおうちなのよ」

覇鬼「・・・・・・」

こいし「ちょっと、寄っていかない? ――特別に招待するわ」

こいし「うふふ。もう一度、私と一緒に遊びましょ! きっと楽しいわ」

覇鬼「遊・・・・・・ぶ・・・・・・」




ぬ~べ~「よせ、離れろ!!」

華扇「殺されるわよ!」




ぴょーん! ぴょーん!! ばきー!!! ぐしゃー!!!!




覇鬼「うがうが、遊ぶうが!」

こいし「こっちこっちー!」




お燐「……ああ、旧都の建物群が……玩具みたいに壊されて」

ぬ~べ~「あいつ子どもか……。ッ……強引に飛びだされて……しまったな……」

華扇「大丈夫? 左腕を差し出して、私の包帯で応急処置をしますから」


ヒュルンッ


ぬ~べ~「すみません……でも俺は本来の左手はもう失っていて。それより、あなたの方こそ……大丈夫ですか?」

華扇「ご心配なく、私だって伊達にオ……仙人していませんよ」


グッ


華扇(むしろ、私自身の力であの鬼を抑えつけられていたら……こんな事態には……!)

ぬ~べ~(はは……何て気持ちのこもった手当なんだ。気持ちがこもり過ぎて締め付けがきついぞっ……)


美樹「な、何はともあれ……向こうに行っちゃったし。ひと呼吸はおけるわね」

ヤマメ「もしかすると……あの子、貴方たちを危険な鬼から引き離すために」

広「! あのちょっと抜けてる鬼を誘い出してくれたってのか!」

郷子「え、でも。こいしちゃんっていつも無意識なんでしょ? 心の中は……」


お空「空っぽかもしれないわ。けれどきっとね、貴方たちのことを守りたかったのよ――無意識のうちに」


ヤマメ「さあさ、今のうちに作戦を練るんだ。あの鬼が地底にいるうちに何とかしないと……」

ぬ~べ~「ああ! 地上(うえ)に上がったりしたら……ますます大変なことになるだろうからな!」

お燐(うーん、その前に地霊殿が大変なことになるんじゃ……。さとり様、どうかご無事で)


――地底(旧都の酒場)――


勇儀「悪い悪い! 素で忘れてたよ、パルスィを呼ぶの」

勇儀「次からは気を付けるから。だから、もう愚痴るなって」

パルスィ「ええ。お酒の席のことはもう愚痴らないから」

パルスィ「聞いてよ、そこの無骨な連中のことを! 酷いんだよ、私を寄ってたかって」

勇儀「ああ、まあ後でゆっくりとね」


ゆきめ「感じるわ……この強烈な妖気は……」

玉藻「念のためために聞きますが、あなたが発している妖気では……ないですよね」

勇儀「当然。力があってもそれは制御しないとね。こんなにあからさまに力を振りかざそうとしているヤツは」

早苗「幻想郷の者の仕業じゃない……ってことなのね?」


ゆきめ「まさかっ……」

玉藻「そのまさか……かも知れないな」

早苗「……まさかっ!(ええっと、鵺野先生って人が叛乱を起こしたってことですよね?)」

パルスィ「……」

勇儀「地底でも異変発生……か。こりゃあ、大変なことになったもんだ」


勇儀(『まだその時ではない』とは言ったが、もうその時が来てしまったってのかい?)

勇儀(一寸先は闇とはよくいったものだよ。――でも、もう一寸先には、案外光があるかもしれないね)


――地霊殿――


さとり(……何かしら。外が妙に騒がしいわね)

さとり(不穏な気配を感じるわ……地上からも地底からも)




\ガシャーン!!/




さとり(……。侵入者? まさかあの巫女あたりが……お燐の責任を追及しに来たというの?)




\ズシーン……ズシーン……/




さとり(エントランスの方から。随分足音が響くわね……侵入者は肥満体形かしら)

さとり「まったく――」


ガラッ ――タッ


――


さとり「誰、こんな時間に何の用……、……で……」




こいし「見て見てー、鬼さんが遊びに来たよ!」

覇鬼「ウガアアアアアアッ!!」




さとり「……」

さとり「い、いらっしゃい……そう、ふたりで……『遊びに来た』の……」

さとり「でも……貴方達にはここは狭いと思うから……」

さとり「ね、だからね……外で……遊んできたら?」

覇鬼「おー床が光ってる!」

こいし「床がステンドグラスになっているの、綺麗でしょ」

覇鬼「何だが熱いうが!」

こいし「床暖房になっているのよ。この季節じゃちょっと暑苦しいけど」

こいし「芋虫ゴロゴロしましょ!」

覇鬼「ゴロゴロ」

こいし「こうやってー」


コロコロコロコロ


覇鬼「こうかー」


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ パリーンパリーンパリーン




さとり「……」




こいし「あはは!」


コロコロコロコロ


覇鬼「うがははは!」


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ ドガッバキッグシャズガーン




こいし「向こうに中庭があるのよ。そこにおっきい穴があるの、見に行きましょ?」

覇鬼「行く行くっ!」




ぴょーんぴょーん! がしゃーん! ど~~~ん!




さとり「やめて……」

こいし「?」

覇鬼「?」




さとり「……もうやめてよ……壊れちゃう……」

さとり「私の砦が……私の最後の隠れ家が……」

さとり「私の……唯一の……拠り所が……っ……」


ピタリ


こいし「……。お姉ちゃん、泣いてるの?」

覇鬼「? おねえちゃん。お前、妹……うが?」

こいし「うん。そっちがさとりお姉ちゃん――私のたったひとりの、大切なお姉ちゃん」

覇鬼「……」


ピクッ


覇鬼「呼んでる」

覇鬼「弟(ゼッキ)が……呼んでる」

こいし「ごめんね。私、お姉ちゃんが悲しい顔をしてるとこ……見たくない」

さとり「……こいし」


こいし「だから。遊びの続きはまた今度にしましょ?」

覇鬼「わかった」




ビューン!!     ドゴーッ!! 




こいし「ばいばーい」

こいし「またね」


スゥ――――


さとり「……」

さとり(玄関やら、屋根やら、床やら何やら、いろいろと修繕しなきゃいけなさそうね)


さとり(こいし、貴女がそんなことを口にするなんて……思ってもみなかった)

さとり(また気が向いたら)

さとり(いつでも……うちに寄りなさいよね?)




シ―――――――――――――――――――――ン




さとり「……ごくり」


さとり(こいしが連れてきた……あの巨大な鬼の心の中には)

さとり(破壊の化身となり得る凶暴性と……無邪気な幼児性が常に同居している)

さとり(どちらにも転がり得るあの不安定さ……)

さとり(誰かがちゃんと制御しなければ、何もかもが無に帰してしまうわ)


――紅魔館(応接室)――


レミリア「なるほど、こいつ外界から召喚されてきたわけね」

ベベルブブ「ええ、まあ」

咲夜「悪魔の仮契約を交わしたものの本契約には躊躇して文通……」

小悪魔「もー、まどろっこしいですよね。男なら男らしくしないと」

ベベルブブ「だ、だって……今まで800年間の女性に契約を断られ続けて来て……それで……」

咲夜「あら。つまり貴方はド――」

ベベルブブ「う、うううっ……!」

美鈴「そう落ち込まないでいいじゃないですか。もう相手ができたのならそれで」


パチェ「それで、どうするのレミィ」

レミリア「ん、何を?」

パチェ「ベベのような無害な悪魔や、本が好きなだけの無害な浮遊霊がやってくるならまだしも」

レミリア「さっきのような得体の知れないのが現れたらどうするか……ってことね。いい案があるわ」

レミリア「この紅魔館を魔術工房と化してあらゆる侵入者を歓待してあげるのよ――まずは無数のホフゴブリンをその辺に配置して」

パチェ(……本当に大丈夫かしら)



                                          (つづく)


――地底(旧都)――


お空「あら、そういえば……私は何のためにここまで来たのだったかしら」

ヤマメ「忘れるのが早いよ。子どもらを守りつつ地霊殿を目指して、場合によっちゃ地上に出て緊急事態(いへん)対応に手を貸そうかってことよ」

お空「え、ちょっと待って……もう一度言ってくれない?」

お燐「ともかく、あたいたちは先に地霊殿に! さとり様やこいし様のことが心配だ」

ヤマメ「私も行くよ。子どもらのことは、貴方たち2人なら……」


ぬ~べ~「ああ、任せてくれ――もともと俺の生徒たちなんだ。ここまで守ってきてくれて助かったよ」


ヤマメ「たいした手間じゃないさ。じゃあね、また後で、落ち合おう」


ザッ!


郷子「茨華仙さんは……お身体のほう大丈夫ですか?」

華扇「ええ、大丈夫よ。百薬枡(おくすり)をいつも携行してるから、怪我も次期に治癒するわ」

広「薬なのか? 酒を注いで呑んだだけに見えたけど」

華扇「この一升枡自体が特殊な力を持っていてね。それにお酒そのものだって良薬なのよ」

美樹「これって、ぬ~べ~が呑んでも効くの?」

ぬ~べ~「いや、そこまでの心配はいらないぞ。俺は車に轢かれようが炎で焼かれようが氷漬けにされようが簡単には死なん!」

ぬ~べ~「裂傷した左腕にも茨華仙さんの治癒力を少し分けてもらったから……自分の霊力と合わせて、とりあえずは使いものになる」


郷子「お燐さんがどこからか取って来た誰かの手の骨をヤマメちゃんの糸で包んで丈夫にして――」

美樹「――腕に巻いた包帯を伸ばしてくるんで手首に固定、で義手化。んでもってそれを霊力で動かす……と」

広「鬼の手がなくても、やっぱ半分以上妖怪みたいなもんだな」


ぬ~べ~(だが、力を蓄えたあいつを再度封印するには、あの時以上に骨が折れそうだ)

ぬ~べ~(幻想郷の妖怪達(みな)の力を……貸してもらわざるを得ないかも知れない……)

華扇「半分妖怪……ね。この百薬枡は人間でも効果を発揮する。怪我の回復に加え、怪力を発揮できるほどの力が漲ってくるわ」


広「! それ本当? だったらぬ~べ~先生も呑めば」


華扇「ただし、副作用があるのよね。呑んだ者は一時的にガサツで乱暴な鬼の如き性格となり……肉体は鬼のそれに近づいていく……」

ぬ~べ~「鬼の魂魄に……」


美樹「いいじゃん、もともと鬼の手持ってたんだし」

広「そうだよ先生、ここいらでワンランクパワーアップしないとこの先きつそうだぞ」


ぬ~べ~「簡単に言ってくれるなあ……お前たちは」


郷子「あれ、ということはその枡でお酒を呑んでる茨華仙さんは……」


華扇「はいはい、それ以上詮索されると流石に困るからやめてね(でもまあ、部分的な記憶消去くらいなら……)」




ザッザッザッ!!!



「やっっっと見つけたわー!!!」

広「え? ってああ!」

郷子「ゆきめさん! それに玉藻先生も!」

美樹「ついでに緑色の……今度は何妖怪のコスプレ? 脇とかヘソ出しで風俗嬢っぽいわー」




ゆきめ「鵺野先生ーッ!!! ほかのみんなも! ――って何あの逆タラシっぽいピンクな女は!?」

玉藻「鵺野先生の左腕に包帯が。手首から先はカモフラージュしているが――それは義手ですね?」

玉藻「――やはり、あの鬼の封印が解かれてしまったのか」

玉藻「それにしてもあの女、まるで鬼のような強い妖気を発している! もしや……奴が鬼の手解放の引き金に?」

早苗「なるほど! 仙人さん、異変の兆候だなんてうそぶきながら、本当は自分が異変を起こすつもりで――」

玉藻「何だと? あの女が今回の異変とやらに一枚咬んでいたというのか……!」

早苗「そして、地底に向かう意向を私に伝えて……尚且つ霊夢さんにもその旨を知らせろと」

早苗「あっなるほど。私たちにちゃーんと解決役を演じて欲しかったんですね」

早苗「では、ご真意に沿って弾幕ごっこといきましょう!」

ゆきめ「よくわかんないけど、あの女が鵺野先生にたらしこんで悪事を企んでるってことでいいの!?」



華扇「ちょっとちょっと! 貴方たち……大いに勘違いをしているわよ! それと約2名は何者?」

ぬ~べ~「ゆ、ゆきめくん!? それと見知らぬ緑のお嬢さん! それから玉藻までこっちに来たのか!?」

ぬ~べ~「3人とも待て……とにかく待つんだ!! 今は遊んでいる場合じゃ――!!」

華扇「話せば判るわ! 冷静になって――!」

「氷嵐『アイスブリザード』――!」

「狐火『空海上人』――!」

「危ない茨華仙さん! 俺が攻撃を受け止めるから後ろにッ! ぐわあああああッ!!」

「何でその女を庇うんですかーッ!!?」

「血迷ったか! 私は知り合いを異変に関わらせないという約束をしているのでな。少し頭を冷やしてもらいますよ」

「さあ皆さん、私にチカラを分けてくださーい。妖怪退治『妖力スポイラー』――!!」

「ちょっと!? これ以上私の力を吸い取らないでぇ―――!!」

「お前ら本気でやってるだろー!?」




ビュォォォォォォォォォゴオオオオオオオオオギュワワワワワワワワワワちゅど~~~ん




美樹「うわー……いい大人たちが楽しそうに遊んでるわよ、こんなときに。まったく状況判断ってものがなってないわ」

郷子「……普段は冷たいくらい冷静な玉藻先生まで熱くなってるわね」

美樹「それはアレよ、恋は盲目ってやつ」

広「鯉はもーろく?」

郷子「美樹、ちょっと何ヘンなこと言ってんの?」

美樹「うーん、まぁ広い意味でそーゆーことじゃない? 恋というよりむしろ愛か」




/キ――――――――――――――――――――――――――――――ン\




広「……何かが飛んでくな。あの地霊殿(たてもの)の屋根あたりから……」

郷子「……上の方に向かっていったけど……まさか」

美樹「まさかというか、間違いないんじゃない? これどうやってオチを付けるつもりなのよ?」


――博麗神社・裏山の大木――


シュ――――――――――――


絶鬼「いやあ、驚いた」

絶鬼「本当に鉄壁のような体だ。というよりも絶壁かな」

絶鬼「ただの強がりかと思いきや、それ相応の実力も兼ね備えているじゃないか。あれは人間じゃないな」

絶鬼「圧倒的な鏖(みなごろし)もいいが、こうやって邪魔されるのもまあ悪くはない」

絶鬼「ゆっくり(アダージョに)侵略していくとしよう」


ニヤリ


絶鬼「最終的には、同じ未来が待っているわけだからね」




――

ルナ(ヤバそうなのがうちの木の下で寝転がってるよ? どーする?)

スター(まあ、取り敢えず戦ってみる?)

サニー(自然に溶け込むのよ。これには関わらない方がいいと思う)


――博麗神社――


ヒュォォォォォォ


天子「愚か者め――我を甘く見た報いよ」


針妙丸「凄いわ……あの鬼の攻撃を受け止めた上に、力技で向こうの大木に叩きつけちゃった」


霊夢「でもね。相手も、本気を出しているわけじゃないのよ?」

霊夢(どうする?)

霊夢(暫く、天子があの鬼と交戦するのを観察するか。あるいはすぐさま介入するか)

霊夢「はぁー」


少妙丸「霊夢さん?」


霊夢「今日は結構アタマ使ってる気がするわ。いつもと勝手が違うわねー」

霊夢(あの小鬼の持っているチカラがどれほどのものなのか)

霊夢(こいつとの戦いぶりを見て見極め――)




グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ

天子「おぉー」

霊夢「な!?」

針妙丸「地震!?」




グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ




針妙丸「ちょっと天人さん! まさか貴女が要石を引き摺りだそうと――」

天子「え、まだだよ? まあ、あの小鬼が本気を出してきたら使おうと思ってたけど」


霊夢(来る! 今度は下から――地底から這い上がって!)




バキィィィィィィィィィィィィ!!




覇鬼「ウガァ―――――――――――ッ!!!」




ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ


針妙丸「お、鬼が出たー!! 今度は赤い鬼が地下から!!」

針妙丸「今ので足場まで崩れて……! 下に堕ちちゃうよっ!!」


ガシッ


霊夢「何言ってんのよ。あんたも飛ぶことくらいできるでしょ?」

針妙丸「あ、あはは……突然で焦っちゃって」

霊夢(ピンポイントでの襲撃……今度は赤鬼、さっきのは鬼の姿だと青鬼)

霊夢(鬼としての外見は……色を除けば結構似ているわね)

針妙丸「――あ、あれ。さっきの赤鬼はどこ!?」

霊夢「頭上よ。といっても結構高く宙に舞っている」

霊夢「おまけに……今の鬼の登場で私が一瞬ひるんだスキをついて」

針妙丸「あああっ! あの宙に浮いている注連縄の張られた大きな岩はっ!!」

霊夢「ほら、針妙丸は降りて神社跡を見張ってて。あの薔薇の鬼が裏山から戻ってきたらすぐに伝えてね」




――博麗神社・上空――


ゴロゴロゴロゴロ……ゴロゴロゴロゴロ……


天子(曇天かぁ。激しい雷雨にもなり得るし、雲が晴れて陽が差す場合もあり得る、という感じかな)


覇鬼「絶鬼……どこにいる?」

覇鬼「ん、何だか周りの天気が悪いうが」


ヒューン!


天子「――うふふ。素晴らしいアシストだったわ」

天子「おかげで期せずして地下に挿しこまれた要石はこうして私の手に戻った」

天子「いよいよ緋想の剣と合わせて、私の真価を再び発揮する時が来たのよ」

天子(さーて、大地に溜め込まれていたエネルギーを活用すれば、局地的な災害どころか一気呵成に破砕することもできる。けど)

天子(それでもまあ、ジワジワいくよ。潰し甲斐のあるところから、少しずつ削っていこう)


覇鬼「誰……だ?」

天子「はい、手を出して」

覇鬼「?」


ぱんっ


覇鬼「何故……手を」

天子「合わせたって? それはハイタッチだから。――我曰く、正しくはハイ・ファイブ」

天子「貴方は私の目的達成に助力してくれたのだから、仲間に加えてあげてもいいかなーって」

覇鬼「ナカマ?」


覇鬼「俺のナカマは絶鬼と眠鬼だけうが。兄妹はどこにいる? 絶鬼は近くにいる!」


天子(ゼッキとミンキ)

天子(近くにいるはずの……鬼……見るからに凶暴で強そうな鬼……その、きょうだい)

天子「ああー。あいつのことなのね」

覇鬼「?」

天子「絶鬼(そいつ)のことなら、私知っているわよ――何処にいるのか教えてあげるわ」

覇鬼「本当か! 早く教えるうが」

天子「ええ、教えてあげるから。だから、私についてくるのよ」


天子(この赤鬼は使えそうだ。いや、こいつだけではない――)

天子(こいつをエサにすれば、あの小鬼を上手く服従させることもそう難儀ではないな)


天子(凶暴な異界の鬼どもを率いれば、本格的で鬼気迫る異変を巻き起こせそう。その方がもっと面白そう)

天子「『銭あらば鬼をも使ふべし』――今回の場合は、貴方自身が銭に使えそうね」


覇鬼「?」




天子(……やっぱり私には、幻想郷(なにか)を“守る”よりも“壊す”ほうが向いているみたい)

キョロキョロ


覇鬼「んー?」

覇鬼「向こうに大きな花畑があるうが! 見にいくうが!」


ザッ!!


天子「あ、ちょっとぉ!」

天子(まったく、まるで子どもね。好奇心旺盛で、落ち着きがない――)


ヒュンッ!!


霊夢「待ちなさい、不良天人」

天子「あら、博麗の巫女。何か用? 境内まで崩れちゃって大変ねぇ、ご愁傷様」

霊夢「惚けるんじゃないわ。要石を引き抜いた挙げ句、あの赤鬼どもを利用して悪事を働くって魂胆なんでしょ?」

天子「悪事? 違うわよ――強いて言うなら異変かな。もう二次異変の段階に入るかなー」

霊夢「あんた1人が暴れるだけならまだしも――あいつらを使役しようなんて考えてる時点で」

霊夢「もう遊びの域を超えている」



――グサリッ


霊夢「ッ……あっ!?」

霊夢(背後から――刺された。刀剣……?)

霊夢(緋想の剣じゃない! 鋭利なヤイバが……まさかこれ……アイツが)


――ギューン!!




天子「薔薇の鬼もようやく再起動ね。こっちの様子を覗っていたのかな」

天子「で、巫女に突き立てたのは……あの手刀を先鋭化した妖剣のようなものか」

天子「伸縮自在な上に伸びても尖頭の威力は変わらず。巫女ったら真っ逆さまに地べたへ引き摺り下ろされちゃって」

天子「やれやれ。スペルカードシステムの弊害か、ちょっと体がなまってるんじゃないの?」

天子「決闘というより乱闘なのだから、油断は一切許されないのに。奇襲もあれば騙し討ちもあり、圧倒的な力で押し切るもあり」


天子「――簡単に死なないでよ?」

天子(でも、あの巫女には不思議な力が宿っているし、運も天賦の才もあれば類まれなる洞察力もある)


ニコッ


天子「それに、強大な黒幕と闘う自機(しゅじんこう)なら」

天子「いっぺん痛い目を見てから修行(パワーアップ)して再戦するってのが王道よねー」


天子「次に会う時が楽しみよ、博麗霊夢――時間無制限という真の死闘における貴女の強さ」


天子「とくと堪能させてもらうからね」


――博麗神社・裏山――


ブォンブォンブォンブォンブォンブォン ――グシャッ!!


霊夢「ッ!!!」



シュルシュルシュル……


絶鬼「どうだった? ぼく流のメトロノーム、これで気絶しないとはね。きみも人間じゃないの?」

絶鬼「――いいや。きみは紛れもなく人間だ、ニオイで分かる。だが、ただの人間ではないんだろ?」


ジュゥゥゥ……


絶鬼「大木に叩きつけて、鬼(ぼく)の手刀をきみのカラダから抜き取るが早いか――即効で御札を使った反撃」

絶鬼「なかなか強力だね、これ。両の腕がただれてしまいそうだ」




ムクリ ジワ……


霊夢「……あーもう、やってくれたわね。痛いじゃないの」

霊夢「まあ、見事に“被弾”しちゃったこっちにも落ち度があるか。天子以外に見られてないでしょうね、こんな恥ずかしい一場面」

霊夢「サラシを始めドロワーズやら振り袖やら、血飛沫で白いとこまでちょっと紅くなったじゃない」

霊夢「後でクリーニング代を弁償しなさいよ?」


絶鬼「……意外だ。痛みでもっと泣き叫ぶかと思ったら……気丈なのか暢気なのか」

絶鬼「もしかして、初撃はあえて急所を外してあげたから余裕があるの?」

絶鬼「きみも掴みどころがないな。ますます面白い、嬲り甲斐があるってものだ」


霊夢「誰が誰を嬲るって? 私、もうプッツンしちゃうわ」

霊夢「あんたは容赦しない。遊びでもなんでもない。あんたは私が退治する」


絶鬼「望むところ――と言いたいけれど」

絶鬼「今はあの目障りな桃帽子を追いかけるつもりだから、きみのことは後回しだ」

絶鬼「どういう経緯か定かではないけど、晴れて解放された覇鬼兄さんと早く再会したいんだもの」

霊夢「バキ兄さん……ということはさっきの赤鬼――」


パシュゥゥ!!


絶鬼「ふうー。ようやく御札の呪力を弾き返すことが出来た。思った以上に時間を食ったな」


霊夢「ッ!!」


ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン


絶鬼「次は霊光弾? この弾の模様は太極図のようだ――今度は直接触れないで片付けよう」

絶鬼「破壊光弾(ようりょくは)!!」




パァ――――――――――――――ン!!!!




霊夢「……へぇ、威力あるじゃない。美しさの欠片もない毒々しい“弾幕”だわ」



絶鬼「きみは見た感じ、神社の巫女ってやつだね? 巫女も広義には霊能力者の範疇に入るだろう?」

絶鬼「兄さんのように、封印でもされないように気を付けないと。じゃ、また後で、追ってくるならくればいい」


バサァッ!!!!


霊夢「待ちなさいッ!」

絶鬼「ぼくの名前は絶鬼。鬼の三兄妹の次兄にあたる」

絶鬼「……おっと、この無様な虫けらは返してあげるか」


ポイッ!


霊夢「あっ……!!?」


ストンッ


針妙丸「……う、……霊夢……さん」

霊夢「針妙丸……あんた、こんなボロボロになって」

針妙丸「ごめんね……私じゃ……あの天人さんみたいに……対抗できなかった」

針妙丸「私には……無理なんだ……鬼退治なんて……分かってたけど……私はやっぱり無力だった」

針妙丸「役に立たなくて……悪かったわ」

霊夢「バカじゃないの、あんたは。絶鬼(あいつ)が来たら知らせてって言っただけなのに、なんで」

ヒュォォォォォォ


絶鬼「あはははは! 一寸法師なのか何なのか知らないが」

絶鬼「安易に飲み込んで腹の中をいじくられるほど――ぼくはバカじゃないからね」

絶鬼「どうだい。据わっている肝の方から、少しは頭に血が上った?」

絶鬼「きみも人間だったら、こういう風にナカマを虐げられたら怒るんだろう?」

絶鬼「怒って莫大な力を発揮できたるするんじゃないの?」

絶鬼「いや、そもそもナカマですらなかったか? こんな役立たず、捨て石にも使えやしないもんね」




霊夢「許さないわよ

――絶対に許さないわよ、あんただけは」




絶鬼「……」

絶鬼「これは怖い。きみの瞳には鬼が宿っているんじゃないかってくらい怖いよ」

絶鬼「ただし、正真正銘の鬼のおぞましさには到底及びはしない」

絶鬼「きみは、やっぱり人間だ」

絶鬼「ケガを治して再挑戦するチャンスを与えよう――来たらいつでも応じてあげるよ」

絶鬼「ただし、リフレインは一回だけだからね?」


ビュン――!!

霊夢「――ギリ」


針妙丸(……霊夢さん、貴女……変わったわね)

針妙丸(博麗の巫女と言えば……無慈悲で誰に対しても平等であるがゆえに、誰のことも仲間だなんて思っていない)

針妙丸(故に誰もその心のスキマを埋められない――そんな冷たい人間だって言われてたのに)


霊夢(――いいこと。本当の実力っていうのは、のっけから開けっぴろげにするもんじゃないの)

霊夢(だって、最初から全力で行って――もしそれで太刀打ちできなかったら、おしまいだもの)

霊夢(だから今回は使わなかった。私の究極奥義ってやつも、巫女らしい神通力も。けれども、次は――)


針妙丸「ねぇ、霊夢さん。貴女は……私を味方だって認――」


霊夢「安心なさい、針妙丸。あんたが受けた仕打ち――八百万倍返しで凶鬼(ヤツ)にお見舞いしてやるわ」

霊夢「私の使命(おしごと)の一環とし……て……ね」


フラリ





(第4話:震える天空砕ける大地――有頂天の天人くずれと地獄から来た最凶の鬼の巻<前編>・終)


――境界にある屋敷――


藍(――やっぱり、あのお方の姿形も痕跡も見当たらないわ)

藍(愛用の枕も布団も持って行かれたまま還ってきていない。まさか、外界で冬眠……いえ、仮眠に入っているとか)

藍(流石にそんな筈はないわよね……。あのお方に限って……身に何か起こったとも考えられないし)


藍(何故だ……何故、紫様はお戻りにならないんだ)

藍(現在の論理結界の脆弱性は私が想定していた数値を遥かに上回っている)

藍(これでは私に出来ることなど……)

藍(霊夢の意図によるものでもないな……これは。大結界を恣意的に弱められるにしても限度がある)

藍(霊夢が外来人(まよいびと)を外へ送り返す際の結界の操作とは、ケタが違うわ)


タッ!


橙「藍様」

藍「ああ、橙。どうだった、紫様の所在につながるような手掛かりは?」

橙「はい、あのご友人にも……心当たりはないそうです」

藍「そう」


藍(……他にも各地に式神を飛ばしているが音沙汰なし)


藍「やはり、まだ幻想郷にも戻られていないのか」

橙「幻想郷にも?」

藍「ほら、定期的に物資の調達等で外界(ちかくてとおいところ)にお出でになっておられるでしょ」

藍「自由に“外遊”ができるのは基本的に紫様のみ――幻想郷を孤立社会(ビオトープ)として維持する上で大事なことだものね」

橙「そうでしたっけ? やはり紫様は凄いですね!」


藍(……橙は精神面も妖術も未熟なのよね。物で釣らないと言うこと聞いてくれないときもあるし)

藍(そう考えると、私もまだまだだな。あのタマモという妖狐の前では格好つけたが)

橙「これからどうします、藍様? 幻想郷のあちらこちらで異変が起きているようですよ」

橙「外来妖怪(よそもの)を退けるために私たちも出向いた方がいいんじゃ?」

藍「うーん、今回の問題は局地的じゃなく幻想郷全土に渡るもの」

藍「大局的な見地に立って動かないと……細部に気を取られて下手に動きまわればかえって歯止めがかからなくなってしまう」

藍「――私はここに残るわ。紫様ももうじき還られるに違いない。そうしたら、すぐに手伝えるように待機しておく」

藍「橙は博麗神社に行って、霊夢に紫様(こちら)の情報を伝えてくれる? まあ、とっくに異変には気付いて動いているとは思うけどね」

橙「……」

藍「あとでもっと上質なマタタビあげるから」

橙「はーい、判りました!」


タッ

藍「……」

藍(待機か……。裏を返せば狡猾ともとれるな、この非常時に現場で動かないことは)

藍(従者としての立場に慣れ過ぎてしまったのかな。指示があれば頭の回転も働くが……)

藍(こういう局面をどう乗り切ればいいのか……自分ひとりで考えてもなかなか得策が浮かばない)


藍「式神(コンピュータ)に成りきり過ぎるのも問題だな」

藍「データベースだけでは解決策を見いだせない――ということか?」


藍(……あの妖狐や、もしかしたらその仲間も、否応なく異変に巻き込まれているやもしれん)

藍(仲間に火の粉がふりかかったとき、あの妖狐はどう動くだろうか)


――天界――


衣玖「えっ……自信ですか」

衣玖「空気を読むことには自信がありますね」

神子「いえ、違います。地震の方です」

衣玖「えっ……自身の自信ですか? つまり貴女自身の?」

神子「私が地震ですと?」

衣玖「だって、私自身の自信については最初に答えましたよ」

神子「最初に答えられたのは自信のほうで地震ではないでしょう?」

衣玖「えっ……自信には二通りあると言うのですか?」

神子「地震に二通りですか。自然発生型と人為発生型……ということかしら」

衣玖「貴女はどちらの自信家ですか?」

神子「どちらでもありません。というより私は震源にはなりません」

衣玖「武田信玄には転生しないと?」

神子「えっ」

衣玖「えっ」

神子「咬み合いませんね。いや、敢えて咬み合わせていませんね?」

神子「地震動のことですよ。地震(なゐふる)のことです。日本書紀にも記述がありますよ」

衣玖「地震動ですね、ええそうですねぇ。でも、貴女は道教ですよね」

神子「ええ、それはそうよ」

衣玖「では教えられません――私の自信道の教えはね」


神子「……はぁ。私は話を聞く側に徹したほうが都合がいいのですがね」

衣玖「私は相手の話を受け流し、神経を逆なでせぬ様に取り繕うことには定評がありますので」


神子「『取り繕う』という言葉には、失言をその場限り何とかやり過ごす、という意味もあります」

神子「『地震動ですね、ええそうですねぇ。』という失言を覆い隠したいがために、受け流そうとしていますね」

衣玖「……」

神子「地震はどの程度の規模で発生しそうですか? 既に、一部の地域で発生しているのかもしれませんが」

衣玖「……はあ、貴女には参ります」

衣玖「少し……基準値をオーバーしていますね。ですがまだ誤差の範囲内」

神子「具体的にどの程度の数値になると誤差の範囲で済まされなくなるのかしら?」

衣玖「前回の異変のことを念頭に置けば、基準値の百倍程度になったら速やかに地上のみんなにお知らせをする予定ですね」

神子「……」

衣玖「ああ、勿論、総領娘様――あるいは比那名居様のどなたか――に事前に報告をしてから」

衣玖「各地を逐一周って地震の予兆を伝えます」

神子「なるほど、訓練された無能ですか。事が起きてから災害の警告をしても、それに意味を見出せますか?」

衣玖「意味を考えることは、私の仕事の範疇にはありません」

衣玖「私はあくまで伝達者(メッセンジャー)――」

神子「――でも、出来る限り止めたいと思っているんでしょう?」

神子「貴女は緋想の剣、ひいてはそれを操る者のお目付け役だと聞いている」

衣玖「だから?」


神子「貴女とて、止めたい。地震が引き起こされるのを」

神子「だからこそ、私に伝えたのですね――早い段階で、大規模な地震が起こり得るという予兆を」


衣玖「……」


神子「早めに報告に行きなさい――取り返しのつかないことになる前に」

神子「この幻想郷にとっても、貴女の総領娘様にとっても――という意味で」


衣玖「……」

コトッ


衣玖「この(方位)磁針が妙な振れ方をしたら忠告(ほうこく)に向かいます。もし予測が空振りに終わったら」

神子「……」

衣玖「私の自信がなくなります。地震もなくなります。なゐだけに」

神子「空振りに終わらなかったら地震はなくなりませんよ」

神子「このままでは――たぶん、地震はありますよ」


神子「なゐのにある――まず“名”ありて無(天地の始まり)という名と有(万物の母)という名があり」

神子「“名”以前には名もなき概念しか存在しない――それが道(タオ)というものだ」


衣玖「……ですから、何でしょう?」


神子「道(タオ)の教えに従った私が、貴女に代わって“名”を為す者に忠告をするべきかな」

神子「と思いましてね。こじつけではありますが」


――人間の里(路上)――


村紗「先程、地鳴りがしましたね」


雲山「……」

一輪「方角的には東側――とすると博麗神社の方からかしらね?」


マミゾウ「何やら、またも良からぬことが起きているんじゃないかのう」

聖白蓮「姿かたちに性質まで凶悪な儘の魑魅魍魎が人里を跋扈するという今回の事変」

聖白蓮「――根本的な原因はやはり結界の管理状態にありそうね」


小傘「結界が?」

響子「 結 界 が ー ! 」


――(物陰)――


コソ


正邪(結界が? ……何かあったのか)

正邪(まあ、何があろうと私の知ったことじゃない。スキマや巫女の気紛れなのだろう?)

正邪(それにしてもだ。あの鵺と外来狐を振り切ってからここまで来る間、妙にものものしい雰囲気が漂っていたな)

正邪(現に今も……あの新興寺の門徒どもが人里を見回っている)


正邪(――どうやら、私の包囲網が狭まってきているんだな)

正邪(今度は連中全員に殺人弾幕を浴びせられるのか……)


ジャリ


正邪「私は、どこに向かえばいいんだろう」

正邪「いや違う、行くあてなんてどこにもない。だのにどうして東に向かって進んでいるんだ」

正邪「……あの神社に行く用事も必要も縁もなんにもないというのに」


                                      (つづく)


――人間の里(寺子屋)――


\\\ かんぱーい ///


魔理沙「ひと汗かいた後の酒は身にしみるぜ――ほら、ついでやるよ」

克也「あ、どもース」

慧音「コラコラー。十歳やそこらでお酒を呑んじゃダメなんでしょ、向こうでは」

克也「えー、でもオレ……不良だしよ。ちょっとくらいはまぁ」

小町「らりほー、わりぃごはいねがぁー!」

克也「ヒイイイイイッ!?」

魔理沙「おお、サボリ魔がまるで死神にみえるぜ」

克也「冗談よしてくれよー……まだ死にたくねーからマジで」

魔理沙「しっかし、はたもんば……だっけか。あいつの刃の切れ味にはビビった」

克也「まさかあいつまでこっちの世界に来てたとはな」

克也「以前オレも襲われて……先生や広達がいなかったらとっくの昔にあの世逝きだった……」

魔理沙「土産話に冥界(あのよ)にも行ってみるか? あいつを倒した妖夢っていう危ない通り魔がいるんだぜ(どうやったかは知らないけどな)」

克也「あいつを倒したって……どんな通り魔だ……。つーか、死んでもないのにあの世なんて行けるかよっての」

小町「それが行けちゃうんだよねぇ。最近は」

まこと「ふぁ~あ……眠いのだー」

慧音「そうよね、貴方たちまだ子どもなんだもの――ほら、向こうの部屋にお布団敷いておいたから早く休みなさい」


まこと「……うん、お休みなのらー……おかあさん」

まこと「明日ちゃんと帰るからー……皆で帰るからー。今日は……ごめんなさいなのら」


フラフラ トテトテ……   ゴロリ


慧音「……」

魔理沙「あれ、寺子屋の隠し子だったのか?」

小町「さあ、どうだろうかねぇ。人と獣が交わった割には普通の子どもっぽいけど」

慧音「もう、寝ぼけているだけだわ。純粋で優しい子なんだよ、あの子は」

克也(純粋か……。確かにそうだな……まことのやつは)

トンッ


克也「!」

小町「何しょげているんだい? 坊やも母親が恋しくなったり?」

克也「い、いやそういうのじゃ……なくてさ」

慧音「何か引けを感じてるのかい?」

克也「いや、引けっつーか……その」


ドンッ


克也「痛ッ!?」

魔理沙「人は人、お前はお前なんだぜ」

魔理沙「お前にも、あっちの子どもにはない良いとこだってあるだろ?」

魔理沙「別に私はさっき会ったばかりで、お前らのことなんてさっぱりだけど」

魔理沙「学校のキョーシや友達のことが心配で、外からこっちに入って来たそうじゃないか」

克也「……いや、それは」

慧音「自分の危険も省みず、誰かを助けたいがために、敢えて虎穴に入ろうとする君の心意気」

慧音「そういう気持ちを持っていることは、君の長所なんじゃないの? きっと」

克也「……へへ。どうかな……自分じゃよくわからねーけどさ。オレはオレだもんな」

魔理沙「さて、ちとお固い話はこんなもんでいいだろ」

小町「坊やは坊やで自分らしく自然体で振る舞ってりゃいいんだ。でも、あんまりワルサばっかしてちゃ賽の河原の石拾いが待ってるよ」

魔理沙「そう脅かすなって。酒の席は無礼講――もっと自分を曝け出しちゃっていいんだぜ」

克也「――ああ。やっぱ悶々としてても……仕方ねぇよな」


ギュッ


小町「なんだい急に抱きついて。あたいは坊やのおかあさんじゃ無いよー?」

克也(あー幸せ……美樹より更にデカイぜ!)


慧音「……」

魔理沙「……ナイーブかと思いきや、ただのスケベな餓鬼だったのか」

慧音「まあ、それでも子どもだからね」


ガラッ


阿求「夜分遅く失礼します。賑やかなようで」

小町「おっ、おつまみの宅配かなー! ほらどいて」


ゲシッ


克也「あがっ」

魔理沙「何だこんな時間に、丑の刻参りの帰りか? 今日は真剣に辞めておいた方がよさそうだぞ」

阿求「ええ、危険だって御触れだから外に出るつもりなんてなかったんだけれど……」

阿求「さっき小鈴が家を訪ねて来てね。赤いちゃんこ鍋がどうこうって言いながら混乱してて」

阿求「一旦落ち着かせてうちの布団に寝かせて置いたけど。ちょっと心配で」


スクッ


小町「たぶん新手だね――ちゃんこ鍋の付喪神でも出現したんだろうよ」

魔理沙「鍋は鍋でもちゃんこ限定? 赤ってのはトウガラシ? 相撲取りみたいな姿してそうだな」 

魔理沙(一難去って、いやもう二難去ったから三難目か。夜間警備もラクじゃねーな)

魔理沙「もし、はたもんばのようにヤバイやつだったら無視できないからな。――いくぜ」


タッ


克也「うおー……2人とものろけてるときと真剣(ガチ)な時とで面構えが違うな」

慧音「さて、きみもそろそろ横になりなよ。まだ予断を許さない状況だから、今のうちに少しでも休みをとっておくほうがいい」

克也「いや、オレ元気っすから!」

克也「……あ、というよりその……けーね先生。オレ、夜の授業とか受けてみたいなー。ナンツッテ」


――


阿求「はい、幻想郷縁起の第○○頁を開いて。この妖怪の紹介文を音読しなさい」

克也「えーと、ワ、ワーハ……クタクとは中国の伝説上の妖怪で……ふああぁ……何ちゃらかんちゃら」

阿求「こら、丁寧に読みなさい。ちゃんとふりがなを振ってあるでしょう?」

慧音「やっぱり貴女より私の方が、教えるのは一枚も二枚もうわてのようだ」

阿求「そんなことはないわ。私は歴史を改竄したりしないもの。私の説明の方が筋が通っていて判りやすいはずだわ」

克也「ZZZZZZ」

慧音「やんちゃな子どもを寝かすのはやはりこれが一番ねぇ」

阿求「……まったくもう」


阿求「――さて、あとどれくらいで事態は収束しそうなの? 早く枕を高くして寝入りたいものですね」

慧音「私にはどうとも言えないわ――ともかく、協力してくれている皆と連携をとりつつ凌ぐしかないだろう」

阿求「妖怪は人間を襲い、人間は妖怪に怯える」

慧音「幻想郷のあるべきとされる有り様が、露骨に体現されているわけだ」


――太陽の畑――


ブチィ! ブチィ!


覇鬼「うがーうがー」


天子「……」

天子(一面の花畑で、向日葵を掘り返し抜き取りしで遊んでいる。子どものイタズラレベルじゃないの)

天子(この図体だから、被害はバカにならないだろうけれどねー)


天子「ねぇ、そんな稚気な遊びじゃなくて――もうちょっと大胆な破壊行為をやってみてよ」

天子「例えば、向こうにひっそりとそびえ立つ山の麓にある吸血鬼(おおきなこども)の館とか」

天子「貴方の実力は火を見るよりも明らかだけど――どうせならはっきり火を見てみたいもの」




グーキュルルル


覇鬼「……腹減ったうが」


ガシィ!


覇鬼「あ~~~ん」

天子「あらら、私を食べるの? 言葉通りの意味で?」

要石「――ガッ」


覇鬼「ん!? んーむぐぐ!? ペッ!」


タッ


天子「どうかしら。要石のお味は? 私を食べようだなんて千年早いわ」

天子(本当に心の赴くがままに行動しているわねぇ。関心の対象がコロコロと変わっていく)

天子(そうだ、天界の桃でも食べさせてあげよ。これ天人なら食べ放題だけど、下々の者には物珍しいでしょうね)




ビューン!!


絶鬼「見つけたよ! 覇鬼兄さーん!!」




天子「あ、さっきの小鬼くん。どうだった、あの巫女? もしかしてもう貴方のおなかの中?」

絶鬼「ん? ああ、あの女なら――って、きみには関係のない話だ」

天子「見て見て、私の飛び道具(かなめいし)――畏れ多くて私にかしずきたくならない?」


要石「ゴゴゴゴゴ……」


絶鬼(何だ、この岩は――?)

絶鬼「……そんなことよりも、ぼくに逆らったうえに今度は覇鬼兄さんをかどわかそうとしているのか?」

天子「ええそうよ、だから何?」

絶鬼「愚かだ。嘲笑に値するよ、いったいどれほどの苦痛を与えられて死にたいんだい?」

天子「死なないわよ、自分で望まない限り。死神のお迎えだっていつもあっさり蹴散らしてるもの」

絶鬼「ふん、もうお喋りはしまいだ。さあ、兄さん、まずは一緒にこの女の息の根を止めて殺戮ショーの開演と行こうじゃ――」




シ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ン




絶鬼「あれ……兄さん? 何処に」

天子「私たちがお喋りしている間に、今度は向こうの丘を踏み荒らしながら、竹林方面に向かって言ったわ」

絶鬼「……はあ。何なんだよ兄さん……ようやく、今度こそ、ちゃんとした再会ができたってのに」

絶鬼「ぼくに目もくれず勝手に行っちゃうなんて……」

天子「貴方苦労してるのねー。子どもみたいで扱い易そうに見えて……あまりに力があるから持て余しちゃうわ」

絶鬼「――ふん、きみは後で始末するよ。今のうちにせいぜい逃げ惑っているといい」




ビュン!




絶鬼「――……。……何でついて来る?」

天子「――え、だって興をそそられるから。迷いの竹林には一筋縄でいかない連中(はぐれものたち)が細々と隠れ住んでいる」

天子「鬼兄弟(あなたたち)の実力をしかとこの目で測るには良い機会だわ。うふふ」

絶鬼「きみは……精神疾患(パラノイア)か? いろいろと倒錯している」

絶鬼「その不可解な頭の中身を、後で覗かせてもらおうかな」

天子「物理的な意味で? ――それとも抽象的な意味でかしら」

天子「でもムダなことよ。所詮は鬼でしかない分際に天人くずれ(このわたし)のことなど理解できやしない」

天子「逆に、貴方や覇鬼お兄さんとやらの本質的なトコロは、もう見抜いちゃったわよ?」


天子「貴方たちの弱点も含めてね」




ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ピシャ――――――――――ン!!!




絶鬼「――……ハッタリかい……?」

天子「ま、いいわ。後でゆっくりお話ししましょう」


ビュ―――――――――――――――――ン!!


――無名の丘――




ビュォォォォォォォォォォォォォォォォォォ




メディ「……うう、鈴蘭(スーさん)の畑が……こんなことになるなんて」

メディ「あの巨大な赤鬼……低い山を越えて来て……土を荒らしまわっていった」

メディ「こんな荒れ果てた光景……目に毒だよ。こんな毒は……満喫したくないよぉ」

メディ「スーさん……来年も元気に毒を吐いてくれなきゃ……私……」

メディ「もしかしたら……太陽の畑も荒らされたり?」

メディ「向日葵は気持ち悪いから別にいいけど」




幽香「ふ……うふふふ……うふふふふふふ」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


――博麗神社――





フェフェフェフェ……


ビュォォォォォォォォォ




橙「な……」

橙「な……」

橙「いったい何があったの……!? 博麗神社が……跡形も……」


スー


スター「ちょっと、そこの猫さん」

橙「! 誰? ……妖精か」

スター「巫女と小人の介抱――手伝ってくれないかしら?」


橙「何か……一大事が、あったのね?」


――迷いの竹林――


ザッ


天子「っと、ここが迷いの竹林よ。お兄さん、何処にいるかなー」


シュタッ


絶鬼「霧は濃いが。なぜ地に降りるんだ? ――飛べばいいじゃないか」

天子「だって、折角だから迷わないと勿体ないでしょう?」

絶鬼「……」

天子「第一、私に倣って降りてくる必要なんてないでしょうに」

絶鬼「……さっき、弱点がどうとかいったね」

天子「緋想の剣は、対象の気質を見極め、それを緋色の霧に変え天候という形で観測可能にすることが出来る」

絶鬼「天候……。まさか、さっき急に集まって来た雷雲は」

天子「貴方の気質――そしてこの剣は気質(ゼッキ)の弱点たる性質を纏う」

天子「だから、私はこの剣を振りかざすことで必ず相手の弱点を突くことができる――それが弱点を見極めたという言葉の真意」

絶鬼「ふーん、なるほど。それは手強いな――だが」

ヒョイ


絶鬼「!?」

天子「これを奪ってしまえばこっちのものだ、なんて思ったか? これは天人でないと扱えないよ。ただ持つだけならできるが」

絶鬼「……」


ヴン!


絶鬼「……本当だ。“斬れない”な」

天子「第一、その剣に頼らなくとも私はお前ごときに倒せる相手ではない。倒した後で取り返すからね」


パシッ


絶鬼「返しておく、そんなハンデはいらないよ。ぼくはこれっぽっちも本来の力を発揮していない」

絶鬼「弱点を突かれると言うなら、弱点を隠せばいいのさ。鬼っていうのは、もとは隠(おん)という音から来ているんだよ?」

天子「食えない相手ねぇ、貴方は」

絶鬼「そっちこそ」


天子「やあやあ、我こそは天人なり! ――名を比那名居天子という。そっちは?」

絶鬼「ぼくは――絶鬼だ」


天子「知ってた。さっきお兄さんが言っていたもの」

絶鬼「ッ……心底きみは」

天子「あ! 向こうから『うがー』って声が聞こえた気がするよー」

絶鬼「おい待て!」


タッ!


――地底(某所)――


ウネウネウネウネ……


広「なんでいつかの寄生虫団子がこんなとこに落ちてんだよ!?」

郷子「でもって何でまた拾って食べようとするのよバッカじゃないのー! いい加減凝りなさいよ!!」


美樹「こんにゃろ! こんにゃろ!! こんにゃろ!!!」

広「くたばりやがれッ!!」

郷子「死ねえええっ!!」


グシャグシャグシャグシャグシャグシャ


美樹「ふー、何とか全部踏みつぶせたわね……言ってもまだミミズくらいの大きさだったし」

こいし「あら、皆こんなところで何してるの? 害虫退治?」

広「本当に神出鬼没だなー。ま、ピンピンしてるし大丈夫だったんだろ」

美樹「便利なキャラね。ねーさぁ、サクッと手軽に上に出られる近道とか知らない?」


こいし「近道? 地上に出たいの?」


広「そうさ! 先生や玉藻たちは遊んでて頼りにならないからな、先に進んでたんだよ」

郷子(普通に地霊殿を目指していたはずなのに……いつの間にか迷っちゃって。でも、こいしちゃんが来てくれて良かった)

美樹「私たちが力を合わせてあの鬼が悪さをしないよう足止めしようと思ってね!」


こいし「あの鬼。あー、あの赤鬼さんね」


広「あいつバカっぽいし、上手に煽てりゃなんとかなりそうだもんな!」

美樹「広にバカって言われちゃ可哀想ねぇ。でも実際何とかなりそうよねー」


こいし「ここの真上に小さな抜け穴があるのよ。あんまり知られてないけど、迷いの竹林に繋がってるの」


広「本当か! 上に出られるんだな」

美樹「……竹林ねぇ。幻想郷(ココ)って何でもアリっぽいから、光る竹とか普通にありそうね」

郷子「童守小も結構なんでもありだと思うけどね。ひょっとしてかぐや姫とかに会えたりしてー」

こいし「さ、皆私にしっかりつかまって」


シュルシュルシュルシュル


広「おお……そのヒモみたいなの伸びるんだ」

美樹「つかまって、というより私らが捕まったように見えるわね、傍からは」

郷子「……ハァ」


郷子(ごめんなさい先生たち……またまた心配掛けて……でも、広や郷子が勝手に行っちゃうから……もう本当に仕方なくて)


こいし「いっくよー」


ビュ―――――――――――――ン


――迷いの竹林――


覇鬼「旨そうな人間捕まえたー」

覇鬼「どっちから食べるうが?」


ギリギリギリギリ


輝夜「ありのまま今起こっていることを語った方がいいかしら?」

妹紅「私は、七人ミサキを片付けて貴女と殺り合いつつ……そろそろ帰路につこうかなと思い始めていたら」

妹紅「気がついたら捕まっていたのよね」

輝夜「ちょっと熱が入り過ぎたかな。高速で移動して降りてきたみたいね。上空から」

輝夜「幻想郷にはこんな鬼もいたのね」

妹紅「幻想郷に定着した鬼ではないと思うわ」


妹紅「この巨大な鬼の邪悪なオーラ……死の恐怖どころではない。本物の恐怖というものを垣間見ている気分だわ」

輝夜「死の恐怖だなんて、それは言葉の綾でしかないじゃないの」


覇鬼「むー、向こうから旨そうなウサギのニオイがー!」


そわそわ


覇鬼「あっちからは人間のニオイが、それもいっぱいいるようだ」

覇鬼「どっちに行こうかうがー?」


妹紅「……」

輝夜「……」

妹紅「どちらにも、行かせるわけにはいかないわよ?」

輝夜「今宵は夜通し遊びかな。私からの美しき難題を受け取りなさい――貴方に幾つ解けるかしら?」


覇鬼「?????」




                                    (つづく)

>>746 またミスしてました。郷子の最後のセリフの中の「郷子」は「美樹」の間違いです。

たびたび訂正がありましてすみません。


次回は月曜日~水曜日までの間になるべくまとめて投下できるようにします。


――迷いの竹林――


ざわざわ……


広「竹林つっても……せいぜい竹藪ぐらいのもんだと思ってたが」

美樹「とてつもなく……広いみたいね。夜霧も出ているし……一面同じ風景で方向感覚狂うわ」

郷子「あのさ、こいしちゃんって……ここの道とか判るんだよね?」




シ――――――――――――ン




広「っていねええ!? またどっか行っちまったのかよー!」

郷子「こ、こいしちゃーん! どこなのー!?」

美樹「あー……これダメだわ。迷子になっちゃったわね」

郷子「どーすんのよ広! 責任取りなさいよ!?」

広「何だよ! お前だってやる気満々でここまでついて来たんだろーが」

郷子「そ……そんなことない! 私はあんたを止めようとして……」

広「止めようとしてって結局ついて来たじゃねーかよ」

美樹「違うわよー広。郷子は別のイミで責任取れって言ってんじゃない?」

広「別のって?」

美樹「フフフ、誰も見てやしないわ。こんな時間帯だし。私は後ろを向いててあげるから……一線越えちゃったら?」

広「はぁ? 何の話だよ」

美樹「ねー、そういうことでしょ? 郷子ったら――」


ぷるぷる


郷子「……っ!」

郷子「美樹のバカ! 広の大バカー!」

広「な、何だよ今度は急に!」

郷子「最初の井戸の時もそうよ! 何度も何度も勝手なことして先生や皆に迷惑かけちゃって!」

郷子「ちょっとは先生が私たちを心配する気持ち……考えなきゃ……」

郷子「ダメじゃないのよ! バカバカバカー!!」


ダッ

広「おい!? 何処行くんだよ郷子!」

美樹「待ちなさいよー! これ以上集団行動を乱すなこのペチャパーイ!」


\ペチャパーイ/

\ペチャパーイ/




――


天子「今度は確かに声が聞こえたわ。割と近そうね」

絶鬼「兄さんの声ではないが」

絶鬼(臭うな。これは人間のニオイだ)


――


てくてくてくてく


広「ったく、郷子のやつどこ行って……」

広「ホント一面竹しかねぇな……出口はどっちだ?」

美樹「広と2人っきりになるなんてねぇ」

広「……」

美樹「あら、何? 一瞬ヤラシイこと考えた?」

広「はあ!? そんなわけねーだろ」

美樹「とか言って~! まあ、美少女爆乳美樹ちゃんと誰もいない夜の竹林で2人っきり――男なら欲情して当然よね、ホホホ」

広「バ、バカいってんじゃねーよ。ほら、さっさと郷子探すぞ!」

美樹「――ほんと、郷子(まないた)のことが好きなのねー。広って」

広「うっせーやい! もうオレも勝手に行くぞ」

美樹「あーん! 待ってよー広! 私、か弱いんだから妖怪とかが出たらちゃんと守ってくれなきゃ困るわー」

広「だーれがか弱――」




ジャリ……




広・美樹「「!?」」




天子「あ、人間発見」

絶鬼「……」

絶鬼「おやぁ、きみたちは――もしかして」




広「み、美樹ィ!」

美樹「広ィ!」


ヒソヒソ


広「誰だあいつら」

美樹「さあ」

広「あれ、片方はどっかで見たことあるような……けど全然思い出せねーな。たぶん気のせいだ」

美樹「アベックでしょ。たぶん野外プレイを楽しむためにこんなとこにいるんだわ」

広「やっぱ何かの妖怪なんかな?」

美樹「バラとモモがモチーフっぽいけど。植物系かしら」

美樹「にしてもあの女の人のほう……郷子より胸無いわね。ていうか皆無!」

美樹「あまりに平坦過ぎて戦慄を覚えたわ」



天子「知り合い?」

絶鬼「――。ふん、人間なんて……全部虫けらだ……」

絶鬼「ただの肉塊になったら、みんな同じだ」




――ザッ


広「!?」

美樹「え、今度は誰」

神子「動かないように。縮地のマントを使うとしよう」


――バサッ

シ――――――――――――――――――ン


絶鬼「! 消えた?」

天子「おおー、聖人さんが出てくるとはね。あ、セイジンって成人でも星人でもなくて聖人だからね」

絶鬼「聖なる人間、だろう? 発音で判るよ」

絶鬼(聖人というと、確か徳を積んだ人間という意味だっけ? この――)

天子「この世界における聖人とは、果たしてどういう存在なのか。気になった?」

絶鬼「……」

天子「聖人だけではない。この幻想郷には神もいれば仙人もいるし、不死身の者もいれば閻魔もいる。選り取りみどりよ」

天子「――勿論、鬼もね」

絶鬼「――その鬼って、ぼくのように血も涙もない感じ?」

天子「いいえ。貴方たちの行く手を、彼奴らは必ず邪魔立てしてくるわ」

天子「連中を上手くあしらおうと思うのなら、こっちの世界の住人を先導役にしてもいいと思わない?」

絶鬼「きみの目的は何なの? 世界征服?」

天子「貴方たちの元気凛凛で派手なお遊びに、付き合ってあげてもいいかなーってことよ!」


絶鬼(ぼくらが遊びがてらでやっているとでも思っているのか? それとも口先だけの言葉なのか?)

絶鬼(――まあ、いいか)

絶鬼(これは、お手頃な使い捨ての駒にできそうだな)


絶鬼「いいよ。特別に、ぼくたちの遊び仲間に加えてあげるとしよう」


――異空間の道場――


神子(やり過ごせた)

神子(これは安易に忠告できるような状況ではないようで)

神子「そこの君たち、怪我はありませんか」


美樹「えーホントに!?」

広「あの人がショートクタイシだって!?」

布都「そうじゃそうじゃ」

広「で、誰だそれ?」

布都「おっとっと……なんじゃ、太子様を知らんのか。外界ではそこまで忘れ去られてしまったというのか……嘆かわしい」

美樹「ああ、ちょっと前に壱万円札だった人でしょ。知ってるわよ。ていうか大好き! 拝ませてもらうわ」

布都「おお、存じている者もおったのか! しかも信者だったとは、感心感心」

美樹「私って博学だし」

広「金が好きなだけじゃないのかー?」

布都「じゃあ我のことは誰だか判るかな? 太子様に縁の深い人物だぞ!」

広「んーと……わからん」

美樹「そりゃ、聖徳太子の相方ってことは妹子に決まってるでしょ」

美樹「きっとあっちの太子さんは結構抜けてて『私えらいもん!』とか言ったりして、妹子さんはしっかり者なんでしょ?」

広「へー、美樹詳しいな」

布都「いやはや、そう褒められると照れるではないかー」


神子「……誰が阿呆だ誰が」

広「そんで、ここはどこなんだ?」

布都「知らないで招待されておったのか?」

美樹「いきなり拉致されたのよ」

神子「これこれ、そうではない」


ゴソゴソ


美樹「ほほー、何か見たこともない物がいろいろ飾ってあるわね。一つか二つくらい持ち帰っちゃおうかな」

神子「欲がダダ漏れである」

広「ここって、さっきの竹林の中にあんの? それとも他の場所にワープしてきたとか?」

布都「ここは仙界と言ってだな。一言で言うなら幻想郷ではないぞ」

布都「太子様はこの空間を作ってどこからでも出たり入ったり、ようは瞬間移動ができるのじゃ」

美樹「へぇ~。アホ太子、意外と凄いのね」

神子「君、いい加減にしないか……?」


神子(このふたりはひとまず人里に送るとして)

神子(あの天人は甘やかされた人格者。自ら望み修練を積んで天人となった者とは隔世の感がある)

神子(どの程度の天変地異を起こそうとしているのかは計り兼ねるが)

神子(――なにせ、連れ添っている者がこれまた危うい)


――迷いの竹林――


郷子「……バカ」

郷子「ううん、本当のバカは私だわ」

郷子「ふたりを止めなきゃっ……って、思ってたのに」

郷子「心の中の半分くらいは……私も好奇心っていうか」

郷子「結局流されちゃってた……」

郷子「それなのに……自分のことは棚に置いて広と美樹にだけ当たって……」

郷子「おまけに……右も左も判らない竹林の中に駆けだしちゃった」

郷子「はぐれちゃった……」


フラリ


郷子(……また、さっきと同じ景色)

郷子(だんだん……目が回って来た。真っ暗闇の中、明かりなんて月の光だけ)

郷子「怖い」

郷子(もしかして私、このまま誰にも見つからずに……)

うる……


郷子「誰か……助けに来てくれないの?」

郷子「誰か……」

郷子(……広)




\UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA/




郷子「!? こ、この声は」

ズ……ン


覇鬼「思い出したうがー!」

覇鬼「俺はあの人間達に封じられていた。まだ中にもうひとりがいて邪魔だうがー!!」


郷子(ひっ!? あの鬼だ!! 凄くいらついてる)


コォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!


郷子「光線を!? ――きゃあああああッ」




ド―――――――――――――――――――――――――――――――――ン!!!!


覇鬼「――」


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……


ズン……ズン……








タッ


妹紅「今度は竹林が炎上して……あのパパラッチに確実に記事にされそうねぇ」

妹紅(ヤツの中にもうひとりとは……? 誰かが中にいるというのか?)

妹紅(それは魂(精神)なのかあるいは魄(肉体)なのか)

妹紅「試しにあの鬼に喰われて――内側を覗いてみましょうか?」


ユラリ


絶鬼「――」


――


郷子「……ッ……」


パチッ


郷子「あ、あれ……?」




\があああああー!!!/




郷子「鬼から離れた場所に――?」

輝夜「須臾とは即ち隙間であり、認識できない一瞬である」

郷子「えっ……あなたは……いったい」

輝夜「当然、貴女にもあの鬼にも認識できるはずがない。平たく言うなら、時間を操る能力ってところね」

郷子(綺麗なひと……)

郷子(この世の人とは思えない……それくらい透明感のある美人さん……)

郷子「えーっと、……とりあえず、助けてくれたんですね。ありがとうございます」


ニュルン!


【おい郷子! こっちだ!】


郷子「広……って手だけ!? ……ってどこから出て来ているの!? 空間の割れ目ッ!!?」

【こっちは安全な異空間なんだ!! 美樹もいるし味方になってくれる人達がいる!!】

【いいから掴まれ!!】


輝夜(……この隙間は)

郷子「そんなこと言っても……本当に大丈夫なの!?」


【当ったりめーだろ――オレを信じろ!!】


郷子「……」

郷子「うん。広のこと、信じるよ」

輝夜(ふふ。貴公子のお迎えなのね)




――ガシッ


郷子「助けてくれて、本当にありがとうございました。さよう――」


――ギュン!!




カッ!!  ちゅど~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!


覇鬼「――」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


輝夜「――っと。あの少女、瀬戸際のところで難を逃れたようだ」

輝夜(まったくもう。この鬼ときたら、せっかく難題を出したところで問題の趣旨自体を理解してくれないんだから)

輝夜(もう少し、頭の開店が働くモノノケならば相手のし甲斐があるというのに)


覇鬼「……! 絶鬼ーッ!! そこにいたのか」


ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ


輝夜「?」

ジャリ


妹紅『ニヤリ』

輝夜(ちょっと、私の足止めをしている場合ではないんじゃないの)

輝夜「――と、言おうかと思ったのだけれど。貴様、藤原妹紅ではないようね、中身が」

妹紅『だって、きみたちは不死人なんだろう? さっき人伝に聞いたよ』

妹紅『肉体を潰しても意味がないのなら――取り憑いて精神そのものを乗っ取ろうかと思ってね』

妹紅『この人間がぼくの兄さんに気を取られていた、ほんの僅かなスキを突いたんだ』

輝夜「あらら、魂の方を試食されちゃったのね。それで、言の通りならば貴方も鬼の仲間ってことかしら」


ビューン!!


輝夜「今度は上から? せわしないわねぇ」




天子「いやっほーい! ブッ壊れろーッ!!!」


グシャァァァァァァァァ!!!

シュ――――――――――――――――――――――


妹紅『流石に死んだんじゃないの?』

天子「ううん、安心して――この程度で死ぬことはないわ」

妹紅『安心?』


ガシィィィ!!!


覇鬼「絶鬼~~~! 会いたかったぞ~~~~!!!」

妹紅『!? ちょっと兄さん、さっきもニアミスしたよ!』

妹紅『それと再会は嬉しいけれど……力入れ過ぎだよ!!』

妹紅『力弱め――あがががっ!!?』


ギュゥゥゥゥ!! メキメキメキ!! バキボキ!!


天子「……」

覇鬼「ん? 絶鬼、どうした?」


ヒョイーーブンブン


絶鬼「……ぁ……ぁ――ガクッ」


チ―ン


天子「微笑ましい兄弟愛だこと。気絶しちゃった拍子に憑依も解けちゃったわねえ」

覇鬼「おーい、絶鬼ー、起きるうが」

絶鬼「……ぅ……」


輝夜「面白いわね。今日は普段以上にいい運動をしているわ」

天子「流石に復帰の早いことで、おみそれしましたわ。――姫様がお姫様だっこ? 普通逆じゃないのかしら?」

妹紅「……ぅ……」

輝夜「そんなに重くないもの」

輝夜「さてと、そろそろ向こうの盛大なボヤを鎮火しておかないと。原因は火の鳥の不始末って永遠亭の皆には伝えておく」

天子「えー、別に私のせいだって伝えてもいいのですけれど。我々はこれから地上を制圧するつもりだもの」

輝夜「そうなの? じゃあ、本格的に地上が制圧されそうになったら永琳と一緒に相手をしてあげる」


輝夜「もしその時が来たら、本気出すからね?」

天子「――ええ、愉しみに待っているわ」


輝夜「ほら、貴方も見てごらんなさい」

覇鬼「?」

輝夜「今宵の月はまだ欠けている。だが、たとえ満ち足りていようとも、地上から見えないときであっても」

輝夜「月は永遠にそこに存在している」

天子「……」

輝夜「地上から見上げる月は永遠に不変――あたかも時間が止まっているよう――に見えて、実のところその裏側では着々と時間が進んでいる」

輝夜「いったい誰が観測者になるかによって、時間の見え方は変わってしまうの」

輝夜「不思議に思うでしょう?」

覇鬼「うが?」

天子「鹿を指して馬となす――例え筋は通っていようとも、判らない者には一生判らないことがある」

覇鬼「うが?」

輝夜「それ、故事の本来の意味とは無関係に、ただこの鬼は馬鹿だといいたいだけじゃないの」

天子「別にいいの、私は不良天人だもの。教訓染みたことをそれらしく取り上げて語るだけで十分なのですわ」

輝夜「――さて」

輝夜「そろそろ迷いの竹林からはお暇願いましょうか。地上制圧、せいぜい頑張ってね」


輝夜「新難題『エイジャの赤石』――!」


バァーン!


輝夜「覇ッ」




ヒュルルルルルルルルルルルルルル  ド~~~~~~~~ン




天子「たーまやー! 綺麗ね、もっと間近で見ましょう」

覇鬼「絶鬼、赤い玉が輝いているうがー! aあれ取りに行くうが!」

絶鬼「ぅ、ぅ~ん……」


ザァッ!




妹紅「うーん……あれ、節々に軽い痛みが。私は確か――って!?」

妹紅「何なの輝夜! 放しなさいよ!」


ガスンッ


輝夜「はい、放したわ」

妹紅「殺し合いの続き!? あっ! そんなことよりさっきの赤鬼は――!」

輝夜「先に竹林火災の後始末をしましょ。人里に飛び火したら面倒だもの」


――太陽の畑――


/ん……赤い玉が消えた。どこいった?\

/ほら見てごらんなさい。赤い玉は弾けて消えたけれど、向こうに紅い建物があるでしょう?\

/あれをブチ壊したらまた綺麗な花火が乱れ飛ぶに違いないわ\

/ハァ……まったく兄さん、もう少し力加減というものを理解して欲しいよ\

/あれか。早速壊しに行くうがー\

/そういえば、さっきの竹林の連中は結局どうなった?\

/一か所にこだわり過ぎるのはよくない。先に他所の連中にも我々の圧倒的な力を見せつけるのよ\

/……。あ、忘れてた。そういや兄さんの中にはまだあの鬱陶しい魂がいるんでしょ? 封印の力を抑えつけるから\


ビューン!!




幽香「……」

メディ「あれがさっきの赤鬼……間違いないと思う。おまけに他にも仲間がいるみたい」

幽香「あの天人風情が、どこからかあの者共を引っ張り出して来たのかしらねぇ」

幽香「さてと、向日葵の代わりにシクラメンを拵えてお見舞いにでもいきましょうか」

幽香「それとも、公衆の面前でお花でも摘ませしょうか」

幽香「ううん、その程度じゃ足りないわね。鉄槌を下してあげなきゃ」

メディ「……」

幽香「摘まれてしまった花たちが受けた苦しみに対する償い――ちゃあんと報いは受けてもらうわよ?」


――人間の里――




ギュ―――――――――――――――ン




一輪「聖様。今、空を駆け抜けて行ったものは――」

聖白蓮「……」

雲山「……」

一輪「ちなみに私たちは化け狸たちと別れてそれぞれ里の見回りにあたっている」

一輪「――と雲山が説明を加え」


ギュゥゥンッ ドサドサドサッ!!!


広「痛たた……落っこちたぞ」

郷子「ふう……本当に怖かった。ありがとうね、広」

広「へへ。でもまあオレよりも、太子さんたちのお陰だよ」

一輪「どいてくれないかなー? もしかして私が下敷きになっていることに気付いてないのかな……」

美樹「ここが人里ー? 人っ子一人見え……なぁぁ!? スイカがふたつ! デカいスイカがぁー!!」

聖白蓮「……この子達は?」

神子「外来人ですが何か?」


雲山「……」

神子「ああ、妖怪の山方面に飛んで行ったのか。人里に降りてこなかったのは不幸中の幸い」

聖白蓮「詳しい事情を話してくださいよ?」

神子「私も全容は掴んではいませんがね。この度は、手を取り合わざるを得ないか」


――紅魔館――


咲夜「……」


レミリア「ふふふ、準備は整った――さあ、侵入者よ。命が惜しくないと言うならば我が館に参るがいいわ」

レミリア「……あら、咲夜?」

レミリア「どうしたの? 窓際で」

レミリア「月でも見ているの? まだ十六夜の月じゃないでしょ」


咲夜「……」


レミリア「ねぇ、どうし――」




咲夜(ナイフ投擲で対抗する? 時間を止めて抑え込む? 否、間に合わない――)

咲夜(迷わば即ち訪れるは死――!)

天子「直下型地震――!」


グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ!!


覇鬼「ウガハハハ!」


バキグシャドゴメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリ――ズドン!!


天子「要石(ロードローラー)だ――!!」

覇鬼「ウガハハハハ!!!」


ギューン!! ――ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴグシャッ!!!


天子「コンボ技も決めよう!」

絶鬼「じゃ、いくよ――」




「「妖力混合極光波ッ――――――――!!!」」




カッ! ちゅど――――――――――――――――――――――――――――ん!!!!




――紅魔館の庭――

美鈴「・・・・・・」

美鈴「えっと」

美鈴「私の責任じゃないですよね?」


美鈴「天空からの侵入者は……門番の守衛の範囲外ですよね?」

美鈴「あ、はは、はは……」



(第4話:震える天空砕ける大地――有頂天の天人くずれと地獄から来た最凶の鬼の巻<中編>・終)


――紅魔館跡――


シュ―――――――――――――――


美鈴「咲夜さーん! お嬢様! パチュリー様ー! その他数名の方々ー!」

美鈴「生きてますか~?」


バサッバサッバサッバサッバサッ


美鈴「あ、流石はレミリアお嬢様。無数の蝙蝠に分身して難を逃れられましたか」

レミリア「あんた、門番としての役目を果たせなかったってことで解雇ね」

美鈴「えー、そんなあ。今回はちゃんと起きてたんですよ~」

レミリア「ああ、それもそうね。じゃあ、再建費を賄うために里で水商売でもやってもらうから」

美鈴「いやいや、私妖怪ですからそもそも里人たちは怖がって近寄りませんって」

レミリア「ぶっちゃけあんたって妖怪っぽさが殆どなくなってない? 人間と妖怪の境界線ってどの辺りに引けるのかしらね」

美鈴「うーん、私には何とも言えません」

レミリア「ま、雑談は後にして。やられたわねー木っ端微塵に」

レミリア「“餓鬼”の夜遊びか? 鬼以外のも混ざってた気がするけれど。この借りはキッチリ返さないとね」

美鈴「ですねぇ」

レミリア「先刻異界の扉を開いて現れた静なる侵入者に対して、今度は猛烈なパワーと破壊力を以て突撃して来た動なる侵入者」

美鈴「侵入される前に建物が崩れちゃったといいますか。あ、咲夜さん達は大丈夫でしょうか!?」

レミリア「大丈夫。咲夜なら、咄嗟の判断で病弱なパチェの安全を確保しに行ったことでしょう。他のはどうなったか知らないけれど」




ドシュッ!! ギュ――――――――――ン!




美鈴「あ、あれって!!」

レミリア「!?」

美鈴「今、瓦礫の山から飛び出していった、おどろおどろしい波動を放つ少女はもしや」

レミリア「もしや? もう判りきっているでしょ」

レミリア(……あの子じゃないの)


―― (地下・大図書館)――


咲夜(今のは妹様の後姿。光弾で地下まで削られた拍子に牢から抜けだしてしまったのね)

咲夜(どうなさるおつもりかしら? さっきの鬼どもをおひとりで退治に――?)


咲夜「ふうー、ご無事ですか……パチュリー様」

パチェ「私の……私の……図書館がぁ……ゼィ……ハァ」


フラリ


小悪魔「パチュリー様、お気を確かに。無事だった領域もありますから……」

咲夜「……最後のエネルギー弾で、地下の最深部まで貫かれてしまったものねえ」

ベベルブブ「何てことをしやがるんだ……! 人間のやることじゃないッ!」

咲夜「人間では無かったし。ちなみに貴方も一応人間ではないのよね?」

パチェ「――」

小悪魔「パチュリー様、大丈夫ですか!」

咲夜「ショックで気を失われたようで。ともかく、今は安静にしておきましょう」

ベベルブブ「よし! 俺はさっきの悪魔のような連中を叩き潰してくる!」

小悪魔「無理よそんなこと! ベベさんってぶっちゃけ実力はたいしたことなさそうだから!」

ベベルブブ「う……そんなハッキリ言わなくても」

小悪魔「それに、大事な人が人間界にいるんでしょ? こんなところで命を粗末にしちゃダメ」

ベベルブブ「……」

咲夜「そうよ、これはあくまでも幻想郷内部の問題なんだから。何とかしなければならないのは住人達(わたしたち)」

咲夜「でも、片付けくらいは手伝ってもらうわよ。人手が足りないから」


――霧の湖(廃洋館)――


わかさぎ姫「見ました?」

速魚「見えましたー」

影狼「吸血鬼の城が見事に落城したわね。凄い音を立てて」

リリカ「騒々しいわね~」

雷鼓「小細工なしの純粋な弾幕パワーか」

八橋「あはは。とんだ対岸の火事だねー姉さん」

弁々「天空に浮かんでいるのは逆さ城? それとも天空の城?」


ルナサ「はい撤収撤収。空爆が……ありそうだ」

メルラン「上の方で、誰かが指揮棒(タクト)を振るっているわね」




カッ……ド―――――――――ン!! 

ざっぱ~~~~~~~~~~~んっ!


チルノ「やら……れた……ガクッ」

大妖精「チルノちゃん! チルノちゃん……しっかりして……!」

リグル「大丈夫でしょ、そっちは妖精だし」


リグル「にしても、今の攻撃で湖水が波のように押し寄せて……」

ルーミア「あーあ、……おでんの具がぐっしょり」

ルーミア「対岸(あっち)は火事、此岸(こっち)は洪水だわ」

ミスティア「……くそぅ! こうなったら憂さ晴らしに鳥目にしてやるわよ? ……その辺の人間を」


チルノ「これはあたいのハウスに対する宣戦布告に違いない!」

チルノ「あたいたち4人で痛い目にあわせてやるっきゃないね!」

リグル「……たち?」

ルーミア「なぜ4人なのか」

ミスティア「……いやでも、さっきの奴らヤバそうだし」


大妖精(あれ……なぜか私は、頭数に入っいてない?)


――人間の里(寺子屋)――


克也「おおー広ッ!!」

広「克也ー!!」

克也「お前らみんな無事だったんだな……何つーかよ、その」

広「へっ、心配して来たってか? 余計なお世話だ」

克也「んだとコイツ! 心配とかじゃなくてよ、ちょい気になっただけだっての」


まこと「ZZZ」

美樹「まったく、克也もまことも勝手に来るなんて。玉藻先生たちも心労絶えないわねー」

慧音「貴方たちも人のことは言えないんだろう?」

郷子「はい、言えないです……」

阿求「怖い物見たさなのかしらね?」

郷子「ええ、まあ……何ていうか。私たち結構そういうのに慣れっこで、まあ今回も大丈夫かなーて気持ちがどこかにあって」

慧音「そういう気持ちの緩みが、命取りになったりするのよ――皆、少しは反省しなさい」

郷子「はい」


克也「オレさー、あっちのけーね先生たちに夜の授業受けちゃったんだぜ」

広「ええー何だよそれって!? 詳しく聞かせろ!」

美樹「どーせ悪さしてお説教されたってオチなんでしょー?」


阿求(彼らは本当に反省しているのかしら)

まこと「ZZZ」


――人間の里(路上)――


魔理沙「どこがちゃんこ鍋の付喪神だよ」

小鈴「私ちゃんこ鍋だなんて言ってないわ」

小町「口伝えだと、こうやって聞き間違いが往々に生じるものさ」

魔理沙「で、あの『赤いちゃんちゃんこ着せてやるぜ!』っていうのは悪霊の類なのかな」

小鈴「死神さんなら――」

小町「あー、あたいはあくまで船頭だし。素直についてきてくれないタイプはちょっと」

小鈴「……うっ、幻覚が……」

魔理沙「おい大丈夫か」

小鈴「きゃ! 魔理沙さんが全身血塗れになって顔が半分抉れてるー!!?」

魔理沙「おいやめてくれ」

小町「まあ、地道にいこう。もうじき異変のおおもとも収まると思うし、何とかなるって」


――幻想郷(上空)――




要石「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」




天子「あの東端にあるのが博麗神社(跡)。絶鬼が幻想郷入りした際、鬼門が開いた場所ね」

天子「私たちはあそこから太陽の畑と無名の丘に飛んで、その先の迷いの竹林を蹂躙」

天子「そこから再び飛んで人間の里を通過後、紅魔館と霧の湖を襲撃した、と」

絶鬼「いちいち説明はいらない。上から眺めるとよく判るね」

覇鬼「……狭いうが」

絶鬼「別に僕らは勝手に飛べるんだから要石(これ)に腰掛ける必要などないんだけど」

天子「えー? だってこの方が絵になるでしょ? ラスボス達が悪魔城で待ち構えている感じで」

絶鬼(この天人とやら、やっぱり本気で遊んでいるのか?)


ビューン!!


フラン「こんばんは。貴方たちなのね? 私を鳥籠から解放してくれたのは」

天子「――これはこれは、見ない顔ねぇ」

絶鬼「誰だい?」

天子「鬼よ」

天子「鬼と言っても吸血鬼だけれどね。先程砕け散った館の、奥の奥に封じられていた問題児」

天子「聞くところによると……誕生以来、五百年くらい館から外に出してもらえなかったとか」

絶鬼「……ほう」


覇鬼「うがー? お前、吸血鬼?」

フラン「はじめまして。私の名前はフランドール――館の主(おねえさま)の操り人形」

覇鬼「おねーさま? じゃあ妹うが?」

フラン「いつもひとりで遊んでばかりだったから。それだけじゃ、つまらなかったから」

覇鬼「……」

フラン「一緒におままごとでもしない? 紅い鬼の――お兄様?」

覇鬼「俺がおにーさま、うが?」

フラン「見渡す限りの玩具の山。これを全部、おままごとのセットにしよう」

フラン「ね、いいでしょ? 私も混ぜて欲しいの」


フラン「貴方たちの楽しげな破壊活動(おあそび)は、まだまだコンティニューするのよね?」

天子「いかにも。ゲームオーバーになるまで――それまでは永遠にコンティニューよ」

覇鬼「よし! やるうが! 皆で遊ぶうが~」

絶鬼「……やれやれ」

天子「ということで異存はないか?」

絶鬼「特に無いよ」

絶鬼(この吸血鬼の娘も使えそうだ。清冽な子どもっぽさはあるが、覇鬼兄さんとはまた違った怖さを内に秘めている)

絶鬼(それに西洋の鬼のチカラってものを、試しに見てみたいしね)


天子「よし決まり! 人数的にも4人って割り切れていい具合だわ」

絶鬼「ふふ、忌数という意味でもいい数字だ」

天子「さらに決めた、我々はこれを機に四天王と名乗ろう。これは絶対事項だ、異論は認めない」

フラン「四天王って、あの朱雀や玄武のようなやつら? お部屋に積まれた本に載っているのを見たわ」

覇鬼「してんのー!」


絶鬼「……これは異論ではなく、提案なんだけれど」

絶鬼「四天王と書いてカルテットって読むことにしない? ――その方が、聞こえがいいと思うんだ」


――妖怪の山(山麓)――


諏訪子「どうなの、紅魔館(むこう)の様子は」

椛「完全に崩れ堕ちたようですね。敵機は現在、上空から霧の湖周辺に閃光弾を放っています」

にとり「でも、それほど威力のある攻撃ではないね。挑発行為かな」

弥々子「いったい何が起きているんだっぺ? おらにはさっぱりだ」

にとり「こっちだって知りたいよ詳細を。まあ、敵機の数は椛の千里眼もあってはっきりしているけれど」

諏訪子「目視でもあの要石を見ればひとりは確定として、問題は残る二頭だよね」

ぬえ「……」

諏訪子「あの巨大な鬼ってのはもしかして」

ぬえ「……確かめてくる。もともと私はここの者でもないし、これ以上留まる理由もないからね」

諏訪子「はいはい、どうぞ。帰依したくなったらおいで」

諏訪子「あの鬼、うちの山に侵入(い)れないようにしてよ」

ぬえ「……」


ビュンッ!


椛「ところで諏訪子様はなぜあの正体不明とともに?」

諏訪子「いやー別に。それより、山の警戒態勢はどうなってんの?」

にとり「とりあえず、玄武の沢から河童人員を集めて河川一帯は抑えています」

にとり「山童は山麓から中腹域までを見回り中、それより高い域および上空は天狗様方が抑えているわけよね?」

椛「ええ」

諏訪子(神社には神奈子がいるし、大丈夫だね)

諏訪子(でも活きのいい鬼が本気で暴れ回るとなると、ゆっくり傍観しているわけにもいかないか)


弥々子「うー。難しい話だ」

にとり「ま、秩序だった社会が形成されているとね。有事にはその地域社会を維持するために色々動くことになるの」

弥々子「それって何だか窮屈。ようは自由がないってことだっぺ?」

にとり「ま、言われてみればそうかもしれないけれど」

にとり「お陰でうちの山の住人達は連帯意識が強いんだ。いい意味でも悪い意味でもね」


――妖怪の山(中腹)――


バサッ


はたて「文! 見た、さっきの閃光弾?」

文「ええ、勿論見たわよ。鳥目じゃないもの」

はたて「どう思う? さっきの連中……約一名ははっきりしているけれど」

文「あの赤鬼、たぶん幻想郷の鬼じゃないわね」

はたて「そうなの? 鬼の四天王の一角とかじゃなくて?」

文「たぶん違うと思うわ。あと、紅魔館を狙い撃ちしたのはあくまで序章ってことでしょうね」

文「あそこは何だかんだで、おぞましい吸血鬼の巣食う恐怖の館ってことになっているし」

文「紅魔館が呆気なく崩れ落ちたということになれば、連中のチカラが本物であることを幻想郷中に示すことになる」

はたて「でも、ただチカラを誇示したいだけなら、あんな乱暴なことはしないでしょ」

はたて「あの天人くずれが一枚絡んでいるということは……」


文(博麗神社の焼失という緊急事態の発生は、天子さんが仕組んでいたこと?)

文(あの赤鬼を外から召喚し、また異変――前回よりの更に幻想郷が危ない?――を発生させるに至った)

文(だったら、それに当然気付いたであろう霊夢さんが――博麗神社に残っていた天子さんを野放しにするはずがない)


文「!! 霊夢さんは今どうなって!?」

はたて「文ッ! 攻撃が来るわー!!」

はたて「山の頂上――丁度、守矢神社の辺りに!」




――カッ!!


――妖怪の山(守矢神社)――


ケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサラン


神奈子(ケサランパサランを囲っていることは隠密にしなければな、効果に影響があるようだ)

神奈子(各々が窒息しないように風通しにも気を付けないと)

神奈子(つい最近巷で話題になっていたなと思っていたが、70年代だったか)


パラパラ


神奈子(『和漢三才図会』の鮓荅(へいさらばさら)との関連性は……参考になるかな)


ケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサラン


神奈子(――む)




/ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ\




神奈子「天(うえ)からだね」

神奈子「風雨の守り神であり五穀豊穣の神であり、軍神でもある――」

神奈子「我の鎮座する守矢神社に、喧嘩を売るつもりか?」


                                  
                                     (つづく)

ここで以前予告した>>470から>>475の部分につながります

>>470でフランが「山」と言っているのは「妖怪の山」のことです。

次回は日曜または月曜の夜で


――命蓮寺――


こいし「かくかくしかじかでね」

こいし「とっても楽しかったのよ」

ナズーリン「な、なるほど。それは盛りだくさんな経験をしてよかったね、君」

こいし「ほら見て。道中でこんな物を拾ったの。どっちが欲しい?」

星「ああ! 片方は私の探していた宝塔!!」

こいし「こっちが欲しいのね。はい、あげる」

星「拾ったものをきちんと届け出る邪心なき門徒よ――実に有難い」

ナズーリン(本当に拾ったのか、あるいは無意識に捕っていってまた返しに来ただけなのか)

ナズーリン「ちなみにもう片方の物は何だ?」

こいし「知らないわ。見てみる?」

ナズーリン「ふむ、では失敬。――これは銭入れだな。ヌエノという者の名刺が入っている」

星「鵺の?」


ガラッ


ぬえ「呼んだ?」


――


ぬえ「なるほど……そんなことがあったのか」

こいし「あの赤鬼さんはお兄ちゃんなのよ。ゼッキっていう名前の弟と一緒に遊んでいるわ」

ナズーリン「先程から夜空に閃光が走っていたのは、その鬼兄弟らの仕業だったというのか」

こいし「あら、せんせーの財布の中に宝石が? 最初は石ころしか入って無かったのに」

星「いいから、それはそのまま本人のもとへ返しておやりなさい」

ぬえ「……私が預かるよ。後であの人間に返しておくから」

ナズーリン「その方がまだいいだろう」

ナズーリン「しかし、君たちが同時にこの場に居合わせ、こうやって私やご主人様と会話を交わしているとは珍妙な光景だ」

星「確かに、常識では考えられないわ」

ぬえ「べ、別にそんなことはどうだっていい! それよりも、鬼退治の方が先だ!」

こいし「わー面白そうね。でも、相手は鬼だけじゃないわよ」

ナズーリン「確かに、話を聞く限りではなかなかの非常事態ではあるな」

星「聖たちと合流するわよ! 情報を共有して早めに事に対処しないと――」


ガラッ


神奈子「その情報とやらを我々に提供してもらえるか」

ぬえ「!」

星「なっ!? 守矢の二柱……どうしてここに」

ナズーリン「……貴女がたの目的は?」

神奈子「別に命蓮寺が最近勢力を伸ばしていて気に喰わないから潰しに来た、などというつもりはない」

諏訪子「うちの神社に喧嘩を売って来た敵機の首謀者に軽く神罰を与えようと思ってね」

ぬえ「……山にも侵攻してきたのね」

諏訪子「侵攻ってほどでもないけどね。信仰心の篤い山の妖怪たちはてんやわんやよ」

神奈子「それで、どれくらいの情報が入ってきている?」

星「まだこちらは承諾もしていないというのに。――彼女が一部始終、見聞してきたことでほぼすべてですよ」

こいし「……」

神奈子「――まずは端的に言ってくれるか。上空ではしゃいでいる連中の内で、主犯格は誰なんだ?」

こいし「んーとねぇ」


こいし「たぶん、ゼッキっていうやつよ――私の友達を本気で殺そうとしてたのは、ゼッキだけだもの」


――地底(地霊殿)――


ぬ~べ~「……」

さとり「『広達、てっきり先に地霊殿に向かったものだと思っていたのに。頭痛が痛い』」

玉藻「……」

さとり「『鵺野先生、文法が間違ってますよ』」

ゆきめ「……」

さとり「『もー、鵺野先生があんな頭の中身もピンク色っぽい女とベタベタしてるからこんなことに』」

華扇「……」

さとり「『頭の中が桃色……って、それはどういう意味なのかしら?』」


さとり「次に貴女はこう言うでしょう。とりあえず挨拶がてら私(この妖怪)に勝負を吹っ掛けようかな、と」

早苗「……。……ハッ!」

さとり「帰れ」

早苗「ごめんなさい、冗談です。私がちょっぴりはっちゃけちゃったせいで」

ゆきめ「ちょっぴり? ……でも私も勘違いしちゃって悪かったわ」

華扇「いいえ、私だって最初にぬ~べ~さんに会ったときに勘違いをしたし……ひとのことを言えない」

玉藻「私も冷静になるべきだった。後悔しても時既に遅し――ですがね」

ぬ~べ~「今日は妙に素直だな。何かあったのか――さっき、誰かと約束をしたとかどうとか言ってたが」

玉藻「聴きとっていたんですか。あれはただの独りごとだ。特段の意味はありませんよ」

ぬ~べ~「そうかい」


さとり「あの赤鬼は『弟(ゼッキ)が呼んでいる!いかなくちゃ!』などと心術して地上へ向かったんですが、ゼッキという弟に心当たりなどは?」

ぬ~べ~「! 絶鬼だと……!! まさか……ヤツも幻想郷に紛れこんでいるというのか!?」

早苗「ええ!? あのイタリア人ピアニスト兼指揮者のカルロ・ゼッキさんも幻想入りしていたと!」

ゆきめ「誰よそれー?」

玉藻「絶鬼は地獄の中でも最下層の無間地獄に落ちたはずだが。あ、勿論こちらの地獄ではないはずです」

華扇「あの単細胞な赤鬼がすぐさま呼応した点を考えるに、何らかの理由でそのゼッキとやらも幻想郷(ちじょう)に現れたことは確かでしょうね」

早苗「その原因は、大結界の歪みにある――ということなんですね? ゆきめさん、玉藻さん」

ゆきめ「たぶんね、というかそれしか考えられないんでしょ?」

華扇「通常、外界でもなお健在な幽鬼人妖が安易に幻の世界には入れないような仕組みになっているのだから」

玉藻「そもそも私たちが入って来れたこと自体が異常。あの井戸以外にも結界に亀裂が至る所に発生していると考えれば」

早苗「ゼッキさんがたまたま入り込んじゃったとしてもおかしくはないということですか」


玉藻(例の結界を管理しているのは、あの九尾を式として操る“管理人”と博麗の巫女なる存在だというが)

早苗(きっと八雲紫(あのひと)が陰で糸を引いているに違いない!)

華扇(あの赤鬼だけではなく、さらにその弟分までいるなんて。霊夢は……もう彼らと対峙しているのかしら)

ゆきめ(鬼兄弟のこともだけれど、いなくなっちゃった広君たちのことも)

ぬ~べ~「……」


さとり「……」

さとり「そろそろ、お引き取り下さいね。やるべきことははっきりしているでしょう」

さとり「考えるよりも先に、動くべき時もあります」

ぬ~べ~「……そうだな」

ザッザッザッ


さとり「お燐、彼らが地上に向かうサポートをしてあげて」

お燐「了解です、さとり様」


さとり「土蜘蛛は子ども3人を探してはくれないかしら。子どもの足じゃ、移動できる距離はたかが知れている」

さとり「地底のどこかを彷徨っているに違いないわ。橋姫と旧都の勇儀(おに)が残っているなら危険な妖怪の山側に出る恐れもないだろうし」

ヤマメ「わかったよ。それと、行き掛けの駄賃に血の池地獄の状態を姐さんに確かめてくるね――先生」


タッ


ぬ~べ~(旧地獄に……血の池地獄?)


さとり「お空は私と一緒に、地霊殿に残って」

お空「え?」

さとり「こういった混乱極まる状況下で貴女が地上に出たら……かえって大事故につながりそうだからね」

さとり「地上で太陽がふたつ輝く必要はないわ。お空が輝くべき場所は、うちの中庭の奥よ」

さとり「私が許す。軽く暴走していいわ」

お空「はーい、わかりました! 私とフュージョンしたい方は誰でもお越しくださいね」


タッ


ゆきめ「暴走って……?」

玉藻「さあてね……」

早苗「つまりはエネルギー革命の一環ですよ」

華扇(自発的に暴走させるなんて……大丈夫なの?)

さとり「念のためです。忘れ去られた灼熱地獄を再度地獄の釜として機能させておきますので」

さとり「神の力を宿した地獄鴉の核融合炉と、舟幽霊でも溺れる底知れない血の池地獄」

ぬ~べ~「……」

さとり「最悪の場合、これらの施設を利用してもらって結構です。何らかの形でね」

さとり「地底には、ならず者や嫌われ者を受け入れる下地が整っていますから」

さとり「というわけで、よろしいですね?」

玉藻「善後策としては問題ないでしょう」

ゆきめ「3人は地底の妖怪達に任せれば大丈夫そうね。だったら」

華扇「まずは、あの赤鬼を封印することが最優先。それから、弟さんも――話が通じる相手でない場合には」

さとり「言葉は通じるけど通じ合えないそうよ」

早苗「案外、霊夢さんがもうやっつけちゃったりしているかも知れませんけどねー」

お燐「さあさ、行くよ!」


タッ!


さとり「……」

さとり「どうしたんです。早くお引き取り下さい」

ぬ~べ~「すまなかった。俺がしっかりしていないばっかりに……」

さとり「……」

ぬ~べ~「君だけじゃない。地底の妖怪たちには随分と」

さとり「言わなくても判りますから。確かにとんだ傍迷惑ではあったけれどね」

さとり「ほんの少しだけ、……あの鬼が来てくれたおかげで良かったこともあったので」

ぬ~べ~「……、そうか。それは良かったな」

さとり「子どもたちが見つかったら、一通り事が収まるまでは安全な場所でお預かりしましょう」

さとり「そして異変が片付いたら、誰かに地上まで送ってもらいますから」

ぬ~べ~「ああ、頼む! 君たちの親切さには、本当に頭が上がらない」

ぬ~べ~「それじゃあな、さとり君」

さとり「この異変が終結した暁には、二度と私の平穏な日常に一石を投じないでくださいね」

さとり「私は、心から静かに暮らしたいと思っているので」

ぬ~べ~(ありがとう。――妹さんと元気でな)


ダッ


――幻想郷(上空)――


天子「どこにしようかなてんしさまのいうとおりー、ここだ!」

天子「次は命蓮寺を焼き打ちにしよう!」

フラン「あそこ?」

絶鬼「人里に近い寺院だね。破壊活動によって人間共の懼れの感情を増幅させるにはいい立地だ」

覇鬼「ぶっこわすうがー!」

天子「ゆくぞ――……、……」


天子「……あれ?」

絶鬼「どうしたの?」

天子(天候が……私の意図に反して穏やかに。誰かが私の能力に干渉している?)

フラン「あ、見て! こっちに向かって何か……弾幕かな?」

覇鬼「何か飛んでくる?」


ギュォォォォォォォォォォォォォォ


絶鬼「なんだいアレは? 丸太がミサイルのようにこちらへ向かっているけど」

天子「……あれは御柱だ! 山の神様が喧嘩を買ってくれたみたいね」

覇鬼「こっちに向かってくるうが」

フラン「ひーふーみー……何十本もあるわね。全部壊しちゃいましょ」

フラン「触れることなくね」


どっか~~~~~~~~~~ん!!!!

フラン「はい、おーしまい」

覇鬼「うがははは」

絶鬼「……なんだ、他愛無い。山の神とやらのチカラはこんなものなのか?」

天子「そんなはずはないよ。全盛期を過ぎたヨボヨボの老婆とはいえ神様なんだから、これからもっと本気で分祀でもして――」




ビューン!!




フラン「あら、今度は空から何か……。あれってもしかして流れ星かしら? 綺麗ね」

絶鬼「流れ星? ぼくには円盤に見えるけれど。宇宙人もいるのかい?」

天子「あれは大きなドーナツじゃないの?」

覇鬼「輪っかだうがー」

天子(他にも何かが周りから飛んで――……何か?)

天子(同じものを見ているはずなのに、皆それぞろ異なるものとして認識している)

天子(そして、そう認識することが恰も自然であるかのように――)

天子「! これは罠だ! 自分の認識を過信するな!」


ドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーン


神奈子「小手調べの神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』に引き続くは」

神奈子「神秘『ヤマトトーラス』と御柱『メテオリックオンバシラ』(今年は祭の年ではないけれどね)」

ぬえ「これらの弾幕そのものが正体を無くせば、敵は対抗しづらいだろう――正体不明『赤マント青マント』」


神奈子「更にひけらかすは『神の御威光』」

ぬえ「それをくらますはアンノウン『原理不明の妖怪玉』」


ボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッ
ボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッ

ぬえ「気がつけば連中を取り囲む正体不明の某かは――神霊の放つ神のチカラ」

神奈子「それだけではないよ。私と諏訪子が天と地の変動に干渉することで、不良天人の悪ふざけに歯止めを掛けている」

ぬえ「意外とこのまま倒せそうじゃない?」

神奈子「倒すのは我々の仕事ではない。差し当たっての目的は統制を乱すこと」


ぬえ「――ところで、山のてっぺんが削られたってことは……守矢神社の方は」

神奈子「ああ、手っ取り早くまるごと一時避難させた。幸福を呼ぶ綿毛の力を少し使った上でだけど」

ぬえ(綿毛? 手っ取り早く……か。簡単に言ってくれるな)

神奈子「さて、休まず攻撃を加えるかな。まったく活きのいい異変首謀者どもだ」

神奈子(触らぬ神は祟ったりしないが、神経に触られた神は――)

ぬえ「烏合の衆といっても、あんな4人組が協力して暴れられると流石に面倒だもの」

神奈子「貴女はあっちのふたりを惹きつけてここから遠ざけてくれるか?」

ぬえ「わかったわ。あの幼児達(ふたり)ね」

神奈子「早苗も他所に行っているらしいし、紅白の巫女もまだ動かない。が、漸次出揃うだろう」

神奈子「それまでの間は、我々が彼奴らの遊びに付き合う。異変解決のお膳立てをしてあげるのさ」

ぬえ(あの赤鬼はやはりあの男の左手から――。どういう事情があったにせよ、足止めをしなければ)

ぬえ「妖怪退治の専門家による異変解決のために、神や妖怪たちがこぞって協力するなんて変な話だが」

ぬえ「今回に限って言えば、皆が手を貸すにふさわしい理由があるわ。かく言う私もね」

ぬえ「だって、幻想郷が壊されたりしては元も子もないんだもの。別に居心地はよくないけどさ!」

ぬえ「だから守る、私の居場所を! 相手がどんなに手強かろうと!」

神奈子「……居場所か。確かに居場所だ」

神奈子(たいして長居しているわけでもないのにね。ここにも随分愛着が沸いてしまったものだよ)



神奈子「御柱『ライジングオンバシラ』――!」

ぬえ「『遊星(PS)よりの弾幕X』――!」


BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!


――


天子「あららー、正体不明の弾幕があちこちで破裂して視界が狭い。皆どこいったー?」

天子(3人とも、術中にハマったのか? 私たちを惑わして分断するのが目的だったようね)

天子(弾幕自体はあの坂好きな神様の物に違いない。が、それに細工を加えているのは鵺だな)

天子(私は天空から眼下をずっと眺めていたから、たいていの者の放つ弾幕を正しく認識できる)

天子(けれど、あの鬼兄弟や狂血鬼は他人の弾幕をほとんど見ていない。見る機会などなかった)

天子(彼らの認識では弾幕の持つ形や音が欠落し、その行動(被弾して炸裂するという結果)だけが残されてゆく)

天子「各々の認識が一致せず混乱を来してしまう上に、相手が繰り出す攻撃を受ける際の危険性の判断が困難になっている」

天子「だって相手の攻撃が“ジャブ”なのか“フックやストレート”なのか、受けた後でないと判断できないんですもの」

天子「いや、私以外はそもそも攻撃(だんまく)で有ること自体を認識し難いからより厄介なもので」

天子(それでもみんな体は丈夫だし、そうそうやられたりはしないと思うけれど)


天子「よく作戦を練ったわね、聖人さん」

神子「彼らとは直接打ち合わせをしたわけではありません。たまたま同じタイミングで反撃するに至ったまでのこと」

天子「あっそう」

神子「眼光『十七条のレーザー』」


ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!


天子「おっとっと、私だけを狙い撃ち?」

神子「――和を以て貴しと為し、忤(さか)ふることなきを宗とせよ」

神子「あなたの胸のうちにはこの宗を収納する料簡はありますか?」

天子「当然。しかれども桃李門に満つる――有能な者共を従えることが出来たのだから、ちょっとくらい諍いを起こしてもいいじゃない!」

神子「はあ……。貴方たちの所業は到底ちょっとという言葉では言いくるめられない」

神子「やはり少し、お説教が必要だ」

天子「天人を目指している方が天人にご高説?」

天子「でも歓迎! どうぞ、物理的な手段でお願いしますわ」


要石「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


――


ボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッ


絶鬼「ッ!」


ビュン!


絶鬼「見えない敵に囲まれて……いるのか?」

絶鬼「攻撃されているはずがないのに気が付いたら攻撃を受けてしまっている」

絶鬼「『認識を過信するな』だと。どういう意味なんだ?」


ザッ!


諏訪子「要するにね――貴方がただの空気だと思って吸っていたものが実は有毒ガスだった、そして死んだ――ということ」

絶鬼「! 誰だ」

諏訪子「貴方を狙う弾幕はそこかしこに漂っているのに、貴方はそれがただの月やら星やら木々やら虫けらやら何やら……自分とって無害な物としてしか認識できていないのよ」

諏訪子「だって貴方は今までに神奈子の弾幕を目にしたことがないんだから――枯れ尾花が幽霊にしか見えないに決まってる」

絶鬼「……」

絶鬼「疑心暗鬼に陥っていたと言うのか……ぼくは」

諏訪子「そ。鬼のクセに情けない。やっぱり神様の攻撃と聞いて内心は怖さも感じていたのね」

絶鬼「黙れ。正体がわかってしまえば何て事はない。――これは、ぼくたち4人を分断してソロにしようって作戦?」

諏訪子「そうなのよね~。見事に嵌まったね。むしろこういうのは貴方のように多少頭の回転が効く者の方が効果的」

諏訪子「直球バカだったら、ストレートに自分の周りを一切合財吹っ飛ばしてしまうだろうし」

絶鬼(覇鬼兄さん、それと他のふたりはどこに――いや、そう遠くにはいっていないはずだ)


ユラリ


絶鬼「!」

聖白蓮「なるほど確かに、あの道士の推測通り――貴方が一番危うそうね」

絶鬼「おっと、また新手? ――今度は何者かな?」

聖白蓮「そうですわねぇ。魔法使いとでもお答えしておきましょうか」

絶鬼「ふぅん、魔法使いか。手品でも見せてくれるかい? で、そっちは何者なんだっけ?」

諏訪子「そうだねー。カエルの妖怪ってことにしておくよ」

聖白蓮「またまた、とんだ御冗談を」

絶鬼「まあ、かかってきなよ。兄さんたち――いいや、兄さんとはまたいつでも落合えるんだから」


ニュルニュルニュルニュル!


絶鬼「……! ぼくの持つバラが勝手に……伸びて?」


ギチィィィ!!


ユラァリ……


幽香「四季のフラワーマスターという二つ名はダテじゃあないのよ?」

幽香「自分の妖気がこもったバラを操られ、逆に自分を拘束する枷とされた気分はどう?」

絶鬼「またまた新手か。……少しは、骨のある相手のようだな」

諏訪子「唐傘お化け……じゃない方の傘持ちの怪物じゃないの」

聖白蓮「貴女は聞くところによると最強クラスの妖怪とお見受けしますが、人里を守るために私たちに手を貸して下さるので?」

幽香「人里? そうねぇ、あのお花屋さんが閉店したら困りますわね。ただ、主に私怨でこちらに出向いているだけよ」

諏訪子「でもまあ、支援ってことでいいんだね。私も人里というより山を降りかかる火の粉から守るために来たんだけどね」

諏訪子「――神具『守矢の鉄の輪』」


ガシャンッ!ガシャンッ!ガシャンッ!ガシャンッ!


絶鬼「むっ!?」

幽香「四肢も拘束されちゃったわねぇ、貴方大丈夫?」


絶鬼「大丈夫? 嗤えるね――キサマらごときに、ぼくの行く手の邪魔はさせない」


幽香「私の弔い合戦の邪魔も、させようとは思わないわ」

聖白蓮「改心する気はございませんか?」

諏訪子「ちなみに神様と殺り合った経験とかある?」




絶鬼「邪魔をするな虫ケラどもがァ――――ッ!!!」


メキメキメキメキメキメキメキメキメキ




幽香「あら変身? 何令幼虫だったのかしらねぇ」

聖白蓮「超人『聖白蓮』」

諏訪子「祟符『ミシャグジさま』」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


――妖怪の山(山頂)――


文「……」

はたて「……」

文「まるでカルデラみたいな形状になったわね」

はたて「でも、湖はないわね」

文「……」

はたて「……」

文「守矢神社の残骸どころか、風神の湖まで忽然と消えているわ」

はたて「さっきの天空からのエネルギー弾から逃れるために……何処かに持って行っちゃったのかな?」

文「いくらなんでもあの一瞬でそんなことが――……いや、できるかも知れないけれど」

文「何しろある日突然、まるごと幻想入りして来たわけだし」

はたて「じゃあ、どこに持って行っちゃったんだろう?」

文「そりゃあ、どこか安全な場所じゃない?」

はたて「もしかして……一旦外界に逆戻りしてるとか? 特ダネになりそうね!」

文「まさかそれはないでしょ」


――中有の道の上空――


ビューン!


ぬえ(本当に子どもだな。特にあの赤鬼……発している気からしてあの鬼の手の正体には違いないけど)

ぬえ(そろそろ、迎え撃たなきゃね! 暴れ出したりする前に――)

ぬえ(ん、向こうからこちらに向かっているあの小さいのは)


覇鬼「あれは猿だ!」

フラン「いいえ、あれはきっと蛇よ」

覇鬼「……そーいやここ、どこだ」

フラン「私も知らないわ。初めて見る景色だもの」

フラン「絶鬼お兄様と天子さんはどこに行ったのかしら?」

覇鬼「どこにいるうがー!」


ヒュゥ


フラン「……あら、お呼びじゃないヤツが来た」

覇鬼「?」


レミリア「へぇ――それが、久しゅう会ったいない姉に対する態度?」

レミリア「あんたを紅魔館(うち)に連れ戻すために、わざわざ迎えに来てあげたというのにね」

レミリア「そこの木偶の坊、さっさとフランを放しなさい」

レミリア「さもないと――鮮烈なる恐怖を味わうことになるわよ?」


 
                                   (つづく)


――地底(血の池地獄)――




ゴポッ・・・ゴポゴポ・・・・・・ゴポポッ・・・・・・・・・




勇儀「ほう、鬼の手に封印されていた鬼だけでなくその弟もいるのか」

ヤマメ「そうらしいんだ。もしかしたら、兄弟はもう地上で合流しているかもしれない」

勇儀「く~! これは悔しいな」

勇儀「是非、手合わせしたいというのに……地上にいちゃあね。私が旧都を離れるわけにはいかないし」

ヤマメ「でも、伝えた通り場合によっては――」

勇儀「ここに突き落として封印しようってんだろう?」

勇儀「まだ使えないことはないけど、言っても使い古されて打ち捨てられた地獄の跡だ。猛々しい鬼共を完全に封じ込められるかな」

ヤマメ「そうだよねぇ。どうすれば」

勇儀「簡単なことだ。私がそいつらを子分にする」

ヤマメ「ええー!?」

勇儀「気風が違えども鬼同士だ。何とかなるだろう!」

ヤマメ「そんな……相手が言葉も通じないような凶悪な奴なのに……」

勇儀「別に1年2年での話じゃないよ。10年かかろうが100年かかろうが問題はないんだから」

勇儀「時が経てば人も変わるし鬼も変わる――長い時間を掛けて手懐けるさ」

ヤマメ「何ていうか、姐さんらしい発想だねぇ」


――彼岸――


映姫(やれやれ、小町のサボリ癖にも参ったものよ)


映姫「ほら、そこの新入りの方――集中力を切らさず仕事に励むように」

眠鬼「なーんで私がこんな机仕事しなきゃなんないのよぉー!!?」


だーん!!


眠鬼「だいたいここどこ!? 私の知ってる地獄じゃない!」

映姫「それはむしろ、こちらが聞きたいわよ」

映姫「見知らぬ鬼娘が紛れ込んでいるので引き取るよう要請が来たからには仕方ない」

映姫(なぜ私のもとに送還されることになったのかは定かでないが)

映姫「貴女はどこの地域担当だったの? 直属の鬼神長の名は? あるいは獄卒鬼としての等級は?」

眠鬼「知らないわよんなこと、意味わかんなーい!」

パシーン!


眠鬼「い、痛いじゃない! 何すんの」

映姫「仮にも使用者・被使用者関係にあるのよ。言葉遣いには気をつけなさい」

眠鬼「鬼を舐めてかかると痛い目に会うんだからっ」

映姫「反抗的な態度を継続するようなら貴女の下着は返しません」

眠鬼「返せ。いや返して!」

映姫「『返して下さい』でしょう?」

眠鬼「……」


むすー


映姫「どうなの? はっきりしなさい」

眠鬼「か、返して……く……ださい」

映姫「わかりました――返しません」

眠鬼「なんでよぉー!?」

映姫「アメとムチは基本中の基本。きちんと仕事をこなしたら、返してあげないこともない」


映姫(しかし、下着がないと人間並みの力しか発揮できない鬼など初めて聞いたわ)

映姫(変わり種の鬼の子どもね)

眠鬼「えっと、これ片付けたら返してくれるってこと?」

映姫「返すことも考慮に入れる、と言っているの」

眠鬼「……」

映姫「ほら、するならする。しないならしない。何事もけじめを付けることが肝要です」

映姫「ただし、しない場合には下着は返却しませんので」

眠鬼「あーもうわかったわよ! やるわよ、やってやるわよ! 見てなさい!」

映姫「生憎見ている暇はありません。私は多忙なので、判らないことがあったら周りの事務員(しにがみ)に聞くようにね」

映姫「ちゃんと、貴女の様子を気に掛けておくようにと、みなに伝えているから」

眠鬼「ちょっと……ひとにここまであーだこーだ言っといてあとは放置なの?」

映姫「私の言ったことを理解できましたか? まだ理解できませんか? もう一度最初から説明した方がよろしいですか?」

眠鬼「……う」

眠鬼「……わ、わかったから。ちゃんと仕事する……しますから」

眠鬼「だから、後でパンツ返してくださいー」

映姫「よろしい。後でちゃんと返すわ――だから仕事に励みなさい」

眠鬼「はいはい」

映姫「『はい』は」

眠鬼「一回でって言うんでしょ! は――――――い!!!」




――三途の川(彼岸側)――


映姫「やれやれ、世話が焼けるわ」


スゥー


死神「鬼と言えども、子どもは世話が焼けて大変ですね――こちらの閻魔様」

映姫「ああ、貴女は日雇いの死神の。どう、三途の川の水先案内は?」

死神「順調ですよ。滞りなく幽霊達を捌いています――予定時間よりも早く本日のぶんは終わりそうですね」

映姫「貴女は時間厳守な上に仕事が早くて助かるわ。一層のこと小町の代わりにうちで正規雇用してもいいわよ」

死神「いえいえ、私の一存では決められないことなので」

映姫「ええ、それもそうよね。今のは忘れて頂戴」

映姫「ところで、これはきちんと確認させてもらいたいことなのだけれど」

映姫「ある時点を境に、急に川に流れる死魂の量が増えたみたいなのよね」

映姫「それと、貴女がここに現れたことに関連性はあるのかしら?」

死神「勿論関係がないことはないです」

死神「私の担当する人間界とこちらとの境界線が急に緩んでしまったために」

死神「人間界で無事成仏できなかった死霊が多々、こちらに流れ着くようになっているようです」

映姫「ああ、やっぱりね。そんなことだろうと思ったわ」

映姫「貴女もたまたま流れ着いて、あるいは、気まぐれで幻想郷にいらしたの?」

死神「いえ。近い将来人間界でお亡くなりになる予定の人間がこちらに紛れこんでしまっているので」

死神「きちんと人間界に戻るまで見届ける為に、ここから監視をしているんです」

死神「人間界の神が決めたご臨終にて、きちんとお亡くなりいただかないと困りますので」

映姫「確かにね。その人がこちらで野垂れ死ぬようなことがあれば、外界側の摂理に反するものね」

死神「そういうことです」




\どっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!!/




映姫(……あれは中有の道の辺りか。激しい戦闘が発生しているようね)

映姫(何故かくも無益な争いを起こして小さな箱庭を脅かそうとするのか)

映姫(教えを説きに行きたいところだけれど、もう仕事に戻らなくちゃいけないのが口惜しい)


死神「それでは私は監視を続けるかたわら、川の交通整理を続けますので」

映姫「ええ、お願いするわ」


――地霊殿(中庭・灼熱地獄跡)――




CAUTION!CAUTION!CAUTION!CAUTION!CAUTION!




さとり「考えることは同じでしたか」

神奈子「絶鬼を封印するならこれが一番手っ取り早いと思ってね」

神奈子(間欠泉地下センターは山の麓から地底にかけての立地だから――)

さとり「『ここを閉鎖しても我々にはデメリットはない。フハハハハ』」

神奈子(最後の間抜けな発声は訂正せよ)


神奈子「だから私自ら出向いてきた――早苗達があれを叩き落としてきたら仕上げを手伝うとするよ」

さとり「おたくの現人神さんって……」

神奈子「ああ、純粋かつ素直で責任感が強くていい娘だろう。最近は妖怪退治にも熱心に取り組んでいるし」

さとり「……。それとですが」

神奈子「何だい? 鳥頭(あの子)に神力を与えた時のことなら――」

さとり「そのことはもう根に持ってなどいません。ただ、ここは中庭とはいえ私の住処の地下部分ですからね」

神奈子「判っている。枕を高くして眠れるようにしっかりと――」

さとり「ええ、それもあります。それと、絶鬼というのはあの赤鬼の弟の方でしょう?」

さとり「覇鬼(あに)のように、誰かしらが監督することで制御できる余地は……なさそうなんですか?」

神奈子「そうだね、私の見立てではその見込みは薄い。あれは根っからの悪鬼のようだ」

神奈子「あの弟が側にいる限り、兄を穏便に制御するのは困難だろう。だからこその兄弟分断作戦なんだが」

さとり「『そこに天人と紅魔館の悪魔の妹が絡んでいるから七面倒くさい』と」

さとり(やはり、あの天人が一枚咬んでいたということなのね)

神奈子「そういうこと」

さとり「あの天人はどこまで本気で破壊活動に勤しんでいるとお見受けしますか?」

神奈子「どうだか。自分で心を読みに行ったらいいじゃないか?」

さとり「……」

ザッ!


お空「さとり様ー、順調に危険度が上がっていってますよー」

さとり「いいわ、そのまま続けて」


お空「うにゅ? そちらの方はどなたですか?」

神奈子「誰がお前にその火力を与えたと思っている」


お空「さとり様です!」


神奈子「主ならちゃんとペットに採点減の教養を与えたらどうなんだ」

さとり「頭の記憶領域をいじらない限り、直らないものは直らない。それは性格も同じかもしれませんね」


お空「?」


神奈子「――絶鬼とやらは、二度と太陽を拝めないように最終処分をするということで一致だね」

さとり「ええ、已むを得ない。……と思うわ」
 

                                   
                                      (つづく)

もともと「灼熱地獄」という四字熟語は存在せず、
八大地獄のうち6番目の「焦熱地獄」からの連想で生まれた言葉らしいですね。
というわけで仮にここに封印しても3年経ったら……(実際のところ単純な比較はできないとは思いますけれど)。

では投下再開


――地底(間欠泉噴出孔の付近)――


怨霊達「!!」


ササー


お燐「よしよし、ちゃんと道を開けてくれて助かるよ」

ぬ~べ~「正直なところ、時間が許すなら怨霊(かれら)の声をちゃんと聞いて救済の手助けができれば……と俺は思う」

華扇「あの死神と似たようなことを言うのね」

ぬ~べ~「……死神……?」

華扇「いえ、こちらの話よ」

ゆきめ「ちょっとあんた! 先生からもっと離れてよ!」

華扇「あのねえ、周りを怨霊が取り囲んでいるのだから、あまり距離を取れないのは仕方ないでしょう?」

ゆきめ「むぅ……どーなんだか」

ぬ~べ~「まあまあ、ゆきめくん……そうカリカリするな」


早苗「ほら、玉藻さんも積極的にアプローチしないと」

玉藻「研究(アプローチ)ならしてますよ、様々な角度からね」




サラサラサラサラ……

ぬ~べ~(!? 何だ、突然強大な妖気が……目の前に……!)

お燐「おやおや、とうとうあの鬼まで来ちゃったのか。先生は妖怪だけじゃなく鬼も本当に惹き付けちゃうねぇ」

華扇「あ、……貴女……」


萃香「ごきげんよー!」

萃香「悠長なこったね。地上より地底の方が平和とは、とんだ逆転現象が発生しているよ」


玉藻「! 貴様は何者だ」

ゆきめ「この感じ! 一本角の鬼やそこのピンク女に近い妖気。ということは……」

華扇「私は別に近くないわよ。近くて遠いから。いいえ、全く関係がないから……」


ぬ~べ~「――君もまた、鬼なんだな」

萃香「おうよ」

萃香(まったく、紫(だれかさん)はどこ探しても見当たらないし、霊夢はだらしなく伸びてるしで)


ドボボボボボボ


萃香「そろそろ私も本腰を入れようと思ってねぇ……ごきゅごきゅごきゅっ」

ゆきめ「うわ、もんの凄くお酒くさーい!! しかも今呑んでるし」

玉藻「……かなり酔いが回っているようだが」

華扇「もともと常時、呑んで酔っているの。そういう鬼なのよ」

玉藻「そういう?」

玉藻「――ああ、そういう鬼ですか。そういう鬼でさえこういう姿とはね。もう見慣れてきましたが」


萃香「ぷはーっ、まあ、手を貸してやるよ。あの赤鬼はお前さんが持ち込んだものだが」

萃香「それを解放しちゃった責任は」


チラ


華扇「ッ……」

萃香「あと、弟だっけ? あれを連れ込んでしまった責任は幻想郷(こちら)側にある」

萃香「だからね。協力する道理は一応立つし、私も折角だからそれなりに力を使いたいし」

ぬ~べ~「そうか。酒呑童子(きみ)も手助けしてくれるのか――俺のことを、信じてくれるんだな」

萃香「強い力ってものは、力の使い道をよく心得ている者にこそ宿るべきだ。その点で、お前は信用できる――そう私は判断した」

萃香「私の力をどれほど使いこなせるものなのか。見せてもらうとしよう」


萃香「文字通り、“手”を貸してやるからさ。そんな包帯(はりぼて)の左手じゃあ心許ないだろう?」

ぬ~べ~「文字通り――?」



サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラ


ぬ~べ~「!? うお、おおおお――――ッ!!!」


ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル




ゆきめ「!? 体がまるで霧みたいになって鵺野先生の……左腕の中に……自分から!?」

早苗「これは燃える展開ですね~! 少年誌っぽくていいんじゃないですか?」


玉藻「そちらにとってはどこの馬の骨とも判らぬ人間を簡単に信用するのか。鬼は過去の失策から学ばないのでしょうかね?」

華扇「な! 鬼を侮辱するようなことを言わないでくれない?」

玉藻「おや、あなたは鬼ではないというのに何故お怒りに? しかめ面に角まで生えてますよ」

華扇「ッ……揚げ足を取るのがお上手ね」

玉藻「まあ、揚げ物は嫌いではありませんからね」


華扇(利口な狐と化かい合いをするのは骨が折れるわ……)

玉藻(こんな融和的な思考回路を持つ鬼達には、外ではまず巡り合えないだろう。いや、鬼に限らずか)

玉藻(如何にして妖怪たちの性質が、この閉じた世界の中で変容して行ったのか。なかなかに興味深い)


――境界にある屋敷――


藍(紫様は相変わらず戻らないし)

藍(橙も報告に戻って来ないな。そういや、博麗神社に行って伝言を頼むと指示しただけだからなぁ)

藍(どこかで道草を食っているのかもしれない)


スクッ


藍「もうここで時間を浪費するのはやめだ」

藍「適切な対処法をよく考えるのも大事だが、考えている間に取り返しのつかないことになったら元も子もないじゃないか」

藍「とにかく私も現場に向かおう」


藍「博麗神社へ――」


シュンッ!


――天界――


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


雲山「……」

一輪「……」

屠自古「……」

衣玖「……」


衣玖「そろそろ……危機的な領域に入って来たようです。こんな事態は想定の範囲外」

衣玖「余程強力な物の怪の気質を萃めまくっているのでしょうね。これでは天地を司る神々といえど、これ以上抑えつけるのは困難かも知れません」

屠自古「セヤナ」

一輪「なんで関西弁やねん」


衣玖「天子様の気質である極光(オーロラ)の天候が猛烈な『赤気(せっき)』を帯びて燦々と輝きを放っている」

衣玖「まさに緋色の空――これは古代中国において国に大事(事変)が起きる前兆とされていました」

屠自古「モウオキトルガナ」

一輪「自分どないすんねん」


衣玖「もう手遅れです。天災が起こり計り知れない被害が発生するでしょう。皆さん、早く避難してください」

屠自古「オソイッチューネン!」

一輪「それでええんかいな? 諦めたらそこで試合終了やろ!」


ガタッ


衣玖「よくないわ。こんな事態が名居様の耳に入ったら、比那名居の一族の処遇は一体全体どうなるか」

雲山「……」

衣玖(いいですか総領娘様――前回以上にきついお灸を据えさせてもらいますからね)


――三月精の家――


霊夢「……サン…………イナイイナイ……」

霊夢「……ゥゥ……オサイセンガ……タリナイッ……」


橙「霊夢……」

スター「霊夢、うなされてるみたいだけれど……大丈夫かな」

サニー「巫女って人間だったんだね。霊験灼(あらたか)な予知夢でも見てるんじゃない? 霊夢だけに」

スター(サニーが知性のありそうなこと言ってる)

ルナ「あの残酷な鬼、野放しにしていていいのかな(私も残酷な妖精なんだけどね)」

橙(紫様……大事な霊夢がこんなことになっているのに。早く還って来てくれなきゃ……)


霊夢「……アッ」


橙「霊夢!」

ルナ「目が覚めたの?」

サニー「いや、まだ寝てる。半目だし」

スター「もしかして、神が降りてきたとか?」




霊夢「……ラギョウニカヤギョーサン……。

シェー!

……ガラッ。

クマー。

アギョーサン……イナイイナイ……。

オニハウチ……! ……フクハソト……!」

橙「!?」

ルナ「は?」

サニー「何この顔芸半目だし怖い」

スター「意味分からないし怖い」


コンコン


ルナ「ん? 誰かが来た――」


ギィィ……


てゐ「夜分遅く失礼するわー」

てゐ「もしかしたらホイミ役が必要かもしれない、って姫様がおっしゃていたから」

てゐ「いいクスリを届けに来たのよ。博麗の巫女宛にね」


ルナ「本当なの、兎さん?」

橙「待って、これは詐欺かもしれない!」


てゐ「そんなことはないわ。この秘薬の効果はテキメンよ。鈴仙で生体実験をして実証済みだから」

てゐ「生命力の高い寄生虫を原料にしてお師匠様が作られた、すごいきずぐすり!」


うねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうね

サニー「うわ、フツーに虫がいっぱい!」


パチッ


霊夢(――ん?)


わさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさ


ルナ「え、これって飲ませるの?」

スター「いや、塗るんでしょ……傷薬だし」

橙「本当に……効くの?」

てゐ「鈴仙はこれが身体に入ったら立ちどころに云々――」


もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ


霊夢(何この状況……気がついたら悪戯好きな妖精たちの家に拉致されていた上に)

霊夢(化け猫や兎詐欺(ウサギ)どもに囲まれて蟲姦されそうになってるわ……)

霊夢(とりあえずこいつらを退治するか。ここで邪魔されるわけにはいかないし)

霊夢(絶鬼どもを叩きのめす前の――軽いウォーミングアップとしてね!)


カッ!!!!!!


――博麗神社跡――


正邪「なんだ……これ」

正邪「神社が……」


針妙丸「おお、正邪ではないか」


正邪「!」


針妙丸「ふふ、ここに来たということは……やっと降伏する気になったのね」


正邪「違うさ! 誰が降伏なんか――ただの気まぐれで」


フラッ


正邪「……針妙丸……様?」


ヒョイッ


針妙丸「……はあ、ちゃんと手当をしてもらったんだけれどね」

正邪「……こんなにケガをして。一体何が」

針妙丸「うん、悪い鬼を退治しようとね、したんだけどね。何も……できなかったの」

正邪「悪い鬼……」

針妙丸「やっぱり私の相手には……正邪程度のまがいものの鬼がお似合いなんだね」

正邪「……」

針妙丸「また悪い妖怪が外から入ってきたらどうしよう……」

正邪「外から……?」

針妙丸「私、何もできないよ……」


スゥ――――――


針妙丸「!」

正邪「唯一焼け残っている鳥居の方から! 何かが……来るっ!」


ぴょーん


座敷童子「……」


針妙丸「……」

正邪「え、これ……小人?」


座敷童子「……」


キョロキョロ


座敷童子「――!」


キッ


貧乏神「……っ……」




針妙丸「正邪や、あの子は悪しき者……ではない?」

正邪「私にはそんなこと」




座敷童子「……」




コォォォォォォォォォォォォォォォォォ

針妙丸「あっ――」

針妙丸(私の打出の小槌に魔力が萃まってゆく。まだ魔力の回収期にあったというのに)

正邪(私が持っていた鬼の魔力が小槌のもとへ。いや、それだけではない)

正邪(もっともっと大きな魔力が急速に充填されてゆく。この力の出所はいったい……――)

針妙丸(振れる――再び、小槌を振れる)




ズズズズズズズズズズズズズ……




針妙丸「――!」

正邪「こっちからも、何かが現れて!」

正邪(こいつは一体!?)




??「 あぎょうさん さぎょうご いかに? 」


――人里(寺子屋)――


まこと「ZZZ」

克也「はあー、お前らに会えたら急に家のことが心配になって来たぜ」

広「ああ、妹のことが心配なんだな」

克也「ちゃんとメシ食って風呂入って寝てるかなーってよ」

慧音「君の家族を心配に思う心持ちは、先生たちが君に対して抱くものとそれほど違うものだろうか?」

克也「……いや。それほど、違わないだろうな(悪かったぜ、ぬ~べ~先生……他のみんなも心配掛けて)」


こいし「あの薔薇の鬼とは前に会ったことあるの?」

広「おう、あったんだよ。確かに絶鬼とかいったな……アイツ。すっかり忘れてたぜ……」

広「人間に化けてる時の見てくれはあんなんだが性格はまるで鬼のようなやつだ」

郷子「そりゃ……鬼だもの。空の上で戦ってるひとたち……本当に大丈夫なのかな」

布都「なーに、心配はいらぬ。太子様を始め、他にもそこそこの戦力が結集しておるからの」

克也「まだ地底(した)にいるっつー先生たちは大丈夫なんか? ぬ~べ~、鬼の手が無いんじゃ……どうやって」

郷子「うーん、確かにぬ~べ~だけじゃ大変だろうけど。ぬ~べ~にはゆきめさんや玉藻先生」

郷子「それに地底で出会ったたくさんの仲間たちがついているから、きっと大丈夫だと思う」

こいし「それに、貴方たちも妖怪(わたし)たちもついてるものね。皆でここから応援しましょ」

克也「応援か……オレらじゃ、できることはそれくらいしかねーな。その声が届くかどーかもわかんねーし」

広「んなこと言うなよ! いざとなったらオレらがあの鬼達のとこに――」


ゴツン!


広「いだだーっ!!」

慧音「これ以上周りに心配掛けたら先生ツノを出して怒るぞ!」

阿求「貴方たちの担任の先生、さぞ日頃から神経をすり減らしていることでしょうね」

克也「あー、それはどうだろ。ぬ~べ~って眉毛も神経も図太いしなあ」

こいし「おーえん! おーえん!」

郷子「でもただ応援するだけじゃなくて、何とか……もっと直接、力になれる方法があれば」

こいし「ううん、応援は力になるのよ。皆の思いが萃まれば、それは大きな力になるの」

克也「元気玉のこと? ホントにそうなりゃいいのにな」

布都「――うむ、本当にそうなるかも知れんのう」

まこと「ぐぅー……まけない……先生は絶対……負けない……のらー」

まこと「正義の味方はー……必ず……勝つー! ……むにゃむにゃ」


広「おいおい、起きたんかと思ったら寝言かよ」

克也「まことらしい夢見てんだろうな」

布都「正義か。太子様のことじゃな」

慧音「今立ち向かっている者は、皆正義ってことでいいじゃないの」


阿求(正義って何なのか。幻想郷においてはあまり意識することはないわね)

阿求(『これこそが悪だ』というものをここで指摘するのは難しい)

阿求(妖怪が即ち悪かと言えば、そう言い切れるものでもないし)


郷子(あれ、そういえば美樹は?)


――紅魔館跡――


咲夜「お嬢様がおひとりで妹様を迎えに行った?」

美鈴「ええ」

咲夜「美鈴、私はちょっと――」

美鈴「待って下さい咲夜さん。お嬢様は誰も来ないよう伝えろと仰っていました」

美鈴「『これは私とフランとの姉妹間の問題であって、他の者が手を出すべきことではない』」

美鈴「『それはパチュリー様であろうと従者であろうと同じ――ついては来るな』――と」

咲夜「……そう」


咲夜「じゃあ、お嬢様のもとには向かわないけど。異変解決に向けて私もちょっとは動くから」

美鈴「はい――館の修復の方は、私たちが担いますから。安心して行って来て下さい、咲夜さん!」

咲夜(美鈴に安心しろって言われるとかえって不安になってくるけど、後ろ髪を引かれつつ向かいますか)

咲夜(――とりあえず、目指すは博麗神社かな)


――シュンッ


――霧の湖(廃洋館側)――


影狼「ッ……流石にあんな攻撃を受けると」

わかさぎ姫「傷の回復に時間が……」


速魚「傷ついたかたは私の血をどうぞすすってください。傷が治りますよー」


弁々「ああー立ちどころに治ったーたりらりらー」

八橋「よかったねーベーンベーおねーちゃん~」


雷鼓「あいつら……立ちどころに頭も軽くなってない?」

チルノ「頭が……。大変だ、あたいがバカになった気がする」

ミスティア「それはギャグでいってるの?」

リグル「そもそも妖精ならどんな怪我をしても問題ないだろうに」

ルーミア「バカになって鳥目になってしまった……周りが良く見えない……」


大妖精(いっそのこと私も馬鹿になったほうがチルノちゃん達の間に溶け込めそうな気がしてきた……)


リリカ「酷いやつらだったね。夜の音楽祭を台無しにするなんて」

ルナサ「ああ、……そうだ。さっきの鬼はこの上無く下種な旋律を奏でて……悦に入っていた……」

メルラン「あんなのに掻き乱されて悔しい。やり返したいけど、私たちに出来ることなんて」


速魚「みんなで歌を歌いましょう」

わかさぎ姫「速魚さん」

速魚「歌は世界を救うんですよー。私たちの歌をみんなのこころに届けるんです」

速魚「きっと、楽しいですよー」

チルノ「その通りだ!」


大妖精「チルノちゃん」

チルノ「あたいたちはサイキョーだが――さっきの奴らは他の先客が相手をしているんだ」

チルノ「だから今回は特別に見逃そう。だが、それではあたいたちの気が収まらない」

チルノ「だからバカになってバカ騒ぎするのさ! そして奴らの気力をぶちのめすんだ!」


ルナサ「バカみたいなことを言うね。そんなことをしたって意味が……」


弁々「意味なんかー考えないー!」

八橋「それが道具の真骨頂~動き出したら止まらない~!」


雷鼓「何もしないで傍観するより何でもいいからやった方がいいんじゃないの? 道具だろうが妖怪だろうが何者だろうがね」

ルナサ「……」

雷鼓「道具どころの話じゃない」

雷鼓「この幻想郷そのものを玩具のように弄ぶ愚かな侵略者に」

雷鼓「私たちの反戦歌(レジスタンス)を披露しようじゃないか――!」

ルナサ「……。そうだね。やるだけ、やってみようか」

メルラン「私も賛成」

リリカ「お~!」


チルノ「よーし! あたいが指揮を取ろう」

チルノ「あたいにふさわしいサイキョーな曲をぶっ放とうじゃないか!」

速魚「サイキョーですかー。んーと、えーと……――あ、ピッタリな曲を思い出しました」

速魚「みんなで一緒に歌いましょう。バリバリ最強No.1♪」


――博麗神社の裏山――


ピシピシピシ……ズザァッ!! 


――シュタッ


ぬ~べ~「――ここが、地上か」

《のんびり景色を眺めている場合じゃないよー。どうだい、パワーアップみたいな実感ある?》

ぬ~べ~「ああ、大アリさ」


ドボドボドボドボドボーーゴクゴク!!


ぬ~べ~「ぷっは~! 今ならいくら酒を呑んでも酔う気がしないぞ~!」

《ははは! 酒は異変が片付いてからいくらでも呑めるよー》


スタッ


ぬ~べ~「――!」


霊夢「あらあら、萃香じゃないの。ちょっと見ないうちに成人男性みたいになっちゃって」

《よ、霊夢。もう身体は大丈夫なわけ?》

霊夢「誰か知らないけど、応急手当をしていてくれたみたいね。たぶん針妙丸かな?」

霊夢「眼が醒めたら何か変な蟲(モノ)挿れられそうになってたから、その場にいた連中を全員退治してきたのよ」

《ふーん》

ぬ~べ~「君、ちょっと上着を脱いでくれないか」

霊夢「えー、出会っていきなりセクハラ発言?」

ぬ~べ~「すぐにその傷を完治させる。傷周りに幽かに残留する妖気で分かる――君は、絶鬼という青鬼に傷付けられたんだな?」

霊夢「あら、ご名答。あれの知り合いだったの。でも」

霊夢「貴方は悪いヤツじゃない――私のカンがそう言っているわ。あまつさえ萃香が手を貸しているんですもの」


スルスルスル……ぱさり 


霊夢「あんまり痛くしないでよ。見知らぬゲジ眉のお医者さん」

ぬ~べ~「俺は医者ではなくて外の世界の小学校の教師だがな。まあ、いろんなことができるぞ。この身に宿る霊能力を使ってな」

ぬ~べ~「ヒーリングも決して不可能じゃない――俺も子どもの頃、恩師によく手当てしてもらったものだよ」

霊夢「恩師ねぇ」

《おまけに私がついている限り百万人力だよ~!》




ぬ~べ~(絶鬼よ。お前はあの時、俺達の見せた“人間の絆”の前に敗れた)

ぬ~べ~(二度と這い上がれぬ無間地獄に突き落とされたあの時も、そして今になっても)

ぬ~べ~(――お前は、何も変わっていないのか?)

ぬ~べ~(人の身体を傷つけ、人の心を踏みにじり、全てのものを破壊し尽くそうとするのか?)

《……》

ぬ~べ~(お前が変わろうとしないのならば――それならば、俺は)




ぬ~べ~・萃香(《    お前を 絶対に許さないからな    》)




ポォォォォォォォォォォォォォ




                                    (つづく)

――中有の道(上空)――


覇鬼「うがーははははっ!」

フラン「アハハハハッ!」




ちゅど~~~~~~~~~ん!!




レミリア「ッ」

ぬえ「迂闊に近づけないわね。あいつらっを引き離さない限り……このままだと押し負けてしまう」

レミリア「ふん。私はともかく、あんたが奴らに手出しする理由なんてないでしょ」

レミリア「目障りだから邪魔しないでくれないかしら」

ぬえ「私は見ての通り闇に紛れているから目障りではないと思うけれど」




フラン「ねぇ覇鬼お兄様。お姉様(あいつ)目障りだからもう他所に行きましょ。ふたりのことも探さなきゃ」

覇鬼「うが? お前は……姉(あいつ)のことが目障り……うが?」

フラン「だってあいつ、私の気持ちをこれっぽっちも理解しようとしないんだもの。ず~っと私を閉じ込めて私の自由を奪い続けて」

フラン「私――あんな奴大っ嫌い」

覇鬼「……」




レミリア(あいつ……私の本当の気持ちも知らないで!)

ぬえ(姉へのあてつけとして、あの赤鬼と擬似的な兄妹関係を形成しているのか?)

ぬえ(まあ、ともかくこれ以上元気に暴れ回るのを抑えつけないと……背後に聳え立つ山が崩されたら……)

ぬえ「ねえ、これから――」

レミリア「この先には三途の川が流れているわね。こいつらを向こうまで誘導するわよ、折角だから手伝わせてあげるわ」

ぬえ「……」

レミリア「お遊びは終いだ。子どもはおうちに帰る時間よ」


ギュルンッ


レミリア「神槍――スピア・ザ・グンニグル」


――妖怪の山――


ジ――――


椛「……」

はたて「どう、椛。私たちも参戦した方がよさそうかな?」

椛「微妙なところですねぇ……」

椛「あ、そういえば文様はどちらに?」

はたて「博麗の巫女のことが心配だからって、仕事をほっぽり出して神社に行っちゃったわ」

はたて「まあ、山の警備は差し当たって私が指揮をとるから問題ないし」

椛「……そうですか」


ヴ……ン……


はたて「あれー、画像検索しても出てこないわね」

椛「何を調べているので?」

はたて「『守矢神社 現在の場所』ってキーワード入れてるんだけど……1枚も出てこないのよ」


――博麗神社の裏山――


霊夢「どうもありがと。さてと――あの悪魔(ゼッキ)を叩き潰しにいくとするか!」

ぬ~べ~「お、おい! ちょっと待て、無理をするな」

霊夢「無理?」

ぬ~べ~「あいつは危険だ。君を躊躇なく傷付けたということは……あいつは以前と何も変わっていない……ということなんだろう」

ぬ~べ~「あまりに残虐すぎる相手だ。年端もいかぬ少女である君があいつに立ち向かう姿を考えると」

ぬ~べ~「重ねてしまうんだよ……あのイタコギャルの中学生と……」

霊夢「イタコのギャル?」

ぬ~べ~「君はここに残ってくれ。何しろ君はこの神社の」

霊夢「博麗神社を護る楽園の巫女・博麗霊夢――でも私の本職はむしろ妖怪退治なのよ」

霊夢「貴方が重ねている人物と、私とは全くの別物なんだから。心配されるのはお門違いよ」

霊夢「私は二度は負けない。それに異変首謀者はれっきとした幻想郷の住人なんだから」

ぬ~べ~「何だって?」

《天人くずれの比那名居天子。天界から降りてきた超問題児。最近は里で占いをやったりして割に大人しくしてたのに》

《天災は忘れたころにやって来るんだねぇ。ま、前回起こした異変はそんなり昔ってわけじゃないけどさ》

ぬ~べ~「天人……」

霊夢「私が向かうのがスジっていうものよ。まあでも、協力してくれるっていうのなら、敢えて断るつもりはないけれどね」


スッ……キラキラキラキラ


ぬ~べ~「! 俺の霊水晶――」

霊夢「貴方が幻想郷で体験してきた出来事をちゃちゃっと見せてもらうわね。時間に余裕もないし」

霊夢「私には霊気を操る程度の能力もあるのよ。だから、いわゆる霊能力者っていう範疇にも入ってくると思うわ」

ぬ~べ~「……」

霊夢「それで?」

ぬ~べ~「ん?」

霊夢「貴方の名前は? 先に私が名乗ったのだから、そっちも名乗ってくれないとね」

ぬ~べ~「そうだな。俺の名前は鵺野鳴介。さっき言った通り小学校で霊能力教師をやっている」

ぬ~べ~「ちなみにあだ名は――」

霊夢「鵺野鳴介――じゃ、鳴介さんでいいわね」

ぬ~べ~「え……?」

霊夢「? 何か問題ある?」

ぬ~べ~「い、いや……別に問題はないが」

《おいおーい、時間の浪費は後でやりなさいな》

霊夢「時間の浪費? 違うわよ、あんたがみんなを萃めてくるのを待ってるんじゃない」

霊夢「あの貧乏神をぼちぼち神社から追放するためにね」

ぬ~べ~「……。霊夢くんよ、君は……貧乏神に取り憑かれていたのか……?」

霊夢「ええそうよ? 何? 私が見るからに貧相に見えるとでも言いたげだけど。悪かったわね」

ぬ~べ~「違う違う! 何と言うか親近感が」

《うーん、私が萃めなくても――みんなようやく自然と萃まって来るみたいだよ》




ザッ


早苗「霊夢さーん!」

お燐「助っ人外来人達を連れてきたよー」

ゆきめ「鵺野先生~!」

華扇(やっと追い付いた……あれだけ体力削られちゃうと動き回るのも楽じゃないわね)

華扇(あら? ――あの妖狐はどこに)


霊夢「お燐に早苗……仙人も。ついでにどっかの風俗嬢?」

ゆきめ「だ、誰がフーゾクよ! んが、あらがるか!」

霊夢「は?」

ぬ~べ~「おーい、微妙な方言になってるぞ。ん、向こうからも誰か……」

文「霊夢さーん! 心配して見に来ちゃいましたよ、山の方は、はたてたちに任せて――って!?」

《やっほー、また職務怠慢かね天狗君》

文「何やってるんですか……。もしかして封印でもされたので? この人は頼光さんの子孫とか? 全然容貌に面影がありませんけど」

ぬ~べ~「いやいやいや」

早苗「あ、静葉様と穣子様!」


トコトコ


静葉「おーい、博麗の巫女。聞いたわよ、火事になったんだって? 火事の御見舞に純米酒を持って来たわよ」

穣子「お芋の一件はもう許してあげるわ。一緒に神社の再建を手伝ってもいいよ!」


霊夢「あんたたち……」

華扇「……って!? 博麗神社が燃えたの!? 何てこと!!」

お燐(あれ、言って無かったっけ……うーん、まあいいか)


ザッ!


咲夜「あらら、何なのこの人だかりは? と言っても純粋な人間はほぼ居ない見たいだけれどね」


タッ!


魔理沙「おーい霊夢、神社のほうが気になってきたから悪霊は死神たちに任せてこっちに来たぜ。って今日も賑やかだなオイ」

シュタッ!


アリス「鬼が暴れているってこの子から聞いて妖怪退治の専門家は何やってんのかって心配になって来てみたのだけど……」

メディ「うわ、人間がいる。毒盛らなきゃ。何ていうか使命感的に」

ぬ~べ~「あー、何者だか知らんが後にしてくれ。今は取り込み中なんで……」

アリス「そうよメディ、遊んでいる場合じゃないでしょ。……って、貴方は誰?」

ぬ~べ~・萃香「ああ、俺は《私だっ!》」

アリス「な!?」

ぬ~べ~・萃香「《こんにちはー、孤独な魔法使いく~ん! 今夜も自作のお人形さんで自分を慰めていたのかい? パクパク》」

アリス「……なんだ、腹話術じゃない」


ギロリ


アリス「ち、ちょっと何……今私に向かって何て言った? 早速喧嘩売ってるの……?」

ぬ~べ~「お、俺が言ったんじゃないんですよー本当ですよー……ハハハ」


ゆきめ「うわー何これ、どんどんいろんな妖怪があつまってくる」

ぬ~べ~「萃まっているのは妖怪だけじゃなさそうだがな」

魔理沙「ああ、ここから目と鼻の先に博麗神社があってだな。いつも人外で賑わってるんだ」

ゆきめ「ほっとんど何の妖怪かはサッパリ分かんないけど。あなたは何の妖怪?」

魔理沙「いやいや、私は生粋の人間だぜ……。妖怪みたいなのは霊夢や咲夜のほうだ」

咲夜「霊夢はともかく私に妖怪っぽい振る舞いなんて微塵もないでしょう?」


ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

霊夢(まったくもう。皆もうちょっと早く萃まって来てたらラクだったってのにね。まあ、仕方ないか)

霊夢(どうやら、流れがこっち側に向いてきたみたいだわ)

ぬ~べ~(こりゃあ、凄いな)

《どうだ? これが本場の泣く子も笑う百鬼夜行よ》

ぬ~べ~(ああ、驚いたよ。実のところ、君のチカラも幾分かは作用しているんだろうが)

ぬ~べ~(萃まってくるおおもとの理由は、彼女に妖怪たちを惹き付ける何かがあるからだろう)

ぬ~べ~(それは性格的なものなのか、体質的なものなのか、はたまた他の魅力があるのか)

ぬ~べ~(会ったばかりの俺には、わかりゃしないけどな)

《これこれ、茶化すようなことを言うでない。そういうのをぜーんぶひっくるめての――博麗霊夢なんだからさ》

ぬ~べ~(――ああ)


トコトコ


霊夢「あら。あんたも戻って来たのね」

雛「ええ」

雛「溜め込んだのを全部あげちゃったはいいけど……何だか、かえって手持無沙汰になったのよねぇ」

雛「やっぱり、貧乏神さんから私の厄を返してもらおうと思ってね!」


――博麗神社・上空――


正邪(すっかり大きくなられましたね、針妙丸様)

針妙丸(正邪は妙に素直になったね。どういう風の吹きまわし?)

座敷童子「にこにこ」


正邪(そりゃあ、私だって、勝手に幻想郷を壊されたら困る――ここはいずれ私がレジスタンスを達成すべき場所)

針妙丸(うん。理由はともかく――私たちを始めここに棲む皆の心の砦を決して壊されるわけにはいかない!)

座敷童子「こくりこくり」


正邪「“弱小である我々にできることなど、何一つない!”」

針妙丸「“遠い先祖たる一寸法師のように鬼退治をするなんて、無力な私には到底出来っこない!”」


あぎょうさん「    う    そ    」

針妙丸(いざ行かん、正邪や! この場限りのレジスタンス――それは儚い夢なれど)

正邪(私たちが今得たチカラは紛れもなくホンモノだ――この現(うつつ)のチカラ、無法者共に見せつけてやるのです!!)


ビューン!!


座敷童子「(がんばって)」

あぎょうさん「……」


ヒュゥ


玉藻(座敷童子にあぎょうさんか)

玉藻(座敷や蔵に棲む神とも云われる精霊的な存在に、かつて“夜行”と呼ばれた鬼神の系譜に連なる謎かけ妖怪の登場)

玉藻(たまたま現れたという可能性もあるが、この異界に存在する霊能力者が降霊術を用いて呼び寄せたのかもしれない)

玉藻(博麗の巫女とやらが、裏山(あそこ)に確かにいるのだからな)


――博麗神社跡――


ヒュォォォォォォォォォォ


藍「そ、そんな……」

藍「博麗神社がこんなことに……なっていたとは……」


藍(これほど事態は深刻化しているというのに……)

藍(それなのに)

藍(それなのに還って来られないというのか、紫様は)

藍(いいや、そんなはずはない。そんなはずはないのなら)

藍(紫様の身に何かが起きた――)

藍(もうその他に考えられる原因はないだろう――?)

藍(あるいはあの紫様が)

藍(このなく愛する幻想郷を……捨てられたとでも言うのか)

藍(いやありえない。そんなことがあるはずない)

藍(……。長年仕えて来ていながら紫様のお考えになっていることを、私はどこまで察せられるようになっている?)

藍(今になっても……あのお方の掴みどころのない胸の内を、私が垣間見ることなんて……)

藍「紫様は……」


ジャリ


玉藻「“紫様は”」

藍「――!」

玉藻「“二度と幻想郷に還って来なかった”」


あぎょうさん「    う    そ    」

座敷童子「――♪」


ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ


貧乏神(おらぁ……だんだんここに居づらくなってきたなぁ……)




ピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシ


藍(! ――空間にいびつな亀裂が)

玉藻「“あぎょうさんは、今幻想郷(ここ)にいる”」

あぎょうさん「    う    そ    」


スゥー……


藍「消えたか――今の妖怪は」

玉藻「ウソからマコトを出す程度の能力――とでも言ったらいいか」

玉藻「何せ、型破りなことをやってのけるモノだ。もし敵対者の手に渡れば極めて厄介」

藍「だから、すぐに外へお帰り頂いたわけか。適切な判断だと思うよ――紫様がお戻りになれば大結界の問題は確実に収拾できる」

玉藻(このゆりかごをずっと安定的に維持したきた賢者と言われる大妖怪。それにまみえることができるな)

藍「お前のほうの目的は達成できたのか?」

玉藻「――ええ、勿論。だから私はもうフリーですよ」

玉藻「そして、私が出るまでもなく内的な異変は鵺野先生や酒呑童子、博麗の巫女たちが解決することでしょう」

藍「……」

玉藻「だから今度はあなたに同行させてもらっても構いませんか?」

藍「へぇ、それはまたどうして?」

玉藻「まだ会ってもいないが――八雲紫(スキマ妖怪)という存在に少々興味を抱きましてね」

藍「なんだ、紫様の式にでもなる腹積もりか」

玉藻「誰が式になどなるものか。個を失った狐に如何程の存在意義があると言うのです」

藍「おいおい、私の存在意義そのものを全否定か?」

玉藻「いえいえ、意義がないとは言ってません」

藍「まあ好きにしたらいいよ――ただし、来るなら来るで結界の修復を手伝ってもらうからな」

玉藻「ふ、その程度のことは織り込み済み。少しは手伝って差し上げましょう」



ピシシシシシシシシシシシシシシシシ……パカァ――……




座敷童子「!?」

貧乏神「なんだぁ? 狐共がどこぞに消えてしもうたぞい」

ゾロゾロ……


華扇「こ、これは……酷いわ。敷地一帯が滅茶苦茶じゃない。早速修復しないと」

咲夜「……よくぞここまで見事に焼き尽くされたものね。外来妖怪が押し寄せてくる現状にもこれで納得」

魔理沙「本当は上空で跳び回りたいとこなんだが……ま、役割分担に従ってやるよ」

アリス「ミニ八卦炉にキズが入っちゃった上に箒も壊されて手に怪我も負ってるんだから……無理しちゃダメよ」

魔理沙「ああ、分かってるさ」


ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ


魔理沙「よーし! 霊夢達が闘ってる間に、こっちはこっちでやれることをやるぜ!」


\お―――――――――――――――ッ!!!!/




(第4話:震える天空砕ける大地――有頂天の天人くずれと地獄から来た最凶の鬼の巻<後編>・終)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

[XXXX+α年?月?日 AM02:02:19]


<信州北安曇郡白馬村の某所にて>




枕返し「ギャアアアアア!?」

クダ狐「ガツガツガツガツ」


ズズズズズズズズズズズズズズ……




いずな「これで良かったの?」

蓮子「これで良かったのよ」

いずな「枕返しに見せられていた夢から醒めたら……幻想(ゆめ)の世界に還っちゃうだなんてね。皮肉な話だよ」

蓮子「枕返しという妖怪の能力が並行世界の構築であると解釈するならば」

蓮子「私たちはパラレルワールドの存在をこの目で観測することに成功したのよね」

いずな「うーん、まあそういうことか」

蓮子「並行世界の存在を肯定する理論的根拠の一つとして挙げられる超弦理論の複数のヴァージョン――」

いずな「タンマ……イミフだし頭痛くなるから私に語らないでくれない? 専門外だし」

蓮子「そう? 面白いのにー」

いずな「それよりさ蓮子、本当に平気なのかよ?」

いずな「あんたの相棒、もう二度と人間界(こっち)に還って来ないかも知れないのよ?」

蓮子「いいえ、必ず還ってくるわよ」

蓮子「少なくともどこかの世界線で。あの一線を越えた物凄く気持ちの悪い能力は、いくらでも応用できるに違いないわ」

いずな「……ま、それもそうか」

いずな「境界だなんて曖昧なものを操らなくても、陽神の術とか使ってフツーに現れそうでもあるけどさ」

蓮子「あれって一種の自己像幻視ね。脳の側頭葉と頭頂葉の境界領域――側頭頭頂接合部――を操ることができればきっと可能だと思うわ」

いずな「わからん……。分身って言えばいいでしょ分身って。気を練って作り出すドッペルゲンガー的なヤツって」


蓮子「それに、うちのサークルにはめぐみも居るんだから」

めぐみ「♪」


ニコッ


いずな「いいの~? 霊能力者霊(サイコゴースト)じゃまんま幽霊部員じゃん」

蓮子「いいの。その方がいざという時に頼りになるんだから」

いずな「墓とか暴いちゃダメだよホント……この世には目には見えない闇の住人達が数多漂っているんだから」

いずな「奴らは時として牙を剥き――」

蓮子「それは置いといて。貴女は夢と現には明確な境界が存在すると思う?」

いずな「……有る人には有るし無い人には無い、人によるよ。でも夢と現の区別がちゃんと付けられなくなった人間は精神的に脆くなる」

いずな「――そういう弱った人間の心のスキマに入り込むのが妖(アヤカシ)なのさ」


ヒョコ


クダ狐「フア~ア」

蓮子「それじゃあ、最後にもう一つ質問してもいいかしら?」

蓮子「――貴女は、妖怪と人間のあいだに明確な境界が存在すると思う?」

いずな「それはパス」

いずな「直接的な答えにはなんないと思うけど――人の心の働きが妖怪を作り出すってことは確かだろうね」

蓮子「そう」

蓮子「じゃあ、この話はひと段落置きましょう。さて、貴女が気になっていた超対称性を持つ弦(ひも)についてもう一度判り易く説明――」

いずな「はい結構~! 私ヒモ男なんかにキョーミないから!」

蓮子「だからそういうひもじゃないんだって。でもヒモ男もひもで出来ていることは確かよ」

めぐみ「?」

いずな「どっちにしろ貧乏学生にたかってるほど私はヒマじゃないのさ。もっとお金になる客を見つけないと商売上がったりだもん」

いずな「――じゃね。私はそろそろ東京に帰るから。また迷ったら私のところに来なよ」

蓮子「そうね、実家に帰ったらまたクダ狐に導いてもらうわ。勿論めぐみと――」

蓮子「それから、メリーも一緒にね」

めぐみ「うん」

いずな「そうだね。またいつか4人で会えたら会おう――どこかの並行世界で」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――童守小学校――




いずな「うう~ん……、……はっ!!?」


ガタッ!


いずな(ど、どこだここは!? ……って、何だ童守小じゃないか)

いずな(夢……だったのか。今のは……)

いずな(夢の中にいた私は……今の私……じゃなかったと思う……たぶん)

いずな(いや、そもそもあれは本当に私だったのか……?)

いずな(でもって私と一緒にいたやつらは……)


いずな「あれー、よく思い出せないな……誰だっけ?」

いずな「顔も名前も……ぼやけたように思い出せないな……」

紫「それは予知夢かもしれないし、そうでもないかも知れないわねぇ」

いずな「んなッ!!!?」


いずな「強い妖気!? 妖怪かよ!! ――悪霊退散ッ!!!」


ボシュッ パァァァァァァン!!


いずな「……やったか?」

紫「やってない」

ゴツンッ


いずな「痛ったああああッ!?」

紫「たまに勘違いされるんだけど、“程度の能力”っていうのはあくまで自己申告制なのよ」

紫「私の場合、一線を越えた物凄く気持悪い能力のほうが注目されがちだけど」

紫「妖怪としてそこそこの身体能力を持っているし、人間には到底真似できない体術だって使えるの」

いずな「……くっ」

紫「まだまだ未熟な現在(いま)の貴女(いずな)じゃ、私の手の平から飛び出すこともままならない」

いずな「!? ……な、何で私の名前を……知ってるんだ」

紫「何でって。それは当然――」


ニコリ


紫「――私たちは友達になったからよ」

いずな「――!?」

紫「“友達になった”って表現だと貴女にとっては過去の出来事のように取れるから語弊があるわね。でも、現在の私の視点からは“友達になった”と表現した方がしっくりとくるの」

いずな「意味わかんないこと言うな!!」


いずな「私はお前のようなバリバリ妖しいオバサン妖怪なんか全っ然知らないよ!!」


紫「……酷いわあ、そんなこと言うなんて」

紫「むこうじゃ貴女の方が少しオバサンだったわよ。第一私は紛れもなく少女なのだけれど、ねえ」

いずな「はあ!?」

紫「それから美神令子並にお金に執着するのは止めなさい。見返りを求めずに気丈に振る舞うのが貴女のいいところなんだから」

いずな「誰だよそれ? ていうかー、さっきから何知った風な口聞いてんだ!」

紫「もうちょっと大人しく話を聞けないの?」


紫「……貴女がかつての葉月いずなじゃなかったら、肝臓でも引き抜いた上で拉致していたところよ? 凶悪な妖怪の餌にするためにね」

いずな「妖怪の……エサだとっ!? あ、貴様さては妖怪・紫ババアだなっ!!!」


ナデナデ


紫「う、ふふ、ふふふ……」

紫「お喋りはこれくらいにしましょ。私も暇じゃないのよね――早く、夢の中で忘れていた大事な幻想郷(こども)を助けにいかなくちゃならないのよ」

いずな「!? 子どもって――」


ギギギギギギ……


いずな(な! ……か、身体が……動かない……)

紫「このまま放っておいたら、私の幻想郷(こども)は死に」

紫「貴女の大切な恩師(せんせい)たちも神隠しに遭ったまま、二度と還って来ない未来になっちゃうんだから」

いずな(!!?)

紫「どうやらまだ、覆水を盆に返せそうだから良かったわ」


紫「“枕をひっくり返された時点”じゃなくて、“この時点”で夢が醒めたのはちょっと不思議ではあるけれど」


紫「それはそれで良いのかもね。松原めぐみがああいう形で救済されたという過去の出来事は、過去のまま変わらないことになるのだから」

いずな(私のセンセイって……まさか……?)

いずな(そうだった! あの0(零)能力者が行方不明になったって聞いて、ここにすっ飛んで来たんだった!!)

紫「だから、もういくわ。今後、貴女と出逢うことはもう無いでしょう――“八雲紫(わたし)”はね」

紫「またね、いずな」

紫「再び縁が巡ってくるならば――秘封倶楽部で」




ニュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルン




いずな「……」




シ――――――――――――――――――――――ン




いずな(ひふうクラブ……だって……?)

いずな(何だったんだよ……今の超ヘンな妖怪は……)

いずな(あ! ボーってしてる場合じゃない)


ピョコッ


くだ狐「キュー!」


いずな「0能力者たちがどっか行っちまった原因を探るんだ!」

いずな(あんたにはまだ教えて欲しいことが山ほどあるんだよ。トンズラされて堪るかっ!)



                                 (第4.5話:境界線上の枕返し の巻・終)

○紫がなかなか登場しなかった理由として考えていた案


案その1:普通に長い仮眠をしてた

案その2:チャブクロである歴史を改変しようとしていた

案その3:異次元の魔物に誘われてカオスな異次元空間を楽しんでいた

案その4:仮眠をしている間に枕をひっくり返されて人間(=メリー)になった夢(=並行世界)を見ていた

案その5:ずっと様子見をしていた(霊夢がこの大規模な異変をどういう方法で解決するのかを試し、本当に切羽詰まったら自分が手を出すつもりだった)


☆いろいろ考えましたが、ここまで切羽詰まっててまだ出てこないのなら1、3、5は無いなとカット。2は非常にややこしくなるのであきらめて、結局4を採用した次第。


☆「なぜ枕返しによって紫は人間になったのか?」という理由は突きつめていません。いわゆる「紫=マエリベリー・ハーン説」に今回は乗っかってみた感じです。

>>176を書いていたころと比べると話全体的にかなり路線変更をしてしまいました。辻褄の合わない部分があったらごめんなさい。




次回は日曜日の更新で 最終話「 百鬼夜行――そして境界線の向こう側へ の巻」

ここまで大風呂敷を広げてしまったのでまた上中下編に分けることになると思います。ぬ~べ~側の新たな登場人物は今回のいずなで打ち止め、東方側は主なキャラは面霊気以外全員出したはず。


――冥界(白玉楼)――


妖夢「あれ、私ってもう出番なさそうだと思ってたのですが?」

幽々子「きっと妖夢の活躍を期待している人が沢山いるからよ。貴女の春画を描いたり読んだりするような奇特な人間たちが」

妖夢「そうですよね!」

赤蛮奇「それでいいの?」

 
以津真天「いつまで! いつまで! いつまで! いつまで! いつまで! いつまで! いつまで!」


青娥「あらあら、西行妖とやらの周りを怪鳥が飛びまわってますわねぇ」

妖夢「ちょっと!? いきなり現れて変な妖怪をけしかけないでくれる!?」

芳香「うーらーめーしーやー」

妖夢「うわ幽霊! ……ってただのキョンシーじゃないの」


以津真天「いつまで! いつまで! いつまで! いつまで! いつまで! いつまで! いつまで!」


赤蛮奇「何よこいつらは……『いつまで』ってどういう意味なの?」

芳香「いつまでも変わることなく~部下で……いよう~」

青娥「誰かを追い求めるのもいいけれど、誰かに追われる身なのも悪くはないもの」

妖夢「幽々子様、あの怪鳥の言う『いつまで』とは一体何のことなのでしょう?」

幽々子「……。妖夢は知りたい? あの妖怪鳥が何を訴えかけているのか」

妖夢「……幽々子様」

幽々子「以津真天曰く、『いつまで死――』」




ニュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルン!!!


シ――――ン




芳香「……」

赤蛮奇(今のは正真正銘あのスキマの仕業だね。怪鳥を全部まとめて絡め捕っちまった)

青娥「ストーカーはお帰りなのね。さ、お家に帰りましょ――私の腐って可愛い下僕(よしか)」


ニコッ


芳香「ほいよー!」


ズズーンッ!!


妖夢「こらー! うちの庭に穴開けて行かないでくれないっ!?」


赤蛮奇「今度こそ一件落着?」

幽々子「そうね。一件はまもなく落着するわ――紫が無事に還って来たようだし」


――永遠亭――


鈴仙「……ぁ、あぅ……あっ……」




妹紅「燃え尽きたって顔で放心状態ね、彼女。……何かあったの?」

輝夜「永琳や、鈴仙は何を落ち込んでいるの?」

永琳「ああ、ちょっとてゐの悪戯で実験動物にされちゃってね」


ウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネ


永琳「このフラスコの中の寄生虫をお腹の中で養殖しちゃったのよ」

妹紅「これはこれは……蠱毒(こどく)にでも使えそうな蟲達ねぇ」

輝夜「てゐに持たせた薬の原料はこれだったか。月の兎の腹の中でここまで成長できたの? 興味深いわ」

永琳「そんなことより、上空を元気に飛び交っている小娘たちの様子はどうなの?」

輝夜「月に届くどころか、間もなく地におちよう。あるいは地底に堕ちるか、地獄に落ちるか」

妹紅「できれば鬼兄弟は幻想郷からお帰り頂きたいわね。あの大妖怪がその気になれば何とかできるでしょうに」

輝夜「確かに何とか出来るでしょうけど。それでも、本来あれらを片付けるべき者は別にいるのだから」

永琳「やるべき者がやり果せられる程度のことなら、其の儘やらせるべきか。ふふ、どうやら私の出る幕はないようね」

永琳「月の民が持つ内なる力に作用させる能力――折角だからお披露目しようかと思ってたのに」


――香霖堂(魔法の森の入口付近)――


霖之助「あのねぇ、君……今何時だと思ってるの」

霖之助「表の看板を見なかったかい? 営業時間外なんだよ」


ガザゴソガザゴソ


美樹「え~!」

美樹「だって鬼の手異変が解決したら即刻人間界に送り還されちゃいそうだもの。今のうちにお土産をゲットしたりガサ入れとかしておきたいし」

霖之助「鬼の手異変?」

霖之助(送り還すって、もしや外界の人間なのか? こんな時間に1人で魔法の森の近くでうろうろしているとは)

美樹「あ、命名権は私にあるから新聞の記事とかにするから使用料払ってね」

霖之助「新聞の話なら他でもっと適任な相手にしてくれないかな。それと、いきなりガサ入れって……」


ゴソゴソゴソゴソゴソゴソ


美樹「よっこらせっと――そんじゃ、お兄さん。この秘密道具の数々、ありがたく頂戴するわ」

美樹「お代は……んーと人里の阿求さんって人にツケ回しといて。私あの人と親友だから」

霖之助(見え透いた嘘っぽいが、人里に知り合いがいるのなら放っておいても安心だな)

霖之助「いいよいいよ、そんなことは。ほとんどの商品が拾いものだし、この店も半分は趣味でやっているようなものだから」

美樹「あらそうなの? お兄サマったら太っ腹~! 美樹ちゃんサービスしちゃうわ」

霖之助「何のサービスだい……いいから早くお引き取り願おう」

美樹「それではまた今度!」


ガラガラピシャッ


霖之助「やれやれ、騒々しい客だったな」


――魔法の森の一歩手前――


美樹「この辺でばらかすか」


ゴソゴソゴソゴソゴソゴソゴソゴソ


美樹「何か、使えそうなもんないかなー。ぬ~べ~がパワーアップできそうな魔法の道具とか」

美樹「……、……思ってたよりあんまりいいの無さそうね。ガラクタっぽいのが多いし」


シュタッ


文「こんな所で何やってんですかー、そこのろくろ首さん」

美樹「ん、今度は誰?」

文「って、ちょっとは絶叫とかしてくださいよ。こんな真っ暗闇の中、得体の知れない妖怪に見咎められてるんですよ貴女」

美樹「でも怖くないし」

文「物腰柔らかに接するっていうのが私のモットーですからね」




\WRYYYYYYYYYYYYY――――――――ッ/

\日出處天子致書日沒處天子無恙云云――――――ッ/


ドォォォォォォォォォォォォォォン!!




美樹「! 今の地響きは何よ、結構近かったけど!?」

文「何って……貴女も状況は大方理解してるでしょ?」

ガシッ


美樹「え、ちょっと――!」

文「しっかり掴まっていてくださいよ~。振り落とされても補償はありませんので。高度をもう少し上げます」


ギュゥゥゥゥゥゥゥン


美樹「わっ! わっ! わっ!」

文「貴女はたぶん鵺野さんの生徒の細川美樹さんとやらですね」

文「さっき風の便りで、厳戒態勢の人里の警備網を掻い潜って脱走したグラマラスな小学生の話を小耳に挟みましてね」

美樹「ぬ~べ~のこと知ってんの? じゃ、私の安全は確保されたようね、一安心だわ」

文「せっかく幻想郷にお越しいただいたのですから、戦地に赴く新聞記者の体験でもさせてあげますよ。貴女は好奇心が強そうなので」

美樹「なな、ち、ちょっとぉー!? これ高さが高過ぎよ~!」




ビュ――――ン


――幻想郷(上空)――


ヒュォォォォォォォォォォ


霊夢「あのブンブン飛んでるのは蚊じゃなくて文ね」

ぬ~べ~「気のせいか……俺の生徒が約一名くっついているように見えるが……気のせいじゃなさそうだ。ハァー」

早苗「むしろ文さんがついていたら安心です。私たちは心おきなく妖怪退治に勤しみましょう」

ゆきめ「一度闘ったことのある鵺野先生や私は兎も角、あなたたち大丈夫? あの鬼が本気を出した時の強さは――」

《大丈夫大丈夫。力を合わせて斃すとしようじゃないか――我々だけではない、幻想郷の住人(みんな)の力をね》

霊夢「魔法の森の上空で暴れている天子と、人里の真上で今のところ足止めされている絶鬼」

早苗「まずはそのお2人ですね。ぎったんぎったんにしてあげましょう!」


ぬ~べ~「覇鬼と、さっきのメイドさんが言ってた悪魔の妹については《現状ではそこまで急いで片付ける必要はない》」

《吸血鬼の姉や“パワーアップ”した天邪鬼と一寸法師の末裔も覇鬼側を止めに入っているようだし、しばらくは持つだろう》

ゆきめ「いっそ三途の川で溺れさせちゃえばいいのよ。妖怪の山を越えたところに誘導しているんでしょ?」

早苗「でも、川の上を普通に飛ばれたら溺れて頂けませんよ」

ゆきめ「あ、そっか」

ぬ~べ~「三途の川を渡れば彼岸があって、その先には新しい地獄があるそうだな?」

霊夢「フランドールは館の主が連れ戻せば済む話だけど、覇鬼とかいうのは最終的にどうするのかが問題よね」

ぬ~べ~「そりゃ、俺が再度封印する他には――」

霊夢「いっそ、新地獄に追いやって閻魔達に面倒見てもらったらいいんじゃない? 萃香、あんたも鬼なんだから是非曲直庁のお役人と掛け合ってみてよ」

ゆきめ「ぜ……えー何て?」


《うーん、それはちょっと。というかさー、このまま事態を放置しておいたら勝手に向こうから刺客が来るんじゃないの》

《お迎えを担当する地獄の鬼神長(殺し屋)さんが危険分子を始末する為に。前に水鬼鬼神長が某千人を殺しに現れたこともあったしねぇ》


ぬ~べ~「水鬼……というともしや、平安時代の豪族・藤原千方(ふじわらのちかた)が従えていたといわれる四鬼のうちの一鬼のことか?」

霊夢「鳴介さんって本当にこっち方面は詳しいわね。寺子屋の先生なんかも十分勤まると思うわ」

ぬ~べ~「はは、そうかな? まあ、並の人間に比べりゃゾウケイが深いってやつでな」


ゆきめ「あの女ぁ……初対面のクセにっ! 鵺野先生のコトを下の名前で……馴れ馴れしいったら……!」

早苗「ゆきめさんだってそう呼んだらいいじゃないですか」

ゆきめ「う、いやその……だって……」


ビューン!!


文「ちょっとそこの討伐隊の皆さん、何暢気に談笑してるんですか。早く戦闘シーンを激写したいんですけど」

美樹「そうよぬ~べ~たち、さっさと参戦しなさいよ。こっちは実況と解説役ってことでスタンバってるのに」

霊夢「あんたらの方がよっぽど暢気そうだけど――ま、ご要望に答えてあげるとしますか」

美樹「あ、広達は無事よ。ついでに克也とかも勝手にこっちに来てたみたいだけど、一緒に人里で大人しく保護されてるわ」

ぬ~べ~「……そうかそうか、それは魔理沙とか言う子から聞いたがな。まったくお前ら全員後でお説教だぞ。迷惑を掛けた人達にも頭を下げに行かなくちゃな」

ぬ~べ~「美樹、お前はここで何を言ってもあまり意味は成さないだろうから……とにかく天狗のお嬢さんに迷惑を掛けないようにな」


美樹「!」

文「ご心配なく」


ゆきめ「あ、見てよアレ!」

早苗「! 要石が魔法の森方面からこちら側へ接近中ですね!」

ぬ~べ~「……」

《腕がなるねぇ》

霊夢「行くわよーっ!」


ギュ――――――――――――――――――ン!!!


――霧の湖の上空――




要石「┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨」




絶鬼「ぐっ……」

天子「もう人型を解いちゃったの? だらしないわねぇ」

絶鬼「フン、相手がそこそこの手だれだったからね。『蚊虻牛羊を走らす』とはこのことだ」

天子「これこれ、そういう発言をするのは私のお役目よ?」

絶鬼「で、そっちはどうだったの? 結構ボロボロになってるようだけど」

天子「聖人はKOしたけど、仲間の道士や命蓮寺の妖怪僧たちの急襲に遭ったりしてね」

天子「一時退避の上、周りを見回したら貴方が危なそうだったから救いの手を差し伸べてあげた次第」

絶鬼「余計なお世話だ。ぼくが全力で行けば五月蠅いハエどもなど一瞬で消し飛んでいたさ」

天子「はたして余計なことなのかしら。仲間同士、持ちつ持たれつは基本じゃないの」

絶鬼「……仲間だと。形だけだろう――お互いに利用し合ってるだけだと」


天子「守るべきものがあり、徒党を組んで挑んでくる者達は実に勇ましい。それこそ死に物狂いって感じで面白いわ」

絶鬼「……」

天子「絶鬼も思わない? あっさりと叩き潰しちゃうよりも、こういう風に一進一退、苦戦を強いられる闘いのほうが尚更面白いと」

絶鬼「全てを破壊し阿鼻叫喚の地獄絵図を現出すること――それこそがぼくにとっての最高の面白さだ」


天子「では聞くけれど――世界を滅ぼし尽くして全てを無に帰してからは、貴方はどうするつもり?」

絶鬼「え?」

天子「幻想郷だけではない。月の裏世界も、人間界も、地獄も、はては宇宙の果てまでも破壊し尽くした後――すべてがマッサラになり畢わった世界の墓場で」

天子「絶鬼は何をするつもりなの?」

絶鬼「何を……って」


――命蓮寺の屋根の上――


諏訪子「あーあ、あの2人合流しちゃったよ。全盛期の頃の神力を発揮できないのがもどかしい」

幽香「巫女達がようやく駆け付けたわね。私たちはここで高みの見物でもしましょうか」

聖白蓮「物理的な高さはこちらの方が断然低いですが」

神子?「ふぉふぉふぉ、不良天人に完膚無きに倒されてしまったぞい」
 
諏訪子「道教の手先がやられたか」

幽香「あのお方は私たち四天王の中でも最阿呆」

聖白蓮「天人くずれ如きを相手に後塵を拝するとは、宗教家の面汚しですわ」


ザッ


神子「いやいや、敗れてはおらぬ。第一我々はいつから何の四天王になったのだ」

神子「それとそこの古狸、私に化けて茶化すのはやめよ」


ポンポコッ


マミゾウ「しかし、何故手を引いたのじゃ? 一気呵成で行けば何とかなったであろうに」

神子「私の仕事はもう終わりだ。後は時の流れに任せておけば良いわ」

幽香「無責任ですわねぇ」

神子「そうでもない。私は常に、相手の全てを見通した上で行動している」

聖白蓮「では、彼らの本質を見抜いた上で、あえて天人と青鬼を再び面と向かわせたとでも?」

神子「ああ。ほんの少しであっても構わない――あの悪鬼の残忍で冷酷な本質(せいかく)にヒビを入れるような」

神子「そういう化学反応が起きることを期待しての所為なのだよ」

聖白蓮「……」

マミゾウ「道士の考えることは判らぬ。儂にゃ無意味だと思うがのう」


諏訪子「えーと、早苗に博麗の巫女にさっきの雪女の娘に……あともうひとり人間がいるね」

幽香「特殊能力を持った人間なのかしら? それにしましても今夜は夜通し白夜のように明るいものですねぇ」

諏訪子「でも、明るさは闇に包まれているからこそ明々と映えている。闇に喰われた暁には」

幽香「いいえ、明けない夜などございませんわ」



                                       (つづく)


<EXボス戦・自機組(対戦相手は流動的になる可能性あり)>


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【 VS比那名居天子&絶鬼 】


――博麗霊夢

○空を飛ぶ程度の能力/博麗の巫女としての能力/霊気を操る程度の能力


――鵺野鳴介(ぬ~べ~)&伊吹萃香

○霊能力を駆使する程度の能力(仮)/密と疎を操る程度の能力/鬼としての能力


――東風谷早苗

○奇跡を起こす程度の能力/守矢の風祝としての能力


――ゆきめ

○凍気を操る程度の能力(仮)


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【 VS覇鬼&フランドール 】


――レミリア・スカーレット

●運命を操る程度の能力/吸血鬼としての能力


――封獣ぬえ

●正体を判らなくする程度の能力


――少名針妙丸

●打ち出の小槌を扱う程度の能力


――鬼人正邪
●何でもひっくり返す程度の能力


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実況・解説:射命丸文×細川美樹


――三途の川岸(此岸側)――


ザバザバッ


UMA「ォォォォオオオオォォォォオオオ」




覇鬼「変な生き物がいるうが!」

フラン「覇鬼お兄様、あれ捕まえてみて」



――


ぬえ「思ったより簡単に誘導で来たわね」

レミリア「子どもねぇ……一風変わった物を見つけると目がないんだから」

針妙丸「うーん……」

正邪「我々は手を出すべきなのか……かえって腫れ物に触らない方がいいような気がしてきた」

ぬえ「やめておけ、死ぬぞ」

レミリア「ギャラリーはあっちで隠れて怯えながら見てなさい」

針妙丸「わ、私たちも闘いに来たのよ! 今の私ならかの一寸法師みたいに鬼退治が出来るはずだもの!」

正邪「強大である我々には出来ることなどいくらでもあるのだ!」

ぬえ「相変わらず天邪鬼だな」

正邪「これはホントなんだぞ! ホントはウソだけどウソ妖怪にウソでなくしてもらったからホントなんだ」

レミリア「あっそ。でも、もうこっちの勝ちは確定してるから――不可避弾幕(グンニグル)の投擲によってね」

ドッボ~~~~~~~ン!!!!


覇鬼「あれ? 捕まえられなかった」


ゴポゴポゴポゴポ……


覇鬼「!? 体が沈むうがー!」

フラン「!? お兄様、元のおっきな姿に戻ったほうがいいわ! 川底に足がつけば大丈夫よ!」


ボンッ!!! ズズズズズズ……


覇鬼「底がないうがー!!」

フラン「ええー!?」


――


ぬえ「馬鹿か……三途の川は泳いで渡ろうとしたら沈むぞ」

レミリア「死神はどうせサボってここにいないだろうし、渡りに船は期待できないわよ。悪鬼はそのまま溺れ死ぬがいいわ」

針妙丸(飛べばいいんじゃないの……)

正邪(今攻撃すればいいんじゃ……)




覇鬼「うがうがっ!」


ゴポポポポッ


フラン「今……助けるわ!」


バシャンッ!!


フラン「わっ!? しまった……これは流れる水! おのれバカお姉様……図ったわね」

覇鬼「うがー!」


バシャバシャバシャバシャバシャ

レミリア「ククク……紅魔館の主に逆らったらこうなるのよ」

ぬえ「拍子抜け過ぎる展開だわ」

針妙丸「正邪……私たちは折角力を得たと言うのに何も為さずにこのまま事態は解決……」

正邪「そんな弱気になってはいけません。流石にこんな簡単に終わるはずがありませんから」


ビュ――――ンッ!! ――がしっ!!


眠鬼「こんのバカ兄貴~!! なに三途の川で溺れてんのよ!!」

覇鬼「! 眠鬼!!」

レミリア「どれだけバカな妹なのよ! 何であんたまで大バカにつられて跳び込んでるの!!」

フラン「……、お姉様……」

眠鬼「本当に……久々に会えたと思ったら。何やってるのよ全く……!」

レミリア「私に……いらぬ心配をかけるんじゃないわよ、全く」

フラン「……」

覇鬼「眠鬼~~~~!!! 会いたかったぁ~~~~~~!!!!」


ギュゥゥゥゥ!!


眠鬼「ってこらー!? 引きずり込んじゃ駄目! 私まで溺れる!!」


パシッ グイグイグイッ!


眠鬼「えっ」

針妙丸「よーし、皆で赤鬼さん達を引き揚げようぞ!」

正邪「こんな奴らを助ける義理など皆無だが……!!」

眠鬼「お前たち、誰だか知らないが……手伝ってくれるというのか」

ぬえ「全く無縁なわけでもない。私たちは、この赤鬼の“遊び仲間”だからね」

針妙丸(あの青鬼は斃すべき相手だが……この赤鬼さんは、どうも憎めない。凄く怖いけれど)

正邪(――懐柔するんだ。力任せでバカで幼稚な者ほど扱い易い相手はいない! 私の本領を発揮してくれる!!)

覇鬼「……」

ぬえ「一寸の虫にも五分の魂がある――って言っても判りづらいか」

ぬえ「貴方にとっては私たちは小さく弱き虫けらにしか見えないだろうが、虫けらにも虫けら並の意地があるし」

ぬえ「守りたいものだってあるんだ。助けたいものだってあるんだ。貴方にだってあるだろう、大切なものが」

覇鬼「……」

ぬえ「だから、これ以上壊さないでくれないか? 私たちの幻想郷(たいせつなもの)を」

覇鬼「………………………………………………うが」




ズズズズズズズズズズズズ……




眠鬼「って沈む~!!?」

針妙丸「私が分身して引っ張り上げるわ! 『七人の一寸法師』――!」

正邪「しかし分身しても力の大きさは同じなのでは!」

針妙丸「あ、そうか!」


ギコギコギコギコ


レミリア「あんたらまだ水難ごっこしてんの? それより、私まで虫ケラの仲間みたいな表現はしないでくれる?」

フラン「……」

死神「船を出していますからこちらにご乗船ください。通常は六文を徴収しますが、今回は特例だそうなので無料で送迎します」


――三途の川(彼岸)――


レミリア「あの死神、とうとう解雇されちゃったのね。あんたが新任の担当者?」

死神「いえいえ、日雇いの者です。まだ仕事が残っていますので私はこれで」


スゥ――


レミリア(わざわざ彼岸(こっち)に渡らせたのは、閻魔の指示によるものかしら)

フラン「お姉様、ええっと……」


ギュッ


フラン「――!」

レミリア「ちょっと、過保護だったのかも知れないわね。でも、これだけは勘違いしないで欲しい」

レミリア「未だ世間を知らず手加減を知らないあんたを自由に外に出したら、本格的な駆逐対象になるんじゃないかって心配だった」

レミリア「心配だからこそ、大切な存在だからこそ、大事に大事に扱おうとしていたわけよ。箱入り娘みたいにね」

フラン「……レミリアお姉様」

レミリア「ま、確かにたまに存在自体を忘れちゃったりすることもあるし」

レミリア「相手をするのが面倒だからパチェに任せっきりにしていた部分もあるけれど」

フラン「むー、お姉様やっぱきらーい」


レミリア「血を分け合った妹のことが嫌いな姉なんて――いるわけないでしょ」


レミリア「それに、あんただって。本気で私のことがキライで殺しにかかってたら、“目”という名の急所を潰していたでしょ?」

フラン「……」

レミリア「もうじき夜も明けるわ。一緒におうちに帰りましょ――私の愛しのフランドール」

フラン「……うん」

ぬえ(あっち側はもう大丈夫かな。となると問題は……)


覇鬼「……。助かったうが」

眠鬼「だからー……飛べば良かったのよ飛べば」

正邪「お前、先刻そちらさんを兄貴だと呼んでいたが」

眠鬼「あーうん、私は覇鬼お兄ちゃんの妹で、眠鬼って言ってさ――」


ギリギリギリギリ!!


覇鬼「眠鬼ぃぃぃいいい!!!!」

眠鬼「ぎゃーもういいからこれはー!!!」

正邪「……鬼は身内に対しても容赦ないのか」

針妙丸「ちょっと貴方たち、たぶん、もうひとりを含めてみんなきょうだい関係なのよね? あの――」


ザッ


映姫「まあ、急(せ)く気持ちも判らないことはありませんが。ここまで来たのですから少し私の話を聞いて行きなさい」


フラン「あれは誰?」

レミリア「出たわね。お説教の好きな閻魔様とやらよ。元はお地蔵さんなんだっけ」

覇鬼「あれは誰だうが?」

眠鬼「聞いてなかったの……? お説教好きな閻魔様よ……散々扱き使われたわ」


コォォォォォォォォォォ


覇鬼「!?」

正邪「何やら手鏡のようなものをかざしたぞ?」

針妙丸「鏡の中に映しだされた何かが……川面に投影されてゆく」

眠鬼「これは何なの? ……いや、何なん……で、すか……ッ」


映姫「口で何と言おうとあまり意味がないと思いましてね。浄玻璃の鏡といいます。本来は裁判用の道具のひとつなのですが」

映姫「――貴方の過去の所業が全て映し出されます。貴方は自分の行いを客観的に見る必要がある」


覇鬼「きゃっかんてき、うが?」


映姫「まあ、私も暇ではないので――ダイジェスト版になりますが」


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覇鬼「うがー」

ブチブチブチ

絶鬼「兄さーん、まだ人形(ニンゲン)で遊んでるの? ほら、こっちに新しい玩具があるよ」

覇鬼「うが?」

スタスタ――バキィグシャ!! ズシ――――ン!!

絶鬼「あははは! 落とし穴だよ、ひっかかったひっかかった~!」

ドゴォッ!!

絶鬼「ぐへぁッ!!?」

眠鬼「あははは! お兄ちゃん達大好き~!!」
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フラン「わぁ。3人とも楽しそう」

針妙丸「た、沢山の人間達が……餌食に……」

覇鬼「……」

眠鬼「ちょっとー!? 何で私や絶鬼お兄ちゃんまで映ってるの!? ていうか止めてよ恥ずかしい!!」

レミリア「下手な盗撮より余程使えるわね、この手鏡」

映姫「鬼に限らず、ありとあらゆる生き物には多様な側面がある」


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覇鬼「いただきまーす」

美奈子「あああっ……!」

――

覇鬼「ニワトリうまいうが……ガツガツ」

ぬ~べ~「この子は取り憑かれている……早く除霊しないと」

――

ぬ~べ~「くっ……左手が……。ダメだ……俺の力では……この鬼を封じることなど……」

覇鬼「うっ……グアアアア!」

美奈子「私のかつての教え子で霊能力教師になった鵺野くん! 魂になった私の残留意志が内側からこの鬼の力を抑えているわ」

美奈子「私もろとも、この鬼を封印するのよ――さあ、早く!!」

ぬ~べ~「嘘だ……こんなこと……」

美奈子「あなたは教師なのよ!」

ぬ~べ~「くっ! 南無大慈大悲救苦救難!!白衣観世音の力によりて 我が左手に……鬼を……封じたまえ!!」

ぬ~べ~「美奈子先生……いつか必ず……あなたの魂を鬼から救ってみせます……

ぬ~べ~「その日まで…俺は子供達を悪霊から守ります…あなたの魂の宿った、この…鬼の手で!!」
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ぬえ「なるほどね……」

正邪「あの人間は……こんな経験をしていたのか……」

フラン「?」

レミリア「何勝手に納得してるの。誰よこのゲジ眉のおっさんたちは?」

覇鬼「……」

眠鬼「……お兄ちゃんのバカ!!」


眠鬼「何で鬼がちまちまニワトリを食べてるのよ!」

映姫「突っ込みどころはそこじゃないでしょう?」

針妙丸「何で……? 何でこんな悪いことをしたの!」

眠鬼「ちょっと、これが悪いことだって言うの? あんただって何か食べて生きてるでしょ?」

眠鬼「例えばあんたがご飯を食べるとしてよ、お椀被ってるし。あんたがご飯を食べることと、お兄ちゃんがごはん(ニンゲン)を食べるのと」

眠鬼「何か違う? 文句言えるの?」

針妙丸「そ、それは……」

映姫「違わないかもしれないわね。でももし貴女のお兄さんが万が一、何者かに食べられたとしたら、貴女はいてもたってもいられないわよね」

眠鬼「そ、そりゃ……だって」

映姫「この過去の映像に出てきた人間が、恩師を鬼に喰われたことを知って感じた怒り憎しみ悲しみ――それらの感情は、貴女にとって全く理解できないことではないでしょ」

眠鬼「……」

映姫「貴方にだって、それは同じはずよ。大事な妹さんが誰かに喰われたりしたらどう思うのか」

覇鬼「……」

映姫「大切な存在を傷つけられたときの気持ちは、鬼であっても人間であっても変わらないと思うわ」

映姫「少なくとも、貴方たちにはわかって欲しいわね。私の言いたいことが、判るかしら?」

覇鬼「……、……たぶんわかる」

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ぬ~べ~「南無大慈大悲救苦救難!!」

ぬ~べ~「我が左手に封ぜられし鬼よ! 今こそその力を――示せッ!!!」

スパァァァン!!

哀妖「こ、こしゃくな……ギャアアア!!」

――

玉藻「だが勘違いするな! これは助太刀ではない!」

ぬ~べ~「……玉藻」

ブシャアアア!!

霊霧魚「ギョォォォオオオオオ!!?」

――

ぬ~べ~「本当の仲間ってものはお互いの欠点を補いながら成長していくものさ」

ぬ~べ~「そして、克也。お前にはそういう仲間がたくさんいる」

克也「……ぬ~べ~先生」

――

ぬ~べ~「リツコ先生~これを見てくださいよ~!」

リツコ「キャ―――ッ!!?」

ボカッ!

――

ゆきめ「ふふ……あったかいのね。溶けてしまいそう」

CHU!

――

琴美「ありがとう……とても楽しかった……少しの間の命でも」

ぬ~べ~「俺は……生きるぞ」