大石泉「背伸びっと・パフォーマー」 (23)


泉「お疲れさま、P」

泉「相変わらず仕事詰めなんだね。忙しそう」

泉「私? Pのおかげで、私も忙しいけれど」

泉「でも、楽しいから。辛くなんてないよ」

泉「……Pも、そう? だからって、夜遅くまで仕事は感心しないよ」

泉「今日だけ、って……この前もそう言ってなかった?」

泉「もう、今日はダメ。私と帰るの」

泉「外も暗いし、日付が変わったら大変だよ」

泉「……」

泉「ふふっ……送ってくれる?」



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泉「最近、亜子がね。私の笑顔が変わったねって言うの」

泉「さくらは……いつも可愛いって言ってくれる」

泉「でも、仕事は亜子の方が適任だと思うし」

泉「アイドルらしいのは、さくらだと思う」

泉「私は、何ができるんだろうって……最初は分からなかったけど」

泉「だけど今……皆と、Pと一緒の今なら、少し分かる気がするの」

泉「Pのおかげ、だよ」


泉「……ちょっといいかな、P」

泉「その、付き合って欲しいんだけど……」

泉「あ! 付き合うって別に、変な意味じゃなくって……」

泉「……ねえ。明日、私たちの予定、空いてるよね」

泉「さっきの話。Pとリフレッシュしたい気分なの」

泉「お出かけしようってことで……そういうの」

泉「ほんとは、さくらや亜子と出かけようかなって思ったんだけど……」

泉「今日のPを見たら、そうもいかないみたい?」

泉「……あれ、予定あるの?」

泉「明日はPも休みなんじゃ?」

泉「……仕事じゃないよね?」

泉「……いや、仕事だよね?」


泉「……Pは嘘をつく時、鼻の下が伸びる!」

泉「なんて、嘘だよ。ふふ……面白いくらい慌てるんだね?」

泉「じゃあ、決まり。明日、お昼前に事務所に集合だよ?」

泉「えー、じゃない。お仕事も大事だけど、アイドルのケアも大切、でしょ?」

泉「それとも……私と出かけるの、嫌?」

泉「……ふふっ」

泉「目覚ましはきちんとかける事。朝ご飯は軽く、ね?」

泉「それじゃ、送ってくれてありがとう」

泉「……明日、楽しみにしてる」


泉「ふー……デートか」

泉「デートだよね。女の子と男の人が出かけるんだから、デート」

泉「いやでも、あくまでアイドルとプロデューサーだから。まだ恋人じゃないし」

泉「デートじゃないかも。でもデートだよね、これ」

泉「……あとで考えよう」

泉「まずは、明日の用意しなくちゃね」

泉「自分が言い出した手前、変な格好できないし」

泉「そういえば、あの服どこにやったっけ」

泉「そもそも、Pとふたりきりで出かけるのいつぶりだろ……」


泉「……」

泉「もしもし、さくら?」

泉「起きてた? ごめんね、遅くに」

泉「えっと、明日Pとデー……出かけるんだけど」

泉「どんな服着ればいいか、意見が聞きたいなって」

泉「さくらだったら、どんな服着ていく?」

泉「……なるほど、ヒラヒラのミニスカートね」

泉「でも私そういうタイプじゃ……」

泉「いや『イズミンちょーかわいいでぇす』じゃなくて……」

泉「……胸元開いたやつ?」

泉「いや『イズミンちょーせくしーですよぉ』じゃなくて……」

泉「そんなに攻めるのはちょっと……」

泉「『すぴーすぴー……むにゃむにゃ……』じゃなくて……」

泉「って寝てるでしょ、さくら?」

泉「……さくらー?」

泉「……おやすみ、さくら」


泉「もしもし、亜子?」

泉「今いいかな。ちょっと相談したいことがあるんだけど」

泉「いやお金は借りないよ。手は借りたいけど」

泉「明日さ、Pとデー……かけるんだけど、服装どんなのがいいと思う?」

泉「刺激が必要? 新たなステージ? ニューウェーブ?」

泉「何か秘策があるの? ぜひ聞かせてよ」

泉「……制服、か。なるほど」

泉「悪くないけど、でもせっかくなら、おしゃれしたいな」

泉「それに、デートに制服着るのも変だし」

泉「『スク水猫耳で悩殺や!』か……なるほど」

泉「着たら1億円……じゃあ無理」

泉「『メイド服でご主人様プレイ』……?」

泉「あー……参考になったわ」

泉「ありがとう亜子。じゃあおやすみ」

泉「……え? いや参考になったよ。すごくためになった」

泉「ほんとほんと。人生の糧になったから。亜子と友達でよかった。私感動してる」

泉「……うん。うん……はいはい。それじゃ、今度こそおやすみ。亜子」


泉「私らしく、か……」

泉「そうだよね。変に取り繕わなくても、いいよね」

泉「いつも通りで大丈夫。変に意識しちゃダメ」

泉「……寝ながらイメトレしとこう」

泉(待ち合わせ……Pの服装……行き先……食事……)

泉(いつも通り……私らしく……意識しない……)

泉(あれ……着ていく服はあれでいいんだっけ……)

泉(寝る前に確認したし……大丈夫だよね……)

泉(それにデートスポットも……あ、あの店の定休日いつだっけ……)

泉(ちょっと確認しとこう……ちょっと確認するだけ……)


泉「なるほど……手は向こうから繋がせるんだ……」

泉「歩調は意識して、付かず離れず……」

泉「さりげなく、あからさまでなく……」

泉「ふむふむ……デートって奥が深いんだ」

泉「……って、もうこんな時間!?」

泉「いけない……早く寝ないと、一睡もできないって……」

泉「寝よう。寝よう……」

泉(……)

泉(でぇすが一回、でぇすが二回、でぇすが……って何数えてるの私……)

泉(…………)

泉(諭吉が一人、諭吉が二人、諭吉が……って亜子の癖が……)

泉「うう……」


泉「……」

泉(あんまり眠れなかった……)

泉(遠足前の小学生じゃあるまいし……私って)

泉(でも天気いいし……ちょっと出てみようかな)

泉(時間まで余裕あるし……眠気覚ましにちょうどいいか)


泉「それじゃ、お姉ちゃんでかけてくるからね」

泉「いってきまーす」


泉「あ、ここ……見ないうちに花畑になってたんだ」

泉「ここがいいかも。ノート開いて、と」

泉「遠出しなくても行ける所がいいね……」

泉「近場でショッピングでもいいけど、Pに楽しんでもらいたいし」

泉「今日は多分どこも混んでるから……うーん」

泉「……」

泉(それにしてもここ、いい景色)

泉(調べ物は後回しにして、ちょっと休もうかな)


泉(……)

泉(んー……)

泉(天気良かったから何となく外に出てみたけど……)

泉(気持ちいいな……気分転換できるし、なんだかリラックスできそう)

泉(……)

泉(うと……)

泉(……)

泉(すー……)



───。


泉「ですから……遅刻したのは、うっかりスリープモードに入ってしまったといいますか……」

泉「やはり環境がよすぎるのも、それはそれでよくないと……」

泉「いえこちらの話です……」

泉「というか、Pはどうしてスーツを……」

泉「……飛び入りの仕事?」

泉「あー……そう。それなら仕方ないよ」

泉「……仕事ね」


泉「……私」

泉「一応、楽しみにしてたんだよ」

泉「ふたりで出かけるのは久々だったし、Pに恩返ししたいと思ってて……」

泉「でも、Pがそうしたいなら……」

泉「……」

泉「じゃあ。私は帰るから……」

泉「……え?」

泉「私の……仕事?」


泉「どうして……」

泉「ねえ、Pは頑張りすぎだよ。たまには英気を養わないと……」

泉「……え?」

泉「わ、私が……?」

泉「私の笑顔が、Pを……元気に?」

泉「……」

泉「上手いこと言って、Pはまだ頑張ろうとしてる」

泉「でも……そう言ってくれるのは、嬉しい」

泉「私が、少しでも役に立てているのなら。とても嬉しい」


泉「ん、わかった。やろう、P」

泉「Pに喜んでもらえるような、そんなライブにするからね」

泉「……あのね。私、背伸びしてたかもしれない」

泉「いつもPのお世話になっているから……せめてPを元気付けたかったの」

泉「昨日も。さくらと亜子に相談に乗ってもらったりして、調べ物もして……」

泉「ほとんど眠れなかった。Pをどうやって元気付けるべきか、わからなかったから、不安で……」

泉「あ、遅刻の原因はその……ごめんね」

泉「……でもそもそもの原因はPで……あ、なんでもない。ふふっ」

泉「あ、それと。今日の埋め合わせは、ちゃんとしてもらうから、そのつもりでね」

泉「当然だよ、せっかくのデートだし。それはそれ、これはこれ」

泉「これが背伸びしてない、普通の私だから……ね?」


泉「さて。それでお仕事はどんなの? 早速データ見せてもらえる?」

泉「単独ライブ? なら任せて。ファンも、Pも笑顔にしてみせるからね」

泉「……え? さくらと亜子にした相談?」

泉「まあ、今日着ていく服の相談、かな……?」

泉「あんまり良いのは出なかったけど……何が出たかって?」

泉「えっと、ヒラヒラのミニスカートとか、スク水猫耳とか……」

泉「……P? なにをメモしてるの?」

泉「待って、それ今何書いたの?」

泉「ねえ、流石に着せない……よね」

泉「P、冗談だよね? そんなもの私が着ても、Pは元気になれないよ?」

泉「だ、だからダメ、そんな仕事は引き受けないから! 着ないってば!」

泉「……プライベートでPのためだけに?」

泉「そ、そそそんなの、余計にダメだから!」

泉「ああ、もうっ……!」


泉「やっぱり、しばらく仕事禁止---!!」

おしまい

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