ほむら「この時間軸の杏子はマミにべったりね」 (60)


杏子「雨か……」

マミ「どうしたの急に?」

杏子「いやまあ、ちょっと寂しくなってね」

マミ「珍しく詩人ね」

杏子「そんなんじゃねーよ……ちょっと、昔を思い出した」

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マミ「昔っていつ?」

杏子「あたしの親父が、死んだ日」

マミ「……そう」

杏子「あんたは一緒になって泣いてくれたっけ、あたしのために」

マミ「貰い泣きで神経逆撫でしちゃって、悪かったわ」

杏子「そんな風に思ってたら、今こうして一緒に生活してねーよ」


マミ「ありがと」

杏子「こっちこそ。だってあの時、思ったからさ」

マミ「なんて?」

杏子「あたしのために一緒に泣いてくれる奴がそばにいるんだって」

マミ「お世辞でも嬉しいわ」

杏子「嘘なんかつけるほど演技できないって。マジで言ってんだよ。そういう意味では」

マミ「そういう意味では?」


杏子「そういう意味では、親父には悪いけどあの日はただ寂しいだけの日じゃなかったのかもな」

マミ「そう……お菓子食べる?」

杏子「食べる!」

マミ「やっぱり……ふふ」

杏子「何書いてんの?学校のノートかなんか?勉強なんかやめとけよー馬鹿らしい」

マミ「佐倉さんには関係ないでしょ」


杏子「関係大あり!そっちが勉強してるとあたしの話し相手が減る!食い物出してくれる人が減る!」

マミ「はいはい、すぐ終わるから待ってなさいな。はい終わりました」

杏子「じゃあケーキくれよ!」

マミ「もう、手のかかる子なんだから」

杏子「あたしは育ちざかりなんだよ!」

マミ「同い年じゃない、ほぼ……ところで佐倉さん」

杏子「何さ」


マミ「私の口座のキャッシュカード、持っておく?」

杏子「はあ?なんで急に」

マミ「だってもしものときに困るじゃない。私ばっかり買い物しないで、自分で買いたいものを」

杏子「マミの金をあたしが好き勝手使い放題するのを許すのか?」

マミ「信じてるからね」

杏子「マミの金はマミのもんだろ。その辺はあたしもわきまえてる。居候させてもらってる身だしね」




マミ「今日の魔女は楽だったわね」

杏子「いつもこんなのだと苦労しないんだけどね」

さやか「まどか、まどか!しっかりして!」

杏子「??」

マミ「ちょっと行ってくる」


マミ「どうしたの?大丈夫?」

さやか「あ、あの……あたしの友達が倒れて……!」

マミ「ちょっと見せて。うん、問題ないわ。今ので治ったから」

さやか「凄い……今の何ですか?!魔法?!」

マミ「ええ、魔法よ。信じる?」

さやか「信じますよ!あんな化け物と毎日戦ってるんですか?」


マミ「そうよ」

さやか「だったらあたしも加えてください!一緒に街を守りたいんです!どうやったらその……あなたみたいに」

マミ「それはね、魔法少女の契約をすれば……」

杏子「やめときな」

マミ「佐倉さん!」

杏子「今日見たことは一切合切忘れろ。あんたは魔法少女に向いてない」


さやか「何よあんた、いきなり出てきて」

マミ「あ、紹介するわ。佐倉さんよ。悪い人じゃないのよ?ホントよ?」

杏子「悪い奴だよ、あたしは」

さやか「……?」

杏子「魔法少女は日々命賭けて戦ってるんだ。軽々しく首突っ込んだらかえって足手纏いなんだよ」

さやか「……何よ。何であったばっかりの人にそこまで言われなきゃなんないわけ?」

マミ「二人とも、ねえ!」


まどか「あ、あの……」

さやか「まどか、大丈夫なの?!」

杏子「用は済んだろ。さっさと行きなよ」

さやか「……助けてくれて、ありがとうございました」




マミ「佐倉さん、なんて言い方!」

杏子「あいつら魔法少女になったら絶対あたしみたいになるぞ」

マミ「……!」

杏子「突き放しといた方が身のためなんだよ。キュゥべえも言ってたろ、魔法少女の命は短い」

ほむら「ちょっと、そこの二人!」

マミ「何かしら、いや、誰かしらと尋ねた方が正しい?」


ほむら「私のことはどうでもいい。今、制服着た女子が二人来なかった?」

杏子「来たけど、それがどうかしたのか」

ほむら「佐倉杏子?!」

杏子「は?なんであたしのこと知ってんの?」

ほむら「あ……いえ、キュゥべえから話を聞いたのよ」

マミ「ならあなたも魔法少女と言うことね」


ほむら「ちょっと質問を変えるわ。今の見滝原(ここ)を縄張りにしてるのは?」

杏子「あたしとマミだ。奪い取ろうっての?」

ほむら「そういうことじゃないわ」

ほむら(不思議な時間軸……ここの杏子はマミと喧嘩別れしていない)

マミ「なら同盟締結のお約束とか?」


ほむら「まあそんなところね。でも、行動は別にさせてもらうわ」

杏子「まあそっちがやる気じゃないってんなら襲いはしないけど。なあマミ?」

マミ「ええ、そうね」

ほむら(行動から察するにむしろマミにべったりね……ともかく当面マミが……)

杏子「あいつ、何ぶつぶつ言ってやがる」


ほむら(マミがまどかやさやかを誘うことはなさそうね)

マミ「まあとにかく、私たちの邪魔をするならこっちも容赦しないからそのつもりでね」

ほむら「戦争をしに来たわけじゃないからそう警戒しなくてもいいわ。それとあなたたち」

マミ「?」

ほむら「些細な擦れ違いで、問題を起こさないよう注意することね」

杏子「…変な奴。余計なお世話だ」




マミ「すっかり暗くなっちゃったわね」

杏子「あのイミフな奴に付き合わされたせいだよ、絶対」

マミ「まあいいじゃない、はい」

杏子「なんだよ、通帳なんか渡して」

マミ「暗証番号教えるから、お金出してきて」


杏子「はあ?自分でやれよ。だいたいなんであたしが……」

マミ「××××××××」

杏子「おい!」

マミ「覚えた?じゃあ買いものしてくるから」

杏子「なんだよ、それ……」


杏子「出してきたぞ~、マミ」

マミ「ありがと。今夜はごちそうよ。ほら、カートにのっけてのっけて」

杏子「人をパシリみたいに扱うなよ」

マミ「まーた悪い言葉使って。ケーキも買うから期限直しなさい」

杏子「まったく人を菓子で釣れると思って……実際釣られるけどさ」




杏子「ごちそうさまー、マミも食えよ」

マミ「私はいいわ」

杏子「またなんか書いてんのかよ」

マミ「ええ」

杏子「具合悪いのか?食いなって」

マミ「そうじゃないわ……お腹がいっぱいなだけ。あ、さっき渡した通帳くれる?」


杏子「ん、これだろ」

マミ「ありがと、落としてなかったのね。偉い偉い」

杏子「子ども扱いするな」

杏子(ん?この数字……?)

マミ「佐倉さん、おかわりしたかったら食べていいのよ。私の分無しでいいから」

杏子「……マミ」


マミ「何?」

杏子「なんでマミ、さっきから溜息ばっかりついてるんだよ」

マミ「き、気のせいじゃない?」

杏子「じゃあもうひとつ、今何書いてる。家計簿だろ?」

マミ「……!」

杏子「どう考えてもこの金じゃ、この先あたしら生きていけねーぞ!」


マミ「そ、それは」

杏子「それで断食なんかしてたのかよ。最近妙に食わねえなと思ったけどさ!」

杏子「あたしのこと気付かって、自分の身体壊したら何にも意味ねえだろ!こっちだって胸糞悪くなる!」

マミ「佐倉さん……」

杏子「あたしが沢山食うから金が足りなくなってきたんだろ!」

杏子「そろそろ別の魔法少女でも見つけてたかりでもしようとしたか!」

マミ「そんな……あれとこれとは関係ないじゃない!」


マミ「疑うのもいい加減にして!そんなこと言うなら出てって!そんな佐倉さんは友達じゃない!」

杏子「ああ、そうかよ。出ていくよ」

マミ「!!……違うの、今のは」

杏子「足手纏いなんだよな、あたしは。マミの生活邪魔したくない。これ以上喧嘩もしたくない。出てくよ」

マミ「待って!」




杏子「勢いで出てきちまった。でもこれでよかったんだよな」

杏子「久しぶりの一人暮らしだ。のびのびしながら風見野にでも帰るか」

杏子「でもその前に今日は……疲れた。眠い……ゴミ箱の近くで……寝よ……」

ZZZ……

???「杏子?佐倉杏子?」


杏子「誰だよ……マミか……?眠いんだよ、今」

キュゥべえ「違うよ、キュゥべえだ」

杏子「なんだ、あんたか。何の用?今は魔女狩りする気分じゃねえんだ」

キュゥべえ「マミが魔女にやられそうだって言ってもかい?」

杏子「マジかよ?!マミは今どこだ!」

キュゥべえ「いつも君が散策している路地裏の……」

杏子「分かった!」


杏子(マミの奴、こんな日に限ってどうして?!)

杏子(まさか、暗証番号教えたのも、キャッシュカード渡そうとしたのも)

杏子(そろそろ死ぬって分かってたからか?!)

杏子(だとしたら……くそっ!間に合え!間に合え!)

杏子「マミ!どこだ?!無事か?!」


マミ「佐倉……さん」

杏子「マミ!無事だったんだな!魔女はどこにいる?!」

マミ「……あっちよ」

杏子「マミは手を出すな!おとなしくしてろよ!一人でやってやるから!」

マミ「で……も……」


杏子「カッコつけて一人でキメようとしやがって、やっぱあたしがいなきゃダメなんだよ」

マミ「佐倉さん!危ない!」

杏子「バカ!掠れ声で叫ぶな!……え?」

Roberta「#$%&’」

マミ「佐倉さん!」

杏子(なんだ、この鈍い音)

マミ「佐倉さん…よかった……!」

杏子「おい……マミ…嘘だろ……?」

マミ「ごめんね……頼りない先輩で……いっぱい迷惑かけたわよね?」

杏子「何言ってんだよ……迷惑かけたのはこっちだろ?」

杏子「なあおい、生きてくれよ……家事も手伝うし、食い物も我慢するし、もう出てったりしねえから…!」

マミ「うん、うん、ありがとうね……佐倉さん」

佐倉「だろ?だから」

マミ「でももう駄目みたい、だけどね、私、幸せだった……」

杏子「マミ…おい、マミ!死ぬな!マミ!」

杏子「ちくしょぉぉぉ!魔女めぇぇぇ!」




キュゥべえ「良かったじゃないか。命があって」

杏子「何もよくねえよ。マミを守れなかった」

キュゥべえ「魔法少女の命は短い。君だって理解してたじゃないか。それに彼女は幸せだって言ってたんだろう!」

杏子「うるせえ!あっちへ行け!くそっ……!」




杏子「朝か。もう、マミはいねえんだな。全部、あたしのせいだ」

杏子「マミが残してくれた預金、こんな気持ちじゃ使う気にもならねえよ」

杏子「ベルの音?誰だ?」

ほむら「お久しぶり」

杏子「あんた、いつかの変人か」

ほむら「酷い言いぐさね。これでも有益な情報を与えに来たのよ」

杏子「今のあたしには何の情報もいらねえよ」


ほむら「これからこの家が無くなるって言っても?」

杏子「どういうことだよ」

ほむら「ワルプルギスの夜、と言えば理解できる?」

杏子「まあ、聞いたことがあるけど」

ほむら「1ヶ月後、来るのよ。ここに」

杏子「それであたしにどうしろと」

ほむら「手を組みましょう、ワルプルギスを倒すために」


杏子「断固拒否だ。バカバカしくてやってられっか」

ほむら「なぜ?マミの遺志を継いだあなたなら見滝原を守ろうと考えてしかるべき」

杏子「勝手に人のこと決めつけるなよ!」

ほむら(奇襲?!どうして……?!)

杏子「今あんたの首をあたしが絞めてる。振りほどけるか?」

ほむら「う……ぐっ!」


杏子「無理だろうな。せいぜいマミくらいじゃねーの。この状況を打開できるのは」

ほむら「あ……がっ……!」

杏子「窒息する前に離してやるよ、ほら」

ほむら「どうして、こんなことを……?!」

杏子「バカかあんた。魔女は不意を突いて出てくるって言ってるんだよ!」


杏子「それにあたしとマミが一緒くたに戦ってもかたっぽが死ぬ魔女が平気でこの世にはいるんだよ!」

杏子「ワルプルギスとやらそんな魔女よりよっぽど強い。現実見ろよ」

ほむら「!!」

杏子「あたしにも勝てないへなちょこ女があたしとタッグ組んで倒せる相手だとでも思ってんのか?」

ほむら「それは……作戦次第よ」

杏子「慈善事業で首突っ込むならあたしは御免だ。もう知り合いが目の前で死ぬのは見たくない」


ほむら(やっぱり、この時間軸の杏子はいつもと違う。それに今の私も彼女の言う通り力不足)

杏子「わざわざ伝えに来たのはご苦労さん。そこには礼を言っとくよ。でもそのお願いはお断り」

ほむら「分かったわ、こちらこそごめんなさい」

杏子「別に怒ってねーよ。ちょっと脅しただけさ。じゃあ、あたしはもうここを出る」

ほむら「どこに行くの?」


杏子「荷物まとめて、風見野に帰る。もう一度、昔の家に住むよ。なんて言ったって分からねえか」

ほむら(いえ、分かるわ。何もかも)

ほむら「……そう、私はワルプルギスと戦うわ。一人でも」

杏子「無理そうだったら逃げな。命は大事にしとけ」

ほむら「優しいのね」

ほむら(言われなくてもそうするつもりよ)

杏子「誰かさんの病気が移ったんだろうな」




杏子「風見野か。親父の教会、まだあるかな」

杏子「あった!」

杏子「あの時と変わらないな、血の付いた写真……十字架。そこにマミの写真と家計簿を置いてと」

杏子「あたしの思い出の部屋の、出来上がりだ」

杏子「ずっとここにいてもいいくらいだな。落ち着く。みんなの笑顔を見てると、寂しくなくなる」


杏子「もうこんな時間か。朝だな。ゲーセン、閉まってるよな……コンビニは空いてるだろうけど」

杏子「まあいいや。今日はなんか食欲ないし」

杏子「あたしは……何のために生きてたのかな」

杏子「……新聞だ。風で流れてきた。そうだよな、この教会、もう窓も壊れてるもんな」

杏子「見滝原、無くなったんだ……あいつ、生きてるかな」


キュゥべえ「杏子、こんなところにいたのか」

杏子「ああ、久しぶり。久しぶり?」

キュゥべえ「そういう気分になるのも致し方ないね。君は何週間も寝ずにここに座り続けてきたんだから」

杏子「見てたのかよ」

キュゥべえ「見ればわかるさ。そのやつれた表情を。自分の身体を鏡で見ても分かるはずだ」

杏子「そんな気はさらさらないね。今はみんなの笑顔を見られれば幸せなんだ」


キュゥべえ「思い出に浸っても何も利益はないよ」

杏子「あるさ。心が安らぐ。魔法少女も、魔女も、どうでもよくなる」

キュゥべえ「そうかい」

杏子「キュゥべえ」

キュゥべえ「なんだい?」

杏子「あたし、死ぬのかな?」


キュゥべえ「どうしてそう思うんだい?」

杏子「なんとなく」

キュゥべえ「……死ぬよ、君は。もう長くない。もって数時間くらいかな」

杏子「そっかあ……悪くないな」

キュゥべえ「死ぬのが怖くないのかい?」

杏子「ああ、とても穏やかな気持ちなんだ……神様ってこういう時に降りてくるのかな」


キュゥべえ「僕は生憎宗教家じゃないからあの世とか神様とかは専門範囲外さ」

杏子「それでいいさ。あたしは……」

杏子「マ……ミ……」

キュゥべえ「さよなら、杏子」




マミ「佐倉さん!ずっと待ってたのよ!」

杏子「ごめん、マミ。それと……」

杏子「ただいま」


以上です
ありがとうございました

>杏子「……新聞だ。風で流れてきた。そうだよな、この教会、もう窓も壊れてるもんな」
>杏子「見滝原、無くなったんだ……あいつ、生きてるかな」

ワルプル来襲で見滝原は壊滅
まどさやは契約してないか、してても戦死ってことだろ

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