死神様のご案内(38)

死神「さてと次の目標は……おや?」

死神「やけに驚いた顔をしてるが、もしかして私が見えているのかな?」

死神「はははっ!こいつは凄いな。まさか生きた人間が私を見たり、声も聴けるとはね」

死神「驚かせてすまない。私は死神、黄泉の道先案内人だよ」

死神「あぁ、外国圏の死神はそうかもしれないが、私達は魂を狩るなんて事はしないよ。それよりも死んだ者の魂をあの世に案内する事が仕事なんだ」

死神「だから君が何らかの理由で死なない限り、君の魂を連れていく事は無いから安心したまえ」

死神「さて、私は次の仕事があるからこれで。この家で亡くなった人間の魂を案内しなくてはならないから」

死神「ん?なるほど。ここは君の家の隣だったのか」

死神「この老婆に大変お世話になったのか。……おいおい、だからといって泣くんじゃないよ。君が泣くのを彼女も望んではいないだろう?」

死神「おや?私の事が見えているからてっきり彼女も見えると思っていたんだが……仕方ない。君に彼女からの伝言だ」

死神「『身体に気をつけてね』だそうだ」

死神「……あぁ、もちろんだ。この死神の名に誓い、必ずやあの世に送り届けよう」

死神「天国に行けるか、か。それは私には断言できんよ。何せそれを決めるのは冥界の審問官達だからな」

死神「解りやすく言えば、閻魔大王様を始めとした裁判官達の事だ。あの方々の判決に我々一介の死神が口答えできる事はそうそうないからな」

死神「まぁただ私が思うにだが、この者の魂の綺麗さならば地獄に落とされるとは無いだろうな」

死神「だから、安心して見送ってやってくれ。それが彼女の為でもあるからな」

死神「ん?おぉ、また会ったな」

死神「友好的に話しかけてくれるのは嬉しいんだが、君以外に私の姿は見えないんだ。気を付けた方がいいぞ?誰かに見られたら頭のおかしな人間に見られかねないからな」

死神「あぁ、彼女ならちゃんと送り届けたさ。安心しろ、ちゃんと天国行きが決まったさ」

死神「裁判も複数あるんだが、あそこまでスムーズに決まるのもまた珍しいものだ」

死神「……そうか、君が幼い頃から世話になっているのか」

死神「君だけでなく、近所の子供達の世話をね。なるほどな」

死神「人に感謝されること、好かれる事はそれこそ善行に繋がるからな」

死神「善行をしなければ好かれないし、感謝もされない。数多くの人間に別れを惜しまれるという事は、それだけの善行を積み上げてきた結果だ」

死神「うむ、泣く必要は無い。彼女の人生は素晴らしいものだったのだから」

死神「ところで、先ほどから何故に私に着いてくるのだ?」

死神「迷惑という程では無いが……次の者は少々厄介そうでな」

死神「危ないと言えば危ないし、そうでもないと言えばまだ大丈夫というか」

死神「まぁぶっちゃけてしまえば……殺された女の魂だ」

死神「……どうせ君には見えなんだ。あまり楽しいものではないぞ?」

死神「そう言わずに、次の人生に向かおうぞ」

死神「現世に留まっても何もならん」

死神「このままではお主の存在が……いや我々ではどうする事もうぉっ!?」

死神「あちゃ~、こりゃダメだな。思いの力が強すぎるわ」

死神「まぁ君の想像通り、この魂は悪霊になりかけているのさ」

死神「魂の強さは思いの強さ。恨み辛みも強すぎれば、私達が連れていけない程強力なものとなる」

死神「そのまま現世に留まり続ければ悪霊となり、己の姿をも忘れ、破滅を待つのみだ」

死神「自然の摂理だから仕方ないのだが……ん?そりゃまぁ悪霊にするよりは連れていけるに越したことはないが、私には人間界の物事に干渉するわけには」

死神「霊との通訳?まぁその程度なら大丈夫だと思うが……一体何をする気だ?」

死神「なるほど、彼女を殺した人間を聞き出すのか。しかしそれを聞いて君は何が出来る?」

死神「君にその犯人を捕まえる術があるとは思えんが……」

死神「やけに状況を詳しく聞くのだな。時間や服装を聞いて何になる?」

死神「おや、もう行くのか……それじゃあお主、もう少し待っていろ。簡単に悪霊になるのではないぞ?」

死神「あの霊の話をまとめた紙をどうする気だい?」

死神「警察に届けるったって、まともな人間がそれを信じるわけないだろう?」

死神「確かに犯人と被害者しか知らない事ばかりだが、今度は君が疑われる事になるだろ」

死神「……なるほど、少しでも裏付けを取ろうとすれば勝ちか。ならばやってみる価値はありそうだな」

死神「だが無理はしないでくれ。元はと言えばこちらの問題なんだ。君が悩む必要は無い」

死神「だが……ありがとな」

死神「……あれから一週間が過ぎたが、奴は逮捕されたよ」

死神「あんな男に殺されて、お前もさぞ苦しかったろう」

死神「奴が今までお前以外の女にしていた事も、今や世に出回っている。もうここいらで見切りを付けてやろうぞ」

死神「輪廻転生の流れに従い、次の世では良い相手を見つけようぞ」

死神「もしお前がまた女性に生まれたら……姿形は見えねど、花と線香を手向けてくれるこの少年の様な男を見つければいいのさ」

死神「……あぁ、来世ならばきっと見つかるさ。さぁ、逝こうか。私が案内するよ」

死神「そういう訳だから、ちょっとこの魂を案内してくるよ」

死神「なぁに、悪霊と成らずに成仏できるんだ。辛い事なんて無いさ」

死神「少年と言われたことが不服なのかい?フフッ、私から見れば君の歳などまだまだはしたものだよ」

死神「そうそう、彼女から君に一言あるそうだよ」

死神「『ありがとう』だってさ」

死神「……クククッ、最近君とはよく出会うな」

死神「私に会えるのが嬉しい?これはこれは、君も奇特な人間だな。死神である私に会えるのが嬉しいなんてな」

死神「まぁそんな君に出会えて内心喜んでる私もまた、奇特な死神なんだろうな」ボソッ

死神「いやいや、何でもないぞ?こちらの話だ」

死神「ところで、先程から君を見張ってるあの男に見覚えはあるかい?」

死神「刑事?……あぁ、あの女の事件の時のか。大丈夫なのかい?」

死神「想定済みって……私は時々、君が分からなくなるよ」

死神(気が散るから黙っていてくれと言われたが……本当に大丈夫だろうか?)

死神(私のせいでこの子の人生に悪影響を与えてしまったら……)

死神「」ハラハラ ドキドキ

死神(え?)

死神「ぶふぉっ!!」

死神「……ゴメン」

死神「『僕が霊が見えるって言ったら笑いますか?』だってさ!!あーはっはっは!」

死神「あんなしんみりとした顔で笑うのは反則だよ。思わず吹き出しちゃったじゃないか」

死神「まぁ君がその時の私を睨んだおかげで、あの刑事には君が本物に見えたんだろうけどね」

死神「動機は無い。アリバイもある。そんな人間を捕まえるわけにもいかないし、あの人も困ってたから無理やり納得して帰って行ったけど」

死神「これからも利用って……は?君は何を言ってるんだい?」

死神「もしこの街で同じような事が起きたら、同じ事をする気なのか?」

死神「馬鹿言ってんじゃないよ!!」

死神「今回はあの女の魂が悪霊と成らなかったから良かっただけだ。悪霊と成った魂に対し、君は何一つ対抗手段を持っていないじゃないか」

死神「危険な事なんだぞ?何故そんなことに首を突っ込みたがる?」

死神「救えるなら救いたいって、そんな……」

死神「いや、成る程。あの老婆の影響ならばこのような性格にもなるのか」

死神「だがそれは君には何の得にもならないんだぞ!それでも」

死神「それでも、救いたい、か……」

死神「と言う訳で、私はお役御免となってまったわけだ」

死神「いやいや、君のせいではないよ。これは私の認識不足が招いた結果だ。君が悔やむ要素はどこにもないよ」

死神「……君がそこまで怒ってくれるのは私も嬉しいよ。だがこればかりは決定事項なんだ。一端の死神や人間の君ではどうしようも出来ないんだよ」

死神「結局私達はルール違反をしてしまったのだ。最悪の場合君に対しても何らかの罰があるかとも思ったが、それが無い事が私にとっての救いだよ」

死神「短い間だったが、君と一緒にいて、本当に、楽しかったぞ」

死神「じゃあな……」

死神(少年との別れはあっさりとしたものだった)

死神(いや、私がそうしたかっただけなんだろう)

死神(謹慎期間は謹慎中の私の態度にもよるが、短くても数百年はかかるだろう)

死神(その間に彼は天寿を全うし、私とは別の死神に導かれ、天国・輪廻の流れに向かうだろう。つまり私が少年に会うことはもう無いのだ)

死神(もしちゃんとした別れをしようものなら)

死神(こんな醜い泣き顔を彼に見せてしまっていただろうから……)

死神「これで、よかったんだよな……」

死神(あれから数日、私は新たな自分の仕事をしていた)

死神(謹慎と言えど魂の道案内の仕事が出来ないだけで、死神の仕事は他にもある。まぁさせられてる事は本当に下っ端の仕事なんだが……)

死神「謹慎期間は150年か……」

死神(その間に私の謹慎期間が決定していた。死神の感覚からすれば大した事は無いのだが、やはりあの少年の存命中には間に合わないだろう)

死神(少年に人間の長寿記録を塗り替えてもらうしかないかな)

バタバタバタバタ……

死神「ん?」

死神「おや、誰が慌てて来るのかと思えば後輩死神じゃないか。どうしたんだい、そんなに血相を変えて」

死神「あぁまぁ落ち着け。それからゆっくりと話せ。一体何があった?」

死神「ほぅ、私の代わりにあの地区の担当になったのか。そうかそうか、遂にお前も担当持ちになったのだな。これからはもっと大変になるだろうが、頑張るのだぞ?」

死神「何?お前の姿が見える人間がいた?あぁ、あいつの事かな。というかそれしか思いつかん。それでどうした」

死神「あの世に連れてけと物凄い形相で睨まれただぁ?はぁ……」

死神(少年よ、君はそんな人間ではなかっただろう?一体どうしたというんだ……)

死神「だが連れてくる訳にもいかないだろう。彼は死んでいないのだ。こちらに連れ来ることなど……」

死神「幽体離脱?それならば確かに可能だが、まさか!?」

死神「……この馬鹿者!!」ダッ

死神(もう連れてきちゃってますだと!?まったく、どいつもこいつもふざけている!)

死神(死神を泣かすほど鬼気としてせまった少年も、だからといって少年の魂をこちらに連れてきた後輩死神も)

死神(それに、内心少年に会えるかと期待してしまった自分もだ!)

死神「少年!!」

死神(その時の光景を、私は一生忘れないだろう)

死神(後の話になるが、この光景は死神達のなかで伝説と化すことになっていた)

死神(確かにこんな光景は後にも先にも見ることはできないだろう)

死神(幽体離脱してこちらに来た人間が、まさか閻魔大王に向かって中指を立てているなんてな……)

死神(少年は閻魔大王が私を謹慎処分にしたのが完全に受け入れられなかったようで、その勢いだけで此処まで来てしまったように見える)

死神(その弁も勢いだけの賭けでしかなかったのであろう)

死神(彼曰く『人間の力を借りず、私達のように人の魂を悪霊にせず導く方法をこの場で示せ。示すまで自分はここから動くつもりはない』)

死神(『もしその方法が見つけられなければ、自分達の仕事を認めろ』と)

死神(全く、普通なら強制的に地獄送りになってしまいそうなものなのだがな。だがこの問答は閻魔大王にとって効果覿面だったらしい)

死神(私も苦労したように、本来悪霊になる前に案内人の仕事をするのが我々死神の仕事だ。だが魂の想いが強すぎると、現世に張り付いて導けなくなり、やがて悪霊と化してしまうのだ)

死神(実際あの世の審問官達レベルの霊力や地獄の獄卒鬼クラスのパワータイプの死神が居れば可能なのだろうがそんな者はいないし、仮にいたとしてもそんな力を持った者が現世に降り立ったら現世への影響が計り知れない事になる)

死神(つまりもともと『そんな方法』は存在せず、だからこそ悪霊は自然消滅を待つしかなく、我々も歯がゆい思いをしていたのも事実だ)

死神(閻魔大王もその事実に向き合い、少年に自らの負けを認めたのだ)

死神(ホント悪人には容赦無いけど、このお方が心の広大な方で助かった……)

死神「え?大王様、それだけでは無いとは……?後ろ?あっ!?」

死神(閻魔大王が指差した方向には、私達が悪霊と成る前に導いた霊達が立っていた)

死神(少年が此方に来ていると聞き、お礼を言いたくて天国からもどってきたらしい)

死神(少年に対してなら判るが、ただ此方まで案内しただけの私にまで礼を言うとは、なんだかこそばゆいぞ)

死神(というか誰がその話を伝えて此処まで連れてきたのか……おい、そこでサムズアップしてる後輩死神よ。お前か。お前の仕業なのか)

死神(だがまぁ、この件に関してだけだが……)

死神「後輩、ありがとな」

死神「さて少年よ、とりあえず弁解を聞こうか」

死神「何がではないわ!!危うくそのまま人生が終了してしまうところだったんだぞ!?」

死神「結果論からいえば確かにそうだが、私がどれだけ心配したか……」

死神「え、君も?いや確かにあっさりした別れだったのは事実だが、それにはいろいろと理由が……」

死神「寂しかったって……それは私だって、きゃっ!?」ギュッ

死神「あの、そのな、急に抱き着かれると困るというか恥ずかしいというか……」

死神「まぁ、いいか」ギュッ

死神(ただしそこでニヤついてる後輩、お前は後でしばく)

死神「ところで、君はここからどうやって帰るつもりなんだ?何か方法でもあるのか?」

死神「おい、何でそこで目を逸らせるんだ……。はぁ、どうせそんな事だろうと思ったよ。大方何も考えず、ただ勢いで此処まで来てしまったのだろう?」

死神「仕方ない、私が案内してあげるよ。もう君が血迷った行動に出ないように、私が見守っていてあげないとね」

死神「おい、何ニヤついてるんだ。元はと言えば君が無計画に此方に来たからだぞ?」

死神「え、私のほうがニヤついて……?バ、バカ!こっちを見るな!」

死神「全く……ほら、一緒に行こう」

死神「ふぅ、やっと現世に帰ってこれたな。ん、身体が硬い?まぁ魂の入ってない身体だからな、軽い死後硬直みたいなものだ」

死神「フフフッ、これに懲りたらこれからはあまり無茶をしないことだ」

死神「まぁ確かにこれ以上の無茶はしようが無いか」

死神「……本当に身体を動かせないのか」

死神「今くらいは寄り添っていてあげようじゃないか」

死神「ん?いやか?……それでいい。疲れてる時には誰かに頼るものだ。それに、死神に寄り添われる人間なんか君ぐらいなんだ。こういうのを堪能するのもいいだろう?」

死神(それから私達はまた、悪霊になりそうな魂の救済活動を行っている)

死神(違うのは、まぁ、私達の仲が少し縮まったくらいかな)

死神(この後少年が別の霊に惚れられたり、後輩死神が来てそらに大騒ぎになったりするんだが、それはまた別の機会に)

死神(とにかく、私と少年の仲はこれからも続きそうだ。とりあえず、少年が生きているうちはな)

死神(少年が死んでしまった時は……その時は私が道案内をしてやることにしよう)


終わり

ここまで読ん頂き、ありがとうございます
風邪なんてひくもんじゃありませんね
寝込んでたら時間がかかりすぎましたね

とりあえず人外娘とmaxコーヒーが流行ることを祈りつつ寝ます

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