【オリジナル】異能犯 (25)

※厨二注意
 バトルは期待しないでください。

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血だまりに仰向けで横たわる男……見開かれた目はは生者の光を失い、一文字に深く切り裂かれた首は今なおどす黒い血液を弱々しく垂れ流している。

その凄惨な光景を目の当たりにして、橘は目の前にたたずむ長身の少女……霧崎響子を問いただした。
 

橘「霧崎……あんたがやったの?」

響子「…………」

橘「霧崎!」

まるで自分の言葉が聞こえていないような響子に焦れる橘。ややして響子が口を開いた。

 
響子「うん……私が殺した」


橘「…………」

 
響子「橘先生、『これ』バラすの手伝って……得意でしょ?」

 

『希と響子』
 
希「や、やめてよぉ……」ガチャガチャ

山村「はあ? なんつったの? 全然聞こえねー」

広井「ギャハハ!」

村上「ヒデー!」

ここは女子トイレの個室。高梨希(たかなし のぞみ)はいじめられていた。
同じクラスの山村達に奥の個室に押し込まれた上に、後ろ手にされ手錠を掛けられてしまった……手錠の鎖は配管を通してあるために希は手を後ろに組んで便座に座ったままの無防備な態勢だった。

足をばたつかせば多少の抵抗は出来るかもしれないが、そんな事をすればどんな報復をされるか……希はただ涙をこらえる。

山村「おら、スカート脱げ!」ズルッ

希「キャア!」

村上「山村、パンツも」

山村「おっけ」

希「う……やめて……」グスッ

パシイッ

山村「うっせーな、騒ぐんじゃねーよ!」

希「……!」ビクッ

山村の平手打ちを受けた希は恐怖で声すら出せない……ただ大泣きするのをこらえて山村の機嫌を損なわないようにするので精一杯だ。

広井「ブフッ」

村上「だせー」

山村「……色気のないパンツ」

希「か、返して……ください」

山村「やーだよ!」

キーンコーンカーン……

広井「あ、余鈴だ」

山村「あたしら授業あるから行くわ」

村上「5限って移動教室じゃね」

山村「あ、高梨さびしいだろうから男子呼んどいてやんよ」

村上「山村マジ鬼畜じゃん」ウケルー

 
希「嫌ぁ! いやいや!」ガチャガチャッ

山村がよくつるんでいるDQNで有名な男子生徒達を思い浮かべた希は半狂乱になって手錠に繋がれた手を無理やりひっぱるが配管を通した鎖がガチャガチャ鳴るばかり。
そんな希の様子が山村達は可笑しくてたまらない。

広井「ねぇ、そこまでしちゃヤバくない?」ヒソッ

山村「ビビらせてるだけよ。こいつの反応、超ウケるし」ヒソッ

キィ

??「…………」

村上「あ?」

その時、一人の女生徒が手洗いに入ってきた。

山村「……霧崎」

響子「…………」

現れたのは五月になっても長めのスカートの下にジャージのズボンを重ね履きをした長身の女生徒……操や山村達と同じクラスの霧崎響子(きりさき きょうこ)だった。

彼女もまたクラスから孤立した存在だが、いじめでそうなった希とは違い男子とタメを張れるほどの長身と無表情、寡黙すぎる静かな性格が人を遠ざけていた。

 
響子「…………」

村上「んだよ!」

響子「…………」

広井「お、お前も便所に繋いでやんぞ!」

響子「…………」ジッ

広井「うっ……」

 
山村「広井、村上、もう行こ」

村上「う、うん」

広井「霧崎、チクるなよ! お前もハブるぞ」タッ

 
響子(ハブるって……別にあんたらと友達じゃないし)

終始無言の威圧感に気圧された山村達は、響子と希を残して逃げるようにその場から去っていく。
響子が奥の個室を覗くとあられもない姿で希がしゃくりあげていた。

響子「…………」ヒョコ

希「ひっく、うえぇ……きりさき……さん?」メソメソ

響子「……その……大丈夫?」

希「……あ! み、見ないで……ください」ガチャッ

響子に下半身丸出しの姿を見られまいと必死に両太ももをくっつける希。消え入りそうなか細い声を出すその顔は涙でくしゃくしゃだ。

響子はそんな希を気にする風でもなく「ちょっとごめん」と個室の中に入り希を繋ぐ手錠を確認するとポケットを探る。


響子「……ん」チキチキチキ


希「え……何してるの?」

取り出したのは小さなカッターナイフ。その刃を伸ばす響子は自分の背後に身を乗り出しているために、希には響子が何をしているのかよくわからず不安でしかたない。

希「ね、ねえ霧崎さ……」

たまらず響子に尋ねようとすると、希の後ろに組まれた手が手錠ごと強く引っ張られる。

ガキィン!

次の瞬間、鋭い金属音と共に希の両手を引っ張る抵抗が消えた。

希「…………え?」

希「あれ? なんで……」

希は自由になった自分の掌を不思議そうに眺めた。
両手首には無骨なブレスレットのような手錠が掛けられたままだが、両手を繋いでいるはずの鎖は分断されて垂れ下がっている。

 
響子「スカート……」

希「……! あ、ありがと!」バッ

響子からなかば引ったくるように自分のスカートを受け取り、素早くそれを履く希。羞恥か焦りか、なかなかはまらないホックに苦戦しながら希は申し訳なさそうに尋ねた。

希「ぱん……し、下着そこら辺に落ちてませんか?」


響子「……ない」モジモジ


希「……?」

響子「その……ちょっとごめん」タタッ

バタン!

響子は隣の個室に駆け込んでいってしまった……そう、彼女は用を足しに手洗いに入るといじめの現場に遭遇しただけであって、別に希を助けに来たわけではないのだ。

 
希「ご、ごめんなさい霧崎さん!」





響子「……ふぅ」

希「霧崎さん……」

響子が個室から出ると希はスカートの端を押さえながら待っていた。

響子「パンツ……見つからなかったの?」

希「…………」コクン

響子「ん……スカート履いてるしそのままでも……」
希「い、いや!」

希「どうしよう……」

 
響子「……ちょっと大きいかもしれないけど」

 
そう言うと響子は重ね履きをしているジャージのズボンを脱いで希に渡す。

希「え……貸してくれるんですか?」

響子「うん、私パンツ履いてるし」

 
希「///」カァァ




希「ん……しょ」チャリ

響子「……あ、そうか」

手を洗い終った響子が戻ると、希が手錠の鎖を鳴らしながらジャージを履いていた。
それをすっかり忘れていた響子はポケットの中のカッターナイフに手をかける。

希「ゴメンね霧崎さん、今日は体育無かったから自分のジャージ……」

響子「手錠はずすから……ちょっとだけ目をつむってて」

希「え、なんで……どうやって?」

響子「目をつむって」

希「う、うん……」
 

響子「そう、絶対目をあけちゃだめ……」チキチキ


希が目を閉じると響子は希の手をとった。
手錠と手首のわずかな隙間に薄い刃を滑り込ませて意識を集中し手錠に押し当てた刃を引いた。

ギィンッ

希「……!」ビクッ


カシャン

左手の手錠が床に落ちて音を鳴らした。

希「え……え!?」

響子「大丈夫、じっとして……目を開けないで」

響子は突然軽くなった左手の感覚に狼狽する希をなだめながら残る右手をとる。

希(手錠とれた!? でも、どうやって……)チラッ
 
『やるなやるなは、やれのサイン』……見るなと言われれば見たくなってしまうのが人情というもの。

不安と興味本意でそっと目を開いた希が見たものは……


響子「…………」ジリジリ

 
瞬きひとつせず希の右手にカッターナイフを近付ける響子の姿だった。

希「ヒッ!? やだ……!」

グイッ

響子「動かないで」ギュッ

希「で、でも!」

響子「……怪我するよ」チャッ

希「うぅ……(カッターナイフで何するの!?)」ビクビク

響子「…………」スッ

左手と同様に隙間にカッターナイフの刃を滑り込ませる響子。希は目をぎゅっと閉じて固まる事しか出来ない。

ギンッ!

希「……!」

 


響子「取れたよ」チャリ

希「……ほんとだ」パチクリ

響子「授業始まってる……もう行こう」

希「あ……あの!」

響子「……?」

希は手洗いから出ていこうとする響子を呼び止めた。振り向く響子に希は……

 
希「き、霧崎さん……ありがとう」ニコッ

響子「……ん」
 

満面の笑みで感謝を表す希に響子は照れたように軽くうなずいた。


つづく

希「あれって……どうやったの?」

響子「…………」

5限目は化学室で授業だ。教科書や筆記用具を取りに自分達の教室に戻ったところで希が響子に質問した。先ほどのカッターナイフで金属の手錠を切断した件である。

響子「……何の事?」

希「あの……カッターで……」

響子「誰にも言わないでね」

希「う、うん……ゴメンね」

響子(何で謝るんだろ?)

あまり聞かれたくない質問だったが、響子は別に気を悪くしたわけではない。『カッターナイフを持ち歩く危ない奴』だと思われたくないという意味の発言だったが希を畏縮させてしまった。

コミュニケーションが不得手で言葉数の少ない響子が誰かと会話すると度々こういう事が起きる。

響子「あれは特技……のようなもの」

希「そ、そうなの?」

 

響子「化学室どこだっけ?」

希「覚えてないの?」

響子「なんとなくクラスの人についていってただけだから……」

希「こっちだよ」

響子「ん」

小柄な希に長身の響子、並んで廊下を歩く二人の身長差は20センチ近くある。響子はかたわらでチョコチョコ歩く希の様子を伺った。

響子(なんか子犬みたいな子。髪の毛フワフワだ……)

響子「……あ」

希「?」

響子「襟、立ってる」スッ

希「え?」

響子が自分の襟を直してくれている……希は緊張しながらも響子の顔をじっと見つめる。
響子に『怖そうな人』と勝手な印象を持ってなるべく近付かないようにしていた希は、こんなにも間近で彼女と顔を会わせる機会は初めての事だった。

希(うわ、まつ毛長い……目、きれい……)

希(背も高くて格好いいなぁ)

 
響子「……よし」

希「す、すいません」

響子「……ん、行こう」

―化学室―

村上「高梨、今ごろガン泣きしてんじゃね?」プックスクス

広井「でもさ、霧崎が先生とか呼ぶんじゃ……」

山村「高梨が霧崎を止めるよ。あいつ、うちらにビビってるから騒ぎを起こせねーよ」

広井「そ、それもそーだね」

山村「手錠の鍵はあたしが持ってる……霧崎だって何もできねーし」

村上「そうそう、ところでこのパンツどーする?」

広井「持ってくんなよ。きったねー!」

 
化学教師「こら、そこうるさいぞ!」

 
広井「すんませーん!」チッ

村上「センセーごめーん!」ウルセーナ

山村「…………」

 
カラガラッ

希「す、すいません。おくレマシタ,,,」

響子「…………」

 
山村・村上・広井「」ポカーン

化学教師「遅いぞ! 何をしていたんだ?」

 
希「あ、あの……」

響子「すいません、トイレが長引いて」

化学教師「む……以後気をつけるように」

 
響子「はい」

希「気をつけます……」

教師に謝りそれぞれの席に着く二人。
化学の授業では一つの実験台に六人の生徒が班を作る。山村達と同じ班の希は恐る恐る自分の席に着いた。

村上(手錠してないじゃん)

広井(どーやって?)

山村「……」チッ

 
希(うぅ……針のむしろ)

しかし授業中という事もあり三人から希への追求は無かった。





希「あ……」

放課後、下校しようとした希は下駄箱から自分の靴が消えている事に気付いた。

希「あはは……困ったなぁ」

希「ここかな……?」ガサゴソ

いつもの嫌がらせだ。希が靴を探して近くのゴミ箱をあさっていると響子が通りかかる。
 

響子「……何してるの?」

希「霧崎さん……あの、このゴミ箱、ゴミ捨ててないなぁって」アハハ

響子「…………」

ここでもまた嫌がらせを受けているのを響子に知られるのは格好悪いと感じた希は咄嗟に誤魔化してしまった。

 
希「捨ててきた方が……良いよね?」

響子「当番でもないのにやる必要ないと思う」

希(う……)

希「でも、ゴミあふれそうだし……」

響子「……そう、勝手にすれば」フイ

希「さ、さよなら……」フリフリ

希「…………」フリフリ

 



希「…………ゴミ、捨てよ」

その場を去っていく響子を見届けた希は、なんとなくゴミを捨てに行くことにした。

響子(不器用な娘)

響子(……って私が言えた事でもないか)

希が隠された靴を探しているのは一目瞭然だったが、彼女の必至に誤魔化す様を察した響子はあえて追及しなかった。それと同時に、ほんの少しだが希に苛立ちのようなものを感じていた。


響子「……? これって……」





希(霧崎さんにああ言った手前ついゴミを捨ててきちゃったよ。早く私の靴を……)

希「あれ?」

希がゴミ捨てから戻ると下駄箱前にローファーが揃えて置いてある。少々汚れているがそれは確かに希の物だ。

希(……さっきは無かったよね?)キョロキョロ

希「……あ」

希が辺りを見回すと校門を出ていく響子の姿が見えた。
ゴミを捨てに焼却炉までの往復に結構時間がかかったはず……希がゴミを捨てに行く前に別れた響子がまだ校門の辺りにいるのは不自然だ。

希は急いでローファーを履くと響子を追いかけた。

希「き、霧崎さぁん!」ハァハァ

響子「……?」

希「ハア、ハァ……よかった……間に合った」

響子「どうしたの?」

ブロロ・・

希「あの……私の靴……探してくれたの霧崎さんだよね?」

 
響子「…………」

 
希(あ、あれ? 違ったの!?)

響子「うん、外に落ちてた。違う人のだったらどうしようかと思っていたけど、高梨さんので良かった」

希「ごめんなさい。なんか手間取らせちゃって」

響子「……別に」

 
響子と並んで歩く希、すると響子はすぐ近くのバス停で立ち止まった。

響子「…………」

希(あれ、霧崎さん時刻表見てる?)

希「も、もしかして、さっきのバスに乗るわけだったの……かな?」

響子「ん、まあ……そうだね」

希「ご、ゴメンなさい!」





希(私ってなんでこうなっちゃうんだろ……)

あの後、希は響子に平謝りだった。響子は「別に気にしていない」と言ってくれたが申し訳なくて次のバスが来るまで希は一緒に待っていた。
その間特に会話もなく気まずかったが、バスに乗り込む時響子は希に「付き合ってくれてありがとう」と言ってくれた。

自分のせいで響子はバスに乗り遅れたというのに……『穴があったら入りたい』思いでいっぱいの希だった。

 
ガチャ

希「……ただいま」

返事はない……希がリビングへ行くと母がいた。

母「…………」

希「ご、ゴメンなさい……すぐにご飯作るね」

母「要らないわよ、外で食べてきたから」

希「……そうなんだ」

 
希「ハァ……」

母「……何よそのため息、私への当て付け?」

希「そ、そういう訳じゃ!」

今の母は希の血縁ではない。希が小学生の時に職場で知り合ったという父の再婚相手だ。

希は子供心に新しい母に気に入られようと積極的に家事等を手伝ったり勉強を頑張ったりしていたが、再婚したとたん父は出張が多くなり継母はその娘である希に愛情を注げなくなっていた。

継母の連れ子の年の離れた義姉が働くようになり、一人暮らしを始め家を出ていくと継母の心は希からますます遠ざかっていった。

つづく

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