勇者「自害しろ魔王!さもなくば殺す!」 (118)

※ 長いところは流し読んで下さい。

原告魔王代理人弁護士(以下,「魔弁」)「その発言は強要未遂罪を構成します。」
魔弁「我が日本国の刑法典は第223条第1項において以下のように規定しています。
『生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。』
また,同条第3項はその未遂を罰することを定めています。
つまり,生命に害を加えることを告知し,人に義務のないことを行わせようとした場合には,実際にそれが行われなくても,罰せられる,ということです。」
魔弁「では,今回の被告の発言を考えてみましょう。
さもなくば『[ピーーー]』。
これが生命を害する旨の告知であることは疑いようがない。
正に脅迫です。そして見て下さい! 被害者はこんなにも怯えている!!」

魔王「…ヒッ……」ブルブル

勇「んなっ!」ガタッ


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魔弁「まぁまぁ被告さん落ち着いて。
急に席を立たれたりすると,被害者が更に怯えてしまいます。
話を戻しますが,魔王さんがこれほど怯えるのはなぜでしょう。
当然です。被告さんは,[ピーーー],と言ったその際に,鋭利な刃物を突きつけていたのです!
その刃渡りは優に10cmを超えるもので,人を殺傷できるものであることはもちろんのこと,殺意さえ認定できるのではないでしょうか。」
魔弁「そして,『自害しろ!』本来弁護士としては自死と言うべきかもしれませんが敢えてここでは自殺を言いましょう。
当然です。
実際に彼女がこの野蛮な被告さんの言葉に屈せざるを得ず,その尊い命を絶ったとすれば,それはすなわち,彼女はその自らの細腕で勇者に殺されることになるのですから!!」

勇「オレが野蛮だと!!」

魔弁「私が言ったのは,言葉が野蛮という意味であって,勇者さんが野蛮と言ったわけではないですよ。
誤解があったなら謝罪します。
話を続けます。
そのような言葉を投げかけられたときの,被害者の気持ちを考えて下さい。
つらかったでしょう。
恐怖におののいたでしょう。
裁判官!あなたも被害者と同じ女性ですからその時の被害者の心情がどのようなものであったかはご理解いただけるはずです。
私はそう信じています。」

勇「裁判官?」

裁判官(ル○ス)「」ウンウン

勇「んえ???」

魔弁「女性被害者が受けた乱暴な仕打ち!
そのつらさは正に筆舌に尽くしがたいものでしょう。
そのようなつらさの中で自殺をする。
そのような義務はありえません!
よって,『自害しろ!』これは明らかに義務でないことを行わせようとしたことです。」

魔弁「今回は幸いにも,彼女の尊い命が失われることはありませんでした。
しかしそれは,我々が偶然居合わせたからに過ぎず,
加害者が自ら反省し,真摯な悔悟から犯行を中断したわけではありません!」

魔弁「そうすると,彼女の恐怖心に対する手当ては,一切なされていないということになります。
よって,彼女の慰謝には十分な補償がされるべきであると考えます。
したがって,被害女性である原告は,被告に対し,民法709条に基づき,慰謝料として,金300万Gの支払いを求めます!」
裁判長(○ビス)「被告,反論はありますか?」

勇「いや,えっと……だってオレ勇者だし。」


魔弁「勇者! あなたは今勇者だとおっしゃった!」

勇「そっ そうだ! オレは勇者だ!!」

魔弁「それを何か証明できるものはお持ちですか?」

勇「これだ! 勇者○卜の剣だ! それにこの盾や兜,鎧も全て,勇者○卜の装備していた,勇者○卜の遺品だ!!!」

魔弁「なるほどそれが脅迫の際に突きつけていた凶器ですね。」

魔弁「いやぁ,切れないものはなさそうな見事な業物だ。」

魔弁「ちなみにそれらはどこで手に入れましたか?その経緯は?」

勇「盾とかは,洞窟で拾ったり…」

魔弁「拾った! それを自分のものにしているのですか?

魔弁「遺失物横領ではないですか!」

魔弁「まあその点はその点として別途十分に問題とされなければなりませんが,今回の問題に関係する点で言えば,」

魔弁「歴史上の勇者の所持品をもっているから勇者である,と被告は主張しているわけです。」

魔弁「そのような主張が通るワケがありません。通るとなれば,王冠を盗めば王様であり,弁護士のバッジを拾えば弁護士ということになってしまう!!」

魔弁「あ・り・え・な・い!!」バンバンッ!!

勇「でも,装備だってできてる!!」

魔弁「なるほど確かに装備はできているようです。」

魔弁「しかし勇者○卜の装備品は,一定の例外を除いて,○卜の血脈を継いでさえいれば,その血がいかに薄くとも,装備することができます。」

魔弁「これは公知の事実です。」

魔弁「かくいう私の曾祖父も,○卜の分家の四男坊の娘の子ですから,私も○卜の血脈であり,その証左にこの○卜の紋章を装備することができます。」

魔弁「しかし! 私は勇者ではない。」

魔弁「一介のしがないただの弁護士です。」

魔弁「もし,被告のいうように○卜の装備品を装備できれば勇者ということになれば,世界は今や勇者だらけになってしまいます。」

勇「うるせぇ! マジでオレは勇者だ!!」

魔弁「まあまあまあまあまあまあまあまあまあ,被告さんそう興奮なさらず。冷静に反論していただければそれでいいわけですから。」

裁判官(ルビ○)「そうですね。どうですか,魔弁先生。
裁判所としては,とりあえず,被告さんにも十分な反論を検討していただくということで,次回の期日を設けたいと考えますが。」

魔弁「結構です。」

裁判官(ル(ry「そうですね。
では,被告さんのご主張の趣旨は,請求を棄却する,えーっとつまり,魔王さん側の請求は認められない,という内容と考えますが,よろしいですかね。」

勇「当たり前ですよ!!」

裁判官((ry「では,その旨調書に取らせてもらいます。それで……ご準備に1か月くらいみるとして,○月○日ではいかがでしょう。」ペラペラ

勇「オレは別に予定もないし…」

裁判官(ry「原告代理人はいかがですか。」

魔弁「すいません。」ペラペラ

魔弁「申し訳ありませんが,その日は終日差し支えです。」

裁判(ry「そうですか。 では……そうですね,○月×日ではどうですか。」

勇「別にいいですって。」ブスッ

魔弁「そうですね。午後で3時くらいに別件の弁準がありますので」

裁(ry「そうですね。私の担当の事件ですね。」ニコッ

魔弁「ああ,そうですね。 では,続きか前かに。」

裁「今回被告が本人さんですから,長めに取ることを考えると,3時半でいかがでしょう。」

魔弁「お受けします。」

裁「ではね,勇者さん,次の裁判の日取りは,新教会歴○○年○月×日の午後3時30分ですけどね,大丈夫ですか?」

勇「はぁ。」

裁「じゃあ,その日にもう一度来て下さいね。それでは今日は終わります。お疲れ様でした。」

魔弁「お疲れ様でした。」

勇「……お疲れ様した。」

勇「…というわけなんです。」

弁護士「なるほど。 それは災難でしたね。 まぁ,魔弁先生はやり手ですから。」ニコニコ

勇「でも先生!オレは勇者として今までずっと戦ってきた!人々の平和のために!」

弁護士「なるほど。」ニコリ

勇「辛い時もあった! でも皆の笑顔のために頑張った! この手が血にまみれても!」

弁護士「なるほど。」フムフム

勇「だからオレは!!」

弁護士「待って下さいね。 結局,勇者さんは,勝ちたいわけですね?」

勇「勝ちたいわけじゃない! そんなことじゃない! 正しいことがダメだって言われることがダメなんだ!!」

弁護士「では,負けても,裁判所が『勇者の負けです。勇者が正しいけど』と言ってくれればそれでいいんですか?」

勇「そっ,そうだ!!」

弁護士「ほう? 本当ですか??」ニパッ

魔弁「いやいや,今日はお疲れ様でした。」

魔「おつかれさまでした!」にぱー

魔弁「どうでした,法廷は? 緊張されましたか?」

魔「きんちょうで ふるえちゃいました!」にこにこ

魔弁「それが良かったんです! 怯えている様子がよく出ていました!」

魔「わたし ゆうしゃ こわくないよ?」

魔弁「わかっています。 強大な魔力を持つ魔王様ですから。」

魔「うん わたし つよい。」

魔弁「まぁ,この次からは,勇者さんも代理人を付けてくるかも知れません。 そうすれば,それからが本番ですよ。」

魔「うん。 これからもよろしくおねがいします。」ペコッ

勇「あっ 当たり前じゃないか! オレは勇者だ! 正義がかなうなら,打ち負かす必要など…!」

弁護士「無いとでも? まぁ,聞く人が聞いたらそれはそれはお喜びになるでしょうね。
教会の神父様なんて寄付なしで呪いを解いてくれるんじゃないですか?」ニコニコ

勇「どういう意味だ!」

弁護士「ふむ。 お望みのようですから,正直に申し上げましょう。」ニコニコ

勇「おお! 言ってみろ。」

弁護士「綺麗事ですね。 そんな考えは即刻捨て去られるべきでしょう。」ギロッ

勇「なっ…」

弁護士「おっとすいません。 いやまぁ簡単に言えばですよ? 裁判なんて,結果が全てですよ。」ニッコリ

勇「そんなことはない! 勝負に勝って試合に負けることなんて」

弁護士「あるでしょうね。 実際に裁判でもありますよ。 言ってることはこっちが正しいけど,あっちを勝たせます,みたいなことも。」ニコニコ

勇「そうじゃないか! ならオレの言うことも」

弁護士「まぁまぁ。 そういう話じゃないんですよ。 結局ですね。 正義なんて,多数決なんですよ。」

勇「多数決?」

弁護士「そう。多数決。 いくら正しいことでも,多くの人が疑いの目を向ければ,正しくなくなる。 今回の裁判もそうです。 もし,裁判所が

裁「勇者は正義だが,勇者の負け」

弁護士「と言ったとしましょう。 この場合,人々が見るのは,「裁判で魔王が勝って勇者が負けた」ということです。」

勇「勇者は正義って書いてあるのに? そんなわけ無いだろう!!」

弁護士「いやいや。そうですよ。 普通の国民が判決の理由なんて読みますか? 読みませんよ。」

弁護士「マスコミも,結論の直接の理由になるところだけしか報道しない。 今回の裁判で負ければ,」

マスコミ「精霊地裁第1民事部のル○ス裁判長は,『犯罪的な文言を使ったことは許されない』として,勇者敗訴を言い渡しました。」

弁護士「とでも報道してくれますよ。」

勇「そんな! オレの正義は!」

弁護士「とまぁ,これは何も手を打たなければ,ですがね。」

勇「……………?」

弁護士「そういうことにならないために,我々のような『弁護士』というイキモノがいるんですよ。」

魔弁「魔王様。 それではまた~」ノシ ハンカチフリフリ

魔王「ありがとうございました」ペコリ

魔弁の事務所のアソシエイト弁護士(以下,「魔イソ弁」)「魔弁先生!」

魔弁「なんだね,騒々しい。 一仕事終えたボスをねぎらおうという気持ちは無いのか嘆かわしい。」

魔イソ弁「なんで魔王の弁護なんて引き受けたんですか! 相手は魔王ですよ,魔王!」

魔弁「それは依頼があったからだ。 それ以外に何がある。
依頼があって条件が合ったから受任した。 何ら問題ないだろう。

魔イソ弁「何を言ってるんですか! 魔王軍は,人々を苦しめているんですよ?」

魔弁「だからなんだ。 裁判を受ける権利は万人に保証されている。
憲法の授業で習わなかったのか。

魔弁「それともなにか。君は犯罪者は民事訴訟でも弁護を受けられないとでもいうのか。」

魔弁「そうなると,刑務所から出る3年前までは,刑務官は暴行し放題だな。
国家賠償をしようにも受刑者は請求できない!!」

魔イソ弁「そういうことじゃないでしょ! 魔王ですよ! 正義に反します!!」

魔弁「そもそも魔王自身は誰も直接苦しめていないだろう。
まだ近衛隊どころか魔王直轄隊の行動報告もないのに。」

魔弁「ああそうか。
君は,犯罪者の関係者については,全て弁護を受けるべきではないと言っているわけか!!」

魔イソ弁「みんな一緒の魔王軍です! 全員責任はあるでしょう!!」

魔弁「は! ここまでくると笑えるね!
お前は,一部が悪いことをしていた団体は末端でも全て裁くべき,と言ってるんだぞ?」

魔弁「それがどういうことか分かるか。
巨大企業の片隅で経理だけやっている末端の従業員に,『社長が悪いことをしたから,お前も責任を取れ!』と言っているのと同じだぞ?
個人主義はどこに行った。」

魔弁「司法試験に受かったからって,図に乗ってるんじゃないぞ。
お前に人を上から目線で断じれるほどの偉さはない。
弁護士はただの人間だ!!」

魔イソ弁「……」ウグッ

魔弁「わかったら,老齢事務員さんに夕食の用意をしてもらうよう,伝えて来い!」

勇「ど,どういうことですか?」

弁護士「だから,私に任せて下されば,悪いようにはしません。 少なくとも,勇者様のご高名を汚すような事には。」ニッコリ

勇「ほ! ホントですか!」ガバッ

弁護士「ええ。 ただ,我々もこれで食い扶持を稼いでいますから,報酬はいただかなくてはなりませんが。」

勇「払うよ! きっと王様が支払ってくれます!」

弁護士「そうですか。 では,委任契約書を。 では,着手金はこのくらいで。」

勇「…え。 結構するんですね…。」

弁護士「まぁ,そうかもしれませんね。 でもしょうがないんですよ。
で,成功報酬は,減額分に応じてこの表に基づいて計算した額,ということで。」

勇「え,えっと,もしも,王様が出してくれなかった場合は…?」

弁護士「それは私が関知することではないですね。 着手金がいただければ,業務に着手しますし,そうでなければ何もしない。」


弁護士「報酬がいただけそうに無ければ業務を中止し,業務終了後に報酬がいただけなければ,それこそクライアントを訴えさせていただいくこともある。 それだけのことです。」


弁護士「まぁ,分からなくはないです。 弁護士を雇う,というのは,高い買い物です。」

弁護士「法テラス等の利用で援助を受けることもできますが,それでもやはり,決して安くはない。」

勇「…ですよ,ね…。」

弁護士「ただ,一般の場合の額と今回私が提供させてリーガルサービスとを比較していただければ,決して高いものではないはずだと自負しております。」

弁護士「さぁ,勇者様。 どうされますか?」

於:新教会歴○○年○月×日午後3時30分,精霊地裁5階第3弁論準備室

魔弁「魔王様,本日も,よろしくお願いしますね。」

魔「はい! おねがいします!」

書記官「失礼します。 あ,被告さんもどうぞ。」

スタスタ

魔弁「おはようございます。 勇者さん。 その後はいかがですか。」

勇「……」

魔弁「…」フム

魔弁「今日は,というか,今日も,ですかね。 お一人ですか? 相談等,行かれませんでしたか。」

勇「……」

コツコツ バタンッ

裁「すいません,遅れました。 ちょっと間に他の件で…… って,あれ?」

魔弁「どうされました?」

裁「いえ,あの,被告側から昨日…」

ガチャッ

被告勇者代理人弁護士(以下,「勇弁」)「昨日付で,勇者氏の本件に関する代理人に就任し,その旨の委任状を精霊地裁に提出させていただきました,勇弁といいます。」
勇「……」ニヤリッ

魔弁「……」ムムム

魔弁「そうですか。 またお会いしましたね,勇弁先生。 そんなに私に負けたいんですか?」ウワベノエガオ

勇弁「なにを基準におっしゃっているか分かりませんが。和解してあげていることをお忘れなんですかね。」ウワッツラノエガオ

魔弁「何をおっしゃる。 結局は,クライアントに得させた経済的利益の大きさでしょう? それについてはこちらが多い。」ウサンクサイエガオ

勇弁「それもわずかな差じゃないですか。」ツクッタエガオ

裁「先生方,そのくらいにしていただいて,本件の期日をはじめさせていただいてよろしいですか?」イライラエガオ

裁「では,弁論準備手続をはじめます。」

裁「まず,本件は,合議事件に付されました。 弁論準備手続に関しては,私が受命裁判官として担当します。」

裁「では次に,期日間にいただいた書面を確認しますが,今回は,勇弁先生,あ,いえ,勇弁弁護士から昨日いただいた委任状だけですね。」

勇弁「すいません。 相談を受けましたのも,受任となりましたのも最近なものでして。 次回までに反論を準備致します。」

裁「裁判所としても,被告の反論を待ちたいと思います。 被告側もよろしいですね。」

魔弁「本当に最近初めて相談を受けたか,という点で疑わしいと思いますが,致し方ないでしょう。」

裁「では,勇弁先生,反論にはどの程度,お時間必要でしょうか。」

勇弁「そうですね。前回期日において,被告からは,口頭で請求の趣旨に対する答弁は述べられているようですが,来週中には簡易な答弁書を提出できます。」

勇弁「あとは,具体的な主張ですが,これは,書面提出までに1か月程度必要と考えます。」

勇弁「簡易な答弁書と準備書面とに分けるか,それとも,具体的主張を記載した答弁書にするかですが……」

裁「裁判所としては,特段どちらでもかまいませんよ。」

勇弁「では,来週中に簡易な答弁書を,1か月程度のちに,具体的な内容の準備書面を,それぞれ提出します。」

裁「では,書面の提出期限は×月○日,次回期日は,×月×日午前11時30分でいかがでしょう。」

勇弁「当方は結構です。」

魔弁「私も結構です。」

裁「では,次回,×月×日午前11時30分,弁論準備手続を指定します。」

……………

魔弁「勇弁が着いたか。」プリプリ!

魔イソ弁「とことん,縁がありますね。」

魔弁「腐りきって菌類も寄りつかん腐れ縁だがな!」プンプン!!

魔イソ弁「でもこれで,魔弁先生の不敗神話も終りですねぇ~。」

魔弁「それはありえん! 私は負けないからこそ私なのだ!」

於:新教会歴○○年×月×日午後3時30分,精霊地裁5階第3弁論準備室

裁「では,弁論準備手続をはじめます。」

裁「今回,提出されている書面は,新教会歴○○年×月△日付答弁書,新教会歴○○年×月□日付被告準備書面(1)です。」

裁「被告,それぞれ陳述ですね。」

勇弁「はい。主張の要旨は,被告は勇者であり,魔族に対する不法行為に関しては,それが社会的に相当なものである限り,法的な賠償責任を負わない,というものです。」

裁「勇者無答責の法理に基づいたご主張ですか。」

魔弁「今回の被告の行為は犯罪だ! なのに,そんな慣習的な法理が通用するか!」

勇弁「評価障害事実がそれだけか! 民事の法廷で犯罪の成否を論じてどうなる! お前は刑事と民事の区別もつかんのか! 無敗というのも眉唾だな!」

魔弁「先生がご存知ないはずないでしょう。 よぉ~くご存知ですよねぇ。 何しろ私に一番負けていらっしゃるのは先生なんですから!」

勇弁「だから,私が勝つ事案で和解してやっているだけだろう!」

裁「えー。当事者双方代理人,ご静粛に。 本件に関することの議論をお願いします。」

魔弁「和解して差し上げているのはこちらですがね。和解してやっているだけなんてどの口がおっしゃるのか。」

魔弁「ああ! この口か! なるほどこれはよく回りそうだ。 ペラペラペラペラペラペラペラペラ。」

魔弁「ウソばかりならどれだけでも話せるのではないですか?」

勇弁「ウソなんてついてないね! 本当のことだから話せるのだよ!」

勇弁「ウソを騙るのが得意なのは君の方だろう! それだけフィクションが得意なら小説家にでもなったらどうだ!」

勇弁「まぁ作者が自分に手前味噌な小説なんて誰も読みたかないんだろうけどな!!」

裁「……では,事件の話をさせていただきますね。」

魔弁「」ムスーッ

勇弁「」ブスッ

裁「(めんどくさいなぁ……) ええ,今回の書面で,被告から勇者無答責の法理に基づく抗弁が提出されましたが,原告代理人は犯罪である旨述べていらっしゃいますので,信義則違反とか,公序良俗違反といった一般条項による再抗弁を提出される,ということでしょうか。」

魔弁「……そうですね。 それも含め,抗弁に対する認否・反論も行います。 立証もいただいていませんし。」ムスッ

勇弁「ま,お手並み拝見とさせていただきますよ。」ニタリ

勇弁の事務所のアソシエイト弁護士(以下,「勇イソ弁」)「先生! さすがですね! 魔弁先生がタジタジでしたよ!」

勇イソ弁「勇者本人が魔王自体にした行為に関する勇者無答責の法理の抗弁を否認するなんて,これはもう,勝利は見えましたね!」

勇イソ弁「立証とか,そういう問題じゃありませんよね?」

勇弁「… なんだ? 本当に君はアレだな。」

勇イソ弁「へ?」

勇弁の事務所の美人事務員(以下,「美事務」)「そうですよ,勇イソ弁先生。」

勇イソ弁「はい?」

勇弁「相手は,あの魔弁だぞ。」

美事務「証拠が無いから勝負あり。それが普通です。 でも,証拠が無くて負け筋,という事件であっても勝ってきたからこその魔弁先生の名声,というわけです。」

勇弁「『無敗』は伊達じゃない,ということだ。 そんなに甘く見ていい相手ではない。」

魔イソ弁「やっぱり! 正義は勝つんですよ! 勇者様万歳!」

魔弁「クライアントの敗訴を願うとは。 本当に君は。」

魔イソ弁「そんなことを言ったって,正義は勝つ!悪は滅びる!これが正しい姿です! 正義の実現! 法律もそれを望んでいます! まさに法律家! といった感じです!」

魔弁「ふん。」

魔イソ弁「さーすーがーの,魔弁先生も今回はお手上げですか? 最初にあれだけ勇者様につっかかたんですから,和解も難しいでしょうし,無敗記録も終わりですかね!」

魔弁「終わらせるつもりはない!」

魔イソ弁「いやいやいやいや! じゃあ辞任するんですか? それともたたかう方法でも?」

魔弁「勇者無答責の抗弁を否認する。」

魔イソ弁「そんなことできないですよ! 火を見るより明らかじゃないですか!」

魔弁「もういい! 私はクライアント本人と打ち合わせに行ってくる! 君は自分の案件を処理していたまえ!」

魔イソ弁「ふー。 なんなんですかね。 素直に負けを認めて,その負けの被害を最小限にするのも,弁護士の仕事だと思うんですけど!!」

魔弁の事務所の老齢事務員(以下,「老事務」)「果たして本当に負けるのでしょうか。」

魔イソ弁「老事務さんもそんなこと言うんですか? 正義が負けるべきなんですか?」

老事務「いえいえ。 私はただの事務員ですから,訴訟でどちらが勝つかなどは分かりませんが。
何が正しいか,というのは,あるいはとても複雑なことかもしれませんよ。」

魔イソ弁「?」
老事務「ささ。 このお話はここまでにして。 お食事の準備ができております。 今日は,魔界の名物料理ですぞ。」

魔イソ弁「へー! いただきまーす!」

於:新教会歴○○年□月□日午後3時30分,精霊地裁5階第3弁論準備室

裁「えー,では,本日の期日をはじめます。」

裁「では,期日間に提出された書面は,えー,原告側からの準備書面ですね。 原告,これを陳述ですね。」

魔弁「はい。」

裁「内容は,勇者無答責の法理の要件事実をいずれも否認する,という内容ですね。
一応,信義則違反の主張もありますが,というような感じですか。」

魔弁「ええ。被告が勇者などという立証もなく,原告が魔王軍に属しているだとか,魔物であるとの立証はありません。
それに,今回の原告の行為は犯罪行為です。」

勇弁「勇者無答責の法理は,刑事的な違法性も阻却するというのが一般的な見解です。
勇者が魔物を打ち倒すものである以上,当然でしょう。」

裁「…まぁ,いいでしょう。 それで,被告側から提出された証拠が,乙1号証から乙5号証ですね。」

勇弁「はい。えー,
乙第1号証の各枝番が,被告が勇者の血脈であることを示す戸籍関係書類,
乙第2号証が被告が任命を受けたことを示す任命証,
乙第3号証の各枝番が被告が装備しているものが何れも真作である旨を示す鑑定書,
乙第4号証の枝番が原告が魔王であることを示す新聞記事や各被害届等,
乙第5号証は当時所持していた勇者○卜の剣です。
原本はこちら。」

裁「どうも。  ……魔弁先生も確認されますか。」

魔弁「いや,けっこうです。」

裁「では,魔弁先生,どうされますか。
まぁ,この段階で,なんというか,双方ご主張されて,いずれも主張の立証は充分されていると思われるのですが,原告側で追加の主張はされますか。」

勇弁「…ふん」ニヤリ

魔弁「特段,主張の追加はありません。」

勇弁「ほー! 今回は素直に負けを認めるのだな!」

裁「特段主張がないのであれば,原告は,債権債務なしでの和解か,取り下げを検討いただける,ということですかね?」

魔弁「いえ。本人尋問をお願いします。」

勇弁「なっ!」

裁「えーっと。 魔弁先生,もう主張もないとのことですし,立証も充分されてるわけですから…。」

魔弁「では,裁判所は,原告の証拠調べの求めを拒絶したうえで,証拠なしとして原告の請求を棄却するおつもりだと?」

裁「いえ,まだ裁判所の心証を明らかにするわけではないんですが……。」

勇弁「はっ! 苦し紛れに本人尋問か! もう訴訟の趨勢は明らかではないか! これ以上引き延ばすなら,こちらからも本件訴訟の提起が濫訴であるとして反訴を出すぞ!」

裁「魔弁先生… いかがですかね? ご検討いただけませんか?」

魔イソ弁「あっ,あの!! せっかくの裁判官のご提案ですし,検討させていただきます!!」

魔弁「いえ。検討はできません。 本人尋問を。」

魔イソ弁「魔弁先生!!」

魔弁「君は黙っていなさい。 君は私が選んだ復代理人に過ぎない。 これ以上勝手に発言するなら解任するぞ。」

魔イソ弁「!!」

魔弁「次回,双方当事者の本人尋問をお願いします。 陳述書は本日から1か月以内に提出します。」

裁「……はぁ……。 そうですか。 何か被告代理人,意見はございますか。」

勇弁「結構です。 当方も1か月以内に濫訴による反訴の申立てを致します。」

裁「……。ふーっ……。 では,そうですね……。 2か月半くらい先で尋問期日をいれましょうか……。」

魔イソ弁「魔弁先生! どうするんですか! 裁判官がせっかく丸く収めようとしてくれてるのに!」

魔イソ弁「負けて,クライアントにも損害を与えて! 最悪じゃないですか!」

魔イソ弁「裁判官の印象も最悪になっちゃいましたよ!」

魔弁「……君には,この事件の復代理人を下りてもらう。」

魔イソ弁「なに言ってるんですか! なら,私が魔王さん本人を説得して,あなたを解任させて,私が代理人になります!!」

魔イソ弁「……というわけなんです。魔王さん」

魔王「…あたし よく わかんない。」

魔イソ弁「うん。 そうですね。 でも,魔王さんのためにも,ここで和解した方が良くて,そのためには,魔弁先生を解任してもらって,私を選んで欲しいんです!」

魔王「でも まべんせんせい あたしお たすけてくれる って ゆった。」

魔イソ弁「でも!」

魔王「まべんせんせい かたせる とは ゆわなかったけど たすけてくれるって ゆった。」

魔イソ弁「……」

魔王「よくわかんないけど わたし まべんせんせいお しんじてる。」

勇イソ弁「……先生,今回の期日はどうだったんですかね。」

勇弁「… なんだ? 本当に君はアレだな。 うん。 本当にアレだ。」

美事務「勇イソ弁先生も,もう少し,ご自分でお考えになられるべきではないでしょうか。」

勇弁「今度ばかりは,勝ってやる! 間違いなく勝ってやる!」

魔イソ弁「魔弁先生! 魔王さんに何を言ったんですか!」

魔弁「何がだ。」

魔イソ弁「魔王さんに会ってきましたけど,先生を信じている,と言って,全然私の話を聞いてくれないんです!
あんな年端もいかない女の子をどう騙したんですか!」

魔弁「まさか,魔王さんに会いに行ったのか?」

魔イソ弁「それがどうしたんですか!」

魔弁「君はもう,彼女の事件を受任していないんだぞ! どういう権限で会いに行った!」

魔イソ弁「! いや,権限とかではなくて……」

魔弁「無関係である以上,個人の自由として会いに行ったというかもしれん。
しかし,これで彼女に損害が生じた場合には相応の責任を取ってもらう!」

魔イソ弁「なんでですか! 私はクライアントの利益のために……!」

魔弁「うるさい!
今後,彼女との接触は,私を通せ!
彼女の代理人として通告する!
私を通さずに直接彼女との交渉を持とうとした場合には,懲戒を受けてもらうからな!!」

魔イソ弁「……!  じゃあ,この裁判,私,見られないんですか!」

魔弁「聞きたければ,傍聴席にでもいて聞いていろ! ただし,事件にかかわることは許さん!! 彼女と一切交渉を持つな!!!」

於:新教会歴○○年□月○日午後1時30分,精霊地裁5階第503号法廷

魔イソ弁@傍聴席「うわー。 すごい人数のマスコミ……。 まぁ,勇者と魔王の裁判なんて,凄い話題性だもんね。」

魔イソ弁「あんな小さな女の子の尋問をこんな沢山の人の前でするなんて……。 魔弁先生は絶対間違ってる!」

書記官「新教会歴26年(ワ)第3470号 損害賠償請求事件。」

裁判長(以下,「裁長」)「では,開廷します。」

裁長「本件は,従前,弁論準備手続に付されていましたので,その結果を陳述していただきますが,双方,従前のとおり,ということでよろしいですね。」

魔弁「はい。」

勇弁「はい。」

裁長「では,期日間に提出された書面を確認します。」

裁長「被告から,乙第5号証の陳述書,反訴状ですね。原告から,甲第1号証の陳述書,反訴答弁書。 反訴状及び反訴答弁書,いずれも陳述ですね。」

勇弁「はい。」

魔弁「はい。」

裁長「双方,新たに提出した証拠の原本を確認させていただきます。 …結構です。」

裁長「では,本人尋問に移ります。 原被告本人はいずれも証言台の前に立って下さい。」

勇者「はい。」

魔王「はい。」

裁長「では,本人尋問に先立ちまして,ウソをつかないという宣誓をしてもらいます。
では,今お渡しした宣誓書を,宣誓の部分から名前まで,読み上げて下さい。 皆さま,ご起立ください。」

勇者「宣誓 良心に従って,真実を述べ,何事も隠さず,偽りを述べないことを誓います。 勇者」

まおう「せんせい りょうしんにしたがって しんじつおのべ なにごともかくさず いつわりおのべないことおちかいます。だいごじゅうはちだい まおう」

裁長「結構です。 皆様,ご着席ください。 では,ウソを吐かないという宣誓をしていただきましたので,ウソを吐くことがないようにしてください。」

裁長「真実でないと分かっているのに,ことさらにウソを吐かれますと,当事者本人の場合,過料という制裁を受ける可能性があります。」

勇「はい。」

魔「はい。」

裁長「では,本訴被告・反訴原告,勇者さんの尋問からはじめます。」

裁長「お名前は,勇者でよろしいですね。」

勇「はい。」

裁長「住所とか職業とかは,先ほど書いてもらったカードのとおりということでよいですね。」

勇「はい。」

裁長「では,主尋問,被告代理人どうぞ。」


勇弁「では,本訴被告代理人,勇弁からお聞きします。」

勇弁「まず陳述書関係の確認をします。 」

……

勇弁「という訳で,本題です。あなたは,勇者○卜の血を受け継いでいますか。」

勇「はい。」

勇弁「どの程度の関係がありますか。」

勇「勇者の血縁を強くするため,勇者○卜の子孫同士での婚姻も多くありますので,説明は難しいのですが,勇者○卜の子孫であり,任命を受ける直前の正統継承順位は第16位でした。」


勇弁「なるほど非常に関係は強いようです。 また,あなたは勇者○卜の遺品たる武具を装備していますね。」

勇「はい。」

勇弁「甲第3号証を示します。 これらの証拠の写真に移っている武具はいずれもあなたの装備している武具ですね。」

勇「はい。」

勇弁「どのような経緯で取得されたのですか。」

勇「本来は,継承式の際に,先代勇者かその代理人に授与されます。
しかし,私が任命される前の空位期間に,魔物により盗まれてしまったりしましたので,私が冒険をする中で,魔物から取り返してきました。」

勇弁「取り返すという部分をもう少し具体的にお教えいただけますか。」

勇「そうですね。 大体,勇者○卜の武具などは,洞窟に巣くう,守護する魔物がいます。

魔物については,当然,言葉は通じません。

ですから,隙をついて取り戻すか,実力を行使して奪い返すしかありません。

こっそりと取り返しても,あちらから襲いかかってくることもしばしばです。

ですから,魔物を打ち倒し,回収したわけです。」

勇弁「まさに勇者無答責の法理の場合ですね。

そのような方法で,違法だ!

といわれてもたまったもんじゃないですよね。

なるほどなるほど。

それを『拾った』と表現されたわけですね。」

勇「そうですね。 だって,宝箱を開けて拾うわけですから。」

勇弁「少し話を変えます。 あなたは,勇者に任命されましたね。」

勇「はい。」

勇弁「それはいつですか。」

勇「2年前の任命式の日です。春でしたが,細かい日付は覚えていません。」

勇弁「乙第2号証を示します。

これは,あなたに対する勇者任命証ですが,これには,作成の日が2年前の4月12日となっています。

この日に任命されたということでよいでしょうか。」

魔弁「異議あり!」ガタッ 「誘導です!作成日に任命されたか否かについて,誘導しています!」

裁長「まぁ,まぁ。魔弁先生。 いいんじゃないですか。」

魔弁「異議です!」

裁長「……勇弁先生,ご意見いかがですか。」

勇弁「乙第2号証から合理的に推察される内容で,争いがある点でもありません。

被告本人の記憶の喚起のためのものともいえ,不適当であるとは思われません。」

裁長「異議を却下します。」

魔弁「異議あり! では,誤導だ! 作成日が任命日と一致するとは限らない!」

裁長「異議を却下します!」

勇弁「では,もう一度。

この乙第2号証の勇者任命証,あなたに対するものですが,作成の日の新教会歴24年4月12日となっています。

この日に任命されたということでよいでしょうか。」

勇「はい。」

勇弁「証拠を引き上げます。 なぜ,あなたが勇者に選ばれたのですか。」

勇「正統継承権の順位が付いている者の中から,勇者としての素質があると認められた者が,教会の特別な洗礼を受け,そのうえで王様から任命を受けます。」

勇弁「なるほど。 正に勇者の中の勇者として選ばれたわけですね。」

勇弁「また話を変えますね。 今回,あなたは,原告に対し,どのようなことをおっしゃったのですか。」

勇「『自害しろ,魔王!!さもなくば殺す!!』と言いました。」

傍聴席の記者A「認めたぞ! とりあえず走れ!」コソコソ

傍聴席の記者B「他の局より先に流せ!」コソコソ

裁「傍聴人,静粛に願います。」

勇弁「『自害しろ,魔王。さもなくば殺す。』このようにおっしゃったのですか。」

勇「はい。」

勇弁「一字一句,間違いありませんか。」

勇「はい。」

勇弁「では,その時あなたは,何を持っていましたか。」

勇「勇者○卜の剣です。」

勇弁「乙第5号証の勇者○卜の剣を示します。

これが,あなたが原告に先ほどの言葉をおっしゃった時に持っていたものですね。」

勇「はい。」

これをどうしていたのですか。

左足を前にして,斜に構えて,束は腰の辺りで,切っ先は,魔王は階段の上の玉座にいたので,私から見て,正面斜め上方にいましたが,その方向の魔王に向けていました。
あ,もちろん,鞘から抜いていました!

魔弁「なんて危険な!」

勇弁「裁判長!」

裁長「原告代理人は,ご静粛に願います。」

勇弁「では,そのときの切っ先と,原告との距離はどの程度でしたか。」

勇「先ほど述べましたとおり,魔王は階段の上の玉座にいたので,そうですね。直線距離で,この部屋の後から前までくらいの距離はあったでしょうか。」

勇弁「なるほど。では,切っ先が今にも触れそう,という距離では無かったのですね。」

勇「はい。」

勇弁「また話を変えます。 被告席の方をご覧下さい。

魔弁先生の横に座っているのは,誰ですか。」

勇「今回の事件の原告である,魔王です。」

勇弁「正確にはなんという方ですか。」

勇「第五十八代魔王です。逆巻く魔,と呼ばれています。」

勇弁「なぜ逆巻く魔,など呼ばれているのでしょう。」

勇「魔王である以上,それに相応しい歳を重ねていると思われます。

しかし,原告は,姿が幼い人類のようです。

魔族の一つの種族に,人魔族というものがいますが,人類と非常によく似た姿をしています。

違うところは,5~8倍程度長命で,幼い姿の期間が長いことが知られています。

ですから,原告は,人魔族といえます。

魔王の通名は,通常,その外形的特徴から付けられるのですが,

人魔族は,人類に似ているため,外形的特徴があまりなく,

通名は,その他の特徴から付けられます。」


勇「原告の場合,魔力が歴代魔王の平均値の2.7倍程度であり,

歴代魔王のなかでも最高値を記録しており,かつ,

それが常時開放されている状態です。

この暴れ狂うように溢れかえる魔力をもって,

原告は逆巻く魔と呼ばれるに至っているようです。」

勇弁「さすが勇者様。敵を知れば,なんとやらということで非常に博学だ!

しかし,そのような魔力だと,原告は正に魔の王ですね。 まるで怪物だ!」

勇「…はい。」

勇弁「以上です!」

勇イソ弁「流石です勇弁先生! 完璧です!」

勇弁&勇 ニヤリ


裁長「では,原告代理人,反対尋問をどうぞ。」

魔弁「では原告代理人からお聞きします。あなたは勇者として任命された。そうですね。」

勇「そうです。」

魔弁「複数の候補者の中から選ばれた。」

勇「そうです。」

魔弁「その基準はなんでしょう。先ほどの話では,継承順位はそれほど高くないと思いますが。」

勇「あなたも若干は勇者○卜の血を有しているということですからご存じでしょうが,

継承順位は,勇者○卜との関係の濃淡を示すだけで,その順番に任命がなされる,

というような性質のものでもありません。」

魔弁「では,具体的な基準は,どのようなものでしょうか。」

勇「物理的な力や剣術もそうですが,魔族を相手にする以上,魔法にも秀でなくてはなりません。

ですから,魔力も必要です。

また,それらに関する耐性やスタミナも必要です。

これらの要素を数値化し,その総合点が最も高い者が,勇者として任命されます。」


魔弁「では,あなたは,どの程度でしたか。」

勇「任命時点で,私は,第2位の候補者の方の総合点の約2倍のそれを有していました。」

魔弁「それは生来的なものでしたか。」

勇「いえ。生来的なものではありません。」

魔弁「では,いつごろからそのような力を得たのですか。」

勇「突然,そのような力が降ってきたわけではありません。

そうですね。

10歳のころから,少しずつ,いろいろな力が現れ始めたといった記憶です。」

魔弁「それでご苦労されたことは?」

勇イソ弁「異議あり! 本件と関係ありません!」

裁長「原告代理人。裁判所としても,本件とどのような関係があるのか,明らかにしていただきたいと思うのですが。」

勇イソ弁「」フフン

魔弁「被告が勇者として選任される手続きに瑕疵がある場合には,勇者無答責の法理が適用されないと思われます。続けます。」

裁長「………。 続けてください。」ショウショウゲンナリ


魔弁「では,続けます。力が現れ始め,ご苦労されたことはありますか。」

勇「……。 12歳ころには,力も安定し始めたので,大して苦労した,ということはありません。」

回想『こいつ,全然壊れないぞ! いくら殴っても!』

回想『うわー,ほんとだー! おもしれー!』

回想『や,やめてよー』

回想『わー化け物が怒った~! 殺されるー!!』キャッキャッ

魔弁「その後の成長はないのですか。」

勇「正確に説明します。12歳以降は,成長の仕方が安定的になりました。

また,力の加減の仕方を覚えたので,問題はありませんでした。」

回想『パキン!』

回想『神父様! ○○君がまた,モノを壊しました~!』ケラケラ

回想『○○くん! あなたは! ……全く,これだから親がいない子は……!』


魔弁「では,10歳ころから12歳のころは,ご苦労もあったのですか。」

勇「多少は。」

魔弁「では,12歳以降は,そのようなご苦労も減ったのですね。」

勇「そうですね。」

魔弁「それは,あなたの変化だったのですか。」

回想『○○様,あなたは,勇者になる器の方です。』

回想『○○君……いえ! すいません! 勇者様!』オドオド

勇「……そう,だと思います。」


魔弁「……では,勇者の力を得て,あなたは,いままで,幸せでしたか。」

回想『勇者様になるの? あいつが?』ヒソヒソ

回想『結局,化け物,だよな』ヒソヒソ

勇「……ええ。 勇者の使命を得て,とても充実しています。」

勇イソ弁「異議あり!」

魔弁「……いえ,結構です。終わります。」

裁長「では,被告代理人,再主尋問ありますか。」

勇弁「いえ。結構です。」


裁長「では,裁判所からは質問はありませんので,終わりです。

帰っていただいても,傍聴席で聞いていていただいても,当事者席にいていただいてもかまいません。

ただ,裁判所としては,原告の本人尋問が終わるまでお待ちいただきたいと思います。」

勇「では,当事者席に座っています。」


裁長「続いて,原告本人尋問を行います。よろしいですか。」

魔弁「結構です。」

勇弁「結構です。」

裁長「では,原告,魔王さん,証言台の椅子に座ってください。」

裁長「お名前は,第五十八代魔王でよろしいですね。」

魔「はい!」

裁長「住所とか職業とかは,先ほど書いてもらったカードのとおりということでよいですね。」

魔「はい!」

裁長「わかりました。 では,原告代理人,どうぞ。」

魔弁「では始めます。  あなたのお名前は?

魔「まおう! だい ごじゅうはち だい まおう!」

魔弁「なんと呼ばれていますか?」

魔「さかま くま! くまさん!」


魔弁「では,お父さんとお母さんの名前を教えてください。」

魔「おとーさんは,○○・えーぴー・□□で,おかーさんは,○○・えーぴー・△△です!」

傍聴席「ザワッ」

魔弁「では,魔王に就任され,改名される前のあなたの名前をお教え下さい。」

魔「○○・えーぴー・○○です。」

魔弁「何歳ですか。」

魔「12さい!」


裁長「え,えっと?

ちょっとすいません。

ちょっと異例ですが,というか,通常ではないんですが,途中なんですが,裁判所から質問させて下さい。

ミドルネームがAPとおっしゃいましたか。」

魔「はい!」

裁長「魔族はミドルネームにAPと用いないはずです。

APは,人間の,いわゆる被差別民,棄民の方のミドルネームです。

あなたは魔族では無い,ということですか?」

魔「はい!」

勇弁「そんなはずは無い! ばかげてる! 12歳でそんな魔力を持つ人類がいるはずがない!」

勇者 「……」ズキッ

魔弁「裁判長,尋問時間にも限りがありますので,続けて宜しいでしょうか。

後に,原告の戸籍等も提出いたします。」

裁長「あ,はい。どうぞ。」

傍聴席「オイオイ ドウイウコトダ!?」


魔弁「あなたは,人類ですね。」

魔「はい!」

魔弁「ではなぜ,そのような強大な魔力をお持ちなのですか?」

魔「わかんない! だんだん こうなった!」

魔弁「そうなるのに,何か変わったことをしましたか?」

魔「なんかね ぎしき ってのお しました!」

魔弁「一人でやったんですか?」

魔「とらの おっちゃんと!」

魔弁「その虎のおじさんは,どういう人ですか。」

魔「わたしの ほんとうの おとうさんと おかあさんから わたしお うけとった ひと? です!」

魔弁「なぜお父さん達はあなたを渡したのですか?」

魔「こわがってたって! ころさないでって!」

魔弁「それで,その虎のおじさんは,どうしたのですか?」

魔「ほんとうの おとうさんと おかあさんは ころさなかった!
そのあと わたしを そだててくれた!」

魔弁「なにか酷いことはされましたか?」

魔「わたし ぴーまん きらいなのに たべろって いっつもいう!」

魔弁「食事はきちんと与えられていたのですか?」

魔「? ごはんは いちにち さんかいだよ?」

魔弁「その食事は,常に虎のおじさんから与えられていたのですか?」

魔「とらのおっちゃんが せんそうに いってるときは となりの おおかみのおばちゃんが くれた!」

魔弁「なにか酷いことはされましたか?」

魔「わたし ぴーまん きらいなのに たべろって いっつもいう!」

魔弁「食事はきちんと与えられていたのですか?」

魔「? ごはんは いちにち さんかいだよ?」

魔弁「その食事は,常に虎のおじさんから与えられていたのですか?」

魔「とらのおっちゃんが せんそうに いってるときは となりの おおかみのおばちゃんが くれた!」


魔弁「では,その虎のおじさんはご健在ですか?」

魔「???」

魔弁「言い方を変えます。虎のおじさんは,生きていますか。」

魔「でも けがして いまは かたあし。」

魔弁「その怪我はどういう理由でされたのですか。」

魔「?? せんそうだよ??」


魔弁「話を少し変えます。 あなたはなぜ,魔力を増やす儀式をしたのですか。」

魔「とらのおっちゃん けがしたし おかね ないから わたしが がんばろうと おもったの。」

魔弁「それで,儀式を受け,魔力を手に入れ,魔王になったのですね。」

魔「はい!」


魔弁「また少し話を変えます。 学校に行ったり,勉強はしましたか?」

魔「がっこうは いけないから べんきょう できないの。

おっちゃん けがしたから わたし がんばらないと。

おしごとや いえのこと しないと。」

魔弁「では,魔王に就任された,いえ,魔王になった経緯をお教えください。」

魔「えっとね まりょくが すごいから まおうに なれって。

なったら おかね くれるって。 かいぎの おじいちゃんたちが いうの。

ならなかったら とらのおっちゃん つれてくって。」


魔弁「では,そうやって,魔王になるように強要されたのですね。」

魔「ん~?」

魔弁「言い方を変えますね。ムリヤリ魔王になれって言われたのですか?」

魔「そう かも。」

魔弁「終わります。」


裁長「え~。 では,裁判所からは,後ですから。……では,被告代理人,反対尋問,どうぞ。」

勇弁「え~。 原告。 あなたは,魔王ですね。」

魔「はい。」

勇弁「魔王である以上,あなたは,魔族や魔物,魔獣を指揮しているのですね。」

魔「えと。 わたしは どうぞ っていうだけ。

きめるのは ぎかいの おじいちゃんたち。」

勇弁「では,最終的に指揮にゴーを出すのは,あなたなのですね。」

魔「そう なる。」


勇弁「では,別の話。 あなたの魔力はとても大きなものですね。」

魔「……はい。」

勇弁「そのように大きな魔力は,人間としては,通常なものではないですね。」

魔「……はい。」

勇「……」

勇弁「まさに化け物じみている,自分でそう思われませんか。」


魔弁「異議あり! 意見を求めるものであるうえ,原告を不必要に侮辱するものです。」

裁長「被告代理人,ご意見は。」

勇弁「必要な質問です。 原告本人の認識という主観的事実を問うています。」

裁長「では,評価について質問せず,事実を質問してください。」

勇弁「はい。では,質問を変えましょう。 続けます。」

勇弁「あなたの魔力は,人100人を,どの程度の時間で戦闘不能にできますか。」

魔「1びょう かからない と おもう。」


勇弁「では,あなたの魔力は,あなたの近衛となっている四天王と比べてどちらが強いのですか。」

魔「わたしの ほうが ぜんぜん つよい。」

勇弁「あの四天王が,人間に化け物と呼ばれていることはご存じですね。」

魔「はい。」


勇弁「では,あなたはあの四天王の一人が,単独で一夜で一つの街を滅ぼしたことはご存じですか。」

魔「でも わたしの まえの まおうの とき!」

勇弁「同じ質問をします。あなたはあの四天王の一人が,単独で一夜で一つの街を滅ぼしたことはご存じですか。」

魔「……。」

勇弁「「はい」か「いいえ」でお答えになれば結構です。同じ質問をします。あなたはあの四天王の一人が,単独で一夜で一つの街を滅ぼしたことはご存じですか。」

魔「……はい。」


勇弁「その四天王よりも,あなたの魔力は,「ぜんぜん つよい」のですね。」

魔「……はい。」

勇弁「ではやはり,ご自分のことを」


勇弁「まさに化け物である」


勇弁「そう思われませんか。」


魔「!」ビクッ

魔弁「! 異議あり!」

勇弁「終わります。」

裁長「原告代理人,再主尋問はありますか。」

魔弁「……ありません。」


裁長「では,裁判所からお聞きします。

あなたは,人間のご両親から生まれられた。

これは間違いないのですね。」

魔「はい。」

裁長「そして,12歳である。これも間違いありませんね。」

魔「はい。」

裁長「そして,儀式を受け,強い魔力を与えられた。そういうことですかね。」
魔「はい。」

裁長「その魔力で,あなたは人ではなくなったのですか。」

魔「よくわかんない です。」


裁長「そうですか。

……しかし,その魔力が通常の人間ではあり得ないものであることはわかりますね?」

魔「はい。」

裁長「人類というには,ちょっと難しいと思いませんか。」

魔「よく わかんない です。」

裁長「まぁ,いいでしょう。 裁判所からの質問も終わります。」

魔「はい。」


裁長「では,原告代理人,特段よろしいですね。」

魔弁「……はい。」

裁長「では,引き続き,和解の勧試を行いたいと思うのですが,

原告被告,お時間はいかがですか。」

魔弁「結構です。」

勇弁「結構です。」

裁長「では,30分に。 一度休廷します。」


於:新教会歴○○年□月○日午後4時30分,精霊地裁5階第503号法廷

裁長「では,裁判所からの意見を申し上げます。

あまりあることではありませんが,社会的な影響も考え,法廷で和解の勧試を行います。」

裁長「裁判所としては,勇者無答責の抗弁は成立していると考えております。」

裁長「脅迫的言辞の存在もありますし,原告が12歳と若年であること等もございますが,

魔王としての立場をお持ちで,これが人魔の戦争にかかるものであることを考慮すれば,

社会的相当性を欠くものとまでは思われません。」

裁長「これからすれば,被告の賠償責任を肯定することは困難でしょう。」

裁長「ついては,原被告間に,何らの債権債務もないことを確認することで和解することが相当ではないかと考えます。」

裁長「以上が合議の結果なのですが,原告代理人,いかがでしょうか。」


魔弁「勇者無答責の法理は,勇者は,魔族に対する不法行為に関しては,それが社会的に相当なものである限り,法的な賠償責任を負わない,というものです。」

魔弁「原告は,魔族である,と?」

裁長「それは,まぁ,ですね。」

勇弁「いやいやいやいや! 魔弁先生,当然でしょう!

一夜で街を滅ぼす魔力を大きく超えるほどの魔力,そんな異能を持っている者が人間と呼べるはずがないでしょう!

自分の不敗記録が破られるのがそんなに怖いんですか!」


勇弁「今なら和解ですから,不敗記録は破れませんよ!

勇者様は,慈悲深いお方だ!

和解をされてはいかがですか!

敗訴的和解,いや,全面敗訴的和解ですがね!

人ならぬ魔王への,勇者様からの温情ですよ!」


魔弁「バンッ!!」スクッ

魔弁「彼女が人ではないという根拠はなんだ!

魔王だからか!

彼女の身は人間だ!

このとおり,彼女の身は人間だ!

彼女は人だ! 異能を持つだけのただの人だ! 異能があれば人ではないのか!」


魔弁「彼女は魔獣に育てられた!

なぜ彼女が魔獣に育てられたのか!

彼女の親が棄民だからだ!

彼女は,お前ら人類が致し方ないと切り捨てた棄民の子だ!

棄民が生きる残るために肉として差し出した人間の子だ!」


魔弁「貧困と差別故に彼女は捨てられ,異能を押し付けられた!

小学校も卒業する歳であるのに,漢字さえ知らない!

年相応の知識もなく,魔力だけ増大させられた!

結果,その指向性のない魔力がゆえに,彼女は魔王に祭り上げられた!

結局,彼女を魔王にしたのはお前らだ!

自分の利益だけを考えるお前ら人間が彼女を魔王にしたのだ!」


魔弁「それにも関わらず,魔王だから,異能だから人ではない?

人ではないから,主張は認められない?

ふざけるな!

人の身を持ち,人の罪の一切を引き受けている彼女が人ではないだと!」


魔弁「私も異能の化け物と揶揄されることがある。

しかし,それでも人ではないなどと,言われたことはない!

被告!勇弁先生!あなた方もそうだ!

勇者の破壊的な力,法律家の法律知識など,一般人にとっては異能の凶器にしか過ぎない!」


魔弁「それなら我々は化け物か! 人ではないのか!

我々が窮したとき,法は我々を救わないのか!

異能だからと! 「強い」んだからと!!

平等は何処へ行ったのだ!」


魔弁「被告,いや,勇者殿! あなたも知っているはずだ!

異能が故,その力が故に,我々とは違うと,こちら側の人間では無いと言われる痛みを!

何度虐げられた! 何度壊れない玩具にされた! 異能だから! 壊れないから!」


魔弁「そんなことが許されるか!

もし許すというなら,法では無く,神でも無く,異能が,異能こそが討つ!

異能を虐げた者を! 法を! 神でさえも! きっとだ!」


勇弁「……っ! なんだその態度は! もう無理だ! 和解は決裂だ!」

勇弁「裁判所には申し訳ないが,判決をいただきたい!!」


勇「いや,先生。オレ,和解したい。」

勇弁「なっ! 勇者様! 絶対勝てます! ここで和解する必要なんてありません! ここは判決を受けるべきです!」

勇「じゃあ,解任していいですか。お金は全部勝訴の場合の額,払いますから。」

勇弁「そんな! なぜですか!」

勇「魔弁先生の言うとおりだ。 オレも,異能だから。」

勇「人類なのに,壊れなくて,ガキなのにすげー魔力があって。」

勇「魔王は…いや,あの子は,オレだ。」


於:新教会歴○○年□月○□日午後4時30分,精霊地裁5階第503号法廷

裁長「では,期日間に原告・被告の間でお話しいただいた結果,まとまったということですので,和解条項を読み上げます。原被告,ご確認ください。」

1 被告は,原告に対し,和解金として金300万Gを支払う義務があることを認める。

2 被告は,原告に対し,被告の前項の債務の弁済に代えて,勇者のお守りを譲り渡し,かつ原告の身体の安全及び名誉を確保するための援助を与え,原告はこれを譲り受け,かつその援助を受ける。

3 被告は,原告に対し,本和解の席上において,前項の勇者のお守りを引き渡し,原告はこれを受け取った。

4 原告はその余の請求を放棄する。

5 訴訟費用は各自の負担とする。

6 原告と被告は,原告と被告間には,本和解条項に定めるもののほか,何らの債権債務のないことを相互に確認する。

勇「以上ですが,双方宜しいでしょうか。」

魔弁「結構です。」ニコヤカ

勇弁「結構です。」ニガムシカミツブシ


新聞見だし「勇者と魔王 歴史的和解 人類と魔族の融和の第一歩か」

マスコミ「魔王が,年端もいかない人類の少女であることが明らかになった今回の裁判,

魔王が人類の敵から悲劇のヒロインとなり,これに勇者が手を差し伸べたことで,

長年の人類と魔族の戦争によって生じたひずみによる社会的問題点が浮き彫りになった形で……」


魔イソ弁「マスコミも露骨ですね!」

魔弁「お前も取り下げろ,って言ってたがな。」

魔「せんせーはやく! ゆうしゃのおにーちゃんと ぱんけーき たべにいくの! おくれる!」

魔イソ弁「それは……
 まぁでも! 魔王ちゃんが,幸せそうなのはいいことですね!
 終わりよければすべてよし!

あ,勇弁先生ですよ!」


勇弁「和解をしてやったことを忘れるなよ!」

魔弁「請求の内容は,全額お認めになられているじゃないですか。 こちらの勝訴的和解ですよ。」

勇弁「一円たりとも払ってないだろう! 売れないものを渡しただけだろ!」

魔弁「プライスレスな勇者の守りが0Gだとでも????? はー!わーらーえーますねー!!」


魔弁「老事務さん! 報酬で魔王から,魔界のリゾートもらっちゃった~!!

ホテル経営! ビバリゾート!

じゃんじゃん! じゃんじゃん! 金が入ってくる~!」

魔「そこ まもの おおいよ なかよくしてね!」

魔イソ弁「つまり,襲われるかもだから,人が入れない!

先生,人魔の融和を進めないとお金になりませんね!」

魔弁「なんだそれは~! 喧嘩がメシの種なのに,仲良しこよしの手伝いなんかできるか~!!」

老事務「先生,魔界にも,美味しいものがありますぞ。」

魔弁「お金~!!!!!!」

以上

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