モバP「美術館に行きたい?」 (42)

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あやめ「そうです。今、上野の森美術館で特別展をやっておりまして。ご一緒にいかかでしょうか?」

モバP「あやめが美術に興味があったとは。そういうのは頼子さんの専門だと思ってたよ」

あやめ「実のところ、あやめも芸術は門外漢なのですが、友人から割引のチケットを複数枚頂きまして。

聞けば会場には様々な趣向を凝らして、人を欺き、驚かせる現代アートが多数あるとか。

ですので、あやめは新しい忍術開発の参考になるやも知れぬと期待しております」

モバP「確かに面白そうだな。だけど、うーん……」

あやめ「むむ。プロデューサー殿の心配事は、アイドルとふたりっきりになってしまうことですか?」

モバP「そうだ。プライベートで二人というのは良くない。最悪あやめのアイドル生命に関わる」

あやめ「ふむ。では、プライベートではなく、レッスンという形で行くことにしましょう」

モバP「ん?どういうことだ?」

あやめ「すなわち!いずれ来るであろうドラマの演技レッスンという形で、美術館に行くのです。役柄は恋人同士!

これならプライベートではなく、アイドルとしてのレッスン、すなわち仕事として行くのでプロデューサー殿も納得✩安心✩許可ですね!」

モバP「なにが納得✩安心✩許可ですね!だ。周りから見たら本物のカップルも演技レッスン中も違いないだろ!」

あやめ「そこはアトモスフィアでなんとか」

モバP「無理だ」

あやめ「仕方ありませんな。では次の手を講じましょう。プロデューサー殿、しばしここでお待ち頂けますか?」

モバP「ん?おお、いいけど」

あやめ「ではちょっと行ってきます」

モバP「あ、おいどこに……ってトイレか。」

……5分後。

モバP「あやめ、遅いな……」

モバPが待っていると、トイレの扉が開き、うぐいす色の制服をきた、長い茶髪を三つ編みにした女性が出てくる。

モバP「あれ、ちひろさん。トイレ行ってましたっけ?

というか、あやめがトイレに行ったきりなんですが、大丈夫か見てきてもらえませんか?」

ちひろ?「あやめさんですか……それならですね」

あやめ「あなたの目の前におりますよ!」

モバP「なに!?声が急に変わった……!もしかしなくても、ちひろさんじゃなくて、あやめか?」

あやめ「さようです!いかがですか?この変装術!そして、声帯模写!これなら衆目の中であろうと、

私とはばれますまい!」

モバP「あやめ、おまえの忍者の腕すごいな……。それはさておき、

確かにその変装術なら一緒に行ってもまず気づかれないな。よし、週末開けておくから行くか、美術館」

あやめ「ありがとうございます、プロデューサー殿。では当日よろしくお願いいたします。

あ、私はこの姿にて参りますゆえ……」

モバP「ん?別にあやめと分からなければ、ちひろさんの姿じゃなくてもいいぞ?」

あやめ「モデルがあった方が、変装もやりやすいのです。それに上野周辺は混みますから、

お互いにわかる姿形でないと、はぐれた時などに探すのが大変になってしまいますよ?」

モバP「そう言われれば、確かにそうだな。俺とあやめに共通の知り合いで、アイドルじゃないとすると限られてくるからな。

了解した、待ち合わせの時はちひろさんの姿を探すよ」

あやめ「はい!よろしくお願いいたします。あと、加えてもう一点よろしいですか?」

モバP「ん?どうした」

あやめ「折角の変装術の機会なので、私、当日はちひろさんになりきって行動したいと思います」

モバP「……なんでまた?」

あやめ「日々是れ精進。こういった機会でもないと変装の術をより高いレベルに持ち上げることはできません。

ちひろさんになりきることで、変装術に磨きをかけ、来るべきドラマなどのお仕事の、演技の応用として役立てたと思います」

モバP「あやめ、お前、アイドルの鏡だな」

あやめ「褒めても手裏剣くらいしか出ませんよ!それはさておき、プロデューサー殿にご協力をお願いしたいのです。

変装した者の名前でも反応できるようになる訓練として、当日、私のことは『ちひろさん』と呼ぶようにお願いできますか?」

モバP「ん、あやめがそう言うなら。まあ、姿はちひろさんだし、逆に呼びやすいかな」

あやめ→ちひろ(以下あやめ変装中はちひろで表記)「ふふ、ではよろしくお願いますね。プロデューサーさん」

…………………………………
時は過ぎ、週末。上野の森美術館前、約束の時間。

モバP「大体時間通りに到着……。だけど、あやめはどこかな?えーと携帯に電話を……」

ちひろ「プロデューサーど……、コホン。プロデューサーさん、おはようございます」

モバP「お、おう、後ろに居たか。おはよう。それにしても、ほんとに、どこからどう見てもちひろさんだな」

ちひろ「お褒めに預かり光栄です」

モバP「それじゃあ、行くか。さて、特別展の入館料は……。そういえば、あや……ちひろさん割引券持ってるんだっけ?」

ちひろ「はい、ここにありますよ。えーと割引で1600円が1000円、二人で2000円ですね」

モバP「はいよ。券もらうぞ。買ってくるからちょっと待っててくれ」

ちひろ「……あ。ありがとうございます。1000円お渡ししますね」

モバP「いや、このくらいは俺が払うよ」

ちひろ「え。…でも悪いです」

モバP「久々に2000円札を有効に使える機会を与えてくれた事への、感謝の気持ちだ」

ちひろ「……ふふ、なんですかそれ。でも、それならせっかくなので、お願いします」

…………………………‥モバPチケット購入中

モバP「はいチケット。さて、いくか」

ちひろ「どんなものがあるんでしょうか。楽しみですね」

モバP「そうだな」

エントランスを通り抜け、この特別展の由来が書かれている。

そこを通り抜けると、特別展が始まる。

歩を進めて、右側の壁にA4サイズ程度の2枚の絵が並べて飾られている。2枚で1セットの作品のようだ。

絵は、ヤドクガエルのような毒々しい紋様が、同じ配色で描かれている。

2枚の絵はほぼ同じようだが、細かいところに目を向けると、若干の違いが見てとれる。

タイトルには「見方により構築される2重螺旋の生命」とある。

モバP「ふむ、抽象的だな」

ちひろ「そうですね。こう、絵の具をばら撒いたような絵を彷彿とさせます」

モバP「うーん、現代芸術はこういうところが難しいな。意味がわからないというか、

いたずら書きにしか見えないというか。題名も、いろいろな角度から生命を抽象的に描いたってことなんだろうけど、

ちょっとこれだけじゃな」

ちひろ「ふふ、でもPさん、これは案外わかりやすいかもしれません。この床のところを見てください」

モバP「うん?お、ちょうど2枚の絵の真ん中に足跡のマークか。ここに立って見れば、絵が変わるってことか?どれどれ…」

ちひろ「どうですか?」

モバP「……うーん、変わらないな」

ちひろ「ただ見るだけではダメなんですね……『見方により』、『2重螺旋』、……そうか。

Pさん、これ、立体視じゃないですか?」

モバP「立体視?あの、寄り目で見ると、絵が立体的に浮かび上がるやつか。

どれ、焦点をずらして…………、おお、二枚の絵が重なって、すげぇ、確かに生命が浮かび上がった!」

ちひろ「私もいいですか?……わっ!確かに、浮かび上がりますね。面白い」

モバP「これを手書きの油絵でやるか……。しかしあやめ、じゃないちひろさん、よくこんな仕掛けが

分かったな」

ちひろ「題名の螺旋がヒントになりました。螺旋は立体の暗示だったんですね。あとはたまたまです」

モバP「いやいやホントすごいぞ、絵画探偵名乗れるよ」

ちひろ「それは都ちゃんと頼子さんのコンビにお譲りします。さ、次に行きましょう?」

廊下の突き当たり2枚の連作がある。写真のコラージュだ。

1枚目は、画面下部に陰鬱とした背景の中、白い死体袋がたくさん横たわっている。

それが地平線となる画面中央まで大量に連なり、やがてただの白色になる。

死の白に満たされた中央部から視線を上に向けると、その白はいつの間にかホワイトハウスの形に姿を変えている。

つまり、この絵の中では、死体袋が積み重なってホワイトハウスが作られていることになる。

2枚目は海の絵だ。右側の美しい砂浜の風景が左側に移動するにつれ、いつの間にかゴミとがれきの堆積した海岸線に変化する。

二つは連続した海岸の形をしているのに、その左右は楽園と終焉、両極端だ。

題名は「連続」とある。

モバP「今度のはわかりやすいな、だまし絵みたいだ」

ちひろ「はい。1枚目の死体袋は、多分戦争で亡くなった方のものでしょう。

積み重なった死体袋が、地平線まで続いて画面を白で満たし、それが最終的にホワイトハウスになる。

因果の連続をはっきりと描いた、痛烈な皮肉ですね」

モバP「2枚目は、時間の連続を絵にしたんだな。美しい海岸が、時間を経てゴミだらけになってしまう連続」

ちひろ「メッセージ性が強いですね。こういうの好きです」

モバP「うん、面白い。俺も好き」

曲がり角を曲がると、抽象画の油絵がある。

人間の上半身サイズのキャンパスいっぱいに、赤、白、緑、黒、青が原色で塗りたくられ、波打っている。

油絵具がカンバスから盛り上がって固まり、飛び出す絵本のようだ。

モバP「これまたすごいもん作ったな……」

ちひろ「凄まじい勢いを感じますね」

モバP「題名は、『躍動』か。ま、確かに元気だな、カンバスから溢れるくらいだし」

ちひろ「……あ、Pさん!ここ、この、赤と白の絵の具で盛り上がったところの裏側見てください」

モバP「ん、ああ!鶏の顔が油絵具で立体的に作られている!待てよ、よく見ると、この緑の部分は蛇のしっぽ?

角度変えてみると、青と黒いところに蝶の羽っぽいものも。他にもたくさん動物いるな、これ」

ちひろ「完全に油断していました。カンバスに書かれているから抽象絵画だと思ったら、

まさか動物のキメラを絵の具で立体的に仕上げた作品だったとは」

モバP「この欺き方は、確かに忍術に応用できそうな欺き方だ。

どう応用するかは皆目検討もつかないけど」

ちひろ「ええ。凄いです、メモっておきましょう。……さて、次ですね」

曲がると広間に出る。

広間の中央に2m×2mの非常に大きな作品がある。

夜の街の写真を暗めに加工した写真画像。その上にキラキラと光る糸が、

旋風のような滑らかな流線で、画面全体にミシン目に縫い付けられている。

ちひろ「うーん、これはなんでしょう?」

モバP「夜の街、かな。題名は……『金曜の夜』。うーん、ピンと来ないな」

ちひろ「こういう時は、一度遠くから見るといいかもしれません。細部に注目すると全体が見えなくなって

理解を妨げる場合があります」

モバP「よし、ちょっと離れてみよう」

ちひろ「……、うーん。わかりません。Pさんどうですか?」

モバP「……ふっふっふっ。今回は分かった。確かに離れるとよくわかる。これは酔っぱらいの視点だ!!」

ちひろ「あっ!!」

モバP「一軒目を飲み終えて、次の店に繰り出す金曜日の夜。足元がおぼつかない感じを流線型で、

視界がふらふらして考えが途切れがちなのをミシン目で、ほろ酔い気分の高翌揚感を糸のキラキラで、それぞれ表現しているんだな」

ちひろ「酔っ払い、なるほど、確かにそうです」

モバP「意味が分かると楽しいなー」

二人は部屋を出て、階段を登る。

階上の部屋、入って右側の壁に、透明のアクリルのケースが設置されている。

ケースの下部分は空っぽで、中央部分から上部にかけて大量に枯葉が詰められている。

大量の葉っぱが圧縮して詰められているので横方向に圧力がかかり、アクリルケースの下に落ちないようだ。

また、アクリルケースには近づけないように、柵がある。

モバP「これまたすごいな。一体何を表しているんだ?」

ちひろ「題名は『時の移ろい』ですか」

モバP「ふーむ、これどういう意味なんだろう」

ちひろ「これ、葉っぱが詰められてますよね。この作品は、見る時によって姿を変えると思いませんか。

例えば、2日後に来たら、下の方の葉っぱが何枚かアクリルケースの下の方に落ちているかもしれません。

1週間後に来たら、枯葉の分解が進んで、今詰まっている葉っぱの横の圧力が弱まって、全てアクリルケースの下部に

落ちているかもしれません。運がよければ、それが落ちる瞬間を観察することもできます。

そういう意味でこの作品は、時間を視覚化したものと言えます。

だからこの作品は、時の移ろい、を表現したものなのだと思いますよ」

モバP「ある意味、すごいゆっくりとした砂時計なのか……。ちひろさん、実はすごい好きでしょ、芸術」

ちひろ「ふふ、常識的な範囲の考察ですよ」

部屋の奥の方に、一際異彩を放つ壁がある。

その壁には非常に大きな絵が一枚ある。

壁の絵は、全面、真っ黒に見える。

モバP「おー、これあれだろ。もう何枚か組み合わせると鯨の絵になるやつ」

ちひろ「ふふ、ACですね。あのCM、私も好きですよ。それはさておき、この絵はそれだけではないかもしれません。

今度はさっきの『金曜日の夜』の時とは逆に、もっと近づいてみましょう」

モバP「どれどれ。……あ、近づくと、うっすらとだが線が見えて、絵になっている。

ほんのわずかな黒の濃淡だけで描かれているんから、遠くから見ると真っ黒だけど、近づくと見えるのか。

緊張した兵隊の絵。題名は……『塹壕の奥底』。戦争の時の塹壕の中の様子を描いた絵だな」

ちひろ「覗き込むようにして近づかないと、中の様子が見えない。主題にマッチした緊張感とリアリティがありますね」

モバP「俺達鑑賞者自身が、塹壕の奥底を覗き込むものになっているんだな。

見るためのアクションまで含めて、作品の一部か。……これもよく考えられてる」

ちひろ「はい。面白いです。……ところで、すごい気になっているんですが、この脇のはなんでしょうか?」

この黒い絵のすぐ脇の壁に、電話番号が書いてある紙が貼りつけてある。

これも、作品のようだ。

モバP「なんだろうな、かけて見ればわかるかも。電話で聞く音楽作品かなにかかな」

ちひろ「どうでしょう?あら、これ。……ふふ、Pさん、ここ見てください」

モバP「ん、作品の材料が書いてある。『コピー紙、トナー、作品の前のあなた』。

……ははぁ、なるほど。つまりこの作品を見て、電話番号の意味を考えたり、実際にかけてみたり、

なんだろうと話し合ってみたりする俺達自身を作品にしてしまうのが、この作品なわけだ」

ちひろ「作品を見ている人が、作品に取り込まれ、作品となる。とっても不思議な作品ですね。

ちなみに、この番号に電話するとどうなるんですか?」

モバP「物は試しだし、ちょっとかけてみようか?」

…………モバP電話中

ちひろ「……どうです?」

モバP「留守電が『こんなに怪しい電話番号にかけるのは危ないですよ』だってさ」

ちひろ「ふふ。見る人を取り込んで作品にする作者にふさわしい、人を食ったジョークですね」

モバP「全くだ。さて、行くか」

部屋を出て、階段を下ると美術館のエントランスに戻ってくる。

モバP「あ、終わりかな?」

ちひろ「特別展は終わりのようですね……。あら、でもこっちに無料の作品展示があるみたいですよ」

モバP「一つのフロア丸ごと作品になっているのか」

部屋の中に入ると、特別展の時とはうって変わって、普通のトーンで皆が喋っている。

どうやら感想戦をしながら、最後の展示を眺めているようだ。

その感想戦の中に一人、見知った人物が居る。

モバP「……あれ。ちひろさん、あそこにいるの、別事務所でお前が仲がいい脇山珠美じゃないか?」

部屋の一角で、話し込んでいる小さな女の子がいる。アホ毛がキュートだがクール売りの脇山珠美だ。

ちひろ「あ、確かに珠美さんですね」

モバP「挨拶してくるか?」

ちひろ「……いえ、今はお話なさっているみたいですし。それに私はちひろですから」

モバP「ん、徹底してるな、了解。で、作品の方はと。

部屋の右奥の方に何かあるな。椅子、ズボン、財布、それにベルトが地面に散らかっている。

あ、持っていかれないように小物は固定はされているんだな」

ちひろ「作品の題名……『油断』。そうですね、確かにこの部屋は油断しています」

モバP「男の一人暮らしっぽいな。部屋丸ごとで油断を表してるってことか……」

ちひろ「ふふ、ちょっと、拍子抜けしてしまいました。ここまでいろいろあったから、

ここにも何かあるんじゃないかって疑ってしまいますよね」

モバP「確かに、特別展の作品が印象的なものが多かったからな。ま、でもこういうわかりやすいのは好きだよ」

ちひろ「はい。…………ではそろそろ出ましょうか」

モバP「おう。それにしても真剣に見てたから、結構疲れた。どっかで休むか」

ちひろ「駅の方にゆったりしたお店がありましたから、そっちに行きましょう」

その後、少し歩いて駅下のオープンテラスのあるイタリア料理店に入って休憩。

モバP「現代芸術はわからないと思ってたけど、案外面白いもんだな」

ちひろ「そうですね。作品のいろいろな見せ方に工夫が凝らされていて、たいへん興味深かったです」

モバP「ちひろさんは何が好きだった?」

ちひろ「どれも良かったですが、電話番号の展示は良かったですね。出し抜かれた感じが好きです。Pさんは?」

モバP「『金曜日の夜』」

ちひろ「よく、酔っぱらうから共感したんですか?」

モバP「自分で内容がわかったからです!」

ちひろ「ふふふ」

モバP「まったく」

その後しばらく談笑して、二人はそのまま解散した。

………………………後日、事務所。

モバP、新聞を熟読中。

あやめは事務所の同じ部屋にて、ミュータント・タートルズを読んでいる。

モバP「……。あー!そうだったのか」

あやめ「どうしたのですか、プロデューサー殿?」

モバP「この前行った上野の森の美術館の特別展!最後の展示で『油断』っての見たよな

あれ、やっぱり仕掛けがあったんだよ。ここ読んでみな」

あやめ「『上野の森美術館、『油断』に出演の脇山珠美さんのインタビュー』」

モバP「あの展示は、部屋と小物だけじゃなかったんだな。あそこにいた脇山珠美も作品の一部だったんだ。

つまり、あの部屋を劇場とした演劇作品が『油断』だったんだ」

あやめ「『珠美:この仕事はとても大変です。15分サイクルで同じセリフを言う演技を繰り返して、それを2時間続けるんです。

2時間たったら、もうひと組の演者に交代します。なので8回連続でお芝居を続けるんです。美術館の来場者さんに

混じってできるだけ演技していることがバレないように演技するので、すごい緊張しました。、

でも普段できないようなお仕事をさせてもらって、とても嬉しいです』

ふーむ、なるほど」

モバP「記事によると、この特別展の期間の中盤までは黙ってて、来場者に発見の楽しみを残していたんだな。

あやめ「油断というのは、部屋の小物だけを判断して、内容を推理してしまった鑑賞者自体を指していたのですか」

モバP「そのとおり。で、この記事以降は、演技自体を含めた部屋全体を作品として見てもらうようだ。

あの部屋と、珠美たちの演技を見ることで、あの部屋に仕掛けられた『油断』が浮かび上がる構造になってるらしい。

これが後半の『油断』だ」

あやめ「珠美殿、なんと面白い仕事を。私には一言も言ってくれませんでしたな。きっと箝口令敷かれてたのでしょう」

モバP「そうだな。情報が流出しないようにしてたんじゃないか。……演技中なら、あの時声をかけなくてよかったな」

あやめ「………ええ、そうですね」

モバP「…さて、そろそろ仕事の準備するか。ちょっと車を事務所の前にもってくるから、ここで待ってくれ」

あやめ「はい、お待ちしています」

モバP事務所の外へ。入れ替わりで部屋の奥からちひろが入ってくる。

ちひろ「あやめちゃん、Pさんは?」

あやめ「いま外に車の準備に行きました」

ちひろ「そうですか、タイミングが悪かったですね」

あやめ「ちょうど、いままで上野の森美術館の話をしていたのですよ。



……ちひろさん、どうでしたか?プロデューサー殿とのデートは?」

ちひろ「わ、わ。ダメですよ!あやめちゃん、こんなところで!Pさんに聞かれたらどうするんですか!」

あやめ「まあまあ。今出て行ったばかりですから、大丈夫ですよ。それでいかがでしたか?」

ちひろ「……や、その。……まあ、楽しかったです」

あやめ「それは良かったです。ちひろさんの姿で美術館に行く方向に、うまく話を誘導した甲斐があったというものです。

では今度は、浜口あやめとしてではなく、千川ちひろとして行ってください」

ちひろ「あー。いえ、でもそれはですね。ちょっと……」

あやめ「もう。何をそんなに戸惑っているのですか」

ちひろ「その、あやめさんがキューピット役を買って出てくれて、今回の入れ替わりを提案してくれて、たいへん嬉しく思います。

ですが、ほら、やはり、職場での恋愛ってハードル高いというか、失敗したら嫌だというか。

だから慎重に、ですね……」

あやめ「……本音ですか?」

ちひろ「…………ごめんなさい、建前です。ホントは、その、……気恥ずかしくて」

あやめ「実質デートしたのだから、そんな恥ずかしがること無いではありませんか」

ちひろ「……あくまで、あやめさんとして行ったから、自然に振る舞えたんです。でも、私が私としてPさんと行動しては……」

あやめ「なら、諦めますか?」

ちひろ「それは嫌です!」

あやめ「素直じゃないですね」

ちひろ「素直に生きられないのが、大人なんです……」

あやめ「私には少女のように見えます。……まあ、それはいいです。ちひろさんは、ちひろさんのペースで

やってください。私は今後もちひろさんをお助けします故。ですが、いつかは、結論を出してくださいね?」

ちひろ「はい……」

そのまま、二人は別の話題に移った。

少しして、扉が開きモバPが入ってくる。

モバP「車、準備できたぞ。行くか、あやめ。……ちひろさん、行ってきます」

ちひろ「はい、気をつけて」

あやめ「では参りましょう」

モバPとあやめ、事務所を出て、外の車に移動。

モバPが運転席、あやめが助手席に乗る。

あやめ(簡単に折り合えない気持ち)

モバP「今日の仕事は、昼前くらいに片付きそうだな」

あやめ(人を好きになること)

モバP「だから、午後から少し暇なんだが……」

あやめ(いつかは私にも、そのように想う人が現れるのでしょうか?)

モバP「……………上野の森美術館行かないか?」

あやめ「………………ほぇ!?この前行った……あ、ああ!さっき言っていた珠美殿を見にですか?」

モバP「おう。……あー、でもあの展示のためだけにもう一回入場料払うのもアレか。俺が奢るよ」

あやめ「いえ。私もアイドルの端くれ。700円程度の入場料くらいなんのそのです」

モバP「あやめ。珠美の出ている展示は、無料展示だ」

あやめ「……ああ!そうでしたな。プロデューサー殿が紛らわしいことを言うから……」

モバP「それとな?入場料は1000円だ。ほれ、領収書見てみろ」

あやめ「え?……確かに2人で2000円だ……。確かに割引チケットには700円と……あ」

モバP「そ、ちひろさんだったから。あやめやっぱりあの日入れ替わってたな?」

あやめ「観念致します。確かに入れ替わっておりました。しかし、いつ気づいたのですか?」

モバP「一つ目の違和感は、今言った美術館の入場料だ。ちひろさん、入るときに自分を大人料金で計算していた。

料金を払った後で思ったんだが、確かに変装が完璧で、ちひろさんになりきっていたといっても、

15歳のお前がすぐに大人料金で入場料を計算するかなーと、なんか少し引っかかった」

あやめ「むぅ」

モバP「二つ目は、演技が完璧過ぎたこと。俺が美術館の中で接したちひろさんは、どっからどう見ても完璧にちひろさんだった。

それなのに、最初に待ち合わせで会った時だけは、プロデューサー殿、と言い間違えそうになった。だから逆に不自然に感じたんだ。

もしかして、一番最初の間違いは、あやめであることを印象づけようとして、わざと間違えたんじゃないかってな」

あやめ「ははぁ。確かに最初に間違えるよう私がちひろさんにアドバイスしました。それが逆効果になってしまったのですね」

モバP「三つ目は鯨のCMの話。美術館の一室に黒い絵が飾られてたんで、鯨のCMの話をしたんだけど、

それ明らかにお前の年代じゃわからないCMなんだよな。今は動画サイトでまとめがあったりするけど、

普通は見ていない可能性の方が高いと思ってな」

あやめ「年代的にはそうですね。私はあのCM知っていますが……」

モバP「そうか。まあ、疑う要素の一つと考えてくれ。そして四つ目はさっきの会話。

俺が『あの時声かけなくてよかったな』と聞いたときに、あやめ、一瞬逡巡したな。

だから、あやめは何があったか知らないのに、調子を合わせただけなんじゃないかって思った」

あやめ「……プロデューサー殿、よく見てますな」

モバP「担当プロデューサーだからな」

あやめ「プロデューサー殿。まずは謝罪を。騙して、すみません」

モバP「いや、俺は……。感謝こそすれ、謝られることはない」

あやめ「プロデューサー殿?」

モバP「ちひろさんと美術館を見て回れて、楽しかった。俺と彼女は、多分こんな機会をでもなかったら、

一緒には出かけられないからな」

あやめ「プロデューサー殿。そんなことは……」

モバP「お互い、恥ずかしがっちまってな、どうもダメなんだ

ま、それはいい。とにかく、上野の森美術館行こうぜ。あやめ自身、楽しみにしてたろ?」

あやめ「あれ、それはカマではなかったのですか?」

モバP「カマでもあったってだけだ。あやめがまだ行ってなければ、だけどな」

あやめ「はい、実はまだです。特別展の期間はまだ先まであったので」

モバP「じゃあ行くか。……あ、でも俺と行くと変装が必要になっちまうな」

あやめ「何、私は気にしません。今度はしっかりと、あやめの変装術を披露致しましょう!変装はいつでもできますゆえ!」

モバP「よし、じゃあ、見せてもらおうか」

あやめ「はい!では、まずはそのまえに、本日のお仕事を華麗に颯爽とこなしましょう!!」

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お話は以上です。

本作は、実際に上野の森美術館にて行われたVOCA展の作品を参考に書きました。

読んでくださった方いたら、ありがとうございます。

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