ありす「私達とPさんの」 桃華「出会いのお話ですわ!」 ―橘ありす編― (113)

このSSは
ありす「Pさんに認められた方が」 桃華「大人、ですわね?」
から地味に続いているシリーズの4作目ですが
どれもこれも1話完結式なので、前の作品を読まなくても大して問題ありません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405731676


http://i.imgur.com/j50Nx6d.jpg


※歴史秘話ヒストリア OPテーマ曲(動画)

ttp://www.youtube.com/watch?v=OG6u8CDvpI4


歴史、それは――

絶え間なく流れる大河

その中の“一滴”を

秘話と呼ぶ


ちひろ「新進気鋭のアイドル、橘ありすちゃん」

ちひろ「12歳という若年でありながら、テレビやラジオで活躍するクールで大人びた小学生」

ちひろ「でも、実際はとても積極的で明るい女の子なんです」

ちひろ「彼女が今のような性格になるまでには、紆余曲折がありました」

ちひろ「それまで本人が胸の内に秘め、表に出すことの出来なかったもの。それは……」

ちひろ「不思議の国から芸能界へと続いた道を紐解いて行きましょう」


――不思議の国のありすとアリス ~母から娘に託されたもの~――



【エピソード1:それはすべて黄金の昼下がり】


社長「おーいP君、一緒に出張しようぜ!」

モバP「ええっ、また出張するんですか」

社長「おいおい、ナチュラルにボケを殺すなよー」

モバP「いや……だって、姫路と神戸にこの前行ったじゃないですか」

社長「言うに及ばず。櫻井君をスカウトできたのは非常に評価している。よくやったじゃん! って思う」

社長「でも佐久間君と櫻井君の二人だけだとまだ不安定だ! 経営が!」

モバP「まだ所属しているの二人だけですからね……」

社長「そうなんよ。事務所の運営はともかく、もしも潰れるなんてことがあったら彼女らの夢も、君たちの職も失わせることになっちゃうし」

社長「とはいえ、まぁ会社を興す時点で融資とか何やらの借金をしているから、どの道赤字に落ち着いちゃうんだけど」

ちひろ「Pさんがお仕事取ってきてくれるおかげで、まだまだ運営のほうは大丈夫です」

モバP「そうですか? 可能ならCM仕事とか取ってきて、事務所にもドーンとお金入れたいんですけど……」

社長「高望みはダメだよP君。地道に行こう地道に」

ちひろ「ところで社長、厳しいといっても何人くらい必要なんでしょう?」

社長「人はいたほうが良いけど……一人か二人かな?」

モバP「一人二人で良いんですか?」

社長「二十人とか三十人になってもP君一人じゃ捌けないでしょ? こんな小規模事務所なのに、一気に人が増えても千川君だって対応しきれないだろうし」

社長「あ、不安定って言っても、ゼロを基準にプラスかマイナスかで例えるならマイナスってだけで、別に何ヶ月も続くと崩壊する……みたいなのじゃないし」

社長「急ぎ過ぎず遅すぎず。まぁ、気長にやろうよ!」

モバP「な、なんというか真剣なのか適当なのかわからなくて、リアクションに困るんですけど」

社長「適当だ!」

モバP「そうですか」

社長「終わりかーい! 困っとったんじゃないんかーい!」

ちひろ「とりあえず、現状維持ってことで良いんですよね?」

社長「いつも通りが一番アルヨ」

社長「あ、決めた。今回の出張は名古屋行こう。名古屋」

モバP「名古屋ですか?」

社長「うん、名古屋」

社長「『終わりかーい』で思いついた。終わり、おわり、尾張。尾張!!!」

ちひろ「ダジャレ……」

社長「温泉旅行とかじゃないんだからさ、行く場所に悩んだってしょうがない」

モバP「確かにそうかもしれないですね」

社長「でしょ? 実際、宮城だって兵庫だってそれで彼女達を見つけたわけだし!」

ちひろ「兵庫は社長のノリで最終的に違う場所に行かされましたけどね」

社長「千川君、結果論で考えよう? 神戸に行くと見せかけて神戸に行かなかったから、櫻井君との運命の出会いがあったんじゃないか!」

モバP「そこまでひねる必要性はどこに」

社長「はい決定、名古屋はお願いするよP君!」

モバP「わかりました。行くからには結果を出してみせますよ!」

社長「日程なんだけど、うーん。ここしばらくは中途半端に予定入っているよなぁ」

モバP「金曜日から出発して土日挟んで行くのはどうでしょう?」

社長「良いけど、それだとP君の休日潰れちゃうし」

モバP「どうせ休日も家にこもってネットとかゲームしかしない人間ですし、それならせめて有用な方向に使いたいので」

社長「なんという熱意だ……わかった、許可しよう!」

ちひろ「局の方と会ったり、打ち合わせがあったりでハードスケジューリングになりますけど、大丈夫でしょうか……」

モバP「これくらいはハードな部類じゃないッスよ。余裕です。社長の無茶振りで根負け
するほど弱い体じゃないです」

ちひろ「確かに、社長の無茶振りは色々と鍛えられますからね」

社長「あれ? 私のせいなん?」

モバP「100%中、軽く120%はそんな感じですかね」

社長「ひどくない?」

ちひろ「255%じゃないですか?」

社長「ひどくない!?」

社長「そうと決まれば、新幹線の――」

ちひろ「券はインターネットで取りますね」

社長「私としては、みどりの窓口のお姉さんから受け取――」

モバP「そういえば社長は今日特に何も無いですよね! スカウトしに駅前行きましょう! ちひろさん、あとお願いします!」

ちひろ「了解です!」

社長「ちょっ、待ってよP君! おい!」

金曜日 名古屋駅前


モバP「ここが名古屋の世界か。ここでの俺の役割は何だ?」

モバP「いやいや、アホなこと言っている場合じゃないな。アイドルの卵を探しに来たんだから」

モバP「でもやっぱり平日の昼間だな。スーツの人ばかりで若い子がいない……」

モバP「あっ! あそこの看板、ユニモールって書いてある!」

モバP「つボイノリオの歌は本当だったんだな」


つボイノリオ先生のあれ

ttp://www.youtube.com/watch?v=nwxxtYCVOR4

モバP「さて、今回は時間が無いから集中してスカウトを……」

モバP「したいけど、そもそも女の子がいないとどうにもならないよね。やっぱり」

モバP「夕方に出直すか」

モバP「ホテルに荷物置いてからメシ食うぞ! ういろう食うぞ、ういろう!」

モバP「名古屋のメシといえば、あの喫茶マウンテンか。でもちょっとここから遠いから今回はいいや」

翌日


モバP(昨日は全然ダメだった……)

モバP(夕方の帰り際で、みんなとっとと帰りたいって気持ちなのかな? まさか名刺すら受け取ってくれないとは……)

モバP「まずいッスよ、これ」

モバP「遠方まで来て、誰も何も手応え無く終わってしまうのはまずい。どうしよう。名刺すら一枚も捌けてないとか社長に顔向けできん」

モバP「とはいえ、やみくもに声をかけるのはスカウトじゃないし……」

モバP「あぁ……太陽が眩しすぎて辛い……。空はこんなにも青いのになぁ。俺も青いよ。ブルーだよ」

モバP「どっかに素質ありそうな人いないかな。素質のありそうな……」

モバP「……あっ!」

女性「あの泡の輪っか出すイルカさんかわいかったねー!」

少女「あれはベルーガっていう種類みたいだよ。ネットに書いてあった」

女性「本当に? ありすちゃんは調べるの早いね。じゃあ、泡の輪っかは何のために出しているとかは書いてあった?」

少女「それは……あまり詳しく書いてあるページ無かった」

女性「そうなんだ。あの輪っかは何なんだろうね……」

少女「もっと調べてみる」


http://i.imgur.com/8iCqvTR.jpg

モバP「……タブレットをさっと操作する横顔、良い」

モバP「良いぞあの子! 陰りのあるクールな表情がすごく良い!!」

モバP「「横にいるのは保護者……だよな? いるなら、間髪入れずに通報されるようなことも無いだろうし」

モバP「直感を信じます! 俺!」

モバP「すいません! あっ、すいません! ちょっと良いですか!」

女性「はい、何でしょう?」

モバP「急に申し訳ありません。私、こういう者でして」

女性「はいはい……芸能事務所のプロデューサーさん?」

モバP「おもにアイドルのプロデュース事業を中心に行っております」

少女「……アイドル?」

モバP「事務所が出来たばかりで所属アイドルも少ないのですが、未来の有名人候補は随時募集中!」

モバP「で、君を見てアイドルとしての素質を感じたわけで、今声をかけさせてもらったんだ」

少女「私がですか?」

モバP「そう!」

女性「アイドルの素質だって! すごいねありすちゃん!」

モバP「ありすちゃん、で良いのかな? もし良かったらフルネームを聞いても……」

ありす「橘……ありす、です」

ありす「出来れば名字のほうで。こちらのほうが呼ばれ慣れているので」

モバP「初対面の女性にいきなり名前呼びは失礼だったね。申し訳ない」

モバP「橘さんはどう思う?」

ありす「私は――」

ありす「――もう少し考えさせてください。今は何とも」

ありす「すいません」

モバP「いやいや、それで良いんだ。何もたった今決めてくれって話じゃないよ。そういうことを言われたなぁ、程度に考えてくれれば構わない」

モバP「自分としては名刺受け取って話も聞いてくれたことで御の字だし」

モバP「もし、アイドルをしたくなった場合には、この名刺に書いてある電話番号にかけて欲しい」

ありす「はい」

モバP「橘さんも、お姉様も、お忙しい中わざわざありがとうございます」

女性「お姉さまなんて。私、この子の母親ですよ?」

モバP「あ、えっ、お母様でしたか!?」

モバP(若っ……)

モバP「これは申し訳ありませんでした。それでは、私はこの辺で」

橘母「いえいえ、お気になさらず」

モバP「君に会えて良かったよ、橘さん。では失礼します」

ありす「……」

橘母「ありすちゃん、どうしたの?」

ありす「えっ?」

橘母「アイドルにならないかって言われて、もっと飛びつくと思っていたんだけど」

橘母「さっきから、ずーっと難しい顔している」

ありす「そうかな。そんなこと無いよ」

橘母「歌や音楽のお仕事したい! って前に言っていたよね。あっ、もしかして別な職業にもなりたくなったとか?」

ありす「別に何でもないの。具体的に何になりたいとかは、あまり考えたこと無いし……」

橘母「ありすちゃんは何やってもよく似合うもの。何になりたい? ケーキ屋さん? お花屋さん?」

ありす「そ、そんな子供っぽいのじゃないよ!」

橘母「それなら、なりたいものが見つかったら真っ先にお母さんに教えてね!」

ありす「もう……」

橘母「でもいいな~。アイドルに向いているなんて言われて。お母さんそんなこと言われたこと無いもの」

ありす「そんなこと無いよ。お母さんだって美人だし。さっきだって、お母さんじゃなくてお姉さんに間違われたよ」

橘母「まぁ、若く見られるのは嬉しいけどね?」

ありす「私よりもお母さんのほうがアイドルは似合っている気がする」

橘母「私はおばさんだもん。ありすちゃんのほうがマイク持って歌ったり踊ったりするのが似合うと思うけどな~」

ありす「あはは……」

ありす「……」

週明け 事務所


モバP「今回の出張で……自分は……今回も……」

モバP「何の成果も!! 得られませんでした!!」

社長「スカウトに行って見向きもされないなんて、よくあることじゃん。ドンマイドンマイ」

ちひろ「名刺渡したりして宣伝できたなら充分じゃないですか」

モバP「そうなんですけど、それでも何かこう……」

社長「釈然としないと?」

モバP「社長の言葉を借りるなら、結果論では何も達成していないってことになるわけで」

モバP「タダで新幹線乗って宿泊して、ういろう食って帰ってきただけというか」

モバP「単に旅行じゃないですか、これ」

社長「そんな深刻に考えなくてもさー」

社長「返答保留の子だっていたんでしょ? ということは、もしかするかもしれない」

モバP「ですかね……」

社長「経営がどうのこうのって言ったから急に焦っているのかもしれないけど、違うから」

社長「新しく会社作って、いきなり黒字軌道とか普通無いから。そこはそういうものだって割り切って欲しいんだよね」

社長「いつも通りにやれば良いんだよ。人生そんなもんよ!」

社長「それに、年齢関係なく女性って鋭いからねー」

社長「そんな顔していると、何かあるんじゃないかって佐久間君や櫻井君が不安に思っちゃうよー?」

社長「昔の人は言いました。果報は寝て待て、と」

社長「P君は精一杯やったというのなら、その結果は時間差で間違いなく付いて来る。まぁ、結果論とか言いつつ、こんな事言うと矛盾に聞こえるけど」

社長「それとも、P君は本当に名古屋じゃまったく頑張らないで、タダ飯だけ食って来たのかい?」

モバP「いえ、やるだけやったつもりです。個人的には」

ちひろ「それなら大丈夫ですよ。まゆちゃんも桃華ちゃんも、Pさんが頑張ったから来てくれたんですから!」

社長「ほら、千川君もこう言っていることだし。前向きにやろうよ前向きに」

モバP「そうですね。自分でもわからないうちに、うまくいかなくてイライラしていたかもしれないです。これからは、もうちょっと落ち着いてみます」

社長「そうそう。出張は旅行気分で良いんだよ」

ちひろ「それはそれで、ちょっと違うような気もするんですけど……」

社長「いいの! せっかくだから北海道とか沖縄もチャレンジしてみる?」

モバP「それ社長が行きたいだけですよね?」

社長「あちゃーバレたかー」

社長「P君、P君」

モバP「はい」

社長「手応えが無かったのが気に入らないのなら、リターンマッチでもしてみる?」

モバP「リターンマッチ、ですか?」

社長「場所こそ違うけど、久々に我々二人ペアで土日に都内でスカウト」

社長「未だスカウト率0%の都内にて、今度こそ成功を収めよう! みたいな」

モバP「自分は構いませんけど、それだと社長の休みが潰れちゃうじゃないですか」

社長「いいんだよ。だらだらと休みを家の中で寝ているよりは、仕事したほうが会社のためだ」

社長「倦怠期とかワーカーホリックとか変な深読みするなよ! 君たちとアイドル達のこと思っての行動だ!」

ちひろ「でも、あまり蔑ろにすると、愛想尽かして奥さん出て行っちゃいますよ?」

社長「善処します……」

週末 都内


社長「P君、いっぱい人がいるね。君はどう見る?」

モバP「ピンと来る人は見える範囲にはまだいませんね」

社長「私もそう思う。もっとも、私の見る目が間違っていなければの話だが。そうじゃなければもしかしたら原石に見えているのかもしれない」

モバP「いや、もしかしたら自分の目も間違っているかもしれないですよ?」

社長「ほう、じゃあ試してみるかい?」

モバP「試すって……」

社長「例えばねぇ……あそこ。あの電話している二十代くらいのお姉ちゃんね。P君はどう見る?」

モバP「あの人? 服も横に置いてあるバッグも、靴まで全部有名ブランドの品か。あれはちょっとダメですね」

社長「理由は」

モバP「自分を良い目で見てもらうためなら何でも、それこそブランドを着て羨ましがられるために借金だって平気でしそうな……これはさすがに偏見か」

モバP「あと、バッグも靴も綺麗すぎる。たぶん自慢の時以外は使わないか、もしくは自慢のために新しいのが出たらすぐ飛びついて買うのか。どちらにせよ物事が長続きしないタイプに見えます」

モバP「自分を見て欲しい点は評価しますが、それ以外はアイドルになっても成り上がる力を出せない可能性があります」

モバP「以上のような理由です」

待ってた

社長「すげぇな……」

モバP「えっ、何がですか?」

社長「一瞬見ただけでそれだけの情報量を判断するのがね。私はもうちょっとここはダメですね、とか簡単な判断だとばかり」

社長「すごい観察眼だよ。あれだ、あれに向いている」

モバP「探偵とか?」

社長「いや、結婚詐欺師」

モバP「お疲れ様でしたー」

社長「待って! ごめん! 帰らないで!!」

社長「茶化す形になったけど、やっぱり君の直感の判断すごいって。オッサン感心したよ」

社長「いや、よく考えたら、君が見つけた佐久間君たちの活躍は目覚ましい。アイドルの素質があるという判断は間違っていないんだろう」

社長「君の好きなように人を探したまえ」

モバP「無理やり良い方向に持って行こうとしていますよね」

社長「気にするなって! ほら、あそこのベンチに座っている女の子とかどうよ?」

モバP「はぁ」

モバP「ベンチの子……って、えっ」

ありす「……」

モバP「マジで」

社長「どうしたのさP君?」

モバP「ちょ、ちょっといいですかね!?」

社長「何が? あっ、P君なんでそっちに走っ……そんなにあのベンチの子に魅力を感じたのかな?」

モバP「橘さん? 橘さんだよね!?」

ありす「そうで……あれ? あなたはこの間の……」

モバP「君、名古屋にいたんじゃないの?」

ありす「あの時は――」

社長「P君! 早いっつうの! 一体何なのさ」

モバP「すいません。色々あって」

付近の喫茶店 店内


社長「あー、この間言っていた名古屋で出会ったっていう」

モバP「そうです。まさか東京でまた会うなんて」

ありす「あの時は母と旅行で名古屋に旅行に行っていただけなので」

モバP「ということは、東京住み?」

ありす「出身は兵庫ですが、今は東京に」

モバP「そういうことだったのか。びっくりした」

モバP「そうだ、横にいるこの人が……」

社長「プロダクションの偉い人、社長ちゃんだよー! よっろしくぅ!」

ありす「は、はい」

モバP「やめてください。ドン引きしているじゃないですか」

社長「オッサンもたまには面白いことやりたいんだよ」

モバP「面白くないからやめてください」

社長「ひどくない?」

ありす「あの……アイドルの件はもう少し待ってもらえませんか?」

モバP「もちろんさ! 別に今返事が聞きたくてここにお茶しに来たわけじゃない。じっくり考えて、そして言ってもらえれば」

ありす「わかりました」

モバP「ごめんね橘さん。お出かけ中だったのに呼び止めちゃって。また話ができて良かったよ」

ありす「こちらこそ。では、私はもう行きますね」

モバP「ああ。それじゃ、また」

社長「かわいい子だね。さすがはP君は選んだアイドル候補生」

モバP「彼女なら、間違いなくアイドルになれると思うんですけどね」

社長「悩んでいたね、彼女」

モバP「それは、ポンと答えは出ませんよ。芸能界ですから」

社長「そうじゃない」

モバP「え?」

社長「今見た限り、アイドルになりたいかどうかをイエスかノーで選ぶなら、間違いなく彼女の心はイエスだ」

社長「考えてごらんよ? 親に反対されたとかならすぐ返事が来るだろうし、本人にその気が無いならこんな一週間や十日間も悩まない」

社長「そこで迷うってことは、アイドルになりたい気持ちがあるんだよ」

モバP「社長はそう思うんですか?」

社長「オッサンの見る目が正しいかどうかはわからんよ」

社長「ただ、私も子持ちでね。少しくらいなら子供の表情からなんとなくわかる」

社長「あれは多分……アイドルになりたい気持ちを引きとめている何か、だな」

モバP「家庭の事情とかでしょうか」

社長「親御さんはどうなの?」

モバP「名古屋ではお母様と一緒でしたが、むしろ喜んでいました」

社長「じゃあそれ以外じゃないかな。母親じゃないなら父親が反対しているとか」

社長「家に寝たきりの祖父母がいて、親が共働きだから芸能活動すると世話する人がいなくなるとか」

社長「理由なんてごまんと考えられる。全部想像だけど」

社長「だが、あれは間違いなくアイドルになりたいと思っているだろうな」

モバP「そうだとしたら、解決した上で心地良くアイドルになって欲しいものですが……」

社長「そうだね」

社長「でもな、そこで我々のような部外者が介入して丸く収まるなんてゲームか漫画の中だけだ」

社長「彼女の問題だからね」

モバP「わかっています。俺は彼女の返答を待つつもりですから。それがどんな返事であれ」

社長「そう言うと思っていたさ! さぁ、休憩したし続き行くぞ!」

モバP「はい!」

ありす「ただいま」

ありす「あれ? そっか、お母さん今日も夜勤だっけ」

ありす「あっ、テーブルに書置きが」


――――

ありすちゃんへ

緊急の用事でいつもより早くの出勤になってしまいました。
ごはんを作り置きしようと思ったんだけど
ちょっと時間が厳しかったから、お金を置いておきます。
これで何か買ってね。

お母さんより

――――


ありす「お母さんも大変だな……」

ありす「アイドル、か」

橘母『アイドルにならないかって言われて、もっと飛びつくと思っていたんだけど』

橘母『さっきから、ずーっと難しい顔している』

ありす「……」

ありす「私は……」

ありす「うん、なりたいんだよ私。歌や音楽のお仕事してみたい」

ありす「けど……言えないよ」

ありす「“ありす”って外国人みたいな名前を大勢の人から呼ばれたくないから」

ありす「アイドルになったらみんなに注目されて、それで名前が知られることになるから、なりたくないなんて」

ありす「言えないよ……お母さんには……」



◆ ◆ ◆ ◆

ちひろ「一人、内心を吐露するありすちゃん」

ちひろ「彼女がアイドルへの一歩を踏み出せない理由は、その名前でした」

ちひろ「ありす……決して悪い名前では無いと思いますが」

ちひろ「夢を葛藤の板挟みにされ、彼女は苦悩します」

◆ ◆ ◆ ◆



【エピソード2:猜疑と不信 彼女に見える世界】


ありすの通う小学校 放課後


男子A「終わったー! よし、あそこのローソン行くぞ!」

男子B「えー? 今日行ったって絶対メダル無いって」

男子A「バカ、入荷しているかもしれないだろ! 意地でもキャンペーンのメダル手に入れるんだからな!」

男子B「無いと思うぜ俺はー」

男子A「いいから、ほら行くぞ! ダッシュ!!」

女子A「男子ってさ、すぐアニメに夢中になるよね。子供っぽーい」

ありす「子供だもん。仕方ないよ」

女子B「あいつなんか整列した時に一番前なのにね。見た目からして子供」

女子A「おっ、整列時に女子列一番前の人が何か言ってる」

女子B「う……うるさいな!」

ありす「私達も帰ろっか」

女子A「なんで男子って目先のおもちゃにすぐ飛びつくんだろうね?」

ありす「うーん……」

女子B「アニメに、あと日曜日にやっているやつ。なんとかベルトとかなんとかチェンジャーとか」

ありす「私達にはわからない何かがあるんだよ」

ありす「男女の好きなものって脳のレベルで根本的に違うんだってさ。つまりはそういうことなんだよ」

女子A「橘さんすごーい。よく知っているねー」

ありす「色々調べているから、これくらいはね」

女子B「Aちゃんってお兄ちゃんいたよね?」

女子A「そうそう、お兄ちゃんも日曜のああいうの大好きみたいで」

女子A「前に色々説明とかされたことあるんだけど……」

ありす「どうだった?」

女子A「ダメ。もう何言ってんのか全然わからない」

ありす「わからないものを悩んだってどうしようもないよ」

女子B「そうだよ。あたし達のほうが一歩も二歩も大人! いいじゃんそれで!」

女子A「そうだね」

女子B「あっ、そうだ。昨日の歌番組見た!?」

女子A「見た見た! あのグループの新曲サイコー!」

ありす「あ、私見てないや」

女子A「本当? 惜しいなぁ、あのグループの曲良かったんだよ」

女子B「衣装もね、フリフリじゃないんだけどかわいいの! あんなの着てみたい!」

女子A「着るだけじゃなくて、ああいうステージでマイク持って、歌って踊って!」

女子B「わかるー! あんなアイドルになってみたいなー!」

ありす「……アイドル」

ありす(かわいい服を着て、みんなの前で歌ってみたいな)

ありす(歌って踊って)

ありす(でも、アイドルになったら、名前が……)

女子A「たっちばなさーん!」

ありす(もし、万が一有名になっちゃったら、この名前が全国に広まっちゃうんだよね)

女子A「おーい」

ありす(この名前が)

ありす(橘――)

女子A「ありすちゃん」

ありす「橘だよ」

女子A「あ、やっと返事した」

女子B「そこで即答すると、なんだか漫才みたいだよね」

女子A「ねぇ、そんなに下の名前が嫌?」

ありす「嫌というか、なんか外国人みたいだし」

女子B「かわいいじゃん」

ありす「そういう問題じゃない」

女子B「本当だよ。橘さんかわいいし。ありす、って名前も似合っているもん」

ありす「じゃあ、これが五十歳とか六十歳のおばあちゃんになっても、違和感の無い名前だって言える?」

女子A「それは……まぁ……」

女子A「ていうか、そんなに嫌な名前って思っているなら」

女子A「その名前付けたお父さんお母さんのことはどう思っているわけ?」

ありす「どうって?」

女子A「そこまで嫌がるような名前付けた親のことは嫌いじゃないのかなって」

ありす「別に」

ありす「あと名前のせいでいじめられたり、いやがらせ受けたり、そういうこととかも無いし」

女子B「なら良いじゃん!」

ありす「良くない」

女子B「具体的に言ってよ。こういう時が嫌だとか、こんなのが嫌だとか」

ありす「どうして?」

女子B「知っておきたいもん。友達だし」

ありす「友達だから言いたくないこともあるの」

女子A「友達だから聞いておきたいこともあるの!」

ありす「なんでそんなに聞きたいの?」

女子B「友達だから」

ありす「それは理由になっていない。論破」

女子A「一年生の頃からずっと一緒の友達のことが心配だし気になる。それは理由にならないの?」

ありす「……」

女子B「悩んでいるなら聞いてあげたい。これ、普通に気持ちだと思うけどなー」

ありす「……」

ありす「朝会」

女子A「朝会?」

ありす「全校生徒が校庭とか、体育館に集まって朝会やる時あるでしょ?」

女子B「あぁ~、朝から校長先生のながーい話があるやつ」

女子A「立ちっぱであれ聞くのキツイよねー」

ありす「そこでたまにあるでしょ、賞状伝達」

女子A「あるね」

女子B「賞状っていえば、橘さんも読書感想文で前に賞状もらっていたよね」

女子A「他にも統計のポスターでも賞状来てた!」

ありす「まぁ、うん」

女子B「あんなめんどいやつをすらすら書けるだけでもすごいのに……」

女子B「作って賞までもらうのって、すごいと思う」

女子A「橘さんすごいよ!」

ありす「す、すごくなんか……別に……」

女子A「うぅ~照れてやんの~! 顔真っ赤~!」

ありす「うるさいな! もう!」

ありす「賞状伝達で、該当する人は校長先生に呼ばれるよね」

ありす「あのエコーがかかる体育館の中で、周りに住宅のある校庭の真ん中で」

ありす「マイク使って大音声で呼ばれるんだ」

ありす「『橘ありすさん!』って……」

ありす「あの瞬間、顔がかあっと熱くなるんだよ」

ありす「賞状がもらえて嬉しいって気持ちと、こんな大勢の前で下の名前が呼ばれて恥ずかしい気持ち」

ありす「顔の熱さが引くと、次に背中がゾクッと寒くなるの」

ありす「名前を呼ばれ終わった後のシーンとしたあの静かな空間……」

ありす「周りのみんなが、下級生が、先生達が、心の中でくすくす笑っているんじゃないかって」

ありす「檀上に行って、また校長先生が『表彰状、橘ありす殿!』って読み上げると、校長先生や横の教頭先生のニコニコした顔も」

ありす「実は私のことを笑っているから、この顔をしているんじゃないかって思えるんだよね……」

女子A「はぁ?」

女子B「そんなこと考えてたの?」

ありす「口割らせておいて、何そのリアクション。怒るよ?」

女子A「だって……ねぇ?」

女子B「うん」

ありす「何」

女子A「橘さんは、年来の友人のことを名前聞いただけでバカにするような人間だと思っていたんだなぁ、って」

女子B「それはそれでショックだよねー」

ありす「えっ、何それ」

女子A「そんなこと思っているわけないって言ってんの!」

女子B「あたし達が名前をからかったこととか無いでしょうに」

女子A「他の子だってそうだよ! 直情的でバカでガキな男子達がそう思っていたら、ちょっかいかけないはずないじゃん!」

女子A「この六年間でそういうことあった!?」

ありす「……無いけど」

女子A「でしょ!?」

女子B「橘さん、さっき自分で“名前のせいでいやがらせされたこと無い”って言ってたもんね」

ありす「うん」

女子B「……そういえば」

女子B「橘さんって、勉強とかでも優秀だよね。いつも」

女子A「テスト後に成績トップ3の名前を先生が読み上げるけど、ほぼ名前あるし」

女子B「あと、誰もやりたがらない生物係に手を挙げたり、学級委員決める時に立候補したり」

ありす「それが名前と何か関係あるの?」

女子B「なんて言うのかな……」

女子B「ちょっと考えたんだけど」

女子B「橘さん、なんか積極的に名前を呼ばれる立場に自分を持って行っている気がする」

女子A「あー、それわかるかも」

女子B「やっぱり?」

ありす「そんな……あれ、えっ?」

ありす(そういえば、なんで……)

女子B「もしかして橘さん」

女子B「自分で思っているほど、自分の名前が嫌いってわけでも無いんじゃない?」

ありす「……」

女子A「橘さん?」

ありす「わからないよ、そんなこと……」

ありす(本当にわからない)

ありす(私はどうして、名前を呼ばれたくないはずなのに、そんなことをしているんだろう……)



◆ ◆ ◆ ◆

ちひろ「ありすちゃんは名前を笑われていると考えていたはずが」

ちひろ「どうやら、周りの評価はそうではないみたいです」

ちひろ「自分の思考と行動の違いにも戸惑いを隠せません」

ちひろ「しかし、本人は気付いていないのですが」

ちひろ「実は、この時にもう道は開けていたのです」

◆ ◆ ◆ ◆



【エピソード3:アリス・リデルと橘ありす】


ありす「ただいま」

橘母「おかえりー」

ありす「お母さん? 今日からしばらく夜勤続くんじゃなかったっけ?」

橘母「急遽シフト変わって、今日は休みになったの。だから夜勤は明日から」

ありす「そうだったんだ」

橘母「しばらくお金置いていたりお惣菜の買い置きばかりだったから、今日こそはお母さん晩御飯作ったからね」

ありす「本当? やった!」

ありす「いただきます」

橘母「いただきまーす」

ありす「やっぱりお母さんの作った料理はおいしい」

橘母「料理は意外と簡単だから、ありすちゃんも練習すればなんでも作れるようになるよ。今度時間があったら教えてあげる」

ありす「うん、でもお母さん忙しいから、本当に時間が空いたときはゆっくり休んでいたほうがいいよ」

橘母「ありすちゃんは優しいね」

ありす「えへへ」

ありす「お母さん、あのね」

橘母「どうしたの?」

ありす「私の名前、どうして『ありす』って付けたの?」

橘母「……ありすちゃん、もしかして学校で何かあったりした?」

ありす「いや、その、これといって特に何も」

橘母「本当に?」

ありす「無いってば」

ありす「ただ、由来とかそんな話を聞いたことが無かったから」

ありす「不思議の国のアリスとかから取ってきたのかな、とか勝手に考えていたから聞かなかったのもあるけど」

ありす「ちょっと詳しく聞いてみたくなった」

橘母「そういえば、話してあげたことなかったね」

橘母「すごい壮大だとか、そういうのではないけど」

橘母「聞きたい?」

ありす「うん、聞きたい」

橘母「まず一つ目は、女の子ならひらがなの名前を付けようって思っていたの」

橘母「『はるか』とか『かなみ』みたいな」

橘母「ほら、橘って字はすごく硬い雰囲気に見える気がしない? 仰々しいっていうか、字も難しいし」

ありす「そんなに気にしたこと無かったけど、画数多いし、一文字で読み仮名が四つ分あるね」

橘母「だから、女の子にはかわいい名前を付けたくて。仮に漢字を当てるとしても、変に凄みの無い字にしようとか色々ね」

橘母「二つ目は、ありすちゃんの言った通りの不思議の国のアリス……というのは間違ってはいないけど、半分だけ正解」

ありす「半分だけ?」

橘母「不思議の国のアリスにはモデルがいるの。アリス・リデルっていう女の子」

橘母「その子は作者のルイス・キャロルの知り合いだったんだけど、いわゆる良家のお嬢様で、音楽に絵画に彫刻……とにかく芸術方面の才能がすごかったんだって」

橘母「しかもイギリスの王子様とお付き合いしたこともあったり。でも最終的には地主の息子さんと結婚して幸せになって、めでたしめでたし」

ありす「まるでおとぎ話みたいだね。絵本の中のアリスよりも、よっぽど」

橘母「ふふふ、そうかもしれない」

橘母「おとぎ話の主人公みたいに華やな人生……」

橘母「それを現実にしたアリス・リデルのように、女の子として幸せになってほしい」

橘母「不思議の国のアリスのように、永くみんなに愛される存在でいてほしい」

橘母「その願いを込めて『ありす』にしたの」

ありす「そうなんだ……」

橘母「でも、少しして本当に良かったのかなって心配になってきたんだ」

ありす「心配?」

橘母「マタニティハイって知ってる?」

橘母「よく聞くマタニティブルーの逆で、妊娠や出産の際にハイテンションになっちゃう症状があってね」

橘母「ありすちゃんを生んで、ありすちゃんって名前を付けて、それからしばらく経ってから冷静になると」

橘母「もしかして、自分はとんでもないことをしちゃったんじゃないかと思い始めて……」

橘母「いくら幸せになってほしいからって、何で童話から外国人の名前を付けちゃったんだろう、って」

橘母「日本人らしくない名前って、この子がバカにされたりしたら……」

橘母「そんな風にね」

ありす「……」

橘母「ありすちゃんがさっき唐突に名前のこと聞いてきた時」

橘母「“ついに来ちゃったか”って思った」

橘母「もしも、ありすちゃんが名前のせいで悲しい思いをしているのなら、それは全部お母さんのせいなの。ごめんなさい」

ありす「そっか、そういうことだったんだ……」

ありす「何でわからなかったんだろう」

橘母「ありすちゃん……?」

ありす「どうしても自分の中で思っていたことがあって、でもそれが矛盾していて、自分でも意味がわからなかったんだけど……」

ありす「私ね、少し前まで自分の名前がどう思われているか心配だったんだ」

ありす「日本人っぽくないし、実は陰で笑われているんじゃないかな。知らないだけでもう笑われているんじゃないのかな、って考えてた」

ありす「周りの評判がね、気になっちゃって」

ありす「で、今日帰ってくる時に友達にそのことを話したら」

ありす「そんなこと誰も思ってない! だって。逆に怒られちゃった」

ありす「よく考えたらそうなのかもしれない」

ありす「だって、今まで名前を理由にからかわれたり、変なことされたりしたこと無いもの」

ありす「それどころか、名前が大きく出るようなことを進んでやっていたみたい」

ありす「統計のポスターとか、学級委員とか」

ありす「それっておかしいよね。自分の思っていることと、やっていることがまったく逆なんだもん」

ありす「今、お母さんの話を聞いてようやく気付いた」

ありす「頭では周りの目を気にしていたけど、心の中ではそんなこと何とも思っていなかったんだ」

ありす「この名前、本当は嫌いでもなんでもなかった」

ありす「お母さん、さっきごめんなさいって言ったけど、謝るのは私のほうだよ」

ありす「誰にも変に思われてないのに、勝手に勘違いして『ありす』を嫌がっていた」

ありす「この間スカウトされた時も、名前のことが浮かんで首を振れなかった」

ありす「幸せになって欲しいって考えて、名付けてくれたものなのに……」

ありす「大切な自分の名前を……ごめんなさい……」

橘母「ありすちゃん……」

ありす「ねぇ、お母さん」

橘母「なあに?」

ありす「アイドルの話だけど、私やってみようと思うんだ」

ありす「もう名前に対して悩む必要は無いってわかったし。あと、アイドルになれば音楽の仕事もできるだろうし」

ありす「……良い、かな?」

橘母「ありすちゃんが思った通りにやれば良いよ。大丈夫」

ありす「本当!?」

橘母「うん。夢は追いかければ必ず叶うから。頑張ってやってみて♪」

ありす「わかった! お母さんありがとう!」

週末


モバP「やあ、橘さん! 久しぶり!」

ありす「急にお呼び立てしてすいません」

モバP「今日は何も用事が立て込んでいないから余裕余裕!」

モバP「電話でこの間の件について話したいってことだったけど、もしかして……?」

ありす「はい、アイドルになってみようと思いまして」

モバP「おぉ~!」

モバP「君は間違いなく素晴らしいアイドルになれる。俺も全力でサポートするから、一緒に頑張ろう!」

ありす「その前に、あの……一つ良いですか?」

モバP「あいよ!」

ありす「私の名前なんですけど」

モバP「名前? あぁ、芸名での活動をしたいってこと?」

ありす「いえ、そうじゃなくて……」

ありす「私のこの『ありす』って名前、どう思いますか?」

モバP「かわいいじゃん」

ありす「か、かわいいって……」

モバP「良いと思うよ。橘さんかわいいし、ありすって名前もかわいい。アイドルとして言うこと無しだと思うけどな」

ありす「本当にそう思いますか?」

モバP「嘘っぱちを言っているつもりでは無いな」

モバP「例えば、同姓同名をバカにするわけじゃないけど、仮称・佐藤一郎さんという人がいたとしよう」

モバP「身長は160cm台の中肉中背、フツメンでこれといった特技も無く、頭も普通レベル」

モバP「……印象に残ると思う? そんな人」

ありす「すごいことをしない限りは、一瞬で忘れそうですね」

モバP「そう。想像上の人だから好き勝手言うけど、やばいくらい何も無い。この人はとにかく個性が無いんだ」

モバP「それに比べて橘さんは、かわいいし真面目そう。『ありす』っていう名前も印象に残るし、何より名前負けしていないかわいさがある」

ありす「やめてくださいよ。そんな、か、かわいいって連呼するの……」

モバP「ごめんごめん。でも恥ずかしがることは無いよ」

モバP「君には君らしさがある。個性だな。自分では気づいていないかもしれないけど」

ありす「私らしさ……」

モバP「君の名前はありすだが……アリスは不思議の国に行くと決まっているわけじゃない」

モバP「アリスがシンデレラの世界に行って、王子様と幸せになる結末があっても問題無い」

モバP「人は誰でも幸せになる可能性を持っている」

モバP「女の子は、みんなシンデレラストーリーの主役になるために生まれてくるんだ」

モバP「だから、その子の持った個性を伸ばしてシンデレラにしてみせる」

モバP「それが当事務所……シンデレラガールズプロダクションの目的さ」

モバP「その『ありす』という名前は、好きかい?」

ありす「この名前は……」

ありす「……はい、好きです!」

モバP「かわいい名前だからね、君の見た目も相まって顔も名前もすぐにみんなに覚えてもらえるよ」

モバP「それも個性だ」

モバP「あっ、ごめん! その、名前が個性的だとかそういうこと言っているんじゃないんだ!」

ありす「そんな慌てなくても大丈夫ですよ。この名前、好きですから」

ありす「一番得意ってことではないですけど、音楽を仕事にしたいってずっと思っていました」

ありす「アイドルになったら、ファンもできるんでしょうか?」

モバP「もちろん! 君ほどの子を素通りする人のほうがどうかしている」

ありす「アイドルになって活躍して、音楽活動もできれば、自分の周りの家族だけじゃなくてファンの人達もみんな喜んでくれますよね?」

モバP「君がそうしたいと思うなら、きっと笑顔になるだろう」

ありす「私、頑張ります!」

モバP「おっしゃ! 良い返事だ!」

モバP「ということで、善は急げと申すもので……」

モバP「あーもしもし? お疲れ様です、Pです。はい、橘さんから返事はいただきました。なっていただけるそうで。はい、はい。今から事務所に行っても良いですか?」

モバP「……えっ、まゆと桃華が来たんですか? なーんだ、じゃあフルメンバーじゃないッスかー! わかりました、ちょっと待っていてください! はい!」

モバP「橘さん、今日はこの後用事とかは?」

ありす「無いですけど、どうしたんですか?」

モバP「新しく誕生したアイドルとして、今から事務所に行って君を紹介する!」

ありす「え、ええっ! そんな急に……」

モバP「運良くちょうど所属アイドルも全員事務所にいるそうだ。さぁさぁ行こう!」

ありす「あの、行く前にちょっと」

モバP「なんだい?」

ありす「ありす、で呼んでもらえますか? 名字じゃなくて名前で」

ありす「まだまだ呼ばれ慣れていないからですけど、この名前は好きなので。身近な人達には、こっちで呼んで欲しいかなぁ……なんて」

モバP「そうか、わかった。ありすさん! これで良いかな?」

ありす「……言いにくくないですか?」

モバP「“す”の次に“さ”はちょっとな! なんとなく『ありっさん』って聞こえているよねこれ」

ありす「あなたはプロデューサーで、私はその下にいるんですから。ありすって呼び捨てで構いませんよ」

モバP「いきなり呼び捨てで良いの? 君もか……」

ありす「?」

モバP「独り言だから、気にしなくていいよ」

モバP「それじゃあ事務所行くか。これからよろしくな、ありす!」

ありす「はい、よろしくお願いします!」



◆ ◆ ◆ ◆

ちひろ「それでは、最後にもう一つ」

ちひろ「名前に抵抗が無くなったありすちゃん」

ちひろ「みんなを笑顔にするためという真摯な思いを持ち続け」

ちひろ「今も夢への階段を一歩一歩上がっています」

ちひろ「そんな秘話を、どうぞ」

◆ ◆ ◆ ◆




※歴史秘話ヒストリア EDテーマ曲(動画)

ttp://www.youtube.com/watch?v=farZts9CaOY

現在


ありす「まさか、こんな短期間でまた料理番組に出演するなんて……」

モバP「前回の橘流イタリアンの反響はすごかったみたいだぞ。ネットで大盛り上がりだ!」

ありす「盛り上がったんですか? あれで?」

モバP「盛り上がっていたぞ」

ありす「それ悪い意味でってことですよね?」

モバP「盛り上がっていたぞ!!!」

ありす「Pさん!」

http://i.imgur.com/4MnTE52.jpg

桃華「でも、今日は材料持ち込みでは無いのですね」

モバP「前回の番組と同じで時間制限はあるけどな。しかも生放送だし。何作るかは考えてきたよな?」

ありす「当然です。いつかまた出番が来ても、前回以上の実力を出すために特訓をしましたから」

桃華「わたくしと一緒に色々練習しましたのよ? 卵も綺麗に割れますわ!」

モバP「そうかそうか。二人とも頑張っているな」

ありす「それはそうと、あそこを見てください。あの果物ブースにはイチゴがありますね」

モバP「結局そこに行きつくんかい」

ありす「今回の料理が成功したら、時間があった時に是非Pさんにも食してもらいます」

桃華「せっかくですから、その際にはわたくしも何か作って差し上げますわ♪」

モバP「マジか。それは楽しみだな、色んな意味で」

モバP「そろそろ収録開始だ。俺と桃華はここからじっくり見ているからな~」

ありす「そういうこと言わないでください! 緊張するじゃないですか!」

桃華「ありすさん! ファイトですわよ!」

ありす「わかっています。もう理論とか計画とか堅いこと考えません」

ありす「私らしいやり方で、ここにいる人、見ている人、そして応援してくれる人全員」

ありす「Pさんやお母さんや……みんな、笑顔にします!!」




――fin――

【嘘次回予告】


ちひろ「次回! あの、みんなのおじさんが帰ってきます!」

ちひろ「渡辺謙に似ていると言われたマッチョな店主『マルメターノおじさん』」

ちひろ「肉体美に加えその人気は完全無欠!」

ちひろ「瞬く間に見た人の心を捉え、ソーセージ片手に、ドイツから選抜総選挙1位を狙います」

ちひろ「次回は名作選! たくましき店主、マルメターノおじさんの物語です!」


――美しき肉体 ドイツおじさんの秘密 ~マルメターノおじさん 社長・モバPと戦う~――



※注意:書きません


元ネタは再放送時の長宗我部元親アニキの回の次回予告ナレーション。

ここまで見てくれた兄貴たち、ありがとう!
超兄貴大好き、俺です! でも今回も超兄貴のネタは無いんだ!

毎週放送のヒストリアにあやかって、2週連続での投稿になりました。
ありすが名前に悩んだり、母親が出て来るSSってもう何個もあるんですよね。これ何番煎じだろう……。

全2編の出会いのお話はこれで終了です。マルメターノおじさんのは誰か代わりに書いてください。
次は、ありすが橘流イタリアンにリベンジする話の予定です。最近ギャグ少ないからバカなやつ書きます。
書きあがったらまた適当な土曜日に投下したいのです。

超兄貴乙

乙乙
マルメターノおじさん編も期待して待っとるで(ニッコリ)

乙。
そういえばマルメターノおじさんで思い出したけどヒストリアでバウムクーヘンの回あったな

>>112
2010年のユーハイム夫妻の話だっけ。
ぶっちゃけ自分は2年くらい前に番組知って観始めたから、2010年のバウムクーヘン回見たことないんだよね……。
しかもあの回ってまだDVD化していないから、観たくても観れないし。

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