あずさ「猫旅」 (223)


今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
コートを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
これだけあれば充分ね。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもあってお散歩日和ね。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って……う~んどれにしようかしら?
今日は……うん、ココアにしましょう。


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あったかいココアを持ってベンチに座ります。
蓋を開けて一口。

あずさ「はぁ~ほっとするわねぇ~。あら?」

ねこ「にあ~」

足元を見ると可愛い猫ちゃんがいました。

首輪もないし野良かしら?
アメリカンショートヘアーの野良って珍しいわね。

とても人懐っこくて足に擦り寄ってきます。
手を顔に近づけるとふんふんと匂いを嗅いで、ぺろぺろと指を舐めてくれました。
そのまま撫でてあげると嬉しそうにしています。

ねこ「にあ~♪」


ひとしきり撫でると満足したのか足元から離れていきます。
かと思ったら少し離れた所で立ち止まって、こちらを振り返りました。

ねこ「にあ~」

呼ばれている……?
着いて来いって事かしら?

今日は特に予定もないし、可愛い猫ちゃんのお誘いに乗ってみましょう。
私が立ち上がって近くに行くと再び猫ちゃんは歩き始めました。

ふふ、一体何処に連れて行ってくれるのかしら~?


公園を出て街を歩きます、少し前には先導する猫ちゃんが。

街路樹は黄色に染まった銀杏の葉で埋め尽くされて、その落ち葉で道路もお化粧されています。
落葉樹の並び立つ通りを私と猫ちゃんで歩いて、さながら黄色い世界に迷い込んでしまったみたいね。
猫ちゃんと私、落ち葉を踏みしめる音だけが聞こえるゆったりとした時間が流れています。

そんな通りを15分位歩くと全然知らない場所に着きました。

あずさ「ここ、どこかしら?」

気づくとさっきまで前を歩いていた猫ちゃんはもういなくなっています。

あずさ「あら? 猫ちゃん? どこ行っちゃったのかしら」


でもそんなに遠くまで歩いたわけではないので、きっとすぐ帰れると思い、私はこの周辺を見て回ることにしました。
初めて来た場所、何だかワクワクしますね。

程なくして素敵な雑貨屋さんを見つけました。

あずさ「とってもいい雰囲気のお店ね~、ちょっと寄ってみましょう」

木製の扉を開くとドアベルがカランカランと音を立てます。
感じの良い店員さんが出迎えてくれました。
キラキラとしたアクセサリーや生活雑貨などが並んでいるのを見ているだけで楽しくなってきますね。

あずさ「どれも可愛くて素敵ね~。あら?」

ふと店内に見覚えのあるリボンを付けたお客さんがいるのを見つけました。

もしかして…。


あずさ「春香ちゃん?」

春香「ふぇ? って、あずささん!?」

あずさ「ふふ、やっぱり春香ちゃんだわ~。こんにちわ」

春香「あ、こんにちわあずささん」

迷子になって立ち寄ったお店で春香ちゃんと会えるなんて、偶然ってすごいわね。

春香「あの、あずささん。このお店にはよく来るんですか?」


あずさ「いいえ、初めて来たのよ。恥ずかしいんだけどまた迷子になっちゃって

    それでこの辺りを見てたらいい雰囲気のお店だな~って」

春香「そ、そうなんですか。相変わらずというか、なんと言うか……」

あずさ「まぁ、酷いわ春香ちゃん……」

春香「あ、いえそういうつもりじゃ……!」

あずさ「ふふっ冗談よ」

春香「あ、あずささぁ~ん……」

お休みの日に春香ちゃんとこんな風におしゃべり出来るのは嬉しいわね。


あずさ「春香ちゃんはお買い物?」

春香「あ、はい」

可愛い柄の紙袋が春香ちゃんの腕の中に見えています。
紙袋を開け買ったばかりの物を取り出して見せてくれました。

春香「これです!」

あずさ「これは……リボンね!」

春香「はい! 私といえばリボン! リボンといえば春香さんですよ!」

あずさ「うふふ、そうね~」

春香「えへへ」


あずさ「とっても素敵なリボンね~」

春香「これ、このお店の手作りなんです」

あずさ「まぁ!」

春香「綺麗な赤だったんで一目惚れして買っちゃいました」

あずさ「きっとよく似合うわよ」

春香「ありがとうございます」

あずさ「私も何か買っていこうかしら」

春香「あの、良かったら買い物の後お茶にしませんか?」

あずさ「あら、いいわね。行きましょう~」

お茶の約束をして店内を眺めます。
どれも素敵で目移りしてしまいますね。


あずさ「う~ん、どれにしようかしら……あら?

    まぁ、とっても可愛い! うん、これにしましょう!」

ふと目についたそれを手に取りレジでお会計。
小さな紙袋を手に持って春香ちゃんの元へと向かいます。

あずさ「春香ちゃん、お待たせ~」

春香「あ、あずささん! いいもの見つかりましたか?」

あずさ「ええ、とっても可愛いものを見つけたの」


春香「わぁ~、何を買ったんですか?」

あずさ「え~っと、ちょっと待ってね」

セロテープで止められた紙袋を開き、買った物を取り出します。

あずさ「はい、これよ」

春香「これって…」

私が買ったのは小さなヘアピン。
端に紫色のリボンが着いていてとっても可愛いです。


あずさ「春香ちゃんみたいにリボンが似合うかわからないのだけれど……」

春香「絶対似合いますよ!」

あずさ「そうかしら。うふふ、ありがとう春香ちゃん」

春香「それじゃあお茶にしましょうか」

あずさ「そうね~、どこかにいいお店はないかしら~?」

初めて来た場所だから辺りに何があるかわからないわね…。


春香「そういえば来る途中にカフェがあったので行ってみませんか?」

あずさ「まぁ、それじゃあそうしましょう」

春香「はい! ……ってあずささ~ん! そっちじゃありませんよ~!」

あずさ「あ、あらあら~……」

春香「ふぅ、それじゃあ行きましょう!」

あずさ「道案内よろしくね、春香ちゃん」

春香「は~い!」


猫ちゃんに連れられて知らない場所に着いたら春香ちゃんに会って、素敵なお店でお買い物をして。
更には楽しくお茶までして、とっても素敵な休日になりました。
猫ちゃんに感謝しないといけないわね。



今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
コートを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
これだけあれば充分ね。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもあってお散歩日和ね。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って……う~んどれにしようかしら?
今日は……うん、ホットレモンにしましょう。


あずさ「はぁ、冬はやっぱりこれよね~」

暖かいペットボトルを持ってベンチに座ります。
キャップを回して中身を口に流し込んでほっと一息。

あずさ「ふぅ。あったかいレモンジュースってどうしてこんなに美味しいのかしら?」

ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

足元から聞こえた声の方に目をやるとこの間の猫ちゃんがいました。


あずさ「あらあら、この前の猫ちゃんね。元気にしてたかしら?」

ねこ「にあ~♪」

私の言葉がわかるのかしら?
元気良さそうにお返事してくれました。

あずさ「うふふ、この前は急にいなくなっちゃって心配したのよ?」

ねこ「にあ~」

足に擦り寄ってくる猫ちゃんと戯れると、嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らしています。
ひとしきり遊んだら満足したのか、踵を返しその場を去っていく猫ちゃん。


ねこ「にあ~」

と思ったら立ち止まり振り返っています。

また、誘っているのかしら……?

先日の事を思い出し、猫ちゃんに付いていってみる事にしました。

あずさ「ふふふ、今日もよろしくね」

先導する猫ちゃんの後にくっついて進みます。
この間は銀杏の並木道を歩いたのよね。


なんて事を考えながら歩いているとまたもや知らない道を歩いています。
この前とは打って変わり真っ赤な道。
木々が赤くお化粧をして、上も下も染めていました。
地面に落ちた紅葉の絨毯の上を、猫ちゃんと私で歩いていきます。
落ち着いた雰囲気の通りで、心が安らぎますね。

気づくと、また猫ちゃんの姿がありませんでした。

あずさ「あら?猫ちゃん、どこへ行っちゃったのかしら……」


周りを見ると知らない場所にいます。
どうやらまた迷ってしまったようですね。

あずさ「どうしましょう……」

何だか高そうなお店が並ぶ街並みです。

???「あずさ?」

背後から声をかけられました。

あずさ「はい?」

振り返ると同じ竜宮小町の伊織ちゃんが立っていました。


伊織「どうしたのよ、こんな所で」

あずさ「恥ずかしいのだけれど、また迷ってしまったようで……」

伊織「はぁ?あんたせっかくの休みに何やってるのよ……」

あずさ「お散歩してたらここに出て、どうしようかと思ってたところだったのよ」

伊織ちゃんは呆れたような顔で私を見ています。

あずさ「でも、伊織ちゃんに会えて良かったわ~」

伊織「ふ、ふんっ。まぁこの私に会えて喜ぶのは当然よね」

私がそう言うと打って変わって嬉しそうな表情になる伊織ちゃん。


あずさ「うふふ。今日はお買い物?」

伊織「まぁ、そんな所ね」

よく見ると手には紙袋を提げています。

私もいくつか持っているブランドのエンブレムが入っているけれど。
多分、私が持っている物よりもいい物のような気がするわね。
それでも様になるのが伊織ちゃんの成せる技なのかしら。


伊織「ねぇあずさ。あんたこの後暇?」

あずさ「え? えぇ、今日はお休みだしお散歩をしていただけだから特に用事はないわねぇ」

伊織「それじゃあ、ちょっと私に付き合ってもらうわよ」

おもむろに携帯を取り出すと、どこかに電話をかけ始めました。
通話が終わるとすぐに新堂さんがやってきて、伊織ちゃんが持っていた袋を手渡しています。


伊織「それじゃあ行ってくるわね。ほら、行きましょうあずさ」

あずさ「あ、は~い。新堂さん失礼します」

会釈をしてその場を離れます。

去り際にお嬢様をお願い致しますって言われて、子供じゃないんだからって怒っていた伊織ちゃんが可愛らしかったです。


伊織「あら? 珍しいわねあずさ、リボンだなんて」

あずさ「これ? うふふ、この前春香ちゃんとお買い物した時に買ったのよ~。

    小さいけれど、とっても可愛くて一目惚れしちゃったの。」

頭のヘアピンのついた方を伊織ちゃんに向けます。

伊織「へぇ。いつもと少し雰囲気変わっていいじゃない」

素直なお褒めの言葉を伊織ちゃんからもらうと少し照れてしまいますね。


あずさ「うふふ、ありがとう伊織ちゃん」

伊織「べ、別に思った事を言っただけじゃない! 礼を言われる筋合いはないわよ!」

あらあら、顔を真っ赤にして照れちゃって。
こういう所も伊織ちゃんの可愛い所だって思います。

伊織「ほらあずさ、さっさと行くわよ!」

あずさ「あ、待ってぇ伊織ちゃん」

伊織「ふんっ」

照れ隠ししながら先に進む伊織ちゃんに引っ張られながら歩きます。


あずさ「伊織ちゃん、どこに向かっているのかしら?」

伊織「あぁ、ちょっと別の店に買い物にね」

あずさ「あら、私がいたら邪魔じゃないかしら?」

伊織「このまま放っといて迷子になられる位なら一緒にいた方がましよ」

あずさ「あら、やっぱりお邪魔なのね……」

伊織「そ、そうは言ってないじゃない……」

あずさ「うふふ、わかってるわよ」

うろたえる伊織ちゃんも、やっぱり可愛らしいですね。


伊織ちゃんに連れられて歩いているとさっきとは打って変わって馴染みのあるお店が立ち並んでいます。

あずさ「伊織ちゃん、今度は何を買うの?」

伊織「ん~、何にしようかしらね」

あずさ「え?」

伊織「この辺の店って来た事がないのよね」

事も無げに言う伊織ちゃん。


伊織「だからあずさがこの辺の店を案内してくれない?」

あずさ「私が?」

確かにさっきの高級店が立ち並ぶ場所よりも分かるお店が沢山あるのだけれど、いいのかしら?

あずさ「私はいいけれど、伊織ちゃんのお眼鏡に適うかしら……?」

伊織「大丈夫よ、あずさの事は信頼してるもの。にひひっ♪」

いたずらっぽい笑顔を浮かべる伊織ちゃん。
そんな風に言われてしまったら後には引けませんね。


あずさ「分かったわ。それじゃああっちのお店から見ていきましょう」

さっきとは逆に伊織ちゃんの手を引いてお店の方に向かいます。
扉を開けると、上部についた鐘の音がからからと鳴り私達の来店を告げました。

伊織「へぇ、結構いいお店じゃない」

あずさ「うふふ、伊織ちゃんにはどんな服が似合うかしら」

伊織「あずさの腕の見せどころね」

元々センスのいい伊織ちゃんの服を選ぶとなると結構難しいですね。
ここは思い切ってみるのも一つの手かもしれません。


あずさ「う~ん、アウターだけでいいかしら?」

伊織「いいんじゃないかしら?」

悩みながら店内を歩き、色んな服を見て回ります。
普段の伊織ちゃんはピンクか暗色系の服をよく着ているから、そうね……うん。

あずさ「この白いコートなんてどうかしら?」

伊織「白?」

あずさ「えぇ、とってもよく似合うと思うの」

たまには冒険してみてもいいんじゃないかしら。


伊織「白はあんまり着ないんだけど……。まぁ折角選んでくれたんだし

   ちょっと袖を通してみるわね。あ、うさちゃんお願いね」

あずさ「は~い」

今着ている上着を脱いで、受け取ったコートに袖を通しています。
サイズは合っているみたいですね。


伊織「どうかしら?」

あずさ「うん、とっても似合ってると思うわ~」

伊織「そう、それじゃあ買ってきちゃうわね」

即決でした。
流石は伊織ちゃんです。


伊織ちゃんがお会計に行っている間に店内を見回っていると私も少し冒険してみようという気になりました。
ピンと来た物を手に取って、レジに持って行きお会計を済ませます。
お買い物が終わって外に出ると伊織ちゃんが先に出て待ってくれていました。

伊織「あずさも何か買ったのね」

あずさ「えぇ、私も普段着ない物を買ってみたの

    伊織ちゃんだけに冒険させるのも悪いから」

伊織「別に気にしなくてもいいのに。それで、あずさは何を買ったの?」


お店の袋から今買ってきた物を取り出します。
全部出すと大変なので一部だけ。

あずさ「私もコートを買ったの、けど少しだけ冒険して薄いピンクのコートに挑戦してみました~」

伊織「へぇ、いいんじゃないかしら」

あずさ「本当?うふふ」

お墨付きを頂いちゃいました。


伊織「さて、買い物も済んだしどう? お茶でもしていかない?」

あずさ「まぁ、うふふ。そうしましょう」

猫ちゃんに連れられて知らない場所についたら伊織ちゃんに会って、素敵なお店でお買い物して。
更には楽しくお茶までしてとっても素敵な休日になりました。
猫ちゃんに感謝しないといけないわね。



今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
コートを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
これだけあれば充分ね。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもあってお散歩日和ね。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って……う~んどれにしようかしら?
今日は……うん、ミルクティーにしましょう。


ボトルのキャップを回して開けると暖かそうに湯気が立ち上ります。
一口飲むと紅茶の風味と、ミルクの甘みが口の中に広がってじんわりとした暖かさが広がってきました。

あずさ「う~ん、美味しい」

公園では子供達がボール遊びをしています。
寒いのに皆元気いっぱいで、見ているこっちまで元気になってきますね。

その中の一人が投げたボールがお友達の頭上を越えて私の足元に転がってきました。


子供「すいませ~ん、ボール取ってくださ~い!」

男の子が元気な声で叫んでいます。
足元のボールを掴んで思いっきり放り投げました。

あずさ「え~い!」

思いっきり投げたはずのボールは放物線を描き、男の子の遥か手前で地面に着きました。
そのまま数回バウンドして、最後は転がりながら少し離れた場所で止まりました。
男の子は止まった位置へ駆け出してボールを拾い上げると被っていた帽子を脱いで

子供「ありがとうございました~!」

と、大きな声でお礼を言ってくれました。

届くと思ったんだけれど、難しいわね……。


ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

さっきまでボールのあった場所に今度はこの前の猫ちゃんの姿がありました。

あずさ「この前の猫ちゃんね、久しぶり~」

声をかけて頭を撫でると目を細くしながら喉をゴロゴロと鳴らしています。

ねこ「にあ~♪」

とっても気持ちよさそうな声を出してます。
暫く撫でていると満足したのか猫ちゃんは歩き出してしまいました。
しかしすぐに振り返って

ねこ「にあ~」

うふふ、今日もどこかへ案内してくれるのね。
少し楽しみになってきました。


猫ちゃんの後ろを前と同じように着いて行きます。
前は紅葉の絨毯の道を歩いたけれど、今日は枯葉を踏みしめるカサカサとした音の響くどこか寂れた道。
けれど、葉の落ちた木はやがて新たな葉を着けるでしょう。
今はまだ寂しい道だけれど、そんな風に冬を感じられて、まだ見ぬ春に思いを馳せられるこの道もまた素敵な道ですね。

気がつくと猫ちゃんの姿はなく、またまた見知らぬ場所で一人になってしまいました。

あずさ「あら?猫ちゃん、どこに行ってしまったのかしら」

辺りを見渡すとここはどこかの商店街のような所に出ていました。
お洋服屋さんに八百屋さん、お肉屋さんにお魚屋さんがずらりと並んでいます。
活気に溢れて、笑顔の絶えない商店街です。


そんな雰囲気に充てられたのか、少しだけこの商店街に足を踏み入れてみました。
すれ違う人、お買い物をしている人、皆が笑顔で何だか私まで笑顔になってしまいそうです。

暫く歩いていると、向こうから見覚えのある人物が歩いてきました。

あずさ「やよいちゃん?」

やよい「へ?」

ビニール袋を手に提げたやよいちゃんでした。


やよい「あ、あずささん!? どうしてここに?」

あずさ「それが、お散歩をしていたらまた迷っちゃって……」

やよい「はわっ、そうだったんですか!」

私がそう言うとやよいちゃんは驚いた表情をしています。

あずさ「あの~、やよいちゃん。ここは一体どこなのかしら?」

やよい「ここは私の家の近くの商店街ですよ~」


あずさ「まぁ、そうだったの。ということはお夕飯のお買い物かしら?」

やよい「はい! 今日は週に一度のポイント2倍デーなんですよ~!」

嬉しそうにべろちょろからポイントカードを取り出して見せてくれたやよいちゃん、ポイントはもう少しで溜まりそうです。

やよい「もうあとちょっとなんですけど、今日は他に買う物も無いから来週に持ち越しです」

私だったら何か別の物を買って埋めてしまいそうだけれど、やよいちゃんのこういう所は本当にしっかりしているわね。


カードをしまっているやよいちゃんを見ていたら、お味噌が切れていることを思い出しました。

あずさ「ねぇやよいちゃん、この辺にお味噌を売っているお店はあるかしら?」

やよい「お味噌ですか?えっと、ここをまっすぐ行った所にありますよ」

あずさ「まっすぐね、ありがとう。こっちね」

やよい「えへへ……ってあずささん、そっちじゃありませ~ん!」

あずさ「あら?」

どうやら全くの逆方向だったみたいです。

おかしいわね……。


心配してくれたのかやよいちゃんがお店まで着いて来てくれる事になりました。
やよいちゃんに手を引かれて商店街を歩きます。

何だか姉妹になったみたいですね。

やよい「こうして一緒に歩いてると姉妹になったみたいですね~」

どうやらやよいちゃんも同じ事を思っていたみたいです。
こういうのって、何だか恥ずかしいけれど嬉しいですね。

やよい「そういえば今日のあずささん、何だかいつもと雰囲気違いますね~」

あずさ「え? そ、そうかしら?」

やよい「はい! そのピンク色のコートが普段と違ってて、でもすっごく似合ってます!」

この前伊織ちゃんとお買い物した時のコートを褒めてもらっちゃいました。
自分としては冒険したものなので嬉しいですね。


おしゃべりしながらやよいちゃんに着いて歩く事数分。
目的のお店に着きました。

やよい「ここです~、安くていいお店ですよ~」

あずさ「ありがとう、やよいちゃん」

やよい「……時々おまけしてくれるんです」

少しだけ悪戯っぽい笑顔でこっそり教えてくれました。

しっかりしていても、こういう所は年相応の女の子ですね。


買い物かごを持って店内を見て回り、お目当てのお味噌がありました。
かごに入れたところでふと思いついて、他のお買い物もします。

やよい「あずささんも夕飯のお買い物ですか?」

あずさ「えぇ、そうよ~」

やよいちゃんが良いお野菜の見分け方とかを横で教えてくれるので、とっても良い買い物になりました。

買う物を全部かごに入れて、お会計をする為にレジに向かいます。

あずさ「やよいちゃん、ポイントカード出さないと」

やよい「へ?」

私が声をかけると、やよいちゃんは面食らったような顔を見せました。


やよい「そ、そんな、いいんですか?」

あずさ「えぇ、だって私はポイントカード持っていないもの

    このままだと勿体無いでしょう?」

やよい「あずささん……えへへ、ありがとうございます~!」

その場でお辞儀をするやよいちゃん。
独特でとっても可愛らしいお辞儀です。


お買い物を済ませてお店の外に出ました。

あずさ「やよいちゃんのお陰でとってもいい買い物ができたわ~」

やよい「こちらこそポイントありがとうございます~! お陰で溜まりました!」

さっきよりももっと嬉しそうにカードを見せてくれました。
全てのマス目にスタンプが押され、もう空いているマスはありません。

あずさ「うふふ、良かったわねやよいちゃん」

やよい「はい! これで商店街で使える商品券と交換できます~!」

そんなにお得な物がもらえるカードだったのね。
喜んでくれて良かったです。


やよい「あずささん! 良かったらウチで食事していきませんか?」

突然のお誘いを頂いちゃいました。

あずさ「急に行って、ご迷惑にならないかしら?」

やよい「大丈夫です! きっと皆喜びます!」

あずさ「う~ん、それじゃあ……ご相伴に与ろうかしら?」

やよい「ごしょ……ばん?」

首を捻って良く分からないと言うような表情をしています。

ちょっと難しかったかしら?


あずさ「お邪魔しますって事よ~」

その言葉聞くと打って変わって明るい表情に変わりました。

やよい「うっうー! それじゃあ早速おうちに帰りましょう!」

あずさ「は~い」

来た時と同じようにやよいちゃんと手を繋いで歩きます。


やよいちゃんのお家では、せめてものお礼にお料理を作らせてもらいました。

ご家族皆喜んでくれたので、一所懸命作った甲斐があります。
大勢で食べるご飯って、とってもいいものですね。
家族って暖かいんだって、思い出しました。
外は寒いけれど、心が暖かくなって、とっても素敵な休日になりました。
猫ちゃんに感謝しないといけないわね。





今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
コートを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
これだけあれば充分ね。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもあってお散歩日和ね。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って……う~んどれにしようかしら?
今日は……うん、コーンポタージュにしましょう。


ベンチに座って蓋を開けます。
最近のコーンポタージュはプルトップじゃなくてキャップなんですね。
でも、その方が最後に残ったコーンをちゃんと食べることができるし、とっても嬉しいですね。
友美なんて学生の頃、どうしても全部食べてやるんだ~って息巻いて缶切りで開けてお箸で食べていました。
何が友美をそこまで突き動かしていたんでしょうか……?
食べ物を無駄にしないという心がけは素敵なことなんですけれど。

ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

ポタージュのコーンを難なく全部食べきった頃、足元に猫ちゃんがやってきました。
毛がもふもふで暖かそうですね。


猫ちゃんの毛皮で暖を取るように、身体を撫でまわします。

あずさ「うふふ、え~い」

ねこ「にあ~!」

ちょっと撫で過ぎちゃったかしら?
少し嫌がられてしまいました……。

あずさ「ごめんなさいね、猫ちゃん……」

謝りながら、今度は優しく頭を撫でてあげます。

ねこ「にあ~♪」


許してくれたのか、手のひらをぺろんと数回舐めてくれました。
舐めたら背中を向けて歩き始める猫ちゃん。

またどこかへ案内してくれるのね。
今日はどこに連れてってくれるのか、楽しみです。

猛威を振るった大雪の名残で、葉っぱの落ちた木々は雪化粧がされたままです。
少しずつ気温も上がってきたせいか、場所によってはもう梅の花が咲き始めていました。
花開いているもの、まだつぼみなもの。
木や道端に雪が残る中、着実に春の足音が近づいてきているように感じました。


あずさ「あら?」

春の訪れに思いを馳せていると、いつの間にか猫ちゃんは姿を消していました。

あずさ「どこに行っちゃったのかしら?」

気が付くと原っぱのような場所に出ていました。
広々としていて、暖かい時期だったら開放的な気分になれそうですね。

???「あずささんどいて~!」

あずさ「はい?」


後ろから声をかけられました。
どくように言われたような……?
声のした方向へ振り向くと、視界が真っ黒い影に塗りつぶされました。

あずさ「へ?」

影が目の前に迫り、そのまま芝生の上に倒れ込みます。

あずさ「きゅう……」

覆いかぶさった影は結構な重さで、私の意識はそこで一度途切れました。
身体を揺すられて目を覚ますと、泣きながら顔を覗きこんでいる響ちゃんの姿がありました。


響「あ! 良かった! あずささん、目を覚ましてくれて!」

あずさ「あら、響ちゃん……?」

何だか少し、頭がぼーっとしています。
私、確か何かに倒されて……それで……。

響「あずささん、怪我してないか!?」

あずさ「え~っと……大丈夫みたいね。下が芝生だったお陰かしら?」

響「いぬ美! 危ないじゃないかあずささんに飛びかかるなんて!」

まぁ、私に覆いかぶさったのはいぬ美ちゃんだったのね……。


響「あずささんはプロデューサーみたいに頑丈じゃないから、いぬ美を受け止めることは出来ないんだぞ!」

いぬ美「くぅ~ん……」

怒られていぬ美ちゃんがしょんぼりとしています。
何だか可哀想になってきました。

あずさ「あの、響ちゃん。私はこの通り怪我もないし、怒るのはその辺に、ね?」

響「い~や! こういう時はちゃ~んと叱らないと、また同じ事を繰り返しちゃうんだ!

  だからここは心を鬼にして…」

いぬ美「くぅ~ん……」

響「うぐっ……そ、そんな目で訴えてもダメだぞ! じ、自分は怒ってるんだからな!」

飼い主として、ちゃんと叱る事が出来るなんて、響ちゃんは偉いのね。


響「ほらっ、ちゃんとあずささんに謝るんだいぬ美!」

いぬ美「くぅ~ん」

響ちゃんに促されたいぬ美ちゃんが私の足元にやってきて、力なくうなだています。
きっと今謝ってくれているのね。

あずさ「いぬ美ちゃん、私は怒ってないから大丈夫よ~」

そう言いながら頭を撫でてあげると、いぬ美ちゃんは私のほっぺたをぺろりと舐めてくれました。

あずさ「うふふ、くすぐったいわいぬ美ちゃん」

響「こ、こらいぬ美!」


あずさ「でも、急に人に飛びかかったりしたらダメよ?きっと皆びっくりしちゃうわ」

響「いや、人によってはびっくりじゃ済まないと思うんだけど……」

あずさ「あら?」

響「と、ところであずささんはここで何をしてたんだ?」

あずさ「実は、お散歩の途中にまた迷ってしまって」

正直に話すと、響ちゃんはとっても驚いた様子で私の心配をしてくれました。
こういう大きなリアクションが、響ちゃんの魅力の一つだって思います。


あずさ「響ちゃんはいぬ美ちゃんのお散歩中?」

響「ハム蔵もいるぞ!」

ハム蔵「ジュイッ」

あずさ「まぁ、ハム蔵ちゃんもいたのね。こんにちわ~」

ハム蔵「ジュジュイッ」

挨拶すると、ハム蔵ちゃんは元気よくお返事してくれました。
いつも思うけど、とっても賢いハムスターですね。


響「ここは、いつも自分たちのお散歩コースなんだ」

あずさ「そうだったの、とっても広々としていて、気持ちの良い場所ね~」

響「へへっ、ここに来ていぬ美に運動をさせるのが日課なんだ」

あずさ「運動?」

響「うん!」

にっこりと笑った響ちゃんは、鞄の中からフリスビーを取り出して遠くへ投げました。

いぬ美「よ~しいぬ美、とってこ~い!」

回転しながらまっすぐに飛んで行くフリスビー。
それをいぬ美ちゃんが猛スピードで追いかけていきます。
フリスビーに追いついたら、あっという間に加えて響ちゃんの元へ帰ってきました。


響「へへっ、いいぞいぬ美! ほら、ご褒美だぞ!」

フリスビーを取ってきたいぬ美ちゃんを撫でて、鞄からワンちゃん用のおやつを与えました。
それをいぬ美ちゃんが嬉しそうに食べています。

響「こうやっていつもいぬ美達と遊んでるんだ!」

あずさ「達?」

響「今日はいぬ美とハム蔵だけだけど、うさ江だったりねこ吉だったりオウ助なんかも連れてきたりするぞ!」

アイドルをしながら家族の面倒も見て、響ちゃんはとっても偉いわね。


響「な、なんで頭を撫でるんだ……?」

あずさ「あ、あらあら。ごめんなさいね、つい」

響「そ、そうなのか……。よく分かんないけど、あずささんもフリスビー投げる?」

あずさ「まぁ、いいの?」

いぬ美「わん!」

私の疑問に、いぬ美ちゃんが元気よく答えてくれました。


響「ほら、いぬ美も投げて欲しいみたいだぞ」

あずさ「うふふ、それじゃあ……え~い!」

私が投げたフリスビーはゆっくりと前に進んで、ゆっくり走ったいぬ美ちゃんに難なくキャッチされました。

あずさ「うふふ、ちゃんと出来ました~」

響「いや、あの……これだといぬ美の運動にならないから……」

そういえばそうでした。

でも、割と力を入れて投げたつもりなんだけど、どうやったら早く飛ぶのかしら?


響「もっと腕全体で投げないと」

投げ方を響ちゃんから教わります。
胸の前からまっすぐ、肘と手首のスナップを使って投げると早くなるそうです。
早速試してみましょう。

あずさ「まっすぐ……まっすぐ……え~い!」

教わったとおりにやってみると、さっきとは段違いの早さで飛んでいきます。
手を離れた円盤がくるくる回転しながら空中を進み、それを目掛けてスピードを上げるいぬ美ちゃん。
あっという間に追いついて、ぴょんと跳ねたらお口でキャッチしていました。


キャッチしたフリスビーを咥えたまま走って帰ってきたいぬ美ちゃんを撫でて褒めてあげましょう。
響ちゃんから渡されたおやつを手皿で渡します。
手の上のおやつを器用に食べ終えたいぬ美ちゃん。

響「うんうん、自分程じゃないけど、あずささんも中々上手だな!」

満足気に頷いています。
何度か繰り返したら、いぬ美ちゃんも満足したのか響ちゃん達は帰って行きました。


いぬ美ちゃんだけじゃなくて、実は私もいい運動になりました。
ただフリスビーを投げていただけなのに、意外と汗をかいています。
お散歩からこんな風に適度な運動が出来たし、猫ちゃんには感謝しないといけないわね。





今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
ジャケットを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
これだけあれば充分ね。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもあってお散歩日和ね。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って……う~んどれにしようかしら?
今日は……うん、緑茶にしましょう。


最近は暖かくなってきたとはいえ、まだしばらくは温かい飲み物のお世話になりそうですね。

小さいサイズのペットボトルのお茶を買って、ベンチに座ります。
蓋を開けて、お茶をお口へ。
緑茶って、日本の味ですよね。
温かいと余計にほっと落ち着くように感じます。
私だけでしょうか……?

あずさ「あら?」

ほっとしながらぼんやりしていると、足元にいつもの猫ちゃんがいました。

ねこ「にあ~」

あずさ「こんにちは、猫ちゃん~」


住宅の鉢植えにはパンジーが綺麗な花を咲かせていました。
別のお宅にはサイネリアの花が。
寒さに負けず、元気に花開いています。
木の根元なんかでは、他の草花の芽吹きも始まっていました。
肌寒いとはいえ、暦の上ではもう春なんですね。

春の訪れを感じながら歩いていると、いつの間にか猫ちゃんはいなくなっていました。

あずさ「あら? 猫ちゃん? どこへ行ってしまったのかしら?」

やっぱり知らない場所に取り残されてしまいました。


あずさ「ここは一体どこなのかしら……」

周りを見ても、普通の住宅街といった趣で、現在地の手がかりになりそうなものは見当たりません。

???「あ、あずささん……!?」

あずさ「はい?」

声をかけられたので振り向くと、雪歩ちゃんが立っていました。

あずさ「あら、雪歩ちゃん。奇遇ね~」

知らない場所で知っている人に会えると、ホッとしますね。


雪歩「あ、あの、あずささん、どうしてここに?」

あずさ「それが、また迷っちゃったみたいで……」

雪歩「えぇ!? そうだったんですか……」

驚いている雪歩ちゃんに、ここがどこなのか尋ねましょう。

あずさ「あの、雪歩ちゃん。聞きたいのだけれど、ここはどこなのかしら?」

雪歩「ふぇ?あ、ここは私の家のすぐ近くですよ」

そんなに沢山歩いてしまっていたのね。
猫ちゃんと歩くと全くそんなことを感じさせないから不思議です。


あずさ「あら、そうだったのね。歩いていたら知らない場所に出たものだから」

雪歩「た、大変ですね……」

あずさ「雪歩ちゃんはお出かけかしら?」

帽子を被って変装をしている雪歩ちゃん。

雪歩「あ、はい。この近くに美味しいお茶のお店があるんですぅ」

とても嬉しそうに話しています。

本当にお茶が好きなのね。
でも、だからこそきっと、あんなに美味しいお茶が淹れられるんだと思います。


雪歩「良かったらあずささんも一緒に行きませんか?」

あずさ「え?」

思わぬお誘いを頂いちゃいました。

雪歩「そのお店では、飲むだけじゃなくてお茶っ葉も買えるんです

   事務所で淹れてるお茶も、そこで買ってるんですよ」

得意気に話す雪歩ちゃんからは、いつもと違って自信に満ちた雰囲気が感じられました。

あずさ「私が一緒に行っても大丈夫かしら?」

雪歩「はい、私はあずささんと一緒にいきたいです!」

そんなに力強く言われると照れてしまいますね。
けれど、とっても嬉しいです。


あずさ「うふふ、それじゃあ一緒に行こうかしら」

雪歩「えへへ、それじゃあこっちですぅ」

歩き始めた雪歩ちゃんに付いて行きましょう。

雪歩「あ、あずささん! そっちじゃありませぇ~ん!」

あずさ「あら?」

おかしいわね、ちゃんと追いかけていたはずなのだけれど……。


雪歩ちゃんに手を引かれて住宅街を歩いていきます。
近くだったみたいで、数分歩くとお目当てのお店に到着しました。

ひっそりとしていて、一見するとお店には見えないような佇まいをしているお店です。

扉を開けてお店に入る雪歩ちゃんに続いて、私も中に入ります。

知る人ぞ知ると言うか、所謂隠れ家的なお店と言うんでしょうか?
中は静かで、とても落ち着いた空気が流れていました。


雪歩ちゃんに着いて店内を見て回ります。
てっきり日本茶のお店かと思ったら、紅茶なんかも置いてありました。
それもあまり見たことの無いようなお茶があります。

雪歩ちゃんは真剣な表情でお茶を選んでいます、邪魔しちゃいけないからそっとしておきましょう。

あずさ「葉っぱだけでもすごくいい香りなのね~」

サンプルとして出してあるお茶っ葉から、美味しそうな香りがしています。
これはフルーツ系の紅茶ね。

よく見ると茶葉の中に果肉が入っていました。


あずさ「お店とかではよく飲むけれど、葉っぱの状態で見るのは初めてね~」

普段、何気なく飲んでいた物がこうなっていたなんて知りませんでした。

試飲スペースもあって、店員さんオススメのお茶も試させてもらいました。
試したのは普通のダージリンだけれど、自分で淹れるより、香りも味も違っていて、当たり前だけどプロの技を見た気がします。

勿論、茶葉の違いもあるんでしょうけれど。

色々見て回っていると、お茶を選び終わったのか雪歩ちゃんに声をかけられました。


雪歩「お待たせしましたぁ」

あずさ「うふふ、随分熱心に選んでいたわね~」

雪歩「す、すみません……」

あずさ「あら、いいのよ。それだけ雪歩ちゃんが真剣だって事なんだから、気にしないで、ね?」

雪歩「あずささん……。えへへ、ありがとうございます!」

笑顔の雪歩ちゃんはとっても可愛らしいですね。


雪歩「あずささんは何か買ったんですか?」

あずさ「それが、とっても沢山種類があるからどれがいいのか迷ってしまって……」

こんな時、スパッと決められないのが私の悪い癖なんですよね……。

雪歩「それなら――――」

そう言って雪歩ちゃんはお店の奥へと案内してくれました。
奥はカフェになっていて、美味しいお茶とケーキが楽しめるそうなんです。

そういえば沢山歩いたから少しお腹も減っています。
席に着いてメニューを開くと、美味しそうなケーキの写真と、そのケーキに合うお茶が書いてありました。

雪歩「ここに載ってるお茶は、全部お店で実際に売ってるので、気に入ったら買うっていうのがいいかもしれません」

あずさ「まぁ、それはいい案ね~」

どれも美味しそうで、今度はケーキを選ぶのに時間がかかっちゃいましたけど、無事にケーキとお茶を選べました。


美味しいお茶とケーキを食べながら雪歩ちゃんとおしゃべりして。
とっても素敵な休日になりました。
ケーキと一緒に頼んだお茶も買ったので、早速おうちで入れてみましょう。
猫ちゃんには感謝しないといけないわね。


今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
ジャケットを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
それと水筒にお茶を入れて持って行きましょう。
この前雪歩ちゃんと行ったお店で買ったお茶です。
これだけあれば充分ね。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもあってお散歩日和ね。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
いつもは自販機で買っているけど、今日は水筒があります。


あずさ「日差しがぽかぽかで暖かいわねぇ」

鞄から水筒を取り出し、早速お茶を一杯。
お店で教わった淹れ方をしたら、私でも美味しく淹れる事が出来ました。

ベンチに座って、お茶を飲みながら公園の様子を見ると、おじいちゃんおばあちゃんがゲートボールをやっています。
皆さんとってもお元気そうで、見ている私まで元気になってきました。
いつまでもお元気でいて欲しい、そう思います。


ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

のんびりしていたら、足元から聞き覚えのある鳴き声が。

あずさ「まぁ、いつもの猫ちゃんね。こんにちわ~」

いつもは撫でたりするだけですが、今日は抱っこしてみました。
そのまま頭やあごを撫でたりしても嫌がる素振りもなく、気持ちよさそうにしています。
本当に人懐っこい子ですね。

ねこ「にあ~」

しばらくそうしていると、降ろしてくれと言わんばかりにイヤイヤをしたので、地面に降ろしてあげました。


降ろすのに「あげる」って、なんだか不思議ですね。

そんな事を考えていたら猫ちゃんがいつもの様に歩き出していました。

ねこ「にあ~」

今日はどこに連れて行ってくれるのでしょうか?
期待に胸が膨らみます。

知らない道を通って、知らない場所に出る。
本当ならとても怖い事なんだけれど、猫ちゃんが連れて行ってくれた場所では、いつも素敵な事が起こります。
そんな風に私を導いてくれる猫ちゃんが、まるでよく知る誰かさんみたいで。
だからという訳ではないんですけれど、そんな猫ちゃんを私はすごく信頼しています。


先を歩く猫ちゃんの後ろをいつもの様に歩きます。
並木道には桜の木が立ち並び、どの木も綺麗な花を咲かせています。
ぽかぽかの陽気に、どこか物語の世界に迷い込んでしまったかのような美しい桜並木。
正に春爛漫といったところでしょうか?

ふわりと暖かな風が吹くと、ひらりひらりと花びらが舞う。
まるでステージで踊っているみたいに。

全身で春を感じていると、いつもの様に猫ちゃんの姿はありませんでした。
気が付くと私は、知らない公園に立っています。

あずさ「ここはどこなのかしら?公園、よね」


私がいた公園とは違い、人影は疎らです。
とりあえず近くにあったベンチに座ろうと移動すると、見憶えのある姿が。

あずさ「美希ちゃん?」

美希「……んゅ?」

どうやらお昼寝をしていたみたいです。
私が声をかけると、眠そうな目でこっちを見てきました。

美希「あれ? あずさ?」

あずさ「こんにちは、美希ちゃん」


美希「ミキ、あずさと遊ぶ約束してたっけ?」

眠そうな声で美希ちゃんが問いかけてきました。

してない……わよね?

あずさ「私が忘れているのでなければ、約束してないわね~」

美希「だよね。……あれ? じゃあ何であずさがここにいるの?」

あずさ「実は、また迷子になっちゃって……」

正直に話すと美希ちゃんは驚いた後ににっこりと微笑みました。


美希「あはっあずさらしいの☆」

それは褒められているんでしょうか?

何となくそんな気がしないのだけれど……。

あずさ「美希ちゃんは公園で何を?」

美希「ミキね、折角のお休みなんだからいつまでも寝てないの! ってお姉ちゃんに怒られちゃったんだ」

流石の美希ちゃんも、お姉さんには敵わないのかしら?

美希「だからね、お散歩しようって思ってここまで来たんだけど

   空はとっても青くて、風はぽかぽか温かくって、絶好のお昼寝日和だなって思ったら

   眠くなってきちゃって……あふぅ」

美希ちゃんはまだまだ寝足りない様子です。
私も比較的よく眠る方ですけれど、美希ちゃん程寝る事は出来ません。

あずさ「そうだったのね~。確かに日射しも気温も丁度良くってボーッとしていたら、眠くなってきちゃいそう」

美希「でしょ?だから、こればっかりは仕方ないって思うな☆」

あずさ「でも美希ちゃん、こんな所で無防備に寝ちゃってたら危なくないかしら?」

美希「大丈夫なの、ミキ 、もう何度もここでお昼寝してるもん 。それにちゃんと変装もしてるから」

大丈夫……なんでしょうか?
今度、それとなくプロデューサーさんに相談してみましょう。


美希「んっ、お昼寝してたら何だか喉乾いちゃった。ミキ、お茶買ってくるね」

ベンチから立ち上がろうとする美希ちゃんに声をかけます。

あずさ「あ、私、水筒にお茶を入れてきているから良かったらどうかしら?」

美希「いいの?」

あずさ「えぇ、是非どうぞ~」

鞄から水筒を取り出して、コップにお茶を入れます。
時間が経っても、温度と薫りは淹れたてのように保たれていました。


美希「それじゃあもらうね!」

受け取ったコップに口をつけて飲み込む美希ちゃん。

美希「ん~、美味しいの~!」

嬉しそうに飲んでもらえると、私の方まで嬉しくなります。

美希「これ、あずさが淹れたの?」

あずさ「えぇ。ちゃんとお店で教わった淹れ方なのよ~」

あっという間に飲み干した美希ちゃんの表情は満面の笑みでした。


美希「あずさ! このお茶すっごく美味しかったの!」

あずさ「喜んでもらえて嬉しいわ~」

美希「ミキ的には、このお茶にいちごババロアがあったらすっごく幸せって思うな。あは☆」

あずさ「あらあら。それじゃあ、お買い物に行きましょうか」

美希「やったやったやったぁ! ミキ、美味しいお店知ってるから案内するの!」

座っていたベンチから立ち上がって私が来るのを促しています。


あずさ「あ、美希ちゃん待ってぇ~」

水筒をしまってから慌てて美希ちゃんの後を追います。

美希「あずさ早く~……って、そっちじゃないの!」

あずさ「あら?」

美希「ほらこっち!」

あずさ「あ、あらあら~」

私の手を引きながら走る美希ちゃん。

桜が舞う中を二人で駆け抜けるなんて、ちょっとロマンチックね。


手を引かれて着いた美希ちゃんオススメのお店は、小さくてもキラキラとした可愛らしいケーキが沢山並んでいました。
オススメされるままにいちごババロアを買って、さっきの公園へ戻ります。

ベンチに座って食べたいちごババロアは、上品な甘さと、ぷるぷるとした食感がたまりません。
美希ちゃんがオススメするのも頷けますね。
私が淹れたお茶にも良く合って、とっても素敵なお茶会になりました。

美希「は~、お茶したら何だか眠くなってきちゃった……あふぅ」

目を擦りながら美希ちゃんは私の膝を枕にしてしまいました。


あずさ「あ、あらあら美希ちゃん、ダメよ~」

美希「おやすみなさ~い」

30分くらいお昼寝したら美希ちゃんは目を覚ましてくれました。
よく眠れたみたいで、スッキリした表情です。
また膝枕をして欲しいなんてお願いまでされちゃいました。


美希ちゃんのお陰で、のんびりとした休日を過ごすことが出来ました。
可愛い寝顔も見れたし、猫ちゃんには感謝しないといけないわね。



今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
ジャケットを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
これだけあれば充分ね。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもあってお散歩日和ね。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って……う~んどれにしようかしら?
今日は……うん、甘~いコーヒーにしましょう。
ミルクとお砂糖の入った甘いコーヒー。


律子さんやプロデューサーさんは、砂糖だけだったり、ミルクだけだったりでよく飲んでいるけれど、どっちも入っている方が飲みやすくて私は好きです。

ベンチに座ってプルトップを押し上げ……硬いですね……。
スチール缶ってどうしてこんなに開けにくいのかしら?

あずさ「……え~い!」

爪が割れないよう、親指の腹の部分を使って勢い良く押し上げると、小気味良い音と共に缶の蓋が開いて、コーヒーの香りが立ち上ってきました。
口をつけて缶を傾けて、甘さの強いコーヒーを喉へ流し込みます。

苦労して開けた分、より一層美味しく感じます。


ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

のんびりしていると、いつの間にかいつもの猫ちゃんが足元に来ていました。

あずさ「あらあら、今日も来たのね~」

いつもの様に猫ちゃんと軽く遊んであげると、満足したのかいつもの様に歩き出して私が来るのを待っています。
手に持った缶の中身を飲み干して、ゴミをちゃんとゴミ箱に捨ててから猫ちゃんの後を追いましょう。

今日はどんな所に連れて行ってくれるのかしら?
楽しみだわ~。


前を歩く猫ちゃんの後ろを、迷わないように、ゆっくりと歩きます。
この前まで桜の花が咲いていたかと思ったら、今はすっかり散ってしまって、青々とした葉っぱが元気に風に揺れています。
今年はお花見出来なかったわね……。

桜は散ってしまったけれど、次は私たちの番だと言うように、タンポポや遅咲きのチューリップも綺麗に花を咲かせています。
暖かいというよりは、少し暑いというか、長く歩いたら汗をかいてしまいそう。
ハンカチだけだと心許ないかもしれません。
タオルを持って来ればよかったかしら?


あずさ「あら?」

気が付いたらいつもの様に猫ちゃんの姿はありませんでした。
ここは繁華街の中ね。

あずさ「猫ちゃん、いつもいなくなっちゃうわね……」

本当なら一緒にお散歩したいのだけれど……。

???「「あずさお姉ちゃん?」」

あずさ「はい?」

後ろから声をかけられたので振り向くと、亜美ちゃんと真美ちゃんが不思議な物を見る目で私を見ていました。


あずさ「まぁ、亜美ちゃんに真美ちゃん」

亜美「あずさお姉ちゃん、どしたの?」

真美「もしかして、また迷子になっちゃった?」

私から言う前に当てられてしまいました。
そんなに迷子になるイメージが定着してしまっているのかしら……。


あずさ「そのまさかなのよ……」

亜美「あずさお姉ちゃん、折角のオフなのに大変ですな~」

真美「うんうん」

二人はにやにやとした笑みを浮かべています。
ここは話題を変えましょう。

あずさ「ふ、二人はここで何をしていたの?」

真美「んぇ?んっとね、二人揃ってのオフって久しぶりだから」

亜美「一緒に買い物したりしようって約束してたんだYO」


あずさ「まぁ、そうだったのね~。二人とも最近は忙しくなって来ているものね」

亜美「うあうあ~、亜美とあずさお姉ちゃんはずっと一緒にお仕事してるっしょ~!」

そうでした。
竜宮小町でずっと一緒だから、お休みで会わないと何だか不思議な感覚になってしまうんです。

真美「そうだ亜美! あずさお姉ちゃんとも一緒に遊ぼうよ!」

亜美「ふぇ?」

あずさ「まぁ」


思いがけずお誘いを頂いちゃいました。
でも、折角姉妹水入らずの時間を邪魔してしまっていいのかしら?

真美「あずさお姉ちゃん、今真美達の邪魔にならないか~とか考えてるでしょ?」

どうして分かってしまったのでしょう……。
もしかして真美ちゃんは超能力が使えるのかしら?

亜美「んっふっふ~。あずさお姉ちゃんは分かりやすいから顔見たらすぐ分かっちゃうYO」

あずさ「あら~……」

何だか恥ずかしいわ……。


真美「でもあんがと。真美達の事気にかけてくれて」

亜美「家に帰ったらいくらでも二人で遊べるし、それに」

あずさ「それに?」

亜美真美「「皆で遊んだ方が楽しいっしょ→」」

あずさ「亜美ちゃん、真美ちゃん……。うふふ、それじゃあご一緒させてもらおうかしら」

真美「やた~!」


亜美「でも真美、どこ行くの?亜美達今から…」

真美「あ、そっか……」

どうやら元々二人で行こうとしていた場所があるようです。

あずさ「私は二人と一緒ならどこでも大丈夫よ。どこに行こうとしていたの?」

私が言うと二人は顔を見合わせてニヤリと頬を歪めました。
これは嫌な予感がしますね……。


亜美「んっふっふ~、あずさお姉ちゃんがいいならちかたないよね~」

真美「よ~し、連行だ~!亜美隊員!あずさお姉ちゃんがどっか行かないように連れて行くのだ~!」

亜美「らじゃー!」

あずさ「あ、あらあら~」

亜美ちゃんに手を引かれ、真美ちゃんに後ろから押されるように街の中を進んでいきます。
道行く人に怪訝な顔で見られて恥ずかしい……。

数分そうして街を移動して着いたのが

あずさ「ゲーム、センター……?」


真美「うん! 真美達、よくここで遊んでんだ~」

亜美「あずさお姉ちゃんゲーセンって来た事ある?」

あずさ「う~んと、友達とプリクラを撮ったりした事はあるわね~」

亜美「それっていつの話?」

あずさ「えっと、高校の頃よ」

真美「おぉ、真美達より大人の頃だ……!」

亜美「亜美達はいくつくらいだったんだろう?」

うぅぅ、何だか少しだけ悲しくなってきました……。


真美「ほら、早く入ろ~YO」

亜美「行こ、あずさお姉ちゃん!」

久々に入ったゲームセンターは、学生の頃に来た時よりもずっと洗練されていて、何だか時代に取り残されてしまったような、そんな物悲しさを覚えました。
それとも、ゲームセンターってこういうものなのかしら?

慣れた足取りで、どんどん奥へと進んでいく亜美ちゃんと真美ちゃん。
入口付近のクレーンゲームには目もくれません。
ぬいぐるみだけじゃなくて、大きなお菓子なんかも景品になっています。
こんなに大きな箱に入ったプチシューって、食べきれるのかしら。


二人を追って奥まで行くと、対戦ゲームの機械の前に座っています。

亜美「今日こそは決着をつけるかんね!」

真美「負けないぞ~!」

どうやら二人はこのゲームで競い合っているようです。
対戦成績を聞いたら、通算でお互い71勝71敗だって言っていました。
つまり全くの互角って事なのね。

所謂格闘ゲームという物で、ゲームの中で所狭しとキャラクターが飛んだり何か気、のような物を飛ばしたりして戦っています。
目まぐるしく変わる展開に、私は息を飲んで見守るしかありませんでした。


亜美「そっこだ~!」

真美「あま~い!」

恐らくお互いの手の内は知り尽くしているんでしょうね。
一歩も譲らない攻防が続いています。

真美「うりゃ~!」

亜美「うあうあ~! しまったぁ!」

何だかすごい技みたいのが決まって真美ちゃんが勝ちました。
お仕事で格闘技を見たりしますけれど、それに負けないくらいすごい戦いですね……。


結局この後亜美ちゃんが巻き返して1勝1敗の決着つかず。
通算成績は72勝72敗となって、二人とも次こそは勝ち越してやる~って意気込んでいました。
見ているだけでも、結構楽しいものですね。
どっちが勝つのかハラハラドキドキしながら見てしまいます。

格闘ゲームが終わってからは、私にもできるゲームで遊びました。
エアホッケーだったり、レーシングゲームだったり。
基本的には亜美ちゃん真美ちゃん二人対私一人だったけど、それでもきっと手を抜いてくれたんでしょうね。
適度に勝たせてもらっちゃいました。
楽しみながら、相手にも花を持たせるなんて中々出来ないことよね。


太鼓を叩くゲームには、私達の歌も入っていて、凄く感動しました。
こういうのって、何だかすごく嬉しいです。
亜美ちゃん達には大げさだって言われちゃいましたけど……。

最後に3人でプリクラを撮って、お店の外に出た頃には日がだいぶ傾いていました。

あずさ「ん~、楽しかった~」

伸びをしながら、正直な感想が口から零れます。

真美「あずさお姉ちゃん!」


あずさ「なぁに?」

亜美「はい、これあげる!」

二人が手渡してくれたのは、可愛らしい小さな猫のキーホルダー。
聞くと、太鼓を叩いている時に、交互にUFOキャッチャーで取ったんだそうです。
何だかあの猫ちゃんに少し似ているかも。

あずさ「私に……?」

亜美「今日は亜美達に付き合ってもらっちゃったからそのお礼!」

真美「真美達、め~っちゃ楽しかったYO!」


あずさ「まぁ……。嬉しいけど、私、何もお返しできないわ~」

亜美「そんなのいらないYO!」

真美「うんうん」

亜美「ど~してもっていうなら……」

またあの何かを企んだような笑顔を見せています。
何を言われるのかしら……?


亜美「またこうやって亜美達と遊んでよ!」

真美「あ、それいいかも!」

亜美「でしょでしょ→」

真美「亜美はお仕事とかであずさお姉ちゃんといっぱい会えるけど、真美はあんまり会えないからさ

   だから、今日こうやってあずさお姉ちゃんと一緒に遊べて嬉しかったんだYO!」

あずさ「真美ちゃん……」


そうよね、お姉ちゃんとは言え真美ちゃんはまだ中学生なんだもの。
きっと表には出さない寂しさとか、いっぱいあったんでしょうね。

あずさ「えぇ、また皆で遊びましょう」

亜美真美「「やったぁ!」」


喜んではしゃいでいる二人の姿は、アイドルというより、歳相応の女の子そのままですね。
こんな姿を見れて、とっても良い休日を過ごすことが出来ました。
猫ちゃんには感謝しないといけないわね。





今日はお休み。
折角だからお散歩……は無理そうね、生憎今日は朝から雨。
今日はおうちでのんびり過ごしましょう。

雨が降っていて、涼しいというよりは少し寒いくらいでしょうか。
梅雨寒ですね。
風邪を引かないように、一枚上着を羽織りましょう。

お仕事で頂いた紅茶を淹れて飲みましょう。
寒いので勿論ホットです。


ソファーに座って、雑誌を読みながらのんびりとしたひと時を過ごします。
こんなにのんびりしたのはいつ以来かしら?
最近は本当にお仕事も増えて、同じ事務所なのに、中々皆にも会えなくてちょっぴり寂しかったり……。
私は竜宮小町というユニットで活動しているから、亜美ちゃん、伊織ちゃん、律子さんとは毎日顔を会わせるけど、他の子達とはannmari
会わなくなりました。
けれど、会えないのは皆が元気に活動していて、その成果が出ているって事だから、きっと嬉しい事なのよね。

あずさ「あら?」

雨音に混じって、何かかりかりという音が聞こえてきます。


あずさ「何かしら、この音……」

どこからか聞こえてくるこの、か細い乾いた音は一体……?
何だか少し怖くなってきました。
もしかして、おばけ……?
こんな昼間から出るものなのかしら……?

あずさ「うぅぅ……。怖いけど、原因を調べなくちゃ……」

お部屋の中を歩きまわって、音のする場所を調べます。
色々動いた結果、音は玄関の方から聞こえていました。

おばけも玄関から入ってくるのかしら?
何だか律儀なおばけだと思うと、少しだけ怖さが和らぎますね。


それでも怖いものは怖いので、充分に気合を入れてから、意を決して扉を開けました。

ねこ「にあ~」

あずさ「ね、猫ちゃん!?」

なんと、おばけの正体はいつも公園で会う猫ちゃんでした。

あずさ「まぁまぁ、ずぶ濡れじゃない」

ふわっとしていた毛並みは、雨でぐっしょりと濡れ、ぺたんこになっています。
拭いてあげましょう。

タオルを取りに行き、濡れた体を包み込んで優しく身体を拭くと、猫ちゃんは気持ちよさそうにしています。

ねこ「にあ~♪」

心なしか、鳴き声からも嬉しそうな感じがしますね。


あずさ「うん、これでいいかしら」

しっかり拭いてあげると、まだ濡れて入るものの、先程よりはましな状態になりました。
タオルが毛だらけになってしまったけれど、猫ちゃんが風邪を引くよりは良いわよね。

そういえば、猫も風邪を引くのかしら?
なんて事を考えていたら猫ちゃんは少し離れた場所に移動していました。

ねこ「にあ~」

いつもの様に私が来るのを待つように、振り返って鳴き声をあげています。
また、どこかへ連れて行ってくれるのかしら?
けど、せっかく身体を拭いたのに、また濡れてしまうのも考えものよね……。

う~ん、悩んでも仕方ないわよね。


いつもの様に、鞄に財布と携帯電話。
それと傘を持ってお出かけです。
猫ちゃんが濡れないように、いつもより距離を詰めて歩きましょう。

もしかしたら、はぐれずに何処かへ着けるかもしれません。

傘を叩く雨音に耳を傾けながら青々とした葉の茂る通りを、猫ちゃんと歩きます。
降りしきる雨を全身で浴び、気持ちよさそうに揺れる葉っぱ。
歩きながらいつもの公園に差し掛かったら、綺麗な紫陽花が雨露の恵みに花を咲かせていました。
晴れの日とはまた違う、雨の日ならではの草花の表情が溢れていました。
雨でも、少しだけおしゃれな傘をさして、景色を見ながら歩くだけで笑顔になれるような。
公園を通り過ぎる頃には天気は雨でも、気持ちだけは晴れていくような感覚に包まれていました。


そんな事にほんの少し気を取られてしまっただけなのに、いつの間にか猫ちゃんは姿を消していました。

いつも、どこに消えてしまうのかしら。
公園を過ぎた辺りまではいたと思うのだけれど……。

猫ちゃんとはぐれた私は、いつも通り知らない場所に着いていました。
商店街とは少し違うけれど、色んなお店が並んでいます。

???「あずささん!?」

あずさ「はい?」

後ろから声をかけられたので振り返ると、竜宮小町プロデューサーの律子さんが驚いた表情で立っていました。


律子「どうしてここに!?」

あずさ「あら~、律子さん。実はまた迷子になってしまって……」

私が正直に言うと呆れたような表情を浮かべた律子さん。

律子「もう、折角のオフに何やってるんですか……」

あずさ「すみません、律子さん……」

律子「あ、いえ、別に怒っている訳じゃ……」

慌てた素振りの律子さん、申し訳ないけれど可愛いですね。


あずさ「うふふ、気にしてませんよ~。私が迷子になりやすいのは分かっていますし」

そう言うとホッと胸をなでおろしています。

あずさ「そういえば律子さんも今日はお休みですよね?」

律子「そうですね、最近は竜宮がオフでも他の子の面倒見たりしてたから、四人揃ってオフなのは久々です」

そう話す律子さんの表情はどこか嬉しそうでした。

律子「そうだあずささん、折角ここで会ったんですから良かったら一緒に回りませんか?」


あずさ「まぁ!うふふ、律子さんにデートに誘われたら断れないわね~」

律子「で、で、デートだなんてそんな……!そういうつもりじゃ…」

あずさ「うふふ、冗談ですよ~」

律子「も、もう!あずささん!」

いつもしっかりしている律子さんのこういう素の表情を見られるのは新鮮でとっても嬉しくなります。
それにやっぱり元アイドルだけあって、そういう所がすごく可愛らしいなって感じますね。

また、同じステージに立ちたいとは思いますけれど、そうなると竜宮小町は……?
プロデューサーをしながらアイドルをするという事は、きっと難しいのでしょうね。


律子「あずささん?どうしました?」

あずさ「え?あ、あらやだ、ぼ~っとしちゃいました」

律子「もう、ぼ~っと歩いたりしたら転んじゃいますよ?」

あずさ「すみません……」

注意されちゃいました。
いけないいけない。


あずさ「ところで律子さん、どこに向かっているんですか?」

律子「ちょっと本屋に寄って、その先は考えてませんね」

しっかりと予定を立てて行動しそうなイメージがあるので、この返答には少なからず驚きました。
それを告げると律子さんは

律子「しっかり予定を立てて動くのは勿論好きです。けど、それは仕事でもやってますし

   ふらっと立ち寄った所で何かいい出会いがあるかもしれないじゃないですか」

あずさ「うふふ、素敵な考え方ですね~」

私の場合、ふらっと立ち寄るのが迷子になった先になりがちなので、またちょっと違うのかしら?


律子「そういえばその鞄に付いてるキーホルダー、可愛いですね」

あずさ「これですか? うふふ。この前亜美ちゃんと真美ちゃんがゲームセンターで取ってくれたんですよ~」

律子「あずささんがゲームセンター!? 大方あの子達に連れて行かれたんでしょうけど……」

あずさ「あ、あらあら……。で、でも二人と一緒なら大丈夫よって伝えたらそこだっただけで、予め約束してたら…」

律子「ふふっ、分かってますよ。大丈夫です」

あずさ「まぁ……」

流石は私達のプロデューサーなだけありますね。
そのくらいお見通しみたいです。


律子「今の私も同じようなものですしね。さぁ、着きましたよ」

本屋に到着すると、律子さんは芸能関係の雑誌に目を通しています。
音楽雑誌、アイドル雑誌、TV誌、果ては写真週刊誌、他にも女性誌や男性誌にまで。
よく見ると、律子さんの手にした雑誌には誰かしら765プロの皆が載っていました。
千早ちゃんのロングインタビューだったり、美希ちゃんのグラビアだったりと、皆本当に活躍しています。

律子「うん、中々いい感じね」

あずさ「でも律子さん。こういうのって、事務所に見本誌が送られますよね? どうして本屋に?」

律子「私は何も、中身のチェックをしていた訳じゃ無いんですよ」

あずさ「え?」


本屋に来て、本の中身をチェックしないって……一体どういうことなのかしら?

律子「私が見ていたのはお客さんの方です」

本じゃなくて、お客さんを?
よくわかりません……。

律子「読んでるふりをしながら、他のお客さんがどれだけ765プロの子が出てる雑誌を手にとっているか

   765プロのページで手を止めているか、そこら辺の調査をしていました」

そんな事をしていたんですね……。
私は読むだけでいっぱいでした。


律子「勿論一店舗だけじゃ全体像は分からないですけれど、ある程度こうだったっていうのが分かれば

   プロデュースの方針に活かせますし」

お休みの日でも私達の事を考えてくれているんですね。
でも、折角のお休みなんだから、お仕事のことは忘れてのんびりしてもらいたいとも思うのだけれど、きっとこれが律子さんなりのリラックスの仕方なのかもしれません。

律子「けど、こうして色んな雑誌に目を通してみると、改めて皆本当に成長したと思います」

あずさ「そうですね~。最初の頃はお仕事もなくて、オーディションにも受からなかったですし」


最近だと、芸能関係じゃない、料理雑誌なんかの表紙に春香ちゃんが選ばれたり。
テレビに雑誌に映画に舞台に、皆引っ張りだこになりました。
ありがたいことに、私もその一人になれましたし。
けど、やっぱり……。

律子「さて、調査は終わりです。そろそろ行きますか!」

あずさ「律子さん」

律子「はい?」

前を行き、店から出た律子さんに声をかけます。


あずさ「確かに、皆が色んな雑誌に載っていましたけど、私は、律子さんにもそういう風になってもらいたいって思ってますよ」

律子「え?」

狐につままれたような表情を見せている律子さん。

やっぱり、アイドルとしての律子さんが私は好きなんでしょうね。

律子「……も、もー! やめてくださいよあずささん!今の私はプロデューサーなんですから!」

困ったような、恥ずかしいような、律子さんはそんな表情をしていました。

律子「……でも、ありがとうございます」

照れながら御礼の言葉を口にする律子さん。


律子「ステージに立つ楽しさを忘れた訳じゃ無いんです、けど、今はまだプロデューサーでありたい

   そう思うんです」

あずさ「今は……?」

律子「先の事は分からないですから。けど、だからこそ、今私はあずささん達をもっともっと光り輝かせてあげたいんです」

……ずるいですね。
そんな風に言われたら、もう何も言えません。
けど、きっとそれが律子さんの偽らざる本心なのでしょう。

律子「……湿っぽくなっちゃいましたね、さぁ!あずささんの大好きな甘いものでも食べに行きましょうか!」

あずさ「うふふ、はい!」


雨でもこうやって外に出て良かったって思います。
律子さんの気持ちを聞いて、私ももっと頑張らなきゃって思えた、そんな休日になりました。
猫ちゃんには感謝しないといけないわね。




今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
日焼け対策に薄手のカーディガンを羽織って帽子を被ります。
今日はいつもと趣向を変えて、お弁当を作りました。
ピクニック気分です。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもあってお散歩日和ね。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って……う~んどれにしようかしら?
今日は……うん、今日はりんごジュースにしましょう。


小さいサイズのペットボトルのジュースを勝ってベンチに腰掛けます。
蓋を開けて一口。
冷たくて甘いりんごジュースが口いっぱいに広がって、のどごしも爽やかです。

念のため日焼け止めを塗ってきたけれど、日差しが強くて暑いです。
ここに来るだけで汗をかいてしまいました。
鞄に入れたタオルで汗を拭います。

この暑さの中、それでも公園では子供達が元気に駆けまわっています。
サッカーボールを皆で追いかけて、右に左に。
いっぱい動きまわって、沢山汗をかいて、おうちに帰ったらお風呂に入って。
元気いっぱいの子供達を見ていると、私まで元気になってきます。


ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

お弁当を食べようか迷っていたら、足元にはいつもの様に、グレーと黒の毛並みが綺麗なあの猫ちゃんがいました。

あずさ「うふふ、今日も元気そうね~」

ねこ「にあ~♪」

頭や身体を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めました。

暫くそうしていると、いつも通り歩き出す猫ちゃん。

ねこ「にあ~」


今日も私が来るのを待っています。
お弁当を食べようかと思ったけれど、ひとまず猫ちゃんと一緒に行きましょう。

公園を出て町並みを歩く。
普段は知らない道を案内されるのだけれど、今日は知っている道しか通りません。
知っている道なのに、猫ちゃんと歩きながら通ると何故だか新鮮な気分になります。

途中、まだ種を付けていない早咲きのひまわりが咲いているのを見かけました。
知っている道だけれど、発見があるのは、普段それだけ余裕が無いってことなのかしら。
太陽に向かってまっすぐ伸びるひまわり。
夏真っ盛りって感じですね。


あずさ「あら?」

気が付いたら、やっぱり猫ちゃんはいません。
けれど、知っている道を通っていたので、ここがどこだかは分かります。

あずさ「ここは……」

私の目の前には見慣れた……いいえ、それ以上に第二の家のような建物。
そう、765プロの事務所が立っています。


う~ん、折角来たし、ちょっと顔を出していきましょう。
どうせだからお弁当もここで食べたらいいわね。

階段を登って事務所の扉を開けます。

あずさ「おはようございます~」

中に入ると、プロデューサーさんが驚いた顔をしながら出迎えてくれました。

P「どうしたんですか、あずささん?」

あずさ「いえ、近くまで来たので顔を出そうかと思いまして」


軽く挨拶を交わして事務所の奥へ。
ホワイトボードは書き込まれた予定で真っ黒です。
今日は竜宮小町と千早ちゃんがお休みなのね。

何となくプロデューサーさんの前で食べるのが恥ずかしいので、屋上に行きましょう。
暑いけれど、静かで落ち着いて食事ができるんじゃないかしら。

プロデューサーさんに声をかけて扉から外へ、階段を登り、屋上の扉を開きます。
誰もいないと思った屋上には既に先客の姿がありました。


あずさ「あらあら、千早ちゃん? お食事中かしら?」

お休みのはずの千早ちゃんが、屋上の地べたにビニールシートを敷いてお弁当を食べています。

千早「こんにちわ、あずささん」

あずさ「こんにちわ、千早ちゃん」

私に気づいた千早ちゃんが挨拶をしてくれたので、それに返事をします。

千早「あの、あずささん。私の勘違いでなければ今日はオフだったハズじゃあ…?」

あずさ「えぇ、今日はお休みだから近くの公園でピクニックしようと思ったのだけれど気が付いたら事務所にいたのよ~」

私がそう言うと、千早ちゃんは何事か考えているようでした。


あずさ「千早ちゃんも今日はお休みよね?」

千早「私は、家にいてもやる事が無いので自主練習をしに来ました」

あずさ「うふふ、相変わらず練習熱心ね千早ちゃん。でも、無理しちゃだめよ?せっかくのお休みなんだからのんびりしても良いんじゃないかしら~?」

千早「大丈夫ですよ。結構今のんびりしてますから」

お休みの日でも自分を高める努力を惜しまない。
それは千早ちゃんの良い所でもあるけれど、やっぱり、休みの日には身体を休めるのも大事な仕事だって思います。

千早「あずささん、お昼食べました?」

あずさ「いいえ、まだよ。公園で食べようと思っていたからお弁当はあるのだけれど」

千早「良かったら一緒にどうですか?」

あずさ「まぁ!千早ちゃんからランチのお誘いを受けちゃったわ~」

突然の食事の誘いに、思わず頬が緩んでしまいました。

あずさ「それじゃあ、お邪魔させてもらうわね」

靴を脱いで、千早ちゃんの座る横に腰を下ろします。


千早「あの、あずささん。どうして隣に座るんですか?」

あずさ「だってせっかく千早ちゃんからお誘いいただいたんだもの。離れて座ったら勿体ないじゃない」

千早「まぁ、なんでもいいですけれど」

あずさ「千早ちゃんのお弁当は和食なのね」

奇しくも、肉じゃがを持ってきたのでお互い和食のお弁当です。

千早「昨日、明日早朝ロケがあるから泊めて欲しいって春香に言われて、お礼にって春香が作ってくれたんです」

あずさ「流石は春香ちゃんね~。とっても美味しそう」

千早「私も少しだけ手伝ったんです」

照れながら言う千早ちゃん。

あずさ「まぁ。うふふ。仲良しさんね」

千早「良かったらお一つ食べますか?」

照れを隠すように、おかず交換の申し出を受けました。

あずさ「あら~いいの?」

千早「構いませんよ」

あずさ「そういえば貴音ちゃんからここで千早ちゃんとラーメンを食べ交わしたって聞いたわね」


いつだったか、そんな話をした事を思い出します。
その時は、にわかには信じられなかったのだけれど、今こうして目の前でおかず交換をすることになってやっと受け入れられました。

千早「四条さんとはおかず交換ではなくどんぶり交換をしました」

あずさ「まぁ、それも楽しそうね~。あ、この煮っ転がしいただいていいかしら?」

千早「あ、はいどうぞ……あずささん?」

あずさ「あーん」

千早「どうして口を開けているんですか?」

あずさ「千早ちゃんに食べさせてもらいたいな~って。ほらほら、あ~ん」

餌を待つひな鳥の気分ではないですけど、折角千早ちゃんの手作りなんだから、これくらいしてもバチは当たりませんよね?


千早「分かりました……。はい、どうぞ」

根負けした様子の千早ちゃんが、お箸で煮物を掴んで私の口元に運んでくれました。
それにかぶりつきます。

あずさ「はむっ。うん、味が染みててとっても美味しいわ千早ちゃん」

千早「私はほとんど何もしてませんから春香に言ってあげてください」

あずさ「でも千早ちゃんも作ったんでしょう?」

千早「まぁ、少しですけど」

あずさ「だったら千早ちゃんに言っても大丈夫よ」

千早「そうでしょうか?」

あずさ「うふふ」

きっと、春香ちゃんに色々教わりながら二人で一所懸命に作ったのね。
二人分の優しさが、味と一緒に煮物に染み込んでいるのが感じられます。

あずさ「それじゃあお礼に千早ちゃんもお一つどうぞ」

いただくだけじゃ悪いので、自分のお弁当箱を千早ちゃんに差し出します。


顔を真赤にして私の肉じゃがを頬張った千早ちゃん。
とっても可愛らしい千早ちゃんなんだけれど、突然、その瞳から涙が溢れ出してしまいました。

あずさ「千早ちゃん……!」

突然の出来事に私は何をしてあげたらいいのかわからず、ただ、千早ちゃんを抱きしめることしか出来ませんでした。
止めどなく流れる涙。
抱きしめながらそれを拭って、でも、何も言えなくて。

小さな子供のように泣いていた千早ちゃんに、ただそれだけを続けました。

しばらくして、涙が止まったのか、千早ちゃんは顔を上げて私と目が合うと、バツが悪そうな表情をしています。



千早「それじゃあ、肉じゃがをもらってもいいでしょうか」

あずさ「は~い」

タッパーに詰められた肉じゃがをご所望なので、蓋にじゃがいも、お肉、白滝を載せてお箸で掴みます。
掴んだお箸を千早ちゃんの方へ向けると。

千早「あずささん、今度は何を?」

あずさ「うふふ、さっきのお礼にはい、あ~ん」

食べさせてもらっちゃったので、今度は私が千早ちゃんに食べさせてあげる番です。

千早「あの、自分で食べられますから……」

あずさ「そんなっ。私のあ~んじゃ食べられないのね……くすん」

千早「な、泣かないでください。…わ、わかりました、その、あ~ん///」

泣き真似作戦大成功です。

あずさ「うふふ。はい、あ~ん」

千早「あ、あむっ。あ、美味しい」


>>159はミスです
>>160が先に来ます。

失礼しました。


あずさ「落ち着いた?千早ちゃん。」

千早「すみません、あずささん。みっともない姿をお見せしてしまって」

あずさ「うふふ、そんな事無いわよ」

取り繕うような、そんな笑顔を浮かべるのが精一杯でした。

あずさ「お口に、合わなかったかしら……?」

何か話さなきゃと思い、口をついて出たのはそんな質問。
もっと他に気の利いたことが言えたら良かったのだけれど……。

千早「違うんです!そうじゃなくて、その。少し、母を思い出してしまって……」

あずさ「そうなの……」

そうして千早ちゃんの口から、語られたのはお母さんと、弟さんとの思い出。
私はやっぱり、ただただ、その細い体を抱きしめることしか出来ません。

抱きしめられたまま千早ちゃんが、涙の訳を話してくれました。


千早「昔、母が良く作ってくれたんです。私も弟も大好きで、よく取り合いしながら食べたんです。

   あずささんの肉じゃがを食べたら、その頃の事を思い出してしまっていつの間にか……」

あずさ「そう、だったのね…。」

千早「でも、お陰で泣いたら少し吹っ切れました。」

あずさ「もう大丈夫?」

千早「はい、ありがとうございました。肉じゃが、とっても美味しかったです。」

そう話す千早ちゃんの目には、何か決意にも似た想いが込められているように感じます。
きっと、自分の中で何か一つの踏ん切りが付いたのかもしれません。
私にはきっと何も出来ないけれど、応援することくらいは出来るから。
何かあったら、その時はまたここで食事をしましょうね。

千早ちゃんは最初の頃に比べたら本当によく笑顔を見せてくれるようになったように思います。
話の中に春香ちゃんの話題が多く出てくるのは、きっと笑顔の理由が春香ちゃんの力に依る所が多いのでしょうね。
勿論、他の子達やプロデューサーさんや律子さん、音無さん、社長、皆のお陰でもあるんでしょうけれど。


事務所の屋上なんて滅多に来ないけれど、千早ちゃんのお陰で楽しく食事をすることができました。
猫ちゃんには感謝しないといけないわね。





今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
日焼け対策に薄手のカーディガンを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
これだけあれば充分ね。
今日は暑いからタオルも持って行きましょう。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しもかなり強くて、アスファルトからの照り返しで気温がかなり高く感じます。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って……う~んどれにしようかしら?
今日は……うん、とっても暑くて沢山汗をかきそうだからスポーツドリンクにしましょう。


普段だったら小さいペットボトルを買うけれど、きっとすぐに汗をかいて水分補給が必要になるから大きいのにしましょう。
飲みきれなくても、持ち帰って冷蔵庫に入れておけばいいだけですし。

茹だるような暑さの中、火照ったお顔に冷たいボトルを当てて涼を取ります。
動いていなくても汗をかいてしまう、まさに猛暑日といった風情です。

ベンチに座って蓋を開け、すぐに一口飲むと、スポーツドリンク特有の甘さと酸っぱさ。
それ以上に冷えた液体が喉を通って行く爽快さに、生き返る気分を味わいます。

この暑さでは、さすがに公園に人影も少ないですね。
いつもだったら子供達が遊んでいたり、お年寄りの方たちがゲートボールをしていたりと、それなりに賑わっているんですけどね。


ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

暑さに負けず、いつもの猫ちゃんがやってきました。
毛皮って、暑くないのかしら?
実家のとらたんは、夏になるといつもだら~んって寝転がっていたけれど。
犬と猫って違うのかしら。
もしかしたら、この猫ちゃんは何か特別なのかもしれませんね。


ねこ「にあ~……」

撫でてあげると、猫ちゃんはその場で転がって動かなくなってしまいました。
やっぱり暑かったようです。
特別じゃなくて、普通の猫ちゃんだって分かって少し安心しました。
同じ生き物だもの、夏バテだってするわよね。

あずさ「そうだわ!」

ねこ「にあ?」

こんなに暑がっているんだもの、冷たいお水を買ってあげましょう。
いつもお世話になっているから、ちょっとした恩返しもしたいですし。

自販機まで行ってお金を入ようとした所で気が付きました。


あずさ「どうやって飲ませたらいいかしら……?」

普通ならお皿のような物に注いであげるんでしょうけど、生憎鞄には財布と携帯とタオル、そしてさっき買ったスポーツドリンクしか入っていません。

あずさ「う~ん、どうしましょう……」

???「あずささん?」

あずさ「はい?」

悩んでいたら後ろから声をかけられたので振り返ると。

真「どうしたんですか?自販機の前でうんうん唸って」

ランニング中かしら?
汗を沢山かいた真ちゃんがいました。


あずさ「まぁ、真ちゃん。奇遇ね、こんな所で会うなんて~」

真「そ、そうですか? そんな事もないような?」

あずさ「だってお家から走ってきたんでしょう?」

真「そうですね、日課のランニングをしてました!」

やっぱりランニング中だったみたいです。

あずさ「だとしたらいっぱい走ったのね」

真「え?」


あずさ「私の家の近くだもの、真ちゃんのお家からはかなり離れてるでしょう?」

真「ええぇぇぇ!?」

どうやら気づかない内にかなりの時間走ってしまっていたみたいですね。

真「全然気が付きませんでした……。確かに見たこと無い景色だな~って思ってましたけど」

一体真ちゃんの体力ってどうなっているのかしら?
そんな距離を走ったのに、息が全然上がってません……。


あずさ「帰りも走って行くの?」

真「そうですね、どこを通ったかは覚えているんで、来た道を戻れば大丈夫です!」

とっても爽やかに言っているけれど、それってかなり大変なことよね?
私だったら来た道を戻っても通っていない場所に着いちゃうし……。

真「それで、あずささんは公園で何してたんですか?」

あずさ「私? 今日はお休みだから、公園までお散歩してのんびりしようって思ってたの」

真「なるほど、それで何を飲むか迷って自販機の前で唸っていたんですね」


あずさ「あ、ううん、それは違うのよ。猫ちゃんにどうやってお水を飲ませたらいいか迷ってしまって」

真「猫?」

あずさ「えぇ、あっちのベンチに仲の良い猫ちゃんがいるのよ」

そういえば、誰かに猫ちゃんのことを話したのは初めてですね。

真「へぇ、どんな猫なんです?」

あずさ「野良だと思うけど、アメリカンショートヘアの可愛い子よ」

真「アメショの野良? 珍しいですね」


あずさ「どこかから逃げてきたのかもしれないわね」

真「その猫に水を?」

あずさ「えぇ、こんなに暑いんだもの。水分を取らないと熱中症になってしまうわ」

真「猫も熱中症になるんですか!?」

あずさ「それは……わからないけど……」

実際の所はどうなんでしょう?
猫ちゃんに聞いても分からないでしょうし。
でも、犬も熱中症になるし、きっと猫だってその可能性はあるはずよね。


真「あの、あずささん。公園なんだし、水道くらいあるんじゃないですか? わざわざ買わなくっても」

言われてみたらそうでした。
全く気づかなかったですね、恥ずかしい……。

あずさ「そ、そうよね……どうして気づかなかったのかしら」

真「あずささんらしいといえばらしいですけど」

提案を受けて水道まで猫ちゃんを連れて行きましょう。
二人でさっきまでいたベンチに戻ると、猫ちゃんの姿はありませんでした。


あずさ「あら? 猫ちゃん?」

真「いなくなっちゃったんですか?」

あずさ「えぇ、どこに行ってしまったのかしら?」

真「心配ですね……」

あずさ「う~ん、いなくなっちゃうのはいつもの事なんだけど……」

真「えっ」

結局真ちゃんと公園中を探しても、猫ちゃんの姿は見つかりませんでした。
気が付くとだいぶ時間が経っていたみたいで、日が傾いています。


あずさ「う~ん、やっぱりいないわね……」

真「もう公園から出ちゃったんじゃないですか?」

あずさ「かもしれないわね~」

真「日も傾いてきたし、ボク、そろそろ帰らないと……」

あずさ「まぁ、確かにもう夕方ね。ごめんね真ちゃん、遅くまで付き合わせてしまって」

真「いえ、こうやってあずささんと二人で何かをすることってあんまりなかったので新鮮で楽しかったですよ

  可愛い猫を見られなかったのは残念ですけど」

こういう爽やかな所が王子様と言われる所以なんでしょうね。
でも、真ちゃんは本当はとっても可愛い女の子なんです。
本人はそれに気づいていないんですけど、そこがまた可愛いって思うから、言うべきか悩んでいたりして。


公園から出て走って行く真ちゃんを見送って私も帰りましょう。
沢山動きまわっていっぱい汗かいちゃいました。
とっても爽やかな休日になりました、帰ったらシャワーを浴びましょう。
猫ちゃんには感謝しないといけないわね。


今日はお休み。
せっかくだからお散歩をしましょう。
ジャケットを羽織って帽子を被ります。
鞄に財布と携帯電話。
これだけあれば充分ね。

家からすぐ近くにある公園までお散歩。
日差しはまだまだ強いです。
公園に着いたらベンチでのんびりしましょう。
自販機で飲み物を買って…う~んどれにしようかしら?
今日は…うん、冷たい麦茶にしましょう。


夏が過ぎたとはいえ、まだまだ残暑が厳しいです。
麦茶には体温を下げる効果もあるので、熱中症対策にもいいと言われているんですよ~。

ベンチに座って麦茶を一口。
うん、何だか懐かしい気分になりますね。
子供の頃は、冷蔵庫に麦茶が常備してあってよく飲んでいたのを思い出します。
暑い日に学校から帰ってきて、手を洗って真っ先に冷蔵庫の麦茶を飲む。
冷たい喉越しがたまらないんですよ~。

大人になった今は、同じ麦でもお酒になっちゃいましたけど。
暑い日に飲むあの喉越しが…って子供の頃と変わってないですね。


ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

帰りに買っていこうか考えていたら猫ちゃんが来ていました。

あずさ「こんにちわ~」

いつもの様に撫でてあげると、今日は珍しく嫌がられました。

あんまり機嫌が良くなかったのかしら?

撫でずに様子を見ていると、あっさり背中を向けて歩き始めました。


今日はどこに連れて行ってくれるのかしら?
心なしか普段よりも歩くペースが早く感じます。
知っている道と知らない道を交互に通って、この前見かけたひまわりには種が沢山成っていました。
太陽に向かってまっすぐ咲いていたひまわりが、今では頭を垂れていて、あぁ、夏は終わったんだなと実感させます。
もう、秋なんですね。
まだまだ暑いですけれど。


あずさ「あら?」

過ぎ去った夏に思いを馳せていると、猫ちゃんはいつもの様に姿を消していました。
今日はお昼も大分過ぎてから家を出たので、今は夕方です。
もう大分日が傾いていました。

???「あずささん?」

あずさ「はい?」

声のした方へ振り向くと

小鳥「やっぱりあずささんだ!」

あずさ「まぁ、音無さん。お疲れ様です」

小鳥「お疲れ様です」

仕事帰りの音無さんに会いました。


お互いにぺこりと頭を下げて挨拶します。
何だか不思議な光景ですね、お休みの日なのに。

小鳥「ところで、あずささんはおでかけの帰りですか?」

あずさ「う~ん、帰りというか途中というか……」

小鳥「? 何だか歯切れが悪いですね」

あずさ「お散歩の最中に、また迷ってしまって……」

正直に話すと、音無さんは一度ぽかんとした表情をしましたが、すぐに笑顔に変わりました。


小鳥「ふふっ。あずささんらしいですね」

あずさ「あ~、笑うなんてひどいです音無さん……」

小鳥「おっとと、すみません……ん? って事はあずささん、今暇ですか?」

あずさ「え? えぇ、そうですね。特に用事はありませんよ」

暇であることを告げると、音無さんの口の両端が釣り上がり、歪んだ笑顔を見せています。
何を考えているのかしら……?


小鳥「ふふふ……明日のスケジュールは昼に現場入りですよね?」

あずさ「え、えぇ……そう聞いてますけど……」

小鳥「しかも歌もダンスもないトーク出演ですよね?」

あずさ「あ、あの……どうしてそんなにスケジュールを……?」

小鳥「そりゃ事務員ですから! 皆のデースケくらい勿論把握してますよ!」

さすがは事務仕事をほぼ一人でこなしている音無さん。
私だけじゃなく全員の、それこそ社長のスケジュールまで把握しているみたいです。
敏腕事務員は伊達じゃありません。
私達はいつも音無さんにお世話になっています。


あずさ「まぁ、すごいですねぇ……」

小鳥「という訳でですね、あずささん」

あずさ「は、はい」

小鳥「今から飲みに行きましょう!」

顔を近づけて音無さんからお酒のお誘いを頂きました。
ちょうどさっきお酒の事を考えたのもあって、とっても魅力的なお誘いです。

あずさ「それじゃあ、ご一緒させてもらいますね」

小鳥「ピヨッシャアアアアアアアア!」


すごく嬉しそうですね。
でも、事務所でお酒が飲めるのは私を除いたらプロデューサーさんと、社長くらいなものだから、同性でお酒が飲める
相手がいるっていうのは実はありがたいって感じているんですよ。
音無さんもそうだったりするのかしら?
いつか聞いてみましょう。

小鳥「じゃあ行きましょう!今行きましょう!すぐ行きましょう!」

あずさ「お、音無さん!そんなに焦らなくても……」

小鳥「あっと失礼しました。飲みたすぎて気持ちが抑えられませんでした」

今日も暑かったですし、その気持ちは分かります。


あずさ「うふふ、ゆっくり行きましょう?」

小鳥「そうですね」

あずさ「それじゃあ、どこに行きましょうか? ここからだと、たるき亭は遠いんでしょうか?」

小鳥「う~ん、家と事務所の間くらいなんで遠いといえば遠いし、近いといえば近いですね」

ここは事務所の近くでは無いんですね。

あずさ「う~ん、どこに行きましょうか」

小鳥「そうですね、適当に歩いて目についたお店に入りましょうか」

あずさ「そうしましょうか」

夕暮れの街中を、音無さんと並んで歩きます。
少し歩いた先に、赤提灯を吊っているお店がありました。


あずさ「ここにしましょうか」

小鳥「いいですねぇ」

引き戸を開けてのれんをくぐります。

小鳥「うん、いかにもっていう感じでいい雰囲気ですね」

おしゃれな感じではなく、大衆酒場然とした店内で、変に気を使わなくていい分気安くお酒が飲めそうです。
席について最初の一杯はやっぱりこれです。


小鳥「すいまっせ~ん!生2つ!」

注文するやいなや、すぐに運ばれてくる中ジョッキ。
この早さ、嬉しいですね。

あずさ「かんぱぁ~い!」

小鳥「かんぱーい!」

がちりと音を立てながら乾杯して、喉を鳴らしながら黄金色の液体を流し込む音無さんに倣って、私もジョッキを傾けます。
キンキンに冷えたビールが喉を通っていくこの喉越し。
これがたまらないんです。


小鳥「ぷはぁ~~~~!!!!」

あずさ「いい飲みっぷりですね~」

音無さんはあっという間にジョッキを空にしてしまいました。

小鳥「あずささんだって」

あずさ「あら?」

気が付くと私のジョッキもほとんど空になっています。
そんなに沢山飲んだ気はしてないのだけれど……変ねぇ。


小鳥「あずささん、何か頼みます?」

あずさ「う~ん、少しお腹に入れたいですよね」

小鳥「じゃあ適当に頼んじゃいますね」

あずさ「は~い」

こういう席でも音無さんは頼りになります。
あっという間に串焼きの盛り合わせやサラダなんかを注文してくれました。


小鳥「とりあえずこんなもんで」

食べ物と一緒に二杯目の中ジョッキを頼むと、やっぱりすぐに運ばれてきます。

あずさ「はぁ~、美味しいですねぇ~」

小鳥「仕事終わりのこの一杯が、いや二杯目ですけど、たまんないんですよ!」

二杯目のジョッキが四分の一位になった頃、サラダと串の盛り合わせがやってきました。


小鳥「さ、食べましょう!」

あずさ「いただきま~す」

昔は焼き鳥はタレが好きだったんですけど、音無さんと一緒に飲みに行くようになってからは塩も美味しく感じるようになりました。
味覚が少し大人になったのかもしれませんね。

オーソドックスな盛り合わせを串から外して、少しずつ食べていきます。


食べながらおしゃべりして、おしゃべりしながらお酒を飲んで。
音無さんと二人、とってもいい気分で飲むことが出来ました。
猫ちゃんには感謝しないといけないわね。




今日はお仕事で今はその帰り道。
日も短くなって、夜になると少し肌寒く感じるくらいです。
ジャケットを着ていて正解です。

冷えてきたので、途中のコンビニで温かい飲み物を買いました。
ホットのミックスジュースなんて初めて見かけたんですけど、物珍しさに惹かれてつい買ってしまいました。
歩きながら飲んでみると、思っていたよりとっても優しい味で、もっと甘さが際立っているのだと思っていたけれどそうではありませんでした。


あずさ「これは新たな発見ね……」

ねこ「にあ~」

あずさ「あら?」

飲みながら、道に迷いながら歩いていると、いつもの猫ちゃんに出会いました。

あずさ「こんばんわ~」

その場にしゃがみこんで頭を撫でてあげます。
いつもよりもうんと短い時間そうしていると、猫ちゃんは歩き始めました。

夜なので見失わないように慎重に歩きます。


途中通りがかった河原では、月明かりに照らされたすすきが、一斉に風に揺れている光景に出会いました。
空は晴れていてまんまるのお月様もよく見えます。
みんなで集まってお月見をしたら楽しそうね。
すすきを活けて、お月様のようにまんまるのお団子を、空を見ながら食べるのがお月見。
だったかしら?

あずさ「あら?」

気が付いたら、いつもお散歩する公園に着いていました。
いつの間にか猫ちゃんの姿が見当たりません。


あずさ「こんな夜に、どこに行っちゃったのかしら?」

以前、真ちゃんとそうしたように公園の中を探してみます。

あずさ「猫ちゃ~ん」

呼びかけながら園内の猫ちゃんのいそうな場所を探してみますが、その姿を捉えることは出来ませんでした。

あずさ「う~ん、どこ行っちゃったのかしら……」

あたりは大分真っ暗ですし、心配ですね。
諦めて帰ろうとした時、月明かりに浮かぶ人物の姿が公園の池に掛かる橋の上に見えました。


あずさ「貴音ちゃん?」

貴音「はて?」

月の光を受けて、貴音ちゃんの銀髪がキラキラと輝いています。
振り向いた時にふわりと広がって、まるで光をまいているような、そんな美しさを感じました。

あずさ「どうしたの? こんな時間に」

貴音「いえ、月が……」

あずさ「月? 確かにまんまるで綺麗なお月様ね~」

貴音「そうですね」

月明かりを浴びる貴音ちゃんは、とても神秘的な雰囲気を纏っています。


貴音「あずさは…」

あずさ「?」

どこか神妙な面持ちで私の事を見ていた貴音ちゃん、けれど、それはすぐに笑顔に変わりました。

貴音「ふふっ、素敵な出会いがあったようですね」

あずさ「え?」

素敵な出会い……。
もしかして、猫ちゃんの事かしら?


貴音「月が巡り、そしてより強く絆が結ばれたことでしょう。そして、わたくしも、また」

あずさ「え~っと……」

貴音「分からずとも良いのです」

満足気な表情で月を見上げる貴音ちゃんは息を呑むほどに美しい、まるで絵画の中に迷うこんでしまったような、そんな錯覚を覚えるくらいに。

あずさ「ねぇ貴音ちゃん、もしかして貴音ちゃんはあの子の事を知っているの?」

貴音「ふふっ、それは……」


そこで言葉を止めた貴音ちゃん。
すっと立てた人差し指を口元に運び

貴音「とっぷしーくれっと、です」

そう言いながら薄く微笑みを浮かべています。
月明かりに照らされたその姿は、とても18歳とは思えない妖艶さに溢れていました。


貴音「さて、夜も更けてまいりました、わたくしはこれにて失礼致します」

一礼した貴音ちゃんは、そのまま公園を出て、歩いて行ってしまいました。
公園には私一人、さっきまでは貴音ちゃんだけを照らしていたんじゃないかと思えた月が、今は私を照らしています。

私も家に帰ろうと歩き出した時でした。

ねこ「にあ~」

前から猫ちゃんが歩いてきます。


あずさ「まぁ、猫ちゃん。探したのよ~?」

しゃがんで頭を撫でると、やっぱり気持ちよさそうな顔をしています。

あずさ「うふふ、それじゃあ私は帰るわね~」

立ち上がって家の方角に向かって歩き出します。
止まっていた猫ちゃんを追い越して、少ししたら後ろから猫ちゃんの鳴き声が聞こえました。

あずさ「え?」

振り向くと、なんと猫ちゃんが着いてきています。


あずさ「……もしかして、一緒に来たいのかしら?」

ねこ「にあ~♪」

出会ってから、今日まで色んな所に連れて行ってもらったわね。
その度に誰かに会って。
まるで、猫ちゃんが引きあわせてくれたみたいに。

あずさ「うふふ、それじゃあ、一緒に帰りましょうか」

ねこ「にあ~」


猫ちゃんのお陰で沢山の思い出が出来ました。
そして、新しい家族も出来ました。

これからもよろしくね、猫ちゃん。

ねこ「にあ~♪」




おわり

終わりです。

あずささん、誕生日おめでとうございます!
本当に、貴女に出会えて本当に良かったと心の底から思います。

かなり長くなってしまいました。
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。

少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。

余談ではありますが、千早とのくだりは以前書いた

千早「心交」

のあずささんサイドのお話となっています。

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