真姫「星の在処」 (15)

さて今日もよくわからないモノを書いていきますよ
多分イミカンナイ!!と思うので、雰囲気だけでも感じてくれたら幸いです
イミワカル!!の人がいたらすごく嬉しいです

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にこ「ねぇ、まだ続けるの?」

真姫「んー……、もう少し……」


三月。暦の上では春とはいえ、まださすがに肌寒い

真姫ちゃんは夢中になって天体望遠鏡を覗き込んでいる

こんな趣味があったなんて、ね


真姫「気温が低い方が綺麗に見えるのよ」


私が不満げな顔でいると、真姫ちゃんはレンズを凝視していた目線をすっと横にずらし言った


にこ(何のフォローにもなってないんだけど……)

真姫「ニコちゃんも見る?」

にこ「……ニコは、別にいいわ。そのままでもよく見えるし」

真姫「…そ」


再び望遠鏡へと、興味の対象を移動させる

なんて無防備な背中。最初は断ろうかと思ってたけど付き合ってあげてよかった

こんな夜中の山中に若い女が一人とか、何されても言い訳出来ないもの


真姫「……星ってね」

にこ「……うん」


レンズを覗き込みながら口を開く。それはいつもより、ほんの少しだけ嬉しそうな……弾んだ音のような

私が感じた違和感は多分、それだ


真姫「星って、どうして輝いているか知ってる?」

にこ「星だからでしょ。もっと科学的な答の方がお好みだった?」

真姫「そんなことないわ、それで充分」


違和感違和感違和感。

私はこの子の嬉々とした饒舌な喋り口が嫌いなのだろうか

酷く胸の中がモヤモヤして気持ち悪い


真姫「星は輝く為だけにそこに在るの。皆が皆、星が輝くモノだと……輝いて当たり前だと思ってるから」

真姫「だから嫌でも輝き続けてないといけない。可哀想でしょ?」

にこ「……」


反応に困る。こちらから表情は窺えないが、恐らくというか絶対無表情だ

もどかしい。私にだけ無防備な背中を晒しているところが尚更もどかしい

どんな言葉を期待しているのだろう。賛同、拒絶……まぁ、合わせてあげる理由なんて何処にもないけど


にこ「随分と幻想的な解釈ね」


皮肉を込めるように、吐き捨てた言葉

いつもなら即座に噛み付いてくる。今だって期待していた、それを


だけど違った

レンズから目を離し、振り向いた真姫ちゃんの顔はとても切なげで。それはまるで、青白い月が放つ光を拒絶するかのような


真姫「幻想ね、その通りよ……可哀想なくらい輝いてて、なのに涙を流せない……月も、星も」

にこ「真姫ちゃんは、泣いてもいいわよ……。ここには私しかいないから」


私達には感情の高まりによって溢れる涙を流す瞳もあれば、それを拭うことの出来る指もある

この表現こそ、幻想とはまた違う。この場にいるのは二人のロマンチストだけ


──輝く為だけに在るのなら、どうか私達の邪魔をしないで。惑わしたりなんかしないで



真姫「いざ終わってみればこんなものだったんだって……そこに至るまでの道程は決して簡単なモノじゃなかった筈なのにね」

にこ「……そうね」

真姫「私達の誰にとっても嬉しくて嬉しくて堪らない……違う?」

にこ「何も間違ってはいないわ。それで正しいの」

真姫「なのに、満たされないのよ!! いつまで経っても空っぽのまま……、私は……」

にこ「……手、出して。握ってあげる」


素直に差し出された手をそっと握った

やっぱり冷たい手。よく手が冷たい人は心が温かい……と聞くが

非常に馬鹿馬鹿しいと思う。そんなくだらない慰めの台詞をどれだけの人間が真に受けていることだろう

少なくても、私の目の前にいる少女は心までも冷えきっているに違いない


にこ「……辛い?」

真姫「別に、そういうわけじゃないけど……」

にこ「自分のこと、可哀想って思ってるでしょ?」

真姫「……ええ、そうよ」


一体何が楽しいのやら。ついさっきまで激動に駆られてたと思えば、次の瞬間には微動にも音を弾ませている

よくわからない。今までわかった気になっていただけということが強く思い知らされる


真姫「あの時……、あの瞬間に私達は星になったのよ。誰もが羨む、強く輝く星に」

真姫「背負わされたの、光輝き続ける宿命を」

にこ「それを誇ろうとは……、素敵なことだとは、思わないの? そうやって輝けるのは選ばれた一部の人だけよ」


真姫ちゃんは私の目を見て、微笑を浮かべた

私、何か検討外れのことでも言ったっけ? そう思わせられるくらい温度が違った

私と、真姫ちゃんの温度。手の冷たさだけじゃない、もっと根本的な……本質的な何かが


にこ「何……?」

真姫「光続ける為に無我夢中になって、更なる高みを目指すの。そこでも輝きを絶やすワケにはいかないからもっともっと上へ……って」

真姫「そうやって一生懸命にただただ足掻き続けて、その行く末……最終地点が彼処よ」


真姫ちゃんが指差した場所、そこは夜空に浮かぶ無数の星だった

言っている意味はわからなくもない。それを笑い飛ばそうなんて思いもしない

でも、私が知ってる彼女はこんなこと口にする人だったっけ?


真姫「どう? 可哀想でしょ? 私達って」


月夜の悪戯に照らされ、酔いしれているのだろうか。駄々を捏ねる子供みたいに、でも……嫌な気はしない

初めて耳にする捻くれた後輩の泣き言。頼られるのは素直に嬉しい、それがあの真姫ちゃんなら尚の事


にこ「いつも一人にしてって言ってる真姫ちゃんともあろうお方が、人並みに独りは怖いって?」

真姫「えぇ、とても怖いわ。皆の存在を知ってしまった今だから、本当にそう思う」

にこ「素直なんだかそうじゃないんだか……」



にこ「ここからでも街の光があんなに小さく見える。空からはどんな風に見えてるんだろうね」

真姫「きっとちっぽけ過ぎて、何も映らないわよ」

にこ「そうかもね。でも」

真姫「……」

にこ「ニコからは真姫ちゃん、ハッキリ見えてるよ」


近距離から見上げるのじゃ格好がつかない為、握っていた手を離し数歩後ろに下がった

身長差があるとはいえ、少し距離をとれば目線は殆ど同じになる


──なんだ、いつもの真姫ちゃんだ


真姫「何なの……?」

にこ「ニコのこと、見える?」

真姫「はぁ……? 当たり前でしょ」

にこ「……きっとね」

にこ「真姫ちゃんがどんなに遠くへ行っても、その隣には必ずニコがいる。そう思うんだ」

真姫「何それ……、告白?」

にこ「さぁどうかしらね。でも、ニコの言葉信じてみない?」


夜空に向けて、腕を伸ばす


にこ「あの星が真姫ちゃん、そして向こうの星がニコ。隣同士でしょ?」

にこ「ニコと真姫ちゃんはお互いの為だけに輝いてるの。私はここにいるよって」


他の人間なんか、星なんか知ったこっちゃない。思うが儘に輝いてこそ星は美しいんだ

そんな自分勝手な想いを光に変えて、星達は今宵も夜空を埋め尽くす


にこ「こういう解釈はどう?」

真姫「……悪くないかも」




━━fin━━

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