八幡「ALOを始めてみる」 (229)

※注意
・SAOと俺ガイルのクロスSSです。
・時折安価で行動を決めたいと思います。
・俺ガイル原作からのキャラはあまり絡めずにいく予定です。
・時系列はSAOはキリトがALOを始めたのと同じくらいの時期を想定してます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405641541

 定期テストを終えた今、学生たちにとっては夏休みまでの消化試合のような日々。長期休暇への楽しみからかどこかそわそわした空気が俺のクラスにも流れていた。
 夏はリア充の季節だというように、やけに大声で夏休みの予定について話す級友。
 
 俺、比企谷八幡は例年通りであればそうした様子を忌々しく思っていただろう。
 しかし今日に限っては周りの様子などどうでもよかった。
 

 放課後になり部室へと足を運ぶ。それぞれ思い思いの行動をする中、俺は早く今日の奉仕部の活動が終わらないものかやきもきしていた。
 
 本に集中できず、何度も手持ちのスマホで時間を確かめる。
 そうした俺の落ち着きのない行動が目に障ったのか、雪ノ下雪乃はため息とともに本を閉じる。そして浮付いた気持ちがさめてしまうような冷たい視線をこちらに向ける。

「比企谷くん、先ほどから時間ばかり気にして何か予定でもあるのかしら?」

「いや、別になんでもねえよ」

 今氷の女王である雪ノ下と話しているとせっかくの楽しい気分が暗くなりそうだ。それにあまり彼女らにとって好ましい話題ではないだろう。
 ゆえにこの話題を流そうとしていると俺の発言を看過できなかったのか、携帯をいじっていた由比ヶ浜由比がここぞとばかりに責め立てる。

「それはないでしょ、だって今日のヒッキー朝からずっと落ち着きなかったし、というかなんか時々思い出したかのようにやけててキモかったし」

「おい、キモいは余計だ。というかこっち見てんじゃねえよ」

「べ、別にそんなに見てないから」

 由比ヶ浜を見かねてか、雪ノ下はやけに沈痛な面持ちで告げる。

「比企谷くん、あなたみたいな人間が異常な行動をしたら、周りも自衛のために警戒してしまうのは致し方ないことだと思うのだけれど」

「……俺は変質者かよ」

「あら、あながち間違ってないんじゃないかしら」

 妙に輝く笑顔で肯定する雪ノ下。俺は思わずがっくりと肩を落とす。話はそこで終わりかと思いきや、無言の二人の責めるような視線はとまらない。
 俺は特段誤魔化す必要もないかと考え直し、二人に告げる。別に強烈な視線に負けたとかそういうわけではない。

「今日注文していたアミュスフィアがようやく届くんだよ」

「へーそうなんだ」

 なるほどと頷く由比ヶ浜に対し、苦い表情をしていた雪ノ下がやけに印象深かった。

「お帰りーお兄ちゃん」

「おう、ただいま小町」

「あ、そうそう。お兄ちゃん宛に宅配便が届いてたよー」

「お、サンキューな」

 きょろきょろと玄関の周りに小包があるかを探していると、「部屋の中に入れといたー」という小町に再度礼を言い、駆け足で自室へと向かう。
 お目当てのものは、ベッドの付近の床に置いてあった。いそいそと机の引き出しからカッターナイフを取り出す。  
 丁寧に梱包されている段ボール箱をはやる気持ちを抑えながら丁寧に開ける。このときばかりは俺の瞳も爛々と輝いていたのではなかろうか。不気味に。

「これがアミュスフィアか」

 ナーヴギアの後継機で、2つのリングが並んだ円環状の機械。なんというか見た目はサンバイザーに近い気がする。
 説明書片手に接続を開始する。俺がアミュスフィアを利用しプレイしようと考えているのは、アルヴヘイム・オンライン。通称「ALO」だ。
 SAO事件がまだ終わってない最中、その1年後にナーヴギアの後継機「アミュスフィア」と同時に「レクト・プログレス」から発売されたVRMMORPG。
 火妖精族(サラマンダー)、水妖精族(ウンディーネ)、風妖精族(シルフ)等9つの種族からアカウント、キャラクター作成時に1つ選ぶ。
 ゲームの主な目的は各種族領外で別の種族で戦いつつ、他種族に先駆けて全ての中央にある「世界樹」の頂点をそこにあるといわれる伝説の<<空中都市>>を目指し、
 達すると高位種族である光妖精族<<アルフ>>と妖精王<<オベロン>>により<<アルフ>>に生まれ変わることが出来、種族転生・滞空制限解除となるそうだ。

 俺は特にアルフになりたいとかトッププレイヤーの仲間入りをするといった大きな目標はない。
 そのぶん空を飛んだりといった方面をじっくりと楽しむつもりだ。

「しかしどうもこのゲーム、PK(プレイヤーキル)推奨らしいんだよなあ。」

 おそらくソロプレイを強いられる身としては、周りには十二分に気をつけなければならない。
 現実ではいつも無視されているので大丈夫だろう。なにそれ泣きたい。

 未知に対する不安と期待が入り混じり心臓の鼓動が早くなる。
 1度大きく深呼吸をして、俺は口早につぶやく。

「リンク・スタート」

 そうして意識は現実からだんだんとゲームの世界へと落ちていった。

 合成音声に従い、アカウントおよびキャラクターの作成を開始した。
 新規ID、パスワードを入力を終えると次いで、キャラクターネームの入力。
 思わずキーボードを動かす手が止まる。

 
「そういや名前考えてなかったな」 

 数分悩んだ結果、安直に《Eight》と入力し、決定ボタンを押す。
 どうせ弾かれると思っていたが、すんなりと通る。

「おいおいまじかよ」

 一瞬戻るボタンを押そうかと迷ったが、考える時間がもったいないと思い、次に進む。
 そして現れた選択肢に思わず口元がゆるむ。

 お待ちかねの種族選びの時間だ。

 ALOでは、9つの種族から選べ、それぞれ特徴がある。そして俺はソロプレイだ(キリッ)。
 冗談はさておき、以上のことを前提として踏まえ、wikiの情報や俺の性格面から今まで2つの種族に候補を絞っていた。

 索敵をするための聴力があり、飛行速度に長けているためいざと言うときの逃げる手段のあるシルフ。
 もしくは俊敏性が高く、モンスターの《テイミング》に長けた猫妖精族(ケットシー)。
 この二択で迷っていた。

 しかしながらこの2種族のうち、片方に決める要素となりうる情報を最近手に入れたのだ。
 どうもシルフはただいまサラマンダーとの抗争中らしく、いつPK争いに巻き込まれてもおかしくない状況らしいのだ。
 こうした内輪もめに絶対に巻き込まれたくない俺は、ケットシーに種族を決めた。

「けどなあ、ケットシーかぁ」

 俺はどちらかといえば、ケットシーよりシルフになりたかった。
 その理由は、ケットシーはほかの種族と比べて外見上に非常に大きな特徴があるからだ。
 
 容姿(顔の美醜)についてはあまり気にしてはいない。
 だが低身長はまだしも、金髪・猫耳・尻尾がセット。もはや女性プレイヤー専門職状態になっている。

「どうなるのやら」

 半ば祈るような気持ちで決定ボタンを押した。

「……これは」

 出来上がったサンプルのアバターを眺める。

 顔に関しては特に文句ない。むしろちょっと美化されたている。目が腐っているのはマイナスだが。
 低身長が特長だったらしいが、幸運なことに俺の身長とさほど変わりない。
 ここまでは良いこと尽くめだった。

 問題なのが、くすんだような金髪。 
 髪の毛は染めているんだ、基は黒色なんだと声高に主張しているような、黒光りする毛並みの猫耳に尻尾。
 なんというか某友達が少ないの主人公みたくなっていた。

「うわぁ……どうしよう」

 文句を言っても容姿を変更することは今はできないし、変更するにしても別料金になるのだ。
 泣く泣くOKボタンを押す。
 再度ゲームについてのガイダンスがあった後、最後にこうアナウンスされる。

「幸運を祈ります」

 この人工音声に送られて、俺は光の渦に包まれた。
 それぞれの種族のホームタウンからゲームはスタートするらしい。

「ようやくゲーム開始か……」

 光の粒子となって俺の体が消え行く。そして次に目を開いたときは、新しい世界が待っている。
 
 こうして俺のALO生活が始まったのだった。
 ――俺の冒険は始まったばかりだ!

すいません、ミスです
美化されたている×
美化されている○

>>1オベロンじゃなくてオベイロンな

>>22
そうでした、オベイロンですね。
ありがとうございます。

 目を開けるとそこは赤い円の中心でした。

 俺を中心に400メートルトラックほどの大きさの赤い円が、空中と地面にひかれていた。
 地面に魔法陣でも書かれていれば、まるで異世界に召喚された気分を味わえそうだ。
 俺が召喚されたら勇者様じゃないとか言われて処刑されそうで怖い。

 円の外に佇む人物の頭上にはNPCを示すカーソルがある。
 初心者をサポートするNPCだろう。

 そうしてキョロキョロと辺りを見回していると、光のオブジェクトと共にプレイヤーが現れた。
 彼らの迷いなくしっかりとした足取りから初心者ではないことが伺える。

「なるほど、ここが拠点となるわけか」

 他にも肩を怒らせ大股で歩くプレイヤーもいることから、ここが死亡した際の復活場所でもありそうだ。

 俺が赤い円を出ると同時に、佇んでいたNPCが俺の方へと顔を向けたかと思うと、頭を下げてにこやかに告げる。

「ようこそ、《Eight様》。ケットシー領へ」

  

 ケットシー領《アリーリア》は水妖精族(ウィンディーネ)の領と同じ海に囲まれた領土だ。
 陸続きの他の領土と比べて少々独立しているように思えるが、ケットシーに関しては隣の領土のシルフと仲良くやっているようだ。

「しかし、それが原因でサラマンダーとの争いには巻き込まれたくねえよな」

 黄土色のレンガに囲まれた建物が
ケットシー領の特徴らしい。
 俺の想像していた幻想的な妖精の住処ではなく、割と住居としてしっかりとしているようだ。

 一先ず俺は外に出る前に装備等を整えることにした。
 その一環として広場にあった木製のベンチに腰掛け、俺は一回だけ無料で行える有料ガチャを試していた。

 運がよければそこそこレア度の高い武器や防具が、最低でもポーションが手に入る。

 労せずしてアイテムが手に入るので、水色のアイテムが当たればいいなと思いながらガチャをひく。

「さて、何がでるやら」

全く期待していなかったのだが、金色のエフェクトと共に紫色の文字で書かれたアイテムが出てくる。
 確かガチャの中で入手可能なアイテムとして、紫色のアイテムは一番レアだったはずだ。

「おいおいまじかよ 」

 どうやらようやく俺の時代が来たようだ。
 ほくほくしながらアイテムをオープンする。

「さて、行くとするか」

 ポーションを3個ほど、そして武器にダガーを購入した。防具はお金の関係上また今度ということで。
 残りの金額が30ユルドほど。

 万全の体制をとって俺は《フリーリア》を後にした。

 徒歩10分ほどかけて橋を抜け、草原に入る。町にいたときはあれほど遠く見えていたはずの山が随分と近く見える。

「あれが確か――蝶の谷だっけ」

 ウインドウを開き地図を確認する。現在地から見て、おおよそ間違いなさそうだ。
 そしてその山の先に見えるのが、全プレイヤーが目指していると言われる世界樹だ。
 その目的は飛行制限の解除――

「そうだ、俺飛んでない」

 すっかりあのアイテムのことが衝撃的過ぎて忘れていた。
 アイテムのカーソル欄、ポーションの下に位置するものを見てため息をつく。
 紫色の文字でそいつは『またたび』と書かれていた。

 またたび:猫妖精族(ケットシー)専用アイテム。酩酊状態を味わうことができます。

 売り払おうかとも考えたのだが、今後何か使うことがあるかもしれないと思い断念した。
 別にレアアイテムの癖に売却金額が低かったからとかそういうわけではない。

 娯楽目的で遊んでいるのに必要以上に落ち込む必要もないかと考え直し、俺は飛行補助スティックを具現化する。

「いっちょ飛んでみるか」

 目的地は目算3キロほど先の《蝶の谷》目前まで。
 左手を使いゆっくりと上に上昇していく。

「おお!」

 感動のあまり思わず大きな声をあげてしまった。周りに人がいないとはいえちょっと恥ずかしい。
 気を取り直して身長ほどの高さまで上昇させる。そして少しずつ前方へと力を加えていく。前髪がわずかに揺れ始める。

 ガクンと何か嫌な音と共に、眼前の景色がぶれて見えなくなった。

「っ!」

 スピードの出しすぎにより、さながら1人ジェットコースター気分。人間本当に怖いときは声が出ないってことを十二分に理解しました。
 それとシートベルトのありがたさね。今度からジェットコースターも怖くないかもしれない。

「っ!っぅ!」

 結論、随意飛行のさわりを習得できました。
 代償HP:80減少、残りHP:20

「まさか敵と遭遇する以前の段階でポーションを使用することになろうとは……」

 何故だか急に補助スティックの操作が効かなくなったため、随意飛行を習得せざるを得なかった。
 とはいえ飛行速度を落とすことしかできないのだが。

 ポーションを使用することによってHPを30ほど回復し、激突した谷周辺の散策を開始することにした。

 蝶の谷を越えると世界樹の町へと近づくということもあって、谷に入ると急激にモンスターが強力になるらしい。

 なので俺は比較的温厚なモンスターが多いとされる、谷周辺の林を探検することにした。
 運がよければポーションの素材となる薬草が手に入るかもしれない。
 林の中は直接日のあたらないためかやけに涼しく、少々湿っぽい土のにおいがした。

 なんとポーション3本分の薬草とマナポーション1本分の薬草を手に入れることができた。初めてにしては大収穫だ。
 しかし先ほどから全くプレイヤーはおろかモンスターに遭遇しない。
 さすがにこの状況がおかしいことに気づく。ここで死んだらせっかく手に入れたアイテムの何割かが損失してしまう。

 散策は切り上げいったん町に帰ろうと思ったところで、背後から草のこすれあう音が聞こえた。

「っ!?」

 もしかするとこの場に何も存在しないやつの原因かもしれない。 
 不安からか鼓動の早くなるのを自覚する。

 逃げるか、いや暗いから飛行することができない。先ほどより音が大きくなった。

 ――覚悟を決めるか。

 一度口から息を吐き出し、俺は慎重にベルトにつけた革のポーチからダガーを取り出し振り返った。


 音のなった方向へ顔を向けると、やけに毛並みの良い猫がいた。
 遠目で見ても、厚手でふわふわとした毛、特に先細りの尾は長い被毛に覆われている。その白と茶色の体毛は非常に柔らかそうだった。
 雪ノ下がいたらこの猫の品種を聞かなくても勝手に教えてくれそうだ。

「いやいや、なんで猫がいるんだよ」

 少々脱力したことは否めなかった。
 そしてよくよく観察してみると、カーソルの色からどうやらモンスターの中でもテイミング可能な種類らしい。
 なんだろう、この世界でペットの疑似体験をするためにだろうか。
 それくらいのソフトは既にあるはずだが。
 テイムしようかという考えが一瞬頭によぎったが、この場にモンスターがいない元凶かもしれないのだ。

「テイミングするには確か一定量のHPを減らす必要性だったっけ」

 そんな奴相手にビギナーである俺が勝てるはずがない。
 幸いこちらには気づいていないようだ。
 ダガー片手にこそこそと後ずさっていくと、不意に緑色の瞳と目が合った。その瞬間、白いエフェクトが見えた気がする。

 
 そして俺はこの世界で初めての死を味わった。 

 ALOプレイ始めて1時間もたたないうちに死亡してしまった。とぼとぼと円の外へと向かう。
 なんだろう心なしか円の外に佇むNPCの笑顔があざ笑っているように見える。
 いつもの俺の教室の様子と変わらないと思うとあまり辛くない、辛くない。

 そして広場にあるベンチに座る。ほかのベンチと比べて日向にあるからか、ここに座る人物は俺以外数人しか見受けられない。
 もはや定位置ともいえる場所で、俺はウインドウを開きアイテム欄を確認する。

「あーやっぱりなくなってるか」

 入手したはずのポーションのための薬草が4本、マナボーションの薬草が3本ほど減っている。デスペナルティはしっかり仕事をしたようです。
 なんでこう世の中って人の嫌がることに関してはルールが厳しいんですかね。

「ねー君ちょっといい?」

 さすがに初心者として《蝶の谷》は踏み込みすぎたか。やはり草原あたりでモンスターを狩るべきだったか。
 しかしながらあそこの辺りはめったに素材が出ないらしいし。ていうかそもそもあんな強力なモンスターがいるとは想定外だったし。
 だから俺は悪くない、情報を書かなかった奴が悪い。だから俺もその情報を書かないでおこう。

「君だよ、君」

「あーまじか、またたびまでなくなってるよ」

 あんなアイテムでもなくなるとそれなりに喪失感がすごい。なくなって気づく物の大切さね。
 これならたとえ30ユルドであっても売却しておけばよかった。

「っ!あのー《Eight》さん!」

 どうやら俺に用だったらしい。よくよく見ると俺の近くにいたはずのほかのプレイヤーがいなくなっていた。
 なにこれ?現実でも鍛えているからこの世界でもあっという間に覚えてしまったんですかね。

 俺に声をかけてきた女性は、困った顔をして俺を見ていた。そしてその彼女の背後を見遣ってわざわざ俺に声をかけたことに納得する。
 彼女の後ろには4人もプレイヤーが立っていた。

「あっ、あのーすいません。あの、どっかいくんで」

 言い残し俺は慌ててこの場から去ろうとする。
 俺の行動から言葉の意味が分かったのか、その女性は焦ったのか大きな手振りで口早に否定する。

「いや、あの違います!その、できればパーティーを組んでほしいんです」

「は?」

 思わず間髪いれずに生返事をしてしまった。いったいどういうことなの。
 もう一度確認する。そのパーティーは全員女性。OK、つまりついに俺にモテ期が襲来したのか。そんなわけあるかです。 
 疑問でいっぱいな頭の隅で、猫の鳴き声が聞こえた気がした。

「見たところ《Eight》さん初心者ですよね、よかったらパーティー組みません?」

 初心者に対して優しく教えてくれる女性がいる。しかもパーティーが全員女性。
 中学の頃の俺なら喜んで受ける上に俺のこと好きなんじゃねとまで思うまである。
 だが、そのような漫画みたいなことが現実であるかといえば――

「いや、その、無理です」

 先ほどと変わらないようなにこやかな女性の顔。しかしながらその笑顔は一瞬なりをひそめていた。
 どうしようかーとその女性は後方にいるパーティーらしき人物へと顔を向ける。

「なに、あんたあたしたちとじゃ嫌ってわけ?」

 すると後ろに立っていたうちの、やたら目力のある女性がもはや脅迫に近い言葉を言ってくる。
 目力がある・口が悪い・背がやたらに低い・金髪の女性。しかも猫耳と尻尾がセット。こうして情報を並べてみるとツンデレのテンプレートに見えなくもない。

「いや、その別に」

 俺の煮え切らない回答に対して、短髪のサブカル系みたいな女性は俺にやたら近づいてきて勧誘する。

「あ、わかった。ほかにパーティー組もうとしている奴がいるんでしょ。大丈夫うちらのほうが絶っ対に強いから!」

「いや……えっと」

 彼女は2歩ほど近づいてきたので、俺は反射的に3歩下がる。
 もはやパブロフの犬だ。ふだんは逆の現象ばかりなのだが。

 しかし困った。これじゃ簡単にほかの人がいるんでって言いづらくなった。マジでなんなわけ。レアアイテムのまたたびはなくなったんだよ。

 どうも善意をひたすら押しつけて初心者の俺を勧誘しているわけではなさそうだ。しかし執着される理由もわからないためどうやって断れば良いのか。
 言葉に詰まりあたふたしていると、なにやら足元に違和感がある。何か柔らかいものに体をこすられているような。そう、この感覚はうちのカマクラに近い。

「ニャー」

 猫の鳴き声がやたらと響き渡る。足元から。顔を向けるとさっき俺が倒されたはずの猫がなぜかここにいた。
 幻聴かなと思ったが、再度甘えるように鳴く。どうしてなのかさっきから現れる問題に色々と胸中は複雑で、こうすることに意味はないが、思わずつぶやく。

「なんで……いんの?」

 俺の言葉に返事するように再度猫は鳴く。ウインドウのテイミングモンスターの欄にアリスが加わっていた。 

ゲームでもコミュ障

 とにかく疑問は尽きないが、彼女たちの思惑がなんとなくわかってきた。

「猫、好きなんですか?」

 やたらと凝視している彼女らにたずねると、どこか取り繕った笑顔で全員同意する。

 そういえば先ほどからチラチラと顔を下に向けていたがそういうことだったのか。今までみたいにてっきり俺とあまり顔を合わせたくないから明後日の方を向いてるのかと勘違いしちゃったぜ。
 つまり今までの女性は俺以上に興味の対象があったからよその方向を見てたってことか。なにこのどちらにしても傷つく事実。

「いやー私すっげー猫好きでさー。だから君が来てくれるともっと嬉しいっていうかー」

「その、どうですか?」

 発言をかぶせるように話す女性。そして失言をした女性はほかのメンバーから睨まれていた。なんというか語るに落ちたな。
 この猫を狙っていたのは分かった、じゃあどうするこの猫を譲り渡すか。
 それはなんか嫌だ。何だかうちのカマクラを余所に渡すみたいだし。それに爪を立てられていてHPが8割減ってるし。
 猫は俺に抗議するかのように低く鳴く。
 
 仕方ない覚悟を決めるか、大きく息を吐く。

「実はだな――」

「悪いが《Eight》は私と組む予定だったんだ、だからあなたたちは諦めてもらっていい?」

 おいおい。また新キャラ登場かよ

街に居てもHP減るの?

>>55
申し訳ありません、凡ミスです。

>>53
×それに爪をたてられてHPが八割減ってるし。
◯それに威嚇なのか爪をたてられてるし。

× >>53
>>54です、皆様何度も申し訳ありません。

 肩にかかった緑髪を払いつつ腕を組む新たな女性。物腰が柔らかい彼女だが、俺は怜悧な印象を受けた。
 今までぼろを出していたパーティーで唯一泰然としていた彼女も、彼女の登場にはやけに動揺していた。
 けれどもその復活もいち早く、この場においての新参者に対してけん制をする。

「あら、(《Saria》サリア)じゃない。“シルフ”のあなたがどうしてここに?」

「聞いてなかったの?(《Marica》マリカ)。さっきも話したとおり《Eight》との待ち合わせだよ」

「そういえばそうだったわね。わざわざケットシー領まで御足労いただいたみたいだけど、あとは私たちにまかせてあなたはもう帰ってもいいわ」

 あくまでにこやかな二人。
 しかしじわじわと言葉から溢れだす隠し切れない毒がこの場に染み渡り、気づけば険悪な空気へと汚染されていく。

 ふぇぇ怖いよぉ。なんなの?修羅場なの?
 残念ながら俺をめぐっての修羅場じゃなくて俺の猫を巡っての修羅場だが。
 いいもん、体育のチーム分けや修学旅行の班決めでは俺の巡っての修羅場が頻繁におきるもん。

「マリカ、約束は守るものだって習わなかったかしら?」

「知っているわよ、知った上での判断だから」

 二人はお互い膠着状態に。それを一蹴するかのごとく横槍が入る。

「そうそう、彼はあたしたちと組むんだからー」

 先ほど失言をした女性(《Dacia》ダキア)は、目にかかるほどの長髪を揺らして仲間をまたしても悪い方向へと巻き込む。

 おそらく彼女としては擁護したつもりだろうが、敵どころか味方にも被害が起きている。
 その威力は敵対しているはずの二人が思わず顔をしかめて、敵方から同情的な空気が流れるほどだ。
 お仲間の方もため息をついて肩を落としている。

 しかしこの状況で口を挟むとは彼女はよっぽどの度胸があるのか、それとも単に空気が読めないのか。
 まあ見たところおそらく後者だろう。
 つまり授業中などに俺が発言する際今みたいに沈黙するのは、空気が読めていないからということか?
 おかしい、普段は空気みたいな扱いなのに。

 もはや蚊帳の外となっていた俺に攻撃をしかけたのはサリアだった。

「あら、勝手に決めないでもらえる?彼には一緒にクエストをする約束だったのだから」

「――何よそれ」

 なによそれ、聞いてないんですけど。

「最近起きている補助スティックの不調。その原因らしきクエストを見つけたのが彼でね、その縁もあって一緒にクエストをするつもりなの」

 確かに『補助スティック』の操作が効かず、飛行に失敗した。しかしあれは俺だけではないのか。
 彼女の言う俺が見つけたとはどういうことなのだろうか?俺が激突した際にクエストが発生したということか?もしくはただのブラフでしかないのか。
 穏やかな表情の彼女から何を考えているかが全く読めない。

「そうなん?」 

 (《Luz》ラズ)さん、そんな無垢な瞳で見られても困るのです。でもまぁ。集団に属すよりかは1人のほうがいいかな。1対1のほうが簡単に抜けだせそうだし。

「いや、そのまぁ――」

「だとしても!」

 せっかくだし彼女の提案に乗ろうかと思い口を開くと、今まで一言も言葉を発していなかった(《Sis》シス)が突然大声をあげる。
 突然の行動に思わず思考が途切れる。
 予想外の行動に周りから注目を浴びてシスは縮こまっている。しかしながら彼女の意志は固いのか、話すのをやめなかった。

「だ、だとしてもあなたには領主のアリシャ・ルーに、会ってもらいたい。そして一緒に私たちと戦ってほしい」

 こうして大勢の前で話すのが苦手なのか、たどたどしい口調で告げる。言葉の節々から彼女の真摯さが伝わってきて、何だか断りづらくなってきた。

「で、どうする?」

 相変わらず空気の読めないダキアが空想のマイクを突き出すように俺の口元へ突きつける。

「え、えーっと……」

※ シナリオ分岐します。あとで安価を取ります。

A:サリアと共に補助スティックの不調クエスト?に望む。
B:マリカたち五人組とハーレムパーティーを組む



ここで登場人物たちのステータスを公表します。(1部独自解釈あり)

スキルは同時に5つ配置することが可能。
1000ポイント貯まるとパッシブスキルになるものもある(例:耐寒)
この性格に関しては、八幡から見てのもの
申し訳ありませんが、場合によってこの数値が変更する可能性もあります。

ー孤高の戦士ー

比企谷八幡(Eight)《ケットシー》性格:高二病
体力:100 魔力:60 武器:サイレントダガー(沈黙)小刀:50必要 
1小刀:90 2索敵:50 3:採取:50 4沈黙:30 残り1つスキルを配置できます。

アリス(Alice)《テイムモンスター(猫)》  性格:素直クール
体力:70 魔力:70 武器:なし
1爪:888 2神速:999 3回避:666 4タップ・ダンス:777 5:スラッシュ:555(耐寒:1000)



ー厄介者ー

サリア(Saria)《シルフ》    性格:不明
体力:110 魔力:80 武器:スコールソード(凍結) 片手剣:400
1片手剣:450 2隠蔽:400 3索敵:370 4回避:380 5:凍結:190(採取:300、投擲:300、体術:300)



ー5人組ー

マリカ(Marica)《ケットシー》  性格:不明
体力:109 魔力:75 武器:パラライズダガー 小刀:400
1小刀:410  2暗視:390 3回避:400 4索敵:420 5体術:400(採取:300、料理:600、麻痺:150)

ラズ(Luz) 《ケットシー》    性格:ツンデレ(デレない)
体力:105 魔力:75 武器:フレイムソード 片手剣:300
1片手剣:400 2底力:350 3採取:300 4体術:320 5炎症:150

クリス(Crice)《ケットシー》   性格:清楚系ビッチ
体力:105 魔力:77 武器:ポイズンソード 片手剣:250
1片手剣:340 2隠蔽:400 3毒:200 4採取:300 5投擲:290(索敵:300)

ダキア(Dacia)《ケットシー》   性格:うっかりもの
体力:110 魔力:75 武器:ブレイクキラー 両手剣:350
1両手剣:400 2索敵:200 3回避:400 4体術:390 5底力:300

シス(Sis)  《ケットシー》   性格:内気、頑固
体力:102 魔力:81 武器:カオスソード() 両手剣:350
1両手剣:380 2索敵:500 3回避:300 4隠蔽:390 5採取:420

※アリスはノルウェージャンフォレストキャットを参考にしています。

安価下5

AかBかを書き込んでください。

 安価に従いBルートを書きたいと思います。皆様ご協力ありがとうございました。


 唐突だが、ゲームの世界でも働かないといけないなんて酷いと思います。
 会社で疲れた人が日常系アニメを見て癒されるように、俺も日常生活でたまったストレスを発散するためにゲームをしているはずなのに、いつの間にか上司の命令で働かなければならなくなった。ゲーム社会でも上司の命令に従って働かなければならないってどういうことなの?遊び感覚でゲームをしてはいけないの?
 しかしながらこううだうだと思考しながらもきちんと体を動かすあたり俺って社畜の適性ありすぎるでしょう。 
 そうして今日もリーダーに命じられた仕事に諾々従うのであった。

 緑に囲まれた美しい山中。紫の花が綺麗だな、そんな綺麗な世界には到底似使わないモンスターと俺たちは対峙していた。
 灰色の毛皮をした狼が金色の瞳を光らせて4速歩行でこちらへと駆け寄ってきた。やたらと嬉しそうだがもちろん敵だ。俺たちは迎撃体制に入る。
 そして距離が50メートルもなくなったそのとき、突然やつは自慢の爪で地面を傷つけながら止まる。

 しばし膠着状態が続き、狼はだらしなくたらした舌で荒く息を吐く。
 そして瞬きの間にその鋭い爪が同行していたラズの胸めがけて襲い掛かる。
 
 その間は1秒にも満たなかったのだが、ラズは難なく剣で受け流す。
 お返しとばかりに袈裟懸けに切りつけた一撃が狼の胸を裂く。

 痛みを絶えるように叫ぶ狼。その瞳は敵対者への憎しみに満ちていた。
 
 そして彼女がしっかりとおとりとして働いているうちに、摺足のスキルを十二分に使い俺は背後を取る。
 首元にダガーが一閃した瞬間俺の首狩のスキルが発動し、首なしとなった狼は光の粒子になって消えていく。残されたのは青白いオブジェクト。
 俺が回収すると、そのアイテムを確認する暇なくラズは叫ぶ。

「よしエイト!次行くぞ!」

「はぁ」

 別にラズのことを嫌いではないのだが、この暑苦しいテンションに対してどうリアクションしていいのかがいまだにわからない。
 というか何を思ってマリカは俺たち2人で組ませたのか。

「んだあそのため息は!」

「へいへい」

 今日はツンデレ担当のラズと共に蝶の谷のモンスター相手に、スキルの上昇兼、素材集めを行っていた。もちろんいざという時のためにアリスも一緒。
 ALOを開始してから2週間ほど、そろそろ夏休みも中盤に差し迫っていた。

 あれから1時間ほどかけて、付近のモンスターを駆りつくした。まぁ強敵だらけの中まだまだ初心者の俺が活躍できるはずもなく、6割がたアリスが迎撃してくれたお陰であった。そう俺がパーティー組めたのもアリスさんのお陰。

 そしてその大活躍のアリスと言えば、猫らしく高いところに登るのが習性らしく、もはや定位置とも呼べる俺の肩へと上手に乗っかる。
 ふわふわの毛は気持ちがいいのだが、時折鼻に入ってくすぐったい。

 それを羨ましそうな目でラズは見ていた。俺は彼女の視線に気づかないフリをしていたら、なぜか小突かれた。
 暴力系ツンデレヒロインは今は叩かれやすいから気をつけてくれ本当に。

>>83
×痛みを絶えるように叫ぶ狼。
○痛みを耐えるように叫ぶ狼。
凡ミスです、申し訳ありません。

 ケットシー領内の中で唯一赤レンガを使った建物。黄土色の温かい色合いの中、この攻撃的な色は非常に目立つ。
 特異なその建物の中に入るのも最近は何も感じなくなってきた。
 やたら大股で肩を怒らせて先方を歩くラズの後姿にため息を吐く。結局機嫌は直らなかったのだ。

「ただいま」

 ラズのぶっきらぼうな声に、それぞれ作業をしていた人たちも一時中断し俺たちにへと顔を向ける。
 リーダーらしく、立派な椅子に座り何やらウインドウを片手に手作業を行うマリカ。
 柔らかそうな赤を基調としたソファーの上に姿勢よく座り、最近現実でもはまったらしい編み物を行うクリス。
 部屋の隅っこで禍々しく紫色に光る大きな剣を研ぐシス。
 部屋にいた3人はどうしたものかと顔を見合わせた後、マリカが代表して訊ねる。

「あら、二人ともぶすっとした顔して。喧嘩でもしたの?」

「いや、別に俺は怒ってるわけじゃねえよ」

 そういい、横にいる不機嫌な顔を隠そうとしないラズに心の中でため息を吐く。
 なんというか、いい意味でも悪い意味でもラズは子どもだ。だからか自分で許すと思わない限り人の話を聞こうとしない。そんなんでこの先大丈夫なのだろうかと心配してしまう。
 ラズが知ればお前が言うなとも言われそうだが。

「そうなの。あなたの眼が死んでるから何かいやなことがあったのかと思ったのよ」

「え、エイトさんの目っていつも死んでると思うんですけど」

「おいクリス。知ってる癖してそういう言い方やめろ」

 傷つくとわかってる癖にとぼけるあたり、本当にクリスはいい性格をしていると思う。そして舌を出して謝る姿もかわいいのが尚更腹が立つ。
 俺は無人の黄色い革のソファーに体を預ける。固めの反発がちょうどいい。

「あーアリスちゃんですかー」

 小声でつぶやいたシスは、ちらりと横目で扉付近で毛づくろいをしているアリスを眺める。
 ラズはまだアリスと接することを諦めていないらしく恐る恐る手を伸ばす。
 その気配に気づいたのかアリスは毛づくろいを中断し伸びてきた手を避ける。

 そして潤んだ瞳の彼女と目が合った瞬間アリスはプイと顔をそらし俺の太ももの上へと飛び乗る。

 アリスは何故か俺以外の人間に懐く様子はない。
 正直これが原因で俺とラズの仲が深まらないのだが、もはや俺の関係ないところで嫌いになるのって理不尽じゃないだろうか。
 やっぱり暴力系ツンデレヒロインってくそですわ。

「ただいまー!あれ?なんかみんな暗いけどー……どしたん?」

 奔放さが売りのダキアの登場に、少し場の空気が柔らかくなる。彼女の空気の読めなさが場を救うことがある。そして案外抜けてるくせに本質をつくことがあるので中々に侮れない。
 焼き串かなにかを口にくわえた彼女に対し胡乱な目で見ていると、手に持った袋を守るように体で覆い隠す。

「こ、これはやらねえぞ!あたしの金で買ったんだからな!」

 別にとらねえよ。つーかそれ全部食う気かよ。


※この作品を読んでいただいてありがとうございます。
 読んでくださる方々の批評をいただいたため、ここで謝罪と共にこれからの展開について書いていきたいと思います。
 少し長くなってしまいますがご容赦ください。
 
 私の説明不足により読者の皆様の混乱を招いてしまい、大変申し訳ございませんでした。

 私の文章構成力等の不足により、八幡をがっつりSAOのキャラとを絡ませた状態で原作のストーリーを進めること。
 互いのよさを消さないように原作をなぞって書くことが難しいため、この先も八幡が主人公のALOのスピンオフに近い形での投稿になるかと思います。

 私はSAOの主人公はキリト君であると思います。
 なのであくまで花形はキリト君であり、またそのような原作の裏で、こうしたクエストがあったかもしれないといった話をこの先も書いていきます。
 ゆえにオリジナル色が強いため、拒否反応を示す方が多いかと思われます。

 それでも拙作を読んでいただけるのであれば、作者はうれしいです。
 不明な点がございましたら、質問いただけたらなるべく返すようにしたいと思います。

 ここまで読んでくださった方ありがとうございます、そしてご期待に沿えず大変申し訳ありませんでした。

 
 

 ゲーム世界では遊びはしゃぐことが主と思われがちだが、仮想世界に入ることで落ち着くということもままある。
 例えば仮想世界で擬似ペットと触れ合うことや、森林やビーチといった世界に入り込みバカンス気分を楽しむといったものだ。
 
 ただ実際問題仮想世界で満足されると、既存の企業や市場等が大打撃を受けてしまうため、こうした触れ合い等を目的としたゲームはグラフィックが極端に低かったりなどして中

々発展しない。
 よって今のところはゲームのついでに、といったあくまで主目的は違うがこっそりと。このようにグレーな状態が不文律となっているそうだ。

 俺はコーヒーを飲み、ソファーでゆったりすることで心の安定を得ていた。カップの中から漂うコーヒー独特の香りを楽しむ。そこで思い至る。
 俺はこの世界でコーヒーノキを見たことがない。どこぞのナゲットみたいに原材料は大丈夫なのだろうか?

「エイト、ちょっと領主様のところに挨拶ついでにこれを届けてもらってきてもかまわないかしら」

 ちょっぴりお腹の調子を不安に思っていると、こちらも見ずにマリカが告げる。
 疑問系の言葉であるのに、しっかりと断定口調である。俺に仕事を任せる際に話しかけるやつの大半がこれなのだ。
 何だろうねこれ、断らないと確信しているのだろうか。

「あのさ、俺じゃなきゃだめなわけ?」

 横目でソワソワしているシスを見る。俺が行かなければ代わりにと今にも言い出しそうだ。
 マリカは決して俺を見ることなく、冷淡にこちらの提案を切り捨てる。

「ダメ、あなたがきちんと仕事してその成果と同時にあんたの顔を領主に見せるのも私の仕事のうちだから」

「じゃあさ、せめて付き添いの人間を――」

 期待の視線を込めて3人に目線を合わせる。3人とも見事に嫌なものを見たかのように瞬時に視線をそらされる。熱視線の一人は例外だが。
  
「私はパスー」

「あたしも、あいつ苦手だし」

「私もちょっと……」

「私!私行きます!」

 間髪いれずに全員から否定された。
 仕方ないか、俺もあの人はあまり得意ではないんだけど一人で行くか。

「わかりましたよ、一人で行ってきます」

「なんで!」

 俺に対して挙手をしてまで参加の意思を告げていたシスは、この世の終わりのような表情をした後、裏切り者みたいな目でこちらを見る。
 いや、シスが来ると本当に面倒くさいんだよ。

「あ!エイトまって!」

 先ほどから我関せずとしていたダキアが急に声をかけてくる。彼女は気まぐれの風来坊だ。もしかすると気が変わったのかもしれない。
 わずかな期待を込めてダキアを見る。彼女は空の紙袋を振りながら言う。

「ナゲット買ってきてくれない?」

 買うわけねえだろ。

 ケットシー領主の館。そもそも女性が多いケットシーであるが、ここに関してはもう男性の数を数えたほうが早い。というか確か3人しかいなかったはずだ。
 俺はもう何度か出入りしているため特に手続きなどはいらず顔パスではあるのだが、警戒するように刺々しい目が毎度のごとく向けられる。

 新人が領主に会うことにいろいろと複雑な感情を抱く人間も多いようだ。出る杭は叩かれるということだ。いやー優秀な人間ってつらいね。
 しかしまあこうして目立つのもたまにはいい気分だな。いっつもいないもの扱いだし。 
 こうして自分を鼓舞していると、中心に位置するアリシャの部屋へ辿り着く。
 時間通りではあるが、マナーを忘れない俺はきちんとノックして相手の対応があってから扉を開く。むしろ反応がなければ今すぐ帰るまである。
  
 当然ではあるのだが扉の向こうから反応がある。残念な気持ちが多少あったことは否めない。

「おー久しぶりだなエイトー」 

 俺はアリシャに勧められて対面しているソファに座る。座った瞬間、体がどこまでも沈みそうになる。

「たかだか4日会ってないだけでしょう」

 こちらが一方的に苦手に思っているだけかもしれないが、相変わらず居心地の悪い。しかし結局は彼女との距離を取り測りかねているだけなのだ。
 こういうのはただの考えすぎで大して意味がないことが多い。でもやめられないんだよね。
 むしろそうした無意味なことを想像するしかやることがないだけなんだよな。

「そうっだったね、今日はアリスちゃんはいないかい?」

「いますよ、知ってるくせにそういうことを言うのはやめてもらえます?」

「ふふふ、悪いネ。せめてもの皮肉だヨ」

 どうしよう、対応に困る。俺は足元で体をこすりつけていたアリスを太ももの上に乗せ、気持ちを落ち着かせる。

「あーこれが頼まれていたものです」

 必要以上にこの場に居座る必要もないかと考え、ウインドウを開きマリカから頼まれていたものを取り出していると止められる。

「おっと待った。いいやつが入ったんだヨ。せっかくだから飲んでいかないか?」
 
 アリシャの提案を断る間もなく、先ほどから無言で彼女の横に佇んでいた秘書らしき女性が紅茶を運んでくる。
 機能的な部屋から似つかわない華美なカップからはマスカットに似た爽やかな香りが漂ってくる。
 カップを掴み口に含む。
 うん、紅茶特有の苦味もなく、スッキリとして非常に飲みやすい。コクリと紅茶を飲む音が部屋に響く。

 カップをテーブルに置き視線を上げると、にやけたアリシャがこちらを見つめていた。

「どうだい?」

「いや、まあ美味しいとは思いますけど」 

「おや、紅茶は苦手なのかい?」

「嫌いということはないですが、嫌なことを思い出すので」

 俺の分だけ用意されない紅茶とかね。
 そのことを話すとアリシャから爆笑された。その空気が移ったのか、いつもは微動だにしない秘書の方もこの時ばかりは耐え切れなかったのか、無表情なのに肩の震えが止まっていなかった。

「そういえば空白の4日間は何してたのサ?」

「なんかそう言われると心が痛くなってくるのでやめてもらえます?別にリアルが忙しかっただけですよ」

「確かエイトは高校生だっけ?」

「なんで知ってるんですか」

 思わず身を乗り出してしまう。
 俺のこうした行動に対して大抵の人間は驚くのだが、彼女は動揺するどころかむしろそんな様子を微笑ましく見ていた。

「マリカから聞いたんだヨ」

「ああそうですか」

 うわっ…俺の個人情報、漏れすぎ…?
 俺がショックを受けていると、彼女は何か楽しいことを思い出したかのように笑う。

「そう、あの時のマリカはやけに気が立っていたのか色々と話してくれて助かったヨ」

 こういう点があるからこの人は怖い。さすが腐っても領主というわけか。
 ちょっと待て、俺今おかしな発言を聞いたような。 

「……マリカが怒るですか?」

「そうだよ、君も中々隅に置けないね」

 想定外の言葉に思考が止まる。気づけば無意識のうちに腕を組んでいた。それをゆっくりとほどきながら答える。

「そういうことではなく、思い通りに動かない部下に対する怒りじゃないでしょうか?」

 マリカに怒るという感情がないとは言わない。以前サリアと対面したときにも怒りの感情が見えていたわけだし。
 とはいえ、彼女はそうした感情に対して妙に否定的に思える。 

 あくまで部下である俺のような存在に対してそのような、“仲間”に対する怒りの感情を覚えることはないと思う。
 俺のそうした否定的な様子に彼女は思うことがあったのか、珍しくまじめな表情で告げる。

「もう少しキミは友人のことを考えるべきだネ」

「彼女は別に友人じゃないですよ、俺にとってはただのパーティーのリーダーです」

 俺は早口で言い捨て、アリシャ宛にいくつかのアイテムを送る。 

「お話は以上ですか?ならばそろそろ帰っても?」

「怒ったのかい?」

「いえ、特に怒る必要性を感じないので」

 その言葉にアリシャは一瞬目を丸くした後、どこか温かみのある笑みを溢す。
 その駄々っ子に対応するような行動に思わず顔をしかめてしまう。

「何ですか?」

「いや、マリカも似たような反応をしたことを思い出してね」

 その言葉を聞いた俺は、何故だか妙に恥ずかしくなった。

「そうそう、キミ達に頼みたいことがあるのだけど良いかな?」

「はぁ、かまいませんが」

 珍しく疑問系での言葉ではあったのだが、大人しく受け入れる。そもそも社長のような人物に頼まれて断れる平社員っていないよね。

 まぁ散々文句言いつつ自分なりに楽しめているのでいいのだが。いわゆる本音と建前ってやつですよ。
 そもそも俺はゆとり世代なので、上からの命令がないと困ってしまうタイプだし。だから別に辛くない。ほ、ホントだよ。

「サリアも言っていたけど、補助スティックの故障が最近調子が悪いなど異変が顕著に見られようになったんだよ」

「そうなんすか」

「気になって調べて見たら面白いことに、異変が発見されたのがちょうどSAO終了時と同時期らしくてね」

 アリシャの言葉で背筋に冷たいものが走った。なぜならば俺にとってそのことがこのゲームをする際の一番の難点でもあったのだから。
 SAO、(ソードアート・オンライン)。
 1万人をゲームの世界に閉じ込めて4000人もの被害を出したと言われる狂気のゲーム。
 未だその首謀者である茅場晶彦は捕まっていないため、まだ完全に解決したとはいえない。
 
 だからこそこのゲームに関しては慎重になるべきだと俺は思っていた。
 
 そういえば、俺がアミュスフィアを買うと言った際に、雪ノ下がやけに難色を示していたことを思い出す。
 あんな大事件があった後にこうしてVRMMORPGを行おうとするのは愚かな行いだと。
 そしてSAO事件の最中にも関わらず、ALOというゲームのサービスが開始されたことに対する政府の対応おかしさを。

 結局部活が終わり解散する間際までくどくどとそのゲームへの危険性と、それでもプレイしようとする俺の愚かさを説明してきた。
 おそらく彼女なりに心配をしていてくれたのだろう。ただしあの高圧的な言い方では反発しか生まないとは思うのだが。

「――つまりなんですか、SAOとこの現象とが何らかの関係があると?」

「そこまでは分からないヨ。ただ何らかの関係があるのではないかと睨んでいるのサ」

「そうですか……で、俺は何をしたらよろしいので?」

 俺の硬い表情を見て、彼女はこちらの勘違いを訂正する。

「大丈夫、そういうことは適任者がいてね。すでに解決に向けてあたってもらっている」

 まぁキミの選択肢しだいではその手伝いをしていた可能性もあるのだがと小声で恐ろしいことを告げられる。
 もちろんこういうことは聞かないフリだ。「え、なんだって」といってもう一度相手に言わせるようなまねはしない。

「えっと、じゃあ俺は何をしたら?」

「うん、最近シルフとサラマンダーとの争いが深刻化しているのを知っているかい?」

「ええ、まぁ」

 それが原因でシルフにならなかったわけだし。
 ケットシーになったことに後悔がないわけではないが、そのお陰でアリスという戦力を手に入れたり、結果的ではあるのだがパーティーに混ぜてもらったり等かなり恵まれている。
 それ以上に何かとこの人には世話になっていることもあって、頼みごとがあっても断りづらいのだ。
 正直嫌な予感しかしないのだが部下としては言われたとおり唯々諾々として働くしかない。最悪バックレる覚悟で。

「シルフ側の情報が明らかにサラマンダー側に漏れているらしくてね、それの調査を頼むヨ」

 ふぇぇ、やっぱりお仕事辛いよぉ。

 さて頼まれた用事も済んだわけだしログアウトというわけにはいかない。領主の館を出た今となっては、安全にログアウトするためには一度ホームへと戻らなければならない。
 ログアウト対策らしいので仕方ない。するとこれってソロプレイの人がいたら狙い撃ちされるよね、おちおちトイレ休憩にも行けやしないなんて。

 早く帰るように5分ほど前にマリカからメールが届いているため急がねばならない。
 ダキアからのナゲットの購入を希望するメールに関しては見なかったことにした。

「うす」

 俺の帰宅に対して、いの一番に反応したのはダキアだった。きらきらと何かを期待したような目で俺を見る。

「八幡!ナゲット買ってきた?」

「買って来るわけねえだろ」

「えーメールでも頼んだのにー」

 頼んだら必ず買ってくるとでも思っているのかこいつは。お前は俺の妹じゃないんだぞ。
 否定するのも面倒なので俺の所業に抗議するダキアを無視して、もはや特等席となったソファーへと体を投げ出す。
 アリシャの部屋にあったような体が沈むほどのソファもいいのだが、俺としては若干硬いソファのほうが落ち着くな。

 俺が首や肩を回していると、8割ほど出来上がったニット帽を編んでいた作業を一時中断して、ニヤニヤと笑みを浮かべたクリスがたずねる。

「それでどうだった、件のお姫様は?」

「相変わらずだったよ、まぁ流石領主ってところか」

「へえ、それはそれは」

 クリスの人を食ったような笑みは、いかにも経験豊富なお姉さんみたいで苦手だった。思わず強化外骨格のあの人を彷彿してしまいそう。
 ただ彼女も例に漏れずケットシーらしい幼い外見をしているため、外見とが台詞と合っておらず少々滑稽ではあるが。

 今更だが、正直ここの面子はゲームの中だとはいえ濃いメンバーばかりで、最近雪ノ下たちで鍛えているから良いが以前の俺だったら確実に引きこもっているまである。
 ただ、学内の人々と会って安らぐかと聞かれるとそうでもない。あ、もちろん戸塚は別です。むしろ毎日会っていたい。というか一生傍にいてほしい。

「何を頼まれたのだ?」

 いつの間にか機嫌が治ったらしいラズが、話の内容が気になっていたのか俺へとたずねる。あのお節介なケットシーの領主はどうやら情報をこちらには伝えていないようだ。
 もしくはマリカが意図的に伝えていないかだが。

「シルフ内の裏切り者を探す役だそうだ」

 この情報に驚くこともなく、彼女はむしろあきれた様子で答える。

「ほお、ついにか」

「ついにって、こうした動きがあることがわかってたのか?」

「当たり前だろ、あからさまに情報が漏れているのに身内を疑わないやつはいないだろう。そして重要な機密が漏れているということは少なくとも幹部クラスだろう。身内を疑うのは難しいから、シルフではない外の勢力で同盟を組んでいるあたしらにお鉢が回ってきたんだろうよ」

 正論だけでは世の中回らない。身内に癌がいることが分かっていたとしても、簡単に行動に移すことができない、それが上の立場になるにつれてもっと動きづらくなる。
 今までの関係をご破算しなければならなくなってしまう可能性があるからな。
 やたらと繋がりたがる反面その群れが大きくなるとこうしたことも起こり得る。やはり時代はぼっちに優しくなっているんだな。

 なんか脱線したな。要するに今回の依頼は、シルフとしては自分たちが身内のそして幹部の内実を疑うことはあまりよろしくない。そしてシルフと同盟組んでいるケットシーとしても、サラマンダーがこのまま増長しあまりシルフが弱ってしまうと戦力的に困るわけである。そこから今回の依頼へと繋がるのであろう。


 最初に聞いたときは、今回アリシャがシルフを見兼ねて勝手に行ったようにも思ったのだが、さすがに種族が仲がいいとはいえあくまでPK推奨のALOだ。
 末端までそうした意見が通っているとはいえないので、恐らく向こうにも了承をとっているのだろう。
 さすがにシルフ側に何も伝えずに行動するほどアリシャは奔放ではないだろうし。

「しかし意外だな……」

「ん?なんだエイト?」

 俺の独り言にに首をかしげるラズ。かわいらしい仕草がこいつだとあざとくないからちょっと困る。
 案外こいつは先ほどのことを理解しているあたり人のことを良く見ているのかもしれない。すると驚くことにこいつは馬鹿じゃなかったみたいだ。
 意外だ、本当に意外だ。何故このように人間の機微がわかっているのに、自分との人間関係に応用できないのか。うっ…頭が…。

「で、結局誰が行くわけ?」

 発言した俺に視線が集まる。まあこういうのって大抵言いだしっぺの法則だよね。皆からの無言の視線にこちらも無言で対応をする。やがて根負けしたのかラズから俺を落としにかかる。

「首狩なんてレアスキルもってるアンタが一番適任でしょ」

 彼女の発言は無視して自分なりにこの任務に向くタイプを考える。
 ラズみたいな直情型にはこういう任務は向かないだろう。頭の中でラズにバツマークをつける
 こちらが無反応なことにため息をつくラズ。それを見て別方向から声がかかる。

「あたし、あんまり隠れてこそこそとするのは得意じゃなくって」

 嘘つけクリス。お前むしろ女子の中で暗躍するのが得意分野だろ。とりあえず保留と言うことでクリスには三角マーク。

「そういうスパイ行為?あんまり興味ないんだよね」

 おいダキア、お前興味ないだけで切り捨てるなよ。
 それよりこいつ飯以外で張り切ってるところ見たことないんだが。なんで本当にこいつALOやってるんだろう。俺以上にゲームに対するやる気が見受けられないんだが。
 ALO世界で満腹になることでのダイエット目的か?
 いろんな意味でこいつの評価は謎なので、とりあえず彼女も保留とする。

「私も。せっかくのアリシャ様のご依頼なのでお受けしたいのですが、しばらくこちらに顔を出すことが不可能でして」

 アリシャに対してはいつも妄信のシスは、額面どおりに言葉を受け取るとそれほどショックを受けていないようである。

 しかしよくよく見ると、彼女の足元には涙のエフェクトが出ている。たかだかこの程度のことでこれほど悔しがっているとは、シスは本当に恐ろしい。
 俺の精神安定のためにも彼女はやっぱりバツマーク。普段はあんまり会話がないのでむしろマルなんだがな。
 
 しかし4人全員否定された。じゃあ俺も乗るしかないこのビックウェーブに。

「あー俺もしばらく忙しくって無理なんだよ」

「あら、今日顔を出したときにしばらく何もないって言ってなかった?」

 待ってましたとばかりにマリカが満面の笑みで入ってくる。
 こういう理論武装の得意な相手は本当に勘弁してほしい。こちとら文系なんで、作者の気持ちを勝手に想像したり揚げ足をとったり屁理屈を言うのが得意なだけだから。

「いや、あれはだな――」

 言い訳をつぶされた俺が新たな言い訳を考えようとしていると、マリカの冷たい視線が俺を黙らせる。

「ねえエイト、あなたと私はどんな関係?」

「いきなりなんだよ?まぁ、その……なんだ。同じパーティーの仲間かな」

 なんだろう、今日これ言うの2回目だな。思わず先ほどのアリシャとのことを思い出し赤面した顔がばれないように俯かせる。
 マリカはチラチラ下から覗き込むようにしている俺を不思議そうに見た。そして迷って出した俺の答えを彼女はきっぱりと言い切る。

「何を言っているの違うでしょう?」

「は?」

「私はパーティーのリーダーであって上司。対するあなたは部下で、しかも新参者」

 マリカの痛烈な言葉に思わず言葉に詰まる。冷たい視線も相まって凍えそう。なんなら穏やかだった周りの空気も冷えるまである。

「――つまり、俺はパーティーの意見には服従ってことか?」

「違うわ、上司である“私”の命令は絶対と言うことよ」

 なぜか言ってやったみたいな顔のマリカ。
 うっわうっざ。雪ノ下みたいなやつにゲームでも会うとは思わなかった。あまり俺に対して罵詈雑言を言わないあたりが異なる点か。

 上司の命令には絶対従わなければならない。いわゆる絶対王政。ゲーム要素も加わってつまりこれって王様ゲームじゃん。
 あーこんなくだらないこと考えるの大好き。ゲーム内容は全く違うけどな。むしろ毎日バツゲームっていじめではないだろうか。


 まあとやかく言ったが、俺としてはこれくらいの関係がわかりやすくて好きだ。あくまで俺たちの関係はビジネスライク。それ以上でもそれ以下でもないわけだ。
 悩んでいた彼女たちとの関係性も、マリカからの返答でスッキリと解決した。今日は珍しく快い気持ちでログアウトできそうだ。

「じゃあ明日から行って来るわ」

「何言ってるの?今日からに決まってるでしょう」

「……はい」
 
 ソファーから立ち上がり、ログアウトしようとウインドウをいじっていると無慈悲な言葉がマリカからかかる。
 上司の命令は絶対。これが社畜の辛いところね。





安価下2
AかB、どちらかを選んでください。ご協力よろしくお願いします。

A:現実サイド

キャンプ後の由比ヶ浜と小町とのメール

B:ゲームサイド

八幡がいなくなった後の5人の会話

>>116
ダキアさんパないっす
八幡の名前を知ってるなんて...

>>125
 申し訳ありません寝ぼけて書いていたため、普通にミスです。
 でもある意味この作品にとってチートキャラのダキアさんなら知っていてもおかしくないのか?

>>116
 ×「八幡!ナゲット買ってきた?」  

 ○「エイト!ナゲット買ってきた?」

 皆様ご承知とはお思いでしょうが念のため、ダキアはエイトのことしか知りません。

 ちなみにAではゲームに現を抜かす兄に反発しつつもちょっと寂しい様子を見せる小町と、八幡と一緒にプレイするためがんばってお金をためている由比ヶ浜の様子が書かれる予定でした。

八幡さん奉仕部の静ちゃんみたいな強制力が無い状態で「上司の命令は絶対」
何て言われたらコレ幸いと「じゃあ抜けるわ」とか言ってソロに戻るかと思ったら社蓄に

>>127
 後付にはなりますが、あくまでグダグダ言いながらも内心楽しんでいるという設定にしております。
 そのため原作の八幡から中々逸脱しているとは思いますがそこは私の筆力不足です、申し訳ありません。

 ゲームだから現実ほど一生ついて回るほど厄介ではない。しかもマリカから示されたものは彼女たちとの関係性がはっきりしているため、その場に依存する言い訳にもなる。
 八幡自身今は依存とまでは思っていないでしょうが、こういう考えのもとゲームを続けていると思っていただければ幸いです。

 八幡が消えた後、こんなログが残されていたとかなんとか

Marica「ふう、これでひと段落着いたかな。ってどうしたのみんな?」

Luz「いや、なぁ?」

Crice「あれはちょっと」

Marica「何よ、悪い?」

Sis「悪いというかなんと言うか……怖い?」

Luz「いや悪いだろ、普通あんなことを言われたらこのゲームやめるだろ」

Cris「そうそう、けどエイトは割りと変なとこあるから大丈夫じゃない?」

Sis「何言ってんだ!エイトがいなくなったらアリスはどうするんだよ!」

Marica「……やけにそわそわしてると思ったらそんな理由なの。相変わらずねあなたは」

Luz「だって私の家じゃ猫飼えないもん」

Crice「そういうソフトも出てるでしょうに……」

Luz「あれ無駄に高いうえに再現性が微妙なんだよ、それならこのゲームのほうがずっと良い!」

Marica「ああそう」

Sis「あはは。そういえばダキアさんが妙に静かですけど、どうかしたんですか?」

Dacia「いやね、ちょっと驚いてね」

Marica「唐突に話を変えてくるわね、で、何に驚いたの?」

Dacia「いや、マリカのことさ」

Marica「私?」

Luz「またその話を蒸し返すのかよ、いや確かに機嫌悪かったっぽいけど」

Dacia「むしろ今日は機嫌が良くてびっくりしたよ」

Sis「え?」

Dacia「いや、最近あんまり本調子じゃなかったからどうしたのかと思ったんだけど、今日は機嫌治ってたからさ。なんかいいことあったのかなーって?」

Crice「そうなの?」

Marica「――さあね、気のせいじゃないかしら?」

Dacia「あ、マリカが照れてる。珍しい」

Marica「それも気のせいよ……」

Crice「あっ……あーなるほど」

Marica「……何よその目は?」

Crice「いや、このゲームでの楽しみが増えたなーって」

Marica「そう良かったわね」

Luz「フン、全くうちのパーティーは素直じゃないやつが多いな」

Crice「アンタが言うな!」

 がたがたという物音を最後に音声はそこで途切れる。
 なんというか、大して好きでもないものを向こうの好意で食わされたような後味に似たものが心に残る。

「何だこれ?メッセージカード?」

《誕生日おめでとう!キミへのサプライズプレゼントだよ!》

「いや、意味わかんねーし。しかも誕生日とかおとといだし。というかなんなのこれ誰が残したの本当?ばれたら俺が犯罪者みたいじゃんか、そもそも俺の誕生日とかあいつらに教えた覚えないんだが」

 誰にも教えていないはずの俺の第二のホームに届けものがあり、受け取ってみるとこの音声ログとカードとが入っていたのだ。
 おそらくあのパーティーの中の誰かなのだろうが、この場所をしられていると考えると恐ろしい。ある種の脅しなのだろうか。
 肩に乗っているアリスを胸に抱き寄せ、気持ちを落ち着かせる。

「いやまぁでも、ありがとな」

 不安は尽きないが、こうして誕生日を祝ってもらったのは家族以外久しぶりのことだ。ありがたく好意くらいは頂戴しよう。

 この音声ログ削除しますか→YES

「このカードだけありがたくもらっとくわ」

 そして俺はこの世界からログアウトを行った。

 アリシャに任務を命じられてから1週間経った今、ようやく行動に移せるようになった。
 今俺はシルフ領内の近くにある森エリアの木に登り、その葉の中に隠れとあるパーティーを見張っていた。
 遠視のスキルを持っていないのが痛いが、その代わりとなるようなアイテムは持ってきているので大丈夫だろう。
 この場にアンパンと牛乳があれば潜入している雰囲気が出るのだが、万が一のことに備えて最低限のアイテムしか持ってきていない。

「さて楽しい楽しい任務の始まりですよ」

 隠密任務は正直俺にとって天職であると言える。いつも教室にいないもの扱いされていることだしな。ステルスヒッキー様々である。
 ただ問題なのが、俺がこうして隠れて調べていることがバレた際に捕まってしまうのではないかというものだ。
 特に相手が女だった場合だと、逆切れされてストーカー扱いされたら恐らく今までの経験上9割の確立でアウトだろう。

「まあそれを含めた上での顔合わせだったわけだし、いざと言うときのために釘も刺しといたし恐らく大丈夫だろう」

 今回こうして行動に出るのが遅れた理由の1つにこれがある。
 そもそもアリシャの任務命令は怪しいやつを探れと言う曖昧なものだった。それゆえにこちらで情報を得るためにかなり動かなければいけなかった。
 その情報得る手段の一環として、アリシャに頼みシルフの代表と面談する機会を得た。
 そうしてその時に色々と保険も込みで頼み込んだというわけだ。

「で、お目当ての人物はあいつか」

 俺の独り言に答えるようにニャーとアリスが鳴く。
 シルフの代表の人物とそしてその時に色々と話し合った結果、特に怪しいと思った人物についてしばらく様子を探ることにした。
 
 話し合いの中で幹部の中で一番怪しいやつとして一致した人物、シグルト。やけに神経質そうな表情であたりを見回す。
 情報によればこいつらはシルフで構成されたパーティーで、攻略を主に行っているということもあり、誰もが戦闘のスキルは高いようだ。 
 そうした選民思想に近いものがあるのか、俺が所属するパーティーに比べると少し空気がぴりぴりしている。

 別段それが悪いことではないが、そうした考えを一方的に押し付けられると迷惑だ。無自覚の善意の押し付けにそっくりで辟易する。
 しかもあいつらそれが正しいことだからとこちらの行動や考えをすべて否定してくるからな。こっちだってわかっててやってるのに迷惑なことこの上ない。

「おいおい、最後にとどめを刺すのはオレの役目だろ」 

 冷静な口調を努めているようだが、根底にある怒りの感情が全く隠れていない。
 さて、こいつがうわさどおりの人物かどうかを判断するのに一番役に立つのは、本人ではなく周りの人物の反応だ。
 しかしながら期待した反応は見られず、こうした行動に慣れているのかもしくは周りが大人なのか、何の反応も見せずにこうした発言を逐一流していた。

 そのうち何かぼろを出すだろうと思いつつ、観察を続けることにした。

「よし!一度領内に戻るぞ」

 特に異論もなく、そのまま全員飛行してこの場を去っていった。
 誰も特に無駄口を叩かずひたすらモンスターを狩る様子は、中々に見ていて恐ろしいものがある。効率よくアイテムやモンスターを狩ることに慣れているのだろう。
 俺としてはこうしたパーティーのほうが性に合っているように思えたが、リーダーがあいつの時点で無理だと言うことに気づく。
 そもそも無口でプレイするのであればソロのほうがましだろう。やはり集団でいるとどうしても気を使わなくてはいけないし、そんな面倒なことを俺はしたくない。 

「まあ性格のほうや今日の言動を鑑みてどう考えてもあいつしかいないって所だが」

 乱雑な言動に暴君のような振る舞い。たとえ犯人ではなかったとしてもあまり関わりあいたくない。
 小説や漫画ではこうしたやつ実はいいやつだったということが多いが、現実では嫌なやつは本当に嫌なやつが多い。
 というより自分にとって嫌な人は最後まで嫌な人ということが多い。ただこういう考えをしていると相手のいい点すら見逃してしまうから注意な。

「というわけで1日であいつを犯人と決め付けるのは早計だな――ん?」

 シグルトのパーティー全員どこかに消えたのを確認して、そろそろ地に足をつけようと思っていたところで異変が起きる。

 急に気温が2,3度ほど下がったかと思うと、降りようと思っていた地面が突然大きく隆起する。
 その割れた地面の隙間からどろどろとしたタールのような液体が漏れ出す。そしてその液体が半径5メートルほどに広がると、ずるずると不快な音を立て固まっていく。

 くぼんだ目に光はなく、その黒い穴はこちらの不安を招くようだ。威嚇するように開いた口元からは、ドロドロとした見た目にはそぐわないほどの鋭い牙が見られ、だらしなく開いた口元からはボタボタと黒い液体が落ちる。その液体に触れた草はジュワっと解ける。

「ゴ○ラあたりで出てきそうなモンスターだな」

 その虎に似たモンスターは確実にこちらにロックオンしているようだ。
 これも不具合の一種なのか仕様なのかは計り知れないのだが、名前が文字化けしているのがその恐ろしさを一層際立たせている。
 そしてHPバーが8つも存在しているのだ。

 悩むことなく俺は結論を出す。
 
「逃げるか」

 あのモンスターのポテンシャルがどれほどかは知らないが、ここは逃げるのが得策だろう。
 補助スティックを準備する。翼でもない限りこちらに追いつくことはないだろう。こちらが降りるのを待っているのか木の周りをうろうろするやつに鼻で笑う。
 飛べない虎はただの虎だ。

「あっ」


 飛び立とうとした瞬間に思わず声を漏らしてしまった。なぜならば抱きかかえようとしたアリスがひょいと地面に降り立ったのだ。
 そして勇猛果敢に10倍近くの体格差のある相手へと向かっていったのだ。
 虎と猫との戦いが今幕を開ける。勇敢なアリスさんに敬礼。俺は高みの見物かな。 













 結論、圧倒的なまでにアリスは強かった。難なく攻撃を避けて確実に相手に攻撃を与えている。まさしく蝶のように舞い蜂のように刺すといったところだろう。
 助けに行くべきという考えが当初頭によぎっていたが、全くそんな必要はなかったようだ。
 必殺技らしき攻撃をするも、アリスの爪から放たれる斬撃であっさりと消し飛ぶ。
 つーかどんだけ強いんだよ、もしかして隠し裏ボスクラスなんじゃないの?アリスって。

 3分ほどボーっと眺めていると、あっという間に8つもあった相手のHPバーはすでに残り2つとなっていた。対するアリスは無傷である。

「ま、最後まで任せるか」

 あくまでこの結果はアリスだからこそで、経験地稼ぎのために1撃でも食らわせたいところだが我慢する。

 激しい戦いの結果、緑の大地は荒れ、木々はなぎ倒され草木は枯れ果てる事態に陥る。自然破壊が目前で行われているのだ。

「何これ、怪獣大戦争?」

 俺の居場所からはだいぶ離れたことだし、飛行を使いゆったりと地面に降り立つ。
 そうして虎がなすすべもなくやられるさまを見ていると、不意にポンと肩を叩かれる。すかさず距離をとり背後を振り向くと、そこには笑みを浮かべたシルフの女性が立っていた。

投下の途中にすまないが偽物スレが建ってたので報告を

八幡「ALOを始めてみる」
八幡「ALOを始めてみる」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407152727/)

>>140
ご報告ありがとうございます。
これで本家(笑)の宣伝になってもらえればうれしいですね。
本日はもう少し書きたいと思います。

 肩くらいの緑髪と涼やかな青い瞳。人形のような端正な顔、逆に言えばその薄い表情からは何の感情も伺えない。

「久しぶりエイト」

 そいつはある意味衝撃的な出会いをした人物、サリアだった。 

※※※

 まさかこいつにまた会うことになるとは思っていなかった。というのもある種彼女は有名人らしい。
 神出鬼没なためあまり知られてはいないが、知る人ぞ知るといった人物であるらしい。なんかこういうと隠れた名店みたいな扱いだなこいつ。

 彼女が有名な理由として人形のような美貌も要素の1つらしいが、彼女のHPバーを減らすところを見たことがいないという逸話が特に有名らしい。
 そして彼女に挑んでは一撃も食らわせることができず、こてんぱんにやられるといったことがそれに拍車をかけているそうだ。

 まあこうして俺が彼女の名前を覚えていたのは、サリアの話題が出るとマリカの機嫌が明らかに悪くなるから印象に残っていたからだが。

「おおう、えーとサリアだっけか」

 気づけば隣に立っていたサリアに距離を取る。
 そして俺が横目で名前を確認する行為に対して彼女は顔をしかめることはない。案外心の広いやつなのかもしれない。もしくはこちらに対して何の感情も抱いていないのか。

「うん残念、まだ名前は覚えていなかったみたいだね」

 先ほどから瞬きする以外まったく表情が変わっていない。だから怒っているのかさえ分からない。怖いよこの人、人形か何か?

「いやまだ初対面に近いもんだろ俺ら」

「そうだね。けれど私って結構初対面の人から忘れられたことってあまりないんだよ」

「あ、そうなんすか」

 何それ自慢?俺は本名を忘れられて覚えてもらわないことに定評があるんですけどどうですか。
 今俺はいびつな笑みを浮かべている自信があるが、それに対しても彼女は何の反応もしない。こうした表情に慣れている妹でさえ何らかの反応を示すというのに。
 行動原理が分からないといえばダキアもその分類に入るのだが、それ以上にサリアについては分からない。
 未知に対する恐怖が、無意識に腕組みという防御の姿勢をとらせていた。

「それで、キミは手伝わないのかい?」

 彼女はあごでアリスたちの方角を指し示す。

「むしろ邪魔になりそうだしな」

 会話を打ち切り、無言でそのまさしく象と蟻の闘いを眺めている。すると伺うような声が隣からあがる。

「……聞かないのかい?」

「何を?」

「どうしてキミをあの時誘おうとしたのかをだよ」

「いや、どう考えてもアイツが理由でしょ」

「ふふ、さてどうだろうね」

 どうにもこいつの考えが複雑怪奇で分からない、ただいえるのはあまり得意なタイプではないということだ。
 とりあえず対処として俺はサリアに対して心の距離をもっと遠くに、物理的距離を二歩ほど遠ざける。

 余所をむいているうちに気づけばモンスターの姿は消えていた。

「そういや俺あんまり戦ってねえな」

 とはいえ実際戦ったところで、敵がアリスに気を取られている隙に、背後からの一撃で倒すというパターンが出来上がっている。
 スキル値自体はあがっているが、実力が伴っているかと聞かれれば首をかしげるところだ。まあ勝てばいいからいいんですけどね。

「そうなのかい」 

「まあな」

「ところであれは大丈夫?」

 言葉を返そうとしたところで目前の光景に言葉を失う。こちらに風のような速さで向かってくるアリスがいたのだ。
 たぶん向こうからすればじゃれているだけなのだろうが、そのままのスピードで胸に飛び込んでくれば確実に俺の体力ゲージがすべて消えてしまうほどの威力が込められているだろう。

「いやいやちょっとアリスさん?それは不味い――」

 自らを守るように反射的に手を交差させる。
 ああ思い返せばこいつに殺されるのって2回目だよな。というか俺が死んだ回数もまだ2回目だ。つまりアリスは俺最大の味方でもあり敵でもあるわけだ。
 あーあせっかくもう少しで摺足のスキルがあがったのに。
 痛覚のスキルがないため、痛みはないのはありがたい。
 待っていた衝撃はない。いや、別に殺されるのを待っていたわけではないが。
 衝撃がないということはつまるところ俺は死んではいないということだ。

「――あれ、死んでない?」

 薄く目を開くと俺の前にサリアが立っていた。そしてその腕の中にはアリスがいてその中から逃げ出そうともがき暴れていた。
 アリスの攻撃によりHPが減っているのを見て、都市伝説の破れた瞬間を俺は目撃した。

「ほら落ち着いて、敵じゃないから私は」

 いや待て、それ以上に驚くことがあるだろう。サリアはあの勢いを受け止められるということだ。しかも生存している。 
 サリアに対する恐怖の念が強まる。もしかするとアリス以上にこいつは強いのかもしれない。やっぱり危険人物だこいつは。
 俺は頭の中でサリアに対し要注意危険人物のラベルを貼る。

 どうやら想像以上に厄介な人物と出会ってしまったようだ。

本日はここで終了いたします。ここまで読んでくださる方いましたらありがとうございます。
明日の夜また少しですが更新したいと思います。

遅くなってすみません。あと十分くらいしたら書きます。

 世の中考えすぎて裏目に出るということがたまにある。
 だが別に考えすぎが悪いといことは決してないはずだ。
 俺からすればそういうことをいうやつに限って普段何も考えていないやつであり、そんなやつらの物事に対して何も考えない言い訳にしか聞こえないのだ。
 つまり考えすぎは良くないというのは他人が言うべき言葉ではなく、暇な時間が多いため必要以上に余計なことを考える、そして何でもかんでも自分に関係しているのではないかと考えてしまう自意識過剰であるぼっちこそ使うべきであると言えるのではないか。
 だからこそ思う、考えすぎってよくないね。

「は?表情がバグってる」

「うん、それで結構誤解されてね困ったものだよ」

 なんてことはなかった。言葉は誤解のもとではあるが、たまには役に立つこともあるようだ。
 むしろこれが嘘だとしてもあまり彼女の評価は変わらない。そういう考え方もあるんだと思えば随分と楽になる。
 少なくとも自分の表情に対して自覚しているという事実があっただけましだ。無自覚な行動が一番恐ろしいからな。

 なんにせよ俺の精神に余裕が生まれただけでもありがたいことだ。
 しかし補助スティックのみならず見た目にもバグが起こっているのか、こんな状態でよくサービス開始できたな。
 本当に大丈夫なのかよこのゲーム。実は欠陥だらけなんじゃないの、製作者はきちんとチェックしてるの?

「それならGMに言えば対処してくれるんじゃねーの」

 自分でも製作者側をあまり信用はしてはいないが、現状解決するにはそういうしかない。我ながら無責任だとは思うのだが。

「まあそうなんだけどね」

 サリアは俺の発言を誤魔化すように、表情が動かない分声だけで笑う。
 俺はその行動に思わず、違法行為でもやっているのか?と聞きたくなるのを寸前で飲み干す。肯定された場合の対処に困るしな。

 さて、今俺たちが何故こうした話をしているかというと、先ほどのアリスの猛攻(愛)から助けた礼の代わりにとサリアからの提案だ。
 俺としても負い目があるため彼女の頼みを断るわけにはいかず、俺たちは互いにちょっとした情報交換をおこなっていた。 

「そういえば、首狩って初めて聞いたけどどんなスキル?」

「唐突だな……Wikiにも乗ってるスキルだけど、ほれ」

 攻略サイトのWebを開き、その該当するページを彼女へと見せる。
 首狩:相手の首を切ることにより1割の確立で即死する、熟練度があがることで最大4割にあがる。

「かすり傷でも致命傷ってわけか、恐ろしいスキルだね」

「らしいな」

 あまり意識したことはないが中々に強力なスキルらしい。
 それを実感したのは戦闘中ではなく、俺と似た戦闘スタイルをとるクリスの態度からだ。
 俺がホームでこのスキルを取得したと皆に話したとき、ほんの一瞬クリスからどろっとした嫉妬の視線を感じた。
 だがクリスは場の空気を悪くしないようにと、以降そうした態度を決して表に出そうとはしていなかった。このような周りへの気遣いができる辺りが、クリスは世間づきあいに長けているのだと俺が改めて思った時でもある。

 対してサリアはこの首狩というスキルに脅威を覚えたのか、彼女から殺気に似たものを感じる。
 その攻撃的な感情を感じ取ったのか、俺の腕に抱かれていたアリスは俺から離れ、サリアにたいして威嚇するように低い声で鳴く。
 アリスの行動から自分がそうした感情を俺に向けていたことに気づいたのか、サリアは相好を崩す。といっても雰囲気だけで表情は全く変わっていなかったが。 

「すまないね、これは癖みたいなものだから」

「いや癖で殺気出されても困るんだが」

 俺も敵意には慣れているが、こうした殺意のような強い感情を受けるのは初めてなので、中々対応に困る。
 俺は未だにALOにてPK戦闘を行ったことがないというのも関係しているのかもしれない。

「しかしキミは随分と大切にされているみたいだね」

 サリアはアリスを見た後、一瞬俺の背後を見て納得したように頷く。
 もしかすると先ほどの殺意は俺にではなく背後にいた何かなのかと思い、振り返って見てもいつの間にか復活した木々があるだけでモンスターはおろか、プレイヤーの存在すら見受けられない。ただ風によって木の葉のこすれる音がするだけだった。
 俺の気のせいかと思いサリアに言葉を返す。

「……まあな、なにせ専業主夫が俺の夢だからな。大切に扱われるのも当然といったところだな」



 ニャーとアリスが機嫌よく喉を鳴らす音がよく聞こえる。
 初対面でこれは流石に引かれたか?当たり前か。そう思っていると、笑い声が響き渡る。
 サリアが腹を抱えて爆笑していた。

「いやすまないっ、これは本当に……予想外で」

 サリアは珍しく表情と声とが一致していて、俺はその綺麗な笑顔にちょっと見惚れてしまった。べ、別にこれは珍しいものを見ただけだから。

かなり短いですが、本日はこれで終了です。
次の更新は恐らく明後日になります。

先日8/8は八幡の誕生日でしたね、1日遅れていしまいましたが誕生日おめでとうございます。
本日昼に投稿します。

※※※ 

 人は自分に対して益のある人間と親しくなろうとするらしい。偏見かもしれないが女性の異性への対応に関してはその傾向が顕著に思われる。
 ただしその評価の中でもあまりよろしくないものがある。それはいわゆる“いい人”だ。
 しかしながらいい人と評されても、大抵(使っても)いい人みたいな扱いだから注意しよう。一見プラスの評価ように思えるが自分にとってはマイナスだからな、決して勘違いしてはいけない。 

 そのいい人という評価をされうる人間はたいてい和を乱すのを良しとせず自分の意思を通さない人間のほかに、ぼっちに多く見受けられるように思える。そうなってしまうのはなぜか?
 俺が思うにそうした人間はあまり積極的に人と関わる機会が少ないために、自尊感情が低く承認欲求に飢えているからではないだろうか。
 だからたとえいい人という呼称が蔑称であったと気づいていたしても、いい人のままであり続ける人間が存外多いのではないか。

 しかしすべてこれに当てはまるわけはなく例外もある。というか例外のほうが多いまである。 
 それは文句も言わず黙々と仕事をすることで、こいつは何でも嫌な仕事を押し付けても“いい人”みたいなカテゴリーにはめられてしまうやつのこと、つまり俺である。

 特に俺を完全に便利屋扱いにしているバイトの同僚とか最悪だった。「あいつ何も言わないからマジで楽だわー」とか言って俺に仕事を押し付けてバックヤードで笑うとかなんなわけ?お前が嫌なことは俺だって嫌だと言うことに気づこうね?まじであれはバックレて正解だったぜ。

 ……嫌なことを思い出してしまった。俺の何が彼女の琴線に触れたかは不明だが、サリアにとって俺はその益のある人間として捉えられたようだ。
 さっきから攻略に関係ないことまで聞いてくるのだ。こちらからすれば迷惑極まりない。


「何でケットシーを選んだの?」

「別に攻略に関係ないだろ」

 サリアはこちらの冷たい返答を全く意に介した様子はなく、勝手に会話を続ける。

「そうかな?どのような種族を選ぶかは性格によって変わってくると思うよ?それにこのゲームって結構意地悪いから相手の性格を知るのは大事だよ」

「そうか?」

「だってPK推奨する時点てあれだし、そもそも種族同士が争うように運営が設けているしね」

 思わず納得していると、サリアは先ほど自分が出した疑問をまるでクイズ受けているかのように考え込む。そして答える。

「そうだね、エイトがケットシーを選んだ理由は……さしずめソロプレイをするつもりだったからとか?」

 正解である。別にクイズ形式にしたつもりはないが図星をつかれて悔しいので、理由をたずねる。

「何でそう思った」

「んーさっきから様子を見てる限り、わざと私との会話を打ち切りたがってるようだし。それに今もこうして必死に距離を取ろうとしているぐらい人との距離には敏感みたいだし、そもそも普通の感性をしていたら将来専業主夫になりたいとか言わないよね、こんな人間が集団になじむとは思えない。それにそうしたことも本人も自覚しているようだったから元々ソロプレイしようと思っていたんじゃないかと」

 なんだか胸が痛くなってくる。消沈している俺を慮ってか、伺うようにこちらに視線を向けるので続けるように言う。

「……それで?」

「ケットシーを選んだのはモンスターをテイムできるからかな?どう」

 普通一目見てほんの少し話しただけでわかるかここまで、思わず戦々恐々してしまう。俺は降参の意を込めて両手をあげる。

「さいで」

 しかし苦手だとわかっているのにこうして近寄ってくるってあなた性格悪くないですか?
 正直最初は不思議ちゃんかと思っていたが、結構強かな女性のようだ。そして人をよく見ている。でもこちらからは表情を伺うことができないから完全に彼女のワンサイドゲームとなっていた。

「それで、キミはなぜここに?」

 不意に聞いてくるな。結構重要なことなので身構えていたのだが、中々質問されないと思っていたらこれだ。しかしこうして話しているうちに気の緩む時をねらったのだろうか。むしろ彼女への印象は最悪で、危険視と嫌悪感しかないのだが。聡明な彼女からして気づいていないことはないと思うのだが。

 あせることはなく俺はあらかじめ用意していた話を伝える。

「剣の強化に必要な素材集めだ」

 実際にこの素材集めも副次的目的ではあった。俺の持つ剣を強化するのに必要とされている素材がこの森林にて出現するモンスターからドロップするらしいのだ。これによって麻痺効果がつくらしい。
 証拠とばかりに剣を見せ付ける俺になるほどと彼女は頷く。

「うん、臆病で慎重なキミだからこそサクヤはOKしたのかもね」

 スッと意識が覚める。俺がここにいる理由も最初からわかっていたってことか。それで説明を求めるとかマジで性格悪いなこいつ。
 しかし理由を知っているのにも関わらず聞きに来るってことは。

「つまりアンタは俺の監視役ってことか?」

「そうなるね」

 これで初対面に近い人間に対して根掘り葉掘り聞くことにも納得した。さすがに向こうとしても何の対策もなしに信用するのは難しいということなのだろう。しかし最初から監視役をつけることを言わないのであれば、秘密裏にしたほうがそれなりの信頼関係が築けると思うのだが。

「言っても良かったのかよ、監視役だってこと」

「あくまで命令じゃなくてお願いだったからね、そこらへんは私の裁量しだいってこと」

「俺のとこと比べると大分ゆるいな」

 なんだそれ、やっぱり俺はシルフを選ぶべきだったのかもしれない。そうしたら万が一パーティーを組まされることがあったとしても、適当に理由をつけてサボることができたのかもしれないのに。

 あー今からでもシルフにコンバートできないかなー。そんな機能があれば何でもすると思うんだけどなー。

モンスターをテイムできるってだけじゃソロプレイに適してる理由としては弱くないか?

>>161
そうですね、これは見直してみるとかなりの言葉足らずでした。申し訳ございません。
高スペックな八幡ならあれだけでの言葉で認めるのは流石におかしいですね、ごめん八幡。
159を修正したものをこれから書きたいと思います。ご指摘感謝します。


「何でケットシーを選んだの?」

「別に攻略に関係ないだろ」

 サリアはこちらの冷たい返答に対して全く意に介した様子はなく、勝手に会話を続ける。

「そうかな?どのような種族を選ぶかは性格によって変わってくると思うよ?それにこのゲームって結構意地悪いから相手の性格を知るのは大事だよ」

「そうか?」

「だってPK推奨する時点てあれだし、そもそも種族同士が争うように運営が設けているしね」

 思わず納得していると、サリアは先ほど自分が出した疑問をまるでクイズ受けているかのように考え込む。そして答える。

「そうだね、エイトがケットシーを選んだ理由は……モンスターがテイミングできるからとか?」

 互いに一瞬アリスを見る。確かにこいつがいればソロプレイを行おうとしてもまったく問題はないだろう。むしろ先ほどの戦闘を見たとおりこいつ一人でいいまである。

 しかしあくまでこいつは偶然の産物でしかない。確かに俺がケットシーを選んだ理由としてモンスターをテイミング可能なことは大きな理由を秘めていたが、それだけではない。
 
「だがそれだけなら理由として弱くねえか?」

「そうだね、でもテイミングしたモンスターをおとりにしている間、俊敏性が高いケットシーの特色を活かして忍び寄り攻撃とかはどうだろう?」

 ――正解である。別にクイズ形式にしたつもりはないが答えを当てられている。俺も聞かれてもいないのに自分の戦闘スタイルを話してしまうというヒントを与えてしまったことが原因だろう。

「付け加えるとさ、キミの性格だと大抵の種族とは合わなそうだよね、特にサラマンダーとか」

 まあ確かにサラマンダーはあのBBSの書き込みを見た所、攻略命みたいな暑苦しい感じが無理だった。
 しかしこうして面と向かってはっきりと合わないといわれるとは思いませんでした。


「他の種族も考えてみたんだけど、能力や性格を鑑みてインプかケットシーかなーとは思ったよ」

 確かにソロプレイをすることを考えて選んだ際結構能力がまちまちであり、残ったのがシルフ・インプ・ケットシーだった。
 高速飛行のシルフと暗視・暗中飛行のインプの2つとは最後まで迷ったが、結局ケットシーに決めた。
 ゆえに正直俺としても消去法でケットシーを選んだことは否めない。

 まだまだ彼女の発言はとまらない。

「それにね、さっきから様子を見てる限りわざと私との会話を打ち切りたがってるようだし。それに今もこうして必死に距離を取ろうとしているぐらい人との距離には敏感。そもそも普通の感性をしていたら将来専業主夫になりたいとか言わないよね?こんな人間が集団になじむとは思えない。それにそうしたことも本人も自覚しているようだったから元々ソロプレイしようと思っていたんじゃないかと」

 なんだか胸が痛くなってくる。消沈している俺を慮ってか、伺うようにこちらに視線を向けるので続けるように言う。

「……それで?」

「だから消去法ではあるけどソロプレイでもできそうな能力を持った種族を選んだ結果、ケットシーにしたのかなって」

 普通一目見てほんの少し話しただけでわかるかここまで、思わず戦々恐々してしまう。俺は降参の意を込めて両手をあげる。

「さいで」

 しかし人と関わるのが苦手だとわかっているのにこうして近寄ってくるってあなた性格悪くないですか?
 正直最初は不思議ちゃんかと思っていたが、結構強かな女性のようだ。そして人をよく見ている。でもこちらからは表情を伺うことができないから完全に彼女のワンサイドゲームとなっていた。

「それで、キミはなぜここに?」

 不意に聞いてくるな。結構重要なことなので身構えていたのだが、中々質問されないと思っていたらこれだ。しかしこうして話しているうちに気の緩む時をねらったのだろうか。むしろ彼女への印象は最悪で、その慧眼に対する危険視と嫌悪感しかないのだが。聡明な彼女からして気づいていないことはないと思うのだが。

 あせることはなく俺はあらかじめ用意していた話を伝える。

「剣の強化に必要な素材集めだ」

 実際にこの素材集めも副次的目的ではあった。俺の持つ剣を強化するのに必要とされている素材がこの森林にて出現するモンスターからドロップするらしいのだ。これによって麻痺効果がつくらしい。
 証拠とばかりに剣を見せ付ける俺になるほどと彼女は頷く。

「うん、臆病で慎重なキミだからこそサクヤはOKしたのかもね」

 スッと意識が覚める。俺がここにいる理由も最初からわかっていたってことか。それで説明を求めるとかマジで性格悪いなこいつ。
 しかし理由を知っているのにも関わらず聞きに来るってことは。

「つまりアンタは俺の監視役ってことか?」

「そうなるね」

 これで初対面に近い人間に対して根掘り葉掘り聞くことにも納得した。さすがに向こうとしても何の対策もなしに信用するのは難しいということなのだろう。しかし最初から監視役をつけることを言わないのであれば、秘密裏にしたほうが互いにそれなりの信頼関係が築けると思うのだが。

「言っても良かったのかよ、監視役だってこと」

「あくまで命令じゃなくてお願いだったからね、そこらへんは私の裁量しだいってこと」

「俺のとこと比べると大分ゆるいな」

 なんだそれ、やっぱり俺はシルフを選ぶべきだったのかもしれない。そうしたら万が一パーティーを組まされることがあったとしても、適当に理由をつけてサボることができたのかもしれないのに。

 あー今からでもシルフにコンバートできないかなー。そんな機能があれば何でもすると思うんだけどなー。


 俺が後悔の念にとらわれていると、サリアも自分の待遇に何かしらの不満があるのか、やけに暗い口調で話す。

「――というより私の使い道を困ってたようだ」

「あー」

 いるよね、こいつみたいに部下にすると使いづらい人間って。優秀な部下を持つと上司は辛いものです。なるほど、だからバイトで上司の人間の大半が俺の扱いに困っていたのか。周りに迷惑をかけないためにも俺は働かないほうがいいと思いました。
 そして思いがけないことに俺が同意したことにサリアは気分を害したようだ。

「キミ、失礼な人間だね」

「そんなことはない、むしろ俺は純粋無垢であるといっていい」 

 俺はさっきからこっちの痛いところばかりついてくるこいつのほうが失礼だと思うのですが。そして俺の言葉に彼女はなぜかあきれたようにため息をつく。

「間違えた、君は失礼な上変人のようだね」

「おい、さすがに言いすぎだぞお前」

 抗議に対して胸に手をやるサリア。表情が変わらないため説得力皆無だが。

「私の心はいたく傷ついたんだ。それくらい我慢してくれ」

「まるで俺の心は傷ついていないみたいだな」

「こうした対応は慣れているんじゃないの?」

 サリアは不思議そうに首を傾ける。いや、あってるけどさ。

「慣れてはいるがそれは暴力にたいして無抵抗のままでいる理由にはならないだろう」

 かの有名なガンディーが尊厳を守るための非暴力だったので、尊厳を踏みにじられた俺はこの女を助走をつけて殴っても許されるのではないだろうか。

「おっと失礼」

 サリアは俺の言葉を気にも留めず形だけの謝罪をすると、なぜだか唐突に黙り込んでしまった。

「しっ」

 サリアは急に黙ったかと思うと、こちらにも黙るようにジェスチャーをする。
 元からお前が話しかけなければ静かだよ、むしろサイレントすぎて存在しているか疑われるレベル。そして発言するといたのみたいな顔されるんですよ。ここまで影が薄いとは俺の前世は忍者だったのかもしれない。

 そうした彼女の行動を訝しく思い周りの様子を伺っていると、ガサガサと突風が通り抜けるような音と、怒声がかすかに聞こえる。
 そして彼女か細長い指先が指し示す方向を眺めると、遠くだというのにやけに目立つ大柄なプレイヤー五人組が見えた。
 赤い髪が目立つそいつらは今の状況下、このエリアにあまりいるべきではない種族だった。

「……サラマンダーか」

 その彼らの動向をうかがっていると、彼らの目線の先にはシルフらしき二人組みの男女がいた。
 必死に彼らと距離を離そうとしていることから、彼らの追跡から逃げてきたことがわかる。

 サラマンダーの目的はPKなのか、はたまた仲間割れなのか。
 隣の様子をうかがうとどうやら顔見知りなのか、金髪の女性を見てサリアは小さくおーと声を上げた。

「お、リーファちゃんだ」

「なんだ、知り合いなのか?」

「そうだね。まあかわいい後輩みたいなものだよ」

 声音も幾分か優しくなっているので、冗談ではなく本当にかわいがっているのだろう。

 とはいえそういったことは俺には関係ない。単刀直入にたずねる。

「あいつら、内通者だと思うか」

 俺の疑問に彼女は断言する。

「私の知る彼女ならばないと思うよ」

「そうか」

 恐らく断言した彼女自身も分かっているだろうが、こちらがいくら信じていたとしても簡単に裏切ることはある。そもそも友人すらいない俺が会ったばかりの他人を信用することはない。とにかく彼らの行動を見落とすことがないよう観察を始める。

 先に動いたのはサラマンダーたちだった。
 サラマンダーのパーティーの中でリーダらしき男は、アイテムをすべて渡したら見逃してもいいと条件を出したようだ。
 状況は5対2、明らかに俺だったら迷わず全財産すべて渡して、相手が慢心している隙にアリスに襲わせて相手の全アイテムを奪うな。どうせアイテムを渡したところで見逃すようなやつらならPKするはずもないしな。

 さて彼女たちはどういった行動を取るのか。男のほうは明らかに死にそうな顔をしているが。
 
「そんなの乗るわけないでしょ!」

 彼女ら二人はその提案をのむことなく交渉決裂する。
 シルフとサラマンダーとの戦いが始まった。

 聞いてる限りただのPKのようだが、まあだからといってわざわざ助太刀する必要もないだろう。
 シルフ特有の飛行の能力の高さを十二分に発揮し、獅子奮迅の活躍を見せる女性アバター。そして頼りなさそうに見えた男もそれなりに動けている。
 しかしそれでも差があり、あくまで彼は彼女のサポートのようだ。まるで俺とアリスみたいな関係性だな。
 その戦いの様子を値踏みするようにサリアは眺めていた。口元をわずかに緩ませて俺に尋ねる。

「さて、どうする?」

「俺の役割知ってるだろ。別に助太刀する必要ないだろう。」

 こうして手助けすることでいらぬ恨みを買うかもしれないしな。内輪もめに巻き込まれるとか勘弁してほしい、俺はいつだって輪の外から笑うほうがいい。

「――やっぱりキミは面白いね」

「面白いってことばをプラスの意味合いで言われたのは久しぶりな気がする」

 大抵クレイジーな意味合いの評価で使われるんだよな、「あの人って…っ…面白いよねっ…」て。なぜか嘲笑のおまけ付き。まじでそんなおまけとかいらない。プロ野球チップスなんておまけがチップスの方と言われているくらいなのに。

 まあそうしたおまけ商法は、ひどいときには本体のほうがドブに捨てられたりもするからな。本体もおまけのどちらも大切にしようぜ。だからおまけ扱いでもいいんで俺も大切に扱ってください。 

 始めはいい勝負を繰り広げていたがほんの隙をつかれて相方の男がやられた後、人数の差からかどんどん彼女は追い込まれていく。

「あーやられそうだね」

 まるでスポーツ観戦のような口調の彼女に内心驚きつつ同意する。

「そうみたいだな」
 
 そしてその間際、いたぶった獣を前に舌なめずりをするかのように残ったサラマンダーが3人が会話を繰り広げる。
 リーダーらしき人物は人間関係で苦労しているのか、最後まで敵相手にも情けをかけているが、残る二人はそうではないようだ。
 むしろとっとととどめをさしたがっているのか、気もそぞろになっている。
 穿った見解だが、彼がこういうことでこの残虐的な人物をあおっているのかもしれない。

「なんだよ、殺そうぜ!!久々の女相手超久々じゃん」 

 特にこの男は一人の女性の生殺与奪権を握っていることに対して酔っているようで、異常な台詞を叫んでいる。
 その異常な興奮からゆがんだ笑顔にこちらも思わず顔が引きつってしまう。こうして女狩りを楽しみにする連中がALOでは見られるとは聞いたが、まさかそれを目撃することになろうとは。
 
 少々悪趣味ではあるが、同じ女アバターのこいつはと思って見てみるが、全く先ほどから変わった様子は見られない。

「――いいのか?」

 思わずこちらからたずねてしまう。彼女は俺の言外に含んだ言葉も読み取ったようで、数秒考えた後サリアは言い切る。

「SAOみたく死んだらおしまいってわけじゃないからね。まあこういうこともあるだろう」
 
 その例えはいささか不謹慎ではないだろうか。非難を込めた視線をおくるがサリアはどこ吹く風と意に介する様子はない。別に俺も偉そうに説教する立場でもないわけだしいいか。

「いや……あんたがいいんならいいんだが」

 しかしこの女、かわいがっているという後輩の危機だというのにまったく動揺する気配がない。いささか冷酷すぎやしません? 
 
 観察者である俺達二人は最後まで手を出すことなく、いざ決着が付こうとしたその時全員の動きが止まった。


 この場をもっとかき乱すような乱入者が現れたのだ。


おまけの中身が知りたくて

>>171
 おまけを大事にして本体をすてるという元ネタは「ライダースナック投棄事件」で、なんと当時は社会問題にまで発展したものです。
 昔TVでその様子を見かけた際はもったいないなーと印象深かったものです。


 木々の間を縫うように飛行してきた男は、草むらに突っ込んだ。あまりの出来事により緊張していたはずの空気が一瞬緩和されていた。
 彼は反射的にぶつかった頭をなでた後、恥ずかしそうに笑いながらスッと立ち上がる。

 彼の背中にある翅はクリアグレー、つまりスプリガンのようだ。確かスプリガン領は東の端でここからかなり離れているはずだが、いったいどういうことなのか。偵察にでも現れたのだろうか。

 それによくよく見てみると彼は初期装備のままだ。そのような格好で他の種族の領近く、しかも最近物騒なこのシルフ領付近へと足を運ぶとはこの男はよほどの馬鹿なのか、それとも強敵を求めてさまよう戦闘狂か。どちらにせよあまり進んで関わりたいと思わない人種だな。なので引き続き放置決定。

 注目の的である彼は、自分より大きい大柄な男3人に囲まれてるにもかかわらず全く動じる様子はない。いくらなんでもこの状況を飲み込ないほどの鈍感な人物ではないと考えると、この剣呑な空気に臆すことない所から、彼にとってこの状況がハンデの可能性が高いと考えられる。

 それならば彼はかなり強い人間なので知っている人間もいるのかと様子を伺ってみるが、周囲の戸惑う様子から彼のことなど誰も知らないようだ。サリアみたいにマイナーな存在なのか。しかしこいつさっきから無言だな。

 こうした最中にも緊迫的な状況は続いていて、さきほどから面倒だから何事も放置しようなんて考えている俺とは対照的に、リーファは彼が無残にやられる姿を想像したのか、自らを盾にして叫んでいた。

「何してるの!早く逃げて!!」

 だが彼女の好意を無視して彼は余裕綽々の表情で言い放つ。

「重戦士三人で女の子一人を襲うのはちょっとかっこよくないなぁ」

「なんだとテメエ!」

 何この主人公みたいな台詞かっこいい。だが俺は知っている。こうした場面に慣れていなければ普通こうした台詞はすらすらと出ないだろう。つまりやつは普段からこのような場面を妄想していたんだろう。

 ……え、やらないの?なぜか何の得もないはずのにテロリストが学校に現れて、なぜか鍛錬もしていないのに眠っていたパワーが目覚めて、なぜかテロリスト相手に無双していくっていう、なぜかすべて自分に都合のいい妄想。これって中学生男子の通過儀礼みたいなものだと思ってたんだけど、違うわけ?

 彼がどういった考えのもと先ほどのような発言していたのか想像は尽きないが、彼の発言でサラマンダーの男が激怒することだけは想像通りだった。

「一人でのこのこ出てきて馬鹿じゃねえのか。望みどおりついでに狩ってやるよ」

 そしてもはや完全に悪役と化したサラマンダーたちは、彼の余裕綽々の言葉に激高しランスを持った男のうちのリーダーを除く2人が、彼をはさむように迫ってくる。先ほどから思っていたがやけに翅の使い方が上手い。
 あれならどちらかの攻撃を対処するだけでは上手くいかないと思うが、さて、これだけ自信満々の男の力はどれほどのものかと俺は一挙手一投足見逃さないよう注意深く見守る。 

 

「――うわぁ」

 俺は彼の所業があまりにも別次元すぎてもはや感嘆の言葉しか出てこなかった。恐らく隣の彼女も息を飲んでいた。
 彼は高速で迫っていた槍の先端を掴んでいた。しかも片方の手をポケットに突っ込んだままと文字通り片手間に。

 
※※※

 あれがまぐれではないとは分かってはいたが、何度も驚くべき光景を目の当たりにすると神経が麻痺するらしい。
 彼の化け物っぷりはそれだけにとどまらず、リーファの許可を得るとまさしく目にも止まらぬ速さで敵アバターを切り裂く。その場にまるで誰もいなかったような空白ができるが、

確かにそこには彼がいた証であるリメインライトが残されていた。
 このVRMMOゲームでの速さは自分の反射神経に加えて、アミュスフィアから伝わる電気信号が脳神経に伝わる速度。これはどれほどこうしたゲームに時間をかけたかが関わってくるらしい。また彼の初期装備である剣の攻撃力と一撃で相手を屠る威力とを鑑みるに、よほどの廃人プレイを彼はしているようだ。

 まあそうなるとあまり彼と変わらない早さのアリスとかかなりのチートキャラなんですけどね。そしてそのアリスを抑えられたサリアとかもう化け物じゃないでしょうか。

 ……このリメインライト、一分以内に触れたら死んだやつのアイテムとかもらえるんだよな。誰も見向きもしないのならば俺にくれよと言いたい。有効活用(売却)するから。 


 そういえば先ほどからまったく喋らないの彼女を訝しく思い隣を向くと、サリアは食い入るような視線で彼のことを見ていた。
 それに気を取られた僅か一瞬で、戦闘に関してはすべて片がついたようだった。
 血の気の多い人間がいなくなったのか、想像以上に圧倒的な実力差に抵抗する気がなくなったのか、先ほどまであった嫌な圧力は消えていた。

「どうする?あんたも戦う?」

「いや、勝てないな、やめておくよ。アイテムを置いていけというなら従う。もうちょっとで魔法スキルが900なんだ。死亡罰則(デスペナルティ)が惜しい」

「正直な人だな……そちらのお姉さん的にはどう?」

「あたしもいいわ。今度はきっちり勝つわよ、サラマンダーさん」

「正直キミともタイマンで勝てる気はしないけどな」

 どうやらお互い見なかったことにしてこの場の決着をつけたようだった。

 彼女にとって全く想像もつかなったであろう展開に戸惑う様子を見せながらも、リーファは救世主である彼の元に駆け寄る。
 すると彼女は怪訝な顔で立ち止まる。その表情に疑問に思いその視線の先を追うと、今まで悠然とした態度を崩さなかった彼が強張った表情で警戒していた。
 そして背中に収めたはずの剣を取り出して告げる。
 
「なあ、そこで隠れているやつ……でてこいよ?」

 主人公無双が終わり、ここからヒロインと仲良くなるエピソードでも開始されるかと思いきや、部外者であるこちらにスポットが当たっていた。

 黒光りする細剣は、明らかに隠れている俺達にへと向けられている。彼の言葉には僅かに敵意が含まれていた。
 リーファは俺たちの存在を全く気づいていなかったのか伏兵の存在に驚愕しつつ、警戒するように剣を構える。

 参ったな、どうやら彼には隠れているのがばれていたらしい。どこまでチートなんだよあいつ。

 俺たち二人は顔を見合わせ小声で話し合う。
   
「俺たち悪役じゃねえか……」

「なに、キミにはお似合いじゃないかな。目の腐り方からして魔王の手先みたいだし」

 気づいたらこの女、さっきから俺に対する遠慮が一切なくなってきた。そういうのは奉仕部だけでお腹いっぱいなんだが。

「お前こそいざと言うときは仲間すら切り捨てる辺り魔王の素質でもあるんじゃねーの?」

 少し表情がこわばったように思える。気のせいか?

「――まあ現実的といってくれ」

 そして誤魔化すように行動に移る。彼女はやましいことはないと言わんばかりに臆することなく前に出る。俺も彼女の影に隠れるようにして前に出る。
 リーファはその隠れていた相手がまさか知り合いだと思わなかったのか、非常に驚いた様子を見せていた。

「え!サリアさん!?」

「知り合いか?」

「……うん、私の後から入ってきた人なんだけどすっごく強いの」 

「ふーんで、そんな強いやつがなんで今まで出てこなかったんだ?」

 彼はリーファの危機であるのに全く手を出すどころか顔すら出さなかった彼女を非難する。
 自分に酔った様子ではなく、リーファのために真剣にサリアに怒っている様子を見ると、思った以上に優しい男のようだ。まあこういう義憤に燃えるやつは場合によって面倒なタイプでもあるのだが。

 対するサリアはこうした対応に慣れているのか、彼の怒気を軽く受け流していた。

「私は基本的に自分に災いが降りかからない争い事には不干渉だからね」

 そんな好き勝手してよく追放されないな、こいつ。彼女をフォローするようにリーファが苦笑しながら言葉を足す。

「ま、まあ。サリアさんはサクヤさん――シルフの領主からのお墨付きで、自由に行動することを認められているから」

 多分手のかかる人間の処置に困っているだけだろうな。

「じゃあその隣の男は何なんだ?」

「隣?」
 
 彼の言葉にサリアの隣を二度見して、リーファはようやく俺の存在に気づいたらしい。その際おびえるように一瞬こちらと距離を取っていたのを俺は見逃さなかった。さっきからいたんですけどね、私。

 人間興味あるものしか見ないって言いますが、これはつまり俺に全く興味なしってことですかね。それにしても視界にすら入っていないなんて……いや別にいいけどさ。

「彼はケットシーの代表みたいなものでね、彼と私はとある任務を遂行している最中なのさ」

「え!?あのサリアさんが協力プレイですか!?」

 そこまで大きな反応をされるとこちらとしてはリーファが驚いただけではなく、サリアの性格が悪くてパーティーを組めなかったように聞こえてしまう。サリアも似たような感想を持ったようで少々気落ちした口調で答える。

「まあ、どうしても他種族のプレイヤーが必要だったからね」

「へーそうなんですかー。珍しいんですよ彼女が他の誰かと行動を共にするのって」

 リーファはどうにもサリアに対してマイナスの感情を抱いていないようで、羨ましそうな表情でこちらを見られる。先ほどのあれも純粋な疑問だったようだ。

 しかしこうして羨望のまなざしを受けるのは随分と久しぶりだ。彼もそうだが彼女も大分善よりの人間のようだ。それに比べて俺の周りは性格の悪い変人ばかり、類は友を呼ぶというように俺も変人のカテゴリーに入ってしまうのだろうか。
 ――いや待て、そういや俺友達とかいない。つまり俺は変人でもなんでもなくオンリーワン、スペシャルな存在であるということが証明されたようだな。

 変な空気を払拭するように、サリアは口を開く。

「そういえば自己紹介をしていなかったね、私はサリア。種族は背中の翅の色を見てもらったら分かるとおり、彼女と同じシルフ」

「リーファです。……遅くなってしまったけど、助けてもらってありがとう」

 返事の変わりに彼はひらひらと手を振る。そして彼はキメ顔でそういった。

「俺はキリトだ」

「そしてパパの娘のユイです!」

 彼の胸元から明朗な声が響き渡る。そこから現れたのは手のひらほどの大きさの妖精だった。確かヘルプ窓で出てくるナビゲーション用のピクシーは定型文しか話さないはずだが。
 だが世の中猛者もいるようで、その機械的な反応に対して萌えるようなやつもいるそうだ。
 またその機械的なピクシーを改造しようとして失敗するといった話を良く聞くのだが、これは成功しているということか。それに……パパ?こいつ、大丈夫なのか?

「あ、いや、その」

 戸惑うキリトに対して、リーファは興味深そうにその手に乗っているピクシーを見つめる。

「もしかしてプライベートピクシーかな?」

「へ?」

「ああプレオープンで先着100名に配布されたっていうものか、始めてみた」

「う、うん!そうそれだ!俺くじ運が良いんだ!」

 リーファやサリアの言葉に乗っかるようにキリトは勢いよく頷く。しかし既に彼への対応はおざなりで、彼女たちはピクシーに興味津々だった。指で突っついたりなどしてピクシーの反応を楽しんでいた。ピクシー自体もそうした対応に慣れているのか機嫌よくはしゃいでいた。

 しかしこいつ、プライベートピクシーに自分のことをパパと呼ぶように躾けるとは、子どもみたいな顔の割には中々業が深いやつのようだ。

「それで彼は?」

「ん、彼?……あ……えっとアンタは?」

 リーファが質問したことでキリトは俺の存在を思い出したらしい。別に忘れてたなら一々声かけなくて良いから。

「エイトだ」

 俺は端的にそう告げる。どうやらその対応がまずかったらしい。

「そ、そのさ、エイトってどうしてそんな名前にしたんだ?」

 俺の対応に怒っていると感じたのか、取り繕うようにキリトが話しかけてくる。

 俺の淡白な行動が人によっては、気取っているとか怒っていると勘違いしてくる輩がいるが、それ以上にこちらを慮って話を続けようとするやつのほうが困ることが多い。お互い微妙な腹の探り合いのような会話を続けてしまい、それによって互いに楽しくもない会話が続いていく嫌なスパイラルが出来上がってしまうのだ。

 こっちも別に冷たい対応によって嫌な空気にしたいわけではない。ただ色々と考えた結果、楽しい雰囲気を壊さないため自分から必要以上に多くのことを話さないようにしているだけだ。そのうち俺に会話するのはやめようと思ってくれるしな。 

「特に理由はないな」

 これもそう適当に返すと、何故かイキイキした様子でサリアが話に入ってくる。

「キミのことだから気取った名前にすると恥ずかしいと思ったから無難な名前にしたとかそんなんでしょ」

「何で分かるんだよお前、エスパー?」

「キミの捻くれた性格を鑑みて適当に言っただけだが、当たってたのか……私はキミの残念さを見謝っていたようだ、すまないね」

「ねえ、勝手に言っておいてしかも自己完結して謝るって失礼じゃない?」

 俺は前々からこいつに言いたかったことをぶつける。

「それにアンタこそサリアって名前にその格好、いったいどこの森の妖精だよ」

「残念だけど何を言っているのかわからない。それに私オカリナふけないし」

 ボソッと最後に付け加える。

「やっぱ知ってるんじゃねえか」

 どうやら少しばかり意識していたらしい。それにしては全く似ていないが。特に背の高さと性格。
 しかし水の神殿は本当に鬼畜でした。あれ恐らく子どもがクリアできる難易度じゃねえだろ。対象年齢間違えてたんじゃないの?

 どこか俺たちの言い争いに一歩引いた様子で見ていたリーファが、驚きつつもどこか楽しそうな様子で答える。
 
「仲いいんですね」

「いや、それはない」

 互いに動揺することなく即否定すると、キリトがそんな様子を見てからかうように言う。

「なんだよ息ピッタリじゃんか」

 このように冗談だろーみたいに言われてしまうと本当に困る。こちら側としても反発しても無駄だということは理解しているので、わざわざそれ以上否定するようなことはしない。サリアも何も弁明しない。
 するとまた沈黙ができあがるわけだ。あーどうすんだよこれ。

「あー帰りたい」

 退屈な時間というものはぼっちだとよく遭遇する出来事だが、俺はそれの紛らわせ方を人より良く知っているだけであって、そうした時間が好きなわけではない。
 俺は会話に入れずに暇ということはよくあることだが、強制されていない場であるのならさっさと帰りたいのが本音だ。 
 嫌な縁も含めての一期一会。縁がなかったということで今回は解散――ということにはならず、俺以外の人間はこの状況を打開しようと暗中模索しているようだ。
 今は視線を配らせ互いに牽制しあっている。

 俺もその状況下に置かれているのだが、こちらとしては紗幕越しに彼らの動向を眺めている観客に似た心持ちだった。
 そう思ってしまうのは、結局のところ俺としては雰囲気が悪くなろうがどうでもいいという一言に尽きるのだろう。

 そんな時。とある一人の行動で良くも悪くも空気が変わった。
 
「どうしたの?」

 リーファの疑問に答えることもなく、キリトは急に剣を構えて木々の群れの内の一点を見据えるという行動に移った。
 その真剣な表情を見ると流石にこの緊迫した状況で突飛な行動をとってふざけているようには思えない。
 恐らく敵の存在を察知したのだろう。

 俺たちが今いる場所が森の中でも随分と開けた位置にあるため、相手から捕捉されやすい。確かに今奇襲を受けたら命が危ない状況かもしれない。
 だが俺としてはある保険があるのでここで全員ロストするという可能性をそこまで真剣にとらえていなかった。
 
「敵か?」

「恐らく……だが」

 やけに言葉尻を濁したような口調で話すので、一瞬あまり敵の存在に自信をもっていないように思えたが、その割には先ほどから警戒を解く様子は一切見受けられない。彼は感覚で動くタイプの人間なのか。
 
 とりあえず何もすることがないため俺も彼の視線をたどってみることにする。しかし遠視のスキルを使っても全く敵の存在を感じることができない。
 何も変化が起こらないのでやはり彼の勘違いという疑念が浮かび上がってきた。それから少しの間をおいて、かすかに存在を示すアイコンが見え始める。そしてそのアイコンは大きくなり、どんどんとこちらへと向かってきていた。

「あー俺に任せてもらえるか」

 少々の申し訳なさから視線をそらしながら発言する。その姿がどうも彼には弱弱しく写ったのか、彼は俺の意見を否定する。

「いや、こいつは危険だ」

 キリトはこちらに迫ってくる敵の存在にようやく確信を持てたと同時に、その強さも同時に感じ取ったようで、僅かに声に緊張したものが含まれていた。
 かといってキリトは強敵の存在に臆する様子はなく、不敵に微笑む姿を見ればむしろ強敵の存在に喜んでいるようであった。

 彼は頑なで、中々この役目を変わろうとする様子はない。しかし彼に任せてしまうとこちらとしても困るのである。これは俺が対応すべき案件なのだ。
 俺では彼の行動を止めることができそうにない。どんどんと距離が縮まるにつれ辺りの緊張も高まってくる。

「彼に任せたらどうだい?」

 そこに水を差すやけに通る冷たい声。それはこの場も、そして彼の頭も冷たくしたようだ。

「別に彼が死んでも君には関係ないだろう。だったら彼に任せてもいいんじゃないか?」

 それは先ほど俺たちがリーファたちを見殺しにしようとしていたことと重なるものだ。普段の彼ならそれでも反対していたかもしれないが、サリアの威圧的な口調は、キリトを不承不承といった様子で頷かせた。

「……それもそうだな」

 自分が冷静さを欠いていたことに気づいたのか、一度大きく息を吐く。そして剣を収めて体ごと俺のほうへと向く。

「本当に大丈夫なのか?」

 まっすぐな強い瞳は、見ていて辛い。俺は視線を逸らしつつ返答する。

「いや、大丈夫だ」
 
 キリトから念を押すような言葉に、ひらひらと手を振って対応する。

 この切り替えの様子を見る限り、普段はもう少し柔軟性のあるようだが今回は色々と空回りしていたことが多く、それが原因で少しばかり意地になっていたのかもしれない。
 誰が原因か記憶を辿るとキリトが原因だったことを思い出し、自業自得ではという結論に落ち着く。ゆえに俺は何も気にする必要はない。

「こいつにさえ強敵扱いだよ、よかったなアリス」

 俺がつぶやくと同時に、やつは現れた。
 ガサガサと物音を立てて木陰から現れた白い影は、弾丸のごときスピードで俺の胸へと飛び込んできた。テイムモンスターであるにもかかわらず、俺のHPはごっそりと減ってしまった。
 そんな俺のご機嫌を取っているつもりなのか、甘えるようにアリスは柔らかい毛を胸に押し付けてきた。

「わーかわいい!」

「そうだろそうだろ」

「なんでお前が偉そうなんだよ」

「あはははは……はぁ、良かった」

 これまでのギスギスした雰囲気を一掃したのは私の御猫様でした。
 アリスは猫らしく気まぐれで、気づけば俺の元を離れていることが多い。
 とはいえテイムモンスターらしく、俺と何かモンスターとが敵対しそうになる際には必ず現れて援護してくれている。
 これが俺の保険でもある。

 すこしばかりHPが上がっているところから、また近辺に沸いたモンスターを狩っていたらしい。

 俺に甘えるアリスを見て、吸い寄せられるように寄ってくる女性陣。やはりかわいいものは正義らしい。

 基本的に俺の近くにいないとき以外は俺にべったりなため、このやかましい空間に巻き込まれてしまっている。
 そして俺たちから少し離れた場所にキリトはいた。
 少々脱力した様子を見るところ今までの光景に責任を感じていたようで、自然な笑みがこぼれるこの雰囲気に安堵しているようだった。

「アリスちゃんって言うんですね!この猫の品種分かります?」

「毛が厚いところを見ると寒い地域に生息している品種じゃないか?」

 サリアの推測に俺は頷く。

「調べたんだが名前が長くて忘れちまったんだよな……」

「ノルウェージャンフォレストキャットですね!」 

「お、おう確かそんな感じだった」

 ユイが俺の発言に補足する。
 しかし彼女たちにとっては品種などはあくまで話題の一つのようで、ユイにお礼を言うと視線はすぐさまアリスへと移っていた。そうしたおざなりな対応にユイ自身もあまり気にした様子はないようだ。

 こと俺に関しては、ユイという名前がどうしても知り合いの名前を思い出してしまうのであまりかかわりたくないところではある。

 さっきからアリスへと近づく分俺にも寄ってくる彼女らと距離を離すため、俺は忠告する。

「あんまり無理に触ろうとすると死亡するかもしれないから気をつけろよ」

 怪訝な顔をする彼女にステータスウインドウを渡す。するとリーファは明らかに表情をゆがめる。
 その表情が気になったのか、キリトも近づいてそのウインドウの情報を見る。

「うわ、こんなん見たことないぞ、……バグじゃないのか?」

 そうしたことを言われても困る。なんだかんだ言ってアリスのことを頼りにしているからな。
 しかも人間じゃないから会話する必要ないぶん気楽だし。 

「さあな」 

「えらく他人事だな」

「他にも直されていないバグもあるみたいだしな、先にそっちをどうにかしろってことだ」 

「……それもそうだな」

 少し困ったように同意するキリト。あまりこの話題を掘り下げたくない様子を見ると、どうやら彼も何かしら後ろ暗いことがあるようだ。
 やはり俺が想像したとおり、ピクシーを自分好みに改造を施しているのだろうか。
 もしくはもっと別の理由でもあるのか。

「まあ公式が対応しないのであればノータッチでいいんじゃないの?」

「だな」

 サリアがそう結論つけたところで会話は終了した。
 
 会話が終わると同時に変な間が空くが、先ほどのこともあってかやけに空気に敏感なキリトが会話をつなげる。

「それで、あんたらはどうするんだ?」

 俺たち二人は顔を見合わせる。お前が決めろという俺の視線を感じ取ったのか、サリアが告げる。

「元通りクエストに戻るよ」

 俺も特に異論がないので首肯する。サリアが視線で発言した本人へと促すと、やけに気持ちのこもった答えを返される。

「俺は世界樹の頂点に行きたい」

「お、おう」

 誰もその発言に反応しないため、俺が思わず反応してしまった。

てすと

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年07月30日 (水) 13:42:05   ID: bm62T-3k

期待

2 :  SS好きの774さん   2014年07月30日 (水) 23:59:20   ID: fqNBzuvI

ホント期待。

3 :  SS好きの774さん   2014年08月16日 (土) 00:35:28   ID: VhpLmTNZ

プロ野球チップスは中身も結構うまい

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