上条「ようこそ、クソッタレな日常へ」 (31)

「ネットで噂の『守護神』にレベル4の『空間移動』、極めつけは学園都市第三位の『超電磁砲』か。 こりゃまた上も随分と奮発したもんだな」


 目の前に立つ少女達のプロフィールを眺めながら、男は何が面白いのか口の端を吊り上げる。
 それに対して緊張から身体を縮こませる者、男に対する反感を表情に浮かべる者、そしてこの世の全てに絶望したかのように憔悴した者と、三人の少女達は三者三様の有り様を見せていた。


「これからわたくし達はどうなるんですの?」


 男に対する敵愾心を滲ませていた少女が口を開く。
 隙あらば今すぐにでも男に対して襲い掛かりそうな不遜な態度。
 しかしそうしないのは少女がまだ自分達の置かれた状況を把握できておらず、何より男にその隙が見つからなかったからだ。
 特に男が警戒して身構えている様子は見られない。
 ただ『風紀委員』と呼ばれる治安維持組織で培われた少女の勘が、男に対して不用意に手を出すことへ警報を鳴らしていた。


「下手な真似をしなきゃ殺されるようなことはねえよ。 お前らが回収されたのは再利用するだけの価値があるからだしな」


「これから私達は何かさせられるということですか?」


「そういうことだ」

 
 身体を強張らせたままの少女の問いに男は頷く。
 まるで値踏みするかのようにマジマジと見てくる男の視線に少女はますます身体を小さくした。

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「な、何ですか?」


「いや、こんなガキが学園都市に喧嘩を売った凄腕のハッカーには思えなくてな。 そこのテレポーターといい、随分と肝が据わってやがる。 ……だが一番戦力として期待できそうな超電磁砲がこの様じゃな」


 そして男は残った一人、学園都市第三位の超能力者に目を向けた。
 少女の表情からは精気がまるで感じられず、その瞳も虚空を見つめたままでいる。
 彼女が絶望したのは抗いようのない現実か、それともそんな現実に友人達を巻き込んでしまった己の無力さか?
 しかし何にせよ、これから彼女達に待っているのは決して平坦な道ではない。
 何時何処で途切れるか分からない、それどころかいくら歩き続けようと救いなど存在しない茨の道だ。


「相手は『未元物質』だったか。 格上が相手とはいえ、本当に守りたいものがあったなら番狂わせくらい起こしてもいいんじゃねぇの?」


「くっ」


「おいおい、そこで俺を睨み付けるのは筋違いだろうが? お友達まで巻き込んで、自分の非力を棚に上げてんじゃねえぞ」


「それは違いますの! お姉様は巻き込むまいとしてたのに、わたくし達が勝手に後を尾けて」


「そうです、御坂さんが私達を巻き込んだわけじゃありません!」


「麗しい友情ってか? だがどれだけ取り繕おうと、お前らが全員この場にいるのに変わりはねえだろ?」

 男の言葉に二人の少女は悔しそうに口を結ぶ。
 目の当たりにしてしまった自分達が住む街の現実。
 まだ具体的に男から話を聞いた訳ではないが、二人とも自分達がどのような場所に堕ちてしまったのか察しがついていた。


「……私はどうなってもいい。 だから黒子と初春さんは解放してくれない?」


「お姉様っ!?」


「私一人で黒子の分も働くし、初春さんほどじゃないけど電子機器の扱いにも精通してる。 二人が抜ける以上に、私一人でも絶対役に立つから!」


「駄目だね」


 しかしそんな少女の提案を、男は僅かも思推することなく一蹴する。
 そして呆れたと言わんばかりに、大きく溜息を吐いた。


「何を勘違いしてるが知らねぇが、お前らが殺されてないのはまだ利用できる価値があるからと言った筈だ。 学園都市の闇を知っちまった人間をみすみす見逃す筈がねえだろ?」


「……」


「俺を殺して逃亡しようっていうのもお勧めしない。 間違いなく統括理事長の逆鱗に触れる羽目になるからな」


「あなた一体何者ですの?」


「……ただの飼い犬さ。 とにかくお前が一人でいくら働こうと、他の二人を解放することはできない」


「お願いします! 本当に何でもしますから!」

 そう言って少女は頭を地面につけるが、男の意思が変わることはなかった。
 土下座したまま懇願し続ける少女の肩に他の二人はそっと手を置く。


「このままお姉様一人を残していくことなど、わたくしにできる筈がありませんの。 何があろうと黒子は最後までお姉様の傍にいますわ」


「そうですよ! 御坂さんも白井さんも私の大切な友達なんですから。 それに諦めなければ、いつか事態が好転することだって」


「それはどうかな?」


 水を差すように割り込んだ男を二人の少女はキッと睨みつける。
 今にも忠告を無視して襲い掛かってきそうな勢いだが、そんな少女達を前にしても男は肩を竦めるだけだ。


「まあ本当にそこの二人に申し訳なく思ってるなら、何かあった時はお前が守ってやればいいんじゃねえか?」


「え?」


「命令に逆らうことは許さない。 だけど目的さえ達すれば、その過程でお前がどんな判断をしようとケチをつけるつもりはねえよ」


 それは今にも折れそうな少女を取りあえず繋ぎ止めるためだけの気休めだったのかもしれない。
 だが全てに絶望し、何も残されていなかった少女にひとまずの指針を与えるには十分なものだった。


「仕事の方はおいおい教えていくとして、顔合わせはこんなもんでいいだろ。 それじゃあ改めて――ようこそ、クソッタレな日常へ」


 そして身を挺してまで止めようとした実験が、何者かによって被験者が再起不能に陥らされたことよって凍結に追い込まれたことを少女達が知るのは一週間後のことだった。

とりあえず触りだけ

グロ、胸糞ありの暗部ほのぼのストーリー

キャラ崩壊は上等な感じなので無理と思った時点でお察しください

初ssなので批判やアドバイスは随時OKです

胸糞がレイプ系じゃなかったら読みたいんだけど、それだけ教えてもらきえますか?

すみません、今日は更新できなさそうです
>>18それはないのでご安心ください

中途半端ですが、やっぱり少しだけ投下

御坂side


 東京の西部を中心として開発された科学の街――学園都市。
 ただ過ぎ去っていく日常に少し退屈を覚えながらも、自分は何だかんだこの街が好きだったのだと御坂は思う。
 外より三十年は進んでいるとされる科学技術に、脳を開発することによって得られる超能力という特殊な力。
 その中でも御坂は学園都市に七人しかいないとされる真に『超能力』と呼ぶべき力の持ち主、レベル5の第三位だ。
 圧倒的な力と、何より今まで積み重ねてきた努力によって裏付けされた自信。
 その快活さも相まって、御坂は学園都市でも広告塔のような存在になっていた。
 もちろん人には言えないような悩みも抱えていたりしたが、凡そ順風満帆な人生だったのだろう。
 そしてそんな生活を送る中で、いつしか自惚れや傲慢さを生み出していたのかもしれない。


(そのせいでこんなことになっちゃったのかな?)


 身支度を整えて部屋を出るものの、そこにあるのは慣れ親しんだ寮の廊下ではない。
 冷たさを感じさせる無機質なコンクリート造りの通路だ。
 『暗部』と呼ばれる学園都市の闇に身を堕としてから早一ヶ月。
 未だにこのアジトでの生活に御坂は馴染めずにいた。


「おはよー」


 ダイニング代わりとなる食卓と椅子が置かれただけの部屋に向かうと、そこには生活を共にする二人の友人が既に腰かけている。
 元々同じ学校の後輩だった白井黒子に、白井を通じて知り合った初春飾利。
 二人とも御坂にとって掛け替えのない友人で、そして自らの業に巻き込んでしまった被害者だ。



「……アイツは?」


「今日も朝食だけ用意してあって、私達が目を覚ました時には既にいませんでした」


 食卓の上に目を向けると綺麗に彩られたサラダと恐らく手作りであろうスコーンが置かれていた。
 この無機質な生活の中で、数少ない人の温もりを感じる瞬間があの男が作った料理というのは皮肉なものだろう。
 こちらの体調を気遣っているのか栄養面は問題ないし、味も決して悪くない。
 もっと過酷な生活を覚悟していた御坂達にとって、今の状況は少々拍子抜けなものだった。


 転校したという形で学校には通えなくなったものの、親しい人間との連絡も含めて今もある程度の自由は保証されている。
 あの男の言うところによれば、下手に連絡を絶つと却って周囲から怪しまれてしまうらしい。
 そして普段あの男がどのようなことをしているか既に話を聞いていたが、未だにその現場に駆り出されるようなこともなかった。
 ただ火器の扱いや近接戦闘の訓練など能力以外で人を殺せる技術を徐々に身に付けていることに、嫌でも自分達の置かれた状況を自覚させられる。

 朝食を済ませると、三人で他愛のない会話に興じる。
 とは言っても話題となるようなことなど殆どないので、話の流れはいつもと変わらぬ方向に進んでいった。


「ですからそんな安易に、あの男を信用するのは危険だと言ってますの!」


「でも私には上条さんがそこまで酷い人には見えなくて……」


 この議論が何回目になるか御坂は覚えていない。
 初春の言う上条さんというのは、御坂達の人権も含めてここで全ての決定権を握っている男――上条当麻のことだ。
 年は御坂より一つ上で、本来の学年は二つ上の高校一年生になるらしい。
 本来のというのは上条が御坂達と同じく学校に通っておらず、今のような生活を二年近く続けていると言っていた。
 だとすれば、あの男が今のような境遇に陥ったのは今の自分と同じくらいの年頃になるのだろうか?


 そんなどうでもいいことを思い浮かべる御坂を余所に、二人はどうせ決着がつかない話を続けている。
 御坂個人の意見としては白井の考えと凡そ同じだ。
 忘れてならないのは自分達が今いる場所が学園都市の暗部で、目の前にある情報だけを鵜呑みにすることはできない。
 そのことを御坂は取り返しのつかない形で嫌というほど学ばされていた。


 ただ初春の言うことも決して理解できないわけではなかった。
 普段の上条を見ていると温厚どころか、それを通り越して何処か間抜けな節すらある。
 もちろんその姿が自分達を油断させるための演技という可能性も十分にあり、それだけで上条の本質を窺い知ることはできないだろう。
 だが初めてここに来た時に上条から掛けられた言葉。
 簡単に信用してはいけないことは分かっている筈なのに、何故か御坂も上条のことを悪人だと思えずにいる。
 もしかしたら初春も自分も縋るものが何もないこの状況で、幻想のようなものを抱いているだけなのかもしれない。





「ただいまー」


 そして昼の十二時を過ぎた頃、ここの主である上条が帰ってくる。
 ここが本来の居場所でないと思っている御坂にとって「ただいま」というのは違和感しかないが、それを上条に言っても仕方ない。


 「ったく外に出る許可は出してるんだから、必要なもんは自分で買ってこいって」


 よほど重いのか大きく膨らんだビニール袋はテーブルに置かれると同時にズシンと音を立てる。
 中には上条に何が必要か聞かれた際に御坂達が要求した日用品が入っていた。


「いくらなんでも警戒心がなさすぎるんじゃありませんの? もし外に出て、わたくし達が逃げ出すようなことがあれば……」


「そんな真似してどうなるか分からないほど、お前達が馬鹿じゃないって信じてるんだよ。 現に俺がいない間も、お前達は逃げてないだろ?」


 上条の指摘に白井は言い返すことができない。
 言われなくとも本当は三人とも分かっているのだ。
 いくら足掻こうと自分達の力だけでは、学園都市から逃げ切ることなどできない。
 この一ヶ月で学園都市の裏を知れば知るほど、淡い希望すら御坂達は抱けなくなっていった。



「いずれは男の俺じゃあ用意できないものも出てくるだろうし。 それに上条さんも監禁犯みたいな疑いを掛けられるようなことはしたくありませんことよ?」


「実質それと殆ど大差ないでしょうに。 大体最初とキャラが違いすぎますの! 自分のことを「さん」付けで呼ぶって、一体どんな異文化で育ってきたか見当もつきませんわね!」


「うるせぇ! 何でもかんでも語尾に「の」を付ける奴に、言葉遣いをとやかく言われたくねえよ! 最初だって初春はともかくレベル4とレベル5のお前達を相手に下手に出て、舐められたまま寝首を掻かれるようなことがあっちゃ洒落になんねえだろうが?」


 それを本人達を前にして言っていいのだろうか?
 これが素なのか演技なのか、やはり御坂には判断がつかない。
 ただ今も言い争いをしている二人と、それを必死に止めようとしている初春を見て御坂はホッと息を吐く。
 こんなことを自分が言う資格がないのは分かっているが、思ったよりも元気そうだ。
 色々と状況は急変してしまったものの、二人の本質は今も変わっていない。
 まだ具体的な方法は何も思いつかないが、二人だけは何としても元の場所に帰さなければならなかった。


 だが二人が暗部から解放されたとしたら、自分はその時どうなっているのだろう?
 ただ巻き込まれただけの白井や初春とは違って、自分がここにいるのは何かしらの罰だと御坂は思っている。
 仮に暗部に堕ちることがなくとも、自分に日の当たる場所を歩く資格はない。
 当たり前だ、自分の愚かな行いのせいで一万人近くの命が失われてしまったのだから。


 そして御坂は今は凍結に追い込まれたという実験に考えを巡らせる。
 被験者である学園都市第一位が再起不能となる傷を負わされたため、実験は継続不可能に陥った。
 それを聞かされた時は半信半疑だった御坂だが、それが確かな情報であることは既に確認している。
 しかしレベル5の頂点である学園都市最強の能力者にそんな傷を負わせられる人間など本当に存在するのか?
 御坂は直接第一位と対峙した際にその圧倒的な実力差を思い知らされ、自分の手で倒すのは不可能だと諦めて関連施設の破壊を行うしかなかった。
 それならば第一位に次ぐ実力の持ち主である第二位の可能性を考えたが、わざわざ実験を止めようとしていた自分達の前に立ち塞がった男にそんなことをする理由が思い当たらない。

最初にキャラ崩壊は上等と書いてあるのですが、たびたび原作キャラには見えない場所が出てくるかもしれません

ただ話の前提として色々変わっている部分もありますので、そこら辺はご了承ください

すみません、これで終わりです

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