澪「短編集です」(129)


律「みんなはサワムラーとエビワラーどっちにした?」


お昼休み

唯「私はエビワラーにしたよ!フライにしたらおいしそうだし…」ジュルリ

律「食べようとすんなよ… あとそういう基準で選ぶのはやめなさい」

律「ちなみに私はサワムラーにしたぜ!あの破壊力のキックは爽快感バツグンだからな!!」

澪「ふーん…(何の話だろ)」モグモグ


唯「澪ちゃんはどっちにしたの?」ズイッ

澪「えっ!?わたし!?」ビクッ

澪「わ、わたしは…えーと…(やばい!何の話か分からないのに話を振られてしまった!)」

澪「(ええい、ここは…!) えっと…シマムラーにした……」

唯「(え…?)」

律「(そんなのいたっけ…?)」


澪「し、シマムラーは庶民の味方だし、触りごこちもいいんだぞ!(知ったかぶりしちゃった…)」

唯「でも澪ちゃん、そのシマムラー?はどこで捕まえたの?」

澪「つ、捕まえる?(網とかでか?)」

澪「えーと…(と、とりあえず当たりさわりのないような答えを…)」


澪「……森の中で…」

唯「え…?森に分布してるの…?」

律「森で捕まえたのか。エビワラーとサワムラーは格闘場でもらえたんだけどなぁ」

澪「え…(格闘場…?)」

澪「いや、まぁシマムラーとは森で偶然出会うことができて…(律…格闘場になんて通ってたのか…)」


唯「じゃあ澪ちゃん!そのシマムラーを見せて!私見たことないんだー」

澪「(私なんてエビワラーが何なのか知らないよ…)し、シマムラーは今家にいるからダメ…」

唯「そっか…残念」


律「で、澪!そのシマムラーは何タイプなんだ?」

澪「え…タイプ…?」

律「そう。タイプ!サワムラーとかエビワラーは格闘タイプだけどシマムラーは何タイプなんだ?」


澪「な、何タイプと言われても…ふつうの…」

唯「ふつう、ってことはノーマルタイプ!?」

澪「そ、そう!それ!…たぶん」

律「じゃあシマムラーにとってエビワラーやサワムラーは天敵だな!」

澪「え?」

律「ノーマルタイプは格闘タイプに弱い。常識だぞ!タイプ相性ぐらい覚えておけよー」

澪「うん…(学校では習わなかったぞ)」


唯「じゃあ澪ちゃん!今度の日曜日バトルしようよ!」

澪「え…?バトル…?」

唯「そう!それでエビワラーやシマムラーを闘わせるんだよ!!」

澪「(エビワラーやシマムラーが…闘う!?昆虫を対決させるみたいなものか…?)」

澪「でも…そんなことしたらシマムラーがかわいそうだよ…」

唯「大丈夫だよ!瀕死になっても回復させればいいだけじゃん」

澪「…!(命を何だと思ってるんだ…!)」


律「まぁ唯。シマムラーはタイプ相性的には不利だし勝ち目は薄いだろ。そんな勝負やっても面白くないだろ」

唯「それもそうだね…」

澪「いや…その勝負受けてたつよ!」

唯「!」

律「澪?」

澪「命を軽んじる相手なんかにシマムラーは負けないんだかならな…!」



土曜日

澪「(幸い、唯たちにはシマムラーの外見を知られていない)」

澪「(まぁ私も知らないんだけど…)」

澪「(つまり私が強そうだと思ったやつをシマムラーにできるわけだ!)」

澪「よし!そうと決まれば森で昆虫採集だ!!」

澪「コーカサスオオカブトでも何でもかかってこい!!」

一時間後

澪「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイ…」ブルブル

澪「私が虫が苦手だったことすっかり忘れてたよ…」


澪「…梓に相談してみるか」ピポパ

プルルル…ガチャ

梓『はい、中野です』

澪「あ 梓か?ちょっと相談したいことがあるんだけど」

梓『はい 何でしょう?』


澪「実は明日唯のエビワラーとかいうやつと対戦することになったんだ。梓、何かいい対策はないかな?」

梓『エビワラーというと格闘タイプですね…そうだ!それならゴーストタイプを連れていけばいいと思います!』

澪「ゴースト…お化け!?」ガクガク

澪「でも…勝つためなら…!」

澪「でも梓、お化けなんて捕まえるにはどうしたら…?」

梓『そうですね…シオンタウンに行ってみたらどうでしょう?』

澪「紫園町か…ありがとう!梓頑張って探してみるよ!」ガチャ


澪「よし、早速グーグルアースで検索だ!」カタカタ

澪「へぇ、意外と近くにあったんだな、紫園町」

※実際には紫園町は存在しません。良い子は時間のムダなので検索しないように


澪「でもお化けを捕まえにいくとなるとやっぱり夜だよな…」

澪「怖い人とかいるかも……」

澪「ひぃいいい!!」ブルブル

澪「でも!捕まえにいかなくちゃ」

澪「でも、どうやって捕まえたらいいんだ?…ん?」

tv「ル○ージマンション2もうすぐ発売です!オバケを吸い込む掃除機、オ○キュームを持ったル○ージが…」

澪「これだ」


澪「偶然 家に充電式の掃除機があってよかった…」

澪「場所も紫園町で有名な心霊スポットに来たぞ…………」

澪「…ひぃいいいい!!!!」ガクガク

澪「自分で行っといてなんだけどやっぱり怖い!!」

澪「でも…」

澪「やらなくちゃ」

澪「よし!掃除機スイッチオン!」ギュイイイン

澪「お化けを吸い込むぞ!!」ギュイーン


亀山「はぁ、今日も疲れましたね、右京さん」スタスタ

右京「えぇ」スタスタ

ギュイイイン!

亀山「!?何の音だ!?」

右京「こっちの方からです。行ってみましょう。亀山君」

亀山「はい!」タッタッタ


亀山「ちょ、ちょっとアンター!何やってんの!!」

澪「うわぁ!!(なんかどこかで見たことがある人だな)」ギュイイイン

亀山「ちょっとこっち来なさい!」グイッ

・・・・・・

澪「こっぴどく叱られてしまった…」ズーン

澪「はぁ、結局お化け捕まえられなかったな…」

澪「明日どうしよう…」

澪「…」

澪「正直に謝るしかないか…」

・・・・・・・

日曜日

唯「さぁ澪ちゃん!対戦の時間だよ!」

澪「あのさそのことなんだけどさ、唯…」

唯「うん?」

澪「実は、シマムラー持ってるっていうのはウソだったんだ…ごめんな…」

唯「えー!」ガーン


律「まぁいいじゃんか。他のポケモンで対戦すれば」

唯「それもそうだね」

澪「(…え?ポケモン……?)」

唯「対戦前に澪ちゃんに見せてあげる!ほら!私のエビワラー!強いでしょ!!」

澪「(そういえばこんなポケモンいたような……あっ)」

澪「(そういえば私もポケモン持ってたな…確かまだ家にあったはず、もう何年も前のことだからすっかり忘れてたよ…)」


澪「…懐かしいな」

律「は?」

澪「律ともよく対戦したよな…」

律「(そうだっけ?)」

澪「唯!ちょっとポケモン探してくるよ!見つけたら戻ってくる」ダッ

唯「!澪ちゃん!」

律「てか持ってきてなかったのかよ」

・・・・・・・

澪「唯!律!見つけてきたぞ!」ガララッ

澪「途中で電池もしっかり買ってきたぞ!」

唯「え…?(電池…?)」

澪「通信ケーブルもしっかりある!!」

律「てかお前それ…」

澪「え?」

律「ゲームボーイのじゃねえか!!それじゃ対戦できないよ!」

澪「え…」

澪「そ、そうなのか…」ジワッ


律「…なーんてな」サッ

澪「!それはゲームボーイ!」

律「おかしいと思ってたんだよなー、なんか澪 知ったかぶりしてる感じだったし、最近澪がポケモンやってる姿なんて見たことなかったし」

律「でも、ゲームボーイのポケモンは澪とやってた記憶がかすかにあったからなー!澪もまだ持ってると思ったよ」

澪「りつ…!」


唯「さっすが幼馴染だね!」

律「よーし!そうと決まれば早速対戦だ!数年越しの勝負だ!!」

澪「あぁ!!」ピロリン

澪「…」

澪「」

唯「…え?澪ちゃんどうしたの?」

澪「データ消えてた…」


おわれ

第2話

梓「こんにちはー」ガチャ


唯「おっ、あずにゃん来たね!」

律「うーす」




梓「…ん?」

梓「…あれ?澪先輩とムギ先輩は?」

律「あぁ、今日は澪とムギは休みだぞー」

梓「えっ…」


梓「じゃあ今日は練習なしですね…」

律「いやいや、なんでだよ。3人いるし、できるだろ」

梓「だって唯先輩と律先輩だけじゃ…ねぇ」

梓「練習になる気がしないというか…」

律「失礼な奴だな、オイ」

唯「あずにゃんひどいよ…」


梓「だって今だってババ抜きやってるじゃないですか!」

律「失礼な!ジジ抜きだぞ!」

唯「あずにゃんもまだまだだね」


梓「どっちでも同じですよ!というか練習する気配ゼロじゃないですか!」

唯「大丈夫だよー、これ終わったらやるよー」

律「梓も来たし次は大富豪にするか!」

唯「!やろうやろう!」

梓「ちょっ…!練習をしてくださいよ!ここ何部だと思ってるんですか!」

唯「けいおん部だよ!」

梓「じゃあ軽音をしましょうよ!」

唯「それとこれとは話が別だよ!」

梓「なんでやねん」


律「まぁとりあえず大富豪やろうぜー」

梓「とりあえずって何ですか!練習しないなら私は帰りますよ!」

唯「でもあずにゃん 外はどしゃ降りだよ?」ザー

梓「…!いつの間に!しかも雨具持ってきてないんですけど」


律「だから梓は大富豪する運命なんだよ」

梓「いやだからそれをやってるヒマがあったら練習を…」

唯「えー、でも雨の音がうるさいから練習に集中できないよ…」

律「私の正確なドラムさばきも雨音で乱れてしまうしな…」

梓「ウソですよね絶対」


律「フン、そんなこと言っといて実は梓、大富豪のルール知らないんだろー?」

梓「な…!そんなことありません!知ってますよ!」

唯「じゃああんまり強くないのかもね…いっつも大貧民になっちゃうからやりたくないとか」

梓「!」カァー

梓「そんなことありません!大富豪やって証明してやるです!さぁ、さっさとカードを配ってください!」

律「お、おう…」

梓「やってやるです!!」

唯「(あずにゃんが本気だ…)」


一時間後


梓「また大貧民ですか…。いや、私は大富豪弱くないって証明してやりますよ!さぁ!もう一度やりましょう!」

唯「(ていうかもう弱いって証明されちゃってるよ…)」

律「あのー、もう雨も上がったし…」

梓「唯先輩、律先輩、もう一回お願いします!」

律「(聞いちゃいねぇ…)」

律「(うーん、ここはイチがバチか)」


律「あのさ、梓」

梓「何でしょう」

律「もう大富豪はやめにしよう、あんまりやりすぎてもあれだ…私たち軽音部だし」

律「ここは、練習すべきなんじゃないかな…?」

梓「…」

律「(ダメか…?)」


梓「その言葉を待っていたんです」


律「…え?」

梓「練習しよう。その言葉ですよ」

律「!」


梓「だって先輩方はいっつもお茶飲んで、だらけてるばかりで…!」ポロポロ

梓「毎日練習する意気込みがちっとも感じられませんでした!」グス…

律「…(梓、我慢してたんだな…ちっとも気づいてやれなかったぜ)」

梓「でも今、律先輩は自ら練習しようと言ってくれました」

梓「正直、24時間テ○ビより感動しましたよ」ニコッ

律「(例えが微妙な気がするが…それはともかく!) 梓ー!! 今までごめんな?」ダキッ

梓「わかってくれればいいんです。さぁ、大富豪の続きをやりましょう!」

律「あぁ!!」


律「ん…?」

律「ってはぁああ!!?なんでこの流れでそうなるんだよ!?」

梓「それとこれとは話が別ですから。私にも譲れないものがあるんですよ」

律「なんでやねん!!」

その後、下校時刻まで部室からトランプの音が止むことはなかった…




第3話

澪「暑い…」



新学期初日の放課後 私は部活をするため音楽室に向かった

澪「9月になって新学期になったのにまだまだ暑いな…」ガチャ

扉を開けると、部室には誰もいない様子だった

澪「お、誰もいない…私が一番乗りだな」

澪「新学期初めての部活だからな。唯とか律はまだ夏休み気分が抜けずにだらけてそうだ」

そう言うと私は とりあえず椅子に腰を下ろすことにした


一人で時間をもてあまし 次第に私も姿勢がだらけはじめた

澪(唯とかは夏休み中とかもずっとだらけてそうだなぁ…憂ちゃんも大変だっただろうに)

澪(あぁ…ア~イ~ス~とアイスをねだる唯の情けない姿が思い浮かんでくるよ…)

澪「……」

誰もいないし、いいよな…?


澪「…り、りつ……あ、アーイースー………」ボソッ

律「」

澪「な、なんてな!ふふふ…」

言ってみた。 なかなか達成感があった


しかし 達成感に浸っていると想定外の返答が返される

律「ご、ご飯食べてからだぞっ!」

聞き覚えのある声に私は思わず返事をする

澪「わかってるよ。唯じゃあるまいし、まったく律は………」

澪「………え…?りつ…?」

あれ…? 私はおかしなことに気づく

あれ?りつ?なんで…?

律「こ…こんにちは澪しゃん…」

澪「」


私がしてしまったことの恥ずかしさに気づき 思わず私は声を荒げる

澪「うわぁあああああああ!!!り、律ぅ!!!い…いつからそこに……!」

律「いやまぁ…みんなを驚かそうと食器棚の後ろに隠れてたりして…」

ということは… 

澪はおそるおそる質問をぶつける

澪「つまり、私が部室に入ってくる前からいたのか…?」

律「はい…」

律の答えを聞いた後 恥ずかしさのあまり頭に血が上っていくのがわかった


澪「!!!///」カァー

気がついたら 私は拳を振り上げていた

澪「わ、忘れろぉ!」ボカッ

律の頭に会心の一撃が炸裂した

律「!?」バタッ

澪「…ぁ…しまった、つい……」

澪「大丈夫か!?律!?」ユサユサ

律「」

律は気を失ってしまったようだった


ガチャ

私がどうしようか思案していると 扉の開く音がした

澪「!」

唯「お、早いね澪ちゃん!」

紬「うふふ澪ちゃん久しぶり~」

梓「澪先輩こんにちは!…まったく、部長のくせに律先輩はまだ来てないんですか…」

唯と紬と梓が一斉にやってきた

私は絶体絶命のピンチに追い込まれた


澪「あはは…いや、律は…その…」

唯「?」

私はごまかそうと愛想笑いを浮かべた

紬「とりあえずお茶にしましょ?準備するわね…ってりっちゃん!?大丈夫!?」

澪「!」

そんなごまかしが通用するはずもなく あっけなく紬に見つかってしまった

澪(ヤバイ!)ダッ

反射的に私は部室から逃げ出してしまった


梓「え、ムギ先輩どういう…って澪先輩!どこ行くんですか!」

唯「わ!りっちゃんが倒れてるよ!りっちゃん!りっちゃ~ん!!!」ユサユサ

唯が体をゆすると 律の手がかすかに動いた

律「う、うーん」

紬「よかった…意識はあるみたいね」

梓「大丈夫ですか?律先輩?話せますか?」

律「あ…あぁ…」

律は頭を手でさすりながら上体を起こした

・・・・・・

意識を取り戻した私は 冷静に最善の策を考える

律(待てよ、ここで洗いざらい真実を話してしまっていいのか?澪の名誉はどうなる?)

律(ここは澪は悪くない、と澪をかばってやる必要性が…あるな)

私は澪をかばうことにした

澪も悪気があって殴ったわけじゃないし 隠れて驚かそうとしていた私にも非があったのは確かだったからだ

・・・・・・

意識を取り戻した私は 冷静に最善の策を考える

律(待てよ、ここで洗いざらい真実を話してしまっていいのか?澪の名誉はどうなる?)

律(ここは澪は悪くない、と澪をかばってやる必要性が…あるな)

私は澪をかばうことにした

澪も悪気があって殴ったわけじゃないし 隠れて驚かそうとしていた私にも非があったのは確かだったからだ


しかし私が話そうした時 梓たちから予想外の言葉が飛んできた

梓「まったく、今度はいったい何をやらかしたんですか。澪先輩怒って出て行っちゃいましたよ」

紬「りっちゃん…あんまり澪ちゃんを怒らすようなことはやっちゃだめだよ?」

唯「もーりっちゃんたら、新学期早々何をやったのさ!気絶させるほど叩かれるなんて…
りっちゃんも悪ですな~」

律「…」

どうやら私の心配は杞憂だったようだった


律「って私への信頼ゼロかよ!今回ばかりは私悪くないし!」

さすがに 私も反論せずにはいられなかった

梓「本当ですか…?」ジロジロ

梓が訝しそうに私の目をみつめる


唯も律に疑問をぶつける

唯「じゃあ澪ちゃん、理由もなくりっちゃんを叩いたの…?」

律「それは…」

必死になって私は言い訳を考えた

律「いや…まぁ…あ!あれだよ!ちょっと漫才の練習をしてたんだ!」

律「それで私の雄大なボケに対して澪は迫力のツッコミをかましたんだ!」

唯「頭に?それは痛そうだね~」

紬(いいな~)

梓「全然信用できないんですけど…」

正直苦しい言い訳だった


律「以上が事のてんまつなのだよみんな!真実はいつも一つだからな!あははは…
じゃ、じゃあ私帰るな!」バタン

これ以上部室にいてもボロが出るだけだと思ったのか 律は足早に部室を後にする

梓「なんだったんですか…」 

紬「とりあえず私たちだけで練習する?」

唯「いや、みんな…提案があるんだけどさ…」

数分後 部室を後にする三人の姿があった


~澪の家~

澪(あぁなんで律を殴ってしまったんだろう…律、大丈夫かな?)

私は律にしてしまったことをちょっぴり後悔していた

澪(で、でも律も悪いんだぞ!あんなところに隠れて…ちょっとふざけたことを言ってみただけなのに…)

澪(あぁ~思いだしただけでも恥ずかしい!穴があったら入りたい!布団にくるまってはいるけれど!)

ガチャ

布団の中で一人悶えていると ドアが開く音がした


澪(え?)

律「澪~入るぞ~?」

聞き覚えのある声が 部屋に響き渡る

澪(こ、この声は律!…よかった、大丈夫だったのか…?)

律はポンポン、と布団をたたきながら言う

律「まーた布団なんかにくるまっちゃって…暑くないのか?」

律は声を聞く限りは元気そうだった


私はずっと心配していたことを聞いた

澪「律…大丈夫か?」

律「大丈夫?」

律は一瞬思案した後 すぐに歯切れのよい声で答えた

律「あぁ!大丈夫だぞ!みんなには澪の迫力のツッコミで私が気絶したって言っておいたから!」

どうやら律は私の失態がみんなに伝わっていないことが大丈夫なことだと思ったらしい

そんなことじゃないんだよ! 私が心配していることは

澪「そんなんじゃなくて頭のケガのことだよ!私、律がケガしてないか心配だったんだぞ!」

律「!」


律のポンポンと布団をたたく手が止まった

律「だ、大丈夫だぞ!このとおり、りっちゃんは今日も元気いっぱいです!」

律はちょっとふざけながらも 元気よく返事をした

澪「!」

そうか…

そうか…! 律!よかった…


澪「よがっだぁ~」ガバッ

思わず布団から飛び起きてしまった

律「ちょ…急に起き上がるなよ…」

澪「律…ごめんね…?」

私は律の頭をなで 精一杯謝ろうとした

律「いいよ別に…ほら、アイス買ってきたんだ、食べようぜ」

澪「!り、りつ…」

涙が出そうになった


律「はい、アイスがほしかったらあの言葉を、どうぞ!」

澪「え?」

律「りーつーアーイースー、だよ。あの時の澪…かわいかったぞ~」プププ

澪「」


律にからかわれ あの時のことが思い起こされる

澪「!!!///」カァー

頭に血が上り 思わず私は拳を…!

澪「調子にのるな!」ゴンッ

律「いでー!」

でも手加減はしておいたからな、律



梓「なるほど、そういうことだったんですか…今回ばかりは律先輩が正しかったんですね」

紬「澪ちゃんにもかわいい一面があるのね~」

唯「私もアイスほしいよ~りっちゃん~あ~い~すぅ~」

再び部屋に聞き覚えのある声が響きわたる

しかも3つ。

あれ…?

律澪「え」

律澪「えぇぇえええ!?」

私たちは すぐには何が起こっているかを理解することができなかった


澪「み、みんな!?いつからここに…?」 

私は驚きのあまり 声が少し裏返ってしまった

唯「りっちゃんが澪ちゃんの部屋に入った直後からかな~」

唯「もちろん!澪ちゃんのお母さんに許可は貰ってあるよ!」

唯は自信満々に答えた

律「まさか…尾行してたのか…?」

律が怪訝な目つきで唯の方を見る


唯「りっちゃんなら澪ちゃんの家に行くと思ったんだよ~」

梓「まぁ今回は謝るのが目的ではなかったみたいですけどね」

紬「いいもの見せてもらったわ~」

澪「」

ようやく状況を飲み込むことができた

状況を理解すると同時に言葉では言い表せないほどの恥ずかしさがこみ上げてきた

澪「!!!///」カァー

再び頭に血が上り 私は両手を天高く上げていた


澪「のわぁああ!!わ、忘れろぉ!!!」ボカッボカッボカッ

唯紬梓「!?」バタッ

思わず私は手をあげてしまった

律「おい」

澪「あ…」

言ったそばから またやってしまった

私はすぐに三人を介抱しようとした

澪「大丈夫か!?」ユサユサ

どうやら三人は気を失ってしまっているようだった

澪「!」

しかし 二人のやりとりを見守っていた三人の表情はどこか微笑ましそうだった




                __       ,、  ,、   ,、

     おでこ 、  ,. ニ二..-..、: : : ヽ   |`ヽ ず ' 丶.'かいレ、
たまにひかる `/: ': : ̄ ̄: -i: : : : : .ヽ /  | ̄ ̄ ̄| ク 刀 .|
   \     /: |.、     _|: : : : : :ヽ >  | ゙_/  .| 田 ノ十 <
     \   .|: :|       |: : : : : : :|.|_.|_'`_.|ノ .|  t  >
  だ      |i: :|┃    ┃ |: : : |、: : |  |,-、,-、,、_,、,-、_ ゝ
  よ      レ|:.|┃    ┃ レ: : :|.): : ヽ て の り っ ち ゃ ん
          |:(    _  .|: : :|: : : |ゝ`
  ん       v`レ、__ゝ >.-.イ:/v、/`     身長:ちいさい
     ,        , ' v-コレ`ヽ、      .体重:かるい
    /      /\,  ゙イ|.|t   / 、     特技:声マネ
   .'     ,- '  /`イ      |`.\ \_
        (_, ' ´   |      |  `\_フ
りっちゃんうで     ノ      .ゝ
  たたく     /`. ー. . ∧_ . .イ: : :>

           \: : : : : : : : : : : : ,-´
            レt 'ゝ、, イゝ,_:/|

              | |    |  |-りっちゃん足
              | |    .| .|  きれい
              | |     | i
              'ー'      'ー'

第4話

律「ちっちゃくなっちゃった」



ジリリリリリン!!!

朝。目覚まし時計が鳴る音に気づき私は目を覚ました

律「ん……朝か…ふわぁ~」

あくびをするのもほどほどに 私は目覚まし時計を止めようと手を伸ばした

しかし、伸ばした手は一向に 目覚まし時計のボタンにかかる気配はなかった


律「あれ?届かないな?」

寝返りでも打った拍子に時計がベッドから落ちてしまったのだと思い私は辺りを見回した

律「えっ!!!!」

周囲を見回した瞬間、驚きのあまり私は大声を上げてしまった

律「え!?な、どうなってんだ!?枕も、布団も、時計も!みんな巨大化してるぞ!!」

視界に入るもの全てが巨大だった


律「ま、待て。これは夢なんじゃないか?そうだきっとそうに違いない!」

冷静に考えてこんなことありえるはずがなかった

つまりこれは夢。なんだよまぎらわしい

妙にリアルな夢だな、と若干の気味悪さを覚えつつ 再び私は眠りにつこうとした


ガチャ

が 私が横になるとすぐに扉が開く音がした

澪「おーい律ー、来たぞー…」

澪「…あれ?いないのか?」

今日 遊ぶ約束をしていた澪が部屋に入ってきた


律「み、澪!?って、でか!!!」

澪の姿を見て私は目を丸くして叫ぶ

澪「ん?なんだ律いるのか?おーい、どこに隠れてるんだー?」

律の声に気づき澪も部屋全体を見回す

ほどなくして澪はベッドの上で動いている小さな物体を発見した

澪「…?なんだあれ、ぬいぐるみか…?」

澪はそれを手にとろうと近づく


律「澪まででっかくなっちまって一体どうしたんだ…?」

澪がそれを手にしようとした時 小さな物体は声を発した

しかも澪にとって馴染みのある声である

澪「なんだ最近のぬいぐるみは喋ることもできるのか。高性能だなぁ」ヒョイ

律「のわぁ!」

そういうと澪は私を手に取る


澪「なんだこのぬいぐるみ、律にそっくりじゃないか。あれ…?でもこれよく見たらぬいぐるみじゃないぞ?」

澪の手のひらの上に乗せられた私は 必死に澪に訴えかけた 

律「ていうか私だよ!澪!気が付いたらみんな大きくなっていたんだ!」

澪「え…?律……?お前が…?……まさかぁ~」


澪は冗談っぽい口調で言った

だってそんなことあるわけないじゃないか


律「本当なんだって! 朝起きたらこんなことになってて…」

手のひらの上で訴えかけるその様はまさに律そのものだった

え、嘘だろ…? いや、まさかそんな

澪「本当に…りつ…なの…?」

私はおそるおそる聞いてみた

律「その通り!りっちゃんです!」

律は澪の手のひらの上でvサインをしながらそう言い放った

え…?律が…?小さく…!?

澪「えっ!?えぇー!?」バタン

びっくりした私は驚きのあまり意識を失ってしまった


…おー!みおー!!


…?私を呼ぶ声…?

律「みおー!おい!起きろ!!」ペシペシ

澪「ん、あぁ…」

私を呼ぶ声と鼻が叩かれる感覚に気づいて ようやく私は意識を取り戻した

澪「あぁ…律、本当はどっかに隠れてるんだろ。出てきてくれよ」

正直 私はまだ鼻をペシペシ叩いているチビ助が律だとは認めたくなかった


律「だから私だって言ってるじゃんか!澪こそなんでそんなに大きくなってるんだよ!」

しかしそのチビ助は口調 声質 顔立ち どれを見ても明らかに律であった

澪「認めたくないけど…やっぱりこのちっちゃいのが律なのか…」

律「え?ちっちゃい…?」

律はすぐには澪の言葉の意味を理解することができなかった


澪「そうだよ!なんでそんなにちっちゃくなっちゃったんだ、律!」

更なる澪からの言葉の応酬を受け ようやく私は自分の身に何が起こっているのかを理解することができた

私以外の物が大きくなったのではなく 私自身が小さくなっていたのだった


律「えぇえ!!?なんでわ、私小さく…?」

衝撃だった。体が縮むなんてことがまさか私の身に起こるなんて考えたこともなかったからだ

澪「私が聞きたいよ。ホントこれ、夢じゃないんだよな…?」

そう言うと澪は自分のほっぺたをつねってみる

澪「…いはい……どうやら夢じゃなさそうだな」

律「…そうみたいだな」

どうやら私が手のひらサイズに縮んでしまったことは間違いなさそうだった


澪「しかし一体なんでお前はそんなになっちゃったんだ?」

澪は私の頭を人差し指で突っつきながら質問した

律「わかんない。なんか寝て起きたらこうなってた」

本当に原因は自分でもさっぱり分からなかった

別に謎の組織に薬を飲まされたわけでもなかったし、懐中電灯のような未来の道具の光を浴びた
わけでもなかった



澪「でも…なんかかわいいな///」

澪は頬を染めながらつっつきを加速させていく

律「ちょ…かわいいって…って!いて!痛いって!やめろぉ!」

律は澪の人差し指を力一杯叩いてみたが 澪には全く効果がないようだった

澪「効かないぞ~、あー、ちっちゃくてかわいい奴だな!」

今度は澪は手のひらで律の頭をなででやった

律「ちょ…けっこう重いから…その辺で…!グエッ」バタッ

澪「あ」


時計をみると もうすでに一時間が経過していた

澪も私にかまうことをひと段落させ、これからどうすればいいのか考えている様子だった

澪「うーん、どうすれば元に戻るんだろう…」

律「うーん…」

私も策を考えてみるが いい案はまったく浮かんでこなかった

澪「…とりあえず、いろいろやってみるか」

律「…それしかないか……」

正直何をされるか不安だったが、様々なことを試してみることになった


澪「まずは引っ張ってみるか」

律「え!!?」

そういうと澪は私の頭と足をつかんで…

律「待て待て待て!澪!!それ絶対痛いよ!やめてよ!」

私は必死になって懇願した



澪「冗談だよ。なんか食べれば元に戻るんじゃないかな?」

律「なんだよ冗談かよ!澪が言うとなんか冗談に聞こえないって!」

律「でも食べるっていったって何を食べれば…?」

澪「ヒマワリの種でも食べたらどうだ?」

澪は冗談交じりに…

澪「ヒマワリの種がいいと思う。異論は認めない」

は話さずに あくまで真顔で言い放った

律「って今度はマジなのかよ!」


私は焦った 今の澪なら本当に食べさせかねなかった

律「本当に勘弁してください。ハムスターじゃないんで」

澪「そうか…ヒマワリの種を食べる律 絶対かわいいのに…」

澪は残念そうに言った


澪「じゃあこのマーブルチョコレートをあげよう」

そういうと澪はカバンからマーブルチョコレートを取り出した

律「それならいいぜ」

私も起きてから朝ご飯を食べていないので 空腹を満たすにはちょうどよかった

澪「じゃああげるぞ、律」

そういうと澪はチョコレートを一粒 律にわたす


律「ってでけえな!オイ!」

前言撤回。空腹を満たすどころか口に入るかどうかすら怪しいと私は思った

律「っほ!かてえ!んむ!!」カリカリ

必死にチョコレートと格闘する私を見て 澪はベッドの上で笑い転げた

澪「あははは!律!頑張れ!あはは!!」

人が必死になって食べているのに失礼な奴だと思った


30分ぐらいかけてやっと完食することができた

律「あー…やっと食べ終わった…この体だと食事するのもつらいぜ」

澪「お疲れ様、律。チョコレートをカリカリ食べてる姿なかなかかわいかったぞ!あはは!」

澪が私をからかう

律「うるせー!」ポカポカ

澪の笑いへの反撃を試みたが 無駄な抵抗だった



澪「律、ごめんって!でも、やっぱり…あはは!」

澪はすっかり笑いのツボにはまってしまっているようだった


律「もういいよ!こんな時はもう寝ちゃお寝ちゃおー!」

澪にからかわれるのに嫌気がさした私は寝てしまうことにした

頑張って手足を動かして もぞもぞと布団にもぐりこむ


澪「…?律、なんだ、寝るのか?」

澪は思い出し笑いをやめ、私に質問してくる

律「……」

少し不機嫌になっていた私はあえて質問に答えなかった

澪「寝ちゃったのか?ちっちゃいから疲れもたまりやすいのかもな」

そういうと澪はティッシュを折りたたんで私の頭の下に枕がわりに置いてくれた


澪は布団をかけ直しながら私に語りかけた

澪「律…ごめんな?律が頑張ってるのに笑っちゃったりして」

律「…」

ふーんだ、何をいまさら

澪「はじめて見たときはびっくりしたけど、ちっちゃい律もかわいいなって思ってちょっといたずら
してみたくなっちゃったんだ。ごめんな?」

律「…」

……いいよ別に 私は気にしてないから


澪「はやく元に戻るといいな」

そういうと澪は私の枕元に小さく砕いたマーブルチョコレートを置いてくれた

律「…!」

口には出さなかったけど、いい友達を持ったと思った

・・・・・・

律「ん、ぁあ…?」ゴシゴシ

私が目を覚ますと 窓からは夕日が差し込んでいた

律「あれ…?みおは…?」

といいながら体を起こすと隣に澪が寝ていることに気づいた

律「あ…澪も寝ちゃったのか…」

私は澪を起こしてやることにした

律「みーおー!起きろー!もう夕方だぞー!夜眠れなくなるぞー!」ユサユサ



ほどなくして澪は目を覚ました

澪「ん…寝ちゃってたか…って律!!!」

澪は起きるなり 驚いた表情を見せた

澪「律…!よかった!もとに戻ったのか!!」

律「え?」

言われてみて気づいた

私の体はもとの大きさに戻っていた



澪「あーあ、元に戻る前に写真撮っておけばよかったかな」

澪は少し残念そうに私に語りかけてきた

律「いやでもホントに元に戻れてよかったよ!もうあんな大変な思いをするのは二度とゴメンだぜ」

澪「そうだな」

私と澪しか知らない 本当に不思議な体験だった


澪「じゃあ律も元に戻ったことだし。私も帰ろうかな」

そういうと澪は帰り支度をはじめる


澪「…ふふっ♪」

床に落ちていたマーブルチョコレートの欠片と袋を拾い上げたとき 澪の顔に笑みがこぼれた


澪「じゃあな、律。またちっちゃくなるなよ」

律「もうなりたくもねーやい!」

澪「あはは!また明日学校でな!」

扉を丁寧に閉め 澪は律の部屋を後にした


律「…一体なんだったんだろうな」

私にはいまだに何が起こったか実感がわかず まるで今日一日夢を見ていたような気分だった


ふとベッドを見ると小さく折りたたまれたティッシュが目に入った

律「まぁ…なんでもいっか!」

私はそう言うと そのティッシュを大切に机の引き出しにしまった



おわる


第5話
温かいお飲物はいかがですか?



唯「行ってきまーす…」ガチャ

朝。朝食もほどほどに 私は部活をするために 靴を履き学校へ向かう


しかし私の学校へ向かう足どりは 決して軽やかなものではなかった

唯「はぁ…」

思わず私はため息をつく


重い足取りで通学路を歩いていると 私は突然声をかけられた

イラッシャイマセ。アタタカイオノミモノハイカガデスカ?

自動販売機の機械音声だった


温かい飲み物…か


唯「……仲直りできるかな」

そう言うと 私はお金を入れてボタンを押した



今思えば、事の発端はほんの些細な出来事だった


昨日のお昼休み、唯と律と紬は いつものように一緒にお昼を食べようとしていた


律「おっ!今日はなんか唯の弁当は豪華だな」

唯「おっ!!気が付きましたか、りっちゃん隊員!」

コロッケにから揚げ、ハンバーグと弁当には唯の好物が並んでいた


唯「えへへぇ…昨日憂にお弁当の中身をリクエストして作ってもらったんだ~」

紬「へぇー、そうだったの、よかったわね唯ちゃん!」

唯「自慢の憂だよぉ」

そう言いながら 唯はうれしそうにから揚げをほおばった



律「なぁー、唯 私にも一つから揚げちょうだい!」

唯の弁当をうらやましそうに見ていた律がお願いした

唯「ダーメ。今日のお弁当は憂が私のために一生懸命作ってくれたんだから 全部わたしがいただくのです!」

唯は律の頼みをやんわりと断った


律「そっかー…残念…」

…と言い諦めたように見えた律だったが 突然 箸を唯の弁当に伸ばし から揚げを奪った


唯「あー!何するのさ!!」

唯は大声で律に注意する

律「別に一個ぐらいいいじゃん。ケチだなー、唯は」

唯に注意され 律はつい心無い台詞を言ってしまった

唯「えー!勝手に取っておいて何さその態度は!?ひどくない?」

唯もすかさず反論をしてしまう


律「唯だって私のアイス勝手に食べたことあるだろ!」

唯「それはそうだけど…でも、ひどいよー!」


楽しいはずの昼食の時間はお互いを非難しあう時間になってしまった


紬「まぁまぁ二人とも…ね?ケンカはやめよ?」

紬は必死に二人をなだめようとする

律「だいたい唯は…!」

唯「りっちゃんこそ…!」

しかし口ゲンカは おさまる気配を見せなかった



唯「もういいよ!りっちゃんなんて知らないんだから!!」

唯は目に涙をいっぱいにためながら叫んだ

律「おーいいよいいよ!もう私も唯なんて知らねーよ!」

律も椅子から立ち上がって 大声で叫ぶ

律「ふん!!もういいよ!」

そう言い放つと律は弁当を片づけ教室から立ち去ってしまった



紬「あ…唯ちゃん…」オロオロ

紬はたじろぎながらも唯に話しかけた

唯「私も…ちょっと席を外すね…ごめんねムギちゃん」

そういうと唯も荷物をまとめて席を立った


放課後の部活にも唯と律は姿を見せなかった

梓「唯先輩と律先輩、大丈夫ですかね…」

梓が心配そうにつぶやいた

澪「大丈夫だと…いいんだけどな」

澪も不安そうな顔をして言った

紬「…私は唯ちゃんとりっちゃんを信じるわ」

紬は小さい声ながらもはっきりと言った


・・・・・・

律「はぁ…朝練行きづれーな…」

昨日の出来事を思いだしながら 私はため息交じりに通学路を歩いていた

うつむきがちに歩いていると 突然声が聞こえた

イラッシャイマセ。アタタカイオノミモノハイカガデスカ?

私の近くにあった 自販機の販促のための音声だった


律「温かい飲み物、ねぇ…」


…きっかけにはなるかな?

そう思うと私は お金を入れてボタンを押した


・・・・・・

ガチャ

私はカギを使って部室に入った


いつもは私が来るのは後の方なのに 今日に限っては一番乗りしてしまった

唯「はぁー…」

昨日してしまったことへの後悔から思わずため息が漏れる

気分の乗らぬまま 練習の準備をしようとカバンを探っていると温かい感触がした

唯「あ…」

私はそれを握りしめ 沈んでいた心を吹き飛ばすように言った

唯「よし…!やるぞ!」


律「はぁ~…」

私はため息をつきながら重い足取りで階段を上がっていた

律「唯の靴があったってことは、もう 唯来てるんだよな…」


行きづらさを感じながら制服のポケットに手を突っ込むと 温かい感触が伝わってきた

律「あ…」

私は制服の上から それをなでながら気合いを入れなおす

律「よっしゃ…!頑張るぞ!」


・・・・・・

ガチャ

唯「!」

部室のドアが開き、律が入ってきた


律「あ…」

律は部室に唯しかいないことに気づき 多少気まずさを覚え、足を止めてしまう

唯「…」プイッ

唯も部室に入ってきたのが律だと気づくと思わずそっぽを向いてしまった


唯「…」

律「…」

嫌な沈黙が訪れた

いざ仲直りしようとも 当人の前では二人ともなかなか勇気が出せなかった


唯「…」ガサゴソ

唯はせめて沈黙だけでも掻き消そうと 中断していた練習の準備を再開した

律「はぁ……」

律も練習の準備をしようと 自分のドラムセットに向かう

律は肩からバッグを下ろし、ドラムセットの横に置こうとした



ジャァアアン!!

唯・律「!!」

突然、部室に大きなドラムの音が響いた

律「あ!しまっ…!」

律は誤ってバッグをドラムセットに当ててしまったのだった

唯「あっ!」ドサッ

驚きのあまり唯も手に持っていたカバンを床に落としてしまった

コロコロ…

落ちた拍子に 唯のカバンから律の方に何かが転がってくる

律「ん?なんだ?」


転がってきたものを拾い上げると 律に温かい感触が伝わってきた


唯「あ、あのねりっちゃん!!」

こうなってしまってはもうしかたがないと ついに唯は腹をくくって言った

唯「あの!昨日はゴメン!くだらないことで怒っちゃったりして!」

唯「今日は憂にりっちゃんの分のから揚げも作ってもらったから!だから、あの…」

唯「その前にそれを渡して仲直りしたかったんだぁ…」

律「…!」

最後には少し声が小さくなってしまったが 唯は律に伝えたいことを全て言い切った



数秒の沈黙の後 律が口を開いた

律「あのさ…唯」

唯「?」

そう言うと律はポケットから缶を取り出して言った

律「私も…唯と同じ気持ちだ」


・・・・・・

梓「唯先輩と律先輩、もう来てるみたいですけど…大丈夫ですかね?」

階段を上がりながら 梓は前日と同じように不安をつぶやく

澪「変な空気になってなければいいんだけどな…」

澪も心の中は正直不安でいっぱいだった

紬「!澪ちゃん!梓ちゃん!!」

一足先に部室の前に到着していた紬が嬉しそうな声で報告する


澪と梓が部室の前に到着すると そこからは楽しそうな笑い声が聞こえてきた


放課後。通学路には楽しそうに話しながら帰る二人の影が伸びていた

いくらか歩いた後 通学路の途中で二人は足を止めた

イラッシャイマセ。アタタカイオノミモノハイカガデスカ?

自動販売機の前には仲睦まじそうに飲み物を選ぶ二人の姿があった


終わり

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