モバP「思い出の中の貴女は優しくて」(50)




アヤ「ええと、このアパートでいいのかな?」



アヤ(千秋さんがカゼをひいてレッスンを休んだ。アタシはレッスンの後も仕事が入って
   いた千夏さんに、千秋さんの様子を見に行ってくれないかと頼まれて、千秋さんが
   住んでいるアパートにやって来た)

アヤ「しかしホントにここなのか?千秋お嬢様にしてはごく普通のアパートっていうか、
   大学生ならこんなもんかもしれないけど……」マジマジ

アヤ「とにかく行くか。千秋さんも待ってるだろうし」スタスタ






―千秋のアパート―



千秋「悪いわねアヤ、わざわざ来てもらって」

アヤ「思ったより元気そうで良かったよ。北海道の人間も風邪引くんだな」

千秋「あなたは私を何だと思っているのよ。お茶でも淹れるわ…けほっ、けほっ」

アヤ「あーあー無理すんなって。お茶が飲みたいならアタシが準備するから」





千秋「それじゃあお願いするわ。食器棚の隣の引き出しに入っているから……」ケホッ

アヤ「了解。ポカリとかウィダーとかカロリーメイトとか色々買って来たから、適当に
   食べて待っててくれ。アミノバイタルとかオススメだぜ」ドサッ

千秋「まるでステージ前の差し入れみたいね。アヤらしいわ」クス






―――



アヤ「ティーパックじゃなくて茶葉だったとは。こりゃ手間がかかりそうだな」ポリポリ


 < アヤー?だいじょうぶー?


アヤ「問題ねえよ。カフェでバイトした時にやったことあるから」

アヤ「さてと、とりあえずヤカンにお湯を沸かして……」カチッ

アヤ「どのカップがいいかな~?」カチャカチャ





アヤ「ん?このカップ取っ手に何か書いてあるぞ」マジマジ



 [千秋] [Chinastu] [ミサト♥]



アヤ「お、おう、マイカップか。意外と可愛いんだなあの人達……」

アヤ「じゃあ千秋さんのはこれにして、アタシは他のカップで適当に……」カチャカチャ






―――



アヤ「おまたせ ……って、ありゃ?」スタスタ

千秋「すう…… 」スヤスヤ

アヤ「あちゃ~、寝ちまったか。待たせすぎちまったかな」コトン

千秋「むにゃ……」ゴロン

アヤ「千夏さんが来るまでのんびりするか。しっかしホントに普通のアパートだな。
   寮とあまり変わらねえんじゃねえのか?」ズズ…





千秋「ううん、ちなつ~……」

アヤ「ん?寝言か?千夏さんならあと1時間くらいしたら来ると思うぜ」ズズ…

千秋「おねえちゃん……」ボソッ

アヤ「え?」ピタ






千秋「ぐすっ、ちなつおねえちゃん、しばれるよう、こわいよう……」ポロポロ



アヤ「」 ←紅茶ダバ―





桐野アヤ(19)
http://i.imgur.com/KsTX2vs.jpg

黒川千秋(20)
http://i.imgur.com/b0iN3iF.jpg






***



千夏「遅くなってごめんねアヤ」ガチャ

アヤ「あ、ああ、全然大丈夫で問題なくて問題ないぜ!」アセアセ

千夏「どうしたの?何かあったの?」キョトン

アヤ「な、何もねえよ!千秋さんもぐっすり安らかに眠ってたし平和だったぜ!」ダラダラ

千夏「ふぅん?あ、お見舞いのレシート出してくれる?お金払うから」

アヤ「いいっていいってそれくらい!それじゃアタシ帰るから!」バタバタ





千夏「待ちなさい」ガシッ

アヤ「な、なんすか!? 」ビクッ!!

千夏「お金はきっちり受け取りなさい。いくら同じ事務所の仲間でも、こういうことは
   しっかりしとかないとダメよ」サッ ←5000円

アヤ「こ、こんなに受け取れねえよ!せいぜい2000円ちょっとだったし……」





千夏「あんたの寮からここまでの交通費と千秋を看てもらったお礼もプラスしているわ。
   いいからとっときなさい。と言ってもそれほど大した金額じゃないけど」クス

アヤ「じゃ、じゃあお言葉に甘えてもらっとく……」

千夏「気をつけて帰りなさいよ。今日はありがとう」






―夜・事務所寮アヤの部屋にて―



アヤ「アタシはとんでもない秘密を知っちまったのかもしれねえ……」ズーン…

千奈美「それで、どうしてそれを私に言うのよ?」

アヤ「だ、だってアタシ1人で抱えるには重すぎる話だろ!? 千夏さんも千秋さんも同じ
   ユニットなのに、これからアタシはどんな顔して会えばいいんだ!? 」グワッ!!

千奈美「そんなの知らないわよ。あんたの聞き間違いじゃないの?千夏さんも千秋さんも
    確かひとりっ子だって言ってたわよ」





アヤ「アタシもそう聞いていたんだけど、でも千秋さんはその後も寝言で何度も何度も
   千夏お姉ちゃんって言ったんだよ。あれはただ事じゃなかったぜ……」

千奈美「悪い夢でも見ていたんじゃない?たまたま出身地が同じだけで性格も顔つきも
    全然違うし、2人が姉妹なんて私と財前さんが姉妹くらいありえないわよ」フン

アヤ「何だよその例え。時子様と何かあったのか?」

千奈美「聞いてよアヤ!あの人イチゴパスタは邪道だって言ったのよ!愛知県民なら
    『抹茶小倉パスタ』を広めるべきだって!ありえないわ!」バンッ!!

アヤ「どっちもありえねえよ。つーかどっちも広めんなよ」





千奈美「こほん、ちょっと取り乱したわ。まあ仮にあの2人があんたが想像している
    みたいな生き別れとか腹違いの姉妹だとしても、仲良くやってるみたいだし
    本人達がいいならいいんじゃないの?」

アヤ「そうは言ってもよぉ、知っちまったらやっぱり色々気とか遣うぜ……」

千奈美(普段は荒っぽいくせに、こういう所は繊細なのね……)





アヤ「千夏さんが姉だから夏で、千秋さんが妹だから秋なのかなあ……」ブツブツ

千奈美「あんたの頭の中ではあの2人が姉妹になっているみたいだけど、まだ憶測の域を
    出てないからね?そんなに気になるなら本人に直接聞けばいいじゃない」

アヤ「んな事聞けるか!ちょっとは頭使えよ!」グワッ!!

千奈美「どうして私にキレるのよ!おかしいでしょうが!」グワッ!!






 ピンポーン♪



千奈美「……誰か来たわよ」クイッ

アヤ「……わかってるよ。一時休戦だ」フン

アヤ「は~い」スタスタ

アヤ「どちらさまで……」ガチャ





千夏「良かった、まだ起きていたのね」

アヤ「ち、千夏さん……」ダラダラ

千奈美「あら、ちょうど良かったじゃない。こんばんは千夏さん」ヒョコ

千夏「千奈美?相変わらず仲良しねあんた達は」クス

アヤ「そ、それで、何か用っすか……?」ダラダラ

千夏「ほら、ブレスレットの忘れ物。キッチンに置きっぱなしだったわよ」サッ

アヤ「これを届ける為にわざわざ……?」





千夏「それもあるけど、あんたの様子がちょっとおかしかったから気になってね。
   千秋と何かあったんでしょう?」ジロリ

アヤ「い、いや、そんなことはないけど……」オドオド

千夏「千秋の所に行くように頼んだのは私だし、あんたと千秋の間に何かあったなら
   それは私の責任よ。だから遠慮しないで話してくれないかしら」

アヤ「だからホントに何もないって!アタシは大丈夫だから!」アセアセ





千奈美「(良い機会だから聞いちゃいなさいよ。今の千夏さんだったら教えてくれるかも
    しれないわよ)」ヒソヒソ

アヤ「バカ野郎!面と向かって『あなたと千秋さんは姉妹ですか?』なんて聞けるかよ!
   それとこれとは話が別だっての!」グワッ!!

千奈美「 バ、バカ!そんな大きな声で言ったら…… 」アタフタ

アヤ「あ……」

千夏「姉妹?私と千秋が?」キョトン





アヤ「あ、いや、千秋さんが寝言でそんな事を言ってまして……」ボソボソ

千奈美「違いますよね?2人は全然似てないですし」

千夏「あんなプライドばかり高くて可愛げのない妹なんて御免だわ。もし妹にするなら
   唯ちゃんみたいな素直で楽しい子がいいわね」フン

千奈美「(ほら、やっぱり違うじゃない。千秋さんが寝ぼけていたのよ)」ヒソヒソ

アヤ「(う~ん、アタシの早とちりだったのか……?)」ヒソヒソ






千夏「千秋は遠い親戚よ。遠すぎてあまり親戚って感じはしないけどね」サラリ



アヤ「え?」ピタ

千奈美「はい?」ピタ

千夏「どうしたの2人とも?私何かおかしなことを言ったかしら?」キョトン

アヤ・千奈美「「なあああにいいいぃぃぃ~~~~~~っっっ!? !? !? 」」





相川千夏(23)
http://i.imgur.com/0qCngV0.jpg

小室千奈美(19)
http://i.imgur.com/XJSalS9.jpg







***



千夏「千秋は黒川の『本家』のお嬢様で、私は黒川の沢山ある『分家』の家のひとつ
   だったの。分家にも階級とか上下関係があって、うちの家は下の方だったから
   本家とはあまりつながりがなかったわ」

千奈美「(重苦しそうな身の上話が始まったわ。帰ってもいいかしら?)」ヒソヒソ

アヤ「(逃げんなよ。ここまで来たらお前も最後まで付き合え)」ヒソヒソ

千夏「それでもお父さんは黒川グループの子会社で働いていたから、お正月とかお盆とか
   一族が全員本家に集まる時は私とお母さんも挨拶に行ってたの。千秋とはその時に
   一緒に遊んでいたみたいだけど、よく憶えてないのよね」ポリポリ





千奈美「さっきから話がところどころ過去形になっている気がするのだけど、今は親戚
    付き合いとかしていないの?」

アヤ「それ聞いちゃうのかお前。アタシもひっかかってたけど……」

千夏「ええ。私が5歳か6歳の時に本家と絶縁して、お父さんはお母さんの家に婿入り
   したのよ。同じ北海道にいたけど千秋とはその時以来会ってなかったわ。なのに
   まさか東京で再会して、一緒にアイドルすることになるなんてね」フフッ

千奈美「それで2人は親戚同士って感じがしないのね……」

千夏「元々年に数えるくらいしか会わなかったし、私が最後に会った時の千秋は確か
   2歳か3歳だったから、あの子も私にそれほど親近感を持っていないと思うわ。
   私と遊んだ記憶なんてないでしょう」フフッ





アヤ「……なあ千夏さん」

千夏「何かしら?」

アヤ「千秋さんすげーうなされてたぜ。千夏さんの名前を呼びながら『しばれる』とか
   『こわい』とか言って泣いてたけど、昔何かあったんじゃねえのか?」

千奈美「あんたも大概聞きにくいことを聞いてるわよ。でもその様子だと、少なくとも
    千秋さんの方は千夏さんのことを憶えているみたいね」

千夏「……そう。ずいぶん昔の話なのにいまだにあの時のことでうなされるなんて、
   あの子には悪い事をしたわ」ハア





アヤ「もしかしてだけど、千夏さんの家が絶縁したのと関係があるのか?」

千夏「関係あるというか、絶縁するきっかけになった原因そのものよ。お正月に千秋と
   本家の庭で雪だるまを作っていた時に、雪だるまの腕に使えそうな太い木の枝を
   探しに屋敷の裏山に行ったの。そしたら突然吹雪になってね」

千奈美「ああ、何となくだけど想像がついたわ」

千夏「ええ。後は雪国ではよくある遭難からの凍死寸前コースよ。幸い発見されたのが
   早くて助かったけど、『本家の大事なお嬢様を分家の小娘が殺しかけた!』って
   一族の間で大騒ぎになって、私達家族は絶縁されたのよ」





アヤ「雪国こええ…… いや、怖いのはあっさり切り捨てちまう家柄の方か?」

千奈美「私が千夏さんの親だったら、そんな家とはこっちから縁を切ってやるけどね。
    たとえ分家の身分でも、自分の子供を守るのは親として当然よ」フン

千夏「ふふ、ありがとう。そういうことがあったから、私も千秋もその話には触れない
   ようにしているの。東京で再会したばかりの時はお互いにどう接すればいいのか
   わからなかったわ。なのにPさんは私達をいきなり同じユニットにするし……」

アヤ「でもそっちは結果的には良かったんじゃねえのか?レッドバラードは礼子さんの
   ワンマンユニットで目茶苦茶キツいから、礼子さん以外のメンバーは嫌でも協力
   しないとレッスンについていけなかったし」





千奈美「レッドバラードのレッスンは数あるユニットの中でも特にハードって有名ね。
    以前はよくレッスン中に誰かが倒れたって聞いたわ」

千夏「とにかく慣れるまでは礼子さん以外のメンバーはみんな必死だったわね。でも
   おかげで千秋と昔みたいに遠慮なく付き合えるようになったわ。むしろ遠慮が
   無くなりすぎて、昔よりケンカするようになっちゃったけど」フフッ

アヤ「千夏さんがちょっかいかけるからだろうが。千秋さんは真面目で冗談があまり
   通じない人なのに、隣で余計なことされたらそりゃ怒るって」
   
千夏「千秋ってすぐムキになるから面白いのよね。お嬢様育ちだから世間知らずだし、
   単純で純粋でいじりがいがあるもの」クスクス





アヤ「ったく、千秋さんが怒るたびにハラハラするアタシの気持ちにもなってくれよ。
   あいさんはとっくに慣れたみたいだけど」ヤレヤレ

千奈美「あんたはいちいち気にしすぎよ。何だかんだでレッドバラードのメンバーは
    全員メンタルが強そうだし、バランスが良いんじゃないの?」

アヤ「バランスも何も、礼子さんにユニット辞めたいですなんて言えるかよ……」





千奈美「ふふ、そこはPさんの名采配じゃないかしら。多少の荒療治でもしない限り
    千夏さんと千秋さんは打ち解けなかったと思うし、巻きこまれたあいさんと
    アヤはご愁傷様ってことで」

千夏「ということは、Pさんも私と千秋が親戚だって知っているのかしら?多分千秋も
   事務所には話していないと思うけど」

アヤ「ちひろさんが調べたのかもしれないぜ。あの人の情報収集能力はハンパじゃない
   からな。アタシの秘密も事務所に入った時からバレてたし……」




レッドバラード
http://i.imgur.com/0mXjx1X.jpg




***



千夏「さてと、すっかり話し込んじゃったわね。そろそろ帰るわ」スクッ

アヤ「え?今から帰るのか?もう遅いし泊まって行ってもいいぜ」

千夏「そうしたいのはやまやまだけど、念のためにもう一度千秋の様子を見ておくわ。
   夏風邪だし大丈夫だと思うけど、私も同じアパートだしついでよ」パタパタ

アヤ「あれ?そうだったのか?」

千夏「あら?言ってなかったかしら。私の部屋は千秋の右隣よ。家賃のわりには駅から
   近くて、事務所にもアクセスが良いから大学を卒業してからも離れられなくてね。
   それに世間知らずの千秋も放っておけないし」フフッ





千奈美「まるで本物の姉妹みたいね。そこまで近くにいるなら一緒に住めばいいのに」

千夏「それは御免よ。千秋と同じ部屋で暮らすなんて想像しただけで肩が凝りそうだわ。
   壁一枚でも適度な距離感は必要よ。それじゃボンヌ・ニュイ♪」

アヤ「ぼ、ぼん……?」

千夏「『おやすみ』って意味よ。それじゃまた事務所でね」ウィンク☆






 バタン



アヤ「結局あの2人は仲が良いのか?アタシはよくわからないけど、本家と分家って
   ドラマとかじゃすっごく立場や扱いに差があるよな?」

千奈美「庶民の私達には想像つかないわよ。ただひとつ言えるのは、千秋さんはただの
    お堅いお嬢様じゃないみたいね。そこは柔軟な千夏さんに似てるかも」クス

アヤ「そうなのか?アタシにはそんな風には見えないけど」

千奈美「お堅いお嬢様が親元を離れて、安アパートで1人暮らしなんてしないでしょ。
    おまけに絶縁した分家の娘と一緒にアイドルをしているなんて、親の立場から
    見ると考えられないわ。千秋さん実家から勘当されてないわよね?」





アヤ「そんなことはないと思うけど、ワケありでもおかしくないのか。そのうち娘を
   返せー!って北海道から千秋さんの親父さんが乗り込んできたりして……」

千奈美「その時は社長とPさんと礼子さん達に任せましょう。それじゃ私もそろそろ
    自分の部屋に戻るわ」スタスタ

アヤ「おう、今日はありがとな」

千奈美「あ、そうそう言い忘れてたわ。あんた明日ウチで朝食べない?」

アヤ「え?どうしたんだ突然?」キョトン





千奈美「あんたが思いつめた顔して相談したいことがあるって言ってきた時から考えて
    いたのよ。とりあえず朝食をしっかり食べさせれば、余計なことを悩まないで
    元気になるんじゃないかと思ってね」

アヤ「そりゃ嬉しいな。でもこの前みたいに山ほど作ってくれなくてもいいからな。
   食パンは1枚でいいし、目玉焼きとオムレツとゆで卵はどれか1つでいいし、
   サラダとデザートはボウルに山盛りもいらないぞ」

千奈美「いちいち注文が多いわね。アイドルは体が資本なんだから、朝はそれくらい
    食べないと厳しいレッスンを乗り越えられないわよ?」

アヤ「アタシから見れば、朝からそんだけ食べられるお前の方が変わってるけどな。
   まあ味は美味かったから、本場のモーニング楽しみにしてるよ―――――」






………
……




―AM3:00・千秋のアパートにて―



千秋「……ん」パチ

千秋「今何時……?」ムクリ

千秋「夜中の3時…… すっかり眠ってしまったわね」ノビー

千秋「水でも飲もうかしら」ノソノソ






 グニュ



千秋「あら?足下に何か柔らかい物が……」チラ

千夏「アィー…」スヤスヤ

千秋「……どこで寝ているのよ。せめてソファに運んであげましょう」ヨッコイショ

千夏「ううん、ちあき~……」ムニャムニャ

千秋「寝言?どんな夢を見ているのかしら」ズルズル…






千夏「だいじょうぶだよ…… おねえちゃんがあっためてあげるから……」



千秋「…………」ピタ

千秋「……眠っている時だけは優しいのね」クス






―――



千秋(幼い頃、私と千夏は吹雪の中で遭難した。千夏は寒さで震える私に自分の上着を
   着せ、自分も寒いのに小さな胸の中に抱きしめて温めてくれた。発見されるのが
   もう少し遅れていたら、彼女は命を落としていてもおかしくなかったそうだ)

千秋(私は軽い手当と1週間程度の入院で済んだけど、千夏は1ヶ月以上も入院した
   らしい。なのに私を命がけで守ってくれた千夏は、本家と他の分家に非難され
   一族から絶縁されてしまった。私がこの話を知ったのは、進学に向けて荷物を
   整理した時にたまたま千夏の写真を見つけたからだった)

千秋(私は千夏のことをすっかり忘れていた。幼い頃に歳の近い姉のような人物がいた
   ことは微かに憶えていたけど、いなくなっていたことに気付かなかった。だけど
   写真を見て吹雪の中でずっと私を守ってくれた彼女を思い出し、言い渋る両親を
   問い詰めて千夏のことを聞きだした―――――)






―――



千夏「すう……」

千秋「まったく、これじゃどっちが世話をしているのかわからないわ」ナデナデ

千夏「ちあきはせけんしらずねえ……」フフフ…

千秋「……本当は起きているんじゃないでしょうね?」イラッ





千秋(確かに私は世間知らずだった。両親に千夏の話を聞いた後、私は進学する予定
   だった地元の音大を蹴り千夏と同じ東京の大学を受けて、両親の大反対を押し
   切って家出同然で上京した。当時私は自分の立場や千夏の気持ちも何も考えず、
   ただ漠然と彼女に会いたいという想いだけで行動していた)

千秋(そして私達は十数年ぶりに再会を果たしたのだが、突然現れた本家の人間の私に
   千夏は困惑し、警戒した。私もここにきてようやく自分の浅はかさを思い知った。
   結局大学やアパートで会っても一言二言挨拶を交わすだけで1年が過ぎ、彼女の
   負担になる前に東京を去ろうと思った時に、私はPさんにスカウトされた)

千秋(後はよく憶えてない。事務所に行くと何故か千夏もいて、彼女と一緒に必死で
   レッスンして、気がつけば自然に千夏と会話をするようになっていた。しかし
   私達はまだお互い適切な距離感が掴めず、小さな喧嘩をよくしている。私達が
   昔のような間柄に戻るのはもう少し時間がかかりそうだ)





千秋「あなたも不器用ね。それとも私がもっと素直になれたら、あなたは昔みたいに
   また優しくしてくれるのかしら。大槻さんが羨ましいわ」フフッ

千夏「すう……」

千秋「さてと、私ももう少し寝ましょう。もうすぐ大学のテストもあるし、早く体調を
   戻さないとアイドルの仕事どころじゃなくなるわ」スタスタ

千秋「おやすみ千夏姉さん。今日はありがとう」ゴロン





千夏「すう……」

千夏「……」

千夏「……」ゴシゴシ

千夏「……」ゴロン



END





 きりのんRイヤッホウッ!! 千奈美ともっと絡んで欲しい気もするけど、こずえの
お姉ちゃんをしているきりのんも好きなのでこれはこれでイイ!今回のSSは千夏と
千秋がメインなのできりのんは脇役ですがw
 千夏と千秋は性格的に合わないイメージですが、こういう背景があれば面白いかなと
思って設定を膨らませました。千夏は懐の深いキャラなので、掴み所がない反面色々と
想像の余地があります。もっと登場してほしいなあ。
 
……ちなみに千奈美は書けば書くほどキャラが崩壊している気がする。千奈美ファンの
みなさんと愛知県の皆さんすみません。では



このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom