このSSは
『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。』
の二次創作SSです
以下注意事項
・『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。』の一巻から三巻までのネタバレが少し有り。
・多大なる>>1の妄想が含まれています。
・でも>>1の文章力じゃあ原作に追いついていません。
・あと>>1の日本語力は不足しています。変な文章が多くなるけれどご勘弁下さい
・短いです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405334314
男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に胸倉を掴まれ揺さぶられている。
次から本文です
本当に存在するラノベか?
あと略称はなんだ?
男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に胸倉を掴まれ揺さぶられている。
それが、今の僕だ。
僕は、自分の部屋の床の上に倒れたまま、視界をグワングワンと揺さぶられている。
お腹の上に感じる柔らかい感触を楽しむ余裕も無い。
一つ年下で、クラスメイトで、声優をやっている女の子――つまり、似鳥絵里が、あるいはステラ・ハミルトンが、馬乗りになり、顔を真っ赤にしながら、その細い腕で僕の頭をシェイクしてくる。
どうしてこうなったのか。
僕は、この時までを、思い出す。
>>3 本当に存在します。作者は時雨沢さん
ちなみに略称は>>1も知りたがっている
『ヴァイス・ヴァーサ』もついに、半クールを迎えようとしている。
アニメの中で、第一巻の内容がそろそろ終わろうかというこのアニメの評価は、概ね良好だ。
中には、スピードが遅すぎる、どうせなら第三巻までやった方が面白い、等の意見もあるが、それは最初から懸念されていたこと。
その辺りは、第二期が叶ったときにでも、アニメスタッフさんが配慮してくれるだろう。
それよりも今は、三日後に放送される第六話の評価が気になる。
アフレコの時に見せてもらったあの、僕が魅入ってしまった映像が周りの人にどう思われるのか。
それが気になって仕方がなかった。
そんなことを考えながら小説を書いていると、似鳥からメールが来た。
『明日、先生のお部屋に行ってもいい?』
アニメが放送され、ミークが登場した回の翌日、ミーク役の彼女はクラスの人気者。
……とは、ならなかった。
彼女の名前は「似鳥絵里」ではなく、「ステラ・ハミルトン」でクレジットされたからだ。
そもそも、深夜アニメである『ヴァイス・ヴァーサ』を見ている人数が少ないというのもある。
もし夕方六時に放送され、今の時間帯よりも大勢の人が見ていたのなら、彼女の声かどうかの検証がクラスの中で盛んに行われていたことだろう。
あの『ヴァイス・ヴァーサ』大好きな佐竹さんですら、似鳥を問い詰めているのを見たことが無い。
いや、僕が見ていないところで問い詰められたのかもしれないけれど。
でも、僕は知らない。
聞かれたら正直に答える、のスタンスを取っている似鳥だけれど、今現在、それが発揮されたことはない。
ちなみにミーク登場回の時の佐竹さんは、最新刊の内容が、僕が朗読した内容と被っていたことをしきりに気にしていた。
どうやらネットでも質問し、嘘だと断じられ、けれども本当だったことで、ネット内では一盛り上がりあったようで。
あの時は大変だったなあ……担当さんへの説明とか、色々と。
ちなみにその事件によって、僕の評価の中に「パクり作家」というものが新たに加わったとか。
さすがに、質問した時期と発売した時期とを考えればあり得ない、とする考えが一般的ではあるけれど、あそこまで同じならそう言われても仕方が無い。
何より、ネット内で先の展開を予想する場所と、僕の新刊の内容が被っていることだって、今まで何度もあった。……らしい。
そういうのを検証しているサイトも、担当さんに教えてもらった。
まあ『ヴァイス・ヴァーサ』は先読みしやすいから、仕方が無い。
これらの評価はこれからの働きで地道に取り戻していくしかない。
あとこの一件で、佐竹さんには僕が作者だということがバレてしまった。
そしてそれを黙っていてくれとお願いしたところ、意外にも、彼女は黙っていてくれた。
ただ彼女も似鳥と同様、僕の家へとやってきたがったのだけれど。
そう言えばその時、それなら似鳥も一緒で、という約束をしたっけ……。
もしかしてこのメールはそれだろうか?
『もしかして、佐竹さんも一緒?』
そう、似鳥に訊ねるメールを送ってから、スケジュールを確認する。
いや、確認するほどのことでもない。
今週は比較的大丈夫だ。
ちょうど六話が放送されるまでは暇だ。
母の方もちょうど日勤で、不都合は何も無い。
そう考えていると、返事が来た。
『違うよ。個人的な用事です!』
はて。個人的な用事とはなんだろう?
……分からない。
今更似鳥が僕に個人的な用事なんて……。
話がしたいだけならそうメールしてくるだろうし……。
もしかしてまだ、僕に例の称号が授与されたことを気にしているのだろうか?
あの時は宥めるのも大変だったからなあ……泣きながら謝って、今にも死んでしまいそうなほど顔を真っ青にしていた。
まあでも、それを抜きにしても、似鳥が僕の部屋に来ることに反対意見は無い。
何の用事かは分からないけれど、似鳥が家に来てくれるのはむしろ大歓迎だ。
『分かった。じゃあ明日、学校が終わったらね』
だから僕は、そう返事を送った。
◇ ◇ ◇
女子高生で新人声優をしていますが、年上のクラスメイトで売れっ子ライトノベル作家の男子の胸倉を掴んで揺さぶっています。
それが、今の私です。
私は、部屋の床の上に倒した彼の服を掴み、一心不乱に揺さぶっています。
その顔は、きっと真っ赤になっているでしょう。
目元に涙だって溜まっています。
視界が濁る中、恥ずかしさで、照れ隠しで、先生を傷つけているのを知りながら……。
けれども、止める事が出来ません。
ただ、こと今回に至っては、先生は何も悪くありません。
全て、私が悪いのです。
私が勝手にやって、私が勝手にパニックになって、私が勝手に動揺している。
八つ当たり、という言葉がお似合いです。
どうして、こうなってしまったのでしょう……。
私は、このときまでを、思い出すのです。
「最近、先生とお話ししていますか?」
ピクリと、私の身体が反応しました。
次の次のクールに放送される予定のアニメのオーディション。
その会場へと向かう車内で、運転手である茜さんから突然そう、問いかけられました。
「………………………………………………………………いえ」
長い沈黙の後、私はようやく、そう答えました。
その答えに茜さんは、ため息をつくでもなく、そうですか、と素っ気無く返事をします。
いっそ呆れ果ててくれたらいいのに……。
そう思わずにはいられません。
『ヴァイス・ヴァーサ』が始まって五週間……そろそろ六話目がオンエアーされようかというこの時期。
私はオーディションのせいで、ここのところ満足に、先生と会話が出来ていませんでした。
アニメが始まって、新刊が発売されて……色々とありました。
私にも、先生にも。
その事件の中で私は、先生のことが好きになりました。
……いえ、好きだということを自覚しました。
恋愛的な意味で。
昔、初めて手紙の返事をもらったその時から、先生のことは好きでした。
ですがそれは、一ファンとしての愛情が混じっていたのだと、今にして思います。
『ヴァイス・ヴァーサ』が世界一大好きで、世界一のファンで……その生みの親ともいえる先生のことが好き。
私を励まし、応援してくれた、先生のことが好き。
そんな感じでした。
ですが、駅で先生の首を絞め、殺しかけて、許されて……。
私の気持ちが、変わりました。
変わり、始めました。
ですがその時はまだ、自覚はありませんでした。
今では先生の秘密を共有している佐竹さんが、初めて先生に声をかけたあのとき……独占欲の集合体ともいえる嫉妬が心の中を燻ったにも関わらず、それが恋愛感情だとは思ってもいませんでした。
けれども、首を絞め、殺しかけた私を許した理由を教えてくれて、その後私に嫌われたかもと気にし続ける先生を見て……。
私のせいで、ネット内で誹謗中傷を受けても、私のせいじゃないと言ってくれたのを見て……。
私は、自覚したのです。
私の気持ちが、徐々に変わっていっていたのだということを。
好きなだけではなく、純粋に愛しているのだと。
愛し、あいたいのだと。
だから、今では声を大にして言えます。
私は先生のことが大好きだあああぁぁぁぁぁ!
と。
……嘘です。そんな根性、私にはありません。
茜さんに辛うじて打ち明けるのが精一杯です。
その話しを聞いた茜さんは、少しだけビックリしていました。
そんなに意外だったのか、と訊ねると、
「いえ。ただ純粋に驚きました。まだそんな段階だとは思ってもいませんでしたので」
バッサリでした。
茜さん曰く、とっくに私は恋愛感情を抱いた上で先生と接していると思っていたそうです。
「ですが、それを私に打ち明けたということは、本気を出すということですよね?」
その言葉に、ちょっとイヤな予感を抱きながらも、はい、と返事をすると、
「分かりました。では、今までよりも積極的になれるよう、アドバイスをさせていただきます」
その予感が的中してしまいました。
以降、まるでキャラが変わったかのように、茜さんは色々とアドバイスをくれました。
なんとなく、私と先生が恋人だと嘘をついた時の佐竹さんを思い出します。
女性はいくつになっても恋愛話が好きなのでしょう。
もちろん、私もですけれど。
「私は、お嬢様の幸せを望んでいます。そしてあの人なら、お嬢様の相手に相応しいと思っています。逆にあの人のことを支えてあげられるのも、お嬢様しかいないとも」
とても嬉しい言葉ももらいました。
今でもその言葉は、忘れられません。
「学校でお話できないのなら、先生の家へ行かれてはどうですか? そこで告白して、押し倒してキスしてしまっても、私は構わないと思いますよ」
そんなことを言ってくる茜さんの言葉だと覚えておかないと、面白がっているだけでは? と疑ってしまいそうですから。
けれども、茜さんは茜さんなりにアドバイスをくれています。
それなのにまだ、私は先生に気持ちの一つも伝えられていません。
オーディションのせいで先生と会話が出来ていないのも大きいです。
いっそ声優を辞めてやろうか……とも思いましたが、例の事件の時、先生に続けて欲しいと言われたので辞められません。
日常会話の流れで言われたので先生は覚えていないかもしれませんが、私は覚えています。
その時は恋愛感情だと気付いていませんでしたけれど、それでも先生との会話を忘れられるはずがありません。
「……先生ですが」
不意に、茜さんが会話の口火を切りました。
「どんな女性が好みなのでしょうか」
「え?」
それは、思ってもいない問いかけでした。
「今のステラお嬢様がお好きなのか、それとも、『タイム・トゥ・プレイ』をしている時のお嬢様が好きなのか」
「それは……見た目の話?」
「色々ですよ」
今の私は、黒髪のカツラを取り、メガネもコンタクトレンズも外している、所謂「声優モード」です。
茜さんが言ったのは、それら全てを装備した、所謂「学校モード」です。
先生は、今の私も……コンタクトを外した私も、認めてくれています。
一度、可愛い、とも言ってもらいました。
今までは思っているだけだったけど、と前置きをされて。
それが、先生に対する気持ちが愛で埋め尽くされた瞬間の、ダメ押しだったりします。
文字通り、落ちた瞬間の言葉でしょう。
「黒髪が好きなのか、オッドアイの子が好きなのか、砕けた言葉が好きなのか丁寧な口調が好きなのか、お転婆な子が好きなのかお淑やかな子が好きなのか、引っ張ってくれる子が好きなのかその逆なのか……」
茜さんの言葉を聞いて、思えば私は先生の好み一つ知らないなということに気付きました。
知っているのは好きなポテトチップスの味ぐらいです。
ちなみに「のり塩」。
もし先生に関する早押しクイズ番組でこの問題が出されれば、問題文の途中で押せる自信があります。
「胸が大きな子が好きなのか、小さな子が好きなのか」
再び、ピクリと、私の身体が反応しました。
胸の大きさ……先生もやっぱり、一般的な男性のように、胸の大きい子の方が好きなのでしょうか。
私は……可も無く不可も無く、でしょうか。
いえ、クラスメイトの中では大きい方……?
それとも、スレンダーな方が好き……?
もしそうだったら、私は茜さんに嫉妬することになりそうです。
「その辺り、先生に聞いてみたらどうですか?」
「でも、話しかける機会が……」
「ないなら作ればいいじゃないですか」
「え」
「明日から三日間、ちょうどオーディションが無いでしょう。『ヴァイス・ヴァーサ』の収録の時のように、しばらく頑張ってみてはどうですか?」
一週間に一度の頑張りだったのが、三日間毎日の頑張りに変わるだけ。
まるで簡単なことのように言ってくれますが、とんでもない。
もしかしたら毎日のドキドキで心臓が止まってしまうかもしれません。
まさに、生と死を賭した戦いです。
「そうですね……毎日先生のお家へお邪魔されてはどうですか?」
茜さんは本格的に私を殺しに来ているのでは、と疑いたくなります。
「もちろん、茜さんも付き添ってくれるよね?」
付き添って欲しい気持ちと付き添って欲しくない気持ちを混じり合わせながらの私の言葉に、
「お嬢様がどうしてもとお願いなさるのでしたら、付き添いますよ」
その内心を見透かした上での言葉を返してきました。
「え、遠慮しとく……」
「賢明ですね」
ここで頑張らなければ、もし想いが叶った時までも、私は茜さんに頼りきりになってしまう気がします。
デートの時までついてきて、なんて言いかねません。
「では、今日のオーディションを終えてからにでも連絡を取りましょう」
「ううん、今すぐメールする」
「酔いますよ?」
「でもここでやっておかないと、オーディションに集中出来なさそうだし……何より、後で自分に言い訳をして、結局送るのに時間が掛かりそうだから」
初めて先生の家に行きたいとメールした時も、かなりの時間を有しました。
さすがに今度はそうはいきません。
時間は短いのです。
すぐにでもメールを作成し、躊躇うことを止め、内容を気にしたい気持ちを必死に抑え、そのままの流れに身を任せるように、送信ボタンを押しました。
『明日、先生のお部屋に行ってもいい?』
シンプルながら、中々のメールを打てたように思います。
というより、これ以上のメールは打てません。
主に私の心臓的な意味で。
直接対面しているわけでもないのに顔が熱い段階で、これ以上は望めません。
「送ったのですか?」
「はい」
答えて、しまった、と思いました。
これ、返事が返ってくるまで、ずっとドキドキしてしまいます。
このままではオーディションに支障が……!
もし落ちたら先生のせいにしてやる……!
なんて決意をしている間に、返事が来ました。
返事が早くて嬉しい……そう舞い上がっていたのに、すぐに叩き落とされました。
『もしかして、佐竹さんも一緒?』
『違うよ。個人的な用事です!』
気がつけば、そう返事を送っていました。
内容を打っている間のことはイマイチ思い出せません。
ついカッしてやってしまった。
まさにそんな感じです。
ミークの名前の由来が英語だと間違えられた時に似ています。
それにしてもどうして先生は佐竹さんの名前を?
もしかして暗に、私に佐竹さんを誘えと言っているのでしょうか?
だとしたら……なんでしょう。複雑です。
怒りのような感情が湧いてきながらも、悲しくもあります。
でも次に心の中を満たしたのは、不安でした。
もし先生に、それなら来ないでくれ、なんて言われたら……。
もしそうじゃなくても、それならどうして来るの? なんて、純粋な疑問をぶつけられたら……。
きっと私は、考えなくてもいいことを考え、裏を読もうとしてしまうでしょう。
理由も無いし佐竹さんもこないのなら、来ないでくれ。
そう言っているわけではないのに……先生はそんなこと言わないとわかっているのに、私は、一人勝手にそう考えてしまいそうです。
一人で考え、一人でショックを受ける。
私は、自分勝手にも、返事が来ないでくれと、そう思ってしまいました。
けれども、携帯は震えます。
私は、恐る恐る、その内容を読みました。
『分かった。じゃあ明日、学校が終わったらね』
「あ……」
思わず、安堵の声。
良かった……。
……本当、先生はこちらの気持ちを全て理解しているのではと思ってしまいます。
そんな都合のいいことはないはずなのに……。
「家には行けることになりました?」
「あ、うん。先生、来ても良いって」
私の返事を聞いた茜さんは、そうですか、と続けます。
「では、お嬢様にお教えしないとなりませんね」
「ん? なにを?」
「男性のお宝の隠し場所ですよ」
お宝……? どういうことでしょう。
もしかして、『ヴァイス・ヴァーサ』の隠された設定資料とか、これから先の展開が書かれたものの隠し場所を、茜さんは知っているのでしょうか?
もしそうなら……欲しいです。
あ、いえ、違います。
どうしてそれを知っているのかを教えて欲しいです。
「お嬢様は、直接先生に女性のタイプをお尋ねするつもりですか?」
「え? うん。そのつもりだったけど……」
「それではダメですよ」
「ダメ?」
何がでしょう。
私にはよく分かりません。
「お嬢様にそれだけの度胸があるとも思えません」
バッサリでした。
ですが何も言い返せません。
ぐぅの音も出ません。
何度シュミレーションをしてみても、ずっとオドオドしているだけの私が思い描かれました。
そもそも私には、前科があります。
先生を殺しかけて、先生が許してくれた時。
その理由を尋ねるのでさえ、私はかなり躊躇っていました。
「それに、もう一つ理由があります」
「え?」
「なんでも男性というのは、女性に好みのタイプを聞かれても、その聞いてきた人を言うか、はたまた誤魔化すかしてしまうものだそうです」
「そうなの?」
「はい。前者は女性好きに、後者はヘタ――失礼。後者は大人しい性格の方に、よく見られる傾向だそうで。先生はおそらく後者でしょう」
「な、なるほど……」
思わず納得してしまいました。
「じゃあ、どうすれば良いの?」
「そこでお宝です」
「……さっきから言ってるそのお宝って何?」
さすがに『ヴァイス・ヴァーサ』に関する何かでないことは察することが出来ました。
「エッチな本のことです」
「エッ……!?」
事も無げに言う茜さんに反し、声が裏返る私でした。
「そこには、持ち主の好みが網羅されていると言っても過言ではありません。胸の大小は元より、どのような衣装が好きかまで、全てそこには記載されています」
「せ、先生はそんなの持ってないもん!」
「いいえ、男性は全員持っています。もしかしたらいつも持ち歩いているノートパソコンの中にあるかもしれません。写真のデータ数枚を隠すのなんて、造作も無いでしょうし」
「で、でも……!」
咄嗟の反論が出来ません。
ですがここで私が戦わないと、先生の名誉が……!
「では、お嬢様がちゃんと探してみて下さい」
内心活き込んだ私に、茜さんはそう提案してきました。
「な、無いものを探すの?」
「はい」
首を傾げる私に、茜さんは主旨の説明を続けます。
「オーディションの間に、私が探し方をまとめておきます。その方法を全て取って見つからなければ、先生はそういった類のものを持っていなかったと、私も信じましょう」
「わ、分かった。茜さんのその話、乗ることにする」
その後、オーディション会場に辿り着き、控室で茜さんと別れた後、開始までの待ち時間の間に気が付きました。
もしかして私、茜さんに乗せられたんじゃないか、と。
ごめん。タイムアップ。
あれ? 今日中に終わらなかったな……
続きは明日の早朝にでも投下して、いつでも終わりまで見れる状態にしておきます
一応酉付け
投下再開
でも寝坊したせいでたぶん(というか絶対)終わらない
~~~~~~
◇ ◇ ◇
男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に胸倉を掴まれ揺さぶられている。
それが、今の僕だ。
僕は、揺れる視界の中、自分のノートパソコンのディスプレイに映し出された、ウィンドウを見る。
そこには、揺さぶられてから何の操作もされていないのなら、僕がこうされてしまう原因になったあるイラストが、映っているはずだ。
ミークのファンが描いた、あるミークのイラストが。
某イラストサイトで描かれていた、あるイラストが。
……仕方が無いなと、僕は思った。
こうなってしまうのは、当然の報いだな、と。
電車の中で首を絞められたのと同じ。
あの時と違うのはただ、殺そうという意思がないだけだ。
……忘れていた僕が悪い。
見つけようとした彼女は、何も悪くない。
見つからないようにしないといけなかったのに、それを忘れていた。
だから僕は、この揺れを、ただただ受け入れているんだ。
「どうぞ。上がって」
「お邪魔しま~す」
学校帰りの似鳥が、僕の家に来た。
正確には、僕の部屋、だけれど。
「僕の部屋……だよね?」
「当然♪」
僕の問いかけに明るく答える似鳥。
可愛い女の子が学校帰りに僕の部屋に寄る。
言葉だけを見ればとても心ときめくシチュエーションだけれど、生憎とこの女の子は僕の彼女ではない。
さらには来てくれた目的も分からない。
ただ、決して僕に会いに来てくれたりなんていうことがないのは分かっている。
残念なことに。
「それで似鳥、個人的な用事、って何?」
部屋に招き入れ、癖で鍵をかけ、似鳥に驚かれたところで思い出し鍵を開ける、といういつもの流れをしたところで、似鳥が来た時のためにと買っておいて、現在似鳥専用になっているクッションを勧めてから、僕はそう切り出した。
「その前に先生……その、図々しくて悪いんだけど、私喉が乾いちゃった」
「え? ああ、ごめん。気が付かなくて」
お客様が来たらお茶とお菓子。
初めて似鳥が来た時は何も用意できなかったからと、ちゃんと準備していたのに。
つい、似鳥が来たことに緊張して、忘れてしまっていた。
ここ最近は、似鳥が相手なら言葉に詰まることなく話せるようになってきたのに、やっぱり部屋に招くというのは緊張してしまう。
「似鳥は図々しくないよ。お客様が来たら当たり前の振る舞いを忘れていた僕が悪いんだから」
と言いたいところだけれど、それを言うとまるで気を遣っているようにしか聞こえず、逆に似鳥に気を遣わせてしまいそうだったので黙っておいた。
代わりに、似鳥に一言謝ってから部屋を出て、お茶とお菓子を取りに行く。
お菓子は、迷いに迷って市販のクッキーにした。
ポテトチップスならコンソメ味を買っていけば良いのだけれど、今回は少し趣向を変えてみた。
そのクッキーと麦茶を入れた二つのコップをお盆に乗せて部屋に戻ると、似鳥は何故か僕が勧めたクッションではなく、ベッドへと腰掛けていた。
その姿が妙にドキドキする。
「あ、先生。ありがと~」
「え、ああ、うん。こ、ここに、置いとくね」
久しぶりに似鳥相手に言葉を詰まらせながら、ベッドに近くなるようお盆を自分の机の上に置いて、近くにある椅子へと座る。
「それでね、先生」
間髪入れず、持ってきたお茶を飲むこともなく、似鳥は話を切り出してきた。
「先生のノートパソコン、使わせてもらえない?」
「えっ、それは……」
さすがに、似鳥が相手でも、おいそれと仕事道具を貸すわけにはいかない。
渋る僕を見て何か思い至ったのだろう。似鳥が慌てたように「あ、違うの」と続ける。
「別に、まだ本になってない原稿を見たいわけじゃないの。もう二度と、あんなことはしないから」
心苦しそうに、少し表情を曇らせながら似鳥。
駅での首絞め事件を思い出しているのだろう。
気にしなくてもいいのに。
「そうじゃなくて、ほら、『ヴァイス・ヴァーサ』のファンサイトの中に、見てみたいところがあってね。でもそこ、スマホじゃあ画像データが大きすぎて重くて……」
「ああ、それでノートパソコン?」
「うん。私の家、パソコンは無いから」
確かにそれなら、誰かにパソコンを借りたほうが手っ取り早いだろう。
まさか一つのファンサイトを見るためだけにパソコン一台を買うだなんてことをするのもバカらしい。
……似鳥ならやりかねないし、実際に出来るんだろうなと思ったのは黙っておこう。
「分かった。そういうことなら、喜んで」
ファンサイトとはいえ『ヴァイス・ヴァーサ』に関すること。断る理由なんて無い。
何より、似鳥が僕の家にまで来て見たがっているサイトだ。僕もそれなりに気になる。
早速パソコンを立ち上げ……ようとして、ふと気付いた。
「パソコンはここで良いの?」
「ん? どういうこと?」
「いや、ベッドに座ってるから、寝転んで使うつもりかな、って思って」
「そ、そんな……」
途端、何故か似鳥の顔が真っ赤になった。
「? どうかした?」
「……先生の、エッチ……」
フイッと視線を逸らしながら、ボソりと呟いた。
その両手は制服のスカートの裾をギュッと握っている。
「…………あ」
気が付いた途端に、自分の顔までもが赤くなるのが分かった。
そうだ……スカートなのに寝転んだりなんかしたら、その中が見えてしまう。
「っ~~~~~~」
僕がそのことに気付いたことを、似鳥も気付いたのだろう。
その顔がより一層赤くなった。
よく、リンゴのように、と例えられるけど、正にその通り。
まさか現実でその表現どおりの場面に出くわすとは思いもしなかった。
「じゃ、じゃあ机の上で良いね」
慌てながらも電源を入れ、座っていた椅子から立ち上がる。
「でも、パソコンを使いたいんだったら、べ、別に図書館でも、よかったん、じゃ」
恥ずかしさを誤魔化すために、詰まりながらも何とか言葉を口にする。
「……先生は、私に来て欲しくなかったの……?」
「いや、そういう、わけじゃ……」
僕の言葉が何か面白かったのだろう。
ム~っと赤い顔のまま可愛らしく上目遣いで睨んできていた似鳥は、突然小さく吹き出した。
「ごめんごめん。ちょっとイジワルしちゃった」
そして、満面の笑顔。
「そっか~、今は図書館にもパソコンってあるんだ。知らなかったよ」
「あ、そうなんだ」
知らなかったのなら仕方が無い。
そうなると頼れるのは僕しかいなかったのだろう。
……なんか、ちょっとだけ嬉しい。
そんな話をしている間に、パソコンは無事立ち上がった。
「はい。これでいつでも使えるよ」
「え? そうなの? 何か操作したりとかしなくて良いの?」
「うん」
「隠したりとかしなくていいの~?」
「うん?」
原稿データのことだろうか?
「うん。似鳥なら見ないって分かってるしね」
「あはは~。私、信用されてるね~」
嬉しそうにそう言いながら、似鳥は僕の椅子に座った。
「おぉ! やっぱり座り心地がいいねぇ~」
「ありがとう。あ、ちょっと僕、トイレ行って来るね。パソコンはそのまま使ってて良いから」
「うん。ありがとう」
そうして僕は、自分の部屋を出た。
◇ ◇ ◇
女子高生で新人声優をしていますが、年上のクラスメイトで売れっ子ライトノベル作家の男子の胸倉を掴んで揺さぶっています。
それが、今の私です。
「どうぞ。上がって」
「お邪魔しま~す」
学校帰り、私は先生の家にお邪魔しました。
「僕の部屋……だよね?」
「当然♪」
先生の問いかけに、いつもの様に演技をしながら明るく答えました。
が、内心はかなりドキドキです。
今日私は、先生のお部屋に、エッチな本がないかどうかを探しにきました。
言葉にするとなんとやらしいことでしょう。人様の部屋を勝手に漁ろうだなんて。
こんな理由で先生の家にお邪魔するぐらいなら、先生に会うためだけに来ても良かったとさえ思います。
……いえ。その理由ならいつでも用意出来たのに、今までそうしてこなかったのは、何を隠そう私の方です。
こんな目的でもなければきっと私は、ずっと一歩を踏み出せなかったでしょう。
茜さんには、感謝しなければなりません。
はいやっぱりタイムアップ
続きはまた夜に
短いくせに手間取り過ぎてるわ…
再開します
「それで似鳥、個人的な用事、って何?」
きた。
部屋に入り、クッションを勧められてそこに座ると同時に投げかけられた質問に、私は内心で身構えました。
そして、用意しておいた言葉を言います。
「その前に先生……その、図々しくて悪いんだけど、私喉が乾いちゃった」
「え? ああ、ごめん。気が付かなくて」
私の図々しい物言いに、先生は心底申し訳無さそうにして、部屋を出ていきました。
罪悪感で押し潰されそうですが、ここで立ち止まってはいけません。
私はさらに酷い事をするのですから。
私は急いで、茜さんからのメモを通学用のカバンから取り出します。
そこには、ベッドの下や本棚の後ろ、または本とその棚の間など、色々なアドバイスが書かれています。
しかし生憎と先生の本棚は机に備え付けられているものしかありませんし、ベッドの下はそのまま棚になっています。
さすがに、この棚を開ける勇気はありません。
開けるべきなのでしょうが……その音で先生が何か勘付いたりしてはいけません。
でも……ベッドと壁の間なら何かあるかも。
そう思い、ベッドに身を乗り出して覗き込みます。
ですがそこには埃一つありません。掃除が行き届いています。
さすが先生。いえ、それともお母様の方でしょうか。
と、そこで部屋の外の床が軋む音。
先生が戻ってきた!
すぐさまそれを察知した私は、何食わぬ顔でベッドに腰掛け、ずっと彼を待っていたフリをしました。
結局、何の成果も得られませんでした。
ですが、これで良かったです。
むしろ予定通りです。
そして戻ってきた先生に、見たい『ヴァイス・ヴァーサ』のファンサイトがあるからと、ノートパソコンを貸して欲しいとお願いします。
もちろん携帯じゃ見られない理由も忘れずに。
昨日、先生の家に来るための言い訳にと、必死にこのファンサイトを探しました。
エッチな本なんてある訳が無い。
そう思っていた私は、見つかるわけが無いものの捜索は早々に切り上げ、色々なファンサイトを回って先生とお話を続ける気満々でした。
そのキッカケとなるデータ量の多いファンサイトが見つかって良かったです。
……なんだか自宅デートみたい。
顔がニヤけないように抑えるので精一杯です。
「分かった。そういうことなら、喜んで」
先生はそんな私の言葉を疑いもせず、早速パソコンの電源を入れ――ようとして、ふと、
「パソコンはここで良いの?」
そんな疑問を投げかけてきました。
「ん? どういうこと?」
「いや、ベッドに座ってるから、寝転んで使うつもりかな、って思って」
「そ、そんな……」
制服でベッドの上に寝転ぶって……それって……!
「? どうかした?」
先生は、何も気付いていないようです。
思わず、
「……先生の、エッチ……」
演技も忘れ、そう呟いてしまいました。
先生の方を見れません。
自然と、両手がスカートの裾へと伸びてしまっていました。
「…………あ」
先生が気付いた。
それに気付いて、さらに恥ずかしくなります。
本来なら、気にしていない風を装わないといけなかったのに。
「じゃ、じゃあ机の上で良いね。でも、パソコンを使いたいんだったら、べ、別に図書館でも、よかったん、じゃ」
その先生の言葉に、少しムッときたからでしょう。
少し、余裕が出てきました。
「……先生は、私に来て欲しくなかったの……?」
「いや、そういう、わけじゃ……」
「ふふっ。ごめんごめん。ちょっとイジワルしちゃった」
ほら。こうして演技だって出来ます。
十分、ミスは取り戻せたと言っても良いでしょう。
そんな会話をした後しばらくして、パソコンが使えるようになりました。
早速先生と一緒にファンサイトを回ろう。
隣に立った先生と一緒に、一つの画面を見る。
覗き込むように見る先生の横顔を見たりして……顔がニヤけそうです。
見られないためにも、さっさと席に座ります。
……さっきまで先生が座っていた椅子。……ちょっと暖かい。
変態チックな思考をし始めた重症な自分を責めている間に、先生がお手洗いだと部屋を出て行ってしまいました。
これではファンサイトを見ている意味がありません。
先生が戻ってくるのを待ちましょう。
――もしかしたらいつも持ち歩いているノートパソコンの中にあるかもしれません。写真のデータ数枚を隠すのなんて、造作も無いでしょうし――
ふと、茜さんのそんな言葉が思い起こされます。
もしかして、この仕事道具にしている先生のパソコンにも……。
……調べてはいけないこと。
そう分かっているのに、
私は、
自然と、
勝手に、
ファイル検索のところにカーソルを持っていき、
『jpg』
と、入力してしまっていました。
◇ ◇ ◇
検索結果で引っ掛かった画像の中から一つを選んで、その画像が入っているフォルダを表示します。
中にあったのは、あらゆる街の景色。
おそらく、小説の舞台のための参考資料でしょう。
良かった……やっぱり先生は、そんなのは持っていないんだ。
ううん。別に持っていても良い。
ただこの、『ヴァイス・ヴァーサ』を生み出すために必要不可欠なパソコンの中には、入っていなかった。
それが何より、私に安堵を与えてくれました。
それにしても、綺麗な景色ばかりです。
先生はこの画を見て、それを文字にして表現している。
思えば、とてもスゴイことです。
そう感心しながら次々と画像を映していると、不意に、その画像はやってきました。
長い黒髪の巨乳な女の子が、その大きなものを揺らしながら、男の上に跨っている画像が。
「んっ!?!?!?!?!?」
思わず、声が裏返りました。
まさか風景画のフォルダの中にこんなものが混じっているなんて。
そして、そこから下は、そんな画像ばかりでした。
つまり、エッチな画像ばかり。
顔が熱くなります。
けれども、目が離せません。
「…………」
思わず、集中して、それらの画像を次々と見てしまいます。
フォルダ内表示だったのを、スライドショーにしてまで、じっくりと。
「……………………」
……気持ち、胸が大きな子が多いような……。
それに、黒髪率も高い。
なるほど。茜さんの言うとおりです。
確かにこれは、男性の好みがすぐに分かります。
パソコンの中に入って無くて良かった。
そう安堵していた私はどこへやら。
食い入るようにパソコンを睨みつけてしまっています。
そうして、次々と画像を見ていると……ある画像で、ピタりと止まりました。
それは……
それは、ミークが陵辱されている画像、でした。
沢山の男に、オッドアイの少女が囲まれ、犯されている、画像。
輪姦、と呼ぶのでしたっけ。
あるイラスト投稿サイトでこういったのを見て以来、私はそのサイトを見なくなりました。
どの人たちも、ミークの意味を、昔の私のように勘違いしている。
その勘違いのままに、画に起こしている。
それが、自分勝手と知りながら、苛立ってしまうから、見なくなったのです。
けれども、先生は……。
そこから先は、ずっと……そのどれも、ミークが陵辱されるものでした。
時たま、真と思われる男性と仲良くしているだけの微笑ましいものもありました。
だけど、こんな酷い画像の中にそれが紛れているせいなのか、余計に、陵辱されている画像が、酷く見えました。
それで、私の心が不安定になっていたからでしょう。
「え、っと……似鳥……?」
いつの間にか戻ってきていた先生が、私の後ろから声をかけてくると同時……私は、先生に、飛び掛ってしまっていました。
ミークの酷い画像ばかりを見ていた先生を責めたいのか。
いいえ、違います。
これはただの、照れ隠しです。
女の子がエッチしている画像を、黙々と他人のパソコンで見ている女の子。
その事実を瞬時に、客観的に理解してしまった私は、そうして先生を責めることで――胸倉を掴んでガクガクと揺さぶることで、誤魔化すことしか出来ませんでした。
そんな私の心情を知ってか知らずか、先生はなすがままでした。
私が落ち着くまできっと、そうしてくれるつもりなのでしょう。
私がこの、恥ずかしさを、受け入れるまで。
◇ ◇ ◇
~~~~~~
「ごめんなさい」
しばらくして落ち着いた似鳥は、最初に出したクッションへと座って、いきなり謝ってきた。
「ん? どうして似鳥が謝るの?」
対して正面の床に、無造作に座る僕は冷静だ。
昔した親との約束を破り、パソコンの中に保存していたそういった画像を見られたのに、だ。
たぶん、似鳥が僕の代わりに色々な感情を露にしてくれたおかげで、妙に冷静になれているせいだろう。
「どうしてって……勝手にパソコンの中を見たから」
「ん~……使って良いって言ったのは僕だし、それにちゃんと見ないように言わなかった僕も悪いしね」
自分のパソコンの中にこれらのデータを入れているのをすっかり忘れていた。
それに関しては僕に非がある。
「でも私は、先生のパソコンの中を勝手に漁って……」
「だから、気にしてないって」
「でも……こんなの、部屋の中を漁ったみたいだし……」
「それも、気にしてないよ」
「え……?」
そこで驚かれても困る。
「ま、相手が似鳥だからだけど。本当に気にならないんだ」
「それよりも、僕の方こそごめん」
「えっ?」
「突然、ミークがあんなことばかりされてるのを見たら、そりゃイヤな気持ちになるよね」
「だ、だからそれは、私が勝手に漁って見つけたから……!」
「だからそれは、隠していなかった僕が悪いんだって。良い? 似鳥はミークに人一倍以上に思い入れがある。それを僕は知っていた。それなのに、そういった画像を保存して、保存していたパソコンを似鳥に使わせた。ほら、似鳥は何も悪くない」
「…………」
呆れているのか。
似鳥はこちらを見つめたまま、何も言わなかった。
「だから、気にしないで。あ、もちろん揺さぶったのもね。ミークがあんなことばかりされてるのを見てイヤな気持ちになってあんなことをしてしまうのも、分かるからさ」
「あ、いえ、それは……」
「ん? 違うの?」
言葉を濁す似鳥を、真正面から見つめる。
その視線を受け彼女は、視線を一度逸らして……顔を仄かに赤くして、真正面から見つめ直してきた。
「ち、違います。あれはその、恥ずかしくて」
「恥ずかしい?」
「先生に、エッチな女の子だと思われたのが……」
また小さく、フイッと視線を逸らす。
……可愛い。
「……エッチな子だとは思わないよ」
「本当、ですか……?」
「うん。似鳥は、可愛い子」
「かわっ……!」
瞬間湯沸かし器のように、顔をボンッと真っ赤にした。
「うん。やっぱり可愛い」
「そ、そんなに、可愛い可愛い言わないで下さい! は、恥ずかしすぎます……照れて、しまいます……」
似鳥モードも可愛いけれど、やっぱり、ステラモードも可愛い。
彼女は本当に、美しすぎる。
「……せ、先生……その、聞いてもいいですか……?」
真っ赤な顔のまま、俯けた視線をチラチラとこちらへと向けながら、恥ずかしついでとばかりに、似鳥。
「うん、良いよ。なんなりと」
「先生は、その……黒髪が好きなんですか?」
「黒髪……? ううん。特には」
「じゃあ……胸が大きな人が好き……?」
「えっ!?」
今度は僕が驚いた。
そこまで話されて、ようやく気が付いたからだ。
これは、あの保存した画像の話をされているのだ、と。
「え、っと……それは……」
思えば僕は、本能の赴くままに、画像を保存していたように思う。
そこに法則性があるのかと問われると……あまり意識したことが無い。
でも似鳥がそう訊ねてきたということは、そういった法則性があるのだろう。
つまり、黒髪で胸の大きな子の画像が多い、と。
「なんと言いますか……」
そう。画像だ。
僕のパソコンの中にあるそういった画像は、全てイラスト投稿サイトに貼られていたものだ。
最初は、ミークの画像だった。
よくある、微笑ましいもの。
草原の中に佇むミークや、真と楽しげに会話しているミーク。
それを見ていると、アフレコをしていた似鳥を思い出して……。
それがいつの間にか、歪んでしまって……。
気が付けば、いつも学校で見かける彼女の似た姿を――アフレコの時に見ていた彼女を、追い求めていて……。
「どういったものか……」
自覚はしていた。
だから全て、イラストなんだ。
写真では、似鳥の姿を思い出すのに、邪魔になるから。
そう。
僕は自分の集めた画像で、
似鳥を、
思い出していた。
その、
あらゆる姿を。
薄茶色の短い髪も、左右の色が違う瞳も、
ウィッグをした黒髪も、コンタクトをしてメガネをかけた目も、
その全てを、思い出していた。
ただただ、
似鳥を、
追い求めるように。
でも、そんなことを口には出来ない。
「いや~……実は似鳥を思い出しやすくするために、ね。ミークを見てると、アフレコしてた時の似鳥が思い出しやすくて」
なんていえば、気持ち悪がられるに決まってる。
自慰の材料にしていた、と明かすようなものだ。
でも、誤魔化しが、頭の中にやってこない。
ここで颯爽と『タイム・トゥ・プレイ』を発揮することが出来れば良かったのに……。
生憎と僕の頭では、この状況をどうにか出来る案は出てこない。
駅長室のように上手くはいかないものだ。
「じゃあ、先生……」
いつまでも答えあぐねる僕を見かねたのだろう。
似鳥は、メガネを外し、ウィッグを取って、コンタクトレンズはそのままに、真っ赤な顔のまま僕の瞳を見据えて、尋ねてきた。
「今の私とさっきまでの私、どっちが好き?」
「どっちも」
すぐさま、言葉が口をついた。
今まで答えに詰まっていたのが嘘のように、滑らかに。
「というより、どれも。さっきの似鳥も、今の似鳥も……コンタクトを外した似鳥も、そのどれもがステラだから。だから僕は、どれも好き」
「……うん。ありがとう」
似鳥は……いや、ステラはそう答えると、微笑んだ。
「私も先生のこと、大好きです」
そして、そう言った。
言って、くれた。
僕なんかのことが好きと。
こんな、可愛い子が。
僕が最初似鳥に……あるいはステラに抱いていた気持ちは、美しいだった。
でも、僕にとって不名誉な仇名がネットによって与えられて、それを自分のせいだと泣きじゃくって謝る彼女を見て……可愛いと、思うようになった。
年不相応に、恥も外聞も捨て、僕の代わりに……僕のために泣いてくれる彼女を見て、そう、思うようになった。
そこからは、早かった。
まさに落ちるよう。
陳腐な言い回しだけれど、僕は恋に落ちた。
たぶん、生まれて初めて。
最初から惹かれていた。
その気持ちがそのまま、変わってしまった。
ステラを、愛したいという気持ちに。
「似鳥……いや、ステラ。それは、ちょっと……止めて」
「え? どうして……?」
「その……嬉しくて、照れて……舞い上がっちゃう」
自分でも、顔が赤くなるのが分かる。
その僕の様子を見て、仕返しが出来ると思ったのだろう。
ステラが、ふふっと笑った。
「先生。好きです」
「だ、だから、ステラ……」
「大好きです」
「その……本当に……」
「ダメです」
「うっ」
「さっき可愛いって言った、お返しです」
「それは、だって……真実だし」
「じゃあ、私も真実です。本当に先生のこと、大好きです」
「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~」
もう何も、反論できない。
僕のKO負けだ。
もう体力ゲージは何も残っていない。
そんな僕に、ステラは、
「あの、先生。どうしましょう。“好き”が溢れて、抑えられません」
そんなことを言って、倒れこんできた。
「えっ……?」
真っ赤な顔のまま、情けない声を上げることしか出来ず……僕はまた、床に倒れこんだ。
目の前には、似鳥の瞳をしたステラ。
彼女が、おそらく僕と同じかそれ以上に赤い顔で、僕を見つめていた。
床に腕を突き立てるようにして、自分を支えながら。
「反則です、先生。そんなに顔を真っ赤にして照れられたら、可愛すぎて、気持ちが抑えられなくなるじゃないですか」
本当、先生は卑怯です。
そう小さく呟いて、ステラは僕へと顔を近づける。
「ま、待って!」
僕はそれを、慌てて止めた。
「……どうしてですか? 先生」
「え、っと……こういうのは、流れに身を任せたら、ダメだと思うから……」
「私は、本気です。今まで抑えていたものが爆発しただけです。ここで冷静になられたら、ここまでの自分の行動を思い出して、きっと恥ずかしすぎて悶絶死してしまいます」
「それは、その、困るけ、ど……でも、お願い。キッチリ、しておきたいから」
一つ、深呼吸をしてから……僕は、大事な一言を、口にした。
「僕は、似鳥絵里が……ステラ・ハミルトンが、大好きです。こんな僕でよければ、付き合ってもらえませんか?」
何度も、頭の中で練習していた言葉。
年上なのだから、自分がしっかりしないとと思い、何度も何度も考え直していた言葉。
それを、しっかりと、自分の言葉で、口にした。
「あ……」
ステラは、その言葉に……瞳を潤ませながら、嬉しそうに口元を歪めながら、返事をしてくれた。
「……はいっ……!」
思い描いていたシチュエーションとは大きく違うけれど……女の子の下に置かれるという、情けない姿だけれど……ちゃんと、言葉に出来た。
それで、吹っ切れた。
潤ませた瞳から涙が零れぬよう、目を閉じているステラを見上げながら……。
僕は上体を起こし、その唇に、自分のソレを重ね合わせた。
僕たちはそうして、恋人同士になった。
◇ ◇ ◇
「あの……ステラ?」
「なぁに? 先生」
「その……ずっと手を繋いで座ってるだけだけど、良かったの?」
「うん。良いの。今日はこの幸せを、静かに噛み締めたいから」
仄かに顔を赤くしながら、握っている手の力を強めるステラ。
心の中に静かに広がる暖かさ。
……なるほど。確かに、これはいい。
今度小説を書くときに参考にさせてもらおう。
いや、でもこの幸せの気持ちを文章に表しきれるかどうか……少し自信が無い。
「これからは学校でも、佐竹さんに嘘を吐いていることにはならないね」
「ん?」
「先生と付き合ってるってこと」
ふと、引っ掛かりを覚えた。
「……ねえ、ステラ」
「ん? どうしたの、先生」
「ソレだよ」
「え?」
「せっかく恋人同士になったんだから、その……名前で、ね」
「あ……うんっ。そうだったね」
そしてステラは、嬉しそうに笑顔を浮かべながら、僕の名前を“くん”付けで呼んでくれた。
終わり
ふと思いついたオマケ
ステラ「せ、先生……! 学校でこんなの……! やっ……!」パンパン
先生「大丈夫だよ。だって学校でステラを知ってる子はいないんだから」パンパン
ステラ「だ、だからってこんな……!」
「……先生? これは何?」
「え、っと……」
大ピンチです。
ステラに内緒で書いていたエロ小説がバレました。
「先生……私でこういうこと、したいの……?」
「そ、それは……」
「ねえ、正直に答えて」
「し……したい、です……」
「……そう」
怖い……ステラを見れない。
「……仕方ないなぁ」
でもその言葉で、顔を上げると……モジモジとしているステラ。
「良いよ。じゃあ、明日、ね」
「ステラ……!」
僕は感動してステラを――
~~~~~~
「……ステラ?」
「…………はい」
「なんで僕のパソコンにこんなものを残したの……?」
「え、っと……………………先生の、真似事……?」
大ピンチです。
先生のパソコンを使って面白半分で書いていた小説の削除を忘れていたせいで、先生の方を見れなくなりました。
続かない。
という訳で本当に終わり
最後のオマケは30分ほどで書いたものだから続けない
小説読んでたら衝動が抑えきれなくなったから書いた
なんかこの先の展開で先生とステラが付き合わないとかあり得そうで怖かったからつい
実際先生はこんな単純じゃないんだよなぁ…
でも先生が潜在的にドSなのは間違いないと思う
それではまたいつか
僕は時雨沢先生じゃないよ!
とか言うと
「いや分かってるしwwwそういうノリだから自惚れんなwwwwww」
って言うのがお前らだからもう何も言えない怖い
皆も時雨沢先生を応援しよう!
本人みたいな面白い手の込んだ後書きが書けない>>1でした
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません