モバP「車輪の向こう側」 (26)

モバマスSSです。

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ショッピングセンター

茄子「すみません、買い物に付き合ってもらっちゃって…」

P「別にいいですよ。俺も買いたいものあったし手間が省けました」

茄子「そうですか。それは良かったです」

P「えぇ、ラッキーでした」

茄子「そうですか」フフ

P「何か面白いことでも?」

茄子「いえですね、考え方によって幸運も不幸も変わるんだなって」

P「どういう意味だ?」

茄子「私からしたら、プロデューサーさんは私の買い物に付き合わされて不幸」

茄子「でも、プロデューサーさんは、自分の買い物が出来て、わざわざ一人で買い物に行く手間が省けて幸運と言いました」

P「なるほど、確かにそうですね」

茄子「まさに、縄の如しですね」

P「確かにそうかもしれませんね」

P「或いは、幸と不幸の交差点をどちらか見るか」

茄子「そうですねー」

茄子「あ、でもー」

P「はい?」

茄子「私としては、こうしてプロデューサーさんの下でアイドルをやってるのが幸運だと思ってますけど――」

P「逆はないですよ。茄子をプロデュース出来てラッキーだと思ってるよ」

茄子「そうですか。ありがとうございます♪」

茄子「さてと…帰りますか」

P「そうですね」

茄子「何か食べていきますか?」

P「いや、太りそうなんで遠慮しておきます」

茄子「…なんか私も食べる気がなくなりました」

P「いや、痩せてるじゃないか」

茄子「そういう問題じゃないんですよー」

「…もしー」

P「ん?はい?」

「もしーもしー」

P「私ですか?」

「はいそうですよー」

P「えっと、何か用ですか?」

茄子「お知り合いですか?」

P「いや、まったく」

「わたくしは導かれましてー」

P「導かれた?誰に?」

「そなたにですー」

茄子「プロデューサーさん?」

P「そんなことした記憶はないんだけど…」

P(と言うか、どうやって女の子を導くんだ…)

「わたくし、依田、芳乃と申しましてー」

P「はぁ、依田さんですか」

芳乃「芳乃でしてー」

P「はいはい」

茄子(誰なんでしょう…?)

P「誰なんだ…?」

芳乃「そなたが困っているなら力をわたくしが力をお貸ししますー」

P「困ってることか…?」

芳乃「はい。困ってる人には力を貸さなくてはならないとばばさまのお言葉でしてー」

P「随分と人の出来たばばさまですね」

芳乃「ありがとうございますー」ペコリ

P「そう言えば、なんで声を掛けたんです?」

芳乃「人を探していましてー」

P「ふむふむ」

芳乃「わたくしを求める人を探していましてー」

茄子「なるほど」

芳乃「そなたがわたくしを求める人でした」

P「どうしてもそこに繋がらないんだよなぁ…」

茄子「私もです…」

芳乃「…そうですか?」

P「第一に初対面の人を求めるというのがですね…」

芳乃「顔見知りか否かは関係ないのでしてー、今は顔見知りなのですからー」


P「まぁ…物は言い様ですね。立ち話もなんですからどこか入りますか」

芳乃「分かりましたー」

茄子「……」

茄子(この出会いは幸か不幸か…)

P(或いはどちらでもないのかな…?)

>>6

ミス

茄子(この出会いは幸か不幸か…)

P(或いはどちらでもないのかな…?)



茄子(この出会いは幸か不幸か…)

茄子(或いはどちらでもないのかな…?)

茶屋

芳乃「わたくし、お茶とお煎餅が好きでしてー」

P「まぁ、恰好から想像はついてましたよ」

茄子「私の分もすみません…」

P「気にしなくていいよ」

芳乃「ありがとうございますー」

P「いえいえ」

P「さて、話を戻しまして」

芳乃「ましてー」

芳乃「そなたにわたくしが必要だから参りましたー。そこに理由などいりません」

P「…そ、そうですか」

P(どうも話が通じない…)

茄子(このお団子美味しい)モグモグ

芳乃「そなたは、ほおっておけない運気が付いているのでしてー」

P「運気ですか?」

芳乃「はい。幸運に恵まれていますねー」

P「多分、それは俺の隣の人のことですね」

茄子「わ、私ですか?」

P「強ち間違いじゃないだろ?」

茄子「ま、まぁ、間違いじゃありませんね…」ポリポリ

芳乃「そうでしたかー。ただ、そなたにも運気があるのは間違いないのでー」

P「そうですか」

芳乃「そうですのー」

P「えーと、とにかく、俺に力を貸してくれるってことでいいのかな?」

芳乃「その通りですー」

P「なるほど。ちなみに何か出来ることはありますか?」

芳乃「そなたが望むならアイドルも出来ますよー」

P「…俺が芸能関係の仕事ってよく分かりましたね」

芳乃「全ては神様が教えてくれましたー」

茄子(単純に私がプロデューサーさんって言ったからじゃないかな…)

P「アイドルが出来るというのも変な話ですが、経験でも?」

芳乃「ありませんねー」

P「…そうですか。えっと、それじゃ、それ以外の特技とかは…」

芳乃「えーとですね…悩み事を解決することと、失せ物探しが得意でしてー」

P「なるほど」

芳乃「探し物は何かありましてー?」

P「それとも僕と踊りませんか?」

茄子「…ふふ」クスクス

芳乃「…?」

P(正直この状況を解決して欲しい…)

芳乃「そなたの願いを叶えますー」ビシッ

茄子(なんか可愛いですね…)

P「あ、一つ頼んでもいいですか?」

芳乃「一つと言わずに何個でもー」

P「探し物なんですけど…」

芳乃「はい。どうぞー」

P「依田芳乃さんを探して貰って宜しいですか?」

茄子「……?」

芳乃「……芳乃はわたくしでしてー」

P「まぁ、そうかもしれませんが。あ、見つかったらこの事務所までお願い出来ますか?」

芳乃「むー…了解しましたー」

P「それでは…。あ、帰れますか?」

芳乃「問題ないですー」

車内

茄子「えっと…怒ってますか?」

P「なんでですか?」

茄子「えっと、なぞなぞみたいなこと言ってましたから…」

P「あぁ、アレですか」

茄子「はい」

P「そんな気はないんですけどね」

P「まぁ、でも、他意はないにせよ、アイドルにさも簡単になれるみたいな言い方されるとちょっとなーとは思いますけどね」

茄子「なるほど」

P「えぇ、なりたくてもなれない人も大勢いますから」

P「誰かの為になるのは相当難しいことだと思いますよ」

P「夢見る少女から、夢を見せる少女にならなきゃいけませんし」

茄子「そうですねぇ…」

P「あと、少しだけ気になったんですよ」

茄子「何をです?」

P「あの子の本音が」

茄子「本音…?」

P「まぁ、なんにせよ、不思議な子でしたね」

茄子「それは…同感です」

数日後

事務所

P「冷静に考えてみるとさ」

文香「はい」

P「うちの事務所ってアイドル結構いるよな」

文香「他の所帯を知りませんが…それなりに」

P「だよなぁ」

文香「そうですね」

P「関係ない話なんだけどさ」

文香「珍しい…ですね。どうかされました?」

P「ちょっとした世間話だよ」

文香「世間には…少し疎いですが、私で良ければ」

P「文香はさ、前世とかって信じるか?」

文香「前世ですか?」

P「輪廻とか」

文香「どうでしょうか…。前世が分かったら面白いかもしれませんが、知らぬが仏かもしれません」

P「そうだな」

P「でも、現世でこうやって会っているのはどこかの前世で会ったからという話があるな」

文香「割とよく聞く話ですね」

文香「住んだことの、行ったことのない景色や建物の場所を正確に覚えている子供がいたと記憶しています」

P「自分以外の記憶が自分の頭の中にあるのってどんな気分なんだろうな」

文香「私には分かりかねます…」

P「俺にも分からないさ」

文香「そう言えば…なんでそんな話を?」

P「ふと思っただけだよ」

文香「そうでしたか」

P「もし、以前俺と文香が会ってたしたら…文香はきっと深窓のお姫様だな」

文香「そんなことは…ないと思います」

P「趣深くて、物静かに唄を詠んでたんじゃないか」

文香「その場合は…あなたはどこにいるんですか?」

P「ん?家来Aとかじゃないか?」

文香「家来ですか…」

P「姫、なんなりとお申し付け下さい。なんてな」

文香「や、止めてください…!」

文香「でも…、そのお姫様は家来のことを大切に思っていたと思いますよ」ニコ

P「部下思いのいいお姫様だな」

文香「…それでいいです」ハァ

コンコン

「もしー?」チラ

P「あ、どうも」

文香「えっと……」

文香「どちら様ですか?」

芳乃「芳乃は芳乃でしてー、何者でもないのですー」

文香「そ、そうですか…」

芳乃「あ、そなたが探していたものを見つけましたー」

P「そうですか」

芳乃「はい」

文香「私は席を外した方が――」

P「いや、いてもいいよ」

芳乃「問題ないですのー」

文香「あ、はい…」

芳乃「正直、わたくしを探しているというのは意味が分かりませんでしてー」

P「なら、何を見つけたんです?」

芳乃「わたくしは、誰かが望むから、誰かが言ってたからーと言う言葉が多いなと思いましてー」

芳乃「そこに、わたくしの意思が介在していないことを言いたかったのかなと思いましてー」

芳乃「どこかで自分を見知らぬ人のように言うわたくしのことを」

P「そうですね」

P「あなたが望むから、誰かが願ったから。ならば、自分の意志はどこにあるんでしょうか?」

芳乃「むー。もしかしたら、それが依田芳乃なのかもしれませんねー」

P「つまりどういうことですか?」

芳乃「建て前などの裏に自らの意思を隠して伝えることですー」

文香(私と似てるのかな…?)

芳乃「むー…、なんだかわたくしはわたくしの事が分からなくなってきました」

文香「アイデンティティの喪失…」

P「他者がいなければ、自己も存在出来ないって?」

文香「私という個は他者によって生かされ、他者がいなければ自己は存在出来ませんね…」

P「流石鷺澤さん」パチパチ

文香「ちゃ、茶化さないで下さい…」カァ

芳乃「つまり、どういうことですのー?」

P「皆、誰かなしでは生きられないということです」

P「俺が望むならアイドルにでもなりますと言いましたね」

芳乃「言いましたねー」

P「誰かに何かを望まれる生き方はもしかしたら芳乃さんの天職かもしれませんね」

芳乃「そなたの願いを聞くフリをしてわたくしの願いを言ったということでしてー?」

P「そうかなと思ったんです」

芳乃「分からないですー。ただ…」

P「ただ?」

芳乃「なんでもないですのー。…でも、今のわたくしでは、その答え否定出来ませんのー」

文香「べ、別に否定しなくてもいいんじゃないでしょうか…自分と向き合わないと何も変わりません」

P(おー…)

芳乃「そうですねー。それで、結局探し物は見つかりましたー?」

P「その答えは自分が一番分かってると思いますけど」

芳乃「芳乃は分からないのでしてー」

芳乃「ただ、誰かに求められるアイドルには少し興味がありましてー」

P「そうですか」

芳乃「そうでしてー」

P「尤も、そう簡単に求められるアイドルになれるわけじゃないですけどね」

芳乃「そなたが、望めばわたくしは答えますのでー」

P「そうですか」

芳乃「共に歩めば、手を取れば、その結果は必然のさだめでしてー二人の覇道に曇りなしですのー」

文香(不思議な子ですね…)

P「その言葉、少しだけ信じますね」

芳乃「少しと言わず、輪廻の車輪を経ても信じて欲しいですー」

文香(輪廻…?)

車内

芳乃「やっぱり、車は快適ですねー。送って頂いてありがとうございますー」

P「まぁ、ウチのアイドルが丁度仕事だからな」

芳乃「流石お姫様ですー」

文香「…え?」

文香「あの…行ってきます」

P「行ってらっしゃい」

車内

芳乃「ここでいいですのでー」

芳乃「ありがとうですのー」

P「一ついいですか?」

芳乃「どうぞー」

P「俺には分からないけれど、遥か昔に会ったことがありませんか?」

芳乃「芳乃には分からないのですー」

P「依田芳乃に俺を助ける理由はないけど、数周前のあなたには――」

芳乃「夢があって素敵ですのー」クスクス

芳乃「けれども、その答えは今の芳乃には分からないのでー」

P「…まぁ、確かにそうですね」

芳乃「わたくしはわたくしのことしか分かりませんのー」

芳乃「ただ…」

P「ただ?」

芳乃「ただー、お姫様と身分違いの恋より、同じ身分の恋の方が幸せな結末が多いと思いますのでー」

P「ん…?」

芳乃「ゆめ、お忘れなくー」ニコッ

終わりです。

芳乃ってセリフの使い方難しいですね。

文章中に出てきたアイデンティティの下りは、鷺澤萌氏の『他者がいなければ自己も存在し得ない。つまり『私』という『自分』は、他者によって生かされている』

という言葉を引用したものです。

何か質問があれば。

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